帝竜戦役⑱〜春は来りて、春はゆく
●春は来りて
春、それは寒く厳しい季節を経てやってくる、希望に満ちた季節。開花の時を待っていた花々が咲き乱れ、花々に興味のない人であっても、可憐に咲く花を見て『美しい』と思うことだろう。
そして、ここは高熱を放つサウナ珊瑚と呼ばれる、赤や薄紅に彩られた珊瑚が生える温泉地帯。とりわけ、この温泉周辺は常春ともいえる気温を年中保ち、周囲を桜や春の花々に囲まれていて、花見をしながら温泉に浸かれてしまうという絶景の名所とも言える場所。
そんな場所に集まるのは――。
「春よ!」
「春だわ! 常しえの春!」
春告の妖精、スプリングエルフ達。春の訪れをどこからともなく察知して現れ、その終わりと共にどこかへ消えていく者達だ。そんな彼女達からすれば、ここは楽園のようなもの。
春を賛歌し、尊び――様々な目覚めを呼び起こす。
●春はゆく
「郡竜大陸の探索は順調やろか? お疲れ様やと思うけど、もうちょっと頑張ってな! でな、そんなお疲れな身体を癒すんに丁度いい場所があるんやけど」
と、朗らかに八重垣・菊花(翡翠菊・f24068)がグリモアベースに集まった猟兵達に声を掛けた。勿論、丁度いいだけであって本当に休めるかはわからない。だって場所は郡竜大陸なのだから。
「なんと今度見つかったんは温泉地帯でな。水を温泉化する、サウナ珊瑚って呼ばれとる珊瑚が群生しとる場所なんよ」
この場所には沢山の温泉がある。そして、様々な温泉にそれぞれの効能があるように――。
「なんとこの温泉、浸かった人には特定の感情が爆発的に増加するっちゅー効果があってなぁ」
この温泉は『綺麗』だと思う感情が爆発的に増加するのだという。自分が意識していなくても、ほんのひと欠片でもそう感じれば、それは瞬く間に膨れ上がってしまうのだ。
「何を美しいと思うかは人それぞれやよって、何に心惹かれるかはわからんけど」
温泉の周囲に咲く花の一つを美しいと思ったり、自分の爪先を美しいと思ったり、愛しい人を美しいと思いだしたり、見上げた空が美しいと感じたり……それぞれの心のあり方一つで変わるもの。
「でな、この温泉の不思議なところなんやけど、この湧き上がる感情を自覚しつつも抑え込んで、我慢に我慢を重ねると、どういうわけかは知らんけど戦闘力が一時的に上がるんやって」
我慢大会みたいやなぁ、と零しつつ、菊花が続ける。
「更になんやけど、この温泉にも敵……っちゅーにはちょっとあれなんやけど、という存在はおってな」
それが春告の妖精、スプリングエルフだと菊花は言う。
「本来やったら、春と共に現れて春が終われば消えてくんやけどな、この温泉の周囲だけなんでかめっちゃ春なんよ」
謂わば、永遠に終わらぬ春を謳歌できる温泉だ。
「温泉効果で春を綺麗と思う気持ちと共に、テンションが高なってしもてるんやろなぁ。春が一番美しい、言うてそれを押し付けに来るんや」
押し付けに来るとは? と首を傾げた猟兵に、つまりは春は素晴らしいでしょう! と押し付けにきて、それ以外を美しいと言う者に……。
「喧嘩を吹っ掛けるんよな。何であっても押し付けるんはあかんと思うんやけど、感情大爆発やから理性もちょっと飛んでるんやろなぁ」
ここにいるスプリングエルフ達は元々大人しい気性だ、軽く目を覚まさせる程度に戦えば正気を取り戻すだろう。
「もちろん、話し合いで済ますんもありや」
同じように春を美しいと思えば、春の良さについて語り合うのもいいだろう。
「そこんとこはお任せやよって、皆のええようにしたってな」
ぱん! と両手を打ち鳴らし、かの温泉への道を開いた菊花は笑ってそう言った。
波多蜜花
閲覧ありがとうございます、波多蜜花です。温泉でゆったりするのもいいじゃない、というシナリオです。
こちらは戦争シナリオとなっており、このフレームのみで完結します。
●プレイングについて
このシナリオではプレイングボーナスがあり、これに基づく行動をすると有利になります。
『爆発的な感情を発露させた上で、抑え込む』
こちらを踏まえた上で、温泉を楽しんだり、軽めのバトルや妖精との会話などオープニングを確認した上で出来そうな事を楽しんでください。
なお、自動的に皆様水着を着用となりますので、水着の指定があればお書き添えください。
公共良俗に反するような行為、過度のお色気、未成年者の飲酒行為などプレイングにあった場合は恐れ入りますが採用は難しくなりますのでよろしくお願いいたします。
●同行者がいらっしゃる場合について
同行者がいらっしゃる場合は複数の場合【共通のグループ名か旅団名+人数】でお願いします。例:【鏡3】
同行者の人数制限はありません。
プレイングの送信日を統一してください、送信日が同じであれば送信時刻は問いません。
●プレイング受付開始、採用人数などについて
OPが公開され次第受付開始です。締切りは特に設けません、プレイングが送信できる間は受け付けております。が、シナリオの性質上お早めに送信いただければと思います。
また、できるだけ採用できればと思いますが、キャパの関係上流れてしまうこともあるかもしれませんので、どうかご了承いただけますようお願い申し上げます。
●この戦場で手に入れられる財宝
宝物「サウナ珊瑚」……水を温泉化する、成分が摩耗することもない不思議な珊瑚です。おそらくクリーンな火力発電としても利用でき、親指大のひとかけらでも、金貨100枚(100万円)程度で取引されます。
アイテムとしての発行はございませんが、RPの一つとしてご利用いただければと思います。
それでは、皆様の素敵な冒険をお待ちしております。
第1章 集団戦
『『春告の妖精』スプリングエルフ』
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POW : 目覚めの春~目覚めを促す鍵~
【対象を眠れる力】に覚醒して【暴走した真の姿】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : 春は恋の季節~心の高鳴りが爆発となって~
【対象二人の意思疎通】が命中した対象を爆破し、更に互いを【互いのレベルの合計の技能「手をつなぐ」】で繋ぐ。
WIZ : 春はお花見~花々の美しさに魅了され~
【お花見】を給仕している間、戦場にいるお花見を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
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護堂・結城
話し合いでもいいのか、ま、外道相手じゃないならありだな
何より大暴れするとこの綺麗な場所が荒れそうだから控えたい
【POW】
過ぎ去っていく春、桜とか散っていく儚さはとても美しいものだ
君達が春のどういうところが綺麗と感じるのか教えて欲しいな
【歌唱・大声】に【生命力吸収】をのせて戦場に溢れた感情を喰らう【大食い・範囲攻撃】
お互い冷静になる程度に暴走する感情を吸収させてもらおう
戦闘に入ってしまったら仕方ない
吸収した感情を基に指定UCを発動、【焼却・属性攻撃】をのせた白き劫火の剣群を召喚、投げては炸裂させて【爆撃・衝撃波】で攻撃だ
●君の話を聞かせて
話し合いで解決というのは平和でいいものだな、と護堂・結城(雪見九尾・f00944)はのんびりと温泉に浸かりながら思う。
「何より、大暴れするとこの綺麗な場所が荒れてしまうかもしれないからな」
何せ自分は自他共に認めるパワー系ファイターなのだ、うっかり箍が外れてしまえば温泉も景観もめちゃくちゃになってしまう可能性が高い。
希少価値が高いサウナ珊瑚もそうだが、何より値千金とも言えるこの景色だ。
「過ぎ去っていく春、桜や花々が散っていく儚さはとても美しいものだ」
心を揺さぶるほどの感情がとくとくと湧き上がるのを感じて、結城はそっと己の胸を押さえる。
「なるほど、これが……温泉の効果というやつか」
どこか戦いの最中に感じる高揚感にも似ていて、それならば抑え込むのもなんとかなるか? と結城が考えた時だった。
『ねぇ! ねぇあなた! 今春を美しいと言ったのよね?』
どこからともなく現れた、春色を纏った少女が頬を桜色に上気させながら結城に詰め寄る。
「ああ、言ったな」
『そうでしょう! そうでしょう! 春は美しくって素晴らしいでしょう!』
すさまじくテンションが高いこの少女が、スプリングエルフなのだろう。目をキラキラと輝かせ、嬉しそうに微笑んでは頷いている。
「スプリンフエルフ、君達が春のどういうところに美しさを感じるのか教えて欲しいな」
自分が感じている春の美しさとは、また違う美しさを感じているのかもしれない。そう思った結城が問い掛けると、どこからともなくスプリングエルフが増えた。
「おお……」
戦いには一歩も引かない結城だが、何ともいえないスプリングエルフ達の迫力にズズっと下がる。
『春は今まで蕾のまま耐えていた花々がその蕾を綻ばせるでしょう? それが咲く瞬間、花々の喜びが満ち溢れているようで美しいの!』
『冬は景色の色が少し寂しいでしょう? でも春になると寂しかった色が一気に明るくなって、気持ちまで明るくなるの!』
なるほど、と結城が頷いても、スプリングエルフ達の溢れんばかりの、いやもう既に溢れている思いは止まらない。
「なるほど、これはさすがに」
