バトル・オブ・オリンピア⑭〜オーバーテイク・セラフィム
●エース
猶予はなかった。
己の機体を横切る爆発物を満載した貨物列車。
奇しくも、己が嘗て『熾盛』に勝利した時に取った戦法だった。
背後には『難民キャンプ』……戦火を逃れて地下鉄道の坑道に集まった小国家の人々がいた。
「……私が言えた義理じゃあねぇが……!」
『難民キャンプ』に迫る暴走した列車。
『アイン・ブリュンヒルド』は覚悟を決めた。
もはや自分に出来ることは覚悟を決めることだけだった。
あの列車を止められなければ、多くの生命が喪われる。
ただ喪われるだけではなかった。
火種になるだろう。終わらない戦乱の火種。
それに彼処には同じ『憂国学徒兵』の『ヌル・ラーズグリーズ』がいる。彼女だけだ。彼女だけが仲間の中で医療技術を持っている。
己の生命と天秤に懸けるまでもなかった。
「何を考えてる、『アイン』!」
「お前と同じことだよ、『フュンフ・エイル』……『戦いに際しては心に平和を』ってやつだ!」
よせ、という言葉を振り切って彼女の機体は走る。大型突撃槍すら捨てた。余分なウェイトは捨てるべきだった。そうしなければ届かない。
『閃光』のように走った。
間に合え、と願わなかった。
汎ゆるものより疾く、と彼女は願った。
『熾煌』と呼ばれる『熾盛』のデッドコピー。
それが己の機体だ。
『熾盛』は嘗て同じ戦法を前にして暴走列車を止めて見せた。
なら、できるはずだ。やれないことなどないはずだ。
「やってやるさ! この私が!!」
暴走列車の全面に飛び出す。『熾煌』のアイセンサーが熾火放つように煌めく。
火花が散る。
装甲が砕ける。
止められるわけがない。
だが、『アイン・ブリュンヒルド』は笑った。
機体が砕けながらも笑ったのだ。己は先駆け。『アイン』、最も疾き数字の名。
いつかの日に言われた言葉を思い出す。
どうしてだか、思い出したのだ。
「へっ……最後に思い出すのが、それかよ」
白い『熾煌』は、その五体を砕かれ、コクピットブロックさえも押しつぶされながらも、しかして『難民キャンプ』を守りきった――。
●聖なる哉、聖なる哉、聖なる哉
「――……うおっ、よだれ出てんじゃん」
『アイン』と呼ばれた少女は体を跳ねさせるようにして目を覚ました。
此処はアスリートアースである。
『難民キャンプ』での手伝いのせいか、疲れていたのかも知れない。
少しだけ寝ぼけ眼で彼女は口元を拭って、目の前に広がる『ローグ・ファクトリー』の驚異的な施設に驚愕するのだった。
「これがF1、バイク、エアレース……あらゆるモータースポーツの頂点に到達しながら、不慮の事故に寄って還らぬ人となった伝説のレーサー『ウィリアム・ローグ』の巨大ガレージですか」
グリモア猟兵、ナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)もまた驚愕する。
そう、『ローグ・ファクトリー』はただの巨大ガレージではない。
『ウィリアム・ローグ』が嘗て『ローグ・インターセプター』と呼ばれる超マシンを作り上げ、そのテスト走行を行うためのサーキットが併設されているのである。
「その通りだ猟兵」
振り返った其処にいたのは、レーシングスーツを身にまとったレース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』であった。
ヘルメットバイザーの奥に覗くは白骨の頭蓋。
落ち窪んだ眼窩は闇色。
されど、その闇の奥には煌めきがあった。
「モータースポーツの寵児……頂点に到達しながらなおも何を求めるというのです」
ナイアルテの言葉にレース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』は頭を振った。
「死を越えた後に、得られるものもある……」
彼は静かに言葉を紡ぐ。
だが、その言葉の奥に闘志が満ちていることを猟兵たちは知るだろう。。
「富谷栄光をかなぐり捨て、速さだけを追い求めたグランプリレーサーだけが到達できる至高の領域……私が生涯をかけて追求し、死後漸く得られた『スピードの向こう側』……」
彼の体より噴出するは、靄のようであり雲のようであった。
「その名は『アルカディア・エフェクト』」
「……!?」
ナイアルテを含めた猟兵たちはさらに驚愕する。
それは大空の世界ブルーアルカディアにおける大いなる戦いにおいて『虚神アルカディア』が発露した力でもある。
何故それをレース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』が語るのか。
「だが、これは死者には無用の長物……生命ある者たちが纏いし時のみ光り輝くこの力を、私は君たちに伝えたい」
「どういうことです」
「これは私の君たちに対する懇願ということだ」
『ウィリアム・ローグ』は、傍らにあった『ローグ・インターセプター』へと飛び乗るとアクセルを空吹かしする。
凄まじい轟音がエキゾーストパイプより放たれる。
サーキットが鳴動するようだった。
「君たちが得意とする戦闘であろうと構わない。レースでもいい。全力で私に挑み、私を越えてゆけ……! 君たちの魂の煌めきを私に示してくれ……! この『アルカディア・エフェクトの後継者』である資質を見せてくれ……!」
シグナルが点灯する。
『ウィリアム・ローグ』の宣言と共にレースが始まろうとしていた。
ナイアルテは猟兵たちに告げる。
「説明している時間はありません。これはレースです。確かにレース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』にレースで勝つことは極めて難しいことでしょう……」
ですが、とナイアルテは猟兵たちが乗り込むマシン、もしくは彼ら自身に力強く頷く。
そう、彼女は『ウィリアム・ローグ』の熱き魂に共感さえしていた。
強い相手と戦いたい。
強者を求める。
己が後を託すに値する者を求める。
その心に彼女は共感を覚えていたのだろう。
「ですが、皆さんならば! 皆さんの『魂』! その熱き血潮みなぎる『魂』を持ってぶつかればきっと!」
かの伝説のグランプリレーサーとて追い抜くことができるだろうと彼女はレッドシグナルがグリーンへと変わった瞬間に猟兵たちを声援でもって送り出すのだった――。
海鶴
マスターの海鶴です。
※これは1章構成の『バトル・オブ・オリンピア』の戦争シナリオとなります。
巨大ガレージ『ローグ・ファクトリー』のサーキットにて『ローグ・インターセプター』と共に待ち受けるレース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』とサーキットレースによる勝負を繰り広げましょう。
サーキットにおけるレース勝負となりますが、使用する乗り物は如何なるものでも構いません。なんなら生身でも構わないでしょう。兎に角速さが正義なのです。
彼は速さを極めた障害の果てに得た究極の能力『アルカディア・エフェクト』でもって凄まじい加速を得ています。
そのため、普通にレース勝負では勝ち目が極めて薄いでしょう。
ですが、皆さんのなんらかの『魂』を『ウィリアム・ローグ』が見出すことができれば、彼はそれだけで満足することでしょう。
※このシナリオに参加し成功した人は「アルカディア・エフェクトの後継者」となります。いますぐ使用できるわけではありませんが、いずれ覚醒する事があるかもしれません。
プレイングボーナス……レースを通じてウィリアム・ローグに自身の「魂」を示す。
それではアスリートアースに巻き起こる熱きスポーツバトルの祭典を戦い抜く皆さんの物語の一片となれますように、たくさんがんばります!
第1章 ボス戦
『ウィリアム・ローグ』
|
POW : アルカディア・エキゾースト
レベルm半径内を【アルカディア・エフェクト】で覆い、範囲内のあらゆる物質を【何者にも縛られぬ風】で加速、もしくは【置き去りにされた過去の光景】で減速できる。
SPD : ブラック・インフェルノ
【レーシングマシン】から、戦場全体に「敵味方を識別する【漆黒の炎】」を放ち、ダメージと【強制進化】の状態異常を与える。
WIZ : ヴォイド・リフレクション
【超加速能力】を宿した【車載兵器からの一斉砲撃】を射出する。[車載兵器からの一斉砲撃]は合計レベル回まで、加速・減速・軌道変更する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
リリスフィア・スターライト
鋼の魂のぶつかり合い。
ここは量産型キャバリアの
ワイルド・サンダーでレースに挑戦するよ。
しっかりと自分の手で整備してから挑むね。
キャバリアで思う存分
全速力で飛ばしていくよ。
相手は最速のウィリアム・ローグ、
あらゆる手段で早さを上回らないとだね。
追いつくではなく、追い抜いてみせるよ。
とにかく移動力・機動力重視で最短コースを突き進むよ。
必要なら飛行能力も惜しみなく使っていくね。
武装転移のUCも移動力を上昇させ、代わりに攻撃力を
犠牲させるように調整だね。
ウィリアムからの攻撃を受けても反撃はせずに
キャバリアの装甲と機動力を頼りに回避と先に進むことだけを考えるよ。
多少の破壊されても、その分重量が軽くなったと思って進むね。
必要ならギャバリアの武装で反撃もするよ。
速さを極めた果てに見えるもの、
それを私も見てみたいけれどそれで死ぬつもりはないよ。
皆にも見えたものは伝えていきたいからね。
「命がけで本気で走らないといけないけれど、それでもレースは楽しくさせてもらうね!」
レースサーキットに吹き荒れるは風だった。
何物にも縛られぬのが風だ。
どこまでも自由だ。
そして最速を求める者にとっては風とは即ち突破しなければならないものであった。追い風であろうと向かい風であろうと、その須くを撃ち抜くようにして走る抜けることこそが、至高のスピードの彼方へと足を踏み出すために必要なことだったのだ。
「故に私は求める。君たちが後継に値する者なのかどうか、その資質を!」
グリーンに変わったシグナル。
スタートダッシュ。
いや、ロケットスタートとも言うべき最高のスタートを切ったレース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』のマシン『ローグ・インターセプター』がエキゾーストパイプから排気音を盛大に立て、路面を噛みしめるようなグリップでもってタイヤを回転させて、一気に直進する。
一気に距離を取られたリリスフィア・スターライト(プリズムジョーカー・f02074)はしかし、動揺していなかった。
確かにスタートは出遅れた。
けれど、構わない。
これは鋼の魂のぶつかり合いだからだ。
「『ワイルド・サンダー』、行こう!」
確かに彼女が駆るキャバリアは量産型キャバリアだ。
特別ではない。けれど、彼女がカスタマイズしてきた機体なのだ。なら、それはもう十分に特別な機体であると言っても過言ではなかった。
整備も一から自分でしている。
どんな破損箇所も見逃さずに手入れをしてきたのだ。そう、機械は物言わぬ存在だ。けれど、己が手をかければ懸けただけ応えてくれるものだ。
りりスフィアの『ワイルド・サンダー』は、彼女の心に応えるように加速していく。
全速力。
「調子がいいね。でも、流石は『ウィリアム・ローグ』。最速の、とは伊達じゃないみたい」
「その通り。私は最速である。スピードの彼方を見た男だ。ならば!」
更に加速する『ローグ・インターセプター』。
その加速力は凄まじいものだった。彼の言う通り、スピードの彼方へと走り去るためだけに磨き上げられたものだと知る事ができるだろう。
吹き荒れる『アルカディア・エフェクト』に触れぬようにコース取りをしなければならないのも厄介であった。
けれど、りりスフィアの瞳がユーベルコードに輝く。
「こういう時はこっちの方が有効だよね!」
武装転移(ウエポンマスタリー)によってりりスフィアが駆る『ワイルド・サンダー』の武装が装甲に切り替わる。
変形した装甲は『アルカディア・エフェクト』に触れた瞬間にパージされ、廃棄される。
本体に影響を及ぼすまえに自切すれば、影響はない。
つまり。
「『アルカディア・エフェクト』の薄い部分なら、強行突破できるということ!」
「だが、それでもショートカットとはいくまい!」
「だけど、追いつく……ううん、追い抜くよ!」
加速する『ワイルド・サンダー』が『ウィリアム・ローグ』の『ローグ・インターセプター』との距離を詰めていく。
噴出する『アルカディア・エフェクト』によって装甲が破壊される。
「無駄だ。『アルカディア・エフェクト』に触れれば、確実に君のマシンは破壊されるぞ。それでも私に追いすがるか!」
「ええ、追い抜くためには!」
むしろ、装甲を捨てた方がよい、とさえリリスフィアは思っただろう。
傷ついたのではない。
軽くなったのだ。
「速さを極めた果てにみえるもの、それを私も見てみたいけれど」
そう、『ウィリアム・ローグ』はその果に死に至った。
死んでしまえば、前に進むことはできない。故に『アルカディア・エフェクト』を得ても意味がない。
そういう意味でも『ウィリアム・ローグ』は言ったのだろう。
生命の輝きを持たぬものが得たとしても意味がないと。
「それで死ぬつもりはないよ!」
だって、とリリスフィアは叫ぶ。
そう、自分だけが速さの極地に至っても意味がない。
「皆でそれを見たい。それを伝えたい。だから!」
「なんとする、君は!」
並ぶ。
激突する互いの機体が火花をちらし、『ワイルド・サンダー』がきしむ。
それでも、リリスフィアは熱き魂でもって叫んだ。
体勢を崩しながらも、しかし果敢にゴールを目指して。
「命懸けで本気で走らないといけないけれど、それでもレースは楽しくさせてもらうね!」
命懸けである以前に、と彼女は『ワイルド・サンダー』の中で笑う。
そう、楽しんでいるのだ。
これが自らの魂の本質だというようにリリスフィアはサーキットコースの路面を斬りつけるように己の『ワイルド・サンダー』と共に雷光のように走り抜けるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
数宮・多喜
【アドリブ改変大歓迎】
ウィリアム……バカ野郎。
アンタの死で嘆き悲しんだ人がどれだけいたと思うんだい。
それをこうして舞い戻ってきて……アタシもバカだな。
そう詰りたいのに、魂が震えてたまらねぇ。
目の前に伝説のレーサーが居て、それに挑めるなんて瞬間、レーサーに昂ぶりを抑えろって方が無理なんだよ!
ドンパチなんて小細工は抜きだ、正々堂々レースで勝負!
アタシが『騎乗』るのは決まってらぁ。
宇宙カブを『操縦』し、今持てる『運転』テクを全て注ぎ込んでウィリアムに追い縋る。
ああ、「すべて」さ。
サイキックの力も全開で周囲にフィールドを形成、空気抵抗を減らし地を這う稲妻のごとく駆け抜けるよ!
走りこそが、アタシの魂だ!
魂が震えている。
それは言いようのない感情だった。
言葉にすれば陳腐になってしまうし、声に出してしまえば霧散してしまうような頼りないものであった。
けれど、それでも数宮・多喜(撃走サイキックレーサー・f03004)は己のヘルメット……そのスカルフェイスのバイザーの奥で呟いた。
「ウィリアム……バカ野郎。アンタの死で嘆き悲しんだ人がどれだけいたと思うんだい」
彼女もその一人であったのだろう。
伝説のレーサー。
汎ゆるマシンを手繰り、次々と新記録を樹立していった栄光のドライバー。
それがレース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ」である。
彼の死は世界を震撼させるのと同時に深い悲しみに包み込んだ。
だからこそ、多喜は思うのだ。
オブリビオンとして舞い戻ってきた。確かに猟兵としては諸手を挙げて歓迎はできない。
バカ野郎、と詰め寄りたい。
魂が震えてやまない。止めようと思っても止められない。
それほどまでの衝動にかられている。
「……アタシもバカだな」
既にレースは始まっている。
眼の前に伝説のレーサーがいて、それを眺めているだけなんできようはずもない。
「レーサーに昂りを抑えろって方が無理なんだよ!」
多喜は
『騎乗』る。
己のマシン。『宇宙カブJD-1725』に。
ドンパチをしようなんて考えは一切なかった。
ただ、伝説のレーサーと競いたい。ただそれだけだったのだ。
そこに小細工など不要。
「そうとも。レーサーであるのならば、己の前に走る者があれば、追い抜こうという本能で行動しなければならない!」
「ウィリアム!」
言葉が続かない。
ただ、これは正々堂々たるレースだ。
ただ走るだけ。
今持てる己のドライビングテクニック。その全てをエンジンに注ぎ込むように多喜は『宇宙カブ』を唸らせる。
「……君の魂を感じる。ああ、そうだろうとも。ただ走ることだけを考えているのならば、こんなものは無粋だな!」
超加速。
本来ならば搭載された火器でもって後続を突き放つユーベルコードだ。
だが、それを迫る多喜の重圧を感じ『ウィリアム・ローグ』は加速だけに費やしたのだ。
一気に離される。
「たまんねぇな……やっぱり、あんたは!」
憧れた。あのスピードにドライビングテクニックに。華麗なる走りに。時に粗野で情熱的で。
憧れというのならば、こういう感情を言うのだろうと多喜は知った。
故に。
自分ができることは『すべて』をかけること。
「稲妻のごとく、駆け抜ける……!」
スカルフェイズバイザーの奥で彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
『宇宙カブ』に注ぐはサイキック。
全てのサイキックを注ぎ込んだサイキックバリアが電撃を纏いながら、一気に走り抜ける。
空気抵抗を減らし、地を這う稲妻のように駆ける。
否、それは嵐裂く稲妻(ストレガ・オーバードライブ)だった。
あらゆるものを消滅させる『アルカディア・エフェクト』があろうとも、それを切り裂く稲妻のように多喜はサーキットを走り、『ウィリアム・ローグ』を猛追するのだ。
「これが! これこそが!」
「わかるとも。君の、その感情の発露!」
「走りこそが、アタシの魂だ!」
それは伝説のレーサー『ウィリアム・ローグ』と同じくする魂だった。
走ることへの情熱。それを懸けた彼女の走りは、確かに『ウィリアム・ローグ』の魂を震わせたのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
アドナ・セファルワイド
加速能力者か…
ならば、時の停止を持ってして相手しよう
時間を停止させ、13秒毎に解除し距離を競っていく
尤も、加速能力者相手には時間を停止した後のインターバルで埋められるというのが定番であるが
だが、構わん…余も妾も既に、思うところは決めている
ーー私こそ、世界のすべて
それは己以外を存在する意味が無いと断ずる事ではない
世界が己そのものなら、血肉たる個人や国家は己で救うが摂理
ただそれだけ…私こそ、世界の全てだ
ーーならば、世界の全てと、全ての世界は私が救ってやろう
稚児でも分かる摂理というもの…尤も、稚児の夢ほど尊いものなど私の意志以外には同列に並ぶものは無いがな
時は加速していく。
それは即ち『今』を過去にしていくということ。
踏みつけにした過去は堆積して歪んでいく。滲み出たものをオブリビオンと呼ぶのならば、レース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』は正しく、その最北を征くものであったことだろう。
彼は止まらない。
スピードの彼方。
その先を見てきたのだ。
例え、それが死に通じるものであったとしても、過去の化身であるのならば通過点に過ぎない。
その先があるのならば、その先をも最速で駆け抜けていく。
それが『ウィリアム・ローグ』という伝説のグランプリレーサーであった。
『ローグ・インターセプター』の加速は止まらない。
グリーンシグナルの点灯から変わらずトップを走るは、彼のマシンであった。
「加速能力者か……」
アドナ・セファルワイド(セファルワイド初代にして最後の皇帝・f33942)はその凄まじき『ウィリアム・ローグ』の加速を見やる。
触れるものを滅ぼす『アルカディア・エフェクト』をエキゾーストパイプから噴出しながら走り抜ける様は、その背中しか見ることを許さなかった。
だが、アドナの瞳はユーベルコードに輝く。
時空間制御による時間が停止した世界。
それを放つユーベルコードによって『ウィリアム・ローグ』のマシン『ローグ・インターセプター』を停止させる。
時間を停止させる。
それは絶対無比たる力であったことだろう。
だが、時は加速していく。
止まることを許さない。とどまることを許されない時間の圧力が『ウィリアム・ローグ』の速度を増幅させていく。
「時の停止でもって私との距離を詰めるか。だが、その時間停止も君自身の生命を削るものであろう」
故にインターバルが必要となる。
アドナにとって、それは致命的な隙であったことだろう。
その刹那に『ウィリアム・ローグ』は加速してしまう。
距離を詰めても、時間を稼いでも、その刹那に埋められてしまう。引き離されてしまう。
「だが、構わん……余も既に、思うところは決めている」
己こそが世界のすべて。
己以外を存在する意味がないと断じることではない。
世界が己そのものなら、血肉たる個人や国家は己で救うが摂理。
アドナは己をそう規定する。
概念としてではなく、己のことを世界のすべてだというのならば、循環する生命こそが血脈。
「ただそれだけ……私こそ、世界の全てだ――ならば、世界の全てと、全ての世界は私が救ってやろう」
それは『ウィリアム・ローグ』にとっては振り切るべきものであっただろう。
放たれた加速能力有する『ローグ・インターセプター』に搭載された火器が放たれる。
だが、それをアド案は時空間制御に寄る時間停止によって躱す。
吹きすさぶ爆風を背にアドナは走る。
「汝は我と同じ頂に立つ美しさ故に(ワールドドミネート・ザ・ビューティフル)」
魂の煌めきを見た。
生きている者にしか光り輝かぬのが『アルカディア・エフェクト』であるというのならば、オブリビオンであるレース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』には意味のないもの。
それが『アルカディア・エフェクト』――拒絶の雲海である。
アドナにとって世界のすべてが己であるというのならば、この時間停止もまた己のためのもの。
距離を詰めるは己でなくてもいい。
他の猟兵達もまた己というのならば、それもまた摂理である。
「自身の生命を削ってまで他者を走らせるか」
「世界のすべてが余なのだ。ならば、それは稚児でもわかる摂理というもの……尤も、稚児の夢ほど尊いものなどない。私の意志意外には同列に並ぶものはないがな」
手繰る時間停止した世界は圧倒的な距離を離していた『ウィリアム・ローグ』と猟兵たちの距離を詰めていく――。
大成功
🔵🔵🔵
葛城・時人
彼もだね
思い出すんだ
生者にこの後を託して逝った色んな存在を
能力者の頃も猟兵になってからも
「それに応えないのは男がすたる!」
気合を入れて起動
普通ならあんな超レーサーに
俺が勝てる訳ない
けど…いや!絶対勝って見せる!
