ドイツ周辺のヨーロッパの国々はゾルダートグラード軍によって支配されているが、バルト海の入り口に構えるデンマークは、その突き出た国土のせいか、国土の奪い合いが激しさを増していた。
キャバリアと呼ばれる歩行式戦車による地上の制圧力は凄まじいものがあったものの、周辺諸国も海軍による抵抗は、地上最強とも名高い戦車の性能を抑止していた。
しかしながら、それもギリギリのところであった。
海に隣接する面の多いデンマークは、幾度となく獣人戦線による残存ヨーロッパ連合による海軍の圧力によって、ゾルダートグラード軍の進出を阻むことに成功していたが、いざかの地へと侵攻し、土地を奪い返すとなると、その圧倒的な地上戦力差に悩まされる事となる。
相手にはキャバリアという特異な戦力がある以上、地上攻略は手をこまねくしかなかったのだ。
だが、獣人たちもただその現状に嘆くばかりではなかった。
度重なる戦線を経て、敵機の鹵獲から始まった技術の模倣、そして新機軸の兵器の開発運用は急ピッチで行われ、ここに新たな部隊が生まれようとしていた。
デンマーク沿岸に建設された機械兵国軍の擁する数ある鋼鉄要塞『グラード』。その一つをいくつも犠牲を払って攻略し、獣人側の前線基地として奪い取ったのを皮切りに、作戦は動き始めた。
歩行戦車を主軸とした部隊は、その教育と運用を指揮するアイスター・ヴェタイ中佐に因んで、白狼機械化歩兵連隊、もしくはヴェタイ隊と呼ばれるようになったという。
「ここの設備はどうだろう。我々の技術にも流用可能だろうか?」
「はい中佐。もとより敵性技術から学んでいる地金がありますので、すぐにものにできる事でしょう。此度の攻勢、海側からの陽動作戦の甲斐あって、我々もこの地に防衛線を張る事ができました。ここが正念場です」
体力的にやや衰えの見え始まるアイスターに対し、冷静な受け答えをする女性士官は、彼の秘書ではない。
セラード・トンボーン特務技術士官は、機械帝国製のキャバリアの分析、リバースエンジニアリングの第一人者に連なる部署から派遣されている。この部隊の中では異物に近い存在であるが、彼女とアイスターの活躍なくして、今回の結果は得られなかったとも言われている。
つまりは、彼等と、その部隊は、デンマーク戦線に於いて目覚ましい戦果を上げていたのだ。
「やはり、楽をさせてはもらえないようだな。新たな兵科、慣れぬ戦場に、部下たちも疲れている所だが……」
「楽な職場とは、誰も考えていません」
「うむ……陽動も助けたとはいえ地上戦でようやく、奴らに色を塗った訳だからな。次こそが本領だろう。奴らめ、何を出してくるか……」
くたびれたようにも見える毛並みの白狼の軍人は、その白髭めいた顎を撫でると、防衛線を張るはえ抜きの部下達へと思いを馳せるのだった。
なお、この後、グラードを防衛する白狼機械化歩兵連隊は、ゾルダートグラード軍の最新キャバリア部隊による一点突破作戦により、大敗を喫した。
「うーん、キャバリアキャバリア……って、ここ獣人戦線でしたよね。なんだか世界を間違えているような気がしてきますが、まあ、ゾルダートグラードの科学力は、なにやら他の世界の影響を受けているようですからねー。明らかに人型機動兵器が出てくるのは、何とも気になります」
グリモアベースはその一角。給仕服姿の疋田菊月は、居並ぶ猟兵たちに紅茶を配膳しつつ、トレイを抱き込むようにして顎に手をやる。
今回の舞台は、ゾルダートグラードの支配領域であるヨーロッパはデンマークのとある戦線である。
絶大な軍事力を誇るゾルダートグラードに対し、獣人たちは危ういところでその支配領域を広げぬよう戦っている。
そんな中でも目覚ましい戦果を上げたのが今回の舞台であるという。
なんと、海上からの陽動などを駆使して、敵の数ある要塞の一つを奪い取ったというのだ。
『グラード』と呼ばれる鋼鉄要塞の守りは堅固であり、パンツァーキャバリアの運用を中心としたゾルダートグラードに対抗するためだけに鍛え上げられた白狼機械化歩兵連隊の活躍は快挙と言ってもいい。
敵から鹵獲したキャバリアのデータをもとに新たに開発したパンツァーキャバリアによる防衛線を構築し、奪い取った要塞を守ろうと奔走するヴェタイ隊は、しかし最新鋭の敵軍に成す術無く敗北してしまうのが予知として現れてしまった。
「技術も、軍事力も、敵側に軍配が上がる中で、獣人戦線の皆さんは善戦したんですよ。ただ、乗り込んで兵力も満足でないところに、数に飽かした一点突破をされては、身も蓋も無いのです。
彼等を勝たせるためには、敵の作戦を打ち破る他に無いでしょう」
予知の中で明らかになったのは、多数の歩兵を乗せた蟹のような兵員輸送キャバリアを大量投入しての浸透作戦に加え、獣人戦線にはおおよそ存在しないような、それこそクロムキャバリアに出てくるようなキャバリアによる火力支援であった。
数によって防衛線を破られたところに、高い火力を持った新型の到着。そこからの瓦解は早かった。
「しかしながら、我々はこの未来を打開する戦力そのものです。一点突破を計る敵陣第一波を、第二波の最新鋭機の投入よりも前に蹴散らしてしまえば、防衛線の維持は楽になる筈です」
菊月のかなり大雑把な作戦の立案に、気軽に言ってくれるなぁと猟兵たちに呆れにも似た生温かい空気が漂うが、大まかな流れを言ってしまえばそうする以外にない。
容易かどうかは置いておいて。
「大規模な作戦ですから、きっと敵ネームドも出てくるかもしれませんが、そういう方は嫌でも目立ってしまうものです。味方に被害が出る前に、接敵して倒してください」
無論、敵の指揮者ともなれば、当人はもちろんのこと、乗り込む機体も最新鋭機であり性能は高い事が予想されるだろう。
だが何よりも、最初の第一波が、今回の作戦は肝要となりそうだ。
「私は一介の給仕に過ぎませんので、小難しい作戦となれば戦いの専門家の皆さんの方がよっぽど詳しい事でしょう。どうか、皆さんのお知恵と、そしてお力添えを期待いたします」
もちろん、こちらで用意できる戦力であるなら協力は惜しみませんと続けて、菊月は自らの保有する多数の量産型キャバリア及び汎用キャバリア装備の提供を申し出つつ、猟兵たちを戦地へと送り出す準備を始めるのだった。
人型機動兵器を多数所有する一介の給仕とはいったい。
みろりじ
どうもこんばんは。流浪の文章書き、みろりじと申します。
アイスのおいしい季節となってまいりました。
こたびの猛暑を、皆様いかがお過ごしでしょうか。
今回は、獣人戦線、ゾルダートグラードを舞台としたシナリオとなっております。
シナリオフレームは、集団戦→集団戦→ボス戦というシンプルな構成となっております。
第一章では、足の生えた歩兵輸送車両のキャバリアが多数登場します。こちらは、防衛線を破る為、主砲の強化された機体がいくつか存在するようです。そのため、各種パラメータに設定されているユーベルコードに加え、「パンツァーフォートレス」に相当する攻撃も使用してきます。
第二章では、最新鋭機が投入されます。クロムキャバリアに搭乗するのと同じ機体が、なぜか出てきます。歩行戦車と言いつつ、歩行してません。
第三章では、この部隊の指揮官を倒す事になります。個人ではありますが、第二章で登場した機体(リーダー機)に搭乗しています。キャバリア操縦も達者ですが、本人も強いのでキャバリアでは相手しづらいと判断すれば飛び出してきたりするかもしれませんね。
また、菊ちゃんは説明を端折ってますが、戦いの舞台は副題にもある通り、生身の歩兵ではちょっと厳しいような、ぬかるんだ平地です。沿岸部に近い場所です。
味方の防衛部隊はパンツァーキャバリアに搭乗しているのが殆どで、歩兵はそれほど多くなく、他には救護車輛や銃座を積んだ車輛などあるようです。
ええと、言い忘れたことはないかな。あ、夏ノベル受け付けてますが、あんまり関係ないので、ほんのちょっとだけ。
例によって、1章の断章は投稿せず、2章と3章の冒頭にはちょっとした説明を入れる予定です。
プレイングはいつでも募集しておりますが、リプレイによってクリア条件に達したらそれ以上は次章に進むまで受付できなくなってしまいますので、ご了承くださいませ。
オーバーロードはちょっとだけお待たせしてしまうかもしれません。
それでは、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作ってまいりましょう。
第1章 集団戦
『キャンサー・ワゴン』
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POW : シザ―ハンド・アタック
単純で重い【障害撤去用アーム】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : キャンサー・ストンプ
【装甲付き多脚による踏みつけ】で近接攻撃する。低威力だが、対象が近接範囲から離脱するまで何度でも連続攻撃できる。
WIZ : 緊急射撃戦闘
【収容している兵員】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【主砲塔、固定機銃、兵員の装備する小銃】で攻撃する。
👑11
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鳴上・冬季
「この世界の良いところは、人が全て獣人であることと鏖殺を禁忌としないことです。これで甘味が充実していれば…実に残念です」
「鏖殺せよ、黄巾力士火行軍・改」
簡易飛来椅と簡易金磚装備した黄巾力士141体召喚
上空100mに下記3班を1隊として3隊展開
・砲頭と金磚から制圧射撃で敵の行動阻害15体
・砲頭から徹甲炸裂焼夷弾、金磚から誘導徹甲弾連射し敵を鎧無視・無差別攻撃で蹂躙16体
・上記2班をオーラ防御で庇う16体
自分と普段連れ歩く黄巾力士は上空200m飛行し戦場俯瞰
黄巾力士にオーラ防御で庇わせ自分は竜脈使い全黄巾力士の能力底上げ
損耗により適宜隊組替
「上空から撃ち下ろす圧倒的有利は簡単には覆りませんよ」
嗤う
ユリウス・リウィウス
どこの世界だろうと、戦場ってのは大して違わねぇなあ、なあ、おい。
泥ん中這いずり回っちゃ、死なない程度に殺し合いだ。
しかし、あの絡繰り人形をこっちに持ち込む馬鹿がいるとはな。
鉤爪の男の遺産か?
まあいい。潰しゃ済む話だ。
「降霊」でアンデッド達を召喚。「呪詛」であの蟹モドキの脚を狙え。その攻撃は、当たるのもあれば外れるのもあるわな。
銃撃の反撃が来たな。だがこっちも本番はこれからだ。
「範囲攻撃」の絶望の地を展開。地面から無数に湧く屍人共が、蟹モドキの脚に群がって、我が身も省みずに脚をへし折って闇に沈めようとし始める。
さあ、早く逃げないと骸の海に引きずりこまれるぞ?
戦場に立つなら、己を屍人と思えってな。
バルト海の入り口に突き出る大きな半島。それがデンマークの国土である。
今やゾルダートグラードの支配下となっているドイツ本国を含めた多くの国々が面する内海の一部だが、今回の舞台であるデンマークのとある沿岸部に建造された鋼鉄要塞グラードの一つを乗っ取ることに成功したヴェタイ隊は、その地形の細やかな調査もままならぬまま、敵部隊の襲撃を受ける事となった。
元々が敵の設備であったというのも幸いしたのだろう。この要塞の地上補給路は、そのまま敵の攻め込む進路に等しい。
要塞を奪われるほどの侵略を許したことが無いからこそ、敵側からの攻撃はその進路が読みやすい。
逆に言えば、それが可能であるほどに、ゾルダートグラードの即応性、軍事力の高さを思わせるものがあった。
沿岸部の柔らかく湿った土壌を、けたたましい騒音を上げて、滑走する様に駆け抜ける異形の車輛たち。
さながら、鋼鉄の装甲を纏った甲殻類を思わせる運搬車輛であるそのキャバリアの一団は、多くの獣人の兵を乗せたパンツァーキャバリア、キャンサーワゴンと呼ばれる全適応型装甲車輌であった。
タイヤで進入不可能な地形、悪路であろうとも、節足動物さながらの多脚型マニューバルユニットを高速で躍動させ、前方に突き出た大型のシザーハンドは、トーチカや塹壕、ブッシュなども切り拓く。
『くそぅ、奴ら数が多い! それに思った以上に速いぞ!』
『回り込まれるな! 戦車砲も積んでいるぞ』
防衛線を張っていたヴェタイ隊の白いパンツァーキャバリア部隊もキャンサーワゴンを迎え撃つ形だが、その機動力は予想以上のものであったようで、まだまだ練度の高いとは言えないヴェタイ隊は、どうしても対応に遅れが見える。
「あー、ひどい空気だ。どうもこの泥濘は、思い出しちまってよろしくない」
泥の跳ねる悪路の連続。歩兵が立つには少々厳しい戦場に、甲冑姿の男が一人。
塹壕を掘っても、ものの数分で水が染み出してくるような湿気の多い泥濘だらけの戦場では、誰も彼もが鉄の人形や車に身を預けている。
古めかしく鉄鎧に身を包んでいるのは、彼くらいのものだろう。
「どこの世界だろうと、戦場ってのは大して違わねぇなあ、なあ、おい。
泥ん中這いずり回っちゃ、死なない程度に殺し合いだ」
ユリウス・リウィウス(剣の墓標・f00045)は、ただ一人、戦車砲や榴弾の爆音の吹き荒れる戦場の中で、剣を抜きおびただしい数の鉄の甲殻類を目の前に突き出す。
まさか、真正面からあれらと斬り合うなどと無謀なことは言いはすまいが、どのような戦場であろうとも、彼はキャバリアに頼ろうとはしなかった。
その心得が無いとか、なんか酔いそうとか、そういう訳ではなく、単純に趣味に合わないのだ。
きっと絶大な戦力なのだろう。見ればわかる。その利便性、拡張性は目を見張るばかりだ。
だがどうだ。ユリウスは、どこであろうともポリシーを曲げることなく、相も変わらず古めかしい甲冑に愛用の双剣を下げて戦場に立つ。
