甲冑征駆~せめてもう一度、この脚で
●寝室
「誰だい……? 私は見ての通り寝たきりの身、何のもてなしも出来ないが」
こんな雷雨の中、傘も差さずに来たのか? そんな呑気なことを思ってしまう。
家族に気付かれず、軍服の男はどうやってここにやって来たのか?
そもそもこんな時間に何の用だ? 一人では動くことさえままならぬ私に?
子供の頃から駆けっこが大好きだった。それは成長しても変わらず。
夢中になって誰よりも速く駆け続けていたら、いつしかお国の目に留まった。
世界中の俊足自慢が集う大会の代表として選ばれた時の喜びたるや!
だがそれも、ある日感じた手足の違和感と共に儚く散った。
医師の見立てでは、このまま弱りゆくのを止めることはできないらしい。
私を不憫に思った家族は必死に介護をしてくれるが、それがかえって虚しくて。
二度と、走れない。その事実ばかりが、重しのようにのし掛かる人生だった。
「もう一度、地を蹴って思い切り走ってみたくはないかね?」
雨に濡れた外套をそのままに問いかけてきた軍服の男。
その言葉は、頭の中を占めていた疑問をすべて吹き飛ばした。
●輸送トレーラー内部
「――ぎの、同志宮城野!」
乗り込んだ甲冑越しにでも、己を呼び注意を促す声が聞こえるものだ。弾かれたように顔を上げれば、嵌められた揃いの黒鉄の首輪がひやりと喉元に当たる。
「はっ! 宮城野、異状ありません!」
「ならば良い。此度の作戦、貴様の活躍に全てがかかっているにも等しい故に」
頼られるのは心地良い。任されるのは喜ばしい。陸上選手として輝いていた、あの頃のようで。この『影朧甲冑』の力でもって、今ふたたび、己は地を駆けるのだ。
「同志諸君! これより三十分後、我々は『帝都競技場』へと突入し制圧を図る。各自に支給したグラッジ弾の使用を許可する、作戦の成功を第一に行動せよ!」
「「「はっ
!!」」」
そう――私が、私たち『幻朧戦線』がこれから向かうのは、私の晴れ舞台となるはずだった、帝都を代表する競技場。
「競技場の破壊は、同志宮城野が駆る影朧甲冑に一任する。彼こそ作戦の要、しかと護るように!」
破壊。チクリと胸が痛みもしたが、最早生身では走れぬ身。ならば再び与えられたこの鋼鉄の脚で、駆けて、駆けて――そして望まれるがままに壊して。
「お任せ下さい。この宮城野、必ずや使命を果たし将校殿にご恩返しを致しましょう」
「ああ、その影朧甲冑がもたらす力を存分に振るい、今度こそ憧れの地を駆けるのだ」
――幻朧戦線に栄光あれ!!
トレーラー中に若者たちの熱狂的な唱和が響く。
今はまだ、知らなかったのだ。まさか、そんなことになるなんて。
●グリモアベース
「……やってくれるわね。あなたたち、聞いた? 二方面作戦ですって」
常より表情に乏しいミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)が、珍しくあからさまに不機嫌そうな顔をしてそう切り出した。
「狙われるのは競技場と病院の二ヶ所よ、わたしが予知できたのは前者。後者は別のグリモア猟兵が担当してくれてるわ、良かったらそっちも確認してあげて」
ため息ひとつ、それで気を取り直したか。ミネルバはすいと掲げた雪の結晶をきらめかせて中空にビジョンを一枚投影する。
「サクラミラージュのスポーツ施設、って言えば分かりやすいかしら。『帝都競技場』なんて、そのまんまの名前なんだけど。トラックにフィールド、観客席……ごく一般的な造りよ。ここが襲撃されるの――よりによって、大規模な大会が催されてる時に」
まあ、それを狙ったんでしょうねと忌々しげに言い添えて、ミネルバは続ける。
「要するに『選手や観客が多数いる中での戦闘となる』ってこと。避難させようにも限られた避難経路に人が殺到しようものなら――わかるわよね?」
雪の結晶のグリモアが再び輝けば、今度は武装した集団の姿が映し出される。皆一様に黒鉄の首輪をしている姿を、既に知るものも居ただろうか。
「『幻朧戦線』、彼らなんだけど。できれば、一人も殺さずにお願いしたいの。……情けなんかじゃないわ、こういう手合いは犠牲者が出ると手がつけられなくなるでしょ?」
人道的、戦略的、この際どちらでも構わないわとミネルバは淡々と告げる。
「もう、みんな気付いてると思うけど。この事件には『影朧甲冑』が噛んでるわ。競技場の襲撃を阻止すればお出ましよ、影朧の姿をまとって、それをはがせば本体を叩けるから」
説明はそこで終わりかと思われた時、不意にミネルバが呟いた。
「……今回『影朧甲冑』に乗ってるひと、知らないのよ。『甲冑に乗ったら死ぬしかない』ってこと」
どうするかは任せるわ、現地のひとが判断するのが一番だもの。そう言うと、今度こそ白雪が舞うように転移のゲートを作り出す。
「よろしくお願いね、わたしの予知に応じてくれたあなたたちを信じるわ」
かやぬま
●ごあいさつ
読みは『かっちゅうせっく』
込めた意味は『甲冑は死に向かって駆けて往く』
微かな望みを叶える代償は悪行。報いは死。
初めまして、もしくはお世話になっております、かやぬまです。
今回は桜舞う帝都で、みなさわMSとの合わせシナリオをお送りします。
二方面作戦ですが、気合と根性で両方ご参加頂いても全然大丈夫です。
●影朧甲冑の搭乗者
宮城野青年。かつて短距離走で向かうところ敵なしとされた『時代の寵児』でしたが、世界的な大会を前にして足が動かなくなる原因不明の病に冒されてしまいました。
失意の日々を送っているところに幻朧戦線の甘言に乗せられる形で、重大な事実を秘匿されたまま影朧甲冑に乗り込みました。
●お話の流れ
第1章では、大会開催中に乱入してくる幻朧戦線から一般人を守りつつ不埒者を無力化させて下さい。敵とはいえ一人でも殺してしまうとヒートアップして大変なことになります。
競技場の地形や施設を上手く活かしても良いかも知れません、頑張って下さい!
第2章では、影朧甲冑が纏う強力な影朧の姿を倒す純戦です。外套を引っぺがしましょう。
第3章では、いよいよ影朧甲冑本体との決戦です。搭乗者とどう対峙するかは、皆様のお心次第とさせて下さい。
●プレイング受付のご案内
全ての章で、断章の投稿後MSページとツイッターで受付期間をご案内致します。
お手数をお掛けしますが、都度ご確認頂けますと幸いです。
それでは、みなさわMSとかやぬまの甲冑征駆、よろしくお願いします!
第1章 冒険
『幻朧戦線の襲撃』
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POW : 襲い来る幻朧戦線の一般兵を肉壁となって阻止し、重要施設や一般人の安全を守ります
SPD : 混乱する戦場を駆けまわり、幻朧戦線の一般兵を各個撃破して無力化していきます
WIZ : 敵の襲撃計画を看破し、適切な避難計画をたてて一般人を誘導し安全を確保します
👑11
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●現代風に言えばインターハイが行われていると思って下さい
大会当日は快晴、幻朧桜が降り注ぐ『帝都競技場』では、未来ある若人たちがトラックアンドフィールドの各競技で己の全力を出し切らんと躍動していた。
一方の観客席には大会関係者のみならず、親類縁者の応援団から若き逸材を見出さんとする軍の関係者まで、多くの人々が詰めかけていた。
年に一度催されるこの大会は、帝都のみならず日ノ本に住まう若人にとっては誰もが憧れ、そして目標とするものであり、宮城野青年が『伝説』になった地であり――。
『全軍、進め!』
『グラッジ弾の使用を躊躇うな!』
『幻朧戦線の名の下に――蹂躙せよ!』
突如武装した軍人たちが大挙してなだれ込んでくるという非日常に叩き込まれた選手や観客たちが、あっという間に恐慌状態に陥ってしまったのは仕方がないことだろう。
幸いだったのは、幻朧戦線の軍人たちが何やかやでグラッジ弾の使用を『奥の手』のように捉えていたことだろうか。
主に銃剣を向けて手近な一般人を地に這わせて、いざという時の人質にでも使うのか、装備品のロープで縛り上げる程度に留まっている。
それでも、状況は芳しくない。
訳も分からず逃げ惑う人々が、いつグラッジ弾の餌食になってもおかしくない。
捕らえられた人々が下手に暴れて、哀れ銃剣の犠牲となってもおかしくない。
影朧甲冑は今はその時ではないと身を潜め、軍人たちが競技場を制圧するのを待っている。今は手を出すことはできない。
ならば、軍人たちを無力化して、一般人を救うのが最優先。
願わくば、誰一人として命を落とすことの無きように――。
満月・双葉
◎
まぁ、其所まで仕事の範疇として請け負ったからには死人なしで乗りきるとしましょうか
撃破の順番は危険性の察知を【野生の勘】に頼って決めましょう
師匠仕込みの合気道と【医術】の知識をふる動員で死なない程度に無力化
骨の一本や二本はまぁ、自業自得と言うことで
首の骨折られないだけましだろうよ
安心しな、僕は医者だ後で治す
敵の攻撃は【野生の勘】で【見切り】、見切り損なうものは【オーラ防御】で防ぐ
ダメージは【激痛耐性】で無視する。動けりゃ痛みなんぞ後回し
やれやれ…生きていても走れないなら意味がないか
それでも生きていて欲しいと願う人が居るかもしれないのにねぇ
まぁ、僕には関係ないけども
ケルスティン・フレデリクション
…やっていいことと、わるいことが、あるんだよ。
これは、わるいこと。
あらかじめ、一般の人の逃げるルートを作っておくね
邪魔なものはどかしておいて、軍人さんがいたらUCでおやすみしてもらうよ
捕まってる人のところに行けば物陰からこっそり見張りの人にUCを使っておやすみしてもらうね。
それから一般の人のとこに行ってロープを切って助けるよ
物音はしないように気をつけるよ。
みんな、きをつけて、あっちににげるよ
皆を守る為に、逃げるのも見届けるよ
基本的には軍人さんに攻撃はせずに、すやすやおやすみなさい、するね。
…わたしには、軍人さんが何をしたいか、わからないの。
でもひとをきずつけるのは、わるいこと。
アカネ・リアーブル
影朧戦線の非道を許してはおけません!
一刻も早くお助けしなければ!
まず縛られている人質がいる場所へ忍び寄り
「地形の利用」で物陰に身を潜めます
手近にある石を拾い上げまして
遠くへ投げて物音を立てて「おびき寄せ」
気が逸れましたら「忍び足」「先制攻撃」で近寄り
「気絶攻撃」で眠らせましょう
捕まった皆様方を「救助活動」で救出して安心させます
皆様もう大丈夫です
今から安全な場所へお連れします
アカネを信じてこの手毬の中へ
「手をつなぎ」微笑みながらUC発動
安全な場所まで「忍び足」で移動して避難させます
ほどいたロープで軍人を縛り猿轡を
お互いの手首をお互い結び外向けに円を描いて座らせます
全ての人質を解放いたしましょう
●オラトリオが三人、参る
幻朧戦線を名乗る黒い鉄の首輪を揃いで嵌めた軍人たちの闖入に、一瞬呆気に取られ、そして徐々に状況を理解した者たちから順に悲鳴を上げたり我先にと逃げ出したり。
よもやまさか高等学校の体育大会にテロリストが現れるだなんて、事前に備えておけという方が無理な話だ。誰をも責めることはできまい。
避難誘導を率先して行える者も少なく、居たとしてもその声は怒号と悲鳴にかき消され。
ただ、輝かしい青春の日々は蹂躙されるばかりかと思われた。
「……やっていいことと、わるいことが、あるんだよ」
そしてこれは、まぎれもなく『わるいこと』。菫色の少女――ケルスティン・フレデリクション(始まりノオト・f23272)が、常は愛くるしい笑みを湛えるその顔に明確な怒気を孕ませ舞い降りる。
「幻朧戦線の非道を許してはおけません! 一刻も早くお助けしなければ!」
サムライエンパイアの着物をベースに、様々な世界のテイストを織り込んだ可憐な衣装を身に纏い、凜とした声を響かせてアカネ・リアーブル(とびはねうさぎ・f05355)も並び立つ。
「まぁ、其所まで仕事の範疇として請け負ったからには――死人なしで乗りきるとしましょうか」
そんな二人の少女の背後から、気だるげに現れるのは満月・双葉(神出鬼没な星のカケラ・f01681)。パーカーにジーンズという姿も相まって中性的な雰囲気を見せる双葉は、淡々とした口調ながらも引き受けた仕事への責任感を新たにする。
奇しくも、同時に集った三人揃ってオラトリオ。ケルスティンこそ目に見えるべき翼は手折られたが、その翼は今は胸の裡にある。
天の御使いとも呼ばれる種族たる三人は、果たして救いの最初の一手となれるのか。
『同志諸君、超弩級戦力と思しき存在を確認した』
『流石は速いな、こちらも急げ!』
猟兵たちが駆けつけたことに気付いた幻朧戦線の男たちもまた、制圧作戦を急ぐ。
「……僕は軍人さんたちの相手をしましょう、お二人は?」
「じゃあ、私はあらかじめ一般の人が逃げるルートを作っておくね」
「頼もしいです、ではアカネはこっそりと人質解放を頑張りますわ!」
双葉が戦闘行動を引き受ければ、ケルスティンがまずは工作員としての立ち回りを。そしてアカネが既に捕まってしまった人々の救助へと向かう算段の出来上がりだ。
さあ、行動開始だ。天使たちよ――舞い踊れ!
●やさしい勿忘草
(「いちばん大きな出入口は、軍人さんたちがトレーラーで入ってきた時に抑えられちゃってる……」)
一般人解放のための下準備を進めるケルスティンは、状況の全体像を把握すべく周囲を見回す。どんな建物にも非常口は備え付けてあるものだろうと注視して、手近なものをひとつ見つけると、そこへと続く道の途中にある障害物となり得るものを丁寧にどかしていく。
それは、陸上競技に使われる道具の数々。本来はこれで学生たちが、自分自身や好敵手たちと競い合って、青春を謳歌するべき日だったのに――。
『何をしている――りょ、猟兵か!?』
『馬鹿な、こんな小娘が』
『侮るな、超弩級戦力には年齢も性別も関係ないと聞いた!』
手にした道具に自然と力がこもり、改めてこんな事態になってしまったことへの憤りを新たにしたケルスティンの元に、運悪く幻朧戦線の軍人たちが数名やってきてしまった。
だが、一斉に銃剣を向けられてもケルスティンは動じない。道具をそっと脇に寄せて、荒ぶる心を鎮めるように瞳を閉じる。
「――すやすや、おやすみなさい」
そっと胸に両手を当てて、思い切り広げれば――まるでケルスティンの心が無尽蔵に生み出すかのようにさえ見える、勿忘草の花弁が軍人たちを瞬く間に包み込む。
『な……っ』
『……』
どさ、どさり。抗えぬ眠気に包まれた軍人たちがその場に昏倒する。
「ちょっとそこで、おやすみしててね」
義憤に駆られ怒りはするが、決して暴力には訴えない。それが、心優しきケルスティンだ。きっとこの軍人たちが次に目覚める時には、全てが終わっていることだろう。
●聖域の手毬
一方、ケルスティンが向かった方とは別の場所に集められている人質の一般人を見つけたアカネは、そちらを先に解決すべく接近を図ろうとしていた。
(「あの掲示板! きっといい感じにアカネを隠して下さいますわね」)
なかなか遮蔽物になるものが見つからない中、ふとアカネの視界に入ったのはトラック競技でタイムを表示するために使う、文字の書かれた板を入れ替えて使う背の低いパネルだった。
探した甲斐があったと言うべきか、アカネとパネルと人質や軍人たちとが、絶妙な距離を保って位置しているを確認して、アカネは思わず小さくガッツポーズ。
スススとパネルの裏まで忍び寄り、一時停止。人質たちの様子を確認すると、数はおよそ十数名。一人ずつ縛られた上でひとかたまりに集められ、数人の軍人たちに銃剣を向けられて監視されているようだった。
(「何てこと……! でも大丈夫です、アカネが今お助けします!」)
決意を新たに、しかしすぐさま飛び出していくような蛮行には及ばず。トラックに僅かに残っていた除去しきれぬ小石を目ざとく見つけたアカネは、それを咄嗟に拾うと思い切り遠くへ投げる。
――カン。
盛大に飛んで行った小石は、壁面の看板に当たって小気味良い音を立てる。その場の誰もが、その音に気を取られて看板の方を――アカネとは反対の方を向く。
『何だ、今の――』
『一般人に何か動きはあったか!?』
『い、いや、見ていた限りは何も……』
軍人たちが状況を確認しようと言葉を交わす、その間さえあれば充分だった。抜き足差し足忍び足、ものの見事に背中を見せている軍人たちの後頭部に、愛用の「舞薙刀」の石突きで鋭い突きを一撃ずつ喰らわせれば、たちまち気を失って倒れ込む。
人質にされていた一般人たちからわっと歓声が上がり、アカネもまた藍色の瞳を安堵の色に染めて、一人ずつ手際良く縄を解いてやった。
「皆様、もう大丈夫です。今から安全な場所へお連れします」
そう言ってアカネは微笑んで、そっと一般人の手を取ると、もう片方の手をぽうと光らせる。光は徐々に小さな手毬となって、ちょこんとアカネの掌の上に収まった。
「アカネを信じて、この手毬の『中』へ――触れるだけで大丈夫です」
手を取られた一般人を満たす、不思議な安堵の心地はなにゆえか。一般人のひとりがそっと手毬に――【茜色の手毬(アカネノテマリ)】に触れた瞬間、その姿があっという間に吸い込まれていく!
これには残された一般人も動揺して互いの顔を見合わせる。だが、アカネを見れば途端に心が落ち着くのだ。
「この手毬の中は今のここよりずっと安全ですし、いつでも外に出ることができます。ここから避難するまでの間、どうかこの中に」
そこから先は話が早かった。超弩級戦力直々の助けとあらば身を委ねるに不安などなく、一般人は次々と手毬の中に吸い込まれていった。
「さて、と……」
そうして一通りの一般人たちを手毬の中に匿い終えたアカネは、気絶したままの軍人たちを見下ろして、次に一般人たちを拘束してたロープを見る。
その時のアカネが、ちょっぴり意地悪そうな笑みを浮かべていたのは誰も知るまい。
手毬を懐に収め、ロープを手に取ると、気絶している軍人たちを外向きの円状に座らせる。そうして互いの手首を固く結んで容易には解けない拘束とし、おまけに猿轡も嵌めてやるのだ。意識を取り戻した時に、騒がれてはたまらないというもので。
「さあ、皆様。安全な場所まで参りましょう!」
いまだあちこちで騒動が続く競技場を、一度後にするアカネ。外に出て手毬から一般人を出してやったら、再び救出活動に励まねばならないのだから――そう、全ての人質を解放するまで。
●殺すなと言うのならば
(「……さて、どこから片付けていきましょうか」)
阿鼻叫喚とも言える状況の中、それでも双葉は冷静に思案する。競技場は広く、一般人も元々は競技をしていたということもあり広範囲に散っており、それを制圧しようとする軍人たちもまたゲリラ戦の構えを取ったものだから、どこから手を付けたものか。
(「手当たり次第に、では効率が悪いですね。こうなったら――」)
双葉の無表情が、ジト目が、加速した――ように思えた。アホ毛がピンと立ち、何かを探ろうとしているように思えた。それは【山猿の弟子(ミーチャンノデシ)】が発動したことを示す合図であったのだが、誰がそれに気付けただろうか。
(「四時の方角」)
己に指示を出すと同時に、身体は既にそちらを向いていた。
『何
……!?』
完全に死角から攻めて、銃床で殴りつけてやろうと目論んでいたはずの軍人は、おもむろにこちらを向いた双葉に怯む。
当然その隙を見逃す双葉ではない。片手でむんずと軍人の腕を掴むと、もう片方の手を添えて、さして力も入れずにぐるんと宙を一回転させて地面に叩きつけてやった。
後に続かんとしていた残りの軍人たちを眼鏡越しに一瞥すれば、半ばやけくそ気味に襲い掛かっている者半分、踵を返して別の方面へと向かう者半分。
ため息ひとつ、双葉は残りの相手もちぎっては投げ、ちぎっては投げ。師匠譲りの合気道は『受け手』に回ってこそ真価を発揮するがゆえに、相性は抜群だったのだ。
(「次、一般人が危ない……か」)
研ぎ澄まされたってレベルじゃない野生の勘――それこそ超常の力によるものだが――それにより、完全に視界の外にある危険をも察知することが出来る今の双葉に隙はない。
振り返れば、まさに一般人たちに銃剣を向けて両手を上げさせ制圧しようとしている不埒者がいるではないか。
「やれやれ、そういうキャラじゃないんですけどね」
仕事なんですからね、勘違いしないでよね。いやいや待って、双葉さんはツンデレキャラでもないですよね!? 普通にお仕事してるだけですよね!?
『超弩級戦力……!』
『近寄らせるな! 撃ち方はじめ!!』
「っ……! 飛び道具とか卑怯じゃないですかね!?」
双葉さんだって最近投げないけど置物とか大根とか投げるじゃないですかヤダー!
失礼しました、何やかやで飛んで来る銃弾は対物理耐性を持つ虹薔薇のオーラで防ぎ、小癪にも防御範囲外から掠めていった傷のことは歯を食いしばって耐える。
「動ける間はね、痛みなんぞ後回しなんですよ。でもね――今のは少し、痛かったですよ」
『ひっ
……!!?』
無造作に近付いて、適当に軍人たちのうち一人の腕を掴む。そうして――。
『ああああああ!!!』
「……腕一本程度で何です、情けない。あなたそれでも軍人ですか」
腕を有り得ない方向にひん曲げられた軍人が、打ち捨てられてのたうち回る。その様子を、侮蔑の目線としか言いようがないそれで見下す双葉がそこにはいた。
じり、と後ずさる残りの軍人たちに、双葉は言い放つ。
「こんなの、自業自得と言うことで。首の骨折られないだけマシだろうよ」
『くっ……』
『お、鬼か
……!?』
自分たちの所業を棚に上げて、好き勝手言う軍人たち。末端兵はどうにも覚悟が足りないからいけない。先ほど腕を一本頂戴した軍人は、まだ呻き続けている始末だ。
「……安心しな、僕は医者だ。後で治す」
『『『……医者
???』』』
マジかよウソだろ、そんな空気が場を支配した。あーあ、しーらない。
●戦う理由は
あちらこちらで猟兵仲間が幻朧戦線への攻撃と一般人の救助を開始したため、状況は一層混迷を深めつつあった。
それはつまり、どちらかが一方的に有利となる状況ではなくなったとも言える。少なくとも、軍人たちが一方的に蹂躙するばかりの展開にはストップをかけられたのだ。
(「……見張りの人が、いるね」)
一般人をある程度集めて、少数の見張りをつけるというのが決まりなのだろうか。アカネが救出した別の人質たちと同様に捕まっている一般人を見つけたケルスティンは、あらかじめ用意しておいた逃走経路を確認した上で、先程も披露したユーベルコード【ひかりのねむり】を放ってそっと物陰から見張りの軍人たちを眠らせて、その場にくずおれさせる。
「もうだいじょうぶ。しずかに、みんなで、いっしょににげるよ」
ふわふわとした光の玉をまとった不思議な魔法の短剣で、拘束のロープだけ器用に切って人質の一般人を救助していくケルスティンに、人々は口々に感謝を述べる。
それを内心嬉しく思いながらも、唇にそっと『静かに』のジェスチャーで人差し指をあてると、先程確保した避難ルートを示す。
「あっちに、まっすぐ――!?」
『何をしている!!』
ケルスティンが指さした先を一般人たちが確認した、その時だった。軍人たちがそれを見咎めてしまったのだ。
『逃がすか!! ――グラッジ弾の使用を許可する!!』
「だめ!!」
それだけは、だめ。今までで一番の勢いで舞い吹雪く勿忘草の花弁が、禁忌を口にした軍人を筆頭に、次々と深い眠りに誘っていく。
ケルスティンが振り返ると、不安げに足を止めてしまっている一般人たちの姿があった。
「……この人たちはみんな、すやすやおやすみなさい、してるだけ」
そして、改めて競技場から安全に逃げ出せる道を示す。
「ちゃんと見届けるからよ、皆を守るために。だから」
人々は、申し訳なさそうに頭を下げて、次々と避難していった。
「やれやれ……『生きていても走れないなら意味がない』か」
「あ……」
ひと仕事終えたケルスティンの後ろには、いつの間にか双葉が立っていた。
「それでも、生きていて欲しいと願う人が居るかもしれないのにねぇ」
まぁ、僕には関係ないけども。そう言う双葉を見て、ケルスティンは少しだけ笑って――すぐに、悲しげな顔になってしまう。
「……わたしには、軍人さんが何をしたいか、わからないの」
甲冑に乗った人のことはまだしも、この『幻朧戦線』が何故このようなことをするのか。
「でも、ひとをきずつけるのは、わるいこと」
「そうです! こんな計画、絶対に止めてみせましょう!」
そこへ、アカネもひと段落ついたのか駆け寄ってくる。
「そのためにも皆様、アカネに力をお貸しくださいませ!」
異論はなく。三人は互いの目を見てひとつ頷くと、再び救出作戦へと。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
桜雨・カイ
動きたいと思うのに動けない…その辛さはよく分かります。
でも…人を傷つけようとするのなら、止めるしかありません
スタンド席に向かいます
見晴らしが良い分、逆に接近は気付かれやすい
それならば-
【錬成カミヤドリ】発動
まずは半分の錬成体で軍人の前に立つ
逃げる人達へ、ここから先へへ進ませないので落ち着いて逃げて下さい!とゆっくり大声で指示
錬成体で立ちふさがり時には盾となり、言葉通りそれ以上の進行を許さない
捕らえられた人達も助けないと
軍人の意識をこちらへ向けてから、軍人の背後から不意打ちで錬成して攻撃【気絶攻撃】)
ちょうどロープを持ってるようなので、それで縛りあげましょう
●からくり兵士隊vs幻朧戦線
かくして三人の猟兵たちにより戦端は開かれ、幻朧戦線の蹂躙は一転超弩級戦力との攻防戦へと転じた。
ここからは迅速に一般人たちを救助し、幻朧戦線をもまた殺さず無力化するという『強者の戦い』が求められる。
そう、猟兵がこの桜舞う世界に於いて『超弩級戦力』と称される所以を、嫌というほど思い知らせてやるのだ!
