もともと列車や機械には縁のない世界での活動が中心のリュカにとっては、大型の機械であるというだけで多少なりとも心躍るものであるらしい。話によると、どうやら石炭を使って動かすタイプの列車というのだから、サクラミラージュとしてはごくごく標準的な列車であろう。
「ある程度無害化された影朧は、救済すべき。これもまた、帝都桜學府の目的なんだ。だから、人を傷つけない影朧であれば、なるだけそれを助けるために、その執着を果たすことに協力しましょう、って。わけ」
「……どうすれば無害化したと証明できるのか。絶対に人を傷つけないと言い切ることができるのか。俺は知らないしそんな曖昧な、感情に揺れる判断は嫌いだけれども、それがこの世界の掟ならしょうがない。確かに、あれは相当弱っていたからすぐに消えるのはもうわかりきってはいるけれど……」
ふじもりみきや
いつもお世話になり、ありがとうございます。
ふじもりみきやです。
というわけで今回は列車旅。
全編通してPOW、SP、WIZはだいたい気にせず、旅行気分で乗車していただけたら幸いです。
該当の列車は、一章開始時点ですでに貸し切りとなっております。皆様の貸し切りです。やったね。
お金もいりませんが、だいたい客室は以下の感じなので自分の旅行スタイルに合わせてお好きな客室を選んでください。
特に人数制限解かないのでお好きに決めましょう。細かいことはいいんです。
●列車の特徴(だいたいフレーバー)
八両編成です。
一両目が一等客室
4人ぐらい泊まれる個室です。超豪華。超広い。食事とかも呼べば運んでくれます。
洗面とかもあればトイレもついてる至れり尽くせり。まるでホテル。
二両目、三両目が二等客室
2人用。ソファーに寝れば三人泊まれる。夕飯は食堂車に行ってください。
四両目、五両目が食堂車
割と広いので長時間居座ってても大丈夫です。ご飯はだいたいなんでも出ます。地方の美味しいグルメから、定番カレーまでお好きにどうぞ。24時間営業です。
六両目以降が、三等客室です。
一応個室ですが、ベッドと小さな荷物置きがあるくらいです。ベッドに座ってカーテンを開ければ、隣の人とのおしゃべりも可能。
全車両、どこも窓が一つは必ずあるので、星空や外の景色を楽しむことができます。
●一人参加について
依頼の性質上、三級客席に席を取ると、同じ一人参加の誰かとふれあいがあるかもしれません、し、ないかもしれません(プレイングの内容と、プレイングを頂ける日程次第です)
どうしても一人参加がいい方はその旨明記してください。
一、二級客席では完全にソロになります。
大体、そんな感じです。
また、今回はあきかMSさんとの共同運行になります。
寝台特急オリオン号もぜひお越しください!
シナリオの性質上、話の流れ的に二本同時参加は難しそうですが、沢山の人に楽しんでもらいたいので、時間の矛盾や細かい違い等は気にせずご参加してくれると嬉しいです。
細かいことはいいんだよ!楽しく遊ぼうぜ!
また、リュカも同行しております。
三章に限り、声をかけていただければ参加します。
基本彼は寝ないで平気なので、深夜まで食堂車に居座って窓からの景色を眺めているでしょう。
誰かと一緒に寝たりは、性格上出来ませんが、声をかけられたら個室とかに顔出すぐらいはします。
以上になります。
それでは、良い旅を。
第1章 ボス戦
『獄卒将校』
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|
POW |
●獄卒刀斬り
【愛用の軍刀】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
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SPD |
●影朧軍刀術
自身に【影朧の妖気】をまとい、高速移動と【影朧エンジンを装着した軍刀からの衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
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WIZ |
●同志諸君!
【かつて志を同じくした帝都軍人】の霊を召喚する。これは【軍刀】や【軍用拳銃】で攻撃する能力を持つ。
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👑11 |
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 |
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
声が、遠い。
どうして、こんな遠くまで来てしまったのか。
彼は佇む。先ほどまで溢れていた声は、いつの間にか消えてしまっていた。
あれほどいた人はどこに行ってしまったのか。
懐かしい声を聞きたくて、聞きたくて。それに惹かれて、やってきたのに。
昔から、列車に乗る人の楽しそうな声が、顔が、好きだったのに。
どうして、この列車はこんなにも静かなのだろうか。
いつになったら発車するのか。彼はただ。……彼はただ。
「――、――――」
何か、言おうとして。
どうやら、何を言おうとしていたのか、忘れてしまっていたようで。
「……」
手にしていた、手紙を潰れるぐらい強く握りしめた。
もはや手紙を持っていることすら、彼は覚えていなかった。
願いは一つ、ただ一つ。
この列車から、寝台特急、オリオン号を見ることで。
それがなぜ執着になったのかすら思い出せぬまま、
男は、列車が動き出すのを待っている。
●マスターより追記
■運行スケジュール
一章:列車に乗り込みます
旅立ちの様子~車内の様子を主にプレイングに記してください。
ホームで旅立ちごっこをしたり、駅弁を買い込んだり、窓からの景色を見たり(街中も通れば山間部も通ったりします)、お好きにどうぞ。
朧影はだいたいその辺をふらふらしているので、戦闘はほぼ発生しません。
戦闘プレイングは、必要ありません。ただ、皆さんが楽しそうにしているのを見ると、ぼんやりと嬉しそうな雰囲気でそれを見ていることがあるかもしれません。
話しかければ、ぽつりぽつりと返答はするようです。
また、プレイングで声掛けがあればどこにでも出現しますが、なければ全く出現しません。どちらでもお好きなようにどうぞ。
二章:夜になると、列車の外から美しい景色が見えます。
この寝台列車の目玉の一つで、ちょうど並走して走る寝台特急オリオン号を見ることができます。夜間、湖のすぐ傍を走行する列車は桜と星空の中を駆け抜けていき、とても美しいと評判です。景色を眺めながら夕食を取るのが流行り。
三章:時間帯は深夜帯です。列車の音を聞きながら眠ったり、いつまでも映っていく景色や星空を見つめたり、ふっと夜中に目を覚まして外の景色を見たり、お好きにどうぞ。
シホ・イオア
痛みを抱えたまま彷徨うのは辛いもんね。
力になってあげたいな。
そういえば乗るのに切符がいるんだよね?
シホには大きすぎるし邪魔だからフェアリーランドにしまっておけるかな?
ホームでは売店を覗いてシリウス号グッズとか探してみる
一等も二等もシホには広すぎる。
部屋は三等でいいよね。
寝台特急とか乗るの初めてだし
あっちへフラフラこっちへフラフラして飛んでよう。
空き室があれば一等も二等も覗いておきたいな。
朧影にあったら不審にならない程度に挨拶しておこう。
アドリブ交流歓迎。
鏡島・嵐
予約を取るんは三等寝台で。折角だから出発前に車輛の写真を撮ったり、他の客室も迷惑にならねえ範囲で覗いたり。駅弁買うんもイイよな。
出発前だから、駅の雰囲気も堪能しておきてえな。駅員さんとか、他の客が発車前に準備してるんを見ると「ああ、旅してるんだな」って気持ちになれるしさ。
とにかく旅は大好きだから、全力で愉しみに行くぞ。
列車旅はイイよな。独特の醍醐味があって好きだ。
寝台特急ってのがまたイイ味だ。一晩寝たら前の日とは全然違う場所だったりすると、心が躍る。
勿論今まで何度か経験はしてるけど、やっぱりウキウキしちまうなぁ。
……なあ、アンタはどう思う? そこの朧影さんさ。
※他PCとの交流は適当に。
駅のホームは雑多な気配で満ちていた。出発前特有のあわただしさ。
特に今回は、朧影の影響で一度取りやめになった列車が、猟兵をのせて再度運行することになったので、駅職員たちは忙しそうに立ち回っていた。
「……なんか、そういうのも」
いいよな。と。鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)は思う。旅立つ前の駅の雰囲気に勝るわくわく感はなかなかない。そしてそんな忙しい人たちをしり目に車体を撮影するのももちろん忘れない。
シリウス号は古い型ではあるが愛されている車両であるらしく、廃車が近い割にはきれいに磨かれていてその重厚感は歴史を感じさせた。嵐がシャッターを下ろしたその時に、
「あっ。わわ、ごめんねっ」
小さな小さなフェアリーが、カメラの中に移りこんだ。シホ・イオア(フェアリーの聖者・f04634)である。いや、と嵐は首を横に振る。
「こーゆーのも、味があっていいと思うって。……っていうか、大丈夫か?」
「う、うん。ちょっと切符が大きくて」
そしてグッズもたくさんで、なんていうシホの言葉通り、シホは大量のおみやげ物も持っていた。絵ハガキやペナントなんて定番とともに、シホには多すぎるだろうシリウス号饅頭なんかも持っている。さらに切符も持っているのでフェアリーには正直厳しい。
「シホには大きすぎるし邪魔だからフェアリーランドにしまっておけるかな? 切符とか」
「いや、先にこの饅頭しまおうぜ」
「お饅頭は車内で食べたいのっ」
「そういう意味で切符は最後までしまっちゃだめだろ。……じゃあ、ペナントからかな」
使わないお土産が一番底だ。とか言いながらも、嵐はシホの荷物を持つ。
「わあ、ありがとうだよ」
「いいって。旅は道連れっていうしな。ところで売店どこにあった? 駅弁買うんもイイよな。おれも買っておこうかな」
「あ、じゃあね、あっちの売店の限定お弁当が……」
二人して、売店で買い物をして。
せっかくだから、一等客室の開いている部屋をのぞいたりなんかもして。
「うわっ。さすが一等、すげえな」
「お姫様みたいで素敵だけど、シホには大きすぎるんだよ!」
「ああ。俺にだって広すぎるわこりゃ」
こんなに広くて何するんだろうね? と、顔を見合わせたり。
「二等客室は……何か普通のホテルって感じだな」
「人間には、これぐらいがちょうどいいんだよね」
「そうそう。でもおれはもうちょっと列車感欲しいな」
旅慣れている嵐と妖精のシホには二等客室だって広すぎたり。
「食堂車か。これは後だろ、後」
「最初は駅弁もお饅頭もあるから、ご飯はその後だよね☆」
非常に忙しそうな食堂を通り抜けたりしていると、ホームからベルが鳴り、汽笛が大きくそれに応えるようになって、列車が走り出すのであった。
「三等はカーテンの仕切りだけかー。ちょっと音がうるさそうだけど、こういうのも、ああ、旅してるんだな、って、感じがして好きだな」
「うんっ。シホには三等でちょうどいいくらいだよ!」
そうして列車に揺られながら自分たちの部屋(?)にたどり着いた二人は、各々荷物を置いたり片づけたり。廊下からはカーテン一枚で仕切られているだけなので、普通ならあんまりうるさくしてはいけないのだが、今日は乗客も少ないので問題ないだろう。
「あ、お饅頭持ってくれてありがとうだよ」
「おー」
ついてしまえば切符はベッドの上に投げ出して。まずはお饅頭を開けよう、というシホに嵐も買ったばかりの金目鯛弁当をベッドに置きながら答える。
「列車旅はイイよな。独特の醍醐味があって好きだ。寝台特急ってのがまたイイ味だ。一晩寝たら前の日とは全然違う場所だったりすると、心が躍る。勿論今まで何度か経験はしてるけど、やっぱりウキウキしちまうなぁ」
着替え類やすぐに必要のない荷物は上の棚へ押し上げながら、嵐はふと声をかけた、
「……なあ、アンタはどう思う? そこの朧影さんさ」
……不意に。
嵐がそう言って、シホも顔を上げた。
ぼんやりと、うつろうような影が廊下を歩いていたからだ。
「……こんにちは」
ぺこりと、シホは頭を下げる。そんな二人のほうを、影朧はちらりと見つめた、気がした。
気がしたというのは、あまりにその存在が希薄だったからだ。
「そう…………。そうですね。この列車は……これより山間部を走りますが……」
二人の声が聞こえたのか、ぼんやりと影は語る。夜が明けるころには、海を見ることもできるでしょう、と。
「私の愛したこの列車を……楽しんでいただけたら……私も嬉しい……」
「ああ。とにかく旅は大好きだから、全力で愉しみに行くぞ」
嵐のしっかりとした言葉に、影は頷いたようだった。ずるずると歩き出すその姿を、シホは見送る。
「痛みを抱えたまま彷徨うのは辛いもんね……。力になってあげたいな」
その背中が何とはなく悲しげで。思わずシホは呟くと。そうだな、と嵐もかすかに頷いた。
それは、オブビリオンであるというのに殺気も恐怖も感じさせずに。まるで、列車の間に揺らぐ陽炎であるかのようであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リラ・ラッテ
桜の都を眺めながらの列車旅
ふふっ、すごく魅力的ね
乗車前から楽しみで心が躍る
……これが噂の駅弁!列車旅には駅弁って本に載っていたわ
駅弁の数々に眸がついつい輝いて
どれも美味しそうだけれど、オススメを訊いて、その一つを購入
さあ、準備万端
列車に乗り込んで、客室へ
駅弁を食べながら
街から山へ、あっという間に移り変わる景色が楽しむ
ふと車内に目をやれば、彷徨う影朧の彼の姿が目に入る
話しかけはしないけれど、案内人の少年から聴いた、彼の執着へ想いを馳せる
切望するその景色を、彼がどうか観られます様に
どんな理由があるかは知らないけれど
誰も傷つけないその願いは、叶えられるべきものでしょう
◯アドリブ・絡み歓迎
桜田・鳥獣戯画
インバネスコートに大きな革トランクで参加。
一名だ。三等客室を希望する。
旅の縁もあるだろうな。もちろん歓迎だ(ふれあいバンザーイ)
見たい景色があってな。参加の理由はそれだ。
過去に行った場所なのか、空想の産物なのかはわからん。何せ私は記憶がない。
だから「懐かしい未知の風景」とでも言おうか、そういうものが見られるかもしれない。
懐かしい景色がどこかに在ると信じる気持ち、これも執着なのだろうな。
あの朧影にはどのような思いがあるのか。単純にそれを知りたい。
おっと弁当を買わねば!!
フードファイターはよく食べるので三人前くらい買わねばな!!
デザートは食堂車だ。デッキにも出たい!!
(アドリブ喜びます!)
リラ・ラッテ(ingénue・f31678)は感心したように列車を見上げていた。
それを横目に見ながら、桜田・鳥獣戯画(デスメンタル・f09037)はふむ、と、大きな皮トランクを持ち直す。
「三等客室は……あちらの乗り口が近いか」
入り口を確認して、足を向けかけた彼女はしかし、はっ。と思い至って顔を上げる。
「おっと弁当を買わねば!! 駅弁は醍醐味だ」
「駅弁!」
鳥獣戯画の言葉にリラはくるりと振り返る。思わず、その言葉に反応してしまったのだろうが、二人目があってしまって、リラはちょっと照れたように微笑んだ。
「あ、ごめんなさい。列車旅には駅弁って本に載っていたから、つい」
ちょっと恥ずかしい。と頬を染めるリラに、鳥獣戯画も口の端をゆがめて笑みを浮かべる。
「そうか。私も今丁度、買いに行こうと思っていたところだ。ならば共に買いに行こう」
「あら、よろしいの?」
「勿論、旅の縁はいつだって歓迎だ」
ふふん。と何だか得意げな鳥獣戯画に、ふふ、とリラも微笑む。出発までまだ少し時間がある。駅弁をゆっくり選ぶ時間くらい、あるだろう。
ホームの中ほどに売っている駅弁売り場には、沢山のお弁当が並んでいた。本来ならきっと出発前のこの時間帯、混むのだろうが今は朧影の影響か、人が少ない。
「……これが噂の駅弁!」
だからこそじっくり見られるというもの。リラが並ぶお弁当につい瞳を輝かせる。松茸、紅鮭、牛丼、釜めし、とんかつ……と、種類も様々。いろんな地方から来ているのか、変わったものもいくつかある。
「どれも美味しそうだけれども、お勧めはどれかしら?」
ちらりと鳥獣戯画のほうを見上げるリラ。……で、鳥獣戯画はというと、
「松茸と鯛めしと焼き肉弁当を頼む。ついでにそこの蜜柑もつけてくれ。おにぎり? もちろん買うさ!」
何やらものすごい量を買い込んでいた。合間に売店のおばちゃんが何点かお勧めを教えてくれる。
「あら……」
「フードファイターはよく食べるので、三人前くらい買わねばな!!」
思わずそんな声が出るリラに、鳥獣戯画はむしろ大きく胸を張ったのでリラは笑う。だったら、とリラのほうは彼女が頼んだ弁当を確認して、
「釜めしのお弁当を頂こうかしら。お勧めだし、あなたが頼んでいないみたいだから、少し分けられるかと思って」
「ああ、それはいいな! では私の弁当も少し差し上げよう!」
「ええ、ありがとう」
そうしてリラはお弁当ひとつを手に持って。鳥獣戯画は山のようなお弁当を抱えるようにして二人して列車に乗り込んだ。
「客室はどちら?」
「三等客室だ」
「あら、だったら一緒ね」
三等客室とはいえ、充分の広さがある。具体的に言うと、サイドテーブルにちょっとした荷物や弁当を置くスペースぐらいはあった。さすがに大量の弁当を重ねるほどの場所はないが、ベッドの上に置いている間に、ホームからベルの音がする。そして、
ふぉぉん、と、汽笛が鳴って、列車が動き出した。
「あっ。動きだしたわ」
「そうだな。……お」
駅員さんが手を振っている。それに手を振り返したら、
「では……早速」
「ええ。駅弁ね!」
二人はお弁当の蓋を、開けた。
「見て、街を出るわ」
「ああ……本当だな。ほら、トンネルだ」
「あっ。本当、トンネルに入るわっ」
ごう、っと音を立てて景色が途切れる。真っ暗なトンネルをすごい勢いで走り抜け、次の瞬間には建物の影もなく、深い谷の際のあたりを走っていた。
「うわあ……」
山中渓と書かれた鈍行用の駅を一瞬で通過して、まさに山の中を走って行く列車。軽く雪が積もっている。
その時、軽い足音がして、二人は食事の手を一瞬、止めた。
かつん、かつんと、靴音を立てて、
特に何を言うでもなく、その影は通り過ぎた。
一瞬、カーテンを開けっぱなしだった二人の席に影は目をやって。
何となくその表情を和やかなものにしたのが、二人にもわかった。
「……まさに、朧の影だな」
緊張は一瞬であった。何事もなかったかのように食事を再開させる鳥獣戯画に、うん、と、リラも頷く。
何となく、二人の間に沈黙が落ちた。お弁当の美味しい匂いと、お茶の湯気。それから、
「私には、見たい景色がある」
不意に、彼女はそう言った。
「……過去に行った場所なのか、空想の産物なのかはわからん。何せ私は記憶がない」
ぽつんと、先ほどまで景色を見ていた時と同じような口調で、鳥獣戯画は口にした。
「だから「懐かしい未知の風景」とでも言おうか、そういうものが見られるかもしれない。そう思ってこの列車に乗った。この旅の参加の理由はそれだ。見たい景色がある、とはそういうことだ」
「そう……」
リラはゆっくりと、影朧の立ち去ったほうを見つめる。
「懐かしい景色がどこかに在ると信じる気持ち、これも執着なのだろうな。……あの朧影にはどのような思いがあるのか。単純にそれを知りたい。きっと彼は、同じように、何か執着している景色があるはずだ」
「……」
執着。と、リラはその言葉を口の端に乗せる。彼女の執着、彼の執着。様々な思いをのせて、列車が走っている。
「私には、絶対に見つかるわ、なんて、無責任なことは言えないけれど……。切望するその景色を、彼がどうか観られます様に。あなたの求める景色が、少しでも見つかりますように、と、思うわ」
「そうだな……。ありがとう。私だって、今回の旅で見つからないとしても、彼の執着を晴らせるということは、いつか自分のそれも晴らせるかもしれないという思いにつながる」
出来たらいいな。と、鳥獣戯画は言って。そうね、とリラも小さく頷いた。
「どんな理由があるかは知らないけれど……誰も傷つけないその願いは、叶えられるべきものでしょう」
それはきっと、猟兵でも、影朧でも、一緒なのだとリラは言った。
鳥獣戯画は楽しげに笑う。
「まあ、私にしては若干真面目な話をしてしまったが……旅はこれからだ。景色も大事だがこの旅を満喫することも大切だな!」
「そうね。だったら……」
「……デザートは食堂車だ。デッキにも出たい!!」
「あら、まだ食べるの?」
なぜか得意げな鳥獣戯画に、リラは微笑みながら首を傾げる。
「デザートのお勧めは何かしら」
「ぱふぇがうまいと売店のおばちゃんが言っていたな」
「じゃあ、それにしようかしら……」
さて。景色は流れてうつろっていく。リラは応えながらも窓にちらりと目をやった。
桜の都を眺めながらの列車旅は、きっと素敵な景色ばかりだろう。みんなが望む景色があれば、それでいいと。思うだけで心も踊って、
「きっと……きっと、こんなに素敵な列車だもの。幸せな景色が見られるはずよ」
二人の旅もまた、始まったばかりだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
天瀬・紅紀
櫻沙さん(f26681)と
へぇ…これが寝台特急か
ミステリーの舞台じゃ定番だけど、乗るのは僕も初めてだよ
それに僕の世界では殆どが運行終了してるし
でもゆっくり流れる車窓の景色は新幹線じゃ楽しめないからね
時々ローカル路線の旅はしたくなる
〆切逃れを兼ねて…なんて事実は櫻沙さんには言えないけど
駅の構内に列車の風景、そして汽笛の音
こうして直に感じる経験が、いつかきっと作品の糧になるだろうから
いいんだよ、興味を失っては文豪たり得ない
好奇心沸き立つからこそ生きてる実感湧くでしょ?
