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現在カルト(作者 空想蒸気鉄道
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●水浴槽

「なぁ、あんた。あんたさぁ、死のうとしてるだろう?」

 そう告げたのは、ハスキーな声の女性。
 低く、落ち着いた声ではあったが、浴室の中から発された声は厭に良く響いた。
 そう、浴室からだ。
 水を張った浴槽に、肌着のまま座り込んだ女性が彼女だった。
 問いかけを受けた彼が、返答を返すことはない。
 だから、女性が言葉を続ける。
「いや。……いや、もう死んでんのかもな。身体が、とかじゃなくてさ、心が」
 浴槽の中で、もぞもぞと動く女性。水面がゆらゆらと揺れる。
 ……それが、一体、何を掻き出しているのかは、浴室の外からは分からないけれど。
 核心をつくような言葉にも、男は口を開くことはない。
 そもそも、口などないのだから。
 彼の顔に、本来あるべきパーツはない。あるのは映像のエラーのような、不可思議な平面。
 それが、彼の顔を阻害している。故に、彼は一切の言葉を発することが出来ない。
 彼女もそれを理解していた。その上で話しかけるのが、たまらなく面白かったから。
「じゃあさ」
 と、動きを終えた彼女は言う。

「代わってやるよ。あんたの代わりに、あたしが死んでやる」

●グリモアベース
「ある女性が亡くなってね、その現場を調査してほしいんだ」
 軽い口調でグリモア猟兵――ベンジャミン・ドロシーは切り出す。
「まぁまぁ、そう気構えたりしなくてダイジョーブだよ!死因は自殺。ただ、UDCアースともなれば単なる自殺が邪神召喚の切っ掛けだったりするかもしれない。だから、一応ね?」
 調査をして、何もなければそれで結構。荒事嫌いで楽天家なグリモア猟兵の男は早速浮かれた様子だった。
「何かあったときはその時だけど、まぁ、自殺なんて数え切れないほど件数がある。当然、その全てがUDC絡みな訳もない。確率にして飛行機が墜落するのと同じぐらいなんじゃないかなぁ?知らないけど」

 それでも、事前情報は知っておきたいという猟兵の問いかけに簡単に答えるだけはするようで。
「事件はあるアパートの三階で、場所は浴室。被害者はさっき言った通り女性で、深く切った痕が手首にあった。玄関は中から鍵がかかっていたけど、もともと不用心だったのかな?人の入れるところ以外、ベランダとか小窓なんかの鍵はかかってなかったそう。でも、ベランダも三階だからねぇ。そう簡単には入れないと思うよ?隣の部屋のベランダとも、繋がってないみたいだし」
 だから、自殺。争った形跡も荒らされた形跡もないことから、他殺の線は薄いと言える。
 だが、今ここで推察できることは少ない。推理をするには、もっと情報が必要だ。

「というわけで、ヨロシク頼んだよ。猟兵の諸君!」

 調子のいいベンジャミンの声とともに、猟兵たちはUDCアースの世界へと送り出された。





第3章 ボス戦 『忘れられたリジー・ボーデン』

POW ●親殺しの憎悪
単純で重い【血塗れの斧】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD ●41回のめった打ち
自身の【有刺鉄線の両翼】が輝く間、【血塗れの斧】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ ●思い出す
自身の装備武器に【血塗れの有刺鉄線】を搭載し、破壊力を増加する。
👑11 🔵🔵🔴

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は真馳・ちぎりです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●前月譚

 おかしなやつを拾った。

 まず顔がおかしいんだ。パソコンとかテレビの画面のエラーみたいなやつがひっついてる。横からのぞき込んでも顔が見えねーの。
 明らかにヤバ。あたしみたいな一般人が関わるべきもんじゃねーなってのは一発で分かった。
 ……そんなやつが帰り道、いっつも近道に使ってる路地裏に座ってるのを見て、自然と手を差し伸べてた。
 なんか猫みたいに思えたんだよな、そう、捨て猫。
 実際あいつはその手を取ったし、直後に痛みとかが走ったわけでもない。
 あいつはそれから部屋に来て、シャワーに入れて、ベッドに一緒に横たわって、その後を追えて。
 その間一言も発することはなかった。そういう客は今までいなかったから、新鮮だった。