結局のところ、培った技を手足の如く使う、不器用な愚直さで戦う事しかできないのである。
所詮は、配られたカードで戦うのみ。優れた切り札など、滅多には出せない事だろう。
だが、使う局面を選べば、それは切り札というに相応しい力を発揮するのが、それが猟兵という存在である。
「戦場に立つなら、己を屍人と思えってな」
剣の切っ先から描かれる魔法陣は、死霊術士でもあるユリウスの得意とする降霊、ようするにアンデッドを呼びつけ使役する魔術であった。
本来はユーベルコードで以て、際限なく呼び出す屈強なアンデッドの戦士だが、今回はそれらを温存、使い時はまだこれからだ。
死霊術士がアンデッドを大量に呼びつける時は、何をするときだろう。その8割は、人海戦術である。
死んでもいい戦力。というか、既に死んでいる兵力を利用するならば、それはもう足の生えた土嚢。意志を持って襲い掛かるこの地の泥濘と似たようなものだ。
そう、つまり、ユリウスの呼び出したアンデッドたちは、群れを成す多脚戦車の足を止めるためだけに地中から手を伸ばし、身体を張るのであった。
『な、なんだ。連中の動きが鈍ったぞ。なにか、巻き込んで……ひ、人だ!?』
『いや、あれは、死体……既に腐ってるぞ!?』
ヴェタイ隊の面々も、その異様な有様、キャンサーワゴンの猥雑なマニューバルユニットに肉片と化して絡みつく異様な光景に面食らっていたが、踏み抜かれても蹴散らされても絡みついては機動力を奪い、動きを鈍らせたキャンサーワゴンに、これ幸いと攻撃を仕掛けていく。
「おやおや、なんとも業の深い」
そんな凄惨な様子を、上空から見下ろすのは、サクラミラージュの桜學府制服に似せた道士服に身を包む涼やかな男。
足裏に履いた風火輪で空を飛びつつ、戦場を見下ろしつつ、状況を静観していた鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)は、戦局が動き出すのを待ち構えていた。
キャバリア同士の撃ち合いが始まるかと思いきや、まさかのおどろおどろしいゾンビパニックの様相を呈してきたのは予想外だったが、なるほど、ただ戦車に戦車をぶつけるだけが戦術ではないのも確かだ。
空気を読むとは、とても繊細で人の世に身を隠すには無くてはならぬ技術の一つではあるものの、場に合わせた考えというのは、時に思考を動脈硬化させてしまいがちだ。
柔軟なゴリ押し戦術というのも、時には新たな発想にも繋がるというのが、人の持つ可能性なのかもしれない。
やはり戦場に立つと、予想外のものに当たる事が多い。
幾つかの満足を得たところで、冬季もそろそろ彼等に加勢する動きを見せる。
「この世界の良いところは、人が全て獣人であることと鏖殺を禁忌としないことです。これで甘味が充実していれば……実に残念です」
獣人以外のオブリビオンの勢力が強すぎる事により、獣人同士の争いが悪化する事はないようだが、それは良い事なのかどうなのか。
それよりも大切なのは、バターもミルクも、植物由来からできているレーションだということだ。
悪くはない。決して悪くはないのだが、牛乳を用いたあのもったりとした重たい甘さ、脂っぽさ。あれを忠実に再現できない、味わえないのは苦痛だ。甘味は甘ければいいという訳ではない。いや、一時期はそれでもいいと思っていたのだが、一度、卓越した積層された立体的な芸術的美味に触れてしまっては、もうだめだ。なまじ違いが分かってしまうと、素材の一つ一つが織りなす存在感が甘さを何十倍にも魅力的にすることに気づいてしまうのだ。植物由来の爽やかな後味も悪くはないのだが、動物性油脂のどっしりと重いしっかりとした存在感に支えられた味わいは他に替えが利かないのである。思いだしてしまっては、舌がまた甘味を求めてしまいかねない。
「む、私としたことが。鏖殺せよ、【黄巾力士火行軍・改】」
盛大にずれそうになった思考をひとまず現実に引き戻しつつ、冬季はユーベルコードにより、空中から黄巾力士たちを呼び出す。
普段から連れ歩く宝貝『黄巾力士』は、冬季の開発した歩行戦車である。
キャバリアと言うには小型であり、仙術により組み上げられた不思議道具の類としては、あまりにも戦車なそれは、改めと銘打っただけあり、脚部に取り付けられた履帯で地面を滑走するだけでなく、今回は新たに開発した簡易飛来椅と簡易金磚を追加装備させたものであるという。
どういうものかというと、要するにまぁ空中戦闘用パックと、追加武装を施して武装を増やした状態で呼び出す事ができるようになったわけである。
それはもう、ただのキャバリアなのでは。と言われようとも、宝貝として作っているのだからきっとそうなのである。
ただし、この追加装備パックは永続性はない。普段使いには色々と制約があるようだ。もしかしたら装備の拡張性を残しているのかもしれない。
閑話休題。
とにかく、戦車が飛ぶ。その数、141機。普段から連れている機体はいわゆるベース機であり、ユーベルコードによってその数を揃えている。
戦車に限らず、それをベースに作られているパンツァーキャバリアもまた、上を取られるというのは、脅威である。
それぞれ、飽和的な射撃、行動を制限され、その上での砲塔による徹甲炸裂焼夷弾、徹甲誘導弾による直接砲火は凄まじく、規律正しく班分けされたその行動は、榴弾の雨を降らせ、トップアタックを受ける側となるキャンサーワゴンはたまったものではなかった。
戦車というものは、その構造上から上部や背部の装甲、いずれかを削らなくてはならない。
レーダーやキャノピーの問題があり、上部を狙われるのは非常に不味いのである。
まして、ユリウスの召喚術により足止めを喰らっていたキャンサーワゴンたちはその弾雨を回避する事もままならない。
「おお、すげえな……っと、それでも反撃してくるのか」
苛烈な攻撃を受けながらも、キャンサーワゴンは、その戦車砲を、車載された兵たちが銃撃で以て応戦してくる。
「上空から撃ち下ろす圧倒的有利は簡単には覆りませんよ」
上方に陣を構える冬季達黄巾力士は、攻撃のみならず防護フィールドを張る班員もきっちり配されているため、心配はいらないようだが、ユリウスのほうはそういうわけにもいいかない。
『防盾損耗……下がるしかない!』
『くそ、この砲火の中でも進んでくるのかよ!』
必死の抵抗を見せるキャンサーワゴン隊の猛攻に、ヴェタイ隊の機体も少しずつ後退を余儀なくされるが、ユリウスは一人、その場に陣取り、今度こそユーベルコードを発現する。
「大地に満ちるは救われぬ亡者の怨嗟の声。摂理は死すらも万人に対して平等ではない。不条理に生きて死んだ亡者ども、その怨念を解放せよ」
【絶望の地】それは、先ほどのアンデッド召喚を伏線とする、範囲攻撃であった。
おびただしい数の死体の群れは、呪詛の塊である。
それが巻き込まれ、踏み荒らされながらも足にこびりつき、動きを鈍らせていた。
それだけならば、単なる人海戦術。
だが絶望の地と化した名状しがたき呪詛の闇は、骸の海と言ってもいい。
ユーベルコードによって強化された骸たちが、広がる闇の中にワゴンたちを積載した兵ごと引きずり込んでいく。
「さあ、早く逃げないと骸の海に引きずりこまれるぞ?」
それにしても、キャバリアをこちらの世界に引き込んだものが居るとは。
自らをもキャバリアとしたアリスラビリンスの鉤爪の男の差し金、その遺産だろうか?
まあいい。全て潰せば済む話だ。
大成功
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朱鷺透・小枝子
敵の戦端を受け止め、へし折り殴り返す!
進め、ディスポーザブル!!
ディスポーザブル01操縦。
正面からキャンサー・ワゴンを迎え撃つ!
メガスラスター【推力移動】キャバリア【武器受け】
自分は、その為の壁だァアッッ!!!
【継戦能力】砲撃を機体装甲とRX騎兵刀で受けながら接近、
【怪力】でキャンサー・ワゴンを叩き壊す!
『此処が、自分達の戦場だ!!』
『渚の戦端』霊物質の海を召喚、海面に
自律ディスポーザブル01の軍勢浮上、
キャンサーワゴン共をRX騎兵刀で突き刺し倒し【重量攻撃】歩兵ごと踏み潰し、念動鞭で【追跡】叩き斬り、ホーミングレザーの【弾幕】で戦端を崩し、RS-B火牟須比の【砲撃】で壊し、戦端を押し戻す!!
黒木・摩那
まだ確定していない予知ならば、変えてみせるのが猟兵のお仕事ですね。
今回はゾルダートグラードがお相手ですか。
獣人は頑丈なだけに強敵ですね。
しかし、1点突破はこちらとしては戦力が集まってくれる分だけ楽です。
自キャバリア『エクアトゥール』に搭乗します。
武器はヨーヨー『エクリプス』をキャバリアサイズにして、UC【蒼鷹烈風】を発動。
射程も威力も大幅すれば、怖いものなし、ですね。
ただ相手も砲兵などの長距離兵器でこちらを狙ってくるかもです。
事前に上空にドローン【マリオネット】を滞空させて警戒しておきます。
砲弾が来たら、スマートグラスで弾道解析。当たりそうならば【念動力】で軌道を反らして回避します。
デンマーク戦線、その沿岸部に位置する泥濘の広がる戦場は、バルト海との境が時に曖昧になる。
何度となく海蝕にさらされ、戦火の中にさらされて踏み荒らされたこの地は、海と大地とでこねくり回された泥濘にまみれていた。
普通に歩き回るだけでも苦労する緩い足元。塹壕でも掘ろうものなら、ものの数分で崩れ始め、よくこねて固めたとしてもしばらくすれば液状化するか、水が染み出してくる始末。
だから、この場所を戦場に選ぶなら、誰もが車両に乗り込むか、キャバリアを持ち出すのである。
だから、こんな場所に舞い込んでくる敵は、まともな形をしていないのだ。
ゾルダートグラードの派兵したキャンサーワゴンは、戦車砲を積み込んだ兵員輸送車輛を兼ねたパンツァーキャバリアである。
あらゆる地形に対応した節足動物を思わせる多脚型の足回りは、泥にまみれた戦場を踏み抜いてしぶきを上げ、巨大な鋏を有したマニピュレータは、キャバリアの装甲をも引き千切るという。
そんなものが数十、数百と押し寄せれば、戦車としての脅威もさることながら、積載された獣人の兵員が万一にも防衛線を突破してしまえば、それは瞬く間に血管に撃ち込まれた毒の如く司令部を焼くことだろう。
だから万一にも、防衛線を突破されるわけにはいかないのだが、
『駄目だ、こいつら……速い! 押し切られるぞ!』
『とにかく撃ち込め! 奴らの進む道を作らせるな!』
防衛線を張るヴェタイ隊の白いパンツァーキャバリア部隊は、苦戦を強いられていた。
機体性能で引けを取っているわけではない。ただ、敵の数が多いのだ。
戦いは、攻める戦いより守る戦いの方が、より損耗が激しい。まして、ここはかつての敵地。地の利はオブリビオン側にあると見た方がいい。
攻め手側は幾つもの手立てから選ぶことができるが、守る側は、それらに対応する事しかできないのだ。
そして数の差。広がる防衛線に、数をぶつけられてはひとたまりもない。
機体性能に差が無かろうとも、集団戦に於いて必要なのは質よりもまずは量である。
一人の天才よりも、大勢の凡夫が大勢を象るのである。
無理もない。このままでは、グリモア猟兵の見た予知の通りに、彼等は大敗を喫してしまう事だろう。
「でも、今は違う」
戦列の崩壊を見せ始める正にその瞬間、黒い機影が泥濘に降り立つ。
翼のような、外套のようなシールドバインダーを備えた黒いキャバリア、『エクアトゥール』は、その重厚感のある装甲、威容をしながら巨大化したヨーヨー『エクリプス』をギュッと握りしめ、すらりとポーズを決めていた。
黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)は、半ば無意識のうちに、ヨーヨーを手にする無性にポーズをきめたくなってしまうところだが、それでも油断はしない。
「まだ確定していない予知ならば、変えてみせるのが猟兵のお仕事ですね。
今回はゾルダートグラード……獣人の乗る装甲車ですか。
1点突破はこちらとしては戦力が集まってくれる分だけ楽です」
大量の数を前に苦戦を余儀なくされているヴェタイ隊からすれば、摩那の発言は自信過剰もいいところだが、しかしながら一人で戦局を変える事も不可能ではないのが猟兵という慮外の存在である。
それが嘘ではない事の証左であるかのように、鈍重、重厚なパンツァーキャバリアとは異なる思想で組み上げられたエクアトゥールが泥濘を素早く駆ける。
素早い格闘戦を念頭に置かれたサイキックキャバリアは、摩那の念動力次第でその出力を引き上げる。
まるで鎧を着込んだ巨人が舞うかのような軽やかさで振り回すのは、巨大なヨーヨー。その質量そのままに、キャンサーワゴンの一台を叩き潰す。
「さて、どんどん潰していきましょうか」
機動力を活かしたヨーヨーのフレイルのような一撃にも臆さず、キャンサーワゴンは次々と戦力を投入してくる。
これは一人で受け持つには多いか。大口を叩いた手前、引き下がるつもりもないし、倒せなくも無いが、骨が折れる。
余裕の表情は崩れないものの、コクピットの中の摩那はあくまでも冷静に戦力を分析する。
正直な話、全然手が足りないな。
まあ奥の手が無いわけではないが、ここが使いどころだろうか?
かすかな不安が焦燥感を駆り立てるが、それを打ち崩すかのように、激震とも言うべき震動が近づいてくる。
質量を感じさせる重量感のあるそれが、泥を跳ねさせながらスラスターの推力移動で以てキャンサーワゴンの群れの前に立ちはだかる。
それは、壁のような人型。見ようによっては、崩れかかった壁が人のようにも見えるかのようなキャバリアであった。
無機質な装甲に青く光るキューブ、そして武骨なモノアイが敵影を一瞥すれば、それは咆哮を上げた。
「おおおっ! 敵の戦端を受け止め、へし折り殴り返す!
進め、ディスポーザブル!!