影朧のお兄さん見かけたら微笑み声かけ
僕達は取材旅行でね
君は一人旅なのかな
誰か想う人いるなら話してくれれば、と思いつつ
お互い、良き旅を
樹神・櫻沙
天瀬さん(f24482)とご一緒します。
寝台特急……初めて乗ります。しかも貸し切り……凄く贅沢な気がして、緊張、します。
天瀬さんは、こういう列車とかは慣れてらっしゃいます、か…?
駅の様子も、車窓からの眺めも、筆の参考になりますよね…。
普段は見られない景色、とても楽しく時間を忘れてしまいそう、です。
あちこち見ていたら、発車の時間…席に着いたら、今度は窓の外に目が奪われてしまいます。
きょろきょろしていたら、笑われてしまいそうですが…どうしても気になってしまって。
…影朧さんの様子は一度確認しておきたいと思います…気になります、ので。
軽く頭を下げて、良き旅を、と。それだけ告げて、後は触れずに…。
発車前の列車を見上げて、天瀬・紅紀(蠍火・f24482)は傾いた帽子を軽く上向けた。
「へぇ……これが寝台特急か」
声音にはわずかに、感心するような感情が乗っている。それで、恐る恐る、隣の樹神・櫻沙(Fiori di ciliegio caduti・f26681)も顔を上げるのであった。
黒く、輝くフォルムは優美である。話によると、ずいぶん昔の車両でもうすぐ廃車が決まっているとのことであったが、そんな年齢を感じさせないぐらい車体はピカぴなに磨かれていた。鈍い輝きに重さを感じて、高級感を醸し出している。ゆえに、
「寝台特急……初めて乗ります。しかも貸し切り……凄く贅沢な気がして、緊張、します」
櫻沙はほんの少し、伺うように言うのであった。
「天瀬さんは、こういう列車とかは慣れてらっしゃいます、か……?」
「うーん。ミステリーの舞台じゃ定番だけど、乗るのは僕も初めてだよ」
そんな櫻沙の視線に気づいているのかいないのか、紅紀は若干軽い口調で、答える。櫻沙の感じるような重厚感を、紅紀も分からないというわけではないのだが、若干櫻沙が感じているよりも……そう。
「それに僕の世界では殆どが運行終了してるし、でもゆっくり流れる車窓の景色は新幹線じゃ楽しめないからね。時々ローカル路線の旅はしたくなる。だから、こういうのもいいものさ」
どちらかというと、純粋に古いものを楽しんでいるような口調であった。若干そのあたりに生まれ育ち(世界)の違いを思いつつも、櫻沙はうん、と、小さく頷く。
「なるほど定番、楽しく……。駅の様子も、車窓からの眺めも、筆の参考になりますよね……。たくさん楽しむことで、それも何かに生かせる気がします」
そう思えば、なんか物凄く勉強になるかもしれない。緊張から転じて、若干やる気を出した櫻沙。人生何事も取材だ。と真面目に気持ちを新たにした櫻沙に、
(〆切逃れを兼ねて……なんて事実は櫻沙さんには言えないけど)
紅紀はそっと視線を逸らすのであった。彼とて、文豪。彼女も、文豪。言わなくていいこともあるのだ。いわゆる行間を読むというやつである。多分。
「そうだね。いい参考と、そしていい気分転換になると思う」
「ええ。普段は見られない景色、とても楽しく時間を忘れてしまいそう、です」
楽しみですねと笑う櫻沙に、楽しみだねえと微笑む紅紀。
その時、ホームからベルのような音がした。そろそろ出発、の合図だ。
「ああ。そろそろ出発するよ。行こうか」
それに気付いて、紅紀が列車に飛び乗って櫻沙のほうに手を差し出す。
「はいっ」
櫻沙もまるで小説の一幕のようにその手を捕まえて、列車へと飛び乗った。
きしむ廊下を歩き、車両を急ぐ。
一級客室の静けさ。二級客室の穏やかさ。食堂車の賑わい。三等客室の雑多な感じ。
「済みません。あちこち見ていたら、こんな時間に……」
一通り見て回って、ようやく席に着いた櫻沙。それでもいった途端から、彼女の目は窓の外に奪われる。その様子を紅紀は微笑ましそうに見つめていた。
「こうして直に感じる経験が、いつかきっと作品の糧になるだろうから、いいんだよ」
走りだした列車は、街の中をゆるゆると通り過ぎていく。汽車は町中も普通に走るので、なんだか紅紀にとっては最初のうちは路面電車を見ているようで微笑ましい。さすがに街中ではそこまでスピードを出さないな、なんて。列車に向かって手を振る子供に軽く手を振り返しながら考えていて、
「興味を失っては文豪たり得ない。好奇心沸き立つからこそ生きてる実感湧くでしょ?」
「それは……あ、ありがとうございます」
そういっていただけると嬉しいです。と、櫻沙も思わず微笑んだ。こんな風にきょろきょろしていたら、なんだか笑われてしまいそうだったけれども、紅紀がそう言ってくれると、安心する。どうしても気になってしまうのを、止められないからだ。
……その時。
紅紀はふと、顔を上げた。
櫻沙も一度、瞬きをした。
そっと二人、廊下の方に目をやる。
「……やあ」
何か、薄らぼんやりしたものが廊下を歩いていた。それに紅紀が声をかけると、それは足を止めた。
「僕達は取材旅行でね。君は一人旅なのかな?」
「旅……?」
微笑みながらの、紅紀の言葉に、影朧はわずかに瞬きをしたようだった。
「旅……。旅……?」
誰か想う人いるなら話してくれれば、と思いつつ。尋ねた言葉に、影朧は困惑しているようであった。
「お互い、良き旅を」
「良き旅を」
穏やかに、紅紀が言って。櫻沙もぺこりと頭を下げる。
「……」
薄らぼんやりとした影は、二人の前をゆっくりと通り過ぎていく。
「そうか……これは旅なのか。いい旅を。いい旅を……」
そんなことを口の中で繰り返しながら……。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エンジ・カラカ
出発ダー。列車ダー。
賢い君、賢い君、列車ダヨー。
うんうん。キレイキレイ。
外の景色もとーってもキレイ!
賢い君と二人。
だからコレは二等客室で賢い君と旅行を楽しむ楽しむ。
列車でゴハン。弁当じゃなくてゴハン。
賢い君、賢い君、豪華なゴハンだったらどーする?どーしよ。
うんうん。ナルホドー。
綺麗に食べる。オーケー!
へぇへぇ、ココが食堂車。
アァ……スゴイなァ…。
列車の中に食堂があるンだ。信じられない。
ジャーキーは無さそうダ。
おやつのジャーキーを持ってきて良かった良かった。
出された物はキレイに食べる。
野菜はちょっと避ける。避けたら賢い君に怒られるケド
野菜はダメダメ、バーツ!
ホームからベルが響いていて、少しびっくりしてエンジ・カラカ(六月・f06959)は窓に張り付いた。
何事だろうかと思った、その疑問は一瞬にして解決する。大きな音を立てて応えるように汽笛が上がり、列車が走り出したからだ。
「出発ダー。列車ダー……!」
おぉぉ、と興味津々で窓から外を眺めるエンジ。……勿論、
「賢い君、賢い君、列車ダヨー。ほらほら、うんうん。キレイキレイ」
賢い君も、窓を見えるように掲げることを忘れない。
「外の景色もとーってもキレイ!」
二等客室だ。今回の乗客は彼と賢い君の二人だけなので、遠慮なくエンジは窓辺に張り付くことにする。ゆっくりだった列車が徐々に速度を上げていく。最初は、桜の街中を走っていて、子供が列車に向かって手を振るのに合わせてエンジも手を振り返す。
「賢い君、賢い君、見タ? 手を振ってタ!」
思わず声を上げるエンジ。賢い君の方を見ると、なるほどなるほど、と小さく頷く。
「ウン、ウン、手を振ってくれたから。可愛かったなァ……」
楽しげに笑う。笑いながらもあっ、とエンジは目を見張った。
「田んぼダ! ほら、雪が積もってキレイキレイ」
今の時期は稲刈りも終わり、雪が積もるだけの田んぼだけれども、それでも目を輝かせてエンジは指をさす。
何を見ても楽しそうな、彼の列車旅であったが……、
「……んー?」
どれくらいそうしていただろうか。
ふっ、とエンジは顔を上げた。
「列車でゴハン。弁当じゃなくてゴハン」
お腹が空いたのだ。そして、お腹がすけば時刻に関係なく彼にとってはご飯である。
「賢い君、賢い君、豪華なゴハンだったらどーする? どーしよ」
思い立ったら即行動である。永夜、と窓から目を離して立ち上がる。わくわくしながら賢い君に問いかけると、
「うんうん。ナルホドー。綺麗に食べる。オーケー!」
なんて言って、食堂車へと旅立った。
「へぇへぇ、ココが食堂車」
そうしてたどり着いた食堂車は、賑やかな声にあふれていた。メイドたちが忙しそうに行き来するそのさまは、ここが列車の中であることも忘れてしまいそうなぐらいスムーズで、なんだかどこにでもある喫茶店のような気持に、
きぃ、と、カーブで微かに車体が揺らめいて、エンジは思わず声に出すのであった。
「アァ……スゴイなァ……」
列車の中に食堂があるンだ。信じられない。
信じられないけれども、現実なんだということが、その揺れで証明されている。
テーブル一つ選んで、席に着く。
相変わらず景色は流れて行く。エンジは座っているのに、エンジの位置は動いている。
手早くメニューに目を通す。メニューには洒落た文字が躍っている。
「ジャーキーは無さそうダ。だったら……このおすすめネ」
「かしこまりました」
恭しく一礼するメイドに気付かれないように、エンジはこっそり賢い君へとささやくのであった。
「おやつのジャーキーを持ってきて良かった良かった」
賢い君が返事をするように、かすかに揺れた。
「お待たせしました」
「!」
そして運ばれてきたランチにエンジは目を丸くする。
エビフライトハンバーグの取り合わせなんて、さほど珍しいものではないのだが……、
「野菜はダメダメ、バーツ!」
付け合わせがいけない。キャベツもキュウリもトマトも行けない。つまりはサラダが行けない。さささ、と遠くへと追いやろうとするエンジに、
「!」
賢い君が軽く揺れた。
「うー……」
苦々しい顔でエンジは野菜をにらんだ。
「……」
賢い君が軽く揺れた。
エンジは小さく、ため息をついた。
「……はーい」
怒られた子供のような。観念したような声に、賢い君にちらりと視線をやって、
「出された物はキレイに食べる。コレはいい狼だからナ」
サラダへと手を伸ばした。
大成功
🔵🔵🔵
月舘・夜彦
【華禱】で二等客室(何両目かはお任せ)
倫太郎と食堂車へ向かいます
倫太郎が避けた影朧と此方もすれ違う
気付かれない程度に軽く視線だけで追い、食堂車へ
食事はカレー
家のカレーも美味しいですが、お店等で食べるものはまた異なる味
倫太郎にも分けてあげますからね
互いに料理の感想を話し合ったり、窓の外から見える景色を楽しんだり
外に景色に夢中になっている倫太郎の口元を軽く手で拭う
すみません、シチューが口元に付いておりましたもので
景色に気を取られただけではなさそうですね
何か気になることでも?
えぇ……倒すだけでなく、心残りだったことを叶えられたのなら
私もとても嬉しく思います
……あっぷるぱい、ですか
ふふ、頂きます
篝・倫太郎
【華禱】で二等客室(何両目かはお任せ)
夜彦と一緒に食堂車へ
途中、ぶつからない様に避け合った相手は影朧
少し、嬉しそうな気配をさせてる背を夜彦と見送って
食事……ビーフシチューにしようかな
寒い時期はなんか、カレーよりシチューになっちまうや、俺
料理に舌鼓を打ちながら
窓の外から飛ぶように行き過ぎる景色を眺めて……たら
夜彦にぐいっと口元を拭かれた
そんなにこにこしながら世話焼かないで
恥ずかしさと嬉しさで俺の情緒が大変になるから
ん?あぁ……さっきの影朧
嬉しそうだったな、と思ってさ……
願いが叶って、優しい気持ちで転生出来ればいいなって?
……ほら、あーん
デザートのアップルパイをお裾分けして
気恥ずかしさを誤魔化して
「おぉ~~~」
一等客室と二等客室はきちっと敷居がある、いわゆる個室になっていた。
左右にあるのは壁と扉。ゆえに、荷物を持って歩いているとなんだかホテルのきているような気さえしているのだけれども、
「結構、揺れましたね。大丈夫ですか?」
ガタン、と。カーブのたびに、何かの拍子に、車体が揺れると、それだけで列車旅であることを思い出す。UDCの電車ほど、そのあたりは器用ではない。
気遣うような月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)の言葉に、にへっ、と篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は笑みを見せた。
「平気平気。ていうか、こういうのも醍醐味だよな!」
時折鳴る汽笛。蒸気機関車の走る音はそこそこ大きいけれども、それもまた倫太郎にとっては楽しい。夜彦も小さく頷いた。
「倫太郎に会わなければ、出会えなかった体験ですね」
「は? ……いや、そりゃ……そうかもしれないけど」
出身世界から考えれば、こんな列車に乗ることは一生なかったはずなのに、今、ためらうことなく乗っているこの不思議を素直に夜彦が口にすると、倫太郎は思わず否定しかけて……、そうかもしれない、と小さく頷いた。
「……だな、これからもいろんなところ、行こうな」
「ええ、勿論」
「んじゃ、今は早速食堂車だっ。もう腹が……」
行こう、と、倫太郎が走り出そうとした時、
ふわりと、何かが掠めて思わず倫太郎は軽く体を捻って避けた。
「……」
(……っと)
間一髪、ぶつかりそうになったのは揺らめく影のようなもの。
一瞬、油断なく夜彦がその姿を気付かれないよう目で追うた。向こうは全く気付かずに。むしろ二人とぶつかりそうになったことも分かっていないのか。ゆっくりゆっくり、廊下を倫太郎とは反対方向へと歩いていく。
「……もう腹が減ってさ、早く行こうぜ」
「ええ。楽しみですね」
そうして何事もなかったかのように歩き出す二人。何となくそんな二人の声に楽しそうな色をにじませて、虚ろな影も通路の反対側に姿を消した。
「お待たせしました! 特製カレーとビーフシチューです!」
食堂車は賑やかだった。威勢のいいメイドさんから料理を貰うと、早速、と倫太郎は手を伸ばす。
「寒い時期はなんか、カレーよりシチューになっちまうや、俺」
「私はカレー派ですね。家のカレーも美味しいですが、お店等で食べるものはまた異なる味。特にこの家庭では出せない味は譲れません」
「うーん。これはいくら夜彦でも譲れるような譲れないような……なっ、クリームシチューも頼んでいい?」
「カレーにしましょう。倫太郎にも分けてあげますからね」
「あ、じゃあ、それでいい」
あっさり。拘りを横に置いておいて嬉しそうにカレーを見る倫太郎に、夜彦は微笑んだ。
「山だなー」
「雪がまだ残ってますね」
「だなっ。きっと紅葉の時期なんかも……」
流れる景色を見ながら、食事をして、語り合って。
そんな話の合間に、ふと夜彦は手を伸ばす。
「ん?」
「すみません、シチューが口元に付いておりましたもので」
不意打ちで口元を拭われた。倫太郎は思わずぽかんとして、
「……いや、すみませんじゃねえから」
「あ、駄目……でしたか?」
「いや。駄目じゃねえけど!」
もしやわかってて言っているのだろうかと、思わず倫太郎は両手を顔で覆うのであった。
「そんなにこにこしながら世話焼かないで。恥ずかしさと嬉しさで俺の情緒が大変になるから」
「……はあ」
やっぱり、わかっているのかいないのかわからない。にこやかな夜彦の顔に、倫太郎はそっぽを向いて何とも言えないため息を吐くのであった。
「何か?」
「……いや」
「景色に気を取られただけではなさそうですね……。何か気になることでも?」
このままではあんまりよろしくない方向に向かいそうだったので、思わず視線をそらしたままの倫太郎に夜彦がやっぱりわかっているのかいないのか、フォローめいた問いかけをする。それでああ、と、倫太郎は頷いた。そもそも倫太郎はそんなに何事もなければ口元にシチューたくさんつけるような真似は、たぶんきっと、しない。
「ん? あぁ……。そうだな。さっきの影朧……嬉しそうだったな、と思ってさ……。それ考えてたのはあるかも」
「ああ……」
すれ違った影を思い出しながら言う倫太郎の言葉に、夜彦は頷く。
「願いが叶って、優しい気持ちで転生出来ればいいなって?」
「えぇ……。倒すだけでなく、心残りだったことを叶えられたのなら、私もとても嬉しく思います」
「だなっ」
せっかくの楽しい旅だから、
そんな優しい結末があってほしいと倫太郎は思うのだ。
「倫太郎は、優しいですね」
「……」
またそういうことを普通に言う。
「……ほら、あーん」
答える代わりに、倫太郎はデザートのアップルパイを夜彦の口元に運んだ。まるで気恥ずかしさをごまかすように。
「……あっぷるぱい、ですか。ふふ、頂きます」
そんな倫太郎の気持ちを分かっているのかいないのか……いや多分わかっているのだろう……夜彦は楽しそうに言って、ぱくりとアップルパイを口にした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジュジュ・ブランロジエ
【空】
アドリブ歓迎
『』は裏声でメボンゴの台詞
一等客室に皆で泊まる!
寝台特急の旅は初めてでわくわく
お弁当買っていこうよ!
寝台特急と言えばミステリー小説を思い出すなぁ
名探偵の常盤さんも乗ってるし
『とっきーの推理が光っちゃうね!』
私達みんな物語の登場人物っぽくない?
名探偵常盤さん、謎の奇術師の私、イケメン料理人コノさん、可愛いヒロインタヌキツネのさつまさん
『メボンゴはお色気担当!』
お色気担当はコノさんでしょ
『コノちゃなら納得せざるを得ない』
じゃあトリプルヒロインで!
可愛い系がさつまさん、クール系が私、お嬢様系がメボンゴね
早速謎が!
『とっきーならすぐ解けるね!』
そこに気付くとは!
『たぬちゃも名探偵!』
神埜・常盤
【空】4人
この世界の列車は立派で趣有るなァ
スマホに一枚姿を納めておこう
汽車の旅、楽しみだ
僕はビフテキ弁当を買ったよ
あァ、皆で分けあおう、そうしよう
夜も美味しいものを沢山食べたい
確かに、寝台特急はよく
ミステリの舞台になるが……
はは、ジュジュ君が云わんとすること
何となく分かる気がするよ
ホテルとか汽車とか
そういう非日常な場所に泊まると
物語の世界に迷い込んだような気分に成るよねェ
――たぬき
笑いを噛み殺しながら、さつま君を眺めて
さて、どうかな
人に化けて乗客に混ざってるのかもねェ?
そう、犯人は此の中に……ッて
コノ君の方に行ったか、そうかァ……
噴き出さないよう最後まで我慢しておこう
コノハ・ライゼ
【空】
ふふ、確かに物語の始まりそうな雰囲気!
モチロンお弁当の分けあいも大賛成
沢山食べたら一杯楽しンで、夜までにお腹空かせないとネ
ああ、分かる~
ミステリーの登場人物と言えば一癖も二癖もありそうだものネェ
成る程イケメンお色気担当料理人……ってツッコミ皆無どころか納得されてるし
トリプルヒロインは否定しないケド、クールの意味ご存知?
ジュジュちゃんにいちいちツッコミ(?)入れつつ足取り軽く客室へ
真面目に問いかけるたぬちゃんには
笑い抑えるジンノ横目に見るも気にせず吹き出し笑って
まあホラ、何も知らない引っ掻き回し役が物語を面白くするのも
ミステリの定番だしぃ?
案外この中の誰かに化けてるかもねぇ…って
ソレ冤罪!
火狸・さつま
【空】
基本人姿
人が混み合う場所は狐姿ですぃすぃとことこ
汽車、かっくいい、ね
尻尾は先程から振りちぎれんばかり
わくわくおみみぴこぴこ
おべんと!えきべん!
何、食べる?
気になるの、沢山
色々買って皆で分け分け食べ比べ!しよ!
だて、美味し、車内食も頂かなくちゃ、だし
みすてり?
え?俺が、ヒロイン、な、の?
ジュジュとメボちゃんじゃ、なく???
おめめぱちくり首傾げ
じゃ、じゃ、皆で!ひろいんふぁいぶ!!(良く分からないキメポーズ)
あ、そ言えば、ね
さっき、狸が突如消えたとか、向こうで騒いでた、よ?
どう思う?と名探偵常盤をじーぃ
人に…そか、お客s…えっ?この中、に?
そ、言えば…コノ、いつもより、背が1mm…たか、い?
