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寝台特急シリウス号の執着

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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 ●月×日、一〇:二三分発○○行き列車……、
 八両編成のその車両に、朧影が現れた、と報告のあったは出発数分前のことであった。
 乗客はパニックになり、我先に列車から逃げ出し、当然のことながら運行は取りやめになったが、
 幸いなことに、朧影は今にも消えそうなほど力弱く人的な被害は避難途中に子供が転んでひざを擦りむいた、ぐらいのものであったという。
 ……ただ、その影朧。
 人のいなくなった車内でもいっこうに動くことなく。
 静かに窓の外をじっと見つめていたという。
 そうしてその手には、手紙のようなものがひとつ、握られていたという報告があった。

「今回は、列車旅だね」
 リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)はそう言って、ほんの少し心が弾むと言いたげに口元をほころばせた。
「列車。見たことある? 今回乗る予定の列車は、黒くて大きくて、すごい強そうだった」
 もともと列車や機械には縁のない世界での活動が中心のリュカにとっては、大型の機械であるというだけで多少なりとも心躍るものであるらしい。話によると、どうやら石炭を使って動かすタイプの列車というのだから、サクラミラージュとしてはごくごく標準的な列車であろう。
「その列車の中で、影朧がみつかるんだ。今回は、その影朧退治の話。……と、いっても」
 リュカはそこで言葉を切る。少し考えこむような仕草をして、それから、自分の言いたいことを多少なりとも整理してから話をつづけた。
「この影朧、そこまで強くない。……というか、今までであってきた中では、格段に弱く感じられると思う」
 余程の辛い「過去」が具現化すれば、まれにそういうことが起こるのだと彼は言った。
「特に、何かをかなえられなかったとか、そういう、強い……執着、みたいなものがあって。人を傷つけるよりも、それを優先させているみたいなんだ」
 本来ならば、影朧は斃すべき敵である。そこを間違えてはいけないのだけれども、ここでもう一つ、この世界での約束事があるのだとリュカは言う。
「ある程度無害化された影朧は、救済すべき。これもまた、帝都桜學府の目的なんだ。だから、人を傷つけない影朧であれば、なるだけそれを助けるために、その執着を果たすことに協力しましょう、って。わけ」
 理解できない感情だと、言葉の端でリュカの考え方が滲み出ていた。
「……どうすれば無害化したと証明できるのか。絶対に人を傷つけないと言い切ることができるのか。俺は知らないしそんな曖昧な、感情に揺れる判断は嫌いだけれども、それがこの世界の掟ならしょうがない。確かに、あれは相当弱っていたからすぐに消えるのはもうわかりきってはいるけれど……」
 釈然としない。という顔をしながらも、リュカはそれはそれ、これはこれ。暫くして割り切ったらしい。一つ咳払いをして、
「……と、いうわけで。可能なら影朧の執着を晴らして、助けてあげてほしいんだ」
 と、いうのであった。
「で、その影朧の執着というのが……」
 それで話が元に戻ってきた。リュカはポケットから切符を一枚取り出す。これはサンプルなんだけどね、と前置きしながら、
「この列車に乗って、とある景色を見ることなんだ」
 切符には、発車時刻や駅名のほかに、「寝台特急:シリウス号」という文字が躍っていた……。


ふじもりみきや
いつもお世話になり、ありがとうございます。
ふじもりみきやです。
というわけで今回は列車旅。
全編通してPOW、SP、WIZはだいたい気にせず、旅行気分で乗車していただけたら幸いです。

該当の列車は、一章開始時点ですでに貸し切りとなっております。皆様の貸し切りです。やったね。
お金もいりませんが、だいたい客室は以下の感じなので自分の旅行スタイルに合わせてお好きな客室を選んでください。
特に人数制限解かないのでお好きに決めましょう。細かいことはいいんです。

●列車の特徴(だいたいフレーバー)
八両編成です。
一両目が一等客室
4人ぐらい泊まれる個室です。超豪華。超広い。食事とかも呼べば運んでくれます。
洗面とかもあればトイレもついてる至れり尽くせり。まるでホテル。
二両目、三両目が二等客室
2人用。ソファーに寝れば三人泊まれる。夕飯は食堂車に行ってください。
四両目、五両目が食堂車
割と広いので長時間居座ってても大丈夫です。ご飯はだいたいなんでも出ます。地方の美味しいグルメから、定番カレーまでお好きにどうぞ。24時間営業です。
六両目以降が、三等客室です。
一応個室ですが、ベッドと小さな荷物置きがあるくらいです。ベッドに座ってカーテンを開ければ、隣の人とのおしゃべりも可能。

全車両、どこも窓が一つは必ずあるので、星空や外の景色を楽しむことができます。

●一人参加について
依頼の性質上、三級客席に席を取ると、同じ一人参加の誰かとふれあいがあるかもしれません、し、ないかもしれません(プレイングの内容と、プレイングを頂ける日程次第です)
どうしても一人参加がいい方はその旨明記してください。
一、二級客席では完全にソロになります。

大体、そんな感じです。
また、今回はあきかMSさんとの共同運行になります。
寝台特急オリオン号もぜひお越しください!
シナリオの性質上、話の流れ的に二本同時参加は難しそうですが、沢山の人に楽しんでもらいたいので、時間の矛盾や細かい違い等は気にせずご参加してくれると嬉しいです。
細かいことはいいんだよ!楽しく遊ぼうぜ!

また、リュカも同行しております。
三章に限り、声をかけていただければ参加します。
基本彼は寝ないで平気なので、深夜まで食堂車に居座って窓からの景色を眺めているでしょう。
誰かと一緒に寝たりは、性格上出来ませんが、声をかけられたら個室とかに顔出すぐらいはします。

以上になります。
それでは、良い旅を。
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第1章 ボス戦 『獄卒将校』

POW   :    獄卒刀斬り
【愛用の軍刀】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    影朧軍刀術
自身に【影朧の妖気】をまとい、高速移動と【影朧エンジンを装着した軍刀からの衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    同志諸君!
【かつて志を同じくした帝都軍人】の霊を召喚する。これは【軍刀】や【軍用拳銃】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 声が、遠い。
 どうして、こんな遠くまで来てしまったのか。
 彼は佇む。先ほどまで溢れていた声は、いつの間にか消えてしまっていた。
 あれほどいた人はどこに行ってしまったのか。
 懐かしい声を聞きたくて、聞きたくて。それに惹かれて、やってきたのに。
 昔から、列車に乗る人の楽しそうな声が、顔が、好きだったのに。
 どうして、この列車はこんなにも静かなのだろうか。
 いつになったら発車するのか。彼はただ。……彼はただ。
「――、――――」
 何か、言おうとして。
 どうやら、何を言おうとしていたのか、忘れてしまっていたようで。
「……」
 手にしていた、手紙を潰れるぐらい強く握りしめた。
 もはや手紙を持っていることすら、彼は覚えていなかった。

 願いは一つ、ただ一つ。
 この列車から、寝台特急、オリオン号を見ることで。
 それがなぜ執着になったのかすら思い出せぬまま、
 男は、列車が動き出すのを待っている。


●マスターより追記

■運行スケジュール
一章:列車に乗り込みます
旅立ちの様子~車内の様子を主にプレイングに記してください。
ホームで旅立ちごっこをしたり、駅弁を買い込んだり、窓からの景色を見たり(街中も通れば山間部も通ったりします)、お好きにどうぞ。
朧影はだいたいその辺をふらふらしているので、戦闘はほぼ発生しません。
戦闘プレイングは、必要ありません。ただ、皆さんが楽しそうにしているのを見ると、ぼんやりと嬉しそうな雰囲気でそれを見ていることがあるかもしれません。
話しかければ、ぽつりぽつりと返答はするようです。
また、プレイングで声掛けがあればどこにでも出現しますが、なければ全く出現しません。どちらでもお好きなようにどうぞ。
二章:夜になると、列車の外から美しい景色が見えます。
この寝台列車の目玉の一つで、ちょうど並走して走る寝台特急オリオン号を見ることができます。夜間、湖のすぐ傍を走行する列車は桜と星空の中を駆け抜けていき、とても美しいと評判です。景色を眺めながら夕食を取るのが流行り。
三章:時間帯は深夜帯です。列車の音を聞きながら眠ったり、いつまでも映っていく景色や星空を見つめたり、ふっと夜中に目を覚まして外の景色を見たり、お好きにどうぞ。
シホ・イオア
痛みを抱えたまま彷徨うのは辛いもんね。
力になってあげたいな。

そういえば乗るのに切符がいるんだよね?
シホには大きすぎるし邪魔だからフェアリーランドにしまっておけるかな?

ホームでは売店を覗いてシリウス号グッズとか探してみる

一等も二等もシホには広すぎる。
部屋は三等でいいよね。
寝台特急とか乗るの初めてだし
あっちへフラフラこっちへフラフラして飛んでよう。
空き室があれば一等も二等も覗いておきたいな。
朧影にあったら不審にならない程度に挨拶しておこう。

アドリブ交流歓迎。


鏡島・嵐
予約を取るんは三等寝台で。折角だから出発前に車輛の写真を撮ったり、他の客室も迷惑にならねえ範囲で覗いたり。駅弁買うんもイイよな。
出発前だから、駅の雰囲気も堪能しておきてえな。駅員さんとか、他の客が発車前に準備してるんを見ると「ああ、旅してるんだな」って気持ちになれるしさ。
とにかく旅は大好きだから、全力で愉しみに行くぞ。

列車旅はイイよな。独特の醍醐味があって好きだ。
寝台特急ってのがまたイイ味だ。一晩寝たら前の日とは全然違う場所だったりすると、心が躍る。
勿論今まで何度か経験はしてるけど、やっぱりウキウキしちまうなぁ。

……なあ、アンタはどう思う? そこの朧影さんさ。

※他PCとの交流は適当に。



 駅のホームは雑多な気配で満ちていた。出発前特有のあわただしさ。
 特に今回は、朧影の影響で一度取りやめになった列車が、猟兵をのせて再度運行することになったので、駅職員たちは忙しそうに立ち回っていた。
「……なんか、そういうのも」
 いいよな。と。鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)は思う。旅立つ前の駅の雰囲気に勝るわくわく感はなかなかない。そしてそんな忙しい人たちをしり目に車体を撮影するのももちろん忘れない。
 シリウス号は古い型ではあるが愛されている車両であるらしく、廃車が近い割にはきれいに磨かれていてその重厚感は歴史を感じさせた。嵐がシャッターを下ろしたその時に、
「あっ。わわ、ごめんねっ」
 小さな小さなフェアリーが、カメラの中に移りこんだ。シホ・イオア(フェアリーの聖者・f04634)である。いや、と嵐は首を横に振る。
「こーゆーのも、味があっていいと思うって。……っていうか、大丈夫か?」
「う、うん。ちょっと切符が大きくて」
 そしてグッズもたくさんで、なんていうシホの言葉通り、シホは大量のおみやげ物も持っていた。絵ハガキやペナントなんて定番とともに、シホには多すぎるだろうシリウス号饅頭なんかも持っている。さらに切符も持っているのでフェアリーには正直厳しい。
「シホには大きすぎるし邪魔だからフェアリーランドにしまっておけるかな? 切符とか」
「いや、先にこの饅頭しまおうぜ」
「お饅頭は車内で食べたいのっ」
「そういう意味で切符は最後までしまっちゃだめだろ。……じゃあ、ペナントからかな」
 使わないお土産が一番底だ。とか言いながらも、嵐はシホの荷物を持つ。
「わあ、ありがとうだよ」
「いいって。旅は道連れっていうしな。ところで売店どこにあった? 駅弁買うんもイイよな。おれも買っておこうかな」
「あ、じゃあね、あっちの売店の限定お弁当が……」

 二人して、売店で買い物をして。
 せっかくだから、一等客室の開いている部屋をのぞいたりなんかもして。
「うわっ。さすが一等、すげえな」
「お姫様みたいで素敵だけど、シホには大きすぎるんだよ!」
「ああ。俺にだって広すぎるわこりゃ」
 こんなに広くて何するんだろうね? と、顔を見合わせたり。
「二等客室は……何か普通のホテルって感じだな」
「人間には、これぐらいがちょうどいいんだよね」
「そうそう。でもおれはもうちょっと列車感欲しいな」
 旅慣れている嵐と妖精のシホには二等客室だって広すぎたり。
「食堂車か。これは後だろ、後」
「最初は駅弁もお饅頭もあるから、ご飯はその後だよね☆」
 非常に忙しそうな食堂を通り抜けたりしていると、ホームからベルが鳴り、汽笛が大きくそれに応えるようになって、列車が走り出すのであった。
「三等はカーテンの仕切りだけかー。ちょっと音がうるさそうだけど、こういうのも、ああ、旅してるんだな、って、感じがして好きだな」
「うんっ。シホには三等でちょうどいいくらいだよ!」
 そうして列車に揺られながら自分たちの部屋(?)にたどり着いた二人は、各々荷物を置いたり片づけたり。廊下からはカーテン一枚で仕切られているだけなので、普通ならあんまりうるさくしてはいけないのだが、今日は乗客も少ないので問題ないだろう。
「あ、お饅頭持ってくれてありがとうだよ」
「おー」
 ついてしまえば切符はベッドの上に投げ出して。まずはお饅頭を開けよう、というシホに嵐も買ったばかりの金目鯛弁当をベッドに置きながら答える。
「列車旅はイイよな。独特の醍醐味があって好きだ。寝台特急ってのがまたイイ味だ。一晩寝たら前の日とは全然違う場所だったりすると、心が躍る。勿論今まで何度か経験はしてるけど、やっぱりウキウキしちまうなぁ」
 着替え類やすぐに必要のない荷物は上の棚へ押し上げながら、嵐はふと声をかけた、
「……なあ、アンタはどう思う? そこの朧影さんさ」
 ……不意に。
 嵐がそう言って、シホも顔を上げた。
 ぼんやりと、うつろうような影が廊下を歩いていたからだ。
「……こんにちは」
 ぺこりと、シホは頭を下げる。そんな二人のほうを、影朧はちらりと見つめた、気がした。
 気がしたというのは、あまりにその存在が希薄だったからだ。
「そう…………。そうですね。この列車は……これより山間部を走りますが……」
 二人の声が聞こえたのか、ぼんやりと影は語る。夜が明けるころには、海を見ることもできるでしょう、と。
「私の愛したこの列車を……楽しんでいただけたら……私も嬉しい……」
「ああ。とにかく旅は大好きだから、全力で愉しみに行くぞ」
 嵐のしっかりとした言葉に、影は頷いたようだった。ずるずると歩き出すその姿を、シホは見送る。
「痛みを抱えたまま彷徨うのは辛いもんね……。力になってあげたいな」
 その背中が何とはなく悲しげで。思わずシホは呟くと。そうだな、と嵐もかすかに頷いた。
 それは、オブビリオンであるというのに殺気も恐怖も感じさせずに。まるで、列車の間に揺らぐ陽炎であるかのようであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リラ・ラッテ
桜の都を眺めながらの列車旅
ふふっ、すごく魅力的ね

乗車前から楽しみで心が躍る

……これが噂の駅弁!列車旅には駅弁って本に載っていたわ

駅弁の数々に眸がついつい輝いて
どれも美味しそうだけれど、オススメを訊いて、その一つを購入

さあ、準備万端
列車に乗り込んで、客室へ

駅弁を食べながら
街から山へ、あっという間に移り変わる景色が楽しむ

ふと車内に目をやれば、彷徨う影朧の彼の姿が目に入る
話しかけはしないけれど、案内人の少年から聴いた、彼の執着へ想いを馳せる

切望するその景色を、彼がどうか観られます様に

どんな理由があるかは知らないけれど
誰も傷つけないその願いは、叶えられるべきものでしょう

◯アドリブ・絡み歓迎


桜田・鳥獣戯画
インバネスコートに大きな革トランクで参加。

一名だ。三等客室を希望する。
旅の縁もあるだろうな。もちろん歓迎だ(ふれあいバンザーイ)

見たい景色があってな。参加の理由はそれだ。

過去に行った場所なのか、空想の産物なのかはわからん。何せ私は記憶がない。
だから「懐かしい未知の風景」とでも言おうか、そういうものが見られるかもしれない。

懐かしい景色がどこかに在ると信じる気持ち、これも執着なのだろうな。
あの朧影にはどのような思いがあるのか。単純にそれを知りたい。

おっと弁当を買わねば!!
フードファイターはよく食べるので三人前くらい買わねばな!!
デザートは食堂車だ。デッキにも出たい!!

(アドリブ喜びます!)



 リラ・ラッテ(ingénue・f31678)は感心したように列車を見上げていた。
 それを横目に見ながら、桜田・鳥獣戯画(デスメンタル・f09037)はふむ、と、大きな皮トランクを持ち直す。
「三等客室は……あちらの乗り口が近いか」
 入り口を確認して、足を向けかけた彼女はしかし、はっ。と思い至って顔を上げる。
「おっと弁当を買わねば!! 駅弁は醍醐味だ」
「駅弁!」
 鳥獣戯画の言葉にリラはくるりと振り返る。思わず、その言葉に反応してしまったのだろうが、二人目があってしまって、リラはちょっと照れたように微笑んだ。
「あ、ごめんなさい。列車旅には駅弁って本に載っていたから、つい」
 ちょっと恥ずかしい。と頬を染めるリラに、鳥獣戯画も口の端をゆがめて笑みを浮かべる。
「そうか。私も今丁度、買いに行こうと思っていたところだ。ならば共に買いに行こう」
「あら、よろしいの?」
「勿論、旅の縁はいつだって歓迎だ」
 ふふん。と何だか得意げな鳥獣戯画に、ふふ、とリラも微笑む。出発までまだ少し時間がある。駅弁をゆっくり選ぶ時間くらい、あるだろう。
 ホームの中ほどに売っている駅弁売り場には、沢山のお弁当が並んでいた。本来ならきっと出発前のこの時間帯、混むのだろうが今は朧影の影響か、人が少ない。
「……これが噂の駅弁!」
 だからこそじっくり見られるというもの。リラが並ぶお弁当につい瞳を輝かせる。松茸、紅鮭、牛丼、釜めし、とんかつ……と、種類も様々。いろんな地方から来ているのか、変わったものもいくつかある。
「どれも美味しそうだけれども、お勧めはどれかしら?」
 ちらりと鳥獣戯画のほうを見上げるリラ。……で、鳥獣戯画はというと、
「松茸と鯛めしと焼き肉弁当を頼む。ついでにそこの蜜柑もつけてくれ。おにぎり? もちろん買うさ!」
 何やらものすごい量を買い込んでいた。合間に売店のおばちゃんが何点かお勧めを教えてくれる。
「あら……」
「フードファイターはよく食べるので、三人前くらい買わねばな!!」
 思わずそんな声が出るリラに、鳥獣戯画はむしろ大きく胸を張ったのでリラは笑う。だったら、とリラのほうは彼女が頼んだ弁当を確認して、
「釜めしのお弁当を頂こうかしら。お勧めだし、あなたが頼んでいないみたいだから、少し分けられるかと思って」
「ああ、それはいいな! では私の弁当も少し差し上げよう!」
「ええ、ありがとう」
 そうしてリラはお弁当ひとつを手に持って。鳥獣戯画は山のようなお弁当を抱えるようにして二人して列車に乗り込んだ。
「客室はどちら?」
「三等客室だ」
「あら、だったら一緒ね」
 三等客室とはいえ、充分の広さがある。具体的に言うと、サイドテーブルにちょっとした荷物や弁当を置くスペースぐらいはあった。さすがに大量の弁当を重ねるほどの場所はないが、ベッドの上に置いている間に、ホームからベルの音がする。そして、
 ふぉぉん、と、汽笛が鳴って、列車が動き出した。
「あっ。動きだしたわ」
「そうだな。……お」
 駅員さんが手を振っている。それに手を振り返したら、
「では……早速」
「ええ。駅弁ね!」
 二人はお弁当の蓋を、開けた。

「見て、街を出るわ」
「ああ……本当だな。ほら、トンネルだ」
「あっ。本当、トンネルに入るわっ」
 ごう、っと音を立てて景色が途切れる。真っ暗なトンネルをすごい勢いで走り抜け、次の瞬間には建物の影もなく、深い谷の際のあたりを走っていた。
「うわあ……」
 山中渓と書かれた鈍行用の駅を一瞬で通過して、まさに山の中を走って行く列車。軽く雪が積もっている。
 その時、軽い足音がして、二人は食事の手を一瞬、止めた。
 かつん、かつんと、靴音を立てて、
 特に何を言うでもなく、その影は通り過ぎた。
 一瞬、カーテンを開けっぱなしだった二人の席に影は目をやって。
 何となくその表情を和やかなものにしたのが、二人にもわかった。
「……まさに、朧の影だな」
 緊張は一瞬であった。何事もなかったかのように食事を再開させる鳥獣戯画に、うん、と、リラも頷く。
 何となく、二人の間に沈黙が落ちた。お弁当の美味しい匂いと、お茶の湯気。それから、
「私には、見たい景色がある」
 不意に、彼女はそう言った。
「……過去に行った場所なのか、空想の産物なのかはわからん。何せ私は記憶がない」
 ぽつんと、先ほどまで景色を見ていた時と同じような口調で、鳥獣戯画は口にした。
「だから「懐かしい未知の風景」とでも言おうか、そういうものが見られるかもしれない。そう思ってこの列車に乗った。この旅の参加の理由はそれだ。見たい景色がある、とはそういうことだ」
「そう……」
 リラはゆっくりと、影朧の立ち去ったほうを見つめる。
「懐かしい景色がどこかに在ると信じる気持ち、これも執着なのだろうな。……あの朧影にはどのような思いがあるのか。単純にそれを知りたい。きっと彼は、同じように、何か執着している景色があるはずだ」
「……」
 執着。と、リラはその言葉を口の端に乗せる。彼女の執着、彼の執着。様々な思いをのせて、列車が走っている。
「私には、絶対に見つかるわ、なんて、無責任なことは言えないけれど……。切望するその景色を、彼がどうか観られます様に。あなたの求める景色が、少しでも見つかりますように、と、思うわ」
「そうだな……。ありがとう。私だって、今回の旅で見つからないとしても、彼の執着を晴らせるということは、いつか自分のそれも晴らせるかもしれないという思いにつながる」
 出来たらいいな。と、鳥獣戯画は言って。そうね、とリラも小さく頷いた。
「どんな理由があるかは知らないけれど……誰も傷つけないその願いは、叶えられるべきものでしょう」
 それはきっと、猟兵でも、影朧でも、一緒なのだとリラは言った。
 鳥獣戯画は楽しげに笑う。
「まあ、私にしては若干真面目な話をしてしまったが……旅はこれからだ。景色も大事だがこの旅を満喫することも大切だな!」
「そうね。だったら……」
「……デザートは食堂車だ。デッキにも出たい!!」
「あら、まだ食べるの?」
 なぜか得意げな鳥獣戯画に、リラは微笑みながら首を傾げる。
「デザートのお勧めは何かしら」
「ぱふぇがうまいと売店のおばちゃんが言っていたな」
「じゃあ、それにしようかしら……」
 さて。景色は流れてうつろっていく。リラは応えながらも窓にちらりと目をやった。
 桜の都を眺めながらの列車旅は、きっと素敵な景色ばかりだろう。みんなが望む景色があれば、それでいいと。思うだけで心も踊って、
「きっと……きっと、こんなに素敵な列車だもの。幸せな景色が見られるはずよ」
 二人の旅もまた、始まったばかりだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天瀬・紅紀
櫻沙さん(f26681)と

へぇ…これが寝台特急か
ミステリーの舞台じゃ定番だけど、乗るのは僕も初めてだよ
それに僕の世界では殆どが運行終了してるし
でもゆっくり流れる車窓の景色は新幹線じゃ楽しめないからね
時々ローカル路線の旅はしたくなる
〆切逃れを兼ねて…なんて事実は櫻沙さんには言えないけど

駅の構内に列車の風景、そして汽笛の音
こうして直に感じる経験が、いつかきっと作品の糧になるだろうから
いいんだよ、興味を失っては文豪たり得ない
好奇心沸き立つからこそ生きてる実感湧くでしょ?

影朧のお兄さん見かけたら微笑み声かけ
僕達は取材旅行でね
君は一人旅なのかな
誰か想う人いるなら話してくれれば、と思いつつ
お互い、良き旅を


樹神・櫻沙
天瀬さん(f24482)とご一緒します。

寝台特急……初めて乗ります。しかも貸し切り……凄く贅沢な気がして、緊張、します。
天瀬さんは、こういう列車とかは慣れてらっしゃいます、か…?
駅の様子も、車窓からの眺めも、筆の参考になりますよね…。
普段は見られない景色、とても楽しく時間を忘れてしまいそう、です。

あちこち見ていたら、発車の時間…席に着いたら、今度は窓の外に目が奪われてしまいます。
きょろきょろしていたら、笑われてしまいそうですが…どうしても気になってしまって。
…影朧さんの様子は一度確認しておきたいと思います…気になります、ので。
軽く頭を下げて、良き旅を、と。それだけ告げて、後は触れずに…。



 発車前の列車を見上げて、天瀬・紅紀(蠍火・f24482)は傾いた帽子を軽く上向けた。
「へぇ……これが寝台特急か」
 声音にはわずかに、感心するような感情が乗っている。それで、恐る恐る、隣の樹神・櫻沙(Fiori di ciliegio caduti・f26681)も顔を上げるのであった。
 黒く、輝くフォルムは優美である。話によると、ずいぶん昔の車両でもうすぐ廃車が決まっているとのことであったが、そんな年齢を感じさせないぐらい車体はピカぴなに磨かれていた。鈍い輝きに重さを感じて、高級感を醸し出している。ゆえに、
「寝台特急……初めて乗ります。しかも貸し切り……凄く贅沢な気がして、緊張、します」
 櫻沙はほんの少し、伺うように言うのであった。
「天瀬さんは、こういう列車とかは慣れてらっしゃいます、か……?」
「うーん。ミステリーの舞台じゃ定番だけど、乗るのは僕も初めてだよ」
 そんな櫻沙の視線に気づいているのかいないのか、紅紀は若干軽い口調で、答える。櫻沙の感じるような重厚感を、紅紀も分からないというわけではないのだが、若干櫻沙が感じているよりも……そう。
「それに僕の世界では殆どが運行終了してるし、でもゆっくり流れる車窓の景色は新幹線じゃ楽しめないからね。時々ローカル路線の旅はしたくなる。だから、こういうのもいいものさ」
 どちらかというと、純粋に古いものを楽しんでいるような口調であった。若干そのあたりに生まれ育ち(世界)の違いを思いつつも、櫻沙はうん、と、小さく頷く。
「なるほど定番、楽しく……。駅の様子も、車窓からの眺めも、筆の参考になりますよね……。たくさん楽しむことで、それも何かに生かせる気がします」
 そう思えば、なんか物凄く勉強になるかもしれない。緊張から転じて、若干やる気を出した櫻沙。人生何事も取材だ。と真面目に気持ちを新たにした櫻沙に、
(〆切逃れを兼ねて……なんて事実は櫻沙さんには言えないけど)
 紅紀はそっと視線を逸らすのであった。彼とて、文豪。彼女も、文豪。言わなくていいこともあるのだ。いわゆる行間を読むというやつである。多分。
「そうだね。いい参考と、そしていい気分転換になると思う」
「ええ。普段は見られない景色、とても楽しく時間を忘れてしまいそう、です」
 楽しみですねと笑う櫻沙に、楽しみだねえと微笑む紅紀。
 その時、ホームからベルのような音がした。そろそろ出発、の合図だ。
「ああ。そろそろ出発するよ。行こうか」
 それに気付いて、紅紀が列車に飛び乗って櫻沙のほうに手を差し出す。
「はいっ」
 櫻沙もまるで小説の一幕のようにその手を捕まえて、列車へと飛び乗った。

 きしむ廊下を歩き、車両を急ぐ。
 一級客室の静けさ。二級客室の穏やかさ。食堂車の賑わい。三等客室の雑多な感じ。
「済みません。あちこち見ていたら、こんな時間に……」
 一通り見て回って、ようやく席に着いた櫻沙。それでもいった途端から、彼女の目は窓の外に奪われる。その様子を紅紀は微笑ましそうに見つめていた。
「こうして直に感じる経験が、いつかきっと作品の糧になるだろうから、いいんだよ」
 走りだした列車は、街の中をゆるゆると通り過ぎていく。汽車は町中も普通に走るので、なんだか紅紀にとっては最初のうちは路面電車を見ているようで微笑ましい。さすがに街中ではそこまでスピードを出さないな、なんて。列車に向かって手を振る子供に軽く手を振り返しながら考えていて、
「興味を失っては文豪たり得ない。好奇心沸き立つからこそ生きてる実感湧くでしょ?」
「それは……あ、ありがとうございます」
 そういっていただけると嬉しいです。と、櫻沙も思わず微笑んだ。こんな風にきょろきょろしていたら、なんだか笑われてしまいそうだったけれども、紅紀がそう言ってくれると、安心する。どうしても気になってしまうのを、止められないからだ。
 ……その時。
 紅紀はふと、顔を上げた。
 櫻沙も一度、瞬きをした。
 そっと二人、廊下の方に目をやる。
「……やあ」
 何か、薄らぼんやりしたものが廊下を歩いていた。それに紅紀が声をかけると、それは足を止めた。
「僕達は取材旅行でね。君は一人旅なのかな?」
「旅……?」
 微笑みながらの、紅紀の言葉に、影朧はわずかに瞬きをしたようだった。
「旅……。旅……?」
 誰か想う人いるなら話してくれれば、と思いつつ。尋ねた言葉に、影朧は困惑しているようであった。
「お互い、良き旅を」
「良き旅を」
 穏やかに、紅紀が言って。櫻沙もぺこりと頭を下げる。
「……」
 薄らぼんやりとした影は、二人の前をゆっくりと通り過ぎていく。
「そうか……これは旅なのか。いい旅を。いい旅を……」
 そんなことを口の中で繰り返しながら……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
出発ダー。列車ダー。
賢い君、賢い君、列車ダヨー。
うんうん。キレイキレイ。
外の景色もとーってもキレイ!

賢い君と二人。
だからコレは二等客室で賢い君と旅行を楽しむ楽しむ。

列車でゴハン。弁当じゃなくてゴハン。
賢い君、賢い君、豪華なゴハンだったらどーする?どーしよ。

うんうん。ナルホドー。
綺麗に食べる。オーケー!

へぇへぇ、ココが食堂車。
アァ……スゴイなァ…。
列車の中に食堂があるンだ。信じられない。

ジャーキーは無さそうダ。
おやつのジャーキーを持ってきて良かった良かった。

出された物はキレイに食べる。
野菜はちょっと避ける。避けたら賢い君に怒られるケド
野菜はダメダメ、バーツ!



 ホームからベルが響いていて、少しびっくりしてエンジ・カラカ(六月・f06959)は窓に張り付いた。
 何事だろうかと思った、その疑問は一瞬にして解決する。大きな音を立てて応えるように汽笛が上がり、列車が走り出したからだ。
「出発ダー。列車ダー……!」
 おぉぉ、と興味津々で窓から外を眺めるエンジ。……勿論、
「賢い君、賢い君、列車ダヨー。ほらほら、うんうん。キレイキレイ」
 賢い君も、窓を見えるように掲げることを忘れない。
「外の景色もとーってもキレイ!」
 二等客室だ。今回の乗客は彼と賢い君の二人だけなので、遠慮なくエンジは窓辺に張り付くことにする。ゆっくりだった列車が徐々に速度を上げていく。最初は、桜の街中を走っていて、子供が列車に向かって手を振るのに合わせてエンジも手を振り返す。
「賢い君、賢い君、見タ? 手を振ってタ!」
 思わず声を上げるエンジ。賢い君の方を見ると、なるほどなるほど、と小さく頷く。
「ウン、ウン、手を振ってくれたから。可愛かったなァ……」
 楽しげに笑う。笑いながらもあっ、とエンジは目を見張った。
「田んぼダ! ほら、雪が積もってキレイキレイ」
 今の時期は稲刈りも終わり、雪が積もるだけの田んぼだけれども、それでも目を輝かせてエンジは指をさす。
 何を見ても楽しそうな、彼の列車旅であったが……、

「……んー?」
 どれくらいそうしていただろうか。
 ふっ、とエンジは顔を上げた。
「列車でゴハン。弁当じゃなくてゴハン」
 お腹が空いたのだ。そして、お腹がすけば時刻に関係なく彼にとってはご飯である。
「賢い君、賢い君、豪華なゴハンだったらどーする? どーしよ」
 思い立ったら即行動である。永夜、と窓から目を離して立ち上がる。わくわくしながら賢い君に問いかけると、
「うんうん。ナルホドー。綺麗に食べる。オーケー!」
 なんて言って、食堂車へと旅立った。

「へぇへぇ、ココが食堂車」
 そうしてたどり着いた食堂車は、賑やかな声にあふれていた。メイドたちが忙しそうに行き来するそのさまは、ここが列車の中であることも忘れてしまいそうなぐらいスムーズで、なんだかどこにでもある喫茶店のような気持に、
 きぃ、と、カーブで微かに車体が揺らめいて、エンジは思わず声に出すのであった。
「アァ……スゴイなァ……」
 列車の中に食堂があるンだ。信じられない。
 信じられないけれども、現実なんだということが、その揺れで証明されている。
 テーブル一つ選んで、席に着く。
 相変わらず景色は流れて行く。エンジは座っているのに、エンジの位置は動いている。
 手早くメニューに目を通す。メニューには洒落た文字が躍っている。
「ジャーキーは無さそうダ。だったら……このおすすめネ」
「かしこまりました」
 恭しく一礼するメイドに気付かれないように、エンジはこっそり賢い君へとささやくのであった。
「おやつのジャーキーを持ってきて良かった良かった」
 賢い君が返事をするように、かすかに揺れた。
「お待たせしました」
「!」
 そして運ばれてきたランチにエンジは目を丸くする。
 エビフライトハンバーグの取り合わせなんて、さほど珍しいものではないのだが……、
「野菜はダメダメ、バーツ!」
 付け合わせがいけない。キャベツもキュウリもトマトも行けない。つまりはサラダが行けない。さささ、と遠くへと追いやろうとするエンジに、
「!」
 賢い君が軽く揺れた。
「うー……」
 苦々しい顔でエンジは野菜をにらんだ。
「……」
 賢い君が軽く揺れた。
 エンジは小さく、ため息をついた。
「……はーい」
 怒られた子供のような。観念したような声に、賢い君にちらりと視線をやって、
「出された物はキレイに食べる。コレはいい狼だからナ」
 サラダへと手を伸ばした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】で二等客室(何両目かはお任せ)
倫太郎と食堂車へ向かいます
倫太郎が避けた影朧と此方もすれ違う
気付かれない程度に軽く視線だけで追い、食堂車へ

食事はカレー
家のカレーも美味しいですが、お店等で食べるものはまた異なる味
倫太郎にも分けてあげますからね

互いに料理の感想を話し合ったり、窓の外から見える景色を楽しんだり
外に景色に夢中になっている倫太郎の口元を軽く手で拭う
すみません、シチューが口元に付いておりましたもので

景色に気を取られただけではなさそうですね
何か気になることでも?
えぇ……倒すだけでなく、心残りだったことを叶えられたのなら
私もとても嬉しく思います

……あっぷるぱい、ですか
ふふ、頂きます


篝・倫太郎
【華禱】で二等客室(何両目かはお任せ)
夜彦と一緒に食堂車へ
途中、ぶつからない様に避け合った相手は影朧

少し、嬉しそうな気配をさせてる背を夜彦と見送って

食事……ビーフシチューにしようかな
寒い時期はなんか、カレーよりシチューになっちまうや、俺

料理に舌鼓を打ちながら
窓の外から飛ぶように行き過ぎる景色を眺めて……たら
夜彦にぐいっと口元を拭かれた

そんなにこにこしながら世話焼かないで
恥ずかしさと嬉しさで俺の情緒が大変になるから

ん?あぁ……さっきの影朧
嬉しそうだったな、と思ってさ……
願いが叶って、優しい気持ちで転生出来ればいいなって?

……ほら、あーん
デザートのアップルパイをお裾分けして
気恥ずかしさを誤魔化して



「おぉ~~~」
 一等客室と二等客室はきちっと敷居がある、いわゆる個室になっていた。
 左右にあるのは壁と扉。ゆえに、荷物を持って歩いているとなんだかホテルのきているような気さえしているのだけれども、
「結構、揺れましたね。大丈夫ですか?」
 ガタン、と。カーブのたびに、何かの拍子に、車体が揺れると、それだけで列車旅であることを思い出す。UDCの電車ほど、そのあたりは器用ではない。
 気遣うような月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)の言葉に、にへっ、と篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は笑みを見せた。
「平気平気。ていうか、こういうのも醍醐味だよな!」
 時折鳴る汽笛。蒸気機関車の走る音はそこそこ大きいけれども、それもまた倫太郎にとっては楽しい。夜彦も小さく頷いた。
「倫太郎に会わなければ、出会えなかった体験ですね」
「は? ……いや、そりゃ……そうかもしれないけど」
 出身世界から考えれば、こんな列車に乗ることは一生なかったはずなのに、今、ためらうことなく乗っているこの不思議を素直に夜彦が口にすると、倫太郎は思わず否定しかけて……、そうかもしれない、と小さく頷いた。
「……だな、これからもいろんなところ、行こうな」
「ええ、勿論」
「んじゃ、今は早速食堂車だっ。もう腹が……」
 行こう、と、倫太郎が走り出そうとした時、
 ふわりと、何かが掠めて思わず倫太郎は軽く体を捻って避けた。
「……」
(……っと)
 間一髪、ぶつかりそうになったのは揺らめく影のようなもの。
 一瞬、油断なく夜彦がその姿を気付かれないよう目で追うた。向こうは全く気付かずに。むしろ二人とぶつかりそうになったことも分かっていないのか。ゆっくりゆっくり、廊下を倫太郎とは反対方向へと歩いていく。
「……もう腹が減ってさ、早く行こうぜ」
「ええ。楽しみですね」
 そうして何事もなかったかのように歩き出す二人。何となくそんな二人の声に楽しそうな色をにじませて、虚ろな影も通路の反対側に姿を消した。

「お待たせしました! 特製カレーとビーフシチューです!」
 食堂車は賑やかだった。威勢のいいメイドさんから料理を貰うと、早速、と倫太郎は手を伸ばす。
「寒い時期はなんか、カレーよりシチューになっちまうや、俺」
「私はカレー派ですね。家のカレーも美味しいですが、お店等で食べるものはまた異なる味。特にこの家庭では出せない味は譲れません」
「うーん。これはいくら夜彦でも譲れるような譲れないような……なっ、クリームシチューも頼んでいい?」
「カレーにしましょう。倫太郎にも分けてあげますからね」
「あ、じゃあ、それでいい」
 あっさり。拘りを横に置いておいて嬉しそうにカレーを見る倫太郎に、夜彦は微笑んだ。
「山だなー」
「雪がまだ残ってますね」
「だなっ。きっと紅葉の時期なんかも……」
 流れる景色を見ながら、食事をして、語り合って。
 そんな話の合間に、ふと夜彦は手を伸ばす。
「ん?」
「すみません、シチューが口元に付いておりましたもので」
 不意打ちで口元を拭われた。倫太郎は思わずぽかんとして、
「……いや、すみませんじゃねえから」
「あ、駄目……でしたか?」
「いや。駄目じゃねえけど!」
 もしやわかってて言っているのだろうかと、思わず倫太郎は両手を顔で覆うのであった。
「そんなにこにこしながら世話焼かないで。恥ずかしさと嬉しさで俺の情緒が大変になるから」
「……はあ」
 やっぱり、わかっているのかいないのかわからない。にこやかな夜彦の顔に、倫太郎はそっぽを向いて何とも言えないため息を吐くのであった。
「何か?」
「……いや」
「景色に気を取られただけではなさそうですね……。何か気になることでも?」
 このままではあんまりよろしくない方向に向かいそうだったので、思わず視線をそらしたままの倫太郎に夜彦がやっぱりわかっているのかいないのか、フォローめいた問いかけをする。それでああ、と、倫太郎は頷いた。そもそも倫太郎はそんなに何事もなければ口元にシチューたくさんつけるような真似は、たぶんきっと、しない。
「ん? あぁ……。そうだな。さっきの影朧……嬉しそうだったな、と思ってさ……。それ考えてたのはあるかも」
「ああ……」
 すれ違った影を思い出しながら言う倫太郎の言葉に、夜彦は頷く。
「願いが叶って、優しい気持ちで転生出来ればいいなって?」
「えぇ……。倒すだけでなく、心残りだったことを叶えられたのなら、私もとても嬉しく思います」
「だなっ」
 せっかくの楽しい旅だから、
 そんな優しい結末があってほしいと倫太郎は思うのだ。
「倫太郎は、優しいですね」
「……」
 またそういうことを普通に言う。
「……ほら、あーん」
 答える代わりに、倫太郎はデザートのアップルパイを夜彦の口元に運んだ。まるで気恥ずかしさをごまかすように。
「……あっぷるぱい、ですか。ふふ、頂きます」
 そんな倫太郎の気持ちを分かっているのかいないのか……いや多分わかっているのだろう……夜彦は楽しそうに言って、ぱくりとアップルパイを口にした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジュジュ・ブランロジエ
【空】
アドリブ歓迎
『』は裏声でメボンゴの台詞
一等客室に皆で泊まる!

寝台特急の旅は初めてでわくわく
お弁当買っていこうよ!

寝台特急と言えばミステリー小説を思い出すなぁ
名探偵の常盤さんも乗ってるし
『とっきーの推理が光っちゃうね!』
私達みんな物語の登場人物っぽくない?
名探偵常盤さん、謎の奇術師の私、イケメン料理人コノさん、可愛いヒロインタヌキツネのさつまさん
『メボンゴはお色気担当!』
お色気担当はコノさんでしょ
『コノちゃなら納得せざるを得ない』

じゃあトリプルヒロインで!
可愛い系がさつまさん、クール系が私、お嬢様系がメボンゴね

早速謎が!
『とっきーならすぐ解けるね!』
そこに気付くとは!
『たぬちゃも名探偵!』


神埜・常盤
【空】4人

この世界の列車は立派で趣有るなァ
スマホに一枚姿を納めておこう

汽車の旅、楽しみだ
僕はビフテキ弁当を買ったよ
あァ、皆で分けあおう、そうしよう
夜も美味しいものを沢山食べたい

確かに、寝台特急はよく
ミステリの舞台になるが……
はは、ジュジュ君が云わんとすること
何となく分かる気がするよ

ホテルとか汽車とか
そういう非日常な場所に泊まると
物語の世界に迷い込んだような気分に成るよねェ

――たぬき
笑いを噛み殺しながら、さつま君を眺めて
さて、どうかな
人に化けて乗客に混ざってるのかもねェ?
そう、犯人は此の中に……ッて
コノ君の方に行ったか、そうかァ……
噴き出さないよう最後まで我慢しておこう


コノハ・ライゼ
【空】

ふふ、確かに物語の始まりそうな雰囲気!
モチロンお弁当の分けあいも大賛成
沢山食べたら一杯楽しンで、夜までにお腹空かせないとネ

ああ、分かる~
ミステリーの登場人物と言えば一癖も二癖もありそうだものネェ
成る程イケメンお色気担当料理人……ってツッコミ皆無どころか納得されてるし
トリプルヒロインは否定しないケド、クールの意味ご存知?
ジュジュちゃんにいちいちツッコミ(?)入れつつ足取り軽く客室へ
真面目に問いかけるたぬちゃんには
笑い抑えるジンノ横目に見るも気にせず吹き出し笑って
まあホラ、何も知らない引っ掻き回し役が物語を面白くするのも
ミステリの定番だしぃ?
案外この中の誰かに化けてるかもねぇ…って
ソレ冤罪!


火狸・さつま
【空】
基本人姿
人が混み合う場所は狐姿ですぃすぃとことこ

汽車、かっくいい、ね
尻尾は先程から振りちぎれんばかり
わくわくおみみぴこぴこ

おべんと!えきべん!
何、食べる?
気になるの、沢山
色々買って皆で分け分け食べ比べ!しよ!
だて、美味し、車内食も頂かなくちゃ、だし

みすてり?
え?俺が、ヒロイン、な、の?
ジュジュとメボちゃんじゃ、なく???
おめめぱちくり首傾げ
じゃ、じゃ、皆で!ひろいんふぁいぶ!!(良く分からないキメポーズ)
あ、そ言えば、ね
さっき、狸が突如消えたとか、向こうで騒いでた、よ?
どう思う?と名探偵常盤をじーぃ
人に…そか、お客s…えっ?この中、に?
そ、言えば…コノ、いつもより、背が1mm…たか、い?



「この世界の列車は立派で趣有るなァ」
 神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)はそう言って目を細めた。
 なんというか、重厚感が違う。列車と違って重苦しいが、それもまたいいのだ。石炭が詰まれている様子も、UDCにも根を張る彼から見てみれば何とも非効率的だが、だがそれがいい。そう言い切れるほどの情緒が、この古い列車にはあった。
「スマホに一枚姿を納めておこ……」
『メボンゴ―……乱入!!』
「写真撮るなら、一緒に取りましょー!!」
 パシャリ。と、ちゃんと撮影した後を見計らってカメラの前に飛び出したのはジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)とその相棒のメボンゴであった。ちなみに『』は腹話術によるメボンゴの台詞である。
「汽車、かっくいい、ね。しゃしん、いっしょ、する?」
 ジュジュの言葉に千切れんばかりの尻尾を振っていたのは、火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)である。キラッ切らした目で巨大な車両を見つめては、忙しなく揺れる耳を見やって、コノハ・ライゼ(空々・f03130)がくすくすと楽しげに笑っていた。その様子をたまたま聴いていた駅職員が、微笑ましい目をしながら「撮影しましょうか?」と声をかける。
「いいわネ。みんなで撮ってもらいまショ」
 コノハの言葉に、常盤も頷いて。
 ……尚、駅員さんに「すまほ」を説明するのはほんのちょっぴり時間がかかったことは、また別の話であった。

「お弁当買っていこうよ!」
『メボンゴ肉弁当がいいー!』
 ひとしきりポーズをとって撮影会が終われば、まず声にあげたのはジュジュだった。列車旅なんて初めてで、わくわくしているのがそれだけでわかる。
「おべんと! えきべん!」
『それ、突撃~!』
「ほらほら、売店はこっちこっち」
 ジュジュの言葉にさつまも何やら走り出そうとして、コノハが慌ててその首根っこを掴んでいた。駅弁はホーム中ほどの売店に。
「何、食べる? 気になるの、沢山。あれもこれもそれもあれも欲しい!」
「そうだねえ。僕はビフテキ弁当を買ったよ。ほら、この感じがちょっとレトロでいいだろう?」
 さつまがふんふんとお弁当をチェックしながらそう言うと、常盤がほんの少し笑いながらもビフテキ弁当を受け取る。若干サクラミラージュっぽい(?)チョイスかもしれない。
「ビフテキ!!」
『メボンゴは牛タン弁当!』
「私は定番の鮭弁当だよ!」
「やだ。みんな早くない? そうね、アタシは……。ここは鳥釜飯にしようカシラ」
「!! どれ、も、おいしそ!」
 皆の提案にどんどん目が輝いていくさつま。どれもこれも美味しそうだ。そう、どれもこれも美味しそうなのでさつまは自分のお弁当を決められない。迷ってるうちに、
「!」
 ホームからベルの音が響いた。出発の合図だ。応えるように列車から汽笛が鳴り響く。
「これに、する! 色々買って皆で分け分け食べ比べ! しよ!」
 声をあげて、さつまもお弁当のひとつを手に取る。
「あァ。決まったようでよかったよかった。……そら、じゃあ、走るよォ」
「わわわ、待って待ってー! あ、お弁当の交換は大歓迎だよ~!」
 賑やかな音に、ほらほら、と常盤が走り出して、慌ててジュジュがその後に続く。
「ん、走る! 走る!」
「はい、お金。おつりは取っといてくださいね~。モチロンお弁当の分けあいも大賛成~」
 手早く代金を渡したコノハとさつまも、慌ててその後を追った。
 列車が大きな音を立てて動き出す。その直前に慌てて四人で列車に飛び乗った。

「だて、美味し、車内食も頂かなくちゃ、だし」
 と、いうわけで。
 豪華一等客室にぎりぎりたどり着けた四人はお弁当を広げることになる。
 部屋は四人いても十分な広さで、大きなテーブルはきちんとお弁当は広げられるし窓の外の景色も眺めることができた。今はちょうど街中を走っているが、だんだん民家が少なくなってきている。これから山間部に入るらしいので、暫くは美しい山の景色が続くだろう。
「あァ、皆で分けあおう、そうしよう。夜も美味しいものを沢山食べたい」
「そうねそうね。沢山食べたら一杯楽しンで、夜までにお腹空かせないとネ」
 お弁当を広げて暖かいお茶を貰う。それでさつまの言葉に、常盤とコノハもうんうん、と頷くのであった。
「ん。私だって最初っから分け分けするつもりだったよー」
『たぬちゃのお弁当はメボンゴのもの。メボンゴのお弁当はメボンゴのもの』
「!」
 ささ、とお弁当を隠すさつまに、冗談だよ、なんてジュジュは笑った。
「そういえば、夜は何か頼む? それとも食堂車?」
「そうだねェ。食堂車っていうのも風情があるけど、折角の一等客室だから……」
「むむ。ここで気軽にダラダラご飯か、食堂でワイワイご飯か、悩むところだよね……!」
「食堂! おもしろそ、けど!」
 だらだらも捨てがたい。と、最後にみんなの気持ちを代弁するかのように言うさつまに、だよねぇ。なんて常盤もおかしげに笑った。
 そんな、昼ご飯を食べながら夜ご飯の相談をするみたいな話をしていると、外の景色が真っ暗になる。
「トンネルネ。この辺は山が多いから」
「山を抜けて湖があって海だったっけかなァ。途中街を挟むようだが」
 トンネルが開ける。そうすると町の景色をかなぐり捨てた、渓谷が姿を現した。山中渓と書かれた鈍行用の駅を、止まらず走り抜ける列車。木々にも、古い駅舎にもうっすらと雪が積もっていて、外の気温はかなり下がっているのであろうことが知れる。

「寝台特急と言えばミステリー小説を思い出すなぁ」
 古びた駅を通り過ぎたところで、ふとジュジュがそんなことを呟いた。あれこれ交換しながらの食事を終えると、食後のお茶を運んでもらう。それをのんびり飲んでいるときのことであった。
「名探偵の常盤さんも乗ってるし」
『とっきーの推理が光っちゃうね!』
「ああ。確かに、寝台特急はよく、ミステリの舞台になるが……」
 ジュジュの言葉に、常盤がなるほど? と首を傾げる。コノハがうんうん、と小さく頷いた。
「ふふ、確かに物語の始まりそうな雰囲気!」
「はは、二人が云わんとすること、何となく分かる気がするよ」
 ねえ、というコノハに、常盤は珈琲を一口。そしてしばらく考え込んだ後でそう言った。
「ホテルとか汽車とか、そういう非日常な場所に泊まると。物語の世界に迷い込んだような気分に成るよねェ」
 特に今日のような山間部や、海辺など。普段いかないところを通過しているときは、余計にそう思うかもしれない。
「ある種の結界のようなものかな。つまりは外界から切り離された……」
 何やら思わず何かに没入しかけたと際立った出会ったが、次の言葉に思考は引き戻される。きらきらした目のジュジュが、こういったのだ。
「それでね、私達みんな物語の登場人物っぽくない?」
「ん?」
「ああ、分かる~。ミステリーの登場人物と言えば一癖も二癖もありそうだものネェ」
 くすくすと笑いながらコノハもそれに同意した。あ、このお茶請け美味しいわね。あとで作り方聞こうカシラ、なんて思いながら。
「名探偵常盤さん、謎の奇術師の私、イケメン料理人コノさん、可愛いヒロインタヌキツネのさつまさん」
「???」
 お腹いっぱいでうとうとしかけていたさつまが、急に名前を呼ばれてはっ。と、顔を上げる。
「みすてり? え? 俺が、ヒロイン、な、の? ジュジュとメボちゃんじゃ、なく???」
 なんで??? と言いたげな、疑問いっぱい寝ぼけた口調のさつまに、そこでメボンゴがキリリと胸を張った。
『メボンゴはお色気担当!』
「おやおや。お色気担当はコノさんでしょ」
『コノちゃなら納得せざるを得ない』
「成る程イケメンお色気担当料理人兼お色気……ちょっと待ってジュジュちゃん。何そのわかってないなーみたいな雰囲気」
「まあ、……うん、まあ」
「ん!」
「ツッコミ皆無どころか納得されてるし」
 苦笑する常盤に、なぜかそこで納得の表情を浮かべるさつまである。そうしてすちゃ、とメボンゴが片手を挙げて、
『でもでも、メボンゴだって悪女する~!』
「じゃあトリプルヒロインで! 可愛い系がさつまさん、クール系が私、お嬢様系がメボンゴね」
『悪役令嬢ね!』
「はいはい」
 メボンゴの会話に、宥めるふりをしてさりげなくクール系を主張してくるジュジュであった、ジュジュの言葉にコノハは瞬き、それから、
「トリプルヒロインは否定しないケド、クールの意味ご存知?」
 若干意地悪い笑みを浮かべながら言ってみるコノハ。もちろん本当の意地悪ではなくからかう意味合いが強いことはお互いに分かっている。その言葉にさつまは己の目をぱちぱちさせて、
「じゃ、じゃ、皆で! ひろいんふぁいぶ!!」
「ちょっと待て。そのファイブには僕も入っているのかねェ……?」
「ん! なかまはずれ、よく、ない」
「……いや、そこは外しておいてくれても構わないからねェ」
 解せぬ。みたいな顔を常盤はしていたという。

「あ、そ言えば、ね」
 そうしてひとしきりヒロイン談義をつづけ、属性の当てはめから勝利のポーズの際のポジショニングとポーズまで決めた後でさつまがそんなことを言った。
「さっき、狸が突如消えたとか、向こうで騒いでた、よ?」
 どう思う? と常盤をじっと見つめるさつま。
「――たぬき」
 さつまの言葉に、常盤は瞬きをする。それからじーっとさつまを見つめる。
 そういえばさつまは混みあっていたときに、時々狐姿に戻って人と人の間をすり抜けていたのを、常盤を始め皆はよく知っていた。
 ……そう。狐姿だ。……狐姿だ。
「早速謎が!」
『とっきーならすぐ解けるね!』
 わかっているのかいないのか。無邪気にジュジュが追い打ちをかけて、メボンゴが常盤の顔を覗き込む。
「……」
「……」
 さつまを見返す常盤の表情が、なんだかおかしなことになっていた。無理やり笑いをかみ殺す表情に、それを見ていたコノハが思わず吹き出す。
「……さて、どうかな」
 軽く常盤はコノハをにらんでみるも、どうにも笑いが滲んでいて全く迫力がない。コノハはおかしそうだ。
「人に化けて乗客に混ざってるのかもねェ?」
 ちら、と常盤はコノハを見る。
「まあホラ、何も知らない引っ掻き回し役が物語を面白くするのも、ミステリの定番だしぃ? 案外この中の誰かに化けてるかもねぇ……」
「そう、犯人は此の中に……」
 繰り返し言うコノハと常盤に、えっ。とさつまは衝撃を受けたような表情をする。
「人に……そか、お客さ……えっ? この中、に?」
 はっ、と慌てて周囲を見回すさつま。そこに……、
「…………そ、言えば……コノ、いつもより、背が1mm……たか、い?」
「ぶっ」
「そこに気付くとは!」
『たぬちゃも名探偵!』
「ちょ、ま、ソレ冤罪!」
 思わず吹き出しながらも、コノハは声を上げる。
 常盤は笑いをこらえるので精いっぱいで。
「コノ君の方に行ったか、そうかァ……」
 三人のやり取りを聞きながらも押し出すように小さな声でそう言った。
 せっかくの名探偵さつまの推理場所だ。せめて笑わないでいよう……なんて思いながらも、
「証拠はあるの、証拠は」
「証拠……! それ、犯人が、よく、言う、やつ……!」
『たぬちゃ、後は、崖の上に追い詰めるだけ……!』
 そのやり取りの中で笑いをこらえるのは、割と、かなり、結構、大変だったという。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

桜・結都
グイーさん/f00789 と

お話には聞いていましたが、列車は見るのも乗るのも初めてです
泊まれてしまうとは、列車ってすごいんですね
グィーさんは乗ったことがあるでしょうか

ホームに立てば、そわそわとしてしまいます
周りの人々のざわめきや旅の予感が心地よくも心を躍らせますね
走りながら一夜を明かすと思えば夜が待ち遠しくもなります
駅弁を買っていきましょう
私も冷凍ミカンを選んで、共に列車へと

客室は二等を
窓って開けてもいいのでしょうか?
なるほど……速いでしょうし冷えてしまいますよね
少し惜しいですが、走り出したら窓は閉めて、景色を楽しむ事にしましょう

ふふ、食後の甘味は大事ですよね
食べ終えたら食堂車に向かいましょう


グィー・フォーサイス
結都(f01056)と

結都は見るのも初めてなんだ?
僕はあるよ
アルダワには魔導蒸気機関車が走っているからね
でも、寝台車は初めてだ

いつもより君が浮足立っているのが解る
微笑ましいけど、逸れないようにしっかりと見ておかなくちゃだ
うん、駅弁は買おう
冷凍ミカンも
僕これ、結構好きなんだ
楽しみだね、結都
さあ、乗り込もう

列車の廊下を抜けて二等客室へ
廊下が狭くて、人とすれ違うのが大変だけど楽しい
扉を開ければ、わあ!
今日はここで過ごすんだね
窓を開けるのかい?
走り出す前はいいだろうけれど
走り出したら寒いし閉めた方がいいかも、かな

あ、食堂車もあるんだ!?
結都、夜に駅弁を食べたら食堂車に行こうよ
プリンとか食べたいな



 桜・結都(桜舞・f01056)は思わず。目を丸くしてその車両を見上げた。
 大きい。……とても大きい。
 そして重そうだ。とても。
 黒い車体は、正面から見ているだけで重圧感がある。
 大量の石炭を見ているだけで、どこまで走れるのかと気持ちが遠くなる。
 ここに大量の人が乗り、そして夜通し、走って行くのだ。
「……お話には聞いていましたが、列車は見るのも乗るのも初めてです。泊まれてしまうとは……、列車ってすごいんですね」
 思わず、そんな言葉がついて出た。いったいこれを動かすために、どれだけの力になるのか想像もつかない。そして、そんな想像もつかないものに自分は乗るのだ。
「グィーさんは乗ったことがあるでしょうか」
 知らず、わずかに声が弾んで。そわそわと告げる結都の目は早く乗りたいですと語っていた。その様子に、グィー・フォーサイス(風のあしおと・f00789)は思わずケットシー耳をそよがせる。
「結都は見るのも初めてなんだ? 僕はね、あるよ。アルダワには魔導蒸気機関車が走っているからね」
 どうだ、すごいだろう。というような顔で胸を張るグィーに、すごいです、と思わず目を輝かせる結都。その表情に、思わずグィーは舌を出して、
「でも、寝台車は初めてだ。だから僕も、とても楽しみなんだよ」
「そ、そうですか……! 一緒の初めてですね!」
 そっと添えられた言葉に、さらに結都が嬉しそうに言って。くるりと両手を広げて一回転。ホームの空気を全身で吸い込んだ。
「周りの人々のざわめきや旅の予感が心地よくも心を躍らせますね。走りながら一夜を明かすと思えば夜が待ち遠しくもなります。駅弁を買っていきましょう。いざ、遠き旅路へと」
「結都。……結都」
 つまりは、結都はいつもよりはしゃいでいた。
 大げさに感動を表す結都に、グィーの目元が和らぐ。こんな結都を見るのは珍しくて、そして微笑ましい。けれども、
(逸れないようにしっかりと見ておかなくちゃだ……)
「はい、なんでしょう!!」
 気を付けないとホームと列車の間に落ちそうだ。なんてグィーが思ったのに気づいたかいなかったか。きらっきらした目で結都がグィーのほうを見るので、うんうん、とグィーは笑う。
「うん、駅弁は買おう。冷凍ミカンもね。ほら」
 駅弁コーナーはあっち。なんて結都の手を引くグィー。結都はというと、
「冷凍ミカン……!」
「うん。僕これ、結構好きなんだ」
「お弁当は、何にします?」
「違うのを買って半分こにしようよ」
 楽し気に話す結都に、グィーも楽し気に返すのだった。
「楽しみだね、結都。……さあ、乗り込もう」
「はい、いざ、列車の旅へ……!」
 乗り込んだころには、ちょうどホームからベルが鳴って。
 それに応えるように、列車から汽笛が鳴って。
 目を輝かせる結都の手を引きながら、グィーは歩き出す。
 同時に巨大な車体も、ゆっくりとゆっくりと走り出した。

「はいすみません。通りますー」
 なんて言って、途中狭い廊下を他の猟兵とすれ違うのだって醍醐味だろう。
 目指すは二等客室だ。一刀とは僅かに廊下が狭く、扉の位置からちょっと狭そうなのがわかってそれもまた面白い。
「開けるよ?」
「はいっ」
 なんて、目を合わせて二人一緒に扉に手をかけて、そうしてどーん、と開くと、
「わあ!」
「グィーさん、窓がありますよ!!」
 まるでホテルのような部屋が二人を出迎えた。
 ベッドが二つ。ソファーが一つ。どれもホテルとは違うのは、窓に面しておかれていることだ。ソファーに座っても、ベッドに寝転がっても、窓の外から景色を見ることができる。
「今日はここで過ごすんだね」
「そうですね。……そうですね。窓って開けてもいいのでしょうか?」
「窓を開けるのかい? ……て、わ、ぷ」
 言いながら開けた結都。もう列車は発車していたから、勢いいい風と、そうして街路にあった桜の花びらが一斉に室内に舞い込む。
「わ、桜が……っ」
「ひとまず、閉めて閉めて」
 結都もあわてて窓を閉める。グィーは逆立った毛並みを戻しながら、 
「走り出す前はいいだろうけれど。走り出したら寒いし閉めた方がいいかも、かな」
 なんていうので、
「なるほど……速いでしょうし冷えてしまいますよね。少し惜しいですが、走り出したら窓は閉めて、景色を楽しむ事にしましょう」
 結都もまじめに頷いた。舞い散る桜は風情があったけれどもこれはダメだろう。
 ……なんて。
 真面目に言いあって。そうして顔を見合わせて二人思わず笑うのであった。
「あー。どうしましょう。お部屋が桜でいっぱいで」
「掃除しよう掃除。そんなにはいってないから大丈夫だよ」
 けらけら笑いながら簡単な掃除を済ませて。窓の外流れる街並みと桜を見ながらお弁当を広げて。
「あ、食堂車もあるんだ!? 結都、夜に駅弁を食べたら食堂車に行こうよ」
 途中で避難経路と書かれた地図に目を通しながら声を上げるグィー。
「ふふ、食後の甘味は大事ですよね。食べ終えたら食堂車に向かいましょう」
「うん。プリンとか食べたいな」
「では、私は……」
 冷凍ミカンを食べながらプランを練る。
 グィーの宣言も楽しそうで、結都はそれもまた嬉しくて。メニューを思い出しながら、食後の甘味に思いをはせるのであった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫

とらんくに夢いっぱい詰め込んで、寝台列車の旅に出る!
湖に桜に星空―どんなにか綺麗だろう
櫻、新婚旅行みたいでわくわくするね

お弁当もたくさん買ったんだから!
いっぱい食べるんだ!でも、そうだね
君に一つおすそ分け
よかったら食べて
君の旅路がよいものであるように

それいいね
旅立ちごっこだ
君と離れたくない!
僕は仕事を辞めて家を出て、君に着いていくぞ!と櫻の胸に飛び込んでみる
見合わせ笑う心地良さ
ごっこでなくてもずーっと
一緒なんだから!