少しきつい。手荒な真似はしないと言った手前、できることを試してみるかと結城は軽く息を吸い込んで、よく鍛えられた腹の底から声を出し――歌った。
結城が紡ぐ旋律は春を賛美する歌で、スプリングエルフ達は思わず喋る口を閉じる。その歌はスプリングエルフ達の生命力を困らない程度に吸収し、この場に溢れた感情を喰らっていく。それは結城の感情も例外ではなく、力に変換して結城の身の内に収められた。
『あら……ええと、なんだったかしら』
「春は美しい、という話だな」
『そう、とにかく春は美しいって私達はそう思うの!』
機嫌をよくしたスプリングエルフ達は、結城の傍を離れていく。きっと、この温泉を出て春の景色を愛でるのだろう。
「どれ、俺はもう少しこの景色を楽しんでいくとするか」
この温泉も、と結城がゆったりと微笑んだ。
大成功
🔵🔵🔵
セレシェイラ・フロレセール
春が好き
芽吹きの春、目覚めの春、世界に生命が溢れる春が大好き
温泉を楽しみながら眺める桜は――
うん、綺麗と思う心に蓋をするにはやっぱりアレしかないな
ひとつ、物語を綴ろう
それは玄冬の国のこと
凍える外気、太陽の光が差すことなど稀な大地
人々は飢えと寒さに苦しみながら春を焦がれる
冬の厳しさに耐えた先の春は幸せに満ちていた
……もう一捻り欲しいかな
何をしているのかって、次に書くお話の構想よ
妄想とも言う
ふふふ、作家たるわたしは温泉に浸かりながら妄想に耽ることなど朝飯前なのでした
綺麗と思う感情を堪えるには妄想が一番
目の前の桜が綺麗な程、わたしの妄想力が滾るわ
それはそれとして妖精さん達ちょっと煩いから黙っててー
●春を綴る
春は好きだ、と温泉の湯に触れながらセレシェイラ・フロレセール(桜綴・f25838)は思う。自身が桜の硝子ペンのヤドリガミだというのを差し引いても、春という季節は希望に満ち溢れているのだ。
「ふう……温かくて、気持ちいい。それに、ここから見える景色も素敵ね。春を感じるわ」
芽吹きの春、目覚めの春……世界に生命が満ちていく春が大好きだとセレシェイラが口元を綻ばせる。それに何より、湯に浸かりながら一望できる桜は――。
「綺麗で、何よりも……」
続く言葉は胸の内で、ふう……と心を落ち着かせるように息を吐く。ともすれば、口から春を讃える言葉が湯水のように溢れてきそうで、どうしたものかと薄紅に潤む瞳を閉じる。
「うん、やっぱり美しいと思う心に蓋をするには、アレしかないな」
目を閉じたまま呟いたセレシェイラの脳裏に浮かぶのは、玄冬の国。吐いた息すらも凍る程の外気、太陽の光が差し込む隙間もないほど分厚い雲に覆われた、極寒の大地。
人々は夏と秋の間に蓄えた食料で細々と食い繋ぎ、時に飢えに苦しみながら肌を刺す寒さに耐えて春を待ち焦がれる。そして、冬の厳しさを乗り越えた先に迎えた春は、幸せに満ちて――。
「……もう一捻り欲しいかな」
ううん、と唸ったセレシェイラに、誰かが話し掛けた。
『春の美しさも見ないで、あなたは何をしているの?』
春を思わせるような声に、創作意欲を揺り動かされながら、セレシェイラが目を閉じたまま答える。
「何をしているのかって、次に書くお話の構想よ」
人はそれを妄想とも言うのだが、その辺りは紙一重だ。
『お話……どうせなら春のお話が良いと思うの! この辺りは春に満ち溢れているわ、あなたも春を眺めながら春のお話をするべきだわ!』
「ふふふ、作家たるわたしには温泉に浸かりながら妄想に耽ることなど朝飯前なの。それに今考えているお話は冬を抜けて春に至る物語……そう、物語の中で春を感じる、これこそ私の妄想力!」
妄想って言ったわ、という声が聞こえたけれど、セレシェイラはどこ吹く風だ。だって紙一重だもの。
それに、綺麗だと思う感情を堪えるには妄想が一番! 目の前の桜が綺麗な程、わたしの妄想力が漲るのだと胸を張る。
『そ、そんなに? 実際の春を見るよりも妄想の方が美しいの?』
『わ、私達もやってみる?』
『目の前にこんなに綺麗な春が広がっているのよ? 目を閉じるなんてもったいないわ』
でも、とスプリングフェアリー達は目を閉じて妄想の世界に浸るセレシェイラを見る。その表情は、確かに美しいものを見るように満ち足りていて――。
「それはそれとして、妖精さん達ちょっと煩いから黙ってて? 折角の美しい春が消えちゃうわ」
『は、はい』
妖精達の声が重なって、行儀のよいお返事が響く。
そうして、セレシェイラに並ぶように座って目を閉じる妖精達を見た者ががいたとか、いないとか――。
大成功
🔵🔵🔵
フリージア・ノルン
温泉!しかも桜や花満開の!
うー…!この周囲の花々の綺麗さ!同じ妖精としてはとっても共感できるわ!
でも今は我慢我慢
人に無理やり勧めたら逆に引かれちゃうもの
まず春告の妖精達の話を聞きましょう
凄い熱心に春の魅力を語ってくれるわね
でもこれじゃ何を言ってるのか聞き取れないわ
シンフォニックデバイスの音量を最大にして(大声)
…皆!一人ずつ順番に魅力をあげてくれるかしら!?
私もここの春の景色は大好きよ!
でも人に伝えるには興味をもって貰うことが大事なの!
だから皆!私達で歌を作りましょう!
春の魅力を伝える歌を!歌を聞いた人達が春を好きになってくれるように!
【不落陽の歌妖精】達にも手伝って貰って皆で歌おう!(歌唱)
●春を唄って
透き通った翅をパタパタと動かし、フリージア・ノルン(生きることは素晴らしいと思いたい妖精・f27130)が温泉の縁をぐるりと回る。自分の体躯にあった、丁度よく座れる場所を探してのことだ。
「うーん、やっぱりこの辺りがいいわね」
細かな段差があって、肩まで浸かって腰掛けることができたり、足湯のように浸かることもでき――なんといっても、花々が美しく見える場所。完璧なロケーションだと満足気に笑って、フリージアが温泉に足を浸けた。
「うー…! この周囲の花々の綺麗さ! 同じ妖精としてはとっても共感できるわ!」
そう思うと、どこまでも美しいこの風景に心を奪われそうになるけれど、今は我慢だと自分に言い聞かせる。
「やっぱり、まずは春告の妖精達の話を聞きましょう」
相互理解は大事よね、と頷くとスプリングフェアリーを呼ぶ為にシンフォニックデバイスの音量を調節しながら声を上げた。
「春告の妖精、スプリングフェアリー達ー! よかったら、春の美しさを教えてくれないかしら!」
その声はしっかり妖精達に届いたようで、我も我もとばかりにスプリングフェアリー達がフリージアの元へ押し寄せる。
『私達を呼んだのはあなたかしら!』
『春のお話を聞きたいの?』
『いいわ、私達がたっぷりと聞かせてあげる!』
口々にそう言って、集まったスプリングフェアリー達がきゃあきゃあと楽しそうに話し出す。
『まずは何と言っても春を彩る花々よ!』
『緑の新芽も忘れちゃだめよ?』
『風光る空も春を語るには外せないわ! 暖かい日差しに包まれた花々は光輝いて見えるもの!』
三人寄ればなんとやら、それはまるで春を寿ぐ鳥たちの合唱のようにも聞こえ、フリージアは金色の瞳を瞬かせる。
「ああもう、落ち着いて! 凄く熱心に春の魅力を語ってくれてるのはわかるけど、これじゃ何を言ってるのか聞き取れないわ!」
けれど、フリージアの言葉も空しくヒートアップしたスプリングフェアリー達のお喋りは止まらない。
「仕方ないわね」
先程、彼女達を呼び寄せた時にも使ったシンフォニックデバイスの音量を最大限に引き上げる。そうして、息を大きく吸って――。
「……皆! 一人ずつ順番に魅力をあげてくれるかしら!?」
その声は鳥達の囀りよりも高く響き、スプリングフェアリー達の熱の籠ったお喋りがピタリと止まった。
「あのね、私もここの春の景色は大好きよ!」
そうよね? そうよね! と言い合いながら、妖精達が嬉しそうに笑う。
「でも、人に伝えるには興味をもって貰うことが大事なの!」
『興味?』
『春が美しいことに興味を持たない者なんているの……?』
信じられない、という顔をした妖精達に、フリージアがにっこりと微笑む。
「だから皆! 私達で歌を作りましょう!」
『歌?』
『何の歌?』
歌は嫌いじゃないけれど、むしろ好きだけど、とスプリングフェアリーの一人が首を傾げる。それを見て、更に唇を楽し気に引き上げて、フリージアが言った。
「春の魅力を伝える歌を! 歌を聞いた人達が春を好きになってくれるように!」
『素敵!』
『それはとっても素敵ね!』
弾むような妖精達の声に、フリージアが高らかに告げる。
「皆! 今日は盛り上がっていこう!」
その声は不落陽の歌妖精達を呼び出す声。フリージアの喚び掛けに応じ、歌を好む妖精達が次々と現れた。そして、ああでもない、こうでもないと話し合い、一つの歌を完成させる。
「さあ、歌うわよ!」
キャー! という歓声と共に、春を喜び尊ぶ歌が綺麗な旋律と共に紡がれた。それは広い温泉の端まで届くような、美しい春の歌声であった。
大成功
🔵🔵🔵
草野・千秋
◎
水着は2019年コンテストのもの
春、花が咲く美しい季節ですね
お花見しつつ温泉ですって?
いいですね、入りましょうか
この世界の5月は暑くもなく寒くもなくちょうどいい
(ふと)
僕、ね
自分の歌う歌、そんなに嫌いじゃない、むしろ綺麗で好きなんですよ
最近はオリジナルも伸びてきました
実際そんなコメントが配信動画に来てたりしてて
いや!まだだ!(自分の頬をぺちぺち)
僕の歌には上を目指す余地がまだまだある!