自分は、その為の壁だァアッッ!!!」
朱鷺透・小枝子(
亡国の戦塵・f29924)の駆る量産型キャバリア『ディスポーザブル01』は、巨大な騎兵刀を盾にするようにして構えながらキャンサーワゴンの一機に激突し、応射も構わずそのまま押し返す。
パワー任せのその押し合いは、ぎぎぎと機体同士を軋ませる嫌な音を立てるが、シザーハンドと騎兵刀が押し合い圧し合いするのに業を煮やしたか、ずんっとブレードを地面に突き立てディスポーザブルの空いた手が振り下ろされ、装甲車は人員運搬のための空洞をぐしゃりと拉げさせ、炎上する。
「頼れる……む、センサーに感ありですね」
凄まじいパワーを見せつけるディスポーザブルの登場と共に、摩那は予め周囲を警戒させていたドローン『マリオネット』と連動する眼鏡型デバイスに、敵の不穏な動きを検知する。
どうやら、猟兵の助成を警戒したらしい敵勢力が長距離砲で埒を開けようという魂胆らしい。
エクアトゥールのカメラ越しにディスポーザブルを見やると、小枝子も何かを察したらしい。或は勘がそうさせたのか、頷き返した。
暗に、ここは任せろと言ったような気がした摩那は、押し返す壁役を小枝子に任せ、敵後方の位置まで一気に駆け上がる。
「励起。昇圧、目標を確認……加速開始」
そして、その最中に【蒼鷹烈風】を発現、サイキックにより、自在にサイズを変えるというヨーヨーのポテンシャルが更に発揮される。
「撃たせない、撃たせたとしても、逸らして見せますよ」
射程、威力を増幅させたヨーヨーを手に踊る摩那のエクアトゥールが、まさに射撃体勢に入ったキャンサーワゴンを次々と破壊していく最中、その後ろでは、新たな防衛線と化した小枝子のディスポーザブル01もまた、ユーベルコードによって変化していた。
壁として立ちはだかるディスポーザブルの足元を、いつのまにか波が押し寄せる。
【渚の戦端】は、怪しげな靄と共に、ディスポーザブルの姿を複数にしていた。
それは見間違いなどではなく、量産型キャバリアの名は伊達ではないのか、いや、それは押し寄せる波と共に現れたその姿たちは、その波からしてユーベルコードの産物。霊的物質から生み出された悪霊の数々だった。
「此処が、自分達の戦場だ!!」
キャバリアすら悪霊。幽鬼の如く波を割って歩み寄るそのキャバリアの群れたちは壁となり、戦列を組んで各々の武器を振りかざす。
異様に頑丈な装甲に覆われた機体から繰り出される、念動によるフォースウィップ、肩部に内蔵されたホーミングレーザー、背部から展開するグレネードキャノン。
そして重く巨大な騎兵刀による重量に任せた攻撃が、キャンサーワゴンを叩き潰し、押し返していった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フリッツ・バーナー
泥濘と硝煙、鉄火の臭い
敗色濃厚な中で健気に立ち上がる防衛線
この張り詰めた空気感が堪らんな
今の職場では久しく味わっていない甘露だ
指パッチンと同時に空間が避け、現れるバルバロッサ
跪き差し出された手に触れて一体化
背部の推進機構によって飛翔
殲禍炎剣が無いのなら制空権の確保は非常に重要だ
UCで強化された空中機動力をもって敵の頭上を抑えるとしよう
上空より拡散レーザーを降り注がせ、機を見て急降下
腕部装甲を剣のように尖らせ、アームや砲台もろともに敵機を両断
周囲の機体を巻き込むように衝撃波を叩きつける
反撃が疎らな内に再上昇だ
第二波の最新鋭機が待ち遠しい
焦がれる気持ちを抑え、今は
余興を楽しむとしよう
どう、どうと空気を揺らす炸裂音が、もはや幾度となく繰り返された演目のようにまた泥濘の地を震撼させる。
キャバリアの歩む震動か、榴弾の爆ぜる衝撃か、踏み荒らされたデンマークの沿岸を広がる泥濘に溜まる水面が小刻みに飛沫を上げる。
ゾルダートグラードが前線基地として作り上げた鋼鉄要塞の一つを、獣人たちが奪い取ったために、この防衛線は戦火を呼んでいた。
躍進の第一歩からは、防衛の苦渋が待っている。
得難い戦果を上げたからには、そこを足掛かりにできればいいが、圧倒的軍事力の敵を前に奪い返した領土を守るは難し。
『一機やった! ……くそ、まだ居るのか!』
『防盾破損……くそ、運搬車輛如きに押されるのか……!』
白いカラーリングが特徴的な獣人戦線のパンツァーキャバリア、ヴェタイ隊の機体は防衛線を死守すべくおびただしい数のゾルダートグラードのパンツァーキャバリアを相手取っていた。
倒せない相手ではない。敵の武装はそれほど多彩でなく、どちらかと言えば歩兵を前線まで運び浸透させる役割の強い装甲車のような多脚戦車キャンサーワゴンであったが、問題はその武装ではなく数である。
その性能差は大きくはない。むしろ、ここの戦闘力で言えばポテンシャルではヴェタイ隊の機体に分があるかもしれない。
しかし広い防衛線を、限られた戦力で維持するには、絶対的にその数が少なかった。
少数で突撃を仕掛けるよりも、少数で守る事の方が困難である。
薄い被膜のように展開せざるを得ないヴェタイ隊に連携はほぼ不可能。度重なる攻撃を受けて、防衛線は今にも崩壊しようとしていた。
誰かが手傷を負い、それを助けようと駆けつければ、たちまちそこが穴になる。
味方同士で交わされる通信内容も、切羽詰まったものが増える中で、今まさに戦場に穴が開きそうな激しい戦闘空間のど真ん中。
どろどろの泥濘を足場悪そうにしながらも、スーツの男が立っていた。
仕立てのいい革靴はとっくに半ばほど黒々と濁った泥濘に沈み、ズボンの裾を湿らすほどであったが、そんなことはお構いなしとばかりに、男はうんうんと感慨深げに何かを噛み締めるかの如く戦場のど真ん中で空気に浸っていた。
「泥濘と硝煙、鉄火の臭い。
敗色濃厚な中で健気に立ち上がる防衛線。
この張り詰めた空気感が堪らんな……。
今の職場では久しく味わっていない甘露だ」
この上ない鉄火場。常に何かしらの炸裂する音で耳鳴りが止まぬ、苛烈な迄のストレス空間。
焼ける装甲。固い金属同士がぶつかり合い、悲鳴を上げながら火花を散らす音。
草と土と水とがゴチャゴチャに混ぜっ返され、腐り、溶けて、何とも言えぬ異臭を放つ、歩いてるだけで身体を沈め込む様な泥濘からは、死と闘争の匂いがした。
進み過ぎた科学技術と文明の大概の積み上げられた、機知と怠惰のサイバーザナドゥを活動拠点としているその男──フリッツ・バーナー(〝少佐〟・f41014)にとって、戦場の匂いは故郷を思わせるものだった。
猟兵にもいろいろいる。当然、世界を破滅させるオブリビオンを排除するための特効薬である彼等が基本的に免疫的役割を担うからには、その特性の多くは善性に傾くと思われるが、それはあくまでもイメージの話である。
猟兵の是非を問う訳ではないが、その内訳を大雑把に評すなら『善人も居る』というのが実情かもしれない。
世の中には、力の為の力。目的のために手段を選ばず、時には手段が目的化していることもあれば、手段の為に目的を選ばぬどうしようもない者たちも居るのだ。
全身を黒のスーツで包み、繕われた礼儀が形を成しているかのようなフリッツが、脱帽しその金髪と、赤く濡れた様な瞳を細め、こけた頬にかすかな狂気を思わせる様な笑みを浮かべれば、それは既に戦いを求める者の気配に過ぎなかった。
この泥沼の戦場の中で、スーツを着込んだ男の人影など、路傍の枯れ枝にも等しいもので、もはや誰もが気に留めないものである。
しかしながら、ひとたび彼が仰々しい仕草で持ち上げた手を、その指先をぱちりと鳴らせば、その音は激しい戦闘音の中でも不思議とよく通り、位相の異なる空間から彼の愛機を呼び寄せる。
赤黒い装甲の禍々しい姿。自ら意思を持つかのようなキャバリア『バルバロッサ』は何処からともなく空間を押し開いて参じ、フリッツの前に跪いてその手を差し出す。
その手に触れれば、フリッツはすぐさまバルバロッサとの一体化を完了する。
彼の身体は全身義体。その性質は有機と無機の境にあって、機械との親和性が高い。
サイバーザナドゥに於いては、とある企業の荒事専門として辣腕を振るうも、その義体の性能によるものも大いにあるだろう。
しかしながら、彼の闘争のルーツはクロムキャバリアのそれに近いようだ。
【作戦発令:双頭の鷲】により、マシンと合一したフリッツは、周囲の敵味方が唖然とする中を飛び上がる。
戦場をこの上なく喜ぶ振り切れた感情は、そのままバルバロッサのエネルギーとなり、赤黒いオーラとなって発露し、外套のように、翼のような飛行推進機関を用いて空を飛ぶ。
「殲禍炎剣が無いのなら制空権の確保は非常に重要だ」
空を飛ぶに邪魔をするあの恐ろしい目は、この世界にまでは届くまい。
束の間の自由を謳歌するのもいいが、地上を滑走する多脚戦車を相手取るにも上を取るのは何をおいても有用である。
戦車は頭頂部が弱点である場合が多いし、主砲の仰角には限界がある。何よりも、地上を駆ける者と、空を飛ぶ者とでは、その速度帯が違う。
地上最強を誇る戦車は、武装ヘリに対して何もできないとも言われる。それほどまでに、航空戦力とは脅威なのである。
それを示すかのように、バルバロッサの肩部に搭載された拡散レーザーの掃射により、群れを成していたキャンサーワゴンは足を止めざるを得ない。
要塞攻めのための武装では、空中の相手に有効なものがない。まして、戦車砲が狙いを定めるよりもはるかに速く、バルバロッサは空中を行くのだ。
とはいえレーザーだけでは決め手に欠ける。
人員を運ぶための装甲車。されど、伊達ではない装甲車の装甲は、レーザーに撫でられた程度ではきちんと内部にまでそのメスを入れられない。
尤も、バルバロッサを撃ち落そうと躍起になって銃を構えて顔を出した獣人の幾つかは上体を切り裂かれてしまった者も居たようだが。
「戦功に逸るも軍人。よく鍛えられている。ならばそして」
機動力を活かすための多脚。それが足を止めたなら、これ幸い。
遊泳する様に弾道を逸らしていた機動から一転、急降下を敢行し、腕部装甲を剣の如く変化させてそのままキャンサーワゴンにのしかかるようにして両断しつつ着地する。
その衝撃は凄まじく、余剰エネルギーを纏ったままのバルバロッサの激しい降下攻撃の衝撃は周囲に波及し、キャンサーワゴンの群れを分かった。
強力な砲塔が、強靭なシザーハンドが、その人員ごと拉げて潰れる。
なんという悲劇だろう。この戦場に現れさえしなければ、オブリビオンでさえなければ、こうも無残に骸すらも晒さず機械の下敷きになりはすまいに。
しかしこの凄惨な状況にも敵の対応は意外にも冷静。いや、もはや狂っているままなのか。
降り立つと同時に攻撃を加えてきたフリッツに、無事なキャンサーワゴンは、その砲塔を、銃座を向けて反撃の気配をさせてくるではないか。
おお、素晴らしい軍人どもだ。冷静で的確な現場判断。それは狂っているとすら言えるほどに冷徹だ。
撃ち込まれてはたまらんとばかり、反撃を貰う前にバルバロッサは再び飛ぶ。
「悪くない敵機に、悪くない軍人たち。第二波の最新鋭機が待ち遠しい」
バルバロッサの禍々しい装甲の奥で、フリッツは焦がれる気持ちと戦っていた。
悪くないが、まだお替りもくるのだろう。
これが
余興だとしたら、次は何を見せてくれるのだろうか。
素晴らしい軍人たちによる、素晴らしい戦場を堪能し、冷静に対処しながらも、フリッツの胸中は躍るのであった。
大成功
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第2章 集団戦
『アダタラ』
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POW : 支援砲撃
【グレネードキャノン】で射撃している間、射程範囲内の味方全員の行動成功率を若干増やし、敵全員の成功率を若干減らす。
SPD : ガードアタック
【スパイク付き実体盾】を構える。発動中は攻撃できないが、正面からの全攻撃を【盾か排土板】で必ず防御し、【ガトリング砲か盾のスパイク】で反撃できる。
WIZ : 対キャバリアミサイル
【照準】を向けた対象に、【多連装ミサイル】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
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泥濘の中を駆け抜ける、無数の戦車群。
要塞を制圧するための歩兵戦力を浸透させるため、大量に送り込まれたキャンサーワゴン部隊は、簡単に抜ける筈の防衛線に阻まれてしまった。
単純な数で以て、前線を破壊、千々と散ったボロボロの防衛線へと追い打ちをかけるように投入される予定であった最新鋭のタンク型キャバリア『アダタラ』は、鋼鉄要塞までほぼ一直線となる筈だった侵攻を阻まれてしまう形となった。
薄まった防衛線など、騎兵に狩られる残党兵の如く容易く、行きがけの駄賃となる予定だった。
だが、何在ろう。それがどうしたというのだ。
重武装を支える履帯は、全てを踏破する。
湿地の泥濘を踏み荒らすその勇壮たる姿は、あまりにもこの地にマッチしていた。
しかしながら、それは同時に、猟兵たちに違和感を覚えさせるものでもあった。
歩行する戦車として何ら遜色のない筈の『アダタラ』の在り様は、あまりにも先進的過ぎる。
科学力、軍事力に長けたゾルダートグラードの有する兵器にせよ、その設計思想は何かあべこべに感じずにはいられないものがあった。
それは、戦車からキャバリアに転向したというよりかは、元からあったキャバリアという規格に対して履帯を穿かせたという、似て非なる進化を覚えずにはいられないのだ。
それはまるで、数世代先。さながら、キャバリアという兵器が主兵装である世界から、直接持ってきたかのような歪なものであった。
困惑を見せる猟兵たちもいるかもしれないが、迷っている時間は少ないようだ。
この世界に本来存在しない、最新鋭の武器の向かう先は、獣人たちの要塞、ヴェタイ隊の防衛する戦線なのである。
朱鷺透・小枝子
敵だ、オブリビオンだ!
ディスポーザブル!!並べ!進め!!
『破却性ディスポーザブル』
海から無数に浮上するディスポーザブル01群【集団戦術】
【継戦能力】自身も前衛を引き連れ、集団でホーミングレーザー牽制射を掛けつつ、RX騎兵刀で【武器受け】前進、貼りついて叩き壊す。叩き壊せ、
中衛、電磁音波でグレネードやミサイルを【吹き飛ばし】
【ロープワーク】前衛を盾に敵キャバリアを念動鞭で拘束、壊せ。
後衛、【砲撃】火牟須比を叩き込んで壊せ。
進め、壊せ、ディスポーザブル!!!
壊れ果てても、壊し尽くせぇええええ!!!!
広がる海から追加のディスポーザブルを召喚、
更に壊し、壊されながら、この
攻勢を激化させていく
結城・有栖
援軍に参りました。
…あれがパンツァーキャバリアですか?
