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眠らない街、紐育にて

#サクラミラージュ #紐育

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#サクラミラージュ
#紐育


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●紐育へ行きたいか
「みんな、先日の戦争はホントにお疲れさま。慰安旅行じゃないけど、ちょっとばかり飛行船で行く異国の旅と洒落込んでみない?」
 今なお様々な事件の予知と説明で賑わうグリモアベースの一角で、ミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)がちょいちょいと手招きをして、猟兵たちを集めようとしていた。

 ある程度の人の輪ができたのを確認すると、ミネルバは予知の内容を語り出す。
「舞台は幻朧桜舞う大正の世界、サクラミラージュ。でも、今回お仕事を頼みたいのは普段活動してもらってる帝都が舞台じゃないの」
 六花のグリモアをかざして数枚のホロビジョンを展開すると、映し出されたのは見るも壮観な高層ビル群、活気溢れる街並み、豪華な劇場といった、どこか懐かしさを覚える帝都とはいささか異なる趣の景色であった。
「紐育(ニューヨーク)、帝都が統一した世界のひとつ。旅っていうのはこういうことなの、どうかしら?」
 グリモア猟兵の予知とあらば、ただの観光で終わるということはまずないだろう。
 そう考えれば、戦闘も視野に入れるべきではあるが。

「異国情緒あふれる新天地で、思いっきり影朧退治! 悪い話じゃないと思うけど」

 どう? と人差し指を立てて集った猟兵たちを見遣って笑うミネルバ。
 具体的に何をすれば良いかと誰かが問えば、さらに一枚ビジョンが追加された。
 豪奢な衣装を身にまとった、女性の映像だった。
「この人はブロードウェイ一の大劇場『ムーンキャット・シアター』の看板役者……ミュージカル女優の『ソマリ』っていうんだけど、彼女が今回事件に巻き込まれる予知が見えたの」
 来た、というべきか。やはり影朧が絡んでいたかと、場の空気が引き締まる。
「話が前後して悪いけど、帝都だけじゃない海外各国で『影朧を使役する結社』の存在が確認されてるのよ。今回ソマリを狙ってるのも、そういう輩のひとつでね」
 そもそも帝都は世界を統一しているため、必要とあらば影朧救済機関たる『帝都桜學府』の精鋭たちが世界中を巡って影朧事件を解決しているのだが――。
「今回の案件は、結構手強いからって。わたしたち『超弩級戦力』に任務の依頼が来たのよ。もちろん、楽しみがないとやってらんないでしょうから――そこは、ね?」
 そして、最初の説明へとつながっていくのか。
 それなら確かに悪い話ではないかも、という顔が増えつつある中、説明は続く。
「影朧を使役する結社について、申し訳ないけどわたしにはほとんど見えなかったの。ただ、ソマリが情報を持ってるってことだけは確かにわかったから、何とかしてそれを引き出して頂戴」
 ビジョンに映るソマリと呼ばれた女性は、自信にあふれた笑顔をたたえていた。
「ただ、根気強く相手した方がいいかも。彼女、随分と……こう、傍若無人っていうか」
 帝都でいえばトップスタアの呼び名が相応しい、国民的スタァ。
 確かに、独特な個性の持ち主である可能性は否めない。
「ソマリは何らかの理由があって、劇場からは離れた場所で気まぐれにファンサービスをしたり、ウィンドウショッピングをしたり、気ままに過ごしてるみたい。そこを狙って接触して、上手く身の上話というか……隠してる事情を話してもらって欲しいのよ」
 そうすれば、あとは結社の拠点に乗り込んでぶっちめるだけだから。
 肝心の戦闘については割とあっさり説明を済ませたミネルバにも、正直「よく視えなかった」という事情があるのだろう。
 だから猟兵たちは何も言わず、ただ頷く。

「悪の結社と紐育で大立ち回りよ、楽しまなきゃ損だわ。わたしにも、いいお土産話を聞かせてね」
 六花のグリモアが輝き、粉雪が舞う。
 開かれる扉の向こうには、猟兵たちを紐育の地へと誘う飛行船の姿があった。


かやぬま
 Q:どうして紐育までダイレクトに転移させなかったんですか?
 A:旅の道中も含めてお楽しみ頂こうと思ったからです!
 こんにちは、かやぬまです。サクラミラージュの物語をお届けします。

●簡単な説明
 第1章:日常。ブロードウェイが誇るミュージカル俳優で、国民的スタァの『ソマリ』という女性に接触して、情報収集をして頂きます。
 何故か劇場ではなく『五番街』またの名を『アヴェニュー』という大通りで暇つぶしのようなことをしています。
 大スタァの気まぐれにも思えますが、何らかの事情があると見て良いでしょう。
 いきなり無茶なお願いをしてきたり、無茶振りをしてきたり、振り回されるかも知れませんが、頑張って対応しつつ皆様なりの探りを入れてみましょう。
 ちなみにソマリの性格を一言で言うと『人の話を聞かない』です。頑張って下さい!

 第2章:集団戦。ソマリからの情報収集が成功すれば、いよいよ結社の拠点にカチコミをキメられます。
 どんな場所なのかはソマリから直接聞いて頂くとして、数名の結社員が『影朧を召喚する』という驚くべき行動に出ます。
 影朧は全て退治して、残された結社員は逮捕でお願いします。

 第3章:ボス戦。拠点のボスにして事件の首謀者が現れ、ご自慢の影朧で挑んできます。
 ここで現れる影朧は強敵です、詳細は冒頭で説明しますが、油断なきようお願いします。

●お楽しみ要素
 紐育(ニューヨーク)と聞いてイメージするワクワク感をお持ちの方は、全章通して隙あらばプレイングに盛り込んで頂ければ、力の限り反映したく思います。
 あまり詳しくないから……という方も怯まず遊びに来て下さると嬉しいです。
 メインは『異国情緒を味わいながら影朧退治』です、気負わずどうぞ!

●プレイング受付期間など
 タグ、MSページ、ツイッターで都度ご案内致しますので、ご案内を差し上げるまではしばしお待ち下さいますと幸いです。
 また、プレイングの前に恐縮ですがMSページにもお目通し下さいますと嬉しいです。

 それでは、ショータイムと参りましょう!
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第1章 日常 『我儘なスタア』

POW   :    これを向こうに持っていって下さる?(山のように届いた差し入れを運ぶ)

SPD   :    ああ、あれとあれとあれが欲しい……。(大量に頼まれたものを買ってくる)

WIZ   :    ――何か面白い話はありますか?(滑らない話)

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●国民的スタァの不思議な休日
 紐育という都市を作り上げたのは、人々の絶えることなきフロンティア・スピリット。
 そびえ立つ摩天楼は、まるで高みを目指し続ける人々の心意気そのもののよう。
 誰もが夢を見て、努力の果てに、またはさも当然のように、それを掴み取る世界。
 ――いや、掴み取る機会を与えられた世界というべきか。
 そんな紐育にも、サクラミラージュの幻朧桜は等しく舞い散るのだった。

「わぁ、ソマリさんだ! わたしずっとソマリさんのファンで……」
「ねぇアナタ、ちょっとこれを持っていて下さらない?」
「えっ」
 ずしり。憧れの国民的スタァを間近で見ることができた感激を伝えるファンに、おもむろにソマリが持たせたのは――別のファンから受け取った気持ち的にも物理的にもクッソ重い贈り物。
 手が空いたところに別のファンが握手を求めれば、流れるようにその手を取りつつ。
「いつも思うのだけど、ここはブランド品ばかりで、喉が渇いた時に困るのよね」
「は……はい! お飲み物ですね!? 任せて下さい!!」
 それとなく要求を伝え、察しの良いファンは即座にご所望のものを買いに走る。
「はぁ……ではあの人の帰りを待つ間、アナタには何か面白い話をして頂こうかしら」
「えっっ」
 大スタァ・ソマリの話をむしろ聞きたい立場のファンは、唐突に話を振られて絶句する。

 ――このように、ちょっとワガママというか、全く人の話を聞かないというか、究極マイペースなソマリを相手に、超弩級戦力たちはこれから情報を聞き出さねばならない。
 まずはソマリの超大物スタァならではの要求を素直に聞きつつ、それと引き換えにするようにこちらの話を聞いてもらう形が無難だろうか。
 そも、稽古などで劇場に戻る必要はないのか? 五番街という明らかにファンに囲まれるであろう大通りで特に目的もなく佇んでいる理由は何か?
 尋ねることは色々とあるだろう、根気良く接していくことが鍵となるだろう。
 ――健闘を祈る、超弩級戦力たちよ!
氏家・禄郎
差し入れを持ちながら、呑気に話しかける
「いやあ、ソマリさん。やはりブロードウェイのスターは人気者というわけですね。こうやってファンサービスを忘れずに――そして、殺されても衆人の目の内という事で大事なものを奪われない可能性を考える」

さあ、本題といこう

「ああ、私の名は氏家・禄郎。とりあえずは超弩級戦力ですがここでは『ファン』としておきましょう」

とりあえず
貴女は今、安全ではないですね
なので衆人の目のあるところにいる
ああ、そのあたりは詳しく話さないで
女優らしく演技をしましょう

ところでソマリさん、これからの予定は?
車用意します?
多分、足のある人間は居ますよ?

安全な場所への移動を示唆する
それが今回の目的さ


グウェンドリン・グレンジャー

(ニューススタンドにふらりと現れる、身なりのよい若い娘)
おじさーん、ハーパーズバザー……か、ヴォーグ。今月号、ある?
……え、変な、ぶつ切り……の、クイーンズイングリッシュ、鼻につく?
そうは、言われても……
(雑誌を受け取り)
うん、ありがと

(第六感でソマリの居る方向をざっくり感知。マイペースに歩き出し、見つけて声をかける)
……見つけた。ソマリ。私、あれ。超弩級戦力、って、言われてる、なんか
これ、あげる。今月、最新刊……の、ファッション誌
今後、とも、よろしく

(無茶ぶりお願いを聞いて)
んー、まかせろー
正確性を、犠牲に、して、いい、なら、何でもできる、よ
力加減、出来なくて、被害出たら、ごめんー



●目明しから始まる物語
 所狭しと並ぶ雑誌やお菓子はまるでちょっとした砦のようにも思える。
 紐育のニューススタンドはカラフルで、奥でどっしり構える店主は恐らく移民だ。
 そこへふらりと現れたのは、青い蝶のモチーフがひときわ目を惹く身なりの良い若い娘――グウェンドリン・グレンジャー(Blue Heaven・f00712)だった。
「おじさーん、ハーパーズバザー……か、ヴォーグ。今月号、ある?」
「……」
 グウェンドリンはあくまでも普通に客として声を掛けただけなのに、店主の男は無愛想に顎である辺りを示すばかり。
「……?」
 何か悪いことをしてしまっただろうか。
 何か気に障っただろうか――あ。

「……え」

 心当たりがあるとすれば、グウェンドリン自身自覚するところの、変なぶつ切りのクイーンズイングリッシュ。
「そうは、言われても……」
 灰の髪を揺らしてしゅんとする娘に、悪気だって非だってまったくない。
 店主もそれを理解はしているから、おもむろに腰を上げると一冊の雑誌を手に取った。
「ヴォーグは最後の一冊だ。運が良かったな、お嬢ちゃん」
 ぶっきらぼうな口調ながら、入手難易度が高い方を選んでくれる辺りがニクい。
 グウェンドリンも口元をわずかにほころばせながら、雑誌を受け取る代わりにお代を店主に手渡す。
「うん、ありがと」

 目的の『差し入れ』を入手したグウェンドリンが踵を返し向かった先には、ごった返す人混みと、それを背にハンチング帽を片手で押さえ肩を竦める氏家・禄郎(探偵屋・f22632)の姿があった。
「やあ、首尾よく行ったようだね」
「……ん」
 果たして『首尾よく』とは言えるのだろうか、けれど目的は果たしたのだから言えるのだろうか。
 なんてことを思いながら、手に入れた雑誌をきゅっと胸に抱きつつ人混みを見る。
「……どうだい?」
 探偵屋が食えない顔で同じく人混みを眺めながら問う。一見、割って入る余地さえないように思える人の壁がそこにある。
「多分……あの辺。ざっくり、だけど」
 すいと青い娘が指さしたのは、意外なことにほんの少しだけ群衆の集まりが薄い場所だった。だが、その通りだとすればかき分ける人波が少なくて済む。
 マイペースに歩き出したグウェンドリンは、そのまま難なく人混みをものともせずすいすいと進んでいく。変にかき分けたり流れに逆らったりしないのがコツなのだろうか。
 グウェンドリンに続くように、禄郎もまた集まった人々の合間を縫って進む。
(「これだけの衆人が集まることは、当然想像出来ただろうに」)

 ――やはり、裏がある。

 確信を持って突き進む禄郎の眼前が開け、大通りに佇むパンツスーツ姿の女性が独り。
 先に人混みを抜けたグウェンドリンと共に向き合う女性こそ――大スタァ『ソマリ』!
 その周囲には山と積まれた贈り物の箱や袋。どうやって運ぶんだコレ状態である。
「……見つけた、ソマリ」
 先に踏み出したのはグウェンドリン。臆せず歩み寄りソマリの前に立つと、すっと先程ニューススタンドで手に入れたファッション雑誌を差し出した。
「これ、あげる。今月、最新刊の……ファッション誌」
「あら、ヴォーグの。今月の、マネージャーが買いそびれたっていうから諦めてたんだけど……」
 すらりとしていながらメリハリのあるボディが見て取れるパンツスーツが良く似合うソマリは、雑誌を受け取りながら目を細めてみせる。
 手ずから選んだ差し入れに確かな手応えを感じて、グウェンドリンはふんわり笑う。
「今後、とも、よろしく」
「ワタシの方こそ、これからも応援よろしくね」
 それは何のことはない、ファンとスタァのやり取りに過ぎないように思えた。
 だが、そうではないということを教える時を告げるものがある。

 禄郎は帽子を片手で脱ぎながら軽く一礼し、呑気な口調で話し掛ける。
「いやあ、ソマリさん。やはりブロードウェイのスタァは人気者というわけですね」
 周囲のファンたちにも聞こえるような声量でそう言って、更に間合いへと踏み込む。
「こうやって『ファンサービス』を忘れずに――」
 禄郎の意図を察したグウェンドリンが一歩退くのと入れ違うように、禄郎がソマリにだけ聞こえるように囁いた。

「そして、『殺されても衆人の目の内という事で、大事なものを奪われない可能性を考える」

 一度は嬉しさで細められたスタァの目が、今度は見開かれる番だった。
 こちらも手応えを感じたと、ハンチング帽を被り直す禄郎。
(「さあ、本題といこう」)
 探偵屋がスタァの顔色を窺えば、先程グウェンドリンから受け取った雑誌を辛うじて取り落とさぬようにと、両手を震わせて必死に抱えていた。
「……アナタ、たち」
「ああ、私の名は氏家・禄郎。とりあえずは超弩級戦力ですが――ここでは『ファン』としておきましょう」
「私も、あれ。超弩級戦力、って、言われてる、なんか」
 禄郎の背越しにひょこりとグウェンドリンも顔を出し、己の素性を明かす。
「……そう」
 きゅっと引き結ばれた唇から、辛うじて声が漏れる。
 緊張が高まったのか、緩まったのか。探りを入れるのも調査の一環だ。
「とりあえず、貴女は今、安全ではないですね」
「……」
「なので、衆人の目のあるところにいる」
「……どう、して」
 堰を切ったように言葉があふれそうになる気配を察し、禄郎はすかさず手をかざしてそれを制した。
「ああ、そのあたりは詳しく話さないで」
 ロイド眼鏡が日の光を反射するものだから、男の表情は不敵に笑んだ口元でしか窺い知れないが、佇む可憐な娘共々『超弩級戦力』であるからには、間違いなく己が待っていた『窮地を打破してくれる存在』であると確信が持てた。
「ワタシは、女優。だから」
「そう、女優らしく、今は演技をしましょう」

 突然現れた何者かに、人の話を聞かない性格であるはずのソマリが突然話を始めては、怪しむものも出るだろう。
 それに、これからソマリをどうするかという問題もある。
「ところでソマリさん、これからの予定は?」
「これから……」
 主に好奇の視線を送ってくる群衆を一瞥して、禄郎が肩を竦めた。
「車、用意します? 多分、足のある人間は居ますよ?」
「……」
 今回、作戦に参加している超弩級戦力は当然自分たち二人だけではない。
 誰かが上手いこと手配をしてくれる可能性だってある、そう信じて。

 ――安全な場所への移動、それがソマリが取るべき最終的な行動。
 ――示唆はした、あとは後続の猟兵たちが成し遂げてくれるだろう。

「……ねえ」
 ソマリが、口を開く。視線は、山積みの贈り物に。
「これ、積み込んでいけるの、手配できる?」
「……」
 それまで饒舌だった禄郎が、今度は絶句する番だった。
 話には聞いていたけれど、命が脅かされている状況でも無理を言うとは。
 だが、それを聞いたグウェンドリンが表情を変えずに指を鳴らしたのだ。
「んー、まかせろー」
「任せられていいのかい!?」
 思わずグウェンドリンを見て声を上げてしまう禄郎に、のんびりした口調で返す娘。
「正確性を、犠牲に、して、いい、なら」
「待って」
 今度はソマリが聞き捨てならない台詞に反応した。
「何でもできる、よ」
「待って!?」
 これではどちらが人の話を聞かない子なのか分からない。どうしてこうなった。
 青い蝶の耳飾りを揺らして、グウェンドリンはいつでも来いという顔で微笑んだ。

「力加減、出来なくて、被害出たら、ごめんー」

(「どうします、ソマリさん」)
(「気持ちだけ受け取る、っていうのはダメかしら」)
 ひそひそとやり取りを交わす禄郎とソマリの姿がそこにはあった。
 損害が出たとしても、多分桜學府が何とかしてくれると思いますよ!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

荒谷・ひかる
……な、なんといいますか。
姉さんとかとはまた違った方向性で自由な方ですね……

えっ、面白いお話です!?
そ、それでは……影朧の軍人さんとカフェーの看板娘さんの、哀しくも素敵な、恋のお話など如何でしょう?
(登場人物の名を変え、実話である事を伏せつつ、かつて帝都であったとある事件を物語風に脚色して話してみる)
……如何でしたでしょうか?

そういえば、ソマリさんはこのような所で何をされてらっしゃるんですか?
何かお探しだったり、お困りでしたらお手伝いしますよ。
わたし、こう見えても帝都の「超弩級戦力」ですのでっ。
(【満面笑顔の向日葵少女】発動、胸キュンな笑顔で好感触を狙う)


仇死原・アンナ


凄いな…
邪神潜む世界や派手な未来世界の建物とはまた違う趣がある…
…だがここにも幻朧桜の癒しを拒み怨念を抱く者がいる…
それを探す為にも…まずは…え、荷物運び?