(「動きたいと思うのに動けない……その辛さはよく分かります」)
平和な時でも戦乱の世でも常に舞い散る幻朧桜の中で、桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)は相棒にして本体たる人形『カイ』と共に競技場を見据えた。
(「でも……人を傷つけようとするのなら、止めるしかありません」)
そして決意と共に、地を蹴って走り出す。目指すは、まだ人も多く思うように避難もできないスタンド席だ。
フィールドから直接スタンド席へと続く階段へは、競技中は当然衝撃を吸収する壁と仕切りを兼ねたもので閉ざされている。
だが、先に侵入した軍人たちがこじ開けたか、一部が扉となって開閉するのを知ってか、半ばもげかかる形で強引に道が作られていた。
乱暴狼藉の類を好まないカイは当然その光景に胸を痛めたが、今はこれを利用する他ない。最短距離でスタンド席へと突入し、『カイ』と足並みを揃えて階段を駆け上がる。
『猟兵だ! スタンド席に行ったぞ!』
『一人、いや多くても二人だ! だが油断はするなよ』
(「やはり見晴らしが良い分、逆に接近には気付かれやすいですね」)
駆けながら、スタンド席を見る。どうやら観客たちは左右から挟み撃ちにされる形で数ヶ所に追い込まれ、いよいよ捕縛されるのを待つばかりといった状況のようだった。
「私を『一人』と言いましたね」
真剣な眼差しでことに当たっていたカイが、初めて口元に笑みを浮かべた。
「それならば――」
観客たちや軍人たちに接近できるギリギリの距離までやって来て足を止める。
そして『カイ』を一歩前に出し、ヤドリガミは己が本体に請い願うのだ。
「疾く、私に力を貸して下さい――誰にも負けない、『軍勢』となって!」
人形の背中にそっと右手を添えれば、人形は己より出でし者の願いを聞き届ける。
――【錬成カミヤドリ】とも呼ばれる超常は、ヤドリガミが本体とする器物を己の力量に応じた数だけ複製し、意のままに操ることができる。
驚愕する軍人たちの前にずらり現れたのは、総勢74体のからくり人形――!
『ど、どういうことだ!? 幻術か!?』
『だから油断するなと言ったのだ……!』
動揺する軍人たちを圧倒すべく、カイが動く。まずは錬成体のうち半分を左右の軍人たちの前に配置し、一般人と隔絶する。
そしてカイ本人はすかさず一般人たちに向けて、焦らせないよう心掛けつつ叫ぶのだ。
「皆さん、ここから先へは進ませないので! 落ち着いて、逃げて下さい!」
自分たちをかばうように立ちふさがってくれる手品のような守り手は、不思議ではあるけれども今は何よりも頼もしく。
一般人たちはカイが示した非常口の方へと、カイの願い通り混乱することなく助け合って粛々と避難を開始するのだった。
『何を勝手な……!』
しかし当然軍人たちも黙ってはいない、錬成体たちを押しのけて逃げる一般人たちに追いすがろうとする――が。
『ぐ、ぐぬぬぬ
……!!』
錬成体たちはスクラムを組んで立ちはだかり、文字通りの盾となり軍人たちの侵攻を許さない。
「私は言いました、『ここから先は進ませない』と」
そのやや後方で状況を確認しつつ、的確に錬成体ひとつひとつを恐るべき精神力で繰りながら、カイが厳しく言い放つ。
(「既に捕らえられている人もいますね、そちらも助けないと」)
スタンドの最上段付近に集められている十数名の寄り集まった人影が、きっとそうなのだろう。幸い錬成体はまだ半分手元に残っている、平行作戦も可能だ。
よって、カイはおもむろに口を開く。
「グラッジ弾は、使わないんですね」
突然『切り札』に触れられた軍人たちは、明らかに動揺した様子で返す。
『ハッ……この乱戦状態で下手に撃って、味方に当たったらどうする?』
素人は黙っとれ――。
そんな思いを感じる答えが返ってきたが、要はおっかなくて使う勇気がないのだろう。
蛮勇に走られずに済んだのは幸いだと、カイは問答の間にフッと軍人たちの背後に錬成した残りの錬成体を一斉にけしかけ、頸部を手刀で打たせてあっという間に昏倒させた。
「今、このロープを……」
感謝の言葉を浴びつつ、カイが一般人を縛るロープを丁寧に解きながらふと思い付く。
「……解いたあとで、この悪い軍人さんたちを縛りあげておきますね」
ニッコリ。とてもいい笑顔で、カイは一般人たちと軽くハイタッチをした。
成功
🔵🔵🔴
ルリララ・ウェイバース
◎
互いを姉妹と認識する四重人格
末妹で主人格のルリララ以外序列なし
『相手も殺さねぇで、一般人を助けるのか、手間だな』
『となると眠らせて無力化が無難かしらね?』
『逃がす人も助けないとね♪』
『では、その方向で』
オルタナティブ・ダブルでルリ姉を分離
精霊治療で軍人達を眠らせるわ
全力魔法に祈りや優しさを込めてあげるから、不安は忘れて安らかに眠りなさい
こちらで眠らせていくから、避難誘導頼むわよ
軍人が眠り始めた頃合いで、ルリララ達は一般人を避難誘導
鼓舞や救助活動で出来るだけ、落ち着いて、騒がず逃げてもらう
軍人が気がつきそうなら、高速詠唱したエレメンタルファンタジアで砂の風を使って視界を塞ぐぞ
●Quartett!!
どこか遠い異国の民を思わせる衣装を身に纏った少女が『一人』、戦場と化した競技場に立っていた。
『相手も殺さねぇで、一般人を助けるのか。手間だな』
――それは、燃え立つ男勝りな声。
『となると、眠らせて無力化が無難かしらね?』
――それは、たおやかな女性の声。
『逃がす人も助けないとね♪』
――それは、無邪気なる少女の声。
『では、その方向で』
――そして、それらを代表して立つ少女の名は、ルリララ・ウェイバース(スパイラルホーン・f01510)。
彼女たちは四人で一人、いつだって知恵を出し合い助け合って生きてきた。
誰をも殺すな、というある意味無茶苦茶な要望だって、こなしてみせよう。
「ルリ姉、頼む!」
『ええ、こちらで眠らせていくから、避難誘導は頼むわよ』
人格の一部を切り離し助力を願うのもお手の物、本体のルリララから『分身』として限界した『ルリ』が、即座に行動を開始する。
『ど、どうする……!? 新手の猟兵が』
『あちこちで狼煙が上がってやがる、こんなの聞いてないぞ!』
そう。幻朧戦線の構成員はそれ相応の訓練を積んだ軍人たちが中心であり。たとえ猟兵――超弩級戦力が相手であったとしても、即座に圧倒されるようなものではなかったはず。
だが、状況はどうだ。あっという間に切り込まれ、接敵する先から制圧されていく。
誰かが、首に嵌まった黒鉄の首輪に無意識に触れる。
我々は、作戦を遂行しなければ。だが、圧倒的な戦力差を何とする。
グラッジ弾を使うか? ああ、今がその時だ。躊躇うな、躊躇うな――!
『そんな震えた手で銃を撃っても、狙いは定まらないわ』
『……っ』
『あなたたち、みんなそう。不安なのね、全て忘れて――安らかに眠りなさい』
いつ、どうやって、間合いに入ったのか。あまりにも自然に、水の巫女はするりと軍人の一人の震える手にそっと己の手を添えて、静かに銃を手放させる。
『精霊達よ』
そうして、くるりと一回転。髪が、裾が、ふわりと揺れて。
『彼の者達に等しく癒しと眠りを届けておくれ――【精霊治療(エレメンタルヒール)】』
『『……』』
どさ、どさり。為す術もなく、軍人たちが次々と抗えぬ眠気に屈し倒れ伏していく。
ルリは目線だけを背後に向けて、ルリララに告げた。
『――さあ』
「わかった、みんな! 今のうちに!」
手近な非常口を指し示し、ルリララが一般人たちに声を掛ける。だが、どうしたことか――一般人たちはなかなかその場を動こうとしないではないか。
「……皆、どうした?」
「ま、また、あいつらが来たら……」
「グラッジ弾って言ってた……そんな、危険なものを」
ああ、余計なことを。ルリララは思わず額に手を当ててしまう。
恐怖は伝播する。そして実際に脅威は振るわれようとしていた。
猟兵たちのように強靱な精神力を持っている訳ではない一般人たちに、ここで勇気を出せという方が難しいだろうか。
だが――『頑張ってもらわねば困る』のだ、他ならぬ一般人たち自身のためにも。
「大丈夫だ!!」
ルリララが胸にどんと手を当てる。威厳ある大地の巫女の偉容であった。
「また軍人が出たら、ルリ姉がまた無力化する。その間に、ルリララ達が皆を必ず安全な場所まで送り届ける」
「っ……」
言葉の力は強く、響く。戦闘音で揺れる大地にも負けぬほど、ルリララの宣言は一般人の心を揺らがせた。
地面を一度、トンと儀仗で突く。それから、すいと非常口を儀仗の先で指し示し、今度こそルリララ達は一般人を導くべく呼び掛けた。
「落ち着いて、騒がずに逃げるぞ。さもなくば、本当にまた軍人たちが来るやも知れん」
それは嫌だろう? そう瞳で問い掛ければ、一般人たちはいよいよ動き出した。
成功
🔵🔵🔴
荒谷・つかさ
……こいつら、一体何を目指してるのかしら。
体制を、平和を、秩序を破壊して……その末に何を見据えているのやら。
まあ、考えるのは後ね。
【妖術・九十九髪】発動
伸ばした髪を地面に這わせ、足元や物陰から強襲・捕縛を狙う
捕縛は手足を縛りあげるだけでなく、目元や口も縛り視界や声も封じる等徹底的に
完了したら切り離し、武器や装備は取り上げて私の元へ
グラッジ弾は回収、銃や銃剣は持ち前の怪力で破壊し使えなくする
捕縛された一般人は髪を使って回収してから解放
迂闊に外に出ると危険である旨を説明し、安全の確保できた地点から順次送り出すようにする
(奪い取った武器を握力だけで破壊しつつ)
五体満足での捕縛、有難く思うことね。
●何事も暴力で解決するのが一番だ
幻朧戦線の軍人たちも愚かではない、徐々に状況を整理しつつ、対策を練ろうとしていた。例え相手が超弩級戦力であろうと、数ではこちらに利がある。各個撃破されぬよう、逆に波状攻撃を重ねればあるいは――。
……そう思っていた頃が、彼らにもありました。
(「……こいつら、一体何を目指してるのかしら」)
今こうして、軍人たちに周囲を完全に包囲されながらも、荒谷・つかさ(『風剣』と『炎拳』の羅刹巫女・f02032)はひとり仁王立ちになりながら思案する。
『持っている武器を全て捨てろ!』
投降しろとでも言うのか、命知らずの軍人がつかさに迫る。
それを意にも介さず、つかさは目を閉じたまま思考を巡らせ続けるのだ。
(「体制を、平和を、秩序を破壊して……その末に何を見据えているのやら」)
『さもなくば、ただでは済まぬぞ!』
「……ふぅん」
ようやく目を開いたつかさは、本来柔らかな温かみを持つはずの赤茶色の瞳を、どこまでも冷ややかに細めて軍人たちを睨めつける。
ああ、これは考えごとは後回しにした方が良さそうね。そう判断したのだ。
『な、何だぁ!?』
つかさの髪は、元々腰のあたりまで伸びた美しい黒髪である。もしもそれが、瞬く間にぞるっと伸びて、死角から身体を絡め取ってきたとしたら?
「舞い、散り、広がれ」
その言葉の通り、つかさの髪がまるで意思を持つもののように伸びて広がり、たちまちのうちに周囲の軍人たちを一斉に縛りあげたのだ。
「我が手たる九十九の髪々よ――【妖術・九十九髪(スピリット・オブ・ヘアー)】」
『馬鹿な、こんな……むぐっ!』
「お前たちに、発言の権利を与えた覚えはないわ」
黒髪の戒めは目元や口にまで及ぶ。視界や声をも封じ、下手な救援要請なども許さない。
そうして捕縛された軍人の数たるや、何と二十名にも及ぶ。
その全てが、つかさが髪を切り離すことでゴロゴロと地面に放り出される。必死に逃れようとのたうつ様はまるで芋虫か何かのようで、つかさは侮蔑の色をもってその様子を見下した。
次につかさは、あちらこちらに転がった銃剣やグラッジ弾が込められた拳銃などを再び伸ばした髪で器用に集めて行く。そうして。
――グシャアッ!!
すごい音がした。その場の(見られるものは)誰もが音の方を見た。
そこには、回収した銃器の中でもとりわけ危険度が高いと見なしたグラッジ弾の込められた拳銃を、片手で『握り潰した』つかさが居た。
手を広げれば、バラバラの鉄屑となった拳銃『だったもの』が無残にも地に落ちる。
その様子を呆然と見ていることしか出来なかった一般人たちを縛るロープをもまた髪でもって器用に切り離し、順々に戒めから解放してやった。
「いい? あなたたちは自由にはなったけれど、迂闊に外に出ると危険よ。戦闘行動は、まだ終わっていないのだから」
これには一般人たちもこくこくと素直に頷く。そこで、つかさが目を付けたのは明らかに猟兵のものと思われる戦闘の痕跡が残る地点のそばにある非常口だ。
(「あそこなら、一度はクリアになったということね……今なら、行けるか」)
「あの非常口から行きましょう、焦らず詰めかけないように、順番にね」
一般人たちは非常に協力的であった。助けてもらった恩もあるだろう。超弩級戦力に対する信頼もあるだろう。
しかし恐らく一番効いていたのは、先程の拳銃グシャリ事件だろう。あんなものを見せられて、どうして逆らうという選択肢が出てくるのか。そういうことだった。
一般人の最後のひとりの背中を見送って、ひとまずこの区域はクリア。そうひと息ついたつかさは、再び武器破壊の作業に取り掛かる。当然、素手でだ。
金属が飴細工のようにひしゃげて、時に砕ける様子を直接見ることは叶わなかったが、聴覚でそれを認識するだけでも、恐怖を煽るには充分だったに違いない。
黒髪で巻き取られ地面に転がる軍人たちは、今やすっかり自分が餌食にならぬようにと、息を潜めて震えるばかり。
そんな様子を、最早感情ひとつ込めない瞳でちらと見遣って、つかさは言った。
「五体満足での捕縛、有難く思うことね」
――グシャ、バキ!
晴れ渡る空、飛び交う怒号と悲鳴。それをもかき消すように、つかさの握力のみによる武器破壊の音が響き渡った。
教訓。
超弩級戦力の名は伊達じゃないので、下手に逆らわないようにしましょう。
大成功
🔵🔵🔵
木常野・都月
◎
…失ったものを取り戻す。
それでこの騒ぎか。
思う所はあるけど、今は仕事に集中したい。
人と世界を守るのが、俺の仕事だ。
一般人の避難優先。
避難口付近で一般人を守りたい。
グラッジ弾対策で盾を作りたい。
避難する人達が殺到してる出入口付近に、雷の精霊様の[オーラ防御]で電磁障壁を作り、展開したい。
グラッジ弾も表面は金属のはず。
銃弾は障壁に吸い寄せて防ぎたい。
敵はUC【雷の足止め】で無力化したい。
撃ち漏らしは[範囲攻撃、催眠術]で、敵を無力化、眠らせたい。
反撃があるなら、雷の[属性攻撃、気絶攻撃]の[カウンター]で無力化したい。
確か敵は鉄の首輪をしてたはず。
銃剣持ってる人と、鉄の首輪の人を狙っていきたい。
●雷撃の精霊術士
競技ごとにある程度まとまっていた選手たちを狙っては纏めて捕らえて一ヶ所に固め、少数の監視を付けるという幻朧戦線の制圧方法自体は悪いものではなかった。
そう、猟兵の介入さえなければ、首尾良く行っていたかも知れないほどに。
だが、そうは問屋が卸さない。超弩級戦力ここにありと、木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)もまた混迷を極めるフィールドに降り立った。
(「……『失ったものを取り戻す』。それで、この騒ぎか」)
どこか憂いを湛えた瞳で、黒き妖狐は周囲を見回す。ふわふわの髪が、風に揺れた。
喪失と再生、そういった要素に思う所はあれど、今は仕事に集中すべきだと都月は軽く首を振って、眉根を寄せて厳しい表情を作る。
「人と『世界』を守るのが、俺の仕事だ」
そう独りごちたのは、決意表明。誰が聞いていなくとも、それは必要なことだった。
先に軍人たちを制圧にかかった猟兵たちの活躍により、非常口から競技場の外へと次々に避難していく一般人の姿が見える。
都月はその様子に安堵し――そして、すぐに尾を立てて身構えた。
理由は至極単純明快、一般人の背に向けて拳銃を向ける幻朧戦線の男たちの姿を認めたからだ。予感、直感、どう表現しようか。都月には分かったのだ、あの拳銃に込められた弾丸は『ダメだ』と。
だから、弾かれたように駆け出した。そして、非常口から脱出を図る一般人たちと銃口を向ける黒鉄の首輪が禍々しい軍人たちとの間に、割って入った。
『ちょ、超弩級戦力! 何と間の悪い!』
『ええい、たかが一人に何が出来る! 諸共に撃ち抜け!』
撃鉄を起こす音が次々と響く。都月一人が非常口に殺到する人々を漏れなく守り抜けるとでも? そう考えたし、実際そうであると――思われた。
「雷の精霊様、『盾』を作りたいです!」
『電磁障壁トハ、オ主モ考エルヨウニナッタナ……ヨカロウ』
都月は基本的に使役する精霊に『お願い』をする形で力を引き出す術士であった。それは幾多の精霊たちと良好な関係を築くに至り、様々な応用術まで行使することを可能にした。その一つがこの電磁波を纏った防御障壁である。
(「グラッジ弾も表面は金属のはず、銃弾は障壁に吸い寄せて……防ぐ」)
しかし超自然的な云々を解さぬものどもにとっては、都月が自分を中心にして何やらドーム状の膜を張っただけに見えたことだろう。
『撃ち方、はじめ!!』
遂に放たれたグラッジ弾は、迷いなく都月と一般人とを狙って飛来する。
発砲音に気付いて振り返った一般人たちが恐慌状態に陥りかけたその時、都月が振り返らずに一喝した。
「大丈夫!!」
そうなれ、そうあれかし、そう言わんばかりに。
果たして凶悪なるグラッジ弾は、電磁障壁に触れた瞬間一切の動力を失って、ポトリポトリと地面に落ちた。
『なっ……!? 馬鹿な、何が起こった!?』
『小隊長殿、来ます!!』
当然、都月が守りに徹している訳がなく。ひとまずの落ち着きを取り戻した一般人たちを背に守ったまま、電磁障壁からまるで棘が射出されるようなイメージを脳裏に描き、掌をかざす。
「――雷の精霊様、足止めを!」
『攻防一体、儂モマダマダ頼リニナルジャロウテ!』
老獪なる『雷の精霊様』は、文字通りの雷の矢を障壁から次々と放ち、拳銃を握る手を特に狙って軍人たちを感電させては動きを封じ込めた。
『あぐ……あっ……』
『痺れ、て……おのれ……』
撃ち抜かれたのは手だが、そこから全身を駆け抜けていった雷撃は強烈。あっという間に半数以上の軍人たちが地面に倒れ伏し、悔しげに都月を見上げていた。
「ここは俺が食い止めてみせる。だから落ち着いて、全員無事に避難を」
すっかり頼もしい背中を見せる都月の言葉に、一般人たちが従わぬ道理はなかった。驚くほどに整然と避難を再開する。それはひとえに、都月への信頼あってのことだろう。
(「鉄の首輪の人と、銃剣持ってる人を狙おう。目に見える範囲で、あと十人程度」)
『おのれ、よくも同志たちを!』
『気をつけろ……! 相手はユーベルコヲド使い、いや……』
銃撃が効かないと理解したからか、銃剣による突撃に切り替えた黒鉄の首輪の軍人たちが文字通り吶喊してくる。
「ダメだ、ここは絶対に通さない」
雷の精霊様が、たちどころに木製の杖へと姿を変える。それを手にした都月は、咄嗟に銃剣に刺突を弾き、がら空きになった軍人の胴に雷撃を帯びた杖の一撃を叩き込む!
『ぐあ……っ!!』
気を失って崩れ落ちる男を乗り越えるように、残党が次々と迫るが、それを都月は巧みな杖さばきと強烈な雷による気絶の一撃でもって捌いていく。
気が付けば、都月の周りからは、軍人たちも、一般人たちも、居なくなっていた。
「……ここはもう大丈夫か」
杖を恭しく掲げて『ありがとうございました』と礼を忘れず。
都月は、見事持ち場を守り切ったのである。
大成功
🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
◎
誇りとアイデンティティの源を奪われたんだもの、「せめてもう一度」ってのはわからないではないけれど。…よりにもよって、そこに手を出しちゃうなんてねぇ…
端から当たってたら中央部の人たちが危ないかしらぁ?
ミッドナイトレースに○騎乗して上空からグレネードの〇投擲と●圧殺で一気に中央部に○切り込みかけるわぁ。
ルーンの〇捕縛・催涙・○毒・マヒ・目潰し・足止め・武器落とし、鎧砕きに精神攻撃。手札はいくらでもあるもの、片っ端から〇先制攻撃で○蹂躙してやりましょ。
もちろん、死なないように気をつけはするわよぉ?
…トラウマとか後遺症とかまでは、あたしの知ったことじゃないけれど。
カタラ・プレケス
◎
……特攻させるなら死を覚悟した者のほうが
強いし厄介なのになんでわざわざ騙すかな
覚悟のしてない人間なんて最期に壊れてしまうだろうに
まあ、とりあえずこの騒ぎを止めてから考えようか
一般人は暴れかねない
軍人は多数
そして殺すな
なら全部まとめた方が早いね
【病神流布・大鼠】発動
感染対象:猟兵以外の全て
致死率:零 変異確率:極小
病症:腕部及び脚部麻痺を中心に構成
大規模感染開始
無差別でごめんね
でも後遺症は残らないようにしてるから安心していいよ
●天翔るものたち
「……どうせ特攻させるなら死を覚悟した者のほうが強いし厄介なのに、なんでわざわざ騙すかな」
男性の声は、競技場で旗を掲げるためのポールの天辺から聞こえてきた。声の主――カタラ・プレケス(夜騙る終末の鴉・f07768)は、腕組みをしながら器用にバランスを取りつつ、下界での騒動を睥睨する。
その隣にもう一つ、宙を浮くものがあった。とある異世界に於ける戦争で鹵獲したまま頂戴したバイク型UFO、その名を「ミッドナイトレース」というヒーローカーに騎乗してカタラに並び、乗り手のティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)もまた地上を見遣って嘆息する。
「誇りとアイデンティティの源を奪われたんだもの、『せめてもう一度』ってのはわからないではないけれど」
「……っ」
不安定極まりないポールの上で微動だにしなかったカタラが、ティオレンシアの声を聞いた途端にぐらりと体勢を崩しそうになったのは、至極真っ当な台詞を極甘ロリボイスで近い距離にて聞いてしまったからか。なんでや! ロリボイスええやんけ!
「……よりにもよって、『そこ』に手を出しちゃうなんてねぇ……」
蕩けるような甘い声で、しかしバイクを駆るべくハンドルを握る表情は微笑みを湛えているようで――一切の隙がない。
カタラもそれを察したのか、気を取り直して言葉を返す。
「覚悟のしてない人間なんて、最期に壊れてしまうだろうに」
「あら、その『壊れた』時にこそ発揮される力がお目当てなのかもしれないわよぉ?」
ティオレンシアの言が本当ならば、それはそれで厄介なことになる。何にせよ――こうしてやって来たからには、為すべきことはひとつ。
「……まあ、とりあえずこの騒ぎを止めてから考えようか」
ばさり、と。カタラの黒い翼がばさりと広げられ、日を遮る。
それに気付いた地上の軍人たちがこちらを指さして何かを言っているが、内容については二人ともあまり興味を示さなかった。何故なら――。
――どうせこれから蹂躙してしまうだけなのだから。
●その一切を蹂躙せよ
「端から当たってたら中央部の人たちが危ないかしらぁ?」
制空権を獲ったティオレンシアが、競技場の様子を一望しながらカタラに問う。
「そうだね、地上から制圧に掛かっている猟兵たちはどうしても外周部から片付けざるを得ない」
「じゃあ、ちょっと遊んできちゃおうかしら」
「……一般人は暴れかねない、軍人は多数。そして『殺すな』」
釘を刺す訳ではない、これはあくまで状況の整理。どうすれば、効率良く制圧できるか。
「なら――全部まとめた方が早いね。どうぞ、存分に」
「何か援護してくれるのなら嬉しいわぁ、じゃ、お言葉に甘えて」
不思議な動力で、ティオレンシアのバイクが宙を舞い地上へと迫っていく。それを見届けながら、カタラは何の躊躇もなくポールの上から軽く飛び降りる。
当然、翼持つカタラとて重力には逆らえない。すぐに地上へと引き摺り下ろされる感覚に囚われる。
「西方の風邪、八千滅す黒き死、蛇に喰われし疱瘡神」
黒翼を、両手を、大きく広げて。落ちていくというよりは、舞い降りようとするその様は神々しくさえあったろう。
だが、これよりカタラが『まき散らす』ものは、そういったモノとは程遠く。
「太陽隠し世界を蔽え。我が身に宿り災禍為せ――【病神流布・大鼠】」
ふわり、と。カタラは競技場の建物の中でも一番高い屋根の上に降り立つ。
同時に、広げた翼の影が信じられないほどの大きさで地上の、主にティオレンシアが向かった中心部を覆い尽くす。
「――感染対象:猟兵以外のすべて」
それ即ち、一般人をも巻き込むということ。
「――致死率:零。変異確率:極小」
それ即ち、命に関わる大事ではないということ。
「――病症:腕部及び脚部麻痺を中心に構成」
それ即ち、手足の自由を奪うということ。
大 規 模 感 染 、 開 始 。
ああ――影に覆われた人々は、一切の区別なく身体の自由を奪われて次々と横たわっていく! その中を唯一自由に動けるのは、例外措置を施された猟兵――ティオレンシアのみ!