「ククルカン!」
白燐武空翔で蟲を呼び
荒々しい雄叫びを上げる背に騎乗して
「頼む!」
掛ける言葉はそれだけ
蟲使いになって宿した時から
彼らは俺に等しい
超速で目を開けている事すら難しい
だけど閉じず
ひた走る美しいマシンを全力で追い続ける
「どんな時も!絶対諦めないのが俺だ!」
ギリギリの所でオーバーテイク!
瞬間見えるはずのない彼の瞳が見えて
これで良いんだ、と魂から理解した
「ちゃんと受け取るよ、その思い」
生命に螺旋が在るのならば、連なっていると自覚できるだろう。
己の生命もまた螺旋に組み込まれた一部であると。
それを葛城・時人(光望護花・f35294)は思い出した。
生きる者は死せる者から託される。
何を、と問われたのならば多くのものを、だ。それ以外の言葉を時人は持ち得ない。
あの死と隣り合わせの青春は自分から多くを喪わせただろう。
けれど、同時に多くを託されたのだと知っている。
今も変わっていない。
能力者と呼ばれたあの日も、猟兵に覚醒した今も。
「それに応えないのは男がすたる――
起動!」
時人の瞳がユーベルコードに輝く。
己の身の内から荒ぶる巨大な白燐蟲が出現する。
「普通ならあんな超レーサーに俺が勝てる訳ない。けど……いや! 絶対に勝って見せる! 『ククルカン』!」
白燐武空翔(ビャクリンブクウショウ)。
それは広げられた翼だった。
雄叫びが響き渡る。
レース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』の駆る『ローグ・インターセプター』はすでにサーキットの向こう側へと走り去っている。
だが、追いつく。
追い抜かねばならない。
「頼む!」
言葉は短かった。
けれど、それで十分だった。己が望むことを白燐蟲は理解してくれている。己が身に宿したときからの付き合いだ。
なら、彼らは己に等しいのだ。
羽撃く翼。
背に乗った時人は目を開けていることすら難しいと思った。
眼球の水分が風で乾燥していくからだ。
けれど、閉じない。
「俺は! 見ているぞ!」
「私のスピードについてくるか。だが、それだけではな!」
吹き荒れる『アルカディア・エフェクト』――あらゆるものを拒絶する雲海がレースコースを塞ぐようにして広がっていく。
確かに追い抜けないかもしれない。
けれど、それでも時人は諦めない。
「どんな時も! 絶対に諦めないのが俺だ!」
その瞳の輝きを『ウィリアム・ローグ』は見ただろう。
どれだけ絶望的な差があるのだとしても、諦観に塗れることのない瞳。その瞳を彼は望んでいたのだ。
己を発露するために時人は叫んだ。
「ちゃんと受け取るよ、その思い」
スピードの彼方を見た伝説のグランプリレーサー。『ウィリアム・ローグ』は誰かに託したいと思ったのだろう。
死したオブリビオンでは持っていたとしても意味のない輝き。
生命在るものにこそ必要な輝き。
彼もまた螺旋の中にいるのだ。ならば、時人は手を伸ばす。
あの流麗にして美しい『ローグ・インターセプター』へと。
己の魂の輝きこそが、真に必要なものだと言うように――。
大成功
🔵🔵🔵
ジェラルド・エルネイジェ
ウィリアム・ローグ…死して尚速さの向こう側を追い求めるか
彼もまた誇りと信念を駆る騎士なのだろう
この勝負にサラマンダーと共に名乗りを上げよう
燃え盛る魂の炎には炎で応えねばならない
往くぞ、サラマンダー
もはや剣も銃も不要だ
挑むに要するのは速さの一点のみ
直線加速とカーブを曲がる技巧に全ての神経を注ごう
シュトゥルムイオンブースターとイオンスラスターを全開
そして炎嵐火翔で加速するのと同時に、炎の嵐の追い風を受けて更に増速しよう
急激なカーブでは足のヒートエッジクローで減速を掛け、地面を掴む事で足を軸として方向転換する
カーブが終了した後はスマッシャーテイルで姿勢を制御して再加速を素早く行おう
再加速の際にはブレイズディスチャージャーで爆発を生じさせ、爆風で瞬発力を得よう
漆黒の炎は避けずに受け止めよう
何故ならば、我がサラマンダーの炎竜装甲は炎を喰らい、より強靭となるからだ
取り込んだ黒炎を紅蓮の炎に変えて加速せよ!サラマンダー!
焼き付けるがいい!この炎が我らが魂だ!
サーキットに吹き荒れるは漆黒の炎。
レース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』の駆る『ローグ・インターセプター』は、そのエキゾーストパイプから炎を噴出する。
拒絶の雲海『アルカディア・エフェクト』ではなく、迫りくる猟兵たちを引き離しに掛かっているのだ。
これはレースだ。
ならばこそ、彼はあらゆる猟兵達を置き去りにしてしまおうとしている。
これがスピードの彼方を見た者の持ち得る力である。
だが、それを彼はオブリビオンにとっては無用の長物であると言った。
そう言い切ったのだ。
「『ウィリアム・ローグ』……死してなお速さの向こう側を追い求めるか」
ジェラルド・エルネイジェ(炎竜皇子・f42257)は己の乗騎『サラマンダー』のコクピットの中で『ローグ・インターセプター』の背を見つめる。
信念を感じる。
ただスピードを追い求め、それ以外の全ては必要ないとかなぐり捨てた男の矜持。それをジェラルドは感じていただろう。
ならば、それは誇りと信念にほかならず。
「燃え盛る魂の炎には、炎で応えねばならない。往くぞ、『サラマンダー』。告げよう、我が名を。ジェラルド・エルネイジェ……参る!」
その言葉と共に『サラマンダー』がサーキットを加速する。
この戦いにおいて剣も銃も必要ない。
ただ一つ必要なのは速さの一点のみ。
サーキットを蹴るようにして『サラマンダー』が走る。
背部に配された大型ブースターユニットが旋風のような勢いを噴出させる。脚部をzン芯させるための推進装置もまた路面を蹴るたびに加速していく。
加速度Gがジェラエルドの肉体に負荷を懸ける。
内蔵が圧迫される。
肺から空気が絞り出されるようだった。
全開にされた速度は、しかしてさらに増していく。
ユーベルコードに輝く『サラマンダー』のアイセンサー。そして、ジェラルドの瞳。
「炎の嵐となり翔けよ!」
炎嵐火翔(ブレイズストーム)たる一騎となりてジェラルドは『ローグ・インターセプター』へと肉薄する。
「なかなかの加速力だが! コーナーリングはどうか! その加速では曲がりきれまい。ブレーキを踏むか! 恐れをなして!」
「いいや、減速など!」
ジェラルドの言葉に応えるようにコーナーへと飛び込んだ『サラマンダー』がエッジクローを路面に突き立て、機体を曲げる。
凄まじい加速度Gが横薙ぎにジェラルドの脳を揺らす。
酷い痛みだ。
だが、それでもジェラルドは構わなかった。
コーナーで差を詰めるしかない。速度は落とせない。ならばこそ、『サラマンダー』の尾が路面に叩き込まれる。
熾盛を制御し、さらに再加速する。
「まだ加速する……! そうだ、それでこそだ!」
「負けられぬ!」
「だが、私の『ローグ・インターセプター』の放つ炎は!」
漆黒の炎が迫る『サラマンダー』へと放たれる。
これはレースである。
だが、走路妨害が反則とはされていない。なんでもありなのだ。ならばこそ、これを卑怯とは呼ぶまい。
視界が黒く染まる。
それでもジェラルドの瞳は闇を切り裂くようにユーベルコードに輝いていた。
強制進化。
それは身に破滅をもたらすものだろう。
だが、それでもジェラルドは笑った。
「我が『サラマンダー』は炎を喰らい、より強靭となる! 飲み干せ、『サラマンダー』! 漆黒の炎ではなく、我が魂の如き紅蓮の炎を燃やせ!」
咆哮が轟く。
迫る漆黒の炎を飲み込んだ『サラマンダー』は、その機体フレームから排熱するように紅蓮の炎を噴出させ、さらに加速する。
それでもなお、競り合うところまでしか持っていけない。
恐るべき速さの権化。
それが『ウィリアム・ローグ』だった。
「焼き付けよう、君のその速さを……いや」
「ああ、この炎が我らが魂だ! 知るが良い! これこそが!」
己達であるというようにジェラルドは『ウィリアム・ローグ』に『サラマンダー』の炎が燃え盛る様を見せつけ、その魂の輝きを発露させるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
空桐・清導
POW
アドリブや連携も大歓迎だ
「全力で己を超えていけか…。
いいねえ。好きだぜ!そういう真っ直ぐな挑戦状!!
アンタという男に敬意を表してオレも挑ませて貰うぞ!」
相棒のソルブレイザーにUCによって呼び出した
ブレイズビートルを合体させる
スタートと同時にエンジン全開
出せる最速で一気に加速していく
コーナーは天性のセンスと[勇気]をもって
最高速のままカーブしていく
だが、奴は、ウィリアムはその上をいった
「最速の名に偽り無しだな!
けど!オレは勝つ!アンタが求めた男はここにいるんだと証明する!!
それがヒーローとしてアンタに見せつける魂だ!!」
ギリギリの中で[限界突破]!
ウィリアムの世界を垣間見て彼を抜いてゴール
レース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』は言った。
己を越えろと。
それはスピードの彼方。極めた者を乗り越えろという試練であった。
彼にとって猟兵は敵ではなかった。
求めたのは速さの究極。
故に彼はサーキットでこそ待ち受ける。彼の駆る『ローグ・インターセプター』は凄まじい加速とドライビングテクニックでもってコーナーをクリアする度に、直線へと飛び込む度に猟兵たちを突き放していく。
「全力だ。それ以外の何物をも私は求めない。越えてみせろ、猟兵!」
「いいねえ。好きだぜ! そういう真っ直ぐな挑戦状!!」
空桐・清導(ブレイザイン・f28542)の瞳がユーベルコードに輝く。
己の相棒たる『ソルブレイザー』が唸りを上げる。
同時に彼は叫んだ。
「来い、『ブレイズビートル』! いくぜ、機炎合体! 合体『剛炎勇車』(ハイパーソルブレイザー)!!」
空より舞い降りた追加武装が『ソルブレイザー』へと合体し、『ハイパーソルブレイザー』へと変貌する。
超強化されたスピードでもってサーキットを斬りつけるようにして疾駆する。
エンジン音が耳に刻まれるように音を立てている。
一気に加速したことによって清導の体には多大なる負荷が掛かったことだろう。けれど、迷っている暇はない。
ただ一瞬のためらいさえも『ウィリアム・ローグ』は見逃さな。
その一瞬で距離を離されてしまうのだ。
「俺はためらわない!」
コーナーへと飛び込む。
無茶な速度だった。けれど、目の前を走る「ローグ・インターセプター』は華麗なるトラクションコントロールでもってコーナーをクリアしていくのだ。
彼を越えていけというのならば、それができないでどうやって追い越せるというのだろう。
「最速の名に偽りなしだな!」
「未だレースにおいて私は、私自身の前を走らせることを許してはいない。君たちが如何に埒外の存在であろうとな!」
「けど! オレは勝つ! アンタが求めた男はここにいるんだと証明する!!」
清導は叫ぶ。
勝利への渇望と速さへの希求は異なるものであっただろう。
けれど、追い求めるはゴールである。
誰よりも疾く。そのゴールへと飛び込むこと。それがレースであり、レーサーというものだ。
「それがヒーローとしてアンタに見せつける魂だ!!」
限界を超える。
抜く、追い抜く! ただそれだけを求めた清導は己を鼓舞する。
『ローグ・インターセプター』より放たれた拒絶の雲海『アルカディア・エフェクト』が凄まじい勢いで持って清導の走路を阻む。
触れれば消滅する『アルカディア・エフェクト』――これが『ウィリアム・ローグ』にはまだあったのだ。
触れた装甲が消滅する。
だが、それ以上に清導は『ハイパーソルブレイザー』に搭載された追加武装で持って雲海を切り裂く。
「これしきの障害! 乗り越えないで何がヒーローだ! やってやるよ!」
どんな嵐だろうと。
どんな障害だろうと。
己が切り開くと清導は迫る雲海さえも吹き飛ばしながら『ウィリアム・ローグ』を追うのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ロジャー・カニンガム
拡張ユニット「D.A.T.T.ストライダー」に搭乗
[情報収集]でコースやマシンのコンディションを把握し、[瞬間思考力]で割り出した最善のコース取りを行って序盤は差が広がらない程度に
コースを把握できた中盤以降に徐々にペースを上げていきスライディングのような攻めた機動も織り交ぜていきます
そして勝負を賭けるのは最後の直線
【ハイテール・ブースト】を発動
更に[リミッター解除]して限界を越えた超加速で追い上げて見せます
音を抜き去り、光にさえ届きそうなこの感覚…悪くありません
人がスピードを追い求める理由、今なら分かる気がします
伝説と呼ばれたその輝き、それさえも追い越した先の景色を私は見たい!
ロジャー・カニンガム(兎型歩行戦車RIT-17/S・f36800)は頭脳戦車である。
カツラギ・アーマメンツ製であり、兎型歩行戦車『カニンガム』に類する躯体を持つ。だが、組み込まれた部品と高性能AIが彼を特別仕様機へと昇華させる。
確かにレース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』の駆る『ローグ・インターセプター』は素晴らしい車体であろう。
美しさと一部の無駄さえない見事な機能美。
さらに加えるのならばエキゾーストパイプより放たれる『アルカディア・エフェクト』が接近すら許さないのだ。
だが、だからといって追いつけないわけではない。
「拡張ユニット『D.A.T.T.ストライダー』とのドッキング終了」
ロジャーは汎ゆる情報を収集する。
コースの路面のコンディション。
車体のポテンシャル。
それらを一気に精査し、コース取りを決める。シュミレーションが己の電脳の中で演算を開始する。
汎ゆる情報は、数値化されていく。
それは歴戦のレーサー『ウィリアム・ローグ』にとっては直感的なものとして捉えられるものであっただろうが、ロジャーにとっては数字だ。
数字は嘘をつかない。
どんな現実も、どんな事象も数式でもって表現される。
仮に間違うことがあったとしても、それは数字を手繰る者が間違えただけなのだ。故にロジャーは己の電脳にて走り抜ける数字を精査し、判断する。
「差が詰められない」
恐るべき走りである。
だが、コースの状況は飲み込めた。演算によってはじき出された最適解をロジャーは一体化した車体と共に走り抜ける。
「見事な走りだ。計算され尽くした、な。だが、その無駄を削ぎ落としたからこそ、残された最後のあがきを君は計算できるか!」
『ウィリアム・ローグ』の声をロジャーは拾う。
その言葉の意味を彼は理解しただろうか。
だが、ロジャーはかまわなかった。
これはスピードを求める戦いである。ならばこそ、ロジャーのセンサーユニットがユーベルコードに輝く。
『ハイテール・ブースト……モード移行」
車体が変形する。
リミッターを解除する。車体の限界を越えた加速。
超加速と言っていいほどの加速に悲鳴をあげる躯体。演算速度が加熱し、己の電脳に熱を灯す。
轟音が遅れて届く。
音速を超え、光にさえ届きそうな感覚をロジャーは感じたことだろう。
「人がスピードを追い求める理由、今ならわかる気がします」
「感じるんだ。理解ではなく。今の君が感じることこそが真実なのだから」
その言葉にロジャーは己の車体が黒煙を上げていることを理解する。検知器の多くがエラーを吐き出している。
だが、それでもロジャーは求めたのだ。
「伝説と呼ばれたその輝き、それさえも追い越した先の景色を私は見たい!」
希求すること。
それこそが魂の輝きであると示すように『ウィリアム・ローグ』の暗き眼窩にロジャーは己の魂を発露させるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
シュタルク・ゴットフリート
拒絶の雲海、あの忌まわしき力とほぼ同質の力を、何故アスリートアースの住民が手に入れたのか。
理由は分からん。問いもせん。
重要なのは――俺はお前に勝たねばならんという事だ。
俺の魂が、そう告げている…!