「この世界の列車は立派で趣有るなァ」
神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)はそう言って目を細めた。
なんというか、重厚感が違う。列車と違って重苦しいが、それもまたいいのだ。石炭が詰まれている様子も、UDCにも根を張る彼から見てみれば何とも非効率的だが、だがそれがいい。そう言い切れるほどの情緒が、この古い列車にはあった。
「スマホに一枚姿を納めておこ……」
『メボンゴ―……乱入!!』
「写真撮るなら、一緒に取りましょー!!」
パシャリ。と、ちゃんと撮影した後を見計らってカメラの前に飛び出したのはジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)とその相棒のメボンゴであった。ちなみに『』は腹話術によるメボンゴの台詞である。
「汽車、かっくいい、ね。しゃしん、いっしょ、する?」
ジュジュの言葉に千切れんばかりの尻尾を振っていたのは、火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)である。キラッ切らした目で巨大な車両を見つめては、忙しなく揺れる耳を見やって、コノハ・ライゼ(空々・f03130)がくすくすと楽しげに笑っていた。その様子をたまたま聴いていた駅職員が、微笑ましい目をしながら「撮影しましょうか?」と声をかける。
「いいわネ。みんなで撮ってもらいまショ」
コノハの言葉に、常盤も頷いて。
……尚、駅員さんに「すまほ」を説明するのはほんのちょっぴり時間がかかったことは、また別の話であった。
「お弁当買っていこうよ!」
『メボンゴ肉弁当がいいー!』
ひとしきりポーズをとって撮影会が終われば、まず声にあげたのはジュジュだった。列車旅なんて初めてで、わくわくしているのがそれだけでわかる。
「おべんと! えきべん!」
『それ、突撃~!』
「ほらほら、売店はこっちこっち」
ジュジュの言葉にさつまも何やら走り出そうとして、コノハが慌ててその首根っこを掴んでいた。駅弁はホーム中ほどの売店に。
「何、食べる? 気になるの、沢山。あれもこれもそれもあれも欲しい!」
「そうだねえ。僕はビフテキ弁当を買ったよ。ほら、この感じがちょっとレトロでいいだろう?」
さつまがふんふんとお弁当をチェックしながらそう言うと、常盤がほんの少し笑いながらもビフテキ弁当を受け取る。若干サクラミラージュっぽい(?)チョイスかもしれない。
「ビフテキ!!」
『メボンゴは牛タン弁当!』
「私は定番の鮭弁当だよ!」
「やだ。みんな早くない? そうね、アタシは……。ここは鳥釜飯にしようカシラ」
「!! どれ、も、おいしそ!」
皆の提案にどんどん目が輝いていくさつま。どれもこれも美味しそうだ。そう、どれもこれも美味しそうなのでさつまは自分のお弁当を決められない。迷ってるうちに、
「!」
ホームからベルの音が響いた。出発の合図だ。応えるように列車から汽笛が鳴り響く。
「これに、する! 色々買って皆で分け分け食べ比べ! しよ!」
声をあげて、さつまもお弁当のひとつを手に取る。
「あァ。決まったようでよかったよかった。……そら、じゃあ、走るよォ」
「わわわ、待って待ってー! あ、お弁当の交換は大歓迎だよ~!」
賑やかな音に、ほらほら、と常盤が走り出して、慌ててジュジュがその後に続く。
「ん、走る! 走る!」
「はい、お金。おつりは取っといてくださいね~。モチロンお弁当の分けあいも大賛成~」
手早く代金を渡したコノハとさつまも、慌ててその後を追った。
列車が大きな音を立てて動き出す。その直前に慌てて四人で列車に飛び乗った。
「だて、美味し、車内食も頂かなくちゃ、だし」
と、いうわけで。
豪華一等客室にぎりぎりたどり着けた四人はお弁当を広げることになる。
部屋は四人いても十分な広さで、大きなテーブルはきちんとお弁当は広げられるし窓の外の景色も眺めることができた。今はちょうど街中を走っているが、だんだん民家が少なくなってきている。これから山間部に入るらしいので、暫くは美しい山の景色が続くだろう。
「あァ、皆で分けあおう、そうしよう。夜も美味しいものを沢山食べたい」
「そうねそうね。沢山食べたら一杯楽しンで、夜までにお腹空かせないとネ」
お弁当を広げて暖かいお茶を貰う。それでさつまの言葉に、常盤とコノハもうんうん、と頷くのであった。
「ん。私だって最初っから分け分けするつもりだったよー」
『たぬちゃのお弁当はメボンゴのもの。メボンゴのお弁当はメボンゴのもの』
「!」
ささ、とお弁当を隠すさつまに、冗談だよ、なんてジュジュは笑った。
「そういえば、夜は何か頼む? それとも食堂車?」
「そうだねェ。食堂車っていうのも風情があるけど、折角の一等客室だから……」
「むむ。ここで気軽にダラダラご飯か、食堂でワイワイご飯か、悩むところだよね……!」
「食堂! おもしろそ、けど!」
だらだらも捨てがたい。と、最後にみんなの気持ちを代弁するかのように言うさつまに、だよねぇ。なんて常盤もおかしげに笑った。
そんな、昼ご飯を食べながら夜ご飯の相談をするみたいな話をしていると、外の景色が真っ暗になる。
「トンネルネ。この辺は山が多いから」
「山を抜けて湖があって海だったっけかなァ。途中街を挟むようだが」
トンネルが開ける。そうすると町の景色をかなぐり捨てた、渓谷が姿を現した。山中渓と書かれた鈍行用の駅を、止まらず走り抜ける列車。木々にも、古い駅舎にもうっすらと雪が積もっていて、外の気温はかなり下がっているのであろうことが知れる。
「寝台特急と言えばミステリー小説を思い出すなぁ」
古びた駅を通り過ぎたところで、ふとジュジュがそんなことを呟いた。あれこれ交換しながらの食事を終えると、食後のお茶を運んでもらう。それをのんびり飲んでいるときのことであった。
「名探偵の常盤さんも乗ってるし」
『とっきーの推理が光っちゃうね!』
「ああ。確かに、寝台特急はよく、ミステリの舞台になるが……」
ジュジュの言葉に、常盤がなるほど? と首を傾げる。コノハがうんうん、と小さく頷いた。
「ふふ、確かに物語の始まりそうな雰囲気!」
「はは、二人が云わんとすること、何となく分かる気がするよ」
ねえ、というコノハに、常盤は珈琲を一口。そしてしばらく考え込んだ後でそう言った。
「ホテルとか汽車とか、そういう非日常な場所に泊まると。物語の世界に迷い込んだような気分に成るよねェ」
特に今日のような山間部や、海辺など。普段いかないところを通過しているときは、余計にそう思うかもしれない。
「ある種の結界のようなものかな。つまりは外界から切り離された……」
何やら思わず何かに没入しかけたと際立った出会ったが、次の言葉に思考は引き戻される。きらきらした目のジュジュが、こういったのだ。
「それでね、私達みんな物語の登場人物っぽくない?」
「ん?」
「ああ、分かる~。ミステリーの登場人物と言えば一癖も二癖もありそうだものネェ」
くすくすと笑いながらコノハもそれに同意した。あ、このお茶請け美味しいわね。あとで作り方聞こうカシラ、なんて思いながら。
「名探偵常盤さん、謎の奇術師の私、イケメン料理人コノさん、可愛いヒロインタヌキツネのさつまさん」
「???」
お腹いっぱいでうとうとしかけていたさつまが、急に名前を呼ばれてはっ。と、顔を上げる。
「みすてり? え? 俺が、ヒロイン、な、の? ジュジュとメボちゃんじゃ、なく???」
なんで??? と言いたげな、疑問いっぱい寝ぼけた口調のさつまに、そこでメボンゴがキリリと胸を張った。
『メボンゴはお色気担当!』
「おやおや。お色気担当はコノさんでしょ」
『コノちゃなら納得せざるを得ない』
「成る程イケメンお色気担当料理人兼お色気……ちょっと待ってジュジュちゃん。何そのわかってないなーみたいな雰囲気」
「まあ、……うん、まあ」
「ん!」
「ツッコミ皆無どころか納得されてるし」
苦笑する常盤に、なぜかそこで納得の表情を浮かべるさつまである。そうしてすちゃ、とメボンゴが片手を挙げて、
『でもでも、メボンゴだって悪女する~!』
「じゃあトリプルヒロインで! 可愛い系がさつまさん、クール系が私、お嬢様系がメボンゴね」
『悪役令嬢ね!』
「はいはい」
メボンゴの会話に、宥めるふりをしてさりげなくクール系を主張してくるジュジュであった、ジュジュの言葉にコノハは瞬き、それから、
「トリプルヒロインは否定しないケド、クールの意味ご存知?」
若干意地悪い笑みを浮かべながら言ってみるコノハ。もちろん本当の意地悪ではなくからかう意味合いが強いことはお互いに分かっている。その言葉にさつまは己の目をぱちぱちさせて、
「じゃ、じゃ、皆で! ひろいんふぁいぶ!!」
「ちょっと待て。そのファイブには僕も入っているのかねェ……?」
「ん! なかまはずれ、よく、ない」
「……いや、そこは外しておいてくれても構わないからねェ」
解せぬ。みたいな顔を常盤はしていたという。
「あ、そ言えば、ね」
そうしてひとしきりヒロイン談義をつづけ、属性の当てはめから勝利のポーズの際のポジショニングとポーズまで決めた後でさつまがそんなことを言った。
「さっき、狸が突如消えたとか、向こうで騒いでた、よ?」
どう思う? と常盤をじっと見つめるさつま。
「――たぬき」
さつまの言葉に、常盤は瞬きをする。それからじーっとさつまを見つめる。
そういえばさつまは混みあっていたときに、時々狐姿に戻って人と人の間をすり抜けていたのを、常盤を始め皆はよく知っていた。
……そう。狐姿だ。……狐姿だ。
「早速謎が!」
『とっきーならすぐ解けるね!』
わかっているのかいないのか。無邪気にジュジュが追い打ちをかけて、メボンゴが常盤の顔を覗き込む。
「……」
「……」
さつまを見返す常盤の表情が、なんだかおかしなことになっていた。無理やり笑いをかみ殺す表情に、それを見ていたコノハが思わず吹き出す。
「……さて、どうかな」
軽く常盤はコノハをにらんでみるも、どうにも笑いが滲んでいて全く迫力がない。コノハはおかしそうだ。
「人に化けて乗客に混ざってるのかもねェ?」
ちら、と常盤はコノハを見る。
「まあホラ、何も知らない引っ掻き回し役が物語を面白くするのも、ミステリの定番だしぃ? 案外この中の誰かに化けてるかもねぇ……」
「そう、犯人は此の中に……」
繰り返し言うコノハと常盤に、えっ。とさつまは衝撃を受けたような表情をする。
「人に……そか、お客さ……えっ? この中、に?」
はっ、と慌てて周囲を見回すさつま。そこに……、
「…………そ、言えば……コノ、いつもより、背が1mm……たか、い?」
「ぶっ」
「そこに気付くとは!」
『たぬちゃも名探偵!』
「ちょ、ま、ソレ冤罪!」
思わず吹き出しながらも、コノハは声を上げる。
常盤は笑いをこらえるので精いっぱいで。
「コノ君の方に行ったか、そうかァ……」
三人のやり取りを聞きながらも押し出すように小さな声でそう言った。
せっかくの名探偵さつまの推理場所だ。せめて笑わないでいよう……なんて思いながらも、
「証拠はあるの、証拠は」
「証拠……! それ、犯人が、よく、言う、やつ……!」
『たぬちゃ、後は、崖の上に追い詰めるだけ……!』
そのやり取りの中で笑いをこらえるのは、割と、かなり、結構、大変だったという。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
桜・結都
グイーさん/f00789 と
お話には聞いていましたが、列車は見るのも乗るのも初めてです
泊まれてしまうとは、列車ってすごいんですね
グィーさんは乗ったことがあるでしょうか
ホームに立てば、そわそわとしてしまいます
周りの人々のざわめきや旅の予感が心地よくも心を躍らせますね
走りながら一夜を明かすと思えば夜が待ち遠しくもなります
駅弁を買っていきましょう
私も冷凍ミカンを選んで、共に列車へと
客室は二等を
窓って開けてもいいのでしょうか?
なるほど……速いでしょうし冷えてしまいますよね
少し惜しいですが、走り出したら窓は閉めて、景色を楽しむ事にしましょう
ふふ、食後の甘味は大事ですよね
食べ終えたら食堂車に向かいましょう
グィー・フォーサイス
結都(f01056)と
結都は見るのも初めてなんだ?
僕はあるよ
アルダワには魔導蒸気機関車が走っているからね
でも、寝台車は初めてだ
いつもより君が浮足立っているのが解る
微笑ましいけど、逸れないようにしっかりと見ておかなくちゃだ
うん、駅弁は買おう
冷凍ミカンも
僕これ、結構好きなんだ
楽しみだね、結都
さあ、乗り込もう
列車の廊下を抜けて二等客室へ
廊下が狭くて、人とすれ違うのが大変だけど楽しい
扉を開ければ、わあ!
今日はここで過ごすんだね
窓を開けるのかい?
走り出す前はいいだろうけれど
走り出したら寒いし閉めた方がいいかも、かな
あ、食堂車もあるんだ!?
結都、夜に駅弁を食べたら食堂車に行こうよ
プリンとか食べたいな
桜・結都(桜舞・f01056)は思わず。目を丸くしてその車両を見上げた。
大きい。……とても大きい。
そして重そうだ。とても。
黒い車体は、正面から見ているだけで重圧感がある。
大量の石炭を見ているだけで、どこまで走れるのかと気持ちが遠くなる。
ここに大量の人が乗り、そして夜通し、走って行くのだ。
「……お話には聞いていましたが、列車は見るのも乗るのも初めてです。泊まれてしまうとは……、列車ってすごいんですね」
思わず、そんな言葉がついて出た。いったいこれを動かすために、どれだけの力になるのか想像もつかない。そして、そんな想像もつかないものに自分は乗るのだ。
「グィーさんは乗ったことがあるでしょうか」
知らず、わずかに声が弾んで。そわそわと告げる結都の目は早く乗りたいですと語っていた。その様子に、グィー・フォーサイス(風のあしおと・f00789)は思わずケットシー耳をそよがせる。
「結都は見るのも初めてなんだ? 僕はね、あるよ。アルダワには魔導蒸気機関車が走っているからね」
どうだ、すごいだろう。というような顔で胸を張るグィーに、すごいです、と思わず目を輝かせる結都。その表情に、思わずグィーは舌を出して、
「でも、寝台車は初めてだ。だから僕も、とても楽しみなんだよ」
「そ、そうですか……! 一緒の初めてですね!」
そっと添えられた言葉に、さらに結都が嬉しそうに言って。くるりと両手を広げて一回転。ホームの空気を全身で吸い込んだ。
「周りの人々のざわめきや旅の予感が心地よくも心を躍らせますね。走りながら一夜を明かすと思えば夜が待ち遠しくもなります。駅弁を買っていきましょう。いざ、遠き旅路へと」
「結都。……結都」
つまりは、結都はいつもよりはしゃいでいた。
大げさに感動を表す結都に、グィーの目元が和らぐ。こんな結都を見るのは珍しくて、そして微笑ましい。けれども、
(逸れないようにしっかりと見ておかなくちゃだ……)
「はい、なんでしょう!!」
気を付けないとホームと列車の間に落ちそうだ。なんてグィーが思ったのに気づいたかいなかったか。きらっきらした目で結都がグィーのほうを見るので、うんうん、とグィーは笑う。
「うん、駅弁は買おう。冷凍ミカンもね。ほら」
駅弁コーナーはあっち。なんて結都の手を引くグィー。結都はというと、
「冷凍ミカン……!」
「うん。僕これ、結構好きなんだ」
「お弁当は、何にします?」
「違うのを買って半分こにしようよ」
楽し気に話す結都に、グィーも楽し気に返すのだった。
「楽しみだね、結都。……さあ、乗り込もう」
「はい、いざ、列車の旅へ……!」
乗り込んだころには、ちょうどホームからベルが鳴って。
それに応えるように、列車から汽笛が鳴って。
目を輝かせる結都の手を引きながら、グィーは歩き出す。
同時に巨大な車体も、ゆっくりとゆっくりと走り出した。
「はいすみません。通りますー」
なんて言って、途中狭い廊下を他の猟兵とすれ違うのだって醍醐味だろう。
目指すは二等客室だ。一刀とは僅かに廊下が狭く、扉の位置からちょっと狭そうなのがわかってそれもまた面白い。
「開けるよ?」
「はいっ」
なんて、目を合わせて二人一緒に扉に手をかけて、そうしてどーん、と開くと、
「わあ!」
「グィーさん、窓がありますよ!!」
まるでホテルのような部屋が二人を出迎えた。
ベッドが二つ。ソファーが一つ。どれもホテルとは違うのは、窓に面しておかれていることだ。ソファーに座っても、ベッドに寝転がっても、窓の外から景色を見ることができる。
「今日はここで過ごすんだね」
「そうですね。……そうですね。窓って開けてもいいのでしょうか?」
「窓を開けるのかい? ……て、わ、ぷ」
言いながら開けた結都。もう列車は発車していたから、勢いいい風と、そうして街路にあった桜の花びらが一斉に室内に舞い込む。
「わ、桜が……っ」
「ひとまず、閉めて閉めて」
結都もあわてて窓を閉める。グィーは逆立った毛並みを戻しながら、
「走り出す前はいいだろうけれど。走り出したら寒いし閉めた方がいいかも、かな」
なんていうので、
「なるほど……速いでしょうし冷えてしまいますよね。少し惜しいですが、走り出したら窓は閉めて、景色を楽しむ事にしましょう」
結都もまじめに頷いた。舞い散る桜は風情があったけれどもこれはダメだろう。
……なんて。
真面目に言いあって。そうして顔を見合わせて二人思わず笑うのであった。
「あー。どうしましょう。お部屋が桜でいっぱいで」
「掃除しよう掃除。そんなにはいってないから大丈夫だよ」
けらけら笑いながら簡単な掃除を済ませて。窓の外流れる街並みと桜を見ながらお弁当を広げて。
「あ、食堂車もあるんだ!? 結都、夜に駅弁を食べたら食堂車に行こうよ」
途中で避難経路と書かれた地図に目を通しながら声を上げるグィー。
「ふふ、食後の甘味は大事ですよね。食べ終えたら食堂車に向かいましょう」
「うん。プリンとか食べたいな」
「では、私は……」
冷凍ミカンを食べながらプランを練る。
グィーの宣言も楽しそうで、結都はそれもまた嬉しくて。メニューを思い出しながら、食後の甘味に思いをはせるのであった……。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リル・ルリ
🐟櫻沫
とらんくに夢いっぱい詰め込んで、寝台列車の旅に出る!
湖に桜に星空―どんなにか綺麗だろう
櫻、新婚旅行みたいでわくわくするね
お弁当もたくさん買ったんだから!
いっぱい食べるんだ!でも、そうだね
君に一つおすそ分け
よかったら食べて
君の旅路がよいものであるように
それいいね
旅立ちごっこだ
君と離れたくない!
僕は仕事を辞めて家を出て、君に着いていくぞ!と櫻の胸に飛び込んでみる
見合わせ笑う心地良さ
ごっこでなくてもずーっと
一緒なんだから!
客室は一番のお部屋だときいたよ
豪華な部屋に瞳がきらり
あちらこちらはしゃいで泳ぎまわる
嗚呼、櫻が笑ってる
幸せで嬉しくてそっと尾鰭で包んであげる
写真!
旅立ち前の、記念の一枚だ!
誘名・櫻宵
🌸櫻沫
旅立ち前は何時だって心が逸るもの
リルのトランクには好きなお菓子しか入ってないわね!
リルのお着替えは全部私が持ったわ
新婚旅行だなんてかぁいいこ
美しい光景に響くあなたの歌が聴きたいわ
リル、駅弁そんなに買い込んで
…こんなに食べ切れる?
ぼんやり佇む影朧(あなた)、よかったらおひとつ差し上げるわ
旅のお供に、ぜひ
良き旅路をと声掛ける
乗り込む前に、別れを哀しみ惜しむ恋人同士のフリでもしてみる?
ドアが閉まる寸前に、離れたくないと全て投げうち汽車に飛び乗るの
大喜びの人魚が可愛くて花咲む心のまま一等客室へ
すごいでしょ!
