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ALOノーツ:Die-Dad-Ala

#クロムキャバリア #『巨神』 #ALO #アンサーヒューマン解放機構


 それは、この世界のどこにでもある悲劇の一つ。
 誰しもが、本当は優しい気持ちで心を鬼にした結果に過ぎなかった。
 年中を通して深い雪に覆われるこの小さな国に逃げてきたことは、幸福だったのか。
 争いのための兵器を開発し続けることに疲れた俺が見つけたのは、奇しくもまた兵器だった。
 プラントと呼ぶにはあまりにも小規模な、しかしそれは紛れもなく、里を豊かにする可能性のある研究施設に違いなかった。
 慣れない土地で里の者の世話になりきりだった俺は、その研究をどうにか人々のために活かせないかと、数百年も取り残されていた遺跡の様な施設の解明を買って出た。
 だが出てきたのは、おぞましき研究データと、そしてその成果物だった。
 拠点防衛用“巨神”型キャバリア『ダイダラ』……。
 現行の規格とは異なる10メートルクラスの大型キャバリアの運用と、その実態を、完璧な形でサルベージしたまではよかったが、それは常人が扱えるような代物ではなく、そのパイロットすらも部品扱い。
 全ての設備は完璧にサルベージできた。そう、機体の部品、即ちパイロットの製造ラインに至るまで。
 恐ろしいことに、ダイダラは100%の力を発揮する為にパイロットを消費する。
 間違いに気づいた時には、もうパイロットの製造ラインから最初のロットが生まれた後だった。
 こんなものが世に出てはいけないと思いながらも、生まれ落ちた彼女たちを処分することが俺にはできなかった。
 この研究施設が、キャバリア以外に齎したものが、辺境の雪山の中には余りある富であることを考えれば、彼女らの存在を無碍にできなかったのも理解してくれると思う。
 あれから、30年経った。
 俺が掘り起こしたものは、争いを呼んだ。小さいながらもプラントというものは、誰にとっても有用だ。里の内外を問わず。
 武力を以て奪いに来る者たちに、俺は彼女たちを用いざるを得なかった。
 絶大な力と引き換えに、帰巣装置で帰還したダイダラの中で液状化し消費された彼女たちの、その形跡を洗うのは、3度目で慣れた。
 だが、もう30年。俺はもう限界だ。
 笑顔で俺を父と慕う彼女らを、まったく同じ顔で喜んで命を消費しようとする彼女たちを、送り出し、作り出すのは、もう疲れてしまった。
 この通信を拾える誰かに頼みたい。
 ダイダラも、それのために作られたアンサーヒューマンも、もはや俺の手には余る。だが、今やこの里にとってプラントは無くてはならない。
 俺には答えがわからない。だから、この通信を拾える誰かよ。
 俺に道を示してほしい……。

「以上が、私のキャバリア整備中に流れ込んできた通信をもとに解析した内容で、ここから先はそれをもとに調査したお話となります」
 グリモアベースはその一角、給仕姿の疋田菊月は、居並ぶ猟兵たちに紅茶を供しつつ、いつもとは変わった形で齎された予知の内容を説明する。
「クロムキャバリアの世界で通信の出所を探るというのは、なかなか途方もないお話なのですが、どうもこの予知の内容、誰かが拾った通信の内容を二重に引き寄せたみたいな感じだったんですよ。
 別のどこかが、この物騒な通信内容を拾い、現場に向かおうとしている人たちがいるという事です。
 まあ、それはひとまず置いておいてですね。そのおかげで今度の現場の大まかな舞台を突き止めたんですよ」
 舞台となるのは、クロムキャバリアの小国家の一つ……と言っても、その国がおそらく気にも留めても居ないであろう辺境に忘れ去られた雪深い山奥であるという。
 どこの国にも忘れられた土地で発掘された古代遺跡の様な研究施設と巨神と呼ばれる古代のキャバリアが、一人の男とその集落の命運を分けたという話である。
 小規模ながらプラントを擁する遺跡は、小さな集落には過ぎた富をもたらし、それが争いの種としてよそに漏れるたびに、ダイダラという巨神が出撃し、外圧を葬り去って解決する。そんなことの繰り返しで、他と隔絶された環境だからこそ、今はその周期を繰り返すだけとなっている。
「ですが、彼の独白が、助けを求める声が、皮肉にもまた脅威を呼び込もうとしています。それが無くとも、いずれは悪意を持った誰かに知れることとなったでしょうけども……。
 でも、悪意だけとは限らないんですよ。皆さん、『アンサーヒューマン解放機構ALO』のことはご存じですか? 今回の件、詳細な場所を知るきっかけになったのは、彼らが通信を拾ったところを視たからなんですよー」
 ALO……その名の通り、不当な扱いを受けるアンサーヒューマンの開放を活動理念としているアンサーヒューマンによる団体は、国を問わずどこからともなくやって来るというが、猟兵たちはその活動拠点がキャバリアを格納可能な潜水母艦であることを、おそらくは知っているはずだ。
「彼等、もとい、彼女たちに任せておけば、最低限不幸な目に遭うようなアンサーヒューマンについてはどうにかしてくれるかもしれませんね。生産工場を破壊するなり、データを破壊するなり、なんだってする筈です。ただ、問題なのは、巨神と呼ばれる大型のキャバリアです」
 現地のプラントによる再生産不可能というほど古代の代物であるそれは、誰にでも扱えるものではなく、適合しない者を乗せれば、最大パワーの代償として消費されてしまうという話である。
「ようするに、未知のものを無理矢理扱おうとするために、かつての研究者はパイロット兼使い捨てのエネルギーパックの要領でアンサーヒューマンの生産ラインを確立したようですね。恐ろしいお話です」
 かつての研究者の叡智をもってすら、適合者の完成に至らなかった、完全に持て余している古代兵器だが、もしかしたら猟兵ならば、人喰いの神を飼い慣らせるかもしれない。
 或は、彼らから過ぎた力を取り上げてしまうことが、今回の問題の解決になるのだろうか。
「まあとにかく、巨神に関しては、皆さんのいずれかがその所有者として認められることで、他所の手に渡ることは無いと思うので……その件に関してはお任せいたします」
 さて、残す問題は、その巨神の力か、或はプラントを狙ってやってくる敵勢力についてだ。
「我々が予知に見たということはですよ。それらはオブリビオンマシンということになりますよね。
 果たして巨神を狙ってきたのか、プラントによって齎される富に目が眩み、それを利用された人たちなのか。とにかく、それらを退治しなくてはなりませんね」
 もしも、巨神ダイダラに搭乗者として認められるか、或は認められるような行動を取れれば、その力を遺憾なく発揮することができるだろう。
 無論、いつも通りに自分のキャバリアや実力で排除しても全く構わない。
「ただ、お気を付けください。ひとたび制御を誤れば、古代の兵器はどのような被害をもたらすか……ですので、ご自身のお覚悟とご相談くださいませ」
 一通りの説明を終えると、菊月は意味深に微笑みつつ、猟兵たちを現場へと送り出す準備を始めるのだった。


みろりじ
 どうもこんばんは。流浪の文章書き、みろりじと申します。
 巨神シナリオ、いつか出してみたいと思っていたお話ですが、いろいろ書くことが重なって、ごちゃごちゃした内容になってしまいました。
 肝心の巨神について、意思があるのかどうかすら詳しく書いてませんが、おそらくえり好みはするくらいの我儘さはあるようですね。
 このシナリオは、日常→集団戦→ボス戦という流れのシナリオフレームを使わせていただいております。
 珍しく、最初の章にもいわゆる断章を投稿予定ですので、よければそれも読んでやってください。なくても多分、どうとでもなります。(ほぼALO側と現地のお話です)
 第一章では、巨神の発掘された研究所の格納庫にて、巨神を説得したり、危機を察して巨神に乗り込んで戦いに出ようとするアンサーヒューマン達、そして彼女たちを搔っ攫いに来たALOの人たちと交流できます。教会のような修道施設で、男は年老いた神父で、アンサーヒューマンはいずれも修道女のような恰好をしています。
 第二章では、集団戦。仲良くなった巨神やアンサーヒューマンと共に戦ってもいいですし、ALOの退路を確保してもいいです。ここで撤退した場合、三章には出てきません。ここでも巨神を説得することが可能です。
 第三章では、集団敵を率いていたボスキャラとの対決です。もしも巨神を乗りこなせるようになっていれば、そのパワーを遺憾なく発揮できます。
 いつものように、プレイングは公開後いつでもお送りしてくださって構いません。
 以下、ダイダラの簡単な武装のお話。

 『巨神ダイダラ』
 大きな上半身が特徴の大型サイキックキャバリア。飛ぶことはできないが、巨大なバックパックを背負っている。
 オシレーションブレード。肘に格納された超振動ブレード。
 デスアイ。頭部から発射する光子レーザーバルカン。
 ダイダラ砲。バックパックから展開し、反物質を投射する粒子加速砲。その性質上、反物質を形成するためエネルギー消費が多く、パイロットを一人消費する。

 それでは、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作ってまいりましょう。
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第1章 日常 『戦士よ、今こそ雌伏の時』

POW   :    意地や根性で逆境を耐え抜く!

SPD   :    技術や工夫で逆境を耐え抜く!

WIZ   :    知恵や閃きで逆境を耐え抜く!

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 ──0835時。氷海。潜水母艦シーバット。

「……我々が拾い、復元できたのはここまでだ。この通信の裏は取れていないが信憑性という意味では、誰も居ないであろう洋上にまで電波を飛ばせるのがプラントを置いて他にあるかどうかという話になってくる」
「つまりまあ、真実味のあるラジオ通信ってわけね」
 ALOの誇る移動拠点。キャバリアを搭載可能な潜水母艦の艦橋は、リーダーである解放者リベレーターとその参謀である二人が集うと、会議室になる。
 この広い世界に於いて、広域通信が封じられている現状、いまだに多くの小国家がその勢力を競い、あまつさえその全容をもみようとしない。
 過酷な戦線はキャバリアという機兵が支配し、そこに投じられるのはキャバリアを操るのに特化し調整された次世代の人類とも目されるアンサーヒューマンたちである。
 人体の安全を無視した操縦方法、人間離れした反射神経を要求するCPU、時に人心を排する判断を迫られるストレスフルな環境。それらに対応可能な屈強な強化人間、或は人造生命を指すのがそれである。
 だが、彼らは人に近い性質を持たされながら、常人を超える能力をも持たされ、尚且つその扱いは往々にして劣悪である場合が多い。
 たとえば、ALOを構成する人員のほとんどが出身国としているかの国では、アンサーヒューマンとはドールズ・ウォーというショービジネスと化した代理戦争の偶像アイドルであり、使い捨ての道具だった。
 美しく、華々しく戦い、散っていくアンサーヒューマン達は、簡単に死ぬことすらも許されず、幾度となくクローニングと記憶の転写を繰り返されてきた。
 歪んだ平和を維持するため、裏に潜ませた巨大な陰謀から聴衆の眼を逸らすために作り上げられた舞台から、彼女たちはその名を抹消し、数多の同胞たちを解放するために、ALOを立ち上げたのだ。
 その行動範囲は、かの国には止まらず、本国で想定外の事件にその存在が大きく話題に上がりすぎたALOは現在、行動範囲から大きく外れ、北部は流氷の流れる氷海を航行していたところ、例の独白めいた通信を拾ったのであった。
「で、通信の出所は割れたわけ、キーノ」
 古参にして参謀の一人、リーンベルがもう一人の名を呼ぶ。
 砕けた口調が特徴的だが、フレンドリーな割にその目は笑っていない。
「だいたいはな。ここのところ、浮上できるポイントが少ないからな。流氷の影響もあって拾い辛い電波を何とか拾って、接岸できそうな場所も目途がついた。上陸してからのルートは、もう少し必要だな」
 眉一つ動かさないままぶっきらぼうな口調で、データ化された周辺の海岸線をモニターに出しながら、明らかでない陸地のデータ上を大雑把な矢印が表記される。
「疑うわけじゃないけどさぁ。これ、人住んでんのかねぇ。どっかにドームでも張って、そこだけ春爛漫みたいな?」
「さて、それはどうかな。そこまでプラントに依存しているなら、もっと迷いは無い筈じゃないかな?」
 それまで沈黙していたリベレーターが、データ化された地図を顎をさすりながら矯めつ眇めつしつつ嘆息する。
 その言葉に、二人とも口を閉ざす。
 彼らの行動スタンスは、アンサーヒューマンを劣悪な環境から開放するのが目的であり、その手段は選ぶことはなく、また国も選ばない。
 件の通信さえ拾うことがなければ、その集落を知ることすらもなく、立ち寄ることも無かったろう。
「それにしても、巨神ね。パイロットを弾丸にするなんざ、いったいどうしてそんな話になるんだかねぇ」
「そいつが本来の仕様とは考え辛いな。パイロットを消費したら、帰巣装置で帰るしかなくなるんなら、使い物にならんだろう。兵器を使う上での、いわゆる盗難防止や技術の流出を防ぐための機密保持が目的じゃないか?」
「機体ごとブッ飛ばしたほうが速いんじゃないかな。大昔の機体だけあって、単に不具合なんじゃねーの?」
「お前なら、まず間違いなく消し飛ぶだろうな」
「へっ、キーノ。アンタは進んで消えそうだな。鉄砲玉好きだもんねぇ」
 険悪な空気を作り始める二人をよそに、リベレーターは席を立つ。
「さて、そろそろ出撃準備だよ。装備は十分にね。たぶん……あの通信は我々以外も聞いていた筈だ。同胞を拾う状況で戦闘になる公算は高い」
「了解、先導は私がやろう」
「はいはーい、んじゃあたしはケツを見てようね」
 リーダーが号令を掛ければ、二人はけろっとそれまでの喧嘩を忘れたかのように行動に移る。
 彼らの行動がすべて正しいわけではなく、彼らの行動はあくまでも彼らにとっての正義のもとで行われる。
 アンサーヒューマンが里の者たちにとって得難い存在であり、その命を擲つ心配がなくなれば、ALOはそこに開放の必要性を見出さないかもしれない。
 ただ、平たく言ってしまえば、彼らにとっては里の民たちがプラントを失うような結果になろうとも、アンサーヒューマン達を開放できるなら何ら厭わないという事である。

「やはり……軽率だったか……」
 ブラックローブを着込んだ初老の男が、頭を抱えて椅子に座り込む。
 教会のような施設の外には雪がちらつく景色が延々と続いているが、石造りの建物の中は温かいもので、湯気のたつ飲み物と、新鮮な果物とチーズがテーブルに並ぶ。
 質素でありながら裕福と言わざるを得ない生活環境は、30年前からは想像もつかなかったろう。
 山間の盆地を切り開いて、小さな沢を囲うようにしてある、ここは本当に小さな集落で、そんな中に岩山を削って作られた修道施設に見せかけたこの建築物は、ほかのどの建物よりも先進的で手が込んでいた。
 それもその筈だろう。この岩山の中には100年以上も続く戦争よりもずっと昔に作られたらしい、前文明と思しき科学技術の詰まった遺跡があるのだから。
 現代科学にも近しく、そしてその水準を大きく進めたかのような、主にキャバリア兵器に関する超技術の数々は、ここへ身を隠すより以前に勤めていた兵器開発局の比ではない。
 ここには前任者が居たのだ。それも、きわめて現代的な視点を持った科学者が、より古代にあった巨神の謎を解き明かすために。
 だが完全ではなかった。完全でないにしろ、巨神を実践投入するために必要だった最後のピースを、つまりはパイロットを作ることに一生を費やしたらしい。
 それも、使い捨てという真っ当でない方法でだ。
「おとうさま、敵が来ますか……? 私たちをお使いください」
 修道服に身を包んだ少女たちが、一様に同じ顔で、同じ心配そうな顔つきで、己が命を使えと言ってくる。
「ああ、エッセ。それに、シボリー……そんなことを言わないてくれ」
「でも、ダイダラなら勝てます。どうかまた、私たちを作ってください。そうしたら、また、おとうさまに会えます」
 純粋無垢に微笑む少女たちの、そのなんと倫理の薄い事か。
 どれだけ言い聞かせても、彼女たちはその死生観ゆえに、その身を放り出そうとする。
 まるで、生まれながらに、身体にその精神を刻み込まれているかのように。
「ダイダラが呼んでいます。私たちを使えと……だから、おとうさま。私たちにお命じください。敵を討てと」
「駄目だ。そんなことは……駄目だ」
 戦闘機械の一部であるかのように、敵の襲来を思い、事前に備えようとするその行動力。
 生まれたからには人と同じように接してきた男にとって、それこそ何度も味わってきた苦い瞬間であり、そしてどうしても更生することができなかった部分でもあった。
 生まれついてのアンサーヒューマンというものに、男はあまりにも無力であった。
 この30年間に於いて、彼はただの一度も、彼女たちを最終的には引き留めることができなかったのだ。
ユリウス・リウィウス
これはまた、“冬”の旦那が化けて出そうな佇まいじゃないか、なあ、おい。
人も通わぬ雪里に過ぎたる宝は荷が重い。骸の海に沈む前に差し出す手が必要だ。

ここが古代の遺跡か。
『神父』。便宜的にそう呼ばせてもらう。
新たな脅威が差し迫っていると聞いた。今回は俺ら猟兵で撃退出来よう。娘たちを消費する必要は今は無い。
だが、俺たちが去れば次の脅威が迫り、『巨神』で娘たちが生命を投げ出すわけだ。
完全に同じAHの肉体を生成して生前の記憶を移植し、それで死を乗り越えたつもりになっていないか?
たとえ、んなことしたってな、魂の色は違うんだよ。同一人物じゃない。あんたも分かってんだろ?
「降霊」。消費された娘たちの魂をここへ。



 存外に悪くない。
 人も通わぬ山の奥。100と余年は続いているという戦争によって、地上は絶えぬ戦渦に明け暮れているというが、昼を前にする山の天気は悪くなく、雪はちらついているものの雲間から陽光すら差している。
 雪は深いが、道なき道をかき分ける足取りに疲れは無く、膝下まで埋もれても足具に纏わる雪はほんのわずかで、さらさらと粉のように零れていく。
 ユリウス・リウィウス(剣の墓標・f00045)は、このクロムキャバリアの世界にはなんとも不似合いな騎士甲冑を身に纏っているが、今回ばかりは雪化粧の針葉樹の合間を縫って進む姿が様になっているようだった。
 かつて世界中を繋いでいた通信網は途絶し、戦乱が世界を分かってから、この世界の全容は暗黒へ閉ざされたようなものだった。
 巨大な国土を持つ国はいくつもの小国家に分かれ、辺境は戦乱にまみれるか、この先にあるという集落のように忘れ去られる立場にあった。
「これはまた、“冬”の旦那が化けて出そうな佇まいじゃないか、なあ、おい」
 だが、それも存外に悪くないように思う。
 これほど自然が豊かに、空気も悪くなく、のどかにお天道様も拝めると来たものだ。
 とはいえここのところ、季節柄もそうかもしれないが、向かう先が冬ばかりじゃないか。
 騎士と戦うのは吝かではないが、天帝騎士団はもう滅んだじゃないか。
 かつて刃を交えた好敵手を思い起こすほどの雪深さに苦笑が浮かぶ。
 あそこほどではない。
 冷たく、重苦しい空気は、この大自然の活力を感じるような、あれはそうではなかった。
 考えを改めねば。
 森の匂いのする冷たい空気を胸いっぱいに、ユリウスは細める視線の先に、目的の集落を見止め歩みを早める。
「人も通わぬ雪里に過ぎたる宝は荷が重い。骸の海に沈む前に差し出す手が必要だ」
 問題は山積しているらしいが、一人の騎士として、猟兵としてやれることは、とてもシンプルだ。
 オブリビオンを排除することに関しては、どのような依頼でもさほど違いは無いのだ。
 キャバリアを必要としない者にとって、この世界での戦いは常に巨体相手だが、今回のような場合には考えることが少なくて済む。
 騎士の装いはとにかく、集落に人が来ることは稀であるのだろう。目的の古代遺跡があるという修道施設の道を尋ねるユリウスはそれなりに奇異の視線を浴びることになったが、集落の者たちはとても善良であり、犠牲の上にこの平和が成り立っているとはいえ恙なく目的地にたどり着いたことに関しては気分がよかった。
「さて、ここが古代の遺跡か」
 岩山を掘りぬいて作られたという修道施設のまさにすぐ隣に、金属の巨大な扉が聳えていた。
 鉄、とは違うんだろうな。と、材質すらもよくわからないのでとにかく、そこは放っておくとしてあの男に面会を申し出る。
 事情を察したらしい『神父』……名前すら知らないラジオを聞いてやってきたため、便宜上その恰好からユリウスは彼をそう呼ぶ。
 この際、神父だろうと牧師だろうとどちらでもいいのだが──とにかく、ユリウスが集落の危機を察してやって来た者だと知ると、その疲れた初老の神父はいくらか希望を抱いた様子で招き入れてくれてた。
「新たな脅威が差し迫っていると聞いた。今回は俺ら猟兵で撃退出来よう。娘たちを消費する必要は今は無い」
「おお、それは心強い……そして、あの子たちの出る幕がないというのは、素晴らしいことだ……」
 何ら誇張するでもなく、事も無げに事実を述べるユリウスの言葉は力強い。
 ただ、神父の顔色は冴えない。
 ユリウスの言わんとすることに気付いているのだろう。
「だが、俺たちが去れば次の脅威が迫り、『巨神』で娘たちが生命を投げ出すわけだ」
「ああ、ああ……わかっているとも。事実として、彼女たちが成人するまでにあちらへ逝かなかった事は稀だ……だが、そうするしか道はなく、そうするのが最も被害が少ない。そして、あの子たちは、喜んで逝くんだ……」
 頭を抱えて視線をさまよわせる神父の眼もとには深い疲れと悔悟が浮かんでいた。
 言い訳じみた言葉を並べているようにも聞こえるが、背を丸めて座り込む神父の姿は罪悪感に押しつぶされているかのようでもある。
 間違いではないのだろう。そこに力があれば、使わざるを得ないのだろう。
 何しろ、人員は無限に湧いて出る。
 むしろそこに一縷ほどの人間味も渡さなければ、彼の罪悪感は払拭されたかもしれないのに、何故か神父はいずれ自ら身を焼きに行く子供たちを人として育てる。
 なぜそう、歪んでいられるのだろうか。
「完全に同じAHアンサーヒューマンの肉体を生成して生前の記憶を移植し、それで死を乗り越えたつもりになっていないか?
 たとえ、んなことしたってな、魂の色は違うんだよ。同一人物じゃない。あんたも分かってんだろ?」
「……いいや」
「なに?」
 ぴたりと震えを止めて、頭を持ち上げる神父の顔を見つめると、その目には無機質な色だけがあった。
「記憶を移植? そんなことはしていないよ……もちろん、顔は似ていても、みんな、違う子だ」
「……どういうことだ」
「おとうさま!」
 訝しむユリウスの脇をすり抜けるようにして、修道女姿の少女たちが神父に寄り添う。
 甲斐甲斐しく膝を折った神父を数人がかりで抱き起す彼女たちはいずれも色素が抜けたような白い髪と赤い瞳。そして同じ顔をしていた。
「ソウ、エッセ、シボリー……他のみんなも、今日はダイダラに乗らなくてもいいんだ……」
「そう? でも、ダイダラは呼んでいます。敵が来ると……この方は違うんですね」
 まるで昆虫のような無機質な敵意を向けかけた少女たちだが、そんな物騒な気配以外はそれらアンサーヒューマン達は、いたって人らしい感情をもっているらしかった。
 全員違う。今まで散っていった少女たちも、別だとわかっているというのだろうか。
 試しに、ユリウスは死霊術士としての力を用いて、降霊を試みる。
 無念の魂を主に戦うために用いるのだが、もっと平和的に、魂寄せや口寄せのような真似事も不可能ではないらしい。
「……っ!?」
 その気配に気づいたとき、ユリウスは全身から汗が吹くのを感じた。
 一人も居ない。いや、この場に一人も寄せられない。
 何かもっと大きなものに、魂が留まっているのを、降霊を行うまで気づかなかった。
 それは修道施設を象るこの場所ではなく、すぐ隣の岩山の奥から……それはつまり、そこにいるのだろう。
 魂とは、人の形に宿るのだろうか。人の情緒で育つのだろうか。或は、同じ顔をしていても、別の魂が宿り、育まれるものだろうか。
 であるならば、どうして、死に逝く少女たちを、また別の誰かとして、人として育んできたであろうか。
「神父さんよ。その子らを、人としてまっとうに育てているのは、罪悪感じゃあないよなあ? そうする必要があったからか?」
「……そうとも。それが効率がいいと、知ったからだ……! 人であればこそ、あれは貪欲に強くなるッ。そう知った。だからだ……ッ!」
 吐き捨てるかのような言葉は、今度こそ懺悔の言葉であったが、それであるが故にユリウスの血は熱くなり、衝動的に腰の剣に手が伸びかけたが、ここに居るのはただの人間だ。
 だが、仮に彼がオブリビオンであったならば、迷いは微塵は無かったかもしれない。
「だがな、娘のように育てた子を、惜しまぬ親がいるだろうか? 俺が育てているのは、子供なのか? 兵器なのか……? もう、俺には……わからんのだ……!!」
 泣き崩れ、嗚咽を漏らす神父と、それに縋る子供たち。
 それを見下ろすユリウスは、改めてその業の深さを知る。
 とにかく。
 大きく息をついたユリウスは、ひとまず施設を出て、襲撃に備えることにした。
 降霊術で呼び出せぬほど、一つ所に留められた魂を抱えたあのおぞましい兵器。
 そんなものが、二度と使われぬために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ワタツミ・ラジアータ
ごめんくださいまし。流れのジャンク屋でございますわ。
燃料消費が壊滅的な機体があると聞きまして。
人も道具も長らく使うと愛着が湧きますし、気にしなくてもよい部品のご紹介でございますわ。

男と巨神にレプリカント体の自身は使えるか確認する

鉄屑か素材の代金さえ頂ければ沢山作れますので。

量産した自身を商品として紹介
巨神に乗って融けた場合、自身の素材に含まれる異星系浸蝕粒子が巨神を汚染、こっそり支配下に置く
それは伝えない

喰われる側の気分は如何でしょうか?

融解した機体の代わりに別の量産機が以降の商談のために帰ってくる

では、商談と参りましょうか。
あ、代金はこの巨神でもいいですわ。

基本、有機生命体に対する情がない



 暗く冷たい。
 雪国の、それも切り込んだ岩山の中の洞窟に作り上げられた場所なのだから、冷え込むのは間違いないのだが、かといって水が凍り付いて膨張するような低さではない。
 摂氏にしてして10度強といったところだろうか。雪の降り積もる外気よりも温かい程だが、妙に底冷えを感じるのは、この古代の遺跡を兼ねた研究施設がさながら墓場のような雰囲気をしているからだろうか。
 カタコンベとは言いえて妙。そこに鎮座する巨神と目される大型キャバリアの姿は、命の抜けた髑髏を思わせる生気の無さである。
 ワタツミ・ラジアータ(Radiation ScrapSea・f31308)は、レプリカントである。その顔色の悪さでは、目の前のモノ言わぬロボットにも引けを取るまい。
 現地人の人柄ゆえか、それともわざわざこんなところに入り込む人間がそもそも少ないのか。このガレージのセキュリティはお粗末なものだったので思わず先に上がり込んで現物をこの目で見て見たかったワタツミだったが、やはり見ただけでは何とも言い難いものがある。
「お客さんですかな……それにはあまり触れぬほうが……」
 その姿を見つけた男、ここでは神父としておくその男が恐る恐ると言った様子でワタツミに話しかけてくる。
 彼女を気遣っているというよりかは、ワタツミの無機質な気配を訝しんでいるようにも思える。
 表情に人らしさを持たぬワタツミは、それでも礼儀正しく頭を垂れて自信を紹介する。
「ごめんくださいまし。流れのジャンク屋でございますわ。
 燃料消費が壊滅的な機体があると聞きまして」
「あ、ああ……あの通信を聞いて来てくれた方、なんだな……」
 恭しく言葉遣いだけは丁寧だが、その意味合い事態は人らしいデリカシーを欠いているようだった。
 しかしだからこそ、神父は警戒を解き、このどうしようもない怪物をどうにかしてくれるという望みを得たのかもしれない。
「このキャバリアも、彼女たちも。この里に降りかかるものに対抗するには、無くてはならない。だが、俺はもう耐えられそうにない」
「そうですか。では一つ提案を致しますわ」
「それは?」
「人も道具も長らく使うと愛着が湧きますし、気にしなくてもよい部品のご紹介でございますわ」
 いうが早いか、ワタツミは自身をユーベルコードによって複製……正確には、自身と同型の量産機を出現させる。
 彼女の出自には謎が多いところだが、その外装を成す姿は一つに留まらず、或はその核である結晶体もまた、世界に唯一の一人ではないのかもしれない。
 彼の者は海の彼方より現れ、或は海そのものであるのかもしれない。
 いきなり増殖したワタツミの姿に神父は面食らったようだが、同じ顔には慣れているのか、すぐさまその意図を察したらしかった。
「自身の量産機を差し出すと……? お代は、まさか」
「ええ、ですから、この巨神で構いませんわ」
「だがしかし、いまだかつて、これを正しく操れた者は現れていない……再びこれを動かすには、まっとうな方法では不可能であるとされている……」
 意志ある巨神。その扱いは難しく、猟兵であろうともその力を御するのは簡単ではないらしいが。
 それにしては、巨神からコンタクトを取ってくる様子はない。外側からは、ただの無機質な古びたキャバリアと何ら変わりない。
 神父の口は重いようだが、巨神を扱いかねているのは変わらず、それをどうにかしてくれる希望には縋りたい気持ちはあるらしかった。
 ともかく、乗り込んでみるしかない。
「ところで、この巨神、レプリカント体でも問題はありませんか?」
「古い機体には違いないが、戦闘モードにでもしない限りは、メンテナンス上、ただ動かすのに問題は無い。ただ、戦闘モードに移行するには、中身にアクセスしなくてはならない」
「ああ、そこまでで結構」
 だいたいわかったとばかり、ワタツミの一人がコクピットにアクセスする。
 コクピットブロックは、何の変哲もない。OSを立ち上げてみると、30年以上も使っているという話の通りに、古臭いUIが立ち上がる。
 これは外装だ。おそらくは自分と同じ、中身ではなく、人形として動かすための最低限のシステムを後から載せたものなのだろう。
 ワタツミの少女のような外見は、それにとどまらず、別の土地、別の世界で手に入れその構造を識った船やキャバリアですらも、彼女の本体が構成する外装に過ぎない。
 この巨神もそうであるとは言わぬが、この古代のキャバリアを巨神たらしめているものは、この時代にそぐわぬ武装や骨子も然ることながら、もう一つ。
 機体を制御する意思の存在であろう。
『あれ、私たちの姉妹じゃないよ……誰かな? 誰かな?』
『誰だっていいよ。ねえ、貴方も手伝わない? みんなで一緒に、この子を動かすの。ダイダラを』
 巨神のコクピットから、よりその深層へとアクセスしていくうちに、ワタツミはその光学器官から白いノイズを複数検知する。
 ──古代の巨神に宿る意思にしては、随分と幼い。
 不必要に微笑む声がホワイトノイズのように、自身の外装を侵食するようだった。
 だが混ざり合うならば、ワタツミにとっては好都合だった。
『ねえねえ、敵が迫っているの。おとうさまをみんなで守ってあげようよ。それにね。みんなでアイスクリームみたいに溶け合うと、きもちいいよ』
 甘く、胸を焼くような幻覚は、感覚を狂わせるようだったが、共有するとはそういう事だ。
 深層に潜るほどに、その理解は深まり、深まるほどに、ワタツミのいかなる戦闘にも耐え得る外装は液状化していく。
 きっとこれは、初めからあったものではなく、彼女たちが、その目的のために、必然的に身を投じ、巨神の石と成り果てたものなのだろう。
 初めから、この巨神は死体だった。
 それを理解した時、ワタツミは自身の素材に含まれる異星系浸蝕粒子が巨神を汚染し尽くしたことを感じ取っていた。
 今や巨神は、その意思も含めて彼女の制御下だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱鷺透・小枝子
何はともあれ、貴殿を理解せねば、何も分からない。
…聞こえているか!聞こえているだろう!!
自分は朱鷺透小枝子!!貴殿の名は!?