「――ひゅう」
バイクを華麗にターンさせ、状況を察するティオレンシアは口笛を吹く。でも、せっかく来たのだし、自分だって少しは遊んで行きたいじゃない?
だから、胸元からダメ押しのグレネードを取り出して、とびきりの笑顔でフルスロットル。ちょうど一般人たちを一ヶ所に集めている最中だったのか、守るべきものと倒すべきものとが分かりやすく固まり合っているのを見て、心の中でガッツポーズ。
「さぁ、次はあたしの番よぉ。熱い【圧殺(アレスト)】、受け取ってちょうだいねぇ」
突如襲った手足の痺れに為す術もなく地を這う軍人たちの頭上に、グレネード弾が雨あられと降り注ぐ!
『あ、ああ……!! 目が、目……っ』
『何が、何が起きているんだっ……!』
のたうち回る軍人たちに生じた異変は様々だ。手足の痺れが倍増したり、涙が止まらなかったり、視界を奪われたり、枚挙に暇がない。端的に言えば、地獄絵図だ。
「安心していいわよぉ、よっぽど運が悪くなければたぶん死にはしないから」
「死なせられては困るよ、ぼくだって悪神にはなったけど命までは取る気はないんだから」
再びカタラの元にバイクを駆って戻ってきたティオレンシアの上機嫌ぶりを見て、カタラが念を押せば、表と裏の顔を持ち合わせる蠱惑的なバーのマスターは平時の笑みで。
「もちろん、死なないように気をつけはしてるわよぉ? ……トラウマとか後遺症とかまでは、あたしの知ったことじゃないけれど」
そしてチラリとカタラの方を見たのは、あの疫病めいた超常はどうなのか、ということ。
「……無差別でごめんね、でも後遺症は残らないようにしてるから安心していいよ」
その辺、ぼくの配慮は抜かりないよ。そう言いたげに、カタラは肩を竦めてみせた。
本格的な救助は、地上から進軍する他の猟兵たちに任せよう。
どうやら自分たちは、こうやって『下準備』を整えるのに向いているようだから。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
雷陣・通
軍人たちってことは通報は遅れる可能性があるな
まあ、だから俺達の出番なんだが
幸いにも人質は地に伏せている
俺の能力は単体に特化してるが方法はある
『稲妻舞空術』
これでフルスピードで飛べば、ソニックブームが発生する
つまりは衝撃波で敵は吹き飛び、隙ができる
「人々の夢の場を砕くとは、許せねえなお前達」
「この雷陣・通、治に居て乱を鎮める武を以ってお前達を――」
†倒す†
さて、こっからが本番だ
敵はたくさん、しかも銃器を持っている
けどな……高圧電流かに包まれたこっちは電磁力を帯びている
弾丸は当たらないうえで
「ライトニングターッチ!」
触ればビリビリだ
悪いがみんな、【マヒ攻撃&電磁属性攻撃】で痺れてもらうぜ!
杜鬼・カイト
◎
うわ、なにこの競技場の状況、阿鼻叫喚じゃん
オレも本気でいかないと駄目そうだな
もちろん、一般人の救出優先で動くよ
なぎなたを手に競技場へ
これ以上人質が増えないように、今まさに襲われようとしている一般人から優先して救出する
敵の攻撃は、救出対象が巻き込まれないように注意しつつ、なぎ払いによる衝撃波で防ぐ
【永遠の愛を誓え】で敵の動きを封じて、一般人にはその隙に逃げてもらおう
「ほら、さっさと逃げる!」
逃げてる最中に他の敵に襲われないように見ておかないと
危ないと感じたら、ダッシュで割り込んで妨害すればいいかな…?
●気を取り直して救助活動のはずが
各所で猟兵たちによる制圧活動が順調に進められてはいるが、それは同時に残存勢力である軍人たちの抵抗をより激しくしてしまう結果にも繋がる。
やむを得ないことではあるが、これを許してしまうと一般人に犠牲が出てしまいかねない。幸い、大半の一般人たちは避難を完了したとの情報もある。一方で、無差別に身体の自由を奪われて未だに競技場内に残っている一般人もいるというから油断はならない。
「うわ、なにこの競技場の状況、阿鼻叫喚じゃん」
まだ残されている一般人の集団がいる、と聞かされて駆けつけた杜鬼・カイト(アイビーの蔦・f12063)は、敵味方入り乱れて地に伏している様子を見て率直な感想を口にした。
(「オレも本気でいかないと駄目そうだな」)
ええっ!? 常ならば愛しの兄さまのこと以外は割と本気でどうでも良さそうなカイトさんが……本気を……!?
なぎなたを構えて競技場の中心へと駆けて行きながら、最優先にすべきと考えるのは一般人の救出。いざ、と一歩を踏み出したその時だった。
――ごうっ!!!
「な……何?」
セーラー服のスカートを必死に押さえるカイトの横を、稲光めいた何かが猛スピードで駆け抜けていった。
目をぱちくりさせてそれを見送るばかりのカイトだったが、すぐに気を取り直して今度こそ走り出すのだった。
(「軍人たちってことは、通報は遅れる可能性があるな」)
雷陣・通(ライトニングボーイ・f03680)はいつだってフルスロットル、登場するなり【稲妻舞空術(ライトニング・スカイ・オブ・サンダークラウド)】のちょっとよく分からない猛スピードでかっ飛ばし、道中の軍人たちを蹴散らしてきたのだ。
「――まあ、だから俺達の出番なんだが」
「ちょ、待って……はぁ、はぁ……もう、何かと思ったじゃん……」
そこへ、息を切らせたカイトがなぎなたにすがり付くように己を支えながら通に追い付いてきた。
「……って、これ、どうなってんの!? 敵も味方もみんな倒れてるし!」
「人々の夢の場を砕くとは……許せねえなお前達」
「待って、地味に話がかみ合ってない!」
(「分かってるさ、俺だって――だが、まさか来てみたらこんなことになってるだなんて思わねえだろ普通!?」)
そう、通の未来予想図としては。一般人に襲い掛からんとする軍人たちを先程の稲妻舞空術で蹴散らして、そこから得意の電撃攻撃で一網打尽という理想があったのに。
まさか(命に関わるものではないとはいえ)無差別攻撃で敵も味方も地に伏しているだなんて思わないでしょう!? うんゴメン、これは本当にイレギュラーだね!
手足の痺れから抜け出せる速度には、当然ながら個人差がある。一般人で言えば、日頃から鍛えている上に若さみなぎる選手たち。だが、軍人たちはそれを上回る練度で、麻痺毒を克服して次々と立ち上がろうとするではないか。
「――! これ以上人質を増やすわけにはいかない、優先して救出するよ!」
「あっ、ちょっと待――」
可憐なセーラー服の乙女(※通くん目線です)が、果敢になぎなたを振りかざして軍人たちの方へと向かう。
こうしてはいられない、通もいざ戦わんと――絶対に外せない『儀式』を行う。
「この雷陣・通、治に居て乱を鎮める武を以て、お前達を――」
†倒す†
「ねえ、何で今短剣符付けたの!?」
「よそ見してんじゃねえ危ねえぞ!」
何かを感じ取ったカイトが看過できずに振り向きツッコめば、真剣な返しをする通。
「わかってる、よっ!!」
向き直る勢いでなぎなたを思い切り横薙ぎに振るい、衝撃波で敵を後退させて銃剣による刺突攻撃から身を守る。
「やるじゃねえか……なら、俺もこっからが本番だ」
指を鳴らす通もまた、いまだ身動きが不自由な一般人の前へと。そうすれば、嫌でも軍人たちと対峙することとなる。
(「敵はたくさん、しかも銃器を持っている。けどな……」)
――ぴりっ。
徒手空拳の己に、飛び道具とは卑怯なりとは決して言うまい。それをも上回って勝利してこその武闘家だ。大丈夫だ、勝機はある。
(「高圧電流に包まれたこっちは、電磁力を帯びている」)
今、通と対峙している軍人たちの小隊が通信か何かで事前に情報を得ていなければ。
雷の妖術を駆使する猟兵に、弾丸を無効化されたことを知らないでいてくれれば。
(「弾丸は――気合いで避けるッ!」)
じり、と駆け出すための一歩を踏み出したその時だった。
「みんな、みーんな、オレのもの! 【永遠の愛を誓え(シンデモハナレナイ
)】!!」
カイトの無邪気な声が響くと同時に、銃剣やら拳銃やらを向ける気力を取り戻していた軍人たちが、次々とどこかで見たことのある蔦に絡め取られてその動きを封じられていく。
「ビリビリくん、今のうちに!」
「……恩に着る!」
互いに名乗っていないのだから、呼ばれ方が適当でもここは仕方がない。甘んじて受け入れて、通は今度こそ地を蹴って軍人たちに急接近する。
いかずちが迸る、電磁力が漲る。アイビーの蔦に拘束されて逃げられない軍人目掛けて、輝く右手を叩きつける!
「ライトニング・ターーーッチ!!!」
『ぎゃあああああ
!!!??』
おおよそ人の身には耐え難いであろう電流が襲い掛かり、触れられた軍人はまたしても痺れる世界へと。
まだ餌食となっていない軍人と目が合えば、フッと前髪をかき上げて通は言うのだ。
「悪いがみんな――痺れてもらうぜ」
決まった――。
悦に入りながらビリビリさせていく通の横で、カイトは一般人を必死に助け起こしながら声を掛けていた。
「ほら、今のうちにさっさと逃げる!」
そして通の方を振り返ると、カイトは一般人の避難を手伝う旨を伝える。
「逃げてる最中に他の小隊に襲われてもアレだし……見ておかないと」
それは、暗に『ここを任せても良いか』という意味合いを含んでいた。
「任せな、お嬢さん。ここは俺一人で充分――」
「だれがお嬢さんだって、誰が」
翠玉の瞳と、赤と青のオッドアイとが真っ直ぐにぶつかった。
「えっ?」
「えっじゃない!」
猟兵界隈って外見だけだと分からないことがいっぱいあるからネ!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
金童・秋鷹
◎
一人も殺すな、でござるか
殺さずに倒す方が殺すより難しいもんでござるがなぁ
まず妖刀・楓鷹の鞘の飾り紐を半分ほど解いて鍔に絡めて結び直し
振り回しても鞘が抜けないように固定
で、クロックアップ・スピード
増大した速度で駆け回り
妖刀・楓鷹の鞘で急所を突いて、影朧戦線の軍人どもを倒して回る
後頭部やこめかみ、顎を突いて脳を揺らし昏倒させる
胴が空いていれば鳩尾や脇の身体の急所を突きで狙う
一点を狙い易い突きを使う為に、わざわざ鞘と鍔を結んだのでござる
峰打ちでも突きは刺さるでござるからな
縛られた人々の縄を斬れぬのは難点だが
まあ、誰かが何とかするでござろう
拙者は血を吐くまで、一人でも多く敵を倒すのに専念するでござる
御桜・八重
◎
ここが憧れの帝都競技場!
ここで思いっきり走れたら気持ちがいいだろうなー…
なんて、呑気なことを言ってる場合じゃないっ。
わたしは観客席の人たちを避難させるね。
外からの階段を駆け上がり、観客席へ飛び出す!
「護りの花よ、咲きほこれ!」
【花筏】を発動し、髪飾り『八重桜』の複製を飛ばす。
桜色のオーラを傘状に拡げて人々を銃弾から守り、
幾つかは幻朧戦線の軍人に突撃、昏倒させるね。
「さあ、こっちだよ!」
わたしは自分が入ってきた出入り口の方へ人々を誘導。
我先にと駆け出す大人は「めっ!」てしとこう。
なんでこんなことをするのかわからないけど、
誰も殺させないし、誰も死なせない。
わたしは怒ってるんだからねー!
ジャック・スペード
◎●
……見逃せないな
彼等にどんな理由があろうとも
彼等がどんな志を抱いていようとも
罪のないヒト達を傷つけるのは
紛れもない「悪」だ
先ずは一般人の安全を第一に行動を
もう大丈夫だと声を掛けて落ち着かせつつ
逃げ遅れた者がいたら
怪力で抱え上げて安全な場所へ連れて行こう
銃剣を向けられた一般人も助けたい
粘液、もしくはクロークに身を包み
目立たぬよう気配を消しながら接近して
軍人に不意打ちを仕掛けよう
戦闘の際、一般人に流れ弾が飛びそうなら
此の身を盾にして庇うとしようか
俺はヒトが好きなので
お前達を殺めたくは無い
怪力とグラップルを活かし
敵の銃剣を物理的に破壊したり
涙淵で峰打して決して命を奪わずに
無効化して行けたらと思う
●共同戦線
動乱、騒乱、およそこの競技場という場にふさわしくない事態も、超弩級戦力こと猟兵たちの尽力により徐々に鎮圧されようとしていた。
それでもなお、幻朧戦線の軍人たちは屈しない。投降しようとなど、露にも思わない。誰か一人でも『彼』を競技場の建物まで導ければ、それで良いのだから。
あれだけ居た一般人たちの姿も、観客席とフィールドとにそれぞれ集団をひとつ残すのみ。それでも軍人たちに銃剣を向けられては、両手を挙げて無抵抗の意思を示す他なく。
ならば最後のひとりまで、助けて、制圧して、完全に解決せねばならない。
故に、猟兵たちは最後のひと押しのために『帝都競技場』に降り立つのだ。
「……見逃せないな」
ずしゃり、と。地面を踏みしめる音がひとのそれより大きく思われたのは、ジャック・スペード(J♠️・f16475)の身体が鋼鉄でできているという理由だけではなかっただろう。強い意思は自然身体を力ませる、ウォーマシンたるジャックにも、それに似た機構が働いたとしてもおかしくはない。
そして、ジャックの言葉はこの場全ての猟兵たちの言葉でもあった。
(「彼等にどんな理由があろうとも」)
常人には理解が及ばぬ、崇高な理念があるのやも知れない。
(「彼等がどんな志を抱いていようとも」)
ここまで心を一つにして同じ目的に邁進できるなど、そうそう出来ることではない。
(「罪のないヒト達を傷つけるのは――紛れもない」)
だが、駄目だ。たとえどんなにそれが尊いものに見えたとしても、この事実がある以上、ジャックは幻朧戦線をこう断じねばならなかった。
(「『悪』だ」)
「ここが憧れの『帝都競技場』!」
一方で、今日の晴れ模様にも似た青い瞳持つ御桜・八重(桜巫女・f23090)は、まさか自分が一流のアスリートにのみ降り立つことを許された地に足を踏み入れることになるなんてと、頬に両手を当ててほわぁという顔をする。
「ここで思いっきり走れたら気持ちがいいだろうなー……」
足元には、短距離走用のレーンが。視線を落とし白線を見るも、すぐ気を取り直す。
「なんて、呑気なことを言ってる場合じゃないっ!」
そばに別の猟兵が居たら、危うく肩に手を置かれて諭されるところだった。危ない危ない、両の手で頬を軽く叩いて気合いを入れると、八重は観客席を見上げた。
(「まだ人が残ってる! 助けなきゃ!」)
そう判断すると同時に駆け出した八重は、異国の装いの男とすれ違う。どこか儚げな、しかしどこか尋常ならざる気配を醸し出す男もまた、猟兵なのだと直感し、叫ぶ。
「わたし、観客席の人たちを避難させるね!」
「ああ、よろしく頼むでござるよ」
元気良く駆けていく巫女装束の少女にそう応えた金童・秋鷹(秋之血葉・f18664)は、フィールドの方で今まさに捕らえられようとしている一般人たちの方を見る。
「『一人も殺すな』、でござるか」
戦の心得があればあるほど痛感するとある事実に、秋鷹は嘆息するのだ。
「殺さずに倒す方が、殺すより難しいもんでござるがなぁ」
一般人たちの周りには、銃剣を構えた軍人たちが十人ほど。いや、もう五人は居るか。
冷静に状況を判断しながら、秋鷹は妖刀「楓鷹」の鞘に結わえられた飾り紐を半分ほど解き、それを鍔に絡めてきゅっと結び直す。
こうすることで、これからどれだけ妖刀を振り回そうと鞘がすっぽ抜けないようにしっかり固定されるのだ。
「軍人たちを頼んでも良いか、その間に俺が一般人の救助を」
「はは、元よりそのつもりにて――拙者は血を吐くまで、一人でも多く敵を倒すのに専念するでござる」
果たしてジャックは、秋鷹の言葉を額面通りに受け取っただろうか。実のところ、それが正解だったのだが。
ともあれ、秋鷹はすいと左手を持ち上げるとおもむろに指をパチンと鳴らす。
――それが、合図だった。
フィールドを駆け抜ける風となる、その姿はまさにこの場にあるべきものの如く。
秋鷹が『神行法』と呼ぶそれは【クロックアップ・スピード】なるユーベルコード。
一度地を蹴った瞬間には、あっという間に間合いを詰めて軍人たちに肉薄し、たちまち二人の軍人を妖刀の鞘で突いて撃沈させる。後頭部を勢い良く突かれては、どんな精鋭でもひとたまりもなかったろう。
『なっ……どうした、何が起き
……!!』
『おのれ、まだ来るか……超弩級戦力!』
「命を受けたが故に――拙者はそれを果たすのみでござる」
妖刀を手に、尋常ならざる移動速度を得た秋鷹は結った黒髪をなびかせながら告げる。
軍人たちの意識が一斉に自分に向いたことを悟ると、一瞬だけ後方に視線をやった。
そっと、密やかに、ジャックの超常も発動していた。
汚れを嫌う灰色の友は怒るだろうか、もしもの時は後で念入りに手入れをしてやらねば。
そんな思いと共に【ダーク・ヴェンジェンス】による漆黒の粘液を身に纏うジャック。軍人たちの気が秋鷹の方へ向いている隙に自らも騒ぎの中心へと接近していき、それでもなお念の為にと一般人に銃剣を向けている熱心な軍人の背後から手刀を一撃。
昏倒する軍人が地に伏して音を立てぬようその身を受け止めそっと横たえると、その紳士的な所作も相まって一般人は一斉にすがるような目線をジャックに送る。
黒々とした姿ではちょっと、そう思ったか。ジャックは一度超常を解いて頼もしい機械の身体を顕わすと、穏やかな声音というものを心掛けて声を掛けた。
「もう大丈夫だ、必ず皆を安全な場所まで送り届けよう」
歓声を上げたかったことだろう、しかし一般人たちはそれを堪えて喜色のみでジャックの言葉に応える。
外界に繋がる出入口や非常口の中で一番近いもののところまで、ざっと500m程度か。
一人、足を挫いている少年が居たので、ジャックは少年を驚かせないように悠々と担ぎ上げながら全員をそこまで誘導することにした。
「軍人たちは、あの侍の猟兵が引き受けてくれる。どうか安心して、落ち着いて避難を」
頼もしい導き手に従って、なるべく気取られぬように一般人たちが避難を開始する。それを視野の端に入れた秋鷹は、更に加速して軍人たちの無力化に精を出す。
『ガッ
……!!』
『は、速い! 何なのだ、これは!?』
そう、いくら厳しい鍛錬を重ねてきた軍人とはいえ、どこまで言っても一般人。埒外の存在が超常の力を纏ってしまえば、恐るるに足らずというもの。
悠々死角に潜り込んでは、後頭部のみならずこめかみや顎を鋭く突いて脳を揺らす。
「――胴がお留守でござるよ」
『かは……っ』
やみくもに抵抗しようとするならば、鳩尾や脇などの急所を突かれてまた倒れる。
(「一点を狙い易い突きを使う為に、わざわざ鞘と鍔を結んだのでござる」)
妖刀は血に飢えているやも知れぬが、今はくれてやる訳には行かず。
「――峰打ちでも、突きは刺さるでござるからな」
●あれは……魔法巫女少女シズちゃん!?
残された一般人は、恐らく今任せてきたフィールドと、あとは観客席の十名ほど。そう判断した八重は、フィールドから続く階段を一気に駆け上がり、じりじりと包囲されつつあった一般人たちと軍人たちとの間に躍り出る!
『超弩級戦力! クソッ、こうなったら!!』
「させないよっ! ――護りの花よ、咲きほこれ! 【花筏(ハナイカダ
)】!!」
銃剣ではなくグラッジ弾が込められた拳銃を構えた軍人たちの前に、八重のユーベルコヲドが花開く。乾いた発砲音と共に飛来する禁忌の弾丸は、しかし「八重桜」の名を持つ髪飾りが展開する傘状の防御障壁にことごとく弾き返された。
「まだまだっ!」
守りに徹するだけではない、髪飾りのいくつかはお返しとばかりに軍人たちに突撃していき、オーラの力をまともに受けた軍人たちはたまらず昏倒していく。
「よしっ! おしおき完了っ」
手をぱんぱんと打ち払う仕草で一般人たちの方を振り返り、八重は手を差し伸べる。
「さあ、こっちだよ!」
避難経路は大体確認してある。八重自身が突入してきた出入口が、今も安全なはず。フィールドではまだ戦闘が続いているだろうから、整然とした避難が重要なのだが――。
ああ、我先にと駆け出そうとする悪い大人の男の人が。大人なのに恥ずかしくないのか。
そんな男の前に八重はすかさず回り込んでビシッと指を突き付けて、こう言うのだ。
「悪い子は――めっ!」
男が周囲を見回せば、他の一般人たちのじっとりとした視線が刺さる。そうか、自分は悪い子なのか……そう改心した男は、大人しく避難の列に戻る。
ひそひそ。今の『シズちゃん』っぽかったね!
ひそひそ。うん、めっちゃ魔法巫女少女だし!
かの魔法巫女少女物語は、どうやら国民的人気を得ているようだった。
●譲れないもの
縦横無尽に駆け巡り、軍人たちを翻弄し、次々と昏倒させていく秋鷹は、ある爆弾を抱えていた。
――いつ、血を吐き倒れるか分からない。
とんでもないハンデだが、それさえ受け入れた秋鷹だ。
(「拙者は血を吐くまで、一人でも多く敵を倒すのに専念するでござる」)
一人、また一人。急所に鞘が決まり倒れ行く軍人たち。あと、残りは――。
「か……はっ」
喉の奥から、鉄の味がするような感覚がした。思わず膝を突く。
遂に見出した勝機とばかりに、銃剣を構えた軍人が秋鷹に迫る。
「それは、困るな」
銃剣が、金属音を立てて弾かれ、宙を舞う。
一般人の避難を終えたジャックが、その黒鉄の腕で秋鷹をかばったのだ。
呆然とする軍人に、ジャックは訥々と告げた。
「俺はヒトが好きなので、お前達を殺めたくは無い」
『ひ……っ』
震える手で、軍人が拳銃を構える。その中に込められた弾丸を、決して放つことは許されない。故にジャックは、怯まず手を伸ばすと、無造作に拳銃を掴み――握り潰した。
(「俺は彼のような本職では無いが――一応、似たようなことは出来るか」)
いよいよへたり込む軍人の鳩尾に、取り出した「涙淵 〜 ruien 〜」なる刀の柄を叩き込み、非殺の無力化に成功する。
大丈夫かと秋鷹の方を見れば、鮮血に瞠目する。ウォーマシンたるジャックにも、これは尋常ならざることだと理解できた。
だが、秋鷹は片手で口を押さえながら、もう片方の手で『問題ない』とひらひらさせる。
これは業にして、代償にして――力を存分に振るった栄誉の証でもあるのだから。
そこへ、観客席の一般人たちを外に出し終えた八重が駆けてくる。
「もう、なんでこんなことをするのかわからないけど! 誰も殺させないし、誰も死なせない!」
そうでしょ!? そんな勢いに、男たちは思わず首肯する。
桜の巫女は、胸中を隠さずに叫んだ。
「わたしは、怒ってるんだからねー!!」
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
第2章 ボス戦
『雷禍』
|
POW : 雷抛
【怒れるままに電撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 雷珠
【雷球】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ : 穿雷
【怒り】を向けた対象に、【積乱雲からの雷】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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●閃電
人々が次々と競技場から出て来る姿が、甲冑越しに確認できた。その中には競技服姿の若者も多く含まれていたものだから、自然と視線がそちらに惹かれてしまう。
『――同志宮城野、貴様が見るべきものは其方ではない』
『……はっ。将校殿、申し訳ありません』
ギギ、と音がしたのは、甲冑が身体の向きを競技場の真正面に戻したからだろう。最初に見た時、こんなものが本当に動くのかとさえ思ってしまった『最終兵器』は、いざ乗り込んでみればその名に恥じぬ自在な動きで、文字通り手足のように動いてくれる。
ならば当然、この兵器へと導いてくれた『将校殿』には感謝せねばならぬ。あの雨の夜に、どういう経緯で己の元にやって来たかは最早問うまい。これは、きっと神様のお導きというものに違いない。
『作戦を変更する。同志宮城野、単騎駆けの自信はあるか?』
無礼ながら、誰に言っているのかとさえ思えてしまうその問い掛けに。
『無論であります、私は何時でも――誰よりも速く駆けて参りました』
きっと、この答えこそを待ち望まれていたのだろう。予想通りの指示が下る。
『良かろう――ならば征け。今こそ再び、思うがままに、あの競技場を駆けて』
甲冑越しに、将校殿が白手袋の右腕を鋭く下ろす姿が見えた。
『――蹂躙せよ、同志宮城野』
輸送トレーラーから、鉄塊がその巨体からは想像もつかぬ俊敏さで、飛び出した。
「――見て!」
猟兵の誰かが、競技場の入口を指さし叫ぶ。声の通りにすれば、既に別の任務での邂逅したことがあるやも知れぬ禁忌の兵器――『影朧甲冑』の姿が、そこにはあった。
幻朧戦線の尖兵たちを食い止めたために、競技場の建物へと素通しせずに済んだのだ。それでも、放つ圧は凄まじい。それは兵器そのものの力か、それとも――。
『猟兵諸君。私は幻朧戦線の理想のため、大恩ある方のため、そして何より己のために』
ザッ、と。何かを確かめるように影朧甲冑は一歩を踏み出す。
パリ、と。雷がその周囲を走ったような気がした。
いや、気のせいなどではない。甲冑は強大な力持つ影朧の姿を纏ったのだ。
――『雷禍』とは。かつて瑞鳥として存在していたものの成れの果て。
――雷を放つその様は、まさに疾風迅雷にして、怒りを孕み。
(『ああ、思えば全てが理不尽であった。何故私が足を、走ることを、奪われなくてはならなかったのか』)
かつての己の走る様は『閃電』と称されたことを思い出す。なればこそ、この影朧が力となり、糧となるのだろう。
(『たとえ相手が超弩級戦力であろうと――』)
甲冑越しではあるが、確かに感じるのは、懐かしの競技場の感覚。ならば――!