俺のマシンはこの鎧だ。
シュトゥルム・ラケーテンの【推力移動】にて飛翔し、エアレースを挑む。
なれど奴はその生涯の全てを以て速さを極めた男。
速度を上げるだけでは勝ち得まい。
故にこそ、この魂の在り方を以て【限界突破】を図る。
その力が齎す雲海は、俺の生きた世界において数多の大地を死へと沈めた。
お前の咎ではない。悪しきは屍人帝国に他ならん。
その力を前に俺は無力だった。故郷も、家族も、護るべきものを何一つ護れぬままだった。
そんなままで、死ねよう筈が無い。
斯様な悲劇を終わらせる――俺と同じ悲嘆と絶望を味わう者をこれ以上出さぬ為。
その為にも――お前のその力、何としても超えねばならんのだ!
不朽魂より力を絞り出し、ラケーテンへ注ぎ。
UCも併せ、限界を超えた速度を此処に示す!
大空の世界にあって、あの『アルカディア・エフェクト』は忌まわしきものであった。
浮かぶ大地。
その眼下に広がる雲海。
触れれば滅びるしかない恐るべきものの象徴。
忌まわしい。
多くの浮島が、大地が雲海に沈んだ。
シュタルク・ゴットフリート(不滅なる鋼鉄の咆哮・f33990)は理解できていなかった。
ブルーアルカディア、己の故郷たる世界に存在した雲海、『アルカディア・エフェクト』が何故、このアスリートアースに在るのか。
そして、それを何故レース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』が手に入れることが出来たのか。
その理由がわからない。
だが、シュタルクは問いかけることはしなかった。
そう、重要なことは唯一つ。
「――俺はお前に勝たねばならんということだ」
「何故、そう思う」
「俺の魂が、そう告げているからだ……!」
シュタルクは己の魂。
その不朽たる魂の力を全身にみなぎらせる。死したる肉体を駆動させる力。
「吼えろ、『シュトゥルム・ラケーテン』!」
唸りを上げる天使核。
変換されたエネルギーが噴射し、シュタルクの体を加速させる。
空を飛ぶ鎧。
地を走るマシン。
それは交わらぬ戦場なれど、しかし、此処においては異なる。
これはレースである。
「ただ速度を上げただけでは!」
一気に突き放される。
『ウィリアム・ローグ』の駆る『ローグ・インターセプター』は凄まじい加速とドライビングテクニックによってコーナーリングを減速なしでクリアしてみせるのだ。
なんたることだろうか。
シュタルクは驚愕する。だが、それは当然のことだっただろう。
彼は障害のすべてを速さにかけた。
そして、極めたのだ。ならばこそ、シュタルクは己の魂の在り方を以て、限界を超える。
鎧の奥の瞳がユーベルコードに輝く。
ロケット噴射によって一気に飛び出す。
「その力がもたらす雲海は、俺の生きた世界において数多の大地を死へと沈めた」
「だとしてもだ。速さの向こう側を。極みに到達するためには、これが罪だと咎められようとも!」
「いいや、お前の咎ではない。速さを極めし者よ。悪しきは死人帝国にほかならん。その力を前に俺は無力だった」
忸怩たる思いが込み上げてくる。
雲海に沈む故郷も。
死せる家族も。
守るべきものであったものを何一つ守れなかった男の末路が己である。
だからこそ。死ねようはずもない。
死ねるわけがない。
己の魂は鎧の内側に。なすべきをなせなかった魂は咆哮するばかりである。
何故か――斯様な悲劇を終わらせるためにこそ、己と同じ嘆きを、その絶望を誰かに味合わせぬためには。
「――お前のその力、なんとしても超えねばならんのだ!」
絞り出す。
残された力は僅か、幾ばくもないだろう。
だが、それでもシュタルクは己の衝動の全てをロケットエンジンに注ぐ。
ユーベルコードの輝き以上に『ウィリアム・ローグ』は見ただろう。
その魂の輝きを。
速さを求めるは、誰かを守るために。
間に合わぬを間に合わせるために。
そのためにこそ彼は求める。
超えることを。最速と呼ばれた男を、『ウィリアム・ローグ』を超えると魂で叫び、輝きを解き放つ。
その輝きをこそ『ウィリアム・ローグ』は求め、その何ももう映すことのない眼窩に認めるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ユーフィ・バウム
魂の輝きならば少しは見せられますか
《四霊門・開門》!
黄金の覇気で身を覆い、
この身1つで低空飛行、ウィリアム・ローグに並走します!
こちらへの減速には
オーラ防御を、そして気合と覚悟を全開に凌ぐっ
”過去”に相対するのは猟兵ならば誰もが行います
過去を超え未来へと歩むのが正者
だからこそ貴方は私たちを後継者と考えたのではないですかっ?
答えがなくても、たとえスピードが追い付かなくても
やることは変わりません!
力溜め、纏うオーラを信じ全力で飛ぶ、ただそれだけ
蛮勇というならそれは誉め言葉!
私はただ1人の蛮人です、魂よ!奮い立て!
レーサーと戦士の違いこそあれ、戦場には変わりなく
ならば死力を尽くし前に出るのみですっ!
速さでは到底追いつけない。
それがレース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』の凄まじい力の為せるところであったし、理解するべきところであっただろう。
少なくとも、ユーフィ・バウム(セイヴァー・f14574)は絶対に速さという領分において『ウィリアム・ローグ』を超えることはできないと確信した。
けれど、それでも。
勝負を投げ出すことはできない。
魂の輝きがあるのならば、その輝きを示さなければならない。
裂帛の気合と共にユーフィは、その瞳をユーベルコードに輝かせる。
己の潜在能力を引き出す。
四霊門・開門(シレイモン・カイモン)。
それはユーベルコードであり、ユーフィという少女の肉体の限界を解き放つものであった。
潜在能力は眠っている力である。
己の五体を破壊せぬためのリミッターでもあると言えるだろう。
躍動する筋肉の下に潜む血脈が跳ねる。
加速する鼓動。
意識が擦り切れる限界にあって、ユーフィは歯を食いしばる。
「わたしの全てを今此処で引き出しますっ!」
踏み出した足がサーキットの路面を踏み砕いた。
瞬間、彼女の体は弾丸のようにサーキットを疾駆する。それは黄金の弾丸めいた姿だった。
覇気でもって身を覆う。
風の抵抗を殺し、さらにはユーフィの身体能力を引き上げていくのだ。
だが、そんな彼女に迫るは『アルカディア・エフェクト』。触れれば消滅するしかない拒絶の雲海。
故にユーフィは己の体躯でもって雲海を躱す。
ロスだ。
これはどうしようもないロスだろう。
減速は免れない。けれど、ユーフィは叫ぶ。
「『過去』に相対するのは猟兵ならば誰もが行います。過去を超え、未来へと歩むのが正者。だからこそ、貴方は私達を後継者と考えたのではないですかっ?」
「私を超えられぬ者に伝えるものなどない」
「だとしても!」
ユーフィはやることが何一つ変わっていないと悟る。
そう、力をため、纏うオーラを信じて全力で飛ぶ。
それは蛮勇じみた行いであったことだろう。
ただ飛ぶだけだ。
「そのような蛮勇で追い抜けるほど私は甘くはない!」
「蛮勇というなら、それは褒め言葉ですっ! 私はただ一人の蛮人です。己の魂を奮い立たせるのみ!」
走る。
路面を蹴って飛ぶ。
いずれもが『ウィリアム・ローグ』の駆る『ローグ・インターセプター』には追いつく理由にはならない。
けれど、それでも彼女は走ったのだ。
己の魂が示す先を。
ただそれだけなのだ。たったそれだけでいい。
自分に出来ることは死力を尽くすこと。
「レーサーと戦士の違いこそあれ、戦場に変わりなく!」
故に、前に走るのみ。
己を信じることをユーフィはやめない。その果敢なる走りこそ『ウィリアム・ローグ』の魂を揺さぶることだろう。
その素晴らしさを示すように『ウィリアム・ローグ』は、その眼窩に煌めきを映し出すのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第三『侵す者』武の天才
一人称:わし 豪快古風
ふむ、なるほどな?
悪霊たるわしらでもよいのであろうか…。まあ、細かいことは気にせずにいこうか!
霹靂もやる気であるからな!
そう、此度わしがやるのは、霹靂が全力を出せるようにUCを使うことなのよ!
ははは、その熱き魂の話、わしにもよくわかるでな!
いずれ、陰海月や霹靂にも伝えねば、とは思っているのだが…。
※
霹靂「クエッ」
故郷で聞いた言葉だ!自分も頑張る!
限界突破の地面スレスレ飛行でスピード勝負!
爪で、嘴で引き裂くようにしていく!
『アルカディア・エフェクト』を伝えたいとレース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』は言った。
スピードの彼方。
速さの極地に至った彼は、死後、それを手に入れた。
だが、彼にとって汎ゆる物をかなぐり捨てた速さは、生きてこそであると知る。
如何に『アルカディア・エフェクト』がスピードを持たすのだとしても、死した身には無用の長物であった。
そう、生きてこそなのだ。
「行きている者の輝きこそが!」
必要なのだというように未だ彼は猟兵に前を走らせなかった。
しかし、彼は見た。猟兵たちの魂の輝きというものを。
「ふむ、なるほどな?」
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の一柱『侵す者』はヒポグリフ『霹靂』を駆り、サーキットを疾駆する。
生者にこそ伝えたいと彼は言った。
ならば、悪霊たる己には意味のないことであっただろうか。
だが、それは細かいことだと『侵す者』は思考を切り替える。
なにせ『霹靂』がやる気を出しているのだ。
「クエ!」
迫る雲海。
それは彼のふるさとで見たものだ。眼下に常に存在するものであり、滅びの象徴である。
触れればたちまちに滅びる。
大地であろうと、オブリビオンであろうと、なんであっても滅びる定め。
故に拒絶の雲海。
それを知っている。
それが今まさに己の道を阻むように『ウィリアム・ローグ』の駆る『ローグ・インターセプター』のエキゾーストパイプから噴出しているのだ。
確かに滅びは恐ろしいものだ。
消滅するという死の予感に恐れを抱かぬわけではない。
けれど。
「そうともよな。例え滅びが迫るのだとしても、生きることはやめられぬ」
瞳がユーベルコードに輝く。
四悪霊・火(シアクリョウガヒトリ・マタチカゲマサ)によって『霹靂』の体躯が強化されていく。
羽撃く翼は風を得て加速していく。
何よりも速さを求めた者が言う。
「そうだとも。どんなに疾く駆け抜けようが、生きてこそだ。生きることを辞めぬ限り、その輝きは君たちに在るのだ。それを!」
知ってほしい。
熱き魂のほとばしりを『侵す者』は感じただろう。
「ははは、その熱き魂。わしにもよくわかるでな!」
伝えなければならない。
誰かに、ではない。
己の後に続く者達に。『ウィリアム・ローグ』もそうなのだ。
次代につなぐこと。
それは生きる者にとって責務とも言うべきものであったことだろう。
生命に別れが訪れる。
ならばこそ、いつかはと先延ばしにしてしまうのは、己の欲目であろうことは理解している。
だからこそ、『侵す者』は示すのだ。
己という存在で持って、いつか来るであろう、その日を――。
大成功
🔵🔵🔵
外邨・蛍嘉
人格:クルワにて
サテ、ワタシとしては久々の活動となりマスガ。
エエ、受けて立ちましょう。
松見草に乗って行きマショウ。たしか…けっこう加速できるようにしてあったハズ。
強制進化とは、いったい何なのか気にはなりマスガ。それをも越えて行くのが、この勝負というモノ。
エエ、そうデス。ワタシもこういうスピード勝負、かなり好きになりマシテ!
動画配信、こっそり見てたりするノデス!
(履歴から、一部のクラゲにはバレてる)
こういう勝負でしか伝わらないものがある、のも真理デショウ。
だからこそ、ワタシはここで!この松見草で挑むのデス!
レース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』のスピードは極まっていた。
一言で言うのならば、そういうほかなかった。
あらゆる物を置き去りにする超スピード。
ただ早いだけではない。
レース競技である以上、ただスピードが出れば良いというものではない。コーナーをクリアするためのコントロール。そうした技量までもが極まっていたのだ。
一体どのような思考を行えば、殺人的な加速の中、あれほどまでに流麗なカーブを描くことが出来るのか。
そう思わせるには十分すぎるほど『ローグ・インターセプター』は見事な走りを示していた。
「魂の輝きを見せてくれ。君たちの魂を! 私は、それを見たい。私は、君たちに伝えたいんだ。この速さの極地、スピードの彼方にあるものを!」
噴出するは『アルカディア・エフェクト』。
拒絶の雲海とも呼ばれた雲海が『ローグ・インターセプター』のエキゾーストパイプから噴出されている。
「サテ、どういたしマショウカ」
外邨・蛍嘉(雪待天泉・f29452)は『松見草』と名付けたバイクを駆り、迫る雲海を躱しながら考える。
どう考えてもこの『アルカディア・エフェクト』を躱すのはロスだ。
触れれば消滅してしまう。
その定めを覆すことはできない。それが、あの大空の世界にあっての真理であったように、このサーキットに浮かぶ雲海もまたそうなのだ。
「臆したか、猟兵」
「イエ、受けてたちましょう」
クルワとしての人格が頷く。
その瞳には挑戦者としての輝きがあった。
加速するバイク。
二輪が路面を捉え、斬りつけるようにしてサーキットの先を往く『ウィリアム・ローグ』を追う。
差は詰められない。
彼のドライビングテクニックとスピードが距離を詰めることを許さないのだ。
「しかし、強制進化とは一体……」
「強制進化とは即ち、死に至るということだ。進化が加速すれば、即ち、それは終わりに近づくということだ」
「なるほど。ええ、それも超えていきましょう。それがこの勝負というモノ」
『ウィリアム・ローグ』はクルワの疑問に応える。
進化。
それは終わりを見るものである。果てがあるというものである。
生物としての進化。
終わりに向かうための力。加速する力は、終わりに進む歩を早めるだけのことだ。故に、『ウィリアム・ローグ』は死の後にしか、『アルカディア・エフェクト』を得ることができなかったのだろう。
ならばこそ、クルワは笑う。
「このスピードにすがるか」
「エエ、そうデス。ワタシもこういうスピード勝負、かなり好きになりマシテ!」
動画でみているのだ。
サーキットを走り抜けるマシン。
単純に一番早くゴールへと飛び込むこと。誰よりも疾くなりたいという願望。
その単純だからこそ多種多様な思いが絡みつくもの。
それが好きになってしまっていたのだ。
いつのまにか、と。
だからこそ、追う。
己のバイクが温かい追い風に包み込まれる。ユーベルコードの輝き。
「これは……」
「そう、こういうこともアリマスヨ」
万色の風雨が『ウィリアム・ローグ』の『ローグ・インターセプター』の道行を阻む。だが、それでもスピードが極端に落ちることはなかった。
スピードを求めた彼は差すような冷たい雨を受けてなお、前に進む。
「こういう勝負でしか伝わらないものがある、のも真理なのデショウ。ワタシは、それを理解スル。だから、挑むのデス。アナタに!」
それは魂の煌めき。
スピードを競い合い、背中を追うのではなく、自分だけの景色を求めるようにクルワは『ウィリアム・ローグ』の背を追うのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
厳・範
お爺、最初から黒麒麟形態で来た。
背中に花雪乗せてる。
花「お爺様!これです、これがやりたかったんです!」
どこぞでレース、を聞いたらしい花雪でな…。
そして、速さといえばわしの瑞獣形態であるから、自然とこうなった。
というわけで、花雪よ。しっかりと捕まっておれ…!UCにて、さらに速度を上げる。
花「はい!これも修行の…!」
…いつもの花雪であるが。
減速されようが、関係はない。ひたすらに決められたコースを駆けるのみ。
わしは、いつだってこうやってきたのだ。かつての親友とあったときも、今もな。
※
黒白グリフォンは、自分たちだと追いつけないなぁ…とか思いながら見てる。
黒麒麟がサーキットを駆け抜ける。
路面を蹴りつけることはない。僅かに浮いているからだ。黒麒麟とはそういうものである。何故スピードがでるのかと問われれば、摩擦がないからだ。
摩擦とは物と物とが接している以上生まれるものである。
限りなくゼロに近づけることはできても、完全に無いものとすることはできないのだ。
だが、ここに理外の存在がある。
黒麒麟たる厳・範(老當益壮・f32809)である。
風を切る音が轟轟と響いているのを背に乗った宝貝人形『花雪』は聞いた。
「お爺様! これです、これがやりたかったんです!」
恐ろしささえ感じさせる速度を出していても『花雪』ははしゃぐようだった。
彼女はレースというものを見聞きしていた。
実際にコースに出るのは初めてでらうが、己を乗騎とするのならば何も問題はなかった。
瑞獣たる己の力。
自然とこうなるのは無理ないことであったし、望むところであった。
しかし、レース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』の速度は尋常ではなかった。
噴出される『アルカディア・エフェクト』は触れれば消滅してしまう。
あの速度の彼方へと走り去る彼の技量と相まって追従するのがやっとであった。
「でも、まるで追いつけません!」
「そうさな。あれこそが速さの極地に至りし者であるというのも、眉唾ではるまい。『花雪』よ、しっかりと捕まっておれ……!」
範の瞳がユーベルコードに輝く。
雷雲を纏う体。
吹き荒れるは雷霆(ライテイ)。
踏み出した足が明滅するようにして輝く。凄まじい速度。
加速する体躯に『花雪』がしがみつく。
それもやっとのことであろう。
「これも修行のうち……!」
「舌を噛むでないぞ」
「はいっ!」
いつもの『花雪』であった。ただの修行ジャンキーであった。ならばこそ、範は速度を上げる。
そうでもしなければ『ウィリアム・ローグ』の背を捉えることすらできなかったからだ。
「追い上げてきたか」
「無論」
「そうでなくては困る。私は伝えたいんだ。君たちに。それは私に追いつかなければ知ることもできないことだからだ」
『ウィリアム・ローグ』は、この速度領域にいたってなお、平然と凄まじいスピードを乗りこなしている。
ゆらりと揺れる景色。
ユーベルコード。
それは『ウィリアム・ローグ』の放った置き去りにした過去。
時間が質量を持つというのならば、それは『ウィリアム・ローグ』の加速に寄って圧縮された堆積であったことだろう。
足が重い。
だが、関係ない。
ひたすらに走る。それはどこか過去を思い出すことだった。
範は笑った。
「……ふっ、わしはいつだってこうやってきたのだ」
嘗ての親友と駆けた野を思い出す。
あの後継は既に過去であるが、しかし、得難きものであったように思う。
だが、同時に今『花雪』を背に載せて走る後継もまた得難きものである。だからこそ、過去と今を抱えて前に進むのだ。
それは範の魂の輝きだっただろう。
追いすがるように猛追する彼の瞳を『ウィリアム・ローグ』はみやり、満足気に笑うのだ。
表情が白骨となった顔でわからずとも、何故か範はバイザーの奥にある眼窩に、魂の輝きを見たのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
宇宙空間対応型・普通乗用車
スピードの向こう側か…アルカディアエフェクト…
正直何が何だかただの車のオレにはさっぱりわからん…
だが、それが乗客の安全につながる物ならば!