客室は一番のお部屋だときいたよ
豪華な部屋に瞳がきらり
あちらこちらはしゃいで泳ぎまわる
嗚呼、櫻が笑ってる
幸せで嬉しくてそっと尾鰭で包んであげる

写真!
旅立ち前の、記念の一枚だ!


誘名・櫻宵
🌸櫻沫

旅立ち前は何時だって心が逸るもの
リルのトランクには好きなお菓子しか入ってないわね!
リルのお着替えは全部私が持ったわ
新婚旅行だなんてかぁいいこ
美しい光景に響くあなたの歌が聴きたいわ

リル、駅弁そんなに買い込んで
…こんなに食べ切れる?
ぼんやり佇む影朧(あなた)、よかったらおひとつ差し上げるわ
旅のお供に、ぜひ
良き旅路をと声掛ける

乗り込む前に、別れを哀しみ惜しむ恋人同士のフリでもしてみる?
ドアが閉まる寸前に、離れたくないと全て投げうち汽車に飛び乗るの

大喜びの人魚が可愛くて花咲む心のまま一等客室へ
すごいでしょ!
これから観られる景色も
愛しい人魚の笑顔がなければ味気ない

リル、写真撮ろ
頬を重ねてパシャリ



「とらんくに夢いっぱい詰め込んで、寝台列車の旅に出る!」
「そう、旅立ち前は何時だって心が逸るもの! ……リルのトランクには好きなお菓子しか入ってないわね!」
「そんなばかな! おもいこみだ! 風評被害だ!」
「で、本当のところは?」
「お弁当もたくさん買ったんだから! いっぱい食べるんだ!」
「ちょっと待ってお弁当鞄の中にいれちゃったの!? 縦に? 縦にしちゃったの!?」
 どー考えても通常状態のお弁当は鞄に入らない。
 つまりは横にしたのかと、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)が若干本気で尋ねたので、ぷーっとリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は頬に空気を詰めるのだった。
「もうっ。どう考えてもそんなことするわけないじゃない。お弁当は、これから買うんだよっ。鞄に入れないから、櫻、持ってね?」
「あ、そう。はー。びっくりしたわ。でも、持つくらいなら喜んで。機嫌直してちょうだい」
「もうっ。別に怒ってなんてないよ。ただ……湖に桜に星空――どんなにか綺麗だろう。櫻、新婚旅行みたいでわくわくするね」
「そうね。新婚旅行だなんてかぁいいこ。美しい光景に響くあなたの歌が聴きたいわ。あとリルのお着替えは全部私が持ったわ。お弁当だってなんだって持っちゃうから、楽しみましょ」
 じゃ、駅弁買いに行こう、と駆けだすリルに、くすくす笑って櫻宵が後に続く。
「これでしょ? これとこれとそれと……」
「リル、駅弁そんなに買い込んで。……こんなに食べ切れる?」
「あと、これね!」
「もうっ!」
「はいよっ、ありがとうございます!」
 威勢のいいおばちゃんが、大量のお弁当を差し出す。もちろん櫻宵が全部持つ。持つのは構わないが、若干呆れたようにお弁当を見る櫻宵。
「食べちゃうよ、勿論。……でも、そうだね。君に一つおすそ分け」
「ああ、そうだ。あなた、よかったらおひとつ差し上げるわ。旅のお供に、ぜひ」
 ふと。リルとお弁当を抱えた櫻宵が声をかけたのは、列車の中でぼんやりと佇む影朧であった。丁度乗車口あたりに今は佇んでいたので、そのまま櫻宵がお弁当を差し出す。
「よかったら食べて。君の旅路がよいものであるように」
「…………ありが……とう、ございます……」
「ええ。良き旅路を」
 受け取った影朧がぼんやりとそういって、ふっと車両の中へと消えていく。二人はそれを何気なく見送った。まるで幽霊のようだと、なんとなく思った。思いながら……、
「ね、乗り込む前に、別れを哀しみ惜しむ恋人同士のフリでもしてみる? ドアが閉まる寸前に、離れたくないと全て投げうち汽車に飛び乗るの」
 はっ。とめっちゃ今いいこと思いついた、みたいな顔で櫻宵が言うと、
「それいいね。旅立ちごっこだ!」
 リルもまたノリノリであった。二人して乗車口あたりで、
「君と離れたくない! 僕は仕事を辞めて家を出て、君に着いていくぞ!」
「あぁ! なんという運命! これからはずっと一緒よ!」
 ドアが閉まる直前は危ないので、ちょっと今やってみた。ちなみに櫻宵の片手は大量のお弁当を手にしていたが、その上でしっかりとリルをもう片方の手で抱きとめた。リルのほうは思わず大笑いである。顔を見合わせると、櫻宵もまた笑っていた。
「あははははっ。ごっこでなくてもずーっと一緒なんだから!」
「そうね! 何があっても私たちの仲は引き裂けないわ!」
 なんてご機嫌で。二人目指すのは一等客室だ。
「うっわ、すごい、豪華なお部屋! 一番のお部屋だよ!」
 一等客室はその名にふさわしく。広く、美しく、そして大きな窓が二人を出迎える。視界いっぱいに広がるホームの様子が微笑ましい。
「ね、ね、すごいでしょ!」
 思わずはしゃぎまわるリルに、櫻宵も思わず笑顔になる。お互いの顔を見合わせれば、本当に楽しそうにお互いが笑っていて。それだけでもう嬉しさは留まることを知らずに、
「リル、写真撮ろ」
「写真! 旅立ち前の、記念の一枚だ!」
 テンション極まったような櫻宵の言葉に、それ以上のテンションでリルは返す。
「やっぱりホームが映ってたほうがいい? それとも客室で撮る?」
「んー。両方しましょ」
「あ、それだ!」
 頬を重ねてパシャリ、パシャリ、パシャリ。
「景色が変わったら、また撮りましょうね」
「うん、勿論だよ!!」
 そんな話をしていると、ホームから出発を告げるベルが鳴った。応えるように、汽車からも汽笛の音がする。
 ゆっくりと動き出す車体。それじゃあ、と、おもむろにリルは一息ついた。
「写真も撮ったことだし、次の写真の前に……」
「ええ、お弁当ね」
「うんっ」
 わかってますって言いたげな櫻宵の言葉に、リルは得意げに笑った。
 二人の旅は、まだ始まったばかりだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
・ヴォルフ(f05120)と

この世界の寝台特急に乗って旅をするのは初めてなの
夫婦で一等客室を取って
まるで新婚旅行気分ね

こういう時は駅のホームでお弁当を買ったり、
写真を撮ったりするのでしょう?
せっかくの旅行が中止になってしまった市民の皆様には残念ですけど
これも哀しき影朧を慰め、ひいては世界を救うため
使命を忘れることなく、しかし存分に楽しみましょう

列車が走るごとに窓の外の景色は流れ
街並みから田舎へ、そして山間へと刻一刻と変化する
それを眺め、幼い頃に聞いた歌を口ずさみながら
初めて見る景色にわくわくする子供のような瞳で

どこかにいる影朧にも聞こえているかしら
遠い昔に夢見た思い出
どうか報われますように


ヴォルフガング・エアレーザー
・ヘルガ(f03378)と

夫婦で一等客室を取り列車の旅を
二人旅には少し広すぎる気もするが、洗面周りやプライバシーの心配もある
なるべく彼女に苦労はかけたくない

初めての列車の旅に心躍らせる彼女を見ていると
やはりここへ来て良かったと感じる
駅で買ったお弁当を一緒に食べたり
彼女の歌を聴きながら景色を眺めたり
屈託のない笑顔を見せる我が妻を愛しく思う

ああ、だからこの世界の人々は
かくも列車というものに心躍らせるのだ
きっと件の影朧も同じだったのだろう

志半ばに命落とすとき、人は無念を抱く
それが哀しくも厳しい現実だと思っていた
だけどこの世界では、その無念を癒し救えるのなら

この旅路が、どうか皆にとって幸多からんことを



「わあ……。見て、ヴォルフ、窓一面に!」
 扉を開いた瞬間、思わず声を上げたヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)に、ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)は思わず目元を和らげた。
「この世界の寝台特急に乗って旅をするのは初めてなの。すごい。すごいわ」
 一歩、足を踏み入れてほう、と窓の外を見つめるヘルガ。そうだな、と、ヴォルフガングは彼女の言葉に何度も頷いて、部屋の中を一度、ぐるりと見まわした。
 最大四人まで宿泊できる一等客室は、二人では十分以上に広い。けれどもさすが一等というだけあって、何不自由のない快適な旅を送ることができるだろう。
(二人旅には少し広すぎる気もするが……、なるべく彼女に苦労はかけたくないからな)
「ふふふ」
「ん?」
 そんなことをヴォルフガングが思っていると、ヘルガが何やらこちらを向いて微笑んでいる。不思議そうなヴォルフガングに、
「まるで新婚旅行気分ね」
 ほんのちょっぴり、照れたようにヘルガが言うので、ヴォルフガングは破顔した。
「そうだな……。そうか、新婚旅行か」
 そういえば言ったか、言ってなかったか。なんて真面目に考えこんでしまう。そんな風にヴォルフガングが思わず感心したのでヘルガの方はというと、
「こ、こういうときは。こういう時は駅のホームでお弁当を買ったり、写真を撮ったりするのでしょう? まだ時間があるから、行きましょう!」
 自分で言っていて、自分で照れたらしい。何か言う前にヘルガは荷物を置いてヴォルフガングの手を引く。
「せっかくの旅行が中止になってしまった市民の皆様には残念ですけど……。これも哀しき影朧を慰め、ひいては世界を救うため。使命を忘れることなく、しかし存分に楽しみましょう」
「わかった、わかった」
 ねっ。と、何やらやる気のヘルガに、圧されるようにヴォルフガングは一緒に歩きだす。初めての列車の旅に心躍らせるヘルガを見ていると、本当にここへ来てよかったと。心の中で思いながら、
「ほら、ヴォルフ。お弁当は何になさいます?」
「そうだな。ここはやはりボリュームがあって……」
 それによって、自分もまた楽しんでいると感じることができるのである。
 やはりここへ来て良かったと。ヴォルフガングはしみじみと思った。

 いただきますと言いあって、お弁当を一緒に食べて。
「ヘルガ、そちらのも一口貰っていいだろうか?」
「まあ、ヴォルフったら。……はい、あーん」
 時には交換もしたりして。食後は一等客室なので贅沢にお茶を頼んだりもして。
 街並みから田舎へ、そして山間へと。あっという間に景色は流れて行く。その姿を楽しんで。
「見て、ヴォルフ。山がずぅっと続いてますわね」
「ああ。トンネルはいくつ超えるのだろうな」
「山を越えたらまた街があって、そして湖があるのですって」
「それは……楽しみだな」
 きっと湖はきれいだろう。なんて思いながら流れる木々を見つめていると、
 ふと、ヘルガは唇を開いた。
 自然と口を突いて出たのは、幼いころに聞いた歌だ。
 初めて見る景色にわくわくする子供のような瞳で、ヘルガは優しい、優しい歌を歌う。
(どこかにいる影朧にも聞こえているかしら……。遠い昔に夢見た思い出。どうか報われますように……)
 祈るような声を聴きながら、ヴォルフガングはヘルガを見つめていた。
 その屈託ない笑顔も、美しい歌声も、何もかもがいとおしかった。
(ああ、だからこの世界の人々は、かくも列車というものに心躍らせるのだ。……きっと件の影朧も同じだったのだろう)
 歌を遮らぬよう、ヴォルフガングは声には出さずにそれを思う。
(志半ばに命落とすとき、人は無念を抱く。……それが哀しくも厳しい現実だと思っていた。だけどこの世界では、その無念を癒し救えるのなら……)
 この旅路が、どうか皆にとって幸多からんことを、と。
 どうかそんな願いが届くようにと。
 思いのこもった歌声は、静かに静かに流れて行った……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクトル・サリヴァン
陸の旅は少ないんだよね。
影朧もいるみたいだけど楽しむ方が大事らしいし、のんびり楽しんじゃおうかな。
…俺が泊まれる客室あるといいなー。ベッドあるかなー(尻尾べしべし)

駅では当然駅弁購入。やっぱ列車旅といえばこれは欠かせないよね。
名物に合わせて試行錯誤の末に作られた芸術品…ってUDCの旅行ガイドにあったからここもそうだろうし。
ここは変化球を狙ってみるのも…?(チャレンジャー精神)
三…いや二等客室?
眠れるとこでのんびり過ごすね。
外の流れてく風景見ているだけでも中々。
通りすがりの人や影朧いたらお話してみたいかな。
海の旅のお話なら沢山あるけど陸旅は少ないから話相手募集中!的なノリ。

※アドリブ絡み等お任せ



 ヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)はのんびりと列車を見上げていた。
「……陸の旅は少ないんだよね」
 案外。海の生き物である彼は陸地の身を旅するのは珍しい。……影朧もいるみたいだけど楽しむ方が大事らしいし、今回はまあ、旅といって差し支えはないだろう。
「客室かー。俺が泊まれる客室ならー……三……いや二等客室?」
 とかそんなことを言いながらも、とりあえず二等客室の予約を取る。
 とってしまえば、後は旅行の準備だけだ。そして旅行の準備といえば……、
「駅では当然駅弁購入。やっぱ列車旅といえばこれは欠かせないよね」
 そう、駅弁である。
 駅弁コーナーには様々なお弁当が並べられていた。
「名物に合わせて試行錯誤の末に作られた芸術品……ってUDCの旅行ガイドにあったからここもそうだろうし」
 だったらぜひ買わないと、と、ヴィクトルは売店を覗き込むのである。
 中身は様々。肉ならば牛丼、焼き肉、ステーキ弁当なんて豪勢なものから、鳥釜飯弁当もあるし、
 魚であるなら、鮭、金目鯛に始まり海鮮丼ぶりもどきもある。
「普通においしそうなものもいいけれど……。ここは変化球を狙ってみるのも……?」
 色物もいろいろあるので、チャレンジャー精神あふれるヴィクトルは悩んでしまう。結局悩んだ末、二つほど弁当を買ってヴィクトルは列車に乗り込んだ。
 ホームのベルが鳴る。応えるように列車が汽笛を鳴らす。
 それを聞きながら、ヴィクトルはのんびり客室を歩く。
 二等客室は普通にホテルのようで、くつろぐことができるだろう。
 ソファーもベッドも、すべて窓を見られるように置かれているので、それが普通のホテルとは違っていて新鮮かもしれなかった。
「ああ……。外の流れてく風景見ているだけでも中々」
 陸の旅は少ない。感心しながらヴィクトルは窓の外を眺めていると、外で子供が手を振っていたので思わず振り返す。
 予定によると、徐々に民家は減っていき山間部に向かい、湖を通り、最後には海に出るらしい。
「ふーん……。なんだかおもしろいね」
 ずいぶん遠くまで行くものだと、思いながらもヴィクトルはお弁当を広げる。
 ……さあ、のんびり食事をしたら、誰かと話に探検でも行こうか。
 影朧を見つけたら、話しかけるのもいいだろう。
 何せ彼には物珍しい陸旅が、始まったばかりなのだから……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
一等客室から出て
物珍し気に散策

街並みには暮らしのあかり
トンネルには開けた先の、未知の風景への期待
まるで絵本を捲るよう
車窓を往く景色に見入る

やがて
穏やかに過ごす将校殿の姿を認めたら
笑んで差し出す、温かな緑茶

旅は心弾みますね
日常という柵から解放される故かしら
でもね、
独りはやはり寂しくて
話し掛けさせて頂いた次第なの
旅は道連れと言えども
ご迷惑だったでしょうか

無礼を詫びつつ
ふと目に留まったのは
彼の掌の中の手紙

大切なものなのですね、と微笑み示し
彼の執着を――記憶を辿る旅路になるよう
ぽつりぽつりとお話を聞けたら


誰しも進む先は「未来」なの
あなただけの乗車券かもしれない其れを
どうか決して失くさないでくださいな



 都槻・綾(糸遊・f01786)はひょっこり、一等客室から顔を出した。
 さすがに、一等客室ともなれば雑多な賑やかさからも切り離され、静かな廊下を歩くことができる。
 とはいえ列車は列車。ごうっとカーブを曲がる瞬間、車体が揺れる様子すらなんだか物珍しくて、綾は少し歩くことにした
 先ほどまで、散々客室にこもって景色を眺めていたのだが、さすがに山中、渓谷沿いを進み続けていると、変わらぬ緑の姿に飽きたのである。

 町を通り過ぎるときの暮らしの明かりも、手を振る子供たちも。
 トンネルを入って途端に真っ暗になった景色も。それが開けたときの期待も。
 闇が晴れると同時に巨大な山脈の中を駆けていくわくわく感も。行けども行けども連なる緑の雄大さも。
 綾にとってはどれもこれもが素晴らしくて、まるで絵本でもまくるように車窓を見つめ続けていたのはつい先ほどまでのことであった。
 そうして綾は何気はなしにぶらぶらと。二両目、三両目は一両目ほどではないが物静かで、それを開けると食堂車にたどり着いた。
 今までの静けさは一変して、賑やかな食堂は雑多な猟兵たちが思い思いに食事をとっていて、または喋ったり騒いだりしていて、一気ににぎやかな様相を呈している。
 もしかしたらその先の三等車は、もっと賑やかなのかしら。なんて、ちょっと興味にかられながらも、綾はふと目に入った姿に、
「どうですか? こちら、空いていますよ」
 なんて声をかけて、空いたテーブルの椅子を引いた。
「……」
 ぼうっと。
 文字通り影のごとく、そのオブビリオンは進められるがままに席に着く。給仕もいるけれども、忙しそうだったからと。セルフサービスで緑茶を二つ持ってきて、綾も向かいに腰を下ろしたところで、メイドが飛んできた。
「はい、どうぞ。……あ、ぜんざいをお願いします」
「白玉と栗とどちらにしますか?」
「では、栗で。将校殿も如何?」
「私は、これで」
 静かに、影朧はそう言って。ではそれで、と綾も穏やかに微笑んだ。
 影朧に、お茶が飲めるだろうかと。綾がほんの少し心配したのは、その存在感がいかにも希薄だったからだ。まるで幽霊のようにただズムそれは、静かにお茶を飲んだので、杞憂だったかとほんの少し、綾は安心する。
「旅は心弾みますね。日常という柵から解放される故かしら」
「そうですね……。そう、言われる方も多いかと思います」
 何気なく問いかけた綾に、影朧はほんの少し、何かを思い出すように言葉を返す。
「でもね、独りはやはり寂しくて、話し掛けさせて頂いた次第なの。旅は道連れと言えども……ご迷惑だったでしょうか」
「いえ……」
 続いて話しかける綾に、影朧はほんの少し、考え込んでいたようであった。
「せっかくの旅です。なるべく楽しい道行きにしてほしい。我々はそう願っていますから、そのためであるならば」
 寧ろ声をかけて貰えてよかったです。と、丁寧に返す影朧に、綾は瞬きをする。
「おや。まるで車掌さんのようなものいい……っと」
「お待たせしました。栗ぜんざいです」
「ありがとうございます。……うん、美味しい」
「ぜんざいに栗ですか。知らぬ間にメニューが増えましたね。帝都の流行には、追いつけません」
「将校殿は、列車に乗るのは久方ぶりで?」
「そう……ですね。ずいぶんと久しぶりだと思います」
 言いながらも、影朧が首を傾げた。なんだか違和感があると言いたげなその顔に、あえて綾は何も言わずにぜんざいを一口。……うん、美味しい。
「……その、手紙」
「はい?」
「大切なものなのですね」
 綾が指さしたそれに、影朧は瞬きをした。
「なんの、ことでしょう」
 視線を下げる。手を見ているようで、そうして、わからないという風に首を傾げていて。
 まるで、自分が握っているものが目に入っていないかのようであった。
「今は、わからずとも」
 困惑する様子に、綾は一つ頷く。そうして優しく、
「ね。誰しも進む先は「未来」なの。……あなただけの乗車券かもしれない其れを、どうか決して失くさないでくださいな」
 声をかけた。影朧は、わからないと首を傾げながらも、
「そう、仰るのでしたら」
 と、小さく頷いた。
 がたん、と列車が揺れて、景色が流れて行く。
「……山を抜ければ、どこに出るでしょう」
「また街を抜けて、湖へと。その後は、海に出ますよ」
 そんな、静かな会話はしばらくの間、続いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

片稲禾・りゅうこ
【朱の社】
やったぜ旅だ~~~!!って歩いてじゃないのか!?
れ、列車……!大丈夫なのか!?はふりやりゅうこさんはともかく、カフカさんと和子はこう……平気なのか!?
だってほら、すんごく速く動くだろうあれ。中に乗るヒトの子はきっと強い体で……
えっ、そんなことはない?ほ、本当かあ~~~??絶対歩く方が楽しいと思うんだけどなあ……

うお~~~~~!!!すげ~~~~~~~~~!!!!
うはははは!!寝っ転がってても全然平気だし、景色が流れてくの面白いなあ~~~!!!
なあなあ、これどういう仕組みなんだ?………う~んさっぱりわからん!わからんけどすごいのはわかる!!!

うははははは!!!やっほ~~~~~~!!!!


神狩・カフカ
【朱の社】

和子は一人でなにを盛り上がってンだ?
旅は大勢で行ったほうが楽しいだろうに
なンだ、はふりとりゅうこは初めてかい
列車の旅ってのは優雅でいいもンだぜ
馬車や自転車なァ
あれはあれでいいもンだが…
って、なんで体の心配されてンだ???
むしろ楽するために乗るもンだからな
ま、乗りゃわかるサ

折角だから一等客室で豪勢にいこうぜ
ははっ!こりゃァいい!
缶詰にされるならこういうところがいいねェ
おまけに景色もいいときた
小説のネタがいくらでも湧いてきそうだ
次は列車を舞台にしたミステリーでも書いてみるか
殺人事件はそれはそれで面白そうだから歓迎だがな
つーか、おい、りゅうこ
はしゃぎ過ぎじゃねェか?
窓から落ちても知らねェぞ


葬・祝
【朱の社】

列車なんて初めてですねぇ
ええ、だって何処に行くのも歩くか浮く方が楽なんですもの
どうせ、一応路の権能がある身としては、距離なんてあってなきが如しですし
乗り物って、昔にカフカと乗った馬車や自転車くらいでは?

んー……ちょっと落ち着きませんね、やっぱり
でも、こんなに早く景色が流れて行くのは新鮮です
部屋も広いですし、至れり尽くせりの動く部屋を作ろうだなんて、人の子の考えは便利や楽に極振りしていて面白いですよねぇ

りゅうこも初めてでしたっけ、列車
全く、君は本当に子供のようにはしゃぎますねぇ……人馴染みしているようで意外と乗り物とは無縁だったんですかね、君も

嗚呼、そうそう
書いたら読ませてくださいね?


白水・和子
【朱の社】
寝台列車なんて乗るの久しぶり〜。
前は男の子と二人きりだったけどぉ……もしかしてぇ、カフカさんもそういうのが好みなの?
ふふっロマンチックなんだから…ってぇえー!?違うの!?しかも四人!?
クッ、この旅で仲を深めてやる…!
楽しいけど、それはそれこれはこれよ。

ていうか二人とも列車知らないの?馬車て。確かに牛車とか昔乗ってたけど…!(ごにょ)
えー、歩くの疲れるじゃない。時代は車に列車よ!
そこはアレよ、慣性の法則。
綺麗だし、結構楽しいのよ〜?美味しいご飯とかふかふかなベットとかあるし。
まぁねぇ、利便性のその先に楽しみを作り出すって感じだものね。

此処で殺人事件が起きないと良いわね。
私は嫌だもの!



 白水・和子(筆は書き手を選ばず、彼女は恋を選ぶ・f10791)ははわーん。と、両手を両頬に当てた。
「寝台列車なんて乗るの久しぶり〜」
 目の前には巨大な列車が横たわっている。漆黒の体はそれなりに古びているがピカピカに磨かれていて、重厚感があってカッコイイ。……が、そんなこと、和子の目には入っちゃいねえ。
「前は男の子と二人きりだったけどぉ……もしかしてぇ、カフカさんもそういうのが好みなの? いやん。二人で恋の逃避行ってことかしら。ふふっロマンチックなんだから……」
 ほわほわほわーん。と和子の頭の中ではこの後手に手を引かれて列車に乗り込み始まる目くるめく恋のドラマが展開されていた。そして丁度夜が明けて朝日と共に二人が愛を誓ったところで、
「やったぜ旅だ~~~!! って歩いてじゃないのか!? れ、列車……! 大丈夫なのか!? はふりやりゅうこさんはともかく、カフカさんと和子はこう……平気なのか!? 死なないか!? 死なないのか!?」
「ってぇえー!? 違うの!? しかも四人!? ちょっと、どういうこと、どういうことこれー!!」
 片稲禾・りゅうこ(りゅうこさん・f28178)の大きな声で、和子は我に返った。ばっ。と振り返ると、妄想相手……もとい。神狩・カフカ(朱鴉・f22830)は呆れた顔で和子を見返しているのであった。
「和子、一人でなにを盛り上がってンだ? 旅は大勢で行ったほうが楽しいだろうに。ていうかみんな最初からいただろ」
「クッ!?!?!?」
 なぜかめっちゃダメージ受けてる顔をする和子。知ってた。知ってたけど見ないふりをしてただけだった。
「なあカフカ。カフカ。大丈夫なのか、ほんとにこいつ大丈夫なのか!?」
 そんなこんなをしている間も、竜子の方も止まらない。なんかもう泣きそうな目をしているあたり、割といろいろ怖い想像をしていること間違いない。
「だってほら、すんごく速く動くだろうあれ。中に乗るヒトの子はきっと強い体で……。出ないと死んじゃうんだ。ぐちゃってされてぐちゅってなって……」
「なるほど……つまりはこれは用意周到な殺人計画だったのですね……」
 今知った。みたいな感じで言い切ったのは葬・祝(   ・f27942)だ。そんなことを言いながらも、あんまり表情は変わらず冷静なので、緊迫感はさほどない。そんな言葉に後ろからええっ。と声を上げたのはようやくダメージから回復してきた和子であった。
「ていうか二人とも列車知らないの?」
 信じられない、とでも言いたげな雰囲気である。カフカもあれ、と首を傾げた。
「なンだ、はふりとりゅうこは初めてかい」
「列車なんて初めてですねぇ。ええ、だって何処に行くのも歩くか浮く方が楽なんですもの」
「うう。あんな危なそうな乗り物乗れないんだぜ……」
「どうせ、一応路の権能がある身としては、距離なんてあってなきが如しですし。……乗り物って、昔にカフカと乗った馬車や自転車くらいでは?」
 そもそも必要がない、とでも言いたげな二人。和子は軽く頭を掻く。
「そ、そりゃあ馬車て。確かに牛車とか昔乗ってたけど……!」
 最後のほうはしりすぼみになった。さすがにこれは、年齢がばれますね。
「馬車や自転車なァ。あれはあれでいいもンだが……列車の旅ってのは優雅でいいもンだぜ」
「ほ、本当かあ~~~?? 絶対歩く方が楽しいと思うんだけどなあ……」
「えー、歩くの疲れるじゃない。時代は車に列車よ!」
「やだ~~。絶対あんなの体に悪いだろ~~~」
「って、なんで体の心配されてンだ??? むしろ楽するために乗るもンだからな」
「えっ???」
 意味がわからない、という顔をするカフカに、同じように意味が分からない、という顔をするりゅうこ。
「……ま、乗りゃわかるサ」
「そ、そうか?? 大丈夫なのか……??」
 大丈夫だ。と念を押すカフカに、恐る恐る、というていでりゅうこは頷いた。
 その時、ホームからアナウンスが響く。もうすぐ発車するので、乗車予定の方は急いでください、という旨のものだ。
「! 喋ったぞ!!」
「ああ。アナウンスだな。とにかく、乗るぜっ」
「はーい。……ふっ、思わぬトラブルに見舞われたけど、この旅で仲を深めてやる……!」
「……君も、あきらめませんね……」
「楽しいけど、それはそれこれはこれよっ」
 そんな、ばたばたした勢いで、四人は列車に飛び乗るのであった。

 そうして四人がたどり着いたのは一等客室であった。
 折角だから豪勢にいこうぜ! と決めたのはカフカである。
「ははっ! こりゃァいい! 缶詰にされるならこういうところがいいねェ」
 広い部屋だった。大きなベッドに、広いテーブルとソファ。整った調度品に、頼めば何でも持ってきてくれるサービス仕様付き。
「おまけに景色もいいときた。小説のネタがいくらでも湧いてきそうだ」
 大きく開いた窓からは外の景色が一等綺麗に大きく眺めることができる。ソファに座っても、ベッドに寝転がっても、窓が目に入るのが普通のホテルとは少し違うところだろうか。
 汽笛が鳴ると同時に、列車は走り出していた。列車は町中を走って行く。つまりは、
「うお~~~~~!!! すげ~~~~~~~~~!!!! うはははは!! 寝っ転がってても全然平気だし、景色が流れてくの面白いなあ~~~!!!」
 りゅうこがはしゃぐ。ぼんぼんとまずはベッドで飛び跳ねながら、テンション高く声を上げる。
「なあなあ、これどういう仕組みなんだ? ………う~んさっぱりわからん! わからんけどすごいのはわかる!!!」
「そこはアレよ、慣性の法則。細かいことは考えちゃだめよ。恋に落ちるのに理由がいらないのと同じぐらい、この世界は説明が難しいこともあるんだから!」
 なんで? なんで?? って、聞きたげな竜虎に、先回りして和子がそんなことを言う。なるほど、と周囲を見回して、祝は一息ついた。
「んー……ちょっと落ち着きませんね、やっぱり」
「そう? 綺麗だし、結構楽しいのよ〜? 美味しいご飯とかふかふかなベットとかあるし」
「そこが、ですよ。部屋も広いですし、至れり尽くせりの動く部屋を作ろうだなんて、人の子の考えは便利や楽に極振りしていて面白いですよねぇ」
 別に悪印象があるわけでもない。感心したような祝の言葉に、うーん。と和子は腕を組んだ。
「まぁねぇ、利便性のその先に楽しみを作り出すって感じだものね。でも……たまにはこういうのも、悪くないでしょう?」
「ええ。それに……こんなに早く景色が流れて行くのは新鮮です」
「うははははは!!! やっほ~~~~~~!!!!」
 がばぁっ!!!
 祝が一息ついた瞬間、りゅうこが叫んで窓を全開にした。
「ちょ、風……!」
「うはははは、舞い込め舞い込め―!!」
 ざああああっ。と、風と一緒に桜の花びらが入ってくる。りゅうこが身を乗り出して手を振る。
「りゅうこも初めてでしたっけ、列車」
「ああっ」
「全く、君は本当に子供のようにはしゃぎますねぇ……人馴染みしているようで意外と乗り物とは無縁だったんですかね、君も」
 でも、この景色も悪くないですね。なんて。
 桜吹雪舞い散る車内を見て、祝は僅かに口元をゆがめるのであった。
「いやいや……いやいや!! これ、掃除大変だから!! りゅうこさん、閉めて、窓閉めてー!」
 和子の悲鳴が響き渡る。その悲鳴を聞いて、ほう、とカフカは手を打った。
「次は列車を舞台にしたミステリーでも書いてみるか。殺人事件はそれはそれで面白そうだから歓迎だがな」
 なんて、呑気に主張をする。それから思い出したかのように、
「つーか、おい、りゅうこ。はしゃぎ過ぎじゃねェか? 窓から落ちても知らねェぞ」
「はっ。落ちたらどうなるんだ!?」
「そりゃ……殺人事件案件……かな?」
 容赦ないカフカの言葉に、何ということでしょう。みたいな顔をするりゅうこ。それでようやく和子はりゅうこを窓から引っぺがして窓を閉めた。
「もうっ。此処で殺人事件が起きないと良いわね。私は嫌だもの!」
 この部屋、入り込んできた桜の花びらを掃除するの、たぶんすっごく掃除が大変。綺麗だけど。肩で息をする和子。そんな和子の苦労をまったく気にしていない風に、
「……嗚呼、そうそう。書いたら読ませてくださいね?」
「ああ、任せろ。超大作にしてやるぜ」
 びしぃ。とカフカが親指を立てるのであった。
 掃除はたぶん、食堂車にでもいっている間に乗務員の皆さんがしてくれるはずだ。きっと多分、恐らくはっ。
「あぁ。ロマンスは、遠いのね……」
 ただ、和子のロマンスがどうなるかは、きっと誰にもわからない……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ベイメリア・ミハイロフ
これはこれは、とても立派は列車でございますね
これからの旅立ちに、胸が躍ります
リュカさまが「強そう」と仰ったお気持ちもわかります

茶色のトランクを持って、列車に乗り込みます
お席は三級客席で
皆さまと語り合いたく存じます
トランクには少しの私物と、お夜食用にお菓子とお茶の水筒を入れて

朧影をお見掛け致しましたら
もし、そちらのお方、とお声がけしたく
お手を、お手の方をご覧くださいませ
何か握りしめていらっしゃいますよ
そちらの紙は、お手紙でございましょうか
どなたからのお手紙で?大切な方からなのでは?
少しでも記憶を引き出せますよう、優しくゆっくりお声がけを致します
何か召し上がりますか?お茶でもいかがでございますか?


ディフ・クライン
一人旅だし、三等客室でいいかな
機会があれば誰かと話してみたいね

列車旅は初めてなんだ
とりあえず着替えと必要そうなものは持ってきたんだけどね
あとはどうすればいいんだろう
お弁当とかは買うべきだったのかな
食堂車があるというから不要かとも思ったんだけど
荷物を置いたらカーテンを開けて、本を片手に流れる景色も楽しもうか

ふと見かけた影朧の彼へそっと声をかけて
列車、好きなのかい
返事があろうとなかろうといいよ
ただ、目についたのは手紙
そんなに握り締めると、手紙がくしゃくしゃになってしまうよ
ずっと手紙を離さないじゃないか
大切なものなんだろう
誰からの手紙なんだい

死霊使いだからかな
話してみたかった
その執着が、叶うといいね



 ほう、とベイメリア・ミハイロフ(紅い羊・f01781)は黒く塗られたその車体を見上げてため息をついた。
「これはこれは……、とても立派な列車でございますね」
 自然と。茶色のトランクを握る手に力がこもる。列車は大きく、そして長くて。これが警戒に走るなんて、それだけでベイメリアにはなんだか不思議な心持がする。胸が躍るといってもいい。その中に自分がいるということが嬉しいのだ。
「……リュカさまが「強そう」と仰ったお気持ちもわかります」
「なるほど。確かに強そうではあるね」
 感慨深そうなベイメリアの言葉にうなずいたのは、ディフ・クライン(灰色の雪・f05200)であった。表情乏しいがその列車を見上げる横顔には、見たことがないそれへの僅かな感動が乗っている。ベイメリアがディフのほうを見ると、ディフも何気なくベイメリアのほうを見た。その時、ちょうど、そろそろ出発ですのでホームの皆様は車内へとお願いします、と駅職員が声を張り上げているのを聞く。
「……入り口は、あちらでいいのかな」
「ええと……そうでございますね。何等客室ですか?」
「三等なんだ。一人旅だからね」
「あら。では私と一緒ですね。……まあ!」
「うん?」
「三等客室の乗り口は一番後ろの方でした。急ぎましょう」
 最悪車内を突っ切ってしまえばいいのだが、荷物もあるし人も多いから成るべく三等客室の入り口に乗ったほうがいいだろう。と。ベイメリアは言うので、そんなものなのかとディフは瞬きをして足元の表示を見る。
「あ。本当だ。三等はあちらと書いているね」
「ええ。こちらでございます。少し速足で参りましょう」
 あくまで速足である。二人(若干のんびり目ではあるが)急いで後方車両に向かう頃には、ホームから出発のベルが鳴り響いていた。
「ひゃっ」
「これは……すごいな」
 応えるように、記者が大きく汽笛を上げる。その音に驚きながらも、二人ぎりぎり、列車に飛び乗った。
「列車旅は初めてなんだ。とりあえず着替えと必要そうなものは持ってきたんだけどね。あとはどうすればいいんだろう」
 カーテンだけで遮られた客室を、自分の部屋を探して移動しながらディフが言うと、ベイメリアも首を傾げる。
「そうでございますね。わたくしは……トランクには少しの私物と、お夜食用にお菓子とお茶の水筒を入れて参りました。……はっ」
「うん?」
「駅弁を買い忘れましたわ……!」
 はた、と足を止めて重大なことのようにショックな顔をして言うベイメリアに、先を行くディフは足を止めて振り返った。
「お弁当とかは買うべきだったのかな。食堂車があるというから不要かとも思ったんだけど……」
「あ……ああ! そういえば、食堂車もございましたね。よかったぁ……」
 しおしおしお、とその場に思わずしゃがみ込むベイメリアに、ディフはほんの少し、微笑む。
「食事は、大事?」
「勿論でございます。いえ、わたくしそこまで食べ物をこだわるわけではありませんが、やっぱり旅の食事は醍醐味ですもの」
「そうなんだ。じゃあ、俺も楽しみにしていようかな」
 あんまり気にしてなかった。なんて言うディフに、そんな勿体ない、という顔をするベイメリア。それで、ディフもそういうものなのかと素直に納得する。
「……あっ。俺の部屋は次の車両だね」
「あら。わたくしもちょうど次で……」
 そんなことを言いながら、7号車と8号車の間のデッキ部分にたどり着く。若干広くなっていて、乗降用の入り口があった……ところで、
「あ……っ」
「うん」
 今はぴったり閉まったドアの窓から外を覗く姿が一つ。
 今にも消えそうな影が、そこに佇んでいた。
「……もし、そちらのお方」
 ベイメリアがそっと、丁寧に声をかける。ディフも小さな声を出す。
「列車、好きなのかい?」
 小さくする必要はない。ここにいるのはすべて猟兵だから、影朧に対して語り掛けることをはばかる必要などない。
 それでも、小さな声になったのは、その存在があまりに淡く、消えてしまいそうだったからであろう。
 返事がなくとも、かまわなかった。ただ、ディフが、自分が声をかけたかっただけだ。だが、ベイメリアとディフの言葉に、うっすらと影は顔を上げた。
「列車……そう。列車はいいものです。好き……好き、でした。だから、私はオリオン号を作……」
 最後のほうは、よく聞き取れない。だが、ディフとベイメリアは顔を見合わせる。
「綺麗……なのですよ。ぜひ、いろんな方に、見てもらいたい……」
 ぎゅう、と手を握りしめる影朧。その様子に、ベイメリアは声をかける。
「待ってくださいまし。お手を、お手の方をご覧くださいませ。何か握りしめていらっしゃいますよ」
 触っていいのだろうか、触られたらいやかもしれない。判別がつかずに、ベイメリアはそっと、優しく声をかける。
「そちらの紙は、お手紙でございましょうか。どなたからのお手紙で? 大切な方からなのでは?」
「そう。そんなに握り締めると、手紙がくしゃくしゃになってしまうよ」
「手紙……?」
 添えるようなディフの言葉にも、影は首を傾げる。それを持っていることすら、気いていないようであった。
「手紙……。そういえば、何度も、そんなことを……。けど、私は……」
 言われた気がする、と、言いながらも影は首を傾げる。そんなものは持っていないとでも言いたげな彼の姿に、
「ずっと手紙を離さないじゃないか。大切なものなんだろう? 誰からの手紙なんだい」
「……誰」
 重ねて問うディフに、何やら影は考え込んでいるようであった。
「何か召し上がりますか? お茶でもいかがでございますか? わたくしたちの車両はあちらですの、一緒にお茶にいたしませんか?」
 急がなくとも、大丈夫ですよ。と、微笑むベイメリアに、ディフも小さく頷く。
「もしよければ、俺もご一緒していいかな。そうしたら、何か思い出せるかもしれない」
「いえ……結構です……。私は……もう少し……」
 言いながらも、ふらりと影は再び歩き出す。数歩歩いて、それからふと立ち止まった。
「手紙……持って、いますか……?」
 奇妙な問いかけに、思わず二人は顔を見合わせてから、頷いた。
「そう……ですか……。多分、それは……」
 ゆっくりと。……ゆっくりと。
 そんな声を最後に、影の姿は溶けるように消えて行った。
 まるで、幽霊のようであった。
「……その執着が、叶うといいね」
 ぽつりと、その姿を見送ってディフが呟く。ベイメリアは小さく頷いて、祈るような仕草をした。
「少しでも、お助けできればよろしいのですが……」
「うん」
 ほんの少ししんみりする二人。しかし次の瞬間、
「けれども、荷物を置いたらまずはお昼ごはんにいたしましょう!」
「あ、うん」
 ベイメリアはにこやかに言ったので、ディフは「じゃあ自分は部屋でゆっくり本でも読んでいようかな」という言葉を飲み込んだ。まあ、別に本は逃げやしないだろう。その間を、ベイメリアは少し違うようにとる。
「大丈夫。この列車で、わたくしたちが求めさえすれば、きっとまたあの方に出会える……そんな気がいたしますわ」
「ん……。そう、だね」
 二人顔を見合わせて、頷く。
 彼はまだ、列車をさまよっている。……何かのカケラを拾い集めるように、歩いている。
 だからきっと、望めばまた会えると。そんな気がしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ベルンハルト・マッケンゼン
【炎桜】
(トレンチコートにボルサリーノ、スーツケースを引っ張って現れる)
待たせてすまない、真琴。仕事が長引いて、な。
あぁ、心が躍るな。二人きりでゆっくりと、景色や会話や食事を楽しもう。
準備をありがとう、もちろんお酒も!

(彼女と同じく、振り返って呟く)
死してもなお、想いを遺す、か。少し、羨ましいな。生きながら想い出を喪っていく、私には。

(レディファースト、彼女には先に客室でくつろいでもらって、その間に私は食堂車から軽食をテイクアウト)
着替えは終わったかな。お茶も良いが、美味しそうだったので持ち帰り、だ。
クロックムッシュにクラブハウスサンド、ウィンナーコーヒーとどうぞ。
さぁ、お楽しみはこれからだ!


新海・真琴
【炎桜】
二人で出かけることはあっても、泊まりがけの旅なんて初めてだねぇ
冒険気分でワクワクするね!
(ツイードのハンチングを落とさないよう深く被り、トランクを軽々と持ち上げて)
よっと……あとこれも忘れないようにしなくちゃ。大事大事
(紙袋には、発車駅近くの百貨店で買ってきたお酒の瓶)

……?
(ふと、影朧の気配を感じて振り返るも、彼を見つけられず)
……君も、楽しむといい

ベルンハルト、切符見せて。ボクらの客室どこだっけ
(二等客室。ガラッとドアを開けて)
よっし、着いたー

(帽子と革手袋を取り、ブーツをバブーシュに。ケープとベストはメリノのストールに)
まずは一休みしよっか。窓からの景色を眺めながらお茶でも



 新海・真琴(薄墨黒耀・f22438)はトランクを手に、じっとホームに佇んでいた。
 ツイードのハンチングを落とさないよう深く被り、俯いて、ただ静かに、何かを待っている姿はほんの少し様になっていて、
「……やあ、待たせてすまない、真琴。仕事が長引いて、な」
 あとから追いついたベルンハルト・マッケンゼン(黄金炎の傭兵・f01418)が、ぽんとその肩を叩いた。
 トレンチコートにボルサリーノ、スーツケースを引っ張って現れたその姿に、真琴は顔を上げて、ん、と小さく頷いた。
「大丈夫だよ。時間もまだあるんだから」
「ああ、それは良かったな。大事な大事な旅行だ、慌ててしまうのもつまらない」
 笑うベルンハルトに、真琴もなんとも面白そうにうなずく。それから顔を上げると、
「二人で出かけることはあっても、泊まりがけの旅なんて初めてだねぇ。冒険気分でワクワクするね!」
 今から冒険に行く子供のように笑った。
「あぁ、心が躍るな。二人きりでゆっくりと、景色や会話や食事を楽しもう」
「そうだよね。食事だってきっと……あぁ」
「うん?」
「これ。……あとこれも忘れないようにしなくちゃ。大事大事」
 よっと。と、言いながら真琴は軽々と紙袋をベルンハルトの目の前まで掲げてみせる。それは、発射駅近くの百貨店で狩ってきたお酒の瓶が入っていた。
「いいのを買ったんだよね。どう、気が利くと思わないかい?」
「はは。準備をありがとう、もちろんお酒も!」
 気が利くどころじゃない。なんてベルンハルトが笑ったところで、アナウンスの声が響き渡った。そろそろ出発するので、乗車予定の人は列車に乗るように促すアナウンスであった。
「おっと、こうしちゃいられないな。行こうか」
「そうだね、行こう」
 二人して、乗車口へと歩き出す。列車に乗り込んだ瞬間、
「……?」
 ふと、何か。
 自分たちと違う方向に、風が動いたような気がして、真琴は振り返った。
「うん?」
 ベルンハルトも、怪訝そうな顔をする。吹けば消えてしまいそうな、蝋燭のような気配であった。
「……君も、楽しむといい」
 きっと、影朧だろうと。真琴は思う。気付けばそんな言葉が漏れていた。その言葉に、ベルンハルトも小さく、
「死してもなお、想いを遺す、か。少し、羨ましいな。生きながら想い出を喪っていく、私には……」
 ただ静かに、そんなことを呟いた。
 答えは、なかった。蝋燭が揺らめくような気配は、おぼろげながらに彼らの周囲を漂い、そしてふっと、消えて行ったのである。

「ベルンハルト、切符見せて。ボクらの客室どこだっけ」
「ああ。これだ。……っと、動き出したな。足元には気を付けて」
「うん、大丈夫だっ。……よっし、着いたー」
 がらっ。と、真琴が扉を開けると、
 まず飛び込んできたのは、大きな窓であった。
 出発したばかりの列車は、緩やかな速度で街中を走っている。
 サクラミラージュの町並みと、舞い散る桜の景色は絵のようで美しかった。
「えーい」
 ぽいぽいぽい。と、帽子と皮手袋を脱いでベッドに投げ入れる真琴。おっと、とベルンハルトは片手を挙げる。
「先にくつろいでいてほしい。ちょっと軽食を貰ってこよう」
「わあ、お願いするよー」
 ブーツを脱ぎながら答える真琴に、ベルンハルトはさっと部屋を出て行った。
 食堂車は賑やかで、軽食を持ち帰りたいといえば快く応じてくれた。矢鱈多すぎるメニューから選ぶのはほんの少し時間がかかったけれども、彼女の着替えの時間だと思えばちょうどいいだろう。
「ただいま、だ」
「あっ、お帰りだよー」
 そうして時間がたってベルンハルトが戻ってくると、真琴はとりあえず着替えを済ませてすっかりくつろいでいる最中であった。その様子に、ベルンハルトが目を細める。その顔に、真琴もまた笑う。
「ありがとう。色々持ってきてくれたんだね。まずは一休みしよっか。窓からの景色を眺めながらお茶でも」
「ああ。お茶も良いが、美味しそうだったのでこれを持ち帰り、だ」
 なんだと思う? なんて、ほんの少しもったいぶってベルンハルトが効いてみるので、何だろうな、と、真琴は何とも楽しそうに首を傾げている。
「ほら、クロックムッシュにクラブハウスサンド、ウィンナーコーヒーとどうぞ」
「うわ、美味しそうだね……!」
 テーブルに広げられた料理に、真琴が歓声を上げると、うん、うん、とベルンハルトは頷いた。
「さぁ、お楽しみはこれからだ!」
「そうだね。いっぱい楽しんで、いっぱい食べて、いっぱい飲もうか」
 明るい二人の声とともに、窓の外の景色が流れて行く。
 どこへ行こうか。どこまで行くだろうか。
 この旅の始まりに、二人。まずは楽しそうに両手を合わせていただきますといった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オリオ・イェラキ
まぁなんて立派な乗り物
列車の旅だなんて……とてもわくわくしますの
切符はお勧めされた一等にしましたわ、どんな所かしら
華やかさで選んだ駅弁というものも購入しましたの
さぁ乗りましょう

まずは寝台特急の中を堪能しますわ
食堂車も素敵、ここからの景色もさぞ美しいのでしょう
他の車両もきっと――殿方もそう思ってこの列車に?
ご機嫌よう。隣、良いかしら

悩んだ顔をされておりましたので、つい声を
そう、悩みが思い出せませんの……あら
手に在るのは手紙かしら
思い出す切欠になるかもしれませんわ
後は思いつく事何でも、言ってみて下さいませ
案外言えば色々思い出すものですわ
わたくしはここで駅弁を頂きながら、幾らでも話し相手になりますの



 オリオ・イェラキ(緋鷹の星夜・f00428)は顔を上げた。漆黒の車体は、今か今かと出発を待ち望んでいる。
「ああ……。なんて立派な乗り物。なにに引かれることもなく、ただ自らの力で走るなんて」
 列車の姿に、オリオは一つ、息をつく。自力でこれだけ巨大なものを走行させるなんて、オリオの出身世界では考えられないことだった。だというのに、さらに中に乗れるという。
「列車の旅だなんて……とてもわくわくしますの」
 そりゃもう、わくわくしなければおかしいというものだろう。一等客室への切符をしっかりと握りしめ、ついでに『超豪華華やかのり弁スペシャル』というパッケージとタイトルの一番華やかだった駅弁も購入し、……準備は万端。
「さぁ、乗りましょう。ああ……どんな所かしら」
 いざ、出発。と。
 ご機嫌でオリオは、列車の乗車口へと向かうのであった。

 まずは一級客室に荷物を置く。
「……まあ、どうしましょう」
 めっちゃ広かった。オリオは真剣に考える。
「素振り……でしょうか」
 割と苦も無く素振りができそうなぐらい広かったのである。まあ、狭いよりはいいので、良しとしておこう。ちなみにベルが置かれており、これを鳴らすと職員が一瞬で飛んできてなんでも欲しいものを言ったらそろえてくれるらしい。
「牛の丸焼きは手に入りますかしら……」
 多分、何でもといっても、サクラミラージュの常識の範囲内だろうけれども。

 そんなこんなで荷物を置くころには、列車は走り出していた。
 一級客室、二級客室の廊下を通り過ぎる。廊下は比較的静かであったが、食堂車へとつながる扉を開けた瞬間、賑やかな音がわっとオリオを包み込んだ。
「済みません、お茶お願いしますー」
「はーい。ご注文のハヤシライスですー!」
 客もいれば、給仕もいる。人気が全くないような気がした廊下とは違って、食堂車は忙しない。二両分あるので、席は広く感覚を開けて取っているのだが、てきぱき走り回るメイドさんたちのおかげで寂しい感じはしなかった。
 思わず、オリオは席に着く。持ち込みかと聞いたので、お弁当は持ってきていた。お茶でも頂こうかしら。デザートなんかもあるかしら。なんてメニューを広げていると、
「……食堂車も素敵、ここからの景色もさぞ美しいのでしょう」
 ぼんやりと、影のようなものに気が付いて、オリオはそうつぶやいた。
 窓の外では、美しい桜とともに街並みが流れて行く。これから森に入り、湖に出れば、もっときれいな姿が見られるに違いない。
「他の車両もきっと……。――殿方もそう思ってこの列車に?」
 薄らぼんやりと立つ影朧は、なにやらぼんやりと立ち尽くしていた。声をかけられると、僅かに、首を傾げる。どことなく楽しそうであるが、何ともその存在は希薄だ。まるで、消えかけの蝋燭のように揺らめいている。
「ご機嫌よう。隣、如何でしょう?」
「……」
 座る、ということが理解できないのかもしれない。立ち上がってオリオが椅子を引いてみると、ぼんやりと影朧はその席に腰を下ろした。
「悩んだ顔をされておりましたので、つい声を」
「悩んだ……私が?」
「ええ。何だか……随分と」
「…………それが、良く、わからないのです」
 オリオの問いかけに、影は首を傾げたようであった。
「先ほどから……色々な方とお話をしましたが……。私には……何も」
「そう、悩みが思い出せませんの……」
 よくわからない、という、影の言葉に、そう、と、オリオも目を伏せる。ひとまずはお茶を持ってきてもらうことにして、影朧をちょっとだけ怖がっているメイドさんに注文をする。そうして影朧から視線を戻したところで、
「……あら」
 それに、気づいた。
「手に在るのは手紙かしら。……思い出す切欠になるかもしれませんわ」
「……手紙……。皆さん、そう、仰るのですが……」
 手紙なんてどこにあるのですか、と。
 手紙を握りしめながら、影は問うた。
「……後は思いつく事何でも、言ってみて下さいませ」
 その様子に、オリオは思わずそう、手紙です。と言おうとした言葉を飲み込んで、かわりにそんな言葉を優しく、穏やかに、口にする。
「案外言えば色々思い出すものですわ」
「私は……」
 ぼんやりとしながらも、難しい顔をして考える影に、オリオは、
「わたくしはここで駅弁を頂きながら、幾らでも話し相手になりますの」
 あえてせかさないように気をつけながら、弁当箱を開く。スペシャルなお弁当を、なんとなく影も目を落として、
「そう……ですね。手紙……。もしかしたら……きっと……彼女の……。彼女……?」
 あいまいな呟きを繰り返す影を、宣言通りオリオもせかさずに見つめている。
(きっと、思い出してくだされば……)
 沢山の人が、その執着を晴らすことに力を貸してくれるはずだと。彼女もまた、信じていた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木元・杏
【かんさつにっき】
双子のまつりん(祭莉)に、歳も見た目もおにいさんだけどわたし達の弟の刀と一緒

わたしの荷物は、と鞄を開けると沢山のお菓子やパン、それに肉料理中心の各種駅弁を…沢山

…(刀の視線に気付き)
わ、わたし一人で食べようという訳ではない
今夜はきょうだい3人揃ったから、刀も沢山食べるからっ

はいっと刀にもお弁当を差し出し、ん、まつりんも…まつりん?
先に探索に行った?仕方ないから探しに行く
刀も一緒に行こ?(腕をぐいぐい)

暗い寝台車両には月と星の灯りが差し込み青く光る
ふふ、深海みたい
灯りをステップ踏んで進んでく

あ、まつりん
将校さんもいる
何が見える?何を見たい?

窓の外は桜と月と星の朧夜景色
ん…綺麗


木元・刀
【かんさつにっき】

寝台特急とは、影朧さんもなかなか良いご趣味で。
兄さん姉さんは、純粋に喜んでいるようですが。

駅の売店で夜用の書籍を数冊と、カードゲームを用意して。
あたたかい飲み物をポットに、お菓子をクーラーボックスに。

いつもは離れて暮らしているから、たまには家族水入らず。
少しくらい甘えてもいいですよね?