スタァの我儘に応える為にも
失礼ないように[礼儀作法]を気を付けて
【巨人力】の[怪力]を用いてファンの想いの籠る重い荷物を運ぼう

スタァってみんなこういう性格なのかな…
それにしても綺麗だなぁ…

一方的に喋るスタァに対して
とりあえず相槌打ったり返事をして[情報収集]しようかな…

あとは…紐育で人混み紛れて迷子にならないように
スタァをしっかり[追跡]しようね…

スタァっていつもこんな感じなのかな…
それにしても美人だなぁ…



●奪われた舞台
 ブロードウェイの大スタァ・ソマリは、超弩級戦力との接触により自らが置かれている状況に光明を見出す。
 理由あって拠点である『ムーンキャット・シアター』からはやや離れたここ『五番街』で、ファンサービスというていで時間を潰していたが、その理由を理解してもらえた。
 これからは、不自然にならない範囲で超弩級戦力たちと接触し、自らが抱えた『事情』を打ち明けて、根本的な解決を図ってもらう番である。

『あなたは、女優だから』

 投げ掛けられた言葉を噛みしめて、ソマリはセミロングの緩いウェーブヘアを揺らす。
 人の話など聞く気もない、己の性格は自覚していた。
 それでいいと思っていた、それを変えるつもりもない。
 ワタシは、女優。ならば、演じきる。不安など見せないし、取り乱したりなどしない。
 それでも、救ってみせるというのなら。その『脚本』を見てみたい。演じてみたい。
 これから続いてやって来るという超弩級戦力たちに、ソマリはそう期待を寄せた。

「凄いな……」
 そびえ立つ摩天楼に、高級店ばかりが並ぶ街並み、様々な人種の人々が行き交うさまは紐育という街のほんの一ページに過ぎないとしても。
 それでも、仇死原・アンナ(炎獄の執行人あるいは焔の魔女・f09978)にとっては十分瞠目に値する光景であったのだ。
(「邪神潜む世界や派手な未来世界の建物とはまた違う趣がある……」)
 猟兵たちにとって『異国情緒』と言われても、そも界渡りの力を持つものどもなのだからあまりピンと来ないかも知れないという危惧は、アンナのこの反応により払拭された。
 ぼんやりとそんなことを考えながら、アンナは知らず人波をするりと抜けてソマリが佇む場所へと足を踏み入れていた。
「……だが、ここにも幻朧桜の癒しを拒み怨念を抱く者がいる……」
「あらアナタ、まるでご同業みたいな格好。ステキね」
「どうも。……それを探す為にも……まずは……」
「そうね、コレ全部車に乗せて移動させることになったから。手伝って頂戴」
「え???」
 そこで初めてアンナは顔を上げ、間近にソマリがいることに気付く。
 独りごちているうちにたどり着いてしまったようだ。にこやかに告げられた強制労働の内容は、ソマリの傍らに山と積まれた贈り物たちが物語っていた。

「に、荷物運び?」

 大スタァはニコニコと笑うばかり。
「肝心の車は今手配中だから、スムーズに積み込めるように準備しておきたいでしょ?」
 心がけは立派だが、それを実行するのが他人という大前提なのが色々とすごい。
 後から人波をかき分けてやっとの思いで追いついた荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)は、そんな二人の様子を目撃して思わず呟いてしまった。
「……な、なんといいますか」
 これから自分もこのスタァの相手をするのだと思うと、苦笑いをするしかない。
「姉さんとは、また違った方向性で自由な方ですね……」
 せやな……としか言いようがない、妹からの率直な感想だった。

 一方、ほぼ有無を言わせぬ勢いで荷運びを言いつけられてしまったアンナは。
(「……失礼があってはいけない」)
 不満を漏らすどころか、スタァの我儘に可能な限り応えてみせんと、深々とソマリに向かい一礼をしてから、丁重に大小さまざまな大きさの贈り物のひとつに手を添えた。
「不肖、仇死原・アンナ、これより真心込めて――」
 一気に持ち上がるのは何段にも積まれた贈り物。そう、アンナが持ち上げようと手を添えた箱は『山の中間あたりにあった箱』だったのだ!
「ファンの、あなたへの想いの籠る贈り物を運ばせていただきます」
 抑揚が少ないながらも、礼節を尽くしたアンナの言動は確かにソマリへと伝わったか。
 常人ではとても一度には持ち上げられない量の贈り物の山を悠々と移動させるアンナの姿を、スタァは満足げに見守っていた。

「わ、すごい……姉さんみたい」
「へえ、あんなすごい人が他にもいるの?」
 アンナの勇姿を見守りながら、これまた思わず口走ったひかるの言葉を聞き逃さなかったソマリが興味深げに食いついた。食いついてしまった。
(「ぎくっ」)
「アナタ面白そうな話知ってそうね、荷物整理待ってる間にちょっと聞かせて頂戴な」
(「来た……!」)
 小さな肩をびくんと跳ねさせ、けれども覚悟は決めてきたひかるだ。
 話せと言うなら話して見せましょう、取っておきの素敵なトークを!
「そ、それでは……」
 こほんとひとつ咳払い、ひかるは両手を鷹揚に広げて芝居がかった口調で語る。

 ――それは、影朧の身でありながら、帝都の軍人でありながら、カフェーの看板娘に恋をした男の話。
 ――思いあまって娘を攫うも、すったもんだの末にこじれた想いを正しいカタチに導かれ、いつかの再会を誓い合いしばしの別れを決めた、哀しくも素敵な恋物語。

 ひかるが実際目の当たりにした事件が元にはなっているが、そうとは悟られぬように登場人物の名前を変えたり、実話とは思えぬような脚色を交えたりして、しかし情感たっぷりにソマリへと聞かせてみせた。
「……如何でしたでしょうか?」
「……」
 大スタァは黙して動かない。頬に手を当てて、まさに不動。
「あ、あの」
 まさか……外してしまったのだろうか? ひかるが不安に襲われた時だった。
「それ、舞台で演りたいわ」
 がっつり食いついてきた!
「にゅ、紐育でも通用しますか?」
 異国の地で、かの恋物語が人々の心を揺さぶることができるのか。ひかるが問えば、ソマリは突然ビシッとポーズを決めて返した。
「もちろんよ! 恋愛要素に冒険活劇、そういうのはウチでも大歓迎だわ」
 さすがはミュージカルスタァというべきか、挙動のひとつひとつがさまになっている。
(「スタァって、みんなこういう性格なのかな……」)
 自慢の怪力を超常で極限まで高めつつ、ひょいひょい贈り物を丁寧に、しかし大胆に整理するアンナは、二人のやり取りを小耳に挟みつつ思う。
(「それにしても、綺麗だなぁ……」)
 率直な感想を胸に抱きながら、アンナのお仕事は続く。

 だが、その最中でも。
 ひかるは、問わねばならなかった。

「そういえば、ソマリさんはこのような所で何をされてらっしゃるんですか?」
 無垢な瞳で、真っ直ぐにソマリを見て。
「何かお探しだったり、お困りでしたらお手伝いしますよ」
 その言葉に姿勢を正したソマリは、少し躊躇した様子を見せる。
 まるで、何から話したものかという様子にも思えた。
「わたし、こう見えても帝都の『超弩級戦力』ですのでっ」
 にっぱーーーーーーーー。純粋無垢な満面の笑顔がソマリを直撃!
 こんなん降伏するしかないやん! 抵抗とか戦意とか完全喪失ですよ!
「……ちょっとね、シアターで舞台の練習とか、色々しないといけないのに、そうも行かなくなってしまって」
 困ってるのよ、そう言いながらスタァは笑った。

 ――今のシアターに、信用できる人間はいない。

 ソマリの話に相槌を打ちながら重要な事柄は聞き逃すまいと耳をそばだてていたアンナは、確かにそんな言葉を聞いた。
 となると、今回打倒すべき敵はソマリが所属する『ムーンキャット・シアター』を拠点にしているということなのだろうか。
 そんなことを考えているうちに、大量の贈り物のだいたいの仕分けが終わった。
「アナタ、本当に仕分けてくれるなんてすごいわね? 助かるわ」
 それを見たソマリがしれっと賛辞なのか何なのか判別がつかない言葉をかける。
 アンナは、もしもソマリが移動をするようならしっかり追いかけねばと心の準備をしていたが、どうやらソマリはこのままもう少し猟兵たちに会ってみたいと言う。

(「スタァって、いつもこんな感じなのかな……」)
 それにしても美人だなぁ、なんて。
 ぼんやり思いながら、ソマリを見るアンナだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
◎/POW
飛行船の旅は悪くなかった、現地もなかなか面白い
あの広い土地全てが公園とは…とにかく、何かとスケールが大きい
街を見て回りたいが、まずは仕事が優先だな

『国民的スタァ』のファンとして、ソマリに接触を試みる
しかしスタァが一人で出歩くのは不用心に思える
影朧以外に害意を持つ人間がいないとも限らない
劇場へ戻らなくてもいいのかと聞いてみる

言われて素直に従うとも思えない、勝手に周囲を警戒しておく
荷物持ちならいくらでも、面白い話を求められるよりマシだ…できないと言っているだろう

それより俺はあんたの方に興味がある
例えばここに来た理由、劇場へ戻らない理由
愚痴のつもりで話してみるのも暇潰しになるかもしれないぞ


桜雨・カイ
紐育…帝都とはまた違う華やかな感じですね
どんな物があるんでしょうか少し楽しみです
依頼中なので、お店には立ち寄れませんが
行く先々で辺りを見渡して楽しみます

無茶ぶりは可能な限り対応しようと思いますが…大丈夫かな
それとは別に、自由気ままに楽しく行動するのはいいのですが、うっかり怪我などしないように気を配っておきます。
依頼が無事にすんだらソマリさんの舞台、見てみたいですね

普段からここ(五番街)にはよく来るんですか?
どなたか知り合いでも?
そんな感じでファンに紛れて聞いてみます。



●それは、荒唐無稽な疑心暗鬼なのか
 幻朧桜が同じように舞い散っているとはいえ、その景色は帝都とは何もかもが違う。
 そんな紐育の地に降り立ち、桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)は心躍らせる。
(「紐育……帝都とはまた違う、華やかな感じですね」)
 一体どんなものがあるのだろうかと、周囲を見回しては素直に瞳を輝かせれば、視界にもう一人の猟兵――シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)の姿が目に入った。
「ああ、その……大丈夫です、決して浮かれてなど」
 一見、お堅い感じのシキに対して思わず言い訳などをしてしまうカイ。
 だが、それに対してはやや意外な返事が返ってきた。
「飛行船の旅は悪くなかったな」
「……へ?」
 確かに、少々長旅にはなったが、それはそれで初体験尽くしの楽しいひと時が過ごせた。
 シキはほんの少しだけ穏やかな笑みを浮かべて、カイと同じように街並みを見遣る。
「現地もなかなか面白い、あの広い土地全てが公園とは……」
 ここ『五番街』と隣接する、広大な都市公園『セントラル・パーク』。シキはここに来る途中に、それを横目にしてきたのだ。
「とにかく、何かとスケールが大きい」
 驚いた、と言わんばかりに軽く肩を竦めて言うシキに、カイもつられて素直に笑う。
「……依頼中なので、お店や公園にはまだ立ち寄れませんが」
「ああ、この街を見て回りたいが――まずは仕事が優先だな」
 ソマリがいるであろう人だかりへと向かうまでの道のりを、ちょっと見渡して楽しむくらいは許されよう。
 洗練された街並みをあとでゆるりと楽しめることを心の奥で願いながら、二人はいよいよ大スタァ・ソマリのもとへと近づいていった。

(「無茶ぶりには可能な限り対応しようと思いますが……大丈夫かな」)
 事前情報で得ていたソマリの性格からして、最初は大変な思いをするに違いないと身構えるカイ。
 人波に逆らわず、自分たちはあくまで一介のファンだというように、徐々に前へと進む人の流れに乗ったのが幸いしたか、存外あっという間にソマリのいる開けば場所にたどり着くことができた。
 カイとシキ、二人を視界に捉えたソマリはほんのわずかに眉を動かし、じっと視線を送ってきた。
(「ここは『国民的スタァ』のファンとして、自然な接触を試みよう」)
 一方で気持ちを引き締めたシキがその視線に応じるように向かい直ると、カイも早速口を開こうとし――それは、ものの見事に遮られた。

「ワタシのファンにしておくのはもったいない、いい面構えをしてるわね。うちの劇場にいらっしゃいな、今ならワタシの口利きを添えてあげるわよ」
「「……へ?」」

 ――唐突に、ブロードウェイの舞台にスカウトされた。
 思わず二人同時に変な声を上げてしまうものの、何やら機嫌は悪くなさそうだと見るや、カイがすかさず反撃……もとい、こちらから話しかけた。
「こ、光栄です……でも、私たちはあくまでもただの『ファン』ですから」
 普段からここ五番街に? そう言い添えてみると、大スタァは口元に手をやって笑う。
「それはどうかしら、一応プライベートだからナイショ。でも、こうやってファンの皆さんの声を直接聞けるのは楽しいし、参考にもなるわ」
「すみません、失礼を……どなたか、お知り合いでもいらっしゃるのかと思って」
 上手くはぐらかされてしまったなと思いながら、それでも気を悪くしたのではない様子に安堵しつつ、カイは隣のシキに視線だけを送る。
 それに頷いて応じたシキは思う、それは率直な疑問でもあった。
(「しかし、スタァがマネージャーも伴わず一人で出歩くのは不用心に思える」)
 影朧は当然のこと、それ以外にも害意を持つ人間がいないとも限らない。
 地位や名誉、財産など、持てるものには常にそれを妬む存在がつきまとうのだから。

「劇場へ、戻らなくてもいいのか」

 真っ直ぐな問いは、ソマリの笑顔をほんの少しだけ曇らせる。

「私たちはとある仕事の途中でもあるのですが……それが無事に終わったら、ソマリさんの舞台、是非見てみたいです」

 己が『超弩級戦力』であるという示唆に、ソマリが何かを確信したかのように唇を引き結ぶ。

「……劇場で、また演じられるようになったら、是非招待させて頂戴」
 それはまるで『今は演じられない』と言わんばかりの言い回し。
「今はまだ、アナタたちみたいな興味深いヒトたちと、もう少し話がしていたいの」
 心細さからなのか、本当に好奇心が勝っているからなのか、それは読み取れない。
 さすがは一流の女優というべきか、そのあたりは全く『読ませない』。
 やれやれと肩を竦めたシキと苦笑いをしたカイは、揃って周囲を警戒する。
 元より言われて素直に従う性分とも思えなかった、というのがシキの読みであり。
 自由気ままに楽しく行動すること自体は構わないけれど、うっかり怪我などされてはと心配りをしていたのが、カイであった。

 結果的にしばし周囲の警戒を行うこととなった二人だが、その間にもソマリは二人に興味を抱いてあれこれ話しかけてくる。
「見て、これ全部ファンの子たちからもらったのよ。すごい量だけど、当然全部もらっていくわ? だって、みんなの気持ちが籠ってる大切な贈り物だもの」
 歌うように、嬉しそうに、ソマリは先程別の猟兵がきっちり整理整頓していったプレゼントの山を見せる。
「……荷物持ちなら、いくらでも」
 これは何かの前振りだなと、シキは念のため自分が出来ることを伝えておく。
 暗に『できないこと』も伝えたつもりだったのだが――。
「ねえアナタ、時間潰しに少し面白い話を」
「できないと言っているだろう」
 さすがは人の話を全く聞かないし察しもしない大女優、シキの苦手なことをさらりと振っては無碍に返される。それでも意に介さないのが強い。
 シキはいよいよ真顔になって、しかしソマリの方は敢えて見ずに呟いた。
「それより俺は、あんたの方に興味がある」
「なぁに? インタビューかしら」
 くるりとシキに背を向けて、視線を足元に向けたソマリが茶化す。
「例えば――ここに来た理由、劇場へ戻らない理由」
「……」
 この二人のイケメンもまた超弩級戦力であるということは、大体察していた。
 ならば全てを打ち明けてしまえば、自分は救われ、事件は解決するだろうと。
 分かってはいたけれど、躊躇われたのは――『信じてもらえるかどうか』で。

「愚痴のつもりで話してみるのも、暇潰しになるかもしれないぞ」

 その一言で、すうっと胸のもやつきが晴れたような気がした。
 愚痴のつもりで――ならば、良いかも知れないと。

「……ふふ、ホントに愚痴よ」
「何でも聞かせて下さい、お力になれるならいくらでも」
 カイも、ソマリにプレッシャーをかけぬようにそれとない態度で、しかし真摯に告げる。
「あんなに居心地の良かった劇場が、ある日を境に……『気持ちが悪い場所』になったの」
 俯くスタァなんてみっともないから、天を仰いでそう漏らす。
「誰も何も悪くなさそうだし、見た目は何一つ変わらないのに、役者もスタッフも支配人も、みんなみんな……『何かが変わってしまった』」

 そういうの、分かるのよ。ワタシ、女優だから。
 あそこに居たら、ワタシまで呑まれてしまいそうで。

「……だから、こうしてここで少しでも劇場から距離を置いていたのか」
「あの……ならば、劇場の人々を何とかすれば?」
 ソマリは二人の言葉にくるりと向き直って、どこか寂しげな笑顔を見せた。

「証拠もなしに、アナタたち怪しいから――なんて、言えなくって」
 だから、待っていた。何とかできる存在が現れるのを。
 我ながら無策が過ぎると思っていたけれど――事実は小説より奇なりというもの。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

五百崎・零

死にたくないからさっさと影朧退治したいんだけど、そのためにはソマリさんから情報入手しないといけないのか
…自分に相手が務まるかちょっと不安だな

ソマリさんを見つけたら声をかける。ドストレートに
「単刀直入に聞くけど、ヤバい奴らに命狙われたりしてないかな?」
初対面の野郎に答えてくれるわけないよな…。
多少の無茶振りも覚悟の上。パシリでもなんでもやります
「ソマリさんの犬になってもいいんで、最後にはちゃんと情報くださいね」

正直な話、ソマリさんが事件に巻き込まれそうとかそういうの、自分はあんんまり興味ないんだよなぁ
ただ、死にたくない。死にたくないから、戦いたい。早く



●ヘルプミー、と言う理由
 死にたくない、という思いはもはや本能に違いない。
 ――たとえ、一度死んだ身であろうと、今ここに在るならばその思いに偽りはない。
 だから五百崎・零(デッドマンの死霊術士・f28909)は『死にたくないからさっさと影朧退治したい』と願うのだ。
(「そのためには、ソマリさんから情報入手しないといけないのか」)
 超弩級戦力たちの接触によって、ソマリの態度は軟化しつつあるが、それでも持ち前の性格というものまでが変わるという訳ではなく。
 故に、零はファンの厚い壁と、その向こうに居るソマリの姿を考えて嘆息した。
「……自分に相手が務まるか、ちょっと不安だな」
 けれど。

 ――死にたくない。

 だから、征くのだ。人の波をかき分けて、ターゲットの元へと。

 大スタァはお行儀良く順番待ちをしていたファンたちとのふれ合いを再開していた。
 プレゼントも先程から若干増えて、もう軽トラックでも用意しないと運べなさそうだ。
 かけられる応援の言葉に笑顔で応じながらも、返す言葉は自分の言いたいことばかり。
 けれどそんなソマリだからこそ、これだけの人々に愛されるのかも知れない。

 誰もが、こうはなれない。ソマリならではの、特別な『ギフト』に違いない。
 ならば、それを妬んだり、疎ましく思ったりするものだって当然いるだろう。
 ようやくソマリのもとにたどり着いた零は、目が合うと同時に言い放ったのだ。

「単刀直入に聞くけど、ヤバい奴らに命狙われたりしてないかな?」

 零の金眼が真っ直ぐに大スタァを射抜く。
 それを興味深げに見返してくるアイメイクばっちりの瞳は、同じ金色をしていた。
「ふふ、それは十分に有り得るわね? 何せワタシ、国民的スタァですもの」
 くすくすと笑ってのらりくらりと躱す言葉に、零はやっぱりなという顔をする。
(「初対面の野郎に、答えてくれるわけないよな……」)
 空振りか、と肩を落としそうになるところに、今度はソマリが声をかけた。
「それにしても、今日は本当にいい天気。おしゃべりもしたから、喉が渇いちゃって」
 バッ、と零がその言葉に反応して顔を上げた。まだ――脈アリか!?
(「多少の無茶振りも覚悟の上、パシリでも何でもやります」)
 想像以上に強い覚悟を抱いてこの案件に臨んだ零からしてみれば、飲み物買ってこい程度何するものぞ。むしろ、その程度で済んでいいんですか状態である。
 支給されたサアビスチケットは、遠い異国の地でも使えるという。ならば安心だ。
「自分、ソマリさんの犬になってもいいんで」
「……あら」
 真剣な声音に、ソマリも思わず反応する。
 だから、と。零はこう言って踵を返した。

「――最後には、ちゃんと情報くださいね」

 ファンの壁を再び抜けて、少し通りを探してみた感じ、カフェーの類は見当たらない。
 これは不運か、もう少し遠出をせねばならないかと思われた時。
「まいどー、いい天気だねえ! コーラはどうだい?」
 騒ぎに便乗した出店の主人が呼び込みをしていたのだ。これはちょうどいい。
 大スタァがコーラとか飲むのか……? などと一抹の不安を抱きつつも、渡りに船とコーラを買い求めて、急いでソマリのもとへと戻る零。
「コーラじゃない、気が利くわね? こんな陽気だと炭酸が欲しくなるのよね」
 上機嫌で零からコーラの瓶を受け取るソマリは、その冷たさをまずは堪能する。
 気に入ってもらえたようで何より、というのは本心だけれど――そんな大スタァの様子をどこか冷めた目で眺めている自分が居ることに気付く。

 ――正直な話。
 ソマリさんが事件に巻き込まれそうとかそういうの、自分はあんまり興味ない。
 ただ『死にたくない』。死にたくないから、戦いたい。
 ――早く。早く!

「……ねえアナタ」
 栓を開けて、コーラを一口。ソマリは、零に話しかけた。
「ワタシ、死にたくないわ」
「……っ」
 それは報酬としての情報か、気まぐれの吐露か。
「殺される、っていう意味でももちろんだけど、今のワタシがワタシでなくなるのも嫌」
 肉体的な死と、精神的な死。
 どちらが恐ろしいものかと、優劣はつけられない。
 ソマリはもう一口コーラを飲んで、よく味わってからこう言った。

「ワタシは今のワタシが好き。誰かにねじ曲げられたり、塗りつぶされたりなんて嫌よ」

 ――死にたくない。
 その思いは、同じだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

吉岡・紅葉
やってきましたよ、
ひもいく!……じゃない、にゅーよーく!
なんたって世界有数の大都会ですからね、帝都とはまた違う、
洗練された空気を感じますよ!