なんでも成長しようとすることを諦めたらおしまいだ
それに春というのはいつか終わって
やがて日差しの夏、実りの秋、眠りの冬が来るべきなんです
歌唱、UC【Pluvia amor】で眠っててもらいましょうかね
蛇塚・レモン
春は最高!
あたいは農園を営んでてねっ?
春になって農作業が出来るのはとても嬉しいんだ~っ!
お花見も大好きっ!
本当にここのお花はキレイだよね~っ!
UCで眷属達と蛇神様も呼んで大騒ぎするよっ!
でもこの珊瑚もキレイだよねっ?
親指程度で金貨100枚……っ!
※物欲で感情を抑制する
事前に一緒に花見を楽しんだので、眷属も蛇神様もあたいも減速は無効
そのまま人海戦術で妖精達を個別撃破してゆくよ
蛇腹剣にライムの魂魄を宿して、炎の捨て身の一撃で衝撃波の乱れ撃ち!
眷属達と一緒に鎧無視の範囲攻撃のなぎ払い
最後は蛇神様の破壊光線でドカーンッだよっ!
(念動力+呪詛弾+呪詛+魔力溜め+焼却)
勿論、珊瑚も回収しないとねっ!
●春の大宴会
春、それは桜の咲く美しい季節だと草野・千秋(断罪戦士ダムナーティオー・f01504)は思う。
「お花見しつつ温泉、この上ない贅沢ですね。しかし夏が来る前に水着が活躍するとは……去年買った物があってよかったです」
長すぎず短すぎない、去年のトレンドを取り入れた黒いサーフパンツを着た千秋が微笑む。ポイントは眼鏡のマークなんですよね、と呟きながら、いざ温泉! と足を踏み入れた。
温泉の湯加減は熱くもなく温くもなく、丁度いい。それにこの温泉がある場所は、常春と言うだけあって湯冷めの心配もなさそうだ。
「おや、あれは……?」
見慣れた顔を湯煙の先、少し遠くに見つけて掛けたままの眼鏡越しに目を凝らす。そこに居たのは、金色の髪を温泉に浸かる為に軽く結い上げてはいるが、間違いなく蛇塚・レモン(白き蛇神オロチヒメの黄金に輝く愛娘・f05152)だった。
「春は最高! 春になって農作業が出来るのはとても嬉しいんだ~っ!」
農園を営む彼女は、そう高らかに宣言すると手足を伸ばして温泉を満喫する。そして何気なく向けた視線の先に映るのは美しく咲き誇る桜で、んん~~~! と声にならない声を上げ、ざばんと立ち上がった。
「春! 桜! 温泉! こうなったら宴会しかないよねっ!」
けれど、一人では宴会とは言えない。きょろきょろと辺りを見回し、この温泉が充分に広いことを確認した彼女がどうするのかといえば――。
「村のみんな……蛇神様とあたいに力を貸してっ! 顕現せよ、最古の人類悪……っ! 汝の名は、八岐大蛇!」
ユーベルコードを使い、自分の眷属達と蛇神様を呼ぶことだった。
「あっ、でも人数は少な目でねっ!」
さすがに390人も喚んでしまっては、広い温泉といえど他の人の迷惑になってしまう。
「うんうん、迷惑になることはだめだよね。こんにちは、レモンさん」
「あっ! 草野のおにーさん!」
見知った顔を見つけ、レモンの顔が綻ぶ。それは周囲の花々にも負けない笑顔で、千秋もつられて笑顔を浮かべた。
「それでレモンさんは眷属の方々……と蛇神様を呼んでどうしたんですか?」
大きな、それでも恐らく温泉サイズになっているのであろう白き蛇神を見上げて千秋が問う。
「宴会しようと思ってねっ!」
「宴会」
なるほど、一人では宴会になりませんからね、と納得したように千秋が視線をレモンへと戻す。
「僕も参加していいですか?」
「もちろんっ! 宴会は参加者が多ければ多い程いいんだよっ!」
レモンが未成年ゆえお酒はないけれど、それでも人がいればそれだけで楽しいというもの。千秋が持ち込んでいたクーラーボックスから水分補給用にとジュースを貰い、レモンが乾杯の音頭を取った。
「それではっ! 春に、温泉に、皆に! カンパーーイ!」
「カンパーイ」
喚び出した彼らは幽体だけれども、雰囲気を楽しむように温泉に浸かっているし、蛇神様もレモンが楽しそうにしているのを見て満足そうにとぐろを巻いている。
ああ、春はいいな、美しいとレモンが呟けば、それは体中を巡り抑えきれない感情となってレモンの心を波立たす。
「う、これがこの温泉の真の効能……っ!」
何か自分を抑えるものはないかと、レモンが視線を走らせる。そして見つけた物は――。
「珊瑚! この珊瑚もキレイだよねっ? 美しいよねっ!?」
「そうですね、それ親指大程度の欠片で金貨100枚の価値があるらしいです」
「金貨100枚……っ!」
レモンの身体を物欲が支配した瞬間だった。100枚、100枚って100枚だよね、親指サイズで……? 思わず自分の親指を見つめてしまう。そんなレモンを眺め、千秋は視線を桜へと移す。
そうして、どこからともなく聞こえてきた誰かの歌声に、思わず自分の唇を指先でなぞる。
「ああ、僕は」
自分の歌う歌が、そんなに嫌いではない。この唇が紡ぎ出す歌は、むしろ――綺麗で好きだ。
悪を挫くヒーローを目指す傍ら、別名義で音楽活動をしている千秋は、心の奥底から湧き上がってくる感情に思わず目を閉じた。最初の内は上手くいかなかったけれど、ボイストレーニングを重ね、眠る時間を惜しんで作ったオリジナルの曲は千秋の予想以上に好評だったりするのだ。
「いや! まだだ!」
ハッと目を開き、千秋が自分の頬をぺちぺちと叩く。
「ど、どうしたのかなっ?」
「あっ、すいません、驚かしてしまいましたか? いえ、あの、僕の歌には上を目指す余地がまだまだある! と思いまして」
「向上心、というやつだねっ!」
レモンの言葉に、千秋が頷く。
「そう、そうです。なんでも成長しようとすることを諦めたらおしまいでしょう?」
「わかるっ! あたいも作物の品種改良とか上手くいかなくったって諦めないからねっ!」
道は違えど、諦めない心は同じ。うんうん、と頷きあったところで、二人の視界に映ったのは春告の妖精、スプリングエルフ達だった。
『宴会? 宴会なのね!? いいわね、とてもいいわ! 春と言ったらそれを讃える宴会を開くものよ!』
『そう、そうよ! 春は一番美しいの、素晴らしいんだもの! 永遠に続く春を喜びましょう!』
レモンと千秋が顔を見合わせ、それから妖精達に向き直る。
「春というのは、いつか終わるものです。そして日差しの夏、実りの秋、眠りの冬が来るべきなんです」
成長を願うなら、永遠の春に留まるべきではないだろう。そう想いを込めて、自分にも言い聞かせるように千秋が言う。
「春が美しいっていうのはわかるよっ! でも、それを押し付けるのはちょっと違うってあたいは思うんだよっ! ほら、この珊瑚もキレイだよねっ? 視野は広く持つべきだよっ!」
いつの間に温泉の中から拾い上げたのだろうか、薄紅色のサウナ珊瑚を手にしたレモンが言う。
『まぁ、まぁ! 春が一番じゃないなんて! 春が美しいの、一番美しいのよ!』
普段であればきっと聞き入れられた言葉も、温泉の効果のせいか妖精達には届かない。
「仕方ないねっ!」
レモンが今にも襲い掛からんとする妖精達に向かって、蛇腹状の黒剣クサナギを振るう。宿るはレモンの腹違いの妹であるライムの御霊、炎を纏ったクサナギは、お花見を給仕しようとする妖精達を次々と打ち落とす。
「残念っ! こっちはお花見をめちゃくちゃに楽しんでいるからねっ!」
「あんまり手荒にしては可哀想……かもです、それに珊瑚が台無しになってしまいます」
「む、それもそうだねっ! 悪気は多分ないんだと思うし……」
何より珊瑚が損壊してしまうのはまずい。どうしようか? とレモンが蛇神様を見上げると、蛇神様も温泉を壊すのは本意ではないのか、強力な破壊光線で一掃できるところを困ったように尻尾で妖精達を軽く薙ぎ払っている。
「では、僕が」
僭越ながら、と千秋が一歩前に出て、自然体のままに唇から優しい歌を紡ぎ出す。