一等客室を予約しようとしたら、もったいないと兄さんが。
そういうところ、母さん譲りですね、と微笑んで。

二等客室に三人分の荷物を運び込み。
姉さんの、随分重かったけど、何が入っているんです?

あれ、兄さんはどこへ?
探検?
また一人で先に行ったんですね。ずるいなぁ。

いつも楽しそうで。
将校さんも釣られてる。


木元・祭莉
【かんさつにっき】だーい!

わーい、寝台特急ー!
動くお宿だよ、スゴいね!(乗り物好きな少年)

買い物もそこそこに、探検に出掛けるよ。
ごはんはアンちゃん、遊びはカナタが準備してるし♪(全幅の信頼)

一等車両には入れるかな?
まだお客さん来てないなら、ちらっと覗いたり!
うわ、立派だー。
……コッチにしとけばよかったかなぁ?

二等は通り過ぎて、食堂車も通り過ぎて、三等車を覗いてみる。
廊下をずーっと一番後ろまで、特に何するでもなくお散歩!

顔見知りの猟兵さんがいたら、軽く挨拶していって。
こんにちわー!
あれ。
猟兵さんじゃなかった、将校さんだ。

将校さんも列車好きなの?
ドコが好き?

桜、いいよね。
心も桜色になる気がするね!



すぅ、と、木元・祭莉(まつりんではない別の何か・f16554)は徐に息を吸い込んだ。そして……、
「わーい、寝台特急ー!」
 叫んだ。列車に向けて。めっちゃはしゃいだ声で。
「動くお宿だよ、スゴいね! ほらほら、真っ黒! でっかいしかっこいいしもー早く、早く乗りたい!!」
「まつりん、あんまり大きな声立てちゃ……」
 だめかもしれないの。と。木元・杏(きゅぴん。・f16565)は言いかけて、その言葉を飲み込んだ。めっちゃ微笑ましいものを見る目をしている駅職員の方々と目が合ったからだ。
「と、とにかく。準備は必要なの。駅弁買うから、ちょっと待ってて」
 もちろん肉料理中心に、各種さまざまに、である。真剣な顔で駅弁を吟味する杏に、ええ。と、祭莉は不満顔。
「アンちゃんで駆ける前にいっぱい食べモノいれてたよね?」
「うっ」
「大丈夫だよー。ごはんはアンちゃん、遊びはカナタが準備してるし♪」
「それはそれ、これはこれなのっ」
 そんなに買い物、必要ないじゃん。と主張する祭莉に、そっと杏は己の鞄に視線をやる。この中に山ほどお菓子とパンが入っていることは、否定は、できない。しかし駅弁もまた、必要なものなのだ。
「ええ。では、なるべく早く済ませますから、もう少し待っていてくださいね」
 そんな祭莉を宥めだのは、木元・刀(端の多い障害・f24104)だ。一見すると二人のお兄さんのような刀だが、実は弟である。
「ほら、姉さん。今のうちに早く……」
 夜用の書籍を数冊と、カードゲームを買い込みながら、ふと刀が隣を見やると、
「……」
「……」
 ものっそい数のお弁当を抱える杏がすでに隣にいた。
「……」
 刀は無言で、あたたかい飲み物をポットに、お菓子をクーラーボックスにしまう。あえて、何も言わなかった。言わなかったのに、
「わ、わたし一人で食べようという訳ではないっ。今夜はきょうだい3人揃ったから、刀も沢山食べるからっ」
 違うんだ誤解だ。とか何とか言いながら、めっちゃ早口で言いわけを述べてお会計まで流れる動作で済ませる杏。
「あ、はい。大丈夫ですよ、それで」
「そ、そうよ、そういうことなのっ」
 別に刀とて責めているわけではない。非常に姉さんらしい、と思うし、お弁当ひとつくらい分けて貰えたら嬉しいに決まっている。
(寝台特急とは、影朧さんもなかなか良いご趣味で。兄さん姉さんは、純粋に喜んでいるようですが……)
 杏の手から持ちますよ、と半分弁当を受け取れば、ただそれだけでも若干目元が和らいだ。
(いつもは離れて暮らしているから、たまには家族水入らず……。少しくらい甘えてもいいですよね?)
 何だか、自分が甘えるというと何ともこそばゆいのだけれども。
「ふふ。ありがとうね、刀」
「おーい。早く行こうぜー!」
 笑顔を浮かべる二人を、見ているだけでも楽しくて。
「はい。もうすぐ出発ですね、急ぎましょう」
 刀も笑顔で、列車へと歩き出すのであった。

「一等客室を予約しようとしたら、もったいないと兄さんが」
 別にお金はいらなかったらしいんですけど、と、刀は言うと、祭莉はかしかし、頭を掻く」
「いや~。だって、いらないだろ?」
 三人なら、二等客室で充分なはずだ。例えお金はかからなくとも。
 ……と迄、語ったわけでもなく。「何となく贅沢は居心地が悪いんだよ」という祭莉の言葉に、刀も頷く。
「そういうところ、母さん譲りですね」
「そりゃ……」
 喜べばいいのか。悲しめばいいのか。
 複雑な顔を祭莉がしたところで、先頭を行く杏が声を上げた。
「あっ。この部屋ね」
 二号車の一室の扉を開ける杏。そこは、
「わあ……」
 大きな窓のある部屋だった。
 ベッドが二つと、ソファーが一つ。
「おっ。誰がソファーに寝る?」
 どこからでも、窓の外を見ることができて、
「そんなことよりこの窓、すごくいいねっ。夜とか、綺麗なんだろうなあ……」
 っしゃー! とはしゃぐ祭莉とは裏腹に、杏は素敵、と、ため息なんてついている。その間に刀は荷物をサッサと客室に運び込む。いつの間にか三人分持つことになっていた。
「姉さんの、随分重かったけど、何が入っているんです?」
「う……。お、乙女の秘密よ!」
 主にお菓子とかではあるけれど。
 尋ねる刀に杏はそんなことを応えて、そうなんですか。と、刀が納得する。そういうこと。と、子は咳払いをして、
「はいっ、お弁当」
「あっ。ありがとうございます」
 杏スペシャルチョイスの肉弁当を手渡す杏。も一つ手に取って、杏はソファーのほうに視線をやる。
「ん、まつりんも……まつりん?」
「あれ、兄さんはどこへ?」
 ふと、さっきまでソファーの上で飛び跳ねていた祭莉がいないことに二人は気が付いた。
「そういえばさっき、「っしゃ行くぜー!」って声を聴いた気がするわ」
 杏が思い出しながら、小首をかっくり傾げる。
「先に探索に行った? 仕方ないからのね」
「探検? また一人で先に行ったんですね。ずるいなぁ」
 二人同時で、声がそろった。刀は軽く頭を掻く。いつも楽しそうで、いいですね。という刀に、うんうん、と杏も頷いた。
「じゃあ、探しに行かないと。刀も一緒に行こ?」
「ええ。一緒に……ですか」
「勿論よ」
 一緒に行っていいのか。
 何となくそれだけで嬉しくなって、刀はでは、行きましょうと頷いた。
「もうっ。ご飯前にお出かけするなんて、見つけたらお仕置きしなくっちゃ」
「ふふ。お手柔らかに」
 冗談めかした杏の声に、刀も笑って、その場を後にした。

 一方。
「ん~~~。一等車両には入れるかな?
 祭莉はといえば、客室を覗き込んで歩いていたりした。
 もともと運行取りやめになって、今は職員以外は猟兵しか載っていない列車だから、部屋も好いている。探せばだれも止まっていない部屋だって簡単に見つかった。
「うわ、立派だー。……コッチにしとけばよかったかなぁ?」
 もはやホテルのスィートルームである。あんなに広くて何するんだろう、と祭莉は思う。部屋の中でラジオ体操でもしなければいけないのか。もったいないことではあるが、
「タダ部屋だったしなぁ」
 ただ部屋でも贅沢禁止とするか、ただ部屋だから贅沢すべきだったか……なんて悩んでいる間に、二等客室は通り過ぎた。
 ついでに通り過ぎた食堂車は賑やかで、なんだかだけ別の世界のよう。
 それを過ぎると三等客室だ。三等客室は、カーテンだけで仕切られた、沢山ベッドが並んでいる部屋である。カプセルホテルを想像すればいいかもしれない。それよりもう少し広くて、綺麗な星が見える。
「お散歩、おっ散歩~」
 お散歩の歌を歌いながら、祭莉は歩く。三等客室は廊下から近く、中にはカーテンを開け放ってる人もいるから、そういうひとには挨拶をして通り過ぎていた……ところで、
「こんにちわー!」
 すれ違った職員に声をかけて、あれ、と、祭莉は足を止めた。
「猟兵さんじゃなかった、将校さんだ」
 くるりと振り返る。薄らぼんやりとした影が、祭莉とすれ違い、そして通り過ぎようとして、祭莉の声を聴いて振り返った。
「こんにちは!」
 もう一度、祭莉はいった。こんにちは、と、影朧は静かに返す。
 その声が帰ってきた瞬間、ぱぁっ、と祭莉は目を輝かせた。
「ねっ。将校さんも列車好きなの? ドコが好き?」
 あれも、これも、と、あれこれ聞き始める祭莉。その時、
「あ、まつりん!」
「兄さん」
 声が聞こえた。丁度杏と刀が追い付いてきたのだ。パタパタと近づいてくる二人を警戒するでもなく、影は頷いた。
「今は……昼ですが、ちょうど日が落ちて夜になったころ……湖のあたりを通過します」
「湖?」
 杏が聞き返す。影は小さく頷いた。
「そこに行くと……まるで湖の上を走るように……駆ける、オリオン号の姿が見えます。天気が良ければ、満天の星空と……桜の中を駆けていく……オリオン号が見えるでしょう……」
「桜と月と星の朧夜景色ね……。それが見えるの? それを見たい?」
 杏の問いかけに、影は少し考えこんだようだった。
「そうです……。その瞬間が……オリオン号が一番美しく見える瞬間です……」
「想像するだけで……なんだか綺麗ですね」
  刀が思いをはせながらつぶやく。うん、と杏も頷いた。
「その時はこの寝台列車も、きっと深海みたいできれいでしょうね」
「そうですね……。このシリウス号も、きっと、美しいでしょう」
 きっとこの寝台車両には、月と星の灯りが差し込み青く光る通路が出来上がるのだろう。なんて言うので、刀は微笑んだ。微笑んだ……瞬間。
「おっ。なんか小難しいこと言ってるか??」
「兄さん……」
 にっこーっと笑ってそんなことを言う祭莉に、刀はほんの少し吹き出すのであった。
「桜、いいよね。心も桜色になる気がするね!」
「確かに、素敵ですね……」
「でもまつりん、小難しいことを言ってるわけじゃ……」
 三人そろって、賑やかな話をする兄弟たち。
 そんな彼らを見つめて、影はどこか嬉しそうに一礼した後、その場から溶けるように姿を消した……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ゲニウス・サガレン
私の故郷では船が中心だったから、列車の旅って憧れるものがあるんだ
地方の風物詩や小話ののってる本を持って、三等客室の車両に乗り込もう
(他の方とからみ大歓迎、一人旅も大好き)

読書もしたいけど、明るいうちは遠くの景色や車内の様子をスケッチしながら過ごそうと思う
絵描きではないけど、ささっと仕上げるのは得意でね
いつか、探検記とか旅行記を出版するのが夢なんだ

それと食堂車両で紅茶を飲みながら、羊羹の入ったシベリアを食べたいな

さて、猟兵である以上、影朧にも注意を払うつもりだけど、その目的は無害そうだから、近くにいたらちらっと観察するくらいかな
すれ違ったら挨拶はするよ


叶・景雪
アドリブ歓迎
難しい漢字は平仮名使用。名前以外カタカナはNG

列車ってすっごく早い乗り物なんだよね!(わくわく
しんだい特急ってことは、夜も走るのかな?
でも、わくわくしすぎてねむれない気がするよ!

おぎょうぎ良く座ってないとだよね!いつ出発かなぁ?
まどの外をながめてたら…わわっ、大きな音が聞こえたよ!?
これが出発の合図かな!
せっかくだから、駅にいる人たちに手をふるね
「いってくるねー!」
わわっ、景色がびゅーんって過ぎさっていくよ!?
目がぐるぐるしちゃいそうだけど…
ちょっとだけまどをあけて、風にあたるね!
「列車てとっても楽しいんだね!」

朧影を見かけたらいっしょにお外をみたいなぁ
「きみはどんな景色がすき?」



 ゲニウス・サガレン(探検家を気取る駆け出し学者・f30902)は感心したように列車を見上げた。
 時間には余裕があってきたはずだ。しかしながら、気が付けばホームでは乗車予定のお客様は早めに列車にお乗りくださいというアナウンスがかかっていた。
「列車、はじめて?」
 あまりにも長いこと見ていたのを知っていたのか。ひょっこり顔を出して声をかけたのは叶・景雪(氷刃の・f03754)であった。少年は目をキラキラさせて、ゲニウスの隣に立って列車を正面から見据える。
「そうだね。私の故郷では船が中心だったから、列車の旅って憧れるものがあるんだ」
「! ぼくもだよ。周りは船ばっかりで……」
 北の灰色の海に浮かぶ海運交易と漁業で栄える島の船と、鎌倉時代の侍たちがいるような世界の船とはおそらく想像している船が違うだろうが、列車が珍しいとおいう気持ちはともに同じである。
「列車ってすっごく早い乗り物なんだよね! しんだい特急ってことは、夜も走るのかな?」
「そうだね。夜通し走るのだと思うと、なんだか不思議な感じがするよ。船だって寝ている間に進むけれど……」
 きっと寝て、起きても、船の上で見る景色は海とせいぜい海から見る丘の景色ぐらいだが、この列車は寝て目が覚めると山から海へと景色が変わっているらしい。
「……でも、わくわくしすぎてねむれない気がするよ!」
「はは。その時は、夜の湖を眺めるのもいいかもしれないよ」
 なんて会話をしているうちに、もう一度乗客は列車に入るようにアナウンスがあった。
「そういえば、一冊本を買おうと思ってたんだ。君は?」
「だいじょうぶっ。いこうっ」
 特にどちらとも言いださなかったが、なんとなく旅は道連れというだろう。一緒に三等客室の乗車口までともに歩いて、そこから列車に乗り込んだ。

「お邪魔します」
「どうぞ、お気になさらず」
 すでに客室にはまばらに人もいて、ゲニウスはそう言いながらも先へと進む。
「お兄さんは、お席どこ?」
「ええと……ここだね。おや、お向かいだ」
「お向かい!」
 寝転がってしまえば、窓の関係で視線を合わせることはできないが、会話をするには十分な距離だろう。互いに多分、あんまり普段かかわらない触手や人種なのでべったりするのは大変そうだがこれくらいなら新鮮で面白いかもしれない。なんてことをつらつらと考えながら、ゲニウスは荷物を片付ける。
「……」
 その間に、景雪はしゃっ。と、ベッドの真ん中に正座していた。窓の方を見る目は、真剣そのものである。
「電車に乗ったら、おぎょうぎ良く座ってないとだよね! いつ出発かなぁ?」
「その前に、荷物を片付けたほうがいいよ」
 と、ゲニウスは声をかける。旅鳴れている彼は、発射前にできることを終わらせておくことがいかに大切であるかを知っていたのだ。動き始めてから頭上の荷物棚に荷物を入れるのは、難しくはないができるなら今しておいたほうがいい。
「荷物? ……わわっ」
 なんで? と、景雪が振り返りかけたその時、
 駅のホームから、大きなベルが鳴り響いた。
 そしてそれに応えるように、列車が大きく汽笛を鳴らした。
「大きな音が聞こえたよ!? これが出発の合図かな!」
「そうだね。こうしておかないと、急に動いたら危ないだろう?」
「うんっ!」
 真剣に窓の外を見つめる景雪を微笑ましそうに横目で見て、ゲニウスも己の客室に腰を下ろす。そうしている間に列車は走り出した。
「いってくるねー!」
 ホームで手を振る駅職員に、景雪が手を振り返している。それを見ながら、ゲニウスはスケッチブックを取り出した。読書用に本も用意しているが、明るいうちは社内の様子や景色を笹っとスケッチしておきたい。
「わわっ、景色がびゅーんって過ぎさっていくよ!?」
 目がぐるぐるしちゃいそう……。と言いながら、景雪は少しだけ窓を開けている。それで何とか持ち直すらしい。
「列車てとっても楽しいんだね!」
 振り返り、ゲニウスのほうを向いて言う景雪に、
「……そうだね」
 ゲニウスも小さく、頷いた。
「? なにをしているの?」
「ん。ちょっと絵をね」
「! じゃあ、ぼくも静かにしているよ!」
「いいんだよ、気にしないで」
 そんなことを言いながら、ゲニウスはさらさらとスケッチを始める。
 絵描きではないけど、ささっと仕上げるのは得意だった。
「……いつか、探検記とか旅行記を出版するのが夢なんだ」
 ぽつんと漏らした彼の言葉は、きっと景雪には届かなかっただろう。
 けれども、ゲニウスは思う。探検記や旅行記は、きっと彼ぐらいの子供が一番読むものだ。
 だから……こんな風に列車に乗ることができない世界の子供が、読んでいて彼のような笑顔を浮かべて貰えるような。そんなものを作れたらいいな、と。
 ……何となく、口に出すのは柄でもないし。遠い夢の世界のことだと思いながらも、その笑顔をゲニウスは考えるのであった。
「……食堂車両で紅茶を飲みながら、羊羹の入ったシベリアを食べたいな」
「あっ! だったらぼくはおむらいすがいいな!」
 今度は聞こえていたらしい。その言葉に後でだよ、なんて返していると、
 ふっと影が通り過ぎて、ゲニウスは顔を上げる。景雪もくるりと振り返った。
「……こんにちは」
「あっ。ええと、こんにちはっ」
「……こんにちは」
 ゲニウスのあいさつに、景雪が続く。
 朧な影はその言葉に、軽く挨拶を返して通り過ぎていく。それで、
「あっ。ねえ、一緒にお外を見たいなぁ」
 景雪は声をかけた。一応ゲニウスはスケッチをしながら、油断なくそちらを見てはいるが、敵意はなさそうだった。
「きみはどんな景色がすき?」
 景雪の言葉に、影は窓の外を見つめる。しばしの沈黙の後、
「夜に……なれば、湖に、出ます。櫻と、星の中を、オリオン号が走って行く……それが一番美しい眺めになると……伝えました……」
「伝えた?」
 思わず。景雪が聞き返した瞬間、
 ふっとろうそくの灯を消すように、影の姿は消え失せた。
「……不思議だね」
「うん、なんだかお化けみたい」
 邂逅は、それだけだったけど。ゲニウスの言葉に、景雪は小さく頷いた。
 ただ、最後に、その景色をお楽しみくださいと、言われたような気がしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鵜飼・章
三等客室に乗車
高くて広い個室よりも
こういう狭くてごちゃごちゃした所の方が落ち着くのは
きっと僕の部屋が汚いからなんだろう

隣の人に挨拶しつつ
車窓からの風景を眺めて過ごす
鴉達は連れてくる訳にいかなかったから
窓の外で必死に僕らを追いかけている
追いつくか追いつかないかは頑張り次第かな
頑張ったら後で何かあげよう

影朧さんもこんにちは
僕猟兵だけど戦わなくていいの?
きみ変わっているね
お喋りするだけで済むなら僕もその方がいいや
特にやりたくてやっている訳じゃないし、猟兵

その手紙見せてもらってもいいかな
いずれオリオン号とすれ違うのだろうけど
物語を知ればその一瞬はもっと鮮明になる
だから僕にもきみの記憶を分けてほしいんだ



「お邪魔します」
「どうぞ、お気になさらず」
 すれ違った人にそう声をかけたが、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)はベッドに寝ころんだまま顔をあげもしなかった。カーテンはしていたので、バレなかっただろうから大丈夫だ。
「……なんだろう。これはいい。寝ころんだまま景色を見ていられる……」
 かなり早くから章が乗り込んだのは三等客室だった。乗り込んだ瞬間寝列車を決め込むことにした。
 高くて広い個室よりも、こういう狭くてごちゃごちゃした所の方が落ち着くのは、きっと僕の部屋が汚いからなんだろう。というのは彼の弁だが、寝転んでいても料理を運んでくれる点だけは一等客室を評価したい。なんてしょうもないことを丁度思っていたところであった。
 ホームからベルが鳴る。出発の合図だろう。応えるように汽車も汽笛を鳴らし、そうして腹の底に響くような音とともに、列車がゆっくりと動き始めた。
「……」
 ちらりと窓の外に目をやると、一斉に鴉たちが飛び立つ。章の鴉であるが、どうやら連れてくるわけにはいかなかった、というのは彼の弁である。
 いや……。多分見つからないようにこっそり客室に置いたり、風のこない列車の縁や窓辺にとまらせておくことはできただろうと思うのだけれど……、
「まあ、何事も経験だよね。頑張って」
 この通り、現実は無常である。
 必死に追いかけて飛行する鴉たちを見ていたが、だんだんと遅れていく。ついには視界から見えなくなったので、
「……追いつくか追いつかないかは頑張り次第かな」
 頑張ったら後で何かあげよう。なんて言いながら、章はのんびり、窓の外の景色を眺めるのであった。
 因みに列車は、山を越え、谷を越え、約20時間ほど走り続けるのであるが、その中では三度ほど停車する。
 追いつけるかどうかは……ちょっと、誰にもわからない。

 列車は最初は町中を走っていた。建物の間や、手を振る子供たちの隣を通り抜けて進む。
 暫くすると民家が減ってきて、木々が増えてくる。トンネルに入り、抜けると渓谷を通過することになった。
 これからはこの、森の景色が続くらしい。夜にもなれば湖が拝めるらしいが、今のところはごろごろするより他ない。
「んー。本でも持ってくればよかったかなあ」
 なんて思いながらも、章は体を起こして軽く伸びをする。食堂車の探検にでも行こうかと。ついでに寝ころびながら食べるテイクアウトでもあればいいなあ。なんて思っていそいそと自分の客室を出た……ところで、
 通路の先に、人影を見つけた。
 それは、どこかぼんやりと佇む、幽霊のようなものであった。
「影朧さんも、こんにちは」
 躊躇いなく、章は近づく。向こうも、こちらに気付いたようであった。ぼんやりと視線を向けるが、
「僕猟兵だけど戦わなくていいの?」
「……お客様……と、戦う……?」
 ただ、曖昧な反応が返ってくる。戦う、と言われてぴんと来ないのか。首を傾げている。
「戦わないの? だって、その姿」
 別に章とて戦いたいわけではない。あくまで世間話のように聞く章に、影朧は頷いたようであった。戦わない、という意思表示らしい。
「……きみ変わっているね。でも、お喋りするだけで済むなら僕もその方がいいや」
 そのまま、起き上がりかけていた身体をぼ分、とベッドの上に再び転がす。特にやりたくてやっている訳じゃないし、猟兵。とは口の中で、視界には入らないけれども亡霊はすぅ、とこちらの方に動いてくることは何となくわかっていた。
「……その手紙見せてもらってもいいかな」
 なので、章はそう言った。
「手紙……」
「そう。いずれオリオン号とすれ違うのだろうけど……、物語を知ればその一瞬はもっと鮮明になる。だから僕にもきみの記憶を分けてほしいんだ」
「……」
「だめ?」
「様々な……お客様に……手紙を持っていると言われましたが、私には……その手紙がわかりません」
「え。そうなの?」
 章は再び身を起こす。影朧はすぐそばまで来ていた。しっかりと、その手に手紙を握りしめている。
「じゃあ、勝手にとっていい?」
「どうぞ……」
 知りませんと言いたげな口調だったが、かまわないらしいので章は手を伸ばした。掴んだ手紙は、古びていたがしっかりとした感触があった。
 中を開ける。手紙の主は女性のようであった。宛先が男性名なので、これがその影朧の名前であろう。
 時候の挨拶から始まり、女の近況を伝えている。男が断れない義理のために好きなの仕事を辞めたことを惜しむような文言があり、そして最後に、
『あなたの子供が、産まれました。この子とともに、あなたの作ったオリオン号に乗りたいです』
 そう、書かれていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城島・冬青
【橙翠】

サクラミラージュで電車の旅なんて初めて
あっ!駅弁売ってる
アヤネさんって駅弁って食べたことあります?
折角ですし食べてみませんか?
駅弁は旅の醍醐味のひとつですよ、アヤネさん
ここまで来てピザとハンバーガーは無しですよぉ
まぁ食堂車には追々行くとして
すみませーん
お弁当下さい
お、いいですね
別々のを買って分けっこしましょう

客室で景色を見ながら駅弁を食べる
いただきまーす!
サクミラのご当地駅弁もなかなかイケる
家から淹れてきたお茶も出します
今日は焙じ茶ですよ

車窓から流れていく自然が雄大で
お正月の時に家のTVで見た旅番組みたい
今度はUDCアースで電車の旅をしましょうね
そういえば
影朧さんは何か思い出せたかな?


アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】

高級ホテルのような内装の一等客室に二人きり
これはなんかいい雰囲気が期待できそう
と妄想してたのだけど

え?食事はエキベンがいいって?
僕は食べたことはないネ
食堂車にはピザもハンバーガーも無さそうだし
ソヨゴが食べたいならそれにしようか
いろいろ種類があるのネ
どれがいいかな?

二種類選んで車内へ
列車で旅をするのは初めてだから動き出す感覚から新鮮
ソヨゴが楽しそうにしているとそこだけ太陽の光が当たっているように暖かく感じられる
なんて見惚れていると
あ、はい車窓ネ
景色を眺めつつ駅弁を広げる
お互いの美味しそうなのを半分こする

山間を通り抜けると森が近い
手を伸ばしたら届きそう
さすがサクミラ
え?日本もこんななの?



 出発前のホームは賑やかで楽しそうで。城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)は思わずきょろりと周囲を見回した。
「サクラミラージュで電車の旅なんて初めて。なんっていうか、独特ですねー」
 UDCの電車とは違い、石炭で動くタイプの列車は何とも物珍しい。ふんふん、と車体を見上げていると、
「あっ! 駅弁売ってる! アヤネさんって駅弁って食べたことあります?」
 美味しそうな匂いが唐突に冬青に襲い掛かった。ぱっ。と振り返ると、駅のホーム中ごろにあるお弁当売り場が、ちょうど新しいお弁当を補充したところであった。ホカホカのカツどん弁当ですよー。とか、牛めし弁当ですよー。とか、そんな声に思わずくらりと体が傾く。
「ねっ。アヤネさん。折角ですし食べてみませんか? アヤネさ……あれ?」
 振り返った先では、同じように列車を見ていたはずのアヤネ・ラグランジェ(十二の結び目を解き放つ者・f00432)が、
「ふふ……。高級ホテルのような内装の一等客室に二人きり。静かな部屋の中に響く列車の音。二人だけの景色。これが愛の逃避行っていうやつかな? 駆け落ち……いや、新婚旅行? これはなんかいい雰囲気が期待できそう……」
「ア・ヤ・ネさん! 駅弁買いませんかー?」
 何やら妄想を始めていたアヤネに、慣れた様子で冬青は耳元で声をかける。はっ、と、アヤネは顔をあげて、
「え? 食事はエキベンがいいって?」
「はいっ、駅弁は旅の醍醐味のひとつですよ、アヤネさん」
 我に返った。そして得意げな冬青の顔に、今日も冬青はかわいいね、なんて言いながらも、
「そっか。僕は食べたことはないネ……。食堂車にはピザもハンバーガーも無さそうだし、ソヨゴが食べたいならそれにしようか」
「ええ。あったらそれにするつもりだったんですか? ここまで来てピザとハンバーガーは無しですよぉ」
 情緒がないなあ。という冬青に、駅弁って情緒なの? なんて答えながらもふたりは売店へと向かう。
「まぁ食堂車には追々行くとして……。なんだったらピザもハンバーガーもあるかもしれませんよ。すっごい豪華そうな感じの」
「うん、たぶんそれ、僕が食べるハンバーガーとはちょっと違うかもしれないね」
 多分ハンバーガーひとつ1000円ぐらいする、高級牛とか使ってるタイプと見た。それはそれでいいかも、とかほんのちょっと思いながらも、冬青は売店のおばちゃんに声をかける。
「すみませーん。お弁当下さい」
「あいよ、何にする?」
「いろいろ種類があるのネ。どれがいいかな?」
「そうだねぇ。やっぱり焼肉は人気だね。あとは松茸とか、入ったばっかりのカツ丼とか……」
「お、いいですね。アヤネさん、別々のを買って分けっこしましょう」
「いいよ。ソヨゴの好きなのを二つ買おう。どれがいい?」
「もう。アヤネさんも好きなの言ってくださいよー」
 結局、選んだのは松茸と焼き肉だ。ふんふんふん、と冬青は鼻歌交じりに列車に乗り込む。それを嬉しそうにアヤネも見やって、一緒に列車に乗り込んだ。

「わあ……。さすが高級列車ですね!」
「うん、なんていうか……」
 一等客室は広くて、UDCのホテルと比べても遜色ない様子であった。美しい内装に、綺麗なベッド。大きなソファ。どれも窓の方を向いている。丁度二人が部屋に入ったあたりで列車が動き出したので、ホームが流れて、桜並木の続く街並みへと、大きな窓の景色も移り変わっていた。
「すごーい。窓おっきいから明るいですねえ」
「……そうだねえ」
 感心したような冬青の台詞に、アヤネは目を細める。
(ソヨゴが楽しそうにしているとそこだけ太陽の光が当たっているように暖かく感じられる……なんて、口に出したらソヨゴ、照れるかなあ)
 その姿を見つめながら、ふ、と微笑むように息をつくのであった。見惚れていた、といってもいい。そんな冬青は、
「ほら、アヤネさん、あの子手を振ってる!」
 窓へ向かって手を振りながら振り返って、アヤネの視線に気づいて瞬きをした。
「アヤネさん?」
「ああ。なんでもないヨ。あ、はい車窓ネ。どうして人は列車に向かって手を振るのかなあ」
「え!? ちょ、ちょっと私には難しいです!」
 そんな言葉とともに、手を振る子供も景色の向こう側に去っていった。

 それからしばらくして。
「ほら、早く駅弁食べましょう」
 という冬青の言葉に、わかったわかった。なんて言って、テーブルの上にお弁当を置いて、窓のよく見えるソファーに腰を下ろしたのであった。
「いただきまーす!」
「はい、いただきます」
 両手を合わせて、お弁当タイム。
「ん-。サクミラのご当地駅弁もなかなかイケる。あ、アヤネさんお茶いります?」
「うん。……今日は」
「はい。家から淹れてきたお茶ですよ。今日は焙じ茶です」
 ほらほら、と、水筒を示す冬青。
「ん、ありがとう。……ほら、ソヨゴ、半分」
「わ……。ありがとうございます。アヤネさんも私の、食べてくださいね!」
 仲良く二人でお弁当を交換する。
 列車は市街地を抜けて、徐々に景色は田舎のものになっていき、トンネルを超えると、山間部を走り抜ける。
 食事をしている間にも、移り変わるその景色が物珍しくて、アヤネはふーん、と言いながらも若干真面目にその景色を見ていた。
「山間を通り抜けると森が近いのかな。湖も行くって言ってたよね」
 手を伸ばしたら届きそう。なんて言うアヤネに、冬青もお茶を飲みながら頷く。
「そうですねー」
「さすがサクミラ」
「んん、UDCもこんなものですよ??」
「え? 日本もこんななの?」
「えええ。こんなものですよー。田舎とかいったら」
 呆れたような冬青の言葉に、そうだったのか……と、なんだか新たな発見をしたかのような顔をするアヤネ。
「……でも、車窓から流れていく自然が雄大で、お正月の時に家のTVで見た旅番組みたい。そういう機会がなければ、一生見ない人もいる……」
 んでしょうね、と思いながらも、いるのかな? って冬青は内心首を傾げた。これは、いけない。アヤネさんはもっと外の世界に出るべきだ。ジャンクフードだけではなく新鮮な山の筍や蜜柑を食べるべきだ。
「今度はUDCアースで、電車の旅をしましょうね
「う、うん」
 何やら決意を新たにしたらしい冬青に、首を傾げながらもアヤネは頷いた。
「そういえば……、影朧さんは何か思い出せたかな?」
「どうだろう。思い出せていると、いいね」
 二人して、窓の景色を見ながら思う。
 折角の旅だから、なんにせよいい方向に転ぶといいな、と、冬青は思った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】
列車に乗り込む前
売店の駅弁コーナーが目に留まり

車窓からの景色を眺めながら
お弁当を頬張る…いやー浪漫だよねー
というわけで、この鶏そぼろ弁当と
焼肉弁当と、串カツ弁当と…
あっ、この激辛弁当も絶対美味しいやつ
気になるお弁当を片っ端から手に取っていく

ああ、そうか、列車内でもご飯があるんだよね
そっちも気になるなぁ…
まぁ全部食べちゃえばいいんだよ
気にせず全部お買い上げ

列車に乗ったら早速楽しいお弁当タイム
うーん、ジューシーなカツと
その上にかかった激辛ソースの相性最高っ
俺の目に狂いはなかった
梓のお弁当の魚も一切れちょーだい
俺のやつも一切れあげるから
激辛ソースたっぷりかかったカツをはいあーん


乱獅子・梓
【不死蝶】
列車内でも買えるだろうけど
一応飲み物と小腹が空いた時用の菓子と
暇つぶし用の本でも買っとくか…
と思ったら、景気よく駅弁を抱える綾

おい、そんなに大量の駅弁持ち込んだら
それ食うのに手一杯で食堂車の飯が食えなくなるぞ
お前、そんな大食いキャラだったか…?

窓から見える街、山、川…
仕事で来る時は、転送してもらった目的地で
やることやって帰ることが殆どだから
こんな機会でもないとじっくり眺めることは
無かったかもしれない景色たち
と情緒に浸っていたのに

もう食うのか!?
弁当と聞いて仔竜たちも目キラキラ
仕方ないなと自分も弁当広げる
焔と零にも肉や魚を分け与え
はいはい、あーん……っ!!?(むせる
めちゃくちゃ辛っ!!



 ホームにアナウンスが鳴り響いた。
 間もなく出発いたします。乗車予定のお客様は、急ぎ……、
「あっ。待って、待って梓」
「!? お急ぎくださいって言われてるだろ」
 灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)の呑気な言葉に、信じられない、とばかりに乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)が目を見開いたのが、サングラスの向こう側からも分かった。
「だってほら駅弁。あれを買ってないよ。あれ買わないと、列車旅行じゃないでしょ? 大丈夫、あんなアナウンスはだいたい五分前ぐらいに流れるんだって。多分」
「いやいや、その多分、が信用できないんだから」
「まあまあ、そー言わずに、さくっと買ってさくっと終わらそう―」
 梓の言葉もなんのその。綾はずりずりと引っ張るように列車とは反対方向に歩きだす。彼が目に留まったのは、売店の駅弁コーナーだ。
「車窓からの景色を眺めながらお弁当を頬張る……。いやー浪漫だよねー。これを食べなきゃ何を食べるのっていう感じ」
「あー……。わかった。わかりました」
 ご機嫌な綾に、梓は肩を落とす。ここでごねても負ける。それくらいわかっているので、ごねるならその時間を有意義に使ったほうがいいと察したのであろう。長い付き合いだ、それくらい、わかる。
「列車内でも買えるだろうけど……。一応飲み物と小腹が空いた時用の菓子と、暇つぶし用の本でも買っとくか……」
 折角だから列車ミステリーにしようかなあ。なんて。売店の本コーナーを見つめる梓。
「おーい、古都メイド列車殺人事件と、唐揚げ弁当殺人事件と、どっちが……」
「というわけで、この鶏そぼろ弁当と焼肉弁当と串カツ弁当と……。あっ、この激辛弁当も絶対美味しいやつ。これもください。松茸? うーん、捨てがたいね。そいつも貰っちゃおう」
 機構として、隣の綾を見た瞬間、思いっきり梓は硬直した。
「ちょ、ま……。あっ。こっちのメイドのほうにします。そう。食べ物はなんか遠慮したいので」
「梓。早く自分の弁当を決めないと、列車出ちゃうよ」
「!? そんなにあるのに俺の分ないってのか!? おい、そんなに大量の駅弁持ち込んだら、それ食うのに手一杯で食堂車の飯が食えなくなるぞ」
 意味が分からない。という顔で、梓は本と一緒にお弁当を選ぶ。なんだか見ているだけで胸焼けしてきたので、この油っぽくなく高そうな松茸弁当にしよう。
「ああ、そうか、列車内でもご飯があるんだよね……。そっちも気になるなぁ……」
 梓の言葉に、綾は踏む、と考えこむ。そして考えたのは一瞬で、
「まぁ全部食べちゃえばいいんだよ。はーい、気にせず全部お買い上げ」
「あいよ! たくさんお食べ!」
「……お前、そんな大食いキャラだったか……?」
 気前よくお支払いを終えて、売店のおばちゃんに渡されたおつりを受け取る綾。
 その時、ホームからベルが鳴り響いた。応えるように、汽車からも汽笛が響く。
「あ、出発するよ。走らないと」
「!? やば、急げ……!」
 二人して、走る。そうして飛び込むように列車に乗ったとき、列車は走り出すのであった。

 景色は流れて行く。梓は窓の外に目をやった。これより、市街地を通った後は山の際を走り、川を越え、そして湖の傍を通り、最後には海まで行くという。
「窓から見える街、山、川……。仕事で来る時は、転送してもらった目的地でやることやって帰ることが殆どだから、こんな機会でもないとじっくり眺めることは無かったかもしれない。この景色たちと、旅の香りを……」
 もわわわわーん。
 残念ながら梓の鼻に届いたのは、情緒ある旅の香りではなくホッカホカのご飯の匂いであった。
「さーて。お弁当タイム!」
「って、もう食うのか!?」
「キュー」
「ガウッ」
「うーん、ジューシーなカツとその上にかかった激辛ソースの相性最高っ。俺の目に狂いはなかった……。これは至高の領域……」
 隣でさっさと綾が弁当箱を開けていた。弁当と聞いて梓の仔竜たちも目キラキラさせている。
「え。お弁当買ったのに食べないの?」
「いや食べるけど!」
 当たり前のような綾の言葉と、キラキラした仔竜たちの目に負けたように、仕方ない、と梓もお弁当を広げる。
「お、松茸って言ってもちゃんと肉も魚も入ってるな」
 豪勢である。何となく梓は嬉しくなって、鮭とか、お肉とかを手にとって、
「ほらほら、あーん」
「キューキュー!」
「はいはい、焔もあーん……」
「梓のお弁当も美味しそうだね。その魚も一切れちょーだい」
 さっ。
 梓の魚が奪われた!
「俺のやつも一切れあげるから。はい、(激辛ソースたっぷりかかったカツを)あーん」
「っ!!?」
 反射的に梓は綾のお弁当を食べてしまった!!
「めちゃくちゃ辛っ!!」
「あはははははは」
 咽る梓を、綾が楽しげに見ている。
 二人の旅は、こんな感じでいつも通り。賑やかに幕を開けた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛
ヨハンくん(f05367)と

わー!寝台列車なんて初めてです!黒くてかっこいいですよ!
楽しい旅にしましょうね、ヨハンくん
駅弁を買っていきましょー!
車内で遊ぶトランプも欲しいですね
ほらほら、ぼーっとしてないで行きますよ

ふふ~たっぷり買い込んだらさっそく乗車です!
一等客室に向かいますね
いいですか、ヨハンくん
私は贅沢をしようとしてる訳ではないんですよ
ヨハンくんだったら二等客室は狭すぎる~とか言いそうだから、
ヨハンくんの生活水準に合わせてあげてるんですからね
という訳でベッドにぼふーっ!
わあぁ、ふかふかです!ごろごろしても落っこちません!

ゆっくり外の景色も眺められそうですよ
駅弁を食べながらまったりしましょ


ヨハン・グレイン
織愛さん/f01585 と

楽しい旅、ね
俺もこういう列車は初めてですよ。勝手がわからないとも言う
諸々あなたにお任せします……が、
ホームについてから色々買い込もうとするのはどうかと……
ああ、はいはい、ついて行きますよ

…………
別に俺は二等でも構いませんが
……いや、二人用に泊まるのはさすがにまずいか
単に織愛さんが贅沢したいだけに聞こえますけど、
一応一番マシな選択だと思っておきます。癪だが
着いた早々ベッドに寝転がらないでくださいよ
ごろごろする前に荷を解くなりした方がいいのでは?
何故俺がこんな世話を焼くことになっているんだ……

……まぁ、偶にはいいか
外を眺める顔を横目に、同じように風景に目を移そう



「わー! 寝台列車なんて初めてです! 黒くてかっこいいですよ! ほらほら! ヨハン君おそろいですね!!」
 おそろい! と、言い切った三咲・織愛(綾綴・f01585)に、お揃い……。と、ヨハン・グレイン(闇揺・f05367)は己の服装をちょっと見つめ直した。……確かに、黒いが。これでお揃いと言われると、何というか、……なんというか。
 何か言おうと口を開きかけるヨハン。しかしその前に織愛はにっこり笑って、
「楽しい旅にしましょうね、ヨハンくん」
「……」
 その笑顔に、思わずヨハンは黙り込む。
「……楽しい旅、ね」
 そういわれると、なんだか感慨深い。言葉を探すように、ヨハンは話を続ける。 
「俺もこういう列車は初めてですよ。勝手がわからないとも……言うので。諸々あなたにお任せします」
 必要なものもあれば、作法もあるかもしれない。そう、ヨハンが思った……矢先、
「わあい、やったあ! いっぱい頼ってくれていいですからね! 駅弁を買っていきましょー! あとあと、車内で遊ぶトランプも欲しいですね!」
 ヨハンの言葉を待っていましたとでもいうように、織愛はご機嫌で走り出した。もちろん、売店のほう向かってである。
「……が、ホームについてから色々買い込もうとするのはどうかと……」
「ほらほら、ぼーっとしてないで行きますよっ」
 ヨハンの声も、聞いちゃいねえ。……まあ、いつも通りといえばいつも通りで。
「……ああ、はいはい、ついて行きますよ」
 こういう時なら、そういうのもほんの少しは、嫌いでないかもしれない。
 そう思いながら、ヨハンは織愛の後を追いかけるのであった。

「ふっふっふ。あれとこれとそれも買っちゃったし、もうたっぷり満足ですね!」
「……」
 数分後。たっぷり買い込んだ織愛の荷物を、ちらりとヨハンは見上げていた。
「大丈夫です、ヨハンくんの分もあります!! 半分こしましょう!」
「いえ……。それ全部半分ことかできませんからね?? 一人で食べてくださいよ??」
 その顔には、どれだけ買うんだ、という色が乗っていたが、織愛のほうはなぜかそれでご機嫌である。
「で、客室はどちらでしたっけ」
「ふっふっふ。今日は奮発して、一等客室です!」
「奮発って、お金はいらないはずですが」
「もう。それを言ったらおしまいですよ~」
 浪漫がない、という織愛に、事実は事実、なんて返しながらも、静かな廊下を二人は歩く。
「ほら。ここです! ……うわ!」
 扉を開けて、織愛が感動したような声を上げた。
 広くて明るい室内に、明らかに高級そうなベッドやソファー、テーブルたち。しかしそれよりも目を引くのは、大きな窓であった。これだけ大きければ、どこにいても外の景色を見ることができるだろう。走り出した列車は、丁度桜舞い散る街並みの中を走っていて、まるで映画のような景色を二人に見せた。
「すっごいですね。さすが最高級! ……いいですか、ヨハンくん。私は贅沢をしようとしてる訳ではないんですよ。ヨハンくんだったら二等客室は狭すぎる~とか言いそうだから、ヨハンくんの生活水準に合わせてあげてるんですからね。ひゃっふーベッドふっかふかですー! ぼふー!!」
 織愛は感動しながらも、テーブルの上に己の買った大量のお弁当や荷物を置き。そのまま喋りながらごくごく自然な動作でベッドへと突貫する。軽くバウンドする体に歓声を上げながら、ごろごろごろごろごろ。と転がっている。
 その一連の流れるような動作を見ながら、ヨハンは軽く額に手を当てた。
「…………別に俺は二等でも構いませんが……」
 言ってから、
「(……いや、二人用に泊まるのはさすがにまずいか……)単に織愛さんが贅沢したいだけに聞こえますけど、一応一番マシな選択だと思っておきます。癪だが」
「はい? 何か言いました? ヨハンくん」
「着いた早々ベッドに寝転がらないでくださいよ。ごろごろする前に荷を解くなりした方がいいのでは?」
 呟きは聞こえなかったらしい。子供のようにベッドではしゃぎまわる織愛に、むぅ、とヨハンは息をついた。
「まあまあ。ヨハン君もほら、やってみましょうよ。ふかふかです! ごろごろしても落っこちませんよ!」
「いいから。まずは靴ぐらい揃えてください!」
 ヨハンの叫び声にも、あははははー。と笑う織愛。無邪気なその様子に、ヨハンは軽く頭を掻く。
「何故俺がこんな世話を焼くことになっているんだ……」
「ええ。それ聞いちゃいます? 聞きたいです?」
「……やめておきます。ほら、お弁当さめますよ」
「はっ」
 今まで何を言ってもダメだったのに、その言葉は効果覿面のようであった。顔を上げる織愛は、すたすたと弁当の置いてあるテーブル前のソファへ。
「ゆっくり外の景色も眺められそうですよ。駅弁を食べながらまったりしましょ」
 ほらほら、とにこやかにお弁当を開ける織愛は、
「変わり身、早いですね」
「美味しいものは、美味しいうちにです」
 ヨハンの言葉もなんのその。ほら、お弁当を開けますよ、なんていう彼女の顔を見ながら。
(……まぁ、偶にはいいか)
 初めての列車旅だ。これくらい、いつもと違うことをしてもいいだろう……なんて。
 思いながらヨハンも、そっと美しい外の景色に目を移した……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鏑木・寥
冴島サン(f13398)と

外に出ていく機会は増えたが列車での旅は久々だな
カンカン帽と一泊用の荷物

よう冴島サン
一緒に出掛けるのはあの寒い島以来か
折角だし一等を取っても良かったんだが、あんまり豪華でも落ち着かなくてな
二等客室への招待でいいか?

折角だから駅弁を買うか…と、思ったんだが
俺飯は大体週一しか食わねえからなあ
今買ったら夜食えるかどうか

――嗚呼、夜は酒飲むだけにすればいいのか
ん?俺そこそこ酒には強いよ、へーきへーき
酒も景色も楽しみゃいいのさ、と、視線は向こう

さて、名産品とかあったかな
イカめしとかシュウマイ弁当とか、軽めにサンドイッチでもいいが
しゅうまい が 何、と言われると……

買った方が早いな


冴島・類
鏑木さん(f22508)と

駅で姿見つければ手を振り
今日は、鏑木さん
カンカン帽姿、お似合いですよ
はは、今日も結構冷えますが、この中なら凍えずに済む

二等でも十分ですよ、食堂車にも近いし
僕も贅沢過ぎはこう…逆に座りが悪い

はい!駅弁買いたいです
週一…腹に入れずに飲んで、酔いって回らないんですか
人とは違うのだとしても、気になるな
鏑木さん肉付き薄いから

景色肴に一杯は大賛成、ですけど
何せ影朧になってまで、見たい景色があるというし
ホームの端を歩いてる姿が目に入って
余程…綺麗なのかもですよ

夜を晩酌にするなら、今は地方の味覚感満喫しましょ
烏賊飯は好きだな、しゅうまいって…何です?
あ、お店の方にお勧め聞きましょうか



 ホームでは人でごった返していて。
 鏑木・寥(しあわせの売人・f22508)はカンカン帽と一泊用の荷物を手に、唯その雑多な空間を見つめていた。
 己の職業を思えば人は多ければ多いほどいいに違いないが、人混みが好きか嫌いかと言われれば、さて。
 そんなことをつらつらと考えていたところで、
「鏑木さん」
 と、声がかかって、寥は顔を上げるのであった。
「よう冴島サン」
 ホーム向こう側から手を振ってやってくるのは、冴島・類(公孫樹・f13398)である。人のよさそうな笑みを浮かべて、彼は軽く一礼する。
「今日は、鏑木さん。カンカン帽姿、お似合いですよ」
「なんだ、褒めても何も売らないぞ。……一緒に出掛けるのはあの寒い島以来か。息災だったようだな」
「はは、そうですね」
 寥の言い方に、類は思わず笑う。
「今日も結構冷えますが、この中なら凍えずに済む。そうして寝ている間に遠くへ連れて行ってくれるのでしょう? 列車とは、ありがたいものですね」
「ああ。……外に出ていく機会は増えたが列車での旅は久々だな」
「本当ですか? それは、楽しみですね」
 寥の言葉ににこやかに類が返していると、ホームにアナウンスが響いた。もうすぐ出発します。乗車予定の方は、早目のご乗車お願いしますという声だ。
「……っと、そろそろか。ああ。折角だから駅弁を買うか……と、思ったんだが」
「はい! 駅弁買いたいです」
 どうしたもんか。と、しばし考えこもうとした寥であったが、その前にすかさず類が言ったので思わず、かすかな笑みを浮かべた。
「そうか。……じゃあ、少し急ぐか。間に合わなくなったら困るからな」
「はいっ」

 そして……。
「さて、名産品とかあったかな。イカめしとかシュウマイ弁当とか、軽めにサンドイッチでもいいが……」
「あんた、ほそっこいからいっぱい食べておいきよ!」
「そうですよね。鏑木さんはいっぱい食べてもいいと思います」
 売店のおばちゃんの言葉に、寥は難しい顔をして、類は楽し気にうなずいたり。
「――嗚呼、夜は酒飲むだけにすればいいのか」
 先ほどの。どうしたものか、の続きである。問うような類の視線に、寥は肩をすくめる。
「俺飯は大体週一しか食わねえからなあ。今買ったら夜食えるかどうか」
「週一……腹に入れずに飲んで、酔いって回らないんですか? 人とは違うのだとしても、気になるな。鏑木さん肉付き薄いから」
「ん? 俺そこそこ酒には強いよ、へーきへーき。酒も景色も楽しみゃいいのさ。よし、そうしよう」
「はい。夜を晩酌にするなら、今は地方の味覚感満喫しましょ」
 まあ、鏑木さんなら寄って潰れることはないですよね、とは言いながらも、類は並んでいるお弁当を見る。
「烏賊飯は好きだな、しゅうまいって……何です?」
 ふと、目に入ったのはシュウマイ弁当、の文字だ。食品サンプルなんてこじゃれたものはここにはなかったので、包み紙の文字から推測する事しかできない。類は首を傾げる。
「シュウとマイ……」
「む……。いや、シュウマイ、は一つの単語だ。だが……」
 しゅうまい が 何、と言われると……。
 これはなかなか深淵なる問題かもしれない。と、寥は思わず考えこむ。
「ギョウザ、は知っているか?」
「?」
「ああうん」
 シュウマイを知らなければギョウザも知るまい。となると説明はさらに難しくなる。寥は唸る。うまいこと何か説明しようと……して、
「買った方が早いな。俺はしゅうまい弁当にする」
 諦めた。あっさりと。そして決めた。そういわれると、類のほうも少し焦る。
「えっ。じゃ、じゃあ、僕はどうしようかな。……ええと、お店の方、お勧めは……」
「だったらこの全部乗せスペシャルだよ! 肉も豚も鳥も魚も入ってる!」
「……待て。それは大丈夫なのか。どう考えても乗せすぎだろう」
「えっ。でも、お勧めって言うならそれに。……うわ、さすが全部乗せ。ほら、お弁当の中で一番高いですよ、寥さん」
 すごいんだろうなあ。と素直に感心する類に、複雑な顔をする寥であった。なんか騙されたような、でもはっきり騙されてないような奇妙な感じがしたという。

「済みません、僕が迷っていたから、ずいぶん遅くなってしまいました」
「いや。ぎりぎり、乗れたからよかっただろう」
 そうして二人、弁当片手に列車に乗った。すでにゆっくりと走り出したその列車の揺れに、器用にバランスをとりながら寥は通路を進み二号客室の扉に手をかけた。
「あ」
「はい?」
「折角だし一等を取っても良かったんだが、あんまり豪華でも落ち着かなくてな。二等客室への招待でいいか?」
 若干今更なその問いかけに、ああ。と類はおかしそうにうなずいた。
「二等でも十分ですよ、食堂車にも近いし。僕も贅沢過ぎはこう……逆に座りが悪い」
「はは。お互い貧乏性だなこりゃ」
「でも、それくらいがちょうどいいんですよ」
 とはいえ、扉を開けるとベッドが二つ、ソファが二つ、テーブルが一つ。二人でくつろぐには十分すぎるスペースの部屋が二人を出迎えた。どこにいても窓から綺麗な景色が見られるようになっている。
「これは、きっと酒が旨いな」
「はは。景色肴に一杯は大賛成、ですけど」
 楽しみだ、なんていう寥に類は笑う。
「何せ影朧になってまで、見たい景色があるというし……。余程……綺麗なのかもですよ」
 一度、すれ違った影朧の姿を思い出して、類は言った。ああ。と、それを思い出して寥のほうも頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『はかない影朧、町を歩く』

POW   :    何か事件があった場合は、壁になって影朧を守る

SPD   :    先回りして町の人々に協力を要請するなど、移動が円滑に行えるように工夫する

WIZ   :    影朧と楽しい会話をするなどして、影朧に生きる希望を持ち続けさせる

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


『あなたの子供が、産まれました。この子とともに、あなたの作ったオリオン号に乗りたいです』
 誰かが広げた手紙には、そう文字が書いてあった。
 それを伝えると、影朧はゆっくりと、ゆっくりと、首を傾げて、そして、
「ああ……思い出し、ました」
 そう、ぽつり、ぽつりとつぶやいた。
「あの列車に……オリオン号に……彼女たちが乗っているのです……」
 そんなはずはない。なぜなら彼が生きた時代は、もう何年、何十年、それこそもっと、遠い昔の話だ。けれども彼は、さもそれが当然のことのように語った。それが真実であるように告げた。……もうとうに、正気は風化し失われていた。
「シリウス号は……もう、じきに湖の傍を通過します……。その時、一瞬だけ、湖の向こう側を走るオリオン号と並走します……」
 真っ暗な湖を、己の灯りだけを頼りに列車は走る。満天の星空と、舞い散る桜。そして、それをまるっと逆しまに映し出した湖の姿は、まるで小説の一場面のようだと。この列車の職員たちも語っていた。
 天上にも地上にも咲く桜と星空の中を駆けていく列車。そこに、彼女たちが乗っているはずだと、影朧は言うのだ。
「だから……私は……みたいのです。私には……仕事がありますから。一緒には行けません。けれど……」
 なんの、仕事だというのか。
 それはもう、本人すら覚えていないけれども。
 彼はずっと、猟兵たちに丁寧に接していた。まるで「お客様」のように。
 そうして、その手紙の文面から、列車に携わる人間だったのであろう、ということは、察することができた。
 もしくは、断り切れぬ者からの頼みで今の仕事を離れた、という文面が手紙の中にあったというので、そちらの方の「仕事」なのかもしれない。
 真相は、わからない。本人すらもきっと覚えていない真相に、きっと意味はないだろう。
 ただ、彼は望んでいるのだ。「オリオン号を見たい」と。
 行きたいでも、会いたいでもない。ただ見ることができたなら、それでいいと。

 このまま列車に乗っていれば、彼はオリオン号を見ることができるだろう。
 何はともあれ、列車に乗った時点で……、彼の願いは、すでに叶っていたのだ。

 汽笛が鳴る。数度。
 森の木々が徐々に減っていく。
 これより、列車は市街地へと入り、そうしてもう一度森を抜けてから湖の傍を通るという。
 湖を走るオリオン号の姿は美しいが、同時に、このシリウス号も近しい場所を通過する。足元を見れば、星と桜の中を走る感覚に心躍らせることもできるだろう。
 それを見ながらゆっくりベッドに寝転がって過ごすのもいい。夕食をとりながらでも楽しめるだろうし、勿論、景色なんて構わずに、みんなで楽しく遊ぶのだっていいだろう。
 そうしてシリウス号は、オリオン号と暫く並走したのちに、海へと向かっていくだろう。
 列車とは、どこかへ行くためのものである。
 この列車もまた、何かに向かって、走り続けているのだ。

※マスターより
●運行スケジュール
二章:夜になると、列車の外から美しい景色が見えます。
この寝台列車の目玉の一つで、ちょうど並走して走る寝台特急オリオン号を見ることができます。夜間、湖のすぐ傍を走行する列車は桜と星空の中を駆け抜けていき、とても美しいと評判です。景色を眺めながら夕食を取るのが流行り。
ということは、必然自分たちの列車も、星と桜の中を通っていくことになるでしょう。
そういう景色を楽しんでもいいですし、全く気にせず好きにしていただいても、大丈夫です。お好きにどうぞ。

●影朧について
影朧は、その辺やっぱりうろうろして、オリオン号を見たら気が済んで勝手に消えていきます。
無理に構って下さらなくとも、大丈夫です。
また、彼は客室の中には入ってきません。
皆さんが楽しそうにしていると、やっぱり嬉しそうにします。
(作中には入るところがなかったので書きませんでしたが)
シリウス号は、彼が憧れた人たちが作った列車なので、そこからオリオン号を見ることができることにはとても喜びを感じています。
因みにシリウス号は、何度か本文中に書きましたが、老朽化のためもうすぐ廃車となる予定です。

●おひとり様参加の方について
一章で、「この人の隣~」とかなった方もいるでしょうが、
普通に、次回のプレイング次第でシャッフルしたり、いきなり隣でなかった人が隣に生えたりする可能性があります。
後はだいたいいつも通りです。
ご了承ください。

●大事なこと
オリオン号をどうこうするプレイングは採用できません。
メタな話、向こうのMSさんと相談・調整・変更・お願いが必要なことはできません。
シリウス号(うちのシナリオ)ではなんでももう、何でもしてくださっていいのですが、そこんとこ宜しくお願いします。
●途中参加について
二章から参加もOKです。その際は、最初から乗っていても、途中の停車駅で乗ってきたでも、どっちでもOKです。
神埜・常盤
【空】4人

夕餉だ、ディナァだ
カツレツと赤ワインがあれば良い

あ、ピーマンはコノ君にあげるねェ
狸じゃないなら、きっと食べてくれる筈だと笑って
……気遣い有難う、さつま君
今度はジュジュ君にあげるとしよう
笑みながら横流しを

僕も乗客全員を集めた上で
華麗なる名推理を披露したいケドね?
でもほら、証拠が無いよねェ
さつま君の名推理に期待しよう

スマホに皆の食事風景も残していこう
ポーズを取るメボンゴ君には和みつつ
ふふ、今日も可愛いねェ

ふと車窓に映るオリオン号
幻想的な光景に暫し目を奪われ
喧しい舌すら封じてシャッターを押す

……そうだ、君も記念に
影朧にもスマホ向けてパシャリ
どうだい、よく撮れてるだろう?