 あいつが何かとんでもないもの抱えてんのは分かってた。
 口開かなくても項垂れ具合で分かるんだよな、職業柄か知んねーけど。
 シャワーに突っ込んだ後、何となしに漁ったスーツのポケットにあった紙の切れ端を見て、確信した。
 だから、言ってやったんだ。

「なぁ、あんた。あんたさぁ、死のうとしてるだろう?」
「いや。……いや、もう死んでんのかもな。身体が、とかじゃなくてさ、心が」
「じゃあさ」

「代わってやるよ。あんたの代わりに、あたしが死んでやる」

 あたしなんかで幸せになれるなら、いくらでも幸せにしてやる。
 人生通算何度目かの言葉を頭で反芻しながら、うっすらと笑って――――浴室を出た。

●現在カルト
 『エラー』は骸の海へと消えていった。
 彼の居たところには、一枚の紙切れが残っている。
 古い羊皮紙のような紙質から、古書の頁であることが分かる。
 そこには大まかに、こんなことが記されていた。

 親殺しを繰り返す憎悪――リジー・ボーデン
 リジー・ボーデンは子を為した女性、男性を糧とする。生贄はそれらの人間に限らなければならない。
 最後に召喚者自身の命を捧げることでその存在は完成する。
 存在の強固を求むならば、リジー・ボーデンとともに発生した”残滓”を捧げよ。

 ……ふと、紙片から顔をあげると、血塗れの人間がいた。
 部屋の奥、何かの像が仰々しく飾られた下に、ほぼほぼ原形をとどめない姿でそれはいた。
 例えば――夕刻に在った大家の女性。階下の主婦。ふたつ隣のサラリーマン。
 事件の発覚したきさらぎアパートの住民は、夜とともに永い眠りに落ちていたことを、そこへ戻ってきた猟兵たちは知ることになる。
 どろりと赤黒い血はそれぞれの部屋から引きずるように続いていて、部屋の鍵は皆一様に乱雑に破壊されていた。
 そしてそれら全ては、件の302号室へ続いていた。

 ぎぃ、と扉を押し開ける。こちらはもともと開けっ放しだったせいか、破損の跡は見て取れない。
 代わりに室内は大きく様変わりしている。昼間見たときと間取りは同じなのに、部屋自体のサイズが倍かそれ以上になっている。
 そしてそのリビングの中央にぽつん、と。置物のような少女が立っている。
 ……否、部屋のサイズのせいで一見そう見えるが、それは人形でもなんでもない。
 なぜならば、強い殺気や怨念といった――負のオーラをまき散らしているのだから。

「わたしね、失敗しちゃったの」
 ”それ”は言う。今度こそ真の意味で顔のない少女は、しかし『エラー』と違って明瞭に、どこからか言葉を紡ぐ。
「お母さんとお父さんをたっくさん愛して、愛して、殺してあげたのに。最後のひとりは”お母さん”じゃなかったの。お姉ちゃんに嘘つかれちゃった」
 少女――忘れられたリジー・ボーデンは子供っぽく言う。頬があったならば頬を膨らませて言っていることだろう。
 ……その先の言葉も。

「だからね、むかついたから殺したわ」

「ここのお姉ちゃんも、わたしを作ったみんな、みんな。せっかくわたしがここに来たのに、たくさん殺したのに」
 いじけた様子で話す様は、狂気と形容する他ない。
 儀式の途中で何かしらが失敗していたとするのなら。彼女は本来の力を取り戻してはいないのだろう。
「でもわたし、悪くないよね?だって言われたとおりにやったんだもの。それにわたしは子供だもん。むかついてモノを壊してしまうことだってよくあること。子供のかんしゃくはかわいいもの、なのでしょう?」
 しかし、だからといって油断もできない。
 この悪辣は、放っておけばさらに被害を産むに違いない。
 リジー・ボーデンの手には、大きな斧が握られている。
 それは被害者の女性の手首に傷をつけたとする刃物の想定と、おおよそ一致する。
「だから――」

「今からみんな壊すけど、ゆるしてね?」
 幼き邪悪はにこりと微笑む声とともに、大きな斧を振り上げた――。
朝霞・蓮(サポート)
●キャラ
人間の竜騎士 × 探索者 18歳 男
口調:(僕、呼び捨て、だ、だね、だろう、だよね?)

