闇の救済者戦争⑳~無限血戰
●ブラッド・セイヴァー
「「……鮮血の大地に潜り、猟兵達を迎え撃つ……」」
「「……この大地は、これまでこの世界で流された『全ての血液
』……」」
「「……『腐敗の王』が生と死の循環を断った為、全てはここに蓄えられている……」」
「「……そして、わたしたちが操るは『生贄魔術
』……」」
「「……無限の鮮血を贄としたとき、わたしたちは最強……」」
「「……つまり、これでようやく猟兵と五分……」」
「「……わたしたちは最も古き『はじまりのフォーミュラ』として……」」
「「……ライトブリンガー、かつてあなた達と戦った時のように……」」
「「……六番目の猟兵達との戦いに、死力を尽くしましょう……」」
●記憶と共に
五卿六眼『祈りの双子』。
双子は、この世界のオブリビオン・フォーミュラにして、ダークセイヴァーの真なる支配者だ。
「最も古く、故に最も弱きフォーミュラ。彼奴らはそう自称しておる」
鴛海・エチカ(ユークリッド・f02721)は祈りの双子について語り、いよいよ決戦の時が訪れたと告げた。これまでのフォーミュラと比べて特別強いわけではないが、双子は第二層の大地を切り裂いた。其処から溢れる膨大な鮮血を生贄とする『生贄魔術』を駆使するらしい。
「双子の『欠落』は健在じゃが、他と違って無敵能力はない。つまり制圧すれば滅ぼせるというわけじゃ」
第二層の大地に流れる鮮血は、これまでこの世界で流された全ての血液である、と祈りの双子は語っていた。双子はこの鮮血を浴び、かつて血を流した人々の『オブリビオンに対する憎しみの記憶』を糧に襲いかかってくるだろう。だが、対抗策がないわけではない。
「お主達も鮮血に潜るのじゃ。その中から、自らを助けてくれる『血の記憶』を見つけ出して力とすることで対抗できるようになるじゃろう。そして、それに成功したとき――お主は真の姿となる」
普通に真の姿になるのとは少し違う。
自らの意思ではなく否応なしに顕現する。つまり隠すことが出来なくなる状態だ。
そして、血の記憶がどのように作用するかはその人次第。
「或る者は自身の中に記憶が流れ込んできて、今まで以上の威力の攻撃を放てるようになるじゃろう。また或る者は自身の傍に霊的な存在が現れ、共に戦ってくれるようになる。或いは記憶の中の者が応援してくれたり、と。ううむ、まさに千差万別じゃのう」
しかし、真の姿となった力と血の記憶があれば祈りの双子を討ち倒すことができる。
エチカは戦いに赴く者へ信頼の眼差しを向けた。
「お主達が勝利を得て戻ってくることは我もよく知っておる。頼んだぞ、皆!」
そして、エチカは祈りの双子が待つ地を示す。
転送陣の光に包まれた先。其処で待っているのは――血の記憶と共に立ち向かう戰いだ。
犬塚ひなこ
こちらは『闇の救済者戦争』のシナリオです。
いよいよ、五卿六眼『祈りの双子』の決戦です!
このシナリオの受付開始時間は【5月18日朝8時31分】からとなります。
それ以前のご参加は流れてしまう可能性が高いのでご了承ください。オーバーロード参加の場合は受付時間外に送っていただいても大丈夫です。
●プレイングボーナス
『鮮血の中に満ちる人々の記憶の中から、自身を助けてくれる「血の記憶」を見つける』
リプレイは皆様が血に潜り、記憶を見つけ出していくシーンから始まります。
血の中には『オブリビオンに対して憎しみや敵意、戦う意思を持っている人』の記憶が沈んでいます。
自分に縁のある人や、これまで助けてきた人など。あなたの歩んできた過去や記憶、人々との交流や宿縁の巡りが助けとなり、戦う力になります!
記憶を見つけ出すと、あなたは真の姿になります(🔴なしで自動的に変化します)
血の記憶の現れ方は様々で、あなたの中に力が流れ込んできたり、記憶の主が一緒に戦ってくれるようになったりと千差万別です。たとえば死んでしまった家族、友人の力添えを得たり、生きているけれど遠くから思ってくれている人の力を受け取ることも可能です。
プレイングには『あなたの真の姿』『血の記憶』がどんなものかをお書き添えください。
書かれていない場合も執筆が可能ですが、その際はあっさりめの描写になることをご理解ください。
それでは、どうぞよろしくお願いします!
第1章 ボス戦
『五卿六眼『祈りの双子』』
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POW : 化身の祈り
自身の【支配するダークセイヴァーに溢れる鮮血】を代償に、1〜12体の【血管獣】を召喚する。戦闘力は高いが、召喚数に応じた量の代償が必要。
SPD : 鮮血の祈り
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【支配するダークセイヴァーに溢れる鮮血】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
WIZ : 双刃の祈り
自身の【支配するダークセイヴァーに溢れる鮮血】を代償に【血戦兵装】を創造する。[血戦兵装]の効果や威力は、代償により自身が負うリスクに比例する。
👑11
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バレーナ・クレールドリュンヌ
【真の姿】
白皙の人魚は脚を得た代償に、硝子の荊を脚に這わせる。
【鮮血の記憶】
呼び起こす記憶を頼りに呼び起こすのは、グランギニョールに幽閉されていた純白の人魚の記憶。
お願い、今はあなたを頼らせて。
歌で立ち向かう意思をあなたから……。
【泡沫の夢幻郷で歌うセイレーン】
彼の感情をこの身に抱いて、歌のは泡沫夢幻郷の世界、領域を広げれば、心と命を奪う魔性の領域。
祈りの双子の血戦兵装を、歌声でその血に込められたものたちを癒して、チカラを弱めていくわ。
さぁ、私の歌う世界はどこまでも広がっていくわ。
やがて世界が広大な海へと変わる時、命を奪い、骸の海に還す為のRequiemとして……。
●泡沫の夢幻郷
鮮血の海に潜り、記憶を探す。
それが此度の戦いにおいて最重要事項だ。
バレーナ・クレールドリュンヌ(甘い揺蕩い・f06626)は何処までも赤い視界の中、尾を揺らす。
己の記憶を頼りに游ぎ、呼び起こすもの。
それは純白の人魚の記憶。バレーナには様々な記憶があり、闇に立ち向かう意思を持つ者も多くいた。そんな彼や彼女から力を得たいと願ったことで、バレーナは血の記憶に辿り着くことができた。
「お願い、今はあなたを頼らせて」
歌で立ち向かう意思。
その強さをあなたから借りて、其処に自分の想いを重ねたい。
手を伸ばしたバレーナの指先に音符のような形をした力が集まっていき、記憶は支えとなった。
そして、目を開いたバレーナは真の姿へと変化していく。
白皙の人魚は脚を得た代償に、硝子の荊を脚に這わせる姿となった。
潜った鮮血から姿をあらわしたバレーナは、祈りの双子を瞳に映し込む。相手がどれほどの生贄魔術を駆使したとしても負ける気など欠片もなかった。
「これがわたしの歌、わたしがわたしである為に、この世界に歌いましょう」
――泡沫の夢幻郷で歌うセイレーン。
それはローレライの海の響き。歌が聴こえたなら、そこは幻想の領域。歌種である彼女の世界。
バレーナは記憶から得た感情を己の身に抱き、高らかに歌う。
謳い上げられるのは泡沫夢幻郷の世界。
声を響かせ続けることで範囲を広げれば、周囲は心と命を奪う魔性の領域になってゆく。
削ぐのは祈りの双子の血戦兵装。
自分の歌声で以て、その血に込められたものたちを癒す。
「あなた達のチカラを弱めていくわ」
「「小癪な猟兵め」」
対する祈りの双子は声を重ね、双刃の祈りを広げていった。だが、バレーナとて押し負けるつもりはない。
「さぁ、私の歌う世界はどこまでも広がっていくわ」
この力は歌で立ち向かう限り、不可侵。
負傷は勿論、心を抉る絶望感や恐怖などの負の感情を受けたとしても、バレーナはそれすら力にできる。
ローレライ・トロイメライの響きはやがて、世界そのものを広大な海へと変えるだろう。
そうして敵対する命を奪い、骸の海に還す。
そのための
鎮魂曲として。
強く、それでいて凛と――人魚の歌は祈りの戦場に響き渡ってゆく。
大成功
🔵🔵🔵
フリル・インレアン
ふええ!?血の記憶ってゆりゆりさんですか?
確かに骸の海を恨んでいましたが、骸の海であってオブリビオンさんではなかった筈です。
ふえ?周りの血の記憶と混ざり合って勘違いしているみたいだし、そのまま利用しちゃおうって、アヒルさんそれは……。
ほかに手段がないのでゆりゆりさんお願いします。
あれ?ゆりゆりさんで真の姿というともしかして……やっぱり、こんな肌を露出した服になってます。
それに喋り方までゆりゆりさんです。
本当はもっと脱がせたかったってそれは結構です。
えっと、最強になれる程の鮮血があるからリスクは少ない筈です。
攻撃を防いで血戦兵装を没収して聖杯剣の代わりにしましょう。
(ゆりゆり語でお願いします)
●骸の海を越えて
鮮血の中へ、深く潜る。
憎しみ、悲哀、愛憎。或い希望や信頼。様々な思いが巡る赤い世界の最中、フリル・インレアン(大きな
帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は或る記憶を見つけ出した。
「ふええ!?」
フリルが思わず驚いてしまったのは理由がある。
「この血の記憶ってゆりゆりさんですか?」
彼女は確かに骸の海を恨んでいた。しかしそれは骸の海そのものであり、オブリビオンに対しての恨みではなかったはずだ。慌てるフリルに対してアヒルさんは首を横に振った。
「グワワ」
「ふえ? 周りの血の記憶と混ざり合って勘違いしているみたい、ですか……?」
「グーワ」
「そのまま利用しちゃおうって、アヒルさんそれは……」
フリルは戸惑いながらも、祈りの双子に勝つにはこれしかないと判断した。
使えるものは何でも使え精神のアヒルさんは乗り気であり、フリルに記憶を纏うように告げる。そして、意を決したフリルは血の記憶の力に手を伸ばした。
「ほかにしゅだんがないのでゆりゆりさんおねがいします。……あれ?」
そうして、鮮血の海から姿を現したフリルは真の姿になっていく。だが、どうしてか違和感が強い。帽子は被ったままだが、先程まで着ていた服の感覚がないのだ。
足元の部分以外は一糸まとわぬ姿だが、ふわりとなびく髪がフリルの上半身を上手く隠している。
「ゆりゆりさんでしんのすがたというともしかして……やっぱり、こんなことになるのですね」
肌を露出した服、もといほぼ髪のみ。
帽子だけがアンバランスな雰囲気だが、これはアヒルさんが乗っているので消えずに其処にあるままなのだろう。釈然としない気持ちもあったが、今のフリルは膨大なエネルギーを得ている。
「それにしゃべりかたまでゆりゆりさんですが、しかたありません」
えっちなのうみそおいしいです、と呟きかけたフリルは首を横に振った。アヒルさん曰く本当はもっと脱がせたかったらしいが、それはそれとして。
「えっと、さいきょうになれるほどのせんけつがあるからりすくないはずです」
フリルが得ているのは聖杯剣を扱う力。
祈りの双子が紡いだ鮮血の攻撃を防いだフリルは、その血戦兵装を没収して聖杯剣の代わりにしていく。その威力は恐ろしいほどのものであり、双子を圧倒していった。
「「この力は
……!?」」
「ふええ、まけるきがしません」
「ぐわ!」
アヒルさんまでゆりゆり風の鳴き方をしながら、祈りの双子に立ち向かっていった。
世界の仕組みを憎んだ、リリスの女王の記憶と共に――フリル達は勝利を目指してゆく。
大成功
🔵🔵🔵
サク・ベルンカステル
鮮血など半魔半人となって以来、切っても切れぬ関係だ
躊躇いなく鮮血の海に潜る
失われた故郷よ…
家族よ…
友も…
恋人よ…
私と共に不条理を振り撒く化物に復讐を
、、、!!!
ダンピールとしての感覚が自身に縁のある血液の力を感じると、鮮血の海から真の姿となり飛び上がる。
その姿は体内の闇の血と、力を与えてくれる血を装甲や刃として全身に纏った魔人としての姿。
「忌まわしい姿だが、、、故郷の皆となら悪くはない」
血管獣と双子に向かい突撃する
使用するUCは概念斬断。
概念斬りのUCを纏った随行大剣4本で血管獣を押し込み道を切り開き、周囲の血に宿る憎しみを斬る
遂に辿り着いたサクは黒剣に必殺の想いを込め双子へと剣閃を走らせる
●束ねた意志と正義の闇
第二層の大地に流れる鮮血。
それは、これまでこの世界で流された全ての血液だという。
「鮮血か……」
サク・ベルンカステル(幾本もの刃を背負いし剣鬼・f40103)は静かに呟く。鮮血など半魔半人となって以来、切っても切れぬ関係だ。
それゆえにサクは躊躇うことなく鮮血の海に潜っていく。
真っ赤な視界が広がる最中、サクは進む。その先に見えてきたのは様々な記憶の一部だ。
失われた故郷が健在だった頃の様子。
其処で暮らしていた家族のささやかな笑顔。苦痛や悲しみ。
共に長き時を過ごした友の姿。
そして、恋人。
亡くした者、失ったもの。すべてがサクを取り巻く大切なものだった。
「皆、どうか私と共に……」
――不条理を振り撒く、化物に復讐を!!!
サクが強く願った瞬間、ダンピールとしての感覚が大きく広がった。自身に縁のある血液の力を感じ取ったサクは一度だけ瞼を閉じる。そうすることによって、これまでの記憶が裡に宿っていき、強い力となってサクの身体に宿っていった。
そして、サクは鮮血の海から真の姿となって飛び上がる。
その姿は体内の闇の血と、力を与えてくれる血を装甲や刃として全身に纏った――魔人としての姿。
禍々しくも感じられるものだが、今のサクは嫌悪感よりも心強さが勝っている。
「忌まわしい姿だが、故郷の皆となら悪くはない」
サクは己の裡に満ちていく思いと記憶の力を確かめながら、腕を伸ばした。
その先には祈りの双子がおり、ダークセイヴァーに溢れる鮮血を代償にして数体の血管獣を生み出している。先ずはあの獣から片付けるべきだと察したサクは血の海を蹴り上げる。
赤い飛沫が散る中、サクは血管獣と双子に向かって突撃した。
発動、概念斬断。
「全ての不条理を我が剣閃で断ち斬る!」
ユーベルコードの力を纏った随行大剣四本で血管獣を押し込み、サクは双子までの道を切り開く。周囲の血に宿る憎しみを斬り、目指すのは祈りの双子の喉元のみ。
「「……無限の鮮血を贄としたとき、わたしたちは最強……」」
「いいや、その最強を破ってみせる」
幾度も血管獣が放たれ、その度に血が捧げられていった。だが、何度も刃を振るったサクの力も互角――否、それ以上だ。そして、遂に祈りの双子の元に辿り着いたサクは黒剣に必殺の想いを込めた。
刹那、双子へと鋭い剣閃が疾走り――鮮血の大地に大きな衝撃が迸っていく。
それはサクと故郷の皆で刻んだ、確かな勝利の証だった。
大成功
🔵🔵🔵
シャルロット・クリスティア
己の保身にそこまでするか……とことん見下げ果てた連中です。
理不尽に虐げられ、戯れに殺され、流された血……それだけで飽き足らず、それで全てを飲み込もうと?
