Companion of Aldebaran
●星々の間の隙間のように
埼玉県比企郡、とある山中のキャンプ場を兼ねた公開天文台。
その天文台の最上階に、一組の男女が立ち入っていた。
「ここが、さっき話した天文台だよ」
「わぁ~、すっご~い!」
歴史のあるこの天文台に、観光客がキャンプついでに訪れることはままあること。その大半が天体観測目当ての客であることは、場所柄想像に難くない。
茶髪の男性、赤星・昴もその例に漏れず天体マニアで。人生で初めて出来た彼女である草間・灯里を伴い、三度目のデートとしてこの場所を選んだのだ。
婚活アプリを通じて知り合った昴と灯里は意気投合。親密な関係となり、一緒にデートに出かける仲になっていた。
三度目のデート。初めてのドライブ。初めての宿泊。その相手が、こんなに可愛くて美麗な見た目をした灯里で。
昴の緊張と興奮は最高潮だ。
「そうだろう? ここの天文台はすごいんだ、開設されたのが1962年で……」
「へぇ~……」
熱のこもった解説をやり始める昴は、満面の笑みだった。
だが、その直後。
「そんなオンボロな場所に連れてきて、デートになると思ってたんだぁ、ウケる~!!」
「え……」
灯里が笑顔のまま言い放った言葉に、彼の表情は硬直した。
その言葉の意味を理解するより先に、灯里がまくし立てるように昴を罵倒し始める。
「こんな遊ぶ場所も無いようなド田舎の山の中に連れてきてデートとか、現代人舐めてんじゃないのぉ~? しかも開口一番でオンボロの古さを話し出すとか、マジオタクすぎてウケるんだけどぉ~!」
「え、灯里……?」
今までの彼女からは想像も出来ないほどの罵倒の数々を、それこそ心の底から昴を嘲っているような笑みで、灯里は言った。
どういうことだ。自分は、灯里に楽しんでもらえると思ってここまで連れてきたのに。
彼女は楽しむ気なんて、毛頭なかったというのか。
昴の脳天から足先まで、一気に寒気が走った瞬間。
灯里がつかつかと歩み寄ってきては、おもむろに昴のジーンズのポケットに手を突っ込んだ。
「はぁ~、他の男より金払いがいいから、もうちょっと遊んでやろうと思ったのに、興ざめすぎてガン萎えだわ~。せめて乗ってきたあの中古車くらいは、手切れ金として払ってくれても文句ないわよねぇ~?」
「は、え、それ俺の……っ」
そこから取り出したのは先月やっと購入したばかりの、自分が先程まで灯里と一緒に乗ってきた軽自動車のキーだ。
それを手にしながら、灯里は昴に背を向けて歩き出す。
「ま、こんな山ん中とはいえ、タクシー呼べば来てくれるんじゃない~? じゃ、バイバ~イ。もう連絡してこないでね、昴く~ん」
昴が追いすがるより早く、さっさと下に降りる階段を下っていく灯里。
彼女を追おうと手を伸ばした昴だが、足が動かない。ショックが大きすぎて、何も出来ない。
振られた。
やっと買った車まで奪われた。
あの口振りでは、他にも男がいるらしい。
「うっ、うっ……」
昴は、その場にがくりと膝をついた。
肩を震わせ、さめざめと泣き始める。
「嘘だ……なんで……」
あんなに眩い笑顔を自分に見せてくれたのに。
あの眩い笑顔は自分だけに見せてくれると思っていたのに。
「そんなに……そんなに富が欲しかったのかい、私のアルデバラン……」
泣きはらす彼の口調から、不意に悲しみの色が消え。
ベリーショートだったはずの茶髪が、ばさっと音を立てて伸び。
顔を覆ったままの彼の頭から、牡牛の角がめきめきと伸びていった。
●天に輝く星々のように
「今のが、俺が見た『夢』だ」
イミ・ラーティカイネン(夢知らせのユーモレスク・f20847)は忌々し気にそう言って、グリモアから映し出される映像を横目で見ていた。
これは、夢。常人が見るならただの空想だが、彼が見たとなれば、しかもこうして記録されたとなれば、話は別だ。
何かを察した様子の猟兵たちに、ケットシーの青年は苦い表情で視線を返す。
「そう、これは夢だ。この後ほどなくして、現実になる」
イミの発言に、猟兵たちは揃って眉根を寄せた。
罵倒に暴言、人生への絶望感。多大なショックを受けて心を閉ざした人間が、UDCに変身してしまう事件が発生しているのだ。今のように。
イミが夢の映像を停止し、逆回しする。場面はちょうど青年が女性に振られて罵倒され、車のキーを奪われたところで止まる。
この青年が、今回の事件のいわば被害者だ。
「今の映像に中心となって映っていた茶髪の青年は、名を赤星・昴という。天体観測に、かねてより付き合いのあった女性を誘ったが……弄ばれていたようでな」
そう言いながら、小さく舌を打つイミだ。
天文台の最上階で昴を振った女性が何を言い、何をしたのかは、先程映した通りだ。
そうして恋人だと思っていた女に振られ、さらには乗ってきた車のキーも奪われ。絶望に沈んだ彼は、UDCへと変貌してしまう。
何とかして、彼を絶望の淵から救い上げなくてはならない。
「赤星がいるのは山の上にある天文台だ。件の女が立ち去ってしばらく経っても、天文台の最上階に彼はいるが、そこに辿り着くまでには、彼に群がるように現れるUDCを排除しなければならない」
出現するUDCは千里眼獣プレビジオニス、それが天文台内部に10体はいる様子。単眼で未来を見通し、視力を上げて狙いを定め、敵対する相手を攻撃する霊獣だ。
これを退治しない事には、天文台の最上階へは辿り着くことは出来ない。
「先輩たちが到着する頃、赤星は人間が変貌したUDC……UDC-HUMANになってしまっている。だが、あくまでも彼はなりたて。被害を生じていない今なら、助けられるはずだ」
昴は茶髪を長く伸ばし、頭に牡牛の角を生やし、『金牛卿』トーラスへと変貌して猟兵たちに襲いかかってくる。しかし肉体は、赤星・昴そのものと大差がない。
彼の肉体を傷つけないよう配慮したり、彼の悲しみを慮って説得したりすれば、多少は彼が救われる力になるだろう。
と、イミがふと思い出したように映像を巻き戻した。停止させたそこに映るのは、女性が昴を振った瞬間の酷薄な笑みだ。
「そうそう……この灯里という名の女性の方だが。同じような手口で男に金品を貢がせ、搾り取ったら一顧だにせず男を捨てる、屑のような人間だ。殺しさえしなければ、俺は何も言わない」
そう話して、イミは口角を持ち上げる。
確かに人間の屑と言って差し支えはない相手だ。猟兵の力を以てすれば、どんな手合いだろうと気にせず恐れさせられるだろう。
この世の悪を、完膚なきまでに叩きのめす。そうすれば、昴のように踏み躙られてUDC-HUMANになってしまう人間も減るだろうから。
そう話して、一旦イミが目を閉じる。次いで開けば、その瞳には覚悟の色が宿っていて。
「準備はいいか、先輩たち? 赤星を救うのは、今を置いて他にはない。彼が人の命を脅かす前に、助けてやってくれ」
屋守保英
こんにちは、屋守保英です。
世の中には人間の屑ってものが本当にいる……ものだと、思いたくはないけれど。
今回はそんな人間の屑に弄ばれた男性を救うお話です。
●目標
・赤星・昴の救出。
●戦場・場面
(第1章)
埼玉県比企郡の山の頂上に建つ、とある公開天文台です。
天文台の建物の中に、千里眼獣プレビジオニスが10体ほど、最上階への道を阻むように襲ってきます。
(第2章)
公開天文台の最上階です。
カセグレン式望遠鏡の設置されたその場所に、『金牛卿』トーラスに変貌した赤星・昴がいます。
彼の事情を踏まえた説得や、角や伸びた髪の毛以外の彼の肉体を傷つけないような配慮をした場合、戦闘が有利になります。
(第3章)
埼玉県さいたま市内です。第2章までとは違い街中になります。
昴を酷い目に遭わせた人間の屑に、制裁を加えてください。
殺さなければ大概のことは許容されます。完膚なきまでにボッコボコにしてください。
●UDC-HUMAN
赤星・昴(あかぼし・すばる)
26歳の会社員男性。
天体観測と国内旅行が趣味。現在婚活アプリで婚活中。
アプリで知り合った女性と交際に発展し、三度目のデートに誘ったものの、金銭目当ての遊びであったことを暴露され、挙句車のキーを奪われ捨てられる。
●人間の屑
草間・灯里(そうま・あかり)
24歳のアパレルショップ店員。
男を弄び、自分の意のままに動かしてから捨てるのが趣味。婚活アプリに登録しているが彼氏持ちで、自分の餌食に出来る男を漁っているだけ。
昴の他にも何人か、関係を持っている最中の男がいるようだ。
それでは、皆さんの力の籠もったプレイングをお待ちしています。
第1章 集団戦
『千里眼獣プレビジオニス』
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POW : 未来すら視る単眼
【未来の一場面を視ることで】対象の攻撃を予想し、回避する。
SPD : 千里を見通す獣
【視力強化・視野拡大・透視・目眩まし耐性】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【見失うことなく追尾し、鋭い爪】で攻撃する。
WIZ : 幻の千里眼
【すべてを見通す超視力に集中する】時間に応じて、攻撃や推理を含めた「次の行動」の成功率を上昇させる。
👑11
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火奈本・火花
「加害者の女性が、邪神教団の一員として悪意的な行動している……と言う事であれば、或いはそちらの方が良かったかも知れませんね」
■戦闘
だが、まずは赤星さんの救出が最優先だ
上階への道を塞いでいるのもUDC。蹴散らすだけでなく、こちらもしっかり終了してやる
特徴的な一つ眼が能力のキーになっている可能性は高いな
『クイックドロウ』によるペンライトでの『眼潰し』で隙を作り、9mm拳銃の射撃で牽制しよう
『スナイパー』として単眼を狙えれば良いが
牽制後に機動部隊による突撃で押し退け、潰してやろう
私も機動部隊とは別角度から射撃して援護すれば、奴の予知出来る数を超えて撹乱させる事が出来るかも知れんな
■
アドリブ、絡み可
霧沢・仁美
酷い女の人もいたものだよね…。まあ、そっちのことは後で考えるとして。
今は昴さん…だっけ。あの人を助けてあげないと。
というわけで、まずは邪魔するUDCを倒していくよ。
天文台の設備を壊さないよう、立ち回りには充分注意。自分の攻撃は勿論、回避した敵の攻撃が設備に当たる可能性にも気を配っておくよ。
古い天文台となると、壊したら代えの効かないものも多そうだしね。
こっちからの攻撃は、ワイヤーロープを使った【ロープワーク】で拘束してからの念動光弾を主体に。
相手がユーベルコードで突っ込んでくるなら望むところ、カウンター気味にその目を狙い撃っちゃうね。
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
人間がUDCに!?
……ちょっと待てよく話を聞かせろ!
状況は!?被害者は!?……戻れる可能性は!?
あるんだな!それだけわかりゃぁ十分だ!
……もう、準のような悲劇は起こさせるものかよ!
超常の力を持っていようが獣どもだろうが!
そんな大きな波動に呼び寄せられるだけの有象無象に、
アタシがやられると思うなよ!
見られているなら都合がいい、
その上でアンタの「思考」を止めたらどうなるよ?
アタシを目掛けて襲い掛かってくる途中で
【時縛る糸】に絡め取り、動きを止めた所を
全力の電撃『属性攻撃』でぶっ飛ばす!
その轟音で周りの注意を『おびき寄せ』たなら重畳。
同じ様に次々と屠っていくよ!