より安心でより快適な旅路を乗客に提示できるものならば!
めっちゃほしい!よって全力で盗む!以上!
オレの命題は乗客に快適な旅路を提供すること!
座席を揺らすなんてもっての他!
たとえカーブだろうと緩やかにごく自然な動きで!
運転中であることを忘れるような安定感で!
乗り物酔いなんてさせる間もなく!
乗客の安全を守りつつお出しできる最大限の速度で目的地にお届けする!
それがオレの生き様だ!
このオレのド安定で滑らかな美しい走り!
見さらせレース・フォーミュラァァァァァ
!!!!!!
宇宙空間対応型・普通乗用車(スペースセダン・f27614)は思う。
スピードの向こう側。
それが『アルカディア・エフェクト』と呼ばれる拒絶の雲海であることを。
何故、そのような形を取っているのか。
雲海に触れれば消滅してしまうのは何故か。
強制進化とは、即ち、進化の果てにある消滅を意味するのか。何が正解なのか正直なところさっぱりわからない。
「なにせ、オレは車なので!」
そう、己は考える車である。
性格にはウォーマシンに分類されるのだろうが、己はサーキットにありて車以上でもなければ、以下でもない。
自分が求めるのは乗客の安全そのもの。
それに繋がるのならば。
「より安心でより快適な旅路を乗客に提示できるものならば!」
『アルカディア・エフェクト』、スピードの彼方。
それが欲しいと思う。
それが何より己に求められるものであり、己自身が求めるものならば。
「めっちゃほしい! よって全力で盗む! 以上!」
彼は走る。
サーキットの路面を蹴りつけるようにしてタイヤがこすれる音がする。。
だが、彼の車内は想像以上に揺れが小さなかった。
速度を出せば当然エンジンが唸りを上げ、その振動が伝わるものである。
コーナーに突入すれば、横殴りのような衝撃が遅い来るだろう。
「オレの命題は乗客に快適な旅路を提供すること! 座席を揺らすなんてもってのほか!」
「そのためのコーナリングテクニックといういわけか」
レース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』は彼の見事な……緩やかでありながら滑らか。自然にしてあまりにも力の入らぬ完全なる脱力……即ち、リラックス状態を提供するかのような見事なカーブに関心したようだった。
「おうともよ! 運転中であることを忘れるような安定感こそ、求められるものだろうが!」
左右に揺さぶられれば、乗客の三半規管が狂う。
そうすれば、必ず酔うのだ。
車酔い?
彼が嫌う言葉の一つだった。
「オレに乗っている以上、誰も車酔いになんてさせやしねぇ! 乗客の安全を守りつつお出しできる最大限の速度で目的地に送り届ける! それが!」
きらめくは、万有斥力バリア(バンユウセキリョクバリア)。
斥力生成装置によってあらゆる衝撃を緩和する。
そのためだけに彼はユーベルコードを発露させる。
ライトがパッシングするようにして『ウィリアム・ローグ』の駆る『ローグ・インターセプター』のテールランプを照らす。
「オレの生き様だ!」
「見事だと言っておこう。その信念、その矜持、その誇り!」
彼は安定した滑らかで美しい走りでもって『ウィリアム・ローグ』すらも魅了する。
あらゆるものをかなぐり捨てた速度があるというのならば、あらゆるものに手を伸ばしたがゆえに得た速さもあるのだと彼は示したのだ。
「見さらせ、レース・フォーミュラァァァァァ
!!!!!」
唸りを上げる。
エンジンは己の心臓。
ならば、彼は咆哮するようにして『ローグ・インターセプター』に並ぶのだ。
ギリギリの攻防。
それは荒々しさと軽やかさのアンサンブル。
サーキットに響き渡るエンジン音は、どこか楽しげだった――。
大成功
🔵🔵🔵

紫・藍
歌うのでっす!
ウィリアムのおにいさんと合唱するのでっす!
魂の煌めきを感じたいというのなら、一緒に歌うのが一番でっす!
歌こそは藍ちゃんくんの魂でっすから!
ならおにいさんの歌とは何か!
エンジン音!
排気音!
風切音!
おにいさんの走りこそが、ローグ・インターセプターで奏でるおにいさんの歌なのでっす!
そんなおにいさんの魂の轟音と藍ちゃんくんの魂のデュエットなのでっす!
藍ちゃんくんでっすよー!
藍ちゃんくんは目指すのでっす!
藍することその全てを以て、藍ちゃんくんの完結を!
笑って終われる藍ちゃんくんであり続けられたのだと自分自身に誇る最後を!
生涯をかけてウィリアム・ローグを完結させたおにいさんはその最後の時に笑えましたかー?
その答えはおにいさんしか知らないでしょうがー。
此度の最後、笑顔にしてみせるのでっす!
ダメージも状態異常も吹き飛ばす魂の合唱を機動力にした藍ちゃんくんのレガリアシューズの速さ、お魅せしちゃうのでっす!
この歌は戦場全体に響く歌!
音よりも速いおにいさんにも届く歌なのでっすから!
サーキットに歌声が響いている。
その歌声をエキゾーストパイプから放たれる轟音のさなかにレース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』は聞いただろう。
不可思議な歌だった。
「……歌か」
「そうです。歌うのでっす!」
不思議と、轟音の最中にだって響き渡る声だった。
『ウィリアム・ローグ』は白骨の頭部を軽やかに揺らした。
それは楽しいと思ったからかもしれない。
己に迫る猟兵たちは皆、素晴らしい魂を持っているように思えた。しかし、未だ己の前を走らせるつもりはなかった。
己は速度の最果てを見た男である。
追いすがられること、並走されども、それらを尽く置き去りにしてきたのだ。
ならばこそ、と彼は笑ったのかも知れない。
「魂の煌めきを感じたいというのなら、一緒に歌うのが一番でっす!」
紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)は高らかに歌いながら、告げるのだ。
サーキットにありながら、それでも歌う。
場違いであるように思えたかもしれない。
けれど、藍はかまわなかった。
これは魂の戦いである。速度を競う戦いにありながら、その魂の煌めきを『ウィリアム・ローグ』は見せろと言った。
なら、藍が出来ることは唯一。
歌うことだ。
「歌こそが君の魂か」
「そうなのでっす! 歌こそ魂。なら、おにいさんの歌とは何か!」
それは! と藍はマイクを掲げた。
示せ、というのではない。
すでに此処にあるというようにサーキットにマイクを向けたのだ。
「エンジン音! 排気音! 風切音! おにいさんの走りこそが『ローグ・インターセプター』で奏でるおにいさんの歌なのでっす!」
ほう、と『ウィリアム・ローグ』はまた笑ったようだった。
体に伝わる振動。
確かにこれも一つの歌だろう。
サーキットの路面とマシン、己が奏でる歌。
そういう意味では藍の語るところも真実であると彼は感じたことだろう。
「これはおにいさんの魂の轟音と藍ちゃんくんの魂のデュエットなのでっす!」
だから、歌う。
歌い続ける。
そうすることでしか示せぬ霊があるというのならば、速度の彼方へと向かう『ウィリアム・ローグ』に対して藍は歌うことで届けるのだ。
いや、示すのだ。
己の魂を。
「藍ちゃんくんでっすよー!
目指すのでっす! 藍すること、その全てを以て、藍ちゃんくんの完結を!」
進化の果にあるのは終わりである。
滅びであると言っても良い。
結局のところ、終局を目指す以外にないのだ。
故に藍は笑顔を向ける。
「終わりにも笑って歌える藍ちゃんくんであり続けたいのでっす!」
それは自分自身への応援歌だった。
『ウィリアム・ローグ』は生涯を懸けて速度に挑戦した。
そして得たのだろう。そのスピードの極地を。
『ウィリアム・ローグ』という存在を完結させたといってもいい。
「なら、おにいさんは最後に笑えましたかー?」
その答えは彼にしか分からぬことだろう。
否であってもいい。
だって、それは自分が知ることではないし、決めることでもない。
「此度の最後、笑顔にしてみせるのでっす! 藍ちゃんくんが、猟兵のみなさんが、託すに値するものだと思えるように!」
飛び出す。
ステージの上から藍は飛び出し、走る。
合唱が響き渡る。
それは『ウィリアム・ローグ』からすらも届くものであったことだろう。
なら、これは魂だ。
多くの魂が重なり合って、デュエットを越えていく。
レガリアシューズの生み出す速度でもって藍はサーキットを駆け抜けていく。
確かに自分の足では『ローグ・インターセプター』には届かないだろう。
けれど。
「君の歌は私に届いている。見事だと言っておこう。その魂、しかと示された」
「届きましたか、おにいさん。藍ちゃんくんの歌は」
「無論」
音よりも疾く歌は届く。
それがユーベルコードであり、きらめく魂の発露であるというように藍は喉を震わせ、呼気を解き放ち、歌声を天高く響かせ――。
「涙色の空に笑顔の虹をかけるのでっす!(リーアー・アイリス)」
大成功
🔵🔵🔵
セレナリア・アーチボルト
ふっふっふ、なんだか分かりませんがとにかく全力でお相手すれば良いわけですね!
純粋な速さであれば私に勝てる道理はないでしょう。
しかし、相手の土俵での戦いこそメイドとしてのおもてなしです!オーダー、レースバトル!
生涯を費やしたその腕前、身をもって味わわせていただきます!
というわけで、バイクお借りします
UCにより【メイドの嗜み(警護編)】で感覚を増幅して戦場に広がる漆黒の炎を感じ取ることで回避を最小限に留めて追いかけましょう
とはいえこれでは足りませんね?
【メイドの嗜み(決戦編)】!追加のジェットエンジンをぶっ放してこれでいかがでしょう!
非常にGがキツいですがこれが主人に勝利をお届けするメイド魂です!
『アルカディア・エフェクト』――それは速さの極地。
伝説のグランプリレーサー『ウィリアム・ローグ』すらも、死後にしか到達できなかったという極みにして頂点。
しかし、彼をしてそれは死せる者には無用の長物であるという。
生きている者にこそ、その魂の輝きを見せる者にこそ必要なものであると彼は言った。
速さ。
それがあらゆる過去を置き去りにするのならば、それはきっと時の加速すら生み出すものであったことだろう。
「ふっふっふ、なんだかわかりませんが兎に角、全力でお相手すればよいわけですね!」
セレナリア・アーチボルト(鉄壁のお手伝いさん・f19515)はメイドである。
メイドである以上のことを彼女は必要としない。
求められたのならば、誠心誠意尽くすのみである。
「そのとおりだ。私に示してくれ。君たちの魂の輝きを。『アルカディア・エフェクト』を託すに値するのだと!」
セレナリアは瞳をユーベルコードに輝かせる。
己はメイド。
そう規定するのではない。そうであるべき、とも言わない。
なぜなら、これは嗜み。
「純粋な速さであれば私に勝てる道理はないのでしょう」
それほどまでに『ウィリアム・ローグ』の速さは極まっている。
ここまで猟兵たちとデッドヒートを繰り返したサーキットにおいて未だ一度たりとて彼の前を走った者はいない。
やはり、純粋なレースにおいては彼が最強なのだ。
だから?
それは問題にならない。彼女にとって相手の土俵での戦いこそメイドとしてのおもてなしなのだ。
「オーダー、レースバトル! 生涯を費やした腕前、身をもって味あわせて頂きます!」
バイクを拝借して彼女はサーキットに走り出す。
メイドとバイク。
それはあまりにもかけ離れたものに思えただろう。
だが疾駆するバイクに翻るメイド服の裾は、優雅だった。あまりにもミスマッチ。されど、そのミスマッチが生み出すギャップこそが最高の走りを生み出す。
魅了するようなコーナリング。
詰める距離はじわじわと短くなっていく。
迫る『アルカディア・エフェクト』さえもユーベルコードに輝く彼女の瞳は見据え、漆黒の炎すらも、それがまるでレースコースであると示すように最適解を選び取る。
ライン取りを謝れば、即座に炎に飲まれてしまうだろう。
けれど、セレナリアはサーキッを斬りつけるようにして、漆黒の炎のすれすれを体重移動だけでバイクを操って滑り込むのだ。
「これが、メイドのたしなみ(メイド・オン・ステージ)です。とは言え……」
これでは足りない。
ならばどうするか。
己のバイクに追加されたジェットエンジンを再燃させる。
エンジンがイカれるだろう。けれど、構わなかった。
勝利を主人にもたらす。
それがメイド魂。
そのためならば、己の身にのしかかる加速度Gなどなんのそのである。
メイドに不可能などないのである。
「我が身を顧みないか」
「それが主人に勝利をお届けするためならば、厭うメイドなどおりませんよ」
セレナリアはそれが己であると示すように加速したバイクと共に『ローグ・インターセプター』を追う。
追いつく。
燃えろ、メイド魂。
これが世界に示すメイドというものであると言うようにセレナリアはメイド服を風に揺らし、サーキットを爆走するのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ニィナ・アンエノン
お、皆燃えてるね!
こうなったらにぃなちゃんもやるしかない!
行こう、テンプテーション。
にぃなちゃんのバイクなら分かってくれるよね、壊れちゃうくらい全力出すのが楽しいって事を☆
そんな訳で最初からアクセル全開!
ゴッドスピードライドのフルスピードで勝負する!
操縦の方だけじゃなくてメカニックの技術もあるのがにぃなちゃんの強み。
バイクに何かあっても、走りながら早業で修理しちゃうぞ☆
黒い炎とか強制進化とか、良く分かんないけど構ってらんない。
速く走る事に集中すれば、そんなのぜーんぶ置き去りだよ!
これこそが自分の魂!なんて上手くは言えないけど、自分の手足の様に自在に操れるバイクでかっ飛ばす……これは超楽しいよ☆
サーキットに渦巻くは排気音だけではない。
それはレース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』に追いつき、追い越さんとする猟兵たちの熱気、その燃える魂の奏でる音であるようにも思えただろう。
少なくとも、ニィナ・アンエノン(スチームライダー・f03174)は自身の宇宙バイク『テンプテーション』を駆り、その燃える熱気に当てられたようだった。
「お、皆燃えてるね! こうなったら、にぃなちゃんもやるしかない!」
行こう、と彼女は自身のバイクのタンクを軽く撫でる。
それはこれから起こり得るであろう全力の彼方。
「わかってくれるよね。壊れちゃうくらい全力出すのが楽しいって事を☆」
ニィナは『テンプテーション』のアクセルを全開にする。
轟音が奏でられ、ニィナの言葉を肯定するようだった。
ユーベルコードに輝く瞳。
それはニィナが最初から全力全開であることを示すものだった。
宇宙バイクが変形する。
速度に対応できるように。類まれなる速度を生み出すための最適解。
ゴッドスピードライド。
「いっくよー☆」
ニィナはサーキットを走る。
追うは『ウィリアム・ローグ』の駆る『ローグ・インターセプター』。かのマシンは彼が生み出した怪物マシンである。
じゃじゃ馬のようなエンジンを積みながら、彼のドライビングテクニックによって制御された怪物は正しくスピードの彼方へと走り去るようだった。
それに加えて、『アルカディア・エフェクト』である。
黒炎もまた厄介であるが、しかし、ニィナはそれにかまっていられなかった。
「追いつくことに専念するか。だが、その程度ではな!」
更に加速する『ローグ・インターセプター』にニィナは、むしろ笑った。
エンジンが悲鳴を上げている。
迫りくる黒炎が『テンプテーション』に強制進化を与える。それは進化という名の破滅への加速。
そう、進化することの果ては消滅である。
それを加速させる『アルカディア・エフェクト』は確かに超越した速さをもたらすのだろう。
だが、ニィナは工具を手にバイクを運転しながら、破損箇所を修理してみせたのだ。
「走りながら、だと?」
「にぃなちゃんは『テンプテーション』と一緒に旅してきたんだもん。これくらいはできるよ。こうやって一緒にやってきたんだよ☆ 壊れたら直す☆ 強制進化とかなんとか言ったって、よくわかんない! でもね!」
ニィナは工具をしまって、破損箇所を修繕し、更に加速して行く。
そう、これはレースだ。
誰よりも疾く走ることが目的なのだ。
ならばこそ、それ以外のことは全部置き去りにすれば良い。
「疾く走ることに集中するってそういうことでしょ☆」
「確かにそのとおりだ。そうだとも!」
彼もまた速さに全てを捧げた者である。
ニィナは自分の魂! というものをうまく言葉に出来る自信がなかった。
うまく表現できないだけかもしれない。
けれど、自分の中には確かに熱いものが溢れている。
猟兵たちの走りも、『ウィリアム・ローグ』の速さに対する情熱も。
全て、自分の中にある魂を焚き付けるものだと知っている。だからこそ、彼女は笑って言うのだ。
「自分の手足のように自在に操れるバイクでかっ飛ばす……これは超楽しいよ☆」
これが自分だ。
楽しいと思えることを全力で楽しめる。それが自分なのだと言うようにニィナは、その輝き、星を満たすような瞳で持って、この激走を共にするのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
エドゥアルト・ルーデル
よろしい、話すといいでござるよ…その置き去りにされた過去とやらを…
浸りすぎー!!!
悲しい過去なんか語られて拙者がわざわざ見る訳ないだろ馬鹿野郎この野郎!三文字にまとめろ!
でもまあレースはしないとでござるね…
魂を見せるしかねぇな
良いこと思いついた、マシンもいらなくね?という訳で走ります、足で
その方が盛り上がるからだ!
作戦は追い込みですぞ!ええっスピードが落ちないマシン相手に追い込みを!?できらぁ!
コーナーでは我慢して、我慢して、そして直線一気だァ!前にいる他のマシンなんか踏み越えてけば良いでござろう!
やっぱ直線でまとめて差し切るのが一番気持ちがいいんだよなぁ…ローグ氏もそう思わない?
エドゥアルト・ルーデル(黒髭・f10354)は突如としてサーキットの路面に立っていた。
突如現れた知らないおっさん。
それが彼である。
いつでもどこでもにょきっと生えてくるかの如く彼は現れる。そういうもんなのである。理屈はいらない。
そんな彼がサーキットに仁王立ちして待ち構えるは、猛スピードで走るレース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』と、そのマシン『ローグ・インターセプター』であった。
「よろしい、話すといいでござるよ……その置き去りにされた過去とやらを……」
エドゥアルトはきれいな顔をしていた。
キラキラしていた。
気のせいかな、その淀んだ眼さえもキラキラしているように思えた。気の所為だった。
だが、両手を広げてとびこんでおいで、と言わんばかりの所作をしていた隣を猛スピードで『ローグ・インターセプター』は駆け抜けていった。
残されたのは、よく知らないおっさんだけである。
「な、なんということを! 悲しい過去なんか語られても拙者がわざわざ見る訳ないだろばかやろうこのやろう!と言ってやるつもりでござったのに!」
三文字どころか、三点リーダーすらよこさないとは何事であるか! と彼は憤慨した。
いや、その前にこれレース勝負である。
強敵に悲しい過去、とかそんなことやっている場合ではないのである。
「ふむん。確かにレースはしないとでござるよね。あいわかった。この拙者におまかせあれ!