……赦す筈ないでしょう。私も、皆も。
血に眠る、苦難と屈辱の記憶。
怨恨、無念、憎悪……私に預けてください。
我が身を暗い呪詛に染め上げ、真の姿……悪霊としての本性を曝しましょう。
冷たく、鋭く研ぎ上げた殺意を刃に乗せて、奴に突き立てに行きましょう。
理不尽な犠牲を強いながら、なお身勝手にも捧げられる祈りなど、聞き届ける義理もないでしょう。
沸き上がる暗い衝動のままに、私を駆り立てなさい。
それが、私を突き動かす力になる。
今こそ、叛逆を成しましょう。
●祈りに突き立てる刃
「己の保身にそこまでするか……とことん見下げ果てた連中です」
鮮血の大地に立ち、シャルロット・クリスティア(霞む照星の行方・f00330)は祈りの双子を見つめる。
この地に溢れる血の海は人々の苦しみから出来ているという。
理不尽に虐げられ、戯れに殺された者。無意味に、或いは無惨に流された血。
「……それだけで飽き足らず、それで全てを飲み込もうと?」
祈りの双子が発する殺気を感じ取りながら、シャルロットは冷ややかに問いかけた。無論、相手から答えが返ってくるなどとは最初から考えていない。
それゆえにシャルロットもまた、自分なりの思いと言葉をぶつけるつもりでいた。
「……赦す筈ないでしょう。私も、皆も」
そして、シャルロットは鮮血へと潜っていく。この血を流した人々に報いるため。即ち祈りの双子を倒すためには、此処から自分の力になってくれる記憶を見つけ出すことが先決だ。
血に眠るのは、苦難と屈辱の記憶。
怨恨、無念、憎悪。
汎ゆる負の感情が重なり、熱き血潮となっているのならば。
「どうか……私に預けてください」
シャルロットはそっと願い、瞼を閉じた。その途端に流れ込んでくるのは人々の記憶。シャルロットは我が身を暗い呪詛に染め上げていく。
魂人のなり損ないとして、この世に執着したがゆえに力を得たシャルロット。
彼女の思いに賛同し、力になりたいと願う者は確かにいた。ダークセイヴァーに生きた者として、シャルロットはその感情や力を束ねていく。
そして――シャルロットは真の姿である、悪霊としての本性を曝した。
冷たく、鋭く研ぎ上げた殺意は握る刃に乗せる。そうすれば刃や己の手の中にたくさんの思いが宿っていったような感覚が巡った。
「さぁ、怒りの刃を奴に突き立てに行きましょう」
シャルロットの呼び掛けに呼応するように魂の叫びが響き渡る。
それは怒りであり、憎悪であり、怨念そのもの。だが、悪霊たるシャルロットには何よりも強い支えになる感情達だ。これでいいと認め、シャルロットは祈りの双子へと斬りかかっていく。
「沸き上がる暗い衝動のままに、私を駆り立てなさい」
――それが、私を突き動かす力になる。
理不尽な犠牲を強いながら、なお身勝手にも捧げられる祈りなど、聞き届ける義理もないだろう。祈りの双子へ眼差しを向け、シャルロットは鋭い一閃を解き放つ。眠りに落ちるそのときまで、全てを賭して。
「今こそ、叛逆を成しましょう」
その言葉と共に祈りの双子に深い傷が刻まれた。
あの日、叶わなかったとしても――絶望から紡がれゆく希望は今、此処にある。
大成功
🔵🔵🔵
セリカ・ハーミッシュ
祈りの双子、ダークセイヴァーの
真なる支配者だけあって厄介な相手だね
血の記憶の中に力を貸してくれる存在がいるのか、
わからないけれど勇気を出して飛び込むよ
様々な悲惨な記憶が流れ、思わず混乱してしまいそうだけれど
エンドブレイカー世界で今も頑張っているだろう
長い金髪の女性騎士の姿を思い出して、勇気づけられるよ
真の姿は背中にエンジェリックウイングを生やした姿かな
血の記憶力を得たソード・ミラージュで祈りの双子を攻撃するよ
血管獣が出てきても回避に成功されても何度でも攻め続けるね
そしてここぞという時にソード・ミラージュからの
氷刃乱舞で祈りの双子の動きを封じて勝負を決めるよ
「これまで歩んだ記憶は無駄じゃない!」
●歩んだ歴史
鮮血の大地に立つ、祈りの双子。
「ダークセイヴァーの真なる支配者だけあって厄介な相手だね」
セリカ・ハーミッシュ(氷月の双舞・f38988)はオブリビオン・フォーミュラたる者の姿を見据え、此処から巡る戦いへの思いを強めた。
最も古く、故に最も弱きフォーミュラ。自らがそう自称するように双子は絶対的な力を持っていない。
だが、祈りの双子は鮮血を浴び、それそのものを生贄とする魔術を駆使してくる。超強化された双子に対抗するため、セリカも鮮血の中へ飛び込んだ
(血の記憶……)
この中に力を貸してくれる存在がいるのか。未だわからないが勇気を出して潜っていくのみ。
そして、セリカは真っ赤な世界を見渡した。
夥しい血の中だというのに周囲には不思議なものが浮かんで見える。この闇の世界で流れていった血の中にはたくさんの記憶が沈んでいた。
虐殺に巻き込まれた者。大切な相手を守れなかった悲痛。為す術もなく殺された者の悲鳴。
生き延びても辛く苦しい日々しか送れなかった悲劇の運命。
(あれは……あんなの、酷すぎる)
様々な悲惨な記憶が流れていき、セリカは思わず混乱してしまいそうになった。しかし、惑わされているばかりではいけないことも分かっている。
顔を上げたセリカは真っ直ぐに前を見つめた。
胸裏に過ったのはエンドブレイカー世界で今も頑張っているだろう、長い金髪の女性騎士のこと。
その姿を思い出したセリカの心は大いに勇気付けられていく。
「うん……大丈夫」
この世界の人々にとっての悲劇の終焉を身をもって知れた。それならば、この記憶と一緒に戦い抜いて――更なる悲劇を打ち砕くだけ。
鮮血の奥底から大地へと戻ったセリカは、祈りの双子を眸に映した。
真の姿となったセリカの背中にはエンジェリックウイングが生えている。翼を羽ばたかせたセリカは血の記憶から得たソード・ミラージュで以て攻勢に入っていく。
精巧な残像分身と共に双子へと翔けるセリカ。その前に相手が召喚した血管獣が立ち塞がったが、セリカ微塵も怯まなかった。
「どいてもらうよ。そこを通して!」
幾度も、何度でも攻め続ける気概を抱くセリカは勇猛果敢に迫る。
其処から攻防が巡る。そして、ここぞという時を察知したセリカは祈りの双子に迫った。ソード・ミラージュから放つ氷刃乱舞は祈りの双子を切り裂き、その動きを封じていって――。
「これまで歩んだ記憶は無駄じゃない!」
勝負を決めるための宣言と思いが、強き言の葉となって戦場に響き渡った。
大成功
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ルゥ・グレイス
前に一度、救われたかった者を救わなかったことがある
光の祝福を蒔く天使と相対した時だ
「断末心理記録帯読込。アーカイブ【永遠の九月も半ばを過ぎて】」
その情報をもとに血の海に触れる
あつらえたかのようにそこに少女の記憶があった
「忘れないといったからね」
UCを起動
真の姿へ
天使の羽のようなものを構成、あの日幻覚でみた神と同じ過去へと飛ぶ権能を発動
飛べるのはたった0.1秒前まで。それで十分だ。
0.1秒前に飛んで現在に戻る行為を無限回繰り返せる。
永遠にほど近い0.1秒で汲み上げたものは、極大規模の記憶や過去を質量に転換するもの
転換されていく血の記憶の質量は少女を守る盾として、双子を襲う波として、世を揺らした。
●0.1秒のアーカイブ
救いのない世界に満ちる鮮血。
最も古き『はじまりのフォーミュラ』と自称する祈りの双子が作り出したフィールドは実に厄介であり、人々の負の感情を積み重ねて出来たものでもある。
無限の鮮血を贄とする、生贄魔術というものも奇妙奇天烈であり、実に残酷なものだ。
深い血の海のような大地に立ち、ルゥ・グレイス(終末図書館所属研究員・f30247)は過去を思い返す。この世で求められているのは救済。
だが、深く揺らめく闇の帳はこれまでそれを許さなかった。
しかし此度は――其処に一筋の光を導くが如く、進むのが猟兵としての役目。ルゥは自分が戦う理由を思い起こしながら、鮮血を見つめる。
その際に思い出したのは、あの記憶だ。
以前に一度、救われたかった者を救わなかったことがある。
光の祝福を蒔く天使と相対したとき。
ルゥは血の記憶を手繰るように鮮血の大地に潜っていき、己の力を巡らせていった。
「断末心理記録帯読込」
アーカイブ【永遠の九月も半ばを過ぎて】。
ルゥが行っていくのは、その情報をもとに血の海に触れること。
何処までも続くかのような紅い空間は奇妙な感覚を抱く場所だった。そして、暫し記憶を探していった先。其処にはまるであつらえたかのように、少女の記憶があった
「忘れないといったからね」
ルゥは確かな言葉を紡ぎ、ユーベルコードを改めて起動した
――ロスト・アンド・ファウンド。
真の姿へと変じたルゥは、この戦争の諸悪の根源とも呼べる祈りの双子の元へ向かっていく。その背には天使の羽のようなものが構成されている。
あの日、幻覚でみた神と同じ過去へと飛ぶ権能を発動したルゥは真っ直ぐに飛ぶ。
されど飛べるのはたった0.1秒前まで。
だが、それで十分でもある。
何故なら、0.1秒前に飛んで現在に戻る行為を無限回繰り返せるのだから。永遠にほど近い0.1秒で汲み上げたもの。それは極大規模の記憶や過去を質量に転換するもの。
そうして過去は確定し、過去の喪失や編纂の対象外となっていった。圧倒的な力を巡らせ続けるルゥが目指してゆくのは、この戦いで勝利を得る未来。
転換されていく血の記憶。
その質量は少女を守る盾として、双子を襲う波として――大いなる意志によって、世を揺らした。
大成功
🔵🔵🔵
バルタン・ノーヴェ
◎ POW
祈りの双子と相対する前に、鮮血の中から血の記憶を探しマショー!
この世界の人々の憎しみの記憶を糧とするあの二人を討ち果たすためには、共に戦ってくれる方の助力が必要であるが故に……。
これまで助けた方々、戦ってきたオブリビオン、そして縁のある猟兵の戦友たち……。
……なるほど、零時殿! アナタも、他の戦場で戦っておられるのデスネ……!
零時殿の力が流れ込んできマース……!
真の姿、軍装を纏い、合体技を放ちマース!
我輩たちの友情パワーは、戦場を隔てても衰えマセーン!
「六式武装展開、光の番!」
無銘が一閃、夢想剣戟。
伍之首を貫いたあの時を想起して、渾身の斬撃ビームを双子と血管獣に叩き込むであります!
●我欲と友愛
鮮血は深く、真紅の彩が広がる。
底すら見えない空間の最中、バルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)は強く瞼を閉じた。赤しか映らない世界ならば記憶を探すために使うのは、目ではなく感覚がいい。
「いざ、鮮血の中から血の記憶を探しマショー!」
この世界の人々の憎しみの記憶。
それを糧とする、あの二人――祈りの双子を討ち果たすためには、共に戦ってくれる者の助力が必要。
そうであるならばバルタンが行うことはただひとつ。
思いを巡らせ、知覚する。
(これまで助けた方々、戦ってきたオブリビオン……)
脳裏に、或いは目の前に浮かぶ記憶。
バルタン自身が歩んできた道には様々な思い出や人々がいた。それからバルタンが思い出したのはこれまで戦ってきたかけがえのない仲間達のこと。
(そして、縁のある猟兵の戦友たち……)
その瞬間、バルタンの裡に不思議な感覚が巡っていった。同時に視えてきたものがある。
それは痛快無比な友の姿。
「……なるほど! アナタも、他の戦場で戦っておられるのデスネ……!」
彼の力が流れ込んで来ているようだと感じたバルタンは掌を強く握り締めた。そうして、鮮血の海の天上を見上げる。頭上に見える光はアクアマリンのような優しい色だ。
全てを赤黒く染めてしまう血とは正反対の色彩だと感じながら、バルタンは祈りの双子の元を目指す。
次にバルタンが姿を現したとき。
その様相――真の姿は凛とした雰囲気を纏う軍装に変わっていた。
「行きマスヨー! 合体技を放ちマース!」
記憶の力を手に入れたバルタンは祈りの双子に指先を差し向け、強く宣言する。
「我輩たちの友情パワーは、戦場を隔てても衰えマセーン!」
――六式武装展開、光の番!
――無銘が一閃、夢想剣戟。
あの日、自分と彼の間にある絆は親子の縁でも男女の情でもないと確かめた。しかし、友愛がそれらに劣るものではないと、あのときからずっと思っている。
バルタンは伍之首を貫いた瞬間を想起し、渾身の斬撃ビームを解き放った。
血管獣が襲い来ようとも、ただ全力で叩き込む。
「吾輩達は突き進むでありマース! 望む未来へ! そして――勝利への道へ!」
バルタンは決死の覚悟で、再びファルシオン風サムライソードが振り上げる。光り輝く斬撃は戦場に迸り、祈りの双子の身を貫いた。
全身全霊。それこそがまさに、今のバルタンを示す言葉だった。
大成功
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シプラ・ムトナント
わたしの世界は、この世界の方々に沢山助けて頂きました。
だから、わたしもこの世界の助けになりたい。
血の海に分け入り、共に戦って下さる記憶を探します……
ダークセイヴァーの戦士達の無念を呼び覚まし、わたしも真の姿へ。
傷付いた白衣と、翼の生えた天使……これが、わたしの真の姿。
そして『回復薬弾・癒しの雨』で自分を含めて治療を行いながら、戦士と共に前進を……この世界でも【医術】の有用性は変わりません。
盾や長物の類で進軍を止めに来るなら、吸着手榴弾を【投擲】して破壊を。
決して止まることなく進み続け、双子の体に
散弾銃を押し当てて【零距離射撃】を。この銃声は、人々の無念の叫びです……!
●癒しの雨
鮮血の大地は妖しく蠢いている。
そのように見えるのは、この地と血そのものが生贄とされているからだろうか。
シプラ・ムトナント(鋼の衛生猟兵・f39963)は敢えて目の前の光景から目を逸らさず、自分の心の中に浮かんでいる思いを言葉にした。
「
わたしの世界は、この世界の方々に沢山助けて頂きました」
――だから、わたしもこの世界の助けになりたい。
強く誓ったシプラは血の海に分け入り、共に戦ってくれる記憶を探しに向かっていく。
渦巻く血の感触は不思議なものだったが、シプラはこの程度では怯んだりなどしない。この世界で流された血に様々な記憶が宿り、巡っているのならば。
「ひとつでも多く、昇華を」
無念、諦観。悲哀や恐怖、慟哭。
そういったものが記憶として残っている以上、絶望から希望を導くのも猟兵としての役目のはず。
シプラはそれらをそっと拾い集めるように手を伸ばした。何かに触れたような感覚が指先から伝わってきた気がして、シプラは顔を上げる。
それはダークセイヴァーの戦士達の無念。
絶望に抗いたいという思いを呼び覚ましたシプラは、その力を纏ってゆく。これで祈りの双子への対抗策は得られた。心強さを感じたシプラは、倒すべき敵の元へ向かう。
傷付いた白衣の裾がふわりと揺れる。
翼の生えた天使めいた姿に変化したシプラはゆっくりと両手を広げた。
「……これが、わたしの真の姿」
自分自身であるというのに少し慣れない気がする。それでも漲る力は本物であり、これならば普段以上の行動ができると確信できた。
そして、シプラは周囲を見渡す。
視線の先では、同じく血の記憶の助力を得た猟兵達が戦っている。回復薬弾・癒しの雨を発動させたシプラは、仲間達の援護に入っていった。
自分を含め、治療を行いながら、戦士と共に前進する。
「……この世界でも医術の有用性は変わりません」
それゆえに自分は自分のできることを、全力でやり遂げるだけ。シプラは治療だけではなく、吸着手榴弾を投擲して破壊を試みる。
決して止まることなく進み続ければ、いずれ好機も訪れるはず。
刹那、シプラは一瞬だけ双子に肉薄できた。
シプラは祈りの双子の体に
散弾銃を押し当て零距離射撃を見舞った。
「「……!!」」
「この銃声は、人々の無念の叫びです……!」
銃撃を放った直後、双子から一気に距離を取ったシプラは真っ直ぐに宣言する。その言葉に込められた思いは強く、鋼の意志となって響き渡った。
同時に上空に撃ち上げた回復薬剤の雨は血を洗い流し、仲間を奮い立たせる支えとなっていった。
大成功
🔵🔵🔵
尖晶・十紀
血の記憶
レイナ姉さん……同じ遺伝子を持つ姉妹との、研究所にいた頃の束の間の幸福な時間と理不尽な別れを、かつて宿敵として出会い喰らった、自分の中のレイナ姉さんと対話しつつ眺める
……助けてくれるの?