「なんか違う気もするケド…気にしてもしょうが無いネ。
地面は泥濘んでるから、空から行こうカ」
そうですね。トラウムも準備万端です。
トラウムに搭乗し、シュトゥルムで飛翔して出撃。
まずはUCで風を操り、トラウムの飛翔速度を上昇させます。
そして、照準を向けられないように、【空中機動と残像】を駆使して撹乱しましょう。
ミサイルが飛んできたら、【野生の勘で見切り】、速度を上げて回避です。
隙を見て敵の側面の方に回り、シュトゥルムで竜巻を起こして敵の機体を横転させるように攻撃。
更にガイスト・クリンゲから雷の【属性攻撃】を付与した魔力弾を放って【追撃】です。
重々しい履帯の群れが、泥濘を轟かす。
根腐れを起こした泥沼の植物たちを跳ね除け、踏み潰し、悪路をものともせずに踏み抜いてくる。
あな恐ろしや、アダタラなるパンツァーキャバリアに似て非なる機械の鎧は、重厚な足回りながらも確かにこの泥濘を闊歩する。
「……あれがパンツァーキャバリアですか?」
沿岸部に広がる悪路をものともしないアダタラの群れを前に、結城・有栖(狼の旅人・f34711)は、小首をかしげる。
獣人戦線、ゾルダートグラードと言えば戦車のような鈍重なシルエットのキャバリアと聞いていたが、話に聞いていたよりも洗練されているように感じる。
むしろ、その姿はキャバリア主体の世界から生まれた技術のようにも感じる。
直感的にそう思う彼女もまた、キャバリアに搭乗しての参戦であった。
さて陸路から行くべきか。随分と足場が悪そうだが、
『なんか違う気もするケド……気にしてもしょうが無いネ。
地面は泥濘んでるから、空から行こうカ』
冷静に戦力分析を行う最中、有栖の脳裏に語り掛けるのか彼女の内より生じたオウガこと、オオカミさんの助言であった。
宿主の正気を喰らうとされるオウガブラッドの鬼。しかし、彼女によく似ているらしいオオカミさんとは、なんとも穏やかな共生関係にあるようだ。
だがこの戦場は、どうやら穏やかではない。
わざわざ相手の土俵に合わせてやる必要などないだろう。
幸いにしてここは空を支配されているクロムキャバリアのものではない。
魔女のようなシルエットを持つキャバリア『トラウム』に搭載される風を纏うシュトゥルムシステムにより、泥濘に足をつけることなく空を駆ける。
「敵の武装はわかりますか?」
『いっぱい! どれもこれも、対キャバリア用だネ』
ますますこの世界で作られたようには思えない。
だって、パンツァーキャバリア自体、獣人戦線ではほぼゾルダートグラードの専売特許のようなものだ。
辛うじて獣人戦線もようやく実戦配備し始めたようなものを、それに対抗するための武装を大量に積んだ兵器が、既に大量に生産されているのはどう考えても用意がよすぎる。
いや、考えるのは後回しにすべきだろう。
「前線で既に戦いが始まってますね。機速を上げましょう」
『あいヨー』
既にアダタラの部隊とぶつかり始めた戦線を目指し、有栖はオオカミさんと同調を開始、ユーベルコードを発現する。
穏やかなりとも、オウガの気性は凄まじいものである。その心証を敢えて形に留めるとしたならば、オオカミさんは吹き荒ぶ風。その中心にようやく穏やかな風がある様なものだ。
風の中心にあるもの。【嵐の王】。それと一つになる事で、有栖の操れる風は勢いを増す。
シュトゥルムシステムにもそれは影響し、ぐんと機体速度が上昇すれば、風を切るトラウムの機体がギリギリと軋む様な唸りを上げる。
そのような高速で近づくキャバリアの存在を、最新鋭機に乗り込む者たちが見逃すはずもない。
大口径のグレネードキャノンが、物々しいガトリング砲が、咆哮する様にその銃身を鳴らし、砲火を上げて射線を彩る。
『来るヨー!』
「っ!!」
目視と接近アラート。曳光弾の火のついた様な射線が、機体の脇をすり抜けていく。
だがしかし、数を前にしては接近もままならない。
と、そこへ、唐突に壁のように立ちはだかるキャバリアの影。
朱鷺透小枝子の乗り込むディスポーザブル01の機影は、泥濘に浮かぶ孤島が如く、緩慢ではあったがその耐久性は凄まじいものであった。
その立ち姿のみですら敵機を圧倒し、構えたRX騎兵刀を盾のように構えて砲火の中をひたすらに前進する。
「ディスポーザブル!! 並べ!! 進め!! 進め!!」
小枝子は、兵士である。それも安普請に飽かした使い捨ての兵士。戦うために最低限の頭しか持たず、猟兵として目覚めてしまったばかりに、過分な戦闘力と活動期間を得てしまった。
その存在は既に歪んでしまい、己の肉体が既に滅んでしまっていることにも気づいていないが、そんな気付きは、戦う事には無意味であった。
そこにある限り戦う。兵士として稼働する限り戦う。
悪霊と化した兵士は、悪霊と化した量産型キャバリアを駆り、オブリビオン憎しのもとに、同胞を呼び寄せる。
【破却性ディスポーザブル】。どこからか霊物質の海が彼方より同胞たちを呼び寄せる。
量産型の同系機は滅んでもなお、隊列を組むことを忘れない。
各々の武器を手に手に、壁の如く立ち塞がり、前へ前へと突き進む。
「援軍に来たつもりでしたが、助けられましたね……ここから、改めて援軍です」
「う……あ、味方……? い、いや、目の前の敵……!! 敵だ、オブリビオンだ!! 進め、壊せェ!!」
『混乱させない方がいいみたいだネ。こっちはこっちの仕事をしようかナ』
「わかりました。ご武運を」
戦うことに一生懸命な小枝子の邪魔になっては悪い。
そう判断した有栖、とオオカミさんは、素早くディスポーザブル01の影から飛び立つ。
地上戦は小枝子の機体たちに任せるとして、それでも敵の火力は侮れない。
キャバリア用の兵器と見るなら、幾つかの武装は、こちらに寄せることで小枝子の負担を軽減できるかもしれない。
「敵に狙いを絞らせないようにしつつ、こちらをスピードを活かして……」
『緩急を利用しようカ』
スピード自在のトラウムは、スピードでならディスポーザブルの比ではない。
その速度差は、確実に相手にとって厄介に見えるだろう。
敢えて隙を作ってみれば、より命中確率の高い武装、すなわち誘導ミサイルを使ってくるに違いない。
多連装ミサイル。これをいくつも貰ってしまえば、いくらディスポーザブルとて無事では済まないかもしれない。
『ロックされた。前に出よウ!』
「了解です」
残像を残すような急加速。それとともに、相手方が続けざまにミサイルを放ってくる。
だが、ミサイルは賢いほど、接近戦に弱くなる。
この世界の文明を遥かに超えたスマートミサイルは、接触で爆破などはしない。触れる様な近くにセンサー感知した時に炸裂する。
しかしながら、常識を超えたスピードやメソッドで飛ぶトラウムが、その一群を触れるか触れざるかという際どいラインですり抜けたとき、センサーは相手に接触したものと誤作動する。
結果、相手に触れることなくミサイルは炸裂し、トラウムはまんまと敵陣へと到達するのであった。
「そーれっ」
嵐の王と化したトラウムのかざす手からは竜巻が生じ、泥濘を剥がすかのような上昇気流が、大地をうねらせて、しっかりと地面に食いついていた筈のアダタラの足を奪い、横転させてしまう。
『よいしょー!』
続けて手にした杖『ガイスト・クリンゲ』から雷糸の如き魔力弾を放って、次々と行動不能へと陥らせていく。
それにしても数が多い。
戦車の足ををしているから横転させれば簡単に片が付くかと思ったが、流石にアダタラの完成度はパンツァーキャバリアのような発展途上とは異なるらしく、復帰用のウインチなどの機構が組み込まれているらしい。
また倒れた状態でもなお戦う意志を失わないものは、手にしたガトリングガンの銃口を向けてくる。
「うおお、壊せェ!! 進め!!」
そこへ、ディスポーザブルの一団を率いた小枝子が到着する。
砲火を耐え忍び、無理矢理に前進し、味方をいくつも失い、その度に補充しながら前進してきたディスポーザブルは、トラウムに向くガトリングガンを念動鞭で絡め取り、その冷却装置ごとむしり取って破壊する。
その次の瞬間には巨大な騎兵刀がその動力機関を叩き潰し、物理的に動けなくしてしまう。
キャバリアに対抗するという意味では、ディスポーザブルもまたその枠にある者である。
相変わらず砲火を受けるが、それらは電磁音波で逸らし、或は吹き飛ばす。
そして全身に搭載されたレーザー兵器やグレネードキャノンが、同じように反撃に撃ち込まれていく。
「進め、壊せ、ディスポーザブル!!!
壊れ果てても、壊し尽くせぇええええ
!!!!」
敵と自分にも被害を出しながらも、小枝子は前へと進む。
それはさながらに、この
攻勢を激化させていくかのようだったが、
「止めなくて、平気ですかね」
『敵が居なくなれば、止まるんじゃないかナ』
既に激しい攻防戦の中で、その前進するキャバリアの壁は、なんとも頼もしい存在であった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
黒木・摩那
前座の攻撃部隊は撃退できましたね。
で、次のは何となく先程とは違って、動きがいい感じです。
敵の最新鋭機種でしょうか。
それともキャバリア世界からの輸入品ですかね。
オブリビオンも世界の間で暗躍しているということでしょうか。
新機種を投入してくるということはそれだけ大事な土地ということ。
それだけに撃退すればダメージ大きいですね。
オブリビオンがキーキー言う分には大歓迎です。
キャバリア『エクアトゥール』に搭乗します。
ここは機動力で勝負します。
UC【矢印過流】を発動。自分の進む方向に矢印を配置して、速度アップを図ります。
さらにエクアに『エール・ノワール』を展開。
すれ違いざまの【なぎ払い】をしていきます。
節足動物じみた機構の戦車は粗方片付いた。
それらは数は多いものの、その造りはやや粗削りと言わざるを得ないものであった。
よく言えば実用的。悪く言えば節操がないとも言えるが、その実、悪路を踏破する為ならば実に合理的ともいえる機構であった。
しかしながら、次に投入された戦車型の履帯を設けた脚部をもつキャバリアは、一味違う雰囲気を持っているようだ。
黒木摩那の駆る黒い装甲のキャバリア『エクアトゥール』は、巻き戻したヨーヨーを手元に、けたたましい履帯の奏でるその数を前に、コクピット内からスマートグラス越しに敵の装備やスペックを窺う。
「前座の攻撃部隊と違って、動きが随分いいですね。敵の最新鋭機種といったところでしょうか」
敵の装備や兵装をこれまでの交戦データと参照していくうち、摩那はうん? と小首をかしげる。
最新鋭、過ぎません?
奇抜で卓越したゾルダートグラードの科学力、軍事力は、独特のものがあるようには感じていたが、しかし、アダタラという敵の増援のキャバリアは、パンツァーキャバリアとは系統が違うように感じた。
少なくとも、スマートグラスによるデータ参照から割り出されるものは、どちらかといえばクロムキャバリアの性質に近いものがあった。
卓越した奇抜さよりも、普遍的で機能美に満ちた様な、質実剛健たる堅実さを思わせるデザインは、どうにも画一化された生産性の高さと洗練された合理性の塊に見える。
あれほどの完成度の機体が、あの奇抜なワゴンと同じ戦列に並ぶのは、異様と言わざるを得ない。
もしや、クロムキャバリアの世界から呼び寄せたものなのか……?
オブリビオンも世界の間で暗躍しているということだろうか。
量産型とは言え、少し気合いを入れて相手をせねばならないかもしれない。
「いや、気負うことはありませんね。新機種を投入してくるということは、それだけ大事な土地ということ。
それだけに撃退すればダメージ大きい筈」
相手の機体は、キャバリアすら足を取られてしまいかねない泥濘に対応した履帯を穿いている。
走破性に於いては、エクアトゥールを凌ぐかもしれない。
尤も、それは地上で駆けっこをすればのお話。
空を飛ぶのに全く問題の無い獣人戦線ならば、泥濘とて問題ではない。
「しかし、相手も対空兵器は十分に積んでいるご様子。足回りで翻弄するには、もうひと手間が必要ですかね」
超能力が動力でもあるエクアトゥールは、摩那のサイキックエナジーの出力によって、そのパワーを変動させる。
それは内燃機関もさることながら、外部からのいわゆる念動力にも依るからだ。
スラスター、そして大型の盾を兼ねる両肩のバインダーから、サイキックエナジーから変換した推力を噴射しつつ、エクアトゥールはその出力を上昇させる。
「励起。昇圧。空間イメージ展開。操作開始」
そして更に、【矢印過流】を発現させる。
念動力を一定方向への移動へと限定させることにより、その力の維持を容易により強力にするそれは、敢えて矢印として可視化することで、よりイメージしやすくその力を発揮する。
機体周辺に出現する謎の矢印を目にしたものは不可思議に思うかもしれないが、その矢印の浮かぶポイントに触れたエクアトゥールは、弾かれたように加速した。
『!?』
面食らったのは、アダタラのパイロットたちであろう。
不意に急加速した黒い機体が接近するのに、大口径のキャノン砲で応射するも、その機体の周囲に浮かぶ矢印は、グレネードの弾頭を逸らし、また、加速するエクアトゥールの機体を不自然な方向に移動させたりもする。
「うぐぐ、急展開はちょっと堪えますね。あんまり急なベクトル変換は三半規管に悪いです」
超能力による無理矢理の方向転換は、機体そのものを移動させることはできても、その体格に合わせた高速移動に生身の肉体がびっくりしてしまうようだ。
お腹いっぱいにご飯を食べていたなら、ちょっと危険だったかもしれない。
とはいえ、敵弾を掻い潜り、かく乱するには一役買ったようだ。
「エール・ノワール展開」
シールドバインダーの縁から、サイキックエナジーで形成した光の翼めいた刃が伸びる。
超高圧、超高温のエネルギーの刃は、敵陣を駆け抜け、すれ違うエクアトゥールの両脇の敵機を次々と切り裂いていく。
「展開してもう一周……!」
矢印による急展開を想定していたが、少し考えて、ヨーヨーを敵の一機に搦めてその張力で無理矢理反転する方向にシフトする。
複雑な機動は、もう少し慣れてからでもいい。
そう言い聞かせつつ、摩那は再び敵陣へとその翼を広げて突撃していくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ユリウス・リウィウス
また面倒そうなのが来たな。この泥の海をものともしないか。
じゃあこっちも、それにふさわしい相手を用意しよう。
さっきまで喚び出していたアンデッドの生き残りに、「降霊」でさらに数を増やして、荒ぶる亡者としてぐちゃぐちゃに合成し屍の巨人を作り上げる。
大きさなら絡繰り人形どもにも負けん。さあ、「先制攻撃」を仕掛けろ。
敵味方の区別はしなくていいぞ。溜まりに溜まった怨念をぶちまけてやれ。
一応「集団戦術」「戦闘知識」で屍巨人の進行方向程度は制御する。
殴るなら横か後ろからにしろよ。その方が打撃が通る。
いっそ持ち上げてほかの機体へぶつけてしまえ。
楽な仕事してるって見えるか? あいつらの暴走を抑えるので精一杯だよ。
鳴上・冬季
「踏み潰しがいのある、実によい機体です」
嗤う
普段連れ歩く黄巾力士と共に敵軍の1番後ろまで飛行
「蹂躙せよ、真・黄巾力士」
自分は上空1kmから戦場俯瞰しながら竜脈使い黄巾力士強化
敵の攻撃に対応できるようオーラ防御した黄巾力士を敵軍最後尾に着地させ全長 634mまで巨大化
全力で3回攻撃させる
その後は敵軍をどんどん黄巾力士に踏み潰すよう命じる
「あの戦車型キャバリアは、他の戦線で見かけたことがあります。前面のみの防御力に特化し背面や上部からの攻撃には紙屑並み。ならば、そこを突くのは当然でしょう?」
嗤う
「本来戦車が二次元運用の兵器である以上、前面特化は当然です。…飛べぬとは、実に罪深いことです」
嗤う
「ほう」
「はあ……」
混迷を極める戦線に新たに投入された戦車型の脚部を持つ最新鋭のキャバリア『アダタラ』へのリアクションは、様々であった。
白い機体、此方の戦線を維持するヴェタイ隊の面々は、その大胆な設計思想と洗練されブラッシュアップされたアダタラの完成度を前に厳然たる性能差を痛感しつつ防御行動をとりながらじりじりと戦線を下げるしかない。
何しろ、アダタラに装備されている武器のほとんどは、対キャバリアを想定したようなものばかり。
守りを固める相手には大口径のグレネードキャノンで戦列に穴をあけ、機動力のある相手にはミサイルの雨を降らし、隊列を組んでガトリングガンで尽きぬ弾幕を張りながら前進する。
必要十分と理想を可能な限り積み込んだ、合理性と生産性をつぎ込んだような、まさに最新鋭の機体であった。
これが味方側にあったなら。
そのような苦渋を口の端に並べながら、獣人たちの戦線は後退せざるを得ない。
だがそんな中、一人、生身のまま甲冑姿を泥濘に汚しながら、戦場に立つユリウス・リウィウスは、うんざりしたように嘆息するのであった。
「また面倒そうなのが来たな。この泥の海をものともしないか。なんだありゃあ、乳母車か」
悪路極まるこの泥濘の中を、集団で戦列を成す5メートル規格の鉄巨人を、まさか正面から相手にする気になど全く起きないが、さりとて、この現場をあっさりと放棄するわけにもいくまい。
厄介な場所に来てしまったものだと嘆息すると共に、極めて不利な戦場の中でも戦う戦う手段を模索するユリウスの瞳には、まだ闘志が残っている。
槍衾と剣で打ち合うのみが、黒騎士たるユリウスの戦い方ではない。
先ほどから運用していた悪霊、アンデッド、それらを繰る
死霊術もまた、彼の力である。
それに、幸いにも敵の目標は、相性の不利から戦線を下げざるを得ないヴェタイ隊でもなければ、見向きもされない歩兵の一人に過ぎぬユリウスでもなく……、
先ほどから戦場を支配し始めていた鳴上冬季の空中に展開する黄金色の歩行戦車、黄巾力士たちであった。
「ほう、確かに地理に対しても合理的。潰しがいのある、実によい機体です」
一団を展開する冬季は、空中からの行動を開始する。
数に対する数。砲雷撃戦にも似たぶつかり合いは、上を制したものが勝つとはいえ、弾幕の厚さに然したる差はない。
むしろ、冬季の黄巾力士たちは、徐々に負傷し、撃墜され始めている。無謀な前進にしか見えない無理矢理な距離の詰め方は、せっかく数を増やした歩行戦車たちから火の手を上げる結果となった。
これは、愚策なのか……?