魂を見せるえしかねぇな」
なにそれ、なんなの。
知らん。
「良いこと思いついた! マシンもういらなくね?」
なんで?
なんでそうなるの?
「足で走ったほうが盛り上がるからだ! 一日中テレビでもやってたでござろう! がんばれば感動! くそくらえでござる何が感動だバーカ! ええっ、スピードが落ちないマシン相手に追い込みを!? できらぁ!?」
お、漫画のページをを読み飛ばしたかなっていうか、順不同になってんじゃないのかこれってなるくらいの展開をエドゥアルトは勝手に始める。
できらぁ! って言ったらできるのである。
それが猟兵ってもんなのである。
彼は走る。走る走る猟兵達。
その背を応用にして彼は、ハジケる気持ちを抑えれない。でも加速度Gは耐える。コーナーリングは我慢することと見つけたり、ハジケ道。
「我慢して、我慢して、限界の我慢の先にこそ! 直線一気だァ! 前にいる他のマシンなんて踏み越えていけばよかろうでござろうなのだぁ!」
おらぁ! とエドゥアルトは生身で走りまくる。
それはユーベルコードに寄る身体能力の増大に寄るものであったが、なんていうか、人間の身体能力を、超人アスリートひしめくアスリートアースにおいても異常なほど発露していた。
止まらない。止められない。
車と知らないおっさんは急には止まれないのである。
「ブレーキなんていらないでござるよね。ハジけ続けていれば、ズバババンと屁の推進力で河童に水泳大会で勝利することができるのと同じぐらいの理屈でござるよ。ローグ氏もそう思わない?」
「よくわからないが、しかし、走ることに全力を尽くしていることは評価できよう。やり方が、よくわからないが」
「それは魂で感じるでござるよ! 考えるな、感じろ! いや無理言ってんじゃねー! となるでござろうが、これもまたハジケ道! さあ、ローグ氏、ともにあの地平を越えましょうぞ! 具体的には第四の壁! そこを!」
余計に何言っているかわからんな、と『ウィリアム・ローグ』は思っていた。
けれど、なんとなくわかった。
その魂の輝き。
そこに偽りはなく。
全てが虚飾と冗談にまみれているのだとしても、その輝きだけは本物であったと彼は、そのシリアスな髑髏の眼窩に見るのだった。
「や、第四の壁とかなにそれこわ……――」
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
俺は剣の道を征く者。
分野は違えど、一つの道を極めた者に対して畏敬の念を抱かずにはいられない
一方の道半ばの未熟者だが……乗り越えろというのなら、全力で挑ませてもらおうか
バイク『八咫烏』に騎乗してレースに挑む
この場で出来る事なんてそう多くはない。最高速度で最短のルートを走り続ける……が、それでも引き離されないようにするのがやっとか
その状態で、アルカディア・エキゾーストによる加減速まで起きればその差は決定的
だが、それでも前に進むという意思を込めて神刀の封印を解除
絶技【無我】――渾身の一刀でアルカディア・エフェクトを斬り裂こう
この手で、この刃で道を切り開く。敢えて言うなら、それが俺の魂だ
極みに至る者とは、常に一つの頂点へと集約されるものである。
対極に存在するもの同士でさえ、いきつく場所が一つであったというのならば、速さを追い求めたレース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』もまた、その頂きに至ったものであるとも言えるだろう。
「俺は剣の道を征く者」
夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は改めて自身を振り返る。
分野は違う。
確かに『ウィリアム・ローグ』は速さ、グランプリレーサーとしては傑出した存在であり、伝説であるのだろう。
一つの道を極めた者。
己が剣ではなく、速さを追い求めていたのならば、きっと彼の後に続いたであろうことは想像に難くない。
だからこそ、鏡介はオブリビオンでありながら『ウィリアム・ローグ』に畏敬の念を抱く。抱かざるを得ない。
それほどまでに彼の速さは極まったものだった。
これまでサーキットを走る猟兵たちが彼に並走できれど、追い抜くことはできなかった。
それほどまでに彼の速さは凄まじいのだ。
「道半ばの未熟者だが……乗り越えろというのなら、全力で挑ませてもらおうか」
鏡介はバイク『八咫烏』にまたがり、彼に挑む。
背を追うことすら許されぬかのような超加速に加え、『アルカディア・エフェクト』が『ウィリアム・ローグ』の駆るマシン『ローグ・インターセプター』から噴出されている。
拒絶の雲海。
触れれば消滅するしかない凄まじき力。
己に出来ることは多くはない。
最高速度を出し、最短でルートを走り続けること。しかも迫る『アルカディア・エフェクト』に触れずに、だ。
それはあまりにも難しいことだった。
神経をすり減らすかのようなルートでもって彼は走る。
それでも『ウィリアム・ローグ』の背を捉えることができるかどうかというほどのギリギリ。
「これでもまだ、届かないか……!」
「諦観は速度を奪う。君は諦める者か」
『ウィリアム・ローグ』の言葉に鏡介は目を見開く。
そうだ、そのとおりだ。
諦めなど己の求める境地から程遠いものである。ならばこそ、鏡介は、その瞳をユーベルコードに輝かせる。
ただ前に進むという意志。
それだけが己の手にした神刀の封印を解除することができるのだ。
弛みないこと。
練磨の果にこそ得られるものがあると信じるからこそ、彼はこれまでも歩み続けてきたのだ。
「我が身をただ一振りの刃として――絶技【無我】(ゼツギ・ムガ)」
代償なくして『ウィリアム・ローグ』は追いつける相手ではない。
極地に至った者が、至らぬ者に追い抜かれる道理はない。
その埋まらぬ差を埋めるためのものは唯一つ。
己の意志。
神器化していない己の体を代償に、彼の放った斬撃は『アルカディア・エフェクト』すら切り裂く。
その一閃にして一線を生み出すために鏡介はユーベルコードの輝きとともに加速する。
「この手で、この刃で道を切り開く」
「それが君の魂だ。君の在り方だ。それを忘れるな。君は生きてこそ、その輝きを放たねばならない。死せる者にはないもの。その生命の輝きこそが、君を君たらしめるものなのだ」
故に、と『ウィリアム・ローグ』は鏡介の魂の輝きを見つめ、その眼窩の奥に彼を認めるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
天御鏡・百々
『アルカディア・エフェクト』だと!?
あれは虚神アルカディアの能力のはずだが……
いや、それはレースの後に考えればよいことか
魂の煌めきを示せと言うならば、しかと見せてくれようぞ!
歴戦のレーシングカーを借りて、ウィリアム・ローグとのレースに挑むぞ
少々古く型落ちではあるが、力を借りるなら適任だ
『神は万物に宿る』で我が神通力を分け与え、このレーシングカーを付喪神へと変じよう
我は運転なぞできぬ。すべて任すゆえ、よろしく頼むぞ
魂を持つのは人のみに非ず
我らのような道具であろうとも、魂は存在するのだ
さあ、存分に走り、ウィリアム・ローグを抜き去るのだ!
道具の『魂』を、見せつけよ!
嘗て在りし大いなる戦い。
ブルーアルカディアと呼ばれる大空の世界において『虚神アルカディア』が放った拒絶の雲海、それが『アルカディア・エフェクト』である。
触れれば消滅以外の道はなく。
その恐るべき滅びの象徴こそが、かのブルーアルカディアの世界を満たすものであった。
「何故『アルカディア・エフェクト』を……!」
天御鏡・百々(その身に映すは真実と未来・f01640)は目を見開く。
そう、何故アスリートアースのアスリートが、その能力を手にしたのか。
死した後に手にした無用の長物とレース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』は言った。
これは生命の輝きある者にこそふさわしいと。
その後継者として猟兵たちを見やる彼の落ち窪んだ眼窩の奥にある光は、一体何を示すのか。
百々には分からなかった。
けれど、今は捨て置くべきことだった。レースに集中しなければならない。
そして、彼が求めるは魂の輝き。
だというのならば、百々は己の心に力を宿す。
「しかと見せてくれようぞ!」
レーシングカーを借り受けて、百々は『ウィリアム・ローグ』の駆る『ローグ・インターセプター』を追う。
凄まじい速度。
加えて、天性とも言うべきドライビングテクニック。
勝負どころを感じ取る勘の冴え渡りは、天才のひらめきを常時発露しているようなものだった。
それほどまでに彼の走りは凄まじかったのだ。
「君のマシン。悪くない選択だ。最新が常に最高とは限らない」
「そうとも。神は万物に宿る(カミハバンブツニヤドル)のだ。我が同胞たちは言っておる。まだやれると、まだ走れると。ならば、我はこの声に応えるのみ。我が神通力を以て!」
百々の瞳がユーベルコードに輝く。
歴戦のレーシングカーは与えられた神通力に寄って付喪神へと変じる。
確かに百々は運転はできない。
したこともない。
理屈もわからない。
けれど、このレーシングカーたちは知っているのだ。
歴戦であるということは、数多のレーサーたちが彼らを操ったということ。その血と汗の結晶の如き経験こそが、レーシングカーをもって『ローグ・インターセプター』を猛追させるのだ。
「魂を持つは人のみにあらず」
「そのとおりだろうな。今私は凄まじい光景を見ている。まさか、マシンがこんなにも光り輝いて見えるとは思いもしなかった」
「我らのような道具であろうとも、魂は存在するのだ」
喜びに震えるようにレーシングカーのエンジンが唸りを上げている。
わかる。
それがわかるのだ。道具としての役割を果たすこと。その本懐とも言うべきサーキットを疾駆する喜びこそが百々にも伝わるのだ。
ならばこそ、百々は告げるのだ。
「後のことなど考えなくとも良い。汝ら、その道具としての『魂』を見せつけよ!」
さすれば、結果はついてくる。
百々は、ヤドリガミとして、彼らに示すのだ。
使われることこそが自分たちの本領。
だが、時に使い手を助けるのもまた己達である。ならばこそ、今こそ輝かなければならない。
スピードの彼方が消滅という避けることのできない事象の水平にあるのだとしても。
それでも己たちの魂こそが不滅であると示すように『ウィリアム・ローグ』に、その輝きを示すのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィクトリア・ノウェム
む。なんか気になる事を言いだしたです
けど勝負は受けて立つです。いくです、エル・セプス
【フォームシフト】でエル・セプスをより小型の鎧形態に、
移動速度を強化し、代わりに攻撃回数を捨てるです
エンジェリックドライブ、精霊機関リミッター解除で勝負、です
コース取りや目の前の状況への対応は最初は周囲へ意識を集中し、障害物とかも瞬間思考で対処、それ以上速くなればもう思考の暇はないから第六感とか自然に体が動くのとかに頼る他ないです
常に最大推力・最大機動力で低空飛行、カーブも減速はせず『Cファング』を食い込ませて起点にし機体側を「ぶん回し」て無理やり曲がるです。
……後はもうただひたすらに風に乗って飛ぶだけ、です
『アルカディア・フェクト』は拒絶の雲海と呼ばれる世界を満たすものである。
それがブルーアルカディア出身の猟兵であるヴィクトリア・ノウェム(はらぺこ空戦天使・f33941)の認識だった。
しかし、このアスリートアース。
死せる伝説のグランプリレーサー『ウィリアム・ローグ』は言う。
この『アルカディア・エフェクト』こそ、スピードの彼方にて得たものであり、死者には無用の長物であると。
生命あるものの輝き。
それを持つ者にこそ『アルカディア・エフェクト』はふさわしいのだと。
「む。なんか気になることを言い出したです。けど、勝負は受けて立つです」
『エル・セプス』と呼ばれる飛空艇を駆り、フォームシフトによって外装形態の『エル・セプス』を小型軽装の鎧へと変じる。
攻撃手段を捨てた、速度に特化した形態。
その形態へと移行したということは、ヴィクトリアは真っ向から『ウィリアム・ローグ』のスピードに対抗するつもりなのだ。
「『エンジェリックドライブ、精霊機関リミッター解除……いくです、『エル・セプス』」
唸りを上げる機関。
天使核からエネルギーが流動し、精霊機関が励起していく。
推力を得るための力が溜め込まれ、それが排出されるようにして光の翼のようにヴィクトリアの背を押す。
凄まじい加速。
体にかかる負荷は陣城ならざるものだった。
それに加えて、サーキットはただ直進だけすればいいというものではない。
コーナーや蛇腹のようにくねったコースさえある。バングだってあるし、思考すべきことは多い。
スピードが上がれば、それだけ考える余裕はなくなってしまう。
猶予がなくなれば、思考に焦りがノイズとして混じり、判断ミスを誘発する。
レーススポーツというのは、マシンの性能だけえは決まらないのだ。
レーサーの身体能力、思考能力、そして技量が合わさることによって初めて勝利を得ることができるのだ。
ヴィクトリアはもう何も考えていなかった。
いや、勝利、という概念すらも頭の外にはじき出していた。
コース取り、目の前の状況への対応。
迫る『アルカディア・エフェクト』を躱し、さらに最適解を導き出す。
思考はもういらない。
後は己の直感に任せる。
大空の世界にて自分がそうであったように、多くの経験を得た今ならばこそ、体は自然と動くのだ。
力を込めるのではない。
脱力という極限の状態に己を追い込むことによって彼女は超絶成る空中起動を以て『ウィリアム・ローグ』へと迫るのだ。
「やはり生きている者にこそ、その輝きはふさわしい。この私を追い詰めるか、猟兵!」
だが、その言葉にヴィクトリアは応えない。
聴覚すら今はレースの、その最速を求めるためにしか機能していない。
常に最大推力、最大機動。
これらを両立しながら、ヴィクトリアは路面に打ち込んだケルベロスファングでもってカーブを曲がり切り、直線へと躍り出る。
そこまでの極地に至ってなお、それでも『ウィリアム・ローグ』の背を追うことしかできない。
伝説のレーサー。
その彼の背中を追うヴィクトリアは、ただひたすらに風にのって飛ぶ。
それだけだった。
故に『ウィリアム・ローグ』は見ただろう。
ヴィクトリアが己の全霊を懸けて自分を追う姿を。
煌めいている。
「思わず見惚れるな……やはり生者の輝きこそが」
栄光を手にする事ができる。
汎ゆる物をかなぐり捨てて得るべき速さの極地。されど、手放してはならぬものがあると『ウィリアム・ローグ』は伝えたいのだ。
眼窩とヴィクトリアの視線が交錯する。
ヴィクトリアは目を見開く。
加速した世界の中で、知る。生きていたいと。生きてこそだと。故に、彼女は、その猛烈なる生命への執着でもって、その瞳を魂の輝きで満たし、『ウィリアム・ローグ』を見つめるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
メルクーア・シュヴェーフェル
『アルカディア・エフェクト』、虚神アルカディアが発露した力か。
アタシは当時猟兵じゃなかったが、話は聞いてる……一つ言ってやりてえ事が出来た。
【アイテム錬成】で運転技能付けたバイクを作ってレースに挑むぞ。
勝てはしねえだろうけど、声が届く距離までは絶対に追いすがる。
過去の光景なんざ知ったことか、今勝負してんのはアタシとテメエだ!
おいテメエ!何諦めてやがる!
虚神アルカディアは、生命になる事を諦めてなんか無かったぞ!
テメエが望んで!追い求めて!辿り着いた力だろうが!
生命が無いから無意味とか下らねえ事に縛られてんじゃねえ!
テメエにまだ魂があるんなら、その輝きを自分で手にするために進んでみせやがれ!
嘗ての大いなる戦いにおいて『虚神アルカディア』が持つ力、それが『アルカディア・エフェクト――拒絶の雲海である。
それはブルーアルカディアの世界においては滅びの象徴であったことだろう。
触れれば消滅する。
それが理であった。
「アタシは当時猟兵じゃなかったが、話は聞いている……」
メルクーア・シュヴェーフェル(NPCショップ『ザルツ』店主・f41973)はゲーム世界のおけるAI、即ちノンプレイヤーキャラクターである。
だからこそ、レース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』の言葉に引っかかりを覚えた。
『アルカディア・エフェクト』は死者には無用の長物であると言った。
生きる者にこそふさわしい輝き。
故に、それを己達に伝えたいと言ったのだ。
託すこと。
その螺旋の中にこそ彼は何かを見出したのかも知れない。
だが、メルクーアは違った。一つ言わねばならないことが在る。だが、それは『ウィリアム・ローグ』に追いつかねばできぬことである。
故に彼女はアイテム錬成でもって生み出したバイクを駆り、レースコースへと飛び込む。
確かに勝てないだろう。
あの速さの極地にある者にたいして、己はあまりにも速度がたりない。
だが。
「絶対に追いかけてやる! この声が届く距離までは! 必ず!」
迫りくる『アルカディア・エフェクト』を躱す。
置き去りにした過去。
それは速さ故に圧縮された時でもあったことだろう。どれだけの過去が己の眼の前を通り過ぎていくのだとしても、メルクーアにとっては関係のないことだった。
「過去の光景なんざ知ったことか、今勝負してんのは!」
吠える。
心から吠えた。
届け、と願うことはなかった。届ける、という決意だけが底に在ったのだ。
「アタシとテメエだ!」
過去は関係ない。そう言うようにメルクーアはアクセルを全開にし、直線で『ウィリアム・ローグ』の駆る『ローグ・インターセプター』へと迫る。
だが、距離が縮まらない。
マシンの差か、それとも乗り手の技量に寄るものか。
いずれにせよ、メルクーアは構わなかった。
「おいテメエ! 何諦めてやがる!」
「私がかい。諦めとは私にしては程遠いものであるが」
速さを求め、死することさえ厭わなかった彼、『ウィリアム・ローグ』。だが、メルクーアにとっては、今の彼は諦観にまみれていた。
手にしたものを誰かに託す。
己はそこで止まるということだ。それが諦観でなくてなんだというのだとメルクーアは叫んだのだ。
「『虚神アルカディア』は、生命に成ることを諦めてなんかいなかったぞ! テメエが望んで! 追い求めて! たどり着いた力だろうが!」
それを無用の長物と言ったのだ。
オブリビオンであるから、と死せる者であからと。
それがメルクーアには我慢ならなかった。
「生命がないから無意味とかくだらねえことに縛られてんじゃねえ! テメエにまだ魂があるんあら、その輝きを自分で手にするために進んでみやがれ!」
それはAIであるメルクーアからの叫びだった。
魂の叫びと言っても良い。
魂の所在は、己が決めるものだ。
メルクーアはそう思うし、そうやって生きてきたのだ。今此処にあるということが生命の証明。
故に彼女の魂の叫びを煌めく物を守るように『ウィリアム・ローグ』は眼窩の奥で認めただろう。
「私には私の役割がある。これもまた進んでいるということなのだよ、猟兵。だが、悪くないな」
己で決めるということ。
そのまばゆいまでのメルクーアの叫びに彼は、髑髏でもう笑うことのできない顔を揺らす。
それはきっと笑う動作であったことだろう――。
大成功
🔵🔵🔵
月夜・玲
…いや、貰えるもんは貰うけどさあ
後方師匠面止めて貰えます?
