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お菓子と倖せの物語

#アリスラビリンス


●甘い世界に
 其処は未だ、まっさらな世界。
 ウサギ穴を通ってやってきた愉快な仲間達はこの場所に新しい国を作ろうと考えた。
 どんな国が良い?
 どういった場所が素敵?
 ふわふわ毛並みの時計ウサギや妖精たちは三日三晩の相談をして、或ることを決める。

 ――そうだ、此処を『お菓子の国』にしよう!

 バニラクッキーの壁にさくふわウエハースの扉。
 窓枠はホワイトチョコレートで、硝子代わりにしたのは透き通った飴細工。
 屋根には色とりどりのドラジェやジェリービーンズ。扉には薔薇の砂糖細工を飾って、家の壁は白い糖衣の星模様で彩ろう。
 ドーナツのソファとオペラケーキのテーブル。ゆらゆらと揺らめくシャンデリアは色鮮やかなキャンディ製。
 様々な甘い魅惑で飾られたお菓子の家々が並ぶ、不思議な世界。

●不思議の国をつくろう
「……という国を作りたいらしいんだけど、うまくいってないらしいんだ」
 それはアリスラビリンスのとある国の話。
 グリモア猟兵のひとり、メグメル・チェスナット(渡り兎鳥・f21572)は愉快な仲間たちが願う不思議の国作りを手伝って欲しいと告げる。
「お菓子の国にするっていう方針は決まってて、住人はクッキーやチョコレートで出来たおうちを作ろうとしてるんだ。けれど上手く組み立てられなかったり、デコレーションが上手にできないって言ってる」
 其処で今回、猟兵達の出番だ。
 街になりそうな平野には今、失敗作のお菓子の住居がいくつか並んでいる。
 確かに家の形は成しているのだが、ドアがなかったり、屋根が空いていたりして住むには少しばかり問題がある。
「まずは失敗した家を片付けること。普通に美味しいお菓子だから食べてもいいし、解体して次の素材にするのも大丈夫だって!」
 メグメルは楽しい片付けになりそうだと笑い、別の役目についても語る。
 それは新しいお菓子の家を建てること。
 此処は不思議の国。妖精に願えばいろんな種類やかたちのお菓子を用意してくれる。それを使って住みやすくて可愛いおうちを作るのだ。
「壁も屋根も扉もチョコレートの家。キャンディでカラフルに飾った家、ドーナツのソファとコーヒーカップのテーブル……とか、色々考えられるよな。ぜひ皆の思うお菓子の家を作って欲しいってさ!」
 そして、それが終わったら住人たちは猟兵に或る願いをしたいのだという。

「そこに集まった愉快な仲間や時計ウサギはお話が大好きなんだ!」
 出来上がったお菓子の家で楽しいお茶会をしながら猟兵の話を聞きたい。彼らはそう願っているようだ。好奇心旺盛な愉快な仲間たちに楽しいお話を聞かせてあげれば、きっととても喜んでくれる。
 これから作られる新しい不思議な国。
 其処に住まう者達へ、自分達が紡いできた物語の贈り物を。
 どうか頼むよ、と願ったメグメルは仲間達に明るい笑顔を向けた。でも、と少しだけ俯いた少年はグリモアの予知で見えたことを話す。
「国が作られていく気配を感じたのか、ハッピーシュガーって名乗るオウガが現れることが分かってるんだ。このままだと国は支配されちゃう。だから、撃退しよう!」
 甘い甘い、夢のようなお菓子の世界。
 それを守り、新たな未来に続けていく為にも――今こそ、猟兵の力が必要なときだ。


犬塚ひなこ
 今回の世界は『アリスラビリンス』
 愉快な仲間と一緒にお菓子の家を作り、現れるオウガを倒すことが目的となります。
 こちらは物語背景と童話風の宿敵フラグメントで合わせたちょっとした合同シナリオのひとつです。事件が起きている国は別々という扱いなので、ご参加は各シナリオご自由にどうぞ!

 またこのシナリオは少人数採用でさくさくと章を進めていく予定です。万が一、想定よりも多いご参加を頂いた場合、全員採用は難しくなります。大変申し訳無いのですが、ご了承の上でご参加頂けると幸いです。

●第一章
 日常『お伽噺の世界』
 お菓子の家が並ぶメルヘンな不思議な国――になる予定のまっさらな国です。
(1)お菓子の家を食べる
(2)お菓子の家を建てる
 お好きな方をお選びください。どんなお菓子素材でも妖精に望めば用意してもらえます。ふしぎパワーでお菓子の味や食感はいつも作りたてと同じ。見た目もぴかぴか、きらきらして綺麗なままです。

●第二章
 日常『君だけのものがたり』
 お菓子の国の住人に、貴方の物語をお聞かせください。
 幸せな話、冒険譚、思い出の話、好きな人の話、貴方が戦う理由。自分が作った物語など自由に話してください。そのお話は住人の心に残ったり、愉快な仲間たちがそれを元にしたお菓子を作ってくれたりします。
 PSWの指標に拘らず、お好きな方向でどうぞ!

●第三章
 ボス戦『ハッピーシュガー』
 お菓子の国を狙って現れるオウガ。戦って撃退してください。
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第1章 日常 『お伽噺の世界』

POW   :    元気よく楽しむ

SPD   :    知的に楽しむ

WIZ   :    優雅に楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
ユヴェン・ポシェット
(2)お菓子の家を建てる

ビスケットの壁の塗装はチョコレートか生クリームかどちらが良いだろう。
それに、色とりどり飴細工で窓をつくると綺麗なのではないだろうか。光が刺すと壁に虹が浮かぶ様にするのも楽しそうだ。
瓦代わりにゴーフルを重ねた屋根にバームクーヘン(切る前)で煙突も付けたいところだ。
ふわふわのスポンジケーキの椅子とかあれば居心地もよくなるんじゃないか?
失敗したものも少し変えれば使えそうだ。

愉快な仲間たち、妖精達と相談・協力して家作り。
高いところはタイヴァス(鷲)にも手伝って貰おうか。ミヌレも何かしたいのか?…ではそこのグミを並べてタイル作ってくれ
結構体力も要るが作業に夢中になってしまうな



●甘い不思議
 ――お菓子の国。
 そう呼ぶにはまだ少しばかり遠い、おかしな不思議の国にて。
 甘い香りが何処からか漂ってきた気がして、ユヴェン・ポシェット(Boulder・f01669)は広場の方に踏み出した。
 其処には作りかけのお菓子の家と、忙しそうに行き交う愉快な仲間たちがいる。
「わあっ、あなたがおうち作りを手伝ってくれるヒト?」
「ああ、是非とも協力したい」
「じゃあこっちこっち。あなたはこのおうちを建ててください!」
 ふわふわ時計ウサギに連れてこられたのは、ビスケットの壁だけが建てられた区画。ユヴェンはまっさらな壁を見上げ、暫し考える。
「壁の塗装はチョコレートか生クリームかどちらが良いだろうか」
 なあミヌレ、とユヴェンは傍らの槍竜に問いかけた。
 すると槍竜はチョコレートが良いというように用意されていた材料を示す。それが良いと頷いたユヴェンは作業に取り掛かる。
 材料を選んで運び、妖精の力でお菓子同士を繋げて貰う。それが今回の流れだ。
「窓は色とりどりの飴細工で……うん、やはり綺麗だ」
 ユヴェンが示した通りに壁に埋め込まれた窓枠は、光が射すと壁に虹が浮かぶように作られたもの。
 きらきらと光る様相に目を細め、ユヴェンはそっと笑む。
 そして、次は屋根。
 瓦代わりにゴーフルを重ね、煙突はバームクーヘン製。ふわふわと立ち昇る煙が綿飴だったら面白い、なんてことを考えるユヴェンは実に楽しげだ。
「猟兵サン、次はどんな家具をつくる?」
「ふわふわのスポンジケーキの椅子とかあれば居心地もよくなるんじゃないか?」
 妖精の問いかけに対し、ユヴェンは失敗したものを少し変えてみれば使えそうだと伝えた。するとお菓子の妖精はぱっと表情を輝かせ、最高! と笑う。
「タイヴァス、あの煙突に飾りをつけてくれるか?」
 高い箇所はお供の鷲にも手伝って貰い、丸いチョコの飾りが並べられていく。
 そんな中でミヌレは妙にそわそわしていた。
 ユヴェンはその様子に気付き、ミヌレも何かしたいのかと問いかける。ミヌレはぴょこんと飛び、タイヴァスのように自分も役に立ちたいと主張した。
「ではそこのグミを並べてタイル作ってくれ」
 そして暫し、皆で共に協力する家づくりが続いていく。
 次第に出来上がっていくお菓子の家は唯一無二の不思議なおうち。
 きっと、他の家も次々と建っていくのだろう。この広場にたくさんの家が並ぶ光景に想像を巡らせ、ユヴェンは淡く微笑んだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドガー・ブライトマン
(1)お菓子の家を食べてみよう!
家を食べるっていうのも不思議な気分だよね
そもそもお菓子の家だなんて、まるでおとぎ話みたいだ

ちょうど腹が減っていたんだ
最後にいつどこで何を食べたかも覚えてなくてさ
だからこういう機会は助かるよ。生命線的な意味でも

見慣れない景色に、辺りをウロウロしながら
目についたチョコレートや、キャンディの欠片を食べてみる
ウン、本当にお菓子だね……!

――あ、オスカーは食べちゃダメだよ!
キミの主食は虫だろう
別の世界に行ったときに元気なやつ捕まえてあげるから
今は我慢しといてよ

薔薇の砂糖細工は食べずに取っておく
バラってやつは目立ちたがり屋なんだ
次の材料として、キレイに飾ってやらなくっちゃね



●一輪の薔薇を
 板チョコレートのドアに生クリームの玄関ベル。
 扉を開けてみようとしたけれど、ぴったりはまって動かない。これじゃあただのおうち型の飾り。なるほどね、と頷いたエドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)は、この家こそが片付けるべきお菓子の家なのだと分かった。
「それじゃあ、この家を食べてみよう!」
 そんな風に改めて言葉にしてみると、不思議な心地が巡る。
 家を食べる。
 日常では絶対に言わない台詞だと感じて、口許に手を当てたエドガーはくすくすと笑った。その頭の上にはツバメのオスカーが乗っており、首を傾げている。
 そもそもお菓子の家という存在がまるでおとぎ話だと思ったが、この世界こそがフェアリーテイルのようなもの。
 そして、エドガーはお菓子の家のまわりをぐるっと回ってみる。
 縦長のウエハースが並べられた壁と糖衣で描いた星の装飾。屋根は四角いクッキーで作られており、煙突まであった。
「うん、どこを食べても美味しそうだ。ちょうど腹が減っていたんだよね」
 思えば、以前にいつどこで何を食べたのか思い出せない。夜汽車で食べたオムライスが最後だっただろうか。いや、その後に何か――なんてことをぼんやりと考えたエドガーは軽く肩を竦めた。きっと誰かがこのことを聞いていたら、そんなのは駄目だと叱られただろう。
 そんなとき、エドガーの横に妖精が飛んできた。
「アナタがこの家を食べてくれるの? さあ、召しあがれ!」
「ああ、遠慮なく。こういう機会は助かるよ」
 生命線的な意味でも、と付け加えながらエドガーは壁に手を伸ばす。
 さくりとした感覚と共にウエハースが半分に割れた。するとそれは見る間に掌の上に収まるサイズになり、食べやすい形になる。
 きっとこれは妖精の魔法によって大きくなっていたのだろう。
「これなら綺麗に平らげられ――あ、オスカーは食べちゃダメだよ!」
 不意にはっとしたエドガーはお供がクッキーの屋根を啄もうとしていたところを止めた。なんで? という風に喋むのを止めたオスカーに、おいでと手招くエドガー。
 羽ばたいてきたオスカーが肩に乗ったことを確かめ、エドガーは頷く。
「キミの主食は虫だろう。ほら、後で森に行こう」
 エドガーは少し離れたところにある深い森を示した。今は我慢だよ、という言葉を賢く聞き分けたオスカーは主の頭の上に移動する。
 そうして、エドガーは様々な甘いお菓子を味わっていった。
 ストロベリーフレーバーのチョコレートに、色鮮やかで不思議な味のするキャンディの数々。マシュマロはふわふわで、クッキーはさくさくしている。
「ウン、本当にお菓子だね……! と、これは?」
 そんな中でエドガーは玄関扉の上に飾られていた薔薇の砂糖細工に手を伸ばす。それだけは食べずに取っておきたいと思える一品だった。
「バラってやつは目立ちたがり屋だからね」
 そうだろ、と左腕に向けて語りかけたエドガーは静かに微笑む。
 この薔薇が新しい世界を美しく飾る花になるように――そう願い、エドガーは砂糖細工をそっと眩い陽のひかりに翳した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
(1)

――お菓子の国
あぁ、なんて素敵な発想でしょう

愉快な仲間達と
ほくほく笑顔で握手

食べても膨らまない無尽蔵な腹が
役に立つなら嬉しいこと、と
腕捲りで挑むのは家の解体

まぁるい窓のオランジェット
チョコマシュマロのクッション
チョコマカロンの椅子を味わってから
チョコスティックの柱を引き抜けば
チョコチップクッキーの屋根が落ちて来て

めくるめくチョコとの逢瀬を余さず堪能
食べ崩しながら
設計が不安定な箇所を確り記帳し
建設に活用できるよう尽力しましょ

基礎や土台となる菓子を選ぶのも重要なことですよ

得意気に助言したところで
鼻腔を擽るのはホットチョコの優しい香り

私も此処に住みたい、なんて呟きは
隠し切れない本気が覗いている



●チョコレイトハウスにようこそ!
 ――お菓子の国。
 嗚呼、それは何という素敵で素晴らしい発想だろうか。
 都槻・綾(夜宵の森・f01786)はまっさらなこの国に訪れた愉快な仲間たちの考えに大いに同意していた。
「こんにちは、猟兵サン!」
「ええ、こんにちは」
 ふんわりとした毛並みの時計ウサギや花をドレスにして身に纏う妖精からの挨拶に、綾は穏やかな笑顔で以て応える。
 今日はよろしくね、と告げられた言葉にほくほくした気持ちを覚え、彼は仲間たちと握手をした。
 此度の機会は綾にとって実に良い誘いだ。
 何故なら食べても膨らまない無尽蔵な腹が役に立つのだから。嬉しいことだと微笑んだ綾は、ぐっと腕捲りをして気合いを示してみせる。
「良ければ家への案内をお願いします、皆さん」
「もちろん! さあさあ、こっちだよ!」
 綾が仲間たちに願うと、彼らは嬉しそうにその手を引っ張っていった。
 そして、辿り着いた家の前。
 其処は見た目としてはとても鮮やかで、甘やかな香りのするお菓子の家だ。
 まぁるい窓はオランジェット。
 板チョコレートの扉を開けば、チョコマシュマロのクッションにチョコマカロンの椅子が見える。チョコ尽くしの家は一見、とても良い出来に思えた。
 どうして家を片付けてほしいのかと綾が問うと、時計ウサギが頬を掻きながら恥ずかしそうに告げる。
「あのね……この家、道の真ん中に作っちゃったんだ」
「ああ、成程。だから解体して移動させたいのですね」
「その通りさ! でも家具は食べちゃっていいよ。まだたくさんあるからね」
 綾はくすりと笑み、時計ウサギの言葉に頷いた。
 そうして、彼はじっくりとチョコレートの家を味わうことにした。
 クッションを手に取れば、マシュマロは手の平サイズの食べやすい菓子に変わる。妖精の魔法が解かれたのだろう。大きいままでも良いのですけど、と口にした綾だが、これもまた多く食べられて良いとも思えた。
 そして次はマカロンの椅子。ふわり、さくりとした味わいは絶品。
 それからチョコスティックの柱を引き抜けば、チョコチップクッキーの屋根が落ちてきて――両手に甘いものを抱えた綾の表情は綻んでいた。
 めくるめくチョコレートの世界。
 これは此処でしか巡り会えない甘い甘い逢瀬。やがて、目に見えるチョコを余さず堪能した綾は家のつくりに目を向けた。
 無論、ただ食べるだけではない。彼は設計の甘さまで記録していた。
 この甘い時間が終われば、次はチョコレートの家を建て直す時間が待っている。
「基礎や土台となる菓子を選ぶのも重要なことですよ」
「わああー! すごいすごい!」
 そんな得意気に助言した綾にぱちぱちと送られる仲間たちの拍手。そうして暫し後、粗方の片付けを終えた綾のもとに元気な妖精がカップを運んできた。
「おや、これは……」
「じゃじゃーん! 余ったドアでホットチョコをつくってみました!」
 鼻腔を擽るのはホットチョコの優しい香り。
 どうぞどうぞ、と微笑む妖精からカップを受け取り、綾は思わず本音を零す。
「――私も此処に住みたいですね」
 そんな言葉が甘やかに落とされ、心地好い気持ちが巡った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

旭・まどか
……お前たちは、不器用なの?
それとも――……、
体裁ばかりを気にして、中身を疎かにした歪な“残骸”を見つめ

折角望みを叶えられる状況と技術が共存しているというのに
何故上手く噛み合わないのか理解に苦しむ

僕の理想を提示しても良いけれど
今後実際此処に住まうのはお前たちだろう?

ならば、僕の意見を聞いてどうする

仕方ないから、手伝いくらいはしてあげる
力仕事や物を運ぶ手が足りないのなら
そこの四つ足の隸も好きにすると良い

嗚呼、お前のつまみ食いは厳禁だよ
幾ら中身が綿だからといって、犬に菓子は厳禁だろう?

心配するな
お前の分まで僕が食べてあげるよ
――なんて
僕もあまり、望んで食べたいわけではないのだけれど、ね



●拒絶
 作りかけのお菓子を片手に、妖精が泣いていた。
「ふえ……ひっく、うぅ……っ」
 その傍らには旭・まどか(MementoMori・f18469)が呆れた顔で立っている。
 妖精は俯き、悲しみの涙を流し続けている。
 どうしてこんな事態になっているのかというと、それは彼がこの国の住人に掛けた言葉の影響だった。
 ――お前たちは、不器用なの?
 それとも体裁ばかりを気にして、中身を疎かにしたのか。
 歪な“残骸”でしかない、とお菓子の家を断じたまどかは容赦が無かった。
 失敗作のお菓子の家を微笑ましいと思う気持ちは彼にはない。
 折角、望みを叶えられる状況と技術が共存しているというのに、何故上手く噛み合わないのか理解に苦しむ。
 その言葉に少しの優しさでも感じられれば愉快な仲間とて、気にせずに家づくりの手伝いを願っただろう。だが、まどかからは軽蔑めいた思いしか感じ取れず――ましてや皮肉を理解することもできず、妖精は泣きじゃくった。
「だって、うまくできなかったからお手伝いをお願いしたい、って……」
「僕の理想を提示しても良いけれど、今後実際此処に住まうのはお前たちだろう?」
「そう、だけど……」
「ならば、僕の意見を聞いてどうする」
「…………」
 まどかが続けた言葉に妖精は無言になってしまった。無理もない、手伝いに来てくれたと思っていた猟兵から否定されているのだ。
 ごめんなさい、とだけ告げた妖精はふらふらと何処かに飛んでいってしまった。
 失敗作のお菓子の家の前。
 まどかは暫し、自分にとって歪な残骸としか思えぬものを見つめていた。
 少し後。
「……仕方ないから、手伝いくらいはしてあげる」
 傍に控えさせていた配下に命じ、まどかは力仕事を行わせていく。
 四つ足の彼に任せる最中、まどかはそっと告げた。
「嗚呼、お前のつまみ食いは厳禁だよ」
 幾ら中身が綿だからといって犬に菓子は厳禁。心配するな、と続けた彼はドアになっていたチョコレートを手に取る。
 すると魔法が掛かっていたらしきそれが手の平サイズに変わっていった。
 おそらくこれが妖精の力なのだろう。まどかは一口分だけチョコレートを割りながら、配下を見遣った。
「お前の分まで僕が食べてあげるよ」
 でも、と口にしたまどかは更に言葉を続ける。
「――なんて、僕もあまり、望んで食べたいわけではないのだけれど、ね」
 まどかの周囲には誰もいない。
 お菓子も殆ど食べず、残った残骸。あの妖精に聞かなければ解体した材料を次に何処に持っていけばいいのか判断がし辛い。
 たしかに彼は彼らしく在った。だが、これは手伝いという意味では完全な失敗だ。
 まどかは肩を竦める。
 そうしてひとりと一匹は暫し、不思議の国の最中に佇んでいた。
 

苦戦 🔵​🔴​🔴​

樹神・桜雪
1) お菓子の家を食べる
※絡み、アドリブ歓迎

この家、お菓子で出来ている…不思議
UCで呼び出した相棒と一緒に恐る恐る家に触ってみたり、外れそうな部分を取り外して食べてみたりするね
ねえ、この窓枠クッキーで出来ている。一口いただきます
…結構美味しい。相棒も食べてみる?
こっちの扉は板チョコだし、よく見たら壁にマカロンくっついてる?面白いね

壁のマカロンを食べなから家の中も見せてもらおう
家具もお菓子なのかな?
こういう家に住めたらきっと楽しいね。お菓子美味しいし見た目も楽しいし
お腹は減らないから良いのかな

さ、食べちゃった分はちゃんと直さなくちゃ
材料もらいに行こう
…だ、大丈夫だよ。つまみ食いなんかしないよ



●相棒と甘いお家
 スポンジケーキの壁に装飾された生クリーム。
 ふわふわとした家の様相を物珍しそうに眺め、樹神・桜雪(己を探すモノ・f01328)はそっと手を伸ばしてみる。
「この家、お菓子で出来ている……不思議」
 すると相棒のシマエナガが彼の肩から腕を伝っていき、ちゅん、と生クリームを突っついた。途端に嘴にふわりと付くクリーム。違和感にぷるぷると体を震わせるシマエナガ。わ、と声をあげた桜雪は相棒の嘴を指先で拭ってやった。
「相棒、大丈夫?」
 桜雪が問いかけると、シマエナガはじゅりりと鳴く。どうやら何ともないらしい。
 良かった、と安堵した桜雪は自分もクリームに触れてみた。
 それまで飾りだった物の魔法がとけたのか、やわらかな感触が伝わってくる。そして、桜雪は指先ですくったそれを口許に持っていく。
 ぱくりと一口。
 広がる甘い味に双眸を細めた桜雪は、おいしい、と口にした。
「ねえ、この窓枠もクッキーで出来ているよ」
 そうして彼の興味はステンドグラスクッキーになっている窓に剥いた。いただきます、と丁寧に告げた桜雪は少しガタつく窓を外す。
 そうすると、大きなクッキーが見る間に掌に乗る程度のサイズになった。
「魔法、かな? すごい、食べやすくなったね」
 桜雪はきらきらと光る飴を陽に透かしてみた後、クッキーを頬張る。
 さくさく、ぱりぱりとした食感がとても楽しいと思えた。相棒も食べてみる? と問いかけた桜雪はもう一枚の窓を取り外した。
 クッキーの部分を啄んだ相棒は何だか上機嫌に見える。ふふ、と淡い笑みが零れ落ちたのはきっと今が穏やかだからだ。
「こっちの扉は板チョコだし、よく見たら壁にマカロンもくっついてる?」
 面白いね、と家の装飾を確かめていく桜雪。
 ピンク色のこれは苺味だろうか。それなら、こっちの赤いものはラズベリーかもしれない。自分がわくわくした気持ちを覚えていることに気が付きながら、桜雪はマカロンを手に取ってみた。
 ひとつずつ味を確かめようと決めた彼は、マカロンを食べなから家の中へと入っていく。其処にあったのはドーナツのソファとアイシングクッキーの猫脚テーブル。
 外観もなかなかだったが、中もふんわりしていて可愛い。
「こういう家に住めたらきっと楽しいね」
 お菓子も美味しくて見た目も賑やかだ。それにきっとお腹も減らない。ね、と相棒に桜雪が笑いかけると、同意するような鳴き声が返ってきた。
 そして、桜雪は暫し甘い心地を楽しむ。
 このままゆっくりしているのも良いけれど、次はちゃんとしたお仕事が待っている。
「さ、食べちゃった分はちゃんと直さなくちゃ」
 材料を貰いに行くために立ち上がった桜雪は外で準備をしている愉快な仲間たちに会いに行くことにした。
 新しいお菓子でどんな家を作ろうか。
 そう考える中でふと、そのお菓子はどんな味なのだろうかという思いが巡った。
「……だ、大丈夫だよ。つまみ食いなんかしないよ」
 思わず首を振る桜雪。
 その頭の上で、ほんとに? と笑っているようなシマエナガの声が響いた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

砂羽風・きよ
オズ(f01136)と

オズに手を引かれて思わず笑みが零れる
ああ、行こうぜ

ほんとスゲー
へぇ、そしたらその夢が叶ったってことか
よかったな

…窓!?あ、ああそうか菓子だもんな
気を付けて食えよ?飴って結構切れやすいしな

俺はこの扉のチョコ食おうかな
うわ、手にチョコがついちまった!べとべとしやがる
ま、旨いから良いか

オズも食うか?ほらよ
彼の口元まで持っていく

お前の手、べとべとにさせたくないし
ほら、一口で食っちまえ!

