●街外れの酒場
「頼む! どんな事でもいいんだ! 何か知っている事があったら、教えてくれ!」
酒場で男が叫んでいた。
男の名はザンバ・ザルバ。
数日ほど前、愛する息子が奴隷商人に売られ、何処かの貴族に買い取られた事を知り、わずかな手掛かりを求めて、この街まで来たらしい。
だが、そんな事は、この世界ではよくある話。
可哀想だと思っても、何かしてやろうと思う者はいない。
そんな事をしたところで、面倒事に巻き込まれてしまうのがオチ。
故に、誰も男の言葉に応えようとしなかった。
しかし、男にとって、息子の存在は……希望そのもの。
そのため、何か事情を知っていそうな客に絡み、息子に関する有力な情報を得ようとしていた。
だからと言って、彼に協力しようとする者はない。
そんな事をしたところで、デメリットしかないのだから、当然の反応であった。
「いい加減にしてくれないか! これ以上、モメるんだったら、出て言ってくれ!」
酒場の店主が不機嫌な表情を浮かべ、サルバをジロリと睨みつけた。
ずっと、我慢をしていたが、さすがに限界。
これ以上、揉め事を起こすようであれば、サルバをつまみ出す勢いで、指の関節を鳴らしていた。
それにザルバが捜している相手は、店の常連客。
その客を売ったとなれば、店の評判もガタ落ちである。
ハッキリ言って、そこまでする義理もない。
どう考えても、デメリットしかないのだから、このまま追い出すのが得策であると言う結論に至ったようだ。
「だったら知っている事を教えてくれ! 何でもいい。俺は息子の行方が知りたいだけなんだ! 頼む、この通りだ!」
そう言ってザルバが床に頭を擦りつける勢いで、店主に頼み込むのであった。
ゆうきつかさ
店主は何か知っているようですが、面倒事に巻き込まれたくないため、あえて知らないフリをしているようです。
もしかすると、彼の息子を連れ去った奴隷商人と、何らかの関係があるかも知れません。
もしくは、彼の息子を買った貴族について、何かを知っている可能性もあります。
だからと言って、無理に聞こうとすれば、意地になって何も話さなくなってしまう可能性も高いでしょう。
基本的にリプレイはプレイングで作り上げていくものだと言う考えなので、あえてオープニングでは多くの情報を出しません。
その分、面白ければどんどん採用してくれので、色々なプレイングを掛けてみてください。
ノリと勢いで何とかなったり、キャラクター的に動かしやすかった場合は、例え無茶なプレイングであっても何とかなったりします。
第1章 冒険
『うす汚い酒場での一場面』
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POW : 毅然とした態度で店主に話しかける。かかってこい、荒事は猟兵の得意分野だぜ
SPD : 軽妙な話術とクレバーな交渉術で情報収集を試みる。修羅場をスマートに潜り抜けるのも猟兵の領分よォ
WIZ : 心理操作術、
👑11
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●ガジルからの依頼
「みんなの力で、ザルバさんを助けて!」
ガジル・コリアンダー(キマイラのスカイダンサー・f00907)が、今回の依頼を説明する。
どうやらザンバ・ザルバという男が、自分の息子に関する手掛かりを捜して、酒場で暴れ回っているらしい。
このまま放っておけば、間違いなく揉め事を起こしてしまうため、そうなる前に手を打って欲しいと言う事だった。
ジロー・フォルスター
「ほい、落ち着けよ。二人ともな」
聖者の立場を生かして仲裁に入るぜ
言いくるめにコミュ力を使って荒事は起こさせないように宥める
・店主と交渉
できりゃ、他人の耳が無い場所がいいよな
店主と話す
「信用第一だもんな
情報を漏らしたくねぇって、あんたの気持ちもわかる
だがな、もし万が一奴隷商人を庇ってるとしたらメリットなんてねえよ
相手は『子供一人だけ攫った』ってわけじゃないだろ?
ザルバはここまで辿り着いたんだ。既に足がついている
となると…これからもっとこの店に多くの親が押し掛けるよな?
毎日面倒事が起こる酒場を選んで誰が呑むってんだ
お前の名前は出さねえようにする。評判が下がる前に対処しといた方がいいんじゃないか?」
マヤ・ウェストウッド
「なア、おやっさん……おかわり頼みたいんだけど」
・酒場ですでにぬるいキールをチビチビやりながら店主とザルバのやり取りを見るに見かねてやおら立ち上がる
「で、このおっさん(ザルバ)は一体ぜんたい、何を騒ぎ立てているんだい……」
・彼らの仲裁に入るていで、ザルバに加担しつつ店主から情報を聞き出そうとする
・相手の隠し事など【野生の勘】の前では無用。犬並みの嗅覚は外皮からの分泌物や口臭などから感情を読み取れるのだ
・基本は物腰低く、しかし核心をつくときは眼帯越しの義眼をチラつかせて相手の動揺を誘う(【恫喝】)
・店にたむろしているクズどもは殺す価値もない。魔矢眼・重圧モードで戦意だけ殺ぎ落としてみせよう
ペイン・フィン
・・・・・・微力ながらも、手伝いに来た。
あのまま終わりというのは、あまりにも不条理すぎるからね。
拷問
・・・・・・。は、最終手段にして、
まずは普通に聞き出そうとしようかな。
恫喝、殺気を併用しつつ、情報収集、第六感、暗視で何か隠してないか探ろう。
一応、表向きは普通の会話に見せつつ、店主にだけ伝わる感じで(SPD)。
必要なら、酒もおごろうか。自分は飲めないが。
・・・・・・なお、仲間も含め情報収集がどうしてもうまくいきそうにないときは、持ち込んだ拷問器具を見せようか。
これで口を開いてくれるとは思わないけども、
あと、この人に使うかどうかは未定だけども、
・・・・・・まあ、使わないことを願うとだけ言おう。
赤月・句穏
九条・文織(f05180)と同伴
【WIZ】
文がザルバを対応している間に店主に声を掛ける。
「・・うまく外に放りだしてくれたかしら。店主さんも大変ですね」
注文をオーダーしつついるだけで周りを癒す聖者の特性を発揮しましょう。
お金を持ってる金蔓に見えるようなキチンとした身なりで店主にオーダーを取り付けつつ連れの帰りを待つ間会話を続けます。
「本当に災難でございましたね。店主さん。」
訳知り顔で店主から商人の名前と会える場所などの情報を聞き出そうとします。件の商人の常得意になりそうな立ち振る舞いと微笑みを崩さず。私は珍しいダンピールで聖者だから客として信用されなくても奴隷商人には美味しい商品にみえるだろう。
ロア・ネコンティ
【WIZ】客から情報収集
酒場で賭け事に興じる方々もいるでしょう。値段も度数も高いお酒を注文し、賭け好きな旅人を装いつつ彼らに混ざります。
UC【キャットウォーク】(札覗き見 )と【早業】(札入れ替え)を使い、負け、辛勝、オケラ寸前、勝ちと白熱した賭けを演出します。
その間【コミュ力】でさりげなく誘拐と店主について聞きます。 奴隷商人の誘拐はよくあるのか。その奴隷はどこへ行くのか。貴族のもとへ行くとしたらその貴族はどこの誰なのか。有名なのか。店主は奴隷商人に借金でもしてるのか、家族を人質にされてるのか、その両方か。
相手方にお酒を飲ませながら、賭けで心を揺さ振りながら、知ってる事全て教えてもらいます。
九条・文織
赤月・句穏(f05226)と同行する
ザルバ殿の取り乱しようも当然の事ではあるが、あれでは店主を頑なにさせるだけだね。あの二人を引き離して句穏と一緒に情報を集めるとしようか
ザルバ殿を取り押さえて、店主に聞こえないように耳打ち
自分たちも子供を探しているから協力しようと言って、落ち着かせようとする
「私達も行方不明の子供を探しているんだ。私と一緒に一度外へ出てくれないか?連れが必ず上手くやってくれるから」
上手く説得に応じたら外に叩きだすフリをする
説得に応じない場合は実力で外に叩きだす
外に出たら少し離れた場所で、手早く事情を説明し待って貰い
酒場近くに怪しい人物がいないか確認し、頃合いを見て句穏の元へ戻る
マーガレット・リーヴ
この世界は――美しいもの、ばかりでは、ないのですね。
……私の得意分野は【WIZ】。“賢者の影”の使いどころですが、これは、攻撃の手段……
店主様に、手荒な真似はしたくありません。
……あの、お金で解決できないでしょうか。
一時の臨時収入で喋っていただくと後が怖い、かも、しれませんが……
その、奴隷商人の方やその顧客の貴族の方が貴方に危害を加えないよう、ケアはいたしますので。
……本当に、どうしても、その、ゲロっていただけないのであれば……手段はあるのですが……
あの、本当の事を言っていただければ、痛くないので、あの、その……
お願いします……
(ユーベルコードは他参加者の同意が無い限りは基本使用しない方向で)
稲宮・桐葉
しばらく成り行きを見守ってみようかの
一触即発の状況になったらば、仲裁に入るのじゃ
店主を【誘惑】して妾のペースに引き込んでみるぞ
店主殿、いつまで妾を待たせるのじゃ?
妾の相手より無粋なこの者の相手の方が楽しいのかえ?
しなを作って店主の手でも握ってやろうかの
ザルバ殿には【殺気】を放って意気を削いでみるのじゃ
これで冷静になるか、ひとまず引き下がってくれればよいが…
ところで…店主殿、実は妾、旅費が尽きそうでのぅ
この辺りで何か実入りの良い仕事は無いじゃろうか?
舞踊などが得意なのじゃが…知り合いにお金持ちの御仁などおらぬかのぅ?
店主の様子を観察しながら貴族との繋がり、奴隷商人との繋がりの炙り出しを図るのじゃ
ツーユウ・ナン
【POW】
情けが廃れちゃ世も末よ。
(店主がザルバに手を出した所を、その手を掴んで間に入ると、軽く捻り上げてから解いてやり、「事情を知ってそうな男」へ向き直る)
どうじゃおぬし、何か知らんか。お互い困った時は助け合わねばのう?
何やらこの店主どのは、あまり助け合ってほしくないようじゃが……(ジロリと店主を睨み)
――この男はじめ、周りの客からも情報を聞き出した後、それをネタに店主が知っている事を問い詰めよう。
成程、店主として常連に義理立てするのももっともな事じゃ。
なぁに、もし咎められたら「無理やり吐かされた」と言えばいい。
……何なら、今その「証拠」を拵えてやってもよいぞ?(指を鳴らしてみせる)
高柳・零
「困った事があったら相談して欲しいと言ったはずですよ、ザルバさん。村人でなくなっても自分の患者さんである事に変わりないんですから」
「ここは自分に任せてください」
荒事に頼るのは気が引けますが、自分に出来るのはこれしかないので…。
「マスター、すいません知り合いが迷惑をかけて。ですので、手短かにお話しをしましょう」と言うといきなりメイスを振りかぶり、頭の直前で寸止めします。
「コメカミは少し押しただけでもとても痛いですよね。肘の神経も」
「傲慢されたと言って官憲に訴えても、傷一つ無い人間の言う事を信じるでしょうか?」
「という事で、痛い目に遭いたくなければ、素直に情報を話してもらえますか?」
●問答無用で撲殺亭
(「どこを見てもゴロツキばかり……。一般客はお断りって感じですね」)
ロア・ネコンティ(泥棒ねこ・f05423)は値段も度数も高い酒を注文し、賭け好きな旅人を装いつつ、辺りの様子を窺っていた。
酒場にいるのは、ガラの悪い連中ばかり。
みんなワケアリ揃いといった感じのため、互いの事を詮索しない事が、暗黙の了解になっているようだった。
しかも、二階が宿屋になっているらしく、長期滞在している客も少なくない。
そういった意味でも、客を売ると言う選択肢は、酒場の店主にないのだろう。
「おいおい、早くしろよ! 次はテメエの番だろうが!」
顔に傷のある客が、イラついた様子で叫ぶ。
先程から負けが続いているせいか、今にもブチ切れそうな勢いで、何やら殺気立っていた。
もうひとりの客も、同じように負けているため、テーブルを引っ繰り返しそうな勢いでロアを睨みつけていた。
(「さすがに勝ち過ぎましたね」)
そんな空気を察したのか、ロアが負け、辛勝、オケラ寸前、勝ちと白熱した賭けを演出した。
その甲斐あってか、客達も上機嫌な様子で、金貨をテーブルの上に積んでいった。
そんな中、酒場の店主と、薄汚い男の喧嘩が始まった。
●酒場のカウンター
「ほい、落ち着けよ。二人ともな」
その騒ぎを聞きつけたジロー・フォルスター(現実主義者の聖者・f02140)が、ふたりの間に割って入った。
「……おっ! ちょうど良かった。コイツを追っ払ってくれ。コイツがいたんじゃ、商売にならねぇ! だから、ほら! 早くコイツを追い出してくれ! もちろん、タダとは言わねぇ。今日の分をタダにしてやるからさ!」
酒場の店主が『助かった』と言わんばかりに、ジローを必要以上に嗾けた。
それだけワケアリの客が多いのか、まわりの客達からも、無言の圧力が感じられた。
「……で、このおっさんは一体全体、何を騒ぎ立てているんだい……」
マヤ・ウェストウッド(宇宙一のお節介焼き・f03710)が胡散臭そうに、ザルバをジロリと睨みつけた。
「お、俺はただ……知っている事を教えて欲しかっただけだ」
ザルバが気まずい様子で、マヤ達から視線を逸らす。
だんだん冷静になってきたのか、自分でもやり過ぎたと、自覚し始めたようだ。
だからと言って、このまま引き下がる訳にも行かないらしく、半ば意地になっているような印象を受けた。
「困った事があったら相談して欲しいと言ったはずですよ、ザルバさん。村人でなくなっても自分の患者さんである事に変わりないんですから」
そんな中、高柳・零(テレビウムのパラディン・f03921)が現れ、心配した様子でザルバに駆け寄った。
「す、すまねぇ。だが、あのままジッとはしていられなかったんだ! こうしている間も、俺の息子は……息子はっ! ううっ……」
ザルバが息子の事を思い出し、ボロボロと涙を流した。
自分がもう少しシッカリしていれば、助ける事の出来た存在……。
それ故に、自分の事を、ずっと責め続けていたようだ。
もちろん、そんな事を考えたところで、何の解決にもならない。
そのため、誰にも告げず村を出て、息子を捜し回っていたようだ。
そして、わずかな手掛かりを頼りに辿り着いたのが……この場所だった。
「……微力ながらも、手伝いに来た。あのまま終わりというのは、あまりにも不条理すぎるからね」
ペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)も情報収集を終え、ザルバ達と合流した。
どうやら、この酒場は犯罪の温床になっており、色々な取引が行われているようだ。
そういった意味でも、客に関する情報をペラペラと喋る訳は行かないと言うのが、本音のようである。
「おいおい、お前達もコイツの味方か? だったら、みんな纏めて出て行ってくれねぇか? せっかくの酒がマズくなっちまう客もいるからよぉ!」
酒場の店主がイラついた様子で、勢いよく酒瓶を振り上げた。
これ以上、話が長引ければ、客足にも影響が出てしまう。
それを防ぐためにも、実力行使に出るしかないと思ったようだ。
「情けが廃れちゃ世も末よ。……何か知らんが、お互い困った時は助け合わねばのう? まあ、この店主どのは、あまり助け合ってほしくないようじゃが……」
すぐさま、ツーユウ・ナン(粋酔たる龍女・f04066)が店主の腕を掴み取り、軽く捻り上げて、床に落下しそうな酒瓶をキャッチした。
「ええいっ! 邪魔をするなァ! コイツのせいで、商売あがったりだ! 此処がどんな場所かも知らず、ピーチクパーチク騒いでいやがるんだからな!」
それでも、酒場の店主は非を認めず、自分の正当性を訴えた。
そうしなれば、まわりも納得しないほど、ピリピリムード。
「まあ、この世界は――美しいもの、ばかりでは、ないようですからね。こうなってしまうのは、仕方のない事かも知れませんが……。だからと言って、あまり手荒な真似はしたくありません。……あの、お金で解決できないでしょうか? 一時の臨時収入で喋っていただくと後が怖い、かも、しれませんが……。その奴隷商人の方や、その顧客の貴族の方が貴方に危害を加えないよう、ケアはいたしますので」
マーガレット・リーヴ(ペインター オブ グラスグリーン・f09726)は色々と察した様子で、酒場の店主に交渉を持ちかけた。
「悪いが金は要らねぇ。俺は命の方が大事だからな!」
酒場の店主が激しく目を泳がせ、わざと大声を上げた。
金は欲しいが、命も惜しい。
雰囲気的には、そんな感じのようである。
「店主殿、いつまで妾を待たせるのじゃ? 妾の相手より無粋なこの者の相手の方が楽しいのかえ?」
稲宮・桐葉(妖刀に魅入られた戦狐巫女・f02156)が思わせぶりな態度で酒場の店主に迫り、その手をギュッと握り締めた。
「いや、別にそう言う訳じゃねえんだが、コイツらがシツコイからさぁ。だって、そうだろ? ここで、そう言う話題は御法度なのに……。ギャーギャー喚き散らすからさぁ……」
酒場の店主が鼻の下を伸ばしながら、自分の正当性を強調した。
「なんだと、テメェ!」
これにはザルバも腹を立て、カウンターを乗り越える勢いで怒り狂った。
「ここは自分に任せてください。荒事に頼るのは気が引けますが、自分に出来るのはこれしかないので……」
それに気づいた零が、ザルバより早く行動に移った。
「マスター、すいません。知り合いが迷惑をかけて。ですので、手短にお話しをしましょう」
零が酒場の店主めがけてメイスを振りかぶり、頭に当たる直前で寸止めした。
「コメカミは少し押しただけでもとても痛いですよね。肘の神経も。……という事で、痛い目に遭いたくなければ、素直に情報を話してもらえますか?」
零が酒場の店主にメイスを向けたまま、真実を引き出そうとした。
「お、俺は何も知らねぇ。本当に何も知らねぇんだ」
酒場の店主がわざと大声を上げ、何も知らない事を強調した。
それが誰に対するアピールなのか分からないが、もしかすると客の中に関係者がいるのかも知れない。
「……本当に、どうしても、その、ゲロっていただけないのであれば……手段はあるのですが……あの、本当の事を言っていただければ、痛くないので、あの、その……お願いします……」
マーガレットが慎重に言葉を選びながら、気づかれないように店主の顔色を窺った。
「おいおい、何をする気だ!? まさか、やるのか!? 俺をやるのか? やれるモンならやってみろ! 俺は何も怖くねぇからな!」
酒場の店主が大声を上げながら、ファイティングポーズを決めた。
さすがに、ここで暴力を振るような真似はしないと確信しているのか、随分と強気な態度で騒いでいた。
「……本当にいいの? 実は拷問道具を持ってきてあるから、ここで使ってもいいんだけど……」
ペインも拷問道具をテーブルの上にズラリと並べ、ジリジリとプレッシャーを与えていった。
「あ、いや……その……。ほ、本当に何も知らねぇんだって! そもそも、なんで俺がそんな事を知っていなくちゃいけねぇんだ!」
酒場の店主が激しく動揺した様子で、必要以上に大声を上げた。
そうしなければイケないほど、必死になっている事だけは分かったが、そこまでする理由が全く分からなかった。
「一体、何に怯えているんだ……?」
マヤが野生の勘で、酒場の主人の嘘を見抜く。
そこまでして真実を隠す理由までは分からないが、そこまでして隠さなければならないほど相手が大物だと言う事なのだろう。
「俺は……何も知らねぇ……」
酒場の店主が歯切れ悪く、答えを返した。
「フザけるな! 本当は何か知っているんだろ!」
ザルバが店主の胸倉を掴み、怒りに身を任せて、殴ろうとした。
「まあまあ、ザルバ殿……落ち着いて」
それに気づいた九条・文織(界渡りの旅行者・f05180)が、ザルバをガシィッと取り押さえ、酒場の店主から遠ざけた。
「は、離せ! 俺はコイツに用があるんだ!」
しかし、ザルバはまったく諦めておらず、文織の手を振り払おうとした。
「私達も行方不明の子供を探しているんだ。私と一緒に一度外へ出てくれないか? 連れが必ず上手くやってくれるから」
そんな空気を察した文織が、ザルバの耳元で囁いた。
「会ったばかりの奴を信じろって言うのか?」
ザルバが殺気立った様子で、文織をジロリと睨みつけた。
「だったら逆に聞くが、このまま騒いで、有力な情報が得られると思っているのか? それよりも私達に任せろ。絶対に手掛かりを見つけると約束する!」
それでも、文織は視線を逸らさず、ザンバにキッパリと言い放つ。
「わ、分かった……。だが、もしも嘘だったら……容赦はしないぞ」
そう言いつつ、ザルバが他の猟兵達と一緒に、フラフラと酒場を後にした。
●酒場の店主
「ふぅ……、ようやく居なくなったか。なぁ、お前等……。今日は俺のオゴリだ! 好きなだけ飲んでくれ!」
酒場の店主が乱れた服を直しながら、まわりにいた客達に対して景気良く叫ぶ。
「おっしゃあああああああああああああ!」
その言葉に興奮したのか、客達が上機嫌な様子で、ドンチャン騒ぎ。
『今日は金に心配をする必要がねぇ!』と言わんばかりに、ガブ飲みし始めた。
そのため、モメ事には興味無し。
それよりも今は胃袋と心を満たす事を再優先にしているようだ。
「本当に災難でございましたね、店主さん」
赤月・句穏(界渡りの旅行者・f05226)が酒場の店主を気遣いつつ、幾つか料理を注文した。
「まあ、ああいうタイプは、よくいるけどな」
酒場の店主が『いつもの事だ!』と言わんばかりに、料理の準備をし始めた。
さすがに、ここまでしつこい客は初めてだが、自分の立場を守る事が出来たのだから、結果オーライといった感じである。
「……安心しろ。もう二度と、ここには来ない」
文織が句穏にアイコンタクトを送り、サルバの説得に成功した事を伝えた。
だからと言って、すべてがうまく行っている訳ではないが、先程よりも酒場の主人が話しやすい環境にはなっているはずだ。
「……これで安心ですね」
句穏がホッとした様子で、酒場の店主に視線を送る。
「ああ、とりあえず景気づけにいっぱいやってくれ。俺も飲みたい気分だからさ」
酒場の店主が自分のジョッキに酒を注ぎ、豪快にガブガブと飲み始めた。
「まあ、信用第一だもんな。情報を漏らしたくねぇって、あんたの気持ちもわかる。だがな、もし万が一奴隷商人を庇ってるとしたらメリットなんてねえよ。相手は『子供一人だけ攫った』ってわけじゃないだろ? ザルバはここまで辿り着いたんだ。既に足がついている。……となると、これからもっとこの店に多くの親が押し掛けるよな? 毎日、面倒事が起こる酒場を選んで誰が呑むってんだ。お前の名前は出さねえようにする。評判が下がる前に対処しといた方がいいんじゃないか?」
ジローが店主の気持ちを察した様子で、身の安全の保障をした。
「いや、奴隷商人だけならイイんだが……」
酒場の店主が何か言いたげな様子で頬を掻く。
「まあ、店主として常連に義理立てするのも、もっともな事じゃ。なぁに、もし咎められたら『無理やり吐かされた』と言えばいい。……何なら、今その『証拠』を拵えてやってもよいぞ?」
ツーユウが思わせぶりな態度で、指の関節を鳴らし始めた。
「おいおい、お前達まで俺の尋問か? 勘弁してくれ。相手が奴隷商人だけなら、ここまで俺だって頑なにはならねぇよ!」
酒場の主人が青ざめた表情を浮かべ、迂闊にポロッと本音を言った。
ツーユウもその事に気づき、『奴隷商人だけなら……?』と頭の中で反芻した。
「ところで……店主殿、実は妾、旅費が尽きそうでのぅ。この辺りで何か実入りの良い仕事は無いじゃろうか? 舞踊などが得意なのじゃが……知り合いにお金持ちの御仁などおらぬかのぅ?」
そんな空気を察した桐葉が、酒場の店主に耳打ちした。
その途端、酒場の店主が覚悟を決めた様子で、桐葉の真意を理解した。
「実は今日ヴァンパイアの夜会がある。そこには沢山のヴァンパイアが呼ばれ、生贄達と派手に遊ぶ事になっているらしい。そこで目玉になるようなモノを、奴隷商人達に頼んで持ってくるように言っているようだ。そこに行けば金になる仕事がいくらでもあるぞ。ただし、生きて帰れる保証はないが……。もしかすると、お前達の捜しているモノがあるかも知れないぞ?」
そう言いつつ、酒場の店主が『……後はお前達で察してくれ』と言わんばかりに口を噤んだ。
大成功
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第2章 冒険
『ヴァンパイアの夜会』
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POW : 真っ正面から敵に戦いを挑んだり建物等を破壊してまわる。
SPD : 罠の設置や先回りして生贄のダッシュを行います。
WIZ : 変装して侵入し話術によって敵を撹乱します。
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マヤ・ウェストウッド
【SPD】
・裏口から潜入し、生贄たちの奪還を試みる。無辜の民間人は[ダッシュ]で奪取
・パーティにはセキュリティがつきもの。ウッカリ見つかったら《クイックドロウ》で[先制攻撃]を試みる。駄目押しに[零距離射撃]で胸部と頭部をダブルタップ。
・トラップは[野生の勘]で対抗。
・よその猟兵がささやかなセレモニー(血祭り)を会場で始めようとしていても一緒にパーティしたい気持ちを抑えつつ、生贄救出を最優先
・館から出ても追っ手が怖いので、安全な場所まで避難誘導を行う
「シイッ……死にたくなきゃ静かにしてな。アタシたち、パーティに来たんだ。招待状持ってないけど」
・生贄に人狼と間違われないよう弁解しておく
ペイン・フィン
生贄
・・・・・・。もとい、人質の解放に回ろう。
鍵開け、変装、目立たない、暗視、第六感あたりを使って侵入。
皆が攪乱している間に、人質の居場所を確認し、順次解放していく。
物を隠すを応用して、人質を隠したり、
早着替えと変装で人質に成り代わったりしようかな。
ツーユウ・ナン
【POW】奴隷救出作戦を実力で援護する
協力して策を練り、無粋な吸血鬼どもの手から奴隷となった人々を救い出す段取りがつくまでは大暴れとはいかんじゃろうな。
よし、わしは救出作戦の護衛に付こう。
妨害する敵を払い、追手を足止めし、速やかに離脱できるよう援護するんじゃ。
[カウンター][グラップル][怪力]掴みかかる敵を逆に投げ飛ばす
[見切り][武器受け]鉄箸(装備4)で白羽取り等
[敵を盾にする]掴みや鉄箸で敵の武器や耳鼻を挟んで引っ張り込み
UC『龍氣金剛功』[かばう][拠点防御][覚悟]
:救出した奴隷を逃がす際、狭い廊下や脱出口で踏みとどまり
⇒馬歩站椿(立禅)の姿勢で氣を練る
ここはわしが預ろう…
マーガレット・リーヴ
【SPD】戦闘も、演技も、苦手です……
その、影は薄いので、コッソリ巡っていろいろ仕掛けていきます……
とは、言いましても……賢者の影で生贄の方の居場所とかを喋ってもらって、そのうえで、その……オネンネいただくくらいしか、出来ませんが……
あの、消極的で恐縮ですが、同じ潜入組の方がいらっしゃったら、お邪魔にならないようについていきます。
指示があったら、従う形で……こういう時、連携が取れていないのが一番よくないと思いますし……いえ、私みたいに主体性が無いのも、多分それはそれで良くないと思いますが……
どうしても必要な場合は、内部で陽動とかも……頑張ります……怖いのとか、痛いのは……いや、なのですが……
ジロー・フォルスター
変装し夜会へ
吸血鬼と人間のハーフの俺なら欺き易いだろう
幸い変装と礼儀作法は得意
話術は聖者のお家芸みたいなもんだ(コミュ力・言いくるめ)
付け髭で厳めしい爺をやるぜ
一足先に夜会に参加し、会場の様子や間取り、生贄の場所を情報収集で探って仲間に流す
「今日の目玉はどこにいるかね。状態を見ておきたいのだ」
メモに書いて中庭に捨てるか
中から侵入の手引きをするならその時に伝える
『天声』は切り札だ
猟兵の侵入に会場内の全員が気付いた時に足止め目的でやるぜ
「落ち着け!この程度の些事で取り乱してどうする。我らは誇り高きヴァンパイアだろうがっ!」
正常性バイアスって奴だな
全員の動きを一瞬止めてやる。その隙にさっさと逃げ足だ
高柳・零
すっかり他の猟兵に助けられてしまいましたね。ザルバさん、ここからは吸血鬼が相手なので非常に危険になります。息子さんは必ず自分達が助けますから宿屋で大人しく待っていてください。
息子さんが帰って来た時、あなたが居ないと悲しみますから。
流石にここで力押しが不味いのは判ります。ザルバさんの息子さんにまで危険が及ぶ可能性がありますから。
ならば奴隷商人の護衛に紛れ込みましょう。
「え、人数が増えたですか?最初からこの人数ですよ」
「納得いかないなら勝負しますか?」
チンピラに負ける自分ではありませんよ。気絶打撃であしらいましょう。
上手く行ったら、奴隷商人と一緒に夜会に潜入します。
稲宮・桐葉
ヴァンパイアの夜会とな
奴隷商人の用意する目玉となるモノ…奴隷商人だけに奴隷なのじゃろうなぁ
大勢のヴァンパイアが遊ぶとなると…想像もしたくないが…大勢の奴隷が連れられて来ると考えてよさそうかの
ザルバ殿の御子息も含まれている可能性は高いのぅ
変装…というか、今のままの衣装でも異国の舞人で通用するかのぅ?
この世界では見慣れぬ衣装じゃろうからの
夜会を盛り上げる踊りを披露すると言い包め潜り込んでみるのじゃ
奴隷商人を誘惑し商品に成りすまして潜り込むのも手かの?
舞い始めたらユーベルコードを使用し、暴れ…いや、大いに舞って場を乱してやろう
どさくさに機巧大狐ちゃんも引き込んで敵と生贄たちを引き離すぞ
●問答無用で撲殺亭の外
「すっかり他の猟兵に助けられてしまいましたね、ザルバさん。ここからは吸血鬼が相手なので非常に危険になります。息子さんは必ず自分達が助けますから、宿屋で大人しく待っていてください」
高柳・零(テレビウムのパラディン・f03921)はヴァンパイアの夜会に向かうため、あれこれと準備を進めていた。
「おい! ちょっと待ってくれ! 此処まで来て、俺を置いていくのか!? それじゃ、話が違うだろ!」
ザルバが信じられない様子で、悲鳴にも似た叫び声を上げた。
それでは、一体何のために、ここまで来たのか分からない。
こんな事になるのであれば、やはり一人で行動しておけば良かったと言う気持ちが、ザルバの心を支配した。
もちろん、自分が行ったところで、足手纏いになるかも知れない。
それでも、こんなところで、ジッとしている訳には行かなかった。
「息子さんが帰って来た時、あなたが居ないと悲しみますから。今は……今だけで構いません。自分達を信じてください」
零も、それがどれほど酷な事なのか、充分に理解していた。
理解した上で、ザルバを同行させるリスクを考え、この結論を出したのだから……。
それは仕方のない選択。
例え、ザルバから恨まれたとしても、そうするしか選択肢はない。
「……畜生っ! その代わり、絶対に連れて帰ってくるんだぞ! 例え、何があっても、絶対に……!」
ザルバも、その事を理解したのか、悔しそうに近くの壁をドンと叩いた。
●ヴァンパイアの城
「……えっ? 奴隷商人は、ここまでって。つまり帰れって事ですか……?」
ザルバと別れた後、零は奴隷商人達に混ざって、夜会が行われている城の前にやって来た。
しかし、奴隷商人だけでは城に入れてもらえず、門前払い。
せめて奴隷のひとりでも連れていれば、話が違っていたかも知れない。
だからと言って、いまさら奴隷を調達していたのでは、すべてが手遅れになってしまう。
さすがに、このまま帰る訳にも行かないため、場合によっては実力行為に出ようとも考えた。
だが、城の中には沢山のヴァンパイアがいるため、そんな事をすれば自殺行為に等しかった。
「ああ、すまない。そいつは、お……ワシのツレだ。それなら問題が無いだろ?」
そんな空気を察したジロー・フォルスター(現実主義者の聖者・f02140)が厳めしい爺の変装し、受付の男に事情を説明した。
「なるほど、それなら、まあ……いいでしょう。ところで、招待状は何処に……? 届いてますよね?」
受付の男が愛想笑いを浮かべた後、今度はジローの顔色を窺った。
どうやら城の中に入るためには招待状が必要だったらしく、それが身分証明書代わりになっているようだ。
しかし、そんなモノは持っていない。
酒場の親父から、もう少し詳しい話を聞いておけば良かったのかも知れないが、今となっては何もかもが手遅れだ。
「ひょっとして、ワシを知らぬのか……?」
それは咄嗟に出た嘘だった。
こうなったら、やるしかない。
「……え?」
だが、一瞬にして空気が凍り付くほど、冷たい視線を送ったせいか、受付の男も戸惑い気味。
「あ、いえ、その……」
何かマズイ事を言ってしまったのだと思い込み、しどろもどろになっていた。
「まあ、それなら仕方がない。今すぐ帰って、招待状を取ってこよう。ただし、この件については、きちんと上に……」
そこまでジローが口にした途端、受付の男が折れた。
「も、申し訳ありません。あ、あの……通っていいです! ……ですから、あの……、この事はくれぐれも、ご内密に……」
そう言って受付の男が気まずい様子で、ジローに耳打ちするのであった。
●城の裏口
「華やかな表と比べて、こっちは地獄だね」
マヤ・ウェストウッド(宇宙一のお節介焼き・f03710)は仲間達と共に、城の裏口にやって来た。
そこはヴァンパイア達にとってのゴミ捨て場……いや、正確に言えば死体置き場になっていた。
おそらく、夜会で肉の塊と化した奴隷を捨てる場所。
そう考えれば納得がいくほど、死体の損傷が酷く、山積みになっていた。
しかも、近くの森には魔獣が棲んでいるらしく、何処からともなくケモノの唸り声が聞こえてきた。
「……それにしては警備が手薄だね」
ペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)が、警戒した様子で辺りを見回した。
何故か、裏口には見張りを立っておらず、完全に無防備な状態になっていた。
それだけ、この世界の人々はヴァンパイア達を恐れ、奴隷達を助けようと考える者達がいなかったのだろう。
そのせいか、扉に掛かっている鍵も、鍵開けで簡単に開ける事が出来た。
「だからと言って、さすがに此処で大暴れとはいかんじゃろうな」
ツーユウ・ナン(粋酔たる龍女・f04066)が城内に足を踏み入れ、足音を立てないようにしながら詰め所の横を通り過ぎた。
一応、詰め所の中に見張りや警備がいるものの、みんな賭けポーカーに興じているらしく、通路にまで声が漏れていた。
もしかすると、低賃金の割に過酷な労働を強いているため、ヴァンパイア達が夜会で浮かれている間はサボっているのかも知れない。
理由は何であれ、奴隷を救うのであれば、今しかない。
「あ、あの……奴隷の方が……この奥に……。ただし、見張りが沢山いるようなので、最悪……戦う事になりますが……」
マーガレット・リーヴ(ペインター オブ グラスグリーン・f09726)が、申し訳なさそうにしながら奥の部屋を指差した。
どうやら、トイレに行っていた見張りを見つけ、賢者の影を使って真実を聞き出したようである。
見張りの話では、奴隷達の中には子供もいるらしく、ずっと黙り込んでいるようだ。
もしかすると、奴隷商人に妙な事を吹き込まれ、絶望のどん底に突き落とされてしまっているのかも知れない。
例え、そうであったとしても、此処で助けなければ、二度とチャンスはない。
そんな事を考えながら、猟兵達は奴隷の救出に向かうのだった。
●夜会の会場
(「何とか城に入る事が出来たものの、奴隷商人の用意する目玉となるモノ……か。やはり奴隷なのじゃろうなぁ。その奴隷を使ってヴァンパイアが遊ぶとなると……想像もしたくないが……大勢の奴隷が連れられて来ると考えてよさそうかの。そういった意味でも、ザルバ殿の御子息が含まれている可能性は高いのじゃが……」)
一方、稲宮・桐葉(妖刀に魅入られた戦狐巫女・f02156)は異国の舞人として、ヴァンパイアの城に入り込んでいた。
念のため、奴隷商人を誘惑して『商品』になった甲斐もあり、城に中にはスンナリと入る事が出来た。
その分、『商品』である事を示す番号付きの首輪をつけられているものの、おそらく大丈夫……。
何の問題もないはずである。
いや、何となくオークションの『商品』的な扱いを受けているため、『お披露目』的な意味で自由に行動する事が出来るようになっている気もするが、間違っても売られるような事はない……はず。
「ところで……今日の目玉は、どこにいるかね。状態を見ておきたいのだが……」
ジローが近くにいたヴァンパイアに近づき、思わせぶりな態度で辺りを見回した。
まわりにはヴァンパイアだけでなく、奴隷達も混ざっているようだが、そこに子供の姿はない。
「なるほど、アンタも『商品』が目当てか。その割には、何も知らないようだが、まあ……いいか。ほら、番号のついた首輪をつけている奴がいるだろ。アレが今回の『商品』だ。まあ、アレだったら、交渉次第で安くできるが、『目玉商品』は別格だ。オークションが始まるまでは、牢屋の中。何でも今回はアイヒヴァイゼン家が主催しているようだから、結構必死なんじゃないのかな。そのくらいなら、お前も知っているだろ? ほら、あの没落貴族の坊ちゃんさ。兄貴が死んで金が無いって言っていたから、普通の『商品』だったら、安くなると思うが……。『目玉商品』は駄目だ。絶対に値を下げる事はない。だから、普通の『商品』の方がいいと思うんだけどな、俺は……。ほら、例えば……あの子とかさ」
ヴァンパイアが桐葉の品定めをしつつ、手に持った紙に値段を書いていく。
どうやら、番号の前に奴隷商人を示すマークがついていたらしく、さっそく交渉に行ってしまったようである。
(「ひょっとして、この状況は……」)
それに気づいた桐葉が、気まずい様子で汗を流す。
此処に入るためには仕方のない事だったが、売られてしまったのでは話にならない。
一体、いくらの値段がついたのか、ほんの少しだけ気になったりしたものの、そう言う問題では無いと言う結論に至り、ブンブンと首を振り始めた。
「た、大変だあああああああああああああああああ! 奴隷達が逃げ出したァァァァァァァァァァァァァァア!」
そんな中、ひょろ長い顔をしたヴァンパイアが、半ばパニックに陥った様子で悲鳴を上げた。
その途端、まわりにいたヴァンパイア達がザワつき、殺意が爆発的に膨らんだ。
おそらく、獲物を横取りされた事に腹を立て、みんな血祭りに上げてやろうと言う考えに至っているのだろう。
とにかく、みんな殺る気満々な様子で、ひょろ長い顔をしたヴァンパイアが出てきた方向の扉を睨んでいた。
「落ち着け! この程度の些事で取り乱してどうする。我らは誇り高きヴァンパイアだろうがっ!」
すぐさま、ジローが厳しい表情を浮かべ、ヴァンパイア達の怒りを抑え込み、仲間達が逃げるまでの時間を稼ごうとするのであった。
●通路
「……まさか、奴隷達が騒ぎ始めるとはね。みんな助かりたくなかったのかな? そうじゃなきゃ、あんな事をしないと思うけど……」
ペイン達はザルバの息子ゲンジを連れ、裏口に通じる通路を走っていた。
多少トラブルはあったものの、何とかゲンジを救い出す事が出来た。
だが、他の奴隷は……奴隷達の中には救出を拒否する者もいた。
おそらく、ここから出る事が出来たとしても帰る場所が無かったり、元の生活に戻るよりはマシだと言う考えなのだろう。
ここから逃げる事を頑なに拒否しただけでなく、大声を上げて騒ぎ立てた。
そのせいでゲンジしか助ける事が出来なかったものの、奴隷達が望んだ事なのだから仕方がない。
「あ、あの……どうして僕を……」
ゲンジが今にも消え去りそうな声で、猟兵達に問いかけた。
奴隷商人から『親に売られて此処にいる』と言われていたため、どうして助けてくれたのか、まったく分かっていないようだ。
「他の奴等になんて言われたのか知らないが、アンタは捨てられた訳じゃないって事さ」
マヤが後ろの様子を窺いながら、辺りの物を倒していく。
「うわぁ!?」
その拍子に後を追って来た者達が、間の抜けた声を上げ、重なり合うようにして倒れていった。
「そ、それじゃ、父さんが! 父さんが此処にいるの!? やっぱり、アイツらが言っていた事は、すべて嘘だったんだね!」
ゲンジがホッとした様子で、瞳を潤ませた。
自分は父親に捨てられ、誰も頼る相手がいないと思い込んでいたためか、すべてを諦めていたらしく、その事実を知った途端、涙が止まらなくなった。
「一体、何を言わ……いえ、何でもありません……忘れてください。思い出したくない事ですものね。その……なんと言うか……ごめんなさい」
マーガレットが途中で言葉を飲み込み、申し訳なさそうに謝った。
おそらく、ゲンジにとって、それはトラウマ。
決して触れては欲しくない過去のはず。
それ故に、これはタブー。
聞いてはならない事である。
「とにかく今は逃げる事だけ考えておくのじゃ。余計な事を考えて、逃げる事が出来なくなったら、それこそシャレにならんからのう」
ツーユウが行く手を阻む見張りや警備の男達を蹴散らし、出口を目指して突き進む。
だいぶ騒ぎが大きくなってきたため、警備をしている男達が集まってきたものの、ツーユウの敵ではなかった。
それだけ、今までは警備の必要性が無かったと言う事だろう。
警備の男達はそれなりに強かったものの、戦いに慣れているような感じはしなかった。
そのおかげで、大した苦労もせず、出口まで行く事が出来たのだが……。
「う、うわあああああああああああああああああああああ!」
外に出た途端、ゲンジが悲鳴を響かせながら、這うようにして逃げ出した。
大成功
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第3章 ボス戦
『悦楽卿・パラダイスロスト』
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POW : プレゼント、プレゼントですよぉぉぉぉ?
【水飴の鞭 】【砂糖菓子の杭】【飴玉の弾丸】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD : あーあー、こーわしたこーわしたっ!
対象のユーベルコードに対し【相手にとって守るべき民衆の幻影 】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
WIZ : 大人しく死ぬわけないでしょぉぉぉぉ!?
自身が戦闘で瀕死になると【無数の飴が集まってできた数十mの巨人 】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
👑17
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●悦楽卿・パラダイスロスト
「おやおやおやァ? これはイケませんねぇ! 実にイケません。やはり、御仕置き……御仕置きしなければ、駄目なようデスネェ~。いますぐ、心を壊してグチャグチャにしないと……。何も考えられないほど、酷い目に遭わせないと駄目なようデスネェ~。もちろん、拒否権はありませんよ。私がキチンと責任をもって、アナタを人形にしてアゲマスから♪」
そう言って悦楽卿・パラダイスロストが不気味な笑い声を響かせ、ゲンジの後を追うのであった。
マヤ・ウェストウッド
「エマァ! 一緒に来ォい!」
・館の外に駐輪していた宇宙バイク・エマニュエルを声紋認証、自動運転で呼び寄せダイナミック騎乗
・追跡者の行く手をバイクで阻み、ゲンジを後ろのサドルに乗せることを試みる
・使用スキルは[騎乗][先制攻撃][ダッシュ]、パラダイスロストがゲンジを捕まえている場合は[盗み攻撃]でパラダイスロストを轢きつつゲンジを奪還
「愉悦とか道楽とか、そういうので殺しをしてきたのかい……アタシはそういうの、好きじゃない」
ツーユウ・ナン
人の力の根源は心。心に光があれば、困難に立ち向かい、撥ね退け、絶望に抗することができる。しかし、その光を失ってしまえば実に脆いもの。先の牢に留まった奴隷の様にのう…。
人の心を弄び、傷め付け、支配する、この狡猾な敵からゲンジの心を救い出してやらねば!
どこの世界でも飴は童の好物、しかしそれで心を弄ぼうとは許せん外道じゃ。
ゲンジ、安心せい。わしらが必ずおっとう(父)の元へ連れて帰るからな?
・ゲンジを背に庇い、励ましながら守り抜く[覚悟]
・攻撃を[見切り]、鉄箸(装備4)で[武器受け]して逸らし、ゲンジを狙われたら[かばう]UC『龍氣金剛功』
戦いが終わったら、ゲンジを負ぶって父の元へ送ろう。
ペイン・フィン
またお前か
・・・・・・。
確認し次第、コードを使用。
背後に移動して即座に拷問器具で攻撃を行う。
使用する拷問器具は蒼炎の鏝。
魂すら焼き溶かす炎で、頭の飴ごと焼く。
たとえ、逃げだそうとしても無駄。
絶対にお前は、許されない。
マーガレット・リーヴ
あなたは、子供を泣かせる、人なのですね。
それでは、すいません。私は、あなたの敵です。
本来は、完封するくらいの作戦を立ててお相手する必要があるのでしょうが……すいません、私、子供を泣かせる方は、嫌いです。
エレメンタル・ファンタジア……相手にとって有効な精霊の力を使います。
……熱、でしょうか。溶けそうですし……
ただお恥ずかしいのですが、プッツンキレる、というのは……苦手なので。味方に影響がないよう気をつけたいとは思います。はい、気をつけます。
あと、子供たちが危険なようなら、そのガードが最優先です。
他の方には申し訳ないのですが、そうなったら、多分戦力に、ならないかもしれません。ごめんなさい……
稲宮・桐葉
やれやれ、危ういところじゃった
わらわに付いた値段は気になるが、混乱に乗じてさっさと場を離れるのじゃ
走りながら首輪は外してしまうぞ
おや、見張りや警備の者がのされておるな
仲間の通った通路じゃな
これを辿って行けば合流できそうじゃ。急ぐぞ
大将のお出ましか
飴菓子なら飴菓子らしく黙って人の胃袋に収まるのじゃ!
まあ汝のような不味そうな飴は食いたくないがのぅ
敵がゲンジを追うのを阻むため、弓で援護射撃じゃ
敵の行く手を阻むように矢を射かけるぞ
ゲンジがうまく逃げおおせたら、ユーベルコードを発動し一気呵成に攻めるのじゃ
寿命を削るゆえ、仲間と連携し速やかに、かたをつけるぞ
片付いた後、戦いで消耗した精どこで満たそうかの…
ロア・ネコンティ
【WIZ】
人質は無事のようですね。そして変な飴ちゃんが何かやってますね。"酷い目に遭わせないと駄目"?へぇ……。飛び入り参戦しましょう!
敵本体か、いたら無数の飴が集まってできた数十mの巨人を【範囲攻撃】【鋼糸】で手か足狙いで捕縛。どちらかが味方に攻撃してきたら【敵を盾にする】で防ぎます。
【エレメンタルロッド】から【鋼糸】に導火線のように精霊魔法を伝せ、【2回攻撃・全力魔法・高速詠唱・属性攻撃・範囲攻撃】光と炎と風の精霊を使い【エレメンタル・ファンタジア】花火のようにゴージャスに盛大に爆破します。上手くいったら「たーまやー☆」と声をかけます。悪趣味なパーティの締めくくりにはちょうといいでしょう。
●ゲンジ
「エマァ! 一緒に来ォい!」
すぐさま、マヤ・ウェストウッド(宇宙一のお節介焼き・f03710)が城の外に駐輪していた宇宙バイク・エマニュエルを声紋認証、自動運転で呼び寄せ、ダイナミックに騎乗した。
「えっ? うわっ! うわわ!」
その上でゲンジを掬い上げるようにして後ろのサドルに乗せ、悦楽卿・パラダイスロストから遠ざかった。
「おや、おやおやァ? これは一体全体どういう事デスカァ~!? ひょっとして、私の邪魔を……この私の邪魔をする気では……!? やはり酷い目に遭わせないと駄目なようですネ!」
悦楽卿・パラダイスロストが信じられない様子で、全身をワナワナと震わせた。
せっかくの『お楽しみ』を邪魔されてしまった事もあり、かなりイラついているようである。
「とりあえず、人質は無事のようですね。そして変な飴ちゃんが何かやってますね。『酷い目に遭わせないと駄目』……ですか」
ロア・ネコンティ(泥棒ねこ・f05423)が、警戒した様子で間合いを取った。
「ええ、もろちん! あなた達は、御仕置きッ! 御仕置きデス!」
悦楽卿・パラダイスロストがムッとした様子で、ロア達をビシィビシィと指差した。
おそらく、自分の方が、立場的に上。
圧倒的に上だと思い込んでいるのだろう。
それ故に、妙に上から……見下しモードで騒いでいた。
「やれやれ、危ういところじゃった」
そんな中、稲宮・桐葉(妖刀に魅入られた戦狐巫女・f02156)が現れ、首輪を外して放り投げた。
どうやら裏口は、すべて悦楽卿・パラダイスロストに任せているらしく、誰も追ってこなかった。
それだけ悦楽卿・パラダイスロストが信頼されていると言う事だが、早めに決着をつけなければ、ヴァンパイア達が加勢にやってくる可能性も高かった。
そうなれば、桐葉を買おうとしていたヴァンパイアも現れるかも知れないため、色々な意味で面倒になる事は間違いない。
「おや? おやおやァ? これは、これは……実に面白い事になってきましたネェ! こんなに沢山お友達が来るなんテ! まあ、些細な事ですッ! さあさあ、カモォーン!」
悦楽卿・パラダイスロストが身体をクネクネさせながら、桐葉達をハイテンションで手招きした。
「……また、お前か」
ペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)が、嫌悪感をあらわにした。
「はて……また? また……とは、一体? 私と、あなたは初対面のハズですガ……。それとも、まさか……ファンですカァ? そう言えば、キラキラしてますネ。私を見て、あなたの瞳が宝石箱のようになってイマス! やれやれ、困りマシタネェ~。モテるオトコは、ツライってヤツですカァ~」
悦楽卿・パラダイスロストが恥ずかしそうに、両手で大袈裟に顔を隠す。
「……!」
それにイラッとしたのか、ペインは何も言わずに間合いを取った。
「……おや? おやおや、恥ずかしがり屋さんですネェ。いわゆるシャイってヤツですか? イイです、イイです、無理をしなくてイイんですヨ! 何故なら、私はエリート紳士! あなたにとって、憧れの存在ってヤツですから!」
そんな空気を察した悦楽卿・パラダイスロストが、『分かってマス、丸わかりデスゥ!』と言わんばかりに力強くウンウンと頷いた。
「うう……、怖い……」
そのテンションについていけず、ゲンジが全身に鳥肌を立たせた。
それが原因で震えが止まらず、ボロボロと涙がこぼれてきた。
「あなたは、子供を泣かせる、人なのですね。すいません、私、子供を泣かせる方は、嫌いです。なので……あなたの敵です」
マーガレット・リーヴ(ペインター オブ グラスグリーン・f09726)が、ゲンジを守るようにして陣取った。
「そういえば、そう! そうデシタ! その子をズタボロにしないと駄目でしたネェ! それなのに……私は……私はッ! 自分の事ばかり……。まあ、私は子供だけでなく、人々を泣かせる芸術家というヤツですカラ! 非難される覚えはありまセンが……アハ、アハハハハ!」
悦楽卿・パラダイスロストが楽しそうに飛び跳ね、猟兵達の神経を逆撫でした。
その一挙手一投足がウザさの結晶となって、マーガレット達の身体をネットリと包む。
「どこの世界でも、飴は童の好物。しかし、それで心を弄ぼうとは許せん外道じゃ。ゲンジ、安心せい。わしらが必ずおっとう(父)の元へ連れて帰るからな?」
ツーユウ・ナン(粋酔たる龍女・f04066)もゲンジを守るようにして陣取り、少しずつ距離を取っていく。
「ナルホド、ナルホド、ナルホドォ! いわゆるナイト気取りってヤツですカ? ン? 何ト言うカ、もっと適した言葉があるような気もシマスガァ……。ンー、なんでしょうネ」
悦楽卿・パラダイスロストがツーユウを見て、何か皮肉めいた言葉を言おうとした。
だが、適した言葉が浮かばず、頭の上のあるハテナマークだけが、ポコポコと増えていく。
「……と言うか、愉悦とか道楽とか、そういうので殺しをしてきたのかい。……アタシはそういうの、好きじゃない」
その間にマヤが宇宙バイク・エマニュエルに乗ったまま、悦楽卿・パラダイスロストを轢いた。
「ウギャアアアアアアアアアアア! い、いきなり何をするんデスカ! 私は、こう見えても華奢なんデスヨ! それなのに、この仕打ち……酷い! 酷過ぎマス!」
その一撃を食らった悦楽卿・パラダイスロストが崩れた顔を押さえ、ワナワナと身体を震わせた。
それだけ、顔に自信があったのか、手鏡で傷口を念入りに確認。
そこで怒りを再燃させて、水飴の鞭を振り下ろした。
しかも、マヤではなく、ゲンジに対して……。
「うわあ!?」
そのため、ゲンジは宇宙バイク・エマニュエルに乗っている事が出来ず、ゴロゴロと転がるようにして飛び降りた。
「アハ、アハハ! 無様、無様、イイ気味デス! 私に逆らうから、こんな目に遭うんデスヨォ? でも、駄目。駄目ナンデス。いくら反省しても、既に手遅れ。心が壊れる程の恐怖を味わうまでは……終わりまセン!」
悦楽卿・パラダイスロストが上機嫌な様子で、ゲンジの後を追いかけた。
「う、うわっ! 助け……助けてぇ~」
ゲンジも消え去りそうな声を上げ、這うようにして逃げ出した。
「そう言う事をするの、嫌いです……。子供を泣かせて、追い詰めて……。それで楽しむなんて……最低です」
マーガレットが嫌悪感をあらわにしながら、【エレメンタル・ファンタジア】で悦楽卿・パラダイスロストの身体を炎に包む。
「ウギァァァァァァァァァァァァァ! 熱いッ! 熱いッ! 熱過ぎます!」
その途端、悦楽卿・パラダイスロストが何度も地面を踏みつけ、辺りをぴゅーっと駆け回った。
しかし、そう簡単に火は消えず、まるで松明の如く、頭がメラメラ燃えていた。
「随分と香ばしい匂いが漂っているものの、まったく食べたいとは思えんのぅ……。まあ汝のような不味そうな飴は食いたくないが……」
桐葉がゲンナリとした様子で、悦楽卿・パラダイスロストに生暖かい視線を送る。
「うぐ、うぐぐぐぐ、許しませんヨ! 絶対に許す訳には行きまセン! これで終わり……? 終わりだと思いマシタカァァァァァァァァァァァァ! それは残念ッ! 間違いデス! どうやら油断したようですね。愚か、愚か、実に愚か! ここからが本番ッ! 本気の見せ所ってヤツですヨォォォォォォォォォォォォォォォオ!」
次の瞬間、悦楽卿・パラダイスロストの前に無数の飴が集まり、数十mの巨人が召喚された。
それは悦楽卿・パラダイスロストにとって、最強最大の秘密兵器ッ!
これさえあれば、猟兵なんてイチコロと言わんばかりにハイテンション!
「油断したのは、そちらのようですね」
それに合わせて、ロアが鋼糸を巨人の脚に絡め、悦楽卿・パラダイスロストがいる方向にグイッと引っ張った。
「おろ? おろろろろ。こんなハズでは……! こんなハズではなかったのにィ!」
それは悦楽卿・パラダイスロストにとって、予想外の展開だった。
これさえなければ、もう少し戦えた……はず。
だが、現実は残酷……。
自らが召喚した巨人に押し潰され、まったく身動きが取れなくなった。
「もう何をやっても無駄だ。絶対にお前は、許さない」
それと同時にペインが背後に回り込み、魂すら焼き尽くす炎で悦楽卿・パラダイスロストを焼いた。
「うぎゃあああああああああああああ、死ぬ、死ぬ、死ぬゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
そして、悦楽卿・パラダイスロストは断末魔を響かせ、ドロドロに溶けて動かなくなった。
「お、終わったの……」
ゲンジがツーユウの後ろに隠れたまま、怯えた様子で口を開いた。
「ああ、そうじゃ。さて……おっとうの元に帰るとするか」
ツーユウがゲンジを背負い、ゆっくりと歩き出す。
後はヴァンパイアに見つからないように遠回りをしながら、父親が待っている【問答無用で撲殺亭】に行くのみだ。
「お姉ちゃんの背中……暖かいね」
そう言ってゲンジがツーユウの背中で、スヤスヤと眠りにつくのであった。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2018年12月29日
宿敵
『悦楽卿・パラダイスロスト』
を撃破!
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