ジュジュ・ブランロジエ
【空】
アドリブ歓迎

食堂車の雰囲気も素敵だね
『メボンゴはジュジュのお膝の上でいいこにしてるね。淑女だから!』
でも写る時はしっかりポーズをとるメボンゴ
『とっきー、可愛く撮ってね』

何食べようか迷うなぁ
影朧さんにオススメ聞いてみたい
お客さんの笑顔、いっぱい増えるね
『もっとにこにこ!』

ふふ、コノさんの疑い晴れないね
『お色気担当イケメン料理人兼容疑者コノちゃを追い詰めるたぬちゃ!次回名探偵とっきーの推理が唸る!』
ピーマン苦手な常盤さん、なんだか可愛い
さつまさんがピーマン分けるのを見て笑いを堪える
あははは!今度は私の所に!
笑いながら食べる

星空と桜の中を駆けるオリオン号、とても綺麗だね!
私も写真に残しておこう


コノハ・ライゼ
【空】

夜景with豪勢ディナー!
美味しい味は覚えていきたいし、メニューにも興味津々
影朧への問いにジュジュちゃんの横で頷きながら
――オレもしっかり勉強してこう思ってネ、お客サマの笑顔の為に

ってオレまだ容疑者ならぬ容疑狸なワケ
笑いながらも流れてきたピーマンはぱくり
あんまヒト疑ってると美味しいモノの魅力も半減よ?
……いや追い詰められてないケド、全然
でもそうネ、犯人はお前だ!みたいなお決まりの台詞聞いてみたいわー
所でオレが真犯人だとしたら、本物のオレはどうしちゃったのかしら

並走する光に、コレが噂のと身を乗り出し
……この瞬間の、美しさってヤツかしら
ふふ、イイわね
その写真後でシェアしてちょうだいな


火狸・さつま
【空】
ん、食堂来て良かた、ね!素敵!
席まで淑女達エスコートしつつ
コノをちらちら
「俺、コノ、も、一緒…が、良い……勿論、狸さん、も、一緒!
ね?と訴える視線送り
けど背丈以外、いつものコノ、に見える…
狐の鼻をも欺ける、こんなに化けるの上手な狸さんが居るなんて…?
そ言えば、狸さんの話した時、様子おかしかたのは……
え?コノ、ぴまん、好きだたけ?
なんて首傾げて見せ
あ。常盤の、ぴまん、無くなちゃた、ね!
俺の分けてあげるーとお皿へひょいっ
にぱっと笑顔を向ける
様子じっと伺い
んん、流石、常盤…回避、した
狸さん、ここには、居なかたの、かな

わぁあ!綺麗!!
ね、ね、横、走ってる、ね!
並んで写真パシャパシャ
そだ、動画も!



「ふわ~~」
 陽が落ちても食堂車は賑やかで、いろんな人がせわしなく働く景色はそれだけでなんだか楽しくなってくる。思わず声を上げたジュジュに、さつまがきらっきらしたどや顔で、
「ん、食堂来て良かた、ね! 素敵!」
 ねっ、と、力強く言うので、うんうん。とジュジュも頷いた。
「いらっしゃいませ、お好きな席にどうぞー」
 メイドさんに促されて、窓際の席を陣取る。さつまがレディたちをエスコートすれば、メイドさんから子供用の椅子はいりますか? となんて聞かれて、
『メボンゴはジュジュのお膝の上でいいこにしてるから大丈夫だよ。だって、淑女だから!』
「まあ、かわいらしい」
 なんて会話をしていた。
「……」
 椅子をもうひとつ。言われて何やらさつまは難しそうに考えている。
「椅子、一つ、子供、じゃなく、て、普通、の! ください!」
 ちらっちらっと見ているのはコノハの方である。薩摩の言葉にメイドさんは不思議そうにしながらも了解して、もう一人分のいすを置いておくことにした。
「……さて諸君。夕餉だ、ディナァだ。僕はカツレツと赤ワインがあれば良いが、君たちはどうする……?」
 そんな彼らに、やはり若干飛び出そうになった笑いを咳払いでごまかして常盤が言う。探偵なのでカツレツがあることぐらいメニューを見なくても知っている。多分、
「んー。……そうねェ。……あ、割と何でも、沢山あるのネ」
 その言葉に、コノハが素直にメニューを開いた。定番ものも多いけど、変わったのもなくはない。
「ん~~~。何食べようか迷う〜。影朧さんは、何かお勧めある?」
 ふと、ジュジュが顔を上げると、ぼんやりと漂うような気配がその傍らにした。うん、うん、と、ひとのいい影は微笑ましそうに彼らを見ながら、
「定番……ですが……ハヤシライスはいいですよ……」
「へえ。定番だけど、その分自信がないとお勧めできないわねェ」
 ジュジュへの回答に、思わずコノハが口を挟んだ。料理人としては美味しい味は覚えていきたいし、メニューにも興味津々である。そんなコノハのほうを影は見て、
「豪勢なものが……宜しいなら……蟹は?」
 さっき、夜景with豪勢ディナー! なんて食堂車へ向かうときに声を上げていたのを、聞かれていたのかもしれない。
「このカニづくしコースは……人気も高く……何より〆のカニ雑炊がおすすめです」
「く……っ。こんなところで本格的なカニづくしするのかい? カツレツの隣で? カツレツは嫌いじゃないけど、なんだか残酷な仕打ちじゃないかい?」
『メボンゴ、コノちゃのカニむいてあげる~。かわりに雑炊貰うの~!』
「ちょっともう。誰もまだ蟹にするなんて言ってないわよ!」
 カニとの言葉に、若干ざわめくテーブルにコノハは苦笑した。
「ただ――オレもしっかり勉強してこう思ってネ、お客サマの笑顔の為に」
『なるほどなるほど、もっとにこにこ!』
 お客さんの笑顔、いっぱい増えるね! と。ジュジュの膝の上で踊りを踊るメボンゴに、そうそう。と、コノハは笑って頷いた。
「おれ、は、はんばぐ、する!」
 そんななか、す茶、とさっさとさつまが注文をして、じゃあ私もハヤシライス! とジュジュも手早く決めるので、コノハは慌ててメニューに目を落とすのであった。

 そして。
「あ、ピーマンはコノ君にあげるねェ」
 料理が来るなり、さっ。とかに爪とカニみその甲羅焼きの上にピーマンを置く常盤。結局コノハはカニにした。
「狸じゃないなら、きっと食べてくれる筈だよ」
「ってオレまだ容疑者ならぬ容疑狸なワケ?」
 常盤の言葉に笑いながらも、コノハはピーマンを普通に食べる。カツレツのソースがちょっとかかっていて、これはこれでおいしい。
「え? コノ、ぴまん、好きだたけ?」
 その言葉に、首を傾げたのはさつまであった。やっぱりおかしい。……おかしい。という顔で、コノハを見つめていたが、
「……」
「……」
 見つめあうこと数秒。
「俺、コノ、も、一緒……が、良い……勿論、狸さん、も、一緒! ね? ここ、コノの席!」
 訴える視線とついでに、主張をした。ひとつ余分に持ってきてもらっていた、空いた席をてしてし叩く。
「だから、ね……?」
 だから。その言いたげな言葉を、コノハも察したらしく、
「オレが真犯人だとしたら、本物のオレはどうしちゃったのかしら」
「!」
「今頃、皆に会いたいって思ってるかしらね……?」
「!!」
 何やら難しい顔をするさつまである。
「ふふ、コノさんの疑い晴れないね」
 ピーマン苦手な常盤さん、なんだか可愛い。なんて。思いながら見ていたジュジュであったが、コノハの言葉に目元を和らげる。
『お色気担当イケメン料理人兼容疑者コノちゃを追い詰めるたぬちゃ! 次回名探偵とっきーの推理が唸る!』
「……いや追い詰められてないケド、全然」
『やーん!! そこは正気に返らないで―!』
 ジュジュの膝の上でがぁん。と頭を抱えるメボンゴに、コノハはふふん。と何やら怪しげな笑みを浮かべた。
「あんまヒト疑ってると美味しいモノの魅力も半減よ? ……でもそうネ、犯人はお前だ! みたいなお決まりの台詞聞いてみたいわー」
 言ってくれるのかしら? って、目で問うと、常盤はお手上げ、とでもいう風に両手を上げる。
「僕も乗客全員を集めた上で、華麗なる名推理を披露したいケドね? でもほら、証拠が無いよねェ。だから、さつま君の名推理に期待しよう」
 常盤の方といえば、じーっとさつまを見つめてみたり。
 その視線に、さつまは必死で頭を働かせる。
(けど背丈以外、いつものコノ、に見える……。狐の鼻をも欺ける、こんなに化けるの上手な狸さんが居るなんて……? そ言えば、狸さんの話した時、様子おかしかたのは……)
 もにゅもにゅもにゅ。と考えこむさつま。どうにもみんなの様子がおかしい気がする。……と、考えていたところで、
「あ。常盤の、ぴまん、無くなちゃた、ね!」
 ふと気が付いた。さっ。とさつまは己の皿のピーマンを解く輪の皿の上にのせる。
「俺の分けてあげるー」
 ひょいひょいひょい。
 そしてとてもいい笑顔。
 一連の動作は一瞬であった。それはもう見事なものであった。思わず吹き出しそうになるのをジュジュは必死にこらえた。そうして視線を流すと笑顔のまま常盤が、
「……気遣い有難う、さつま君。今度はジュジュ君にあげるとしよう」
 さささ。と、ピーマンを素早い動作でジュジュのハヤシライスの上に置いた。
「あははは! 今度は私の所に! ピーマンハヤシライスだ!」
 案外おいしー。なんて笑顔のジュジュに、なるほど、とさつまは頷いて。
「んん、流石、常盤……回避、した」
 そこでようやく。
「狸さん、ここには、居なかたの、かな……」
「もう。最初っから、そう言ってるじゃない」
 ようやく謎が……とけた気がする。なんて顔をするさつまに、コノハが肩を竦めて言った。本当の本当の真相は、言わない方が本人のためだろう。
「じゃ、この、席、狸さん、いつ、か来たら」
「そうね。この席はそれまで取っておきまショ」
 からの席ひとつ、目をやって。何となく頷きあうさつまとコノハである。……思わず、
「そうだ」
 常盤がスマホを取り出した。そのままそのまま。なんて言いながらさつまとコノハを撮影する。
「皆の食事風景も残していこう。これも一つの記録だね」
『とっきー、可愛く撮ってね』
 それが終わると、今度はぴょんとメボンゴがテーブルの上に飛び乗った。ハヤシライスの隣で淑女的ポーズをとるメボンゴ。
「ふふ、今日も可愛いねェ」
「あら。それならこのカニむいてるところ撮ってもらおうじゃない」
『メボンゴ黙々カニの身をはぐ』
「! だた、ら、それ、俺、も、手伝、う!」
「あっ。そういわれると私も参加したい……できるかな?」
「何だろうねこの絵……。まあ、面白いからいいか」
 何となく背中を丸めながらにのみをはぐさつまとコノハ。そしてメボンゴと若干諸々苦戦しながらも同じようにしたいジュジュ、という怪しい写真が取れた。
「ピーマンを横流しする常盤さんの写真も欲しかったなあ」
「ぴまん、も、ない……」
 何気なく言ったジュジュの言葉に、さつまがしょんぼりした……ところで、
 わっ。とどこからともなく歓声のようなものが上がった。
 気づいたのは、視界が明るくなった、ということだった。
 列車が森を抜けたからだろう。……そう思いながら、釣られるようにみんなが窓の外を見る。溶き。
「わぁあ! 綺麗!! ね、ね、横、走ってる、ね!」
「ああ……コレが噂の」
 はしゃいだような声で、さつまも己の携帯電話を取り出してシャッターを切っている。思わずコノハも身を乗り出していた。
「本当だ。とても綺麗だね!」
 一瞬、その景色に目を奪われたジュジュがはっと我に返る、私も写真に残しておこう。と携帯を取り出した。
 最初は、湖だけであった。どこまでも続くような湖と桜と、満天の星空。
 しばらくすると、汽笛のようなものが聞こえてきていた。この列車の汽笛ではなかった。
 シリウス号が汽笛を鳴らす。それと同時に、
 湖の対岸から、列車が姿を現したのだ。
 闇を切り開く灯り。美しい列車が水の上を滑るようにして走って行く。星と桜の中を泳ぐように駆け抜けていく。
「……この瞬間の、美しさってヤツかしら。……ふふ、イイわね」
 コノハが思わずつぶやく。その間にも、常盤は彼にしては珍しく無言でシャッターを切っていた。
「……そうだ、君も記念に」
 そして、何を思ったか常盤は徐に影朧にもスマホ向けて一枚。
「どうだい、よく撮れてるだろう?」
 窓の際に立ち、列車を見つめる影朧の姿が映っていた。影朧は黙り込み、ただ真剣に、窓の外を見つめている。
「そだ、動画も!」
 さつまが声をあげて、スマホを操作した。並走するように、オリオン号は走る。まるで小説の一画面のようで。ふーっとジュジュはスマホから顔を上げて息をつく。
「いいなあ、ロマンチックで……」
『あの列車に乗って、メボンゴもお空の旅に出るの……』
「二人とも、それ最後に死ぬやつじゃないかな……?」
「そ、それ、だめ。めっ」
 常盤が軽く突っ込んで、慌ててさつまが両手で×を作る。その様子にコノハは笑いながら、「その写真後でシェアしてちょうだいな」なんて声をかけた。
 列車はやがて、どちらともなく離れていく。
 違う道を選んでいるのだから、それも当然のことだろう。
「星空と桜の中を駆けるオリオン号……かあ」
 なんだか感慨深く、ジュジュが小さく呟いた。
「まるでそれこそ、小説の世界だね。……名探偵は、出ないけど」
 常盤の言葉に、皆で顔を見合わせる。見合わせて……また、楽しそうに笑うのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ゲニウス・サガレン
久々の旅行で、出会ったばかりの景雪君とはしゃいでしまったよ。
いつか旅行記にするために、お客さんの様子や、いろんな人の思いをのせてきた車両の様子も記録・スケッチしておこう。

(他の方とからみ大歓迎、単独もOK)

さて、すっかり暗くなって来た。
湖近くなったら評判の夜景を見に行こうか。三等客室か食堂車で珈琲を飲みながらがいいな。湖面に星明かりや夜景が映るかな。星は好きなんだ。きっとスケッチできるものではないから、せめて手帳に文字で書き留めようか。

あの影朧は、なんというか、そっとしておこうと思う。
オリオン号とすれ違う時、彼の思いが分かるかもしれない。
分からないならそれまで。私たちは全知の存在でもないしね。


リラ・ラッテ
客室でゆったり過ごしながら
車窓からすっかり暗くなった昊をみる

そういえば、夜は凄く綺麗な景色が観られると言っていたような
……お腹も空いたし、夕食を頂きながら、景色を楽しもうかしら

夕食のメニューもたくさんあるのね
どれも美味しそうで決められない
おすすめを頂いてもいいかしら?

おいしい夕食を頂きながら
桜と、夜天映す湖を観る

それだけでも十分綺麗
そんな綺麗な二つの彩の間を走るオリオン号も眸に映れば

なんて、幻想的な景色なの

暫くその景色に浸って

……影朧の彼。ちゃんと観られたかしら
貴方が観たかった景色、凄く綺麗ね

*アドリブ・絡み歓迎です



 ん-。と、軽くリラは伸びをした。
 景色を見るのは楽しくて、いつの間にかこんな時間になっていたのだ。
 窓の外を見る。今は森の中を通っているらしく、木々の隙間から見える昊は暗い。
「そういえば、夜は凄く綺麗な景色が観られると言っていたような……」
 ここからだと、星は見えないから。きっとまた景色が切り替わるのだろうと思うと、リラの心はほんの少し、弾んだ。
「……お腹も空いたし、夕食を頂きながら、景色を楽しもうかしら」
 口に出してみれば、なんだかとてもいい案に思えた。心をウキウキさせながら、リラは立ち上がる。折角だから、食堂車に行ってみよう。客室はとても静かでこれもいいけれども、きっと食堂車は賑やかに違いない。 

「いやあ、久々の旅行で、気づけばついついはしゃいでしまったよ」
 一方ゲニウスもまた、三等客室の通路あたりを歩いていた。
 あんまり大きな声をあげたら、休んでいる人に悪いかもしれない。なんて。ちょっと足音を小さめにしながら、客室の様子を記録しながら歩く。
「さて、すっかり暗くなって来た。そういえばもうすぐ……」
 ふと、カーテンのあいた空の客室から除く窓の景色に目をやる。日はとっくに落ちていて、暗い森の木々が少しずつ、減ってきているところであった。
 この森を抜けたら、湖だった気がする。評判の夜景だ、ぜひ見に行きたいところで……、
「食堂車で珈琲を飲みながらがいいな」
 よし、そうしようと。
 ゲニウスも食堂車へと足を向けた。

「いらっしゃいませ、お二人様ですか?」
 そして丁度。二人して同時に食堂車にたどり着いたリラとゲニウスは、メイドさんの言葉に顔を見合わせた。
「いえ、一人ずつよ……けど」
 言って、リラは首を傾げる。食堂車はずいぶんと混んでいた。丁度この時間帯、食事をとる人が多かったらしい。メイドさんもなんだか申し訳なさそうに、隣同士でもいいですか? と尋ねるので、
「よろしければ、一緒にどうかしら? 折角だもの、そんな風に過ごすのも、悪くないと思うの」
「おや……いいのかい? じゃあ、ご一緒させてもらおうかな」
 リラの言葉に、ゲニウスも頷く。それでしたら、と案内されたのは窓に面したカウンター席だった。窓が目の前に見えて、これはこれで素敵かもしれないと思いながらも、リラはメニューを開く。
「夕食のメニューもたくさんあるのね。どれも美味しそうで決められない……。おすすめを頂いてもいいかしら?」
「女性の方でしたら、こちらのパンケーキが人気ですよ。それか、ハヤシライスなども……」
「……あら。おいしい夕食を頂きたいから、ハヤシライスにしようかしら」
 パンケーキも悩むわね。なんて言いながらも、リラはハヤシライスを注文。
「私は珈琲を頂こうかな」
「あら、それではお腹が空かないのかしら」
「うん、私はもともと、これが目的なんだ」
 注文を書き留めて下がっていくメイドさんを横目に見ながら、ゲニウスはスケッチを示す。
「少しの間、食堂車の景色を描かせてもらってもいいかな」
「ええ、勿論どうぞ」
 列車は森を抜けていく。その景色を見ながらリラは頷いて、ゲニウスはスケッチを始める。
 リラは食事を、ゲニウスは珈琲を。
 物凄くおしゃべりをするわけではないが、何とはなしにぽつぽつと会話を繰り返していると……不意に、
 森の木々が減って、そして急に視界が開けた。
「あら……」
 リラにとって森は馴染みのあるものだ。見ているだけで心地よかったが、その次に現れた景色に息をのむ。桜と、夜天映す湖。
「ああ……。湖面に星明かりや夜景が映っているね」
「ええ。それだけでも十分綺麗」
 湖がある。広々と横たわる湖は、満天の星空を映し、そして満開の桜を映し、まるで一つの出来上がった世界のように横たわっていた。
 その傍らを、二人を乗せた列車も走る。ゲニウスは湖面に向き直り、スケッチをしようか一瞬考えて、やめた。
「……星は好きなんだ。でも」
 この景色は、きっとスケッチできるものではないから。
 ならばせめて、手帳に文字で書き留めようか。と。
 ゲニウスは今度は文字を、流れるように記していく。
 そんな彼の隣で、リラはただ静かに湖面を眺める。ずっと覚えておこう、とでもいうように。
「……あ」
 そうして、リラの眸の奥にひときわ輝く星を見つけた。
 汽笛が聞こえる気がする。それは、そんな綺麗な二つの彩の間を走るオリオン号だ。
「……なんて、幻想的な景色なの」
 思わず声が漏れる。美しい景色に、吸い込まれるようにただただ見つめる。
 オリオン号は飛び散る星と桜の間を駆け抜けて、そうしてしばらくの間シリウス号と並走し、消えていった。
 まるでそれは、流れ星のようであった。
「……影朧の彼。ちゃんと観られたかしら」
 消えていく世界に、リラはそっと呟く。
「……そうだね」
 熱心に文字を書き留めていたゲニウスも、彼女の言葉に小さく頷いた。
「オリオン号とすれ違う時、彼の思いが分かるかもしれないと、思っていたけれど……」
 ただ、その景色は美しい。それしかわからない。……けれども、
「分からないならそれまで。私たちは全知の存在でもないしね。すべての物事か解明されることが、美しいというわけではないのだから」
 それでもいいと、思った。それはきっと、幻想のようなもの。その言葉に、リラも微笑んで窓の外をただ、見つめるのであった。
「……貴方が観たかった景色、凄く綺麗ね」
 流れ星は消えて、道は違えた。
 けれどもそれは決して……悲しいことではないのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シホ・イオア
夕食は食堂車で取りたいなぁ。
テーブルの上に座って景色を見つつ……
綺麗だよねー。
なんでシホはカメラとか持ってこなかったんだ。
そして飛んでて気が付かなかったけどけっこう揺れてるのね。

オリオン号のことも詳しいだろうし
どこが見どころだとかシリウス号から見えるオリオン号を解説してもらえば
一緒にオリオン号の家族を探してあげられるんじゃないかな?
話しているうちに家族のこととか思いだしてくれれば
執着を和らげることになるかもしれないし。

アドリブ連携歓迎


ヴィクトル・サリヴァン
小腹が空いたので食堂車へ。
さて何がいいかなとメニュー選んでたらカレーのいい匂い。
こーいうとこのって美味しく感じるよねーとカレーを福神漬け付きで頼む。
あっ辛さはあるなら辛口で。
辛さを楽しみつつ窓を覗けば夜空と湖、規則的に揺れる列車からの風景はまた違って見えるね。
寒い中の桜も格別。

…この気配は影朧さん?
凄く綺麗だねー、列車旅はあまり経験ないけどこの旅がいいものだと断言できる位。
列車も居心地いいから特にね。
あれ、向こうに見えるのはオリオン号?
…季節外れだけど彦星と織姫のお話になんか似てる気が。
時々寄り添い走ってまた別れ、巡って別の旅でまた近づく。
向こうにもいると思うよ、きっと。

※アドリブ絡み等お任せ



 食堂車は賑やかだった。
 可愛らしいテーブルに、かわいらしい食器類。
 そして、その可愛い席にちょこんと座る巨大シャチヴィクトルと、テーブルの上にぺたんと座るフェアリーシホ。
「飛んでて気が付かなかったけどけっこう揺れてるのね」
 へえーっと。上の方を向いて、ちょっぴりきょろきょろしながらシホは言う。だねえ。とヴィクトルも頷いた。
「UDCほどその辺の技術は発達していないよね。これはこれで、いいけど。……さて」
 この二人、別に示し合わせたわけではない。たまたま食堂車でであったのだ。丁度食堂車が混みあっていたので、会い席となる。そりゃ、とメニューを広げたヴィクトルに、シホもそれが見えるように軽く回り込む。
「何がいいかなー。小腹が空いたなー」
「うーん。シホにも食べられるの、あるかなあ……?」
 真剣な顔をしてメニューを見つめるシホ。同じようにヴィクトルも見ていて……ふいに。
「おや」
 誰かが頼んだのであろうか。どこからともなくおいしそうなカレーの匂いが、届いた。
「こーいうとこのって美味しく感じるよねー。じゃあ俺は。カレーを福神漬け付きで。あっ辛さはあるなら辛口で」
「ええと、じゃあ、シホサイズのハヤシライス、できるかな?」
 メイドさんがヴィクトルの注文を書き留める。シホの言葉には、大丈夫ですよ。と、笑った。

 そうしておのおの自分用の料理が来れば、食事をしながら何とはなしに二人、外を見る。
 丁度森を抜け、桜と星の舞い散る湖畔を、列車は駆け抜けているところだった。
 湖に移り、合わせ鏡のような世界を列車はまたひた走る。
「夜空と湖……。規則的に揺れる列車からの風景はまた違って見えるね。寒い中の桜も格別だ」
「ほんと、綺麗だよねー。なんでシホはカメラとか持ってこなかったんだ」
 若干悔しげな声を上げるシホ。「まあ、この目に焼き付けると思って」なんて言いながらヴィクトルは笑う。笑った先で……、
「……この気配は影朧さん?」
 不意に、ぼうっとした、影のような何かを感じて。ヴィクトルは顔を上げた。
「凄く綺麗だねー、列車旅はあまり経験ないけどこの旅がいいものだと断言できる位。……列車も居心地いいから特にね」
 何気ない風に、ヴィクトルは語り掛ける。シホもぱちぱちと瞬きをして、
「ねえねえ、オリオン号のことも詳しいんだよね。どこが見どころだとかシリウス号から見えるオリオン号を解説とか、してもらえるかな?」
 何となく、そんなことを訪ねた。話しているうちに家族のこととか思いだしてくれれば……、と思いながらも声をかけるシホに、そうですね……。と、影朧もわずかに、頷く。
「でしたら……もう少ししたら。丁度……ほら」
「あれ、向こうに見えるのはオリオン号?」
 ヴィクトルが指をさす。闇の中、散らばる星空と桜の花びら。そこをひときわ明るい光が走った。流れ星のように、闇を裂いてかけるのは、一つの列車であった。
 花と星の世界を、流れ星は駆けて、そしてシリウス号と並ぶ。湖の向こう側。近いようで遠い世界だ。
「そうです。……そう」
「あれが、オリオン号なんだね。じゃあ……」
「はい」
 あそこに家族が乗っているのですと影朧は言った。そんなはずはないのに。確かにいるのだと彼は言うので、
「……時々寄り添い走ってまた別れ、巡って別の旅でまた近づく。……向こうにもいると思うよ、きっと」
 そう、そっとヴィクトルが声をかける。影朧派の姿はもうほとんど曖昧で、影の中に消えてしまいそうな姿であったが、かすかに頷いたように見えた。
 列車はシリウス号と並走するようにして、走る。湖の反対側を走る列車は窓が見えて乗客の姿がちらほらと映っていた。……そこにだれがいるかは、わからないけれども。
 遠くで汽笛が、聞こえた気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

新海・真琴
【炎桜】
やったー!お夕飯だねー!
景色を眺めながら夕食を取るのが流行りなんだよねー。桜學府でもたまに話題になってたなー

頼むのは和牛のタンシチューセットにしよっと
(食前酒を飲みつつ窓の外を眺めれば、細い弧を描く月と、狩人の星座。そしてその名を冠した、もう一つの寝台特急が併走するのが見えて)
……あ、見て、向こう。オリオン号
例の影朧は……この景色を見て何を思うのだろうなあ

食べ終わったらおつまみとして軟骨の唐揚げとか、ホッケの干物とか追加オーダー
ボクは日本酒派。でも君が飲んでるやつも気になるなー
(手持ち無沙汰なのか、恋人の手をつんつんとつついて)

また、部屋で飲み直そっか。買ってきたお酒もあるしさ


ベルンハルト・マッケンゼン
【炎桜】
(恋人の健啖ぶりが嬉しく、自分はアンチョビのカナッペをつまむ。
車窓の外には、夜の湖面に映る星々とオリオン号の姿。
……瞬間、古戦場の様子がフラッシュバックする)

あの艦影は……HMSオライオン、大英帝国はネルソン艦隊の殊勲艦。
あぁ、そうか。トラファルガー沖の風景だな。
帝政フランスの海兵隊としてオライオンに斬り込んだが、撃退された記憶か。
かつての仇敵も、今は懐かしい。

(窓を開けてオリオン号に手を振り、大声で呼び掛ける)
……Bon Voyage, Orion!

(シャンパングラスを置き、恋人の手を取る)
“貴女と夜とシャンパンと”、気取るつもりは無いが…お部屋までエスコートするよ、可愛い姫君さま。



「うっわー。賑やかだね。それに」
 可愛い。と、真琴は目を輝かせてぐるり、食堂車を見回した。
 食堂車はかわいいカフェ仕様で、テーブルから小物まで細かく花があしらわれていたりして、兎に角可愛い。そんな風に目を輝かせる真琴に、ほら、とベルンハルトが彼女をエスコートする。
「席は窓際でいいだろう?」
「勿論だよっ。景色を見ながらのお夕飯だねー!」
 やったー! なんてとても楽しそうな真琴に、ベルンハルトも思わずその表情が和らぐ。
「景色を眺めながら夕食を取るのが流行りなんだよねー。桜學府でもたまに話題になってたなー」
「ほう、そうなのか。レディたちの流行には疎いが、この景色は素晴らしいからわからなくもないな」
 なんでもかわいいもの素敵なものが流行るんだよ。なんて言いながらも、席に着いた二人にさっとメイドさんがやってくる。差し出されたメニューを開いて、
「和牛のタンシチューセットにしよっと」
「私には、アンチョビのカナッペを」
 あとはお酒が入ればそれでいいだろう。なんて。いうベルンハルトとは裏腹に、いっぱい食べるんだ。なんて気合を入れている真琴。
 そんな真琴がベルンハルトは嬉しくて、何とも和やかな表情で二人の食事は始まったのだ。

「……あ」
 そうして、ふと。
 森の影が和らいでいることに気付いたのは、真琴だった。
「うん?」
「ほら、木が減って……森が」
 終わると。言うと同時に、不意に視界が開けた。
 湖だった。湖の畔を列車は走り出したのだ。外には満天の星空。そして水際に植えられた桜が美しい花びらを散らし、櫻と星がその湖に移りこんでいる。
「見て、向こう。オリオン号」
 それだけでも綺麗だったけれども。ほら、と真琴は指をさした。星々の奥にひときわ強い光が瞬いた……と思うと、遠い湖の奥から、走ってくる列車の影が見えたのだ。
 湖の反対側だ。列車は遠い。けれどもその光は力ずよく世界を照らし出していた。闇と、星と桜を切り開くようにして、かけていく列車はまるで一つの絵のようで。真琴は瞬きも忘れてその姿を見つめる。
「例の影朧は……この景色を見て何を思うのだろうなあ」
 ねえ、ベルンハルト。と、言いかけて真琴は口を閉ざした。
 ベルンハルトが、ここではない。どこか遠くを見ているようであったからだ。
「ああ……ああ」
 呟くような、感嘆するような声がベルンハルトから漏れる。……真琴は知っている。こういう時、彼は昔の戦場の景色を思い出している。
「あの艦影は……HMSオライオン、大英帝国はネルソン艦隊の殊勲艦……。あぁ、そうか。トラファルガー沖の風景だな」
 どこか遠くを見るような眼で、星の中の列車を見る。帝政フランスの海兵隊としてオライオンに斬り込んだが、撃退された記憶か。その言葉ではどのような景色を見ているのか、真琴にはわからない。わからないが、
「ああ……かつての仇敵も、今は懐かしい」
 そんなベルンハルトの横顔を、ただ静かに、真琴は見ていた。
 かつて彼が過ごした景色に、思いをはせながら。
「軟骨の唐揚げとか、ホッケの干物とか追加オーダーしていいかな。それと……」
 なので真琴は気にせず、追加を頼む。そうしてついでに尋ねた。少し窓を開けていいかと。
 いいという返答だったのを、ベルンハルトが聞いていたのかいなかったのかはわからない。まばゆい星が真琴たちの列車と並走する。いくつも見える窓の明かり。それにたまらずベルンハルトは窓を開けてオリオン号に手を振った。
「……Bon Voyage, Orion!」
 呼びかけに返事はなかったけれども、ベルンハルトは気にしなかった。ただ、伝えたかったからだ。
 やがて、二つの列車はその道を分かれていく。もとより湖を挟んだ反対側だ。いつしか軌道はそれて……そして、遠くへ消えていった。
「……失礼」
「ううん」
 まるで、夢のような一瞬であった。
 窓を閉めて、再び席に座りなおしたベルンハルトに真琴は微笑む。
「……ボクは日本酒派。でも君が飲んでるやつも気になるなー」
 多くは、聞かずに。手持ち無沙汰なのか、恋人の手をつんつんとつつく真琴。それから、
「また、部屋で飲み直そっか。買ってきたお酒もあるしさ」
 可愛らしく笑うので、ベルンハルトも頷いた。持ったままだった空のシャンパングラスを置き、
「“貴女と夜とシャンパンと”、気取るつもりは無いが……お部屋までエスコートするよ、可愛い姫君さま」
 そっと、真琴の手を取った……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
【華禱】
客室から風景を楽しみながら過ごす

折角だし、酒飲めたら良かったかも

まぁ、こんな狭い空間で飲んだら
あんた飲まなくても酔っ払いそうだし……
止めといて正解かな

酔っぱらった夜彦をさ
誰かの目に触れさせるのとか俺が嫌なの
ん、お土産に出来るならしよう

お?そろそろみたいだ……
そう話を切り上げると窓の外を示す
あれが件の列車か……

窓の外、飛ぶように流れる景色の向こう
見えるのは灯りの灯った車窓
そして、一面が桜と星の景色

夜彦の言葉に笑う
どうだろうな……
でも、こんな綺麗な景色を見て終われるのは
たぶん、きっと悪くない

その役目を終えたって
乗車した人の数だけ記憶の中で走り続けるんじゃないか?
思い出ってそういうものだろ?


月舘・夜彦
【華禱】
食事も終えましたし客室から風景を楽しみましょう

倫太郎は本当にお酒が好きですね
私はお酒の匂いだけでも少し酔ってしまいますから
お酒を楽しむのはまた今度にしましょう
それとも購入できるのなら、お土産に買って帰りましょう

おや、そろそろ件の列車が
同じく窓の外を見遣れば、向こうで並走する列車
そして美しい星空と桜が舞う景色
湖にもその景色が映り、列車が星空を走っているような錯覚を起こす
……影朧の彼は、この景色が見たかったのでしょうか
思い入れのあるものならば尚更特別なものでしょうね

物も年月が経てば老いるもの
その終わりは寂しくありますが、シリウス号が愛され続けたように
オリオン号もこれからも愛されるのでしょう



 列車は森の中を走っている。
 山を抜けて街を超えて。そんなことをしている間に食事も終わってお弁当箱を片付けて。
「……あー……」
 食べて、あったかくなると、眠い。なんて、ちょっとうとうとしていたらもういい時間であった。
「折角だし、酒飲めたら良かったかも」
 倫太郎のしみじみとした言葉に、夜彦は窓の景色から視線を戻した。今は森ばかりだが、森の中でも動物がいたり時々ぽつんと家があったりと、見ている分には楽しかった。賑やかかと言われると、そうでもないが、これはこれで楽しみもあるとは、思う。
「倫太郎は本当にお酒が好きですね」
「そうなのー。さっき食堂車見てきたら、もう、いろいろあって」
 各種通過駅の地酒を取り揃えております。風だったのでついいろいろ買ってしまったのだ。もちろん、その場で飲むこともできたのだけれども、今回はそれを差し控えた。なぜなら……、
「ん。まぁ、こんな狭い空間で飲んだら、あんた飲まなくても酔っ払いそうだし……。止めといて正解かな」
「そうですね。私はお酒の匂いだけでも少し酔ってしまいますから。お酒を楽しむのはまた今度にしましょう」
 気を遣わせてしまってすみません。という夜彦に、ひらひらと倫太郎は片手を挙げる。
「酔っぱらった夜彦をさ、誰かの目に触れさせるのとか俺が嫌なの。ま、お土産にいくつかかったから、今回はそれで」
 そうですか。そうなの。と。何となく会話をしていると、不意に森が途切れる。徐々に木々が減っていき、視界がパッと広くなるような感覚がした。
「お? そろそろみたいだ……」
 森に遮られていた星と月が列車の道行きを照らしている。見えてきたのは湖だった。湖の畔を走る。木々が消えて、星と月と桜だけの湖畔がしばらく続き……、
「おや、そろそろ件の列車が」
「ああ。あれが、件の列車か……」
 ほら、と夜彦が指し示して倫太郎が目をやる。絵のような世界の中を、ひときわ明るい光が照らす。
 汽笛が鳴った。シリウス号の湖を挟んで反対側、オリオン号は音を立てて走っている。まるで湖の中を走っているようで、そして、
「綺麗ですね……。まるで星空を走っているようです」
「だな。……あそこにも、人が乗ってるんだろうなぁ」
 湖にうつったその姿もあわせて、まるで夜空の中を駆け抜けているようであった。
 夜彦の呟くような言葉に、倫太郎が何気なく返した。人。と、夜彦は反芻する。
「……影朧の彼は、この景色が見たかったのでしょうか」
「どうだろうな……」
 夜彦の言葉に、倫太郎はしばし考える。
「でも、こんな綺麗な景色を見て終われるのは……たぶん、きっと悪くない……かな」
「ふふ。……思い入れのあるものならば尚更特別なものでしょうね」
 夜の中を走る列車。どこへ行くんだろうなあ、とぼんやりと倫太郎は呟く。どこへ行くのでしょうね、なんて。夜彦も静かに答えた。
「きっと、未来へ行くのでしょうね」
「……なるほど」
 何となく、言った言葉に倫太郎は妙に納得する。廃車が決まっているシリウスと、これからを走って行くオリオン。寂しいようでいて……何とも、仕方がないことである。……だからこそ、
「その役目を終えたって、乗車した人の数だけ記憶の中で走り続けるんじゃないか? 思い出ってそういうものだろ?」
 そう、思うのだ。
 並走していた列車は、やがて分かれてまた別々の道を走って行く。それは何度も繰り返された営みであり、そしてまたいつかはなくなってしまう邂逅であるが、
「そうですね。物も年月が経てば老いるもの。その終わりは寂しくありますが、シリウス号が愛され続けたように、オリオン号もこれからも愛されるのでしょう」
 少なくとも、自分たちは覚えているだろうと。そういって夜彦が微笑むので、倫太郎も微笑んだ。
「……だな」
 顔を見合わせて、笑いあう。列車はやがて森の中に入っていき、完全のその姿は見えなくなった。もともと湖の向こう側とこちら側。出会いはただ、一瞬だった。
 遠くで汽笛の音が、聞こえた。 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
まずは彼を見送ろう
猟兵としてというよりは、見届けたかったという気持ちの方が強いけれども
家族と一緒に戻れるといいね
離れたままが辛いのは、オレもなんとなく知っているから
少し、羨ましい
並走するオリオンと彼の背を静かに見送って
この列車もそろそろ役目を終えるのか
なら楽しまなくてはいけないね
食堂車で夕食をとりながら景色を楽しもう
一人でも相席でも構わないよ
ビーフシチューのコースを頂こうかな、折角だし
のんびりと食べながら外を見つめ
星と櫻と湖
景色が走っていく
名残惜しくもあるし、先が気になりもする
なるほど、これが列車旅か
うん、悪くないね

別れてそれぞれの道を往く列車
その線路に、オレの選ぶべき分かれ道が重なり見えた


ベイメリア・ミハイロフ
影朧の殿方は、客席でないとすれば
一体どの場所からオリオン号をご覧になられるのでございましょうか
可能であればご一緒して、お見届けしたく存じます
奥さまとお子さまが、オリオン号にて
こちらをご覧になっていらっしゃるのでございますね

他のお仲間さまとお話できますご機会がございましたら
景色やシリウス号、殿方の事についてお話致しながら
オリオン号を待ちとうございます
お空と湖とで咲き誇る夜桜は、さぞお綺麗な事でございましょう

シリウス号のお仕事ぶりを拝見する事ができて、嬉しゅうございます
老朽化…寂しゅうございますが、仕方のない事でございましょうか
わたくしたちで、再び走る列車に致します事は
叶わないのでございましょうか



 ディフが食堂車のほうに向かうと、なんだか見覚えのある紅い姿がおろおろしているのが見えた。
「影朧の殿方は、客席でないとすれば、一体どの場所からオリオン号をご覧になられるのでございましょうか。うぅん、わたくしは……」
 どうしましょう、と。若干困った顔をしているベイメリアに、ディフはそっと声をかける。
「あなたも、見送り?」
「あっ。は、はい。そうでございます。できれば影朧さんを見送りたいと思うのですが……」
「だったら、オレと一緒だね。……ほら、こっちだよ」
 柔らかく言って、ディフはこっちと頷いた。こちらでございますか、と、ベイメリアはその後に続く。むかった先は、食堂車だった。
「どうして……影朧さまは客室には現れないのでしょうね」
「そうだね……」
 どうしてだろう。と、ベイメリアのつぶやきに改めてディフはほんの少し、考え込む。
「きっと……、彼はこの列車の客じゃなくて、乗員だったからじゃないかな」
 奇妙に見えるけれども、奇妙ながらに、仕事としてきっちりとした線引きがあったのだろう。

 そんなことを語りながらたどり着いた食堂車は賑やかであった。
 可愛らしい食堂車では、忙しなくメイドさんたちも働いている。素早く席を探して、ディフは窓のよく見えるカウンター席が二つ、空いているのを見つけた。
「こちらでいいかい?」
「あ……。はい。ありがとうございます」
 成る程、食堂車。とベイメリアが感心したように呟いて、軽く礼を言って席に着く。微笑んで、ディフもその隣に腰を下ろした。
「いいんだ。オレも、彼を見送りたかった、ところだから」
 それから、ほんの少し考えて。ディフは言いなおす。
「猟兵としてというよりは、見届けたかったという気持ちの方が強いけれども」
「見届ける……。ええ。そう、でございますね。わたくしも、可能であればご一緒して、お見届けしたく存じます。それに……、お空と湖とで咲き誇る夜桜は、さぞお綺麗な事でございましょう」
「じゃあ、それはそれとして、何を頼もうか。オレは、ビーフシチューのコースを頂こうかな、折角だし」
「はっ。では、わたくしは……」
 ディフの言葉に、慌ててベイメリアはメニューを手に取る。メニューが豊富すぎて、悩みます。なんて、眉を寄せていると、
「このあたりが……女性の方には、人気ですよ……」
「あら、ありがとうございま……」
 す。と。言って。ベイメリアは顔を上げる。
 もう、ほとんど形をなくしたような何かが、ぼんやりと二人の間に漂っていた。
「……では、その、ハヤシライスで」
 ベイメリアは騒がずそう注文する。その影に、ほんのちょっとびっくりしていたメイドさんが、かしこまりました、とメニューをとって走って行った。
 影朧は気にしない。二人もそれを気にはしなかった。そうして、窓の外に視線を向ける。丁度森を抜けて、湖の傍らを列車は駆けているところであった。
「もうじき……オリオン号と、並走しますよ……。そこが、一番の……」
 目玉なのです、と、影は言った。
 星と桜が、湖の上に散らばっていて。
 まるで一つの夜空のように美しく、景色は流れるように走って行く。
「……奥さまとお子さまが、オリオン号にて、こちらをご覧になっていらっしゃるのでございますね」
 そのまま、景色を見つめながら。ベイメリアが言った。まるで何でもない話の続きをするかのように。
「そう……ですね。二人とも、あの列車に乗って。そう……そう。乗っているのなら、きっと見ていることでしょう」
「家族と一緒に戻れるといいね。離れたままが辛いのは、オレもなんとなく知っているから……、少し、羨ましい」
 ディフが目を細めて言う。寂しかっただろうと。その言葉に、影は微かに、ディフのほうを見たようであった。
「いえ……。戻れは……しません。この列車は……オリオン号と並走したのち、暫くしてまた、道が分かれます……」
「……」
 きっとそれくらいの夢を見るのはいいだろう、なんて思ったのに。
 案外冷静に返されて、ディフはほんの少し苦笑する。
「そうか。あなたにとっては……そういうものなのかな」
「ええ……私には……仕事がありますから。一緒には行けません」
「仕事……役目と、いうことだね」
 ディフの言葉に、影は笑って頷いた。役目、役割……。そんなものはもう彼にとってはないも同然だろうに。律義に、影はそれを守っているのだ。
「では、たとえ見つめるだけだとしても……かなえられてよかったので、ございますね」
 かわりに、ベイメリアがそっと言った。はい、と影は嬉しそうに頷く。
「この列車が……廃車になってしまえば、叶わぬ夢と……なるところでした。とても……感謝しております」
 楽しげに語る影。廃車、と、ベイメリアが反芻する。ディフも成る程、と小さく声を上げた……ところで、メイドさんが料理を持ってくる。ビーフシチューも、ハヤシライスも美味しそうで。
「この列車もそろそろ役目を終えるのか。なら楽しまなくてはいけないね」
 出来る限り、楽しくねと。言いながら。両手を合わせていただきます、として。ベイメリアもそれに倣った。

「シリウス号のお仕事ぶりを拝見する事ができて、嬉しゅうございます。けれども……老朽化……寂しゅうございますが、仕方のない事でございましょうか」
 食事をしながら、何やらベイメリアは難しい顔をしていた。
「わたくしたちで、再び走る列車に致します事は、叶わないのでございましょうか」
 むむぅ。と。なんだか納得いかないような顔をしている。その言葉に、ディフは瞬きをする。
「人間は、壊れるものを惜しむね」
 否定もしなければ、肯定もしていないけれども。ほんの少し、不思議だな、と思う。そういう人間の性質は、ディフも嫌いではない。
「だって……なんだか寂しゅう感じまして」
 いつだって人は、壊れるもの、なくなってしまうものを惜しむのだ。ベイメリアのその気持ちに、影朧は微かに微笑んだ、気がした。
「後継車両は……もう、決まっております……。この列車は……さて……」
 そこまでは、さすがにわからないと。影朧が言うと、通りがかったメイドさんが、小声で「公園に行くことが決まっていますよ」と教えてくれた。
「まあ! そうなのですか。それなら、良かった……」
 ほんの少し、ほっとするベイメリア。それから、きょとんとした顔で瞬きをした。
「あら」
「うん?」
「ディフさま、影朧さまと似たように、笑ってらっしゃいますね」
 無邪気な指摘に、そうだろうか。とディフは笑った。
 そうだとしたら……きっと、人間という生き物が、不思議だったからだろう。
 その時、遠くで汽笛が聞こえた。
「あ……」
「ああ」
 ふらりと、影朧が歩き出す。ひとつの灯りを追いかけるように。
 闇の中を切り開く、まばゆい流れ星。
 ……オリオン号、だ。
「まあ……。なんて、綺麗」
 桜と星の中を列車が駆ける。ベイメリアは思わずつぶやいた。ディフも静かにその列車が、まるで星空を駆けるように走るのを見た。
「名残惜しくもあるし……、先が気になりもする。なるほど、これが列車旅か」
 いずれ、二つの列車はまた別れる。
 オリオン号がどこに行くのかは、ここにいる誰もが、知らないのだ。
 けれども今……ほんのわずかでも、二つの列車は寄り添うように走っていた。
「……うん、悪くないね」
 自然と、ディフも呟いていた。
 どこか、自分の中での分かれ道を思いながら。
 遠くで汽笛が聞こえた気がして、
「せっかくでございます。……手を、ほら、あなた様も」
 ふろう、と。ベイメリアがほんの少し窓を開けて手を振った。影が、もうほとんど姿のない体で動いた気がした。きっと手を、ふったのだろう。
 きっと、向こう側からは見えないけれども。それでも、
 それでも、何か残るものはあるはずだ……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】二等客室
ふかふかベッドに横になって
満天の星空と雪のような夜桜を眺め
このまま眠りにつくのも悪くないんだけど
それも何だか勿体無い

ねぇねぇ、梓ー
梓の身体をゆさゆさ
本ばっかり読んでないでさ、何か遊ぼうよ
例えばコレとか、と取り出したのはトランプ

…そっか、残念だよ梓
でも確かに梓、ビーチバレーどころか
トランプでも俺に勝ったこと全然無いもんね
それじゃあ遊んでても面白くないよね
梓の気も知らないで誘っちゃってごめんね
大人しく引き下がるフリして全力で煽る

スピード、ブラックジャック、神経衰弱、戦争…
心理戦ゲームどころか運ゲーでも尽く負ける梓
イカサマとかしてないのにな~俺
ここまで来ると一種の才能なのでは…?


乱獅子・梓
【不死蝶】二等客室
ベッドに寝転がって
出発前に買った古都メイド列車殺人事件に読み耽る
一気に読み進めると疲れるから
時折外の景色をゆったり眺め休憩
実に心地の良い時間
そんな穏やかな時間がずっと続く…と思ったのに

……なんだ綾? は?トランプ?
何でちゃっかりそんなの持っているんだこいつは
悪いが俺は今これを読むのに忙しいんだ

あ!?なに勝手なこと言ってやがる!
というかビーチバレーの話を掘り返すな!
良いだろう、今日こそ俺が勝つ!!
綾の挑発にまんまと乗せられる

……今回もダメだった……
ベッドにうつ伏せになって敗北に打ちひしがれる俺を
小さな手でよしよししてくれる焔と零
クッ、お前たちの為にも次こそは…!



 綾はゆっくりとベッドに転がっていた。
 ふっかふかであった。
 めっちゃ寝心地がよかった。
 ごろーん。と転がると、窓から満天の星と雪のように散る夜桜が見える。
 さすがに上を向いているから、湖の様子は見られないけれども、どこか遠くで汽笛のような音が聞こえてきた。
「なーんだか。夢見心地だねえ」
「あん?」
 そんな景色を見ながらぼんやりといった綾であったが、帰ってきたのは心底嫌そうな梓の言葉であった。
 梓はちょうど本を読んでいた。古都メイド列車殺人事件はまだ序盤で、メイドとお嬢様が悪漢を相手にちぎっては投げちぎっては投げ……あれ、これ、ミステリーだよな?と、梓が思ったころ合いに、綾は声をかけたのであった。
 一気に読み進めると疲れるから、時折外の景色をゆったり眺め休憩していた梓。
 そろそろ休憩しようかな、と思っていたところだったので、綾のタイミングとして悪くはない。……一応、悪くは。
 しかしながら、相手が綾である、という一点においてすべてが悪い、ともいえるのである。なにとは言わないが、割とすべてが。
 実に心地の良い時間。そんな穏やかな時間がずっと続く……と思ったのに。と、行ってもしょうがない。返事をしなければ返事をするまで話しかけてくるのが綾である。なので、「……なんだ綾?」と非常にぶっきらぼうに返答をする。そんなぶっきらぼうな返答を、綾は全く気にする様子もなく、
「このまま眠りにつくのも悪くないんだけど、それも何だか勿体無い」
 と、ものすごく正直に自分のしたいことをのたもうたのであった。
「ねぇねぇ、梓ー。あーずーさー」
「あぁぁぁん?」
 ゆっさゆっさゆっさ。
 ゆっさゆっさゆっさ。
 好きなようにいいながら、梓の体を揺さぶる綾に、梓は思わず声を上げる。そんなことも綾はお構いなしに、
「本ばっかり読んでないでさ、何か遊ぼうよ。例えばコレとか」
 ほら、と、梓が本を読むのを遮るように差し出されたのは、とランプであった。梓は瞬きを、一つ。
「は? トランプ?」
「そう、トランプ」
「何でちゃっかりそんなの持っているんだこいつは」
「そりゃあ……梓と仲良くするため?」
「いらねえ。悪いが俺は今これを読むのに忙しいんだ」
 休憩しようと思ってた事実なんてなかった。
 丁度今悪漢の首を切ったメイドさんが誰に罪を擦り付けるかお嬢様と相談してるところなんでちょっと静かにしていてほしい。どうやら今回の小説は、最初に犯人が分かるタイプのものらしい。
 それは兎も角、そんなことをすげなく言う梓に綾は黙る。おや、珍しく静かになったな……。なんて梓が思っていると、
「……そっか、残念だよ梓」
 徐に、綾は。
「でも確かに梓、ビーチバレーどころか、トランプでも俺に勝ったこと全然無いもんね……」
 なんか割と、聞き捨てならない台詞を口にした。
「それじゃあ遊んでても面白くないよね。梓の気も知らないで誘っちゃってごめんね。しょうがないよね、弱いんだもの。弱いことを認めるのって、辛いことだと思うから。大丈夫、俺は大人だから、梓が弱くとも、ちゃんと……」
「あ!? なに勝手なこと言ってやがる!」
 べしっ。
 いい感じに盛り上がっていた綾の台詞を、梓は枕を投げつけて止める。
「というかビーチバレーの話を掘り返すな! 良いだろう、今日こそ俺が勝つ!!
 そうしてがーっと体を起こして、どなるように宣言した。本気になれば枕をよけることなんて容易かっただろうに、見事枕が顔面直撃した綾は、その下で笑いをこらえるのに大変……いや割と笑いが漏れ出していたのだが、ともかく梓はそれには気付かない。
「そう? 無理しないで大丈夫だよ?」
「してねえ!!」
 全力で煽られれば、全力で答える。それが梓という男であった……。

 数分後……。
「……今回もダメだった……。もう疲れたよ、パトラッシュ……」
「キュ……」
「ガウ……」
「ああ。そうだったよな。俺にはパトラッシュじゃなくて、お前たちがいるんだ……」
「やー。今回も見事に負けたね」
「やめろ、とどめ、さすな」
 ばらばらと梓の手からカードが落ちて、そのまま敗北に打ちひしがれベッドにうつぶせになる梓。
 その頭を心配そうに撫でる焔と零。
「なんでだろうねー。イカサマとかしてないのにな~俺」
 散らばったカードをまとめながら、若干呆れたように梓が言った。これは本当である。
 スピード、ブラックジャック、神経衰弱、戦争……。心理戦ゲームどころか運ゲーでも尽く負ける梓は、ちょっと見ものであった。何せ完全に勝ちが何一つとしてなかった。100%運しか必要のないゲームですら、彼に敗北をもたらした。ちょっと、どうすればいいんだろう。
「ここまで来ると一種の才能なのでは……?」
「いらない。そんな才能、いらない……!」
 突っ伏してもう泣きそうな梓。心配そうに撫でる仔竜たち。さて、さすがに何か慰めでもしたほうがいいかな、と綾が考えたその矢先……、
「クッ、お前たちの為にも次こそは……! やるぞ! もう一回だ!」
「あ、勝手に立ち直ったね」
 梓は負けても強い子なのである。
「うるさい、勝てないなら、俺が勝つまで付き合ってもらう!!」
「……え」
 梓の宣言に、綾は瞬きをする。
 その日、綾は徹夜を覚悟するのであった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫

豪華な部屋
大きなてぇぶるの上には、さっき買ったお弁当並べ
櫻と僕とヨルと
皆でお弁当ぱーてぃだ!
こういう所で食べるお弁当は一味違う
お肉もお魚も炊き込みご飯も美味しい
こっちのも食べてご覧、櫻
僕があーんしてあげる
どんどん食べて
お、お腹一杯だから櫻に食べさせようってわけじゃないんだから!
ホントだよ?わ、お腹っ擽ったいっ

戯れた先、映し出された湖に桜に銀河に――美しい光景に釘付けに
わぁー!みてみて櫻!
向こう側にも汽車が走っているよ!
並んで星空を走ってるみたいだ
仲良しな汽車なんだね

並ぶ汽車に隣合う大好きな君
嬉しくなって、歌が零れる

あまりに夢中で写真とるの忘れちゃったね
でも心にはばっちり、映っているんだ


誘名・櫻宵
🌸櫻沫

リル、これは一体何人分なのかしら?
そんな疑問も楽しげな人魚の顏みれば吹き飛んで
豪華汽車の旅
お弁当パーティーよ!