ふは、いい食いっぷりだ

ん、こっちからもオズの目見えるぜ
金色の髪の毛と青い目がきらきらしてて綺麗だ

いいのか?さんきゅ
うまっ、どうやって作ってんのか気になるわ

そうだな
食いながら使えそうなもん探してみるか


オズ・ケストナー
キヨ(f21482)と

わあ、おかしのいえっ
キヨ、いこういこうっ
手を引いて

すごいすごいっ
絵本でよんだことあるよ
ずっとたべてみたいって思ってたんだっ
言われて初めて気づいたって顔で目を輝かせ
うんっ、ゆめがかなったっ

キヨはどれから食べる?
わたしはねえ、窓っ

やったあ、たべるっ
あんぐり開けた口を近づけてぱっくん
ふふ、おいしいねえ
あ、ハンカチあるよ

おっきな飴から透かし見るキヨの目はいつもより青い
キヨの目が海の色になったっ
褒められたらうれしそうに
こっちもはんぶんこしよっ

ちゃんと立ってるテーブルとイスはあたらしい家にもっていく?
せっかく作ったんだもの
なにか残ってたらきっとよろこんでくれるよね
よーし、たんさくだっ



●お菓子の探検隊
 甘い香りに誘われて、進む先には色鮮やかな家々が見える。
「わあ、おかしのいえっ」
「スゲーな、本当に家になってる」
「キヨ、いこういこうっ」
 オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は砂羽風・きよ(ちょろし・f21482)の手を引き、愉快な仲間たちが作ったというお菓子の家へと駆けていく。
「ああ、行こうぜ」
 オズの無邪気な笑顔に対し、きよも思わず笑みを浮かべた。
 そして二人が辿り着いたのは赤いアイシングクッキーの屋根で彩られた家だ。扉は板チョコレート。窓はステンドグラスクッキー製。壁はふわふわのスポンジケーキで、装飾としてアラザンが散らされた生クリームが連なっている。
「すごいすごいっ」
「うわ、まさに夢の家だな」
 はしゃぐオズの隣で、きよはまさにメルヘンだと笑む。
 そしてオズは両手を広げて、以前に見たことのある本にそっくりだと話した。
「こういうの、絵本でよんだことあるよ。ずっとたべてみたいって思ってたんだっ」
「へぇ、そしたら夢が叶ったってことか」
 よかったな、と微笑ましそうに双眸を細めたきよに、オズがはっとする。瞳をきらきらと輝かせたオズはこくんと頷いた。
「うんっ、ゆめがかなったっ」
 言われて初めて気が付いた。そんな風に胸を躍らせるオズは家の窓辺に駆け寄っていく。キヨもはやく、と誘うオズは先ずステンドグラスクッキーに手を伸ばす。
「キヨはどれから食べる? わたしはねえ、窓っ」
「……窓!? あ、ああそうか菓子だもんな」
 思わず突っ込みそうになったきよだが、常識を捨てなければならないと気付いた。そう、此処は不思議の国。柄ではないが自分もメルヘンな世界にいるのだ。
 気をつけて食えよ、と告げたきよは続けて不思議な光景を目にする。
 オズが手に取ったクッキーがするりと小さくなり、手の平サイズに変わったのだ。
 おそらく妖精がかけた魔法なのだろう。
 家ではなくなったお菓子が食べやすい形になるなら何も心配はいらない。
「俺はこの扉のチョコ食おうかな」
「わあっ、チョコもおいしそう」
 きよが手に取った板チョコレートもまた、するすると小さくなっていく。ぱきっと口許で一口分を割りつつチョコを味わったきよはふと気が付いた。
「うわ、手にチョコがついちまった!」
「あ、ハンカチあるよ」
「助かる。ありがとな。ま、旨いからこれくらいの汚れは良いか」
「ふふ、おいしいねえ」
 二人はどんどんお菓子の家を食べ進めていく。きよは裏口の扉だったホワイトチョコレートに手にして、オズに差し出した。
「オズも食うか?」
「やったあ、たべるっ」
 明るい笑顔が返ってきたことで、ほらよ、と彼の口までチョコを持っていく。あんぐりと開けた口を近付けて遠慮なく味わうオズ。その姿はとても素直で愛らしい。
「一口とはなかなかやるな」
「おいしいもの、いっぱい食べるとおいしいねっ」
「ふは、いい食いっぷりだ」
 互いに笑いあい、好きなものを食べていく時間は心地好い。
 そうして、オズは青色硝子めいた色をしたキャンディの窓からきよの姿を透かし見てみた。その瞳はいつもより青くて、普段とは違う彩に思える。
「キヨの目が海の色になったっ」
「ん、こっちからもオズの目が見えるぜ」
 金の髪と青い目がきらきらしてて綺麗だと彼が褒めてくれたものだから、オズの口許に嬉しげな微笑みが宿った。
「ねえキヨ、こっちもはんぶんこしよっ」
「いいのか?」
「はい、あーんっ」
「うまっ」
 差し出されたステンドグラスクッキーを頬張り、きよは目を見開く。気になるのはどうやって作っているかという製法について。後で妖精に聞いてみても良いかもしれないと考え、きよはクッキーの味を楽しげに確かめていった。
 そうして、二人は家の中へ。
 赤い屋根だったお菓子を食べながら彼らが眺めているのはウエハースのテーブルとマシュマロのソファや、飴細工の薔薇が飾られたシャンデリア。
「ちゃんと立ってるテーブルとイスはあたらしい家にもっていく?」
 お菓子の家は立て付けが悪い、いわゆる失敗作だったけれどこういった家具ならきっと平気だ。せっかく愉快な仲間たちが作ったものだから、何かが残っていたら喜んでくれるはず。そのようにオズが提案すると、きよも頷きを返した。
「そうだな、他の家からも使えそうなもん探してみるか」
「よーし、たんさくだっ」
 おー、と手を上に掲げたオズに倣ってきよも拳を掲げる。
 二人の間に巡っていくのは美味しくて楽しい賑やかな時間。まだまだ続くこのひとときはきっと、甘い甘い思い出になっていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クラウン・メリー
ライラ(f01246)と

(2)
お菓子のお家作るのワクワクするね!

ライラ、ナイスアイデア!早速、作ろっ!

赤と黄の色をしたアイシングクッキーをテントに見立てて
カラフルな色に染まったアイシングクッキーは
ガーランドのように付ける

えへへ、俺の花綺麗!

あ、旗もつけないとだね!
ライラから旗を受け取り飛んで旗を飾る

ライラ、どうかなっ?

家の中にはおっきなマシュマロのソファ
もふもふ

ココアクッキーのテーブルの上には
ライラックのお花が添えてあるシルクハットの飴細工

じゃーん、完成!わーい!
両手でハイタッチ!

トランプのクッキーを両手に持ってこそこそと
ライラ!はい、あーん
自分もクッキーを頬張って
美味しいね!

二人だけの秘密!


ライラック・エアルオウルズ
クラウ(f03642)と(2)へ

ね、実に素敵で胸が躍るよ
折角だから僕らの夢を形とするべく
円柱型の家と屋根にして、
サーカスのテントみたいにしようか

チョコの扉を確と取り付ければ、
傍には飴細工のフリチラリアの呼鈴を
屋根の天辺飾る旗クッキーも、
アイシングでカラフルに彩付ける
羽根ある彼に託したなら、
飾られた旗へ拍手を贈ろう

完璧だよ、クラウ

中にはココアクッキーのテーブル
ライラックの花に綻びつつ、
飴細工の花瓶と薔薇も飾って

いやあ、素敵に出来た物だ
嬉々とハイタッチし、
──後は秘密の時間だね?

少し位の味見は、良い筈さ
クッキーを開けた口で頂いて
ふふ。秘密の味は美味しいねえ

うん、二人だけの秘密だ
人差し指立てて笑う



●スートクッキーは秘密の味
 案内役は時計ウサギ。
 かちこち音を立てる大きな懐中時計を提げたふわふわの毛並みの彼に連れられ、クラウン・メリー(愉快なピエロ・f03642)とライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)はまっさらな道の上にたどり着いた。
「さあさ、猟兵サン! ここに素敵なおうちを作っておくれよ!」
 そういって託されたお菓子の家作り。
 よーし、と気合を入れたクラウンはライラックに笑顔を向ける。
「何だかワクワクするね!」
「ね、実に素敵で胸が躍るよ」
「どんなのにする?」
「そうだね、折角だから僕らの夢を形とするべく円柱型の家と屋根にして、サーカスのテントみたいにしようか」
 彼からの提案にぱっと表情を輝かせたクラウンは、賛成、と片手を上げた。
「ライラ、ナイスアイデア! 早速、作ろっ!」
 そうして、二人は材料のお菓子を作ってくれるという妖精を呼ぶ。
 彼らの願いを聞いた妖精はくるりと杖を振り、望まれたお菓子を次々と作り上げていった。魔法が掛かったお菓子は大きくなり、家を形作るものとなっていく。
 まずは赤と黄の色をしたアイシングクッキー。
 それをクラウンが交互に並べていけば、テントに見立てた壁になる。そしてカラフルな色に染まった三角のアイシングクッキーはガーランドのように飾っていく。
 次はライラックがチョコレートの扉をしっかりと取り付ける。
 その傍には飴細工のフリチラリアの呼鈴。
 ライラックが自分の花の形をした飴細工を用意してくれたのだと気付き、クラウンは嬉しげに微笑む。
「えへへ、俺の花綺麗!」
「きっと心地好い来客の報せを鳴らしてくれるよ」
 互いに笑みを交わした二人は、徐々に出来上がっていく家を眺める。
 それからライラックは屋根の天辺飾る旗型のクッキーに色を付けていった。鮮やかで目立つ色合いになった旗は遠くから見てもその家があるとよく分かるもの。
 ライラックの作った旗に目を向けたクラウンが、わあっと声をあげる。凄い、と笑う彼は旗を覗き込む。
「そうだ、天辺に旗もつけないとだね!」
「お願いできるかい?」
「うん、任せて!」
 翼をはためかせたクラウンにライラックは旗を渡し、その姿を見守る。えいっと飛び上がった彼は屋根の一番上にしかと旗を飾ってみせた。
「ライラ、どうかなっ?」
「完璧だよ、クラウ」
 ライラックが拍手を送り、クラウンが満足げに胸を張る。
 これで外装は完成。次は内装だ。
 外とは違って落ち着いた雰囲気の内部に飾るのは様々な家具。
 おっきなマシュマロのソファに、ココアクッキーのテーブル。外がフリチラリアであるから、中にはライラックの花が添えてあるシルクハットの飴細工を。
 ソファにもふもふと凭れ掛かったクラウンは居心地を確かめる。
 彼が飾ってくれた花のハットに口許を綻ばせ、ライラックは飴細工の花瓶と薔薇をその隣に飾った。
「いやあ、素敵に出来た物だ」
「じゃーん、これ完成! わーい!」
 二人は嬉々とハイタッチを交わし、自分達の夢が形になったと喜ぶ。
 そして、ライラックはくすりと悪戯っぽく笑ってみせた。
「――後は秘密の時間だね?」
「うん! はい、ライラ。あーん」
 二人でソファに腰掛けて、其処から始めるのはちいさなお茶会。
 クラウンはトランプのクッキーを両手に持ち、ライラックへと差し出した。それは装飾用のものだったけれど、少し味見をしようとしていたものだ。
「ありがとう。秘密の味は美味しいねえ」
「ふふ、美味しいね。二人だけの秘密だよ!」
 クラウンもスートごとに味の違うクッキーを頬張り、満面の笑みを浮かべた。
 ライラックも人差し指を立てて、もう一度笑う。
 交わす視線。
 巡る心地。それは秘密という名の、特別な記憶に変わってゆくはず――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナターシャ・フォーサイス
お菓子の国、童話で見るようなものを実際に…ですね。
それで、作ろうにも…と。

過去の記憶など捨てて久しいですが、童心に帰り手伝いましょう。
一人では手が足りませんし天使達を呼び手を借ります。
完成形を考えながら、最初におおよその図面を描いて…
優雅で、すこしだけ背伸びした洋館を作りましょう。

アイスボックスクッキーのタイルにドラジェの敷石。
扉は板チョコレートの模様を活かしましょう。
広間は飴細工のシャンデリアとパウンドケーキの絨毯を。
インテリアは失敗してしまった家のものを使わせていただきましょう。

…作業の合間に、解体した家をいただき休憩しましょう。
妖精の方々にも天使達にも、手伝っていただいてばかりですしね。



●洋館でお茶会を
 お菓子の国にお菓子の家。
 それは誰もが幼い頃に童話で見たような不思議な世界の光景。
 ナターシャ・フォーサイス(楽園への導き手・f03983)は広場にちらほらと立っているお菓子の家々を眺めていた。
「童話のようなものを実際に……となりますと、悩ましいものですね」
 作ろうにも悩んでしまう。
 しかし、その言葉には何処か楽しげな心地が宿っていた。
 ナターシャにとって過去の記憶は遠く手が届かぬもの。それでも、童心にかえることくらいは出来るはず。
 ナターシャは楽園への使者の力を使い、天使達を呼び出す。
「一人では手が足りませんし、お願いしますね」
 周囲を舞う天使に願い、ナターシャは自分が作るべき家について考えていった。完成形を考え、おおよその図面を描く彼女は真剣だ。
「優雅で、すこしだけ背伸びした……そうですね、洋館を作りましょう」
 ナターシャはこの国の妖精を呼び、欲しいお菓子を伝えていった。そして――。
 タイルはアイスボックスクッキー。
 敷石は上品なドラジェ。
 ドアは板チョコレートの模様を活かした、扉然とした正統派の佇まい。
 広間には飴細工のシャンデリアを飾り、パウンドケーキの絨毯を敷き詰めれば豪華ながらも落ち着いた様相となる。
 調度品は失敗してしまった家に残された家具。
 シュークリームの一人掛けソファや、猫脚のクッキーテーブル。
 天使達の手伝いによって次々と完成していくお屋敷は絢爛豪華。そうして、ナターシャの想像していった洋館が出来上がった。
「素敵なお家!」
「わあわあ、特別なお屋敷にしよう!」
 いつの間にか集まってきていた愉快な仲間たちがナターシャに感謝の言葉を告げる。微笑んだナターシャは余っていたお菓子を示し、皆で食べようと誘った。
 勿論、その場所は今しがた出来上がったばかりの応接間だ。
「さあ、召し上がりましょう」
「わーい!」
「いただきまーす!」
 香り高い紅茶と共に頂くのはとろける甘さのシュークリーム。
 妖精にも天使達にも感謝を抱き、ナターシャは穏やかなお茶会を楽しんでゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

瀬名・カデル
お菓子の国、とっても素敵な国だね!
ボクもお菓子の国を作るお手伝いをしようっと!
アーシェも一緒に作ろうね。

ええと、どんなお家にしようかな?
クッキーとビスケットでできた壁に、チョコレートでできた屋根…
お部屋にはふわふわの雲のようなお菓子でできたソファとベッド…
マシュマロのクッションなんていうのも素敵だね!
そしてお部屋のスイッチやドアの模様はキャンディで出来ているんだよ。

お片付けをしているお家から使えそうなお菓子を貰っちゃおうか。
そして、お家の素材に使えなさそうなものはちょっとだけボクも頂戴したいなぁ。

えへへ、出来上がったお家を間違って食べちゃわないようにしないとね!
(食べても補充、出来るかな…?)



●ふたつのお菓子の家
 バームクーヘンの煙突から立ち昇る綿菓子の煙。
 まあるいケーキをくり抜いて作られたお菓子の家の屋根にはふわふわのクリームが飾られている。瀬名・カデル(無垢なる聖者・f14401)は広場に見える景色を眺め、甘い香りに包まれた世界を見渡した。
「お菓子の国、とっても素敵な国だね!」
 けれど、まだまだこの場所は未完成だということも分かる。
 少し遠くには、綿菓子が煙突に詰まってたいへんだと慌てる時計ウサギが見えた。カデルはくすくすと笑い、彼が綿菓子を無事に取り出せると良いと願う。
 そして、カデルは意気込む。
「ボクもお菓子の国を作るお手伝いをしようっと! アーシェも一緒にね」
 ねえ、と呼びかけた傍らには黒髪に青い目をした絡繰人形が控えていた。カデルはアーシェと共に近くの妖精に手を振り、何処に家を建てる予定なのか問う。
「こんにちは、妖精さん」
「わあ、アナタもお手伝いに来てくれたヒト?」
「そうだよ、どのお家を作るお手伝いをしたらいいかな」
「やったー! じゃあね、こっちこっち!」
 大歓迎だという意思を示した妖精はカデルの袖を引っ張り、広場から伸びている大通りの方に連れて行った。
 其処にはちいさな家を幾つか作りたいらしく、カデルには二件分の家作りが任せされた。これは大役だと意気込むカデルに対し、欲しいお菓子があったら何でも言ってね、と胸を張る妖精。
「ええと、どんなお家にしようかな?」
 どうしようか、とアーシェと一緒に考え込むカデルは真剣だ。
 そして、カデルは妖精に願いを告げていく。
 妖精は待ってましたとばかりに翅を羽ばたかせ、魔法の杖をくるりと回した。途端に不思議なお菓子がぽぽんと現れ、土地の前に広がっていく。
「それじゃあ作っていくね!」
 壁はクッキーとビスケット。屋根はチョコレート。
 二件並んだ家の基本的な作りは一緒だが、クッキーはココアとバニラ。片方はミルクチョコレートでもう片方はホワイトチョコレートだ。
 ビスケットの装飾も少し違っていて、まるで双子の家のよう。
「ふふ、かわいい! 貴方の目の色みたいに両方違って、とっても素敵だわ」
「次はお部屋の中のお菓子をお願いしていい?」
「もちろん!」
 そうしてカデルはそれぞれの家の内装を手掛けていく。
 部屋には雲のような綿菓子で作ったソファとベッドを置いて、マシュマロのクッションを添えればふわふわルームの出来上がり。マシュマロもイチゴ味とオレンジ味で分けているので各部屋の違いもばっちりだ。
「見て、アーシェ。お部屋のスイッチとドアの模様はキャンディなんだよ」
 窓辺から射す光を反射した飴細工はきらきらと光っていた。
 これで完成、と双眸を緩めたカデルは実に楽しげだ。うん、と満足そうに頷いたカデルに妖精が近寄ってくる。
「ねえねえ、あまったお菓子があるの」
「それってボクが貰ってもいいのかな?」
「ええ、時計ウサギくんたちも呼んで一緒に食べましょ!」
 そして、始まるのはひとときのお茶会。
 トランプ型のクッキーにふんわりマシュマロ。マカロンに美味しい紅茶。出来上がったばかりのお菓子の家で楽しむティータイムは穏やかだ。
「えへへ、出来上がったお家を間違って食べちゃわないようにしないとね!」
「あれっ、食べてもいいんだよ?」
 カデルが冗談交じりに言うと、愉快な仲間たちはそれが当たり前だと話す。
「もしかして食べても補充、出来るの……?」
「うん、だってお菓子の家だもの!」
「それじゃあ、ちょっとだけ――」
 ほんの少しの罪悪感もあったが、カデルは好奇心に負けてしまった。綿菓子のソファを少しだけ千切って食べれば甘い心地が巡っていく。
 もしかすれば、幸せというのはこういったことを指すのかもしれない。
 カデルは夢のような世界を大いに楽しみながら、傍のアーシェに微笑みかけた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・ゆず
アリスラビリンス
やっぱり好きだなぁ
想像力が枯れない限り、無限の可能性があるんだもの!

こんにちは。ステキな世界を作るお手伝い、してもいいですか?

ウエハースの壁に、べっこう飴の窓
ドアは板チョコ!イチゴ味のドアが可愛いかもです!
柱は、棒状のプレッツェルを使いましょ
屋根はビスケットを土台にして、カラフルなマカロンを葺きましょうか

ふふ、ちょこっとだけつまみ食い!
甘くておいしーですね!
ね、みなさんも少し休憩しましょ

ドアベルに琥珀糖を掛けて
ソファとベッドはふかふかのマシュマロ
お布団は綿あめかなぁ?

ねえ、どうです?
気に入ってくださいました?

…あ。
ねぇねぇ!粉砂糖の雪を降らせるのはどうでしょう!



●夢の世界は穏やかに
 伏し目がちな普段に比べ、不思議の国に向ける眼差しは真っ直ぐに。
 御園・ゆず(群像劇・f19168)はアリスラビリンスらしい光景が広がる景色を見つめ、双眸を緩やかに細める。
 やっぱり好きだなぁ、と呟いた理由。それは――。
「想像力が枯れない限り、無限の可能性があるんだもの!」
 ゆずは楽しい気持ちをそっと抑え、忙しそうに広場を飛び交う妖精に手を振る。
 此方に気付いた妖精のひとりがふわふわとゆずの傍に近寄ってきた。どうしたのかしら、と問いかける妖精に、ゆずは礼儀正しく頭を下げる。
「こんにちは。ステキな世界を作るお手伝い、してもいいですか?」
「わあ、お手伝いのヒトね! もちろんだわ!」
 活発そうな妖精は嬉しげに答え、ゆずを家を建てる予定の場所に案内していく。その傍をぱたぱたと時計ウサギが駆けていった。
 きっとあの子も別の家を建てる準備をしているのだろう。
 慌ただしくも賑やかな様子に、ゆずの口許も微かに緩んだ。きっともう少しすればこの広場にはたくさんのお菓子の家が建つ。そう思うと期待と希望が入り混じった気持ちが胸に宿った。
「さあ、ゆずちゃん。欲しいお菓子をいってくださいな!」
「それじゃあ、ええと……」
 妖精に促され、ゆずは思い描いたお菓子の家の材料を伝えていく。そして、妖精はそれに応えるようにくるくると杖を回した。
 壁はウエハース。
 窓は透き通ったべっこう飴。
 ドアはイチゴ味の板チョコレートで可愛らしさを。柱は棒状のプレッツェルで確りと固める。屋根はビスケットを土台にして、カラフルなマカロンを葺いていく。
 するとその様子を見ていた別の妖精が手伝いに来た。
「わああ、とってもキレイ!」
「ねえねえ、屋根のマカロンってこの並びでいいの?」
「はい、赤と橙から黄色にして、次は緑です」
 妖精がはしゃぎながらお菓子を飾り付けていく中、ゆずもマカロンの並びを考えていく。わいわいと騒がしくなっていくが、何だかこの賑やかさも心地好かった。
「ビスケットが余ったわ。どうしましょう?」
「ふふ、でしたらちょこっとだけつまみ食い!」
 最初の妖精がどうしようかと首を傾げていると、ゆずがひょいっとビスケットを手にして口にした。大胆になれるのも、想いが力になる世界だと知っているから。そう、楽しい気持ちはきっと更に良い出来事を呼ぶ。
 此処でだけは努力が報われないことなんてない。そんな世界だから――。
「甘くておいしーですね!」
「ゆずちゃん、ずるーい。あたしも食べる!」
「ね、みなさんも少し休憩しましょ」
 いつの間にか妖精達がゆずの傍に集まってきていた。中には紅茶のポットをちゃっかり持ってきている子もいる。
 暫しの休息も含めて始まったお茶会はとても楽しいものだった。
 その間もゆずはお菓子の家をどのように飾りたいかを皆に語っていく。
「ドアベルに琥珀糖を掛けて、ソファとベッドはふかふかのマシュマロ……お布団は綿あめかなぁ? ねえ、どうです?」
「ふふっ、とっても素敵」
「気に入ってくださいました?」
「ええ、お茶を飲み終わったらさっそくやりましょう!」
 とってもやる気のゆずに賛同の視線を向け、妖精達は幸せそうに笑っていた。そんな中、ゆずがはっとして何かを思い立つ。
「……あ」
「どうしたの?」
「ねぇねぇ! 粉砂糖の雪を降らせるのはどうでしょう!」
「「――賛成!」」
 彼女の提案に妖精達の声が綺麗に揃った。
 そして、楽しくて甘やかな家作りの時間は過ぎていく。この家を完成させるのが少しばかり、ほんの少しだけ勿体ないくらいに――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

イア・エエングラ
2)あなたがたの国を作る、お手伝いをさせてね
お菓子でできたおうちだなんて
お砂糖のように甘い夢のよう

踵鳴らすのも楽し気に、裾曳く香りは甘くて華やか
煌めくまあるい飴玉を洋燈の代わりにつりしましょ
味でお部屋の表情もかわるでしょう
差し込む光にきらきらと夢を零すように
マカロンのクッションをビスケットの椅子へ
ダックワースを並べてソファにしましょ
心地好くくつろぐ憩いの場を作ったならば

すこし腰掛け休憩にしような
バニラビーンズが薫るなら
今にもお昼寝、してしまいそうだけれど

さてもすこし、
ビターチョコレートの黒鍵に
ミルクショコラの白と合わせてピアノを作ろ
奏でる時間はきっと、ほら、
お茶の時間を楽しくして、くれるもの



●彩りの甘い音
 お砂糖で出来た甘やかな夢のよう。
 イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)がこの国を見て感じたのは穏やかな思い。
 まだまだ作りかけで発展途上。
 それでも、広場にぽつぽつと見えるお菓子の家はとても愛らしい。辺りには忙しく駆けていく時計ウサギや、ひらひらと舞う妖精たちの姿が見える。
 イアが微笑ましげにその光景を眺めていると、妖精が此方に気付いて飛んできた。
「こんにちは! アナタはお手伝いのひと?」
「やあ。あなたがたの国を作る、お手伝いをさせてね」
「じゃあこっち! はやくはやくっ」
 嬉しげに翅を揺らした妖精はイアを誘い、広場の片隅に案内していく。
 踵鳴らすのも楽し気に、裾曳く香りは甘くて華やか。
 其処にはクッキーやウエハースが乗ったちいさな皿があった。これは食べる用なのだろうかとイアが首を傾ぐと、妖精は「みててね!」と得意気に胸を張った。
 えいっと杖が振られた、次の瞬間。
 ちいさかったお菓子が途端に家の材料にできるほど大きくなっていく。
「ねえ、欲しいものはある?」
「そうねえ、それなら――」
 問いかけられれば、イアは妖精に自分が思い描くお菓子を作ってもらうよう願った。
 そして、イアの手によってお菓子の家がつくりあげられていく。
 壁はモダンなチョコレート。
 窓枠はクッキーで、硝子代わりの透き通ったキャンディ。
 部屋の中には煌めくまあるい飴玉。それを洋燈の代わりに吊るせば、ぴかぴか光る照明となっていく。
「味でお部屋の表情もかわるから、きれいね」
 色が違えば印象もぐっと変わる。差し込む光はきらきらと夢を零すよう。
 そして、マカロンのクッションをビスケットの椅子へ置いて、ダックワーズを並べてソファにすれば甘いお部屋になっていく。
 心地好く、寛げる憩いの場を見渡したイアはほっと一息。
 ダックワーズに深く腰掛ければ、ふわりとした感触が身を包んでくれる。甘い心地もいっしょに、と感じたイアは双眸を緩めた。
「すこし休憩にしような」
 バニラビーンズが薫り、穏やかな気持ちが裡に巡る。今にも微睡みに誘われてしまいそうだったけれど、イアははたとして顔をあげた。
 するといつの間にか妖精が目の前のソファに座っており、あら、とちいさく笑む。
「まあ、ちょっとくらいお昼寝しても良かったのに!」
「それもいいかしら。けれども、さてもすこし頑張りましょ」
「じゃあわたしもお手伝いするわ!」
 妖精がイアの周囲をふわふわと飛んで意気込む。その様子に微笑ましさと頼もしさを覚え、イアは作業を再開していった。
 そうして、次に作るのは部屋に置くためのピアノ。
 ビターチョコレートの黒鍵にミルクショコラの白を合わせれば、甘い音を奏でる楽器が完成していく。
 指先で鍵盤に触れれば響くちいさな音。
 これでひとつ、素敵なおうちの出来上がり。
 奏でる時間はきっと、ほら――お茶の時間を楽しくしてくれるから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティーシャ・アノーヴン
藤子(f08440)さんと共に。

あらあら、まあまあ、お菓子の家だなんて素敵ですわね。
木々を使った家、と言いますか・・・小屋や納屋作りは故郷でも少し。
お菓子となると少々勝手も違いましょうが、少しはお役に立てるかと。

失敗してしまった家も、使えそうなら手直しをしてみてはどうでしょう?
壁や屋根は棒状や板状のクッキーやチョコレートを主に使いましょう。
屋根の上にはマカロンや飴を乗せましょう。
高い所への作業は、召喚した大鰐霊様に乗って行います。
藤子さんもどうですか?