これから観られる景色も
愛しい人魚の笑顔がなければ味気ない
リル、写真撮ろ
頬を重ねてパシャリ
「とらんくに夢いっぱい詰め込んで、寝台列車の旅に出る!」
「そう、旅立ち前は何時だって心が逸るもの! ……リルのトランクには好きなお菓子しか入ってないわね!」
「そんなばかな! おもいこみだ! 風評被害だ!」
「で、本当のところは?」
「お弁当もたくさん買ったんだから! いっぱい食べるんだ!」
「ちょっと待ってお弁当鞄の中にいれちゃったの!? 縦に? 縦にしちゃったの!?」
どー考えても通常状態のお弁当は鞄に入らない。
つまりは横にしたのかと、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)が若干本気で尋ねたので、ぷーっとリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は頬に空気を詰めるのだった。
「もうっ。どう考えてもそんなことするわけないじゃない。お弁当は、これから買うんだよっ。鞄に入れないから、櫻、持ってね?」
「あ、そう。はー。びっくりしたわ。でも、持つくらいなら喜んで。機嫌直してちょうだい」
「もうっ。別に怒ってなんてないよ。ただ……湖に桜に星空――どんなにか綺麗だろう。櫻、新婚旅行みたいでわくわくするね」
「そうね。新婚旅行だなんてかぁいいこ。美しい光景に響くあなたの歌が聴きたいわ。あとリルのお着替えは全部私が持ったわ。お弁当だってなんだって持っちゃうから、楽しみましょ」
じゃ、駅弁買いに行こう、と駆けだすリルに、くすくす笑って櫻宵が後に続く。
「これでしょ? これとこれとそれと……」
「リル、駅弁そんなに買い込んで。……こんなに食べ切れる?」
「あと、これね!」
「もうっ!」
「はいよっ、ありがとうございます!」
威勢のいいおばちゃんが、大量のお弁当を差し出す。もちろん櫻宵が全部持つ。持つのは構わないが、若干呆れたようにお弁当を見る櫻宵。
「食べちゃうよ、勿論。……でも、そうだね。君に一つおすそ分け」
「ああ、そうだ。あなた、よかったらおひとつ差し上げるわ。旅のお供に、ぜひ」
ふと。リルとお弁当を抱えた櫻宵が声をかけたのは、列車の中でぼんやりと佇む影朧であった。丁度乗車口あたりに今は佇んでいたので、そのまま櫻宵がお弁当を差し出す。
「よかったら食べて。君の旅路がよいものであるように」
「…………ありが……とう、ございます……」
「ええ。良き旅路を」
受け取った影朧がぼんやりとそういって、ふっと車両の中へと消えていく。二人はそれを何気なく見送った。まるで幽霊のようだと、なんとなく思った。思いながら……、
「ね、乗り込む前に、別れを哀しみ惜しむ恋人同士のフリでもしてみる? ドアが閉まる寸前に、離れたくないと全て投げうち汽車に飛び乗るの」
はっ。とめっちゃ今いいこと思いついた、みたいな顔で櫻宵が言うと、
「それいいね。旅立ちごっこだ!」
リルもまたノリノリであった。二人して乗車口あたりで、
「君と離れたくない! 僕は仕事を辞めて家を出て、君に着いていくぞ!」
「あぁ! なんという運命! これからはずっと一緒よ!」
ドアが閉まる直前は危ないので、ちょっと今やってみた。ちなみに櫻宵の片手は大量のお弁当を手にしていたが、その上でしっかりとリルをもう片方の手で抱きとめた。リルのほうは思わず大笑いである。顔を見合わせると、櫻宵もまた笑っていた。
「あははははっ。ごっこでなくてもずーっと一緒なんだから!」
「そうね! 何があっても私たちの仲は引き裂けないわ!」
なんてご機嫌で。二人目指すのは一等客室だ。
「うっわ、すごい、豪華なお部屋! 一番のお部屋だよ!」
一等客室はその名にふさわしく。広く、美しく、そして大きな窓が二人を出迎える。視界いっぱいに広がるホームの様子が微笑ましい。
「ね、ね、すごいでしょ!」
思わずはしゃぎまわるリルに、櫻宵も思わず笑顔になる。お互いの顔を見合わせれば、本当に楽しそうにお互いが笑っていて。それだけでもう嬉しさは留まることを知らずに、
「リル、写真撮ろ」
「写真! 旅立ち前の、記念の一枚だ!」
テンション極まったような櫻宵の言葉に、それ以上のテンションでリルは返す。
「やっぱりホームが映ってたほうがいい? それとも客室で撮る?」
「んー。両方しましょ」
「あ、それだ!」
頬を重ねてパシャリ、パシャリ、パシャリ。
「景色が変わったら、また撮りましょうね」
「うん、勿論だよ!!」
そんな話をしていると、ホームから出発を告げるベルが鳴った。応えるように、汽車からも汽笛の音がする。
ゆっくりと動き出す車体。それじゃあ、と、おもむろにリルは一息ついた。
「写真も撮ったことだし、次の写真の前に……」
「ええ、お弁当ね」
「うんっ」
わかってますって言いたげな櫻宵の言葉に、リルは得意げに笑った。
二人の旅は、まだ始まったばかりだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヘルガ・リープフラウ
・ヴォルフ(f05120)と
この世界の寝台特急に乗って旅をするのは初めてなの
夫婦で一等客室を取って
まるで新婚旅行気分ね
こういう時は駅のホームでお弁当を買ったり、
写真を撮ったりするのでしょう?
せっかくの旅行が中止になってしまった市民の皆様には残念ですけど
これも哀しき影朧を慰め、ひいては世界を救うため
使命を忘れることなく、しかし存分に楽しみましょう
列車が走るごとに窓の外の景色は流れ
街並みから田舎へ、そして山間へと刻一刻と変化する
それを眺め、幼い頃に聞いた歌を口ずさみながら
初めて見る景色にわくわくする子供のような瞳で
どこかにいる影朧にも聞こえているかしら
遠い昔に夢見た思い出
どうか報われますように
ヴォルフガング・エアレーザー
・ヘルガ(f03378)と
夫婦で一等客室を取り列車の旅を
二人旅には少し広すぎる気もするが、洗面周りやプライバシーの心配もある
なるべく彼女に苦労はかけたくない
初めての列車の旅に心躍らせる彼女を見ていると
やはりここへ来て良かったと感じる
駅で買ったお弁当を一緒に食べたり
彼女の歌を聴きながら景色を眺めたり
屈託のない笑顔を見せる我が妻を愛しく思う
ああ、だからこの世界の人々は
かくも列車というものに心躍らせるのだ
きっと件の影朧も同じだったのだろう
志半ばに命落とすとき、人は無念を抱く
それが哀しくも厳しい現実だと思っていた
だけどこの世界では、その無念を癒し救えるのなら
この旅路が、どうか皆にとって幸多からんことを
「わあ……。見て、ヴォルフ、窓一面に!」
扉を開いた瞬間、思わず声を上げたヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)に、ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)は思わず目元を和らげた。
「この世界の寝台特急に乗って旅をするのは初めてなの。すごい。すごいわ」
一歩、足を踏み入れてほう、と窓の外を見つめるヘルガ。そうだな、と、ヴォルフガングは彼女の言葉に何度も頷いて、部屋の中を一度、ぐるりと見まわした。
最大四人まで宿泊できる一等客室は、二人では十分以上に広い。けれどもさすが一等というだけあって、何不自由のない快適な旅を送ることができるだろう。
(二人旅には少し広すぎる気もするが……、なるべく彼女に苦労はかけたくないからな)
「ふふふ」
「ん?」
そんなことをヴォルフガングが思っていると、ヘルガが何やらこちらを向いて微笑んでいる。不思議そうなヴォルフガングに、
「まるで新婚旅行気分ね」
ほんのちょっぴり、照れたようにヘルガが言うので、ヴォルフガングは破顔した。
「そうだな……。そうか、新婚旅行か」
そういえば言ったか、言ってなかったか。なんて真面目に考えこんでしまう。そんな風にヴォルフガングが思わず感心したのでヘルガの方はというと、
「こ、こういうときは。こういう時は駅のホームでお弁当を買ったり、写真を撮ったりするのでしょう? まだ時間があるから、行きましょう!」
自分で言っていて、自分で照れたらしい。何か言う前にヘルガは荷物を置いてヴォルフガングの手を引く。
「せっかくの旅行が中止になってしまった市民の皆様には残念ですけど……。これも哀しき影朧を慰め、ひいては世界を救うため。使命を忘れることなく、しかし存分に楽しみましょう」
「わかった、わかった」
ねっ。と、何やらやる気のヘルガに、圧されるようにヴォルフガングは一緒に歩きだす。初めての列車の旅に心躍らせるヘルガを見ていると、本当にここへ来てよかったと。心の中で思いながら、
「ほら、ヴォルフ。お弁当は何になさいます?」
「そうだな。ここはやはりボリュームがあって……」
それによって、自分もまた楽しんでいると感じることができるのである。
やはりここへ来て良かったと。ヴォルフガングはしみじみと思った。
いただきますと言いあって、お弁当を一緒に食べて。
「ヘルガ、そちらのも一口貰っていいだろうか?」
「まあ、ヴォルフったら。……はい、あーん」
時には交換もしたりして。食後は一等客室なので贅沢にお茶を頼んだりもして。
街並みから田舎へ、そして山間へと。あっという間に景色は流れて行く。その姿を楽しんで。
「見て、ヴォルフ。山がずぅっと続いてますわね」
「ああ。トンネルはいくつ超えるのだろうな」
「山を越えたらまた街があって、そして湖があるのですって」
「それは……楽しみだな」
きっと湖はきれいだろう。なんて思いながら流れる木々を見つめていると、
ふと、ヘルガは唇を開いた。
自然と口を突いて出たのは、幼いころに聞いた歌だ。
初めて見る景色にわくわくする子供のような瞳で、ヘルガは優しい、優しい歌を歌う。
(どこかにいる影朧にも聞こえているかしら……。遠い昔に夢見た思い出。どうか報われますように……)
祈るような声を聴きながら、ヴォルフガングはヘルガを見つめていた。
その屈託ない笑顔も、美しい歌声も、何もかもがいとおしかった。
(ああ、だからこの世界の人々は、かくも列車というものに心躍らせるのだ。……きっと件の影朧も同じだったのだろう)
歌を遮らぬよう、ヴォルフガングは声には出さずにそれを思う。
(志半ばに命落とすとき、人は無念を抱く。……それが哀しくも厳しい現実だと思っていた。だけどこの世界では、その無念を癒し救えるのなら……)
この旅路が、どうか皆にとって幸多からんことを、と。
どうかそんな願いが届くようにと。
思いのこもった歌声は、静かに静かに流れて行った……。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴィクトル・サリヴァン
陸の旅は少ないんだよね。
影朧もいるみたいだけど楽しむ方が大事らしいし、のんびり楽しんじゃおうかな。
…俺が泊まれる客室あるといいなー。ベッドあるかなー(尻尾べしべし)
駅では当然駅弁購入。やっぱ列車旅といえばこれは欠かせないよね。
名物に合わせて試行錯誤の末に作られた芸術品…ってUDCの旅行ガイドにあったからここもそうだろうし。
ここは変化球を狙ってみるのも…?(チャレンジャー精神)
三…いや二等客室?
眠れるとこでのんびり過ごすね。
外の流れてく風景見ているだけでも中々。
通りすがりの人や影朧いたらお話してみたいかな。
海の旅のお話なら沢山あるけど陸旅は少ないから話相手募集中!的なノリ。
※アドリブ絡み等お任せ
ヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)はのんびりと列車を見上げていた。
「……陸の旅は少ないんだよね」
案外。海の生き物である彼は陸地の身を旅するのは珍しい。……影朧もいるみたいだけど楽しむ方が大事らしいし、今回はまあ、旅といって差し支えはないだろう。
「客室かー。俺が泊まれる客室ならー……三……いや二等客室?」
とかそんなことを言いながらも、とりあえず二等客室の予約を取る。
とってしまえば、後は旅行の準備だけだ。そして旅行の準備といえば……、
「駅では当然駅弁購入。やっぱ列車旅といえばこれは欠かせないよね」
そう、駅弁である。
駅弁コーナーには様々なお弁当が並べられていた。
「名物に合わせて試行錯誤の末に作られた芸術品……ってUDCの旅行ガイドにあったからここもそうだろうし」
だったらぜひ買わないと、と、ヴィクトルは売店を覗き込むのである。
中身は様々。肉ならば牛丼、焼き肉、ステーキ弁当なんて豪勢なものから、鳥釜飯弁当もあるし、
魚であるなら、鮭、金目鯛に始まり海鮮丼ぶりもどきもある。
「普通においしそうなものもいいけれど……。ここは変化球を狙ってみるのも……?」
色物もいろいろあるので、チャレンジャー精神あふれるヴィクトルは悩んでしまう。結局悩んだ末、二つほど弁当を買ってヴィクトルは列車に乗り込んだ。
ホームのベルが鳴る。応えるように列車が汽笛を鳴らす。
それを聞きながら、ヴィクトルはのんびり客室を歩く。
二等客室は普通にホテルのようで、くつろぐことができるだろう。
ソファーもベッドも、すべて窓を見られるように置かれているので、それが普通のホテルとは違っていて新鮮かもしれなかった。
「ああ……。外の流れてく風景見ているだけでも中々」
陸の旅は少ない。感心しながらヴィクトルは窓の外を眺めていると、外で子供が手を振っていたので思わず振り返す。
予定によると、徐々に民家は減っていき山間部に向かい、湖を通り、最後には海に出るらしい。
「ふーん……。なんだかおもしろいね」
ずいぶん遠くまで行くものだと、思いながらもヴィクトルはお弁当を広げる。
……さあ、のんびり食事をしたら、誰かと話に探検でも行こうか。
影朧を見つけたら、話しかけるのもいいだろう。
何せ彼には物珍しい陸旅が、始まったばかりなのだから……。
大成功
🔵🔵🔵
都槻・綾
一等客室から出て
物珍し気に散策
街並みには暮らしのあかり
トンネルには開けた先の、未知の風景への期待
まるで絵本を捲るよう
車窓を往く景色に見入る
やがて
穏やかに過ごす将校殿の姿を認めたら
笑んで差し出す、温かな緑茶
旅は心弾みますね
日常という柵から解放される故かしら
でもね、
独りはやはり寂しくて
話し掛けさせて頂いた次第なの
旅は道連れと言えども
ご迷惑だったでしょうか
無礼を詫びつつ
ふと目に留まったのは
彼の掌の中の手紙
大切なものなのですね、と微笑み示し
彼の執着を――記憶を辿る旅路になるよう
ぽつりぽつりとお話を聞けたら
ね
誰しも進む先は「未来」なの
あなただけの乗車券かもしれない其れを
どうか決して失くさないでくださいな
都槻・綾(糸遊・f01786)はひょっこり、一等客室から顔を出した。
さすがに、一等客室ともなれば雑多な賑やかさからも切り離され、静かな廊下を歩くことができる。
とはいえ列車は列車。ごうっとカーブを曲がる瞬間、車体が揺れる様子すらなんだか物珍しくて、綾は少し歩くことにした
先ほどまで、散々客室にこもって景色を眺めていたのだが、さすがに山中、渓谷沿いを進み続けていると、変わらぬ緑の姿に飽きたのである。
町を通り過ぎるときの暮らしの明かりも、手を振る子供たちも。
トンネルを入って途端に真っ暗になった景色も。それが開けたときの期待も。
闇が晴れると同時に巨大な山脈の中を駆けていくわくわく感も。行けども行けども連なる緑の雄大さも。
綾にとってはどれもこれもが素晴らしくて、まるで絵本でもまくるように車窓を見つめ続けていたのはつい先ほどまでのことであった。
そうして綾は何気はなしにぶらぶらと。二両目、三両目は一両目ほどではないが物静かで、それを開けると食堂車にたどり着いた。
今までの静けさは一変して、賑やかな食堂は雑多な猟兵たちが思い思いに食事をとっていて、または喋ったり騒いだりしていて、一気ににぎやかな様相を呈している。
もしかしたらその先の三等車は、もっと賑やかなのかしら。なんて、ちょっと興味にかられながらも、綾はふと目に入った姿に、
「どうですか? こちら、空いていますよ」
なんて声をかけて、空いたテーブルの椅子を引いた。
「……」
ぼうっと。
文字通り影のごとく、そのオブビリオンは進められるがままに席に着く。給仕もいるけれども、忙しそうだったからと。セルフサービスで緑茶を二つ持ってきて、綾も向かいに腰を下ろしたところで、メイドが飛んできた。
「はい、どうぞ。……あ、ぜんざいをお願いします」
「白玉と栗とどちらにしますか?」
「では、栗で。将校殿も如何?」
「私は、これで」
静かに、影朧はそう言って。ではそれで、と綾も穏やかに微笑んだ。
影朧に、お茶が飲めるだろうかと。綾がほんの少し心配したのは、その存在感がいかにも希薄だったからだ。まるで幽霊のようにただズムそれは、静かにお茶を飲んだので、杞憂だったかとほんの少し、綾は安心する。
「旅は心弾みますね。日常という柵から解放される故かしら」
「そうですね……。そう、言われる方も多いかと思います」
何気なく問いかけた綾に、影朧はほんの少し、何かを思い出すように言葉を返す。
「でもね、独りはやはり寂しくて、話し掛けさせて頂いた次第なの。旅は道連れと言えども……ご迷惑だったでしょうか」
「いえ……」
続いて話しかける綾に、影朧はほんの少し、考え込んでいたようであった。
「せっかくの旅です。なるべく楽しい道行きにしてほしい。我々はそう願っていますから、そのためであるならば」
寧ろ声をかけて貰えてよかったです。と、丁寧に返す影朧に、綾は瞬きをする。
「おや。まるで車掌さんのようなものいい……っと」
「お待たせしました。栗ぜんざいです」
「ありがとうございます。……うん、美味しい」
「ぜんざいに栗ですか。知らぬ間にメニューが増えましたね。帝都の流行には、追いつけません」
「将校殿は、列車に乗るのは久方ぶりで?」
「そう……ですね。ずいぶんと久しぶりだと思います」
言いながらも、影朧が首を傾げた。なんだか違和感があると言いたげなその顔に、あえて綾は何も言わずにぜんざいを一口。……うん、美味しい。
「……その、手紙」
「はい?」
「大切なものなのですね」
綾が指さしたそれに、影朧は瞬きをした。
「なんの、ことでしょう」
視線を下げる。手を見ているようで、そうして、わからないという風に首を傾げていて。
まるで、自分が握っているものが目に入っていないかのようであった。
「今は、わからずとも」
困惑する様子に、綾は一つ頷く。そうして優しく、
「ね。誰しも進む先は「未来」なの。……あなただけの乗車券かもしれない其れを、どうか決して失くさないでくださいな」
声をかけた。影朧は、わからないと首を傾げながらも、
「そう、仰るのでしたら」
と、小さく頷いた。
がたん、と列車が揺れて、景色が流れて行く。
「……山を抜ければ、どこに出るでしょう」
「また街を抜けて、湖へと。その後は、海に出ますよ」
そんな、静かな会話はしばらくの間、続いていた。
大成功
🔵🔵🔵
片稲禾・りゅうこ
【朱の社】
やったぜ旅だ~~~!!って歩いてじゃないのか!?
れ、列車……!大丈夫なのか!?はふりやりゅうこさんはともかく、カフカさんと和子はこう……平気なのか!?
だってほら、すんごく速く動くだろうあれ。中に乗るヒトの子はきっと強い体で……
えっ、そんなことはない?ほ、本当かあ~~~??絶対歩く方が楽しいと思うんだけどなあ……
うお~~~~~!!!すげ~~~~~~~~~!!!!
うはははは!!寝っ転がってても全然平気だし、景色が流れてくの面白いなあ~~~!!!
なあなあ、これどういう仕組みなんだ?………う~んさっぱりわからん!わからんけどすごいのはわかる!!!
うははははは!!!やっほ~~~~~~!!!!
神狩・カフカ
【朱の社】
和子は一人でなにを盛り上がってンだ?
旅は大勢で行ったほうが楽しいだろうに
なンだ、はふりとりゅうこは初めてかい
列車の旅ってのは優雅でいいもンだぜ
馬車や自転車なァ
あれはあれでいいもンだが…
って、なんで体の心配されてンだ???
むしろ楽するために乗るもンだからな
ま、乗りゃわかるサ
折角だから一等客室で豪勢にいこうぜ
ははっ!こりゃァいい!
缶詰にされるならこういうところがいいねェ
おまけに景色もいいときた
小説のネタがいくらでも湧いてきそうだ
次は列車を舞台にしたミステリーでも書いてみるか
殺人事件はそれはそれで面白そうだから歓迎だがな
つーか、おい、りゅうこ
はしゃぎ過ぎじゃねェか?
窓から落ちても知らねェぞ
葬・祝
【朱の社】
列車なんて初めてですねぇ
ええ、だって何処に行くのも歩くか浮く方が楽なんですもの
どうせ、一応路の権能がある身としては、距離なんてあってなきが如しですし
乗り物って、昔にカフカと乗った馬車や自転車くらいでは?
んー……ちょっと落ち着きませんね、やっぱり
でも、こんなに早く景色が流れて行くのは新鮮です
部屋も広いですし、至れり尽くせりの動く部屋を作ろうだなんて、人の子の考えは便利や楽に極振りしていて面白いですよねぇ
りゅうこも初めてでしたっけ、列車
全く、君は本当に子供のようにはしゃぎますねぇ……人馴染みしているようで意外と乗り物とは無縁だったんですかね、君も
嗚呼、そうそう
書いたら読ませてくださいね?
白水・和子
【朱の社】
寝台列車なんて乗るの久しぶり〜。
前は男の子と二人きりだったけどぉ……もしかしてぇ、カフカさんもそういうのが好みなの?
ふふっロマンチックなんだから…ってぇえー!?違うの!?しかも四人!?
クッ、この旅で仲を深めてやる…!
楽しいけど、それはそれこれはこれよ。
ていうか二人とも列車知らないの?馬車て。確かに牛車とか昔乗ってたけど…!(ごにょ)
えー、歩くの疲れるじゃない。時代は車に列車よ!
