●白世界の雨
微かに白み掛かった視界は、先の景色を見通しにくくし。どこか世界を閉ざしたよう。
鬱蒼と連なる高く高く伸びる杉の樹。空から零れる雫が葉を濡らし、葉を伝い地へと落ちていく。その雫は咲き誇る鮮やかな花へと落ち、花々を艶やかに彩っている。
水気を含んだ空気も。
茂る木々と花の緑濃い香りも。
この時期だけの、特別な空気を作り出す。
●雫の香
「平和になりましたサムライエンパイアですが、いまだオブリビオンはいるようですの」
杠葉・花凛(華蝶・f14592)は開口一番、そう言葉を零す。
彼女が今回案内するのは、サムライエンパイアのとある自然豊かな地。並び立つ杉の樹が高く高く伸び、鮮やかな紫陽花の花がどこまでも続く小路がある。
その場に出現するというオブリビオンを、退治して欲しいと。彼女は語った。
「オブリビオンの詳細な位置は不明ですわ。ですが、散策していれば出会えるかと」
だからまずは、この紫陽花小路を楽しんではどうかと花凛は紡ぐ。かなり広大な土地のようで、咲く紫陽花の色も種類も様々。淡い青や濃い紫といった紫陽花の色変化を楽しめる場もあれば、真っ白な紫陽花がどこまでも続く場もあるようだ。
路も人が一人通れる程度の細い路もあれば、多くの人が通れる路もある。並ぶ杉の樹や溢れる緑は自然で出来たように思える程だが、しっかりと人の手で手入れされている為、道中危険な道のりは無いだろう。足元も安心して歩めるよう整備されている。
「他にも色々な景色があるようですわ。同じ紫陽花でも、その色によって見え方も違うかと思います」
皆様のお心に残る景色に出逢えるよう祈っていると、花凛は優雅な笑みを浮かべ紡ぐ。
訪れる地域は丁度梅雨入りしたばかり。雨降りしきる中、春と夏の中間である少しの肌寒さと風の温もり感じる――風情溢れるひと時を、過ごすのが良いだろう。
少し霧掛かった杉林の道程は、視界の見通しは悪いけれど。それが尚、この世界を閉じた空間へと導いている。胸に広がる濃い水と緑の香りと、耳に届く雫の音色が更なる夢心地へと手招くことだろう。
傘を差せば、小さな密室へと。傘を叩く雨の音色は、葉に落ちる音色とはまた違った音を耳へと届けてくれる。または傘など差さずに、その身で恵みの雫を受け止めても良い。熱い身体を打つ雨は、心と身体を鎮めてくれることだろう。
どこで、何を楽しむかは人それぞれ。
「梅雨の季節は短いですわ。夏への準備と語られる大切な季節。折角ですから、この時期にしか味わえない魅力を楽しんでくださいませ」
最後にはしっかりと、オブリビオンを退治することを忘れないようにと。生真面目な彼女らしく最後に添え、花凛は猟兵達を送り出す。
――零れる雫は、緑を色付かせる恵みの雫。
――世界を彩るその音色は、きっと心へも恵みを与えることだろう。
公塚杏
こんにちは、公塚杏(きみづか・あんず)です。
『サムライエンパイア』でのお話をお届け致します。
●シナリオの流れ
・1章 日常(梅雨もまた風流なり)
・2章 集団戦(蒐集者の手毬)
・3章 ボス戦(黒翡曜)
シナリオ通して雨の中での出来事です。
あくまでフレーバーですので、戦闘の判定には影響致しません。
●1章について
杉林の中に咲く、沢山の紫陽花路の散策です。
青や濃紫など。様々な紫陽花が咲いています。
特に目を引くのは、白の紫陽花が視界いっぱいに咲く辺り。
土地はかなり広いので、お好みの景色をご指定下さい。
途中に屋根のある休憩所も所々にあります。
天気は雨模様。霧がかった少し白い視界です。
雨の強さも様々ですが、ご指定無ければほどほどの心地良い強さで描写致します。
●2章について
・POWで攻撃をした時は、敵はPL様の心に強く想うモノの霊を召喚します。
モノは人だけに限らず、動物や物品を含みます。『亡くなったor無くなった』モノでしたら大丈夫です。
言葉を発せないモノも語り掛けているように感じることが出来ます。全く言葉を発さない、なども大丈夫です。皆様のプレイングに添って描写致します。
・SPDで攻撃した時は、PL様と同じ攻撃で反撃致します。
敵とは散策後、問題無く遭遇出来るので気にしなくて大丈夫です。
●その他
・全体的に心情よりでの描写予定です。
・同伴者がいる場合、プレイング内に【お相手の名前とID】を。グループの場合は【グループ名】をそれぞれお書きください。記載無い場合ご一緒出来ない可能性があります。
・1章のみ、途中からの参加も大丈夫です。
・受付や締め切り等の連絡は、マスターページにて随時行います。
以上。
皆様のご参加、心よりお待ちしております。
第1章 日常
『梅雨もまた風流なり』
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POW : 雨の中を散歩する。
SPD : 雨音を聞きながら、室内でくつろぐ。
WIZ : 雨に濡れる紫陽花を鑑賞する。
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●雨と紫陽花
うっすらと掛かる霧が、世界を淡い色へと染め上げる。
茂る木々はどこまでも伸び、さえずる小鳥の声と葉を打つ雨音が響き渡っている。
ぽつり、曇った空から落ちる雫は、夏の温もりと水の冷たさを含んだこの時期特有の雨粒。その雫が緑へと落ちれば、どこか嬉しそうに葉は雫を弾いた。
春と、夏。
その境目となる梅雨は、独特の空気と世界を作り出す不思議な時期。
サムライエンパイアならではの雨の時間をどのように過ごそうか?
雨の中だからこそ、美しい紫陽花の中。雨に濡れた花弁を眺めながら歩めばきっと、この梅雨空への想いも変わるだろう。
足を止め。
雨の音色に耳を傾け、深く深く息を吸えば――雨の魅力を味わえるから。
一色・虚
過ぎ行く春の名残りと迎える初夏の予感は
雨に融け込む花の香に宿っている。
―雨は、あまり好きではないけれど。
血脈のように分かれる小径を往く足取りが
常より緩やかなのは気のせいだろうか。
0.08mmの境界線
開いた傘の内に響く音は心地好く耳朶を打つ。
鬱蒼とした緑の葉は生き生きと揺れて
濡れる花々の顔は誇らし気にさえ。
「水の器」を冠した彼等がその名の通り
恵の雫を得ていっとう艶やかに咲うなら
思いもしない感情が芽吹くもので
この雨が止むのも惜しいと、そう。
ぽつり、
伏せた目蓋から落つる滴でふと気付く
いつしか傘を閉じていたことに。
―別に、羨ましかったわけじゃないですよ。
薄青の花弁が、ひときわ濃く色づいた気がした。
●
すうっと息を吸うと、一色・虚(未完成・f27151)の胸に満ちる雨に融け込む花の香。
それは過ぎ行く春の名残と、迎える初夏の予感を宿す不思議な香。
そっと傘を傾けて、彼は雨の雫を零す淀んだ空を見上げる。
――雨は、あまり好きではない。
そう想いながら彼はまるで血脈のように分かれる、小径を歩む。その足取りが、いつもより緩やかなのは気のせいだろうか?
くるりと開いた傘を回せば、雫が世界へと飛び散る。その傘を打つ雨の音色は、傘の下に居る時だけの特別な音色。心地良く響くその雨音に耳を傾け。鬱蒼とした緑の葉が、雨に打たれて心地良さそうに揺れる様を。溢れる色を抱く紫陽花が、雫に濡れどこか誇らしげに咲く様を。ゆるりと歩みながら虚は眺める。
雫を帯びた紫陽花の花――ハイドランジアと一部では呼ばれる花は、水の器と云う意味を持つとか。その名の通り、この時期特有の恵の雫を得て一等艶やかに咲いている姿はどこか神秘的で、美しく。虚の心に、思いもしない感情が芽吹いて行く。
――この雨が止むのも惜しい、と。
自身の心に宿る想いに気付き、彼はすうっと息を吸う。その時――ぽつり、と伏せた瞼から落ちる雫が。
何だろうと思いその雫へと手を伸ばせば、それが雨の雫だと虚は気付く。少し驚いたように彼は足を止めていたが、いつの間にやら自身が傘を閉じていたことに気付いた。
ぽつり、ぽつり。
降り注ぐ雨は虚の身体を次々に濡らしていく。伝う雫が増えていく。
そのまま彼は一歩足を踏み出しながら、自身の立っていた辺りに咲く紫陽花を振り返り小さな声で言葉を落とす。
「――別に、羨ましかったわけじゃないですよ」
伝う雫を確かに感じながら、彼が紡いだ時――視界に映る薄青の花弁が、ひときわ濃く色づいた気がした。
大成功
🔵🔵🔵
氷雫森・レイン
【紫雨】
私は雨女だけれど
「紫陽花といえば貴方だと思って」
傘は任せて私は彼の肩に座ればいい
必要な傘が1本減るもの
以前にも同じ事をしたし抵抗はされない筈
「以前貴方が見せてくれた紫陽花とはまた少し違って見えるわね」
花は風景の一部だから周囲次第で雰囲気が変わる
土壌によって色を変える所為もあるかしら
「…戦争では世話になったわね。有難う」
何よ、お礼くらい言えるわ
本当に多くの猟兵が私の故郷を、かつての勇者たちの心や魂までもを救ってくれた
「大多数の参戦理由は私の為なんかではないけれど、貴方は私の呼びかけで来てくれた人だわ」
デートかはさておき、今はこの花見が貴方の心を癒してくれたら良い
素直じゃないのは貴方もよね
白寂・魅蓮
【紫雨】
綺麗な紫陽花が見られるとレインさんの話を聞いて、その日は足を運んだ
相変わらず雨に縁があるね、君は。
レインさんを自分の肩に乗せて、僕は常備している番傘をさすとしよう。
君を肩に乗せて一緒に歩くのも慣れたものさ。
同じ天気、同じ花でもやっぱり場所によってその顔は違うものだ
青紫の花弁も好きだけど…白の紫陽花はどこか爽やかだ
君がそんな風にお礼を言うなんて珍しいね。こんな場所でデートのお誘いまでしてくれてさ
僕はいつだって自分が得になるような事しかしてないよ
「…ま、それでも君が傷つかなくて良かったよ」なんて、そっと呟いた
相変わらず素直じゃないね、君は
まぁでも、連れてきてくれたことには礼を言うよ
●
「紫陽花といえば貴方だと思って」
肩の上にちょこんと座る氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)の言葉を耳にして、白寂・魅蓮(蓮華・f00605)は露わにした左目を瞬くとそっと笑む。
ぽつり零れる雨が傘を打てば、心地良い雨音が耳に届く。
綺麗な紫陽花が見られるとレインに聞いて、足を運んだ日のことを思い出す。あの光景と、世界の空気を思い出し――。
「相変わらず雨に縁があるね、君は」
手にした鮮やかな色の番傘から零れる雫を見上げながら、彼は零した。
その大きな番傘は、色も相まってまるで大輪の紫陽花の花のように美しい。つうっと傘に当たる雨雫が伝う様も、花々を艶やかに彩るのと同じように魅力的。
ぽつりと打つ雨の音は、普通の傘とは違う音色を奏で。これが、きっとこのサムライエンパイアで人々が聞いている雨色なのだろう。その音色の下を歩みながら、魅蓮は微かな肩の重みを感じていた。
君を肩に乗せて一緒に歩くのも慣れたものだと。
改めて感じながら歩めば――小さな彼女はその瞳で紫陽花を捉え、口を開く。
「以前貴方が見せてくれた紫陽花とはまた少し違って見えるわね」
紫陽花は数多の色に染まり、種類もいくつかある。また、世界を白に染める霧に包まれた世界では、その鮮やかな花も違って見えるのだろう。
そう、花は風景の一部だから。
周囲次第でその雰囲気はがらりと変わるのだ。その花弁が、土壌により色を変える性質を持っている紫陽花ならば尚のこと。
納得したように呟いて、こくりとひとつ頷くレイン。そんな彼女の言葉に、同じ天気、同じ花でもやっぱり場所によってその顔は違うものだと、魅蓮も同じように頷く。
「青紫の花弁も好きだけど……白の紫陽花はどこか爽やかだ」
きょろきょろと辺りを見れば、彼の左目に映るのは色とりどりの花弁。彼の瞳とよく似た色の紫陽花の他、数多の色に移り変わる青系も美しい。けれど――彼の目を惹いたのは、真っ白の紫陽花。どこか爽やかだと感じるその花弁に、そっと指先を伸ばした時。
「……戦争では世話になったわね。有難う」
レインから零れたその言葉に、魅蓮は視線を彼女へと移した。
肩の上だから、耳に近い為よく聴こえる声。雨の音にも掻き消されるその言葉は――。
「君がそんな風にお礼を言うなんて珍しいね」
素直に、魅蓮はそう返していた。
そういえば、こんな場所にデートのお誘いまでしてくれたと想いながらじっと注がれるその眼差しに、レインはお礼くらい言えると少しだけ唇を尖らせる。
武器と魔法と竜の世界は、レインの故郷。多くの猟兵達がその地を救い、かつての勇者たちの心や魂までも救ってくれたことは記憶に新しい。
「大多数の参戦理由は私の為なんかではないけれど、貴方は私の呼びかけで来てくれた人だわ」
だからこそ、この場へと誘ったのだ。
今はこの紫陽花咲く光景が、魅蓮の心を癒してくれたら良いと、そう想うから。――これがデートかは、置いておいて。
注がれる視線へと真っ直ぐに小さな瞳を向け。強い心を込めた言葉を紡ぐレイン。その言葉に、魅蓮はいつだって自分が得になるようなことしかしていないと言うけれど。
「……ま、それでも君が傷つかなくて良かったよ」
口元をやわらげ、そう紡いだ。
――相変わらず素直じゃないね、君は。
続く言葉にレインは顔を背けてみせるけれど。連れて来てくれたことに礼を言う、と零し再び歩み始めた彼の揺れを身体で感じながら。
「素直じゃないのは貴方もよね」
顔を背けたまま、そう零した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ミンリーシャン・ズォートン
椋(f19197)
雫の音を聴きながら
最愛の人と堂々並んで歩ける喜び
彼が傘を傾けている事など露知らず幸せに身を置いて
愛しさと幸せにふわり綻ぶ
――綺麗だね
私色の其れが可愛いと紡いでくれる彼の翡翠の瞳が今は紫陽花色に煌めいて
私はひっそり見惚れるの
何度でも貴方に恋をする
うん、そうだね
私も二人だけの世界がいいな
彼の小さな我儘を肯定
霧と雨とが既に私達を隠してくれているけれど
彼が持つ傘地の端を指先で摘まみ二人で更に隠れんぼ
――愛してる
彼の肩が濡れている事に気付くのは
ほんの少し先の事
心配したり
頬を膨らませたり
でも、愛おしい
傘を持つ彼の手に私の手も添え
彼の肩が此れ以上濡れないように仲良く寄り添い歩く
アドリブ歓迎
杣友・椋
リィ(ミンリーシャン/f06716)
仄白く霞む世界を君と歩む
二人を蔽い隠すひとつの傘
ぱたぱたと其れを叩く雨音が心地好い
君が濡れぬよう、密かにその屋根を君へと傾ける
淡い彩りの紫陽花が何処までも続く小径は
まるで夢のような光景だ
リィみたいな色。可愛いな
美しく咲む花々を愛おしげに見下ろす
君からの視線には気付かぬまま
来年も再来年もその先も
おまえとこの花を見たいっていうのは――我儘?
片方の肩がひやり冷たく染まるのを感じながら
……ずっと此の侭で良い
リィと俺、二人だけの世界が、良いよ
二人にしか聞こえぬ声で語る
ふたりぼっちの君と俺
我儘を受け容れてくれる彼女に眼を細め
――俺も、愛してる
何百回目かも分からぬ告白を
●
仄かに白く染まる緑の世界は、此処がどこだか分からなくなる幻想的な空間。
ひとつの傘の下、心地良い雨音響く中――歩みを進めながら、そっとミンリーシャン・ズォートン(幸せに綻ぶ花人・f06716)は微笑んだ。
最愛の人と、堂々と並んで歩ける喜びを感じる。
ひとつの傘の下、近い距離で確かに感じる杣友・椋(涕々柩・f19197)の体温。それを感じながら歩むひと時は愛しさと幸せに包まれているようで、自然と口元が綻ぶ。
そんな彼女へと傘を差しかける椋だが、彼女が濡れないように。ひっそりと彼女へと傘を傾けていた。身長差がある為、普通にしていては愛しい彼女が濡れてしまうから。
「――綺麗だね」
嬉しそうに、甘い声を零すミンリーシャン。雫から彼女を守るように、彼が傘を傾けていることに気付かずに。
彼女の声に雨音から意識を移し、傍らの彼女へと視線を移し――次に椋は、辺りに咲く紫陽花へと視線を移した。咲き誇るのは、淡い彩の紫陽花。その淡色が何処までも何処までも続くこの小径はとてもきれいで、まるで夢のような光景だと彼は溜息を零す。
「リィみたいな色。可愛いな」
その淡い花弁を見下ろす椋の翡翠の瞳は、どこまでも愛おしげで。その眼差しと言葉に、ミンリーシャンは仄かに頬を染めながら微笑んだ。
紡いだ彼の翡翠の瞳が、今だけは紫陽花色に煌めいて見えて――ミンリーシャンは息を呑み見惚れてしまったけれど、それは内緒。ひとつ瞳を瞬き、口元を綻ばせ。
(「何度でも貴方に恋をする」)
心地良さそうに、そう想った。
そんな彼女の眼差しに椋は気付かずに。そのまま彼は言葉を続ける。
来年も、再来年も、その先も。
「おまえとこの花を見たいっていうのは――我儘?」
雨の下。傘を打つ雨音響く中そう紡ぐ。その音は大きくは無いけれど、小さな世界である傘下のミンリーシャンにはしっかりと聞こえた。
ぽつりと傘の淵から零れた雫が、椋の肩を濡らしていく。じわりと広がるその雫の冷たさを感じながら――椋は、更に言葉を続けた。
ずっと此の侭で良い、と。
「リィと俺、二人だけの世界が、良いよ」
その言の葉は先程よりももっと小さな声で。傍らの彼女にだけ聞こえるように、外からは雨の音に掻き消されて欲しいと、言わんばかりの声で彼は語る。
その言葉に、少しくすぐったそうに自身の耳に触れると。
「うん、そうだね。私も二人だけの世界がいいな」
こくりと頷き、ミンリーシャンは彼の小さな我儘へと肯定を返した。
今ならば、世界を白く覆う霧と、カーテンのように降りしきる雨がふたりを隠してくれている。けれど更に隠れたいと思ったから――椋の持つ傘地の端を指先で摘まむと、ミンリーシャンはその身を隠すように傾けた。
――愛してる。
背伸びをして、耳を寄せて。
優しく、甘く、小さく紡がれる愛の言葉。彼女のその行動と言葉に、椋は嬉しそうに瞳を細める。ふたりぼっちの君と俺。自身の我儘を受け容れてくれたことが嬉しい。
だから彼も、返すのだ。――俺も、愛してると。甘い甘い囁きを。
それは何百回目かも分からない告白の言葉。
その重みは決して変わらない。むしろ深みを増していくように色濃くなっていくのを感じる。溢れる想いも、宿る想いも――。
そのままふたりは、ふたりを隠す世界の中、ふたりぼっちで歩んでいく。
――ミンリーシャンが傘を傾けていた為、彼の肩が濡れていることに気付くのはもう少し先のお話だけれど。
その時は心配したり、頬を膨らませたりと自身の感情を真っ直ぐに彼に伝えるだろう。その時心に宿るのは、愛おしいと云う深い想い。
そっとふたりの手を重ねて。
温もりを分け合いながら、濡れないようにと寄り添い歩くことだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
都槻・綾
f04128/ロカジさん
雨の帳が薄紗の如く
世界と傘の内とを柔らに隔てる
独りで取り残されたような気持ちにならないのは
前を往く青年の後ろ姿が
私を現実に引き留めていてくれるから
其々の歩幅で、速度で、気侭な逍遥
互いの顔が見えないが故に
交わす言葉遊びは嘘か誠か定かではない
だからこそ
常に朗らかなあなたの
秘めた一面も覗くでしょうか
なんて
雨滴のように戯れを笑み零す
此の距離感が心地良い
紫陽花の葩も
緑の葉も
彼の言葉の雫を受けて
いっそう艶めき立ったみたいに
目に鮮やか
ピンクはロカジさんの髪色ですね
思い入れがある彩りなのでしょうか
私もあなたの色が好きですよ、と其の背に告げる
かんばせは見えないけれど
笑ってくれているかしら
ロカジ・ミナイ
綾/f01786
雨
傘を打つ雫の音とふたつ聞こえる男の足音
細い通路を縦に並んで行くだけの散歩は
言うなれば孤独の共有
共に何かをしているわけではなくとも
独りではない
心地よい矛盾
両脇に寄り添っては去っていくとりどりの紫陽花たち
こういう時に口をつくのは
聞こえなかったことにして聞いておくような話
僕は根っこがあるのでも足があるのでも、お花ちゃんが好きでね
特に紫陽花みたいに毒のある花はいっとう好き
別に痛い目に遭いたいってんじゃなくてさ
テメェの力で生きてやるっていう気概がさ、いじらしくって
色はそうね、やっぱりピンクかな
後ろから聞こえた言葉はこそばゆくって
なーに言ってんだい、なんて顔が綻んじまうような
●
人ひとりが通れるほどの狭い道程に、ふたつの傘が咲く。
世界に降り注ぐ恵みの雨。その雫が傘を打つ音と共に――聞こえるのは、ふたつの男の足音。時折水たまりの水が跳ねる音色が響くその音は、大きな歩幅を表している。
大きな花が進む様は、縦に並ぶように。細い道故横に並べない為、ただ彼等は並んで歩くだけ。――それは、孤独の共有だとロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)は心に想う。共に何かをしているわけではない。けれど、後ろから聞こえる足音を聞けば、独りでは無いという心地良い矛盾が胸に宿る。
そんなロカジの揺れる傘をじっと見て、都槻・綾(糸遊・f01786)は柔く微笑んだ。
雨の帳が、世界と傘の内とを柔らに隔てるこの光景。しかし、前を行く彼の後姿が綾を現実に引き留めていてくれるから。
両脇に咲く紫陽花の花は、寄り添っては去って行く。その色とりどりの中を彼等は、それぞれの歩幅で、速度で、気ままな散歩の時間を楽しむ。――雨の中の散歩は、音も空気も世界も、全てがまた違った色を魅せている。
それは綾にとってはどこか落ち着く世界。
だから、という訳では無いが。思わず彼の口元から、言葉が零れる。
「常に朗らかなあなたの、秘めた一面も覗くでしょうか」
なんて、と添えて。雨雫のように戯れが彼から零れた。
――互いの顔が見えないが故、か。交わす言葉遊びは嘘か誠か定かではない。だからこそ、この言葉が零れたのだ。此の距離感が、心地良いと思うから。
綾の言葉に、ロカジは応えるように傘を回した。その拍子に舞った雫が、きらりと煌めき綾の瞳に一瞬映る。――後ろの声は、人間の耳には少し聞き取りづらいもの。雨と傘に隔たれている今、尚それは強まるのかもしれないけれど。しっかりとロカジは唇を開く。
「僕は根っこがあるのでも足があるのでも、お花ちゃんが好きでね」
ゆるりと瞳を細め、彼は傍に咲く淡いピンク色の紫陽花を見て「特に紫陽花みたいに毒のある花はいっとう好き」と語る。
別に痛い目に遭いたいという訳では無い。
「テメェの力で生きてやるっていう気概がさ、いじらしくって」
――それは聞こえなかったことにして聞いておくような話。
目元と口元を緩め語る彼の顔は、綾には見えない。
けれど咲き誇る両脇の紫陽花の花弁も、緑の葉も。彼の言葉の雫を受けて、一層艶めき立ったみたいに目に鮮やかに、綾は想う。
ぴちょんと雫が降れば、ロカジの鮮やかな青い瞳に映る紫陽花が揺れた。その花弁の色を見て、そっと彼は言葉を続ける。色は、やっぱりピンクだと。
「ピンクはロカジさんの髪色ですね、思い入れがある彩りなのでしょうか」
その言葉を聞いて、そっと瞳を伏せて綾は言葉を紡ぐ。降り注ぐ雨のように、零れる言葉はどこか透き通り、世界へと落ちていくようで――そっと綾は伏せた瞳を開くと、目の前で咲く傘に向けて唇を開き。
「私もあなたの色が好きですよ」
ひとつ、素直な言葉を口にしていた。
その言葉を受けて、ロカジはひとつ瞳を瞬いて。きゅっと唇を結ぶ。こそばゆい心地のその声に、どう反応しようか――。一瞬の間の後、彼は。
「なーに言ってんだい」
そう零しながら、嬉しげにくしゃりと顔を綻ばせて語る。
その顔は、やっぱり綾には見えないけれど。
声の色を聞けば、彼の心地が分かるような。そんな気がする。
(「笑ってくれているかしら」)
ひとつ息を零し、心に想う綾。
降り注ぐ雨が世界を満たす。淡く掛かる霧の向こうに見える花々の艶めきは、この季節だけの特別な情景。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジュリオ・マルガリテス
おや、何とも美しい景色だね
こう云うのを「風流」と言うのだろう?