シショハラっすよ!
シショウ=ハラスメント!
そういう所も配慮してくれないと…
EX:I.S.T[BK0001]に騎乗
ま、レースしようっていうんならひとっ走りしようか
やるからには勝つ!
最初から全開でいかせて貰おうかな
【剣技・嵐流剣】起動
最大加速、蒼嵐を纏い疾走!
インのギリギリを攻め、前に出続ける
『オーラ防御』でシールド展開、空気抵抗を抑える形に纏わせる
負けず嫌いだからさー、こっちの走りを見て勝手に魂を見出して満足されるとか嫌なんだよね!
負ける為に勝負仕掛ける奴なんておる!?
いねえよなあ!
男の人生いつだって生きるか死ぬか!
男じゃないけど!
くれる、というのならば貰う。
それが良いものであるというのならば、格別であったことだろう。
でもさぁ、と月夜・玲(頂の探究者・f01605)はちょっとだけ辟易していた。
彼女は確かに守銭奴っぽいところもあるし、がめついし、力押しなところもあるし、面倒事は嫌う。
「……いや、貰えるもんは貰うけどさぁ。後方師匠面辞めてもらえます?」
「いや、そのつもりはないよ。これは君たちが掴み取るものだ。伝えたい、とは言ったが、言葉のあやというやつだよ」
「いーや、それってシショハラっすよ! シショウ=ハラスメント! そういうところも配慮してくれないとさぁ……」
まるでタバコ休憩でもしているかのような気楽さで玲は特殊バイクを駆り、レース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』の駆る『ローグ・インターセプター』に並走していた。
なんていうか、あまりにもしれっと並走している上に雑談めいた時間まで始まっているのだから恐れ入るところである。
とは言え、追い越せない。
追い越そうとしても、凄まじいドライビングテクニックでもってブロックされてしまうのだ。
やるからには勝つ! というのが玲の流儀であった。
レースであるというのならば、必ずやこれをぶっちぎってゴールしたろ! という気概さえ在った。
故に最初から全力全開だったのだ。
ユーベルコード 剣技・嵐流剣(プログラム・ストームエッジ)でもって、蒼嵐を纏い疾駆してなお『ローグ・インターセプター』に並走するのがやっとだったのだ。
インコーナーのギリギリを攻めて前に出ようとしても、『ローグ・インターセプター』の凄まじいカウンターによって前に出ようとした瞬間、追い抜かれてしまうのだ。
空気抵抗をオーラのシールドで軽減してなお、その加速には負ける。
「ぐっ……! なんて加速。どんなエンジン摘んでるの!?」
「これが私の研鑽の果て。私が作り上げた最高のマシンということさ!」
「ぐぬっ! 勝手にこっちの走り見て魂とか見出されて満足されても嫌なんだけど!」
「それこそが魂の輝きというものだ。君が望むと望まざると、私はどのみち君たちに魂の輝きを見出してしまう。そういうものなんだよ」
うるせー! と玲は吠えた。
バイクのエンジンが唸りを上げる。
そうこれは勝負だ。
負けず嫌いであることは言うまでもない。
これはたしかに勝敗で決着を求められていない。けれど、だ。
そう。
「負ける為に勝負仕掛ける奴なんておる!?」
玲は極度の負けず嫌いだったし、己の行動を誰かにコントロールされるなんてまっぴらごめんだったのだ。
自由であること。
それが彼女の求めるものであったし、好き放題これまでやってきたことの積み重ねだった。
「いねえよなあ!」
でもまあ、その。
いきなりそういう事言われるびっくりする。
「男の人生いつだって生きるか死ぬか!」
そういうもんでしょう! と玲は吠えた。『ウィリアム・ローグ』は、笑っていた。
その髑髏故に表情はわからないが、しかして並走する玲には見えたのだ。
あれは絶対笑っていた。
「だが君は」
「男じゃないけど! でも、私の魂が言ってんの! 負けてなるものかって! いつだって勝つために全力を尽くすってのが、勝負師ってもんでしょ!」
だから、と玲は蒼嵐吹き荒れさせながら、サーキットを『ウィリアム・ローグ』と共に爆走するのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
サージェ・ライト
【理緒さんと】
お呼びとあらば参じましょう
私はクノイチ、胸が大きくて空気抵抗が酷いとかそんなことないもんっ!
というわけで、理緒さんいきましょう
おお……今日は久しく正しい方向で荒ぶっておられる
それでは私もいつになくシリアスしましょう
かもんっ!『ファントムシリカ』!!
今日は壊れないはずなのでシリカさんも普通に協力してくれますよね?!
よーし加速マシマシでいきますよー!
高機動型の性能おみせしましょう!
理緒さんのマシンの前を走ってスリップストリーム作戦とか
まぁローグさんから引き離されないことを最重視
勝負は最後の直線です!
エンジェライトスラスター始動!
さー!いきますよシリカ!!
理緒さんにも負けないもんっ
菫宮・理緒
【サージェさんと】
レースなら【セレステ】六輪車バージョンだね。
わたしが作り上げたマシンの実力、いまこそ!
魂のぶつかり合いってことだから、今回は正々堂々だね。
相手への妨害はなしで、自分たちのマシンの実力で勝負だよ!
サージェさんと協力して、スリップストリームを仕掛けあったりしながら、
互いのマシンの力をスペック以上に引き出して、
ローグさんに離されないように食らいついていこう。
勝負は最終コーナー立ち上がってからの直線!
【タラリアウイング!】
『ポッド展開。エンジン臨界点へカウントスタート』
ラスト5秒で奥の手【アフターヒート】をさらに展開。
魂込めて一気に加速して、チェッカー直前で抜き去っていきたいな。
「お呼びとあらば参じましょう。私はクノイチ、胸が大きくて空気抵抗が酷いとかそんなことないもんっ!」
サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)の前口上に空気が、ぐおおおって抵抗を見せる。
それほどまでに2つの膨らみは空気抵抗を生み出すものであった。
むしろ、なんでそんなことないもんっ! とか思ったのであろうか。空気抵抗在りまくりに決まっているであろう。
だが、サージェにとってそれは些細な問題であった。
空気抵抗があろうがなかろうが、どっちにしたって忍べていたのならば、それでいいのである。クノイチってそういうもんである。
なんとなく概念がトチ狂ってきているような気がしないでもないが、今はレース中なのである。
菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)の『セレステ』六輪車バージョンに『ファントムシリカ』と共に並走しているのだ。
「わたしが作り上げたマシンの実力、いまこそ!」
「おお……今日は久しく正しい方向で荒ぶっておられる」
いつも、がいつもなのである。
だから、たまに理緒がこういうテンションだととても新鮮というか。むしろ、そういう感じのこともできたんだ、と感心するのである。
ともあれ、サージェもいつものようにシリアスしようって思っていた。
いや、本当にシリアスな人は、シリアスしようとか思わないのである。
「どこからかツッコミを入れられている気配がしますが、今日の私達はシリアス!いきますよ『ファントムシリカ』! 今日はレースなので壊れないはずなので、普通に『シリカ』さんも協力してくれますよね!?」
いや、レースだから壊れないって理屈はないだろう。
むしろ、コースアウトとかクラッシュとか。
壊れる要因はいくらでも転がってそうなもんである。
それに此処はアスリートアース。
超人アスリートひしめくサーキットコースにクラッシュ要因がないなんてことはないのである。
『わかってますよ』
「ア、ハイ」
下手な運転したら、ばりぃである。即座に、である。
「だいじょうぶだよ、サージェさん。相手のへの妨害はなし。今回は正々堂々なんだから。自分たちのマシンの実力で勝負だよ!」
理緒がキラキラしている。
なんかいつもとのギャップで三割増しにキラキラしているようにサージェは思えた。
これがかのヤンキーが雨の日にずぶ濡れになりながら子犬を拾っている優しさにときめくあれなのかもしれない! いや、そんなことはないが。
「よーし、ならいきましょう!」
「あ、まずはわたしの『セレステ』の後ろについてね。スリップストリームで交代しながら追いつこう!」
そう、空気抵抗。
前方に出たマシンの後方にぴったりと通事によって空気抵抗を減らすのだ。
それによって後方のマシンは余力が生まれる。
これを繰り返すことによってマシンの消耗なくレース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』の駆る『ローグ・インターセプター』へと追いつこうというのだ。
だが、それでも『ローグ・インターセプター』の速度は陣城ならざるものであった。
「ぬ、ぬう……加速マシマシで着てますのに、それでも付かず離れずとは……!」
「大丈夫、勝負は諦めちゃダメだよ! オーナーの後、立ち上がりの直線が勝負どころ! いくよ、タラリアウィング、ブースト・オン!」
『セレステ』のブースターポッドが展開され、ブーストモードへと変形する。
『ポッド展開完了。エンジン臨界点へカウントスタート』
サポートAIのアナウンスと共にサージェが飛び出す。
スリップストリームからの一気に生み出された加速。勝負を仕掛けたのだ。
サージェの瞳もまたユーベルコードに輝く。
「電光石火(イカズチノゴトキスルドイザンゲキ)! 参ります!」
『ファントムシリカ』に搭載された『エンジェライトスラスター』が始動し、凄まじい加速を生み出し、一気に二人の機体が飛び出す。
それは魂を懸けた加速だった。
それでもなお、『ローグ・インターセプター』には並走するのが精一杯だった。
「勝負どころを見逃さないか」
「くっ、これでもまだ……! 理緒さん!」
「まだ加速は止まってないよ! 諦めちゃだめ!」
理緒の言葉が飛ぶ。
それはサージェにとっては意外な言葉だったかもしれない。いつもの理緒じゃない。
シリアスに満ちた彼女の顔を見て、サージェはちょっとだけ恥じた。
いや、別に前口上はいつもふざけているわけじゃあないのだけれど、そこんところは。
けれど、諦めないこと。
その魂の煌めきを見せられてはサージェの心も燃えざるを得ない。
「『ウィリアム・ローグ』さんにも理緒さんにも負けないもんっ!」
ギリギリまで、限界の彼方まで、その燃える魂を見せつけるように理緒とサージェは『ウィリアム・ローグ』に肉薄するかのように、己たちの機体の限界を越えて加速していくのであった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ステラ・タタリクス
【ステルク】
エイル様の! 香りがしまぁぁぁすっ!!
はい、メイド参上しましたっ
熾盛だの熾煌だの聞こえてきたなら私が参らないわけがありませんし
何より……速度にかけては私の愛機が黙っていませんので
どうしました
相方?
別に忘れていたわけではないですが今回はシリアスですよ?
大丈夫ですか?
では改めて
この世界で使うことは無いと思っていましたが
そのような拘りなど投げ捨てましょう
フォル!いらっしゃい!!(鳥型キャバリアを呼び寄せ
ええ、この大空をサーキットとして全て振り切りますよ!!
フォル、【ファム・ファタール】!
速度でぶっちぎります!
ルクス様は支援をよろしくお願いしますね!
ルクス・アルブス
【ステルク】
えーっと……はい。
雄叫びはいつもどおりの裂空声ですね。
大気の震えが達人クラスのヤバさになってきました。
それはいいとして、そうなんですよ! シリアスなんです!
どうしましょう、ラムネ足りるでしょうか?
(大粒ラムネをざらざらと取り出し)
あとわたし、スピードには自信ないんですよね。
【ソナーレ】も、固いですけど早くないですし……。
って、え? しえん!?
支援って支援ですよね! 支援していいんですか!?
もう聞きましたからね。いまさらダメって言っても遅いですよ!
スピード勝負のレースで、バランス感覚の失調は致命傷。
と、いうことでいきますよ!
全・力・ボ・レ・ロ!
魂の演奏が、三半規管を貫きますよー!
いつもと変わらないこと、というのはある意味ありがたいことであった。
シリアスアレルギーなルクス・アルブス(『魔女』に憧れる『出禁勇者(光属性)』・f32689)は、ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)の『いつもの』に、心底安心したが、しかし鼓膜がやばいな、とも思った。
それがいつも彼女の演奏に晒されているメイドの鼓膜の気持ちやぞ、ど思わないでもなかったが、しかしそれを口に出す者はいない。
「
『エイル』様の! 香りがしまぁあぁぁぁぁすっ!!」
気の所為じゃない?
だが、しかし、ステラにはしっかり嗅ぎ分けられていたのである。
その香り。
忘れがたき香り。
そう、これこそが!
「はい、メイド参上しました!」
メイドへの風評被害が酷いレース会場は此処です。
「『熾盛』だの『熾煌』だの聞こえてきたら私が参らないわけがありませんし!」
「えーと……はい」
ルクスは曖昧な表情でうなずいた。
はいって言っているけれど、イエス・ノーじゃない顔である。敷いてい言うならニュートラル。
同意も否定もしない感じの声であった。
というか、これだけの雄叫びを毎度上げながら、自分の演奏は破壊音波魔法とか言うのだから、ちょっと理不尽だとルクスは思った。
大気の震え具合からして、もう達人クラスのヤバさだなぁって思っていた。
「何より……速度にかけては私の愛機が黙っていませんので!」
「それはそれとして! シリアスな空気がすごいです! ステラさん、どうしましょう。ラムネ足りるでしょうか?」
大粒ラムネを頬張るルクス。
「別に忘れていたわけではないのですが、今回はシリアスです。御覧ください。このレース会場を。熱気に包まれておりますが、いつもの騒々しくも輝かしいアスリートアースではございません。今回はまごうこと無くシリアス! 大丈夫ですか?」
「は、はぁ……でも、わたしの『ソナーレ』って固いんですけど、は疾くないですし……」
「ルクス様は支援をお願いいたします。私は……『フォル』! いらっしゃい!!」
天に手を掲げれば、それに応えるように現れるのが鳥型キャバリア『フォルティス・フォルトゥーナ』である。
まさか、このアスリートで使うことになるとは思ってもいなかった。
それは彼女なりのこだわりとも言えるものであったが、しかし、そのようなこだわりなど世界の危機においてはないに等しいものである。
投げ捨てるようにしてステラは『フォルティス・フォルトゥーナ』のコクピットに乗り込む。
「飛ぶのってアリなんですか!?」
「エアレースというものもございます。そもそもレギュレーションなどあってないようなところがあるのが、このアスリートアースの競技の醍醐味でありましょう!」
吠えるようにして『フォルティス・フォルトゥーナ』な機体を震わせる。
大空を自由に飛ぶ。
それが、このキャバリアの持つ意志であるというならば、負けることはありえない。
「ええ、この大空をサーキットとして全て振り切りますよ!!『フォル』、ファム・ファタール(ファムファタール)、あたのスピードで全てをぶっちぎりなさい!」
飛び立つ『フォルティス・フォルトゥーナ』は猛烈な突風を生み出し、サーキットへと飛び出していく。
その様をルクスは見送りながら、あ、と思い出す。
確かステラは支援をよろしく、といっていた。
支援。
支援と言えば?
そう、演奏である。ステラは演奏してはダメだとは言わなかった。支援の形は問わないということである。
なら、とルクスはにんまりと微笑んだ。
「ステラさーん……支援って、しえん、ですよねぇ……支えて援助する、の支援ですよねー」
小声で呟く。
確認は取った、と言わんばかりである。
「今、一応、聞きましたからね。ダメって今更言っても遅いですからね!」
返事はない。
大空を飛ぶ『フォルティス・フォルトゥーナ』の速度Gでステラはそれどころではないのだろう。
なら、と彼女は笑顔を深くしてグランドピアノを戦場に響かせる。
「全・力・ボ・レ・ロ! 魂の演奏がをお聞きください! これがわたしの魂の演奏! 魂のソモの! さあ、聞いてください!」
迸るは魂の演奏。
三半規管を破壊するかのような猛烈な音がレース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』を襲う。
だが、彼の速度は収まらなかった。
三半規管を破壊されているというのに、それでもなお、彼は凄まじいスピードでコースをクリアしていくのだ。
なんたることだろうか。
なんか、遠くに見える『フォルティス・フォルトゥーナ』が変な動きをしている。
でもまあ、いっか。
これも支援。そう、支援。
「あっと、ステラさんピットインですか? 大丈夫、すぐにわたしの演奏で癒やしてあげますからね!」
そうじゃない、とステラがピットインした『フォルティス・フォルトゥーナ』からルクスに襲い掛かるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
カシム・ディーン
機神搭乗
よぅウィリアム
おめーが世界最速ならば…限定的ながら…僕らもまた猟兵最速だ!(自称
「メルシーは速さの神だぞ☆」
【情報収集・視力・戦闘知識】
「えへへ…メルシーが速さで挑む側になるなんてね☆」
は…それじゃ負けるってか?