そこはアレよ、慣性の法則。
綺麗だし、結構楽しいのよ〜?美味しいご飯とかふかふかなベットとかあるし。
まぁねぇ、利便性のその先に楽しみを作り出すって感じだものね。
此処で殺人事件が起きないと良いわね。
私は嫌だもの!
白水・和子(筆は書き手を選ばず、彼女は恋を選ぶ・f10791)ははわーん。と、両手を両頬に当てた。
「寝台列車なんて乗るの久しぶり〜」
目の前には巨大な列車が横たわっている。漆黒の体はそれなりに古びているがピカピカに磨かれていて、重厚感があってカッコイイ。……が、そんなこと、和子の目には入っちゃいねえ。
「前は男の子と二人きりだったけどぉ……もしかしてぇ、カフカさんもそういうのが好みなの? いやん。二人で恋の逃避行ってことかしら。ふふっロマンチックなんだから……」
ほわほわほわーん。と和子の頭の中ではこの後手に手を引かれて列車に乗り込み始まる目くるめく恋のドラマが展開されていた。そして丁度夜が明けて朝日と共に二人が愛を誓ったところで、
「やったぜ旅だ~~~!! って歩いてじゃないのか!? れ、列車……! 大丈夫なのか!? はふりやりゅうこさんはともかく、カフカさんと和子はこう……平気なのか!? 死なないか!? 死なないのか!?」
「ってぇえー!? 違うの!? しかも四人!? ちょっと、どういうこと、どういうことこれー!!」
片稲禾・りゅうこ(りゅうこさん・f28178)の大きな声で、和子は我に返った。ばっ。と振り返ると、妄想相手……もとい。神狩・カフカ(朱鴉・f22830)は呆れた顔で和子を見返しているのであった。
「和子、一人でなにを盛り上がってンだ? 旅は大勢で行ったほうが楽しいだろうに。ていうかみんな最初からいただろ」
「クッ!?!?!?」
なぜかめっちゃダメージ受けてる顔をする和子。知ってた。知ってたけど見ないふりをしてただけだった。
「なあカフカ。カフカ。大丈夫なのか、ほんとにこいつ大丈夫なのか!?」
そんなこんなをしている間も、竜子の方も止まらない。なんかもう泣きそうな目をしているあたり、割といろいろ怖い想像をしていること間違いない。
「だってほら、すんごく速く動くだろうあれ。中に乗るヒトの子はきっと強い体で……。出ないと死んじゃうんだ。ぐちゃってされてぐちゅってなって……」
「なるほど……つまりはこれは用意周到な殺人計画だったのですね……」
今知った。みたいな感じで言い切ったのは葬・祝( ・f27942)だ。そんなことを言いながらも、あんまり表情は変わらず冷静なので、緊迫感はさほどない。そんな言葉に後ろからええっ。と声を上げたのはようやくダメージから回復してきた和子であった。
「ていうか二人とも列車知らないの?」
信じられない、とでも言いたげな雰囲気である。カフカもあれ、と首を傾げた。
「なンだ、はふりとりゅうこは初めてかい」
「列車なんて初めてですねぇ。ええ、だって何処に行くのも歩くか浮く方が楽なんですもの」
「うう。あんな危なそうな乗り物乗れないんだぜ……」
「どうせ、一応路の権能がある身としては、距離なんてあってなきが如しですし。……乗り物って、昔にカフカと乗った馬車や自転車くらいでは?」
そもそも必要がない、とでも言いたげな二人。和子は軽く頭を掻く。
「そ、そりゃあ馬車て。確かに牛車とか昔乗ってたけど……!」
最後のほうはしりすぼみになった。さすがにこれは、年齢がばれますね。
「馬車や自転車なァ。あれはあれでいいもンだが……列車の旅ってのは優雅でいいもンだぜ」
「ほ、本当かあ~~~?? 絶対歩く方が楽しいと思うんだけどなあ……」
「えー、歩くの疲れるじゃない。時代は車に列車よ!」
「やだ~~。絶対あんなの体に悪いだろ~~~」
「って、なんで体の心配されてンだ??? むしろ楽するために乗るもンだからな」
「えっ???」
意味がわからない、という顔をするカフカに、同じように意味が分からない、という顔をするりゅうこ。
「……ま、乗りゃわかるサ」
「そ、そうか?? 大丈夫なのか……??」
大丈夫だ。と念を押すカフカに、恐る恐る、というていでりゅうこは頷いた。
その時、ホームからアナウンスが響く。もうすぐ発車するので、乗車予定の方は急いでください、という旨のものだ。
「! 喋ったぞ!!」
「ああ。アナウンスだな。とにかく、乗るぜっ」
「はーい。……ふっ、思わぬトラブルに見舞われたけど、この旅で仲を深めてやる……!」
「……君も、あきらめませんね……」
「楽しいけど、それはそれこれはこれよっ」
そんな、ばたばたした勢いで、四人は列車に飛び乗るのであった。
そうして四人がたどり着いたのは一等客室であった。
折角だから豪勢にいこうぜ! と決めたのはカフカである。
「ははっ! こりゃァいい! 缶詰にされるならこういうところがいいねェ」
広い部屋だった。大きなベッドに、広いテーブルとソファ。整った調度品に、頼めば何でも持ってきてくれるサービス仕様付き。
「おまけに景色もいいときた。小説のネタがいくらでも湧いてきそうだ」
大きく開いた窓からは外の景色が一等綺麗に大きく眺めることができる。ソファに座っても、ベッドに寝転がっても、窓が目に入るのが普通のホテルとは少し違うところだろうか。
汽笛が鳴ると同時に、列車は走り出していた。列車は町中を走って行く。つまりは、
「うお~~~~~!!! すげ~~~~~~~~~!!!! うはははは!! 寝っ転がってても全然平気だし、景色が流れてくの面白いなあ~~~!!!」
りゅうこがはしゃぐ。ぼんぼんとまずはベッドで飛び跳ねながら、テンション高く声を上げる。
「なあなあ、これどういう仕組みなんだ? ………う~んさっぱりわからん! わからんけどすごいのはわかる!!!」
「そこはアレよ、慣性の法則。細かいことは考えちゃだめよ。恋に落ちるのに理由がいらないのと同じぐらい、この世界は説明が難しいこともあるんだから!」
なんで? なんで?? って、聞きたげな竜虎に、先回りして和子がそんなことを言う。なるほど、と周囲を見回して、祝は一息ついた。
「んー……ちょっと落ち着きませんね、やっぱり」
「そう? 綺麗だし、結構楽しいのよ〜? 美味しいご飯とかふかふかなベットとかあるし」
「そこが、ですよ。部屋も広いですし、至れり尽くせりの動く部屋を作ろうだなんて、人の子の考えは便利や楽に極振りしていて面白いですよねぇ」
別に悪印象があるわけでもない。感心したような祝の言葉に、うーん。と和子は腕を組んだ。
「まぁねぇ、利便性のその先に楽しみを作り出すって感じだものね。でも……たまにはこういうのも、悪くないでしょう?」
「ええ。それに……こんなに早く景色が流れて行くのは新鮮です」
「うははははは!!! やっほ~~~~~~!!!!」
がばぁっ!!!
祝が一息ついた瞬間、りゅうこが叫んで窓を全開にした。
「ちょ、風……!」
「うはははは、舞い込め舞い込め―!!」
ざああああっ。と、風と一緒に桜の花びらが入ってくる。りゅうこが身を乗り出して手を振る。
「りゅうこも初めてでしたっけ、列車」
「ああっ」
「全く、君は本当に子供のようにはしゃぎますねぇ……人馴染みしているようで意外と乗り物とは無縁だったんですかね、君も」
でも、この景色も悪くないですね。なんて。
桜吹雪舞い散る車内を見て、祝は僅かに口元をゆがめるのであった。
「いやいや……いやいや!! これ、掃除大変だから!! りゅうこさん、閉めて、窓閉めてー!」
和子の悲鳴が響き渡る。その悲鳴を聞いて、ほう、とカフカは手を打った。
「次は列車を舞台にしたミステリーでも書いてみるか。殺人事件はそれはそれで面白そうだから歓迎だがな」
なんて、呑気に主張をする。それから思い出したかのように、
「つーか、おい、りゅうこ。はしゃぎ過ぎじゃねェか? 窓から落ちても知らねェぞ」
「はっ。落ちたらどうなるんだ!?」
「そりゃ……殺人事件案件……かな?」
容赦ないカフカの言葉に、何ということでしょう。みたいな顔をするりゅうこ。それでようやく和子はりゅうこを窓から引っぺがして窓を閉めた。
「もうっ。此処で殺人事件が起きないと良いわね。私は嫌だもの!」
この部屋、入り込んできた桜の花びらを掃除するの、たぶんすっごく掃除が大変。綺麗だけど。肩で息をする和子。そんな和子の苦労をまったく気にしていない風に、
「……嗚呼、そうそう。書いたら読ませてくださいね?」
「ああ、任せろ。超大作にしてやるぜ」
びしぃ。とカフカが親指を立てるのであった。
掃除はたぶん、食堂車にでもいっている間に乗務員の皆さんがしてくれるはずだ。きっと多分、恐らくはっ。
「あぁ。ロマンスは、遠いのね……」
ただ、和子のロマンスがどうなるかは、きっと誰にもわからない……。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ベイメリア・ミハイロフ
これはこれは、とても立派は列車でございますね
これからの旅立ちに、胸が躍ります
リュカさまが「強そう」と仰ったお気持ちもわかります
茶色のトランクを持って、列車に乗り込みます
お席は三級客席で
皆さまと語り合いたく存じます
トランクには少しの私物と、お夜食用にお菓子とお茶の水筒を入れて
朧影をお見掛け致しましたら
もし、そちらのお方、とお声がけしたく
お手を、お手の方をご覧くださいませ
何か握りしめていらっしゃいますよ
そちらの紙は、お手紙でございましょうか
どなたからのお手紙で?大切な方からなのでは?
少しでも記憶を引き出せますよう、優しくゆっくりお声がけを致します
何か召し上がりますか?お茶でもいかがでございますか?
ディフ・クライン
一人旅だし、三等客室でいいかな
機会があれば誰かと話してみたいね
列車旅は初めてなんだ
とりあえず着替えと必要そうなものは持ってきたんだけどね
あとはどうすればいいんだろう
お弁当とかは買うべきだったのかな
食堂車があるというから不要かとも思ったんだけど
荷物を置いたらカーテンを開けて、本を片手に流れる景色も楽しもうか
ふと見かけた影朧の彼へそっと声をかけて
列車、好きなのかい
返事があろうとなかろうといいよ
ただ、目についたのは手紙
そんなに握り締めると、手紙がくしゃくしゃになってしまうよ
ずっと手紙を離さないじゃないか
大切なものなんだろう
誰からの手紙なんだい
死霊使いだからかな
話してみたかった
その執着が、叶うといいね
ほう、とベイメリア・ミハイロフ(紅い羊・f01781)は黒く塗られたその車体を見上げてため息をついた。
「これはこれは……、とても立派な列車でございますね」
自然と。茶色のトランクを握る手に力がこもる。列車は大きく、そして長くて。これが警戒に走るなんて、それだけでベイメリアにはなんだか不思議な心持がする。胸が躍るといってもいい。その中に自分がいるということが嬉しいのだ。
「……リュカさまが「強そう」と仰ったお気持ちもわかります」
「なるほど。確かに強そうではあるね」
感慨深そうなベイメリアの言葉にうなずいたのは、ディフ・クライン(灰色の雪・f05200)であった。表情乏しいがその列車を見上げる横顔には、見たことがないそれへの僅かな感動が乗っている。ベイメリアがディフのほうを見ると、ディフも何気なくベイメリアのほうを見た。その時、ちょうど、そろそろ出発ですのでホームの皆様は車内へとお願いします、と駅職員が声を張り上げているのを聞く。
「……入り口は、あちらでいいのかな」
「ええと……そうでございますね。何等客室ですか?」
「三等なんだ。一人旅だからね」
「あら。では私と一緒ですね。……まあ!」
「うん?」
「三等客室の乗り口は一番後ろの方でした。急ぎましょう」
最悪車内を突っ切ってしまえばいいのだが、荷物もあるし人も多いから成るべく三等客室の入り口に乗ったほうがいいだろう。と。ベイメリアは言うので、そんなものなのかとディフは瞬きをして足元の表示を見る。
「あ。本当だ。三等はあちらと書いているね」
「ええ。こちらでございます。少し速足で参りましょう」
あくまで速足である。二人(若干のんびり目ではあるが)急いで後方車両に向かう頃には、ホームから出発のベルが鳴り響いていた。
「ひゃっ」
「これは……すごいな」
応えるように、記者が大きく汽笛を上げる。その音に驚きながらも、二人ぎりぎり、列車に飛び乗った。
「列車旅は初めてなんだ。とりあえず着替えと必要そうなものは持ってきたんだけどね。あとはどうすればいいんだろう」
カーテンだけで遮られた客室を、自分の部屋を探して移動しながらディフが言うと、ベイメリアも首を傾げる。
「そうでございますね。わたくしは……トランクには少しの私物と、お夜食用にお菓子とお茶の水筒を入れて参りました。……はっ」
「うん?」
「駅弁を買い忘れましたわ……!」
はた、と足を止めて重大なことのようにショックな顔をして言うベイメリアに、先を行くディフは足を止めて振り返った。
「お弁当とかは買うべきだったのかな。食堂車があるというから不要かとも思ったんだけど……」
「あ……ああ! そういえば、食堂車もございましたね。よかったぁ……」
しおしおしお、とその場に思わずしゃがみ込むベイメリアに、ディフはほんの少し、微笑む。
「食事は、大事?」
「勿論でございます。いえ、わたくしそこまで食べ物をこだわるわけではありませんが、やっぱり旅の食事は醍醐味ですもの」
「そうなんだ。じゃあ、俺も楽しみにしていようかな」
あんまり気にしてなかった。なんて言うディフに、そんな勿体ない、という顔をするベイメリア。それで、ディフもそういうものなのかと素直に納得する。
「……あっ。俺の部屋は次の車両だね」
「あら。わたくしもちょうど次で……」
そんなことを言いながら、7号車と8号車の間のデッキ部分にたどり着く。若干広くなっていて、乗降用の入り口があった……ところで、
「あ……っ」
「うん」
今はぴったり閉まったドアの窓から外を覗く姿が一つ。
今にも消えそうな影が、そこに佇んでいた。
「……もし、そちらのお方」
ベイメリアがそっと、丁寧に声をかける。ディフも小さな声を出す。
「列車、好きなのかい?」
小さくする必要はない。ここにいるのはすべて猟兵だから、影朧に対して語り掛けることをはばかる必要などない。
それでも、小さな声になったのは、その存在があまりに淡く、消えてしまいそうだったからであろう。
返事がなくとも、かまわなかった。ただ、ディフが、自分が声をかけたかっただけだ。だが、ベイメリアとディフの言葉に、うっすらと影は顔を上げた。
「列車……そう。列車はいいものです。好き……好き、でした。だから、私はオリオン号を作……」
最後のほうは、よく聞き取れない。だが、ディフとベイメリアは顔を見合わせる。
「綺麗……なのですよ。ぜひ、いろんな方に、見てもらいたい……」
ぎゅう、と手を握りしめる影朧。その様子に、ベイメリアは声をかける。
「待ってくださいまし。お手を、お手の方をご覧くださいませ。何か握りしめていらっしゃいますよ」
触っていいのだろうか、触られたらいやかもしれない。判別がつかずに、ベイメリアはそっと、優しく声をかける。
「そちらの紙は、お手紙でございましょうか。どなたからのお手紙で? 大切な方からなのでは?」
「そう。そんなに握り締めると、手紙がくしゃくしゃになってしまうよ」
「手紙……?」
添えるようなディフの言葉にも、影は首を傾げる。それを持っていることすら、気いていないようであった。
「手紙……。そういえば、何度も、そんなことを……。けど、私は……」
言われた気がする、と、言いながらも影は首を傾げる。そんなものは持っていないとでも言いたげな彼の姿に、
「ずっと手紙を離さないじゃないか。大切なものなんだろう? 誰からの手紙なんだい」
「……誰」
重ねて問うディフに、何やら影は考え込んでいるようであった。
「何か召し上がりますか? お茶でもいかがでございますか? わたくしたちの車両はあちらですの、一緒にお茶にいたしませんか?」
急がなくとも、大丈夫ですよ。と、微笑むベイメリアに、ディフも小さく頷く。
「もしよければ、俺もご一緒していいかな。そうしたら、何か思い出せるかもしれない」
「いえ……結構です……。私は……もう少し……」
言いながらも、ふらりと影は再び歩き出す。数歩歩いて、それからふと立ち止まった。
「手紙……持って、いますか……?」
奇妙な問いかけに、思わず二人は顔を見合わせてから、頷いた。
「そう……ですか……。多分、それは……」
ゆっくりと。……ゆっくりと。
そんな声を最後に、影の姿は溶けるように消えて行った。
まるで、幽霊のようであった。
「……その執着が、叶うといいね」
ぽつりと、その姿を見送ってディフが呟く。ベイメリアは小さく頷いて、祈るような仕草をした。
「少しでも、お助けできればよろしいのですが……」
「うん」
ほんの少ししんみりする二人。しかし次の瞬間、
「けれども、荷物を置いたらまずはお昼ごはんにいたしましょう!」
「あ、うん」
ベイメリアはにこやかに言ったので、ディフは「じゃあ自分は部屋でゆっくり本でも読んでいようかな」という言葉を飲み込んだ。まあ、別に本は逃げやしないだろう。その間を、ベイメリアは少し違うようにとる。
「大丈夫。この列車で、わたくしたちが求めさえすれば、きっとまたあの方に出会える……そんな気がいたしますわ」
「ん……。そう、だね」
二人顔を見合わせて、頷く。
彼はまだ、列車をさまよっている。……何かのカケラを拾い集めるように、歩いている。
だからきっと、望めばまた会えると。そんな気がしていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ベルンハルト・マッケンゼン
【炎桜】
(トレンチコートにボルサリーノ、スーツケースを引っ張って現れる)
待たせてすまない、真琴。仕事が長引いて、な。
あぁ、心が躍るな。二人きりでゆっくりと、景色や会話や食事を楽しもう。
準備をありがとう、もちろんお酒も!
(彼女と同じく、振り返って呟く)
死してもなお、想いを遺す、か。少し、羨ましいな。生きながら想い出を喪っていく、私には。
(レディファースト、彼女には先に客室でくつろいでもらって、その間に私は食堂車から軽食をテイクアウト)
着替えは終わったかな。お茶も良いが、美味しそうだったので持ち帰り、だ。
クロックムッシュにクラブハウスサンド、ウィンナーコーヒーとどうぞ。
さぁ、お楽しみはこれからだ!
新海・真琴
【炎桜】
二人で出かけることはあっても、泊まりがけの旅なんて初めてだねぇ
冒険気分でワクワクするね!
(ツイードのハンチングを落とさないよう深く被り、トランクを軽々と持ち上げて)
よっと……あとこれも忘れないようにしなくちゃ。大事大事
(紙袋には、発車駅近くの百貨店で買ってきたお酒の瓶)
……?