自己紹介と共に、『機械交絆』発動
巨神と精神的接続を行い、交信を試みる
貴殿は多くの命を喰らい、そして何を為してきた。何を見てきた。
貴殿の存在理由は?貴殿の望みは?何だ??

自分の存在理由は戦う事だ。敵を壊す事だ。
敵はオブリビオンマシン。その存在は、その多くは良き人々に禍を齎す。
だから壊す。己を使い潰してでも
壊して壊して、その末に、自分の様な存在がいらない世ができるなら、
それが己が望みだ。それが存在理由を全うするという事だ。
その後の事はその時考えればいい。
貴殿はどう考えている?



 まるで墓場のようだと、思った。
 雪深い里の、その隅っこに岩山があって、そこに場違いなほど頑丈そうな複合金属の扉を経て、その遺跡はあった。
 キャバリアを安置するためのスペースは、やはり人の身からすれば大きく、大きく見えるからこそそれは整備ドックのようにも見えはしたが、底冷えのする肌寒い(といっても外気温よりは温かいのだが)気温と相まって、どことなく霊安室のような不穏を感じる。
 ブラックローブに身を包んだ神父のような牧師のような初老の男に協力を申し出た猟兵の一人、朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵ジカクナキアクリョウ・f29924)は、修道施設の併設された古代の巨神が安置されているという岩山の遺跡に通された。
 ここに来るまでに何人も見かけた修道女姿のアンサーヒューマンは、やはりどれも同じ顔をしているようだったが、細かく見ると個性を垣間見る程度には人らしい感情を見せているように感じた。
 そのいずれもが善良で慎ましやかで、それでいて危うげな気配を持っている。人らしい情緒を持っていながら、最後の一線をどうやっても変えられないような。
 それは、小枝子にも自覚があるものに、よく似ているように思えた。
 同じアンサーヒューマンだからだろうか。シンパシーのようなものだろうか。なにか、使命を与えられてこの世に産み落とされたかのような……。しかし、兵士として最低限の思考しか許されぬ小枝子の頭では、それより深い何かを考えようとすると、靄がかったものが邪魔するのだった。
 いいや、余計なことは考えず、件の巨神に向き合わねばなるまい。
 何をおいても、巨神の存在がこの里の循環を狂わせているには違いないのだ。
 まずはこれをどうにかして、里の防衛能力については、また別途考えるしかない。幸いと言っていいのか、この世界は、こと物騒なことに関しては困らない。
 ひどく疲れた様子の神父の許可を得て、安置されている巨神の一体。そのコクピットのハッチを開き、機体の中へとアクセスする。
 下手を撃てば、他のアンサーヒューマン同様にこの身が溶けてしまうかもしれないが、猟兵ならば平気なのだろうか。
 どのような姿になろうとも、戦えればいい。それで十分だ。
 暗い。コクピットの中は清潔にしているようだが、その仕様はどこか古めかしく、シートもちょっと座り心地はよろしくない。
つなげ」
 覚悟を決めて、古びた表面上のOSを通じて、巨神を制御するであろうその意思へとユーベルコード【機械交絆】を用いて潜り込んでいく。
 機械的な電気信号。それとは異なる、霊的バイパスの繋がりを求めて辿ると、巨神ダイダラの中枢にまとわりつく渦のようなものにたどり着いた。
 白い、人影のようなそれは個ではなく、複数だった。
 表も裏も、顔も体もないような影が、確かにこちらを振り向いたような気配がすると、小枝子はそれに向かって声をかける。
「……聞こえているか! 聞こえているだろう!! 自分は朱鷺透小枝子!! 貴殿の名は!?」
 ぱくぱく、と白い影の頭に相当するような部分が口のように裂ける。
 目を見開けば、前周囲モニターを囲うようにして、無数の人影が小枝子を見つめていた。
『あれ、私たちと似ていると思ったのに、姉妹じゃないね』
『名前ってダイダラ? それとも私? わたしたち?』
『あたし、モー! こっちはスナオ! それでね、あっちのお姉さんが、アズ! みんなみんな、姉妹なんだよ』
 無数に感じるこの気配。精神的接続を為しているのは、一つの大きな意思の筈なのに、そこに渦巻くのは無数の少女のような人影だった。
 なぜだろう。初めてアクセスするのに、その気配に妙な既視感を覚えるのは。
 ずん、と頭が重くなるような感覚。共有する意識の負担が、無数に広がって交じり合うような感覚と共に、腐乱死体のような甘ったるい匂いがこの場の空気を支配し始める。
 吸い込まれそうになりながらも、自身を奮い立たせ、小枝子は尚も交渉を続ける。
「貴殿は多くの命を喰らい、そして何を為してきた。何を見てきた。
 貴殿の存在理由は? 貴殿等の望みは? 何だ??」
『うー、モー難しいことわかんないよ。でもね、みんなを守りたい気持ちはあるんだよ。ここでみんなと一緒に、アイスクリームみたいに溶け合うと、なんだってできる気がするの』
『あなたは外から来た人なんだね。わたしたちはね、まだ未完成なんだよ。ここでみんなと合流して、完全になるのが、最終的な存在理由、望みかな? 実際、ここに居ると幸せだし、守るために命を使うのは気分がいいじゃない? あなたもそうなら、一緒に来てもいい。みんなで姉妹になるのも悪くないと思うんだ』
 甘美な幸福を語る少女たちの、奇妙な既視感の正体を、小枝子は遅まきながら理解する。
 彼女たちアンサーヒューマンはここに居たのだ。彼女たちこそが、巨神の意思だったのだ。
 であるならば、本来の巨神の意思とは……そこまで考えたところで、今この場所がなんであるかも同時に思い至る。
 文字通りに、この岩山の遺跡は、太古のキャバリアのカタコンベだったのだ。
 それを再びこの世に呼び起こし、動かすために、大きな意思を植え付けようと試みたのが、彼女たちの存在理由。
 一人、二人で足りずとも、巨神を意のままに動かすに足るほどの魂を、より人に近しい情緒を育てた魂をくべて、くべ続けて……。
 甘い幸福の最中に在りながらも、小枝子は歯を食いしばる。
 こんな、少女たちの心が向く先は、戦場だ。ここが戦場でなくて、なんだというのだ。
 彼女たちは、自分とは、ばかばかしい程に似て非なる。
「自分の存在理由は戦う事だ。敵を壊す事だ。
 敵はオブリビオンマシン。その存在は、その多くは良き人々に禍を齎す。
 だから壊す。己を使い潰してでも……!」
 その魂が、どれほど硝煙にまみれても、生まれた理由と戦う意志は消えない。変わることもない。
 呪われようとも、生きていながら悪霊と堕ちても。
 絞兎死して走狗煮らるとも、それでいいと思っている。
「壊して壊して、その末に、自分の様な存在がいらない世ができるなら……
 それが己が望みだ。それが存在理由を全うするという事だ。
 その後の事はその時考えればいい」
 或は、全て最善を尽くし、たとえば己が肉の一片と成り果てて、それでもなお、生きているのなら、それはその時に吹いた風に任せるしかない。
 そんな先のことまで考えられる頭は持っていないのだから。
「貴殿等はどう考えている?」
『すごいね。共感できる話だよ。君は一人のまま、君に似た誰かの礎になろうとしているのかな?』
『モーにはできないな。ここで溶け合う気持ちよさからは、もう戻れないよ』
『驚くほど似ている。けど、君は一人で、わたしたちは一つだ。そうか……わたしたちが完成したら、もうここに混ざることはないのかな……おとうさま……わたしたちはみんなここにいるのに、どうして喜んでくれないんだろう……』
 未来のため。
 思い描く世界を語る小枝子と、犠牲になった彼女たちとは、到達する場所は異なるのかもしれない。
 もしも、混ざり合うためにアンサーヒューマンを必要としなくなったダイダラが完成を見た後、更に彼女たちが生まれるようなことがあれば、ことここに至る道をなくしたことに対して悲しむべきなのだろうか。
 それとも、寿命を全うして、おとうさまと共に添い遂げられることに対して、羨むべきなのだろうか。
 ダイダラに宿った巨神の意思たちは、その完成の果てを初めて思い悩むのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノエル・カンナビス
依頼内容は襲撃者の撃破。了解。それ以外は雑事ですね。

私に巨神は不要です。
巨神を出撃させるも否も神父の勝手。
その巨神に乗るも否もパイロットたちの勝手。
強いて言うなら集落の総意を量った方が良いとは思いますが。
まー好きにされるが宜し。

しかし襲撃者は、当人たちの意思を確かめず『解放』を強要するのであれば、そんなものは善意とは言いません。
ましてや他人の財物を『破壊でも何でもする』のは、単にテロリストであり、山賊であり、誘拐犯です。
皆殺しにしても欠片も胸が痛まない、実に良い敵ですね。

と、その旨をALOに通告しましょ。
重犯罪者として処断されたくないなら平和的手段で解決しなさい。
私としては対話をお勧めします。


リーゼロッテ・ローデンヴァルト
※【使用UC】各技能でALOと交流

ダイダラの(性別含む)自我や真相も興味あるけど
集落接近中のALOに【ファルマコン】で接触
【ヒュギエイア】を増結した12両編成Hトレーラーは
彼女らの潜水母艦に引けを取らない巨大陸上空母さね

アタシはAHの闇医者・リリー先生さ(首バーコード提示)
創られた経緯が違うんでALO参画はやめとくけど
医療をご所望ならギャラ次第で検討するよ♪

この先にはアタシの同類が集まりつつある
『猟兵』の異名…聞き覚えあるんじゃない?

別にアンタらの邪魔をする気はないけど
前提が急変しかねない情報を掴んだんでね
推移次第で作戦変更や防衛が要る感じの
ってわけで一緒に行く?(艦上部甲板にALO機駐機可)



『待った……動力反応が、出現』
 集落とはやや遠く、氷海から出撃したALOの作戦実行部隊を担う三人は、水上戦闘可能な『Vn-15メード』で上陸後、雪上をホバー移動しながら通信反応のポイントを目指していたが、その道中で道を阻むような大きな反応に出くわし先頭を行くキーノが制止をかける。
『こんな大きな反応、艦からは見つけられなかったな。急に出た、と考えるべきだろう。覚えがあるな』
『同感。敵って線は?』
『わからんな。我々には、敵のほうが多い』
 リベレーター、そしてリーンベルはそれぞれの見解を述べ一応は警戒するものの、その規模を鑑みればキャバリア数機で相手にできるものではないし、何よりこの出現方法にはやはり既視感があったのだろう。
『こちらで反応が取れているということは、向こうにも見つかっている公算が高いね……退路を確保しつつ、接触するしかない』
 リベレーターはその大きな反応に対し、接触を試みる上で自分とキーノの武装を一時的に解除。リーンベルのみを後ろに配置し、それと真っ向から相対する。
 雪上を駆ける機体がそのセンサーに映し出したのは、巨大な鉄の蛇を思わせる長く長く連結した地上空母の姿だった。
 キャバリアも着艦可能なそれは、医療用車輛を思わせる巨大トレーラーを連結させた長蛇の機動医療艇(非合法)【ファルマコン】。その最後尾3両を担う【ヒュギエイア】の武装だけで、補給に難のあるALOの部隊とも渡り合えるほどであろう。
 その長蛇の先端、発着デッキに相当する場所で、生身に見える女が一人、手を振っていた。
 リーゼロッテ・ローデンヴァルト(KKSかわいくかしこくセクシーなリリー先生・f30386)は、一見すると怪しくセクシーな女医にも見えるが、だいたい合っているどころかそれ以上にマッドであるという。
 彼女は、ひとまず集落のほうの防備などは他の猟兵に任せつつ、自分は先んじてALOに接触を試みるべく艦を出したのであった。
「ウーイ、オライオライ……はーい、こっちの先導に応じてくれてありがとうね」
 双方に警戒の色はそこそこに、一人無防備に手ずからキャバリア着艦の誘導も行ったためか、ALOの面々は意外にも素直に応じ、甲板上で距離を保ちつつ相対することとなった。
 わるくないな。と、三人のキャバリアパイロットの姿を見て別の感慨が浮かんだりもするが、そこは仕事中、愛嬌を振りまきつつ、【Op.NULL:N.J./BLACK.TAIL】を用いて交渉を行う。
「どーもー、アタシはAHの闇医者・リリー先生さ。
 創られた経緯が違うんでALO参画はやめとくけど、医療をご所望ならギャラ次第で検討するよ♪」
 首のバーコードを示しつつ、ALO代表のリベレーターと向き合うと、いささか緊張を解いた様子だった。
「ありがたいな。私はリベレーター。ルクレッツィアという名前もあるけど、今はそういう交渉をしたいわけじゃなさそうだ」
 明かして困るようでもない素性の開示は、お互いに挨拶はほどほどにという意思表示であるかのようだった。
 話が速いと思うが早いか、リーゼロッテは肩をすくめて笑みを納める。
「この先にはアタシの同類が集まりつつある。
 『猟兵』の異名……聞き覚えあるんじゃない?」
「……まあ、そうだろう。そんな気はしていたよ。このパターンは二度目だからね流石に、ピンときたさ。
 それで……今度は、我々の障害となるのか否か。それを知りたいところだね」
「別にアンタらの邪魔をする気はないけど、前提が急変しかねない情報を掴んだんでね。
 推移次第で作戦変更や防衛が要る感じの……」
 目を細め腕組みして鼻を鳴らすリーゼロッテの姿は、少し前までフレンドリーに微笑みかけてきた少女のような姿とは似ても似つかない。
 どうやら、ALOはともかくとして、巨神の、もっと言えばそれを育んでいる環境に思うところがあるようだ。
 そこはALOにとっても気がかりなところだが、とにかく、彼らに接触してみない所には始まらないだろう。
「……てなわけで、一緒に行く?」
「ふむ、まぁ、乗り掛かった艦だからね。場所が明確にわかっているなら、案内がてらお願いしようかな」
 巨神ダイダラのあれこれについて気にならないわけではないが、それはきっと、他の猟兵がどうにかすることだろう。
 一方の集落側には、もう一人の猟兵、ノエル・カンナビス(キャバリア傭兵・f33081)がすでに控えていた。
 山間の沢を囲うような盆地。雪深い以外は、取るに足らないような辺境の一片だろうが、ここにもどうやら小規模ながらプラントが発見されたという話だ。
 巨神という古代のキャバリアも重大な発見かもしれないが、キャバリアなどよりもプラントの存在こそが争いのタネになりやすい。
「依頼内容は襲撃者の撃破。了解。それ以外は雑事ですね」
 作戦内容を見返しつつ、コンバットキャリアの中で簡潔に結論を出す。
 レプリカントであるノエルの思考は、かなり合理的に寄っている。その出自も、目的も、どうやらはっきりとしないため、淡々と仕事をこなすことで途方に暮れる時間を埋めている。
 ぼーっとするのは嫌いではないものの、やはり仕事をしている時が充実している気がするのである。
 所有し、自己強化によって研鑽し続け、力を行使している間は、自己の存在が肯定されている。絶望も希望も持たず、ただ流れる空のもと、生きている実感を得ることは、機械生命としてそれほどおかしな行動理念とも思えない。
 ゆえに、足りている自身には、巨神の力は不要。
 その力を集落のために使うも否も、神父が決める事なのだろう。
 そして乗り込むのも、戦う力を行使するのも、パイロットが決めればいい。
「でもまあ、強いて言うなら集落の総意を量った方が良いとは思いますが。
 まー好きにされるが宜し」
 あまりにも自分たちで完結しているな。とは思うものの、それは自分も同じようなものだ。結局は思うだけで、彼らが選択することに可否もない。
 ぼーっとしていたノエルの感知センサーに、ふと大きめの動力反応を見る。
 敵襲にしては、先触れも警告も、まあ敵が敵なら本来無いだろうが、あまりにも無さすぎる状態で、艦艇が接近するというのは考えにくい。
 それに、オブリビオンなら猟兵はそれとわかる筈だ。彼らはおそらく、同胞かALOのどちらかだろう。
 しかしはて、ALOならば潜水艦以上の大型の装備は無かったはず。
 ひとまず警戒しつつ、ノエルはキャリアから飛び出しつつ、【リモート・レプリカント】で自身の延長装備でもあるキャバリアを遠隔から起動しながら彼らの迎えに行く。
 猟兵ならばいざ知らず、ALOの思想は、ともすればこちらの護衛対象を害しかねない可能性がある。
 集落前に接近するファルマコンの前に立ちはだかり、その進路を断ちながらノエルは静かに警告する。
「襲撃が目的でしょうか? 当人たちの意思を確かめず『解放』を強要するのであれば、そんなものは善意とは言いません。
 ましてや他人の財物を『破壊でも何でもする』のは、単にテロリストであり、山賊であり、誘拐犯です。
 皆殺しにしても欠片も胸が痛まない、実に良い敵ですね」
 ノエルの小さな立ち姿を前に静止するファルマコン。そして、ノエルの背後には起動したキャバリア『エイストラ』が武器を下げたまま降り立つ。
「あちゃあ、かち合う感じ?」
「まさか。私たちALOは、それなりにテロリストをやってきてはいるけど……その参画は、本人の意思を尊重するとも。それに、『猟兵』を敵に回して、生き残れるとも思っちゃいないさ」
 茶化すようなリーゼロッテの言外に剣呑なものもあったが、ALOにとってそれはどうやら最終手段。
 キャバリアによる戦闘は、彼らの潤沢とは言えない装備の消耗につながる。
 尤も、彼らの主な目的であるアンサーヒューマンの立場が、本人たちにとって劣悪極まるものであるになら、その前提も覆るかもしれないが。
「重犯罪者として処断されたくないなら平和的手段で解決しなさい。
 私としては対話をお勧めします」
「その方がよさそうだね。ただし、どうしても彼女たちを力尽くで……という公算もゼロじゃない。その時は、大人しく事を構えるとするよ」
 いずれも油断ならない視線を交わしつつ、ALO代表リベレーターは、一人生身のまま、件の巨神が眠るという岩山の修道施設へと向かうのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クゥ・クラウ
POWで判定

ワタシは猟兵。通信を送ったのは、アナタなの?
黒いローブのヒトに尋ね、加勢することを伝える。
巨神には干渉しない。もし適合したとしても、ワタシはアインベルしか乗り方を知らない。

黒いローブのヒトと話してみたい。
……戦うためにつくった彼女たちを、戦いに使うのがイヤなの?
戦わなければならない理由があって、戦って消費される意思がある。
彼女たちが存在する意味を、否定するの……?
兵器にとって適切に運用されるのは幸いなコトだと、思う。
アナタは、彼女たちをヒトにしたいの?

黒いローブのヒトはなんて答えるだろう。
この場にALOのアンサーヒューマンがいたらなんて言うだろう。
……ワタシは、ヒトをまもりたい



 この世界を白と黒に分けるとするなら、おそらく今は黒いもののほうが多いのだろう。
 極端な話ではなく、世界の色味というものは極まっていくほどにその密度を増して画素数を上げていくものの、荒廃していくほどにその色の数を失っていく。
 繰り返し、繰り返すほどに、その細分化は意味をなさなくなるほど明暗が極端に分別されていくと、ついには白と黒とにしか見えなくなっていく。
 クロムキャバリアという世界に、いまだ戦乱の集束は見えず、戦渦に赤く染まる空の情景のほうが珍しくないだろう。
 それを思えば、この辺境、雪深い里に踏み入った自然の空というのは、簡素で何もなく、呆気にとられるほどきれいだ。
『見たまえレディ。今日はなんともいい天気じゃないか。この世界でこれほど見事な空はなかなか見れるものではないよ』
「そう、これからお話だから、ちょっと黙ってて」
 耳飾りの通信端末を通じて、クゥ・クラウ(レプリカントのクロムキャバリア・f36345)の所有する支援AI『ジョン・ドゥ』が流暢に喋るのを諌める。
 レプリカントとして生産、生まれてまだ数年。見た目こそお年頃なのだが、彼女の情緒は人間としてみれば未成熟であり、無機的というより機械的である。
 むしろ、彼女の教育係として任命されたAIのほうがよっぽど人間臭く、お喋りで、彼がよく喋るほど余計に反面教師のようにまあいいやと口数を減らしている節まである。
 ただ、あくまでも判断は主であるクゥである。それは、機械生命として生み出された彼女の命題の一つであるといえるだろう。
 そんな彼女としては、古代のキャバリアである心もつとされる巨神の存在にも興味が無いではないのだが、それと交渉している時間は、今はなさそうである。
 仮に巨神を乗りこなすために説得できたとしても、彼女にはすでにアインベルという専用装備が存在するし、仮に波長が合ったところで想定外の装備で戦闘をこなすのはリスクが大きい。
 自身をどちらかといえば兵器に近いと捉えているクゥにとって、思い通りに機能しない装備など意味がないのだ。
 どちらかと言えば、気になるのは黒いローブの男のほうだ。
 巨神の眠る岩山の遺跡の傍に修道施設のようなものを建てて、神父だか牧師だかよくわからないブラックローブを着込む男の行動は、矛盾が多いように思えてならない。
「おや、貴女は……?」
「ワタシは猟兵。通信を送ったのは、アナタなの?」
「おお、すると、助けに来てくれたのか……」
 ひどく疲れた様子の神父に協力を申し出ると、クゥを快く受け入れてくれた。
 なるほど、彼は即ちこの集落における軍部の司令官とも言える。戦いが本分でない者にとって、戦いの指揮をとるというのは存外に疲れるものなのだろう。
 敬意こそ抱くものの、それでもやはり、それであるならばこそ、彼の行いは不可解に思える。
「ここには、たくさんのアンサーヒューマンが、いる。戦う姿をしていない、けれど」
「それはそうだろう。永遠に戦い続けているわけではない……そんな風に生きてもらいたくはない」
「……戦うためにつくった彼女たちを、戦いに使うのがイヤなの?
 戦わなければならない理由があって、戦って消費される意思がある。
 彼女たちが存在する意味を、否定するの……?」
「だから、そう、困っているんだよ……。なまじ、言葉が通じ、理解できるからこそ、俺は彼女たちをほんの少しだけ理解できる。それは、あの子たちも同じことだ。兵器のように使われて、消費されていくだけが人生だろうかね?」
「兵器にとって適切に運用されるのは幸いなコトだと、思う。
 アナタは、彼女たちをヒトにしたいの?」
「……」
 クゥの言葉に、神父は白髪交じりの髪に櫛入れするかのようにして深く頭を掻き、眉根を寄せる。
 渋面のまましばし押し黙り、そこに隠れた何かを言うか言うまいかと思い悩んでいるかのようだった。
 クゥにとって、待つことは苦ではない。
「……彼女たちはね。ヒトとしての情緒が、どちらかと言えば必要だったんだよ。……あれは、色のある魂を好むらしいからね」
「話が見えない」
「巨神の意思なんて言うのは、初めから死んだ状態で、あれは発掘された──だから、前任者は、それを育てることから始めたんだよ……俺は、生贄を育てていたんだ。こんな格好をしながらね。敬われるべき人間ではない……俺のほうこそ、人でなしなんだ」
 肩を震わせて罪の告白のように苦虫をかみつぶしたような顔を覆うそれは、クゥには理解しがたいものがあった。
 兵器として正しく想定され、運用されているなら、そうすべきだとは思う。
 アンサーヒューマンの少女たちの存在理由が、パイロット兼巨神の制御AIの育成を担う行為の上で消費されているという事実があったとしても、それが兵器の在り様というのなら、動かせるようにプロセスを組んだ前任者の手腕を誇るべきだろう。
 だが、ヒトはそこに苦悩する。
 よくわからない。
「詳しい話を聞きたいものだけど、少なくとも、人の話をきくだけでは、到底容認できる話じゃない」
 そこに現れたのは、ここに常駐しているアンサーヒューマンとは別の場所から来たらしいアンサーヒューマン。
 どうやら、ALOのアンサーヒューマンらしい。
 険しい目つきをする代表のリベレーターだが、しかし武器に手を伸ばす素振りは無い。
「しかし、人の事なんて本当はどうでもよくてね。我々は、本人の自由意思によって、誘拐するかどうかを考えているんだ。その子らは、人か、兵器か? いい子か、悪い子か?」
 おどけた風を装っているようにも見えるリベレーターの物言いは軽快だ。
 答えをアンサーヒューマン本人に委ねるとしながらも、クゥの心に引っ掛かるものに別の答えを示しているかのようにも思えた。
「……ワタシは、ヒトをまもりたい」
「そうかい。それがきっと正しい。ならば、我々は──、人にも兵器にもなれなかった悪い子がいないか探すとしようかな」

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴上・冬季
「年少者が道を誤ったら、年長者がそれをきちんと諭すべきです。そう思いませんか」
嗤う

ダイダラに
「巨神は大抵現在規格のキャバリアより大型です。その意味では貴方は平均的な巨神でしょう。ただ一つ、貴方が人を使い潰すと思われている事を除けば」
嗤う

「巨神と操縦士なら、操縦士の寿命が短いのは当たり前です。しかし同じ戦いに向かう同志である以上、貴方は操縦士と自分が同じ命と認識せねばならなかった。貴方自身が操縦士の自死を拒否せねばならなかった。自らの身体の中で命が絶える感覚を貴方も好んでいるとは思いません。故に、その違和感を貴方自身が声を大にして伝えなければならなかった。巨神と操縦士はどちらも主であって従ではない。拒否をきちんと伝えなかったのは、貴方の罪です。故に、私はその清算を貴方に求めます」
その場の物を壊しつつ100mサイズに巨大化した黄巾力士に合一
ダイダラを押さえつけバックパックを引き千切り握り潰す
バックパックの予備も探して握り潰す