で、今回はスタアの調査ですよね!ソマリさん、
もちろん知っていますとも!私の《流行知識》を
甘く見ないでください♪彼女の代表作は
一通り抑えてあるんですよ!
私も桜學府の友達も、ソマリさんのファンなんですよね~。
《元気》よく挨拶し、彼女の無茶ぶりにも《情熱》で答えますよ!
頼まれた買い物品を渡すタイミングを見計らって
【スキルマスター・スティール】。彼女のアクセサリー(ブローチ等)を
《盗み攻撃》で奪い、盗聴器のついたニセモノに
《早業》ですり替えておきますよ。



●情報収集と熱意の成果
「やってきましたよ、ひもいく! ……じゃない、にゅーよーく!」
 元気いっぱい、吉岡・紅葉(ハイカラさんが通り過ぎた後・f22838)が五番街に立つ。
 あまりの元気の良さに街ゆく人々が何事かと振り返るも、紅葉はまったく動じない。
「なんたって、世界有数の大都会ですからね! 帝都とはまた違う、洗練された空気を感じますよ!」
 いやーすごいなあ、なんて言いながらすぐ目についた人だかりを目指して紅葉が闊歩すれば、帝都と同じように舞う幻朧桜が揺れて散る。
 やがて、人だかりの前でピタリと足を止めた紅葉は、グッと両の拳を握る。
(「で、今回はスタアの調査ですよね!」)
 大丈夫、依頼の内容は忘れていないとばかりに気合いを込め直す。
 そしてふんふんと鼻歌交じりに、ご機嫌で人だかりに突撃していく!
「ソマリさん、もちろん知っていますとも! 私の流行知識を甘く見ないで下さい♪」
 熱心なソマリファンとしか思えない様子で、紅葉はずんずんと突き進む。
「百獣の王の物語、猫の世界の物語、母子家庭の物語……彼女の代表作は一通り抑えてあるんですよ!」
 熱く語る紅葉の様子に、次第にファンたちの方から道を譲るようになっていき――。

「私も桜學府の友達も、ソマリさんのファンなんですよね~~~~~」
「ありがと、そんなに褒められると気分が上がっちゃうわ」

 ジュークボックス・ミュージカルたる物語のワンシーンを歌いながら眼前に姿を見せた紅葉に、間違いなくそれを代表作としているソマリはご機嫌そうに笑った。
 それに気付いた紅葉はハッとなり、ぺこりと一礼して元気良く挨拶をする。
「はじめまして、ソマリさん! 私、帝都から来た學徒兵の吉岡・紅葉です!」
 ハキハキとした様子もソマリには好感触だったか、何と大スタァの方から手を差し伸べて――握手を求めてきたのだ。
「はじめまして、ワタシがソマリよ。クレハね? 帝都からよく来てくれたわ」
「わぁ……!」
 何とも意外な展開に、紅葉はしっかり握手を交わしながら思った。

 ――これは、パシリなしでも行けるのでは?

「ねえクレハ、帝都ならではのお土産ってないのかしら?」
「……!!」
 欲しいわぁ、という視線が熱い。激アツだ。
 帝都土産として何かしら持ってくれば良かっただろうか、いやでもしかし今それを言っても仕方がない。
 どんな無茶ぶりにも――紅葉は情熱をもって応えてみせる!
 じりじりと後ずさりながら、何とかしてみせようと自信にあふれた笑顔で告げた。
「少々お待ちくださいね、必ずや帝都らしい逸品をお持ちしましょう!」
 そう言って踵を返すと、道を開けてくれたファンたちの間を駆け抜けて、五番街をしばし彷徨う紅葉なのであった。

 ――しばらくして。
「ぜえ、はあ……お待たせしましたソマリさん! 帝都ならではの贈り物です!」
 そう言って紅葉が差し出したのは、明らかな模造品ではあるが、確かに刀だった。
「ふぅん、これが……帝都を舞台にしたミュージカルで使えそうね」
 いつか演じてみたいわ、なんて。今は叶わぬ夢を告げるのは、苦しいことだったろう。
 どこで手に入れてきたのかは敢えて問わず、ソマリはそれを両手で受け取った。

「ワタシ、楽しい物語を演じることが多いけれど……もっと演技の幅を広げたいとも思って。そんな話を支配人にした頃から、だったかしら」

 ぽそりと呟いたソマリの言葉が、他の猟兵たちに渡された受信箱から流れ出ていることに、当然ソマリは気付かない。
 紅葉が、刀を渡すと同時に信じられない手際の良さで、スーツの袖にボタン型の盗聴器を取り付けたのだ。
 これで、これからいよいよ明らかになるソマリを取り巻く事情と倒すべき敵の存在について、作戦に参加する猟兵全員が情報を共有できる。

 調査は、いよいよ佳境へと突入していく――!

成功 🔵​🔵​🔴​

シャーロット・クリームアイス

自前の手段以外で飛ぶのって、戦闘の現場なんかはともかく、純粋な移動としてはあまりないんですよね
つまりちょっぴりレアな空の旅、楽しみましょう!

ところで、紐育方面っていうと、グレムリンとか出るやつだったりしません?
サクラミラージュの航空事情を探るため、わたしたちはアマゾンへと――じゃありませんでした、紐育でした
ともかく飛びました!

---

WIZ
面白い話というか、面白い映画なら用意があります
UDCアースで流行りのサメ映画が、ね――!
異なる世界の異なる文化の極北、ならばブロードウェイのスタァさんにも新奇性を感じていただけるかと!
(女神像がサメ化するB級ムービー『リバティ・シャーク』を空間投影する)



●サメ映画が嫌いなひとなんていません!!
 シャーロット・クリームアイス(Gleam Eyes・f26268)は、帝都と紐育とを結ぶ飛行船に乗った際、こんなことを考えていたという。
(「自前の手段以外で飛ぶのって、戦闘の現場なんかはともかく――」)
 そう、現時点で判明しているあらゆる世界に特殊な端末を派遣して、出身地たる『異境』経由で接続するという超技術で、あらゆる障害をものともしない通信ネットワークを持ち、それで生業を成立させているシャーロットだ。
 自身の移動でさえも、自前で何とかなってしまうというのだから恐るべし、である。
 故に、こうして飛行船にゆったりと身を任せるというのは。
(「純粋な移動としては、あまりないんですよね」)
 口元をほころばせて笑う美貌のセイレーンは、背伸びをひとつして深々と座席に身を委ねた。
「――つまり、ちょっぴりレアな空の旅、楽しみましょう!」

 はて、とそこでシャーロットはふと思い立つ。
 乗務員を兼ねている帝都桜學府所属の學徒兵が通路を通っていくのを呼び止めて、こんなことを問うてみた。
「ところで、紐育方面っていうと……グレムリンとか出るやつだったりしません?」
 シャーロットの言葉に、乗務員は目をまあるくさせてほんの少しだけ沈黙し、ややあってにっこり笑ってこう返した。
「大丈夫ですよ、この船も部品の納入時に、きちんと飴玉をひとつ同梱しましたから」
「なるほど、では倫敦でしばしば『グレムリンの仕業』と呼ばれた件は――」
 こうして、乗務員とシャーロットはサクラミラージュの航空事情について熱く語り合い、やがてその謎を解明するため、調査隊を結成してアマゾンの奥地へと――。

「じゃありませんでした、紐育でした! ともかく飛びました!!」

 という訳でやって来ました紐育、摩天楼にバキューンです。
 早速ですが今シャーロットさんはソマリさんとご対面して、面白い話をして欲しいとねだられたところです。
「面白い話というか、面白い『映画』なら用意があります」
「えいが……活動写真のことかしら?」
 はい! と理解を得られて勢いづいたシャーロットが超技術でホロビジョンを展開し、大迫力の疑似サラウンドシステムと共にデータファイルを探し出す。

「UDCアースで流行りの『サメ映画』が、ね――!!」

 秘蔵のビデオファイルをタップで起動すれば、中空に映し出されるのは――!?
「……平和なビーチ、二人の時間を楽しむカップル……これは」
「そう、これは事件の前触れ。言うなればフラグを立てまくる序曲に過ぎません」
 ざわ、ざわ……ソマリ目当てに集まったファンたちも思わず首を回して見入るその映画のタイトルは『リバティ・シャーク』。
 最初の犠牲者が出たシーンでは、話の流れからだいたい分かっていたはずなのに大スタァが思わず口元を押さえる。
 そんなソマリの様子を見たシャーロットは、確かな手応えを覚えた。
(「異なる世界の異なる文化の『極北』、ならばブロードウェイのスタァさんにも新奇性を感じていただけるかと!」)
 そこでシャーロットは、ソマリに肩を添えられた。
「どういうこと!? 自由の女神像が……サメに、サメになったわよ!?」
「そういう映画ですから!」
 紐育も、これからきっと活動写真の作成が盛んになっていくだろう。
 そして、異世界UDCアースでサメ映画といえば立派にひとつのジャンルを築き上げている存在。
 超有名作からぶっちゃけクソ映画まで幅広いが、今こうしてシャーロットが伝えた『自由の女神像がサメになる』という超展開は、何かの刺激になる……なってしまうだろう。

「お楽しみいただけましたか?」
「……とんでもない物語だったわ……でも、何やかやで見入っちゃった」
 最後までお楽しみ頂いてしまった結果、ソマリからは好評を得ることができたようだ。
 荒唐無稽な活動写真を見せられた後にしては、妙にすがすがしい顔をしていた。
「こういうインプットって、大事よね」
 ありがとう、という意外な感謝の言葉と共に、シャーロットへ手を差し伸べるソマリ。

「色々な経験をするのは、確かに演技の糧にもなるわ。それは、分かってるのよ」

 握り返したスタァの手は、微かに震えていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

栗花落・深香

紐育、素敵なところよねぇ
世界雰囲気に合わせつつお洒落な着こなしで

大きな括りで言えば同業のようなものだものね
今回はお仕事モードでいくわ

望みは全て聞いてあげる
お買い物も喜んで
私モデルの端くれなの
選ぶセンスはあるつもりよ

ついでに自分のお買い物も楽しむけれど
あ、先払いするからお取り置きはできる?
用事が済んだら取りに来るわ

ソマリさんへは話のレベルを合わせながら
さり気なく誉め言葉を混ぜて機嫌を取るわ
聞いていないようでも聞こえているし、見えている
興味を持ってもらえるよう印象付けないと

ところで、もしかしてだけれど…待ち合わせ中かしら
スタァだからって隠れなきゃいけない道理は無いもの
お邪魔だったら退散するわよ?


御桜・八重


「うっわぁー! たっかーーい!!」
高層ビル群を見上げるあまり、ひっくり返る巫女娘。

コホン。
気を取り直して、いざソマリさんの元へ!

「ソマリさん、あなたを救けに日本から来まし…え、行ってきます!」
「あなたを狙ってる輩に、心当たりは…これじゃ無いの!?」
「注目を集める場所なら狙われにくいって…聞きたいのはそうじゃなくって!」

一生懸命ソマリさんのお使いをこなしながら、
救けに来たことが伝わるまで何度でも訴える。

彼女が衆人環視の中にいるのは、自分に注目が集まる状況を作り出して
敵が手を出し辛くしてるんじゃないかな。
自信たっぷりに見えるけど、相当追い込まれてると見た!

なら、あきらめるわけにはいかないよね!



●狙われたスタァ
「うっわぁー! たっかーーい!!」
 巫女服姿の御桜・八重(桜巫女・f23090)が、そびえ立つ高層ビル群――摩天楼を見上げて声を上げる。
 あまりにも高いものだから、見上げて見上げて、見上げ続けた結果、後ろへとひっくり返りそうになる。
「……わわっ!?」
「あらあら、大丈夫?」
 そんな八重を背後からそっと支えて助け起こしたのは、栗花落・深香(暴走おねーちゃん・f03474)。あふれ出るおねーちゃんオーラがすごい。
「あ、ありがとうございます……」
 立ち直って、深香に向かう合うとぺこり一礼、八重はお礼を告げる。
 いいのよぉ、とにこにこ笑いながら、深香は五番街の様子を眺めた。
「紐育、素敵なところよねぇ」
(「……すごい、そういう深香さんがバッチリ街並みに馴染んでる」)
 八重が思わず見惚れるほどに、超高級アヴェニューに溶け込む着こなしを決めた深香は、伊達にモデルを生業にしている訳ではないということだ。

 そんな二人のすぐそばで、明らかに誰かを囲む人だかりが。
 国民的スタァ・ソマリはその中心にいるのだとすぐに分かった。
「……う、うう。緊張してきました……」
 手に汗握る八重に、あくまでもおっとりとした調子を崩さず深香が微笑む。
「大きな括りで言えば同業のようなものだものね」
 人々の前に出て自分を魅せつける、モデルも女優も大きな括りでは確かに同じ。
 余裕を見せる深香に、負けていられないと八重もひとつ咳払いをして気を取り直す。
「……コホン。ではわたしも気を取り直して!」

 ――いざ、ソマリのもとへ!

「ソマリさん、あなたを救けに日本から来まし」
「歓迎するわ、素敵な衣装のお嬢さん。ところでワタシ、アイスが食べたいわ」
「え!? い、行ってきますー!!」
 事前の予知である程度こういう展開になることは予想できていたけれど、こんなに流れるようにパシリを押し付けられるとは恐ろしい。
 それでも八重は決してくじけない、キビキビとした無駄のない動きですぐアイスを求めて街中へと飛び出していく。
 次にソマリが視線を送った相手は当然深香だが、こちらは余裕の笑みでオーダーをむしろ今か今かと待ち望んでいるように見えた。
「どうぞぉ、望みは全て聞いてあげる。お買い物だって、喜んで」
 深香が纏う気配に『何か』を察したのか、ソマリは少し目を細める。
「そう、じゃあそろそろ春物のお洋服が欲しいと思ってたから、お願いするわね」
「任せておいてちょうだい、楽しみにしててねぇ?」
 ふんわりおっとりとした笑みとは対照的に、語気は自信たっぷりの深香。
 そこにひときわ興味を持った大スタァが、それを隠さずに問うた。
「……アナタ、ひょっとしてご同業?」
 一度は背を向けた深香が、ウォーキングのターンを決めるように振り返る。
「私、モデルの端くれなの。選ぶセンスはあるつもりよ」
 ふわり、ふわり。舞うように、しかし確かな足取りで背筋をピンと伸ばして歩く深香に、誰もが道を開けるのは当然のことであったろう。

 深香と入れ替わるように、ビニール袋を提げた八重が息を切らしながら戻ってきた。
「お待たせしました!! アイスです!!」
「ありがと」
 軽く曲げた膝に両手を置いて、荒い息を整え、八重は今度こそ話の続きをするべくバッと顔を上げた。
「あなたを狙ってる輩に、心当たりは……」
「ちょっと、これバニラアイスじゃないの。ワタシ、チョコミン党なんだけど」
 そこには、ジト目をするワガママスタァのご不満フェイスが。
「まだ開けてないし、これはアナタにあげるわ。はい、やり直し」
「えええ!? これじゃ無いの!!?」
 そんなやり取りに、取り巻きのファンたちからは思わず笑いがこぼれる。
 ソマリさんのファンなら、チョコミントが好物だってみんな知ってるよ!
 がんばれ、お嬢さん――などと声援を受けて、八重はバニラアイスをかじりながら今度こそチョコミントアイスを手に入れるべく走り出すのだった。

 その頃深香は、ソマリに似合いそうな春物のワンピースを選び終えて、ついでに自分のお買い物もしっかり楽しんでいた。
(「今日はパンツスーツ姿だったけど、ワンピースもきっと似合うわぁ」)
 誰かを可愛く着飾ってあげるのは好きだ。だから、決して苦ではない。
 もちろん、自分を綺麗に見せる努力にだって労を惜しまない。
 お会計の際に、ソマリの分は包装を頼み、自分の分についてはこうお願いをした。
「あ、先払いするからお取り置きはできる?」
「はい、喜んで承ります」
「ごめんなさいねぇ、用事が済んだら取りに来るわぁ」
 ただ仕事をこなすだけではもったいないというもの、どうせなら楽しんできていいとも言われている。
 このお土産は、忘れないようにしないと。
 ――お金、先払いしちゃいましたしね!

 しばらくして、プレゼント用にとワンピースを包んでもらった深香がソマリのもとに戻ると、八重が懸命にソマリと意思の疎通を図ろうとしている所に出くわした。
「ちゅ、注目を集める場所なら、狙われにくいって……」
「なかなかに深みのある味わいのチョコミントじゃない、ありがとう」
「き……聞きたいのはそうじゃなくって……!!」
 あらあら、と頬に手を当てながら深香は二人に近づいていく。
 一生懸命にソマリのお使いをこなしながら、粘り強く『救けに来た』という意思を伝えようとする八重の気持ちは、ソマリもきっと気付いていることだろう。
「あらぁ、チョコミント。私も好きよ? 美味しいわよねぇ」
「はむ……わざわざ包装してきてくれちゃって、またひとつ贈り物が増えたわね」
 チョコミントのアイスを食みながら笑うスタァは、内心ファンからの贈り物ひとつひとつをとても大切にしているし、嬉しく思っている。
 それを丁重に扱ってくれた『超弩級戦力』には、既に心を開いているのだ。
「ワタシのワガママを文句一つ言わずに聞くアナタたち。別に試したとかそういうんじゃないけど」
 また一口、アイスがかじられる。スタァの金の瞳が、八重と深香を、交互に見た。

「ところで、もしかしてだけれど……あなたは今、待ち合わせ中かしら」
 深香がそう考えたのは、スタァだからという理由だけで隠れなければならない道理はないからだと考えたから。
「お邪魔だったら、退散するわよ?」
 その言葉は、本心からの気遣いが半分と、引き留めて欲しい気持ちが半分。
 対するソマリは、こう返す。
「待ち合わせ……そうね、来てくれるっていうアテはなかったけど、アナタたち『超弩級戦力』は、こうしてワタシを助けに来てくれた」
「……! ソマリさんっ」
 その言葉に、八重が声を弾ませた。努力は、間違いなく報われていたのだ。
「帝都から来たお嬢さん、アナタの読み通りよ」
 まるで舞台の上で台詞を読み上げるように、全てを明かす。

「ワタシがこうして衆人環視の中にいるのは、ワタシに注目が集まる状況を作り出して、『敵』が手を出し辛くしていたの」

 最初に会った胡散臭い探偵さんたちが、いきなり言い当てるものだから驚いたわ。
 そう言ってみせるソマリは、しかし不安な様子は一切見せなかった。
「……あきらめないで、よかった」
 八重は心からそう呟く。自分も根気強くお使いをしたが、ソマリもまた諦めずに自分たちを待っていたのだ。

「ワタシの、そしてアナタたちの敵は『ムーンキャット・シアター』を拠点にしているわ」
 そこへ、向かうべきなのだと告げる。
「元々はみんないい人たちだったのよ、でも……何かのきっかけで『影朧を操る力』を手に入れてしまった。今はみんな、それに魅入られてる」
 自分が『いいもの』だと思えば、当然他人にも勧めてくるわよね? と。

「……ファンのみんながトラックを用意してくれたみたい。贈り物を積み込んで、ワタシは一度ここを離れるわね」
 ウェーブヘアを揺らして、光明を見出したスタァは超弩級戦力たちへと後を託す。
「最後に、ワタシが知ってる限りの情報を離しておくわ。……お願いね」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『影狼』

POW   :    シャドーウルフ
【影から影に移動して、奇襲攻撃する事】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    復讐の狼影
自身の身体部位ひとつを【代償に、対象の影が自身の影】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ   :    ラビッドファング
【噛み付き攻撃(病)】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●精神的復讐、あるいはルサンチマン
 国民的ブロードウェイスタァ・ソマリ曰く。
「所属劇場『ムーンキャット・シアター』は危険な組織の拠点と化した」
「元々は善良な人々であったはずの支配人をはじめとした所属メンバーは、ある日を境に影朧と、それを駆る力とに溺れていった」
「遂には自分にも危険が及んだので、こうしてファンサービスを装って劇場から離れていた」
「助けが来るかは正直、賭けだった」

 ――そうしてソマリは賭けに勝ち、超弩級戦力たちは敵の拠点へと殴り込む!