邪魔になりそうなお菓子は食べてしまいましょう。
と、言いたいところですが、この量はちょっと、その・・・。
大鰐霊様、よかったら食べてもらえますか?


鵠石・藤子
ティーシャ(f02332)と

お、おお…色とりどりだな
食物で家を作るなんて考えてもみなかったが、何と言うか…可愛いもんだな

オレも故郷は木か土だったが
お菓子、お菓子か…だ、駄目だ、あんまり可愛くない物しか浮かばねぇ
(おはぎや最中と言った和菓子を脳裏から振り払い)

二色捻った棒飴を柱にしよう
何かこう可愛いからな!
くりーむを塗ったり乗せたりしても良さそうだな
大きくて上手く絞るのは難しいが…

その…わに様?ってのは、乗っても良いのか?偉くはないのか?
(恐れではなく恐縮するように)

ま、折角だ
オレ達も摘み食いしつつ行こう
ティーシャ、これ美味しいぜ
はは、わに様くりーむ付いてるぞ
口が大きい分沢山食べてくれそうだな!



●めくるめく甘さを
 まだ作りかけの世界。
 その最初の街となる広場の中央で、ティーシャ・アノーヴン(シルバーティアラ・f02332)と鵠石・藤子(三千世界の花と鳥・f08440)は周囲を見渡していた。
「あらあら、まあまあ、お菓子の家だなんて素敵ですわね」
「お、おお……色とりどりだな」
 広場からは愉快な仲間たちが作った失敗作のお菓子の家がある。あれらを見ると不思議な感覚が湧いてきた。
「食物で家を作るなんて考えてもみなかったが、何と言うか……可愛いもんだな」
「木々を使った家、と言いますか……小屋や納屋作りは故郷でも少しあるのですが、お菓子となると少々勝手も違いましょうが、少しはお役に立てるかと」
 ティーシャが意気込む中、藤子も少し考え込む。
「オレも故郷は木か土の家だった。それにしてもお菓子、お菓子か……だ、駄目だ、あんまり可愛くない物しか浮かばねぇ」
 おはぎや最中と言った和菓子ばかりが浮かんでしまうので、藤子は首を振って脳裏から振り払った。
 そして、ティーシャと藤子は家作りへと向かう。
「アナタ達が手伝ってくれるヒトね! さあ、こっちよ!」
 広場に居た妖精に導かれ、案内されたのは失敗した家の隣。此処に家を作って欲しいと願われ、二人は準備を始めた。
「失敗してしまった家も、使えそうなら手直しをしてみてはどうでしょう?」
「それはいいな。後で見繕ってみよう」
 隣のお菓子の家を眺めたティーシャの提案に頷き、藤子は最初に新しい家の基礎を作ろうと決めた。
 まず作ったのは二色の飴を捻って作った柱。
 パステルピンクとミントカラーのキャンディが愛らしい様相だと感じながら、ティーシャも壁や屋根を配置していく。
 壁は板状のバニラクッキー。屋根には柱に合う色合いのイチゴチョコレートを主に使い、メルヘンちっくな家の外観が出来上がっていった。
「何かこう、可愛いな!」
「はい、こっちにはあとマカロンと飴を乗せていこうと思います」
「くりーむを塗ったり乗せたりしても良さそうだな。大きくて上手く絞るのは難しいが……ん? ちいさいまま絞ってもいいのか」
 どうしようかと藤子が悩んでいると、妖精が心配しなくてもいいと示す。
 お菓子は魔法で大きくされている。
 ということはこれも元はちいさいお菓子ということ。つまりクリームも絞ってから素材として大きくして飾ればいいということだ。
 ティーシャはその間に大鰐霊を召喚し、宣言した通りに屋根の装飾に取り掛かっていった。これで高いところの作業も安心。
「藤子さんもどうですか?」
「その…わに様? ってのは、乗っても良いのか? 偉くはないのか?」
「大丈夫ですよ、大鰐霊様はこれくらいでは怒りませんから」
 鰐が様付けで呼ばれていることで藤子は恐縮していたが、ティーシャが平気だというので言葉に甘えることにした。
 そして二人は着々とお菓子の家作りを進めていく。
 途中で隣の失敗の家を見遣ったティーシャはふと思い立つ。大鰐霊様の上から見た隣の家の屋根は上手く噛み合ってないようだ。
「邪魔になりそうなお菓子は食べてしまいましょう」
「それがいいな。食べていいって言ってたからな」
「と、言いたいところですが、この量はちょっと、その……」
「幾ら魔法で大きくなったり小さくなったりするとはいえ、多いな」
 藤子が頷くと、ティーシャが名案を思いつく。
「大鰐霊様、よかったら食べてもらえますか?」
「そうだな、折角だ。オレ達もわに様と一緒に摘み食いしよう。わに様は口が大きい分、沢山食べてくれそうだな!」
 そういってクリームが乗ったクッキーの屋根を剥がすと、食べやすいサイズに変わっていく。大鰐霊様はというと小さくなる前に一口でがぶりと食べていた。
「美味しいですね」
「ティーシャ、こっちも美味しいぜ」
「ふふ、ではそちらも頂きましょう」
「はは、わに様。牙にくりーむ付いてるぞ」
 和気藹々としたやりとりを交わし、二人と一匹はお菓子の国の心地に浸る。このお菓子の家を食べ終わった頃にはきっと、満たされた気分になるはずで――。
 微笑みを浮かべるティーシャは穏やかさを、藤子は楽しさを覚え、それぞれに不思議の国で過ごすひとときを満喫していった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ラフィ・シザー
アナンシ(f17900)と
『お菓子の国』!!…『お菓子の国』?
あぁ、なるほど今頑張って作ってる最中なんだな。
家作りのお手伝いだな!よーし…(じっとお菓子を見つめて)
アナンシお菓子食べたい。
…建てるだけじゃなくて失敗した部分を食べていいのか!?
じゃあ、俺そっちする!

チョコレートの扉にドーナツのソファー♪
クッキーの壁に飴細工の窓♪
どれも美味しい!

アナンシにはこれ!マシュマロ!…アナンシはマシュマロ好き、だよな?
俺が知ってるアナンシの好きなお菓子はこれだけだから…アナンシは他にどんなお菓子が好き?

これ、アナンシが入れてくれたのか!?へへっ、ありがとう。すごく美味しいし嬉しい!


アナンシ・メイスフィールド
ラフィ君f19461と
ふふ、ラフィ君はお菓子を食べたいのかね?
ならば建てる事は他の子に任せ私達は失敗作を食べる事に専念させて貰おうと失敗したお菓子の元へ

スコーンに甘いジャムを付けたお菓子も好きだけれども
ふふ、勿論マシュマロは大好きなのだよ
特にこのチョコレートの扉を熱いミルクに入れ溶かした中にマシュマロを入れると更に美味しいのだよとホットチョコレートマシュマロを作ってみよう
ラフィ君には紅茶を入れてもらったからね
何かお返しを出来ないかと練習してみたのだよ
他の料理は出来ないけれどもこれは余り失敗しない様になったからねえと笑いながらカップを差し出して
上手く出来ていればいいのだけれども…お味は如何かね?



●幸せのチョコマシュマロ
「ここが『お菓子の国』!! ……『お菓子の国』?」
 不思議の世界に降り立ち、ラフィ・シザー(【鋏ウサギ】・f19461)はきょろきょろと辺りを見渡し、首を傾げた。
 何故なら、想像していた場所とは少し違ったからだ。
 たくさん建っていると思ったお菓子の家は数件だけ。それもドアがついていなかったり、屋根がおかしな形になっていたりする。
 しかしラフィはすぐに合点して、ぽんと両手を叩いた。
「あぁ、なるほど今頑張って作ってる最中なんだな」
「そのようだね」
 ラフィの傍らに立ち、アナンシ・メイスフィールド(記憶喪失のーーー・f17900)は同様に周囲を眺める。
 家々に囲まれた広場には妖精がふわふわと舞っていた。
 既に他の猟兵が時計うさぎや妖精を手伝って家を建て始めている。ラフィは自分達も手伝いたいと意気込み、黒の兎耳を楽しげに揺らした。
「よーし……」
 じっとお菓子を見つめたラフィは瞳を輝かせている。そして、ぽそりと呟いた。
「アナンシ、あのお菓子食べたい」
「ふふ、ラフィ君は作るより食べたいのかね?」
 率直な願いを言葉にしたラフィに微笑ましさを覚え、アナンシは双眸を細める。そう、と頷いたラフィはマカロンで飾られた家を見つめた。
「美味しそうだよな!」
「それならば建てる事は他の子に任せて、私達は食べる事に専念させて貰おう」
「失敗作も片付けられるから良いな! じゃあ俺はそっちにする!」
 途端にそれ以上に元気になったラフィは跳ねるように駆け出し、お菓子の家へと向かっていく。その後ろをゆっくりとついていくアナンシは微笑む。
 彼と居るとその楽しさが自分にも伝わってくるかのようで、とても快かった。
 そして、ラフィは早速マカロンの壁を手に取る。
 すると大きかったお菓子が途端にちいさくなり、食べやすいサイズに変わっていった。これならたくさん食べられる、と喜んだラフィはマカロンを口に放り込んだ。
 ふわり、さくりと広がる甘い味。
 これは他のお菓子も美味しいに違いないと感じたラフィはアナンシを誘う。
「アナンシ、中に行こう!」
「ああ、行こうか」
 チョコレートの扉にドーナツのソファー♪
 クッキーの壁に飴細工の窓♪
 上機嫌に鼻歌を歌うラフィはとても楽しげだ。どれも美味しい! と舌鼓を打っていった。アナンシは暫し彼の様子を眺め、見守っている。
「ほら、アナンシにはこれ! マシュマロ!」
「これはこれは、有り難く頂こう」
「……アナンシはマシュマロ好き、だよな?」
 ラフィは彼にとっておきのふわふわマシュマロを手渡した後、確かめるように問う。自分が知っているアナンシの好きなお菓子はこれだけ。だから、と続けたラフィは他にどんなお菓子が好きかと質問してみた。
「そうだね、スコーンに甘いジャムを付けたお菓子も好きだけれども……ふふ、勿論マシュマロは大好きなのだよ」
「そっか、よかった!」
 スコーンな、と新たに知れた好みを覚えたラフィは笑顔を湛える。
 対するアナンシは妖精に願い、お茶の準備を整えて貰っていた。そうして彼がテーブルに用意したのはチョコレートの扉を熱いミルクに入れて溶かしたホットドリンク。更にその中にマシュマロを入れ、ホットチョコレートマシュマロにした。
「こうすると更に美味しいのだよ」
「これ、アナンシが淹れてくれたのか!?」
「ラフィ君には以前に紅茶を淹れてもらったからね。何かお返しを出来ないかと練習してみたのだよ」
「へへっ、ありがとう」
 他の料理は出来ないけれども、これは余り失敗しない。そう笑いながら差し出されたマグカップを受け取り、ラフィは嬉しそうに頷く。
 じんわりとカップ越しに伝わってくる熱は心地好かった。
「上手く出来ていればいいのだけれども……お味は如何かね?」
「すごく美味しいし嬉しい!」
 甘い味の中に幸せまで溶け込んでいく気がして、ラフィは満面の笑みを浮かべた。
 交わす言葉に重なる微笑み。
 こうして暫し、お菓子の国での和やかなひとときが流れていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 日常 『君だけのものがたり』

POW   :    手に汗握るバトルものを語ろう

SPD   :    爽やか青春物語をお披露目しよう

WIZ   :    謎が渦巻くミステリーをお届けしよう

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●お菓子の家でお茶会を
 バームクーヘンの煙突が可愛らしいビスケットとチョコの家。
 サーカステント風の花の家に、スポンジケーキとクリームで彩られた甘い家。
 上品な洋館風のお菓子の屋敷やふわふわで色違いの仲良く並んだ家。
 粉砂糖の雪が庭と屋根に降り掛かった幻想的な家。屋根がマカロンやキャンディで飾られたお菓子の家。
 様々な家が作られ、失敗作の家は綺麗に片付けられた。
 完成したものを参考にしたのか、愉快な仲間たちもそれぞれに家を作っていったようだ。次第に広場の周囲はちゃんとした街の形を成し、かわいい世界ができあがる。
 
 そして、愉快な仲間たちは手伝ってくれた猟兵をそれぞれの家に招待した。
 紅茶や珈琲、たくさんおお茶菓子を用意した住人たちは願う。
「ねえ、みんな! お話をしようよ!」
「わたしたちね、誰かのお話を聞くのも大好きなの!」
「アナタたちのこと、アナタが好きな誰か、アナタが感じた幸せな記憶、何でも良いわ。素敵なお話をしてくださらない?」
 時計ウサギや妖精たちはお茶会のおともに話を聞きたいと告げた。
 
 君は彼らに何を語っても良い。
 幸せな話ならば一番喜ばれるが、少し悲しい過去を語っても構わない。実際にあったことでも良いし、自分が作った物語を話してやっても良いだろう。
 何を語るかは君次第。
 きっとどんなことであっても、この国の住人はその話を心に刻んでくれる。
 さあ、君は――この世界にどんな物語を残していく?
 
桜ヶ淵・祈ノ
…ものがたりを聞いてくれませんか?

女の子がいました
女の子は朝、鏡の前で髪を結ってもらうのが好きでした
毎日少し変えて、カチューシャに見立てて髪を編み込みにしたり

それをしてくれるのは、歳の離れた兄でした
女の子は兄のことが大好きでした。兄も勿論、女の子のことが大好きだったでしょう

ある日、女の子が家でひとり兄の帰りを待っていると、乱暴者の父親が帰ってきました
家の中にただ一つあった家具、鏡台を破壊してその引き出しの中にあったお金を持つと、消えていきました

兄が帰ってきた時、女の子は魂がありませんでした
兄が何度話し、名を呼びかけても、女の子は戻ってきませんでした

おしまい
唐突ですか?この話はこれで終わりです



●鏡の前の物語
 ――ものがたりを聞いてくれませんか。
 
 そんな語り口から始まったのは、桜ヶ淵・祈ノ(群青ノ水滴・f25017)が紡いでいくひとつの物語。お菓子のテーブルの上、淹れたての紅茶が湯気を立てている。
 祈ノの話を聞きに集まったのは時計ウサギたち。
 長い耳を揺らし、どのようなお話が聞けるのかを心待ちにしていた。
 そして、祈ノは或るお話を語ってゆく。
 
 あるところに女の子がいました。
 女の子は毎朝、鏡の前で髪を結ってもらうのが好きでした。
 毎日、髪型を少し変えるのが女の子のちょっとしたこだわりであり楽しみでした。左右でふたつに結ってもらったり、ひとつにまとめて横に流したり、カチューシャに見立てて髪を編み込みにしたり――。
 様々な可愛い髪型。
 それを結ってくれるのは、歳の離れた兄でした。
 女の子は兄が大好きでした。彼も勿論、女の子のことが大好きだったでしょう。
 鏡の前、毎朝のささやかな時間。それがふたりの幸せでした。
 
 けれどある日。
 女の子が家でひとり兄の帰りを待っていると、乱暴者の父親が帰ってきました。
 家の中にただひとつあった家具。その鏡台を破壊した父親は、引き出しの中にあったお金を持つと、どこかに消えていきました。
 兄が家に帰ってきたとき、女の子には魂がありませんでした。
 何度も話しかけても、その名を呼びかけても、女の子は返事をしません。
 そうして彼女もまた、二度と戻ってきませんでした。

「……おしまい」
「あれ、続きは?」
「唐突ですか? この話はこれで終わりです」
 祈ノは不思議がる時計ウサギたちに、これが自分の語る物語のすべてなのだと話す。すると愉快な仲間たちは暫し考え込んだ後、ふとしたときに納得した。
「わかった。キミは今もその物語の最中にいるんだね!」
「それなら結末はまだだね。じゃあ、そんなキミにぴったりなお菓子はあれだ!」
 ウサギたちはそういうと、お菓子の妖精に何かを告げた。
 そうして、妖精は祈ノの話に合う菓子を作りあげていく。そうして、テーブルの上に置かれたのは――表面の編み込み模様が美しい繊細なパイ菓子だった。
 中身の見えないパイ。
 それは食べてみるまではどんな味なのかが分からない。
 果たして甘いのか、ほろ苦いのか。それとも、もっと別の味がするのだろうか。
 祈ノは僅かに俯くと紅茶のカップを手に取った。
 そうしてその後。彼が用意された菓子を味わうかどうかは、また別のお話。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

旭・まどか
なんだ。やれば出来るんじゃないか
元々手助けなんて、必要無かったんじゃないの?

……ふぅん。他の猟兵が、ねぇ
本来はそう在るべきなんだろうけれど
生憎僕は他人に優しく在れるようには出来ていなくてね……

そこのが一番良く解っているでしょう?

――驚いた。これは、お前が作ったの?
見違えたね。悪くないよ

招いてくれるの?
……へぇ。てっきりお前は僕のこと、嫌いになったものだと思っていたのだけれど

良いよ
お前が望む話を、聞かせてあげる

楽しい話を望むのならば、野山を駆けた犬の話を
嬉しい話を望むのならば、星を掴んだその日の話を

手札は然程多くは無いけれど、お前が望む話をしてあげる

――お前が聞きたい話は、なぁに?



●縁の物語
 すっかり出来上がったお菓子の街。
 その光景を見渡したまどかは、可愛らしく綺羅びやかに飾られた家々を眺める。
「なんだ。やれば出来るんじゃないか」
 元々手助けなど必要なかったのではないかとまどかは首を傾げた。だが、きっと他の猟兵が様々な家を作らなければこの光景が見られることもなかっただろう。
 力はあっても用い方に気付けていない。
 そんな者達に道標を与えたのが他の猟兵たちだ。
 きっとまどか自身も本来そうあるべきだったのだろう。でも、と頭を振ったまどかは一軒のお菓子の家の壁に触れる。
「……生憎、僕は他人に優しく在れるようには出来ていなくてね」
 ふう、とちいさな溜め息をついたまどか。
 その視線の先には先程に泣かせてしまった妖精の姿があった。ねえ、と声をかけると妖精はびくりと体を震わせる。
「そこのが一番良く解っているでしょう?」
「……」
 まどかに話しかけられた妖精はどうやら怯えているようだ。どうしてあなたがわたしのおうちに、といいたげな視線だ。
「驚いた。これは、お前が作ったの? 見違えたね。悪くないよ」
「う、うん」
 妖精は困っている。何と答えていいかわからないらしい。するとその様子を察した隣家の時計ウサギがまどかのもとに駆けてきた。
「駄目だよ、その子が怖がってる!」
「……そうみたいだね」
「きみ、さっき彼女を泣かせていたでしょう? 何があったか知らないけれど、お互いにごめんなさいを言わないと仲直りはできないよ」
 時計ウサギは怒ってはいないが、諭すようにまどかに告げていく。
 その間に妖精は「ごめんなさい」と謝ってから家の中に隠れてしまった。まどかは軽く肩を竦め、謝る機会さえ与えて貰えなかったことに気付く。
「あのね、一度壊れた関係ってなかなか直せないんだよ。お菓子なら作り直せるけれど、ココロは難しいんだ」
 それにたとえお菓子だって作り直す時間が要る。時計ウサギは妖精を見送ってから、まどかをじっと見つめる。
 暫しその意味を考えたまどかが黙っていると、彼は再び口をひらいた。
「それはそれとして、きみも僕のおうちにおいでよ。ちょうど、仲間内で集まっているんだ。僕らになにか話をきかせておくれ!」
「招いてくれるの?」
「ああ、彼女と違って僕らにはきみを嫌う理由はないからね!」
「……なるほどね。良いよ。お前達が望む話を、聞かせてあげる」
 そして、時計ウサギとまどかは隣家の菓子の家へと入っていく。その中でどんな話をしようかとまどかは考える。
 楽しい話を望むのならば、野山を駆けた犬の話を。
 嬉しい話を望むのならば、星を掴んだその日の話を。
 持ち得る手札は然程多くはないけれど、新たな知り合いに望む話をしてやろう。
「お前達が聞きたい話は、なぁに?」
 語りかければ、愉快な仲間たちはきっとそれぞれに望むことを告げるだろう。
 彼と灰狼が紡いできた過去。
 それはひとつの物語として、語られてゆく――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
キヨ(f21482)と

おはなしっ
わたしもね、だいすきっ

それなら
キヨにひそひそ
キヨがオオカミねっ

人形劇のはじまりはじまり~
クッキーを登場人物に見立てて動かして
わたしの手にはおひめさま

みんなのおかしも食べちゃうオオカミのお話

『たくさんたべるのね。すごいわ』
おひめさまはすっかり感心してしまいました
『このクッキーもこの飴もおいしいの』
『チョコレートもっ』
オオカミの前におかしをつみあげていきます

最後はもちろん、めでたしめでたしっ

キヨの手を取って礼

ほめられたっ
キヨのオオカミだって、やさしくてうれしかった

ここのおかしもおいしくて
とってもたのしかったから
そんなお話をしたかったんだ
よろこんでもらえたらうれしいな


砂羽風・きよ
オズ(f01136)と

どんな話をするか…

何か閃いたオズに耳を傾け話を聞く
俺が狼!?オズは姫様か…?
よ、よし、やってみよう

始まり~どこどこ

チョコを動かして
俺の手には狼

物凄い棒読みで
『おう、俺は甘いの大好きだぜ』
底なし沼の様に菓子をガツガツと食べる狼
『旨い旨い、こんな旨い菓子を食べたのは初めてだ!』
『お、おう。(くそ、腹が爆発する!)』

結局、皆で楽しく食べた方が旨いってことで
ハッピーエンド

俺もオズの手を取って礼
はは、なんだかお遊戯会みたいだな

ウサギに演技が下手だと言われ
こーいうの慣れてねぇんだよ!演劇でも木しかやったことねぇし!
オズは上手だな

お前達にも楽しんで貰いたかったんだよな
話、面白かったか?