「静かに聞こえるのは、恋に恋する花びらの雨の歌声」
マグノリアの花のように甘い歌声が、温泉の一画に響き渡る。それは優しく妖精達を包み込み、眠りの世界へと誘った。
「治癒のおまけ付きですよ」
千秋がそう微笑むと、妖精達の傷は確かに癒えていた。レモンの眷属が彼女達を温泉の岩場へと運ぶと、そこはまた静かで美しい場所へと戻る。
「思いがけない場所でお会いしましたけど、楽しかったです」
「あたいも楽しかったよっ! ありがとう、草野のおにーさんっ!」
にぱっと笑ったレモンの手には、しっかりと幾つかのサウナ珊瑚が握られていたのは内緒の話。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
クシナ・イリオム
アドリブ歓迎
そういえば、記憶がある範囲では忙しすぎてゆっくり花を眺める機会なんてなかったからなぁ…
湯に浸かりながら花の美しさを尊び、無為に時間を過ごすのは素晴らしいと思うけど…
…でもね、今だって忙しくないわけじゃないんだ
【認知掌握幻術】を発動
幻覚魔法でサクラミラージュの町並みや桜吹雪のように春に関する美しい光景が温泉地の外側にあるように見せて
後ろから敵を【暗殺…今回はいいか。
スプリングエルフをさっさと追い返す。
ここは戦地になるかもしれないからね、早めに帰ったほうがいいよ
…さて、休憩は終わり
私達が安心して暮らせる土地を得るためにどこかの領土を得ないといけないから、
綺麗とか美しいとかはまた今度だね
●ひと時の休息
「そういえば、記憶がある範囲では忙しすぎてゆっくり花を眺める機会なんてなかったからなぁ……」
ぽつりと呟いたのは、透明な翅と共に手足を伸ばして温泉に浸かるクシナ・イリオム(元・イリオム教団9班第4暗殺妖精・f00920)だ。こんなにゆっくりとしたのは何時ぶりだろうかと、思わず覚えてる限りの記憶を掘り起こす程。
「湯に浸かりながら花の美しさを尊び、無為に時間を過ごすのは素晴らしいと思うけど……」
そして、確かに美しいと感じている。それは間違いようのない事実だけれど、クシナにはその感情に身を委ねられない事情があった。
クシナはその身体……妖精である小さな体躯を武器に戦う猟兵だ。対象者に気付かせることなく事を終わらせる暗殺、それが一番得意だと自負している。
「うん、桜も花々も、広がる空も美しいよ」
灰色の目を瞬かせ、クシナが言う。この衝動に身を任せられたなら、それはどんなに――。
でも、とクシナが閉じかけた瞳を開く。
「だけど、今だって忙しくないわけじゃないんだ」
誰にも聞こえない声でそう言うと、浸かっていた温泉から立ち上がる。春告の妖精達がこちらへ来るのが見えたからだ。
「対象の認知機能を把握、解析……幻覚魔法、起動」
スプリングフェアリー達はまだこちらに気が付いていない、ならばこの戦法は有効だ。即座に判断して展開したそれは、サクラミラージュの街並みや、桜吹雪といった春に関する美しい光景をクシナがいる温泉の外側にあるように見せる幻覚魔法だ。
『まあ、まあ! 見たことのない街並みだわ! 桜がいっぱいよ!』
『なんて大きな桜かしら! あんなに大きくて美しい桜、そうそう見られるものではないわ!』
素敵、と口々に騒いで、スプリングフェアリー達がクシナの見せる幻へと向かう。掛かった、そう思いながらクシナが彼女達の背後から襲い掛かる。
「動かないで」
『きゃあ! なぁに、どうしてこんなことをするの!?』
ナイフを手にしたクシナに、狼狽えた様にスプリングフェアリー達が抗議する。暗殺するほどの相手ではないと、息を吐いてクシナがナイフを引くと、スプリングフェアリー達に向かって言った。
「手荒な真似をして悪かったね。ここはあなた達にとって楽園のような場所かも知れないけれど、戦地になるかもしれないんだ」
『こんなに平和な場所のに?』
「帝竜達が動いているのを知らないのかな?」
呆れたように言うクシナに、妖精達が慌てたように顔を見合わせる。
「ね、わかったら早めに帰ったほうがいいよ」
『……大丈夫になったら、また来てもいいわよね?』
「そうだね、それを決める権利は私にはないからね」
それなら、と名残惜し気に妖精達がどこかへ向かう。それを見送って、クシナは幻術を解いた。
「さて、休憩は終わり」
ぐっと伸びをして、濡れた翅を震わせて水気を飛ばす。思ったよりも休めたな、と無表情なクシナの唇がほんの僅か、見てもわからない程に僅かだけれど、持ち上がる。
「私達が安心して暮らせる土地を得る為だからね」
教団の暗殺者として己の意思もなく生きていた頃と比べれば、随分と変わったものだとクシナは思う。クシナを待つ仲間――兄弟達の為にも、頑張らなくては。気を引き締めながら、もう一度遠くで揺れる桜を眺めた。
「綺麗とか、美しいとかは……また今度だね」
きっといつか、仲間達と一緒に春の美しさを楽しむ時が来ると信じて、クシナは翅を羽ばたかせた。
大成功
🔵🔵🔵
ベール・ヌイ
きれいなものは一人でみるよりも一緒にみたい、そんなヌイです
見とれたとしても、頭のなかで、一緒にみたい人を思い起こせば、思考の隙ができる
そのタイミングで自分に一本だけ【ベルフェゴールの矢】をさします
痛みは「激痛耐性」で耐えて、綺麗だと思う感情を、いったんリセットして残りの矢を全部エルフ達に打ち込みます
アドリブ協力等歓迎です
クトゥルティア・ドラグノフ
※アドリブ共闘大歓迎
綺麗という感情かぁ……私は夏と冬が好きなんだよねぇ
春は……ごめん、花粉が辛いや
群竜大陸の一部って凄く綺麗で……ずっと見ていたくて……はっ!?
だめだ抑え込め!
確かに春の桜も綺麗……だからダメだって!!
くっ、耐えろ私!汚い光景を想像するんだ!そうだヘドロまみれの海とか……嫌だなぁ!
そんな感じで、心底自分が嫌な汚い景色を妄想し続けることで、抑え込もうとチャレンジするよ!
なんか勝手に真の姿にされた!?
しかもなんか違和感が凄い!
でも、これはこれで使えるかも
【戦闘知識】と【野生の勘】を活用して攻撃や隙を【見切り】【切り込み】離脱を繰り返す
大きな隙を見付けたらUCでパイルドライバーだ!
●綺麗なものを、誰かと
「ふう……本当に気持ちいい……」
銀色の髪を軽く結い上げ、黒の可愛いビキニ姿で温泉に浸かっているベール・ヌイ(桃から産まれぬ狐姫・f07989)が、ほう……と息を吐く。それはちゃぷんと波打つ温泉の湯の中に吸い込まれていったけれど、ベールは気にせず湯煙の先に見える美しい景色に目を遣った。
「うん、きれい……」
「確かに綺麗だよねぇ」
うんうん、と頷いたのはベールの横で同じように長い髪を纏め、ベールとは対照的な白い水着を纏ったクトゥルティア・ドラグノフ(無垢なる月光・f14438)だった。
「あなたも、そう思う……? ええと、ヌイはベール・ヌイ、だよ」
「おや、これはご丁寧にどうもね! 私はクトゥルティア・ドラグノフ、よろしくねぇ。長いからクーって呼んでも構わないよ!」
温泉で隣り合った初対面の者同士が話をするのは、珍しいことではない。袖振り合うも多生の縁、とまでは言わないが、このひと時を楽しむのは悪くないとベールは静かに微笑む。
「そうだね、綺麗……うん、まぁそう思わなくもないんだけど、私は夏と冬がすきなんだよねぇ」
「それは、どうして……?」
「うん? 暑いのも寒いのも、私はいいものだと思うからだね! それに、春はほら……ごめん、花粉が辛くて」
花粉、そうそれは春を美しいと思う気持ちを凌駕して憎しみに近い感情を抱かせるもの。一つならまだしも、スギが終わりかけたらヒノキってなに? 二段構えで来るのは何故なのか。本当に意味がわからない……!