『ソマリさん、国民的スタァの名をほしいままにする、全てに恵まれたひと』
 整った顔立ちの女優らしき人影が。
『ソマリ、ああソマリ。君はきっと、挫折というものを知らないのだろう』
 サスペンダーで動きやすそうな格好の男性は、大道具係あたりだろうか。
『あなたはきっと、わたしたちみたいに顧みられない存在に気づきもしない』
 素朴な雰囲気がむしろ人気を博しそうな少女が。
 口々に、舞台の上でスポットライトを浴びながら大スタァへの怨嗟を紡ぐ。

 猟兵たち――超弩級戦力たちは、彼らと劇場の舞台で対峙する。
 役者は彼らであり、実際牙を剥くのは復讐に荒ぶる影の狼たち。
 取るに足らない存在と侮るなかれ、その油断こそが仇となろう。

 己を貶めて戦に臨むものどもに、掛ける言葉はあるのか?
 彼らとどのように向かい合うかは、各々の心の赴くままに。
 影朧は打ち倒し、結社を構成する人々は拘束する――その目的さえ果たされれば良いのだから。
吉岡・紅葉

あれは、ソマリさんの劇団の仲間たち?
悲しそうに、何を叫んでいるのでしょうか。
スポットライトに照らされた舞台に駆け寄ると、
不気味に蠢く黒い影に気づきます。

接近戦は避けて、スティンガーによる《暗殺》《貫通攻撃》や
【弐拾捌式・飛び雀】といった
中距離飛び道具攻撃を中心に攻めていきますよ。
《学習力》で敵の動きを分析し、《集中力》を切らさず
ちょっとした違和感にも気づくように心がけたいですね。

自分を卑下するような、悲しいことを言わないでください!
スタアというのは、時に自分を追い込むために
孤独の世界に入らないといけないんです。
すべてに恵まれた、挫折を経験したことのない人なんて
いやしませんよ!


氏家・禄郎
まさか、劇場の上に立つとはね
革靴で失礼、君達とお話ししたいところだが、今は野犬退治と参ろう

舞台の上だ
踊りは下手だがそれなりに振舞うのが『有利』とみた

スポットライトの位置を把握して、影の位置をコントロール
自分の影なら、光を当てれば操れるものさ
消えないものだけを避ければいい

さて、影の狼よ君の手札は封じさせてもらうよ
此処には照明がある、そして幕がある
そして闇に紛れるのはお前だけじゃないのさ
幕を利用して、姿を隠し、そして現れ、クイックドロウで影狼を拳銃で撃ち殺す

勿論、役者たちには気を付けるよ
君達の気持ちは分かるが、今はお休みの時だ
邪魔をするならマヒ攻撃で当て身を入れて動きを止める

説得は他に任せた



●舞台の上、第一幕
 今日は元々休演日であることから、猟兵――超弩級戦力たちが駆けつけた『ムーンキャット・シアター』の中には関係者しかおらず。
 つまりは、無辜の一般人を巻き添えにするおそれは少なくともないのだと、ほんの少しの安堵を感じさせてくれる。
 とはいえ、半ば強引に押し入った劇場の舞台の上で待ち構えているのは、『影朧を召喚する』という禁忌を駆使する魔に魅入られたものどもでもある。

 舞台の上を、いくつかのスポットライトが照らす。
 光を浴びながら、様々な情念をその瞳に宿して、今や『結社』の一員と化した劇団のメンバーがいっせいに駆け込んできた超弩級戦力たちを振り返る。
『……役者が、揃った』
『始めましょう、私たちが今こそ光輝く為に』
『与えられたチカラこそ、皮肉なものだけれど』
 光あるところには、必ず影がある。
 生じた影よりのそりと這い出るように『ソレ』は出てきた。

 ――影狼、シャドウウルフ。

 人の手で滅ぼされた狼が、骸の海より出でしもの。
 己らを絶滅に追い込んだ人々を憎み、敵意をむき出しにするもの。
 憎しみ、恨み、その感情は生じた原因こそ違えど――使役するものとされるものとで共有されるのは間違いない。

 超弩級戦力たちは、どのように『彼ら』と向かい合っていくのか。

「あれは、ソマリさんの劇団の仲間たち?」
 劇場ホールの入口の仰々しい扉を押し開けながら足を踏み入れた吉岡・紅葉が呟く。
「悲しそうに、何を叫んでいるのでしょうか」
「……さあね」
 紅葉のあとから、ステンカラーコートの肩を竦めながら続く氏家・禄郎が短く返す。
「少なくとも私たちがこれからすべきことには、関係のない話さ」
 足音を吸う床を行きながら、二人が目指すはスポットライトが眩しい舞台の上。
 客席は薄暗く、最初こそ足取りも慎重だった紅葉と禄郎だったが、どちらともなく次第に早足となり――最終的には、舞台にかけられた簡易階段を駆け上るに至った。
「! あの、影は……」
 そうして同じ舞台の上に立って、はじめて気付く。
 紅葉は、劇団員――いや、今や結社員となり果てた人々の足元から伸びる黒い影が、不気味に蠢いているのを見咎めて息を呑んだ。
(「まさか、劇場の上に立つとはね」)
 禄郎もまた、少し前までは信じられなかったことだと思いながら舞台に上がる。
「革靴で失礼、君達とお話ししたいところだが――」
 低い唸り声が響き始めたのを耳にして、そうも行かぬと苦笑い。
「今は、野犬退治と参ろう」
「……はいっ!」
 元気印の學徒兵が合わせると、結社員たちはいよいよ舞台の奥へと退いていき――影はいよいよ伸びて、獰猛な狼の姿を形取った。

 図らずも、影の狼どもを相手に立ち回ることでひと演目ぶち上げることとなった。
 愛用のクロスボウ「スティンガー」を構える紅葉と、舞台の上を一度見渡す禄郎。
「舞台の上だ、踊りは下手だがそれなりに振舞うのが『有利』とみた」
 探偵屋の鋭い洞察の声に応えるように、超弩級戦力たちにもスポットライトが当てられる。それにより生じた事柄に、紅葉は即座に気付いた。
「これで、私たちの影も『濃くなった』ってことですよね」
 學徒兵の乙女は本能的に敵との距離を無闇に詰めず、スティンガーが得意とする中距離射程を保ったまま身構える。
「そういうことになるね、では――行こうか」
 超弩級戦力たちが、動いた。

『グルルルルルゥゥゥ……ッ!!!』
 驚いたことに、影の狼どもは突然近くの個体同士で脚を噛みあい始めた。
「なっ……!?」
「吉岡君、気をつけて。特に、自分の影には」
 予想外の出来事に困惑の声を上げてしまう紅葉に、禄郎はそう言い残して革靴で舞台を蹴る。それを追うスポットライトは、禄郎の影を伸ばし――凶悪な狼の頭部に変える!
(「そら来た」)
 スポットライトは役者を追って照らすもの、ならば影の位置も把握は可能だ。
(「自分の影なら、光を当てれば操れるものさ」)
 理解はしていても、実際牙を剥く影の顎から逃れられるかは別として。
(「消えないものだけを、避ければいい」)
 ひときわ強く舞台を蹴って低く飛び、舞台袖の幕に突っ込む禄郎。
 そのすぐそばを影の顎が炎を曳きながら食い破り、幕の一部が無残に引き裂かれた。
「さて、影の狼よ」
 幕の裏に身を潜めた探偵屋が、間一髪であったと内心肝を冷やしながら告げる。
「君の手札は封じさせてもらうよ」
 此処には照明がある、そして幕がある。
「――そして、闇に紛れるのはお前だけじゃないのさ」
 付け入るべき敵の『影』は、今や文字通り幕を利用されたことで完全に溶け込んだ。

 そしてもう一人の超弩級戦力――紅葉は、しっかりとその一部始終を見ていた。
(「自分の、影が……!」)
 瞬時に敵の動きを分析し、集中力を切らすことなく攻撃に備えていた紅葉は、己の影もまた凶暴な顎と化して牙を剥くのを察知していた。
「――っ!!」
 振り返ることなく、剥き出しの殺意に向けて、片手でクロスボウを突き付け矢を放つ!
『ギャンッ!?』
 影が四散して消えゆくさますら見届けず、紅葉は不自然に照射角度を変えられたスポットライトに気付く。
 黒い瞳が油断なく捉えた新たな影の顎は、クロスボウに次の矢を番える暇を与えぬとばかりに迫る。
 だが――紅葉は、不敵に笑んで見せたのだ。

「――しゅっ!!」

 誰が、武器は「スティンガー」ひとつだと言ったか。
 その超常こそ【弐拾捌式・飛び雀(ニジュウハッシキ・トビスズメ)】。
 隠し持った投げナイフで攻撃し、同じような敵に対してのアドバンテージを増す。
 狙い違わず牙を剥いた狼の眉間を貫いたスローイングナイフが、からんと音を立てて舞台に落ちた。
 そうしてナイフを次々と取り出しては、懲りもせず迫り来る影の狼どもを着実に仕留めて行く。そのさまは、舞台の上の振舞いに相応しい、舞うような戦ぶりであった。
「……どうですか、まだやりますか!?」
『くっ……!』
 結社員たちが、口々に悔しげな声を漏らす。
『ちくしょう、ちくしょう……っ!!』
 慟哭にも似た声音で、結社員のひとりが己より生じた影の狼に自らを喰らわせる。
 それと同時に紅葉の影がぶわりと膨れ上がると、今までで一番強い殺気でもって迫る。
「しまった、速い!」

 ――ぱぁん。

 目を見開いた紅葉の眼前で、影が銃弾に撃ち抜かれて霧散した。
「済まないね、君を囮に使った訳ではないんだ」
 己の影を舞台袖、幕の内側に潜むことで完全に『消した』禄郎が、その身を晒して早撃ちで影の狼を撃ち殺したのだ。
 硝煙残る回転式拳銃の銃口を無造作に下に向けつつ、禄郎は躊躇なく結社員の方へと歩み寄る。
『く――来るな! こちらには影朧の力が……』
 苦し紛れの稚拙な脅しだと、いっそ哀れにさえ思える。
「氏家さん!」
「大丈夫、彼らには気をつけるよ」
 そう言いつつ、先程紅葉を本気の殺意で狙った結社員に当て身を喰らわせてその場にくずおれさせた。
「君達の気持ちは分かるが、今はお休みの時だ」
『……っ』
 あまりにも、圧倒的。仮初の力では、太刀打ち出来ない存在。
 ――それが、超弩級戦力。
 いざ目の当たりにすると、改めて思い知る。

 自分たちが、いかに無力かを。
 自分たちが、いかに惨めかを。

『あなたたちは、そうやって!』
『俺たちの気持ちなんて分からないだろう!』
『ソマリさんと同じだ! 恵まれているんだからな!』

 これさえも茶番であったなら、演目であったなら、どれだけ良かっただろう。
 しかしこれは悲しいことに、結社員一人一人が人生を賭けた心からの叫びだった。
 探偵屋は帽子を片手で押さえて軽く首を振り、學徒兵の乙女はそんな彼らを見据えた。
「自分を卑下するような、悲しいことを言わないでください!!」
 凜として舞台の上に立つ紅葉を、スポットライトが真上から照らす。
「スタアというのは、時に自分を追い込むために孤独の世界に入らないといけないんです」
 結社員――元をただせば劇団員でもある彼らは、気付かなかったのだろうか。
 それとも、自分の都合の良いように見て見ぬ振りをしていたのだろうか。
「すべてに恵まれた、挫折を経験したことのない人なんて、いやしませんよ!!」
 真っ直ぐに、結社員たちを見据えて、紅葉は叫んだ。

 ――気付いて欲しい、彼ら自身のためにもと。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

御桜・八重

妬みや嫉みはあって当たり前。
でもそれは憧れや好きって気持ちの裏返し。
女優ソマリが、愛され、尊敬されている証なんだね。
今は感情があべこべになっちゃってるけど、
きっと影朧をやっつければみんな元に戻るよ!

若いのにそんなことよく知ってる?
あはは、とある物語の受け売りなんですよー
…『シズちゃん』に似たような回があったんだよね♪

ソマリさんにお願い。
みんなの目が覚めるような、歌やお芝居を披露してくれないかな。
感銘を受けて意識が影朧から離れたら、
わたしが呪縛を断つから。

照明の下、神楽を舞うように狼と立ち回り。
気合いと勘で攻撃を避けながら、
劇場メンバーを縛る影朧の力を断つ!
「祓って清めて邪鬼退散☆ めーっ!」


栗花落・深香
妬みや嫉妬はよくある話ね
芸能は華やかさで覆い隠した戦場
そこに踏み込んだからには覚悟も必要よ

まぁ私にとってはいつだって弟が世界一だけれど

自身の身は【オーラ防御】で守りつつ
【紅桜】を発動するわ
舞台の広さや高さにもよるけれど…私の影を利用するのなら
私が【空中戦】を挑めば届かないんじゃないかしら
重ねて【破魔】で寄せ付けないようにしつつ
花弁の刃で攻撃を

影狼さん、貴方の出番はもう終わりよ
ねぇ皆さん、貴方達は何故役者を目指したの?
目立ちたかった? 一番になりたかった?
本当にそれだけかしら
ここから先は自分の力で、最高の舞台を見せてほしいものね
貴方達にだって応援してくれるファンはいる
蔑ろにしてはいけないわ



●舞台の上・第二幕
「妬みや嫉みはあって当たり前、でもそれは『憧れ』や『好き』って気持ちの裏返し」
 真っ直ぐな青い瞳を向けながら、御桜・八重が舞台に上がり、スポットライトを浴びる。
「女優ソマリが、愛され、尊敬されている証なんだね」
『何を、言って……』
 桜の巫女の言葉に、結社員たちは皆一様に顔を歪める。
 今の彼らに、八重の言葉はあまりにも眩しいのだ。
「妬みや嫉妬は、よくある話ね」
 八重のすぐ後に続き舞台を踏んだ栗花落・深香が照明を浴びる姿はとても様になっていて、振り返った八重が思わず息を呑むほどだった。
「芸能は華やかさで覆い隠した『戦場』、そこに踏み込んだからには――」
 あくまでも表情は柔和なまま、しかし深香は決然と言い放つ。
「『覚悟』も必要よ?」
 他人の才能に打ちのめされ悔しい思いをした末に、妬みの感情を抱くことは当たり前。
 その感情を糧にしてより高みを目指すか、拗らせてくすぶって終わるかは当人次第。
 本来ならば、それは他人が口を挟めるところのものではないのだが。
「今は感情があべこべになっちゃってるけど、きっと影朧をやっつければみんな元に戻るよ!」
 そう、これはきっと影朧のしわざ。八重はあくまでも純粋にそう信じて、両手を広げて見せる。
『……』
『……』
 結社員たちの反応は鈍い。照明に照らされていながら表情は暗く、伸びる影はひときわ濃く思えた。
「あなた、若いのにそんなことよく知ってるわねぇ」
 深香がおねえさんらしくそう言葉を掛けつつ、頬に手を当てる。
「あはは、とある物語の受け売りなんですよー」
 頭の後ろに軽く手を回しながら、八重がはにかむ。
(「……『シズちゃん』に、似たような回があったんだよね♪」)
 八重の脳裏に浮かぶのは、帝都にて国民的人気を誇る活動漫画のとあるエピソード。
 その時は、主人公の魔法巫女少女が影朧を倒してめでたしめでたし、だったけれど。
「……そう」
 同じく、笑んで返した深香のそれはどこか憂いを帯びて。
(「物語のように、上手く行けばいいわねぇ」)
 そうして深香が思い出すのは、劇場に乗り込む直前のこと。

「ソマリさん、一緒に行こう! 劇団員のみんなの目が覚めるような、歌やお芝居を披露すれば、きっと」
「……ごめんなさいね、それは遠慮させて頂戴」
「ど、どうして……!?」
「今の彼らにとって、それはきっと逆効果になると思うの」
「……八重さん、私もソマリさんと同じ意見だわ」

 ――どうして、劇場から逃れるようにしていたのか。
 単純に、孤立無援だったからという理由だけではない。
 今のソマリは、とにかく安全な所へ身を隠すべきだと。
 そう結論づけて、劇場への同行は回避したのだが――。

(「ソマリさんを連れて来ないで、正解だったみたいね」)
 そこで初めて険しい顔を見せた深香の瞳に映るのは、いよいよ剣呑な気配を強める結社員たちの姿。
『ソマリを連れて来てくれれば良かったのに、ああ、会いたかったよ』
『この影の狼の力で、彼女をこの舞台の上で痛めつけてやりたかった』
『仕方ないわ、代わりにあなたたちで憂さ晴らしをしましょう』
 影が蠢き、狼の姿を取り始める。
 その光景も勿論だが、八重は、剥き出しの負の感情にこそ息を呑んだ。

 ――物語のように、上手く行けばいいけれど。

「……っ」
 愛刀に手をかける八重の手が、知らず汗ばむ。
 だが、それは決して怯みや怯えからではない。
「いいよ」
 己に向けられる敵意さえも受け入れる、太陽のような明るさで言い放つ。
「だったら思いっきり、かかってこーいっ!!」
 まずは一刀、闇に立ち向かう闇刀・宵闇血桜を抜き放ち、八重が叫んだ。
(「さすがねぇ、これなら心配なさそう」)
 深香がばさりと広げるのは、オラトリオの証たる純白の翼。
「まぁ、私にとっては――いつだって弟が世界一だけれど」
 それ以外のことには、はっきり言えばあんまり興味がないくらい。
 けれどこれは色々な意味で『お仕事』だから、深香もまた結社員と対峙した。

『影からは逃げられない! 行け!!』
 結社員の影から生まれた狼が、口から火を漏らしながら突如影に潜り込む。
「ふっ――!」
 再び浮上する先は、どう考えても八重の影が伸びた所。
 敢えて刀の間合いに入るように影の長さを調整すべく移動するさまは、さながら神楽を舞うようで。
「やぁっ!!」
 くるりくるりと舞台上を舞い踊り、流れるように闇刀を一閃すれば、影の狼はたちまち霧散する。
 やはり、個体では超弩級戦力たちの脅威にすらなり得ないのだ。
 結社員たちに与えられたのは、『その程度』の力。
 彼らは、足掻けば足掻くだけ、どんどん惨めになっていくばかり。
(「……かわいそうとか、そんなんじゃ、ダメなんだ」)
 ソマリの助力こそ得られなかったが、己の信念に変わりはない。
(「真っ直ぐに、ぶつかっていく!!」)
 徐々に数を増やす影の狼たちを斬り伏せながら、八重はその時を待ち続ける。

 一方の深香は、翼をはばたかせて舞台の上に舞い上がる。
 ミュージカルではワイヤーで吊されるアクションもあるため、高さは十分だった。
(「あなたたちが私の影を利用するのなら――」)
 舞台に落ちる深香の影は、うすぼんやりとしてとても影朧が形取れる濃さではない。
『く……くそっ、降りて来い!』
「言われて本当に降りたら、それはそれで面白いかしらぁ?」
 からかうような口調でありながら、深香の顔からは表情が消えていた。
「ねえ、桜の嵐に散る灯……風流でしょう?」

 ――ざぁ、っ。

 舞台の回りに、いくつもの『穴』が開いた。
 およそこの世の理では説明できない事態こそ、ユーベルコヲド【紅桜(ベニザクラ)】。
 深香をさらに高々と舞わせ、『穴』からは満開の紅桜を覗かせ――。
『あ、あ、あ……!!』
『影朧が、わたしたちの力が……!!』
 紅色の硝子で出来た無数の花弁は、刃のように鋭く舞台中を吹き荒れて、影の狼どもだけをほとんど一掃してみせたのだ。
 わずかに残った狼も、ここまで気合いと勘と神楽舞とで攻撃を避けまくってきた八重が、反撃に転じてもう一刀――陽刀・桜花爛漫を抜いて二刀の構えを取る。

(「わたしが、その呪縛を解く」)

 そのための、この力だから。
 刀の切っ先を下げた状態で突進し、真っ正面から大きく二回、斬り掛かる!
「祓って清めて邪鬼退散☆ めーーーっ!!!」
 八重の裂帛の気合いと共に、影狼の姿が舞台から消えた。
(「影朧の力から解放されれば、きっと」)
 二刀を鞘に収めて結社員の方を振り返る八重は、揺るぎない瞳でそう信じるのだ。

「影狼さん、貴方の出番はもう終わりよ」
 ようやく舞台の上に戻ってきた深香の影からも、結社員の影からも、狼は生じない。
「ねぇ皆さん、貴方達は何故役者を目指したの?」
『……』
「目立ちたかった? 一番になりたかった?」
『……』
「本当に、それだけかしら」
『……わた、しは』
『目指した、のは……』
 血が滲みそうなほどに拳を握り、歯を食いしばるさまが見て取れた。
 きっと、それこそが答えだった。
「ここから先は自分の力で、最高の舞台を見せてほしいものね」
 敢えて深香から答えを告げることはせずに、一足先に踵を返す。
「貴方達にだって、応援してくれるファンはいる――蔑ろにしてはいけないわ」
 同じ芸能の道を生きる深香が示せることも、八重と同じことだった。

 前を向いて、つまらないことに足を取られる暇もなく――進め。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

木常野・都月


確かこういう感情を、嫉妬っていうんだっけ。
俺にはまだ少し難しいんだ。嫉妬と憧れの違いが、よく分からない。
なんで人は憧れている人が憎く見えるんだろうな。

[野生の勘、第六感]で風の精霊様に周囲の敵に関する[情報収集]をお願いしよう。

[催眠術、気絶攻撃]で敵は全員眠くなって貰おうかな。
室内だけど月の精霊様のチィがいれば、眠気を誘うことが出来るかも。
寝てくれれば大成功、仮に寝なくても動きを鈍らせられればそれでいい。
あとは眠ったり、動きが鈍った影朧だけを倒していこう。

UC【精霊疾走】で影朧達を倒していこう。
氷の精霊様、お願いします。

敵の攻撃は[ダッシュ]でよけつつ[カウンター、高速詠唱]で対処しよう。


五百崎・零

(戦闘中はハイテンション)
あ?結局、ソマリさんに対する妬み嫉みってやつ?
まあいいけどさ。それよりさっさとやりあおうよ。
オレは、死にたくないんでね!