「そんな訳ないじゃん☆」
つー訳でレースで挑ませて貰おうか
【情報収集・視力・戦闘知識】
コースの構造とどう進むかを分析
あらゆる洞察と能力を駆使する
【念動力・属性攻撃・瞬間思考】
風を纏い…UC発動
超絶速度でのデッドヒート
念動力でコースは突っ切りながらスピードの先の超絶世界でのウィリアムと競い合う
魂
そんなのエロい事…僕の在り方は昔から変わらねー
それは…生きる事だ
生きて…生きて…生き抜く
神速戦闘機構『速足で駆ける者』(ブーツオブヘルメース)を展開したカシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)の駆る『メルクリウス』がサーキットコースにて、レース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』の『ローグ・インターセプター』へと迫る。
圧倒的な飛翔速度を持ち得た『メルクリウス』であっても、彼のマシンに肉薄するのが精一杯であった。
それほどまでに彼のスピードは卓越したものであった。
「よぅ、ウィリアム。おめーが世界最速ならば……限定的ながら……僕らもまた猟兵最速だ!」
それは自称であったが、しかし、其の自負がなければ何も始まらない。
速さというものを追い求めたもの。
それが『ウィリアム・ローグ』である。
不慮の事故で死してなお、彼は求めたのだ。
速さの極地、そのスピードの彼方を。
それが『アルカディア・エフェクト』である。
『メルシーは速さの神だぞ☆』
「ならば、私は速さの権化とでも言おうか。だが、この私についてこようとするのならば!」
圧倒的な加速で持って『ローグ・インターセプター』が『メルクリウス』を引き離す。
なんという圧倒的な速度であろうか。
黒い炎が噴出し、『アルカディア・エフェクト』がエキゾーストパイプから放たれる。これらを『メルクリウス』は躱さなければならない。
その分、速度がどうしても落ちてしまうのだ。
レースの駆け引きさえも『ウィリアム・ローグ』が一枚上手であると言えるだろう。
『えへへ……まさかメルシーが速さで挑む側になるなんてね☆』
「は……それじゃ負けるってか?」
カシムは『メルシー』が嫌に弱気なことを言っている事に気がついて、発破をかけるように言葉を投げつける。
正直言ってギリギリだ。
ギリギリのところで離されないようにくらい付いているのがやっとだった。
だが、そんなカシムの言葉に『メルシー』は笑う。
『そんな訳ないじゃん☆』
勝つために今走っているのだ。
現状を認めただけの話だ。ならばこそ、カシムは笑う。
速度で劣り、技術でも引き離される。
ならば、己に出来ることは唯一。
「コースの構造を分析する。あらゆる洞察と能力を駆使する!『メルシー』、おめーは速度出すことだけ考えてろ! コース取りは僕がやる!!」
『待ってました☆』
その言葉と共に更に加速する。
踏み出す度に吹き荒れる『アルカディア・エフェクト』を躱し、即座にコースを修正する。
どう踏み込み、どう躱すか。
そればかりをカシムは考えた。
「役割分担というわけだな。その必死さ。それこそが私の求めるところでもあるのだと、猟兵。その貪欲さ。飽くなき勝利への渇望。それこそが!」
「うるせー! そんな事言われなくてもやるってんだよ!」
「魂の輝きだ」
「魂……そんなのエロいことに決まってんだろーが! あ、文句はいわせねーぞ! 僕の在り方は昔から変わらねー! それは……生きることだ。生きて……生きて……生き抜く!そのために僕は!」
触れれば消滅する『アルカディア・エフェクト』。
されど、カシムの瞳は生を見出す。
負けることは即ち死である。
だが、それでも勝敗が生死を分かつことのない世界であることを知った。
「僕にはまだやりてーことがいっぱいあるんだよ! こんなところで立ち止まってられっか!」
『メルクリウス』のアイセンサーが煌めく。
限界を超えた速度。
並走した『ローグ・インターセプター』とデッドヒートを繰り返し、されど、カシムのは己の魂の輝きこそが、己の足を止めさせぬ唯一であると示すように、火花散る脳の奥に求める物を幻視するのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ラスク・パークス
アドリブ歓迎
死ぬまで……否。死んでも、走り続けた。
『;ω;) 悲しい……涙が出そうだ(出ないけど』
富も、名誉も、安寧もない、その生き様……まさに、ブラック企業の走狗の如し。
『-ω-) 休ませてやらねばなるまい……!(決断的判断』
ウィリアム氏。あなたの仕事……アルカディア・エフェクト。
私たち猟兵が、引き継ぐ。
マシン。操縦・運転は、無い。から。
『・Д・)つ チェーンシューズで疾走するぜ!』
妨害も、攻撃も、隠密も、今は違う。
ザナドゥの残影。私の背中に……ウィリアムの想いを乗せて行く。
そして私の魂を示す。すなわち。ブラック企業、ブッ滅す。
過去の職場での過酷な労働環境に比べれば。
『猟兵は自由だぁ!!』
伝説のグランプリレーサー『ウィリアム・ローグ』。
彼の一生は、あまりにも凄絶であり、圧倒的すぎた。
速さを追い求め、それ以外の全てをなげうった存在。その在り方を見て、ラスク・パークス(最後の死神・f36616)のバイザーに流れる電光掲示板の如き文字列は、『;ω;)』として、涙なくしては語れぬことを示していた。
「悲しい……涙が出そうだ」
だが、涙は溢れない。
なんで?
いやまあ、レプリカントだからとか、メガコーポの地下工場で生産されたデスブリンガー部隊だからとか、そんな要因は数あれど、ラスクは独りごちる。
「富も名誉も、安寧もない、その生き様……まさに、ブラック企業の走狗の如し」
確かに『ウィリアム・ローグ』は望んで、その速さを突き詰めるためにそれ以外の全てをなげうったのだから、望まざると走狗になったのとは異なるとも言える。
けれど、それでもラスクは思ったのだ。
死してなお、得たものを他者に託したいと願う様は、あまりにもワーカホリック!
ならば、己が!
「休ませてやらねばなるまい……!」
決断敵判断を下す、『-ω-)』、この顔である。顔っていうか、文字っていうか。アスキーアートっていうか。
故に彼女は宣言する。
「ウィリアム氏。あなたの仕事……『アルカディア・エフェクト』。私達猟兵が、引き継ぐ」
「それが出来るのであればの話だ。私の勝利できぬようでは到底! 君たちの魂の輝きを此処に示さねば、それすら立ち行かぬと知るが良い!」
『ローグ・インターセプター』が走り抜ける。
その旋風のような走りっぷりはラスクにとっては、あまりにも爽快すぎるものであった。
とは言え、自分にはマシンはない。操縦、運転することも心もとない。
ならば、どうするか。
「こうするのだ『・Д・)つ』」
無限軌道式の刃。
それはインラインスケートとも言われる脚部武装。
刃付きのキャタピラめいたシューズでもってラスクはサーキットを疾駆する。
そのすさまじいまでの速度は、一気に『ウィリアム・ローグ』へと距離を詰める。
だが、追い越せない。
その速さは極地にまで至るものであった。
普段の戦いであれば、妨害も、攻撃も、隠密もするだろう。だが、今は違う。
ユーベルコードを発露する。
バイザーが光り輝き、ザナドゥの残影(アフターグロウ・ザナドゥ)樽漆黒を纏って疾駆するのだ。
己の背中に負うは『ウィリアム・ローグ』の思い。
「私の魂を示す。即ち、ブラック企業、ブッ滅す」
ただそれだけである。
死した後もオブリビオンとして働かされるなんてまっぴらごめんである。
それに過去の職場での過酷な労働環境に比べれば。
「猟兵は自由だぁ」
それは機械音声ではない、魂の叫び。
電光掲示板の如きバイザーから垂れ流される本音。
そう、ブラック企業から脱出することのできた幸運。猟兵と覚醒したことにより得た自由。
これによってラスクはあらゆる枷を外されたも同然なのである。
その魂の慟哭とも言うべきバイザーに走る文字列は、彼女の偽らざる思い。
そして、それこそが己の魂。
「なんたる……」
『ウィリアム・ローグ』は思った。
ラスクの劣悪なるこれまでの人生。それからの解放。そのほとばしりこそが、魂の慟哭であると――。
大成功
🔵🔵🔵
レジーナ・ビエルニィ
……勝負っていうなら受けて立つよ
『ぺんぺんくんシューズ』でいつものように滑ってく
……うん、やっぱり速い。正直普段なら風を感じながら滑っているだけでもいいんだけど、これは勝負。
本職のレーサー相手にそのまま速度勝負じゃ勝ち目はないけど、
負けるのは好きじゃないから、使える手を使う。
UCを使ってから『しろくまくん2号』を構える。幸い、滑りながら狙い撃つのは慣れてる。狙うのは相手自身じゃなくて私の前のコース。凍結攻撃を放って路面を凍結させ、氷の道を作り、其処を滑りながら駆け抜ける。悪路走破も慣れてるし。このぐらいの氷で滑って転ぶつもりはない
飛んでくる炎は氷の銃弾で迎撃しながら、相手を追う。どこまでも。
アスリートアースにおいて勝負を挑まれたのならば、受けて立つ。
相手がどんなに強敵であり、アスリートアース史上に残る偉人の如き伝説的レーサーであろうとも、受けて立つのがアスリート魂というものである。
レジーナ・ビエルニィ(雪女のバトロワシューター・f37984)は確かにクールな見た目をしているし、その性格もまたマイペースそのもの。
けれど、確かに彼女にも在るのだ。
熱く燃えるアスリート魂というものが。
「……勝負ていうなら受けて立つよ」
静かに言い放ち、レジーナは『ぺんぺんくんシューズ』を履き、サーキットコースへと飛び出す。
いつものように。
相手がどんな存在であろうと変わらない。
自分がやるべきこと。できること。
それは何一つ変わっていないのだ。
ならば、マイペースな性格故に彼女は滑り始める。
普段なら風を感じるように滑るのも良いと思うところである。こんな広々としたサーキットを走るのは、気持ちのよいものだ。
けれど、これは勝負だ。
「……うん、やっぱり速い」
レース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』の走りは苛烈にして軽快。
凄まじい速度でコーナーへと突入していくのに、そのコーナリングはあまりにも流麗だった。
直線でもコーナーでも距離を離されていく。
流石は本職のレーサーである。勝ち目はない。けれど、レジーナだってアスリートなのだ。
「負けるのは好きじゃない」
だから、使える手は使う。それは『ウィリアム・ローグ』も認めるところであったことだろう。
隠れた意地(マケズギライ)を発露する彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
己の思考、反応、行動の全ての速度を『ウィリアム・ローグ』と同じにすれば、追い越せぬまでも並走することはできる。
「……私に並ぶか!」
「……負けない。だから」
構えるは、氷の意匠施された愛用のバトロワ式スナイパーライフル。
しかし、それは『ウィリアム・ローグ』を狙うのではなく、己の前の路面だった。
引き金を引く。
何を、と思う暇すらなかった。
そう、レジーナは目の前の路面を凍結させたのだ。
引き続き放たれる弾丸。それは彼女の眼の前に氷の道を生み出す。そう、彼女はバトロワシューター。
けれど、それ以上にアイスフィールドを駆け抜けるアスリートでもあるのだ。
故に、彼女の本領はアスファルトの路面ではなく、氷の路面。
構えたスナイパーライフルは敵を穿つ貯めではなく、己の道を作るために生み出されたもの。
「見上げたアスリート魂だな!」
「……これが私の道。道がないなら作れば良い。それだけのこと」
だから、とレジーナは『ウィリアム・ローグ』と競うようにしてサーキットを駆け抜ける。
ここまできて『ウィリアム・ローグ』は猟兵たちに前を取らせることはなかった。
だが、レジーナたち猟兵は遂に彼の前に僅かに出ることができたのだ。
「ならば、私も習うとしよう。その勝利への貪欲さを!」
吹き荒れるは漆黒の炎。
それをレジーナは氷の銃弾で迎撃しながら、互いのスピードを競う。
追い抜かれ、追い抜き、その繰り返し。
だが、同時にどこまでも追う気概があった。
そう、レジーナはクールでマイペースな性格である。だが、それは表面的なことなのかもしれない。
彼女は負けず嫌いなのだ。
負けたくない。
勝ちたい。その魂の奥底から叫ぶ声に従うようにして、レジーナは『ウィリアム・ローグ』と激しいデッドヒートを繰り広げるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
メンカル・プルモーサ
…なるほど…速さを追い求めたという事か…
何か1つを追い求める気持ちは共感出来るね…
…ならば私は自作の飛行式箒【リントブルム】で挑戦しよう…
…スタート同時に重奏強化術式【エコー】で強化した【天翔る突風の馭者】を発動…これまで培った術式の知識を総動員して飛行式箒の速度を上げてウィリアムを追い抜かんとするよ…
…制御出来る速度……では間に合わないな…
…暴走覚悟でUCを【エコー】で追い強化して加速…
ウィリアムが速さを求めて研鑽を積んでいたように…私は術式を今まで究めてきたからね…暴走を制御して見せよう…
速さ。
それだけを求めた伝説のグランプリレーサー『ウィリアム・ローグ』は、死の先にて『アルカディア・エフェクト』を得た。
それはあらゆる速さの向こう側。
到達点とも言うべき頂点であったことだろう。
ただ一つのことを極める。
それは言葉にすれば、なんとも容易い言葉であった。だが、誰もが実行に移すことができるわけではない。
生きることさえも止め、速さのみを希求した『ウィリアム・ローグ』だからこそ到達できたのだ。
「……なるほど……速さを追い求めたということ……死さえ乗り越えて……何か一つを追い求める気持ちは共感できるね……」
メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は深く同意するようにうなずいた。
サーキットに走る『ローグ・インターセプター』は旋風を巻き起こすかのように凄まじい加速で持って猟兵たちとデッドヒートを繰り広げている。
此処まで持ち込むのに猟兵達は多大なる力を費やした。
だが、其処まで来てなお、デッドヒート。
まだ一歩足りないというように『ウィリアム・ローグ』は疾走する。
容易には追いつけないだろうとメンカルは理解した。
なればこそ、彼女は己の自作した飛行式箒『リンドブルム』でもって飛翔する。重奏強化術式『エコー』で強化したユーベルコードによって、天翔る突風の馭者(バーン・ストーマー)は空を疾駆する。
これまで培った術式の知識を総動員しての、飛行式箒の速度を底上げしていく。
追い抜く。
ただ、その一点のみを目指してメンカルは己の魔力を『リンドブルム』に注ぎ込み、術式を編み上げていく。
「……速度の制御域を逸脱している……でも、この領域にとどまっているのでは、間に合わないな……」
「覚悟を決めるか、猟兵」
『ウィリアム・ローグ』の声が聞こえる。
そう、覚悟。
これは覚悟だ。術式を編み上げていく。幾重にも編み込まれた術式は確実に自分の制御の領域を逸脱している。
けれど、『ウィリアム・ローグ』に勝つためには、暴走を覚悟するしかない。
「……キミが速さを求めて研鑽を積んだように……」
メンカルの瞳が煌めく。
それはもはやデータであるとか、情報であるとか、そういう問題ではなかった。
メンカルにもまたアスリート魂が宿っている。
一つのことを極めるとことは、数多の道を束ねた先にある頂点を目指すということである。到達すべ点は一点のみ。
ならば、如何なる場所からでも極みに到達することができる。
メンカルにとっての、それが術式だったのだ。
「……私は術式を今まで究めてきたからね……」
「そうだ。暴れるのならば制御する術を知れば良い。そうして己の限界を込めていくことこそが!」
それが極めるということ。
一つの壁にぶつかったのならば、乗り越えるか、壊すかだ。迂回するなんて選択肢はないのだ。
だからこそ、メンカルは編み上げられた術式を連動させ、同時に制御する術式をも強化していく。
暴走する、ということは未だ力が有り余っているということ。
余剰の術式を組み換え、砕けた術式を再現し、さらにメンカルは速度を上げていく。
音速を超え、空気の壁すらぶち抜く轟音を響かせながら、メンカルは『ウィリアム・ローグ』と共に極めたる道の先へと足を踏み出すのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
薄翅・静漓
『天人結界』で飛翔し、レースに挑みましょう
現れる過去の光景を恐れず
風に乗って加速するわ
これまでも感情に振り回されないように努めてきたわ
過去の光景に心が揺れて、動きが鈍りそうになっても
己を叱咤し、飛び続けましょう
苦しみすら力に変えて、強敵を越えていくわ
私はこの世界を守りたいの
しあわせなゆめを見るあの子のためにも
サーキットコースに風が吹いていた。
それはレース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』の駆るマシン『ローグ・インターセプター』が生み出す衝撃波の余波であったかもしれない。
それほどまでに彼の駆るマシンは規格外であったし、それを制御して見せる彼の技量もまた極まったものであったことだろう。
彼にとって、それは当然のことだったのだ。
道を極めるということ。
速さを求め、その頂点……即ち『アルカディア・エフェクト』へと到達すること。
その意味を彼は猟兵たちに伝えたいと言った。
「……行くわ」
だが、薄翅・静漓(水月の巫女・f40688)の揺れぬはずの感情が揺れていた。
風に乗って加速する。
ユーベルコード、天人結界(テンジンケッカイ)によって全身を障壁結界で覆い、迫る『ウィリアム・ローグ』の放つ衝撃波に耐える。
吹き飛ばされるほどの衝撃。
耐え難いものである。
だが、それでも静漓は普段ならばしない表情をしていた。
歯を食いしばるような、そんな些細な表情。
彼女の瞳にはレースコースが映っていた。
だが、彼女が見ていたのは過去の光景であった。感情が揺れる。揺れ動く。
胸の奥からあふれるような感情の激動に彼女は努めてきたはずの、全てが瓦解していくのを感じた。
「揺れているな、猟兵。それでは私には追いつけまい! あらゆるものを置き去りにするスピードこそが! 究極なのだ! 求めるものがあれば手を伸ばすがいい!」
『ウィリアム・ローグ』の声が聞こえる。
静漓の胸中を締めていたのは、やはり過去の光景だった。
動きが鈍る。
けれど、彼女の背中を押す風は、『ウィリアム・ローグ』の生み出した余波ではなかった。
彼女の背中を押すのは、いつだって自分が応援してきた彼女たち。
その彼女たちの声援が聞こえたような気がした。
いや、気がしたのではない。
確かに聞こえる。サーキットコースの向こう側、そこにチェッカーフラッグをふる少女の姿があった。
がんばれ、と言っている。
聞こえないけれど、確かに届いている。
見たくはなかった過去が、己の視界に映っている。
けれど、恐れただろうか。
彼女は己の生命を失うことを厭うただろうか。生命をおいても為し得ぬものがあったからこそ、彼女は駆け抜けたのだ。
ならば。
「私は」
己を叱咤する。
胸がきしむような苦しささえも、力に変えて静漓は踏み出す。
逆境は己の背中を押す。これまで培ってきた他者とのつながりが、静漓の手を退く。
叫べ、と心が言っている。
何をしたいのか。
「私は、この世界を守りたいの」
ただそれだけだった。故に彼女は風のように駆け抜ける。
『ウィリアム・ローグ』の背中を追うのではなく、その先にてチェッカーフラッグを振る少女の元へと駆け抜けたいと。
「しあわせなゆめを見るあの子のためにも」
自分は、勝たねばならない。
その意志を瞳に満たし、静漓は駆け抜ける。
あのまばゆい笑顔こそ、己を輝かせる。月光のように、自分は微笑むことができるだろうか。
もはや、其処には『ウィリアム・ローグ』の姿はなく。
あるのは、ただ己が求めた笑顔の光景だけだった――。
大成功
🔵🔵🔵
戒道・蔵乃祐
生きとし生けるものには可能性を見出だし、死者はただその先達となるのみですか
実際のところ、アルカディア・エフェクトとは現象なのか
或いは、生と死を分かつ狭間の存在が至る明鏡止水の極致なのか
その原理を説明や理屈で理解ができるものでは無いのでしょうね
◆毘紐天動輪
ヴォイド・リフレクション
『ローグ・インターセプター』の超過駆動が吐き出す破壊とエンターテイメントのカタルシスを
天輪と我が身一つで乗り切る
限界突破+ダッシュでウィリアムに追走
周回遅れでも構わない
前後左右四方八方地中天上
砲撃を見切りと心眼で躱し
念動力+早業で撃ち落とす
アルカディア・エフェクトは絶滅の危機に瀕する程輝く命の本質
その域へ届け…!行け!!