相変わらず素直じゃないね、レイナ姉さん……それじゃ、後は頼んだ……
真の姿
氷の翼に氷の剣のような義足の少女(参照、宿敵イラスト)
人格:七番目の姉、検体漆番ことレイナ
私、女性口調、ツンデレ
戦法
高速でダッシュし首を狙い切断
パフォーマンスじみた体を回転させる動きにより二回攻撃
首を刈れずとも傷口から毒と呪詛を流し込み凍結させて封じ継続ダメージを与え続ける
アドリブ絡み歓迎
●漆番の願い
深く潜れば潜るほど、記憶の色が濃くなっていく。
尖晶・十紀(クリムゾン・ファイアリービート・f24470)が探し当てた血の記憶。
それは――。
「レイナ姉さん……」
十紀が呼び掛けたのは、同じ遺伝子を持つ姉妹の名前。
研究所にいた頃の思い出は尊いものだ。束の間ではあったが、幸福な時間を過ごした。
そのことは今も大切な記憶として残っている。
しかし、それ以上に理不尽な別れもした。十紀にとって幸せとは、辛く苦しい思いと同義。幸いな日々があったからこそ別離が酷く辛いものになる。
そして、十紀とレイナにはもっと特別な宿縁がある。かつて宿敵として出会い喰らったことで、自分の中にいるレイナと対話できるようになっていた。
『まったく、仕方ないんだから』
「レイナ姉さん……助けてくれるの?」
『本来の意味で助けるわけじゃないわ。弟が死んじゃうなんて気分がよくないし……そ、それだけよ!』
十紀が問いかけると、レイナは少し慌てて答える。
自分の気分が悪くなるから、という理由だと彼女は語っているが、その裏に隠された本心を十紀は読み解くことができる。十紀が借りを感じないように、敢えてそういっているだけだと分かる。
「相変わらず素直じゃないね、レイナ姉さん……」
十紀が柔く双眸を細めると彼女は鮮血の大地に立つ、祈りの双子を示した。
『いいからここはお姉ちゃんに任せなさい』
「それじゃ、後は頼んだ……」
レイナに信頼を抱いた十紀は目を閉じ、そして――。
鮮血の海から姿を現したとき、十紀は真の姿へと変じていた。氷の翼に氷の剣のような義足となった十紀――否、七番目の姉、検体漆番ことレイナ。
祈りの双子を強く見据えた次の瞬間、その身は高速で戦場を駆けた。
狙うのは敵の首。
最終的に切断することを計画しており、パフォーマンスじみた体を回転させる動きにより二回連続の攻撃を叩き込む。対する双子も反撃を仕掛け、此方を穿とうとしてきた。
「「……わたしたちは最も古き『はじまりのフォーミュラ』として死力を尽くしましょう……」」
『こっちだって同じよ。死力を尽くす者同士、力比べでもしましょうか!』
双子に返答しつつ、更なる斬撃を見舞う。
一度で首を刈れずとも、傷口から毒と呪詛を流し込むことで凍結させることは可能だ。このまま動きを封じて継続ダメージを与え続けることを狙い、彼女は果敢に立ち向かう。
蒼氷――フレッド・プンジェンテの力は更に巡り、漆番の能力が迸っていった。
弟の身を守り、勝利に導く。
普段は簡単には見せない姉の本気が今、此処で発揮されていく。
大成功
🔵🔵🔵
ジェイ・バグショット
どこまでも呪われた世界で
もはや驚くのも馬鹿らしい
人の不幸を代償に強化なんざ、随分なことだ
戦い方が俺とよく似てやがる
拷問具を使う自分を見ているようだと鼻で笑う
血の記憶はもう何度も見た光景
宿敵のヴァンパイアの女に対する
恐怖と憎悪を募らせる
拷問の痛みと苦しみの日々
俺の悲鳴に喜ぶ奴は同時に拷問を教え込みもした
咎人殺しとしての原点
赤髪のヴァンパイアが仕込んだ力で俺は過去を殺し続ける
真の姿《禍殃の王》
吸血鬼としての本質《死を齎す病》
疫病や狂気をばら撒き命を腐らせる
玉座形態《手に掛けられた乙女たち》
手折られた千にも及ぶ亡骸の玉座
その数の痛みと苦しみが俺の糧となる
皮肉だなァ
鮮血の記憶が
俺にテメェらを殺せってよ
●禍殃の玉座
最も古き、はじまりのフォーミュラ。
第二層の大地を切り裂いたことでら溢れる、膨大な鮮血。そして、生贄魔術。
「どこまでも呪われた世界だ」
ジェイ・バグショット(幕引き・f01070)は眼の前の光景を認め、肩を竦めた。もはや驚くのも馬鹿らしいほどに戦況は滅茶苦茶で、呪いと絶望に満ちている。
「人の不幸を代償に強化なんざ、随分なことだ」
祈りの双子を見据えたジェイは皮肉めいた思いを抱いていた。あの双子の戦い方は自分とよく似ている。流石に相手の気持ちや戦法が完全に分かるわけではないが、既視感を抱くには十分。もっと良い言い方をするならば親近感だが、そんなものは持ち合わせたくない。
拷問具を使う自分を見ているようだと感じつつ、ジェイは祈りの双子を鼻で笑った。
そして、鮮血の大地に潜ったジェイは、あの光景を視る。
血の記憶。
それはもう、過去に何度も見てきたものだ。
宿敵のヴァンパイアの女に対する恐怖と憎悪を募らせるに至る、拷問の痛みと苦しみの日々。
ジェイの悲鳴が響く空間で、彼女は喜びを抱いていた。
同時に拷問を教え込みもしたのは、ジェイに抱く感情が歪み切っていたからだろう。
されど、あれはジェイにとっての咎人殺しとしての原点。
赤髪のヴァンパイアが仕込んだ力がなければ今のジェイはいなかった。複雑な心境がないと言えば嘘になってしまうが、これが事実だ。
「俺は過去を殺し続ける」
この力で。
血の記憶を己に刻み込んだジェイは、真の姿――禍殃の王となる。
これこそが吸血鬼としての本質である死を齎す病を振り撒くもの。疫病や狂気をばら撒き、命を腐らせることも可能な姿だ。
――玉座形態《手に掛けられた乙女たち》
手折られた千にも及ぶ亡骸の玉座が血の大地に並んでいく。
その数の痛みと苦しみがジェイの糧となり、黒い粘液が鮮血すら包み込んでいった。
「皮肉だなァ」
「「……何を……」」
ジェイが不敵に呟いたことに対して祈りの双子が反応を返す。ジェイは疫禍領域を広げながら、双子に鋭い眼差しから成る殺意を向けた。
「鮮血の記憶が言ってるぜ。俺にテメェらを殺せってよ」
最早、逃げたとしても無駄。
悉く死に絶えろと告げたジェイの瞳は冷ややかだ。オブリビオンへの憎悪から紡ぎ出された力は深く巡りゆき、オブリビオン・フォーミュラを討ち倒す為の導きとなっていった。
大成功
🔵🔵🔵
ウーヌス・ファイアシード
…渦巻く数多の記憶、そして感情…
憤怒、悲嘆、諦念、絶望…
かつて我にも向けられた負の感情…
…だからこそ、確信できる
その中に輝く感情が…
かつての我を、そしてあらゆる絶望を退けた英雄たちの記憶が!
英雄たちよ、希望の火を絶やさぬ為、
心の力を…!
炉の断片が、体と合わさる…
燃える岩の両腕に、剣を掴み
火の器となりし白手は、衣と混ざり
結晶の翼は光をたたえ、数を増す
…かつてと今が混ざりし、新たなる
灰化の炉…!
これ以上の
終末の祈りはまかりならぬ!
「薪の剣が、彼方より降り注ぐ」に
輝く感情を重ね、その祈り共々灼き斬ろうぞ!
血管獣や血戦兵装での攻撃も
【見切り】や【武器受け】で退けていこう
●種火は焔へ
この血の中には歴史が眠っている。
渦巻く数多の記憶、そして感情。ウーヌス・ファイアシード(復燃せし灰化の火・f37284)は鮮血の大地に満ちる思いの力を感じ取り、自分の胸に手を当てる。
憤怒、悲嘆、諦念、絶望。
或いは恐怖、後悔、無念。
「かつて我にも向けられた負の感情……」
何処までも深く続いているかのように錯覚してしまうほどの、紅い光景が広がっている。
その最中でウーヌスは静かに思いを馳せていた。
「……だからこそ、確信できる」
その中に輝く感情を。
苦難の渦中にあろうとも、抗おうとした意志の光を。
闇に覆われた世界であっても、光が一欠片もないわけではない。空に太陽がなくとも、日々を懸命に生きる人々の心には夜を照らすための感情――希望という灯火が宿っているのだから。
そして、ウーヌスは無意識に手を伸ばした。
「視える。かつての我を、そしてあらゆる絶望を退けた英雄たちの記憶が!」
英雄たちよ、希望の火を絶やさぬ為に。
今こそ、心の力を――!
ウーヌスが願いを抱いて掌を握り締めれば、其処に炉の断片が現れる。
今の身体を合わさることで燃える岩の両腕が顕現し、ウーヌスはその手で剣を掴んだ。火の器となりし白手は衣と混ざり、結晶の翼は光をたたえて、数を増していく。
「……かつてと今が混ざりし、姿。これぞ新たなる
灰化の炉……!」
意志と記憶。
絶望と希望。
数多の思いと歴史が繋がり、導かれたことでウーヌスは更なる力を得た。闇の世界の支配者たるオブリビオン・フォーミュラ、祈りの双子を見据えたウーヌスは凛と構える。
「これ以上の
終末の祈りはまかりならぬ!」
――薪の剣が、彼方より降り注ぐ。
ウーヌスは輝く感情を重ね、その祈り共々灼き斬ることを宣言した。
たとえ相手が血管獣を解き放って来ようとも負ける気など一欠片もなかった。血戦兵装での攻撃を見切ったウーヌスは祈りの双子を見つめ続け、尽き得ぬ薪の剣を降り注がせていく。
激しい攻撃も剣で受け止め、果敢に立ち回る。
その姿は宛ら、夜を翔ける焔灯。
「薪よ、更に降り注げ。終末を齎すものを灼き貫くために……!」
未来を閉ざす存在であるならば、このまま灼き尽くすのみ。
ウーヌスの思いは強く、薪の剣は戦場を紅く染め直すほどに激しく迸っていった。
大成功
🔵🔵🔵
ユーフィ・バウム
多くの猟兵動揺躊躇わず鮮血に潜ります
『血の記憶』が教えるは、今迄の戦いの記憶
出逢って、救えた人々が――
皆必死で今を生きてきたこと
その生命を作り直せば良いとさえ五卿六眼は言った
――怒りと闘志が心に満ちる中
体が変化したのは、私の真の姿である
【蒼き鷹】――蒼髪のレスラーの姿
いざ参りますわっ!
血管獣をグラップルで組み付いての投げでいなし、
祈りの双子へダッシュで間合いを詰め、
功夫を生かした打撃を見舞う
反撃も手痛いでしょう
けれど私の背に、かかるのは、記憶からの応援の声
応援がある限りレスラーに敗北はありませんわ!
今限界を超えられますとも。《四霊門・開門》!
黄金の覇気を纏い、全てを込めた拳での粉砕を狙いますっ
●けして折れぬ闘志
血の海は仄暗く、様々な感情が沈んでいる。
今こそオブリビオン・フォーミュラに立ち向かう時だとして、ユーフィ・バウム(セイヴァー・f14574)は意を決する。そして、多くの猟兵達がそうしたように躊躇わず鮮血に潜っていった。
辿るべきは此処に眠る血の記憶。
何かに導かれるように鮮血の中を進んでいくユーフィは、いつしか不思議な感覚を抱いていた。
「これは――」
ユーフィが感じたもの。それが教えるは、今迄の戦いの記憶。
ひとつずつはちいさくとも、運命の導きとも呼べる思い出。その中で出逢って、救えた人々の思いや気持ち、魂の巡りがユーフィの中に流れ込んでいく。
其処から知ることができたのは、皆が必死で今を生きてきたこと。
人生はひとつとして同じものがない。
たとえ姿が同じであっても、生まれた場所や育った環境、傍にいてくれた人次第で如何様にも変わる。
唯一無二だと言える尊いものが生という概念だ。
だが、その生命を作り直せば良いとさえ五卿六眼は言った。そのことを思い出したユーフィの心の裡には或る思いが満ちていた。
それこそが怒りと闘志。
自分の中に数多の思いが宿って力をくれていることに気付き、ユーフィは顔を上げる。祈りの双子への闘志を燃やした瞬間、彼女の身体が変化した。
真の姿である蒼き鷹。
即ち、蒼髪のレスラーの姿だ。
「いざ参りますわっ!」
鮮血の大地に立ったユーフィは拳を強く握り、祈りの双子が顕現させた血管獣に立ち向かっていく。
相手は複数だが怯みはしない。即座にグラップルで組み付いての投げ。素早く獣達をいなしたユーフィは祈りの双子に向け、素早く駆けることで間合いを詰めた。
「「……疾い……」」
双子はユーフィの動きに称賛と驚きが入り混じった声を返す。其処に一瞬の隙が出来たと察したユーフィは功夫を生かした打撃を見舞った。
勿論、反撃が手痛いことも理解の上。されどユーフィの背にかかるのは、記憶からの応援の声。
――負けるな!
――頑張って。
――今だッ!!
その声はすべてユーフィに向けられた、かけがえのない思いそのものだ。
「応援がある限りレスラーに敗北はありませんわ!」
今こそ限界を超える時。
四霊門よ。『麒麟』『霊亀』『鳳凰』『応龍』――開門。
「わたしの全てを今ここで引き出しますっ!」
黄金の覇気を纏ったユーフィは祈りの双子をしかと捉え、全てを込めた拳を振るう。遍くものを粉砕するが如き一撃は深く、オブリビオン・フォーミュラを貫いた。
大成功
🔵🔵🔵
紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー!
鮮血ステージ、藍ちゃんくんなのでっす!
やや、藍ちゃんくんが魅せる観客の方々はどなたかでっすかー?
鮮血の中に満ちる全員なのでっす!
藍ちゃんくんを知らない過去の皆様にも歌を響かせるのでっす!
藍ちゃんくんの真の姿が星を纏えどそのまんまな藍ちゃんくん自身であるように!
皆々様の憎しみ、敵意、戦う意思もまた皆々様自身なのでっす!
ですから、ええ。
一緒に歌いまっせんかー?
ここにいらっしゃるファンの皆様も!
これからファンになる皆様も!
憎しみも敵意も闘志も歌にしちゃおうなのでっす!
やや、どうしまっしたー、双子さん達!
何やらとっても大変そうでっすがー。
双子さん達が全ての憎しみを糧にしようとも、藍ちゃんくんもまた全ての憎しみと合唱するまでなのでっしてー。
そうなるとでっすねー。
記憶を糧にしようとも二人で出力するしか無い双子さん達と。
記憶と共に合唱している藍ちゃんくん達とでは!
もととなるエネルギー量は互角でも発現するスケールが違うのでっす!
つまり、つまり!
合唱ダークセイヴァーなのでっすよー!