『いざ、勝負だ猟兵諸君! 私は――決して負けない!!』
甲冑が纏う雷の鳥が、大きくその翼を広げる。
目指すは、入口から真っ直ぐのところにある競技場の建築物。
君たちは、これを何としても阻止せねばならない。
宮城野という青年を、駆けさせる訳にはいかない。
ルリララ・ウェイバース
◎
互いを姉妹と認識する四重人格
末妹のルリララ以外序列なし
『雷だ♪私の出b』
『撃ち合いは迷惑だから止めとけ』
『雲からって事は自然現象に近いわよ』
ならば、オルタナティブ・ダブルでルリと別れて、ルリララは全力魔法、高速詠唱のエレメンタル・ファンタジアで鉄の間欠泉
即座にルリが水の竜巻で、間欠泉を急冷
避雷針と言うらしいな
雷を反らすなり、威力を削ぐぞ
ララ姉、説得は任せるぞ
精霊祈願で周囲の特に雷の精霊達に語りかけ、ヒトに落ちず、避雷針に向かうか、ララに力を貸してくれるように祈りとお願いをするね♪
漏れちゃった分は、オーラ防御と電撃耐性で耐えるよ♪
力を貸してくれる子が増えたら、鳥さんに雷を返すね♪
満月・双葉
◎
満足か?後悔しないか?それならそれで良いけどな
何故理不尽を理不尽で発散してはいけないか解るか?
それは、お前の感じた理不尽を、もう誰も理不尽とは思ってくれなくなるからだ
【野生の勘】も発動させた上で、敵の動きに注意し、攻撃行動が見られたら距離を開けるか、開けきれないと判断した場合は【オーラ防御】で防ぎ、防ぎきれないダメージは【激痛耐性】で耐える
意識さえあれば何とかするし
【光弓の首飾り】で遠方から【スナイパー】で精度を上げた射撃
【虹瞳】で【生命力吸収攻撃】
を放ち
【野生の勘】で敵の弱いところを感じたらユーベルコードで切る
命を視る目で急所が見えた場合は大根の爆発【属性攻撃】で爆破
冥土の土産にどーぞ
杜鬼・カイト
◎
兄さま以外割とどうでもいい、は否定しないけどね?
否定はしないけど、オレも一応良識ある猟兵だからね(?)
で、次はビリビリのあの鳥を止めればいいわけだね。
とりあえずなぎなたぶん回して、【衝撃波】で【なぎ払い】かな。
鳥なんだから、風切羽を切っちゃえば飛べなくなるでしょ。
敵の翼はもがないとね。よく【見切って】狙う。
敵が早くて追いつけないなら、こっちも加速すればいい。
UC【その身に宿すは瑠璃蝶草】を使って高速移動。
「…ね、オレ本気だすって言ったでしょ?」
●地に墜ちよ、と
猟兵たちの眼前に現れた雷の鳥は、まるで甲冑の乗り手のそれに呼応するかのごとく『怒り』をあらわにして迫り来る。
先程まで相手取っていた尖兵たちとは明らかに格が違う。場に集った猟兵たちは各々油断なく戦闘態勢に入り、迎撃の構えを取った。
(「兄さま以外割とどうでもいい、は否定しないけどね?」)
セーラー服のスカートをひらり翻し、杜鬼・カイトがザッとなぎなたを構えながらふと思う。そ、その節は地の文が大変失礼致しました案件である。
(「――否定はしないけど、オレも一応良識ある猟兵だからね?」)
それを、今から証明してあげる。そう言わんばかりに怯むことなく刀身を雷禍に向け、カイトは不敵に笑むと敢えて大きな声で言ってやるのだ。
「で、次はビリビリのあの鳥を止めればいいわけだね」
策ならある、決まれば後は楽勝。狙いは風切羽、これさえ断ってしまえば飛ぶことすら叶わず、ただ地を這うばかりであるがゆえに。
『……!!!』
およそ人の言葉では表現し難い声を上げて、雷禍が大きな雷の球を生み出すと、羽ばたきで勢いをつけてカイト目掛けて叩きつけんとする。
「おっそーい、止まって見えるよ!」
『ッ
……!!』
豪速とも言える速度で飛来した雷球を、しかしカイトはその動きを見切って最低限の動作でかわす。身を屈めたのを勢いに変えて、地を蹴り力強く踏み込む。
そして身体を思い切りねじって、愛用のなぎなたを力いっぱい横薙ぎに振るえば、不可視の衝撃波がお返しとばかりに雷禍を襲う。
しかし、即座に生み出された次の雷球が放たれ衝撃波とぶつかり合うと、相殺される形でかき消えてしまったのだ。
『……、……!!』
「うわ、何か怒ってる……もしかしてさっきのがまずかったのかな」
カイトは思わず端正な眉の根を寄せてシワを作ってしまう。速さを誇りとするものが纏う相手に『遅い』は挑発になってしまっただろうかと。
(「敵の翼はもがないとね、って思ってたけど……一筋縄ではいかなそうだね」)
なぎなたを握る手に汗が滲む。戦いは、まだ始まったばかりだ。
●反撃と動揺
ルリララ・ウェイバース――正確にはウェイバース四姉妹と呼ぶべきか、彼女らもまた雷禍に立ち向かうべく戦場に立つ。
まずは、作戦会議だ。身体は一つでも、人格は立派に四人分。姉妹間での連携が重要となるのだから。
――雷だ♪ 私の出ば……。
嬉々として表に出ようとする風の巫女たるララを、火の巫女たるリラが制する。
――撃ち合いは迷惑だから止めとけ。
――雲からって事は、自然現象に近いわよ。
存外に常識人だったリラのすぐ後に、水の巫女たるルリが冷静な分析で続く。
(「ならば、まずは二手に分かれよう――ルリ姉!」)
身体の持ち主にして地の巫女たるルリララが念じると、瓜二つのようで微妙に違う――特徴的な鉢巻を外した状態のルリが分かたれて現界する。
二人になれば、出来ることが倍になる。単純明快な話であった。
「行くぞ! 母なる大地より出でしもの、天を衝け!」
ルリララが片手を地面に、もう片方の手を空へとかざせば、生じたのは何と鉄でできた間欠泉。競技場という天と地両方に力が満ちる場で、高々と噴き上がる。
『水は全てを包み込む、さあ――力を貸して』
ルリは両手を間欠泉めがけてすかさず突き出し、水の竜巻で急速冷却する。そうして出来上がったものは。
「『避雷針』、と言うらしいな。雷を反らすなり、威力を削ぐぞ」
地面から天高くそびえ立つ、巨大な鉄の棘――雷を引き寄せる、避雷針そのもの。
『……ッ』
小癪な小娘どもに怒りをあらわにする雷禍が、お構いなしに積乱雲から雷を叩きつけようとした、その時だった。
「満足か? 後悔しないか? それならそれで良いけどな」
ポケットに両手を突っ込んで、無表情でそう言い捨てながら。満月・双葉がやって来た。
語りかけるのは、雷禍の向こう側にいるであろう、影朧甲冑の乗り手だ。
「何故理不尽を理不尽で発散してはいけないか解るか?」
雷禍が、甲冑が、一瞬後ずさったかのように思えた。不退転の最終兵器が、後戻りなど出来ようはずもないというのに。
「――それは、お前の感じた理不尽を、もう誰も理不尽とは思ってくれなくなるからだ」
『……!』
――違う。違う、違う。私には将校殿が、同志たちが、この影朧甲冑がある。
――私が、間違ってなどいるものか!!
『――ォ、オ!!』
今までで一番大きな声を上げ、雷禍が怒れるままに電撃を無差別に放つ。咄嗟に双葉は後方に飛び退って回避するが、電撃は無数に放たれ執拗に双葉を狙うのだ。
「く……っ!」
これは避けきれないと判断した双葉が、手をかざして虹薔薇の意匠持つオーラの障壁を展開する。エネルギー体同士がぶつかり合って、激しい音が響く。
(「厄介ですね、言葉は通ったようですが」)
双葉が忌々しげに敵を見据えた時、強烈な電撃が遂に障壁を叩き割った。
「……ッ!!」
雷撃の直撃こそ免れたものの、障壁が破壊された衝撃で、思い切り後方に吹っ飛ばされる双葉。受け身を取る間もなく、数度地を転がってようやく止まった。
(「……大丈夫、死ぬほど痛いですが。こうして意識さえあるなら、何とかします」)
これは骨が数本逝ったかも知れないな、なんて嫌な考えが脳裏をよぎるも、耐える。
耐えて、半身を起こす。反撃の機を窺うために。
●攻勢、そして
(「ララ姉、説得は任せるぞ」)
双葉を襲う雷撃は、徐々に範囲を広げてカイトやルリララたちにも迫ろうとしてた。本当に無差別なのだ、このままでは昏倒している幻朧戦線の軍人たちにも被害が出てしまう。
『待ってました、任せて♪』
ルリララが一度目を閉じて、脚の布を外して腕に布を巻けば、次に目を開けた時にはララが主導権を握っていた。
先程姉妹が作り上げた避雷針と、荒ぶる雷禍とを見比べて、場に味方が二人いることを確認したララは祈る。
『雷の精霊よ、どうか『ヒト』に落ちず、鉄の棘に向かい、ララに力を貸して』
祈りの名は【精霊祈願(エレメンタルウィッシュ)】、希い望む者の数に応じて叶う範囲が広がる超常。
それを無意識のうちに察したカイトと双葉は、それぞれが攻撃の機を狙いつつもララの願いが叶うようにと同意の念を送る。
至極誠実な願いであるが故に、妨げられる要素がほとんどない。賛同者もいる。かくして雷撃はこれ以上の被害を出さず、避雷針に落ちるか、ララの掲げる儀仗に集まっていく。
『はい、お返し♪』
ララが儀仗を一振りすると、吸収していた雷の力が雷禍へと言葉通り返される。ダメージこそ通らなかったが、人的被害を防いで時間を稼ぐには十分だった。
「――悪く思わないで下さいね」
上半身さえ起き上がれば上出来、双葉は可憐なオラトリオの少年からの贈り物である「光弓の首飾り」にそっと触れて、狙いを定める。
遠距離攻撃の手段を用意しておいて良かったと言う他ない、おもむろに眼鏡を外してその魔眼を解放する――【命断(イノチタチ)】!
『グ……ッ!!』
双葉の魔眼は、あらゆる生物の『命』を視る。埒外の存在の力をもってすれば、視線によって急所さえも断つことができるのだ。
(「さすがは強敵、殺しきるまでは行きませんか。それとも――」)
自身の負傷が影響しているのか、それとも雷禍の力が強大だからか。一撃必殺とは行かず、一筋走る傷をつけるに留まる。
「冥土の土産にどーぞ、と思ったんですけどねえ」
「後はオレが引き受けるよ、あそこを狙えばいいんだね」
ざ、と。カイトが双葉をかばうように雷禍との間に割って入った。なぎなたを握る手に、最早迷いはない。
(「敵が速くて追いつけないなら、こっちも加速すればいい」)
赤と青の双眸が、真剣な色を帯びて雷禍を見据えると同時、それは発動した。
「其は、悪意で満たされしもの」
――全を壊す鏡なり。【その身に宿すは瑠璃蝶草(コンゲンカイホウ)】!
一瞬の出来事だった。先に一筋の傷をつけられた雷禍の傷をえぐるように、全てを破壊する魔力をまとったカイトのなぎなたの一閃が、さらに深く斬り付けていったのだ。
残心、なぎなたの切っ先についた血を払う。ああ、影朧も血を流すんだなんてことを頭の片隅で思いながら、カイトは身悶える雷禍の気配を振り返らずに感じていた。
「……ね、オレ『本気出す』って言ったでしょ?」
後で兄さまに褒めてもらえるかな、そんな淡い期待を込めて。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
金童・秋鷹
◎●
敵は雷の鳥か
ならばこの刃を翼に変えるまで
実は元よりそうするつもりで血を吐くまで走り回ったのでござる
まあ、空中戦は具現化した楓鷹任せでござるがな
とは言え、奴に見合う大きさにするには、まだ代償が足りぬか
良かろう楓鷹
奴より疾く飛び、お主の風の衝撃で奴の雷撃を吹き飛ばすに足りるまで
拙者の血、存分に持っていくでござる
鳥の影を纏った人に鷹の妖の力を見せつけてやれ
と言うわけでゲホゴホッと盛大に血を吐いて楓鷹解魂
周りが引くかもなんて気にしない
むしろ見せつけるでござる
甲冑の中の者に、身を以て示すでござる
この血塗れが、斯様な血溜まりが、お主が踏み込んだ世界だと
その足で立っても、そこに輝かしい栄光など無いのだと
荒谷・つかさ
……一番大切なことを伏せられてソレに乗せられたお前が、一体奴らの何を知っているのかしらね。
【荒谷流剣術・真伝『零』】発動
構えるは「大悪魔斬【暁】」一振り、宿す属性は「地」
放たれる電撃に対し刀の切っ先を避雷針代わりにして誘導、地属性を宿した刀身で吸収し無効化を図る
反撃として狙うのはその嘴の隙間……ひいては更に奥にあるであろう『甲冑』と『雷禍』の隙間
我が剣はあらゆる隙間に入り込み、可能性を斬り拓く刃
であれば皮を剥ぐように、影朧の影を剥がすことも出来る筈
何故わざわざ戦い慣れた幻朧戦線の兵士でなく、お前みたいなのを乗せるのか考えなかったの?
……奴らは自分でソレの代償を払いたくないのよ。
この意味、解る?
●執念、いまだ絶えず
――まだだ、まだ、大丈夫だ。地に足はついている。
――超弩級戦力だろうが何だろうが、私が駆ける邪魔はさせない!
影朧甲冑の乗り手の意志に呼応するように、傷を負った雷禍はそれでも猛々しく羽ばたきひと鳴きして、なおも競技場の建物を狙う。
思えば、自分の種目では進路を遮るものなど何もなく。ただゴールを目指してひた走ればそれで良かったが、今はどうだ。
超弩級戦力というハードルが、次から次へと立ちはだかるのだ。障害物を跳び越えながら進むのは不慣れだが、今の己にはそれを成し遂げられるだけの『力』がある。
宮城野青年は仰々しい甲冑の中で、確かにそれを感じていた。故に、それを与えてくれた『将校殿』と『幻朧戦線』を疑うことを知らなかった。
「……一番大切なことを伏せられて『ソレ』に乗せられたお前が、一体奴らの何を知っているのかしらね」
そんな宮城野青年の状態を知ってか知らずか、荒谷・つかさは「大悪魔斬【暁】」を無造作に持った姿で、雷禍の前に怖じ気づくこともなく立ちはだかった。
「敵は雷の鳥か、ならばこの刃を翼に変えるまで」
つかさの隣にスッと並び立ったのは「妖刀・楓鷹」の使い手たる金童・秋鷹であった。
戦装束に僅かに付いた鮮血は、果たして誰のものであろうか。幻朧戦線の軍人たちに被害が出ていないことを鑑みるに、導き出される答えは一つ。
「……大丈夫? あなた」
「なに、実は元よりそうするつもりで血を吐くまで走り回ったのでござるよ」
喀血をしたのだと察したつかさが秋鷹の身を案ずれば、むしろ狙い通りだと剣士は返す。
「まあ、空中戦はこれより具現化する『楓鷹』任せでござるがな」
そう言いながらいよいよ鞘から抜き放たれる妖刀の刀身が、文字通りの妖しさで光る。それを見たつかさはその危うさをも含めて秋鷹の意図を察し、自身も得物を構えた。
「雷撃が来るそうね――引き受けるわ、準備が要るならその間にお願いね」
「かたじけない、ではありがたく」
二人が交わした言葉が聞こえただろうか、雷禍がひときわ大きく翼を広げ、鳴いた。
●二人の剣士、決死の攻防
――剣の使い手か、間合いにさえ入られなければ問題ない。
――影朧の雷撃で、二人まとめて蹴散らしてやる!
宮城野青年は、既にその先を見据えていた。超弩級戦力何するものぞ、疾く排除して、このトラックを、フィールドを、思うがままに駆けて、そして――壊す。
己が夢を断たれたのを尻目に、五体満足な人々は思うがままにこの競技場で躍動する。
それがどんなに悔しかったか、思い返すだけでも、そう。雷禍が纏う雷が激しくなる。
『……ッ!!』
雷禍が力強く羽ばたき、身に纏った雷が無数の矢のようにつかさと秋鷹目掛けて迫る。
つかさが、正眼の構えで無類の強さを誇った母より譲られたサムライブレイドを向け、臆することなく地面を踏みしめて声を張り上げた。
「我が剣は零にして無限、あらゆる可能性を斬り開く刃也!」
構えた刃の切っ先は、両手で高々と天高く掲げられ。
「――【荒谷流剣術・真伝『零』(インフィニティ
)】!!」
バリバリバリバリッ!!! 広範囲にわたり広がっていた雷撃が、一気につかさの掲げた刀目掛けて収束する。哀れ、つかさは雷撃に耐えかね――そう思われた時だった。
「大地の属性を付与したわ、これでこの刀は避雷針みたいなものになったの」
つかさは、平然としていた。地の属性を宿した刀身は見た目こそ派手に雷撃を引き寄せ受け止めたが、その殺傷力のすべてを吸収して無力化し尽くしたのだ。
その様子をやや後方で見守っていた秋鷹も、つかさが稼いでくれた時間で準備を整えつつあった。
(「ああは申したが、奴に見合う大きさにするには、まだ『代償』が足りぬか」)
秋鷹は手にした妖刀の刀身に視線を落とす。驚くほど青ざめた顔をした男の顔が、そこにはあった。だが、それがかえって秋鷹の覚悟を後押しした。
(「良かろう楓鷹。奴より疾く飛び、お主の風の衝撃で奴の雷撃を吹き飛ばすに足りるまで――」)
ぐ、と。秋鷹は戦装束の胸元を掴む。
「拙者の血、存分に持っていくでござる!!」
そう、妖刀が妖刀たる所以は、持ち主たる秋鷹の血液をこそ代償にして活きること。
幸い、つかさとの距離は十分離れている。彼女まで血で汚してしまう心配はない。ならば、鳥の影を纏った人に、鷹の妖の力を見せつけてやれ!
――かはッ。
鮮血が、競技場に咲いた。今や秋鷹の喀血は力の代償という足手纏いではなく、むしろ妖刀を使いこなすための正当なる武器となり、刀身をも血で濡らしていく。
げほ、ごほっという明らかに苦しげな声に、さすがのつかさも目線だけ背後の秋鷹の方に向ければ、広がる光景に思わず目を疑った。
「ちょっ
……!?」
明らかに生命に関わりかねない量の血をみたつかさが、しかし雷禍から気を逸らすこともできずにただ声を上げるばかりなのを見て、秋鷹は朱に染まる口の端を上げるのだ。
(「周りが引くかも、なんて気にしない」)
文字通り十分に血を吸った妖刀から、鷹妖の分霊が解き放たれた。それは一度中空ではばたくと、一気に雷禍目掛けて迫り、鋭いくちばしの一撃を叩き込む。
『ォ
……!?』
「今で、ござる」
「! わかったわ!」
翼持つものどもが争っている間、秋鷹が身を賭して放った鷹妖は抑えとなって雷撃をも封じ込む。これでつかさは防戦一方のみから、攻撃に転じることができる。
状況を完璧に呑み込んだつかさが、刀を再び構えて猛然と雷禍目掛けて駆け出す。
この『走る』という何気ない動作。これこそが、甲冑の乗り手が欲して止まなかったもの。そんなささやかな願いを叶えるために、払われる代償はあまりにも大きい。
しかも、乗り手はそのことを、何も知らない。その事実が、つかさを静かに怒らせた。
「てぇぇぇぇぇぇいッ!!!」
助走をつけて、刀の切っ先を思い切り突き出す。味方の攻撃の気配に、即座に鷹妖が上空に飛んで道を開ければ、不意を突かれた雷禍のくちばし――その先の影朧甲冑との『隙間』に、刀身が強くねじ込まれた。
(「我が剣は、あらゆる隙間に入り込み、可能性を斬り拓く刃」)
『ガ……ッ!!』
(「であれば、皮を剥ぐように――影朧の影を剥がすことも出来る筈!」)
てこの原理を用いるかのごとく、思い切り刀を押す。柄を握る手に、母が手を添えてくれた気がした。
――ダメだ、まだ! まだ……!!
「……っ!!」
バチッ! あと一歩のところで、文字通り弾けるような雷撃が影朧の全身を包み、つかさを刀ごと弾き返してしまう。辛うじて受け身を取り、再び敵と対峙する。
――クソッ、何なんだ……私が、この影朧が、恐ろしくはないのか……!?
かたや全く怯むことなく攻め込んでくる女丈夫、かたや血を盛大に吐いている侍。
宮城野青年には到底理解が及ばぬのも無理はない、超弩級戦力とは即ち、埒外の存在にして、常人とは一線を画する存在なのだから。
「……っ、げほっ」
秋鷹が喉に残った血を吐き出す。相当な量をくれてやった、意識が朦朧としそうだ。
(「甲冑の中の者に、身を以て示すでござる」)
だが、言ってやらなければならないことがある。この姿をこそ、見せつけてやらねばならぬ。口元を拭い、秋鷹は気力を振り絞って言い放った。
「知るがよい。この血塗れが、斯様な血溜まりが、お主が踏み込んだ世界だと」
競技場の地面が、赤い朱い血で染め上げられていた。そう――。
「その足で立っても、そこに輝かしい栄光など無いのだと!」
甲冑が、纏った影朧が、揺らいだ気がした。そこへ、つかさも良く通る声で言う。
「何故わざわざ戦い慣れた幻朧戦線の兵士でなく、お前みたいなのを乗せるのか考えなかったの?」
ああ、この乗り手は認識しているのだろうか。己は既に『兵器』と成り果てたのだと。
いや、知らぬのだろう。だからこそ、つかさは言ってやるのだ。
「……奴らは自分でソレの『代償』を払いたくないのよ」
――代償? 何の話だ……?
「この意味、解る?」
――解らない、わからない。お前たちは何を言っているのだ!
秘匿された事実を知った時、果たしてどうなってしまうのか。
今はまだ、誰にもわからない、わからない――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ケルスティン・フレデリクション
どんなことがあっても、ほかのひとをきずつける理由にはならないの。
…とりさんにへんしんしたの?
おっきい…
でも、だめ。こわしちゃ、だめだよ!
【全力魔法】で【属性攻撃】
氷の魔法を使って動きを鈍らせるようにするね。
攻撃するのは、こっち!建物じゃないよ!
敵からの攻撃に避けようと頑張るけど、避けられなかったら【
激痛耐性】で我慢…
【カウンター】で氷の魔法をお返しするね
びりびりはいたい、けど…でもみんなをけがさせちゃだめだもん。
UCひかりのしらべを使うね。ぴかぴか、くるくる、ふわふわ…
…でも、ひとが、しぬのはいやだから…できるなら、たすけたいの。…影朧甲冑に乗ったら、もうだめなの?
…かなしいきもち、いっぱい。
木常野・都月
◎
この人は、一般人を襲って、競技場を壊して…そして、失ったものを取り戻して…喜べるのか?
俺も、この人と同じなのか?
俺も、いつか人の日常を壊すのか?
これが人の在り方?