●やさしいお菓子の物語
 蜂蜜の甘い香りがするお菓子の家。
 ふんわりとしたシフォンケーキ製のソファに腰掛けたオズときよは今、愉快な仲間に囲まれていた。どうかボクらのおうちへ来てください、と誘われた二人は彼らにお話をせがまれている。
「さあさあ、何かお話をしておくれよ!」
「ボクたちはお話が大好きなのさ!」
 口々に語るのは好奇心旺盛な時計ウサギたち。ふわふわした毛並みの長い耳を揺らす彼らの傍らには妖精たちが羽ばたいており、期待を寄せていた。
「おはなしっ。わたしもね、だいすきっ」
「それならどんな話をするか……」
 オズがにこやかに笑み、きよも出された紅茶を飲みながら考える。へんてこガジェットが巻き起こした不思議な話か、屋台の営業中に起こった面白い話をするべきか。色々と考えていく中でオズが何かを閃いた。
「それなら、キヨ。あのね――」
 オズはきよの耳元でひそひそと告げていく。
「俺が狼!? オズは姫様……?」
「そうっ、きっとうまくできるよっ」
「よ、よし、やってみよう」
 何やら相談をしているらしい二人。何かな何かな。オオカミって聞こえたよ。そんな風に話しながら、愉快な仲間たちがわくわくした様子で彼らを見守っていた。
 そして――。
「人形劇のはじまりはじまり~」
「始まり~」
 どこどこ、という効果音を口で言ったきよの隣。オズはお茶請けに出されていた人型のクッキーを手に取った。そして、きよは動物型のチョコを持つ。
 それを登場人物に見立てて動かせば、お菓子でおかしな人形劇のはじまり。
 オズの手にはおひめさま。
 きよが動かしているのは狼。
 それは、みんなのおかしを食べてしまうオオカミのお話。

 ある森に食いしんぼうのオオカミがいました。
 そのオオカミは森の仲間のお菓子を奪ってしまうわるい子でした。
 ある日、森を通り掛かったおひめさまはオオカミがたくさんのお菓子を食べているところを偶然見てしまいます。
『まあ、あなたはたくさんたべるのね。すごいわ』
 おひめさまは驚きましたが、オオカミの食べっぷりにすっかり感心しました。
 底なし沼のようにお菓子をガツガツと食べていたオオカミ。おひめさまの言葉を聞いた彼はどーんと胸とお腹を張ってみせます。
『おう、俺は甘いの大好きだぜ』
『じゃあ、これをあげるわ。このクッキーもこのキャンディもおいしいのよ』
 おひめさまが取り出したのは自分のおやつ。
 王宮でつくられるスイーツが大好物のおひめさまは、森のみんなに分けようと考えてお菓子をいっぱい持ってきていたのです。
『旨い旨い、こんな旨い菓子を食べたのは初めてだ!』
 オオカミは喜びます。
 こんなに美味しいものを誰にも渡したくないとまで思ってしまいました。するとおひめさまはもっともっとお菓子を取り出します。
『チョコレートもっ』
 クリームケーキもアップルパイも、タフィーもタルトも。
 それからそれから、エクレアにキャラメルにクラッカーにクレープ、スフレにシュークリームにゼリービーンズ。
 おひめさまはオオカミの前にどんどんお菓子をつみあげていきます。
『お、おう』
(くそ、腹が爆発する!)
 オオカミはすべて食べたいと思いましたが、さすがにひとりでは食べきれません。
『どうしたの、オオカミさん』
『だめだ、もう食べられない……』
『だったら、みんなでたべましょうっ』
『みんな?』
『いっしょにたべるともっと楽しくておいしいの』
 おひめさまの言葉で、オオカミは分けあって食べればたくさんの味を知れるということにはじめて気が付きました。
 その後、森にはもう誰かのお菓子を奪うオオカミはいなくなりました。
 毎日、おいしいお菓子を森に持ってくるおひめさま。
 賑やかなティーテーブルを用意して、みんなと一緒に待っているオオカミ。
 さあ、今日もお茶会がはじまります。
 もう誰もひとりきりではない、みんなで過ごすティーパーティーが――。
 
「めでたしめでたしっ」
「ということでハッピーエンドだ!」
 オズはきよの手を取り、きよもその手を握って、二人は愉快な仲間に一礼する。
「わあー! 面白かった!」
「すごいすごい、とっても楽しいおはなしだったよ!」
「ほめられたっ」
「はは、なんだかお遊戯会みたいだな」
 ぱちぱちと拍手を送る時計ウサギと妖精に笑みを向け、オズは嬉しそうに双眸を細めた。きよも少し照れくさそうに笑い、拍手を受け止める。
「でもでも、オオカミは何だか棒読みだったよ」
「こーいうの慣れてねぇんだよ! 演劇でも木しかやったことねぇし!」
「へえ、じゃあ次は木の役を見せておくれよ!」
「俺単体で!? 他の役が居ないと木は輝かねぇんだよ!」
 ウサギに突っ込まれたきよだが、彼もまた突っ込み返して笑っている。楽しげな声が響く中、オズは温かい蜂蜜紅茶を味わった。
 テーブルのお皿の上にはクッキーのおひめさまとチョコレートのオオカミが仲良く並んでいる。それが何だか嬉しくて、オズはふわりと微笑んだ。
「オズは上手だったよな、お姫様」
「キヨのオオカミだって、やさしくてうれしかったよ」
 視線を交わしあったきよとオズ。満ちていくのは穏やかで和やかな気持ちだ。
 おいしくて、たのしくて、うれしい。
 そんな気持ちをこの国は贈ってくれた。だからこのお話はお礼代わり。
「ねえねえ、他のお話はないのかい?」
「ボクらにもーっと楽しい物語を聞かせてほしいな!」
「木の役は? まだ?」
「キヨの木っ、わたしもみてみたいな」
「だから木だけで立ってても仕方ねぇんだって!」
 賑わうお茶会はまるでオオカミとおひめさまのティーパーティーのよう。
 そうして、幸せな時間が巡ってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エドガー・ブライトマン
すごい、立派なお菓子の家だねえ!
みんなで協力した成果だ。お疲れさま!
あの薔薇細工はどこかに飾られているかなあ

ウーン、私の話かー
紅茶をいただきながらすこし考える

(あんまり、覚えてないからなあ)

あ、オスカーとの話をしよう
キミのことなら覚えているさ

オスカーはね、私の愛すべき友達(オスメスも知らないけど)
国々を巡る旅の途中、私が迷子になってね…
暖かい国へ渡る途中だったオスカーを呼び止めて案内を頼んだのさ
それからずっと一緒に居てくれてる

本当はもっと暖かくて、平和な暮らしがキミにあっただろうに

悪いとはおもってるけど、オスカーがいてくれて幸せなんだ
キミがいないと朝だって起きれないよ

どう?私達の仲良しトーク!



●王子とツバメの物語
 広場に街が出来上がり、色とりどりの世界が広がる。
 お菓子の国。そう呼べるほどに賑々しく鮮やかになった場所を見渡しながら、エドガーは家をひとつずつ眺めていく。
「すごい、立派なお菓子の家だねえ!」
「でしょでしょ! みんなのおかげだよ!」
 エドガーが感嘆交じりの声をあげると、それを聞いた妖精が嬉しそうに笑った。綻ぶ笑顔は花のようで、エドガーにも似た気持ちが巡る。何だか嬉しさをお裾分けしてもらえたかのような心地だ。
「みんなで協力した成果だ。お疲れさま!」
「アナタが持ってきてくれた薔薇はあのおうちの窓に飾ってみたんだよ」
 すると妖精が或る一軒を示す。
 アイシングクッキーの赤い三角屋根。その二階部分の一番上にある丸い窓の上に飾られた薔薇はとても印象的だ。
 目立つところに飾って貰えた薔薇を見つめるエドガーは満足気に頷く。
 高みでただ一輪、凛と咲く花。
 あの砂糖細工の薔薇にレディが重なって見えた気がしてエドガーは自分の右腕を見下ろした。彼女が何を思うのか、それは分からない。けれども薔薇は美しく気高いものだということはよく分かる。
 そうして、エドガーは愉快な仲間にお茶会に誘われた。
 あの薔薇が飾られたお菓子の家の中。
 ビスコッティで組み上げられた椅子に時計ウサギたちと共に腰掛けたエドガーは、湯気を立てる紅茶のカップを手に取る。
「ねえねえ、キミのお話をしておくれよ!」
「ウーン、私の話かー」
 お話をせがむ彼らに少し考え込む様子を見せた彼は紅茶のカップを傾けた。
 過去にあった幸せな話。
 そういったことを思い出そうとするが、記憶は霞がかったように朧げだ。
(あんまり、覚えてないからなあ)
「どうかしたの? だいじょうぶ?」
 僅かにエドガーが俯いたことで愉快な仲間たちが心配そうな目を向けてくる。はっとしたエドガーは平気だと首を振り、ふと思い立つ。
「そうだ、オスカーとの話をしよう」
 キミのことなら覚えている。そういってエドガーが視線を向けた左肩には一羽のツバメが止まっていた。
 自然に時計ウサギたちの目も其方に向く。
 エドガーが指先を差し伸べると、オスカーはその上に移動した。そして、其処から紡がれるのは王子とツバメの物語。
「オスカーはね、私の愛すべき友達なんだ」
 オスかメスかは実はエドガー自身も知らないのだが、そんなことなど気にならない。
 それはいつかの出来事。
 国々を巡る旅の途中だったエドガーは迷子になってしまった。
 どちらに行けば戻れるのか。むしろ戻る場所すら分からない。進む先も未知だったそのとき――エドガーは空を舞う影を見つけた。
「そこで暖かい国へ渡る途中だったオスカーを呼び止めて案内を頼んだのさ」
 ツバメは快く案内を引き受け、その翼で風を切って王子を導いた。迷い路を晴らす標のように空を飛ぶオスカーはとても、とても頼もしいと思えた。
「それから、ずっと一緒に居てくれているんだ」
 本当はもっと暖かくて、平和な暮らしがキミにあっただろうに。
 それでも傍に居てくれるツバメは今もエドガーと共に在ろうとしてくれる。
「悪いとはおもってるけど、オスカーがいてくれて幸せなんだ。キミがいないと朝だって起きられないからね」
 指先に止まっていたオスカーは彼の腕を伝い、肩から頭の上に登る。その愛らしさに時計ウサギたちは微笑み、ぱちぱちと拍手をした。
「とっても素敵だったよ!」
「エドガーとオスカーはそれからどんな旅をしてきたの? おしえて!」
 嬉しそうに次の話を願う愉快な仲間たち。
 頭上を見れば、オスカーもエドガーを見下ろしていたらしい。ふふ、とちいさく笑ったエドガーは紅茶をもう一口いただいてから、そっと頷いた。
 そうして、物語は語られていく。
「それじゃあ話していこうか。あれは紅葉が美しい秋の頃だったかな――」
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティーシャ・アノーヴン
藤子(f08440)さんと。

お話ですか。
私自身、故郷の森から飛び出して色々と経験している最中です。
例えば・・・。

虹色に輝く石のなる森や、地下に広がる牢獄、蒸気満ちる迷路などなど。
場所だけでなく色んな人とも会いました。

森を出たばかりの私に、戦い方を教えて下さった正義のヒーローや、
敵ではありましたが、人の願いを守る存在。
勿論、許せないような非道を行う相手も。

楽しいことも、時に痛く苦しいこともありました。
そうそう、ハロウィンでは包帯を巻いて仮装をしました。
どれも、森にいては見れなかった、出来なかった経験ばかりです。

お話、ひとつに纏められずごめんなさいね。
一度、書き記してちゃんと纏めてみましょうか。


鵠石・藤子
ティーシャ(f02332)と

んー…幸せ、か
オレの生まれ育ったとこは自然豊かでさ
ティーシャみたいに森、って訳じゃなくて…山間の村だな
田畑と山と、他には何も無かった
でもオレにはさ、その時にはそこしかなくて
オレにとっては、何でもあったんだ

子供の頃、或いは子供達と
春には蓮華を摘んで
夏には兎を追っかけてさ
秋には蜻蛉を取って遊んだ
冬は里が白く染まった

すごく、綺麗だった
(目を細めて笑って)

ティーシャの話に耳を傾けて
「外」ってのは楽しいよな
内に居た時からは想像も出来ない…こうして、お菓子で出来た家で
誰かとお茶を飲むみたいな事だってあるんだからな!

過去は過去の幸福だ
でも
今は今で、ここに、かな

笑って茶を飲み干して



●故郷と旅路の物語
 二人が招かれたのは自分達で作りあげたお菓子の家。
 愉快な仲間たちはティーシャと藤子が用意した可愛らしい家を喜んでくれたらしく、是非この家で二人とお茶会がしたいと願ってくれた。
 パステルピンクとミントカラーの二色で彩られた柱は愛らしく、バニラクッキーの壁から漂う甘い香りが部屋中に満たされている。
 妖精が用意した紅茶も香り高く、ショートケーキをソファ型にくり抜いた形の椅子に座った二人は穏やかな心地を抱いた。
 ウエハースのテーブルには妖精が作ったドーナツが置かれている。
「さあ、お二人さん。何かお話をしてくださる?」
「どんなお話でもいいわ!」
 藤子たちの向かい側に座った妖精たちはわくわくしているようだ。ティーシャは頷き、まずは自分が話す番だとして少し考え込む。
「お話ですか」
 ティーシャは今、故郷の森から飛び出して色々と経験している最中だ。その旅路の話が良いと思い立ったティーシャは話を始めていく。
「私はこれまでに色んなものを見てきました。例えば――」
 虹色に輝く石のなる森や。地下に広がる牢獄。蒸気満ちる迷路。
 彼女の口から様々な場所のことが語られるたび、妖精たちが瞳を輝かせる。その横で話に耳を傾けている藤子も興味深く聞いていく。
「すごいすごい!」
「あたし、石のなる森が気になるわ」
「ふふ。場所だけでなく色んな人とも会いました。森を出たばかりの私に、戦い方を教えて下さった正義のヒーローや、敵ではありましたが、人の願いを守る存在……」
 勿論、許せないような非道を行う相手もいた。
 ティーシャが語っていく話に妖精は興味津々。楽しいことも、時に痛く苦しいこともあった。その話が移り変わるたび、妖精は様々な表情をみせる。
「そうそう、ハロウィンでは包帯を巻いて仮装をしました。どれも、森にいては見れなかった、出来なかった経験ばかりです」
「そうだよな。確かに『外』ってのは楽しいよな」
 藤子もティーシャの話に同意を示し、何度か深く頷いた。
 内に居た時からは想像も出来ないことばかりだ。今だってこうしてお菓子で出来た家で誰かとお茶を飲むようなこともあるのだから。
 ええ、と答えたティーシャも藤子の思いと同じだと微笑む。
「じゃあおねえさんのお話は?」
「次は幸せな話がいいな!」
 すると妖精たちは藤子に視線を向け、はやくはやくとお話をせがむ。藤子は快く頷き、軽く首を傾げて考え込んだ。
「んー……幸せ、か」
 そう呟いた際に思い浮かんだのは故郷の光景。
 これを話すのが一番だろうと感じた藤子はゆっくりと語っていく。
「オレの生まれ育ったとこは自然豊かでさ。ティーシャみたいに森、って訳じゃなくて……山間の村だな」
 田畑と山と自然。他には何も無かった。
 長閑な雰囲気と静謐な空気。思い返すと懐かしく思えた。
「でも、その時にはそこしかなくて……オレにとっては、何でもあったんだ」
 子供の頃、或いは子供達と。
 春には蓮華を摘んで、夏には兎を追いかけた。
 秋には蜻蛉を取って遊び、冬は里が白く染まった。
 花に動物、虫に自然。それらすべてが――。
「すごく、綺麗だった」
 目を細めて笑った藤子の声も雰囲気も穏やかだ。ティーシャはその言葉に和やかな気持ちを覚え、とても素敵なところだったのだろうと感じる。
 妖精たちも藤子の語る里に想像を巡らせたらしく、きゃっきゃと喜んでいた。
 そうしてティーシャ達は紅茶と話を楽しんでいく。
「お話、ひとつに纏められずごめんなさいね。そうです、一度なにかに書き記してちゃんと纏めてみましょうか」
「わあ、それが出来たら読みたいな」
「あたしも! 一番に読むんだから!」
 ティーシャの言葉に妖精たちがわいわいとはしゃいでいく。藤子はその様子を微笑ましげに眺めながら、紅茶のカップを傾ける。
 喉を潤すのは心地好い味。
「過去は過去の幸福だ。でも――今は今で、ここに、かな」
 紅茶を飲み干した藤子は穏やかに笑んだ。
 そうして、お話の時間は続いていく。甘い香りと心地に満ちたひとときはきっと、たくさんの物語となってこの国の者達の心に刻まれていくのだろう。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クラウン・メリー
ライラ(f01246)と

俺達のお話しが聞きたいんだね?
んー、そうだなぁ
やっぱり俺はサーカスの話かな!

夏頃におっきなショーをやろうとした時、
人手が足りなくてお手伝いさんを募集したんだ!
その時来てくれたのが、ライラ達!

うんうん!楽しかったなぁ!

ライラはとってもマジックが上手なんだよっ!
お花とかしゅって出しちゃうんだ!
皆もね、ジャグリングとかとっても上手で……

なんだか俺とっても嬉しかったんだ!
友達……ううん、仲間、家族な感覚だったのかな
いつの間にか俺の中では皆が大切な存在になっていたんだ

今も時々遊びに来てくれたりするんだよ!

えへへ、よーし!
ライラ!今からマジックショーをしよう!
皆にも見せてあげたい!


ライラック・エアルオウルズ
クラウ(f03642)と

任せて、御話なら得意芸だ
この家の“成り立ち”とも言える、
サーカスの話を僕も語りたいしね?

ああ。サーカスは初めてだったから
御手伝いの時は、胸が躍った物だよ
動物を追い掛けたり、舞台を片付けたり
肝試しに花火にと、過ごす日々も楽しくて

マジック、最初は全然出来なくてね…?
クラウに教えて貰って、皆で色々特訓したんだ
応援の力借りて成功して、嬉しかったな

添って語る想い出に
綻ぶ表情は、つい破顔して

──それは、皆の中でも同じだよ
大切な存在だと云うこと、
聞くのが僕らだけなのは惜しいね
皆が来た時、教えてあげたい物だ

ン、良し。マジックも今では得意芸さ
即興ショーの開幕に、
帽子から花を出してみせよう



●サーカスの物語
 テントを模した家。フリチラリアの花鈴が鳴る扉の向こう側。
 紫丁香花が愛らしいシルクハットの飴細工が飾られたテーブルの前。マシュマロソファが置かれた其処には今、クラウンとライラックが妖精たちと共に座っている。
 ステキなおうちをつくってくれた人と、ぜひいっしょに。
 そんな風に考えた妖精たちは二人をお茶会に招待してくれたのだ。
「さあ、お話のおともに紅茶をどうぞ!」
「花蜜シロップとミルクもあるわ。好きなだけいれてね」
 妖精たちは手際よく紅茶を淹れ、二人にお茶を勧めていく。お茶請けは色とりどりの金平糖。まるでテーブルにちいさな星が集まったかのようだ。
「任せて、御話なら得意芸だ」
「俺達のお話が聞きたいなら……んー、そうだなぁ」
 ライラックは柄が花型になっているスプーンで紅茶をかき混ぜながら、クラウンは金平糖を口に放り込みながら暫し考える。
 金平糖の星。
 それを見て想像したのは、あの夏に集った煌めく思い出の数々。
 そうだ、とライラックが思い立つのとクラウンがぽんと手を叩いたのはほぼ同時。
「やっぱりサーカスの話かな!」
「そうだね、それがいい。この家の“成り立ち”とも言える、話を僕も語りたいな」
「それじゃあ決まり!」
 二人は笑みを交わしあい、サーカステントめいた天井を見上げる。
 妖精たちも倣って上を振り仰ぐと、三角屋根の中央から提げられているガーランドがふわふわと揺れた。そして、彼らのお話がはじまる。
 
 それは、クラウンのサーカスでの話。
 サーカスで夏頃におおきなショーをやろうとした時のこと。
「そのときに人手が足りなくてお手伝いさんを募集したんだ! そこに来てくれたのが、ライラ達!」
「ああ。サーカスは初めてだったからね。御手伝いの時は、胸が躍ったものだよ」
「うんうん! 楽しかったなぁ!」
 クラウンが話し始めると、ライラックも懐かしむように双眸を細めた。
 動物を追い掛けたり、舞台を片付けたり。
 遊びなら肝試しに、花火。宇宙の海にも向かった。過ごす日々はとても楽しくて、何もかもがあっという間だった。
 クラウンは過ぎ去りし日々を胸に抱きつつ、ライラックをじゃじゃーんと指差す。
「あのね、ライラはとってもマジックが上手なんだよっ!」
「いや、マジックは最初、全然出来なくてね……?」
「それでそれで?」
 クラウンが嬉しそうに話す中でライラックは首を振り、妖精たちは早く続きを聞きたいとせがむ。笑みを深めたクラウンは更に語ってゆく。
「でも今はすごいんだ。お花とかしゅって出して、皆もね、ジャグリングとかとっても上手になって……俺、なんだかとっても嬉しかったんだ!」
 友達とは少し違う。
 仲間――家族みたいな感覚だったのかも、とクラウンは笑う。
「すごく、大切な時間だったよ」
 その言葉を聞き、ライラックはそっと瞼を閉じた。今も脳裏に鮮明に過ぎる、あの楽しかった日々。
「それは、皆の中でも同じだよ」
 瞼をひらいたライラックは頷き、気持ちを確かめる。
 大切だとクラウンが言ってくれること。それを聞くのが自分達だけなのが少しばかり惜しい。他の皆が来た時、教えてあげたいとライラックは感じていた。
 すると妖精がふと問いかける。
「もうその皆はサーカスにいないの?」
「うん、そうだよ。でも今も時々遊びに来てくれたりするんだ!」
 集まってくれた皆がいつの間にか自分の中で大切な存在になっていった。そのことがはっきり分かるのは一度、皆がサーカスを離れたからこそ。
 お手伝いは一時的なものだったけれど、あの日々に繋がった縁は途切れていない。
「ねえねえ、マジックってどんなことするの?」
「全然出来なかったのに、なんで今は上手なの?」
 ライラックの方にも質問がたくさん投げかけられた。それはね、と話し始めたライラックはあの頃を思い返す。
「クラウに教えて貰って特訓したんだ。応援の力借りて成功して、嬉しかったな」
 添って語る想い出。
 それはライラックにとってもかけがえのない記憶だ。
 クラウンは紅茶を飲み、もうひとつかみ分だけ金平糖を味わった。そして、勢いよくソファから立ち上がる。
「えへへ、よーし! ライラ!」
「クラウ?」
「今からマジックショーをしよう! 皆にも見せてあげたい!」
「ン、良し。特別なショーを見せてあげようじゃあないか」
 倣って席を立ったライラック。彼を誘い、ひらけたスペースに踏み出したクラウンは取り出したボールでジャグリングを行っていく。
「さあさあ、おかしなショーのはじまりはじまり!」
「種も仕掛けもないような魅惑のひとときを、君達へ贈ろう」
 まるでそれはサーカスの始まりの如く、お菓子のテントに明るい声が響く。
 色鮮やかなボールが宙を舞い、掲げられた帽子から花が咲く。妖精たちが楽しげに手を叩いて笑えば、クラウンとライラックの間にも微笑みが巡った。
 そして、楽しい時間はまだまだ続く。
 楽しい国につくられた、お菓子でおかしなサーカステント。
 其処に宿ったのは鮮やかな彩。そして――花のように咲く、たくさんの微笑み。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

樹神・桜雪
お話を始める前にUCで相棒を呼んでおくよ。
あと、お菓子と飲み物も用意しよう。
ボクの話かあ…何を話そうか。

楽しかった思い出が聞きたい?なら、相棒とあちこち行った事かな。
桜が綺麗な世界で、夜の汽車に乗ったりもしたし、雪深い場所の宿屋で一緒にすごした事もあったよ。
ボク、自分の事は覚えていないけど、沢山大切な思い出は増えたかな。ね、相棒。
今回のお菓子の家も珍しくて美味しくて楽しかったよ。
どんな仕組みになってたんだろう。
うん、探し物もあるから、まだまだ相棒と一緒の旅は続くよ。思い出きっと沢山増えるね。
楽しいばかりの旅ではないけれど、相棒と一緒だから、頑張れるんだ。



●相棒と一緒の物語
 ひとりの妖精に誘われ、招待されたお菓子の家。
 桜雪の頭上できょろきょろと家の中を見渡すシマエナガは内装に興味津々のようだ。
 壁はイチゴの香りがするチョコレート。絞られた生クリームが壁のデコレーションになっており、ふんわりとした雰囲気が可愛らしい。
「さあ、こっちこっち!」
「ありがとう。座らせてもらうね」
 妖精に案内されたテーブルはチョコチップのクッキー製。その前にあるソファはマシュマロで作られており、クッションまで同じマシュマロだ。
 ふかふかな心地に目を細めた桜雪は、まんまるクッションがまるで相棒のようだと感じて嬉しくなる。
 桜雪はテーブルに用意されていた紅茶とアップルパイを眺め、おいしそうだね、と相棒に語りかける。一人と一羽が仲良しなのだと感じたらしい妖精は器用にパイを切り分け、桜雪の前に置いた。
「ねえねえ、キミはどんなお話をしてくれるの?」
「ボクの話かあ……何を話そうか」
 妖精がわくわくした様子で問いかける様を見つめ、桜雪は少しばかり考える。
 お話と一概にいっても色々だ。
 考え込む桜雪に気付いたのか、妖精は彼の周囲をひらひらと舞いながら願う。
「じゃあね、楽しい事とか冒険のお話!」
「冒険? それなら、相棒とあちこち行ったことかな」
 まず桜雪が語り始めたのは冒険の話。
 舞い散る桜の景色が広がる世界で聞き込みを行ったこと。星巡りの迷宮で相棒と共に内部を調べて、宝石人形と戦ったこと。暗い闇の世界で絶望に負けずに進んだこと。それらが桜雪の冒険譚だ。
 楽しい話は、桜の世界で夜汽車に乗ったこと。
 雪降る迷宮で贈り物を探したこと、灯火の宿る不思議な国でプレゼント交換も行ったし、それから雪深い場所の宿屋で相棒と過ごしたこともあった。
「そうだ、お餅を焼いた雪の宿でボクも相棒もコタツで寝ちゃっててね。起きたら真夜中でびっくりしたんだ」
 でも、とっても楽しい時間だった。
 桜雪が嬉しそうに語っている様子を妖精は微笑ましげに見つめていた。
「ふふ、何だか聞いているだけでこっちも楽しくなっちゃう!」
「うん。ボク、自分の事は覚えていないけど、たくさん大切な思い出は増えたんだ」
 ね、相棒。
 いつものように語りかければ、シマエナガが可愛らしく鳴いた。
 それに今回のお菓子の家もめずらしくて美味しくて、何よりも楽しかった。きっと魔法のお菓子の記憶も新しい思い出になっていくのだろう。桜雪が穏やかに双眸緩めると、妖精はふと問う。
「じゃあアナタはこれからもその子と一緒に色んな所に行くの?」
「そうだね。探し物もあるから、まだまだ相棒と一緒の旅は続くよ。思い出も、もっともっと増えるね」
 それは楽しいばかりの旅ではない。
 けれどいつでも相棒と一緒だから頑張れる。そう語った桜雪を見ていた妖精は何かぴんと来たらしく、ちょっと待っていて、とお菓子を用意しに行った。
 そして――。
「じゃーん! アナタ達にぴったりなお菓子を作ってみました!」
「わあ、これ……相棒?」
 暫くしてテーブルに置かれたのは瞳と嘴が描かれた一口サイズのマシュマロ。それも一羽だけではなく、たくさんのマシュエナガが並んでいる。雪のような色をしたそれは、まさしく桜雪達のために作られたお菓子。
 ありがとう、と告げた桜雪はふわふわマシュマロをひとつ手に取ってみる。
「ほら、相棒そっくりだよ」
 そう語る桜雪の掌の上で、シマエナガはこてりと首を傾げていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
何を語るか

…そうだな。

昔、よく連んだ友人がいたのだが、いつも無表情で人の名前を覚える気なんて全くない…面白い奴だった。
また無類のドラゴン好きで愛情も笑顔もドラゴンにしか向かない奴だった。槍になる竜…ドラゴンランスの使い手で、常に多くの小さなドラゴンを引き連れていたよ

その中に一際小さいドラゴンがいたのだが、体の鱗から鉱石をつくり出す珍しい奴でな。
その性質で狙われることも多く警戒心が強かったのだが鉱物の身体を持つ俺と互いに親近感を抱いてな。
気付いたら俺の荷物に紛れたり悪戯仕掛けられたりしたのだが、それを見かねた主人(友人)が俺の元へいる方が良いと言ってな、
…それから、俺とミヌレはずっと共にいるんだ



●彼と彼女と竜の物語
 愉快な仲間たちに招待されたお菓子の家の中。
 わくわくした様子でユヴェンを見つめていた妖精は話が語られるのを待っている。
 彼女たちはユヴェンの横に座っているミヌレの周囲をひらひらと舞う。ミヌレも妖精を目で追い、楽しそうにしていた。
 ユヴェンは紅茶のカップを傾けながら、その様子を眺めている。
 何を語るか。
 穏やかな心地の中で考えていたのは、妖精たちに何を話すかということ。
 これまでの冒険譚か。それとも戦いの軌跡か。
 色々と考えたが、やはり此処は妖精たちが興味を持っているミヌレのことが良いだろうと思えた。
「……そうだな」
「わあ、お話のはじまり?」
「はじまりはじまり~!」
 ユヴェンが口をひらくと、ぱちぱちと妖精たちの拍手が響く。
 そうして語られていくのはユヴェンとミヌレを繋ぐ架け橋となった人のこと。
 
 昔、よく連んだ友人がいた。
 彼女はいつも無表情で人の名前を覚える気など全くない、或る意味で失礼でもあるのだがユヴェンにとっては面白い人物だった。
 その人は無類のドラゴン好き。
 普段は表情を崩さぬ癖に、愛情や笑顔をドラゴンにだけ向けていた。
 槍になる竜――即ち、ドラゴンランスの使い手で、常に多くのちいさなドラゴンを引き連れていた。
 そして、その中に一際ちいさいドラゴンがいた。
 その竜は鱗から鉱石をつくり出す珍しい個体だった。その性質ゆえに悪人から狙われることも多く、嘗ては警戒心が強かった。だが鉱物の身体を持つユヴェンとは互いに親近感を抱いたらしい。気が付けば鉱石竜はユヴェンの荷物に紛れたり、悪戯を仕掛けられたりと好き放題。
 それを見かねた主人が自分よりもユヴェンの元へいる方が良いと言ってくれた。

「……それから、俺とミヌレはずっと共にいるんだ」
「出逢ったときから仲良しさんなんだね!」
「ミヌレちゃん、良い御主人様たちでよかったねえ」
「ねえねえ、元のご主人はいま何処にいるの?」
 ユヴェンが話を終えると、妖精たちは口々に好きなことを話したり問いかけてくる。最後の質問には少し俯き、ユヴェンはテーブルの上を見遣った。
 其処にはお茶請けとしてマドレーヌ菓子が並べられている皿がある。ほんの少し複雑そうな表情を浮かべたユヴェンだったが、ミヌレに菓子を手渡してやりながら頷く。
「そうだな、此処ではない。遠い場所にいる」
 答えを濁したユヴェンだったが、嘘はついていない。
 懐かしさの中に宿る感慨。それもまた、ひとつの物語の欠片なのだろう。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナターシャ・フォーサイス
我々のお話、ですか?
とは言え私は使徒、引き出しは少ないと思いますが…

…幸せなお話と仰るのでしたら。
啓示を受けたその時、でしょうか。
主より生けるものも哀れな魂も楽園へ導くよう命ぜられたのです。
まだ見ぬ楽園ではありますが…
あの時だけは、一端を垣間見た気がします。
光に満ちた理想郷。
そこへ、我らもいずれ至るのだと。
それが、今の私の原点なのでしょう。

それから、これは個人のお話になりますが…
気になる方との一時は、いつであろうと胸が高鳴ってしまいます。
自然と手をとられたり、お洒落なカフェで互いの品を分け合ったり。
側にいられるだけで、満たされる気がするのです。
この感情は、いったい何なのでしょうね…?