(ふと、影朧の気配を感じて振り返るも、彼を見つけられず)
……君も、楽しむといい
ベルンハルト、切符見せて。ボクらの客室どこだっけ
(二等客室。ガラッとドアを開けて)
よっし、着いたー
(帽子と革手袋を取り、ブーツをバブーシュに。ケープとベストはメリノのストールに)
まずは一休みしよっか。窓からの景色を眺めながらお茶でも
新海・真琴(薄墨黒耀・f22438)はトランクを手に、じっとホームに佇んでいた。
ツイードのハンチングを落とさないよう深く被り、俯いて、ただ静かに、何かを待っている姿はほんの少し様になっていて、
「……やあ、待たせてすまない、真琴。仕事が長引いて、な」
あとから追いついたベルンハルト・マッケンゼン(黄金炎の傭兵・f01418)が、ぽんとその肩を叩いた。
トレンチコートにボルサリーノ、スーツケースを引っ張って現れたその姿に、真琴は顔を上げて、ん、と小さく頷いた。
「大丈夫だよ。時間もまだあるんだから」
「ああ、それは良かったな。大事な大事な旅行だ、慌ててしまうのもつまらない」
笑うベルンハルトに、真琴もなんとも面白そうにうなずく。それから顔を上げると、
「二人で出かけることはあっても、泊まりがけの旅なんて初めてだねぇ。冒険気分でワクワクするね!」
今から冒険に行く子供のように笑った。
「あぁ、心が躍るな。二人きりでゆっくりと、景色や会話や食事を楽しもう」
「そうだよね。食事だってきっと……あぁ」
「うん?」
「これ。……あとこれも忘れないようにしなくちゃ。大事大事」
よっと。と、言いながら真琴は軽々と紙袋をベルンハルトの目の前まで掲げてみせる。それは、発射駅近くの百貨店で狩ってきたお酒の瓶が入っていた。
「いいのを買ったんだよね。どう、気が利くと思わないかい?」
「はは。準備をありがとう、もちろんお酒も!」
気が利くどころじゃない。なんてベルンハルトが笑ったところで、アナウンスの声が響き渡った。そろそろ出発するので、乗車予定の人は列車に乗るように促すアナウンスであった。
「おっと、こうしちゃいられないな。行こうか」
「そうだね、行こう」
二人して、乗車口へと歩き出す。列車に乗り込んだ瞬間、
「……?」
ふと、何か。
自分たちと違う方向に、風が動いたような気がして、真琴は振り返った。
「うん?」
ベルンハルトも、怪訝そうな顔をする。吹けば消えてしまいそうな、蝋燭のような気配であった。
「……君も、楽しむといい」
きっと、影朧だろうと。真琴は思う。気付けばそんな言葉が漏れていた。その言葉に、ベルンハルトも小さく、
「死してもなお、想いを遺す、か。少し、羨ましいな。生きながら想い出を喪っていく、私には……」
ただ静かに、そんなことを呟いた。
答えは、なかった。蝋燭が揺らめくような気配は、おぼろげながらに彼らの周囲を漂い、そしてふっと、消えて行ったのである。
「ベルンハルト、切符見せて。ボクらの客室どこだっけ」
「ああ。これだ。……っと、動き出したな。足元には気を付けて」
「うん、大丈夫だっ。……よっし、着いたー」
がらっ。と、真琴が扉を開けると、
まず飛び込んできたのは、大きな窓であった。
出発したばかりの列車は、緩やかな速度で街中を走っている。
サクラミラージュの町並みと、舞い散る桜の景色は絵のようで美しかった。
「えーい」
ぽいぽいぽい。と、帽子と皮手袋を脱いでベッドに投げ入れる真琴。おっと、とベルンハルトは片手を挙げる。
「先にくつろいでいてほしい。ちょっと軽食を貰ってこよう」
「わあ、お願いするよー」
ブーツを脱ぎながら答える真琴に、ベルンハルトはさっと部屋を出て行った。
食堂車は賑やかで、軽食を持ち帰りたいといえば快く応じてくれた。矢鱈多すぎるメニューから選ぶのはほんの少し時間がかかったけれども、彼女の着替えの時間だと思えばちょうどいいだろう。
「ただいま、だ」
「あっ、お帰りだよー」
そうして時間がたってベルンハルトが戻ってくると、真琴はとりあえず着替えを済ませてすっかりくつろいでいる最中であった。その様子に、ベルンハルトが目を細める。その顔に、真琴もまた笑う。
「ありがとう。色々持ってきてくれたんだね。まずは一休みしよっか。窓からの景色を眺めながらお茶でも」
「ああ。お茶も良いが、美味しそうだったのでこれを持ち帰り、だ」
なんだと思う? なんて、ほんの少しもったいぶってベルンハルトが効いてみるので、何だろうな、と、真琴は何とも楽しそうに首を傾げている。
「ほら、クロックムッシュにクラブハウスサンド、ウィンナーコーヒーとどうぞ」
「うわ、美味しそうだね……!」
テーブルに広げられた料理に、真琴が歓声を上げると、うん、うん、とベルンハルトは頷いた。
「さぁ、お楽しみはこれからだ!」
「そうだね。いっぱい楽しんで、いっぱい食べて、いっぱい飲もうか」
明るい二人の声とともに、窓の外の景色が流れて行く。
どこへ行こうか。どこまで行くだろうか。
この旅の始まりに、二人。まずは楽しそうに両手を合わせていただきますといった……。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オリオ・イェラキ
まぁなんて立派な乗り物
列車の旅だなんて……とてもわくわくしますの
切符はお勧めされた一等にしましたわ、どんな所かしら
華やかさで選んだ駅弁というものも購入しましたの
さぁ乗りましょう
まずは寝台特急の中を堪能しますわ
食堂車も素敵、ここからの景色もさぞ美しいのでしょう
他の車両もきっと――殿方もそう思ってこの列車に?
ご機嫌よう。隣、良いかしら
悩んだ顔をされておりましたので、つい声を
そう、悩みが思い出せませんの……あら
手に在るのは手紙かしら
思い出す切欠になるかもしれませんわ
後は思いつく事何でも、言ってみて下さいませ
案外言えば色々思い出すものですわ
わたくしはここで駅弁を頂きながら、幾らでも話し相手になりますの
オリオ・イェラキ(緋鷹の星夜・f00428)は顔を上げた。漆黒の車体は、今か今かと出発を待ち望んでいる。
「ああ……。なんて立派な乗り物。なにに引かれることもなく、ただ自らの力で走るなんて」
列車の姿に、オリオは一つ、息をつく。自力でこれだけ巨大なものを走行させるなんて、オリオの出身世界では考えられないことだった。だというのに、さらに中に乗れるという。
「列車の旅だなんて……とてもわくわくしますの」
そりゃもう、わくわくしなければおかしいというものだろう。一等客室への切符をしっかりと握りしめ、ついでに『超豪華華やかのり弁スペシャル』というパッケージとタイトルの一番華やかだった駅弁も購入し、……準備は万端。
「さぁ、乗りましょう。ああ……どんな所かしら」
いざ、出発。と。
ご機嫌でオリオは、列車の乗車口へと向かうのであった。
まずは一級客室に荷物を置く。
「……まあ、どうしましょう」
めっちゃ広かった。オリオは真剣に考える。
「素振り……でしょうか」
割と苦も無く素振りができそうなぐらい広かったのである。まあ、狭いよりはいいので、良しとしておこう。ちなみにベルが置かれており、これを鳴らすと職員が一瞬で飛んできてなんでも欲しいものを言ったらそろえてくれるらしい。
「牛の丸焼きは手に入りますかしら……」
多分、何でもといっても、サクラミラージュの常識の範囲内だろうけれども。
そんなこんなで荷物を置くころには、列車は走り出していた。
一級客室、二級客室の廊下を通り過ぎる。廊下は比較的静かであったが、食堂車へとつながる扉を開けた瞬間、賑やかな音がわっとオリオを包み込んだ。
「済みません、お茶お願いしますー」
「はーい。ご注文のハヤシライスですー!」
客もいれば、給仕もいる。人気が全くないような気がした廊下とは違って、食堂車は忙しない。二両分あるので、席は広く感覚を開けて取っているのだが、てきぱき走り回るメイドさんたちのおかげで寂しい感じはしなかった。
思わず、オリオは席に着く。持ち込みかと聞いたので、お弁当は持ってきていた。お茶でも頂こうかしら。デザートなんかもあるかしら。なんてメニューを広げていると、
「……食堂車も素敵、ここからの景色もさぞ美しいのでしょう」
ぼんやりと、影のようなものに気が付いて、オリオはそうつぶやいた。
窓の外では、美しい桜とともに街並みが流れて行く。これから森に入り、湖に出れば、もっときれいな姿が見られるに違いない。
「他の車両もきっと……。――殿方もそう思ってこの列車に?」
薄らぼんやりと立つ影朧は、なにやらぼんやりと立ち尽くしていた。声をかけられると、僅かに、首を傾げる。どことなく楽しそうであるが、何ともその存在は希薄だ。まるで、消えかけの蝋燭のように揺らめいている。
「ご機嫌よう。隣、如何でしょう?」
「……」
座る、ということが理解できないのかもしれない。立ち上がってオリオが椅子を引いてみると、ぼんやりと影朧はその席に腰を下ろした。
「悩んだ顔をされておりましたので、つい声を」
「悩んだ……私が?」
「ええ。何だか……随分と」
「…………それが、良く、わからないのです」
オリオの問いかけに、影は首を傾げたようであった。
「先ほどから……色々な方とお話をしましたが……。私には……何も」
「そう、悩みが思い出せませんの……」
よくわからない、という、影の言葉に、そう、と、オリオも目を伏せる。ひとまずはお茶を持ってきてもらうことにして、影朧をちょっとだけ怖がっているメイドさんに注文をする。そうして影朧から視線を戻したところで、
「……あら」
それに、気づいた。
「手に在るのは手紙かしら。……思い出す切欠になるかもしれませんわ」
「……手紙……。皆さん、そう、仰るのですが……」
手紙なんてどこにあるのですか、と。
手紙を握りしめながら、影は問うた。
「……後は思いつく事何でも、言ってみて下さいませ」
その様子に、オリオは思わずそう、手紙です。と言おうとした言葉を飲み込んで、かわりにそんな言葉を優しく、穏やかに、口にする。
「案外言えば色々思い出すものですわ」
「私は……」
ぼんやりとしながらも、難しい顔をして考える影に、オリオは、
「わたくしはここで駅弁を頂きながら、幾らでも話し相手になりますの」
あえてせかさないように気をつけながら、弁当箱を開く。スペシャルなお弁当を、なんとなく影も目を落として、
「そう……ですね。手紙……。もしかしたら……きっと……彼女の……。彼女……?」
あいまいな呟きを繰り返す影を、宣言通りオリオもせかさずに見つめている。
(きっと、思い出してくだされば……)
沢山の人が、その執着を晴らすことに力を貸してくれるはずだと。彼女もまた、信じていた……。
大成功
🔵🔵🔵
木元・杏
【かんさつにっき】
双子のまつりん(祭莉)に、歳も見た目もおにいさんだけどわたし達の弟の刀と一緒
わたしの荷物は、と鞄を開けると沢山のお菓子やパン、それに肉料理中心の各種駅弁を…沢山
…(刀の視線に気付き)
わ、わたし一人で食べようという訳ではない
今夜はきょうだい3人揃ったから、刀も沢山食べるからっ
はいっと刀にもお弁当を差し出し、ん、まつりんも…まつりん?
先に探索に行った?仕方ないから探しに行く
刀も一緒に行こ?(腕をぐいぐい)
暗い寝台車両には月と星の灯りが差し込み青く光る
ふふ、深海みたい
灯りをステップ踏んで進んでく
あ、まつりん
将校さんもいる
何が見える?何を見たい?
窓の外は桜と月と星の朧夜景色
ん…綺麗
木元・刀
【かんさつにっき】
寝台特急とは、影朧さんもなかなか良いご趣味で。
兄さん姉さんは、純粋に喜んでいるようですが。
駅の売店で夜用の書籍を数冊と、カードゲームを用意して。
あたたかい飲み物をポットに、お菓子をクーラーボックスに。
いつもは離れて暮らしているから、たまには家族水入らず。
少しくらい甘えてもいいですよね?
一等客室を予約しようとしたら、もったいないと兄さんが。
そういうところ、母さん譲りですね、と微笑んで。
二等客室に三人分の荷物を運び込み。
姉さんの、随分重かったけど、何が入っているんです?
あれ、兄さんはどこへ?
探検?
また一人で先に行ったんですね。ずるいなぁ。
いつも楽しそうで。
将校さんも釣られてる。
木元・祭莉
【かんさつにっき】だーい!
わーい、寝台特急ー!
動くお宿だよ、スゴいね!(乗り物好きな少年)
買い物もそこそこに、探検に出掛けるよ。
ごはんはアンちゃん、遊びはカナタが準備してるし♪(全幅の信頼)
一等車両には入れるかな?
まだお客さん来てないなら、ちらっと覗いたり!
うわ、立派だー。
……コッチにしとけばよかったかなぁ?
二等は通り過ぎて、食堂車も通り過ぎて、三等車を覗いてみる。
廊下をずーっと一番後ろまで、特に何するでもなくお散歩!
顔見知りの猟兵さんがいたら、軽く挨拶していって。
こんにちわー!
あれ。
猟兵さんじゃなかった、将校さんだ。
将校さんも列車好きなの?
ドコが好き?
桜、いいよね。
心も桜色になる気がするね!
すぅ、と、木元・祭莉(まつりんではない別の何か・f16554)は徐に息を吸い込んだ。そして……、
「わーい、寝台特急ー!」
叫んだ。列車に向けて。めっちゃはしゃいだ声で。
「動くお宿だよ、スゴいね! ほらほら、真っ黒! でっかいしかっこいいしもー早く、早く乗りたい!!」
「まつりん、あんまり大きな声立てちゃ……」
だめかもしれないの。と。木元・杏(きゅぴん。・f16565)は言いかけて、その言葉を飲み込んだ。めっちゃ微笑ましいものを見る目をしている駅職員の方々と目が合ったからだ。
「と、とにかく。準備は必要なの。駅弁買うから、ちょっと待ってて」
もちろん肉料理中心に、各種さまざまに、である。真剣な顔で駅弁を吟味する杏に、ええ。と、祭莉は不満顔。
「アンちゃんで駆ける前にいっぱい食べモノいれてたよね?」
「うっ」
「大丈夫だよー。ごはんはアンちゃん、遊びはカナタが準備してるし♪」
「それはそれ、これはこれなのっ」
そんなに買い物、必要ないじゃん。と主張する祭莉に、そっと杏は己の鞄に視線をやる。この中に山ほどお菓子とパンが入っていることは、否定は、できない。しかし駅弁もまた、必要なものなのだ。
「ええ。では、なるべく早く済ませますから、もう少し待っていてくださいね」
そんな祭莉を宥めだのは、木元・刀(端の多い障害・f24104)だ。一見すると二人のお兄さんのような刀だが、実は弟である。
「ほら、姉さん。今のうちに早く……」
夜用の書籍を数冊と、カードゲームを買い込みながら、ふと刀が隣を見やると、
「……」
「……」
ものっそい数のお弁当を抱える杏がすでに隣にいた。
「……」
刀は無言で、あたたかい飲み物をポットに、お菓子をクーラーボックスにしまう。あえて、何も言わなかった。言わなかったのに、
「わ、わたし一人で食べようという訳ではないっ。今夜はきょうだい3人揃ったから、刀も沢山食べるからっ」
違うんだ誤解だ。とか何とか言いながら、めっちゃ早口で言いわけを述べてお会計まで流れる動作で済ませる杏。
「あ、はい。大丈夫ですよ、それで」
「そ、そうよ、そういうことなのっ」
別に刀とて責めているわけではない。非常に姉さんらしい、と思うし、お弁当ひとつくらい分けて貰えたら嬉しいに決まっている。
(寝台特急とは、影朧さんもなかなか良いご趣味で。兄さん姉さんは、純粋に喜んでいるようですが……)
杏の手から持ちますよ、と半分弁当を受け取れば、ただそれだけでも若干目元が和らいだ。
(いつもは離れて暮らしているから、たまには家族水入らず……。少しくらい甘えてもいいですよね?)
何だか、自分が甘えるというと何ともこそばゆいのだけれども。
「ふふ。ありがとうね、刀」
「おーい。早く行こうぜー!」
笑顔を浮かべる二人を、見ているだけでも楽しくて。
「はい。もうすぐ出発ですね、急ぎましょう」
刀も笑顔で、列車へと歩き出すのであった。
「一等客室を予約しようとしたら、もったいないと兄さんが」
別にお金はいらなかったらしいんですけど、と、刀は言うと、祭莉はかしかし、頭を掻く」
「いや~。だって、いらないだろ?」
三人なら、二等客室で充分なはずだ。例えお金はかからなくとも。
……と迄、語ったわけでもなく。「何となく贅沢は居心地が悪いんだよ」という祭莉の言葉に、刀も頷く。
「そういうところ、母さん譲りですね」
「そりゃ……」
喜べばいいのか。悲しめばいいのか。
複雑な顔を祭莉がしたところで、先頭を行く杏が声を上げた。
「あっ。この部屋ね」
二号車の一室の扉を開ける杏。そこは、
「わあ……」
大きな窓のある部屋だった。
ベッドが二つと、ソファーが一つ。
「おっ。誰がソファーに寝る?」
どこからでも、窓の外を見ることができて、
「そんなことよりこの窓、すごくいいねっ。夜とか、綺麗なんだろうなあ……」
っしゃー! とはしゃぐ祭莉とは裏腹に、杏は素敵、と、ため息なんてついている。その間に刀は荷物をサッサと客室に運び込む。いつの間にか三人分持つことになっていた。
「姉さんの、随分重かったけど、何が入っているんです?」
「う……。お、乙女の秘密よ!」
主にお菓子とかではあるけれど。
尋ねる刀に杏はそんなことを応えて、そうなんですか。と、刀が納得する。そういうこと。と、子は咳払いをして、
「はいっ、お弁当」
「あっ。ありがとうございます」
杏スペシャルチョイスの肉弁当を手渡す杏。も一つ手に取って、杏はソファーのほうに視線をやる。
「ん、まつりんも……まつりん?」
「あれ、兄さんはどこへ?」
ふと、さっきまでソファーの上で飛び跳ねていた祭莉がいないことに二人は気が付いた。
「そういえばさっき、「っしゃ行くぜー!」って声を聴いた気がするわ」
杏が思い出しながら、小首をかっくり傾げる。
「先に探索に行った? 仕方ないからのね」
「探検? また一人で先に行ったんですね。ずるいなぁ」
二人同時で、声がそろった。刀は軽く頭を掻く。いつも楽しそうで、いいですね。という刀に、うんうん、と杏も頷いた。
「じゃあ、探しに行かないと。刀も一緒に行こ?」
「ええ。一緒に……ですか」
「勿論よ」
一緒に行っていいのか。
何となくそれだけで嬉しくなって、刀はでは、行きましょうと頷いた。
「もうっ。ご飯前にお出かけするなんて、見つけたらお仕置きしなくっちゃ」
「ふふ。お手柔らかに」
冗談めかした杏の声に、刀も笑って、その場を後にした。
一方。
「ん~~~。一等車両には入れるかな?
祭莉はといえば、客室を覗き込んで歩いていたりした。
もともと運行取りやめになって、今は職員以外は猟兵しか載っていない列車だから、部屋も好いている。探せばだれも止まっていない部屋だって簡単に見つかった。
「うわ、立派だー。……コッチにしとけばよかったかなぁ?」
もはやホテルのスィートルームである。あんなに広くて何するんだろう、と祭莉は思う。部屋の中でラジオ体操でもしなければいけないのか。もったいないことではあるが、
「タダ部屋だったしなぁ」
ただ部屋でも贅沢禁止とするか、ただ部屋だから贅沢すべきだったか……なんて悩んでいる間に、二等客室は通り過ぎた。
ついでに通り過ぎた食堂車は賑やかで、なんだかだけ別の世界のよう。
それを過ぎると三等客室だ。三等客室は、カーテンだけで仕切られた、沢山ベッドが並んでいる部屋である。カプセルホテルを想像すればいいかもしれない。それよりもう少し広くて、綺麗な星が見える。
「お散歩、おっ散歩~」
お散歩の歌を歌いながら、祭莉は歩く。三等客室は廊下から近く、中にはカーテンを開け放ってる人もいるから、そういうひとには挨拶をして通り過ぎていた……ところで、
「こんにちわー!」
すれ違った職員に声をかけて、あれ、と、祭莉は足を止めた。
「猟兵さんじゃなかった、将校さんだ」
くるりと振り返る。薄らぼんやりとした影が、祭莉とすれ違い、そして通り過ぎようとして、祭莉の声を聴いて振り返った。
「こんにちは!」
もう一度、祭莉はいった。こんにちは、と、影朧は静かに返す。
その声が帰ってきた瞬間、ぱぁっ、と祭莉は目を輝かせた。
「ねっ。将校さんも列車好きなの? ドコが好き?」
あれも、これも、と、あれこれ聞き始める祭莉。その時、
「あ、まつりん!」
「兄さん」
声が聞こえた。丁度杏と刀が追い付いてきたのだ。パタパタと近づいてくる二人を警戒するでもなく、影は頷いた。
「今は……昼ですが、ちょうど日が落ちて夜になったころ……湖のあたりを通過します」
「湖?」
杏が聞き返す。影は小さく頷いた。
「そこに行くと……まるで湖の上を走るように……駆ける、オリオン号の姿が見えます。天気が良ければ、満天の星空と……桜の中を駆けていく……オリオン号が見えるでしょう……」
「桜と月と星の朧夜景色ね……。それが見えるの? それを見たい?」
杏の問いかけに、影は少し考えこんだようだった。
「そうです……。その瞬間が……オリオン号が一番美しく見える瞬間です……」
「想像するだけで……なんだか綺麗ですね」
刀が思いをはせながらつぶやく。うん、と杏も頷いた。
「その時はこの寝台列車も、きっと深海みたいできれいでしょうね」
「そうですね……。このシリウス号も、きっと、美しいでしょう」
きっとこの寝台車両には、月と星の灯りが差し込み青く光る通路が出来上がるのだろう。なんて言うので、刀は微笑んだ。微笑んだ……瞬間。
「おっ。なんか小難しいこと言ってるか??」
「兄さん……」
にっこーっと笑ってそんなことを言う祭莉に、刀はほんの少し吹き出すのであった。
「桜、いいよね。心も桜色になる気がするね!」
「確かに、素敵ですね……」
「でもまつりん、小難しいことを言ってるわけじゃ……」
三人そろって、賑やかな話をする兄弟たち。
そんな彼らを見つめて、影はどこか嬉しそうに一礼した後、その場から溶けるように姿を消した……。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ゲニウス・サガレン
私の故郷では船が中心だったから、列車の旅って憧れるものがあるんだ
地方の風物詩や小話ののってる本を持って、三等客室の車両に乗り込もう
(他の方とからみ大歓迎、一人旅も大好き)
読書もしたいけど、明るいうちは遠くの景色や車内の様子をスケッチしながら過ごそうと思う
絵描きではないけど、ささっと仕上げるのは得意でね
いつか、探検記とか旅行記を出版するのが夢なんだ
それと食堂車両で紅茶を飲みながら、羊羹の入ったシベリアを食べたいな
さて、猟兵である以上、影朧にも注意を払うつもりだけど、その目的は無害そうだから、近くにいたらちらっと観察するくらいかな
すれ違ったら挨拶はするよ
叶・景雪
アドリブ歓迎
難しい漢字は平仮名使用。名前以外カタカナはNG
列車ってすっごく早い乗り物なんだよね!(わくわく
しんだい特急ってことは、夜も走るのかな?