でも俺が知ってる人達は、こんな事しない。と思う。
分からないけど、今はこの人を止めたい。
この人の幸せを奪いたく無いけど、大勢の人の世界を壊される訳にはいかない。
UC【雷の足止め】で敵を足止めしたい。
加えて、地の精霊様の[属性攻撃]で磁場、重力で地面に敵を押し潰したい。
敵の攻撃は、地の[属性攻撃(2回攻撃)、高速詠唱]の[カウンター]で、電気を地面に流したい。
ああでも。
俺も今、この人の幸せを奪ってるんだよな。
俺も同じ「人」なんだな。
●人の在り方
「この人は」
影朧甲冑を、そしてそれが纏う雷の鳥を目の前にして、なお木常野・都月はその向こう側にいる乗り手を見通して物事を考える。
「一般人を襲って、競技場を壊して……そして、失ったものを取り戻して……喜べるのか?」
都月はいつだって、己の定義についてというある種哲学的な命題と向き合う真摯な性格をしているものだから、まずその点に考えが向かうのだ。
その隣に立つケルスティン・フレデリクションは、ふわふわとした可憐な容姿で、しかし言葉はきっぱりと、揺るがぬ意志で言い放つ。
「どんなことがあっても、ほかのひとをきずつける理由にはならないの」
「……そう、だな」
ケルスティンの言葉を受けた都月が、その通りだと険しい顔で雷禍を見据える。ぐ、と拳を握れば爪が掌に痛いほど食い込むのは、なお迷いがあるからだろうか。
(「俺も、この人と同じなのか?」)
影朧の向こうの、甲冑の中に、自分と同じ『人』がいる。
(「俺も、いつか人の日常を壊すのか?」)
隣に立つ少女は、決して許されないと言うけれど。自分の願いのために、他人を犠牲にすることも厭わない、そこまで思い詰めることが有り得るのだろうか。
(「――これが、人の在り方?」)
甲冑の中の人、親しい人たち、そして自分。一体、何が、どこが、違うのだろうか。
都月は今までに出会った人々のことを思う。自分を助けてくれた老人をはじめ、思えばたくさんの人との縁があった。
(「でも、俺が知ってる人達は、こんな事しない。……と、思う」)
都月がたまたま、人の縁に恵まれただけかも知れない。自分が甲冑の乗り手のような立場に立たされたら、あるいはとも思う。
――どんなことがあっても。
少し心配そうに自分を見上げてくるケルスティンの言葉が脳裏をよぎる。
――ほかのひとをきずつける理由にはならないの。
ああ、畢竟そこに行き着くのだ。ならば為すべきことはひとつ。
「……分からないけど、今はこの人を止めたい」
目線を雷禍から離さず、都月はケルスティンに向けてそう意思表示をする。
「この人の幸せを奪いたく無いけど、大勢の人の世界を壊される訳にはいかない」
「……うん!」
その言葉を受けたケルスティンが首肯し、都月と同じように雷禍を見据える。
まずは、この影朧を引き剥がさなくては。
●氷、雷、そして大地
ケルスティンの目には、影朧を纏うという現象がこう見えたらしい。
「……とりさんにへんしんしたの?」
半分正解と言えるだろう、仮初の姿を纏っているのだから、ある種の変身だ。
「おっきい……でも、だめ」
それは、ケルスティンの絶対の意志だった。どんなに幼くとも、猟兵である以上、その意志を貫くだけの力がある。故に、それはさせないと叫ぶのだ。
「こわしちゃ、だめだよ!!」
――女子供まで戦場に来るのか、恐ろしいな、超弩級戦力というのは。
戦場ではこのような侮りが命取りになると、宮城野青年は知らなかった。一応勝負の世界に生きてきた身ではあっても、身体能力の差が明確に現れる世界だった分だけ、そのような思考になってしまったのかも知れない。
故に、さほどの怒りというものが湧かなかったため、先手を取られる結果となった。
バッと両手を天に掲げたケルスティンの周囲に、大小さまざまな氷の槍が現れる。
「えーいっ!!」
『……ォオ!!』
力いっぱい両手を振り下ろしたケルスティンの命に従うように、氷の槍が猛然と雷禍めがけて飛んで行き、その巨体を、翼を、次々と貫いていく。
氷は無慈悲にもバキバキと、雷禍の身体の自由を奪っていくではないか。
命中を確認したケルスティンが、甲冑の乗り手に向けるように声を上げた。
「攻撃するのは、こっち! 建物じゃないよ!」
――クソッ、この程度……! 少しでも動けば十分だ、そうだろう!?
『オ、ォ――!!』
どのみち邪魔をするのなら、全て蹴散らしてやる。明確な怒りをもってケルスティンへと積乱雲をけしかけて、文字通り雷を落としてやろうと雷禍が唸る。
先程ケルスティンが腕を振るったように、雷禍もまた大きく広げた翼を羽ばたかせようとする。そうすれば、ケルスティンを雷が襲うだろう。
(「よけられる、かな……? がんばるけど、だめだったら……」)
頭上に迫る積乱雲を見て、ケルスティンが回避の方法を必死に考えた時だった。
「雷の精霊様、足止めを!!」
『カカカ、精霊使イガ荒イノウ! ダガ、敵モ雷。期待ハシテクレルナ』
都月がそうは行くかと雷の精霊に助力を請うて、雷禍の足止めを狙った。しかし、雷の精霊自身が言うように、相手は雷を自在に操る存在だ。果たして通じるか――。
――は、雷の鳥が感電などする訳がないだろう?
果たして雷の精霊が放った高圧電流は、常ならばほとんどの敵を感電させる効果的な超常であったのだが、今回は相手が悪かった。
「あぶないっ!!」
「わ……っ!?」
落ちてくる雷からせめて都月だけでも守ろうと、ケルスティンが咄嗟に都月を突き飛ばす。直後、都月が見たものは。
「……大丈夫か!?」
「びりびり、は、いたい、けど……」
雷の直撃を受け、しかし痛みを必死にこらえるケルスティンの姿だった。痛い、とても痛い、けれど。
「でも、みんなをけがさせちゃ、だめだもん」
「……地の精霊様ッ!!」
震える足で何とか耐えるケルスティンを今度こそ守るべく、都月は別の属性の精霊へと助力を願う。
『……ワカッタ』
寡黙な精霊なのだろうか、返事一つだけで敵をひと睨みすると、不可視の磁場が展開されて、過度の重力が一気に雷禍ごと甲冑を地面に押し潰す!
そこへ痺れが取れてきたケルスティンが再び氷の槍を生み出すと、身動きが取れないでいる雷禍にダメ押しでズドンと突き立てた。
「……お返し」
ちょっと頬を膨らませて拗ねたように言う少女は、それだけでは終わらないと人差し指を立ててくるくる回す。
「ぴかぴか、くるくる、ふわふわ……さあ、うけとって! 【ひかりのしらべ】!」
ロリータファッションの甘く愛らしいスカートをふわりとさせて一回転、ケルスティンが指先を雷禍に向けて天から降り注ぐ光で攻撃するさまは、まさにお返しのよう。
都月は地の精霊による重力封鎖が有効だと確認してからは、ケルスティンが安全に攻撃できるように雷禍の動きを封じることに徹した。
電気を地面に流して攻撃することも考えたのだが、少なくとも雷の影朧を引き剥がすまでは通らないと判断して、控えることにしたのだ。
氷の槍で貫かれ、極度の重圧に押し潰される様を見て、都月は思う。
(「ああ、でも。俺も今、この人の幸せを奪ってるんだよな」)
誰かが笑えば、その一方で誰かが嘆くという。誰もが等しく幸せになるということの、何と難しいことか。それが、それこそが、人であることの証だとするのなら。
(「俺も同じ『人』なんだな」)
きゅっと唇を噛んで、都月は胸のあたりを無意識に押さえていた。
ぱんぱんとスカートの裾をはたいて、ようやく落雷の衝撃から立ち直ったケルスティンが眉をハの字にして呟いた。
「……でも、ひとが、しぬのはいやだから……できるなら、たすけたいの」
知っている。分かっている。一度影朧甲冑に乗ったのならば、乗り続けるか降りて死ぬかの二択だということは、分かってはいても――何とかならないかと。
「……影朧甲冑に乗ったら、もうだめなの?」
――『もうだめ』? さっきから、こいつらは何を言っているんだ?
宮城野青年は知らない。ケルスティンは知っている。待ち受けているのは、残酷な現実しかないのだろうか。そんなのって。
(「……かなしいきもち、いっぱい」)
戦いの果てに、救いはあるのだろうか?
わからない、今はまだ、誰にも――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ティオレンシア・シーディア
◎●
…一度乗ったからには二度と降りられない、って。知って逝くのが幸せなのか、それとも知らないままのほうが幸いなのか。下手に知らせて暴走させても面倒なのよねぇ…
雷撃かぁ…あたしの得物拳銃だし、弾道が電磁誘導で狂うからあんまり相性よくないわねぇ。
…なら、逆に利用しちゃいましょうか。
向こうの雷球に合わせて●的殺の○先制攻撃。高伝導体の銃弾でかき乱して散らしちゃいましょ。
…まあ、冷たいようだけど結局のとこ。どっちにしても、あたしたちがわざわざ考えることでもないか。
八つ当たりにせよ口車に乗ったにせよ、最終的に選択したのは向こうだもの。
選択した結果には責任が伴う、なんて。改めて言うほどの事でもないでしょ?
桜雨・カイ
◎
競技場へ行かせる訳にはいきませんが、もう一度走らせてあげたい気持ちもある…それならば
駆けてくる彼の真正面に立って待ち構えます
全力で駆けてきて下さい。私は全力で止めます。
【想撚糸】発動
壁のように結界を広げて、彼の突撃を受け止めます
衝撃がまともに来るでしょうが、覚悟の上です
勝負というなら清々堂々闘います
電撃は【激痛耐性】と【オーラ防御】で受けます。
UCの力は全ては宮城野さんとの対決に使います
無念だったでしょう理不尽と思ったでしょう。
壊してしまいたいと思ったでしょう
けれど、私も――決して負けません!!
●不退転の疾駆
なんということだろう、せっかくここまで来たのに。競技場に意気揚々と足を踏み入れたまでは良かったが、そこから先へとどうしても進ませてもらえないこのもどかしさよ。
甲冑の中で宮城野青年はぎり、と歯を食いしばる。紫電一閃、思い切り駆け抜けてしまいたい。だが、超弩級戦力たるものどもがそれを許さない。
――頭を冷やせ。強敵(ライバル)への怒りさえも力に変えるのがスポーツマンだ。
――この甲冑を、そして影朧を纏った私は強い。今は耐えて、勝機を見出せ。
誰よりも速く駆ける力を奪われ、ただそれを取り戻したいと願っただけの青年は、かつて栄光をほしいままにした頃の己の生き様を思い出す。
今の己が、どれほどまでに歪んだ存在になり果ててしまったかも知らず。
「……『一度乗ったからには二度と降りられない』、って」
ティオレンシア・シーディアが、愛用の拳銃「オブシディアン」を手に、もう片方の手を頬に当てて甘い声で嘆息する。
「知って逝くのが幸せなのか、それとも知らないままのほうが幸いなのか」
どう思う? と言いたげに少し首を傾げた先には、桜雨・カイの姿。
「……どのみち、この先に救いはないということなのでしょうか」
青空に桜が舞うような、ハッと目を惹く衣装を身に纏ったカイが、愁いを帯びた表情でそう返す。幻朧桜は、どんな時であろうとお構いなしに降り注ぐ。
「救い、ねぇ……」
厳然たる事実として、『影朧甲冑に一度乗ったら降りて死ぬか一生をそこで過ごすか』の二択が存在するのみ。
いや、もう一つ。『人々に仇なす存在であるが故に、猟兵たちはこれを殲滅せしめなければならない』ということもある。
ティオレンシアのため息に、果たして甲冑の乗り手への憐憫や同情は込められていたのだろうか。それとも、冷静にして冷徹なる合理的な判断あってのことか。
ちゃき、と拳銃を弄って臨戦態勢を取りつつ、ティオレンシアは思惑の読めない――いや、読ませないのだ。歴戦の兵の顔で、声音だけは困ったような様子の言葉を紡ぐ。
「下手に知らせて、暴走させても面倒なのよねぇ……」
自暴自棄になったものは大概扱いづらい、果たして眼前の乗り手の運命やいかに。
●譲れないもの
(「競技場へ行かせる訳にはいきませんが、もう一度走らせてあげたい気持ちもある……」)
カイはかつて『閃電』と称されたという青年の意志の具現たる雷の鳥を前にして思う。そうして、数歩下がるとティオレンシアがそれを見咎めた。察しが速い。
「あらぁ、変な情けは命取りよぉ?」
「……覚悟はできています」
一見すれば優男にも思われるかも知れないカイが、凜とした顔で影朧を見据える。ティオレンシアは一度肩を竦めて、しかし笑みを崩さないままカイと並び立った。
『……オォ』
電撃を放ち蹴散らそうとする雷禍の羽ばたきが、何かに思い至ったかのように止まる。
間合いを保ち被弾を避けようと立ち回ってきたが、いよいよ強引に突破を試みても良いのでは? 甲冑の乗り手を、走りたいというシンプルな欲求が捉えた。
駆け抜けてやり過ごしたあと、後ろから撃たれることを恐れいていたのは事実だ。
だが、眼前の猟兵たちは敢えて誘うように道を拓くではないか。
「全力で駆けてきて下さい、私は――全力で止めます」
カイの言葉に、いよいよ誘われるように雷禍が再び翼を広げる。
――駆ける私を止める? 面白い、出来るものなら!
『オオォ
……!!』
やってみろ、と。そんな意志が込められた咆哮を上げ、雷禍が地面すれすれを鋭く飛行するように影朧甲冑が地を蹴って走り出す。――速い!
(「気合いだけじゃどうにもならないこともあるのにねぇ、仕方ないんだから」)
それでも宣言通り一歩も引く気配がないカイに、ティオレンシアはほんの少し力を貸すことにした。拳銃を構えて、狙うは影朧が雷球を放つ瞬間だ。
(「雷撃かぁ……あたしの得物、拳銃だし」)
ルーンが刻まれた弾丸などを所持こそしているが、ティオレンシア自身に魔術の心得は皆無に等しく。純粋な物理攻撃たる銃火器をこそ得意武器としている。
(「弾道が電磁誘導で狂うから、あんまり相性よくないわねぇ」)
緒戦の制圧攻防戦で、幻朧戦線たちの銃剣や拳銃の弾丸を雷の術式で防いだ猟兵たちも多くいた。今度は、立場が逆になったようなものだ。
それを知り尽くしてなお、得意の武器で挑むティオレンシアは無策ではない。雷禍が大きく翼を広げたのは、攻撃の予備動作に他ならない。――今だ!
「……なら、逆に利用しちゃいましょうか」
攻撃の動作を取るということは、逆に防御を捨てるということ。そこを的確に狙ったならばどうなるか。
『オ……ッ!!』
翼は、羽ばたくことはなかった。狙い澄まされた先制射撃が、雷球を生み出した瞬間の雷禍の両翼を高伝導体の銃弾で撃ち抜いて、雷禍が纏う雷ごと一時的とはいえ散らしてみせたのだ。
「後は任せるわぁ、上手くやってちょうだい」
「――はい!」
電撃を纏った怪鳥に勢いよく体当たりでもされようものなら、どんなに防御障壁を展開しようが耐え難い痛みが待っていただろう。
だが、ティオレンシアによる超常の域に達した銃撃――【的殺(インターフィア)】が効果を発揮し、危険な雷は剥ぎ取られた。
それでも雷禍が、甲冑が、宮城野青年が止まらないのは、ひとえに『地を駆けること』への歓喜ゆえだろうか。その先には、破壊と破滅しかないだろうのに。
それを知るからこそ、カイはバッと両手を広げ念糸を陽光に煌めかせる。念糸は、宮城野青年にも負けぬ強い意志に呼応するように強固な壁状の結界を編み上げ、影朧の突撃を受け止めるべく地面をしっかりと踏みしめた。
――そこを、退けッ!!
『オォ
……!!』
「退きま、せん……っ!!」
ガンッ!! と。結界に激突する影朧がすごい音を立てた。音だけではない、衝撃も激しく、ずざざと一メートルほど後退させられるカイだが、ギリギリ耐えてみせる。
勝負というのならば、正々堂々と。退くことなく、カイは受けて立ったのだ。電撃でのダメージも覚悟していたが、幸い封殺している間に押しとどめることが叶った。
ユーベルコード【想撚糸(ソウネンシ)】で編み上げられた結界ひとつを隔てて、影朧がすぐ近くにいる。ならば言葉も届くだろうと、カイが真摯な眼差しを向けた。
「無念だったでしょう、理不尽と思ったでしょう」
背にした競技場の建物こそが、乗り手のゴールなのだろう。なおも押し込んで来る。
「――壊してしまいたいと思ったでしょう」
ままならない現実への怒りを、ぶつけてやりたいのだろう。だがそれは許されない。
「けれど、私も――決して負けません!!」
カイが叫ぶと同時、結界が一気に解けて爆ぜる。その衝撃で、影朧甲冑がたたらを踏んだ。
――おのれ、忌々しい……! 何もかもが、私の邪魔をする……!!
雷禍が再び雷を纏ったのは、乗り手の怒りに呼応したからか。その様子を見たティオレンシアが息を吐く。
「……まぁ、冷たいようだけど結局のとこ」
乗り手にあくまでも誠実であろうとする青年を否定するわけではないけれど。
「どっちにしても、あたしたちがわざわざ考えることでもない、か」
「……最後は、あの人次第ということ、ですか」
迫るなら何度でも受け止める、そんな気概で再び身構えるカイが言えば。
「だって、八つ当たりにせよ口車に乗ったにせよ、最終的に選択したのは向こうだもの」
どんなに魅力的な提案だったとしても、秘匿された事柄があるだなんて知らなかったとしても。
「『選択した結果には責任が伴う』なんて。改めて言うほどの事でもないでしょ?」
バーテンダーの女は、それはもう数えきれぬほどの客の話を聞いてきたのだろう。
ヤドリガミの青年は、人の世界はそう単純ではないということを知りつつあって。
後はただ、確実に負傷が蓄積してきている影朧を油断なく見据えるばかりだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
カタラ・プレケス
◎
……速きを示す墜ちたの雷か
その憤怒は受け入れよう
理不尽に対し怒るのは普通のことだからね
でも、無辜の子等は巻き込むことを
見過ごすわけにはいかないんだよ
とりあえず支援にまわろう
まずは自慢の速度を奪おうか
【照らせ全てを見下ろす月世界】発動
敵の速度と耐久を1/6に除算
次いで『天蝎縛砂』で砂塵を起こして視界を奪う
さらに『矛盾宝瓶』起動
純水の膜を作って雷に対策しておこう
あんまり同情とか憐憫とかはしたくないんだけど
別の道も途絶えさせられた理不尽とか
嗚呼、本当に可哀そうとしか言えないね
雷陣・通
雷鳴にして瑞鳥
それがアンタの望む姿か、それとも囚われし何かか
どちらにしても、俺はアンタを止めなくてはいけない
ここから先は――夢の集い場なのだから
【先制攻撃】からの†稲妻舞空術†
雷球を【見切り】り、すれ違いつつ、音速を超える速度で空を駆けあがり上を取る!
「アンタが何を目指して、これを壊そうとしているのかはわからねえ!」
構えるは跳び蹴り
「でも、これだけは言える!」
叩き込むのは一撃
「やっちまったら、死んでも死にきれねえぞ!!」
狙うは翼
「雷陣螺旋蹴り(ライジン・ドリル・キック)!」
【鎧無視と電磁属性】を付与した【マヒ攻撃】からのドリル回転による【二回攻撃】
UCで底上げした力に技術を乗せて撃つ!
●許されざる者へ
纏った影朧の覇気が衰えるのを、戦の素人たる宮城野青年でも理解したということは。
すなわち、猟兵たちの攻撃が確実に外套を引き剥がしつつあるということなのだろう。
――何故だ、まだ、私は走れる! あいつらの邪魔さえなければ!
――影朧よ、今一度力を奮い立たせてくれ……!
稲光のように、速く、誰よりも速く。
ここはかつての栄華を手に入れた、まぎれもない思い出の地。
ああ、このトラックをもう一度思うままに走るのが夢だった。
そして、それを不可能にした運命への怒りをぶちまけるのが昏い願望だった。
それら全てをくれてやる。さあ、糧として再び舞い上がれと雷禍に願うのだ。
『……ッ!!』
乗り手はあくまでも足掻くつもりらしい、眼前の雷禍が纏う雷が強まったのがその証拠。
ひりつくような空気とはこのことを言うのか。頭の片隅でそんなことを思いながら、雷陣・通がマントに見立てた学ランをバサリと翻す。
(「雷鳥にして瑞鳥――それがアンタの望む姿か、それとも囚われし何かか」)
そうあれかし、という呪縛かも知れないではないか。それがなければ、足の力を失ったとしても割り切って別の生き方を模索することだってできたやも知れないのに。
故に、通はかつての通り名通りの姿を得た甲冑の乗り手に心の内でそう問い掛ける。
「……速きを示す、墜ちたの雷か。その憤怒は受け入れよう」
黒翼をばさりとひとつ羽ばたかせ、舞い降りたカタラ・プレケスが甲冑の乗り手に一定の理解を示す。優雅に宙を舞い、その足で着地する様は、酷く眩しく見えただろう。
「理不尽に対し怒るのは普通のことだからね――でも」
オラトリオたる証の白い花が揺れる、人の好さそうなおっとりした顔のままカタラが言うものだから、その言葉はより強いものとなり意志を示す。
「無辜の子等は巻き込むことを、見過ごすわけにはいかないんだよ」
未来ある若者達が躍動する競技場はもちろん、そこで輝く人々、強いて言うなら倒れ伏している幻朧戦線の尖兵たちさえも。
誰一人、傷つけさせる訳にはいかないと。カタラは紫眼を雷禍に向ける。
「ああ、どちらにしても俺はアンタを止めなくてはいけない」
通もまた両の拳をグッと握りしめる。自分たちの背中に広がるのは、そう。
「ここから先は――夢の集い場なのだから!」
――夢、夢。私が一度は断たれた夢。それをもう一度取り戻すだけだ……!
『――ォオ!!』
雷禍が哮る。稲光が走る。互いに譲れないもののために、男たちは、戦う。
●足を掴むもの、背を押すもの
通が身体を低くして雷禍の攻撃に備えれば、カタラが心得たとばかりにひとつ頷く。
「とりあえず、支援にまわろう――準備はいいね?」
「おう、頼むぜ!」
正直なところ、これから何が起こるのか通はちょっと良く把握できていなかった。いわゆる生返事というヤツだったが、多分何とかなるだろう。
『オ、ォ』
不穏な気配を察知したのか、雷禍が積乱雲を飛ばしてカタラに雷を落とそうとするが、それさえ織り込み済みだったカタラにその思惑は封じられる。
(「まずは、自慢の速度を奪おうか」)
本来は立派な詠唱を経て発動する超常だが、今は時間が惜しい。世界を閉ざし静寂を望む月の王権を以て、カタラはその奇跡を顕現させる。
――【照らせ全てを見下ろす月世界(ヨスベルオウノクニ)】。
がくん、と。雷禍がコマ送りか電子機器の処理落ちかのように、目に見えてその動きを不自然なまでに鈍くさせる。これこそが、カタラが為した敵対者への呪縛。
「今の相手は速度と耐久力が大きく減衰している、攻撃し放題なんじゃないかな」
「すげーな! カクカクじゃねえか!」
説明を受けて事態を把握した通は素直に感心する。螺子が切れかけた自動人形のようになった雷禍に対し、先手を取るのは容易い。
『……ッ!!』
バリバリと迸る雷は怒りの表れか、だが苦し紛れに放たれた電撃など怖くない。
「漲って来たぜ――【稲妻舞空術(ライトニング・スカイ・オブ・サンダークラウド)】ッ!!」
雷、電磁力、その手の分野なら負けてはいない。通の二つ名は『ライトニングボーイ』、発電体質を活かしたユーベルコードで全力の強化と――天を翔る力を手に入れる!
空中で雷撃を紙一重でかわしつつ、ぐんぐん飛翔速度を上げていき――やがて音速へと至る。そうして遂に逆光で小さな影となった通を、その場の誰もが見上げるばかり。
「頭上からの攻撃……飛び蹴りか何かかな」
ふむ、と顎に手を当てながらそう独りごちるカタラは、今地上にひとり残された形となっている。執念深く積乱雲を飛ばしてくるやも知れないと、おもむろに夜空に輝く天蠍宮の銘持つ砂を撒いて砂塵を起こせば、影朧の視界をたちまち奪う。
さらに用心深く宝瓶宮の銘持つ大甕を取り出し無尽蔵に純水を生み出せば、水は膜となり雷からカタラを守る障壁となる。
――身体が重い、超弩級戦力の仕業か!?
――私が、私がこのような……愚鈍な有様を晒すなど!
雷禍が身悶え、あまりにも不本意な鈍い動きでそれでもバチバチと雷を纏う。
それを遥か高みから見下ろしながら、通がくるんと宙で一回転して右脚を雷禍へと向ける。構えるは――飛び蹴りだ。
「アンタが何を目指して、これを壊そうとしているのかはわからねえ!」
雷鳴のごとく、通の声が響いた。
「でも、これだけは言える!」
重力の力を借りて、猛然と落下していく――一撃を叩き込むために。
「やっちまったら、死んでも死にきれねえぞ!!」
ガクガクとままならない動きは、カタラの施した呪縛がまだ効いている証。
ならば、雷の化身たる雷禍に、果たして同属性の通の一撃は通るのか――?
だが、通にはユーベルコード任せではない『技術』があった。相手の纏う鎧の効果を無視して己の攻撃を通す、努力の果てに得た技を乗せれば、あるいは。
「†雷陣螺旋蹴り†(ライジン・ドリル・キック)!」
『――ッ!!?』
一度は雷の精霊使いの攻撃を完封した雷禍の、纏った雷の守りをぶち破るように。
そして己の電磁力をねじ込むように、翼を破らんばかりに強烈な蹴りを喰らわせた。
それだけに留まらず、みしりとめり込んだ脚ごと全身をドリルのように回転させ、したたかに翼へと損傷を与えていく。
ある意味予想通りの攻撃、それが無事通じたことに内心で安堵しつつ、カタラは思う。
(「あんまり同情とか憐憫とかはしたくないんだけど」)
通も言っていたが、甲冑の乗り手には別の未来もあったかも知れないのに、今や未来の一切が断たれたも同然ではないか。
(「別の道も途絶えさせられた理不尽とか――嗚呼、本当に可哀そうとしか言えないね」)
――後悔だと? どうして、後悔する必要があるんだ。
――私は自分の脚で歩けるようになった、それなのに?