「次の戦いは勿論私も出ます。貴方は貴方の為の戦い方を考えるべきです」



 雪の積もる辺境の里は、クロムキャバリアにしては珍しく戦乱の雲に覆われない、爽やかな日差しを感じる。
 この世界に住まう者ならば誰もが知っている事情の関係で、この世界には空が無いと言う者もいるが、その領域さえ侵すことがなければ、この世界の自然も捨てたものではない。
 だが、根付いたものの業の深さたるや。その限りではないらしく。
 鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)は、沢を囲うようにひっそりと在るこの里に古めかしい記憶を垣間見るも、目的地である岩山に隠された遺跡までやって来ると、涼やかな笑みはそのままに、切れ長の瞳の奥には妖しい狐の眼光が宿っていた。
 居るな。
 よもや、このような機械の兵が幅を利かせている世界に於いて、生物の成り立ちすら弄ぶほどの技術を持ちえた神無き世界と思い過していた。というのに、件の古代キャバリアと言う巨神を語る者には、神が宿っている。
 長年使った物には付喪神が宿るともいうが、しかしこれは、どちらかと言えば即身仏の類に近い。
 幾つもの人の念が集い、縒り合わせて大きな一つを形作っているかのようにも見えるそれは、仙狐を名乗る冬季にはとても歪なものに見えた。
 今こうして、目の当たりにしてみてようやくわかることがある。
 なるほど、これは生半可な人の手には余ろう。
「しかし戦いともなれば、彼女たちは喜んでこれに身を投じると……」
「……あの子らは、その為に作られたんだからな。情けないことに、あの子たちでなければ、これは動かせない」
 巨神の安置されている岩山の遺跡は、さながら納骨堂。カタコンベのような様相で、ダイダラを格納できるガレージというには妙に辛気臭い雰囲気である。
 猟兵である冬季を案内した神父の男は、その体つきこそ健康そのもののようだが、顔つきや佇まいには蓄積した疲労を感じる。
 多くの少女たちを見送ってきたその心の摩耗は、想像に難くない。とはいえ、だ。
「年少者が道を誤ったら、年長者がそれをきちんと諭すべきです。そう思いませんか」
 人として育てているのなら、その細胞に刻まれた業をも乗り越える覚悟を持つべきだろう。
 あえて厳しいことを言いつつ、冬季の口元は皮肉げに歪む。今となっては、そんな言葉は嫌味にしか聞こえないからだ。
 こうして巨神を前にしてみれば、わかるのだ。
 巨神の中に居るのは『彼女たち』だ。巨神本体の意思など最初から居ない。
 おそらくこの岩山は、本当にただの巨神のための死体置き場だったのだろう。
 丁寧に埋葬されていたそれは、運悪く歴史の中で発掘され、とうに旅立った魂の抜け殻に価値を見た前任者とやらが、それを動かすに足る魂を宿そうと躍起になった結果、生み出されたのが彼女たちアンサーヒューマンというわけだ。
「巨神は大抵現在規格のキャバリアより大型です。その意味では貴方は平均的な巨神でしょう。ただ一つ、貴方が人を使い潰すと思われている事を除けば」
 見上げる巨神の装備をちらりと確認するだけして、冬季は一度、岩山を出る。
 そうして引き連れていた戦闘用自律思考型歩行戦車……の宝貝『黄巾力士』に合図を送る。
 【合一・黄巾力士】により、その姿はぐんぐんと巨大化し、百メートルに届くほどになると、冬季はその黄金の光沢をもつ力士へと身を投じ合一することで破格の耐久性と剛力を手に入れる。
 ただ、あまりにもでかいので、岩山の中でやるわけにはいかなかった。
 手足の具合を調べ、マニピュレーターが意のままに動くことを確かめると、その腕を岩山に突っ込んでダイダラを引きずり出す。
 パイロットが乗らなければ、意思ある巨神といえど、躯であるそのボディは動かないらしい。
 不死の肉体に人の魂を込める。その研究自体は興味深い。ただ、その研究自体に人の心があるかどうかは疑わしい。
 無ければ人工的に作ればいいという考えは、一線を越えた時に倫理を失う。
 前任者はそれを行えるだけの環境が整いすぎていた。
 アンサーヒューマンという、次世代の人類と目される者たちは、この場においてあまりにも安価であった。
 神父が、彼女たちを人らしく育てていたというのは、聞こえはいいかもしれないが、それも同一の遺伝子から多彩な魂の色を育てるプロセスの一環に過ぎない。
 無論、罪悪感もあったのだろう。そのために神父は墓穴を掘る選択をして、この里は窮地に立たされている。
 愚かとしか言いようがない結果だが、戦乱が技術を進めるというのは、いつの時代もきっと正しい。
 ここが危機に陥るたび、少女たちは神父を、里を守るためにダイダラを使い、その身を溶かして魂を捧げる。文字通りに。
 邪魔な肉体を効率よく溶かしてしまう武装すらも、この巨神は都合よく備えている。
 いったいどういう経緯があってそうなってしまったのか、それを詳しく調べている余裕は無いが、歪なものの存在を許していては、美しい人の営みなどありえない。
 ならば、冬季の行動は決まった。歪んだ円環のくびき。その一つをここで断つ。
「巨神と操縦士なら、操縦士の寿命が短いのは当たり前です。しかし同じ戦いに向かう同志である以上、貴方は操縦士と自分が同じ命と認識せねばならなかった。貴方自身が操縦士の自死を拒否せねばならなかった。自らの身体の中で命が絶える感覚を貴方も好んでいるとは思いません。故に、その違和感を貴方自身が声を大にして伝えなければならなかった。巨神と操縦士はどちらも主であって従ではない。拒否をきちんと伝えなかったのは、貴方の罪です。故に、私はその清算を貴方に求めます」
 すでに魂なき巨神に是非もなかろう。そこに居るのは、偽りの魂。ただし、紛れもなく人として愛されて育った幼いパイロットたち。
 幸福だろうか。いや、幸福なのだろう。そのように作られたはずだ。
 恐れも、嫌悪もなく、同胞と溶け合うことが快感であり、名誉であり、幸福であると、その細胞に言い聞かせられて、彼女たちは作られたのだ。
 ざまを見ろ。
 抑えつけたダイダラの背部には、今や欠陥兵器であり、ロストテクノロジーを用いた粒子加速砲を格納するバックパックが搭載されている。
 その装甲に黄巾力士は爪を立て、むしり取る。
 力任せに引き千切られるそれは、反物質を生成して目標を消滅させるという驚異的な兵器だが、反物質の生成には多大な物理情報量を要し、その代償として消費されるのがパイロットである。
 それを作り替えることも、おそらくは可能かもしれないが、巨神のロストテクノロジーに下手に手を入れたところで、実を結ぶものなどあろうか。現状がこうであるのに。
 ひしゃげた重金属の塊をそのまま握りつぶし、念入りに破壊する。
 巨神は相変わらず少女たちを操縦者にするかもしれないが、少なくともこれで人的損失は少なくなるはずだろう。
 『彼女たち』の完成は遠くなるかもしれないが。
「次の戦いは勿論私も出ます。貴方は貴方の為の戦い方を考えるべきです」
 死に往く者へ送る花よりも、迎えるための花が輝いて見える事を、あの神父も、少女たちも学んでほしい。
 冬季は、死体のように無抵抗なダイダラから視線を外し、遠くからやって来るであろうオブリビオンマシンの来襲を見据え目を細めるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雁帰・二三夫
「人化しても巨神時と重量とパワーが変わらないとか、ダイダラさんに比べれば大した問題じゃなかったんですね…」
「二三夫、一言多い」
「…げふッ?!」
人化して170cmスレンダー美女になった30m級竜型巨神G-O-リアス3号機トレスにデコピンされたおっさん吹っ飛んだ

「トレスさん、他の猟兵の方が乗るなら未だしも、ここ育ちの方がダイダラさんに乗ろうとしたら、代わりに操縦席に乗り込んで搭乗阻止して下さい。巨神同士なら防衛装置も突破出来るんじゃないでしょうか。操縦席が開閉出来なくなってもそれはそれです」
「損害請求されたら、二三夫にツケとく」
「と、当然ですよ、ハハハ」
おっさんちょっぴり泣いた

「わたくし雁帰二三夫と申します。十数年かけた刷り込みを数時間で解除出来るとは思いませんけれど。貴方のエゴをきちんと自覚していただきたくこちらに参りました」

「神父やシスターの格好は、他者から見れば殺人と卑怯を隠す演技にしか見えません。きちんと戦略を立てれば、守勢防御にダイダラ砲は不要です。防衛戦略を見直しませんか」



 山間の沢を囲うようにある辺境の里は、なんとものどかな雰囲気で、仕事を抜きならばのんびり観光というのも悪くないというような様相であった。
 クロムキャバリアにしては珍しく、争いの匂いがほとんどしないのもいい雰囲気を作り出している。
 ここで古代のキャバリアや小規模なプラント、それに連なるアンサーヒューマンの製造ラインなどという物騒なものが発掘されなければ、この里は多少貧しくはあるだろうが、慎ましやかでこの世界では何よりも得難いささやかな平和を、もう少しだけ長く享受できていたかもしれない。
 だがしかし、戦乱の気配は年々、その濃度を増してきている。
 戦うための兵器を厭い、人里を捨てたはずの男は、何故か再びより残酷な兵器を手にする羽目になったという。
 雁帰・二三夫(引きこもりたい住所不定季節労働者・f37982)。四十路を迎える浅黒いスポーツマンは、もともと争いごと(主に殺し合い)とは無縁の世界の住人だった。
 それが何の因果か、100年以上も戦争を続けている物騒な世界に関わることになってしまった。
 巨神、スーパーロボット。その言葉に胸躍らぬ男子は居ない。それがフィクションでなく、存在している。
 その魅力に抗えず飛び込んだ先には、色々と想定外もあったし、現実問題として遭遇した時には、ギャップに堪えがたいものもあるのだが、しかし、熱い血潮は確かに世界を越えてあった筈だ。
「とはいえ、この世界のお仕事の話は、胸が空かないですねぇ。景色はこんなにいいのに」
 羽毛布団の如く降り積もった雪景色は、ウィンタースポーツや冬キャンプの欲求を掻き立てるが、そんな暢気なことは言えない雰囲気なのだ。それに、ちゃんと準備しないと冬のあれこれは本当に死ぬので、大それたことはすまい。
 だが、暗い世界だからと、それに合わせて暗くなることもない。時として、つらい現実を見ないというのも、おっさんの処世術の一つであるのだ。
「それにしてもダイダラ、さんでしたっけね。人化しても巨神時と重量とパワーが変わらないとか、ダイダラさんに比べれば大した問題じゃなかったんですね……」
「二三夫、一言多い」
「……げふッ?!」
 つとめて明るく軽口をたたく二三夫に、その傍らを歩く絶世の美女と言ってあげてもいい長身の女性が、まるでいたずら小僧にめっ! するようにデコピンをすると、その指先はおおよそ非致死性のゴムスタン弾をも凌駕するパワーを発揮して二三夫の身体をすっ飛ばす。
 全盛を既に跨いだとはいえ無駄肉を削いだような筋肉質な二三夫の体躯は、けしてやわではない。
 190センチ近いその体を雪原にレリゴーさせたのは、ひとえに彼女の正体が、人化しスレンダー美女になった30m級竜型巨神G-O-リアス3号機トレスであるからだろう。
 見目には麗しい部類だが、その質量は割とそのままらしい。
 どうでもいいお話だが、巨大ロボットを動かすには、単純に重量を支えるというだけではなく、関節各所にかかる負担、つまり必要な膂力は、各部位の重量のおよそ4倍にもなるという。
 質量とパワーをそのままにボディサイズだけを縮小した場合、それは完全にオーバースペックと言わざるを得ない。
 じゃあその体重で雪原なんて歩けないんじゃないのか。とか痛いところを突いてくるかもしれないが、ホラ、あれだよ。ホバーとか反重力装置か何かで打ち消してるとかでしょ。細かいことに突っ込み始めると言い訳が苦しくなるのでやめておくべきである。
 閑話休題。
 とにかく、ここが戦場になるならば、人的被害は最小限に収めるべきだろう。
 ここの住人はもとより、アンサーヒューマンの少女たちもまた、人として育てられているなら、生還できない戦いをさせるべきじゃあない。
 おっさんは、子供が命を落とす戦争なんて大体嫌いなのだ。
「ああ、冷たい……」
 ずれかけたゴーグルを直しつつ、なかなか具合のいいパウダースノーを払い落とすと、改めてトレスを見やる。
 冗談もここまでだ。ここから先は、物騒なお仕事に足を踏み入れることになるとなれば、真面目な顔だってする。
 近く、ここにも戦乱の嵐がやってくる。それを予期する二三夫は相棒とも言うべき美女に頼みごとをしておく。
「トレスさん、他の猟兵の方が乗るなら未だしも、ここ育ちの方がダイダラさんに乗ろうとしたら、代わりに操縦席に乗り込んで搭乗阻止して下さい。巨神同士なら防衛装置も突破出来るんじゃないでしょうか。操縦席が開閉出来なくなってもそれはそれです」
「損害請求されたら、二三夫にツケとく」
「と、当然ですよ、ハハハ」
 キャバリアの損害請求。一体いくらになるだろう。
 参考までにUDCアースやアスリートアースなどの自衛隊に配備されているというF型戦闘機は、装備にもよるがだいたい120億くらいとされている。
 しがない引退スポーツマン、季節労働者にとっては目玉が飛び出る値段である。
 直したゴーグルをちょっとずらして、二三夫はその目じりに光るものを拭った。
「それにしても、あそこはちょっと、嫌な気分になる」
「ほう、何故?」
 トレスは、巨神が安置されているという岩山へ赴くのにどうにも気が進まない様子だった。
 美人が目を細めると妙に迫力があって、それもまたいいのだが、不穏である。
「だってあれ、墓だよ。こっちからすれば、あれは生きてない。死体に火を入れて動かしてる。火になるのは、あの子たち。そりゃ、嫌な気分になる」
「……聞きたくなかったぁ……」
 説明が端的だが、おおよそトレスの感じたことを察した二三夫は、眉を寄せる。
 ヘビー過ぎる。
 これじゃあまるで、生贄だ。
「神父さんと、少し話してきましょう。そちら、ほんとに頼みましたよ?」
「はいはい、さっさと行く」
 そうしてそれぞれに、行動に移る。
 岩山をくりぬいたような古代遺跡の傍らに、神父の修道施設めいた研究棟はあったようだ。
 戦乱の気配を察して遺跡に向かう修道女姿のアンサーヒューマンの少女たちを、トレスが両手を広げてじりじりと阻止しようとしているのを横目に見つつ、二三夫は神父を伺う。
「いきなりお尋ねして申し訳ありません。わたくし雁帰二三夫と申します。十数年かけた刷り込みを数時間で解除出来るとは思いませんけれど。貴方のエゴをきちんと自覚していただきたくこちらに参りました」
「え、あ、ええ……いや、しかし……」
 急な訪問、しかしながら【ピーピング・トム】を用いて説得を試みれば、話はどうやら早い。
 しどろもどろになりながらも、自責の念の強いらしい神父を御するのはおそらく容易い。
「神父やシスターの格好は、他者から見れば殺人と卑怯を隠す演技にしか見えません。きちんと戦略を立てれば、守勢防御にダイダラ砲は不要です。防衛戦略を見直しませんか」
「む、むう……それは確かに……。俺は破廉恥な男だ。あの子らが、健やかに育つことすら、遺伝子と計画の内だというのに、俺は研究者になりきれなかった。俺自身がロボットであったなら、気が楽だったろうな。何年も共にいれば、情も移る……。神職を装うのだって、偽善なのはわかっているつもりだ。
 あの子らを、失わない戦い方が出来るというのなら、教えてくれ……!」
 相当精神的に参っているらしい神父もまた、その倫理は崩壊の一歩手前であるらしい。
 この男はきっと、漫画や映画でいうところのマッドサイエンティストなのだろう。
 ただし、この歪んだシステムを作り上げた前任者とやらと違い、危ういところで人間性を保っている。
 まだ、少女たちも、この男も間に合うはずだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

防人・拓也
教会の人達と話をする。
「やれやれ…死にたがりの大馬鹿野郎はどこのどいつだ?」
と教会の人達に言う。
「神父さん。その子達は簡単には止められない。昔から脳内に刻まれた価値観や習慣はそう簡単に変えられないものさ。俺にはよく分かる」
と言い、アンサーヒューマンの子達へ向いて
「俺も幼少の頃は嬢ちゃん達と似たようなものだ。昔は捨て駒の少年兵だったんだ。人として扱われず、そこら辺の石ころ未満の如く酷く扱われた。けど、数奇な運命の巡り合わせのせいか、ここまで生き残ってしまった」
と語り、
「最初は自分が生き残るのに必死だったんだ。だが、次第にとある気持ちが心が芽生えてしまってな。自分の知り得る限りの人達に悲しい思いや辛い思いをさせない未来を紡ぐ為に戦いたいって」
と話して
「嬢ちゃん達も神父さんを守りたいんだろう? なら、俺が力を貸してやる。但し、巨神は嬢ちゃん達に使わせない。嬢ちゃん達が死んだら、神父さんが悲しむだろう」
「何、ダイダラがいなくとも心配無いさ。俺は…巨神を複数所有しているからな」
アドリブ・連携可。



 さくさくと小気味いい雪を踏み分ける足音。
 澄んだ空模様と合わせて、温かい日差しが寒々しい山間の小さな里を緩やかに照らす。
 仕事でなければ遠い遠いノスタルジーに浸るところだが、この光景は言うなればガワだけのお話で、仕事の内容にはなかなかにシビアなものが含まれている。
 猟兵が派遣されるようなものにはよくあることで、とくにクロムキャバリアという世界においては、こんな苦しい成り立ちはありふれているのかもしれない。
 現実は非情だ。どちらかといえば、悲劇のほうが多い。
 だがしかしそれは、世界を渡って介入できる者がいくらでも救えると信じている。
 沢を囲うようにしてある小さな集落の、その隅っこに岩山があり、そこを削り込んで近代的な厚手のシャッターを取り付けたような、それは古代遺跡というよりかは何かのガレージの様だった。
 きっとその奥に、巨神ダイダラが安置され、次なる戦いを今か今かと待ち受けているに違いない。
 操縦者の命を吸うとされる巨神ダイダラ。そんなものを使わせてはいけない。
 防人・拓也(独立遊撃特殊部隊ファントム指揮官・f23769)は決意を胸に、遺跡の脇に併設された修道施設を訪ねる。
 猟兵であることを告げれば、大概の事は怪しまれず、その説得も容易い。しかしながら、今回のように根の深そうな問題はというと、少しばかり知恵が必要だ。
 だがしかし、拓也にも譲れないものがある。
「やれやれ……死にたがりの大馬鹿野郎はどこのどいつだ?」
 恭しく拓也を招き入れる神父の温和そうな様子と違い、彼を慕うアンサーヒューマンの少女たちは、拓也の纏う軍属特有の物々しい雰囲気を敏感に感じ取り、警戒の色を強めている。
 戦うために作られた少女たちは、やはり常人よりもその気配に敏い。
 だが、必要以上に武力を振るわないのが軍人と言うもので、冷静沈着な拓也はつとめて穏やかな顔つきで神父に切り出す。
「神父さん。その子達は簡単には止められない。昔から脳内に刻まれた価値観や習慣はそう簡単に変えられないものさ。俺にはよく分かる」
 すぐにでも神父の前に出られるよう身を乗り出さんとしている少女たちのそれは、練度として拙いものこそあるものの、兵士として必要な覚悟が据わっているように見受けられた。
 歴戦の兵ならまだしも、年端もいかない娘にそうそう備わっていていいものとは思えない。
「俺も幼少の頃は嬢ちゃん達と似たようなものだ。昔は捨て駒の少年兵だったんだ。人として扱われず、そこら辺の石ころ未満の如く酷く扱われた。けど、数奇な運命の巡り合わせのせいか、ここまで生き残ってしまった」
 少女たちに向き直り、自身の生い立ちをかいつまんで語り始める。
 壮絶な過去は、なまじ人の身で生まれてしまったが故に苦痛も多く、彼女たちのように生まれたころからそれを至上としていなかった分、価値観を打ち破られて絶望することも多かったはずだ。
 拓也の持つ過酷な経歴が、少女たちと似ているというのは、なんとも酷な話だが、大事なことはそれでも死に物狂いで生きてきたということだ。
「最初は自分が生き残るのに必死だったんだ。だが、次第にとある気持ちが心が芽生えてしまってな。自分の知り得る限りの人達に悲しい思いや辛い思いをさせない未来を紡ぐ為に戦いたいって」
 それはなんともロマンティックであり、特殊部隊を率いる隊長にまでのし上がった者が持つには青臭い理想論である。
 だがそれでいい。
 多くの理想を抱え、その為に歩み続けることは、現実に打ちひしがれることも多かろう。知りたくないことを知ることも多かろう。
 オブリビオンを倒すという状況ではなく、人同士が争うならば、当然の事、味方にも敵にも等しく事情があり未来が来ていい筈なのだ。
 多くを殺し、多くを生かしてきた軍属にとって、その理想を語ることの難しさは、きっと本人が一番理解している事だろう。
 都合のいい未来なんて、そう簡単につかめるものじゃない。
 戦えば誰かが死ぬ。
 自分で浴びせた銃弾の、その銃創から血が溢れるのを見た。
 自分で斬り裂いた傷から血が溢れ、真正面から浴びたその熱が、瞬く間に冷えていく感触を、忘れることは無いだろう。
 自ら手を汚し、誰かの未来を奪い、それでも理想を語るのは、生き抜いてその先に訪れるものが正しかったのだと証明するためだ。
 誰だって、本当は死にたくない。自分でその先の未来を観測できないのならば、そんなものは幸福でも何でもないのだと、拓也は彼女たちの前提条件を覆すべく説得する。
「嬢ちゃん達も神父さんを守りたいんだろう? なら、俺が力を貸してやる。但し、巨神は嬢ちゃん達に使わせない。嬢ちゃん達が死んだら、神父さんが悲しむだろう」
「私たちがダイダラと一緒になったとしても、次の私たちがおとうさまをまもります」
「君たちの代わりなんて、本当は存在しないだぞ。何、ダイダラがいなくとも心配無いさ。俺は……巨神を複数所有しているからな」
 自分に負けず劣らず強情な少女たちに多少苦戦しつつ、それでも拓也は彼女たちに考える猶予くらいは与えられたはずだ。
 あとは、彼女たちが早まった真似をするより先に、敵を排除すべきだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベティ・チェン
ダイダラに
「過去は、変えられないけど。今からは、変えられる。キミが、父と姉妹に、どんな想いを持っていても。キミは、キミだけの幸せを、追求して、いい。キミは、ボク達猟兵の誰かと一緒にここを出ていくか、自死を拒む教育を受けたALOの誰かを操縦者に選ぶ方が、幸せになれると、思う。ここを、ALOの拠点にすれば。例えキミがこの地を離れても。この地を守る、手立てはある」

ALOに
「この地をキミ達の、拠点の1つにして欲しい。思考誘導された彼女達と、これから生まれてくる彼女達を。助けるには、キミ達の力が、いる。制圧が、必要なら。ボクは、手伝う」

神父に光剣突きつけ
「ドーモ、ギゼンシャ=サン。ベティ、デス」
「キミが、彼女達とダイダラを、不幸にした。キミ達が、ダイダラを不幸にした。ダイダラと彼女達が望むなら。今、殺してやったのに」
「作られた命を、下に見るから。作られた機械を、下に見るから。死の賛美を、刷り込んだ。ダイダラの気持ちを、抑え込んだ。刷込み解除と防衛に。ALOの助力が、いる。後悔しているなら、手伝え」



 暗く冷たい空気は、雪の積もる里の気候に比べたらいくらかましと言ったところだが、それはさながら常に一定の温度を保つよう計算されたかのようであった。
 争いから遠かった雪深い里のなかに、いつしか発見された岩山の遺跡の中に、それは発掘された。
 厚手の複合金属のシャッターに阻まれ、遺体を安置するかのように鎮座していたダイダラへ向かう足音が複数。
 アンサーヒューマンの少女たちは、導かれるように巨大なキャバリア、巨神ダイダラへと向かう。
 この場所がいずれ戦いに飲まれることを察知したために、戦う道を模索した結果であった。
「待て、待つんだ……! ダイダラに乗ってはいけない……!」
 その少女たちを制止するのは、黒いローブに身を包んだ神父のような男。
 身体は健康そのものだが、その顔つきはひどく疲れたような様子で、躍起になってダイダラに乗り込もうとする少女たちに対して罪の意識を感じているかのようだった。
 だがそれは、いかにも自らが育てた感情を持て余しているかのようにも見えなくもない。
 何度となく、そんなことを繰り返し、結局は無駄とわかっていながら同じことを繰り返す。
 これはもう、何度となく繰り返してきた様式美なのだろうか。
 はじめこそ、彼女たちを人々の敵としないための擦り込みだった筈なのに、いつからこうなってしまったのか。
 彼女たちの献身。人として育てるほどに、それは顕著な形で強いモチベーションとなって、やがて戦場へと駆り立てていく。
 それが、前任者の想定した通りの事象であったとしても、こんな残酷なサイクルを繰り返すことに、人の神経が耐えられるだろうか。
 なんと、恐ろしいことをしてしまったのだ。
 だから、今度こそはと声を上げる神父。しかし今回は、その喉元に光剣がつきつけられ、叫ぶ声は半ばで勢いを失ってしまう。
「ドーモ、ギゼンシャ=サン。ベティ、デス」
 どこからやってきたのか。それとも最初からそこに潜んでいたのか。
 ベティ・チェン(迷子の犬ッコロホームレスキリング・f36698)は、その場の誰の目にも触れられぬひと時の合間に、静かにそして確実に神父の首を取る位置につけていた。
「おとうさま!」
「おとうさま! おとうさまに、近づくな!」
「シッ、殺す気は、ない……今は」
 唐突に姿を現した人狼の忍者に、アンサーヒューマンの少女たちは瞬く間に殺気立つが、その手がいつでも神父を手にかけられることをも一瞬で悟るため、殺気だった視線を送るまま身動きが取れない。
「キミが、彼女達とダイダラを、不幸にした。キミ達が、ダイダラを不幸にした。ダイダラと彼女達が望むなら。今、殺してやったのに」
 神父の背後に回りつつ、ベティは少女たちを見渡す。
 この場所、この施設がどのような場所なのか。【情報屋見習い】を駆使すれば、だいたいのあらましは出てくる。
 ここは古代のキャバリアが眠る場所。冷たく静かな、ここは棺であり、魂の失われた巨神はここで永遠に近い時を眠る筈だった。
 二度と起きる筈のない古代の超兵器を利用するため、ここを見つけた前任者とやらは、巨神に積み込む制御装置とも言うべき魂を作る算段を建てたのであった。
 彼女たちは、正式なパイロットではない。制御AIになり得る魂を作り上げる多くの礎の一片に過ぎない。
 幸いと言っていいのか、そうなる過程で邪魔になる肉体を消耗する兵器も積まれている。
 ひどい話だ。だが、それは、巨神が本来求めたものであったろうか。
「あらあら、なんか取り込み中だったかな? 穏やかじゃないな」
 一触即発の状況に、よそから声がかかる。
 外部の人間。それは、ようやくこの現場に辿り着いたALOの面々であった。
「キミたちがALOか」
「うん? 何で知ってるんだ? ああ……そういう人たちも居たね」
「この地をキミ達の、拠点の1つにして欲しい。思考誘導された彼女達と、これから生まれてくる彼女達を。助けるには、キミ達の力が、いる。制圧が、必要なら。ボクは、手伝う」
「それはまた……大きく出たな」
 リーダーであるリベレーターは、状況をさっと読み取ったらしく、考え込むようにして顎をさする。
「どうしてそこまでする気になったのか、気になるところではあるけど、こっちも来たばかりであんまり世相に詳しくないんだよね。しかし、小規模とはいえ、プラントが手に入るのは好都合という他ない」
「乗るのか、乗らない、のか」
「……わかった。ひとまず君の策に乗ろう。しかし、いつまでとは言えないよ。これでも追われる身だからね」
「今は、それで、いい」
 猟兵との交渉、そのリスクを思ったのか、はたまた利益のほうが勝ると考えたのか。
 とにかく、リベレーターはひとまずベティの提案を飲むつもりであるようだった。
 それを確認し、ようやくベティは光刃を納め、神父を開放する。
 慌ててつんのめる神父を受け止めるようにして、少女たちが駆け寄る。その眼つきにはいまだベティに対する警戒の色が濃いようだったが、それには構わずベティは、ダイダラのほうへと向き直り、近づいていく。
 今となれば、わかる気がする。
 死者の魂すら眠りにつくかのようなカタコンベを思わせるこの寒々しい遺跡の中で、その巨神は静かに佇みながら、胸の内に渦巻く淀みを抱えている。
 それは、巨神の失われた魂などではなく、かつて少女だった者たちの成れの果て。
「過去は、変えられないけど。今からは、変えられる。キミが、父と姉妹に、どんな想いを持っていても。キミは、キミだけの幸せを、追求して、いい。キミは、ボク達猟兵の誰かと一緒にここを出ていくか、自死を拒む教育を受けたALOの誰かを操縦者に選ぶ方が、幸せになれると、思う。ここを、ALOの拠点にすれば。例えキミがこの地を離れても。この地を守る、手立てはある」
 或は、ここで再び永遠の眠りにつくことのほうが、もしかしたら最良なのかもしれないが。
 彼女たちの作られた闘争心を満たすこと、その魂を導くこと、新たな支配に置くこと……そのどれが最良なのか。
 認められるかどうか、というのは、即ちそういう事なのかもしれない。
「こちらとしちゃ、得は多いけど……君はいいのかい? 一人で悪者になるみたいなことしちゃってさ」
「……ボクは、一人でも。いや、友達なら、もういる」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『IZM-28S『ゲラボゴ』』