「むう……!」
ガトリングガンによる対空砲火を、危ういところで普段連れている身近な黄巾力士の一機による防御フィールドによって防いだところで、冬季は慌てたように高度を上げて射程外にまで移動する。
「何してんだ……いや、こちら側から近付ける好機ではあるか。奴の事だ、あたら兵を失うような真似はしない筈だが……こっちも仕掛けるか」
ただでさえ目立つ宝貝による戦車の空襲が無残に終わる光景は、どこから見てもインパクトがある。
ややもすると、兵たちに絶望を与えかねない光景だったかもしれない。
が、それまで徹底した用兵で敵を蹂躙してきたような冬季が、そんな無謀で兵を損耗させるだろうか。
ならば、この、設えられたかのような地上戦力への無防備は、派手な交戦からしか得られぬ好機ではないのか。
「日の当たる戦場もあれば、日陰者の戦場もあるってもんだ。起きろ亡者ども。まだ仕事は残っているぞ」
ならばならば、その掌に乗ってやろう。ユリウスは、ワゴンを退けた骸たちに再び呼び掛ける。
鋼鉄の節足に踏み荒らされ引き千切られたアンデッドたちは、もはや再生も難しいような腐った肉塊と化していて、本来の形はおろか、どこからが骨や肉であり、腐った体液と饐えた泥濘との区別も難しいグロテスクなミンチに過ぎなかった。
しかしながら、彼の用いるユーベルコードにより、再び荒ぶる怨念を想起されたそれらは、やがて一つの集合体へと合体していく。
足りないものを余分な泥濘ごと張り合わせて、より強力に、より巨大に縒り合わせて立ち上がる、それは【荒ぶる亡者】として、泥濘の中に立ち上がった。
「さあ、先制攻撃を仕掛けろ。大きさだけなら絡繰り人形どもにも負けん」
巨大に成った屍の巨人。しかしその制御はユリウスをして困難であった。
いくらなんでもズタズタにされ過ぎたというのもあるが、合わせて練り込まれた泥濘が、彼等の接合を脆くしていた。
『オオオオ……』
手を組んで振り下ろす。そのシンプルな動きもどこか鈍重で、その合間に半狂乱に陥ったようなアダタラから砲火を受けて、身体のあちこちから体液とも泥ともつかぬ液体を漏らす。
だが、元から死んでいる巨体は、身体のバランスこそ危うくしながらもダメージはほぼ無い。
何よりも、目に見える空中の脅威に目を奪われていたアダタラ部隊は、アンデッドの奇襲により指揮が乱れてしまう。
「ははっ、甲斐があったというものです」
風火輪を履いて高空へと移動し俯瞰する姿勢の冬季は、その合間にまんまと側近の黄巾力士を敵後方へと送り込むことを成功させていた。
そう、無謀にも見えた前進は、要の戦力を後方へ送り、バックアタックを仕掛けるためだった。
目くらましの為にわざわざ兵を失った。と言われれば、厳しいところかもしれないが、それはユーベルコードで増やした戦力。ならば、この場に適した戦力を、また新たに作り出せばいい。
「蹂躙せよ。【真・黄巾力士】」
号令と共に、忍ばせた黄巾力士は、そのシルエットを巨大化させていく。
黄巾力士は、ただの歩行戦車でもなければ、まして人型をしているとてキャバリアでもなかった。
普段は冬季とそう変わらない体格であっても、それはあくまで彼が仙術を用いて開発した宝貝。科学技術とは全く異なる機能を備えていても不思議ではない。
質量保存も、巨大化に伴う荷重負担も、なにそれおいしいのという具合に無視して、巨大化するままに何ら問題なく稼働し、そしてそれは全長600メートルを超える。
呆れるほど巨大な黄巾力士、いや真・黄巾力士が蜃気楼の如くいきなり背後に出現したことで、ただでさえホラーな泥人形に慌てた戦線は、さらに混乱する。
だが、そんなことなど無視するかのように、黄巾力士は、その巨大な体格をほんの少し躍動させるだけでよい。
ただシンプルに、地団駄を踏むかのように、足を上げて下ろす。
巨大すぎるがゆえに重力バランスの関係でいきなり激しい動きはとれないものの、全力で相手を踏み潰すという、そのシンプルな攻撃は、湿地に地津波を巻き起こさん衝撃と共にアダタラを踏みつけ、容赦なく圧し潰していく。
「やることが派手だねぇ。まあ、こちらは地道にやるさ……っと、そっちはダメだ。踏み潰されるぞ!」
ユリウスによるアンデッドの巨人もまた、混乱する戦線の中でアダタラと格闘していた。
正面から殴り合うよりかも、横合いから、背後からの攻撃の方が通りやすい。
地形に適応しているからこそ、その足回りは安定しているが、怪力で持ち上げてしまえばそんなものは関係ない。
が、別の機体に持ち上げたキャバリアを投げつけたところで、屍の腕がちぎれ飛んでしまう。
「あーくそ、パワーに耐えきれないか。ああ? 楽な仕事してるって見えるか? あいつらの暴走を抑えるので精一杯だよ」
敵を圧倒するよりも、むしろ屍の巨人を制御するのに四苦八苦しているユリウスだが、得心行くものもあった。
それは戦場を俯瞰する冬季も同様に感じている事だ。
「あの戦車型キャバリアは、他の戦線で見かけたことがあります。前面のみの防御力に特化し背面や上部からの攻撃には紙屑並み。ならば、そこを突くのは当然でしょう?」
集団で隊列を組んで、前進制圧を目標としたキャバリアのデザインは、実に洗練されたものだ。
しかしながら、合理性、生産性の名のもとに機能を特化させた機械というのは、どこかしらにそれ相応の弱点が生まれる。
多くの量産型が、特徴のない特徴を持っているのは、汎用性のために突出した能力を封じられているからに過ぎない。
兵器とは、そうそう万能になり得ないのである。
だが然もありなん。
「本来戦車が二次元運用の兵器である以上、前面特化は当然です。……飛べぬとは、実に罪深いことです」
大成功
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フリッツ・バーナー
超大国に新型キャバリアを供与する勢力の影か
確かサイバーザナドゥでも獣人戦線への介入を示唆する情報を得た事がある
多くの勢力から注目を集めるこの
戦場
想定以上に魅力的だ
ますます惹かれるではないか
昂ぶる闘争の歓喜に呼応し、広域兵器『ODE/AN-DIE-FREUDE』が励起する
バルバロッサの口が開き上空より放たれる衝撃波
密集すればするだけ威力も上がる
生き残ったとて、まともに動ける者はそう多くあるまいよ
まさしく陸上戦の花形役者
空を抑えられたあの世界ならば、その性能を十全に発揮できただろうに
戦場が変われば運用のし方も変わる
諸君らは機体の性能差ではなく、指揮官の采配ミスによって滅ぼされるのだ
戦線は後退しつつあった。
最新鋭のタンク型キャバリア『アダタラ』のその洗練された性能は、現状に於いて発展途上であるヴェタイ隊のパンツァーキャバリアの性能を凌駕している。
足場の頼りない泥濘の中で決して不利とはならない筈だったパンツァーキャバリアが、その得意科目で後れを取るのだから、その性能差は想像を絶する開きがあるのかもしれない。
戦車の走破性に、人型の汎用性を兼ねた合理性の塊のようなアダタラを前に、獣人たちは戦線を下げざるを得なかった。
ただ、戦況はと言えば、優勢を保っていた。
それはひとえに、猟兵という助力が何よりも存在感を示していた。
戦局を覆すイレギュラー。それが質実剛健たる戦車の如き部隊を押し戻していたのだ。
……いや、イレギュラー。それと言うならば。
泥濘にはつからぬ空中にて戦場を見ていたフリッツ・バーナー。彼の駆るバルバロッサという、その名の通りの赤黒い装甲のキャバリアは、その身を投じる闘争心を辛うじて抑えつつ、考えていた。
ゾルダートグラードは、強大な軍事力、科学力を誇る超大国だという。他の勢力に先んじてキャバリアという機動兵器に目を付け、それらを運用するだけの能力があるのは間違いない。
だが、誰がそれを唆したのか。
ここ、この戦場に寄越されたこれは、本当にこの世界で生まれたものか?
重苦しい複合金属の装甲の中で、人当たりのいい甘いマスクとして象られたかのようなフリッツの面持ちが、その作り物めいた造形に歪んだ愉悦を浮かべる。
「超大国に新型キャバリアを供与する勢力の影か……。
確かサイバーザナドゥでも獣人戦線への介入を示唆する情報を得た事がある。
多くの勢力から注目を集めるこの
戦場……想定以上に魅力的だ。
ますます惹かれるではないか」
やり手の営業マンを装う、スマートな仮面を崩したところで、それを咎める者は、この狭いコクピットの中には居ない。
常に余裕と包容力を見せる事で円滑なコミュニケーションを図ろうとする、戦略的で落ち着いたカンパニーマンとしては、上ずりを隠せぬその独り言は落第点だったかもしれないが、それはこの戦場、コクピットに一人だからこそ漏れ出た悦びだろう。
いやいや、ここ、この戦場、バルバロッサに乗り込んでいる今だからこそ、戦いの愉悦を隠す事はすまい。
なぜならば、破滅的な思想を齎すとされるこの
オブリビオンマシンには、昂ぶる闘争心、その歓喜に応える動力にして広域兵器『ODE/AN-DIE-FREUDE』が搭載されている。
禍々しい口腔が牙を剥くように開き、上空より戦場へ向けて衝撃波を放った。
ありがとう、戦場。戦いに歓喜する狂戦士が雄叫びを上げるかの如く発した音波兵器は、化学兵器としては半ばオカルトに近い、原始的なものである。
【金星】と名付けられたユーベルコードは、戦場に立ち向かうリートであった。
或は突撃を掛ける号令。或は励起する声。焉んぞそこに在りたれば、戦わずして生きるに非ず。
ありがとう、戦場。生きる意味を教えてくれて。
戦いに魅入られ、敵を圧倒し、勝利するという方法そのものが目的となってしまったものにとって、心はもはや温度を持たない。
鋼鉄の装甲は彼我の温かさを忘れているし、さもなくばお互いがもしかしたら生きてなどいないのではないかという不安に駆られてしまうだろう。
そんなことはない。こんなにも熱く心は昂ぶるではないか。
しかし疑問に思うことなかれ。
敵を打倒し、その返り血を浴びれば、彼我に血が通っている事を思い出す筈だ。
悲しきかな戦闘狂。そのひと時にしか、命を感じることができぬのだ。
そう、僕らはみんな生きている。
戦場の狂気が、一声雄叫びを上げれば、竦み上がる者も居るし、ふと自分が一人の声明である事を思い出し、戦場に孤立したと錯覚するかもしれぬ。
その兵器は、そういった、原始的な恐怖を掻き立てるものなのだ。
広域に放たれた音波兵器による衝撃波は、フリッツの歓喜ほど強力になり、敵を圧し潰し、反響しあい、効果を高めていく。
敵が隊列を組むほどに、それは威力を高めているのだ。
とはいえ、音波兵器などというものは眉唾だ。恐らくは、正面からならばそれを受け止める事も不可能ではなかったかもしれない。
戦車というものは、地上最強。その装甲の厚さで受けて、大火力で応じるのが存在意義である。
が、万能に見えるのも地上という戦場に限定すればの話である。
「まさしく陸上戦の花形役者。
空を抑えられたあの世界ならば、その性能を十全に発揮できただろうに……。
戦場が変われば運用のし方も変わる。
諸君らは機体の性能差ではなく、指揮官の采配ミスによって滅ぼされる」
空の閉ざされたあの世界でならば……。だが、この場所に、この戦場にこそ、その履帯を噛ませてみたいと思う気持ちもわからなくはない。
だからこそ、ならばそして。
恐怖におののき、行動を鈍らせる残敵を、赤いキャバリアは鼻歌交じりに狩りに行くのであった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『ウォーリアー』
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POW : 狩猟無双ノ極意
【ガントレット砲】が命中した敵を【剣槍】で追撃する。また、敵のあらゆる攻撃を[剣槍]で受け止め[ガントレット砲]で反撃する。
SPD : 奇襲ノ極意
【潜伏し、対象からほぼ不可視化した状態】から【必中の奇襲攻撃】を放ち、【奇襲攻撃に対する動揺】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : 狂奔スル戦士
【狂奔状態】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
👑11
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『オイオイオイ、なに立ち往生してんだァ? 戦車つったら、ガンっと突っ込んでボコボコでしょーがよォ!?』
意気揚々と戦場に投入された最新鋭キャバリア『アダタラ』の部隊は、まさかの泥濘の戦列を踏破するのに難航していた。
その多くを撃破され、格下と思しき獣人戦線はヴェタイ隊のちんけなパンツァーキャバリアを圧し潰す事もままならないまま、謎の助っ人集団の活躍によって、戦列を崩壊させるという憂き目にさらされ、ついには指揮官機のアダタラのコクピットから、声を荒げて部隊長を務める男が顔を出す。
パイロット。というには、あまりにも野性味の強いその井出達。
大きく裂けた様な口元が特徴的なアリゲーターの顔つきはもとより、首から下げた多くの頭骨は、それまでに狩ってきた獣人戦線の兵士の者であろうか。
恐らくはキャバリアパイロットには向かぬであろうことは、全身を覆うごつごつとした外皮を彩る戦化粧からも伺える。
実際に、その男はキャバリアを便利な車輛程度にしか考えていない。
キャディに乗り込み、戦場に赴けば、楽しい戦場での狩りが待っている。
複座式に誂えた指揮車輛から飛び出しては、その男は獣人の将校の首と生皮を持ち帰るのだという。
一部ではそのキャバリアとの連携を讃える声もあるが、おそらく彼は己の闘争本能に従うままに行動しているに過ぎない。
『いいじゃあないかァ。狩りの甲斐がありそうじゃねぇかよォ……ガハハ、ちょっくら出てくるぜェ!!』
『ちょお、隊長ォ!!』
指揮官機を実質的に操縦するパイロットの制止を振り切り、男は戦場の狂気に彩られた瞳を爛爛と輝かせて槍を手にして飛び出してしまう。
先進的な武装郡と真逆を行くかのようなその姿を、誰が呼んだろうか。
ウォーリアーと。
ユリウス・リウィウス
わざわざ絡繰り人形の中から出てくるとは、分かってるじゃねぇか、なあ、おい。こっちもいい加減、屍人操りに飽きてきたところだ。剣で決着つけようぜ。
「先制攻撃」で鰐の懐に飛び込み、「恐怖を与える」双剣の「生命力吸収」「精神攻撃」を叩き込む。ここは剣の間合いだ。砲や槍は上手く扱えんだろう。
鰐に不利な位置取りを強いつつ、恐怖が有効なうちに双剣で削りをかける。砲の零距離射撃を受けたらさらに「カウンター」だ。
鰐が双剣に意識を集中した頃合いを「勝負勘」で計って、足払いからの「蹂躙」、名もなき暗殺術で腹を踏み潰す。
おまけに鰐の口を蹴り飛ばすか。
久々に戦いの実感を得られた。オブリビオンにしてはなかなかよかったぜ。
夏も真っ盛りだというのに、内海を孕むデンマークの沿岸部は、異様に冷え込む泥濘地帯であった。
草木も腐って混ざって、踏み固められては押し込まれ、沈んで腐って、土に、泥に還る。
さぞや衛生環境的には悪かろうが、ここが仮に戦地でなくなったならば、大量の死骸と植物を喰らいこんだ大地は肥沃に蘇るに違いない。
この地はまだ死んでいない筈だ。
残すところは、延々と殺し合う怪物どもさえいなければ。
泥濘を踏み荒らす鉄の怪物ども。
履帯を駆って不安定な泥沼すら踏み割ってくる巨大な絡繰り人形ども。
ああ、もう、こいつらにはうんざりだ。
そんな鉄と油の武骨なにおいをまき散らす怪物どもを相手に、死霊術などというオカルトで対抗しているユリウス・リウィウスもまた、彼自身は他にうんざりされていそうなものだが。
戦場とあらば、そこが鉄騎の盛り合う鉄火場であろうとも、甲冑を着込んだ身一つで飛び込む疲れた男は、自慢の双剣を振るう機会は、ついぞ訪れぬかと思っていた。
『ヒャーッハァー!!』
雄叫びと共に泥濘へと降り立って、盛大な飛沫を上げる人影は、奇しくもユリウスより一回り程大きい程度の人のシルエットに似ていた。
それでもかなりの体格だが、周囲を行き交うキャバリアたちは5メートルクラスなのを考えれば、生身に過ぎぬその姿など、取るに足らぬ存在と思った筈だ。
だが、その威容。
鱗のように発達したその表皮は、鱗板というそれこそ
スケイルメイルのように、堅固な河一枚一枚の裏に骨があるという、正に鱗のような皮なのである。
頭部の大半を占める大きな顎と血走った目。それは直立し、武装したワニの獣人であった。
それだけならば、これほどの存在感を持ち得まい。
その異様。
首から下げるのは、幾つもの獣の頭骨を思わせる骨の首飾り。スーベニア。すなわち、記念品であるそれらは、彼がこれまでに狩ってきた獲物の証なのであろう。
何たる酔狂。この時代、鋼鉄の戦車からなる兵器が全盛の時代に、小火器と槍を手に、記念品をぶら下げて戦化粧で染め上げた狂戦士が、その身一つでやってきたのだ。
それができるほどの怪物なのは、猟兵であればその正体がオブリビオンであるからだと納得も出来よう。
だがしかし、それ以上に、ユリウスは、目の前に出現したその酔狂な怪物の一人に対して、安堵と感動を思えずにはいられなかった。
「わざわざ絡繰り人形の中から出てくるとは、分かってるじゃねぇか、なあ、おい。こっちもいい加減、屍人操りに飽きてきたところだ。剣で決着つけようぜ」
『ハッ……!』
両の腰に下げた一対の黒剣を抜き放つユリウスに狙いを定めたかのように、ウォーリアーは口の端を上げて蒸気のような息を吐く。
好戦的な笑みが、ユリウスの誘いを受けた形のようにも見えたが、それを咎める者はこの戦場にはいっぱいある。
『た、隊長ォ! あんまり前に出ちゃあ──』
『お前ェらは、白いのを相手にしな! 作戦を忘れんじゃねェ! 忘れていいのは、俺だけだァ!』
指揮車輛と思しきアダタラが追随するのを、大声で諫めつつ、腕甲に内蔵したキャノンを虚空にぶっ放すと、それに呼応するかのように、戦線を維持しつつ遅滞攻撃に転ずるヴェタイ隊による援護が、ウォーリアーとユリウスとの合間を駆け巡る。
キャバリア同士のぶつかり合い。
しかし、不思議と、最も危険であるはずの生身の二人との合間には、その喧騒が届いていないかのような空間が生まれていた。
巨大な鉄騎同士の戦いの中に、草木の一本、人の一人や二人など、簡単に見逃してしまう。
この威容に感付くものなど、猟兵とオブリビオンをおいて、他に居ない。
迫撃の炸裂する音で、些細な物音など聞こえぬ戦場の中で、泥水が跳ねあがる。
履帯が撒き上げた土砂だろうか。いや、甲冑の駆ける水音は爆音に掻き消され、不安定な足場さえも慣れた足取りで駆け抜けるユリウスの踏み込みは、ウォーリアーの虚をつくものであった。
凡そ、戦車が主流になりつつある戦場で、生身の兵が肉薄する時など、ほぼ戦闘の終わりに差し掛かった時だけだ。
大方の戦場が片付き、掃討に駆り出されるとき、倒れ伏した兵の中に生き延びた埋伏の者が、決死の覚悟で銃剣を手に突撃してくるのだ。
そんなものは拳銃一丁あれば黙らせることができるし、勝敗の決したつまらない戦場の中に、ウォーリアーの居場所など無かった。
だから、はじめから剣を手に突撃してくる時代遅れの騎士など、会ったことが無かったのだ。
時代は巡り、奇妙な邂逅と共に、鎧を着込んだ騎士の勇猛さは、恐怖と歓喜をウォーリアーに齎した。
『ガハハ! いいぜェ、おたく。こんなに恐ろしい相手は初めてだぜェ!!』
幾多の怪物を、その血肉を啜ってきた二振りの黒剣。挟撃めいた先制攻撃を、短く持った槍穂が受ける。
槍と剣とでは、その間合いが異なる。剣道三倍段とはよく言ったもので、習熟の容易な槍に対し、剣は道を究めたとしても、槍の間合いの広さを警戒しなくてはならない。
だが、いったんその間合いの内側にさえ入ってしまえば、剣の間合いで槍は振るえぬ。
剣のように短く持とうと、その柄の長さが取り回しを阻害するものだ。
しかし基本的な技術の習熟こそ容易であるとされる槍もまた、極めたる者がいるもので、不得手な間合いを補えてこそ一流であるとも言う。
狂戦士に技などというものは、我を通す以上のものは無いのかもしれないが、その並外れた戦闘センスは、単純な技の領域には収まるものではないらしい。
確かに、剣の間合いではその槍も、ましてもう片手のガントレットに備えた砲も満足な性能を出せまいが、相手は直立した爬虫類。強靭な筋肉に鱗をかぶせた固い表皮、そして、尻尾があった。
「むぐ!?」
どうっと、脇腹を打つのは、鞭のように撓う強靭な鱗を帯びた第三の武器、長い尻尾であった。
剣で勝負、と言った手前か、やけに剣にこだわるユリウスは、剣槍に受け止められた剣を引き戻すのが間に合わず尻尾の一撃を受けてしまうが、このような人と異なる相手は今に始まった事ではない。
それよりも、間合いを外されて砲や槍を撃たれるのがまずい。
強かに脇腹を打たれたことで息が乱れるが、それに構わずユリウスは引かずにさらに踏み込むことで、距離を離す事を許さない。
『チィ!! いい度胸してやがるぜェ!』
「お前も、な!」
刃と刃、鱗と刃とが幾度もかち合う。
実際問題、型にはまらぬウォーリアーの戦場で培ったと思われる戦い方には一貫性が無く、剣槍、手甲、そして尻尾を絡めた格闘術とも武器術ともつかぬ暴風のような猛攻は、もはや間合いの長い狭いで測れるようなものではなかった。
だが、それに食らいついていくユリウスもまた、相手の攻撃を剣術という型に落とし込んで対処していく。
細かな負傷は重ねているものの、ユリウスの黒剣は魂と血肉を啜る魔剣。相手の生命を吸収しながらであるため、見た目ほどのダメージは負っていないらしい。
二人の攻防は、拮抗しているかのように思われた。
だが、それを焦れたウォーリアーがついに崩そうとしてくる。
『大したもんだぜ、剣術ってのはァ。だが、近距離で撃てねぇとは言ってねぇぜェ!!』
「なにっ
……!?」
強引に剣を受け止めた剣槍と、そしてガントレットの内部の機構が、かちりと駆動するのを聞く。
自身を巻き添えにするのも厭わぬ、至近距離からのキャノンで、まさかユリウスの剣ごと破壊しようというのか。
だが、それをユリウスが読んでいないわけもなかった。
なに! と驚愕に目を見開いたのも、もっと言えば、最初から剣で勝負をしようと持ち掛けたときから、相手の意識を剣に誘導するのが狙いであった。
そしてついに焦れたウォーリアーは、その剣ごとダメージ覚悟でキャノンを撃つ覚悟を決めてしまった。
腕に固定するキャノン。常人が扱えば、容易に肩をダメにするような反動があるだろう。
それは屈強なワニの獣人とて、両足を踏ん張り尻尾でバランスを取らなくてはならなくなるほど。一瞬でも、身体を支えるため硬直せざるを得ない射撃体勢。
がくん、とユリウスの重心が下がる。
泥地に沈むかのように、自ら転倒するかのように身を低くしつつ、上半身の脱力から、移行する体重と筋肉の稼働を迅速に、しぶきを上げるように放つそれは足払い。
剣にこだわっていたその立ち回りからいきなりシフトしたそれは肉弾、これといった【名も無き暗殺術】の一端。
『にゃ、にゃにぃ!?』
耳をつんざくキャノンの銃声とともに、ウォーリアーの視点は真っ逆さまに返る。
ざぱん、と泥水が跳ねあがるのも構わず、転倒した巨体を、ユリウスはすかさず甲冑の一部でもある鉄靴の踵で踏み抜いた。
背には強固な鱗板を背負っているワニだが、その腹部は割と柔らかい。
水棲の獣は、腹膜を伸縮性の高い皮で覆っているというが、鍛え上げられた腹筋を踏み抜くユリウスの靴裏は、確かな手ごたえを覚えていた。
おまけにその巨大な顎も蹴り抜いてやれば、その巨体は泥濘を転げまわる羽目になる。
「久々に、戦いの実感を得られた。オブリビオンにしては、なかなかよかったぜ」
『ブハァーッ!! なァに、勝った気でいやがる……これからでしょーがよォ!?』
泥濘の中から立ち上がるワニの形相は、まだまだ闘志が潰えてはいないようだ。
大成功
🔵🔵🔵
黒木・摩那
あのウォーリアーがコックピットに入っていたと考えるとシュールですね。
でも、なかなか素早いから、こっちもキャバリアでは対応しようがないですね。
ならば、こっちもキャバリアを出てお相手しましょう。
狩りをするつもり出てきて、狩られるとか最高ですね。
ヨーヨー『エクリブス』で戦います。
まずは槍の【武器落とし】を狙って攻撃。それが【剣槍】で受け止められるとして。
来ると分かっている反撃ならば、【カウンター】【念動力】で弾の軌道を反らして回避します。
こっちも反撃。
ヨーヨーで絡めた剣槍ごと本体をそのまま【獅子剛力】で持ち上げて、大車輪でぐるんぐるんです。
最後は泥濘の大地に叩きつけます。
結城・有栖
あれが敵の指揮官でしょうか。
…生身で来ましたね。
「まさに狂戦士って感じダネ。
落とされないように気をつけなヨ」
了解です、オオカミさん。
トラウムに搭乗し、シュトゥルムで飛翔して出撃。
蒼星の書も機体の周囲に展開です。
まずは【野生の勘】で飛んでくる砲撃を【見切り】、【残像と空中機動】を駆使して回避。
避けきれないなら、シュトゥルムの風の【薙ぎ払い】で相殺です。
相手の砲撃の隙を狙い、イバラの魔槍を【念動力】で射出して反撃しましょう。
剣槍で受け止めても、内部に発生するエネルギーの棘で武器ごと腕を串刺しにしてあげます。
敵が怯んだら、反撃に注意しつつ、ガイスト・クリンゲと蒼星の書を使った砲撃で【追撃】です。
歩兵が歩くのに難儀するような泥濘。
その上で、ここを戦場とする戦いの主役と言えるのは、5メートル規格のキャバリアである。
鉄騎の入り乱れる様は、ただの移動ですらも泥をはね上げて、濁った飛沫は視界を覆う。
そんな中に、人の姿など、ほとんど目に映らない。
戦車を乗り回す者にとって、人一人と枯れ木の見分けもつくまい。
しかしながら、そのワニの獣人は、ただの生身にしか見えない筈なのに、その生身が異様に目立っていた。
存在感。とでもいうべきか。
いや、或は、猟兵たちだからこそ、オブリビオンたるその存在を、世界を滅びへと誘うそれに対するカンフル剤としての役割としてか、見逃すまいと目立って見えるのだろうか。
とにかく、猟兵たちには、ただの獣人、この場においては異様に目立つ、場違いなほど原始的な井出達に片腕に砲をくっつけた異様なるワニの獣人の姿が際立って見えるのだった。
「……あれが、敵の指揮官でしょうか」
結城有栖は、乗り付けたキャバリアのコクピットのモニター越しに、ちょっとだけ我が目を疑う。
最新鋭の洗練されたいかにも軍用機と言った様子のキャバリアから飛び出してきたのは、なんというかどう見ても首狩り族のような猟奇的な装いの獣人、おまけに半裸であったのだ。
というか、せっかく乗り付けて来たのに、キャバリアから飛び出してきたのも意図が読めなかった。
「あの格好でコクピットに大人しく座っていたと考えると、シュールですね」
通信を送ってくるのは、エクアトゥールに乗り込んだ黒木摩那。
にこやかながら冷静な口調。しかしながら、想像してしまうと、こみあげるものがある。
いかんいかん、あぶないあぶない。
有栖の習得している想像魔法は、その豊かな想像力に依る。このままでは、危うく、膝を抱いてちょこんと座るワニが生まれてしまいかねない。
『まさに狂戦士って感じだネ。
落とされないよう、気をつけなヨ』
「こほん。了解です、オオカミさん」
一瞬の間だけファンシーな方向に思考が逸れかけていたのを補正され、オオカミさんの助言に感謝しつつ、有栖の面持ちに真剣なものが戻ってくる。
──しかし、この期に及んでわざわざキャバリアから降りてくるということは、生身でもキャバリアを相手に出来るという事だろうか。
考えられることだ。猟兵とて、優れた戦術や常識はずれな魔法、現象すら断ち切る並外れた剣術など、様々な技術で以て、生身でキャバリアを討伐する猛者はいる。
よもや、キャバリアから降りた方が強いなどという怪物が居ないとは言い切れぬ。
警戒する有栖の前に、エクアトゥールの黒い装甲が手で制するのが目に留まる。
そのパイロットブロックが展開し、搭乗していた摩那がその姿を現した。
濃密な戦場の匂いにさらされるその長い髪が揺れ、眼鏡型のサイバーグラスが光を含む。
まさか、彼女も生身で相手にしようというのか。