でも、わくわくしすぎてねむれない気がするよ!
おぎょうぎ良く座ってないとだよね!いつ出発かなぁ?
まどの外をながめてたら…わわっ、大きな音が聞こえたよ!?
これが出発の合図かな!
せっかくだから、駅にいる人たちに手をふるね
「いってくるねー!」
わわっ、景色がびゅーんって過ぎさっていくよ!?
目がぐるぐるしちゃいそうだけど…
ちょっとだけまどをあけて、風にあたるね!
「列車てとっても楽しいんだね!」
朧影を見かけたらいっしょにお外をみたいなぁ
「きみはどんな景色がすき?」
ゲニウス・サガレン(探検家を気取る駆け出し学者・f30902)は感心したように列車を見上げた。
時間には余裕があってきたはずだ。しかしながら、気が付けばホームでは乗車予定のお客様は早めに列車にお乗りくださいというアナウンスがかかっていた。
「列車、はじめて?」
あまりにも長いこと見ていたのを知っていたのか。ひょっこり顔を出して声をかけたのは叶・景雪(氷刃の・f03754)であった。少年は目をキラキラさせて、ゲニウスの隣に立って列車を正面から見据える。
「そうだね。私の故郷では船が中心だったから、列車の旅って憧れるものがあるんだ」
「! ぼくもだよ。周りは船ばっかりで……」
北の灰色の海に浮かぶ海運交易と漁業で栄える島の船と、鎌倉時代の侍たちがいるような世界の船とはおそらく想像している船が違うだろうが、列車が珍しいとおいう気持ちはともに同じである。
「列車ってすっごく早い乗り物なんだよね! しんだい特急ってことは、夜も走るのかな?」
「そうだね。夜通し走るのだと思うと、なんだか不思議な感じがするよ。船だって寝ている間に進むけれど……」
きっと寝て、起きても、船の上で見る景色は海とせいぜい海から見る丘の景色ぐらいだが、この列車は寝て目が覚めると山から海へと景色が変わっているらしい。
「……でも、わくわくしすぎてねむれない気がするよ!」
「はは。その時は、夜の湖を眺めるのもいいかもしれないよ」
なんて会話をしているうちに、もう一度乗客は列車に入るようにアナウンスがあった。
「そういえば、一冊本を買おうと思ってたんだ。君は?」
「だいじょうぶっ。いこうっ」
特にどちらとも言いださなかったが、なんとなく旅は道連れというだろう。一緒に三等客室の乗車口までともに歩いて、そこから列車に乗り込んだ。
「お邪魔します」
「どうぞ、お気になさらず」
すでに客室にはまばらに人もいて、ゲニウスはそう言いながらも先へと進む。
「お兄さんは、お席どこ?」
「ええと……ここだね。おや、お向かいだ」
「お向かい!」
寝転がってしまえば、窓の関係で視線を合わせることはできないが、会話をするには十分な距離だろう。互いに多分、あんまり普段かかわらない触手や人種なのでべったりするのは大変そうだがこれくらいなら新鮮で面白いかもしれない。なんてことをつらつらと考えながら、ゲニウスは荷物を片付ける。
「……」
その間に、景雪はしゃっ。と、ベッドの真ん中に正座していた。窓の方を見る目は、真剣そのものである。
「電車に乗ったら、おぎょうぎ良く座ってないとだよね! いつ出発かなぁ?」
「その前に、荷物を片付けたほうがいいよ」
と、ゲニウスは声をかける。旅鳴れている彼は、発射前にできることを終わらせておくことがいかに大切であるかを知っていたのだ。動き始めてから頭上の荷物棚に荷物を入れるのは、難しくはないができるなら今しておいたほうがいい。
「荷物? ……わわっ」
なんで? と、景雪が振り返りかけたその時、
駅のホームから、大きなベルが鳴り響いた。
そしてそれに応えるように、列車が大きく汽笛を鳴らした。
「大きな音が聞こえたよ!? これが出発の合図かな!」
「そうだね。こうしておかないと、急に動いたら危ないだろう?」
「うんっ!」
真剣に窓の外を見つめる景雪を微笑ましそうに横目で見て、ゲニウスも己の客室に腰を下ろす。そうしている間に列車は走り出した。
「いってくるねー!」
ホームで手を振る駅職員に、景雪が手を振り返している。それを見ながら、ゲニウスはスケッチブックを取り出した。読書用に本も用意しているが、明るいうちは社内の様子や景色を笹っとスケッチしておきたい。
「わわっ、景色がびゅーんって過ぎさっていくよ!?」
目がぐるぐるしちゃいそう……。と言いながら、景雪は少しだけ窓を開けている。それで何とか持ち直すらしい。
「列車てとっても楽しいんだね!」
振り返り、ゲニウスのほうを向いて言う景雪に、
「……そうだね」
ゲニウスも小さく、頷いた。
「? なにをしているの?」
「ん。ちょっと絵をね」
「! じゃあ、ぼくも静かにしているよ!」
「いいんだよ、気にしないで」
そんなことを言いながら、ゲニウスはさらさらとスケッチを始める。
絵描きではないけど、ささっと仕上げるのは得意だった。
「……いつか、探検記とか旅行記を出版するのが夢なんだ」
ぽつんと漏らした彼の言葉は、きっと景雪には届かなかっただろう。
けれども、ゲニウスは思う。探検記や旅行記は、きっと彼ぐらいの子供が一番読むものだ。
だから……こんな風に列車に乗ることができない世界の子供が、読んでいて彼のような笑顔を浮かべて貰えるような。そんなものを作れたらいいな、と。
……何となく、口に出すのは柄でもないし。遠い夢の世界のことだと思いながらも、その笑顔をゲニウスは考えるのであった。
「……食堂車両で紅茶を飲みながら、羊羹の入ったシベリアを食べたいな」
「あっ! だったらぼくはおむらいすがいいな!」
今度は聞こえていたらしい。その言葉に後でだよ、なんて返していると、
ふっと影が通り過ぎて、ゲニウスは顔を上げる。景雪もくるりと振り返った。
「……こんにちは」
「あっ。ええと、こんにちはっ」
「……こんにちは」
ゲニウスのあいさつに、景雪が続く。
朧な影はその言葉に、軽く挨拶を返して通り過ぎていく。それで、
「あっ。ねえ、一緒にお外を見たいなぁ」
景雪は声をかけた。一応ゲニウスはスケッチをしながら、油断なくそちらを見てはいるが、敵意はなさそうだった。
「きみはどんな景色がすき?」
景雪の言葉に、影は窓の外を見つめる。しばしの沈黙の後、
「夜に……なれば、湖に、出ます。櫻と、星の中を、オリオン号が走って行く……それが一番美しい眺めになると……伝えました……」
「伝えた?」
思わず。景雪が聞き返した瞬間、
ふっとろうそくの灯を消すように、影の姿は消え失せた。
「……不思議だね」
「うん、なんだかお化けみたい」
邂逅は、それだけだったけど。ゲニウスの言葉に、景雪は小さく頷いた。
ただ、最後に、その景色をお楽しみくださいと、言われたような気がしていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鵜飼・章
三等客室に乗車
高くて広い個室よりも
こういう狭くてごちゃごちゃした所の方が落ち着くのは
きっと僕の部屋が汚いからなんだろう
隣の人に挨拶しつつ
車窓からの風景を眺めて過ごす
鴉達は連れてくる訳にいかなかったから
窓の外で必死に僕らを追いかけている
追いつくか追いつかないかは頑張り次第かな
頑張ったら後で何かあげよう
影朧さんもこんにちは
僕猟兵だけど戦わなくていいの?
きみ変わっているね
お喋りするだけで済むなら僕もその方がいいや
特にやりたくてやっている訳じゃないし、猟兵
その手紙見せてもらってもいいかな
いずれオリオン号とすれ違うのだろうけど
物語を知ればその一瞬はもっと鮮明になる
だから僕にもきみの記憶を分けてほしいんだ
「お邪魔します」
「どうぞ、お気になさらず」
すれ違った人にそう声をかけたが、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)はベッドに寝ころんだまま顔をあげもしなかった。カーテンはしていたので、バレなかっただろうから大丈夫だ。
「……なんだろう。これはいい。寝ころんだまま景色を見ていられる……」
かなり早くから章が乗り込んだのは三等客室だった。乗り込んだ瞬間寝列車を決め込むことにした。
高くて広い個室よりも、こういう狭くてごちゃごちゃした所の方が落ち着くのは、きっと僕の部屋が汚いからなんだろう。というのは彼の弁だが、寝転んでいても料理を運んでくれる点だけは一等客室を評価したい。なんてしょうもないことを丁度思っていたところであった。
ホームからベルが鳴る。出発の合図だろう。応えるように汽車も汽笛を鳴らし、そうして腹の底に響くような音とともに、列車がゆっくりと動き始めた。
「……」
ちらりと窓の外に目をやると、一斉に鴉たちが飛び立つ。章の鴉であるが、どうやら連れてくるわけにはいかなかった、というのは彼の弁である。
いや……。多分見つからないようにこっそり客室に置いたり、風のこない列車の縁や窓辺にとまらせておくことはできただろうと思うのだけれど……、
「まあ、何事も経験だよね。頑張って」
この通り、現実は無常である。
必死に追いかけて飛行する鴉たちを見ていたが、だんだんと遅れていく。ついには視界から見えなくなったので、
「……追いつくか追いつかないかは頑張り次第かな」
頑張ったら後で何かあげよう。なんて言いながら、章はのんびり、窓の外の景色を眺めるのであった。
因みに列車は、山を越え、谷を越え、約20時間ほど走り続けるのであるが、その中では三度ほど停車する。
追いつけるかどうかは……ちょっと、誰にもわからない。
列車は最初は町中を走っていた。建物の間や、手を振る子供たちの隣を通り抜けて進む。
暫くすると民家が減ってきて、木々が増えてくる。トンネルに入り、抜けると渓谷を通過することになった。
これからはこの、森の景色が続くらしい。夜にもなれば湖が拝めるらしいが、今のところはごろごろするより他ない。
「んー。本でも持ってくればよかったかなあ」
なんて思いながらも、章は体を起こして軽く伸びをする。食堂車の探検にでも行こうかと。ついでに寝ころびながら食べるテイクアウトでもあればいいなあ。なんて思っていそいそと自分の客室を出た……ところで、
通路の先に、人影を見つけた。
それは、どこかぼんやりと佇む、幽霊のようなものであった。
「影朧さんも、こんにちは」
躊躇いなく、章は近づく。向こうも、こちらに気付いたようであった。ぼんやりと視線を向けるが、
「僕猟兵だけど戦わなくていいの?」
「……お客様……と、戦う……?」
ただ、曖昧な反応が返ってくる。戦う、と言われてぴんと来ないのか。首を傾げている。
「戦わないの? だって、その姿」
別に章とて戦いたいわけではない。あくまで世間話のように聞く章に、影朧は頷いたようであった。戦わない、という意思表示らしい。
「……きみ変わっているね。でも、お喋りするだけで済むなら僕もその方がいいや」
そのまま、起き上がりかけていた身体をぼ分、とベッドの上に再び転がす。特にやりたくてやっている訳じゃないし、猟兵。とは口の中で、視界には入らないけれども亡霊はすぅ、とこちらの方に動いてくることは何となくわかっていた。
「……その手紙見せてもらってもいいかな」
なので、章はそう言った。
「手紙……」
「そう。いずれオリオン号とすれ違うのだろうけど……、物語を知ればその一瞬はもっと鮮明になる。だから僕にもきみの記憶を分けてほしいんだ」
「……」
「だめ?」
「様々な……お客様に……手紙を持っていると言われましたが、私には……その手紙がわかりません」
「え。そうなの?」
章は再び身を起こす。影朧はすぐそばまで来ていた。しっかりと、その手に手紙を握りしめている。
「じゃあ、勝手にとっていい?」
「どうぞ……」
知りませんと言いたげな口調だったが、かまわないらしいので章は手を伸ばした。掴んだ手紙は、古びていたがしっかりとした感触があった。
中を開ける。手紙の主は女性のようであった。宛先が男性名なので、これがその影朧の名前であろう。
時候の挨拶から始まり、女の近況を伝えている。男が断れない義理のために好きなの仕事を辞めたことを惜しむような文言があり、そして最後に、
『あなたの子供が、産まれました。この子とともに、あなたの作ったオリオン号に乗りたいです』
そう、書かれていた。
大成功
🔵🔵🔵
城島・冬青
【橙翠】
サクラミラージュで電車の旅なんて初めて
あっ!駅弁売ってる
アヤネさんって駅弁って食べたことあります?
折角ですし食べてみませんか?
駅弁は旅の醍醐味のひとつですよ、アヤネさん
ここまで来てピザとハンバーガーは無しですよぉ
まぁ食堂車には追々行くとして
すみませーん
お弁当下さい
お、いいですね
別々のを買って分けっこしましょう
客室で景色を見ながら駅弁を食べる
いただきまーす!
サクミラのご当地駅弁もなかなかイケる
家から淹れてきたお茶も出します
今日は焙じ茶ですよ
車窓から流れていく自然が雄大で
お正月の時に家のTVで見た旅番組みたい
今度はUDCアースで電車の旅をしましょうね
そういえば
影朧さんは何か思い出せたかな?
アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
高級ホテルのような内装の一等客室に二人きり
これはなんかいい雰囲気が期待できそう
と妄想してたのだけど
え?食事はエキベンがいいって?
僕は食べたことはないネ
食堂車にはピザもハンバーガーも無さそうだし
ソヨゴが食べたいならそれにしようか
いろいろ種類があるのネ
どれがいいかな?
二種類選んで車内へ
列車で旅をするのは初めてだから動き出す感覚から新鮮
ソヨゴが楽しそうにしているとそこだけ太陽の光が当たっているように暖かく感じられる
なんて見惚れていると
あ、はい車窓ネ
景色を眺めつつ駅弁を広げる
お互いの美味しそうなのを半分こする
山間を通り抜けると森が近い
手を伸ばしたら届きそう
さすがサクミラ
え?日本もこんななの?
出発前のホームは賑やかで楽しそうで。城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)は思わずきょろりと周囲を見回した。
「サクラミラージュで電車の旅なんて初めて。なんっていうか、独特ですねー」
UDCの電車とは違い、石炭で動くタイプの列車は何とも物珍しい。ふんふん、と車体を見上げていると、
「あっ! 駅弁売ってる! アヤネさんって駅弁って食べたことあります?」
美味しそうな匂いが唐突に冬青に襲い掛かった。ぱっ。と振り返ると、駅のホーム中ごろにあるお弁当売り場が、ちょうど新しいお弁当を補充したところであった。ホカホカのカツどん弁当ですよー。とか、牛めし弁当ですよー。とか、そんな声に思わずくらりと体が傾く。
「ねっ。アヤネさん。折角ですし食べてみませんか? アヤネさ……あれ?」
振り返った先では、同じように列車を見ていたはずのアヤネ・ラグランジェ(十二の結び目を解き放つ者・f00432)が、
「ふふ……。高級ホテルのような内装の一等客室に二人きり。静かな部屋の中に響く列車の音。二人だけの景色。これが愛の逃避行っていうやつかな? 駆け落ち……いや、新婚旅行? これはなんかいい雰囲気が期待できそう……」
「ア・ヤ・ネさん! 駅弁買いませんかー?」
何やら妄想を始めていたアヤネに、慣れた様子で冬青は耳元で声をかける。はっ、と、アヤネは顔をあげて、
「え? 食事はエキベンがいいって?」
「はいっ、駅弁は旅の醍醐味のひとつですよ、アヤネさん」
我に返った。そして得意げな冬青の顔に、今日も冬青はかわいいね、なんて言いながらも、
「そっか。僕は食べたことはないネ……。食堂車にはピザもハンバーガーも無さそうだし、ソヨゴが食べたいならそれにしようか」
「ええ。あったらそれにするつもりだったんですか? ここまで来てピザとハンバーガーは無しですよぉ」
情緒がないなあ。という冬青に、駅弁って情緒なの? なんて答えながらもふたりは売店へと向かう。
「まぁ食堂車には追々行くとして……。なんだったらピザもハンバーガーもあるかもしれませんよ。すっごい豪華そうな感じの」
「うん、たぶんそれ、僕が食べるハンバーガーとはちょっと違うかもしれないね」
多分ハンバーガーひとつ1000円ぐらいする、高級牛とか使ってるタイプと見た。それはそれでいいかも、とかほんのちょっと思いながらも、冬青は売店のおばちゃんに声をかける。
「すみませーん。お弁当下さい」
「あいよ、何にする?」
「いろいろ種類があるのネ。どれがいいかな?」
「そうだねぇ。やっぱり焼肉は人気だね。あとは松茸とか、入ったばっかりのカツ丼とか……」
「お、いいですね。アヤネさん、別々のを買って分けっこしましょう」
「いいよ。ソヨゴの好きなのを二つ買おう。どれがいい?」
「もう。アヤネさんも好きなの言ってくださいよー」
結局、選んだのは松茸と焼き肉だ。ふんふんふん、と冬青は鼻歌交じりに列車に乗り込む。それを嬉しそうにアヤネも見やって、一緒に列車に乗り込んだ。
「わあ……。さすが高級列車ですね!」
「うん、なんていうか……」
一等客室は広くて、UDCのホテルと比べても遜色ない様子であった。美しい内装に、綺麗なベッド。大きなソファ。どれも窓の方を向いている。丁度二人が部屋に入ったあたりで列車が動き出したので、ホームが流れて、桜並木の続く街並みへと、大きな窓の景色も移り変わっていた。
「すごーい。窓おっきいから明るいですねえ」
「……そうだねえ」
感心したような冬青の台詞に、アヤネは目を細める。
(ソヨゴが楽しそうにしているとそこだけ太陽の光が当たっているように暖かく感じられる……なんて、口に出したらソヨゴ、照れるかなあ)
その姿を見つめながら、ふ、と微笑むように息をつくのであった。見惚れていた、といってもいい。そんな冬青は、
「ほら、アヤネさん、あの子手を振ってる!」
窓へ向かって手を振りながら振り返って、アヤネの視線に気づいて瞬きをした。
「アヤネさん?」
「ああ。なんでもないヨ。あ、はい車窓ネ。どうして人は列車に向かって手を振るのかなあ」
「え!? ちょ、ちょっと私には難しいです!」
そんな言葉とともに、手を振る子供も景色の向こう側に去っていった。
それからしばらくして。
「ほら、早く駅弁食べましょう」
という冬青の言葉に、わかったわかった。なんて言って、テーブルの上にお弁当を置いて、窓のよく見えるソファーに腰を下ろしたのであった。
「いただきまーす!」
「はい、いただきます」
両手を合わせて、お弁当タイム。
「ん-。サクミラのご当地駅弁もなかなかイケる。あ、アヤネさんお茶いります?」
「うん。……今日は」
「はい。家から淹れてきたお茶ですよ。今日は焙じ茶です」
ほらほら、と、水筒を示す冬青。
「ん、ありがとう。……ほら、ソヨゴ、半分」
「わ……。ありがとうございます。アヤネさんも私の、食べてくださいね!」
仲良く二人でお弁当を交換する。
列車は市街地を抜けて、徐々に景色は田舎のものになっていき、トンネルを超えると、山間部を走り抜ける。
食事をしている間にも、移り変わるその景色が物珍しくて、アヤネはふーん、と言いながらも若干真面目にその景色を見ていた。
「山間を通り抜けると森が近いのかな。湖も行くって言ってたよね」
手を伸ばしたら届きそう。なんて言うアヤネに、冬青もお茶を飲みながら頷く。
「そうですねー」
「さすがサクミラ」
「んん、UDCもこんなものですよ??」
「え? 日本もこんななの?」
「えええ。こんなものですよー。田舎とかいったら」
呆れたような冬青の言葉に、そうだったのか……と、なんだか新たな発見をしたかのような顔をするアヤネ。
「……でも、車窓から流れていく自然が雄大で、お正月の時に家のTVで見た旅番組みたい。そういう機会がなければ、一生見ない人もいる……」
んでしょうね、と思いながらも、いるのかな? って冬青は内心首を傾げた。これは、いけない。アヤネさんはもっと外の世界に出るべきだ。ジャンクフードだけではなく新鮮な山の筍や蜜柑を食べるべきだ。
「今度はUDCアースで、電車の旅をしましょうね
「う、うん」
何やら決意を新たにしたらしい冬青に、首を傾げながらもアヤネは頷いた。
「そういえば……、影朧さんは何か思い出せたかな?」
「どうだろう。思い出せていると、いいね」
二人して、窓の景色を見ながら思う。
折角の旅だから、なんにせよいい方向に転ぶといいな、と、冬青は思った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
灰神楽・綾
【不死蝶】
列車に乗り込む前
売店の駅弁コーナーが目に留まり
車窓からの景色を眺めながら
お弁当を頬張る…いやー浪漫だよねー
というわけで、この鶏そぼろ弁当と
焼肉弁当と、串カツ弁当と…
あっ、この激辛弁当も絶対美味しいやつ
気になるお弁当を片っ端から手に取っていく
ああ、そうか、列車内でもご飯があるんだよね
そっちも気になるなぁ…
まぁ全部食べちゃえばいいんだよ
気にせず全部お買い上げ
列車に乗ったら早速楽しいお弁当タイム
うーん、ジューシーなカツと
その上にかかった激辛ソースの相性最高っ
俺の目に狂いはなかった
梓のお弁当の魚も一切れちょーだい
俺のやつも一切れあげるから
激辛ソースたっぷりかかったカツをはいあーん
乱獅子・梓
【不死蝶】
列車内でも買えるだろうけど
一応飲み物と小腹が空いた時用の菓子と
暇つぶし用の本でも買っとくか…
と思ったら、景気よく駅弁を抱える綾
おい、そんなに大量の駅弁持ち込んだら
それ食うのに手一杯で食堂車の飯が食えなくなるぞ
お前、そんな大食いキャラだったか…?