●前身の観測所はかつて日本の天体観測をリードしてきた観測所であった
数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)の友人、本見・準は、かつては普通の人間であったという。
それがいつしか失踪し、いつの間にかオブリビオンとなり、骸の海へと還された。他ならぬ彼女自身の手によって。
だから、多喜は此度の話を耳にした時、誰よりも強く反応したのだ。
「戻れる可能性は……あるんだな! それだけわかりゃぁ十分だ! ……もう、準のような悲劇は起こさせるものかよ!」
グリモア猟兵に掴みかからんばかりに詰問して、そうと分かれば身を翻して矢のように天文台へ。その背中を追いかけながら、霧沢・仁美(普通でありたい女子高生・f02862)と火奈本・火花(エージェント・f00795)はそっと目を細めた。
「酷い女の人もいたものだよね……まあ、そっちのことは後で考えるとして。今は昴さん、だっけ。あの人を助けてあげないと」
「はい、まずは赤星さんの救出が最優先です」
仁美が悲しげな表情をしながら言えば、火花も淡々とした声で答える。
赤星・昴を陥れ、裏切り、傷つけた女性について、言いたいことはいくらでもある。しかし今は、それをぶちまける時ではない。相手もいない。
そしてそれ以上に、その混じりっ気のない悪意に晒された、昴の身が心配だ。
「加害者の女性が、邪神教団の一員として悪意的な行動している……と言う事であれば、或いはそちらの方が良かったかも知れませんね」
「うん……心底からの悪意だなんて、信じたくないよ、誰だって」
火花の言葉に仁美が頷いて、二人は天文台の中に飛び込んだ。
「キキィッ」
既に多喜は単眼の獣と対峙している。天文台入り口の展示スペース、この場にいるのは見たところ三匹。
戦闘に入り、口調から丁寧語が消えた火花が、多喜の背中に声をかける。
「お前、戦況は」
「一人で突っ込むのはよくないよ!」
「超常の力を持っていようが獣どもだろうが! そんな大きな波動に呼び寄せられるだけの有象無象に、アタシがやられると思うなよ!」
仁美の言葉に強い口調で返しながら、多喜は拳を握っていた。
此方は三人、相手も三匹。数は同数だが、あちらには未来視という絶対的なアドバンテージがある。
なにしろ「様子を見る」という行動が不要なのだ。この先にどこに、どう手を出すか、武器を出すか。彼らの目にかかれば、全てが詳らかにされる。
「クルルル……!」
しかして火花と仁美が各々の武器に手をかけたところで、一匹の千里眼獣が床を蹴った。
床の埃を巻き上げるようにしながら、ジグザグに駆けては三人に接近する。否、その瞳はただ一人を見定めていた。
その標的は。
「おっと」
「キッ!」
自分に向かっていることを認識した火花が、千里眼獣の前にペンライトを突き出した。光を消した状態から即座に光量最大。
しかし千里眼獣、その行動はお見通しであり。ペンライトを突き出されたタイミングから目を閉じて、そのままの状態で爪を振るった。上体を反らしながらもう片方の手に握った拳銃でかちあげる火花が、小さく舌を打つ。
「チッ、タイミングよく目をつむって防御したか」
「やっぱり、攻撃を先読みされると厄介だね」
他方、念動光弾を指先から放ち、千里眼獣を迎撃していた仁美も奥歯を噛んだ。
まるで着弾地点が目で見えているかのように、千里眼獣は光弾の合間を縫って接近してくる。
「キィィッ!」
訂正、「まるで」ではない。彼らには実際に、光弾がどこに着弾するかは見えていたことだろう。仁美が指先を向ける場所も、放たれた弾丸がどこに向かうかも、その瞳は捉えているのだから。
だが、しかし。最後の一匹が鳴き声を上げながら床を蹴ったところで、多喜がにやりと笑って前に飛び出した。
「へっ、いくら先読みしたり視力を強化したところで……!」
キッと千里眼獣の単眼を睨みつける多喜。と、千里眼獣の身体が、即座に硬直した。
「キ――……」
「っし、オラァァッ!!」
硬直し、慣性のまま向かってくる獣の身体を、多喜は雷を纏った拳で殴りつけた。轟音と共に千里眼獣の身体が吹き飛ばされ、天文台の床に激突して消えていく。
何事か、と仁美も火花も目を見開いていた。
「多喜さん、今のは……」
仁美が漏らした声に、にやりと笑みを作りながら多喜は言う。
「ヤツの『思考』を止めてやった。目くらましが効かなくても、行動を先読みされても、これなら隙を作ってやれるだろ」
「なるほど、その発想はなかった」
行動を読まれても、未来を視られても、思考することを止めてやればいい。そうすれば何も出来ない。多喜のユーベルコードは、明らかに戦況を変える一手となった。
そう、行動することが分かっていても、行動できないようにしてしまえば問題は無いのだ。
「それじゃ、あたしもっ!」
「キュゥッ!?」
その事に気が付いた仁美もワイヤーロープを繰り出す。ロープを施設内に張り巡らせ、千里眼獣の行動範囲を狭めていった。
身動きがとりづらくなったことに戸惑う千里眼獣の身体が、不意にロープに絡め取られて動けなくなったところを、仁美は見逃さない。
「そこっ!」
「ギ……ッ!!」
放たれるサイキックエナジーの光弾。まっすぐ飛んだそれが、千里眼獣の胸に大きな穴を穿った。びくりと身体を強張らせた獣の身体は、そのまま静かに崩れていく。
残りは一匹、それもワイヤーロープの下を潜ろうとしたり、飛び越えようとしてロープにぶつかったり、思ったように動けないでいた。火花がスマートフォンを取り出して、仲間に呼びかける。
「よし、ワイヤーで行動範囲が制限されているな。今だ、制圧要請!」
すると天文台の入り口から、盾を構えた機動部隊が雪崩れ込んできた。ワイヤーロープをちぎる勢いで突進する機動部隊に、千里眼獣の身体が飲み込まれていく。
「「ギァァァッ!!」」
どかどかと床を踏み鳴らす音が響いて、それが去って行った後には、獣の身体は一つも残らない。
ひとまず戦闘が終了したことに安堵しながら、仁美が周囲の設備を見回した。
「天文台の設備も……うん、大丈夫みたいだね!」
「あ、そうか。年季の入った天文台なんだっけ、ここ」
「ああ、話によれば開設から五十年は経過しているらしい。貴重な設備や資料もあるかもしれん……何より、破壊でもしたら最上階にいるやつが嘆くだろう」
仁美の言葉に多喜が答えると、火花もこくりと頷く。
確かにこの天文台の設備や展示物が破損しでもしたら、いや、天文台の建物だって破損したら、昴はきっと嘆き悲しむことだろう。この場所は、彼にとってそういう場所であろうからだ。
成功
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花菱・真紀
UDC-HUMAN…話を聞く限りこの現代社会じゃどこで起こるか分からないよな。
赤星さんみたいな人きっと他にもいるし…。
俺だってヘタすりゃ…(一瞬既に倒した宿敵を思い出して)
とにかく助けられるなら助けたい。
俺に出来ることをしよう。
UC【エレクトロレギオン】召喚。
集中する時間を与えないようにエレクトロレギオンに即攻撃をさせる
俺は【援護射撃】【スナイパー】【クイックドロウ】集中してるやつを見つけたらそっちを優先【視力】
俺の方に来た場合は【戦闘知識】と【第六感】で【見切り】
波狼・拓哉
やれやれ、救えない話です…あ、救えないのは女のほうね?男の方はやり直しさえしっかり出来れば問題ないような人物でしょうよ
まあ、その辺の話はまた後で。今は群がる獣共を蹴散らして進むのが先決ですね
ふむ…こちらから目を離そうとしませんね?なら好都合です。先に動かれる前にミミックを掲げて…化け咲きな?見逃すのもダメですが見すぎると駄目なもんもあるんですよ
自分は衝撃波込めた弾で動きの止まって無いやつを優先して狙いましょう。おあつらえ向きに大きな目玉してますしそこ狙いましょうか
あとは継続的に化け咲かしつつ、天文台まで向かいましょう
(アドリブ絡み歓迎)
キング・ノーライフ
世の中も猟兵も悪人も居ればそういう枠からも外れ切った者も居る。
しかし悪に触れて忘我の果てに本当に己を失うとはな。
これも感染する悪意や邪という類かもしれん。
ただ幸いにもまだ救いはある。
なら神として救わねばな。
さて、思考はこの辺して【狸塚の呼び鈴】で狸塚を呼び出し
【大狸囃子】を使って相手の動きも集中も止めていく。
そこからは二度目の集中する時間など与えぬように
【ノーライフ】での【制圧射撃】や当てに行く【誘導弾】、
狸塚の【衝撃波】で畳みかけて行くか。
しかし天文台で星、邪神に類する者が生まれた時に集まる怪異、感染して変質させる悪意…これまでのこの世界の事件の複合とも言える事件のようだな。
●主に光電観測を主目的とした
一方、一階の奥の方にある研修室。
テーブルと椅子が並べられ、奥には給湯室もある中で、テーブルに乗ってこちらを睨みつける獣たちに銃口を向けながら、波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)は深くため息をついた。
「やれやれ、救えない話です……あ、救えないのは女の方ね?」
「世の中には猟兵も悪人も居れば、そういう枠からも外れ切った者も居る」
キング・ノーライフ(不死なる物の神・f18503)も端正な顔立ちをゆがめながら、拳銃『ノーライフ』を構えていた。
その言葉に誤りはない。世の中には善人も悪人もいる。悪人という枠からも外れた外道も確かにいる。それがこの世界であり、人間という生き物でもある。
しかしキングの思考はこの事態を引き起こした女の方よりも、被害に遭った男の方に向いていた。
「しかし悪に触れて忘我の果てに、本当に己を失うとはな。これも感染する悪意や邪という類かもしれん」
「UDC-HUMAN……話を聞く限りこの現代社会じゃ、どこで起こるか分からないよな。赤星さんみたいな人、きっと他にもいるし……」
花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)も不安げな表情をしながら、恐らく昴がいるであろう上階への天井を見つめた。
このような事件、確実に単独で起こることはない。きっと他にも同じような目に遭っている人はいるはずだ。何なら、自分が当事者になることだってあるだろう。
一瞬、脳裏に人のいい顔をした黒髪の青年の姿がよぎる。既にこの世にはいないはずのモノを思い出した真紀は、小さく頭を振った。
「うん、とにかく助けられるなら助けたい。俺に出来ることをしよう」
「やり直しさえしっかり出来れば問題ないでしょうからね……まあ、その辺の話はまた後で。今は群がる獣共を蹴散らして進むのが先決ですね」
拓哉が気を取り直しつつ、改めて前を見やる。既に視界に映る獣たちは態勢を整えて、こちらを金色の瞳でまっすぐに見つめていた。
「クルルル!」
「カカカカッ!」
威嚇の鳴き声を上げる獣たち。テーブルの上を飛び回るように動きながら、こちらに迫っては爪を振りかざす。
それを躱しながら、真紀とキングは動き出した。即座に召喚される大量のエレクトロレギオンと、狩衣を纏った眼鏡の青年、そして大太鼓。
「よしいけっ、エレクトロレギオン!」
「狸塚、盛大に音を鳴らせ!」
「おっと、さっそくお仕事ですね? 承知しました!」
エレクトロレギオンが召喚と同時に銃弾を雨あられと降らせ、それと同時に狸塚・泰人が大太鼓を激しく打ち鳴らした。
爆音が部屋の中に響き、音に驚いた千里眼獣が一瞬だけ動きを止めるも、エレクトロレギオンの銃弾は最小限の数だけ受け止め、残りは躱してしまう。
その立ち回り方を観察していた拓哉は、あることに気が付いた。
「ふむ……こちらから目を離そうとしませんね? なら好都合です。三人とも、俺の前に立たないで」
三匹の獣の瞳が、ずっとこちらを向いたままなのだ。すぐに自分がいくらか前に出て、味方を視界に収めないように位置どる。
念のために声をかければ、真紀もキングも泰人も、さっと後方に引き下がった。
「はい」
「分かった」
「何か策があるのだな?」
キングが顎をしゃくりながら問えば、拓哉が掲げるのは彼のミミックだ。その手の内のミミックが、ぞわりと蠢いて。
「勿論です……さてミミック、化け咲きな?」
刹那、ミミックの身体が爆ぜるように膨らんだ。否、満開に咲き誇る花へと『化けた』のだ。
この研修室はそこまで広くない。人間が八人ほど入れば席が埋まる程度の広さである。攻撃の射程内から、獣たちは逃げられるはずもなかった。
「ギッ!?」
「ギ、ア
……!!」
拓哉を、拓哉の抱えたミミックを、見つめていた千里眼獣が身を強張らせた。その瞳はミミックの化けた花を見つめるようにしたまま、一切身じろぎもしない。
「動きが止まった!」
「見逃すのもダメですが、見すぎると駄目なもんもあるんですよ」
「よし、今のうちに片付けるか。狸塚は鳴らすのを止めるなよ」
「はいっ!」
三匹の獣が動きを止めた隙を、見逃すほど甘いことはしない。
すぐに各々が手にした銃の銃口を、千里眼獣の見開かれた目へと突き付けた。
「おあつらえ向きに大きな目してますし、狙いは付けやすいですね!」
「穿て、ノーライフ!」
「エレクトロレギオン、全弾発射!」
鳴り響く銃撃音、そして太鼓の爆音。全弾をその瞳で受け止めることになった獣たちは、現実を映さぬ瞳のままに倒れ伏し、さらさらと身体を崩していった。
「これで、この場所にいる千里眼獣は全てか?」
「らしいですね、進みましょ。あ、ミミックは化け咲いたままでな?」
ふっと息を吐いた真紀に拓哉が笑えば、拓哉を先頭にして四人は研修室を出ていく。
その途中で、キングは小さくため息をついた。
「しかし、天文台、星、邪神に類する者が生まれた時に集まる怪異、感染して変質させる悪意……これまでのこの世界での事件が、複合的に合わさったような事件だな」
「ふむ……確かに、そうですね」
キングの後ろについた泰人が、眉間に小さくしわを寄せながら同意する。
邪神の力、影響力、人々の悪意。何となしに、不安を掻き立てられるようで。心の奥底を掻き回されるようで。
キングは小さく、視線を伏せつつ頭を振った。
成功
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節原・美愛
こりゃまた、随分と悪い女にひっかかったわね…。
どう声をかけたものかしら。
さて、前座は一つ目の獣か。
目がいいとはいっても、それに頼り切りってわけでもないでしょ、立派な耳がついてるんだしさ。
相手が集中している間に"怨嗟の鳴き声"を発動、軽く舞いながら"呪詛"の音色をお届けよ。
何が見えていたって、そこから下される判断を狂わされれば宝の持ち腐れ。
あとは妖刀に戻した猫三味線で、一匹ずつ斬り捨てるだけね。
本番はこの後なんだし、前座はさっさと片付けて次にいきましょ。
レイ・アイオライト
男を食い物にするバカがいるって聞いたから来たんだけど、想像以上のバカだったわ……。
まあ、ここは救出が最優先ね。押し通らせてもらうわよ。
敵からの攻撃は、『罠使い』で『雷竜真銀鋼糸』を配置して『マヒ攻撃』の結界を作り上げる。(オーラ防御)
UC発動、【冥闇ノ篭手】で物質を極小のブラックホールへ変換、『戦闘知識』で襲いかかってくる方向を『第六感・見切り』、見えないほどに圧縮したブラックホールで『暗殺・だまし討ち』をするわ。
獣って、だいたい攻撃方法がだまし討ちと飛びかかりで偏ってるでしょ。森の中走り回ってた頃が懐かしく思えるわね。……それは置いておいて、UDC-HUMAN、救いにいかないとね。
アリス・セカンドカラー
お任せプレイング。お好きなように。
闇堕ちは嫌いではないけれど、ああいうのはフィクションでこそよねぇ。
ああ、でも、闇堕ちがあるなら催眠洗脳で屑を光堕ちさせるのもありかな?