どれもこれも美味しいわね
旅のお供にぴったりだわ
ヨルが無心に食べてるわ
リルはもっとおたべ!
さっきから私にばかり食べさせているわ
さてはお腹いっぱいなのね
お弁当の前にお菓子食べるから
お腹見せてごらん、
なんてくすぐって
やわこいお腹
笑み転がる人魚のかぁいらしいこと

素晴らしいわね!
桜がまるで流れ星
星空と湖と寄り添い走る様なもうひとつの汽車
ご機嫌な人魚の歌に微笑んで寄り添う

まるで私達のように仲良しね
美しい光景を眼に刻みつけ
されど景色より心奪われるのは

無邪気に笑うリルの姿なのだけど
それは秘密よ



 列車内。ふっふっふ、とリルはテーブルの上を見つめていた。そこには、乗車前に買ったお弁当がたくさん並んでいた。
「リル、これは一体何人分なのかしら?」
 櫻宵が呆れたような声で言う。呆れたような声であるが、楽しそうなのもその顔を見ていればちゃんとわかる。うん、と、リルは頷いた。その隣で、櫻宵からもらった式神、雛ペンギンのヨルもご機嫌で両手をはばたかせている。
「櫻と僕とヨルと……」
 そんな、わくわくした雰囲気の中。リルは一度、言葉をためて、
「皆でお弁当ぱーてぃだ!」
「ええ。豪華汽車の旅お弁当パーティーよ!」
 右手の拳を天へと突き上げて、声を上げるリル。それに応えるように、櫻宵の拍手が部屋の中に響いた。
「ふふふ。こういう所で食べるお弁当は一味違うよねっ。お肉もお魚も炊き込みご飯も美味しいし……」
 どーれーにーしーよーうーかーな。なんて最初に食べるものに頭を悩ませるリル。
「私は……これね!」
 対する櫻宵はさっくり選んでいた。どうせ交換して、あれこれ食べるのだ。わかってる。
「あら……おいし」
 一口先に口に入れて、感心したようにうなずく櫻宵に、
「むー。こっちのも食べてご覧、櫻」
 ほらほら、とリルが自分のお弁当の唐揚げをとる。
「僕があーんしてあげる。あーん」
「はい、あーん。……これも美味しい」
「ふふ。じゃあ、こっちもね。ほらほら、あーん。どんどん食べて」
「もう。リルったら。どれもこれも美味しいわね。旅のお供にぴったりだわ」
 仲良くそんなことを繰り返す二人。
 その隣で、ヨルが無心でお弁当を頂いていた。
「ヨルはなんだかんだで元気ねえ……。ほら、リルはもっとおたべ! さっきから私にばかり食べさせているわ」
 そんなことが幾度か続いたのちで、櫻宵が声を上げる。ええ。と、今度は何を渡そうか、と悩んでいたリルは瞬きをする。
「さてはお腹いっぱいなのね。お弁当の前にお菓子食べるから」
「お、お腹一杯だから櫻に食べさせようってわけじゃないんだから!」
 やれやれ、という顔をする櫻宵に、慌てた様子でリルは否定する。
「ホントだよ? わ、お腹っ擽ったいっ」
「どうかしら。お腹見せてごらんっ」
 お腹をくすぐる櫻宵。それに思わずリルが笑って、その笑顔に櫻宵の表情も和らぐのであった。

 そうこうしている間に、森の中を走っていた景色が晴れていく。
 いつの間にか視界が森が消え、視界が開けていたのだ。
 しばらくすると、湖が見えてくる。そのころには満天の星空と、そして舞い散る桜だけの世界が列車を、二人を出迎えた。
「わぁー! みてみて櫻!」
「あら……。素晴らしいわね!」
 天上にも、そして湖にも。ちりばめられた沢山の星。そしてその中を散る桜たちの間を、列車は駆け抜けていく。列車の動きに合わせて風が流れ、桜が流れるように動きを変える。
「桜がまるで流れ星ね……」
「うん。とっても綺麗。……あっ!」
 あそこ、と、リルは不意に指をさした。櫻宵がそちらに視線をやる。
 暗闇の中から、ひときわ輝く光が見えた。
「向こう側にも汽車が走っているよ!」
「あら……ほんと」
 光は、列車の光であった。闇の中を切り裂いて、列車は走る。いつしか二人の乗る列車に追いつき、並走する。
「並んで星空を走ってるみたいだ……。仲良しな汽車なんだね」
 窓の外。走る汽車たちはまるで絵のようにきれいだ。ため息をつくように言ったリルの言葉に、そうね。と、櫻宵は小さく頷いてリルにそっと寄り添った。
「……」
「……」
 並ぶ汽車に隣合う大好きな君。
「……ふふっ」
 それが何だか、おかしくて。
 リルは思わず、唇を開く。そうして歌を、歌い出す。
 その歌を聴きながら、櫻宵は嬉しそうにその景色を見つめた。
「……まるで私達のように仲良しね」
「うん。……あ」
 けれども、ふとリルが歌を止める。並走していた列車は、徐々に徐々に、別の方向へとそれていく。これからどこへ行くのだろうか。何となく、手を振ってその行く末を見送った。
「あまりに夢中で写真とるの忘れちゃったね」
 光が消えて、リルはそう言った。そのまま「でも心にはばっちり、映っているんだ」。と胸を張るので、櫻宵もそう、と、合わせて嬉しそうに笑う。
 美しい光景を眼に刻みつけ、されど景色より心奪われるのは。無邪気に笑うリルの姿で……、
(でも……それは秘密よ)
 リルの横顔を見ながら、櫻宵はそう、心の中にその景色を焼き付けるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天瀬・紅紀
櫻沙さん(f26681)と

おやま、窓に顔張り付いて取れなくなった?
そういえば…オリオン座も、シリウスを抱くおおいぬ座も冬の星座だね
こう並走してるの眺めるとさ、まるで追いかけっこでもしてる気分

実はさ…小さい頃は天文学者に憧れてたんだよね僕
今はこうして文字書きなんてしてるけど
満天の星空から幾多もの物語が生まれた理由は良く解る
星そのものより物語に興味に惹かれたんだな、僕は

湖に向こうと此方の車窓が映ってるのがまるで銀河を走る列車に見えて
この光景を目に心に焼き付けて
文字という絵の具でどう表現しようかな、なんて、色々考えるのも悪くないよね

きっとあの影朧の人は呼ばれたのかも知れないね
列車の最後の輝きに、さ


樹神・櫻沙
天瀬さん(f24482)とご一緒します。

夜になっても、声をかけられるまでは窓に張り付いている気がします。
星と桜の中を走る汽車…素晴らしい風景、です。あれがオリオン号…。
星座のお話は…聞いた事がある気が、します。だから近いけれど、遠いこの路線を走っているのでしょうか。
天文学者…素敵な夢、です。星を何かになぞらえるのはどこの地域にもあるそうですから。物語も、その数だけあるのでしょう。

…先程聞きましたが、この列車がなくなるのはもったいない、ですね。
でも…物語の中でなら、ずっと走っていられる。この風景も何かの形にして、残せたらいいなと思っています。
影朧の方が見たかったのはこの風景なのでしょうね。



「櫻沙さん。……櫻沙さん」
 優しい、声が響く。
「櫻沙さん」
「……はっ」
 何度目かで、ようやく。櫻沙は顔を上げた。目の前には紅紀が、少し困ったような顔をしていた。
「櫻沙さん、何か羽織りませんか。冷えてしまいますよ」
「あぁっ。す、すみません……!」
 お恥ずかしい。一度窓の外を見つめてから、もうこんなに時間が経っていたとは!
 櫻沙は慌てて、張り付いていた窓から一歩下がった。
「いや、謝らなくても大丈夫だよ。ただ、そろそろ寒くなってきたからね」
 さすがに窓にべったりなら、何か羽織ったほうがいいだろうと紅紀は笑った。最初のころは「おやま、窓に顔張り付いて取れなくなった?」なんて思いながら興味深く櫻沙を眺めていたけれど、そろそろそうも言っていられない時間になっていたのである。
「すっかり日も落ちて……ほら。星が並んでいるよ」
 そう言いながら、紅紀は天のほうを指さした。森の木々の隙間から、星がのぞいている。それから、
「あ……」
「おや」
 ふっ。とその森が途切れた。
 途切れるとそこには、満天の星空が広がっていた。
「ああ……」
 思わず、櫻沙は感嘆の声を上げる。星から地上に視線を戻せば、森は途切れ、湖が見えてきていた。列車は緩やかにカーブして、その湖の畔を走っている。
 雲一つない空にちりばめられた、輝く星。そうして雪のように降り注ぐ桜の花びら。ひらり、ひらりと散る桜は湖面に落ちる。その湖面もまた、星と桜を映し出し、合わせ鏡のような景色を作り出していた。
「星と桜の中を走る汽車…素晴らしい風景、です。そして……」
 再び、櫻沙は窓辺に張り付くことになる。紅紀は微笑んで、そっと紅い外套を脱いで彼女の肩にかけた。
「そして……あれが、オリオン号……」
 それにも気づかずに、櫻沙は小さく呟く。遠くで、ひときわ大きな星が瞬いた。瞬いたと思ったら、ものすごい速さでこちらに近づいてくる。
 ぶつかると、一瞬は思ったけれどもそうはならなかった。オリオン号もまた湖の畔を走り出す。並走する列車は、まるで本の中の挿絵のような姿であった。
「そういえば……オリオン座も、シリウスを抱くおおいぬ座も冬の星座だね」
 その姿に目を細めて、紅紀は言う。
「こう並走してるの眺めるとさ、まるで追いかけっこでもしてる気分」
「ええ……」
 同じように走って行く列車の姿。
 ほんの少し、オリオン号のほうが早いかもしれないな、なんて、紅紀は目で追いかける。湖を挟んで反対側の列車の客室には人影が見える。どんな気持ちで、彼らは自分たちを見ているのだろうかと、ほんの少し興味がわいた。
「星座のお話は……聞いた事がある気が、します。だから近いけれど、遠いこの路線を走っているのでしょうか」
「そうかもしれないね。名前を付けた人に、星が好きだった人がいたのかもしれないよ」
 櫻沙のつぶやきに、紅紀は小さく頷く。星の中を駆ける列車を眺めて、不意に、
「……実はさ……。小さい頃は天文学者に憧れてたんだよね僕」
 なんて、そんなことを口にした。
 櫻沙は、ようやく窓から顔を離して紅紀のほうを見た。
「天文学者、ですか?」
「うん。今はこうして文字書きなんてしてるけど……」
 思い出す昔は、少し懐かしくてとても遠い。けれども後悔はしていないので、優しく、思い出すように彼は星々を目で追いかける。
「満天の星空から幾多もの物語が生まれた理由は良く解る。星そのものより物語に興味に惹かれたんだな、僕は」
「……素敵な夢、です。それに……、星を何かになぞらえるのはどこの地域にもあるそうですから。物語も、その数だけあるのでしょう」
「だね。今はとても、楽しいよ。あとは……この光景を目に心に焼き付けて、文字という絵の具でどう表現しようかな、なんて、色々考えるのも悪くないよね」
 湖に向こうと此方の車窓が映ってるのがまるで銀河を走る列車に見えて、紅紀はどうだろう、とウィンクをした。
「それも……素敵ですね」
 ふふ、と、櫻沙も笑う。表現といえば、と、それで櫻沙は思い出したように、
「……先程聞きましたが、この列車がなくなるのはもったいない、ですね。でも……物語の中でなら、ずっと走っていられる。この風景も何かの形にして、残せたらいいなと思っています」
 そのためにも、頑張らなくては。なんて、再び外の景色を見つめる櫻沙。また張り付く様子を見るのが楽しくて、ほどほどにね。なんて言いながらも、紅紀も外を見るのをやめられない。
 いずれ、列車はコースを離れて別れていく。二つの列車は、そう長くは同じ場所を走れない。
「……影朧の方が見たかったのはこの風景なのでしょうね」
「うん。きっとあの影朧の人は呼ばれたのかも知れないね。……列車の最後の輝きに、さ」
 ……どこか、遠くで。汽笛の音が、聞こえた気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
・ヴォルフ(f05120)と

ねえ、見て! ヴォルフ

車窓を流れゆく景色
煌めく星空と、月明かり映す湖
そして咲き誇り舞う幻朧桜
何て美しい光景なのでしょう

この列車に、そして並走するオリオン号に乗る他の乗客にも
きっとこの夢幻の世界が見えているはず
忘れないように、離さないように
しっかりと心に焼き付けて

叶うならばずっとこの景色を眺めていたいのだけど
きっと眠りの精に誘われてしまうわね
寝台に二人腰かけ、ひとつの毛布にくるまって
彼の温もりに包まれながら夢と現を揺蕩う

これからも二人で、素敵な思い出を作りましょう
いつか子供が生まれたら、その子も一緒に『家族』で
たくさんの希望としあわせを乗せて
未来へとたどりつくように…


ヴォルフガング・エアレーザー
・ヘルガ(f03378)と

ああ、ヘルガ。とても綺麗だ
煌めく湖面も星空も、薄紅に色づく桜も
並走する列車の優美なシルエットも
そして……それを見つめるお前の穢れ無き瞳も

彼女の肩をそっと抱き寄せて
夢の世界におちるその時まで
夜の空気に凍えないように包み込む

ああ、約束だ
これからも二人で旅して、たくさんの思い出を作ろう
美しい景色を見て、美味しいものを食べて
数多の人々のしあわせを願い、守り、叶えるのだ
そして、俺たちの『家族』も……

今は闇と悪意に支配された俺たちの故郷にも
いつか希望の光を取り戻す
辛いこともあるだろう
時に理不尽が俺たちを阻み苛むだろう
それでも俺は、必ずお前を愛し、守り抜く

おやすみ、ヘルガ
良き夢を



 汽笛が鳴った。
 そっと。どこかに語り掛けるように。
「ねえ、見て! ヴォルフ」
 それで、ヘルガは声を上げる。森を抜け、明るい場所に出た。そう思った次の瞬間には、その景色が目の前に広がっていた。
 煌めく星空と、月明かり映す湖。
 そして咲き誇り舞う幻朧桜。
 まるで絵のようなその世界。
「……何て美しい光景なのでしょう」
 ほう、と、息を吐く。その横顔を、ヴォルフガングは思わず見つめる。景色よりもその横顔に、見とれかけたといってもいい。
「ああ、ヘルガ。とても綺麗だ。煌めく湖面も星空も、薄紅に色づく桜も……」
 そっとヴォルフガングは視線を窓の方へと戻した。
 どこか遠くで、汽笛が聞こえた気がした。
「並走する列車の優美なシルエットも。そして……それを見つめるお前の穢れ無き瞳も」
 暗闇の中、ひときわまばゆい光が自分たちに向かって……この列車に向かって、走ってくる。オリオン号だ。それを見ながら、平然と言うヴォルフガング。
「まあ……」
 最後に添えられた言葉に、ヘルガは微かに頬を染めた。

 現れたオリオン号は、暫くシリウス号と並走する。
 湖の向こう側から見るオリオン号は、水面にその姿を映す星や桜の中をかき分けるようにして進んでいた。客室の灯りはともっているが、人の姿までは距離があって見えない。
「……この列車に、そして並走するオリオン号に乗る他の乗客にも、きっとこの夢幻の世界が見えているのね」
 あの灯りの一つ一つに、きっと人がいて。彼らもまた、こちらを見ているのだろうか。
 そうして、この列車にも、沢山の人がいて。自分たちと同じように、この景色を見ているのだろうか。
 それはなんだか……当たり前のようでいて、そしてひどく尊いことのように思えて。
「忘れないように、離さないように、しっかりと心に焼き付けておきましょう……」
「……ああ」
 歌うようなヘルガの言葉に、ヴォルフガングはしっかりと頷いた。
 寝台に二人腰を掛け、一つの毛布にくるまって。
 叶うならばずっとこの景色を眺めていたいのだけど……、
「きっと眠りの精に誘われてしまうわね……」
 そんな景色を見ながら、ヘルガは小さく呟く。そうだな。と、ヴォルフガングは彼女の方を抱き寄せる。
「眠ればいい。おれはここで、ずっと、ついている」
「本当? 嬉しい」
 そのぬくもりに、ヘルガは微笑む。どこか夢見心地で。……半ばうとうとと。夢の世界を漂いながらも、彼の言葉には嬉しそうにその表情を和らげる。
「これからも二人で、素敵な思い出を作りましょう。いつか子供が生まれたら、その子も一緒に『家族』で……」
 夢見るように言う彼女。そんな彼女を寒さから守るように。離れないように。ヴォルフガングはしっかりと抱きとめる。
「たくさんの希望としあわせを乗せて。未来へとたどりつくように……」
 どこか、夢に向かって語り掛けるようなヘルガの言葉。その言葉に、ヴォルフガングははっきりと頷いた。
「ああ、約束だ。これからも二人で旅して、たくさんの思い出を作ろう。美しい景色を見て、美味しいものを食べて……」
 半ば夢の世界を見ているヘルガが、どこまで聞こえているのかはわからない。……けれど、
「数多の人々のしあわせを願い、守り、叶えるのだ。そして、俺たちの『家族』も……」
「ええ。ありがとう。……ありがとう、ヴォルフ……」
 そっと、ヘルガは目を閉じる。目を閉じても、かまわずヴォルフはヘルガを抱きしめたまま、
「今は闇と悪意に支配された俺たちの故郷にも、いつか希望の光を取り戻す。……辛いこともあるだろう。時に理不尽が俺たちを阻み苛むだろう。それでも俺は、必ずお前を愛し、守り抜く」
「……」
 返答は、なかった。ヴォルフガングはそっと視線を落とす。目を閉じて、ヘルガは一足先に眠っているようであった。……その顔が、とても幸せそうに微笑んでいて。ヴォルフガングはそれだけで、幸せな気持ちとなる。
「おやすみ、ヘルガ。良き夢を」
 それでいい。そっと、ヴォルフガングはヘルガの髪を撫でた。
 遠くで汽笛が聞こえている。同じ道を走っていた列車はやがて進路を違えて、離れていく。
「……」
 けれどもきっと、二人はいつまでも一緒なのだと。
 ヴォルフガングも、ヘルガを抱きしめたままそっと目を閉じるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
そうそう。こういう風景を楽しめるってのも旅の醍醐味のひとつだよな。

食堂車でカレーに舌鼓を打ちながら星と桜、水辺の風景を堪能する……口にしてみるとすげえ全部乗せで贅沢だけど、たまにはこういうのも悪くねえ。
祖母ちゃんへのイイ土産話になりそうだ。
(ご満悦で並走するオリオン号に手を振る)

おれらが楽しんでると、影朧も喜ぶんだな。
……シリウス号はもう車輛が古くなってるって聞いた。そう遠くねえうちに無くなっちまうのか、それとも後を継ぐ新しい車輛が出てくるのかは知らねえけど。
……無くなるとしたらちょっと寂しい気持ちはあるけど、それでも、シリウス号がたくさんの人に幸せな旅を齎したってのは無意味じゃねえはずだ。



 嵐はその景色を見て何となく、遠くにいる祖母を思った。
「……そうそう。こういう風景を楽しめるってのも旅の醍醐味のひとつだよな」
 それは、列車旅ならではの風景だろう。町が消える瞬間。トンネルを抜けた次の景色。深い渓谷の脇を走る行程。そして……星と桜、水際の風景を。
「……あ、これ、結構うまい」
 食堂車でカレーなんて食べながら。冬の湖の傍らを温かい車内から眺めるなんて、そんなのもなんとも楽しく、味わい深い。
「食堂車でカレーに舌鼓を打ちながら星と桜、水際の風景を堪能する……口にしてみるとすげえ全部乗せで贅沢だけど、たまにはこういうのも悪くねえ」
 言ってみたらまあ割と。割とというか、結構、相当、豪華な感じ。カレーも美味しいし、景色もいい。普段電車は乗っても列車で、しかもゆっくりとした旅というのはなかなかなくて。こういうのは新鮮な気がする。そして何より……、
(祖母ちゃんへのイイ土産話になりそうだ)
 可能であれば、UDCの故郷にいる祖母もつれてきたかったかもしれない。なんて、ほんのちょっと思ったりも、した。
「……おっ」
 どこかで汽笛の音がする。水際をシリウス号とともに並ぶように走る列車が見える。星と桜の中を駆ける。そのありようは列車自体が旅人のようで、一つの絵のようでかっこいい。
 おおい、と声まではあげなかったが、ご機嫌で並走するオリオン号に嵐は手を振る。
 湖を挟んでいるので、向こうの列車にだれがいるかはわからない。けれどもちらほらと人影が見えるから、きっと人はいるのだろう。
 いるはずなのに、見えなくて。それでも嵐は手を振る。きっと、向こうでも同じように、誰に見られているとも知らずに手を振る比呂がいるかもしれないと思うと、ほんのちょっと嵐の気持ちが上向いた。
 そんな気持ちの時、なんとなく近くに気配を感じて嵐は肩越しに振り返る。
 もうほとんど原形もとどめていない影が、窓際に佇んでいて。それが嵐のほうを見て、ほんの少し、笑ったような気がした。
(……おれらが楽しんでると、影朧も喜ぶんだな)
 優しい気配だ、と、嵐は思った。オブビリオンは恐ろしいものが多いけれども、それはちっとも恐ろしさを感じさせずに立つだけである。それが、何とも嵐には複雑な気持ちを呼び起こす。
(……シリウス号はもう車輛が古くなってるって聞いた。そう遠くねえうちに無くなっちまうのか……、それとも後を継ぐ新しい車輛が出てくるのかは知らねえけど)
 嵐は、この列車と、この線路の行きつく先を知らない。聞けばきっと教えてくれるだろうけれども、知らなくていい、と、思っている。
 嵐は旅人で、今ここで列車旅を楽しんでいて、だからこの列車にも、この線路にも、それを作ってくれた人にも、感謝している。
「……無くなるとしたらちょっと寂しい気持ちはあるけど……、それでも、シリウス号がたくさんの人に幸せな旅を齎したってのは無意味じゃねえはずだ。この旅は、価値のあるものだった。俺にとっても」
 だから、言うならばありがとうと。嵐はそう口にした。
「……」
 影は、答えなかった。ただ嬉しそうに、その姿を震わせて、
 一度、お辞儀をしたように見えた。
 その姿は何処か、いい旅を、と言っているように思えて。嵐も口の端を少し上げて、笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

グィー・フォーサイス
結都(f01056)と

駅弁食べたし探検だ!
いいのって?
いいのさ
乗っている時にしか見れないだろう?
部屋の違いも見て楽しもう
客室から流れる景色を見るのもいいけど
廊下を歩きながら見るのもいいよね

食堂車、楽しみだなぁ
メニューが気になっちゃうや
僕はプリンにしようかな
結都は?
この桜シフォンっていうケーキも美味しそうだよ

結都は列車は初めてって言ってたしとても新鮮なんだろうなぁ
そんな顔してる
僕も車窓からの流れる景色は好きさ
あっという間に通り過ぎていくのは爽快感がある
うん、綺麗だね
綺麗な物を見ながら食べるプリンは格別だ
結都は緑茶?
僕はココアにするよ

揺れを感じる中での食事は
素敵な非日常感だ
楽しいなぁ


桜・結都
グィーさん/f00789 と

景色を眺めているだけでもすぐに時間が過ぎて行きますね
いつもはあまりしませんが、他の車両もついつい覗きに行ってしまったり
ふふ、探検わくわくします
一等客室はとても豪華でしたね
三等の人が近い空間も、味があってとても良さそうでした

さて、すっかり夜になりましたね
食堂車に向かいましょう
食事をしながら星と桜を眺めるのが楽しみです

何もせずとも移っていく景色は、やはり少し不思議な心地がして
桜も星も、綺麗ですね
ふと目を外に向けるだけで見られるのだから、とても贅沢だなぁなんて
つい笑みがこぼれてしまいます
食後にはお茶をいただきましょう
もう暫く、たくさん人のいる空間からの景色を楽しみましょう



 ふっ……。と、グィーは何処か得意げな顔をした。
 目の前には空のお弁当箱がある。つまりは、腹ごなしは完了したということだ。
「さて……」
 駅弁は食べた。ならば次にすべきことは……、
「とーぜん、探検だ! おー!」
「お、おー?」
 拳を天に突き上げ、ご機嫌に声を上げるグィーに、結都は真似するように手をあげながらも首を傾げるのであった。
「当然……なのですか? なんだか、景色を眺めているだけでもすぐに時間が過ぎて行きますけれど」
 はて?と怪訝そうに言う結都。静かに景色を見ているだけでも十分幸せな彼に、ちっちっち。と。わかってないなあ。と言いたげにグィーはなぜかそこで胸を張る。
「いいのって? もちろん、いいのさ。乗っている時にしか見れないだろう? 部屋の違いも見て楽しもう」
 ついでに、「客室から流れる景色を見るのもいいけど、廊下を歩きながら見るのもいいよね」なんて言いながら、とテトテと走り出すグィー。そんなグィーに結都も、
「……」
「ほらっ」
「は、はいっ」
 その後を追いけた。

「あ、一等車両はこんな感じなんだね」
「何というか……すごい、ですね。とても豪華です」
 空いている一等車両をそーっとのぞき込んだり。
「三等のこの、狭い感じも楽しそうだけどっ」
「一人で静かに過ごす分には、充分だと思います。人が近い空間で、味があってとても良さそうでした」
 三等車両をのぞきに行ったり。
「いつもはあまりしませんが、ふふ、探検わくわくします」
「うん、石炭積んでるあたりも行きたかったんだけど」
「それは、きっと怒られてしまいますね」
 さすがにねー。なんて言うグィーに、結都も笑ったりして。
 そんな時、ふとカーテンが開けっぱなしになっていた、三等客室の窓から時刻を知る。日は沈み、陽光の名残も今はない。藍色の空に、一番星が輝いている。
「さて、すっかり夜になりましたね」
 結都が言う。言いながらグィーを覗き込む。グィーはにやりと笑う。
「だったら……ねえ?」
「ええ。食堂車に向かいましょう」
 「食事をしながら星と桜を眺めるのが楽しみです」という結都に、だよね、とばかりにグィーも大いに頷いた。

 食堂車はそれなりに混雑していた。
 部屋とは違い賑やかな空気の中、二人は窓のよく見える席に着く。
「メニューが気になっちゃうや。僕はプリンにしようかな」
 レトロな外装や、テーブルクロスなんかのちょっとした小物もかわいらしいが、それよりもとばかりにグィーはメニューを引っ張った。宣言通り種類が豊富で、ちょっと目移りしてしまう。
「結都は?」
「え? ええと……」
 どうしましょう。と若干困ったような顔をする結都。たくさんあるだけに迷ってしまう。パラパラメニューを捲る結都に、
「この桜シフォンっていうケーキも美味しそうだよ
 グィーが助け舟を出したので、結都はふっと息をついて、
「じゃあ……それで」
「はーい。スペシャルプリンと桜シフォンケーキですね! お飲み物はどうなさいますか?」
「あ、じゃあ、食後に……結都は緑茶? 僕はココアにするよ」
「そうですね。お茶をお願いします」
「ありがとうございます!」
 注文を取りに来てくれたメイドさんが立ち去った後で、二人して改めて窓の外を見る。
「……」
「……」
「結都は列車は初めてって言ってたしとても新鮮なんだろうなぁ」
「えっ」
「そんな顔してる」
 そうして、また景色に見入っていた結都は、グィーの指摘にほんの少し顔を赤くした。
「何もせずとも移っていく景色は、やはり少し不思議な心地がして……。グィーさんは、列車、好きですか?」
「勿論。僕も車窓からの流れる景色は好きさあっという間に通り過ぎていくのは爽快感がある」
 その時、ぱっと視界が晴れた。
 森を抜けて、星の光が降り注ぐ湖の畔に出たのだと、二人は知った。
「わ……あ。桜も星も、綺麗ですね」
 満天の星空と舞い散る桜を、湖が映し出している。まるでその中を駆けるように走る列車に、思わず結都は声を上げた。
「ふと目を外に向けるだけで見られるのだから、とても贅沢だなぁ。……なんて。思っています」
 ついつい笑みを漏らしながら、結都は言う。遠くから一等輝く星のような光が見えた。……この列車と並走する、オリオン号だ。
 まるで一つの絵のようだな、その景色。その景色をグィーは見ながら。
「うん、綺麗だね。……そ・れ・に・綺麗な物を見ながら食べるプリンは格別だ」
 来たばかりのプリンを見て、それから結都を見てウィンクするので、
 結都もそうですね、と笑ってシフォンケーキに目を落とすのであった。
「……食事、終わっても、もう暫く、たくさん人のいる空間からの景色を楽しみましょうか」
「うん。……揺れを感じる中での食事は、素敵な非日常感だ」
 結都の言葉に、グィーも嬉しそうに笑って。
「楽しいなぁ」
 そういうと、プリンを一口、口に運んで美味しいと笑うのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

城島・冬青
【橙翠】

夜も更けてきました
夕食を食べに食堂車に行きますか?
もしかしたらハンバーガーがあるかもしれませんよ
え?前もって何か頼んでいたんですか?
流石アヤネさん!
では客室でのんびり食べましょう

わわわ!ハヤシライスにキッシュにカプレーゼに…って
私の好きな食べ物ばかりじゃないですか
いいんですか?
冷めると勿体ないので早速食べましょう
両手を合わせていただきまーす!
星と桜が綺麗で食べ物も美味しい
汽車の旅最高ですね

カクテルまで!
アルコールなしとはいえ大人な気分です〜
綺麗な色だなぁ
アヤネさんの言葉に照れながら乾杯
えへへ、不束者ですがこれからも宜しくお願いします

あ!見てください
汽車が見えますよ
あれがオリオン号では?


アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
いやハンバーガーはなかったネ
夕食はそろそろ届くはずからここで待とう
夕食はソヨゴには秘密で彼女の好物を揃えた
喜ぶソヨゴに僕もうれしくなってしまう

夕食を食べつつ
景色を眺める
夜景が綺麗
地上にも星が降るようで
一年と少し前にはこんな風にソヨゴと一緒にいられるなんて思いもしなかった
彼女が笑う
うん最高だネ

いいタイミングで飲み物も来た
ノンアルコールのカクテルを頼んでおいたんだ
ちょっと遅れたけど恋人になって一年のお祝いに
なんて珍しく照れながら
乾杯
これからもずっと一緒にいられたらいいな

汽車が見える
長い旅路に並んでいられるのは短い間だけなのだろう
出会いと別れが必然だとしても
僕は今この瞬間をこそ愛おしもう



 その後。食べてはおしゃべりし、うとうとしてはおしゃべりし、景色を見てはおしゃべりしていた冬青とアヤネであった。
 おしゃべりしているだけで、特に何をしていなくとも時間は過ぎる。……時折、
「あっ。アヤネさん、鹿がいましたよ。さすがサクラミラージュの森です」
「鹿か。鹿っておいしかったかナ?」
「うーん。上手に血抜きしないといけませんね」
 野生動物との素敵な邂逅があったり、女子高校生らしい話題に花を咲かせたりしていた二人……であったが。
「夜も更けてきましたし、夕食を食べに食堂車に行きますか?」
 日も沈みかけてきたころ、冬青がそう言った。一等客室ならではの、ふっかふかのベッドに寝転がりながらだらだらおしゃべりするのは楽しかったけれども、そろそろ冬青はお腹が空いたのである。
「もしかしたらハンバーガーがあるかもしれませんよ」
「いやハンバーガーはなかったネ」
 しかし、即座にそう返すアヤネに、「?」と冬青は首を傾げる。アヤネはちょっと部屋の中を見回して……この部屋には時計の類は置いていなかったことに気が付いて……自分で時間を確認した。
「……うん。夕食はそろそろ届くはずからここで待とう」
「はえ?」
「ふっふっふ。ソヨゴには内緒で、頼んでおいたんだ」
「え? 前もって何か頼んでいたんですか?」
 なんと、と顔を上げる冬青に、アヤネは得意げな顔で頷く。……が、
「では客室でのんびり食べましょう。流石アヤネさん! 寝転がってご飯を食べるなんて、自他楽の極みですね!!」
「そういうんじゃないから。さすがにそういうんじゃないから」
 きらっきらした目でそんなことを言いだす冬青に、若干遠くを見ながらアヤネはそういうのであった。
 勿論、喜ぶ冬青の顔を見るのはとてもうれしかったが、アヤネの想像は、いつも現実よりちょっとだけロマンチックなのだ。

 アヤネの言ったとおり、夕食はそんな会話の暫くのちにやってきた。
「わわわ! ハヤシライスにキッシュにカプレーゼに……って。私の好きな食べ物ばかりじゃないですか」
「うん、そうだよ?」
 豪華なテーブルに並ぶ料理の数々に、冬青が歓声を上げる。歓声を上げる冬青を、アヤネは嬉しそうに見つめていた。
「いいんですか?」
「もちろんだヨ。その顔を見るために、頼んだんだから」
「……!」
 嬉しい。嬉しいがこぼれだしている。そんな顔をする冬青だったが、はっ、と、両手を慌てて合わせる。
「ありがとうございます!! 冷めると勿体ないので早速食べましょう!! いただきまーす!」
「はい、いただきます」
 満面の笑みで言ういただきます、は、見ているアヤネにもとても嬉しく。気持ちのいいものであった、

 そんなことを思いながら、食事をして。
 ひと時だって視線は話したくなかったけれども、
 ふと景色が変わった気がして、アヤネはそっと外を見る。
 いつの間にか森を抜けて、湖の畔に出ていた。
 舞い散る桜の花びらが。そして砂を撒いたかのような満天の星空が。みんなひっくり返って湖にも浮かんでいて、
「綺麗だネ。地上にも星が降るみたいだ」
「そうですね……。星と桜が綺麗で食べ物も美味しい、汽車の旅最高ですね」
 えへへ、と笑う冬青の、頬についたご飯粒を。アヤネはひょいと手を伸ばして拭う。
「……一年と少し前にはこんな風にソヨゴと一緒にいられるなんて思いもしなかった。……うん最高だネ」
「……です、ね」
 さすがにちょっと照れて。はにかむように笑う冬青。アヤネが何か言おうとした、その時、部屋の扉がノックされた。
「ああ……いいタイミングだ」
「わ、カクテルまで!」
 丁度頼んでおいたノンアルコールのカクテルが届けられたのだ。
「アルコールなしとはいえ大人な気分です〜。綺麗な色だなぁ」
 呑気にグラスを傾ける冬青。その様子に、アヤネはちょっと咳払いをする。
「……」
 いつもはいろんなことを平然と言い切るアヤネであったけれども、さすがに今日はちょっと、照れた。
「……ちょっと遅れたけど恋人になって一年のお祝いに」
「へ??」
 僅かに顔を赤くしながら言うアヤネに、冬青は目を丸くする。だから。と、アヤネはそんな冬青を照れ隠しのように軽くねめつけて、
「乾杯。これからもずっと一緒にいられたらいいなって」
「……は、はいっ」
 ほら早く、と言いたげなアヤネに、冬青は笑ってグラスを合わせた。
「えへへ、不束者ですがこれからも宜しくお願いします」
「うん……こちらこそ」
 どうか、よろしくと。アヤネが祈るように言った。……その時、
「あ! 見てください! 汽車が見えますよ。あれがオリオン号では?」
 ふと冬青が声をあげて、アヤネはそちらの方を見た。
 星と桜の中から、ひときわ力強い光が駆けてくる。……ああ、列車だ。まるで絵本の挿絵のように、星の中を走る列車である。
「きっれいですね~」
「……うん」
 感心したような冬青の言葉に、アヤネは小さく、頷く。
 オリオン号はシリウス号と暫く並走したのち、コースをわかった。離れていく列車は、どこか遠い異国にでも行くかのように、アヤネは感じた。
「……」
 長い旅路に並んでいられるのは短い間だけなのだろう
「アヤネさん?」
 思わず黙り込んだアヤネに、冬青はその顔を覗き込む。何でもない、と、アヤネは笑って。
「ただ。列車に見惚れてただけだヨ」
 出会いと別れが必然だとしても……、僕は今この瞬間をこそ愛おしもう、と。
 アヤネはそう、心に決めて笑った……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴島・類
※ 寥さん(f22508)

全部乗せ、大満足の量でした…
部屋からの景色も充分楽しいが
オリオンとの併走を見るのは
食堂車行きましょうか?

軽いつまみと日本酒頼み
流れていく景色を眺めて待ってると…
此方では桜は何処でも見れるけど
車窓からだと、また違うものですね

酒を傾けてると良い具合に温もる
味もいけるや、地酒かな
そういえば
ぶらり旅は気分転換です?
僕は旅が常だが、あなたは珍しく思えて
遠くに行きたくなる時があるのかと

間の奥を深読みはせず
なら
そんな時は
遊びに誘う狙い目ってことかと笑い

星と桜の中を飛ぶみたい…な景
見てるとより美味く感じる不思議


見て下さい、オリオン!来ましたよ
格好良いなぁ…

影朧さんも会えて、良かった


鏑木・寥
冴島サン(f13398)と

……あの量が無くなっている
時間をかけて焼売弁当を一つ食べながら
無表情ながら結構驚き
…そ、そうだな、移動するか

桜なんて何処で見たって一緒だと思うが
花より団子。いや、花より酒か?
言いながらも何となく視線は外へ
流れる花弁は矢張り同じに見える

軽くつまみを食べてお酒を煽る
ん?気が向いたから……という事にしたいが、そうだな
ちょっと家に居たくない時期ってのがあってよ
隙間風が寒くて億劫だとか。……そんな感じだ

お酒が良い具合に回ってきて、口もそこそこ回る
声に催促されて見た外は、酒のせいもあってか悪くないように見える

……そうだな、確かに、悪くない

最後に見る風景としては、上々なんじゃねえか



 類は非常に満足そうであった。
「全部乗せ、大満足の量でした……」
「あ、ああ……」
 寥は、なんだか信じられないものを見る目をしていた。無表情ながらに、若干その眼が語っているのだ。嘘だろ。と。その視線を感じて、うん? と類は寥の弁当を覗き込む。
「寥さん、焼売、苦手でしたか?」 
「……」
 違う、そういうわけじゃない。時間をかけてひとつの弁当をゆっくり食べているだけだ。つまりいたって普通だ。
 そこまでよく食べるわけではないが、普通といって差し支えない範囲であろう。……つまり。
(……あの量が無くなっている……。俺より早く……)
 そう、そこであったのだ。あの、古今東西から様々な材料を集めてきてもはやカオスになっていたのにそれがなぜか絶妙な調和を誇っていた巨大弁当を、類は見事に食べ切った。食べきったどころか、平然としている。寥はゆっくり、ゆっくり、最後の焼売を口の中に入れて、咀嚼して。それで両手を合わせて、ごちそうさま、と。一息つく。類が真似して、ごちそうさま。と、両手を合わせて行った。その流れで、
「部屋からの景色も充分楽しいけれど……、オリオンとの併走を見るのは、食堂車行きましょうか?」
 きっと、窓が大きいと思うんですよ。なんて、平然として言った類に、思わず寥は「まだ食べるつもりか」と、言いかけて頑張ってその言葉を飲み込むのであった。
「……そ、そうだな、移動するか」
 自分が食べるかどうかは兎も角、場所を移動することに特に不満はない。自分が食べるかどうかは兎も角。
 気づけばもうすでに日は沈みかけていて、話によると今は森を走っているが、しばらくすれば湖に出るという。そこでの景色が絶景なのだそうだ。
 そんなことを楽しそうに語る類に、なるほど、なるほど、と感心しながら寥も弁当を片付ける。
 獣を散らすためか、汽笛が鳴っている。それが、どこか夜を呼び込んでいるように、寥には聞こえた。

 二人が片づけを終えて食堂につくころには、陽は完全に沈んでいた。
 食堂車はそれなりに込んでいる。客室の静けさとは打って変わって、賑やかな人の出入りがあり、メイド姿の乗員たちが行き来していた。気のテーブルに椅子、かけられたテーブルクロスはどれもレトロで、どのテーブルにも小さく花が活けられている。細かいところまで可愛らしい、というのが二人の印象である。そういう方向性なのだろう。
「それじゃあ、これとこれと……あと……」
 軽いつまみと日本酒を頼む。地酒がいくつかあったから、その中のものにすることにして、
 注文を終えると、早速類は窓の外を覗き込むのであった。
「此方では桜は何処でも見れるけど……。車窓からだと、また違うものですね」
 森を走っていたはずの列車。その景色は木々ばかりであったが、徐々に徐々にその密度が薄くなっていく。木が減って、光が差し込む。緑の葉から、淡い桜の花びらに、景色が変わっていった。
 その流れて行く景色を見ていると、自然と類の声も弾む。そんな類に寥は肩眉を上げた。
「桜なんて何処で見たって一緒だと思うが」
「ええ。そうですか?」
「そうそう。花より団子。……いや、花より酒か?」
 早速きた酒を受け取りながら、寥はそんなことを言った。
「僕には、違って見えますけれども……どうしてでしょうね」
「……さて」
 そういわれても分からない。何となく寥は窓の外に視線をやる。
 いつの間にか森は消え、桜一色になっていた。
「……」
 やっぱり、寥には同じだと、感じた。

 列車の進むに合わせて、酒も進む。類はふう、と息をついて、
「この地酒、味もいけるや。それに良い具合に温もる……」
 なんて言いながらも、ふと。思いつたとでもいうように、何でもない話の延長のように類は首を傾げた。
「そういえば、ぶらり旅は気分転換です?」
「ん?」
 軽く散らばったつまみを齧りながら、寥は類の言葉を考えた。ところでこの梅チーズはなかなか、お酒に合うと思う。
「……」
「僕は旅が常だが、あなたは珍しく思えて……。遠くに行きたくなる時があるのかと」
 沈黙を、若干の戸惑いととったのだろう。気遣うように類はつけ足す。寥はほんの少しの間の後で、
「気が向いたから……という事にしたいが、そうだな」
 そんなことを語った。お酒を煽りながら。
「ちょっと家に居たくない時期ってのがあってよ。隙間風が寒くて億劫だとか。……そんな感じだ」
「ああ……」
 なるほど、なんて。
 寥の言葉に、類は言った。回答の間に横たわる、何とも言えないその空気に。気付いていたのかいないのか。深読みはせずに類は無邪気に微笑んだ。
「なら……、そんな時は、遊びに誘う狙い目ってことですね」
「そういうことになるのか?」
「そういうことになるんですよ」
 類に言い切られて、そういうものか。と、寥はひとまず納得することにする。お酒が良い具合に回ってきて、口もそこそこ回るし、なんだかそれはそれでいいかもしれない、なんてほんの少し思ったりも、した。
「ふふ、今回は得しましたね」
 笑う類。何か言おうと寥は口を開こうとする。しかしその瞬間、
「あっ。見て下さい、オリオン! 来ましたよ」
 類が声を上げた。ほらほら、と指さす窓の外。その催促に寥は同じ様に窓の外に目を向ける。
 いつの間にか列車は湖の畔を走っていた。
 満天の星空。そしてそれを映す湖。天井にも、天下にも、舞い散る星と桜。……その中を、
 飛ぶように駆ける姿がある。漆黒の車体、オリオン号だ。
 汽笛が鳴った。シリウス号からだ。返すように、汽笛が鳴っている。
「格好良いなぁ……」
 まるで子供のように、類は思ったままを思わず口にした。銀河を走るようなその列車に、どうしてか酒の味迄変わった気がするとはしゃぐ類。
「……」
 そういわれて、寥はもう一度窓の外を見た。
「……そうだな、確かに、悪くない」
 酒のせいもあってか、寥が見たその桜は、いつもよりも悪くないように見えた。
「でしょう? 影朧さんも、この景色に会えて、良かった」
 どこかで見ているだろう、影朧にも思いをはせる類。その言葉に、ああ。と寥もその影のことを思い出し、
「……最後に見る風景としては、上々なんじゃねえか」
 きっとこんな景色を見て、静かに消えていくのならば。悪くないのではなかろうかと。
 寥は目を細めてもう一口。酒を静かに口にするのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛
ヨハンくん(f05367)と

うう……トランプ負けに負けてしまいました……
ヨハンくんはもう少し手加減というものを知った方がいいですよ!
そりゃあ手を抜かれて勝ってもあんまり嬉しくないかもしれないですけど(むむむ)

あ、そろそろお夕食の時間ですね
食堂車も気になりますけど……お部屋に運んでもらいましょうか
騒がしいところは好きじゃありません、一人で行ってきてください(声真似)……って言われちゃいそうですし~!

窓辺で景色を眺めながら食べましょう!
桜と星が綺麗……ふふ、目玉なだけありますね
今日は来てよかったですね
私はよかったですよー。ヨハンくんもそうだといいなって

さてさて、食後の珈琲を飲んだらもう一勝負です!


ヨハン・グレイン
織愛さん/f01585 と

カードゲームは特段得意という訳でもないですが
織愛さんは顔に出過ぎじゃないですかね
手加減されて嬉しいなら、してあげてもいいですよ

…………いや、なんですかそれは
真似でもしているつもりですか
食堂車くらいだったら付き合いますよ……まぁ部屋の方が落ち着けますけど
人のことをなんだと思っているんだ

景色を眺めるのは……まぁ、悪くはない
自分一人でこういう場に向かうことはないのだから、
連れ出されるのも悪くはないのだろう
来て……よくなかったとは思っていません
よかった、と言ったらどんな反応をするだろうか、興味がない訳ではないが
素直に言えたものでもない

勝負には付き合いましょう
手加減はしませんよ



「うう……」
 織愛はしくり、しくりと肩を落としていた。何事かというと、
「トランプ負けに負けてしまいました……」
 全戦全敗だったのだ。
 これは悲しい。……悲しい。
 テーブルの上に広がるトランプは容赦ない負けを示している。うぅ。と。唸るような間の後で、
「ヨハンくんはもう少し手加減というものを知った方がいいですよ!」
 かっ!! と。
 顔を上げて声を上げる織愛。めっちゃその眼には気迫が滲んでいた。
「……」
 たいするヨハンは無表情である。……いや。無表情でありながら、「なんでこんなことでそんなに元気になれるんですか」と言いたげな顔をしていた。わかる。……織愛にはわかるのである。わかるからこそそれが悔しい。
「カードゲームは特段得意という訳でもないですが……。織愛さんは顔に出過ぎじゃないですかね」
 そしてその悔しさがありありと伝わってくるので、ヨハンはため息をつきながらもそういうのであった。というか、そういうしかなかった。
「手加減されて嬉しいなら、してあげてもいいですよ」
「そりゃあ手を抜かれて勝ってもあんまり嬉しくないかもしれないですけど」
 むむむ、と、眉を寄せる織愛に、ほら見ろ。といいたげなヨハン。
「つまりは……愛。愛ですよ!!」
「……つまり、どうしろと」
「つまりは、そういうことです!!」
 どないせえっちゅうねん。
 と、まではヨハンも言わない。多分行っても明確な答えが返ってこないことは明らかだったからだ。ヨハンはついと視線を逸らす。そうして若干わざとらしく、陽が沈んでますね、なんていうのであった。
「あ、そろそろお夕食の時間ですね」
 果たして。ヨハンのその言葉に織愛も予想通り頷いた。列車は今は森を走っていたので気付き辛かったが、陽は沈んでいる。列車の中には時計はない。曰く、時間を気にせず過ごしてほしいから、なのだそうだが、おそらくはもうそろそろ夕飯の時間であろう。と、織愛の腹時計が言っていた。
「食堂車も気になりますけど……お部屋に運んでもらいましょうか」
 そこで、織愛は一つ咳払い。
「『騒がしいところは好きじゃありません、一人で行ってきてください』……って言われちゃいそうですし~!」
 若干声を低くして何やら雰囲気を作って声真似をしてみる織愛。
「…………いや、なんですかそれは。真似でもしているつもりですか。全く似てませんよ」
 ていうか、額に手を置く姿が何とも気雑多らしくて、あんなふうに見えるのだろうかと若干ヨハン的にはもの申したくなってくる。
「まったまた~。私的には、いい出来だと思うんです……たっ」
「食堂車くらいだったら付き合いますよ……まぁ部屋の方が落ち着けますけど」
 容赦ないデコピンを織愛にさく裂させながら、「人のことをなんだと思っているんだ」と。ヨハンはため息をついた。
「うう。聞いたらヨハンくん、怒ると思うんですよ」
「怒るようなことを思っているという告白でいいんですね?」
 額をさすりながら言う織愛に、ヨハンは容赦なく突っ込むので。織愛はそっと視線を逸らす。
「まあまあまあ。とにかく、お夕飯何にします?」
 これはよろしくない流れだと。ささっと話題を変える織愛に、ヨハンは息を突きながらもメニューを貸してください、と、促すのであった。

「やっぱり、窓辺で景色を眺めながら食べるのはいいですよね!」
 食事を頼んで、相変わらず織愛が賑やかなことを言って、ヨハンがそれを返したりして。
 そんなやり取りをしていると、次第に森の木々は減って行って、そして湖が見えてきた。
「わあ……。ほら、なんだか輝いてますよ、ヨハンくん」
「そうですね。星の灯りだけでここまで明るいのは……」
 珍しいと。ヨハンも口の中で呟く。
 空には満天の星空。湖がそれを映し出して、まるで星空の中にいるかのようだ。
 そうしてそこに、桜が散ってくる。いつであっても満開の桜が咲くその世界は、まるで冬のであることも相まって雪のようにその花びらを散らしていた。
「桜も星も綺麗……ふふ、目玉なだけありますね」
 その中を、夜を切り開くように走る列車。ほう、と織愛は息をつく。
「……今日は来てよかったですね」
 どこか、しみじみとした言葉に。ヨハンも小さく頷いた。
「……まぁ、悪くはない、ですよ」
 こういう、景色を眺めるのは。
「俺は、こういうところは独りでは絶対行きませんでしたし……」
 列車旅、なんて。一人で行くのは考えた以上におっくうだろう。
 織愛が誘わなければ、生涯縁がなかったものに違いない。
 だったら……、
(連れ出されるのも……悪くはないのだろう)
 そんなこと。口には絶対に出せないけれども。
 ましてや、楽しい、なんて。まず絶対声には出さないけれども。
「来て……よくなかったとは思っていません」
 かわりに、これぐらいは言ってもいいだろう、と、ヨハンは思った。
 よかった、と言ったらどんな反応をするだろうか、興味がない訳ではないが……素直に言えたものでもないのだから。
 けれどもその言葉に、にへ、と、織愛はその表情を嬉しそうに崩した。
「私は、来てよかったですよー。それで、ヨハンくんもそうだといいなって思ってました」
 嬉しいですよ、という言葉に、そうですか。と、ヨハンは返す。
 そんな風に、ヨハンははっきりとは言えないけれど……、
「さてさて、食後の珈琲を飲んだらもう一勝負です!」
 ひと段落つけば顔を上げる織愛。やる気である。ふんす、と拳を握りしめる様に、
「勝負には付き合いましょう。……手加減はしませんよ」
 返すヨハンの言葉も、どこか、楽しそうであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木元・祭莉
【かんさつにっき】!

列車探検が一息ついたら。
さあ。ごはんに行こうかー!

切符持った?
お財布も。
あ、ちゃんと鍵かけなきゃ。
鍵はカナタが持っててね!(ハイ)

さ、何食べよっか!
アンちゃんはお肉、カナタはお魚?
おいらはチキン!
あとね、サラダとスープと……パンを山盛りでお願いしマス!

えっ、耳?
そうかなぁ、そんなに動くかなぁ?(ぴこぴこ)
え、アンちゃんも!?
気付かなかったー。よっし、後でもういっぺん!

ん、デザートもウマウマ♪
キャラメル紅茶、おいしい!
え。そりゃおいらの弟だからね!(えっへん)

そろそろ湖見えてきた?
将校さんも、この景色見てるかな。

桜の花びらがびゅんびゅん飛んで行くね。
……楽しんでるといいなあ。


木元・刀
【かんさつにっき】

兄さん姉さんに連れられ、食堂車へ。
二人の向かいに座って。

先ほどまでのカードゲームについて、お喋りを。
嫌なカードを抜かれそうなとき、
兄さんは耳を動かすじゃないですか。
姉さんはお肉を噛む口が止まりますし。

さすがにわかりますよ。(ふふ)
……え、気付いてなかったんですか?

豪華なディナーが終わって、デザートの手配を。
兄さんは、苦いの苦手でしたよね。
キャラメルミルクティに、フルーツパイを。
姉さんは、和風でどうですか?
お抹茶に和栗のモンブランを、ほうじ茶ラテで。
僕は…ミントティにチーズスフレ、マーマレードを付けてください。

楽しそうな二人を眺め、背景にオリオン号が流れ。
美しい。ですね。


木元・杏
【かんさつにっき】
夜。お夕飯を食べなきゃならない(そわそわして)
ん、まつりん、刀。でぃなーへ行こう
二人を連れて食堂車へ

さ、落ち着いたところで
刀、先程のゲームではどのような魔術を?
だって、悉く刀が勝ってた(むむ)
何かこう、ぶあーとする魔法を使ったはず
怒らないから、お姉さんに教えて?

…(理由を聞いて口を両手で隠す)

刀は目ざとい…(くやしそうに)
そ、そんな子にはお肉分けてあ…、あげる(自分のステーキを一切れ刀のお皿にのせて敗北宣言)
ん、わたしは減っても大丈夫。まつりんからもらうから

美味しいデザートにも舌づつみ、まつりんにこそっと
ね、わたし達の弟はすごいね
ふふ、誰に似たのかな

あ、夜桜と列車が
綺麗…



 そうして、祭莉はふーっと息をついた。
「んー。遊んだ遊んだ」
「ちょっと、はしゃぎすぎだと思うのよ」
 そんな祭莉の言葉に、杏がお姉さんっぽく言う。たしなめるように言いながらも、自分も結構楽しかったみたいで、なんだかそわそわしている。そんな杏と祭莉を微笑ましそうに見つめながらも、刀は小さく頷いた。
「もうすっかり夜だから、結構たくさん、遊びましたね」
「夜!」
 刀のその言葉に、はっ。と祭莉が顔を上げる。
「夜」
 そうして杏も、ふと何か重大なことを思い出したような顔をしていた。
「?」
 二人の変化に、怪訝そうに刀は首を傾げようとした……その時。
「さあ。ごはんに行こうかー!」
「夜。お夕飯を食べなきゃならない」
 そう、二人が主張したのはほぼ同時であった。
「ん、まつりん、刀。でぃなーへ行こう」
「そうそう。ごはんごはん!」
「あっ。はい。わかりました。……わかりましたから」
 祭莉が刀の右手を。
 杏が刀の左手を持って。
 こっち、こっち。と同時に歩き出す。その様子に刀も、なるほど。と目元を和らげた。
「大丈夫ですよ、兄さん、姉さん、食堂は逃げません」
「いやいやいや。それとこれとは」
「うん、話がべつっ」
「切符持った? お財布も。あ、ちゃんと鍵かけなきゃ。鍵はカナタが持っててね!」
 いやにてきぱきと準備をする祭莉。
 鍵を受け取って、わかりましたと刀はこたえる。
「ほら、いいから早く早く」
 そうして半ば二人に引っ張られながら、刀は食堂車に連れ去られることになるのであった……。

「あ。可愛い……!」
 食堂車は、レトロで、どちらかというと可愛い雰囲気の食堂であった。
 メイドさんの制服から、テーブルクロスの柄。窓際のカーテンから、テーブルの飾り彫刻迄。花や鳥など、ちょっとかわいい雰囲気で統一されているので、まず杏がそうコメントをして、
「はいはい。おいらはかわいいより美味しいがいいなー」
「兄さん、姉さん、どこの席にします?」
 祭莉の言葉に、刀がざっと周囲を見回す。
 結局、窓際の、景色のよく見える場所に陣取ることにした三人であったが……、

「さ、何食べよっか! アンちゃんはお肉、カナタはお魚? おいらはチキン!」
「え? え??」
「そうね。ステーキの一番大きいのをお願い」
「姉さん。それ大丈夫です? 本当に大丈夫です?」
「大丈夫大丈夫、アンちゃんだもの! じゃあおいらはチキンステーキの一番大きいの! あとね、サラダとスープと……パンを山盛りでお願いしマス!」
「ええ……と、僕は、日替わり魚定食の普通のサイズでお願いします」
 二人の勢いに押されるようにして、大きなサイズを頼みかけて慌てて引っ込める刀。
「……」
「……」
 しかしそうするとじ……っ。と、二人がもの言いたげに見ているので、
「す、すみません、やっぱり大きいので」
 わければいいのだ。ということに気が付いて、慌てて刀はそう言いなおすのであった。

 そんなこんなで、メイドさんがメニューを聞いて立ち去った後。
 そう待たずしてお料理が運ばれてきて。
 仕切り直すように、ポン、と、杏が両手を叩いた。
 もちろん、食事をしながらである。食事をやめるという選択肢は、彼らにはない。
「さ、落ち着いたところで、今日の議題よ」
「はい?」
 至極真剣な顔の杏に、刀は首を傾げる。
「刀、先程のゲームではどのような魔術を?」
「え……。魔術、ですか?」
 魔術と言われて、刀は考え込む。ゲームとは、さっきまでやっていたカードゲームであろう。
 魔術と言われると、心当たりは全くないのだが……、
「だって、悉く刀が勝ってた。しらばっくれても駄目よ」
 刀の言葉に、むすっ。と杏は頬を膨らませて追撃する。騙されないぞ、という強い意思が杏から感じられた。
「何かこう、ぶあーとする魔法を使ったはず。怒らないから、お姉さんに教えて?」
「……」
 そう、しっかりと説明されると、逃げようがない。
 刀はほんの少し、頬を掻いて考えこむ。それを……行ってしまっていいものかと。ちょっと悩んだが、
「……」
 杏の目が、ちょっと怖い。
 怖いので、口を開くことにする。
「魔術は使っていませんけど……わかりますよ」
「そうなの?」
「ええ。嫌なカードを抜かれそうなとき、兄さんは耳を動かすじゃないですか」
「えっ、耳?」
 最初に言われた言葉に、おとなしく聞いていた祭莉が顔を上げる。同時に祭莉の耳がピコピコと動いていた。
「そうかなぁ、そんなに動くかなぁ?」
 ぴこぴこぴこ。
「動いてますよ。姉さんはお肉を噛む口が止まりますし」
「……!」
「え、アンちゃんも!?」
 慌てて、祭莉が杏を見る。杏はそれはもう、非常に、とっても、相当、驚いたような顔をしていて、
「気付かなかったー。よっし、後でもういっぺん!」
 無邪気に言われた祭莉の言葉に、無言で口を両手で隠した後、
「……刀は目ざとい……」
 悔しそうに、敗北を宣言するのであった。
 なんだかその顔が新鮮で。……ほんのちょっぴり嬉しくて。
 刀はふふ、と、微笑む。
「……え、気付いてなかったんですか? さすがにわかりますよ」
「……うう」
 なんだか若干勝ち誇ったような弟の顔が、杏にとっては嬉しいような、悔しいような。
「そ、そんな子にはお肉分けてあ……、あげる」
 なんだかもう、半分泣きそうになりながらも、杏は自分のステーキを一切れ刀のお皿にのせることにしたのだった。これは、完全な敗北宣言である。つまりは、完敗のしるしである。それにちょっと、刀のほうが逆に焦る。
「いや、あの、僕は」
「ん、わたしは減っても大丈夫。まつりんからもらうから」
「あ~れ~。おいらのチキンが~」
 そうして流れるように祭莉のチキンを横取りする杏であった。
 しょぼくれたような顔をしながらも、ものすごく的確に動く杏に、祭莉と刀は顔を見合わせて少し、笑った。

「兄さんは、苦いの苦手でしたよね」
 そして食事が終われば、刀がかいがいしくデザートの注文をする。
「キャラメルミルクティに、フルーツパイを。姉さんは、和風でどうですか?」
「あら、ありがとう。もちろん、いいよ」
「では、お抹茶に和栗のモンブランを、ほうじ茶ラテで。僕は……ミントティにチーズスフレ、マーマレードを付けてください」
 すごく……手際がいいです。
 杏が祭莉のチキンを強奪したのと同じぐらい手早い動作で注文を終える刀。
 そうしてやってくる美味しいデザートにも舌づつみ。
「ん、デザートもウマウマ♪ キャラメル紅茶、おいしい!」
「それは、良かったです」
 美味しい。刀のチョイスももう間違いがない。美味しそうに食べる祭莉に、そ、と、杏も自分のモンブランを美味しそうに食べながら、小さく耳打ちする。
「まつりん、まつりん」
ん-?」
「ね、わたし達の弟はすごいね。……ふふ、誰に似たのかな」
「え。そりゃおいらの弟だからね!」
「楽しそうですね。何のお話ですか?」
 仲良くおしゃべりする二人に、刀が楽しそうに声をかける。
「あ。えっと……秘密よ!」
「おいらたちはカナタがすっごい好きって話してたんだ!」
 二人の声が別々に。しかし同時に流れて、刀は吹き出した。
「もー」
「なんだよー」
 楽しそうにする二人を、刀も楽しそうに見ている。そうしたら……ふと。
「ああ……」
「「??」」
 窓の外を、列車が走っていた。
 満天の星空と、満開で散りゆく桜。そして、水面に映されたかがみ合わせのようなその姿。
 その中を駆け抜けていくオリオン号に、刀は気づいて。
「美しい。ですね」
「あ、夜桜と列車……」
 その言葉に、杏も顔を上げる。
「綺麗……」
「そっか。もう湖見えてきたんだ。……桜の花びらがびゅんびゅん飛んで行くね」
 思わずうっとりとつぶやく杏に、祭莉は目を細めた。
「将校さんも、この景色見てるかな。……楽しんでるといいなあ」
 呟きは今はここにいない誰かに向かって。
 舞い散る桜を見つめながら……、三人はしばし、無言で、同じことを思い遠くに思いをはせるのであった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神狩・カフカ
【朱の社】

腹減ったし夕食にしねェか
おれはビフテキと葡萄酒でもいただこうかな
もちろんお前さんらも飲むだろ?

食堂車に行かずとも持ってきてくれるたァいいねェ
料理も酒も美味い上に景色もよくて…あー、あとはロマンチックそりゃ、りゅうこ次第だろうな
ま、あンだけ昼間騒いだンだからさすがに大人しく…
まだまだ元気そうだな?
いやいや、おれに言われてもなァ…
そうだな…こういうのはさっさと潰しちまうのがいいのサ
ほれ、飲め飲め遠慮すんなって!
あ?おれ?飲んでるって…いや、本当…
ごうこんってなんだ?いや、和子のほうが酔ってるだろ
ありゃ、おかしいな…はふりが二人に見える…
んー?どっちのはふりに行けばいいンだ…?