POW   :    対キャバリア近接格闘
【RX-Aヒートダガーと対キャバリア格闘術】による素早い一撃を放つ。また、【重装甲をパージして機体を軽量化する】等で身軽になれば、更に加速する。
SPD   :    試作型バリアフィールド発生装置
見えない【バリアを発生させ指向性を付与した物理障壁】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
WIZ   :    次元転送リロードシステム
【RSグレネード砲付きメガパルスライフル 】で攻撃する。[RSグレネード砲付きメガパルスライフル ]に施された【弾数無限増加】の封印を解除する毎に威力が増加するが、解除度に応じた寿命を削る。
👑11
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「何か、新しい情報は出てきたかい?」
 山奥の里の奥は、岩山を削って掘りぬいたかのような古代遺跡の中で、ALO代表のリベレーターは部下のリーンベルに情報を探らせる。
 古代のキャバリアに関しては、残存する機体の全てを、猟兵が抑えるか、致命的に燃費の悪い武装を排除する形で対策を行ったらしく、この地で修道女に身を窶すアンサーヒューマンの少女たちが乗り込むことはきっと無いだろう。
 ただし、それで根本的な解決とはいかない。
 この地を襲いに来る敵勢力に関しては、まだ何の解決もしていないのだ。
 猟兵という意外な戦力の助けもあって、里の者たちとかち合うようなことにはならないに越したことはないものの、アンサーヒューマンの修道女たちもまた、深刻な刷り込みインプリンティングがなされている。
 それは神父が行ったものではなく、正確にはこの遺跡を最初に発掘した前任者がアンサーヒューマンの製造ラインを作る際に行ったことらしいが……。
「データ漁ってるけど……あ、これかな。プロジェクトDie-Dad-Ala……複数の言語のミームを含んでるけど、直訳すると『死して父のもとへ羽ばたかん』ってところかな。宗教っぽいね」
 端末から施設のデータにアクセスするリーンベルは軽口をたたいていたが、その表情がデータを閲覧するほどに険しくなっていくのがわかった。
「あー……リーダー。ここ、埋めたほうがいいと思うなぁ」
「何を見つけた? 珍しいな、感情的になるなんて」
「キーノ、ここねぇ、冗談じゃなくホントに納骨洞カタコンベだったんだよ──」
 口の端を噛み締めるかのように語るリーンベルによると、巨神ダイダラとは、この遺跡を発掘した者によって名付けられた、巨神の遺骸だった。
 強大な力を誇り、その役割を終えた巨神の、ここは墓場だった。
 それを掘り起こしたところで、巨神にはすでに魂は無く、動く筈はなかった。
 ならばその高度な制御AIに匹敵する魂を再現できれば、巨神は蘇るのではないか。
「魂を作る?」
「巨神を動かせる人工AIを、アンサーヒューマンから作ろうと、前任者は考えたんだってさ。それで、究極兵器をぶっ放せば、用済みの肉体はアイスクリームみたいに、ドロンと溶ける。よくできてる話じゃないのさ。まったくもう」
 鼻を鳴らして皮肉ったように笑って見せるリーンベルだが、それにしては怒りの熱量を抑えきれていない。
「あまつさえ、アンサーヒューマン達は、より情緒豊かに育つよう工夫すべきってレポートまであるね。魂がより色彩豊かであればこそ、より強固で柔軟な制御中枢となり得るんだってさ」
 そこまで読み上げたところで、リーンベルの手は止まっていた。このデータのバックアップを取っておくべきかどうか、真剣に悩んでいるのだ。
「神父さんよ、貴方はそれを知っていて、彼女たちをそれはもう大切に、娘のように育てたってことで合ってるかな?」
「ああ、弁明はしない……俺を受け入れてくれたこの里を守るために、何かしたかった……最初は、何の感慨も抱かないつもりだった……」
 目を細めるリベレーターの視線から逃れるように、神父は俯き、それを白い修道女たちが支え、不安げに見上げてくる。
 それを優しく抱き寄せる姿は、傍目には美しい。きっと、両者にとっても美しい感情があるのだろう。
「だが、俺にはもう、無理だ……この子たちを、戦わせたくない」
「ヘッ、最初から、そこに留めておきゃよかったのさ。偽善者め」
「リーンベル。そろそろ戦闘配置に」
「あーい」
 不機嫌そうに横槍を入れるリーンベルをキーノに任せ、そろそろ戦闘準備に入る。
 当初は、ここの環境からあぶれるようなアンサーヒューマンを連れ出す算段であったが、詳しく状況を見てみればどうやら神父と修道女の絆は深く、攫うには心苦しい。
 そして、ここには小規模ながらプラントもあるというし、ある猟兵からの提案もあった。
 即ち、ここをALOの拠点の一つとするのだ。
 奇しくもここには、アンサーヒューマンの製造ラインがまだ生きている。
「ああ、言い忘れていた・・・・・・・。神父さん、あんたも今回の件で、巨神やアンサーヒューマンの命を下に見ていたことを、よくよく思い知ったんじゃないか?
 娘だと思うなら、二度と手放すような真似はするな。そして、後悔しているなら……彼女たちの刷り込みを取っ払う研究でもするんだね」
 そう、巨神はもはや、人を食わない。少なくとも、猟兵たちの手で撤去された個体や、ALOがここに居る間は。
 いずれはこの洞窟も、その役割の通り、古の眠りへと再びつくかもしれない。
「さて、レディース。敵の数は?」
「おそらく先遣隊だな。こちらを少数とみて、まずは複数機で狙いを散らして消耗させる算段と見た」
「主役は遅れてやってくるってわけね。オーライ、こっちの連携を見せてあげましょ」
 奇しくも、里を防衛する理由ができてしまった以上、ALOは里に被害が出ないよう打って出て迎え撃つことにしたらしい。
 もちろん猟兵たちは彼女たちを手伝ってもいいし、先んじて打撃を与えるのもいいだろう。
 また、巨神を得たならば、その力を使ってもいい。もしくは、諸々の事情を知り、尚且つ巨神と共に歩むという気概を見せるならば、もしかすると彼女たちはその胸襟を開くかもしれない。
 オブリビオンマシンを排除し、この里にひと時の平和をもたらすことができるのは、ALOではなく、猟兵たちの手にかかっている。

 ※参考資料。
 ALOの駆る機体は、『Vn-15メード』という異国のキャバリアです。
 最新鋭の軍用量産機でこそありますが、単体火力は大したことありません。
 機動力が高く、水上戦闘をこなすホバーを搭載した細身のシルエットが特徴で、ガンポッドとミサイルがメイン武装。
 このシナリオではほぼ使いませんが、水上を長距離低空飛行可能な巡行モードに変形可能です。
ユリウス・リウィウス
来たな。
さあ、戦いの時間だ。ただ、相手がオブリビオンマシンかどうかは把握しておきたいな。一目見れば分かるが、通常の機体なら搭乗席に双剣を突き刺せば終わるか。平和な里に攻め込んでくる以上、容赦はいらん。

血統覚醒でヴァンパイアになって、皮翼の翼で飛行能力を確保。小回りでもって、敵の格闘術を「見切り」「受け流し」ながら反撃していこう。
「双剣使い」で黒剣を振るい、関節や搭乗席などの急所狙いで行く。

他の面子も神父達と色々話してたようだが、巨神は出てくるのかね?
まあいいさ。後続が来るまでの時間稼ぎのつもりで、敵騎を足止めしていこう。俺はただの露払いだ。殲滅は皆に任せるつもりで、たっぷり嫌がらせをしてやる。



 まだ日も高いうちから強襲とは、そうとう急いでいるのか……それとも、単に理性が働いていないのか。
 里の周辺には、まだ深い雪原が広がっている。
 膝下が埋まる程度の積雪は、やや人の足取りには負担であるが、キャバリアならば何の問題にもならないだろう。
 やはり不利か。
 キャバリアを持たないユリウス・リウィウスは、甲冑姿のまま一人郊外を攻め上がる。
 集落の非難が完全でない現状、なるべく被害が出ないようにとするには、打って出て先遣隊を先んじて潰すほかあるまい。
 とはいえ、孤軍ではあまりにも無理が無いだろうか?
 こんな雪の中を縦横無尽に走り回れる鉄の巨人相手に、サイズの違う人一人がどう立ち回れる?
 常識的に考えればそうだろう。
 奴らはキャバリアで戦う知識を持っているだろう。
 だがしかし、ユリウスには、あらゆる戦地であらゆる相手に対抗するノウハウがある。
 伊達に生身のままキャバリアを相手取っては居ない。
 雪原のど真ん中でユリウスは足を止め、両腰に下げた二刀一対の黒剣、『生命喰らいライフイーター』『魂魄啜りソウルサッカー』を目の前に突き刺し、口を開く。
「──来たな」
 その口の端から白い息が漏れる。
 気配を探らずとも、5メートルもの巨体を駆動させる騒音は大きく、のどかな山里にはあまりに剣呑だ。
 奴らは精密ではあるが、それを動かすのは雑だ。
 雪原の中に佇むユリウスの姿も、果たして見えているのは光学センサーか、熱感知センサーか。
 ではまず、その一つの可能性を潰していこう。
 ざわりざわりと、ユリウスの身の内に流れる血脈が沸騰するように何かを呼び起こす。そこに刻まれた血統、おぞましきヴァンパイアの【血統覚醒】である。
 血流、血圧が増した影響で、体中が沸騰して熱を持ったような感覚を覚えるのに、体表は冷え、不健康そうな顔つきが更に血の巡りが悪そうに青褪めていく。
 血の起こりがもたらす渇きと衝動は頭を暴力で支配せんと掻き立てるのに、心は冷静に敵をその視線にとらえている。
「……さぁ、戦いの時間だ」
 再び口を開いた時、その口の端から白いものは漏れない。
 握る剣に熱のこもった脈動を感じる程に、彼の身体は冷たく人のそれとは変わっていた。
 相手は、紛れもなくオブリビオンマシン。それはわかる。
 だが、問題は中身だ。
 この世界のオブリビオンとは即ち、暴走したオブリビオンマシンの事を指すわけで、そこにパイロットが乗っているかどうかは場合による。
 どんな善良な思想を持つ者でも、破滅的な思想に変え、混沌を引き起こそうとするのが多くのケースだが、邪な人間がそのまま邪なオブリビオンマシンに乗って戦いを持ってくるというケースもあるし、単純にオブリビオンマシンのリーダー機が指令を出して動かしている無人機の場合もある。
 人に罪無しとする場合は、その機体のみ破壊すれば十分の筈だが……、
「平和な里に攻め込んでくる以上、容赦はいらんか」
 雪原を蹴りつけるようにして浅く跳び、その背からは蝙蝠のような皮膜の翼を生やし、低く低く踏み込む。
『敵、熱源無し……!? どこだ!?』
『一瞬見えた。人か? うおおっ!?』
 キャバリアからすればはるかに小柄なユリウスの素早い低空飛行、鎌で膝裏を引っかけられたかのように脚部の関節を斬り裂かれ、小隊の内の一機が膝をつく。
『敵は小さく、早い! 追加装甲をパージして高速モードで対応しろ!』
 迅速な判断のもと、次々と榴弾や徹甲弾に対抗する追加装甲を解除、デッドウェイトを脱ぎ捨てていくのは悪くない判断の筈だった。
「おいおい、この寒いのに上着を脱いだら、凍えるぞ」
『そこかっ!』
 赤熱する短剣が、オレンジの軌跡を描いて振るわれる。
 キャバリアの装甲を焼き切るそれは、ヒートダガーとはいえ成人男性の身の丈ほどもある。
 そして各所の重りを排したキャバリアの素早さは、確かに格闘戦に適した瞬発力を得たかもしれない。
 だがそれは、キャバリアを相手にした場合であればの話だ。
 いわゆる軍隊格闘。マーシャルアーツというものは、同じ体格を相手取ってこそ意味がある。
 そして体系だった動きというものは、騎士のそれと大きく違わない。
「なんというかな……技に頼る腕前じゃないな」
 左の黒剣で受け流すようにして脇下に潜り込み、そのまま右の黒剣を腕の付け根からねじ込んでいく。
 なんということはない。基本的な双剣による攻防一体の型であるが、それをキャバリア相手にこなせるのは相当な技量と筋力を要することは言うまでもない。
 わざわざ分厚い装甲を脱いでくれたおかげで、隙間だらけになったキャバリアはユリウスにとってそれなりに御しやすい。
 続くもう一体も関節を破壊し、カメラを破壊したところで、捨て置く。
「他の面子も神父達と色々話してたようだが、巨神は出てくるのかね? まあいいさ」
 いつもの癖で血のりを払う動作を入れつつ、ユリウスは敵機を軽く行動不能に陥らせるのみで次の目標を目指す。
 猟兵ならば単身でもキャバリア相手も不可能ではない。とはいえ、決め手には欠けるし、あるにしてもここが使い時ではない。
 ここまで痛めつければ、撃破は他に任せても問題ないはずだ。
 敵に負傷者を出し、戦力を削ぐ。戦場で動けない兵は、戦列を乱す。露払いとは元来こういうものである。
 敵機の足止めや、嫌がらせもまた、太古の昔から存在する戦略の一つなのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノエル・カンナビス
{エイストラ搭乗中)

ま、良いでしょう。巨神そのものの喪失は許容範囲のようですし。
残る問題はALO――

「当地に駐屯されるおつもりでしたら、まず里を説得し許可を得て下さい」

当地が侵略者に制圧されることが依頼人の本意とも思いませんので、
平和的解決の手順は踏んでもらいます。
その意思がないなら殲滅するだけのことです。
猟兵が敵に回ればUCも使います。必要がないといいですね。

いずれにしろ襲撃者は撃破します。
索敵/見切り/操縦/推力移動/空中機動、
貫通攻撃/ライフルと範囲攻撃/キャノンで充分でしょう。
オーラ防御(と称するガーディアン装甲の衝撃波/吹き飛ばし)及び、
左腕のバリアクラッカーで防備は間に合います。



 ひとまず、大変危険な巨神ダイダラの件は、置いておくとしよう。
 一朝一夕で人間関係が壊れることはあっても、修復は難しい。
 大きな元凶である巨神そのものの損失は、どうやら神父にとって大きな問題ではないらしい。
「ま、良いでしょう」
 万一、あれを破壊しなくてはならない状況も考えていないではなかった。
 強大な兵器とは、だいたいが敵に奪取されるか、暴走して敵になるのがセオリーのようなものだ。
 研究は時に人を狂わせる。
 あの神父も、その格好をしているだけであって、本職などではなくもとはそちらの畑だったからこそ、巨神という近畿に触れ得たのだ。手放しで信用に足るとは言い難いが……。
 言語化は難しいものの、ノエル・カンナビスには、あの神父がそれでも巨神に執心するようには思えなかった。
 巨神を失うことをそれほど気にしていないからと言ってしまえばそれまでだが、いや、余計なことは考えまい。
 残す問題はALO──。
 彼等こそ、信用できない。
 直接的なクライアントではないというのもそうだが、彼等ないし彼女等は、言うなればこの仕事に横槍を入れてきたテロリストの一派に過ぎない。
 キャバリアを運用して国をまたいでまで軍事行動をしている武装集団。信用できる要素がない。
 行動を見る限り、どうやらこの集落にプラントがあると見て、拠点の一つにするべく、差し当たって迫りくる襲撃者の排除に乗り出すようだが……。
 彼らの目的はあくまでもアンサーヒューマンの開放。おそらく、自由意思の開放という意味なのかもしれないが、そこにこの里の人命が含まれているとは限らない。
 この里のアンサーヒューマンの安全、そして自陣営の補給路の一つとしてであり、この里自体の安全はあくまでも副次的なものに過ぎないだろう。
「当地に駐屯されるおつもりでしたら、まず里を説得し許可を得て下さい」
 だから、ひとまず釘を刺して置く。
 襲撃者のかち合う想定ルートに向かいつつ、ノエルの乗機エイストラから飛ばした通信は、間違いなくALOの面々も拾ったことだろう。
『おお、こわいな。もちろん、手順は踏むつもりさ。そのために、まずは自分たちを売り込まなくてはね』
 彼等ALOが身銭を切って戦線に出るのは、打算も込みであろう。つまりは、恩を売っておくつもりなのだ。
 いい性格をしている。
 お人好しなら、ここで胸襟を開いて悪い話ではないと思うところだろう。だから、念のために念を押す。
「けっこう。当地が侵略者に制圧されることが依頼人の本意とも思いませんので、平和的解決の手順は踏んでもらいます」
『信用が無いな。武力を誇って、外圧をかけるとでも?』
「その意思がなければ、殲滅するだけです。そうなれば猟兵の出番、その必要がなければいいですね」
『尤もだ。口約束で信用してもらえるとは思えないが、協力関係を無碍にするようなことは絶対にしない』
 そうだといいが。
 最後まで表情は変えぬまま、ノエルは言質を取ったとばかり、先行する。
 敵キャバリアを里に引き入れるのはリスクしかない。敵の先遣隊を先んじて潰す。
 空気中の遮蔽物のほとんどない雪国の電波状況、エイストラの統合センサーには、確かに未確認機をとらえていた。
「敵機確認。戦闘パターン想定……」
 相手がどこから来たか、わざわざ教えてやる必要はない。
 モード変更、【ディサイディングモード】に移行し、メインエンジンのエネルギー経路を切り替える。
 重力制御と慣性制御を得たエイストラは、直進から極端な横っ飛びに移行し、距離を縮めつつ浅く跳んで緩く回り込む。
 雪原で跳ね回るような派手な動き方をしても、降り積もった雪が舞い上がらないのは、普段の推力に用いているバイブロジェットブースターに依らない重力と慣性制御の賜物であろう。
 やや回り込み気味に、遠距離からのプラズマキャノンの一撃を見舞いつつ、そのままエイストラは距離を詰める。
 一撃からの急襲、応射も許さぬようプラズマライフルの範囲射撃をしつつの突撃。
『なんっ、敵襲っ、うわぁー!』
『チッ、村はあっちだろ。なんでこの方向から……くそ、散れ、散れ!』
 キャノンの直撃と、浴びせかけられるライフルの応酬に早くも一機が吹き飛ぶ。
 一発を撃って様子見ではなく、続けざまに牽制を仕掛けてくるということは、突っ込んでくる気だ。
 そう考え至って近接戦闘用ヒートダガーを手にした判断は間違っていなかったはずだ。
 その証拠に、突っ込んできたエイストラに対し、その動きを止めることに成功したのだから。
 だがそれは、装甲を焼き切るような感触ではなかった。
『くそ、俺が止めてる間に早く撃て!』
「この小隊は、貴方が最後ですよ」
 不可視の防御用ナノクラスタが激しい火花と共に剥がれ落ちると、攻撃を受け止めていたエイストラの左腕には、無骨な鉄杭を備えた武装がその切っ先を光らせていた。
『くそぉ!』
 相手はライフルもキャノンも備えている。接近戦で身軽なのはこちらと、即座に判断したが、出力で押し勝ったのはエイストラの方だった。
 ずどんと打ち付けられたバリアクラッカーが、何枚もの複合装甲を貫いた嫌な音が、量産キャバリア『ゲラボゴ』のパイロットが最後に聞いた音であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雁帰・二三夫
「それじゃあトレスさん。猟兵の誰かが乗らない限り、操縦席占拠は継続して下さい」
「クレームが来たら、二三夫へって言っとく」
「と、当然ですよ、ははは」
人化した巨神G-O-リアス3号機トレスに操縦席武力占拠継続を依頼したおっさん、またちょっぴり泣いた

「大人は言ったことに責任を取る必要があると思うんですよ、わたくし」
神父の所へ
UCで成功率上げ
「ダイダラさん抜きでも防衛計画を立てるなら、貴方もALOの戦略には協力するべきだと思います。襲来者の陣形を観測出来るレーダーなり物見塔なりはここにありますか?使い方は分かりますか?本隊襲来前にALOと情報や使用可能武装を擦り合わせて迎撃計画を立てましょう」



 集落の日常にはない、物々しい騒がしさと緊張感が走る中で、ひときわ体格のいい男が、里の一般人が慌てふためくのを落ち着かせ、沢を下るような道のり……つまり避難路へと案内し、嘆息する。
 多くの猟兵、そしてALOの面々が襲撃者を事前に撃破すべく打って出る中で、雁帰二三夫は慎重だった。
 もともと積極的に戦うというタイプでもないのだが、それにしても猟兵ならばなんとなくでやれてしまうだろうに。
 それにはちょっとした理由があった。
 まず、この世界において彼が所有する武器の中で最も有効であろう巨神の一人が、絶賛別行動の最中だからであろう。
 軽装の装いの中にランニングツールにも見えなくもない、ワイヤレスイヤホンのような通信端末は、暴力ヒロインのような姿を取っている巨神G-O-リアス3号機トレスに押し付けられたものであった。
『二三夫。暇になってきた』
「はい! もうそろそろ、戦力もできっちゃうところですからねぇ」
 彼女には、修道施設に安置されている巨神ダイダラの一機を占拠してもらっている。
 ほかの猟兵が融和の末に搭乗するならばいざ知らず、修道女姿のこの里のアンサーヒューマンたちに使わせるわけにはいかない。
 方法はシンプルに、コクピットに先んじて乗り込んで居座ることで、他の侵入の一切を阻むことだ。
 ダイダラそのものを手に入れるつもりは今のところないようだが、あったところで彼に使い道はあろうか。
「それじゃあトレスさん。猟兵の誰かが乗らない限り、操縦席占拠は継続して下さい」
『クレームが来たら、二三夫へって言っとく』
「と、当然ですよ、ははは」
 姿は見えないが、狭いコクピットの中で、コンソールに足をのっけてふんぞり返りつつ、その造形物じみた完璧なプロポーションでだらしなく悩ましげなポーズで小生意気な顔をしているのが、ありありと想像できる。
 ゴーグルをずらし、二三夫はその奥を拭う。
 まったく、雪国だっていうのに、今日は汗が辛いぜ。
 だがおっさんは泣いたままではいられない。おっさんが泣くのに需要はほとんどない。働かなくてはならないのだ。
 避難誘導はだいたい片付いたところと判断し、歩き回った結果、この里を防衛するのに最終的優位な場所は、やっぱりあの岩山に備えられた修道施設なのだと思い至った。
 戦いは今のところ、里にまでは及んでおらず、敵の先遣隊も順調に排除できているようだが、予想外のことが起きるとも限らない。
 戦力でいえば、おそらく猟兵という点を差っ引いたとして、キャバリア複数体のALOのほうが二三夫よりもキャバリアの先遣隊には対応しやすかろう。
 総合的に考え、神父からもっとこの里の機能についてもっと聞き出し、そしてその戦力を引き出すべきなのである。
「これって、もっとこう、営業的なお仕事に強い人がやるべきと思うんですが……うーん、大丈夫、ここはキャンプ地、キャンプ地、よーし」
 【どこでもキャンプ】の精神を持ち続ければ、二三夫は常にリラックスしていられる。厳しい現実を見るばかりでは疲れる。楽しいことを考えて、常に頭だけはリフレッシュするのだ。
 あまり前向きではない処世術だが、かつては一流の舞台にも足をかけた男の精神統一方法は、古典的であろうともジンクスであろうとも、自信の表れにつながるものだ。
「大人は言ったことに責任を取る必要があると思うんですよ、わたくし」
「う、うむ? この子たちは、乗せないよう見張っているぞ……!?」
 怪訝そうな顔つきの神父は、修道女たちを伴って、お互いの服をギューッと握り合っている。
 微笑ましいが、そこに至る経緯を知っていると素直に頬を緩ませるかどうか迷ってしまう。
 この世界では、きっとこういうことが増えていくはずだ。もっと、前向きに、現実に乗り越えなくてはならない。
「ダイダラさん抜きでも防衛計画を立てるなら、貴方もALOの戦略には協力するべきだと思います。
 襲来者の陣形を観測出来るレーダーなり物見塔なりはここにありますか?
 その使い方は分かりますか? 
 本隊襲来前にALOと情報や使用可能武装を擦り合わせて迎撃計画を立てましょう」
「待て待て! ええと、待てよ……プラントは使えないだろうか」
 早口で提案する二三夫の言葉を順番にかみ砕いていき、神父は思い出したかのようにそれを述べる。
 そういえば、この騒動が外部へと知れるきっかけとなったのは、彼の通信を拾ったからだった。
 里の外は北の外海の沿岸にまで届く通信網。それは他にはない強い電波の通じる拠点を示唆していた。
 神父はどうやら、小プラントの機能の一部を拡張して通信を飛ばしたらしいが、応用すればその広範囲の電波を使ったレーダー機能やALOとの通信も不可能ではない筈だ。
「ただ……問題がある」
「この場所が、バレる。ですかね」
 すでにALOは出撃してしまっているが、連絡を取る手段事態は無くはない。
 全方位通信の周波は、きっと彼女たちもまだ受信できる状態にしているはずだし、そもそも最初の通信で大体の場所が割れているからこそ、襲撃の予知があったのだろう。
 今更隠れる意味は無いかもしれないが、タイミングは慎重に選ぶ必要はありそうだ。
「やるとしたら、先遣隊を片付けた後か……。それと武器だが、ダイダラはここの施設では複製不可能だ。しかし、そうだな……彼女たちが残していったデータに、キャバリアのメンテナンスに関するデータが……」
「やれそうですか?」
「これでも元兵器開発局だ。ノーマルのキャバリアデータなら、勝手がわかる……本体が出てくる前に、なんとか弾薬の予備だけでも用意できないか、やってみよう」
 周囲の地理データや、襲撃者の位置情報などを一気に開示するのは、その瞬間からこの拠点の危険度が爆増してしまう。
 それまでにできることを、神父と二三夫は考えるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ワタツミ・ラジアータ
さぁ、”Diedadala”、それと新入社員の娘様方。本業のお時間でございますわ。
とはいえ、試用期間でもありますしフル稼働する気もありませんので、広く浅くで軽く落とす程度で宜しいですわ。
破壊しつくしては赤字ですし。

自身のキャバリアに外装として改造したDiedadalaを装着する
AHより遺骸のダイダラの方に情は向いている

ダイダラの拠点防衛機能を見ることを含め範囲重視で集団を相手にする
高機動を狙うではなく範囲狙い

さぁ、ダイダラ。制御は何人もの遺志が、燃料は私が用意いたしましたわ。
貴方も神を冠したのであれば造られた意味を示しなさいな。

機械や機械混じり、機械となった者にはそこそこ優しい



 鉄の重きを軋ませる音。その装甲を、フレームを稼働させる音は、ともすれば生身の肉体に耳を当て、その関節の駆動する動きを何十倍にもうるさくしたもののようにも聞こえた。
 ある意味で、誰もがその光景を目の当たりにしたくなく、するべきでなく抑止の方向に動いていたとも言えるし、禁忌とも言える力を持つからこそ、持つべきものが手にするという道理でもあった。
 キャバリアとは、この世界における力、軍事力の象徴でもある。
 それでも、ワタツミ・ラジアータにとってみれば、それは多くある強力な武装を伴った外装の一つに過ぎない。
 自身も溶け込むことによって、他ならぬ自分のボディの一つを犠牲に掌握した巨神ダイダラの外装『diedadala』を動かしてみた所感は……。
 おそい。重い。機動戦は難しいだろう。
 おそらく凄まじいタフネスと重火力で拠点を防衛する機能が売りなのだろうが、敵はまだまだ里に侵入するには遠い。
 待ってもいいが、他の猟兵たちもすでに打って出ている。ここが戦場にならない可能性がある。
 少々面倒だが、機体そのものを現地まで運ぶほうがはるかに効果的だろう。
 いうが早いか、『diedadala』はその形状を半分ほど変化させ、フィクションで誇張したかのようなボディビルダーのように上半身が盛り上がった姿は、より痩せ細ったシンプルな機体構成に変わっていく。
 すでに巨神としての在り様というより、ワタツミの所有するキャバリアの素体に装備する外装の一つとなっているためか、そのバランスは一見すると異様でもあった。
 とにかく、里から少し出ねば話は始まらない。
 おおよそ人らしい感情はほとんどないワタツミは、里の一つや二つどうでもいいのだが、ここで戦うのはどうにも『彼女たち』がうるさくするので仕方ない。
 そうしてやや不格好な形ではあったが、ようやく『diedadala』の性能を発揮できる相手の姿をカメラ内に確認する。
 剥き出しの素体を再びダイダラによく似た重装甲が覆い、10メートルクラスの巨体が、複数小隊のゲラボコの集団をとらえる。
「さぁ、”Diedadala”、それと新入社員の娘様方。本業のお時間でございますわ。
とはいえ、試用期間でもありますしフル稼働する気もありませんので、広く浅くで軽く落とす程度で宜しいですわ」
 制御AIの『彼女たち』に割とアバウトな指令を敢えて下し、何処まで柔軟に答えるのかワタツミは様子見の構えだった。
 ほどほどでいい。あんまりやりすぎても赤字になってしまう。
 果たしてその杞憂が現実になろうとは、ワタツミもあんまり考えていなかった。
『チィ、奴らもう戦力を出してきやがった……でかいぜ』
『なぁに、動きは大した事ねぇ。囲んで刻んでやろうぜ』
 二手に分かれて狙いを一転に定めぬように広く展開し、襲ってくる敵機を前に、『diedadala』は雪原に両手をつき、まずは右手側の小隊に対し頭部に備えた光子レーザーバルカンの一薙ぎが、機体を寸断する。
 無数の光の錐のようなものが、爆発もなく装甲を焼き切って削り取って行く様は、派手さは無いがキャバリアを破壊するのに十分な威力だ。
「ふむ、標準装備も悪くないですが、やはりあれを見ておかなくては……さぁ、ダイダラ。制御は何人もの遺志が、燃料は私が用意いたしましたわ。
 貴方も神を冠したのであれば造られた意味を示しなさいな」
『取って置きだね。わかったー!』
 そのままもう片方の小隊と接近戦に突入にするかというところで、ワタツミは制御AIと化した少女たちに奥の手の使用を推奨する。
 背部バックパックから両肩に展開する巨大な砲【異形祭文・朽ちた巨神の夢ダイダラ・キャノン】。
 半導体や電荷を加速させてぶつける、いわゆる粒子加速砲なのだが、弾体として用いるのはなんと反物質。
 たとえば、すべての物質に対して頭にマイナスをつけられる、存在として0を挟んだ線対照的な反物質が存在するとする。
 数学的に考えればAという物質に-Aという反物質をぶつければ、それは0即ち消滅するとされている。
 それが兵器として使えるならば、この上なく強力なのは言うまでもない事だが、ただ問題は山積みだ。
 一番の問題は、攻撃対象にいちいち対応した反物質を生成しなくてはならないということである。
 その高度な演算、そして反物質を作り出すという高い壁をどのようにして超えたのかは全くの未知だが、このキャノンはなんとパイロットの一人分の情報量を犠牲にするだけでそれを可能とするのだ。
「正確に当てる必要はありませんわよ」
 正確に当てたら、ゲラボゴがそのままの形状で残っている可能性が低い。
 どろり、と自身の分身が形状を保てなくなった気配がした。
 それとともに、加速の終了した反物質が、砲口から射出される。
 激しい反動が、機体をあとずさりさせる。
 重量級の10メートルクラスのキャバリアが押し出されるほどの反動。それが何をもたらすのかは、反物質による対消滅爆発を見れば、回収できそうなものが絶望的なのは明らかだった。
 キャバリアを相手にすらも、反物質などというものは威力過剰である。
 キャバリアをいい感じに大破させるなら、それ以外のものを射出させたほうがまだ希望がある。
「この遺骸は……そもそも何に対抗して作られたのでしょうね」
『みんなを守るためじゃなかったかな』
『みんなと溶け合うためだよ』
『平和だよ、平和!』
 剣呑な武装に対して、制御AIとなった少女たちは底抜けに明るい。
 彼女たちにとって、巨神とはだれかを守る力に過ぎないのだ。
「妬けてしまいますわ」
 健気な少女たちに、ワタツミは人には決して向けないような、しかし傍から見ればほとんどわからない程度に頬を緩めるのであった。
 消滅した小隊に関しては、まあ、今は忘れておこう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴上・冬季
「来ましたか。それにしても何処からこういう情報は洩れるんでしょう。1人くらい捕虜を取った方がいいのでしょうか」
嗤う