【制圧射撃】で威嚇していき、敵との距離をとる
十分距離をとったところで【明日を夢見て過去より来たり】を発動
攻撃は召喚した霊に任せて、自身は攻撃回避に努める
ステージ上で楽しむように移動
「ひゃはははは、楽しいなァ!!お前らも楽しいだろ?」
あんまり楽しそうって感じしないなぁ?
舞台の上にいるんだから、楽しんでないと客に失礼なんじゃねえの?
「あんたら役者だろ?嘘でも楽しそうにしろよ」
さあ、楽しくやりあおうぜ!!



●舞台の上、第三幕
 元々抱いていた妬み嫉みの感情が強かったのか、それとも善良な猟兵が思うように影朧の力で悪い方へと増幅させられているのか。
 スポットライトは結社員たちを照らし続け、影を伸ばし、演じることを求め続ける。
『……支配人は、今でもソマリばかりを見てる』
『わたしたちだって、頑張ってるのに』
『ここでそれを――『証明』してやる!』
 単体ではさほど脅威ではないが、群れると恐ろしい存在――今の彼らにふさわしい影朧、影の狼を従えて、結社員たちは再びどす黒い感情を露わにした。

(「確か、こういう感情を『嫉妬』っていうんだっけ」)
 木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)がどこか他人事のように思う理由は、都月自身が今まさに『狐から人間へと変化する過程のただ中にある』ことにある。
 影の狼を従えた結社員たちが待ち受けるステージへと一歩一歩近付きながら、呟く。
「俺には、まだ少し難しいんだ」
 嫉妬と、憧れの違いが、よく分からない。
「なんで、人は憧れている人が、憎く見えるんだろうな」
 狐の耳をぴこぴこ揺らしながら、都月は舞台へと続く簡易階段を上っていった。

『超弩級戦力。超常の力で、未来さえねじ曲げて道を切り拓く埒外の存在』
 結社員たちが一人、また一人と舞台後方へと下がり、代わりに影狼たちが唸りを上げる。
『お前たちもまた、持たざるものの気持ちなど、到底理解できまいよ』
 次々と湧き出てくる影狼たちの唸り声が劇場に響く。
 しかし、それをかき消すように、テンションの高い声が響き渡った。
「あ? 結局、ソマリさんに対する妬み嫉みってやつ?」
 たたんっ、と勢いよく舞台に上がるさまからしてテンションが高い、五百崎・零の声だった。
『……何が悪い』
『そこから始まり、私たちはこうして『力』を手に入れた』
 スポットライトを浴びながら言葉を返す結社員を一瞥して、零はニィと笑う。
「まあいいけどさ」
 なんだっていいし、どうだっていい。
 今、必要なことは――。
「それよりさっさとやりあおうよ」
 隣の都月と一度目を合わせて軽く頷いて、零は心の底から声を張り上げた。
「オレは、死にたくないんでね!!」

 精霊術士たる都月が、風の精霊様にお願いして影狼どもの動きをわずかでも逃すまいと意識を集中させる。
(「……単体ではそれほど怖くない、けれど」)
 都月も元は野生の狐だ、肌で『ソレ』を感じる。
「気をつけよう、やつらが群れでいっせいに襲いかかってくると厄介だ」
「は、サンキューな」
 ならば、と零が愛銃・召喚式『アイン』を構えたと思うや躊躇なく影の狼どもを――その足元を敢えて狙って銃弾を叩き込む!
『グ……ッ』
 狼どもが二の足を踏む間に、零は舞台の上で得意な間合いを取った。
 パーカーのフードが跳ねるほど軽やかにステップを踏む零を、照明が追う。
「要は、そのおっかない口で噛まれなきゃいいんだろ?」
 喉奥から漏れ出る赤熱した炎は、怨嗟の具現か。
 ――いや、そういうの、どうでもいいから。
 噛まれて病に冒されて、それが原因で死ぬとかいやだから。
 ――だって、死んだらもう、このひりつくような感覚が味わえないから。

「なあ、なあ、こんなもんじゃねえよな!?」

 まだまだまだまだ、遊びたりねぇよな!?
 いっとう芝居がかった様子で零が愛銃を天井に向けて引鉄を引く。
 それにより喚ばれたのは、かつて戦場で散った兵士と、その兵士が従えていた獅子に似た魔獣の霊。
 そのものども、【明日を夢みて過去より来たり(ワンモアタイム)】。
 零もまた結社員同様に身を退いて、戦を霊たちに委ねる構えを取った。
『こっちの戦い方を真似て……!?』
『ちくしょう、狼がまるで役に立たない!』
 結社員たちが操る影の狼の力は、元々戦慣れしている兵士や百獣の王たる獅子には到底敵わない。
 何とか隙を突いて影を伸ばそうとするけれど、まるでミュージカルの本番さながらに、心底楽しそうに動いて回る零をどうしても捉えることができない。
 何しろ、ただでさえ昂ぶっている零が、攻撃と防御を兼ねた動きを見せる霊たちに守られながらしっかりと回避行動を取るものだから、せめてひと噛み――すら困難だ。
「ひゃはははは、楽しいなァ!! お前らも楽しいだろ?」
 零の金眼が光を曳くように見えたのは、気のせいではなかっただろう。
 問うてはみたが、零は結社員たちの様子にしっかりと気付いていた。
「あんまり楽しそうって感じしないなぁ? ん?」
 兵士の軍刀が、また一匹影の狼を斬り伏せる。
『う、ぐ……』
 自らの意思ではなく、本能的に、無意識に一歩退いてしまう結社員たち。
「舞台の上にいるんだから、楽しんでないと客に失礼なんじゃねえの?」
『――っ!』
 誰ともなしに、息を呑んだ。

 ここは、舞台の上。
 ならば、自分たちは何だ?

『わたし、たち、は……』
 退くに退けない、けれど踏み込む勇気もない。
 そこへ、零の致命的な言葉が突き刺さった。
「あんたら『役者』だろ? 嘘でも楽しそうにしろよ」
 それこそ、人生を賭してまで演じきる覚悟はあるか?
 零のように、そしてソマリのように、自分を貫き通す覚悟はあるか?

 何のために戦うのか。
 何のために生きるのか。
 その点だけにおいても、勝敗は既に決していたのかも知れない。

 スポットライトを浴びる感覚もこそばゆく、しかし月の精霊の子たるチィにとってはまるで月光のように思えたのかも知れない。
 都月の肩の上でふんっと小さな身体に力を入れれば、結社員たちを照らす照明がたちまち月の魔力を帯びて、元々は一般人たる彼らの足元をおぼつかなくさせた。
『な、何だ……急に眠気が……』
『しっかりするんだ……支え合って!』
 結社員たちは手近な面々と互いの身体を支えるようにして、必死に眠気に抗う。
 影と影とが束ねられるように、影狼の数は減り、しかし一匹が大きくなる。
「よし、精霊様」
 木から削り出された杖が今宿しているのは、氷の精霊様。
 舞台を一度杖でかつんと突いて、狼に負けじと影を纏うようにすれば――都月の身体は巨大な黒い狐の姿となり、口からは凍てつく冷気を吐き出した。

(「俺と一緒に駆けて下さい――【精霊疾走(トモニカケルモノ)】」)

『う、うわあぁ!』
『こっちへ来ないで!!』
 半ば悲鳴じみた声を上げ、結社員たちが無駄に力を合わせた巨大な影狼が迫る。
 だが、助走をつけて巧みなステップを踏む狐は、そう易々とは捕食されない!
(「がぶーっ!!」)
 最低限の動きで顎を躱した狐は、即座に冷気吐き出す己の顎で反撃をする。
『ギャウッ……!!』
 ばきばきばきばき、と音がして、都月が変じた狐が喰らい付いた先から影が凍りつき、そしてかき消えていく。

 結社員の数はそれなりに多い。
 こうして、何度でも心を折って、影朧をあきらめさせねばならなかった。
 ――戦いは、まだもう少しばかり続きそうである。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

仇死原・アンナ


日の目を見ぬ者の怨み…か…
彼らの業なくしてスタァも物語もこの劇場も成り立たぬはず…
だが…今の彼らは聞く耳持たず…いや怨嗟吐く口だけか…
彼らとスタァの苦悩…幻朧桜よ…すべての恨みと苦痛を癒したまえ!
私は処刑人…呪われし力を己が身に宿す者…!

【絶望の福音】を用いて
敵群の攻撃を[見切り、ジャンプとダッシュ]で回避しよう

霊剣振るい[破魔]の力で敵群を攻撃し[浄化]
あるいは[功夫]用いた蹴りで蹴飛ばし[吹き飛ばそう]

影朧を駆逐したら怨み抱く人々を鎖の鞭振るい
[マヒ攻撃で捕縛し逃亡を阻止]しよう…

怨み癒えるまで頭を冷やせ…
あなた方を見てくれる人はいるのだから…

さぁて…表舞台に出てきたらどうだ…首魁め…!



●舞台の上・第四幕
「日の目を見ぬ者の怨み……か……」
 呟きながら舞台に上がった仇死原・アンナがスポットライトを浴びるさまは、まるでスタァが満を持して靴音を鳴らすようで、結社員たちの身を無意識に固くさせた。
(「彼らの『業』なくして、スタァも物語もこの劇場も成り立たぬはず……」)
 アンナはその瞳に憂いを湛え、正しく対峙するものたちを理解する。
 対する結社員たちは、いまだその瞳を曇らせたまま、呪詛を吐くばかり。
『あなたも……超弩級戦力ね? しかも、とても強い』
『強くて美しい、申し分ないじゃないか』
『我々は、そんな君のような人が地に墜ちるさまを見たい』
 何が、分かるというのか。
 仇死原・アンナという猟兵が、生まれてからこれまで、どのように生きてきたか。
 その壮絶さを知ってなお、同じことが言えるのかとさえ思うものもいるだろう。
 ――当のアンナは、ただ帽子のつばでできた影を顔に落とすばかり。
(「だが……今の彼らは聞く耳持たず……いや、怨嗟吐く口だけか……」)
 言葉を尽くして心を引き戻すことができるとしても、今はその時ではない。
 そう判断して、アンナは波打つ刀身持つ霊剣「芙蘭舞珠」を握りしめた。

「彼らとスタァの苦悩……」
 かつん。靴音がステージに響く。
「幻朧桜よ……すべての恨みと苦痛を、癒したまえ!」
 脚光を浴びて、アンナは――アンナ・アンダルシャナは霊剣を掲げる。
 影を伸ばす結社員たちを見据える黒曜の瞳は、強い意思を秘めていた。
「私は『処刑人』……呪われし力を己が身に宿す者……!!」
 数秒後、己の影が狼に変じて、己を喰らう未来をしっかりと把握しながら。

 ユーベルコヲド、【絶望の福音】。
 見せられる光景は絶望の未来であっても、それをあらかじめ知ることによって回避の契機を得ることができるという点では、確かに福音と言えるだろう。
 アンナ自身の影から狼が群れのように生じ、包囲するように飛びかかってくるのを――『知っている』からこそ読み切って、舞台を蹴って疾走することで影を振り切り回避する!
『ま……まだだ!』
 影の狼を操る者どもが、アンナから伸び続ける影の狼を再びけしかける。
 キュッ、と靴音を響かせ身を翻し、一転狼どもと向き合ったアンナは、手にしていた霊剣で再び迫り来る狼どもを横薙ぎに一閃。
『くっ……!』
 結社員のひとりが絶妙なタイミングで影の狼をけしかけ、剣を振り抜いた直後でがら空きになったアンナの胴を狙おうとする。
「ふ、っ……!」
 だが、今のアンナに虚を突くという行為は通用しない。
 それさえも見通した処刑人は、ガッと剣を舞台に突き立て、それを支えにして影の狼を勢いよく蹴り飛ばした!
『ギャッ……!』
 豪快に飛ばされて、ゴロンゴロンと舞台を転がった末にかき消える影朧。
 それを眼前で見届けてしまった結社員たちは、一様に言葉を失っていた。

『……強、すぎる』
『どうなってるんだ……ぐわっ!?』
 あまりの圧倒ぶりに呆然となる結社員のうちひとりを、アンナが鮮やかな手際で鎖の鞭を振るってぐるぐると捕縛した。
「怨み癒えるまで、頭を冷やせ……」
 アンナが淡々と語りかける。拘束したのは逃亡を防ぐためであり、害意はないのだ。
「あなた方を見てくれる人はいるのだから……」
 役者として頑張っているならば、ファンがまったくいないということはないだろう。
 裏方として頑張っているならば、彼らなくして舞台は成立しないというもの。
 そしてそれを誰よりも何よりも知っているのは――。

「さぁて……表舞台に出てきたらどうだ……『首魁』め……!」

 この事態を引き起こした張本人にこそ、アンナは静かに怒りを燃やす。
 劇場を、劇団員を、愛してやまないスタァの顔を思い浮かべながら――。

成功 🔵​🔵​🔴​

シキ・ジルモント

彼女の人生が挫折を知らない恵まれたものに見えるか…なるほど、大したものだな
その認識こそ女優ソマリという人物像を彼女が日々築き上げてきた証
素晴らしい仕事ぶりだ

そして俺の仕事は影朧の被害を防ぐ事、その為にここに来た
あんた達はどうだ
影朧を使役して暴れる事があんた達の仕事か?

それにソマリは、この場の異変に気付いていたぞ
この場所とそこに居る者をよく見ているからこそ、僅かな異変にも気付けたのだと思うがな

対話の最中もユーベルコードの効果と『聞き耳』を立てて周囲を警戒
影の頭部の接近を察知し、その口へ銃口を突っ込んで噛み付きを妨害し反撃に繋げたい
影朧を殲滅し、操る者は無傷で捕縛を試みる
…少し、頭を冷やすと良い


グウェンドリン・グレンジャー
ソマリ、安全なとこ、行った
(無表情のまま安堵した様子で)

(ラムプに灯る銀青の焔、UC発動。精神顕現体の移動力は半分、攻撃回数を5倍に)
この子は、私の精神、の、一部、神様を模したカタチ、成したモノ
だから、本物、じゃない

けど、こんな話がある

由来に、なった女神……は、ずっと顧みられなかった、影の国のお姫様
眩しく輝く、光の国のお姫様……妹、ずっと恨んで、暮らしてた
でも、自分の恋、自分だけの王子様、だけは、誰にも譲りたくなくて、初めて声を張り上げた
なんやかんや、で、王子様と幸せに、暮らした

(襲い来る影狼を迎撃するように、梟が羽ばたく。念動力と、風の属性攻撃を乗せた冥界の風)

……あなた達、は、声、上げた?



●舞台の上・第五幕
「ソマリ、安全なとこ、行った」
 グウェンドリン・グレンジャーが無表情のまま、しかし安堵した語調で告げる。
「……そうか」
 それを受けたシキ・ジルモントはほんの少しだけ眉尻を下げ、同じく安堵を示す。
 ソマリは自分可愛さだけで劇団員たちとの対峙を避けたのではない。
 自分ではどうしようもない脅威が潜んでいることを本能で察知したからこそ、超弩級戦力たちに事件の解決を託したのだ。
 影朧を操る者どもとの戦いは猟兵たち有利に進みつつあり、劇団員たちの攻略も時間の問題であった。
 幕引きの時は近い。銀の狼と青い蝶は、舞台へと歩を進めた。

『なあ、話が違うんじゃないか……?』
『何言ってるの、影朧を操る力をもらったのよ!? あきらめちゃ、それこそ……』
『……』

 結社員たちの間に、超弩級戦力との直接対決によって否が応でも理解せざるを得ない現実が、じわじわと染み渡りつつあるようだった。
 どう足掻いても、自分たちの力では――勝てない。
 だが、それを認めてしまっては、今度こそ再起が叶わぬほどの痛手になりかねない。
 だから、呼び掛けて影が応じ狼の姿を取り続ける限り、退くわけにはいかなかった。

「彼女の人生が挫折を知らない恵まれたものに見えるか……なるほど、大したものだな」

 また一人、新たな役者が姿を現す。
 舞台に踏み込んだシキをスポットライトが照らし、語る言葉を響かせる。
「その認識こそ『女優ソマリ』という人物像を彼女が日々築き上げてきた証」
 ――素晴らしい仕事ぶりだ、そう賞賛して。
 ショルダーホルスターに納めた愛銃にいつでも手をかけられるよう意識しながらも、シキはまず対話から入ろうと試みる。
「そして、俺の仕事は影朧の被害を防ぐ事、その為にここに来た」
『……つまりは、邪魔をするってこと』
「……あんた達はどうだ、影朧を使役して暴れる事が、あんた達の仕事か?」
『うるさい!!!』
 激高した結社員の一人が、独断で影の狼を単独でシキにけしかけた。
 だが、奇襲のように見えたそれは――銀の狼の鋭い五感と直感によって既に把握されていたのだ。
 己の影の位置をも確認して、影の狼が迫るとしたらどこを通って来るのかをシミュレートし終えていたシキ。
 影の頭部の接近を的確に察知し、視線を向けることなく抜き放ったハンドガン・シロガネの銃口を顎へ突っ込んだのだ。
『ガ……ッ』
 鈍い手応えを感じながら、シキはそのまま腕を振り上げ影の狼を放り投げると、眉間を撃ち抜き霧散させた。
 それを、あくまでも機械的に淡々とこなしてみせたのは、半ば『分からせる』ためでもあった。
 荒療治か、と思わなくもなかったが、結社員には危害を及ぼさず戦意だけを折るには、きっとこれこそが最適解なのだろう。

「それにソマリは、この場の『異変』に気付いていたぞ」
 表情一つ変えずに告げるシキの言葉に、結社員たちが息を呑む。
「この場所と、そこに居る者をよく見ているからこそ、僅かな異変にも気付けたのだと思うがな」
 結社員たちの影朧は、一体一体はともすれば一般人でも相手取れるほどに、弱い。
 群れた時こそその脅威を見せつけるのに、シキの言葉に心がばらばらになったか、無策に襲いかかっては返り討ちにされるのを繰り返すばかり。
 ――そこへ、銀青の焔が、ぽうと輝いた。

 死神のアルカナの精神顕現体を、黒く巨大なフクロウの姿に変えて。
 亡霊ラムプ「Glim of Anima」により発動するユーベルコヲド【Queen of the Night(メイカイノジョオウ)】が、劇場に舞い降りた。
「この子は、私の精神、の、一部」
 ――神様を『模した』カタチ、『成した』モノ。
「だから、本物、じゃない」
 グウェンドリンが道行きを照らすもののようにラムプを掲げながら、訥々と告げる。
「けど――こんな話がある」

 由来になった女神は、冥界の女主人。
 ずっと顧みられなかった、影の国のお姫様。
 妹――眩しく輝く、光の国のお姫様を、ずっと恨んで暮らしていた。

『……』
『……』
 グウェンドリンの、まるで本物の女優もかくやの語り口に、本職であるはずの結社員たちが知らず知らずに呑まれていく。
 さあさ、お立ち会い。
 これより語り聞かせるは、まさしく皆々様方へと捧げる物語。

「でも、自分の恋、自分だけの王子様、だけは、誰にも譲りたくなくて」
 空いている方の手をすいと伸ばして、ぐっと何かを掴むように握り込む。
「――初めて、声を、張り上げた」
『……どう、なったの?』
 思わず問う結社員に、緩やかな笑みでグウェンドリンが答えた。
「なんやかんや、で、王子様と幸せに、暮らした」

 ――そう、良かった。

 心がひとつになったかのように、一斉に襲いかかってくる影の狼ども。
 それをグウェンドリンは、フクロウを羽ばたかせて迎撃する。
 吹き荒れるのは冥界の風、強い風の力と念動力を乗せて、影朧どもを蹴散らした。

「……あなた達、は、声、上げた?」

 欲しいものがあるなら、欲しいと言えばいい。
 不満があるなら、きちんと伝えて解決させればいい。
 今していることは何だ、結果として何を生み出すのか?