だめだねむ…


葬・祝
【朱の社】

まあ、飲食しなくても良い身なんですが……一応、雰囲気で頂いておきましょうか
適当にお勧めの物でも頂くとして、葡萄酒はご一緒しましょうかね

そうですねぇ、相変わらず落ち着きはしませんが、この景色が流れて行くのは好きですね
何か、もうひとつ列車が見えるんでしたっけ
並走するならこの部屋からでも見えますかね、窓も大きいですし
ロマンチックとやらを求めるのなら、其方に求めては?
嗚呼ほら、りゅうこ
君、髪の花びら取れてないじゃないですか
桜、残ってますよ
本当、落ち着きのない方なんですから

……と、見ない内に酔ったおばかさんが居ますね
ほら、カフカこっちいらっしゃい
ちょっと水飲ませないと駄目ですかねぇ、困った子


白水・和子
【朱の社】
ホントよ、も〜〜。
なんか疲れちゃったし、美味しいワインでも飲みたいわ。
じゃあ私はお魚かな〜〜、このポワレとかいいかも。

静かな風が頬を撫でて気持ち良い
風景もとても綺麗で
(あとは……静かだったら完っ璧にロマンチックなんだけど〜〜!?)
ああもうそんな乗り出さないの危ないでしょ!?
食べ物じゃないしっ!
はふりくんも見てないで止めてよ〜っ!
カフカさ〜んっ(ヨヨヨと泣きつく)

うふふこのお酒美味し……❤️
ほらほらカフカさんもっと飲んで!全然飲んでないわよ〜ね〜りゅーこさ〜ん?
はれ、りゅうこさんがはふりくんになった…?
ねぇねぇ聞いてカフカさんこの前の合コンでも〜ほんと面白くって
酔っへないってば!

ゔぇっ


片稲禾・りゅうこ
【朱の社】

奇遇だなカフカさん!りゅうこさんもちょうどそう思ってたところだぜ!
(めちゃくちゃデカいお腹の音)
ステーキ!ステーキ!に~く!!
酒もあるのか!?じゃあ乾杯しようぜ!かんぱ~い!

おお~~!星が流れてくみたいだなあ!
(窓からめっちゃ身を乗り出してる)(あぶない)
なんだよ~だって涼しくて気持ちいいぞ!
ん~わかったよう
"ろまんちっく"……っていうのは料理かなんかか?美味いのか?
違うのか……(しゅん)

おお、ありがとうはふり!今日は優しいじゃないか!
うははは!カフカさんこそ飲んで……ってありゃ?なんだよそっちさんが一番弱いじゃないか!
和子は……こっちはこっちでなんか潰れてるな?
も~しょうがないなあ



 戦いは終わった。
 なんの戦いかはわからないが、兎に角終わったのだ。
 殺人事件は起こらなかった。桜は乗務員のお姉さん型が生暖かい目をしながら片付けてくれた。それでカフカはこう思った。「疲れた」と……。
「……腹減ったし夕食にしねェか」
 なので徐に容赦なく食欲に従うことにする。そういえばテーブルの上にメニューがあったはずだ。手繰り寄せながらもカフカは頭の中ですでに食べたいものを組み立てている。
「奇遇だなカフカさん! りゅうこさんもちょうどそう思ってたところだぜ!」
 そしてそれに真っ先に喰いついたのがりゅうこであった。目をキラキラさせて、メニューすら見ずに、
「ステーキ! ステーキ! に~く!! 一番たくさんなのな。一番、たくさん!!」
「はいはい。おれはビフテキと葡萄酒でもいただこうかな」
 物凄く大きなおなかの音を響かせながら、りゅうこがにくにくというので、わかったわかった。ってカフカは頷きながらもメニューを祝のほうへ回す。
「ほら、はふりも食うだろ?」
「まあ、飲食しなくても良い身なんですが……一応、雰囲気で頂いておきましょうか」
 みんなが食べているのに自分は食べないというのも、なんとなくすわりが悪い気がする。と。言いながらも祝はメニューをカフカから受け取り、
「……どうぞ」
「ええ。はふりくん何にするの?」
「適当にお勧めのものを頂きます」
 そのままメニューを和子のほうに渡した。
「疲れただろ。なんでも好きなだけ食べていいぜ」
「ホントよも〜〜。なんか疲れちゃったし、美味しいワインでも飲みたいわ」
 どうせただなのだ。とばかりにいわれたカフカの言葉に、うーん。と和子は若干げんなりしながらもメニューを広げる。
「だな。もちろんお前さんらも飲むだろ?」
 その間にカフカが祝とりゅうこにそう尋ねるので、二人もそろって頷いた。 
「そうですね。葡萄酒はご一緒しましょうかね」
「酒もあるのか!? じゃあ乾杯しようぜ! かんぱ~い!」
 ひゃっほう! とそこでなぜか片手を挙げるりゅうこ。きらきらした目で祝を見ている。祝はため息をついて、その手にハイタッチすると、
「ひゃ~! かんぱーい!」
「……じゃあ私はお魚かな〜〜、このポワレとかいいかも」
 突っ込み疲れたからか、あっさり和子がそう言って呼び出しベルに手を伸ばした……。

 そして、数分後。
「食堂車に行かずとも持ってきてくれるたァいいねェ」
 さすが一等。とばかりにカフカはソファでくつろぎながらテーブルの上に並べられた料理を見ていた。
「じゃあ、もう一度乾杯だな。かんぱーい!」
「何度目ですか? はい、乾杯」
「乾杯。はふり、数えるのもツッコミも無駄な抵抗だ……」
「かんぱーい」
 もう一度改めて。ワインを片手に乾杯をする四人である。そうして何度かりゅうこの乾杯に付き合っていた祝がぼやくので、カフカがそうつっ込んで、そして、
「美味しいお料理。素敵な景色。……あとは……静かだったら完っ璧にロマンチックなんだけど〜〜!?」
 ぐいーっといっぱい飲みほした後、景気良く叫ぶ和子であった。
「料理も酒も美味い上に景色もよくて……あー、あとはロマンチックそりゃ、りゅうこ次第だろうな」
 和子の叫びに、カフカが若干遠い目をする。
「ま、あンだけ昼間騒いだンだからさすがに大人しく……」
 と、カフカが言いかけたその時。
 森ばかりであった視界が開けた。
 楽しく喋っていたので、景色をそれほど注意してみていなかった彼らには、なぜか突然外が明るくなったような気がしただろう。
 その明るさは、月と星の光だ。灯りを遮る森がいつの間にか消え、列車は湖の畔を走っていた。
「ああ……」
 ぼんやりと、祝が呟いた。満天の星空が湖に映し出されている。そして桜の花びらが雪のように降り注いでいた。汽笛が一度、鳴る。大きな音を響かせて、星の中を列車は走った。
「綺麗で……気持ちいいのね」
 思わず、和子も同様に窓の外に視線をやってそうつぶやいた。ほんの少しだけ開けられた窓から、風が入り込んできてそれが心地いい。風景もただ美しくて、祝も、
「そうですねぇ、相変わらず落ち着きはしませんが、この景色が流れて行くのは好きですね」
 素直に思ったままをそういった。素直に好き、と言われている景色を見る目は若干楽しそうであった。……列車お勧めメイドさんスペシャルオムライスを見たときに何とも言えない表情をしていたのが嘘のようである。
「何か、もうひとつ列車が見えるんでしたっけ」
「ああ。そういえば別の列車走るんだったな」
「並走するならこの部屋からでも見えますかね、窓も大きいですし」
 カフカの相槌にも、若干声を弾ませて言う祝。それからふと思い立ったように、
「ロマンチックとやらを求めるのなら、其方に求めては?」
「なるほど……その手があったのね! この列車旅の中で一番きれいに見える景色っていうのを、ぜひ……!」
 がっ。と、拳を握りしめる和子の声に重なるように、汽笛が鳴り響いた。
 ふと、湖の奥の方から、ひときわ大きな輝きが目に飛び込んでくる。
 列車だ。列車の灯りが、星と桜をかき分けて、湖の上を滑るようにして走っているのだ。
 なった汽笛は、この列車からのものであった。
 応えるように、向こう側の列車でも汽笛が鳴っている。
「わ……」
「おお~~! 星が流れてくみたいだなあ!」
 がらがらがらがらがら!!
 和子がうっとりとしようとした瞬間、また一瞬でりゅうこが窓を全開にした。
「ほら! ほら! ほら!! おおい、おーーーーい!!」
 向こう側の列車に向かって叫ぶ。多分向こう側には聞こえてもいないだろう。だが、ちょうどいいところで向こうが汽笛を鳴らした。
「!! 返事してる!」
「ああもうそんな乗り出さないの危ないでしょ!? 下がって下がって」
「えええ。なんだよ~だって涼しくて気持ちいいぞ! ほら、手が、とどくぞ!!」
 言いながらりゅうこは空を掻く。さすがに星には手が届きそうにはないけれども、なんだかそういうと届きそうな気がしてくるので不思議だ。そしてぶわっ。と、桜の花びらがまた入ってくる。割と自然の流れである。
「……まだまだ元気そうだな?」
 思わずカフカの呟きが漏れた。
「はふりくんも見てないで止めてよ〜っ! カフカさ〜〜んっ~~~~~!!」
 身を乗り出すりゅうこ。流れてくる櫻。もう和子は泣きそうである。というか半泣きで声を上げて振り返ると、そっと祝とカフカは視線をそらした。解せぬ。
「いやいや、おれに言われてもなァ……」
 完全に、「やる前から無理だ」みたいな顔をしているカフカであったが、何より和子の顔を見て、むぅ、とりゅうこは身を引いたのであった。
「ん~わかったよう」
「ああ、ロマンチックが……」
「"ろまんちっく"……っていうのは料理かなんかか? 美味いのか?」
「食べ物じゃないしっ!」
 えーん。とこれ幸いと思ったか否か。カフカに泣きつきに行く和子に、
「違うのか……」
 しゅーん、とりゅうこが肩を落としている間に、列車たちは離れていくのであった。

 そして。
「そうだな……こういうのはさっさと潰しちまうのがいいのサ。ほれ、飲め飲め遠慮すんなって!」
 若干やけくそのように出されたカフカの案に、
「そうね……。それがいいと思うの! ほら、飲んで!」
 和子は乗った。
「お、おう……?」
 その勢いにりゅうこは押されて頷いたりもしていたのだが……。

「嗚呼ほら、りゅうこ。君、髪の花びら取れてないじゃないですか」
 言って、そっと祝がりゅうこの髪についた花びらをつまんだ。
「桜、残ってますよ。本当、落ち着きのない方なんですから」
「おお、ありがとうはふり! 今日は優しいじゃないか!」
「今日も、です。私はいつも優しいですよ」
「そうなのか……!」
 割とツッコミどころの多かった台詞だろうが、今日はもはやつっ込む人たちはいない。
 なぜかというと……、
「へへへこのお酒美味し……❤️ ほらほらカフカさんもっと飲んで! 全然飲んでないわよ〜ね〜りゅーこさ〜ん?」
「あ? おれ? 飲んでるって……いや、本当……」
 うひひひひひひひひひ。
 うへへへへへへへへへ。
 比較的ツッコミ方面の二人は、すでに出来上がっていた。
「はれ、りゅうこさんがはふりくんになった……?」
「ああ? んなわけないない。ここは、ほら。あれだ。ありゃ、おかしいな……はふりが二人に見える……」
「うははは! カフカさんたちよく飲んで……ってありゃ? なんだよそっちさんが一番弱いじゃないか!」
 何だか面白おかしい方面になってる二人に、りゅうこが目を丸くして、祝はそっと口元に手を当ててため息をついた。
「……と、見ない内に酔ったおばかさんが居ますね。ほら、カフカこっちいらっしゃい」
「んー? どっちのはふりに行けばいいンだ……?」
 祝の言葉に頭をふらふらさせるカフカ。
「……ちょっと水飲ませないと駄目ですかねぇ、困った子」
「ねぇねぇ聞いてカフカさんこの前の合コンでも〜ほんと面白くって~」
「ごうこんってなんだ? いや、和子のほうが酔ってるだろ」
「酔っへない、酔っへないってば!」
「和子は……こっちはこっちでなんか潰れてるな?」
 でれんでれんになっているカフカと和子を見て、祝とりゅうこは顔を見合わせる。
「ゔぇっ」
「りゅうこ。危険です」
「はっ。和子!! さすがにそれはだめだとりゅうこさんは思うぞ! も~しょうがないなあ」
 りゅうこさんに常識を説かれた。
 慌てるりゅうこ。冷静に対処する祝。そうしてぐだっぐだになっている和子を横に、
「だめだねむ……」
 もう限界、とばかりにカフカはそっと目を閉じた。
 おやすみなさい。目が覚めたらきっと、なんかいい感じに素敵な現実が広がっているはずだ。……多分!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オリオ・イェラキ
思い出されましたの
…そう、あちらに
では思うまま、ご覧になって
悔いの無いように

昼食のお弁当も美味しかったですもの
是非食堂車で夕食を頂きましょう
楽しみですわ

ここより眺めるオリオン号…きれいね
殿方の執着も頷けますわ
大切な人達が乗っていると思えば、尚更
今度は夫とあの列車へ乗りましょう
楽しみがまたひとつできましたわ

そう、ステーキおかわりを
ふふ…わたくしこうみえても食べる事好きですの
おすすめの料理他にあるかしら
ワインも合うのがあれば是非

素敵な星夜と美味しい料理を一緒に堪能できてとても幸せ
忘れませんわ、影朧と成っても望んだ程の光景を

あのシリウスのように煌く星へ願いましょう
殿方の最期が安らげる夜の中である事を



 影は言った。
 そこに、いるはずだと。
「思い出されましたの……そう、あちらに」
 食堂車のひとつの席に座って、オリオはそんなことを呟いた。昼食が終われば、お茶を頼んで。そんな風に、この食堂車でゆっくり流れて行く景色を見るのは、楽しかった。
 景色が移り変わっていく。町に。山に。また街に。雪の被った森に入れば、次は湖だ。
 そんな景色を、すべて覚えている。移り行くその色を、ただ楽し気に見つめている。
「……では思うまま、ご覧になって。悔いの無いように」
 傍らに佇む影朧に、微笑んでそう声をかければ。
 影は少し、揺らいだ気がした。
「昼食のお弁当も美味しかったですもの。是非食堂車で夕食を頂きましょう。……楽しみですわ」
 にっこり微笑むと、嬉しそうな返答のような。そんな気配がわずかに返ってくる。
 きっと、「そういっていただけると嬉しいです」と「皆も喜びます」と言っているような気がした。
 なんとかたどたどしく会話をしていたその影は、今は本当にもう薄くなってきていて。
 会話も、なんとなく雰囲気は伝わるのだけれども本当のところはわからない、というような風になってきていた。
「……」
 オリオン号まで、大丈夫だろうかと。
 何となく、オリオは思って。……そして、
 汽笛の音が聞こえた気がして、オリオは顔を上げた。オリオン号か。シリウス号か。双方が挨拶のように、汽笛を鳴らしあったような、そんなところであった。

 湖畔だ。列車が湖の傍を走っている。
 天には星と桜。そうして地にも星と桜。
 そのまるで小さな宇宙のような空間を、流れ星のように駆けてくる列車が一つ、あった。
 オリオン号だ。
 オリオン号は、まっすぐにシリウス号に近づいてくる……と思いきや、方向を転じて並走を始めた。
 湖の向かい側。星と桜の中を、列車が走っている。
「ここより眺めるオリオン号……きれいね」
 自然と、そんな言葉がオリオから漏れた。オリオは目を細めて、殿方の執着も頷けますわ、と、かすかに頷く。
「大切な人達が乗っていると思えば、尚更……」
 きっと、乗っているのだろうと。オリオはそう思った。そうしてふと顔を上げる。
「今度は夫とあの列車へ乗りましょう。……楽しみがまたひとつできましたわ
 影が少し、笑った気がした。
「そう、ステーキおかわりを。ふふ……わたくしこうみえても食べる事好きですの」
 そうして、オリオは近くにいたメイドさんに声をかける。メイドさんはほんの少し、影を怖がるようなそぶりをしていたが快く引き受けてくれた。
「おすすめの料理他にあるかしら。ワインも合うのがあれば是非」
「畏まりました」
 足早に去っていくメイドさんを、微笑むように見送って。それからオリオは影を見上げる。
「素敵な星夜と美味しい料理を一緒に堪能できてとても幸せ。……忘れませんわ、影朧と成っても望んだ程の光景を」
 囁くようなその声に、影はゆっくりとオリオを見て。
「ああ……。ありがとうございます。私も……」
 楽しかったと。微かに言ったような気がした。
「……あのシリウスのように煌く星へ願いましょう。殿方の最期が安らげる夜の中である事を……」
 星に願う。そんな祈りに応えるように、
 遠くで、汽笛が聞こえた気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
天の川の如き夜景を
並走する列車達
願いを乗せた流星群のよう

やがて分かたれる汽車の走路は
此れからを往くもの
間もなく去り逝くものの象徴みたいで
少し寂しいけれど
満足気に消えゆく影朧へ
淡く笑んで深い一礼を贈ろう

シリウスは最も明るい星の名でしょう
此の列車の輝きは
きっと
人々の心に
いつまでも輝き続けます

素敵な旅路を
ありがとうございました


窓の外
舞うのは花弁か、星の欠片か

次はオリオン号にも乗ってみたいですねぇ
其の時は一緒に如何

流れ去る車体を見送りつつの呟きは
もはや姿無き彼には届かぬ願いだけれど
頷く気配を感じた気がして
そっと笑んで瞼を閉じる

いつか転生が叶ったならば
見知らぬ者同士、隣の席で
袖振り合う縁も
素敵に違いない



 天の川の如き夜景を、綾はただ、静かに見つめていた。
 遠くで汽笛が聞こえる。こちらからも、こたえるかのように、オリオン号からも。
 まるで列車同士の挨拶をしているみたいだと、綾は思った。
 闇を切り裂くように、列車は走る。並走している。湖を挟んで、向こう側とこちら側。どちらも桜と星のソラの中を、願いを乗せた流星群のように飛んでいく。
「ああ……」
 ぽつんと、綾は呟いた。窓から見えるのは、列車の姿。まるで一つの絵のような姿。……きっと向こう側からも、同じように見えていくだろうか。
 ふと、気配を感じて綾は顔を上げた。
 窓辺に一つ、影が佇んでいる気がした。
 影はもはや輪郭をなくし、表情をなくし。ただその手に、しっかりと手紙を握りしめて立っている。
 綾の視線に、気づいたのか。
 そっと、影が綾のほうを見た、気がした。
「……シリウスは最も明るい星の名でしょう」
 だから不意に、綾はそんなことを言った。
「此の列車の輝きは、きっと人々の心にいつまでも輝き続けます」
 聞こえているのか、いないのか。それもよくわからない。それでも綾は言いたかったのだ。
「素敵な旅路を……ありがとうございました」
 ほう、と。
 ため息のような返答があった。
 きっと、嬉しいのだろうと。綾は何となく思った。
 それから、影はまた窓の外を見たようだったので。
 綾も、窓の外に目を向ける。
「……」
 ああ。朧な何かが喜んでいると。
 その気配で、なんとなく感じながら。

 並走している列車は、ずっと一緒にいられるわけではなく。
 徐々にそのコースが外れて、また別の道を走って行く。
 此れからを往くものと、間もなく去り逝くものの象徴みたいで。
 綾には少し……寂しかったけれども。
「行ってらっしゃい……いい、旅を」
 最後に。もはや全く姿形がわからなくなってしまった影が、
 ゆっくりと窓の外へ手のような何かを伸ばして、窓に触れた瞬間その形をなくしたので。思わず、綾はそう声を出した。
「次はオリオン号にも乗ってみたいですねぇ。……其の時は一緒に如何」
 そして、続くように呟いた綾の声を聴く者はいない。もちろん、返事もない。
 ただ、どこか頷くような気配が一つだけ、あって。
 綾は淡く笑んで深い一礼を贈った。
 そうして顔を上げたとき、何者かの気配はすでに、完全に消失していた。

 そっと笑んで瞼を閉じる。
 列車が走る音がする。
 やがてこの列車は海へと行くのだという。
 だったら、オリオン号は。そして、彼はどこで行くのだろう。
「そう。また。……いつか」
 いつか転生が叶ったならば。見知らぬ者同士、隣の席で袖振り合う縁も……きっと素敵に違いない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鵜飼・章
『そんなはずはない』って
『ありえなくはない』と同じ意味でしょう
きみがそう言うんならそうだ
あの列車にはきみの奥さんと子供が乗っている
僕はそれでいいよ
その話は本当だった方が面白いと思った

窓の外はすっかり夜で
鴉達がついてきているかわからないな
これはまあどちらでも良いや

手元はかなり暗いし
列車が揺れて線も引きづらいけど
並走する二本の列車と湖の絵を図鑑に描く
写真のほうが綺麗にうつるけど
視えないものを描いていいのが絵の良い所だ
頁はちぎって影朧さんにあげるね
きっと真上から見たらこんな感じだよ

僕は普通に写真を撮ってごろ寝する
後はオリオン号の車窓に向かって
意味もなく手を振ってみたり
ほら、今の人
奥さんかもしれないよ



 章は図鑑に線を走らせる。
「『そんなはずはない』って、『ありえなくはない』と同じ意味でしょう」
 そんなことを嘯いて。出不精な彼はごろ寝を決め込むはずだった客室から這い出してきたのだ。しょうがないので食堂車に居座り図鑑を広げる。ご注文はクッキーと珈琲で、目はその注文だけで何時間も粘る人間のソレをしていた。
 本当は手元はかなり暗いし、列車が揺れて線も引きづらいけど、自室に引きこもって描くつもりではあった。
 ただ、影朧がふらふらと食堂車のほうへと移動してきたので、仕方なしについてきたのだ。重たい図鑑やらなんやらを抱えて。
「僕って、かなり人がいいと思わない?」
 とってもいい人みたいだよね、という言葉に、残念ながら影朧は返事をしてくれなかった。いい人って、言ってくれてもよかったのに。

 窓の外は夜。花が散り、そして星が散らばっている。湖は天を映し、星空に照らされてまるで自分たちも本物の星のような顔をしてその水面を輝かせていた。
「きみがそう言うんならそうだ。……あの列車にはきみの奥さんと子供が乗っている。僕はそれでいいよ。その話は本当だった方が面白いと思った」
 図鑑に線を走らせながら、章は言った。ぼんやりと、その近くで佇む影に。
 もはや聞こえているのか、いないのかもわからない。影朧の輪郭は曖昧で、もはやそこか空気に滲んで、そのまま溶けてしまいそうな様相を呈していた。
 窓の外はすっかり夜で、鴉達がついてきているかわからない。これはまあどちらでも良いけれど。このままこの影も外に出てしまえば、きっと闇のように溶けて何にもわからなくなってしまうのだろう、と章は思う。
 さて、それがいいことなのか、悪いことなのか。決めるのは章ではないけれど……。
「ほら……出来た」
 闇を切り裂いて、走る列車がある。それを見ながら、章は思う。それは空から見た図であった。
 湖と、並走する二本の列車。水面に散る星と桜の花びらの中、二つの列車はまるで正座を繋ぐような線にも見える。
「……まあ、写真のほうが綺麗にうつるけど」
 本当に列車がこんな形をしているのか、湖がこんな形をしているかは章は知らない。それでも、視えないものを描いていいのが絵の良い所だと章は思った。そうして出来上がった絵を、ためらいなく章は破く。
「ほら、これ。影朧さんにあげるね。きっと真上から見たらこんな感じだよ」
「……」
 先ほど手紙を返して、持たせるのと同じようにして持たせたら、影は静かにそれを握りこんだ。章は満足げに頷いた。
 影は影だ。
 もはや、何が本当かなんて、わかっていない唯の影だ。
「じゃあね。ばいばい」
 だから、それで章にとってはおしまい。ついでに車窓から写真を撮って、さっさと客室に引き上げることにする。
 客室で見たオリオン号は、次第に進路を変えてシリウス号から離れていくところであった。
 さて、あの影朧はもう消えてしまっただろうか。家族には会えただろうか。……そんなこと、章には関係ないけれど。
 だから、章は意味もなくオリオン号の車窓に向かって手を振った。本当に意味はなかったのだけれども、
「ほら、今の人。奥さんかもしれないよ」
 そういってごろりとベッドに転がれば、汽笛の音が遠くに聞こえた。気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『列車に揺られて』

POW   :    まったりと食事

SPD   :    車両を探検

WIZ   :    外の景色を楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 宴は終わった。
 列車は湖を離れ、再び森に入る。
 その後は森を抜ければ市街地にまた入り、そして港に出るだろう。
 いつでも窓から空を見れば、星空が共にある。天候はすごぶるいいらしい。

 ぼう、と、汽笛が聞こえる。
 汽車のものではない。船のものであった。
 明け方。まだ日も登らぬうちから港を出る船の汽笛を聞きながら、列車は海際を走る。
 ほんの少し寂れた漁村、北の湖にはちらちらと、雪が降り積もっていた。
 もういくつか、山とトンネルを抜けると。
 終着駅につくだろうか。
 列車は走る。暫くはずっと海際だ。暗闇に汽笛を聞いて、徐々にその闇が払われて行くのを待つ。
 そうすると暗闇に光が灯る。海の向こう側から日が昇り……そして霧がともに現れた。海面近くを流れる霧に包まれて、夜が明ける。早朝、まだ眠っている人の多い時刻のことであった。
 まだ夢うつつの、静かな海を列車が走る。
 海鳥がそれを追い越して、遠く何処かへ羽ばたいていった……。

※マスターより
三章:時間帯は深夜~明け方まで(当初は深夜のみの予定になりましたが、明け方も大丈夫です)。
わかりやすく言うと、夜中の12時ぐらい~6時ぐらいです。
列車の音を聞きながら眠ったり、いつまでも映っていく景色や星空を見つめたり、
ふっと夜中に目を覚まして外の景色を見たり、朝日が昇るのを見たり、お好きにどうぞ。
勿論徹夜で遊ぶとか飲むとかも大丈夫です。大きな声を出しても、基本周囲に影響はないものとします。
尚、終着駅には朝10時着ぐらいを予定しておりますので、そこまでは描写しません。
食堂車は営業しております。お気軽に。
また、リュカも同行しております。
三章に限り、声をかけていただければ参加します。
基本彼は寝ないで平気なので、深夜まで食堂車に居座って本を読んだり窓からの景色を眺めているでしょう。
誰かと一緒に寝たりは、性格上出来ませんが、声をかけられたら個室とかに顔出すぐらいはします。


●途中参加について
三章のみの参加もOKです。その際は、最初から乗っていても、途中の停車駅で乗ってきたでも、どっちでもOKです。

●スケジュールについて
1月31日(日)8:30~2月3日17:00までの募集を予定しております。
再送の可能性が高いです。
再送が発生した場合は、プレイングが返ってきたその日の23時までにプレイングを再送いただければ幸いです。
(それ以降でも、あいていたら投げてくださってかまいませんが、すべてを書き終わっている場合は、その時間をめどに返却を始めますので間に合わない可能性があります。ご了承ください)

それでは、良い一日を。
葬・祝
【朱の社】

寝る必要もないし、飲みすぎて潰れた子も居ますから、起きるまで窓の外でも眺めながらのんびり待つとしましょうか
悪戯しないで待っていて差し上げるんですから有り難く思ってくださいね、カフカ

はい、起きてますよ
おはようございます、カフカ
冷えた水でも飲んでしゃっきりしてくださいな、お酒くさいですよ君たち三人共
ま、潰れたおふたりとぴんぴんしていたりゅうこを同列に呼ぶのもあれですが

あら、確かに良い景色
棲処やお社での朝焼けもなかなか良いもんですが、此処も悪くないですねぇ

さ、あとは着くまでに身支度をしておきましょうね
女性陣はせめてその髪何とかなさいな
カフカ、君もですよ
全く、しょうのない人たちなんですから


神狩・カフカ
【朱の社】

んぁ…寝てたな…いつの間に
あたた…頭いっっった…はふり~起きてるだろォ?
ん、おはようさん
水くれねェか?ありがとよ…
はふりはともかくりゅうこも起きてたのか?まじか…
いや、はしゃいでたのはそっちだろーが!
つーか潰れてる間に朝になりそうじゃねェか
このまま夜明けでも拝むか

ははっ
さすが締め切り明けの朝焼けとは訳が違ェや
こういう景色なら何度でも見てェもンだ
ま、最後くらいはロマンチックになったんじゃねェか?
これで和子も満足してくれるだろうよ
そうだなァ、また旅するのも悪くねェな

あ~もう一眠りしてェくらいだが…
うはは!よく見りゃお前ら凄ェ髪してるな!
は?おれも!?
えっ、ちょっ、はふり!直しとくれや!


片稲禾・りゅうこ
【朱の社】

は~…不思議な夜だなあ……
ん~?なんだよはふり、りゅうこさんが静かにしてるのがそんなに変か?
りゅうこさんだっていつも騒いでるわけじゃないぞ~だ

おお~、おはよう二人とも!気分は……あんまりか?
あんまりはしゃいで飲み過ぎるのは良くないんだぞ~~
なあはふり……えっなんだよその目は

そうそう、きっともうすぐだぞ~……そらっ
う~~~ん……やっぱり綺麗だなあ!でもなんだろうな、いつもと違う感じがするっていうか……
……ん?これが"ろまんちっく"ってやつなのか?…なるほどなあ

………えっ?なに?りゅうこさんも?なんで??
りゅうこさんは別にこのまま……うわあなんだ和子!?
くすぐったいぞ和子~~!うははは!


白水・和子
おあよ〜〜うぅ……あたま痛ぁ……
今何時ぃ…?え、朝?嘘、嘘嘘嘘は!?夜あけてるじゃんったぁ〜!頭が……!
何よそれぇ……私にもお水頂戴……うぅ、顔洗ってくる…。

ていうかなんでりゅうこさんそんなケロっとしてるわけぇ?はふりくんに至ったては……なんかいいわもう。

ホント、綺麗……。
綺麗、なんだけど……〜〜!!……はぁ、もう良い。今はこの綺麗な景色を楽しむことにします。
ずうっと見ていたくなるこの景色を、ね。
なら、また来る?そしたら見れるでしょ。

……なんか良い感じに締めようとしてるけど騙されないからね!
……確かにロマンチックだけど……けど。
って髪!?忘れてた〜!!ほらりゅうこさんも動かないで!



 がたん……ごとん、と。
 列車の音がしている。
 祝は窓際で空を見つめていた。
 彼は寝る必要がなかったから。月が昇って、星が瞬いて。それが傾いて。そうして空が白み始めるのを見つめていた。
 そうして彼は覚えた。列車がトンネルを抜けたときの、景色が変わる美しさを。通過する街の、夜の静けさを。草原をかける風の心地よさそうな揺らぎを。そうして、海辺を、遠く旅立っていく船の姿と汽笛の音を。……そんな、
「うぅ。うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「が……ぐ……も……食べられない……」
 情緒をかき消す、酔っぱらいたちのうめき声たちを。
「……」
 ちらりと景色から視線を室内へと戻す。
 世にもまれに見る大惨事。飲みすぎて潰れたカフカに和子。潰れてないけど静かなりゅうこ。そんな三人を見ていると、いつの間にか口の端がかすかにあがる。
「は~…不思議な夜だなあ……ん~? なんだよはふり、りゅうこさんが静かにしてるのがそんなに変か?」
 そんな祝の表情に気付いたのか。同じく静かに窓の外を見ていたりゅうこが首を傾げた。本当に静かにしていたりゅうこなので、ええ。と祝もすまし顔で、
「お酒に何か悪いものでも入っているのかと思いましたよ。りゅうこが静かだなんて」
「むぅ~。りゅうこさんだっていつも騒いでるわけじゃないぞ~だ」
 ぷ、と頬を膨らます。その瞬間、うーん。とカフカが寝返りを打ったので、慌ててりゅうこは己の口の前に手をやった。
「りゅうこさんはこれで出来るりゅうこさんなので、こういう時は静かにしているのだ」
「それじゃあ、こういう時でなくてもたまには静かにしてくださいね」
 りゅうこの言葉に祝は返して。その瞬間、竜子の代わりに和子が何故か「は~~~い」と返事をしたので、二人は顔を見合わせて、思わず肩をすくめた。
「……悪戯しないで待っていて差し上げるんですから有り難く思ってくださいね、カフカ」
 この祝とりゅうこが、のんびりと、ただ景色を見ながら待つだなんて。
 我ながら珍しいこともあるものだ、なんて。祝は自分で自分に対してそう思うのであった。

 そうして海の向こう側から景色が白み始めるころには、
「んぁ……寝てたな……いつの間に……」
 何かどこからか這い出してきたかのような声とともに、カフカが虚ろに頭を上げる。
「あたた……頭いっっった……はふり~起きてるだろォ?」
「はい、起きてますよ。おはようございます、カフカ」
 まるで潰れたカエルのような声ですね。とまではいわないけれどもそんな感じの声とともに起き上がってくるカフカ。その気配が、和子の意識も呼び覚ましたのか……、
「おあよ〜〜うぅ……あたま痛ぁ……」
「おお~、おはよう二人とも!」
「ひゃっ!!」
 もそもそと起き上がってくる和子に、思わずりゅうこが声をかけると耳を抑えて再び家族はうずくまった。結構キーン、ときたようだ。なのでりゅうこはあっちゃー。と、そんな顔をする。
「気分は……あんまりか? あんまりはしゃいで飲み過ぎるのは良くないんだぞ~~。なあはふり……」
「ん……、ああ。ああ。おはようさん。水くれねェか? ありがとよ……」
「まだ渡してませんよ。はい、どうぞ。冷えた水でも飲んでしゃっきりしてくださいな、お酒くさいですよ君たち三人共」
「……えっなんだよその目は。何でりゅうこさんも入ってるんだよ」
 胡乱気な意識のまま手を伸ばすカフカに、祝が水の入ったグラスを握らせる。そのまま同じ酔っぱらいを見るような眼で和子とりゅうこも見るので、りゅうこが思わず抗議の声を上げた。
「りゅうこさんは大丈夫だったんだぞ。一緒にしたらだめだぞ」
「ま、確かに潰れたおふたりとぴんぴんしていたりゅうこを同列に呼ぶのもあれですが」
 そこは、認めざるを得ない。そんな顔をしている祝に、水を飲んでカフカは頭を抱える。
「はふりはともかくりゅうこも起きてたのか? まじか……」
 なんか、それがものすごい一生の深く、みたいな顔をしているので、竜子が頬を膨らませて何か言おうとした……ところで、
「今何時ぃ……? え、朝? 嘘、嘘嘘嘘は!? 夜あけてるじゃんったぁ〜! 頭が……!」
 微かな陽光を感じて和子が一瞬で覚醒した。覚醒した瞬間に激しい頭痛に見舞われた。またうずくまりながらよろよろと、和子も祝へ向かって手を伸ばす。
「何よそれぇ……私にもお水頂戴……うぅ、顔洗ってくる……」
「はい。いいですからまずは飲んでください。落とさないようにしてくださいね」
「うう。ていうかなんでりゅうこさんそんなケロっとしてるわけぇ? はふりくんに至ったては……なんかいいわもう。」
 言いかけて、お水を飲んで、あきらめた。
 死んだ魚のようだった目に、徐々に光が戻ってくるのを見ながら、ふんす、とりゅうこは腰に手をあてた。
「二人ともはしゃぎすぎたんだぞ。りゅうこさんたちは節度ある大人だったから大丈夫だったのだ!」
「いや、はしゃいでたのはそっちだろーが!」
 なぜか自信満々な言葉に、カフカは突っ込んで。あーーーーー。とか唸りながら顔を上げた。
「つーか潰れてる間に朝になりそうじゃねェか。……このまま夜明けでも拝むか」
 海の向こうが白み始めている。
 もうじき、陽が昇るだろう。
 まぶしい。と目を細めながら言うカフカに、祝も窓の外に目をやる。
「あら、確かに良い景色。棲処やお社での朝焼けもなかなか良いもんですが、此処も悪くないですねぇ」
 酔っぱらってないが故の余裕を醸し出していた。
 言葉通り、海の周囲が白く輝いて、そして日が昇っていく。
 その刹那の景色が、
「そうそう、きっともうすぐだぞ~……そらっ」
 海面から顔を出す太陽が。いつも以上に輝いているように見えて。わくわくしたりゅうこの声とともに、登っていくその朝日に、カフカもくしゃくしゃと己の頭を掻く。
「ははっ。さすが締め切り明けの朝焼けとは訳が違ェや。こういう景色なら何度でも見てェもンだ」
「う~~~ん……やっぱり綺麗だなあ! でもなんだろうな、いつもと違う感じがするっていうか……」
 これはいいな。と、息を吐くカフカ。そして若干小難しい顔をして頭を抱えるりゅうこ。なのでカフカは、
「ま、最後くらいはロマンチックになったんじゃねェか?」
「……ん? これが"ろまんちっく"ってやつなのか? ……なるほどなあ。これが……」
「ああ。これで和子も満足してくれるだろうよ」
 やり切った……みたいな言い方をするカフカに、やり切ったのか……! と目を輝かせるりゅうこ。若干、それ違うと思う、と思いながらも祝が和子に視線をやる。で、和子はというと、
「ええ。ホント、綺麗……」
 と、一息ついて、
「綺麗、なんだけど……〜〜!!」
 なにかいいたげに。ちがーう!! と言いたげに、言葉をためてから、
「……はぁ、もう良い。今はこの綺麗な景色を楽しむことにします」
 肩を落とした。
「……」
「な、なによーっ」
「いえ、なにも」
 くるくると変わる表情を面白げに見ていた祝であったが、和子に絡まれて何事もなかったかのように横を向く。ふん、と和子は息を吐いて、
「まあ、綺麗は綺麗だしね。管を巻いててもしょうがないし、楽しみましょ。ずうっと見ていたくなるこの景色を、ね」
 と、割り切ったように言ったので、カフカも小さく頷いた。
「そうだなァ、また旅するのも悪くねェな」
「なら、また来る? そしたら見れるでしょ」
「おっ。また二人ともつぶれるのか?」
「潰れないわよ!」
 りゅうこがわくわくとした顔でまぜっかえし……たというより本気で言ったのかもしれないが……、祝は肩をすくめる。
「今度は、ほどほどにしてくださいよ」
「あぁ。気を付ける」
 カフカがそう言って手を振ったころには、太陽は完全に登っていた。
 ……その後、
「……って、なんか良い感じに締めようとしてるけど騙されないからね! ……確かにロマンチックだけど……けど……けど!! 私はロマンチックを求めてるんじゃなくてロマンチックに付随するロマンスを求めているのよー!!!」
 景色だけロマンチックでどうするの、という和子の声が、のちに客室に響いたとか、響かなかったとか。

「あ~もう一眠りしてェくらいだが……」
 そうして夜はあけて、カフカは大きく欠伸をする。確か時刻表によると、終電は近い。もうそんなにゆっくりしていられない時間帯だと思われる。でももうちょっとぐらい……と、思いかけた、ところで、
「うはは! よく見りゃお前ら凄ェ髪してるな!」
 不意に、女性人たちに目を向けてカフカは気づいた。二人とも髪の毛が逆立っている!!えらいこっちゃ。美人が台無しだ。
「さ、あとは着くまでに身支度をしておきましょうね。女性陣はせめてその髪何とかなさいな」
 大笑いするカフカに、祝がそう言葉を添える。それでがっ!! と和子は己の頭に手をやった。
「って髪!? 忘れてた〜!! ほらりゅうこさんも動かないで!」
 とさかになってる!! と叫んで、隣を見るとりゅうこも偉いことになっていた。思わずその腕を引っ張る。
「………えっ? なに? りゅうこさんも? なんで??」
 りゅうこはわかっていない。髪ぐらいいいじゃん、死にはしないんだから、と言いたげな口調であったが、
「問答無用よ!!」
「りゅうこさんは別にこのまま……うわあなんだ和子!? くすぐったいぞ和子~~! うははは!」
「あはははは。二人とも急がないと列車から降りれないぞ~」
 車庫に一緒に入っちゃうぞ。なんて笑うカフカ。そんなカフカに、
「カフカ、君もですよ」
「は? おれも!?」
 祝の容赦ない一言が襲う。はっ。とカフカが鏡を見ると、そこにはやけにロックな髪形をした自分がいた。
「えっ、ちょっ、はふり! 直しとくれや! 櫛、とりあえず櫛!」
 さすがにこのロックさは洒落にならない。一転、大騒ぎしだすカフカに、祝は今日何度目かわからない気がするため息をついて、
「全く、しょうのない人たちなんですから」
 そんなことを言う、その顔は。
 やっぱりどこか、楽しそうにほんの少し、笑っていた。 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

叶・景雪
アドリブ歓迎
難しい漢字は平仮名使用
名前以外カタカナはNG

列車って早いしけしきもおもしろかったから、あっという間だったよ!
夜はあのお兄さんが言ってた、一番きれいなけしきが見られるんだよね?
どきどきして、ねむれそうにないよ。
すてきな助言だったから…せっかくだし、りゅかさんとも
いっしょに見てみたいなぁ。おさそいしてみるね!
「さくらと星の中をかけぬけるんだって!りゅかさんにはどんな風にみえて…あ!大きな声じゃなく、小さい声がいいよね?けしきも列車もびっくりさせちゃいけないしね」
(しーと口を両手で隠し小さく笑いかけ)
「やさしいけしき、だね」
りゅかさんのおかげで、また一つすてきな思いでができてうれしいな!



「夜はあのお兄さんが言ってた、一番きれいなけしきが見られるんだよね?」
 景雪がそう言って、ものすごくキラキラした目でリュカを見たとき、
 リュカは、若干何やら眩しそうな目をしながら、ものすごい勢いで何事かを考えこんでいるようであった。
「……」
 リュカは基本、割と、言うべきことは何でも言う。歯に衣着せない自覚はある。人の心の機微に疎いので、割と細かいことは考慮しない。だが……、
「どきどきして、ねむれそうにないよ。すてきな助言だったから…せっかくだし、りゅかさんとも、いっしょに見てみたいなぁ……」
 へへへ。と微笑む景雪。……だが、さすがに、ちょっと、言いづらくて。
 その景色は、もう過ぎ去っているよ、とは言いにくくて。
 リュカは「ちょっと待っていて」と言いながらも、静かに、だができるだけ速やかに。乗務員に今後のコースを聞きに行ったという……。

 幸いなことに、湖畔を通るコースはほんの少しだけれどももう一か所だけあるらしい。
「さくらと星の中をかけぬけるんだって!」
「うん。そうっぽいね」
「りゅかさんは、星が好きだから、うれしい?」
「んー……嬉しい、かな?」
 あまり景色を見て喜びを感じることが少ないリュカであるが、
「思い返してみれば、嬉しいかもしれない」
「おもいかえしてみれば……」
 その言い回しに、なるほどー。と景雪はなんだか感心したように言う。
「それよりも……来るよ」
「本当??」
 それで、リュカがふと指をさした。ずっと湖を中心に少しさかえた街中を走行していた列車が、また湖畔を通ったのだ。
 景雪は、思わずそちらに目を向けた。
 美しい景色だった。先の見えない、遠い遠い湖。そこに満天の星空と、桜の花びらが散っている。
 月と星の光で充分に湖畔は明るい。そして湖がその星と花びらを映し出して、さながら星の中を走っているように見えた。
「りゅかさんにはどんな風にみえて……あ! 大きな声じゃなく、小さい声がいいよね? けしきも列車もびっくりさせちゃいけないしね」
 はしゃぐような景雪の声。それから、慌てたようにしーと口を両手で隠し小さく笑いかける。そうだね、とリュカは小さく頷く。
 走行は、一瞬のことであった。景色はまた、市街地に戻る。
 それでも、その一瞬の美しい景色を、景雪は目に焼き付けた。
「終わっちゃった……」
「うん。いい景色だったね」
 それを、名残惜しそうに景雪は見つめて。それから小さく頷く。
「やさしいけしき、だね」
 ため息をつくように、景雪は言った。目を閉じると、またその景色が浮かんでくる。
 一瞬だからこそ、目に焼き付いたのかもしれないな、なんて。リュカはそう思った。
「列車って早いしけしきもおもしろかったから、あっという間だったよ!」
「……ん、良かった」
「りゅかさんのおかげで、また一つすてきな思いでができてうれしいな!」
「え? そう?」
「うんっ」
 笑顔の景雪に、そっか。とリュカは小さく頷く。そう言って貰えるとやはりうれしい。
「あ、ほら、景雪さん、あそこ」
「え、なに?」
 ふと、惹かれる景色にリュカが指をさす。それに景雪も思わずそっちを見たりして、
 夜は更けていくのであった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

グィー・フォーサイス
結都(f01056)が既に眠そうだ…

日付が変わったら部屋の光を少し絞って
心地よい揺れに身を任せ、君と列車旅を楽しむよ
秘訣…
慣れじゃないかな
あとは楽しいおしゃべりやカードゲーム?
無理して起きていなくても大丈夫だよ

僕は早起きタイプさ
うん、仕事が朝早いからね
寝る時間はいつもバラバラだけど
翌日仕事がある日は早めに休んでいるよ
欲張って日の出と朝焼けも見ちゃおうか
眠たくても、お昼寝すれば平気さ

ころんと転がれば星が見える
結都が知ってる星はある?
新しく自分で作るのもいいな
あれは僕座
…結都、寝ちゃった?

結都の声がだんだんと夢に落ちていったなら
部屋の灯りを消してしまおう
おやすみ、結都
朝日が登る頃に起こしてあげるね


桜・結都
グィーさん/f00789 と

いつもは眠っている時間に起きているのは、
なかなか……大変……ですが、
せっかくの列車旅ですし、起きていましょう

日も変わりましたね
列車の音と、部屋の光と、他の部屋に人がいる気配と
いつもの夜とは随分違います
賑やかで楽しい夜は出来るだけ長く味わいたくなってしまいますね
長く起きているための秘訣なんてあるでしょうか
食堂車で珈琲をいただいてこようかな……

グィーさんはいつもは眠っている時間ですか?
お仕事で朝は早そうですよね
星空も見たいですけど、陽の出もまた恋しくて
どちらも欲張って見てみたいのですが

うとうと少し微睡んで
遠く聞こえるグィーさんの声に心地良さを感じながら、目を閉じましょう



 微かに列車の揺れる音がしている。
 夜も更けて周囲も寝静まってくると、昼間は聞こえなかったそれが聞こえるようになってきていた。
 グィーは何となく窓の外を見る。そろそろ日付が変わるころだろうか。
 そんなことを思いながら傍らの結都に目をやると……、
 彼はすでに、眠たそうにこっくり、こっくり、と、舟をこいでいた。
「大丈夫? 結都」
 部屋の光を少し絞って、グィーは尋ねる。グィーの言葉に、ん、と、結都はうつらうつらしながらも懸命に頷いた。
「いつもは眠っている時間に起きているのは、なかなか……大変……ですが、せっかくの列車旅ですし……」
 起きている。頑張る。と言いながらも、どうにも眠そうな結都の言葉にグィーは微笑んで、そう。と、心地よい揺れに身を任せることにした。そうです。と、結都も頷き、頷き、しながら、
「日も変わりましたね。……列車の音と、部屋の光と、他の部屋に人がいる気配と……。いつもの夜とは随分違います」
 なんとか。眠らないように言葉をつづける。
「そうだね。僕だって、こんな機会はめったにないさ」
「ほんとうに? だったらなおのこと、賑やかで楽しい夜は出来るだけ長く味わいたくなってしまいますね」
 グィーの言葉に、結都は微笑む。それから小さく、欠伸なんかをしたりして、
「うぅ。食堂車で珈琲をいただいてこようかな……」
 言いながらも結都は立ち上がらない。というか、立ち上がれない。その様子がなんだか楽しくてかわいくて、グィーはいいから、とっ声をかける。
「無理してはいけないよ。眠いときには、眠ってもいいじゃないか」
 そもそもこの揺れが眠りを誘う。しょうがない。というグィーに、結都はふるふると首を横に振った。
「そんな、勿体ない……。長く起きているための秘訣なんてあるでしょうか」
「秘訣……。慣れじゃないかな。あとは楽しいおしゃべりやカードゲーム? けれども本当に、無理して起きていなくても大丈夫だよ」
「はい……。じゃあ、もう、少しだけ。カードゲームは、ルールを覚えられる自信が……」
「はいはい。もう眠たいものね。大丈夫だよ」
「ん……」
 無理はしなくてもいい。わかってる。わかっているのだけれども何だか勿体なくて。そういう結都は、この一日を終わらせてしまうのが悲しくて、言葉をつづける。
「グィーさんはいつもは眠っている時間ですか? お仕事で朝は早そうですよね」
「僕は寝る時間はいつもバラバラだけど、朝は早起きタイプさ。うん、仕事が朝早いからね。翌日仕事がある日は早めに休んでいるよ。だから、これくらいの時間帯にはもう寝てるかなあ……」
「なるほど……」
 なら、一緒ですね。なんて言う結都の言葉が溶けていく。うん、うん、と、グィーは頷いた。
「欲張って日の出と朝焼けも見ちゃおうか。眠たくても、お昼寝すれば平気さ」
「ええ。……ええ。どちらも欲張って見てみたいのですが……」
 星空も見たいですけど、陽の出もまた恋しくて。
 そうしたいと思いながらも、だんだん結都の意識は沈んでいく。
「結都が知ってる星はある? 新しく自分で作るのもいいな」
 ふふ、と笑う声が気持ちいい。気持ちいいから、その中で微睡むのも心地いい。耐えきれずに、結都はゆっくりと目を閉じた。すぅ、と。なにか波のように一瞬で、結都の意識は遠ざかっていく。
「あれは僕座……あ。結都、寝ちゃった?」
 そうして、うつらうつらとした返答もなくなったので、グィーがそっと声をかけた。
 結都からの返答はない。ただ、かすかな寝息が聞こえたので、
「……ん。きっと、いい夢が見られると思うよ」
 そういって。グィーは部屋の明かりを消した。
 暗闇に列車の音がする。それから、ほんのかすかな寝息。
「……おやすみ、結都。朝日が登る頃に起こしてあげるね」
 優しいその音楽に、グィーもそういって。
 ふと空を見ると満天の星空が瞬いていた。その中で、グィーはゆっくりと目を閉じるのであった。
 きっと目が覚めれば、綺麗な朝日を見られるだろう……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

新海・真琴
【炎桜】
ベルンハルトと並んでソファーに腰掛けて、お酒を楽しむ
景色はすぐに流れてしまうけど、星と月はゆっくり空を歩むから
オリオン座と月が綺麗だねー

ボクはね、焼酎派。芋焼酎をロックで
素焼きのナッツがおやつの夜食さ。小腹がすくしねー……別腹だよ?あげないよ!にゃー!
(手を猫の手のようにして冗談めかして威嚇のフリ。きっとオオヤマネコ)
いいよ、ちょっとだけあげる
……君が飲んでるお酒、一口飲んでみてもいいかな?
ボクのも君に一口あげるよ
うん、こっちもおいしい

「ボクも愛してるよ、ベルンハルト」
ぎゅーっと抱き締め返すよ。えへへ、なんか、フワフワするな。心がね

ふふふ、幸せって、温かいんだね
(指を絡めて)


ベルンハルト・マッケンゼン
【炎桜】
ソファベッドに彼女と並んで腰掛ける。
サイドテーブルにはお酒のボトルとグラスを。
グラスを傾け夜景を眺めて、ゆったりと二人だけの時間を過ごす。

私は、スコッチウィスキーをダブル、ロックで。
グラスに注げば、カランと氷が音を立てる。
……Wunderbar.

おーい、そこの可愛い山猫ちゃん。ミックスナッツを少し頂きたいな、わぉーん!
(狼の遠吠えを真似て)
ありがとう、ではグラスを交換して……偉大なハンターと狩猟の女神に、乾杯!

お酒を楽しんだら、隣の彼女の肩に手を掛けて、そっと身体を引き寄せる。
「真琴、おいで。愛している、よ……」
そのまま顔を寄せて、優しくキスを交わす。

……あぁ。幸せの味わいは、甘いな。



 真琴とベルンハルトはソファベッドに腰を掛ける。
 そうすれば視界には満天の星空が広がっていて。それが何とも言えず綺麗だった。
 丁度今は、低い木々の森の中を列車は走行していて、
 木々の形は変わるのに、星と月はゆっくり空を歩むから。なんだか不思議だと、真琴はお酒を一口、口につけてそんなことを呟いた。
「オリオン座と月が綺麗だねー」
 ちなみに真琴は焼酎派。芋焼酎をロックである。
 隣で同じように腰を掛けてくつろいでいるベルンハルトは、スコッチウィスキーをダブル、ロックであった。
 ベルンハルトがウィスキーをグラスに注げば、カランと氷が音を立てる。
 そのままサイドテーブルにボトルを置いて、ベルンハルトはグラスを傾けながらも真琴の言葉に応えるように空を見た。
「……Wunderbar」
「ああ、本当に」
 満天の星空を見て、好きなお酒を飲む。
 何とも幸せなことかと、真琴はふふ、と微笑んで。それからサイドテーブルに手を伸ばす。
 素焼きのナッツがおやつの夜食だ。わくわくした顔でナッツをつまむ真琴に、ベルンハルトは瞬きを一つ。その視線に気づいたのか、ふふふ、と真琴は笑った。
「いいでしょ。小腹がすくしねー……別腹だよ? あげないよ! にゃー!」
 そのままその視線に、手を猫のようにする。そうして威嚇の振りをする。きっとオオヤマネコのつもり。勿論冗談であるが、割と頑張って声は似せてみた。そんな真琴にベルンハルトは笑う。
「おーい、そこの可愛い山猫ちゃん。そのミックスナッツを少し頂きたいな、わぉーん!」
 こちらはお伺いする狼のよう。遠吠えをまねて言うベルンハルトに、だーめ。と真琴はそっと横を向く。
「おや、ちょっと意地悪かい?」
「そう。ちょっと意地悪な振り。……いいよ、ちょっとだけあげる」
 言ってみただけだった。はい、あーん。と、ナッツを差し出す誠に、あーん。とベルンハルトはそれに応える。
「かわりってわけでもないけど……君が飲んでるお酒、一口飲んでみてもいいかな? ボクのも君に一口あげるよ」
 それからそんな風に可愛く言われては、勿論、応えないわけにはいかない。ベルンハルトと真琴はグラスを交換する。
「ありがとう、では……偉大なハンターと狩猟の女神に、乾杯!」
「うん、乾杯!」
 カラン、と気持ちのいい音が響いて、うん、こっちもおいしい。と。真琴は満足げに笑って頷いた。

 そうやって賑やかなようで緩やかな時間は過ぎていく。
 たわいのない会話をして。それで笑いあって。美味しくお酒を飲んで。
 それからベルンハルトが、真琴の肩に手を掛けて、そっと身体を引き寄せたのは、もうそろそろ日付も変わったころであった。
「真琴、おいで。愛している、よ……」
 抱き寄せて、そのまま顔を寄せる。そっと優しくキスをすれば、
「ボクも愛してるよ、ベルンハルト」
 真琴も嬉しそうにそれに応えて、ギューッとベルンハルトを抱きしめ返した。
「えへへ、なんか、フワフワするな。心がね。……なんでかなあ」
 不思議だね、と首を傾げる真琴。その言葉にベルンハルトが少し考えこむ。考えた末に、
「それは……幸せだ、ととらえて構わないのかい?」
 なんて尋ねたので、真琴は一つ、瞬きをした。その瞬間、ふわ、と真琴の表情が崩れる。
「ふふふ、幸せって、温かいんだね」
 指を絡めて、嬉しそうにいう真琴に、ベルンハルトも頷いて、
「……あぁ。幸せの味わいは、甘いな」
 そっと、ささやくように呟くのであった。
 空には満天の星が輝いている。
 景色が変わっても、その姿と場所を変えることがない、星が。
「ボクたちも……あの星みたいに、ずっと一緒にいられたらいいね」
 あの星、と、真琴が指をさしたのは、寄り添うように輝く二つの星で。
 そうだな、とベルンハルトも頷いて。そうして抱きしめる腕に力を込めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
うーん、何か寝付けねえなぁ。
久々に列車旅なんかしたから、気持ちが舞い上がってるんかもしれねぇ。
それとも、よっぽどこのシリウス号の雰囲気が性に合っちまったか。
……しゃあねえ。眠くなるまでは起きてっか。たまにはこういうのも悪くねえよな。

食堂車でもらった温かいミルクを啜りながら、窓から見える夜空を眺めたり、日記を書いたり、ランプの暖かい光を眺めて物思いに耽ったり、相席になった猟兵仲間と会話したり。

リュカが居るんなら、一応声もかけておく。
そっちは何をしてんだ?

そんなこんなで眠気が忍び寄ってきたら、客車に戻って寝る準備に入る。
……明日の朝はどんな風景が見られっかな。楽しみだ。



 嵐はごろんと寝返りをうった。
 さすがに人の寝静まった三級客室は、物音が絶えしんとしていて。どこからともなく列車が移動する音が、静かに聞こえてきていた。
 人がいる気配はするけれども、特にかかわってくる人もいない。
 なんだか不思議な空間だな、と顔を上げると、丁度窓の外の月が目に入った。
 月に森の木々がかかっている。と、言うことは、今は森を走行中だろうか。
 少し前と違い、空を覆うほどの木々ではないのでこうやって見る星もいいかもしれない。
 そんなことを思いながらも、嵐は身を起こした。
(……うーん、何か寝付けねえなぁ)
 旅慣れている嵐だ。場所がのせいで眠れないなんてことはないだろう。
 だったら、何だろう。と、考え込んで。それで嵐は首を傾げた。
(久々に列車旅なんかしたから、気持ちが舞い上がってるんかもしれねぇ。それとも、よっぽどこのシリウス号の雰囲気が性に合っちまったか……)
 どっちかは、自分でもわからなかった。けれども眠れない時は眠れないものだ。嵐はそれを知っている。
「……しゃあねえ。眠くなるまでは起きてっか。たまにはこういうのも悪くねえよな」
 よいしょ、と体を起こすと、迷惑にならないように静かに、音を立てずに嵐はベッドから抜け出す。
 薄暗い廊下は、何とも冒険心をくすぐるように静かに続いていて、
 嵐はそっと、歩き出した。

「おっ」
「ん」
 食堂車だけは、灯りが煌々とついていた。
 とはいえさすがに人影はまばら。席に着いたら温かいミルクを頼んで、ぼんやりと窓から見える夜空を眺めつつ。嵐はふと肩越しに振り返り声をかける。案外近くに見知った姿……リュカが座っていたからだ。
「そっちは何をしてんだ?」
「んー……多分、読書?」
「なんだそりゃ」
 多分って何だ、多分って。と、言うとリュカのほうも目を眇めて、
「そういうお兄さんは、何してるの?」
「む」
 やってきたミルクに口をつけながら、嵐はしばし考えこむ。
「窓から見える夜空を眺めたり、日記を書いたり、ランプの暖かい光を眺めて物思いに耽ったり……をこれからする」
「……なるほど」
 と、いうわけで嵐は徐に日記帳を広げる。時々ぽつりぽつりと何かをいうと、ぽつりぽつりとリュカの方も返したので、読書に「?」が付いたのは間違っていなかったのかもしれない、とぼんやりと思う。日記の隅の方にそんなしょうもないことも書き加えておく。
 日記のページはすぐに埋まって、それでランプの光を見ているとなんだかそれで眠たくなってきた。物思いにふけるなら、何がいいだろうか。そんなことを物思いにふけっていたら余計にうとうとしてきて軽く欠伸をすると嵐は立ち上がる。
「じゃ、おれは寝るぞー」
「はい、おやすみ」
 軽く声をかけておくと、ひらひら手を振って見送られた。さて、この眠気がどこかに行ってしまわないうちに捕まえて、寝てしまおう。
 旅人は、眠い時にきちっと寝ることも大事なのだ。
「……明日の朝はどんな風景が見られっかな。楽しみだ」
「さあ。海が……見られるんじゃない」
 海、好き? と、最後に聞かれたが、とりあえず答えは保留しておくことにする。
 食堂車を出て、客室へ。ベッドにもぐりこむと、ほどなく嵐は眠りに落ちた。
 きっと次目が覚めたときには、その世界はまた一変しているだろう。それを、思い描きながら……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
ハロゥ、ハロゥ、リュカ。
今日もイイ天気ダネー。
賢い君も元気ダヨー。

何してるー?空見てるー?