それ位なら私も知っているさ!
少年のように目を輝かせて
紫陽花殿にご挨拶を
ご機嫌麗しゅう、私はモノクルのヤドリガミ
ジュリオと言うよ
雨粒の似合う美しき方々よ!
この逍遥を楽しませてくれてどうもありがとう
願わくは、この景色が汚されないように
私には何が出来るだろうかと考えて
ううん、先ずは楽しむ事が大切かな
私の嘗ての主人も悔しがった事だろうね
私こそ見たかったのに、モノクルずるい!ってね
この体の形を取れた事
自分の足で好きな所へ行ける事
それがこんなにも嬉しい事だなんてね
君たちのお蔭で気がついたよ
Merci, princesse et prince !
●
「おや、何とも美しい景色だね」
うっすらと掛かる霧により、視界が淡く染まる中。
ジュリオ・マルガリテス(twin eye・f24016)は、眼前に広がる高い杉の元、咲き誇る数多の色合いを持つ紫陽花の花を見て、驚いたように綺羅星の如き瞳を瞬いた。
こう云うのを『風流』と言うのだろう?
それ位なら知っているさと、瞳を輝かせながら語る彼はどこか少年のような純真さを持っている。――それはいつも人々に見せる笑みとは違う、魅力を抱く不思議な輝き。
そのまま彼は、傘の下で楽しそうに笑みながら紫陽花へと近付く。
青に紫――様々に色付く紫陽花はどれも美しく、曇る空の下で咲き誇る姿は晴れ間とは違う花の魅力。煌めく雨の雫を纏う様子に『風流』と云う言葉だけでなく、その意味を心でなんとなく理解しながら。
「ご機嫌麗しゅう、私はモノクルのヤドリガミ。ジュリオと言うよ」
長身故少し屈み、紫陽花と目線を合わせながら挨拶を紡いだ。
相手は言葉を発せぬ植物。故に返事は無いけれど、ジュリオは楽しそうに笑っている。――それは、自身も無機物だからだろうか。
「雨粒の似合う美しき方々よ! この逍遥を楽しませてくれてどうもありがとう」
願わくは、この景色が汚されないように。
そう祈るように心に想うジュリオの眼差しは、どこまでも柔らかく温かい。
屈んでいた姿勢をそっと正し、辺りの雨に染まる景色を眺めながら――自身には何が出来るだろうかと、彼は考える。
傘を打つ雨の音は心地良く、纏う湿気の温もりと冷たさの両方を含んだ空気は体験したことの無い不思議な心地。晴れ空では無く、雨と云う魅力を身体で感じた彼は――。
「ううん、先ずは楽しむ事が大切かな」
ふっと笑みを落とし、小さな声でそう紡いだ。
ジュリオのかつての主人も悔しがったことだろう。「私こそ見たかったのに、モノクルずるい!」と言う姿が目に浮かぶようで――楽しげにジュリオが笑い声を忍ばせた時。
ぴちょん。零れる雫が葉に溜まり、紫陽花の鮮やかな緑色の葉が跳ねた。――それはまるでジュリオの語りに同意をするかのように想えて、彼は嬉しそうに笑む。
この体の形を取れたこと。自分の足で好きな所へ行けること。
それが、こんなにも嬉しいことだと――。
「君たちのお蔭で気がついたよ」
――Merci, princesse et prince!
笑みと共にお辞儀をして、彼は感謝を告げる。
傾けた傘から零れる雫を受けて、紫陽花はまたジュリオに語り掛けるように揺れた。
大成功
🔵🔵🔵
雨音・玲
【ファブル】で参加
傘を放り捨て天真爛漫に、雨と霧の紫陽花の小路にダイブする
オリフィスに
「ちょっと風邪ひくよー!?」と苦笑しながらも
「まぁ気持ちはわからなくもないけどさ」と、朱塗りの和傘を回しながら
しっとりと濡れた空気を胸いっぱいに吸い込みます
「ほんと、空気が旨いなぁ~…」
たまにはこんな仕事もいいよね?
ほぼ一か月かぁ戦争で戦地を駆け回ってたし
今日ぐらいは、ご褒美ってことで
雰囲気的に、合うとすればダンスより舞踊って感じかな?
踊るなら見て見たいもんだけどさー
まぁ今日は大人しくしてようぜ?
紫陽花を望みながら休憩できる場所を確保して
花見酒て行こうか?と酒の入った瓢箪を振って見せます
高砂・オリフィス
【ファブル】で参加!
んーっ! 火照った体に雨がきもちいーっ!
あははっ! 見て見て見てこのミスト! こういう中で踊ったら楽しいんだろうなぁ!
傘を放り捨てて、雨と霧の世界へダイブして。出身地では感じ得なかった風情のある素敵な雰囲気の楽しみ方がわかっていないけれど。ともかく、全身で味わっちゃう!
歌は……うんっ、NGだねっ。このしとしと音に勝るメロディはないと思うや、流石に流石に!
ぼくが楽しいだけじゃエンターテインメントにならないから! 今はこの素敵な時間をたっぷり共有したいな!
そーいうわけで静かにしまーす! あははっ
花見酒! サイッコーだねっ
いつもありがとうアーンドお疲れ様っ! かんぱいっ
●
ぱしゃりと水溜まりを踏む音が響けば、上がる雫がキラキラと世界を舞う。
「んーっ! 火照った体に雨がきもちいーっ!」
空から零れる雫をその身で受け止めるように両手を上げると、高砂・オリフィス(南の園のなんのその・f24667)は嬉しそうに声を上げた。
そんな彼女の様子を見て、風邪を引くよと雨音・玲(路地裏のカラス・f16697)は苦笑を零す。けれど彼女はその声が聞こえていないのだろう。楽しさを止められないとばかりに、オリフィスが放り出した傘を路から拾い上げて。玲はひとつ溜息を。
「まぁ気持ちはわからなくもないけどさ」
零れる雫が和傘を打つ音を傘下で聞くのも心地良い。そのまま彼は朱塗りの和傘をくるりと回した。キラキラと、傘を伝う雫が雨の世界へと舞い――その雫を鮮やかな瞳に映しながら、玲は深く深く息を吸った。
胸に満ちるのは、しっとりと濡れた雨の空気。仄かに水気を含んだ香と、緑濃い色と夏の気配を感じるこの空気は、今だけの特別なもの。
「ほんと、空気が旨いなぁ~……」
胸に満ちたその空気を吐き、玲は改めて実感したように言葉を零した。
ほぼ一か月の間。剣と魔法と竜の世界で激しい戦いを行っていた。――それは猟兵にとっては定期的にある仕事なのだけれど。だからこそ、何も無い日はご褒美としてこんな仕事をしても罰は当たらないはずだ。
そんな風に、玲が物思いに耽っていたところに――ぱしゃりと、一等大きく響く水音が。そちらへと意識を向けると、オリフィスが楽しげに水溜まりを踏みしめていた。
「あははっ! 見て見て見てこのミスト! こういう中で踊ったら楽しいんだろうなぁ!」
うっすらと掛かる霧により視界が通らぬ中。零れる雫を受け止めて、紫陽花咲き誇る路でくるりと回りながらオリフィスは楽しげに語る。
――彼女が生まれたのは、既に崩壊してしまった世界。その為このように緑や花、空気を楽しむといった風情のある雰囲気の楽しみ方は分からない。
けれど、この雰囲気が素敵だと云うことは分かる。だからこそ全身で味わおうと。彼女は降りしきる雨に身を任せる。
「雰囲気的に、合うとすればダンスより舞踊って感じかな?」
雫を帯び、キラキラと煌めく長い金髪を一瞥した後、玲は彼女の先程の言葉に応えるように言葉を零した。確かに、踊るなら見て見たいけれど――今日は、この場の雰囲気もあるから。大人しくしていようと彼は紡ぐ。
するとオリフィスは楽しそうにくるくると回っていた足を止め、その眼差しを玲へと向ける。ダンスと共に歌を奏でたいと思う気持ちもあるけれど――この零れる雨の音色に勝るものはこの場には無いと思う。
それにオリフィスが楽しいだけでは、それはエンターテインメントにはならない。だから今は、この情景に合う楽しみ方で。この素敵な時間を共有したいと思うから。
「そーいうわけで静かにしまーす! あははっ」
雨の中に咲く晴れやかな笑みを浮かべながら、彼女は玲の元へと駆け寄った。
オリフィスが動く度に、彼女の纏う雫が世界に舞う。その煌めきを視線で追った後、玲は先に見える休憩所に気付いた。
「花見酒、行こうか?」
彼がひょうたんを取り出し振ると、ちゃぷりと中の液体が揺れる音がする。雨の中、艶やかに咲く紫陽花を眺めながらのお酒は、桜とはまた違う風情溢れるひと時になるだろう。屋根を打つ雨の音色が、更なる魅力を作るはず。
「花見酒! サイッコーだねっ」
だからオリフィスは、楽しそうに頷くと。そのまま休憩所に向けて駆け出した。
――乾杯と、共に上げた声が雨の中響き渡る。
――どこか暗い世界の中でも褪せない、鮮やかな色をした声が。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
八榮・イサ
鷲穂(f02320)と。
自分の傘はちゃんと持てよう。
風邪ひいたって、図体ばかりでかい弟子の面倒なんざ見たくないさ。
こりゃあ、今年も綺麗に咲いたなあ。
恵みの雨に、梅雨の花!
雨神様にとっちゃ、旱魃もなく今年も梅雨入りで憂いなし。 サンスーシさ。
―あめあめ、ふれふれ!
浮かれたって良いだろう。こんな良い雨が降ってるなら浮かれない方が失礼だぞう。
ふぅん…おまえ、紫陽花の手土産か?
切り花を花瓶に生けてやるのも良いと思うが……また来るほうが良いな。楽しみはとっとくさ。
明石・鷲穂
師匠(八榮イサ/ f18751)と来た。
室内でじーっとしてても面白くないと思うぞ。
折角だから外に出よう。
雨音を楽しむのも良いが、名物を見に行くべきだ。
見事に色とりどりな花道だなあ!雨粒が光って綺麗だ。
去年の梅雨は…大雨が止まなくなる依頼にあって楽しむ余裕も無かったからなぁ。
今年は梅雨を楽しみたいが……師匠ずいぶんと楽しそうだな?
なぁ、紫陽花は手土産には大きいよなあ。
また咲いているうちに、見に来たいな。
(アドリブ他お任せ)
●
ぱしゃりと水音を響かせて、歩む明石・鷲穂(真朱の薄・f02320)の後姿に向け。
「自分の傘はちゃんと持てよう」
八榮・イサ(雨師・f18751)は言葉を零した。
雨が降っているからと云って、室内でじーっとしていても面白くない。折角だから外に出ようと、鷲穂は傘を手に外へと飛び出したのだ。室内で雨音を楽しむのも良いけれど、折角だからこの季節にしか見れないものを見に行こうと。
だからだろうか、ついつい足取り軽く歩んでしまうのも。
そんな彼が歩む度に、響く足音は独特なもの。傘を差しても、彼の長い焦げ茶色の髪も、その胴体も完全に隠すことは出来なくて。うっすらと雫を纏い、湿っていく。
けれど、それすらも鷲穂は楽しいと思う。
だからこそ、風邪を引くことをイサは心配してしまう。――風邪ひいたって、図体ばかりでかい弟子の面倒なんざ見たくないさ。と零すイサの姿は、見た目だけならどこかあべこべだった。
楽しそうに歩む彼を後ろから見ていたイサだが、自身の周りに溢れ咲く紫陽花を見て瞳を細める。雫を纏う、艶やかな紫陽花の花はとても美しく――。
「こりゃあ、今年も綺麗に咲いたなあ。恵みの雨に、梅雨の花!」
思わず言葉が零れていた。
彼にとって、雨は身近なもの。だからだろうか、このように美しい梅雨の景色を見れば嬉しくなる。雨神様にとっては、干ばつも無く無事に梅雨入りすることは憂いが無い。
――サンスーシ。
そう小さな声で呟いた為、イサの声は雨に紛れて消えてしまっただろう。もう少し大きな声でも、楽しそうに紫陽花小路を歩む鷲穂が気付いたかは分からないが。
鷲穂は降りしきる雨が傘を打つ音も、心地良い雫が身に落ちるのも楽しみながら。
「見事に色とりどりな花道だなあ! 雨粒が光って綺麗だ」
溢れる程に咲く紫陽花へとすっかり目線が囚われている。数多の色に染まる紫陽花は、勿論いつだって美しいこの時期の風物詩ではあるけれど。やはり雨の中。雫を纏い艶めく姿が一番美しいのだ。
だからそんな花を見ると、どこか安心する。
昨年の梅雨は、大雨が止まなくなる仕事に赴き。今のように楽しむ余裕も無かったから。だからこそ、尚更今年は――。
「梅雨を楽しみたいが……師匠ずいぶんと楽しそうだな?」
カラリと下駄の音を響かせて。番傘をくるりと回し歩むイサの姿に気付き、鷲穂は不思議そうに言葉を零す。その言葉に雨降る空から視線を落とすと。
「浮かれたって良いだろう。こんな良い雨が降ってるなら浮かれない方が失礼だぞう」
笑みと共に、イサは零す。
――あめあめ、ふれふれ! 傘を掲げそう語る彼は尚も嬉しそうで、その姿を見れば自然と鷲穂の口元にも笑みが零れる。
そのまま視線を辺りの紫陽花へと移せば、その美しさに改めて心を奪われ――。
「なぁ、紫陽花は手土産には大きいよなあ」
思わず、そう問い掛けていた。
イサは瞳を瞬いた後、考えるようにあごに手を当てる。
「切り花を花瓶に生けてやるのも良いと思うが……また来るほうが良いな。楽しみはとっとくさ」
切り花は、すぐに萎れてしまう。それに紫陽花の花は、こうして雨の中咲き誇る姿こそ美しい。だから、今はお預けを。
――また咲いているうちに、見に来たいな。
鷲穂の心に宿るその想いは果たせるだろうか?
きっと大丈夫。だって、梅雨はまだ始まったばかりなのだから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジャスパー・ドゥルジー
【邪蛸】
パウルが調達してくれた番傘で相合傘♪
装いも着流しですっかり観光気分
あっ俺が持つぜ
パウルが濡れねえように注意を払いつつ
手は繋げねえけど、普段より近くにパウルを感じる
傘の上で踊る雨音も耳に心地いい
俺の住んでたアリラビの国じゃ喋る花も珍しくなかったけど
こうやって黙って雨を受けてる花もなかなか風流ってやつだな
――実は、さ
猟兵になって違う世界に行くのは、最初は厭だった
でも今は、こうしてパウルや皆と逢えて、色んなとこ巡れて
……良かったなって、心から想う
ニッと笑った後、なんだか恥ずかしくなっちまう
白い紫陽花がたくさん咲いてるとこがあるって言ってたよな、探しにいこうぜ
照れ隠しに先を急ぐ
パウル・ブラフマン
【邪蛸】
持ち前の【コミュ力】を活かして
花小路の最寄りの商店で番傘をGETしておくよ☆
今日はツアーの視察…ではなくて。
まったり休暇デートなのだ♪
モチロン、『猟兵』のお仕事はこの後バッチリしてくけどね☆
ありがと!
気遣いに甘えて柄を譲れば
お揃いの着流しの袖がそっと触れ合う。
傘の内側はまるでふたりっきりの世界。
おしゃべりする花にも逢ってみたいけど、と笑いながらも
彼の心境の吐露に目頭が熱くなる。
うんっ…白の紫陽花を探しにいこう!
こんな風に、これからもいろんな世界のお花を見に行こう。
足早でなくていい。
辿り着いた先ではモチロン
向かうまでの道中の記憶が堪らなく愛おしく想えるから。
ジャスパーったら…照れてるの?
●
パウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)が用意をした、番傘の花が咲く。
ぽつりと零れ落ちる雨音の下で――寄り添うようにふたりは同じ傘を共有する。
「あっ俺が持つぜ」
しっかりと柄を握りパウルの手に重ねるように、ジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)が自身の手を伸ばした。
自身より背の高いジャスパーの為に、少し腕を伸ばしていたパウルは。「ありがと!」とお礼を零し彼の気遣いに甘える。
一瞬触れる手の温もりは、雨中の少し冷えた空気の中融けるように感じる。揺れる着流しの袖が触れ合うのを見て、パウルはどこか嬉しそうに微笑んだ。
ひとつの傘の下。降り注ぐ雨がまるで世界と幕を張っているかのようなこの情景は、まるでふたりっきりの世界のようだとパウルは想う。
そしてそれは、ジャスパーも同じように。濡れないようにと傘を寄せ、身体を寄せればすぐ傍に彼の熱が感じる。手を繋がなくとも普段よりも近く感じる存在、傘の上で踊る雨音。その下に居るこの時間が心地良くて、思わず口元に笑みを浮かべていた。
これは、まったり休暇デート。――勿論猟兵としての仕事も忘れてはいないけれど。今このひと時だけは、ゆるりとしても罰は当たらないだろう。
歩めば地に溜まる水が音を立て。狭い道を歩めば触れた袖で紫陽花が揺れる。その揺れた花を見て、そっとジャスパーは瞳を細めると。
「俺の住んでたアリラビの国じゃ喋る花も珍しくなかったけど。こうやって黙って雨を受けてる花もなかなか風流ってやつだな」
自分の故郷と比べて、ふと自然と言葉が零れていた。
賑やかに、楽しげに喋る花々。この世界の四季とはまた違う、甘く愛らしく、けれどどこか毒を抱く自身の世界。――その景色を思い出せば、そっとジャスパーは瞳を伏せ息を零した。その息はとても小さいモノだけれど、そのまま添えるように言葉を零す。
「――実は、さ。猟兵になって違う世界に行くのは、最初は厭だった」
それは雨の音に消されてしまいそうな、小さな声で。
けれど同じ傘の下。熱を感じる程の近くに居るパウルには、しっかりと聞こえる声で。ジャスパーは、自身の心を吐露する。
嫌だったのは、事実。けれど今は、こうしてパウルや皆と逢えて、色んな所を巡れて。
「……良かったなって、心から想う」
そっと顔を上げ、紫色の鮮やかな唇を綻ばせて。彼は、そっと心を添えた。
その言葉とジャスパーの眼差しに、パウルは微かに身を震わせる。いつもは楽しげに輝く青い瞳が揺れるのは、彼の心境の吐露に目頭が熱くなったから。
「おしゃべりする花にも逢ってみたいけど」
日常の会話へと言葉を添えるのにパウルは精一杯だった。きゅっと唇を結び、そのままジャスパーが零した言葉を心で受け止める。そんなパウルの姿を見て、ジャスパーはどこか恥ずかしそうにニッと笑みを零し。
「白い紫陽花がたくさん咲いてるとこがあるって言ってたよな、探しにいこうぜ」
小さな傘の下に満ちた空気を払うかのように、そんなごく普通のことを紡いでみる。
それは彼なりの、照れ隠し。けれど美しい白に満ちた景色は、きっとこの雨の情景の中美しいだろうから――。
「うんっ……白の紫陽花を探しにいこう! こんな風に、これからもいろんな世界のお花を見に行こう」
大きく頷き、パウルはジャスパーが差してくれている傘の下で一緒に足を踏み出した。
早足でなくて良いとパウルは想う。辿り着いた先では勿論、向かうまでの道中の記憶が、堪らなく愛おしく想えるから。
けれどそれは――。
「ジャスパーったら……照れてるの?」
彼なりの照れ隠しだと想い、そう問い掛けた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
弦月・宵
もういーかーい?