窓から見える街、山、川…
仕事で来る時は、転送してもらった目的地で
やることやって帰ることが殆どだから
こんな機会でもないとじっくり眺めることは
無かったかもしれない景色たち
と情緒に浸っていたのに
もう食うのか!?
弁当と聞いて仔竜たちも目キラキラ
仕方ないなと自分も弁当広げる
焔と零にも肉や魚を分け与え
はいはい、あーん……っ!!?(むせる
めちゃくちゃ辛っ!!
ホームにアナウンスが鳴り響いた。
間もなく出発いたします。乗車予定のお客様は、急ぎ……、
「あっ。待って、待って梓」
「!? お急ぎくださいって言われてるだろ」
灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)の呑気な言葉に、信じられない、とばかりに乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)が目を見開いたのが、サングラスの向こう側からも分かった。
「だってほら駅弁。あれを買ってないよ。あれ買わないと、列車旅行じゃないでしょ? 大丈夫、あんなアナウンスはだいたい五分前ぐらいに流れるんだって。多分」
「いやいや、その多分、が信用できないんだから」
「まあまあ、そー言わずに、さくっと買ってさくっと終わらそう―」
梓の言葉もなんのその。綾はずりずりと引っ張るように列車とは反対方向に歩きだす。彼が目に留まったのは、売店の駅弁コーナーだ。
「車窓からの景色を眺めながらお弁当を頬張る……。いやー浪漫だよねー。これを食べなきゃ何を食べるのっていう感じ」
「あー……。わかった。わかりました」
ご機嫌な綾に、梓は肩を落とす。ここでごねても負ける。それくらいわかっているので、ごねるならその時間を有意義に使ったほうがいいと察したのであろう。長い付き合いだ、それくらい、わかる。
「列車内でも買えるだろうけど……。一応飲み物と小腹が空いた時用の菓子と、暇つぶし用の本でも買っとくか……」
折角だから列車ミステリーにしようかなあ。なんて。売店の本コーナーを見つめる梓。
「おーい、古都メイド列車殺人事件と、唐揚げ弁当殺人事件と、どっちが……」
「というわけで、この鶏そぼろ弁当と焼肉弁当と串カツ弁当と……。あっ、この激辛弁当も絶対美味しいやつ。これもください。松茸? うーん、捨てがたいね。そいつも貰っちゃおう」
機構として、隣の綾を見た瞬間、思いっきり梓は硬直した。
「ちょ、ま……。あっ。こっちのメイドのほうにします。そう。食べ物はなんか遠慮したいので」
「梓。早く自分の弁当を決めないと、列車出ちゃうよ」
「!? そんなにあるのに俺の分ないってのか!? おい、そんなに大量の駅弁持ち込んだら、それ食うのに手一杯で食堂車の飯が食えなくなるぞ」
意味が分からない。という顔で、梓は本と一緒にお弁当を選ぶ。なんだか見ているだけで胸焼けしてきたので、この油っぽくなく高そうな松茸弁当にしよう。
「ああ、そうか、列車内でもご飯があるんだよね……。そっちも気になるなぁ……」
梓の言葉に、綾は踏む、と考えこむ。そして考えたのは一瞬で、
「まぁ全部食べちゃえばいいんだよ。はーい、気にせず全部お買い上げ」
「あいよ! たくさんお食べ!」
「……お前、そんな大食いキャラだったか……?」
気前よくお支払いを終えて、売店のおばちゃんに渡されたおつりを受け取る綾。
その時、ホームからベルが鳴り響いた。応えるように、汽車からも汽笛が響く。
「あ、出発するよ。走らないと」
「!? やば、急げ……!」
二人して、走る。そうして飛び込むように列車に乗ったとき、列車は走り出すのであった。
景色は流れて行く。梓は窓の外に目をやった。これより、市街地を通った後は山の際を走り、川を越え、そして湖の傍を通り、最後には海まで行くという。
「窓から見える街、山、川……。仕事で来る時は、転送してもらった目的地でやることやって帰ることが殆どだから、こんな機会でもないとじっくり眺めることは無かったかもしれない。この景色たちと、旅の香りを……」
もわわわわーん。
残念ながら梓の鼻に届いたのは、情緒ある旅の香りではなくホッカホカのご飯の匂いであった。
「さーて。お弁当タイム!」
「って、もう食うのか!?」
「キュー」
「ガウッ」
「うーん、ジューシーなカツとその上にかかった激辛ソースの相性最高っ。俺の目に狂いはなかった……。これは至高の領域……」
隣でさっさと綾が弁当箱を開けていた。弁当と聞いて梓の仔竜たちも目キラキラさせている。
「え。お弁当買ったのに食べないの?」
「いや食べるけど!」
当たり前のような綾の言葉と、キラキラした仔竜たちの目に負けたように、仕方ない、と梓もお弁当を広げる。
「お、松茸って言ってもちゃんと肉も魚も入ってるな」
豪勢である。何となく梓は嬉しくなって、鮭とか、お肉とかを手にとって、
「ほらほら、あーん」
「キューキュー!」
「はいはい、焔もあーん……」
「梓のお弁当も美味しそうだね。その魚も一切れちょーだい」
さっ。
梓の魚が奪われた!
「俺のやつも一切れあげるから。はい、(激辛ソースたっぷりかかったカツを)あーん」
「っ!!?」
反射的に梓は綾のお弁当を食べてしまった!!
「めちゃくちゃ辛っ!!」
「あはははははは」
咽る梓を、綾が楽しげに見ている。
二人の旅は、こんな感じでいつも通り。賑やかに幕を開けた……。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
三咲・織愛
ヨハンくん(f05367)と
わー!寝台列車なんて初めてです!黒くてかっこいいですよ!
楽しい旅にしましょうね、ヨハンくん
駅弁を買っていきましょー!
車内で遊ぶトランプも欲しいですね
ほらほら、ぼーっとしてないで行きますよ
ふふ~たっぷり買い込んだらさっそく乗車です!
一等客室に向かいますね
いいですか、ヨハンくん
私は贅沢をしようとしてる訳ではないんですよ
ヨハンくんだったら二等客室は狭すぎる~とか言いそうだから、
ヨハンくんの生活水準に合わせてあげてるんですからね
という訳でベッドにぼふーっ!
わあぁ、ふかふかです!ごろごろしても落っこちません!
ゆっくり外の景色も眺められそうですよ
駅弁を食べながらまったりしましょ
ヨハン・グレイン
織愛さん/f01585 と
楽しい旅、ね
俺もこういう列車は初めてですよ。勝手がわからないとも言う
諸々あなたにお任せします……が、
ホームについてから色々買い込もうとするのはどうかと……
ああ、はいはい、ついて行きますよ
…………
別に俺は二等でも構いませんが
……いや、二人用に泊まるのはさすがにまずいか
単に織愛さんが贅沢したいだけに聞こえますけど、
一応一番マシな選択だと思っておきます。癪だが
着いた早々ベッドに寝転がらないでくださいよ
ごろごろする前に荷を解くなりした方がいいのでは?
何故俺がこんな世話を焼くことになっているんだ……
……まぁ、偶にはいいか
外を眺める顔を横目に、同じように風景に目を移そう
「わー! 寝台列車なんて初めてです! 黒くてかっこいいですよ! ほらほら! ヨハン君おそろいですね!!」
おそろい! と、言い切った三咲・織愛(綾綴・f01585)に、お揃い……。と、ヨハン・グレイン(闇揺・f05367)は己の服装をちょっと見つめ直した。……確かに、黒いが。これでお揃いと言われると、何というか、……なんというか。
何か言おうと口を開きかけるヨハン。しかしその前に織愛はにっこり笑って、
「楽しい旅にしましょうね、ヨハンくん」
「……」
その笑顔に、思わずヨハンは黙り込む。
「……楽しい旅、ね」
そういわれると、なんだか感慨深い。言葉を探すように、ヨハンは話を続ける。
「俺もこういう列車は初めてですよ。勝手がわからないとも……言うので。諸々あなたにお任せします」
必要なものもあれば、作法もあるかもしれない。そう、ヨハンが思った……矢先、
「わあい、やったあ! いっぱい頼ってくれていいですからね! 駅弁を買っていきましょー! あとあと、車内で遊ぶトランプも欲しいですね!」
ヨハンの言葉を待っていましたとでもいうように、織愛はご機嫌で走り出した。もちろん、売店のほう向かってである。
「……が、ホームについてから色々買い込もうとするのはどうかと……」
「ほらほら、ぼーっとしてないで行きますよっ」
ヨハンの声も、聞いちゃいねえ。……まあ、いつも通りといえばいつも通りで。
「……ああ、はいはい、ついて行きますよ」
こういう時なら、そういうのもほんの少しは、嫌いでないかもしれない。
そう思いながら、ヨハンは織愛の後を追いかけるのであった。
「ふっふっふ。あれとこれとそれも買っちゃったし、もうたっぷり満足ですね!」
「……」
数分後。たっぷり買い込んだ織愛の荷物を、ちらりとヨハンは見上げていた。
「大丈夫です、ヨハンくんの分もあります!! 半分こしましょう!」
「いえ……。それ全部半分ことかできませんからね?? 一人で食べてくださいよ??」
その顔には、どれだけ買うんだ、という色が乗っていたが、織愛のほうはなぜかそれでご機嫌である。
「で、客室はどちらでしたっけ」
「ふっふっふ。今日は奮発して、一等客室です!」
「奮発って、お金はいらないはずですが」
「もう。それを言ったらおしまいですよ~」
浪漫がない、という織愛に、事実は事実、なんて返しながらも、静かな廊下を二人は歩く。
「ほら。ここです! ……うわ!」
扉を開けて、織愛が感動したような声を上げた。
広くて明るい室内に、明らかに高級そうなベッドやソファー、テーブルたち。しかしそれよりも目を引くのは、大きな窓であった。これだけ大きければ、どこにいても外の景色を見ることができるだろう。走り出した列車は、丁度桜舞い散る街並みの中を走っていて、まるで映画のような景色を二人に見せた。
「すっごいですね。さすが最高級! ……いいですか、ヨハンくん。私は贅沢をしようとしてる訳ではないんですよ。ヨハンくんだったら二等客室は狭すぎる~とか言いそうだから、ヨハンくんの生活水準に合わせてあげてるんですからね。ひゃっふーベッドふっかふかですー! ぼふー!!」
織愛は感動しながらも、テーブルの上に己の買った大量のお弁当や荷物を置き。そのまま喋りながらごくごく自然な動作でベッドへと突貫する。軽くバウンドする体に歓声を上げながら、ごろごろごろごろごろ。と転がっている。
その一連の流れるような動作を見ながら、ヨハンは軽く額に手を当てた。
「…………別に俺は二等でも構いませんが……」
言ってから、
「(……いや、二人用に泊まるのはさすがにまずいか……)単に織愛さんが贅沢したいだけに聞こえますけど、一応一番マシな選択だと思っておきます。癪だが」
「はい? 何か言いました? ヨハンくん」
「着いた早々ベッドに寝転がらないでくださいよ。ごろごろする前に荷を解くなりした方がいいのでは?」
呟きは聞こえなかったらしい。子供のようにベッドではしゃぎまわる織愛に、むぅ、とヨハンは息をついた。
「まあまあ。ヨハン君もほら、やってみましょうよ。ふかふかです! ごろごろしても落っこちませんよ!」
「いいから。まずは靴ぐらい揃えてください!」
ヨハンの叫び声にも、あははははー。と笑う織愛。無邪気なその様子に、ヨハンは軽く頭を掻く。
「何故俺がこんな世話を焼くことになっているんだ……」
「ええ。それ聞いちゃいます? 聞きたいです?」
「……やめておきます。ほら、お弁当さめますよ」
「はっ」
今まで何を言ってもダメだったのに、その言葉は効果覿面のようであった。顔を上げる織愛は、すたすたと弁当の置いてあるテーブル前のソファへ。
「ゆっくり外の景色も眺められそうですよ。駅弁を食べながらまったりしましょ」
ほらほら、とにこやかにお弁当を開ける織愛は、
「変わり身、早いですね」
「美味しいものは、美味しいうちにです」
ヨハンの言葉もなんのその。ほら、お弁当を開けますよ、なんていう彼女の顔を見ながら。
(……まぁ、偶にはいいか)
初めての列車旅だ。これくらい、いつもと違うことをしてもいいだろう……なんて。
思いながらヨハンも、そっと美しい外の景色に目を移した……。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鏑木・寥
冴島サン(f13398)と
外に出ていく機会は増えたが列車での旅は久々だな
カンカン帽と一泊用の荷物
よう冴島サン
一緒に出掛けるのはあの寒い島以来か
折角だし一等を取っても良かったんだが、あんまり豪華でも落ち着かなくてな
二等客室への招待でいいか?
折角だから駅弁を買うか…と、思ったんだが
俺飯は大体週一しか食わねえからなあ
今買ったら夜食えるかどうか
――嗚呼、夜は酒飲むだけにすればいいのか
ん?俺そこそこ酒には強いよ、へーきへーき
酒も景色も楽しみゃいいのさ、と、視線は向こう
さて、名産品とかあったかな
イカめしとかシュウマイ弁当とか、軽めにサンドイッチでもいいが
しゅうまい が 何、と言われると……
買った方が早いな
冴島・類
鏑木さん(f22508)と
駅で姿見つければ手を振り
今日は、鏑木さん
カンカン帽姿、お似合いですよ
はは、今日も結構冷えますが、この中なら凍えずに済む
二等でも十分ですよ、食堂車にも近いし
僕も贅沢過ぎはこう…逆に座りが悪い
はい!駅弁買いたいです
週一…腹に入れずに飲んで、酔いって回らないんですか
人とは違うのだとしても、気になるな
鏑木さん肉付き薄いから
景色肴に一杯は大賛成、ですけど
何せ影朧になってまで、見たい景色があるというし
ホームの端を歩いてる姿が目に入って
余程…綺麗なのかもですよ
夜を晩酌にするなら、今は地方の味覚感満喫しましょ
烏賊飯は好きだな、しゅうまいって…何です?
あ、お店の方にお勧め聞きましょうか
ホームでは人でごった返していて。
鏑木・寥(しあわせの売人・f22508)はカンカン帽と一泊用の荷物を手に、唯その雑多な空間を見つめていた。
己の職業を思えば人は多ければ多いほどいいに違いないが、人混みが好きか嫌いかと言われれば、さて。
そんなことをつらつらと考えていたところで、
「鏑木さん」
と、声がかかって、寥は顔を上げるのであった。
「よう冴島サン」
ホーム向こう側から手を振ってやってくるのは、冴島・類(公孫樹・f13398)である。人のよさそうな笑みを浮かべて、彼は軽く一礼する。
「今日は、鏑木さん。カンカン帽姿、お似合いですよ」
「なんだ、褒めても何も売らないぞ。……一緒に出掛けるのはあの寒い島以来か。息災だったようだな」
「はは、そうですね」
寥の言い方に、類は思わず笑う。
「今日も結構冷えますが、この中なら凍えずに済む。そうして寝ている間に遠くへ連れて行ってくれるのでしょう? 列車とは、ありがたいものですね」
「ああ。……外に出ていく機会は増えたが列車での旅は久々だな」
「本当ですか? それは、楽しみですね」
寥の言葉ににこやかに類が返していると、ホームにアナウンスが響いた。もうすぐ出発します。乗車予定の方は、早目のご乗車お願いしますという声だ。
「……っと、そろそろか。ああ。折角だから駅弁を買うか……と、思ったんだが」
「はい! 駅弁買いたいです」
どうしたもんか。と、しばし考えこもうとした寥であったが、その前にすかさず類が言ったので思わず、かすかな笑みを浮かべた。
「そうか。……じゃあ、少し急ぐか。間に合わなくなったら困るからな」
「はいっ」
そして……。
「さて、名産品とかあったかな。イカめしとかシュウマイ弁当とか、軽めにサンドイッチでもいいが……」
「あんた、ほそっこいからいっぱい食べておいきよ!」
「そうですよね。鏑木さんはいっぱい食べてもいいと思います」
売店のおばちゃんの言葉に、寥は難しい顔をして、類は楽し気にうなずいたり。
「――嗚呼、夜は酒飲むだけにすればいいのか」
先ほどの。どうしたものか、の続きである。問うような類の視線に、寥は肩をすくめる。
「俺飯は大体週一しか食わねえからなあ。今買ったら夜食えるかどうか」
「週一……腹に入れずに飲んで、酔いって回らないんですか? 人とは違うのだとしても、気になるな。鏑木さん肉付き薄いから」
「ん? 俺そこそこ酒には強いよ、へーきへーき。酒も景色も楽しみゃいいのさ。よし、そうしよう」
「はい。夜を晩酌にするなら、今は地方の味覚感満喫しましょ」
まあ、鏑木さんなら寄って潰れることはないですよね、とは言いながらも、類は並んでいるお弁当を見る。
「烏賊飯は好きだな、しゅうまいって……何です?」
ふと、目に入ったのはシュウマイ弁当、の文字だ。食品サンプルなんてこじゃれたものはここにはなかったので、包み紙の文字から推測する事しかできない。類は首を傾げる。
「シュウとマイ……」
「む……。いや、シュウマイ、は一つの単語だ。だが……」
しゅうまい が 何、と言われると……。
これはなかなか深淵なる問題かもしれない。と、寥は思わず考えこむ。
「ギョウザ、は知っているか?」
「?」
「ああうん」
シュウマイを知らなければギョウザも知るまい。となると説明はさらに難しくなる。寥は唸る。うまいこと何か説明しようと……して、
「買った方が早いな。俺はしゅうまい弁当にする」
諦めた。あっさりと。そして決めた。そういわれると、類のほうも少し焦る。
「えっ。じゃ、じゃあ、僕はどうしようかな。……ええと、お店の方、お勧めは……」
「だったらこの全部乗せスペシャルだよ! 肉も豚も鳥も魚も入ってる!」
「……待て。それは大丈夫なのか。どう考えても乗せすぎだろう」
「えっ。でも、お勧めって言うならそれに。……うわ、さすが全部乗せ。ほら、お弁当の中で一番高いですよ、寥さん」
すごいんだろうなあ。と素直に感心する類に、複雑な顔をする寥であった。なんか騙されたような、でもはっきり騙されてないような奇妙な感じがしたという。
「済みません、僕が迷っていたから、ずいぶん遅くなってしまいました」
「いや。ぎりぎり、乗れたからよかっただろう」
そうして二人、弁当片手に列車に乗った。すでにゆっくりと走り出したその列車の揺れに、器用にバランスをとりながら寥は通路を進み二号客室の扉に手をかけた。
「あ」
「はい?」
「折角だし一等を取っても良かったんだが、あんまり豪華でも落ち着かなくてな。二等客室への招待でいいか?」
若干今更なその問いかけに、ああ。と類はおかしそうにうなずいた。
「二等でも十分ですよ、食堂車にも近いし。僕も贅沢過ぎはこう……逆に座りが悪い」
「はは。お互い貧乏性だなこりゃ」
「でも、それくらいがちょうどいいんですよ」
とはいえ、扉を開けるとベッドが二つ、ソファが二つ、テーブルが一つ。二人でくつろぐには十分すぎるスペースの部屋が二人を出迎えた。どこにいても窓から綺麗な景色が見られるようになっている。
「これは、きっと酒が旨いな」
「はは。景色肴に一杯は大賛成、ですけど」
楽しみだ、なんていう寥に類は笑う。
「何せ影朧になってまで、見たい景色があるというし……。余程……綺麗なのかもですよ」
一度、すれ違った影朧の姿を思い出して、類は言った。ああ。と、それを思い出して寥のほうも頷いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
そんなはずはない。なぜなら彼が生きた時代は、もう何年、何十年、それこそもっと、遠い昔の話だ。けれども彼は、さもそれが当然のことのように語った。それが真実であるように告げた。……もうとうに、正気は風化し失われていた。
真っ暗な湖を、己の灯りだけを頼りに列車は走る。満天の星空と、舞い散る桜。そして、それをまるっと逆しまに映し出した湖の姿は、まるで小説の一場面のようだと。この列車の職員たちも語っていた。
それを見ながらゆっくりベッドに寝転がって過ごすのもいい。夕食をとりながらでも楽しめるだろうし、勿論、景色なんて構わずに、みんなで楽しく遊ぶのだっていいだろう。
この寝台列車の目玉の一つで、ちょうど並走して走る寝台特急オリオン号を見ることができます。夜間、湖のすぐ傍を走行する列車は桜と星空の中を駆け抜けていき、とても美しいと評判です。景色を眺めながら夕食を取るのが流行り。