「そう、なんだ……大変だね」
「ありがとう、でも春に関わらず、群竜大陸の一部って凄く綺麗で、ずっと見ていたく……」
「うん、わかるよ。今見ている景色もきれいだって、ヌイも」
心の底から出た言葉に、花粉の辛さを思い出していたクトゥルティアも、思わずうとうとしていたベールの目もぱちりと開く。その感情は、クトゥルティアとベールの心の中に留まらず、いっそ暴力的だと思う程に全身を駆け抜けていくようで、思わずベールは自身を抱き締めた。
「だめだ抑え込め! これは本当に拙い気がするよ!」
「うん、これは……ちょっとおかしくなってしまうのも、わかる……」
クトゥルティアの言う通り、この感情に身を任せてしまっては拙いとベールの理性が警鐘を鳴らす。
『あら、どうしたの? 春の美しさの中で、どうしてそんなに苦しそうな表情を浮かべているの?』
『大丈夫、私達と一緒に春の美しさを語りましょう! 春ってとっても綺麗なの、見て! あっちに咲いている桜が花びらを散らしていてとっても風情があるわ!』
どこからともなく現れたスプリングエルフ達が、クトゥルティアとベールの周囲を取り囲む。
「確かに春の桜も綺麗……だからダメだって!!」
湧き上がる感情を抑え込む為、クトゥルティアは苦し紛れに思い付く。そうだ! 汚い光景を想像するんだ! と。そして目を閉じると、それをそのまま実行した。
「うん……ヘドロまみれの海とか……嫌だなぁ!」
ちょっとした拷問みたいな妄想を続けるクトゥルティアの横で、ベールがスプリングエルフ達の言葉に答えつつ戸惑いの表情を浮かべていた。
「きれい、うん、きれいなのは、わかるけど……ええと、こういう時は……」
そっと目を閉じて、ベールが心の中に誰かを思い浮かべる。
それは日ごろ仲良くしている人達であったり。
それから、それから――。
「一緒にいたい、ひと」
そんな、心に浮かぶ人達と一緒にこの美しい景色を見ることができたなら、それはなんて。
「しあわせ、っていうんだ」
ベールはそう微笑むと、自分自身に一本だけベルフェゴールの矢を刺す。その動きに躊躇いはなく、表情に歪みすらない。
「痛みは……耐えられるから」
『まぁ! まぁ! 春の美しさを理解できないのかしら! だめよ、とってもだめだわ!』
『春の綺麗さをわからせてあげるわ!』
スプリングエルフ達がお花見をしましょう! とベールとクトゥルティアへ給仕を始める。
「お花見、もう充分ヌイは楽しんだから……」
ごめんね、とベールが呟いて、ベルフェゴールの矢を妖精達に撃ち込む。その矢が当たった妖精達は原動力となる感情を失って、へたりとその場に座り込む。中にはぷかりと温泉に浮かんでいる者もいた。
一方、クトゥルティアはまだ汚い景色を妄想していた。
「ヘドロの海……ゴミ山……」
『もうっ! 綺麗な景色を楽しみなさーい!』
「えっ、えっ!?」
身体に違和感を感じ、クトゥルティアが目を開ける。手を見れば鋭い爪が伸び、波打つ水面になんとか自身を映して見れば、体付きも女性的なそれからドラゴンに近い姿に変わっている。
「なんか勝手に真の姿にされたー!? しかも違和感がすごい!」
というか、違和感しかないと思いつつ、これはこれで使えるかもしれないとクトゥルティアの猟兵としての勘が囁く。残った数は多くない、ならば! とクトゥルティアが動く。
「これでノックダウンだ!!」
妖精達の目を覚まさせる程度のダメージを与える為に、細心の注意を払いながらサイキックエナジーで作った大腕を振り下ろす。きゃあきゃあ、と声を上げて妖精達が散り散りになっていくと、クトゥルティアの姿も元の姿に戻っていく。
「おつかれ……」
「いやほんと、お疲れ様だよ」
ふう、と互いに顔を見合わせ、自然と浮かんだ笑顔を交わし合う。
「もうちょっと浸かっていくかな?」
「そう、だね……もう少しだけゆっくりしても……いいよね」
今度こそゆっくりと、綺麗なものを綺麗と思いながら。そうして、クトゥルティアとベールは僅かながらも静かな時間を過ごしたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フィオリナ・ソルレスティア
◎【姉弟2】【WIZ】
■作戦
弟の傍で姉の威厳を保つことで感情を抑え込む
■行動
水着で温泉へ。そっと温泉に浸かり周囲に咲く花に目をやると
「え、何。綺麗…」
風にそよぐ春の草花がとても綺麗で思わず見惚れてしまう
春の美しさにずっと包まれていたい気持ち
そっと手を伸ばそうとしつつ、急に隣の弟の気配を感じて
『姉の威厳』を拠り所に感情をグッと抑え込む
弟の視線に苦笑しつつも嬉しく思いながら
「フォルセティ、まだまだよ。私はもっと綺麗になるんだから」
妖精達に向き直り詠唱態勢に。
「春は美しい。でも四季の移ろいこそもっと美しいのよ」
[範囲攻撃]で【フィンブルの冬】を発動しスプリングエルフに
冬の厳しくも美しい世界を与える
フォルセティ・ソルレスティア
◎【姉弟2】【WIZ】
【行動】
セーラー風な水着で温泉に肩までつかるよ。
「あれ、フィオ姉ちゃん?」
隣にいるフィオ姉ちゃんを見ていると、すごく綺麗で目が釘付けになったよ
赤く燃える髪に、熱い意志を宿した瞳、透き通るような白い肌
いつも見慣れていたフィオ姉ちゃんなのに、吸い込まれそうな気持ち
ずっともっと触れていたいよ
手を伸ばそうとしたら、急に目が合っちゃった
「えっ? そうなの?」
声をかけられてびっくりしたけど、自分を取り戻せたかも
しっかりしないとフィオ姉ちゃんに怒られちゃうね
「ボク、大丈夫だよ。フィオ姉ちゃん」
綺麗だなって気持ちをグッと呑み込んだらスプリングエルフに向かって
カラミダド・メテオーロだよ
●綺麗なあなたに果てはなく
光沢のある赤いリボンが映える白いフリルのビキニに身を包んだフィオリナ・ソルレスティア(サイバープリンセス・f00964)と、一瞬女の子かと見紛うばかりのセーラー風の水着を可愛く、それでいて凛々しく着こなしたフォルセティ・ソルレスティア(星海の王子様・f05803)が連れ立ってやってきたのは、件の温泉だ。
「綺麗って感情が爆発しちゃう温泉、ここだね」
「そうね、本当に常春みたいに暖かくて、それでいて風も気持ちいい……素敵な場所ね」
天然の岩場に囲まれた、広い温泉。見渡す景色は春に包まれていて、心まで軽くなるよう。
「さ、入るわよ」
「うん!」
姉に促され、弟であるフォルセティが温泉へ足を浸け、そのまま座り心地の良い場所に腰を落ち着ける。すぐにフィオリナもその隣に座り、手足を伸ばした。
「ふわー……すっごい気持ちいいね、フィオ姉ちゃん」
「んん……本当ね、なかなかいい湯加減じゃない」
悪くないわ、とフィオリナが周囲に咲く花々に目を遣る。
「え、何……?」
温泉に入る前も、綺麗だと思っていたはずなのに。風にそよぐ春の草花が余りにも綺麗で、フィオリナは目を見張る。
「綺麗……」
思わず見惚れてしまって、隣にフォルセティがいるのも忘れてしまう程だ。
そんなフォルセティはどうしているかといえば、フィオリナが呟いた綺麗という言葉に何気なく姉の方を見て目が釘付けになっていた。
「……フィオ姉ちゃん?」
見慣れたはずの姉なのに、炎が燃えるような美しい赤い髪、熱い意思を宿した瞳、水滴を弾く透き通った白百合のような肌、紅玉のように艶やかな唇、その全てが綺麗に感じて、思わず吸い込まれてしまいそうになる。
見ているだけではもったいなくて、触れる距離にいるのなら触れてしまいたい。そんな欲求のままにフォルセティがフィオリナへと手を伸ばした。
フィオリナもまさに同じような気持ちで、対象は違えど指先を花々に伸ばそうとしてハッと我に返る。そして、隣から伸びてきた弟の気配に、自分が温泉の効力にのまれようとしていたことに気が付いた。
いけない、このままじゃ姉の威厳というものが台無しになってしまう! よく見れば弟は温泉の効力にやられたような感じになっているし、呟いている言葉は『フィオ姉ちゃん、綺麗だ……』だ。
もしかしなくても、自分のことを綺麗だと感じてくれているのかと思うと、少し嬉しくなってしまう。けれど、ここはぐっと我慢だとフィオリナは自分に言い聞かせる。そして、高々と告げた。
「フォルセティ、まだまだよ。私はもっと綺麗になるんだから」
「えっ? そうなの?」
これ以上綺麗になってどうするのか、と思ったけれど、姉の言葉によりフォルセティは自身を取り戻す。
『あら、ねえあなた達! ここの春はどうかしら! とってもとっても綺麗でしょう?』
『どこにも負けない、常しえに美しい春よ! あなた達も春が一番綺麗だと思うでしょう?』
姉弟がなんとか美しい、綺麗だと思う感情を抑え込んだ時に春告の妖精達がふわふわした笑顔を浮かべてやってくる。
「いや、ボクはフィオ姉ちゃんの方が」
「フォルセティ?」
あわわ、と慌てたフォルセティに妖精達が怒ったような声で捲し立てた。
『どうして!? どうして春が一番じゃないの? 春に勝る綺麗なものなんてないのに!』
『そうよ! そうよ!』
常であれば正しいかもしれない主張は、温泉の効果に捻じ曲げられて酷く押しつけがましいものに聞こえてしまう。美しくないわね、と静かに呟いてフィオリナが妖精達と対峙する。
「大丈夫ね?」
「大丈夫だよ、フィオ姉ちゃん」
姉の信頼を滲ませた声に応えるように、フォルセティが立ち上がる。まずは先制攻撃だと、フォルセティが聖箒ソル・アトゥースを妖精達に向けると高速詠唱による呪文を唱えた。
「悠久に揺蕩う無限の星屑よ。星柩満ちて此へ集うは漆黒の紅炎」
それは本来であれば灼熱の巨大隕石で相手にダメージを与える、惑星を源とする魔術。なのだが、さすがにそんなものを落としてしまっては温泉が大変なことになってしまう。
「ちゃんと手加減はしてあるからね!」
フォルセティが呼び出したのは小さな隕石で、なるべく妖精達に怪我をさせないように威力を落としたもの。
「腕を上げたわね、フォルセティ」
負けてはいられない、とフィオリナも妖精達に向き直ると、胸を張って言い放つ。
「春は美しい。でも四季の移ろいこそもっと美しいのよ」
春だけでは季節の美しさは語れない。身を以て知るといいわ、と微笑んだフィオリナが瞬く間に光り輝く白銀のドレスを身に纏う。
「氷の檻に閉じ込めてあげる。氷結へ導け、黄昏の吹雪よ!」
凍てつく氷雪の竜巻の威力を落とし、寒さを体験させるのだ。雪の女王の如き凛としたフィオリナの立ち姿の前に、フォルセティの魔法で少し弱っていたのもあるのだろう、スプリングエルフ達は降参とばかりに膝を突いたのだった。
「普通に戦うよりもちょっと疲れた気がするね……」
「きっと精神に作用するものだからよ」