●啓示の物語
「我々のお話、ですか?」
「そう、アナタのお話が聞きたいの」
 お屋敷風のお菓子の家の一室にて、ナターシャ達はお茶会を続けていた。
 その中で妖精が聞いてみたい願ったのは彼女がこれまで歩んできた日々。つまり、ナターシャの物語を話して欲しいということだ。
「構いませんよ。とはいえ私は使徒、引き出しは少ないと思いますが……」
 ナターシャは紅茶のカップを手に取り、喉を潤しながら少しばかり考える。
 語れることは様々だ。
 これまでの戦いや冒険。立ち寄った場所。
 自分の信条や能力の話であっても愉快な仲間たちは喜んで聞いてくれるだろう。どうしましょうか、とナターシャが悩む様子を見せると妖精が提案する。
「じゃあね、幸せなお話!」
「分かりました。幸せなお話と仰るのでしたら――」
 淡く微笑んだナターシャは自分が使徒として生まれたことを話そうと決めた。
 そして、己にとっての幸福が語られてゆく。
 ナターシャの幸せ。
 それは主から啓示を受けたそのとき。
 生けるものも、哀れな魂も、等しく楽園へ導くよう命ぜられた。
「まだ見ぬ楽園ではありますが……あの時だけは、一端を垣間見た気がします」
「楽園?」
「それってなあに?」
「お菓子の国も楽しいところだよ!」
 妖精や愉快な仲間たちは不思議そうに問いかけ、好きなことを口にする。無邪気な彼らに笑いかけたナターシャはそっと続けていく。
 楽園。それは光に満ちた理想郷。そこへ、我らもいずれ至るのだという。
「……それが、今の私の原点なのでしょう」
 どうでしたか、と皆を見渡したナターシャだが、ふともうひとつの話を思い出して軽く咳払いをする。
「それから、これは個人のお話になりますが……」
 気になる人と過ごす一時はいつであろうと胸が高鳴る。
 自然と手を取られたり、お洒落なカフェで互いの品を分け合ったり。側にいられるだけで満たされる気がする。ナターシャは胸を押さえ、ゆっくりと息を吐いた。
「この感情は、いったい何なのでしょうね……?」
「それが幸せだよ!」
「もっともっと、その話を聞かせて!」
 すると途端に食いつきの良くなる愉快な仲間たち。
 どうやらナターシャが彼らへと語る話はもう暫し続いていくようだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラビ・リンクス
まさかの遅刻
お菓子の家が食べ放題って聞いたのに
もうねェじゃん!
あの家うまそ…ちぇっ

さて話ってもなァ
そうだ俺の国の話
何か殆どうろ覚えなんだケド
俺はどうにも忘れっぽいから、お前ら覚えててくれよ

名前は忘れた自分の国
ココと似ていた様な
でももっと甘い香りが強かった
確かに覚えているのは立派なお城とソコに溢れる美味しいお菓子
それと立派な?我侭な?女王様
まぁとにかくお菓子の好きな女王様がいた
住人は皆女王様が大好きで
毎日女王様の為のお菓子が列をなしてた
お菓子はどれもとろけるような美味しさ!

…何で俺が知ってるのか?
サァ?味見役とかしてたんじゃねェ?

とにかくお菓子が美味い国は幸せな国ってことだ
国作り頑張ろうな



●女王様とお菓子の物語
 ――遅刻、遅刻。
 なんて、かの有名な物語の時計ウサギではないけれど。ラビ・リンクス(首輪憑き・f20888)は自分が少しばかり出遅れたことに気付いていた。
 彼が訪れたときにはもう広場には色とりどりの様々な家が並んでいたのだ。
「あれ、お菓子の家が食べ放題って聞いたのにもうねェじゃん!」
 食べて良いのは失敗作。
 流石に生クリームやアラザン、タフィーやドーナツなどで可愛く綺麗に飾り付けられたあれらは完成した家だろう。
 ちぇ、と残念そうにラビが地面を蹴れば、キャンディの小石がころりと転がった。
「あの家うまそうなのになァ」
「まあ、それならうちで用意したお茶菓子でも食べていく?」
 ラビが落とした声が聞こえたのか、その家の窓から妖精がひょこりと顔を出す。
「いいのか?」
「ええ、ぜひ! その代わりに貴方のお話を聞かせてね」
 そうすれば美味しい紅茶も味わえちゃう。そんな風に悪戯っぽく、それでいて可愛らしく告げた妖精。その誘いを断る理由などなく、ラビは大きく頷いた。
 そうして招待されたお菓子の家の中。
 ふんわりクリームでデコレーションされたふかふかのソファに腰掛けたラビは、花の香りがする紅茶を頂いていた。目の前のアイスボックスクッキー製のテーブルにはシュークリームやエクレアなどのお菓子が乗った皿がある。
 何でも食べてね、と微笑む妖精はどんな話をしてくれるのか期待しているようだ。
「さて話ってもなァ」
「どんな話でもいいの。貴方は何処から来たのか、とか!」
「そうだな、じゃあ俺の国の話をしよう」
 ラビは妖精の言葉から思い立ち、無意識に首元に触れた。
「殆どうろ覚えなんだケド。俺はどうにも忘れっぽいから、お前ら覚えててくれよ」
「ええ。わたしね、一度聞いたことはぜったいに忘れないの」
「そりゃ頼もしいな」
 そして彼は自分が元いた場所について語ってゆく。
 
 其処は名前も忘れた、何処かこの場所と似た国。
 けれども、もっと甘い香りが強かったような気もする。何となく国を思い出したのも此処で紅茶やお菓子の匂いを感じていたからかもしれない。
 確かに覚えているのは、立派なお城。
 其処に溢れる美味しいお菓子の数々。
 それから立派な、というよりも我侭だと表す方が相応しい女王様。
 彼女は兎に角、お菓子が好きだった。住人はみな女王様が大好きで、女王様の為に献上される菓子が毎日列をなす。
 そのお菓子はどれもとろけるような美味しさで魅惑の味だった。
 
 それが今、ラビが語れる限りの過去の話だ。
「国の女王様へのお菓子! 素敵ね」
「だろ。このお菓子を見て思い出したんだ。あの味を――」
 記憶の断片。
 それを思い返しているラビは花紅茶のカップを傾けた。喉を潤す味はとても上品だったけれど、やっぱりあの城で食べた蕩ける味が穴だらけの記憶の中でひときわ強く思い出せるものだ。そんな中でふと妖精が首を傾げ、ラビに問いかけた。
「でもどうして貴方が味を知っているの?」
「サァ? 味見役とかしてたんじゃねェ?」
 敢えてとぼけたのか、それとも本当に思い出せなかったのか。それは判断できなかったがラビは軽く笑ってみせる。
「とにかくお菓子が美味い国は幸せな国ってことだ」
「ふふ、それじゃあわたしたちも気合を入れなきゃね」
「これから、国作り頑張ろうな」
「ええ!」
 妖精とラビの視線が交差して、微笑みが重なる。
 甘いお菓子と紅茶のひととき。その時間には、ちいさくとも確かな幸福に満ちていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

瀬名・カデル
お話はなにがいいかな…
いっぱい悩んだけど、最初ならやっぱり自己紹介って感じかな?
それならボクはアーシェのお話をしちゃおう!

あのね、この子はアーシェってお名前でボクの友達が作ってくれたんだ
ボクの最初のお友達で、アーシェって名前も実はお友達の名前なの!
だってね、この子の容姿はとぉーってもその子に似ているんだよ
黒くて長い髪に、青い瞳、肌もこんな風に褐色なの!

違うのはた服装かな?
この子はお洋服を着ているけど、その子はローブみたいな服
旅人だったから

人形師でね、ボクの住んでいたところに立ち寄ってくれて
同じくらいの年の人って初めてで、お友達になって…今は遠いところにいるけどこの子がいるから、寂しくないよ。



●マ・カブルの物語
 ふたつ並んだお菓子の家を離れ、カデルが招待されたのは別の家。
 其処はウエハースの壁に糖蜜で林檎の絵が描かれており、ジェリービーンズで彩られた鮮やかな家だった。
 その家の住人になったのは林檎妖精の姉妹。どうやら二人はカデルが作ったお菓子の家を甚く気に入ったらしく、ぜひ話が聞きたいと所望している。
「ふふ、あんなに素敵な家を作ったヒトだもの!」
「ええ、きっときっと素敵な話をして下さるわ!」
 双子姉妹の妖精は声を揃え、カデルにきらきらした瞳を向ける。カデルは恥ずかしいような、けれども嬉しい気持ちを抱いて彼女たちへと微笑む。
 妖精たちは歓迎の証として焼きたてのアップルパイ用意してくれた。其処に添えられているアップルティーも香り高く、カデルはお礼を告げる。
 そして、カデルは何を話そうかと考えていく。
「お話はなにがいいかな……」
「いいのよ、好きに考えて」
「その間にパイもお茶も好きなだけどうぞ!」
 カデルは妖精たちの言葉に甘えることにして、お茶を味わいながら悩む。
 これまでの冒険や戦いのことを話そうか。それともいままで見てきた綺麗な景色のことを語ってみようか。
 いっぱい考えたけれど最初ならやっぱり自己紹介。
 そう考えたカデルは膝に座らせていたアーシェをそっと抱き上げた。
「それならボクはアーシェのお話をしちゃおう!」
「アーシェ?」
「その子のお名前かしら」
 妖精たちは興味津々に絡繰人形を見つめる。その眼差しは快く、アーシェもひとりの客人として認めてくれているようだ。
「あのね、この子はアーシェっていうお名前でボクの友達が作ってくれたんだ」
 彼女は自分の最初の友達。
 このアーシェという名前も実は彼女のものだ。
「お友達とその子、おんなじ名前なの?」
「何だか不思議!」
「だってね、この子の容姿はとぉーってもその子に似ているんだよ」
 軽く首を傾げる妖精に対し、カデルはふわりと笑って答えていく。掌で膝上のアーシェの髪を撫でた彼女は友人を懐かしむように語る。
 黒くて長い髪。青い瞳。そして肌もこのアーシェと同じ褐色。
「違うのは服装かな?」
 アーシェはそのときによって服を着替えるが、友達はローブめいた服を着ていた。それは彼女が旅人だったから。
「へえ、旅をする人だったなんて興味が湧くわ!」
「わたしたちもウサギ穴を通って旅してこの国にきたんだもの」
 カデルの話に身を乗り出すほどにわくわくしているらしい妖精たち。その様子がなんだか可愛らしく思えたカデルは頷いた。
「お友達は人形師でね、ボクの住んでいたところに立ち寄ってくれて――」
 神殿で祀り上げられていた頃。
 あのときのカデルは同じくらいの年の子に会うのは初めてだった。
 それから、自分達は友達になった。過去を思い返すカデルは双眸を細め、彼女と過ごした日々に想いを馳せた。
「……今は遠いところにいるけど。この子がいるから、寂しくないよ」
 ねえ、アーシェ。
 そう呼びかけたカデルは大切な人形を優しく抱き、静かに目を閉じた。
 大事だと思えるものがある。
 大切にしたいと感じられる記憶がある。
 それこそがきっと自分とアーシェが紡いできた物語。そんな風に、思えた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
f01543/イアさん

匙代わりのビスコッティで
ミルクティーをくるり混ぜれば
肉桂の香りが仄か漂う

ねぇ
この菓子にはどんな酒が合うと思います?

悪戯っぽく笑んで一齧り
さくりほろり綻ぶ甘さと
木の実の香ばしさ

若い酸味が擽ったい苺タルトには爽やかなシャンパン
硬派なビターチョコを蕩かす鮮やかな赤葡萄酒
ミルクとバターがたっぷり練り込まれたクッキーにラムは如何

次々
手に取る菓子と似合いの酒を
魔導書を捲るみたいに
わくわく提案し合う

イアさんとの定番の遊びになってきましたねぇ

そう――定番だと思えることが何より嬉しくて
あなたと笑い合う時間の穏やかさが、幸せで

斯様に私的に『幸せ』な話でも
愉快な仲間達は喜んでくださるでしょうか


イア・エエングラ
綾/f01786と

ホイップの花咲くショコラのカップ
吹けば白い漣描いて微睡む前にあなたのお声

尋ねる水面に薫りが浮かべば像結ぶのは琥珀色
焦がしたバターによく似た色のワインが良いかしら
蕩けるよに濃厚なオペラに甘さ除いたカルヴァドス
真白い雪のアイスクリームと飴色豊かなウィスキー

ふたつみっつとメニューを並べて
組み合わせれば紡がれる魔法
唱える呪文は僕の心を
惹きつけたら離さない
ね、どれから召し上がる

眸覗いて尋ねる今も、並べて次を想うのも
そのテーブルをともに囲うお約束が一緒なの
なんて贅沢で甘やかで、しあわせな時間

やあ、そうな、今日のお茶会はみな一緒だもの
こんなに楽しい時間はないよう
まるで魔法に、かかったみたい



●甘い幸腹の物語
 あたたかな湯気と甘い香りが満ちるお菓子の家。
 お茶会のテーブルに並ぶのは愉快な仲間たちが用意した紅茶とお茶菓子。
 琥珀色の水面が揺らめく紅茶には蜂蜜と角砂糖、それからミルクを入れて。綾は匙代わりのビスコッティでミルクティーをくるりと掻き混ぜ、ふわりと感じる肉桂の微かな香りに双眸を緩める。
 綾の向かい側、其処に座るイアが手にしているのはショコラのカップ。
 飾られたホイップクリームはまるでチョコレートの海に花が咲いているかのよう。ふ、と吹けば白い漣を描く甘花。
 そうして微睡む前に、綾が紡ぐ声がイアの耳に届いた。
「ねぇ、この菓子にはどんな酒が合うと思います?」
 悪戯っぽく笑んだ綾はビスコッティを一齧り。さくり、ほろりと綻ぶ甘さと木の実の香ばしさが広がっていく。
 尋ねる水面。其処に淡く薫りが浮かべば、像を結ぶのは琥珀のいろ。
「そうねえ、焦がしたバターによく似た色のワインが良いかしら」
 そして、イアはテーブルの上に並べられたお菓子に目を向けてゆく。綾もそれらに合う酒を思い浮かべ、ふたりは指差しながら互いに語っていった。
 先ずは綾の番。
 若い酸味が擽ったい苺タルトには、爽やかなシャンパン。
 硬派なビターチョコを蕩かす鮮やかな赤葡萄酒。ミルクとバターがたっぷり練り込まれたクッキーにはラムがきっと合う。
 イアもまた、フォークを片手にお菓子の味を思い浮かべて語る。
 蕩けるように濃厚なオペラには甘さを除いたカルヴァドス。真白い雪のアイスクリームに重ねるのは飴色豊かなウィスキー。
 此処にお供の洋酒はないけれど、言の葉を並べて巡らせれば味わいも深くなる。
 綾は次々に菓子を手に取り、イアと共に想像の翼を広げる。紅茶に溶けていった砂糖と蜂蜜のように、またはショコラに蕩けてゆくホイップの如く。
 語る話は心地好く混ざりあう。
 ふたつみっつとメニューを並べて組み合わせれば、紡がれる魔法。
 まるでそれは魔導書を捲るみたいな心地。わくわくと提案しあう彼らが唱えるのは宛ら、甘やかな呪文。
「これもイアさんとの定番の遊びになってきましたね」
 そう思えることが何より嬉しい。
 綾が穏やかに微笑めば、イアも緩やかに頷いて答える。共に笑いあう時間の穏やかさはきっと、幸せと呼べるものに違いない。
「ね、どれから召し上がる」
「迷いますねぇ」
 惹きつけたら離さない甘い味。イアが眸を覗いて尋ねると、綾は敢えて答えを出さないままでいる。問いを、言葉を並べて次を想うのも、そのテーブルをともに囲うのも、なんて贅沢で甘やかなのだろう。
 そうしていると、新しいお菓子を用意してきた妖精たちがふたりの元に訪れる。
「おまたせしました!」
「さあ、ボク達にお話を聞かせて! 聞かせて!」
 お話をねだる愉快な仲間たちは無邪気な瞳を輝かせていた。イアと綾は頷き、勿論だと彼らに答える。
 願われるのは幸せな物語。
 ならばきっと、この心地を伝えるのが一番かもしれない。
「そうですね、今――斯様に私的に『幸せ』な話でも喜んでくださるでしょうか」
「やあ、そうな、今日のお茶会はみな一緒だもの」
 綾がそう問いかけると、イアはきっと皆は聞いてくれると語った。
 ふたりがみんなになる。お互いに交わす言葉だけでも心地よかったのだから、こんなに楽しい時間はないはず。
 まるで魔法にかかったみたいなしあわせな時間。
 そんなひとときが、此処から流れてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ラフィ・シザー
アナンシ(f17900)と
俺達のお話?
いいぜ、どんなお話がいいかなぁ?
あぁ、前にアナンシ達と行った依頼なんかいいんじゃないか?
人間に恋をした人魚の話。
人魚姫みたいだろう?
けれど彼女は泡になって消えたりしなかった。
恋をした人間と見事結ばれたんだ!
素敵なお話だろう。でも本当のお話なんだぜ。

彼女すごく努力をしてたな。
声には呪いがかけられていたから気持ちを伝える為に文字を勉強したりさ。
『I Love you』を必死になって覚えてたよ。

あの時の俺は恋なんて全然分からなかったけれど。
俺もいつかは『I Love you』がわかるの日がくるのかな?

ふふ、俺のお話はこれでお終い。気に入ってくれたか?


アナンシ・メイスフィールド
ラフィ君f19461と

話かね?ラフィ君の方が楽しい話を聞かせてくれると思うのだよと共に聞きながらも
話を聞けば懐かし気に瞳を細めよう
ラフィ君も私も皆もあの時は愛が解らなかったのだけれども
私は今ならば愛しい家族の愛は解るのだよとそう笑みを
そう、家族のように思ったのはラフィ君と行った違うアリスの世界でだったかな?
その世界のアリスは記憶を思い出すと同時に深い絶望に捉われてしまってね
そのアリスを見て…私も記憶がないからね
少々暗い顔をしていたのかラフィ君がずっと味方でいてくれると手を引いてくれたのだよ
あの時は嬉しかったねえ
勿論アリスは助かって元の世界に戻っていったのだよ…と
少しは楽しんでもらえたかね?



●二人が紡ぐ物語
「さあさあ、二人のお話を聞かせてくれよ!」
 招待されたお菓子の家の中。
 ラフィとアナンシは愉快な仲間たちに連れられ、ホワイトチョコレートの椅子に腰掛けていた。隣同士で座る彼らの前には同じチョコ素材で作られたテーブルがある。その上には紅茶とビスコッティが置かれていた。
「俺達のお話? いいぜ、どんなお話がいいかなぁ?」
「話かね? ラフィ君の方が楽しい話を聞かせてくれると思うのだよ」
 ラフィは菓子を手に取りながらアナンシに問いかける。すると彼はラフィに任せたいとして視線を返した。
「じゃあ前にアナンシ達と行った依頼なんかいいんじゃないか?」
「その話はちょうど良いね」
 頷くアナンシの傍ら、ラフィは語ってゆく。
 それは人間に恋をした人魚の話だ。
 人魚姫みたいだろう? と愉快な仲間たちに問いを投げながら、ラフィはゆっくりと話を進めていった。
 あの物語は悲恋だったが、此方の彼女は泡になって消えたりしなかった。
「そう、恋をした人間と見事結ばれたんだ!」
「わあわあ、素敵!」
「すごいすごい、恋が成就したんだね」
 ラフィの声にわっと沸いた愉快な仲間。その姿とラフィの話を聞いていたアナンシは懐かしげに双眸を細めた。
「素敵なお話だろう。でも本当のお話なんだぜ」
「ラフィ君も私も皆もあの時は愛が解らなかったのだけれども、私は今ならば愛しい家族の愛は解るのだよ。その切欠があったのは……そうだ、あのときからだね」
 アナンシはそう告げ、笑みを浮かべる。
 そして後に知った愛――即ちラフィ家族のように思い始めたのは、また違うアリスラビリンス世界での出来事を体験したからだ。
 その世界のアリスは記憶を思い出すと同時に深い絶望に囚われてしまった。
 アナンシが語っていく話に頷き、ラフィも更に語る。
「彼女、すごく努力をしてたな」
 声には呪いがかけられていた。だから気持ちを伝える為に文字を勉強したのだ。
 その文字とは『I Love you』。必死になって覚えてたよ、と話したラフィはあの出来事を思い返していく。
 アナンシはそれもまた懐かしく感じていた。
「そのアリスを見て……私も記憶がないからね。少々暗い顔をしていたのか、ラフィ君がずっと味方でいてくれると手を引いてくれたのだよ」
 あの時は嬉しかったねえ。
 そんな風に彼がそっと呟きを落とすと、ラフィも嬉しげに破顔した。
「あの時の俺は恋なんて全然分からなかったけれど。俺もいつかは『I Love you』がわかるの日がくるのかな?」
「あいらびゅー!」
「ボクも知らない! けどいい言葉だよねっ」
 ラフィが感慨深くなりつつ首を傾げると、愉快な仲間たちがわいわいと声をあげる。そして、アナンシに妖精が問いかけた。
「そのアリスはどうなったの?」
 どうやら不思議の国の住人としてアリスのことが気にかかっていたらしい。
「勿論アリスは助かって元の世界に戻っていったのだよ」
「よかった!」
「この国にもアリスがいつか来てくれるかなあ?」
 愉快な仲間たちは口々に好きなことを話していく。その賑わいの中で彼らの純粋な心を感じたラフィとアナンシは微笑みを交わしあった。
 そうして、二人は其処で話を締め括る。
「ふふ、俺のお話はこれでお終い。気に入ってくれたか?」
「少しは楽しんでもらえたかね?」
 同時に問いかけたラフィとアナンシに対し、不思議の国の住人たちは笑顔で応える。
「もちろん!」
「でもでも、もっとお話がききたーい!」
 まるで子供のように次の話をせがむ愉快な仲間の瞳はきらきらと輝いていた。
 その願いを断ることなど出来ず――。
「仕方ないな、じゃあこのビスコッティを食べた後に!」
「ああ、頂きながら何を話すか考えるのだよ」
 ラフィはお菓子をぱくりと齧り、アナンシは紅茶のカップを軽く持ち上げながらちいさく笑んだ。そうして、お茶会の時間はゆるやかに過ぎてゆく。
 その後に彼らが語った話はきっと、この国の住人の心に刻まれていくだろう。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・ゆず
紅茶のカップを両手で包んで一つ息を
楽しくないお話かもしれません
このお話にどのような感情を抱けばいいのかわかってません
もしよろしければ
感想をお聞かせください

少女は、生まれた時にとても素晴らしい意味を持つ名前を貰いました
段々と成長していくと共に自分が『出来損ない』である事を知ります
彼女は小さいながらも親から好かれようと『親が求める像』を演じ始めます
学校へ通い始めるとその身の醜悪さから大切な名前を蔑称で塗り替えられ蔑称で呼ばれ始めました
女の子は『友人に好かれる像』を演じ始めます
そうしているうちに埒外の力に目覚めました
女の子は『仕事をこなす像』を演じ始めます
さて、ほんとの女の子は何処に居るでしょう?



●今は知らない物語
 甘い香りに穏やかなお茶会の雰囲気。
 落ち着いた雰囲気の紳士的な時計ウサギに誘われ、或るお菓子の家に招かれたゆずは今、伏し目がちに俯いていた。
 君が良ければお話をしてくれないかい。
 そんな風に願われて招待を受けたはいいものの、浮かぶのは複雑な思い。
 時計ウサギが淹れてくれた紅茶にミルクを注いで匙でかき混ぜれば、澄んだ琥珀色に白が混ざっていく。あたたかな湯気が揺らぐカップを両手で包んだゆず。其処から零れ落ちたのはひとつの溜息。
 ゆずは顔をあげ、クッキーで作られたテーブルの向かい側に座る時計ウサギをちらりと見た。彼は何も言わず、優しい瞳を向けてくれている。
 話す内容を考え、選んでいることを悟ってくれているのだろう。余計なことは言わず、こちらもどうぞ、と告げてギモーヴが乗った皿を差し出してくる。
 橙色はオレンジ。淡い赤はイチゴ。緑はミント味。
 どれも味には自信があるのだと話してくれた時計ウサギに頷き、ゆずはそのうちのひとつを手に取った。
 一口サイズのそれを頬張ると、甘酸っぱい果実の味が広がる。
 それからミルクティーのカップを持ち上げて、一口だけ飲めば気分が少し落ち着いた。そうして、ゆずはそっと口をひらいていく。
「楽しくないお話かもしれません」
「うむうむ、構わないよ」
「このお話にどのような感情を抱けばいいのかわかってません」
「ああ、大丈夫だとも」
 そんな前置きをしたゆずに対し、紳士のウサギはそうっと頷きを返す。その様子に少しだけ安堵を抱いたゆずは更に続ける。
 もしよろしければ感想をお聞かせください、と。
 そして、彼女の話がはじまる。

 少女は、生まれた時にとても素晴らしい意味を持つ名前を貰いました。
 名は体を表す。
 そんな風に居られればどれだけ良かったでしょう。
 少女は成長していくと共に自分が『出来損ない』であることを知りました。
 けれども彼女は小さいながらも、懸命に親から好かれようと『親が求める像』を演じ始めます。学校へ通い始めると、その身の醜悪さから大切な名前を蔑称で塗り替えられ、望まぬ名前で呼ばれ始めました。
 しかし、女の子は次に『友人に好かれる像』を演じていきました。
 そうしているうちに、彼女は埒外の力に目覚めます。
 そうなれば次は『猟兵の仕事をこなす像』を演じ始めるしかありません。
 生まれたときに貰った名。
 求められる偶像。そう在るべきと感じたゆえの振る舞い。そうしなければならないと決められているからこそ、それを行う今の自分。
 演じ続けるもの。
 それは偽物なのか。どれが本物なのか。
 ――さて、ほんとの女の子は何処に居るでしょう?
 
 そんな風に終わりを迎えた少女の物語。
 話を聞き終えた時計ウサギは、ふむ、と頷いてから紅茶のカップを傾けた。そして、ゆずをまっすぐに見て答える。
「その子のことはその子自身にしかわからないさ。でもねえ、僕達のココロは――」
 時計ウサギは自分の胸元を、とん、と掌で示してみせた。
 此処に在るよ。
 そう告げるように、彼は静かに笑った。
「その胸に聞いて御覧。それは自分自身に問いかけることになる。もしもいま答えてくれなくても、いつかは応えてくれるようになるさ」
 時間は掛かるかもしれないけどね。
 時計ウサギはカチコチと音のなる懐中時計を示してゆずに見せる。ゆずは彼の話には頷けなかったが、その時計の秒針を見つめてふと思った。
 時間は止まることなく進み続けている。
 もしかすれば彼の言う通り、進む先の未来で何かが起きるかもしれない。
 本当に少しだけ、ほんの僅かだけれど――そう思えた。
 
 
●きみだけの物語
 お菓子の国、お菓子の家で紡がれたのは様々なお話。
 いつか誰かが体験した過去の話や、ハッピーエンドの人形劇。大切な相棒と共に過ごした日々の話に、故郷の景色の話。大事だと思える人との思い出の記憶。
 たくさん、たくさんの物語が其処にはあった。
 それはこれから作られていく新たな国への贈り物の如く、住人たちの心に刻まれる。
 
 そして、このまま平穏な時間が続くと思われたとき。
 お菓子の国に招かれざる客が訪れた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ハッピーシュガー』

POW   :    ビッグポップ
【巨大なロリポップ】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    キャンディースコール
【お菓子を食べる事】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【キャンディーの雨】で攻撃する。
WIZ   :    ゴーストパンプキン
自身の身長の2倍の【カボチャお化け】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

●ハッピーシュガーとお菓子の国
 物語や話を語り終え、猟兵と愉快な仲間たちがお菓子の家で寛いでいる頃。
 街の広場には怪しい影が現れていた。
「やあ、これは実に見事なお菓子の国だ。僕の夢の国に作り変えるのに相応しい!」
 キャンディバスケットを片腕に提げ、辺りを見渡したのは魔女や魔法使いを思わせる姿をしたひとりの人物――否、オウガだ。
 口端を緩め、品定めをするようにお菓子の家を眺めたオウガ、ハッピーシュガーは或る一軒の家に目を留めた。
 そして、其処から悪夢のような事態が巡り始める。
 
「――誰か! 誰か助けて!!」
 突如として悲鳴めいた声が響き渡ったことで、猟兵達はその声が聞こえた方へと駆けつけた。其処には壊されたお菓子の家が見える。
 更にはハッピーシュガーに囚われた妖精たちの姿があり、そのうちのひとりの妖精がその手の中でじたばたと暴れていた。
「ああ、猟兵さん! たいへんなの! このオウガが私達の家を壊して――」
「煩い虫だなあ。少し黙ってくれないか」
「きゃ!」
 妖精が何かを言いかけたとき、ハッピーシュガーが彼女を地面に叩きつけるように放り投げた。そのまま気を失った妖精。見れば敵の足元には同様に痛めつけられたらしい妖精が何人も倒れている。
 死してはいないようだが、放っておけば危険なことだけは明らかだ。
「ご機嫌、君達。出逢ったばかりで申し訳ないのだけれど、はやく此処から出ていってくれないかい?」
 ハッピーシュガーは猟兵達に告げてゆく。
 猟兵のひとりがどうしてかと問うと、敵はさも当たり前のように答えた。
「今からこの国はお菓子と夢の国――そう、僕の国になるのだからね!」
 敵はまともではない。
 ゆえにハッピーシュガーに話は通じそうにない。先ずは痛めつけられた妖精たちを助けるため。そして、危機に扮しているこの国をオウガから救うために。
 戦うしかない。
 そう感じた猟兵達は其々の力を揮うべく身構えた。
 
オズ・ケストナー
キヨ(f21482)と

ようせいさんっ
はやくようせいさんの手当てをしないと

うん、前はまかせて
ガジェットショータイム
出たのはキャンディでできている青い透明な傘
先端にとげとげした黄色
どうしてかさなんだろうと思いながら振り回して攻撃

あれ?いいにおい
たこやき?おいしそうっ
わたしもたべたい

降ってきた飴にピンときて傘をさす
描かれていたのは虹と青空
先端のきらきらはきっと太陽

キヨとたこやきに飴は届かせないよ
飴を武器受け

ふふ、どういたしましてっ
動きが遅くなったのを見て
キヨ、すごいっ

うん
やっちゃおう、キヨっ
閉じた傘を振り下ろして

みんなでなかよく食べたほうがおいしいんだよ
ひとりじめしようとするなら
きみをたおさなくちゃ


砂羽風・きよ
オズ(f01136)と

おいおい、弱い者いじめはよくねーなぁ?

オズ、ちょっとだけ前任せたぞ
その間に俺は屋台を組み立てたこ焼きを作る

ソース臭ぇ?
ま、まあ確かにお菓子の国に似合わねぇが旨いんだからな!

オズの言葉に頷き
おう、この戦いに勝ったら食わせてやる!

うわ、やべーやべー!飴降ってきやがった!
くそ、たこ焼きが…!飴と混ざっちまう!

おお、さんきゅ
その傘めっちゃでかくていいな

敵に向かって口の端をあげる
ふ、つーか自分の動き見てみろよ
めっちゃ遅くなってんじゃん

よっしゃ、オズ、今のうちにやっちまうぞ!

オズと同じタイミングで
剣山のような改造デッキブラシを敵に向かって勢いよく振り下ろす

お前だけの国じゃねぇんだよ!



●その虹の向こうは
 地に伏し、意識を失っている妖精達。
 そして、今にも彼女達を足蹴にしようとするオウガ――ハッピーシュガー。
 広場に駆けつけたオズときよは、その現場を目の当たりにして息を呑む。
「ようせいさんっ」
 はやく手当てをしないといけないと考えて駆け寄ろうとするオズだったが、はっとして立ち止まる。此方が妖精を助け出そうと動いた場合、敵は敢えて彼女らを更に傷つけようとするだろう。
 きよもそのことを察しており、妖精よりも自分達に意識を向けさせようと狙ってハッピーシュガーに声を掛けた。
「おいおい、弱い者いじめはよくねーなぁ?」
「いじめ? 弱いから淘汰される。それだけだろう?」
 対するオウガは薄く笑む。
 自分以外の存在について何とも思っていない。そんな雰囲気を感じさせる物言いだ。
「オズ、ちょっとだけ前任せたぞ」
「うん、まかせて」
 きよは仲間にだけ聞こえる声で呼びかけ、オズもまたこくりと頷く。
 そして、きよを守るように前に出たオズは片手を胸の前に掲げた。
 ――ガジェットショータイム。
 力を紡ぎ、其処に出てきたのはキャンディで形作られた青くて透明な傘。先端にはとげとげした黄色の飴がくっついている。
 どうして傘なんだろう、と疑問に思いながらもオズは敵へと駆けてゆく。
「それじゃあ、どっちが強いかためしてみようっ」
 敵は先程、弱いものは淘汰されるといっていた。ならば此方の強さを示すのが道理だと感じたオズは傘のガジェットを振り回して相手の気を引く。
 その間にきよが屋台を組み立て、慣れた手付きでたこ焼きを焼いていった。
「……?」
「あれ? いいにおいっ」
 訝しむオウガ。対するオズは漂い始めた香りにぱっと表情を輝かせる。
「おう、たこ焼きだ」
「おいしそうっ、わたしもたべたい」
「良いぜ、この戦いに勝ったら食わせてやる!」
「やったっ」
 きよの言葉にオズがにこやかな頷きを返した。しかしハッピーシュガーの方はというと不機嫌そうな顔をしている。
「甘くない匂いだね。……不愉快だ」
「ソース臭ぇってか? ま、まあ確かにお菓子の国に似合わねぇが旨いんだからな!」
 オウガを見据えたきよは爪楊枝でたこ焼きを刺し、差し出すように掲げた。
 顔を背けたハッピーシュガーはそれを楽しむ気持ちはないようだ。されど、それこそがきよの力が最大限に発揮される時だ。
 途端にハッピーシュガーの動きが鈍くなる。
 其処に生まれた隙を狙い、オズが二撃目を撃ち込むべく回り込んだ。
「く……こんな、もの――」
 しかしオウガも抵抗し、自分の持つ籠の中から飴を取り出して食らう。それと同時にオズ達の頭上からキャンディの雨が降りそそぎはじめた。
「うわ、やべーやべー! 飴が降ってきやがった!」
「キヨの屋台があぶないっ」
 わあ、と声をあげたオズだが、降ってきた飴の雨を見てピンときた。
 傘を広げたオズはきよに向かっていく飴を受け止め、くるくると柄をまわす。すると傘に描かれている虹と青空の色が淡く光った。
 不思議だと思っていた先端のきらきらは、きっとお陽さま。
 雨が降っても虹が架かって、空には太陽が昇る。
 そんな光景を映してくれているガジェットなのだと気付いた時、オズはその使い方が分かった気がした。
 ハッピーシュガー本体は動きが遅くなっているが、飴の雨はばらばらと降りそそぎ続けている。きよは舟皿に乗せたたこ焼きの中にいつの間にか丸い飴玉が乗っかっていたことに驚き、慌てて飴を払いのけた。
「くそ、たこ焼きが……!」
「だいじょうぶ。雨みたいな飴はもう、キヨとたこやきに届かせないよ」
 地面を蹴り、飛来してくるキャンディを弾き飛ばしたオズは凛と立ち塞がる。その背にはっとしたきよは屋台が守られていると感じ、明るい笑みを浮かべた。
「おお、さんきゅ。その傘めっちゃでかくていいな」
「ふふ、どういたしましてっ」
 軽く振り返ったオズときよの視線が重なり、ふたりの間に笑みが宿る。
 いつしか飴は降りやみ、彼らの前には思うように動けぬ様子のハッピーシュガーがいるのみ。しかし、屋台の力も長くは続かない。いずれオウガはその縛りを脱却して更なる攻撃を仕掛けてくるだろう。
「おのれ、小癪なことを……」
「ふ、つーか自分の動き見てみろよ。めっちゃ遅くなってんじゃん」
 ハッピーシュガーが次の手に移ろうとしている動きを眺め、きよは口端をあげる。今だ、と目配せを送ったきよに応えるように、オズが傘を閉じた。
 同時にきよもデッキブラシを構える。
 それはただの掃除用具ではなく、戦いに用いられるように改造した特別製だ。
 傘とデッキブラシ。
 それは傍から見れば武器には見えない。しかし、オズときよにとってはこれこそが自分達の全力を込められる道具だ。
「よっしゃ、オズ、今のうちにやっちまうぞ!」
「うんっ やっちゃおう、キヨっ」
 きよは右から、そしてオズは左から。敵を挟み込む形で駆けたふたりはタイミングを合わせ、一気に得物を振り下ろした。
 それは此処から繰り広げられていく激しい戦いの最初を彩る一閃となる。
「俺達が引きつける! だから――」
「だれかっ、いまのうちにようせいさんをっ」
 きよが他の仲間に呼びかけた言葉を次ぐように、オズも切実な願いを声にした。
 そして、戦いは続いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ラビ・リンクス
ハア?
ふざけんなよ、俺でさえ我慢してんのに!
この場所はコイツらのモンだろ、
主人公はお前じゃねェよ

つっても俺もそんな強いわけじゃなし
自分よりちっこいヤツ戦わせるのもなんだけど…悪く思うなよ
ココは、お前らの国だもんな

倒れた妖精にくっついた飴の小石を払ってやり
『死にもの狂いで遊ぼォぜ』
ここじゃない国の住人、
うろ覚えの嘗ての仲間たちを呼び寄せる

見覚えのない煙の猫に帽子の男
変ないろしたトランプ兵
ドコの誰だか知らないが言うことをよく聞くのは確かだ
あとは一緒に剣を振り回すだけ

美味そーな攻撃しやがって
けど、全然欲しいと思わねェ
おかげサマで、腹ごなしは済んでるからな!


旭・まどか
正に侵略者たる横暴さだね
一国の主には其方の方が良いのだけろうけれど
生憎と、僕は横入りをする輩が大嫌いなんだ

――列に並んだとて、此の場を譲りはしないのだけれど

此処が彼らにとっての新天地且つ在るべき場所であるように
お前も在るべき場所へ、還してあげる


終止符を打つのは、お前だ
僕以上に怒るお前のその牙と爪を想う侭、揮えば良いよ

夏を越える為の硬皮も、鋭爪の前ではプリンと変わらない

もし手を加えられたのなら
南瓜プリンとして生まれ変わらせられたのだけれど

残念


崩れ、壊された物々
其を見て想う所が無いわけじゃあ無い

肩を下ろすのも良いけれど
お前たちは此処を自国にしたいのだろう?

ならば、その方法はもう既に識っている筈だよ


ユヴェン・ポシェット
テュット!彼らを保護してくれ!!
ダークネスクロークに妖精達の安全を頼み、自身はUC「piilo」を使用。水晶庭園へ一時的に怪我した妖精たちを避難させ、治癒する

壊れた家はまた作り直せる。
まずは妖精達の安全が最優先だ。

…だけどな、作り直せるものであっても、全く同じものは出来ない。例え良く似ていたとしても別物になる。
誰かの大切なものを平気で踏み躙るなんて、黙って見ているわけにもいかないな。いくぞミヌレ。

飴の雨は槍で弾き、南瓜は敵と纏めて串刺しで決めようか。


確かサムライエンパイアだったか…豆まき、という風習があるみたいでな。
それに習って、変わりに金平糖でも撒いてみるのも一興か?
「鬼は外」…なんてな。



●妖精と共に
 駆けつけた時、戦いは既に始まっていた。
 倒れている妖精。オウガと戦う猟兵。其処から、だれかようせいさんを、という声が響いたことでユヴェンは咄嗟に動く。
「――テュット! 彼女らを保護してくれ!!」
 ユヴェンは意志が宿るダークネスクロークを妖精達に向かわせた。
 だが、ハッピーシュガーにその動きを勘付かれ、テュットは敵が操るカボチャお化けによって弾き返されてしまう。
 はたとしたユヴェンは気付く。こういった場合は自ら動くのが間違いない。おそらく、鷲のタイヴァスや竜のミヌレを向かわせたとしても同じ結果だっただろう。
「く……すまない、テュット」
 ユヴェンは自分の手元に戻ってきたクロークを拾いあげた。妖精はまだハッピーシュガーの周りに倒れたままだ。
 オウガは不敵に笑い、余裕の表情を浮かべている。その手には先ほどお菓子の家から引き千切ってきたでろうチョコレートがあった。
「ふふ。早くこの国から出ていかないからこうなるのさ!」
 すると其処にまどかとラビが駆けつけてきた。
「正に侵略者たる横暴さだね」
「ハア? ふざけんなよ、俺でさえ我慢してんのに!」
 まどかは敵を一瞥し、ラビは食べられなかったお菓子の家の残骸を見遣る。許せねェ、と拳を握ったラビは片腕を大きく振るい、ハッピーシュガーに言い放った。
「ココはコイツらのモンだろ。それに主人公はお前じゃねェよ」
 この国で紡がれていく物語。
 その登場人物や主役であるべきものは、愉快な仲間たちのはずだ。
 ラビの傍ら、まどかは肩を竦める。倒れている妖精の中にはまどかに心をひらいてくれなかった子もいた。
 横暴なハッピーシュガーに対抗しようとして返り討ちにあったのだろう。
「なかなかに独裁主義のようだね。一国の主には其方の方が良いのだけろうけれど……生憎と、僕は横入りをする輩が大嫌いなんだ」
 列に並んだとて、此の場を譲りはしない。
 まどかが静かに宣言する中、ユヴェンは竜槍を構えていた。
「加勢を頼む。だが、このままではあの妖精達が……」
 意地の悪そうなハッピーシュガーのことだ。自分達が下手に動けば妖精を踏み躙るくらいは容易に行うだろう。
 そんな中、ラビが良い案があると告げた。
 自分もそんなに強いわけではない。だが、猟兵が救いにいくことで妖精達が人質めいた状況になるのならば――そう、彼女達が自ら動いてくれればいい。
「自分よりちっこいヤツ戦わせるのもなんだけど……悪く思うなよ。ココは、お前らの国だもんな。だから自分で戦う力を貸してやる!」
 その言葉と同時にラビは囁く。
 ――さぁ、死にもの狂いで遊ぼォぜ。
 すると気絶していた妖精達がラビの力を受け、ゆらりと立ち上がった。その姿はここではない国の住人となってゆく。
 煙の猫に帽子の男、変ないろをしたトランプ兵。
 それはラビの遠い記憶の果てに消えたもの達の姿だ。妖精はいま、その形を借りて戦えるようになっている。
「……妖精のかたちが変わった?」
 驚くハッピーシュガーを尻目に、愉快な仲間たちは攻撃の布陣についた。
「俺にはドコの誰だか知らないが言うことをよく聞くのは確かだ」
「そう、それもまた相応しいかもね」
 まどかはラビが行った操術の仕組みを理解し、倒れているままよりは良いと判断する。ユヴェンも納得し、これで自分達も遠慮なく戦えると感じて頷いた。
「共に戦えるなら丁度いい。行くぞ、ミヌレ」
 ユヴェンは竜槍に呼びかけ、強く地を蹴る。妖精達が戦えるようになったとはいえ無理もさせられない。それゆえに自分が先陣を切るのだと決めたユヴェンは鋭い一閃をハッピーシュガーへと放った。
 其処に続き、まどかが配下を遣わせてゆく。
 地を駆けた灰狼は鋭い爪を振りかざし、ハッピーシュガーを切り裂こうと狙う。
 更に妖精達を引き連れたラビが、彼女達――もとい、嘗ての仲間と共に黒剣を振るって立ち向かってゆく。
「生意気な奴ばかり揃ってるね。嫌だなあ、そういうの」
 対するオウガはキャンディの雨を降らせてラビ達を穿とうとした。だが、剣を振りあげたラビが飴を斬り裂き、トランプ兵が腕を振りまわすことで攻撃が弾き返される。
 煙の猫は姿を晦ましながら敵の背後に回り、相手が虚を衝かれたところへユヴェンの一閃が叩き込まれる。
「そのまま頼むぞ。俺はこの通り、攻勢に出続ける」
「よし、行け! 無理はしすぎんなよ」
 ユヴェンはラビの操る仲間達に願い、ラビ自身も兵や帽子の影に呼びかけていった。
 そして、月光の魔力を纏わせたまどかも灰狼の爪が敵を裂く様を見つめる。
 此処が彼らにとっての新天地。且つ、在るべき場所であるように。
「お前も在るべき場所へ、還してあげる」
 そんな風に語ったまどかは、狼が自分以上に怒っているのだと察していた。きっとあの妖精が倒れているところを見たときからそうだったのだろう。ゆえにその牙と爪を想う侭に揮えば良いと思えた。
 鋭い爪の前にはオウガの身も柔らかな菓子も同然。
「もし叶うなら、南瓜プリンとして生まれ変わらせられたのだけれど。……残念」
 冗談とも本気ともつかぬ口調で、まどかはふとした思いを落とす。
 灰狼が牙を剥いて更に敵へと襲いかかる中、ユヴェンはハッピーシュガーを強く睨みつけていた。遊びのように命や国を弄ぶ。その姿勢を許せるはずがなかった。
「……壊れた家はまた作り直せる」
「何が言いたいんだい?」
 間近で振るわれたユヴェンの槍をロリポップで受け止めながら、ハッピーシュガーは訝しげな表情を浮かべた。
「……だけどな、作り直せるものであっても、全く同じものは出来ない。例えよく似ていたとしても別物になる」
 誰かの大切なものを平気で踏み躙る。
 そんなことが出来る存在などこの国には不要だ。ユヴェンは再び紡がれた飴の雨を槍で弾き、敵が操るカボチャをひといきに串刺しにした。
 見る間に崩れ落ちるカボチャお化け。今だ、とユヴェンが告げた言葉に反応したラビは一気に駆けてゆく。
「お前ら、まだ動けるな? さっきのお返しをしてやろうぜ!」
 伴う仲間達に呼びかけたラビはハッピーシュガーの眼前までひといきに距離を詰め、剣を横薙ぎに振るった。其処に追撃として仲間達の攻撃が加わっていく。
 オウガはラビ達の連撃に揺らぎながらも体勢を立て直した。
「……まだまだ、だよ」
 息を吐き、不敵に笑ったハッピーシュガーは「甘いね」と口にする。
 その様子から察せられるのはまだ戦いは終わらないということ。されど、ユヴェンもラビも、そしてまどかも気を緩めたりはしなかった。
 戦いが続くならば、これまで以上に力を揮う。ただそれだけなのだから――。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ラフィ・シザー
アナンシ(f17900)と
相変わらずオウガは空気を読まないな。
ここを作ったのは妖精さんと俺達だなんにもしていないお前になんてあげないよ。
ってやっぱり話は聞かないんだな…オウガってやつはだいたいそうだ。
アナンシ。妖精さん達の為にも話を聞かないオウガはやっつけちゃおう。

ん?雨を降らせてぶつけるには相手をしにんしてないといけないのか…。
じゃあ、俺はしばらくアナンシの後ろに隠れているよ。ふふ、アナンシは背が高いからな。俺くらい隠れちゃうぜ?
アナンシとタイミングも合わせて。
オウガに近づいたら。
UC【シーブズ・ギャンビット】で【暗殺】だ。


アナンシ・メイスフィールド
ラフィ君f19461と

香り高い紅茶にビスコッティ…そして楽しい御喋り
誰かね?その素晴らしい時間を壊す子は
そうだねえラフィ君。話を聞かない悪い子にはお仕置きしなければ、ね?

戦闘時はラフィ君を『かば』い行動
ラフィ君、確りと隠れていてくれ給えよ
敵のキャンディの雨は手にした剣にて叩き落す様『武器受け』しつつ【贄への誘い】にて生じさせた蜘蛛の足で敵の動きを止めんと試みよう
ふふ、君の君から見えているなら私からも見えていると言う事ではないね?
足止めを出来たならばラフィ君に合図を
此処は彼らが考え私達と作り上げた国だからね。…何もしていない君が好きにする権利等ないのだよ
さあ、大人しく退場し給え



●降りゆく雨に耐えながら
 巡る攻防。
 はじまりを迎えた戦いの中で、ラフィは軽く溜め息をついた。
「相変わらずオウガは空気を読まないな」
「香り高い紅茶にビスコッティ……そして楽しい御喋り。誰かね? その素晴らしい時間を壊す子は――」
 アナンシも実に残念だといった口調で言葉を紡ぎ、オウガを見遣る。
 対するハッピーシュガーは片目を瞑り、彼らに視線を返した。言葉は返されることはなかったが、アナンシとラフィを含めた猟兵や愉快な仲間達すべてを小馬鹿にしていることだけは分かる。
「ここを作ったのは妖精さんと俺達だ。なんにもしていないお前になんてあげないよ」
「そうだねえラフィ君。話を聞かない悪い子にはお仕置きしなければ、ね?」
 身構えたラフィに続き、アナンシも戦闘態勢を整えた。
 だが、ハッピーシュガーは他の猟兵と対峙しているため彼らのことなど眼中になかった。それに気付いたラフィは、無視かよ、と肩を竦めた。
「ってやっぱり話は聞かないんだな……オウガってやつはだいたいそうだ」
「困ったものだねえ」
「アナンシ。妖精さん達の為にも話を聞かないオウガはやっつけちゃおう」
「ああ、そうするとしようか」
 此方を向いていないなら好都合でもあり、何なら無理矢理にでも意識を向けさせるだけだ。そう決めたアナンシ達はハッピーシュガーへと立ち向かっていった。
 敵が降らせる飴の雨は幸いにもラフィ達には向かってきていない。
「ん? 認識されてないと当たらないのか……」
「ならばラフィ君、確りと隠れていてくれ給えよ」
「ふふ、アナンシは背が高いからな。俺くらい隠れちゃうぜ?」
 ラフィが鋭く察したことで、アナンシは彼を庇う形で背に隠した。そのままアナンシは敵に敢えて視認される位置に向かい、手にした剣でキャンディを叩き落とす。
 その間にラフィはタイミング計っていた。
 隠してもらっている以上、下手に攻撃はできない。それゆえに決定打になる一撃を打ち込める瞬間を狙うしかない。
 ラフィがじっとしている間もアナンシは力を発動させていく。
「君から見えているなら私からも見えていると言う事ではないかね?」
 アナンシが敵に視線を向ければ、地面から生じた蜘蛛の脚がハッピーシュガーを攻撃した。すると、ようやく敵の意識が此方に向く。
「……それがどうかしたのかい?」
 贄への誘いを受けても尚、ハッピーシュガーは次の手を打とうとしていた。それだけではなく、アナンシの背に隠れているラフィの姿まで認識してしまっている。
「しまった!」
「ラフィ君、もう隠すのは難しいらしい」
 すまないね、と告げたアナンシだが、ラフィを庇うことはやめなかった。攻撃するだけの力では足止めは叶わないが、大切な子を守り続けることはできる。
 ラフィも様子を窺うことは止め、ダガーを構え直した。
「アナンシ、よく狙っていこう」
「そうだね、油断はできない」
 敵は更にキャンディの雨を降らせはじめ、ふたりに容赦ない飴が襲いかかる。
 それらを刃で受けて斬り裂き、蜘蛛の足で絡め取ることでいなしていくラフィとアナンシ。共に戦う彼らは密かに誓っていた。
 たとえ苦戦しようとも、ラフィを――そしてアナンシだけは守りきる。
 何が変わろうともそれだけは違えない。お菓子の家で語ってきた自分達の物語や軌跡をこんなところで終わりにはしない。
 ただそれだけは確かなことなのだと感じながら、アナンシ達は戦い続けていく。
 

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

クラウン・メリー
ライラ(f01246)と

わわ、妖精さん達がピンチだ!
ライラ助けに行こう!

倒れている妖精さんをそっと起こして甘いお薬を渡す
このお薬飲んで。元気になるよ!

ここは君だけの国じゃない!
楽しくて甘い皆の夢の国だ!独り占めなんてさせないよ!

ライラ!ショーの続きをしよう!
手を叩けば、沢山のフリチラリアがひらりと舞い踊る
俺達の芸を見てってよ!

わぁ、ライラの魔法凄い!

カラフルボールをジャグリングしてから敵に投げて爆発させる
驚いた?まだまだこれからだよ!

ライラに声を掛けてからシルクハットを投げる
彼なら華麗にキャッチすると信じて

そこからフリチラリアを出せば、なんと大玉に大変身!
それをドカンと一発、敵に当てちゃうよ!


ライラック・エアルオウルズ
クラウ(f03642)と

愛らしい妖精を虫だとは、
何とも聞き捨てならないな
妖精も家も守り抜こう、クラウ

妖精が薬飲むの見届ければ、
他の妖精に託して避難誘導を
此処はどうか、僕らに任せてね

夢も菓子も分け合う方が楽しいのに
独り占めは勿体無いよ、御砂糖さん

――ああ、次の演目と往こうか
鞄から出す魔導書、戯れで花も出し乍ら
どうぞ、息飲んで目離さずと楽しんで

種も仕掛けも無いけれど、魔法ならば沢山だ
頁破り花弁と変えて、攻撃と共に視界阻害

掛かる声と受け取る帽子に驚けど、
成程最後の大技かと笑って差し出して

おおっと、
公演中に席を立ってはいけないよ
《属性攻撃:氷》で南瓜を凍らせ足止めし
さあクラウ、花火で最後を飾っておくれ



●此処から続くショーを
 倒れていた妖精は今、戦っている。
 それは他の猟兵が与えた力によるものだが、ハッピーシュガーが降らせる飴によって妖精達の力が徐々に削がれているのがわかった。
 クラウンとライラックは自分達が作ったお菓子の家にいた愉快な仲間を安全な場所に避難させた後、妖精の現状に気付く。
「わわ、妖精さん達がピンチだ! ライラ!」
「ああ、愛らしい妖精を虫だとは、何とも聞き捨てならないな」
 ライラックはクラウンの呼びかけに頷き、彼女達を戦線から離脱させるために動く。自分の国のために戦うという役目は十分に果たしただろう。
 クラウンはその力を与えた猟兵であるラビに視線を送る。すると彼はもう解除して良い頃合いだと頷き、妖精をライラック達に託した。
「こっちだよ、みんな!」
「さあ、家の影に隠れておいで」
 二人は戦う力を解かれた妖精達を連れ、戦いの被害が及ばぬ家の裏に向かう。
 その間に戦いを他の猟兵に任せることにはなったが、これこそが仲間との連携だ。クラウンは疲れ果てている妖精をそっと抱え、甘いお薬を渡す。
「このお薬飲んで。元気になるよ!」
「うん……ありが……と……」
 花咲く蜜と、虹映す朝露。きっと妖精も気に入ってくれるお薬はしっかりと受け渡された。ライラックは妖精達の様子を確かめ、誰にも死の危険はないと感じる。
「無理に喋らなくていい。後はどうか、僕らに任せてね」
 そして、ライラック達は心配して出てきた時計ウサギ達に妖精を任せ、戦場となっている広場へと向かう。
「妖精も家も守り抜こう、クラウ」
「うん、絶対に守るよ!」
 出来たばかりのお菓子の国だけれど、此処には素敵な思い出が出来ている。だからこそ平和を乱すオウガは倒すと決め、彼らは駆けていく。
 広場で猟兵と対峙するハッピーシュガーはクラウン達が戻ってきたことに気付き、面倒そうに肩を竦めた。
「おや、逃げ出したとばかり思ったのだけどね」
「残念だったね。ここは君だけの国じゃない! 楽しくて甘い皆の夢の国だ! 独り占めなんてさせないよ!」
「夢も菓子も分け合う方が楽しいのに独り占めは勿体無いよ、御砂糖さん」
 敵に対して強く宣言したクラウンに続き、ライラックは首を横に振る。後はこのまま戦うだけだが、ただ無慈悲に敵を葬るだけなのは自分達らしくはない。
 クラウンは先程まで愉快な仲間たちに見て貰っていた一幕を思い返す。
「ライラ! ショーの続きをしよう!」
「――ああ、次の演目と往こうか」
 呼びかけたクラウンが手を叩けば、たくさんのフリチラリアがひらりと舞った。同時にライラックが鞄から魔導書を取り出して戯れに花を散らす。
「……?」
「俺達の芸を見てってよ!」
「どうぞ、息飲んで目離さずと楽しんで」
 訝しげな顔をしたハッピーシュガーには構わず、二人はそれぞれの力を揮っていった。演出と思われた花は戦場を貫く一閃となって敵を穿ってゆく。
 対抗したハッピーシュガーはゴーストパンプキンの力を用いて広場を飛ぶが、クラウンはすかさず身を翻して体当たりを避けた。
「種も仕掛けも無いけれど、魔法ならば沢山だ」
 魔導書の頁を破り、再び花弁に変えたライラックはリラの花で以て敵の視界を塞ぐ。
「わぁ、ライラの魔法凄い!」
 その間にクラウンがカラフルなボールを器用にジャグリングしてから、次々と敵に投げて爆発させてゆく。
「なんだ、これは――!」
「驚いた? まだまだこれからだよ!」
 爆発と花の乱舞に驚くハッピーシュガーを見遣り、クラウンは次の一手に出る。
 ライラ、とその名を呼んだクラウンは取り出したシルクハットを投げ放った。彼なら華麗に掴んでくれると信じていた通り、次の瞬間にはライラックが帽子を見事にキャッチしていた。
 掛かる声と受け取る帽子。
 驚きはしたが、これはきっと大技に繋がる布石。ああ、と笑って差し出したシルクハットからは、クラウンの仕掛けたフリチラリアが飛び出す。
 恭しくお辞儀をして花の道を作ったライラックは薄く双眸を細めた。
 その花はなんと、瞬く間に大玉に大変身。
「いくよ!」
「くっ……そんなもの、受けられるわけがない」
「おおっと、公演中に席を立ってはいけないよ」
 クラウンの攻撃が来ることを察して避けようとするハッピーシュガーに気付き、ライラックは氷の魔力を紡ぎ出す。
 その狙いは敵自身ではなくカボチャ。
 氷撃によってゴーストパンプキンが凍ったことで大玉がオウガの間近まで迫る。
 そして――大きな爆発音と共に周囲に鮮やかな光が散った。
 彼らの戦い方は敵を撃退するだけのものではない。きっと、戦々恐々と広場を見守っている愉快な仲間達にとって希望を与える光景に映ったはずだ。
 そうして、戦いの物語は少しずつ終幕に近付いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティーシャ・アノーヴン
藤子(f08440)さんと。

そのような傲慢で建てた国は必ず滅びます。
貴方のやり方そのものは否定しません。
ですが、罪のない妖精たちを傷付けるのは許しません。
少々手荒になりますが、ご退場願いましょうか。

頼りにしています、藤子さん。
先ずは傷ついた妖精さんたちを助けましょう。
助けた妖精さんたちはこちらに。
少々、いえ・・・かなりの負担がかかりましょうけれど。
安全のためです、妖精さんたちを纏めて自然の力で癒します。
動けるようになった方から逃げて下さいね。

後は藤子さんを適所適所で癒しつつ、
相手との距離を見切り、攻撃に対してはオーラで防御しましょう。
流石に疲れました。下手に動き回って倒れないようにしなければ。


鵠石・藤子
ティーシャ(f02332)と

人のモン横取りして楽しもうってなぁ、ふてぇ野郎だ
かっこ悪ィって教わんなかったか?
行こうぜティーシャ、家を守る為に

いくらかの攻撃で牽制し、「藤花半月」
懐に斬り込む
まぁ、まずは当たろうが当たるまいが構わねぇよ
敵の反撃は予想の内、避けながら
妖精達を少しでも回収する
足元の妖精達を傷つけねぇようにな

後方で妖精達の安全を確保したら、
ティーシャに援護を任せて突っ込む
見切り、第六感で攻撃は避けて反撃を狙う
近接攻撃が大ぶりなぶん、隙も生まれるだろ
肉を斬らせてでも骨を断ってやるさ
当たらねぇに越した事はないが…
頼りにしてるぜ、ティーシャ
無理はすんなよ、倒れる前に…オレが斬ってやるからな!



●その背を支える力
 戦場となった広場に立ち、周囲を見渡す。
 チョコを固めた煉瓦造りの地面やキャンディの飛び石模様は、暴れるハッピーシュガーとゴーストパンプキンによって所々が破壊されていた。
 ティーシャは掌を握り締め、好き勝手に振る舞うオウガに対する思いを言い放つ。
「そのような傲慢で建てた国は必ず滅びます」
「ここまでやるとはな。人のモン横取りして楽しもうってなぁ、ふてぇ野郎だ。かっこ悪ィって教わんなかったか?」
 藤子はティーシャが静かな憤りを覚えているのだと察し、ハッピーシュガーに挑発交じりの言葉を投げかけた。それは本当に問いかけているのではなく、少しでも自分に敵の意識を向けさせるためだ。
「残念だけど、これまでずっと一人気儘にやってきたものでね」
 皮肉のつもりかい、とオウガは薄く笑む。
 その間にティーシャは保護された妖精の様子を確かめた。
 まだ十分に動けはしないようだが、妖精達には他の愉快な仲間がついてくれているようだ。自分が保護に向かわずとも他の猟兵が担ってくれたのだと察し、ティーシャはハッピーシュガーを倒すことに集中しようと決めていた。
「貴方のやり方そのものは否定しません。ですが……」
「やろうぜティーシャ、家を守る為に」
 言い淀んだ彼女に視線を向けた藤子は一緒なら何でも出来ると告げるように笑った。頷いたティーシャは覚悟を抱き、凛とした口調でオウガに宣言した。
「はい。罪のない妖精たちを傷付けるのは許しません」
「それじゃ、行くぜ!」
 ティーシャの言葉に同意を示し、藤子は地を蹴りあげる。妖刀を振り抜き、牽制代わりに振るったのは素早い一閃。対するハッピーシュガーは巨大なロリポップキャンディを掲げて藤子の一撃を受け止めた。
「ふふ、甘いね」
 弾き返された飴の斬撃が藤子を穿ち、鈍い衝撃を与える。
 だが、すぐに癒やしの力を振るったティーシャがその痛みを取り払っていった。
「頼りにしています、藤子さん」
「こっちこそ頼りにしてるぜ、ティーシャ」
 草花祝福法の力は白い光となって辺りを柔らかく照らす。藤子だけではなく物陰で介抱されている妖精達にも広がっていった。その分だけティーシャ自身が疲弊してしまうが、それも織り込み済みだ。
 ありがとな、と礼を告げた藤子は更に斬り込む。敵の反撃は予想の内。直撃をくらったことも次の一手を避ける足掛かりになる。
 振るわれたロリポップをよけながら、藤子は一気に踏み込んだ。
 相手の虚を衝くほどの急接近からの宙返り。そして、其処から勢いよく刃を斬り上げればハッピーシュガーの身体に深い傷が刻まれる。
 もし戦っているのが自分達だけだったならば、ハッピーシュガーが倒れていた妖精を人質にでもして戦い辛くなっていただろう。
 しかし既に妖精はオウガの周りにはおらず、しかと保護されている。
 もう何も懸念はないとして、藤子は全力の太刀筋で以て敵を斬り裂いていった。相手からも容赦のない一撃が振るわれ、その度に藤子の身が穿たれる。
 だが、その背後にはしかとティーシャが控えていた。自分の疲労すら厭わずに藤子を癒やす彼女の後押しは何よりも心強い。
「少々手荒になりますが、悪いオウガにはご退場願いましょうか」
「そうだな、肉を斬らせてでも骨を断ってやるさ」
「私も藤子さんをお守りします。どうか、私の分までお願いします」
 ティーシャが果敢に耐えているのと同じく、藤子も怪我など気にせずに前線に出続けている。彼女へとオーラ防御を巡らせ、ティーシャは祈るように両手を重ねた。
 再び放たれた光の癒やしが戦場に満ちる。
 藤子はハッピーシュガーと切り結びながら、草花の祝福を受け止めた。
「まだだ……まだ、戦える」
「私も支え続けます」
 ティーシャがこの背を支えてくれるから。
 藤子が前で刃を振るってくれるからこそ。
 だから、互いに力を揮い続けることが出来る。その方法や戦法が違っても、確かにティーシャも藤子も共に戦っている。
 そのことを感じながら、二人は倒すべき敵を瞳に映した。
 きっと、あと少しで勝利への路が拓ける。そのように確信しながら――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
f01543/イアさん

足を進めた一歩は
倒れ伏した妖精達を救出するイアさんを
身勝手な闖入者の視界から隠す為

指で軽やかに七つ、空中に星を描いたなら
繋いだ線がひかり浮かび
戒める楔となる

高速詠唱で機先を制し
敵技を封じて時間を稼ぎましょ

柔らかな霧が立ったなら
イアさんがきっと無辜の者達を助けた証だから
ゆるりと捕縛を解こう

然れど
敵に息をつかせるつもりは毛頭なく
己もまた
先程のいのち削りしひと時の痛みに揺らぐことなく
駈けながら抜刀、一閃

悪戯は此処までですよ
――ね?

走り抜けた先でイアさんと視線を交差
声を掛け合わずとも
同じ機で翔けたに違いなく

斯様に交わし合う想いは甘やかで
今日一番の砂糖菓子みたい、と
ふくふく笑み零す


イア・エエングラ
綾/f01786と
綾の行くのをみとめてそろり
妖精の子らのもとへと行こう
可哀想にな、痛かろに

ケープに包んで、巻き込まれぬよに物陰へ
七つ星の光る頃にはどうぞ優しい夢のもと
すこし休んでいらしてね、と招き降らすのは瓊翠
護ってくれたやさしい人と、また一緒にお茶しましょ

取って返すのは凛とした背のあなたのもとに
あなたの軌道に添うよに、紡ぎ放つ冱てる火を

ええ、ええ、お菓子としあわせの国を、
壊しているのはお前だもの
悪戯っ子にはお仕置きねえ

鮮やかな一閃にほうと目細め
織り合わせるのは蒼い焔を
掛け合わせたメニューのように
僕らの調和も良いものでしょう
応じ微笑えば最後の一匙

ね、存分に召し上がれ



●織り重ねる彩
 指先で描くのは七つの星。
 軽やかに示された線が繋がれば、ひかりが宙に浮かぶ。
 甘いロリポップを穿つように解き放たれた七つの星彩がハッピーシュガーを取り巻き、戒める楔となってゆく。
 綾が紡いだ七縛の符力は敵を見事に絡め取り、戦う力を封じていた。
「如何ですか、その星は」
「ふん、金平糖なら食べられたのだけどね」
 綾が問いかければ、ハッピーシュガーは不服そうに身を捩る。
 敢えて声を掛けて敵を縛ることで敵の気を引いた綾の後方。其処には保護された妖精の傍についているイアの姿があった。
「可哀想にな、痛かろに」
 既に愉快な仲間達に介抱を受けていたが、妖精の身体は震えていた。
 イアはそっと彼女らをケープに包み、戦いに巻き込まれぬように更なる物陰へ隠す。苦しんでいる様子の妖精にはきっと、安らかな微睡みをあげればいい。すこし休んでいらしてね、と告げたイアは透輝石の雨霧を降らす。
「護ってくれたやさしい人と、また一緒にお茶しましょ」
 そして、妖精の無事を確かめたイアはすぐに戦場に戻ってゆく。
 駆けた先、見えたのは七つ星のひかり。
 イアは綾の傍らに立ち、妖精達はみな優しい夢のもとにいると伝える。
「では、参りましょうか」
 綾も後方で柔らかな霧が立ったことを感じていた。無辜の者達を助けた証だと知っているから、何も心配はいらない。
 敵を縛っていた力をゆるりと解き、綾はハッピーシュガーを見つめる。
「やれやれ、やっと解いてくれたか」
「ええ。けれど、この手を止めるつもりはありません」
「そうね、お邪魔するなら還しましょ」
 綾は敵の言葉に声を返し、地を蹴って駆けた。距離を詰めると同時に鞘から抜き放った刃を斬りあげる。
 イアも彼の軌道に添う形で冱てる火を紡いで放った。
 剣閃と炎を同時に受けたオウガは思わず後方に下がる。息をつかせるつもりだってないと示すように綾は更なる一撃を振り下ろす。
 だが、咄嗟にロリポップを掲げたハッピーシュガーが反撃に入った。
「邪魔だ!」
 一閃が綾の身を穿つ。されど痛みに揺らぐことはなく、綾は衝撃に耐えながら身を翻した。その真横をイアが放った魔力が擦り抜け、オウガの追撃を防ぐ。
「悪戯は此処までですよ。――ね?」
「ええ、ええ、お菓子としあわせの国を、壊しているのはお前だもの」
 綾は前に。イアはその背を支えるように後ろへ。
 隣同士でなくとも並び立つふたりの息はぴたりと合っている。綾が右から敵へと迫れば、退路を断つようにイアが左から火を巡らせた。
 ハッピーシュガーが騎乗するカボチャお化けを貫いた冴の刃が薄く煌めく。その光もまた、あの星のよに綺麗だと感じたイアは双眸を緩めた。
 されど、オウガはふたたびカボチャを召喚してゆく。壊されても未だ己の力は残っているのだと主張するように、何度も、何度も。
 愉快な顔をしたカボチャは可愛らしいが、幾度も続くならば飽きてくる。
「悪戯っ子にはお仕置きねえ」
 イアの言葉が落とされれば、頷いた綾が視線を向ける。
 走り抜けた先。眼差しが重なり、ふたりは合図をするまでもなく同時に動いた。
 先んじて刃を振るった綾。
 その鮮やかな一閃に、ほうと目を細めたイアは蒼き焔を織り合わせる。
 まるでそれは、先程のお茶会で掛け合わせたメニューの如く、上手く重なることで戦場に巡っていった。
 斯様に交わし合う想いは甘やかで、今日一番の砂糖菓子みたいだ。
 戦いながらもふくふくと笑みを零す綾は容赦なく、ハッピーシュガーを斬り刻む。
「この甘さを、貴方にも」
「ね、僕らの調和も良いものでしょう」
 さあ、存分に召し上がれ。
 綾の声に応じたイアが微笑えば、次の一手は最後に続く一匙となる。鋭い斬撃と蒼を映して揺らめく炎。瞬く間にお菓子の道化が穿たれ、大きく揺らぐ。
 そして、戦いの行方は終幕に向けて転がりはじめた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エドガー・ブライトマン
この国はキミに渡さない
ここは妖精君や時計ウサギ君、かれらの国だ
キミの方こそ海へ帰ってもらうよ

民が痛めつけられて、ひとつの国が奪われようとする
王子様として許せない状況だ
平和を取り戻さなくっちゃ。コレも王子様の仕事だね

ハッピーシュガー君
自分の国にすると言うけどねえ
恐怖でひとは支配しきれないよ。民あっての国なんだから
妖精君らに攻撃が届きそうな際は《かばう》

降り注ぐキャンディの雨は剣で払い
キミとの間合いを詰められたなら、“Jの勇躍”

狙いはキミと、そのお菓子のバスケット
キミがバスケットを手放したなら、
すこしは雨を防げるだろう

お菓子なんて食べながら国が盗れるワケないだろう
あんまり王子様を舐めない方がいいぜ


樹神・桜雪
ここは妖精と愉快な仲間たちの国だよ。仲間に入れて欲しいならそう言いなよ。無理だろうけど。

へえ、お化けカボチャ呼ぶんだ。数が増えても何とかなる…かな?
ハッピーシュガーを薙ぎ払いでけん制しつつ、UCで反撃を試みるね。
攻撃は第六感で回避。無理そうなら捨て身の一撃でカウンター入れるよ。
大丈夫。無理はしていない。
だって、僕に素敵な贈り物をくれたんだ。守らなくちゃ。
ねえ、オウガさん。そこ、どいてくれないかな。
優しくしてくれた友人たちの手当てしたいんだ。さっさとどいて。
そして、出来るなら消えてくれると嬉しいんだけどな。


瀬名・カデル
せっかく妖精さんとみんなで一緒に作ったお菓子を家を壊すだなんて…
この国は君だけのためにあるわけじゃないんだからね!

とらえた妖精さんも解放させてもらうよ!
アーシェ、準備はいい?
他の人と協力しながら、ボクたちも戦おう!