●笑顔と虹の詩
「藍ちゃんくんでっすよー!」
鮮血の大地に響くのは、紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)の声。
紅く染まる海のような血の濁流は止まることなく、祈りの双子の生贄魔術の力となっていくのみ。ただし、それは今だけのこと。これから全てが変わり、猟兵のステージとなるはずだ。
此処に集った誰もが祈りの双子の好きにはさせないと決めている。
「鮮血ステージ、藍ちゃんくんなのでっす!」
現に藍も未来を見据えており、いつも通りの笑みを浮かべていた。先ずはこの血の海から記憶を探し出すことが勝利への鍵だとして、藍は深くへ潜っていく。
ダークセイヴァーで起こった出来事は殆どが悲劇や惨劇だ。
しかし、その中に宿る人々の記憶は絶望ばかりではない。酷いことが起きるほどに抗う気持ちが生まれ、いつかへの力と成るために眠っていた。
「やや、藍ちゃんくんが魅せる観客の方々はどなたかでっすかー?」
藍は鮮血の中で両手を広げてみる。
すると、あちこちから藍へと呼応するような意志が広がってきた。其処で藍は悟る。自分に力を分け与えてくれるのは特定の誰かではなく――。
「そう、鮮血の中に満ちる全員なのでっす!」
歌は共通言語。
たとえ言葉を知らなくとも、顔を見たことがなかったとしても。響き渡る歌にあいを乗せて呼びかければ、気持ちや想いが通じ合う。それが歌というものだ。
それゆえに藍は今日も謳う。
「藍ちゃんくんを知らない過去の皆様にも歌を響かせるのでっす!」
涙色の空に笑顔の虹を。
藍が紡いでいく歌は魂にまで届くものとなり、鮮血の中に巡っていく。
「歌うのでっす! 皆々様と歌うのでっす! 藍ちゃんくん達は、独りじゃないのでっす!」
その言葉に惹かれた血の記憶が集う。
藍は思いを声に変え、歌として響かせ続けた。
「藍ちゃんくんの真の姿が星を纏えどそのまんまな藍ちゃんくん自身であるように! 皆々様の憎しみ、敵意、戦う意思もまた皆々様自身なのでっす!」
思いが紡がれる度にひとつ、またひとつ。藍の周囲に星が生まれていく。
それは煌めきであり、心の証。
輝く思いを詩にしていく藍の姿は今までのものと変わらない。されど、これが本当の姿であるゆえに血の記憶によって力が高められていった。
「ですから、ええ」
両腕を広げたまま、ぐるりと辺りを見渡した藍は呼び掛けていく。
「一緒に歌いまっせんかー?」
それこそが苦しみの記憶を未来へと昇華させる方法。
みなまで語らずとも、たとえ記憶達がすべてを理解できなかったとしても、歌はすべてを繋げていく。
「ここにいらっしゃるファンの皆様も! これからファンになる皆様も!」
憎しみも苦痛も、敵意も。
そして、闘志も歌にして語ればいい。
藍の思いに賛同した記憶の力を纏った藍は祈りの双子の元へ向かっていく。既に双子は他の猟兵達の猛攻や想いの力を受けており、僅かに後ろに下がっていた。
「やや、どうしまっしたー、双子さん達!」
「「…………」」
「何やらとっても大変そうでっすがー」
藍が双子に呼び掛けても、返ってくるのは二つの眼差しのみ。
此方が優勢なのだと察した藍は記憶の力と共にユーベルコードを深く巡らせていった。エールによる状態異常解除と傷の癒しが広がり、共に戦う仲間にも力が宿されていく。
「「……何故、こうも抵抗する……」」
「それはでっすね! 双子さん達が全ての憎しみを糧にしようとも、藍ちゃんくんもまた全ての憎しみと合唱するまでなのでっしてー」
藍の言い分に対して双子は同時に首を傾げた。相手も鮮血の祈りを発動させようとしたが、ダークセイヴァーに溢れる鮮血をうまく利用できないでいるので攻撃行動が失敗しているようだ。
「「……理解が出来ない……」」
「そうなるとでっすねー。記憶を糧にしようとも二人で出力するしか無い双子さん達と。記憶と共に合唱している藍ちゃんくん達とでは! もととなるエネルギー量は互角でも発現するスケールが違うのでっす!」
そして、藍は祈りの双子に向けて指先を突きつける。
「つまり、つまり!」
それは。
それこそが――。
「合唱ダークセイヴァーなのでっすよー!」
藍の宣言によって歌声は大きくなり、様々な人々の声が重なっていった。
その歌と想いはきっと――は世界をひかりに導く、大きな変化の兆しになりうるものだった。
大成功
🔵🔵🔵
琴平・琴子
◎
腕が
足が
縮んでく
兎の穴に落ちたアリスの様に
それは六歳の時の姿
――苦しい
魚じゃないから
この中で息もできない
泳げない
声を上げることもできない
私が悪いわけじゃない
悪いのは何時だって悪い事をする人
悪い事をする手
否定してもそれでもお前が
弱い私が
声に出さなかった私が悪いと血は叫ぶ
――助けて
そうあの時も
今も
声に出せたのなら
でも貴方達だけは違った
微笑みを携えた金の髪と緑の瞳の王子様
輝く金色の髪、フリルとレースを仕立てたドレスと目隠しでいるのになんでも楽しげな足のないお姫様
会いに来たよと言わんばかりに笑いながら手を伸ばす貴方達の手を取る
助けに来てくれたの?
一緒に行こうと手を引く貴方達の手を私は握り返す
私、ちゃんと歩けてる?
顔を見合わせる貴方達は何の事?と微笑みながら首を傾げる
――歩いてきた軌跡を、奇跡を信じてごらん
そう言う貴方の声が聞こえそうで腰につるした輝石ランプを見返す
ちゃんと光ってる
――貴女の中のキセキを信じて
そう言われた様でいなくなった温もりは輝石ランプを掲げる
私、ちゃんと前向いて、歩くから
●導きの光
鮮血の大地。
それはこれまで世界で生き抜いた人々の苦痛の記憶そのものでもあった。
琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)は祈りの双子に対抗するため、鮮血へと潜っていく。しかし、其処に満ちていた記憶の奔流が琴子を襲っていくかのように広がった。
腕が。
足が。
「……――!」
縮んでいく、と感じた琴子には奇妙な感覚が巡っている。
それはまるで兎の穴に落ちたアリスのよう。そして、いつしか琴子は六歳の時の姿へと変わっていた。
紅い、赤い、血の景色。
不意にその中に視えはじめた光景がある。だが、それ以前に琴子が抱いたのは苦痛の感情。
――苦しい。
自分は魚ではないから、この中では息もできないと思ってしまった。
泳げない。したいと思っても、上手く浮上できない。
鮮血の海は何処までも深く、ただ自分は落ちていくだけ。声を上げることもできないまま、琴子は鮮血の水底に沈んでいくだけだった。
その際に琴子は先程から揺らぎ始めている記憶に意識を向ける。
それをしかと見た瞬間、琴子は自分を抱きしめるように縮こまった。
(私が悪いわけじゃない)
心にまで響く痛みはいつのものか、今は苦しいほどによく分かっている。
悪いのは、自分ではない。
何時だって悪いことをする人が悪いに決まっている。それなのに、どうして。いつも悪い目に遭うのは自分ばかりで。悪い人は悪いまま。
悪という文字が琴子の脳裏に巡っていき、混乱するような感覚が広がり続けている。
悪いことをする手が迫ってくる。
否定しても、向こうはそんなことに構いやしない。
――それでも、お前が。
(――弱い私が)
声に出さなかった、お前が悪い。
血は叫ぶ。琴子もまた、叫び出したい気持ちを押さえながら苦痛に耐えた。
あの日、ただこう言えばいいだけだったのに。
――助けて。
あのときも、今も。この言葉を声に出せたのなら、変わっていたことがあるはず。
しかし、過去は変えられない。どれだけ望んでも願っても、今という瞬間があるのは、あの過去があったからこそ。それに琴子にはその後に救いが訪れている。
沈む身体を琴子が動かしはじめた理由は、彼のことを思い出したからだ。
(でも貴方達だけは違った)
琴子が思い出していたのは微笑みを携えた金の髪と緑の瞳の王子様。
彼の笑顔は今も琴子の心を支えてくれる。
そして、もうひとりの存在の姿が琴子の胸裏に刻まれていた。
輝く金色の髪、フリルとレースを仕立てたドレス。目隠しでいるというのに、なんでも楽しげに受け止める足のないお姫様。
ふたりは琴子にとっての転機を与えてくれた大切な存在。
彼らを見る眼差しに憧れと理想が混じっていたとしても、強く思うのはふたりのこと。
やがて、血の記憶の中から王子様とお姫様がいる光景が視えはじめた。
会いに来たよ。
そう言わんばかりの笑顔が見えた。優しく笑いながら手を伸ばすふたりを瞳に映し、琴子はその手をそっと取った。これまでの痛みや苦しみが何処かに消えたように思える。
「助けに来てくれたの?」
琴子は最初こそ戸惑うような表情を浮かべていたが、手が握られたことで安堵を覚えた。
一緒に行こう。
手を引く王子様とお姫様の手を握り返した琴子は前に踏み出す。
「私、ちゃんと歩けてる?」
何のこと?
琴子が問いかけるとふたりは顔を見合わせ、微笑みながらも首を傾げた。そして、王子様が琴子に真っ直ぐな眼差しを向け、そっと語りかけてくれる。
――歩いてきた軌跡を、奇跡を信じてごらん。
はっとした琴子が顔を上げたとき、目の前には他の猟兵と戦う祈りの双子の姿があった。
王子様の声が確かに聞こえたと感じたが、自分だけに届いた声だったのだろう。琴子は腰に提げていた輝石ランプに視線を落とし、あの言葉を思い返す。
「ちゃんと光ってる」
――貴女の中のキセキを信じて。
続いてお姫様の声が響いた気がして、琴子はしかと頷いた。視線を祈りの双子に向けた琴子はふたりがいなくなったことを感じていたが、温もりは残っていると感じている。
そして、琴子は輝石のランプを掲げながら宣言した。
「私、ちゃんと前向いて、歩くから」
それが――それこそが、まえむきのあし。
キセキの光は暗闇を照らし、赤い景色を美しい白に染め上げていった。
大成功
🔵🔵🔵
仇死原・アンナ
◎
…時は来たれり!
祈りの双子よ…我が名はアンナ…処刑人が娘也!
処刑人の覚悟を胸に灯し鮮血へと飛び込もう
…見える!
私を拾い処刑人として生き抜く力を教えてくれた
義父の姿が…!
処刑人の一族の先祖の姿が…!
……?
黒い外套を着た黒髪の女……嗚呼…そうか…そうなのか…
分かる…あなたが…私の…
母…!
【血玉覚醒】で真の姿の封印を解き
真紅の瞳に黑き鎧を纏い我が身より生じる黒の炎と赤の炎を操り
双子が操る血管獣は鉄塊剣と宝石剣をなぎ払い怪力と重量攻撃で切り捨てよう
負傷しようが鮮血を吸血で吸収し魔力と力を溜めて糧とし
切断部位を炎で接続し激痛に耐え不眠不休で敵を屠ろう
…言った筈だ…私は処刑人と!
地獄と葬送の炎を纏わせた鉄塊剣と宝石剣を振り回し
双子目掛けて炎纏わせた斬撃波を放ち範囲攻撃と炎による属性攻撃で焼却し肉体と魂共々滅ぼしてやろう…!
父よ…母よ…!貴方達の血と記憶は…私の血肉に受け継がれている…!
●血の絆
「……時は来たれり!」
鮮血の大地に立ち、仇死原・アンナ(地獄の炎の花嫁御 或いは 処刑人の娘・f09978)は剣を天高く掲げた。その眼差しの先に居るのはオブリビオン・フォーミュラ――祈りの双子。
対を成す様相の彼女達を強く見据え、アンナは声を響かせる。
「祈りの双子よ……我が名はアンナ……処刑人が娘也!」
「「……無限の鮮血を贄としたとき、わたしたちは最強……」」
「最強……? 処刑されるのは……そちらだということを思い知らせてやる……!」
アンナは宣言通り、処刑人の覚悟を胸に灯した。
あの双子はこの地に満ちる鮮血を糧として生贄魔術を扱う。彼女らに対抗するためには猟兵達も鮮血へと飛び込み、血の記憶から力を得なければならない。
それならば、最初からアンナの行動は決まり切っている。
「……往くぞ!」
アンナは血の海へと一気に踏み出し、その中に潜っていく。
この世界に生きた人々の苦痛や憎悪が満ちている血の最中。苦しみを訴える誰かの声や、悲しみを響かせる嘆きの声などがアンナの耳に届いた。
だが、アンナは知っている。
どれほど悲痛で残酷な世界であっても、人々の意志がある限り。憎悪の奥に秘められた思いは、いつかの未来を手繰り寄せる力となる。そう、魂の思いは希望へと変わることを。
「……見える!」
幼いアンナを拾い、処刑人として生き抜く力を教えてくれた
義父の姿がすぐ傍にある。
そして、処刑人の一族の先祖である者達の姿がその後ろに並んでいる。
彼らが与えてくれるのは血の記憶の力だけではない。アンナに受け継がれた技術や力、思いが続いているということから感じる心強さ。
記憶から溢れてくる戦うための力を受け止め、アンナは掌を握り締めた。
しかし、ふと不思議な感覚が巡る。
「……?」
義父や先祖達とは違う雰囲気を纏った女性がアンナを見つめている。黒い外套を身に纏っている黒髪の女性。眼差しを受け、その姿をはっきりと目にした瞬間。
「……嗚呼……そうか……そうなのか……」
分かる。
言葉で説明されなくとも、心がしっかりと感じ取っていた。間違いない、彼女は――。
「……あなたが……私の……
母……!」
母とアンナの容姿はよく似ていた。
確かに血が繋がっていること。母が娘を想った記憶が巡っていること。彼女が微笑んでいること。
そして、娘に向けたメッセージがあること。全てがよく分かる。
――いきなさい。
自分だけに届いた声かもしれないが、アンナは母からの言葉を確かに受け取った。
生きなさい。行きなさい。
どちらの意味も込められた言の葉はアンナの背を押し、力となるに充分なものだった。義父にも見送られながら、アンナは血の記憶を漲らせていく。
アンナは祈りの双子の元へ向かい、血玉覚醒の力を発動した。
真の姿の封印を解いたアンナは最初と同じように、真っ直ぐに祈りの双子を見つめている。黒き地獄の炎、そして赤き葬送の炎。
似て非なる、それでいて巡り合う二つの焔を纏ったアンナは、一気に鮮血の大地を蹴り上げた。
真紅の瞳が輝き、黑き鎧は周囲の血液の色彩を反射している。己の身から生じている黒炎と赤炎を操っていくアンナは、双子が操る血管獣に攻撃を叩き込んだ。
その勢いのまま、アンナは鉄塊剣と宝石剣で獣をなぎ払い、怪力と重量にまかせて切り捨てた。
鮮血に触れ見つけ出した血の記憶により手に入れた、血脈による力。それは色濃く鮮やかな赤と黒となって悪しきものを滅していった。
獣からの攻撃もあり、負傷してしまってもアンナは止まらない。鮮血を吸収した彼女は魔力と共に力を溜めて糧としていき、祈りの双子へと迫った。
切断されようとも、その部位を炎で接続したことで激痛に耐え、敵を屠る為に動き続ける。
「「……何故、それほどまで……」」
「……言った筈だ……私は処刑人と!」
祈りの双子へと強く告げたアンナは、地獄と葬送の炎を纏わせた鉄塊剣と宝石剣を振り下ろした。双子を穿つ斬撃は深く、炎と共にその身を斬り裂いていく。
世界を穢すものを悉く焼却し、肉体と魂を共々滅ぼしてやるために――。
「父よ……母よ……!」
大切な記憶を強く胸に刻んだアンナは、凛とした声を戦場に響かせた。
「貴方達の血と記憶は……私の血肉に受け継がれている……!」
大成功
🔵🔵🔵
戒道・蔵乃祐
◎
『祈りの双子』
最も旧く、
ダークセイヴァー史の彼方に失伝した謎めいたフォーミュラ
嘗てはライトブリンガーと戦い、自らを最も弱いと卑下するのであれば、五卿六眼との闘争は貴女達を下したとしても、未だ始まりに過ぎないのでしょう。
ならば
過去を越えて、
現在を燃やし、
未来をこの拳で手繰り寄せるまで
🔴真の姿
天蓋血脈樹が吸い上げた鮮血を全身に纏う血装。自らも傷痕から血を流すことで、異郷の血と血が混じり合い脈動する
『血の記憶』
過去:嘗ての銀の雨が降る世界、或いは骸の海で咆哮する天藍の神将
現在:災魔と戦い続ける歴戦の竜神にして守護者。雷霆竜エクレゼール
◆邪氣虎牙紋
何時かの金色の羽根を拳に宿し、
雷霆の権能を解放
乱れ撃ち+ジャストガードで双子の決戦兵装と殴り合う
怪力+重量攻撃で双刃を砕き続け、刹那の間隙を心眼+クイックドロウで撃ち抜く
見切り+早業で超至近距離まで切り込み、限界突破のグラップルを叩き付ける
雷霆宿す必殺必中の白虎を祈りの双子に解き放ちます
●骸と血の海
オブリビオン・フォーミュラ――祈りの双子。
彼女達は鮮血の大地を利用し、その血を生贄として魔術を行使する者。
双子を見つめ、身構えた戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)は考えを巡らせる。最も旧く、
ダークセイヴァー史の彼方に失伝した謎めいたフォーミュラが彼女達だ。
同時に同じ言葉を語る不思議さもあり、祈りの双子は謎めいた存在のまま。
なにゆえにフォーミュラのはじまりと言えるのか。
嘗てはライトブリンガーと戦ったのは、どのような経緯があったのだろうか。双子の口からそのことが語られることはないだろうが、過去を紐解くことが今後の戦いの標になっていくかもしれない。
「ライトブリンガー……そして、祈りの双子ですか」
紋章つかい、腐敗の王。ケルベロス・フェノメノンやデスギガス。様々な思惑と世界の経緯が交差しており、謎は増えるばかり。だが、蔵乃祐は迷ってなどいない。
今はただ、目の前にいる標的を屠るのみ。
「自らを最も弱いと卑下するのであれば、五卿六眼との闘争は終わらない。貴女達を下したとしても、未だ始まりに過ぎないのでしょう」
「「……わたしたちを倒すなど……」」
できるはずがない、と言いたげに双子達は声を揃えた。
彼女達が操る生贄魔術はかなりの力を秘めており、普段通りに戦っては勝ち目のないものだ。こうして実際に相対したからこそ分かる。
蔵乃祐は鮮血の大地を見下ろし、地を蹴った。
――ならば。
「
過去を越えて、
現在を燃やし、
未来をこの拳で手繰り寄せるまで」
決意の言葉と共に鮮血へと潜っていく蔵乃祐。
その眼差しは紅の奥底へと向けられており、確かな意志となって巡っていった。
嘆き、叫び。
憎悪、悲観、苦痛。
様々な人の血の記憶が蔵乃祐の周囲に流れていき、遠くなっていく。オブリビオンへの憎しみ、或いは闘志を燃やしている記憶の中で、蔵乃祐に力を与えるもの。それは――。
『いいね、その方が僕にとっても好都合だ』
あの日、あの場所で聞いた少年の声がそのまま同じように繰り返された。それは記憶の反芻だったのかもしれないが、蔵乃祐にはわかった。
この力を蔵乃祐が使うならば、好都合だという意味にもなることを。
その途端、天藍の色彩が目の前に広がっていく。
自分の身体に力が漲っていくことを感じながら、蔵乃祐は別の意志が自分に集っていることを悟った。
鼓舞するように巡るのは雷霆。
『次は僕が君を助ける番さ! いくよー!』
災魔と戦い続ける歴戦の竜神にして守護者、雷霆竜の声が蔵乃祐の中に響き渡っていく。それによって蔵乃祐の身体は鮮血の海から押し上げられた。
再び祈りの双子の前へと降り立った蔵乃祐。
その姿は真なる姿へと変わっていた。先ず印象的なのは天蓋血脈樹が吸い上げた鮮血を全身に纏う血装。そして、自らも傷痕から血を流すことで、異郷の血と血が混じり合い脈動している。
「
太極絶招,
物极必反,
然而我在这里」
――邪氣虎牙紋。
何時かの金色の羽根を拳に宿した蔵乃祐は、雷霆の権能を解放していく。祈りの双子は溢れる鮮血を代償にして、血戦兵装を創造した。
「「……邪魔はさせない……」」
兵装を駆使した双子は蔵乃祐を穿とうとしてくる。だが、記憶の加護を得た蔵乃祐は真っ向から対抗していった。あとは乱れ撃つ連打で祈りの双子を圧倒しつつ、ジャストガードで双子の決戦兵装と殴り合うのみ。
「まだまだ!」
怪力で以て双子を殴り抜いた蔵乃祐は、重量に任せて双刃を砕き続けた。刹那の間隙を心眼で見ていき、撃ち抜けば相手の身体が大きく揺らぐ。
そして、兵装が振るわれそうになればその動きを見切り、早業で超至近距離まで切り込む。限界を突破していく蔵乃祐は拳を勢いよく叩き付け、祈りの双子に更なるダメージを与えた。
其れはまさに、雷霆を宿す必殺必中の白虎。
「過去は消費されるばかりではない。尊び、慈しんでこそ――!」
心からの思いと共に、祈りの双子に解き放たれた一閃。
それは戦いを終わりへと繋いでいくための、確かな一手となって迸った。
大成功
🔵🔵🔵
ロー・シルバーマン
…力を貸してくれる、戦う意思のある者の記憶…か。
探せるかのう。
血の記憶を探り出すまで回避と情報収集に専念、攻撃直後の隙等を見切りそれらしき鮮血へ潜る事を第一目標に。
双子の攻撃に対しては野生の勘や瞬間思考力で状況を適宜分析し致命傷だけは避けるよう最適な回避を試みつつ、浄化の結界で防ぐ等して時間を稼ぐ。
…第二の故郷である村の猟師仲間。
共に大物を狩り語り合った仲間…だが村ごとオブリビオンに滅ぼされ、その後に儂の手で埋葬した者達。
苦痛は長引くかもしれぬが、あの双子を討つ為に力を貸してくれ!
真の姿での機動力を活かし双子を速度で翻弄しつつUC起動、戦場を神域に塗り替える。
吹き荒れる太陽風、回避は非常に困難じゃろう。
記憶の主たる猟師達も共に戦ってくれる。
今のここは大物を狩る猟場、罠や銃で動きを縛りつつ一気に接近し連撃を!
最後に力を貸してくれたものに感謝を。
※アドリブ絡み等お任せ。執筆期間や制圧のタイミング調整等で好きな時に不採用でも大丈夫です
真の姿は巨大な銀の狛犬。銃や山刀を周囲に神通力で浮かべている
●狩りと戦場
鮮血の大地は赤々としており、不穏な空気に包まれている。
だが、此処に集った者達は今から鮮血の中に潜り、力を貸してくれる記憶を探しにいく。ロー・シルバーマン(狛犬は一人月に吼え・f26164)もその中のひとりであり、血の海を真正面から見つめた。
「……力を貸してくれる、戦う意思のある者の記憶……か」
この世界で流された血が集結するこの場において、どのような記憶が沈んでいるのか。
想像すらできないほどの膨大なものを思い、ローは軽く首を傾げた。
「探せるかのう」
その一言が紡がれた後、鋭い双眸が僅かに細められる。考えるよりも先ずは行動だと考えたローは意を決し、他の仲間と同様に鮮血へと飛び込んでいった。
第一の目標は血の記憶を探り出すこと。
それまでは回避と情報収集に専念しようと決めていたローは赤い景色を見渡してみる。普通ならば血しか見えないのだろうが、この場所は特別。
ローは祈りの双子が他の猟兵へと攻撃を繰り出す直後の隙を狙っていた。
その瞬間を見切り、それらしき鮮血へ潜ることを優先していたので、見立ては間違っていないはずだ。
「この辺りか? ……おっと」
そのとき、ローの近くに祈りの双子による攻撃の余波が跳んできた。
それに対して野生の勘を働かせたローは素早く避ける。もし自分に直接的に放たれた力だったとしたら、まともに喰らっていたかもしれない。
「早く記憶を見つけなければいけないのう」
ローは気を引き締め、今まで以上に完璧に立ち回ろうと決めた。
適宜、瞬間思考力で状況を分析するロー。彼は致命傷だけは避けるよう最適な回避を試みつつ、浄化の結界を広げていった。そうすることで余波を防ぎ続け、時間を稼ぐ狙いだ。
「……?」
そうしていると、ローの近くに見覚えのあるものが浮かびはじめた。
はたとしたローは目を凝らしてみる。
「あれは……」
静かに揺らぎながらも、はっきりと見え始めたのは――第二の故郷である村の猟師仲間の姿だ。
元気だったか、という言葉が今にも聞こえそうだ。
実際には聞こえていないこともローには分かっているが、あの日のままの姿が其処にある。共に大物を狩り語り合った仲間達だった。
しかし、彼らは村ごとオブリビオンに滅ぼされた。
彼らを救うことができなかったローは、その後に自らの手で仲間を埋葬した。そのときの記憶が胸裏に浮かんだが、ローは前を見据える。
此処に彼らの姿があるということは、自分の力になってくれる可能性があるということだ。
無念があるかもしれない。
絶望のまま死んでいった者もいるだろう。
されど、その気持ちごと力にして昇華するための力が、今のローにはある。ローは仲間達を見つめたまま、凛とした声で呼び掛けていく。
「苦痛は長引くかもしれぬが、あの双子を討つ為に力を貸してくれ!」
次の瞬間、仲間達が頷いた。
それによってローの中に力が流れ込んでくる。真の姿である巨大な銀の狛犬へと変貌したロー。その周囲には銃や山刀が神通力によって浮かべられていった。
獣の機動力を活かして駆けたローは、仲間の意志を感じ取っていた。
それは自分にしかわからない言葉や思いだったが、十二分に受け取ることができる。そして、ローは祈りの双子を速度で翻弄しつつユーベルコードを起動した。
「祓い清める太陽よ、今一度ここへ」
――古の太陽は再び昇る。
戦場を旧き太陽を奉ずる清らかな神域に塗り替えたローは果敢に立ち回っていく。吹き荒れる太陽風の回避は流石の双子でも非常に困難なはずだ。
互いの力が互角であるのならば、逆転する好機はすぐに訪れる。何故なら今のローには心強い仲間の力が宿っているのだから。
記憶の主たる猟師達も共に戦ってくれる。そのことがローを更に強くしている。
「今、ここは大物を狩る猟場!」
罠や銃で動きを縛って獲物を追い詰めること。それが狩り成功の秘訣だということはローをはじめとして、皆が知っていることだ。一気に接近したローはすかさず連撃を叩き込む。
「皆に心からの感謝を」
力を貸してくれたものに礼を告げながら、ローは戦い続けていく。
この思いは決して揺らがず。ただひとつの勝利を目指すために――絆と記憶が、力と成る。
大成功
🔵🔵🔵
橙樹・千織
◎
血に潜る
まさかそんな日が来るとは思いもしなかった
苦笑を浮かべつつも意を決し、静かに身を沈めてゆく
これは…
浮かぶのは記憶に新しいとある神域
美しい朱砂の大鳥居を構えたあの場所
嘗ての母と言の葉を交わし
囚われ痛みに苛まれ
友の路を、笑み咲かす彼らを護りたいと願い
姿見えぬ水龍の巫女様に力添えいただき
母と共に立ち回った
ひとつの愛の物語
これが、血の記憶というものなのね
記憶を辿れば牡丹桜の花弁を模した霊力が無いはずの風と共に駆ける
あら、いつの間に…
視界に入る金糸は真の姿のそれ
金糸に撫子とビスカリアが咲き
鳶の翼とは別に二対が背に広がる
嘗ての面影を色濃く映したもの
これで…準備は整ったのね
静かに開く瞼の下
橙から深紅へと染まった瞳が覗いた
お前達により流された数多の血
藍雷鳥を構え、刀を花弁に散らす
溢れかえる憎しみの記憶
破魔と浄化、糸桜のオーラを纏う
力無き者を苦しめた
己が罪をその身をもって償え!
吼えれば呼応し、朱の牡丹桜が肌に咲く
二度と目覚めぬよう
深く深く沈め
兵装を砕き、祝詞を紡ぎその身を縛る
悪しきは此処で絶つ…!