スプリングエルフ達を撃退し、再び二人は姉弟仲良く温泉にその身を浸す。疲れが取れたら、また違う戦場へ向かう為に――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
レーヌ・ジェルブロワ
アドリブや連携OKです
温泉に入るのは、初めてです。
あまり露出しないように、ワンピースタイプの水着を着ましょう。
『綺麗と思う感情』ですか。これは、春に対する愛を語らうのが良いでしょうね。
わたしの故郷には、春とはいえ此ように美しく花が咲き誇ることはありません。
此の世界は本当に美しい…
ああ、『お花見』というのも素敵な文化ですね。花を愛でるのに、種族や世界は関係ない。
例え、オブリビオンであっても、此の美しさを共有できるのは、なんと素晴らしいことでしょう。
骸の海も、彼岸の世界も…とこしえの春であれば、と思ってしまいます。
妖精さんたち。此の花々の前で、花を散らすような戦いは不用。共に、春を愛でましょう。
●春を愛でる
白い薔薇をモチーフにしたようなフリルの付いた、ワンピースタイプの可愛らしい水着を着て、レーヌ・ジェルブロワ(いやはての白薔薇・f27381)が恐る恐る温泉に足を浸す。
「わ……温かくて気持ちいいですね……!」
初めて触れる温泉に、レーヌが驚いたような声を上げてからきょろきょろと辺りを見回す。
「良かった、誰にも聞かれていないですね」
恥ずかしそうに笑うと、足だけではなく全身を温泉の湯へと沈めた。じわじわと全身に広がる心地よい感覚に、思わず溜息を零してしまう。
「これはちょっと、癖になってしまいそうですね」
手足を動かすと、穏やかな水面が波打って面白い。暫くぱちゃぱちゃと楽しんでいると、春告の妖精達がレーヌの方へやって来るのが見えた。
「……すっかり温泉を楽しんでいましたけど、綺麗と思う感情を増幅させる温泉でしたね」
本来であればオブリビオンである春告の妖精、スプリングエルフは倒すべき存在だ。
「それでも、言葉が通じるのなら……」
話すことで理解を得ることができるなら、そうしてみたいとレーヌは思う。そう決意したからには、彼女達の話を聞いてみようとレーヌは姿勢を正した。
『あら、こんにちは! 春ね!』
レーヌを見つけたスプリングエルフが、早速春を全面に押し出しながら声を掛ける。
「そうね、ここは素敵な春を感じられる場所ですね」
そう答えたレーヌに、スプリングエルフ達が嬉しそうな笑みを浮かべて囲むように腰を落ち着けた。
『まあ嬉しい! あなたは春を綺麗だって思うのね! そう、そうなのよ、春は一番綺麗なの! 見て!』
スプリングエルフが指さした先には、春を彩る花々が咲き乱れ、更にその先には桜の花も見える。それは確かに青く澄み渡る空と相まって、とても美しく見えた。
とくん、とレーヌの胸が鼓動して、綺麗だと思う感情が駆け巡る。
「ええ、わかります。とっても綺麗……」
口に出すと余計にその感情が暴れるような気がしたけれど、なんとか押し殺して目を閉じて深呼吸をひとつ。
『あら、どうしたの? もっと春の美しい景色を眺めましょう!』
「はい、ぜひ春に対する愛をあなた達と語らえたらと思います。でも、その前に少し春の空気を吸い込みたくて」
本当は自分を落ち着ける為の深呼吸だけれど、スプリングエルフ達を刺激しないようにとレーヌは言葉を選ぶ。
『そう、そうなのね! 春の空気は柔らかくて、とっても素敵な香りを運んでくれるのよ!』
「確かに……花の香でしょうか? わたしの故郷には、春とはいえこの場所のように美しく花が咲き誇ることはありません。ですから、こんなにも春が綺麗なものだとは思いもしなくて……この世界は本当に美しい」
『まあ、まあ、春なのに? それは寂しいことね、でもここは見渡す限り春に満ち溢れているわ!』
だから存分に楽しんでいって、お花見もいいわね、等と口々にスプリングエルフ達がレーヌへ話し掛けた。
「ああ、お花見というのも素敵な文化ですね。花を愛でるのに、種族や世界は関係ない。わたしはそう思います」
骸の海も、彼岸の世界も…常しえの春であれば、とレーヌが願う。そうであれば、如何ほどに心は慰められるのだろうか。
『楽しかったわ!』
『ええ、とっても素敵なひと時だったわ!』
思う存分、春がどのように綺麗かを語り終えたスプリングエルフ達は、満足そうに笑ってレーヌにまたお会いしましょうと声を掛けて去っていく。
「さようなら、妖精さん達。……この美しい花々の前で、花を散らすような戦いをしなくて済んで、本当に良かったです」
さて、どうしようか。折角ここまでやってきたのだから、もう少しこの春を愛でていたい。レーヌはそう思いながら、戻らなくてはいけない時間まで、春の美しさを心の隅々まで堪能したのだった。
大成功
🔵🔵🔵
雨野・雲珠
【鏑木邸3】
温泉に浸かるうち
春を讚える気持ちとテンションが常にないほどあがりきった結果、
岩に直正座して妖精さんと静かに、しかし熱く語り始めます。
ええ、ええ。わかります。
俺は極寒の雪里の生まれでしたから。
冬の果てにやってくる短い春は
それはそれは美しくて、
里中の皆が待ち焦がれたものでした。
夏も秋も冬も好きですが、
やはりいのち芽吹く春のきらめきは最高。
何にも代えがたい喜びがあると思うんです。
(段々高まってきた)
(ヨシュカくんと猫さんたちに向かって)
みなさま、春はお好きですかー!
ひなたぼっこはお好きですかー!
一瞬幻覚を見たことで我に返ります。
はっ。俺は何を
そうだ、サウナ珊瑚
乱獲はだめですおふたりとも!
ヨシュカ・グナイゼナウ
【鏑木邸3】
雨野さま??あの、そんな岩に直接正座なさって、それに折角温まったのに
湯冷めしてしまいますよ?あれ、聞こえてない?ちょっと呼んで参りますね
※※※
わかります…!わたしの故郷はずっと曇り空で太陽は見えなかったのですが
それでも森の木や草達は春になるときちんと芽吹いて!恵を我々に与えてくださるのです
故郷を出て初めて太陽の下見た春は本当に綺麗で、全部がきらきらしてました!
どこからともなく現れた猫達(総勢67匹)にまざり
雨野さまの春コールに答え
大好きでーす!
お日さまに干した洗濯物も大好きでーす!ふわふわ!
…あれ?鏑木さま、なんだか疲れたお顔をしてますね?
はっ!そうだ!100万円(珊瑚)乱獲です!
鏑木・寥
【鏑木邸3】
まさか戦争で温泉に入れるとはな
あったまったしそろそろ出るか、おーい少…
…少年?
ヨシュカ頼むよ、大分盛り上がっているみたいだ
俺は此処で酒でも飲んでるからさ
※※※
……
ミイラ取りがミイラ…
岩の上で話し込む二人と猫たち(67匹)を眺め
これは年長者が何とか止めるべきなのだろうか
いや、あの中に入っていく勇気と気力はない
コールまでやってる
………お、おーー
……やめよう、煙管どこだ煙管
ちょっと皆醒ましてやろう、そろそろ湯冷めしちまうだろ
おはよう少年、気分どうだ?
ま、元気そうならよかった
よし、帰りに山ほどのサウナ珊瑚を取っていくぞ
俺たちのトレジャーハントはこれからだ!(網構え)(感情の我慢の限界値)
●宴もたけなわ
「春、春ですね……!」
「春ですね」
「春だな……」
テンションの差はあれど、三人は温泉に浸かりながら確かに春を感じていた。
温泉に浸かりながらの花見は二度目だけれど、あの時は足湯だったなと思い出しながら、温泉の中でも姿勢よく座る雨野・雲珠(慚愧・f22865)はひたすらに桜を眺めていた。
「サクラミラージュの幻朧桜も良いですけど、普通の桜というのも美しいですね」
そうは思いませんか! とヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)と鏑木・寥(しあわせの売人・f22508)に向かって振り向いた雲珠の目は、どことなくキラキラとしているように思えてヨシュカはそうですね、と頷いた。
寥はといえば、どこで見たって桜は桜だろうと思っていたが、雲珠の手前それは心の中に仕舞う。そして、やっぱりこの温泉あれだな、聞いてた通り感情の発露が普段よりも格段に分かり易いと頭の片隅で考えながら、そうだなと頷いていた。
そして再び桜に目を向けた雲珠は、春はなんて美しいのだろうかという気持ちを抱えながら、それをぐっと堪えて溜息を落とす。いつもであれば、手酌をする寥にお酌の真似事でもしようかと思いつくところなのだが、正直それどころではない。だって春だ、目の前に春が広がっているのだ。
「鏑木さま、わたしがお酌しましょうか?」
「ああ」
承知しました、と微笑んで、ヨシュカが寥の持ち込んだ徳利を持つと、丁度いい塩梅で酒を注ぐ。
「まさか戦争で温泉に入れるとはな」
「ええ、予想外でしたけど……鏑木さま風に言うなら、悪くない、といったところでしょうか」
「違いねえ」
唇の端を持ち上げて笑った寥に、ヨシュカもふんわりと笑い返した。
「あったまったし、そろそろ出るか?」
「わたしはどちらでも、雨野様は……あれ?」
「おーい、少……」
少年? と呼んだはずの寥の声は声にならず、僅かながらだが口が開きっぱなしの状態で、寥は雲珠が岩場に正座をしているのを見た。
「……なんだ、酔ったのか、俺は」
「いえ、わたしにも雨野様が岩場に正座して、その……妖精達と話をしているように見えます」
「そうか」
短く返事をし、寥が改めて雲珠と妖精達を見る。雲珠はそれはもう今までに見たことがあっただろうかという程に楽しそうな顔をしていたし、妖精達も負けないくらい楽しそうな顔をしている。知ってる、あれは趣味を同じくする者達がその趣味について語っている時の顔だ。
「雨野さま?? あの、そんな岩に直接正座なさって、それに折角温まったのに湯冷めしてしまいますよ? あれ、聞こえてない?」
「聞こえてねえだろうな」
執筆に入った作家と同じようなものだ、見たことがあると言えば、そういうものなんですねとヨシュカが頷く。
「では、ちょっと呼んで参りますね」
「頼むよ、大分盛り上がってるみたいだ。俺は此処で飲んでるからさ」
お任せください、とヨシュカが立ち上がって雲珠の方へ歩いて行く。まあ大丈夫だろう、そう思って寥は再び酒に口を付けた。
一方その頃、ヨシュカと寥にそんなことを言われているとは露とも知らぬ雲珠は、春を讃える気持ちとテンションが上がりまくった結果、その頭に生えた桜の枝を七分咲きにしながら妖精達を相手に春の良さを語り合っていた。
正座をした雲珠に倣い、何故か妖精達も正座をしている。
『春はね、一番綺麗な季節なの! 全てがキラキラと輝いて見えて、なんだか空気すらも光っているような気持ちになるでしょう?』
「ええ、ええ。わかります。俺は極寒の雪里の生まれでしたから、空気が光っているような感覚はよく……!」
わかるわよね、わかります、そして皆で頷き合う。このやり取りを幾度となく繰り返しているのだが、飽きることはない。だって春は美しいんだもん!