『……っ』
「悪いな、これ以上やろうというならこうだ」
『痛っ!』
 なおも狼をけしかけようとする結社員のひとりを、シキがいつの間にか背後に回り込み腕を後ろに引き、手際良く拘束する。
 ひとり縛って転がして、まだやるかと切れ長の瞳だけで問い掛ける。

「……少し、頭を冷やすと良い」

 二人の言動は、確実に結社員の心を動かし、戦意を喪失させつつあった。
 あと、ひと押し。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

桜雨・カイ
ソマリさん…わかりました取り戻してきます、あなたの舞台を

…せっかくのスポットライトなのにもったいないです
影を使ってくるのなら光で対応です。
【援の腕】発動
浄化の光を放ち、周囲の影を消し去りサポートします。

メンバーの人達へ
もっと自慢してください、教えて下さい
舞台を成功させる為に、道具にどんな工夫をしたのか
あなたがその役を演じる為に、どんな努力をしてきたのか
それが私からの『問い』です

結社の人は念糸でぐるぐる巻きに
元々はみんないい人たちだった、とソマリさんは言っていました…見てましたよ彼女は

どんなにソマリさんに才能があっても、一人で舞台はできないです。
いつか改めて作って下さい、あなたたちの最高の舞台を


荒谷・ひかる
これは……ちょっと全力で、目を覚まさせてあげないといけませんね。
その溜め込んだもの全部、ここでわたしが吐き出させてあげます!

【転身・精霊寵姫】発動
桜巫女な魔法少女姿に変身、空中でポーズを決めつつ舞台に参上
舞台上ということもあって派手に魅せるように光と桜の花弁のエフェクトを撒き散らしながら、戦闘そのものは油断なく容赦なく
飛行と魔法障壁で敵を近寄らせず、重力・凍結・電撃魔法で捕縛
捕えたなら光の桜吹雪で呑み込んで、影朧のみ徹底的に浄化(撃破)
やりすぎなくらいにやるのは、それが必要だと……彼らが「取るに足らない存在」ではないと証明するため

あなた達を蝕む心の闇……全てわたしが、わたし達が祓ってみせます!



●舞台の上・終の幕
 劇場のドアを押し開けて、桜雨・カイが決意と共に姿を現す。
 階段を降りきった先には、スポットライトも眩しい舞台がある。
(「ソマリさん……」)
 舞台の上に立つ人影こそが結社員たち――そう、今や劇団員という立場を忘れて、ソマリから愛する舞台を奪った者たち。
(「わかりました、取り戻してきます――あなたの舞台を」)
 青い瞳で前を見据えて、カイは影と陰とが待ち受ける舞台へと向かっていった。

(「これは……ちょっと全力で、目を覚まさせてあげないといけませんね」)
 荒谷・ひかるもまた、足音を吸う床を軽やかに進みながら、舞台を目指す。
(「その溜め込んだもの全部、ここでわたしが吐き出させてあげます!」)
 舞台へと上がるには、キャスターがついた移動式の小さな階段を使う。
 だがひかるは決意と共に強く一歩踏み込むと、その小柄な身体を宙に舞わせた。

 ――【転身・精霊寵姫(エレメンタル・ポゼッション)】!

 それは、さながら桜の巫女と言うべきか。
 光に包まれ、桜の花弁が舞い散るようにその光が弾け飛んだあとには、桜色の魔法少女が空中で決めポーズを取る姿があった。
「行きますっ……!」
 空を飛ぶ能力を得たひかるは、そのまま舞台へとひとっ飛び。
『なっ……!?』
『ワイヤーアクションなんて、舞台じゃなきゃできないわよ!?』
 舞台の上で騒然とする結社員たちを見下ろしながら、ビシッと再び決めポーズ。
「あなた達を蝕む心の闇……全てわたしが、わたし達が祓ってみせます!!」
 そう力強く宣言するひかるに続いて、カイも強い意思と共に舞台へと上がる。
「そうです、私たちがあなた達を――」

 助けに来た。
 敢えてそうとは告げずに、二人は光をたずさえて、闇と対峙する。

 役者は揃ったとばかりにスポットライトが二つ増え、光と影が交錯する。
『あなたたちに、私たちの何がわかるっていうの!!』
 身勝手な憤りが。
『何が足りないっていうんだ、俺たちに!!』
 空しさと悔しさが。
『わたしたちだって、少しは報われたっていいでしょ!?』
 どうしようもない飢えと渇きが。
 激情となって劇場を震わせ、影より狼を次々と生み出す。
 怨嗟の念は獣の唸り声となって、カイとひかるを威嚇しようとするが。
(「……せっかくのスポットライトなのに、もったいないです」)
 動じることなく、まずはカイが光を浴びながら両手を鷹揚に広げた。
 そこから溢れ出すのは、まばゆいまでの、スポットライトより強く輝く『ひかり』。
 一斉に飛びかかってきた影の狼を一瞬にしてかき消して、なお光り続けるもの。
『な……っ!?』
『照明を調整しろ、影を出すんだ!!』
 咄嗟に叫んだ結社員に呼応するように、スポットライトが絞られたり照射角度が変えられたり、再び影が生じるように対応されてしまう。
 だが、ここにはもう一人超弩級戦力がいる。桜巫女の姿を取ったひかるだ。
「何度、影を、闇を生み出しても……!」
 ここが舞台の上であるということを強く意識して、ひかるは一挙一動に力を込めた。
 光の精霊さんを味方に付けたひかるが文字通り宙を舞えば、光と桜の花弁が輝き散って、次々と迫る影の狼の攻撃を魔法の障壁でいなしてみせる。
「何度でも、照らし続ける……っ!!」
 魔法の杖を振るって、重力で押し潰す。氷結と電撃とで動きを止める。
 そして光の桜吹雪でまとめて呑み込み、影朧『だけ』を徹底的に――油断も容赦も一切なく、浄化し尽くしていく。
(「やりすぎなくらいにやるのは、それが『必要』だと……」)
 手札を完膚なきまでに叩きのめされ、震える結社員に、ひかるは告げた。

「どうして、わたしがここまでするのか、分かりますか」

 結社員たちは、みな一様に首を振るばかり。
 考えられないのか、考えたくないのか。どちらであれ、ひかるは正解を教える。

「あなた達が、『取るに足らない存在』ではないと、証明するためです」

 その後を、カイが引き継いだ。
 結社員たちをも包むカイの光、カイの腕――【援の腕(タスケノカイナ)】が、確実に効果を発揮しつつあった。
「もっと自慢してください、教えて下さい」
『ぐ、う……』
 できることなら、向き合いたくなかった。
 被害者でいれば、楽でいられたから。
 誰かを悪者にすれば、気が晴れたから。
 けれど、今や舞台中を包み込む浄化の光が温かく優しく、しかし逃げることを許さない。
「舞台を成功させる為に、道具にどんな工夫をしたのか」
 道具係が顔を歪める。確かに、できる限りの努力はしてきたつもりだったから。
 けれども、ある時心に生じてしまった闇が確かにあった。
 どれだけ努力をしても、賞賛を浴びるのはいつだって役者たちばかり。
 裏方とはそういうものとは理解していても――生じた闇は祓えなかった。
『……』
「あなたがその役を演じる為に、どんな努力をしてきたのか」
 稽古も、自分磨きも、誰よりも頑張ってきたつもりだった。
 役者たちもまた、苦しげに顔を歪め、拳を握る。
 絶対的な評価で見れば、自分たちにもファンと呼べる存在は間違いなくいてくれる。
 それこそが大切にすべき評価だとは理解していても――上を、見上げてしまうのだ。
『……う、うぅ……!!』
 ままならない心に、結社員たちが一人、また一人と膝からくずおれていく。

『今、照明を操作してくれてるジョン……すごかったろ?』
「……ええ、あっという間に影を生み出して」
 カイが、ひとりひとりの答えを穏やかに聞き入れながら、けれどこれ以上変な気を起こさぬようにと念糸でぐるぐる巻きにしていく。
『この力を授けられて……歯止めがきかなくなったの。気が大きくなっちゃったの』
「まさにこの狼のように、群れれば強いと思い込んでしまったのですね」
 大人しく拘束を受け入れていく結社員たちに、カイは告げねばならないことがあった。

「『元々はみんないい人たちだった』と、ソマリさんは言っていました……」
『『『……!!』』』

 弾かれたように顔を上げる結社員――劇団員たち。
「見てましたよ、彼女は」
 カイは笑って、これで何もかもが終わってしまう訳ではないということを伝えた。
 桜巫女の姿をしたひかるも、うんうんと頷いてニコニコ笑う。

「どんなにソマリさんに才能があっても、一人で舞台はできないです」
 カイの願いは、心からのものであった。
「いつか、改めて作って下さい。あなたたちの、最高の舞台を」

 誰ともなしに、泣き出す声が。
 それを隠すことも拭うことも許されないのは、ささやかな罰であろうか。
 まずはひと段落――そう思った時。

 乾いた拍手が、すすり泣きの声だけが小さく響く舞台にいやに響き渡った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『贖罪の山羊』

POW   :    あのとき、本当はどうしたかった?
自身が【色褪せた台本を開いて】いる間、レベルm半径内の対象全てに【後悔が残る場面を『再上演』する幻覚】によるダメージか【後悔を克服すること】による治癒を与え続ける。
SPD   :    悔やむことは哀しくて尊いことだ
【流星の尾を引く万年筆】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【任意の場面に対する罪悪感】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ   :    あの日にかえろう
戦場全体に、【後悔、罪の意識の深さだけ困難化する性質】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はシャト・フランチェスカです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●人は如何にして輝くのか
 ぱち、ぱち、ぱち、ぱち。
 拍手と共に、舞台の上に姿を見せたのは、白い三つ揃えのスーツを身に纏った紳士。

『いやあ、お見事だったよ諸君。そして――超弩級戦力の皆々様も』

 鷹揚な態度で舞台を見渡す男こそ、『ムーンキャット・シアター』の支配人。
 そして、『結社』を率いる今回の事件の黒幕。
 部下たちが文字通りの一網打尽にされているというのに、それを満足げに見遣るのだ。

『如何だったかな? 彼らが紡ぐ『物語』は』
 支配人の手には、台本らしき冊子があった。
『夢見た幕引きとは異なったかも知れないが、これはこれで良いのだ』
 結社員――劇団員たちはみな一様にすっかり戦意を喪失し、己の行いを悔いている。
 部下たちを無力化されて、その状況をむしろ歓迎するかのような言動は一体何か?
『ソマリを妬み、愚かな行為に走り、それを君達超弩級戦力に窘められ――彼らは今、心から『後悔』していることだろう』
 それがまるで、己が手にした『台本』に書かれた筋書き通りであるかのように。
『そしてこれから、彼らは『成長』してこの劇場で光り輝いてくれることだろう』
 朗々と持論をぶち上げる支配人の目は曇りなく、それがひどく不気味であった。

『抱いた『後悔』も『罪悪感』も、克服すれば人を大きく成長させる』
 支配人が台本を開けば、ぞわりとした強大な気配とともに影朧が現れる。
『私はね、ソマリにこそ――この影朧の力で、より高みを目指して欲しいのだよ』
 天才肌のソマリは、確かに人知れず努力を積み重ねて今の地位を手に入れた。
 けれども、それ故に『挫折』を知らない。『敗北』を知らない。
 ――ならばそれを知り、それを克服したならば?
『彼女には無限の可能性がある、私はそれを見たい!』

 ――何という身勝手!
 猟兵たちは本能で察する、この男だけは捨て置いてはならないと!

『――』
 贖罪の山羊が、ゆらりと虚ろな瞳を猟兵たちへと向ける。
 その手には、色褪せた台本が開かれていた。

●戦闘ルール
 POW、SPD、WIZ(選択したユーベルコードに準じます)で贖罪の山羊が繰り出してくる攻撃に対する対処を、PC様なりに指定して頂ければと思います。
 ユーベルコードでの攻撃は最低限「UC使用」の記載があれば大丈夫です。
 参加者様全員がが後悔や罪悪感を克服したり受け入れたり、何らかの形で自分の中で解決させられれば影朧を退けることができます。
 支配人については言及しないで大丈夫です、影朧を何とかした後ふん縛れますので。
吉岡・紅葉
後悔…罪悪感…。
うん、私には無縁の言葉ですね(きっぱり)
だって私は、いつだって楽しい明日を夢見るハイカラさんですから!
昨日より今日、今日より明日が大事なんですよ!
そりゃあ私も、上手くいかないこといっぱいありますよ。
でも、友達とお話ししたり、カフェーでお菓子を食べたり、
自転車に乗ったり歌を歌ったりしたらすぐ忘れちゃうんですよね~。
あっ、今単純なヤツだって思いました?
でもね、それぐらいシンプルなほうが人生きっと
うまくいくと思うんですよね、どんな状況や環境だろうと。

……はい、そんなお話してるうちに【スキルマスター・スティール】で
万年筆は盗んでおきましたから。
あとは煮るなり焼くなり好きにしましょう!


仇死原・アンナ


…身勝手な奴め
貴様をぶちのめし生きている事を後悔させてやる!
だが…まずはあの影朧を討ち倒さねば…!

後悔…か…
何故この呪いを授かりこの世に生まれ落ちたのか…
どうして今亡き父に拾われ処刑人の娘として育てられたのか…
もし呪いを宿さず普通の女として生きていたのなら…

我が身を呪う事は幾度もあった…
だが…
この呪い無くして数多の世界を救う事は出来なかった…
処刑人の技無くして戦う事は出来なかった…

後悔や罪悪感に溺れてしまえば…
オブリビオンに成り果ててしまうのだろう!

スタァとの約束を守る為に…私は処刑人だッ!

処刑人としての[覚悟]を胸に宿しUC使用
敵の攻撃を[見切り]
霊剣振るい敵を[破魔で浄化]してやろう…!



●振り返る過去と、それがないもの
 ――さあ、君たちの悔悟を示しておくれ。
 まるで全てを意のままに操っているかのごとく、劇場の支配人は両手を広げる。
 その手にある台本から生じた影朧『贖罪の山羊』は、無言でその前をたゆたう。
 いつの間にか、もう片方の手には万年筆が握られていた。

「……身勝手な奴め」
 ぎり、と奥歯を噛むのは仇死原・アンナだった。
 その視線の先には、影朧の向こう側で余裕綽々の支配人。
「貴様をぶちのめし、生きている事を後悔させてやる!」
『威勢の良いことだ、君にこそ今生きている喜びを改めて噛みしめてもらいたいね』
「……っ!」
 相手は一般人だ、アンナがその気になれば拳のひとつもくれてやればすぐに黙ることだろう。けれど今はその前に影朧が立ちはだかっている。
(「だが……まずはあの影朧を討ち倒さねば……!」)
 贖罪の山羊と呼ばれた影朧は、台本を下げた代わりに万年筆を中空に掲げて不気味にアンナの方を見ていた。
『――』
 虚ろな目が、アンナを見据えたその時だった。

 かつん!

 舞台を踏み鳴らす、小気味良い音が響き渡った。
「後悔……罪悪感……」
 一目見ればそれとすぐ分かる凜々しき學徒兵、吉岡・紅葉がそこにいた。
 目を閉じ軽くうつむいていた紅葉は、不敵な笑みと共に顔を上げた。
「うん、私には無縁の言葉ですね!!!」
 どきっぱり。紅葉が一切の迷いもなくそう言い放ったものだから、味方であるアンナだけでなく、影朧の向こう側にいた支配人までギョッとした顔になる。
「な……」
『どうしてそんな、晴れ晴れしい顔を……!?』
 人間それなりに生きていれば、多少なりとも悔いることのひとつやふたつもあるだろう。
 そういった、ある種逃れられぬ心の澱を突く最強クラスの影朧として用意したというに。
 軽やかなステップを踏んで、くるりくるり。紅葉は大一番の舞台に相応しい振る舞いで、まるで悲劇など似合わぬと言わんばかりに影朧へと近付きながら朗々と告げた。

「だって私は、いつだって楽しい明日を夢見る『ハイカラさん』ですから!」

 紅葉が、スポットライトにも負けない輝きの後光を背負う。
「昨日より今日、今日より明日が大事なんですよ!」
 くるり、くるり。
 一点の翳りもない言葉で、陰鬱な気配を纏う影朧へと着実に迫る。

『――僕が、君に与える罪悪感は、無いというのかい』
「そりゃあ私も、上手くいかないこと、いっぱいありますよ」

 その物憂げな顔を照らしてやる、という意図はなくとも、自然と紅葉の後光が影朧を照らす。
「でも、友達とお話したり、カフェーでお菓子を食べたり、自転車に乗ったり」
 弾む声で語れば、聞くもの誰もがありありとその様子を思い浮かべる。
 気がつけば紅葉は、鼻歌交じりに言葉を紡いでいた。
 ――その様、まるでミュージカルスタァ!
「歌を歌ったりしたら、すーぐ忘れちゃうんですよね~~~」

 ひょい、と。何気ない仕草で、影朧から万年筆を取り上げて。

『――』
「あっ、今単純なヤツだって思いました?」
 万年筆をクルクル回しながら、紅葉が一瞬アンナへと目配せを送る。
「でもね、それぐらいシンプルなほうが、人生きっとうまくいくと思うんですよね」
 舞台の上でスポットライトが動き――紅葉とアンナとが入れ替わる。
「どんな状況や、環境だろうと」
「……面白い人ね、あなた」
 かつん、かつん。今度はアンナが、口元に僅かな笑みを浮かべて前に出た。

「後悔……か……」
 後悔を、罪悪感を想起させる万年筆を取り上げられた影朧へ、自らそれを曝け出す。
「何故この呪いを授かり、この世に生まれ落ちたのか……」
 仇死原・アンナ――アンナ・アンダルシャナは、一度は死んだかと思われた赤子。
 せめてもの情けと埋葬を試みた処刑人の男の手で取り上げられた時、息を吹き返した。
「どうして、今亡き父に拾われ、処刑人の娘として育てられたのか……」
 アンナが生まれ育った世界は、猟兵たちが知る他の世界の中でも屈指の過酷さを持つ。
 どの世界にも事情はあれど、ことダークセイヴァーという世界は――人類に厳しい。
 そんな中で救われた貴重な命を、育ててくれたことはありがたく思うけれど。

 それでも、考えてしまうのだ。
「もし呪いを宿さず、普通の女として生きていたのなら」と――。

 影朧が、本来ならば万年筆を手にしていたはずの手を少しだけ揺らす。
『もしもの自分が、眩しく思えるのかい』
 霊剣の柄に手をかけながら、アンナは目を閉じる。
「我が身を呪う事は、幾度もあった……」
 呪われた力を振るう己をこそ呪う。処刑人としてどれだけの断罪を為してきただろう。
 けれど。
「この呪い無くして、数多の世界を救う事は出来なかった……」
 すらりと音がして、霊剣が照明を受けて輝いた――抜刀である。
「処刑人の技無くして、戦う事は出来なかった……」
 この『力』がなかったら、アンナは守りたいと願うものを何一つ守れず、己の無力をただ嘆くばかりであったろう。
 だから、たとえこれまでに思い悩んで眠れぬ夜があったとしても、アンナは決してそれに屈することはなかった。
 何故なら。

「後悔や罪悪感に溺れてしまえば……オブリビオンに成り果ててしまうのだろう!!」

 死してなお、過去の存在でありながら現界し、現在と未来を蝕む存在。
 サクラミラージュの影朧は比較的その力が弱いとはいえ、捨て置けぬのは同じこと。
 だからアンナは、紅葉が一時的に無力化させてくれた影朧に霊剣の切っ先を向ける。
(「スタァとの約束を守る為に……」)
 実際に会ったソマリというスタァは、また舞台で演じたいと願っていた。
 それを影朧が妨げるというのならば、超弩級戦力として排してみせよう。

「私は、処刑人だッ!!」

 何度忌まわしいと思ったか知れぬこの力で――望む未来を斬り開け。
 誰にも揺るがせられぬ覚悟を胸に宿して、アンナが霊剣を横薙ぎに振るう!
『――ッ』
 行使する支配人が咄嗟に影朧を後退させ、身体を両断されることだけは回避する。
 しかし霊剣が影朧の身体を切り裂いた傷は、破魔の力で確かに浄化をもたらし――。
『……やる、ね』
 影朧に、確かな損傷を与えていた。

 その時、ぽーいと宙を舞う万年筆を、影朧は見逃さず受け止めた。
 見れば紅葉が、後光を背負ったままニコニコ笑顔で投擲の姿勢を取っていた。
「返しますねー、このまま持ってても何か不気味ですから!」
『……』
 虚ろな表情を崩さぬ影朧の向こう側へと、今度はアンナが告げる。
「待っていろ、この影朧を倒したあとは――必ず」
 白いスーツの男は、おお怖いとばかりに両手を上げて肩を竦めてみせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荒谷・ひかる
後悔と罪の意識:
『私(前世の自分)』がオブリビオンとして蘇り暴虐非道を働いたこと
そのせいでお爺様を始めとした多くの羅刹の戦士が死に、姉さんは人が変わってしまった

……そんなに人の可能性が見たいのなら。
(コード発動)
――好きなだけ見せてやるわ、下郎め。

【覚醒・一耀の魂】発動し真の姿へ変身・口調変化
敵コード効果(後悔・罪の意識の深さだけ困難化)に比例した戦闘力強化を受け、精霊の助力を得て迷宮突破
真の姿で手にしている刀で以て敵を一刀のもとに切り捨てる

起きてしまった過去は、変えられぬ。
ならば私と『わたし』は……過去を、後悔を、罪の意識を、力に変えて歩み続けるのみ。
その覚悟は、一つとなった時に決めてきた!