ま、とりあえず、目の前の邪魔者を片さないと、ね。
“視”れるのであれば干渉もできる。ワンダーサイキッカーで強化した感応能力(第六感/情報収集/読心術/視力/聞き耳)で千里眼獣の思考を読むことで“視”た未来に盗み攻撃での時空属性攻撃で干渉し略奪する。
運動エナジーを捕食することで敵の攻撃の威力を軽減しつつ、生命力吸収でカウンターして千里眼獣の生命エナジーを捕食し略奪するわよ。ふふ、これ、私が一番得意とする超能力なのよね。
●現在は撤去されて存在しないが、380ミリ口径のレーザー望遠鏡も設置された
単眼の獣は次々現れては、UDC-HUMANのいる最上階への道を阻もうとやってくる。
上階に上がる階段を塞ぐように、三匹の獣が上の階から駆け下りてきた。
「こりゃまた、随分と悪い女にひっかかったわね……」
「男を食い物にするバカがいるって聞いたから来たんだけど、想像以上のバカだったわ……」
「悪人がいると聞いて飛んで来たけれど、予想以上の悪人だったわねぇ……」
その獣たちに相対しながら、節原・美愛(妖刀使いの鬼姉さん・f25351)、レイ・アイオライト(潜影の暗殺者・f12771)、アリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の魔少女・f05202)の三人は、昴を陥れ、彼が絶望してUDC-HUMANになるに至った女性を思い、一様にため息をついた。
赤星・昴を陥れた女性は許しがたい。一片の救いようも最早ない。
何とか手を打って、相応の罰を与えてやりたいと思う話ではあるが、今はまだ、その時ではないだろう。間違いなく。
「まあ、ここは件の男性の救出が最優先ね。押し通らせてもらうわよ」
「闇堕ちは嫌いではないけれど、ああいうのはフィクションでこそよねぇ」
レイの言葉にアリスも頷いて。階段を塞ぐ獣を排除するため、彼女たちは各々の武器を構えた。
相手が戦闘態勢に入ったことを感じ取った獣たちが、その大きな瞳で睨みつけながら脚に力を籠める。
「ギキキッ!」
「さて、前座は一つ目の獣か」
「大きな目を持っているのね。わたしたちを見逃すつもりはなさそうかしら」
美愛が猫三味線を構えつつ相手の出方を窺い、アリスもその身に禍々しいオーラを纏う。レイも魔刀・篠突ク雨を握り、その切っ先を千里眼獣へと向けた。
と、千里眼獣の一体が階段の手すりに飛び乗った。それを契機に残りの二体も前に飛び出す。鋭い爪が振りかざされ、前に立った美愛とレイを襲った。
迫る爪を刀でいなしながら、美愛がうっすら笑う。
「ま、でも目がいいとはいっても、それに頼り切りってわけでもないでしょ、立派な耳がついてるんだしさ」
猫三味線を大きく振れば、刀から三味線へと形態を変え。軽く身を翻して舞いながら、美愛は三味線の弦をつま弾いた。
呪詛が撒き散らされて、千里眼獣の瞳から冷静な色が消えていく。
「ギィッ!?」
「ギガガガ
……!!」
「どう、猫を殺せば七代祟る、ってね」
途端に冷静さを失い、獣らしい本能の色を帯びた単眼の獣を見て、アリスもうっすら笑みを浮かべた。冷静に物事を見られなくなったのなら、未来余地を行うものだろうとただの獣だ。
「あらいいじゃない。なら、こういうのはどうかしら?」
そう零しながらアリスが行使するのはサイキック。時空を操る攻撃が千里眼獣の行動する先に干渉し、その生命エナジーを捕食していった。
がくん、と頽れる千里眼獣たち。もはや立ち上がることすら覚束ない。
「ギ、ア……」
「なかなかうまいやり方ね。であれば、最後の一押しと行きましょう」
面白いものを見るようにレイが笑うと、彼女はゆるりと、腕を前に伸ばした。
と、伸ばした腕がゆらりと揺らめき、漆黒に変化する。それはまるで影が形を成したかのようで。
次の瞬間だ。
「ア
……!?」
「ガ
……!!」
空間の一点に向かって、千里眼獣の身体が吸い込まれるように消えていく。一瞬の間に三体の千里眼獣は、この世から姿を消していた。
「すごい……」
「運動エナジーを捕食できないのはあれだけれど……あれ、一体どうなっているの?」
あまりにも短い時間で敵が排除されたことに、美愛もアリスも驚きに目を見張っている。そんな二人に、レイは小さく肩を竦めながら答えた。
「簡単なことよ。獣って、だいたい攻撃方法がだまし討ちと飛びかかりで偏ってるでしょ。そこを狙ってブラックホールを展開しただけ……今回は動きを止めてもらったから、狙いも付けやすかったけれど」
「なるほど……」
「さすがユーベルコード、なんでもありだわ」
さらりととんでもないことを言いながら、影の腕を肉体に戻すレイ。そんな彼女に、二人は感嘆の息を漏らすほかない。
猟兵は埒外の存在。ユーベルコードはその力の発露。だとしても、ブラックホールをこの世界に呼び起こすとは、相当だ。
彼女たちに立ち向かうUDCは既にない。あとは天文台の最上階に向かうだけだ。
「さあ、それは置いておいて、UDC-HUMAN、救いにいかないとね」
レイが微笑めば、美愛もアリスも頷いて。彼女たちは階段を駆け上がっていった。
成功
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木常野・都月
酷いな。
狐の求愛ダンスも、断られるとショックだけど、今回みたいに陰湿じゃない。
人間って、力だけじゃなくて、言葉でも人を傷つけられるんだな。
同族の善意を裏切る奴は、狐社会でも爪弾きにされる。
下手すれば噛み殺される。
でも、今回の女性は、殺してはダメなのか。
でも、このままじゃ昴さんが可哀想過ぎる。
せめて奪われた車の鍵?を取り返してあげたい。
俺は新しい恋人を探してやれない。
でも、新しい恋人と巡り逢えるように、人間に戻してあげたい。
まずは獣達を何とかしないと。
UC【狐火】で、前後左右、そして上から一気に囲んで逃げ場を無くすようにして燃やしたい。
山梨・玄信
人を見る目が無かったか…まあ、高い勉強料…生きている人間がオブリビオン化するじゃと!人に取り憑くオブリビオンでも居るのか?
【SPDを使用】
隠れている相手を追跡?端から隠れる気などないわ!
オーラ防御を全身に展開して受けて立つぞ。…どこぞのテレビウムみたいじゃな。
見切りと第六感で打点をずらし、威力を削いでオーラ防御で受け止めるぞい。自慢の爪も勢いが無ければ刺さらんのじゃ。
攻撃を受けたら、即反撃じゃ。
UCでズタズタに切り裂いてやるぞ。それでも足りなければ、いつも通り褌一丁になり…これがいつも通りで良いのか疑問じゃが…更に加速して切るのじゃ。
アドリブ歓迎じゃ!
火奈本・火花
「しかし、思考の強制停止や魔法のような能力を持つ者は少し羨ましいな。……無いものをねだった所で、詮無い話ではあるが」
■戦闘
しかし自らの思考や行動が停止するという未来が見えても、その結果を生む攻撃の回避や予防が出来ない所を見ると、思っているほど知能は高くないのかも知れないな
攻撃が爪を用いた近接攻撃である事を思えば、範囲攻撃には打つ手がないと見るべきか
まずは私に狙いを定めさせる意味でも、9mm拳銃の射撃で牽制する
狙いはするが、当たるとは思わん
弾切れなど、奴らが接近したタイミングでの【宿木乱舞】が狙いだ
出来るだけ引き付けるか、寄って来なければ『捨て身の一撃』で此方から出向いてやろう
■
アドリブ、絡み可
●都幾川村の強い要望により、2000年9月1日付で観測ドームを村へ譲渡することになった
●空の状態が悪化したことや大型観測施設の稼動によって、観測所の存在意義が薄れた
同行した猟兵たちが上の階へと進む中、火花は未だ一階のホールにいた。
もしかしたらまだ、単眼の獣が隠れて残っているかもしれない、そんな気がして階段の前に陣取っていたのだが。
その勘は見事に当たった。物置になっているらしい部屋から、千里眼獣が三匹飛び出してくる。
「しかし、思考の強制停止や魔法のような能力を持つ者は少し羨ましいな……無いものをねだった所で、詮無い話ではあるが」
銃を構えつつ、そんなことを考える。自分にもああいう、先読みに対抗できるような力があれば、こういう敵にも与しやすいのだろうが。
と、視界の向こう側、天文台の入り口から二つの影が飛び込んでくる。山梨・玄信(3-Eの迷宮主・f06912)と木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)だ。
「生きている人間がオブリビオン化するじゃと! 人に取り憑くオブリビオンでも居るのか?」
「人間って、力だけじゃなくて、言葉でも人を傷つけられるんだな……酷いな」
天文台に飛び込んで来るや、そこに千里眼獣がいることに目を見開く二人。
しかしその驚愕も一瞬だ。すぐさま玄信は拳を、都月は杖を握る。明確に戦闘態勢を取った二人に、火花がうっすら紅い瞳を細めた。
「同業者か? 助かる」
「うむ、こいつらを蹴散らして最上階に行くぞい」
「このままじゃ昴さんが可哀想過ぎる。早く人間に戻してあげたい」
玄信が頷けば、都月も垂れた目尻を小さく持ち上げた。昴を助ける、その想いに相違はない。
しかして三人はすぐさまに三匹の千里眼獣へと立ち向かった。
都月が狐火を繰って飛ばし、火花が拳銃の射撃で牽制する。玄信もダガーナイフを手に握り、千里眼獣に切りかかっていった。
玄信のナイフと、千里眼獣の爪がぶつかり合うのを見て、火花が興味深げに眼鏡のブリッジを指で押さえる。
「キキッ!」
「……ふむ。未来が見えても、その結果を生む攻撃の回避や予防が出来ない所を見ると、思っているほど知能は高くないのかも知れないな」
「所詮は獣ということじゃろう」
「獣だから、分かっていても、止められないのかもな」
その言葉に、玄信がぐっと身体に力を籠めた。立ち上るオーラが彼の身体を覆い、守りを固めていく。その背後に火花が立って、弾丸を次々に放った。
「隠れている相手を追跡? 端から隠れる気などないわ!」
「頭上を通す。そのまま耐えろ」
短く告げた火花に、玄信が頷くと。自分の方に意識が向いた単眼の獣を引き付けては、その攻撃を寸前で見切って躱していく。
残りの一匹、一番遠くにいた個体には、都月が杖を振るっていた。
「狐火よ、燃えろ!」
と、その瞬間に千里眼獣を取り囲むように無数の狐火が出現した。
前後左右、さらには上にも。ドーム状に獣を取り囲んだ狐火が、一斉に殺到する。見えていたとて、逃げられる術はなかったろう。
「ギィィッ!」
燃やされ身悶えする千里眼獣を見ながら、火花が小さく鼻を鳴らす。
「逃げ場をなくして燃やしたか。それはいいが、建物を燃やすのはやめてくれよ。貴重な設備が焼けたらかなわん」
「あ……そうだな」
その言葉にハッと気が付いた都月が、ぶつからなかった狐火をすぐさま消した。
ここは天文台、それも相応に歴史を重ねてきた天文台だ。貴重な資料も設備も多い。
都月がわたわたと狐火を消しつつ千里眼獣にトドメを刺す中、玄信は自分に向かってくる獣二匹に翻弄されていた。ナイフの刃が届くギリギリのところで躱されるのに、いい加減やきもきしている様子である。
「ギギッ!」
「キキッ」
「ぬぅっ、ちょこまかと!」
ぐ、と奥歯を噛む玄信の背中に、何かが当たる感触がした。
気付けば玄信は火花を背に庇うような態勢で、彼女の脚に背を預けるところまで来ていた。いつの間にか追い詰められていたらしい。
と。
「おい、お前!」
「なんじゃ!」
頭上から火花が声を飛ばしてくる。前を見据えたまま玄信が答えると、彼女は
「駆け抜けながらそいつらの足を斬れ、私がやる!」
「ぬっ、承知じゃ! てぇぇぇい!!」
スーツの左腕をぐいとたくし上げる火花に頷いて、玄信は一挙に駆けた。駆け抜けながらダガーナイフを振るい、千里眼獣の前脚を切り裂いていく。
「キッ!?」
「よし、一瞬だけ、だ……暴れすぎるなよ――!!」
その高速の一撃に、千里眼獣の動きが確かに止まった。そこを火花は見逃さない。
心臓に根を張る謎の植物、ヤドリギを急速成長。尖ったヤドリギの枝が、一緒に生えた蔦の鞭が、彼女の周辺にある一切合切を貫き、打ちのめしていく。
それはまさしく無差別攻撃だった。だからこそ玄信を自分の傍から離したのだ。
「「ギァァァッ!!」」
「わ……」
「なるほど……これは巻き込まれたらかなわんわい」
断末魔の悲鳴を上げる単眼の獣たち。その姿がさらさらと世界に消えていくのを見ながら、都月と玄信がふっと息を吐く。
そして、左腕を人間の形をしたそれに戻した火花が、離れて見ていた二人に視線を向ける。
「ふう……これで、獣連中は全て片付いたか?」
「多分。他に獣の気配はない」
「よし、急ぐぞ」
千里眼獣の殲滅が済んだことを確認し、三人は上の階に通じる階段を上っていく。
そこには、赤星・昴がいるはずだ。
成功
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第2章 ボス戦
『『金牛卿』トーラス』
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POW : 輝きを与えるよ、私のナートエルナト
【自分の牡牛の角での突進】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に黄金に輝く謎の印が描かれ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD : 輝きを与えるよ、私のアルデバラン
【自分に対し敵意】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【黄色の襤褸を被った巨大な何かの内側】から、高命中力の【のたうつ触手類】を飛ばす。
WIZ : 輝き続けよう、我が子らプレアデスの達よ
自身が【憐みの思い】を感じると、レベル×1体の【光り輝く星々の群れ】が召喚される。光り輝く星々の群れは憐みの思いを与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
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●都幾川村の強い要望により、2000年9月1日付で観測ドームを村へ譲渡することになった
猟兵たちが最上階に到着すると。
年代物の91cm口径カセグレン式望遠鏡を愛おしそうに撫でながら、赤星・昴の顔をした、しかし頭に大きな角を生やした青年がそこに立っていた。
その長い茶髪をさらりと揺らしながら、彼は猟兵たちをその金の瞳で見やる。
「どうだい、美しいだろう? この望遠鏡は五十年もの長きの間ここにあって、空の星々を見つめ続けてきたんだ」
微笑みを浮かべながら、昴は望遠鏡から手を離す。その手を空に掲げるようにしながら、うっすらと目を細めた。
「それを、私のアルデバランは見ようとはしなかった……目先の富に囚われ、真に美しいものを視ようとしない。許しがたいことだとは思わないかい?」
彼の瞳は悲しそうで、しかし静かな怒りに満ちていて。
猟兵たちは理解した。このまま彼を放置していては、確実に草間・灯里を害するために動き出すだろう。そうなったら、赤星・昴を人間に戻すことは叶うまい。
ここで、この場所で、彼を止めなくてはならないのだ。
「君たちも、私の愛する美しいものを踏み躙りに来たのだろう……そうはさせない、させるものか」
そう話しながら、昴は望遠鏡から離れてこちらに歩み出しながら、手のひらを向けてくる。その手の内で、うぞうぞと蠢く何かが、見えた気がした。
●特記事項
・戦場は公開天文台の最上階です。戦場の中央には、五十年以上使われ続けてきた91cm口径のカセグレン式望遠鏡が設置されています。
望遠鏡に被害が及ぶような戦い方をすると、赤星・昴の救出が困難になる可能性があります。
節原・美愛
うーん、酒の肴にするには重すぎるし、時間も必要かな。
今は彼の中に渦巻いてるものを吐き出させるのが先決かも。
大事なものを共有できたら嬉しいし、貶されれば腹ば立つものよね。
その、あるでばらん?の所に行く前に、私たちの相手もしてよ。話しぐらいは聞いてあげるわよ?
突進は避けない。"野生の勘"で動きを"見切り"、"怪力"で角を掴んで受け止める!
突進の勢いを殺したら、横に転がす様に投げて、そのまま渾身の"一撃必殺"で角を砕く!
間違って本体に当てないようにだけ、気をつけないとね。
●都市部の郊外への膨張に伴い、空の状態が悪化したことで観測所の存在意義が薄れた
こちらをまっすぐに見つめながら、様子をうかがう赤星・昴。
その感情の籠もらない瞳を見やり、美愛はぽりぽりと頭を掻いた。
「うーん、酒の肴にするには重すぎるし、時間も必要かな」
そうぼやきながら、彼女は一歩前に踏み出す。
こんな悲しく重たい話をツマミに酒を飲むなど空気が悪くなることは必至。さらにはそう簡単に消化できるような感情でもない。
昴の心の痛みを癒すには、きっと長い時間が必要になることだろう。
彼自身、そのことを分からないわけではなく。目を伏せながらそっと額に手を置いた。
「そうだろうとも……こんな話を供にして、酒杯を傾ける? 酒に失礼というものだ」
「そうよね。だから、今は貴方の中に渦巻いているものを吐き出してちょうだい」
猫三味線を鞘にしまったままで、美愛はからりとした笑みを浮かべた。
どす黒い感情が渦巻くのはいい。仕方がない。なら、少しでも吐き出させることが出来れば、彼の気持ちも落ち着いてくるだろう、と美愛は期待した。
笑みを浮かべ、一歩ずつ前に踏み出しながら、彼女は話す。手も招く。
「大事なものを共有できたら嬉しいし、貶されれば腹ば立つものよね。その、あるでばらん? の所に行く前に、私たちの相手もしてよ。話ぐらいは聞いてあげるわよ?」
まっすぐに手を伸ばしてくる美愛に、昴の目がうっすらと細められた。美愛に応えるようにゆるく右手を伸ばす。
「ああ……コールサックのごとき乙女よ、その他人を思いやる気持ちに敬意を表しよう。だがこの内に渦巻く悲しみと怒りを、君に受け止めることがどうして出来ようか?」
美愛の漆黒の髪と瞳を暗黒星雲に例えながら、昴が問うた直後。
彼の足が強く床を蹴った。
「伴星の者は信じ、焦がれ、愛そうとしたアルデバランに突き離された。それは正しく、己が半身を裂かれるがごとき心の痛みだ。それを如何様にして受け止めるというのか?」
まっすぐ駆けながら、昴はなおも美愛に問いかける。頭に生えた角の先端を美愛に向けて、一直線に向かってくる。
それから、美愛は逃げようとしない。避けようともしない。
「そうね、昴さんはとても悲しかった。悲しみのあまりに心を閉ざしてしまった。人間を辞めちゃうくらいに」
そして、美愛の両手が昴の角を、しっかと掴んだ。突進がぴたりと止まる。
「ぬっ!?」
「その悲しみを真に理解することは出来なくても、寄り添うことは出来る!」
その強力で攻撃を受け止めた美愛の手が、円を描くように回された。横に転がされた昴の身体が床に叩きつけられる。
「ぐあっ!」
「今っ!」
そこを、美愛の拳が打ち据えた。狙いをつけたのは彼の角。
硬く握られた拳が角の中ほどを捉えた瞬間、びしりと鈍い音を立てて、片方の角に亀裂が走った。
成功
🔵🔵🔴
霧沢・仁美
確かに、その女の人は許せない人だけれど。
それでも、あなたがその手を汚すことは無い。彼女は間違いなく、その行いの報いを受けることになるのだから。
だから…星を愛するその優しい心を、どうか捨てないで…!
望遠鏡を破損させないよう、立ち回りに注意。
射線上に望遠鏡が入らないように位置を取るよ。敵に攻撃を避けられる可能性も考慮の上で。
基本、敵意よりは助けたいって気持ちで戦うつもり。
念心看波で攻撃して、その思考を読み取って。彼の心中が見えたら、それも説得材料に使えればと。
主目的は彼の立ち回りの把握。その動きを読んだ上でワイヤーロープを【投擲】、直接当てたり【ロープワーク】【念動力】で拘束して投げたりするよ。
●2005年には堂平山頂としての地形を生かした森林施設としての整備が完成した
身を起こした昴の傍に、歩み寄るのは仁美だった。
「確かに、その女の人は許せない人だけれど」
胸元に手を置き、悲しげな表情になりながらも、仁美ははっきりとした口調で自身の想いを発露させた。
「それでも、あなたがその手を汚すことは無い。彼女は間違いなく、その行いの報いを受けることになるのだから……だから、星を愛するその優しい心を、どうか捨てないで……!」
セーラー服の胸元をぐっと握りながら、仁美は告げる。
それを静かに聞いていた昴は、うっすらと笑みを浮かべながら一歩、二歩と後ろに下がっていった。
「ベテルギウスの君よ、報いは当然だ。アルデバランはこの伴星の車をも略取した。人間の法に照らし合わせれば、これは立派な犯罪だろう?」
三歩下がったところで、昴が大きく両腕を広げた。彼の隣の空間がゆらりと揺らめき、黄色のぼろ布を身に纏った『何か』が、静かにそこに現れる。
「そうだ、彼女は罪を犯した。罪は裁かれねばならない。だがそれだけでは、この行いの報いには到底足りないことも、ベテルギウスの君も理解は出来よう?」
問いかけの後に、沈黙が戦場に満ちた。黄色い何かは動かない。仁美が昴に敵意を向けるより、昴を助けたいと思う気持ちが強かったからだろう。
「確かに、そうだね。昴さんは彼女が、窃盗の罪で刑事罰を受けるだけでは、満足しないと思う」
「なら……」
攻撃を加えられないことにもどかしさを感じながら、仁美の言葉に抗弁しようとする昴だが。その言葉が続くより先に、仁美の凛とした声が天文台の最上階に響いた。
「ただ、あなた自身が……昴さんが、自分の手で彼女を罰することを、喜ぶかな? 星を愛し、他人に喜んでもらうためにこんな場所まで車を走らせる、優しい人が」
そう話しながら、仁美は精神波を発していた。昴にぶつかった精神波から、昴の心のうち、思考が自分に伝わってくる。
そこにあるのは大きな大きな悲しみだ。怒りでもなく、失望でもなく、悲しみ。それが昴の内を支配していることを、仁美は確かに認識していた。
「あたしには分かるよ。昴さんは灯里さんを憎んでいるんじゃない、ただ、悲しいだけ。裏切られたことも、欺かれたことも!」
「知った風なことを言う!」
内面を言い当てられたことによってか、昴が強い口調で言い返す。
が、仁美は怯まずにワイヤーロープを放った。その先端の錘が昴の身体を打つことは無いが、念動力によって操作されたロープが、彼の腰に巻き付いて縛る
「くっ……」
「知った風、じゃないよ。知ったんだよ」
静かにそう告げて、仁美がワイヤーロープを繰る。昴の身体が、ふわりと宙に舞った。
大成功
🔵🔵🔵
花菱・真紀
赤星さんは何も悪くないよ。真剣にお付き合いしたいと思ったら自分の好きなものを見せたくてここに来たんでしょ?
ただ相手が悪かったんだ。
そんな奴のために赤星さんが人を止めることはない。
UC【オルタナティブダブル】
繊細な命令をするならやっぱり有祈だな。
面倒だと思うが赤星さんの髪や角以外の攻撃は避けてくれあと天文台も傷付けない。
もちろん俺もちゃんとそうする。
【援護射撃】で他の猟兵さんを援護しつつ【スナイパー】で角や髪を狙う。
敵攻撃は【戦闘知識】【第六感】で【見切り】
●木曽観測所が開所されるまでの期間は3m極望遠鏡による観測も行われた
天文台の床に強かに叩きつけられる昴を見つめながら、真紀が穏やかな口調で話し始めた。
「赤星さんは何も悪くないよ。真剣にお付き合いしたいと思ったら、自分の好きなものを見せたくてここに来たんでしょ?」
真摯に、まっすぐに言葉を紡いでいく真紀。身を起こしながら昴は口を動かすことはなく。
励ますように、真紀は胸元に手を置きながら言った。
「今回は、ただ相手が悪かったんだ。そんな奴のために、赤星さんが人を止めることはない」
それを、静かに聞いていた昴。その口元が僅かに持ち上がって。
目を見開く真紀に、昴が緩く手を伸ばしながら言った。
「ドゥベーの君、ならば君はどうする? ただ星の巡りが悪かっただけと、割り切って前だけを向くというのか?」
先程召喚した黄衣の王の後ろに立つようにして、昴は話し続ける。己の想いを吐き出し続ける。
「違うだろう。人は立ち止まり、顧みるからこそ人なのだ。忘れ得ぬからこそ人なのだ。
その抱えた情を自分の中に飲み込むために、その原因に自ら手を下すことに、なんの問題がある?」
昴のその、諦念に満ちた言葉に、真紀はシャツの胸元をぎゅっと握った。
彼の言うことも分かる。間違ったことを言っているわけではない。ただ、その「手の下し方」が問題なのだ。
「確かに、そうかもしれない……だけど! 赤星さん自身が、そんなことをする必要はないんだ!」
「ならば示してみせるがいい!」
真紀が強く言えば、昴も力強く声を発して。ぼろ布を纏った巨大な存在が、ゆらりと布を揺らした。
来る。
「有祈!」
「ああ」
もう一人の人格をオルタナティブ・ダブルで呼び出し、現れた有祈へと真紀は早口で告げていく。
「面倒だと思うが、赤星さんの髪や角以外への攻撃は避けてくれ。あと天文台も傷つけない。もちろん俺もちゃんとそうする」
「分かった」
有祈が短く答えれば、二人が同時に対UDC用自動拳銃をホルスターから抜く。それが契機となった。
「黄衣の王よ!」
昴の声とほぼ同時に、ぼろ布の内側から何本もの太い触手が現れた。それが床の上をのたくっては、恐るべきスピードで二人に迫る。
触手に身を打たれながらも、真紀も有祈も自動拳銃の照準は大きく動かさない。
「くぅっ……」
「くそっ!」
声を漏らしながら、引かれるトリガー。放たれた弾丸はまっすぐに昴へと飛んだ。
バチンと音を立てて、昴の角の一本と髪のひと房に弾丸が見事に命中。昴の身体がぐらりと傾ぐ。
「むっ!?」
「へっ、見たか!」
突然のことに驚く昴へと、真紀はにんまりと笑みを向けた。
成功
🔵🔵🔴
木常野・都月
俺は貴方の綺麗な物を踏み躙るつもりは無いよ。
俺は、貴方を人間に戻しに来たんだ。
貴方の彼女は、確かに人として許せない。
その気持ちは凄く分かる。
でも、貴方まで「人で無し」になったらダメだ。
まずは[オーラ防御]で望遠鏡と周辺の機器、施設内のものを保護したい。
どうやって人間に戻したらいいか、正直分からないけど、思いつくことをやるしかないか。
地の精霊様に頼んで、彼の周囲に電磁場を作って貰いたい。
重力を操作して、彼を動かなくしたい。
但し、潰しすぎないように。
動けなくなる程度でいい。
後は、月の精霊様チィに[属性攻撃、気絶攻撃]をお願いしたい。
月の狂気や浄化を担うチィなら、彼の怒りや悲しみを鎮められないかな。
●得られたデータは理科年表等で公開されている
頭を押さえる昴へと、都月が目じりを下げながら声をかける。
「貴方の彼女は、確かに人として許せない……その気持ちは凄く分かる。でも、貴方まで『人で無し』になったらダメだ」
ぐっと手の中の杖を握る都月を見ながら、昴はその金色の瞳を静かに細めた。いっそ優しさを感じさせるような口調で、彼に告げる。
「なればどうする、プロキオンの君よ。君も私の行く手を阻むというのだろう?」
「俺は貴方の綺麗な物を踏み躙るつもりは無いよ。俺は、貴方を人間に戻しに来たんだ」
昴の言葉に、ゆるゆると頭を振りながら答える都月。その言葉に、昴の瞳がますます細められた。その表情は聞き分けのない子供を諭すかのようで。
「滑稽なことを言う。悲しみという暗雲に包まれた彼の心を晴らそうと言うのか? 出来るか、出来ないか、論じる価値もないことだ」
「そんなことはない。どうすればいいか、ハッキリと確証が持ててはいないけど……だからって、諦めるわけにはいかない」
少しだけ、うつむき気味になりながらも、都月は自分の気持ちに正直に話した。そのまっすぐな、飾り気のない言葉に、昴が微かに笑い声を漏らす。
「ああ、憐れなるかなプロキオンの君よ。君は確かな確証も持たず、ただ希望的観測を以てして私の前に立ったのだ。そのちっぽけな勇気と希望は、たちまち垂れこめる暗雲に隠されてしまうだろう」
その声は、憐れみの表情を帯びていて。同時に彼の周囲に瞬いた光が、星となって都月に襲いかかってきた。
星の光に身を打たれながらも、都月はしっかと杖を振る。
「地の精霊様、お願いします!」
行使するのは地の精霊。発するは重力。昴の周囲だけが空気が重たくなり、その動きを阻害せんとする。
身体が空気に縛られつつあることに、昴が訝し気な表情をした。
「む……」
「よし、チィ」
「キュッ」
動きが止まったことを確認して、都月が呼びかけるのは月の精霊・チィだ。
都月の肩から飛び降りたチィが空中を駆けると、昴の頭に取り付いてだしだしと前脚でその角を叩き始める。
鬱陶しそうに表情をゆがめた昴がチィを手で払おうとするも、思うように身体が動かせない。それがさらに、イライラを加速させる。
「おのれ、仔狐めが忌々しい!」
「キュッ!」
声を荒げた昴の頭上で、チィが小さく鳴いた。程なくして頭を強く振った昴に、振り落とされるようにチィが天文台の床に降りる。
「チィ、もういいぞ……大丈夫か?」
舞い戻ってきたチィを労いながら、都月は長く息を吐き出す昴を、じっと見つめていた。
成功
🔵🔵🔴
キング・ノーライフ
踏みにじる気は毛頭ないが、
挑んでくるなら迎え撃つとしよう。
「突進するのは勝手だ。だが避けて貴様が壁にぶつかって止まろうが
当たって我が吹き飛ばされてるでも結果は同じ、
ここを自分で壊すのか貴様は?」と言って全力で突進させにくくしつつ【見切り】をして躱す。
そして角を弾くように攻撃して【王の供物】を発動。
元はこの世界のUDCを別の存在に変える為に使った力を利用したUC、
オブリビオン由来の人としては過剰な力のみを奪っていく事も可能なはず。
流石に従者の前で従者達にしたような形ではしたくない、
ハグとか額に触れるとかになるだろうがな。
美しい物を見ないから壊すか?