「冬の果てにやってくる短い春は、それはそれは美しくて……! 里中の皆が待ち焦がれたものでした」
『わかるわ! その気持ち、私達もとってもよくわかるのよ! 春は短くて、すぐに過ぎ去ってしまうの……だからこの場所を見つけた時の私達の喜びといったら!』
「わかります……! わたしの故郷はずっと曇り空で太陽は見えなかったのですが、それでも森の木や草達は春になるときちんと芽吹いて! 恵を我々に与えてくださるのです。春はそう、惠の季節なのです……!」
突然の声に、おや? と雲珠と妖精達が声のした方を見る。と、そこには同じように正座をし、深く頷くヨシュカがいた。
「ヨシュカくんもそう思いますか!?」
「はい!」
春を讃える仲間が、一人、増えた!
「夏も秋も冬も好きですが、やはりいのち芽吹く春のきらめきは最高」
「はい! 初めて太陽の下で見た春は本当に綺麗で、全部がきらきらしてました!」
『春のきらめき、春はどこもかしこも、誰もかれもを輝かせるの! 花びらの一枚一枚が光りを放っているのよ!』
「そうです! 猫もきらきらと!」
猫も。そうヨシュカが言うと、どこからともなく猫が現れ、雲珠とヨシュカ、そしてスプリングエルフ達の周囲を取り囲むように座った。これはヨシュカが自覚なく発動したユーベルコード、廻猫なのだが今はそんなことはどうでもいい。だって六十七匹も猫がいるんだもん!
「猫も……猫の皆さんも春がお好きなんですね……!」
これにはテンションも上限値を突破するしかない。雲珠が七分咲きだった頭上の枝を満開にして立ち上がり、ヨシュカやスプリングエルフ達、そして六十七匹の猫に向かって叫んだ。
「みなさま、春はお好きですかー!」
「大好きでーす!」
『大好きよー!』
「にゃーん!」
雲珠のコールに応えるように、猫達も鳴く。
現場の空気は最高潮、グルーヴも高まり切っている。雲珠が腕を振り上げた。
「ひなたぼっこはお好きですかー!」
「お日さまに干した洗濯物も大好きでーす! ふわふわ!」
『ひなたぼっこをしながらのお昼寝も大好きよー!』
「にゃにゃ、にゃーーん!」
猫達による歓声が沸き上がる。春って最高!
岩の上で話し込む二人と六十七匹の猫達をちょっと遠くから眺めていた寥が、些かドン引いたような顔で呟いた。
「ミイラ取りがミイラってああいうのを言うんだろうな……」
その声に相槌を返してくれる者はおらず、寥がどうしたものかと頭を掻いた。
「これは年長者として俺が何とか……」
止めるべきなのだろうか。あれを? もう一度目を細め、件の岩場を見る。
「無理だな」
即断即決だった。あの中に入っていく勇気と気力はない。何より、あそこに行ってしまえば自分も同じような目に合うに違いない、無理。そしてまた、響くコールに、寥がなんとなく小さな声でのってみる。
「お、おーー……?」
慣れないことはするもんじゃない、と軽く首を振った寥は愛用の煙管を探す。
「あったあった、と」
そして何の変哲もない使い古された煙管に向けて、遠火で火を点けた。
「そろそろ目を醒ましな、湯冷めしちまうだろ」
寥がそう言うと、薄っすらと花の香がする紫煙が雲珠やヨシュカ、スプリングエルフ達を包み込む。それは瞬きの間の幻、ぱちんと目が覚めたように、雲珠とヨシュカが正気を取り戻す。
「おはよう少年、ヨシュカ。気分どうだ?」
「は、はい! おはようございます……? 俺は何を、あっ桜咲いてるじゃないですか!」
ぱちぱちと目を瞬かせ、頭上がもっさりすると枝に手を触れた雲珠が慌てたように言う。
「落ち着け、もう散り始めてるから大丈夫だろ」
「……あれ? 鏑木さま、なんだか疲れたお顔をしてますね?」
ヨシュカはこてん、と首を傾げて岩場から立ち上がると、雲珠と共に寥の方へと歩き出した。
「ま、元気そうならよかった」
スプリングエルフ達には少し長めの幻を、と追加で紫煙を燻らせた寥が雲珠とヨシュカに向き合う。
「春と温泉は満喫できたか?」
「はい……その、だいぶ」
「楽しかったです!」
ちょっと、いや大分居た堪れないのだろう、雲珠がすっかり頭上の枝から桜を散らして項垂れる。ヨシュカはその横で、あの岩場で思い思いに寛ぐ猫を見て満面の笑みを浮かべていた。
「よし、それじゃあ帰りに山ほどのサウナ珊瑚を取っていくぞ」
「はっ! そうだ! 百万円乱獲です!」
「はい、えっ」
サウナ珊瑚、推定価格親指大の欠片で百万円を前にした狩人の目は本気と書いてマジだ。
「ついてこい、ヨシュカ、少年!」
「はい!」
「えっ、あの、鏑木さん!?」
なんだか雲珠が知っている寥のテンションではなく、思わず二度見してしまう。
「あれ、あの、もしかして俺達が温泉の効果でおかしくなってたみたいに……?」
見れば温泉の湯の中に向かって、寥が網を構えているのが見えた。
「俺たちのトレジャーハントはこれからだ!」
「はいっ!」
「乱獲はだめです、おふたりとも!」
慌てて止めに入る雲珠だったが、二人に遅れてテンションが駄々上がりになった寥を完全に止められるはずもなく――。
サウナ珊瑚の恩恵にあやかることとなったのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
国栖ヶ谷・鈴鹿
【交流部+4】
【温泉】
今日はみんなで温泉! みんなの綺麗を感じる気持ちってどんな時?
ぼくは、違う世界で見れる街の景色や不思議な光景に、特別なものを感じるかな!
マリアの審美眼に独特さを感じたり、なんだか素面じゃない早紗の様子に「んん?」となって。
【妖精さんと綺麗の感情】
なんだかここだけ春っぽくて綺麗だよね、妖精さんも楽しそうだし、話を聞きながら、綺麗なものがたくさんある事を思い出して気持ちを落ち着けて、春と言えば綺麗なもの、サクラミラージュの桜のポートレヱトを見せてあげて、妖精さんにも色んな景色がある事を知ってもらおうか。
のぼせたみんなには、ぼくの特製冷たい桜オレをご馳走するね。
御桜・八重
【交流部+4】
水着でおんせーん!
はふー、お湯は気持ちいいし、
花は咲き乱れてるし、最高だねえ。
ねえ?(と特製桜オレ(冷)片手に妖精に)
春や綺麗なものの話でみんな(妖精含む)と盛り上がる!
うんうん、他の季節も好きだけど、やっぱり春はいいよねえ。
あったかくて風は気持ちいいし、お花は沢山咲くし♪
あ、それわかる。違う世界って行ってびっくりだったよ~
数式…あはは~(お湯にブクブク)
いやあ、早紗さん、照れるよう~♪
わたしが綺麗って思うのは、やっぱり桜かな?
咲く時も、散る時も綺麗だよね~
華やかさも侘しさもあって…ん~、桜最高!
やんややんやと盛り上がり、気づけば赤ら顔。
ふひー、のぼせた~
妖精さんも大丈夫~?
蛭間・マリア
【交流部+4】
Wizで判定
ふう…いいお湯。水着を着て入るのは初めてだけど、案外違和感が無いものね。
私が綺麗だと思うもの?
花や星は勿論綺麗だけれど、整った数式や、絶妙なバランスで成り立っている自然も綺麗だと思うわ。
妖精に対しては、彼女たちが綺麗だと思うものについての話を聞き、同意しながら盛り上げていくわ。興奮していても、体力の限界はあるはず。疲れてきた頃を見計らって、説得にかかりましょう。
湯あたりしてしまった人は”医術”で介抱するわ。
説得の仕方は…他の人にもそれぞれ綺麗だと思うものがある事を伝えたうえで、「色々な綺麗さを知っていれば、沢山の綺麗なものを見られる」と教えられれば十分かしら。
華都・早紗
【交流部4】 【温泉】
いや~~ええとこや~ん。
皆で温泉なんて初めてちゃうかな~楽しみやったんや~♪
え、綺麗??
せやなぁー、皆やな。
皆が何かしてる姿がめっちゃ綺麗?かわいい?めんこい?
感じに思えるなぁ。
人間は皆ええ子、特に交流部の子らなんて
何してても絵になるわ。
若い子達が頑張ってる姿ちょ~かわいい綺麗。
なでなでしてあげたいわ。
ん???なんやテンション上がっとるな。
これが感情が爆発どうのこうの?? まぁええやん、解放しとこ。
あ、あんたか、春の妖精っちゅーんは
私は桜の精~、似たもんやん一緒にはなそや。
なんやったらサクラミラージュおいでよ。
万年春みたいなもんやで。
●桜と温泉、それから
常に桜が咲き誇る都より、温泉という言葉に引き寄せられてやってきたのはそれぞれ趣きの違う四人の乙女達。思い思いの水着を身に纏い、目の前に広がる温泉と春の景色を楽しんでいた。
「いや~~、ええとこや~ん。皆で温泉なんて初めてちゃうかな~楽しみやったんや~♪」
腰よりも長い髪を器用にくるんと結って、華都・早紗(幻朧桜を見送る者・f22938)が頬を桜色に染めて言う。心なしか、頭部の枝に咲いた桜もいつもより花を増やしているようだ。
「本当に……お湯加減もいいし、水質もなかなかのものよ。水着を着て入るのは初めてだけど、案外違和感が無いものね」
温水プールのようなものかしら、とお下げの三つ編みを巻いてピンで留めた蛭間・マリア(「蛭間」からやってきた医学生・f23199)が頷く。
「水着でおんせーん! お湯は気持ちいいし、桜は咲き乱れてるし、最高だねえ」
はふー、と満足そうに息を吐いて、髪飾りを揺らしながら御桜・八重(桜巫女・f23090)がお湯の中で楽しそうに笑っている。
「みんなで温泉、来れてよかった! そういえば、この温泉は綺麗だと思う感情を増幅されるみたいだけど、みんなが綺麗を感じるのってどんな時?」
誘った手前、皆が楽しそうにしているのを見るのはなんとも胸がくすぐったくなる程嬉しい。そんな気持ちが表れたようなきらきらとした笑顔を浮かべて髪をお団子に纏めた国栖ヶ谷・鈴鹿(未来派芸術家&天才パテシエイル・f23254)が問い掛けた。
「え、綺麗? せやなぁー、私は皆やな」
「皆……って、ええっとぼく達?」
首を傾げた鈴鹿に、早紗がそうだと頷く。
「皆が何かしてる姿がめっちゃ綺麗? かわいい? めんこい? 感じに思えるなぁ」
それは今日一緒にいる皆だけに限らず、所属する旅団の仲間全員に感じることだと早紗が頬を緩める。
「早紗さんは人が何かしている姿に心を動かされる、ということね」
「簡単に言うたら、そんな感じやなぁ。マリアはんはどないなん?」
なるほど早紗らしい、と考えていたマリアが目を瞬かせる。
「私が綺麗だと思うもの? そうね、花や星は勿論綺麗だけれど……」
「けれど?」
途中で言葉を切ったマリアに、八重が興味津々とばかりに続きを促す。
「整った数式や、絶妙なバランスで成り立っている自然も綺麗だと思うわ」
「す、数式……あはは~」
考えただけで頭がパァンとショートしそうだと、八重が鼻の先までお湯に沈んでぶくぶくと笑う。
「マリアの審美眼は独特だけど、いいところを突いてるね!」
確かに数式の中には美学がある、と天才であることを自称して憚らない鈴鹿が人差し指をピッと立てて同意を示した。
「わたしが綺麗って思うのは、やっぱり桜かな? 咲く時も、散る時も綺麗だよね~、華やかさも侘しさもあって……ん~、桜最高!」
ざばっとお湯から顔を出し、八重が遠くに見える桜を眺めて両手を上げて伸びをする。
「そういう鈴鹿はんは、どんなもんに綺麗を感じるんやろか?」
「ぼく? ぼくは違う世界で見れる街の景色や、不思議な光景に特別なものを感じるかな!」
「あ、それわかる! 前に違う世界に行ってびっくりだったよ~」
「そうね、文化が全く違う世界は見るもの全てが驚きに満ちているわ」
猟兵にならなければ、きっと一生サクラミラージュから出ることはなかっただろう。それを考えれば、今こうやって違う世界の温泉に四人で浸かっていることは奇跡みたいなことだ。
「あれ、あっちから来るんて噂の妖精さん達やろか?」
にこにこしながら三人を眺めていた早紗が、その向こうからやってくる春告の妖精スプリングエルフに気が付いて指をさす。
「あ、本当だね、こっちに来るみたいだよ」
八重が手を望遠鏡のように重ね、妖精達が猟兵に気が付いたのかこちらへ向かってくると皆に告げた。
『こんにちは! お花見をしているのかしら!』
『いいわね、お花見はとっても素敵! 綺麗な春を感じられるんだもの!』
きゃあきゃあと楽しそうな声を上げて、スプリングエルフ達がやってくる。四人はそれを拒むことなく、一緒にお花見をしようと声を掛けた。
『素敵! 大勢でお花見なんて絶対に楽しいわ! ああ、やっぱり春って一番素敵で一番綺麗ね!』
「確かに、他の温泉に比べたらここだけ春っぽくて綺麗だよね」
「うんうん、なんといっても桜が綺麗だよ~」
「そうね、ここから眺める桜はとても綺麗だと私も思うわ」
「んふふ、私はきゃっきゃしとる皆も春の妖精っちゅーこの子らも、皆かわいいし綺麗」
ああ、本当に綺麗だと四人が思う。そして、その感情が普段感じるそれよりも、強く暴力的なまでに膨れ上がるのを感じて顔を見合わせる。
「はぁ、これがこの温泉の効果っちゅーやつやろか」
どうにもテンションが上がって来たと、早紗が顔をパタパタと手で扇ぐ。
「ええ、こんなに……なんていうのかしら、気分が高揚するというか……」
「どっかーん! って感じだよね!」
マリアがどう説明しようかとしたところを、八重が感覚だけで説明してみせる。だが、この説明は確かにしっくりくるのだ。どっかーんって感じで。
「どっかーんってしたままでもええやん? 別にこの子らと戦う気もないし、なぁ?」
早紗が早々に白旗を上げ、皆がきゃっきゃとはしゃいでいる姿をにこにこしながら眺めては、平和やなぁ、ここが戦争しとるなんて嘘みたいや、などと伸びをしている。
「んん、それもあり、かな!」
万が一戦闘になってしまっても、自分がカバーすればいいかと鈴鹿が笑う。
『ねえ、貴方達もやっぱり春が一番だって思うわよね!』
はなから感情を抑えるつもりもないスプリングエルフ達は、温泉効果もあってか春が一番綺麗! という気持ちを爆発させたままに四人に話しだした。
「うんうん、他の季節も好きだけど、やっぱり春はいいよねえ。あったかくて風は気持ちいいし、お花は沢山咲くし♪」
『そうよね! そうよね!』
八重の答えに満足したように、スプリングエルフ達が弾んだ声を上げる。
『あなたは? 頭に桜を咲かせているんだもの、きっと春がお好きでしょう?』
「私? 私は桜の精~、あんたらと似たようなもんや」
『そういう種族なのね、素敵! 春を体現したかのような方ね、あなた!』
早紗の桜を気に入ったのか、こちらもまた嬉しそうな声と共に笑顔を弾けさせている。
「妖精さん、よかったら貴方たちが綺麗だと思うものを教えてもらってもいいかしら?」
『もちろんよ! そうね、まずはやっぱり春だわ。春そのものが綺麗だと思うの、それから春に咲く美しい花々! 降り注ぐ春の陽にきらきら輝く水面なんかも素敵ね!』
マリアの問い掛けに気を良くしたのか、妖精達がヒートアップしたように喋り出す。溢れんばかりの春への賛辞、それはちょっと引くくらいの熱量だったけれど、マリアが気付かなかった春の綺麗さを教えてくれた。
「興味深いお話だったわ」
『どういたしまして! でも春の綺麗さはどんなにお話しても伝えきれる気がしないわ!』
「じゃあ、こんなのはどうかな?」
妖精達の話を聞きながら、綺麗なものが沢山あることを思い出し、なんとか気持ちを落ち着けていた鈴鹿がポートレートを取り出して妖精達に見せる。
『まあ、これはなあに?』
「サクラミラージュの、桜のポートレヱト。たくさんあるから、ゆっくり見てね」
『まあ、まあ、素敵ね! 桜がいっぱい、こんな景色もあるのね、素敵だわ!』
「なんやったらサクラミラージュにおいでよ、万年春みたいなもんやで」
『ここと同じなの? 常春なのかしら!』
「常春……ではないかな、ちゃんと季節があるんだけど、桜だけは年中咲いてるんだよ~」
早紗の誘いに顔を輝かせた妖精達だったけれど、常春ではないと八重から聞いて少し残念そうな顔になる。やはり春であることが彼女達には重要なのだろう。
『でも、お誘いは嬉しかったわ、ありがとう! ここ以外にも、綺麗な場所は沢山あるのね』
「そうですね、色々な綺麗さを知っていれば、沢山の綺麗なものを見られると私は思うわ」
マリアがそう言うと、そうね、他を知って春の綺麗さが増すこともあるのねと妖精達がきゃあきゃあと笑い合う。そうやって、いつの間にか随分と時間が経っていたようで、八重が赤ら顔で温泉から上半身を出す。
「ふひー、のぼせた~! みんなも、妖精さん達も大丈夫~?」
パタパタと顔を扇いで八重がそう言うと、鈴鹿が立ち上がり得意気に胸を張った。
「こんなこともあろうかと……」
そっと岩場に置いてあったクーラーボックスから何やら取り出し、皆の元に戻ってくる。
「ぼくの特性冷たい桜オレ、みんなにご馳走するね!」
銀色のトレイの上には、桜色と白いミルクが綺麗に層を作った美味しそうな桜オレ。きゃあきゃあと喜ぶ妖精達に、嬉しそうな顔をみせる仲間達。
鈴鹿が今この瞬間、綺麗と感じるものは何? と問われたら、きっとこう言うだろう。
桜と温泉、それから――友達!
大成功
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