●宿した力の正体は
 舞台上のみならず、客席をも覆い尽くす、不可視の迷路が荒谷・ひかるを閉じ込める。
『――』
 色褪せた台本を手に、その様子を影朧は虚ろな表情で見つめていた。
(「これは……」)
 ひかるは焦ることなく冷静に状況を判断し、迷宮の複雑さが己に起因していることまで一瞬で見抜く。

 ――前世の自分が、オブリビオンとして蘇った。
 それは暴虐非道の限りを尽くし、祖父をはじめ多くの羅刹の戦士が落命した。
 果ては『神隠し』により元いた世界から姿を消したことで、己を探しに探した姉は再会してみればすっかり人が変わってしまっていた。

 何がいけなかったのか、誰も悪くなかったのか、自分さえいなければ――?
 後悔があるとすれば、罪の意識があるとすれば、この出来事をおいて他にない。
 ――けれど。
 ひかるは一歩、迷宮の先へと足を踏み入れる。
「……そんなに人の可能性が見たいのなら」
 常の柔らかい笑みが消え、敵対者への苛烈な敵意を瞳に宿し。

(「お願い、『私』。わたしに力を貸して」)
 ごうっ! と突如竜巻がひかるを包んだと思うや、風が凪いだあとには。
(「良いでしょう、『わたし』。私の力が、少しでも役に立つのなら」)
 一振りの日本刀を手にした、長い銀髪を三つ編みにした女性が立っていた。

「――好きなだけ見せてやるわ、下郎め」
 女性――前世の己とひとつになって『真の姿』となったひかるが、不敵に笑んだ。

 長年ひかるの心の澱となっていた後悔や罪の意識を反映して複雑怪奇な迷路と化した空間は、骸の海と同質のオーラに包まれた今のひかるにとって力の源でもある。
 ――事実上の、オブリビオン化。
 寸分の迷いもなく抜刀したひかるは、その刃に雷の精霊の力を乗せる。
 己と影朧との間はそう遠くないように見えて、迷宮の発生でひどく遠い。
「小賢しい、全て斬り伏せてくれよう」

 ひゅんっ……!!

 風を切る音さえ、したかどうかも分からない。
 確かなのは、ひかるが手にした刀が一度構えられ振り下ろされると同時に、迷宮が半壊したということ。
『……!?』
 初めて、影朧の顔に表情らしいものが浮かぶ。
 信じられないものを見たという顔をしていた。
「起きてしまった過去は、変えられぬ」
 何度悔やんだかも分からない、そしてその度に行き着いた結論。
「ならば私と『わたし』は……過去を、後悔を、罪の意識を」
 ひかると『一・耀』との思いはひとつ。刃を再び迷路に向ける。
「力に変えて、歩み続けるのみ」
 ざんっ!! 半壊した迷宮が、二の太刀であっけなく全壊する。
『馬鹿、な。どうして、そこまで』

 ――強く在れる?

 言外にそう問うた影朧に、ひかるは言葉の代わりに一太刀浴びせて答える。
「その覚悟は、一つとなった時に決めてきた!!」

 大きな傷を受けて、よろめく影朧に構わず、支配人は愉快げに手を叩く。
『はは、やはり――! 苦境を乗り越えた者は強い! 素晴らしい!』
 そして台本のページを繰れば、いかなる仕掛けか影朧の傷が若干癒える。
『さあ、ロア。良い生贄が見つかるまで、君にはまだまだ頑張ってもらうよ』
『……』
 ロアと呼ばれた贖罪の山羊からは、表情という色が再び消え失せていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木常野・都月


後悔か。
俺は狐だったから…沢山失敗して来たし、後悔も多い。
その中でもとびきり辛い後悔。

じいさんの家を出てしまった事だ。

年齢を考えれば、じいさんの方が先に死ぬ。
でもまさか…俺が出て数ヶ月後に死ぬなんて、夢にも思わなかったんだ。

だって、じいさんは記憶がない俺にとって、唯一の親みたいな存在だったから。

死期が近いなら猟兵にならずに一緒に居たのに。

でも、猟兵になる事を望んでたのは、他の誰でもないじいさんなんだ。

結局じいさんの望みを叶える為に、俺は猟兵にならなきゃいけなかった。

だから…俺はこの辛い後悔と一緒に生きていくと決めたんだ。

UC【精霊の矢】を。じいさんが望んだ猟兵の力。
氷の精霊様、お願いします。



●いつか来る別れに
 見えない壁に阻まれてまっすぐ歩けない舞台の上を、木常野・都月は懸命に手探りで歩もうとする。
(「後悔か」)
 己が抱くその感情こそがこの複雑な迷宮を作り出しているとするならば。
(「俺は狐だったから……沢山失敗して来たし、後悔も多い」)
 心当たりは数あれど、最大の重しとしてのしかかってくるものがあるならば。
 とびきり辛い、思い出すだに胸を刺す痛みが消えぬ後悔とは。

 ――じいさんの家を、出てしまった事だ。

 命あるものは、人でも狐でも何でも、いつかは死ぬ。頭では理解していた。
(「年齢を考えれば、じいさんの方が先に死ぬ」)
 壁にぶつかれば反対側へ、試行錯誤しながら、都月は迷宮を彷徨っていた。
(「でもまさか……俺が出て数ヶ月後に死ぬなんて、夢にも思わなかったんだ」)

 ――もっと一緒にいたかった。

(「だって、じいさんは記憶がない俺にとって、唯一の親みたいな存在だったから」)

 ――話したいことだって、いっぱいあった。

(「死期が近いなら、猟兵にならずに一緒に居たのに」)

 ――なあ、じいさん。じいさんなら、こんな時、何て言う?

 …………、…………。
(「…………、…………」)

 しばらく、無言で迷宮を行ったり来たりしているように見えた都月だが。
 その足は、確かに着実に出口の方へと向かっていたのだ。
「でも」
 ずっとうつむいていた都月が、黒曜の瞳を凜と前に向けて呟いた。
「猟兵になる事を望んでいたのは――他の誰でもない、じいさんなんだ」
 だから、これで。
「結局、じいさんの望みを叶える為に、俺は猟兵にならなきゃいけなかった」
 これで、良かったんだ。

 がしゃん、と。
 硝子が割れるような音がして、風が流れ込んでくる気配を鋭く察知する都月。
 精霊様と共にある都月なればこそ気付けた、脱出への最短ルート。
「だから……俺は」
 ぐっ、と。
 足に力を込めて、まっすぐに走り出す!

「俺はこの辛い後悔と一緒に、生きていくと、決めたんだ……!!」

 贖罪の山羊の姿が近い。
 杖を振るって解き放つのは、他の誰でもない『じいさん』が望んだチカラ。
「氷の精霊様っ!!」
 放たれた氷の矢が鋭く影朧を穿ち、その身を凍りつかせる。
『……君の物語もまた、完成されているのだね』
 影朧の言葉に、都月は緩く首を振った。

「まだまだ、これからだ――生きて、生きて、生き抜いた果てに、それを言うんだ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・深香
敵の攻撃は【オーラ防御】を纏いつつ【空中戦】で回避に徹するわ

後悔も罪悪感も、いくらでもあるわよ
あの日、全ての始まりの日
何も知らなかったとはいえ、村を離れてしまったこと
すぐに助けてあげられなかったこと

けれど起こった事を悔いても今更だわ
大切なのは今よ
そして、これからどうするかよ
嘆く時間があるのなら、その時間全てを弟のために使う
あの子の気が紛れるなら、どんなキャラだって演じてみせる
人からどう思われようとも構わない
私が勝手に決めた事

ねぇ、支配人さん
貴方も私も身勝手同士
それでも断言するわ
貴方はリーダー失格よ

【クイックドロウ】で【指定UC】
連射モードのアサルトライフル★MI/096を使用した【乱れ撃ち】を


シキ・ジルモント

『再上演』されたのは、この銃の前の持ち主が俺を庇って倒れた瞬間
巨大な魔獣が迫って、何も出来ない俺の前にあの人が飛び出して…
恐らく一生忘れられない後悔の記憶だ
あの時、本当は…そうだ、いっそ庇われずに俺が死んでいればよかった

…しかし、そうも言っていられない
あの人に生かされた、銃と共に『先』を託された
だから簡単には終われない、この後悔ごと受け入れて進む覚悟は出来ている

挫折が成長に繋がるとは一理あるが、こんな痛みを知らずに済むならそれが良いに決まっている
まして、それを善意として押し付けるとは…気に入らないな

影朧へUCで反撃
何故こうなったのか疑問は尽きないが、今は倒すことで身勝手な人の手から解放したい



●貴方の後悔、私たちの後悔
 シキ・ジルモントが、そして栗花落・深香が、それぞれ愛銃を手に油断なく立つ。
『――』
 ゆらり、と。贖罪の山羊が虚ろな表情のまま軽く台本を掲げれば、照明が絞られる。
「……っ」
 シキが、知れず息を呑む。舞台の上、照らされるのは自分一人。
 隣の深香は、うっすら汗ばんだ手でアサルトライフルを握りつつも、ただ見守る。
(「俺に、こうしてスポットライトが当たっているということは」)
 白銀の拳銃を握る手の力を決して緩めぬよう意識してしまうのは、これから見せられるであろう光景が想像出来てしまうから。

 ばしゃあっ!!

 そんなことが、起こるはずがないのに。
 シキは、確かに己のものではない鮮血にまみれていた。
「   ……っ」
 迫り来る巨大な魔獣の前に飛び出し、身を挺してシキをかばった恩人の名を呼ぶ。
 呼んでいるはずなのに、声がほとんど掠れてきちんと呼べない。
「……、……」
 守ってくれたひとが、何かを言っている。声が掠れて、ほとんど聞こえない。
(「ああ、そうだ――俺は、何も出来なかった」)
 この時のシキに己の身を守る術のひとつもあったなら、どうだったろう。
 あの人は、死なずに済んだのではないだろうかと思わずにはいられない。

 それこそが、シキ・ジルモントの心の澱にして、後悔。

 ハンドガン・シロガネと銘打った愛銃を、この上なく強く握る。
 あの日持ち主と、そしてシキと共に血にまみれた白銀の拳銃を。

(「あの時、本当は……」)
 シキの人狼の耳がわずかに垂れる。
(「そうだ、いっそ庇われずに、俺が死んでいればよかった」)
 奥歯を、痛いほどに噛みしめる。
 今ここに立つ己に、あの人にかばわれるほどの価値はあったのか?
 あの人の方が、余程生きている価値があったのではなかろうか?

 ぐるぐる、ぐるぐる。
 銃口を下に向けたまま動かないシキを、影朧と支配人が観劇でもするかのように眺めている。片方は無表情に、もう片方は満足げに。
 ――やがて、ハンドガンの銃口がゆらりと持ち上がり。
『――!』
 がぁん!! と、鋭い発砲音と共に影朧の浮かぶ舞台のすぐ下に穴をひとつ開けた。
 見れば、シキは一切の迷いを捨てた切れ長の瞳で、まっすぐに前を見据えていた。
「……しかし、そうも言っていられない」
 悔悟の念は確かに今もこの胸にあり、しかしそれ故にシキを生かす。
「『あの人に生かされた』、銃と共に『先』を託された」
 スポットライトを浴びて、シロガネが輝く。つながれた生命の証が、そこにはあった。
「だから簡単には終われない、この『後悔』ごと受け入れて進む覚悟は出来ている」
 今や幻影の返り血はそこになく、シキは耳をピンと立てて雄々しく立っていた。

 ばんっ! と音が鳴るような錯覚と共に、スポットライトが深香へと切り替わる。
「……そう、次は私ってことね」
『――』
 影朧が、茫洋とした表情からは信じられないほどの速さで迫り、万年筆を振るう。
 筆跡が流星を描くように、しかし深香は咄嗟に羽ばたいて舞い上がりそれを躱す。
 見上げた影朧の瞳に、ほんのり忌々しげな色が宿る。
 それを見下ろしながら、深香はアサルトライフル「MI/096」を手にしたまま告げる。
「後悔も罪悪感も、いくらでもあるわよ」
 あの時、ああしていれば良かった。
 あの時、ああしなければ良かった。
 深香の瞳に映るのは、無残にも燃え盛る故郷の村。

 ――あの日、全ての始まりの日。

「偶然、隣村までお使いに出ていたの」
 どうして、あの子を置いていってしまったの?
「何も知らなかったとはいえ、村を離れてしまったこと」
 どうして、私は生き残ってしまったの? ううん、そうじゃない。
「あの子を、すぐに助けてあげられなかったこと」
 猟兵として世界中を渡り歩き、探しに探した。
 ようやく見つけた『あの子』は、果たして『生き残って良かった』と思えた?

 ――いっそ死んだ方がマシだったと思ったのは、他ならぬあの子だったかも知れない。

 奴隷としておよそ人とは思えぬ扱いを受け、その有様を見世物にされてきたという。
 それでもなお、敵も味方もなく、救えるものはと手を差し伸べる最愛の義弟。

『……それが、君の後悔か』
「ええ、そして罪悪感。けれど、起こった事を悔いても――今更だわ」
 他ならぬ義弟が、表向きやも知れずとも、いつも前を向いている。
 ならば義姉として深香ができることは、ただひとつ。
「大切なのは『今』よ。そして、『これから』どうするかよ」
 嘆く時間があるのなら、その時間、一分一秒たりとも無駄にせず弟のためにこそ使う。
 見目麗しく乙女のような外見を持つ弟を着せ替え人形にしたり、時に正々堂々、時に隠し撮りと成長記録コレクションを積み上げるのも、すべて弟の気を紛らわせるため。
 決めたのだ、そのためなら己はどんな道化にだってなってみせると。
「人からどう思われようと、構わない」
 スポットライトを浴びて、アサルトライフルを構えた天使は微笑んだ。

「これは、私が勝手に決めたこと」

 再び、役者たち全員にスポットライトが当たる。
 影朧が間合いを取り、深香が舞台に舞い降り、二つの銃口が向けられる。
「『挫折が成長に繋がる』とは一理あるが」
 シキが淡々と反撃に出る。形見の銃を握る手に一切の震えはない。
「こんな痛みを知らずに済むなら、それが良いに決まっている」
 痛みを実際に知る者のみが言葉にできる、力強い一言だった。
「まして、それを善意として押し付けるとは……」

 がぁんっ!!

 影朧の左肩が銃弾に撃ち抜かれ、その身体が大きく傾いだ。
「気に入らないな」
 常に冷静たる人狼の銃士の眉間に、深い皺が寄っていた。

「ねぇ、支配人さん」
 深香もまた、いよいよアサルトライフルの銃口を向けながら微笑んで問う。
「貴方も私も身勝手同士、それでも断言するわ」
『……興味深い、聞かせておくれ?』

 ががががががががっ!!!

 反動をものともしない連射を浴びせ、影朧ごと支配人を撃ち抜く気迫でトリガーを引く。
 数発の銃弾が支配人の身体を掠め、白いスーツを薄赤く染めた。
「貴方は、リーダー失格よ」
 深香は、怒るとものすごく怖いおねーちゃんだった。

(「何故、こうなったのか疑問は尽きないが」)
 一般人が影朧を召喚する力を得るなど、それこそ尋常ではない。
 そもそもどうしてこんな事態になったのかとシキが疑問に思うのも当然だ。
(「今は、影朧を倒すことで身勝手な人の手から解放したい」)
 成すべきことを、確実に。
 その一手は、着実に積み重ねられていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

グウェンドリン・グレンジャー
私の、罪と、後悔
(UC発動。ワタリガラスを撫でて)

――多くの人を救った外科医、エドワード・グレンジャーは自身がUDC生物へと堕ちた
――地道に研究を積み重ね、何冊も本を出していた人類学者、クラリッサ・グレンジャーは我が子に喰われた

パパは、私を救うため、移植しようとした、UDC細胞……自分で治験、した
ママは、手術後、野菜や果物、食べられなくて、しかも暴れる私、寄り添って、くれた

でも、私が、生きて此処にいる、のは、それがあったから
手術、しなければ、死んでいた
ママを、食べた、罪悪感……で、引きこもらなかったら、きっと、完全な怪物、なってた

私、悔やんでる
でも、そこに、留まらない
過去、受け入れて、進んでく



●それでもなお、生きるべきもの
 舞台に上がるのは、グウェンドリン・グレンジャー。
 娘は一人ではなかった。たくさんのカラスたちを従えていた。
 ハシブトガラス、ハシボソガラス、コクマルガラス……色々な種類が混ざり合う。

 ――【Queendom of Corvus(ココヲカラスノクニトスル)】、発動の時であった。

 ワタリガラスのうち一羽がグウェンドリンの肩に止まったのを合図に、娘は口を開く。
「私の、罪と、後悔」
 肩に止まったカラスをひと撫でしながら、訥々と言葉を紡ぐ。

 ――多くの人々を救った外科医、エドワード・グレンジャー。
 彼は、自身がUDC生物へと堕ちるという末路を辿った。
 ――地道に研究を積み重ね、何冊も本を出していた人類学者。
 彼女、クラリッサ・グレンジャーは――我が子に喰われた。

 そうして、今、グウェンドリン・グレンジャーはここに『いる』。
 そのことこそが――罪にして、後悔。

『存在そのものが罪とは、さすがに救われまい』
 そう愉しげに言いつつも、『物語』の続きを待ち望むのは悪趣味なる支配人。
 こうして無数のカラスを従えて、己の足で凜と立つ娘の、再起に至る物語を。
「……パパは、私を救うため、移植しようとした、UDC細胞……」
 危険を承知の上で、自分で治験をしたのは、ひとえに娘を救わんがため。
「……ママは、手術後、野菜や果物、食べられなくて、しかも暴れる私……」
 余命僅かと哀れまれた生命は救われたものの、その代償は大きく、けれど母はどこまでも――『どこまでも』献身的に、最期まで娘のために尽くした。

 その、最期の瞬間まで寄り添ってくれた母のぬくもりを、忘れたことはない。
「でも、私が、生きて此処にいる、のは、それがあったから」
『父親を犠牲にしてかね?』
「……手術、しなければ、死んでいた」

 誰よりも、グウェンに生きて欲しいと願ったが故に、父は犠牲となった。
 それを、誰にも侮辱させはしない。他ならぬ、己が否定してはならない。

「ママを、食べた、罪悪感……で、引きこもらなかったら」
『母親を喰うとは、何と救い難い』
「……きっと、完全な怪物、なってた」

 母がグウェンを救わなければ、父の犠牲が無駄になった。
 それは、結果として最良の選択肢であったと――信じるほかない。

「私、悔やんでる」
 一人で背負うには、あまりにも重すぎる犠牲。
 グウェンドリンは、知らず拳を握っていた。
「でも、そこに、留まらない」
 ワタリガラスが、肩の上から飛び立った。
「過去、受け入れて、進んでく」

 ――ばさばさばさばさっ!!