●闇を覆う櫻雨
深く色濃い血の海に潜る。
人々の苦痛や憎悪といった感情が沈む大地は奇妙な揺らぎを見せていた。
まさか、これまではそんな日が来るとは思いもしなかった。苦笑を浮かべつつも意を決した橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)は静かに瞼を閉じた。
正直を言えばどうなるかわからないという未知への畏れもある。だが、此処で怯んでいては闇の世界が更なる鮮血に染められてしまうだけ。
そうして、千織は鮮血へと身を沈めてゆく。
赤い世界は奇妙奇天烈であり、摩訶不思議な感覚が巡るのみ。
されど千織は目的を見失わないようにしっかりと思いを抱き、鮮血の中を進んでいった。
「これは……」
其処に見えてきたのは不思議な光景だ。見慣れているものではあるのだが、此処で見えるのは妙だという意味の不思議さだった。
千織の前に浮かぶもの。それは、記憶に新しいとある神域。
美しい朱砂の大鳥居を構えたあの場所だと感じた千織は、其処であった出来事を思い返す。
嘗ての母と言の葉を交わした日。
それは千織にとっても思い出深いものだった。
囚われ、痛みに苛まれ、友の路を――そして、笑み咲かす彼らを護りたいと願った。姿の見えぬ水龍の巫女に力添えを貰い、母と共に立ち回った。
あの日のことは忘れたくても忘れられない。千織は胸の裡に巡る思いを確かめた。
あれは確かに、ひとつの愛の物語だったと記憶している。
たくさんの思いが交差しており、誰もがよりよい未来を目指すために戦った。それは敵側に回った者も同じであり、あの戦闘は果たせなかった思いの昇華にも繋がったのだろう。
「これが、血の記憶というものなのね」
鮮血の大地の最中、千織はそっと呟いた。
気付けば心の中に力強い何かが生まれ始めている。血の海に漂う記憶の中には、嫌悪や憎悪のような強い気持ちも混じっていた。だが、そのどれもが闘志に満ちていることも感じられる。
絶望が訪れても、人の思いは其処で止まらない。
負の感情であっても前に進む力になる。
この戦争でも怒りのままに戦う者もいた。現に千織もまた、オブリビオン・フォーミュラへの憤怒を抱いているがゆえに戦いを挑もうとしている者だ。
そうして記憶を辿っていけば、牡丹桜の花弁を模した霊力が無いはずの風と共に駆ける。どうしてかしら、と首を傾げた千織はそちらの方に目を向けてみた。
「あら、いつの間に……?」
視界に入る金糸は真の姿のそれ。
金糸に撫子とビスカリアが咲き、鳶の翼とは別に二対が背に広がっている。
嘗ての面影を色濃く映した姿となった千織には、いつの間にか血の記憶の力が宿っていた。
「これで……準備は整ったのね」
千織が静かに開く瞼の下。
其処には橙から深紅へと染まった瞳が覗いている。
「――お前達により流された数多の血」
藍雷鳥を構えた千織は刀を花弁に散らし、溢れかえる憎しみの記憶を追った。
破魔と浄化の力を巡らせ、糸桜のオーラを纏った千織は怒りのままにオブリビオン・フォーミュラへと立ち向かっていく。
「力無き者を苦しめた、己が罪をその身をもって償え!」
「「……無限の鮮血を贄としたとき、わたしたちは最強……」」
千織が語った言葉に対し、祈りの双子は生贄魔術の行使を宣言した。しかし、千織はこの程度では決して怯まないと決めている。
「最強など滅してやる……!」
吼えれば呼応し、朱の牡丹桜が肌に咲いていった。
――剣舞・櫻雨。
「はらりと舞うは、櫻花と面影。共に散らさん、汝が魂」
千織は自身の得物を無数の八重桜と山吹の花に変えていき、周囲を切り刻むが如き連撃を放った。真の姿となった千織の力は普段以上に鋭く、祈りの双子を貫いていく。
「二度と目覚めぬよう……」
――深く深く沈め。
千織は兵装を砕きながら、祝詞を紡いでその身を縛りに掛かった。
そうして、千織は高らかな叫びを放つ。
「悪しきは此処で絶つ……!」
その声に応えるように桜と山吹が舞い上がり、紅く暗い世界を新たな色に染め上げる。その力はまるで慈悲を宿す雨の如く――美しき光景となっていった。
大成功
🔵🔵🔵
蘭・七結
◎
拡がるのは、悍ましいほどの“あか”
纏わり着くような香りに眩んでしまいそう
……されど、溺れたりはしないわ
己の意志を固く結んで、底へと往きましょう
――血潮、
いっとうに好む色彩を持つもの
渇慾を抱える鬼とは切り離せないもの
わたしを染め『あなた』を歪めたもの
今でも、色褪せること無く憶えている
数多の記憶を掻き分けて
手繰り寄せるのは――再び廻り逢えた時のこと
『あなた』が、その眸へと嵌め込んだ猩々緋と
啜り喰らったあかの彩は、おんなじだったわね
あの日、あの場所で、相見えることが叶ったから
わたしは、今も生き続けていられるの
――嗚呼、見附けた
これが、わたしの“血の記憶”
背に授かるのは眞白の双翼
紅く紅く染め上げた花一華たちが咲いて
眸に宿すのは『あなた』と同じ金糸雀の彩
……また、共に在れるのね
この様なかたちになってしまったけれど
今は、それすらも嬉しく感じてしまう
記憶と、『あなた』の力と共に翔けましょう
この姿では歩むことが出来ない
夥しいあかの波を掻き分けて、翔ぶ
終わらせましょう、――様
獣たちを攫う花の嵐を、此処に
●いのちのいろ
眼前に拡がるのは、悍ましいほどの――“あか”。
蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は鮮血の大地を前にして、一歩を踏み出す。
夥しいほどの鮮血。これは今までにこの世界で流された全ての血液であり、その持ち主の記憶や感情が宿されている。幾万、幾億、或いはそれ以上。
想像すらできないほどの数多の記憶がこの中に眠っているのだろう。
じわりと纏わり着くかの如き香りに眩んでしまいそうだったが、七結にも此処に来た理由がある。血の記憶を祈りの双子に消費されぬようにすること。そして、記憶を手繰り寄せること。
それゆえに七結は怯まずに進んでいく。
「……溺れたりはしないわ」
己の意志を固く結んで――いざ、紅の海の底に。
往きましょう、と呼び掛けた言葉は傍らの蝶々へ告げたもの。七結は一度だけ瞼を閉じ、あかい水底を目指して沈んでいった。
其処にあったのは血潮。
赤い、紅い、朱い。七結がいっとうに好む色彩を持つものだ。
血の香りはもちろん、その独特の感触やぬくもりが纏わりつく。これは渇慾を抱える鬼とは切り離せないものであり、忘れることが出来ないものでもあった。
七結は自分までもが血に揺蕩う記憶のひとつになりそうだと感じながら、思いを巡らせる。
(――わたしを染め『あなた』を歪めたもの)
鮮烈に、苛烈に。
それは今でも、色褪せること無く憶えている。
七結は記憶の奔流からたったひとつの道筋を感じ取った。苦痛、悲哀、憎悪、闘志。そういった感情を孕む数多の記憶を掻き分けていき、手繰り寄せるのは――。
そう、再び廻り逢えた時のこと。
自分を、なゆ、としかと呼んでくれた声は記憶に灼き付いている。
あの日、『あなた』が、その眸へと嵌め込んだ猩々緋。それから、啜り喰らったあかの彩。
「どちらもおんなじだったわね」
ふたつの色彩を想い、七結はそっと言の葉を紡いだ。
どんなに時が経っても、それまでにどれほど離れていたとしても。あの日、あの場所で、相見えることが叶ったからこそ、現在がある。
待っていてくれた。骸の海に漂うよりも抗うことを選、ただ七結のことだけを。
「わたしは、今も生き続けていられるの」
七結はただひとつの心を想い、手を伸ばした。指さきに触れるもの。
きっとそれが自分だけの記憶であるはずだから。
――嗚呼、見附けた。
自分の指を手繰り寄せてくれた、もうひとつの指と掌があったような気がして、七結は口許を綻ばせた。
「これが、わたしの“血の記憶”」
そのまま腕を引き、記憶と思い出を引き寄せるように抱いた七結は双眸を細める。
その瞬間、血の力が七結に巡りを与えていった。
背に授かるのは眞白の双翼。
更に紅く、紅く――染め上げられた花一華たちが咲いていき、七結を優しく包み込んだ。そして、眸に宿すのは『あなた』と同じ金糸雀の彩。
あの日の記憶以上に今、結びついたものがある。
「……また、共に在れるのね」
自分の掌をそっと見下ろし、胸元にあてた七結は花唇を緩く噛みしめた。其処に悔しさや憂いがあるのではなく、この歓喜を裡に留めることが難しかったゆえ。
このようなかたちになってしまったけれど――今は、それすらも嬉しく感じてしまう。
祈りの双子のように記憶を生贄に捧げて消費するのではなく、この思いを抱いて生きていく。双子と七結。双方に決定的な違いがあるとすれば、こういった想いとの向き合い方だ。
得た血の記憶と、『あなた』の力と共に。
翔けゆく七結は祈りの双子の元へ参じていく。既に仲間達が双子へと攻撃を放っており、状況は猟兵の優勢だ。されど油断なく進むため、七結は力と想いを紡ぎあげていく。
この姿では歩むことが出来ない。
だからこそ、こうして夥しいあかの波を掻き分けて、翔ぶ。
「終わらせましょう、――様」
獣たちを攫う花の嵐を、いま此処に。
いとしき眞白への言葉を紡いだ七結。其処から彼女が片手を天高く掲げたことで、あかい牡丹一華の花が鮮やかに舞っていく。祈りの双子を包み込むように拡がるあかは、周囲の鮮血とは違う。
みつめて、繹ねて。
ただ優しく、美しく。終わりに向かう道標として紡がれていった。
いのちのあかにこころを捧ぐ。この憂いも嘆きも、その総てを攫って往くために。
大成功
🔵🔵🔵
ルーシー・ブルーベル
【月光】◎
早く味方になってくれる方を探して、ゆぇパパの所へ戻らなくちゃ
眼の前が真っ赤だもの
きっとパパ、お辛い筈だわ
思えばブルーベルの一族の歩みはこの色と共に在った
青い血の一族なんてウソ
代替わりには必ず血が流れるもの
息子に母が
孫に祖父が
弟に兄が喰われていった
でも、だからこそ
この中には私に連なる人達がたくさんいる筈
あやすように背に触れたもの
頭を優しく撫ぜる手
金の髪と瞳
レイラお母様に似ているけれど、違う
そうだ
わたしを産んだお母様
唇が「いきなさい」と紡ぐ
これはわたしが赤子だった頃の記憶?それとも
――行ってきます
わたしが今、共に生きたいひとの所へ
左目が青く花開く
指先から、身体から幾つもの青花が芽吹く
ブルーベルを継ぐ姿で
『蒲公英の散花』
パパ!パパは何処かしら
翼がはえ、いつもとは大きく違う姿を確り目に映して
それでもパパはパパだわ
迷う事なく手を伸ばせば気遣うように応じて下さる
今もこんなにも優しい
どの姿でも大好きよ
手を握り返して、抱きしめて
ただいま!わたしのパパ
双子にも負けない繋がりをお見せしましょう
朧・ユェー
【月光】◎
真っ赤な世界
流れる血、心が震える
このままでは飲み込まれる
哀しみに?いや、きっと喜びに
ルーシーちゃん、あの子は大丈夫だろうか?
味方…僕の記憶に味方など居るだろうか
あの日あの時
父と名乗るあの男のせい村人は死に
その血の海で生きる気力も無くした時に
一番初めに手を差し伸べた手
俺の兄だと名乗る男
種族は違うが何故か血の繋がりを確信した
和風な身なりで穏やかな微笑み
父と名乗る男も兄が苦手なのか
いつの間にか居なくなっていた
『さぁ、立ちなさい。貴方の帰る場所はここでは無いはずです』
どんな時も厳しく生きる術を教えてくれた
指差す先に
嗚呼きっとあの子が居る
僕を待ってる
優しく強い小さな娘
口は大きく裂け背中に大きな翼が身体を覆う
瞳は鋭く、爪は刃の様に伸び
屍鬼
吸血鬼とはほど遠く化け物の様な姿
鬼とグールと同化した俺の姿
喰らい尽くそう
敵も血も記憶も全て
嗚呼、嗚呼、あの子は怯えるだろうか?
いや、きっとあの子は笑うだろう
どんな姿でも好きだと
鋭い爪で傷つけない様に小さな手を掴み
自分へと導く
温もりを抱き締める
お帰り、僕の娘
●家族
潜る鮮血の最中には記憶が眠っていた。
ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は紅い視界を確かめ、深くへと進んでいく。
(早く味方になってくれる方を探して、ゆぇパパの所へ戻らなくちゃ)
先程まで一緒にいた彼のことを思い出しながら、ルーシーは決意を固めた。何せ眼の前が真っ赤だから。ルーシーは彼の心境を慮りつつ記憶の底へと手を伸ばした。
(きっとパパ、お辛い筈だわ)
彼のために。
そして、この世界で流された血の記憶の主のためにも。
無念や憎悪、悲哀などの感情が宿る血には幾万、幾千。或いはそれ以上の感情が沈んでいるようだ。
ルーシーは過ぎ去っていく記憶から滲む思いを感じ取り、ふとした思いを抱く。
思えば、ブルーベルの一族の歩みはこの色と共に在った。
(青い血の一族なんてウソ)
ブルーベル家の代替わりが起こる際には必ずといっていいほどに血が流れる。その記憶の断片までもが血の中に巡っており、ルーシーはまるで自分がそれらを体験したかのように錯覚していた。
あるときは息子に母が。
違う代では孫に祖父が。また違うときは弟に兄が喰われていった。
痛々しい、救いのない光景ばかりだ。
(――でも、だからこそ)
絶望や憎悪を超えた先に未来への感情は宿る。無念があるということはやり遺した事柄が存在するのと同義。それが自分に連なる人達の意志であることは明白だ。
記憶を受け止め、一族の意思を集わせたルーシーは力を巡らせていく。
その最中、あやすように背に触れたものがあった。
「……?」
ルーシーがそちらに意識を向けると、続けて頭を優しく撫ぜる手が伸びてくる。
少女の瞳には金の髪と瞳を持つ女性が映っていた。
「レイラお母様……ううん、似ているけれど、違う。あなたは――」
ルーシーは少しばかり不思議そうな顔をしたが、すぐに気が付く。そうだ、彼女こそが。
「わたしを産んだ、お母様」
すると彼女は肯定するでも否定するでもなく、唇をそっと動かした。
『――いきなさい』
紡ぐ言の葉は赤子だった頃の少女が聞いたものなのだろうか。それとも。
考える前にルーシーは返答を紡ぎ返していた。
「――行ってきます」
向かうべきところはひとつ。
わたしが今、共に生きたいひとの所へ。
その瞬間、ルーシーの左目が青き光を放ちながら花ひらいた。指先から、身体から幾つもの青花が芽吹いていく姿は今の少女にとっての真と呼べる姿。
ブルーベルを継ぐ姿となったルーシーは怪炎を纏い、蒲公英の散花を力として巡らせていった。
同じ頃、朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)も記憶の海に潜っていた。
此処は何処までも真っ赤な世界。
流れる血を見れば、否応なしに心が震える。血と自分は決して切り離せないものであり、ユェーの中に抗えない衝動が押し寄せてくる。
このままでは飲み込まれてしまう。そう感じたユェーは二律背反めいた思いを抱いていた。
哀しみに?
いや、きっと喜びに。
しかし、その中には自分ではないものに向ける思いもあった。
(ルーシーちゃん、あの子は大丈夫だろうか?)
きっと今、彼女も記憶を探して鮮血の大地に潜っているはずだ。大地であるというのに海にも匹敵する夥しい血は奇妙でしかない。それでも、此処から血の記憶を探すことが勝利への道を繋げることとなる。
(味方……僕の記憶に味方など居るだろうか)
あの日、あの時、あの瞬間。
ユェーが思い浮かべていったのは、父と名乗るあの男のこと。彼のせい村人は死に絶えた。
その血の海で生きる気力もなくしたとき、一番はじめに手を差し伸べた者がいた。
(あれが……俺の兄だと名乗る男)
種族は違うが、ユェーは何故か血の繋がりを確信していた。和風な身なりで穏やかな微笑みを湛える彼だ。父と名乗る男も兄が苦手なのか、いつの間にか居なくなっていた。
そして、彼はこう言った。
『さぁ、立ちなさい。貴方の帰る場所はここでは無いはずです』
どんな時も厳しく、生きる術を教えてくれた。
そんな彼が指差す先には、きっと。
「……!」
嗚呼、きっとあの子が居る。僕を待っているのだと感じたユェーは其方へと泳いでいく。
優しくて強い、小さな娘。
彼女のことを思うと力が巡り、ユェーの姿は真なるものへと変貌していった。
口は大きく裂けており、背中に生えた大きな翼が身体を覆う。瞳は鋭く、爪は刃の様に伸びており――。
そう、それは屍鬼。
吸血鬼とはほど遠く、化け物の様な姿がユェーの真の姿だ。ユェー自身は、これが鬼とグールと同化した『俺』の姿だと自覚している。
喰らい尽くそう。
敵も血も記憶も全て。
そう思った刹那、ユェーの胸裏には再びあの子の姿が浮かんだ。
(嗚呼、嗚呼、あの子は怯えるだろうか?)
ユェーの胸裏に戸惑いと恐怖のような感情が芽生えている。だが、そんな思いは次に聞こえた声によって完全に打ち壊されてしまった。
「パパ! パパは何処かしら」
鮮血の中から飛び出したルーシーはユェーを探していた。
二人は同時にお互いの存在に気が付いたらしく、視線が重なる。ルーシーの瞳に映り込んだのは普段とは違うユェーの姿だ。大きく違う姿を確りと見つめたルーシーは手を伸ばす。
「…………」
ユェーは無言でその掌を見つめ返している。
「大丈夫よ。それでもパパはパパだわ」
迷うことなく告げられた言葉を聞き、ユェーは静かに笑んだ。気遣うように応じてくれる彼に安堵を抱き、ルーシーはその腕の中に飛び込む。
「どの姿でも大好きよ」
(やっぱり、この子は笑ってくれた。どんな姿でも好きだと言ってくれる)
「行きましょう!」
「勿論」
鋭い爪で傷つけないようにルーシーを抱き、ユェーは頷いた。
今もこんなにも優しい。添えられた手を握り返したルーシーは、ユェーと共に祈りの双子へと戦いを挑む決意を抱いていた。温もりを抱き締めたユェーは優しく語りかける。
「お帰り、僕の娘」
「ただいま! わたしのパパ。双子にも負けない繋がりをお見せしましょう」
そうして二人は視線を重ね、これから続くであろう攻防への思いを強める。其処から繰り出された二人の本気の力は激しく、深く巡っていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
誘名・櫻宵
◎
師匠…大丈夫よ!
師匠の抱っこには惹かれるけど
イザナが何かをみて倒れてしまってから私の事もすごく心配してくれてる
だからこそ大丈夫だって咲う
唯、側にいて
血は思い起こさせる
嘗て私が渇望していた
溺れていた
厭っていた
私の桜を彩に染めるものだと
──血が、私を縛っていた
憎しみと共に襲いかかるものは、正しく
私に向けられた憎しみそのものなのでしょう
桜鱗が咲いて零れて
変じる真の姿は
春暁の桜を纏う龍神……櫻仙龍とでも
師匠!私はまだイザナよりまだ少し小さいけど、立派でしょ?