「…まーだ、だよ…?」
大きな紫陽花の影は、実は隠れ鬼の時にいい目眩ましになるんだ
葉影に隠れながら回り込んで鬼を躱して
雨上がりとかだと、滴で服を濡らしたりして
紫陽花の色が賑やかだなぁ
雨で濡れると、綺麗なのがもっと綺麗に、色が濃くなって見える
ノイズのような音に聞き入る
聞こえてくる声は幻。
ひとりの時に聞こえる気がする、いつものこと。一人遊びだって分かってる
でも今日は、見つけてもらえるような…
まーだだよー!
水の気に満ちた空気が心地好くて、ついついヒトの居ない奥地まで駆け出して
傘は目立つから、なにも持たずに。
雨で閉じた空間が、もう少しの間だけこのままでありますように。
「もーいーよーっ!」
●
もういーかーい?
「……まーだ、だよ……?」
降りしきる雨の中。露に濡れた紫陽花の下で――弦月・宵(マヨイゴ・f05409)は膝を抱えるように座りながら、ぽつりと言葉を零した。
大きな紫陽花の影は、隠れ鬼の時に良い目くらましになる。葉影に隠れながら、回り込んで鬼をかわして。雨上がりの時には、身を隠す際に花に溜まった雫で服を濡らした。
――そんな記憶が、呼び覚まされる。
(「紫陽花の色が賑やかだなぁ」)
こうして屈んでいると、紫陽花の花々と視点も近くなりその色がよく分かる。雨で濡れると、元々綺麗なその花はもっと綺麗に、艶めきを帯び色が濃くなって見えるのだ。
ぽつりと零れる雫が宵の頬を打つけれど、いくらかは紫陽花が雨を凌いでくれている。
降り注ぐ雨の音が、耳に届く。――その中に混じって聞こえる声は? これは幻?
それは宵がひとりの時にいつも聞こえる気がする声。いつものことだと分かっているから、彼女は動揺しない。ひとり遊びだって、分かっているけれど……今日は、見つけて貰えるような、そんな気がして。彼女は――。
「まーだだよー!」
言葉を零すと、すっくと立ちあがり駆け出した。
手には何も持たず。降り注ぐ雨をその身で受け止めて――目立つ傘は、今はいらない。
露出した肌を打つ雨の雫は心地良く、走りながら呼吸をすれば胸に飛び込む水気に満ちた空気が心地良い。そのまま彼女は、ヒトの居ない奥地へと駆けて行く。
辺りに広がるのは鮮やかな紫陽花たち。高く伸びる杉の樹。
どこまで行っても変わらない景色。けれど水と緑の香りは、奥に近付く程に濃くなっていく。その香りに導かれるように、宵はただただ駆けるのだ。
雨で閉じた空間が、もう少しの間だけこのままであるようにと、願いながら。
「もーいーよーっ!」
宵のその一声は、誰も居ない世界に響いたが――降りしきる雨と薄ら掛かる霧に吸い込まれるかのように、消えていく。
大成功
🔵🔵🔵
薬師神・悟郎
翠々(f15969)と紫陽花路を散策
雨は嫌いではない
苦手な太陽を覆い隠し、全てを流してくれるからな
然り気無く周囲に気を付けて、翠々に水溜まりの泥等が跳ねないように庇いながら紫陽花…ではなく、翠々の姿をしっかりと心に刻む
雨の中、心踊らせ楽しそうな翠々の可憐さが愛おしい
紫陽花の美しさも彼女と比べれば霞んでしまう
嫉妬した花々が散ってしまうのではないか?
会話をしながら、翠々の顔を眺める
瞳は優しく、まつ毛の角度がとても素敵で、唇の形も綺麗だ
美しいものは幾つも見てきたが、翠々が最も美しい
俺が翠々しか見ていないことを彼女は気づいているだろうか?
この雨でさえ、彼女を恋い慕う気持ちを鎮めることはできないようだ
周・翠々
悟郎様(f19225)
悟郎様は雨お好きですか?
嫌いじゃないです?
ふふ。良かったです
わたくしは大好きですよ
冷たさも音も匂いも
心が躍る
傘を下ろして子供の手遊びのように
くるりくるり、まわす
悟郎様には雨がかからないように
身体にあたるひんやりとした雨が心地良い
閉ざされた空間に広がる紫陽花の景色には感嘆の息を漏らし
壊れぬようにその花に触れて
視線を感じて悟郎様を見る
世界に二人しか居ないような不思議な気分になる
優しい綺麗なそのお顔
思わず頬が赤くなりそうになるが
それを隠すように笑って
綺麗ですね
それは花と悟郎様に向けて
悟郎様がわたくしだけを見ていたことは気付かない
知っていたら恥ずかしくて会話にならなかったです
●
「悟郎様は雨お好きですか?」
薄っすらと掛かる霧の更に奥。どこか悲しげに曇った空を見上げながら、降り注ぐ雨粒を眺め周・翠々(泪石の祈り・f15969)は問い掛ける。
雨空を見上げる、彼女の煌めく瞳をじっと見つめながら――。
「雨は嫌いではない」
淡々と薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)は零した。
雨は、苦手な太陽を覆い隠して。全てを流してくれるから――そう言葉を添えれば、ふわりと柔らかな笑みを浮かべて、翠々は悟郎を見ると。
「嫌いじゃないです? ふふ。良かったです」
嬉しそうにそう紡いだ。
翠々は、雨が大好き。その冷たさも、音も、匂いも――その魅力を楽しむように彼女はすうっと息を吸うと、そのまま踊る心を表すように、手元の傘を下ろしくるりと回した。
くるり、くるりと傘が緩やかに回れば。傘を伝う雫が雨の世界へと舞い散る。降りしきる雨とはまた違うその雫は、鮮やかな紫陽花を映しながら地へと落ちていった。その雫が身に掛かれば、ひんやりとした心地良さに翠々は思わず瞳を細める。
そんな、どこか子供らしく。無邪気な彼女がとても可憐で、愛おしく――思わず悟郎は、すうっと息を吸い込んでいた。
辺りに咲くのは、この時期が一番美しく艶やかな紫陽花の花々。
けれど、彼にとっては翠々こそが一番なのだ。紫陽花の美しさも、彼女と比べれば霞んでしまうと、そう想う。
(「嫉妬した花々が散ってしまうのではないか?」)
思わずそんなことを想ってしまう程、彼の目に映る翠々は美しかった。
ほんのりと雫を纏うエメラルドの髪も。柔らかな頬に雫が落ちる様も。そして、心地良さそうに笑みを零すその表情も。全てが、彼の心を捕らえて離さない。
だから彼はただ見守るように、そっと彼女に寄り添うのだ。閉ざされた世界に広がる紫陽花に、感嘆の息を零すその姿すら悟郎にとっては胸が逸る。
そっと翠々は薄青の紫陽花へと近付くと、壊れぬように優しく花弁に触れる。微かに雫を帯びた花弁は、揺れた拍子に雫を地へと落とした。
その様子を嬉しそうに眺めていれば――ふと、視線を感じて翠々は悟郎を見遣った。不思議そうに瞳を瞬き、じっと彼を見ていれば。何故だろう、世界にふたりしか居ないような、不思議な気分になる。
じっと自分を見る悟郎の優しい綺麗な顔。
その眩い金色の瞳をじっと見返せば――翠々は思わず頬が赤くなりそうで、それを隠すように柔く微笑んだ。
「綺麗ですね」
そっと紡ぐ、言葉に隠して。
それは花と、悟郎に向けての言葉。その心地良い声に、静かに悟郎は頷きを返す。
煌めくエメラルドの瞳は優しく、まつ毛の角度がとても素敵で、唇の形も綺麗。
(「美しいものは幾つも見てきたが、翠々が最も美しい」)
じっと彼女を見つめ続けては、心から悟郎はそう想った。鮮やかな紫陽花と、淑やかなこの雨の情景の中の彼女もまた、美しいと心から。
(「この雨でさえ、彼女を恋い慕う気持ちを鎮めることはできないようだ」)
募る想いを確かに感じつつ、そっと悟郎は翠々への気持ちを感じる。こんなにも、溢れる感情は。身体の熱を鎮めるはずの雨雫が、微かに腕に触れても全く落ち着かない。
だから彼は、尚も楽しげに雨の中。歩みを進める翠々をじっと見つめる。
――もしも悟郎が翠々しか見ていないことに気付いていたら。あまりの恥ずかしさに、今のように穏やかな会話を交わすことは、出来ていなかっただろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リル・ルリ
🐟櫻沫
雨が弾かれ歌紡ぐ
お気に入りの番傘くるり
鼻歌混じりに雨の彩る小路を泳ぐ
きれい!
雨粒の宝石を纏って咲き誇る、可憐な花!
青に青紫に、ピンクのこれは桜のようだ!
みて、櫻宵のような紫陽花
妖精が踊ってるような綺麗な紫陽花
え?こっちは僕のような?
はにかんで白の紫陽花の横に並んでみせる
紫陽花の花言葉――
移り気も浮気も、無常も無縁なもの
どんな色に変わっても
こころの彩は変わりはしない
そんな愛を教えてもらったんだ
櫻の手を取り指先にキスをする
気が変わった
1つの傘の下で2人、歩こうよ
傘の下が1番声が綺麗に聴こえるんだよ
傘からはみ出した尾鰭はびしょ濡れだけど構いやしない
僕は雨が好きなんだ
勿論、一番は…
(君だけど)
誘名・櫻宵
🌸櫻沫
降り続く雨はまるで人魚の歌を彩る伴奏ね
ご機嫌なリルの後を微笑みながらついて歩く
青に白、紫に桃色に
雨の中に咲いた花々の美しいこと
あら?私のような?
人魚が見つけてくれたのは、桜のような花の集まった紫陽花
雨のなか踊るようで可愛らしくて
そんな花をみて私を連想してくれた事も嬉しくて
いとおしさに頬が緩む
こっちの白い紫陽花は雨粒と戯れる可愛い人魚のよう
かあいらし
こんなに可憐な花なのに花言葉は良くないもので切ないわ
ふと絡められた指先をおい
言葉と共に降りてきた優しさに笑む
…ええ、変わりはしない
悪戯っ子のように微笑んで同じ傘の下
少し冷たい体温が暖かい
噫、雨の日も良きものね
返事など言わずともわかるでしょう?
●
雨が番傘に降り注げば、涼やかな歌を紡ぎだす。
ぱらぱらと鳴るその音色は、この情景で、傘の下だけ聴こえる不思議な音色。
その音色に耳を傾けながら――リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は楽しそうに、手にしていたお気に入りの番傘をくるりと回した。
回した拍子に、雨に彩られた世界に雫が飛び散る。煌めく雫を瞳に映しながら、リルは鼻歌を奏で雨の彩る小路を泳ぐ。
目の前で揺れる、月光ヴェールの美しき尾。彼が通った路には、零した鼻歌の跡が残るようで――そんなご機嫌なリルの後を、誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)は。
「降り続く雨はまるで人魚の歌を彩る伴奏ね」
微笑みながらついて歩き、跡に残る歌と耳に響く雨音の協和を心に留め紡いだ。
辺りを見れば、鮮やかな紫陽花の花々は雫に濡れ美しく艶めいている。青に白、紫に桃色に――その色と煌めきをひとつひとつ捉えると、櫻宵は瞳を細め微笑んだ。
そんな彼に倣うように、リルも紫陽花へと視線を移す。
「きれい! 雨粒の宝石を纏って咲き誇る、可憐な花!」
素直に、見た姿を言葉にするリル。同じ想いを言葉にする彼を見て、櫻宵は嬉しそうに笑む。その笑顔を見てリルも笑みを深めると――視界の端に移った紫陽花を振り返る。
そこに咲くのは、雨に濡れた淡いピンク色。雨粒の宝石を纏って咲き誇る、可憐なその花は、桜のようで。小さな花弁が集う様もまた似ている気がする。
「みて、櫻宵のような紫陽花」
だからリルは、櫻宵を見上げ嬉しそうに紡いだ。妖精が踊っているような、綺麗な紫陽花を指差しながら。
「あら? 私のような?」
彼の言葉に、櫻宵は瞳を瞬きその紫陽花を見る。
雨の中踊るようで、可愛らしいその紫陽花を見て。櫻宵を連想してくれたことが嬉しくて。その溢れる程の愛おしさに、思わず彼は頬を緩めた。
そのまま探すように桜霞の瞳を揺らすと、目に留まった紫陽花の花弁に指先で触れる。
「こっちの白い紫陽花は雨粒と戯れる可愛い人魚のよう」
その花を愛おしげに見た後、櫻宵はリルへと視線を移す。その眼差しを見返し、白の紫陽花へと視線を移して。リルは僕のような? と言葉を返すとその紫陽花の横へと並んだ。少しはにかんだように笑うリル。透き通る魅力を持つ紫陽花の傍の彼の表情を見て、つい櫻宵は「かあいらし」と微笑んだ。
けれど――そっと紫陽花に優しく触れつつ、櫻宵は悲しげに瞳を伏せる。
「こんなに可憐な花なのに花言葉は良くないもので切ないわ」
零れる言葉に反応するように、リルは紫陽花をじっと見る。移り気、浮気、無常――美しいけれど抱く言葉はどこか悲しいモノを持つ花。けれど、どれも無縁だとリルは想う。
だって、どんな色に変わっても。
こころの彩は変わりはしないから。
そっと紫陽花に触れる櫻宵の手を取って。リルはその指先へと自身の唇で触れる。
――そんな愛を、教えて貰ったのだ。この手に触れる熱の人から。
櫻宵は不意に絡められたその指先をおい。言葉と共の降りてきた優しさに笑む。優しさが心に広がっていけば、雨に包まれた心が融けるようで。
「……ええ、変わりはしない」
瞳を細め、綻ぶ笑顔で、彼はひとつ言葉を紡ぐ。
ぽつり、ぽつり――ふたりの傘を打つ雨の音が響く。降りしきる雨は僅かでもふたりを遮るように、幕を張るかのようで。
「気が変わった。1つの傘の下で2人、歩こうよ」
自身の番傘を櫻宵へと差し出して、リルは語る。――だって、傘の下がいちばん声が綺麗に聴こえるから。だから身を寄せ合い、共にその熱を分かち合おう。
悪戯な笑みを零し、櫻宵は傘の下へと身を委ねる。狭い傘の下は、ふたりで入れば少し窮屈だけれど。それすらも愛おしい。少し冷たい体温が、暖かいと想える距離。
「僕は雨が好きなんだ」
傘からはみ出た尾びれが濡れてしまうのも気にせずに、リルは嬉しそうに笑む。だから櫻宵も、彼のその笑みを見れば自然と零れるように微笑んでしまうのだ。
「噫、雨の日も良きものね」
好きなものを好きだと言える。
けれど――どんなに好きなものに溢れていても、一番は変わらない。
君だけど。そう想った言葉は心に秘めて。
ぽつり、ぽつり。
降りしきる雨音は、まだ止みそうにない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
天星・雲雀
「湿度の多い雨の日は、体温の調節が難しくなるから嫌いなんだけど・・・。パトロールの為なら仕方がない。」
狐火の『オトモ』に和傘を出してもらうと、傘の下に潜り込んで散策を開始する。
紫陽花畑のそれも人気のない道を重点的に見て回る。
紫陽花の小さな花の束を見ていると、あっ。
傘から飛び出してじっくりそれを見ます。
「蝸牛だ。雨の日しか動いてる所、見ないんですよ」
しばらく見ていると我慢できなくなり渦を巻く貝殻を摘んで持ち上げます。
「他にも居ないかな?探してみよっ!」
こうなるともう雲雀ちゃんは、当初の目的など思い出せません。
傘を持った『オトモ』が追いつく間も無く蝸牛探しに明け暮れました。
ー小雨降る紫陽花畑にてー
●
零れ落ちる雫が、世界を濡らす。
「湿度の多い雨の日は、体温の調節が難しくなるから嫌いなんだけど……。パトロールの為なら仕方がない」
水気を含んだ艶やかな黒髪へと触れながら。天星・雲雀(妖狐のシャーマン・f27361)は少し困ったように眉を寄せ、けれど意志を込めた言葉を零した。
空から落ちる雨から彼女を庇うのは、ひとつの和傘。ぽつりぽつりと、零れる雨が傘を打てば。地や葉へと落ちる音とは全く違う音色が奏でられる。
その音色にぴくりと、髪色と同じ狐耳を動かしながら。雲雀は紫陽花咲き誇る地でも、人気の少ない所へと歩んでいく。
どんどん、杉林の奥へと――。
森へと入り込んでいけば、鳥の鳴き声と共に雨の音がよく聴こえる気がする。音に耳を傾けて、鮮やかに咲く数多の色の紫陽花へと色の違う双眸を移せば。
「蝸牛だ。雨の日しか動いてる所、見ないんですよ」
紫陽花の上で、のったりと歩むカタツムリを見つけて思わず傘から飛び出してしまう。
彼は葉の上を、尚ものったり進んで行く。その様子をじーっと雲雀は見つめているけれど――暫しの時間が経過してもほとんど動いていない姿に我慢が出来ず、その小さな殻を摘まんで持ち上げた。
カタツムリは驚いたようで自身の殻の中へと閉じこもる。指先の殻をじっと見て。
「他にも居ないかな? 探してみよっ!」
キラキラと瞳を輝かせて、雲雀はじっと数多咲く紫陽花へと視線を移しカタツムリを探していく。――こうなると、彼女は止まらない。
敵を探さなければならない。
その目的も忘れて。降りしきる雨の中、ただただ夢中に紫陽花の上で瞳を彷徨わせた。
大成功
🔵🔵🔵
呉羽・伊織
道明f02883と
視界は雨に烟れど――でも今は何故か不思議と、胸中はいっそ晴れやかな程に清く澄んでく
心洗われる、ってのはこーいう事か
弾む心を静かに隠す様に足音を消し
いつもは徒らに滑らせたりする口も閉じ
ゆるりと暫し漫ろ歩き
そうして東屋に着けば、不意にいつもの調子で笑い、結局ぽつり
なー、みっちー
こーいうのも、悪くないな
確かに普段なら花がない!紅一点すら無く白一色!なーんて喚いてみたりもするが――ふ、俺も夏に向けて本気出す準備を始めたんだよ
今年こそはこう、大人の余裕をだな
…冗談だって!
言葉はそれきり
や、でも、本当――根無し草だったこの心も、気付けばすっかり花やいだ
こんな風に、沢山の恵みと彩りを受けて
吉城・道明
伊織f03578と
――響くは雨音だけ
時に切なくも物憂げにも捉えられる景色も、今は自然と心地好く――曇り空の下でも、いっそ輝かしく映る
嘗ては修行に明け暮れ、戦場ばかりを駆け抜け、長らくこの様な空気に浸る間も無かったが
――清浄な空気が肺を満たすと共に、静謐が胸に広がる
雨粒を受ける程に、平穏な時が心に染み入る
――話に花を咲かさずとも、周囲の花が静かに安寧を物語る
その様を眺めるだけでも、十分に
珍しく真剣な――恐らく素を溢したであろう男に一つ頷き、代わって冗談を一つ
…どうした、今日は妙に大人しいな?
だから雨が降ったか?