 虚数と闇の力を得たカラスの群れが、影朧をついばみ責め苛む。
 主、グウェンドリンの意志と覚悟を代弁するかの如く――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

氏家・禄郎
色褪せた台本による朗読劇を聞く中
古き人生の終わりの話が上映される

憲兵に連れて行かれそうになる若手将校
私の名を呼ぶ
それは怨嗟、そうだ君から真実を聞き出し、最終的に他者に委ねた僕の心残り
本当は僕が決着を着けるべきだったのだろう
だが、軍隊という社会で守るべき立場にいた私と君では違ったのさ

……分かっている
リバイバルはもう終わりだ
拳銃を抜き、幻覚であろう若手将校へと引鉄を引く

「今度は僕が決着をつけてやる、それがお前への手向けだコグロー」

そして

人は悲劇を迎えた時、今まで得た人生という財貨を投じてそれを乗り越えにかかるのだ
与えられた挫折などに財貨を投じる価値はない

拳銃斉射5発

さあ、エンディングの始まりだ



●鳴り響け、手向けの号砲
 氏家・禄郎という男をスポットライトでひとたび照らせば、落ちる影は色濃い。
 生涯の君と誓った妻や愛娘との別れ、戦場で思い知らされた現実――ああ、そうだ。

『――』

 ロイド眼鏡の奥で、英日ハーフらしい焦茶の瞳を見開く禄郎。
 視線の先には、憲兵たちに両脇を固められ、今まさに連行されんとする若き将校の姿。
 黒鉄の首輪が、いやに目立つのは気のせいか。
 それとも、明らかな違和感からの正しい感覚か。
 モノクルの向こうから覗く視線は険しく、引き結ばれた将校の口が微かに開いた。

『――ロクロウ』

 それは、怨嗟としか言いようがなく。
 とても、友の名を呼ぶ抑揚ではなく。

「……そうだ、アルバート……いや」
 何故だ。
 若き将校――アルバート・コグローが氏家・禄郎を睨めつける。
 塹壕の下で言葉を交わし、己の理想を伝え、理解してくれたと思っていたのに。
 なのにどうだ、お前は仲間と共謀し、敵組織との内通疑惑で上層部へ告発、そして。
「コグロー、これで良かったんだ」
 黒い将校と向かい合い、禄郎はそう言い放つも。

『ならば、何故こうして僕の朗読劇から『彼』は退場しない?』
 贖罪の山羊が、色褪せた台本を片手に虚ろに問う。
「……、コグローは僕に真実を話した。だが、僕は決着を他者に委ねた」
 状況が複雑だったとはいえ、内々に片付けるのは困難だった。
 故に、軍法会議送りこそが最良と判断したのだ――その時は。

「それこそが、僕の心残りさ」

 本当は、自身が決着を着けるべきだったのだろう。
 そう思うからこそ、今ここに『彼』の幻影がある。

「だが、軍隊という社会で守るべき立場にいた『私』と君では、違ったのさ」
 回転式拳銃を構える探偵屋に、もはや迷いはなく。
『……』
 黒鉄の首輪の将校は、身じろぎ一つせず禄郎を見据えていた。
「……分かっている、リバイバルはもう終わりだ」
 責めるような視線にも怯むことなく、狙いを定める。

「今度は『僕』が決着をつけてやる、それがお前への手向けだ」
 他人に委ねた結果の銃殺刑、それが本来の幕引きであった。
 ――だが、今こそそれを塗り替えることができるのならば。

「コグロー」

 呼び掛ける言葉と共に、眼光鋭く、禄郎が引鉄を引いた。
 一発目は黒鉄の将校へと、二発目、三発目はその脇を固める憲兵の幻影へと。
 四発目は影朧の山羊の足を貫き、五発目が支配人の足元を穿った。

『まだ何か、言いたいことがありそうだね?』
 微かに震える声で、支配人が一歩退きながら問う。
 空になった弾倉にも構わず、銃口を下ろさずに禄郎が答えた。
「人は悲劇を迎えた時、今まで得た人生という財貨を投じて、それを乗り越えにかかる」
 ステンのロングコヲトが、少しだけ揺れる。
「与えられた挫折に、財貨を投じる価値はない」

 ――さあ、エンディングの始まりだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

御桜・八重

幻覚の中、劇団員から投げつけられる言葉がわたしを苛む。
『私たちの気持ちなんてわからない』
『力を持った奴には理解できないよ』

もっと上手く出来たんじゃないか。
もっとわかってあげられたんじゃないか。
自分の未熟さが悔しくて、悲しくて、心が沈む。
ああ、手は届かなかったんだ…

ふと深香さんと劇団員の会話が浮かぶ。
悔しさ、悲しさ、それでも彼らが目指したもの。

手に入れるには自分で手を伸ばすしかない。
みっともなくてもがむしゃらに進むしかない。
わたしの手は届かなかったんじゃない。
あの人たちには必要なかったんだ!

「結局、こうと決めたら突っ走るしか出来ないんだよねー」
そう、自分に出来ることをやるだけ。
「いざ、突貫!」



●頑張るあなたを、応援します
 御桜・八重が今まさに追体験をさせられている『後悔』、それは――。

『私たちの気持ちなんか、わからないくせに!』
『力を持った奴なんかには、理解できないよ!』

 ついぞ先程、刃を交えた結社員――劇団員の面々から投げつけられる言葉の数々。
 影の狼から、言葉へと形を変えて、再び刃となり八重を苛むのだ。
「……っ」
 元気が取り柄の桜の巫女が、歯がみして下を向いてしまうほど。

 ――もっと、上手く出来たんじゃないか?
 ――もっと、わかってあげられたんじゃないか?

 今はただ、刺さる言葉もそのままに、己の未熟さが悔しく、悲しくて。
 沈痛なのは面持ちだけではない、心までも昏く沈み込んでしまう。
 弱々しく手を持ち上げ、広げた掌を見つめると、鼻の奥がツンとした。

(「ああ、この手は、届かなかったんだ……」)

『……ばれ』
 小さく、けれど確かな声が、八重の耳に届いたのはその時だった。
『がんばれ、お嬢さん……!』
『私たちも、もう一度頑張ってみるから』
「……みん、な……!?」
 それは、すっかり戦意を失い、今や八重を応援する劇団員たちの声。
 八重を責め苛む幻影などではない、本物の、背中を押す声援だった。
『お前たち……!』
 影朧の後ろで支配人が初めて忌々しげな顔をするが、影朧は動じることがない。

 ――ねえ皆さん、貴方達は何故役者を目指したの?

 共に戦った猟兵の言葉が。

『今度こそ、最高の舞台を』
『自分たちの、力で……!』

 劇団員としての理想と誇りを取り戻した人々の意志が。
 八重の背中を押して、再びその顔を上げさせるに至る――!

「手に入れるには、自分で手を伸ばすしかない」
 スポットライトを浴びて、凜と立つ八重から迷いはもはや消えていた。
「みっともなくても、がむしゃらに進むしかない」
 ついぞ先程、力なく見つめた掌を握りしめる。
「わたしの手は、『届かなかった』んじゃない」
 それをぶんっと振り払うようにして、桜の巫女は高らかに告げた。

「あの人たちには――『必要なかった』んだ!!」

 ぱち、ぱちぱち、ぱちぱちぱち。
 ささやかながら、祝福と応援の拍手が、舞台袖から上がる。
 救うつもりが救われたようで面映ゆいけれど、それでも八重は確かに声援を背負う。
「結局、こうと決めたら突っ走るしか出来ないんだよねー」
 ぐ、と。舞台を踏みしめ、突進の構え。
 目指すは影朧、劇団員たちの声援を背負った今ならば――負ける気がしない!

(「そう、自分に出来ることをやるだけ」)

 舞台の上を、桜色のオーラが彗星のごとく尾を曳いた。

「いざ、突貫!!!」

 桜が舞い散り、色褪せた台本が宙を舞った。

成功 🔵​🔵​🔴​

シャーロット・クリームアイス


後悔、罪悪感……
じつに“人間らしい”考えかたですね

はい、いえ、それを否定するつもりは毛頭ありませんが
大いなる自然(海)の一部として流れに任せる――そういう姿勢もまたあるのですよ?

過去のどの時点を切り取ってくださってもかまいませんが、いつどこだって海とサメはともにあります
(UC:敵UCによってもたらされる幻覚や回想の内容にかかわらず、すべて海と規定します)

あー、伝わりづらいでしょうかね?
では、有名なムービーから引用をひとつ

「わたしは好きにしてきた」……ということです!

挫折や敗北を知らない? 大いに結構じゃないですか
好きにやりながらうまくいき続ける――そういう顛末だってあるのですから、ね!



●そもそものスケールが違う
 さざ波の音が聞こえたのは、気のせいか。
 誰か、音響を操作したか? 劇団員も、支配人さえも、思わず辺りを見回す。
 ただ、シャーロット・クリームアイスと影朧とが、じっと向かい合っていた。

「後悔、罪悪感……じつに『人間らしい』考えかた、ですね」
 シャーロットの藍の瞳が、興味深げに白スーツの男を捉える。
 これまで散々超弩級戦力の尋常ならざる業前の数々を見せられて、慣れたつもりではいたけれど、それでもあくまで一般人の枠を出ない男は精一杯の強がりでこう返す。
『……流石、人の枠を超えた『埒外の存在』の言うことは違うね、お嬢さん』
 それに対抗するための、この『力』。台本から召喚される、贖罪の山羊。
 影朧は虚ろな表情のまま、色褪せた台本のページをゆるゆると繰っていた。
『君には、後悔も罪悪感も、ひとかけらもないというのかい』
 抑揚のない山羊の問いに、シャーロットはゆるりとかぶりを振った。
「はい、いえ、それを否定するつもりは毛頭ありませんが――」

 ――ざぁん、ざあぁん。

 やはり、間違いなく聞こえる。
 母なる海が寄せては返す、さざ波の音が。
「大いなる『海』の一部として流れに任せる――そういう姿勢も、またあるのですよ?」
 鮫の乙女を中心にして、ホロビジョンで構成された海が、サメが、海洋生物が――舞台いっぱいに広がっていく!
『馬鹿、な……』
 スケールが、あまりにも大きすぎる。
 海もまた大自然のひとつにして、その中では生と死が当たり前のように輪廻する。
 それこそ、後悔だの罪悪感だのと言っている場合ではないのだ。

『どこを迷路にしようとしても……これは、難しいね』
 初めて、影朧が弱音らしい言葉を漏らす。
 色褪せた台本のどこにも、シャーロットの悔悟を示す文章が見当たらない。
「過去のどの時点を切り取ってくださってもかまいませんが」
 今や舞台の上は、まるで水族館か――あるいは、海中そのもの。
「いつ、どこだって、海とサメはともにあります」
(『サメ……?』)
 舞台袖でハラハラと様子を窺っていた劇団員たちが、突然のサメトーークに疑問符を浮かべるが、実際ホログラフで浮かび上がるサメが見えるから仕方がない。

『……っ』
 どう攻め込んだものかと考えあぐねる影朧と支配人を見かねたか、シャーロットが助け船を出す。
「あー、伝わりづらいでしょうかね?」
 時代を先取りし過ぎたというか、ここ紐育がサメの素晴らしさが一言で伝わる文化圏になるには、もう少々時間が必要だったのかも知れない。
「では、有名なムービーから引用をひとつ」
 まがりなりにも相手が役者ならば、演者を支える者たちならば。
 シャーロットなりの、礼儀であったともいえよう。

「『わたしは好きにしてきた』……ということです!」

 ならば、君らも好きにするがいい。
 知る者がいれば、そう言葉を継いだやも知れぬ。

 スポットライトは、まるで海中の姫君のような姿のシャーロットを照らす。
「挫折や敗北を知らない? 大いに結構じゃないですか」
 食物連鎖の頂点にいれば、恐れも知らぬ生き物にだってなろう。
 弱者の恨み言など、それこそ大自然の前では圧倒的無力!
「好きにやりながら、うまくいき続ける――そういう顛末だってあるのですから、ね!」

 ソマリ、気まぐれな猫の名を持つ国民的スタァ。
 これからも脚光を浴びて輝き続ける大女優、彼女の道行きを誰も遮れない。
 ましてやこんな卑劣な手段でなど、許されようはずがないのだ。

 海のように。大自然のように。
 圧倒的なものへの畏怖を知るがいい。

成功 🔵​🔵​🔴​

桜雨・カイ
頑張りを賞賛されたいと思う事を悪いとは思いません
でも……彼らのその思いを
挫折させる、その為だけに闇で覆いかくす事を正しいとは思えません

たとえ克服したとしても、つけられた傷は心に残るんです
劇団員の人も……そして何よりソマリさんも

だからここであなたを止めます

思い出すのは、操られて街を襲ったフラスコチャイルド達
数十体は救出できたが、代償に街や人への被害は甚大で…
これで良かったのかという迷いを他の人が救ってくれた
一人ならできなかった事

…誰かに傷つけられるより、共に乗り越えた方が
よっぽど成長できると思います
私は、描くなら人を信じる気持ちの方がいいです
(【払暁】の筆で描いた【焔翼】とUCで素早く攻撃)



●審判の時、来たれり
 静かに舞台の上に立つのは、桜雨・カイ。
 その手には、何かのゲームカードらしきものがあった。
「頑張りを賞賛されたいと思う事を、悪いとは思いません」
 舞台袖で超弩級戦力たちと支配人たちとのやり取りをハラハラと見守る劇団員たちにもよく聞こえるように、カイはそう告げてみせる。
『そうだろうとも、彼らは強く喝采を望んだ。故に、力を手に入れたというのに』
 よくも台無しにしてくれたな、というニュアンスを言外に込め、支配人が言う。
 カイは怯まず、反駁する。
「でも……彼らのその思いを」
 ちら、と舞台袖に一瞬だけ目線を送り。
「『挫折させる』、その為だけに闇で覆いかくす事を正しいとは思えません」

 ――あなたは、間違っている。

 それは、静かなる宣戦布告。
 超弩級戦力として、いや――その前にひとりの『ヤドリガミ』として。
 カイは己の信念を貫くために、今、運命をひっくり返そうとしていた。

 ひゅんっ! と、影朧の万年筆が空を切り、昏い表情でそれを見据える。
 すると、カイの脳裏にとある光景がありありと蘇った。
「……これ、は」
 ここではない別の世界は、過酷も過酷。何しろ一度ほぼ滅んだ世界なのだから。
 そこで体験した、忘れ得ぬ記憶。
 遺伝子操作により造られし者たちが、ささやかに、しかし逞しく生きる人々の拠点を襲った悲劇。
 それらのうち数十体は救出できたものの、代償に拠点や人々への被害は甚大だった。

(「これで、良かったのか」)

 ただ結果だけが、事実だけが、現実だけがカイを責め苛む中で、その迷いを同行の者が救いとなってくれたのを――そう、思い出す。
 あの時、確かに自分を救ってくれたのは、他人の存在。
 ――一人では、できなかった事。

(「胸が、痛い」)
 悟られぬようにと、奥歯だけを強く噛み、カイは必死に前を向く。
「たとえ克服したとしても、つけられた傷は心に残るんです」
 ――ずきん、と。今、こうして己の胸が痛むように。
「劇団員の人も……そして何より、ソマリさんも」
 今回は相手が超弩級戦力であったから内々に処理されるであろうけれど、本来『影朧を行使して他人を害する』など、重罪も重罪であったろう。
 劇団員たちの処遇も気にはかかるけれど、今は、眼前のこの男を。

「だから、ここで、あなたを止めます」

 変わりたいと、成長――『grow』を望むなら。
 それは光――『glow』となりて、導いてくれます。

 カイが、手にしたタロットカードの天地をむんっと逆にする。
 カードが示すのは『審判』、その正逆をひっくり返すのは大変なことだ。
 今や正位置を示す『審判』が導くのは――新たな目覚め、覚醒、再生、復活。

「……誰かに傷付けられるより、共に乗り越えた方が、よっぽど成長できると思います」
 舞台の上、カイは玻璃の筆で描いた炎の翼を背負っていた。
『綺麗事を……!』
 顔を歪めた支配人が、影朧をけしかける。
「いいじゃないですか、綺麗事だって」
 そう返すカイの表情は、不思議と穏やかだった。
 炎翼を大きく広げ、舞台を蹴って羽ばたいた。

「私は、描くなら人を信じる気持ちの方がいいです」

 演じるならば、勇気と希望を与えられる物語を。
 そう、こんな風に――悪の支配人と影朧をも、退けられるという物語を。

 ――だからどうか、あなたも早く、目を覚まして下さい。

 炎の翼が、煌々と舞台を照らし続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

五百崎・零

※戦闘中はハイテンション

なんでソマリさんのことを、お前が勝手に決めてんだよ。気持ち悪ぃ野郎だな
まあいいよ。オレは死にたくないからさァ…ヒヒ…だから、戦うしかねえもんなあ!?

攻撃のために敵との距離をつめるが、開かれた台本に警戒し足を止める
現れたのは、別の依頼で倒してきた敵
……きひ。思わずにやける
そうか、昔のこと覚えてねぇし、これが今のオレの後悔か
「あの時倒しきってしまわなければ、ずっと戦っていられたのに」

幻覚を銃で撃ち殺し祓う
最高の幻覚(ゆめ)をどうも
「でも、オレは今、お前とも遊びたいわけ」
山羊に銃を突きつけ
「じゃないと『後悔』しちゃうだろ?」
…ク、ヒヒ、アハハハハ!!!
笑いながら指定UC発動



●歓喜のリバイバル
 与えられた台本のページを繰れば、影朧の傷は多少は癒える。
 けれどもそれにも限度はある、もはや贖罪の山羊はボロボロだ。
(『あと一人、相手取って……それが、現界というところか』)
 そう、その『あと一人』が後悔と罪悪感とに屈し、こちらの言い分が正しかったと泣いて認めるならば――勝機はある。

 などと、劇場支配人が思っていた所に。
 現れたのは、よりにもよって、五百崎・零という猟兵であった。

「なんでソマリさんのことを、お前が勝手に決めてんだよ」
 スポットライトを浴びながら、零がテンションも高く言い放つ。
「気持ち悪ぃ野郎だな」
『な……っ!?』
 ド直球で罵倒を受けて、しかし心のどこかでそう言われても仕方がないという自覚があったのか、支配人が思わず言葉に詰まる。
 気付けば影朧までもが、冷ややかな目線で支配人の方を振り向いているではないか。
『――』
『な、何だお前まで! 私とお前とでは利害が一致しているのだから構わんだろう!』
 早くあいつを何とかしろと言わんばかりに零を指さす支配人に、再び正面を向いて色褪せた台本を開く影朧。
「まあいいよ、オレは『死にたくない』からさぁ……」

 ヒヒ、と。嗤う零の表情に、狂気を見たものも少なくなかっただろう。
 だが、今こそ刮目せよ。これこそが、五百崎・零なるデッドマンの戦なのだ。

「……だから、戦うしかねえもんなあ!?」
『――!』

 愛銃を手に、一気に間合いを詰めようとする零だったが、ただならぬ気配を放つ影朧の台本を見て、本能的に足を止める。
 すると眼前に現れたのは、ああ――見覚えがある。忘れもしない。

「……きひ」

 思わず、にやけてしまう零。
 そういえば、サメ使いの同業者もいたっけなーなんて思い出させる巨大サメ。
 プリマを思わせる乙女に、己自身との対峙もあった。
 ヒトデやら何かよく分からない星人やら、デカいカニともやりあったっけ。
 なんかぷにぷにしたハロウィンの思い出に、凍てついた人魚なんかもいた。
 最近の戦争では、歴戦の提督が繰り出す天使どもの群れに立ち向かった。

 みんな、みんな、過去のもの。
 骸の海に還してしまった――そうしなくてはいけなかったから。
(「そうか」)
 こうして改めて見せられて初めて思い出すくらいには、忘れていた昔のこと。
(「これが、今のオレの後悔か」)

 こいつら、みんな、みんなさあ――?
「あの時倒しきってしまわなければ、ずっと戦っていられたのに」

 巨大サメの幻影が、銃弾一発で消し飛んだ。
『お、おい……! まるで効いていないじゃないか!?』
 支配人が影朧に詰め寄るも、山羊は淡々と返すのみ。
『あの男の後悔は、そもそも僕たちが考えているようなものとは性質が違うからね』
 舞うように銃弾をぶち込み、次々と幻影との再戦を歓喜と共に味わう零。
 それを見る影朧の瞳は、どこまでも虚ろなままであった。

『――降参するなら今のうちかも知れないね、どうする? マスター』
『ふざける、な……!!』

 がぁん!! と、ひときわ大きな銃撃音と共に、天使の羽だけが舞い散る。
 気付けば、零はすっかり『後悔』という名の『再演』を堪能しきっていた。
「最高の幻覚(ゆめ)をどうも」
『礼には及ばない、君の性根が僕たちの想像を超えていただけだ』
 無表情のままそう呟く山羊の額に、ごりっと音を立てて銃が突き付けられる。
「でも、オレは今、お前とも『遊びたい』わけ」
 ニィ、と笑った零の顔を、贖罪の山羊はじっと見据える。

(『これが、この男が』)

「じゃないと『後悔』しちゃうだろ?」

(『僕の物語を、また未完のままにして、骸の海に還すんだね』)

「……ク、ヒヒ、アハハハハハ!!!」

 それは、悪魔の哄笑。
 銃口からは流水が生じ、ぬるりと悪魔『レヴィアタン』が這い出てくる。
「オレだけ楽しんでちゃ悪いだろ」
 ――だから、来いよ。一緒に楽しもうぜ?
 それこそが、大悪魔を従える『交渉』。

『……ロア!!』
 影朧の名前なのだろうか、支配人がいよいよあるべき場所へと還されようとする影朧へと叫ぶ。
『――』
 流水と銃弾を浴びて、色褪せた台本と万年筆を取り落として、ゆっくりと倒れ込む影朧は、確かに微笑んでいた。

(『またね、縁があれば僕はまた戻ってくる』)

 そうして、影朧は舞台から完全に退場して、人と埒外の存在だけが残された。

●眠らない街、紐育にて
 結局、この後超弩級戦力たち総出で支配人を縛りあげて『インタビュー』を試みたものの、今回の事件についての根本の原因には至れなかった。
 ある日ふらりと訪れた『演出家』を名乗る男から、内々に影朧が宿る台本とその力の使い道を吹き込まれた――程度の話だけが、得られた情報である。

『許してくれ……! 劇団員たちの不満も知っていたし、だがソマリの可能性も買っていたし、私はこれが最良だと思ったんだ……!』

 まっとうな思考と判断力さえ奪ってしまう、影朧を行使するという禁断の力。
 まだ、それをばらまく存在が健在だというのならば、いつかは決着をつけねばならないのだろう。

 だが、今は――。

「……ありがとうね、超弩級戦力サン」

 影朧の脅威から解放された『ムーンキャット・シアター』の前に、スタァが帰還する。
 新たな幕開けは、ここから始まるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年04月06日


挿絵イラスト