今はまだ、宮城野青年には理解が及ばない。詮無きことだ、教えられていないのだから。
全てがつまびらかにされた時、猟兵たちは、どうするべきなのだろうかと思わせる――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ジャック・スペード
◎●
良いだろう――
その勝負、受けて立つ
敵が飛ぶと云うのなら俺も飛ぼう
黒き機翼を生やして空を翔る
お前は速さに誇りを持って居るようだが
生憎、俺も負けず嫌いだ
お前よりも速く此の空を翔けて行こう
競争に誘うように、軌道へ粒子をばら撒いて
空中戦の心得を活かし
積乱雲は涙淵で切り裂いて飛散させたい
それでも雷が降って来るなら
シールドを展開して防ぐとしよう
俺のような機械に雷は天敵だ
当たらないよう確りと見切るつもりだが
もしもの時は電撃・激痛耐性で堪え凌ぐ
空を翔けながらマヒの弾丸を乱れ撃ち
敵が動きを止めた隙に捨て身の一撃で肉薄
涙淵で切り込んで、氷属性の二回攻撃を
さあ、張りぼてなど脱ぎ去って
「お前」の姿を見せてみろ
アカネ・リアーブル
◎
連携歓迎
宮城野様
あなたの境遇はとても理解できます
かつて大好きだった
命より大切だったお兄様が失踪された時
アカネは2年間
お兄様を探して世界中を放浪致しました
立場も責任も全て放棄して
そうするしかできなくて
もしあの時
影朧甲冑に乗ればお兄様に会わせてくださると囁かれれば
アカネは喜んで乗り込んだでしょう
宮城野様
あなたはかつてのアカネなのです
だからアカネは止めねばなりません
どうかお覚悟を
そちらが飛ぶのでしたらアカネも飛びます
空中戦を仕掛け舞扇で衝撃波を2回攻撃
ダンスしながら攻撃
敵を撹乱して攻撃手から気をそらせます
こちらに気が向きましたらUC発動
鎖で羽を縛り地へ落とします
穿雷はUC効果とオーラ防御で耐えます
御桜・八重
◎
【WIZ】
相手が鳥ならわたしも飛ぶ!
「天女となりて、邪気を討つ!」
【桜天女】を発動し、天女の姿で空へ。
(国民的人気魔法巫女少女の強化姿に似ているのは単なる偶然です)
「ひゃああっ」
相手からじゃなくて、雲から降り注ぐ雷を避けるのは至難の業。
…でも、やりようでなんとかなる!してみせる!
「遅い遅い!そんなんじゃ、わたしは落ちないよ!」
挑発して怒りを誘い、相手の挙動から雷のタイミングを読んで躱す。
全て避けるのは難しいけど、『八重桜』から身を包む桜色のオーラで
ダメージは最小限に。後は最短距離で強行突破!
そのまま雷禍の上を取り、落下のすれ違いざまに翼に両刀の斬撃。
「そこから出てきて! 地上で勝負だよっ」
●天翔るものたち、地を駆けるものたち
ああ、どうしても、どこまでも、この超弩級戦力なる連中は。己の障害となり続けるらしい。やり過ごすことが叶わぬと言うのなら、最後の手札を切るしかない。
己の手足として活かすために、甲冑と同化し地上で戦わせていた影朧は、鳥という本質が故に大空でこそその真価を発揮する。宮城野青年にとっては、決死の決断であった。
――飛べ、影朧。お前の思うがままに飛び回って、存分に本領を発揮して来い。
――私が地を駆けるのが得意だったように、お前は空を飛んでこそなのだろう。
そう念じると同時に、雷禍は甲冑より自ら離れ、天高く舞い上がった。
水を得た魚のように、大きく翼を羽ばたかせて、喜んでいるようにも見えた。
『オ、ォ――!!!』
宮城野青年には、雷禍の咆哮が歓喜の色を帯びているように思えた。
己から分離させるのはリスクが非常に高いと聞かされていたが、どうせ超弩級戦力どもを倒していかねばならないのならば、手段を選んではいられない。
最終的に、一番にあの建物の元にたどり着きゴールすれば、己の勝ちなのだから。
――さあ、私と雷禍の全力だ。それに恥じぬ勝負をしようではないか!
「良いだろう――その勝負、受けて立つ」
ジャック・スペードという機械仕掛けの紳士は、ある意味『ひと』より『ひと』らしいくろがねのヒーローである。実に潔く、正々堂々としていた。
だが、上空より一方的に天敵とも言える雷で攻撃されるのはフェアではない。故に、自らも『飛ぶ』ことにした。そう――機械の翼を展開してジェットモードに『変身』し、煌めく粒子を軌道にばら撒きながら、雷禍と同じように宙を舞ったのだ。
――【天翔る黒き機翼(チェロ・スターロ)】、ジャックは今、黒き翼持つ鳥となる。
地上では甲冑の中で宮城野青年が目を見開いていた。誰もそのことには気づかなくとも。
確かに驚愕していたのだ。最終手段の飛行に、猟兵たちまでもが対応してくるなんて。
そしてジャックは機械音声が甲冑の乗り手にまで届くように、淡々と告げるのだ。
「お前は速さに誇りを持って居るようだが、生憎、俺も負けず嫌いだ」
中空でホバリングするのも自由自在の機翼でひと時留まりながら、宣戦布告。
「勝負と言ったな、ならば俺は負けぬ。お前よりも速く此の空を翔けて行こう」
言い終わるや否や、ギュンと雷禍目掛けてジャックは舞う。きらきらと煌めく粒子が、まるで競争へと雷禍と宮城野青年を誘うように尾をひいた。
「相手が鳥ならわたしも飛ぶ!」
ジャックに続くように、そう力強く宣言したのは御桜・八重だった。巫女装束に身を包んだ八重がバッと右手を大きく掲げると、眩い光がその身を包み込み――。
「天女となりて、邪気を討つ! 顕現せよ、【桜天女】!!」
決め台詞は完璧、光に包まれたまま八重もまた宙を舞う。そうして雷禍と同じ高度に至ると光が弾けるように散って、そこに居たのは淡い桜色の羽衣を纏った天女であった。
雷禍の動きが一瞬止まった気がしたのは、気のせいだろうか。
――あれは……病床でたまたまテレビジョンを点けた時に見たことがあるような。
――巫女装束の少女が変身して戦う、女児向けのアニメだったか。
宮城野青年は自ら取れる行動が限られていたため、せめてもの娯楽にと部屋にテレビジョンを置いてもらっていたことを思い出す。
ああ、確か国民的な人気を誇るかのアニメは、メインターゲットこそ女児向けであったが大きなお友達まで魅了していたと記憶している。
――親友と離別する、ままならぬ展開もあったか。話題になったから知っているが。
宮城野青年は『魔法巫女少女 ごきげん! シズちゃん』を詳しくは知らない。だが、架空の物語であれば、せめて救いがあってもいいだろうにと思ったことはあった。
現実はどうか、あまりにもままならぬが故に、己は怒りをぶちまけるのだろう。
増えた敵対者へ、雷禍が威嚇の雷をバチバチと唸らせる。互いに臨戦態勢に入ろうとした、その時だった。
「――宮城野様!」
可憐な少女の声が競技場に響く。アカネ・リアーブルの叫びだった。
「あなたの境遇は、とても理解できます」
凜とした表情で、地上から影朧甲冑を、そしてその乗り手たる宮城野青年へと告げる。
アカネには、どうしても伝えたいことがあった。途中で攻撃されるリスクを負ってでも。
幸い、今この場には自由に空を飛べる味方が二人も居る。故にアカネは内心安堵しつつ言葉を紡ぐのだ。
「かつて、大好きだった、命よりも大切だったお兄様が失踪された時」
ぎゅ、と。アカネはその時のことを思い出して拳を握ってしまう。
甲冑の中の宮城野青年は突然語りかけられ困惑するも、何故かそれを無碍にすることができずに、雷禍をも留めて耳を傾けてしまう。
――興味があったのだ、赤の他人ごときに己の何が理解できるのか。
「アカネは二年間、お兄様を探して『世界中』を放浪致しました。立場も、責任も放棄して――そうするしかできなくて」
ここでアカネが言う『世界中』とは、文字通り埒外の存在が『世界』をも渡る途方もない規模を示すのだが、宮城野青年には到底そこまでを察することは出来ず。
アカネは思い詰めた顔で言う、今思い出しても胸が苦しくなるから。
「もしあの時、『影朧甲冑に乗ればお兄様に会わせてくださると囁かれれば――アカネは、喜んで乗り込んだでしょう」
それが、どれだけのことを意味するのか。真実を知るものならば、余程の切実さだったのかと理解できただろう。
だが、宮城野青年には分からない。乗って解決するなら、そうすればいいではないか。――己のようにと、そうとしか思えないのだ。
甲冑の中から、言葉は返って来ない。アカネも、それは分かっていた。「鎖舞扇」を構えて決意を告げる。
「宮城野様、あなたはかつてのアカネなのです」
たくさんの優しい人たちの尽力で、己は辛うじて道を踏み外さずに済んだ。
「だから、アカネは止めねばなりません――どうか、お覚悟を」
――どいつもこいつも何なんだ、この甲冑に乗ることを、そんなにも否定して!
――私はこの甲冑の力で、再び歩けるようになったんだ! 邪魔をしないでくれ!!
話は尽きた。そう言わんばかりに、いよいよ雷禍が積乱雲を生み出す。アカネはオラトリオたる証の白い翼を羽ばたかせて、ジャックや八重の元まで舞い上がる。
積乱雲は、猟兵たちの頭上を狙い飛んで来る。途中で威嚇するように雷を落としながら。
「ひゃああっ」
天女姿の八重が思わず声を上げる。相手からではなく、雲から自然現象として降り注ぐ雷を避けるのは至難の業とも言えよう。
(「……でも、やりようでなんとかなる! してみせる!」)
この雷が直撃しようものなら、いくら猟兵であってもただでは済むまい。特に、機械であるジャックにとっては危険極まりない。サージプロテクタを組み込んで申し訳程度の電撃耐性は持っているが、大電流が一気に流れてはひとたまりもないだろう。
故に、八重は討って出る。本物の天女さながらに、空を舞いながら叫んだ。
「遅い遅い! そんなんじゃ、わたしは落ちないよ!」
『……ッ!!!』
明確な挑発に、雷禍が猛然と羽ばたく。分かりやすい攻撃動作だ、これならある程度は見切れるというもの。攻撃は、怒りを買った自分に来るだろう。あとは、避けるだけ。
「わわっ……!」
ぴしゃん、ぴしゃんと立て続けに二回、雷が降ってきたのを身をよじって避ける八重。桜の髪飾りが揺れて、淡い桜色のオーラで八重を守らんと包み込んでくれるのが頼もしい。
攻撃を惹き付けている間にと、八重がジャックとアカネに視線を送る。それを受けた二人は心得たとばかりに頷いて、それぞれ動く。
(「恩に着よう、桜の天女」)
八重の意図を察したジャックが、ならば疾く決着をつけねばと高度を上げて積乱雲に迫る。手にした刀の銘は「涙淵 〜 ruien 〜」、それを一閃すれば積乱雲の一部が散った。
手応えを感じて、次々と刀を振るい積乱雲を飛散させていくジャック。時折有り得ない方向から飛来する雷は、咄嗟にオーラの障壁を展開して弾く。
(「対応出来ているのも、恐らくは今のうちだろう。防戦一方ではいけないな」)
物語を強引に纏めてしまう傲慢なる機械仕掛けの神がいる。「Deus ex Makina」たるリボルバーは、果たしてこの物語を終わらせる神たり得るのか。
片手に刀を、もう片方に銃を。黒翼から煌めく粒子をひいてアクロバティックに飛ぶジャックの空中戦は、観客がいたならば誰もが見惚れていただろう。
いよいよ雷禍を撃ち落とさんと、マヒの力が込められた弾丸をガンガン乱れ打ちする。八重目掛けて雷を落とすことに気を取られていた雷禍が、弾丸をまともに喰らい動きを止めた――ジャックが、待ち望んでいた瞬間であった。
「俺は言ったぞ――負けず嫌いだと」
刀身に六花が光る、氷の力を宿した涙淵で一閃、返す刀でもう一閃!
「ジャック様、後はお任せを!」
ほとんど捨て身の、決死の攻撃を叩き込んだジャックがこのままでは雷の直撃を受けてしまうと判断したアカネが迫る。選手交代だ。
ジャックが急速離脱をすれば、入れ違いになるように舞扇を手にしたアカネが空中を自在に舞いながら、降り注ぐ雷をひらりひらりと回避してあっという間に雷禍の死角に潜り込む。
「がら空きの背中ですが、失礼します!」
右に左に扇をかざせば、生じる衝撃波は二つ、猛然と雷禍の背中を切り裂く。
『オォ……ッ』
雷禍の巨体がぐらりと揺らぎ、しかし敵意に満ちた瞳はアカネへと向けられる。
だが、アカネはその時をこそ待っていたのだ。
「君がため 惜しからざりし 命さへ ながくもがなと 思ひけるかな――」
――【退魔封縛の舞】。アカネの姿が『オマモリサマ』と呼ばれし姫巫女へと変わる。
命を賭す覚悟を決めたアカネの、決死のユーベルコードだ。
「参ります、その翼――奪うことをお許しくださいまし!」
舞扇を振り下ろす。扇に描かれた無数の鎖が実体化して、たちまちのうちに雷禍を束縛する。そのまま地に墜とそうと試みるが――あと一歩が足りない。
「く……っ」
文字通り、命を削る攻撃だ。あまり長くはもたない。アカネの額に汗が浮かんだ時、猛然と雷禍目掛けて二刀で斬り掛かる八重の姿が視界に飛び込んできた。
「やぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
『――ッ!!!』
アカネの鎖で身動きが取れない雷禍を、頭上を取り落下の勢いで陽と闇の二刀で交差するように斬撃を喰らわせる八重。
遂に雷禍が、フッと力を失って地上へと墜ちていく。アカネが咄嗟に鎖を引き戻し、もろともに地上へと叩きつけられる事態から逃れた。
ズウゥゥゥゥ……ン。
地響きと共に、雷禍が競技場の地面に叩きつけられた。
そのまま、影朧の名の通りにゆらゆらと存在がおぼろとなって、消えていく。
猟兵たちは、遂に甲冑から影朧の力を引き剥がすことに成功したのだ。
『……やって、くれたな』
初めて、甲冑の中からまだ若いであろう青年の声が響いた。
ああ――本当に、乗ってしまっているのだと痛感させられる瞬間だった。
「空中戦はもうおしまい、地上で勝負だよっ!」
次々と地上へと降り立つ猟兵たち、八重がまず呼び掛ける。
「さあ、張りぼては脱ぎ去ったな。『お前』の姿を見せてみろ」
ジャックもまた静かに言い放つ。無骨な甲冑が、目の前に鎮座している。
その向こうに――居るのだ。何も知らない、哀れな男が。
「宮城野様……」
アカネが胸の前で手をぎゅっと握る。救いは、あるのだろうか。
『だが、まだ、終わってはいない。私は――まだ動ける! 走れる!!』
行動には必ず責任が伴うと、ある猟兵は言った。
知らずに犯した罪ならば、それはどのような末路をたどるのか。
全ての命運は、超弩級戦力たる猟兵たちに委ねられたも同然だった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『影朧甲冑』
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POW : 無影兜割
【刀による大上段からの振り下ろし】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 影朧飛翔弾
【甲冑の指先から、小型ミサイルの連射】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : 影朧蒸気
全身を【燃料とされた影朧の呪いが宿るドス黒い蒸気】で覆い、自身が敵から受けた【影朧甲冑への攻撃回数】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
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●甲冑征駆・駆け抜ける夢
猟兵たちの怒濤の攻勢により、遂に乗り手の意志の体現とも言える影朧は破れた。
残されたのは、蒸気を吐き出す無骨な甲冑ただ一つ。
いや、その中にあるもう一つの存在。それを猟兵たちは確かに感じていた。
『――同志宮城野』
低く、しかし良く通る厳然たる声が影朧甲冑の乗り手に向けて放たれる。
『しょ……将校殿! 宮城野はまだ』
甲冑の中から、いかなる仕掛けか乗り手の声が返される。焦燥の色が隠せないでいた。
『いかにも、貴様はまだ戦えよう。その命ある限り』
『……命、とは』
甲冑の中は不自然なまでに居心地が良くて、まるで自分の手足のように動くものだから。
その喜びにばかり気を取られて、その違和感に気付かなかったのだ。
超弩級戦力どもが口々に言う、己が知らされていないこととは何か。
競技場の入口に立つ、外套を羽織った軍人を疑おうともしなかった。
だが、軍人は間違いなくこう言ったのだ。
『貴様は脚で御国に尽くす術を失った。故に、私は貴様にその命を以て御国に尽くす術を与えたのだよ』
その場の誰もが、言葉を失った。
真実を知っている猟兵たちでさえそうなのだ、知らなかった宮城野青年はどうか。
『……超弩級戦力どもが言うことは、本当なのですか』
『間違ってはいない。だが、それがどうしたというのだ』
黒鉄の首輪を嵌めた軍人は、一切の表情を変えずに淡々と返す。
『貴様の任務は、この競技場の破壊だと言ったはずだが――どうした、同志宮城野』
『わ、たし……は』
甲冑の中で、己の身体が震えていることに気付いた。振り向くことができない。
――不退転、それ故に。
念じれば、纏った甲冑は望んだ通りに動く。ああ、己はスタートラインに立ったのだ。ならば、最早ゴール目掛けて駆けるしかない。
(『位置について、用意』)
ぐ……っ、と。影朧甲冑がひとつ蒸気を吐かせて、宮城野青年が競技場の建物を見据える。
もう『将校殿』の姿はない。
彼を、そして影朧甲冑をどうするかは、猟兵たちに託された。
満月・双葉
◎
まぁ、他人の命は『視えるか視えないか』の違いしかないですが
『歩けないなら死んだ方がまし』だったか?
苦しめる法もないでしょう、急所だけを狙いたいものですね
ことそう言う戦闘においては役に立つ『眼』だなぁ
敵の間合いを把握し常に間合いの外に居るように心がけつつ遠距離から光弓の首飾りと虹瞳による【生命力吸収攻撃】で攻撃する
敵の攻撃は【野生の勘】で察知して【見切り】するか【オーラ防御】で防ぐ
ダメージを負った場合は【激痛耐性】で防ぐ
『痛みで動きが鈍る奴は真っ先に死ぬ』
痛覚無視の訓練しといて良かったよ
(救える命は多い方が望ましいが、死ぬしかなく、苦しんで死ぬようなら介錯する)
『君の命、覚えておきたいね』
ティオレンシア・シーディア
◎●
さぁて、これであなたは「知らされなかったこと」を知ったわけだけど。
…その上で、あなたは何をゴールに置くのかしらぁ?
指先なんてわかりやすいとこに発射装置あるんだもの、攻撃の起こりは○見切りやすいわねぇ。○先制攻撃で●的殺を撃ちこむわぁ。
刻むルーンはエオロー・ソーン・イサ。
「結界」にて「門」を閉ざし「固定」する…発射を中止できない状態で火砲の砲「門」が詰まったらどうなるか、なんて。わざわざ言わなくてもわかるでしょぉ?
…フェアじゃないから、一応教えておくけど。
「乗ったら死ぬまで降りられない」けど、逆説「降りなければひとまずは死なない」わぁ。
…「号砲はまだ鳴っていない」とだけ、言っておくわねぇ?
●それはとても、晴れた日で
何もかもが懐かしい、競技場。再びこの地を踏めるだなんて思わなかった。
だが、知らなかったとはいえ、己はひどく歪な存在と成り果ててしまった。
――冷静に考えれば、影朧を動力とする存在がまともな筈がなかったのに。
ああ、どうか弁明を許して欲しい。
あの雨の夜、最早諦念しか持ち得なかった己にとって、将校殿の提案は光明としか思えなかったのだ。
己の理不尽は、幻朧戦線が掲げる今の大正の世を憂うが故の志と重なり、熱情となってこの身を甲冑とひとつにして――疾駆せしめたのだ。
甲冑に乗ったが最後、最早生きて降りることは叶わない。
だが、たとえ呪いがなかったとしても、甲冑から降りればどのみち待っているのは他人の手を借りなければ生きることさえままならぬ身だ。
ならば、その最期の瞬間まで――哀れな道化でも構わない、歪んだ形でも構わない。
叶った夢を、存分に果たそうではないか。それが、宮城野青年の出した答えであった。
「さぁて、これであなたは『知らされなかったこと』を知ったわけだけど」
最初に一歩前に出てきたバーテンダーの女は、ホルスターを隠すことなく腰に巻いていて。ああ、これが超弩級戦力かと身が引き締まる思いがした。
『そうだな、私は愚かにも騙されて利用されていたということになる』
我がことながら、驚くほど冷静に、甲冑越しにそう返す。そんな宮城野青年の様子を受けて、女――ティオレンシア・シーディアは表情こそ変えずに、しかし内心でほんの少しだけ感心する。
てっきり、真相を知ったら自棄を起こすのではないかと危惧していたのだが。元が実直な男なのだろうか。何にせよ、会話が成立するうちはまだ望みはあろう。
「……その上で、あなたは何をゴールに置くのかしらぁ?」
故にティオレンシアは問う。甘ったるい声には雷禍を纏い交戦しているうちにもう慣れたと、宮城野青年は最早動じることなくただ投げ掛けられた言葉の意味を考える。
『私、は』
しかし出てくるのは、同じ言葉の繰り返し。この先を紡ぐには、どうしたら良いのか。
そんな青年の逡巡を見透かしたかのように、もう一人――中性的な翼持つ者が歩み出る。
「『歩けないなら死んだ方がまし』……だったか?」
『ッ
……!!』
満月・双葉は本来、人間というものが嫌いだ。猟兵たるもの云々という話はうんざりだ。
今だって、魔眼持ちとしては他人の命など『視えるか視えないか』の違いでしかない。
例外があるとすれば、自分にとって大切な人たちには未来が必要だから守るに過ぎず。
そうして放たれた言葉は、宮城野青年には双葉が思う以上に深く突き刺さった。
『……確かに、そう思っていた。走れない己になど何の価値もないのに、何故生きながらえているのかと』
先の弁明こそ繰り返さなかったものの、甲冑越しに胸の内を吐露する。
後悔はあるか? この甲冑を身に纏ったことを、今はどう思っている?