レース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』の在り方は、あまりにも眩く、そして儚すぎた。
同時に疾すぎたのだ。
多くのことを置き去りにした。
速さ以外の全てを擲ち、それでもなお道の先を求めた。
即ち、スピードの向こう側である。
皮肉にも、その生命すらも捨てることで到達できたのだ。しかし、得たものは死者には無用の長物。
「生きとし生けるものには可能性を見出し、死者はただその先達となるのみですか」
戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)は静かに言葉を紡ぐ。
その言葉とは裏腹にレースサーキットには轟音が轟いている。
『ウィリアム・ローグ』の駆る『ローグ・インターセプター』のエンジン音。
そして、猟兵たちとデッドヒートを繰り返す。
その音が、まるで交響曲のように鳴り響いているのだ。
蔵乃祐には実際のところ、『アルカディア・エフェクト』が何であるのかを正確には理解できていなかった。
ただの現象なのか。
或いは、生と死を分かつ狭間の存在が至る明鏡止水の極致のことを示すのか。
その原理が如何なるものであり、それに理解を示すことが出来るのか否か。
だが、今においてそれは雑念にすぎない。
彼にとって今なすべきことは唯一つ。
「法輪駆動。即ちクンダーラヴァルティン」
瞳がユーベルコードに輝く。
毘紐天動輪(ビチュウテンドウリン)――印契を向けるは『ウィリアム・ローグ』の駆る『ローグ・インターセプター』。
即ち、標的である。
手にした戦輪が煌めく。
「その超過駆動が吐き出す破壊とエンターテイメントのカタルシスを、天輪と我が身一つで乗り切らせて頂きましょう」
「できるかな、それが。この私を相手に!」
「できるできないではなく、それが僕のなすことであれば!」
蔵乃祐は疾駆する。
間に合わずとも周回遅れであろうと関係ない。迫りくる砲撃は、『ウィリアム・ローグ』が追い詰められていることを意味していた。
そう、彼とて勝てぬ相手ではないのだ。
確かにレース勝負であれば勝ち目は薄い。勝負にさえならないだろう。
けれど、ここに来てデッドヒートを繰り広げるまでに至った猟兵たちの実力を評価するからこそ、彼は此方の排除に打って出たのだ。
速さのみを弾き出すのならば、猟兵は彼の敵ですらなかった。
だが、オブリビオンであること。
その一点が彼の速さを濁らせる。
放たれる車載兵器からの一斉射。
それによって加速すれど、淀む。そこへ蔵乃祐は駆け込む。
前後左右四方八方地中天上。
如何なる場所からでも打ち込まれる砲撃を心眼を以て躱す。
「砲撃など行わなければ!」
己達を下す事もできただろう。だが、それを彼はしなかった。
彼は勝利を目的としていない。
ただ、立ちふさがる障壁として、その身が得た『アルカディア・エフェクト』を伝えんがために彼は疾駆したのだ。
「もとよりそのつもりだったさ。だが、諸君らの熱さが、魂の輝きが、私を引きずり出したのだ!」
「ならば!」
念動力と戦輪の早業によって蔵乃祐は迫りくる火器の砲撃を撃ち落とし、迫る。
『アルカディア・エフェクト』、それは加速させる力。
強制進化の力をも持ち得る力。
進化の果てなど言うまでもない。消滅である。
ならばこそ、この魂の輝きは、絶滅の危機に瀕するほどに輝く生命の本質に則るものである。
「その域に届け……いや、届かせる! 行け!!」
蔵乃祐が放った戦輪が『ローグ・インターセプター』の車体へと打ち据えられる。
揺れる車体。
緩むスピード。
これが己の生き方だと示すように蔵乃祐は、走り抜けていくマシンを見送るのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
国栖ヶ谷・鈴鹿
◎
ぼくの魂を見せる、だね!
ぼくの魂の形、それは創造、ハイカラで
天才な全ての創造物を活かすこと!
フロヲトバイ紅路夢!ウィリアム・ローグ、貴方に挑むマシンはコレだ!
そして、ぼくのドライビングテクニックを込めたユーベルコヲドで、拒絶する雲海も超えていくよ!
技巧のテクニクスは走りの速度だけじゃない。
あの
青い空の世界を共に行った、スカイクルーザー・ヨナの受け流しのミストの散布と守護稲荷きこやんと白鈴晶燈の守護や結界でアルカディアエフェクトを一瞬でも緩めて、雲海から距離を取り、縫うようにウィリアムと距離を縮めていくよ!
全ての技術の総力戦、ぼくは一人じゃない。
紅路夢、ヨナ、きこやん、白鈴晶燈、どれも誰かの想いが伝わってぼくの手にある連綿たる想いが力になっている。
だから、今は一人でも、決して孤独じゃない。
多少の無茶も今なら進化に変えて、乗り越えて行くよ!
輝ける魂こそレース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』の求めるところであった。
彼にないもの。
死せる者。過去の堆積より滲み出た者にとって、その魂の輝きは持ち得ぬものであった。故に彼は求めるのだ。
己が得た『アルカディア・エフェクト』――それを託すべき後継を。
「まだだ、まだ私は!」
終われない。
何一つまだ、と『ウィリアム・ローグ』は揺れる車体を立て直し、さらに加速していく。
ファイナルラップ。
この勝負は、最速で最後のゴールに飛び込んだ者の勝利である。
故に彼は、まだ勝利を諦めていない。
猟兵達もまた同様だ。
凄まじいまでの力を持つ『ウィリアム・ローグ』の速さは、究極の一つであると言えただろう。
だからこそ、国栖ヶ谷・鈴鹿(命短し恋せよ乙女・f23254)は決意する。
「ぼくの魂を見せる、だね!」
彼女は己の魂というものを理解する。
根源にあるもの。多くを縁取るもの。
それは創造である。
ハイカラで
天才な全ての創造物を活かすこと。
それが己の魂の形である。
だからこそ、知ってほしい。
「貴方に挑むよ、僕は!」
自身が発明したフロヲトバイ。赤銅のボディカラーがサーキットの照り返しを受けて煌めく。
「ならば、越えて見せるがいい。私の放つ『アルカディア・エフェクト』さえも!」
『ローグ・インターセプター』のエキゾーストパイプより放たれる拒絶の雲海。
触れれば消滅してしまう。
それほどまでに凄まじい力なのだ。鈴鹿は臆することはなかった。
確かに恐ろしいという感情は在っただろう。
けれど、それを彼女は塗りつぶす。それ以上に彼女は心が踊っていた。
伝説的グランプリレーサー。
非業の死を遂げた彼と競い合うことができる。それもスピード。この速さの極致にて彼とやり合うことができる機会に恵まれたことをこそ、鈴鹿は誇る。
なら、ときらめくユーベルコードを宿した瞳は『ウィリアム・ローグ』の背を追う。
「アダプト、完了! 超弩級操縦適応技巧(テクニカル・トレヰス
)……!」
速度は『ローグ・インターセプター』と並ぶ。
だが、その速度を制御するには『ウィリアム・ローグ』と同等のドライビングテクニックが必要不可欠である。
拒絶の雲海を躱し、さらに飛ぶようにしてフロヲトバイでもって走り抜ける。
「やるな……! だが、それだけでは私に並ぶので精一杯だろう! ここまでだよ、猟兵!」
「そんなことない! ぼくは! この子と、あの
青い空の世界にだって行ったんだ!」
雲海の間隙を縫うようにして距離を詰める。
スピードは互角。
後は腕次第。
その腕、というのが問題だった。
確かに鈴鹿は天才である。
ドライビングテクニックだってそうだろう。すでに『ウィリアム・ローグ』の運転技術は彼と同格。
技術を得たからと言って、即座に扱えるものではない。
練磨に次ぐ練磨によって定着した技術は、もはや技術というよりも、呼吸に近いものだった。『ウィリアム・ローグ』は究極的に、その領域まで到達している。
惜しむらくは、鈴鹿がその領域に到達するまでに時間を有するということであった。
だが、彼女の瞳は諦観に曇ることはなかった。
勝利を渇望する貪欲さに煌めいていた。
乗り越えるすべがないのならば、創造するまで。それが天才たる所以である。
「何故、距離が縮まる……! 私と同値の技術は、そうたやすく……!」
「そうだよ。わかっているよ。でも、これはぼく一人の力じゃない。全ての技術の総戦力。紅路夢、ヨナ、きこやん、白鈴晶燈……ぼくが創造したどれもが、誰かの想いを伝えてくれる」
己の手の中に在る連綿たる想いが力の決勝となっているのだ。
だから、何もかもをかなぐり捨てて速さを追い求めた一人のレーサーとは違う。
「ぼくは決して独りじゃない」
天才ゆえの孤独を『ウィリアム・ローグ』も味わったことだろう。
だが、それでも鈴鹿は違う。
誰かの想いを受けて走る事のできる天才なのだ。
それが『ウィリアム・ローグ』との違い。故に、鈴鹿は渾身の力を込めて、フロヲトバイのアクセルを全開にし、彼をお犬感とするのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
百海・胡麦
アドリブ大歓迎
道具らを家族と想う妖です
生命と死者?
なれば妖は何方であろか
足となる愛い子らは
『天人』
箒を呼び
走りたがりの『虎尾』に跨る
加速…厄介ね、すごく――面白い
折角だ呼ぼうか
『弄月』
現るる痩躯の星宿す機体
あばれんぼう、て呼んでる
アタシは【魔力を溜める】
発つのに助走、…投げて?
大きな手が己と虎尾を【投擲】
焔と『風誘い』らで着地と攻撃の【衝撃吸収】
つんざき油断すれば振るい落つ
骸に
見つめ笑む
風が好いわねと心に語るよう
全力疾走ただ貴方を追い
唇は唱える
仕掛けを避け
あの直線だ天人が見てくれた
車捌きとエンジン音に恍惚としながら
狙う
【全力魔法】溜めに貯めた白き炎を
後方に放つ
進むため
痛むのは生の証か?
快い熱ね
レース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』は己が死の先にて手に入れた『アルカディア・エフェクト』を死者には無用の長物であると言った。
生命の輝き放つ生者であるからこそ、それは必要なのだとも言った。
なれば。
そう、なれば、と百海・胡麦(遺失物取扱・f31137)と思う。
「生命と死者? なれば妖は何方であろか。足となる愛い子らは」
その問いかけに『ウィリアム・ローグ』は応えるべくもなく、加速していく。
答えを得たいのならば、追いついてみせよ、とでもいうかのような振る舞いに胡麦は箒を呼び、またがる。
「加速……厄介ね、すごく――面白い」
そう、厄介なことは面倒なこと。
面倒なことは楽しいこと。
楽しいことは面白いことである。
迫りくる砲火。
それは『ウィリアム・ローグ』の駆る『ローグ・インターセプター』に搭載された銃火器である。
速さには関係ないものであるが、しかし、それを扱うまでに『ウィリアム・ローグ』は猟兵たちに追い詰められていたと言ってもいい。
むしろ、此処まで引きずり降ろしたと言っても良い。
彼がもし、速さだけで勝負していたのならば、もはやゴールは彼のものであった。
だが、度重なるデッドヒート。
猟兵が見せた魂の輝きに寄って『ウィリアム・ローグ』は猟兵たちに勝利したいと思うようになっていた。
故に、彼は迫る猟兵を蹴落とさんと銃火器を展開したのだ。
「なら、呼ぼうか。『あばんぼう』」
星宿す痩躯の機体が現れる。迫りくる砲火を防ぎながら、胡麦は魔力を貯める。
そう、これはスタートを切るための助走だ。
己の体躯を『虎尾』ごと掴む『あばれんぼう』こと『弄月』。その痩躯からは想像もできぬ膂力めいた出力で持って胡麦を投げ放つのだ。
「ショートカットなど!」
させない、と『ローグ・インターセプター』より放たれる砲火を防ぎながら着地する。
「つんざき油断すれば振るい落つ、骸に」
それは詠唱だった。
歌うような詠唱。
「見つめ笑む。風が好いわねと心に語るよう。全力疾走ただ貴方を追い」
紡がれていく。
そう、歌でありながら、それは詠唱。魔力を貯めた彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
確かに速さでは到底追いつけないだろう。
だが、同時に彼女は思う。
見惚れるほどに美しき光景だと思う。
速さの極致へと居たりし者の技量。そして、その技量を支えるマシンのエンジン音。
それは彼女の問いかけに応えるものであったかもしれない。
言葉ならずとも示すもの。
それを胡麦は感じ取るだろう。ただの道具であると、命なきものであると感じているのならば、あのような芸当は出来はしまい。
故に彼女は解き放つ。
「進むため、痛むのは生の証か?」
アルカナ・ブラスターの放つ白炎の破壊光線の一撃が『ローグ・インターセプター』より放たれた砲火を飲み込みながら、その車体を包み込む。
吹き荒れる熱波が彼女の頬にふれる。
だが、それでも『ローグ・インターセプター』は走り続ける。
「快い熱ね」
あれが極致に至る者たち。
その証明。
だからこそ、胡麦は言葉ならぬ答えを知り、笑むのだ。
自身の魂の在りかではなく。それを如何にして扱うか。それこそが己が問うたものの答え。
ならば、己はそれを抱えて笑むだけでいいのだ。
己を助くるモノたち。
ああ、と吐息漏らすように告げる。
「ありがとうね、おまえたち――」
大成功
🔵🔵🔵
安野・穣
(アドリブ連携歓迎)
世界は36あるとされるが、過去の排出先は一つ…
死者と化した際に他世界と混線するのもあり得る事か…?
…時間がない、彼方に見失ってしまう前に追うぞ『カサンドラ』!
狙うレース展開はローグのすぐ後ろにつけ、最終局面で追い抜き。だが…
何が挑み越えて行けだ、追いつくどころかレースになるかも怪しい速度の差…!
『ローレル』は全てスラスター運用に回す!盾と砲台として使う余力はない、
一斉砲撃は受けずに<戦闘演算>で回避行動…速度も軌道も変えてくるがやるしかない…!
やるしかねえけど…ああクソ、せめて空を…!
…いや、ここはアスリートアースなら。俺の世界とは異なる空なら。
…できる、のか?
『ピューティア』の機能を最大に。踏み込むは未踏のG、未踏の飛翔…!
【細氷】、強化対象は『カサンドラ』と俺自身!
強化した<推力移動>の高速飛翔が叶うなら、なんとか避けて追いつける!
肉体亡き後も残る有り様を魂と呼ぶなら!
閉ざされない空、人と人を隔てるもの無き世界への願いが俺の魂だ!
活動限界までに追い越してみせる!
猟兵たちは知っている。
世界とは一つではないことを。
三十六を数える他世界があり、その排出された過去は骸の海へと繋がっている。いや、世界が骸の海に浮かんでいるというのが正しいのかも知れない。
ならば、何故。
そう、何故、レース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』は大空の世界ブルーアルカディアに満ちる『アルカディア・エフェクト』……拒絶の雲海を持ち得るのか。
死者と化した際に他世界と混線したとでも言うのか。
わからない。
答えは出ない。
だが、それでも『ウィリアム・ローグ』を見失うわけにはいかないのだ。
彼は速さの極致にある者。
「……時間がない、追うぞ『カサンドラ』!」
虚空より現れたキャバリアに乗り込み、安野・穣(with"CASSANDRA"・f30162)は走る。
これまで猟兵たちとデッドヒートを繰り広げ、その魂の輝きがまばゆいほどに輝いた光景を『ウィリアム・ローグ』は見てきた。
本来ならば、速さだけを希求し、猟兵たちを彼は引き離すこともできただろう。
だが、オブリビオンと言えど彼もまたアスリート。
そのレーサースーツの奥に秘めた魂は、生きていた頃を思い出し、燃えていたのだ。
それが誤算である。
もしも速さだけにこだわり、レースを押し進めたのならば猟兵達が勝つことはできなかっただろう。
だが、ほだされたと言っても良い。
彼は己のアスリート魂に猟兵たちが火を付けたことを知る。
車載兵器を展開したことが、証明であった。
彼は、その兵器でもって猟兵たちを完膚なきまで打倒しようとしていた。それは不純物だった。
速さというものを求める者にとって、それこそが無用の長物であったのだ。
だが、そこに勝利への。
いや、強き猟兵たちという存在に打ち勝ちたいという欲が、彼の速さの足を引っ張る形になったのは皮肉でしかなかっただろう。
ぴたりと張り付く穣のキャバリア『カサンドラ』。
これを排除せんと放つ砲火を躱す。だが、躱しきれない砲火が『カサンドラ』を襲う。
爆風に呷られるようにして『カサンドラ』の機体が後方に弾かれる。
「私に挑み、越えようというのならば! この程度の障害などあってないものであろう!」
「何が!」
何が挑み越えていけだ、と穣は毒づく。
そう、これは追いつくどころかレースになるかさえ怪しい速度に力量。
彼は速さを追い求めた者であるが、高速戦闘ができないわけではないのだ。それほどまでに彼の実力は凄まじいものだったのだ。
だめだ。
守っていては負ける。追いつくことすら、彼の影を踏むことすらできない。
「『ローレル』は全てスラスター運用に回せ!」
盾と砲台として扱う余力などないと知る。
迫る砲火が機体を打つ。
だが、構わない。
回避機動すら惜しい。それほどまでにスピードさがあるのだ。
保つのか。
ぞわり、と瞬間思考の間で嫌な思考が流れ込んでくる。
できるのか。
やれるのか。
その思考の惑いが己の動きを阻害する。
いや、やるしかないのだ。そうする他に道はない。だが!
「やるしかねえけど……ああクソ、せめて空を……!」
飛ぶことが出来たのなら、と穣歯噛みする。
空。
いや、違う。
此処はあの空に蓋をされた世界ではない。
ここはアスリートアースだ。超人アスリートたちがしのぎを削る、世界。
なら。
「……できる、のか?」
空を、と穣は呟く。
だが、瞬時に切り替えた。迷う暇などない。そんな暇など与えてはくれない。己は間違うかもしれない。
けれど、それでも手を伸ばさなければ話にならない。
そこに勝利への道筋があるというのならば。
「やらないわけにはいかないだろうが!」
耐衝撃バリアシステムを展開する。
機体の、コクピットだけに張り巡らせて集中させたバリア。そう、踏み込むは未踏の加速度Gであり、未だ踏み切れなかった飛翔。
その願望にも似た想いさえも穣は投げ捨て、『カサンドラ』と共に飛ぶ。
「飛べ……!」
凄まじい加速。
ユーベルコードに輝く瞳。
己の潜在能力と意志を増幅させる。飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。
飛ぶ!!!!
そう、飛べる。飛べるのだ。此処にはあの暴走衛生はない。なくてもどうしてか心に蓋をされるほどにあの暴走衛生はクロムキャバリアに生きた者たちの心を地に縛っている。
だが、それを振り切る。
己の心を押し切るように『カサンドラ』とともに飛ぶ。
「そうだ。誰も縛られた者などいないのだ。心さえも自由である。なら、空を飛ぶのもまた君の意志だ。その意志こそが、魂を輝かせる」
『ウィリアム・ローグ』の言葉を穣は聞いただろう。
そう、誰も心までは縛られない。
己の心を縛っていた鎖は、アスリートアースの空に引きちぎられた。
「肉体亡き後も残る有様を魂と呼ぶなら!」
穣は叫ぶ。
裂帛の気合とも言うべき叫び。
それは閉ざされない空、人と人とを隔てるもの無き世界を渇望する、穣の本質とも言うべき原点にして魂。
願いは祈りに昇華する。
祈りは人の歩みを加速させる。
故に穣は走る。
脇目も振らず、『ウィリアム・ローグ』の『ローグ・インターセプター』を振り切ったことも認識せずに、チェッカーフラッグはためく、その先へと飛び込んだ。
その光景を己の眼前にみやり、『ウィリアム・ローグ』は笑むようだった。
「そうだ。それでいい。君は、君たちは、そのさきへ征け。それだけが」
己の託した願い、祈りだというように『ウィリアム・ローグ』はゴールへと走り抜けること無く、己の愛機と共に霧散して消えゆくのだった――。
大成功
🔵🔵🔵