●血気に逸る者達
その日、闇に閉ざされた村の酒場は、いつになく熱気に溢れていた。
別に、店が何らかの催し物を開いたり、祭事があったりしたわけではない。だが、そこに集まった客……否、村人の大半は、血気盛んな若者達ばかりであった。
「いいかげん、もう我慢の限界だ! 俺達は、いつになったら訓練の成果を発揮できるんだ!?」
「ああ、俺も同感だ。なんたって、こっちには聖女様の加護があるんだからな。吸血鬼にだって、負けるはずがねぇ!」
彼らの瞳に宿る妙な自信。その理由は、ここ最近で彼らに合流した少女にある。
「イリーナさんは俺達と違って、不思議な力が使えるからな!」
「彼女がいれば、百人力だぜ! 俺達、『闇の救済者(ダークセイヴァー)』の力で、吸血鬼の圧政から村を解放するんだ!」
酒の入ったジョッキを高々と掲げ、彼らは豪快に歌い、叫ぶ。その先にある未来が、新たなる絶望への入り口であるとは全く知らず。慢心の果てに待っているのは、残酷なる現実であるということにも気づかずに。
●聖女と救済者
「圧政に我慢できなくなって、ついに自分達で動き出す、ね……。絶望しかなかったダークセイヴァーも、随分と雰囲気が変わって来た感じね」
もっとも、その反抗が必ずしも良い未来を齎すとは限らない。むしろ、絶望にしか繋がっていないこともあると、グリモアベースに集まった猟兵達に、パトリシア・パープル(スカンクガール・f03038)は静かに告げた。
「わたし達、猟兵の活躍で、ダークセイヴァーに住んでいる人の中にも吸血鬼の圧政に立ち向かおうっていう人達が出て来たみたいなの。それ自体は喜ばしいことなんだけど……さすがに、ちょっと訓練した程度の村人集団じゃ、オブリビオンと戦うなんて無茶な話だわ」
パトリシアの話では、彼らは猟兵達のことを『闇の救済者(ダークセイヴァー)』と呼んで讃えており、自らもまたその名前を自称する。だが、その戦闘力は全員が束になっても、弱いオブリビオンをようやく1体倒せる程度だ。
「正直、このまま行動を起こされても、返り討ちに遭うのが目に見えているわ。でも、今回の事件が起こる村の人達、なんだか知らないけど妙に自信満々なのよね」
その原因は、ここ最近になって村を訪れ、彼らに合流した少女の存在が大きいという。彼女の名前はイリーナ・ヘルシング。アリスラビリンスからの帰還者であり、その後も猟兵達に幾度となく助けられ、吸血鬼の圧政に立ち向かって来た少女だ。
アリス適合者でもある彼女は猟兵でこそないが、それでもユーベルコードを少しだけ使用できる。だが、やはり猟兵と比べれば戦闘力は雲泥の差であり、弱いオブリビオンと1対1で戦って、辛うじて勝利を掴めるかといったところだ。
「そんなイリーナさんなんだけど、彼女の力とか過去の境遇とか聞いた村の人達が、彼女のことを『聖女』として担ぎ上げちゃったのよ。自分達よりも強い人が仲間になったから、それで勝てると思い込んじゃったのね」
だが、仮に1の力が2になったところで、100の力を持つ相手には敵わない。そして、間の悪い事に村人達の反抗を嗅ぎつけた領主が、配下のオブリビオンを集団で村に向かわせたようなのだ。
「あなた達には今から村に行って、闇の救済者の人達が無茶なことしないように説得して欲しいの。自分達の力で立ち上がろうっていうのは立派だけど、それで全滅しちゃったら洒落にならないからね」
幸い、イリーナは今回の騒動に対して良く思っておらず、できればしっかりと訓練を積んだ上で、入念に作戦を練って行動すべきだと考えている。彼女に協力してもらえれば、村人の説得も容易いかもしれない。
「説得が終わったら、後は皆で領主の配下を迎え撃ってね。配下は使い捨ての捨て駒みたいなオブリビオンだから、全滅させれば誰も領主に報告できないし、報復される心配もないから安心よ」
その際は、イリーナや闇の救済者の面々も協力してくれるはずだが、戦力として過剰な期待はしない方が良さそうだ。下手に突撃されて死なれても困るので、後方支援に徹してもらった方が得策かもしれない。
「折角、ダークセイヴァーにも希望が見えて来たんだもの。それを、こんなところで潰しちゃうのは、やっぱり勿体ないわよね」
それでなくとも、人の命が掛かっている以上、見過ごせる事態ではない。そう言って、パトリシアは猟兵達を、ダークセイヴァー世界の村へと転送した。
雷紋寺音弥
こんにちは、マスターの雷紋寺音弥です。
ダークセイヴァー世界でも、吸血鬼の圧政に対して反抗する人々が現れ始めたようです。
彼らは、とある少女を旗印に反抗作戦を考えているようですが、少しばかり自信過剰になっている模様。
なお、以前の依頼で何度か登場した少女、イリーナ・ヘルシングが登場しますが、特に以前の依頼を知らなくても判定には影響しません。
●第一章
血気に逸る『闇の救済者』の若者達を説得してください。
彼らはイリーナが仲間になったことで、かなり気が大きくなっています。
心を折らない程度に現実を見せた上で、彼らの信頼を勝ち取るのが目的です。
●第二章
領主が送り込んで来た配下のオブリビオンとの集団戦です。
イリーナや『闇の救済者』の面々も協力してくれますが、戦力としては、あまり期待しない方が良いでしょう。
●第三章
戦闘後の事後処理です。
オブリビオンの死体を埋葬しつつ、何か思うところのある人は、それを吐露することも構いません。
また、イリーナや『闇の救済者』達と、何らかの交流をすることもできます。
●イリーナ・ヘルシング
以前の依頼でアリスラビリンスより自分の世界に帰還した、アリス適合者のアリスナイト。
使用できるユーベルコードは【アリスナイト・イマジネイション】のみ。
これまでも何度か吸血鬼勢力と戦ったり、反対に囚われたりと、事件に巻き込まれてきました。
登場したのは以下の依頼ですが、特に知らなくとも今回の依頼に悪い影響はありません。
蘇る記憶! 扉の先は、光か闇か?(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=11001)
ダークネス・ラビリンス(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=11815)
カウンター・ハンティング(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=12112)
●闇の救済者(ダークセイヴァー)
猟兵達の行動を讃え、自らも吸血鬼の圧政に立ち上がった人々です。
訓練を積んでいるため一般人よりは強いですが、オブリビオン相手には力不足。
『闇の救済者<イリーナ<越えられない壁<猟兵』くらいの戦闘力です。
第1章 冒険
『そのままでは実らぬ抵抗』
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POW : 実力を見せつけるなどで説得する
SPD : 村人に不足する要素を指摘するなどで説得する
WIZ : 代替案を考えるなどで説得する
👑11
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館野・敬輔
【POW】
アドリブ連携可
この村の村人達と同じような服装で
黒剣のほかに鍛錬用の木の剣も持参
イリーナさんに久しぶりと声をかけつつ
村の現況を情報収集
…確かに危険な兆候だ
このままでは無駄死にが出かねないな
村人達に広場に集まってもらおうか
イリーナさん、手伝ってくれる?
村人に今の実力を見せてくれと頼んで
腕に自信のある者数名と対決
僕は木の剣しか使わないけど、油断はしないから負けはしないはず
全員に僕の実力を見せたところで
説得に移るか
圧政への不満がたまっているのはわかる
だが、今のあなた達の実力では
配下が群がれば村が全滅するのは明らかだ
今回は僕たちが矢面に立つ
今後のために後ろから観察して、色々学んでほしい
真宮・響
【真宮家】で参加。
イリーナ、闇の救済者に参加したんだね。行動を起せたようで良かった。まあ、確かにイリーナは強い信念を持つ立派な娘だ。・・・ただ、イリーナも力不足と思っているように、勢いだけではどうにもならない。なら、1つ捻ってやるか。
闇の救済者の実力を見てやるか。木の槍を持って、どこからでも掛かっておいで、と手招きする。アタシ1人を負かせないようならとても戦場には出せない。容赦なく薙ぎ払い、攻撃をいなして叩きのめしながら、「鍛錬が足りない‼もうちょっと訓練して出直しておいで」と怒号を上げる。
真宮・奏
【真宮家】で参加。
あの時の誓い通り、闇の救済者に参加なされたようで。イリーナさんは強い意志を持った方ですし、人を率いる器がある方である事は確かですが、旗印として建てられて無謀な戦いに出ようとしていると。困りましたね・・
【オーラ防御】【武器受け】【盾受け】を使ってから、戦いに出るなら、私を突破してみてください。まさか若い娘だから突進できないとかいいませんよね?皆さんは強いはずですから。娘1人の壁を突破出来ないようならとても危険な戦いに出せません。おとなしく引いて、私達猟兵にお任せを。
神城・瞬
【真宮家】で参加。
さて、困りましたね。確かにイリーナは強い意志を持つ方です。人に勇気を与えられる方である事は確かですが、勢いだけではどうにもなりません。イリーナさんも困っているようですし、何とかしますか。
僕は主に飛び道具を使う方に向かって、「まず、この鷲の群れを射落としてみてください」と月光の狩人を発動。射落とせない様子だったら、鷲を1のまま数匹襲い掛からせます。「どうですか?敵は空中から攻撃してくる可能性がありますし、不意に襲い掛かってくる事もあります」満足に対処できないようならとても戦場には出せません。同郷の方の犠牲は出せません。ここは僕達猟兵にお任せ願えますか?
●無謀なる反抗
ダークセイヴァー。永遠の闇と絶望に覆われた世界の空気は、いつ訪れても陰鬱だ。
早速、目的の村を訪れると、出迎えに現れたのはイリーナだった。てっきり、聖女として担ぎ上げられ、奥まった場所に控えさせられているかと思っていたが、割と自由に行動することはできるようだ。
「あの時の誓い通り、闇の救済者に参加なされたようで」
「行動を起せたようで、良かったよ」
真宮・奏(絢爛の星・f03210)と真宮・響(赫灼の炎・f00434)の二人が声を掛けたが、しかしイリーナの表情は優れない。それを察知し、館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)は挨拶も早々に、イリーナへ事の本題を問い掛けた。
「久しぶりだな、イリーナさん。ところで……村の様子は、どんな感じだい?」
「ありがとう。正直……あまり良い、とは言えない感じね」
敬輔の問いに、イリーナは顔を渋らせた。どうやら、決して手放しで喜べる状態でないことは、彼女の表情からも明白だった。
曰く、イリーナの話では、村人達の中に蔓延している反抗の気運は、もはや止めることができないところまで来ているという。しかし、確かに彼らも訓練を積んでいるとはいえ、所詮は素人に毛が生えた程度の力しか持っていない。
領主は元より、その配下に挑んだところで返り討ちに遭うのが関の山。だが、彼らはそれでも反抗が成功すると信じて疑わないとのことだった。
「村の人達は、私がユーベルコードを使えることで、彼らと互角に戦えると思っているみたいね。でも、それだけで勝てると思うなんて、はっきり言って甘過ぎるわ」
思わず、視線を下に落とし、顔を背けるイリーナ。自分の実力は、自分が一番知っている。ましてや、誰かの力に頼る形での反抗を考える村人達の末路など、想像するに難くないものだ。
「さて、困りましたね……。確かにイリーナは強い意志を持つ方です。人に勇気を与えられる方である事は確かですが、勢いだけではどうにもなりません」
あまりに状況の読めていない村人達の様子に、神城・瞬(清光の月・f06558)が顔を顰めた。
闇の世界で芽吹いた反抗の兆し。確かに、それは大切にせねばならないものだが、しかし勇気と無謀を履き違えられては困りもの。
「村人達に、広場に集まってもらおうか。イリーナさん、手伝ってくれる?」
なにやら考えがあるようで、敬輔はイリーナに仲間達を集めるよう依頼した。
ここはひとつ、村人達に教えてやらねばならないだろう。闇の救済者(ダークセイヴァー)を名乗るであれば、その名に相応しい力を備えていなければならないことを。無謀な戦いを煽り、人々を危険に晒すことは、決して希望へは繋がらないということを。
●彼らの実力
イリーナを担ぎ上げた村の者達が広場に集まった。彼らは皆、血気盛んな若者達だったが、しかし実力の程はどうだろう。
やる気こそあれど、武器は農具を改良したようなものばかり。畑に群がる害獣を追い払ったことこそあれど、実際にオブリビオンを……否、人の姿をした相手や、それ以上の力を持った吸血鬼とも戦ったことなどないのだろう。
「聖女様、なんですか、こいつらは?」
「心配しなくていいわ。彼らは皆、私の仲間よ」
ともすれば疑念の眼差しを向けて来る村人達を、イリーナが制した。そんな彼らの様子に、敬輔は不安を覚えずにはいられなかった。
(「……確かに危険な兆候だ。このままでは無駄死にが出かねないな」)
他人の力を自分の力と勘違いして大それたことをすれば、手痛いしっぺ返しが待っている。その代償は、彼らの命。さすがに、それはあまりに酷過ぎる。
彼らには自分の身の程を知ってもらった上で、身の丈に合った行動を取ってもらった方が良いだろう。そう考え、まずは瞬が狩猟鷲の群れを呼び出すと、弓や礫を持っている者達へ声を掛けた。
「あなた方のされようとしていることは、確かに正しいことでしょう。ですが、それには実力が伴わねばなりません。まず、この鷲の群れを射落としてみてください」
「ハッ! そんな簡単なこと、俺達に任せとけば楽勝だぜ!」
弓を担いだ狩人風の青年と、古めかしい猟銃を持った青年が前に出た。彼らの生業は、恐らく狩猟。狩りの腕前としては熟練したものがあるのかもしれないが、如何せん相手が悪い。
「悪いな、兄ちゃん。鷲に怪我させても恨むなよ……って、ありゃ!?」
放たれた矢を、瞬の鷲は、なんと爪で掴んで防いでしまった。ユーベルコードで呼び出した鷲だからこそできる芸当なのだが、そんなことは村人達には分からないだけで。
「くそっ! だったら、俺が撃ち落としてやる!」
今度は猟銃を構えた青年が盛大に弾を放ったが、それらの弾道を先読みし、鷲は軽々と避けてしまう。そればかりか、今度はお返しとばかりに二人へと襲い掛かり、その辺に転がっている石を拾っては投げつけ始めた。
「い、痛っ! な、なんだ、こりゃ!?」
「こいつら、鳥のくせに、なんでこんなに賢いんだよ!!」
森の獣とは異なる、戦闘用に訓練された狩猟鷲が相手では、さしもの狩人達でさえ手も足も出なかった。
「どうですか? 敵は空中から攻撃してくる可能性がありますし、不意に襲い掛かってくる事もあります」
そして、なによりも見た目で判断するのがよろしくない。本能だけで動いているように見えて、実は高い知能を持っているような吸血鬼の眷属は、特に珍しいものではないと瞬は釘を刺した。
「まあ、今のはほんの小手調べだよ。どうだい? 他に、腕前に自信のある者はいないかな?」
「何人でも構わない。どこからでも掛かっておいで。アタシ1人を負かせないようなら、とても戦場には出せないよ」
続けて、敬輔と響が武器を持って前に出た。もっとも、彼らの武器は刃さえない木の剣と槍。少し頑丈な木の棒程度の性能しかない。
「おいおい、いくらなんでも、そんな装備で大丈夫なのか?」
「こっちが農具しかないと思って、馬鹿にしてやがるな!」
仮にも訓練を積んで来たので、接近戦であれば負けはしない。そう言って敬輔と響に向かって来る村の若者達だったが、彼らの攻撃を捌くことなど、二人にすれば造作もないことだ。
「うぉぉぉっ!」
「甘いね。正面から力任せに打ち込むだけじゃ、簡単に返せるよ。……ほら、こうやってね」
まずは、敬輔に挑んだ若者が、軽く武器を弾き飛ばされて。
「くそっ! だったら、次は全員で……うわぁぁぁっ!?」
「鍛錬が足りない!! もうちょっと訓練して出直しておいで」
残る面々は、纏めて響による横薙ぎで、軽々と薙ぎ払われてしまった。
「うぅ……つ、強い……」
「さすがは聖女様のお仲間だ。でも、相手が騎士なんかじゃなければ、俺達だって……」
もっとも、中には騎士相手でなければ勝てると思い込んでいる者がいる辺り、かなり重症な集団だった。
これは、なかなか骨が折れそうだ。軽く溜息を吐きながら、最後に奏が若者達に尋ねた。
「はぁ……。それほどまで戦いに出たいのなら、私を突破してみてください。まさか、若い娘だから突進できないとかいいませんよね?」
そう言って、盾を構えて防御の姿勢を取ってみせる。一見、どこにでもいそうな女性が盾を構えただけとあって、さすがに勝てると思った若者達だったが。
「よ~し、任せろ! どぉぉぉりゃぁぁぁ……って、のわぁっ!?」
残念ながら、奏の防御は鉄壁で、突っ込んだ者の方が反対に吹き飛ばされてしまう始末。
「ほら、ご覧なさい。娘1人の壁を突破出来ないようなら、とても危険な戦いに出せません。おとなしく引いて、私達猟兵にお任せを」
「僕も同意見です。同郷の方の犠牲は出せません。ここは僕達、猟兵にお任せ願えますか?」
奏と瞬に現実を告げられ、若者達も、それ以上は何も言わなかった。しかし、その心の内に溜まっているものを吐き出させねば、いずれ同じ過ちを繰り返すであろうことは、誰の目から見ても明白だった。
「圧政への不満がたまっているのはわかる。だが、今のあなた達の実力では、配下が群がれば村が全滅するのは明らかだ」
だから、今回は自分達が矢面に立つと、敬輔は改めて村人達へ告げた。その上で、今後のために後ろから観察して、色々学んでほしいとも。
「うぅ……確かに、あんた達ほどの強さを持った人達が言うなら、間違いないのかもしれないな……」
己の実力を知ったところで、先程まで漂っていた雰囲気は、少しだけ成りを潜めたようだ。だが、中には未だ不満の感情をくすぶらせ、自分だけでも戦いに行こうとしている者達もいる。
彼らに必要なのは、戦場に立つための実力だけでなく、戦いにおける覚悟かもしれない。それを伝えることができれば、無謀な考えも改めてくれることだろう。
大成功
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セシリア・サヴェージ
私も吸血鬼の支配から人々を解放せんと活動してきたので彼らの気持ちも分かるつもりです。ですが、無謀な行いで彼らを失うわけにはいきません。闇の救済者はこの世界に灯り始めた光なのですから……それをここで消すわけにはいきません。
自分を猟兵だと明かした上で、戦闘は私たちに任せて後方支援に徹していただけないか、と提案してみます。猟兵であるかを疑われるようなら適当なユーベルコードを披露すれば問題ないでしょう。
イリーナさんからも猟兵に任せておけば問題ない、と仰っていただけると助かります。何せ彼女は猟兵の活躍を間近で見ているわけですから、その彼女が言う事ならば説得力も大きいでしょう。【言いくるめ】
西院鬼・織久
無謀極まりない
ですが、その無謀極まる反抗が我等の始まり
頭から否定する気にはなれません
覚悟を問うとしましょう
【行動】
彼等のように反抗する人々が集まったのが西院鬼一門の始まり
どちらかと言うと否定的ではないが、覚悟があればの話
歴代の使用者と刃に掛かった犠牲者、救う事が出来なかった者達の怨念が宿る「闇器」に宿る「呪詛+殺意」が炎となったものを見せる
闇の救済者達を敵に見立て、西院鬼の狂戦士である自身が持つ殺意と呪詛に満ちた狂気の目に晒す
その上でこの恐怖を前に、何百何千もの屍が積み上げられるのを見ながら、時に屍を囮にし盾にして戦い抜き、その遺族の嘆きと恨みを背負いながら戦い続けられるかと問う
リドリー・ジーン
イリーナさんとは初対面だわ、初めまして、大変な事に巻き込まれちゃったのね、と挨拶して困ったように笑うわね。
実際目にしてやっぱり闇の救済者の若者達には前線は厳しいかな…
と、現地で対面して困りながらも口には出さず……
他の猟兵の皆さんが力不足である事を指摘してもらっていれば、代替案として皆さんには援助やサポートを頼みたいと申し出るわ
やっぱり土地勘は現地の人でないとないものだし
後は戦闘に行く前の士気を挙げる鼓舞をお願いして……
どう?私達にとってなくてはならない、貴方達にしか頼めない事なんだけど、ね? イリーナさん。と、耳打ちしながら様子を伺うわね。
霧島・絶奈
◆心情
ただ救われる事を願う者よりも、立ち上がる気概を持つ者を好ましいとは思います
…ですが、私は自殺を幇助するつもりはありませんよ
◆行動
お久し振りですイリーナさん
何だか『愉快な』事になっていますね
確かに貴女は、希望の光を灯す存在となるに相応しい
さて、勇気ある者達よ
貴方方は直接アレ等と相対したイリーナさんの言葉に耳を傾けましたか?
戦いとは敵と己を知って漸く舞台に上がれるのです
自分の盤上だけを見て勝負に挑むのはただの蛮勇
戦う事そのものを目的とし、戦場にて果てるつもりなら話は別ですが…
未来を見ての蜂起であるならば、己の強みを活かす手を考えるべきでしょう
未来を勝ち取り生きる為に、使えるものを活かすのです
セレス・エレアノール
あー……皆さんお疲れ様です
(ハイレグレオタード武装修道女のエントリーだ!)
みなさんの気持ちは解るんです、すごく。
けどどうか、どうか“いのちをだいじに”してほしいです。
他の方からも聞いたと思うんですけどもね、やはり吸血鬼とその眷属というのは皆さんの手に余るモノ。
そもそも、自分たちで闘って勝てる相手だったら今のこの惨状にまで追い込まれてないだろうってコトを考えてみてください……いわゆる騎士とかの、我々人間で用意できる戦力で追い返せていただろうということです。
幸い、今回は僕らも来れましたから。此処はひとまず防衛の手立てをしないとですね。
イリーナさん……でしたっけか。僕は初対面ですね。よろしくです。
備傘・剱
POW
力を手に入れたと思った瞬間が一番、死につながる
ちょいと、力の差を見せつけて落ち着かせるのが一番だな
村人達の前に現れて、一応、説得をする
守れる程度の力は手に入れたかもしれないが、それじゃぁ、死にに行くようなもんだ、ってな
恐らく、聞き入れる事はないだろうから、一応、テストと称して、俺に一撃、入れさせよう
オーラ防御を貫ける攻撃力があるとは思えないが、全身を隈なく覆って弾き返そう
こいつが貫けなくて、貫けても致命傷を与えられない程度の攻撃力がヴァンパイアに通用するとは思えないんだよな
多くのオブリビオンを相手にしてきた俺達だからこそ、解る事だぜ
ただ、守る力には十分だがな
アドリブ・絡み、好きにしてくれ
●戦う覚悟
敬輔や真宮家の面々によって、実力不足を見せつけられた村の若者達。だが、彼らの中には、未だに自らの力で圧政に抗いたいという想いが渦巻いている。後方にて戦いの様子を見ていろと言ったところで、いざ戦いが始まれば、勝手に飛び出し兼ねない者がいるのも事実だった。
「お久し振りですイリーナさん。何だか『愉快な』事になっていますね」
そんな中、霧島・絶奈(暗き獣・f20096)が少しばかり皮肉を込めて挨拶すると、それに合わせてセレス・エレアノール(Angel of Damned・f21630)とリドリー・ジーン(ダンピールのシンフォニア・f22332)もまた、イリーナに改めて自分の名を告げた。
「イリーナさん……でしたっけか。僕達は初対面ですね。よろしくです。」
「初めまして、イリーナさん。大変な事に巻き込まれちゃったのね」
彼女達もまた、強い力を持った猟兵達。特にセレスは一部の吸血鬼達の間で、彼らにとっての悪名を響かせつつもある。
「忝いわね、本当に。でも、彼らの想いは大切にしてあげたいし……どうしたものかしら?」
苦笑しながら、イリーナもまた肩を竦めて溜息を吐いた。先の小手調べで実力不足を痛感した村の若者達ではあったが、ともすれば青臭い彼らの理想は、それだけで鎮まるとは思えなかったのだ。
「力を手に入れたと思った瞬間が、一番死に繋がり易い。守れる程度の力は手に入れたかもしれないが、それじゃぁ、死にに行くようなもんだぞ?」
未だ本心から納得していない者がいると察し、備傘・剱(絶路・f01759)は敢えて丸腰で村の若者達の前に出た。先程までは、武器や防具を持った者達との手合わせだ。しかし、今の自分は武器はおろか、何の防具も持っていない。そんな相手も倒せないようでは、吸血鬼と戦うには程遠いと言って聞かせ。
「そういうわけで、コイツが最後のテストだ。誰か、俺の身体に一発入れてみせてくれ。素手でも、武器を使っても構わないぞ」
丸腰の相手に武器を向ける。にわかに、若者達の間にどよめきが走った。さすがに、そんなことをすれば無事では済まないだろうと、彼らも考えてのことだろう。
「……よし、俺にやらせてくれ」
さすがに武器で斬り付けるのは拙いと思ってか、若者達の中でも一際大柄な男が歩み出た。肉体労働に従事していたのか、身の丈だけであれば剱を軽く超えている。全身を覆う鍛え上げられた筋肉も相俟って、見た目は彼の方が強そうだが。
「俺は、素手でイノシシを殺したこともあるんだ。本気で殴るから、そっちも受け身くらいは取ってくれよ?」
「ああ、任せておけ。そっちこそ、遠慮はしなくていいぜ」
指の関節を鳴らして迫る巨漢の青年に、剱は不敵な笑みを浮かべて返す。その胸板目掛け、岩のような拳が繰り出されるが……剱は全身を闘気で覆い、ノーガードのまま拳の一撃を耐え切ってしまった。
「なっ……! お、俺の拳を……」
「だから、言っただろう? こいつが貫けなくて……仮に貫けたとしても、致命傷を与えられない程度の攻撃が、吸血鬼に通用するとは思えないぜ」
人々を吸血鬼の眷属から守るには十分な力かもしれないだが、実際に吸血鬼を倒すとなれば、話は別だ。
そもそも、吸血鬼は急所を貫かれ絶命するまで、手足を斬り落とされようが、内臓をグチャグチャに潰されようが、痛みはあれど死にはしない。中には時間をかけることで、それらの負傷を回復させてしまうような個体もおり、しぶとさという点では野生の獣の比ではない。
イノシシはおろか、巨大な熊や、果ては人間の騎士を相手にするのとも違う、圧倒的な殲滅力を要求される。吸血鬼に抗うとは、そういうことだ。そして、何よりも純粋な力だけでなく、彼らには決定的に足りていないものがある。
(「まったく、無謀極まりない……。ですが、その無謀極まる反抗が我等の始まり。頭から否定する気にはなれませんね」)
現実を直視できない村の若者達へ、西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)は冷ややかな視線を送りつつも、心の中で呟いた。
彼らに足りていないものは、戦いに出るという覚悟そのもの。喧嘩や狩猟……否、人間同士の戦と比べても、吸血鬼との戦いは凄惨極まるものだから。
「あなた方には、今から戦いの現実というものを見ていただきましょう。それを見た上で、改めて考えてください」
そう言って、織久は自らの刃に残る犠牲者達の怨念を解放し、それに呪詛と殺意も混ぜて、炎として浮かび上がらせた。
「ウ……ゥゥ……ォォォ……」
煌々と燃え盛る炎が、髑髏の如き形を成して行く。その中に映し出されるは、圧倒的な殺意と狂気。狂える戦士が敵と戦う際に見せる、圧倒的な威圧感。
吸血鬼と戦うからには、この恐怖に打ち勝たねば勝機はない。彼らは人の心の弱さを巧妙に突き、時に善意さえも利用して、心身共に追い詰めて行く外道である。
それらの悪意を跳ね除けながら、何百何千もの屍が積み上げられるのを目にしつつも戦う覚悟はあるか。生き延びるためであれば屍さえも囮にし、時には仲間の亡骸を自らの盾にしてでも戦い抜き、その遺族の嘆きと恨みを背負いながらも、戦い続ける覚悟はあるのかと、織久はその場にいる村人達に尋ねて回った。
「うぅ……さ、さすがに、俺もそこまでは……」
戦いの現実を知らなかった者達は、早々に心が折れていた。もっとも、猟兵達の目的は、彼らの心を圧し折ることではない。その想いに理解は示しつつも、彼らに無謀な突撃をさせないことが重要なのだ。
「さて、勇気ある者達よ。貴方方は、直接アレ等と相対したイリーナさんの言葉に耳を傾けましたか?」
戦いの現実を知った者達へ、絶奈は改めて問い掛けた。
戦いとは、敵と己を知って漸く舞台に上がれるもの。自分の盤上だけを見て勝負に挑むのはただの蛮勇。戦う事そのものを目的とすれば、無様に戦場にて果てるだけ。
「未来を見ての蜂起であるならば、己の強みを活かす手を考えるべきでしょう。未来を勝ち取り生きる為に、使えるものを活かすのです」
そちらの想いは無駄にしない。しかし、まずは自分達の身の丈に合った、できることから始めるべきだと諭して聞かせ。
「私も吸血鬼の支配から人々を解放せんと活動してきたので、あなた方の気持ちも分かるつもりです。ですが、無謀な行いで希望を失うわけにはいきません」
改めて、戦いはこちらに任せ、後方支援に徹して欲しいとセシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)は若者達へと告げた。その上で、一体そちらは何者なのかという彼らの問いに、少しばかり考えてから返事をした。
「私達は猟兵……いえ、あなた方が、『闇の救済者(ダークセイヴァー)』と呼んでいる者ですよ」
闇の救済者(ダークセイヴァー)。セシリアの発した言葉に、その場の空気が一瞬にして変わった。
この世界において、闇の救済者(ダークセイヴァー)とは二つの意味を持っている。一つは、どこからともなく現れて、吸血鬼の圧政と横暴に立ち向かい、それを打ち破ってくれる謎の存在。そして、もう一つは村の若者達のように、それらの行為に触発されて、義憤で立ち上がった者達のことだ。
彼ら、後者の者達にとって、セシリア達は正にオリジナルと言っても良い存在。そんな者達から発せられる言葉の重みは、さすがに村の者達も、受け止めざると得なかった。
「みなさんの気持ちは解るんです、すごく。けど……どうか、どうか“いのちをだいじに”してほしいです」
そもそも、自分達で戦って勝てる相手であれば、このような状況になってはいないはず。そんな現実を伝えつつも、セレスはあくまで、彼らに命の大切さを説いて聞かせた。
吸血鬼勢力は、そちらが想像している以上に強大だ。彼らが、この世界に現れたから既に100年。それ以前の歴史において、彼らは一度、人間に滅ぼされたのかもしれないが……しかし、オブリビオンとして蘇った彼らの力は、その時とは比べ物にならない程にまで、強大に膨れ上がっていたということだ。
「皆さんには、援助やサポートをお願いできないかしら? やっぱり、土地勘は現地の人でないとないものだしね」
偵察や物資の補充、地形を生かした作戦の立案など、できることは他にもあると、リドリーもまた言って聞かせる。その上で、彼女は改めてイリーナに耳打ちしながら若者達に尋ねた。
「……どう? 私達にとってなくてはならない、貴方達にしか頼めない事なんだけど……。ね? イリーナさん」
「聞いての通りよ。ここに集まってくれた人達は、私達なんかよりも何倍も強い。でも、その力を以てしても、倒せる吸血鬼はせいぜい1人か2人。それも、多対一の状況に追い込んで、ようやく有利に戦えるくらいなの」
今まで自分が生き延びてこれたのは、猟兵達の力があったから。猟兵達が吸血鬼を次々に倒しているのは、確実に勝てるであろう好条件を逃すことなく、奇襲や不意打ち、暗殺に近い形で戦っているからだと、イリーナは村人達……闇の救済者(ダークセイヴァー)を名乗る者達へと告げて行く。
仮に、領主の勢力と本気で戦争をしたらどうなるか。答えは火を見るよりも明らかだ。自分達は元より、猟兵達でさえ数の暴力に敵わず蹂躙され、それを凌いだところで強力な吸血鬼を相手に成す術もなく倒されるのが関の山。それも、相手は必ず1人で出てくるとは限らない。領主と、その一族が纏めて現れた日などには、目も当てられない惨劇が待っていることだろう。
「誰も、1人では戦えない。私が、この人達と一緒に戦って学んだことよ。だから、無謀なことをするのは止めてちょうだい。あなた達が全滅したら、この人達は何の支援もなしに、強大な吸血鬼に挑み続けることになってしまうのよ?」
今は地方領主程度を相手にしているから良いものの、それ以上の吸血鬼……それこそ、この世界の吸血鬼を統べるような存在を相手にするとなれば、支援者の存在は必要不可欠。その時、猟兵達の力になれるのは、他でもない自分達なのだとイリーナは言って聞かせ。
「……そうか。聖女様が、そこまで言うならな……」
「俺達が甘かったみたいだ。でも、やれることがあるっていうなら、それは全力で手伝わせてもらうぜ!」
村を覆う空気が変わった。彼らは自らの弱さを自覚し、しかし無謀な突撃を考えることもなく、猟兵達の支援に回ってくれると約束してくれた。
「これで、ひとまずは安心でしょうか?」
「ええ、恐らくは
……!?」
セシリアとリドリーが、互いに顔を見合わせて頷いた。その矢先、広場へ駈け込んで来たのは、息を切らせて走る村の青年だった。
「はぁ……はぁ……。た、大変だ!」
肩で息をしながらも、青年は猟兵とイリーナ達に自らの見たものについて説明した。
こちらの反抗に気付いた領主が、配下の大部隊を送り込んで来た。既に敵は村外れの丘まで来ており、このまま行けば村が襲われるのは確実だと。
「……やはり、最初から筒抜けでしたか。まあ、ここまで大々的に反抗の気運が高まれば、領主が気付かないはずがありませんね」
そういった点でも脇が甘いと、絶奈は村の者達に手厳しい口調で言った。毎晩、酒場で騒ぎながら決起の話などしていれば、それは噂となっていずこから漏れ、やがては領主の耳に届いてしまうというものだ。
「泣き言を言っていても始まらないわ。皆、戦いの準備をして。それと……悪いけど、あなた達の力を、今回も貸してくれないかしら?」
村人達に後方支援の指示を出し、イリーナは改めて猟兵達に尋ねた。無論、その問いに否と答える者は、この場には誰一人としていなかった。
大成功
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第2章 集団戦
『救われたかった者達』
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POW : あなたをぜったいにゆるさない
予め【相手への殺意を口にする】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD : 私達は何もしていないのに!
自身に【無念からなる怨念】をまとい、高速移動と【絶望の叫びによる衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 何も怖くなんてないわ
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【綺麗なお人形】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
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●救われぬ者達の行軍
丘を越えて村に迫る、領主の送り込んだ配下達。果たして、どのようなおぞましい化け物が来るのか、あるいは冷酷な騎士が現れるのか。
村に通じる街道に陣を構え、猟兵達は敵が来るのを待ち受けた。だが、彼らの予想に反し、現れた敵の集団は、ともすれば天使と見紛うような姿をしていた。
「どうして……どうして……」
仮面を被り、頭に輝く光輪を携えた少女達は、ひたすらに呟きながら歩き続ける。
「許さない……許さない……」
彼女達は、かつて様々な悲劇によって、救われなかった者達の無念が集まったもの。救いを求め、それでも決して救われなかったが故に、世界のあらゆる存在を恨み続ける無念と怨念の化身だった。
「やってくれるわね。まさか、こんな戦い難い相手を送り込んで来るなんて」
闇の救済者達を率いるイリーナの顔が、少しばかり渋い表情になった。
この手の敵は、純然たる悪でないからこそ厄介なのだ。考えようによっては、彼女達もまた被害者に過ぎない。そして、無念を利用されているからこそ、覚悟のない者は彼女達を攻撃できない。
「約束通り、私達は後方支援を行うわ。申し訳ないけど……アレの相手は、お願いするわね」
そう言って、イリーナは背中に背負っていた2丁のマスケット銃を抜くと、迫り来る敵の集団に向かって狙いを定めた。
自分にできることは、せいぜい援護射撃程度のもの。それは、他の村人達も変わらない。それが分かっているからこそ、イリーナは自分から飛び出して、接近戦を仕掛けようとはしていない。
敵の足止めは、イリーナや闇の救済者達が中心に行ってくれることだろう。ならば、そこを逃さず仕留めるのが、この地に集まった猟兵の務め。
もう、二度と彼女達のような無念の塊を生み出さないために。誰にも手を差し伸べてもらえず、誰からも弔ってもらえなかった者達の想いを、これ以上利用させないため。
全ては、この世界に生きる人々の未来のために。怨嗟の化身として具現化された無念達への、非情なる救済の舞台が幕を開けた。
備傘・剱
…無念の内に死んでいった者達、か
死んでまで、こうやってもてあそばれるってのは、な
解放してやるのが、供養か
青龍撃、発動
出来るだけ素早く、苦しみを与えない様に、解放してやる
もう一つ、戦うからには、手は抜かない
これを見てる奴らに戦うってのがどれだけ苦しい物なのか、よく見せておかないとな…
防御も、武器や防具で受けて、戦い方の参考になれば、いいだろうな
攻撃の防ぎ方、捌き方がわかれば、それだけでも、生き残る可能性は高くなるだろうしよ
…しかしよ、いちいち、人の心にグサリとくるいやらしいやり方をやってくる奴だな
因果応報って言葉がどういうものか、この事件の主犯格に教えてやらなきゃな
アドリブ、絡み、好きにしてくれ
●供養という名の解放
「……無念の内に死んでいった者達、か」
迫り来る怨嗟の化身達。この世に生きる全ての者に対する恨み、辛み。それらを固めて作り出された存在を前に、備傘・剱(絶路・f01759)は思わず呟いた。
「死んでまで、こうやってもてあそばれるってのは、な……。解放してやるのが、供養か」
彼女達の心を救う術を、剱は知らない。否、知っていたところで、それを形のある言葉に変える術を持っていない。
救われなかった者達の残した、負の感情。それだけを集めて作られた彼女達は、もはや人格を持った人でさえないのだから。名前もなく、己が何者であるかさえも知らず、ただ復讐心を利用されるためだけに、骸の海より引き摺り出された者なのだから。
歪んでいる。ただ、ひたすらに歪んでいる。だからこそ、その歪は正されなければならない。死してなお、無念だけを掘り起こされて、この世に残され続けて良いはずがない。
「天よ、祝え! 青龍、ここに降臨せり! 踊り奏でよ、爪牙、嵐の如く!」
空気中の水分を集め、水の爪として腕に纏う。その力を以て瞬歩を手に入れた剱の武器は、真空の刃と高圧の水弾。
「痛い……痛いよぉ……」
「なんで……どうして……? 私達は何もしていないのに!」
身体を斬り刻まれ、射抜かれた少女達が、一斉に叫ぶ。その叫びは凄まじい怨嗟の念を呼び起こし、漆黒の霧の如き恨みの力を纏った彼女達もまた、今までにない速さで剱の周囲を囲み始めた。
(「スピードは互角か……」)
互いに高速の世界に突入しての戦い。恐らく、後方で支援する闇の救済者達には、影と影がぶつかっているようにしか見えないだろう。
「もう嫌……嫌ぁぁぁぁっ!」
「みんな……みんな、死んじゃぇぇぇっ!!」
少女達の嘆きが、凄まじい衝撃波となって剱に襲い掛かる。1対1であれば軽々と避けられたであろうが、こうも周りを囲まれた状況では、全てを避けることは難しい。
(「直撃は避けたいところだが……そうも言っていられねぇな」)
正面からの攻撃は水の爪を交差させて壁にし、急所への直撃だけは避ける。その上で、横跳び回避しつつ身を低くし、真横からの攻撃を回避する。
多対一の戦いにおいては、被弾面積を少なくすることが重要だ。闇の救済者達にどこまで真似できるかは分からないが、少なくとも迂闊に身を晒せば、それだけ死の危険が及ぶことを知ってくれれば、それでよい。
「……悪ぃ。これ以上、遊んでいる時間はねぇんだ」
敵の攻撃が止んだ隙を突いて、剱は一気に間合いを詰めると、水の爪で少女達を至近距離から斬り裂いた。幸い、耐久力はそこまでないのか、一度でも強力なユーベルコードによる攻撃を受ければ、彼女達は二度と再び立ち上がろうとしなかった。
「す、すげぇ……」
「で、でも……あれ、どう見ても、ただの女の子だろ……。あれを撃つなんて、俺には……」
敵を蹴散らした剱に対する、闇の救済者達の感想は様々だった。
ある者は、ただ剱の技量に感心し、また別の者は、少女の姿をした敵を倒すことに、未だ戸惑いを隠し切れないようだった。
(「まあ、それが普通の反応か。あいつらは、別に歴戦の傭兵ってわけじゃねぇしな」)
もっとも、それは剱とて予想していた答え。実戦を経験していない者達の覚悟など、最初は誰でも、その程度のものだろう。
「……しかしよ、いちいち、人の心にグサリとくるいやらしいやり方をやってくる奴だな。因果応報って言葉がどういうものか、この事件の主犯格に教えてやらなきゃな」
それでも、彼女達を派遣した領主とやらに、剱は物申してやりたい気持ちでいっぱいだった。
今はまだ、領主と戦ったところで無駄な犠牲を出すだけだ。しかし、いずれこの世界を吸血鬼から……オブリビオンの魔の手から解放する機会があれば、その時こそ領主の首を取るチャンスでもある。
それまでに、しっかりと力を蓄え、戦いの土台を盤石にしておかねばならない。無念を利用された者達のためにも、負けるわけにはいかないと、剱は改めて心に誓った。
成功
🔵🔵🔴
西院鬼・織久
無念は恨みとなり怨念となる
怨嗟の化身ならば我等の良い糧となろう
悉く喰らい尽してくれる
【行動】
狩る事に慈悲も躊躇もなく怨念(覚悟+呪詛+殺意)滾る狂気は揺るがない
五感と「暗視+第六感+野生の勘」で周囲を把握し「殺意」を捉え不測の事態にも備える
UCや武器の炎は「呪詛+殺意」の塊。「先制攻撃+範囲攻撃+UC」で肺や喉を焼き、忍ばせた「夜砥+毒+マヒ」で拘束。「怪力」で振り回し周囲を「なぎ払い」「UC+範囲攻撃」で追撃
囲まれそうになったら「二回攻撃+早業」からの「範囲攻撃+衝撃波」の「なぎ払い」で牽制。UCと「ダッシュ+残像」を目晦ましに回り込んで「カウンター」の「なぎ払い」
●慈悲無き断罪
救いを求めて彷徨う者を、無慈悲に斬り捨てられる者は珍しい。
この世界を支配する吸血鬼達は、ある意味では人間以上に人間のことを理解していた。人の残す、恨みや羨望といった負の感情。理不尽に殺された者達の嘆きや絶望までも、時として彼らは利用する。
そんな者達に立ち向かうには、時に鋼の精神が必要となる。そして、西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)もまた、その覚悟を内に秘めたる一人であった。
「無念は恨みとなり怨念となる。怨嗟の化身ならば、我等の良い糧となろう。悉く喰らい尽してくれる」
元より、手加減などするつもりさえない。そして、怨念や殺意といった感情であれば、何よりも織久自身が一番良く使い方を知っている。
「我等が怨念尽きる事なし……」
迫り来る少女達に敢えて周りを囲ませて、織久は纏めて黒炎で薙ぎ払った。それはまるで意思を持った存在の如く少女達の身体へと絡みつき、仮面を焼いて口と鼻から体内へと侵入し。
「あ……ぁぁぁぁ!」
「ひぎ……ぃぃぃぃ……」
口が、喉が、そして肺が焼けて行く。苦悶の表情を浮かべて転げ回る少女達だったが、織久は彼女達を気遣う素振りさえ見せない。
(「見るがいい……覚悟を以て戦うとは、こういうことだ」)
視線は少女達ではなく、後方で支援する闇の救済者達へと向ける。果たして、彼らの覚悟はいかほどか。圧政に対する抵抗の意を示すのは良いが、吸血鬼と本気で戦うのであれば、時に見たくない何かを見せられることも珍しくない。
「ひ、ひぇ……」
「こ、怖くねぇ。怖くねぇぞ……。あ、あいつらは、吸血鬼の手先なんだ……」
村人達は身を震わせながらも、目の前の光景から目を背けないよう、懸命に堪えていた。ここで目を伏せるようであれば、元より戦う資格などない。だが、中には己の心と必至で戦いながら、覚悟を決めんとする者もいるようだ。
「今はまだ、その程度だろうな……。だが、今日のことを瞳の奥に刻みつけておけば、いずれは何かの糧にもなろう」
ようやく芽吹いた反抗の芽が、偽物でなかったことを知れただけでも良しとしようか。そう、心の中で呟いて、織久は最後の仕上げに取り掛かる。
「うぅ……が……は……」
「ゆ……ゆるざ……な……」
喉を焼かれた少女達は、もはや声を発することさえも困難になっていた。この状態では恨み言も口にできず、ユーベルコードも使えない。
これ以上、戦いを長引かせる理由など、どこにもなかった。軽く息を吸った後、織久は自身を取り囲む少女達を、まとめて衝撃波で吹き飛ばす。
「ぎ……ぁ……ぁぁ……」
「ぐぅ……ぅ……」
さしたる抵抗もせず、少女達の一団は全滅した。彼女達の瞳は最後まで恨みに満ちていたが、それを見ても、織久は何ら動揺する素振りさえ見せなかった。
「恨み、か……。我等にとっては慣れたものだ、恨みを買うことなどな」
どのような存在であれ、それを殺すということは、他者の未来を奪う事。だが、オブリビオンは存在するだけで、他者の未来を奪ってしまう。
ならば、彼らの未来を奪うという矛盾を以て、世界の未来を守り抜く他にない。それが猟兵の、オブリビオンを狩る者としての宿命だ。少なくとも織久は、そのように理解していたのだろうか。
大成功
🔵🔵🔵
セシリア・サヴェージ
その無念、いつか必ず晴らすと約束しましょう。ですが、今は……現在を生きる人々のために骸の海に還るのです。
UC【闇の戦士】を発動。なんの【慰め】にもならないかもしれませんが、彼女たちの怨嗟の言を受け止めましょう。それで彼女たちの気が済むのなら……いえ、それは楽観的過ぎますね。こちらにそれ以上の危害を加えようというのであれば、せめて痛みを感じることのないよう一撃で葬りましょう。
護りきれなかった者、救えなかった命……全てを救済することはできないのは分かっています。それでも、私は……!
リドリー・ジーン
ありがとう、仲間が多いと心強いわ。
笑顔を向けて相手に向き直ります。
ブローチのデバイスで歌声を拡散。【歌唱】を使って威力をあげた指定UCで現れた強靭の手で相手を薙ぎ払います。
他仲間の援護をするように足首を掴んで止めて攻撃を確実に当たるように次々に現れる腕で羽交い絞めに。
……早く苦しみから解放してあげましょう。
そしてこれ以上の犠牲を出さないよう私達は努めるまで
●終わらぬ戦い
丘の向こうから続々と現れる、吸血鬼の送り込んだ少女達。
倒せど、倒せど、彼女達の数は一向に減る様子がない。いったい、どれだけの数を送り込んで来たというのだろうか。思わず溜息が零れそうになるが、しかしここで気を抜けば思わぬ損害を被ってしまう可能性もある。
「後ろは私達に任せて。牽制射撃くらいなら、この村の人達もできるはずだから」
「ありがとう。仲間が多いと心強いわ」
マスケット銃に弾を込め直しつつ告げたイリーナへ、リドリー・ジーン(ダンピールのシンフォニア・f22332)は笑顔で返した。見れば、丘を越えた直ぐ先に、早くも敵の第二波が集まっている。ぼんやりしている暇はない。このままでは早々に、こちらと接触するだろう。
「あまり準備の時間はなさそうですね。さあ、行きましょう」
体勢の整えが万全でない分は、こちらが実力でカバーする。そう言って、セシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)は剣を抜くと、一足先に敵の集団へを目指して駆けて行った。
●闇を以て闇を祓う
敵の集団に斬り込むや否や、セシリアは容赦なく大剣を抜くと、そのまま躊躇いなく振り下ろした。
「その無念、いつか必ず晴らすと約束しましょう。ですが、今は……現在を生きる人々のために骸の海に還るのです!」
できるだけ、苦しみは与えたくない。ならば、一思いに倒してやった方が救いだと、セシリアは仮面の少女を肩から斜めに両断する。
まずは1体。やはり、実力では猟兵達に数段劣るのか、やり方次第では彼女達を倒すことは難しくない。
もっとも、それは少女達も理解しているところであり、何よりも彼女達の武器は、その圧倒的な数にある。そして、恨みの力を一度纏えば、彼女達の身体能力は、並の人間のそれを凌駕するのだ。
「よくも……よくも……」
「ゆるさない……あなたをぜったいにゆるさない……」
仲間を殺されたことか、それとも己の内に秘めたる想いを、八つ当たりの如く吐き出しているだけなのか。
怨嗟の言葉を紡ぐ度に、少女達が力を増して行く。再び大剣を振るうセシリアだったが、今度のそれは、少女達に軽々と避けられた。
「……っ!?」
お返しとばかりに組み付かれ、腕を力任せに引っ掛かれた。見た目はか細い指先だというのに、まるで熊にでも引き裂かれたかの如く、深く鋭い抉られ方をしている。
「セシリアさん、伏せて!」
見兼ねたリドリーが、支援に回った。彼女は敵と直接対峙して戦うことを得意としていない。当然、剣を持って戦うこともできないが、それだけが戦いの全てではない。
「さぁ、立ちはだかる全てを一掃させましょう」
ブローチのデバイスで拡散させた歌声を響かせれば、それは彼女の影に住まう、無数の『影の手』を呼び出して行く。戦場に現れた影の手は、その数を以て少女達を薙ぎ払わんと暴れ回るが、しかし少女達も然るものだ。
「うぁぁぁぁっ!」
「死ね! 死ねぇぇぇっ!!」
呪詛の言葉を吐きながら、仮面の少女達は無茶苦茶に暴れ回っていた。動きが単純な故に攻撃を見切ることこそ難しくないが、こうも数が多くては、こちらから攻撃することもできない。
「彼女達の怨嗟の声を受け止めてやれれば、と思いましたが……少々、楽観的過ぎたようですね」
腕の傷を庇いつつ、セシリアもまた覚悟を決めた。彼女達の恨みを晴らしてやりたい気持ちはあるが、それで自分が殺されてしまっては元も子もない。嘆きや絶望さえも利用されている彼女達を、救ってやるための方法は限られている。
「たとえこの姿が人々に怖れられようとも……それでも、私が護ってみせる!」
怨嗟の力を纏った少女達の如く、セシリアもまた自らの身体を暗黒のオーラで覆い、その力を完全に開放した。
人から恐れられても構わない。どれだけ迫害されようと、自分のやるべきこと、やらなければならないことは知っている。それで人の命が救われるのであれば本望であると……それが、セシリアの偽りなき想いだ。
「こっちで牽制するわ。今の内に、動きを止めて!」
後ろからイリーナの叫ぶ声がすると同時に、連続して銃弾が撃ち込まれた。
マスケット銃は、その構造故に連射が効かない。しかし、イリーナはそれを両手に持って交互に放つことで、次弾を発射するまでのタイムラグを少しでも軽減させている。
普通に撃てば1分に2発が限界だが、感覚を意識して打ち分けることにより、15秒に1発まで連射の幅を狭められる。代わりに命中精度が大幅に犠牲となってしまうが、援護射撃としては十分だ。
「……早く苦しみから解放してあげましょう。これ以上の犠牲を出さないようにすることが、私達の努めだから……」
銃弾に怯んだ少女達を、リドリーが影の腕で捕縛する。今度は薙ぎ払うような真似はしない。その代わり、影の腕は少女達の脚をしっかりと捕らえ、どれだけ暴れようとも離さない。
「護りきれなかった者、救えなかった命……全てを救済することはできないのは分かっています。それでも、私は……!」
今、ここにある命を少しでも守る。それが、この世界の未来を守ることに繋がるのであれば。
その想いを胸に、セシリアは大剣を振り下ろす。拘束された少女の身体が仮面諸共に両断され、溢れ出す鮮血が返り血となって、漆黒の気に包まれたセシリアの頬を染めた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
霧島・絶奈
◆心情
『そう成って』しまった以上、滅ぼすしかありません
次なる怨みを生まない未来を以て貴女方への手向けとしましょう
◆行動
イリーナさんと村人は生存を優先した連携を優先して貰います
実戦を通して学んだ事を活かす為、生き残るのですよ
『暗キ獣』を使用
二種の兵科による【二回攻撃】を軍勢で運用する【範囲攻撃】で敵を鏖殺
私は軍勢に紛れ【目立たない】様に行動
【罠使い】として持ち込んだ「ワイヤートラップ連動のサーメート」を設置
死亡し、敵ユーベルコードに利用されそうな対象にはブービートラップとして仕掛けます
設置しつつ【範囲攻撃】する【マヒ攻撃】の【衝撃波】で【二回攻撃】
負傷は【オーラ防御】で軽減し【生命力吸収】で回復
セレス・エレアノール
(「圧」を、感じた。魂の怨念を拾い上げて力とし、仇敵討ち果たして晴らし、天に還す黒き天使。だからこそ、眼前の敵から感じる無念と怨念とを人一倍強く感じていた……)
……ごめんよ。
君たちの身体を、斬ります。
白銀鋼の鎖剣を展開し、ユーベルコードも発動。
彼女達を切り刻みにかかります。
その姿(オブリビオン)のままでは、君たちが抱えているものを拾ってあげることが出来ない。
だから、そのカラダを骸の海へ還すんだ。
無念は、僕が背負おう。
怨念は、僕が持っていこう。
魂は、天へ還そう。
だから……おやすみ。
●戻れない者達
天使の似姿をしながらも、嘆きの仮面を身に着けて、ひたすらに恨み言を呟く少女達。
彼女の達の姿を前にして、セレス・エレアノール(Angel of Damned・f21630)は言い様のない圧を感じていた。それは、セレス自身が魂の怨念を吸い上げて己の力とし、無念を晴らすために戦い続ける『呪われた天使』であるからに他ならない。
「どうしました? この期に及んで、躊躇い事ですか?」
「……いえ、そんなことは。ただ、彼女達の無念を、直接この手で晴らせないことに憤りを感じるだけです」
霧島・絶奈(暗き獣・f20096)の問いに、セレスは敢えて目線を合わさずに答えた。ここで相手の表情を窺うような真似をすれば、それは自分の怒りに偽りが混ざっているような気がして、嫌だった。
「『そう成って』しまった以上、滅ぼすしかありません。次なる怨みを生まない未来を以て、貴女方への手向けとしましょう」
「ええ、そうですね。彼女達には、還るべき場所へ戻ってもらいましょう」
今度は軽く頷いて、セレスは絶奈に返した。目の前の少女達に自分がしてやれることは、彼女達を再び骸の海へと還してやること以外にないのだから。
「イリーナさんと村の方は、生存を優先した連携を優先してください。実戦を通して学んだ事を活かす為、生き残るのですよ」
それだけ言って、絶奈は敵の前に立ちはだかった。セレスもそれに続く。彼女達が突破されれば、敵は実戦に慣れていない闇の救済者達を、情け容赦なく狩るだろう。
「聞いての通りよ、皆! 私達は、確かに戦うために、ここいるわ! でも、それは戦って死ぬためじゃない! 誰かを守るために死んでしまったら……何よりも、あなた達の守りたかった誰かが、一番悲しむってことを忘れないで!」
生き残れ。絶奈に言われた言葉を、イリーナが改めて村の者達に言って聞かせる。ここで玉砕しても何の意味もないことは、イリーナ自身も良く知っていることだったから。
「攻撃、始め! 弓と銃が使える人は、私と一緒に敵の牽制を! それ以外の人は、弾と矢の補充と、投石機の準備をお願い!」
イリーナの指示の下、一斉に放たれる無数の矢と銃弾。練度がそこまで高くない故に、命中精度も大して高くはないのだが、それでも少女達を怯ませる程度の効果はある。
「最初から、本気で行かせていただきましょう。闇黒の太陽の仔、叡智と狡知を併せ持つ者。私を堕落させし内なる衝動にして私の本質。嗚呼……、此の身を焦がす憎悪でさえ『愛おしい』!」
敵が怯んだ隙に、絶奈は燐光を纏う異形の神の似姿へと変わると、己の眷属たる屍獣と屍兵を呼び出した。
「ウゥゥゥゥ……」
「オ……ォォォォ……」
海嘯の如く、敵へ殺到する屍の軍勢。その勢いに紛れる形で、絶奈とセレスはそれぞれに、敵の懐目掛けて飛び込んで行った。
●還れ、在るべき場所へ!
屍の軍勢が襲い掛かると、そこから先は瞬く間に混戦となった。
「ひぎぃぃぃっ!!」
「あ、あぁ……ぎゃぁぁぁっ!!」
情け容赦なく襲い掛かる屍の軍勢に、次々と少女達が倒れて行く。だが、彼女達とて、黙ってやられるつもりはないのだろう。
「こ、怖くないわ……! あなた達なんて、怖くなんてない!」
虚勢とも思える叫びが戦場に広がる度に、倒されたはずの少女達が、次々に起き上がって行く。それは既に仮面の少女でさえなく、他の少女によって操られる哀れな人形にしか過ぎなかったが。
「数が減らない? ……でも!!」
セレスは決して諦めなかった。
敵は、人形と化した相手ではなく、それを操る方の少女達だ。起き上がった人形は、あくまで操り人形に過ぎないもの。相手にしたところで、こちらが消耗するだけだ。
「……ごめんよ。君たちの身体を、斬ります!」
白銀鋼の鎖剣を展開し、セレスは近づく少女達を、薙ぎ払うようにして斬り捨てた。それでも、倒される傍から仲間の死体を人形に変えて操ろうとする少女達だったが、そこは絶奈がさせなかった。
「……っ!?」
死体が起き上がろうとした瞬間、凄まじい熱と閃光が周囲に広がり、少女達諸共に焼き払ったのだ。
「甘いですよ。そう簡単に、死者を利用できると思わないことです」
いつまでも恨みの鎖に縛られ、現世に留まろういうのであれば、強制的に帰還してもらうまで。小型の焼夷弾を仕掛け、それで敵を焼き払うことで、絶奈は相手の切り札を封じてみせ。
「次はこれです。しばらく、身体を拘束させてもらいましょう」
続け様に、神経に作用する衝撃波を放ち、少女達の身体を吹き飛ばす。さすがに、これだけでは倒せなかったが、しかし身体が痺れてしまった少女達は、もはや満足に動くこともできないだろう。
「その姿のままでは、君たちが抱えているものを拾ってあげることが出来ない。だから……」
既に抵抗を止めた少女達へ、セレスは鎖剣を銀欄の花弁に変えて向かわせた。姿を変えてもなお刃としての性質を失わなない鎖剣は、花弁の形を取りながらも、少女達を斬り裂いて行き。
「そのカラダを骸の海へ還すんだ!」
無念は、自分が背負って行こう。怨念は、こちらで抱え、持っていこう。そして、魂だけは天へと還してやろう。
「だから……おやすみ」
せめて、最後は花に抱かれて静かに眠れ。
セレスの手元に花弁が集結し、再び鎖剣の姿に戻った時には、少女達はその数を大幅に減らしていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ドゥルール・ブラッドティアーズ
共闘NG
グロNG
SPD
私は救われない者の味方。
貴女達の無念、私が受け止めてあげる
【オーラ防御・激痛耐性・呪詛耐性・気合い】で
ひたすら彼女達の攻撃に耐えるわ
こんなものじゃないわよね。
貴女達の悲しみ、全部ぶつけなさい
絶望の叫びの連発と寿命を削るUCの代償で
彼女達が疲労してきたら
全身から 光の【属性攻撃・衝撃波】を放ち
UCで纏った怨念と、涙の仮面を吹き飛ばすわ
少しは満足したでしょ?
さあ、私の胸で眠りなさい
【誘惑・催眠術】で安心感と眠気を与え
母のように愛しながら【生命力吸収】
まだ暴れ足りない子には「いつまで起きてるの」と尋ね
既に寝かしつけた子を『たのしいおしゃべり』で召喚し
オトナの愛し方で満足させるわ
●母の胸に抱かれて
猟兵達の活躍により、次々と少女の姿をしたオブリビオンが討伐されて行く最中。
防衛網の死角になっている物陰から、ドゥルール・ブラッドティアーズ(狂愛の吸血姫・f10671)は、静かに少女達の末路を見つめていた。
(「私は救われない者の味方。貴女達の無念、私が受け止めてあげる……」)
あの少女達は、名のある誰かというわけではない。どこの誰とも知らない者達の怨嗟と絶望へ肉を与え、人の如き形に作り出された存在だ。
ある意味では、彼女達も被害者なのだろう。だからこそ、放ってはおけなかった。生まれながらにして誰かを恨み、誰かから恨まれて死ぬ定めを与えられた者など、あってはならない存在だったから。
「うぅ……私達は何もしていないのに!」
「どうして……どうして、あなた達だけが生きているの!」
無防備を晒したドゥルールに気付いた一団が、一斉に彼女へ向かって恨みの叫びをぶつけて来た。それらは空気を引き裂く衝撃波となってドゥルールへと襲い掛かったが、しかし彼女は微動だにしなかった。
避けることはしない。それで少女達が満足するのであれば。ただ、ひたすらに身を固めて防ぎ、耐えるのみ。それで彼女達の無念が、少しでも晴れてくれるのであれば。
「こんなものじゃないわよね。貴女達の悲しみ、全部ぶつけなさい」
吐きだし足りないものがあれば、今、この場で全て吐きだすといい。そう言って手を差し伸べるドゥルールへ、少女達は怒りと恨み、そして嘆きと悲しみだけをぶつけてきた。
「あなたに、何が分かるっていうのよ!」
「あなたが生きて、私達だけが殺される……そんな理不尽なこと、許せない!」
悪戯に生を奪われれば、誰しも悪鬼羅刹になろう。それはドゥルールにも分かっている。そして、感情に任せて力を吐きだし尽くさせることが、ドゥルールの考えた策でもあった。
「はぁ……はぁ……も、もう、終わり……かしら……?」
さすがに、複数の敵を相手に四方八方から攻撃されれば、瀕死にならない方がおかしかった。それでも、敢えて攻撃を受け続けたのは、少女達が疲弊する瞬間を狙っていたからだ。
「……次は私の番ね。その仮面……あなた達の怨念と一緒に、吹き飛ばしてあげるわ」
全身から光の衝撃波を放ち、ドゥルールは少女達の仮面を、身に纏った怨念諸共に吹き飛ばした。抵抗虚しく、次々と倒れて行く少女達。しかし、ドゥルールは彼女達へ、武器で止めを刺すことはしなかった。
「少しは満足したでしょ? さあ、私の胸で眠りなさい」
力尽きかけた少女達を優しく抱いて、一人、また一人と、安らかな眠りへ誘って行く。同時に、彼女達の身体に残された偽りの命を、自らの体内へと吸収し。
「あ……ぅぅ……」
力で抑え込んだところで、怨念は消えない。彼女達の恨みを消すのに必要なのは、無償の愛とぬくもりの感情だ。
仮面の奥に隠されていた少女達の顔から、般若の如き表情が消え去って行く。だが、それは同時に、恨みと憎しみだけを糧に動かされて来た、哀れな人形の命が終わりを告げることも意味していた。
「……お休みなさい。もう、こんな形で戻って来てはダメよ」
事切れた少女の頭を胸元に抱いて、ドゥルールは優しく言い聞かせるように告げた。それはまるで、幼子を慈しむ母の如く。
眠るようにして、その歪んだ生を終えた少女達。後に残されたのは、抜け殻となった身体だけ。しかし、全ての恨みから解放された肉体は、偽りの器であったとしても、どこか安らぎに溢れていた。
成功
🔵🔵🔴
館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携可
確かにやりづらい相手ではある
だが、性根の腐った領主ならこれくらいは普通にやってくるさ
一方で、やりづらいと思うのは正常な感覚だから
そのことは忘れないでほしい
救われなかった死者の無念や恨みを
生者を虐げるために利用した領主への怒りも込めて
心を鬼にして…斬る
村人らの後学のためにも
極力ユーベルコードを使わない戦い方をしたいところ
他の猟兵との連携を重視
極力多対1に持ち込み、1体ずつ確実に「早業、2回攻撃、怪力」で斬る
囲まれたら「範囲攻撃」も併用
敵の攻撃は「第六感」で察し「武器受け、激痛耐性」で黒剣で受け流し
叫びによる衝撃波は「範囲攻撃、なぎ払い、衝撃波」で相殺を試みよう
真宮・響
【真宮家】で参加。他猟兵との連携可。
そうか、この娘さん達は誰にも助けられず、苦しんで死んでいった無念の塊だと・・・可哀想だとは思うが、いつまでも苦しんだまま彷徨うのも哀れだ。せめて一思いに終わらせてやるよ。
【目立たない】【忍び足】【残像】を駆使して敵の背後に回り込み、【先制攻撃】【二回攻撃】【串刺し】で攻撃する。せめてその無念の心を晴らして逝けるように心を込めて【浄火の一撃】で邪心を浄化する。【範囲攻撃】も併せようかね。アタシの方に攻撃が来る場合は【見切り】で対処する。
イリーナと闇の救済者は後ろからの援護射撃を頼む。牽制になればなおいいね。
真宮・奏
【真宮家】で参加。他猟兵との連携可。
確かに、酷い目に遭って、助けられずに死んでいったのはお気の毒だと思います。でも、今生きている人々を護るのが私の信念です。なので、止めさせて頂きます。
トリニティ・エンハンスで防御力を高めてから、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】で仲間を【かばう】。攻撃は【属性攻撃】【二回攻撃】【衝撃波】【範囲攻撃】で行います。
イリーナさんと闇の救済者の方々は後ろからの飛び道具の射撃で敵の足止めをお願いします。すごく心強い手助けになります。
神城・瞬
【真宮家】で参加。他猟兵との連携可。
僕も故郷が壊滅した時、母さんと奏に出会わず、1人で野垂れ死にしていたら。そう思うと心が痛みます。でもその無念の心を持ったまま彷徨い続け、人を害するならば。止めねばなりません。
月読の同胞の力を借りましょう。同胞の攻撃に【援護射撃】として【誘導弾】【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】に【範囲攻撃】を併せて攻撃します。僕の方に攻撃が来る場合は【オーラ防御】でダメージを軽減します。
イリーナさんと闇の救済者の皆さんは安全な位置で飛び道具で援護射撃をお願いしますね。
シン・コーエン
(イリーナ、そして戦うべき少女達に)遅参、申し訳ない(と一礼)。
色々と間に合わなかったが、今はせめて彼女達の苦しみを終わらせる為に戦おう。
UC:刹那の閃きを発動。
このUCは相手の思考も読み取るので、彼女達の無念や恨みを背負う事になるが、それは承知の上。
「君達の無念や恨みは俺が聞く。君達の復讐は俺達が果たす。だから安らかに眠りについてくれ。」と少女達に話しかける。
その後はUC&【見切り・第六感】で少女達の攻撃を読んで躱しつつ、灼星剣と村正による【2回攻撃・衝撃波・風の属性攻撃】で少女達を次々と倒していく。
容赦も迷いも無く、少女達への労りと優しさを以って、一太刀ごとに彼女達の想いを背負って斬る。
●人間らしくあること
街道に、山の如く積み重なって行く少女達の亡骸。恨みや無念を具現化することで与えられた偽りの肉体とはいえ、天使のような姿をした少女達が無残に死んでいるのを見るのは、やはりやるせないものがある。
「う……うげぇ……。お、俺は、もう無理だ……これ以上、見ていられねぇよ……」
あまりに凄惨な光景に、闇の救済者達の中には、既に精神的な消耗を感じている者も出始めていた。
「気をしっかり持って! 見た目の姿に騙されては駄目よ!」
イリーナも懸命に叱咤するが、士気の低下は如何ともし難い。それは猟兵達とて同じことで、無心で彼女達を殴り、斬り捨て、その肉体を破壊できる者の方が少なかった。
「そうか、この娘さん達は誰にも助けられず、苦しんで死んでいった無念の塊だと……」
「僕も故郷が壊滅した時、母さんと奏に出会わず、1人で野垂れ死にしていたら……。そう思うと、心が痛みます」
真宮・響(赫灼の炎・f00434)や神城・瞬(清光の月・f06558)も、大なり小なり、思うところはあるようだ。もっとも、それで攻撃の手を休める二人ではないが、気になるのは他の者達の精神状態だ。
「確かに、酷い目に遭って、助けられずに死んでいったのはお気の毒だと思います。でも、今生きている人々を護るのが私の信念です」
こういう時こそ、心を強く持つべきだと、真宮・奏(絢爛の星・f03210)は複数の魔力を身に纏い、己の決意を口にする。その言葉に、館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)も頷いた。
「確かにやりづらい相手ではある。だが、性根の腐った領主なら、これくらいは普通にやってくるさ」
今までの吸血鬼達の所業からして、これからもこうした戦いは続くだろう。ある時は力無き少女を、ある時は人々のために戦い、そして裏切られ散って行った無念の戦士を、それぞれ己の手駒に変えて人々に仇名す存在とするのが吸血鬼のやり方だ。
「でも、やりづらいと思うのは正常な感覚だ。だから、そのことは忘れないで欲しい」
悪鬼になる覚悟を決めろとは、敬輔は決して言わなかった。戦い慣れていない村の者達には、荷が重いからというわけではない。敵とはいえ、少女の形をする存在を何の躊躇いもなく斬り殺せるのであれば、それは既に人として大切な感情を失っているに等しいからだ。
怪物と戦う者は、自分が怪物にならぬよう気を付けねばならない。UDCアースの有名な哲学者が残した言葉だ。彼の言葉を借りるならば、吸血鬼と戦う者は、己が吸血鬼と同じような、冷血な存在にならぬよう注意すべきと言ったところか。
「イリーナさんと闇の救済者の皆さんは、引き続き飛び道具で援護射撃をお願いします」
「仕留めてくれれば大助かりだけど、牽制になれば十分だよ」
瞬と響の言葉を受けて、イリーナが頷いた。敵も既に後がない。最後の波が押し寄せて来ているのは、丘の向こう側から増援が途切れたことからも明白だ。
「銃弾と矢は、使い惜しみしないで! 投石機、準備はいい? できるだけ引き付けてから、前衛で戦っている人達がいない場所を狙って発射するのよ!」
ここで踏ん張れば、勝機は見える。イリーナの声にも力が入り、村人達の瞳にも、微かだが光が戻り始めていた。
●決意と覚悟
最後に押し寄せて来た敵の波は、今までになく強大なものだった。
少女達も、後がないと知っているのだろう。もはや形振り構わぬとばかりに、彼女達は嘆きや呪詛の言葉を力に変えて、一斉に襲い掛かって来た。
「うぁぁぁぁっ!」
「死ね! 死ねぇぇぇぇっ!!」
嘆きの叫びは衝撃波を呼び、怨念は彼女達の力を何倍にも高めて行く。複数の魔力を重ねて防御を固める奏だったが、さすがに全てを跳ね返せるはずもない。
「なんてプレッシャーなの……。で、でも……」
ここで自分が退けば、それは後方にいる者達を危険に晒すことになる。だから退けない。自分がどれだけ傷ついても、ここを通すことだけは絶対にさせない。
「……がっ!?」
瞬間、奏に掴みかかろうとしていた少女の頭に銃弾が命中し、仮面に鋭い亀裂が走った。
「こちらで牽制するわ! 今の内に……早く!」
見れば、イリーナが少しばかり前に出て、マスケット銃を構えていた。
「ありがとう。すごく心強い手助けになるわ」
笑顔で返し、奏もまた敵の集団に向き直る。今の一撃で、流れが少しだけ変わった。その瞬間を、彼女は決して見逃さない。
「理不尽な理由で命を奪われたことには同情します。ですが、それで罪なき人々へ怒りを向けるのは、単なる八つ当たりに過ぎません!」
偽りの命、仕組まれた怨嗟。それらを断つには、彼女達を倒すしかない。覚悟を決め、奏が軽く腕を振るえば、放たれた風は衝撃波となり、炎を纏って少女達の身体を焼いた。
「イリーナさんに、無理をさせるわけには行きませんね。ここは、月読の同胞の力を借りましょう」
牽制弾が不足していると察し、瞬は月読の紋を付けた、戦士の霊を召喚した。彼の武器は、剣と弓。そして、今回の戦いで使うのは弓の方だ。
「頼みましたよ……」
瞬の言葉に、戦士の霊が微かに頷いたように見えた。彼は持てるだけのやを束ねて弓を番えると、それらを全て纏めて天高く放つ。空中に飛散した弓は驟雨の如く降り注ぎ、少女達も思わず足を止め。
「今よ! 石を発射して!」
イリーナの号令で投石機から発射された巨大な石が、残る少女達を押し潰した。
「この調子なら、なんとか押し切れそうかね?」
「さあ、どうかな? 最後まで、油断はしない方がいい」
そんな中、戦いの最前線になって槍や剣を振るう響と敬輔は、どうにも不穏なものを感じて仕方がなかった。
先程から懸命に戦っているにも関わらず、敵の数が一向に減った気がしないのは気のせいか。増援は現れていないため、この場にいる敵を全て倒せば、戦いは終わるはずなのだが。
「……っ! これは
……!!」
「なるほど、そういうことか」
目の前で倒されたばかりの少女が起き上がるのを見て、二人は何が起きているのかを察してしまった。
「あ……ぁぁ……」
「ぅぅ……ぁぁぁ……」
乱戦に乗じて、少女達は倒された自らの仲間を人形として蘇らせ、操っていたのだ。確かに、これでは数が減らないわけである。倒しても、倒しても、その度に復活させられたのでは、こちらが先に消耗してしまう。
闇の救済者達は、既に銃弾も矢も撃ち尽くしてしまったようだ。それに気が付いたのか、少女達の一部が猟兵達の後ろを目指して進軍を始めた。
「くっ……このっ!」
咄嗟に、イリーナが腰のベルトに据え付けていた鞭を取り出し、少女の首に絡めて動きを封じた。が、それでも彼女の力だけでは、敵を1体押さえるのが精一杯。このままでは遠からず囲まれ、敵に蹂躙されてしまうと……そう、思われた時だった。
「……あぅっ!!」
疾風の如き斬撃が少女達を襲い、次々に倒して行く。目にも止まらぬ早業とは、こういうことを指すのだろうか。
「遅参、申し訳ない。色々と間に合わなかったが、今はせめて彼女達の苦しみを終わらせる為に戦おう」
全てが終わった時、そこに立っていたのはシン・コーエン(灼閃・f13886)だった。先程の斬撃は、全て彼が繰り出したものだったのだ。
相手の動きだけでなく、思考さえも読み取るユーベルコード。それを使うデメリットは、シンとて十分に理解している。少女達の内に蠢く恨みや無念。それらを一度に受けてしまえば、並の人間では精神が持たない。
だが、それでも敢えて、シンは彼女達の無念を読み取り戦うことを選択した。そうすることが、彼女達を倒すことでしか救えない自分自身への戒めであり、同時に彼女達への誠意でもあったから。
「君達の無念や恨みは俺が聞く。君達の復讐は俺達が果たす。だから、安らかに眠りについてくれ」
誰かを恨み、世界を呪うためだけに作られた少女達。そんな存在は、悲し過ぎる。死してなお、無念だけを取り出されて利用されるなど、決してあってはならないことだ。
「救われなかった死者の無念や恨み……。それを、生者を虐げるために利用するなど、ここで終わりにしなければ」
戦いの流れが優勢に変わったことで、敬輔もまた心を鬼にして少女達を斬り捨てて行った。ユーベルコードを使っていないのは、少しでも村人達の後学になればとの想いから。
「可哀想だとは思うが、いつまでも苦しんだまま彷徨うのも哀れだ。せめて一思いに終わらせてやるよ」
最後は、浄化の力を纏わせた槍を響が振るい、残る少女達を纏めて薙ぎ払う。その刃が断つのは、肉体ではなく邪念や怨念。自らの身体を動かす源を断たれ、哀れな少女の姿をした者達は、次々と地に倒れ伏して行った。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
第3章 日常
『慈悲なき世界に安らぎを』
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POW : 死者を運び、埋葬する。屍肉を狙う獣を追い払う。
SPD : 棺や墓石の製作。埋葬中の警戒。屍肉を狙う獣を追い払う。
WIZ : 司祭として死者に祈りを捧げる。屍肉を狙う。獣を追い払う
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●弔い
戦いは終わった。だが、戦場となった街道は、無残にも荒れ果ててしまっていた。
恨みを断たれても、肉体は残る。それが邪法によって造られた、偽りの器だったとしても。人の似姿をしていながら人でない、オブリビオンであったとしても。
「……片付いたわね。でも……」
周囲に転がる少女達の亡骸を見て、イリーナが言葉を切った。
正直、これを見て何も思わないと言えば嘘になる。周囲の様子は、正に地獄。しかし、その地獄を作り出したのは、他でもない自分達自身なのだから。
「せめて、亡骸だけでも弔ってあげましょう。そうすれば、もう二度と、彼女達の無念が現世に戻って来ることはないかもしれない」
救いを求め、しかし誰からも救ってもらえなかった者達の怨念は、そう簡単に消えはしない。だが、彼女達の無念を少しでも晴らしてやれるのであれば、せめて墓を作って弔うくらいはしても良いはずだ。
「彼女達の身体を、合同墓所まで運ぶわ。余裕のある人は、手伝ってちょうだい」
闇の救済者達が心身ともに疲弊しているのを知って、イリーナは無理強いをしなかった。もっとも、このまま少女達の亡骸を放置しておけば、いずれは野獣が現れて、その死肉を食らってしまうかもしれない。あるいは、腐った死体が悪い病気を流行らせないとも限らない。
その想いを散々に利用されて来た少女達。せめて、最後くらいは人間らしく、弔ってやっても罰は当たらないはず。その際に、何か想うところがあれば、口に出しても構わない。
今後、闇の救済者として、どのように戦って行けば良いか。それを話し合うことも必要だ。課題は山積み。だが、今は目の前の事を少しでも解決して行こうと、イリーナと村人達は少女達の亡骸を抱え、それぞれ荷車に積み始めた。
真宮・響
【真宮家】で参加。
そうだね、誰にも救って貰えなかった子達はせめて丁重に埋葬した方がいいだろう。手を下したのはアタシ達だ。最後まで責任取るよ。
遺体がこれ以上傷つかないように丁寧に運ぶ。夫を弔った経験もあるから、棺や墓石についても面倒みるよ。苦しかったろう。せめて安らかに。【歌唱】で弔いの歌を歌いながら丁重に葬るよ。野獣への対処は他の猟兵に任せて墓地へ埋葬する作業に専念しようかね。あ、疲れてる奴は無理しなくていい。これは心身共に凄く消耗する事だ。アタシたちに任せてゆっくり休むといい。
真宮・奏
【真宮家】で参加。
そうですね、せめて亡骸でもちゃんと葬ってあげませんと。女の子達を亡骸にしたのは私達です。最後までお見送りするのが関わったものの役目です。
力仕事ならお任せください。女の子の遺体をつつがなく墓地に運べるように丁重に遺体を運びます。埋葬している間、盾と二刀流の剣を構えて野獣が乱入しないように監視します。【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】でがっちり道を塞ぎ、【シールドバッシュ】で吹き飛ばしを狙います。せめて女の子達が墓地で安らかに眠れるように。どんなことだってします。
神城・瞬
【真宮家】で参加。
誰にも助けてもらえず、更に命まで絶たれて。少女達の無念、察するに余りあります。かつて僕は、生まれ故郷の人達を葬ることが出来ませんでした。せめてこの子達は、きちんと葬って、弔ってあげたい。
僕は棺と墓石の用意を手伝い、棺に少女達の遺体を収めて、葬る手伝いをします。墓の前で銀のフルートで鎮魂歌を奏で、少女達の魂が安らかであるように祈ります。あの世には僕の生まれ故郷の人達もいる事でしょう。永遠の眠りが誰にも邪魔されず、静かなものでありますように。
●葬送
街道に転がる少女達の亡骸。オブリビオンとはいえ、それを放置しておくことは、神城・瞬(清光の月・f06558)には憚られた。
「誰にも助けてもらえず、更に命まで絶たれて……。少女達の無念、察するに余りあります」
かつて、瞬は生まれ故郷の者を守ることはおろか、葬ることさえできなかった。だから、せめてこの少女達だけでも弔ってやりたいというのは、彼の正直な想いだった。
「そうだね、誰にも救って貰えなかった子達はせめて丁重に埋葬した方がいいだろう。手を下したのはアタシ達だ。最後まで責任取るよ」
「そうですね、せめて亡骸でもちゃんと葬ってあげませんと。女の子達を亡骸にしたのは私達です。最後までお見送りするのが関わったものの役目です」
真宮・響(赫灼の炎・f00434)と真宮・奏(絢爛の星・f03210)にとっても、その想いは同じこと。このまま少女達を放置するのは、彼女達にとっても気が引けた。
こんな場所に転がしたままでは、いつ野獣の餌食になるか分からない。それでなくとも、腐敗した死体から疫病が発生したり、味を占めた野獣が村を襲ったりと、懸念すべき事項は枚挙に暇がない。
そして、何よりも避けねばならないのは、彼女達の遺体が吸血鬼によって『再利用』されることだった。
少女達は、特定の名を持つ者ではない。その肉体は、骸の海に沈んだ無念を入れる器として、吸血鬼達に創造されたもの。
そんな彼女達の肉体を、悪辣な吸血鬼が放置しておくとも思えない。仮に、彼女達の肉体へ再び無念や憎悪を注入されれば、彼女達は起き上がり、人間に仇名す者となってしまうことだろう。
もう、ここで終わりにせねばならない。瞬が棺や墓石の用意をする中、響と奏は少女達の亡骸を荷台へ優しく乗せると、村の共同墓地へと運んで行った。
●合同葬儀
葬儀の準備は、思いの他に大変だった。
倒された少女達の人数は相当なもの。加えて、中には人の形を失う程に酷く損傷させられている者もおり、それを人の形に直すだけでも苦労する。
墓石の準備。棺の作成。そして、遺体の損傷を修復すること。その、どれを取っても重労働だ。とてもではないが、戦いで疲弊した村の者達に、強制できる作業ではなかった。
「あ、疲れてる奴は無理しなくていい。これは心身共に凄く消耗する事だ。アタシたちに任せて、ゆっくり休むといい」
見兼ねた響が、疲弊している者から順に帰らせた。オブリビオンとはいえ、懸命に無念を訴えてくる少女を、問答無用で撃ち、そして斬り殺したのだ。これで消耗しない者がいれば、そちらの方が異常だろう。
「すまねぇな。だけど、俺達にもできるだけ手伝わせてくれねぇか?」
「ああ、そうだ。墓穴を掘るくらいなら、俺達にだってできるからな」
もっとも、中には心を奮い立たせて残る者達もおり、墓所での作業は思った以上に手際よく進んだ。
「ほら、あっちへ行きなさい! これ以上近づくと、痛い目を見るわよ?」
見れば、死体の匂いを嗅ぎつけて集まって来た野犬の群れを、奏が懸命に威嚇して追い払っている。闇に覆われた世界では、苦しいのは動物達もまた同じ。人の死体さえ、彼らにとっては御馳走なのかもしれないが、だからといって食い荒らさせるわけにも行かなかった。
「苦しかったろう。せめて安らかに……」
「あの世には、僕の生まれ故郷の人達もいる事でしょう。永遠の眠りが誰にも邪魔されず、静かなものでありますように」
瞬の奏でるフルートの音色に合わせ、響が弔いの歌を紡いで行く。
積み上げられて行く棺の山。もし、この世に来世というものが存在するのであれば、今度はオブリビオンなどではなく、ちゃんとした人間として生まれ変わってくれればと願った。
その時までに、この世界を吸血鬼から解放しよう。次に彼女達が人として戻って来た時に、絶望に覆われたままの世界では悲し過ぎるから。
時間は掛かるかもしれないが、小さなことから少しずつ。やがて、それが世界を変える力になるであろうと信じ、彼らは改めてオブリビオンから世界を取り戻す決意を心に決めた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
備傘・剱
死屍累々、か
流石に、罪悪感ってのを、感じるな
遊戯守護者を呼び出して、墓づくりを手伝わせよう
死体運びは、俺がやる
結果として、この惨状にしたわけだしな
…これも、戦う力をもった人間の責任って奴だ
戦う力を持ったものは、その後の事も責任を持たねばならないからな
せめてもの償いだ、変装の応用で死に化粧を軽く施して、穏やかな表情に整えてあげよう
相手は、女の子だ
苦しい、苦悶の顔で埋葬されるよりは、多少、無念も晴れるかもしれないしな
宇宙生まれの俺に、祈る神はないが、せめて、あの世ってのがあったら、そこで平穏な時を過ごしてもらいたいもんだ
力を持つ者には、その力に対する責任ができるってな
アドリブ、絡み、好きにしてくれ
西院鬼・織久
敵ではなくなったものに関心を持ちませんが、怨嗟を抱えたままの屍を放置するのはよろしくない。炎で火葬し、怨嗟の全てを頂くとしましょう
己の不運を嘆き、救いではなく怨嗟を叫び続ける者がいるなら俺が連れて行きます
我等西院鬼は救いではなく怨念となっても戦う事を選んだ者共
その対象が誰であれ、俺自身であっても拒みません
【行動】
遺体は可燃物の少ない場所に運んでUCの炎で焼き尽くし、遺体を狙った獣や病原菌の対策
怨嗟を飲み込んだ炎だけでなく、救いを求める事を諦め還る事も拒んで怨嗟を持ち続けるような者がいるならそれも「禍魂」に取り入れ「西院鬼」の怨念の一部にする
リドリー・ジーン
<wiz>
彼女達を弔うわ、この世界では鎮魂歌は存在するのかしら、もしもあるのならば皆に教授してもらって[歌唱]します。
もしも皆さんが一緒に歌唱して下さるなら一緒に。
せめて、彼女に安らかな眠りを
セレス・エレアノール
埋葬をね、まずは……しないと。
埋葬が終わったら、最後に「仕上げ」をしますね。
きっと、こういう時のために僕は居るんです。
聖痕(スティグマ)の活用、そして“黒き怒り”の応用。
それはつまるところ……抱えた無念や怨念ごと、魂を吸い上げてやるということ。
無念や怨念、痛みは僕が引き受けるということ。
傷ついた魂を癒すということ。
そして、綺麗さっぱりした魂を、約束通り天に還してあげるということ。
もう、これで貴方達を利用できるものは居ない。
さようなら、どうか安らかに。
……嗚呼、“重い”。
吸い上げたものがあまりにも多くて、重い。苦しい。
これが、今まで積み重なってきた苦しみ。
これは、いつか必ず。
晴らさなくては。
セシリア・サヴェージ
少女相手に躊躇なく大剣を振り下ろす非情な女だと彼ら……闇の救済者たちは私を軽蔑するでしょうか。かく言う私も両断された少女の亡骸を見るに、我ながら惨い事をするものだと思います。……ヴァンパイアに抵抗するという事は、このような事にも向き合わなければならない。そしてヴァンパイアの支配が続く限り、このような悲劇は繰り返されると……彼らにも理解して頂きたいところです。
私も遺体を運び、埋葬するのを手伝いましょう。それは彼女たちを殺めた私の責任でもあります。埋葬が済んだら【祈り】を捧げます。そして、この世界に光を取り戻すと誓いましょう。
●責務
合同墓所の一角にて、備傘・剱(絶路・f01759)は村の者達と共に、少女達を埋めるための墓を掘っていた。
「死屍累々、か……。流石に、罪悪感ってのを、感じるな」
先の戦いを思い出し、一人呟く。墓穴掘りは呼び出した妖怪に手伝わせているものの、彼の気持ちは晴れなかった。
力を持った者の責任といえば、そうだろう。だが、相手も戦闘を生業とする者か、もしくは異形の怪物であればまだしも、利用されているだけの少女を殺したという現実は、剱に激しい自己嫌悪の念を与えていた。
せめて、彼女達に死化粧くらいは施してやろう。少女達も、苦悶に満ちた表情で埋葬されるよりは、少しでも穏やかな表情で弔われた方が本望であろうから。
「埋葬するなら、私も手伝いましょう」
剱だけに任せてはと思い、セシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)もまた手伝いを名乗り出た。そして、そんな彼女達を横目に、セレス・エレアノール(Angel of Damned・f21630)と西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)は、何やら薪になりそうな木や、枯草の類を集めていた。
「埋葬を……しないといけませんね」
「単に埋めるだけでは、怨嗟は晴れないでしょう。それに、死体を掘り返される可能性を考慮すると……やはり、荼毘に伏すのが賢明ですね」
火葬という文化が、ダークセイヴァ―にあるのかは分からない。だが、悪辣な吸血鬼どものことだ。少女達の身体を掘り返して再び利用したり、もしくはアンデッドとして蘇らせたりといったことは、平気で行いそうな気がしてならない。
死者の怨念は、この世に残してはならないのだ。だからこそ、彼らは少女達の遺体を、棺諸共に燃やして天に返すことにした。墓穴の中に埋めるのは残された遺骨のみ。それでも、街道の隅で朽ち果てて行くよりは、救いがあるように思われた。
●火葬
少女達の入れられた棺が、赤い炎に包まれて燃えて行く。天高く昇る煙を伝うようにして、彼女達の無念もまた、天に吸われて行くのだろうか。
これでもう、彼女達は本当に自由だ。誰にも利用されず、延々と苦しみ続けることもない。だが、真の意味で彼女達を解放してやるには、もう少しだけ仕事が残っている。
「せめて、彼女達に安らかな眠りを……」
リドリー・ジーン(ダンピールのシンフォニア・f22332)が、鎮魂の歌と祈りを捧げて行く。少女達の無念が、少しでも晴れてくれればと。
「宇宙生まれの俺に、祈る神はないが……せめて、あの世ってのがあったら、そこで平穏な時を過ごしてもらいたいもんだ」
剱もまた、天に昇る煙を見つめながら、少女達の冥福を祈った。
宇宙で生まれた彼にとって、天の先にあるのは広大な宇宙。ならば、煙となって魂さえ天に昇るというのは、もしかすると文字通り、宇宙と一体になるということなのかもしれない。
「もう、これで貴方達を利用できるものは居ない。さようなら、どうか安らかに……」
そんな中、セレスは自身の聖痕の力を使い、残された怨念を全て自分に憑依させようとした。が、さすがに怨念の数が多過ぎたのか、その身を呪詛が猛毒として蝕み、瞳から血の涙が滴り落ちた。
(「……っ! ……嗚呼、“重い”。吸い上げたものがあまりにも多くて、重い。苦しい……」)
これが、今まで積み重なってきた痛みと苦しみ、そして悲しみと憤りなのだろう。それは、人が一人で受け止めるには、あまりに重たすぎるものだった。
「ちょ、ちょっと……大丈夫? どこか怪我してるなら、無理しないで休まないと!」
見兼ねたリドリーが心配そうに駆け寄ったが、セレスは辛うじて意識を失うことだけはしなかった。もっとも、既に肉体は呪詛に蝕まれ尽くしており、これ以上の怨念を背負うことは、彼女の寿命を縮め兼ねなかった。
「無理をする必要はありませんよ。残りの怨嗟は、俺が全ていただきましょう」
背負いきれなかった分は、自分が背負う。そう言って、織久が残された怨嗟の全ての、己の中へと吸収して行く。
織久の一門は、救いではなく怨念となっても戦う事を選んだ者達。故に、己の不運を嘆き、救いではなく怨嗟を叫び続ける者がいるなら、全て連れて行くつもりだった。
喩え、その対象に自分が含まれていたとしても、拒む理由など何もない。一門に課せられた宿命や、怨嗟と糧に戦うといった業は、彼とて十分に理解している。
「これで、彼女達も救われたのでしょうか? ですが……」
ふと、村の者達の視線が気になって、セシリアは彼らの方へと向き直った。荼毘に伏された少女達を見つめる、闇の救済者を名乗る彼らの表情は、個々によって様々だった。
「私を軽蔑しますか? 少女相手に躊躇なく大剣を振り下ろす、非情な女だと……」
誰に尋ねるともなく、セシリアは言った。その言葉に、闇の救済者達は何の答えも返せなかった。
「かく言う私も、両断された少女の亡骸を見るに、我ながら惨い事をするものだと思います。ですが……ヴァンパイアに抵抗するという事は、このような事にも向き合わなければなりません」
敵は、人の善意を利用し、それを踏み躙ることで絶望を与える悪辣な存在だ。そこに存在するのは、圧倒的な悪意。生まれながらにして邪悪な者でなければ行えない、人間の尊厳を魂の欠片まで残さず穢す、引き裂いても飽き足らない程の外道な行為。
「ヴァンパイアの支配が続く限り、このような悲劇は繰り返されます。それが理解できるのであれば……」
この先、世界に光を取り戻すための戦いにおいて、常に今日のことを忘れず、戦って欲しい。猟兵の力は確かに優れてはいるが、それはあくまで、覆せぬ絶望を覆すための、最後の切り札に過ぎないもの。この世界に希望を取り戻すのは、この世界に生きる人間達の手によってでなければならないと、セシリアは闇の救済者達に告げた。
「ありがとう。あなたの言葉……私も心に刻んでおくわ」
闇の救済者達に代わり、イリーナが答えた。
その無念を利用された少女達の分まで、自分は圧政から人々を解放するために戦い続ける。その瞳の奥に秘められた信念は、猟兵達の戦う理由に、勝るとも劣らないものだった。
大成功
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シン・コーエン
【POW】
少女達の亡骸を合同墓地に運んで埋葬する。
基本、皆と一緒に亡骸を荷車に積んで移送するが、荷車が足りない時は【念動力】で少女達の亡骸を固定した上で【怪力】で運ぶ。
屍肉を狙う獣が現れれば、素手を振り抜いで生じた【衝撃波・風の属性攻撃】で吹き飛ばして追い払う。
皆と一緒に少女達の冥福を祈りつつ埋葬。
イリーナには「イリーナの頑張りは聞いている。良い顔するようになったじゃないか。ご両親も誇りに思っている筈だ。」と嬉しそうな表情で笑いかける。
過去のイリーナの窮地に来なかった事については「すまない。寄り道が過ぎたようだ。」と素直に謝る。
後は帰る迄の間、闇の救済者達と模擬戦して、連携して戦う方法を教える
●遅れた英雄
合同墓所から立ち昇る煙は、夕暮れ時になっても途切れることは決してなかった。
倒された少女達の亡骸は、思いの他に多い。それら全てを埋葬するには、相応の時間が必要だ。
「これで全部か? 思った以上に多かったな」
残りの遺体は、シン・コーエン(灼閃・f13886)が全て運んで来た。荷台に積み切れないものは念動力で浮遊させ、一気に纏めて持って来たのだ。
「随分無理をしたのね。そこまでしなくても、私達で運んだのに」
「いや、それはそうだが……下手に放っておくと、こいつらが手を出しそうだったからな」
イリーナに応えつつ、シンは近くに寄って来た野犬達を、軽く手を振って追い払った。それだけで、巻き起こされた衝撃波によって、野犬達は軽々と吹き飛ばされ、散って行った。
遺体の回収に時間がかかれば、それだけで野犬や鴉などの餌にされてしまう。常闇と絶望の支配するダークセイヴァーにおいて、苦しみながら生きているのは人間だけではない。多少、可哀想な気もするが、放っておけば飢えた彼らは遺体を漁り、やがて人の肉の味を覚えたことで、生きた人間さえも襲い始めることだろう。
それを防ぐためにも、彼女達の亡骸は、ここで土と灰に還してしまった方がいい。棺桶と共に焼かれて行く遺体を横目に、シンは改めてイリーナに向き直り声を掛けた。
「イリーナの頑張りは聞いている。良い顔するようになったじゃないか。ご両親も誇りに思っている筈だ」
「ええ、ありがとう。私もあれから、色々と経験を積んだからね」
吸血鬼の手から少女達を助け、時に捕まって酷い拷問を受けながらも、最後は猟兵達の活躍によって窮地を脱することができた。その結果、自分の力がどれだけのもので、何をしなければならないのかを知ったのだと、イリーナはシンに返した。
「すまない。そんな苦労をさせていたなんて、少しばかり寄り道が過ぎたようだ」
「そう、気にしなくても心配ないわ。おかげ様で、私も前より鍛えられたしね」
そう言って、イリーナは苦笑しつつ、マスケット銃に弾を込めるような仕草をして見せた。
以前、アリスラビリンスで出会った際の彼女は、何も分からないまま闇雲に剣を振るうだけだったが、今は違う。己の力、ユーベルコードに依存することなく、闇の救済者達と肩を並べて戦うために、銃や鞭の扱いも覚えたのだろう。猟兵にこそ及ばないが、その力は間違いなく、闇の救済者達の中でも頭一つ分だけ抜けていた。
「さて……それじゃ、埋葬が終わったら、俺はイリーナの仲間達と模擬戦でもさせてもらおうか。集団戦に必要なノウハウなら、俺の知っている限りでよければ教えるが?」
「ええ、お願いするわ。私、そういうの、あまり得意じゃないからね」
あれだけ十分に指揮を執れていて何を言うかと思ったシンだったが、その言葉を敢えて飲み込んだ。
強くなったとはいえ、イリーナの戦い方はあくまでスタンドアローンを前提としている。この先、彼女を支える者達がいなければ、いずれ吸血鬼勢力との戦いの中で、彼女は命を落としてしまうかもしれない。
そうさせないためにも、闇の救済者達を鍛え上げるのは必須だろう。今はまだ、小さな灯でしかないが、やがてそれが大きくなって、本当に世界を変え得る力になるように。
そのための協力は惜しまない。そんなシンの言葉に、イリーナは改めて頷くと、笑顔で彼を村の方へと案内した。
大成功
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霧島・絶奈
◆心情
せめて安らかに眠れ…
◆行動
『暗キ獣』を利用
死肉を狙う鳥獣を牽制し、死者を埋葬
私もなけなしの【優しさ】を籠めて【祈り】ましょう
せめて次の憩いは安らかなものであります事を…
埋葬が済めばイリーナさん達に声をかけます
嘗て戦った「銀狼軍」を憶えていますか?
彼らと同じで、理想の為に戦うのは崇高な事です
ですが、『闇の救済者』を名乗るのであれば、何よりも護るべき人々と心や想いを繋ぐ事も肝要です
其処を履き違えると、救済者という名に酔った傲慢と独善に満ちた存在に成り果てます
…確かに圧政を覆すのに力は必要ですが、其れは多くの人々と共有されてこそ実現出来る理想です
私はそう思います
どう感じるかは貴女方次第ですが…
●救済者の条件
墓場に夜の帳が訪れそうになる時分、埋葬の終わった墓所を眺めつつ、霧島・絶奈(暗き獣・f20096)もまた静かに祈りを捧げていた。
「せめて、安らかに眠れ……」
なけなしの優しさを込め、絶奈は祈る。天に昇った少女達の無念。その魂が行き着く先は、安らかな憩いの場所であるようにと。
遠くの木に留まっているカラスが、寂しそうな声で鳴きながら山へと帰って行った。死体を狙ってのことだろうが、火葬に処されてしまっては意味がない。加えて、絶奈の呼び出した屍獣達が、常に墓所の周りで警戒していたことも大きかった。
「さて、イリーナさん。嘗て戦った『銀狼軍』を憶えていますか?」
墓所から帰る道すがら、絶奈はイリーナに尋ねた。その問いに、イリーナはしばし何かを考えた様子を見せ、それから静かに口を開いた。
「ええ、忘れもしないわ。私も……家族の受けた仕打ちに対する恨みだけで戦っていたら、ああなっていたかもしれないのよね……」
銀郎軍の人狼達は、その身を人狼病に侵され、人でない者になりつつも、人のために戦った者達。しかし、彼らは人外の姿と、そして何よりも吸血鬼に抗えるだけの力を、事もあろうか守るべき人々にまで恐れられた。その結果、不当な迫害を受けて討ち死にし……彼らは人に仇名すオブリビオンとして、地獄の底から蘇って来てしまった。
「彼らと同じで、理想の為に戦うのは崇高な事です。ですが、『闇の救済者』を名乗るのであれば、何よりも護るべき人々と心や想いを繋ぐ事も肝要です」
「そうね……。本当に、その通りだわ」
思い当たる節があるのか、イリーナは反論することをしなかった。確かに、吸血鬼の圧政に立ち向かうための力は重要だが、それだけでは人々を救うことには繋がらない。
其処を履き違えると、救済者という名に酔った、傲慢と独善に満ちた存在に成り果てる。そして、何よりも少数の英雄によって打破された圧政は、ともすれば権力を奪うためだけの戦いと誤解されるか、次の為政者さえも決められないまま、衆愚政治に陥って行くかの、どちらかだ。
このダークセイヴァーにおいて、人々を絶望から救う唯一無二の勇者は必要ない。いや、そんなものは、存在してはならないのだ。
仮に、勇者が全ての吸血鬼を退治してしまえば、人々は自分で立ち上がることの大切さや、自分の力で大切な人々を救う尊さも学ばずに、常に強者に頼って生きるだけの、堕落した存在に成り果てるだろう。そして、少しでも自分達に都合の悪いことが起きれば、その責任を今まで縋っていた強者に全て押し付け、糾弾し、新たなる敵と見做した上で、下克上を繰り返すだけだ。
それは、果たして吸血鬼に支配された今のダークセイヴァーと、何の違いがあるというのだろう。銀郎軍にしろ、唯一無二の勇者にしろ、良かれと思って行動した結果が人々を堕落させ、その堕落によって信じていた者から裏切られ、非業の死を遂げるというのであれば、皮肉としか言いようがない。
「……確かに圧政を覆すのに力は必要ですが、其れは多くの人々と共有されてこそ実現出来る理想です。私はそう思います」
大切なのは、この世界に生きる全ての人々の心の中に、悪と戦う勇気と優しさを与えること。そのためには、単に力で領主を倒すだけでは駄目だと絶奈は告げた。
「共有……確かにそうね。今の私達は、何を相手にするにしても、あまりに協力者が少なすぎるわ」
自分達だけで全てを背負い、他者の言葉に耳を貸さずに突き進めば、待っているのは父や銀郎軍と同じ末路だろう。守るべき者達から糾弾され、無念を抱いて死んで行く。その結果、今度は自分がオブリビオンとして、人に仇名す者に成り果ててしまうかもしれない。
そんな結末は、絶対に御免だ。そうならないようにするためにも、自分達は力で領主に歯向かうのではなく、より多くの人々に理念を理解してもらうよう努めたい。
剣を持って戦うだけが戦いではなく、身を呈して誰かの盾になるだけが守るということではない。絶奈の言葉から、イリーナは何かと戦うということについて、彼女なりに結論を出したようだった。
大成功
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館野・敬輔
【POW】
アドリブ可
他者連携極力NG
何も言わず、ただ黙々と亡骸を埋める
せめて、魂だけでも救われてほしい
亡骸を全て埋めた後で
墓地から少し離れた場所でイリーナさんと話したい
アリスラビリンス以来、ゆっくり話す機会がなかったからな
香草茶を差し出して、お疲れ様と
お父さんの遺志、しっかり継いでるな
イリーナさんならやっていけるよ
僕の身の上話を聞かれたら答えるさ
…といっても、話せるのは滅ぼされた故郷の隠れ里のこと
里は襲撃され壊滅、僕だけが猟兵になって生き残った話を、淡々と
最後に闇の救済者達と話し合い
戦いの現実は非情で残酷なことも起こる
でも、立ち上がろうと決めた時の想いは忘れないで欲しい
また、鍛錬に付き合うから
●希望の灯は消さない
少女達の火葬が終わると、館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)は何も言わず、残された遺骨を墓の下に埋めた。
想いはひとつ。せめて、魂だけでも救われて欲しい。ただ、それだけだ。だからこそ、彼は何も言葉に出さず、黙々と埋葬をするだけだった。
やがて、村へと帰還したところで、敬輔はイリーナを呼び出した。時刻は既に夜となり、村の広場には誰もいなかった。
「お疲れ様。こうして、ゆっくり話をするのも、久しぶりだな」
香草茶を出し、共に石造りの噴水の縁へと腰かける。水は枯れてしまっているようで、噴水というよりも、単なるオブジェの役割しか果たしていなかったが。
「お父さんの遺志、しっかり継いでるな。イリーナさんなら、やっていけるよ」
「それは、あなた達に助けられたからこそよ。あなた達と一緒に戦っていなかったら、私も今頃、どんな風に道を踏み外していたか分からないわ」
アリスラビリンスの森で、訳も分からぬままオウガに食われて一生を終える。自分達を迫害した村人を恨み、吸血鬼と同様の存在に成り果てる。悲劇的な終わり方をする可能性は、いくらでもあった。それを覆し、最良の選択をできたのは、全て猟兵達の活躍があってこそ。
だから、自分の命は人々を救うために使わねばならないのだと、イリーナは言った。何もしなければ死んでいた。しかし、自分は生かされた。ならば、その意味を考え、行動するべきなのだろうというのが、イリーナの答えだった。
「ねえ……」
徐に、イリーナが顔を上げた。彼女は何の気なしに、今度は敬輔へ彼の戦う理由について尋ねた。
「僕が戦う理由か。そうだな……」
自分の住んでいた隠れ里が吸血鬼によって滅ぼされたこと。その際、自分だけが猟兵になり、生き残ってしまったこと。家族も生き別れ、両親や妹は生きているのか、それとも死んでいるのかさえも分からないこと。
その全てを、敬輔は淡々とイリーナに語って聞かせた。彼の話を聞いたイリーナは、なにやら考えているようだったが、やがて閉じた目を開いて、彼に告げた。
「そうだったのね……。こうしている間にも、私達のような人が、この世界では増えているのかもしれないわね」
それを阻止するのが自分達の役割なのだろうが、しかし今は力が足りず、そして何よりも同士が足りない。
願わくは、この世界に生きる全ての人が、自分の意思で圧政に立ち向かってくれれば良いのだが。そう言って苦笑するイリーナと共に、敬輔は闇の救済者達が集まっている、村の酒場へと場所を移した。普段は人々で賑わっている場所だったが、少女達を埋葬した疲れも相俟ってか、その場にいる誰もが複雑な表情をして時間を過ごしていた。
「戦いの現実は非情で、残酷なことも起こる。でも、立ち上がろうと決めた時の想いは忘れないで欲しい」
闇の救済者達に、敬輔は最後に、それだけ告げた。悪意を以て世界を支配する者と戦うには、綺麗事だけでは済まされないこともある。しかし、志を失ってしまったら最後、絶望からは決して抜け出せない。
必要とあらば、また鍛錬にも付き合おう。そうして、今は少しずつ力を蓄えて行けばよいと、敬輔は闇の救済者達へ提案した。
吸血鬼によって、暗黒と絶望の支配する希望なき世界。そこに生まれた、新たな希望の灯火は、小さいながらも力強く輝き始めていた。
大成功
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