猟兵たちはこちらが動かぬ限り静観しているようだと察し、宮城野青年はほんの少しだけ瞑目する。
――再び己の意思で歩けるように、走れるようになった喜び。
――同志たちとの出会いと、御国を憂う熱情に触れた驚き。
――そして、ああ、己は怒っても良いのだという許しを得たような心地。
ここまでの何もかもが、将校殿の思惑通りだったとしたら。
己を半ば捨て置いていったも同然である者の命に従う義理はないやも知れぬ。
だが、それでも。あの雨の日に与えられた光明はあまりにも眩しく。
『ああ、私は。間違いなく、嬉しかったのだよ――猟兵諸君!』
これが答えだと、決然とそう告げて。軍刀など振るったこともないのに、操縦席で強くイメージすれば影朧甲冑が乗り手の意思を汲むかのごとく右腕を振り上げた。
凶刃は双葉に向けられるのだと、目に見えて分かる素人の動き。やはり取り柄は敏捷性のみであろうか、それでも甲冑自体が持つ力は史上最強にして最悪の兵器にふさわしい。
「……苦しめる法もないでしょう」
急所だけを狙いたいものですね、と吐き捨てるように言うが、それは双葉なりの憐憫。
(「こと、そういう戦闘においては役に立つ『眼』だなあ」)
「あらぁ、律儀ねぇ。じゃぁ、ちょっと散開しましょうか」
戦闘態勢に入った影朧甲冑を見て、互いに戦いやすい間合いを取るべくティオレンシアが双葉に告げる。双葉もまた自分と同じく、遠距離からの攻撃を主軸とするのを見抜いたからだ。
「お願いします、上手く立ち回ってみせますので」
自分を狙う軍刀から目を逸らさず、しかし双葉はひとつ頷いて感謝の意を伝えると、翼を広げて大きく後方に飛び退る。
『逃がさぬよ、超弩級戦力!!』
「――っ!?」
信じがたいことが起こった。愚鈍そうに見えた甲冑が、文字通り地を蹴って駆けたのだ。
軍刀を振りかざして、一瞬にして双葉が取った間合いを詰める。
眼前に迫った甲冑の胸部の間から、乗り手と目が合ったような気がして――双葉はもしかすると初めて『命を視られる』側に回ったやも知れなかった。
ぶぉん! と。大上段から猛然と振り下ろされた軍刀を勘任せにギリギリ避ける。
肩のあたりを掠めたか、それだけなのにひどく熱を持った痛みが走り、双葉は思わず顔を歪めた。
『……なんだ、戦えるじゃないか』
甲冑の向こうから聞こえてきた青年の声は、まるで初めて人を殺めて、取り返しがつかなくなったにもかかわらずいっそ清々しい心地に酔いしれるもののよう。
「肩口を掠めた程度です、調子に乗らないでもらえますか」
あくまで淡々と、無表情を崩さず、赤い血を流す右肩を左手で押さえて反駁する。
「『痛みで動きが鈍る奴は真っ先に死ぬ』――痛覚無視の訓練しといて良かったよ」
その様子を見て、距離を置いたティオレンシアが愉快げに口の端を上げた気がした。
『ならば次はそこのお前だ!』
甲冑は双葉に右手の軍刀を向けたまま、空いた左手の指先をギギ、と動かしてティオレンシアに向ける。
「どうしても、っていうなら受けて立つけど――」
そうティオレンシアが言ったのと、甲冑の左指先が突如爆発したのはほぼ同時。
『な――ッ!?』
おかしい、何が起きた? 甲冑の指先には小型ミサイルが仕込まれていて、それをたらふく食わせてやるつもりだったのに! 操縦席には機体損傷を示す警告が浮かぶ。
忙しなく対処に追われながらも、宮城野青年は眼前のバーテンダーの女に問う。
『何を、した』
「指先なんてわかりやすいとこに発射装置あるんだもの、悪いけど攻撃の起こりが見切りやすすぎるのよぉ」
いまだ硝煙を引く拳銃は、既に役目を終えて下ろされティオレンシアの太腿あたりに。
超常の域に達したガンアクションの名は【的殺(インターフィア)】。敵の攻撃の予備動作などから見切りに成功すれば、それを思惑ごと潰すように先手を取って弾丸を撃ち込むことができるのだ。
「今回はねぇ、特別サービス。『結界』にて『門』を閉ざし『固定』する術式よ」
友情のエオロー、茨のソーン、停滞のオサ。三種のルーンが刻まれた弾丸は、すべて心得のある者に作ってもらった貴重品。それを、惜しげもなくぶち込んだのだ。
『面妖な真似を……』
「……発射を中止できない状態で火砲の『砲門』が詰まったらどうなるか、なんて」
わざわざ言わなくてもわかるでしょぉ? そう告げるティオレンシアの表情もまた微笑みを浮かべたままにして、不動であった。
『おのれ……ッ!!』
やはり戦の立ち回りでは上を行かれてしまうのがもどかしく、甲冑の力任せで相手取れそうな双葉を狙い再び軍刀をかざす宮城野青年。
だが、青年は忘れていたのだ。勝負に挑む時は、常に冷静でいなければならないと。
そして何より、相手を侮ってはいけないということを。
「僕にはね、これがある限り負ける気がしないんですよ」
双葉がそっと胸元に下がる首飾りに手を触れる。「光弓の首飾り」の銘持つそれは文字通り光の弓となり輝く矢を放ち、たちまち甲冑の右肩を穿つ。お返しだ。
『ぐぅっ!』
再び走る衝撃。幸い甲冑の損傷と乗り手の神経系は連動していないため、青年自体がダメージを受けた訳ではないのだが、甲冑が傷むのは困る。これがなくては、私は。
たたらを踏んで、しかし堪える。考えろ、勝つための手段を。負けられないのだ。
「……フェアじゃないから、一応教えておくけど」
ティオレンシアの甘い声が響き、宮城野青年の思考をカットする。
「『乗ったら死ぬまで降りられない』けど、逆説『降りなければひとまずは死なない』わぁ」
『な、んだ、と』
どのみち己の命はもうじき尽きる、そう思っていたところに。
文字通りの甘い言葉が、心の柔らかいところを突いてくるのだ。
「……『号砲はまだ鳴っていない』とだけ、言っておくわねぇ?」
選ぶのはあなた。そう言わんばかりにティオレンシアはそこで言葉を切った。
双葉はそのやり取りを、ただ静かに見守っていた。
(「死ぬしかなく、苦しんで死ぬようなら介錯するつもりでしたが」)
選択肢はむしろ増えた。極論、甲冑に乗せたまま保護するという道さえ拓かれようとしていた。
「救える命は多い方が望ましいですが……」
最終的にそれを決めるのは、乗り手たる宮城野青年だ。後に続く猟兵たちは、可能な限り手を尽くそうとするだろう。
「――君の命、覚えておきたいね」
そう、この物語がどんな結末を迎えるとしても。
空は、どこまでも青く――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ケルスティン・フレデリクション
「それは、あなたが本当にしたかったこと?」
他人の命を受けその通りに動く。その生すらも明け渡して。
もう既に遅いかもしれない、でも…
ここは、みんなのばしょ、なんだよ。だから、こわしちゃだめなの
貴方は壊したいの?
それとも、走りたいの?
攻撃をUC【ひかりのまもり】を使って受け止める!
私にできる事は、あなたの衝動を、感情を、攻撃を全て受け入れること。
私は壊れないもん。だいじょぶ。
いっぱい走れた?
…良かった。
貴方がそのまま破壊を願うなら氷の全力魔法を。
降りてくれるなら、貴方の手を握りたい。
人が死ぬのはこんなにも苦しくて痛い。
涙が、とまらないの。
ルリララ・ウェイバース
◎
互いを姉妹と認識する四重人格
末妹のルリララ以外序列なし
真の姿はイラスト参照
体が宝石+姉達の属性が混ざった精霊の様な存在に近づき、ルリララが各精霊を十全に使える
戦わず済むなら何とかしたい
お前が成したかった事を思い出せ
物を壊すのではなく、走りたかったんじゃないのか?
ならば、攻撃を止めよ
上司も退いたのなら、義理は果たしたろ
残りの時間を走ることに使って誰が咎めよう
相手が必要ならば、ルリララを含め物好きはいよう
本気で相手をするなら、翔ぶがそれは許せ(精霊飛翔で風を纏って飛ぶ)
攻撃の意志を示すなら、仕方ない
高速詠唱、全力魔法でエレメンタル・ファンタジア
水の渦で蒸気を洗い流す
攻撃はオーラ防御と各耐性で防ぐ
●未来なんて、いらないと想ってた
『超弩級戦力よ、問うても良いか』
左指のミサイル発射機構の一時的な損傷に、右肩装甲の凹み。緒戦から相当な目に遭ったと思われる宮城野青年からの声は、果たして時間稼ぎか、それとも。
むしろ自分から問い掛けようと思っていたケルスティン・フレデリクションが、迷わずこくりと頷いた。
「私も、聞きたいこと、あるけど……まずは、あなたから」
『感謝する。……整理をしたい、私は『この甲冑に乗っている限りは死なず』、『しかし降りれば死ぬ』。その認識で合っているか?」
先程の、甘ったるい声の女が言ったことを疑っている訳ではない。
ただ、確かめたかったのだ。己が真に選ぶべき道を見極めるために。
「うん、合ってるよ。甲冑はわるいものだけど、降りなければ死なない」
最早女子供と侮りはすまい、自分を真摯な瞳で見上げるケルスティンがその場しのぎの嘘などを言っているようには思えなかった。
「降りたら、死んじゃうけど……最期に、人には戻れるから」
『……そうか』
影朧甲冑の操縦席で、宮城野青年は絞り出すような声で応える。
ここは薄暗くて、窓越しでしか外界が見えず、走れるとは言えども己が身で風を感じることは叶わない。そして何より――これは世界に仇為す危険な兵器だ。
潔く降参して甲冑から降りるという選択肢、これを選んだ時が己の命尽きる時だという。理想的な判断ではあろうが、それでは私の人生があまりにも、あまりにも報われない。
『今度は君の番だ、話を聞こう』
己の気持ちの遣りどころは一先ず置いておき、ケルスティンの問いを待つ。
大正の世では珍しい、豪奢とも言える衣装を身に纏った可憐なる乙女は、それでも超弩級戦力と呼ばれる存在だ。油断なく身構えて問い掛けに備える。
「走れる人を憎んで、競技場をこわして……それは、あなたが本当にしたかったこと?」
ケルスティンはどうしても知りたかったのだ。他人の命を受けその通りに動き、その生すらも明け渡して、そうまでして為すべきことなのかと。
(「もう既に遅いかもしれない、でも……」)
影朧甲冑にまつわる事件の報告書に目を通せば、その結末はほぼほぼ同じ。
どうあがいても救いがないならば、せめて存分にその願いを叶えてあげたい。
そう祈るがゆえに、ケルスティンは震える声で告げた。
「ここは、みんなのばしょ、なんだよ。だから、こわしちゃだめなの」
言葉を受けて、甲冑は微動だにせず。しかし中の乗り手はどうか。
「貴方は壊したいの? それとも、走りたいの?」
シンプルにして、本質を突いた問いであった。青年は薄暗い操縦席の中で瞠目する。
ケルスティンの紫眼と、視線がぶつかった気がして。
「そうだ、お前が成したかった事を思い出せ!」
その時、競技場に凜とした声が響く。ルリララ・ウェイバースの姿は身体のほとんどが宝石と化し、地水火風の四属性を一身に宿した――最早精霊の域にたどり着いたものと化していた。
『――埒外の、存在』
「然り、化け物である点はお前と同じやも知れないな」
豪奢なデザインに変化した儀仗でトンと一度地面を突いて、ルリララは笑んだ。
「さて、そういう事だ。戦わず済むなら何とかしたい」
物を壊すのではなく、走りたかったんじゃないのかと。ケルスティンと同じ問いをして。
『……走りたいに、決まっているだろう!! ただ、それだけだったんだ!!』
血を吐くような想いで叫ぶ。宮城野青年が操縦席のパネルを拳でダンと叩く。
ケルスティンが息を呑み、ルリララが儀仗を甲冑へと向ける。
「ならば、攻撃を止めよ。上司も退いたのなら、義理は果たしたろ」
『……』
将校殿の姿は最早なく、つまりはそういうことなのだろう――見限られたと。
己の帰る所は最早なく、あるいはしれっと帰っても何事もなかったかのように受け入れられるやも知れず。
どのみち、都合の良い手駒のひとつに過ぎなかったということなのだろう。
「なあ、甲冑の。残りの時間を走ることに使って、誰が咎めよう」
「! そうよ、走りたいなら走ればいいの。勢いがつきすぎたら、私が止めてあげる」
『な、何を……』
呑気なことを、そう言おうとしたが言葉に詰まる。
真に為したいことは何かと問われ、叶わぬことと思いつつも正直にぶちまければ、それをあっさり許容するという。
分からぬ、己は許されざる者なのではないのか?
「決まりだな、どうせ走るならば相手がいた方が良いだろう」
精霊を宿した巫女は、陸上という競技の何たるかを把握しているのだろうかと思わせる。
そう、一人で走っても歯応えがない。どうせなら、誰かと競い合いたいものだ。
『……本気で言っているのか、お前たちは私を』
「ああ、故にそちらも本気で来い。なおルリララは翔ぶがそれは許せ」
今やルリララと完全にひとつになっている三人の姉たちも、宮城野青年に対する意見は同じ。【精霊飛翔(エレメンタルウィング)】も、十全の性能を発揮するだろう。
『は――己の脚で駆けぬのか。それは残念だが、贅沢は言えないな』
お手上げといったていで、甲冑越しに苦笑いをするような声が聞こえた。
100m走のトラックに、無骨な甲冑と宝石の巫女が並ぶ。
先のゴールには、ケルスティンが控えていた。
「よーい……どん!」
声を張り上げ諸手を挙げるケルスティンの合図こそが、号砲であった。
(『さあ、茶番でも構わない――今は真っ直ぐに、あの時のように』)
――走れ。
「はは、そんななりで本当に速いな! やはりルリララは翔ばねばだ」
無骨にして重厚なる影朧甲冑は、ズシンズシンと象のようにしか動けないように見えただろう。しかし、そんなことでは『軍神』の名をほしいままにはできない。
実際は乗り手の思うがままに、縦横無尽に戦場を駆けるべく設計された鋼の甲冑。
それが今、ひとりの若者の見果てぬ夢を果たすためだけに動かされる。いかな猟兵といえどまともに駆けては追いつけぬと、ルリララは宣言通りに飛翔して追いすがる。
(「……来た」)
宮城野青年が世界に通用するとまで認められた100m走のトップクラスともなると、9秒台の領域に突入する。
風を切ってあの時のように、とはさすがに行かなかったが、甲冑は猛然とケルスティン目掛けて走る。あの少女こそが、ゴールテープと同義。
――私は壊れないもん、だいじょぶ。
急停止などの制動が効かない可能性を鑑みて、ケルスティンが駆ける甲冑を受け止める約束をした際の言葉である。
ユーベルコード【ひかりのまもり】は無敵にして鉄壁、その能力に疑念さえ抱かなければ。そしてこの競技場を、ひいては宮城野青年を守ることに、何の疑問があろうか。
(「私にできる事は、あなたの衝動を、感情を、攻撃だって全て受け入れること」)
かくして光の障壁が展開され、見事走り切った甲冑の青年は思いきりぶつかって止まる。
(『はは――将校殿は、間違ったことは仰らなかったのだな』)
動きを止めた甲冑の中で、宮城野青年は乾いた笑いを浮かべた。
だが、己は罪を犯した。幻朧戦線の同志としてこの競技場を襲撃したのは事実だ。
(『超弩級戦力の言葉に、甘えても良いのか』)
思うさま走れども、呪われた身であるがゆえに迷いは晴れず。
その時、ケルスティンがそっと甲冑に触れた。ひんやりとした、鉄の塊だった。
「いっぱい走れた?」
『……おかげさまで』
「……良かった」
見れば、少女はぽろぽろと涙をこぼしていた。何を泣くことがあるのか。
――ああ、私が死ぬ未来を思っているのか。だとしたらとんだお人好しだ。
「貴方がそのまま破壊を願うなら」
ケルスティンは溢れる涙を拭うことなく、掌に雪の結晶を生み出す。
「降りて、くれるなら――」
その時は、死にゆく貴方の手を最期まで握ってあげましょう。
『往生際が悪いようで済まないが』
穏やかな声音で、青年が返す。
『もう少し、君たちの仲間とも話をさせてはくれまいか』
ケルスティンの代わりに、ルリララが答える。
「存分に、後悔のないようにな」
――人が死ぬのはこんなにも苦しくて痛い。たとえそれが、赤の他人であっても。
そんな時でも、空は変わらずに青く澄みわたる。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
荒谷・つかさ
もう戻れないと気づいたお前に、これ以上説教をする気は無いわ。
抵抗するなら好きになさい……せめて悔いの無いように、ね。
【XGG00 『機煌炎神』スルト】発動
召喚した機体と合身し、影朧甲冑と正面からぶつかり合う
主兵装はスケールアップした大剣と、胸部熱線砲にドリル付きの鉄拳
多少の攻撃は装甲で弾きつつ、刀による攻撃には真っ向から打ち合い捻じ伏せ弾き飛ばす
その重装甲に対しては至近距離から熱線砲をぶち当て、赤熱化して弱くなった部位にドリルを叩き込んで破壊する
……覚悟は決まったかしら?
せめて、お前が『哀しき被害者』として死ねるように……『加害者』となる前に、お前を殺してあげる。
それが……私なりの慈悲よ!
雷陣・通
もう、アンタの心は止まらないんだな
だったら――ここで物理的に止める!
来い――†大雷神†
ライトニングケーブル接続!
システム、オールグリーン!
ビッグライジンロボ、セターップ!!
「大雷神、回し受け!」
飛んでくるミサイルを『見切り』そして『かばう』
痛みは『激痛耐性』で我慢して、相手に組み付くぞ
「大雷神、『グラップル』!」
そうだ、物理的に抑え込み、そして進行を止める
「アンタはもう戻れないかもしれない!」
「でも、これ以上、走らせるわけにはいかない!」
「その道は正道ではなく、外道だから」
「故に、治に居て乱を鎮める武を以って、その不幸を打ち砕く」
二回攻撃、正拳二連
「大雷神、ライトニング・ダブル・ストライク!」
●私は無力で、言葉を選べずに
――何故、影朧甲冑が『最も非人道的』とされ封印、破棄されたか分かるか?
――影朧を燃料とするだけではない、操縦者を必要とするだけでもない。
『操縦者は、影朧の呪いに肉体を蝕まれ――二度と、甲冑を降りられません』
望む望まぬに関わらず、今まで影朧甲冑に乗り込んだ者たちの辿った末路は皆等しい。
それを知れば知るほど、猟兵たちはせめて苦しませずにと思うのだ。
『ぐ……っ、く、何だ、身体が』
例外はない、ひとしきり鋼の身体で存分に駆けた後。操縦席の中の身体、その四肢の先から何かどす黒いモノが浸食してくる感覚がして、宮城野青年は声を上げる。
駆けるために燃やしたのは、己の熱量ではなく影朧の呪い。
黒い蒸気となって噴き出て、同時に乗り手の肉体を蝕んで。
(『ああ――これが、報いか』)
散々猟兵たちから言われた言葉を思い出す、『この甲冑は駄目だ』と。
先程のひと時は、本当に心地良く、満足であった。ひとを辞めた身には、過ぎる程に。
操縦席で拳を叩きつけ、叫んだ想いに嘘はない。
だが、もう、それすら許されないというのか?
降りて死ぬか、乗り続けてこの身を喰われるか。
ああ――確かに『降りない限りは死なない』かも知れない。
このまま生きるための術を、模索してくれるかも知れない。
だが、自分は間違いなく罪を犯したのだ。一生にそうそう来ない晴れ舞台を台無しにして、未来ある若者たちから勝負の機会を奪ったのだ。
『はは――』
乾いた笑いだけが漏れた。薄暗い操縦席の中で天を仰げども、青空は見えない。
宮城野青年は、己が犯した罪の重さを思い知る。
「もう戻れないと気づいたお前に、これ以上説教をする気は無いわ」
荒谷・つかさが、トラックに立ち影朧甲冑と向き合っていた。
『……そう、だな』
病魔に冒され走れなくなったのが悔しくて、結果的に武力に訴え未来ある若者たちの希望を踏みにじった。
ここにいるのは最早『陸上選手』の自分ではなく、『影朧甲冑』の忌まわしき乗り手たる自分でしかない。
ギギ、と。甲冑が軋みを上げて立ち上がる。それを見た雷陣・通もまた、立ちはだかる。
「もう、アンタの心は止まらないんだな」
バンテージが巻かれた両の拳を握りしめ、通が心底悔しげに告げる。
この甲冑は、ダメだ。乗り手の意志がどうあれ、いずれすべてを破滅に導いてしまう。
『走りたい、ただそれだけのことさえ許されない』
ずしん。甲冑が重々しい一歩を踏み出す。それは、駆け抜ける動きではなく。
『私を――止めてみせろ、超弩級戦力』
「ああ、だったら――ここで物理的に止める!」
「抵抗するなら好きになさい……せめて悔いの無いように、ね」
宮城野青年の低い声に、通とつかさが返す。次の瞬間、驚くべきことに――二人同時に、似て非なるものの同じ奇跡を顕現させるユーベルコードを発動させたのだ。
つかさが天高く右手をかざし、通も右の握り拳で天を衝く。
「顕現せよ、焔の鉄巨神。紅き眼光、鐵の腕。その姿――神をも灼く刃也!」
朗々とした詠唱と共に、讃えられた姿のままの合身用機体が召喚される。つかさの小柄な身体と文字通り『合身』し、紅き光に包まれたかと思うや、たちまち頭頂高約3mの巨神――【XGG00 『機煌炎神』スルト(キコウエンジン・スルト)】と化す!
「来い――【†大雷神†】」
一方、今まさに多感な年頃の少年が目を伏せて静かに告げれば、その全身をバチバチと雷鳴が駆け抜ける。
――ライトニングケーブル接続!
――システム、オールグリーン!!
――ビッグライジンロボ……セターップ!!!
カッと目を見開けば、つかさのスルトとほぼ大きさを同じくする――いやごめんちょっと待って、そこにプラス10mですって! デカアァァァイ!!
失礼しました、今回はホント真面目に行きます。とにかく巨大なロボ『大雷神』が現れた。でもこれだけは言わせて下さい、どうしてスパ○ボ状態になってるんですか???
『……は』
元々の病の方が、痛みがないだけまだ良かったと思えるような呪詛の蝕みに耐えながら、宮城野青年は眼前に広がる光景に唖然とした声を上げる。
二体の巨大な機械兵は、まるで競技場を守るように立ちはだかっていた。
己を駆り立てた理不尽への怒りは、先程の走りで嘘のように霧散した。故に、最早競技場を破壊しようとは思わない。
だが、どうせ死ぬなら命尽きるまで――ああ、先程のように、受け止めてはくれまいか。
操縦席で何とか動く身を乗り出し、だいぶ慣れてきた手つきで甲冑を駆る青年。無骨な甲冑が驚くほど器用に右手の軍刀を損傷した左手に持ち替え、空いた右手の五指から猛然とミサイルを乱射した。狙いは、図体がデカい方が当てやすい。大雷神だ。
「大雷神、回し受け!」
影朧甲冑の乗り手と同じく操縦席に着いた通が叫べば、その巨体が嘘のように地を蹴って舞い上がり、回し蹴りの要領で飛来するミサイルの大半を叩き落とした。
だが――流れ弾が建物に迫るのを通と大雷神は見逃さなかった。
「させる、か
……!!」
神話に名高い雷神の名を持つ少年は、巨人と対決する戦神としての誇りを見せる。
大雷神の巨躯を立ちはだからせ、損傷覚悟で残りのミサイルを甘んじて受け止めた。操縦席に衝撃が走り、思わず座席の頭部に自身の後頭部をぶつけてしまう通。
正直に言うとこの激突が一番痛かったが、持ってて良かった激痛耐性。歯を食いしばって意識を引き留め、今度はこちらの番だと大雷神の大きな手で影朧甲冑を『握る』。
『な、くそっ……! 離せ!!』
このまま握り潰されたら、甲冑は鉄屑となって、中の自分は?