コレは寝れない寝れない。
たーのしくて眠れないンだ。
だからココに来た来た。

アァ……何かイイモノ見つけた…?

列車は動いているケド、星は動かないねー。ネー。
列車から見える星は同じ場所にあるンだ。
不思議不思議。
賢い君も不思議って言ってる。

リュカ、リュカ
温かい飲み物を飲みながら星を見よう。

冬には温かい飲み物を飲んで星を見るきまり。
うんうん。きまりなンだ。
リュカがいつもしていたカラそうかと思った。

あの星はエンジ星、あっちは賢い君星
アァ、あれはリュカ星。

温かい飲み物も美味しい
コレは大満足。



 がた、ごと、と。
 列車の音が響いている。
 さすがに深夜も回れば食堂車は人がいたとしても静かで。
「ハロゥ、ハロゥ、リュカ」
 そんな静けさを意に介さず、エンジは目の前の人物に声をかけた。
「今日もイイ天気ダネー。賢い君も元気ダヨー」
 声をかけられる前から、エンジの気配を感じていたのだろう。さほど驚いた様子もなく、リュカも顔を上げて少し、笑った。
「こんにちは、エンジお兄さん。お兄さんは?」
「コレ? これも元気ダヨー」
「それは良かった。あ、席。どうぞ」
「はーい。お邪魔するするー。あとなんか温かいもの貰うー」
 エンジの言葉に、了解。と言ってリュカはメイドさんを読んで自分用の珈琲と、特に希望はなさそうなエンジにホットミルクを頼んだ。
「同じじゃない?」
「うん。お兄さん寝れなくなったら困るでしょう?」
 さすがにこの時間に珈琲は。というリュカに、エンジは瞬きをして、そう、それ。と、大いに頷いた。
「コレは寝れない寝れない。たーのしくて眠れないンだ。だからココに来た来た。リュカは何してるー? 空見てるー?」
 そもそももう寝れなくなってるから大丈夫、という雰囲気を醸し出しながら、エンジは窓の外を指さす。空。との言葉にリュカも顔を上げると、ちょうど建物のない、草原のようなところを走っていたので。窓の外には満天の星空が広がっていた。
「アァ……それとも、何かイイモノ見つけた……?」
「いや……。いうなれば時間を潰してただけ、かな……?」
 本は面白かったけれどもね。と、言いながらリュカは手にしていた文庫本を示す。面白いけど、別にいいものというほどでもない、というような曖昧な感じで、
「だって、俺にはすることがないんだもの」
「ふぅん?」
「だから、お兄さんが声をかけてくれてよかった」
「なるほどなるほどー。賢い君も、それならよかったって言ってる」
「そっか。よかった」
 なんて、話をしている間に飲みものがやってくる。
 それを二人、のんびりと啜りながら自然と窓の外に目をやった。
「列車は動いているケド、星は動かないねー。ネー」
「んー?」
「列車から見える星は同じ場所にあるンだ。不思議不思議。賢い君も不思議って言ってる」
「そう……かな?」
 言われて、じっくりとリュカは星空を見る。
「そういえば、そうかも。星が遠いところにあるからかな?」
 なんでだろうね。と、リュカも少しだけ、考えた。
「よく……わからないな。UDCとかで調べれば、きちんとした理屈がわかるかもしれない」
 今度調べてみよう。と、リュカが心の中にメモしているように呟いたので、
「リュカ、リュカ。だったら温かい飲み物を飲みながら星を見よう」
 徐にエンジは言って、ほらほら、と、ホットミルクのカップを軽く揺らした。
「もう飲んでる。お兄さん、温かい飲み物好きなの?」
 何となく、乾杯、とでもいうように、リュカが自分のカップをエンジのカップに合わせる。
「冬には温かい飲み物を飲んで星を見るきまり。うんうん。きまりなンだ」
「そうなんだ」
「リュカがいつもしていたカラそうかと思った」
「……そう、なんだ」
 解説に、若干リュカは驚く。
「俺は……夜には、それぐらいしか、することがなかったから。それしか知らないだけで。普通の……普通の人が、夜にどんなふうに暮らしているか、俺は知らないんだ。普通の人は、夜中そんなに、星を見ないかもしれないよ」
 だって、自分はそうではなかったけれども、普通の人は夜は家に入るものだから。
 考えた末にそう言うリュカに、なるほどなるほど、とエンジは訳知り顔で頷いた。
「コレも「フツウノヒト」がどうしてるかなんか知らない知らない。コレも「フツウノヒト」じゃないからそれでイイ」
「……なるほど」
 それで、何やら納得したようにリュカは頷いた。「たいへん、よろしい」と。その頷きにエンジはご機嫌に笑った。
「あの星はエンジ星、あっちは賢い君星。……アァ、あれはリュカ星」
「ええ。どれ、どの星?」
「アノ星」
「……さっき言ってた星と、全然違う場所さしてる気がするけど?」
「じゃあ、アノ星」
 さらに位置がずれた。けれども指さした先を見て、そうなんだ。と、リュカも笑う。
「じゃあ、その星を繋いで星座でも考えようか」
「セーザ……?」
「なんか、皆星を見たら星座星座いうんだ。だから、そういうものらしいよ」
 そうして二人して、星を見ていよう。
「星はキレイ。温かい飲み物も美味しい。コレは大満足」
 きっとそれは……とても、楽しいから。夜を過ごすすべとしては、悪くはないはずだ……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シホ・イオア
シホの光で暗い所をうろうろすると目立つだろうし
眠っている人の邪魔になるかもしれないから食堂車にでも行ってようかな。
夜の列車は初めてだから寝ちゃうのがもったいない気がするんだよね。

窓から夜景を見つつこの旅を思い起こそう
乗る前の出来事や食堂車での食事
窓から見える湖や向こうを走る列車
シホにとっては楽しい物だったけど
影朧にとってはどうだっただろうか?

この旅が彼にとって良きものでありますように。

アドリブ連携歓迎。



 シホは何げなく目を開けた。
「シホの光で暗い所をうろうろすると目立つだろうし、眠っている人の邪魔になるかもしれないから食堂車にでも行ってようかな……」
 周囲は寝静まっていて、静かな世界の中、がたん、ごとん、列車が動く音がしている。眠るまで気が付かなかったのは、きっと周囲が静かに見えてもやはり賑やかだったからだろう。人が起きていることと、眠っていること。それだけでも違いがあるようで、それもまたシホの好奇心を駆り立てた、
「夜の列車は初めてだから寝ちゃうのがもったいない気がするんだよね……」
 言いながら、客室を出る。すでに寝静まった三等客室の廊下。カーテン一枚で阻まれているだけだから、なんとなく人の気配がする。眠っているものも、眠っていないものもきっといるだろう。そっと、シホは廊下を進んだ。

 食堂車はまだ、人の活気というか、人の気配が満ちていた。
 24時間営業のその車両は、人数は少なくなったもののメイドさんたちが立ち回り、ちらほらと猟兵の姿も見られる。
 シホは窓際の席の、テーブルの上に腰を下ろして天を見上げた。
 窓からは、美しい星空が映っていた。丁度、市街地を通過しているところで。寝静まった地に、星々が美しく瞬いている。
「……」
 それを見ながら、シホは今日の旅を何となく、思い起こした。
 乗る前の出来事や食堂車での食事。
 窓から見える湖や向こうを走る列車。
「シホにとっては楽しい物だったけど……影朧にとってはどうだったのかな?」
 思い出しながら、何とはなしにぽつりと、シホはそうつぶやいた。
 答えはない。知る機会もきっともうないだろう。けれど、
「……この旅が彼にとって良きものでありますように……」
 そうつぶやくと、列車が音を立ててほんの少し、揺れた気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】
高揚していた気持ちが少しずつ落ち着いてしまうので
その名残惜しさから寂しさを感じてしまうのかもしれませんね
……物寂しさついでに、もう暫しこうして居ましょうか?

自分の隣の席を示すように叩いてみせれば
隣へと座り、身を寄せてくる彼に微笑みながら重ねた手を握る

心地良い揺れと身を寄せた所から伝わる体温
静かな時間は次第に眠気を誘い、瞼が重くなっていく

名前を呼ばれている気もするが、その声にも安心してしまうのか
どうにも閉じた瞼は開いてはくれない

もう少し……もう少し、このままで……まだ、離れたくないです

ちゃんと伝わったかどうかすらも自分では分からない
それでも自分の我儘を聞いてくれる

もう少し、甘えていたい


篝・倫太郎
【華禱】
宴の後ってなんで寂しさ感じるんだろな……

景色の変化にそう紡げば
抗い難い……抗う理由もない夜彦の申し出
その申し出に笑いながら隣へと居場所を移す

あんたの隣は温かいし、落ち着く

そう伝えながら掌を重ねて寄り添って
列車の音と振動を楽しむ

話しても話さなくても
夜彦と過ごす時間は心地いい……
なんて思ってたら、肩にちょっとした重さ
隣を見遣れば、うとうと微睡む夜彦の姿

夜彦、夜彦
寝るなら寝台に横になりな

そう、囁くように告げ
返ってくる応えには小さく笑う

俺と一緒に居る時は本当によく眠るし
寝惚けて素直だ……なんて思いながら

ん……お望みのままに、だ

そう囁き返して、夜彦の望みを叶えよう
何なら、一つの寝台で寝たっていい



 列車の動く音が聞こえてくる。
 夜になり、きっと列車自体が寝静まり、音が響くからだろう。
 がたん、ごとん、という。音が耳に残って、倫太郎はそっと目を細めた。
「宴の後ってなんで寂しさ感じるんだろな……」
 その音は、時々聞いたはずだ。昼間も、夕食時にも。けれども今、何とも物悲しく耳に残るのはなぜだろうかと、倫太郎は思う。
 それはあるいは……夜彦が隣にいるからかもしれなかった。
 夜彦が隣にいれば、沈黙も怖くはない、から。
 いつの間にか無言になって、音が耳に残るのかもしれないと。
「……高揚していた気持ちが少しずつ落ち着いてしまうので、その名残惜しさから寂しさを感じてしまうのかもしれませんね」
 だっていうのに、夜彦はそんな情緒のないことを言う。いや、倫太郎の言葉に、真剣に考えている証だろう。それがわかってるので、倫太郎もちょっと笑ってしまう。……と、思ったら、
「……物寂しさついでに、もう暫しこうして居ましょうか?」
 もうそろそろ寝る時間かもしれないけれども、まだ……少し。
 夜彦がそっと、自分の隣の席を示すように叩いてみせる。
「……だな」
 抗い難い……抗う理由もない夜彦の申し出に、倫太郎は小さく笑って夜彦の隣に腰を下ろした。
 そっと身を寄せる。手を重ねて、触れあっている場所が暖かくて。
 夜彦は微笑みながら、重ねた手を握りしめた。
 がたん、ごとん、と緩やかに。
 木々の景色から、田舎の景色に。それから草原へと、窓の外はうつろっていく。
「……あんたの隣は温かいし、落ち着く」
 けれども、変わらないものがある。それを伝えたくて、倫太郎はそういうと。寄り添ったまま列車の音と夜彦の振動を楽しむように目を閉じた。
「心地いいですね……」
「ああ……」
 列車の揺れもあるけれども、こうして身を寄せ合っていることが何よりも気持ちよくて。
 互いに、それ以上言葉を発しはしなかった。
 けれども、それは別に不快な沈黙ではなくて。
 暖かい部屋と、穏やかな空気。そして緩やかに過ぎていく時間は、
 幾千の星の輝きよりも、二人にとってはまばゆく大切なものであったのだ。
「倫太郎……」
 ぽつりと、呟く。んー? と、返した言葉が、夜彦に届いたかどうかはわからない。
 ちょっとした重さが、倫太郎の肩にかかる。目を開けて隣を見ると、微睡む夜彦の姿があった。
 丁度倫太郎は、夜彦と過ごす時間は心地いいと思っていたところだったので。向こうも同じように思ってくれていたことが嬉しい……半面、
「夜彦、夜彦。寝るなら寝台に横になりな」
 このままだと明日、体が痛くなってしまう。と、倫太郎はそう告げた。
 そんな声を聴きながら、夜彦はうつらうつらと落ちかけた瞼を何とか開こうとする。
 倫太郎が自分を呼ぶ声が、聞こえている気がするが聞こえていなくて。
 もっと聞いていたいような気がするけれどもそれが言葉にならなくて。
 どうにも閉じた瞼は開いてはくれないので。かろうじて夜彦は口にした。
「もう少し……もう少し、このままで……まだ、離れたくないです」
 ちゃんと伝わったかどうかすらも夜彦自身では分からない。
 微かな夜彦の言葉に、僅かに倫太郎は目を見開き、それから、嬉しそうに微笑んだ。
「もー。ほんと、夜彦は」
 何とも言えずに緩む表情。
(俺と一緒に居る時は本当によく眠るし、寝惚けて素直だ……)
 そういうところも、好きだなあ。なんて思いながら、
「ん……お望みのままに、だ」
 囁き返すその言葉に、夜彦も半ば夢の中に向かいながら、嬉しそうに微笑んだ。
(もう少し……もう少し、だけ……)
 それでも自分の我儘を聞いてくれるこの人に。
 もう少し、甘えていたいと。
 言葉にならぬまま、夜彦は眠りの中に引き込まれて行き、
 わかってる、とばかりに倫太郎は優しく頷くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸櫻沫

起きてるわよ?
リルったら、もう眠ってしまったのかと思ったわ
お子様だものね、なんて揶揄ってみる
膨らむ人魚のかぁいらしいこと

星空を見ていたの
リル、はい
ホットチョコレートよ
星の光は、遥か過去から届くひかりだと言うけれど…だとしたら何だか、不思議ね
星の瞬きは一瞬なのに、まるで永遠のよう

黎明を共に迎えるの?
いいけれど、リルはもう眠そうよ
うふふ
強がりね

暗い空をみているとずうと明けないのでは無いかと不安になるわ
どこか深い闇に堕ちていくような
……!
…ありがとう、リル
優しく柔く人魚を撫でる
そばに居てくれて、ありがとう
私は進むわ
迷っても転んでも私の路を

リル、空を見て
太陽が顔を覗かせたわ
あら……寝ちゃった?


リル・ルリ
🐟櫻沫

櫻宵、もう寝た?
ふふー、僕はまだ起きてるよ
ヨルは寝ちゃったけどね
お子様じゃない!

お布団からそうと抜け出して寄り添い流れていく星空を見上げる
手渡されたほっとちょこれぇとがあったかい
お空が星空のトンネルみたい

うつらうつら夢心地
むう
寝てないよ
僕は櫻と夜明けをみるんだ
僕の生まれ育った場所は常夜の世界で
真っ暗な空が明けるのが不思議だった

大丈夫だよ
どんなに深い夜だって哀しみだって、苦しみのトンネルだって
ちゃんと進んで歩いていけば、抜けられる
明け空と出会えるんだ
櫻……大丈夫
君がもし、深い闇におちてしまっても
僕は傍にいるよ
一緒に泳いでいくんだから

眩い朝が顔を覗かせるのと
僕が眠りにおちるのは
きっと、同時



 お布団で二人。
 おやすみなさいと目を閉じれば、穏やかな闇とかすかな列車の音がする。
 動く列車に合わせて世界も動くから、いつもとはほんの少し違うそのお布団に、リルは軽く寝返りを打った。
「櫻宵、もう寝た?」
 ほんの少し、眠れなくて。
 声をかけたリル。
「起きてるわよ? リルったら、もう眠ってしまったのかと思ったわ」
 その声に、柔らかに返事が返る。大好きな櫻宵は、暗闇でもくすくすと笑っているのが何となくわかった。
「ふふー、僕はまだ起きてるよ。ヨルは寝ちゃったけどね」
「あら。お子様だものね」
「もうっ。お子様じゃない!」
 揶揄う櫻宵に、リルは頬を膨らます。それが暗闇でもはっきりわかって、かぁいらしいこと。と、櫻宵は笑った。
 リルは布団から抜け出して、櫻宵のいる方へ。櫻宵はソファに腰かけていて、
「星空を、見ていたの。……リル、はい。ホットチョコレートよ」
 隣にきたリルを見て、優しく笑った。そうして差し出されたホットチョコレートを、リルはお礼を言って受け取る。
「ほっとちょこれぇと……」
「好きでしょう?」
「うん。あったかい……」
 そう言いながらも、二人して窓の外を見ていた。
 湖はなくなっても、変わらずそこには星がある。景色は変わり、流れるけれども、変わらないものも確かにあって、
「お空が星空のトンネルみたい……」
 ポツン、というリルに。そうね、と櫻宵は頷いた。
「星の光は、遥か過去から届くひかりだと言うけれど……だとしたら何だか、不思議ね。星の瞬きは一瞬なのに、まるで永遠のよう」
 歌うように、櫻宵は言う。リルはホットチョコレートを握りしめながら、その声を心地よさそうに聞く。
 うつら、うつらと夢心地だ。手もあったかければ、隣り合った体温も暖かい。櫻宵の声は何より大好きだし、それだけで……、
「あら?」
 と。ふと櫻宵が声を上げるので、
「むう。寝てないよ」
 リルは反射的に、声を上げた。
「そうなの?」
「そうなの。僕は櫻と夜明けをみるんだ」
 気持ちだけは、強く。かろうじてリルは言葉を紡ぐ。
「僕の生まれ育った場所は常夜の世界で、真っ暗な空が明けるのが不思議だった。だから……」
「黎明を共に迎えるの? いいけれど、リルはもう眠そうよ」
 そっと。櫻宵は優しく声をかける。一緒に夜明けを見るのは楽しみではあったけれども、眠そうなリルに無理はしてほしくなくて。大丈夫? なんて尋ねてみると、こっくり、リルは頷く。
「大丈夫。……大丈夫だって」
「うふふ。強がりね」
 とりあえず気を付けて様子を見ていよう。と、心に決める櫻宵に、若干うつらうつらしながらも、リルは大丈夫、と、繰り返すのであった。

「……暗い空をみているとずうと明けないのでは無いかと不安になるわ。どこか深い闇に堕ちていくような……」
 そんな、リルが起きているのかいないのか。わからないような状態だったからだろうか。
 ふと、櫻宵はささやくように星を見ながらそんな言葉を口にした。
「大丈夫だよ」
 そこに、かえってきたのはリルの声。さっきまでの、起きているに対しての大丈夫だろうか、と最初は櫻宵は思ったけれども、その声はいつも以上に、しっかりした声をしていた。
「どんなに深い夜だって哀しみだって、苦しみのトンネルだって。ちゃんと進んで歩いていけば、抜けられる。……明け空と出会えるんだ」
「……!」
 はっ。と櫻宵はリルを見る。リルはしっかりした目で、
「櫻……大丈夫。君がもし、深い闇におちてしまっても、僕は傍にいるよ。一緒に泳いでいくんだから」
 はっきりとそう告げたので、櫻宵は一呼吸おいて、
「……ありがとう、リル」
 優しく柔く、リルを撫でた。
「そばに居てくれて、ありがとう。……私は進むわ。迷っても転んでも私の路を」
「うん。……一緒にいるよ。ずっと……」
 優しい声に、櫻宵は嬉しそうに微笑む。……と、
「リル、空を見て。太陽が顔を覗かせたわ」
 頬に陽光を感じて、櫻宵は視線を窓の外に向けた。
 いつの間にか海が連なり、そこから日の光が昇っていたのだ。
 櫻宵がリルを促す。……けれども、
「あら……寝ちゃった?」
「ん……」
 リルは櫻宵の方にもたれかかるようにして、そっと目を閉じていた。
 きっと、眩い朝が顔を覗かせるのと同時だっただろう。
「……おやすみなさい」
 だからその頬に、櫻宵はそっとキスをする。
 朝日が、二人を優しく包んでいった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鵜飼・章
今度こそごろ寝と思ったのだけど
深夜なんてまだ起きている時間
朝日と共に眠り鴉が鳴く頃に起きるのも
列車の中じゃままならないね

そういえばさっき食堂でリュカさんを見た気がする
まだいるかな…行ってみよう
なにを読んでいるの?星の本?
何となくそんな気がしただけ

乗務員さんの目が冷たい気がするしご飯を食べよう
そういう時期だし恵方巻があるかもしれない
今年は南南東を向いて食べると縁起がいいんだよ
食べ終わるまで喋るのは禁止だ
はい、よーいどん

南南東…どっちだ…難しい
列車は走り続けるから
星と一緒にぐるぐる回る

たぶん僕は食べ終わる前に笑ってしまう
リュカさんはどうだろう
面白かった?



 章は顔を上げた。
 ものっそい真顔で窓の外を見つめた。
 この列車に時計はない。惜しいことに章には月や星の位置を見て時間を読むようなスキルは持ち合わせていない。章はいつだって残念ながらまごうことなくがっつりUDCの人間社会に生きているので、自然の感覚で何時ごろかもわからない。
 だが、そんな章にだって何となく時間はわかる。……まだ、深夜だ。そう。「まだ」深夜なのだ。
「深夜なんて、まだ起きている時間だよねー……」
 うーん。と、寝返りをうつ。眠気はないがお布団気持ちいい。……が、眠気はない。仕方のないことだ。章にとって一日とは、朝日と共に眠るものであり、鴉が鳴く頃に起きるものなのである。別に夜間に仕事をしているわけではない。単に性格だ。
 なので、章は眠くないのである。よいせ、と体を起こしてため息をついた。このまま時間が過ぎれば、ちょうど眠くなってきた昼頃には列車は終着駅に到着し、そのまま駅に投げ出されてしまうだろう。世知辛い世の中だ。
「……僕にとっては普通の生活が、列車の中じゃままならないね」
 仕方がない。天才は孤独なのだ。……と、思ったかどうかはさておき。うーん。と、章は考えること、しばし。
「……そういえばさっき食堂でリュカさんを見た気がする……」
 ふと、思い出した。
 いるじゃん。そういえば。丁度いい暇つぶし……もとい、話し相手が。
「まだいるかな……行ってみよう」
 多分いるだろう。章には予感があった。なにしてから買おうかな、と鼻歌交じりに客室から抜け出して、章は食堂車に向かった。若干、鼻歌交じりであった。

「こんばんは、リュカさん」
「こんばんは、章お兄さん」
 はたして。
 食堂車は夕食時のにぎやかさとは打って変わって、人影がまばらであった。それでも営業はしていて、メイドさんたちが頑張って人数少ないながらも働いている。
「なにを読んでいるの? 星の本?」
 ここ、いい? って聞きながら、返事を待つ前に座る章。リュカもそれに関しては何も言わなかった。お互い、答えはもうわかっているだろうから。
「いや……なんで?」
「何となくそんな気がしただけ」
「なんか、俺はそういう人だと思われてるみたいだけど、こんなのも読む」
 ほら、と章の言葉にリュカは表紙をさらす。意外なことに恋愛小説で、しかもUDCの図書館から借りてきたものであった。
「へえ……面白い?」
「面白い面白い。俺もヤンデレっていうのにストーカーされてみたい。そこまで誰かに個人として認められてみたい」
「……リュカさん、その本、お兄さんに貸しなさい」
 教育的に宜しくない。なんて真面目な顔をする章に、リュカが「お前が言うな」みたいな冷たい目で見ていた。
「なんでさ。僕ほどいい人はいないと思うけど? 少なくともヤンデレのけはないよ」
「ヤンデレじゃなくてもろくでもないから」
「ろくでもないお兄さんは嫌いですか」
「そういうところだよ、お兄さん。……好きだけどさ」
 ぱこん、と机の上に身を乗り出した章の頭を、リュカは軽く本で叩いた。
 相変わらすそんな章もない会話をしていると、ちらちらと視線を感じて章は顔を上げる。心なしか、店員さんの目が、冷たいような、そんな気が、しないでもない。
 章はたまに空気の読める男であるので、ご飯を頼むことにする。とりあえずなんかこう、飲み物以外のものを食べるならば許されるだろう。……と、言うことで、
「そういう時期だし恵方巻があるかもしれない」
 そういうピンポイントに一日しか需要がなさそうなものをリクエストするあたりが、空気を読むのに失敗するゆえんであった。
「なに? それ」
 そして、俺も食べたい、とリュカが言った。
 断らないを至上主義にしているメイドさんは、若干表情をひきつらせながら、少々お待ちください。と奥へと引っ込んでいく。
 しばらくして、ちゃんと恵方巻を持ってきてくれた。
「わ……。なんかすごく大きいんだけど」
「そうだよ。これを今年は南南東を向いて食べると縁起がいいんだよ」
「へえ……」
「あ、きったりちぎったりしたらダメだよ。そのままかぶりつくんだから」
「へえ……」
 変わった風習だ。と、リュカが恵方巻を章のまねするように手に持ったのを見る。
「ところで、南南東ってどっちだっけ」
「ええと、あの位置に星があるから……」
 章の言葉に、リュカがこたえて。わかった、と章は頷くと徐に……、
「じゃ、食べ終わるまで喋るのは禁止だ。はい、よーいどん」
「え!?」
 競争なの!? と、言いたげなリュカだが喋るの禁止と言われて黙り込む。そうして一緒に恵方巻に口をつけて……、
 ……、
 …………。
 がたん、ごとん、と、列車が急カーブした。
 ゆっくりゆっくり方向が変わる列車。
(南南東……?)
 つまり、回るにつれてしょうも回らなければいけない、ということに章は気が付いた。
「ねえ、リュカさん南南東」
「はい、喋ったからお兄さんの負け」
 そしてリュカは容赦なかった。
「むう……。南南東、どっちだ……難しい」
 負けてしまったので仕方がない。ぶつぶつ言いながら章は列車に合わせてぐるぐる回る。星と一緒にぐるぐる回る。
「だから、あっちだって」
「こっち?」
「ちがう、そっち」
「ええ……。あっ」
 恵方巻割れた。こぼれかけた恵方巻に慌てて章は席について、分解寸前の恵方巻をそっと皿の上に置く。
「ふ……っ」
 なんだか笑えてきた。そのまま声を上げて思わず笑う。リュカの顔を見れば、思わずリュカも笑っていて、
「お兄さん、回りすぎ」
「仕方ないじゃない。これが風習なんだもの」
 面白かった? なんて聞くまでもなかった。
 おかしそうに笑うリュカに、章も思わず声をあげて笑って、
「ていうかリュカさんは食べ方すごくきれいなんだけど」
「いや……動いてないから」
「ええ、それ、ずるいよ。僕も負け、リュカさんも負け」
 恵方巻は最後にちゃんと、二人でおいしくいただきましたとさ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リラ・ラッテ
夕餉も食べて、美しい景色も眺めて
列車旅を満喫した後
ゆうらり、おとずれた睡魔に身を委ねる

列車が走る音が心地よくて
暫く眠りにつく

耳に馴染んだ心地よい音を遮って
突然聞こえてきた汽笛にふと目が醒める

窓の外を見れば、満天の星空に海

あなたは、どの時間、どの場所でも
美しい景色を見せてくれるのね

……もう少しで、あなたの歴史に幕が下りる
それが、残念な程に
今回の旅は、素敵な思い出になったわ

いろんな想いを乗せ走ったこの列車に、感謝の念を抱きながら
最後まで、景色を堪能する

*アドリブ・絡み歓迎です



 がたん……ごとん。
 がたん、ごとん。
 遠くで列車の、音が聞こえる。
 桜と、花びらと。美しくも切ないその景色に、リラは思わず手を伸ばす。
 手を伸ばして……そして、
「あ……」
 何かを、掴んだ。掴んだと思って、掴み切れなかった。
 ふっ。と、リラは顔を上げる。
 夕餉も食べて、美しい景色も眺めて……。列車旅を満喫した後、
 ゆうらり、おとずれた睡魔に身を委ねていたのだ。
「ああ……」
 ふわり、リラは体を起こして首を振る。
 さすがに、食堂車で眠るのはご迷惑だと、その場を持してふらふらと客室に戻ったのは覚えていた。
 あとはベッドに腰を下ろし、窓の外を見つめていて。
 そうしてそのまま、列車が走る音が心地よくて、そのまま眠りについていたらしい。
「……」
 今、何時ごろだろう。
 ぼうっっと、汽笛が聞こえてきている。
 それで目が覚めたことに、リラは気づいた。
 定期的に耳に届く、列車が動く音。
 その音を遮った汽笛は、この列車の音とは違う気がして。
 不思議そうにリラは窓の外に目をやった。
「素敵……」
 窓の外を見れば、満天の星空に海。
 リラの目を覚まさせたのは、出港する漁船の声だった。
 これから長い旅へと出るのであろう。星の中をゆっくりと泳いでいく漁船を、リラは目を細めて見やる。
「あなたは、どの時間、どの場所でも、美しい景色を見せてくれるのね……」
 行ってらっしゃい。そして、気を付けて。と。
 リラは心の中で、その名も知らぬ、乗ってる人の姿も分からない漁船に向けて、優しく祈った。
 リラの祈りに応えるように、汽笛が鳴る。
 列車のそれも、漁船の旅を見送っているように、聞こえた。
「……もう少しで、あなたの歴史に幕が下りる」
 その声に、ほんの少しの哀愁を感じて。リラは顔を上げる。
 古びていても、手入れの行き届いた美しい車内には、沢山の人の思いを感じさせられた。
「それが、残念な程に、今回の旅は、素敵な思い出になったわ。……ありがとう」
 いろんな想いを乗せ走ったこの列車に、感謝の念を抱きながら、
 リラはそっとそう声をかけ、撫でるように窓に手を振れた。
 これから先は、眠らずに。
 最後まで、景色を堪能する。
 旅ももう終わり。だけれども……。
 まだまだきっと、素敵な景色が見られるに違いない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

樹神・櫻沙
天瀬さん(f24482)とご一緒します。

慣れない列車の旅、昼間にはしゃぎ過ぎてしまったので、この時間にもなればうつらうつらと。
窓の方を目は向こうとしているものの、かくん、と顎を落とし。
汽笛が鳴るたびに顔を上げようとするものの、瞼が閉じてしまいます…。
暫く眠ってようやく目が開けば明け方、窓を見れば霧が群青から薄紫、橙に染まってとても綺麗で…。
天瀬さん分かります、私もこの色は好きです…生命の目覚めという感じが、して。
温かな風景に見惚れつつも、そろそろ旅の終わりと感じて少しの寂しさが。
影朧の方は想いを遺さず還れたのでしょうか……もし私に出来るなら幻朧桜への導きのお手伝いをしてあげたい、です…。


天瀬・紅紀
櫻沙さん(f26681)と

うとうとしてる櫻沙さんに苦笑い
ん…疲れてるみたいだし、無理しないで1回寝ちゃったら?
とか言ってるうちに寝落ちてる彼女にそっと毛布をかけてあげて
まだまだ子供だなぁ…なんて、本人に言ったら流石に怒られそうかな

宮沢賢治の童話の中で旅する二人もこんな気分だったのかな、なんて
僕は本でも読みながら、時々景色に目を向けて過ごそう
単に夜型体質で眠れないのもあるけど

ああ、起きた?
丁度良かった。ほら、窓の外…向こうの空を見てご覧
夜の蒼と朝の朱が混じり合った紫――僕はこの色が空の色で一番好き

一日が生まれ変わって新しい一日が始まるこの夜明け
影朧の彼にも、新しい生と言う夜明けを迎えてて欲しいな



「ああ……なんて。……なん、て」
 素敵な旅なのだろうかと。櫻沙はただ、窓の外を見つめていた。
 窓の外を見ていた、といっても、景色がもはや目に入っているかどうかはわからない。
 ずっと気合を入れて見つめているには、この部屋の温度も、列車の揺れも優しすぎた。
 汽笛が鳴るたびに、顔をあげようとするけれども。
 それも数秒。すぐにまたかくん、と顎を落として俯いて。うつら、うつらとしている櫻沙に、紅紀が苦笑した。
「櫻沙さん、……櫻沙さん」
「は、はい……」
 問えばかろうじて返答がある。顔をあげようとして、また落とすその姿に、紅紀は優しく声をかけた。
「ん……疲れてるみたいだし、無理しないで1回寝ちゃったら?」
「いえ。……いえ。私はまだ。私は……まだ」
 言いながらも、その語尾が消えていく。
 櫻沙が完全に沈黙したのを知って、紅紀はそっと立ち上がると、櫻沙の体にそっと毛布を掛けておいた。
 慣れない列車の旅で、昼間にはしゃぎ過ぎてしまったのだろう、この時間にもなればうつらうつらとしてしまうのはしょうがない。……だって、
「まだまだ子供だなぁ……」
 なんて、紅紀は思うのだ。思わずその思いが口に出た瞬間、んーっ。と櫻沙はうめくようにしてもぞもぞと毛布を抱き寄せる。
「おっと。……本人に言ったら流石に怒られそうかな」
 その寝顔を見ながら、紅紀は苦笑した。
 苦笑しながらも、窓の景色を見つめ直すのであった。

 がたん、ごとんと。
 列車の動く音がする。
 遠くで汽笛が聞こえている。
 トンネルを抜ければ違う世界が広がっていたり、
 かとか思えば停車しない田舎道をただ駆け抜けたり。
 草原に浮かぶ月と星の美しさ。
「宮沢賢治の童話の中で旅する二人もこんな気分だったのかな……」
 なんて。
 紅紀は本でも読みながら、時々景色に目を向けて過ごすことにした。
 夜型体質の彼にとって、この時間帯は起きている時間だから、
 なかなか寝づらかったのだ。……大人だしね。
「櫻沙さんに言ったら怒られそうだけど」
 それは大人だからではなく、生活習慣の問題です……なんて。言われそうだなあ。と、紅紀は笑うのであった。

 そうして、山を越え、谷を越え。走り。冬の朝日が顔を出すころ、
「んー……?」
 ようやく、櫻沙は体を起こした。
「ああ、起きた?」
 それに気付いて、紅紀が声をかける。櫻沙は目元をこすりながら、はい……と、小さく頷いた。
「丁度良かった。ほら、窓の外…向こうの空を見てご覧」
「はい……?」
 ほら、と示されて、櫻沙は顔を上げて窓の外を見る、
 時刻は明け方、
 窓を見れば霧が群青から薄紫、橙に染まってとても綺麗で……。
「夜の蒼と朝の朱が混じり合った紫――僕はこの色が空の色で一番好き」
 櫻沙が思うと同時に、紅紀は声に出して微笑んだ。それで櫻沙も、こっくり、と頷いた。
「天瀬さん分かります、私もこの色は好きです……。生命の目覚めという感じが、して」
 ほう、吐息をつく。昨日が終わり、新しい一日が始まる。それが何とも言えずに……美しくて、そして同時に、
「もうすぐ……旅も、終わりですね」
 温かな風景に見惚れつつも、そろそろ旅の終わりと感じて少しの寂しさがこみあげてきた。胸に手を当てる。
「一日が生まれ変わって新しい一日が始まるこの夜明け……。影朧の彼にも、新しい生と言う夜明けを迎えてて欲しいな」
 櫻沙の気持ちを察するように、紅紀はそう言って微笑んだ。小さく、櫻沙は頷く。
「影朧の方は想いを遺さず還れたのでしょうか……もし私に出来るなら幻朧桜への導きのお手伝いをしてあげたい、です……」
 きっとそれは、素敵なことに違う無い。いいと思うよ、と紅紀も小さく頷いた。
「きっと彼は……幸せだっただろうね。夢をかなえて、そして最後にはたくさんの笑顔も見られた」
「……はい。そして……次の転生も、幸せになってもらえるように、私は、祈りたいと思います」
 今日というこの日は、あの朧な影の終わり。そして新しい明日の始まりなのだろう。そういう……日にしたいと。しっかりと頷く櫻沙を優しく紅紀は見守る。
 応えるように、ゆっくりと海から太陽が昇っていって。
 汽笛が鳴ったような、そんな気がした……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木元・杏
【かんさつにっき】
刀のベットへお邪魔します
ん、狭い?いいの、旅は道連れ…(ちょっと違う、と首傾げ)、きょうだい水入らずだもの

窓の外を眺めると真っ暗の中に沢山の星がきらきら
そして月明かり、桜の花弁がきらきら舞い過ぎていく

…おとうさんとおかあさん、元気かな
ん、よくお花見に連れて行ってくれたから、ふと思い出した
いつも手作りのお弁当があって、美味しくて、沢山食べてたら、花も愛でろよっておとうさんが笑ってた

ふふ、懐かしい気持ち…
ね、今度は3人でお花見に行こうね
たまこ(飼い鶏)も一緒に

近い未来の楽しみを思って瞼を閉じる

刀の声にまつりんのふわふわしっぽ
どちらも暖かくて、そのまま眠りに落ちてしまう


木元・祭莉
【かんさつにっき】

いやー、いっぱい食べたー!
列車のお部屋も面白かったー!
あとは……なんだっけ?(目的は忘れた)

おいらは、二段ベッドの上の段ね!
荷物を上げて、ベッドに寝転ぶ。
毛布があったー。電気も付くみたい!
この階段、面白いね!(上がったり下りたり)

ん……海の音が聞こえる……ような……
(静かになったな、と思ったら 寝てた)

カナタも……はやく寝なさいー……むにゃ
たまこは……おるすばん……

明け方に目が覚めたら、カナタも寝てた。
ちっちゃい頃を思い出すなあー♪
トイレに行って戻ってきたら。
あ、日の出だ! キレイだねー。

もっかい、ベッドに潜り込んで。
そろそろどこかに着くかな?

朝ごはん、何にしよっかなー♪


木元・刀
【かんさつにっき】です。

兄さん姉さんは、眠そうですね。
元気に駆け回ってましたものね?(ふふ)
僕は持ち込んだ本もありますし、もう少し起きてますよ。

姉さん、ソファベッドは狭いですよ?
しばらくは起きてますが……水入らずって。
まあ、あたたかいですけどね?

兄さんは、もう寝ちゃいましたね。
お花見?
父さんのお弁当(豪華お重仕立て)、母さんの分はお芋づくしでしたっけ。
膨れてた顔を思い出します(くすくす)

姉さんも寝ちゃいましたか。
……そうですね。
今度はお弁当を作って、一緒に出かけましょうね。

サムライエンパイアのお花見は、4月かな。
2か月間、楽しみに待ってますね。

……ちゃんと覚えてて、呼んでくれるかな?



「いやー、いっぱい食べたー!」
 祭莉はご機嫌であった。ふはーっと息をついて、
「列車のお部屋も面白かったー! あとは……なんだっけ?」
 あれ、何しに来たんだろう、みたいな顔をする祭莉を、刀が微笑ましそうに見つめていた。
「そうですね。たのしむことがだいじだとうかがいましたよ」
「じゃ、おいらたちは花丸だなー!」
「まあ、楽しむことはもう、人一倍楽しんだから。間違ってはないと思うよ」
「うひゃー!」
 杏の言葉にも、祭莉は嬉しそうに声を上げる。それから、
「じゃー、おいらは、二段ベッドの上の段ね!」
 だだだだ。っと。
 返事も待たずに荷物をまとめて放り投げ、だだだだだ、と一緒に二階へと向かう。そのまま大の字になってベッドに寝ころんで、
「こことったー!」
「はいはい」
「毛布があったー。電気も付くみたい!」
「ふふ、よかった」
「この階段、面白いね!」
 相槌を打つ杏や刀に嬉しそうにしながらも、階段を上ったり下りたりして。
 そんなことを暫くはしていたのだけれど。
 いつの間にか静かになったので、片端なソファベッドに座ったまま顔を上げた。
「兄さん姉さんは……、眠そうですね。元気に駆け回ってましたものね?」
 持ち込んでいた本を手繰り寄せ。広げていく刀。
「うん? わたしだって、まだ大丈夫よ。刀は寝ないの?」
 その様子に、杏は荷物だけ自分のベッドにいれて刀のベッドへと入ってきた。
「僕は持ち込んだ本もありますし、もう少し起きてますよ。……っと」
「はい、ちょっとお邪魔しまーす」
「姉さん、ソファベッドは狭いですよ?」
「ん、狭い? いいの、旅は道連れ……」
 そう言いながらも、杏はちょっと違うかも、と少し首を傾げて、
「きょうだい水入らずだもの。それとも、もう寝ちゃう?」
「いえ、しばらくは起きてますが……水入らずって」
 それもちょっと違うんじゃあ? と、刀は首を傾げたが。結局刀の隣でちょこんと座って笑う杏に、まあいいか。と、刀も頷いた。
「まあ、あたたかいから、いいですけどね?」
「ふふ。それじゃあ、そういうことで」

 がたん、ごとん、という列車の音の合間に、祭莉の寝息が聞こえる。
 窓の外を眺めると、真っ暗の中に沢山の星がきらきらと輝いていて。そして月明かり、桜の花弁がきらきら舞い過ぎていく
「兄さんは、もう寝ちゃいましたね」
「すっごく、はしゃいでいたからね」
 その寝息に、二人顔を見合わせてくすくすと笑う。窓の景色が流れて行って、その星を追いかけながら、そういえば、と杏は小さく呟いた。
「……おとうさんとおかあさん、元気かな」
「父さんと母さん……ですか?」
「ん、よくお花見に連れて行ってくれたから、ふと思い出した」
 桜の花びらに、ふと思い起こされたのは両親の顔だ。杏はその顔を思い出しながら、嬉しいような、ほんの少し離れているのが寂しいような、そんな表情を浮かべている。
「お花見?」
「うん。いつも手作りのお弁当があって、美味しくて、沢山食べてたら、花も愛でろよっておとうさんが笑ってた」
「ああ……、父さんのお弁当(豪華お重仕立て)、母さんの分はお芋づくしでしたっけ」
「そうそう。お弁当、もうすっごくおいしくて」
「それで、膨れちゃってたの、楽しかったですね」
「ふふ、懐かしい気持ち……」
 懐かしい思い出だ。
 そして楽しい思い出だった。
 思い出すと、いつも明るい杏もさすがにくるものがあって。杏はちょい、と刀の服の袖を引っ張った。
「ね、今度は3人でお花見に行こうね。たまこも一緒に」
 たまことは、飼い鶏のことである。もちろん、と、刀も頷いた。
「……そうですね。今度はお弁当を作って、一緒に出かけましょうね」
「わあ、やったあ……」
 すぅっ。と。
 その声が徐々に溶けていく。
 刀の声と、祭莉のふわふわ尻尾に触れていると、
 どちらも暖かくて、そのまま眠りに落ちてしまう。
「姉さん?」
 刀がそっと声をかけるが、もう返事はない。
 閉じられた杏の瞼には、近い未来の楽しみがうつっているのだろう。
「……姉さんも寝ちゃいましたか」
 ふ、と息を吐く刀。優しく杏の顔を見つめる。
「サムライエンパイアのお花見は、4月かな。……2か月間、楽しみに待ってますね」
 きっと、それはすごく楽しいだろうから。
 思うだけで心が弾む刀である。
 ただ一つ、懸念があるとすれば……、
「……ちゃんと覚えてて、呼んでくれるかな?」
 それなのだが。それはもう、信じるしかないだろう。

「ん……海の音が聞こえる……ような……」
 そうして。
 ふっと祭莉は目を開けた。どうやら眠ってしまっていたらしい。
 波の音が遠くに聞こえる。汽笛が鳴っているような気がして、
「カナタも……はやく寝なさいー……むにゃ。たまこは……おるすばん……」
 寝返りを打って、小さく欠伸。
 それで、あれ? と気付いて、祭莉は顔を上げた。
 ふ、と部屋をベッドから見下ろすと、ソファベッドに座るように、寄り添うようにして眠る杏と刀の姿。
 なんだかとっても仲良さそうである。そんな二人の顔に思わず……、
「あら、仲良し」
 ニマニマしてしまった。余りに二人が、微笑ましくて。
「ちっちゃい頃を思い出すなあー♪」
 ご機嫌で、とりあえず起きたことだからとトイレに行く。ちょっと写真でも撮りたかったところだが、そこは我慢する。戻ってくるころには、窓の向こう側、海際から。光輝く太陽の光が見えた。
「あ、日の出だ! キレイだねー」
 知らず、呟く。綺麗な景色だが二人は眠ったままだから、起こすのも可哀想だろう。……なので、
「よーし、二度寝だ!」
 もう一回。とばかりに祭莉はベッドにもぐりこむ。
 そろそろどこかに着くかな? と思う祭莉の耳に遠く、汽笛の音が聞こえて。
「朝ごはん、何にしよっかなー♪」
 嬉しそうに、祭莉はそう言って目を閉じた。きっと目が覚めたら、美味しい朝ご飯を食べに行こう。三人一緒で、賑やかに……楽しく。ね。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛
ヨハンくん(f05367)と

いつの間にか日付が変わっちゃいましたね
少し眠くなってきてしまいました
私、朝日が昇るところが見たいんですよー!
起きてないと見逃しちゃいます!

……今すぐ眠って4時くらいに起きればいいですかね
それではおやすみなさーい!(すやぁ)

という訳で眠っちゃいます
ずっと起きていたらヨハンくんも落ち着けないでしょうし、
私なりの気遣いなんですよ。えっへん

……はっ! ついついぐっすり寝入ってしまいました
まだ陽は出てないですよね
ひょっとしてヨハンくんずっと起きてました?
一緒に朝日が見れちゃいますね

少しずつ空の色が変わっていくのを、暫く静かに見つめます
もう少しだけ、この時間が続くといいな


ヨハン・グレイン
織愛さん/f01585 と

想像していたよりは落ち着いた列車旅になっている……気はする
眠いのなら眠ればいいじゃないですか
徹夜して見なくてもいいと思いますが

……いや、本当に寝るのかよ。早いんだよ。よく眠れるな
はぁ……どうせ眠れないので俺は起きてます
景色でも眺めようか
一人になると取り留めなく思考に囚われてしまう
そういう意味では起きていてくれた方がありがたかったかもしれないな……
いや、いつの間にか寄りかかるようになってしまって良くない

さて、そろそろ起こそうか
と思うと起きてくるのだから、手間がかからなくはある
あなたはよく眠れたようですね

外の景色も一人で見るものとはだいぶ違うようだ
もう少しだけ眺めていよう



 がたん、ごとん……と、
 列車が動く音がする。
 やはり、そういう面での快適性はUDCには劣るかもしれない、なんてヨハンは思う。
 もっとも、これも情緒のひとつととらえることもできるだろうが。
 そんなことを思いながら、ヨハンは静かに窓の外を見つめる。
 想像していたよりは落ち着いた列車旅になっている……気はする。
 列車の音が聞こえるのは、その証拠だ。寝静まった車両に合わせて、この室内も静かだからこの音が聞こえるのだろう。
「いつの間にか日付が変わっちゃいましたね。……少し眠くなってきてしまいました」
 窓の外の景色を見ながら、ぽつん、と織愛が言った。
 丁度今は、湖畔を過ぎて、田舎町を通り、そうして草原に出たばかりである。
 風の通る草原と、満天の月と星。見目は麗しいが、景色が変わり映えしなくて少し飽きてくるかもしれない。
 ちょっと欠伸交じりな織愛の台詞に、ヨハンは肩をすくめた。
「眠いのなら眠ればいいじゃないですか」
 もっともな、合理的な意見であった。なにを言っているのだ、みたいな顔をヨハンがしていたので、織愛はむー! と両手を天に掲げる。
「私、朝日が昇るところが見たいんですよー! 起きてないと見逃しちゃいます!」
「徹夜して見なくてもいいと思いますが。朝日なんて、今日でも明日でも明後日でも見られるでしょう!」
「もうっ。そうじゃないですよ。そうじゃないんです!! この列車からの朝日は、今日だけじゃないですかっ」
「だからって、今から朝日が出るまで起きているのなんて、全くの時間の無駄ですよ」
「むぅ……」
 もっともな、合理的な意見であった。織愛は頬を膨らませる。膨らませていたが……、
「はっ。つまり……。今すぐ眠って4時くらいに起きればいいですかね!」
 ひらめいた! とばかりの顔をして、はっ。と織愛は立ち上がると颯爽と近くのベッドに飛び込んだ。
「それではおやすみなさーい! また後で―!!」
 すやあ。
 布団に入って物の数秒。
 織愛は一瞬で眠りに落ちた。
(ずっと起きていたらヨハンくんも落ち着けないでしょうし、私なりの気遣いなんですよ。えっへん)
 そんな思いは、勿論胸の内である。織愛は織愛なりに気を使ったのである。気を遣ったのであるが……、
「……いや、本当に寝るのかよ。早いんだよ。よく眠れるな」
 展開が早すぎてヨハンはついていけなかった。余りの速さに一瞬、ぽかん、としてしまった。したころには相手は完全に眠っていた。言うべき言葉が見つからない。
「はぁ……」
 どうせヨハンは眠れない。特にやることもないし、起きて景色でも眺めていようかと、窓の外に目をやった。
 月と星、いつまでも続く草原。
 いつまでも続くように見えて、その実は果てがある。聞いた話によると、これよりまた森に入り、そして海に出るという。
 海に出ても、また景色は変わり、終着駅にたどり着く。
 ……永遠に、続くものなんてどこにもないのだ。
 すべては、永遠に続くように見えるだけなのだ。
「……」
 ヨハンは、小さく息をつく。
 どうにも、一人になると取り留めなく思考に囚われてしまう。
 さっきまでのにぎやかさと比べて、この部屋は静かすぎた。
「……そういう意味では起きていてくれた方がありがたかったかもしれないな……」
 知らず、呟いた言葉に自分の言葉ながらほんの少し、ぎょっとする。
(いや、いつの間にか寄りかかるようになってしまって良くない……)
 しらずの間に、頼ってしまっている。
 それはきっと、良くないことなのだろうと、ヨハンは思うのだ。

 そして想像していた通り、森に入りそろそろ海が見えてきた。
 寂れた漁村から船が出ていく。その行く先が、水平線が白くかすんでいた。
「……さて、そろそろ起こそうか」
 そう、ヨハンが呟いた時、
「……はっ! ついついぐっすり寝入ってしまいました! まだ陽は出てないですよね!?」
 がばっ!! と、ベッドから織愛が起き上がる気配。ヨハンは立ち上がりかけて……また再び、ソファに腰を下ろす。
(まあ……手間がかからなくはある)
 ちょっとだけ残念な気も、しないでもなかった。そういえば織愛は、起こしてくださいと言わなかったことを思い出して、ほんのちょっと、なぜか腹が立った気もした。
「ひょっとしてヨハンくんずっと起きてました? 一緒に朝日が見れちゃいますね」
「……あなたはよく眠れたようですね」
 わーい。夜明けだ。と素直に喜ぶ織愛の質問には返さず、そんなことをヨハンは言う。
「それはもう、ぐっすり!!」
 しかし、織愛には通じなかった。
「あ……っ。ほら」
 日が昇りますよ、と織愛が言ってヨハンは顔を向ける。
 霧の向こう側、水平線から徐々に太陽が浮かび上がってきていた。
「……」
「……」
 しばしの間、二人無言で外の景色を眺める。
 さっきまで見ていた景色のはずなのに、ヨハンにはその景色が、さっきまでと随分変わって見えた。
(……だいぶ、違うようだな……)
 この景色なら、もう少しだけ、眺めていたい。
 そんなことを思うヨハンの横顔をちらりと見ながら、
(……もう少しだけ、この時間が続くといいな)
 織愛は祈るように。心の片隅でそんなことを朝日に思うのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクトル・サリヴァン
丸く収まったっぽいしあとは目的地までの列車旅だね。
…寝るのもいいけどこの夜景を見逃すのは少々つまらない。
寝坊で日の出見逃すのもやだし。

引き続き食堂車の方でのんびり。
温かなココアやコーヒーとか頂きつつ窓の外の景色を半分夢心地で見てる。
リュカ君(f02586)見かけたらちょっとお話ししない?と誘うね。
飲物も希望聞いて取ってくるよ。
何か楽しそうだしこういう旅は好きなのか、結構列車には慣れてるのかとかつらつら話。
夜更かしもまたいいよねー…悪い子?
俺はわるい大人だからきっとせーふ。
朝日の昇る前、朝焼けの空は星空の次位に好きかなあ。
なんか未知への希望って感じがするし。リュカ君はどう?

※アドリブ絡み等お任せ



 がたん、ごとん、と、列車の音が聞こえてきている。
 さっきまで騒がしかった車両は、湖畔の通過と同時にまるで眠りにでも入ったかのように静かになった。
 先ほどまで聞こえなかったその音が、こうもはっきりと聞こえるのは、この静けさゆえんであろう。
 実際のところ、徐々に人が寝静まっていく時間であるので静かになっていくのは当然なのかもしれない。
「……丸く収まったっぽいしあとは目的地までの列車旅だね」
 ヴィクトルもそれは感じていて、うーん。と軽く伸びをした。
 この列車には時計がない。だから、いつ寝てもいいし、いつ起きてもいいのだけれども、
 ……寝るのもいいけどこの夜景を見逃すのは少々つまらない。と、ヴィクトルは思った。
「寝坊で日の出見逃すのもやだし」
 寝坊をする自身も、少しあった。
 だから、このまま引き続き食堂車でのんびりしようとヴィクトルは思う。
 たまにはそういう日が、あってもいいだろう。

 景色は流れる。市街地を通り、また森を通り。草原を抜け、と。
 のんびりとヴィクトルはその景色を食堂車で眺めている。
 温かなココアやコーヒーとか。合間合間で頂きつつ窓の外の景色を見ていると、どこかうつらうつらしてきて半分は夢心地であった。
 人が多かった食堂車は、徐々にそれも減ってきて。
 明かりはついていて、人はいるけれども静かな塩梅になってくる。
 そうすると、目につかなかった人が目に入って、ヴィクトルは目元をこすりながら席を立った、
「リュカ君、ちょっとお話ししない?」
「ん?」
 丁度リュカは本を読んでいるところであった。
「何か飲みものいる?」
「え、じゃあ珈琲を」
 ちっとも眠そう出ないリュカは、ぱたんと本を閉じてそういうので、ヴィクトルはそれに応じる。自分は暖かいお茶にした。
「何か楽しそうだしこういう旅は好き?」
 ふと、リュカの前に珈琲を置きながらもヴィクトルは問うた。その前に座って聞く。結構列車には慣れてるのかな、なんて。
「んー。好きかどうかは兎も角、夜間も移動できるのがいいよね。自分はさほど労力を使わないし」
 リュカのいる世界では、夜間の移動ほど危険なことはない。なるほどなるほど、とヴィクトルは頷いた。
「夜更かしもまたいいよねー……悪い子? 俺はわるい大人だからきっとせーふ」
「……?」
 ウィンクしたら、首を傾げられたので、ヴィクトルは咳払いをする。
「朝日の昇る前、朝焼けの空は星空の次位に好きかなあ」
「そうなの?」
「なんか未知への希望って感じがするし。リュカ君はどう?」
「んー……」
 考えこむような、間。綺麗だとは思うけれども、物事の好き嫌いはよくわからないな、という返答に、なるほどなるほど。と、ヴィクトルは頷く。
「まあ、俺は好きってことで」
「うん、それはいいと思う」
 なるほど、と頷くリュカに、そういうコト。とヴィクトルも頷いた。
「夜が明けるまで、どれくらいかなあ」
「んー……もう少しあるんじゃない?」
 この車両には時計がない。月の位置を見ながら言ったリュカに、そっかぁ。とヴィクトルは呟いた。
「うっかり寝ちゃう前に、明けたらいいな」
 さて、月が沈むまであと少し。起きていられるかどうかは、彼自身しかわからない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城島・冬青
【橙翠】

どこかで誰かが泣いているような声がして
意識が浮上する


アヤネさん
大丈夫ですか?
すごい汗ですよ
汗をタオルで拭き
グラスに水を注ぐ
さ、まずは水分を補給しましょ

アヤネさんの夢の話を聞きながら
優しく背中を摩る
忘れる…というのは自分の一部が欠けてしまうことだから…怖いですね
私もそんな夢は見たくない…やだなぁ
まぁでも所詮夢ですよ!
と不安を払拭するよう明るく励ます
それでもアヤネさんの気持ちが晴れなれば
こう言おう
もしアヤネさんが私のことを忘れてしまったら…そしたらもう一度私と知り合って下さい
それでまた一緒に色んな所に出かけましょう
そしたらまた前と同じに戻れますよ

その時は私からガンガンいきますよ?ふふふ!


アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
おやすみなさいのキスをして横になる
手の届く場所から彼女が寝息が聞こえる
それはとても幸せで
幸せのまま眠れるはずだった

真夜中に僕は苦しそうに呻き声を出す
ソヨゴに起こされて正気を取り戻す
嫌な夢を見た
誰かが優しく話しかける
君と過去の因縁を切った。君は自由だ、と
僕は過去の悲しい出来事もソヨゴの事も忘れて、明るい笑顔で光の中に溶けてゆく
それで映画よろしくFinのマークが映し出される
最悪のデッドエンドだ

ソヨゴに慰められて少しは気が楽になる
ガンガンって
笑って
思わず大切な人を抱きしめる
僕は絶対に忘れないから



 おやすみなさい、のキスをして。
 横になったときにはアヤネは幸せを感じていた。
 手の届く場所から冬青の寝息が聞こえる。
 それはとても幸せで、
 幸せのまま眠れるはずだった。……なのに。

「……」
 冬青は、うーんと寝返りを打った。
 おいしそうなご飯の夢を見ていた時のことだった。
 どこかで誰かが泣いているような声がして、冬青はどうしても気になって。
 ご飯から意識を離した……。その、瞬間。
 ふっと意識が浮上した。

 がたん、ごとん。
 列車が動く音が、かすかに聞こえる。
 遠くに海が見えている。事前に聞いていたスケジュールから見て、もうすぐ夜明け前だろうか。
 ただ、今はそんなことはどうでもよかった。
「! アヤネさん!」
 隣に寝ていたアヤネが苦しそうな声で呻いていて。冬青は慌てて駆けよる。
「アヤネさん、アヤネさんっ。大丈夫ですか? すごい汗ですよ!」
「う……。ソヨ、ゴ……?」
 何度か、名前を呼ぶ。それでようやく、アヤネの意識が浮上する。
「大丈夫ですか。熱、あります? 待ってくださいね。今汗を拭きますから」
 視線をさまよわせるアヤネに、冬青はてきぱきとタオルでアヤネの汗をぬぐう。
「さ、まずは水分を補給しましょ。しっかり持ってくださいね」
 それからグラスに水をそいで、そっとアヤネに握らせた。
「……」
 アヤネはそれを握りこむ。手に触れる感触が冷たくて心地いい。
「アヤネさん?」
「……嫌な夢を見た」
 真っ青なアヤネに、心配そうに冬青が声をかけた。強くグラスを握りしめたまま、ポツリ、ポツリとアヤネは語る。
「誰かが優しく話しかける。君と過去の因縁を切った。君は自由だ、と」
「……はい」
「僕は過去の悲しい出来事もソヨゴの事も忘れて、明るい笑顔で光の中に溶けてゆく。それで映画よろしくFinのマークが映し出される……」
「はい……」
「……最悪のデッドエンドだ」
「……そう、ですか……」
 アヤネの話を遮らずに、冬青は優しくそれを聞く。その背中を優しくさすると、小さく頷いて、ようやくアヤネは一口、水を飲んだ。
「忘れる…というのは自分の一部が欠けてしまうことだから……怖いですね」
「うん……」
「私もそんな夢は見たくない…やだなぁ」
「うん。ソヨゴにはこんな話、見てほしくない……」
「まぁでも所詮夢ですよ!」
「う、うん……?」
 冬青の言葉に、こくり、こくりと頷いていたアヤネだったが、最後の矢鱈明るい言葉にん? と、声を上げた。
 そこには、いつも通り元気で明るい冬青がいた。
「夢です!! 夢でしょう?」
「あ、う……うん」
「まだ信じられないなら、ほら!」
「はっ。いひゃいいひゃい。わあった。ゆめです」
 頬を引っ張られて、アヤネはたまらず声を上げる。そうして冬青は笑った。
「それでもアヤネさんの気持ちが晴れなれば……」
「はれなければ?」
「もしアヤネさんが私のことを忘れてしまったら……そしたらもう一度私と知り合って下さい。それでまた一緒に色んな所に出かけましょう」
「は……」
 話された手。じんわりと痛む頬に手を添えて、アヤネは瞬きをする。冬青は優しい笑顔を浮かべたままで、
「そしたらまた前と同じに戻れますよ。……その時は私からガンガンいきますよ? ふふふ!」
 少し照れたように。けれどもしっかりと、はっきりと言い切った。
「……ガンガンって」
 その言葉に、アヤネは思わず笑う。グラスをサイドテーブルにおいて、
「僕は絶対に忘れないから。……絶対に、忘れないから」
「わっ。アヤネさんったら」
 強く冬青を抱きしめた。冬青は驚きながらも、優しく抱きしめ返す。
 夜が明けるまで、こうしていよう。
 そうしたらきっと……二人次は、いい夢を見て、眠れることだろう。
 遠くで、汽笛が鳴る音が聞こえている。
 それくらい、優しい時間があってもいい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オリオ・イェラキ
リュカさま、リュカさま
星を観ましょう
わたくしの部屋広いみたいで、ゆっくりできますわ
一等と言うそうですの

移動しながら観る夜空も素敵ですわ
あれが冬の大三角かしら
リュカさまはどの星がお好きですの?
わたくしはどれも好きですけれども
やはりベテルギウスが気になりますわ
ふふ。一番好きな星座の星ですもの

ええ、オリオン座ですわ
破天荒な方の星ですけれども
どんな夜でも輝き続けて
いつでも見上げたらそこに居て
何だか安心しますの。消えずに居てくださる事が
…今宵もとても、綺麗ですわ

お話に付き合って下さってありがとうございますの
お見送りがてら、食堂車で珈琲頂きに行きますわ

ね、リュカさま
また沢山冒険に行きましょう
煌めく星の下で



「リュカさま、リュカさま、星を観ましょう。わたくしの部屋広いみたいで、ゆっくりできますわ」
 オリオがそう言ってリュカに声をかけると、リュカも読んでいた本を片付けて、「行く」と即座に答えた。
「一等と言うそうですの」
「そうなんだ。奮発したね」
 別に有料ではないので、奮発した、というとちょっと変かもしれないけれど。
 そんなことを言うと、オリオはふふ。と得意げに頷いた。
「いただけるサァビスは頂いておかねば。A&Wの宿屋の経営にも、生かせるかもしれませんし」
「ん……お姉さんらしいね」
 たくましい、と思わず吹き出して。リュカがオリオの部屋に招かれた時は、さすがに一級はすごいなあって、驚いたような顔をしていた。
「ぜいたく」
「ふふふ。ごーじゃすですわ」
「俺は常々疑問だけれども、ここもそうだし、UDCのスィートルームって、あんなに広くとる必要あるの?」
 使うの? という言葉に、そうですわね。とオリオは少し難しい顔をした。
「あれはあれで、必要な広さなのです」
「へえ……」
 そんな会話をしながらも、「結局ベッドとソファがあればいいじゃないか」みたいな情緒もへったくれもないリュカの言葉で一緒にソファに腰を下ろす。
「あ。ほら。もうすぐ街に入るよ」
「あら……」
 ぽつぽつと民家が増えてくる景色に、オリオは微笑んだ。深夜帯。灯りはほとんどなく、停車駅でもない田舎の街中は、ただ通り過ぎるものである。背の高い建物もないから、街の様子も星空もきれいに楽しめる。
「こうして……移動しながら見る夜空も、素敵ですわね」
「うん。俺たちの旅とは違った楽しみがあるよね」
 見える景色が、同じようで違う。なんて。
「あれが冬の大三角かしら。……リュカさまはどの星がお好きですの?」
「俺は……わかんないな。好きとか嫌いとかで、見たことなかった。位置を知るのに重宝してる星はあるけど……。お姉さんは?」
 好き、嫌いを見ないというリュカに、オリオは逆に問われてちょっと考え込む。
「わたくしはどれも好きですけれども……。やはりベテルギウスが気になりますわ。ふふ。一番好きな星座の星ですもの」
「ベテルギウス? どれ?」
 この中にある? と、リュカは瞬きをする。星を見るのが好きだといっても、他人とかかわりのない生活を送ってきたから、誰かがつけた名前なんて、わからないのだ。そんなリュカに、オリオも頷く。
「ええ、あの星です。あれが……オリオン座ですわ」
「あの、少し赤いの?」
「そう。破天荒な方の星ですけれども、どんな夜でも輝き続けて、いつでも見上げたらそこに居て……」
 リュカが指さした星に、オリオは頷いて。そして、訥々と語る。
「何だか安心しますの。消えずに居てくださる事が。……今宵もとても、綺麗ですわ」
「……」
「あら、何か?」
「いや。なんだか好きなひとのことを語るみたいに語るなって」
「えっ」
 指摘されて、思わずオリオは言葉に詰まった。若干頬が赤くなるのをおかし気にリュカは見る。
「……いいね、そういう人がいるって」
 きっと旦那の事を思い出してるのだろう。と、リュカは思って。事実その通りだったので、オリオもそうですわね、と小さく頷いた。

「お話に付き合って下さってありがとうございますの」
 そうしてひとしきりは星見をした後で、オリオはそう言った。
「こちらこそ、お招きありがとうございます。楽しかったよ」
 と、言いながらも部屋を出るリュカに、オリオもあとに続くので、
「お見送りがてら、食堂車で珈琲頂きに行きますわ」
 なんて、オリオはにっこり笑うのであった。
「ね、リュカさま。……また沢山冒険に行きましょう。煌めく星の下で」
「そうだね。もちろん、行こう。……きっとそれは、多分とても楽しいよ」
 オリオにリュカも笑ってそう答える。
 きっと星はどこにでも瞬いていて。そして星があるだけで、二人は楽しく過ごせるだろう……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ゲニウス・サガレン
(三等客室の寝台で眠っていたが、夜明け直前、ふと目が覚める)

ああ、夢の中で桜と星が舞う宇宙を走る列車を見たよ。綺麗で見惚れていた。きっと昨夜見た、オリオン号の記憶のせいだろうね。

(他の方とからみ大歓迎、単独もOK)

まだ朝食には早い。着替えて食堂車両に珈琲をもらいに行こう。あったかいやつを。

さて、日の出や朝の景色を楽しみたい。早起きの特権は、これからその土地の目覚めゆく経過を見れることだからね。
食堂車両からもいいけど、照明の影響を受けない、自然な明るさの変化を感じたいな。どこか使ってない部屋とか客室車両の隅に大きな窓とかないかな。なければおとなしく自室で、この旅とその出会いの余韻を味わおう。



 星が散っていた。そうして満開の桜が天から落ちてくる。
 その中を列車が走る、走る、走る。
 ゲニウスは窓を開ける。窓を開けて手を伸ばすと、手の中に星のカケラが飛び込んできた。
 掴もうとして、砂のようにさらさらと流れ落ちていく。おや、と怪訝そうに瞬きをして。そうしたら……、
「……っ、月、が!」
 ぶつかる!
 と。
 そう思った瞬間、ゲニウスははっ、と、目を開けた。
「………………」
 目を開けると、満天の星空が目に入った。
 そうして、聞こえるはずもない波音が聞こえた気がしたのは、きっと一緒に海の景色も飛び込んできたからだろう。
「ああ……夢か」
 身を起こして、ゲニウスは息をつく。あれだけ巨大な月にまっすぐに走って行ったはずなのに、そんなものはどこを見ても存在しなかった。
「でも、綺麗だったな……」
 星が舞う宇宙を走る列車。夢の中での出来事だったけれども、夢の中でもずっと、ゲニウスは綺麗で見惚れていた。
「きっと昨夜見た、オリオン号の記憶のせいだろうね」
 まあ、最後は最後であれだったけど。
 でも、そんなのも含めて、いい夢だったかもしれない。と、ゲニウスはほんの少し苦笑して、身を起こした。

 窓の外を見る。外には海が見えた。寂れた漁村に、ほんの少し明るさが見える。まだ日は登ってないけれども、その気配を何となく感じて手早くゲニウスは着替えることにした。まだ朝食には早い。食堂車両に珈琲をもらいに行こう。あったかいやつを。
 客室を出ると、なんとなく人の気配がする。起きている人もいれば、寝ている人もいるのだろう。邪魔をしないようにそっと音を立てずに廊下を進むと、食堂車に出た。食堂車だけは、相変わらずの灯りと賑やかさで、ゲニウスは何となくほっとする。
「お邪魔するよ」
「おはようございます!」
 明け方でも変わらず元気なメイドさんたちに促されて、窓際の席を案内しそうになる。慌てて断って、寧ろ持ち歩ける珈琲をと頼む。
「食堂車両からもいいけど、照明の影響を受けない、自然な明るさの変化を感じたいなって。どこか使ってない部屋とか、客室車両の隅に大きな窓とかないかな?」
 その問いかけに、ああ。と、メイドさんちょっと待っていてくださいね、と言って奥に引っ込んだ。戻ってきたときには、珈琲と一緒にメモを持っていた。誰かに聞きに行ってくれたらしい。
「この番号に記載されたお部屋が、本日は空室ですよ。なにも準備をしていないのですが……」
「うん、大丈夫。なるべく汚さないようにするね」
 影朧騒ぎのせいで、本日は空室が多いのだという。言え、それは、お気になさらずといってくれたけれども、一応礼儀としてはそうしようとゲニウスは心に決めて、そのままふらりと一級客室を目指した。
「……さて」
 特にすごいことをしたいわけではない。ただ、日の出や朝の景色を楽しみたい。
 きっと海から昇る太陽は、素晴らしいものだろうから。
「……早起きの特権は、これからその土地の目覚めゆく経過を見れることだからね」
 これだから辞められないのだとゲニウスはそう嘯いて、教えられた部屋に向かう。
 さあ、終着駅まであと少し。最後までこの旅と、その出会いの余韻を味わおう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
一等客室でひとり
本を捲り
時折
夜景を楽しむ

気が付けば
傍らの酒器はすっかり空

散歩気分で食堂車へ
琥珀の酒瓶を貰い
部屋へ帰りかけ

何を読んでいらっしゃるの
聞かせてくださる

リュカさんの本を興味深げに見遣り
宜しければ、と客室へ誘おう

温かい珈琲を差し出すも
広々した部屋は
ぽつんと冷える

賑やかな方が好きそうに見えます?

特に意味無き問いは
単なる戯れ

気紛れです
偶には隔絶されてみたくなるでしょう

だけど
彼を招いたのは
一緒に居たいと思ったから
想いに従っただけ

ゆったりとしたひと時、
流れゆく風景、
交わす他愛ない会話、
其れらをたぷりと揺れる琥珀に溶かし込んで
飲み干してしまおう

琥珀石の如く
永い眠りに就けるかしら、なんて
ささめき笑う



 綾はふと手を伸ばして傍らの酒器をとる。
 それが思いのほか軽くなっていることに気が付いて、おや、と瞬きを一つした。
 客室には時計がないけれど、月が随分と傾いていて、
 もうこんな時間かと一人瞬きをする。
 読みかけの本に栞を挟んで閉じれば、サイドテーブルにひとまず置いておいて綾は立ち上がった。
「んー。私としたことが……」
 今日は止めてくれる縫がいなかったので。時間も忘れて読みふけってしまったがそれはそれで悪くはないだろう。
 ルームサービスもできるだろうけど、折角だから綾は散歩気分で外に出てみることにした。

 廊下は静まり返っていた。
 綾が部屋に引きこもるまでは、静かとはいえ、多少の音はしてたものだけれども、まるで列車自体が眠りに落ちてしまったかのようである。
 がたん、ごとんとかすかに動く車両の音を聞きながら、綾は食堂車にたどり着く。
 食堂車だけは明るくて、人が生きている気配がしていた。
「済みません、これを」
 人数は少ないが、メイドさんもちゃんといて、綾はお土産気分でそう言って琥珀の酒瓶を貰う。
 それでご機嫌、ちょっとした散歩を終えて帰ろうとしたところで、綾はふと声をかけた。
「おや、リュカさん」
「おや、綾お兄さん」
 窓際でのんびり本を読んでいるリュカに声をかける。テーブルにはずいぶん前に空になった珈琲のカップがあった。
「何を読んでいらっしゃるの。聞かせてくださる?」
「えーっと……、これは……なんだっけ。多分ミステリー」
 さっきまで読んでいたヤンデレ純愛物は教育に悪いと禁止されてしまったので、新たな本を広げたばかりである。こちらはよくある学園で名探偵が活躍する割と荒唐無稽気味なミステリー小説だ。割と、そこまで手間かける上に運頼りなトリックをする必要があるの?と言われるようなやつである。
「おや。リュカさんはそう言ったものも読むんですね」
「うん。俺の知らない世界の物語は、何でも好きだよ。自分じゃ絶対体験できないものを読むのは好き。UDCの図書館はざるチェックで本を貸してくれるからもっと好き」
 と、そこまで行ってから、ふとリュカは首を傾げて、
「お兄さんは、こういうの読まなさそうだよね。どんなの読むの?」
「そうですね……。ああ。よろしければ何点か持ってきていますから、ご覧になられます?」
「ん、行く、行く」
 多分、綾の持っている本は、UDCの図書館とはまた違った趣があるだろう。それももちろん、好きである。リュカは自分の本をぱたりと閉じて、綾についていくことにした。

「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
 綾がとったのは一等客室である。「なんていうか、無駄に広いよね」というリュカの感想通り、やたらゴージャスで広い部屋だ。
「お兄さんらしくないような気が、しないでもないけど」
「ああ……賑やかな方が好きそうに見えます?」
 頂いた珈琲を口につけながら、リュカが言う。カップから豆迄上等さが違う気がする。
 さっきまでぽつんとして、しんと冷えていた部屋は一人人が増えただけで随分暖かくなったような気がした。
「んー。というか、もっと狭くて雑多なところが好きそうというか」
 そうかもしれません、と綾は曖昧に笑う。綾の方はといえば、貰ってきた酒に口をつけたりもしている。
「気紛れです。偶には隔絶されてみたくなるでしょう」
「……ふうん?」
 とはいえ、隔絶されたいと思いながらも一緒に居たいと思ったから。だから綾は彼に声をかけたのだけれども。
 がたん、ごとん、と、遠くに列車の音が聞こえる。
 何でもないようなやり取り。本の話や星の話。綾の店の話。そんなたわいない会話をして。
 其れらをたぷりと揺れる琥珀に溶かし込んで、飲み干して……、
「お兄さんさ」
「はい?」
「なんか、やなことでもあった?」
 不意に。
 何かの話の端を掴んでか、リュカがそう言った。
「……そう見えますか」
「わかんない。俺は人の心の機微には疎いから」
 綾は静かにリュカを見返す。リュカは無表情でそういう。自分の感情を表に出すことも疎いし、他人の感情を掴み取ることも苦手なリュカだから、思い違いかもしれないとは思いながら。
「さあ……。ただ」
 ふむ、と綾はしばし考えこむ。
「琥珀石の如く……永い眠りに就けるかしら、なんて。思うものだから」
 ささめき笑う綾に、リュカは首を傾げて、「お兄さんは死にたいの」と静かに、淡々と問うた。
「死にたいと言ったら殺してくれます?」
「いいよ。本気ならね」
 互いに視線を交わすが、その感情は互いにうかがえない。
「……ところでさっき言ってた本の話だけど」
「ああ。そうでした。こちらに……」
 沈黙は一瞬だった。あとはいつも通り。いつものように会話をして終わるだろう。
 何事もなかったかのように、走り続ける列車と同じように……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
・ヴォルフ(f05120)と

いつの間にか眠ってしまったみたい
ふと目覚めて窓の方を見ると、まだ夜も明けきらぬ暗い空
黒の天蓋にちいさな白が舞うのが見える
きっと外は雪模様ね

カタタン、コトトンと揺れる汽車の音に紛れて
とくん、と頬に伝わる鼓動
ヴォルフ、わたくしの愛しい人
彼が生きている証、命の音
包み込んでくれる腕のあたたかさ

眠る彼を見つめ、そっと顔を寄せれば
不意に引き寄せられる感覚がして
どちらからともなく口づける
きっと二人、同じことを思っていた

東の空が朝の白に染まるまで
もう少しこうしていましょう

終点についたら、そこは初めて訪れる街
新しい思い出、新しい旅立ち
これからも二人で素敵な思い出を作りましょうね


ヴォルフガング・エアレーザー
・ヘルガ(f03378)と

いつの間にか俺も眠ってしまったようだ
衣擦れの音に目覚め、薄く開いた視線の先に映る愛しき姿
この腕の中にあるぬくもり
ヘルガ……俺の最愛の妻

ほんの少し、彼女が身じろいだような気がして
俺の寝顔を覗き込むように頬を寄せるものだから
この胸から溢れるほど愛しさはいや増して
そっと抱き寄せて目覚めの口づけを

おはよう、ヘルガ
昨夜はよく眠れたか
疲れてはいないだろうか
初めての列車の旅に子供のようにはしゃいでいた昨日の彼女
それはきっと彼女が『幸せ』を感じている証

白絹のような髪を優しく撫ぜ
二人、夜明けの空が白むのを眺めて

これからも、その無垢な笑顔を見せてくれ
俺は必ず、お前を守るから



 遠くで列車の音が聞こえてきている。
 がたん、ごとん、と、規則的に繰り返されるそれは、昼間は聞こえてこないものであった。
 きっとこの静けさが、それを耳に届けたのであろう。
「ん……」
 それを聞いた空かどうかは兎も角。ヘルガはゆっくりと身じろぎをした。
 うっすらと目を開けると、見慣れぬ部屋があり、そうして、ああ、ここは列車だったとヘルガは思うのだ。
(……いつの間にか眠ってしまったみたい)
 思わずそうつぶやきかけて、ヘルガはやめた。起こしてしまっては、いけないから。
 なのでそっと、起こさぬようにそっと、窓の方を見ると、まだ夜も明けきらぬ暗い空。
 黒の天蓋にちいさな白が舞うのが見えた。
(……きっと外は雪模様ね)
 口には出さず、思う。そうしてヘルガはそっとヴォルフガングの顔を覗き込んだ。
 カタタン、コトトンと揺れる汽車の音に紛れて、頬に彼の鼓動が伝わる。
 生きている。……生きて、温かく、そこにいる。
 彼が生きている証、命の音。
 包み込んでくれる腕のあたたかさ。
「ヴォルフ、わたくしの愛しい人……」
 思わず口を突いて出た言葉は小さくて、ヴォルフガングに聞こえたかどうかはわからない。
 ただ……、

「……」
 衣擦れの音を聞いた気がして、ヴォルフガングはうっすらと目を開けた。
(ああ……いつの間にか俺も眠ってしまったようだ)
 視界のに、愛しいヘルガの顔が映っている。
 心地よく眠り込んでしまったのは、きっと彼女の暖かさのせいだろう。
(ああ……)
 腕の中にある。その姿に思いが募る。
「ヘルガ……俺の最愛の妻……」
 口の中で呟いたその声が、ヘルガに聞こえたのかどうかはわからない。
 ただ、ヘルガはそっと、ヴォルフガングの顔を覗き込むように頬を寄せる。
「……」
 ふっとささやかれた言葉に、ヴォルフガングはヘルガを抱き寄せた。
 ヘルガは嬉しそうにヴォルフガングを見つめる。そして、
「……ふふ」
「ん?」
「きっとわたくしたち、同じことを思っていたのでしょうね」
「ああ……」
 そう、ささやきあうようにして。
 二人はそっと、口づけを交わした。
「おはよう、ヘルガ。昨夜はよく眠れたか」
 口づけが終わると、早速ヴォルフガングが声をかける。
「疲れてはいないだろうか。寝心地は悪くなかっただろうか?」
「ええ。ええ。大丈夫です」
 初めての列車の旅に子供のようにはしゃいでいた昨日のヘルガを思い出し、矢継ぎ早に問うヴォルフガング。
 昨日の彼女はきっと、『幸せ』を感じている証だったのだから。
 だからこそ……其の幸せは今も続いているのだろうかと。
 ほんの少し、真剣に。そう声をかけるヴォルフガングに、くすくすとヘルガは笑った。
「とても……とても心地いい眠りでしたわ。ヴォルフは?」
「俺か。俺はもちろん……心地よかった」
 改めて問われ、そう答えるヴォルフガングに、
 ヘルガは嬉しそうに笑った。
「なら、私たちはお互いに、とても幸せね……。東の空が朝の白に染まるまで……、もう少しこうしていましょう」
「……ああ」
 その笑顔に、そっとヴォルフガングはヘルガの髪を優しく撫でる。
 二人、夜明けの空が白むのを眺めている。海の際から光が満ちて、まるで祝福のようだと、どちらともなくそんなことを思った。
「……これからも、その無垢な笑顔を見せてくれ。俺は必ず、お前を守るから」
 そう、力強く声をかけるので。ヘルガは本当に、嬉しそうに笑った。
「これからも……二人で素敵な思い出を作りましょうね」
 終点についたら、そこは初めて訪れる街。
 新しい思い出、新しい旅立ちが、二人を待っているから。
 それはきっと……楽しい旅路になるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ベイメリア・ミハイロフ
リュカさまとお会いできましたら嬉しゅうございます

ふと目覚めて、なんとはなしに灯りの方へ(時間帯お任せ)
食堂車には、まあ、リュカさま、いらしたのでございますか

リュカさまは何か召し上がりましたか?
わたくしは先程、ハヤシライスをいただきましたよ
などとお話を致しながら過ごしたく存じます

窓の外の移りゆく景色を眺めつつ
わたくしも、この世に心残りができてしまった場合は
影朧となって、彷徨ってしまう事もあるのでございましょうか…
その場合はリュカさま、わたくしを見送ってくださいますか?なんて

こちらのシリウス号、この後は公園でのお役目が待っていると伺いました
その際には、またお仕事ぶりを拝見できますと良うございますね



 がたん、ごとん、と、音がして。
 ベイメリアはゆっくりと、ほの暗い通路を歩いた。
 夜間に合わせて、照明は絞られていて。なんだか先ほどまでとは打って変わったようなその空気に、ベイメリアはそっと息をつく。
 特に、何か用事があったわけではない。
 ただ、なんとなく目が覚めてしまったのだ。
 この夜の中を征く列車の中で、食堂車だけが煌々と灯りを付けていた。
 まるで灯台のようだ、と、ベイメリアは思いながらも、そっと音を立てないよう、食堂車の扉を開けた。
 音量の絞られたBGMは、どこか異国を思わせるような曲が流れている。
 人影はまばらだが、皆無ではない。
 少ないメイドさんたちがほんの少し退屈そうにしながらも、ベイメリアの姿を認めて慌てて席を案内しようとした……その時、
「まあ、リュカさま、いらしたのでございますか」
 見知った姿を見つけて、ベイメリアは思わず声を上げた。
 リュカもそれに気付いて、顔を上げる。
「あちらに。ええ。失礼いたしますね」
 メイドさんに声をかけてベイメリアがリュカの座る席へと向かうと、リュカもぱたんと本を伏せてベイメリアを出迎える。
「ごきげんよう、リュカさま。リュカさまは何か召し上がりましたか?」
 腰をかけながらの問いに、うーん。と、リュカは少し考えこんだ。
「何か、食べたような気はするけど……」
 究極味音痴なので、一人で食べたものは残念なほどに覚えていない。その様子に、まあ、とベイメリアは瞬きをする。
「わたくしは先程、ハヤシライスをいただきましたよ」
「そうなんだ。美味しかった?」
「ええ、とても。それから景色もとても綺麗で……」
 詳しく教えて、というリュカに、今日の景色をあれや、これやと語るベイメリア。それをリュカは静かに聞いて、時々、相槌を打つ。がたん、ごとん、と、列車の動くほんの少しの音が、なんだか妙に大きく聞こえるくらい静かな食堂車でのこと。穏やかで、ささやかな会話で、長いことそうして、二人は話し込む。
「……と、いうわけでした」
「そうか……」
「リュカさまは、もうご存じの顛末かもしれませんが」
「ううん。お姉さんの口から、お姉さんがどう考えたかとか、聞くのは楽しいよ」
 人によって、感じることも変わるから。と、リュカはそう言ってかすかに笑った。それはようございました、とベイメリアも微笑む。
 それで、ほんの少し、会話が途切れた。
 窓の外は丁度森で。木々がいつまでも連なっている。その隙間からちらちらと星がのぞいて、ベイメリアはそれを見つめながら、
「わたくしも、この世に心残りができてしまった場合は、影朧となって、彷徨ってしまう事もあるのでございましょうか……」
 ぽつん、とつぶやいた。
 その、星空を思い出して、ベイメリアは目を細めてそんなことを思ったのだ。
「……その場合はリュカさま、わたくしを見送ってくださいますか?」
「……」
 なんて。と、ベイメリアが言おうとした前に、
 リュカはほんの少し、首を傾げた。
「心残り次第にもよると思うけど……お姉さんがそれを、晴らしてほしいなら」
 もちろん、手を貸すよ、とリュカは言った。そして流れるように、
「でも、心残りなら死ぬ前に解消しておいた方がよくない? で、誰を殺すの?」
 今のうちにその心残り、晴らしておいてあげるよ。任せておいて。……なんて、自信満々にリュカが言うので、
「!? 殺しませんよ!」
 ベイメリアはちょっとびっくりして。慌ててそんなことを言って。そして笑った。
「何だ。殺す以外に俺が晴らせる未練とか、ないよ?」
「むう……。そこは、おいおい考えていくことにいたします」
 未練の内容はまた後日、らしい。
 そんな言葉に、思わず二人顔を見合わせて、笑った。
 がたん、ごとん。
「……こちらのシリウス号、この後は公園でのお役目が待っていると伺いました」
 ひとしきり笑った後で、なんとなくベイメリアはそう切り出す。
「その際には、またお仕事ぶりを拝見できますと良うございますね」
「……俺だったら、引退した後はゆっくりしていたいけれどね」
「あら」
 そのうちにね。なんてリュカは言うので、ベイメリアも楽しそうに笑った。
 がたん、ごとん、という列車の音に交じって、
 ひそやかな笑い声が周囲に響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
※寥さん(f22508)と

傾けたお酒が美味しくて
そうですね、もう少し眺めましょう

衝撃が大きかったのは
童話の国みたいなありすの世か
機械や文明が発達して、驚くばかりのUDCアースかなぁ
此処も面白いですよ
桜の転生や合法阿片とか、他で見ないし
中から見るとそうなのかな

僕は宙で戦ったことはないんですが
りぞーと宇宙船に乗ったことは
大丈夫でしたねえ
ただ、空飛ぶ船の中に海があったり…目を剥くばかりで
いや、酔ってるんじゃなく本当に

ええ
丁度いい位に温まったし、戻りましょうか
僕は…朝日まで見てようかな
あ、酔い加減的に眠くないです?
頃合いのとこで起こしますよ

申し出に笑って、どうぞ遠慮なく
そういや、煙も世によって違うなあ


鏑木・寥
冴島サン(f13398)と

もう暫く食堂車で外を眺めながら酒を飲む

そういえば冴島サンは色んなとこを旅してんだろう
一番印象に残った国や世界ってのはどこだい?
まあこの辺りは、そんなに目新しいものはないんだろうが
桜だけは見飽きるほどあるけどな

俺はあの、宇宙空間だっけ
あの空間が気にはなるんだが…
具体的にはその、本当に空の上なんていって大丈夫なのか?とか

程よく回った口を酒で流して
…少し飲みすぎた
程よく酔いが回ってきたあと部屋に引き上げる
時計を一目

朝日を眺めんのも、乙なもんだとは思うが……
俺はひと眠りするかな
適当なとこで起こしてくれ

寝る前に、そうだ。さっきまで外なんで我慢しててな
最後に、一服していいか?



 列車と列車が離れ、遠ざかっていく。
 湖は湖のままではいない。それもまた、少しずつ進路をそれて、列車は湖の近くにある市街地を通り抜けていった。
 停車駅ではないのだろう。止まらず駅を通過する列車。
 さほど都会ではなく、ほんの少し田舎めいた街並みと桜の花びら。低い建物ばかりだから、未だ美しい星空を見ることができた。
 一大イベントを終えたからか、食堂車は徐々に人が減ってくる。
 いまだ食事の時間だから、一気に、という感じではないが、ポツリ、ポツリと席を立つ人たちに、
「もう暫く、ここから外でも眺めてるか」
 そして飲むか。と、寥が言うので。
「そうですね、もう少し眺めましょう」
 類も笑って、手にしていた酒を傾けた。
 思いのほか、お酒がおいしかったのは、きっとお酒の味だけが理由ではないだろう。
 流れる景色を見ながら、二人してのんびりと酒を飲む。
 語るのはたわいない会話だ。割と記憶には残らないような、酒の席での話。
 そんな話の中でふと、
「そういえば冴島サンは色んなとこを旅してんだろう。一番印象に残った国や世界ってのはどこだい?」
 ふと思い出したように、寥は尋ねた。もちろん時折でかけたりはするが、寥は類ほど飛び回ってはいない。類なら、一つや二つ三つや四つ、奇妙な世界を知っているだろう、と思ったのがきっかけで、
 その問いに、類はうーん、と腕を組んでしばし考えこんだ。
「衝撃が大きかったのは……、童話の国みたいなありすの世か、機械や文明が発達して、驚くばかりのUDCアースかなぁ……」
 答えにあげたのは、双方とも割と極端で独特な世界であった。メルヘン極まっているアリスラビリンスも、すべてが合理的でシステム的なUDCアースも、類から見れば十分に面白い。あ、でも、と、考えながらも思い出したように、
「此処も面白いですよ。こんな桜の世界は、そう、ありませんから」
 と、言ったので。寥は僅かに眉を寄せる。
「桜なんて、UDCにもあるだろう。まあ、桜だけは見飽きるほどある、というのは確かだが。この辺りは、そんなに目新しいものはないだろう?」
 量だけは多いが、どこにでもあるじゃないかと主張する寥に、類は苦笑した。
「桜の転生や合法阿片とか、他で見ないし……。でも、中から見るとそうなのかな。自分で住んでいるところは、それが普通ですから、目新しさはないかもしれませんね」
「ああ……。なるほど、そういうものか」
 類の言葉に、なるほどそういう考え方もあるのかと寥は頷く。頷きながら……、
「……」
 ふと、類の視線を感じた。なんだか期待するような眼をしている。それで察して、寥は一息、ついて。
「俺はあの、宇宙空間だっけ。あの空間が気にはなるんだが……。具体的にはその、本当に空の上なんていって大丈夫なのか? とか」
 気になるだけで行ったことはなさそうな寥の口ぶりに、なるほど。と類は考え込む。
「僕は宙で戦ったことはないんですが、りぞーと宇宙船に乗ったことは」
「あるのか」
 声に若干、いいなあ。という感情が混じっていたので、類は苦笑する。
「ええ。それで、大丈夫でしたねえ。ただ、空飛ぶ船の中に海があったり……目を剥くばかりで」
「ああ。宇宙とはいえ、船だからな……」
「いや、酔ってるんじゃなく本当に」
 寥の合いの手に、類は笑いながらそう返す。
 寥は頭を掻く。今日はなんだか程よく口が回るらしい。
 流すようにもう一杯。酒を口に含む。
「……少し飲みすぎた」
 と。それで端的にそう言ったので、類は微笑んだ。
「ええ。丁度いい位に温まったし、戻りましょうか。立てますか?」
「そこまで酔ってない。大丈夫だ」
「……はい」
 そうは言いながら、若干足が心配だ。が、類は何も言わずに、だが少し様子を見ながら二人して客室に戻る。
 そのころには、あらかたの人が客室に引き上げて。がたん、ごとん、という、静かな列車の息遣いのような声が廊下に響いていた。

 客室に戻ると、そのままどっさりと寥はベッドに横になる。時計を見ようと思ったら、なかった。この列車のコンセプトだろう。
「冴島サン。時間……」
「はい。ああ……ええと、わからないです」
「おー……」
 特にそう時間が必要だったわけでもない。うぅ、とか、唸りながら寥はその場でごろりと一回転する。いい感じに酔いが回ってきているらしい。
「冴島サン、どうするんだ」
 もう寝るか、と、端的に寥は問う。寝る時間かどうかはわからないが、眠くなった時が寝時だ。類はしばし考えこんで、
「僕は……朝日まで見てようかな」
「ああ……。朝日を眺めんのも、乙なもんだとは思うが……」
 類の返答に、そう、と、寥はこたえる。
「あ、酔い加減的に眠くないです? 頃合いのとこで起こしますよ」
「ああ。俺はひと眠りするかな。適当なとこで起こしてくれ」
 そこまでいって、はっ。と、寥は顔を上げた。
「寝る前に、そうだ。さっきまで外なんで我慢しててな。最後に、一服していいか?」
 一瞬で、眠気が半減したような言い方だった。これがなければ一日は終わらないかのような寥の言い方に、類は笑う。
「どうぞ遠慮なく」
「なら、遠慮なく」
 そうしてすぐさま遠慮なく漂ってくる煙の臭い。それに類は笑いながらも、
「……そういや、煙も世によって違うなあ」
 なんて、感心しながら、呟いたという。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶】
か、勝った……!!
未だ続いていた熾烈なトランプバトル
××回にも及ぶ二人ババ抜きの末
勝利を勝ち取った…!

ああ、なんていい日なんだろう
今日は最高の夢が見られそうだ
いい気分のままふかふかベッドで眠りにつこうと…

あ?飯?
またしても水を差されてしまったが
そういえばまだ駅弁しか食っていなかったな
星を眺めながら豪勢な飯を食うのもいいな
ふふふ、今の俺はご機嫌だから
綾の食いたいもの何でも食わしてやろう

注文したのはカツ丼大盛り
「勝負に勝つ」という思いを込めて
もう勝ったって?
ふっ、あの一度の勝利に満足すること無く
これから勝ち続けるという願いと決意をだな…

え!?まだそんなに食うつもりなのかお前!?


灰神楽・綾
【不死蝶】
わぁ、おめでとう梓(拍手
俺まで自分のことのように嬉しくなっちゃう
朝までかからなくて良かった…

よーし、それじゃあ食堂車に行こう
ほら、戦いのあとのご飯はひときわ美味しいでしょ
真夜中ならお客さんも少ないだろうし
のんびりと過ごせそう
え、今何でもって?やったー
なるほど、梓に機嫌良く奢ってもらうには
こうすればいいのか…俺は学んだ

注文したのはサーロインステーキ定食
折角だから一番お高いメニューをチョイス
駅弁も美味しかったけど
出来たて熱々の柔らかお肉の味は格別
こんな時間でも俺たちの為に美味しいご飯を
提供してくれるスタッフさんたちに感謝

それじゃあ追加でヒレカツサンドとー
デザートにパフェとプリンとー



 そうして夜空も徐々に白みだして……、
 綾がどこか遠い目をして夜明けまでの刻限を数えだしたころ。
「か、勝った……!!」
 最早意地になっていた。はらりとカードを落として、力尽きたようにその場に崩れ落ちる梓。
 いや、崩れ落ちたいのはこっちの方だという顔をしながらも、なんかもう様々なものを通り越した綾がぱちぱちと拍手をしていたという。
「わぁ、おめでとう梓。俺まで自分のことのように嬉しくなっちゃう」
 拍手は力なく。声はどうしても「ええからもう寝たい」みたいな感じになっているが本心である。これはもうここころからの本心である。
 ××回(数えるのはあまりにも辛かったので途中でやめた)にも及ぶ二人ババ抜きの末、未だ続いていた熾烈なトランプバトルはここにようやく、終わりを告げたのである……。
「朝までかからなくて良かった……」
 日の出まであと約数分。
 こんな、本心から本心を呟く綾なんて本当に珍しいものかもしれなかったが、梓はそんなことはもう、聞いちゃいなかったという……。
「勝利を勝ち取った……! ああ、なんていい日なんだろう……!」
 そんななまあたたかい綾の心のうちを知ってか知らずか。もそもそとそのまま這いずるようにしてベッドに横になり、布団に丸まる綾。
「今日は最高の夢が見られそうだ。お休み零、焔。俺はこれから喜びの野へと旅立つよ……」
 ふかふかベッドに勝利の余韻。さあ、このまま眠ればもう今日はさいっこうの一日に違いないと、梓はゆっくりと目を閉じて……、
「梓。梓。こら梓ー」
 ゆっさゆっさ。
 ゆっさゆっさゆっさ。
「あ??」
 そうして阻まれるのであった。
 ほかならぬ、今下したばかりの綾の手によって。
「あ?? じゃないでしょ。よーし、梓、それじゃあ食堂車に行こう」
「は?? 食堂車?? 飯??」
「ほら、戦いのあとのご飯はひときわ美味しいでしょ。真夜中ならお客さんも少ないだろうし、のんびりと過ごせそう」
 にこやかに笑う綾。どこかその背後から、「ここまで付き合ったんだからお前も付き合え」的なオーラを感じるのはたぶん梓の気のせいかもしれない。今最高に眠い。またしても水を差されてしまったが、確かに無理に付き合わせたのはこちらの方だという自覚はあるし……、
「そういえばまだ駅弁しか食っていなかったな……」
 耐久カードゲームしてたからね。お腹が空いているのは空いているかもしれない、と梓は思いなおした。
「っし。星を眺めながら豪勢な飯を食うのもいいな。ふふふ、今の俺はご機嫌だから、綾の食いたいもの何でも食わしてやろう」
 そうと決めれば即断即決。この気持ちの良さが梓のいいところだ。がばっ。と布団から起き上がる梓に、おぉ、と綾は珍しいものを見る目をする。
「え、今何でもって? やったー。さっすが梓、太っ腹」
「おうおう、任せとけ!」
 胸を張る梓に、うんうん、と嬉しそうに綾も頷く。頷きながら、
「なるほど、梓に機嫌良く奢ってもらうには、こうすればいいのか……」
 ぽつん、とつぶやいた綾の言葉はたぶん梓には聞こえていなかっただろう。だいじだいじ。りょうおぼえた。

 そうして二人してご機嫌で向かった食堂車は、人影はまばらであった。太陽が海の上からゆっくりと昇っているところで、ああ、戦いは終わったんだな、と、なんとなく綾と梓はラスボスを倒した後のエンディングを迎えたような気分になる。多分ラスボスがなんであるかは各自違うだろうけれども、同じような気持ちになりながら食堂車の席に着く。
「じゃ、俺はかつ丼大盛りで」
「俺はねー。サーロインステーキ定食で」
 注文に、二人して顔を見合わせてしまう。
「それ、折角だから一番高いのって思っただろ」
「え、ばれた? 駅弁も美味しかったけど、出来たて熱々の柔らかお肉の味は格別だなーって。……ところで綾は何でかつ丼?」
「ふっ。「勝負に勝つ」という思いを込めて……だ」
「……は??」
「ん? ……ああ。もう勝ったって? ふっ、あの一度の勝利に満足すること無く。これから勝ち続けるという願いと決意をだな……」
「ちょっとよく聞こえなかったな。もう一回言って???」
「!!」
 料理を運んでいたメイドさんが、綾のただならぬ気配に悲鳴をあげそうになったのを何とかこらえたという。
 ちなみに梓は、しれーっとした顔をしていたという。

「はい、こんな時間でも俺たちの為に美味しいご飯を、提供してくれるスタッフさんたちに感謝」
「おう、感謝ー」
 そんな一幕がありながらも、両手を合わせて拍手をする二人。そして流れるように、
「それじゃあ追加でヒレカツサンドとー。デザートにパフェとプリンとー」
「え!? まだそんなに食うつもりなのかお前!?」
「もちろん。なんたって奢りだからね!」
 さっ。とメニューを広げる綾に、思わず梓が声を上げて。
 そんな二人を、朝日が優しく照らし出しているのであった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
夜分遅く
本を片手に食堂車へ
三等客室で、カーテン越しとはいえ灯りをつけているのは申し訳ないしね

やあリュカ、眠くはないかい
見つけた彼に声をかけ、良ければ相席を願い出よう
オレも眠らなくなって随分経つ
夜を過ごす時は本を共にすることが多いけれど
今夜は友と話して過ごしてもいいかな
何の本?と首を傾げ
己は列車の本だと笑い
列車の音とページをめくる音
リュカは、列車旅ってよくするのかい?
オレは初めて乗ったよ
いいものだね、列車って

黎明の頃、太陽は見えぬけれど薄紫へと変わり行く空を車窓から眺め
この時間の空が好きだ
空の色が綺麗で、よく徹夜明けのあの人と眺めた

公園でも人に愛されますよう
終わりを迎えるシリウスにそっと祈った



 夜分遅く、本を片手に食堂車を訪れる。
 列車は先ほどまでの勢いをなくし、しんと静まり返っていた。
 まるで、列車自体が眠りについてしまったかのようで、
 静まった廊下に、がたん、ごとん、と、響く車両の音は何処か、列車の寝息のようにも聞こえられた。
 とはいえ、実際のところ車両はまだ起きている。
 さすがに三等客室で、カーテン越しとはいえ灯りをつけているのは申し訳なく感じたディフがたどり着いた食堂車は、未だ賑やかな。人の営みと灯りに満ちていて、なんとなくディフはほっとしたようにその扉を開くのであった。
「いらっしゃいませー」
 客はまばら。それに合わせてメイドさんたちもまばらだが、きちんと対応してくれるところが何だか、ここだけ急に世界が変わったような雰囲気だな、と、ディフはほんのちょっと、興味深そうに周囲を見回して……、
「やあリュカ、眠くはないかい」
 案内は大丈夫、と言って。見つけたリュカのほうに声をかけた。
「平気。二晩ぐらいは。訓練してるから」
 そういって、リュカは顔を上げる。丁度本を読んでいるところであった。
「そうなんだ。……ここ、いいかい?」
「勿論、どうぞ」
 前の席に腰を下ろすと、リュカはぱたんと本を閉じた。そのまましまおうとしたのだけれども、ディフのほうも本を持っていたのに気がついて、やめる。
「お兄さんは眠れないの?」
「いや、眠れない……というのは少し違うんだ」
「……ああ」
 それで何となく、リュカは納得した風に首を傾げた。それ以上リュカは何も言わなかったから、それが当たっているかどうかを問うのはディフもやめにして、
「オレも眠らなくなって随分経つ。夜を過ごす時は本を共にすることが多いけれど……、今夜は友と話して過ごしてもいいかな」
 そう、問うた。問うたと言っても、答えはわかっていたので注文は、何か紅茶にしよう。と、メニューを広げて紅茶の欄を見つめていた。リュカは気に入らない人間と相席などしないだろうと思ったので、そんな感じだったのだが、不思議そうな顔をして瞬きをしたので、うん? とディフは首を傾げる。
「……友達」
「ああ……そこか。駄目だったかな」
「いや、少し、意外だったから。でもこの違和感は、うまく説明できない。俺もちょっと、人にしては物事の捉え方がおかしいことがあるみたいで。でも、悪い気持じゃないから、心配しないで」
 リュカ的にはそう説明するので手いっぱいだったので、そんな風に返答した。なるほど、とディフも納得したような顔をした。
「そういう違和感は、大切にしたほうがいいと思う。オレもうまく、説明できないけれどね」
「やっぱり? お兄さんもそういう違和感ある?」
「リュカの違和感とは、同じかどうかはわからないけれども、たぶんあると思うよ」
 詳細は言わないので、わからないけれども。詳細を確認するのも、なんだか変な感じがして。
 代わりにディフは、何の本? と尋ねる。
「これ? これはねー、ひたすら料理食べてる小説。お兄さんは?」
「オレは、己は列車の本」
「面白い? 人は死ぬ?」
「面白いけど、人は死なないかな」
 どちらかというと旅行記だというディフに、なるほど、とリュカは感心したような声を上げた。
「ここで読んでいっていいかな」
「勿論だよ」
 そうして二人、頼んだ珈琲と紅茶をお供にページを開いた。
 列車が動く、穏やかな音とともに、紙が一枚、また一枚と捲れる音がする。
 まるで雪が降るようだと、ディフは何となく思って。
「……リュカは、列車旅ってよくするのかい?」
 時折、話しかけてみたりもする。
「あまり。俺は、こういう世界ではあまり活動しないから。……普段とは、景色の感じ方が違って驚くよ」
 あと便利。なんて、ぽつぽつとだが、必ず返答がある。それに、ディフは小さく頷いたところで「お兄さんは?」なんて、聞かれて、
「オレは初めて乗ったよ。……いいものだね、列車って」
「いいし、楽だけど、慣れるといつもの旅に戻れなさそう」
 雨風しのげるし。夜だって走れるし。なんて言うリュカに、ディフはそうかもしれない、と微笑んだ。
 ……もし、ディフが列車から離れられなくなったら、どこへ行こうか。
 星と桜の海を抜けて、外国まで行っても。列車は暖かいだろうか……なんて。
 そんな、とりとめのないことを考えて。窓の外へと視線をやると。
「ああ……リュカ」
「ん?」
 夜明けが近い。太陽は見えないけれど、夜の藍色が薄紫へと変っていく。……海だ。海と空。遠くに漁船。まるで朝日に向かって進んでいるようで、
「この時間の空が好きだ。空の色が綺麗で、よく徹夜明けのあの人と眺めた……」
 しらず、漏れた呟きを聞いていたのか。リュカは軽く鼻を鳴らして、「なるほど」といった。
「そういうの、好きって、言うんだ」
「ああ……そう。うん、そうだね。好きだ」
 言い直すと、なおさら好きになったような気がして。確かにもう一度、ディフも頷いた。
「……この列車が、もう、走らなくなったとしても……」
 公園でも人に愛されますよう、と……。
 ディフは朝日に向かい、終わりを迎えるシリウスにそっと祈った……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

火狸・さつま
【空】

皆でお茶会っ
ちゃあんとルームサービス頼んどいた!(えっへん!)
ジュジュは、ケーキ?
全種、類!凄い、ね!
俺はね俺はね、贅沢山盛りアイス!!
あったかい部屋で食べるの、格別!
それからオレンジジュレとー、ブドウジュレとー……
あとねあとね、ジャムの寒天!
皆で、わけっこ、しよ!

ふふふー、深夜のケーキ、良い、よね!
アイス頬張ってにこにこ
ピスタチオのマカロン乗ったケーキ、食べ、たい!
わぁいショコラ!換えっこ~!

コノの、お手製…(ごくり)
俺も!たべたぁい!!

満天の星空!
凄く綺麗ー!!
列車から見るのも、良い、ね!

列車旅、凄く楽しかた、ね!
廊下の雰囲気とかも、好き
何でもないところまで沢山パシャリしてきた、よ!


ジュジュ・ブランロジエ
【空】
アドリブ歓迎

わくわくして眠れないし眠るの勿体ない
ということで深夜のお茶会!
ルームサービスでケーキ全種と紅茶を頼む
『深夜のケーキは背徳の味!メボンゴ苺タルトがいい』
メボンゴの前にタルトと紅茶を置く
※後でジュジュが美味しく頂きます

皆も好きなケーキ食べてね
私はガトーショコラから食べよっと
さつまさんにもらったアイスをのせてグレードアップ!

『ありがとう、とっきー!』
メボンゴ喜びの舞

コノさんのケーキ沢山食べた〜い!(チラッ
賄いがケーキの日があってもいいなぁ
※時々バルでバイトしてます

窓から見える星空にうっとり
星空の中を旅しているみたいだね

新作メニュー楽しみ!
味見係は任せて!

うん、すっごく楽しかったね!


神埜・常盤
【空】4人

さっきの光景、綺麗だったなァ
僕も寝付けそうに無いので茶会を楽しもう

おお、ケェキがいっぱいだ
僕は洋酒が利いたショコラにしようか
この真赤なフランボワーズのムースも貰って
紅茶も一緒に戴いて――

ウン、罪深い味がする
とっても美味しいねェ
バルでもこんなケェキ食べたいなァ(ちらっ)

メボンゴ君は苺が好きなのかね
じゃァ、僕のフランボワーズ一個あげよう
さつま君の所にはジュレがいっぱいあるなァ
ジャムの寒天、僕にも分けておくれ
お礼にショコラを一欠片あげよう

車窓から見えるのは
宝石を鏤めたような星空
あァ、やっぱり夜は好いものだ
この景色をモチーフにしたメニューかね
ふふ、完成したら是非食べさせてくれ給え


コノハ・ライゼ
【空】

綺麗な光景にたくさんの美味しいモノ
優雅な旅に気持ちは満たされてるケド
わくわくが収まらなければ目は冴えるばかり
茶会と聞けば参加しないワケもなく

あれこれ準備するまでもなくテーブルには茶菓子の花
じゃあオレも酒が利いたのが欲しいなあ
紅茶に洋酒を垂らしてもイイ
ほらほら背徳感増し増し~ってネ

うん?なに言ってンの
ウチのはウチのでいつも食ってンでしょうに
モチロン味の研究を怠る気はないケド、と
おねだりに手をひらひらさせあしらって
あ、後でアイスもちょーだい

星のトンネルを往きながらの秘密のお茶会
煌めく時間は夜空の宝石のようにーーナンて?
ああうん、そんなコンセプトで新メニューを考えるのなら
悪くないかもねぇ



 時計はとうに、良い子の就寝時間を過ぎていた。
 ……がっ。
「綺麗な光景にたくさんの美味しいモノ。優雅な旅に気持ちは満たされてるケド、わくわくが収まらなければ目は冴えるばかり……」
 ふっ、と、何やらアンニュイに言ってみせた。さらりと前髪をかき上げてみるので、常盤がふむ、と腕を組んで、
「どうしたんだいコノハくん。なんだか小説の書き出しみたいな喋り口だね」
 なんて言うので、コノハも軽く頷いた。
「そういうコト。折角だから、旅番組感を出そうと思って」
 しれっ。というコノハに、さつまが徐に顔を上げる。
「旅……?」
 お菓子いっぱい並べつつの台詞であった。そう、お菓子がいっぱい並んでいた。窓の外なんて関係ない。旅番組というより、お菓子番組であろう。ちっちっち、と、ジュジュのメボンゴが軽く指を立てて左右に振る。
『これぞ大人の旅番組、大人の女には欠かせないスパイス! 深夜のケーキは背徳の味! あ、メボンゴ苺タルトがいい!』
「はいはーい。ということで深夜のお茶会!」
『はっじまっるよー!』
 わくわくして眠れないし眠るのがもったいなかった。
 そんなジュジュたちの願いから始まったお茶会は、
 とりあえずルームサービスで「このメニューのケーキの欄上から下まで全部ください」というメボンゴが人生で言いたかった台詞No3ぐらいに入る台詞で持ってこられたケーキ全種と、そして紅茶とで幕を開けたのである。
「ジュジュは、ケーキ? 全種、類! 凄い、ね!」
『ふふふ、それほどで~も~?』
 メボンゴの前に置かれたイチゴタルトに、メボンゴは楽し気にくるくると踊っている。その隣でさつまもどこかご機嫌で、
「皆でお茶会、お茶会っ。俺、も、ちゃあんとルームサービス頼んどいた!」
 負けてないっ! とばかりに胸を張るさつま。それと同時に客室の扉がノックされる。ケーキを全て並べた後で、次の注文が来たのだ。
「俺はね俺はね、贅沢山盛りアイス!! あったかい部屋で食べるの、格別!」
 ほらほら、と、扉を開けて並べてもらう場所を指定しながら、さつまは得意げである。その顔が褒めて、褒めてと言っている。
「それからオレンジジュレとー、ブドウジュレとー……。あとねあとね、ジャムの寒天! 皆で、わけっこ、しよ!」
「だよ! ケーキも、アイスも、わけっこしちゃおう!』
「「ねー!」」
 最終的に声を合わせてウィンクを決める二人に、おぉー。とコノハと常盤は軽く拍手を送るのであった。
「至れり尽くせりねえ」
「だねぇ。おお、ケェキがいっぱいだ。……僕は洋酒が利いたショコラにしようか。この真赤なフランボワーズのムースも貰って、紅茶も一緒に戴いて――」
 感心したような声のコノハ。茶菓子の花ねェ、なんてコノハが言って、それに同調する常盤。しかし常盤はそんな素振りとは裏腹に、さっさとケーキを眺めて吟味を開始している。割と手が早い。
「じゃあオレも酒が利いたのが欲しいなあ。紅茶に洋酒を垂らしてもイイ」
 それで負けじと、ケーキに目を落とすコノハに、ジュジュがにっこりと笑う。それから、
「うんうん、皆も好きなケーキ食べてね。私はガトーショコラから食べよっと。そ・し・て~」
 じゃーん! とジュジュが手繰り寄せたのは薩摩の注文していたアイスクリームであった。
「さつまさんにもらったアイスをのせてグレードアップ!」
「! それ、いい、ね!」
 おおー。と、さつまが目を輝かすので、ジュジュは得意げに胸を張った。
「すごいわねェ。じゃあ、アタシもアイス載せちゃおうカシラ。ほらほら背徳感増し増し~ってネ」
『背徳感? メボンゴ子供だからよくわかんない~』
「あら、さっきまで大人の女とか言ってたのに」
 コノハの言葉に、『必殺聞こえないふり!』とか言いながら耳をくるりと追って見せるメボンゴ。うんうん。と二人の様子に常盤が頷く。
「メボンゴ君は苺が好きなのかね。じゃァ、僕のフランボワーズ一個あげよう」
『ありがとう、とっきー!』
 メボンゴ喜びの舞により、聞こえないふりは一分ももたなかった。
 くるくる回るメボンゴの前にフランボワーズを置いて、それじゃあ、と常盤は視線を変える。
「さつま君の所にはジュレがいっぱいあるなァ。ジャムの寒天、僕にも分けておくれ」
「もち、ろん! はい、どぞ!」
「ありがとう。お礼にショコラを一欠片あげよう」
「わぁいショコラ! 換えっこ~!」
 常盤と交換して、さつまはご機嫌でショコラを口に含む。それからアイスを口に含む。どんどん色々口に含む。
「ふふふー、深夜のケーキ、良い、よね!」
 アイスもケーキも頬張ってにこにこしながら言うさつまに、常盤ももうん、と頷いた。
「ウン、罪深い味がする。とっても美味しいねェ」
「うん、美味しっ。あっ、ピスタチオのマカロン乗ったケーキ、食べ、たい!」
「はいはい。あれだね。取らせてもらうよ。……バルでもこんなケェキ食べたいなァ」
 ちらっ。
 常盤がさつまのリクエストに応えてケーキをとりながら、ものすごく何でもない自然な風を装いながら全く自然でない様子でそんなことを言って、ちらりとコノハを見た。
「! コノさんのケーキ沢山食べた〜い!」
 その視線に乗ったのがジュジュだ。ちらっ。と、わざとらしいぐらい常盤に合わせてコノハの顔を見ている。
「賄いがケーキの日があってもいいなぁ」
「コノの、お手製……」
 二人の視線を受けて、コノハよりもさつまが反応する。
「俺も! たべたぁい!!」
『これは! もう賄いケーキが既成事実になった瞬間かも!』
 メボンゴまで追い打ちをかける一斉攻撃であった。割とあからさまで強力な攻撃であった。……が。
「うん? なに言ってンの。ウチのはウチのでいつも食ってンでしょうに」
 だが、コノハはかわした!
「モチロン味の研究を怠る気はないケド、賄いにケーキなんてねェ」
 論外、とばかりに手をひらひらさせてあしらうコノハ。
「えー」
「ええー」
「えええー」
『ええええー』
 ブーイングの合唱にも負けない。コノハはそのまま、
「あ、後でアイスもちょーだい」
 なんて言うのであった。今日のコノハさんはなんだかちょっと、強いらしい。

 そうやってひとしきり食べたり食べたり食べたりして食べた後で、あっ。と、さつまが声を上げた。
「満天の星空! 凄く綺麗ー!!」
 それにつられて、皆が窓の外を見る。
 丁度列車は草原のような場所を走っていて、空には数えきれないぐらいの星の光が瞬いていた。
「おや。宝石を鏤めたような星空だねェ」
 常盤が詩人めいた言葉を言いながら、ほう、と息を吐く。「あァ、やっぱり夜は好いものだ」……なんていうと、
『とっきー、小説家さんみたーい』
 なんて、メボンゴが拍手をする。ふっ。と常盤はアンニュイな表情を作って見せ、
「名探偵は時に物語の綴り手にもなるものさ。……わかるよ。コノハくんが今考えていることは、この景色をモチーフにしたメニューかね。ふふ、完成したら是非食べさせてくれ給え」
「はっ。新作メニュー楽しみ! 味見係は任せて!」
 思わず素で返すジュジュに、ええ。とコノハは瞬きをする。
「まったく考えてなかったケド。……ああうん、でも、そんなコンセプトで新メニューを考えるのなら……悪くないかもねぇ」
 いいかもしれない。と、前向きに検討してみるコノハ。賄いケーキは出ないけれども、新作ケーキなら、ちょっとは思いつくかも、しれない。
「星のトンネルを往きながらの秘密のお茶会。煌めく時間は夜空の宝石のようにーーナンて?」
 逆に、そういうコンセプトのお茶会を毎月限定でするとか。もしくは……なんて、思わず至高の海に沈んでいくコノハ。
「……」
「……」
「……」
 考え始めたコノハに、三人は顔を見合わせて。誰からともなく、しー、と、人差し指を三人同時に、自分の唇にあてた。こんな時は話しかけないほうがいいだろう。
「ね、ね、列車から見るのも、良い、ね! 列車旅、凄く楽しかた、ね!」
 そんなコノハをそっとしておいて、さつまが小さな声で言う。ジュジュも笑って頷いた。
「うん、すっごく楽しかったね!」
「廊下の雰囲気とかも、好き。何でもないところまで沢山パシャリしてきた、よ!」
「いいねェ。こうしてみんなとする旅は本当に……」
 楽しい、という言葉に、二人も頷く。そうしてジュジュはそっと空を見上げた。
 窓から見える星空に、思わず言葉が詰まる。……綺麗な、綺麗な空だ。
「星空の中を……旅しているみたいだね」
 思わず漏れたジュジュの言葉。それにしっかりと常盤もさつまも頷いて、
「はっ。星空……列車……つまり」
 何か掴みかけたコノハの言葉に、三人顔を見合わせて、笑った。
 これはこの後のことも、期待していいだろう。
 旅は終わっても、彼らの楽しみは続くのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月05日


挿絵イラスト