壊せば貴様のそれを美しいと思える心が壊れるぞ。
●設立以来様々な観測機器が同地に設置され、数多くの天体現象の観測が行われた
忌々し気に猟兵たちを見やる昴を見つめ返しながら、キングがただ一人で最上階の床を踏んだ。
泰人は一度帰還させている。あまり、これからの場面は見せたいものではない。
「さて、踏みにじる気は毛頭ないが、挑んでくるなら迎え撃つとしよう」
そう言葉を発して、昴にちらと手招きをする。しかし昴は目つきを鋭くしながら、キングの言葉に猛然と噛みついた。
「最初は誰もがそう言うのだ。お前を傷つけたりはしない、お前は素晴らしいやつだ、などと。だがそれもその場しのぎの言葉に過ぎん。遅かれ早かれ、つまらぬ男だと四等星を見るように捨て去るのだ!」
呪詛を吐き出すように、昴はシャツの胸元を握りしめながら言うた。
きっと彼は――人間だった頃の彼は、よくそうして侮られてきたのだろう。つまらない奴、取るに足らない奴だと。そうして彼は、自分をそう評するようになったに違いない。
だが、キングはその言葉を、文字通り一笑に付した。
「ふん、そうして自分が小さく、取るに足らないものだと評し、その評価に甘んじているのだろう?」
「なに……」
言い返された昴が目を見開く。彼が言葉に詰まるところに、畳みかけるようにキングが言葉を投げていく。
「先程から度々言っている伴星の君とは、すなわち貴様の事だろう。主星ほど目立たない、しかし確かに傍にいるものだと。貴様はそのまま、誰かの影に隠れた存在のままでいるつもりか?」
カツカツ、と天文台の床を踏みながら、キングが昴に近づいていく。
伴星は主星の傍にあるもの。傍にあって、主星より気付かれにくく、輝かないもの。彼は彼自身を、輝かしい存在の傍にいるものとして定義し、伴星だと評したのだろう。
キングは神だ。自ら一人で立ち、自らで輝くことが出来る神だ。しかし彼自身、何人もの従者やペットを抱え、誰かと共に立つことを知っている。
共に立つなら、陰に隠れてはならない。それはキングが、一番よく分かっていた。
そんな思いを込めた視線を向けながら、キングは望遠鏡の周囲を囲むフェンスに手を置いた。
「ここで突進を仕掛けるのは勝手だ。だが避けて貴様が壁にぶつかろうが、当たって我が吹き飛ばされようが、この場所が傷つくことは変わらん。貴様はここを、自分で壊すのか?」
「アルファ・ケンタウリの君よ、私を侮るな。私の角で貫けば、君が吹き飛ぶこともないだろう!」
キングの言葉を跳ね除けながら、昴が強く床を蹴った。まっすぐに、キングに向かって突進を仕掛けるが、その足取りはどこか、躊躇いがあるように見えて。
狙い通りだ。キングに接触する直前のタイミングを狙って、キングがさっと身を翻す。
「ふん」
「なにっ――」
角の一撃をいなされた昴が目を見開いた瞬間、キングの手が昴の額を捉えた。
「我への贄に相応しい姿になるがいい」
「くっ、何を
……!?」
キングの拳が額に当たるや、昴の外見が僅かに若返った。髪の毛も若干短くなったように見える。
そこで生じた隙を突いて、キングの指先が昴の額を撫でた。つぅ、と指を這わせながら甘い声で囁く。
「美しい物を見ないから壊すか? 壊せば貴様の、それを美しいと思える心が壊れるぞ」
「何を、バカな……美しいものは人間がどうあろうと不変だ、そうだろう?」
キングの甘言に必死で耐え忍びながら、昴はうっすらと笑みを浮かべて見せた。
成功
🔵🔵🔴
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
これが……UDC-HUMAN……
もう、変異しちまっているのか?
いや、まだ時間はあるはず!
なんも悪い事してない人の手を汚させるかよっ!
『コミュ力』で話しかける。
おいおい、勘違いしなさんな。
昴さん、アタシらはアンタの言う
美しいものを踏み躙る為に来たんじゃないんだ。
それを護る為に、ここに来たのさ。
その大きさの望遠鏡、作るにも維持するにも大変だろうに。
関わった人達の想いもね。
そんな価値を知らねぇアバズレ、アルデバランに例えるにゃ
ちょっと上等すぎやしないかい?
……昴さん、アンタが今手にした力なんて必要ない、捨てちまえ。
人の世で受けた絶望だ、
人の世の力でやり返そうじゃないのさ。
波狼・拓哉
いいですよね、宇宙。浪漫ありますよねぇ…星の空とか旅してみたいもんです
踏み躙るなんてとんでもない。むしろあなたが知る話をより聞きたいですかね?
…あなたはまだ死んでいないのです。その真に美しいものを目先の富に囚われない方々に広める方が先決なのではないですかね。…真に美しいものは無理矢理見せてるもんじゃないのですよ。向うから見て心奪われる…あなたも最初星空に魅せられた時そうだったのではないですかね
さて化け撃ちなミミック。かくいう自分も宇宙に魅せられた男でね…ミミック、後ろに気を付けつつ角と触手を撃ち貫け
自分は衝撃波込めた弾で相手の動きの制限をしたりしてサポートに
(アドリブ絡み歓迎)
●2000年に都幾川村に移管、2001年から2005年に渡って施設整備工事が行われた
「これが……UDC-HUMAN。もう、変異しちまっているのか?」
「いいや、まだ。まだ間に合うはずです」
昴の前に、笑みを浮かべつつ拓哉が一歩踏み出した。
「いいですよね、宇宙。浪漫ありますよねぇ……星の空とか旅してみたいもんです」
天文台の大きな窓から見える夜空に視線を投げながら、楽し気に彼は語る。その語り口に、昴も幾分か興味を持ったらしい。芝居がかった動きで天文台の天窓を仰ぎながら、大きく両腕を広げた。
「そうとも、美麗にして空虚、華美にして静謐。これほどの幽玄な美が、この世界のどこにあるだろう? そうは思わないか、カペラの君に、アクルックスの君よ」
拓哉をぎょしゃ座のカペラに、多喜をみなみじゅうじ座のアクルックスに準えて、星々の美しさを問うて見せる昴。その言葉に、二人はこくりと頷いた。
「ああ……分かるよ。夜空の星って、綺麗だよな」
「そうですよね、地球から見たら宝石箱のようなのに、実際に宇宙に言ったら音も熱もない、静かな世界だ。その美しさと、美しいと思う心を、踏み躙るなんてとんでもない」
昴の発言に、多喜も拓哉も同調する。宇宙と星を好む身の拓哉は、UDC-HUMANと化してしまった昴にも、親近感が幾ばくか。
拓哉が暗に灯里を非難する言葉を吐けば、昴もそれに頷いて、そのまま項垂れつつ頭を振る。
「……全くだ。アルデバランの君よ、何故目先の眩さに囚われて伴星の君の想いを踏み躙ったのか。俗世に目を向けるより、空に目を向ければ、あんなにも得難く、美しいものが手に届くところにあるのに」
力なく頭を振る昴の頭で、星を象ったアクセサリーがしゃらりと揺れた。
ここは埼玉県でも田舎の方、おまけに山の山頂。人家の明かりは少なく、月の出ない晴れた日にはそれこそ星が夜空いっぱいに広がる場所だ。
それを見ずに、金だの車だのと目先の欲に囚われる。勿体ない話だと言えるだろう。
拓哉も、それに頷きを返して。しかし僅かに目を細めながら、昴に告げた。
「そういう思いを、もっと他の人に伝えれば、いいんじゃないですかね」
「……ふむ」
拓哉の発した言葉に、ほんの少し目を見開きながら昴が視線を向ける。言外に、その言葉の先を二人に促す彼へと、多喜は真摯に言葉を重ねた。
「昴さん、アタシらはアンタの言う美しいものを踏み躙る為に来たんじゃないんだ。それを護る為に、ここに来たのさ」
「あなたはまだ死んでいないのです。その真に美しいものを、目先の富に囚われない方々に広める方が、先決なのではないですかね」
拓哉も自分の想いを、彼へとまっすぐに伝えていく。
赤星・昴は死んでいない。ただ心を閉ざしただけ。彼が人に星々の美しさを伝えることは、まだ出来る。そう信じている。
多喜と拓哉の想いに、昴も心を動かされた様子で。自分の胸元に手を置きながら、彼は目の前の青年をまっすぐに見た。
「この美を、己が内に留めず、他者へと伝え広めるべき。そういうのかい、カペラの君」
「真に美しいものは、無理矢理見せてるもんじゃないのですよ。向うから見て心奪われる……あなたも最初星空に魅せられた時、そうだったのではないですかね。
それに、この景色を見せたいから、彼女をこの場所まで連れてきたんでしょう?」
拓哉はそう言って、再び天窓を見上げた。小さな天窓から、溢れんばかりの星々が輝いている様が、明るい室内からでもよく見える。
多喜も頷きながら、拓哉の言葉の後を継いだ。その視線が向くのは、天文台最上階の中央部に位置する、望遠鏡だ。
「それに……それにさ。こんだけの大きさの望遠鏡、作るにも維持するにも大変だろうに。
これに関わった人達の想いもね。
そんな価値を知らねぇアバズレ、アルデバランに例えるにゃちょっと上等すぎやしないかい?」
多喜の発した言葉に、昴は大きく目を見開いた。その瞳が、今まで厭世的な色をしていたのが、僅かに輝きを帯びる。
「私は……彼女の瞳の美しさに魅せられ、その輝きを称えてアルデバランと評した。だが、アクルックスの君よ。この天文台の望遠鏡を五十年もの長きに渡り維持し、後世に伝えてきた人々の苦労と努力を慮る君の瞳は、それ以上に輝かしい」
「よせよ、照れくさい」
素直な賞賛の言葉に、小さく頬をかきながら視線を逸らす多喜だ。彼なりの賛辞なのだろう、それは分かるが、詩的に過ぎてちょっとくすぐったい。
小さく肩を竦めて、拓哉が口を開いた。
「まあ、そういうことです。あなたが知る話を、俺もより聞きたいですかね? かくいう自分も、宇宙に魅せられた男なもんで」
そう告げて、指先をくるりと回しながら。拓哉が一瞬だけ鋭い目つきを見せた。
「さて……宇宙とくれば宇宙船。化け撃ちなミミック!」
刹那、室内に轟音が響く。拓哉の手元にあったミミックが、一瞬のうちに姿を変えたのだ。
巨大な、巨大な宇宙戦艦に、である。
突然のことに昴も、驚愕の色を隠せない。
「なっ!?」
「おっと、避けさせはしないよ。避けたとしても意味は無いだろうけれどさ!」
「後ろに気を付けつつ、角と触手に射撃用意! 望遠鏡と制御設備に傷はつけるなよ!」
思わず身を引く昴に、思念波を飛ばしながら多喜が言い放った。その間にも拓哉はミミックに指示を飛ばし、その砲塔の照準をミリ単位で昴の角に向ける。
パウッ、とビームが放たれる音がして。
閃光が消えた時には、昴の頭に生えた角の片方が、粉々に砕かれて床に落下していた。
「ぐっ……!」
「よーしいい子だミミック。もういっちょ、暁の地平線に存在を刻みな!」
拓哉の言葉を受け、ミミックが再び砲塔の照準を合わせる。そのあんまりな威力の高さに、昴は驚愕の色を隠せない。
狼狽する昴へと、多喜が少しだけ悲しそうな目を向けた。
「……昴さん、アンタが今手にした力なんて必要ない、捨てちまえ。人の世で受けた絶望だ、人の世の力でやり返そうじゃないのさ」
人の世の絶望は、人の世の力で。決して人外の力を以てするのではなく。
そう諭すように話す多喜に、昴はその場に膝を突きながら、呆気に取られた様子で視線だけを返すのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
レイ・アイオライト
美しいもの?愛するもの?アンタが一方的に愛した女は、今頃アンタの車の中で笑い声をあげてるのよ。
UC発動、【暗黒領域】を薄板状に所々に配置して、触手の攻撃を『目立たない・オーラ防御』するわ。他の猟兵に攻撃が行った時もそうさせてもらう。……まあ、憐れなアンタに敵意なんて向けるはずないかもしれないけど。
隙があれば、鋼糸で拘束を試みるわ。(罠使い)
結局考えてるのは例の女のことでしょ。まだ救いがある、だなんて文字通り『希望的観測』よ。
他人のためにじゃなくて、まずはアンタのために生きてみなさい。裏切られて、捨てられてなお、まだそんな女を相手にしてるんじゃ意味がないわ。……あたしが言えた義理じゃないけどね。
山梨・玄信
さて…哀れな恋の犠牲者を救うのもRB団の役目じゃ。
その為にも、先ずは足止めせんとなあ。
【POWを使用】
褌一丁になって脱ぎ力を高め、UCを発動するぞい。
見切りと第六感で突進の動きを読み、勢いを殺して受け止めるのじゃ!オーラ防御も緩衝材代わりに使うぞい
「そんなに暴れると、お主の大好きな望遠鏡に傷が付くぞい。先ずは落ち着くのじゃ」
「恋愛は初めてじゃったんじゃな。何でもそうじゃが、恋愛も最初から上手く出来る人間なぞおらん。今回の失敗から学んだ事はあるじゃろ?」
「ならば、それを生かして幸せになるんじゃ。それがあの女への一番の復讐になる。ああいう悪女も、恋愛に失敗している場合が多いからの」
アドリブ歓迎じゃ
●人工衛星の軌道追跡用にスミソニアン天体物理観測所によって世界各国に設置された望遠鏡が設置され、観測に使われた
呆けたように床に膝をついて空を見上げる昴を見つつ、玄信はおもむろに胴着を脱ぎ捨てた。
「さて……哀れな恋の犠牲者を救うのもRB団の役目じゃ。その為にも、先ずは足止めせんとなあ」
首をこきりと鳴らしながら、胴着を脱いで褌一丁になる玄信に、昴は殊更に不思議そうな視線を向ける。
「あぁ、ポルックスの君よ、何故そうして裸体を晒す?」
「お主の突進を受け止めるには、こうする他ないからの」
昴の言葉にそう返し、指先をくいと持ち上げる玄信。誘うような彼の素振りに、昴がゆらりと立ち上がる。
「ならば、その肉体一つで止めてみせるがいい!」
なりふり構わぬと言った様子で、玄信に向かって昴が突進する。だが、そんな彼の進行を阻むかのように、レイが手をかざした。
「朔月に墜ちる影、全てを塗り潰す暗黒事象結界、具現しなさい!」
玄信と昴の間に、何枚も立ち塞がる漆黒の結界。薄板状に張られた結界に、急に足を止めて方向転換して躱しながら、レイへと昴が目を向けた。
「アンタレスの君!?」
「……まあ、憐れなアンタにあたしが敵意なんて向けるはずないかもしれないけど。それでも、味方はそうじゃないかもしれないものね」
「助かるのじゃ。じゃが、見ておれ!」
昴が結界を左右に避けながらも玄信に迫るが、その玄信は向かってくる昴をまっすぐに見据えて、高々と拳を突き上げた。
「ヌギカル☆玄ッ信ッ!!」
「なっ
……!?」
力強く発声すれば、彼の身体が眩い輝きを発し。星がその場に現れたかのごとき光に昴が一瞬怯むと、玄信がすぐさま飛び出した。昴の片手と、頭から生えたもう片方の角をしっかと掴む。
「ぬっ、ぬぬぬ……!」
「ぐぬぬ……!」
玄信と昴が、歯を食いしばりながら押し合いを繰り広げる。明らかにその場で静止し、意識が玄信へと向いている昴を見て、レイがにやりと笑った。
「……よし、今ね!」
大きな、大きな隙だ。ここを突かないのは勿体ない。放たれた鋼糸が昴の身体に巻き付いた。両腕を封じられた昴の身体が、一瞬後方に下がる。
「はっ、しまっ――」
「ぬぇぇぇぇいっ!!」
その瞬間だ。玄信の両手が、昴の頭から生えた牡牛の角を、粉々に握り潰した。
「あ……」
砕け、折れた角がさらさらと細かい砂になって消えていく。頭の側に残った角の根元も、一緒に砂となって消えていった。
その影響だろう、長かった髪の毛がぷつりと切れて、天文台の床に落ちていく。
後に残るのは、映像で見たのより若干髪の伸びた、赤星・昴、その人である。
「さて……お主、気分はどうじゃな?」
「砕かれた角は消えていったし……もう、人間に戻ったかしら?」
玄信とレイが声をかけると、昴は二人を、他の猟兵たちをきょろきょろと見回しながらおずおずと頷いた。
「えぇと……はい、多分、そうなんだと、思います。なんだかついさっきまで、夢を見ていたような……そんな感覚なんですけれど」
曰く、UDC-HUMANと化していた最中のことを、覚えていないわけではないらしい。先程まで猟兵たちと戦闘を繰り広げていたこともあり、恥ずかしそうに縮こまっていた。
恐縮しきりの昴の方を、玄信が優しく叩く。
「ま、悪い夢だったんじゃよ。あの女のしたことまで、そうは言えんがな」
「あの女との恋愛の最中は、悪い夢、ってことでいいんじゃないかしら?」
「は、そ、そうだ、俺の車!」
玄信の言葉にレイが嘯けば、昴はようやく灯里のしたことを思い出したらしい。ここまで乗ってきた車を奪われて、もう数時間は経っている。追いかけるのは難しいだろう。
慌てて立ち上がる昴に、レイがあきれた様子で声をかけた。
「美しいもの? 愛するもの? アンタが一方的に愛した女は、今頃アンタの車の中で笑い声をあげてるのよ。まだそんな女に執着するつもり?」
「恋愛は初めてじゃったんじゃな。何でもそうじゃが、恋愛も最初から上手く出来る人間なぞおらん。今回の失敗から学んだ事はあるじゃろ?」
玄信も腕を組みながら言葉を投げれば、昴は力なく項垂れながらも、はっきりと言う。
「……はい。趣味が合ったり、話が盛り上がるからって、舞い上がっちゃダメですね。話をしてると、つい楽しくて……本質が、見えていなかったんだと思います。本当のあいつは、どうしようもない屑だった」
草間・灯里はどうしようもない女だ。人間として、一顧だにする価値もない女だ。
昴自身も、今回の件でそれをちゃんと理解したらしい。理解したなら、それを次に活かすことは出来る。
玄信とレイが、にやりと笑いながら昴を慰めるように声をかけた。
「そういうことじゃ。今回の失敗を活かして幸せになるんじゃな。それがあの女への一番の復讐になる。ああいう悪女も、恋愛に失敗している場合が多いからの」
「ま、そうよね。ああいう手合いは絶対友達とか少ないわ。人間としての本質の部分が腐ってるんだもの」
「は……ははは、確かに」
二人のその言葉に、昴自身、思い当たる部分はあるらしく。ようやく彼の表情にも笑顔が戻った。
ここに、赤星・昴は人間として救われたのである。
「まだ救いがある、だなんて文字通り『希望的観測』よ。他人のためにじゃなくて、まずはアンタのために生きてみなさい……あたしが言えた義理じゃないけどね」
レイがにこりと笑って、昴の顔を見つつ笑みを向ければ。
「……はい」
昴もこくりと頷き、笑い返すのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『人間の屑に制裁を』
|
POW : 殺さない範囲で、ボコボコに殴って、心を折る
SPD : 証拠を集めて警察に逮捕させるなど、社会的な制裁を受けさせる
WIZ : 事件の被害者と同じ苦痛を味合わせる事で、被害者の痛みを理解させ、再犯を防ぐ
|
●設置当時の望遠鏡の最大の目的は、写真儀としての活用であった
昴を電車の駅まで送り届けて、後日。
猟兵は昴と一緒に、埼玉県の中心部、さいたま市の市街地にいた。
「あははは、そーそー。バカみたいだよねー!」
視界に映るカフェのテラス席では、草間・灯里が誰かと電話しているのが見える。
「……いました、あそこのカフェで電話しているのが、灯里です」
灯里の姿を見ながら、昴が唇を噛む。視界には見覚えのある軽自動車も停まっていた。どうやら彼女は昴から奪っていった軽自動車を、我が物顔で乗り回しているらしい。
「本当は、俺自身が出て行って、痛い目に遭わせてやりたい……でも、そんな勇気も無いし、うまくやれる自信もないです」
悔しそうに昴が拳を握る。
彼は何の力もない一般人だ。武道を嗜むわけでもなく、裏の人脈があるわけでもない。
だが、猟兵たちが今は傍にいる。いくらでも対処の仕様はあるのだ。
昴が振り返り、猟兵たちの顔を見た。そのまま、大きく頭を下げた。
「だから皆さん、お願いします。皆さんならきっと、うまくやってくれる……俺、信じてますんで」
●特記事項
・場所は埼玉県さいたま市の市街地です。
ターゲットの草間・灯里は昴から奪った車を路上に駐車して、市内のカフェで誰かと電話をしています。
殺さなければ大概のことは許容されます。完膚なきまでにボッコボコにしてください。
山梨・玄信
済まんが、わしは私刑というのは好まんのじゃ。
じゃがな、事実を突き付けてやる事なら出来るぞ。
UDCに草野の「彼氏」の素行調査をお願いしておくのじゃ。ああいった女は自分も騙されて、貢がされている場合が多いからのう。
調査結果で草野も騙されている事が分かったら、先ずは赤星殿に見せるぞい。
「世の中こんなもんじゃ。お主が復讐するまでも無いじゃろ」
その後、草野に接触するぞい。
「お主の彼氏じゃがな。多分、彼氏ではないぞ」
「お主も騙されておったんじゃ。まあ、お主の場合自業自得じゃがな」
ここで、UCを使用。多少邪心を祓うぞ。
「これに懲りたら人を騙すのは止めるんじゃ。後、罪滅ぼしに返せる物は返しておくんじゃぞ」
キング・ノーライフ
さて、女の方は皆が何とかするだろう。
問題はその先、女が急に何かしら起こった場合、
食い物にした男の復讐と考えて昴を脅しかねん女の連れ。
こいつを何とかするか。
【ハッキング】で女のスマホ等から特定し、男を捜索。
従者も使い【ヴァーハナ】に拉致したら【王の諜報】で
裏の組織の人間と【言いくるめ】。抵抗されても【見切り】や【ノーライフ】を突きつければ素直になるだろう。
そこから神力による【変装】を相手に施し、非力な外見に変えていく事で心理的に追い詰めていく。そこまで極端では無いが頭脳は大人、体は子供のマンガみたいにな。
そして「もう二度とあの女に関わるな、我々の事も詮索するな」と忠告して離れた場所に捨て置くか。
●カセグレイン焦点での写真撮影を行なうための機材が現在でも残っている
猟兵たちによって手が下される、少し前。
灯里がいるカフェから少し離れたところの駐車場に止まった、一台の大きな装甲車の中にキングはいた。
無言でノートパソコンのキーボードを叩くキングを、玄信は黙りこくったままで見つめている。と、装甲車の扉が開いて、泰人が中に入ってきた。
「ご主人様、UDC職員の方から調査報告が届きました」
「そうか、どうだった」
「草野に負けず劣らずの、悪人揃いじゃったか?」
キングが短く返し、玄信が僅かに腰を浮かせながら問えば、装甲車の扉をしっかり閉めた泰人はふるふると頭を振った。
「いいえ玄信さん、全くの逆です」
「それと草野じゃなくて、草間な。草間・灯里」
「逆?」
小さく肩を竦めながら瞬太が言うと、玄信の眉間に僅かにしわが寄った。
それを見やりながら、泰人が手元のスマートフォンの画面をタップする。
「今現在も草間・灯里と交流を持っている男性は、昴さんを含めて三人。そのいずれにおいても、危険なバックグラウンドや補導歴などはありませんでした。皆さん、善良な市民です……本命と思しき一人はとある大企業の御曹司、という様子ですが」
「なんじゃと」
泰人の告げた調査結果に、玄信が目を見開く。
彼の予想では灯里も男に騙されて食い物にされた、ある種被害者だと思っていたようだが、現実はそんなことはなく。むしろ昴以外にも灯里の被害者はいる様子だ。
と、スマートフォンの画面に視線を落とした泰人が、眼鏡を直しながら悲しげな表情を見せる。
「それと、多分こちらの方が重要な情報ですね。過去に彼女と交友を持ち、現在は接触をしていない男性の中で、離婚経験者が一人、死亡者が三人」
「死亡者……って、まさか、自殺したってことっすか?」
「なんということじゃ……」
報告内容に、雅紀が思わず膝を掴む手に力を籠めた。玄信ももはや、灯里のもたらした悪意の結末に絶句している。
彼女に心を許し、あるところで裏切られて捨てられ、絶望に叩きこまれた人間は、おそらく昴が初めてではないのだ。それも、三人も。離婚経験者の一人は、つまりは既婚者で灯里と付き合ったことか、金をつぎ込んだことをきっかけにして妻に捨てられたか。
沈鬱な空気が広がる中、ノートパソコンの画面に視線を向けたままでキングが言う。
「だから言っただろう、玄信。無駄なことを考えるなと」
冷たい声色で告げるキングに、玄信がやるせない表情を見せる。そんな表情など視線に収める必要もない、と言いたげにノートパソコンのキーを叩くキングが、淡々と言い放った。
「改心の余地があるのなら、こんな事態にはならぬのだ。並大抵の悪意でないからこそ、昴も一時は人間を辞めた。今後の被害を防ぐために必要なのは、それではない」
「ううぬ……じゃがのう……」
キングの言葉に、玄信は呻き声を漏らした。
私刑は好まない。改心させられるならその方がいいと思っている。だが今回は、改心など望めそうもない案件だ。
従者三人と玄信が黙りこくった中、キングの人差し指が力強くエンターキーを叩いた。
「……よし、電話帳データと通話履歴を抜いた。これで探せる」
「おびき寄せますか?」
「うむ、それは我がやる。狐塚と鼬川は玄信と一緒に、男がやってきたら捕らえろ。狸塚は中で待機だ」
そう言うと、キングはすぐさまにスマートフォンの通話ボタンをタップした。引き抜いた電話番号に電話を掛け、声色を灯里のものに寄せて演技しながら、今いる場所に来てもらうように呼び掛ける。
キングの変装と演技が卓越した物だったためにか、二人の男性はすぐに姿を見せた。キングが表通りに姿を見せれば、まず一人、次いで一人と順番に現れる。
それを玄信、雅紀、瞬太が背後から襲いかかって捕らえると、さっさとヴァーハナの中まで連行した。
「ほら、大人しくせい!」
「暴れても無駄っすよー、はーいごあんなーい」
玄信が金髪のホスト風な外見のチャラい青年を、雅紀が真面目そうなスーツ姿の青年を、それぞれ両腕を後ろに回しながら装甲車の中に連れてくる。
ドアが閉められ、ドアの鍵も閉められた車の中で、キングが存在な態度をいつも以上に出しながら口を開いた。
「奥野・真一郎と岩口・龍二で、間違いはないな?」
「なんで、俺の名前を知ってるんだよ!?」
「何者なんだ、君たちは……」
チャラい青年の真一郎と、さる企業の御曹司の岩口・龍二が、揃って怪訝そうな表情をしながらキングに噛みついてくる。当然だ、突然恋人から電話がかかってきて、呼ばれたら謎の青年たちに羽交い絞めにされて、謎の装甲車の中に連れ込まれたのだから。
何とか拘束から逃れようとする二人に、キングが真面目な表情で告げた。
「我々は、この社会の裏側で暗躍する組織の人間だ。お前たち二人が『恋人』と思っている、草間・灯里の件で話がある」
そう声をかければ、真一郎と龍二が二人とも目を大きく見開いた。ますますけげんな表情をする真一郎である。
「灯里の
……!?」
「君たちが、灯里の何を……いや待てよ、恋人? この彼にとっても?」
なおも噛みつく真一郎のよこで、龍二は何かに気が付いたらしい。視線を隣の真一郎に向ければ、真一郎も龍二の顔を見て。
そんな二人を面白そうに見ながら、瞬太が両手を後頭部に回す。
「この場にはいねーけど、もう一人あの女の恋人はいるぜ。こないだ無残にも捨てられたけどな」
「三股というやつです。やはり、ご存知なかったようですね」
泰人がため息をつきながら言えば、二人ともが愕然と肩を落とした。
それはそうだろう、自分が彼女の一番だとずっと思っていたのに、唐突に一位の座から転落させられたり、弄ばれたりしていたというのだから。
項垂れる二人へと、玄信が静かに声をかけた。
「お主ら、草間から今までにどんなプレゼントを要求された?」
「えっと、先月の誕生日に、二十万するネックレスをプレゼントしたけど……」
「え、灯里の誕生日は来月では? 次の誕生日にお城に泊まりたいと言って、ドイツ行きのチケットを確保したところだったんだが……」
彼の言葉に真一郎が告げれば、龍二が不思議そうに言葉を繋いだ。その言葉に、真一郎も首を傾げるほかない。
なにしろ、灯里の誕生日が二人の中で食い違っているのだ。
キングがついと、泰人に視線を向ける。
「狸塚、草間・灯里の誕生日も調査結果に入っていたな?」
「はい、確かに。1996年9月20日。お二人には、嘘の誕生日を教えていたようですね」
「そんな……」
「マジかよ……どうなってんだ」
淡々と泰人が情報を開示すれば、二人の表情からますます色が消える。欺かれていた、ということに気が付いた時、二人の身体を唐突な虚脱感が襲った。
「うっ!?」
「なんだ!?」
突然のことに真一郎と龍二が自分の身体を見れば、何やら自分の身体がほっそりとしているような。それどころか、本来の肉体よりも背が縮んだような感覚もある。
混乱し通しの二人に、キングが面白そうなものを見る目で笑った。
「なに、ちょっと身体を弄らせてもらった。そのか弱い姿なら、外に飛び出して助けを求めたとて、誰も気にしないだろうな?」
ほくそ笑むキングに、龍二が弱弱しい視線を投げた。
「……何が望みだ。金か?」
ぶっきらぼうに告げられるその言葉。実際、さる大企業の御曹司だという龍二ならば、相応の金は用意できることだろう。
しかし、キングと玄信はゆるゆると頭を振った。
「いいや。既に草間にだいぶ金をむしられておるんじゃろう。そこからさらに奪うのは、酷というもんじゃ」
「あの女について、ちょっと『お話』させてもらいたかっただけさ。そのまま縁を切ってくれるならそれでよし。どの道、遅かれ早かれ飽きられて捨てられるんだからな」
「岩口さんもいつ彼女の本命じゃなくなって、捨てられるかも分からないっすしね」
瞬太と雅紀が無情にも告げれば、二人はがっくりと肩を落とした。
沈黙が装甲車の中を支配したところで、キングが泰人へと顎をしゃくる。
「さて、貴様らにはもう少し詳しく話を聞かせてもらおうか。狸塚、出せ」
「はい、ご主人様」
すぐさまに泰人は運転席へと消え。装甲車のエンジンが高らかに回転音を響かせ始めた。突然のことに真一郎が慌てだす。
「おい、何をするんだよ!?」
「心配するな、ちょっとばかり移動するだけじゃ」
立ち上がる彼を片手で制しながら、玄信が小さく笑った。キングも悠然と構えながら、二人に笑みを向けている。
「真相を知らせたところで、ここを飛び出されて灯里に詰め寄られてはかなわぬからな。なに、身の安全は保障するとも……もう二度とあの女に関わらず、我々の事も詮索せぬのならな」
そうキングが笑う中で、ヴァーハナのエンジン音が高らかに響いた。
結果、装甲車はさいたま市から遠く離れた埼玉県と群馬県の県境辺りまで走り、そこで哀れな二人の変装を解いて解放してやるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アリス・セカンドカラー
お任せプレイング。お好きなように。
とりま、車の方は所有権は昴さんのままなのよね?なら、普通に窃盗を取れるからグッドナイス・プレイヴァーで稼いだ資金でいい弁護人を雇ってあげれば法的制裁は任せておけばいいでしょ。
で、逆恨みされないようお仕置きタイム、と。弁護士費用は灯里に稼いでもらいましょ。私の支援者たるUDC貴腐神様方の具現化した妄想世界へ御案内♪大丈夫、支援者様達にはドッペルゲンガーもいるから、おしおき中もあなたの代わりをしてくれるわ、戻って来たときは人間関係ズタズタでしょうけど(くすくすくす)。
では貴腐神様方、この子の更正をお願いするわ。ええ死ななければ手段は問いませぬ故♡
花菱・真紀
人間の屑に制裁をか…やったことを考えれば仕方ないと思う反面一応一般人だしな。
とりあえず赤星さんの車を勝手に持ち出したのは立派な窃盗罪だからこれは警察に行ってもらおうか。
これは俺ができる最大限の譲歩なんだけど。
(カメラを向けて【撮影】)
…あんたのしたこと酷いよな。
じゃあ、それ全部晒しちゃおうか。
住所と氏名と年齢とSNSのアカウント。
あとさっきとった写真と今までの悪事全部。
どうなるかくらい分かるだろう?
匿名の正義や悪意がどんなに人を苦しめるか。
みんな私刑が大好きだからな。
一応選択肢をあげる。
窃盗罪を償うか、それともアカを晒されるか…。
どっちがいい?
●すでに研究目的の天体観測施設としては役割を終えている
さて、カフェのテラス席。
電話を切った灯里の前に、アリスが立った。その反対側には真紀が回り込み、逃げられないように椅子の背もたれを押さえる。
「ねえ貴女」
「あ? 何よ」
率直に声をかけたアリスへと、灯里が不審げに返事を返した。そのぶっきらぼうな言葉に、アリスが道路に止めたままの軽自動車を指さす。
「あそこに路駐している軽自動車。貴女のじゃないでしょ」
「はぁ? 何を根拠に――」
「これよ」
灯里が反論を始めるより先に、アリスは自分のスマートフォンを突き付けた。
そこに表示されているのは軽自動車検査協会にあの軽自動車のナンバーで所有者情報の開示請求を行った、その結果だ。
もちろん、そこに記されている氏名も住所も、所有者である昴本人のもの。軽自動車の開示請求は普通自動車よりも制限が厳しいが、昴本人が請求を行う分には、何の問題もない。
明確に「自分のものではない」情報を提示されて、灯里が言葉に詰まった。
「げっ」
「ナンバープレートを変えないでそのまま乗っているだなんて、杜撰だよな。赤星さんが動けばすぐに分かるのに、バレないとでも思っていたのか?」
溜息をつきながら、真紀が灯里に呆れた声をかけた。もっとも、ナンバープレートを変更しようにも持ち主ではない灯里には、やりようもないのだが。
返答に窮する灯里へと、真紀が最後のチャンスとばかりに言葉を投げる。
「どうする? 自分で警察に出頭してくれるんなら、それでいい。これは俺が出来る最大限の譲歩なんだけど」
「はぁ!? バッカじゃないのあんた、せっかくうまく行ってたところだったのに!」
この譲歩は、真紀の見せた大きな優しさであっただろう。しかしそれを理解もせずに、灯里は真紀に抗弁した。
反省の色なし。そう判断したアリスが、すぐさまに灯里の肩に手を置いた。
「ま、私や昴さんが通報したらすぐにお縄につくわよね。じゃ、弁護士費用は自分の身体で稼いでもらおうかしら」
「な、なんっ……ひゃっ!?」
と、灯里の身体がアリスの手の中に吸い込まれるように、忽然とその場から消えていく。後に残るのは灯里の鞄と、手から取り落としたらしいスマートフォンだけだ。
突然姿を消したことに、真紀が戸惑い始める。
「アリスさん、あの人は……?」
「私の支配者たるUDC貴腐神様方の具現化した妄想世界にご案内したわ。今頃凄絶に折檻されて、その様子を生配信されているはず……ああ、来た来た!」
対して、あっけらかんと話すアリスが自身のスマートフォンを操作すれば、動画配信サイトの画面に拘束具を嵌められた灯里のあられもない姿が、大写しになっていた。
周囲には何人もの女性たちが取り囲み、鞭やら大人のおもちゃやらで一切の容赦なく、灯里を嬲っている。自重など一欠けらもありはしない。
あまりにも衝撃的なシーンに、閲覧者数もどんどん増えている様子だ。
「あぁ……こりゃあ、すごいな」
「ふっふっふ、これが一般の視聴者の間に広まったら、どんな反応が彼女を取り巻くかしらね?」
くつくつと笑みを零すアリス。その表情を見て真紀も覚悟を決めた。
当初はここからさらに二択を迫るつもりだったが、妄想世界に連れていかれてしまった以上、問いかけることが出来ない。そもそもさっきの様子では、二択を迫る価値もないことだろう。
灯里の残した鞄に手を入れれば、財布はすぐに見つかった。中には免許証も、クレジットカードも、銀行のキャッシュカードもある。
「……よし、分かった。この際いろいろ晒してやろう。財布にスマホがあるから、住所も氏名も年齢も、SNSのアカウントもこれまでの悪事も、全部明らかにできるよな」
「わーお、えっぐーい! 最高じゃない、この生配信のURLも一緒に展開よろしくね!」
免許証の写真を撮り始める真紀にアリスも声を上げるが、その声色は明らかに面白がっているそれだ。止めようなどとは微塵も思っていない様子。
果たして灯里の個人情報や過去の悪事、顔写真や住所を大型掲示板に、灯里のスマートフォンを使ってアップロードだ。
「投稿完了……うわ、早速反応がいくつも。通知も次々来てる」
「戻ってきた時には人間関係ズッタズタねー。くすくす、楽しみだわぁ」
反応の速さに目を見張る真紀に、アリスがまたも楽しそうに笑って。
生折檻の30分が経過し、フラフラになりながら灯里が戻ってきた時には、掲示板のスレッドはもう一本分が埋まる直前だったという。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
木常野・都月
人が1人、オブリビオンになりかけたんだ。
貴女みたいな人が居たら大勢の人がオブリビオンになってしまう。
世界の為に、貴女は死んだ方がいい。
UC【妖狐の通し道】を使って、この女性に[催眠術]をかけたい。
まずは声帯を潰そう。
嘲笑われた人達は、声を聞きたくないよ。
逃がすものか。
両足を焼き切ってしまおう。
大丈夫、焼き切ってるから、血は少ないよ。痛いけど。
簡単に死ねると思うな。
ん?何を言ってるのかな。
もしかして、「助けて?」
貴女は、今まで自分で裏切った人を、何人助けた?
どうせ、誰も助けも、謝罪もしてないんだろ?
最後は喉元をガブっと…
と、ここで催眠を解きたい。
次、誰かの善意を裏切ったら、本当に咬み殺すからな。
節原・美愛
んー…お仕置きっていっても、どうしたものかしら。
殺さなければ…っていっても、私の力で下手に殴るとさっくり死んじゃいそうなのよね。
ちょっと脅かす程度に留めておこうかしら。
POWで判定。
フレンドリーな雰囲気で、灯里に話しかけるわ。
「ねえ、あの車をそこに停めたのってあなたのでしょ?あれ、私に頂戴?」
「いいじゃない、別にあなたの車じゃないんだし。」
ここで電話を取り上げて片手で握りつぶして、ちょっとした脅しを一つ。
そのまま車の鍵をとりあげてお店から出ていくわ。
「じゃ、車は私から返しておくから。もう悪いことしちゃだめよ?」
波狼・拓哉
やりすぎんなよー(後方で傍観の構え)
第六感、戦闘知識辺りで味方の行動がやり過ぎかけとか、周りに被害でるなーと感じたら被害のお仕留め、声掛け等でサポートに。殺すのは違うしね?
…まあ、死ねた方がマシかもしれませんが。今は他の猟兵が色々やってるから畏怖が勝ってるので発動してませんけど…うちのミミックさんのお仕事は既に終わってます。言うて蚊とかなら気づかずにとか行けますからね
誰かを騙そうとする悪意、嘲笑は自分を壊す心に刺さって抜けない楔となります……え?解除方法?ないよ。刺さって抜けないのだもん
最初に言いましたよ?救えない話だってね
(アドリブ絡み歓迎)
レイ・アイオライト
大声で電話してバカ晒してるのはどっちなんだか……。
まずは接触。あらかじめボイスレコーダーを準備、【転身万化】で昴本人に変身して、俺の車を返せ、っていう感じで大声で問い詰めるわよ。カフェの人に警察を呼んでくれ、ってお願いしておくわ。
簡単にボロ出してくれれば色々と有り難いんだけどね。
抵抗するなり、もしくは掴みかかってくるなりするなら、腕をねじ切る勢いで逆に拘束するわよ。
一応、昴の声から地声に変えて警告しておくわ。
「自分が貶めた男の幻影を見るのはどんな気分かしら。随分と手癖が悪いようだし、このまま両腕の骨を粉砕してやるのも良いかもしれないわね」(恐怖を与える)
(アドリブ・共闘歓迎です)
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
うっわ。
昴さん、もうちょい人を見る目持とうな。
星だけじゃなくってさ。
ありゃあダメだね、見てくれは良いかもしれないけど
中身の方は空っぽみたいなもんだろ。
その分、メンタルはクソ強そうだし……
こんな感じかねぇ?
まずは昴さん、クルマの盗難届を警察に出しとくれ。
ちょっと書類を書く程度だから、何とか頼むよ。
で、アタシは普段着で何食わぬ顔してカブに『騎乗』し、
それとなく灯里の運転を『追跡』する。
交差点の信号待ちで減速を始めたところで、
【時縛る糸】で少し意識を飛ばしてもらおうじゃないのさ。
そうすりゃ釜掘って警察沙汰になって、
盗難車って事で逮捕かもね!
あ、修理代は出すから安心しなよ。
●主望遠鏡は91cm反射式天体写真儀
ようやく気を取り直した灯里の手元で、スマートフォンが鳴動する。
それをすぐさま手に取って、内容を確認した彼女は、目をひん剥いて画面を凝視し、周囲など気にも留めない様子で叫んだ。
「はぁぁ!? ちょっ、真くんはともかく龍くんまで、なにこれ!? ふざけんなあのチャラ男にお坊ちゃんがぁぁぁ!!」
あまりの大声に、店内どころか周囲を歩く人までもが、ぎょっとして灯里を見る。直後にそそくさとその場を去っていくのは、やはり関わり合いになりたくない故にか。
そうして市民の注目を集める彼女を、遠巻きにしながら昴は見ていた。その表情は、この上なくげっそりしている。
「えぇ……」
百年の恋も醒める勢いで意気消沈する昴の傍で、五人の猟兵も可哀想なものを見る目で灯里を見ていた。
レイが呆れて頭を振る隣で、多喜が昴に同情の視線を向ける。
「大声で叫んでバカ晒してるのはどっちなんだか……」
「うっわ。昴さん、もうちょい人を見る目持とうな。星だけじゃなくってさ」
「え、あ、はい……全くその通りです……」
多喜の言葉に、昴は返す言葉もないと言った様子で。当然だ、既に恋人関係にはないとはいえ、あんな人間に自分は入れ込んでいたわけだ。女を見る目がないにも程がある。
元恋人がこんな近くにいるとは露ほども知らずに悪態をつき続ける灯里へと、都月が眉間に深くしわを寄せながら吐き捨てた。
「人が一人、オブリビオンになりかけたんだ。あんな人が居たら、大勢の人がオブリビオンになってしまう」
「殺さなければ……っていっても、私の力で下手に殴るとさっくり死んじゃいそうなのよね。どうしたものかしら」
その隣で美愛も困ったように首を傾げた。
確かに怪力自慢の羅刹である美愛が一般人を殴ったら、怪我で済まない可能性もある。手加減するにしても加減がいまいち分からないものあって。
物騒なことをやりかねない二人へと、拓哉が後ろから肩を竦めつつ声をかける。
「皆、やりすぎんなよー」
「とか言って、傍観する気マンマンじゃないのアンタ」
「いいんです。俺は後備えだから。周りにも被害が出そうになったらサポートするんで」
明らかに傍観者の位置にいようとする拓哉にレイが揶揄いの声を飛ばすが、どこ吹く風だ。元々他の猟兵のサポートをしようと動くつもりだから、堪えるはずもない。
ともあれ、いい加減に動き出さないとならない。そうでなくては灯里の、自分を振った男性二人への恨み言を、延々と聞く羽目になる。
「うん、とりあえず、昴さん。警察に行ってクルマの盗難届を出してくれ。何とか頼むよ、昴さんにしか出来ない」
「そうね、あの女のことはこっちでやっておくから、さっさと済ませてきなさい」
「そ、そうですね。分かりました」
多喜とレイに促されて、昴はその場から急ぎ足で立ち去った。警察署に盗難の被害届を出しに行くためだ。救出されてからバタバタしていたこともあり、出しに行けていなかったのだ。
昴が立ち去ったことを確認したレイが、足元から濃い影を立ち上らせる。
「行ったわね。それじゃ――自在転身」
刹那、影がレイの体を覆い尽くして。数瞬後には、レイが立っていた場所に昴が立っている。服装まで寸分違わず同じだ。
「よし」
「うわ、すごい。ちっとも見分けがつかない。声もおんなじだ」
声まで一緒になっていることに、都月が驚いて。これで概ね、準備は整った。
多喜と拓哉がその場から一旦距離を取る。
「じゃ、あたしは準備しておくから」
「了解です。じゃ、俺も控えてますから」
「ええと……じゃあ俺も」
二人を見送ってから、都月も狐に変身して。
いよいよ、追及の時間が始まる。
●観測地の気流並びに大気の状態が良くないため、380ミリ口径のレーザー望遠鏡による月との距離測定の成果は得られなかった
解決らしい解決を導き出せずに、一頻り悪態をつき終わった灯里が、舌打ちをしながらカフェの椅子に座ると。
「おい、灯里!」
「こんにちはー」
「は?」
そこにかかる、彼女を呼ぶ声。そこにはつい先日までしょっちゅう顔を合わせていた昴と、見慣れない黒髪の女が、自分を見下ろすように立っている。
侮っていた相手が目の前に現れて、いくらか気持ちの余裕を取り戻したらしい灯里が醜悪な笑みを浮かべた。
「なんだ、誰かと思えばオタクの負け犬君じゃーん? ちょうどいいやー、アタシついさっきカレシに振られたばっかでブロークンハートなの。もう一度やり直させてくださいって土下座したら、またデートしてあげてもいいけどぉー?」
「ふざけんなっ!!」
言うに事欠いて傲慢ちきなことを言い始める灯里に、昴、の姿を模したレイはテラス席のテーブルをガンと叩いた。
思わぬ反撃と大声にびっくりした様子の灯里だが、その驚きはすぐさま嫌悪に変わる。
「はぁ? なに、オタク君のくせにナマ言って――」
「お前みたいな女なんて、こっちから願い下げだ! 俺にはもう別の大事な人がいる!
だけどその前に、俺の車返せよ!」
しかしレイは怯まない。恋人役になってもらった美愛を抱き寄せながら、その言葉を突き付けた。
灯里の瞳がこれ以上ないというくらいに見開かれる。天文オタクと侮っていたこの男に早くも次の彼女が出来ていたことに、驚きを隠せないらしい。
「は……? なんっ、アタシよりそんな女なんかがいいの? ほんとにオタクってこれだから! いやてか、どれがアンタのよ。あれはアンタが、プレゼントとしてアタシにくれたもんでしょ?」
「やっぱりー、あのネイビーの軽自動車よね? 昴が乗ってそうな色だから、昴の車かと思っちゃったー」
あくまでも昴からのプレゼント、と言い張る灯里に、美愛が無邪気に声をかけた。その声色こそ明るいが、言外に「あの車がお前のもののはずはない」という意図が見え隠れしている。
灯里の抗弁にも、レイは強く言い返した。腕を大きく振るいながらくってかかる。
「名義変更をしてないんだから、あの車の所有者は俺だ! そもそも、お前が俺の家から車のカギを盗んでいったんだろう!?」
昴の発した「俺の家から」という言葉に、灯里の瞳が醜悪に歪んだ。ボロが出た、と言いたいのだろう。嵩にかかって言い返してくる。
「はぁ~? アンタみたいなオタクの家になんて行こうとも思わないし! デートとか言ってあんなオンボロな天文台に連れてくから、バカバカしくてアンタのポケットからカギを……あっ」
勢いのままにそう告げる灯里だが、全てを言い終わる前にハッとした表情で口を押さえた。
「鍵をどこから盗んだ」という話を彼女自身に言わせるために、レイはあんな嘘をついたのだ。引っかかるだろうと推測しての行動だったが、見事に引っかかった。
美愛が鬼の首を取ったような笑顔で、灯里の失言に食いついていく。
「へぇー。やっぱりあの軽自動車、あなたの車じゃないんだー? じゃああれ、私にちょうだい?」
突然の発言に、灯里の目が見開かれてその場に立ち尽くした。
ちょうだい。その言葉が頭に到達するより早く、満面の笑みで美愛が灯里に告げる。
「は……?」
「いいじゃない、ね? 別にあなたの車じゃないんだし」
そう言って詰め寄る美愛が、おもむろに自分が肩にかけていた大きなボストンバッグのジッパーを開ける。
そこから、狐に変身した都月がにゅっと顔を出すや。
「コャン!!」
「へ、あ……」
混乱しっぱなしの灯里へと、一声鳴いた。
途端に、灯里の周囲の風景が変わる。そこは先程までのさいたま市の市街地ではない、どことも知れぬ野山の中だ。
あたりを見回す灯里に、都月の声が聞こえてくる。
「世界の為に、貴女は死んだ方がいい」
「は……」
状況を把握する前に、灯里の身体が急に何かに押されるように後方に倒れ込んだ。やわらかな下草がクッションになってくれたが、頭や肺に衝撃が走る。
起き上がって咳き込むよりも早く、真っ黒で巨大な狐が、人語を喋りながら灯里の喉元に前脚を押し当てる。
「まずは声帯を潰そう。嘲笑われた人たちは、貴女の声を聞きたくないだろうから」
「ひ、き……」
息がひきつる音をたてた途端、灯里の喉がぐしゃりと音を立ててつぶれた。
激痛が喉から身体全体へと広がっていく。声にならない声を上げる灯里の周囲で、先程の都月の声と同じ声が、自分の左右から聞こえてくる。
「逃げられないように両脚を焼き切ってしまおう」
「大丈夫、出血は少ないよ。痛いけど」
二人に増えた都月が二人がかりで灯里の身体を押さえつけて、その剥き出しの両足を狐火の炎で焼いた。ごう、と高温の青い炎が立ち上り、灯里の膝から下を消し炭に変えていく。
これで、もう逃げられない。ただ失血死を待つより他に無い。
「……、か……」
「ん、何を言ってるのかな?」
「『たすけて』、そう言っているのかな?」
いつの間にか都月は三人に増えていた。灯里の両側に一人ずつ、頭の上にいて自分を見下ろす二人の分身。どの都月に目を向ければいいかなど、今の灯里には決められない。決める余力もない。
「貴女は、今まで自分で裏切った人を、何人助けた? ……どうせ、誰も助けも、謝罪もしてないんだろ?」
頭上から自分を見下ろす都月が、冷たい声色でそう言って。
その頭が狐のそれに変わり、鋭い牙が生えそろった口がぐわっと開いて。
「コャン!!」
「いやぁぁぁぁぁぁ!?」
狐の都月の二度目の鳴き声と同時に、灯里のけたたましい悲鳴が辺りに響いた。
突然の悲鳴に、カフェの店員もこちらに駆けてくるが、やんわりと拓哉が押し留めていた。客も驚いた様子だが、先程までの悪態がある故にか、関わってくる人間はいなさそうだ。
そんなことなど露ほども知らず、茫然自失の灯里は涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら肩で息をしていた。風景はいつも通りのさいたま市内、山の中でも何でもない。
幻覚だ。都月が見せた幻覚によって、彼女は自分が殺される姿を見ていた。
「あ……あ……?」
「どうしたの? 顔が真っ青じゃない……ほら、スマホも落として」
ようやく現実を認識し始めた灯里。手に持っていたスマートフォンは取り落として、地面の上に転がっている。それを美愛が拾い上げる、が。
灯里に差し出そうとしたところで、勢い余って……という風を装って。ぐしゃりとそれを握り潰した。
「あぁ」
「ひ、あ
……!!」
いっそ呆気ないほどの美愛の声。それが灯里の限界だった。
鞄をひっつかんで逃げるように駆けだし、路駐していた昴の軽自動車に飛び乗る。
そうしてエンジン音を響かせながら、逃げるようにその場を後にした。
「あーららー、無様なこと」
「いいのか? ……昴さんの車、乗って行っちゃったけど」
美愛が走り去っていく軽自動車を見送ると、美愛のボストンバッグから飛び出して人間形態に戻った都月が、心配そうに首を傾げる。
灯里の心はバッキバキに折れただろうが、昴の軽自動車はそのまま乗って行かれてしまったのだ。
だが。レイは気にする風でもなしに首を振った。
「大丈夫、あとはあっちが、上手いことやってくれるでしょうから。車は、少し可哀想なことになるかもしれないけど、ね?」
そう言いながら、レイがにんまりと意地の悪い笑みを浮かべる。
あとは、あの二人がいい具合に落とし前を付けてくれるはずだ。
●一等三角点のある標高875.8mの堂平山の山頂に位置する
さいたま市の市街を、ネイビーの軽自動車が猛スピードで激走する。
赤信号を無視し、歩行者や自転車も撥ね飛ばしかねない勢いで、ただただ逃げるように走るその車。既に周囲から、通報を聞きつけたパトカーのサイレンの音が聞こえている。
その軽自動車を、軽自動車のハンドルを握る女性を、多喜は宇宙カブに乗ってそれとなく追跡していた。
「やれやれ……交差点の信号待ちで前の車にカマ掘ってくれれば、と思っていたけど、あれでぶつかられちゃ全損だねぇ」
そう零しながら、多喜が奥歯を噛み締める。
当初の予定ではもっと交通量の多いところで、信号待ちのために減速し始めたところで意識を失わせ、低速で前方の車に突っ込ませて事故として処理させるつもりだったのだ。
それが、あんなにスピードを出して走られ、さらには信号無視もやっている。ここで意識を飛ばしたら、確実に大惨事だ。灯里の命だって無い。
そのまま市街地を抜け、自然公園が広がるエリアに入るところで、スマートフォンが鳴る。無線のヘッドホンをタップすれば、通話が繋がって拓哉の声が聞こえてくる。彼は既に市街地から離れ、多喜の後を追って移動をしていた。
「多喜さん、どう?」
「まずいね、こんな調子で意識トんだら、確実に被害が出る。なんとか……あっ」
どこで処理するか、しきりに視線を巡らせる多喜だったが。その視界にあるものが飛び込んできた。
川だ。自然公園沿いに流れ、護岸がコンクリートで固められた川が、前方を横切るように流れている。
「あれだ! 拓哉さん、あの車、川に落とす!」
「はいっ!?」
多喜が声を張り上げれば、ヘッドホンの向こうから素っ頓狂な声が聞こえてくる。
しかし多喜は悩まなかった。考えている時間はコンマ数秒もない。
即座に前方の軽自動車、中にいる灯里目掛けて、発動させるのは時縛る糸。道は緩やかに右カーブを描いている。この状況で意識を飛ばせば、そのまま川にダイブだ。
果たして、多喜の予想通りに軽自動車は橋の横、遊歩道のガードレールと川沿いに建つフェンスをなぎ倒し、頭から芝川の中へとダイブした。
大惨事だ。大惨事ではあるが、車の中から這い出してきたところを見るに、灯里の命に別状はないらしい。
「あーあ。いいんですかあれ、昴さんの車、見事に大破してますけど」
「他に方法がないから仕方なかったよ……それに、見てごらん、あれ」
呆れ顔でなぎ倒されたフェンスを見る拓哉だ。多喜も眉間にしわを刻みながら言うが、それよりもだ。視線を左方、自然公園の方に向ける。
そこには、暴走を見てのやじ馬が何人も、川の方に指を向けていた。若者なのだろう、スマートフォンで写真などを撮っている。
「ははは、見ろよあれ、軽が川の中に突っ込んでやんの」
「だっせぇ~」
「あの運転手、さっき痴情を生配信されてた女じゃね?」
「あ……あ……!」
その明らかな、あからさまな嘲笑に、もしくはその嘲笑によって引き起こされる自身の怒りに、灯里がびしょ濡れになりながら川の中で頭を抱えていた。
身体の痛みも相応にあるだろうが、あの様子はそれだけではない。明らかに、苛まれているようだ。
拓哉が大きくため息をつきながら、灯里に憐れみの視線を向ける。
「あー……見事にハマってますね。死ねた方がよっぽどマシだったでしょうに」
「拓哉さんも意地が悪いよねぇ、あれを解除する手立ては無いんでしょう? あの女は一生、悪意と嘲笑によって引き起こされる幻覚に苦しまなきゃならない」
拓哉は灯里が喫茶店にいる間に、灯里にミミックが化けた虫で一撃を加えていたのだ。
攻撃に肉体的ダメージは無いが、嘲笑、悪意を感知すると精神を苛む幻覚が現れる、彼のユーベルコードが、今まさに効果を及ぼしていた。。
幻覚に囚われた灯里は動くに動けない。逃げることも叶わない。どの道あんな事故を起こしていては、身体が痛くて逃げられないだろうけれど。
そんな合間に彼女を追いかけていたパトカーが何台も到着。すぐさまに灯里を捕らえにかかる。
スピード違反。信号無視。暴走行為。単独での物損事故。さらには盗難車。免停どころか実刑だ。
かけつけた警察官に手錠をかけられ、項垂れたまま救急車の中に入っていく灯里を一瞥すると、拓哉はひらりと多喜に手を振って。
「最初に言いましたよ? 救えない話だってね」
そう言い残して、現場を去るのだった。
なお、昴の軽自動車は大破した上に川の水に浸かったこともあり、結果的に廃車に。盗難された挙句に暴走されて自損事故ということで、保険が利いて新しい車をディーラーから譲ってもらうに至ったという。
めでたし、めでたし。
大成功
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