桜鰭の尾を揺らして血海を游ぐ
絆ぐ縁は今の私を私と成してくれた皆よ
ひとりでは無いと教えてくれた
古から血に継いだ花竜
大蛇の血を絆ぐ母上やじぃや
誘七の血脈を等しくする従兄弟に
血を分けた妹の美珠に友人達
…母上
愛しい神様に人魚に、家族に
もちろん師匠やイザナも
私の中を流れる血(記憶)はうつくしい愛の彩をしている
私は立派な龍になって
皆が生きる世界を、救う
憎しみも哀しみも絶えない苦しみも全部
捕らえて掴んで喰らって
桜の下にうめたなら美しい桜と咲かせてあげる!
●軌跡が咲かせる花
鮮血が満ちる大地を前にして、臨むのは赤い世界。
其処には今、二人分の人影があった。
「師匠……大丈夫よ!」
「本当にいいのかい、サヨ」
「師匠の抱っこには惹かれるけど……」
誘名・櫻宵(咲樂咲麗・f02768)は神斬から向けられる眼差しを受け止め、首を横に振った。以前、イザナが何かをみて倒れてしまってから、彼は櫻宵のこともとても心配してくれている。
しかし、だからこそ櫻宵にも思うことがあった。
「もう一度言うわ、大丈夫」
「サヨ……」
「唯、側にいて」
「わかったよ」
鮮血の大地を前にして、櫻宵は敢えて咲ってみせる。その微笑みを見つめた神斬は頷くことで渋々ながらも納得したことを示した。そして、櫻宵は意を決する。
この血の中に潜り、記憶の力を得てくること。それが此度の戦場で勝利を得る条件。
とぷん、と小さな音が響く。
次の瞬間には櫻宵の身体は血の海の中へと沈んでいた。
(この感覚……)
血は思い起こさせる。
嘗て櫻宵が渇望していたもの。溺れていた、厭っていた。
己の桜を彩に染めるものだと思っていた。それゆえに過去の櫻宵はこう思っていた節がある。
――血が、私を縛っていた。
血とは生命の象徴とも呼べるものであり、喰らうものであり、満たすものだった。記憶を垣間見ていく中で憎しみと共に襲いかかるものは、すべて正しく――そうであると決まっている。
(わかっているわ。私に向けられた憎しみそのものなのでしょう)
櫻宵は過去のすべてを悔いているわけではない。
だが、その中に懺悔すべきものがあることをよく分かっていた。されど、その憎悪すら抱いて生きているのが今という時間だ。悔いて動けなくなるよりも、思いを抱いて進んでいく。
たとえそれが僅かなものであったとしても、共に往く。
嘗てのような弱気な自分は何処にもいない。思い出すことはあれど、自分の存在こそが罪だと思っていた頃と比べれば随分と違う心境になっている。
それはきっと、こうして黙って傍にいてくれる師匠――神斬がいるから。
勿論それだけではない。愛しき者達すべてが自分を支え、心を導く光になってくれている。そのことを改めて実感した瞬間、櫻宵の身体に変化が訪れた。
桜鱗が咲いて、零れて――変じる真の姿は春暁の桜を纏う龍神。
「サヨ、その姿は……」
「……櫻仙龍、と呼んでいい姿でしょう?」
「美しい……」
イザナみたいだ、と神斬が呟いたことで櫻宵の心にも桜が咲いていった。同一視したわけではないことは櫻宵もよく分かっている。それよりも師匠が惚れ惚れとした眼差しを向けてくれていることが、自分の力を認めてくれているようで嬉しかった。
「師匠! まだイザナよりまだ少し小さいけど、立派でしょ?」
「勿論だよ、サヨ。行けるかい?」
「ええ、任せて!」
神斬に問われた言葉に大きく頷いた櫻宵は、桜鰭の尾を揺らして血海を游いでいく。向かう先は祈りの双子の元。美しき桜を纏いながら進む先には倒すべき存在が居る。
絆ぐ縁。それは今の櫻宵を『私』と成してくれた皆。誰もが誘七の血脈や櫻宵個人に心を寄せ、ひとりでは無いと教えてくれた者達だ。
古から血に継いだ花竜。
大蛇の血を絆ぐ母上や、大切に育ててくれたじぃや。
誘七の血脈を等しくする従兄弟に、血を分けた妹の美珠。大事な友人達と、それから。
「……母上」
皆の笑顔が見えた気がした。
明るい笑み、控えめな微笑み、口許は引き結ばれていても優しい眼差しを向けてくれる者。その血の記憶の力を得ている櫻宵に怖いものなどない。
そして――愛しい神様に人魚に、家族。神斬やイザナも櫻宵を支えるひとりだ。
「きっとね、私の中を流れる血はうつくしい愛の彩をしているの」
間違いないと断言できる。
櫻宵は強い気持ちを抱き、咲華の力を解放した。
「私は立派な龍になって――皆が生きる世界を、救う」
絶対に。
誓いを立てた櫻宵の真の力が広がっていく。憎しみも哀しみも絶えない苦しみも、全部。
捕らえて、掴んで、喰らって。それから、桜の下にうめたなら――。
「美しい桜と咲かせてあげる!」
赤い世界を覆うのは可憐で美麗な桜の軌跡。
想いを抱えた櫻宵が歩む未来を予感させるかのように、春暁の花彩がしなやかに揺れた。
大成功
🔵🔵🔵
リル・ルリ
◎
すべての血でできた、大地……
ここにはカナン・ルーの皆の血もとけているんだろうか
真っ赤な海に潜り泳ぎながら思う
怖いなんていってられない
櫻だってカムイだって、こういう時は真っ向から立ち向かうんだ!
だから僕も
……大丈夫、ヨル
僕は歌えるよ
歌うよ、この世界は僕がうまれた世界だから
もう、誰も
望まぬ海に溺れさせない
もう、奪わせなんてしない
血の記憶──辿るのはこの血に宿る記憶
黒に変じる身体に力に、もうひとつの白の力を重ねる
…いつか、言われた
僕は白黒の人魚なんだって!
靡くのは、カナン・ルー一族の黒の髪
黒孔雀の羽髪は、パンドラねえさんから
とうさんの金とユリウスから貰った薄花桜の彩の瞳
白の尾鰭には、黒薔薇のモザイクが、白に描かれる
響かせる歌声はかあさんからだ!
『愛歌い、こい咲かす―開演時間だ、有頂天外の喝采を!』
この血に流れる記憶を力に
どうか皆、導いて
全部僕は受け止めて
歌う
游ぐ
白の魔力と重ねるように歌うのは「泡沫の歌」
歌と魔法はふたつでひとつ──全てを沈めたこの歌で!
今度は、救いたいんだ
今度は、守りたいんだ
●誰が為に謳う詩
「すべての血でできた、大地……」
目の前に広がる景色を見つめ、リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は息を呑む。
見慣れた水の中ではなく、紅く染められた血の海に潜る。これから自分が行うことを思えば、奇妙な気持ちにもなってしまった。だが、此処で怯んでなどいられない。
「行こう、ヨル」
「きゅ……!」
リルが仔ペンギンのヨルに呼び掛ければ、決意を込めた鳴き声が返ってきた。
そうして、ふたりは血の海へと飛び込んでいく。
「すごい……全部が真っ赤だ。ここにはカナン・ルーの皆の血もとけているんだろうか」
何処までも紅い世界に潜り、泳ぎながらリルは思う。
ダークセイヴァーで流された血のすべてが此処に集っているというのならば、そうなのだろう。故郷の皆のことを思うと、怖いなんてことはいっていられない。
(櫻だってカムイだって、こういう時は真っ向から立ち向かうんだ!)
だからこそ、僕も。
リルは尾を揺らし、血の水底を目指していく。
途中、まるで襲いかかるように苦痛の記憶がリルの横を掠めていった。名も知らぬ誰かの記憶なのだろうと感じたリルは胸の痛みを感じる。
(あんなにも辛い記憶を……。もしかしたらカナン・ルーの皆も……)
「きゅ?」
リルが僅かに俯いたことに気付き、ヨルが平気かといった様子で小首を傾げた。
「……大丈夫、ヨル」
「きゅうう」
「無理なんてしてない。僕は歌えるよ」
心配そうなヨルを抱き締め、リルは心からの思いを声にする。ただこの状況に怯えるために此処に訪れたわけではない。過去を連れて未来に進むため、祈りの双子の策略を阻止するのが此度の目的だ。
それにリルにとって、闇もまたいとおしいものだ。
「歌うよ、この世界は僕がうまれた世界だから」
もう、誰も。
望まぬ海に溺れさせない。
もう、奪わせなんてしない。
「向こうだよ、ヨル!」
リルが辿る血の記憶。それはこの血に宿る記憶でもある。嘗ての黒耀の都市に巡った悲劇。其処から巡っていく願いや思いを胸に抱き、リルは游ぎ続けた。
次第に黒に変じる身体。
その力に合わせて、リルはもうひとつの白の力を重ねる。
「……いつか、言われた」
思い出すのは以前のこと。リルには白の魔法が掛けられ、本来の黒は沈められた。
しかし、その色が消えてしまったわけではない。
「僕は白黒の人魚なんだって!」
揺らめく海の最中で靡くのは、カナン・ルーの色。一族と同じ黒の髪。
黒孔雀の羽髪は、パンドラねえさんから。
ノアとうさんの金色。ユリウスから貰った薄花桜の彩の瞳。
白の尾鰭には、黒薔薇のモザイクが白に描かれ、美しい色彩となって耀く。そして、色以外にも授かったものがある。それなリルが何よりも大事にしているもの。
「これから響かせる歌声は、かあさんからもらったものだ!」
死という終わりが訪れても。
永劫に苦の輪廻を繰り返す世界だとしても。すべてがなくなってしまうわけではない。
『愛歌い、こい咲かす――開演時間だ、有頂天外の喝采を!』
続けてリルが声にしたのは、美しく凛々しい舞台が始まるという開幕の言の葉。
この血に流れる記憶を力にして。
「どうか皆、導いて」
憎しみ、痛み、悲しみ。絶望、後悔、苦痛。或いは夢見た希望。
過ちを犯したことを悔いて、立ち止まるのは誰のためにもならない。本当に償うのならば前を向いて進み続けることが正解であるはず。
すべてを受け止めて抱いていくと決めたリルは、そっと花唇をひらいた。
歌う。游ぐ。
白の魔力と重ねるように歌いあげて紡ぐのは、泡沫の歌。歌と魔法はふたつでひとつ。
「――全てを沈めたこの歌で!」
今度は、救いたい。
今度こそは。裡に生まれた思いを詩にして、リルは声の限り歌い続ける。
「守りたいんだ!」
其の歌声は世界を、理を魅了する。
蕩ける程に甘く響く魔性の誘い。それは禁忌であり、滅びの歌だ。されど此処から齎す崩壊は――世界を救い、守るための力になってゆく。
大成功
🔵🔵🔵
朱赫七・カムイ
◎
血に潜る…私は良いが
イザナはまっていてくれ
先程は倒れてしまった
その際に米俵のように抱えたのも気に食わなかったよう
気難しい竜神だ
此処は私に任せてと大口を叩いたのだから一人で挑まねば
いや
一人では無い
私は巡る前は一度はオブリビオン──影朧となったもの
廻り生まれて重ねた時こそ少ないが数多の出会いがあった
蝶館に
幽世での戦いに駆けた数多の世界
触れ合った者たちの心に触れて今の私があるのだ
誰もが厄災に抗っていた
誰もが試練を越えようと戦っていた
額の三つ目が開く
その出会いの全てが私の力になるのだと束ね重ねて──
『カムイ、随分頑張っているではないか』
神友!カルラ?!
そなたはオブリビオンを憎んで?
『私は何時だって、私をあんな狭間に閉じ込めた連中を滅ぼしてやりたいと思っているよ?』
共に自転車に乗った仲だ
友の存在にもありがたさを感じる
イザナは気になることをいっていた
私に力をかしてくれる存在が悪しき者のはずはない
放たれた閃光にビビってなどいない
重ね結んだ想いと力とを込めて
この地に齎される厄災を薙ぎ祓ってみせるとも!