宮城野青年に、初めて『戦いで殺される恐怖』の感情が襲い来る。
「そうだ、大雷神! 物理的に抑え込んで」
進行を、止める。これ以上の疾駆は、許されない。
「聞け!」
大雷神に搭乗した通の声が響き、宮城野青年がハッと顔を上げる。
「アンタはもう戻れないかもしれない――でも、これ以上、走らせるわけにはいかない!」
『……そう、だな』
何かを諦めきったような声をしていた。通は一度歯を強く食いしばると、告げた。
「もうわかってるよな、アンタが走ろうとしている道は正道ではなく、外道だから」
『な
……!?』
甲冑を握っていた巨大な手が離れて、何のつもりだと大雷神の巨躯を見上げれば。
両の拳が強く握られ、己が纏う甲冑めがけて振り下ろされんとしていた。
「故に――治に居て乱を鎮める武を以て、その不幸を打ち砕く」
大雷神の一撃、そしてもう一撃。それはちっぽけな、しかし酷く忌まわしい甲冑を確かに捉え、めこりとその装甲を凹ませた。その名も――『ライトニング・ダブル・ストライク』! 多分もう少し厨二をこじらせると『ミョルニルの云々』とか言い出すと思います。
操縦席のパネルが明滅し、警報が鳴り響く。だが、降りて修理などできようはずもなく、なるほど不退転とはこういうことかと青年は思い知る。
しかも――もう一機いる。ぎこちない動きで軍刀を右手に持ち替えれば、せめて一矢報いねばという無意識の闘争心に火がついた。
『おの、れ』
つかさのスルトにおぼつかない足取りで近付く影朧甲冑は、今の機煌炎神ならば余裕で斬って捨てることができただろう。だが、そうはしなかった。
振りかざされた軍刀を、スケールアップした大剣で真っ向から受け止めて鍔迫り合いに持ち込む。
『くっ……! この!』
「そう、気が済むまでかかっていらっしゃい」
鍔迫り合いになった? 違う、つかさが敢えて手加減をしたのだ。その気になれば――ほら、あっという間に捻じ伏せて、弾き飛ばしてしまえるのだから。
生身の状態では見上げるほどの影朧甲冑も、人智を超えた力の前では玩具も同然。
絶望的な力量差というものを、宮城野青年はここに来てようやく知ったのだ。
『あ、あ……』
尻餅をついた甲冑に、機煌炎神がゆっくりと近付く。死の足音のように思えた。
「スルト、ぶち当てて」
つかさの感情の色が読めない声に応じ、スルトは胸部の熱線砲を至近距離からぶち当てた。甲冑の分厚い装甲が赤熱し、内部の宮城野青年もまた高熱に晒される。
『ひ、っ
……!!』
今日何度目か分からない衝撃が影朧甲冑を襲った――熱線で溶けかけ弱くなった部位を狙って、鉄拳に据え付けられたドリルが突き立てられ、遂に甲冑の正面装甲の一部が破壊された。
事実上の、大破。この甲冑さえあればと未練がましく思っていた心を、断ち切るように。
「……覚悟は決まったかしら?」
そこへつかさの厳然とした声が響く。
「せめて、お前が『哀しき被害者』として死ねるように……」
――『加害者』となる前に、お前を殺してあげる。
巨大な機械兵を駆る女は、しかし確かにそう言った。『殺す』と。
日の光を受けて煌めく大剣は、今度こそ甲冑ごと己を両断するのだろう。宮城野青年がぎゅっと目を閉じた、その時だった。
甲冑の真横に、大剣が叩きつけられたのだ。
「それが……私なりの慈悲だと思ったけれど」
『どう、して』
「話を聞きたいんでしょう? それくらいの時間はあげるわよ」
その甲冑は、さすがに捨て置けなかったから攻撃したけれど。
通も頼もしい大雷神から降りて、その結末を見守ることにした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
金童・秋鷹
◎●
拙者には宮城野を止める言葉はない
その裏まで考えずに甘言に乗ってしまう気持ちは良く判ってしまう故に
かと言って命尽きるまで待つ気もない
彼の足がもうこれ以上、何も壊さぬようにするには
引導を渡す事くらいしか拙者には思い付かぬ
代償などと言うものは、いつだって先払いでござる
或いは払う運命だけは先に決まっているようなもんでござろう
彼の場合も、きっとそう
あとは誰がやるか
彼を斬る
その為の血を、拙者はもう流した
刀に戻した楓鷹を鞘に納めて競技場の中央で居合の構え
この位置なら競技場全域が楓流斬舞の間合いに入る筈
二撃放つ余裕はない故、勝負は一撃
こっちに向かって駆けてくるところを
刀の間合いを越えた風の刃で斬るでござる
●帰り道のにおいだけ、優しかった
甲冑はあちらこちらが歪に凹み、正面装甲の一部は割れて内部が露わになっている。
あれは、敢えて操縦席の直撃を避けたのだろうと金童・秋鷹は一目で見抜いた。
『……なあ、超弩級戦力』
「何でござるか、宮城野の」
秋鷹から、宮城野青年に掛ける言葉は何もない。止める言葉も携えては来なかった。
だが、問われたならば話は別だ。応じない道理もない――冥土の土産というものか。
『私は、どうすれば良かったと――いや、これからどうすれば良いと思う』
頼りの甲冑は満身創痍、恐らくその中では呪詛に身体を蝕まれているのだろう。
――己のように。
「……その裏まで考えずに甘言に乗ってしまう気持ちは、良く判ってしまう」
思えば秋鷹自身、怪しい自称仙人に『妖刀を使えるようにしてやる』と言われて頷いてしまった過去を持つ。その代償が、トラックやフィールドに咲かせた鮮血の華だ。
己と、彼と。何が違うというのか。驚異的な身体能力を持っていたとしても一般人であることか、それとも老若男女問わず覚醒すれば埒外の存在となる猟兵であることか。
「拙者は血を吐きながら、それでも妖刀と共に生きている」
『共に、生きる……』
だが、秋鷹はゆっくりと首を振る。決して夢を見させるために身の上話をしたのではない。
「……代償などと言うものは、いつだって先払いでござる」
『先払い……』
然り、と今度は首肯して。秋鷹はこれが餞別の言葉だとばかりに告げた。
「或いは、払う運命だけは先にきまっているようなもんでござろう」
――彼の場合も、きっとそう。
あとは、誰がやるか。彼を斬り、引導を渡す。
その為の血なら、己はもう十分に流したと秋鷹は影朧甲冑を見据えた。
「その脚がもうこれ以上、何も壊さぬようにするには」
言いながら、妖刀「楓鷹」を抜き放つ。その使い手に相応しい、凄絶な殺気を纏って。「引導を渡す事くらいしか、拙者には思い付かぬ」
甲冑の中で宮城野青年が泣きそうな顔で笑んだのに、秋鷹は気づいただろうか。
己の身の振り方を他人に委ねようとしたのは、己で決断する勇気がなかったから。
『ああ、私も……これ以上は何も壊したくない』
だが、決定的な一言はどうしても言えなかった。怖い。未練もある。それ故に。
先の雷禍との戦いで鷹妖として解き放った楓鷹は、今や刀に戻り鞘の中。それを左手で掴んだまま、秋鷹はおもむろに競技場の中央へと歩いて行く。
一体何事かと影朧甲冑が呆然としている所に、数百メートル程度距離を取った秋鷹が声を掛けた。
「最期に、存分に駆けるでござる。拙者の元を終着点と思って――」
ぐっ、と。身を低くして、右手でいつでも抜刀できるように構える。
秋鷹は、最早殺意を隠さない。この呪われた甲冑を、捨て置く訳には行かないから。
『このザマだぞ、もう走るなど』
自嘲気味に言う宮城野青年だが、念じればまだ影朧は燃えてどす黒い煙を吐くし、手足だって黒くなっていくけれど、それでもまだ甲冑は動くのだ。
ならば――駆けよう。それが、私だ。
――がしゃん、がしゃん。
先程ほぼ無傷の状態で駆けた時とは打って変わって、油の切れたブリキの玩具のよう。
(「やはり、あの損傷では駆け抜けるのは無理でござったか」)
いっそ哀れにも思える。己は生きながらえているから良いのかも知れない。死ぬしかないと言われた上で、甘んじてそれを受け入れられる者がどれほど居よう。
何故殺したと、言われるやも知れぬ。助けたいと願う者も、居るやも知れぬ。
だからこそ、己がやると決めたのだ。どんな誹りをも受けよう。
鈍い動きで近付いてくる甲冑を確かに視認して、好機を見計らう秋鷹。
この位置ならば、競技場の全域がこれから放つ超常の間合いに入るだろう。
そう、刀の間合いにまで入ってこなくても良い。狙うは――。
「血は十分でござるな、楓鷹――」
妖刀の柄に手を掛ければ、ぞわりとした感覚と共に力が流れ込んでくる気がした。
「なれば断ち斬れ、【楓流斬舞(フウリュウザンマイ
)】……!!」
抜刀、妖刀・楓鷹。居合いの要領で抜き放たれた刀からは凄まじい勢いの衝撃波となって、真正面から影朧甲冑に激突した。
『あ、ぐっ
……!!?』
風の刃はあまりにも鋭く、今度こそ操縦席正面の装甲を破砕せしめた。
――遂に、操縦席が露わになって、宮城野青年の姿が明らかになった。
年の頃は秋鷹と同じか、少し上だろうか。短髪の、凜々しい顔立ちの男だった。
「手加減をしたつもりはなかったでござるが、死に損ないにさせてしまったか」
済まぬな、そんな思いで眉間に皺を寄せる秋鷹に、宮城野青年が告げた。
『いや、いいんだ――こちらこそ済まない、最期のことは、自分で決めるさ』
宮城野青年は、まだ天を仰がない。
まっすぐに、秋鷹を見ていた。
成功
🔵🔵🔴
杜鬼・カイト
◎
あの甲冑の中にいる宮城野くんをどうするか……ね。
うーん……まあ、オレ的にはこの騒動起こした人間がどうなろうとどうでもいいんだけど。だって、自業自得っていうか?
助けたいっていう人がいるなら邪魔はしないけど。
とりあえず、敵くんは退く気はないっぽいから競技場までたどり着かせないように妨害しようかな。
【ダッシュ】で影朧甲冑まで近づき、【赤い糸は結ばれて】を発動する。
宣告するルールは
「全力で走ること勿れ」
さて、スピード落としてくれるかな?
それとも、ルールを破って全力で走るのかな?
どちらを選んでも追撃はしやすくなると思うんだけど。
アカネ・リアーブル
◎
宮城野様
あなたは走りたいのですか?
競技場を破壊したいのですか?
あなたの望みは走ること
競技場破壊は将校が望むこと
同一視してはなりません
降りれぬというのなら
その甲冑に乗ったまま
その力を人のために使いませんか?
余暇には思い切り走りましょう
お付き合い致します
暴走したら必ずお止め致します
だから…
○
ありがとうございます!
まずは将校を捕らえます
少々お待ちを
×
…残念です
それが宮城野様のご意思なら
ここで止めてみせましょう!
どうぞお覚悟を
アカネは空を舞います
即座にUC
指定は競技場を守る者
衝撃波、2回攻撃、鎧無視攻撃、空中戦で攻撃
空中に攻撃時は挙動で分かるはず
その動きが見えましたら
舞いながら死角に回り込み再び攻撃
桜雨・カイ
◎
命を以て競技場を破壊して人を傷つけて…それが国の為になるんですか?
それ以上に…あなたの為になるんですか?
【錬成カミヤドリ】発動
半数はミサイル対応し、注意を引きつけている間に
甲冑の関節を攻撃したりして、これ以上甲冑で走らせる事を食い止めます。
ここで競技場を破壊してしまえばあなたはただの罪人です
あなたは限界の速さまで己の身ひとつで辿り着いた
お願いです、自分が成し遂げた事を自らの手で壊さないで下さい。
できれば甲冑からその身を引きずり出せないかやってみます
…その命が失われるのを止める事が出来なくても
せめて終わるのは「甲冑」ではなく「宮城野さん」(人の身)で終わらせてあげたいんです
●生きていける、そんな気がしていた
今、大破した影朧甲冑の前には三人の猟兵たちがいる。
一人は杜鬼・カイト、もう一人はアカネ・リアーブル、そして最後は桜雨・カイ。
彼らは今、むき出しになった操縦席に背を預ける宮城野青年と対峙し、図らずもその処遇について話し合うこととなったのだ。
「宮城野様、あなたの望みは『走ること』――将校が望む『競技場の破壊』とは違うということは、切り離せましたね?」
大事なことを確認するように声を掛けたのはアカネだ。それに対して青年はひとつ頷き、その通りだと一言返す。
もしも競技場を破壊しようと意固地になっているならその時は、言葉と心を尽くして説得をしようと思っていたアカネは、既に自己と他者との望みが混同されている状態から青年が脱したのだと知って、心底安堵したのだが。
「……降りれぬというのなら、その甲冑に乗ったまま、その力を人のために……」
『……構わないよ、泣かないで欲しい。女性に泣かれるのは申し訳なくなる』
「すみま、せん……」
願わくば、甲冑に乗ったままその力を人の役に使う未来へと導きたかった。
だが、これだけ損傷が酷くては、それはもう叶わないだろう。それが分かってしまったから――アカネは、言葉を最後まで紡ぐことができず、涙をこぼしてしまったのだ。
何なら諸悪の根源たる『将校殿』だって見つけ出して捕らえてみせる。
それくらいの覚悟でいたのに。説得に応じないなら戦うつもりでいたのに。
そこに、確かに人が居る。病魔に冒され未来を断たれ、翻弄された青年が。
「命を以て競技場を破壊して人を傷つけて……それが国の為に、それ以上に、あなたの為になるのかと」
そう、問おうと思っていました。カイはアカネの肩にそっと手を置いてから言った。
『散々説教されたよ……もうそのつもりはないし、したくてもご覧の有様だ』
肩を竦める青年の身体は、末端から見るからに禍々しい色へと変色しつつあった。
その痛々しさに、カイは思わず目を背けたくなるのを堪える。目を、逸らしてはいけないと思ったのだ。
「良かった、ここで競技場を破壊してしまえばあなたはただの罪人でしたから」
『罪ならもう犯している、未来ある若者たちの晴れ舞台を台無しにしてしまった』
――何故、理不尽を理不尽で発散してはいけないか解るか?
そう己に問うた超弩級戦力がいたことを思い出す。
――それは、お前の感じた理不尽を、もう誰も理不尽とは思ってくれなくなるからだ。
答えは、とっくに出ていたのだ。脚を奪われた憤りで以て、他者の未来まで奪って良い道理にはならない。気付くのが、遅かっただけで。いや、気付けただけ良かったのか。
カイは静かに言葉を続ける。幻朧桜が舞い散り、すべてを等しく包み込む。
「あなたは限界の速さまで己の身ひとつで辿り着いた――自分が成し遂げた事を自らの手で壊さないでくれて」
本当に、良かった。まずはそのことを喜ぼう、そうカイは考えたのだ。
甲冑の損傷の影響か、それとも呪いに蝕まれているからか。宮城野青年はほとんど身動きが取れずにいた。もう、会話をするのが精一杯といったところか。
カイの言葉にはややこそばゆそうな顔をしながら、青年が弱々しく言う。
『お前たち……いや、君たちは本当に分からないな。私は、敵だろうに』
「宮城野様はだまされていたのですから……お助けしたいと思うのは当然です……!」
泣き止もうと必死になりながら、なお溢れる涙を拭いながらアカネが返す。
甲冑の中で生きる術は失われたに等しく。
ならば、どうすれば良いのか――いや、答えは出ているようなものだが、それを何とか避けられないかと願ってしまうのだ。
「あの甲冑の中にいる宮城野くんをどうするか……ね」
いよいよ本題に切り込んだカイトは、率直に自身の意見を述べる。
「うーん……まあ、オレ的にはこの騒動起こした人間がどうなろうと、どうでもいいんだけど」
「「そんな!!」」
アカネとカイが、ほぼ同時に同じ言葉でカイトに返す。納得の一体感である。
カイトはカイトで、そんな人でなしみたいに言われてもという顔で両手を振る。
「だって、自業自得っていうか? いや、助けたいっていうなら邪魔はしないけど」
ちょっと頬をふくらませて『好きにすれば?』という風に静観の姿勢を取るカイトに、アカネとカイがすぐに笑みを取り戻す。
その様子を見守っていた宮城野青年もまた、苦笑いをしていた。
『その子の言う通りだ、これは自業自得。痛いし苦しいが、そういうことなんだろう』
動力はまだあるが、損傷がひどくとても動かせたものではない甲冑。
影朧が残っているせいで、乗り手への浸食が止まらない呪い。
カイは意を決して、宮城野青年に提案をした。
「……宮城野さん、あなたを『そこ』から引きずり出しても良いでしょうか?」
『……それは、つまり』
「! ま、待って、待ってくださいませ……!」
意図を察した青年の言葉に被せるように、アカネが悲痛な声を上げた。カイはある程度その反応を予想していたのか、きちんと返す言葉を用意していた。
「……その命が失われるのを止める事が出来なくても」
カイトは宣言通り、どちらの味方にもならずにただ見守っている。
「せめて、終わるのは『甲冑』ではなく。人の身である『宮城野さん』で終わらせてあげたいんです」
自己満足かも知れない、燃える命ある限りはそこに居たいと願うかも知れない。
意図を理解したアカネだが、納得とはまた別であり。何とか、その一心で。
「その、もしかしたら……呪いを『浄化』できる方がいらっしゃるかも知れません!」
「浄化、ですか……?」
そんなユーベルコードは聞いたことがない、けれど。
猟兵の数だけ奇跡の超常がある、一縷の望みに賭けても良いとは思える。
「なるほどね、桜の精が影朧を転生させられるみたいに?」
カイトがそれとなく口を挟めば、アカネが嬉しそうに相槌を打つ。
「そうですっ! アカネは、もう少しだけ信じて待ちたいです」
「……宮城野さんは、どうですか?」
カイが、肝心の宮城野青年の意を問う。甲冑の中で、静かに目を閉じていた。
『……期待はせずに、だが、お言葉には甘えようか』
青年の言葉と共に、最後の猟兵たちがその姿を現した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御桜・八重
◎
宮城野さん、落ち着いてくれたみたいでよかった。
言いたいこと、やりたかったことは、
大体は他の人が言ってくれたかな。
影朧甲冑は降りさえしなければ死なないし、
宮城野さんの足となって、新しい人生のスタートを切らせてくれる。
ただ、心配なことが一つ。
最近関わった事件で、影朧甲冑は乗り手の意思に関わらず
戦いを止めなかったんだよね…
影朧・雷禍はかつては瑞鳥・吉兆の印だった。
もし雷禍が善心を取り戻せたら、
宮城野さんの力になってくれないかな?
「よし!」
宮城野さんに提案。
雷禍に巣食う影朧の邪気を祓うよ。
上手く行くかどうかはわからないけど、
これから二人で一緒に歩んで欲しいから。
「祓って清めて邪気退散☆ めーっ!!」
ジャック・スペード
◎●
躰を自由に動かせる喜びは
大破から蘇った俺にも分かる
未だ動けるのに棄てられる――
あんな悔しい思いはもう御免だと
改造を繰り返すこの躰は
あんたが纏う甲冑と同じく
生きる意味を取り戻すための器だ
だからこそ、無為に傷付けないという
仲間の選択を尊重しよう
攻撃された時はブレイドで武器受け
若しくはシールドを展開して防御を
介錯と破壊を望むのなら
ブレイドで切り込んで鎧砕きの一撃を
だが、其処は昏くて狭いだろう
最後に眸に遺す景色が、そんな侘しいものなんて
余りにも“陸上選手”らしくない
――今日は、好い天気だ
広い世界にもう一度、降りてこないか
もし風を切って、空を仰いで、走りたいと
あんたがそう希うなら、此の手と翼を貸そう
木常野・都月
◎
事実を知っても、止まらないんだな。
いや、逆か。
止まる訳にはいかないんだ。
本当は走らせてあげたい。
でもダメなんだ。
この人に日常を壊させる訳にはいかない。
殺すしかないのか?
獣ならともかく、人なら他の道…
例えば、この人と機械、頭のいい人達の研究にならないか?
何か新発見できるかも?
生きて降りる方法とか?
多分沢山時間が必要だ。
その時間を作れたら…。
その為に、今はこの人の夢を壊す必要がある。
絶対辛い。
だから選んで欲しい。
一思いに殺して欲しいか、夢を諦めて可能性に賭けるか。
UC【黒の狐火】で敵を破壊したい。
精気は戦闘可能ギリギリまで乗せたい。
抵抗するなら[高速詠唱、属性攻撃]の[カウンター]で対処したい。
●それはとても、晴れた日で
己を解き放ってくれたと思っていた影朧甲冑は、その実、己を破滅へとひた走らせる悪夢の兵器であった。
甘言に乗せられただけとはいえ、一度は悪事にまで荷担してしまった己に、本来は救いなどあるはずなく。
なのにどうだ――二度と拝めぬと思っていた晴天の競技場が今や眼前に広がり、こんな己を救おうと必死になる者たちがいる。
いよいよ進む呪詛の浸食で身体が軋み、酷く痛むのを堪えて。
宮城野青年は、甲冑の中から三人の猟兵たちと対峙した。
(「事実を知っても、止まらない――いや、逆か」)
木常野・都月は考える。この状況を何とか打破して、良き結末を迎えるために。
(「止まる訳にはいかなかったから、こうなったんだ」)
――走りたいに、決まっているだろう!! ただ、それだけだったんだ!!
青年が猟兵たちに吐露した本心が、競技場に響き渡ったのはつい先程のことだ。
(「本当は走らせてあげたい、でもダメなんだ」)
その甲冑で疾駆するということは、即ち誰もが不幸にしかならないということ。
誰もがそれを知るが故に、こうして甲冑は破壊され、青年はその姿を晒している。
(「この人に日常を壊させる訳にはいかなかったから……良かった、けど」)
耳も尻尾もピタリと止まり、集中して思考していることが見て分かる都月は、眼前で瞑目する自分より少し年上であろう青年を見る。
(「殺すしかないのか? 獣ならともかく、人なら他の道だって」)
害獣なら、駆除されて終わりだろう。しかし、相手は人間だ。もっと知性的な解決法があるのではと願ってしまう。『人』の奥深さと可能性を、良く知る都月なればこそ。
そう考え込む都月の横に、御桜・八重が進み出た。努めて明るく、青年に声を掛ける。
「宮城野さん、落ち着いてくれたみたいでよかった」
『……ああ、驚くほど穏やかな心地だ』
八重の言葉に、青年はうっすらを目を開けて声の主を確認しようとする。ああ――やはり、どこかで見た格好をしているなと思った。
「言いたいこと、やりたかったことは、大体は他の人が言ってくれたかな」
手を後ろに回し、小首を傾げて問う八重に、青年は首肯ひとつで答える。
あらゆる超弩級戦力たちが、思い思いに最善と思う手を尽くした。
その結果、再び走る手段は失われたが――それは、正しい結果なのだろう。
『私などに、何故そこまでと思ってしまうよ』
「『影朧甲冑は降りさえしなければ死なない』。だから宮城野さんの脚となって、新しい人生のスタートを切らせてくれるって、わたしも思ってたけど……」
いつでも元気で笑顔を絶やさない八重でさえ、その顔を曇らせる。
八重は危惧していたのだ、とある事件で目撃した事案を知るが故に。
――乗り手の意思に関わらず、戦いを止めなかった影朧甲冑があった。
「! 例えば、この人と機械、頭のいい人達の研究にならないか!?」
そこで沈思黙考していた都月が、弾かれたように顔を上げて提案する。
「何か新発見できるかも? 生きて降りる方法とか?」
『……途方もない時間が、必要だろうな』
「じゃあ、その時間を作れたら……」
宮城野青年は、やんわりと笑むばかり。都月は、せっかく思い付いた案をどうにか活かせないかと縋り付かんばかりの勢いで語気を強める。
甲冑で駆ける夢は壊されなければならなかった。
予想はしていたが、その通りに、とても辛い。まるで我がことのように。
「……選んで、欲しい」
絞り出すような都月の声に、誰もが耳を傾ける。
「一思いに殺して欲しいか、夢を諦めて可能性に賭けるか」
――可能性。その言葉に、闇と陽の銘持つ二振りの刀を佩いた八重が一歩前に出る。
(「あの甲冑の燃料で、宮城野さんを蝕む影朧は『雷禍』」)
それはかつて、瑞鳥にして吉兆の印であったという。
(「もし雷禍が善心を取り戻せたら、宮城野さんの力になってくれないかな?」)
刀に手を掛けた八重を見て、都月が驚く。制止しようとした都月を、無骨な黒鉄の手がそっと引き留める――ジャック・スペードだ。
「躰を自由に動かせる喜びは、大破から蘇った俺にも分かる」
その二つ名は『スペードのジャック』。機械仕掛けのヒーローは、遠い昔に戦の果てに大破し、欠陥品の烙印を押され放棄された過去を持つ。
そんなジャックは、界を渡り、心を宿し、再誕を果たして今ここに立っている。
『……』
猟兵たちそれぞれの言動を、青年は操縦席に腰掛けたまま静かに観察していた。
「『未だ動けるのに棄てられる』――あんな悔しい思いはもう御免だと改造を繰り返すこの躰は」
ジャックの言葉を背負い、八重が一歩ずつ甲冑へと近付いていく。
「――あんたが纏う甲冑と同じく、生きる意味を取り戻すための器だ」
『……ッ』
宮城野青年が息を呑む。
誰も何も分かってくれない、この世で一番不幸なのは己だとさえ思ったことを恥じる。
くろがねの英雄は、元より英雄などではなく。その裡に、凄絶な過去を秘めていた。
「だからこそ」
ざっ、と。八重が刀の間合いまで詰め寄った。
「俺は仲間の選択を尊重しよう」
「……」
都月は、ジャックの横でことの成り行きを見守っている。
――間近で見上げる青年は、弱り切っているものの、瞳の輝きは辛うじて残り。
八重は、刀に手を掛けたままこう言った。
「宮城野さんに、提案」
『提案?』
刀に掛けた手とは反対の手で、人差し指を立てて続ける。
「雷禍に巣食う影朧の邪気を祓うよ」
息を呑む音は、誰のものだったろうか。そんなことが可能なのか? だとしたら、今まさに青年を責め苛む呪詛から、解き放つことも叶うではないか。
「上手く行くかどうかはわからないけど――」
本当は、影朧の邪気のみを祓って甲冑と共に歩む未来をとも考えた。
けれどそれは叶わず、ならばせめてその呪詛から解放してあげたい。
『……ああ、お手柔らかに頼む』
最早言葉を紡ぐのも苦しい、そんな様子で宮城野青年が答える。それを聞いた八重は、心得たとばかりに二刀をすらりと抜き放つ。
「宮城野さん、『魔法巫女少女 ごきげん! シズちゃん』って、知ってる?」
『……テレビジョンで見たことがある、君に……似ていると思った』
国民的人気を誇る活動漫画を、病床で気紛らしに見たことがある程度だが。
その物語は、人気に違わぬ愉快痛快さと、ほんの少しの切なさで出来ていたなと。
「良く言われるよ、だからね――」
人をしあわせにしかできない、愛と正義の魔法巫女少女の祈りを乗せて。
「祓って清めて邪気退散っ☆」
闇刀で、一閃。
「めーーーっ!!」
陽刀で、もう一閃。
『……っ、これ、は……』
確かに、斬り付けられたと思った。しかし実際はどうだ、肉体には傷一つなく、ただ己が身を蝕んでいた呪詛が目に見えて消えていく。
「やっ、た
……!?」
都月が喜色を帯びた声を出す。どす黒く変色していた青年の身体が、血色を取り戻していくのを見れば、無理もあるまい。
渾身の力で繰り出した【魔導神道流・二刀繚乱】が通じたことに安堵して、八重が宮城野青年の様子を窺う。
己を罰するがごとく苛んでいた痛みが、嘘のように消えていた。
『……凄いな、君たちは』
「えへへ、どういたしまして」
思惑が通じたことに八重がはにかんだ、その時だった。
『なあ、超弩級戦力――私を、此処から連れ出してはくれまいか』
言葉の意味を理解した者から順に、目を見開き、あるいは口を押さえ。
そうしてジャックが、その手を差し伸べるべくゆっくりと歩み寄った。
「ああ、其処は昏くて狭いだろう」
『……済まない、迷惑を掛けた』
「最後に眸に遺す景色が、そんな侘しいものなんて」
――余りにも『陸上選手』らしくない。
ジャックの巨躯は、影朧甲冑の操縦席に手を差し伸べるには丁度良い。
辛うじて手を差し伸べる力は残されていたのか、宮城野青年が身を乗り出し、手を伸ばす――だがそれさえも、影朧から得た仮初の力。
本来の宮城野青年は、己の意思で四肢を動かすことすら叶わぬ身だったのだから。
その手をしっかりと握り、もう片方の手で身体を支え、ジャックは青年が操縦席から離れるのを手伝う。
「――今日は、好い天気だ」
『……ああ』
「広い世界にもう一度、降りてこないか」
もし青年が望むなら。風を切って、空を仰いで、走りたいと。
「あんたがそう希むなら、此の手と翼を貸そう」
ジャックがそこまで告げた時、遂に青年の脚は競技場の地を踏んだ。
都月と八重は、ただ見守るばかり。
『嗚呼――』
ジャックにはただ一言、手を取っていてくれれば良いとだけ告げた宮城野青年は。
震える脚で、一歩、二歩――三歩と、トラックを踏みしめた。己の脚で。
そしてそこで力尽きたように崩れ落ち、咄嗟にジャックに支えられる。都月と八重が、慌てて駆け寄った。
ジャックの腕の中、都月と八重に見守られ、青年は天を仰ぐ。
『――いい、日だ』
それきりだった。
今際の際に宮城野青年は、確かに『せめて、もう一度だけ』という夢を叶えたのだ。
その最期の言葉と瞳を閉じた顔があまりにも穏やかで。
そして何より、青年が最期に見た空があまりにも晴れやかだったから。
誰も、何も言えず。泣くことさえできず。
静かに見送ることだけが、命を燃やし尽くした宮城野青年にしてやれる、最後の手向けであった。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2020年05月11日
宿敵
『雷禍』
を撃破!
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