返る言葉に肩竦めつつ
――ああ、きっと良い夏を迎えられるだろう
そして更に伸び行けるだろう
●
響く、響く――雨の音が。
世界を包むように降りしきる雨。うっすらと掛かる霧もまた、その世界を包み込むように空中を漂う。呉羽・伊織(翳・f03578)の鮮やかな紅の瞳に映る視界は、雨にけぶるけれど。今は何故か不思議と、胸中はいっそ晴れやかな程に清く澄んでいく。
深く息を吸い、濃い水と緑の空気を胸いっぱいに感じれば。
(「心洗われる、ってのはこーいう事か」)
風に揺れ、雫を帯びた漆黒の髪を押さえながら。彼は心にそう想う。
そんな伊織と同じように。吉城・道明(堅狼・f02883)も雨の空気を感じながら、深く深く息を吸い込んでいた。
眼前に広がる景色は、曇り空の下鮮やかに咲き誇る紫陽花の海。それは時に切なくも、物憂げにも捉えられる景色。けれど、今は自然と心地好く、曇り空の下でも、いっそ輝かしく映える。
かつては。道明は修行に明け暮れ、戦場ばかりを駆け抜け、長らくこのような空気にも浸ることも無かった。すうっと深く深く息を吸い込めば、清浄な空気が肺を満たすと共に。静謐が、胸に広がっていく。
――響くのは雨音だけ。
美しい空気と情景を感じながら。鮮やかな紫陽花の中を男ふたりはゆるりと歩む。
弾む心を静かに、隠すように。出来る限り足音も消すように歩めば、足元の水溜まりから響く音色は微かなものだった。
いつもなら、こうして歩みながら話に花を咲かせるだろう。特に伊織は、見目に反しその唇からは賑やかな言葉が零れることが多い。
けれど今は――静かに、この景色を、美しき花を楽しみたいと思うのだ。だって周囲の花が、静かに安寧を物語るから。
(「その様を眺めるだけでも、十分に」)
そっと口元に笑みを浮かべ、そう心に道明が想った時。視界の先に東屋が見えた。
ゆるりと歩んでいたふたりは、雨宿りをするように東屋へと入っていく。ふたりの長い裾は微かに雨に濡れてしまったようで、ぽたりと雫を作る中。
「なー、みっちー。こーいうのも、悪くないな」
先程までの静かな彼とは打って変わり。伊織はいつもの調子で笑うと、道明に向けそう零していた。その笑顔と言葉に、道明は顔を上げるとじっと彼を見る。
瞳に映る彼は、珍しく真剣な――恐らく彼は、素を溢したのだろう。だから道明は、ひとつ頷くと。そっと自身も唇を開く。
「……どうした、今日は妙に大人しいな? だから雨が降ったか?」
それは道明なりの冗談。その言葉に伊織はゆるりと笑うと、降り注ぐ雨と紫陽花の花を見る。確かに、普段の彼ならば花がない、紅一点すら無く白一色。などと喚いたりしているのだろうけれど――。
「ふ、俺も夏に向けて本気出す準備を始めたんだよ」
今年こそはこう、大人の余裕をだな。
瞳を閉じ、少し格好をつけたように笑う伊織。――彼はもう、年としてはすっかり大人なはずなのだけれど。だからだろうか。紡いだ伊織をじっと見ると、道明は肩をすくめていた。その様子を見て、伊織は慌てて冗談だと笑った。
「や、でも、本当――根無し草だったこの心も、気付けばすっかり花やいだ」
すぐにその口元の笑みを、優しげな笑みへと変え梅雨空の景色を見る。
降り注ぐ恵みの雨。雫を帯びて艶やかな紫陽花。高く高く伸びる杉林。
こんな風に、沢山の恵みと彩を受けて。伊織の心にも恵みの雨が降り注いだよう。
「――ああ、きっと良い夏を迎えられるだろう」
伊織の纏う空気が変わったからか、そっと静かに頷きを返すと道明も広がる景色を見遣る。――そして更に伸び行けるだろうと、言葉を添えながら。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
絆・ゆい
くろば/f10471
長爪這わせ、くるりら傘を回す
耳打つ音が心地よいこと
雨は雨で、よきものね
雨季のうつくしさを眺もうか
暗がりさえ糧とするとは
なんと、したたかなこと
こぼれ落つ雫を乗せる花たち
いっとう魅せるようね
喜色を宿すあなたの表情に緩ぶ
よい貌ね、くろば
ぼくは…そ、ね。喜ばしいよ
たのしいと、云うのかしら
とりどりのものに同じ姿は見当たらず
ひときわ目を引いた、あおいろのひと花
嗚呼、あなたの眸のようだこと
ましろの中を歩めば
濡羽のよな黒の輪郭が際立つ
といろと、ましろ
どちらがお好きだろか
ひととせは巡りめぐってゆく
此度の春もよきものであったよ
あなたの口許から溢れた言葉
そ、と微笑を返そう
言わずとも、と云うものよ
華折・黒羽
ゆいさん/f17917
和傘を弾く雨音の音色に
ぱたり時折耳揺らし
恵み受け咲き広がる紫陽花の路を歩き行く
雨の季節の花、綺麗ですね
少し雨雲で暗いけど
…ああいや、暗いからこそ綺麗なのか
あ、
ゆいさん、ゆいさん
見てください
かたつむり
薄紅纏った春の人
あなたを連れ出したのは
紫陽花が見せる色が
春の中に宿る菫色の眸を思い出させたから
白の紫陽花の路行けば
不思議と暗がりが明るくなった様な心地
大地に灯りが点ったようですね
どちらが良いかなんて選べない…ですよ
あまり意地悪な質問を、しないでください
困って笑むまま歩を進め
ゆいさん、ゆいさん
春が終わって夏が来ますよ
季節が巡る
出来る事なら夏もまた
あなたの唄を聴けたなら──
なんて
●
ぽつり、ぽつりと――。
零れ落ちる雫が、傘を打つ音が耳に届く。
その音色に思わず華折・黒羽(掬折・f10471)は、漆黒の猫の耳をぱたりと揺らした。
彼の横で、絆・ゆい(ひらく歳華・f17917)は手にした傘に長爪を這わせると。くるりと傘を回す。傘が纏う雨粒が、微かに世界へと舞い散る様を見て。
「雨は雨で、よきものね」
彼は静かに、言葉を落とした。
雨降るこの季節の美しさを眺めよう――そう想い歩めば、隣の黒羽も並ぶように歩を進める。ぽつり零れる雫を受ける紫陽花の花。雨の重さに耐えられなくなり、ゆらりと揺れれば纏う雫が地に落ちる。
その姿を見て、黒羽は瞳を細めると。
「雨の季節の花、綺麗ですね」
心の声を、言葉にしてた。
そのまま彼は青の双眸で空を見上げる。――視線の先に広がっているのは、雨雲覆うどんよりと暗い空。晴れ間とは違うその色に、一瞬彼の瞳は曇るけれど。
「……ああいや、暗いからこそ綺麗なのか」
視線を空から紫陽花へと移し、また空へと移しそう語る。
黒羽の言葉にゆいも空と紫陽花を交互に見遣ると、暗がりさえ糧とするとは。なんと、したたかなことだろうと想う。
「こぼれ落つ雫を乗せる花たち。いっとう魅せるようね」
ゆるりと小首を傾げれば、彼の春のような髪がさらりと顔へと掛かる。零されたゆいの言葉にぴくりと耳を動かし反応したが、黒羽は彼の奥に――。
「あ、ゆいさん、ゆいさん。見てください。かたつむり」
紫陽花の上にちょこんと見えたかたつむりを見つけ、思わず顔を寄せた。そんな彼の喜色宿す表情を見て、釣られるようにゆいも綻ぶ。
「よい貌ね、くろば」
傘の下で。瞳を細め小さく言葉を紡ぐ。
「ぼくは……そ、ね。喜ばしいよ。たのしいと、云うのかしら」
零される言葉は心からのもの。彼が今、こんなにも楽しそうにいるから――。
ゆいがそう零したのを、黒羽は聴こえたのかいないのか。彼はぴくりと耳を動かし、紫陽花の傍に立つゆいの姿を見遣る。
薄紅を纏う、春の色合いを持つ彼。そんな彼を、今日此の夏の始まりの場に連れ出したのは――紫陽花が見せる色が、春の中に宿る菫色の眸を思い出させたから。
だから、この鮮やかな紫陽花の中。長い裾を濡らさぬようにと気をつけながら、歩むゆいの姿が目に焼き付くように鮮やかに映る。
両脇に咲き誇る紫陽花はどこまでも続く。とりどりのものに、同じ姿は見当たらないとゆいは思ったが――その中から一際目を惹いた色を辿れば、そこにはあおいろの花が。
「嗚呼、あなたの眸のようだこと」
零した言葉は吐息と共に。瞳に、心に残るその色を見て零したところで。視界に広がる色が白一色へと変化した。
そこに広がる色は、眩しいほど。どんより空の下の景色は、不思議と暗がりが明るくなったような心地だと、黒羽は想う。
「大地に灯りが点ったようですね」
羽を揺らし、そのまま彼は白の中を歩み出す。すると――黒の輪郭が際立つと、ゆいは想った。だから、だろうか。ひとつ問い掛けをしたくなったのは。
「といろと、ましろ。どちらがお好きだろか」
その言葉に黒羽は振り返る。少し悩んだように視線を上に移した後。
「どちらが良いかなんて選べない……ですよ」
あまり意地悪な質問を、しないでください。困ったように笑いを落として、そのまま彼は道を進んでいく。そんな彼の笑みと言葉に、ゆいは口元を和らげた。
移り行く色。景色。その中を歩めば、巡り巡るひととせの時間。
「此度の春もよきものであったよ」
「ゆいさん、ゆいさん。春が終わって夏が来ますよ」
ふわりと笑み、ゆいが零せば。季節が巡ることを黒羽は告げる。移り変わる季節の中で、出来る事なら夏もまた。あなたの唄を聴けたなら――と、願望を口にしてみれば。
傍らの彼は微かな微笑みと共に、一言を返すだけだった。
それは否定では無い。
言わずとも、と云う想いを込めた短い言葉。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エドガー・ブライトマン
ヨーコ君(f12822)、変わった花がたくさん咲いているね
アジサイ?へえ~、そういう名前なんだ
初めて見たよ。かわいらしい花だねえ
傘、忘れてきてしまったんだ
ああいうのは持ってくるのも、持って帰るのも忘れがちさ
ひらひらとマントをはためかせ
キミのすこし先を、振り返りながら歩く
後ろ向きに歩いても転びやしないよ
でも、雨に濡れるのだってキライじゃないぜ
恵みの雨とか呼ぶ文化もあるって聞いたし
花の気分も、ちょっとは解るかもしれないからね
アジサイの咲く路を歩いてゆく
青や白、紫の並ぶ彩は晴れやかな空のようにも見えた
不思議だよねえ
もしかしたら、かれらは雨の続く時期でも
私たちに青空の色を教えてくれてるのかもしれないね
花剣・耀子
エドガーくん(f21503)は、あまりこちらの世界に馴染みはないのかしら。
紫陽花というのよ。
雨の続くときに咲くの。今の時分のおたのしみね。
……ああ、手ぶらだと思ったら。
きみは確かに、余計なものを持っている印象はないけれど。
こちらはくるりと和傘を回して、
気ままに歩く姿を見やりつつ緩い歩調で後を追う。
この時期の雨は、やわらかい気がしてあたしもすきよ。
風邪をひく心配もないかしら。
恵みの雨。慈雨。……、金色がまぶしくて、ひでりあめみたい。
すくすくと健やかに育ちそうね。
紫陽花の青色濃淡を眺めながら、なるほど、と頷きがひとつ。
きっと、雨模様だから空が咲いたのね。
青空のお裾分けをありがたく受け取りましょう。
●
ぽつりと落ちる雨の中、咲き誇る鮮やかな花弁たち。
「ヨーコ君、変わった花がたくさん咲いているね」
ぱちりと美しい瞳を瞬きながら、エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)は目新しい花に興味津々と云う様子で、問い掛ける。
そんな彼の言葉と様子に、花剣・耀子(Tempest・f12822)は何時もと変わらぬ様子で。エドガーはあまりこちらの世界に馴染みが無いのかと、淡々と紡ぎ。
「紫陽花というのよ。雨の続くときに咲くの。今の時分のおたのしみね」
すぐ傍に咲く、自身の瞳によく似た青い紫陽花を見てそう紡いだ。彼女の言葉に、エドガーは楽しそうに瞳を輝かせ、初めて聞く名前に更に興味を示した様子。
顔を近付け、じっと雫に艶めく紫陽花を見て。彼は笑みを零すと。
「初めて見たよ。かわいらしい花だねえ」
素直な感想を、口にする。
彼の真っ直ぐな言葉と様子を見ながら、耀子は手元の傘をくるりと回した。
うっすらと掛かる霧の中、曇る空の下のその色に意識を傾けたエドガーは。自身が傘を忘れたことを思い出す。――それは割といつものことで。持ってくるのも持って帰るのも、忘れがちだと言う。
「……ああ、手ぶらだと思ったら。きみは確かに、余計なものを持っている印象はないけれど」
ぽつりと落ちる雨が、エドガーの煌めく淡い金の髪を濡らしていく。耀子の手にした和傘を打てば、心地良い音色が響いた。
くるりと傘を回す様子を一瞥して、エドガーは笑みを零すと歩き出す。耀子のほうを振り返りながら、ゆっくりと、後ろ向きで。
「でも、雨に濡れるのだってキライじゃないぜ」
歩みながら晴れやかに、そう零す。
まだ雨は強くは無い。恐らく今が最も、心地良いと思える雨なのだろう。零れる雫は夏の熱と水の冷たさを秘め。肌に当たればじわりと溶けだす、そんな心地が。
だから彼は、そのまま後ろ向きで歩む。ひらりと白のマントをはためかせて。――白と青紫に染まるそのマントは、紫陽花の中はためけば、花々の中に溶け込むかのよう。
その姿と彼の言葉に、耀子は。
「この時期の雨は、やわらかい気がしてあたしもすきよ」
こくりと頷き、眼鏡の奥の冷えた青目を細め紡いだ。
濡れる彼を見て、風邪を引く心配も無いかと思いながら。
文化によっては、恵みの雨と呼ぶこともあると聞いたと、エドガーは笑う。特にこの時期は、夏への準備として沢山の水を緑は喜ぶのだろう。
そんな、花の気分もちょっとは解るかもしれないと。雨に濡れる彼が零せば――その恵みの雨である慈雨を浴びた彼の、金色の髪が耀子には眩く見えた。
まるで、ひでりあめみたい。
「すくすくと健やかに育ちそうね」
そんなことを想いつつ、耀子の口から零れた言葉にエドガーは笑みを返す。
両端に並ぶように咲く紫陽花は、どこまでも続いている。青や白、紫と濃淡も色合いも様々な彩を歩めば――晴れやかな空のように、エドガーには見えた。
「もしかしたら、かれらは雨の続く時期でも。私たちに青空の色を教えてくれてるのかもしれないね」
不思議だよねえ、と瞳を細め紡ぐエドガー。その言葉を聞いて、なるほどと耀子は紫陽花を眺めながら頷きを返す。
その解釈はするりと心に落ちた。きっと、雨模様だから空が咲いたのだ。
「青空のお裾分けをありがたく受け取りましょう」
だから彼女は、傘の下で。煌めく光を抱く彼に向けてそう紡ぐ。
ぽつりと降る雨は尚も降り続ける。
この時期だけの、そしてこの世界特有の。梅雨という雨の雫が。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
高塔・梟示
【Calaca】
霧に包まれた静かな小路は
異界に迷込んだような心地になる
白藤の傘と逸れないよう
落ちた雨垂れを掛けないよう気を付け
番傘片手に逍遥を
紫陽花と一口に言っても
色々な種類があるものだ
雨の中では花の色が良く映える
さっき通った藍色の八重は綺麗だった
ああ、白い紫陽花はまるで
雲海のように咲くそうじゃないか
ティル君の気に入る色が
見つかるのを楽しみに歩こう
わたしも雨は得意じゃないが
この時ばかりの趣きを目に留めるのは悪くない
梅雨の緑の匂いも、風情があって良いものだね
駆け出す姿に笑み浮かべれば
転ばないように気をつけてと
声掛けて、藤色の少女の後を急ごう
鮮やかな染まらぬ白
浮ぶ雲のようなそれを目指して
ティル・レーヴェ
【Calaca】
様々な彩を見せる紫陽花の群れ
和の雰囲気も相俟って
広がる景色は静かで幻想的じゃ
掲げ歩くは白紫の藤柄纏った蛇の目傘
落つる雨音楽しみ乍ら
雨垂れ避けゆく心遣いに気付いたならば
頭幾つも上にある琥珀を見上げ問い掛ける
梟示殿は如何な色を纏った
紫陽花に興味があろう?
紅に藍、紫などとどれも美しいが
染まらぬ白もあるそうで
妾は其れが気になるのぅ
返る彼の声音に
先の彩りを想い出しては綻んで
華やかな花弁と静かな色が相俟って美しかったと
同意篭めて頷き返す
其方は雨、お好きかえ?
妾は長き雨は得意でないが……
雫で増す自然の香りは好きじゃなぁ
漫ろ歩く花路の先に
花弁織り成す雲海見れば感嘆の声
早ぅと駆ける踵に小さな飛沫
●
薄っすらと掛かる白の霧は、辺りの音を吸い込んでしまうかのよう。
ぽつり、ぽつりと零れる雨音だけが耳に届く小路は、異界に迷い込んだような心地になると高塔・梟示(カラカの街へ・f24788)は想い、きゅっと手にした番傘の柄を握る。
目の前で揺れるのは、白紫の藤柄を纏った蛇の目傘。彼よりも随分と低い位置にあるその傘とはぐれぬよう、くまの浮かんだその瞳を細めた。
目の前の傘は、歩く度に楽しそうに揺れ動く。
つうっと伝う雨が地へと落ちる様子も。楽しげにくるりと回した傘も。どれもがとても楽しげで――その蛇の目傘の持ち主であるティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)は、辺りに咲く彩移る紫陽花の花々を見て、嬉しそうに微笑んだ。
満ちる空気も花も色も、全てが和の雰囲気に満ちている。その雰囲気も相まって、広がる景色は静かで幻想的だと。想う彼女の眼差しは、笑みを零すよう。
ぽつり、高い位置から零れた雫は雨として落ちたものでは無い。それは、梟示の差す番傘から零れ落ちた、大きな雨雫。その雫が小さな少女へと掛からないようにと、軌道に注意をしながら傘を持つ彼に気付き――そっとティルは見上げると、口を開く。
「梟示殿は如何な色を纏った紫陽花に興味があろう?」
随分と自分より高い位置にある、彼の眼差しをしっかりと見て。
その問いに、梟示は考えるように辺りの紫陽花を見る。
紫陽花、と一口に言っても。色々な種類と色がある。雨の中では花の色が良く映えるもの。少しどんよりと曇った空の下、雫を纏う様子はとても風情がある景色。
だから、彼は歩んできた道程を思い出す。
数多の鮮やかな色の中。彼の眼差しに留まったのは――。
「さっき通った藍色の八重は綺麗だった」
心の引っ掛かりを言葉にして、そう答えた。
その言葉を聞けば、ティルも同じように深い藍の花を思い出す。華やかな花弁と静かな色が相まって美しかったと、同意を込めた頷きと共に。
今ここに咲き誇っている紅に藍、紫などどれも美しい。この先に行けば染まらぬ白もあるという。「妾は其れが気になるのぅ」楽しそうな声で、笑みと共に少女は語る。
嬉しそうな少女を見て、梟示も白い紫陽花の咲く様子を思い浮かべる。先に聞いていた話では、白い紫陽花はまるで雲海のように咲くという。
その色はきっと。薄暗いこの世界に眩い白を抱いているのだろう。――彼女が見たいと語る景色を、気に入る色が見つかることを楽しみに。彼はカツリと石作りの小路を固い革靴で踏みしめる。微かに鳴るのは水溜まりを踏む音色。その音すら楽しそうにティルは耳を澄まし、微笑むと――。
「其方は雨、お好きかえ?」
そっとまたひとつ、問い掛けを零した。
ティルは、長い雨は得意ではない。でも、雫で増す自然の香りは好きだと。すうっと息を深く吸い、雨と緑の色濃い香りのする空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
彼女の言葉と行動に、倣うように梟示は息を軽く吸い込む。
梟示も雨は、得意ではない。
「この時ばかりの趣きを目に留めるのは悪くない」
今、吸い込んだ水気を含んだ初夏の空気は。日常の香りとは少し違う、独特のもの。梅雨の緑の匂いも、風情があって良いものだね――微笑み、語る彼の姿を見て。ティルは嬉しそうに微笑むと。軽い足取りを突然ぴたりと止めた。
小さな小さな少女が足を止めたから、梟示も思わず足を止める。
ずっと下のティルを見ていた梟示が顔を上げた時――そこには、純白に輝く紫陽花の花が。どこまでもどこまでも広がっていた。
真白の花が纏う雨の雫は、微かな光に美しく煌めく。そんな、花弁が織り成す雲海の景色を見て――ティルは上手く言葉には出来ない、感嘆の声を零す。
そのまま彼女は梟示を振り返りもせず、楽しそうに駆け出した。
ぱしゃりと水溜まりをティルが踏めば水音が響き、世界に小さな飛沫が舞い上がる。そのまま駆ける少女が「早ぅ」と手招きをするから――ひとつ息を吐き、梟示は追う。
転ばないように気を付けてと、少し心配げに言葉を添えつつ。白と緑の世界の中、淡い藤色の少女の後を急いでついて行く。
世界を染めるのは、鮮やかな染まらぬ白。
浮かぶ雲のようなその花の中――小さな翼を揺らしながら楽しげに歩む少女を見て、梟示はまた優しげな笑みを零していた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朧・ユェー
【月光】
おや?雨が降り出したね
濡れるのも楽しいけどねぇ
ルーシーちゃんおいで、濡れて風邪引いてしまうよ
傘を差し彼女を自分の方へと手招きして
僕は大丈夫だよ、優しい子だね
ララちゃんはこれでと
彼女が抱くうさぎのぬいぐるみに身体に合わせて作った雨合羽を着させる
これで濡れないかな
くるくる回るくらいに嬉しそうな彼女の姿に微笑んで
それでは行こうか
彼女の手を繋ぎ紫陽花の花の道へと
雨露に打たれても綺麗に咲いているねぇ
とても色とりどりだ
白もあるとは珍しい
ルーシーちゃんはどの色が好きかな?
濃いい青かい?あぁ、確かにララちゃんと同じ色だねぇ
僕は白かな?何色でも染まれる色
なんて素敵だよね
ルーシー・ブルーベル
【月光】
雨はすきよ
音も、ぬれるのも
……なんて言ったら、大人のひとには怒られてしまいそうだから
ゆぇパパに身を寄せ傘の下へおじゃまするわ
パパ、ぬれていない?だいじょうぶかしら
まあ、ララ!オシャレさんね!
雨合羽を着た水色兎のヌイグルミはかわいくてうれしくて!
だっこしたまま雨の下でくるくる回ってしまいたくなる
いけない
パパと手を繋いでしまえばもう大丈夫ね
いっしょにアジサイの道をいくわ
霧にお花の色がにじむよう
とてもきれいね
白のアジサイは雲が集まったみたい
雨の日の、ちょっと眩しい曇り空
ルーシーはね、濃い青のがすき
そうね、例えばこのコとか
パパは?どんな色がすき?