ALOに
「共闘しますよ、お嬢さん。ところで、敵操縦士の尋問は得意ですか?必要ならば、鹵獲しますが」
嗤う

「前座に付き合って貰えませんか、闘神アスラ」
仙術で飛行
仙術+功夫で縮地(短距離転移)し接敵
敵の攻撃は縮地で回避
空中戦+空中機動で目まぐるしく位置変え胡蝶双刀八斬刀で敵のヒートダガー押さえつつライフルを殴打し破壊
回り込みつつ頭部に胡蝶双刀八斬刀振り下ろして陥没させカメラ含む観測機器破壊
鹵獲要請があった場合はそのまま両腕両足背面バーニアも破壊し鉄の棺桶状態にしてから操縦席カバーも破壊



『チッ……こいつら、硬いよ!』
『バリアフィールドか。守りに回られては、こちらの火力不足になるか』
 里からやや離れた山間部の雪原にて、ALOの三人と、襲撃者であるゲラボゴの小隊がかち合っていた。
 撃破する数はALOの精鋭だけあって三人とも無傷で敵機を大破に追い込んでいくのだが、相性としてはあまりよくない相手であるようだ。
 ALOのキャバリアは、もともと水上戦闘機で、機動力は高いが武装を軽くせざるを得ないため、ゲラボゴの重装甲相手には、連携を用いた攻勢で畳みかけるしかない。
 機体の損耗は少ないものの、弾薬の消耗は激しい。
 敵の規模にもよるが、長期戦は避けたいところだった。
「来ましたか。それにしても何処からこういう情報は洩れるんでしょう。1人くらい捕虜を取った方がいいのでしょうか」
 そんな様子を見ていた鳴上冬季は、ALO郵政もそう長くは続かないと看破し、助勢するべく身を乗り出した。
 涼やかな笑みの奥には疑惑。
 ALOが通信を拾ったのは、ただの偶然だ。
 しかし襲撃者は、どういう経緯であの里の情報を手にし、通信を傍受し、巨神やプラントの情報を持ち得たのか。
 そもそも、敵の詳細すらもよくわかっていない。
 いずれの国にも属さぬ野良犬部隊? 今目の前で奮闘している連中でさえ、何らかの後ろ盾があって潜水母艦などという戯けた高級品を移動拠点としている。
 その彼女たちの装備でさえ、充実しているとは言い難い。
 対するオブリビオンマシンの装備の万全たるや……。
 であるならば、敵に回っている連中は何者なのか。
 それを思うと、冬季は探求心から笑みを抑えきれない。
 ただ、助勢するのはいいが、いつものように歩行戦車を用いた直接砲撃支援を行うかどうかは、考え物だ。
 ALOの連携は見事なものだが、ホバー移動の機動力を生かした敵味方入り乱れる攻防は、他の味方の介入を難しくしている。
 下手に撃てば、彼女たちが射線上に飛び込んでこないとも限らない。
 ふう、と息をつくと考えを切り替える。混戦が得意なら、こちらも混戦で混じればいい。
「前座に付き合って貰えませんか、闘神アスラ」
 いつからそこにいたのか、別の国に眠っていたという巨神は、隆々とした肉体美を現したかのような装甲を雪原に映し出していた。
 闘神アスラ。そのコンセプトは一目瞭然。白兵戦用にデザインされたその巨神の武装は、その五体と、両手に一対の分厚い刀身のナイフのみ。
 機兵というより生身の人間に近い運動性能を誇るアスラは、冬季の仙術と功夫とも相性がいい。
 それに乗り込めば、言い知れぬ闘争心が心を塗り潰さんとするが、そこは彼の者を説き伏せた者。戦いの空気をも心地よく、その衝動を飼い慣らすがごとく、アスラと一体となった冬季は雪原の上を飛ぶ。
 武侠映画のワイヤーアクションもかくやという水平移動は、いかなる推力を用いたからくりか。否、それは仙術也。
 繊細な体重移動と脱力を伴った身体操作の極みの領域にあるという縮地も、雲体風身と化す仙術を組み合わせればそれは目にも留まらぬ瞬間移動のような身のこなしで、おおよそ金属を含む複合材の塊であろう巨神の身でありながら瞬く間に戦場にて接敵する。
『なっ!?』
「ふっ」
 空中からの急襲、いきなり目の前に現れたかのように見紛うアスラの浴びせ蹴りがゲラボゴの装甲を陥没させた。
 倒れこむ機体に覆いかぶさるようにして双刃を突きこめば、その機体は動力を失って動かなくなった。
 突然の闖入者に、場が一瞬硬直する。
 勢い余って潰してしまったが、今のうちに宣言しておこう。
「共闘しますよ、お嬢さん。ところで、敵操縦士の尋問は得意ですか? 必要ならば、鹵獲しますが」
『味方か! なら、心強い。そうだな……確かに、敵の出所について知っておいて損することは無いか……可能なら頼む』
「だ、そうですよ、アスラ。ちゃんとわかっていますね?」
 念押しするような冬季だが、その口元には不穏な笑みが浮かんでいる。
 闘神アスラの闘争心は高く、その加減は難しそうだが、おびただしい闘気をも、冬季は涼やかに受け流す。
『新手か? どっから飛んできたんだ……武器はナイフだけだと……下がるか?』
『数で抑え込めばこっちのもんよ!』
「ふ、どうやら、遊びたいようですよ」
 距離を取ろうとするゲラボゴに対し、アスラは静かに視線を送りながら、伸ばした手にもう片方の手を重ねるようにして短刀を平行に突きつけるようにして構える。
 肉切り包丁か短く切り出した鉈の様にも見える独特のカギの付いたナイフは、中国拳法でいうところの詠春拳に含まれる八斬刀に分類される武器である。
 胡蝶双刀八斬刀。やや重く手斧のような重量感のある短刀は、筋力に依らず重さで相手を打倒し、長柄にも力負けしないという。
 もとより、短距離走を走るような武術とされている詠春拳は、気脈や急所を的確に打ち、相手の守りや身体機能を目にも留まらぬ連打で崩していく嵐のような激しさを持っている。
 素早い打突に、末端を重くするような八斬刀が加わればどうなるだろうか。
 そして再びアスラは、ゲラボゴの視界から掻き消える。
『どこ行った!?』
『跳んだんだ。上だぁ!!』
 力の入りを感じさせない、予備動作のない動きに見えるため急に機体が消えたように見える。
 気づいた時には、アスラは目の前まで迫っており、とっさにヒートダガーを繰り出そうとする幸運な者は、八斬刀の柄に備えた鉤に引っ掛けられて捻り上げられ、関節を広げられたところを脇腹から腕を斬り裂かれる。
 続けざまに大腿部、もう片手のライフルを握る手首に至るまで、目まぐるしく飛び回るような動きは、地に足をつけた大陸のモノとも違う──【高速機動型巨神『闘神アスラ』流詠春拳・死亡遊戯】。
 複数体を続けざまに斬り裂き、その手足の自由をもがれ、バランスを崩して倒れこむ、その一体の頭部を八斬刀が斧の様に打ち付け、その勢いで手足一つも動かぬ状態にされた鉄の棺桶と化したゲラボゴが雪原に直立する形となった。
「一先ず、一人確保ですね」
 めり込んだ八斬刀を引き抜く冬季の頬には、相変わらずの涼しげな笑みが浮かんでいるが、その言葉には不穏なものがある。
 一人いれば十分なのか、それとも生きている墓標がこれ以上並ぶことになるのか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーゼロッテ・ローデンヴァルト
【POW】
あの機体群こそ『猟兵』の想定敵
前提急変するって理由はコレさ

◆戦闘
オペ148番【オール・アズ・エース】の
ホロ簡易UIでALO&(生身含む)猟兵を支援
ALOの経験と火力を考慮し干渉度強め

自身はファルマコン4号車から愛機【ナインス・ライン】で出撃
戦術補助を活かし【アシュヴィン・N】ビームガトリングや
【エクスキューショナー/サクラ・シンドーネ】ビット類で弾幕支援
【カイルス】事象予知も攻防活用

◆説得
神父さん
偽善認定後も尚娘達を想うなら後で刷り込み治療に協力するよ

後、ダイダラの皆
他の娘やお父様は多分そっちにイケないけど
皆が『鳥籠から羽撃く』為の体って欲しい?
お姉さんならニーズに合わせて作れるよ♪



 話は少しだけ巻き戻る。
 猟兵たちが敵の存在を察知し、行動に移り始めるより少しだけ前。
 里には、大型の医療トレーラーを連結し長蛇を為したファルマコン医療艇群が停泊していた。
 キャバリアすら格納可能な大柄トレーラーの群れは、一つのキャラバンを為しているかのようで、それを率いているリーゼロッテ・ローデンヴァルトは、巨神ダイダラを含めた岩山の遺跡を物色するALOと、そこで対面する神父とを少し離れたところから観察していた。
 立場的にはテロリストである彼らには、実質的な本拠地というものがなく、物資の補給には常に苦戦する。
 現在は特に、彼らを支援する組織の影響下から遠く離れているため、できるなら戦闘は避けるべきだったのである。
 ALOもこの集落には侵略者とさほど変わらない。
 アンサーヒューマンの自由意思のもと、それを虐げられているならばテロも誘拐も辞さないという理念はあれど、今回の遠征の目的はプラントによる物資の補給も兼ねているのだろう。
「ま、今回の戦いのための物資くらいは提供できちゃうんだけどね」
 交渉によっては、この隠れ里を拠点の一つにという案も無くもないのか。
 自身もアンサーヒューマンであるリーゼロッテは、彼女たちの活動に否やはないところ、というかそれほど関わりもないし、正直、少し腕の立つ傭兵くらいにしか思っていないところだが……。
 通信を拾ったのをきっかけにわざわざここまで出向き、生贄にされる宿命を植え付けられたアンサーヒューマンの実情を知り、尚も彼女たちが自らの意思で神父の側につくのを見て交渉を見送るという、アンサーヒューマンの少女たちの側に立ったお人好しさ加減を見てしまった。
「はぁ~……損な人たちね」
 無理やり、巨神やプラント、その研究資料、そしてアンサーヒューマンですらも強奪することは不可能ではなかったはずだが、彼らはあくまでも双方に納得がいく形でしか仲間を作らないらしい。
 この荒んだ世界で公然とテロリストをやっている連中だ。その覚悟は並ではない。
 と、ALOと神父たちとのやり取りを見ていると、自身の端末が存在感を主張するのに気づいた。
「はいはーい、どうやらゆっくりしてる時間ないみたいよ♪」
「ん、もう来たか。リーンベル、そろそろ戦闘配置に」
「あーい」
 ファルマコンの索敵範囲に敵機の存在が引っ掛かったらしい。
 続々とキャバリアのほうへ戻っていくALOの面々を見送りつつ、リーゼロッテは最後に残って神父とその傍らの少女たちを一瞥する。
「偽善者と言われてもなお、その子たちを想うなら、刷り込み治療に協力するよ」
「あんたは、医者なのか……この子たちが、喜んで身を擲つようなことにならなくなるなら、俺はこの子たちから軽蔑されてもいい。俺にとってはもう、生き甲斐だが……」
「言質は取ったよ。うふふ」
 そして、遺跡の中に佇む巨神の存在にも目をやる。
 猟兵として、様々な人ならざる者にも触れて、怪異や神秘の類にもそれなりに精通しているつもりだが、これはどちらかというとそんなオカルトに類する部分だろう。
 拠点を守るというには、威力過剰の武装、キャバリア一体あたりに持たせるには現行では過剰な装甲。いったい、巨神ダイダラがそう呼ばれる前の全盛の時代には、何と戦うつもりで作られたのだろうか。
 そして、そこに渦巻く怨念とも地縛霊とも取れるような、霊的信号を発する制御AIは、確かにこの里のアンサーヒューマンとおなじ気配しているようにリーゼロッテは感じた。
 神仏を前にしたかのような畏れもわずかに覚えつつ、しかし少女たちと接するのと同じようにリーゼロッテは悪戯っぽい笑みを作る。
「他の娘やお父様は多分そっちにイケないけど、皆が『鳥籠から羽撃く』為の体って欲しい?
 お姉さんならニーズに合わせて作れるよ♪」
『それって気持ちい?』
『ダイダラにはみんながいるよ。みんな一緒がいいなあ』
 鳥のさえずりの様に分裂しては結合するような少女たちの意思は、交渉可能な猟兵の言葉にどうやら興味津々だ。
 ただ、個々のニーズに答えていくには、今は時間がちょっとだけタイトだ。
 諸々のメモだけ取って、ALOに遅れる事数分を要し、リーゼロッテは自身のキャバリアに乗り込む。
 すでに4号車から起動準備の整っていた愛機『ナインス・ライン』のコクピットに滑り込むようにして乗り込むと、
「オペレーション148番」
『とっくに起動中、ALO機体とのリンケージ確立。重役出勤ですね』
「ナーイス、いい子ね! うん、いい子か?」
 【Op.CXLVIII:AR.AS [A3]】は、戦場内に次元通信網を確立、戦術支援を行う戦術アシスタントである。
 ホログラムを用いた簡易UIでほかの猟兵を含む味方を支援し、戦場をより快適にエスコートする。
 言うなれば、味方の全てがチェス盤を見下ろすような気楽さで、敵の位置を把握できるようになる。
 リーゼロッテの『ナインス・ライン』は重量級の量産キャバリアではあるが、その外装も中身も彼女専用にチューンが施され、もはや既存の同名シリーズとは別物になっている。
 普通の量産機は、事象予知をするようなシステムは組み込まないし、それが一般的に扱いこなせるはずもないが、頭の回転の速いリーゼロッテは、味方の行動、敵の展開の仕方を予測し行動に反映しつつ、迅速にALOの面々と合流。
『来たか、ドクター。余力は残したほうがいいが……こいつらは結構、頑丈なようだよ』
「オーケイ、重装甲上等。そっちは、広く対応して里に入れないようにしよっか」
『了解した』
 ビームガトリングによる掃射で支援を入れつつ、ユーベルコードによる戦術支援をフルに利用して、ALO機体の機動力を最大限に活用する戦術を提案し、足りない部分はリーゼロッテの機体が補う。
 地味な戦法だが、味方の被害を減らし、かつ敵機を確実に仕留めていくのに有効な戦術であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クゥ・クラウ
キャバリア・アインベルに搭乗。

『彼女たちも巨神も、死者は安らかに眠らせるべきだろうに』
AIのジョン・ドゥが言う。
でもそれで里のヒトたちは守られていた。だから間違っていない、はず。
……だけど、あのヒトは苦しそうだった。
『一線を越えたシステムは人を蝕む毒になるものだよ』

観測機・ゲイザーを飛ばして、周囲の状況を把握。
ALOに通信。観測した情報を送る。
「援護する。里を守って」
UC【光霊子拡散誘導弾】。ゲイザーが捉えた全ての敵機体をロックオン。光弾の雨を降らせる。

里に敵が近づいてきたら、天翼を起動して低空で飛んで行ってアンタレスとレーザーを撃つ。
なるべく搭乗者の命を奪わないようにして戦闘能力を奪う。



 クゥ・クラウの乗機『アインベル』。キャバリアのコクピットの中は、主に機械類にとって最適な気温が保たれている。
 クゥはレプリカントである。その身に宿る思慮に高度な理知を得ているとはいえ、その肌が季節の機微を、冬の寒々しさを、気温や湿度や気圧と言った数値以上に感慨を持つことはほぼない。
 少女は一人、キャバリアの操縦者としての仕事を全うする。
 いつも繰り返してきた事。これからもこなしていく事。なんら変わりはない。
 だというのに、その思考の余白には、まるで空風が吹いているかのように空虚なものがあった。
『彼女たちも巨神も、死者は安らかに眠らせるべきだろうに』
 システムを介して彼女の支援AI『ジョン・ドゥ』が呟く。
 巨神ダイダラ。その在り様、かつての遺骸を蘇らせようという試みは、画期的だったように思う。
 発掘兵器を実用可能なほど復元するそのメカニズム、執念。その理由が何であれ、結果的にその強大な力はこの小さな里を間も続けていた。
 だいたい、古代の技術を用いて作られているのはアインベルも同じはず。
 含むような物言いをするジョン・ドゥの気持ちが、クゥにはよくわからなかった。
「でもそれで里のヒトたちは守られていた。だから間違っていない、はず。
 ……だけど、あのヒトは苦しそうだった」
『一線を越えたシステムは人を蝕む毒になるものだよ』
 人は理の中に居る。しかしながらその全容をより知るためには、そこから外れたほうが手っ取り早い。
 そこに正気があるのかどうかはともかくとして、技術の進歩は人道の範疇の外から齎される事もある。
 ある大量殺戮が医療の技術を進歩させ、戦争が苛酷になるほど兵器の有用性は技術の進歩を促した。
 だがその渦中にあった人間は、果たして人間のままでいられたろうか。
 クゥの胸の内を渦巻く気持ちの悪さは、事実とそれをうまくかみ砕けない理性との乖離があったのかもしれない。
 それは、彼女の今までの認識にはそう多くあるものではなかった。
 これ以上深入りすれば、仕事に差し障る。
 思考テーマをひとまず凍結し、クゥはアインベルを出撃させ、偵察ドローン『観測機・ゲイザー』も共に発進。周囲のデータを取得し、敵機の様子を伺う。
 秘境のような山里だけに、敵の進軍ルートは予想が立てづらい。
 周囲の地形データはあって損はないし、ALOを援護するにも役立つだろう。
『彼女たちも交戦中のようだ』
 ジョン・ドゥによれば、ALOのキャバリアは、もともと水上戦を得意とするホバーを装備している。それを応用し雪上でも高機動を維持したまま戦うことを可能としているようだが。
 ホバーは装備の重量制限がきつい。機体にそぐわないような重装備では戦い辛いこともあって、さしあたりその火力は高いものではなく、相手にしているオブリビオンマシン・ゲラボゴの重装甲には手間取っているらしかった。
 ゲイザーの情報収集により得られたことから総括し、クゥは彼女たちに加勢するとともにALOの機動力と柔軟性に目をつける。
 そのためには、交戦中の敵機の存在が目障りだ。
 ゲイザーはすでに敵機と味方の識別を完了しロックオンを終えている。
 【光霊子拡散誘導弾】は、アインベルが放つ魔力球が炸裂し、誘導する光弾が雨の様に降り注ぐ古の兵器の再現である。
 敵味方を識別して降り注ぐ光の弾雨が降りやむと、
「援護する。里を守って」
『! 助かる。……そうだな。足回りを活かして、里から引き離すよう誘導してみよう』
 言葉少なからその意図を汲み取ったALOの機体が、白煙の様に雪を撒き上げ移動していく。
 それを見送りつつ、アインベル──クゥはまたも里に接近する機影を観測する。
 ALOの向かった先とは別方向。以外にも広く展開しているのはあちらも同じらしい。
「迎え撃つ」
『了解だ。牧羊犬になった気分だよ』
 軽口をたたくジョン・ドゥをスルーしつつ、魔力を通わせるアインベルがその機体の端々に魔力光を迸らせ、光の粒子によってなるスラスター、天翼を展開、風に乗る様にして雪原のわずか上を飛ぶ。
 光の粒子を抜け落ちた羽のように散らしながら高速で飛ぶアインベルは、すぐさまにゲラボゴの小隊を発見する。
『チッ、こっちも見つかったか。交戦する!』
『飛んでるぜ。撃ち落とせるのか!?』
 バリアを張りながら迎え撃つようにしてライフルを構えるゲラボゴに対し、アインベルは飛行姿勢を崩さぬまま肩部のホーミングレーザー、そして電磁徹甲弾仕様のサブマシンガン・アンタレスによる掃射を行う。
 正面からの攻撃は物理障壁がばちばちと衝撃を受けて火花を上げることで有効打にはならないが、
『よし、受けきった! くそ、相対速度が合わん! 射撃スコープは使うな!』
『ぐわぁ! う、後ろだと!?』
 マシンガンによる弾幕はそのままバリアと干渉、視界を塞ぐ。だが本命は、すれ違った直後のレーザー。
 軌道を曲げるそれがバリア展開の向きの逆からゲラボゴの装甲を貫いた。
 良くも悪くも、正面のみを警戒していた事が、追撃のレーザーのホーミング性を見ることができなかったのだ。
「死傷者は」
『ない。敵戦力沈黙。生命反応、健在。君もお人好しだな』

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱鷺透・小枝子
ダイダラを此処に放置…は、良くないか。

『機械交絆』巨神ダイダラと再接続。
……モー、スナオ、アズ、他の者達も、敵が来ています。
自分、猟兵達がダイダラを操縦します。共に戦えますか!

ダイダラ【操縦】己がサイキックシールドを展開し【オーラ防御】
ゲラボコとの距離を詰め、リーチを生かしてシールド纏う腕で殴る!

…その悩みを抱えたまま、此処で溶け合い、貴殿らは完成すると、本当にそう思いますか!

【瞬間思考力】で並列思考。戦闘と会話を両立。
オシレーションブレードでゲラボコを【切断】中の人は殺さない。

先ほど自分を一人と言いましたが、意外と自分は一人という訳ではありません。
共に戦う戦友がおります。最近は騒がしいAIクレイドル・ララバイもいます!

デスアイのレーザーバルカンで武器を狙い【貫通攻撃】接近戦に持ち込む!

変わるものあれば変わらないものもある!
考えは移ろうものだ!自分も、貴殿らも、余りに多くを知らない!
貴殿らは猟兵の誰かについてってより多くを知るべきだ!
己を完成させる為に、その悩みに答えを出す為に!!



 どこか遠く、地鳴りのようなものがするのを朱鷺透小枝子は感じる。
 それは錯覚だったのかもしれないし、本当のところはそんな揺れなどなかったのかもしれない。
 しかし、猟兵たる能力か。それとも、長く戦場に居過ぎた弊害か。敏感に感じ取るのは戦いの気配だった。
 ここにもやがて、敵が来る。
 最前線送りの兵士に過ぎぬ少女は、誰よりもその匂いを知っている。
 逆に、それ以外の匂いにほとんど馴染みがなかったとも言えるが、最近はどうだろうか。
 穏やかで謙虚な少女は、戦いの中では火のように燃えてしまう。その心も体も、燃やし尽くさん勢いで、敵を倒しきるまで、一つの妥協もなく。
 ちりちりと火のつく感覚を覚えながらも、遺跡の中で操縦席から立とうとするのを、冷静なままの理性が引き留めようとしている。
 巨神ダイダラとの交渉。いや、正確にはその中に宿り制御AIとして生きつつあるアンサーヒューマンの少女たちとの語らいは、思いのほか有意義であった。
 自分自身、頭がよく回るほうではないとは思いつつも、彼女たちと通ずる部分はあったと思うし、それでも違う部分はあった。
 自分を思い返すという意味でも、そして彼女たちを知るという意味でも、それぞれの孤独を考えるきっかけにはなった。
 そう、孤独だ。こんなにたくさんの意思を感じても、そう思ってしまった。
 いまは、ここに置いては行けない。
 小枝子は再び【機械交絆】で『彼女たち』との交信を再開する。
「……モー、スナオ、アズ、他の者達も、敵が来ています。
 自分、猟兵達がダイダラを操縦します。共に戦えますか!」
『私たちと、君は違う。それでもいいの? 私たちはまだ、完璧じゃない。それでもいいの?』
「それでも、今までは、戦ってきた筈です」
『……モーはいいと思う。この人が、どう歩んでいくのか、気になる』
『意見はまとまったみたい。少しの間、共闘といきましょう。でも、肩の粒子加速砲は使わないほうがいい』
「ありがとう、ございます!」
 死の香りを背負いながら、重々しい巨神の身体が、小枝子の意のままに動くのを感じる。
 無数の何かに、操縦席の後ろから肩に手を添えられているかのようなむず痒さは、普段のキャバリアを操縦するときには感じられない、なんというか“温もり”であった。
 金属の軋みを上げるような重々しい足取りは、さすが拠点防衛用にデザインされたらしく機動力に難があるものの、そこは操縦技術とサイキックパワーを駆使して頑張って雪原を突っ走る。
 途中で重量バランスを掴み始めた小枝子が、機体を滑らせるように一歩の幅を広げていく独特の歩法を編み出すことで、そこはどうにかしていき、ようやく敵機をレーダー内に収める程度まで接近完了する。
『こんなに里から離れて大丈夫かなぁ。でも、こんな風に操る人、見たことなかったよ』
『ダイダラは防衛用ロボットだもの。走らせる操縦者がいなかったのも無理はないわ。それよりも、どうやって戦うの?』
「接近して、ぶつける──!」
 想定していない機動に目を見張る少女たちに、小枝子は歩みを止めることなく全体に対して大きめな上半身から生える巨腕にサイキックパワーを収束、盾のように展開しながら突っ込んでいく。
『でかいのが来る! あれが、噂のデカ物なのか!?』
『近づかせるな! うおおっ!?』
 約二倍もの体格差のあるダイダラとゲラボゴ。その機体コンセプトが似ているだけに、より極端で巨大なダイダラの無造作なラリアットをまともに受けて、ゲラボゴの小隊が雪煙を散らして弾かれる。
『火器管制オープン。武器を使って! 勢いのままやっちゃうんだから!』
「……未来への悩み、当然あると思います」
『えっ、何言っているの?』
「……その悩みを抱えたまま、此処で溶け合い、貴殿らは完成すると、本当にそう思いますか!」
『……』
 制限解除の項目から近接戦闘用の武装を選択しつつ、戦闘の事をしっかりと判断しながら小枝子は少女たちに疑問をぶつけ続ける。
 シールド展開したまま振り回した巨腕。その肘から飛び出た突起が伸び、ハンドルとブレードが展開し再び折りたたまれるようにして腕と一体型となったブレードトンファーが完成する。
 雪原に触れる切っ先が、高周波を纏って異音を放ち、周囲に巻き起こす振動過熱が新雪を融解させ蒸気を上げていく。
『くそっ、とにかく動きを止めろ。一発でも貰えばやられるぞ!』
『下半身だ。上半身に対して貧弱な下半身を狙え!』
「どけぇえ!!」
 大型機ゆえの大出力。ヒートダガーを取り出して肉薄しようというゲラボゴたちを、一閃のもとにダイダラのオシレーションブレードがゲラボゴの重装甲をあっさりと斬り裂いていく。
 だが斬るのはオーバーフレームのみ。この有様ではコクピットをも両断しかねない。そこは避けていく。
『て、敵がひるんだよ。相対距離ミドル……火器管制ファイアリングロックオープン』
「……先ほど自分を一人と言いましたが、考えてみれば、意外と自分は一人という訳ではありません。
 共に戦う戦友がおります。最近は騒がしいAIクレイドル・ララバイもいます!」
『貴方は、私たちに、何を言いたいの……?』
 いつもよりも、小枝子の鼓動は高鳴っては居ない。義眼がその役割を存在を主張し熱を持ってもいない。
 オブリビオンに対する怒りは確かにある筈なのに、視界が真っ赤に染まるほどの正気を失う闘争心はまだ、彼女を怒りの権化にしてしまってはいないのだ。
 だがその手元は冷静に、距離に見合った武装を選択し、頭部カメラセンサーに連動併設された光子レーザーバルカンを起動させる。
 薙ぎ払うような光線の弾雨。光というエネルギーが消耗するのと引き換えに質量を還元するレーザーバルカンは、その大出力に見合った殺戮兵器であり、敵の間接武器を主に狙った攻撃は、そのだいたいが武器ごと機体を引き千切るものであった。
「これじゃあ威力がありすぎる。直接斬らないと」
『ねえちょっと、どうして戦いながら、ぼく達に語り掛けるの……?』
「それは──、こっちにだって、言いたいことはあるからです!」
 強力過ぎる上に不慣れな機体で、おもにパイロットを殺傷しないように気を使いながら、尚も余裕を見せる小枝子は、戦闘中にもかかわらず疑問を投げてくる戦闘制御AIに対しわずかに頬を緩める。
「変わるものあれば変わらないものもある!
 考えは移ろうものだ! 自分も、貴殿らも、余りに多くを知らない!
 貴殿らは猟兵の誰かについてってより多くを知るべきだ!
 己を完成させる為に、その悩みに答えを出す為に!!」
 ええーい、と半分以下のサイズのロボットを文字通りにちぎっては投げ、ちぎっては投げる小枝子は、ついに似ていても別物の少女たちに道を示す。
 自分では彼女たちの道しるべにはなれないかもしれないが、それでも感じたものをさらけ出すことに躊躇は無かった。
 大勢ある中の一人であるのと、大勢集まって一つであるのは、それはそれで個である。
 一つであることを否定はしない。大勢集まって、一つの事を為すのはきっと尊いことだ。
 でもそこに独りを感じてしまうのは、収束されて一つの個になったものが、そこで終わり、進歩の無いものに思えてしまったからだろう。
 一人である必要なんてない。完成形は一つである必要なんてない。
 彼女たちにどうして名前がついているのだろう。
 きっと神父も、彼女たちを忘れがたい一人だと、思っていたからかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベティ・チェン
ダイダラを誰も連れて行かなかったら
ボクが連れて行く
残せば誰もがダイダラに縋るから
キミ達の希望も絶望も
ボクが絶つ