●優しき神友
これから行うのは鮮血の大地に潜ること。
大地とは言われているが、血の海と呼ぶに相応しい光景が目の前に広がっている。
「これが鮮血の地か……」
朱赫七・カムイ(禍福ノ禍津・f30062)は血に潜る準備をしながら、傍らにいるイザナの様子を気にしていた。どうにも具合が良くない様子の彼が妙に心配であり、カムイはそっと語りかける。
「イザナはまっていてくれ」
「いいや、私も……」
「駄目だよ、イザナ。先程は倒れてしまっただろう?」
カムイの言葉に従わない様子のイザナだったが、そのことを言われると弱いらしい。あの際に米俵のように抱えたのも気に食わなかったようで、彼はカムイからふいと目を逸らした。
「好きにすればいい」
「気難しい竜神だ。では――」
イザナが待機することを了承したことで、カムイはひとりで真っ赤な領域に向かうことになる。
こうして軽口を叩いておく方がイザナも気が楽だということはカムイも分かっていた。
「此処は私に任せて」
そういって、カムイは単身で血の海へと潜っていく。大口を叩いたのだからしかと挑まねば、という思いを胸に秘めて――彼は紅の最中を進んでいった。
そんな中、カムイはふと思い出す。
(いや、一人では無い)
自然と思い起こされたのは巡る前のこと。血の中に沈むと同時に、一度はオブリビオン――影朧となったときの記憶が蘇ってきた。骸の海のことは覚えていないが、カムイにも不思議な感覚が残っている。
巡りが廻り、生まれて重ねた時。それこそ少ないが数多の出会いがあった。
蝶の館、幽世での戦いに駆けた数多の世界。
言葉を交わし、触れ合った者達。どの記憶も思い出深いものだ。彼や彼女の心に触れたからこそ、今のカムイがあるといって過言ではない。
(そうだ、誰もが厄災に抗っていた)
そして、誰もが試練を越えようとして戦っていた。
この鮮血の大地に満ちた記憶の中にも、そういった者達がいたのだろう。気付けばカムイの周囲には血の記憶の力が集っていた。
それに応じて、額にある三つ目が開く。
その出会いや思いの全てが今の自分の力になるのだとして、カムイはその意思を束ねて重ねた。
そんなとき、不意に聞き覚えのある声が響いてくる。
『カムイ、随分頑張っているではないか』
「そなたは……」
『もう忘れてしまったか、神友』
「カルラ!?」
どうして彼の声が聞こえたのか。そもそもどういった巡りだったのか。混乱するカムイを他所に、声の主はあのときと同じ表情を浮かべていた。
「もしや、そなたはオブリビオンを憎んで?」
『私は何時だって、私をあんな狭間に閉じ込めた連中を滅ぼしてやりたいと思っているよ?』
カムイが問いかけると、彼は飄々とした様子で答える。
それは何処か不敵な雰囲気で意味深だったのだが、カムイは気付けずにいた。しかし、彼が力になってくれるというのならば断る理由はない。
「共に自転車に乗った仲だ。ならば共に往こう」
友の存在にもありがたさを感じ、カムイは彼の意思と力と共に祈りの双子の元へ向かった。
そういえば、イザナは気になることをいっていたが――。
(大丈夫だ、私に力をかしてくれる存在が悪しき者のはずはない)
幼い神であるカムイは疑うことを知らない。
彼とイザナが此処で出遭わなかったことは幸運と呼ぶべきか、それとも不幸なことだったのか。今は未だ誰も知らぬことだ。
鮮血の海から出た瞬間、閃光が放たれる。一瞬だけ身体が震えるような悪寒が背に走ったが、これより強敵であるオブリビオン・フォーミュラと対峙するゆえのものだと思うことにした。
そして、カムイは再約ノ縁結の力を巡らせてゆく。
重ねて結んだ想いと力とを込めて。
――人もをし 人も恨めし あぢきなく 世を思ふゆゑに 物思ふ身は。
「この地に齎される厄災を薙ぎ祓ってみせるとも!」
其の力は意図と絲を結び合わせ紲と傷を断ち、災を倖へと変えるもの。約した結果を断ち書換える再約の神罰は戦場に廻っていき、悪しき祈りを滅する結びを導いていく。
いとしきものが倖いに生きる。
そのような未来が訪れることを信じて疑わずに――。
大成功
🔵🔵🔵
冴島・類
血で強化だなんて
持ち主達はさぞ不本意でしょう
赤に飲み込まれると
搾取されてきた方々の
嘆き、希望すら見えない日々や…
上層で闇の種族に作られた村で
仮初の穏やかな日々と
其処を絶望を得る為に壊され
苦しめられる、方々の記憶が…流れ込んでくる
助けられなかった人たちの姿も過ぎり
唇を噛むが
気持ち落ち着ける為耳元の羽に触れ
目を凝らし探し…
幾度となく苦しみで奪われてきたのだとしても
ひとが喜びや希望を見出そうと
繋いでいく、ものだと知っている
だから、きっと…
不意に呼ばれた気がしてみれば
今、ここにいるはずのない
この地で救えたいのち
こちらを心配してくれた
お爺さんとお婆さんの姿が
無理をするなとか
言っても聞かんのだろうと言いたげな苦笑に背を押されて
はい、そうですね
頑固なものでと笑い這い上がる
貴方達も住む世だ
沈めさせるわけにいかぬ
湧く力で、獣達の動きを見切りなるべく避け
避け切れぬ分は薙ぎ払いで斬りつつ
風の全力魔法使い速度上げ、駆け
双子に接近を
強化…なら
腰の黒曜を引き抜き、突き立てる
奪った命達の苦しみを、還そう
これで終わりだ
●過日の牙が届くとき
この世界のオブリビオン・フォーミュラ、祈りの双子。
彼女達が扱う生贄魔術は、この鮮血の大地に満ちている血を捧げ物として使うという。
「血で強化だなんて……」
持ち主達はさぞ不本意でしょう、と言葉にした冴島・類(公孫樹・f13398)は赤い世界を見渡した。祈りの双子に対抗するためには血に潜り、記憶を味方につける必要があるという。
生贄に捧げられるよりも、オブリビオンに対する闘志を力にする方がいいに決まっている。
そのために自分が訪れたのだとして、類は意を決した。
そして、類はひといきに踏み出す。赤に飲み込まれる感覚が巡る最中、類は無意識に閉じていた瞼をひらいていった。真紅に染まる視界の奥底に何かが見えている。
それが、搾取されてきた者達の記憶であると察した類は意識を其方に向けた。
嘆き、叫び。
悲しみに溢れ、希望すら見えない日々。上層で闇の種族に作られた村に住まわされ、仮初の穏やかな日々を送る者達のささやかな記憶。そういったものの断片が類の横を通り過ぎていった。
そして、記憶は移り変わる。
穏やかな日常は絶望を得る為に壊されていき、人々は苦しめられていく。たくさんの記憶が類の裡に流れ込んで来たことで類の胸が痛む。
その中には以前に助けられなかった人達の姿も過ぎっており、類は強く唇を噛み締めた。
されど、此処は気持ちを落ち着けるべき時。
類はそっと耳元の羽に触れながら目を凝らしてゆく。其処から探していくのは類の力となってくれる記憶の主。暫し紅い血の海を彷徨っていると、類の瞳にあるものが映った。
それは不条理に押し潰されそうになりながらも、未来への希望を抱き続けていた者達の記憶。
幾度となく倖いを苦しみで塗り潰され、奪われてきたのだとしても。
(……そうか)
類は記憶の奔流の中であることを納得した。
ひとが喜びや希望を見出そうとする気持ちは強い。そして、心とは繋いでいくものだと知っている。
(だから、きっと……)
類の胸裏に力強い思いと心強さが満ちていった。
そのとき、不意に呼ばれた気がした。どうしてかすぐ傍に誰かの温もりを感じる。血の中を巡っていたときとは違う確かな存在感があった。
視線を巡らせると――其処には今、ここにいるはずのない人達の姿がある。
それはこの地で救えたいのち。
類のことを心配してくれた、お爺さんとお婆さん。
『どうか無理をしないで』
『しかし、言っても聞かんのだろう』
『それなら……』
『行って来い、存分に』
声は頭の中に響いてきている。それから、頑張ってと言いたげな苦笑に背を押された気がした。
類は静かに笑み、二人に笑みを返す。
「はい、そうですね」
頑固なもので、と付け加えた類は天上を見上げた。そのまま血の海の最中を蹴り上げれば、ふわりと身体が浮かんでいく。まだ希望もいのちも潰えていない。
そのように感じた類は新たな力を得ていく。様々な絶望や苦痛を見てきたが、今は不安などない。
「貴方達も住む世だ」
――沈めさせるわけにいかぬ。
此処から続くこの世界の日々のためにも、類は更なる決意を固めた。
湧き上がる力は信頼と積み重ねの証。祈りの双子の元へと向かった類は身構える。視線の先には祈りの双子が喚び起こした血管獣が唸り声を上げていた。
対する類は過日の牙の力を巡らせ、理不尽な死を呪いとし還す能力を高める。
獣達の動きを見切るべく地を蹴った類は素早い動きで以て回避していく。数体もの獣に囲まれつつ、避け切れぬ分は薙ぎ払いで斬り裂く。
血管獣達を倒した類は一気に祈りの双子へと肉薄しに向かう。
風の魔法を巡らせ、全力で速度を上げて駆ければ双子の懐まで届くだろう。双子達も対抗しているものの、相手に反応させぬほどの疾さで迫った類は鋭い一撃を叩き込んだ。
「「……!!」」
「そちらが強化する……なら!」
息を呑んだ祈りの双子に向け、類は腰の黒曜を引き抜く。その勢いのまま突き立てればオブリビオン・フォーミュラが行ってきたことに対しての呪いが還されていった。
「奪った命達の苦しみを、還そう」
――これで終わりだ。
静かに、それでいて真っ直ぐに。類が告げた言の葉と共に崩壊の音が響いていった。
大成功
🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
◎
ヴァシリッサ(f09894)と
鮮血の中で見つけるのは幼い頃に死別した父の「血の記憶」
普通の人間でありながら、人狼だった母を守る為に領主に反抗し殺された
オブリビオンに対する敵意は当然だ
しかし「血の記憶」の父から憎悪は感じず、温かく慈愛を思わせる表情で
『行って来い。お前に流れる血を恐れるな』
言葉と共に差し出された手から力が流れ込む
真の姿へ
月光に似た淡い光を纏い、犬歯が牙のように変化。瞳は夜の獣のように鋭く光る
瞳の色は普段と異なり父と同じ金色に変わる
力が湧き出る感覚に戦意を高めて
ヴァシリッサと共にフォーミュラへ突進
ユーベルコードを発動し狼獣人に変身
父の助けを得た今だけは、この姿に恐れも嫌悪も無い
この力で大切なものを守れるなら
ヴァシリッサをフォローし道を塞ぐ血管獣を倒す
彼女の死角を狙う敵を、横合いから蹴り飛ばし爪で斬り払う
血管獣に妨害されない距離まで接近、人の姿に戻り温存した弾丸全てフォーミュラへ撃ち込み攻撃と撹乱を狙う
この世界は多くの者が血を流して繋げてきた
身勝手に蹂躙する事は断じて許さない
ヴァシリッサ・フロレスク
◎
シキ(f09107)と
血の記憶を辿る先には
両親を領主に処刑された挙句
共に囚われた冷たい牢の中で息絶えた幼い弟エミル
父親似で人狼の血が濃く顕れ
愛らしい狼耳とふわふわな尾
白銀の髪は
貴方に良く似ていて
躰も小さく弱かった弟は
腕の中で飢えて逝った
その弟が、精一杯の力で眼前に立ち
『守ってもらってばっかりだったけど
今度は僕がおねえちゃんを助ける番だ!
違う
アタシは守ってやることも叶わなかった
守ってもらったのはアタシの方だ
貴方のお陰で、意趣返しもせず
絶対にこんな処でくたばるものかと
強く
あれた
欲張りな姉チャンを赦して
また、助けて頂戴
弟をそっと抱きしめれば
UC発動、シキに続いて自身も真の姿へ
弟の加護で理性を失わずに
真の姿は人狼と吸血鬼の力を併せたもの
右眼は黄金の狼眼
左眼は真紅の瞳
頭には狼耳、銀の犬歯も尖さを増し
吐息には焔が交る
シキのカバーを受けながら
ディヤーヴォルで血管獣を薙払い双子へ吶喊
渾身の一撃を
全ての血?
最強だ?
ほざけ
アタシ
たちの血は此処に在る
それを絶やさせやするものか
●闇の救済者
紅く染まった世界は、悲惨な終末を思わせる景色だった。
しかし、此処に集った猟兵達はそんな終わりなど望んでいない。この世界で懸命に生きる人々がいて、新たな生命が廻るのならば――その最悪を、最良に変えたい。
(俺達がそれを成せるなら……)
シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)もまた、静かながらも強い思いを抱いていた。
そうして潜った鮮血の大地の最中。
シキは真紅の光景を真っ直ぐに見据え、或る記憶を目指して進んでいく。
揺らめく赤。淀む景色。
たくさんの記憶が通り過ぎていき、嘆きや悲しみの声が聞こえている。耳を塞ぎたくなるようなものもあったが、シキはその中からたったひとつのものを見つけ出した。
それは――幼い頃に死別した父の、血の記憶。
彼は普通の人間でありながら、人狼だった母を守る為に領主に反抗する強い意志を持っていた。力及ばずに殺されたが、あの勇気は称賛されるべきものだ。
それに無念の上で散ったのならばオブリビオンに対する敵意は強いままだろう。
しかし、シキは不思議な感覚を抱いていた。
父の血の記憶からは、普通ならばあるはずの憎悪などは感じられなかった。息子であるシキの近くに記憶が巡っているからだろうか。温かく慈愛を思わせる表情で彼は語る。
『行って来い』
「……!」
その声を聞いたシキは目を見開いた。その声はとても優しく、自分を想って紡がれたものだと分かったからだ。静かに微笑んだ父は手を伸ばし、シキに更なる言葉を告げた。
『いいか、お前に流れる血を恐れるな』
差し出された手から力が流れ込んでくることを感じ、シキは深く頷く。
そして、シキは真の姿へ変わっていった。
月光に似た淡い光を纏ったシキの犬歯は牙のように尖っている。その瞳は夜の獣のように鋭く光っており、色彩は父と同じ金色に変貌していた。
普段の色ではないことこそが、父の血の記憶を受け継いだ証だ。
これまで以上の力が湧き出る感覚と共に、シキは祈りの双子への戦意を高めていく。
同じ頃、鮮血の最中にて。
ヴァシリッサ・フロレスク(
浄火の血胤(自称)・f09894)もまた、祈りの双子に対抗するための手段として、血の記憶を探していた。
赤い空間を漂うように進めば、苦痛や絶望の記憶が真横を通り過ぎていく。オブリビオンによって苦しめられた挙げ句に死を迎えた者。諍いに巻き込まれて血を流した者。
まだ幼い少年が抱いた憎悪。長く生きた者であっても、多くの死を見送ってきた悲しみが見えた。
そういった記憶を辿る先にヴァシリッサに力を貸してくれる存在があるはずだ。
そして、ヴァシリッサは血の記憶を視た。
それの記憶の主は――両親を領主に処刑された挙句、共に囚われた冷たい牢の中で息絶えた幼い弟。
「……エミル」
ヴァシリッサは思わず弟の名を呼んだ。
弟は父親似であったことから人狼の血が濃く顕れていた。愛らしい狼耳とふわふわな尾、そして――白銀の髪は
貴方に良く似ている。ヴァシリッサは彼のことを思い出しながら、記憶を辿る。
躰も小さく弱かった弟は、ヴァシリッサの腕の中で飢えて逝った。
その弟が今、其処にいる。
『おねえちゃん』
精一杯の力でヴァシリッサの眼前に立った少年は静かに笑った。
そうして、弟は思いを姉に伝えていく。
『いつも守ってもらってばっかりだったけど、今度は僕がおねえちゃんを助ける番だ!』
その言葉はとても嬉しいものだ。
しかし、ヴァシリッサにはひとつだけ認められない部分があった。
「違う」
『?』
「アタシは守ってやることも叶わなかった。守ってもらったのはアタシの方だ」
貴方のお陰だ、とヴァシリッサは語る。
意趣返しもせず、絶対にこんな処でくたばるものかと強く
あれた。
でも、だからこそ。
「欲張りな姉チャンを赦して。また、助けて頂戴」
ヴァシリッサは腕を伸ばし、エミルをそっと抱きしめた。そうすれば、『もちろんだよ』という弟の声が心の中に響いていく。自分の裡に想いが流れ込んでくると同時に力が溢れてきた。
――Meine Damen und Herren. ――さぁ、
猟の時間だ。
姉と弟。ふたつの声が重なり合うように鮮血の海に響き渡った。
次の瞬間、その言葉を聞き届けたシキがヴァシリッサの元へと駆けてくる。その姿はまさに月光を纏う狼の如く、凛々しさを宿していた。
「ヴァシリッサ!」
「――シキ!」
互いの名を呼びあった後、ヴァシリッサも彼に続いて真の姿へと変じていく。
普段ならば餓狼の血を暴走させることになるが、弟の加護で理性を失わずにいられる。人狼と吸血鬼の力を併せた姿になったヴァシリッサは身構え直した。
右眼は黄金の狼眼。左眼は真紅の瞳。頭には狼耳、銀の犬歯も尖さを増している。
そして、吐息には焔が交っていた。
シキはヴァシリッサと共にオブリビオンフォーミュラへ突進していく。狼獣人としての姿も、父の助けを得た今だけは恐れも嫌悪も無い。
この力で大切なものを守れるなら。今の姿こそ、誇りそのものだ。
ヴァシリッサをフォローするシキは道を塞ぐ血管獣を一瞬で倒していった。ヴァシリッサもシキのカバーを受けながら、ディヤーヴォルで血管獣を薙ぎ払う。
「退け」
「道を開けるといい」
「「……こんな、ことが
……!?」」
瞬く間に近付いてくる二人を見つめ、双子は驚きを見せた。そのまま祈りの双子へ吶喊していくヴァシリッサは渾身の一撃を揮うべく力を巡らせる。
双子は再び血管獣を嗾けてきたが、即座にシキが対応した。
ヴァシリッサの死角を狙う敵を見定め、横合いから一気に蹴り飛ばしたシキは、獣達を爪で斬り払う。人の姿に戻ったシキは温存していた弾丸の全てをオブリビオン・フォーミュラへ撃ち込みに掛かった。
「「……おかしい……」」
「何がだ?」
「「……無限の鮮血、全ての血を贄としたとき、わたしたちは最強のはず……」」
シキが問いかけると、双子は混乱した様子で呟く。
「全ての血? 最強だ? ほざけ」
するとヴァシリッサが静かな怒りをあらわにして、その前提は間違いだと否定した。シキも贄に出来ると思っていることこそが思い上がりだと示していく。
「この世界は多くの者が血を流して繋げてきた。身勝手に蹂躙する事は断じて許さない」
「アタシ
たちの血は此処に在る」
それを絶やさせやするものか。
ヴァシリッサの思いは焔となり、シキが撃ち放つ弾丸に重なっていき、そして――。
鮮血が散り、視界が紅く染まった。
しかし、それは終幕を飾るもの。祈りの双子の最期が訪れたことを示す色彩であるからだ。
「「……わたしたちの敗北
……。……六番目の猟兵とは、こんなにも
………」」
祈りの双子は断末魔としての言の葉を紡いだ。
その場に崩れ落ちていく双子。五卿六眼であり、オブリビオン・フォーミュラとしての彼女達はそれ以上の言葉を遺すことなく、血に沈んでいった。
即ち、血戰は猟兵の勝利。
こうして、闇の救済者戦争は終結に導かれてゆく。
流された血の記憶が宿していたのは絶望だけではない。それは猟兵達の力が証明した。
人々が未来を望む希望。
それこそが、きっと――この世界に満ちる闇を晴らすものだ。
大成功
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