妖精さんをハッピーシュガーから解放させることを目的に
前衛で戦う人たちの援護になるように魔法で攻撃
ハッピーシュガーの気が妖精さんからそれたなら
目の届きにくい背後のほうから羽で飛んで一直線

行くよ、アーシェ
君に光を
ボクの祈りを

弱き者の救済が為に
その身に力を宿し給え

その手から妖精さんたちを離してもらうよ!
妖精さんたちを無事に開放出来たらまずは避難
出来れば救助活動で応急処置をする



●守るべき場所の為に
 暴れるカボチャお化けに降り続けるキャンディの雨。
 ハッピーシュガーがロリポップを一振りすれば、甘い香りと共に衝撃波が散る。
 戦いの最中、カデルは憤りを覚えていた。
「せっかくみんなで一緒に作ったお菓子の家を壊すだなんて……」
 いま、皆で作った家だけではなくお菓子の国自体がオウガに蹂躙されようとしている。この状況に怒らない方が無理だという局面だ。
「この国は君だけのためにあるわけじゃないんだからね!」
「いいや、僕のためにあるようなものだね」
 カデルが強く言い放つと、ハッピーシュガーはくすりと笑った。
 その間にも敵の攻撃は放たれる。
 カデルと共に戦うエドガーは降り注ぐ飴を避け、マントを翻しながら敵へと切り込む隙を窺っていた。同様に桜雪もカボチャに乗る敵を見据え、戦いに身を投じている。
「この国はキミに渡さない」
「ここは妖精と愉快な仲間たちの国だよ。仲間に入れて欲しいならそう言いなよ」
 エドガーが宣言すると、桜雪も深く頷くことで同意を示す。
 無理だろうけど、と桜雪が告げたのはハッピーシュガーの言動があまりにも横暴で自分勝手だからだ。
「アーシェ、来るよ!」
 カデルは降りゆくキャンディを避け、人形のアーシェと一緒に立ち回っていた。
 するとオウガが更に口をひらく。
「おや、もうすぐ僕の国になるのにね」
「違う。ここはずっとかれらの国だ」
 エドガーは首を横に振り、この場所は未来永劫に誰の手にも渡さないと宣言する。しかしハッピーシュガーは不敵に笑うだけ。
「さっさと全員、出ていってくれればいいものを」
「キミの方こそ海へ帰ってもらうよ」
 そう、骸の海に。
 そして、エドガーとカデルは保護されている妖精達に意識を向ける。他の猟兵や時計ウサギ達がしかと付いてくれているゆえに心配はないだろう。
 だが――民が痛めつけられて、ひとつの国が奪われようとする。
 この状況は王子として許せない状況だ。
「キミを倒して平和を取り戻さなくっちゃ。コレも王子様の仕事だね」
 エドガーがレイピアの切っ先を差し向けると、ハッピーシュガーは出来るものならばやってみろと言わんばかりに口許を歪めて笑った。
 其処へ駆けた桜雪が薙刀を振り下ろす。
「おっと、危ない」
「そのお化けカボチャ、結構素早いんだね」
 敵は即座に騎乗しているカボチャと共に後方に飛んだ。しかし、今の桜雪の一閃はただの牽制だ。少しでも介抱されている妖精達から遠ざけられればそれでいい。
 するとオウガは踏み込み、ロリポップを桜雪に向けて振り下ろした。
 その瞬間、鈍い衝撃が走る。
 避けきれなかったが、桜雪は痛みにしかと耐えていた。その様子を察したエドガーが素早く敵と彼の間に立ち塞がり、鋭い剣戟でオウガを穿った。
 更にカデルがアーシェに呼びかけ、翼を広げて敵との間に割り入る。
「今の、すごく痛くなかった?」
「平気かい?」
「大丈夫。無理はしていないよ」
 カデルとエドガーからの気遣う声に桜雪は問題ないと答える。これくらいの傷が何だと示すように桜雪は体勢を立て直し、思いを言葉にしてゆく。
「だって、みんなは僕に素敵な贈り物をくれたんだ。守らなくちゃ」
「そうだね、かれらのためにも――」
「絶対にこの国を守りきらなきゃ!」
 今こそ、自分達の力を存分に揮うべきときだ。
 視線を交わしあった三人が抱く思いは同じ。愉快な仲間たちは美味しいお菓子と楽しい時間をくれた。
 皆で作った国だからこそ、此処に生まれた幸せを守りたい。
 それに、この世界はまだ物語のはじまりを迎えたばかりなのだから。
 カデルはこの思いを形にすべく、両手を重ねる。
「行くよ、アーシェ」
 ――君に光を、ボクの祈りを。
 ――弱き者の救済が為に、その身に力を宿し給え。
 カデルが放つ聖なる光がアーシェに宿り、更なる力となって巡っていく。踊るように敵へと駆けたアーシェが一閃を見舞えば、オウガの身が僅かに揺らいだ。
 其処に隙が生まれる。
 桜雪は華桜の刃をくるりと切り返し、ふたたびハッピーシュガーの元に駆けた。またロリポップが振るわれたが、それはもう見切っている。
 反撃として桜雪が刃を振るえば、其処から氷の花が咲き誇っていった。
 降りしきるキャンディの雨を打ち消していくように氷花が舞いあがり、桜雪はエドガーに視線で合図を送る。
 その眼差しに応えたエドガーは氷の花が作ってくれた道筋を辿る形で駆けた。
「ハッピーシュガー君」
「なんだい、王子様気取りのキミ」
 エドガーが敵に呼びかけると、相手は片目を瞑って嘲る。しかしエドガーはそんな挑発になど乗らない。
「自分の国にすると言うけどねえ、恐怖でひとは支配しきれないよ」
 民あっての国。
 それは嘗ての父の言葉から身に沁みて感じていることだ。
 ――民のために戦い、誰かを救い、矜持を剣に。
 エドガーはいつかの言葉を思い出しながら、敵との距離を一気に詰める。マントを翻して、真っ直ぐに突き放った剣。
 その一撃はハッピーシュガーが持つ菓子のバスケットごと相手を貫いた。
「しまった……!」
 その瞬間、籠が敵の手から落ちる。
 エドガーはすぐにハッピーシュガーを阻む形で立ち塞がった。
「キミのバスケットから飴が降り出していたからね。もう拾わせないよ」
「残念だね、もうあの雨の力は使えないね」
「ボクもアーシェも、ここは通さないよ!」
 桜雪とカデルもエドガーと共に並び立ち、凛と宣言する。
 敵は徐々に追い詰められていた。未だ体力は残っているようだが、攻撃の一手を封じられたことで怒りを覚えはじめている。
「どうして思い通りにならないんだ!? この国は僕に相応しい場所なのに!」
 憤るオウガは叫ぶ。
 だが、その声は誰にも理解されぬまま虚しく戦場に響くのみ――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・ゆず
国を作るのを手伝いたいという『善』が
オウガという『悪』を引き付けてしまったんですね
大丈夫、今助けに行きます

スクールバッグは置いて、身軽になって肉薄しましょう
腰後ろのホルスターからFN Five-seveNを引き抜いて撃ちます
まずは手を
悪さをするおててはそれですね?
銃底で頭部を横殴りにして、弾を吐き切った銃を投げ捨てます
流れ出た己の血をぺろりと舐めとれば
わたしはなりたかったあたしに成り代わる
血を流すほどに体が軽くなっていく
プッシュダガーをオウガの身体に押し込んで
骸の海へ送ってやろう

ほんとは、オウガさん
貴方のことも救いたいんだ

『優澄』
そんな名前にふさわしい振る舞いが、出来てるかな



●わたしとあたし
 広場の隅に置かれたスクールバッグ。
 開いた鞄から取り出されていたのは銃火器と弾倉。
 その数歩先には今、オウガと戦うゆずの姿がある。戦場となった広場に降るキャンディの雨は他の猟兵によって消し止められ、ハッピーシュガーが操るカボチャお化けも召喚されるやいなや砕かれていた。
 ゆずは素早く立ち回りながら、腰後ろのホルスターから引き抜いた銃器で以て標的に容赦ない弾丸を撃ち込んでいっている。
 きっと、今の状況はこうだ。
 国を作るのを手伝いたいという『善』がオウガという『悪』を引き付けてしまった。
 善と悪は表裏一体。
 平穏が永遠に続くことなどない。いつか不穏が襲い来ることをゆずは知っている。
 これまでがそうだった。だから、世の不条理はよく分かる。
 けれど――。
「大丈夫、この国は守ってみせます」
 今の自分は『猟兵』として在る身。手の届くものを救い、元あった平和を取り戻すこと。それが己の役割だ。
 妖精達は既に保護され、安全な場所にいる。それゆえに何の心配もない。
 ゆずは敵が揺らいだ瞬間に狙いを定め、ひといきに肉薄した。
「悪さをするおててはそれですね?」
「なっ――!?」
 他の猟兵に気を取られていたのだろう。ハッピーシュガーは瞬時に間合いに入ったゆずの姿に驚いた。その瞬間、間近から銃弾が撃ち放たれる。
 手を貫かれたオウガが怯んだ隙を突き、ゆずは流れるような動きで銃底を敵に向ける。其処から頭部を横殴りにし、弾を吐き切った銃を投げ捨てた。
 だが、悪足掻きとして腕を伸ばしたハッピーシュガーの一閃がゆずの肌を裂く。
 しかし彼女は身を翻し、流れ出た己の血を舐め取った。
 その瞬間――『わたし』は、なりたかった『あたし』に成り代わる。
 殺戮を厭わぬ者へと変貌したゆずは一気に勝負を付けに掛かった。銀のプッシュダガーを素早く取り出した彼女は勢いのままに刃をオウガの身体に押し込んだ。
 骸の海へ送ってやろう。
 そう決めているゆずだが、止めを担うのは自分だけの役目ではないと分かっている。そして、ゆずは此処で戦い続ける皆に呼びかけた。
「終わらせましょう、この戦いを」

●終幕は花とお菓子で
 最後は、そう――この国を思う皆で。
 ゆずは更に刃を深く抉り込むことでハッピーシュガーを足止めする。
「ほんとは、オウガさん。貴方のことも救いたいんだ」
「戯言を……!」
 哀しげな瞳を向けたゆずの言葉を聞き、オウガは苦痛に満ちた声をあげた。そうですよね、と頷いてから後方に跳んだゆず。
 其処にひらいた射線を利用し、呼び掛けに応えたアナンシが敵を見据える。
「さあ、ラフィ君」
「やろうぜ、アナンシ!」
 互いに呼びあった二人はオウガへ其々の力を揮っていった。
 ラフィは上着を脱ぐことで加速し、ダガーによる素早い一閃で。アナンシは視線を向けることで生じさせた蜘蛛の脚で敵を貫く。
「此処は彼らが考え私達と作り上げた国だからね。……何もしていない君が好きにする権利等ないのだよ。さあ、大人しく退場し給え」
 贄への誘いが巡り、ラフィの一閃がオウガを切り裂いた。
 其処へ、カデルが追撃に入る。
「アーシェ、ボクたちも最後まで戦おう!」
 大切な相棒に語りかけたカデルは渾身の力を揮い、アーシェもくるりと踊るように舞いながら敵を穿っていった。
 カデルに続き、竜槍を構えたユヴェンもオウガを貫きに向かう。
「時期は過ぎたが、確か豆まきという風習があってな。それに倣って、代わりに金平糖でも撒いてみるのも一興か?」
 ユヴェンはオウガが取り落してしまっていたお菓子の篭から金平糖を拾いあげ、戯れに振りまいた。そして――ひといきに踏み込み、槍の一撃を見舞う。
「鬼は外……なんてな」
「それ、面白いね」
 ユヴェンの言葉と行動を聞き、桜雪は薄く笑む。そして自分も攻勢に出るべく、氷の花を降らせていった。
「ねえ、オウガさん。そこ、どいてくれないかな。優しくしてくれた友人たちとまたお茶会をしたいんだ」
 そして、出来るなら消えてくれると嬉しい。
 冷たく凍てつくような視線を差し向けた桜雪は敵を氷花で包み込む。
「く、う……こんなもの……」
 ハッピーシュガーは痛みから逃れようと足掻く。だが、綾とイアが敵の背後に立つことで退路を防いでいた。
「もう逃げられません。どうぞ、覚悟を」
「あなたの甘さも、嫌いじゃなかったけど」
 もう、終わりね。
 イアが告げれば、綾が冴える刃を振り下ろす。そしてイアが揺らした冱てる火が砂糖の君を燃やしてゆく。
 冷謐に凍れる真冬の剣閃に灯る炎は、終わりへの礎。
 だが、イア達の攻撃を受けたハッピーシュガーは最後の力を振り絞る。
 近くに迫っていた藤子に狙いを定めた相手は折れたロリポップを振るった。刹那、藤子の身体が横薙ぎに穿たれる。
「藤子さん……!」
「悪い、ティーシャ……!」
 だが、すぐさまティーシャが癒やしの力を藤子に施した。痛みが取り払われる中で体勢を立て直した藤子は、彼女がかなり披露していると察して謝った。
「いいえ。ですが流石に疲れました」
 下手に動き回って倒れないようにしなければならないと己を律したティーシャ。その身を守ろうとする形で藤子が反撃に移った。
「無理はすんなよ、倒れる前に……オレが斬ってやるからな!」
 宣言通り、藤子はハッピーシュガーに鋭い一閃を放ち返した。更に其処にエドガーが斬り込んでいくことで追撃に入る。
「お菓子なんて食べながら国が盗れるワケないだろう」
 地に落ちたままのバスケットをちらと見遣ったエドガーは凛とした声で告げる。
 そして、一気に踏み込む。
「あんまり王子様を舐めない方がいいぜ」
 突き放たれた刺突剣。その一撃がオウガの胸を真っ直ぐに貫いた。
 ああ、と呻き声をあげたハッピーシュガーはよろめく。周囲を見渡した彼は憎々しげな言葉を落とした。
「僕の、国が……なんで……こんなことに……」
「哀れだね」
 その声を聞いたまどかは蔑むように呟き、灰狼に更なる追撃を願った。
 そして、きよもデッキブラシを振り上げて最後の一撃を見舞いに駆けてゆく。きよに合わせ、太陽の傘を携えたオズも敵に狙いを定める。
「お前だけの国じゃねぇんだよ!」
「ひとりじめするからだよ。みんなでなかよく食べたほうがおいしいんだよ」
 愉快な仲間たちに披露した人形劇のように。
 ただ一歩、仲良く歩み寄ることができればよかったのに。
 きよとオズは倒すしかない相手を見据え、同時にデッキブラシとガジェットの傘を振り下ろした。衝撃が敵を襲い、その身体が大きく傾ぐ。
 ラビは好機だと読み、そうだそうだ、とオズ達に同意する声をあげた。
「美味そーな攻撃しやがっても、全然欲しいと思わねェ。おかげサマで、腹ごなしは済んでるしな。それに……独りよりも一緒に食った方が絶対に美味いんだからな!」
 きっと、彼女も――。
 どうしてかふと浮かんだ思いは余所に遣り、ラビは黒剣を横薙ぎに振るった。
 刃の一閃は敵への決定打になる。
 あと一撃で戦いが終わると察したゆずとカデルは、今まさに敵に迫らんとしている仲間に後を託した。
 その役目を担うのは、ライラックとクラウンのふたりだ。
「さあクラウ、花火で最後を飾っておくれ」
「うん! 君とはここでお別れだけど、最後に楽しいものをあげる!」
 ライラックが投げたシルクハットは再びクラウンの手に戻る。そして――其処からフリチラリアとリラの花が散り、瞬く間に辺りが鮮やかな色に満ちた。
 弾ける花火。
 倒れ伏し、虚空を見つめるハッピーシュガー。
 その瞳には花の彩が映っていた。そうして彼は薄く微笑み、骸の海に還っていく。
 そうして、戦いが終わった後。
 広場には終幕を彩るかのような淡い花がいつまでもいつまでも降っていた。


 🏡 🍭 🍰 🎂 🍪 🍫 ☕ 🍩 🍮 🍬 🏠


●ハッピーエンドシュガータイム
 お菓子の国に訪れた危機は、猟兵達の力によって退けられた。
 倒れていた妖精はもうすっかり元気だ。隠れていた時計ウサギや、愉快な仲間達も猟兵の勇姿を見守っていたらしく、戦いを終えた彼らをわあわあと迎えた。
 そうして、お菓子の国では再びお茶会やお話の時間が始まる。
 
●たこ焼きパーティー!
 きよとオズは今、たくさんの愉快な仲間に囲まれていた。
「たこやきください!」
「おっきいタコさん入りのください!」
 なんと戦いの最中に用意した屋台に興味を示した彼らが次々と集まっていたのだ。
「オズ、そこの舟皿の出来上がってるから渡してやってくれ!」
「これでいい? はい、どうぞ」
「たこやきくださーい! あと十人分!」
 きよはたこ焼きを焼くのに大忙し。オズもその手伝いを行っている。そんなにかよ、と驚くきよの横でオズは楽しげに笑う。
「まさかこの国でも屋台をやることになるなんてな」
「でもキヨ、みんなよろこんでくれてるよっ」
「おう! だから頑張って焼くぜ。手伝ってくれよな、オズ」
「うんっ」
 きよの言葉にオズが大きく頷く。
 どうやら、ふたりの賑わしくも楽しい忙しさはまだまだ暫く続きそうだ。
 
●美味しいお菓子の家
「おお、この家を食べて良いのか?」
 こっちこっち、と誘う妖精にラビが連れて来れられたのはお菓子の家の前。
「うん、壊れちゃった家だけどどうかなあ?」
「食べる! 出遅れちまったからちょっと残念だったんだよなァ」
 ラビは快く頷き、妖精に勧められるがままにお菓子の家に手を伸ばした。少し崩れてはいるが食べるのには問題ない。
 クリームが乗ったウエハースの壁を剥がしていると、妖精がラビに声を掛けた。
「あのね、ラビさん」
「ん?」
「この国のために、わたしたちを一緒に戦わせてくれてありがとう」
 それは自分達を操って戦線に加えてくれたことのお礼だ。ラビは頷き、こちらこそ、と感謝の言葉を返して笑った。
 
●異文化交流
「ねえねえ、さっきの鬼は外! っていうのなあに?」
 数人の妖精がユヴェンの周りをひらひらと舞い、戦いの最中に彼が言っていたことについて問いかけてきていた。あれを聞かれていたのだと知ったユヴェンは少し恥ずかしそうに頬を掻いた。
「俺もそれほど詳しくはないのだが、サムライエンパイアの行事で――」
 知り得る限りを伝えていくユヴェン。
 すると妖精達はそれがいたく気に入ったらしく、金平糖を取り出してきた。
「オウガはそとー!」
「おかしはうちー!」
 少し違うが、金平糖が振り撒かれる光景は何だか可愛らしい。きっとこうして文化は伝わっていくのだろう。
 ユヴェンはミヌレと共に妖精達を見守り、薄く笑みを浮かべた。
 
●きっと、仲直り
 崩れて壊された物々。
 それを見ていたまどかにも想う所が無いわけではなかった。しかし今、元気になった妖精達によって壊れた家は直されていた。
「あの……」
 まどかが広場の隅でその光景を見ていると、ひとりの妖精――最初に泣かせてしまい、オウガによって倒れていた彼女――が、声を掛けてきた。
「助けてくれて、ありがとう」
 お礼を言いに来たのだろう。おずおずとした声だったが、妖精はまどかにしっかりと感謝を伝えた。
「別にお前だけを助けようとしたわけじゃないよ」
「うん……お礼をいいたかっただけ、だから」
 ふたりの間にそれ以上の会話はなかった。しかし、当初のような擦れ違いはもう無いように思える。それじゃあ、と妖精が手を振って去ろうとした。
 するとまどかはその背に声をかける。
「お前たちは此処を自国にしたいのだろう? 色々言ったけれど、僕達の力はもう必要ないと思っているよ。だって――」
 その方法はもう既に識っている筈だから。
 
●もう一度、お話を
 ラフィとアナンシは今、再びお茶会に招待されていた。
 愉快な仲間に囲まれた彼らがねだられていたのは戦いのお話。
「ふたりともかっこよかったねー」
「ねえねえ、どうやったらあんなに強くなれるの?」
「ふたりの戦いの話、聞かせて!」
 妖精や時計ウサギ達は先程のお茶会と同じように好き好きに聞いてくる。アナンシはビスコッティをもう一度頂きながら、ラフィと視線を交わしあう。
「さて、どうしようかラフィ君」
「そりゃ話すしかないだろ。俺達が戦ってきたことを!」
「それならば決まりだね」
「じゃあ何から話そうかな。あれなんかどうだ、アナンシ」
 話しはじめたラフィへ興味津々な瞳を向け、きらきらとした期待の表情を浮かべる。そうして、彼らの話は更に語られてゆく。
 
●彼女の名前
 広場の片隅、スクールバッグを抱えたゆず。
 ウエハース製の二人掛けのベンチに座っているのは、先程にお茶会に招いてくれた落ち着いた様相の時計ウサギだ。
 この国を守ってくれた礼を告げた彼は、ゆずに少し話がしたいと言った。
「聞き忘れていたことがあってね」
「何ですか?」
「ああ、あのお話の女の子の名前さ。素晴らしい意味を持つ子の、ね」
「…………」
 時計ウサギに問われ、ゆずは少しだけ思い悩む。しかし、彼ならきっとあの名前を馬鹿にしたり、言いふらしたりもしないだろう。
「……『優澄』です」
「そうかい、そうかい。やはり素敵な名前だね」
 彼は穏やかに微笑むと、俯きがちなゆずの顔をそっと見つめた。そして、似合っているよ、と優しく告げる。
 ――やさしく、すみわたる。
 そんな名前にふさわしい振る舞いが、出来ているかな。
 改めて己の名前を思ったゆずはやさしい景色が広がる国を暫し見つめていた。
 
●ちいさなサーカス
 ぱちぱちぱち。
 サーカステントめいたお菓子の家の前ではショーがひらかれていた。
 響く拍手の最中にいるのはクラウンとライラック。彼らは現在、まだ手品を見ていない愉快な仲間達にせがまれて公演を行っている。
「わー、かっこいいー!」
「すごいすごい! そのお花って魔法で出来てるの?」
 瞳をきらきらと輝かせる妖精や時計ウサギはすっかりご機嫌。もうきっと彼らの中には国が襲われたことの怖い気持ちは残っていない。
「魔法かもしれないし、違うかもね!」
 クラウンはにこにこと笑い、妖精達にジャグリングを披露していた。
「ああ、秘密さ」
 ライラックも種明かしはしない方が楽しみが広がるのだと告げ、片目を瞑っておどけてみせる。くすくすと笑う妖精はとても楽しんでくれていた。
「クラウ、次はもっとすごいアレを見せてあげるなんてどうだろう?」
「まさかアレを? いいね、ライラ! それじゃあ準備をしよう!」
 微笑みあったふたりは物凄いショーの準備を始める。
 はたしてアレとは。
 その出し物の正体はちいさなサーカスショーを見た妖精達だけが知っている。

●疲れには紅茶を
 お菓子の家の中、穏やかな時間が過ぎていく。
 皆を癒やしたことで疲労が蓄積していたティーシャは今、藤子と一緒にふかふかの綿菓子のソファに座って寛いでいる。
 彼女達の前にはお茶会のときと同じ紅茶が用意されていた。
「紅茶を飲むと落ち着きますね」
「ああ、戦いの後に誘ってくれて助かったぜ」
 藤子達は前線で戦い続け、癒やしの力を振るうことで皆よりも傷ついていた。そんな彼女達に休息をして欲しいということで、愉快な仲間達がお茶に誘ったのだ。
「もう暫くゆっくりしていってね」
 妖精はふたりに感謝を告げ、ふわふわと笑った。
 こうしていると国を守りきったということがよく実感できる。ティーシャと藤子は微笑みあい、この傷も疲弊も無駄なものではないのだと確かめあった。
「そっちの焼き菓子、貰っていいか?」
「私はそのドーナツを頂きたいです」
「うんっ、どんどん食べてね!」
 巡りゆく穏やかな時間。
 そうして、ティーシャと藤子は心地良いひとときを過ごしていった。
 
●感謝の気持ち
 ハッピーシュガーが倒れた後、桜雪は或る妖精に呼び止められていた。
「どうしたの?」
「あのね、あのね、作りすぎちゃったからあげる!」
 妖精は箱を持っており、それを桜雪に差し出す。彼の頭の上にいるシマエナガの相棒をちらりと見遣った妖精はきゃーっと照れて木の陰に隠れてしまった。
 何だろう、と桜雪は首を傾げる。
 そしてせっかく貰ったのだからと箱を開いてみた。其処にはたくさんの焼き菓子が詰まっている。そのどれもがつぶらな瞳と嘴のような装飾で飾られていた。
 そう、箱の中身はシマエナガお菓子セットなのである。
「見て、相棒にそっくりなクッキーだ」
 きっとあの妖精は助けてくれた桜雪をとても好きになってしまったようだ。妖精は桜雪が一番喜んでくれるものを考え、贈り物を渡しにきたらしい。
「ありがとう、大事に食べるよ」
 桜雪は木陰に隠れている妖精に手を振り、笑いかけた。
 惚れられたね。
 なんてことを相棒が思っているかもしれないことも知らず――桜雪は暫し、焼き菓子の箱を嬉しそうに見つめていた。

●大人のひととき
 苺タルトに弾けるシャンパン。ラム酒を織り交ぜたクッキー。
 オペラにカルヴァドス。アイスクリームにウィスキー。
 バーカウンターめいた一画があるお菓子の家の中、綾はイアの前には菓子に添えられた洋酒の数々が用意されていた。
「まあ、素敵ねえ」
「私達の話を聞いて作ってくれたのですか?」
 それはお菓子の家でのお茶会にてふたりが語っていた組み合わせだ。
 彼らを少し大人の雰囲気がする家に誘ったのは歳を重ねた雰囲気を持つ時計ウサギだった。ああ、と頷いた彼は是非に甘味と洋酒を味わって欲しいと願う。
「さあ、感想を聞かせておくれ」
「それでは、遠慮なく」
「ふふ、まさかほんとになるなんて」
 時計ウサギに勧められ、ふたりは快さを感じながらグラスを手に取った。
 其処に満ちるのは甘やかながらも落ち着いた空気。
 あらたな安らぎのひとときが、此処からはじまってゆく。
 
●この先も共に
 エドガーに贈られたのは、愉快な仲間たちからの感謝の言葉。
「ぜひこの国の王様になってよ!」
「あなたなら歓迎するわ!」
 妖精や時計ウサギは国を率先して守ってくれたエドガーにそのように願ったが、彼は少しだけ困った顔をしてから丁重に誘いを断った。
「ごめんね、私はまだ旅の途中なんだ」
 ねえ、オスカー。
 そっと呼びかければ、エドガーの周囲でツバメがくるりと回った。
「それなら仕方ないね」
「あなたたちの旅が良いものになりますように!」
 愉快な仲間達は物分かりがよく、エドガーの旅を応援してくれた。そうしてエドガーは彼らに別れを告げて手を振る。すると、エドガーを導くようにオスカーが森の方に羽ばたいていった。
 そういえば、と思い出した彼は森に向かうオスカーの後を追って歩き出す。
「そうだった、元気な虫を捕まえてあげるという約束だったね」
 共に進むひとりと一羽。
 王子とツバメが紡ぐ旅の物語はまだまだ、此処から続いていく。
 
●お菓子と倖せの物語
 ずらりと並んだ色とりどりの家々。
 来たばかりの時分は少し物足りなかった広場の周囲はもう、お菓子の街と呼べるほどに賑々しく楽しげな景色に変わっていた。
「アーシェ、見て!」
 カデルは皆で作りあげた世界を確かめながら歩いている。
 オウガに壊されてしまった家も愉快な仲間達が仲良く食べてしまい、すっかり新しい家に作り直されている。
 多少の怪我はしたものの誰も倒れず、平和は守られた。
「良いな国だね。ううん、これからもっと素敵な国になっていくのかな」
 アーシェと一緒に街を見て回ったカデルは穏やかな気持ちを抱く。のんびりと街並みを眺めていると、或る家の窓から妖精が手を振ってくれていた。
 カデルはアーシェと一緒に妖精に腕を振り返し、明るい笑みを浮かべた。
 そしてカデルは思いを巡らせる。
 
 ここはお菓子と倖せが満ちる国。
 どうか、これからも。この世界に素敵な物語が綴られていきますように――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年02月08日


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アリスラビリンス


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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠黒白・鈴凛です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト