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あい色ハイドランジア

#カクリヨファンタズム #戦後

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#戦後


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●あいを染めて
 藍染、それは日本に古くから伝わる『藍』と呼ばれる植物染料を用いた伝統的な染色技法のひとつ。現代地球であるUDCアースから分かたれたカクリヨファンタズムでも、様式は多少変われどもその染色技術は受け継がれていた。
「やあ、今年もこの季節がきたねぇ」
「今年はどんな刺繍にしようかしら」
「染めるのも楽しみだ」
 カクリヨファンタズムの人々が咲きだした紫陽花を眺めながらそんな会話を始めると、誰ともなく藍染市が始まるのだと笑みを浮かべる。藍染市とは藍染された様々な品が並ぶ市で、藍染を体験できる一画もあるお祭りのようなもの。
 本来、藍染とは何度も染めては乾かす事で色合いも変わるのだけれど、そこはカクリヨファンタズム。時間の掛かる工程は魔女達が魔法で何とかしてくれるのだ。
 甕覗き、浅葱色、納戸色、縹色、濃藍、紺色、褐色、思う色で染めた布をどうするかはあなた次第。
 浴衣に仕立てるのも、刺繍を施してハンカチにするのだってきっと楽しいはず。勿論、既に仕立てられた物もあるから、買い物がてら市を歩くのもいいだろう。
「ああ、楽しみだねぇ」
 そんな声を遠くに聞いて、幽世蝶がひらりと飛んだ。

●グリモアベースにて
「藍染は知っているかい? そう、伝統技術のひとつだよ」
 染めた布によって、着物やハンカチ、スカーフにストール、シャツや扇子に鞄に……と、様々なものに姿を変える藍染。その美しい青に、心を惹かれる者も少なくはない。
「カクリヨファンタズムでね、藍染市というのが開催されるんだ」
 藍染された布地や反物、様々な小物が売られている事に加え、藍染体験から刺繍体験もできるのだとか。楽しそうだろう? と深山・鴇(黒花鳥・f22925)が笑う。
「ちなみにね、この藍染市では染めを繰り返す程に色が深まる藍染めの藍と愛をかけて、愛する人やお世話になった人に自分で染めたものや刺繍したものを贈るという風習もあるそうだよ」
 意中の人を誘っても、友人同士でも一人でも……きっと楽しいだろうね、そう言ってから鴇がほんの少し表情を引き締める。
「この藍染市にね、幽世蝶が現れるようなんだ」
 大祓百鬼夜行が終わっても、カクリヨファンタズムは相変わらず滅亡の危機に晒されている。けれど、猟兵達が何度も滅亡から救った為か、ごく稀ではあるのだが事前に『世界の崩壊するしるし』を感じ取れるようになったのだ。
 そのしるしこそが、幽世蝶の群生。
「つまり、この藍染市で何かが起こる可能性がある……ということだね」
 幽世蝶はオブリビオン化してしまった妖怪の周囲を舞うらしく、市を楽しみながらでも見つけるのは簡単だろう。
「オブリビオンに対しての詳しい予知は、残念だけれど得られてはいない。ただ女性であった……と思うよ」
 嫋やかな風情の乙女であったと、鴇が頷く。
「はっきりした敵意は感じなかったからね、もしかしたら荒事にせずとも解決できるかもしれないが――」
 希望的観測に過ぎないんだ、すまないね、と鴇が柔く笑んだ。
「彼女を藍染市から引き離すことが最終的な目標ではあるんだが……ま、それはそれとして藍染市を楽しんでくるといい。丁度紫陽花も咲き出して、そちらも見頃のようだよ。あとはそうだな……藍染市の近くにはカクリヨでは有名な甘味処があるそうだから、そちらを楽しむのもいいかもしれないね」
 食べ物の匂いが布地に移らぬよう、場所は市からほんの少し歩くけれど、こちらの紫陽花パフェや藍色ソーダは絶品なのだとか。
「心惹かれる藍があればいいね。それじゃ――」
 いってらっしゃい楽しんでおいで、と鴇がグリモアに触れゲートを開いた。


波多蜜花
 閲覧ありがとうございます、波多蜜花です。
 今回はカクリヨファンタズムでの藍染市をお送りいたします。一章のみの参加も歓迎しております!

●プレイング受付期間について
 断章投下後にタグやMSページ記載のURL先にてご案内しております、参照いただけますと助かります。
 また、参加人数やスケジュールの都合、予期せぬ出来事によっては再送をお願いする場合がございます。なるべく無いように努めますが、再送となった場合はご協力をお願いできればと思います(この場合も、タグとMSページ記載のURL先にてお知らせ致します)
 オーバーロードについてはMSページに記載があります、ご利用をお考えの方がいらっしゃいましたらお手数ですが確認していただけると幸いです。

●できること
・一章
 OPにあるように藍染市を楽しむ、出来そうなことはプレイングに盛り込んでいただいて構いません。
 藍染体験、藍染への刺繍体験、藍染市での買い物、紫陽花見物、藍染市の近くにある甘味処での休憩等々。
 オブリビオンの周囲には幽世蝶が舞っていますので、特別な事をしなくとも見つけることができます。藍染に造詣があるようなので、話し掛ければ何かしら返事をしてくれるでと思います。また、時折紫陽花に目を奪われているのが遠目からでも見えるでしょう。
 POW・SPD・WIZは気にしなくて大丈夫です。

・二章
 一章を踏まえて断章が出ます。

●同行者について
 同行者が三人以上の場合は【共通のグループ名か旅団名】+【人数】でお願いします。例:【藍染3】同行者の人数制限は特にありません。
 プレイングの失効日を統一してください、失効日が同じであれば送信時刻は問いません。朝8:31~翌朝8:29迄は失効日が同じになります(プレイング受付締切日はこの限りではありません、受付時間内に送信してください)
 未成年者の飲酒喫煙、公序良俗に反するプレイングなどは一律不採用となりますのでご理解よろしくお願いいたします。

 それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております!
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第1章 日常 『愛色衣』

POW   :    こういう作業は苦手、職人の作品が気に入ったからこれにしよう。

SPD   :    藍染め・刺繍の両方は出来ないけど片方なら出来そう、ささやかでも手作りする。

WIZ   :    目指すものがあるからどっちもやってみる。既製品に負けない一点物を作ろう。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●藍染市
 藍染された幟が通りのあちこちに立ち、藍染市の開催を告げている。
 足を踏み入れれば、広い通りの両脇にずらりと並ぶ露店が見えるだろう。そのどれもが藍染された布や革を使ったもので、様々な藍染の色合いに目を惹かれること間違いなし。紫陽花が咲く季節ということもあって、店先に紫陽花を飾る店もあり、市を訪れる人々の目を楽しませていた。
 露店が居並ぶ通りを抜けると、この辺りでは有名な甘味処があって、買い物帰りの客が休憩していくのが見える。甘味処というだけあって、様々なメニューがあるがこの季節一番の人気は紫陽花パフェに藍色ソーダだ。
 紫陽花パフェはその名の通り紫陽花に見立てた彩りのパフェで、紫陽花の茎や葉を現す抹茶ゼリーや抹茶アイス、バニラアイスと重なって、器の上部には紫陽花色をしたゼリーがのっているのだとか。
 藍色ソーダは藍染に見立てた色合いのソーダで、甕覗き、浅葱色、縹色、濃藍の四色から選べるソーダ。希望すれば、バニラアイスをのせて藍色クリームソーダにしてくれるサービスも人気だ。
 他にも紫陽花や藍染に見立てたメニューがあるから、気になるものがあれば頼んでみるのもいいだろう。
 そして甘味処よりも更に奥へ向かうと、紫陽花の咲き誇る広場のような場所がある。腹ごなしに散策するのも、きっと楽しいはず。
 見どころ満載の藍染市、さあさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい――。
香神乃・饗
【狼梅】
誉人の邪魔をしない様に俺も別の作業をするっす

俺専用っすか!
入ってて良いんすか!(目キラキラ、かつてない程キラキラで興奮
誉人なら出来るっす!

魔女に話を聞きながら作る
よろず屋で色々な職人の手伝いもしているっす
呑み込みは良い方っす

白いアネモネみたいな模様をつけたいっす

藍は誉人の色っす
だから誉人の花も入れたいんっす
誉人のグリモア―希望の形はめちゃんこ綺麗なんっす
そういうの身につけてたらお洒落じゃないっすか

有難うっす!
これからずっとここに住むっす!迷わなくて良いっす!大丈夫っす!(背筋ピーン興奮
二つ返事快諾

誉人、ちょっと目を瞑ってて欲しいっす(ネクタイを誉人の首に結ぶ
たーかと、いつも有難うっす!


鳴北・誉人
【狼梅】
藍染初体験
不器用は自覚済み故に丁寧に作業を

作るのは饗専用のポーチ
バネ口だからパックンと開閉
な、イイでしょォ
かつてない喜び方が可愛くて思わず破顔
下手なモン作れねえな
饗の期待に応えたい

魔女サンに助言もらって
群雲染で藍を入れてく
唯一無二の濃淡に納得
ポーチへの加工…魔法でなんとかなる?

まだこええけど
もう迷いたくねえから
コレに入れて包んで
俺、持ってっからァ
えらく気に入ってくれたみたいで安堵
帰ったら居心地確かめてみよォな、饗
もったいぶってポッケに仕舞い込む

促されるまま目を瞑れば首元をゴソゴソ
くすぐったい
されていることを想像し口元が緩む

あはっ
ネクタイだ!
藍に浮かぶアネモネが嬉しく

俺こそ
ありがとォ、饗



●想いを染めて
 様々な藍色が集う市、藍染市。
 商品として仕立てられた藍色が並ぶ先に、藍染を気軽に体験して貰おうとカクリヨファンタズムの紺屋と魔女達が体験教室を開いていた。
 本来であれば藍染とは天候などに左右される繊細な技術だが、体験教室では魔女達の助けもあって時間の掛かる工程は一瞬で終わる。藍染の色見本が置かれ、どれがいいかと体験教室に訪れた人々が楽しそうに笑うのが聞こえていた。
 浅葱に納戸、縹に紺、濃藍に褐色――細かく分類すればもっと色があるのだけれど、自分が好きだと思った色を手に取るのが一番。香神乃・饗(東風・f00169)もまた、数ある藍色の中でこれと決めた色を眺めていた。
「俺はこの色にしたいっす」
「決めンの早いな、響」
「お手本にしたい色があるからっす!」
 お手本? と笑った鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)の瞳を見つめて笑みを返し、響が誉人はどうするのかと問う。
「俺? そうだなァ……色は揃いのがいいかもな」
「お揃いっすか!」
 パッと輝いた響の表情に、誉人は揃いの色にしようと決めた。
 色が決まれば紺屋の妖怪に魔女達が丁寧にやり方を教えてくれて、布を染めていくのだ。
「俺、不器用だけどさァ、響専用のポーチが作りてェの」
「俺専用っすか!」
 誉人からの思わぬ言葉に響が思わず大きな声を上げて、口に手を当てながら周りにすいませんっすと頭を下げる。
「そ、バネロだから……ほら、パックンと開閉するやつ」
 片手でも開けられる、ばねぐちと呼ばれる金具だ。口の部分を大きい物にすれば、ヤドリガミたる響の本体だって収納可能だ。
「俺、入ってて良いんすか!」
 先程よりは声の大きさは控えめだけれど、それでもかつて無い程に瞳をキラキラさせて興奮しているのが誉人にはよくわかって、思わず破願する。
「な、イイでしょォ」
「いいっす! すごくいいっす! 誉人なら出来るっす!」
 俺も頑張るっす! と、響が誉人の手を応援するようにガシッと掴む。
「あとで、見せあいっこするっす!」
 邪魔をしないようにあっちで作業するという響を見送って、誉人が己の手をじっと見る。
「下手なモン作れねえな」
 あんなに喜んでくれたのだ、実物を前にすればきっともっと喜んでくれるはず。喜ぶ顔を想うだけでじんわりと心が温かくなるのを感じながら、誉人も藍染の作業を開始した。
 魔女からの助言を受けつつ、群雲絞りという染め方で藍を入れていく。ポーチにする布を棒に巻き付け、甕に入った藍液に浸たして引き上げ、空気に触れさせる。最初は黄土色のようで、これが藍色になるのかと誉人が半信半疑で見ていると徐々に色が変わっていくのが見えた。
 面白いでしょう、と魔女が笑うのに頷いて、思う色になるまで何回も浸すのだ。
 決めた色に発色したところで染めの手を止めると、あとは染料を洗い流し乾燥させるのみ。洗い流した後は魔女が乾燥させてくれて、まるで藍の空に浮かぶ美しい雲のような模様の入った布が完成する。
「唯一無二の濃淡ってやつか」
 この世に一枚しかない模様だ、これを響の為にポーチにしたいのだと伝えれば、魔女が親身になって形にしてくれた。
「喜んでくれっかな」
 そう思いながら、誉人が響の姿を目で追った。
 一方、響も同じように魔女に指示を受けて藍染体験を進めていた。
「白いアネモネみたいな模様をつけたいっす」
 それなら縫い絞りがいいと教えてもらい、アネモネの模様に見えるようにと絵を描いてそれにそって縫い、全部縫えたら糸を引っ張って布を絞る――そうすると、その部分だけ圧がかかって染料が入りきらずに白く残るのだ。
 よろず屋で色々な職人の手伝いをしているだけあって、響の手際は魔女も褒めるほど。呑み込みもいいと太鼓判をもらいながら染め上がった布を確認すれば、藍の中に白のアネモネ。
「やったっす!」
 思ったよりも綺麗に出た模様に喜びながら、響が模様を撫でる。
「藍は誉人の色っす、だから誉人の花も入れたかったんっす」
 だって、誉人のグリモア――希望の形は響が知るものの中でもいっとう綺麗だと思うほど。
「そういうの身につけてたらお洒落じゃないっすか? だからネクタイにしたいんっす」
 ネクタイ用の型紙にそって裁断し、丁寧に縫い進める。難しいところは魔女の力も少し借りて、小剣通しとかんぬき止めを仕上げれば完成だ。
「ありがとうっす!」
 手伝ってくれた魔女に礼をいい、誉人にと立ち上がった所で彼と目が合った。
「誉人!」
「響、これな」
「俺専用のポーチっす!」
 実物を前にして、響の頬が紅潮する。
「あのな、響」
「はいっす」
「まだこええけど、もう迷いたくねえから。コレに入れて包んで……俺、持ってっからァ」
「有難うっす! これからずっとここに住むっす! 迷わなくて良いっす! 大丈夫っす!」
 ピンと背筋を伸ばし、即答する。
 迷うことなんて何ひとつない、だってそこが俺の帰る場所だと満面の笑みだ。
「帰ったら居心地確かめてみよォな、饗」
 大層気に入ってくれた響の様子に、誉人が安堵しながらポーチをポケットに仕舞いこむ。ちょっと勿体ぶりたい気持ち半分、気恥ずかしさ半分だ。
「はいっす!」
 帰る楽しみができたと響が嬉しそうに笑い、それからこほんと咳払いする。
「お礼ってわけじゃないっすけど、誉人」
「ン?」
「ちょっと目を瞑ってて欲しいっす」
 いいけど、と目を閉じれば、何やら首元でゴソゴソと動く手。くすぐったいと笑いつつも、されていることを想像するとどうしたって口元が緩む。
「いいっすよ!」
 目を開けて首から下がる何かに目を遣れば、飛び込んでくる藍色に浮かぶアネモネの花。
「あはっネクタイだ!」
「たーかと、いつも有難うっす!」
「俺こそ」
 指先でネクタイに浮かぶ花をなぞって。
「ありがとォ、響」
 誉人が感謝をこめながら、響に微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友

第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん

陰海月、食欲旺盛ですから甘味処に行くと思ってたんですよー?
(現在地:藍染体験場所)
なるほど、一度やってみたかった、と。そのために食べ物我慢すると。

というわけで、陰海月と一緒に体験ですよー。かけがえのない友であり、孫みたいな存在ですからー。
そうですね、あの方(オブリビオン)にコツを聞いてみましょうかー。

ああほら、陰海月。気を付けないと染まりますよー?
私のは紺色ですねー。


陰海月、「ぷきゅっ!!(染め物体験は貴重なんだもん!!)」
ぬいぐるみ作り(好みの色の布作り)に反映できるかも!
綺麗な縹色!



●海色
 藍色と一口に言ってもその種類は多く、僅かな色の違いで名前が変わるもの。馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)――本日表に出ているのは『疾き者』である――は、自分の知る限りの色の名を口にのせつつ大きなミズクラゲ、陰海月の後ろを歩いていた。
「陰海月?」
 ぴたりと止まった陰海月に声を掛けると、陰海月がそのふわりとした足を揺らして、ここ! と主張する。
「ここは藍染体験ができる場所ですよー?」
 甘味処はもう少し先だと言っても、陰海月はぷるぷると体を揺らして頑なに離れようとしない。
「ぷきゅっ!」
 染物体験は貴重なのだと、陰海月が義透に訴える。
「何々……なるほど、一度やってみたかった、と。そのために食べ物我慢すると。食欲旺盛なあなたの事ですから、甘味処に行くと思っていましたが……そこまでの覚悟なのですねー」
 ならば共に藍染体験をしようかと、義透が微笑む。
 何せ義透にとって陰海月はかけがえのない友であり、孫みたいな可愛い存在。そんな陰海月のお願いとあれば、聞かないという選択肢はない。
「陰海月はどんな色に染めたいんですかー?」
「ぷきゅ……ぷきゅ!」
 これ、と見本の色を足でさす。この色の布でぬいぐるみを作れば、きっと楽しいと陰海月が躍るように揺れる。
「ふむふむ、これですかー」
 誰かに教えを請いましょうか、と義透が辺りを見回すと幽世蝶を周囲に舞わせた女性と目が合った。
「あのー、よければコツなど教えていただけますか?」
『藍染のコツ? そうね……ムラなく染めたいのなら、藍に浸けて上げてから水の中に入れるといいわ』
 そうすると、ゆっくりと酸化していく為ムラになりにくいのだと女がアドバイスを口にして笑う。
『綺麗に染まるといいわね』
「ありがとうございますー、参考にしますねー」
 陰海月がありがとう、と言うように足を振ると女も軽く手を振って紫陽花に視線を向けて歩いていく。
「……まずは藍染が先ですねー」
「ぷきゅ!」
 教えてもらった通りに藍に浸けては水の中に入れ、それを幾度か繰り返す。
「ああほら、陰海月。気を付けないと染まりますよー?」
 足が染まってしまっても、それはそれで綺麗だと思いますけど、と義透が笑い思う色が出たところで染めを止め、魔女に乾燥を頼む。陰海月も同じようにして、藍染した布が完成した。
「私のは紺色ですねー、良い色だと思いませんかー?」
「ぷ! ぷきゅ!」
 陰海月も負けじと染めた布を義透へ見せる、それはとても綺麗な縹色でムラなく染まっていた。
「陰海月のも綺麗に染まってますよー。ふふ、どちらも海の色のようですねー」
 染めた布で何を作ろうか、義透が笑うと陰海月も笑うように体を揺らすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
以前も藍染職人をしてらした方のオブリビオンとお会いしましたが……また彼女なのでしょうか。
同じ姿をした別の方なのかもしれませんが……。

藍、私と同じ。どちらかと言えば私のは「らん」の方ですが、色合いとしては同じでしょうか?
露天の商品も気になりますけど藍色ソーダが気になります。
藍に限らず青色の食べ物飲み物は珍しいと思いますし。いっそアイスを乗せて貰ってクリームソーダにしてもらいましょう。
色はどれにしようかしら。……縹と濃藍の間はないのね。うーん、ここは縹にしましょうか。
クリームソーダに舌鼓をうつ中少し気になる事が。そっと手鏡を取り出して口内を見てみます。
かき氷のように染まってたりしてないかしら?



●藍色、しゅわしゅわと
 空のような、海のような、様々な藍の集まる市を冷やかしながら歩き、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)がそう言えばと思い出す。
「以前も藍染職人をしてらした方のオブリビオンとお会いしましたが……また彼女なのでしょうか?」
 オブリビオンは過去の残滓、同じ姿であっても以前の記憶など持ってはいないだろう。
「そうだとしても、同じ姿をした別の方なのでしょうけれど……」
 なんとなく縁がある気がします、と僅かな笑みを浮かべ、藍という名を持つ彼女が足を止めたのは市を抜けた甘味処。
「露店の商品も気になりますけど、藍色ソーダが気になります」
 露店をゆっくりと眺めるのは後でもできるし、何より混む前に店に入りたかったのだと藍が扉を開き、店内へ足を踏み入れた。
 案内された席は遠目に紫陽花の見える窓際で、メニューを開きながら並ぶ藍色に目を瞬かせる。
「藍、私と同じ。どちらかと言えば私のは『らん』の方ですが、色合いとしては同じでしょうか?」
 指先でメニューをなぞり、藍色に触れて微笑む。
「藍に限らず青色の食べ物飲み物は珍しいと思いますが、沢山あって迷いますね……」
 メニューには人気どころの紫陽花パフェだけではなく、瑠璃と名の付いた艶々の青いケーキに海のようなグラデーションをしたプリン、藍色マーブルが美しいチョコレートなど藍染のような美しい色をした甘味が盛り沢山だ。
「むむ……でもここは初志貫徹です、藍色ソーダにアイスをのせて貰ってクリームソーダにして貰いましょう」
 色はどうしようかと藍色ソーダのメニュー欄を見ると、甕覗き、浅葱色、縹色、濃藍の四色で藍がうーん、と悩む。
「……縹と濃藍の間はないのね。ここは縹にしましょうか……」
『お客さん、何色がよかったんだい?』
「え? ええ、藍色があればと思って。なければ縹のクリームソーダにします」
 狐の耳をぴょこりと生やした店員が、それなら厨房に聞いてあげるよと笑って奥へ引っ込んだ。
 少し待つと、先程の店員が藍色のクリームソーダを運んできて藍の前へと置く。混む前だから、サービスだよとウィンクをしてくれた彼女にお礼を言い、藍が藍色をしたクリームソーダを前に目を輝かせてスプーンでアイスを掬う。
「ふふ、嬉しい……ん、美味しい」
 甘みも丁度良く、どこか懐かしい味のソーダを飲んで紫陽花を眺める。
「贅沢な時間、というものかしら」
 グラスの中身が半分になったところで、藍がそっと手鏡を取り出して口元を隠すようにしながら口内を覗く。
「かき氷のように染まってたりしてないかしら?」
 なんて心配は無用だったようで、藍の舌は綺麗なまま。
「……どうやって藍色にしているのかしら」
 別の疑問が浮かんでしまったけれど、藍色ソーダを口にすればそんな謎もしゅわしゅわと溶けて消えていく。すっかり飲み切って紫陽花を眺めればふわりと飛ぶ幽世蝶が見えて、藍が後を追う為にゆっくりと立ち上がった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】◎
青色のアイテムってあんまり身に付けないんだけど
そんな俺でも思わず買いたくなっちゃうような物がいっぱい
でも買うよりも更に興味を惹かれたのは藍染体験
ねぇねぇ梓ー、俺たちもやってみようよー(ぐいぐい

染めたら何に使おうかな
俺は部屋着に出来そうなTシャツにしようっと
梓は相変わらずブレないねぇ

真っ白な布を藍染液に浸して…
正直、藍色というかほぼ真っ黒な液体
この段階だとお世辞にも綺麗とは言えない
これが本当にあんな綺麗な色になるのかなー?

工程をこなしていくうちに美しい濃藍色が現れて
わぁと感嘆の声を上げる
すごい、本当に出来ちゃった

頑張ったらお腹空いてきたな
よーし、次は紫陽花パフェを食べに行こう


乱獅子・梓
【不死蝶】◎
あー、はいはい分かった分かった
ロックオンした綾はもう止められない
子供にせがまれた父親のような気分で体験コーナーに向かう

俺はバンダナにしようかね
料理の時に使えるしな

まぁまぁ、料理だって作り始めと完成形は全く違うからな
例えばケーキも、オーブンに入れて時間が経って
膨らむとようやくケーキっぽい見た目になっていくだろう
綾をなだめつつ作業を進めていく

所々濃かったり薄かったりと上手に均一に染められなかったが
これはこれでランダム模様のようで味がある
今度料理の時に早速使おう

お前はきっと甘味処に行きたがるだろうなと思っていた
パフェ食うのはいいが、俺に奢らせる気じゃないだろうな?
(その後案の定奢らされた



●藍染体験教室!
 この世の青い色を全て集めたような市を前にして、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)はそっとサングラスをずらしてその青色を眺める。
「見事に青系の色ばっかだねぇ」
「藍染市ってくらいだからな」
 同じようにサングラスをずらし、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)もその色に瞳を奪われる。濃淡の違うものから同じように見えても柄が少しずつ違うもの、刺繍一つで表情を変える藍染の世界に引き込まれるように梓と綾は大通りを歩いていた。
「俺達って青色のアイテムってあんまり身に着けないよね」
「まぁそうだな、俺は基本白と黒だし、綾はそれに赤が入るってとこか」
「だよねぇ」
 普段惹かれる色はモノクロや赤だけれど、これだけの藍色を目にしていると欲しくなってくるというもの。
「あれもいいなぁ、あっちのもいいし」
「買うのか?」
「ん-、買うのもいいけど」
 実際に買おうかな、と思うような商品もあったけれど。
「それより、あっちのが気になるんだよね」
「あっち?」
 そう言われ、梓が綾の視線の向こうを辿る。そうして目にしたのは藍染体験という幟。
「ねぇねぇ梓ー、俺たちもやってみようよー」
 ぐいぐいと梓の腕を引いて、綾が藍染体験のコーナーへと向かう。
「あー、はいはい分かった分かった、だから引っ張るなって!」
 これ、とロックオンした綾を止められたことなどなく、すっかり子どもにせがまれた父親みたいな気分で梓が体験コーナーへと足を踏み入れた。
「染め色の目安なんかあるんだな」
 一度、二度、三度と浸ける回数によって藍染はその色を濃くしていくのだが、参考となるような目安表のようなものを眺めて梓が面白そうだなと呟く。
「どの藍色にしようかな」
 どれも綺麗だよね、と綾が梓の横から覗き込む。
「藍色にも色々名前があるんだな」
「藍色って言われると一色しか思い浮かばないけど、これ全部藍染で出来る色の名前なんだね」
 勉強になるねぇ、と眺めていると、体験教室の魔女から何を染めたいかと聞かれ、染められる布やシャツを二人で選ぶ。
「俺はバンダナにしようかね」
「梓はバンダナ?」
「ああ、料理する時にも使えるだろ?」
「梓は相変わらずブレないねぇ、じゃあ俺は部屋着に出来そうなTシャツにしようっと」
 バンダナ用の大き目な布と白いTシャツを受け取って、いざ藍染体験!
「これが藍染液? 正直、藍色というか真っ黒な液体だよね」
 最初から藍色をした液体に浸けるのかと思ってた、と綾は本当に綺麗な藍色になるのかと些か疑い気味で藍液に浸ける。その隣で同じように浸けていた梓が笑う。
「まぁまぁ、料理だって作り始めと完成形は全く違うからな」
 藍液から引き上げ、黄土色のような色をした布を眺めながら梓が言葉を続ける。
「例えばケーキも、オーブンに入れて時間が経って膨らむとようやくケーキっぽい見た目になっていくだろう」
「確かに……って、何か色変わってきたよ梓!」
 酸化発色というんですよ、と魔女が教えてくれた言葉を二人が繰り返す。
「酸化発色……化学反応ってことか」
「酸化することで色が変わるんだねぇ」
 望む色になるまで何度も同じ作業を繰り返し、これと思った所で染料を洗い流すのだ。
 綺麗な色が現れると知った綾は先程とは違い、俄然張り切って作業を進めていく。それを隣で笑いつつ、梓も染めを繰り返した。
「わぁ」
 綺麗な藍色に染まった布に、綾が思わず声を上げる。
「すごい、本当に出来ちゃった」
「いいんじゃないか? 俺のは所々濃かったり薄かったりしてるけど、綾のはムラも少ない気がするな」
 自分のバンダナと見比べて、梓が綾のTシャツに太鼓判を押す。
「ま、これはこれでランダム模様みたいで味があるけどな」
「波みたいで綺麗だよ」
「そうだな、今度料理の時に早速使うとするか」
 乾燥を魔女に任せ、出来上がった藍染を礼を言って受け取ると、綾が伸びをして梓を見遣る。
「頑張ったらお腹空いてきたなー」
 予想通りの言葉だな、という顔をしながら梓が小さく息を零す。
「よーし、次は紫陽花パフェを食べに行こうよ。折角ここまで来たんだからさ」
「俺はな、お前はきっと甘味処に行きたがるだろうなと思ってた」
「さっすが梓~! じゃあじゃあ、俺がなんていうかもわかってるよね!」
「……パフェを食うのはいいが、俺は奢らないからな」
「ケーキもいいよねぇ、パンケーキもあったりするかな~。梓の奢りだと思うと、一層お腹が空いちゃうな~」
「聞いてるか???」
 全く聞いていない綾の後ろを追い掛ける梓を笑うように、藍染市の幟がはたはたと揺れていた。
 勿論、最終的には梓が奢ることになったし、綾はお腹一杯甘味を食べて満足そうな顔をしていたのは言うまでもないことである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

飛鳥井・藤彦
【紅蒼2】◎
兄さんが僕色に興味持ってくれはって嬉しいわぁ。
喫茶メニューも綺麗やねぇ。
僕は縹色のソーダがええなぁ。
少し涼んでから藍染に行きましょ。

藍染はハンカチを。
下染めした物に紅花を加えて紫がかった色味に。
僕の色と兄さんの色が混じった感じにしとうて。

兄さんの言葉に、思わず惚けてしまいますが、はっと我に還るとなんもおかしなことは無いと主張。

「ただ、その……兄さんが僕色に夢中になってくれはるのが、こそばゆいっちゅーか、嬉しいんです」
「……もっと僕色に染まってくれます?」

頬を染め、眉尻を下げてふにゃりと笑って自分が染めたハンカチを差し出し。兄さんからストールを受け取ると嬉しそうに頬ずり。

「おーきに」


有栖川・夏介
【紅蒼2】◎
「藍染」と聞くとどうにも藤彦君の顔が思い浮かんでしまって…なので、君と一緒に来られてよかったです。

藍染体験ができれば、と思っていたのですが甘味処もあるんですね。
紫陽花パフェに藍色ソーダか(じーっ)
すみません、藤彦君みたいに綺麗な色だなと思って…せっかくだから食べていきませんか?
…見た目も味もいいですね。

食を楽しんだ後は藍染体験
ストールに挑戦します。紺青くらいの色味に。
藤彦君に似合う色に仕上げたい。
藍染…君の色に染めているんだなと思うと、なんだか楽しい。
「……ごめん、俺変なこと言った?」

「君のように綺麗な色、私には似合わないですよ」
でも…嬉しい。心が温かい
ストール、貰ってくれますか?



●君の色
 藍染市――様々な藍が並ぶ中、有栖川・夏介(白兎の夢はみない・f06470)の視線はどうしたって飛鳥井・藤彦(春を描く・f14531)の方を向いてしまう。
「何やの兄さん、僕の方ばっかり見て」
 くすりと笑った藤彦の声に、夏介はほんのり頬を染めて視線を泳がせる。
「……『藍染』と聞くと、どうにも藤彦君の顔が思い浮かんでしまって……つい」
「ふふ、兄さんが僕色に興味持ってくれはって嬉しいわぁ」
 どの藍も美しい色だけれど、隣の色が一番目を惹くのだから仕方ないと言うようなもの。からからと口元を隠して笑う藤彦の頬だって、いつもより赤い。
「なので、君と一緒に来られてよかったです」
「僕も兄さんと来れてよかったわ」
 天気もええし、と藤彦が露店を冷やかしながら歩く。
「藍染体験ができれば、と思っていたのですが甘味処もあるんですね」
「そんなら甘味処の方、先に行こか」
 甘味処は藍染市が行われている大通りの奥、きっと露店を眺め藍染体験をした後で訪れる人の方が多いはず。それならば、先に行ってしまおうと藤彦が提案する。
「少し甘味処で涼んでから藍染に行きましょ」
「そうしましょうか」
 隣の藍色を纏う彼にそう笑って、夏介は藍染体験の場所だけ確認すると更に奥へと進む。ひらりと紫陽花色に染め抜かれた幟が見えて、きっと此処だと暖簾をくぐった。
「喫茶メニューも綺麗やねぇ」
「紫陽花パフェに藍色ソーダか……」
 真剣な顔でじっとメニューを眺める夏介に藤彦が笑い、そんなに気になるメニューがあったんやろか? と揶揄い混じりに問いかける。
「すみません、藤彦君みたいに綺麗な色だなと思って……」
「……もう、兄さんたらしゃーないお人やな」
 殺し文句みたいやない、とは口には出さず、藤彦はさっきよりも熱を持った頬を隠すようにメニューを手にした。
「僕は縹色のソーダがええなぁ」
「では、私はせっかくだから紫陽花パフェと濃藍色のソーダにします」
 決まった所で手を上げて店員を呼び注文を伝えると、少々お待ちくださいと下がっていく。
「他にも色々あるんやねぇ、藍色のメニュー」
「ケーキにゼリーに……どれも綺麗ですね」
 一度だけでは勿体ないお店だと話ながら、店の外に咲く紫陽花を眺めていればすぐに注文した甘味が届き、テーブルの上が華やかになる。
「写真より実物の方が綺麗ですね」
「ほんまやねぇ、お味はどないやろか」
 まずは藍色ソーダを一口飲んで、しゅわりと弾ける爽やかな喉越しと程よい甘さ、初夏を感じさせるような僅かな酸味に目を瞬かせる。
「おいし」
「……見た目も味もいいですね」
 ソーダの次は紫陽花パフェだと夏介がパフェスプーンで掬い、こちらも一口。甘くひんやりした口当たり、それでいてしつこくない味に、夏介が満足そうに頷く。
「こちらも美味しいです、藤彦君も如何ですか?」
「兄さんのお勧めやもの、いただこかな」
 あーん、とねだるように口を開けば、気恥ずかしそうにしながらも夏介がスプーンを口へと運ぶ。
「ん、冷たて美味しいなぁ」
 紫陽花を眺め、藍色の甘味を楽しみ、そろそろ行こうかと二人が立ち上がり甘味処を出て藍染体験のコーナーへと向かった。
「兄さんは藍染、何にするんやろか?」
「ストールに挑戦します」
「ええなぁ、僕はハンカチにしよ」
 藍染と聞いた時から、藤彦は藍と紅花のかさね染めにしようと決めていた。綺麗な紫がかった色味を出す為にまずは藍の下染めをして、それから紅花に染めるのだ。
「藤彦君は紫色に?」
「こうすると綺麗な色になるんです。……兄さんは?」
 僕の色と兄さんの色が混じった感じにしとうて、とは口には出さずに藤彦が問う。
「紺青くらいの色味にしたいんです」
 藤彦君に似合う色に仕上げたいのだとは、胸に秘めて答える。
 互いに互いの事を考えて色を染めていく、それはなんとも幸せな時間。何度も藍液に浸け、空気にさらして色を濃くしていく布地に、思わず夏介が笑みを零した。
「楽しそうやねぇ」
「はい、藍染……君の色に染めているんだなと思うと、なんだか楽しくて」
「…………」
 夏介の言葉に、思わず藤彦が惚けて染めの手が止まる。
「……ごめん、俺変なこと言った?」
 不愉快だっただろうか、と夏介が僅かな不安の色をみせて藤彦を窺う。
「や、何にもおかしなことはあらしまへん。ただ、その……」
「その?」
「兄さんが僕色に夢中になってくれはるのが、こそばゆいっちゅーか、嬉しいんです」
「……嫌じゃないなら、よかった」
「嫌なことなんて」
 あるわけがない、と藤彦が止めていた手を再び動かして、綺麗に染まっていく布を眺めながら呟いた。
 染め終わると魔女が乾燥の工程を魔法で手伝ってくれ、出来上がったハンカチを手にして藤彦が真っ直ぐに夏介を見る。
「……もっと僕色に染まってくれます?」
 頬を赤く染め、眉尻を下げてふにゃりと笑い、染めたばかりの――自分と夏介の色を混ぜたような色のハンカチを差し出す。
「君のように綺麗な色、私には似合わないですよ」
 そう答えながらも、ハンカチを受け取った夏介の頬はどうしたって緩んでしまう。嬉しいという気持ちは隠し切れず、それは藤彦も感じ取っていた。
「藤彦君、ストール……貰ってくれますか?」
 こくりと頷いてストールを受け取ると、嬉しそうに頬擦りをして顔を埋める。
「おーきに」
 目元だけを濃藍から出して、笑いながら藤彦がそう言った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】3

藍色市か。青が大好きな奏には堪らないんじゃないか?・・・甘味処に行きたい?奏ならそういうと思った。家族3人で行こうか。

早速メニューを注文する奏と瞬に微笑みながらアタシは濃藍のソーダで、と注文。運ばれてきたソーダの色鮮やかさに感心しながら、パフェも頂く。これだけ色とりどりだと食べるのが勿体無いねえ。

胃袋ブラックホールの奏はもちろん、瞬も隠れ甘味好きだからねえ。子供たちの目の輝きが半端ない。ああ、子供たちの笑顔でお腹一杯だよ。

紫陽花は毎年家族で見てきたね。食べ終わったら、紫陽花を見に行くのもいいかも。今年も家族3人揃って紫陽花を見れるねえ。贅沢な幸せだ。


真宮・奏
【真宮家】3

私の持っている物は青系統が多いですからね。もちろん藍色の物もあります!!大好きな色が一杯なお祭り、ワクワクします!!私は甘味処へ行きたいです!!まずは美味しいもので腹ごしらえ、です。

店に入ってパフェと縹色のソーダを注文。兄さん、紫陽花のケーキがありますよ!!これも注文しませんか。あ、クリームソーダにしよう。

パフェとケーキとソーダを食べて満面の笑顔。美味しいです!!(口についたクリームを瞬にとって貰いながら目をキラキラ)

そういえば一昨年も去年も紫陽花を家族で見ましたよね。見た世界はそれぞれ違うんですが。今年も家族で紫陽花見れるんですね。嬉しいです。そうですね、後で見ましょう。


神城・瞬
【真宮家】3

はい、藍は僕も好きな色ですよ。染め方によって色んな色合いに変化する藍染めの奥深さには感心させられます。まあ、奏は甘味処の方に目が行くようですが。奏ならそう言うと思ってましたよ。行きましょう。

僕も隠れ甘味好きだったりしまして。瓶覗き色のソーダ、パフェ。紫陽花のケーキですか。はい、注文しましょう。僕もクリームソーダにしましょうか。

余り顔には出しませんが、デザートのおいしさにうっとりしていたり。はい、美味しいですね。(奏の口についたクリームを取ってあげる)

そうですね、今年も家族で紫陽花が見れますね。3年続いて家族で見れるなんて幸せですよね。後で見に行きますか。



●藍より甘味
 大通りの端から端まで、ずらりと並んだ藍色を眺めて真宮・響(赫灼の炎・f00434)がくすりと笑う。
「藍染市か。青が大好きな奏には堪らないんじゃないか?」
 大好きな母から言われ、きょろきょろとあちらこちらを眺めては口を小さく開いて、あれも綺麗、これも素敵だと瞳を煌めかせていた真宮・奏(絢爛の星・f03210)が視線を響へと向けて大輪の花のような笑みを浮かべる。
「私の持っている物は青系統が多いですからね。もちろん藍色の物もあります!!」
 大好きな色がいっぱいの市はまるでお祭りのようで、奏はワクワクとした気持ちを抑えきれないとばかりに響と義兄である神城・瞬(清光の月・f06558)の手を引いた。
「瞬兄さんも好きですよね?」
「はい、藍は僕も好きな色ですよ」
 様々な藍色を眺めながら、瞬が頷く。
「染め方によって色んな色合いに変化する藍染めの奥深さには感心させられます」
「液に浸ける回数によって色が変わるんだっけか」
「はい、それに染めの技法も色々あるんですよ」
 布の一部を絞って圧力をかけることにより染料が染み込まないようにする絞り染め、ろうそくのろうを溶かしたもので布に絵を描き、固めてから染めるろうけつ染めなど、布に模様を持たせる染め方だ。
「あれなんかはろうけつ染めでしょうね」
 濃藍にくっきりと白い模様のあるハンカチを指さして瞬が言うと、露店の店主が詳しいねぇ、兄さんと笑う。
「本当に奥が深いんだねえ」
 響が藍染された糸で刺繍された白いハンカチを手に取り、これも粋じゃないかと感心したように眺める。他にも藍染糸を使った刺繍ブローチや、刺し子の布巾など並ぶ品も多種多様だ。
「どれもとっても素敵ですね! でも……」
 奏がふっと視線を落としてから、響と瞬を見る。
「私は甘味処へ行きたいです!!!」
「……甘味処に行きたい?」
「はい!! まずは美味しいもので腹ごしらえ、です」
 ふっと瞬が笑って、笑いを堪えている店主に後で来ますと伝えて露店を離れる。
「まあ、奏は甘味処の方に目が行くと思っていましたし、そう言うと思ってましたよ」
「アタシも奏ならそういうと思った。家族三人で行こうか」
「ええ、行きましょう」
 えへへ、と笑う奏を真ん中にして、三人で大通りを甘味処に向かって歩く。
「まあ、藍染市は逃げやしないしね。腹ごしらえをしてからでもゆっくり回れるさ」
「はい! ゆっくり見ていたら甘味処が混んでしまうかもしれないですからね」
「ふふ、奏の言う通りかもしれませんね」
 理に適っていると瞬と響が笑っていると、奏がお目当ての甘味処を見つけたようで二人の手を引っ張った。
「母さん、兄さん、あそこみたいです!」
 見れば紫陽花色に染め抜かれた幟に、綺麗な藍色の暖簾。並んでいる人はいないようで、すんなりと店内のテーブルに案内された。
「どれにしようかな」
 早速メニューを瞬と共に覗き込んで、奏があれも美味しそう、これも美味しそうだと甘味と睨めっこだ。
「アタシはパフェと藍色ソーダにしようかね」
 そんな二人を眺めつつ、響はさっさと決めてメニューを閉じる。
「紫陽花のパフェと藍色ソーダは頼むとして……」
「僕もその二つは頼もうと思います」
 何せ瞬も隠れ甘味好き、奏の横でどれも美味しそうだと瞳を優しく細めていた。
「兄さん、紫陽花のケーキがありますよ!! これも注文しませんか?」
「紫陽花のケーキですか。はい、注文しましょう」
 これ! と指で示されたケーキを見て、瞬が即答する。
「好きなだけ食べな」
 くつくつと笑って響が視線を店員へと向けると、すっと注文を取りに店員がやって来る。
「僕は瓶覗き色のソーダで……ああ、クリームソーダにしましょうか」
「私は縹色のソーダにします。あ、私もクリームソーダにしよう!」
「アタシは濃藍のソーダで」
 紫陽花パフェを三つ、紫陽花ケーキを一つ、と注文を終えてウキウキとした気持ちで奏が窓の外を眺めた。
「紫陽花が綺麗に咲いてますね、母さん」
「そうだね、そういや紫陽花は毎年家族で見てきたね」
「そういえば一昨年も去年も紫陽花を家族で見ましたよね」
 見た世界はそれぞれ違うけれど、サムライエンパイアの紫陽花もサクラミラージュの紫陽花も美しかった。
 カクリヨファンタズムの紫陽花も、同じくらいに美しいと奏が微笑んだ所でテーブルの上にも紫陽花が所狭しと咲き誇る。
「わあ、とっても綺麗です!」
「皆ソーダの色が違って面白いね」
「紫陽花パフェの彩りも綺麗ですが、ケーキもまたパフェとは違った趣で良いですね」
 紫陽花パフェは紫陽花の彩りをそのままに再現したようなパフェで、グラス部分は抹茶アイスや抹茶ソースとバニラアイスが重ねられ、その上には紫陽花が咲いたようにキラキラとしたゼリーと紫陽花色をしたソフトクリームが盛られていた。
 アクセントに紫陽花の葉の形をした薄いチョコレートとクッキーが飾られて、何とも美しい。
「ん、冷たくって甘くって、とっても美味しいです!!」
「ケーキはこれそのものを紫陽花に見立てているのですね」
 本物の紫陽花よりも一回りほど小さいドーム型のケーキには、紫陽花の花を模したようにクリームが絞られていてまるで本物の紫陽花のようにも見える。
「崩すのが勿体ないくらいです」
 暫しケーキの美しさに見入っていた瞬がフォークを刺し、一口ぱくり。
「甘すぎないクリームが丁度いいです、中はレアチーズで……クラッシュゼリーも入っていますよ」
「外側だけじゃなく、中も綺麗なんて素敵なケーキです!」
 きゃっきゃとはしゃぐ奏と静かにテンションを上げている瞬を眺めながら、響がふっと笑って藍色ソーダを飲む。しゅわりとした爽快な喉越しを感じながら、胃袋がブラックホールな奏は勿論のこと、瞬も隠れ甘味好きだからねえと微笑む。
「パフェもボリュームがあって美味しいけど――ああ」
 子どもたちの笑顔でお腹が一杯になりそうだと、響が心から楽しそうに呟いた。
「奏、瞬、食べ終わったら紫陽花を見に行こうか」
「はい! 今年も家族で紫陽花が見れるんですね」
「奏、口にクリームが付いてるよ」
 口元に就いたクリームを瞬がペーパーナプキンで拭い、畳んでテーブルに置く。
「そうですね、今年も家族で紫陽花が見れますね」
 自然と窓の外の紫陽花に、三人の視線が吸い寄せられて。
「三年続いて家族で見れるなんて幸せですよね」
 しみじみとした瞬の言葉に、奏も嬉しそうに頷く。
「はい、とっても幸せで、とっても嬉しいです」
「ああ、贅沢な幸せだ」
 美味しい甘味で身体を満たし、美しい紫陽花で心を満たす。
 これを贅沢と言わずして何と言おうか、と響が笑う。
「ああ、でも急がなくていいよ。ゆっくり味わって食べな」
「はい! 母さん」
「ええ、しっかりと味わいます」
 なんたって、目の前で二人が美味しそうに食べているのを見るのだって、響にとっては贅沢な幸せのひとつなのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
【不易2】
心情)ああ、確かに。お前さんとはいっとう長い付き合いだが、何ンとも名付けがたい関係なのは確かさ。友達っつゥには首かしげるし、信者でもなし。殺し合った仲だしな。
そりゃどォも。
行動)白いのがやること終えるまで、その影に潜っているよ。終わったら鳥に乗って空へ。カクリヨはいつも薄暗くてイイ。そォさな、俺らァはそっち側なのァ確かだ。そこ以外に共通点はないがね。お前さんからすりゃ置いてかれるンだろうが、俺からすりゃいっときいらっしゃいだ。いま生きている以上はお前さんの行動を止めやしないが、寿命とは持ち主のもの。救済されるかどうかの選択は、本人だけの権利だぜ。オ・居たか。じゃ毒と結界で追ン出すか。


茜崎・トヲル
【不易2】
かみさまだけと来ーたよ!ひさしぶりー!
かみさまとは、ふしぎな関係なんだよねえ。なかいーけど、友達って感じじゃないし、もちろんブラザーじゃないし。
でも、なんとなーく、おちつくよ。おれ、あんたはなんか。

かみさまに影かしてー、かるーく買い食いして、あーさんや兄ちゃんに藍染のハンドタオル買って。
おみやげ!

かみさまー、上いこーよ。あんたとはよく上に行くよね。
おれもね、飛べるよーになったんだよ。自前!肉体改造でねー。
ね。いつかさー、おれとあんたのまわりにいる人達は、みんないなくなっちゃうねえ。
でもさあ、それを、少しでも遅くしたいよ……。
……。うん。

あっ、蝶だ!かみさま、蝶いたよー!



●白い糸を染めるように
 藍色の幟がひらひらと揺れるのを遠くに眺め、茜崎・トヲル(Life_goes_on・f18631)は隣を軍馬サイズの子猫に乗って進む朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)を見遣る。
「かみさまと二人でどっか行くのって、ひさしぶりー?」
「俺に聞くかね」
 時間の概念に囚われない、ともすれば昨日の出来事も一年前の出来事も同じという逢真はトヲルをちらりと見返してそう言って、でもまぁそうだなと頷く。
「最近は黒兄さんや坊に旦那に虎兄さんと一緒の事の方が多かったかもな」
「おれもー! じゃあやっぱひさしぶりー!」
 一緒に遊んじゃいるが、二人でというのは久しぶりだとトヲルが笑った。
「なんかさー、かみさまとはふしぎな関係なんだよねえ」
 ほう? と視線だけで続きを促すと、トヲルが思ったままに言葉を紡ぐ。
「ん-、ほら、なかいーけど、友達って感じじゃないし、もちろんブラザーじゃないし」
「ああ、確かに。お前さんとはいっとう長い付き合いだが、何ンとも名付けがたい関係なのは確かさ」
 よく顔を突き合わせる面子の中でも、逢真の中ではトヲルが一番古い付き合いになる。出会ったのはサクラミラージュの縁切り神社、しかも全焼して跡地になったような縁起でもない場所だ。
「友達っつゥには首かしげるし、信者でもなし」
「だよねー! でも、なんとなーく、おちつくよ。おれ、あんたはなんか」
 なんでだろうね、とトヲルが笑う。
「そりゃどォも」
 知ったこっちゃないが、お前さんがそう思うならそうなんだろうさ、と逢真も唇の端を歪に吊り上げる。繋いだ縁は白い糸を染めるように、今じゃ色々な所へ伸びている。ヒトと縁など結ぶとは思ってもいなかったのに、縁とは異なものだと逢真は息を吸うように笑った。
「わー、青……あい? がいっぱいだー」
「白いの、ちと影を借りるぜ」
「はーい!」
 人の多い場所、妖怪といえど逢真の毒は全てを蝕む。布であったって、じっと見ていれば色褪せる。望まれれば病毒の振り撒きを阻止する軛をこれでもかと締め付けて、ヒトに触れぬようにもするけれど――トヲルは特にそれを望む事も無い。
「いっつも不思議なんだけどー、影から見えるもん?」
『見えるさ、俺の目はどこにでもあらァな』
「ふーん、見えるならいっか!」
『俺のことは気にせず、お前さんのしたい事をしな』
 そうするー! と元気良く返事をして、トヲルが藍染市の大通りを歩く。
「めちゃくちゃいっぱいあるねー、どれにしよっかな……」
『何探してンだい』
「あーさんや兄ちゃんにおみやげ買ってこうと思って」
 やっぱハンカチかなー、邪魔になんないしなー、とトヲルが覗き込んだ露店で目を惹いたのは縹色に桜の刺繍が入ったハンカチと、褐色――かちいろと呼ばれる黒にも見える藍色に猫の刺繍が入った物。どちらも刺繍は白糸で、角にワンポイントとして入っていて、トヲルは迷わずそれを手にした。
「これにしよーっと」
『いいンじゃないかね』
 お前さんからの土産ならなんだって喜ぶだろうさ、とは言わずに逢真が相槌を返す。
「あとはー、かるーく買い食いしてー」
 そりゃ軽くで済むンかね、と思いはしたが大通りを進むうちにトヲルが泣きそうな声を上げる。
「……屋台がない!」
『そりゃお前さん、布地に匂いが付くからだろ。諦めて甘味処まで行きなァ』
「そうする!」
 甘味処で紫陽花パフェと藍色ソーダを頼み、スマホで写真を撮る。
「かみさま、ぴーすして、ぴーす」
『心霊写真になンだろうがよ』
 そう言いつつ、影の手をひらっと伸ばしてピースサインを作ってやるあたり、意外に付き合いがいいのだ。
 ぺろりとパフェを食べ切ってソーダを飲み干すと、ごちそうさまでしたー! とトヲルが店を出て人通りの少ない場所に入ると、逢真に上に行こうと誘いをかけた。
 影からぬるりと逢真が地に出ると、鳥を喚ぶ。
「カクリヨは天気が良くてもどっか薄暗くてイイな」
「おひさまにがてだもんねー、あんたとはよく上に行くよね」
「そうだなァ」
「おれもね、飛べるよーになったんだよ。自前! 肉体改造でねー」
 ほら! と、背から翼を生やしてトヲルが空を舞うのを追うように、逢真も鳥に乗って空へと飛ぶ。地上を見下ろせば、藍染の色に紫陽花に、ヒトの姿にとよく見えてトヲルがぽつりと呟く。
「ね。いつかさー、おれとあんたのまわりにいる人達は、みんないなくなっちゃうねえ」
「そォさな、俺らァはそっち側なのァ確かだ。そこ以外に共通点はないがね」
 死なないキマイラと、死のないかみさま。
「お前さんからすりゃ置いてかれるンだろうが、俺からすりゃいっときいらっしゃいだ」
「でもさあ、おれはさ、それを、少しでも遅くしたいよ……」
 いい人には長生きしてほしい、いつか置いていかれるとしても。
「……いま生きている以上はお前さんの行動を止めやしないが、寿命とは持ち主のもの。救済されるかどうかの選択は、本人だけの権利だぜ」
 今を生きるいのちが生を望むも死を望むも、それは誰にも奪えず阻む権利もない。
「…………」
 うん、と頷いたトヲルの声は小さくとも、逢真の耳には届いていた。
 死ねないキマイラと、生きていないかみさま。
 似ているようで似ていない二人は暫しの間空から地上を眺め、確かに同じ時間を共有していた。
「あっ、蝶だ! かみさま、蝶いたよー!」
 女の人の周りを飛んでるから、多分間違いないとトヲルが逢真に告げる。
「オ・居たか。じゃ、毒と結界で追ン出すか」
 紫陽花の咲き誇る広場の方へ、と逢真が頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

百鳥・円
【藍玉】2◎

一昨年のアレンジ浴衣を着ていきましょう
お祭りみたいなものですし
こういった衣装の方が楽しめるでしょう?

わ〜〜!おねーさん!
着てくださったんですね、嬉しいな

『あい』染めだなんて耳にしてしまったら
おねーさんのお顔が浮かんじゃったんですよね
ねね、かじゅーのおねーさん
せっかくだからしましょうよ、藍染!

んふふ、胸が踊ります
どんな品を何色に染めましょう
おねーさんの様子を眺めつつ
わたしは、藍色のスカーフにしようかな
ふんわりと髪に巻こうかなって!

おねーさんも髪飾りですね?
可愛く染めて、とびきりの品にしましょっ
一緒に飾る装飾を選ぶのだって楽しみです

んふふ、上手に染まりますようにっと!
ワクワクしますねえ


歌獣・藍
【藍玉】2◎
まぁ、まどか!
とっても愛らしい浴衣ね!
元気いっぱいで美人なまどかと
派手に夜空を煌めかせる花火
なんだか似たもの同士みたいで
お似合いよ

私も貴女から貰った、黒地に金の波と
秘色の桜が揺らめく着物で来てみたの
どう?変じゃないかしら。

藍染と聞いて私を?
まぁまぁ…!(口元を手で抑えて)
ふふ、ごめんなさい。
嬉しくって口元が
だらしなく緩んでしまったの
ええ!今日は思い切り
藍染を楽しみましょう!

いいアイデアね!私もせっかくだから
髪を纏められるものにしようかしら…!
…じゃあこの眞白のシュシュを濃藍に。
アクセサリーを付けると
一層可愛くなりそうね

まどかもそのスカーフに似合う飾りを
後で一緒に探しに行きましょう



●藍結い
 お祭りみたいなものだと聞いていたから、百鳥・円(華回帰・f10932)は迷わず一昨年のアレンジ浴衣に袖を通し、約束した場所へと向かっていた。
「ふふ、こういった衣装の方が楽しめると思って着ましたけど、正解だったみたいですね!」
 藍染市へ遊びに来ている妖怪達も着物や浴衣といった衣装で大通りを歩いてるのを見て、円がにっこりと微笑む。円のワンピースのような黒のアレンジ浴衣には花火が咲いていて、これからの季節を思わせるかのようで人目を惹いていた。
 勿論、待ち合わせ相手でもある歌獣・藍(歪んだ奇跡の白兎・f28958)の瞳だって釘付けだ。
「まぁ、まどか! とっても愛らしい浴衣ね!」
「わ〜〜! おねーさん!」
 手を振る藍に手を振り返し、円がお待たせしましたと微笑む。
「ちっとも待ってないわ、それに元気いっぱいで美人なまどかと、派手に夜空を煌めかせる花火を遠目からも見れたのだもの」
 役得よ、と藍が笑う。
「近くで見ると一層素敵ね、なんだか似たもの同士みたいでとってもお似合いよ」
 アレンジ浴衣に合わせた黒のハイヒールも華奢で可愛いと、藍が上から下まで完璧なコーディネートだわと頷く。
「おねーさんこそ、その着物を着てくださったんですね、嬉しいな」
「ええ、私も貴女から貰った着物を着てみたの」
 黒地に繊細な金細工の波が揺れ、その上に秘色の桜が舞うように踊る着物。凛とした佇まいは円が思った通り、藍にとてもよく似合っていた。
「どう? 変じゃないかしら」
「とってもよく似合ってますよう! おねーさん、折角ですから自撮りしましょう、自撮り!」
 二人ぴったりとくっついて、円のスマホで記念の一枚。
「いいのが撮れました! あとで送っておきますね」
「ふふ、ありがとうまどか」
 それじゃあ行きましょうかと、二人で藍色に染まった大通りを歩く。
「もうですね、『あい』染めだなんて耳にしてしまったら、おねーさんのお顔が浮かんじゃったんですよね」
 だから絶対にお誘いしようと思ったんですと、円が笑う。
「藍染と聞いて私を? まぁまぁ……!」
 藍色の瞳をぱちりと瞬かせ、藍が思わず口元を手で押さえる。
「ダメでした?」
「駄目だなんて、とんでもないわ! ふふ、ごめんなさい。嬉しくって口元がだらしなく緩んでしまったの」
 恥ずかしいわと恥じらう藍に、円も同じように口元を押さえた。
「おねーさんが可愛すぎてどうしましょう!」
「まあ、まどかったら」
 二人で顔を見合わせて、くすくすと笑っていると藍染体験の文字が見えて円が藍の手を引く。
「ねね、かじゅーのおねーさん! せっかくだからしましょうよ、藍染!」
「藍染体験? 素敵ね! 今日は思い切り藍染を楽しみましょう!」
 そうと決まれば、と円と藍は体験コーナーへと足を踏み入れた。
「まあ、色々あるのね」
「んふふ、どんな品を何色に染めましょう?」
 まるで胸が躍るようなときめきに笑みを浮かべて、円がどれにしようかと悩みつつ藍の様子を眺める。
「こんなにあると悩むわね……」
 ハンカチもストールも、シャツだって魅力的。小銭入れのがま口だって可愛いと、藍が悩みつつ円を見遣った。
「まどかはどうするのかしら?」
「そうですねえ、わたしは藍色のスカーフにしようかな。ふんわりと、髪に巻こうかなって!」
「まあ、いいアイデアね! スカーフなら首元に巻いても鞄に結んでも素敵だもの」
 きっと似合うわ、と微笑みながら藍もそれならと眞白のシュシュを手に取る。
「私もせっかくだから、髪を纏められるものにしようかしら……!」
「おねーさんも髪飾りですね? では、可愛く染めてとびきりの品にしましょっ」
 袖を汚さぬようにとたすき掛けをし、エプロンを借りて体験教室の魔女に教えてもらいながら、二人で藍を入れていく。一回、二回、三回と、何度も思う色になるまで藍液に浸け、空気に触れさせてと繰り返す。
「んふふ、上手に染まりますようにっと! ワクワクしますねえ」
「とっても! 自分で染めるのがこんなに楽しいなんて思わなかったわ」
 徐々に深く染まっていく色を眺め、そうだわと藍が円を見る。
「このシュシュやスカーフにアクセサリーを付けると一層可愛くなりそうね?」
「おねーさん、とってもいいアイデアですっ!」
「うふふ、それじゃあ染め終わったら……まどかも一緒に似合う飾りを探しにいってくれる?」
 勿論、そのスカーフに似合う飾りも、と藍が円にねだる。
「ふふふ、楽しみが増えましたねえ」
 藍染の染め上がりに、一緒に飾りを探しにお買い物。
 どちらも、なんて楽しみなのだろうかと二人顔を見合わせて、嬉しそうに微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

おや、サヨ
藍染をできるようだ
やってみよう

実は私は以前染めを生業にする友に習ったことがる
サヨの手伝いも出来ると思う
…何時も教わってばかりだから
此度は私が、きみに
きみになにかを与えられるのはこんなにも嬉しい
然りと良い所を見せなければ

私はサヨへ贈るすとーるというものを作りたい
深い深い戀愛……いや、濃藍色に染め上げて
うまく桜の小花のような模様もつけたい
可愛らしく器用に進めるサヨに見蕩れ─てる場合では無いのだ
真剣に染めあげる!

よく分からない柄になってしまった…
刺繍など無理
サヨの櫻の字も出来ず桜花弁一枚が限界

サヨ、本当に?
天桜のハンカチを握り、笑む
きみの笑顔が私の心をあい染めてくれるのだ
何時だってね


誘名・櫻宵
🌸神櫻

藍染ですって!
作られたものを買った事は自分で染めるのは初めてだわ……藍染、愛染…素敵ね

カムイ、やってみましょ
私が染めるならば、やはり桜色だけれど……ここは青空のような天色に染めたいわ

カムイはやったことがあるの?
じゃあ教わろうかしら
あなたに何かを教わるのって新鮮ね
真剣な神の横顔
この世界に転じ生まれて学び成長しているのだと
愛おしくて堪らなくなる

淡い水色ならば色はあまり重ねずに愛を込めて染めて
綺麗にできたわ!
青空に白い桜の咲くハンカチよ
刺繍でいれるなら赤い桜と私の神の真名
愛しい神様に奉じましょう

私の神様は不器用なのかしら?
それも美しいわ
いつだって笑顔を咲かせて包んでくれる
あいらしいストールね



●愛に染め
 からころと、藍染市が行われている大通りに誘名・櫻宵(咲樂咲麗・f02768)の下駄音が響く。それはとても機嫌の良さげな足取りで、隣を歩く朱赫七・カムイ(禍福ノ禍津・f30062)の頬が思わず緩んでしまうほど。
「素敵ねぇ、普段は桜色に囲まれているけれど、藍色も心惹かれるものがあるわ」
 何より青い色は櫻宵の可愛い人魚を思わせる色だから、心惹かれるのも当然というもの。
「そうだね、同志に何か買っていってあげたくなるね」
 カムイも藍染を眺めながら、同じ櫻を愛する人魚の姿を心に浮かべていた。
 薄い藍から黒に近いような藍まで、様々な藍色を眺めてはどれも買って帰りたいと笑いながら二人がそぞろ歩く。
「おや、サヨ」
「なぁに?」
 何か素敵なものでも見つけたのかと、櫻宵がカムイの視線の先を追う。
「藍染をできるようだ」
「あら、ほんと! 藍染体験ですって」
「やってみようか」
「ええ、カムイ。やってみましょ。作られたものを買った事はあるけれど、自分で染めるのは初めてだわ……」
 藍染、愛染……素敵ね、と言の葉を櫻宵が口の中で転がして、カムイの手を引いた。
 体験教室につくと、着物の袂を汚さぬようにとたすきを借りて、二人でたすき掛けをして準備もばっちり。軽い説明を受け、何色にするかと色見本を覗き込む。
「私が染めるならば、やはり桜色だけれど……ここは青空のような天色に染めたいわ」
「それなら……実は私は以前染めを生業にする友に習ったことがあるんだ」
「まあ、カムイはやったことがあるの?」
「門前の小僧とまではいかないかもしれないけれどね、サヨの手伝いも出来ると思うんだ」
「ふふ、じゃあ教わろうかしら」
 屈託ない笑みを浮かべる櫻宵に見惚れながら、カムイが頷く。
「……ほら、私は何時も教わってばかりだから。此度は私が、きみに」
 愛おしいきみになにかを与えられるのならば、こんなにも嬉しく幸せなことはないとカムイが微笑む。
「そういえば……あなたに何かを教わるのって新鮮な気持ちね」
 よろしくお願いね、私のかぁいい神様と桜宵がカムイに笑う。その笑みを眺め、ここはしっかりと良い所を見せなければとカムイが決意も新たに藍染できる布地に向き合った。
「サヨは何を作りたいんだい? ここにあるものなら、好きなものを選んでいいそうだけれど」
 目の前には何ものにも染まっていない真っ白な布、既に商品としての形――シャツであったり、ハンカチであったりと染めるだけでそのまま使えるものなど、色々と用意されている。
「そうね、ハンカチにしようかしら」
 白い木綿のハンカチを手にした櫻宵の横で、ならば自分はストールにしようとカムイがフリンジの付いた薄手のストールを手に取った。
 これはサヨへ贈るすとーる、そう思うと染める手にも力が入るというもの。真剣な顔をして、深い深い戀愛色に……いや、濃藍色にと想いを込める。できれば桜の小花のような模様もつけたいと、ぎゅっと布を固めて輪ゴムで縛った。
 そんなカムイの真剣な横顔をちらりと横目で見遣り、彼がこの世界に転じ生まれたこと、そして日々学び、成長しているのだと思うと櫻宵の胸の内側がぎゅうとして、愛おしくて堪らなくなる。思わず抱き締めてしまいたくなるけれど、その気持ちを真っ白なハンカチに込めて櫻宵が藍液に浸ける。淡い水色ならば色はあまり重ねずにと、愛を込めて染めあげて。
 そしてカムイもまた、可愛らしく器用に染めを進める櫻宵に思わず見惚れそうになりつつ、そんな場合ではないと再び藍染に没頭していった。
「できたわ!」
 櫻宵が想う色に染まったハンカチを水で洗い、魔女の魔法で乾燥してもらう。カムイはもう少し染めに時間が掛かるようなので、邪魔にならぬように青空に白い桜の咲くハンカチに刺繍を施していく。
 ひと針ひと針想いを込めて、赤い桜と櫻宵の神の真名を刺し、愛しい神様に奉じようと手を動かした。
 一方カムイも濃藍に染まったストールを水洗いして、こちらも魔女の魔法で乾かしてもらっていた。
「よく分からない柄になってしまった……」
 出来映えは思い描いていた物とは違ってしまったし、刺繍で挽回しようにも櫻宵の櫻の字も出来ず、桜花弁一枚をなんとか刺せたくらい。けれど有り余る愛だけは込めたのだと、櫻宵にストールを手渡す。
「貰ってくれるかい……?」
「勿論よ、私のかぁいい神様。ふふ、私からはこれを」
 ふんわりとしたストールを受け取り、櫻宵が先程まで刺繍していたハンカチをカムイに渡す。
「とってもあいらしいストールね」
 私の神様はちょっと……かなり不器用かもしれないけれど、それも美しいと櫻宵は思う。ストールを首に巻き、そのふんわりとした優しくも深い愛に包まれて、笑顔を咲かせた。
「サヨ、本当に?」
「ええ、私は嘘なんて言わないわ」
 その言葉だけで頑張った甲斐があるというもの、カムイが天桜のハンカチを手に握り嬉しそうに微笑む。
「カムイ、貴方の愛がいつだって私の笑顔を咲かせて包んでくれるのよ」
「サヨ、きみの笑顔が私の心をあい染めてくれるのだ」
 何時だって――そう囁き合って、二人笑顔を咲かせるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【哀】◎
藍と愛をかけてるとかさ~、風情も浪漫も満載で良いよネ~
ハハハ~…
(毎度の如く若干哀愁漂う様子で
藍&愛を交わし合う方々を遠い目で眺め)

いや来てくれたのは有り難いんだケドネ!
お心遣いも有り難いんだケドネ!?
くぅぅ…優しさが滲みすぎる…
色々毒されすぎてんのヨ…哀とか言わないのっ
(贈物を無下にする訳にもいかず――ほろり)

よし、こーなりゃ件の嫋やか乙女チャンを探しに――行く前に、返礼タイムな!
(立ち直りの早さも慣れたモノ――意気揚々と小物店を覗き)
あっ、コレとか如何?
ワンポイントワンコ印の風呂敷!
狛クンの首に巻いたげるとカワイイ予感がする!
みっちーが使ってもギャップが愉快だし?(悪戯げに笑い)


吉城・道明
【哀】◎
そうだな
良い色彩に好い風習で、見ているだけで穏やかな心地になる
然し、何だ――期待とは程遠い相手ですまんな
(例の如く、何処ぞの女傑に代打を頼まれてきたパターン)

こういう時は、確か……
(哀愁漂う姿を前に、少し考え――徐に近くの店で藍染のハンカチを買い、そっと伊織へ差し出し)
涙拭けよ、と言うところだったか
(善意でいつもの仲間達に倣ってみた模様)
いつか哀ではなく、愛に染まる日が来ると良いな

(それにしても、今日も立ち直りと顔芸なるものが凄いなと感心しつつ)
礼など構わんが――ふむ、風呂敷か
それは良いな
確かに良く合いそうで、喜びそうだ
む、ならば伊織のハンカチにも雛と亀の刺繍を施すか(小さく笑い返し)



●あいも色々
 甕覗、浅葱に納戸、縹に紺――様々な藍色が揺れ、人の目を惹く藍染市。呉羽・伊織(翳・f03578)もまた、藍色を眺めながら大通りを歩く人々の一人であった。
「藍と愛をかけてるとかさ~、風情も浪漫も満載で良いよネ~」
「そうだな。良い色彩に好い風習で、見ているだけで穏やかな心地になる」
 伊織の横を歩く吉城・道明(堅狼・f02883)が彼の言葉に頷き、露店に飾られた深みのある藍色に染まった手拭いやハンカチに目を奪われたように視線を向けた。
「だよネ~ハハハ~~……」
 道明の視線とは反対方向、つまりは人通りのある方へ視線を向けた伊織が毎度の如く哀愁を漂わせ、手を繋いだり腕を組んだりする恋人同士や、まだ恋人には至らない恋人未満友達以上みたいなカップルを眺める。
「良いよネ……藍と愛でネ……」
 段々遠い目になっていく伊織の様子に気が付いた道明が藍染から視線を上げ、遠慮がちに声を掛ける。
「然し、何だ――期待とは程遠い相手ですまんな」
「いや来てくれたのは有り難いんだケドネ!」
 そう、実のところ伊織が誘ったわけではない。ウフフ、きっと伊織ちゃんったら藍染市で愛を探すどころか哀に染まりそうだから、お目付け役をお願いね? と笑顔で何処ぞの女傑に頼まれたので、それならばとやってきたのだ。
「藍染市にも興味があったからな、問題ない」
「ほんとにネ、アリガトネ……」
 すん、と鼻を鳴らしながら、藍染よりも目の前を歩いていくカップルを眺めているものだから、道明が暫し思案し、こういう時は確か……と、自分が目を惹かれた藍染のハンカチをさりげなく買い求める。
「伊織」
 そして、手にしたハンカチをそっと伊織へと差し出した。
「みっちー……」
「涙拭けよ、と言うところだったか」
 十割善意である、ただいつもの仲間達に倣ってみただけで。
「お心遣いも有り難いんだケドネ!?」
 ちょっと色々毒されすぎてない? と思いはしたけれど、渡されたハンカチには道明の優しさが詰まっていて無下にするわけにもいかない。
「伊織、いつか哀ではなく、愛に染まる日が来ると良いな」
 ぽん、と叩かれた肩が温かい、温かいけれども。
「くぅぅ……優しさが滲みすぎる……あと、哀とか言わないのっ」
 本当に色々毒され過ぎている、こんなに良い子なのに……朱に交われば赤くなるってこういうことなんだなぁ……と、それも含めてほろりとした涙をハンカチで拭った。
「よし、こーなりゃ件の嫋やか乙女チャンを探しに――行く前に、返礼タイムな!」
 切り替えの早い伊織のこと、そこまで心配はしていなかったがと道明が笑みを浮かべる。今日も立ち直りと顔芸なるものが凄いなと感心しての笑顔だ。
「何か違う笑顔な気がするけど、細かいことは良しとするヨ」
「うん? そうか」
 よくわかっていない道明を連れ、伊織が小物を並べている露店を覗く。
「いや本当に色々あるな」
「職人の手による染め、その布を使っての職人の手業による小物……大物もあるが、見事なものばかりだな」
 手に取りやすい手拭いやハンカチはそれこそ沢山あって、同じ染めでも刺繍が違っていたりと芸が細かい。大物は着物や帯で、型染めした物から染め抜いた糸を織った物までと、その魅力も様々。
「小銭入れに判子入れ、扇子に帽子……どれもみっちーに似合いそうだけど」
「礼など構わんが」
「って言うと思った! あっ、コレとか如何?」
 伊織が手に取ったのは道明の瞳のような色合いの藍に、ワンポイントとして犬の可愛らしい顔が刺繍されたもの。
「ワンポイントワンコ印の風呂敷!」
「ふむ、風呂敷か」
 風呂敷は何枚あっても使えるもの、確かに悪くない選択だ。
「狛クンの首に巻いたげるとカワイイ予感がする!」
「それは良いな。確かに良く似合いそうで、喜びそうだ」
 道明では考えつかなかった使い方の提案に、狛犬の首に巻いたところを想像して笑みが浮かぶ。
「そうそう、それにみっちーが使ってもギャップが愉快だし?」
 実際にこの風呂敷に何かを包んで誰かに差し出すところも、かなり面白いんじゃないかと伊織が悪戯っ子のように笑う。
「む、ならば伊織のハンカチにも雛と亀の刺しゅうを施すか」
 そうすれば、いつでも一緒に居られるぞ? と、道明が小さく笑い返した。
「ぴよこと亀……ぐぬぬ、それは絶対可愛いと思うけど、俺が使うとなると……!」
 いや、意外とギャップ萌えとかされるのではないだろうか、と真剣に伊織が考え出したところで道明が伊織の肩を軽く叩く。
「何、オレ今ギャップの可能性について……」
「伊織、蝶だ」
 蝶、と言われて視線を向ければ、ひらひらと舞う幽世蝶が乙女の周囲を飛んでいるのが見えた。
「ほんとに嫋やかそうな乙女チャンだな」
「悪い事をするようには見えないが……後を追うか」
 そうだね、と返事をし、ちゃっかりワンコ印の風呂敷を買って伊織が道明と共に蝶の後をゆるりと追うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

邨戸・嵐
【シンク2】
愛情とか想いって言葉、好きなんだ
会場の賑わい自体も楽しみ

目当ては甘味処だけど
露店でも足を止めちゃう
これからの季節に藍色は涼しそうだねえ
俺、こう言うお洒落着すぐだめにしちゃうんだ
言いつつお薦めを試す

甘味処についたら本番
まずソーダは甕覗き
変な名前で面白いよねえ
アイス乗せてもよかったな、でもパフェにも入ってるし
悩んでたけど飲んだら忘れた
染まったらきっと一叶も商品になれるねえ
いい値段がつくよ

パフェも美味しい
腹が膨れたらそれでいいやっていつもは思ってるけど
せっかく凝った見た目で作ってくれたものねえ
気持ち時間を掛けて味わって
紫陽花が咲いたら先には夏
暑いのヤだよお
せめて今日は涼ませて貰お


椚・一叶
【シンク2】
良い色、と覗き込み
藍染はひとつひとつ、表情違って面白い
深まる愛、想いは分からないが結構好きな色
寒がりな嵐にはストールが良い気がする
被ってみたらどうだ

露店冷やか…楽しんだら甘味処へ
どちらかと言えば、そちらが本命
紫陽花パフェと藍色ソーダ、両方頂く
ソーダは縹色を
儂の髪色に少し似ている気がした、親近感
…これは飲んでも口と胃の中、染まらない?
儂の値段、そう簡単に手を出せない額になる
おそるおそる飲んだら爽やかな味だった

紫陽花の彩り、崩すのちょっと勿体ないが早速頂こう
ゼリーとアイスが口の中で溶け合って、色々な味がする
美味い
紫陽花も染まっていくところ、藍染と同じか
帰りに見ていくのも良いかもしれない



●夏の前に
 大通りにずらりと並んだ藍色は藍染市を訪れた人々の目を楽しませ、時にその色だけで人を惹きつける。それはこの市を訪れていた椚・一叶(未熟者・f14515)と邨戸・嵐(飢える・f36333)も例外ではなく、甘味目当てで来たはずの二人の足を立ち止まらせていた。
「俺、愛情とか想いって言葉、好きなんだ」
 だからこの藍染市で藍を通じて愛を贈る、というのは洒落も効いていていいよねえ、と嵐が笑いながら藍染のハンカチを手に取った。隣でこのハンカチは良い色、と覗き込んでいた一叶がふん、と笑う。
「深まる愛、想いは分からないが結構好きな色」
 特に藍染はひとつひとつ、表情が違っていて面白いのだと言うと、やっぱり愛みたいだなと嵐が唇の端を持ち上げる。
「何故だ?」
「だってほら、人の愛情だってそれぞれだからねえ」
 同じ愛なんてないんじゃないのかな、と嵐が言うと、一叶がそういうものかと頷いた。
 気になる露店を片っ端から覗きつつ、二人で藍色を眺めて歩く。
「これからの季節に藍色は涼しそうだねえ」
「それなら、あれ」
 つい、と一叶が指さす先にあったのは藍色がグラデーションになったストールで、巻いてよし被ってよしな大判のもの。
「寒がりな嵐にはストールが良い気がする。暑くなったら日除けにすればいい」
「ストールかあ。俺、こう言うお洒落着すぐだめにしちゃうんだ」
 そう言いつつも、手に取ってストールを広げてみる。薄手だけれど、重ねれば首元の熱は遮ってくれるだろうし、寒い時だって優しく温めてくれそうな優れものだ。
「被ってみたらどうだ」
「んー、似合う?」
「似合う、と思う」
 一叶がそう言うなら、買ってもいいかもねえと嵐が手にしたストールをじっと見つめる。
「帰る時にもまだあったら買おうかな」
「今すぐ買えばいいものを」
 ストールを丁寧に戻し、いいんだよと嵐が店を離れた。
「縁があったら残ってるもんだよ」
「ふむ、そういうものか」
 なければそれまでの話、と嵐が笑って大通りを進んでいくと、通りの終わりのその先に甘味処の幟が見えて一叶がニヤリと笑う。
「一番の目当てだ、行くぞ」
「いいねえ、丁度休憩したいなって思ってたところだよ」
 紫陽花色に染まった幟を目指し、藍染の暖簾をくぐる。店内も藍染を使った座布団だったり、お冷を置いてくれるコースターが藍染されたものだったりと藍に満ちていた。
「さて、何にしようかな」
「儂は紫陽花パフェと藍色ソーダ、両方頂く」
「やっぱりそこは外せないよねえ。ソーダは何色? 俺は甕覗きかな、変な名前で面白いよねえ」
 どれにしようかメニューと睨めっこをしていた一叶が、これと指さしたのは縹色。
「儂の髪色に少し似ている気がした、親近感」
「確かに、一叶の髪の色に似てるかもねえ」
 藍色よりも薄く、それでいて浅葱色よりも濃い薄青色。綺麗な色だよねえ、と嵐が言ってメニューを閉じた。
 店員を呼ぶと注文を伝え、届くまでの暫しの間、何気なく窓の向こうを眺めると青や紫、ピンクと色とりどりの紫陽花が咲いているのが見えた。
「綺麗だよねえ、紫陽花」
「色、いっぱいだな」
「なんだっけ、土が酸性だと青でアルカリ性なら赤になるんだっけ」
「あんなに近い場所に咲いているのに違うものなのか」
 隣合う紫陽花の色が違うと、じっと一叶が紫陽花を見つめるものだから、そう言われるとそうだな、みたいな顔をして嵐も紫陽花を見ていたが、すぐにテーブルの上に運ばれてきた紫陽花に目を奪われた。
「美味そうだな」
「ソーダ、本当に色が違うの面白いねえ」
 しゅわしゅわと弾けるソーダを眺め、嵐がストローをグラスに挿す。
 アイスをのせてクリームソーダにしてもよかったな、でもパフェにも入ってるし……と思いながら一口飲めば、そんなことはどうでもよくなってしまった。
「美味しいよ、一叶」
 それくらい、喉をしゅわりと駆け抜けていくソーダは美味しかったからだ。
「一叶?」
 じっと藍色ソーダを眺める一叶に首を傾げ、嵐が名を呼ぶ。
「……これは飲んでも口と胃の中、染まらない?」
 子どもみたいな一叶の言葉に嵐が笑いながらストローを回すと、かろんと氷の鳴る音がして炭酸が弾けた。
「もしも染まったら、きっと一叶も商品になれるねえ」
「儂も商品に……いや、儂の値段、そう簡単に手を出せない額になる」
「そうだねえ、いい値段がつくよ」
 その言葉に気を良くし、一叶が恐る恐るストローを口に咥えてソーダを一口飲んだ。
「……美味い」
 爽やかな味わいが鼻を抜け、なんとも涼し気な気分。この調子でパフェも頂こうと、パフェスプーンを手にする。
「崩すのちょっと勿体ない」
「わかるよ、俺は腹が膨れたらそれでいいやっていつもは思ってるけど、せっかく凝った見た目で作ってくれたものねえ」
「ちょっと待て、写真撮る」
 懐から出したスマホでパチリと撮って、これでよしと一叶がそっとスプーンでゼリーとアイスを掬い、口の中に入れた。それに倣うように、嵐もパフェを一口。
「ん、パフェも美味しい」
「すごい、ゼリーとアイスが口の中で溶け合って、色々な味がする」
 美味い、と瞳を輝かせてスプーンを動かしていく。
「綺麗で美味しいものはいいねえ」
 それで、誰かと一緒に食べるのなら尚更と、嵐が気持ち時間を掛けるようにパフェを食べ進めた。
「どうだ、青いか?」
「大丈夫、染まってないよ」
 食べ終わり、べ、と舌を見せた一叶に笑ってそう答え、嵐が咲き誇る紫陽花に再び視線を向ける。
「紫陽花が咲いたら、先には夏かあ。暑いのヤだよお」
「夏には夏の楽しみがある」
 海とか、バーベキューとか。そう言いつつ、一叶も嵐の視線の先にある紫陽花を眺めた。
「紫陽花も染まっていくところ、藍染と同じか。帰りに近くで見ていくのも良いかもしれない」
「そうだねえ、せめて今日は紫陽花に涼ませて貰お」
 そうして、藍染市をもう一度眺め、ストールがまだ残っていたら買うのもいいと嵐が笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

桜田・鳥獣戯画
アルフレッド(f03702)!本日の仕事はカクリヨの藍染市だ!

よいか藍染の工程というのは…おお見ろ、紫陽花が美しい!
実はなこの近くの甘味処に食べてみたいパフェが
ハッ、アルフレッド!?
青色ばかりで見失うではないか!と手を引く

藍染か、今年の浴衣に良いかもしれんな…
おっと仕事に来たのだったな!と目当ての甘味処へ

小豆は好きだぞ!ほうそんなに体に良いのかもっと食べねば
蘊蓄を嬉しそうに聞く

紫陽花パフェだ!このほのかな青紫色が見たくてな!
そして美しいものは食べてみたい!
そのソーダも美しいな…
アルフレッドはシェアという文化を知っているか

UDCはお前意外と詳しいからな!
たまにはカクリヨも良かろう?


アルフレッド・モトロ
今日は姉御(f09037)とカクリヨファンタズムに来た
なんでもイチオシの甘味処があるとか
俺カクリヨには疎いんだよな
UDCの飯処はよく調べるんだが

へえ、藍染市っつーのか!
青いモンだらけだ!
俺も全身青っぽいし保護色みたいになっ……って姉御!俺はこっちだ!と姉御の手をとる

(な、なんかカップル多くね?姉御がこういうトコ選ぶなんて予想してなかったぞ)

お、俺濃藍ソーダとパフェにしよっかな〜

ええと
姉御は小豆好き?俺は好き!小豆は蛋白質豊富で他にもビタミンとカリウムが…(蘊蓄)

(俺すげー緊張してんな。一緒に焼肉とか行ってた頃はこんなことなかったのに)

しぇ、シェア!?
同じ部屋で暮らしたりするあの!?(勘違い)



●藍に桜に紫陽花に
 まるで空の上か海の中かと思うほどの様々な藍に囲まれて、桜田・鳥獣戯画(デスメンタル・f09037)とアルフレッド・モトロ(蒼炎のスティング・レイ・f03702)が藍染市を歩く。
「アルフレッド! 本日の仕事はカクリヨの藍染市だ! どうだこの見事な藍の数々、心惹かれるものがあるな!」
「へえ、藍染市っつーのか! 青いモンだらけだ!」
 あちらこちらに立てられた幟も、露店に並ぶ商品も、そのほとんどが青系の色ばかり。
「よいか、藍染の工程というのは……」
 何気に藍染に造詣があるのか、鳥獣戯画がアルフレッドに簡単な藍染の説明をしながら進んでいく。
「で、何度も浸けて空気に触れさせていると色が濃くなっていくというわけだ」
「なるほどな~、それで藍染っていうのか」
 模様の付け方も様々あるのだぞ、あれなどは――と鳥獣戯画が視線を向けた先に紫陽花が飾られていて、振り向きながら笑う。
「おお見ろ、紫陽花が美しい! あれっ」
「俺も全身青っぽいし、保護色みたいにな……えっ」
「どこだ、アルフレッド!」
 保護色みたいになりそうだな~なんて笑っていたら、鳥獣戯画がマジな顔をしてアルフレッドを見失っていた。
「姉御! 俺はこっちだ!」
 アルフレッドが焦って鳥獣戯画の手を掴むと、パッと視線が合う。
「おお、アルフレッド!! 青色ばかりで見失うではないか!」
 掴まれた手を握り返し、こっちだぞ! と鳥獣戯画がアルフレッドの手を引いた。
「あ、あね、あね」
「あね? アネモネ? 紫陽花しかないぞ?」
 そうじゃないんだ、手が、手が、と口にできないままアルフレッドが鳥獣戯画に案内されるままに歩く。周囲には何故かわからないがカップルが多いし、手を繋いで歩く俺達もカップルに見えているのでは、いや違うだろ仕事で来てんだよ俺の馬鹿野郎、とか色々脳内を駆け巡っていたので、もう途中で鳥獣戯画が何を言ってたかは分からなくなったけれど、その手が柔らかいのと温かいのだけはわかった。
「それでな、実はこの近くの甘味処に食べてみたいパフェがあってな」
「ぱふぇ」
 パフェ、と言われてちょっと正気に戻る。
「そうだ、紫陽花パフェと言ってな。今の季節にぴったりだろう?」
 手を握ったままズンズンと進んでいく鳥獣戯画についていきながら、アルフレッドがそうだなと頷く。
「しかし甘味処が目当てではあるが、藍染……今年の浴衣に良いかもしれんな……」
「えっ、姉御浴衣着るのか」
「新しいのを誂えるのも良いかもしれんな、と思ってな。っと、アルフレッド! ここがその甘味処だ!」
 紫陽花色の幟に、藍色の暖簾。横開きの扉をガラリと開けて、中へと入る。繋いだ手が離れていくのを少し勿体ないと思いながら、アルフレッドは案内されるままにテーブルへと着いた。
「さあ、どれにする? 私は紫陽花パフェと決めてきたが!」
「お、俺はパフェとソーダにしよっかな~」
「ソーダは何色だ?」
「ん~、濃藍で」
 注文する品が決まった頃合いを見計らってやってきた店員にオーダーを伝え、届くまでの間をどうしようかとアルフレッドが脳をフル稼働させる。
「ええと、姉御は小豆好き?」
「小豆は好きだぞ!」
「俺も好き!」
 やや食い気味でアルフレッドが好きと言ってしまったので、鳥獣戯画はアルフレッドは小豆が好きなのだな、今度美味しいおはぎとか調べて食べに行くかと考えて笑みを浮かべた。
「ほ、ほら、小豆は蛋白質豊富で他にもビタミンとカリウムが……」
 その笑顔にテンパりながらも止めどなく溢れる蘊蓄を披露しつつ、アルフレッドは自分がなぜこんなに緊張しているのかと胸の内で首を傾げていた。一緒に焼肉とか行ってた頃はこんなことはなかったのに、パフェか? 甘味処だからなのか? とか思っていた。
「ほう、そんなに体に良いのか……ではもっと食べねばな」
 アルフレッドの小豆知識を豆だけに……と思いながら、帰りにおはぎ買って帰ろうと心に決めた。
 温度差が酷いが、似た者同士なので多分何も問題はなかった。
 小豆の話から、小豆のウルトラ硬いアイスの話になったところで注文したパフェとソーダが届く。何とか間を持たせたぜ……! という謎の達成感を感じながら、アルフレッドが紫陽花パフェの美しさに目を瞬かせる。
「どうだ? これが紫陽花パフェだ! このほのかな青紫色が見たくてな!」
「これは綺麗だな、姉御!」
「だろう? そして美しいものは食べてみたい!」
 崩すのを勿体なく感じるほどのパフェだけれど、食べなければ溶けて崩れていくのだからと鳥獣戯画がスプーンで掬い、口へと入れる。
「うん、美味いぞ! アルフレッドも食べるといい!」
 鳥獣戯画に促され、アルフレッドも紫陽花パフェを一口。その美味しさに頬を緩め、もう一口と食べ進めていく。
「この、グラスの中の方の抹茶とバニラの比率も美しいな……葉を象ったチョコやクッキーも美味い」
「なんつーか、絶妙って感じだな」
「うむ! パフェも美しいが、そのソーダも美しいな……」
 かろん、と涼やかな氷の音を立ててストローに吸い上げられていく藍色。
「これも美味いよ」
「そうか、ところでアルフレッドはシェアという文化を知っているか?」
「しぇ、シェア!? 同じ部屋で暮らしたりするあの!?」
 それはルームシェアだが、まあ間違ってはいないなと鳥獣戯画が頷く。
「いや、それもそうなんだが」
「姉御と……俺が……」
 ルームシェアの誘い……!? と加速する勘違いを鳥獣戯画が引き戻す。
「こうな、互いが食べているものを分け合うのをシェアというのだ」
 私も教えてもらったのだが、と鳥獣戯画が頷く。
「え? あ、そっちのシェア」
「そうだ、つまりは何だ、ソーダ少しくれ!」
「なんだ、それならそうと」
「悪いな!」
 なんだ~勘違いした~と思いながらアルフレッドがソーダを手渡して、ハッと気付く。
「まっ、あね、あっ、あ~~」
「うん、これも爽やかでいいな!」
 それは、か、かかかか、間接キスというものでは……!? と気が付いた頃には遅かった。
 グラスを返そうとする鳥獣戯画を何とか押しとどめ、俺はもう充分だから! と、ソーダを押し付ける。だって間接キスになるストローで飲むとか無理ゲーだったから。
「む、何か悪いな! ありがたくいただくが!」
「気、気にすんなって!! それよりあれだな、姉御はカクリヨにも詳しいんだな~!」
「ああ、たまたま目に付いた依頼でな」
「俺、カクリヨには疎いんだよな、UDCの飯処は良く調べるんだけどさ」
 なんとかこの話題を無かったことにしようと、アルフレッドが必死で喋る。
「UDCはお前意外と詳しいからな! たまにはカクリヨも良かろう?」
「ああ! 藍染も紫陽花パフェもすごくいいと思うぜ!」
 上手く話題が逸らせた事に感謝しつつ、これは本当に、とアルフレッドが笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

紫・藍
【藍九十】◎
藍といえば藍ちゃんくん!
藍を愛するヒトに贈ると聞いたからには!
おねーさんとお買い物デートして藍ちゃんくん色に染め上げるしかないと思ったのでっすがー。
あうあうあう。
おねーさんが藍ちゃんくんを真っ赤に染めてくるのでっしてー。
二人して真っ赤なのでっす!

そんな藍ちゃんくんをおねーさんが藍色に染め直してくださるようでっしてー!
自らを彩る時にはいつもわくわく藍ちゃんくんでっすがー!
藍するヒトと互いの服を選び合いっこするというのはなんだかとってもこそばゆいのでっす!
あやや~。
や?
藍ちゃんくん達の春に引き寄せられたのか蝶々さんが!
こんにちはなのでっす、お姉さん!
お姉さんも藍、お好きなのでっすかー!


末代之光・九十
【藍九十】◎
素敵な風習だけど…
僕の場合。自分がもう藍に染まり切ってるし。そんな僕自身を贈るにもとっくに藍に全部上げちゃってるから…
(※其処まで呟いてから、自分がアホ程惚気た事を抜かしている事に今更気づいて赤面)
…い。今の。なしで……いややっぱなしにはしないけどその口には出さなかったって事で何とかならないかな!?
ならない?そっか(顔を覆って座り込む)

…デート……デートは行く。うん……そだね。僕の方も藍を染めれる様に頑張る。
藍に似合う藍の服やアクセサリ。
てか藍は何でも似合って世界一可愛いしかっこいいから逆に何を選ぶか悩…
(※繰り返し)

ん?(藍に続き)あ。こんにちわだよお姉さん。
…お祭り楽しんでる?



●あいのいろ
 溢れるほどの藍色の中、ご機嫌な笑みを浮かべて歩くのは紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)で、その彼に手を引かれて歩くのが末代之光・九十(何時かまた出会う物語・f27635)である。
「藍といえば藍ちゃんくん! でっすのでー!」
「そうだね。藍といえば藍だよね。僕もそうかなって思ってたけどね」
「さっすがおねーさんなのでっす! そうなのでっす! そっしてでっすねー、藍を愛するヒトに贈ると聞いたからには!」
 人の邪魔にならぬような場所で立ち止まり、藍がくるんと九十に向かって振り返る。
「おねーさんとお買い物デートして、藍ちゃんくん色に染め上げるしかないと思ったのでっす!!」
 恋人を自分色に染めたいと思うのは、当然でっすので、と藍が笑う。その笑みはいつもの、誰にでも見せる笑顔ではなく、九十だけに見せる顔だ。
「素敵な風習だけど……僕の場合。自分がもう藍に染まり切ってるし。そんな僕自身を贈るにもとっくに藍に全部上げちゃってるから……」
 となれば、どうすればいいのだろうかと九十がぶつぶつと呟き、どうしたらいいのかな? と藍を見てからハッと気付く。
「……今の。全部聞こえてた?」
「あうあうあう」
 全部心の中で言っていたつもりだったけれど、藍の顔が真っ赤に染まっていたので、これはやっちまったな??? と思ったのだ。
 アホ程! 惚気た! しかも恋人相手に! という事実に、九十も藍に負けない程に赤くなる。これほどの青に囲まれているのに赤くなるとは、と思わなくもない。一生やってて欲しい。
「……い。今の。なしで……」
「なしなのでっすかー!?」
「いややっぱなしにはしないけど。その。口には出さなかったって事で何とかならないかな!?」
「ならないのでっすよー! おねーさんが藍ちゃんくんを真っ赤に染めてくるのでっしてー!」
「ならない? そっか。そっかー……」
 顔を覆って座り込んだ九十の横にちょこんと藍も座り込んで、赤い顔が少しマシになるまで二人で手を繋いでいた。本当に一生やってて欲しい。
「おねーさん! デートなのでっすがー、せっかくのデートなのでっしてー」
「……デート……デートは行く」
 だって九十だって楽しみにしていたのだ、ちょっと自分の独り言で自爆しただけで。
「ではではー、藍ちゃんくんをおねーさんが藍色に染め直してくださるってことでっすねー?」
「うん……そだね。僕の方も藍を染めれる様に頑張る」
「藍ちゃんくんはとっくにおねーさん色でっすのでー! そこは心配ご無用なのでっす!!」
「う……っもっと染めてみせる。から……」
「楽しみにしてるのでっす!」
 すっくと立ち上がった藍が座り込んだままの九十を引っ張り上げて、二人へにゃんと笑って歩き出した。
 そして気になる露店を見つけると、片っ端から立ち止まって九十が藍に似合うものはないかと真剣な顔をして吟味していく。
「藍に似合う藍の服やアクセサリ……これも似合うしあっちも似合う……」
 何せ九十からすれば藍は何だって似合うのだ、ふわりとしたワンピースだって、ちょっとタイトなスカートだって、ロングでもミニでもすらりと着こなしてしまう。
「ストールもいい……こっちのリボンも捨て難いし。タッセルの耳飾りもウッドビーズの腕輪も……」
「おねーさんにはこれなんかいっかがでしょーっ?」
 迷いに迷う九十に藍が選んだのは、藍色の美しいアシンメトリーのワンピース。不規則な裾の形が涼し気で、これからの季節にも合いそうな逸品だ。
「う……流石のセンス。僕だって……てか藍は何でも似合って世界一可愛いしかっこいいから逆に何を選ぶか悩……」
「あやや~。取り敢えずこれは買っておくのでっしてー!」
 自らを彩る時にはいつもわくわくして、楽しくて仕方ないけれど。
「藍するヒトと互いの服を選び合いっこするというのはなんだかとってもこそばゆいのでっす!」
 自分の事だけを考えて選んでくれるその時間こそが、藍なのでっす! と満面の笑みを浮かべながら藍が他にも九十に似合う物がないかと探し出す。
「これ……これは絶対に似合う。間違いなく似合う。うん、間違いないね」
 九十が見つけたのはオフショルダーのワンピースドレス。様々な藍色の生地をスカート部分に重ねた、ふんわりとした可愛らしいもの。
「これ。どうかな?」
「なんと! 藍ちゃんくんの魅力を引き出すワンピースドレスなのでっす! さっすがおねーさんなのでっす、藍ちゃんくんのことをわかってらっしゃるのでっす!」
「そうかな。……へへ。そうかな」
 やっとひとつ決められたと九十が嬉しそうに微笑んで、さっそく包んでもらう。その後もじっくりと他の露店を吟味して歩き、互いの手に藍色が増えていく。それと同時に、笑顔も増えて。
「あとは何かな。靴かな」
「靴も素敵なのがいっぱいあるのでっしてー!」
 ミュールやサンダルに下駄に草履にと眺めていると、ふわりと蝶が飛ぶのが見えた。
「や?」
「ん?」
「藍ちゃんくん達の春に引き寄せられたのか蝶々さんが!」
 ふわり、ひらりと飛ぶのは確かに幽世蝶。そしてその先には、紫陽花を眺める乙女の姿があった。
 藍と九十が互いに顔を見合わせて、頷く。
「あ。こんにちわだよお姉さん」
「こんにちはなのでっす、お姉さん!」
 声を掛けられた女性が振り向き、こんにちはと挨拶を返す。
「お姉さんも藍、お好きなのでっすかー!」
『……ええ、好きよ。どのあいも、素敵でしょう?』
 浮かべた笑顔はどこか哀しそうに見えて、九十が静かに口を開く。
「……お祭り楽しんでる?」
『ええ、とても……誰も彼も、楽しそうで』
 そう言いながら、彼女の視線は紫陽花へと向いていた。
「紫陽花がお好きなのでっすかー?」
『紫陽花……どうだったかしら、ただ、そうね……どうしてか気になるの』
 そう言いながら、女はふらりと紫陽花を追うように歩き出す。まるで探し物でもしているかのような後ろ姿に、藍が九十を見遣った。
「おねーさん」
「うん。追うよ」
 デートの続きはまたあとで、藍染市は日が暮れるまで続くのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
【月光】

キレイな青でいっぱい
このあおはお花から出来ているのね
葉っぱもぜんぜん青くないのにフシギね、ゆぇパパ

藍染で何か作りたい!
ルーシーは…そうね、パパにエプロンを
いつも館でおいしいゴハンを作って下さるから
これからもお願いシマスって気持ちもこめて!
ふふー今も十分においしいのよ?
パパは?ルーシーの、エプロン?
するする、毎日お手伝いするわ……!

白無地のエプロンをカメにざぶんと!
あおくなぁれ
あおくなぁれ
あ!腕に青いお水がついちゃった
これ後でとれるのかな?
う。そうね、お願いします
手が真っ青のままだったら皆ビックリしちゃうもの
でも見て
エプロンは確り染まったわ
パパのもキレイ!

次は刺繍ね
お裁縫はトクイなの
同色に染めた糸で十字つなぎの刺し子をするわ
「十」って満ちるって意味があるんですって
パパが満ち足りた日々が続きますように!
ふふー、どういたしまして

わ、ララが居る!パパも刺繍お上手ね
ララ用のエプロンもかわいいわ
早速水色兎のヌイグルミに着せて
うん、よく似合ってる!

何かパパがこっそりしてる?
でも何だか、楽しそう


朧・ユェー
【月光】

えぇ、鮮やか青、美しい蒼
どれも素敵ですねぇ
自然なモノから出来る
そうですね、青くないです
それを知ってか知らずか昔の人の知恵と努力ですね

では一緒に何か作りましょうか?
おや?僕のエプロンですか?
ふふっ、ありがとうねぇ
それはもっと美味しいご飯を作らないといけませんね
そうですねぇ、暫く何かと睨めっこした後
僕も同じエプロンにしましょう
ルーシーちゃんが料理のお手伝いをしてくれる時の為に

ひらひらで可愛らしいエプロンをこちらも中へと
おや?大丈夫ですね
藍染はなかなか取れないですが
大丈夫、後で僕が綺麗に取りますからね?
ルーシーちゃんの可愛いらしい手は綺麗にしないととにこにこ笑って
えぇ、鮮やかな藍色ですね
僕も蒼に染まりました

ララちゃん達を作ってましたものね
おや?十にそんな意味が?ありがとうとっても素敵です
上手に出来ましたねと頭を撫でて

僕は端に小さくですがララちゃんの刺繍です
ララちゃん用のエプロンもありますよ?
実はこっそりもう一つ君に贈るのを作ってるのですが、それはまた君の祝いの日に
ふふっ、そうですか?



●あいを満たして
 藍染から出来上がる藍色は藍色と一口に言っても幅広いもの、そんな様々な藍が一堂に会する藍染市を前にしてルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は青い左目を瞬かせて隣に立つ朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)を見上げた。
「キレイな青でいっぱいだわ!」
「えぇ、鮮やかな青、美しい蒼……どれも素敵ですねぇ」
 ひらひらとはためく幟の一つ一つも美しい藍染で、まるで空の上か海の中にいるかのような美しさだ。
「このあおはお花からできているのね」
「タデアイやアイタデと呼ばれる葉を発酵させて作るそうですよ」
「葉っぱもぜんぜん青くないのにフシギね、ゆぇパパ」
「そうですね、青くないです。普通の植物と同じように緑色をしているのに、昔の人はどうやって藍になると知ったんでしょうねぇ」
「……そう考えると、ほんとうにフシギね!」
 昔から草木で布を染める中で見つけたであろうものが、今も尚受け継がれている。それは人の歴史であると共に、知恵と努力の結晶のようだとユェーがルーシーに微笑んだ。
「パパ、ルーシーも藍染で何か作りたい!」
「ふふ、では一緒に何か作りましょうか?」
 自分で体験をするのは、何にも勝る経験だとユェーが頷く。
「藍染体験が出来るのはこの先ですね、通りを歩いていれば見つかるはずです」
「楽しみね、ゆぇパパ」
「はい。見つけるまではお店を眺めながら行きましょうか」
「そうね、とっても素敵な案だわ!」
 手を繋いで、気持ちゆっくりと藍色の中を歩く。藍染された刺繍リボンやレースのショールなどに目を惹かれ、立ち止まってはユェーがルーシーに似合うと真剣な顔で選んだり、黒に近い褐色のネクタイをユェーにぴったりだとルーシーが店から動かなくなったりと、藍染市を二人で楽しむ。
「だってパパ、このネクタイ少しずつ刺繍が違うのよ」
 見えないお洒落としてのワンポイントなのだろう、ネクタイの小剣部分に猫だったり眼鏡だったり、小花やクローバーなどの刺繍が入っている。
「これは可愛らしいですねぇ。おや、こちらのタイリボンはルーシーちゃんに似合いそうですよ」
 鮮やかな藍も濃い藍も、どちらもいいと笑いながら端から端まで見ていると、藍染体験と書かれた幟が見えた。
「パパ、あれ」
「ええ、あちらでやっているようですね」
 行ってみましょう、と藍色に染まった天幕テントへと足を踏み入れた。
「何を作ろうかしら?」
「色々ありますねぇ、ハンカチにシャツにシュシュ……どれも魅力的です」
 スカーフにもなりそうな大判のハンカチから、ポケットに入れるのに丁度良さそうなサイズまでと幅広いラインナップに悩みつつ、ルーシーが手に取ったのはエプロンだった。
「ルーシーは……そうね、エプロンにするわ」
「エプロンですか?」
「ええ、パパのエプロンよ!」
 パパの、と言われてユェーが目を瞬かせる。
「おや? 僕のエプロンですか?」
 自分のではなく? と問えば、ルーシーがはにかんだような笑みを浮かべて頷く。
「パパはいつも館でおいしいゴハンを作って下さるから、これからもお願いシマスって気持ちもこめて!」
「ふふっ、ありがとうねぇ」
 ユェーの大きな優しい手が伸びて、ルーシーの頭を優しく撫でる。
「これからも、もっと美味しいご飯を作らないといけませんね」
「ふふー、今も充分においしいのよ?」
 パパの作るご飯が一番よ、と歌うようにルーシーが白無地のエプロンをユェーに当てる。
「パパ、サイズはこれでいいかしら?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「パパは? 何を染めるの?」
「そうですねぇ……」
 これから先、夏に向けてストールも良いし、シュシュを二つ染めるのも良い。でもやっぱり、とユェーが小さなエプロンを手に取った。
「僕も同じエプロンにしましょう」
「エプロン?」
 ルーシーがパパのを染めるのに、とユェーの手元を見れば、それはルーシーに丁度良さそうなサイズのエプロンで。
「ルーシーの、エプロン?」
「はい、ルーシーちゃんが料理のお手伝いをしてくれる時の為に」
 なんて、とユェーがウィンクを飛ばす。
「するする、毎日お手伝いするわ……!」
「ふふ、期待していますね」
 二人揃ってエプロンに決めると、今度は魔女に教えてもらいながら藍染の作業を進めていく。
「エプロンをカメにざぶんと!」
 ルーシーが言葉の通り、ざぶんとエプロンを浸ける。
「あおくなぁれ、あおくなぁれ」
「ふふ、おまじないですか?」
 ルーシーの隣でユェーも手にしたひらひらで可愛らしいエプロンを浸けて、可愛らしい彼女の真似をするようにあおくなぁれ、と一緒に唱えた。
「この色がほんとうに青くなるの?」
「不思議ですねぇ」
 藍液から引き上げたばかりのエプロンは黒にも似た色、けれどぎゅっと絞って空気に触れさせているとまるで魔法のようにパッと色が変わるのだ。
「色が変わったわ!」
「……これは実際に体験しないとわからない驚きですねぇ」
 すごいわ、とはしゃぎながらルーシーがまた藍液にエプロンを浸け、思う色になるまで染めていく。ユェーもまた、ルーシーに似合う綺麗な蒼になるようにと染めを続けた。
「あ!」
「おや? どうかしましたか?」
「腕に青いお水がついちゃった。これ、後でとれるのかな?」
 手袋でカバーしきれなかった部分についた藍に、ルーシーがユェーを見る。
「藍染はなかなか取れないですが、大丈夫。後で僕が綺麗に取りますからね?」
「う。そうね、お願いします」
 数日かかるかもしれないけれど、石鹸で丁寧に洗えば綺麗になるはずとユェーが笑う。
「ルーシーちゃんの可愛らしい手や腕は綺麗にしないと」
「ふふ、肌が真っ青のままだったら皆ビックリしちゃうもの」
 でもね、とルーシーが笑って、綺麗に染まったエプロンをユェーに見せる。
「見て、エプロンは確り染まったわ!」
「えぇ、鮮やかな藍色ですね。僕のも……ほら、綺麗な蒼に染まりました」
「パパのもキレイ! ふふ、嬉しいわ」
 水で洗い終わったエプロンを魔女に渡し、乾燥と色落ちしない為の処理を魔法で施してもらうと、再びそれを受け取って。
「パパ、次はエプロンに刺繍がしたいの」
「いいですね、僕もしましょう」
 藍染の甕がある場所から離れ、裁縫道具が置かれた場所へと移動する。
「ルーシー、お裁縫はトクイなの」
「ララちゃん達を作ってましたものね」
 ルーシーの作ったぬいぐるみ達を思えば、納得の腕前というべきだろうか。迷うことなく刺繍針にエプロンと同じ色に染めた糸を通し、十字つなぎの刺し子を施していく。
「あのね、『十』って満ちるって意味があるんですって」
 十字つなぎはその名の通り、十字が繋がり連なった刺繡。
「おや? 十にそんな意味が?」
「ええ、だからね、パパにとって満ち足りた日々が続きますように!」
 ひと針ひと針、想いを込めて縫い上げるのだとルーシーが幸せそうに微笑む。
「ありがとう、ルーシーちゃん。とっても素敵です」
「ふふー、どういたしまして! 出来上がりを楽しみにしていてね」
 ちくちくと針を刺し、時折ユェーが喉は渇いていないか、お腹は空いていないかと掛けてくれる声に大丈夫よ、と返事をしてはルーシーが笑って穏やかな時間が過ぎていった。
「できたわ! 見て、ゆぇパパ!」
「さすがルーシーちゃん、上手に出来ましたね」
 その出来栄えは見事なもので、ユェーがルーシーの頭を優しく撫でる。
「僕も出来ましたよ」
 ほら、とユェーがルーシーに見せたのは端に小さく施した青いロップイヤーの刺繍。
「わ、ララが居る! パパも刺繍お上手ね」
 何でもできるのね、とルーシーが瞳を煌めかせると、ユェーが悪戯っ子のように微笑んで、もう一つ小さな可愛らしいエプロンを取り出した。
「ララちゃん用のエプロンもありますよ?」
「まあ! ララ用のエプロンもかわいいわ」
 渡されたぬいぐるみ用のエプロンを、さっそく青いうさぎのぬいぐるみに着せればなんとも可愛らしくって、ルーシーが満面の笑みを浮かべる。
「うん、よく似合ってる!」
「何よりです」
 にこにこと笑うユェーは実はもう一つ、こっそりとルーシーへ贈るものを作っているのだけれど。それはもうすぐ訪れる彼女の誕生日にと、ルーシーにばれないようにそっと隠した。
「パパ?」
「はい、なんでしょうルーシーちゃん」
 何かこっそりとしているような気がするけれど、ユェーの笑みはいつも通りで。
「ううん、何だか楽しそうだわって思って!」
「ふふっ、そうですか?」
 ルーシーちゃんと一緒にいるからですよ、と本心からそう言って、ユェーがまた笑った。
 彼女の驚く顔は、六月十一日までのお楽しみなのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)

露にどこへ行くか聞かれたので藍染市を選択する。
「…」
色だけで様々な名が多いな。しかも繊細で柔らかい感じを受ける。
瑠璃色という青系統の色も惹かれるが藍色というのも中々だ。
「なに? 藍白? …この白色に近いのも藍なのか…奥が深いな」
白が基調でうっすら青色を感じる程度なのだが…むぅう。

市はどこを見ても盛況で髪飾りや財布から衣服まで種類が豊富だ。
青系統ばかりではない『色』の洪水といったところだろうか。
しかも目が慣れてきたら同色でも店ごとに微妙に異なる気がする。
「初めは色だけを理解していたが…違うな?
例えば、この藍だが…こちらとこちらで微妙に違う…気がする」
店の者の説明によると染め方で変化が生まれるらしい。
ふむ。染める者の加減で異なるのか?…奥が深いな。これは。
店を一つ一つ巡るだけでも一日費やしてしまえるな。

「…なに…?」
露が言うには植物や鳥類の名が付く色があるという。興味深いな。
名を付けた者達はかなりのセンスがあったんだな。
「私が知る、UDCアースの者達からは想像が出来ん…」


神坂・露
レーちゃん(f14377)
「ねえねえ、レーちゃんはどこ行きたい? 行きたい?」
あたしはレーちゃんとならどこでもいいから聞いてみるわ。
「藍染の市? うん♪ いこいこー」

最近のレーちゃんは今までしなかった表情とか声を出すわ。
これも猟兵として色々と経験してきたからかしら。
!それともあたしの気持ちが通じ始めてきたから?えへへ♪
えぇー。なににやにやしてるんだ?酷いわぁー。むぅ!

レーちゃんは色に興味を持ったみたいでお店の前で真剣だわ。
真っ白と灰色だけの…ほぼ色が無い故郷だったからかしら?
なんだか瞳がキラキラしていて可愛いわ。レーちゃん♪
驚いたり唸ったりするレーちゃんは新鮮でとっても可愛い!
「あのねあのね…」
色の名前には鳥とか植物とか自然からつけたのもあるって教える。
そーしたらあたしに感心してくれて、撫でてくれたわ。わーい♪
…UDCアースの人達からは想像できないって…。
まあ、あの人達はノリとか勢いで生きてる感じだけど…。
「えぇー! あたしの教えたことも意外?!」
むぅ。あたしだって色々と知ってるもん!



●藍の名前
 藍染市が行われる大通りを前にして、神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)が笑みを浮かべながらシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)に問う。
「ねえねえ、レーちゃんはどこ行きたい? 行きたい? 藍染市に、藍染体験に、紫陽花パフェが食べられる甘味処に、紫陽花見物もできるんですって!」
 どれを選んでも藍色尽くしね♪ と露が声を弾ませる。
「……その中なら、藍染市だな」
「藍染の市?」
「ああ、露はそれでいいのか?」
「うん♪ もちろんよ、いこいこー!」
 露自身はどれも興味があるけれど、シビラと一緒であればどこだっていいと思うので、最終的には彼女の行きたい所が自分の行きたい所。早速シビラの手を引っ張って、様々な藍色が揺れる世界へと足を踏み入れた。
 大通りの左右には露店が端から端まで並び、様々な藍染の商品が置かれている。髪飾りや財布に始まり、現代風の衣服から着物迄と幅広い。そして、どこを見ても盛況で活気に満ち溢れていた。
「……」
「どうしたの、レーちゃん。気になるものがあった?」
「いや、色だけで様々な名があるものだと思ってな」
 藍色、と一口に言うけれど、その数は多い。通説では藍四十八色とも言われるが、微妙な色の違いを含めればそれ以上となるのは間違いないだろう。
 そんな繊細な藍染の色を眺め、シビラはどこか柔らかさを感じていた。
 元々、青い色は好ましいと思っていたけれど、こんなにも沢山の青色に囲まれると一層好みの色が浮き上がるよう。瑠璃色に惹かれると思っていたけれど、藍色というのも中々だと手を伸ばす。
「この色も悪くないな」
 こちらも、と僅かに弾んだ声を出しながらシビラが藍染のハンカチを手に取り色を比べていく。
 そんなシビラを見て、最近のレーちゃんは今までしなかった表情とか声を出すようになったわ、と露がにこにこと笑みを浮かべながら思う。基本的には無表情で冷たい印象を受けやすいシビラだけれど、露はそんな彼女のちょっとした感情の機微には鋭い。だから、今のシビラは心から藍染市を楽しんでいるのだと嬉しくなってしまったのだ。
 これも猟兵として色々と経験してきたからかしら? それとも――。
「! あたしの気持ちが通じ始めてきたから? えへへ♪」
 やだ~レーちゃんったら~なんて、思わず口に出すとシビラが露に振り向いた。
「……露、何をさっきからにやにやしてるんだ」
「えぇー、にやにやなんかしてないわ!」
「いや、一人で百面相をしているかと思ったら、ついににやにやとし始めたからな……」
 店の前でそれはどうかと思うぞ、と控えめにシビラが注意する。
「んもぅ! レーちゃんったら酷いわぁー。むぅ!」
「だらしない顔をするからだ」
 もー! と露の声を背にし、シビラがふと気になった薄い水色のような色をしたハンカチを手に取った。
「これは?」
 思わず零れた言葉に、露店の店主がそれも藍染なんだよと教えてくれる。
「なに? 藍白? ……この白色に近いのも藍なのか……奥が深いな」
 藍染は藍液に何度も浸けることによって色を深めていくもの、一度浸けたくらいだとこのくらいの色になるのだと教えてもらい、シビラと露が藍白のハンカチに視線を落とした。
「白が基調でうっすら青色を感じる程度なのだが……むぅう」
「知れば知るほど奥が深いのねぇ」
 よし、とシビラが藍白のハンカチを買い求め、次の店だと歩き出す。
「藍色というが、藍……青色じゃないものもあるな」
「紫とか、緑色みたいなのもあるわよねぇ。あれも藍染なのかしら?」
 色の洪水を前にして、ふと気になった青ではない色を持つ藍染の露店で足を止めた。
「これも藍染なのか?」
 そう、紫の色を持つスカーフを指さして聞いてみれば、これも藍染で出る色なのだと店主が笑う。藍の生葉を発酵させ、そこに水を加えて煮出して染めるとこの色になるし、他にも紅花で重ね染めするとこの色になったりするのだと楽しそうに教えてくれる。
「藍液の作り方ひとつで色が変わるということか」
「重ね染めなんていうのもあるのね~」
 面白いわね、と露が笑い、せっかくだからと薄紫色をしたスカーフを買って店を離れ、また気になる店がないかと歩き出す。
「改めてこの市を見ると、青系統ばかりではない『色』の洪水のようだな」
「そうね~、黒に近い色もあるし、あっちには緑色もあるわ」
 ここにあるのは藍染ばかりだというのだから、あれも藍染の手法によって生まれた色なのだろうとシビラが頷く。
「目が慣れる前はどれも同じような青だと思っていたが……」
 ふとシビラがグラデーションのように反物を並べる店で足を止め、じっと見入る。その横で、またしても露は彼女の真剣な横顔を眺めてふわふわと笑う。シビラが色に興味を持った様子がいつもと違って見えて、少しばかり新鮮なのだ。
 真っ白と灰色だらけの……ほぼ色が無い故郷だったからかしら? と、彼女の出身世界であるダークセイヴァーを想う。それを考えれば、藍という色を作り出す藍染はシビラの中ではかなり心惹かれるものなのではないかと、露がシビラの邪魔をしないように藍染された品を眺めた。
「ううむ……初めは色だけを理解していたが……違うな?」
「違う? 何が違うの? レーちゃん」
「例えば、この藍だが……こちらとこちらで微妙に違う……気がする」
「同じに見えるけど……言われてみれば、なんだか少し違う気もするわ」
 シビラが手にした反物を重ねて比べ、でも同じようにも見えるわと二人でじっと生地を見つめていると、店主が笑って答えてくれる。
「染め方ひとつで変化が?」
 それだけではなく、藍建てという藍液の作り方が違えば、同じ時間、同じ回数と浸けても全く同じ色にはならないのだとか。
「つまりは、職人によって作り出す藍が異なるという事か」
 同じように見えても、本当に些細な違いがある――その事実にシビラと露が目を瞬かせる。
「染める者の加減で色が異なる……本当に奥が深いな。これは」
 そうなると、この色を作り出すという植物にも興味が湧いてくるというもの。
「なるほど、タデアイという植物から……ほう、元々多くの効能を持つ薬草なのか」
 薬草と聞いて、シビラの興味はますます惹かれていく。
「露、向こうの露店でタデアイを売っているそうだ」
「うん、いこ~♪」
 瞳をキラキラと煌めかせるシビラが可愛いと、露はご機嫌でシビラについていく。
「これがタデアイ……本当に普通の植物なのだな。うぅむ……」
 それなのに藍色を生み出すのかと思うと、思わずシビラが唸る。驚いたり唸ったり、こんなにも色々な反応をするシビラが新鮮で、とっても可愛いと露が心のシャッターを切る。
「よし、このタデアイを買っていこう」
「言うと思ったわ~」
 自分でも育てて、きっと藍染にも手を出すんじゃないかしら、とこっそり露が笑う。
「店を一つ一つ巡るだけでも、一日費やしてしまえるな」
 店を覗くたびに新しい藍色を見つけるのだから、飽きることも無い。
「色の名前も面白いものだな、藍鼠と言ったり花色と言ったり茄子紺と言ったり……」
 よくもまぁこんなに色の名前を思いついたものだと、シビラが感心したように言葉を零す。
「レーちゃん、あのねあのね……! 色の名前には鳥とか植物とか自然からつけたのもあるのよ」
「ほう?」
「桜色や桃色でしょう、珊瑚色に象牙色、鶯色に雀色に鶸色、他にも沢山あるのよ!」
「……なに……? そんなにあるのか、興味深いな」
 よく知っていたな、と感心したようにシビラが露の頭を撫でた。
「わーい♪ 褒められちゃったわ!」
「名を付けた昔の者達はかなりのセンスがあったんだな」
 UDCアースやサムライエンパイアの日本には雅と言う言葉もあるのだったかと、シビラがしみじみと言って言葉を切る。
「しかしあれだな……私が知る、UDCアースの者達からは想像が出来ん……」
「……UDCアースの人達からは想像できないって……まあ、あの人達はノリとか勢いで生きてる感じだけど……」
 同じ知り合いを思い浮かべ、思わず露もぽろりと言葉を零す。
「露もだがな」
「えぇー! あたしが教えたことも意外?!」
 普段の露を思えば、さもありなんである。
「むぅ。あたしだって色々と知ってるもん!」
 こう見えてもヤドリガミ、様々な人の手を渡り歩いてきただけの知識はなんとなくでもあるのだ。……多分。
「わかったわかった、ほら次の店に行くぞ」
「あ、待ってよレーちゃん~!」
 時間が幾らあっても足りないと、気になる店に足を向けたシビラを楽しそうに露が追い掛けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『集真・哀』

POW   :    哀に染まりゆく今生/紺青
自身の【かつて愛した人の記憶】を代償に、【忘失の哀しみと希求で焦がれ狂う想い】を籠めた一撃を放つ。自分にとってかつて愛した人の記憶を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    一意専心・濃愛/濃藍
【自分の染めた布で刺繍の時間】を給仕している間、戦場にいる自分の染めた布で刺繍の時間を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ   :    哀染め・留魂/留紺
【悲哀を呼び起こす、金魚型の生きた染料弾】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を自分しか歩けずじわじわ広がる藍沼に変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は彩・碧霞です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●彷徨えるあい
 たくさんの藍染を見た。
 ああ、私もかつては藍を染めていたのだと、ぼんやりと思い出す。
「でも、どうしてかしら。あの人がくれたものがどうしても思い出せないの」
 刺繍職人をしていたあの人がくれたはずのものが、なんだったのか。それが哀しいのだと、乙女は――『集真・哀』は瞳を伏せる。
 だから、あいの代わりに哀を集めてこの身を飾っていたのだけれど。
「あの市には、哀はなかったの。皆楽しそうだったわ」
 だから私に、あなたの哀をくださいな。
 どうしても思い出せない、小さなあいの代わりに、どうか。

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 かつての想い人がくれた小さな愛、その刺繍がどんなものだったか思い出せず、哀に染まったオブリビオンです。あなたの哀を求めてきますので、どうぞ思うように接してください。
 哀を渡す、渡さない、会話を試みる、戦う、その他にもあなたが選んだ選択肢はどれも正しく彼女を救うでしょう。
 あなたの選択肢は、あなたの正解なのですから。
馬県・義透
引き続き『疾き者』にて

私が染めたのは、霹靂のスカーフにしましょうか。
哀は渡しませんよ。私のものですしー。いえ、今や『私たち』のものですからねー。
一人のものではないので、私だけの判断ではねー。

ええ、まあ…一人であった頃の哀もありますけどね。
それはそれで、私が持っていなければいけないものですよー。
だって、それも生前の私を形作っていたものですからねー。渡せませんよー。
誰にも渡せぬ、『外邨義紘(生前の名)』の『宝物』なんですよー。
陰海月もそう言ってますね?


陰海月「ぷきぷ、ぷきゅきゅー!(ぼくの哀は、ぼくのだもん!)」(染めた布をぎゅっ)
陰海月の哀は『ぬいぐるみ作りにて針を触手に刺す』である。ぷすっ。



●哀もあいの内
 藍染体験を終え、馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)が陰海月と共に大通りの向こうにあるという紫陽花が咲き誇る広場へと向かう。
「良い藍染体験ができましたねー、陰海月」
『ぷきゅっ!』
 互いに染めた物を手にしては眺め、その出来に笑みを浮かべる。
「私が染めたものは、霹靂のスカーフにしましょうか」
 きっと金色混じりの焦げ茶色をした羽毛にも、この藍は映えるだろう。
『ぷきゅきゅ、ぷきゅぷ~~』
 きっと似合うと陰海月も身振り手振りでそう伝えると、義透がすっと手で陰海月を制する。
「あの方ですねー」
 紫陽花に囲まれて立ち尽くす彼女を前にして、それがオブリビオンであり義透達に藍染のコツを教えてくれた女性である事に気付き、やはり……と目を瞬いた。
『あら……またお会いしたわね』
「そうですねー」
『猟兵、なのでしょう? あなたの哀を私に……渡してくださらない?』
「残念ですが、哀は渡しませんよ。私のものですしー。いえ、今や『私たち』のものですからねー」
『……あなたの、あなた達の哀。とても素敵なものになりそうなのに』
「一人のものでは無いので、私だけの判断ではねー」
 お渡しできませんよ、とのらりくらりと義透が乙女――『集真・哀』へと言葉を返す。
『あなたのなら、いい? あなただけの哀もあるのでしょう?』
「ええ、まあ……一人であった頃の哀もありますけどね」
 思い出せば幾つも、今は癒えた哀しみも、今もなお――。
「でも、それはそれで、私が持っていなければいけないものですよー」
『何故? 哀しみを手放せば人は楽になれるのでしょう?』
「それでも、ですよー。だって、それも生前の私を形作っていたものですからねー」
 渡せない、と義透が首を横に振る。
「誰にも渡せぬ、『外邨義紘』の『宝物』なんですよー」
 凛とした声が響き、集真・哀が一歩後ろへと退く。
「ほら、陰海月もそう言ってますね?」
『ぷきぷ、ぷきゅきゅー!』
 ぼくの哀は、ぼくのだもん! ぬいぐるみを作る時に針を触手に刺す痛みだって! とばかりに、陰海月が染めた布をぎゅっと握り締める。そうして、彼がぷるぷると足を震わせ、現れたのはカラフルな動くミズクラゲ型のぬいぐるみ。
 見るからに戦闘力のないそれに、集真・哀が哀し気に、それでも笑みを浮かべる。
『そう、あなた達は、そうなのね』
 ぽちゃんと水溜りに雨が落ちるように、金魚の形をした染料弾が地面を濡らす。それはじわりと広がって、義透があっと思った時には彼女の姿は消えていた。
「……あなたのあい、見つかるといいですねー」
 ぷきゅ、と鳴いた陰海月も、それを望むように体を揺らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
同じ姿でもあの時のあの方ではないのでしょうね。
残念ながら今の私は哀を持ちません。
あの時はあなたが羨ましいと思うほど哀しかったけど、でももう乗り越えてしまったのでお渡しする事は出来ません。もうないんです。
だって私は一かけらもいただけなかったから。それならばもう諦めて忘れるだけです。
そして過去にする。過去になる。
ですがそれで良かったのだと思っています。
過去の私は誰かへの想いがひどく重くて自分の命を削るほどだったから。きっと今生ではそこまででなくていいと、もっと自身を大事にして欲しいと願われたのではないのかなと思います。

貴女にもそうして欲しいとは申しません。貴女には貴女の道があると思いますから。



●哀はなく、藍として
 ああ、やはり、と夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は思う。
「貴女とは以前お会いしましたが……」
 その言葉に、相対した乙女――『集真・哀』は首を傾げる。
「いいえ、何でもありません」
 同じ姿でも、あの時のあの方ではないのでしょうね、とも。
 きっとそれは感傷なのだろう、藍はゆるりと首を振って改めて彼女と向き合う。
『私にあなたの哀をくださいな』
「残念ながら、今の私は哀を持ちません」
 凛と声を響かせて、藍がきっぱりと言い切る。
『哀がない……?』
「ええ、あの時はあなたが羨ましいと思うほど哀しかったけど、でも――」
 もう、私はあの哀を乗り越えてしまったから。
「もう、ないんです。だって私は一かけらもいただけなかったから。それならばもう諦めて忘れるだけです」
『……そう、あなたは哀を忘れてしまったのね』
 私はあいを忘れてしまったけれど、と集真・哀はどこか哀し気に笑う。
「はい、そして過去にする。過去になる」
 もしかしたら骸の海へ沈んでしまったのかもしれないと、藍は思う。
「ですが、それで良かったのだとおもっています」
『忘れてしまって、よかった?』
「ええ」
 静かに頷く藍の表情に翳りはなく、それが本心であると知れた。
「過去の私は誰かへの想いがひどく重くて、自分の命を削るほどだったから」
 それは今相対する集真・哀にも言えることなのかもしれない、忘れてしまったあいを思い出せず、哀で身を飾り慰めとする彼女と。
「きっと今生ではそこまででなくていいと、もっと自身を大事にして欲しいと願われたのではないのかなと思います」
『そう願ってくれる誰かであったのね』
 過去のあなた、と集真・哀が儚く笑い、藍がその笑みを真っ直ぐに見つめる。
「貴女にもそうして欲しいとは申しません。貴女には貴女の道があると思いますから」
『ええ、私にはできない、私は忘れたくないのに忘れてしまった、思い出そうとすればするほど』
 忘れてしまう、と集真・哀が嘆くように焦がれ狂う想いを藍へぶつけるように紺青に染まった拳を振るう。
「貴女にもどうか、救いがありますように」
 心から願い、藍は彼女の哀しみを受け止めるかのように黒い三鈷剣を操り、雷撃を放った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】3

ああ、愛する人の思い出が思い出せないか。アタシも愛しい夫の思い出が失われてしまったら・・・そう思うと、この子を放っておけない。それがオブリビオンでもね。少し、話してみるか。

そんなに自分を痛めつけるんじゃないよ。アタシはアンタを哀れに思う。愛しい人の思い出さえも武器にせざるを得ないアンタを。だから哀はあげられる。・・・そして愛も上げられるよ。

こういう不器用な子は放っておけないんだ。よく一人で頑張ったね。【オーラ防御】で攻撃に耐えながら頭を撫でてあげよう。そしてもう一度頭を上げることが出来るように、浄火の一撃を【グラップル】で入れよう。痛いだろうが、勘弁しておくれ。


真宮・奏
【真宮家】3

愛した方と確かに過ごしたのに、それを思い出せない・・・どんなにお辛いだろうと胸が痛みます。オビリビオンが倒すのが常ですが、その前に、この方とお話ししたいです。

藍は私の好きな色ですから、この方の藍染の刺繍、純粋に興味があります。目の前に座り込んで、一緒に刺繍しませんか、と誘います。不器用なたちですので刺繍が不恰好になるかもしれませんが、この方の安らぎになれば。

大切な方の思い出が思い出せなくても、私との刺繍の時間が新たな思い出になれば。あなたの藍染の刺繍、私は好きですよ。(ニッコリ)


神城・瞬
【真宮家】3

大切な人の思い出がどういうものか思い出せない・・・オブリビオンになった故、ですか。倒してしまうことも可能ですが、大切な人を亡くした僕にとって、悲しんだまま逝かせるのはとても出来ません。

彼女の攻撃は出来るだけ【第六感】で回避してしまったらもし当たったら母さんや奏が彼女の元へいけませんので月光の領域で塗り替えて彼女への道を開きます。

僕は基本的に後ろで母さんや奏の会話を見守るつもりですが、「僕達家族は大切な人を亡くしているので、大切な人の思い出を亡くした辛さは良くわかるんですよ」と言い添えます。「だから、貴女を放っておけないんです」とも。



●あいを一刺し
 青に赤に紫に染まる紫陽花の前で佇む乙女――『集真・哀』の色は哀に満ちていて、真宮・奏(絢爛の星・f03210)はその色に心を揺さぶられ、思わず真宮・響(赫灼の炎・f00434)と神城・瞬(清光の月・f06558)の手を握る。
「お母さん、瞬兄さん……」
「ああ、あの子は愛する人の思い出が思い出せないのか」
 泣きそうな顔をしている奏の頭を撫で、響が集真・哀を見遣る。
「大切な人の思い出がどういうものか思い出せない……オブリビオンになった故、ですか」
 響の手を慰めるように握り、瞬も彼女に視線を向けた。
『あなた達は哀を持っていらっしゃるのかしら……』
 集真・哀の瞳は泣きそうなままの奏へと向けられて、こてんと首を傾げながら問い掛ける。
「ええ、今この胸にこみ上げる哀なら、あります」
「奏」
 瞬の制止するような声に、大丈夫と微笑んで奏が集真・哀へとまっすぐに向き合った。
「愛した方と確かに過ごしたのに、それを思い出せない……どんなにお辛いだろうと胸が痛みます」
 それが今、私の持つ哀だと奏が呼び掛ける。
『私の、為に……あなたは優しい方なのね』
「お母さん、私」
「ああ、言ってごらん。怒ったりしないよ」
「……オブリビオンは倒すのが常ですが、その前に、この方とお話したいです」
 奏の瞳は真剣そのもので、響は娘の成長に軽く目を瞠りながらも優しく頷く。
「ああ、アタシも愛しい夫の思い出が失われてしまったら……そう思うと、この子を放っておけない。それがオブリビオンでもね」
「お母さん、じゃあ」
「少し、話してみるか」
 そんな二人を黙って見守っていた瞬も、握ったままの奏の手を軽く握り締める。
「倒してしまうことも可能ですが、大切な人を亡くした僕にとって、悲しんだまま逝かせるのはとても出来ません」
 だから奏の意思は正しいことだと、瞬が穏やかに微笑んだ。
「瞬兄さん……はい、私、思ったようにやってみます!」
「サポートは任せておきな、奏」
「ええ、微力ながら僕もお手伝いしますから」
 心強い味方だと奏が笑うと、響が前へと出る。
「アンタ、少し話をしないかい?」
『話を?』
「ああ、拳を握っていちゃ思い出せるものも思い出せないだろう?」
『そう、かしら。でも、どうしても思い出せなくて、思い出せないことが哀しくて、ああ、私』
 集真・哀の瞳に哀しみが満ちる、その哀しみと思い出したいという願う切なる想いが胸の内で荒れ狂う。握った拳を開くことができず、どうしようもない苦しみを解き放つように集真・哀が握り締めた拳から一撃を放った。
「そんなに自分を痛めつけるんじゃないよ」
 その拳を母としての優しさで包み込むように、オーラの力を束ねて響が耐える。
「アタシはアンタを哀れに思う。愛しい人の思い出さえも武器にせざるを得ないアンタを」
 本来ならば、その想いを藍染に籠めるところだろうに、オブリビオンになってしまったばっかりに愛する人の記憶を失くしていくばかりの彼女を響は哀れむ。
「だからね、哀はあげられる」
『私に、哀をくださるの?』
「この哀はアンタの為に抱いた想いだからね。構わないよ」
 おいで、と響が招くと集真・哀が響の哀をそっと藍に変え、己の装いへと取り込んでいく。
「哀だけじゃない……愛もあげられるよ」
 目の前まできた彼女の頭を撫で、響が囁く。
「よく一人で頑張ったね」
 まるで娘にするかのように、何度も頭を撫でて響が微笑む。そして、もう一度彼女が頭を上げて真っ直ぐに愛しい人を思い出せるようにと浄化の一撃を拳にのせて。
「痛いだろうが、勘弁しておくれ」
『これが、あなたのあいなのね』
 アンタみたいな不器用な子は放っておけないからね、と笑った響が拳を放つ。それは集真・哀の凝った過去を解きほぐすような、優しい一撃だった。
「奏、今です。僕と母さんがついていることを忘れないで」
「……はい!」
 瞬が光の矢を地面へと放つと、月光の光が満ちる。それは集真・哀を取り巻く金魚の形をした染料弾と拮抗するかのように、奏に道を作った。
 藍の中に射す、一筋の月光のように光る道の上を奏が進む。
「奏、後は任せたよ」
「はい、母さん!」
 大人しくなった集真・哀を前にして、奏が彼女の手を取る。
『あなたも、哀をくださるの?』
「哀よりも、もっと……あなたが大切な人を思い出すお手伝いができればと思っているんです」
『思い出すため……あなた達は、お人好しなのね』
 集真・哀が哀し気に笑うのを奏の後ろから見ていた瞬が、そうかもしれませんね、と笑う。
「僕達家族は大切な人を亡くしているので、大切な人の思い出を亡くした辛さは良くわかるんですよ」
『あなた達も、哀しい想いをしているのね?』
「ええ、だから……貴女を放っておけないんです」
 やっぱり、お人好しなんだわと笑った彼女の手を奏がぎゅっと握り込む。
「私、藍色が好きなんです。ですから、あなたの藍染の刺繍に興味があるんです」
『刺繍に……? そうなのね、私は染める方が本職だったけれど……どうしてかしら、刺繍も好きなのよ』
「じゃあ……一緒に刺繍をしませんか?」
 藍と月の光に満ちた地面に座り込み、奏が刺繍をしようと誘う。
『そう、そうね……いいわ、あなたと刺繍をしましょうか』
 集真・哀が藍染をした布をどこからともなくふわりと出して、針と糸を奏に渡す。
「あの、私、不器用で」
『いいの、楽しく刺すのが一番だもの』
 何を刺そうかと迷う奏に、簡単な刺繍を教える姿はまるで姉のようにも見えて、響が笑う。
「母さん」
「大丈夫、心配ないよ」
「はい、奏には人を惹きつける魅力がありますから」
 あんな風に無邪気に笑って、刺繍を楽しんで――それだけで彼女の慰めになるのだろうと、瞬が月光の光が途切れぬように光の矢を地面に射る。
「あの子も少しは大人になった……ってことかね」
「まだまだ可愛い末っ子でいてほしいんじゃないですか?」
「ふふ、そうだねえ。いつかは旅立つとしても、まだね」
 そんな会話を母と義兄がしているとは露知らず、奏は楽しそうに刺繍を続けて集真・哀へと笑い掛ける。
「こうですか?」
『ええ、そこで弛まないように……』
 手ほどきを受けながらひと針ひと針、想いを込めて。
「大切な方の思い出が思い出せなくても、私との刺繍の時間が新たな思い出になればって思うんです」
『……そうね、あなたとのこの時間は私の想い出になると思うわ』
「そうなってくれたら、嬉しいです! あなたの藍染の刺繍、私は好きですよ」
『ありがとう、お嬢さん。それに、あなた達も』
 綺麗な刺繍、と微笑む奏と彼女を見守る響と瞬にも笑みを返し、集真・哀はただ思うままに刺繍を施した。
 それは穏やかな時間で、響と瞬、そして奏は彼女の心がこの時間と同じくらい穏やかなものになるようにと願うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

百鳥・円
【藍玉】2◎

思い出したくても思い出せない
なんだかむず痒いですね

――哀、ねえ
生憎、わたし個人に哀しいという思い出は無いんです
『妹』が此処に姿を現してくれていたなら
代わりに語ってくれたでしょうけれどねえ

胸に浮かぶのは、わたしが『円』になる前のこと
この哀は誰にも触れさせない
触れさせてはいけないから、口を噤む

おねーさんは頑張り屋さんですね
そんなあなたが挫けてしまわないように
まどかちゃんはお力添えをしますよう

それぞれの愛と哀
たくさんの藍の色
おねーさんの言う通り、ですねえ
色んな藍に触れては如何でしょう?
とびきりの藍に出逢えたりして

さっそく髪飾りを付けてお散歩しましょ
おねーさんと歩けば、いい物に出逢えそう!


歌獣・藍
【藍玉】2◎
大切な人からの贈り物
思い出せないのは寂しいわね。
大丈夫。きっと、私たち猟兵が
貴女の記憶を取り戻す
手助けをしてくれるわ

私の哀。それはねぇさまに
全てを背負わせてしまった事かしら
罪も、責任も、何もかも。
分け合えていれば
きっと少しはねぇさまも
私の胸に渦巻く苦しみも
楽だったのかもしれない

──けれど、このアイはあげられない
これがあったから、出会いがあり
どんなときも立ち上がり
前を向けたもの

ふふ、嬉しいわ。
まどかがいれば百人力ね

愛を求める貴女がこれ以上
悲しい哀を纏う必要はないわ
代わりにここにある
数多の藍を纏ってご覧なさい
そうすれば何か
思い出せるかもしれないわ

さぁ、まどか。
次はどこへ行こうかしら?



●あいを飾って
 咲き誇る紫陽花を前にして、百鳥・円(華回帰・f10932)は藍染市で見てきた藍色を思い出していた。
「紫陽花の色って、藍染の色のようですねえ」
「言われてみると、確かにそうね」
 円の言葉に、歌獣・藍(歪んだ奇跡の白兎・f28958)が思わず先程染めたばかりのシュシュに視線を落とす。取り敢えず、と手首に着けたそれは確かに紫陽花の色にも似ていて。
「それに、彼女にも似ているような気がするわ」
 紫陽花の色の中に佇む乙女――『集真・哀』の纏う色は藍の色をしている。
「大切な人からの贈り物、思い出せないのは寂しいわね」
「そうですねえ、思い出したくても思い出せない……それはなんだかむず痒いですね」
 それが何よりも大切なものであれば、その心の嘆きは如何ほどのものであろうか。
 紫陽花の中に佇んでいた彼女が円と藍に気が付いたように視線を上げ、哀し気に笑う。
『あなた方も猟兵ね? もしも哀をお持ちなら――どうか私にくださいな』
 あいを思い出せず、哀を欲しがる彼女に円が宝石のような瞳を瞬かせ、ふっと伏せる。
「――哀、ねえ」
 ううん、と悩む様に目を閉じてパチリと開いて円が笑う。
「生憎、わたし個人に哀しいという思い出は無いんです」
『哀しい思い出が……ない?』
「ええ、『妹』が此処に姿を現してくれていたなら、代わりに語ってくれたでしょうけれどねえ」
 そう言って、なお明るく円が笑う。笑いながらも胸に浮かぶのは円が『円』になる前のこと。そこに哀はあるけれど、誰にも詳らかにする気はないから。だから胸の内の悟らせぬよう、誰にも触れさせぬように――そっと微笑んで口を噤むのだ。
「私の哀……それはねぇさまに全てを背負わせてしまった事かしら」
 黙ってしまった円に代わるように、藍が穏やかな中にも哀しみを滲ませて言葉を紡ぐ。
『あなたには、あるのね?』
「ええ、あるわ」
 あの時、罪も、責任も、何もかもを分け合えていればと思わずにはいられない『哀』が。
「そうすれば、きっと少しはねぇさまも私の胸に渦巻く苦しみも楽だったのかもしれない」
 ぽつりと、誰に言うでもなく呟く藍の瞳は『哀』に濡れていて。
『そう、なら――私に、くださいな』
 その哀しみも苦しみも、きっと楽になると集真・哀が藍に向けて手を差し伸べた。
 ほんの少しだけ躊躇うように瞳を揺らし、藍が首を横に振る。
「――けれど、このアイはあげられない」
 胸の中のアイを守るように、藍が自分の胸に手を当てて真っ直ぐに集真・哀を見つめた。
「これがあったから、出会いがあり……どんなときも立ち上がり、前を向けたもの」
「おねーさんは頑張り屋さんですね」
 哀を抱えてもなお前を向き、真っ直ぐに進んでいこうとする藍に円が優しい眼差しを向ける。
「そんなあなたが挫けてしまわないように、まどかちゃんはお力添えをしますよう」
「ふふ、嬉しいわ。まどかがいれば百人力ね」
 貴女にも、まどかのような人がいれば――そう思わずにはいられないけれど、と藍が差し伸べられたままの手を取る。
「大丈夫。きっと、私たち猟兵が貴女の記憶を取り戻す手助けをしてくれるわ」
「その通りですよう、哀を手元に置かずとも良いようになります、きっと!」
『……そうね、皆さん優しかったわ』
 誰も彼も、オブリビオンである自分にも情けをかけてくれて、本当にお人好しな方ばかりね、と集真・哀が眉を下げて微笑んだ。
「私に何ができるとは言えないのだけれど……愛を求める貴女がこれ以上、悲しい哀を纏う必要はないわ」
「はい、まどかちゃんもそう思いますよう」
『でも、他にどうしたらいいのか私にはわからないの』
 哀を集め、それを己の装いに取り込むことでしか、自分を慰められないのだと集真・哀が己の手を見つめる。
「なら、代わりにここにある数多の藍を纏ってご覧なさい」
 色とりどりの紫陽花に、大通りを戻れば沢山の藍が迎え入れてくれるはず。
「それぞれの愛と哀、たくさんの藍の色……おねーさんの言う通り、ですねえ」
 あいも色々なれば、触れてこそ。
「色んな藍に触れては如何でしょう? とびきりの藍に出逢えたりするかもしれませんよう」
「ええ、そうすれば何かを思い出せるかもしれないわ」
 紫陽花をじっと眺め、集真・哀がそうかもしれないわねと口元に笑みを浮かべる。
「もしよければ、わたしたちと一緒に参りますか? わたしはこの髪飾りに合う物を探そうと思っているのですけれど」
 円が藍染したスカーフを髪に結び、素敵でしょう? と笑う。
「私も、このシュシュに合う物を探したいの」
『私は……もう少し、ここにいるわ。紫陽花の藍を見ていたい、そう思うの』
 その言葉に、藍と円が顔を見合わせ、ふわりと微笑みあう。
「それもいいと思いますよう! まどかちゃんはおねーさんと散歩に参りますね!」
 いい物に出逢える予感がするのです、と円が藍の手を繋ぐ。
「ええ、まどかとなら、どこへでも行くわ」
 繋いだ手を握り返し、二人は集真・哀の邪魔にならぬようにと歩き出す。
「見つかるといいですねえ」
「そうね」
 彼女にとっての愛も、私達にとってのいい物も。
 そう願う二人の足取りは、どこまでも軽やかだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

桜田・鳥獣戯画
アルフレッド(f03702)、彼女だ
いざ乙女と相対すると、自分にも記憶が無いことを思い出す

「哀」… 哀しみ、想い、と解釈する

きっと私の哀は私だけのもので、彼女の哀の代わりにはならない
なので渡すことはできない
それ以前に私も記憶喪失でな、思い出せないのだ
お前さんと同じように

アルフレッド、彼女に何か伝えられることはないだろうか

先程の店での藍色のソーダを思い出す
確かに「受け取ったもの」を忘れるのは哀しい
だがアルフレッドなら確かにそれでもいいと言うであろうな
彼女の想い人もきっとそうだ

しかしだ…そうもいかないのもまあわかる 女とは難しいな!

あとこれは独り言なのだが彼女UC結構凶悪ではないか?


アルフレッド・モトロ
姉御(f09037)と居るとオブリビオンとよく会うな

つーかなんだ?普通に話が通じそうな姉さんじゃんか
傷つけ合わずに済むかもしれないな

……なあ姉御、少し時間をくれ
俺に話をさせてほしいんだ

最初から純粋な哀だけ集めてもな
きっと愛は手に入らねんだろな

さっき店のおっちゃんが言ってたぜ
染めたての布から人の手で不純物を取り除いて
やっと藍になるんだってよ

それに
忘れたなら忘れたままで良い
そんな哀しみを背負ってまで思い出して欲しいなんて
姉さんの連れは思ってないんじゃないかな

おっちゃんの話には続きがあってさ
どうしても取り切れない不純物があるらしいんだけど
それがまたアイを美しくするんだと

なんか……分かる気がすんだよな



●純あい
 藍染市の大通りにも負けぬほど、藍が咲き誇っていると桜田・鳥獣戯画(デスメンタル・f09037)は左目を細める。
「アルフレッド、彼女だ」
 その中に藍に混ざり切れずに佇む乙女の姿を見つけ、鳥獣戯画はアルフレッド・モトロ(蒼炎のスティング・レイ・f03702)に呼びかけた。
「姉御と居るとオブリビオンとよく合うな」
「はは、それは逆も然りだろう」
 猟兵故に、オブリビオンとの対峙は避けて通れない道。それでも、出来れば荒事にならなければとも思う。そんな二人に気が付いたのか、オブリビオンたる乙女――『集真・哀』が二人を見遣り哀し気に微笑んだ。
『あなた達も猟兵ね?』
「うむ、お見通しのようだな! その通りだ!」
 逃げも隠れもせんぞ、と鳥獣戯画が彼女の元へ歩き出すと、それを追うように慌ててアルフレッドも続く。
「姉御、気を付けてくれよ」
「それがな、なんとなく平気な気がするのだ」
 勘だが、と笑う鳥獣戯画に言われてみればそうかもしれないとアルフレッドも思う。問答無用で攻撃してくるわけでもなく、逃げようとするわけでもない。罠を仕掛けているような素振りもない……ただ哀しそうにしている女性のような。
『あなた達は哀を……お持ちなのかしら?』
「あい……『哀』か」
『ええ、持っているのであれば私に下さいな』
 あいを思い出せず、哀しか残っていない私にと、乙女が乞う。
「ふむ、愛する者の記憶がないのか」
 話を聞けば聞く程、難儀だなと思うが自分にも記憶が無いことを思い出して鳥獣戯画が笑う。
「お前さんと私、そう大して変わりはないのかもしれんな」
 二人が言葉を交わすのを眺め、普通に話が通じそうな姉さんじゃんかとアルフレッドが柔らかに警戒を緩める。流石に全ての警戒を解くことはできないが、それでも傷つけ合わずに済むのかもしれないと期待が満ちる。
「お前さんの望む『哀』とは、哀しみ、想いと解釈するが……」
 哀ならある、とは思うけれど。
「悪いがな、私の哀は私だけのもので、お前さんの哀の代わりにはならない。なので渡すことはできん!」
 きっぱりと言い切る鳥獣戯画に、集真・哀が穏やかに笑む。
『あなたも、自分の哀しみを人に渡すことをよしとしないのね』
「ああ、分かち合うことはできるかもしれんが……何せ、それ以前の話でな」
 それ以前? と首を傾げた彼女に鳥獣戯画が笑う。
「私も記憶喪失でな、思い出せないのだ」
 自分の過去を、何故自分の中に別人格がいるのかを。
「お前さんと同じようにな」
 違うとすれば、その事に対して鳥獣戯画が頓着していないという点だろう。考えぬわけではない、どうでもいいとも思ってはいない、けれど今を生きるのは自分なのだと知っているからだ。
「すまんな、参考にはならんだろうが……おい、アルフレッド」
「なんだ、姉御」
「彼女に伝えられることはないだろうか。こう、なんかいい感じの……」
 いい感じの、と言われてアルフレッドが笑う。
「いい感じかはわかんないけど……俺に話をさせてほしいんだ」
 少しだけ時間をくれと鳥獣戯画に言い、アルフレッドが集真・哀の前に立つ。
『あなたも私に哀は渡せないのね?』
 その言葉に、アルフレッドが頷いて唇を開く。
「あのな、最初から純粋な哀だけ集めても、きっと愛は手に入らねんだろなって俺は思うんだ」
『慰めには、なっても?』
「だってそれ、一時のもんだろ」
 僅かに癒されたとて、永続的な物ではない。
「さっき店のおっちゃんが言ってたんだけどさ、染めたての布から人の手で不純物を取り除いて、やっと藍になるんだってよ」
『……そうね、藍に浸けて、絞って、空気にさらして、水で洗って……繰り返しだわ』
「あんたの方が詳しいよな」
 ふっと笑って、でも知っているからこそ見えぬものもあるのだとアルフレッドは言葉を続ける。
「忘れたらな忘れたままで良い、そんな哀しみを背負ってまで思い出して欲しいなんて、姉さんの連れは思ってないんじゃないかな」
『苦しくても?』
 この胸が苦しくて苦しくて、耐え難くても? と、集真・哀が吐息を零す。その溜息は藍に似て、鳥獣戯画は先程の店で飲んだ藍色ソーダを思い出す。
「確かに『受け取ったもの』を忘れるのは哀しい。だがアルフレッドなら確かにそれでいいと言うであろうな」
 忘れるのも、忘れられるのも、同じだけ辛く苦しいことだとしても。
「お前さんの想い人もきっとそうだと私も思う」
 しかしだ、と鳥獣戯画が腕を組む。
「そうもいかないのもまあわかる、女とは難しいな!」
 情念というやつだ! と鳥獣戯画が笑った。
『忘れても……忘れられても、あなたは』
「俺はいいよ、思い出せないって泣かれるより、ずっといい」
 泣かれるのには弱いんだよ、男はさ、とアルフレッドもまた笑って。
「そういや、おっちゃんの話には続きがあってさ。どうしても取り切れない不純物があるらしいんだけど、それがまたアイを美しくするんだと」
 それすらも、アイなのだと。
「なんか……わかる気がすんだよな」
『優しいのね』
「そんないいもんじゃないさ」
『でもごめんなさい、私にはまだわからないの』
 忘れたままでもいいのかどうか、わからないのだと言って、すっと二人に頭を軽く下げると集真・哀が踵を返す。紫陽花の中へ溶けるように歩いていく彼女を見つめ、アルフレッドが息を吐いて呟く。
「俺は、姉さんのそれが愛だと思うよ」
「うむ、愛の形は千差万別だからな」
 きっと気付くことができるだろうと、鳥獣戯画がアルフレッドを見る。
「それはそうとして、彼女の力は結構凶悪ではないか? 戦わずして済んだが」
「刺繍とか?」
「うむ、刺繍とか」
 これを機に習うのも良かったかもしれんな! と、笑う彼女にアルフレッドもまた笑うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
【不易2】◎
心情)空ろ、故に白。最初から白かったンじゃない、色を削ぎ落としたからこその白。それがお前さんってワケだなァ。たとえ逃避しただけとお前さんが言おうと、俺は赦そうとも。"いのち"の選択なのだから。そして、お嬢さん。お前さんのことも、もちろん俺は赦すのだよ。
行動)小路を開こう。おいで、お嬢さん。白いのも来るならおいで。この道はね、過去にも続くのさ。干渉は禁じられているのだけどね…向こうからもこちらは見えず触れずだ。だが、見るのはできる。ごらん。思い出せなくともそれは起きたこと、ならばいま目の前で見られるはずだ。ごらん。お前さんの想い人から、刺繍をもらっているお前さんの姿を。


茜崎・トヲル
【不易2】◎
哀……悲しみがほしいの?
ごめんね。おれ、そーゆーのはないんだよ
だって、そーゆーのから逃げるために、おれは、こーなったんだから

つらいことも、かなしいことも、いてーことも、くるしーことも
どれもこれもねえ、あんまりありすぎたから
もう全部いいやってなって、だって死んで逃げることもできないから
終わらないんだったらもういいやって
だから全部ぶっ壊して捨てて、おれはおれになったから
だからねえ、もう、なーんにも、残ってないんだよ

……へへ、ありがとう
かみさまってまーじでかみさまだねえ
気を引くために、攻撃ぜーんぶ受けまーす!
おねーさん!かみさまがつれてってくれるって!見えるところに!



●そのあいに色はなくとも
 空の上から見つけた乙女は、紫陽花の中に埋もれるように佇んでいた。
「いた! かみさま、あそこー!」
 茜崎・トヲル(Life_goes_on・f18631)が指さす先に、確かにその姿を確認した朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)は乗っている鳥の首を柔く叩き、下りるように指示する。それを先導するように、トヲルが先に彼女の前へと舞い降りる。
 空から降りてきたトヲルと逢真に目を瞬かせ、乙女――『集真・哀』はあなた達も猟兵さんね? と眉根を下げて微笑んだ。
「そーだよ、あんたはオブリビオンだよね」
 トヲルの直球なまでの質問に頷き、集真・哀が微笑んだまま問いを返す。
『あなたは哀を持っているのかしら』
「哀……悲しみがほしいの?」
 そう言いながら、トヲルは鳥から降りた逢真へと視線を投げた。
『ええ、それはこの身を慰めてくれるから』
 哀を愛として、藍にして身に纏う――それは彼女が心を守る為にしていることなのだろうと、トヲルの後ろで何処からともなく取り出した煙管を口に咥え、逢真は思う。
 そして、毒の煙を誰にも届かぬように燻らせると、どうしようか? という瞳をしたトヲルに言った。
「白いの、お前さんの思うようにおし」
「ん-、わかった!」
 その一言だけで、トヲルは集真・哀へと伝えるべき言葉を――心からの言葉を紡ぐ。
「ごめんね。おれ、そーゆーのはないんだよ」
『……哀がないの?』
 生きていれば少なからず哀しい想いはするもの、それを無いとはっきり言うトヲルに集真・哀が小首を傾げた。
「だって、そーゆーのから逃げるために、おれは、こーなったんだから」
 こう、成ったのだとトヲルは言う。
「嘘だと思うならー、探してみていーよ」
 おれは何にもしないから、とトヲルが彼女に向かって手を差し伸べる。
『……ああ、そう、そうなのね』
 差し出された手を取って、トヲルの中には彼が言う通り『無い』のだと小さく息を零した。
「うん、おれはねえ。つらいことも、かなしいことも、いてーことも、くるしーこともさ」
 彼女が自分の手を労わるように撫でるのを眺めて、トヲルが言葉を紡ぐ。
「もう全部いいやってなって、だって死んで逃げることもできないから、終わらないんだったらもういいやって」
 おれ、死なないからねえ、と笑う姿はどこまでも稚い幼子のよう。
「だから全部ぶっ壊して捨てて、おれはおれになったから」
 そっと彼女の手を離し、トヲルが色の無い瞳で藍色をした彼女を覗き込む。
「だからねえ、もう、なーんにも、残ってないんだよ」
 自分の哀は、全部。あるとすれば、誰かの為に悲しむ心だけだ。
「なるほどなァ」
 ふぅ、と煙を空へと吹いて、逢真が納得したように頷く。
「空ろ、故に白。お前さん、最初から白かったンじゃない、色を削ぎ落としたからこその白」
 逢真は彼を白いの、と呼ぶ。
 色が白いから白いの、という単純な理由もあるだろうけれど、その魂の色をこそ呼んでいるのだろう。逢真が見ている世界の中でも、際立って白いのだ、彼は。
 哀ゆえに藍に染まった乙女と、哀ゆえに色を捨てた男。
「それがお前さんってワケだなァ」
「そー、逃げただけだって言われたら、そのとーりなんだけど」
「たとえ逃避しただけとお前さんが言おうと、俺は赦そうとも。『いのち』の選択なのだから」
 その笑みはどこまでも優しく、夜の腕のようでもあり慈母のようでもあった。
「そして、お嬢さん」
『私……?』
「ああ、お前さんさ。お前さんのことも、もちろん俺は赦すのだよ」
 あいするのだと、そう言い切る彼の言葉に嘘はなく、集真・哀はトヲルと共に笑みを浮かべる。
「……へへ、ありがとう」
「礼を言われるような事じゃないのさ、俺はそういうモンだからな」
「かみさまって、まーじでかみさまだねえ」
「何だと思ってたンだい」
 その言葉にトヲルは曖昧に笑って、答えをほにゃほにゃと濁した。
「誤魔化しやがったなァ」
「そんなことよりー! おねーさんだよ、おねーさん!」
 ね、と向き合って、トヲルが彼女の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「戦う気、ある? おれはあんまりっていうか、もう全然ないんだけどー!」
 ふるり、と集真・哀が首を横に振る。
「なら、良い所へ連れてってやろうかね」
「いいところ?」
「ああ。おいで、お嬢さん。白いのも来るならおいで」
 そう言った逢真が軽く煙管で空間を裂き、小道を開く。
「この道はね、過去にも続くのさ。干渉は禁じられているがね」
 向こうからはこちらは見えず、こちらから触れることもできない。
「ただ、見るだけだ」
 それでもいいかい? と逢真が問う。
『……見れる、の?』
「そうだよ、おねーさん! かみさまがつれてってくれるって! 見えるところに!」
 行こう、とトヲルが笑う。
「怖かったらさ、おれが手をつないでいてあげる!」
 ほら、と差し出された手を握り、小道に足を踏み入れれば――。
「ごらん、思い出せなくともそれは起きたこと、ならばいま目の前で見られるはずだ」
『……ああ、ああ』
 目の前にいるのは、自分。それから、知らない男の人。けれど自分は幸せそうに笑っていて、その手にしているのは。
「ようくごらん。お前さんの想い人から、刺繍をもらっているお前さんの姿を」
『もう、顔も思い出せないの。あの人がどんな顔をしていたのかも、声も、何もかも』
 でも、と彼女がほろほろと涙を零す。
『あの人が私の愛した人なのかも、わからないけれど。この刺繡は、ずっと私の傍にあったのね』
 ずっと慰めていてくれていたのだと、あいを忘れた乙女は――ほろほろと、哀を零すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神坂・露
レーちゃん(f14377)
あたし余り戦いたくないわ。…いえ。戦いたくないわね。
哀さんって何かを探してる感じだし手伝ってあげたいわ~。
レーちゃんの方をみたら『好きにしろ』って顔してて。
だから。だからね。あたし声かけちゃうわ!うん。
「ねえねえ。おねーさん、何か探し物かしら? かしら?」

「あい? …悲しさとか切なさ…だったかしら? そうね…」
う…ん。寂しさとか悲しさ…かぁ~。うーん。そうねそうね。
そーいえばあたしって『哀』って感情を殆ど知らないかも。
何時も大好きな人の隣に居るからかしら?あれ?

…って考えてたら見つけたわ。『哀』。あたしにもあった。
大好きな人にすっ…ごく冷たくされたことがあったわね。
普段と変わらない声だけど他人行儀にさよなら言われて…。
それが偽物だったからよかったけど…哀しかったわ。
もう二度と同じ気持ちは味わいたくないわね。あたし。

哀さんにお話ししてからレーちゃんの方みてみるわ。
少し困ったような顔してあたしのこと撫でてくれて。
えへ♪やっぱり好…ってこれ哀じゃなくなってるわ?!


シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
ん。哀をくれ…か。
負の感情を求めてくるのはオブリビオンらしい。
だが集真という少女は少々毛色が違うようだ。
…。
過去の私には『哀』という感情はあった気がする。
両親を恋しく思ったり孤独が寂しいと考えたり…。
そういう記憶は長い時間で薄れ切ってしまったな。
私には遠い過去の記憶で…ん?
「何? 時々母を求めるように抱き着いてくる?」
私が?露に?…いや。冗談はよせ。そんなことはない。

「……き、君は刺繍が思い出せない、と言っていたな?」
多少不自然だったが話を変える。私の話はいいんだ。
「すべて思い出せなくとも、断片くらいは記憶にないか?」
集真に呼びかける。
「焦らなくてもいい。時間はある…探してみる気はないか?」
悲しさ寂しさを集めてその身を飾り還るのは辛いだろうからな。
なら逢いを探して記憶を少しでも戻してから還る方がいいだろう?
「丁度良く、ここは市だ。記憶を戻すキッカケがあるかもしれない」
断るのも誘いにのるのも集真の自由だ。私はどちらでも構わない。
乗り掛かった舟というやつだな。付き合おう。



●あいを想えば
「レーちゃん、あそこ!」
「わかっている」
 神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)が指さした先には、紫陽花の中で佇み、ほろほろと涙を流す乙女の姿があった。
「……泣いているのか?」
 何故、と怪訝そうな顔をしたシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)の手を露が握り、何だと問う前に露がぽつりと零す。
「レーちゃん、あたしあの人とは余り戦いたくないわ」
 あんなに哀しそうに泣く人、きっと悪い人じゃないと露がシビラを見つめる。
「……いえ、戦いたくないわね」
「……ん」
 戦意が感じられないのは、シビラと露が彼女を見つけるまでに他の猟兵達と話をしたからだろうか。それとも、元々戦意を持たぬオブリビオンなのかもしれない。
 そんな風に考えながら、シビラは露を見遣ってただ頷いた。
「いいの? ありがとう、レーちゃん!」
「駄目だと言っても無駄だろう」
「も~レーちゃんったら! あたしだって駄目な時はちゃんと聞くわ!」
 どうだか、という顔をしたシビラにむくれた顔をしつつ、露が乙女――『集真・哀』に視線を移す。
「あの人……哀さんって何かを探してる感じだし、手伝ってあげたいわ~」
 ね、レーちゃん! とさっきまでのむくれた顔を笑顔に変えて、露がシビラに言う。好きにしろ、というような表情で溜息を零し、シビラが頷いた。
「うふふ、レーちゃんだーい好き!」
 シビラがよしとしたならば、露に怖いものなどない。だから、とシビラの手を引っ張って、共に乙女の方へと歩み寄った。
「あたし、声かけちゃうわね!」
「わかったわかった」
 二人の話声に顔を上げ、集真・哀が涙を拭う。
「ねえねえ。おねーさん、どうしたの? 何か探し物かしら? かしら?」
『探し物、ええ、探し物をしていたの。あなた達も、猟兵ね?』
「そうよ! 私は露、こっちはレーちゃん!」
「シビラだ」
『ふふ、仲がいいのね』
 仲がいい、という言葉に露は照れたように笑い、シビラは少し遠い目をしつつも頷く。
『私は哀を探していたの、集めていたと言えばいいのかしら』
「あい? ……悲しさとか切なさ……だったかしら? そうね……」
 あい、哀、と考え込む露の横で、シビラが哀を集めているという彼女を観察するように眺めた。
 負の感情を求めてくるのはオブリビオンらしいと思う一方で、この集真・哀という少女は少々毛色が違うようだとも思う。無理に奪うような真似はせずに、穏やかに露と話をしているのがその証拠だ。
「ね、レーちゃんはどう?」
 中々思いつかなくて、という露に問われてシビラがふむと考える。
「そうだな……過去の私には『哀』という感情はあった気がする」
 過去の話だが、と前置いてシビラが言葉を紡ぐ。
「例えば、両親を恋しく想ったり孤独が寂しいと考えたり……そういう感情は確かにあった、だが――」
 言葉を切って、シビラが顔色を変えることなく集真・哀と露に言う。
「そういう記憶は長い時間で薄れ切ってしまったな」
 私はこう見えて長生きなんだ、とシビラが美しい銀髪を揺らした。
「だから、悪いが私にとって『哀』とは遠い過去の記憶で……」
「レーちゃん!」
「な、なんだ」
「だから時々、あたしに抱き着いてくるのね!」
 は? という顔をしてしまったけれど、シビラに罪はない。露がうるうると瞳を潤ませながら、シビラにとって身に覚えのない言葉を言い出したからだ。
「何? 時々母を求めるように抱き着いてくる?」
「そうよっ!」
 ドヤァ……ッみたいな顔で露がシビラに胸を張るけれど、シビラは何を言っているんだというような目で露を見る。
「私が? 露に? ……いや。冗談はよせ。そんなことはない」
 ないからな? という顔をしているが、露の中ではそうね、そうなのねと母性爆発だ。
「本当に違うからな?」
 くすくすと笑う集真・哀にそう言い、もういいとシビラが横を向く。
「露はないのか?」
「うーん、う……ん。寂しさとか悲しさ……かぁ~。うーん。そうねそうね」
 露が懸命に自分の中の哀という感情を探しながら、ふと気付く。
 そーいえばあたしって、『哀』って感情を殆ど知らないかも? もしかしたら、何時も大好きな人の隣にいるからかしら? あれ? なんてシビラを見つめながらも、うんうんと唸って――あっと声を上げた。
「どうした、露」
「あたし、『哀』がないわって思ってたんだけど、見つけたわ」
 あたしにもあったわ、と露が何故か唇を尖らせる。
『どんな哀をみつけたの?』
「あのねあのね、大好きな人にすっ……ごく冷たくされたことがあったの」
『あら……』
 哀しい表情をした集真・哀に向かって、露が続ける。その視線は心なしか、シビラを向いているような――。
「それでね、普段と変わらない声だけど他人行儀にさよならを言われて……」
 思い出したのか、露の表情もとても浮かないものへと変わる。
「でもね、それは偽物だったの。偽物だったからよかったけど……それでもあたし、すっごくすっごく哀しかったわ!」
 ちらっと露の視線がシビラを刺す、なんとも言えない顔をしてシビラが小さく息を吐いた。
「もう二度と同じ気持ちは味わいたくないわね。あたし」
『そう……でも偽物で良かった……のよね?』
「うん! でもそれが一番哀しかったこと、かしら」
 ね、レーちゃん! と、露が言うものだから、シビラは諦めたような困ったような顔をして露の頭を撫でた。
「えへ♪ やっぱり好……ってこれ、哀じゃなくなってるわ?!」
「露に『哀』の感情を求めたのが間違いだな」
「そ、そんなこと……ある、かも?」
 自信が無くなってきたのか露がそう言いながら、でもでも、と頬を膨らます。
「……と、ところで君は刺繍が思い出せない、と言っていたな?」
 少々不自然な話題の切り出し方だったが、露が頬を元に戻したので成功だ。
『……ええ、でもそれは思い出せたの。思い出す、というよりも見ることができたのよ』
 猟兵さん達のお陰で、と集真・哀はほんの少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
「あら! それって、それってとってもいいことよね?」
 ね? と露が笑みを浮かべる。
「そうだな、それが思い出せたなら……君が本当に思い出したい事も思い出せるんじゃないか?」
『……そうね、でも私――』
 どうしても『あい』は思い出せなくて、と再び彼女が表情を曇らせる。
「……すべてを思い出せなくとも、断片くらいは記憶にないか?」
 シビラが真摯な声で呼び掛けると、集真・哀はふるふると首を横に振って、ごめんなさいねと言葉を落とした。
「焦らなくてもいい。時間はある……探してみる気はないか?」
「そうよ! あたしも手伝うわ」
 悲しさや寂しさを集めて、その身を飾り還るのは辛いだろうとシビラが頷くと、露もうんうんと首を縦に振る。
「なら、逢いを探して記憶を少しでも戻してから還る方がいいだろう?」
 シビラの目には彼女が還りたがっているように見えて、そう真っ直ぐに気持ちを伝える。
「丁度良く、ここは市だ。記憶を戻すキッカケがあるかもしれない」
 断っても、誘いにのっても、それは自由だとシビラが言う。
「ね、よかったら行きましょう?」
 ここまで来れば乗りかかった舟だと、露とシビラが彼女の返事を待った。
『……ありがとう、優しい人達。そうね、私……あなた達に逢えただけで充分なのかもしれないわね』
 だから、ここでいいと集真・哀が哀し気に、それでいて何処か優し気に、この咲き誇る紫陽花の中でもう少し『あい』を探したいのだと――二人に微笑むのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【月光】

彼女はアイを忘れてる様ですね
大切な人の想い出や品物
それが何だったのか、僕達にはわかりません
でも、貴女の哀を思い出すお手伝いは出来ます

僕の哀
母という人の愛されなかった事
僕という存在を
あの人が愛したのは父という男だけ
僕はその男の代わり
僕だけを愛して欲しかった
少しでも僕の存在を子供を愛して欲しかった

でも今はとても幸せです
この子が僕を父親にしてくれたから
この子が僕を愛してくれるから
僕の愛して欲しいと思うと同時に僕にも与えてくれる大切な存在
そしてこの子も愛を見つけてる
それが僕というのは嬉しいですね
ありがとうねぇとルーシーちゃんの頭を撫でて

貴女の大切な存在はその方だったのでは?
ねぇ、その頂いた刺繍や想い出は本当に哀ですか?
哀では無く愛だったのでは?

嘘喰
お手伝いを致しましょう
哀を喰らい、本当の愛を思い出すように

きっと貴女も沢山の愛をその人から頂いているのだから


ルーシー・ブルーベル
【月光】

ルーシーのアイ
それを集めたら、あなたのアイはいやされるのかな
忘れた事は分かっているのに
忘れたままなのは辛いわ、ね
そうね、何か
あの方にとってのお手伝いになれば

ルーシーのアイはね
お父さまに愛されなかったこと、……だけじゃなくて
愛させてももらえなかったこと

あの方にとって本物の娘はゆるぎなくて
例え身代わりの子であっても、
愛するフリも、愛されるフリも許さなかった
とても、とても哀しかったわ

でもね!哀を知っているからこそ、今はとても幸せよ
僕の娘と呼んで下さって
愛することを許してくれるゆぇパパが居るもの
いっしょにご飯を食べたり、お出かけしたり、何かを作ったり
そういうのが出来ることがね、すごーくうれしい!

ええ、ええ!
愛しているわ
他でもない、代わりじゃない
ゆぇパパこそを
頭を撫でて下さるパパに身を寄せて

ね、あなたが探している愛は
代えがきかない大切なもの様に思えるの
あなたが今、とても哀しいと感じていらっしゃるのなら
それが証拠よ

『花車の行進』
あなたが哀を愛で染め直せますように
何度だって!



●あいを染めて、あいと為せ
 藍染市の大通りを抜け、沢山の藍を見たと思っていたけれど――。
「ここにも藍が沢山あるのね」
 一面に広がる藍、紫陽花の花を前にしてルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は声を弾ませながら朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)の手を引いた。
「そうですねぇ、ルーシーちゃん」
 染め上げた藍とは違う、紫陽花の生み出す藍色、そして。
「あちらのお嬢さんも、アイに身を染めているようです」
 ユェーの視線の先には紫陽花を見つめて、一人佇む『集真・哀』の姿があった。
 その視線に気が付いた彼女が二人に顔を向け、まだ哀の残る表情で笑みを作る。
『こんにちは、あなた達も猟兵なのね』
「こんにちは、ええ、仰る通りですよ」
 ルーシーも挨拶をして、それから彼女の雰囲気が柔らかいことに気付く。きっと自分達と出会う前に、幾人もの猟兵と触れ合ったからなのだろうと、小さく笑みを浮かべた。
『あなた達はアイを持っていらっしゃる?』
 哀しい色だとわかっていても、集めずにはいられない心のままに集真・哀はそう二人に訊ねる。
「アイ……ルーシーのアイ? それを集めたら、あなたのアイはいやされるのかな」
『……どうかしら、少しわからなくなってしまったけれど。慰めにはなるかしら』
 かの人を忘れてしまった哀しみを、一時癒すことはできるだろう。
「彼女はアイを忘れている様ですね」
 こっそりと、ユェーがルーシーに囁く。
「そのアイが何かまではわからないけれど……忘れた事は分かっているのに忘れたままなのは辛いわ、ね」
 ルーシーがユェーを見上げ、真っ直ぐな瞳を向けた。
「何か、あの方にとってのお手伝いになればって、ルーシーは思うのだけれど……パパは」
 どうかしら? と問うよりも早くユェーが繋いだままのルーシーの手を優しく握り締める。
「ええ、お手伝いが出来ればと僕も思いますよ」
 その返事に、ルーシーが笑みを浮かべて集真・哀へと視線を向ける。
「ルーシー達で良ければ、あなたとお話がしたいわ!」
『私と話を?』
「ええ、貴女の大切な忘れてしまったものが何だったのか、僕達にはわかりません」
 それが思い出なのか、品物なのか――それでも。
「でも、貴女の哀を思い出すお手伝いは出来ます」
『私の、アイ……』
 そっと胸を押さえて、集真・哀が二人へと頷いた。
「まずはやっぱり、お話しすることかしら!」
 ルーシーがそう言って、自分のアイを言葉にしようと背筋をしゃんと伸ばす。
「ルーシーのアイはね」
 ユェーと握った手をそのままに、ルーシーが言葉を紡ぐ。
「お父様に愛されなかったこと、……だけじゃなくて」
 それも確かに哀しかったけれど、それだけではなくて。
「愛させてもらえなかったこと」
 それが、一番哀しかったとルーシーがほろほろと言葉を零す。それはまるで真珠のように美しく、涙のように哀しいとユェーは思う。けれどルーシーが紡ぐ言葉を邪魔することなく、励ますように小さな手を握り締めた。
「あの方にとって本物の娘はゆるぎなくて。例え身代わりの子であっても、愛するフリも、愛されるフリも許さなかった」
 きっと、それほどに愛していたのだろう。
「とても、とても哀しかったわ」
 もしかしたら、あの方も哀しかったのかもしれない。
 自分の心ですらままならぬのに、人の心など推し量れやしないけれど。もしかしたら、とルーシーは語りながら思う。それでも、哀しいことには何も変わりはないけれど――。
「でもね! 哀を知っているからこそ、今はとても幸せよ」
 俯きそうになった顔を上げ、ルーシーが集真・哀にはっきりとそう告げてユェーを見上げて微笑む。
「僕の娘と呼んで下さって、愛することを許してくれるゆぇパパが居るもの」
 哀を知って、愛を知ったのだと。
「いっしょにご飯を食べたり、お出かけしたり、何かを作ったり……そういうのが出来ることがね、すごーくうれしい!」
「僕もルーシーちゃんと一緒に出来るのがとても嬉しいですよ」
 花咲くような蕩ける笑みに、ユェーも同じように微笑み返して集真・哀に視線を向けた。
「では次は僕の番ですね」
 さっき貰った勇気を倍にして返すように、心を込めてルーシーの小さな手がユェーの手を握り返す。
「僕の哀、それは――母という人に愛されなかった事、でしょうかね」
 美しい吸血鬼たるひと、父を愛したばかりに狂ってしまったひと。
「僕と言う存在を愛してはくれなかったんです、あの人が愛したのは父という男だけ」
 それもまた母が父に向けた『アイ』だったのだろうと、ユェーは今だからこそ思う。
「僕はその男の代わりでした、何もかもが似ていたようでね」
 同じ顔、同じ姿、聞いたことはないけれど声も同じだったのだろう。だからこそ、父の代替品となった、なってしまった。
「僕は……僕だけを愛して欲しかった」
 囁かれる愛の言葉は自分に向けられたものではない、それは心を壊すには充分で。
「少しでも僕の存在を、子どもとしての僕を愛して欲しかった」
 話を聞いて欲しかった、母として愛したかった、ただそれだけだったのに。ふ、と視線を落としそうになった瞬間に、ルーシーが強くユェーの手を握り締めた。
 ああ、とユェーが笑う。この手がある限り、きっともう何ものにも負けはしない。
「でも、今はとても幸せです」
 その声に嘘はなく、集真・哀はただ黙ってユェーを見る。
「この子が僕を父親にしてくれたから」
 ルーシーの手を握り返し、ユェーは冷えた胸が温かくなるような気持ちで心から溢れる想いを言葉にしていく。
「この子が僕を愛してくれるから――」
 愛されたい、愛したいと思う心に応えてくれるように、ルーシーは自分を愛してくれる。愛されたいから愛するのではないのだと、愛したいからこそ愛するのだと心から思えるような、大切な存在。
「そして、この子も愛を見つけている」
 誰にも教えられてこなかった愛を自分で見つけ出したのだ、自分も、この子も。
「それが僕というのは嬉しいですね」
「ええ、ええ!」
 大好きよ、と笑うルーシーの頭を撫でてユェーが慈しむように彼女を抱き上げる。
「他でもない、代わりじゃない、ゆぇパパこそを愛しているの」
「ありがとうねぇ、ルーシーちゃん」
 頭を撫でて抱き締めてくれるユェーに身を寄せて、ルーシーが心の底から微笑んだ。
『あなた達はアイを知っているのね』
 哀も、愛も、その心に刻んでいるのねと集真・哀が柔らかく、どこか哀し気に笑みを浮かべる。
『わたしも、知っていたはずなのに――』
 どうして、思い出せないのだろうか。
「僕は貴女の大切な存在はその方だったのではと思うのですが」
「ルーシーもそう思うわ、刺繍職人の方」
 思い出せなくとも、そう思っているのは貴女もではないかとユェーが問う。
『たいせつな……』
「ねぇ、その頂いた刺繍や想い出は本当に哀ですか? 哀では無く愛だったのでは?」
 ああ、そうなのかしらと集真・哀が身を飾る刺繍を撫でる。わからないことが、とても哀しいと。
「ね、あなたが探している愛は代えがきかない大切なもの様に思えるの。あなたが今、とても哀しいと感じていらっしゃるのなら
それが証拠よ」
『ええ、その事がとても哀しいの』
 思い出せないそれも、あなた達のような愛であればどんなに良いかと思うことも。
「大丈夫、ルーシー達がお手伝いするわ!」
「ええ、お手伝いを致しましょう。哀を喰らい、本当の愛を思い出すように」
 集真・哀がその身に纏う哀を喰らうようにと、嘘喰を発動させ。
「あなたが哀を愛で染め直せますように」
 何度忘れてしまったって、何度だって染め直すようにと、ルーシーが彼女の背を押す様にあたたかな風をそよがせた。
『ふふ、なんだか……心が温かくなったみたい』
 まるで二人の愛をお裾分けされたような――哀しい心に、愛を灯すような。
 ありがとう、と彼女が二人に向けて笑う。
 その笑みは哀しいものではなく、ルーシーとユェーはどうか彼女が愛を思い出せますようにと願った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

紫・藍
【藍九十】◎
大切な哀を受け止めあったことで、哀のお姉さんの心に響くものがあったかと思いますが!
……お姉さん、満たされましたかー?
九十のおねーさんの、いいえ、誰の哀であっても。
大切な人がくれたあいの代わりにはならないのです。なれないのでっす。
だってお姉さんの大切なあいは、お姉さんの哀にあるのですから。
哀のお姉さん。どうかお手を。血を吸わせてください。
“あい”を歌わせて欲しいのでっす。

歌うのでっす。教えていただいた哀を。
誰かの哀で飾られたのではない、集真・哀自身の哀をこそ届けるのです。
哀しいと思うのはそこに愛があったから!
思い出せなくとも忘れていない愛があるから。
あいを思い出せるほどの哀の歌を!
集真・哀の愛の歌を!
あいが思い出せなくともそれだけは思い出せないが故に空白として!
藍色の心の中にくっきりと浮かび上がる形があるかと!

ところでおねーさん。
嫉妬したのはおねーさんだけではないのでっしてー。
ええ、大切な哀を藍ちゃんくん以外にあげようだなんて。
藍ちゃんくん、おねーさんの全部が欲しいのでっすよ?


末代之光・九十
【藍九十】
今の僕に哀は無い。けれど過去と未来になら…
(藍を見る。彼の前で口にするのは憚られて誤魔化す様に笑いかけイシカに変わり)

過去の哀なら上げる。
思い出すら奪われた君に比べれば……でも、それでもこれは哀(死)だ。
(人に憧れ、愛し、寄り添い続けた愚かな神。同じ時を歩めない癖に傍に居続け積み重ねた『愛別離苦』。親しい人の死。もう会えないと言う単純な事実)
…これは死だから。君には毒かもしれない。それでも良いなら。
君の『紺青』も受け止める。それは君の哀だから。
(循環の輪の中また会えるし平気だと。そんな強がりの嘘を吐き続けていくちとせ、内に溜め続けた哀を。そっと繋いだ手から)

…ああ。でもそうだね。
藍の言う通り。どれだけ沢山でもそれは僕ので君のじゃない。
君の愛も。君の哀も。君の藍だって。君からしか出てこない。
…ちょっとだけ嫉妬しちゃうけどね(こっそり舌を出す)
さあ藍の歌の時間だ。君はどんな『あい』を受け取るのかな…?

願わくば。止まらぬ輪の中で君の生命(今)がその死(想い出)にひとひら届きます様に。



●あいを歌って
 一面の藍、一面のアイ。
 藍の中で、紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)が隣に立つ末代之光・九十(何時かまた出会う物語・f27635)に微笑む。
「紫陽花がたっくさんなのでっすよー!」
「見事なもの。だね」
 藍染市の大通りを抜けて少し歩けば紫陽花の咲き誇る広場、それは藍染のように辺りを染めて世界を彩っていた。
「そしてそっしてー、哀のお姉さんなのです」
「もう随分と。大丈夫そうにも見えるけど」
 紫陽花の中に佇む乙女――『集真・哀』が他の猟兵達と話をするのを邪魔にならぬように窺っていた、きっともう何かをする気持ちはないのだろうと九十は思う。
「けど。放っておいていいわけじゃない」
「おねーさんの言う通りなのでっす!」
 藍が頷き、九十の手を取る。
「いきまっしょー、おねーさん!」
 エスコートするかのように恭しく九十の手を引いて、藍は紫陽花を眺めて小さく吐息を零す集真・哀の元へ近付いた。
「先程振りなのでっすがー、藍ちゃんくんたちとお話をしませんでっしょうかー!」
『ふふ、勿論いいわ。猟兵さん』
 二人を猟兵と認めてなお、襲い掛かろうとはしない彼女に九十が問う。
「あなたは。哀を求めているんだよね?」
『ええ、もう随分と満たされたはずなのに、まだ私は哀を求めてしまう』
 それはオブリビオンと化した故なのか、それともそれほどまでに強いアイであったのか。
 九十にはわからない、わからないけれど。
「今の僕に哀は無い。けれど過去と未来になら……」
 そう言って、九十が藍を見遣る。真っ直ぐに煌めく紫色に見つめられ、口を噤んだ。
 それから、誤魔化すように藍に笑い掛ける。藍は何も言わない、知っているから。それでも共にあると決めたから。迷いはないから、ただ真っ直ぐに見つめていた。
 その真っ直ぐな視線こそが九十が愛しく思うもの、頷いて姿を変える。ホノリからイシカへ、昼から夜へ変わるように。柔らかな曲線を描く乙女の姿から、どこか中性的な姿の彼女へと。
 どちらも九十ではあるが、イシカは死を司る面。集真・哀が求める感情に一番近い所にいるのは彼女だ。
「過去の哀なら上げる」
 沢山ある中の幾つかだけれど、と九十が一歩前へと踏み出す。
「思い出すら奪われた君に比べれば……でも。それでもこれは哀だ」
 死であると、彼女は言う。数多の死である、神である彼女にとってヒトとの別離は当然のこと。けれど、人に憧れ、愛し、寄り添い続けた彼女にとって、それはまごう事無き哀であった。
 愚かだとわかっていても、人は愛おしい。寄り添うことを止めることなどできない、その積み重ねが彼女の中に無数ある哀、『愛別離苦』だ。
 親しい人の死、もう会えないという単純な事実。それを哀しく想うのは、ヒトであってもカミであっても同じ。
「……これは死だから。君には毒かもしれない。それでも良いなら」
『優しい方ね。……あなたは、いいの?』
 集真・哀が視線を藍へと向け、静かに問う。
「それが九十のおねーさんの決めたことでっしてー、藍ちゃんくんはおねーさんの意思を尊重するのでっす」
 キラキラと燃えるような瞳をした彼に頷き、ならばと集真・哀は九十に向き合う。
『あなたの哀を、くださいな』
「うん。君の『紺青』も君の哀だから。受け止めるよ」
 互いに伸ばした手を繋ぎ、集真・哀は愛した人の記憶を失くす忘失の哀しみと希求で焦がれ狂う想いを。九十は生命の循環の輪の中でまた会えるから平気だと、強がりの嘘を自分に吐き続けて幾千歳の間に内に抱え込み溜め続けた哀を。
 繋いだ手から、その想いを渡し合った。
 集真・哀の身を飾る衣服が深く染まり、花が咲き誇る。慰めの心に、乙女が柔らかく目を伏せた。
 九十の身の内を亡失が荒れ狂う。比べることなど出来ぬ哀に、優しく愚かな神は小さな吐息を零した。
 互いに言葉はなく、ただ繋いだ手をそっと離す。
「大切な哀を受け止めあったことで、哀のお姉さんの心に響くものがあったかと思いますが!」
 藍が九十の手を引いて、今度は自分が前へと出る。
「……お姉さん、満たされましたかー?」
「藍」
『……満たされは、しないの。慰めにはなっても、ずっと心の中は空ろなままよ』
 そうだろうと言うように、藍が頷く。
「九十のおねーさんの、いいえ、誰の哀であっても。大切な人がくれたあいの代わりにはならないのです。なれないのでっす」
 その哀は慰めにはなっても、愛にはならないのだから。
「だってお姉さんの大切なあいは、お姉さんの哀にあるのですから」
「……ああ。でもそうだね」
 集真・哀の哀しみと焦がれるような想いは、確かに九十の身の内を灼いたけれど――九十のものではない。
「藍の言う通り。どれだけ沢山でもそれは僕ので君のじゃない」
『私のじゃない……』
「君の愛も。君の哀も。君の藍だって。君からしか出てこない」
 どれだけ求めても自分のものではないのなら、何時まで経っても乾いたままだ。
「ですから、でっすからー! 哀のお姉さん。どうかお手を。血を吸わせてください」
『私の、血を?』
「ええ、どうか『あい』を歌わせてほしいのでっす」
 ちらり、と集真・哀の視線が九十へと向かう。それにひらりと手を振って、九十が頷いた。
「……ちょっとだけ嫉妬しちゃうけどね」
 こっそりと藍の後ろで舌を出して、誰にも聞こえぬように唇だけで笑った。
「ではではー、しっつれいしてー」
 藍が取った手の指先を噛み、その血を啜る。血には命が宿り、命は心に繋がると藍はいう。だからこそ、吸血は魂の交流にも程近いのだと。流れ込む想い、その血は確かに哀の味がした。
「理解したのでっす、お姉さんの哀しみを! 歌うのでっす、教えていただいた哀を!」
 誰かの哀で飾られたものではなく、集真・哀自身の哀をこそ届けるのだと藍がその声を高らかに響かせる。
「さあ。藍の歌の時間だ。君はどんな『あい』を受け取るのかな……?」
 九十が楽しそうに唇の端を持ち上げる、それは藍の歌への期待、希望。そしてそれを受け取った彼女がどう変わるかへの、期待でもあった。
「哀しいと思うのは、そこに愛があったから!」
 たとえ思い出せないとしても、忘れていない愛があるのだと藍が叫ぶ。記憶にはなくとも、その魂に刻み込まれた愛があるのならば!
「あいを思い出せるほどの哀の歌を! 集真・哀の愛の歌を!」
 この藍が届けてみせようと、歌声が藍色の世界に響き渡る!
『ああ、ああ……』
 今この歌声は集真・哀の為だけに高く低く旋律を変えて、彼女の元へと届く。
「願わくば。止まらぬ輪の中で君の生命がその死にひとひら届きますように」
 藍の歌にのせ、九十が言の葉を贈る。今が思い出に届くようにと、そしてその言葉は確かに藍の歌と共に彼女へと届いたのだ。
 あいが思い出せなくとも、それだけは思い出せないが故に空白として。空っぽの心の中に、哀に満ちた藍色の心の中にくっきりと浮かび上がる。
『ええ、この刺繍は私が貰ったもの』
 紫陽花の小さな花、私が貰った愛の形。
『あなた、ずっとそこにいて下さったのね』
 そしてその先、どうしても思い出せずに苦しみ焦がれた、愛する人の顔を集真・哀は思い出していた――。
 ありがとう、と全ての猟兵への感謝の言葉を残し、集真・哀は藍色の中へと消えていく。その姿を見送って、九十は藍へと笑い掛ける。
「終わったね」
「はい、藍ちゃんくんの歌と九十のおねーさんの言の葉で!」
 そして全ての猟兵達の想いが彼女を骸の海へと還したのだと、藍も笑みを返した。
「ところでおねーさん」
「? 何かな」
 こてん、と首を傾げた九十に真っ直ぐ向き合って、藍が彼女の手を取る。
「嫉妬したのはおねーさんだけではないのでっしてー」
「ぎゃわ!?」
 ぼん、と九十の頬が赤く染まって、イシカの姿からホノリの姿へと変わる。
「ええ、大切な哀を藍ちゃんくん以外にあげようだなんて」
「だだだ。だって。ほら。必要なことだったし。ね?」
 じーっと紫の煌めく瞳に見つめられて、九十がしどろもどろになって瞳をあちらこちらに揺れ動かした。
「それでもなのでっす!」
「そ。それでも?」
「藍ちゃんくん、おねーさんの全部が欲しいのでっすよ?」
 全部、と強欲に笑う藍の笑顔に見惚れるかのように、九十の視線が藍の瞳へと吸い込まれる。
「でっすからー、でっすのでー、これからのおねーさんは全部藍ちゃんくんのものなのでっす!」
「……これからも。これまでも。僕は藍のものだよ」
 いつか死が君と僕を分かつとも。アイはいつだって君と共に――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年06月09日


挿絵イラスト