今回の報酬全額渡しで次元潜航型30m級竜型巨神G-O-リアス召喚
「…またお宝の匂いしないじゃん!こーゆー依頼はヤだって言ったじゃん!お宝ザクザク金塊強奪依頼に喚べよぅ」
「報酬は、払う。金30gスモールバー」
「ホントに爪の先だなオイ?…わーったよぅ、朋友ポンヨウ価格で受けてやるよぅ。あーっ、オレっち優しいぃ!」

「オレっち最強!ヒャッハー!」
敵機対応はスーロンのUC任せ

「こういう、時。集落のみんなは、どこに、避難?」
神父に確認したら避難場所へ
説得
必要なら闘争辞さず
「ダイダラが。操縦士の命で、ダイダラ砲を撃っていたと。死体を乗せて、自動操縦で戻っていたと。キミ達は、知っていたか」
「作られた命も、巨神も。キミ達と変わらない。なら、今度は。キミ達で、命を贖え。自分達で、里を守れ。ダイダラは、ボク達が連れて行く」
「ALOが、交換条件で。ここを守ってもいいと、言ってる。共闘、すればいい」



 とかく、この世の沙汰は金次第。
 いやいや、それだけであれば、どれだけわかりやすいものか。
 格納庫、いやダイダラの眠っていたカタコンベの中に、既にその姿は無い。
 いずれかの猟兵が持ち出したのだろう。それならば、きっと今よりもひどいことになるまい。
 戦いは過酷さを増していくかもしれないが、それでも猟兵ならばちょっとやそっとで後れを取るようなことは無い。
 ベティ・チェンは、空洞の岩山を見やり、ため息とも安堵ともつかないような息をつく。
 忍者の姿をした、或は少女の姿をした迷子の人狼は、既に多くの巨神を従えていながら、そこに一抹の寂しさを覚えないでもない。
 こんなところにダイダラがいれば、きっと誰もが縋ることになる。
 そうなるくらいなら、自分がまた拾う。希望も絶望も断つ。共に生きるしかないならそうするし、存在してはならないというのなら、自らが進んで手を汚そう。
 今はただ、安堵と喪失を覚えるだけだったが、どうやらそのままでも居られない。
 敵の襲来は、それがオブリビオンであれば、猟兵は感じざるを得ない。
「敵……行かないと、いや……その前に、もう一か所」
 敵は里へと進行を開始し、猟兵ならばそれに対応せねばならないだろう。
 しかしながら、ベティはまだ気がかりが残っていた。
 この場所を離れようとしない神父と傍らの少女たちを一瞥し、他に聞ける人間も居ないと判断したベティは、
「こういう、時。集落のみんなは、どこに、避難?」
「ああ、とっくに沢を下っていく道を選んでるはずだ」
「そう、キミというか、キミたちは?」
「……あんた方を信用してないわけじゃないがね。ここが奪われるようなら、誰かがけじめをつけなきゃいけないだろう」
 どうやら里の住民は、沢を下った先に避難しているとのこと。
 ベティが聞きたかったのは、そこを戦渦に巻き込まないのと、それから、彼ら自身に用があったのだ。
 そして神父たちはここに残るらしい。
 猟兵としては、このまま敵の迎撃に向かうべきなのだが、ベティは一人、沢を下る道を選ぶ。
 しかし里へ来襲するオブリビオンマシン相手に何もしないというわけにもいかず、そろそろ戦力を出しておく必要があるだろう。
 しかしさて、彼女の従える者たちは、自分に似てちょっとだけケチンボである。
 ポケットの中身はちょっと寂しいが、ゼロではない。覚悟を決めて、友人を呼びつけるとしよう。
「スーロン!」
 そうして呼び出す別の地方の巨神、30メートルクラスのドラゴンタイプ、巨神G-O-リアス『スーロン』。
 厳かな、そして巨大な神話のようなドラゴンの姿が次元の彼方より到達し、そして狂暴な口を開く。
「……またお宝の匂いしないじゃん! こーゆー依頼はヤだって言ったじゃん! お宝ザクザク金塊強奪依頼に喚べよぅ」
 呼び出されたドラゴンは、なんというか態度が軽い。そしてドラゴンらしいと言えばそうなのだが、金銭的欲求が強いらしい。
 その辺りを心得ているのか、ベティもポケットから金塊を取り出す。
「報酬は、払う。金30gスモールバー」
 掌にちょこんと乗ったそれを凝視してから、スーロンは「ちっさ!」と身を仰け反る。
「ホントに爪の先だなオイ? ……わーったよぅ、朋友ポンヨウ価格で受けてやるよぅ。あーっ、オレっち優しいぃ!」
 すごく嫌そう、そして恩着せがましく大げさな身振りで、しかし話自体に否やは無いようで、その姿は差し出された黄金も霞むほどの輝きを誇る。
 【巨神G-O-リアス四龍スーロン守勢防御】により、やたら目立つ輝きと共に、スーロンはその巨体を見せびらかすかのようにゲラボゴを迎え討つべく打って出る。
 この小さな里などよりも、あの姿は格別に目立ってくれることだろう。
 やがてその背部に装着されている2門のキャノン砲が里山に轟音を轟かせるのを背景に、ベティは一人、沢を下った先のセーフハウスめいた山小屋に辿り着いた。
 里が襲われた状態でも数週間は暮らせるであろう手入れのされた山小屋に、少ないとはいえ集落の人間は所狭しと詰め込まれているようだった。
「ど、どうしたんだ……まさか、神父さんや、お嬢ちゃんがやられちまったのか?」
 ベティの来訪に動揺を隠せない住民たちの言葉に、わずかに目を細める。
「ダイダラが。操縦士の命で、ダイダラ砲を撃っていたと。死体を乗せて、自動操縦で戻っていたと。キミ達は、知っていたか」
「あ……ああ、おそろしくて聞けはしなかったが……あんなにしょっちゅう、人も名前も変われば、思うところはあるよ。だが、誰も何も、言えんかった。
 わしらは戦う術を持たん。それどころか、戦う力をもってるあの子たちや神父さんを厄介者だと思うやつも少なくない。もちろん、わしは違うつもりだ……だがのう。みな、荒事には慣れておらんし、慣れたくもないのだ」
「作られた命も、巨神も。キミ達と変わらない。なら、今度は。キミ達で、命を贖え。自分達で、里を守れ。ダイダラは、ボク達が連れて行く」
「そんな、無理だ……それでは、次からは、わしらはどうやって……」
 歯を剥く気持ちを、ベティは静かに噛み締めてこらえる。
 変わらぬ命がある。しかし、自分と彼らは違う。農具しか持ったことのない手で、ままならぬ武力を用いろというのは、土台無理があるのだろう。
 誰もが、戦う意志を持ち続けられるものではない。本当は逃げるほうが賢い。そうできるならば。
 特別な力は、いつだって不条理に傾いた形で、持つべきものの手に渡る。
 ベティとて、もっと早くに力を手にしていたらと、思わぬ日は無かったろう。
 だが、全て丸投げというのは無いだろう。
「ALOが、交換条件で。ここを守ってもいいと、言ってる。共闘、すればいい」
 その言葉に、里の人間の顔色がぱっと明るくなったのを、ベティは微妙な面持ちで見つめ、何か胸につかえるものを覚えながらも山小屋を後にするのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

防人・拓也
「さて、敵さんのお出ましか。神父さん達に宣言した通り、彼女達を呼ぶとするか」
と言い、両手で術印を組んで地面に片手を付け、自身の後方に3つの魔法陣を出現させて
「来い、アイリス、ルイーズ、マイラ!」
と言い、キャバリア形態の3機のアイリス達を召喚する。
「お呼びでしょうか、マスター」
「ルイーズ、ここに馳せ参じました」
「主様、指示をよろしく」
召喚された3機は俺に敬意を持って接して指示を待つ。これには神父達やALOの連中が驚くかもしれない。
「前衛はルイーズ、後衛はアイリスとマイラ、俺で行く。ルイーズは突撃して敵部隊を攻撃。俺達がルイーズを援護する。それでいいか?」
「マスターの仰せのままに」
「かしこまりました、我が君」
「うん、了解」
と指示を受けたアイリス達はそれぞれ動き出す。アイリス達は各々の古代武装で敵部隊を攻撃。俺は指定UCで3人が撃ち漏らした敵を倒していく。
「伊達に巨神を複数所有している訳じゃないんだよ、俺は」
アドリブ・連携可。



 重機のような音が聞こえる。しかし、それというには、ばかに急ぎ足で、スノーモービルの類なら小隊を組んだりはすまい。
 雪上での行軍は、積雪を切り開いていく先頭に沿うように進むため、もっと音が連なって聞こえるはずだ。
 これは戦闘車輛などの音ではない。
 なによりこの世界はキャバリアが戦場の花形であり、猟兵の敵と言えばオブリビオンマシンなのだから、その違いを聞き分ける特技がそれほど役に立つことは無いのだが、だからこそそうでなければと思う反面もあった。
 防人拓也は戦闘のプロである。機械の動く音一つとっても、そこに剣呑な響きがあるかどうかは、経験で知っている。
 そして猟兵ならば、それがオブリビオンマシンかどうかも判別できると言うものだ。
「さて、敵さんのお出ましか。神父さん達に宣言した通り、彼女達を呼ぶとするか」
 野戦服にヘルメットを被り、里を出た拓也は既に戦闘準備を整えていた。
 と言っても、屋外をいくら駆け回り転げまわってもいいような戦闘服を身に着けただけだが、彼には宣下通りに頼りになる味方が居るのである。
「来い、アイリス、ルイーズ、マイラ!」
 雪のない木陰にむき出しとなった地面に向かい、両手で術印を結び、その手を付けると、魔法陣が浮かび上がり、その召喚陣が強い輝きを放てば、次の瞬間には拓也を囲うように3機のキャバリアが呼び寄せられていた。
「お呼びでしょうか、マスター」
「ルイーズ、ここに馳せ参じました」
「主様、指示をよろしく」
 それぞれ三者三様に恭しく首を垂れる姿は、巨神ながらその忠誠を拓也に捧げているものらしい。
 ダイダラという巨神の在り方もまた特殊だが、別の国から発掘されたという巨神もまたその存在は様々であり、それらを従えているのは彼の人間性を示すかのようである。
 また、ダイダラに勝るとも劣らぬ強力な巨神を一挙に3体も用いようというのだ。戦いに確実性を見出すのは、いかにも軍人らしい考え方と言えよう。
 既にALOの部隊は敵機の迎撃、そして戦線のかく乱に忙しくしているらしい。
 こちらも遅れてはいられまい。というわけで、簡単にであるが、勇壮な見た目に反して可愛らしい対応の巨神たちに作戦を伝える。
「前衛はルイーズ、後衛はアイリスとマイラ、俺で行く。ルイーズは突撃して敵部隊を攻撃。俺達がルイーズを援護する。それでいいか?」
「マスターの仰せのままに」
「かしこまりました、我が君」
「うん、了解」
 かねてよりの戦いを経て、その信頼を勝ち取った拓也の提案を、巨神たちは断るわけもなくそれぞれに持ち合わせた古代の武装と共に、それぞれの足取りで戦いへと赴く。
 前衛を任されたルイーズこと、護城神機『ミネルヴァ・ルイーズ』は、スパルタを思わせる巨大な円形の盾と槍を携えた戦士の姿をしている。
 古代武装の盾はいかなる攻撃をも防ぎ、キャバリアグレイブはあらゆる装甲をも無に帰すことだろう。
 どうでもいいお話だが、グレイブといえば斬るための刃をつけた槍であったり、長刀の事を指しているわけだが、アイルランドだとかゲールとかその辺りの言葉では剣を指してもいたらしい。
 とにかく、その一機が前面に出ることで相手の注意を引き、弓を持つドラゴンタイプの巨神アイリスがその神弓『カラドボルグ』を用いて光の矢を放つ。
 これですでに小隊規模の戦いは終了せざるを得ない。
 しかし、いくつか相手にする小隊の中には、ルイーズの類まれな近接戦闘モジュールも、光の弾雨をも切り抜ける運のいいパイロットも居たらしい。
 だがそれは果たして運がよかったのか。槍の間合いからも、弓の射程範囲からも逃げきったゲラボゴを待ち受けていたのは、巨神マイラによる魔法攻撃であった。
 歴史の長いクロムキャバリアの今もって謎に包まれている古代魔導文明の痕跡の一つとも言われる魔導を用いたキャバリアやジャイアントキャバリア。その歴史を紐解く一縷と思しき彼女もまたその技術を惜しげもなく解き放ち、ゲラボゴに魔法を撃ち込んでいく。
 よもや、一機でも小隊規模には過剰戦力と呼べる巨神であるが、それをわざわざ呼び寄せて使うのは、自身の力を示すために他ならない。
 軍人は完璧でなくてはならない。時にそれは敵を滅するための暴力装置であり、国家を守るための剣であり、反乱を許さぬ抑止力でもある。
 これは、希望を示すための力である。
 だがしかし、惜しむらくは、軍人という律された精神を持つのはあくまでも拓也であり、彼に付き従う彼女たちはあくまでも物思う道具に過ぎぬという事。
 それゆえに、時として主人のお株を奪うことを憂い、完璧な形で敵のとどめを刺し損ねることもあった。
「……余計な気を使わせてしまったか。まあいい」
 すでに武装も粗方はぎとられ、この場から逃走を図るゲラボゴの一体を、まるで献上されるかのような扱いには苦笑してしまうのだが、リーダーらしさを示せというのだろう。
 迷うことなく、残敵掃討のため、拓也はその手に風を収束させていく。
 【旋風術・疾風狼牙】雪風を纏い白い粉塵が螺旋を描いて手に集まっていく。その手を向ければ、獲物を見つけたとばかりに風は巨大な狼のような形を作り、ゲラボゴを追跡し、ついには追いついてその装甲をひしゃげさせて沈黙させる。
「伊達に巨神を複数所有している訳じゃないんだよ、俺は」
 完全に動かなくなったのを確認したところで、周囲の巨神から称賛の声が飛んできて、緊張感の無さに少しだけむず痒くなってしまうが、まあとにかく、これで敵の先遣隊は片付いたことだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ジェネラル・キャバリア』

POW   :    キャッスルウォール
自身の身長の2倍の【後方からの攻撃を無効にするオーラの背後霊】を召喚する。それは自身の動きをトレースし、自身の装備武器の巨大版で戦う。
SPD   :    ジェネラルホース
機械馬サイキックキャバリア】を召喚する。騎乗すると【人馬一体】状態となり、【灼熱】属性とレベル×5km/hの移動力を得る。
WIZ   :    トラクションニール
【棘から電磁パルスを発振】【RXハルバード】による近接攻撃の軌跡上に【引力】を発生させ、レベルm半径内に存在する任意の全対象を引き寄せる。
👑11
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『なんとなんと……先遣隊の反応が途絶えたではないか。こちらの計測ミスではないようだな』
 山間の里を遠くに見る山頂から、重装甲の騎士の如きキャバリアが、感知する範囲内に広がっていた味方機の、その多くが倒れたことを知り、感心するように頷いていた。
 その傍らには、まだ複数機のゲラボゴと、その将たる者──ジェネラル・キャバリアの為に作られたであろう馬のサイキックキャバリアが伴っており、雪山の中に蒸気のような鼻息を嘶きと共に漏らしていた。
『話に聞いていた巨神とやらは、あのように多様であったか? それとも、情報の提供元が、信用ならなんだか……』
『はっ、何分、行商の話を伝え聞いた次第にございますから……しかし、目当てのプラントは確実に根付いておりますかと……』
『うむ。巨神とやらはゆるりと我らが手にすればよい。だが、辺境とはいえ、プラントの存在は捨て置けぬなぁ。良い拾い物をしたものよ』
 配下のキャバリアと語らいつつ、ドッキングパーツを兼ねる鞍に機体を乗せたジェネラルは、文字通り勝ち馬に乗ったかの如く、その馬と部下たちを、一斉に里へ向けて進軍させるのだった。
 その機体になびく軍旗は、紛れもなくこの国のものであるが、いかなる大義名分が存在すれば、自国の辺境に兵を差し向け攻め入ることになるのだろうか。
 いや、それこそがオブリビオンマシンによる洗脳によるものなのか……。

「へー、よりにもよって、この国の人間が、こっちに攻め入って来るってのかぁ……参るねぇ。どうするよ」
「こういう話は、何度か聞いたことがある……」
 一方、ゲラボゴによる先遣隊を退けた猟兵たちとALOの一行は、生かしておいたパイロットを尋問することで、その正体へたどり着いた。
 尋問と言っても、いくつか話を聞いただけだが、機体を破壊されたゲラボゴのパイロットたちは、どこか毒気を抜かれたようにしていたという。
 ALOもいくつか猟兵の介入した話以外にも、オブリビオンマシンという不吉な暴走現象については、知らないわけではなかった。
 だが問題は、どういう風にして里の情報が外に漏れたかということである。
 絶海の孤島というわけではないが、氷海に面した北部に位置し、陸側からもほとんど付き合いの薄い辺境の里から、プラントや巨神の情報がどうやって漏れたのか。
 なんということは無い。人の流出入はゼロではなかったのである。むしろ、古くから付き合いがあって行商をやっている者などから、噂話などがこぼれ出したらしかった。
 外部からの買い付けや、物々交換などがあってようやく回っていた貧しい里が、いつの間にか外部の補給に頼ることなく豊かになっていったという話が少しでも広がれば、この厳しい生活環境の中に訝しむ者は少なくない。
「人の口に戸は立てられないっていうけどね。ってなると、何か工作が必要かな? キーノせんせ、何か策は?」
「そうだな、海路でも開拓したことにするか? 武装商船団を装うというのも、趣があるじゃないか?」
「名案だが……差し当たって、目の前の敵をどうすかな。彼らに生き証人となってもらうというのは」
 ALOの面々から出てくるのは、全て新しい提案だ。
 それほどまでに、これまでの事をまるで見ないことにするかのような扱いである。
 巨神に携わる今までの事を、目にしてきた以上は、それは無かったことにはできない。
 しかしながら、すべてをつまびらかにし、全ての悪を断じて誅することが本当に正しい事なのか。
「ねー、リーダー。全部、綺麗に収まるなんて、都合よくいくかね?」
「それはまあ、我々の働き方次第さ。背負うやつには、背負ってもらうし……私たちも、必要ならそうする」
「──来るぞ。敵将はゲラボゴ以上に頑丈そうだが、ひとまず敵を減らすか……!」
 里へ向かって一直線にかけてくる反応は、何故か二機分重なっている。
 そして、それを護衛するかのようなゲラボゴと同型の反応。
 正面からぶつかるのは不利とみて、ALOはひとまず側面から敵の数を減らすことを考えているようだが……。
 猟兵たちはどう出るだろうか。

 ※敵は部下を引き連れていますが、ゲラボゴと同型の麾下の部隊はALOが相手取るので、猟兵の皆さんはボスと直接対決が可能です。もちろん、ALOの援護をしてもいいですし、援護要請を出してもきっと応えてくれるはずでしょう。
ユリウス・リウィウス
あー、何か後ろの方で面倒そうなことやってそうだな、なあ、おい。
俺は政治絡みの話なんかどうでもいいんだ。巨神とやらも別に欲しいわけじゃねえ。攻めてきた奴らを殲滅する。
今後の話なんてものは、難しいこと考えるのが好きな奴らに任せるさ。

さあて、始めようか。騎士もどきの人形さんよ。
「先制攻撃」「降霊」「範囲攻撃」「恐怖を与える」死霊の霧を展開。視界を奪い俺を目視でも電探でも見つけられないようにして、「切断」「双剣使い」で足首辺りを狙うとするか。片脚だけでも壊してやれば、その後が楽になるだろう。
攻めてる間は、潰されないように注意だな。

背後霊は「除霊」してやろう。邪魔だ。でかけりゃいいってもんじゃねえ。



 風が出てきた。
 のどかなはずの獣道、戦乱とは縁遠い辺境、そんな自然をかき分けてやってくる戦の音は、懐かしい響きであった。
「これは、蹄の音か。どれくらい振りに聞いたかな。それも、こんな場所で聞くことになるとはな」
 高らかで軽快。しかし重さを感じさせるそれは足音。距離を残してなお聞こえるのは不自然と言わざるを得ないが、小気味よく耳を打つそれを騎士が聞き逃すはずもない。
 雪原を踏み抜く硬質で重たく、しかし軽快な蹄の音は相手が騎馬であることを知らせるが、ここはクロムキャバリアで、猟兵が敵とみなすのはオブリビオンマシンである筈。
 ともすれば、乗っているのか。馬に。あの鉄の人形が。
「あー、何か後ろの方で面倒そうなことやってそうだな、なあ、おい。
 俺は政治絡みの話なんかどうでもいいんだ。巨神とやらも別に欲しいわけじゃねえ。攻めてきた奴らを殲滅する」
 面白いのが出てきた。ALOだとか、巨神だとかそういう話は、目の前の相手ほどの価値もない。
 大馬鹿が来る。こんな戯けた人形遊びの戦場の中で、騎士を気取ろうなどという大戯けが来るのだ。
「今後の話なんてものは、難しいこと考えるのが好きな奴らに任せるさ」
 優しい結末も、残酷な現実も、興味がない。これからの座興に比べれば。
 いいだろう。その化けの皮、本当の騎士崩れが見定めてやろうじゃないか。
 数多のキャバリアを切り伏せた両の剣をそのままに、ユリウス・リウィウスは雪上を歩く。
 胸を打つ鼓動の如き蹄の音に引き寄せられるかのように、歩みは次第に早く、急かすかのように膝下程の雪を蹴り分けていく。
 ああ、でかい。目視で解るほどに、距離感が狂うかのようなサイズ感のフルプレートアーマーが、巨大な馬に乗っかって駆けてくるのだ。それはもう、激しい足音もしよう。
 蒸気のような鼻息を白く、雪嵐のように雪原を撒き上げて駆ける姿はそれこそ騎士の井出達であった。
 その突進力の威力を知っているだけに、優に3倍以上の体格差は凄まじいものがあることが伺える。
 だからこそ闇雲に突撃するのではなく、策を弄さねばならない。
 ユリウスの足元に落ちる影。そこから黒い霧が立ち上がり、徐々にその身を覆い、周囲にまで及ぶ。
 ただの目くらましではない。死霊術士としての側面も併せ持つユリウスの用いるそれは【死霊の霧】。
 非業の死を遂げた者たちの怨念が固まりできた黒い霧は、それ自身が恐怖を煽る冷たい攻撃なのである。
 昼間に現れる暗黒。それは、人でなくとも度肝を抜くものがあるだろう。
 とても人が乗っているとは思えぬ、しかしそこには本物の馬にも似た制御装置が多数搭載されているであろう。ゆえに感知する能力も高い筈だ。
 オートバランサー、動力センサー、熱感知、操縦者とのシンパシー、その感知の機敏さゆえに、死霊の霧を前にしたときの警戒は強いものだった。
 突如、激しく嘶いて足を止め、前足を上げる動きは、騎乗のジェネラルキャバリアにとって予想外だった。
『むう! どうした!?』
 バランサーが働いて落馬こそ免れたものの、黒い霧を避けようと別の道を選ぼうとするその足取りは動揺しているのかうまく制御を受け付けている様子ではなかった。
 足を止めたのは良くも悪くも操縦者を守ることにつながったが、その間にも死霊の霧は周囲に渦巻いてついに暗闇が取り囲んだ。
「──さあて、始めようか。騎士もどきの人形さんよ」
『どこだ、姿を見せよ!』
「うおおっ!」
 進むことを躊躇する馬をいなしながら周囲を警戒するジェネラルだったが、黒い霧をかき分けて飛び込んでくるユリウスからはすべて見えていた。
 死角からの飛び込みは、体格差ゆえにその刃が致命打には届かなかったものの、不意打ちの双剣がキャバリアの体勢を大きく仰け反らせた。
 ドッキング状態であってもそれはオートバランサーの許容を越えていた。
 転倒する! と判断したのか、咄嗟に合体を解除したジェネラルのみが馬から転げ落ちた。
『……なんとなんと、レーダーで検知できぬわけよ。よもやこの人馬一体に挑む者が、ただの生身とは』
「こちらこそ。こんなところで、機兵を相手にするなんて思ってもみなかった。が、それもここまでか?」
『戯けぃ。大した腕をしているようだが、もはやまやかしは通じぬぞ』
 立ち上がり、大身の斧槍を構える姿は、殊更に巨大に見える。
 堅牢な装甲に巨大な得物。確かにその威圧感は大きいが、いくらなんでも大きく見えすぎる。
「まったく、まやかしなどと、どの口が言うんだかなぁ。なあ、おい」
 自身を増幅させたかのように見せる、ジェネラルの背後に見える気配。それは死霊術士ゆえに感じ取れる霊的な威圧であった。
 体格差のもたらす優位性は語るべくもないが、それだけが戦いを決めるものではない。
 大きく振り下ろされたハルバードの一撃を、恐怖を振り切って前に進むことで回避する。
 一瞬の判断の差。慢心や恐怖、それを制するからこそ、距離を取ることをせずさもなくば、激しい破砕音に巻き込まれていただろうが……。
「その背後霊、邪魔だな。でかけりゃいいってもんじゃねえ」
『なんと、なんと……!』
 交錯、そして掻き消えるジェネラルの威圧、背後霊と化した巨大な気配は、ユリウスの手にする魂を食らい、血を啜るという双剣に切り払われ、ついでのようにジェネラルの脚部動力を傷つけていた。
 機械そのものよりも、相手の特性のほうが、どちらかと言えばユリウスにとっては御しやすい相手であることに気付いたが、それにしても、騎士がかったパイロットであるらしい。
 やりやすいと思う反面、間合いの差は否めない。
「悪くない相手だが、踏みつぶされんようにせんとな」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ワタツミ・ラジアータ
新人の皆様の性能は見せていただきましたし、今度は私の性能をお見せする番ですね。

ALOの支援を主とする
疑似真の姿:赤い装甲ドレスを纏ったキャバリアサイズの女神

皆様、私が援護致します。
心置きなく戦い、壊れてください。
すべて私が直しますわ。
人も機械も。

生身の損傷は人工臓器など無機物に変わるかもしれない
敵の意識を自身に向けさせることでALOに側面を狙いやすくする
ジェネラルに引き寄せられたら
至近から浸蝕攻撃を行う

レディに強引なお誘いはよろしくありませんわ。
乗馬できたことは少し楽しかったですけれど。
でも、この世界の私はオブリビオンマシンは好みではありませんので。
残念ですけれど壊しますわ。