「おそらく、相手はキャバリアを相手取るのに手慣れているかもしれません。ならば、こちらも向こうの流儀に従いましょう。ただ、有栖さん。貴女はその後ろの警戒をお願いできますか?」
その提案に、有栖は光明を見る。
わざわざ指揮車輛から飛び出してきたからには、生身での戦闘に自信があるのは見て取れる。
しかし、この戦場で主に働いているのは戦車、戦車型のキャバリアだ。
そして指揮官機は複座式。完全に沈黙しているわけではない。
何かの気まぐれで、ウォーリアーが戦車をけしかけてこないとも限らない。こちらが生身での戦闘に応じたその後に、戦車の集団を相手取るのは御免被りたい状況だ。
「後顧の憂いを断てと。なるほど、了解です。でも、うっかり流れ弾が向かうかも」
「それはお互い様ですよ。では、こちらも狩りの時間と行きましょうか」
簡単な役割分担を決め、お互いに余裕が出来たらお互いを助ける形で、戦闘を開始する。
どうっ、と風を纏い飛翔するトラウムが、一歩先に後方の指揮車輛ごと、残りのアダタラ部隊を相手取りながら、ウォーリアーと摩那との戦いに介入できないよう空間を維持する。
『おうおう、物騒なのを持って来やがって。俺の狩りが台無しだぜェ。よぉ、姉ちゃん』
「ふふふ、狩りをするつもりに出てきて、狩られるとか最高ですね」
あちこちから響く震動で、足元に出来た幾つもの水たまりがばちばちと弾ける様なしぶきを上げる。
足場は悪く、摩那とウォーリアーは、ゆっくりと距離を詰めながらも、その足取りは軽くない。
ねばつく泥が想像以上に足元に絡みつき、鍛え上げられた戦士の足でも、功夫を積んで搾り上げられたしなやかな摩那の足でも、素早く駆けまわるのは難しい。
と思うだろう。
摩那の手には、エクアトゥールから降りる際に元のサイズに戻したヨーヨー『エクリプス』がある。
回転を加え、リリースしては巻き取る動作は、一見すると隙だらけだが、どのタイミングからでも後の先を取れるだけの修練は積んできた。
『モーニングスターか。古臭い武器を使うぜ』
「いや、ヨーヨーですよ」
お互いになかなか仕掛けないのは、手の内が読み切れていないからだろう。
大仰なガントレットに砲を仕込んだような遠隔武器を積んでいるにも拘らず、ウォーリアーは意外にも慎重だった。
だからこそ、ヨーヨーの届く間合いにまで近づくのが難しい。
拮抗するような緊張の空間は、そこだけ戦場から来とられたかのような錯覚に陥り、一進一退の駆け引きが生じ始めようとしていた。しかし、それは長くはなかった。
そんなものは、はじめからある様に仕向けた策の一つに過ぎない。
そういうかのように、空間を裂くような一陣の
疾風が戦場を切り裂いた。
有栖のトラウム。それを飛翔させる嵐の如き風の魔力が一陣となって、二人の合間に乱入してきた。
『チィ、やってくれるじゃねぇか!!』
一瞬にして距離感を崩す物理的威力を持った突風にあおられつつも、ウォーリアーはガントレット砲をトラウムに向けてぶっ放した。
踊るように空中を切り裂いて飛ぶトラウムを地上から撃ち落すのは難しいものの、歩兵火力としてはすさまじいガントレット砲の直撃を貰う訳にはいかず、追撃は儘ならない。
だが、最初のタイミングを外すには十分だった。何の最初か。
「せいっ!」
『うおおっ!?』
視線を、注意を逸らすたったの一瞬。それだけの合間に、摩那はようやくウォーリアーに届く位置まで近づくことができた。
水面を歩むは超能力の一端か、はたまた軽気功の鍛錬の賜物か。
とにかく振るったヨーヨーはワイヤーの張力も手伝って回転を生じながらウォーリアーのその大きな顎を下から打ち付け……ることはなく、その手前で大きな剣槍に受け止められてしまう。
『あぶねぇ、こっちを忘れちまうとこだった……ん?』
受けてしまえばこっちのモンとばかり、今度はガントレット砲を摩那に向けるが、そういえば受けた剣槍が妙に重い。
見ればヨーヨーを弾いたはずの剣槍に、高速回転するヨーヨーはワイヤーを絡めて動かなくしていた。
何のつもりだ。という一瞬の迷いが、ガントレット砲を撃つのに躊躇いを生んだ。
その瞬間に、その上肢に茨が突き刺さった。
『な、にぃ!?』
「具現完了……これは、痛いですよ」
【想像具現・イバラの魔槍】それは、有栖の想像から具現化したイバラの魔槍。
植物の様な金属の様なそれは、ひとたび突き刺されば無数の棘を発して、内部から傷つける。
「感謝します。後ろの相手をしながら、よくやってくれました……こっちも反撃です」
二重に拘束されたウォーリアーと繋がった摩那は、すぅと大きく息を吸い込み、丹田に力を込める。
超能力者、黒木摩那は、その力を制御し使いこなすために、色々な知識や技術を身に着けてきた。
凝り性な分、色々な分野にも手を出したが、頭でっかちというわけではなく、その性分はどちらかと言えば実践的だった。
「力場、解放ォ!」
【獅子剛力】それは、捕縛した相手を、獅子の如き剛力で力任せに抱え上げて、振り回すものである。
書いてみると大変に頭の悪そうな字面に見えるかもしれないが、どちらかと言えば瘦せ型の摩那の体格で、いかなる相手をも抱え上げて振り回すのは、単なる膂力のみで為せるものではない。
重心移動、身体操作、呼吸法、などといった物理的な方法だけではない。
ユーベルコードだからと言ってしまえばそれまでだが、重力軽減や念動力などといった、様々な技術の応用と連携が複雑に絡み合い、ようやく少女に金剛力を備えさせているのである。
ただまぁ、そんだけつめこんで、やる事が相手をぶん回す事なのかと言われると……まあ、細かい事はいいのだ。
「とりゃああっ!!」
『いーでででで!!』
茨で身体を突き刺されながら、ヨーヨーのワイヤーでぶんぶんと振り回されるウォーリアーは、さんざん景色が回るのを堪能したのち、泥濘に叩きつけられる。
百獣の王とて、川辺に潜んだワニに引き込まれてはひとたまりもないと言われる。しかしながら、この獅子の如き少女は、それすらもぶん回す。
『追撃、まだ終わってないヨ!』
「は、そうですね」
どぱーん、と水飛沫を跳ね上げるウォーリアーに対し、ちょっとだけぼんやりしていた有栖は、すかさず魔法の自動砲台『蒼星の書』、トラウムの手に持つ魔法の杖『ガイスト・クリンゲ』から次々と魔法弾を放ち、追い討ちを仕掛けるのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鳴上・冬季
「そのハンドガンは悪くない。実に私好みです」
嗤う
「大変気に入ったので、貴方の剥製ごと愛でて差し上げよう」
嗤う
「粗野粗暴な貴方に敬意を表し、忘れえぬ悪夢を進呈しましょう。…紡げ、蜃夢」
自分は風火輪
黄巾力士は飛来椅で飛行
黄巾力士は砲頭から火行の徹甲炸裂焼夷弾
金磚から火行の誘導炸裂弾連射
鎧無視・無差別攻撃で敵を蹂躙する
自分は空中で雷公鞭振るい雷撃
「雷公鞭は宝貝ですし、黄巾力士は存在からして宝貝です。一方的に嬲られる理不尽など、今の貴方は理解できないでしょうが」
嗤う
敵の攻撃は黄巾力士はオーラ防御で防ぐ
自分は仙術+功夫で縮地(短距離転移)し回避
「戦傷を縫い合わせた剥製はさぞ見応えがあることでしょう」
嗤う
黒く冷たい、腐ったような発酵したような泥濘の中で、車のような人のような戦車たちが踊り狂う。
ここはなんというどうしようもない戦場なのだろうか。
鉄騎に踏み荒らされ、人も植物も、その鉄騎の残骸ですら飲み込んで、この泥濘は底なし沼のように広がる。
だが、それはそこに在るだけのもの。争いを持ち込んでいるのはあくまでもオブリビオンという悪意と、そしてそれに応戦する世界に住まう人々のみ。
本来ならば戦場にそぐわぬこの泥沼のような湿地にも兵を送り込む羽目になり、そうする事が可能になった理由とも言うべきキャバリアとて、何者かが此処ではない世界から呼び入れた技術であった。
こんなところを戦場に出来てしまうほどに、獣人の世は乱れてしまった。
この戦場が原因で命を落としてしまった不幸なる軍人も少なくないだろう。
敵弾ではなく、環境によって命を落としていった者たちの無念は、さぞ深かろう。
それでも、誰かの平穏を背負って命を張る者たち。その魂の輝きは美しい。
そして、そんな健気な獣人たちをあざ笑うかのように、荒々しい暴力が形を成したかのような浅ましい者共もまた。
鳴上冬季にとっては、興味を引く存在であった。
『おうおう、上っから楽しそうだなァ、おい!』
敵勢力の最新鋭機、アダタラを背後からぶつけることで多くの敵を破壊した冬季は、そのために多くの兵を犠牲にする事となった。
といっても、彼にとっての手駒である黄巾力士の多くは、ユーベルコードによって増産された歩行戦車に過ぎないため、普段連れている個体が健在である以上、また暇暇を見つけてお手入れという名の改良・改修を重ねる事となるだろう。
今度はどんな風に仕上げてみようか。
『おい、テメェだよ、すかし野郎!』
「ああ、失礼。もう次の事を考えていました」
湿地の泥と戦化粧でまみれた敵指揮官のウォーリアーなるワニの獣人は、風火輪を履いて上空から黄巾力士へ指示を飛ばす冬季に目を付けたらしい。
火薬と硝煙、泥濘に腐って混ざる草木の独特の匂いの中でも、冬季は涼やかな笑みを絶やさない。
人並外れた様な美青年が口の端を上げて微笑む様は、対峙する者にとっては見下されているようにも感じるだろう。少なくとも物理的にはそうなっているが。
『おたくのお陰で、こっちゃあ大損だぜ。一丁、死んでくれや!』
崩れ落ちたアダタラの残骸の一機に素早く飛び乗っても、その槍穂の切っ先が冬季に届くとは思えない。
いや、オブリビオンの身体能力は侮れず、その距離からでも攻撃を仕掛けてくることは可能かもしれないが、それよりももっと簡単で直接的なものがある。
そう言わんばかりに、大仰なガントレットに備え付けられたキャノン砲の銃口を向ける。
それはさすがに注意せねばならない。が、冬季はその銃口が向けられて尚、笑みを崩さない。
「そのハンドガンは、悪くない。実に私好みです。
大変気に入ったので、貴方の剥製ごと愛でて差し上げよう」
『なんだァ、結構話せる奴じゃねぇか。っはは、くたばれッ!』
にたり、と巨大な顎を開くとウォーリアーのそれは笑ったようにも見えた。
そして、大口径のキャノン砲が火を噴くが、その瞬間を見ていた冬季は、風火輪の火を落とし、一時的に航行を止めるととともに、空を蹴っていた。
脱力からの瞬発。仙術と功夫を組み合わせた軽功と術式は、身体操作にも応用が利くのか、さながらに瞬間移動のようにも見えたかもしれない。
そして、冬季が姿を消したかのように素早く銃弾を見切った次の瞬間には、辺りからもくもくと深い靄が戦場を覆い始めた。
「粗野粗暴な貴方に敬意を表し、忘れえぬ悪夢を進呈しましょう。……紡げ、【蜃夢】」
どこからともなく響く、冬季の声に、ウォーリアーは只ならぬ気配を感じ、周囲へ向けて当て勘でキャノンを再び撃とうと試みるも、どういう訳か弾詰まりを起こす。
『チィ、なんだってんだ、この霧は』
蜃気楼の語源ともなったとされる伝説。蜃とは、幻を見せる霧のような気を吐く、龍ともハマグリとも言われる伝説的な生物と言われている。
巨大な龍が煙と共に楼閣を出現される図は、主に大陸に数多く存在するという。
その名を冠した【宝貝・蜃夢】は、霧の包む戦場の中を、蜃が見せる夢の中の封神武侠世界に変換する大規模なものである。
その夢の中では、ある法則があり、宝貝以外の攻撃は、著しく成功率が落ちてしまう。まさに、宝貝のための世界である。
この世界には恐らく宝貝を武器にする者たちはいないだろう。
そして、今この戦場に限って言えば、冬季の用いる武装の大半は彼自身の手によって作られた宝貝である。
「黄巾力士、行け」
黄金色の歩行戦車が、飛来椅を装着して飛行し、霧を押し進むように進撃し、その砲塔が火を噴く。
手にした携行火器『金磚』からは、火行の術式が施された誘導炸裂弾。それら、一見すれば近代兵器のようなものも全ては、宝貝から成っている。
『くそぉ! なんで、弾が出ねぇ!』
霧の中で、砲弾を浴びせられ、それに反撃しようにもキャノン砲は言うことをきかない。
肉弾戦を強いられるウォーリアーは、黄巾力士の無差別攻撃を前に、防戦を強いられざるを得ない。
そして、追い込まれたところを、冬季自身が振るう雷公鞭による雷撃を、ついに直撃してしまう。
「おっと、この雷公鞭も宝貝。黄巾力士は存在からして宝貝です。一方的に嬲られる理不尽など、今の貴方は理解できないでしょうが」
『うぐぐ!! ち、ちくしょうッ!!』
「戦傷を縫い合わせた剥製はさぞ見応えがあることでしょう」
幾多の戦場を我が物顔で駆け抜けてきたウォーリアーの鱗は、冬季と黄巾力士の猛攻の中でもなかなか折れないタフさを誇る。
それだけに、得られるであろうその皮の価値を思えば、和やかな笑みを浮かべずにはいられないのであった。
大成功
🔵🔵🔵
フリッツ・バーナー
興奮に浮かされ突出するも戦場の花
それを完膚なきまでに叩きのめすのも心躍る
余さず
堪能させて頂こう
引き続き高度を維持してUC発動
圧倒的な威圧感で戦意を挫き身体を竦ませる
操縦担当者は指一本動かせなくなるだろう
さあ、どうする?
自ら操縦桿を取るかね
それとも自力で駆け登るか
本能が警鐘を鳴らす恐怖に打ち勝てるのであれば、だがね
無力化してしまえば制圧には2分と掛からん
キャバリアから降りているならバルバロッサで踏みつける
搭乗しているなら、剣の如く尖らせた腕部装甲でもって機体ごと両断してくれよう
狂戦士の語源は〝鎧を着ない者〟だそうだ
野蛮なのも嫌いでは無いが、ドレスコードくらいは弁えたまえ
ヴィリー・フランツ
「
Sally Forth Marin!Jump、Jump!!」
心情:すまん、出遅れた!これより攻撃を開始する。
手段:【宇宙海兵強襲部隊】を召喚、早急に隊員を降下させ展開させる。全軍で後は撃って撃って撃ちまくるだけだ、下は泥炭地、いくら水生に適応したワニ獣人でも動き難いだろう。
もしも背後のタンク型キャバリアが援護するなら携帯ロケット砲海兵分隊を差し向け妨害させる。接近されたら同士討ちを避ける為射撃を中止、各自白兵戦装備にて迎撃。
俺もブルパップ式小銃に銃剣を着剣して待機、部下が相手にならないなら俺が相手になってやる
野蛮人が!
戦場。その形態は実の様々で、馬鹿のように勝ってしまう戦いもあれば、ひどい環境の中で延々と留まる事を強いられるような地獄のような戦いもある。
戦いは勝てている時が一番充足している。一般論である。
しかしながら、勝てている時が一番、油断してもいる。
正気を見出し、それに邁進している時こそ、まずは立ち止まって現状を把握し、冷静に状況を分析、判断しなくてはならない筈だ。
それも一般論だ。
だがしかし、現実問題としてどうだろう。人はそれほど冷静でいられるだろうか。
命の奪い合いの最前線、その戦場という坩堝は、狂気と激情の渦巻く坩堝だ。
そんな中で火かき棒の如く変わらずにいられるだろうか。
いかに優れた兵士であろうとも、生き物である以上は疲れもするし興奮もする。
戦場に於いては、それを力とする者すら居る。
そして、この戦場に戦いを持ち込んだ指揮官、ウォーリアーは、気を昂ぶらせて戦意を高めることで、その生存性、戦闘力を飛躍的に上昇させる。
キャバリア主力の戦場に於いて、そのキャバリアを破壊できる猟兵がいるように、彼もまた、生身でキャバリアを殺傷しうる力を持っているのかもしれない。
そう思わせるほどに、その存在感は大きなものであった。
恐ろしい。なんという恐ろしい相手なのだ。オブリビオン。
空中、戦場を見下ろすほどの空にいるキャバリア、オブリビオンマシン『バルバロッサ』のコクピットの中で、しかしフリッツ・バーナーは作り物のように整った顔に歪んだ笑みを浮かべずにはいられない。
強敵なのだろう。恐ろしい相手なのだろう。しかし、なんと迂闊な戦士なのだろう。
しかししかし、それもわからなくはない。理解できてしまう。
何故ならば──、
「興奮に浮かされ突出するも戦場の花。
それを完膚なきまでに叩きのめすのも心躍る。
余さず
堪能させて頂こう」
何故ならば、戦場の愚かしきを、虚しさを、その昂揚を、フリッツは愛してやまぬ男だからだ。
満足のいく戦争ならば、たとえそれが見るに堪えぬ敗戦であろうとも、その営業マンの建前で塗り固めた顔からは興奮を禁じ得まい。
『おう、降りてきやがれ、血豆野郎ォ!!』
地上戦に於いて効力を発揮する最新鋭量産型キャバリア『アダタラ』の上に陣取り、ウォーリアーは銃弾の飛び交うような戦場の中でも聞こえるほどの大声を張り上げる。
赤黒い装甲のバルバロッサは、近接戦闘を仕掛ける時にしか降下しない。
また、先ほどの戦いで音波兵器を用いていたためか、戦えるアダタラは随分と少なくなってしまった。
しかしまだ全てが行動不能に陥ったわけではない。
やはりというか、空中に陣取るフリッツの存在は戦車にとって目の上のタンコブ。優先的に攻撃目標とすべく、ウォーリアーのガントレット砲がバルバロッサへと向く。
それに合わせて対空機銃の砲火が空を染めるが、十分に高度を取っているバルバロッサに対して有効な打力は確保できていないようだ。
「まだ動けるのがこんなにいるとは。こういう時は何と言うんだったか……まだ動ける奴はオブリビオンだ。その上でまだ反撃してくる奴は、よく訓練されたオブリビオンだ。
まったく、戦場は地獄だなあ」
まだまだ、動力源を兼ねる音波兵器を喰らい足りないらしい。そう判断したフリッツが、対空砲火の中で再びユーベルコードを使用する段階に入ったところで、ふと上空から未確認の反応が出現したのに気づいた。
それは宇宙船、コンテナめいた流線形の、航空力学的な要素を廃した乗り物のように見えた。
まるで、重力など存在しない場所を前提としたかのような、あらゆる状況下でも展開可能な輸送船、いや、揚陸艇か。
敵の増援か? と、訝しむフリッツであったが、識別信号、というより直感的なものが、それらの存在が猟兵によるものである事がわかった。
「なんだ、味方か……」
そう残念な声を上げてしまうほどには、その出現から展開までの素早さは、見惚れるものがあった。
戦場の空に突如として現れた飛行型強襲揚陸艇は、ユーベルコードによって呼び出された【宇宙海兵強襲部隊】のものであった。
激しい対空砲火の中を、迅速に降下し、一定の高度を保ったまま次々と重装甲気密服で武装した兵たちを吐き出していく。
「
Sally Forth Marin!Jump、Jump!!」
ヴィリー・フランツ(スペースノイドの傭兵・f27848)は、それら亡霊となり果てた同胞たちに混じり、檄を飛ばしながら自らも降下する。
情報伝達のミスが重なり、参戦には遅れてしまったが、まだ叩ける戦場があるならば幸いである。
レーザーライフルやロケット砲を装備した兵たちがぞろぞろと、ケツをシバかれた昆虫もかくやという迅速さで、泥炭地を駆ける。
「ふふ、はは……いやいや、つくづく、味方なのが勿体ない。が、仲間割れをするわけにもいかんな。こちらも仕事をするとしよう」
よく訓練され、きびきびと機能する様は美しい。戦場で兵士が威力を発揮し、命を燃やす様は美しい。
戦場に生きる傭兵のヴィリーと、戦場を喜ぶフリッツとでは、似ているようで致命的に違うものがあるのかもしない。
しかしながら、その機能美、技術は称賛に値する。評価せざるを得ない。
今こそ、彼等海兵の活躍の場をお助けせねば。
そうして、フリッツの乗り込む怪物のようなキャバリアは、恐ろしい怪物がその顎を開くように再び兵器の砲口を開くのだった。
【作戦発令:衝撃と畏怖】。圧倒的な威圧感。音波による衝撃が、オブリビオンマシンを襲う。
空気に波が見える程の衝撃波は、しかし鉄騎はおろかヴィリーたちのいずれにも手傷を負わす事は無かった。
だが、それは、着実に敵に効果を発していた。
『うぐぐ、おい! どうした、撃て! 撃たねぇか、ボケナスども!』
恐怖を想起させるバルバロッサの咆哮を聞いた者たちは、身体を動かす程度の意志すら恐怖で竦み上がらせてしまう。
ウォーリアーですらも、その身の表面に静電気が奔るかのように身体の反応を鈍らせる。
キャバリアの操縦を担当していたアダタラのオペレーターなどは言うまでも無かった。
「砲火が止んだな。さあ、どうする?
自ら操縦桿を取るかね。それとも自力で駆けあがってくるか。その恐怖に打ち勝てれば、だがね。
急ぎたまえよ。こうしている間にも、君の足元には恐ろしく優秀な海兵が迫っている」
『ヌオオ、なめんじゃねェ!!』
「ほう?」
バキバキと筋肉を隆起させるウォーリアーは、その戦意を高めることで自らが法律であるかの如く恐怖による呪縛を振り切る。
そして、本能的な行動は、指揮者として実に効果的だった。
なんと、ウォーリアーは指揮車輛のコクピットをこじ開け、竦み上がっているパイロットを思い切り蹴りつけ、その勢いで対空砲を無理矢理撃たせたのであった。
無論、そんな無茶苦茶な方法で撃たせたものが、バルバロッサを捉える事など無かったが、咄嗟に回避を選ばせる程度には、意外な手法ではあった。
「後ろのタンクキャバリアは動く様子がない。今のうちに行動不能にしておくのが確実だ。ロケット砲で仕留める。その後、各自白兵戦用意」
強襲部隊に指示を飛ばしつつ、ヴィリーは油断なく敵指揮車輛周囲を視野に入れっぱなしにしておく。
相手取っている奴が仕留めてくれるならいいが、いざというときは。
と、ブルパック式小銃に着剣しつつ、白兵戦の用意をしておく。
一方のフリッツは、咄嗟の砲撃をひらりと風に乗るように身を翻して回避しつつそのまま降下する。
全身から溢れる赤いオーラ、そしてその外部装甲は、飛行と戦闘の為に形状を変える性質がある。
猛禽の鉤爪のように変形した脚部装甲が急降下の勢いのまま指揮車輛を踏みつけると、飛び退いたウォーリアーが泥水を跳ね上げて着地する。
「
狂戦士の語源は〝鎧を着ない者〟だそうだ。
野蛮なのも嫌いでは無いが、ドレスコードくらいは弁えたまえ」
『あぁ? 歴史の先生か、てめぇはよォ!!』
「そうだな。そんな奴は、
野蛮人で十分だ」
全身を刃のような装甲で覆うバルバロッサと、ウォーリアー。
そして、着剣した小銃を抱えたヴィリーとが、泥沼の戦場でかち合う。
この状況に至っても、一片たりと敗北を想定しない戦士の高い戦意に。
フリッツは感激を覚え。
ヴィリーは、面倒だなと心中で嘆息するのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朱鷺透・小枝子
こいつが敵だ!壊せ!!ディスポーザブル!!!
ディスポーザブル01引き続き【操縦】
追尾光線【レーザー射撃】からのRX騎兵刀【重量攻撃】
【怪力】でウォーリアーの剣槍と打ち合い、【継戦能力】
ガントレット砲は装甲で受け、重装甲にまかせて押し切らんとする。
カァ゛
【結界術】狂奔スル戦士の猛攻を受けながら己が│【闘争心】≪破壊衝動≫を奮い、展開した│小異空間≪霊障怨念結界≫の【念動力】で重圧を掛け、絡め取り、固定。
ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛
!!!!!
【早業】『禍成贋』胸部より大災害霊障、雷属性台風、放射【マヒ攻撃】
台風で空へ無茶苦茶に【吹き飛ばし】、雷で焼き焦がし、【追撃】
呑み込み、壊し尽くせ!
大災害霊障、広げ続けていた霊物質の海と、大地の泥濘を合体。大地属性の泥海の大津波を引き起こし、ウォーリアごと残存するい敵を呑み込み、深く、泥海の底へ深く深く沈めて泥で動きを封じ、【呪詛】霊物質を塵壊への変え、泥海の中の敵を呪い│崩壊≪こわ≫す!!
泥の底に、沈んで果てろ!!オブリビオン!!!!
長い長い戦いにさらされたこの地は、嘗ての自然の在り様を変容させ、踏み潰され、磨り潰されて湿原と混ざり合わさり、腐り腐って尚も戦火の中にあり続けた泥濘。
あと数十年もこんなことが続けば、立派な泥炭がこの地を黒く染め上げて、もしかしたらピートを採集して、名産のウイスキーにでも使われるのかもしれない。
そうでもなければ、この地が泥と死肉を喰らい続ける意味とは何なのか。
いくつもの戦車と、戦車のようなキャバリアたちとが、死線を交わし、壊し壊され、そうして築き上げられた泥の中で、既に多くの傷を負った敵の指揮官ウォーリアーは、戦意を失わぬまま、しかし嘆息せざるを得ない状況にも陥っていた。
『やれやれ、クソどもがよォ……チョロチョロと、鬱陶しいぜ』
燃え落ち、炎上する細心のキャバリア『アダタラ』たちの余力はもはや潰えたところ。
既に一兵となり果てたとも感じ取れるほど、周囲に聞こえるのは砲弾のけたたましい音よりも、風の音の方が多いほどだ。
『笑わせるぜ。こっちが狩られる側たぁなァ……』
しかしながら、疲労と手傷に染まる手に握る剣槍の力は衰えず、少しの敗北感も無かった。
いつだって、首を狩り、そのために生身で戦場を駆け抜けてきた。
いつでもうまくいっていたわけではないが、いつだって自分のやり方を通してきた。
いつか唐突に終わりがやってくるのだとしても、そこに自分らしさがない終わり方をするわけにはいかない。
誇りがあったりするわけではない。ただ、こうでなければ、息もできないのだ。
『さて、次がおいでなすったかァ……クソどもがよォ』
勝てど負けるども、どちらでもいい。
この歓喜の時間の中にいられればいい。
燃え立つ戦場の中で、ひときわ大きな足音が近づいてくる。
朱鷺透小枝子の繰る量産型キャバリア『ディスポーザブル01』の悠然たる歩みが、燃え上がる湿原をかき分けてやってくる。
その優雅にすら見える歩みの中でも、小枝子の戦闘へと駆り立てる兵士としての本能は、その頭を沸騰させんと煮えていく。
戦いの中で燃え尽きる事すら厭わぬ使い捨ての兵士として作られた小枝子に、後退や帰還はほぼ考えられていない。
戦う事のみを叩き込まれた脳味噌は、そのためだけにフル稼働し、そのために備え付けられた人工魔眼やサイキックは、その度に彼女の身体を蝕んでいくが、猟兵となってしまったその肉体は、容易に朽ちてはくれない。
もはや肉体が既に失われ、悪霊となってしまっていても、本人は気づかぬまま、幸か不幸か戦い続ける日々を繰り返す。
疑問を抱かないではない。死ぬ思いで戦い続けることが、そうそう何度も出来ているのは、どうしてだろう。
だが、一体でも多くのオブリビオンを破壊できる機会が訪れるのは、彼女にとってのアイデンティティ。存在意義とすら思っていた。
戦いに身を投じる日々、その瞬間瞬間にこそ、自身の命題が課されている明確な意味を感じる。
敵が居る。倒さねば。
「こいつが敵だ! 壊せ!! ディスポーザブル!!!」
力の限り、前進する。今はもう、それしか考えられない。
どうして心臓が意思とは別に動いているのか、なんていうことをわざわざ考える奴はいない。
敵が居る。倒さねば。
『いいぜ、来いよ。もう部下も誰も居ねェ。好都合じゃねぇか!』
狂奔する戦士の咆哮が、その体躯を覆う鱗を、筋肉を隆起させ、泥濘の中にあって尚、駆ける足は素早く、血走る瞳と巨大な顎から溢れる涎はもはや正気を思わせない。
飛び掛かり、振りかぶる剣槍の一撃など、本来ならばディスポーザブルとの体格を思えば、物の数ではない筈だが、騎兵刀で受ける筈のそれは、大きく大刀を持つ手を弾く。
キャバリアの巨躯をも圧倒する剛力は、もはや一体の獣人の枠を超えているのかもしれない。
牽制のレーザー砲を受けながらも、尚も止まらずガントレット砲を撃つウォーリアーはもはや痛みすら感じていないのか。
装甲を穿つキャノン砲の衝撃を受けて、あろうことか小枝子の方が先にダメージを気にするほどであった。
だが、彼女が気にするのは戦闘続行可能かどうかという事のみ。
恐ろしい存在だ。このまま猛攻を受け続ければ、堅固なディスポーザブルとて、圧倒されかねない。
一瞬の攻防で、戦闘に特化した小枝子の頭脳は、正気と狂気の狭間で次の戦略を即決する。
これを後逸させるわけにはいかない。ここで何としても仕留めなくてはいけない。
自分ごと、こいつを倒さなくてはならない。そんな自爆的発想が、彼女の戦場を加速させる。
「カァ゛」
【禍成贋】。それは、今の彼女を構成している怨念そのものか。あるいは、彼女を拠り所として集まってきた怨念によるものか。
一介の兵士、少女が抱くにはあまりにも巨大に成り過ぎた破壊衝動が構成する結界術。
その結界の中は、大災害を引き起こすほどの霊障で吹き荒れる。
彼女を、ディスポーザブルを取り巻く
小異空間の内部は、数多の自然現象にも似た大災害霊障を引き起こしていた。
『ハハッ、ひでぇもんを抱えてやがるなァ! 俺もお前も!』
「ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛
!!!!!」
いくつもの稲妻の駆け巡る台風のような異常気圧の暴風の中で、小枝子の駆るキャバリアと、ウォーリアーとがぶつかり合う。
そのどちらにも正気はないのかもしれないが、そのどちらにも時間的猶予はなさそうであった。
そして、そんな環境の中で、生身で戦い続けるウォーリアーが戦えていたのも、ほんのひと時。
無茶を重ねて奮い立たせ、狂奔する戦士の肉体は、複合金属の装甲より遥かに脆い。
迸る雷光に幾度も晒され、その身は焼け、血肉が爆ぜる。
『ちきしょう……嬉しいもんだぜ。戦いってのはよォ
……!!』
ぶつかり合う暴風の中で、ついにウォーリアーは台風の風に身体を取られ吹き飛ばされてしまう。
そこでウォーリアーの意識は途切れてしまったが、大災害霊障はそれでも止まなかった。
この戦場にはまだ、多くのオブリビオンマシンの残骸が残っている。
ディスポーザブルの出現と共にその足元より広がっていた霊物質の海は、災害を纏う結界の中に生じる台風に、まるで渦潮の如く吸い寄せられ、その臨界は程なくして訪れた。
「呑みこみ、壊し尽くせ
……!!」
泥濘に沈むアダタラやキャンサーワゴンといったオブリビオンマシンをも巻き込んで、そうして強烈な呪詛を送り込んでそれらを押し流し、圧壊させながら、それらを抑え込む結界も程なくして質量と運動量に耐えきれなくなって決壊する。
ディスポーザブルの影響の及ぶ霊障災害は、そこから離れると塵芥となり果て、消し去ったオブリビオンマシンなど最初からなかったかのように、波が湿原を潤わした。
猟兵ゆえに、その敵の存在を感知できなくなった事を思い至ると、小枝子の戦意は急激に失せていく。
限界まで回し続けたエンジンが、火を落としてもからからと駆動するような脱力感。身体が重くなるような感覚に抗えず、コクピットの中で首をもたげる。
「泥の底に、沈んで果てろ!! オブリ、ビオン……!」
脳を焼くような闘争心も、赤熱する魔眼も、急速に温度を失っていくかのようだった。
もはや敵はいない。戦闘行為は即刻停止せよ。
油断なく周囲を警戒するべき兵士の本能と、極限まで疲労する肉体とが焼け付く脳を億劫にさせる。
周囲はしばらく水浸しの泥濘のみが残っており、破損したヴェタイ隊の機体も、どうやら引き上げるらしい。
それに合わせて、猟兵たちも帰途に就く。
やがて間を置かずに、ゾルダートグラードの軍勢が、ふたたびこの地を戦火に染めるかもしれないが。
水面で埋もれるこの地の、今この時間だけは、穏やかな風が吹き抜けるのであった。
大成功
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