何色にでも……
なら、パパは何にもなれるのね
●
雨はすきよ。
音も、ぬれるのも。
しとしとと降り注ぐ雨を左目で見上げながら、ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は心だけでそう想う。――だって、そんなことを言ったら。大人のひとには怒られてしまいそうだから。
さらりと流れる淡い金の髪に、雫が纏う。
その煌めきを見て、おや? と朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)は瞳を瞬き、自身の手を空へと掲げる。その掌に、ぴちょんと落ちる一滴を見て。
「雨が降り出したね」
降り出した雨に気付き、濡れるのも楽しいけどねぇ……と零しつつ、彼は手にしていた傘を差し、ひとつの大輪の花を咲かせると――。
「ルーシーちゃんおいで、濡れて風邪引いてしまうよ」
小さな少女を手招きした。
その声と手招きに、ルーシーは空から視線を彼へと移して。こくりと頷き、小走りでユェーの差し掛ける傘の下へと潜り込む。
小さな小さな少女は、ユェーの顔とはずいぶんと距離がある。じっとその顔を見上げて、さらりと揺れる白銀の髪と眼鏡のフレームの奥の金の瞳を見つめながら。
「パパ、ぬれていない? だいじょうぶかしら」
心配そうに、ルーシーは問い掛ける。
その言葉に、笑みと共に大丈夫だと言葉を紡ぐ。心配してくれる、優しい少女に向けて。そのまま彼は、彼女が大切そうに抱く水色の垂れ耳兎へと手を伸ばす。
彼が取り出したものを兎へと着せると――。
「まあ、ララ! オシャレさんね!」
キラキラと、ルーシーは左目を輝かせララと呼ぶ兎のぬいぐるみを見た。ララは雨の日にぴったりの、雨合羽を身に纏っている。この日の為に、ユェーが用意をしたのだ。
「これで濡れないかな」
そのままララを差し出せば、ルーシーは嬉しそうに受け取りぎゅっと抱き締める。
腕の中に居る、いつも一緒の子。
けれど、今日はちょっぴり特別な装い。
そんなララがかわいくてうれしくて。つい、ルーシーは抱きしめたまま、雨の下でくるくると回りだしたい衝動にかられるけれど――ぎゅっとその衝動を抑えて。彼女は小さな手を、大きなユェーの手へと伸ばした。
柔らかな温もりが触れれば、ユェーは当然のようにその手を握り返す。
左手には、傘を差して。右手には、少女の手を握って。
「それでは行こうか」
微笑みながら優しく語り掛ければ、ルーシーはこくりと頷いた。
そのままふたりは、紫陽花小路を歩んでいく。歩幅は全然違うけれど、ユェーは慣れた様子でルーシーに合わせゆっくりと歩んでいる。
ゆっくりと、流れる紫陽花。雨露に打たれ、綺麗に咲くその花を見て――綺麗だと、零したのはどちらが先だっただろう?
薄紅に青に紫に。色も様々な紫陽花の中。一際目を惹いたのは混じるように咲く白色。
その鮮やかな色と、珍しい色にユェーは感嘆の吐息を零したけれど。
「白のアジサイは雲が集まったみたい」
きゅっと左手を握る少女から零れた言葉に、少女を見る。
ふわふわとした雲のよう。そう、雨の日の、ちょっと眩しい曇り空。
そんな気がすると、ルーシーは零すとそっとユェーは見上げた。同意を求めているのか、ユェーは頷きを返すと、そのままひとつ問い掛けを。
「ルーシーちゃんはどの色が好きかな?」
辺りに咲く数多の色の紫陽花をぐるりと見渡しながらの言葉。その言葉に、ルーシーは軽く首を傾げると。辺りを見渡しながら、唇を開く。
「ルーシーはね、濃い青のがすき。そうね、例えばこのコとか」
そのまま眼に留まった、青い紫陽花へと優しく指先を伸ばした。彼女が花弁に触れると同時、揺れると共に纏う雫が地面へと落ちていく。
その色を見て、ルーシーの抱くララを見て。ユェーは同じ色だと納得したように頷く。
その頷きをじっと見て――ルーシーも、同じように問い掛ける。
パパは? どんな色がすき?
その問いに、ユェーは考えるように顔を上げる。映る色は、どれも綺麗だけれど。彼の心に強く残ったその色は――。
「僕は白かな? 何色でも染まれる色」
なんて、素敵だよね。
少し悪戯な笑みを浮かべて、そう紡ぐユェー。その言葉を聞いて、ルーシーはただただ真っ直ぐに、彼を見つめて。
「何色にでも……なら、パパは何にもなれるのね」
キラキラと、花々が纏う雫に負けぬ煌めきを瞳に宿して、ユェーを見つめた。
大成功
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第2章 集団戦
『蒐集者の手毬』
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POW : あなたと共に在るために
【自身がよく知る死者】の霊を召喚する。これは【生前掛けてくれた優しい言葉】や【死後自分に言うであろう厳しい言葉】で攻撃する能力を持つ。
SPD : 理想郷にはまだ遠い
【自身と同じ能力を持つ手毬】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
WIZ : いつか来る未来のために
小さな【手毬】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【全ての望みを再現した理想郷】で、いつでも外に出られる。
👑7
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●誘い声
深い深い、杉林の中へと迷い込むように歩を進めれば。
鮮やかな紫陽花が周囲に咲く、ぽっかりと開けた空間に。数多揺蕩う鮮やかな手毬の存在が。それは、雨降る神秘的なこの場にはどこか不釣り合いの、鮮やかさ。
それらは風も吹かないのに、ころりと転がり、軽やかに跳ねる。
ぽん、と跳ねれば。どこか夢へと誘われるかのよう。
その手招きを前にして、猟兵達は何を視るのだろう?
――甘い甘い声が聴こえる気がする。
――ほら、雨降る中に現れたのは。一体何だろう?
エドガー・ブライトマン
ヨーコ君(f12822)、仕事の時間らしい
手招くような鞠の弾む音が聞こえるね
何だろうと、やることはひとつさ
そう、キミの師匠なんだ。初めまして
話は聞いたことあるかも、たぶん
ヨーコ君にはなにかと世話になってます
あ、挨拶してる場合じゃないか
同じ技を出せるとしても、どうってことないさ
手鞠君のそれはただのコピー
経るべき過程を飛ばして得た力は
ホンモノには敵わないんだ
今日より明日、これからずっと
きっと強くなり続ける私たちには敵うワケがないんだ
手鞠君を手早く片付けられたとしても
ヨーコ君の手伝いはしない
それはキミが倒すべき力のハズさ
応援してるよ、ヨーコ君
万が一危なそうだったら助けてあげる
万に一つもないだろうけど
花剣・耀子
……そうね、エドガーくん(f21503)。
招かれた先に見えるものが、なんであっても。
できることは変わらないのよ。
色鮮やかな手鞠の傍に、人影。
上背のある姿。欠けた角に刀傷。6つやそこらのことだったのに、まだはっきり憶えている。
この世界で死に別れたひとだから、此処で逢うのも道理ね。
……、エドガーくんにも見えるのかしら。
紹介するわ。あたしの師匠です。
“もう止めていいですよ”
“あとはおれがやりましょう”
“逃げなさい”
――あなたがやさしいときは、あたしを試しているときよ。
そう。そうね。
ほんものには、敵わないもの。
どうってことないわ。
応援されたなら応えましょう。
過去を斬って、明日に進むのがあたしたちよ。
●
「ヨーコ君、仕事の時間らしい」
てん、と跳ねる手毬の音に耳を傾けながら。エドガー・ブライトマンは傍らの彼女へと言葉を掛ける。――その眼差しは、先程の雨中の散歩中とは違い真剣さを宿していた。
その眼差しを見て、そっと花剣・耀子は頷きを返すと。
「……そうね、エドガーくん」
同意の言葉と共に、全てを惑わす手毬を見遣る。
手招く手毬。その招かれた先に見えるものが、なんであっても。やることは。出来ることはひとつだけ――。
てん、と手毬がまた跳ねた。
雨に掻き消されてもおかしくはない筈の、その小さな音はやけに耳に残るように響き渡る。てん、と繰り返されるその音色の中――不意に現れた人影に耀子は深く息を吸った。
上背のある姿。欠けた角に刀傷。
彼の存在を記憶しているのは、6つやそこらのことだったのに、まだはっきりと憶えているその姿。――此の世界で死に別れたひとだから、此処で逢うのも道理だと。耀子はどこか納得したように小さく頷けば。
「……、エドガーくんにも見えるのかしら。紹介するわ。あたしの師匠です」
眼鏡の奥の冷えた青色の瞳を、師匠からエドガーへと移してそう零した。
「そう、キミの師匠なんだ。初めまして」
耀子の言葉に、エドガーは先程までの真剣さから元の笑みに戻ると、真っ直ぐに挨拶を零す。ヨーコ君にはなにかと世話になっています、なんて他愛のない挨拶を。
多分、話は聞いたことがある気がする。だからこそ――ふたりの邪魔をしてはいけないのだと、彼は思うから。跳ねる手毬へとエドガーは視線を移す。
人の形も、物の形も作り出さない敵。彼は――強い強い煌めきを放つと、宙にレイピアを生み出し、エドガー目掛けてその刃を振るう。
けれどエドガーはひらりと、マントをはためかせその剣技を避けてみせる。
そのまま彼は自身の薔薇装飾のレイピアを勢いよく突き出した。確かに手毬である無機物を突き刺した感覚が、エドガーの手へと伝わる。
自身の力を真似たところで、どうってことは無い。手毬のそれは、ただのコピーだ。
「経るべき過程を飛ばして得た力は、ホンモノには敵わないんだ」
さらりと流れる金の髪の奥。輝く青い瞳に宿る心を確かに、エドガーは紡ぐ。彼の心には、確かに強さが宿る。意志とその為に努力をした、その剣技。
「今日より明日、これからずっと。きっと強くなり続ける私たちには敵うワケがないんだ」
強く強く、芯の通った声で紡ぐエドガー。
左腕に揺れる薔薇が、そんな彼を見守っているようだった――。
彼が手毬と自身の力で対峙する中。
耀子は降りしきる雨の中立ちすくみ、目の前に現れた亡き人へと視線を奪われていた。
――もう止めていいですよ。
――あとはおれがやりましょう。
――逃げなさい。
目の前の人から紡がれる声に、そっと瞳が細められる。
優しい声。優しい言葉。その真意は――あなたがやさしいときは、いつだって耀子を試している時だという記憶の欠片。
「そう。そうね。ほんものには、敵わないもの」
どうってことないわ。
紡がれる言葉は不意に零れたように。降りしきる雨音と淡く掛かる霧に消えてしまいそうな声。けれどそう零した後、前を向いた耀子の瞳には確かな強さが宿っていた。
刃を構え、彼女は迷い無く振り放つ。
雨を纏う刃が雫を放ちながら、白刃が戦場を駆ける中――。
「応援してるよ、ヨーコ君」
そっと掛けられる声に、耀子は一瞬視線をエドガーへと向けた。
これは、耀子がひとりで向き合うべきこと。
耀子が倒すべき力のハズ。
だから手伝いはしない。ただ、応援の言葉を掛けるのみ。
その意味と心遣いを、耀子も分かっている。だから彼女は結んだ唇を開き言葉を紡ぐ。
「応援されたなら応えましょう」
――過去を斬って、明日に進むのがあたしたちよ。
全てを、振り払うように彼女は刃を振るった。
大成功
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朧・ユェー
【月光】
深い深い奥へ
彼女が迷わないかと繋いだ手を離さない
手毬の音?まるで手毬唄みたいですねぇ
ふと見える人影
それはすぐに誰かわかった
自分だけを愛してくれない
いや元々愛して無かっただろう男待つ愚かな女
複数の女に子を産ませアイツはただ実験をしてるだけ
女はその男に似た俺に愛を注ぐ、歪んだ愛を
そっと触れる手も嫌悪を感じた
ふと手に暖かさを感じる
嫌悪では無い、幸せで幸福な
視線を向けると小さな天使
俺の愛おしい娘の様な大切な子
その子の顔が遠くを見、青く染まる
嗚呼この子も何かを背負っている
大丈夫、僕はここだよ
ずっと君の傍に
握った手を優しくそして強く
君にそんな顔させる悪い子にはお仕置きだね
屍鬼
さぁディナーの時間だよ
ルーシー・ブルーベル
【月光】
てんてん手毬
なんて鮮やかで
よくできたウソのよう
泣いている男のひとがいる
良く似た金の髪と青の右目
そして左目は空ろな穴
……お久しぶりね
「本物の」ルーシーのパパ
君は本当の娘じゃない
身代わりの様な事をしてすまないと思っている
でもどうしても娘を守りたくて
あの子が幸いであれと、その為なら――
もう言わないで
この後のお願いも全部分かってる
そうと抱きしめて
さよならの代わりに瑠璃で薙ぎましょう
あの日と同じ様に
首を
大丈夫よ
ルーシーに渡せないものはわたしが預かるわ
安心しておやすみなさい
……パパ、ゆぇパパ
どこ?
お願い、手を離さないでいて
温もりに縋ってあなたの憂いを払うべく小刀をふるう
ああ
雨がもっと強くなればいい
●
何かに導かれるように、深い深い林の中へと進んで行けば。
――てん、てん。
小さな、小さな音が聞こえ朧・ユェーは少女へと下ろしていた視線を上げ瞳を瞬いた。
「手毬の音? まるで手毬唄みたいですねぇ」
それは、とても微かな音なはずなのに。雨に掻き消されてもおかしくはないはずなのに。やけに耳に残る音で――ルーシー・ブルーベルもそっと左目を前を向け、跳ねる鮮やかな模様を持つ手毬を見遣る。
(「なんて鮮やかで、よくできたウソのよう」)
きゅっと結ぶ小さな唇。大きな手を繋いだ手を、確かめるように握り締める。
また、手毬が跳ねた。
すると目の前に、不意に人影が現れユェーは眼鏡の奥の瞳に一瞬の驚きを宿す。
けれどすぐにその煌めく瞳は、元の色へと。――その正体が、すぐにわかったから。
自分だけを愛してくれない。いや、元々愛してなかっただろう男を待つ愚かな女だと。
その男は複数の女に子を産ませ、ただ実験をしているだけ。女はそんな男に似たユェーに愛を注いでいた。歪んだ、愛を。
その人からそっと伸ばされる細い手に強い強い嫌悪を感じ――ユェーは思わず、身を強張らせ自身の手を引いていた。
ぱちりとルーシーは、露わになった左目を瞬いた。
不意に雨の中、現れたのはひとりの男性。
俯き、雨とは違う雫――涙を零す男はルーシーとよく似た金髪と青の右目。そして、左目には空ろな穴を持っている彼を見て。
「……お久しぶりね」
――『本物の』ルーシーのパパ。
そっと瞳を細め、口元に微かな弧を描き。淡々と、ルーシーはそう零した。
彼はルーシーの言葉に反応し顔を上げる。けれどその瞳から零れる雫は変わらない。肩を震わせ、嗚咽交じりに彼は語る。
君は本当の娘じゃない。身代わりのようなことをしてすまないと思っている。でも、どうしても娘を守りたくて。
あの子が幸せであれと、その為なら――。
苦しげに語る彼へとそっと近付くと。ルーシーはそのまま、彼を抱きしめていた。
「もう言わないで、この後のお願いも全部分かってる」
そっと耳元で語られる言葉。
彼はルーシーよりも随分と大きい筈なのに。どうしてだろう、とてもとても、小さく見える。だからルーシーは、自身の温もりで。優しく彼を包み込んだ。
抱きしめたまま、彼女は瞳を細め心で呪文を唱えると――彼の身を貫く瑠璃の小刀が。
これは、さよならの代わり。あの日と同じように、首を薙ぐのだ。
「大丈夫よ、ルーシーに渡せないものはわたしが預かるわ」
――安心しておやすみなさい。
……パパ、ゆぇパパ。
「どこ?」
雨の音の中。確かに聴こえたその声に、ユェーははっとして顔を上げる。気付けば嫌悪に震えていたその手には優しい温もりが触れていた。強張った身体を解くように息を零し、彼はその温もりの主を見下ろした。
ふたつに結った金髪の。大きな瞳を持った小さな小さな少女。
自分を、真っ直ぐに見上げてくれる天使のような少女。
その温もりと小さな柔らかさに、ユェーの心に広がるのは嫌悪では無い、幸せで幸福な温かさ。――俺の愛おしい娘の様な大切な子。
「お願い、手を離さないでいて」
ルーシーの口から零れる言葉に、彼は何かを思い出したように息を呑む。
遠くを見て、顔色が変わる少女の姿を見て。ユェーは気付いたのだ。――嗚呼この子も何かを背負っている、と。
だから彼は、安心させるようにその手を優しく、強く握り返す。
「大丈夫、僕はここだよ」
いつもの穏やかな笑みを浮かべて、そっと優しい眼差しで。
愛おしい子。ルーシーにそんな顔をさせる悪い子にはお仕置きが必要だと、ユェーは惑わす彼の人へと視線を向け。
「屍鬼。さぁディナーの時間だよ」
零れる血を纏い短剣の封印が解かれれば。雨の中現れるのは巨大な黒き鬼。彼の鬼は荒れ狂うように敵へと向かい――人々を惑わす存在を襲う。
雨を吸い込んだ髪から、雫が零れる。
ユェーが腕を振るえば雫が舞う。
(「ああ、雨がもっと強くなればいい」)
舞う雫を見た後、ルーシーは零れる雫を見遣るように天を見上げながらそう想った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
弦月・宵
召喚されるのは、里で一緒に遊んだ友達だろうな
かくれんぼを続けるよ
見つかったら、今度はオレが鬼になる番!
「もういいかーい?」って呼び掛けて、
応えの声を頼りに幻影を探しにいくよっ
見つけてしまったら…あそびはもう、おしまい。
またね、も
明日ね、も
オレたちの間にはない。それが、どれだけ優しい時間だったのかは、
今だから分かること。
幻影じゃないオレだけが、抱き締められるもの。
攻撃は【UC:ブレイズフレイム】で。
紫陽花や公園のものを傷つけないように、
召喚された友達と、手鞠だけを焼くよ
炎は血を介して羅刹紋から出る
幻影がみんな消えたのを確認したら、
静かに降る雨の音ばっかり大きく響いて寂しいけど…
大丈夫。泣かない
●
てん、てん――跳ねる手毬に導かれるように。雨降る世界へと急に姿を現した人の姿を見て、弦月・宵の口元に笑みが浮かぶ。
零れる雫が宵の肌や髪を濡らす。つうっと流れる漆黒の角に落ちる雫が、ぽたりと地へと落ちた時。急に駆け出したその人の姿を、じっと彼女は見送る。
彼の姿は、かつて里で一緒に遊んだ友人。
先程までのひとりでのかくれんぼの答えのように、宵を見つけたとばかりに友は笑っていた。だから、鬼を交代して今度は宵が友を追い掛け、見つける番。
「もういいかーい?」
暫しの間の後、問い掛ける声が雨の中響く。
雨音が世界を遮る中。傘を差さない宵の耳に届いた、微かな声。――もういいよー。と云うその声は、聴きたかった声。望んでいた声。
その声が聴こえると、宵は駆け出した。
パシャリと水溜まりを強く強く踏みしめ、世界へと飛沫を散らせながら。鮮やかに咲き誇る、梅雨に濡れた紫陽花の下を探していく。そう、それは先程自身が身を隠す時にしていたように、此処にいるだろうと思ったから。
鮮やかな紫陽花の色は、先程と変わらない。
空から零れる雨の音色も、変わらない。
けれど先程までとは違う感覚。誰かを探すと云う感覚に、宵は楽しげな足取りで紫陽花の下を覗き込んでいけば――青く染まる紫陽花の下に、膝を抱える友の姿が。
「みーつけた」
笑みと共に、零れる声。
そう語る宵の表情は――微かに、悲しそうな笑みだった。
だって。またね、も。明日ね、も。宵たちの間には無い。
それがどれだけ優しい時間だったのかは、宵だから分かること。幻影では無い宵だけが、抱き締められるもの。
だから彼女は、幻を払うように雨の中炎を纏う。
鮮やかな色が落ちる世界に宿る。一瞬で広がる、対象のみを包み込む炎により幻影と鮮やかな手毬が消え去れば――その場には、ただただ響く雨の音。静寂の中の雨音は、決して強くは無い筈なのに。やたらと大きく響くようで、宵の心に寂しさを宿らせる。
(「大丈夫。泣かない」)
頬を伝う雫は、きっと雨の雫。
微かに熱を感じる気がするその雫を、宵は払うように拭った。
大成功
🔵🔵🔵
パウル・ブラフマン
【邪蛸】
ワァオ!
ジャスパーの血で出来たカタナ、マジイカしてんね☆
…オレの分もいいの?やったぁ♪
嬉々として受け取る、愛しの聖者の血製の日本刀。
くるくるとバトンのように刀を回しながら
現れた『死者』にニッコリと微笑んで。
久し振り、おっちゃん。
スペースシップワールドの監獄船に
投獄されていた頃、親しくしてくれた看守さんだ。
またあの優しい声で
ジョークが聴きたいけれど―…UC発動!
手錠を手繰り寄せて
鎖の上を刃を渡らせるようにしておっちゃんの喉を描き斬ろう。
…大丈夫だよ、おっちゃん。
オレね、大切なヒトができたんだ。
幻だとしても、伝えられて良かった。
血染めの着物が重くなる。
まるでオレのジャスパーへの愛みたいに。
ジャスパー・ドゥルジー
【蛇蛸】
しとしと降る雨、和の国
となりゃァやっぱ刀っしょ
腕にナイフ奔らせ流れた血で【イーコールの匣】
二振りの日本刀を作り、片方をパウルに
雨に濡れるサムライ二人、だいぶサマになってるはずだぜ
「――あれは、」
眇めた視線の先、”同じ能力の使い手”は、姿も俺によく似ていて
ハッ、参っちまうな
イイ男すぎて斬れねえじゃねーか
……なんて云うと思った?
仮に同格だったとしても
俺はあんたがぜってェコピーできねえ最強の武器を持ってる
「愛」ってヤツさ、ナンテネ
それにしても、その愛する人の前で「自分」を斬って殺して見せつけるなんざ
なかなか高度なプレイだわな
俺ぁ自分で思ってる以上に変態かもしんねーわ
●
降り注ぐ雨はしとしとと音を立て。
艶やかな葉や花の色も、水気と緑を含んだこの空気も――全てが、此処サムライエンパイアならではの魅力に溢れた色をしていて。
「となりゃァやっぱ刀っしょ」
この場の情緒を考え、ジャスパー・ドゥルジーは迷うこと無く自身の腕にナイフを奔らせた。零れ落ちる血を代償に、彼が作り出したのは二対の日本刀。
「ワァオ! ジャスパーの血で出来たカタナ、マジイカしてんね☆」
紅に色付くその刀の見て、パウル・ブラフマンはまるで少年のように声を上げた。そんな彼へと笑みを落とし、ひとつを彼へと差し出しながら。
「雨に濡れるサムライ二人、だいぶサマになってるはずだぜ」
「……オレの分もいいの? やったぁ♪」
片目を瞑りつつジャスパーが紡げば、パウルは嬉しそうにその刀を受け取った。
じっとその刀を見つめるパウルの眼差しは、どこまでも優しい。――だってこれは、愛しの聖者の血から出来た日本刀。
その刀をくるくると、まるでバトンのように回しながら。そっと彼は目の前に現れた存在、『死者』である存在へと視線を向け笑みを向けた。
「久し振り、おっちゃん」
紡がれる声は、雨にも負けぬ真っ直ぐと通った声で。
雨と霧で隔たれる中。確かに目の前に立つ存在――パウルがスペースシップワールドの監獄船に投獄されていた頃、優しくしてくれた看守の姿を見つめながら彼は笑む。
あの時の記憶が蘇るよう。
また、あの優しい声でジョークが聴きたい。
そう思うけれど――パウルは迷うこと無く、力を発揮する。互いの手に繋がれた手錠がじゃらりと音を立てる中、パウルは鎖を手に幻影との距離を詰める。
「……大丈夫だよ、おっちゃん。オレね、大切なヒトができたんだ」
手を伸ばしながら、彼の人へと言葉を紡ぐ。あの時のことを思い返し。紡いだ言葉を思い返し。そのまま鎖を、彼の喉へと近付ける。
――幻だとしても、伝えられて良かった。
そう想う彼の眼差しは、どこまでも優しさを秘めた色をしていた。
溢れる鮮血がパウルの衣服を濡らしていく。
重みを増していくその感覚は――まるでパウルのジャスパーへの愛みたいだと想った。
パウルが自身のなくしたモノと対峙している時。
ジャスパーは自身の目の前に現れた存在に、思わず瞳を瞬いた。
「――あれは、」
零れる言葉も不意のもの。
不健康な白い肌。紫とピンクが混じり合う瞳。咲き誇るメイクに鮮やかな魔炎竜の燃える血を宿した身体。――そう、『あれ』は自身によく似た姿をしている。
「ハッ、参っちまうな、イイ男すぎて斬れねえじゃねーか」
一瞬だらりと日本刀を下ろしたが――ジャスパーはそのまま、鋭い眼差しで自身を見据える。迷いの無いその瞳で、唇を開き言葉を続ける。
「……なんて云うと思った?」
彼に目の前の仮初めの自分が同格だったとしても、自分には相手が絶対にコピー出来ない武器を持っているから。
――そう、『愛』と云う名の最強の武器を。
そのまま駆けると、彼は自身の血から作り出した刀を迷い無く振るう。自身が傷付くことに迷いは無い。ただ斬り伏せる強い意志の元に。
「それにしても、その愛する人の前で『自分』を斬って殺して見せつけるなんざ。なかなか高度なプレイだわな」
俺は自分が思っている以上に変態かもしれない。ちらりと傍らのパウルを見て、ジャスパーはそう紡ぐ。――彼も、自身の心から溢れた幻と対峙をしている。
そんな彼に負けないようにと目の前の自身の首へと刀を落とせば、鮮血が走る。
2人分の幻影から溢れる鮮血は水溜まりへと落ちる。溶けることの無いその血は広がったかと思うと――幻と共に一瞬で消え失せた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
呉羽・伊織
道明f02883と
んじゃ英気養って準備も万端になったトコで――今度こそ真剣に、本気を出そーか
水も滴る何とやらってのをご覧に入れ…るにも相手がコレじゃあな~!
みっちーに至っては見向きもしてくれないし?
(背中越しに軽く笑い、不意に不敵な笑みへと気色を変え)
――否、分かってるとも
再び言葉も交わさず
横槍なんて無粋も挟まず
背中合わせで己の敵に集中を
後は勝利で以て応えるだけ
技は同じとなれば――明暗別つはやはり心の違いか
大丈夫――お陰で今は翳りなく曇りなく、身も心も冴え渡るような感覚
ただこうして並ぶだけで、何とも張り合いのある――引き立て合える仲間
その背に恥じぬ戦いを成そうという気概をUCと共に刃に乗せ一閃
吉城・道明
伊織f03578と
背合わせに敵の気配を警戒
ああ、自然ならざる暗雲は祓わねばならぬ
是非ともその調子で頼む
…と言った矢先に、また何を言うか
余所見は禁物だろう――それに目を向けるまでもなく、お前の手際は分かりきっている
手を出さずとも、互いに必ずや成せると信じている
背中越しに一瞬だけ小さく笑んで返し、後は同じく結果にて応えるのみ
――視界は未だ煙れど、今ならば心技共に一層冴える事だろう
技を真似られても挫けず譲らず、己自身に打ち勝ち乗り越える覚悟で真向から挑む
そして何より静謐が再び続くよう
対照的ながらも自然とこうして高め合える戦友に――今は向き合う敵こそ違えど、心は背けず違えぬよう
更に覚悟を込めて一太刀
●
雨の中、てんっと跳ねる手毬の姿を男ふたりは見遣った。
「んじゃ英気養って準備も万端になったトコで――今度こそ真剣に、本気を出そーか」
武器を構え、互いの背中を庇うように立ち。呉羽・伊織がへらりとしたいつもの笑みと共にそう紡げば、吉城・道明は頷きを返す。
「ああ、自然ならざる暗雲は祓わねばならぬ。是非ともその調子で頼む」
凛とした真剣な眼差しで。刀を構え道明はそう紡いだけれど――。
「水も滴る何とやらってのをご覧に入れ……るにも相手がコレじゃあな~! みっちーに至っては見向きもしてくれないし?」
彼等が対峙する敵は、鮮やかな朱色に雅な模様を持つ美しき手毬。親しんだモノである為、美しいことは分かるが少し不満げに語る伊織に、道明は思わず溜息を零していた。
「……と言った矢先に、また何を言うか」
余所見は禁物だろうと、続く言葉に伊織は笑って見せる。
ふたりの長い黒髪は、零れ落ちる雨を吸いその先からぽたりと雫を零している。
水気を吸ってしまった袖はだらりと垂れ下がり、少し動き憎いけれど――今やるべきことは、分かっている。
それは道明だって、彼が分かっていることは理解している。目を向けるまでも無く、彼の手際は分かり切っている。手を出さずとも、互いに必ずや成せると信じている。
だから伊織は、その期待に応えるように。
「――否、分かってるとも」
短い言葉と共に、口元の笑みを不敵な笑みへと変えそのまま足を踏み込んだ。
背中越し故にその表情は見えない。
けれど、確かに気配で感じ取った道明は――自身も笑みで返し武器を握る。
足を踏み込めば力が宿る。そのまま彼等は背中合わせに、自身の敵を見据え刀を振るう。雨が降り、霧掛かる視界は未だ煙るけれど。今ならば心技共に冴えると道明は思う。
てん、と跳ねる毬は身体を持たぬ無機物。
けれどふたりの刃に合わせるように、ひらりと避けるように跳ねるとそれぞれの手毬は同じように、彼等と同じ武器を作り出した。
宙を切るように振りかざされる刃。寸でのところで刃で受け止めれば、ふたり分の金属音が雨の中に響き渡る。武器に纏う雨粒が、その衝撃で世界へと飛び散った。
それは、同じ技を用いた攻撃。
冴える力を強めた技も。振りかざす武器の一撃も。全てが、目の前の自分を写された一撃なのだと、ふたりは同時に理解した。
「技は同じとなれば――明暗別つはやはり心の違いか」
手にした黒刀に力を込め敵の武器を弾くと、伊織は静かに言葉を落とす。
技術は同じ。
けれど――モノでありただの写しである敵には、伊織の心までは写せない。
確かに感じる背中の熱と気配。大丈夫――お陰で今はかげりなく曇りなく、身も心も冴え渡るような感覚だと伊織は想う。
すうっと整えるように息を吸う。
すると背中の感覚は更に研ぎ澄まされるようで。ただこうして並ぶだけで、何とも張り合いのある――引き立て合える仲間の存在を、伊織は強く感じる。
その背に恥じぬ戦いを成そうと、彼が意志を乗せた刃に乗せた一閃を放つ時。道明もまた、同じように刃を振るっていた。覚悟を決めた、強い一撃を。
対照的ながらも自然とこうして高め合える戦友に――今は向き合う敵こそ違えど、心は背けず違えぬよう。
そう想う道明の刃もまた、迷うことの無い真っ直ぐとした一閃だった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
薬師神・悟郎
彼女とのデートのお陰でやる気は十分だ
今ならどんな相手でも負ける気はしないな
ほう、同じ能力を持つ手鞠の召還か
集中すれば位置を特定できるかもしれんが、本体がそこにあるなら無理にそれを追う必要はないな
ならば、俺は本体となる手鞠を集中して狙う
先制攻撃、属性攻撃で継続ダメージを狙い、じわじわと確実に手鞠の機動力を削いでいく
第六勘、野生の勘で一番の好機を見れば、UC使用
敵の技を封じることを試みる
敵からの攻撃は幾つもの体制とオーラ防御で防ぎ、逃げ足で最適な距離を保ちつつ、時には殺気で攻撃目標を残像へ誘導し回避
奴の誘いに応じるつもりはない
俺には帰る場所があるからな
さぁ、そろそろ手鞠遊びをお仕舞いにしよう
●
薬師神・悟郎の心に宿るのは、強いやる気だった。
先程、雨中での愛しい人との散歩路。その時間を楽しんだ彼ならば、どんな相手でも負ける気はしない――だって、悟郎には愛おしいエメラルドの彼女がついているから。
だから彼はてん、と舞う美しくもどこか不気味な手毬を見遣ると。ほう、とどこか感心したように短い声を零していた。
同じ能力を持つ手毬、と云うのは興味深い。
それは意志を持つよう変異したオブリビオンなのか。それともそれを操る者がどこかに居るのか――それは、集中すれば位置を特定出来るかもしれないが、目の前にある物を狙えば十分良いだろう。
そう判断し悟郎は刃を構える。
すうっと息を吸えば目の前の手毬も戦いの準備をするように跳ねている。――そのまま彼は、隙を見せないよう神経を研ぎ澄ませながら、敵との距離を詰め刃を振るった。
刃に纏うのは数多の属性。雨の中に負けぬ強い力を宿した一撃は、無機物たる手毬を確かに傷付ける。敵も同じように刃を作り出し攻撃を仕掛けてくる様子は、悟郎の動きをまるで読んでいるようだけれど――生まれた一瞬の隙に気付き、悟郎は敵を捕縛する。
四肢を持たぬ手毬だが、拘束されればやはり動けなくなるようで。跳ねることすら出来ぬ鮮やかな朱色を見遣りながら、悟郎は唇を開く。
「奴の誘いに応じるつもりはない。俺には帰る場所があるからな」
雨の中。美しき紫陽花の中、負けぬほどの煌めきを持つ愛おしい人の笑顔を思い出し。
「さぁ、そろそろ手鞠遊びをお仕舞いにしよう」
フードから覗く鋭い金の瞳で敵を見据え、悟郎は強く強く言い放つ。
それは、彼の心が自身の力には負けないという強い意志を表しているようだった。
大成功
🔵🔵🔵
都槻・綾
f04128/ロカジさん
紫陽花の精霊が手毬を零してしまったかしら
其れとも
嘗ての持ち主を懐かしんだ毬が
遊んで遊んでと跳ねているのか
ね、
愛らしいですけれど
悪戯っ子が過ぎるようです
ロカジさんの言に耳傾けながらも
視線は毬へ
失くした鞘は
今も何処かで刀を待っているのだろうか
あなたにとって大切なのは
刀身だろか
鞘だろか
傍らで弾ける雷気の雄々しさと優美さに淡く笑みつ
問う口調は歌うよう
刃は鞘の幻に震えもしない
ならば勿論
躊躇う道理もなく
えぇ、
その代わり
いずれお話の続きを聞かせてくださいませねぇ
指に符を挟み
空中に穿つ点、七つ
其々が光り輝いて星座を成し
毬を包む網となる
さぁさ、
抑え込んでいますから
どうぞ決着はあなたの手で
ロカジ・ミナイ
綾/f01786
おやおや、こんなところで玉コロ遊びかい
懐かしいねぇ…
どうやら敵さんはあの可愛らしいやつみたいよ、
なんて茶化しながら刀で手のひらを撫でてたら
そこに現れるのは、それはそれは煌びやかで美しい鞘
しかし、刀がなけりゃ一振りとも呼べぬ
哀れなはぐれ鞘
これはきっと、僕じゃなくて刀が呼んだんだ
そうね、今使ってる鞘は後から拵えた「とりあえず」のものだ
目の前のアレは、盗まれちまった本来の鞘なんだろう
刀を返せ返せと襲い来るが、お前も本当の鞘がいいかい?それとも、
…肝心の刀はダンマリで分かりゃしない
そういうわけなんでね、綾
物語の続きを語る前にさ
カタつけんの、手伝っておくれよ
●
ころりと転がる手毬を見て、ロカジ・ミナイは瞳を細めた。
「おやおや、こんなところで玉コロ遊びかい。懐かしいねぇ……」
鮮やかな朱色に雅な模様描かれたその手毬を見て、そっと笑むロカジの傍らで。都槻・綾は柔く笑みながら言葉を落とす。
「紫陽花の精霊が手毬を零してしまったかしら」
――それとも。かつての持ち主を懐かしんだ毬が、遊んで遊んでと跳ねているのか。
それは香炉である彼らしい物言い。
「どうやら敵さんはあの可愛らしいやつみたいよ」
「ね、愛らしいですけれど、悪戯っ子が過ぎるようです」
言葉に耳を傾け返事をしながらも、綾の視線は手毬へと注がれたまま。そんな綾の様子を見ながら、ロカジは手にした刀で自身の掌を撫でる。
てん、と彼等の声に合わせるかのように手毬が跳ねる。
雨の中、水に濡れることも厭わずに跳ね続けていれば――そこには、煌びやかで美しい鞘が現れた。
本来は刀と対である筈のその鞘。けれど、刀がなければ一振りとも呼べない。哀れな、はぐれ鞘が目の前に居る。
――これはきっと、僕じゃなくて刀が呼んだんだ。
そっと手にした刀を見遣りながら、ロカジは想う。
「そうね、今使ってる鞘は後から拵えた『とりあえず』のものだ。目の前のアレは、盗まれちまった本来の鞘なんだろう」
鈍く煌めく刀を見て、そっと彼は言葉を落とす。
色も、装飾も。よく見て当てはめればしっくりくる。彼と、共にある姿が。
雨に煌めき、固いその身を寄せてロカジへと襲い掛かってくる鞘――それはまるで、刀を返せと訴えているように見えて。
「お前も本当の鞘がいいかい? それとも、」
鞘の攻撃をかわしながら、手にした刀へとロカジは問い掛ける。
けれど、彼は言葉を発することは無い。ただただだんまりと、ロカジに握られているだけで、それでは本意など分かるはずは無いのだ。
刃は鞘の幻に震えもしない。
それは見ているだけの綾にも十分わかった。だから、彼にとっては躊躇う道理は無い。
「失くした鞘は、今も何処かで刀を待っているのだろうか」
モノでその存在に、どこか心を寄せて綾は紡ぐ。
あなたにとって大切なのは。刀身だろか、鞘だろか――。
浮かぶ疑問は言葉にはせず。そっと彼はロカジを見遣る。すると彼の瞳が、真っ直ぐに綾を見ていることに彼は気付いた。不思議そうに瞳を瞬いた綾に向け。
「そういうわけなんでね、綾。物語の続きを語る前にさ、カタつけんの、手伝っておくれよ」
「えぇ、その代わり」
――いずれお話の続きを聞かせてくださいませねぇ。
瞳を細め柔く笑む綾。その言葉に笑みを返して、ロカジは自身の血液を代償に刀の封印を解く。すると雷電が刀を纏っていく。
雨の中、その煌めきは眩いほど美しく、よく似合っていて――その弾けるような雄々しさと優美さに、綾は思わず淡く笑んだ。
そのまま彼は符を指に挟むと、空中へ向け放つ。
ひとつ、ふたつ――ななつの符が宙へと放たれれば、それはそれぞれが光り輝き軌跡を描く。まるで星座のように瞬くと、幻影である鞘とその幻を生み出す手毬を包んでいく。
「さぁさ、抑え込んでいますから。どうぞ決着はあなたの手で」
ゆるりとした笑みと、尚も変わらぬ穏やかな口調で。
水気を含んだ長い髪を揺らしながら、綾はロカジを見てそう紡いだ。
その言葉にロカジは頷きを返し、整えるようにひとつ呼吸をすると――そのまま駆け出し、幻たる鞘へと雷電を走らせる。
世界が眩く染まる。轟くような音が響く。
それはロカジの――彼の持つ刀の、意志を宿した音のように聞こえた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
絆・ゆい
くろば/f10471
てんてん手毬がふたつ
そうと指さきを伸ばし――、
眸をひらけば己が国
そよそよと薄紅が舞う
麗らかなるとこしえの春
くろばは何処だろか
視線を運び
その姿を、捉う
眼前にはひとりの村むすめ
言葉の深みを知らぬ素朴なもの
されど貴族らとはたがう
唄に触れ、あいしたきみ
注ぐ熱に満たされて
わらわは目覚めた
春を愛するきみ
冬に攫われていったきみ
その貌へと指先伸ばす
嗚呼、まさか
きみに触れられるとは
温度を知らぬかりそめの器
そのぬくもりを識れはしない
まことのすがたは紙歌留多
夢であることなぞ承知している
往かねば、ね
きみの笑みはわらわのさいわい
左様なら、いっとうの春
やすらかな眠りを
眸をひらく
黒きあなたへ笑みを送ろう
華折・黒羽
ゆいさん/f17917
足元に転がる小さな手毬ふたつ
一度互いに目を合わせ
手に取ろうと指先伸ばす
ふと気付けば小さな村景色
咲き誇る白桜の樹
風に踊る花弁の中
目の前に佇むのは
嘗て家族として共に過ごした
初恋の少女
見渡せどゆいさんの姿は見当たらなくて
敵の術中なのだろうと考え至る
この恋心を自覚してから
初めてあなたの姿と相対す
ふわりと不思議な夢見心地
幼い姿で死んだはずのあなたは
俺と同じ様に成長していて
伸ばされた手を繋いで歩く
綺麗であたたかな
変わらぬあなた
─ああ、そうだ
俺はずっとずっと
あなたが好きだった
けれどもう
行かなくちゃ
氷花咲かせ隠れゆく彼女に
行ってきますと言葉残して
眸開いてみつけた春の人に
くしゃり咲った
●
てん、と跳ねる音が雨の中響き渡る。
ふたりの足元で跳ねる、鮮やかな朱色の小さな手毬。その存在を見て、互いに目を合わせた後。同時に彼等は手に取ろうと指先を伸ばしていた――。
一瞬、視界が瞬いた気がした。
強く瞼を下ろし、春色の瞳を隠す絆・ゆい。その眸をそっと開けば、視界に広がっているのは己の国だった。
そよそよと、薄紅が舞う。
麗らかなとこしえの春が続く国。
それは先程までの水気と初夏の暑さが続く空気とは違う、暖かく穏やかな空気。
ふうっとひとつ息を深く吸うと――ゆいは、きょろきょろと辺りを見遣る。
(「くろばは何処だろか」)
黒を纏う彼を探すように、瞳を運び足を運ぶ。
すると――彼の目の前に立つひとりの村娘が現れた。
その姿の正体に気付き、ゆいは驚いたように伏せていた瞳を開く。
彼女は、言葉を深みを知らぬ素朴なもの。けれど貴族等と違う。唄に触れ、あいしたきみ。注ぐ熱に満たされて――わらわは目覚めた。
春を愛するきみ。
冬にさらわれていったきみ。
その貌へと、ゆいは細い指先をそっと伸ばした。
「嗚呼、まさか。きみに触れられるとは」
手に伝わる感覚に、思わず声が零れる。
――けれど、温度を知らぬかりそめの器。そのぬくもりを識れはしないのだ。
ゆいの本当の姿は、紙カルタ。
これが、夢であることは承知しているのだ。
「往かねば、ね」
そっと滑るように触れていた指先を離し、言葉を紡ぐゆい。目の前の少女の姿はまだ眩しい程。最後に手に取った彼の存在へと。
「きみの笑みはわらわのさいわい。左様なら、いっとうの春」
――やすらかな眠りを。
そう紡ぎ、ゆいは踵を返すように歩み出した。
眩い光の後、瞳を開いた華折・黒羽の視界には小さな村景色が広がっていた。
咲き誇る白桜。はらはらと零れ落ち、風に踊る花弁の中――黒羽の前に佇むのは、かつて家族として共に過ごした、初恋の少女だった。
その姿を捉え、黒羽は青の双眸を瞬く。そのまま視線を揺らし、ゆいの姿を探すけれど。見当たらないことと、先程の初夏に満ちた場からの突然の変化に、これが敵の術中なのだろうと考え至る。
だから、か。
改めて黒羽は目の前の彼女へと視線を戻した。
彼の心に宿る恋心。
この心を自覚してから、初めて彼女の姿と相対するのは、ふわりと不思議な夢心地で。
彼女は、幼い姿で死んだはず。けれど目の前に立つ彼女は、黒羽と同じように成長していて。彼女から伸ばされた細い指に、自身の黒猫の手を添えてふたりは歩き出す。
はらはらと零れ落ちる桜の中、伝わる温もりが心地良い。
綺麗で、あたたかな。
変わらぬあなたが今ここに居る。
――ああ、そうだ。
(「俺はずっとずっと。あなたが好きだった」)
その温もりの心地良さに、改めて黒羽はそう気付く。
けれど、これは夢のようなもの。彼には、行かなければならないところがある。
繋いだ温もりをそっと離し、氷はな咲かせ隠れ行く彼女に黒羽は紡ぐ。
「行ってきます」
別れの、言葉を――。
再び瞳を開けば、そこに立つのは見知った人の顔。
春に包まれた温かな心地から、身体を打つ冷たい雨と温もりを帯びた風。緑と水の濃い香りが胸に満ちるのを感じ――ゆいと黒羽は、同時に溜息を零した。
確かに、戻って来た。
目の前の彼を見て、彼等は思う。
雨の中、世界を凍て付かせる氷の花と溢れる程に咲く薄紅桜の花弁を舞う中で。共に零れるのは花に負けぬ咲き誇る笑み。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『黒翡曜』
|
POW : 地天の甲
全身を【堅牢地神の加護により硬質】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD : 銀砂の星
対象のユーベルコードに対し【長尾から発生させた光粒】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
WIZ : 気嵐の夢
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
|
●雨泳ぐ
人を惑わし、人を真似る手毬が全て消えた時。
曇る空を覆ったのは、鮮やかな海の色を宿す亀の姿。大人ひとりよりも大きなその身体で、雨降る世界を優雅に泳いでいる。
黒翡曜――『こくひよう』と呼ばれるその亀は、自然現象を起こし里や集落を壊滅させると噂されるほどの存在。自然破壊の気配に敏感で、大きな開発の気配を感じると現れるとの伝承を持つ、どこか神秘的な海を持つ亀。
こんなにも美しき地だが、それを彼は許していないのだろうか?
それとも、この場が自然に出来上がった場ではなく。人の手により、人の為に造られた為それを許さないのだろうか?
言葉を発さぬ彼が、何を想い此処に現れたかは分からない。
亀が宙を漂えば、雫に濡れた甲羅はまるで海の中のように揺らめく。
角度を変えれば、揺蕩う海は瞬く星のようにも見え――神秘的なその身は、まだ破壊するほどの自然現象は起こせない、子供のように感じる。
けれどこのまま放置していては、この場が荒れ果ててしまうことは確か。
平和となったサムライエンパイアへの更なる平穏の為にも、残るオブリビオンは全て退治するのが猟兵としての使命だから。
――雨は、まだ止まない。
都槻・綾
f04128/ロカジさん
纏う潮の香りは骸海のものか
閑雅な泳ぎは
整地の花園を嘆くようにも
審判をしているようにも見えて
ほんの僅か、眉尻を下げる
ひとと自然
どちらかが台頭し過ぎたのでは
やがて地は荒れ喪われ
自らを滅ぼす
共存方法は
試行錯誤が続いていく難問
自然を愛おしく思うからこそ
ひとは諦めず
考えることを止めないのです
見渡す紫陽花の苑の伸びやかで鮮やかなこと
葉に跳ねる雨滴の軽やかなこと
斯様に
うつくしき光景を
破壊するというのなら
どちらが破滅の主かしら
ロカジさんの動きは目で追わずとも
確かに伝わる信頼感
迷いなく符を掲げる
所作はゆるり
紡ぐ詠唱は高速で多重
幾重にも翔る鳥葬で
彼方の海への澪を標そう
在るべき褥へ帰りなさい
ロカジ・ミナイ
綾/f01786
綺麗だ、と思ったのよ、最初は
優美で不思議で幻想的で
しかしこの亀から漂う、無垢さっていうのかね
そういうのから感じる何とも言えねぇおっかなさは
「大人」なんていうヘンテコに頭が良い者になちまったからかもね
綾の言葉に、目を閉じて聞き入る
もはや自然のものではない僕には
その通りと頷く以外できないのさ
ねぇ、僕は自然が好きよ
花も草も動物も空も好きよ
だからってんじゃないけども、
自然もひとを愛おしがってほしいなんてこと、思っちまった
それとも、僕らが好きだからヘソ曲げたりするのかね
横で符が掲げられればもう言葉など不要
五行の鳥の羽搏きに重ねて轟かせるのは
誰のでもない、やさしいママの声さ
●
綺麗だ、と思ったのよ、最初は。
優美で不思議で幻想的で。
「しかしこの亀から漂う、無垢さっていうのかね」
雨の中、揺蕩う海色の亀を見て、ロカジ・ミナイは眉を寄せながら笑みを落とした。
見た目では分からない、けれどどこまでも無垢な感覚が漂う。そういうのから感じる、なんとも言えない恐ろしさ。『大人』なんていう、ヘンテコに頭が良い者になってしまったからかも、と彼は苦笑を零す。
そんな彼の笑みを耳にしながら、都槻・綾は宙を泳ぐ美しき彼の存在に溜息を零した。
纏う潮の香りは骸の海のものだろうか。閑雅な泳ぎはこの広がる整地の花園を嘆くようにも、審判をしているようにも見えて――綾はほんの僅かに眉尻を下げる。
ひとと自然。どちらかが台頭し過ぎたのでは、やがて地は荒れ喪われ、自らを滅ぼす。
そんな彼の呟きを、ロカジは瞳を閉じ静かに聞き入っていた。
自分は、もはや自然のものでは無いから。だからただ、その通りと頷く以外出来ない。
けれど――彼だって、心に宿る想いはある。
「ねぇ、僕は自然が好きよ」
瞳を開ければ、ロカジの鮮やかな青い瞳が美しい紫陽花を捉える。零れる言葉は雨に乗るようで――静かに、音となり世界へ落ちる。
花も、草も、動物も、空も好き。
だから、と云う訳では無いけれど。自然もひとを愛おしがって欲しい、なんて思ってしまったと。続く言葉は眉を寄せ、どこか遠い笑みと共に零れる言葉。
「それとも、僕らが好きだからヘソ曲げたりするのかね」
ロカジの言葉は、雨の中に消えていくよう。
けれど、その声を確かに綾は耳にして。ゆるりと首を振った。
共存方法は――試行錯誤が続いていく難問だ。
「自然を愛おしく思うからこそ。ひとは諦めず、考えることを止めないのです」
自然を愛するモノと云う伝承が残る彼の存在へと語るように、綾は言葉を紡いだ後、そっと雨降る庭園を見渡す。
零れる雫は世界と花々を濡らし。艶めく花は人の手入れにより瑞々しい。並ぶ林には数多の鳥達が生息しているらしく、微かに鳴き声が響いている。
見渡す紫陽花の苑は伸びやかで鮮やかだと思う。
葉に跳ねる雨滴はとても軽やかだと思う。
だから――。
「斯様にうつくしき光景を、破壊するというのなら」
――どちらが破滅の主かしら。
優雅に揺蕩う黒翡曜を青磁色の双眸で見据え、綾は問い掛ける。
ヒトの手が入る自然は、自然では無いのか? ヒトと云う存在が全て許されないのか?
それは、オブリビオンである彼にとっては何が真意なのかは、分からない。けれどかつて、ヒトは此処にあった自然を壊し、今の景色を作ったことは確かなのかもしれない。
それが善か悪かは、誰にも分からない御話と云うだけ。
綾はひとつ息を落とすと、懐から取り出した紅糸で五芒星と六芒星が縫われた薄紗を取り出す。そのまま彼は雨音の中、確かに通る声で素早く呪文を唱えていく。
彼のその動きに気付いたロカジは、自身も戦へと参加する為に武器を構えた。
零れる雨の音は止まない。雫はロカジの、綾の、髪と肌を濡らし体温を奪っていく。けれど彼等はその雫も気にせずに、ただ揺蕩い、自然を操る彼を狙う。
雨の中舞うは鳥の羽ばたき。掲げた符の元から放たれた鳥の群れは、巨大な敵へも恐れずに向かっていく。その隙を狙うように、ロカジは武器を構え雷鳴を轟かせた。
――その音色は、この水溢れる情景に更なる艶を与えるような音色で。
「在るべき褥へ帰りなさい」
強い光が敵の身を貫く様を見遣りながら、静かに綾はそう紡ぐ。
自然の元へと、彼を返すかのように。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジュリオ・マルガリテス
おや、何とも美しい亀だね
ご機嫌よう、名乗りは不要かな
しがないモノクルがお相手になろう
雨の中の邂逅とは何とも運命的だ
君の領域を荒らしてすまないね
優雅に泳ぐ姿に少しだけ胸が痛むよ
けれど見過ごせない理由があるんだ
なるべく手短に済ませよう
私も自然はとても好きだよ
己と対極にある所為だろうか
世界の埒外と理の関係だからだろうか
ずっと焦がれて止まないんだ
雨が降り地が固まり、やがて花咲かせるように
この世界が流転する限り
叶わない想いであっても
私は世界に恋している
何時か無機物たる私が地に帰るように
君も骸の海へお還り
なに、無粋に終わらせたりはしないさ
Rose de sangを散らせて終幕と往こうか
●
ぽつり、落ちる雨が海を打つ。
「おや、何とも美しい亀だね」
ひらり雨空を舞う海を宿す亀を見て、ジュリオ・マルガリテスは柔く笑みながら零す。
ご機嫌よう――胸元に手を当て、紳士然として彼は語る。
天から零れる雨の世界の中で。暗い空と鮮やかな紫陽花の上を揺蕩う幻想的な亀。そんな彼と雨の中での邂逅は、なんとも運命的だとジュリオは想う。
「しがないモノクルがお相手になろう」
変わらぬ穏やかな笑みのまま、彼はひとつ零すとそのまま細身の剣を手に取った。
零れる雫はジュリオの淡い金の髪を濡らし。煌めく刃へ落ち、雫はつうっと伝い切っ先から地へ落ちる。
緑と水の澄んだ空気の中。
優雅に泳ぐ海色の亀の姿はなんとも優雅で、美しい。
「君の領域を荒らしてすまないね」
口元には笑みを浮かべたまま。眉を下げ、彼は穏やかな謝罪を紡ぐ。
その姿を見遣れば、倒すことに彼の胸がキリリと少しの痛みを覚えた。けれど、見過ごせない理由があるから――手短に済ませようと、言葉と共に彼は剣を構える。すると雨の世界に咲き誇る、真紅の花弁。雨降る世界に舞い散る真紅の花弁は、色落ちる世界に鮮やかさを宿らせる。ひらひらと揺蕩うように舞うと、その花弁は濃い薔薇の香と共に黒翡曜の身を包み込んでいく。
「私も自然はとても好きだよ」
紅に包まれる海を見遣りながら、ジュリオの唇からぽつりと零れる言葉。
自然が、物から生まれた自身とは対極にあるせいだろうか。世界の埒外と理の関係だからだろうか。――ずっと焦がれて止まないんだ。
その声は柔らかく、まるで愛おしいものを語るかのように。
雨が降り地が固まり、やがて花咲かせるように。この世界が流転する限り、例え叶わぬ想いであってもずっと――。
「私は世界に恋している」
胸元に手を当て、綺羅星に煌めく瞳を細め。温かな笑みと共に彼は心を零す。
無機物たる彼が愛する、美しきこの世界のことを。
だからこそ、自分がいつか地に帰るのと同じように。目の前の彼の存在も、骸の海へと還るべきだと思うのだ。
「なに、無粋に終わらせたりはしないさ」
笑みと共に、雫に濡れた剣をジュリオが振るえば――再び、世界は真紅に染まった。
大成功
🔵🔵🔵
パウル・ブラフマン
【邪蛸】
日本刀から滴っていた鮮血は
強まっていく雨にみるみるうちに洗われていく。
ジャスパーの提案には
涙を堪えたくしゃげた笑顔で頷いて。
うんっ…おっちゃん、意外と心配性だったから。
オレ達で安心させてあげないとね☆
チャンスは一度きりだ。
ジャスパーの翼の後方にぴたりと控え
愛しい彼の一見すると我武者羅にも視える躍進を
Krakeによる【援護射撃】で支えたい。
チャンスは一度きり。
逃がしゃしねェぜ、UC発動―!
敵が逆上して起こした自然現象を
居合い斬りの要領で日本刀へと乗せて
鑑写しのように跳ね返してお見舞いするよ♪
ねぇ、ジャスパー。
キミが刀なら…オレは鞘になってもいい?
血を流し過ぎた彼を抱き締めて、支えたいな。
ジャスパー・ドゥルジー
【邪蛸】
もうひとつ「おっちゃん」を安心させてやろうぜ、パウル
手毬戦から引き続き、血の刀を握りしめて
この元囚人は、天変地異を起こす神みてェな奴と渡り合えるくらい強い
やっと得た自由、絶対護りきれるぜってね
相殺の光粒さえ断ち切るほど、力任せに刀を振るう
多少亀の攻撃を喰らっても、燃える血をも武器にして
この世界は「巨大な脅威の去った世界」だ
それでも戦火の爪痕も、残った災厄も消えちゃいねえ
こんな風に
――パウルの故郷と同じように
この底抜けにお人好しな男はそれを好まねえだろうからさ
護るための「刀」に、俺もなってやるぜ
多少の負傷は顧みず亀に突っ込んでいく
●
曇り空の下。木々の合間から零れ落ちる雫は、止むことは無い。
雨の音が耳に響く。髪を、肌を、服を濡らす中――手にした流れた血で作られた日本刀をも雨は濡らしていく。
切っ先から零れ落ちていた鮮血が洗われていく様を、露わな左目でじっと見つめていたパウル・ブラフマンに向かい。
「もうひとつ『おっちゃん』を安心させてやろうぜ、パウル」
笑みと共にジャスパー・ドゥルジーはそう紡ぎ、手にしていたパウルとお揃いの日本刀を握り締め戦闘への姿勢を表す。
パウルは――元囚人は、天変地異を巻き起こす神のようなモノとも渡り合えるくらい強い。そんな彼がやっと得た自由。絶対に護りきれると、ジャスパーは強い意志を持つ。
ぽつりと、肌を打つ冷たい雨を感じながら。パウルは、彼の言葉に視線を送った。先程の戦いで見えた人の姿を思い出し、一瞬天を見上げた後――。
「うんっ……おっちゃん、意外と心配性だったから。オレ達で安心させてあげないとね☆」
頷きと共に語られるその言葉と表情は、いつものパウルらしい笑顔。
その笑顔を見ればジャスパーも笑みを返し、共に海色を宿す亀へと向き直る。
ひらりとヒレのような手を動かし、宙を優雅に舞う彼に向け――ジャスパーは刀を構えると、力を込め一気に振るった。そんな彼の翼の後方に控えたパウルは、身に纏う触手に装着された固定砲台を構えると、敵を狙う。
刀を勢いよく振るうジャスパーの邪魔をしないよう。
注意を払いつつ弾を放てば――その弾は巨大な亀の身へと命中した。
しかし固い甲羅を持つ敵は、少しの攻撃ではびくともしない。だからふたりは、攻撃を続ける。この世界は、『巨大な脅威の去った世界』だ。
「それでも戦火の爪痕も、残った災厄も消えちゃいねえ。こんな風に」
――パウルの故郷と、同じように。
世界を脅かす、未だ此の世界に残る敵を睨むようにジャスパーは見つつ、声を零す。平和に見える世界。けれど、完全では無い世界は大切な人を思い出す。
だから尚更、この世界を守りたいのだ。
ひらりと亀は揺れると、煌めく光粒を雨の中散らしながら泳ぎ続ける。ジャスパーの剣技を防ごうとしているのだろう。そのまま彼は宙に水流を作るが――。
「逃がしゃしねェぜ」
このタイミングを待っていたとばかりに、パウルは声を上げる。
放たれる水流はパウルだけでなくジャスパーも、そしてこの場全てを包み込むことが出来そうな程の巨大さ。けれどパウルは怯むことなく、前へと出ると揃いの刀を構える。
チャンスは一度きり――ぽたりと僅かに残った鮮血が地に落ちる中で。放たれた水流を、居合いのように彼は断ち切った。
水流が弾けるような音が響く。
驚異の水はすっかり効力を無くし、そのまま世界へと溢れたかと思うと――そのままパウルが刀を一振りすれば、先程黒翡曜が生み出した水流と全く同じものが生まれ、水音を立てながら海を包み込んでいく。
上がる水音は大きくて、降りしきる雨でも消すことは出来ない程。
水音を聞きながら――ジャスパーはパウルを見る。
底抜けにお人好しな彼は、自身の故郷と同じようにこの地がなることを好まないと思う。だからこそ、護る為の『刀』に自身もなると決めたのだ。
魔炎の角から零れる雫は雨の粒。腕を伝い彩られた爪から零れるのは、鮮やかな紅。
――傷付けた腕から流れる血は止まらない。
「ねぇ、ジャスパー」
そんな、自身の負傷は顧みず戦うジャスパーの姿を見て。パウルは眉を寄せながら思わず名前を呼んでいた。
彼の言葉に視線を向けるジャスパー。続く言葉を待つように、見守る彼に向けて。
「キミが刀なら……オレは鞘になってもいい?」
その血に濡れた腕を引きながら、パウルはいつもとは違う真剣な眼差しで問い掛けた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
呉羽・伊織
道明f02883と
雨と花の中を泳ぐ亀か
瑞獣の類なら幻想的で良かったんだが、な
ああ、亀といえば、ウチにもいるのは知ってるだろ?
今日は戦いの事もあって留守番させてるんだが――この光景を心置きなく平和に楽しめるよーになったら、今度はあの子らも案内してやりたくてさ
――だから、ああ、平和も佳景も破壊させやしない
UCで技能高め、相殺される前に早業で毒と呪詛込めた烏羽や風切で先制の2回攻撃――尾を麻痺させ、光奪う部位破壊を
そのまま連携し敵の気を引くよう仕掛け、花に被害が及びにくい所まで誘導
後は道明が砕いた箇所へ攻撃重ね、鎮めよう
お前が在るべき海は此処じゃない
雨と花と平穏と――何もかも壊してしまう前に、お還り
吉城・道明
伊織f03578と
ああ、あれもまた、今となっては――オブリビオンとなっては、自然ならざる存在
見事な偉容ではあるが、この花や我らはおろか、最早司る筈の自然とも相容れぬもの
斯様な皮肉は、終わらせよう
ああ、亀と雛もいたな
確かに、偶にはお前の方から案内してやるのも良かろう(少し笑って)
次は少し賑やかな顔触れで平和を謳歌するも一興――その為にも、先ずは護らねばな
平穏の破壊も、認める訳には行かぬ
花護るべくUCで力を高めつつ、相殺されぬよう伊織と合わせ早業で刀振るい先制
長尾を断つよう武器落とし
連携し誘導と牽制重ね花の被害阻止
隙見て次は胴へ鎧砕きの一太刀
この者は骸の海へ案内を
雨は上がらずとも――暗影は晴らそう
●
ゆらり、ゆらりと――雨降る中、花咲く世界を泳ぐ海宿す亀。
そんな美しき姿を見て、呉羽・伊織はひとつ溜息を零す。
「瑞獣の類なら幻想的で良かったんだが、な」
ぽたりと、彼の艶やかな黒髪から雨雫が落ちる中。同じように吉城・道明も息を零した。ああ、あれもまた、今となっては――。
想う言葉は内に秘め、オブリビオンである以上自然ならざる存在であると心に語る。
「見事な偉容ではあるが、この花や我らはおろか、最早司る筈の自然とも相容れぬもの」
斯様な皮肉は、終わらせよう。
武器を構えつつ道明は語る。――例え彼が、自然を愛する存在だとしても。存在することが許されぬモノであるのだから。猟兵である彼等が出来ることは、ただ倒すのみ。
ふたりは共に刀を構える。雨に濡れ、煌めく刃をつうっと雫が伝う中――。
「ああ、亀といえば、ウチにもいるのは知ってるだろ?」
ふと目の前の敵を見て思い出したことを、伊織は言葉にした。
そんな彼へとちらりと鋭い眼差しを向け、道明は静かに頷く。亀と、雛もいたと。その反応には嬉しそうに笑い、伊織は彼を思い出し頬を緩ませる。
「――この光景を心置きなく平和に楽しめるよーになったら、今度はあの子らも案内してやりたくてさ」
「確かに、偶にはお前の方から案内してやるのも良かろう」
彼の言葉に、道明は仄かに口元を緩めそう紡ぐ。
いつもはしきりにお出掛けに誘うのは伊織の亀のほうだから。偶に誘ってみたら、どんな反応をするだろう? 喜んでくれるだろうか? そんな未来を思い描けば、自然と伊織の表情は緩み幸せそうで――その姿を見て道明は言葉を零す。
「次は少し賑やかな顔触れで平和を謳歌するも一興――その為にも、先ずは護らねばな」
次、の為に頑張るべきは今。
目の前の海を宿す存在が平穏を破壊することを、認めるわけにはいかない。
鋭い眼差しで敵を見て、道明はそのまま一歩踏み出した。水を吸った袖は随分と重いけれど、それでも彼は戸惑うこと無く駆けて行く。
「――だから、ああ、平和も佳景も破壊させやしない」
その後ろ姿を見遣りながら伊織は決意を口にすると。彼も同じように、敵との距離を詰める。共に力を高め、刀を振るうのは世界に咲く美しき花々を護る為。刀を振るえば纏う雫が世界へと飛び散り、雨とは違う軌跡と煌めきを帯び世界を照らす。
続く剣技は、特殊な技を使わぬもの。
けれど、だからこそ。隙も無く息の合った動きが出来るのだろう。
次々と繰り出される刃の攻撃に、黒翡曜は甲羅を用い致命傷を回避しつつも、反撃が出来ないでいる。揺蕩う姿も、どこか焦りを感じるようで。
「お前が在るべき海は此処じゃない」
目の前の敵の眼差しを見ながら、真剣な眼差しで伊織は語る。
海を纏う彼だけれど。この世の輪廻とは違う生を受けた存在だ。――彼が戻るべきは、美しき生命の生まれる海では無く、骸の海。
ぴくりと反応し、刃から身を庇うように煌めきを作り出す黒翡曜。そんな彼の、露出した部分に刀を振るい落としながら。
「雨と花と平穏と――何もかも壊してしまう前に、お還り」
伊織の口から紡がれる、別れの言葉。
いつもの彼から零れる音とは少し違う言葉を耳にしながら、道明も続けて刃を下ろす。
「雨は上がらずとも――暗影は晴らそう」
刀が勢いよく下ろされれば、敵の身を抉る。吹き出す血は地面へと落ち、そのまま宙で苦しげに身をよじる大きな亀。
そんな敵を、そして人間を。打つ雨は、まだ止まない――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
絆・ゆい
くろば/f10471
ぽつり、あま粒が頬を濡らす
頻りに降り注ぐ雨は止まぬよう
嗚呼、参ったことね
“ぼく”が、滲んでしまう
などと口許から溢るるけど
慌て惑うよな様子は見せぬとも
はら、愛い子
あたたかな泡沫の音がきこえるよう
水の傘を受け取り、くるりら回す
ありがとさん、と精霊に告げよう
まるで、水のなかのようね
水中の花、雨と散る花
そのどちらもうつくしいけども
嗚呼、散らすことは見過ごせぬ
たとえ、童の行ないだとしても、ね
はいな、任されよう
一片の歌留多を手に唄いあげよ
添わすのは祝福を告ぐ花
といろの花々に混じるよに宙を踊る
雨に氷に、花のいろどり
嗚呼、不思議な光景だこと
海に浮かぶ花筏もうつくしいのだろか
華折・黒羽
ゆいさん/f17917
見上げれば降り注ぐ雨粒が頰を打つ
じわりと濡れてゆく毛並みは
その水を吸うごとに重さを増してゆくけれど
──紬、
呼べば姿見せた水の精霊はその雨を見て嬉しげに
踊る仔の名をもう一度呼んで、お願いを
紬、俺とゆいさんに傘を作ってくれないか
水の傘なら亀も見失わずにいられる
頷いたその仔がくるり宙を舞って
落ちない雫の水の傘を俺と、あなたにも
子供とは言え
紫陽花の景色を壊そうとするなら
見過ごせません。
ゆいさん
俺と紬で亀の動きを止めます
あとは任せても、いいですか?
あなたから了承を得たなら一歩前
紬が集めた周囲の雨を
縹纏わせた屠で一閃斬りつけ
亀へも届く氷の枷を
きっとこの雨は錠をその海に届かせてくれる
●
ぽつり、ぽつり。
尚も降り続ける雨の雫。その雫を身で――柔らかな頬で受け止めた絆・ゆいは。
「嗚呼、参ったことね」
――『ぼく』が、滲んでしまう。
静かに、そんな言葉が思わず口許から零れ落ちた。
しかし言葉とは不釣り合いなほど、その声の色は慌て惑うものではない。彼の眼差しも、動作も特に変わったことは無く――そんな彼の姿を見て、華折・黒羽は纏わりつく雫は払うかのように、その大きな耳を揺れ動かした。
頬を打つ雨、自身の黒の毛並みに水気が溜まっていくことが分かる。
段々とその身体は重みを増していくけれど――彼は迷うこと無く、言葉を紡ぐ。
「──紬、」
ひとつの名を。
その名に誘われ姿を見せたのは、水の精霊。降り注ぐ雨の雫をその身で受け、嬉しそうにひらひらと踊るその子へ向け、黒羽はもう一度その名を呼んだ。
そんな彼等の様子を見て、ゆいは「可愛い子」と瞳を細め言葉を零す。まるで、あたたかな泡沫の音が聞こえるようだと、心に想う彼の傍らで黒羽は述べる。
「紬、俺とゆいさんに傘を作ってくれないか」
その願いに、紬と呼ばれた勿忘草色の精霊はこくりと頷くと、その場でくるりと宙を舞う。まるで揺蕩うようなその姿が美しく――そのままくるくると回り続ければ、不思議なことに、水で出来た傘が生まれ黒羽の手元へと落ちてくる。
傘の部分は波打つようだけれど、不思議なことに雫が零れ落ちるようなことは無い。その水流の下で黒羽とゆいが並び立てば。
「ありがとさん」
瞳を細めながら微笑むと、ゆいは紬に向けお礼を述べた。
そのまま天を見上げ、水の傘を裏から見遣れば――まるで、水の中にいるかのような錯覚を覚える。
水中の花、雨と散る花。
そのどちらも美しいと、ゆいは想うけれど。
「嗚呼、散らすことは見過ごせぬ」
それが、例え子供だとしても――そう言葉を続けるゆいと同じように、黒羽もこの美しく咲く紫陽花を、この景色を壊すことに穏やかな気持ちでは無い。
見過ごせません。そう黒羽が紡ぐ心を表すかのように、彼は黒剣を構えると――。
「ゆいさん」
不意に、名前を呼んだ。
その言葉にゆいは反応すると、顔を上げ傍らの黒羽をじっと見る。
「俺と紬で亀の動きを止めます。あとは任せても、いいですか?」
敵からの攻撃に警戒してか、黒羽は視線は敵のまま。ゆいへと問い掛ければ、彼は穏やかに口元に笑みを浮かべ、頷きを返す。
「はいな、任されよう」
その言葉を耳にした時、ぴくりと黒い耳を揺らしながら黒羽は一歩踏み出した。
そのまま彼は、紬が周囲の雨を集めていくのを見守る。降りしきる雨音では無い、水音が微かに聴こえる中――黒羽が手にした黒剣を振るえば、氷の枷を作り出す。
宙泳ぐ美しき黒翡曜に纏わりつく氷の力。その隙を狙うように、ゆいは一片の歌留多を手に取ると、すうっと深く息を吸う。
紡ぐ言葉は柔らかな唄。
唄い上げると同時に、雨に満ちた初夏の気配感じるこの場に訪れる春の色。祝福を告げる花弁が敵の身を包み込めば――雨に氷に、花のいろどりが咲くようで。
(「嗚呼、不思議な光景だこと」)
瞳を細め、思わずゆいは溜息を零しながらその光景に見惚れていた。
ぽつり、零れる雨は尚も世界と彼等を濡らしていく。
海色に染まるオブリビオンに纏うその花弁が美しいから、ゆいは同時に疑問を抱いた。――海に浮かぶ花筏もうつくしいのだろか。
どこか考えるように、意識を揺らがせる彼の横で。
「きっとこの雨は錠をその海に届かせてくれる」
黒羽は降りしきる雨を見上げ、頬に雫を受けながら小さな声で呟いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
薬師神・悟郎
奴がこの地に現れたのは気紛れか、それとも何か意思があってのことなのか
だが、俺には関係ない
彼女が気に入ったこの場所を壊すというならば、排除するまで
先手必勝
UC発動、先制攻撃
毒使い、マヒ攻撃を複製した暗器に仕込み、雨のように奴の体全体に降らし継続ダメージを与える
攻撃は逃げ足、地形の利用で回避
回避不可であればオーラ防御と複数の耐性で耐えながら視力、聞き耳で観察し好機を狙う
あれだけ丈夫な甲羅なら、その中身は脆いだろうと判断する
早業で奴の下に潜り込めれば、一点集中の部位破壊を試みよう
情けをかける余裕があるほど俺は強くない
敵が沈黙するまで俺は止まらないぞ
●
ゆらゆらと揺蕩う、美しき海を見遣り。薬師神・悟郎はフードの奥の瞳を細める。
――奴がこの地に現れたのは気紛れか、それとも何か意思があってのことなのか。
「だが、俺には関係ない」
一瞬の問い。しかし心に宿したその問いを払うように、彼は首を振ると意識を戻す。
全ては、この地を護る為。
彼女が気に入ったこの場所を壊すというならば、排除するまで。それが、悟郎の真っ直ぐな想いだった。――いつだって、彼の心を揺らすのは美しきエメラルドだけだから。
尚も海を揺蕩うかのように、宙を泳ぐ黒翡曜。戦いの意志を見せぬ敵に向け、悟郎は先手を打たんと素早く動く。殺める為の武器を数多手にしたかと思えば、次々と複製し美しき世界へと放っていく。
――それはまるで、武器の雨のように。敵へとそのまま降り注がせる。
刃が真っ直ぐに地へと落ちる中、悟郎は軌道を読みするりと避けながら敵へと近付く。固い甲羅が刃をある程度弾いているようだが、露出した部分の傷は防ぐことは出来ない。伸びる尾から零れる光の粒が、その刃を打ち消そうとするが――。
「行け」
悟郎の声と共に、更なる雨が降り注いでいく。
止まらない雨は、水の雫よりも激しさを増していく。
美しい雨音とは違う、金属の音が響き渡る。甲羅を打つ音色も、地へと刃が突き立てられる音も、雨の音に負けず響く中――悟郎は敵の懐へと入り込むと、刃を構えた。
宙を泳ぐ巨大な敵の下へ潜り込むことは難しくはない。そのまま甲羅の無い露出した部分を狙い、彼は刀を力強く突き立てる。
情けをかける余裕がある程、自身は強くは無いと認めている。
だからこそ、この刃を止めることは出来ない。
敵が沈黙するその時まで――悟郎は、この世界を守る為に刃を振るった。
大成功
🔵🔵🔵
ルーシー・ブルーベル
【月光】
不思議で、きれいで……すこしおそろしい
あのカメさんが自然に近しいせいかしら
でも、人を、ゆぇパパを害そうとするのなら
あなたが例えこどもでも、ここで止めるわ
おいで、ふわふわなおともだち
泳ぐためにある姿を地に下ろすのは心が痛むけれど
あのカメさんの動きを封じて
自然のお花から生まれる綿に破魔をのせ
カメさんのよぶものが水ならばより水に浸して
水以外ならば雨露をふくませて、
攻撃ごと巻き取ってしまいましょう
綿ってね
ぬれると更に丈夫になって、切れないの
パパに雫ひとつぶたりとも届かせはしない
さあ、ゆぇパパ
続きをお任せしてもいいかしら
優しい雨を取り戻しましょう
あなたといっしょなら
あたたかい所がいいもの、ね
朧・ユェー
【月光】
雨の中泳ぐ幻想的な存在
えぇ、とても綺麗ですね
隣の小さな女の子は負ける事なく立ち向かう
嗚呼、僕の天使は誰よりも強い子
ありがとう、ルーシーちゃん
ここから僕が
動きを止めた亀に
美喰
行動、習慣…そして心の中を
嗚呼、この雨は君が降らしてる涙でしょうか
でも君をそのままにしてはいけないよ
想い出の一つになったここを、僕の大切なこの子を傷つけるのなら許す事は出来ない
ごめんねぇ
紅炎蒼氷演舞
雫を凍らせ、君の心を燃やす
もう悲しい涙はやめて
優しい暖かな雨を降らせて
優しい天使と共に
●
宙を揺蕩う海色の亀に、雨の雫が降り注ぐ。海に注ぐ光を現したかのような甲羅に雫が纏えば、煌めきを帯び世界を照らすかのよう。
「不思議で、きれいで……すこしおそろしい」
そんなオブリビオンの姿を見て、ルーシー・ブルーベルは瞳を伏せながら。手にした垂れ耳兎のぬいぐるみをきゅっと抱き締め、静かに声を零した。
「えぇ、とても綺麗ですね」
少女へと頷きを一つ。そして少女を包む恐怖を振り払うかのように、朧・ユェーは細い少女の肩へと自身の手を乗せた。伝わるその温もりに、ルーシーは顔を上げ彼の姿を確認すると、改めて黒翡曜へと向き直る。
綺麗なのは、あの亀が自然に近しいせいだろうか。
「でも、人を、ゆぇパパを害そうとするのなら。あなたが例えこどもでも、ここで止めるわ」
兎を抱きしめたまま紡がれる声。
けれど露わな左目に浮かぶ色は、先程までの落ちた色合いとは少し違う。まだ小さな少女には少し不釣り合いな、真剣な色をしていて――ルーシーは呼吸を整えるように息を吐くと、そのまま呪文を唱える。すると抱き締めていた兎のぬいぐるみから放たれる綿。その丈夫な綿は巨大な敵の元へと伸びていく。
泳ぐためにある姿を地に下ろすことに、小さな胸が痛む。けれど、それが今やるべきことだと分かっているから。ルーシーは迷うこと無く、力を操る。
――そんな、負けることなく立ち向かう小さな少女の姿を見て。
(「嗚呼、僕の天使は誰よりも強い子」)
眼鏡の奥の金色の瞳を、どこか眩しそうに細めながらユェーは想う。少女の長い金の髪が雨を纏い、その先からぽたりと雫を落とす中。真っ直ぐに敵を見て、おともだちと共に戦う少女の姿は眩しくも見えるよう。
「ありがとう、ルーシーちゃん。ここから僕が」
黒翡曜の身が綿により拘束される様へと視線を移すと、ユェーは傍らの少女へと礼を述べ敵へと向き直る。――君はどんな子なのか? 問いと共に紡がれる力。行動、習慣、そして心の中を貪る力を。
ふたりの力に対して、黒翡曜は物言わぬまま。優雅に雨の中舞い、どこか敵意を見せたような幼さ残る眼差しでふたりと見ると――そのままくるり、舞うと共に世界に大きな水を生み出した。全てを洗い流さんとするかのような力に、ルーシーは自身の力を添える。
手元のぬいぐるみから放たれた綿が、敢えてその水へとぶつかっていく。大きな水の塊へと浸されるように入り込めば、その水が徐々に小さくなった。
「綿ってね。ぬれると更に丈夫になって、切れないの」
ぽつりとルーシーは語る。
敵の作りだすその力――それを、ユェーへは届かせない為に。
(「パパに雫ひとつぶたりとも届かせはしない」)
いつもは伏目がちなその眼差しでしっかりと敵を見る少女。そのまま彼女は、視線を傍らのユェーへと移すと。
「さあ、ゆぇパパ。続きをお任せしてもいいかしら」
――優しい雨を取り戻しましょう。
相手の力を巻き取りながら、彼女は口元に微かに笑みを浮かべてそう紡ぐ。その言葉と頼もしい少女の姿を見て、ユェーは瞳を細めた後敵を見遣り。
――嗚呼、この雨は君が降らしてる涙でしょうか。
雫に濡れる海色。顔を上げ、空から雫が零れる様を見ればユェーの肌を雨が濡らす。これがもしも彼の涙だとしたら、なんて温かくも冷たいのだろうか。
「でも君をそのままにしてはいけないよ。想い出の一つになったここを、僕の大切なこの子を傷つけるのなら許す事は出来ない」
傍らの少女を一瞬見遣り、強い口調で彼は紡ぐ。――ごめんねぇ。ひとつの謝罪と共に、ユェーから紡がれるのは炎と氷の精霊の加護。降り注ぐ雫を凍らせ、敵の心を燃やすその相反する力が戦場を包めば――降り注ぐのは、冷たさの消えた優しい温かな雨。
ぽつり、ぽつり。
零れる音色は心に融けるような不思議な色。
悲しい涙ではない、その温かな雫へと掌を伸ばしながら。
(「あなたといっしょなら。あたたかい所がいいもの、ね」)
温もりを感じながら、優しい少女は雨をその身で受け止める。――そんな彼女の傍らで、微笑む天使を見てユェーは嬉しそうに笑みを落とした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エドガー・ブライトマン
ヨーコ君(f12822)みて、大きなカメがいる
オブリビオンじゃなければ、背中に乗ってみたかったんだけれど
竜宮城?それもそれで楽しそうに聞こえるけど
空ともアジサイとも違う、大きな色
かれ、海みたいな色をしているね
空も花も良いけれど、私は海もスキ
潜ったり遊んだりするのも楽しいし
ちいさなものも、化け物も、この今降っている雨だって
すべてものが帰ってゆく場所なんだろう
そうしてまた新しい命が生まれるんだ、海から
ヨーコ君も、海はスキ?
あのカメの海は奪うだけのものなんだとおもう
それは間違っているから、あれも斬ろう
キミの頼み、引き受けたよ
嵐と共に駆け抜けよう
打ち消されようとも、私がいるさ!
人の力も、結構やるんだぜ
花剣・耀子
エドガーくん(f21503)、何を言っ
……亀ね。亀だわ。
乗ったら竜宮城に連れて行かれてしまうわよ。
きみなら楽しんで仕舞うのでしょうけれど。
水のいろ。星のいろ。
夜の海のような姿はうつくしい。
夏が恋しくなるわ。
あたしも海はすきよ。
よいものも、わるいものも、全部流れ着くところだもの。
何もかもを呑み込んでゆく姿は、やさしくておそろしい。
――だから、ヒトはそこにかみさまを見たのだわ。
……そうね。
アレがかみさまではないことは、判っているもの。ゆきましょう。
この世界は、もうヒトの手に還ったのよ。
星を呑み込む嵐を起こすわ。
打ち消されるのは織り込み済み。
あたしは、ひとりで戦ってはいないもの。……――おねがいね。
●
雨降る世界に現れた、美しき海色。
「ヨーコ君みて、大きなカメがいる」
その姿を捉えたエドガー・ブライトマンは、驚いたようにその瞳を瞬いた。
彼の言葉に、何を言っているのかと花剣・耀子は零すけれど――。
「……亀ね。亀だわ」
目の前を泳ぐ大きな海色の亀の姿に、青い瞳を細めそう言葉を紡いでいた。優雅に泳ぐ姿は、とても世界を脅かす存在には見えない。雨粒に濡れた甲羅は、深海から地上へと向かい泡がぷくぷくと舞い上がっていくかのように煌めいていて。
「オブリビオンじゃなければ、背中に乗ってみたかったんだけれど」
自身が乗っても大丈夫そうな大きさを見て、エドガーは興味深げにそう紡ぐ。彼の言葉に耀子は静かに首を振ると。
「乗ったら竜宮城に連れて行かれてしまうわよ」
そう語るけれど――彼ならば、きっと楽しんで仕舞うのだろうと思う。
彼女がそう思った通り。エドガーは竜宮城と云う単語に、それも楽しそうに聴こえると美しい笑顔を落とす。――その様子を見れば、やはりとても彼らしい言葉。
ゆらり、ゆらりと。
尚も敵である黒翡曜は宙を泳ぐ。
それは雨の中なのか、それとも花の中なのか――空とも紫陽花とも違う、鮮やかなアオが視界を揺蕩い続ける様を見て。
「かれ、海みたいな色をしているね」
黒翡曜を見ていた視線を耀子へと移すと、エドガーは素直な言葉を口にする。
空も、花も良いけれど。私は海もスキだと。潜ったり遊んだりするのも楽しいし、と語るエドガーは相変わらずまっすぐで、耀子はいつもはきゅっと結ぶ口元を微かに緩める。
海は――ちいさなものも、化け物も、この今降りしきる雨だって。全てのものが返ってゆく場所。そして、新たな命が生まれる場所。
そんな、神秘的な海を想いエドガーは雨を落とす空を見遣った後。
「ヨーコ君も、海はスキ?」
視線を空から地上へと戻すと、その青い瞳は真っ直ぐに耀子を見ていた。
彼女から見た敵の色は、水のいろ。星のいろ。
その姿はまるで、夜の海のようで――とても美しく、夏が恋しくなるよう。
「あたしも海はすきよ。よいものも、わるいものも、全部流れ着くところだもの」
その恋しさを胸に紡いだ耀子の言葉は、微かに熱を帯びているかのよう。
何もかも呑み込んでゆく姿は、やさしくておそろしい。――だから、ヒトはそこにかみさまを見たのだわ。
そう心に想いながら、耀子は胸元で手をきゅっと握り締めていた。美しき、海の魅力は全ては紐解けない程のもの。それを言葉にすることは難しいけれど。
「あのカメの海は奪うだけのものなんだとおもう」
それは間違っているから、あれも斬ろう。揺蕩う亀を見遣ると、エドガーの浮かべる眼差しは強きものへと変わっていた。どこか凛とした声を耳に、耀子は静かに頷く。
「アレがかみさまではないことは、判っているもの。ゆきましょう」
淡々と、いつもの調子で語る耀子。
――この世界は、もうヒトの手に還ったのよ。
揺蕩う海へと、耀子はそのまま白刃を放ち嵐を起こす。雨の中、大きく膨れたその嵐は敵を襲わんと距離を詰めるが、すぐに黒翡曜の長い尾から散る煌めきに消されてしまう。
力を打ち消す術。それは、耀子にとってはここまで織り込み済みで。
「あたしは、ひとりで戦ってはいないもの。……――おねがいね」
消えゆく嵐を見遣りながら、彼女は素直な言葉にした。その言葉を耳に、エドガーは頷きを返すと敵へと一気に距離を詰める。
嵐が掻き消える――そこに生まれた隙を狙うように、彼は敵へと滑り込むと。
「打ち消されようとも、私がいるさ!」
はためくマントの青色が雨の中鮮やかだった。――マントがひらひらと舞い地へと落ちゆく中。エドガーは銀細工のレイピアを敵へ突き付け素早い剣戟を繰り出す。
嵐の後、一瞬の間もなく突き付けられたその攻撃に。黒翡曜は力を消し去ることは出来ずにただ受け入れる事しか出来ない。
甲羅の無い露出した部分に傷が生まれる。積み重なるダメージもあったのだろう。彼は鳴き声すらあげぬまま、苦しげに身体をよじるとそのまま地へと落ちていく。
身体が地に触れれば、ぱしゃりと水溜まりの音が響く。血が地面に流れゆく間もなく、一瞬で鮮やかな海の姿は消えていき――。
「人の力も、結構やるんだぜ」
薄れゆく海色に向け、高らかにエドガーは紡ぐと彼は胸に手を当て一礼をした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