●戦い方
至近:アイテム『百膳』を使用して切り結んだり、竜言語で身体強化して格闘したり
近中:槍投げしたり銃で射撃。その時に機動力を求められるなら竜に騎乗
遠:攻撃手段がないので接近

●その他できること
錬金術でいろいろ

●長所
探索者として狂気に免疫があるので逆境に強く、恐怖と威圧に動じない

●短所
詰めが甘く、天然

ユーベルコードは指定した物をどれでも使用
多少の怪我は厭わず積極的に行動
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません
例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


 先んじて飛びかかったのは、黒い影。
 否、漆色の刃を携えた黒髪の少年。
「――ッ!!」
 金属同士の衝突音が耳を劈く。それは初撃が防がれたことを意味している。
 彫像の頭部がニヤリと笑ったような気がした。

「趣味が悪いな、本当に――!!」

 朝霞・蓮(運命に敗れた竜・f18369)は怖気に悪態を吐き捨て、鍔競り合いの間合いを離脱する。
 一足には詰められない程度の距離を離し、着地する――、
「あなたとても悠長なのね」
 筈だった。
「なッ」
 ……気付けば、リジー・ボーデンは彼の懐に潜り込んでいる。小さな体躯からは想像もできない、まるで砲弾のような速度でそのオブジェクトはカウンターを仕掛ける。
「――、”龍よ応えよ”!!」
 咄嗟に紡ぐのは、竜言語の詠唱。吠えるように唱えられたそれは、朝霞の片手を瞬間的に強化する。
 掌底に力を込めて、フルスイングされた斧を寸でのところで弾く。
「あら、あらあら……?」
「随分と血気盛んみたいですね……!」
 仄い光が、強化が解除されると同時にふっと消える。
 リジー・ボーデンはその様子を見ても、軽く首を傾げてふざけたように笑う。
「血気盛んだなんて失礼だわ?刃先は向けないであげていたのに」
 その言葉に嘘偽りはない。叩きこまれる筈だった一撃は、斧の刃を向けて放たれたものではなかった。
 それがかえって、悪辣さを滲ませている。
「つまり、痛めつけるつもりだったですね……?」
「当然よ?わたし今とっても苛ついているの。八つ当たりがしたいの。なのにすぐ殺してしまうのなんて、そんなのつまらないわ!」
 声色はとても弾んでいて、喜怒哀楽で言えば喜を想像させる。
 しかし、この状況においてその感情を浮かべる相手が正気であるはずもない。

「……なら、これ以上話しても無駄でしょう」
「観念してくれた?」
 さらに声色を弾ませて来るが、朝霞は首を振る。
「いいや。覚悟を決めたんだ。……絶対に、きみの言う通りにはしないと」
 宣言すると同時、視界がぶわりと輝く。
 否、闇色の衣が眩しい純白へと姿を変えたのだ。
 それと同じくして、朝霞の瞳が淡く光る。
 色は黄昏の空を想わせる、澄んだ色。
「……とても綺麗ね、あなた。そんな色、わたしは知らないわ」
 ぽつりと呟く。その声はか細く、朝霞の耳には届かない。
「例え何も出来ず、何も為せず、何も得られない……」
 抜き身の刀身を構え、口元に優しい笑みを作る。
 今度はこちらの番だ。
「そうだとしても」

「――いやだよ」

「……っ」
 ”百膳”の剣先がぴたりと止まる。
 リジー・ボーデンに突き立てられる筈だった刃は、他でもない朝霞の意思で止められる。
「うわっ……」
 その隙を突くように、ぱっと少女の手が朝霞を突き飛ばす。
 ただの少女であれば可愛げのある変哲のない動作だが……あれは紛れもなくUDCオブジェクト。
 当然ながら……。
「わ、ちょ……!?」
 相当な力をかけられて、後方の壁に激突する。若干壁がへこむ程度には威力があった。
「い、いてて……」
 いててで済むことにちょっとした疑問を覚えながら、自身の詰めの甘さを恨む。
 既に彼の近くをリジー・ボーデンは離脱してしまったらしい。
 反省しながら、腰をあげて砂埃を払う。龍紋による覚醒を解いた今、衣装は黒に戻り、埃は目立ってしまうのだ。
 砂埃を払いながら、行動を振り返る。
 暫く悩んで、悩んで……
 ――後悔は、しないことにした。

「だって……」

 それも、積むべきひとつの善行であると。そう直感的に感じたからだ。
成功 🔵🔵🔴