 強い風が吹く。
 向かい風はいつしか追い風に。破壊の衝撃から生じたはずの波が、まるで引いていくかのようだった。
 対消滅爆発の影響は、通常の粒子加速兵器の衝撃に加え、空間をえぐり取ったかのような消失を補うかのような吹き戻しを呼んだ。
 巨神の姿をしたワタツミ・ラジアータの外装の一つがくしゃりと紙細工を畳むかのように縮んでいく。
 雪原の中に帰っていくかのように、星の一つが流れていくかのように。
 それは今や、彼女の一部を担う因子の一つに過ぎない。
 今はただ、顔色の悪い女が一人、雪原に立つのみ。
 白い肌、白い髪、しかし身に帯びる赤い装いだけは、雪国深くには血のように鮮やかに目立つ。
 さて、ワタツミはその時点で一仕事終えた気分になっていた。
 巨神と謳われるだけあり、新人の性能はなかなか目を見張るものがあった。
 もう帰ってもいいのだが、どうやら仕事はやりかけらしい。
 この件を聞きつけたALOの動きがまだまだ忙しないことを見やれば、どうやら敵部隊に側面攻撃を仕掛けるつもりのようだ。
 手伝うだけなら。それなら、余計な出費は無いだろう。
 ジャンク屋根性のちょっとせこい感性から、ワタツミは彼女たちの攻撃支援を行うことを決める。
 さて、次は誰を出すべきか……と考え、外装を操る手を止める。
「新人の皆様の性能は見せていただきましたし、今度は私の性能をお見せする番ですね」
 たまには身銭を切らねば、社員はついてこまい。自ら先陣を切ってこそ、その威を示せると言うものだ。
 決断は迅速で、行動もまた素早く、ワタツミはユーベルコード【デウス・エクス・マキナ《ウロボロスファクトリー》】によって、その身を変化させる。
 めきめきと軋みを上げる外装。赤い硬質なドレスの木地がまるで無限を描く蛇の如くうねり、膨れ上がっていく彼女のボディに相応しい姿を織っていく。
 やがてその名の如く機械仕掛けの女神は、キャバリア程の体格にまで膨れ上がり、赤のドレスは尚も雪原に悪目立ちするが、今はそれで構わない。
「皆様、私が援護致します。
 心置きなく戦い、壊れてください。
 すべて私が直しますわ。
 人も機械も」
 口ずさむ言葉は、その意図を伝えるべく自然な形で通信に乗り、ALOの面々へと届く。
 慈愛にあふれているはずの言葉は、しかし無機質で無感情にしか聞こえない。
『ありがたいけど、ぞっとしないな』
『機械工場? 人も直せるって、本気で言ってんの?』
『文字通り、機能する代替品を提供するというのだろう。あの姿を見れば、想像に難くない』
 ワタツミの持つ独自の感性。生命に対する感覚の違いを感じながらも、その力の一端が頼りになることも目の当たりにしたALOは、自分たちはもとより、交戦する相手に対しても、最低限、コクピットだけは狙わないことを決めた。
 無数の銃弾や光線が飛び交う戦場の中を、赤い装甲ドレスの女神が、悠然と歩む。
 やたらと目立つ機械仕掛けの女神の姿は、格好の的とも言えるが、彼女の被弾はあまり意味がない。
 細やかな流れ弾などは装甲ドレスが弾き、ひるませるほどでもなく。
 ゲラボゴのビーム兵器などでその身が焼かれ、焦げ付くことがあっても、ものの一瞬のうちに代替の金属皮が生成されて損傷を修復してしまう。
 彼女だけではない。その周囲の木々が燃えて倒れた場所から、奇妙な金属の木が代替物のように出現するのを見たとき、ジェネラルの部隊は度肝を抜いたことだろう。
『なんとなんと……どうやら、羽虫の如き連中より、まずはあの大女を仕留めぬことには、始まらぬようだ……エスコートしよう!』
 そしてついに脅威に感じたジェネラルキャバリアは、その両肩の突起から雷を迸らせ、そこから発した電磁パルスをハルバードに介し、電磁誘因によりワタツミを引き寄せる。
 間合いを一気に詰め、そのハルバードの一撃でワタツミを仕留めんとする意図であるが、その誘いは彼女も望むところであった。
 強引な誘いで騎乗したまま姫君を奪い去るかのような動きであるが、断頭の一撃は、ワタツミ自らが侍るように飛びつくことで回避する。
『むう!?』
「レディに強引なお誘いはよろしくありませんわ。
 乗馬できたことは少し楽しかったですけれど。
 でも、この世界の私はオブリビオンマシンは好みではありませんので。
 残念ですけれど壊しますわ」
 重装甲のキャバリアの胸板は、彼女にとっては数ある食事の一種に数えられる程度のものであるが、屋外ではしたなく大口を広げるのは淑女の礼節に反するものである。
 それに、今や彼女はその手を這わせる手間も必要なく、周囲を侵食する異なる文明の粒子で攻撃することができる。
『ぐう、は、離れよっ!』
 ドラマティックにドレスのまま騎乗する騎士へと組みついたワタツミは、まるで転げ落ちるかのようなジェネラルに押しやられて落馬するが、その周囲が黒く染まって燃え尽きる炭のように崩れていく。
 嘶きを上げる馬型のキャバリアも徐々にその形を保てなくなって崩れていく。
『恐ろしい毒婦であったわ……うぬ、まだ動くか』
「あら惜しい事、浅かったようですわ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノエル・カンナビス
さて、では仕上げと行きますか。

『神父』が通信を受けられるなら、少々話をしましょう。
貴方も、娘たちも、何も間違ってはいないのだと。

命の捨て時など、本人が好きに決めれば宜しい。
他人が是非を定める事ではないのです。
無論、意見なり希望なりを告げるのもあなたの勝手。
捨ててくれと頼むのもよし。止めるもよし。
そして、心が定まらないなら傍観すればよい。

そこに必要なのは正直と誠実だけであって、
皮相的な善などではないと肝に銘じなさい。

残りの仕事も片付けておきましょう。
先制攻撃/指定UC。
距離をおいての見切り/操縦/空中機動/推力移動、
貫通攻撃/ライフルと範囲攻撃/キャノンで充分でしょう。
火炎耐性もありますし。



 天気はあいにくの晴れ。
 雪原の白に、気が遠くなるくらいの青い空がある。
 クロムキャバリアの世界に空は無いという。
 そこにあるのに手出しができないのは、そこに支配者がいるからだ。
 恐ろしいまでの科学力が翼をもがれたという事実を確かめたくば、この無限のような空に喧嘩を売ってみればわかることだ。
 1キロでも上昇して、300キロでも出そうものなら、それは即座に空を侵犯する飛翔物として、殲禍炎剣に撃ち落とされてしまう事だろう。
 だからこの世界に、空は無い。
 喧騒と抗争の合間、その切れ間を時たまに見上げて、その美しさを垣間見たときにどうしようもなく惹かれるだけであって、それ以上のものは無いのだ。
『ザザ──、未確認の敵機が、里に向かっている……おそらく、敵の本隊と思われる。注意されたし──』
 周囲の通信を拾うラジオチャンネルから、聞き覚えのある声が流れてくる。
 冷静さを保とうとしつつも、必死に懸命に呼びかける声は、通信士としては拙いものかもしれないが、生きることにしがみ付く執念は人並み以上のものを感じる。
 命を感じるというのは、きっとそんなものなのだろう。
 キャバリア『エイストラ』のコクピットで、レプリカントであるノエル・カンナビスは、表情にこそそれを出さないものの、ラジオチャンネルから流れてくる声の力強さを感じる。
 その情報、そしてエイストラの複合センサーも当然のように敵の一団をとらえている。情報を総合するまでもなく、そこに敵将が在ることは明らかだ。
 まもなく接敵する。戦闘が始まる。
 それが終われば、この里の直接的な脅威はひとまず去ることだろう。ただ、問題は山積みである。
 彼らにとっての戦いは、むしろそれからだ。
 通信を逆探知し、チャンネルを合わせ、メッセージを送るのは、効率的な戦術を図るノエルの戦いからは外れる行為だが、あいにくと自分はただの戦闘機械ではない。はずだ。
 機械生命として生まれた意義。能力のままに戦い続け、目的を探す意味。おそらくは茫漠たる人生の余白は、効率的な戦闘の合間に生じる雑多な何かノイズの中にあるのではないだろうか。
 だから、これは思いの丈であり、きっと返答を望んでいるようなものでもない。
「──貴方も、娘たちも、何も間違ってはいないのです。
 命の捨て時など、本人が好きに決めれば宜しい。
 他人が是非を定める事ではないのです。
 無論、意見なり希望なりを告げるのもあなたの勝手。
 捨ててくれと頼むのもよし。止めるもよし。
 そして、心が定まらないなら傍観すればよい」
 交戦──。接敵。
 規則正しいビームライフルの斉射が、雪原を煮溶かし、水蒸気とはじけ飛んだ白煙を撒き上げる。
 射程距離をよく把握した、士気の高い攻撃は、先ほどの散発的な先遣隊のゲラボゴの戦い方とはまるで異なる統制であった。
 だが、攻撃には波がある。優勢と劣勢は常に変動し、攻撃の切れ間に目ざとく切り込みを入れていくキャバリアの一団があった。
 戦いに慣れているらしいALOの一団は、こちらへの牽制を利用して切り込んでいく。抜け目がないと言えばそうだが、焦れた攻勢とも言える。
 呼吸に合わせてやる必要はない。
 再び弾幕が張られるも、切り込んだALOの影響か、その統制は乱れている。
 【フォックストロット】。ブースター推力を切り替え、前進推力を維持したままサイドブーストや脚部のステップを利用し、雪原を跳ねる雪兎かそれを追う狐の如く三次元的な軌道で弾幕を抜けていく。
「そこに必要なのは正直と誠実だけであって──」
 前方に邪魔な一機。射線が重なるのを感じるのも一瞬。
 プラズマライフルを一撃。粒子ビームがゲラボゴの頭部を貫き、カメラを含むセンサーを破壊、崩れ落ちるのも待たず脇をすり抜けていく。
 その先に、巨体が待ち受けている。
 ジェネラルキャバリアに遠隔武装は無いようだが、その装甲と大振りな斧槍は侮れない。
 そしてALOも善戦しているとはいえ、周囲の機体もなかなかの練度を持っている。
 だが問題は無い。プラズマキャノンの発射体勢はすでに整っている。
『うぬ! ここまで上がってきたか!』
「──皮相的な善などではないと肝に銘じなさい」
 どうっ、と機体全体に反動がくるほどの大口径キャノンのビーム砲。ビーム砲に反動とか何考えてるのと言われたらそれまでだが、とにかく大出力の砲撃は、ジェネラルとその周囲の直掩部隊をも巻き込んで炸裂する。
 直撃した感触。言いたいことも言った。若干の満足もあるものの、あの重装甲がそう簡単に潰れてくれるか。
『おお、なんとなんと……我が愛馬がまたやられてしまったぞ。本当に巨神ではないのか、まったく』
 ごうごうと燃え落ちる機体の残骸の中から、よろよろと崩れる数々のキャバリアの中に、彼の者の馬型のキャバリアの姿もあったが、炎に包まれてハルバードを手に飛び出すのは、まだ健在なジェネラルの姿。
「まだ、仕上げが残っているようですね。片付けてしまいましょう」
 消耗品のように馬が出てくるのは予想外だったが、こちらの武装の威力も十分であることはわかった。
 武装の残弾、エネルギー余剰を確認しつつ、ノエルは目の前の戦いに集中するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベティ・チェン
「…幸せに、ダイダラ」
ここに残るなら攫ってでも連れていったけど
そうはならなそう
…残る選択なんてしたらスーロンの異空間潜航で無理矢理攫うけど

「行こう、スペランサ」
スペランサに乗りUC使用
「ドーモ、バンデット=サン。ベティ、デス。キリステ・ゴーメン!」
マッハ12で飛行しヒット&アウェイ戦法
スペランサの偽神兵器振り回し雷属性の斬撃を馬と敵機に放つ
敵の攻撃は素の能力値で回避
馬の足を叩き折り機動力奪う
ALOに敵の指揮官の生存が必要か確認
不要という回答なら電撃で相手の機体を焼き尽くしてからコクピットごと叩き潰す

「プラントじゃない偽装も、ALOとすれば、いい。ガンバレ」
他と争ってもALOに最大限便宜を図る


雁帰・二三夫
「…姉に勝る弟などいない!」
「トレスさん、また何か読みましたね…」

「さっき、愚弟がいた。負けられない」
「そういう理由で戦うのもどうかと…わっ?!」
おっさん問答無用で30m級竜型巨神G-O-リアス3号機トレスの操縦席に叩き込まれた

「前の戦闘で馬の足がかなり傷ついてますね…トレスさん、キャノン砲連射で叩き折りましょう」
「…合点承知!」
「トレスさん…」
UCで弱点看破し的確に攻撃指示
能力値見切り攻撃や退避も指示
最後は足と頭を吹き飛ばし敵を捕獲

戦闘後は捕虜の聴取にもUC使用
交渉に有利な材料集め神父達とALOに提供
「ダイダラさんが居なくなったら、貴方達で里とプラントを守るんです。情報共有しませんか」



「……幸せに、ダイダラ」
 一人、修道施設のほうへと視線を向けて、祈るようにして、ベティ・チェンは一度だけ瞑目した。
 よく言えばのどかで、悪く言えば代り映えのしない沢の傍で、しかしながら忍者の方向感覚は確かである。
 今はただの一人。迷い犬のように里の人間にコンタクトを取りにいって、必要ではない程度の失望を人知れず買ったベティは、それでも彼女の戦う理由としては必要であったものを手に入れていた。
 猟兵と共に、無垢な少女の魂を捧げられた巨神が戦うことが善であるのか、それはわからないが、この辺鄙な里で無限に戦い続けるのもまた悪夢であろう。
 少なくとも、この里から巨神がいなくなれば、それに生贄と捧げられるために作られる少女たちは不必要になるはずだ。
 怪物と化した少女の魂がどこへ行くのか、そんなことは知らないが、猟兵と共に歩むのならば、きっととんでもない体験をすることになるのは間違いない。
 もうこの里に意固地になって残ろうというダイダラは存在しないらしい。
 尤も、そんなことを言うなら、スーロンの異空間潜航で攫ってしまう算段もあったのだが。
 そういえば、スーロンの砲撃の音が止んでしばらく経つ。料金分の仕事はしてくれたらしい。
 トモダチ価格で、ベティの野暮用の合間にゲラボゴの先遣隊を相手取ってくれていたようだが、どうやら通信を傍受する限り敵本隊はまだ健在。
「行こう、スペランサ」
 もう一体の巨神スペランサに乗り込んで、おそらくは最後になるであろう戦いに参戦する。
 忍者らしくこっそりとやる必要はない。この先はきっと乱戦となるならば、周囲に気を配る必要はもはやない。
 普段ベティが用いるような大剣の形状をした偽神兵器を、スペランサもまた所持している。その力【偽神降臨】を開放し、全速力で戦場へと飛び立つ。
 ──一方そのころ、里の方面で戦術支援まわりで奔走していた雁帰二三夫は、遺跡からのっしのっしと大股で出歩く絶世の美女の姿を見つけて慌てて追いかけていた。
 巨神が人の姿を取ることは珍しくないらしいが、彼女は猟兵との友誼を交わした個体の中でもかなり自由な性格をしているというか、どちらかというと戦いに向くことがすくない二三夫に対して闘争心剥き出しであるようだ。
 その高い闘争心をもつ彼女の手綱を握るといえば聞こえはいいが、実際それくらいでなければ巨神の相手など勤まらないのだろう。
 そして、強敵が現れた時など、彼女の昂った心は、半端な事では収まるまい。
「……姉に勝る弟などいない!」
「トレスさん、また何か読みましたね……」
 二三夫が追い付くなり、はきはきとした物言いで、何か一言ではよくわからないことを言い始めたので、まあ何か気に食わない事でもあったのだろうと思い至るが、はて何を見たのか。
「さっき、愚弟がいた。負けられない」
「そういう理由で戦うのもどうかと……わっ?!」
 愚弟、弟……? 話を聞くうち、次第に思い至る。
 巨神G-O-リアス。30メートルクラスのドラゴン型キャバリアの姿は、ひとたび戦場に姿を現せば、すぐにわかる。
 おおかた、先ほどの先遣隊での戦いで活躍していた四龍スーロンの姿をちらっと見たのだろう。三号機トレスとしては、戦いの場を奪われたような気分になったのかもしれない。
 ほかのキャバリアだって活躍しているはずだが、同型が出てくるのとではまた心持が違うのかもしれない。
 などと考えているうち、気が付けば二三夫は本来の姿に戻ったトレスのコクピットへと放り込まれていた。
『チッ、やっぱ、本隊は士気が高い。指揮官機に近づけないよ』
『やはり規模が違うな。3機では限界だ。退くことをそろそろ提案したいが』
『いや、助っ人は来たみたいだ。露払いだ。道を開けよう』
 敵本隊への側面攻撃を行っていたALOの部隊は、劣勢を強いられつつも戦況を見る余裕は残していた。
 立派な馬の姿をしたキャバリアを乗りこなす指揮官機による的確な用兵に対し、動きを止めず少数故のアトランダムな連携をとることで狙いを定めさせずにいた。
 しかしそれは拮抗を、進軍を遅らせる遅滞戦術に過ぎなかった。
 機動力こそあれ決定打に欠ける機体ゆえに仕方のないところだったが、そこへ切り込めるだけのパワーを持った、たとえば巨神のような機体が居ればどうだろうか。
 ALO、リベレーターのレーダーには高速でこの場へ接近する機影を確かにとらえていて、その瞬間に合わせるべく敵の直掩への集中砲火を重ねるのであった。
 オレンジに燃える砲火の花道。そこを切り開く音速の巨神、スペランサが、獣の如く部隊の中心ジェネラルキャバリアへと食らいつく。
「ドーモ、バンデット=サン。ベティ、デス。キリステ・ゴーメン!」
 担いだ大剣をその勢いのままに振り下ろすその一撃を、ジェネラルは騎乗のままハルバードで迎え撃つことで受けきるが、勢いの乗った攻撃を前に二機分のキャバリアで以てしてもその四肢がバランスを崩して仰け反る。
 ベティ、スペランサもまた大振りな斧槍に弾かれる様にして着地し、キャバリアとは思えぬしなやかさで屈みこむような態勢で再び大剣を担ぐ。
 ネコ科動物か、もしくは飛び掛かる直前の狼のように足にためを作る態勢を取るのは一瞬。
 その一瞬の合間に、
「奴の生存は、必要?」
『彼はこの国の将校だ。生かしたほうが価値が高い』
「……わかった」
 ふう、と言葉を飲み込んで嘆息する気配を残し、再び飛び掛かる。
 馬鹿の一つ覚えのような上段からの斬り下ろし。その手は食わぬとばかり再びハルバードを振りかぶるが、忍者も獣も狩りに関してはクレバーである。
 音速の踏み込みはしかし、ジェネラル本体ではなく本命はその馬の方。重装甲のジェネラルを乗せたまま駆けまわれる厄介な足回りを先に削り取るのが狙いである。
『ギィィィッ!!』
 激しい嘶き。フェイントをかけて上段打ちから手首を返して振り上げるように馬の足を狙った一撃は、回避行動もあって足を折り取るのではなく脇腹を打ったが、それでも深刻なダメージには変わりなく──、
 それを少し離れた位置から目ざとく看破したものが居た。
「今の交錯で馬の足がかなり傷ついてますね……トレスさん、キャノン砲連射で叩き折りましょう」
『……合点承知!』
「トレスさん……」
 【ピーピング・トム】で見切ったそのわずかな劣勢を、若干時代を感じる応答で言葉少なにしかし的確にキャノンを撃ち込む。
 ともすれば味方を巻き込みかねない攻撃ながら、獣のような感覚と情報の共有もあってか、砲撃の瞬間にスペランサもALOも素早く退避を行っていた。
 残されたジェネラルは、その直撃を主人を守るべく上体を上げる馬に守られながら爆風に巻き込まれた。
「馬までも、士気が高いとは」
『本体には浅かったかも』
「なら、倒れるまで、打ち込む」
 もうもうと立ち上がる爆炎の中でアイカメラを光らせるジェネラルが健在であることを認めたところ、ベティはそのスペランサの握る偽神兵器に雷迸らせて、三度飛び掛かるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クゥ・クラウ
アインベルに搭乗。

『プラントを抜きにしても、軍にとっては武装勢力が自国内に居座っていることに変わりはない』
AIのジョン・ドゥが言う。
『やれることは、彼らが無闇に蜂の巣をつつかないよう脅かすことくらいだろう』
それなら、いつもと変わらない。

天翼を起動して相手に接近。
リミッター一時解除。思考を高速化させて相手の攻撃を掻い潜り、体当たりするように肉薄。コックピットを外して掌を押し当てる。
UC【腕部内蔵ビームパイル】。ゼロ距離から撃ち出した光の杭で相手の重装甲を貫く。
《限界突破2、瞬間思考力5、見切り2》

ワタシが出来ることはこれだけ。
巨神に乗るはずだった彼女たちは、これからどうするのだろう……?



 銃撃、爆発、そして鉄騎の駆ける震動。
 平和な山里に剣呑な響きがこだまする。
 そんなものとは無縁だったはずの世界に、戦火の音が襲い掛かる。
 どこまで行っても、戦う力を持って歩けばそれにぶち当たるという事なのだろうか。
 センチメンタルな思考が浮かびかけるも、レプリカントの少女、クゥ・クラウは戦闘に差し掛かるにあたり、冷静に彼我の戦力差を計算し、分析を行っていた。
「先遣隊と違って、統制が取れている……たぶん、軍属」
 共有されるデータによれば、彼らはどうやらこの国の所属。
 オブリビオンマシンの影響か、その思想が汚染されているらしいが、狙いはプラントか巨神か。
『プラントを抜きにしても、軍にとっては武装勢力が自国内に居座っていることに変わりはない』
 古代魔導の技術を用いたクロムキャバリア『アインベル』のコクピットの中で、クゥの支援AIであるジョン・ドゥが呟く。
 彼らの視点に立ってみれば、猟兵やALOはむしろ国にとって異物であろう。
 大義名分は十分に立つ。とはいえ、ここまでの事情を知ってしまっているし、話をする間もなく襲い来る相手に今更刃は引けない。
『やれることは、彼らが無闇に蜂の巣をつつかないよう脅かすことくらいだろう』
 それならば、いつもとやることは変わらない。
 むなしいことに、猟兵のような格別の力を持つ者は、そのほとんどを破壊のためにしか使えない。
 それが一番シンプルで、わかりやすく、効果的であることを知っているからだ。
 幸いにして、それをしていい相手が、力を振りかざしてやって来る。
 事情はともかくとして、相手がシンプルな場に出てくれることは、ありがたい事なのかもしれない。
「敵陣を抜ける。指揮官の首を取る」
『了解だ。ルートはこちらで構築しよう』
 サブマシンガンを手に、ジェネラル麾下の部隊を前にし、アインベルは天翼のエネルギーを発露する。
 白い装甲の各所に緑の魔力光が迸り、スラスター余剰の粒子が抜け落ちた羽の如く散りながら、機体を加速させる。
 ALOの機体も戦っている。こちらの動きに呼応するかのように、ジェネラルの部隊を分断し、道を作ってくれているようだ。
 その連携の妙。数量で圧倒的に不利を背負いながら、なかなかの動きだ。
『接敵する。敵の近接武装に注意せよ』
「リミッター解除。ぶつける」
 援護射撃、それから活路を見出すための牽制射撃もほどほどに、ほぼ直線でジェネラルへの道が開いたところでクゥは機体を加速させる。
 出力の一時的な上昇に伴い、その思考は飛躍的に加速し、瞬間的に処理可能な情報量を激増させた影響か、周囲の光景はまるで退行したかのようにしずかにゆるりと流れ、空気が鉛のように重くなったような錯覚すら覚える。
 目の前のオブリビオンマシンと目が合い、大振りなハルバードを実に巧みに運用してこちらに向けてくるのが見て取れるが、スラスト角とブースト出力を微細に調整、ほとんど感覚的に機体制動を行うことで、その軌道上から紙一重で逸れつつもジェネラルの間合いの内側にまで肉薄、そのまま慣性の許すまま体当たりのように押しやりながらアインベルの手の平を胸部装甲に押しつける。
「コクピットは?」
『大丈夫、直撃ではない』
 【腕部内蔵ビームパイル】そのインパクトの瞬間、確認のためのやり取りのすぐ後に、密着距離から撃ち出されるエネルギーの杭が光と共に射出され、ジェネラルの分厚い装甲を焼き貫いた。
 爆音、衝撃、腹の底が震えるような圧力を覚えつつ、時間の退行がすぐさま日常を取り戻すとともに、アインベルは全身で逆噴射によるブレーキをかけていた。
 穿った光の残滓と火花が、敵機体の装甲から反対側にかけて生えている。
 まだ、動くというのか。
 息もつかせぬほどの緊迫感がまだ晴れない以上、敵の意識はまだ戦うことを諦めてはいない。
 どす黒く色の強い戦いの空気はまだ色濃く、集中を欠くことは無い筈なのに、もうもうと白煙のごとく撒き上がる雪を見ると、もはや巨神に乗ることはないであろう少女たちの行く末を想わなくもない。
 あの子たちが、これからどこへ行くのか。おせっかいだろうか。
 不安だろうか、希望だろうか。思うことに柔らかな気分になるのだが、ここはまだ硬質な空気が残っている。
「ワタシが出来ることはこれだけ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

防人・拓也
遂に敵将のお出ましだな。ここは堂々と正面から迎え撃ってやる。
「マイラは神父達が巻き込まれないように守ってくれ。アイリス、ルイーズ。アレをやるぞ」
「マスターの仰せのままに」
「承知しました、我が君」
アイリスとルイーズは頷いて配置につくが、マイラは少々不満そうな様子を見せる。
「むぅ…私も加わりたい!」
「悪いが今回は我慢してくれ。いつかマイラも加われる戦陣を考えておくから」
「…分かった」
と話し、マイラは役目を果たす為に後退。これで準備は整った。
「2人共、頼む!」
「かしこまりました」
「承知しました!」
指定UCを発動し、アイリスが『カラドボルグ』で光の矢を連続で放ち、続いてルイーズが『神盾アイギス』と『神槍エリクトニオス』を構えて突撃して神速の刺突と弾幕の如き光弾を放ち、俺は時空間魔術・疾風瞬身で威力強化した旋風術・疾風を発動して敵へ突撃。コックピットブロックを避けつつ、機体破壊のみを狙う。
「相手が悪かったな。巨神達を束ねる者として、無様な姿を見せるわけにはいかないのでな」
アドリブ・連携可。



 戦況は決しつつある。
 さしものALOとて、たった3機では一軍を相手にするにはどうしても足りないが、猟兵たちの助けもあり、ジェネラル率いるオブリビオンマシンの軍団を里にまで進行させることは防いでいた。
 山間の戦場が、キャバリアという言うなれば歩行する戦車のぶつかり合いで以てしても広域に及ばないで済んでいるのは、ひとえにその戦術によってオブリビオン勢力を押し返しているからであろう。
 それでも踏み荒らされる新雪の山肌は黒く爛れ、銃弾やビームが飛び交う戦場は地獄の様相である。
 この場所が里の中でなく本当に良かった。
 戦いは攻め入るよりも守るほうが難しい。戦場においては常に万全であるケースのほうが少なく、拠点もまたそうであり、都合よく天然の要塞や防備が充実しているとは限らないからだ。
 今回の場合もその最たる例の一つであるだろう。
 辺境の隠れ里のようなあの集落は、攻め入られれば拠点の体を為さない、ただの平地に成り果てるだろう。最終手段として岩山の遺跡に立てこもる戦術もなくは無いが、それは本当に最終的な局面と言わざるを得ない。
 幸いにして、猟兵側は手勢が少ないにしろ打って出て敵の進行を受け止めるほどの力を見せた。
 だから安心して、防人拓也は、自ら呼び出した戦力で以て敵勢力を迎え撃つ戦略が取れるのであった。
 軍人は決して多くを信頼しない。手に持つ武器、数値のわかっている兵器、必要十分である機能性を大前提とした想定の通りの範囲内でしか戦力を編纂し得ない。
 過大でも、ましてや過少でもない。そうでなければ、作戦とは罷りならないからだ。
「マイラは神父達が巻き込まれないように守ってくれ。アイリス、ルイーズ。アレをやるぞ」
「マスターの仰せのままに」
「承知しました、我が君」
 呼び出した巨神たちに、拓也は命令を下す。全てを一挙に前に出すのではなく、連携を重視した編成のために、そのうちの一機、マイラだけを里の防衛のために下がらせる。
 その意向に、彼を信頼した上でその従僕となった巨神のうちアイリスとルイーズは首肯と共に応じるも、比較的新参者であるマイラは巨体ながらに見てわかるほどの不満をあらわにするのだった。
「むぅ……私も加わりたい!」
「悪いが今回は我慢してくれ。いつかマイラも加われる戦陣を考えておくから」
「……分かった」
 不承不承といった雰囲気で防衛に回るマイラを見送りつつ、拓也は迎え撃つ準備に取り掛かる。
 彼女たちは軍属というわけではない。無論、登録上にその肩書は必要かもしれないが、それであるとしても登記名に記されるであろうものは戦略兵器の類であろう。そこに本来、可否は無い。
 そこに人らしい情緒があるのはいかにも余分であるが、もしも彼女たちに対して人であるという認識が強まれば、分類されるべきは民間人である。
 しかしながら、それにしては個人が有するには強力過ぎる力を持っているのは言うまでもなく、むしろ、民間人に近い程の人らしい情緒を持ち合わせた少女たちに頼らざるを得ない軍人というのは、いかにも情けない。
 半ば嬉々として彼女たちを戦場に連れ立って、より効率の高い戦術を考案することは、ひょっとしたら恥ずべき事なのではないだろうか。
 自分がやっていることと、ダイダラというこの地方の巨神の成り立ちと、いったいどれほどの違いがあるのだろうか。
 そういう風に心の底に揺らぎを覚えないでもないが、現に拓也に従う巨神たちは古来から戦場を常としており、喜んで戦場に立つ武の者たちである。
 主である拓也のために明るく振る舞っているのは、負い目を感じさせないためかもしれない。
 ならばせめて、彼女たちの信に応えなければ、特殊部隊ファントムの指揮官、そして巨神たちを束ねる者としての名が廃るというものである。
 そうして待ち受けていれば、戦場がこちらへ傾いてきている気配を感じ取る。
『チッ……手間取ったな。相手の足回りに合わせていたら、失速するところだ』
『あれあれ、もうへばっちゃった? とにかく、キルゾーンまでの案内はできたかねぇ』
『味方砲撃支援に警戒。下がるよ』
 ALOの部隊が一斉にジェネラル部隊から離れるのを確かめる。
 うまくタイミングを作ってくれた。
「2人共、頼む!」
「かしこまりました」
「承知しました!」
 引き潮に合わせて、【連携戦術・疾風戦陣】を展開する。
 アイリスの名前の割にけっこう弓な古代武装『神弓カラドボルグ』から光の矢が放たれ、本来は山を削るという強力無比な牽制を、味方を撒きこまないよう威力を調整しつつ行い、その隙にルイーズが古代武装『神盾アイギス』と『神槍エリクトニオス』を構えつつ突撃を仕掛ける。
 全てが必殺の威力を誇る古代武装であるが、敵も然るもの、その神速の突きを巨大化した幻影その大振りなハルバードがかち合って受け止める。
 だが所詮は幻影。猟兵との戦いでその威力もだいぶ落ちてしまった幻影は、光の矢と槍から放たれる光弾がかき消してしまう。
「む、そこだ! 旋風術・疾風!」
『ぬう、なんとなんと……! キャバリア編隊にまぎれて、生身で突撃してくるとは!』
 二機の巨神による猛攻、そしてそれすらも敵の勢いを削ぎ落して致命的なスキを作るために用いる贅沢な戦術。
 拓也はというと、時空間魔術・疾風瞬身で威力強化した旋風術・疾風を発動して敵へ突撃を敢行していた。
 風の魔力を纏った神速の貫手がジェネラルの装甲をえぐり取る。
「そこはコクピットブロックではありませんが!?」
「機体の破壊が目的だ。こいつは生かす」
「承知しました」
『ぬううっ、まだよ! 命を取らねば、手足をくれてやってでも、戦い抜いてやるわ』
「ならば相手が悪かったな。巨神達を束ねる者として、無様な姿を見せるわけにはいかないのでな」
 分厚い装甲を素手で貫いていく生身の拓也を相手に、むしろ的が小さすぎて苦戦するジェネラルとの間には、激しい暴風が吹き荒れる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーゼロッテ・ローデンヴァルト
【POW】
※愛機搭乗
※ALO含め絡み歓迎

◆戦闘
【ファルマコン】は本来軍用車
ALOが盾に使う位平気さ

ほら、診療の邪魔っ
生体電脳&《瞬間思考力》の思考《操縦》と
【カイルス】事象予知で前方確保しつつ捌く

【ヒポグリフ・チャリオット】で【アシュヴィン】2種を
ブースター/Bガトリング・光爪/延長四肢と駆使
【エクスキューショナー】をバラしてビットで撹乱しつつ
合体状態の大出力ビーム狙撃や対艦級斬撃でヤるよっ

◆神父&AH達
ファルマコンの医療設備を《応用力》で駆使
刷り込み改善用心療ミームエージェント編纂
経典に織り込み確実性と安全性を重視
完治まで父子仲良く偽宗教を続けてもらうよ
ALOに(駐留毎の)定期報告を頼むね

◆ダイダラ
・魂
約束通りファルマコン内の【イリーガル・メディック】と
埒外の《医術》でAHの体クローンをニーズに応じ用意
自我も分割?修復&体に紐付け、後は同様に仲良く療養さ♪

・遺骸
他が要らないならファルマコンで搬出
武装商船団偽装にも付き合おうか
抜け殻でも放置は厄ネタ必至
『第三の生』の宛もあるんでね♪


朱鷺透・小枝子
自分でも、他の者でも、誰についていくのか、
ついていかないのかは貴殿ら次第。その選択を自分は尊重しましょう

……言いたい事は大体言いました。敵に集中します

デスレーザー牽制射。敵を寄らせず、己が【闘争心】を励起させる。
…後は、自分が為すべきを為す。敵を壊す、そうだ、敵を!
『敵を壊す。唯それだけを』為せ、壊し尽くせ!!
黒輪光、背部展開

ダイダラ砲、発射用意!

【結界術】霊障怨念結界の空間支配で敵の作る引力を断ちオーバーロード!
黒輪光から霊物質を生成しダイダラへ【エネルギー充填限界突破】
ダイダラ砲【範囲攻撃】
これでもかと注ぎ込み続けた己が【呪詛】を以てして、

『己が敵を、唯それだけを、壊せ!!』

己が破壊の感情闘争心が狙うモノだけを、味方や敵の中の者余分へ割く破壊は無い、己が敵、周囲一帯のオブリビオンマシンのみを、纏めて破壊する!!!

だぁあああいだあああらぁぁああああ!!!!!


……あ、殺し合いのない世界アスアス空の果ての宙スペワ辺りに、行ってみませんか?多分、衝撃的でありますよ?


鳴上・冬季
「ダイダラ、ALO、神父、里。四方丸く収まるようで何よりです」
嗤う

「後は国を名乗る無法者を片付けるだけですが…貴方達の戦略であれは必要ですか」
指揮官生死はALOの戦略に任す
「貴方達はこれから里や神父、下手をすればこの国とも仲良くお付き合いをする必要があります。ならば必要な汚れ仕事は私達がすれば宜しい。敵の敵を味方になさい。私達は一向に困りません」
嗤う
「私達は強者であり流れ者であるがゆえに、その地が1番丸く収まる方法で忘我を絶つ手段があれば忌避しません。そして私はヒト嫌いであるがゆえに、ヒトが貶め押さえつけるものには手を貸します。貴女達の尊厳が回復されるまで、私は貴女達の行動を尊重しましょう」
嗤う

「それでは決着をつけましょう。…合一・真黄巾力士」
追加UC︰仙術・獣夜礼讃
馬と敵機を合わせたサイズまで巨大化した黄巾力士に融合
引力に合わせ仙術+功夫で縮地(短距離転移)し接敵
空中機動でトリッキーな動きを混ぜつつ金磚と雷撃でガンフーして連続攻撃
敵の攻撃は超再生力で無効化
敵機を完膚無きまでに破壊する



『あーもー、こいつなんなの!? ぜんぜん抑え込めない』
『焦れるなよ。確実にダメージは与えてるはずだ』
 猟兵たちと共に、雪原で戦闘を繰り返していたALOの面々は、敵軍の堅牢さに舌を巻いていた。
 機動力を重視した戦闘スタイルとはいえ、着実に命中させているはずなのだが、ジェネラルキャバリアの進行を止めるには至らなかった。
「あっあー、テステス……ファルマコン通るよー、どいたどいた、医療の邪魔すんじゃないっ」
『っ、レーダー注視、進路確保!』
 じりじりとした戦局の後退を余儀なくされるところを、まるで戦線を分断するかの如く、冗談のような通信の後、長蛇の如く連結した巨大医療車輛群ファルマコンが、横切る。
 共有化された通信網によって明示されたポイントから慌てて退去したALOの機体は、それら介入を起点として再び戦線を構築し始める。
「いやー、ごめんねぇ。ちょっと色々野暮用やっててさ」
『助かったけど、艦艇を前に出して大丈夫かい?』
「ノンノン、言いっこなしよ。ファルマコンはもともと軍用。盾に使うくらい平気さ」
 それに、と諸々の艦艇のオーナーであるリーゼロッテ・ローデンヴァルトは、量産機のカスタムチューン『ナインス・ライン』に搭乗して降り立ち、自らを説得力とせんとばかり、積載量に飽かした拡張肢アシュヴィンにありったけ乗っけた思い思いの武装を展開する。
 背部ブースターにも変形するウェポンコンテナを兼ねるそれは、【Op.CXLVI:HG.CHARIOTヒポグリフ・チャリオット】まさしく奇形の戦車の如き重武装。
「雑魚ごとやっちゃうけど、構わないね」
『連中を止められるなら、なんでもいい。ところで、野暮用というのは、彼女たちの事かな』
「医療従事者としちゃあね……まあ、目途があったからやったことさ」
『うれしい知らせだよ』
 ビームガトリング、光爪、ブースター、戦況によって遠近を切り替え、時に機体制御のために駆使される奇妙な延長装備は、ともすればそれだけで機体を振りまわりかねない、危うげなバランス感覚で使い分けられ、それだけに操縦するリーゼロッテにも負担を強いる筈だがマルチタスクの為せる技か、ALOと会話を挟むほどの余裕すら見せた。
 そしてそんな彼女たちに介入すべく、新たな人影も。
「ダイダラ、ALO、神父、里。四方丸く収まるようで何よりです」
 黄金色の光線は、鳴上冬季の所有する歩行戦車『黄巾力士』の装備する宝貝『金磚』による援護射撃であった。
「後は国を名乗る無法者を片付けるだけですが……貴方達の戦略であれは必要ですか」
『勿論。可能なら、生かしてほしい。連中が正気であろうとなかろうと……プラント隠蔽の偽装工作に一役買ってもらう……安全とは言い難い。誰かが泥を被ることになるけどね』
 含みを持たせるようなALO代表の物言いは、既にお尋ね者としてそこそこ名高いテロリストの謂れを持つに等しい憂いを含んでいたが、その振る舞いにこそ冬季はフフンと鼻を鳴らす。
「貴方達はこれから里や神父、下手をすればこの国とも仲良くお付き合いをする必要があります。ならば必要な汚れ仕事は私達がすれば宜しい。敵の敵を味方になさい。私達は一向に困りません」
『我々もまた、侵略者に過ぎない。無論、あなた方の手前、便宜は約束しなくてはならないがね。まさか、ただで受け取れと?』
「私達は強者であり流れ者であるがゆえに、その地が1番丸く収まる方法で忘我を絶つ手段があれば忌避しません。そして私はヒト嫌いであるがゆえに、ヒトが貶め押さえつけるものには手を貸します。彼女達の尊厳が回復されるまで、私は貴女達の行動を尊重しましょう」
『困ったな……そうまで言わせてしまうと、真面目にやらないといけなくなってしまう』
 ヒト嫌いを謳う妖狐であり仙狐は、涼しげに笑う。戦場にそぐわぬ笑みをそこまで偽りなく浮かべてしまえるのは、善悪を越えた好奇心、ともすれば本当に救い上げたいものだけを手に取って掬う傲慢さにも見えるが、人の愚かしきを見ていたいという悪戯心からくる慈愛ともつかないような気まぐれな優しさであるのかもしれない。
 自己矛盾はしばしば伝播する。人の抱えるアンビバレントな感慨は、時に長く生きる者の思想を複雑怪奇にしてしまう。
 歪んだ愛情。そう言ってしまえばシンプルだろうが……。その本当のところは、きっと誰にも理解ができない。
 ただ、彼の抱える正義とは、面白いと愛でるものを、横合いから掻っ攫うような不細工を許すことは無いということだ。
 後の世に英傑とされる者の多くは強欲であり、多くを欲しがった結果がそれなのだろう。言うてしまえばシンプルなものだ。
「それでは決着をつけましょう。……【合一・真黄巾力士】」
 多くを含む感慨を涼しげを崩すことのない笑みに覆い、冬季は自身が組み上げた宝貝としてそこそこ付き合いの長くなってしまった歩行戦車、黄巾力士と合一を果たし、その体格を増大させる。
『なんとなんと……どうやら、ここが正念場……むぅ、そして巨神もやってきたか!』
 すでに負傷しているジェネラルは、巨大化した金色の黄巾力士と対峙するも、その視点は黄金の肩の向こうからやって来る巨体に移っていた。
 下半身に対して上半身が発達した、フィクションに誇張されたボディビルダーを思わせるアンバランスな体格は、現行の標準的なキャバリアの規格の倍以上はあろうかという巨体。
 巨神ダイダラ。伝承に伝え聞く巨人伝説にも準えたかのような大型のキャバリアは、しかし歪んだ思想から遺骸を掘り起こして動かしている古の兵の一人に過ぎず、おそらくは人としてすら作られていないその顔は異形であり、目のように見えるアイカメラは実質二つだけで、五つ目に見えるそれら残りは兵器の発射口である。
「まだ動く機体が残っていましたか」
「待った。あれは猟兵が持ち出したやつだ。顔見知りだよ」
 警戒するような気配を見せる冬季は、完全武装のダイダラが動いていることを訝しんだが、間に入ったリーゼロッテに制止され、その様子を伺う。
「アンタでしょう、ダイダラ砲だけもぎ取って放置してたの」
「あれは人の世には不要な兵器かと。ああしておけば、少なくとも彼女たちが要らぬ犠牲を払うことは無いでしょう?」
「パワー味が過ぎる!」
 さらりと受け流す冬季にリーゼロッテは少々お冠だが、肝心のダイダラ砲抜きの無人のダイダラは既に医療艇に回収済みである。
 そこに少女たちの意識が残っていようと、リーゼロッテには秘策があるのだが……。
「それよか、敵の排除だよ。ダイダラに乗ってるのは小枝子くん? 動くわけ?」
「リリー先生、殿……はい、彼女たちが手伝ってくれてます!」
 最後にダイダラに乗り付けて登場した朱鷺透小枝子は、思わぬ知己との出会いに戸惑いを見せたが、戦場で気を抜くことはできない。即座に応じ、そしてそれと共にコクピットの周囲に温かい気配を同時に感じる。
「オーケー、無茶はしないでよね。特にあれは、乱発しちゃダメー。どうなるか、知ってるでしょ?」
「約束は致しかねますが……はい!」
「んー、じゃま、やろっか♪ そっちのいい男も、変な視線は仕事を片付けてから、ね」
「人聞きの悪い。ですが、まぁ、今は戦いの場……」
 すでに覚悟を感じ取ったかのような、しかし軽い対応のリーゼロッテに、不思議と不和の感覚も同時に向こう側──倒すべくオブリビオンマシンへと向いていた。
「自分でも、他の者でも、誰についていくのか、
 ついていかないのかは貴殿ら次第。その選択を自分は尊重しましょう」
『お姉さん……』
 コクピットの中で向けた笑顔は、きっと小枝子の周囲、そのあちこちを握り締める暖かな気配に向けたものであったろう。
 この温かさに身を委ねて冷静なままでいられるのも、これまでであろう。自分自身の闘争心に目覚めてしまえば、彼女たちを気遣っている余裕を持てるかどうか。
 ましてや、目の前にオブリビオンマシンが居る。
「……言いたい事は大体言いました。敵に集中します」
『手伝うよ。全武装スタンバイ』
 それはもう小枝子の意のままに機能し、光子レーザーバルカンを備えた頭部が無数の光線を発射すれば、一気に戦端が開いた。
 その瞬間から、闘争心が膨れ上がるのがわかった。オブリビオンに対する言い様もない憎しみ、呪詛、それが形を成すかのように己を燃やさんと身体の内内から溢れ出るのを感じる。
 もう止まれやしない。兵士としての本能にスイッチが入った小枝子は、ほんとうにただの一兵卒。役割を担う者の一体に成り下がる。
 為すべきを為せ。敵を倒せ。そう、敵を!
「【敵を倒す。唯それだけを】為せ。壊し尽くせ!」
 膨れ上がる呪詛が形を成すかのように、ダイダラの背後に黒い光輪を呼び寄せる。それはダイダラの武装ではなく、小枝子の意図したかどうかは不明な、霊物質を生成するものである。
 果てのない怒り、憎しみの根源がどこにあるのかはわからないが、それが為すべきことは知っている。
「ダイダラ砲、発射用意……!」
『発射体勢、エンゲージ……使うの、本当に……?』
 逡巡する気配を感じるも、それに応じる代わりに燃え上がるような形相のみで照準を睨みつける。
 そして、その気配を察してか知らずか、冬季とリーゼロッテもジェネラルの捕り物にかかっていた。
「獣夜礼賛……今よりここは夜となる」
 唐突に現れた真円に近いような月夜が、獣にとっての無限に近い再生能力を想起させ、人化を解かずとも七尾狐の妖術を使えるほどの力を得る。
「夜ゥ? ああ、全力出す気なのね」
 唐突に周囲が真昼から夜中のような暗闇に陥って面食らったものの、冬季と合一した黄巾力士が飛躍的にその躍動を跳ね上げたのを見て納得する。
 砲戦仕様と思われた人型の戦車は、その姿に似合わず先刻の巨神が見せたような柔らかな駆動を見せ、微細な体重移動も、冬季自身の功夫、仙術をも再現すべく、雷公鞭と金磚を両手に、中距離から飛び回るようにして戦車らしからぬ、弾道統計学のようなトリッキーな空中機動を見せつけつつ、その一発一発を着実に騎乗したジェネラルに命中させ、動きを封じていく。
 戦車というからにはその関節は砲撃を安定させるためにあえて鈍くしているはずだが、無茶なガンフー機動についていけるものなのか。そんな筈は無いが、関節にかかる負担は超再生能力で無理矢理にちぎれては再生を繰り返すことで対応しているらしかった。
 ロボットの動きじゃない。
「オーケー、功夫マスター。メカに真っ向から喧嘩売るタイプのやつね。オーケー」
 猟兵の戦い方というのは、それぞれの思想が色濃く出るものだが、異色のものを目にするリーゼロッテはむしろ対抗心を刺激される。
 ならば、敢えてキャバリアらしく機械らしいその機関を用いた多彩な武装と、その用法で以て対抗しよう。
 アシュヴィンで拡張した武装群による集束ビームから、ビット展開、ブーストで肉薄、崩れかけたバランスを光爪で無理矢理地表に食らいついて慣性モーメントの乗ったところに刃の付いたビットが集束、手にした対艦剣が成り上がり、最後の一刀がジェネラルを打つ。
 雷光が、白刃が、人馬一体と化したジェネラルを斬り付ける。それはほとんど同時だった。
 巨大を誇っていたハルバードはついに腕ごと吹き飛ばされ、幾度も呼び出された馬型のキャバリアも倒れ、落馬したジェネラルには──、
『撃ったら、溶けちゃうよ……モーたちと、一緒に来るの……?』
「大丈夫……だから、撃て、撃て……撃つ!」
 オーバーロード。燃える瞳が、燃える魂が、言い様のない感情が、背後に浮かんだ黒輪光から霊物質がエネルギーとして注ぎ込まれていく。
 ダイダラ砲を、反物質を生成するに足るだけの、パイロット一人分の物理的情報量に足るエネルギーが充填される。
『己が敵を、唯それだけを、壊せ!!』
 反物質とは、たとえばAという物質に対する-Aというものであり、反物質砲とは、それをぶつけて対消滅を起こすものである。言ってしまえば、対消滅を起こすのは特定の物質に対応した反物質のみである。
 尤も、ダイダラ砲は反物質を粒子加速により極超音速にまで加速させることで対消滅爆発を起こすことで、そこに反物質の必然性はほとんどないほど強力無比なのだが……小枝子のユーベルコードは、取捨選択を行う。
 破壊するのはマシンだけ。不幸をまき散らすオブリビオンのみを、この世から排除する。
 できるはずだ。この優しい少女たちならば……。やれるはずだ、
「だぁあああいだあああらぁぁああああ!!!!!」
 背負ったバックパックが肩越しに展開し、大きな砲と化した破滅の一撃は、光の粒子を伴い、存外に美しい燐光を帯びた光跡を残していった。
 コクピットの中で、操縦桿を握り締める小枝子の腕に、白い少女の手がいくつも添えられている温もりがあった。
 白い少女たちの意思が、小枝子を逝かせまいとその身体の形状を確かめているかのようでもあった。
 敵機の気配は消え失せた。
 急速に身体から熱が失せていくような感覚と共に、泥のように眠くなっていく気配がする。もしかしたら、このまま溶けてしまうのかも。
「さて──」
 心地よい疲労感と共に溶けていきそうな思考は、男の冷静な声と共に引き戻される。
「その機体、貴女はどうされるおつもりでしょう? ここに置いて行かれるのでしょうか?」
「それは……彼女たちが決めればいいと……」
 冬季の表情こそ笑顔であるものの、その言葉には刺すような鋭さがあった。
 彼としては、いや、多くの猟兵が、ここにダイダラという存在を好とはすまい。
 小枝子としては、似たような境遇の彼女たちの意思の外側に立つのは難しいが、かといって自分が身を投じるような戦場に連れまわすのもどうだろう……と悩むところであった。
「まーまー、そんな物騒な目で、女の子を見ちゃダメよ。解決策なら用意してるってばさー」
 剣呑な雰囲気を僅かににじませるところで、リーゼロッテが割って入るようにして医療艇ファルマコンの外殻をこつこつと叩いて見せる。
 様々な意味合いでイリーガルな医者であるというリーゼロッテの技術と言うものは、それこそアンサーヒューマンらしいというか、倫理から外れているだけに出せる答えだった。
 施設に唯一残された、ダイダラ砲のみを破壊された機体をサンプルに回収したリーゼロッテは、そこの中枢、制御AIに取りついた意思の集合体、少女たちの魂とも言うべきものの移送を、この短時間で成し得たというのだ。
「なるほど、クローニング……自分たちでさんざんやってきたとはいえ、こんな手を使うとはね」
「リリー先生に倫理を問うかい?」
「いや、因果を感じただけだよ。乗り掛かった舟というやつさ。なんだったか、呉越同舟というのかな」
「ふーん、そっちも事情がありそうね……あ、これ、神父さんとAHの女の子たちにプレゼントしておいてね」
「これは、経典? 最近の医者は、宗教もやるのか?」
「違う違う、これはね……」
 行き場をなくした少女たちの魂の受け入れ先に、アンサーヒューマンの少女たちの肉体をクローニングするという発想を聞いた時には、ALOの面々は微妙そうな顔をしたという。
 ALOの出身である黎国と愁国という二国間では、アンサーヒューマン同士による代理戦争がショービジネスとして行われ、戦わされる戦士はたとえ瀕死の重傷を負ってもクローニングと記憶の転写を行って何事もなかったかのように再び華やかな殺し合いの世界に返り咲く。戦士の死ですらエンターテイメントと化し、翌日には同じ顔と記憶を背負った戦士が再来する歪んだ世界からすれば、今更倫理などという言葉は陳腐であった。
 それを曖昧に濁しつつ、今度は渡された経典の内容に驚くことになった。
 リーゼロッテが用意した偽物の経典には、簡単に言えばアンサーヒューマンの少女たちに生来から施された刷り込みや洗脳と言った初期教育の汚点をゆっくりと矯正するミームを含めたリーディングセラピーのような内容が編纂されているのだという。
「こんなものをよくも、あんな短時間で作れたもんだね」
「先生は褒められて伸びるタイプです。まーでも、あの子らが完治するまでは、少なくとも父子仲良く偽宗教やってもらうことになるんだけどさ」
「大した事じゃない。問題はこっちだな……」
 医療艇に搬入されたけが人の中には、ジェネラルキャバリアに搭乗していた将校の姿もあった。
 オブリビオンマシンの洗脳が溶けて呆然自失と、状況の把握に四苦八苦していたらしい将校のこれまでの言い分に嘘は無いらしく、本当にこの国の軍人だという。
「彼等には軍規に反したという負い目がある。あちこちで頻発しているという、オブリビオン? とかいう仕業らしいが、彼らの侵攻に伴う戦闘記録に目をつむる代わり、こちらの肩書に箔をつけるべく、口裏を合わせてもらう……というのを考えているんだが」
「あー、例の武装商船団っての、本気でやるつもりなのね。いいよ。こっちも、いろいろ貰っていくから、トントンだよ。お安くしたつもりはないよ」
 今後の展望を話すALO代表リベレーターの突拍子もない話だったが、リーゼロッテは二つ返事で応じつつ、くいくいと指さす方向に、ちゃっかり医療艇に積み込んだただの遺骸と化したダイダラがあった。
 どうやら残存する古代の機体を根こそぎ持っていくつもりらしい。多くはなかったが。
 そこへ、他の猟兵たちもやって来る。
「偽装工作は、得意。ある程度は、手伝う」
「ダイダラさんが居なくなったら、貴方達で里とプラントを守るんです。情報共有しませんか」
 狼の忍者と、アスリートの40男がこの戦いで調べ上げたデータをもとに協力を申し出るつもりらしかった。
 そして、小枝子とダイダラは最後の最後まで、ダイダラの中にいる少女たちに選択を委ねることにしていたのだが、
「完全な形でダイダラを残せば、いずれ禍根となり得ましょう。あのお医者さんに任せることもできる筈では?」
「そうなんですよね。でも、なんというか……彼女たちも、心変わりがあったというか……自分を引き留めているようにも感じたので」
「ああ、哀れなお方だ。では一つ、便利な言葉で呪いをかけて差し上げよう」
 ダイダラの装甲に手を添える小枝子に言葉を投げる冬季には、相変わらずの張り付いたような笑みが浮かんでいるが、それは獣耳が生えて見えそうなくらい悪戯心を含んでいるようだった。
「彼女たちを変えたのは、誰のせいでしょう? 少なくとも、そうしてしまったからには、“責任”というものが生じるのでは?」
「ンぐっ……」
 それだけを耳打ちするように言い残すと、冬季はがやがやと騒がしくなり始めた里から忽然と姿を消していた。
 五体の溶けることなく、生きているかどうかはともかくとして、巨神と共に里へ帰ってきた小枝子は、ひとつ大きく息をつくと、古代の兵の姿を見上げてその視界に収めると、
「……あ、殺し合いのない世界アスアス空の果ての宙スペワ辺りに、行ってみませんか?多分、衝撃的でありますよ?」
 観念したかのように笑みを浮かべるのだった。
 果たして、そこに住まう少女たちは、微笑んでくれたのか。

 ・ ・ ・

 ──0005時。黎国領海内。潜水母艦シーバット。

『定時報告ご苦労。久しぶりだね、解放者ルクレッツィア。報告書を読んだよ。なんとまあ、数奇な冒険をしたものじゃないか。老人どもの相手をしているより、幾分有意義な時間を過ごせたのはうれしい誤算だったな』
「それはよかったよ、執行者ルクレッツィア。しかし、いい加減、このやり取りはやめないか? お互いに同じ顔で同じ名前を呼び合うのは、嫌な気分だ」
 深夜の海に浮かぶ潜水艦は、短距離通信と、黎国各所に張り巡らされた電波塔とで、疑似的に大統領官邸と繋がっている。
 しかしながらそれを感じさせないのは、ひとえに通信相手も艦橋から声を送るのも、全く同じ声だからだろう。
『定番となっているんだからしかたないじゃないか。そのうち、呼ぶ者も居なくなるんだ。せめて、自分たちで呼び合っていないと忘れてしまうよ。それとも君は、部下に本名で呼ばせているのか? 違うだろう』
「もういい。このやり取りも呆れるほど繰り返したんだ。それで、報告書に要求を幾つか盛り込んでいたはずだけどな?」
『テロ屋はせっかちでいけないなぁ。まあいいか。プラントを見つけてくれたのは、大収穫だ。そこに国を介入させない方策に出たのもいい判断だ。できればその国も取りたいところだが……せっかちはいけないよな?』
「自分の事さ。風の噂で、黎国の首脳がいくらか入れ替わったと聞いたよ。そちらも事を急いているんじゃないのか」
『軍備に口を出すのが増えてきて、鬱陶しかったんだよ。資金がカツカツなんだ、わかるだろう? こちらも大建築を控えてる……だから、投資はするけど、成果がなくては』
「それは保証する……無茶をしてご破算は困るからな。で、どこまで進んでいるんだい、軌道エレベーターは」
『まだ土台さ。国二つ程度じゃ、何もかもが足りないのはわかるだろう。要求の船は用意してあげるから、キミはこっちの心配なんかせずに、海賊の真似事をして、我が国を売り込んでくれ給えよ』
「……」
 通信を終えると、解放者リベレーターは大きく息をついて眉間に依った皴をほぐすように揉む。
 その後ろから二人の参謀が姿を現す。
「いいの? 巨神の報告とか、丸々すっ飛ばしちゃって」
「彼等には不要な情報さ。もう少し我々の戦力が揃ってからと思っていたが……予想より計画の進行が早いな。奴も焦っているのかもしれない」
「彼らが着工に全力を注いでからでも、遅くはないんじゃないか?」
「その頃にはもう、手が付けられない大勢力になっている可能性がある。私ならそうする」
「本人が言うんじゃなぁ……じゃあ、けっこう、急がなきゃだよねぇ」
「ああ、アンサーヒューマンの解放のために、我々は、奴らを出し抜かなくてはならない……」

 EPISODE FIN...

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年03月18日


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#クロムキャバリア
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#『巨神』
#ALO
#アンサーヒューマン解放機構


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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は廿鸚・久枝です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト