●Bloody-Blood.
――アリス、アリス。
「いやだ、いやだっやめて!!」
絶叫。
空間に漂うのはそれと、血と、やけに賑やかしい明かりたち。
「WELCOME!!」なんて描かれたアーチには赤いペンキばかりがかけられて錆び始めているし、本来ならば誰かを楽しませるはずだったのだろう愉快な機械たちは獰猛にも少年少女の殺戮へと使われていた。
それから、この空間を彩るはずの何処か音階の崩れたファンシーな旋律が断末魔に染まっていく。
走りながら逃げる少年少女たちは、それぞれが様々な服を着て、そしてそれぞれが様々に死んでいく。
あるアリスは、走っている最中にどこからともなく振ってきた矢に心臓を貫かれてしまった。
あるアリスは、飛んできたフォークで腕を貫かれてから地面にたたきつけられてしまった。
あるアリスは、きれいな足を虎ばさみで挟まれて失いすっころんで前へと転がっていった。
「い゛、やだァアア゛アぁアア゛ア゛あッッッ
!!!!!」
渦巻くのは思惑ではない、ただの恐怖ばかりだ。
逃げ惑う少年少女たちがどんどん血に染まって肉になってゆく。
死んだ死体を回収するかのように、芋虫がそれを飲み込んで、兵士たちが捕まえてどこかへと連れ去ってしまった。
助けて、と喚きながら涙を流したところでその声が外へ届くことなど――、ない。
●Do you like Alice?
「ねえみんな、アリスはお好きぃ?」
うふうふと笑いながら、女は体を揺らしていて。
細身の体から出た声は、――いつもより数段なまめかしいそれである。
ヘンリエッタ・モリアーティ(犯罪王・f07026)の人格がうち一人、「ルビー」は集まった猟兵たちに目配せをしながら訪ねてみた。
「実はね、アリスラビリンスで事件が起きちゃってて。それがだいぶグロテスクな感じだからぁ」
――苦手な子は、気を付けてねぇ。
ウィンクをひとつ、微笑みながら繰り出して。
女は甘ったるい声とともに訪れた猟兵たちに地図が印刷された紙を配り始めるのだった。
「UDCアースには、遊園地っていうのがあるんだけどね。ここの空間は、それに近いみたい。」
『アリスラビリンス』という世界は。
様々な世界や価値観の混在する幻想的で狂気的な世界である。
「まぁ、ここで起きてるのはデスゲームなんだけど。遊園地の遊具――たとえば、ジェットコースターとかあるでしょ?そういうのを使ってね、アリスをこう。」
かわいらしいリズムを口にしながら、己の手をまるで狐のようにかたどってから。
ルビーは愛らしく口をぱくぱくさせて、もう片方の手にあった親指を立てる。
「どーん!」
狐の形をした手で、親指を跳ね飛ばすように突いた。
――そのでたらめな手話で何も伝わらないとは思っているのだけれど。
つまり、端的に言うならば今回のデスゲームにおいて使用されているのは、「遊具」である。
もとはといえばこのエリアに住まう「愉快な仲間たち」などが気の赴くままに作った娯楽が、今やデスゲームに都合のいいトラップとなってしまっているのだ。
「まぁね、でも向こうも扱うってことはこっちも扱っていいってことだから?――どーん!ってこっちもやりかえしちゃいましょ!」
ちなみに、このデスゲームに放たれたアリスの数は多い。
ルビーが猟兵たちの数を指折りで数えつつ、彼らに目配せをしてから頷いた。
作戦に参加するだろう猟兵たちの数と同じくらいの人数でこの世界で逃げ惑っているようだ。
アリスたちが使用できるユーベルコードはさまざまであるが、逃げ惑って弱りに弱っていることだろう。過剰な戦力を期待しないほうがいいとルビーが言いながら。
「最終目標は、主催の討伐!わかりやすいけどアイデア次第でおもしろおかしくもなっちゃうしぃ」
――ど ん ど ん 残 虐 に も な っ ち ゃ う か も ね ?
からからけらけらと笑って、ルビーは猟兵たちを転送するために赤黒い蜘蛛の巣型をしてグリモアを起動した。
「まァまァ、助かるもそうでないも!みんなで頑張っちゃえばいい感じになっちゃうし?どーん!といきましょ!」
恐ろしいのは現実だけなのだから!
ふわりと浮いたグリモアが、赤い光を発して猟兵たちを包み込む!
「それじゃあ、行ってらっしゃい。猟兵(Jaeger)!」
お茶目に両手を振りながら送り出す彼女こそ、――遊園地のマスコットよろしく、愛想がよかった。
さもえど
●
七度目まして、さもえどと申します。
今回はちょっとパニック・ホラーバトルな感じでお送りいたします。
第一章:集団戦です。遊園地な園内で楽しくバトルしてくださいませ!
また、アリスを助けてくださるかた/そっちのけだけどバトル専念!どちらでも問題ありません。
第二章:こちらも集団戦です。
引き続きステージは同じです。アリスたちと共闘などできますが、ソロ参加ご希望の方はそのようにご記載ください。
第三章:ボス戦となります。
アリスたちはともに戦うことはできませんが、彼らを守りながら戦うことになるでしょう。
●注意!
本シナリオにはやや過激な残酷描写が入る可能性が高いです。お気をつけください。
みなさまのプレイング次第で物語がいかようにも変わればよいと考えておりますので、ぜひご活躍のほど宜しくお願い致します!
第1章 集団戦
『グリードキャタピラー』
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POW : キャタピラーファング
【無数の歯の生えた大口で噛みつくこと】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : 脱皮突進
【無数の足を蠢かせての突進】による素早い一撃を放つ。また、【脱皮する】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ : 汚らわしき蹂躙
全身を【表皮から溢れる粘液】で覆い、自身が敵から受けた【敵意や嫌悪の感情】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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●オープン・セサミ
きぃ、きぃ、と無機質に鳴くのはボルトの軋みだ。
遊園地――UDCアースで見かけたものもいるかもしれない、娯楽施設によく似たエリアにて殺戮の宴は始まる。
到着した猟兵たちの鼻腔をくすぐったのは、どこからか漂う穏やかな紅茶のにおい。
甘ったるいようでいて、苦みのあるそれが――遊園地の最奥から漂っていたのを悟るだろう。
奥に、「主催」がいるのだ。
そこに至るまでには、この広い「園内」を駆け巡るデストラップ――こと、無人であるのに動き続ける夢の娯楽たちを相手せねばなるまい。
アリスたちは息をひそめてどこかに隠れてしまっている。
探してもいいし、彼らに危害が及ばないように戦うのも猟兵たちそれぞれの自由である。
よくよく作戦を立ててから攻略しようとするもの、そうでないもの、それぞれ未来のために戦うのであるから――目的はブレないだろう。
がこん、と大きな観覧車がきしんで――その台から今にも外れそうになっている。
無人であるのにけたたましく滑りゆくジェットコースターは、あまりの速さにカーブから脱線してしまいそうだ。
高速で回るメリーゴーランドなど、其処に巻き込まれた誰かしらをすでにひき殺してしまったらしい。
無人のゴンドラは大きく回りすぎて、そろそろ池におっこちてしまいそうだ。
空中ブランコなんてあまりにも早い動きをしすぎて、ひゅうと風に舞った瓦礫を殴り壊してしまっている。
園内ショーのかわりにあるのは、ここに住んでいたのだろう愉快な仲間たちの首がそこらじゅうの柵に、ごみ箱に、突き刺されているばかりだった。
どこかしこを見ても、血と、恐怖と、戦慄が猟兵たちを待っている。
そして――ずるり、ずるりと大きな体を無数に這わせる人食い虫どもがこの園内を『愉しんで』いた。
かぱりと開いた口には唾液どころか真っ赤な口内やら共食いのあとやらわからぬ肉片と、もはやだれのものかその辺の雑草かもわからぬ何かが歯にまとわりついている。
腹をすかしているのか、それともただただ暴虐のかぎりにその脳で考えて命を食べているのかは、どちらが望ましいだろうか。
ありとあらゆる手段をもって、君たちはこの害虫どもを討伐してかまわない。――この狂気の世界ではそれこそ正しい在り方に違いない。
アリスを抱えて逃げてみせるのも非常に人道的であろう――この狂気の世界ではその正義こそ輝くに違いない。
君たちを歓迎するように、ノイズ交じりの音を立てながら。
『ア、リスの残ィ人数はッ、――10名とナりマヒた。アリスを、ォ、求めノ、ミミ、み、皆さッ、まは、オい、ィ、そギ、くだッ、さィ』
――案内アナウンスが、響いた。
エレニア・ファンタージェン
遊園地!
遊園地ってエリィ初めて
ルビーさんに何かお土産を探さなきゃ
エリィね、メリーゴーランドに乗ってみたい
でも回転が早くてエリィ乗れないし、途中気持ち悪いのもたくんいるし…あ、そうだわ
愛馬を召喚、騎乗してメリーゴーランドに一目散
台の上に飛び乗ったら出来るだけ外側の馬の手摺を掴んで留まる
これで勝手にメリーゴーランドの外周に愛馬の呪詛の炎を撒けるわ
振り香炉から催眠効果の紫煙もね
途中から大鎌を外向きに構えてみたり色々してみるわ
飽きたら遠心力で勢いを借りながら手近な敵目掛けて愛馬を跳躍させて踏み潰す
「うーん、メリーゴーランドってもっと優雅なものかと思ったのに」
アリスはね、助けるわ
次のアトラクションの後で
遊星・覧
◎★
なァーにお前らお客サマと従業員「で」遊んじゃってんのヨ
遊具の整備もダメ、園内の掃除もまるでダメ!
おもてなしってのがわかってねーなァ
◆
ピンマイクの出力は最高、存在感も歌唱力もバッチリ発揮して
【シンフォニック・キュア】
えーえー、害虫被害に遭われたお客サマ。駆除係(りょうへい)の到着をお知らせしマース
隠れてるお客サマ、猟兵のとこまで走って行けるくらいに回復してくれるとイイけど
アリスの隠れ場所見つけちゃったらそこを守る役しよ
悪い虫はクイックドロウで狙撃!
ホントーにいざとなったらランが盾になるヨ
死なないカラダって役立つからネ
◆
ホントはイイ遊園地だったんだろーな
ムカつく、虫はお呼びじゃねーのヨマジで
●悪夢の楽しみ方
キセル
くらりと人を惑わせる、煙の女神にとって。
「――遊園地!」
この空間は、初めての場所であった。
本来ならば彼女を歓迎するここは、もう少しきれいな場所であるべきだったのだが。
エレニア・ファンタージェン(幻想パヴァーヌ・f11289)は「遊園地」の入り口から両手をわずかに広げてその空間を楽しんでいた。
これが、夢の国。
――というには少し出来が悪すぎる。
「なァーにお前らお客サマと従業員「で」遊んじゃってんのヨ」
『お前ら』、という言葉で――まるで、この場所を同類のように見ているのは遊星・覧(夢・f18785)だ。
「あら、お知り合いなの?」
きょとりと不思議そうに覧を見上げるエレニアに、覧が紫のサングラス越しに首を振る。
「いンや。ドーギョーシャとして、こーいうのはケーベツしちゃうの!」
覧がそう言ってやれやれと肩をすくめてみせてからゲートをくぐっていく。
同業者、彼がそう言ったのだ。エレニアは淡い視界をぱちぱちとさせながら退廃的かつグロテスクな世界に足を進める紫の跡を追う。
「あなたも遊園地なのかしら?それとも、キャストさん?」
「ううン、ランはネ――」
遊星・覧。彼こそ、遊園地の化身である。
今こそ彼は――寂れてしまった不思議施設だなんて扱いを受けてはいるが。
それでも、人に長く愛された存在であるからこそ「ヤドリガミ」なのだ。
愛される遊園地とはなんたるか、を知っているから。
続くエリィが感動して彼に投げかけた言葉には敏感だった。
「そうだったのね!エリィ、遊園地は初めてなの。遊び方を教えてくださらない?」
「えェッ!?遊園地、初めてなのに、こんなとこ来ちゃったのネ……。」
よよよ、だとか。ほろり、だとか。
わざとらしくさめざめと人間のように泣き真似をしてみせる彼は、エレニアにとってはアトラクションそのものだ。
これこそ、おもしろおかしい遊園地ならではの演出なのだろうかとその様を見る期待の赤に、覧も応えざるをえない!
「――遊具の整備もダメ、園内の掃除もまるでダメ!」
嗚呼、なんて嘆かわしい!
と、一声叫んで見せて空へと両手をぐいっと伸ばした覧であった。その背を見上げながらやはりエレニアは純粋な少女がヒーローショウを見上げるかのような視線で声援を送る。
「おもてなしってのがわかってねーなァ」
そんな――出来の悪い場所ではなかったはずなのに。
覧が視線をやったほうには、愉快な仲間たちの首が突き刺された花壇がある。
見てごらんヨとエレニアに声をかけてやれば、彼女も素直に見た。――厳密にはあまり見えていないのだけれど。
「ホントはイイ遊園地だったんだろーな。」
敷かれた煉瓦は細やかで。二人の地面を作る足場だってきれいに敷き詰められている。
覧が表情を曇らせたまま、それでも笑って声を出すから。
「ムカつく」
声が、上ずっているのを聞き逃さなかったエレニアである。
「そうよ、――不快だわ、とってもね!」
だから、覧に同意をする。
覧が遊園地のヤドリガミであるというのなら、この惨状――鼻腔をくすぐる甘ったるい紅茶の香りに乗せられた、血潮ににおいが語るそれを、どう思うかなんていうのは。
推理しなくてもわかっただろう。
少し考えれば探偵助手たる彼女は分かって見せたはずだ。
「ランさん、あのね!エリィね、メリーゴーランドに乗ってみたいの。どう行けば早いのかしら。」
「ンぁ、じゃァ――……お」
遊園地のつくりに詳しいのはランの方である。
先ほどの悪徳教授の紅に渡された地図が、弱視のために読めないことを説明すれば快く覧が一緒に歩いてくれることとなった。
そして、覧が声を上げたのはエレニアの目的地であるメリーゴーランドにどうやら高台もあるらしい。
この高台からメリーゴーランドを見下ろす保護者があったのだろう。
――いいや、この世界にはそんなものはいなかったのかもしれないが。
「やっぱり、イートコだったんじゃン」
それでも、娯楽のためにあったのだから。
悔し気に覧がつぶやきながら、エレニアを引率する。
エレニアはそんな彼をぼやける視界の端に入れながら、紅の彼女へのお土産を探しているほど意識の差はあったのだけれど。
蹄の音が、鳴り響く。
芋虫どもはその音に敏感そうに首をもたげた。
ぎちぎちと無数に生えた喉奥まで広がる歯を鳴らしながら威嚇しつつ、駆けてくる黒を混沌渦巻く視界に入れる!
のろまな芋虫どもがそれを迎え撃とうとしたところで――漆 黒 の 蹄 は 止 ま ら な い !
【蹄音の小夜曲(ナイトメア・セレナーデ)】。
ごうごうと燃える黒馬は悪夢の申し子であり、その上に真白のエレニアを乗せていた!
芋虫の愚鈍な頭上を跳躍して飛び越えて見せれば、その向こうにあった舞台――メリーゴーランドに優雅に着地をしてみせる。
ぎゅんぎゅんと凶暴な速さを保っていたそれが、たくましい悪夢の着地によってわずかに速さを鈍らせる。
「まるで壊れたオルゴールみたい」
がびがびと悲鳴めいたキャッチーな旋律を流しながら愉快を主張する施設に在る外側の馬を貫いた手摺をしかりと握って。
エレニアが引っ張られる遠心力に合わせて悪夢も自然とその速さで走らされた!
「これなら――」
エレニアが微笑めば、愛馬の悪夢である炎はたちまち燃え広がっていく!
駆ける馬と無責任な速さをした娯楽の焚きつける風によって、どんどん炎は燃えて――エレニアに敵意を抱いた芋虫の一匹を焼いた。
それが熱さで悲鳴を上げてもんどりうつのがおもしろおかしくて、口角を上げるのだ。
「うーん、メリーゴーランドってもっと優雅なものかと思ったのに」
でも、これはこれで――おもしろいかも!
狂った調律を頭上に感じながら、エレニアは真っ赤な口内を晒して馬を走らせるのだ。
ついでに催眠効果のある紫煙もまき散らせてしまう。たちまち風に乗ったそれで意識を奪われていく芋虫たちがあった。
四方八方からむらがるそれが彼女と一緒に踊れないまま蹂躙されていく様を、例の高台から眺める覧である。
「ンー、いい笑顔。」
初めて、遊園地に来たといっていたから――。
こんな血なまぐさいアトラクションで申し訳ないとは思いつつも、煙の彼女の笑顔をしかと赤で見たのだ。
「えー、えー。マイクテス」
手にした彼のピンマイクから、彼の穏やかながらに底抜けに明るい声が鳴り響く。
――【シンフォニック・キュア】だ!
「えーえー、害虫被害に遭われたお客サマ。駆除係(りょうへい)の到着をお知らせしマース。繰り返しマース」
彼の言うお客様、というのはアリスたちのことである。
せっかく楽しい施設に迷い込んだというのに、ただただ悲しいばかりの惨劇に巻き込まれてしまう命たちを嘆きながら。
だけれど、その彼らに希望を与える一声をまず、遊園地の権化である彼が慣れた口調で話すのが大事であった。
もしこれで、慣れていない誰かが震えながらつぶやこうものなら――余計に不安にさせていたから。
これは、覧にしかできないことだったのだ。
「さァて、隠れてるお客サマ、猟兵のとこまで走って行けるくらいに回復してくれるとイイけど。」
覧の視界――メリーゴーランドの位置で、いよいよエレニアは大鎌で芝刈りよろしく芋虫を輪切りにして駆除を進めていた。
次にやるべきことは、アリスたちの救済である。
先ほどの声を聴いてかおそるおそる、メリーゴーランドの近くにやってくる一人の少女がいた。
――あの子だって、笑顔でいるべきだったのにサ。
もったいないことを。そう念を込めて――大容量のインクが詰め込まれたそれを放ってやったのだ。
少女の背後から今にもとびかかろうとしていた芋虫を、べっとりとしたインクでヘ ッ ド シ ョ ッ ト !
ずうんと倒れたそれに体を震わせた「お客サマ」のところにめがけて、高台から飛び出す彼は――たのもしい、キャストだったに違いない。
「迷子でいらっしゃいマスかァ?お客サマーッ!」
そんな彼がエレニアの領地をかけていって助けに走ったのを見て。
ぐしゃりと愛する悪夢が芋虫の頭を新たにつぶしてジャムにするのを眺めながらエレニアは考えていた。
――助けるべきか。
ぐちゃぐちゃといたずらに踏み続ける愛馬は、まるでこの惨劇を楽しんでいるのだ。
――今この時を楽しむべきか。
瞬きをしながら考えてみて、うーんとうなってから。
「アリスはね、助けるわ」
よし、と意気込んだエレニアが――また、大鎌を構えて背中を撓めて黒馬の横っ腹を蹴ってやる。
つんざくような嘶きとともに、黒馬は一目散に前方へと駆け出した!
今すぐ助ける必要もあるまい。だって――エレニアは。
「次のアトラクションの後で。」
エレニアさえ楽しければ、今はそれでいいのだから!
きゃあきゃあと荒れ馬にまたがった彼女が、真っ赤な三日月を手にしたままいちごジャムのじゅうたんを作っていくのを。
「ワァオ、エキセントリック――てヤツ?」
覧が、確かに助けたアリスの両目と耳を両手と腕でふさいでやりながら笑うのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ジュジュ・ブランロジエ
◎★
メボンゴ=絡繰り人形
狂ったように走るゴーカートに飛び乗り武器改造の要領で操作系統を弄って乗っ取る
よくわからないけど勘でなんとかする
ゴーカートで爆走しながら芋虫退治
片手で運転しながらもう片方の手でメボンゴを操る
メボンゴ波(メボンゴから出る衝撃波)に氷属性付与
たくさんいたら範囲攻撃で多くを巻き込む
どうかな、芋虫くん!冷たいの苦手でしょ?
襲われかけたアリスを見つけ急停車
白薔薇舞刃に氷属性付与
体液まで凍るように
だって汚れたら嫌だもん
芋虫退治したらアリスに声をかける
さあ、乗って
一緒に逃避行しよう
スピード出すけど安全には気を付けるよ
向かってくる芋虫はメボンゴ波で蹴散らしながらドライブ
大丈夫。怖くないよ
ゼイル・パックルード
殺伐としたのは好きだし、こういう趣向を非難できる趣味嗜好じゃないがね、あんまり好きな感じじゃあないな。
アリスは見つけたら助けるくらいで、ガキが死ぬのはあんまり好きじゃないし。
案外広い園内だな、移動するのも面倒……これは、ゴーカートってやつか?乗ってみてぇ。
運転を楽しみながら、芋虫やらアリスを探すことにする。運転技術はまったくないが。
芋虫が後ろから追ってきたら、追いつかれる寸前で【ブレイズフレイム】を噴出させて敵を燃やしつつ加速。
正面にいたら、これも加速して突っ込んでいき、衝突寸前で【ジャンプ】して離脱。
でも、少し物足りないかもな。
その後は鉄塊剣でマスコットとの触れ合いを楽しませてもらう。
●
殺伐としたのは好きだと、彼は言う。
銀とも白ともつかぬ、白金の髪の毛をきらきらとこの狂気の世界へ揺らめかせながら、ゼイル・パックルード(火裂・f02162)は足元の草花を容赦なく踏みつけて「遊園地」たるそれを見下ろした。
――ガキが死ぬのはあんまり好きじゃないし。
ましてや、この弱者と戦わずしてただただ蹂躙し、逆転のチャンスすら楽しまない場所など好ましくはない。
ゼイルは――戦闘狂だ。
それも、命の駆け引きが好きで強さを競い合う男である。
このようなデスゲームがもし、アリスとアリスが生きるために殺しあっていたなら、彼は笑ってそれを見守っていたかもしれない。
その行いに憤るというよりは、きっと邪魔をするオウガを懲らしめてやろうとしただろう。
――この施設は、彼の人生とその美学に反する。
綺麗な理論ではないだろうし、倫理などとっくの昔に蹴り飛ばしてしまった彼ではあるが。
「やだ、やだッ――やめてぇええええッッッ
!!!!」
アリス
布を切り裂いたような――少女の声が聞こえた。
「チッ」
舌打ち、一つ。
それから駆け出して、足場にしていた丘から遊園地へと足で滑り降りていく。
子供が死ぬのは、夢見が悪いのだ。――彼だって、少し前までは子供だったものだから。
どるどるごうごうとエンジンをふかせながら、誰も載せる気のなさそうな四駆が園内を暴れまわるエリアがあった。
「いや――すごい、走ってるね!」
当然だけれど、その速さが当然ではない。
雄たけびを上げながらジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)の前を通り去っていった四駆の獣たちはけたたましい音をならしたままにいたずらな風を巻き起こしていく。
ひらひらと真白のドレスに蒼いフリルがはためかされて、土ぼこりを二、三度掌で払ってやった。
どんな時でも笑顔であるからこそこの狂気と、それからでたらめな血ばかりの匂いがはびこるところだって明るくしてみせる人形師の彼女である。
「よし、止まらないと思うから――行くよ、メボンゴ!」
愛らしいフランス人形のウサギには、何度考えさせられていかつすぎる名前を呼んでやりながら彼女は己の「舞台」を選んだのだ。
目を付けたのは――青い四駆の獣である。
「あのゴーカート!」
指名しながらウサギを繰り糸とともに投げてやれば、しかりと指に巻き付いた糸が張る。
そのまま、ウサギがきゅるんと愛らし気にハンドル周りを一回転してやれば。走り続ける速さのままに爆速でジュジュを引っ張った!
白薔薇の足元が、ふわりと浮いて。
世界がゆっくりになる。――あまりに早すぎて、脳がついていけないというのもあった。
我に返る。この脳すらおいていく意識の中で、繰り糸を操る指先だけは、正気だった。
くい、と第一関節が動いたなら。
――白うさぎを乗せたまま全速力で走る蒼に、急 接 近 ! !
タイミングよくその猛威に乗って見せて、勘まかせにハンドルを握ったジュジュだ!
「わ、わわ、わ――よくわからないけど!」
ぎゃぎゃりとゴムタイヤの焼ける音とともに――ゴーカートを意のままに操って芝生へと踊り出た!
旋回を二度繰り返してから狂気のレースコースから離脱する蒼と、ジュジュとメボンゴはあわやクラッシュするかと思われたが態勢を持ち直す。
横倒しになる手前の角度で――重心ごと垂直にしてやった。
はあ、とため息をつく暇もなくまたエンジンは猛々しく吠えている。
ジュジュはそれを確認してから、この勢いに任せて悲鳴の方向へと蒼を走らせたのだった。
「お、ラッキー。」
そして、ジュジュが走り去った後で。
漁夫の利、というのが今まさに、ゼイルにはぴったりだったろう。
よいしょと彼が滑り落ちた先に、先ほどの蒼に跳ね飛ばされてみぞにタイヤをはめてしまった赤のゴーカートがあった。
ボディは赤色ではあるが、金色の模様で炎があしらわれている。
――おあつらえ向きだな。
ひとりごちてにやりとして見せて、彼もまた――その車に乗ったのだった。
がこんとタイヤとみぞの間に、鉄塊剣を挟ませて。
彼ら二人の耳に届いた叫び声、その主であるアリスは走っていた。
幼い彼女の二倍ほどの背丈しかない小さなライオンにまたがって、そして、悲鳴をあげながら。
ああ、悲鳴を上げてしまうから、芋虫たちが迫ってきてしまうのもわかっていたのに。
「いやだ、いやだ、いやだいやだいやだいやだ――!!」
助けて、と全身が叫んでいた。
顔は真っ赤になって、逃げまわるライオンも必死に瞳孔を開いて走る。
この狂気の遊園地は常に夕方で、――太陽が落ちないのに。
どこまでもどこまで逃げても逃げても、曲がっても飛んでもおりても。
この狂気の世界から、逃げ出せないでいた。
ライオンの脚にも限界がある、己の思うがままに走れなくなったそれが、ぐらぐらと揺れ始めて――。
「き、ゃあッ!」
べしゃりと、アリスを地面に投げ出してライオンは倒れてしまった。
はじめて――アリスは、己が【ライオンライド】で呼び出したそれが金色であったことを知る。
黄昏と蛍光色の明かりに染められた毛皮が、美しいなと思っていたら――その体は真っ赤に覆われて、見えなくなった。
己の足先より少し離れた先で、金色が赤を噴き出して飲まれていく。
ああ、夢が終わったのだ。
――つぎはわたしだ。
悟る。アリスは、悟ってしまった。
美しい金髪をしたアリスは、お揃いの色をしたライオンが真っ赤に飲まれて水たまりとわずかな毛皮しか残さなかったのを見た。
次は、己がああなってしまうのだと悟って――。
「あは、はは」
思わず、笑いが出た。ごりごりと芋虫の喉奥で骨が砕かれる音が聞こえる。
「はははは」
もう助からない。芋虫がこちらを見た。口を開けば、粘液に交じった鮮烈な赤がある。
「ぁ。はははは、ぁはははははははッッ」
もう、もう、もう――正 気 で い ら れ な い ! !
あわや発狂して笑い転げようかと、こころの防衛本能がちぎれかけたときに。
「『ご覧あれ、白薔薇の華麗なるイリュージョンを!』」
ジュジュ
奇術師の宣誓が響く――!!
ごう、と勢いよく魔術とともにアリスと芋虫どもをさえぎるように白薔薇の群れが走った!
その場所に招かれるようにして地面から生えたのは――長城がごとく氷の障壁!!
【白薔薇舞刃(ホワイトローズイリュージョン)】。
大がかりな奇術がひやりとした冷気を放った痕跡を、アリスが震えながら見る。
「大丈夫。――怖くないよ」
茫然とした表情に、狂笑はなかったから。
その小さなすがたを――蒼の車から手を伸ばしたジュジュが支えて、抱き込んだ!
「どうかな、芋虫くん!冷たいの苦手でしょ?」
白うさぎがどうどうと波状の魔術を後部から放っているのを、軽く振り向いてやじりながら。
アリスを太腿に乗せてやって、その顔を己の胸元へ押し付ける。
「大丈夫、もう大丈夫だよ!」
――だから、笑って!
「一緒に逃避行しよう!」
頼もし気に笑うエンターテイナーであるジュジュの声色に、思わずアリスが生きた表情を取り戻す。
わあ、と泣き出す幼い命を胸にしたまま、ハンドルを握りなおしてジュジュは救出に専念する!
メボンゴから放たれる氷の魔術は、虫である彼らには恐ろしい脅威となるはずだ。
冬を越せない――芋虫どもの体液を凍らせていく!
きっと、この先にはほかの猟兵たちが救出拠点を作ってくれているはずだから。
そこなら、この心を病んでしまったアリスも笑ってくれる――いいや、必ず笑顔の伝道師がそうさせて見せる!
ぎりりとハンドルを強く握ったジュジュが、決意を込めていたのを白うさぎの相棒が赤い瞳に映したのだった。
「おお、やってくれたな。こりゃあ――動きやすいぜ」
その光景を遅れながらも観測してたのはゼイルだ!
ごうごうと燃える彼の腕からは、先に切りつけておいた傷口から【ブレイズフレイム】の炎が今か今かとくすぶっていたのだ。
身の内に「地獄」を飼う彼だからできることではあるが――非常に熱をはらんでいる体内である。
攻撃のチャンスは、まだ早い。
にいいと口角を上げて、彼の進行方向上に――ジュジュとアリスがいないことを目視できた。
「少し物足りないかもな。」
ひとりごちて、呟いてから。
運転技術の全くない彼だからこそ、思い浮かんだ「発想」は――!!
獲物を障壁に阻まれ、迫りくるゼイルで腹を満たそうとした芋虫たちの視線が集まる!
一目散に赤に駆け寄る彼らを――薪にしてやろう。
そのまま、赤の四駆が彼の熱で「紅」に変わって。
爆風。
氷の障壁を、ブレイズフレイムの炎で――四駆を加速させぶち割った!!
当然、爆炎の上がる個所に在った芋虫の群れは一匹残らず灰となっていく。
この世のものとは思えぬ断末魔が彼を非難したとて、彼はにたりと笑うばかりだ。
すっかり黒い影が落ちた顔で、次は鉄塊剣を握った。
地獄の炎の熱で耐えきれなかったのか、すっかり車体のひしゃげた紅を蹴って――地面へと離脱する。
ジュジュたちの痕跡はあるが、とうにあの速度のままならどこかへ逃げ切ったのだろう。
――ならばここは、ゼイルの縄張りだ。
熱された鉄塊剣は赤くきらめいてはいるものの、持ち主の信念と同じくどこまでも真っすぐの刀身を保ったままである。
それを確認して。
「マスコットとの触れ合いを楽しませてもらうとしようか。」
ゼイルは、煌々と燃える己の明かりに集まった芋虫どもに宣言する!
まだまだ、地獄の彼が往く戦場は――燃え広がるばかりであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴィリヤ・カヤラ
◎★△
これは……なかなかだね。
ダークセイヴァーでもあまり見られない光景かも?
アリスを探して保護するよりは敵を倒しながら、
見付けたら保護するのが良いかな。
だから敵は見掛け次第殺していくよ。
これ以上、ただ血が流れるだけなのは勿体ないしね。
食べてるからそれだけでもないのかな?
でも、虫が食べても私の渇きは癒えないし、
やっぱり勿体ないって思っちゃうよね。
外れそうな遊具があるなら【四精儀】の雷の突風で、
攻撃ついでに敵のいる方に飛ばしたり
動かせたらラッキーかな?
アリスを確保したら近くにいてもらって
守りながら行こうかな、
この場合は自分の怪我は覚悟で行くね。
動けるなら後で治せば良いしね。
上野・修介
◎★
「悪趣味だな」
恐らくこの世界に来る度に何度もそう思うだろう。
――ならば
「何度でもぶっ潰す」
呼吸を整え、無駄な力を抜き、目付を広く、戦場全体を観【視力+第六感+情報取集】るように。
まず敵味方の戦力、総数と配置、遊具の位置を確認。
次に遊具をUCを用いて破壊。周囲の敵を殲滅して安全圏を確保。
周囲の敵を殲滅したら、アリス達を安全圏へ誘導と護衛。
アリス達には必ず「俺たち(猟兵)は味方です。助けに来ました」と伝える。
もし救出に動いている猟兵がいれば積極的に協力。
得物は素手格闘【グラップル】
【ダッシュ】で相手の懐に肉薄し始末する。
また【挑発】しながら【フェイント】を掛けUCを誘発させて同士討ちを狙う。
●
「これは……なかなかだね。」
「ああ――悪趣味だな。」
きっと、この世界に何度来たって彼らはそう思うに違いない。
何を歓迎する気だったのかもはやわからない。そんな入り口のアーチをくぐって園内に侵入したのはヴィリヤ・カヤラ(甘味日和・f02681)と上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)だ。
「何度でもぶっ潰してやりましょう。」
「同感だね、こればっかりは。」
二人は、ダークセイヴァーとUDCアースの出身である。
すでに何度か色々な残虐を目にしてきた二人ではあるが、「悪趣味」というのはまた別格であった。
ダークセイヴァーは、吸血鬼が人を戯れに殺すことはあれどまだ知能的だった。
UDCアースは、邪神が人を冒し唆し狂気に蝕み食い物にするが、まだ計画的だった。
しかしこの――アリスラビリンスというのは、いたずらに命を奪う世界である。
吐き気を催すほどの、悪意がこの遊園地には渦巻いている。
――遊園地と呼ぶもの悍ましいが。
はやる呼吸は明らかな異常性に包まれだしたからだ。修介は今一度、己の師が何度も言い聞かせてくれた作法を思い出し、試す。
――呼吸を整え、無駄な力を抜き、目付を広く、戦場全体を観るように。
集中し始める。
その修介を見上げながら、ヴィリヤは彼に作戦を語り掛けた。
彼が己の思考に没頭しすぎてはいけないと踏んだからである。デス・トラップ――この場合は遊具であるが、それに狙われたときに反応が遅れるのは避けたい。
「アリスを探して保護するよりは敵を倒しながら、見付けたら保護するのが良いかな。」
――これ以上、ただ血が流れるだけなのは勿体ない。
そう、踏んで。
ヴィリヤは己の「魔」らしい価値観でも冷静に戦況を判断していた。
修介は――彼女の「それ」を感じつつも言及はしなかったが、おおむねの作戦には同意に頷いている。
二人がそう言いながら己の拳と、それから腰の剣を構えて周囲を確認した。使えるものは使えと言っていたし、さて――とヴィリヤが周りを見ながら、修介はその隣で敵の総数と配置の察知に専念していた。
「数が多いです。10頭以上。死体の数も多い。生きているアリスは――いない。」
「おや、それは残念だね。」
怪我をしてでも守ってやろうと思っていた半魔は、目を細める。
同時に修介は己の内に沸き立つ嫌悪感を、やはり呼吸法と一定な生命の脈動を意識することで打ち消していた。
立ち止まるふたりにぞろぞろと、群がるようにやってくる芋虫たちである。
一匹が皮を脱ぎだして――。
「行きます。」
修介も飛び出した!
飛び出す修介に合わせて芋虫たちの半数がそちらへと向かう。
先ほど皮を脱いだ一体が他とは比べ物にならない速さで弾丸のごとく修介に迫れば――修介は!
「【―― 砕 く 】」
己からすっ飛んできた獲物に肉薄し――それに向かって己の右足を突き出してたやれば、ぱん、と明るい音を立てて真っ赤の球体は破裂した!
超近接特化である修介に、この芋虫たちが「超近接」の攻撃ばかりしかできない脳だというのなら非常に好ましい相手である。
だがしかし、それで油断をしないのが修介なのだ。
このまま拳と足で砕いてしまっても構わないが、なにせデカブツ五体。
うち一体を目の前で破壊された彼らは、赤いペンキを頭からかぶったような修介の姿に警戒しけたたましく鳴いて威嚇し始めた。
ぎろりとそれらをねめつけてやりながら、――次の攻撃のチャンスを待つ。
でたらめに打っては疲労する。疲労すれば隙が出る。なぜならば、猟兵であるが――修介は人間なのだ。
「――スゥー……」
やかましい威嚇に対し修介が蛇のような呼吸音で威嚇したあたりで!
「『この地を構成するモノよ、その力の一端を示せ』」
凛とした声で、魔術が構築された。
ス ト ー ム
突如その場に吹き荒れたのは、――雷 の 突 風 !
一帯一瞬の天候の変化で、己の赤が突然の雨にすべて流される修介である。
――洗濯の手間が省けたな。
と、思うと同時にやはり魔術のサポートに己の勝利を確信する。
「よーし、動かしちゃえ。」
【四精儀(シセイギ)】。
ヴィリヤがまろやかな声で、そして楽し気に指先をくるりと球を撫でるように動かしてやれば。
ごろんと音を立ててその体をボルトから外したのは「大回転メリーゴーランド」だ。
普通のメリーゴラーンドとはちょっと違うそれである。普段は二名または四名がその中に座り、回る足場とともに乗っている球体が文字通り前へ後ろへと宙返りを果たすのである。
ヴィリヤの突風と雷の恩恵を獲て――電子回路で組まれた電磁誘導が、美しく修介の前へと走った。
ちゅいちゅいと鳥の鳴き声のように空気を走る姿に、修介が思わず口元を笑む。
「頼んだよ。」
穏やかに笑むヴィリヤもまた、彼の強さをその背中から感じていた。
転がってきた球体を、――蹴とばす!
破壊されながらもそれが芋虫へと直撃した!
戦いの火ぶたが切って落とされたとなれば芋虫たちも呆けてはいられない!
牙をむき出しにして踊るように体を激しくくねらせながら修介にとびかかった一帯を、回転して突っ込んでくる玉につかまることでまず回避する!
そのまま体を一回転したあたりで、己の脚で地面に「刺さるように」着地をする修介が――ボルトの刺さっていた「唯一回転しない」部分に指をかけてやって芋虫どもへ投げ返す!
ごごんとひどい音がして芋虫に衝突する鉄塊である。
きぃきぃと悲鳴めいた声を上げるそれに向かって駆け出し、掌 底 で 球 体 ご と 破 壊 し た ! !
「――次。」
ぎろりと静かなる炎を燃やす彼が、スカーフェイスに滲んだ殺意を隠しもしない。
ヴィリヤがその仕事ぶりに満足げにしてから、頷いて次の球体を動かしていた。
「いやぁ、はは、――やっぱり渇きは癒えないなぁ!」
アリスがこの場に居なくてよかったと思うヴィリヤである。
子供には少々刺激が強すぎるし――こんな赤のレッドカーペットを歩ませてはやれない。
こつりこつりとヒールでその敷物をあるいてやれば、小さな波紋ができるばかり。無理やり吸血しないとはいえ、「あてられてしまう」かもしれないほどのおびただしい血があったのだ。
飢える、飢える――だからと言ってヴィリヤは「半分人間」だ。
レッドカーペットを造る修介と、その上を歩きながら球体を転がし続けてやるヴィリヤである。
遊園地に新たな赤を彩ったところで、彼らの前には芋虫の死体ばかりが転がることとなったのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ユエイン・リュンコイス
◎★
なんとまぁ悪趣味だけれども……どうやら、この環境下と相性は悪くなさそうだ。
【黒鐵の機械神】を起動する。全球状に周囲の無機物を取り込んで構成される、全長五十m規模の巨神。メリーゴーランドだろうが、観覧車だろうが、ジェットコースターだろうが、範囲内には飲み込めるだろう。全て根こそぎ削り取り、利用させて貰おうか。
それに対象は飽く迄も「無機物」。巻き込まれたであろうアリスの遺骸は含まれない。
後は簡単だ。惑うアリスを巻き込まぬよう『情報収集』で彼らの位置を把握。『メカニック、操縦』で機械神を操り、『グラップル、衝撃波、範囲攻撃』で蹂躙。この環境が厄介なのだろう?なら芋虫ごと全て更地にしてしまおうか。
●
悪趣味な空間ではある。
真っ赤にやけた夕焼けの空を彩る蛍光色は、いっそ不気味であった。
ユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)は――人形ながらに、人形で舞う存在である。
表情の変化は乏しく、ミリ単位でしか動かぬそれでありながら、この状況を冷静にそして少し感傷的には見れていた。
「どうやら、この環境下と相性は悪くなさそうだ。」
機械とともに生まれ、機械とともに戦ってきたユエインである。
製造されてから人と触れ合った数よりも、無骨で冷たい彼らと支えあった数のほうが多い。
黒鉄機人はユエインのつぶやきを聞き漏らさない。赤い瞳を確かに光らせて、同意を示していた。
ごつごつとした友であるが、ユエインにとっては――よき相棒で在り、理解者である。
この黒を扱うために知識を蓄え続けてきた人形として生であった。機械よりも機械らしく、そして人形よりは人らしくある彼女をまたそばで眺めてきたのもこの機人である。
さて――それでは、その知識を扱おう。
ユエインが無言ながらに周りを見渡す。
近くには遊具になるコーヒーカップと、愉快な仲間たちを頸椎から突き刺した悪趣味な花壇と、ごみ箱が多少。
あまり派手に展開しては他の猟兵たちの邪魔になるやもしれない。事実、どこかの方向では機械が派手に破壊された音もしたところだ。
ならば――それを、かき集めるまで。
ユエインの周りには、気配が在れど芋虫たちの姿はない。漆黒の瞳があちらこちらとねめつけた個所には、間違いなく体を隠しきれていないものどもがいたのだ。
警戒するのは、獣のさがだろう。
もとより、彼らは生きるために「アリス」を食ったにすぎない。
デスゲームの主催はそうでないだろうが、この知無き獣たちにとっては当たり前の仕組みだったのだ。
それはユエインが指先の糸を繰るのと何ら変わるまい。
――だが。
芋虫は現れずとも、ユエインの周りにはすでに「アリスだった」と思わしき肉が転がっている。
胃に受け付けなかったのか、吐き戻された粘液とともに転がるどす黒い肉があったのだ。
まだ虫は湧いていないが、時間の問題だろう。
もはや顔もわからぬ中途半端に溶けたそれを見下ろすユエインと彼女の友が、これを「対象外」とした。
これから起こす魔術に、「無機物」を多数媒体とするが――遺 骸 は 含 ま れ な い 。
最適解を頭の中で繰り出すのは、紅茶片手に読んだ書物のせいかどうか。
それでも、彼女は――!
マエストロ
知 識 人 で あ り な が ら 技 術 人 。
――つう、とその指が「遊園地」などというかわいらしいまやかしで包まれた空間を切り取るように目線の先を走っていった。
「『『叛逆の祈りよ、昇華の鉄拳よ、塔の頂より眺むる者よ。破神の剣は我が手に在りーー機神召喚!』」
高らかな宣言とともにユエインの足元に現れたのは、【黒鐡の機械神(デウス・エクス・マキナ)】である!!
黒い相棒を基盤としながら、周囲のコーヒーカップをごみ箱で割って砕き、その体に取り込ませればその大きさまさに山のごとく!
ずうんと破壊の化身が現れて見せれば、おのずとその影は地に落ちて――遊具の城どころではない大きさのそれに驚いた芋虫たちがわらわらと飛び出してきた。
逃げも隠れもできまい、とはまさにこのことである。この隙を逃すまいと、その神に乗せられたユエインが指示を出した。
「アリスは巻き込まないで、――いいね?」
唱えてやれば、己の視界に集まった粒子が編み出す液晶が了解のメッセージを放つ。まもなく始まったのは範囲スキャンである。
黒神を見て慄いたのは何も芋虫だけではない。
猟兵並みには力が扱えない――アリスたちもである。飛びあがって逃げていくもの、その場にへたり込むものにほかの猟兵たちが駆けつけるのをサーチしてから、攻撃対象外にマッピングしユエインは一度しっかり瞼を閉じた。
――昂らない。
精密な機械で、間違いなく敵を撃破するために高揚など在ってはならない。
己の心が冷たき炎でゆらめくのを感じて、ゆっくりと目を開いた。
「 ――、 行 け ! 」
神が大きくエンジン音で返事をしてから、ユエインの意思と指示に従いその鉄槌を振り下ろす!
木を凪ぎ、地を割り、そして遊具を作る土台を粉砕する一撃であった。
芋虫たちなどその亀裂に挟まった後――神の放った衝撃波に巻き込まれて、つぶれたトマトのように赤をまき散らして息絶えるばかりである!
「簡単だ。」
機械の神たるそれを操るユエインに、こんな作業は負担にもならない。
――目標補足数、完全沈黙。撃破達成。
己の肉眼でも、そして神の瞳でもそれを確認してから、目の前に現れていた粒子のモニタを閉じるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
冴木・蜜
◎
趣味の悪いゲームですね
こんな理不尽許されていいわけない
戦闘はきっと専門家がいらっしゃるでしょうし
私はアリスの救助を優先します
限界まで体内毒を濃縮
襲撃を受けているアリスがいれば
蟲どもとアリスの間に割って入り
身を挺して庇います
喰われても構いません
――私は死に到る毒、ですから
どんな生き物も臓物は柔く脆いもの
喰われた肉体さえも利用し
攻撃力重視で捨て身の『毒血』
生憎私は液体でして
内側から融かされる気分は如何でしょう
動けないアリスが居れば
抱え上げて走りましょう
逃げ道を見失っているアリスが居れば
手を引いて共に逃げましょう
腕はいくらでも増やせますので
ゲームには障害が付き物でしょう?
誰も喰わせてあげませんよ
●
黒き機神を視界に入れたアリスの中で――腰を抜かした少女がひとり。
「ああ、あ、あ」
もう、言葉すら話せない。
黒髪の彼女が己のざんばらな前髪で目線を隠したまま、涙をぼろぼろとこぼしていた。
立ち上がれない――腰が抜けている。
彼女の前で肉片を飛び散らして死んだ芋虫の脅威に小さな悲鳴を上げて、体の半分に真っ赤なペンキを被った。
「ああ、ああ―――!!!」
逃げ出したい、逃げれない。
それでも何か行動にしようとした結果が叫びであったから、黒い少女を見つけたのはこの騒ぎを聞きつけた芋虫だったのだ。
ぐぱ、と醜くも凶暴な口を開いて見せて、体をうねって少女に突っ込もうとする。
それを――見つけたのが。
「趣味の悪いゲームですね。」
冴木・蜜(天賦の薬・f15222)のつい、先ほどのことである。
口の端から黒油を垂らしながら、その右半身を肩から食われた彼であった。
「―――ッッッ
!!!!」
声にならない悲鳴を上げるアリスの前に、くらりと体を彷徨わせながらアリスの代わりに体を差し出した己を哀れむことのない牙が、こちらを振り向いているのを目視する。
「大丈夫ですよ、アリス。」
説得力はないだろう。
蜜も、それはよくわかっていた。彼はいつもいつも、そうだと思っている。
かつて。
――誰かを救おうとしていた彼であった。
その誰かすら不定形になってしまうほどに、願いを込めた薬を作る希望の人だった。
蜜は、毎日毎日研究と己の脳に頼っては、身をとろけさせる夢を見て、ようやくできた薬で数多の命を溶かした毒使いである。
顔色が悪いのは、彼がいまいち「ひと」になり切れていない証拠で在って。
なんなら今口の端からも「タール」を血液の代わりに吐き出しているように、その傷口からもあふれるのは赤ではなくて粘り気のある黒だったのだ。
「どうか、あまり――見ないでください。」
言いようもないほど、彼は奇怪であるから。
アリスが食い入るように見つめてしまうのをやめるように懇願した。
もとより、人に見られるのは苦手である。しかし、それでも人を救えると今でも信じる彼だから――震えるこころを隠して、今は毅然と立っている。
その声に震えがなかったのを、アリスが確認してささやかな希望と信頼を蜜に抱いたのだった。
――十分だ。
蜜は、思う。
「どんな生き物も臓物は柔く脆いもの。」
だから、たとえ凶悪であったとしてもその中身というのはいつもいつも「どんな命も」重要性に変わりはない。
「――内 側 か ら 融 か さ れ る 気 分 は 如 何 で し ょ う ? 」
蜜を喰らって振り向いた芋虫が、口周りを真っ黒にしながらもんどりうっている。
【毒血(ギフト)】。
タール
それは、液体である彼だからこその一撃であった。
蜜は、――もはや万物が死に到る毒、であるから。
この食いしん坊の芋虫どもには己という生き物が対抗策として最適だろうとわかっていた。
流動体である蜜はたとえ食われたとしても、その中身で生き続け己の意志で内側から彼らを燃やすことができる。
口からぷすぷすと嫌なにおいを煙とともに放ちながらぐでんと地面に付した物体に、もはや魂すらないだろう。
――いずれ、灰となって消えていく。
「もう、大丈夫ですよ。アリス。」
流れ出たタールの分を補って、新たな右半身を作る。
コーティングするように服もまた黒から作り出して、「人のふり」を続ければ、いつも通りの蜜の姿に戻るのだった。
アリスは、そのさまを見て恐れている様子はなく。
「――だ、いじょ、ぶ。」
むしろ、弾けるような未来を見た気がするのだ。
助けに来てくれたのは王子様ではないし、彼はまるで毒使いの魔法使い。
それでも――この狂気の世界においてその存在は限りなく献身的かつ、友好的なものであるから。
「感謝される」という状態になれない蜜が瞬きを止めて目を見開いて、立てない少女を抱き上げた。
「――往きましょう。」
ほかのアリスに助けも必要だろうか。
それとも、まだ無数に猟兵たちがあるのならどこかで誰かが救出拠点を作っていそうなものでもある。
迷子になっている命があるなら、そちらに誘導するなり猟兵たちに導くなりをしやろうと口から零れる黒油をそのままに歩くこととした。
抱き上げられて彼にしがみついているアリスが、流動体の彼がたしかに今は資料のある「ひと」らしいのを見て。
――へんなひと。
子供らしい感想を抱いて、確かに救われたのだった。
毒の彼が歩く道は、どこまでもどこまでも――何もなく。
いまやアリスの視界に映るのは、立ち込める炎に焼かれる芋虫や、それと戦う「りょうへい」たちの争いの痕跡だった。
成功
🔵🔵🔴
鷲生・嵯泉
本来の遊具とは人を楽しませる為に在る物だろうに
命を奪う道具に為すとはな
話には聞いていたが……成る程。悪趣味とは此の事だ
保護に向かう者も少なくは無い筈
ならば其方が動き易い様、邪魔の排除に務めるとしよう
敵を集める目的も兼ね、一切身も気配も隠さず進む
攻撃を見切りと戦闘知識で躱しつつ
最低でも3体以上が集まった所で一気に叩いてくれる
なぎ払いでの牽制とフェイントから、死角への怪力乗せた攻撃を叩き込む
如何な大口であろうと届く前に撃ち落せば済む話だ
還る場所どころか元居た場所すら見失った迷い子、か
其れだけでもどうしようも無い程の不安に苛まれるだろう事は
想像に難くない
せめて身の安全だけでも取り戻してやらねばな
●
本来、こういった施設や場所というものは。
誰かと絆を深めたいときや、または己らの傷をいやすために使う場所だと聞いていた彼である。
「命を奪う道具に為すとはな。――成る程。悪趣味とは此の事だ。」
眼帯に覆われていない紅が、この施設全体をにらみつけていた。
鷲生・嵯泉(烈志・f05845)はいまだ園内には立ち入っていない。
転送されたウェルカムアーチからは敢えて出てみて、周囲を歩いた。
出れないような結界などはないものの、「アリス」たちは己の扉を見つけない限り帰れない。
出ようにも、帰ろうにも――どん詰まりの状況に置かれながら、今や過去の悪に命をもてあそばれている。
その心境たるや。嵯泉が同情せざるを得ないほどに身を焼かれるような想いだろう。生き地獄という言葉では筆舌に尽くしがたい。
せめて――身の安全だけでも取り戻してやらねば。
己の扉などを見つけてもらうのは、そのあとでもできることであるから。まず、堅実にことを進めるべきである。
そして、このデスゲームはその段階において有害でしかない。
中断せんと踏み込んだ猟兵たちの戦火が、高台にある外周を歩く彼からも見えていた。
――いいや、この外周は。
はた、と立ち止まって嵯泉はもう一度、周囲に目を配らせた。ほどなくして――。
「見るために、作って在る。」
より、眼光を鋭くして嵯泉は悟る。
彼が歩いている地面は、ウェルカムアーチのわきに備えられたはしごを上ったところにあった。
UDCアースだったか、何処であったか――「スポーツ観戦」というものを果たす施設に構造は近い。
園内が舞台であるならば、この外周は観客席だ。ちょうど、すべてを見下ろせる。恐ろしいほど、理にかなっていた。
ならばと嵯泉がその外周を駆ける、駆る!
どどうと地を確かな足取りで蹴り、隻眼で周囲を見た。
――アリスを助ける紫いろの彼。
――流動体の不完全な黒。
――蒼の閃光がごとくの少女。
ひとつひとつ先行した存在を発見してから、その先を嵯泉は見るのだ!
「邪魔の排除に務めるとしよう。」
きん、と小さく彼の刀同士視界の先で重なり合い鳴ったのなら。まぎれもなく、火花が散っただろう――。
身 も 気 配 も 殺 気 も 隠 さ ず に !
大きく屈強な体は、まるで鉛のような質量でありながらも地面にめりこむよう着地した。
派手な登場の余韻で、金髪がひらりと空気を舞う。
――それを、腹をすかせた芋虫どもが見逃すはずがなかった!
ぎゃあぎゃあと耳をつんざくような悲鳴とともに、威嚇を示したそれらに嵯泉は挑戦的な微笑みで応える。
化生に交わす言葉はない。
「『――形態移行だ。』」
双剣を十字のように重なり合わせて、身を撓める。
後ろに左足を引いて、まるで獣が威嚇をするような態勢で赤の眼光を鋭くした。
「『残 ら ず 叩 き 潰 す 』」
――それは、殲滅の合図!
【破群領域(ハグンリョウイキ)】。
嵯泉の意図に応えた剣どもは、その刀身をぼろりと崩れさせてから彼の周りで蛇のとぐろのように立ち上る。
ぎゃりぎゃりと刃同士をこすり合わせる音すら、まるで智のない虫どもを嗤っているようでありながら――嵯泉の瞳は冷静そのものだった。
彼の変異を悟った一匹が、皮を脱いで突っ込んでいく!
それに続けと芋虫が四頭、己らのあぎとをぐばりと開いて空気ごと嵯泉を呑もうと構えて走り出したのだった!
確かに――その口や姿は実に狂気的で、そして威圧感もある。
だけれど。
如何な大口であろうと、届く前に撃ち落とせば至るまい。
嵯泉は、剣豪なのだ。
生真面目で忠義に厚く、かつて守るべきものために戦った義の戦士である。
守れなかった痛みを知っている、負傷兵でもあった。だからこそ、今この場において――ひ る む こ と な ど あ り え な い !
「おお、お――――ッッッ!!」
咆哮、そして振るわれる剣鞭が!
ぞぶりと赤い実の中央をえぐり取って、そのまま地面に中身をぶちまけさせてやった。
豪速で突っ込んだ肉塊にもはや意思はない。両腕を振るってやればあっという間に緑のそれもはじけ飛んだ!
水風船でもたたきつけて割ったような呆気なさと派手さだと――嵯泉は思う。
そして、次なる標的へと眼光を置き去りに彼はまた突っ込んでいった!
獣めいたうなり声共に、しなる蛇のような剣鞭がすべてを切り刻んでいく!
踏み出した左足とともに放たれた一撃が!
肩から大きく振り下ろされた刀身が!
腰のひねりで繰り出される軌跡が!!
砕く、割く、打ち破る――!!!
再び金属音が鳴り響く時には、訪れるのは静寂であった。
嵯泉の呼吸音すら聞こえないほどの緊張感のままで、散らばった赤を――赤よりも紅い眼が見下ろしていたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
◎★△
…ダクセ世界も大概シュミ悪いけど。こっちはなまじガワがファンシーな分余計にタチ悪い気がするわねぇ…
こんな状況だし、動く遊具には近づかないわよねぇ。
となると…大迷路あたりに逃げ込んだ、ってところかしらぁ?
やっぱり見つかりにくいかもしれない場所に逃げ込みたいわよねぇ。…たとえ、相手がその気になれば壁ごとブチ抜くことのできる相手だったとしても。
壁の上から探して、アリスを見つけたら●絞殺でコミュ取るわぁ。〇言いくるめてちょっとでも情報集めたいわねぇ。
芋虫は…撃ってもあんまり効かなそうねぇ。
グレネードの2・3個も口の中に〇投擲すれば多少は効くかしらぁ?
〇怪力と逃げ足で抱えて離脱、が無難かしらねぇ。
●
「ダクセ世界も大概シュミ悪いけど。こっちはなまじガワがファンシーな分余計にタチ悪い気がするわねぇ……。」
憂いを帯びたひとみを、いつも通りに微笑ませているものの。
そのかんばせにあるのは苦笑いだった――ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は冷静にこの状況を嘆く。
蔓延るのは悲鳴と血と、先ほど猟兵たちが戦闘を始めたがために立ち上りだした救いの火柱だ。
それでもまだ芋虫は園内にはびこっていて。
今もぞるるぞるると殺したアリスの血肉をすすっているようであるのは、隠しきれていない獣の気配がくどいほど物語っていたものだから。
だからこそ、――それが当たり前で、君が悪い。ティオレンシアがため息をつくのも、致し方ないことだった。
ぬるい風が、頬を撫ぜていく。
さて、こんな状況である。
動く遊具についていけるほど、ティオレンシアの体は強靭ではない。
やはり猟兵といえど、彼女は人間であるから堅実であるべきだと作戦を組み始めていた。
人間には絶対的な力はなくとも――脳というものがある。この状況を打開する彼女ならではの戦術があった。
そして、それだけではない。
「大迷路あたりに逃げ込んだ、ってところかしらぁ?」
この世界に紛れ込んでしまった、複数のアリスたちにも共通する。
たとえ相手が強大で、逃げ込んだ巣穴を打ち砕いてしまえるとしても。人間の防衛本能で最適解をアドリブで考えていたというのなら――。
ティオレンシアが哀れな少女たちのことを考えながら、先ほど隻眼の剣豪が歩んだ高台と同じ場所を歩いている。
アリスの場所はある程度目星をつけていたのだ。高台越しに、大迷路の壁へと大道芸人よろしくバランスを取る必要なくすたすたと歩いていく彼女である。
もし自分がか弱くて、何の力もなく――あるとしても、扱えないような力があったのなら。
こういう入り組んだところにもかくれたくなるわよね、と納得しながら芋虫を探した。
芋虫の進行方向に、必ずアリスは在る。彼らはそういう生き物だから、それに則ってやればいいのだ。
巨体の緑を見つけるのに苦労は要らなかったティオレンシアである。と、と、と足音は軽く。そして弾む体は気配を消して青虫の後ろを追ってから――跳躍とともに追い越して、その先に降りたった。
「ひィい!!?」
「こんにちはぁ、アリス」
突如として現れたその女に、思わず絶叫をせざるを得ないアリスの姿は。
黒の長髪――そして、三つ編み。
「あら――。」
『あの子』と、ティオレンシアのお揃いである髪の毛に微笑んで薄く目を開いた。
「おそろいねぇ。」
自分の腰まである髪の毛をつかんで、ひらひらとおどけて振ってやる。
【絞殺(インクウェリィ)】。それは、接客業を営む彼女ならではの超常技術。
まだ年端もいかない少女には、まるで赤ん坊のおもちゃのような効果があるだろうと思ってやってみたのだ。
案の定、この危機的状況においても――女性であるティオレンシアに打ち解けやすい。同じくまねをして三つ編みを振ってみるアリスがいる。
歌や、ダンスというのは。
人間同士がコミュニケーションをとるうえで、一番脳に響きやすいという説もある。
だから社交界やごろつきの集まるバーなんかでも曲が流れているというのもあって、ティオレンシアは「ノリ」やすい。
「ねぇ、アリス?」
まろやかな声色ながらに、一定のリズムであやすようにお揃いを振ってやりながら。
アリスはすっかりティオレンシアに集中しているのだ。助かりたい、という生存本能から「絆」を探しているといってもいい。
「ほかのアリスを知らないかしらぁ。もう少しみんな、いるんじゃなぁい?」
先ほど、放送では――「残り10名しか生き残っていない」と言っていたけれど。
はたしてそんなアバウトな数が本当に、わかるのだろうかとも思っていたのだ。
ティオレンシアは聡い女であるから余計に、数の管理には厳しい。帳簿を普段は自分で切り盛りしているのもあって、余計に数には敏感だった。
この広い園内で、本当に――たった10人?
「ころ、された、のが、10にん」
震える声で、見上げたアリスだ。
「ああ、なるほど――。」
あの放送は。
アリスの残り人数ではなく――「まだ食べられていない、もしくは食べられる死体の数」。
もし、あの放送が意図して猟兵たちに聞こえるように流されていたとするなら立派な印象操作だった。
「あぶなぁ……これ、知っててよかったわぁ。ありがと」
ほかの猟兵たちにも共有しようと頷いて。ティオレンシアがアリスを抱き上げて戦線離脱を図ろうとしたときに!!
「ああ――空気読めないんだからぁ。」
彼らの背後から迫った大口は、容赦なく開かれて迫ってきていた!
抱き上げられたアリスがちょうど、その口内を見る。
もう、鼻先に赤黒い口内があったのだ。咽喉すら真っ黒な虚に在って、その脅威が計り知れない。
叫ぼうとした――小さな体を抱いたまま。
「馬に蹴られるわよぉ。馬じゃないけど。」
アリスとティオレンシアではない、二つの実を口に放られた芋虫を背に。
軽く地面をけって逃げ出した彼女の背後で、ほぼ反射なのだろうがためらいなくそれは口を閉じる。
――瞬間!!
爆炎が、大迷路で立ち上った。
「ねぇ?もう大丈夫よぉ」
はたはたと二人の三つ編みが、先ほどの足場ではためいている。
煌々と燃えさかり灰すら残らぬ芋虫を見下ろしながら、ティオレンシアは腕に抱いたアリスにささやいてやるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
レイニィ・レッド
◎
ハァ…
ルールもクソも無ェですね
一方的なゲームって楽しいンですかね
っつーかこれただの蹂躙でしょう
滅茶苦茶にしてやります
観覧車のゴンドラ上からよォく状況を確認した後
『クロックアップ・スピード』
ゴンドラを大きく踏み込み
勢いをつけて落下させ
アリスに襲い掛かるクソ虫を最優先でブッ潰す
派手におッ始めれば
虫どもも集合するでしょう
以降は物陰を渡りつつ
使える遊具は利用し
遊園地を飛び回って
虫どもを鋏の錆にしましょ
使えるモノは使う
それはテメェらも自分も同じ
アア、勘違いしやがらないで下さい アリス
自分は気に喰わねーから殺ッてるだけで
救世主でもヒーローでも無ェので
くたばりたくねーなら
安地は自分で探しやがって下さい
●
――まるで、子供が散らかした後の部屋だと思った。
「ルールもクソも無ェですね。」
レイニィ・レッド(Rainy red・f17810)は、不快感に少年らしさの残る顔をゆがめてひとつ毒を吐く。
彼が居るのは、この狂気的な世界においては「まだ」それらしい速さで動く観覧車――そのうちのひとつの、ゴンドラだ。
ゆったりと回る一つのそれを足場にすることなど、彼にとって造作もない。
「一方的なゲームって楽しいンですかね。」
彼にはそうでない。頭をがりがりと掻いて、フードをずれさせる。
この赤頭巾にとっては、世界とは常に彼の敷いたルールで守られていなければいけなかった。
善も悪も彼の問答次第なのだ、「お前は正しいか?」と尋ねた相手が、彼の決めた規律通りの手合いでなければその鋏でどこもかしこも無駄なく切り落としてきた実績もある。
――彼なりの正義に、理論はあるというのに。
理解されないがために、「ダークヒーロー」だの、「怪物」だの言われてはいる。だけれど、それを恥じたことなどない。
それに比べて、このデスゲームをいうのは――めちゃくちゃなのだ。
赤頭巾の彼は、戦闘狂ではない。
正しくない人を殺すのは普通のことで、捕食行為ではない。彼にとってはそれが「使命」なのだ。
奪う命もあれば、そうでない命もある。正しくなければどれほどの善人と呼ばれた偽善者だって血の雨にしてきた。
――だけれど、これはなんだ?
状況の確認にうつった彼が、フードを被りなおす。
それから、目を細めたあとに己の顎を右手で覆った。
「っつーかこれただの蹂躙でしょう。しょーもないですね。」
最近知り合った忍びの彼がいたなら、意気投合しただろうか。
――結論、この状況においてレッドの冷静な考察というのは必要ない。
ただ逃げ惑うアリスを殺し、死なない程度にいたぶっても殺し、結局獣どもに食わせて感じるエクスタシーに酔っている誰かがいるのだ。
甘ったるい血と紅茶の匂いが、観覧車の頂上まで運ばれたレッドに届く。
――ああ、なんてくだらない。
「滅茶苦茶にしてやります。」
吐き捨てたアルビノが、己の指を鳴らして足場に在ったゴンドラを蹴飛ばしたのが――裁定の合図だったのだ。
【クロックアップ・スピード】!!
そのまま、勢いに任せて雨男が宙を舞う。
世界が彼に追いつけない、スローモーな世界で視界を瞬かせていた。
エ ネ ミ ー ・ キ ル ゼ ム オ ー ル
――掃 討 対 象 、複 数 。殲 滅 !
真紅の瞳が輝きを増して甘ったるい空気を切り裂いては駆けていく!
鋏をしかりと握った確かな質量が――捕捉した芋虫めがけて、ちょうど園内の中央に突っ込んだ!
ごしゃりといやな音を派手に立てて、柔らかそうな頭を落下のエネルギーとともに鋏で貫いてやる。
断末魔が、やかましい。
「うるせェよ。」
思わず嫌味を言ってしまうほどの悲鳴に、余計に容赦ができなかったのだ。
そのまま、鋏を逆手に持ったまま突き刺して目をつぶしてやる。そして転がるようにしてたちまち離脱!
休むことは無い、そのまま命を削りながら雨男は走り――手ごろな遊具であった子供用の短距離ローラーコースターの線路下へ入り込む。
頭は欠損させたのだ、派手に血が噴き出して鯨のようになっている。目をつぶした芋虫は痛みにあえいでのたうち回り――じきに死ぬだろう。
癇癪玉のようにぎゃあぎゃあと喚いている芋虫のすぐそばに、雨男と同じく髪を切りそろえた、赤髪のアリスがいたのだ。
アリス、仲間の鳴き声、血の匂い。
これだけ――そろえてやれば自然とこのあたりの脅威は集合するだろうと目論んだとおりに!
線路上を走り続ける機体に見え隠れしながら並走する赤が、まず共鳴しながらやってきた新たな芋虫を見つけた。
「わ、ぁああ、あああああ!」
――どうやら、今回彼が守るべきアリスは泣いているばかりでないらしい。
それどころか、闘志を燃やしたのか顔を狼のそれに替えている。【人狼咆哮】だ!
けたたましく吠えて、しかし弱り切った身体で。先ほど芋虫を殺した雨男が何者かもわからないのだけれど、その超常をただがむしゃらに生きるために戦う手段とする姿があった。
――思わず、雨男は口角を吊り上げたのではないだろうか。
そのまま、横跳びで跳躍!平行に己の存在をスライドさせた雨男の行く先に、新手の芋虫があり。
衝突、 破 裂 !
ぱん、とはじけ飛んだ敵が降らせる肉片の雨に、どう猛な顔をしたアリスが驚いていた。
「勘違いしやがらないで下さい、アリス――。」
空中に浮いたまま、にたりと笑う赤の彼がアリスの紺色をした視界に映っている。
それを確認したのか、雨男はより楽し気にしていたのだ。
未熟な狼に、告げる。
「自分は気に喰わねーから殺ッてるだけで、救世主でもヒーローでも無ェので」
――くたばりたくねーなら。
挑発的に笑って見せて、再び地面にたどり着いたつま先に力を籠める。
「使えるモノは使って、安地は自分で探しやがって下さい。」
アリスに一瞥して、また――駆けた!
まるで吹き抜ける風のように、鉄さびたにおいを乗せたまま赤がアリスの横を通り過ぎる!
蹂躙で終わらない彼女の存在が、雨男に視線を返して再び吠え始める。
なに、死なせない程度にやらせればいい、それでこそ――「ゲーム」というものだから。
「さて、――『アンタは正しいか』?」
また一匹の芋虫を葬ったところで、オオカミとなった小さなアリスの背を見る。
赤頭巾が楽し気に――殺戮の一幕を飾るのだった。
大成功
🔵🔵🔵
非在・究子
◎★
ず、随分と、物騒な、遊園地も、あったもんだ、な。
え、NPC(=アリス)が、いるんだよ、な。
め、面倒な、話だけど……『て、敵は、倒す』『え、NPCも、守る』『両方』やらなくっちゃあ、ならないってのが『猟兵』の、辛いところだ、な……なんて、な。
ぐひひっ。や、やられると、スコアが、下がる類のやつだろ?
やって、やるさ。
ゆ、UCの、力で、魔砲少女モードに、変身する、ぞ……変身モーションは、気にするな。
ひ、飛行能力で、遊園地の、中を飛び回り、ながら、魔砲で、芋虫狩りと、いくぞ。
え、NPCが、狙われたら、かばって、斥力障壁で、耐えるぞ。
……スコアが、下がるし、やられたら、目覚めが悪いし、な。
リーオ・ヘクスマキナ
◎★△
ンンー……機関車に車のタイヤが付いてる?
ロードトレインって言うんだっけ
車の免許持ってないけど……まぁ、良いかっ
アトラクションやオブジェの陰を遮蔽に使いつつ組み合わせて、動く簡易陣地風に
こっちでも救助・害虫掃除を請け負いつつ、他の猟兵が救助したアリス達を引き受けるよー
……出来れば、誰か手伝って欲しいところだね
赤頭巾さんもあの姿になってまで協力してくれてるけど、2人だけじゃちょっと不安だし
あ、そうそう。怪我したアリスが居れば応急処置を施すよ
治癒なんて器用な事はできないけど、そのままにするよりはずっと良いと思うんだ
……こんなトチ狂った世界だもの。少しでも安心出来る材料は増やしてあげたいよね
●
挙動不審ながらに、震える体を好きに震わせてやって。
「ず、随分と、物騒な、遊園地も、あったもんだ、な。」
わなわなと震える口は、普段はバーチャルで生きる彼女が「狂気めいた現実」に訪れたあかしである。
非在・究子(非実在少女Q・f14901)は、この状況を至って焦りながら、おびえながら、それでも己の領域で照らし合わせていた。
血のアーチをくぐり、愉快な仲間たち「で」作られた花壇を一瞥し、それの影に慄きながら前へ前へと内またで進んでいく。
――今回のデスゲームにおいては、猟兵とオウガの争いではない。
「え、NPCが、いるんだよ、な。」
いわゆる、「ゲーム脳」である彼女は、二次元のそれでしかうまくことを考えられないというのもあるのだが。
たとえは至って正確なものだった。今回は、――第三者、『アリス』という存在がある。
「め、面倒な、話だけど……『て、敵は、倒す』『え、NPCも、守る』『両方』やらなくっちゃあ、ならないってのが」
――猟兵の辛いところではあるなと、笑う。
汚らしい笑い方であったやもしれぬが、それが彼女の在り方なのだ。指折りながら成功条件を並べて、ゲーマーである彼女はさらにその先を考える。
目指すは、ハイスコア。
NPCはオールクリア。これからの犠牲数はゼロが望ましいだろう。
レート最高かつ誰も到達したことのないスコアを彼女自身個人でたたきだすことが最も好ましい。
しかしこの場においては、挑戦する猟兵たちも多い。究子以上にマシンに強く、そして勝負ごとに強い誰かだっているだろう。
だからこそ――恐れよりも挑戦する気持ちのほうが勝るのだ。
「やって、やるさ。」
彼女は、《リアリティハッカー》。
体の震えに、――武者震いが混ざっていたのを、気づいていただろうか。
同時刻。
「ロードトレインって言うんだっけ。」
機関車を模した中型の乗り物は、園内をある程度渡り歩くためのものである。
東から西へ、北から南へ交互に客が不自由なく、そして快適に進めるように遊覧もかねて設置されたのが。
リーオ・ヘクスマキナ(魅入られた約束履行者・f04190)が乗り込んだその乗り物の用途であった。
よいしょと愛らしいしぐさで、しかし身軽に運転席の窓から侵入する。軽く折りたたんだ己の体が確かに席へと尻をつけたのを二度ほど確認した。
「車の免許持ってないけど……まぁ、良いかっ」
なぜならば、ここはしょせん――悪夢の遊園地である。
UDCアースなら問題になっていただろうかとぼんやり思いながら、リーオは己の思惑通りにその機械を動かし始めていた。
汽笛を、鳴らす。
「――『カモン、赤頭巾さん! 竜巻みたいに派手に行くよォ!』」
【赤■の魔■の加護・「化身のヨン:ブリキの木樵」(パラサイトアヴァターラ・ランバージャック)】!
赤頭巾の少女をアトラクションの乗務員よろしく高らかに宣言して呼べば、いつもよりも大きな姿で彼女は顕現したのだった!
汽笛に合わせてやってくる芋虫たちの討伐は、彼女に任せるとしよう。
そして、――真紅の彼女は目印となるはずなのだ。
「これだけ目立ったら、みんなも来てくれるでしょ。」
楽観的ではあるが、確実な方法だとリーオは踏んだ。
鳴き声をけたたましく上げながら、リーオとその脅威である赤頭巾めがけて芋虫たちが無数にとびかかる!
「わ、わわ、頼んだよ!赤頭巾さん!」
――なんとかしてくれるとはわかっていたけれど!
でも、襲い掛かるものは反射的にやはり身構えてしまうのだ。運転席めがけて土手から飛び出した緑を、赤の怪物が剣斧で薙ぎ払う!
べしゃりと体をひくつかせて地面にたたきつけられるそれを、リーオが「あ」と声を上げるころには速度を上げた汽車でミンチにしてしまうのだ。
「う、うーん……ナイス、コンビネーション?」
喜んでいいやら、後味が悪いやら。
目立てば目立つほどリーオの作戦成功に至る可能性は高くなるのだが、なにせ「ふたり」では心もとないようにも感じていた。
「あ、赤頭巾さーん!脱線しちゃう、しちゃうよ!?」
轢き殺す。真っ黒な煙を上げた遊覧汽車が、数々のひん死になった脅威をそのタイヤとレールに挟ませてこまぎれにしてやる。
彼らの歯だか骨だかをぐしゃぐしゃにかみ殺す汽車の音がおぞましい。
そのたびに震える汽車もまた、気分が悪い揺れ方をしたのだ。
「あー、あー。」
――はやく誰か間に入ってくれないかなぁ、なんて。
リーオが嘆いたときであった。
「『『ラジカル・エクステンション! 魔砲の力でなんでも壊決! ラジカルQ子、ただ今、惨状!』」
リーオの眼前少し先に、その少女はいたのだ。
――ふざけているわけではない。そして、ヒーローショウでもない。
それを悟るのは一瞬で済んだリーオである。なぜなら、目の前の彼女は――。
「『……か、勘弁してくれ』」
泣きそうな顔で、照れていたから。
その線路の上に立ったのは、究子であった!
一目散に駆けつけたのは、この汽車が「ハイスコア」を狙うに一番適していると踏んだからだ。
――ここに助けたアリスを乗せたり、治療してやればさらにボーナスポイントがつくだろ!
動かしている魔術も猟兵のそれだろうし、これほど好条件もないと彼女は踏んで飛び出したのだけれど。
【魔砲少女ラジカルQ子(キカンゲンテイコラボガチャエスエスレアイショウ)】になるためには、この変身モーションとセリフが必ず行われるものだったのだ。
ぽかん、と口を開けたリーオの表情がまた恥ずかしい!
――だが!
これで究子は空を自由に飛び上がることができる!がしゃんと己の武装たちがその形態を「ラジカルQ子」のものへと変えていく。
今ここに。恥 辱 を 代 償 に 奇 跡 は 成 立 し た !
「わ、」
リーオが眼前の熱風に驚いて、目を伏せれば!
赤頭巾の彼女の背よりもはるか高く、ロケットのように舞い上がった究子の姿があった!
「わぁ、すごい。頼りになりそうだね!」
「まか、まかせろ、よ。やられたら、目覚めが悪いし、な。」
だから、恥も飲んだのだ!
究子――いや、ラジカルQ子はにたりと笑って見せて、己の砲撃どもを展開する!
その姿に呼応して、赤頭巾の彼女もまた凶暴な武装を構えたのだ!
「よーし、じゃあ、頼んだよ――!」
バ ト ル セ ッ ト ・ コ ン バ ッ ト オ ー プ ン !
――嵐 の よ う に 舞 い 、 蜂 の よ う に 皆 殺 せ !
砲撃が芋虫の体を焼き、砕き、さらに剣斧がミンチにもなれぬ肉塊を叩き割って血の雨にもしてやらない!
後ろで繰り広げられる殺戮の音を聞きながら、乾いた笑いをするリーオなのだった。
「さて――みんなのアリスを迎えに行こうかな!」
後ろは、もう振り返れない。
皆がこの中で唯一「白い」彼の到着を待っているはずなのだから!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
テオドール・ワーズワース
【WIZ】
敵影を確認
交戦を開始する前に術の準備を行いましょう
まずは擬似生物とアリスの死体を集めます
パーツの一つや骨の一片あれば十分
散らばった血肉 人食い虫の食べ残しでも宜しい
ただ 種類だけは分けておきます
今回使うのは疑似生物 アリスは次回です
『意思なき兵』
死体の一部から疑似生物を復元
命は戻らない 死体には変わりありません
更に戦うための力を付与し 自分と同じ「人形」の姿に
「術は成りました あなた方に報復の機会を与えましょう」
操り人形となった疑似生物に意思は無い
敵意も嫌悪も当然ありません 虫の糧には成り得ない
自分は兵達に指示を出しつつメイスで虫を潰します
〈学習力〉で弱点を見つければより効率的かと
コノハ・ライゼ
随分とエキセントリックだコト
最近覚えた「楽しい遊園地」とは程遠い空気にふんと鼻鳴らす
食われそうなお客様はいらっしゃいませんかー
ナンてフードコートに向かい
例えば冷蔵庫――はシャレになんないケド
隠れられそうな場所沢山あるから探すヨ
反応あったらそっと覗き
よく頑張ったネ、ケドもうちょっと隠れてて
これから骸の海よりいらした獲物の調理なの
【月焔】呼び敵を囲むよう撃ち込む
お好みはグリル?蒸し焼き?
アリスを『かばう』立ち位置のまま『高速詠唱』での『2回攻撃』
今度は本体を『スナイパー』でしっかり狙い最大に合体させた焔を叩き込む
そのべたべた、しっかり炙っときましょ
笑顔を生む場所を汚したツケ、きっちり払って貰うヨ
●
――派手に皆が乱闘する中。
「随分とエキセントリックだコト。」
誰よりも優雅で、それから心を落ち着けている彼はコノハ・ライゼ(空々・f03130)。
――その感性も、「あの人」の由来かもしれないのだが。
今この場、「楽しい遊園地」と聞いていたのに広がるのは惨状ばかりのそれに目を細めて嘆いていたのだった。
最近覚えた場所はもっと笑顔に満ちて――いや、ここも元はそうだったに違いあるまい。
愉快な仲間たち、という存在が不思議の国をファンシィで彩っているのは、数々の資料で知っていた彼である。
ここもまた――誰かを笑顔にする場所であったろうに。
「食われそうなお客様はいらっしゃいませんかー」
彼が訪れたのは、もし子供が隠れるとしたらを想定した結果だった。
フードコート。野外に設置されていたのだろうパラソルなどはすっかりなぎ倒されていたが、内部にある店は辛うじて窓が割れている程度におさまっている。
訪れたライゼのたおやかな足取りに――。
「アリスはいます。」
機械的な口調で話しかける少年人形が一人。
赤々としたバンダナと、金色の瞳がライゼの前に立ちはだかった。
テオドール・ワーズワース(Trash Box・f19237)。自らの意志というものには疎いが、開発者の命令には忠実で使命に燃える人形である。
表情をぴくりとも変えず、そして突然現れた彼が――ライゼの四角をとってスニーキングしていたのを知った。
にまりとライゼは笑ってやって。
「そりゃァいいネ。」
両手をひらひらとさせる。
真面目なテオドールがそのさまを「敵性と悪意のないもの」と判断するのにラグはなかった。
すぐさま、少年人形は眼光の鋭い瞳をライゼからは離す。
「間違いなく、此処に。」
「ホント?生きてるアリスならいいんだけどナ。」
るんるんと足取りは軽く、そしてひらりと食品テナントのカウンターに飛び乗ったライゼである。
子供が隠れれそうな場所といえば、やはり冷蔵庫か――と思い開けてみれば、すでに食い散らかされた跡がある。
「いいもン食べてったネ?」
散らばっていたのは肉片ではあるが、ヒトのそれではなさそうだ。
嗅ぎなれたにおいにライゼが鼻を鳴らすのを、テオドールが後ろからついてくる。
「隠れられそうな場所沢山あるから探すヨ、君は?」
「自分は、――アリスの死体を探しています。」
「ワオ」
思わず、驚嘆である。
生きているアリスを探すライゼと、そうでないテオドール。
「実際、アリスはいました。死んでいるのをいくつか、この施設の周囲に集めています。」
それが、彼の魔術には必要だったのだから。
「え、でも――それって、まずいんじゃナイ?」
倫理的にも、であるが。
死体ということは死臭のほかにもまとうにおいがあるのだ。
たとえばそれは、血の匂い。たとえばそれは、肉の匂い。たとえばそれは――獰猛な狼の前に、肉を晒してやったかのような行い。
「パーツの一つや骨の一片あれば十分。散らばった血肉、人食い虫の食べ残しでも宜しい。なぜ?」
きょと、と首をかしげてみせるテオドールの顔に表情の変化はないものの。
はあ、とライゼがため息をついたのを合図に――二人の間に緑の芋虫がつっこんできたのだ!
「こうなっちゃうからだヨ。呼び寄せちゃった。」
「好都合です。――生きているアリスは次回にします。」
そう言い残して、テオドールはライゼから意識を断ち、目の前の芋虫を見据えた。
「術は成りました。 『報 復 の 機 会 を 与 え ま し ょ う 』 」
【意思なき兵(リビングデッド)】。
紅の人形である彼が、最初から最後まで目的とした行動手段は――アリスによく似た「疑似生物」での復讐であった!
ぞるりと血肉が彼を中心に集まっては、こねくり回され奇跡の力でそれぞれの主へと姿を変える!
顕現した――すでに死んでいたアリスたちに、生前のヒトらしい輝きはない。
まさに、これは肉人形なのだ。テオドールが己の技能に満足を示すように頷いて、メイスを握り攻撃の指揮を執る!
芋虫たちがごろりごろりと乗り込んでくるのを、意思なきアリスの肉塊たちで迎え撃った!
どう、とぶつかり合うたびに衝撃波が起き、肉塊になったアリスたちがたとえ「また」かみ砕かれても、悲鳴などはあがらない。
動く限り、ありとあらゆる手段を以て――芋虫たちに立ち向かった!
冷静に戦況を判断するテオドールが、そろそろ己もある程度芋虫の反応パターンを呼んだところで混ざろうと歩いてゆく。
その後ろ、カウンターを超えた物陰にて。
「……もう、大丈夫だヨ。怖かったね?」
後ろで響く轟音に、お互い身を寄せながら震える二人がいたのだ。
ライゼと、此処に隠れていたと思われる二人のアリスである。
――彼らは、双子なのだ。銀髪で蒼眼。その瓜二つの顔をして、ささやかに歌って己らをいやしあっていたらしい。
どうりで、ほかのアリスよりも頭が回る。ライゼは、彼らがここにたどり着けていたことに納得した。
ここならば――アリスを食えなくてもほかのもので代用して、獣たちは帰っていくだろう。己たちも飢えたのならあまりものを腐らぬ範囲で食えばよい。
「よく頑張ったネ、ケドもうちょっと隠れてて。」
頭を使ったのだ。生きるために。
まだ小さく幼い二人の頭をていねいに、それから鼓舞するように撫でてやった。
「これから骸の海よりいらした獲物の調理なの。」
立ち上がる、彼が。
いたずらめいて笑ってみせたのが効いたのか、おびえるアリスたちはこくりと確かにうなずいたのだ。
「――よぉし」
ならば、応えてみせねば猟兵ではない。
ライゼが気をよくして、極めてフランクかつキャッチーに戦場へと舞い戻ったのだった。
「お 好 み は グ リ ル ? 蒸 し 焼 き ? 」
破砕音、それからテオドールの振るう質量が打ち砕く過去の断末魔以外に、凛とした声が通ったのだ。
テオドールが振り返る。するとたちまち、彼以外のすべてを――【月焔(ツキホムラ)】が湧いた!
指をつう、と真っすぐに向けたまま、カウンターよりは動かないで。
足元のアリスたちにこれ以上の不安はもたらさない。
最低限の動きで、最高の援護をたたき出すライゼが、多くの芋虫をテオドールの呼び出した人形ごと火あぶりにしてやった!
「嗚呼、よく燃えるネ。そのべたべた、しっかり炙っときましょ。」
いいにおいは、したものではない。
人の肉が焼けこげるにおいと、獣だか虫だかわからぬ超常が黒灰に還されるだけの匂いが満ちるより早く、割れた壁や窓から出ていく。
重ね合わせた焔が命中してなお、ごうごうと燃え盛る芋虫たちが、それだけで絶命しないのをよくわかっていたから。
ウィンクひとつテオドールに合図してやれば、彼が悟って――ぶん、とメイスで空気ごと芋虫の頭どもを叩き割っていったのだった。
「笑顔を生む場所を汚したツケ、きっちり払って貰うヨ。」
「殲滅確認、――もう、聞こえていません。この体験は、虫の学習にもならないでしょう。」
にやりと笑う狐が一匹。冷徹にこの場を判断する機械が一機。
おぞましいほど圧倒的な力を見せつけて――彼らは、たしかに二つのアリスを救ったのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
マレーク・グランシャール
【壁槍】カガリ(f04556)と
アリス探しをするカガリの護衛を務める
城門は人を囲い守るもの
その本能が願うのだろう
ならば俺は友としてその願いを叶えるまで
群がる芋虫には【竜骨鉄扇】の衝撃波で広範囲に蹴散す
芋虫が転げたところを【碧血竜槍】を投げて穿ち、【魔槍雷帝】で刺したところに電撃をお見舞いする
一体ずつトドメを刺すのは勿論だが、【金月藤門】のフェイクや残像、【黒華軍靴】のダッシュで攪乱も試みよう
友がくれた【泉照焔】で敵の動きや遊具のトラップを見切る
遊園地には来た覚えがない
先入観がないせいか逆に遊具には惑わされにくい
光はアリス達の希望ともなろう
瀕死のアリスがいれば【不滅薔薇】で癒す
友よ、後は任せたぞ
出水宮・カガリ
◎★△【壁槍】まる(f09171)と
(可能であれば、らん(f18785)を見かけたい)
猟兵の仕事で、遊園地に行ったことがある
だが決して、こんな、命が脅かされるような場所ではなかった
【希烽城壁】を展開
大きく声をあげてありすを探すぞ
「見つかるのが怖いなら、声を出さなくていい!助けて欲しいと、強く願え!必ず助ける、助かる!」
都度、ダーツが飛んでいく本数と方向を確認
【導きのペンデュラム】で一人ずつありすを発見、【籠絡の鉄柵】で囲って保護しながらカガリが連れ出して行こう
芋虫の対策はまるに任せるが、カガリも【鉄門扉の盾】を念動力でぶつけたりして妨害していこう
●
友人が、此処にて使命を全うしようとするように。
それの護衛をするのもまた――友たるマレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)の使命でもあるのだ。
「おーい!アリス!!」
一声上げてから、また、おおいとのどを震わせる彼が、出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)だ。
声を張り上げて、一生懸命に周りを見渡す彼には確かに使命と突き動かされる衝動があった。
――彼は、悲劇の城壁である。
その本能が、彼の願いであり心を突き動かすのだろうとマレークも悟る。
だからこそ、この残虐なる遊園地でのこの蛮勇に似た振る舞いを、たとえ、戦場であると仮定しても無謀なそれを非難したりはしない。
――友が、そうしたいというのならば。
それをかなえてやるのもまた、この黒竜の使命である。そのための槍であり、そのための絆であるから惜しみなく使ってもらおうと思っていたのだ。
遊園地というものにマレークは詳しくない。
名前を知ってはいるし、友は実際別の機会に訪れたことがあったというのだ。
そこは、こんな残酷で狂気的でない施設だったとは友も訴えていたのだが、マレークには未経験こそ好都合である。
ちかちかと空中を照らす蛍光色も、がびがびと雑音ばかりの不協和音も、高速だったり完全に静止している遊具だってこの竜には「そういうもの」としかとらえようがない。
先入観がないからこそ――この狂気に惑わされない。マレークは凛々しい眉をひとつも動かさずに、己の両腕に槍を構えていた。
一方でそんな友が後方にいるからこそ、城壁の彼ことカガリは前へ前へと歩めるのだ。
「『危うきを報せ。烽火をあげよ。我が守るべき城を報せよ』――!!」
守るべくあるのではない、地獄の窯の蓋のような存在であった彼であるとしても。それでも、今この時の気持ちは今のカガリだけのものだから。
懸命に、声を張る!
その声が、たとえこの狂気の空間の獣どもを呼び寄せるスイッチになったとしても、何ら問題はあるまい。
マレークが戦えるように、この狂気に希望をもたらさんとするカガリだって、猟兵なのだ!
「見つかるのが怖いなら、声を出さなくていい!助けて欲しいと、強く願え!必ず助ける、助かる!」
展開されたのは、【希烽城壁(シグナルフォーウォール)】!!
この一声で、信じてくれないだろうか。――そう、カガリが祈って声を張り上げてはや数回のこと。
しばらくして、カガリが願いながら展開したダーツたちがくるくると方位磁石のように回って見せた!
その方向の数は、三つ。
「多いな。」
「多くが信じてくれたんだよ、まる!」
駆けだしたカガリの後ろで、マレークは己の武装の具合をはかりながら突撃する。
カガリの誓いが――今もなお美しく光る星の彼女がもたらした恩恵であるペンデュラムが導く方向に、まず芋虫を一体補足!腹を空かせているのだろう、ぐるぐると渦のように渦巻いた瞳がひときわ大きく見開かれて咆哮がとどろいた!
思わず、カガリがその音量と音波に片目を瞑らされる。それでも、脚は前へ!
「まる!」
友の名を叫ぶと同時に――カガリの二歩前に、雄大な背中が広がったのだ。
態勢を低く、頭を下げてから。
己の握る一つの武装である竜骨鉄扇をパン、と音を立てて開き――風圧を起こし、薙ぎ払う!
するとたちまち生まれたのは、衝撃波だったのだ!どどうと巻き起こった風の暴力が、芋虫の体を巻き上げる!
ぎゃあだとかぎぃいだとか醜い声が複数聞こえたのを、マレークは聞き逃さない!
この後の掃討の段取りを立てながらも、彼はまず確実な一手を討つことにしたのだ。
最初の一頭が地面にバウンドしたなら――上空から穿いたのは碧血竜槍!!
マレークの竜が宿るその槍が真っ赤な液体を芋虫の口から吐かせたなら、続いての二撃目にて雷を放ち炭にしてやるのだ。
ばちんと空気の破裂とともに電が走った!
この黒竜の作戦は、「絶対各個撃破」である。
――射ち漏らしてなるものか。
ありとあらゆる手段を用いて、友の願望と使命はかなえる。マレークの青がきらめいて、より意志を放っていた!
「見つけた!」
はぁ、と安堵のため息交じりに、叫ぶカガリだったのだ。
マレークが芋虫の相手をする向こう側に、まず一人目のアリスはいた。
目の前には足を怪我してもはや数時間とたったのか、すっかり変色した右足を抱いたままうずくまる少女があった。
このままでは――傷が化膿し続けて死に至る。それか、助かっても切断しかないだろう。
「どうしよう――まる!」
考えはしたが、その知恵はまだカガリにない。
だから、後方で戦っているともに叫んでみるのだ。その間にもできる限りの手は打っておく。
「大丈夫、大丈夫だ」
焦りながらも展開した籠絡の鉄柵が、ひとまずカガリとアリスを囲んだのを確認して歩けぬアリスの体を抱き上げた。
――熱がある。
ぶわ、と己の中に「守れなかったら」という可能性が湧いたのを、カガリも感じた。
ここがアリスラビリンスだったからかもしれない。とても悲しいなにかと――重なってしまうような気がして。
「このぉ!」
焦りとともに、己の武器を念動力で弱ったアリスめがけて走ってきた芋虫にぶつけてやりながら凌いでいる友のそばに、――不滅の薔薇が、舞う。
「『いと蒼き不滅の薔薇よ。我が血、我が祈りに応えて彼の命の花を甦らせよ。神の楽園は常しえに栄えたり』――。」
もはや四体目ほどになる芋虫を槍で貫いてやりながら、マレークが詠唱を終えれば――わずかに彼の頬をえぐった牙が流させた血で、【不滅蒼薇(ソウル・オブ・ブルーローズ)】は顕現する!
ふわりと舞った青薔薇の花弁たちが、カガリとアリスを包んでいって。
「わ、ぁ」
カガリがそのきらめく蒼に微笑みながら癒されていくのと同時に、アリスの熱も、痛々しい足の傷口ですら美しく、痕なく癒していったのだった。
ふ、と苦悶に歪んでいたアリスの表情が和らいだ!
「――友よ、後は任せたぞ。」
ふぅ、ともう一度深く息を吐いてから――吸った呼吸を止めて。
マレークは再び襲い来るであろう芋虫を迎え撃つ!
その雄姿を、胸の中でぼんやりと瞳を開いて見つめるアリスがしかと見てくれていたのを確認してから、カガリも頷いて残りのアリスのもとへと駆け出した。
まだ、彼の助けを信じる三人がいる!
カガリの奇跡はまだ発動を続けているのだ――ロートアイアンの鉄柵が向かっていった方向に走り、彼を導く愛情の証が脅威を知らせる!
足がもつれないように、それから必死に。
息を荒げながらもけして、彼だけはこの場にとどまらないように!
駆ける、駆ける――まだ駆ける!
「助 け に 来 た 、 ア リ ス ッ ! 」
友の――二度目の咆哮を風で聞いた黒竜は穏やかに微笑んでいた。
「悪いが、邪魔はさせんぞ。」
唸る芋虫たちともう何度目になるやわからぬ接敵を繰り返す彼を、彼自身の青薔薇が癒す。
肉体的な疲労は回復するものの、脳幹のほうは回復できない。ならばマレークは判断力が鈍る前に――この獣どもを、蹴散らすまでのことである。
ばちり、と蒼の閃光が嘶いたのを背後に受けて――またカガリが、新しい命を救ったのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
辻森・朝霏
◎
……まあ、悪趣味な
口鼻隠し、笑みそうになるのをそっと潜めて
紅茶の香りに気づいたならば、
ねえ、貴方の好きな香りじゃない
趣味は合うかしら?それとも?なあんて、
内なる彼に語りかけつつ
見晴らしの良い所で先ずは様子見
アトラクションの動き、仲間の活躍、そしてアリス
アリスは何処かしら?……嗚呼、見つけた
か弱そうな少女に声をかけて、隠れててね、と優しく撫ぜましょう
きっと、その一瞬で心を許してくれるだろうから
さて芋虫を殺しましょう
汚い虫には興味はない
まるで哀れな少女の様に、逃げて、逃げて、逃げて
観覧車に飛び乗って、向こうも追いかけ来たならば
金具の繋ぎ目の弱い所を、ナイフでひと刺し
バイバイ、ハンプティダンプティ
●
――いっそほほえましいほど。
この惨状は、辻森・朝霏(あさやけ・f19712)にとっては思わず笑ってしまいそうなくらい悪趣味で、愉快であったのだ。
園内に入って広がる惨状、爆炎、仲間たちの怒号と好き放題に展開される戦局も面白ければ。
この狂気を演出するあしらいは、朝霏にとっては退屈から程遠い――探さなくても存在する奇々怪々に胸が躍るばかりだ。
首を突き刺された愉快な仲間たちのガーデンに目をやって、何も芽吹かぬ地中に何が埋まるのだろうと考えるなど、朝霏にとってはほぼ快感に等しい。
ぞくりと背中を高揚が走って、ああ満足しているのだなと己の内を知る。
それから、鼻腔をくすぐる甘ったるい紅茶の香りに己の頭に住まうもう一人へ、いたずらに問いかけてやるのだ。
――ねえ、貴方の好きな香りじゃない。
内なる彼が、この香りに好ましい反応をした。
微笑んだろうか、手を叩いて笑っただろうか。多重人格者という超常の存在である朝霏のみぞ、彼のリアクションを知るのだけれど。
――趣味は合うかしら?それとも?
なあんて。
獣使いでありながら、殺人鬼である。
どんな場所でも、朝霏は目立ちすぎることがない。
顔は美しく、所作も丁寧でありながら、派手でなく。顔に交じるのは一般的に多いアジア系だけではない色があり、注視すれば異国を理解できるもの。
だけれど、彼女は――無難なのだ。
それは、この幻想的かつ狂気的な世界においても通用するほど「おとなしい」存在である。
そう、たとえ。
目の前に広がる誰かに殺された芋虫の水たまりを踏んだって、「そういう絵」に見えるような所作があった。
動じない。血に動じない。死に動じない。
――人間や、動物ってね。食べられることがいちばんのストレスなのですって。
果たしてそれを、内なる彼は知っていたのか、どうなのか。
朝霏が微笑みながらまるで散歩でもするかのように、この幻想的な世界を歩いていくのを落ちぬ夕焼けの世界が見下ろしていた。
さて、見晴らしのいいところを。
やはり高いところを目指すべきだろうかと考えた朝霏が歩みだしたのは、狂々(くるくる)と廻る観覧車だった。
この場において、見ておくべきは。
――アトラクションの動き、仲間の活躍、そしてアリス。
残り10人、というアナウンスがブラフだったというのはほかの猟兵からの通信で聞いている。
正しくは、認識の相違だ。
死体が10体、生存者の数は不明。意地の悪い掲示の仕方に、また笑ってしまいそうになるのをこらえる。
どうやらこの遊園地の主は、とことん人をいじめて焦らせて嘆かせたいらしいのを、内なる彼と重ね合わせて、整合性をはかりながら。
「あら、――嗚呼、見つけた。」
ゆったりと回り続ける観覧車に、タイミングよく立ち入った。
回ってきたゴンドラにたまたま乗り込んだだけなのだが、幸運なことにお目当てにひとつあやかるのだ。
「こんにちは、アリス。」
朝霏の真っ青な瞳にうつったのが。
弱弱しく怯えてばかりの少女だった。黒く変色した返り血を、ぬぐうこともできないまま早くこの地獄が終われ終われと願い続けていたのだろう。
組まれた祈りの手がお互いを締めあって、爪が手の甲を破りはじめていたころだった。――神経症の症状でもある。
「大丈夫よ。隠れててね。」
無責任な一言ではあるが、実行してしまえば説得力がある。
乗り込んだ朝霏と二人きりの空間で、目の前の彼女に敵意がないことを確認したアリスが震えながら頷く。
その小さな頭からはやした、ウェーブがかった金髪は朝霏よりも少し色が薄い。夕焼けを反射する緑の瞳が、橙で彩られたのを見た。
「きれいね」
――この狂気的な空間に、似つかわしくないことを言ってから。
朝霏はひらりとゴンドラから「落ちる」。
すっかり警戒を解いていたアリスが虚を突かれたように、扉から落ちていった朝霏の行方を求めて急いで下を見たのだ。
そうして、悟る。
――地上に、飢えた芋虫がやってきているのを。
天を仰ぐそれが、ぐぱりと口を開いてアリスが下りてくるのを待っている。
朝霏は――。
「芋虫を殺しましょう。」
汚い虫には興味など、無い。
ちょうど芋虫の真下に来るタイミングを見計らって、落ちたままべつのゴンドラに立っていた。
普通の女学生にはできない。だけれど、――猟兵の朝霏であればできる、ささやかないたずらだった。
「バイバイ、ハンプティダンプティ。」
穏やかな宣言とともに、ゴンドラを繋ぐ金具めがけてナイフを突き入れた。
ごぎ、などと音を立てて卵は落ちていく。――ちょうど、芋虫をめがけて!
己の金髪が落下の風に巻き上げられて、夕焼けに舞い上がるのを見上げた。
ああ。やっぱり、退屈しない。
衝撃とともに、落下が終わる。
真っ赤な視界を遮る芋虫の真紅が、朝霏の顔を濡らしても。
やはり、――微笑みは隠せないのだった。
大成功
🔵🔵🔵
鎧坂・灯理
【大喝祭】
後夜祭だとさ。シックスバレットのお誘いだ。
電子の怪盗、影から呪弾、誰しも掃除は徹底派だ。
私は裏方担当だ。目立つのは面倒臭いんでね。
ミス・式島に【鞄】から『バレットM82』を渡す。
ビスを狙撃してレールを破壊、コースターを地上へ、芋虫共を轢潰す。
ん、夕立が居るな。テレパシーで合図だけしておこう。
ついでにレール自体も横倒す。
【鞄】からドローンを大量に飛ばし、カメラ経由で広域視認。
アリスと芋虫の場所を知覚し通達。『白虎』で向かい保護する。
スタッフ用の空間へ移送。対オブリ用の罠を周囲に設置。
電飾車や音響を念動力ハック、対オブリ用の音波を流しつつ轢潰す。
そら、歌えよ。パレードが来るぞ。
矢来・夕立
【大喝采A】◎★△
銃眼さん/f18713に形代をあげます。
御存知の通り『不可視』はそれだけで脅威です。
パレードには混ざれませんけどね。苦手じゃないですか?ひとが多いの。
む。手帳さんと端役さんが観覧車で楽しそうなコトしてるな。
羨ま 戦術的にですね。ジェットコースターに乗…利用します
コイツを轢殺に使うだけじゃ三流ですよ。
速い。高い。かつ、フィールドを回るようにできてる。
遠いヤツは『式紙』で狙撃。道を塞ぐヤツは斬る。
コレで外周沿いに効率的に殺…
うわ鎧坂さん。いたんですか。脳に直接語りかけんのやめてください。
あ、コレ壊すんでしょう。考えるコトは同じですね。ぎっしり仕込んどきましたよ。
紙箱爆弾。
ヴィクティム・ウィンターミュート
【大喝祭A】◎△
チル、何だ何だこのメンバーは
いつかのパーティー会場を思い出すな
オーダーは理解した
端役はどんなニーズにも応える
銃はある、守る手段もある…とくれば
自動工房召喚
解析開始
ちょろっと待ってな
今お誂え向きのが…出来た
極限まで貫通力を高めた徹甲弾『ライフ・イレイザー』
3マガジンある、大事に使え
さぁコガラス、何枚抜きまで出来る?
鍛冶師が作ったの弾だけじゃない
対オウガ専用爆弾十数個がある
ゴーカートをハック、出力オーバロード
爆弾、個別にセット
夕立と灯理も派手にやりやがる
あの2人…うん、いいな
今度使いたい
さーて正純!
愉快で素敵なパーカッションだ!
全機スタンバイ
スリー、ツー、ワン!
フューミゲイション!
式島・コガラス
【大喝祭A】◎★△
アリス救助のためにも、まずは敵の殲滅と行きたいところですが……自前の銃では集団戦は不利ですね。
皆さんの武器、ありがたく使わせてもらいます。
灯里さんから貰った狙撃銃を手に、手頃な建物の高所に登ります。
マガジンはヴィクティムさんより頂いたもの。狙撃地点を隠すのは夕立さんの形代。
これだけの装備でしくじる訳にはいきません。受けた任務は必ず遂行する……30発分、全弾撃ち抜いて見せます。
正純さんの包囲網が完成するまでは灯里さんの援護です。要人の救護の妨害はさせません。
蟲が一箇所に集まれば、一匹一匹確実に処理していきます。
この弾丸は我々五人が届かせるもの……決して生き残らせはしません。
納・正純
【大喝采A】◎★△
ヴィクティム、灯理、仕切りはお前らに任せるぜ。四人でコガラスを援護だ
仕事の如くにスマートに。バグは手当たり次第消さなきゃな
方針
全員で遊園地にアトラクションを用いた広域包囲網を敷く
敵を外側から叩いて一箇所に誘き寄せ、一気に処理して行こう
俺はビスを破壊して敵の集団に観覧車をブチ倒してやる
生き残りにはUCを用いて、【脱皮のやり方】を忘れてもらおうか。
灯理、パイナップル借りるぜ。今度返す。観覧車の足を崩したいんでね
乗り遅れるなよ、夕立。言うまでもないか?
良いバトルビートだ、ヴィクティム。観覧車のビス位置よこしな、合わせてやる
最後の足掻きも速度変更も許すかよ。仕上げは任せるぜ、コガラス
●
そろう足並みはまさに、祭囃子のそれのようで。
今この場にて、作戦を展開するまとまった人数が10人。
多少ばらけたほうがよくないですか――なんて忍びの彼が提案して、5人と5人が左右に散る。
そこが東西であろうが南北であろうが、この集団には関係がなかったのだ。
「チル、何だ何だこのメンバーは。」
――いつかのパーティ会場で暴れ散らかした面々が、そこに居たのだ。
あの時も彼は皆の影に隠れているつもりで、皆を立たせる端役につとめていたように。
今もまた、こうして――超一流の端役、ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は皆のニーズに応えようとしていた。
そして、その端役の隣で周囲を警戒する彼女が式島・コガラス(呪いの魔弾・f18713)である。
コガラスのできることは、彼女自身も理解しているが――非常に、シンプルだ。
引き金を引く。弾を意図したところに「絶対」に当てる。
魔弾の射手と名乗っても名前負けしないその技術力は単純だからこそ磨き上げられた超常のものである。
「お手数をおかけします。」
機動力に優れた彼女がこの状況で真っ先に動けないのも、理由があった。
――集団戦では、自前の銃は不利だと判断したのだ。
「ミス・式島。これを。」
だから、皆の助けが必要になる。
勝利のためならば効率よく、そして無駄なくスマートに。
そのフレーズをモットーに集まったこのチームで「武器庫」たる【私用の鞄】を持っていた鎧坂・灯理(不退転・f14037)がコガラスに銃器を渡した。
『バレットM82』。がしゃりと重く、セミオート式の狙撃が可能である「現代的な」対戦車ライフルを抱えてみせるコガラスが、律義に礼をする。
「女の子にそういうの持たせますか?」
「男女平等社会ですからね。」
矢来・夕立(影・f14904)がそのさまに思わず口をはさみつつも、灯理はテンポよく返す。
コガラスが抱きかかえるようにして抱いたその兵器が、いかに「似つかわしくない」かなどは、灯理にとっては計算外だ。
――猟兵だから、扱えるでしょう。
いけしゃあしゃあとした灯理の表情を伊達眼鏡に映して、ははあ、と乾いた笑いをする夕立だった。
「銃はある、守る手段もある――とくれば。ちょろっと待ってな。」
思いついたようにヴィクティムが己の役割を考える。
『 自動工房召喚
解析開始 』
彼しか見えない電子のホログラムが、網膜に浮かんで。
さて――英雄をより英雄らしくするためには何が要るか。
【Nameless Blacksmiths(エイユウニハフサワシイブキガヒツヨウダ)】。
灯理が渡した凶悪な武装で扱える、かつそれをより凶暴にする武装を思いつく限りの計算式ではじき出すのだ。
「――出来た。3マガジンある、大事に使え。」
にぃ、と笑ったヴィクティムの原理は不明であるが、その手には浮遊する自動工房から製造された「ちょうどよい」弾があった。
徹甲弾『ライフ・イレイザー』!
握らされた新たな戦力に、コガラスもまた頷くのだ。――挑戦的なヴィクティムの顔に、まるで己を問われている気がする。
「何枚抜きまで出来る?」
「お望みの数だけ。全弾撃ち抜いて見せます。」
頷き、決意を胸にするコガラスには後ろから夕立が「盛り上がってるとこすいません」とぶっきらぼうに声をかけた。
「端役じゃない端役が場の空気もってっちゃうから渡しそびれそうでした。はい――銃眼さん。」
此度のコガラスが、スナイパーであるというのならば。
【紙技・化鎮(カミワザ・ケシズミ)】の加護を受けた形代を授けておけば成功率も極限に達するだろうと夕立は踏んだ。
「パレードには混ざれませんけどね。苦手じゃないですか?ひとが多いの。」
――同じ暗殺稼業としての、親近感とよさを抱きながら。
くすりと小さく笑んだコガラスのそれは、同意だったのだろう。
「よし、も一回行動指針確認するぞ。」
そして、執行の音頭を取るのが。
納・正純(インサイト・f01867)は、集まった各自の顔を見ながら満足そうにうなずいた。
――最高のチームだ。
けして、口にはしない。そうすると余計な慢心を呼び起こしてしまう。
それを宣言するのはこの仕事の後でも構うまい。己の顎を掌で撫でてから、正純は二人に目をやった。
「ヴィクティム、灯理、現場の仕切りはお前らに任せるぜ。」
この中で一番冷静に。そして機械よりも機械的な判断が求められる二人には、承知の上だろうがあらためて正純から宣言される。
二人が何をいまさら、という顔と。任せとけ!という顔で返事をしたのもまた好ましい。
口角を上げて、夕立とコガラスを見る。
「四人でコガラスを援護だ。――ス マ ー ト に 行 こ う 。」
大胆不敵に笑んで見せたもう一人の魔弾の射手が宣言すれば。弾かれるように各々が作戦に出る――!
鍛冶師が作ったのは弾だけのはずがあるまい!
ヴィクティムが己の電脳に接続できる叡智を使って――脳波を用いてやれば。
彼のしもべとなった四輪の獣どもは嘶いて集まってきたのだ。
「ゴーカートか。イイね」
その様を見ていた正純が機転を利かせて、先ほど電脳探偵から借りた「パイナップル」こと手りゅう弾を掌に握っていた。
運転席をハックされた四輪どもに『対オウガ専用爆弾』と名付けられたくす玉を運び入れるのを手伝う射手に、電脳の端役が微笑んだ。
「おう――ウィズな仲間たちだぜ?俺はどんなニーズにも応えるっつったろ。」
それこそ、英雄を彩る最高でド派手な演出で。
まるで今からいたずらでも仕掛けるかのような表情のまま、正純も電脳の彼と合わせて作業をともにしてみるのだ。
ポケットに隠した「パイナップル」の扱いを慎重にしながら、ではあるが。
「さあて、夕立。――言うまでもないか?」
祭囃子の準備は整った。正純とヴィクティムが見上げた方向には、奔り続ける列車がある。
あとは、アリスの救出に向かった灯理のタイミングですべてが始まる。
金色の目を細めた正純が、己の獲物を握る。
「うへぇ。来たぜ来たぜ――芋虫ども。」
「任せとけ。」
ヴィクティムが気配を察知して、振り返ったところには。
ゴーカートの音を聞いて集まった獣たちである。芋虫と呼んでやるにはいささか凶悪すぎる面に、思わずヴィクティムが舌を出した。
ただ、正純は振り返らないまま――一発、銃弾を発射する。
それが一匹の芋虫、その間抜けな口内を撃ち抜いた!
「さァ――そ っ ち の 手 番 だ ぜ ! ! 」
寄生を発した芋虫を筆頭に、その場に集まった質量がすべて正純に向けられる!
ど、と地面を蹴ってブーツを削りながら走り出した正純だ!短い金髪が風を切ってなお凛々しいのをヴィクティムが見送った。
「頼む!」
これも、作戦の内だとはわかっている。
だけれど、――やはり。
最悪の可能性を天秤にかけてしまうのは、かつて仲間に裏切られた彼ならではだろうか。
「大丈夫だ!!」
がうんがうんと鉄を吠えさせてその疑念を撃ち抜くように――!
正純が駆ける、駆ける!
「この隙にビスの位置よこしな、合わせてやるッ!!」
叫びながらに芋虫の大軍を連れる彼が、銃を振ってヴィクティムに存在を伝える。
俺は此処だ、此処にいる。
――裏切らない、頼もしさが。利己的な悪人らしい顔をしながら、引っ張っていこうとする頼もしさがあった。
だから、ヴィクティムは不敵に笑って返せたのだ。
まもなく――計画はこの端役の活躍によって英雄のものとなる!
「さあて、【脱皮のやり方】を忘れてもらおうか!!」
【終段真理(ステイルメイト)】の発動音が乱暴に鳴り響いて――混沌の空に響いたのだった。
相棒である二輪に跨り、己の「出来の良すぎる」脳にアリスの位置と脅威の位置を探させる灯理が、その音を拾う。
――始まった。
まるで運動会のスタートのようだなと思いながら、よりアクセルを握りこめば彼女の力に合わせて白虎の相棒が走るのだ!
ぎゃううんとうなり声をあげて走りだした目的はまず第一に、『裏方作業』である。
あくまで、ただの人間である灯理にとって。
――電子の怪盗、影から呪弾、誰しも掃除は徹底派だ。
その流れについていってやろうとは思えないほど、戦力が過剰にあった。
ならば人間らしく目立たぬよう、かつ堅実な手段でやってやりたかっただけでもある。
空中を飛び回る彼女の視覚が、一人の少女を見つければ。そこめがけてタイヤの向きを変えてやるのだ!
「ひっ!?」
余計な声もかけないで――豪速のまま人影に突っ込んだ!
猫掴みをするようにして小さなアリスをつかめば、彼女の「スタッフ用の空間」――鞄に、アリスをしまい込む。
すべて風を切りながら並行してできることだ。アリスを狙ってやってきた芋虫など今の灯理には足場程度にしかならない!
「邪 魔 だ 。」
重心を後輪に乗せて、前輪を浮かせれば!
ぎゃおおと空を掻くはずの爪は芋虫を削り、抉り、轢 き 殺 す ――!!
舞う血しぶきになんの感傷も、そして感動もない。
機械的でありながら冷静めいた心で、絶命の瞬間を見届けてからその体に乗り上げて、地面をバウンドしてからまた彼女の道へと戻ったのだ。
わあ、とか。
ひい、とか。
間抜けなアリスたちの悲鳴を聞いたのは聞いたがその怪我の様など脳内スキャン結果によれば「いずれも重傷でない」。
――年頃の子供だ、怪我など多くすればいい。
その分強くなるはずだからな。というのは彼女の理論であるのだけれど。
二度目に芋虫と接敵しようものならば、次は鉄の矢がどすどすとその体を貫いて破砕する!
「ミス・式鳥――。」
見えぬスナイパーの感触を、確かに感じた。
――要人の救護の妨害はさせません。
決意とともに口をきゅう、と結んだ赤い瞳が特徴的な彼女の表情を思い出して、面白いものでも見たかのように灯理は笑う。
そうかそうか、そうだったな。と独りごちて、今日この日は好きなように動いてよかったことを思い出した。
お守する誰かもなければ、忠実に任務を仲間とともに果たして良いときである。
「夕立がいるな。」
そして、その重要なピースになる存在といえば。
心を通わせてある、忍びの彼であった。ようやく、お目当ての場所にたどり着いたらしい。
「うわ鎧坂さん。いたんですか。脳に直接語りかけんのやめてください。」
テレパス。
灯理の持つ超常であるそれは、夕立にしか聞こえない。
右こめかみを右手で抑えながら、顔をしかめた彼が乗ったのは――ジェットコースターだ。
「コイツを轢殺に使うだけじゃ三流ですよ。」
なにやら打ち合わせをしながら、彼が式神を遠方に向かって投げれば。
視界の端でうごめいていた赤や緑がぱん、とはじけ飛んだ。速さに任せて視界から逃して、夕立は黒髪をなびかせながら電脳探偵とまるで電話でもしているかのように話し続けている。
「やだな、戦術的に利用してるだけじゃないですか――真面目ですって、ホント。」
道を塞ぐ木偶はずばりと刀で切り落としてやって、その血しぶきを顔面に浴びながらも車体の速さによって眼鏡についた血も流されていった。
「ああ、そうそう。コレやっぱり壊すんですよね?」
ようやく急なカーブを曲がりきって、最後の坂も下ったところでスタート地点に戻ろうとゆるやかな速さに戻っていくのを感じながら、彼がいそいそと作っていたものの数を確認する。
――然り、とテレパス相手が言ったのだろう。
「考えるコトは同じですね。ぎっしり仕込んどきましたよ。」
セーフティをはずして、よいしょと車両から出た影のあとには。
まるで手品のように、す べ て の 車 体 を 埋 め 尽 く す 紙 箱 ば か り 。
少々名残惜し気に、その車体を見て。
――もうちょっと激しくてもよかったんですけどね。
なんて、独り言をつぶやいた影だったのだ。
がこん、と遠方にあったジェットコースターのレールが形を変えた。
それを合図に、正純はようやく「パイナップル」のピンを唇で抜いてやる!
「夕立と灯理も派手にやりやがる!あの2人……うん、いいな」
作戦の順調な成功を見やりながら、唯一芋虫どもからのヘイトを集めていないヴィクティムが最後の仕上げに取り掛かる。
電子の使いとはいえ――アナログの作業はやはり骨が折れるというものだった。
「さーて正純!愉快で素敵なパーカッションだ!」
だが、今の彼に注目が集まっていないのはこうして英雄たちが派手に動き回るからである。
端役たるもの――確実に、やらねば。いいや、やるのだ!
「良いバトルビートだ、ヴィクティム!最後の足掻きも速度変更も許すかよ――ッッッ!!!」
正純が咆哮とともに、空中に「パイナップル」を投げたのを。
旋回していた灯理のドローンが見ていた。
「そら、歌えよ。」
不協和音を奏でるスピーカーをハックした彼女が、不敵に微笑んで見せる。
彼女に向かうはずだった芋虫たちが、観覧車めがけての進行を始めだしていたのだ。
音に操られ、道を外れれば爆弾がその身を焦がして強制してのたうちまわることになった芋虫たちの行く末は。
観覧車と――ジェットコースターの位置は、ちょうど真逆にあった。
すべてが「中間地点」に集まるのを、見出していた。すでに、皆で――!
「スリー」
夕立が、コースターから離脱して安全地帯へ逃げる。
「ツー」
コガラスが、与えられた武器をしかと握りなおす。
「 パ レ ー ド が 来 る ぞ 。 」
灯理が、その終末を知っている――!
「ワン!――フ ュ ー ミ ゲ イ シ ョ ン ! 」
ヴィクティムの合図とともに!
正純の投げた火種が、――爆 発 ! !
ごうん、と衝撃を受けた観覧車の脚が崩れ、そしてそのまま正純の放つ絶対の魔弾が観覧車のビスを 撃 ち 抜 い た !
激しい揺れとともに自由を得た観覧車は、その勢いのまま正純の援護で芋虫たちを追い立てる!
ぎいぎいと悲鳴が上がっていくつかはひき殺されてジャムになったが、結果は変わるまい!
そしてヴィクティムのゴーカートたちが爆弾を乗せたまま特攻!
オウガたる獣どもにぶつかり、爆炎を上げたのだった!
もはや仲間の絶叫と恐怖ばかりが満ちた空間で――芋虫たちは助けを求めるように安全圏である「中間地」に逃げ出した。
その数、二十ほど。
――決して生き残らせはしません。
す べ て 、撃 ち 抜 い た 弾 丸 が あ っ た !
空気も、音も、何もかもを置き去りに――コガラスと仲間の弾丸は、芋虫たちの頭を砕く砕く砕く砕く!!
骨も肉も皮も中身のなさそうな脳漿を飛び散らせて絶命する怪物たちの終わりを、「ド派手」に飾るようにして線路を失ったコースターが直撃!
またも、爆発。
煌々と燃え広がる戦火がすべてを焼く。
悪趣味な庭も、気味の悪い芋虫も、――助けられなかった肉塊もすべて。
ハイタッチなどで喜んだりはしない。だけれど、皆が確信していた。
この作戦においての成功は紛れもなく、――この五人の英雄たちがつかんだ勝利であると!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
水衛・巽
【大喝采B】◎★△
初手で天空魔境を展開
戦闘が容易な道幅の平地の迷宮へ改竄し
アリスからグリードキャタピラーを可能なかぎり離して隔離する
敵の箇所はメンバーと共有し各個撃破、
出口へ誘導するよう立ち回ればアリス達に遭遇しないはず
アリスは発見次第、最優先で後方ベースへ誘導
穂結さんに任せれば心配はないでしょう
メンバーには灯りを持たせ敵の誘導にも活用しましょう
…芋虫が光に反応するかは知りませんが
むしろ動く物の方が気を惹きますかね(ネグルを見
蛇竜の食事は初めて見ますね、興味深い
歯が消化に悪そうですけど
アリス達を全員回収できれば後はバグフィックスですか
そういうの得意な方に心当たりありませんか、鳴宮さん
ネグル・ギュネス
【大喝祭 B】で参戦
◎★△
人々を狙って狩りとは、私が一番嫌いな部類だ
安全圏から嘲笑うそのツラ、地面に引きずり倒してやるよ!
一先ずアリスを救わねばならぬか、来い
ユーベルコード、【幻影疾走・速型】!
芋虫野郎が喰らう前に、アリスを掻っ攫い、脇に抱きながら距離を取る!
【迷彩】システム、【残像】システム、起動
敵を欺き、振り払え!私の騎乗を舐めるなよ!
アリスを後方部隊に預けた後、【破魔】の【属性攻撃】を孕んだ銃を放ち、敵の顔面を叩きながら、バイクで駆け抜ける
そして次なるアリスを救出しながら、戦場を走り抜けてやる
仮に敵が襲い掛かれど、身体を張り庇いながら走る
頼れる仲間達や相棒がいるからこそ、私は駆け抜ける!
穂結・神楽耶
【大喝祭B】◎
本来娯楽のための物で殺戮を行う。…不愉快ですね。
せめて今生きているアリスだけでも救いませんと。
幸い仲間は多いですから、存分に頼らせて頂きます。
後方にオーラ防御で覆ったベースキャンプを作成。
ニルズヘッグ様の死霊騎士と共に拠点防御、ならびに救出されたアリスの保護と回復を担当します。
灯りを多めに頂いて雰囲気を柔らかくして。
もう大丈夫ですから、心を落ち着けて。
――【茜小路の帰り唄】。
アリスの引き受け時、歌声は前衛の皆様へも波及させます。
迷宮を駆け回り蓄積された疲労を少しでもここで癒して下さいな。
前を預けました。この唄を歌い続けるのがわたくしの戦いです。
どうぞ、御武運を。
鳴宮・匡
【大喝祭B】◎★△
は? アリスを保護するって?
…………いや、いいけど
あいつ(ヴィクティム)、わかってて俺にこっち側押し付けたな……
救助対象と敵の大まかな位置を伝え聞いておき
迷宮が展開されると同時に迷宮内へ踏み込む
アリス保護の障害になりそうな位置の敵を先んじて排除
不意を打てるよう迷宮の地形と暗さを利用し
【目立たない】よう【忍び足】で進行
クリアリングは無駄なく迅速に
出会いがしらの【先制攻撃】で可能な限り沈めるよ
……おいネグル、道中キツかったら言えよ
一応フォローはしてやるから
道中が片付いて余裕があれば
拠点付近の敵の排除にも手を貸すよ
……バグフィックスは、
まあ、向こうのチームに任せときゃいいんじゃね
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【大喝采B】
悪趣味な催しだなァ
だからといって、やることが変わるわけじゃあない
奴らを全て蹴散らして、全員救う。それだけだ
よろしく頼むよ、同胞
この手の乱戦で先陣切るのは得意じゃないんだ、後方支援と行こう
前衛が保護したアリスは引き受ける
ありったけの『呪詛』で強化した【リザレクト・オブリビオン】の装甲、そう簡単に破れると思うなよ!
騎士にはアリスと穂結の護衛を頼む
受け止めきれず消滅するなら、もう一体呼び出しゃあ良いだけだ
蛇竜の方は巽の迷宮の出口へ
薄気味悪い芋虫なんぞ、全部食っちまえ
私が狙われたら竜どもに何とかしてもらおう
そんなことがあるかどうかは分からんが
……あっちも大分、派手にやっているようであるしな
●
大規模なパレード集団の裏側で。
分けられたもう片方のグループに所属する5人は己らのやるべきことをよくわかっていた。
作戦の打ち合わせもそこそこに、彼らはお互いの能力や、それから得意なことを照らし合わせる。
誰もが人のために動かされるこのグループで、ため息をつく彼がひとり。
――あいつ、わかってて俺にこっち側押し付けたな……。
鳴宮・匡(凪の海・f01612)の面持ちは暗く、そして面倒そうでもあった。
アリスを助ける、とこのグループが言い出した時に唯一「は?」と声に出してしまった彼である。
すぐに続きを促したから言及はなかったものの、――匡は、この中で一番効率主義だ。
戦場傭兵。
齢10歳よりも幼いころから、ひとを殺すことでどうにかこうにか今まで生きてきた彼にとって、今目の前の彼らが展開する作戦会議は考え憑かないことだった。
――だからこそ、端役の彼が。
匡をここに加えさせたのだろうけれど。
「…………いや、いいけど。」
ほとんど、狂戦士への挑戦状みたいなものではないか。
匡が自分の顔下半分を掌で覆いながらつぶやいた言葉を隠すのを、ネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)が見ていた。
「匡。」
スカーフェイスの相棒が、心配そうに見るのには口元にやった掌を離して表情を晒すことで抑える。
「大丈夫だよ。お前はどうなの。」
「私か?――準備はできているとも。」
に、と力強く微笑んで見せるネグルは、この狂気空間に嫌悪感を隠せないでいた。
もとから正直者じみたきらいはあるのだが、この男の性根というのはまるで手にする刀のようなものである。
――人々を狙って狩りとは、私が一番嫌いな部類だ。
狩りだとか、人をおもちゃにするだとか。
そういう手合いにはダークセイヴァーでもあったが、ネグルが怒り狂うほどの悪辣であった。
このポップでファンシーながらのグロテスクな価値観である世界でもネグルの価値観はぶれない。「そういうもの」だと適応しない。
そこが――匡とは大きく違うように見られるから。
「おいネグル、道中キツかったら言えよ。一応フォローはしてやるから。」
利己的で戦場に適応できる匡よりも、狂気に汚染される確率が高い。
匡が冷静に言うのを、ネグルが笑い飛ばす。
「はは、――心配ご無用!でも、ありがとな。」
安全圏からあざ笑う脅威を、地面に引きずり倒してやる。
そう意気込むネグルの瞳はきらきらとしていてほほえましい。
本当に大丈夫かよ、と言及しそうになるのをやめた匡がほか三人に意識を向けることにしたのだった。
「本来娯楽のための物で殺戮を行う。――不愉快ですね。」
愛らしい顔をしかめながら、女神のなりそこないが口元に手をやって混沌とした惨状を抱える遊園地を見渡す。
どこかしこにも赤、赤――たまに肉片、そして赤。
炎とはまた違う爪痕を見つめて、人間を愛し人間を守る穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)が黙っていられるはずもなかった。
この娯楽は、人の子らを笑顔にするためのものであったというのに。
今や殺人マシーンやデス・トラップという不名誉な言葉のほうが先行してとても楽しめたものではない。
「だからといって、やることが変わるわけじゃあない。」
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(世界竜・f01811)は、血潮の匂いにまじった甘さを運ぶ風に細長い繊維をした髪を撫でられながら女神もどきのそばに立つ。
彼もまた――炎と違った惨劇の赤を見た。
改めて黄昏を映す金色の目にそれをまとも映してみたものの、やはり気分のいいものにはならない。
サディスティックで、退廃的であるこの空間には悪意――と、呪詛が満ち切っているのもまた彼にとっては「都合が悪い」。
己の体がこの場に応じて力を得ているのがわかってしまう。
半身に刻まれた蛇がのたうって、まるで喜んでいるかのようにじくじくと疼いた。
「奴らを全て蹴散らして、全員救う。それだけだ。」
顔面の片側を少々固くして、微笑んでしまえたのは――義妹の銃弾のせいだけではなかっただろう。
「そうですね、せめて今生きているアリスだけでも救いませんと。」
「それならば、私に心得が。」
水衛・巽(鬼祓・f01428)が二人の要望に応えようと柔らかに微笑んで見せる。
彼は、戦闘特化の現代陰陽師だ。
――はるか昔、陰陽師がまだ時代を占めるよりも前から存在していた水衛家次期当主である彼に、戦闘とその策で考えさせれば右に出るものもそういない。
「そして皆さんには、これを。」
作戦通りに動くとしたら、必要になる道具もある。
ふわりと浮いた灯が彼の周りから突然現れたのを、ニルズヘッグが身じろぎしていた。
「大丈夫ですよ、照らすだけです。」
「あア――。いや、破魔ならどうしようかと思ってなァ。」
呪詛の彼にとって破魔を扱わされるのは、少々心得にかけてしまう。
だからこそ、ただの灯をあえて生み出した巽であった。順に皆へと灯をあてがっていく。機械人の彼が物珍し気にそれに触れても、するりと指先が貫くばかりだ。
やめとけって、とこの場で冷酷冷静でい続ける戦場傭兵がつっこんだところで――。
「よろしいですか。それでは、始めましょう。」
お互いの灯と、その色を確認しあいながら打ち合わせ通りに動く。
この雑多な空間ではなにより目印というものが――派手ではなくても、何よりも未来を導くものになるだろうと皆が踏んだ。
巽の音頭とともに、四人もまた深くうなずいてみせる!
「『埋め尽くせ、天空』」
凛とした声とともに、展開されるのは大魔術である!
巽は足元に、何色をも許さない漆黒を漂わせた。
――この悪趣味な空間よりはマシであろうと踏んで。巽は己らに割り振られた地域一帯に地形変化の術をもたらす!
【天空魔境(テンクウマキョウ)】。
それは、世界の干渉を一切無視した邪な力を以てして作られる大迷宮だ。
黄昏色の世界はアリスごと闇に包まれていく。まるで、大きな漆黒のドームを作るように空が黒に染められていくのを、アリスを含め同胞たちも見ていたことだろう。
あまりにも戦うには少々ものが多すぎたから。
「――これで如何でしょう。」
柔らかく笑んだ巽の周りを、彼色の灯がくるくると舞って表情を照らす。
「よろしいかと。もう少し、灯をいただけますか。」
こくこくと頷いた神楽耶が己にまとう超常の力を広く展開する。
少々穏やかな声で祝詞を唱えて――己の本体を周囲に円を描くように振るってやれば神性の拠点が形成された!
「おお。」
思わず、ニルズヘッグもこの領地には感嘆する。
己の中で吸いすぎた呪詛を穏やかにされて、彼の体はいつもよりも心なしか、軽い。
ささやく呪詛の悲嘆も遠く、一時的に首に巻き付いた縄がほどかれたような開放感が彼にあった。
――世界はやはり、愛と希望に満ちているではないか。
そう、あるべきではないか。と改めて思わされるのは仲間たちの優しさがかたちになっているからだろう。
微笑んだ彼が、己の左手を見ながら立っている。その上に――。
「きゃあああッッ!!!」
「うん!?」
・・・・・・・・・
――アリスが降ってきた。
どさ、と音を立ててニルズヘッグの腕に収まったアリスは、齢にして十にも満たない。
「大丈夫か!?」
思わず声をかけたものの、そういえば己は顔が怖かったなだとか思い出しながらの一声だった。
ひい、と委縮したアリスも致し方ない。くしゃくしゃになった金髪とうるんだ赤い瞳からとうとう涙があふれた。
「おや、転移ですね。」
続いて、どさどさどさとまたアリスたちが降ってくる。ひいふうみい、とリズムよくその人数を数える巽と、突然与えられる救出対象の彼女らに驚く神楽耶だ。
「もう大丈夫ですから、心を落ち着けて、――これ、誰の御業かわかっちゃいました。」
「奇遇だなァ。私もだよ。」
二人して思い浮かべたのは、かの悪人。いいや、電脳探偵である。
座標空間移動技術をためらいなく使うのは彼女くらいのものだったかと巽も己の顎に手をやりながらおおよその見当はついていた。
「でしょうね、ああでもこれで――手間は省けました。残りのアリスの人数はどのくらいでしょうか。」
ほぼ同時刻。
一先ずアリスを救いきらねばならぬと、【幻影疾走・速型(コール・ファントム・フルドライブ)】に乗り込んだネグルと匡である。
漆黒の世界を駆ける閃光のごとく、宇宙バイクが彼らを乗せたまま速度を上げ続けて走る!
「お、我らが端役からのお達しだ。」
ネグルが楽し気に己の視界に飛び込んだホログラムの画面を一瞥して、続いて匡の前にもそれがやってくる。
「ん。――ある程度聞いちゃいたがやっぱり動いてるな。」
ホログラムに在るのは、無数に点滅した赤だ。
赤の座標が、ひとつひとつ確実に匡とネグルを乗せた鉄に近づいてくるのを確認する。
さて、この知識は眉唾だったか匡の実体験に基づくものだったか。
「そりゃあこれだけ派手に光が動いてれば、狙うだろう。」
背中を向けたままのネグルが、匡の言葉に説得力を増す。
――徘徊種、とは。
大きな蜘蛛が有名である彼らは、巣をもたない。
巣を持つのならば巣に紛れてくるか、それか確実に持ち帰れるように弱り切った個体や静止するものを狙うのだが。
「――来た。」
ぐぉ、と大きな口を開けて――動く灯を喰らおうとする芋虫どもは!
動き回るものを狙うのが自然の摂理なのだ。
今まで生き残っているアリスたちが、ことごとく逃げ回ってはいないところにも共通点がある。
「大量、大量ってな。」
は、と鼻で笑ってやりながらネグルがいうように、彼ら二人を取り囲んだ芋虫の数は無数だった!
いつまで笑っていられるやら、と匡がため息をついて「相棒」をちらりと見る。
――この匡に、背を任せるこの機械人が。
確かに、「なすすべもなくやられる」所など見たくない。それは、ただただ気に食わない。だから――!
「いって!?」
どん、とネグルの背中を蹴った匡である。
速度を上げたネグルの二輪が灯とともに遠くへ行ったのを横目に、匡は――灯を失ってから、闇へと溶けた。
「匡!!!?――ああくそ、そういうことかッ!」
軽くなった後部に彼の離脱を知ったネグルである。
己の機体近くにあった、震えて固まった少女をバイクのライトで照らしたら――右手でかっさらう!
そのまま、わきに抱いてドリフトを繰り出してカーブ、のちにUターンからの爆速スタートで!
光 も 何 も か も を 置 き 去 り に !
敵を欺き、振り払う一筋の白銀の閃光がここにあったのだ!どるると鳴き続ける彼の鉄馬が、小さな命を乗せて拠点へと戻る。
「頼むぞッ!!」
闇に溶けた相棒が、――救出劇の一連を見ていた。
灯を失った匡は。
もはや、芋虫にも相棒にも見つけられぬほどの漆黒の中で息をひそめている。
音をたてないように、己の獲物を握るのだ。ずしりとした鉄塊に込めた数は記憶によれば満員御礼のはずである。
遠くへ消えていった光に追いつけないうすのろどもは、きょろきょろと闇雲にこの漆黒の迷宮を彷徨うばかりで。
今の匡にとっては動かぬ的よりも、殺しやすい。
【 千 篇 万 禍 ( ゼ ロ ・ ミ リ オ ン ) 】。
どう、と放たれた一撃を皮切りに、彼の殺戮は始まったのだ。
対象を完璧に観察しつくしたうえでの行動予測を組み込んだ戦闘術は、間違いなく百発百中――彼の狙い通りの位置に鉄を叩き込む!
もはや音だけではどこから狙われているのかもわからぬ芋虫たちが、とうとうパニックを起こしてお互いの体をぶつけあっているのだって計算済みだ。
重なり合った柔らかな肉詰めを撃ち抜いてやる。
「――三枚抜きってやつだな。」
漂う鉄の匂いに恐れはない。
己の戦果でしかないそれをより濃くしながら、無駄なく迅速に脅威を沈め続ける。
相棒の決意と、それから信頼が脳裏にちらついて。
――そのためだけの戦いでは、けしてないのだけれど。
余裕がある。己の手に収まったBHG-738C"Stranger"の空いたカートリッジを抜いてから新しいそれに替えてやる。
自動式のそれの具合を確かめてから、――遠くにある相棒の輝きがせわしなく動き続けるのを見ていた。
「五人目ェ!!」
また鉄の嘶きが響いて――ネグルが己の破魔をまとう銃で芋虫を砕きながらアリスを腕に抱いた!
まるで急に、風にさらわれたかのように。
ぱちぱちと何度も瞬きをしながら、叫び声すら許されない速さでアリスがまた、三人の守る拠点へと戻される!
「お見事です!」
感嘆の声を上げながら、この黒の迷宮を維持する巽の指先などはすっかり魔術の使用で真っ白になってしまっていた。
仲間たちが暴れてもいいようにと思うて広げた結界ではあるが――やはり、内包するものもその大きさを維持するにも限りはある。
永遠であり続けることは、難しいのだ。
ずきりと発動の際に、祈るように合わせた掌の筋が疼いたのを、目を細めて感じた彼である。
――アリスは。
「これで全部か!?」
ニルズヘッグが留まる灯とその気配に導かれてやってきた芋虫どもを、【リザレクト・オブリビオン】で迎え撃ちながら吠えた!
「ああ!全部だ!」
叫び返してその場に並ぶネグルと、陰に潜んだままの匡が――また、己の武器を構えていた。
あまりにも敗れぬその拠点に腹を立てたのか、芋虫の一匹が「歯」を食いしばりなら尻尾をニルズヘッグたちめがけて振るう!
彼の後方で、恐れから小さな叫び声を放った命は――さきほど、彼に受け止められたアリスのものだった。
「 そ う 簡 単 に ―― 破 れ る と 思 う な よ ッ ッ ! 」
怒れる彼が、不敵に微笑んだままため込んだ呪詛をありったけ騎士どもに注いでやる!
呼び出された死霊騎士が力を食い散らしてより強度を上げる!
拠点で祝詞を歌う神楽耶を、巽を、そしてこのアリスたちを守ろうと――世界に愛と希望をもたらさんという意志が、けだものを押し返した!
必ず、救う。
【茜小路の帰り唄(アカネコミチノカエリウタ)】が歌われるこの空間で。
己の内を呪詛に蝕まれるニルズヘッグと、己の力を削って迷宮を維持する巽を芯から癒すのが神性のなりそこない――神楽耶であった!
今の彼女にしか、この歌は歌えないのだ。
仲間と苦楽を分かち合い、人にあがめられることはなくともお互いを尊ぶことを覚えたこの守り刀でしかできない癒しの歌が流れていく!
その余波を受けて――勢いを増した悪しき蛇竜が。
「わ。蛇竜の食事は初めて見ますね、興味深い。」
夢と現の出口を司る巽を狙った芋虫を食いちぎる!そのまま体を絡ませて、ほどなくして絶命させる呪詛が頭から芋虫を手早く呑み込んだのを見送った。
「アリスはすべて回収できたようですね。――後はバグフィックスですか。そういうの得意な方に心当たりありませんか、鳴宮さん。」
闇に溶ける暗躍者に尋ねてみる顔は、先ほどに比べればずっと――穏やかだった。
「うおおおおおッッッ
!!!!」
――ネグルが吠える!
彼の的確な破魔の弾が、絶対的な一撃となるように!
まるで空間に縫い付けるように放たれた自動式の弾どもは先行した。
それが、相棒の御業だとわかっているからネグルは攻撃を続けていられる!
「……バグフィックスは、まあ、向こうのチームに任せときゃいいんじゃね。」
この漆黒の向こうでは余計に戦火があふれていることだろう。
匡や此処にいる皆が知っていることだ。
向こうのチームのほうが凶暴で、苛烈で、ド派手なことは。
――だが!
「あっちも大分、派手にやっているようであるしな。しかし、私たちも負けちゃァいない!」
ニルズヘッグが大胆豪快に笑いながら、大きな背中を守られる命たちに見せるのだ。
――ヒーローショーだったか、なんだかったかで。
こういう風に、男は背中で語る頼もしさが必要だとセリフで聞いた気がする。
いつも彼は悪役だったから、己の立ち位置をわきまえてはいたが。
頼れる誰かの役は、今この場において拠点に坐する彼こそが言えたものだった。
唄を歌い続けるのが己の戦いである神楽耶が、気管部にじんわりと鉄の味が染みるのを知る。
人の体は、どうにも無茶が効かない。
しかし、己の本体が無事である限りは――このような疲労を気にかけてやらないのだ!
歌う。
謳う。
――謡う!!
前を預けた彼女が信頼する仲間たちの傷をいやすために、黒髪を乱してなおこの女神は微笑む――!
(頼れる仲間達や相棒がいるからこそ、私は)
芋虫の数も少なくなってきた。明らかにうごめく数は照らした灯が映す先ほどよりも質量がない。
同時に、仲間たちの勢いも衰えだすのを察してネグルはまだ駆ける!
いいや。
「――駆け抜ける!」
地面を蹴った、銃を放った。
バイクを走らせて、友を守った。アリスを守った!
「さあ、閉じますよ!」
巽の合図とともに――!
放たれるのは呪詛、閃光、そして銃弾と歌声!
この光景が、記憶の抜け落ちたスカーフェイスの彼に宿り続けるだろうか。
相棒に引っ張られながら、冷静を取り戻して出口へと急ぐ。
アリスを逃がして、友を逃がして、最後に巽が迷宮を閉じて化け物の死体も残骸もすべて闇へとくれてやるのを――その祭りの終焉を、記録し続けるだろうか。
戻された世界に色彩が戻る。
爆炎と、それから燃え盛る夢のあとにそれぞれがそれぞれの表情で微笑んだ。
高く、こぶしを突き上げる。
皆で、五人で!
ミッション・コンプリート
「 「 「 「 「 作 戦 、 完 了 ! ! 」 」 」 」 」
――彼らの仲間が、それを祝福するかのように。
園内中心部にて派手な爆炎を上げたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『トランプの巨人』
|
POW : 巨人の剣
単純で重い【剣】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : トランプ兵団
レベル×1体の、【胴体になっているトランプのカード】に1と刻印された戦闘用【トランプ兵】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : バインドカード
【召喚した巨大なトランプのカード】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
◆プレイング募集は断章投稿後を予定しております。少々お待ちくださいませ。
●
更地にされた。
狂気の遊園地は根こそぎ猟兵たちによってなかったことにされたのだ。
やりすぎたか?なんて笑う声もあったが――娯楽のためならともかく猟奇のための施設であるなら問題あるまい。
――さあ、では更地にしたここに、なぜ主催者の姿がない?
改めて、猟兵たちは遊園地の地図を広げたのだった。
この遊園地の目玉といえば。
ジェットコースター、破壊。
遊園地、爆破。
だいたい楽しまれていただろう遊具はことごとく破壊しつくした後で猟兵たちが違和感を覚える。
遊園地は、なにも遊具だけで遊ぶものではない。
アトラクションの描かれた地図の端に、「ショー」の項目があったのだ。
急いで地図の裏面をひっくり返した猟兵が数人いただろう。
くまなく探してやらずとも、其処にはこれから起こることが書いてあった。
――記載されていた演目と、時刻をそれぞれが確認しあうころに。
劈 く よ う な ハ ウ リ ン グ 音 が 鳴 り 響 い た !
「お客様ニ、ごァ、アあ、あン、ん、なななナイ、イ、致します。」
ずん、と地面が揺れる。
地震か――と思われたが、即座に皆が判断した。
大量の兵士が、こちらに向かって走ってくる。
兵士の口から洩れるのは、ノイズ交じりながらの録音音声だ。
これを事前に収録していたとなれば、きっと声の主はデスゲームの主催なのだろうなと思われた。
ある猟兵が遊覧汽車を占拠し、そこをアリスたちの避難場所に使ったから――ちょうど、猟兵たちの後ろにはその遊覧汽車がある。
兵士たちは、猟兵を狙っているわけではない。
アリスを――アリスめがけて走っているのだ。
「ただイマより、リリ、り。トランプの、ノ、巨人ンに、ィ、によるル、デス・ショーを、はじ、ジ、めマ、ス。」
でかい図体を存分に揺らしながら走ってくる猟兵たちの数倍はある鉄塊どもである。
聞こえる咆哮は機械のそれとは程遠く、なるで中に獅子でも飼っているかのような嘶きが響いた!
「お急ぎ、――くださイ」
――そして。
猟兵たちは気づいてただろうか、巨人たちが足踏む揺れとともに現れていたものを。
園内にあった湖から、真紅が目立つ悪の城が顕現していたことに。
さあ、悪と狂気の兵士どもを蹂躙し、主催者を城から引きずり出せ、猟兵(Jaeger)!
◆プレイング募集期間は7/28(日) 8:30~ 7/30(火) 23:59ごろまでを予定しております。
◆お城へ攻撃はしてもOKです。破壊してもOK!しかし、この章では主催はまだ引きずり出せません。
ゼイル・パックルード
◎★△
主演はアリス達だとしても、脇を固めなきゃ名演劇にはならないだろうに。ただの巨体で色気もない。これで実力もなければ、役者不足だぜ?主催の腕が疑われるね。
刀とダガーで二刀流。
トランプ兵団に対しては、数で来るなら【早業】でユーベルコードと炎の【属性攻撃】。
ユーベルコードの寿命のデメリットは無視。
本体に対しては……アリスの前に立てばなし崩し的に、俺もまとめて斬ろうとするかね。そこを【カウンター】で、バランスを崩させる狙いで細い脚でも狙うか。
バランスを崩したら、胸のコアっぽいところを狙う。
でも正直こういう相手ってあまりそそらねえないんだよなぁ。やられっぱなしで嫌ってんなら、とどめはアリスに譲るかね
●
ようやっとひと段落終えて、やはりまだこの演目者たちはよくわかっていないのだと彼は知る。
「主演はアリス達だとしても、脇を固めなきゃ名演劇にはならないだろうに。」
ゼイル・パックルード(火裂・f02162)は頭を掻きながら突撃してくる巨人どもにあきれで返していた。
ただの巨体が押し迫るばかりだ。
数が数なだけに、まるで壁に迫られるようにも錯覚させられる。
――色気もない。
「ただ派手なだけじゃねえだろうな。」
炎をまといながら、彼が握るのは刀とダガーである。
地獄の炎に焼かれてもなお形状を保つ刃のそれは、彼の戦意そのもののようでありながら。
死月冥夜と銘打たれた刀はぎらりと炎に身を炙られながら輝きを増していく。
彼の闘争に光の道などはない、だけれど――心に刻んだ戦意がかたちをもったようなバトル・スタイルであった。
ゆらり、身を撓めて。
足を前後に少し開いてから、後方の右足に重心を置く。
「役者不足だぜ?主催の腕が疑われるね。」
言葉通りの意味だ。このままではきっと、この数程度ではおそらく、『猟兵たちを止める量の役者が足らない』!
そして、彼の右足で小さく火花が散って。
ロ ケ ッ ト ・ ス タ ー ト
爆発!はじき出された弾丸のように、――駆 け 出 し た ! !
【Not narrative nightmares(カタラレルコトノナキシノアクム)】。
本来ならば――彼は味方に一発いれるなり、それかアリスのどれかを傷つけてから行えば『代償』を払う必要はなかった。
しかし、今回は敢えてそれを無視する!
前の話でもあったように、ゼイルは――子供がむざむざと殺されるのは好ましく思わない。
まして、今回のアリスたちはみな疲弊しきっている。
ゼイルが一撃叩き込んだだけで死んでしまうような存在がたくさんあったのだ。
ここで「じゃあ死んでも変わるまい」と判断しないのが――彼が、闘争に生きる証なのである。
ただ、殺すだけが快感ではない。
「すごいッ……。」
彼のその姿に、息をのむアリスがあった。
闘争とは、知 ら し め て こ そ で あ る !
まず駆け出したゼイルは、空中を超低空飛行する形になって敵陣へと滑っていった。
着弾――もとい、彼の脚がたどり着いたのは一体の巨人である。
蹴りを胴体に一発たたきこんでやれば、ぼこりと鉄の体がへこんだ後にて。
「うおっ、と」
その胴体に配置されたうろこのような腹部から、カードを吐き出した!
ゼイルが衝撃のままカードの濁流を回避しながら新たな敵性反応を知る。
ぞろり、ずるりと胴体に刻印の刻まれた薄っぺらなそれらが意識を持ち出して――ゼイルを見た。
「へえ、増やしたか。――でもまだ、足りねぇよ。」
所 詮 、 闘 争 の 意 義 の な い 傀 儡 ど も は 、 こ の 火 烈 に 追 い つ け な い !
ばらり、とトランプ兵が舞った。
文字通り、紙で出来た胴体が風圧にまきあげられて黄昏色の空を舞う。
彼らは絶命の瞬間をまざまざと空中で見せつけられて――やがて、己の上部と下部が分けられてしまったのを知った。
絶叫を上げるよりも早く、切り口の地獄炎が広がって声ごと焼いてしまう!
血が出ぬ生き物の悲鳴は何とも物足りない。
そう言いたげな顔をしたゼイルが、またトランプ兵を両断する。
思いつく八つの方法で、断 つ 、 断 つ 、 断 ち 切 る ! !
手首をねじった、突きを繰り出した、脚を使ってたたき折った、すべて燃やした!
だが――。
「正直こういう相手ってあまりそそらねえないんだよなぁ。」
彼は、無節操ながらにグルメではあるのだ。
戦い続けるのであれば、心があってそれから命を燃やせるほどの相手がいい。
巨人一体のあからさまに露出した弱点をダガーで貫いて、確かな手ごたえを得たゼイルだ。
どうしたらこの殺戮劇はもっと面白くなるだろうかと考えて――もう一匹は足を切り裂いてやった。
「わっ」
切り離された勢いでちょうど、先ほどゼイルを見て感動したアリスの前に落とされた巨人は、まだぎいぎいと体をきしませていた。
アリスが叫んで、たじろいだのをゼイルが見下ろす。
九つの方法を思いついて、最後の殺戮方法を実践する時がやってきたのだ。
悠々と歩いて、執行を下す。――彼は、ワンサイドゲームを気に入らない。
「使え。」
どす、とアリスの眼前に振り下ろされて地面に刺さるのが彼の刀だった。
ゼイルの熱を受けて煌々と赤く染まった鉄が、いざなうようにアリスの視線を奪う。
「使えって。」
顎でしめして、ゼイルは微笑んだ。
――頼もしい笑みなどではない。彼は、愉しんでいるのだ。
アリスが、その刀を握るのを瞬き一つせず見守っている。
「あ」
泣きそうな顔で力の証を握る少女が、明らかな獣性を得たのを見た。
そうだ、それでいい――そうして、力を獲ろ。
負け癖をつけてやりたいわけではないのだ、これは猟兵としてできる彼なりの「救出作業」である。
「ああ、」
産声をあげるアリスがいた。
一心不乱にゼイルの刀を握って、踏み込んで転がされた巨人のもとへと駆け寄る彼女は。
「ああああああああああああああああああああああッッッッ
!!!!!!!!」
無 力 な 、 少 女 の ま ま で は い ら れ な い !
「我ながらナイスキャスティングだと思うぜ、どうだい。」
――見てるんだろ、どうせ。
ちらりと湖に浮かび上がった城を見上げるゼイルである。
「次はお前だ。準備しときな。」
アリスが巨人のコアを叩き割ったのを視界の端に収めて、満足そうに焔は笑むのだった。
九番目の殺戮は、此処に成立する――。
大成功
🔵🔵🔵
ユエイン・リュンコイス
◎★
さて、遊撃救出戦の次は定点防御か。むざむざ遊具を元に戻してやる謂れも無いし…このままで行こうか、機神。
これ、機神を横たえて壁にするとかは…うん、利よりも損の方が多そうだ。まだ彼我距離は十分にあるかな?前に出て相手の出がかりを潰してやろう。
基本戦術は変わらない。『メカニック、操縦』で操り、『グラップル、衝撃波、範囲攻撃』で蹂躙。とは言っても、今回は流石に討ち漏らしが出そうだ。そこは申し訳ないけど、仲間に掃討をお願いしたいね。
さて、所でこの図体がでかい敵兵、機神の掌へ収めるには丁度いいと思わないかい?折よく、これ見よがしな『的』もあるしね。ついでに【月墜】の砲弾もくれてやろう。
そら、受け取れ。
●
再び上がった戦火を見て次の戦いを始まりを知る。
コックピッドに乗せられたユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)は己の第二の体といっても差し支えない、黒くそして黄昏色を反射する機神の内部で新たに視界を展開していた。
地形サーチ。
浮かび上がった園内すべてを参照するホログラムは先ほどのものと比べれば静かになったものだと思う。
ユエインがいる場所は赤くドットであらわされていて、次にサーモグラフィーとともに戦局を判断する。
「遊撃救出戦の次は定点防御か。」
どうしたものか――。
このまま機神とともに戦うのは構わないだろう。
問題はアリスたちだが、先ほど一人が戦いへの参加を促していたなと考える。
この機神とともにアリスを戦わせるのは人的被害が大きいだろうとも思った。――踏み潰しかねない。
己の小さな顎に手をやりながら、ふむともう一度ため息とともに戦場を見る。
逆に、この機神を横たえて壁にするのはどうだろうか。
――利よりも損のほうが多そうだった。
ユエインはありとあらゆる戦術方法をはじき出していく。もっとも、これは彼女の日ごろ成果であり読書の賜物であるから。
少々、『ぶっ飛んだ』ことも思いつきやすいだけなのだ。
堅実に行くか、それとも浪漫を追求するか。
理論で行くか、感情で動くか。
「前に出よう、機神。」
もたれていた操縦席から背を話して、前傾姿勢になる。
レバーを入れなおしてから、指先に配置されたパネルに五指を当てなおせば再び機神に戦意が宿った!
獣 よ り も 獣 ら し い 、 機 械 の 叫 び が 轟 く ――!!
地面を蹴れば、その一帯を割りながら。
黒の鉄槌は走る、奔る!!
ごしゃりめしゃりと壊した遊具を破砕し敷物に変えてやりながら、大きな体めいいっぱいでユエインをのせる黒があった!
この機神は――【黒鐡の機械神(デウス・エクス・マキナ)】にて作成されたものである。
たとえ、巨人が襲い掛かりその体を破壊せんと剣を振るったところで。
たとえ、巨人が喰らいつかんと背後から群がり牙を立てたところで。
たとえ、巨人がトランプ兵を呼び出して関節やパーツにしがみついたそれらが拘束を始めたところで!
「いいのかい?それで――機神の掌へ収めるには丁度いいよ?」
静かに、表情を変えたのは――きっと筋肉や皮がミリ単位で動いたくらいなのだ。
喜悦を少し声に含ませて、ユエインはコックピッドを彩る機神の視界にも張り付いた巨人を見た。
それが今にも食い破らんと、フロントガラス越しにユエインを威嚇し、剣先を何度もぶつけてやる。
ガクン、と機神の巨体が揺れた。
どこかの関節を剣で折られたか、それともトランプ兵が「詰まって」しまったのか。
警告ブザーとともにユエインに機神の異常を知らされる。
エマージェンシー
コックピッド内は赤く点滅し始め、視界に浮かんだ画面には大きく「問題発生」の文字が浮かんだ。
だから、――なんだというのだ。
リカバリー
「自動再生だ。」
このユエイン・リュンコイスが創ったものに――、 一 切 の 欠 陥 な ど は あ り え な い ! !
直後、機神の瞳がひときわ強く紅色に光りだす。
まるで、それは生命の胎動のように見えたのではないだろうか。
黄昏色の世界を彩り、新たなる太陽の昇りを知らせるがごとくの閃光だった。
そして――関節をきしませながら。
機神は、己の顔面に張り付いた巨人をつかむ。
ばしゅう!と音がして――巨人は掌から飛び出したワイヤーやフックにからめとられてそのまま分解!
何が起こったやらわからぬといった獣らしい恐れ方に、ユエインはコックピッドで微笑んだ。
そうだろう、恐ろしいよな。
「食われるって、そういうことだよ。」
――教えてやる。
機人に張り付いた巨人やトランプ兵にも同様のことが置いている。
す べ て 、 吸 収 さ れ て い く の だ !
「フルチャージ完了だ、相性がいい。」
圧倒的な数の前には、この圧倒的な暴力というのはどこまでも相性がよいのだ。
さすがに吸収している間に獣の群れは過ぎていったものもあった、だがそれは――後続の猟兵たちに譲ろう。
ユエインが今やるべくは、この巨人どもの第二波をことごとく粉砕し虐殺し、蹂躙することである!
「 そ ら 、――受 け 取 れ 」
オールグリーン
問題ない。
システムがすべて完全復旧し、余剰のエネルギーがあった。
だから――ユエインはこの攻撃に出たのだ。
轟く機神の咆哮とともに、そのすべてから放たれたのは――月 を も 堕 と す 弾 幕 ! !
単発式127mm単装速射砲『月墜』改。
それから放たれた凶弾は固定砲台となった機神から放たれれば存分に、そしてリスク無く――蹂躙を開始した!!
そこから先は、地獄よりも残酷だった。
湧き出るたびに胸を打たれて潰える巨人たちがあった。
貫く銃弾はそれだけではとまらない。すぐ後ろにいた巨人たちも散っていった。
虐殺だ。
破壊だ。
――これは。
「 掃 討 完 了 。」
城から湧き出る巨人どもを屠る機神による、一方的な――!
敵性反応の喪失を確認してから、己のわずかな昂りを瞼を閉じることによって押さえつけたユエインがいた。
――深くは、追わない。
城に乗り込む前に、脅威であることを知らしめた彼女とその相棒が在ったのを。
きっと『主催』に焼き付けてやったに違いなかったのだ。
大成功
🔵🔵🔵
ジュジュ・ブランロジエ
◎★
自己紹介後に助けたアリスの名を聞き、さん付けで呼ぶ
一緒に戦ってみよう
今後生き残れる様に戦闘経験を積んでほしいんだ
戦闘中も私があなたを守るから大丈夫
私、結構強いんだよ
もっと強いお友達もこの戦場にいるから勝利は確実!
ワンダートリートで足止め
今だよ!と攻撃タイミングを知らせる
上手くいったら誉める
うん、いい感じ!その調子でどんどん倒しちゃおう!
召喚されたトランプ兵が合体する前ならまだ弱いし訓練相手に最適だと思ったんだ
強めの兵士は二回攻撃&範囲攻撃で私が倒す
兵士からの攻撃はオーラ防御と武器受けで対処
アリスに攻撃が及ばないようにする
防いだ後に攻撃前の予備動作に注意する等アドバイス
ふふ、先生になった気分
上野・修介
◎★
「デス・ショーとは。なんというか、捻りもクソもないな」
とは云え、守る対象がおり、本命が控えている以上あまり時間を懸けるのは避けたい。
短期決戦を狙う。
まずは敵味方の戦力把握【視力+第六感+情報収集】
総数と配置、伏兵の有無を確認し味方に共有。
得物は素手喧嘩【グラップル】
UC:攻撃力強化
【ダッシュ】で相手の懐に肉薄し一体ずつ確実に始末。
こちらに敵を引き付けるよう【挑発】しながら、常に【フェイント】を掛け【ダッシュ】で動き包囲されるのを回避。
可能なら広域火力持ちの味方の前に誘導し一網打尽を狙う。
もし背中の遊覧汽車に攻撃が及ぶなら身を盾にする【覚悟】で。
腹を据えて【勇気+激痛耐性】推して参る。
●
「うん、いい感じ!その調子でどんどん倒しちゃおう!」
明るい声と軽快なステップが、人形師二人を彩っていた。
戦場を華やかに、そしてなお楽しい舞台のようにして天才人形師は微笑んで、新たなる人形師を導いているのである。
「そう、そうだよ!マリアさん、上手!」
真っ白なウサギとともに、踊るようにして動く黒うさぎの人形があった。
それを操るのは、ジュジュとともにステップを踏みながら指先をぎこちなく、それでいて繊細に動かす――マリアと呼ばれた一人のアリスだ。
ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)。
前向きでひたむきで、人の笑顔のためならばこうして猟兵になって命を賭す彼女は「ただ守るだけ」でいるのは選択しなかった。
彼女らと同時に、巨人と組みあう一人の青年はその逆で――「守るためだけ」に拳を振るうから、ジュジュがそれに及べたのもある。
「―― 貫 く 。 」
上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)。
彼こそ拳を極めし男であり、その拳に砕けぬものなどない無名の英雄だ。
ハート
ばきゅ、と鉄が破砕される音を立てて心臓を散らした巨人がまた一頭倒れていく。
そのさまをみて、わあ、と声を上げるマリアが戦慄を覚えたのをジュジュは極めてポジティブにとらえた!
「ああいうことだね!あの胸のコアが弱点なんだよ。」
お兄さんが教えてくれてよかったね――。
まるで、小さな子供をあやしながら、一緒にショウを繰り広げるのとなんらこの場はジュジュと変わりない。
ジュジュは。
――このアリスたちを集めて改めてその表情を見たときに、悟ってしまったのだ。
あるアリスはうつむいて、こちらに目も合わせてくれない。
あるアリスはジュジュをみるやいなやびくついて口もきけない。
あるアリスは意識朦朧夢心地で、この現実を受け入れられない。
――二度と、笑えないかもしれない痛みを与えられてしまった。
このままこのデスゲームを壊したところで、果たして彼女らは今後を生きていけるだろうか。
その発想に至ったのは、ジュジュが人の笑顔のために生きて、そして命をかけ、文字通り世界をまたいで戦ってきたからかもしれない。
どこまでも奇術師でありながら、彼女はエンターテイナーなのだ。
「デス・ショーとは。なんというか、捻りもクソもないな」
そんな時に、修介がたまたまジュジュの近くでパンフレットを握りつぶしたから――意識が現実に戻る。
修介もまた、この惨状には非常に嫌悪感を抱いていた。
修介は、喧嘩屋である。
路地裏で勝敗を賭けて毎日闘争に明け暮れた、穏やかそうに見える顔つきに刻まれる傷が彼のどう猛さを語るように。
――弱いものをいたずらに甚振るのは、極めて悪趣味だ。
強ければ強い猟兵を狙えばいいのに、先ほどわかりやすく顕現した機神などには目もくれず走り抜けてきた巨人の群れには怒りすら覚える。
強気に挑まず、弱きを嬲るなど。
士道にあらず。外道そのものである。
その凍てつく視線をジュジュが感じ取って、――彼ならばできると思って、持ち掛けたのだ。
「あの!」
「はい。」
――存外、丁寧な対応で帰ってきた声に少し安堵する。
できればとか、断っても大丈夫ですだとか。あたふたしつつも頼もしくこちらを見据える修介に、ジュジュはアリスたちの今を伝えることにしたのだ。
話を聞き届けた修介も、おおむね同意を示す。
「確かに。――また狙われたら、今度こそ助けてやれないかもしれません。」
「うん、そうだよね。そうなの。だから、……あの子を連れてくるよ。待ってて!」
思い立ったが吉日とばかりに。
素早く行動に移したジュジュの足取りと、ややそれに比べて慎重かつ丁寧な修介が動く。
ジュジュが――先ほどの憔悴しきるアリスたちの中で、一人目星をつけていたのがいた。
その彼女の瞳の色は死んでいなかったのだ。この黄昏色と血の匂いで満ちた幻想の国において、彼女の瞳だけはまだきれいなままだったから。
うるんで怯えて、それでも猟兵たちに希望を見出したアリスがいたのを、アリスを見つめて現実を受け止めたジュジュだからこそ理解している。
「ねえ、アリス――お名前は?」
ジュジュがしゃがめば、それに倣うようにして修介もしゃがんでやる。
目線を二人の猟兵に合わせられた少女は、美しいプラチナブロンドの髪の毛を黄昏色の反射でより美しく鮮やかにしていた。
汽車の背もたれからはちょっと背中を放して、姿勢よく座るあたり、この少女の育ちはよいだろうと修介が悟る。
立ち振る舞いから――人となりはわかるものだ。
「マリア。マリア・ホワイト」
その名らしい、美しい真白の少女である。
肌も人形のようで、それから抱きしめるウサギの人形が真っ黒で赤目なのもあってよけいに、白さが際立つのだ。
「その子は?」
ジュジュが微笑んで、マリアが抱く黒に掌を向けた。
「――ゴンザレス。」
「ごん――。」
愛らしいかの黒兎になんという名前か。
「あは、私のね、相棒もメボンゴっていうんだよ!」
こっちもなんて名前を高級そうなウサギの人形につけているのだ。
修介が交互に、顔だけはいつも通りに保ちながらせわしなく二人の人形に視線をやった。
「マリアさん、あのね。」
そして――ジュジュが願う。
マリアは己に課される次なる難題を、なんとなく悟っていたらしい。
きゅう、と唇を一文字にして、ジュジュの言葉を待つのを修介も見た。
「一緒に、戦ってほしいの。」
――あなた達だって、戦えるということを思い出させてあげてほしい。
思い出せば、やはり酷な課題だったと思うのだ。
ジュジュが強敵である巨人を【ワンダートリート(ワンダートリック)】で足止めたところを、修介が【拳は手を以て放つに非ず(ケンハテヲモッテハナツニアラズ)】で完全に破砕する!
けたたましく割れる心臓とともに、機能を停止する二人の強さに渋々戦いを望んだマリアがきらきらと蒼い瞳を輝かせていたのだ。
――すごい、すごい、すごい!
完全に、二人はアリス適合者であるマリアの上位互換である。
マリアも人形遣いであれど、ジュジュのように細やかに動かせないし、修介のような力任せながらの正確な一撃を放つことはできない。
修介ががしりと機能を停止した巨人の足首を握れば、ぶうんと振り回して――迫 り く る 脅 威 を 薙 ぎ 払 う !
――かっこいい。
こうなれたら。
マリアたちだって、死んでいったほかのアリスだって。
未来を――つかめただろうか。
「マリアさん、来るよ!」
ジュジュがあえて残したトランプ兵を、マリアはその手ほどきを受けながら掃討する。
メボンゴとともにゴンザレスが舞う。
白からナイフを受け取った黒が――赤い眼光を輝かせて、修介の後ろに在ったトランプ兵を突き刺した。
「助かりました。」
ふ、と笑って見せてからまた修介が威力の高い一撃でそれを屠った!
肘鉄――もはや修介の攻撃力で放たれたそれは、鈍器どころではない!
「頑張ったね!すごい!」
感激してマリアとハイタッチをするジュジュと、それにおずおず手を伸ばして応えるマリアがいる。
先ほどから戦う中で、ジュジュはずっと先生のように――本人もそれがちょっと気恥しいけれど、教えていたのだ。
あえて巨人と戦わせないで、それが吐き出したトランプ兵をマリアに任せていた。
前衛に修介を置くことで――絶対にこの布陣に敗北がないことを主張してやれば、あとは子供ならではの一瞬一瞬弾けるような成長がすべてを成功させる!
ほかのアリスを守りながら、マリアをメインの女優にして。
修介が二人を守る騎士であり、ジュジュはそれを導く指揮官である!
ずうんと5体目になる脅威が頽れて、鉄塊に変わった。
立ち上る土煙を手で掻いて、修介が。
そしてその後ろから、追いかけるようにしてマリアが、支えるようにジュジュが出る!
「推して参る。」
「おしてまいる!」
「推して参る!」
今、三人の舞台はまだまだ始まったばかりだったのだ――!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
レイニィ・レッド
◎
…仕方無ェ
助けた命に責任は取りましょ
『俄雨』で先ほどのアリスの元へ
周囲の敵を刻みます
アリスが襲われていれば
先に敵をブッた斬って血の雨をプレゼント
目立たなさを活かし物陰を渡り
瓦礫さえも利用して
敵を鏖殺して回る
――御機嫌よう、アリス
まだくたばってねーですか?
それは結構
生きたいですか?
帰りたいですか?
なら脳みそ搾って考えやがって下さい
テメェが生き残るために何をするべきか
結局はどの世界も残酷なもの
強くなる必要はねぇ
己の弱さを自覚しろ
頭でしっかり考えて
テメェなりに足掻く奴は
嫌いじゃありません
必要以上にアリスを庇いません
自分も暇じゃ無ェので
刻印された数字がデケェ奴や
アリスの背後を取る奴を優先して刻みます
●
黄昏色に、赤い雨が降る。
それは、怪物がもたらしたそれだったのだ。
銀で煌めく、巨人などから吐き出させた血のオイルが――彼と、その目の前にいた少女を彩った。
「――御機嫌よう、アリス。何処に行きやがる気でした?」
レイニィ・レッド(Rainy red・f17810)は。
汽車の裏側から、外に出た気配を感じてためらいなく動いていた一人である。
アリスが逃げ出した――のか、それともまさか好戦的に「やりあおう」としたのか。
どちらが正しいのかを確かめるためだけに、その場に来た彼であったのだが。
「なんだよ、おまえ……ッ!」
「おやァ、これはまたずいぶんいきのいいアリスだ。」
示し合わせたように、このアリスが襲われていたのだ。
――よくよくみてやれば、人狼病に侵された彼女のようである。
赤色の髪の毛と彼のように切りそろえられた頭をしたそれが巨人に囲まれていたから。
「『問 答 と い き ま し ょ う 。 ―― ア ン タ は 正 し い か ?』」
問いかけとともに、【俄雨(レイニィ・デイ)】が降り注いで――!!
今に至る。
すっかり顔を険しくしたアリスは、明らかに赤頭巾を威嚇していた。
うるうるぐるぐると唸っても、やはりレイニィ・レッドには――雨の怪物には、さほど脅威には感じられない。
「まだくたばる気はねーんですよね?それは結構。」
ひとつ、歩幅を広げて歩み寄れば。
アリスもまた、脚をうしろにやる。
「名前は聞かねェ。自分が聞きてェのは、ふたつです。」
ぴしりと己の獲物を、アリスに向ける。
十分な距離があるにも関わらず、いまにも己の喉を貫いてしまいそうな鋭さに――息をのむ狼がいたのだ。
「ンだよ――!」
「生きたいですか?」
しゃきん。
「帰りたいですか?」
しゃきん。鋏が、鳴る。
一つ一つに緊張感が漂う問答に、ひるまずにこの狼は吠えた!
「――当たり前だろッッッ!!!」
「なら脳みそ搾って考えやがって下さい。」
――テメェが生き残るために何をするべきか。
この血の雨が降る中で、この狼の少女は分かっていたのだ。
己は――弱い。
人狼病であるから、この少女の先が長くないことは赤頭巾だってわかっていた。
それはもしかしたら、赤頭巾だって同じかもしれない。
世界は、残酷なのだ。
毎日を当たり前に生きていた家族が、次の日突然悪意にさらされて無残に殺されることだってある。
ヒーローに助けてもらえると心のどこかで安心しきって間抜けに過ごしていた少年だって、次の日には化け物に早変わりする。
「強くなる必要はねぇ。」
私欲を尽くして女と酒と薬と暴力に溺れた悪の権化のような奴だって、明日には鋏で切り刻まれているのだから。
「己の弱さを自覚しろ」
――それが、悲しくも美しい世界の真理だ。
だから、戦うなとは言わないのだ。
赤頭巾が鋏をおろしたと同時に、アリスもまた彼への警戒を解く。
その通りだった。
「かえっても、いじめられるのはいやだ。」
――殺されるのは、もっといやだ。
ぶわ、と尻尾と耳の毛皮が逆立って、オオカミの興奮とそれから恐怖と――不屈をあらわす。
赤頭巾の彼の問答にはふさわしい答えだったのだろう。彼もまた、ぎらぎらとした赤い瞳で人狼の彼女を見た。
「頭でしっかり考えて、テメェなりに足掻く奴は――嫌いじゃありません。」
しゃきり、とまた音が響いて――彼らを取り巻く巨人たちと、オオカミの視界から姿を消した。
茂みに隠れて襲う機会をうかがっていたでかぶつどもが、その現象に驚いて反射的に姿を見せて慌てふためく。
「――ヴォォオぉおおオオオン゛ン
!!!!」
その無防備な愚鈍を――狼の一撃が貫いた!
致命傷には至らないのは、少女もわかっている。すぐさま飛びのいて次の攻撃に備えて駆け出した!
轟音の叫びをあげて少女とその足元めがけて剣を振り下ろそうとした兵を――赤 頭 巾 が 弾 丸 と な っ て 貫 く !
「それでいーんですよ。」
くつくつと満足げに笑って、また赤は跳躍した。
アリスが狼の脚を止めることがない限り、彼はその道を切り開く。戦う彼女の未来を示す!
――生き残りてぇなら、頭を使え。
それがどれほど、生き汚く在っても!
赤の一撃がまた、兵士の心臓を貫いて。小さな狼の爪と牙でせいいっぱい生み出された白兵どもを破り捨てる。
この光景を、まさしく正しい戦場といわずして、なんというのか――。
赤色の雨を降らせて、それをめいいっぱい全身に浴びながら静かに赤頭巾は歓喜した。
だって、これが、――命なのだから。
大成功
🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
◎★△
救出成功万々歳…とは、いかないわよねぇ、やっぱり。
せっかく向かって来てくれるんだもの、せいぜい盛大にお出迎えしましょ。
…とは言うものの、あたしの火力じゃちょっと不安残るのよねぇ。
ここは〇援護射撃に徹しましょ。
肘・膝・肩に手首・足首。関節部は多少脆いわよねぇ。
〇スナイパーの●的殺で〇鎧砕きして〇部位破壊を狙うわぁ。
足を潰せば〇足止め、腕を壊せば〇武器落とし。
ソーン・イス・ニイドの遅延ルーン三種もフル活用してイヤガラセバラ撒くだけバラ撒くわよぉ。
殲滅は火力のある他の人に任せちゃいましょ。
ふんぞり返ってる主催者には、きっちりオトシマエつけさせないとねぇ。
…アタシ、キライなのよ。子供が泣くの。
エレニア・ファンタージェン
エリィ華やかなショーを期待したのに…
キャストの予算が狭いのでは?!
デス・ショー?
良いわ、死になさい
今日の武器は大鉈にする
エリィの背丈と同じくらいのもの!
こういうのって、何が効くかしら
刃に呪詛と氷属性攻撃を纏わせて凍りつかせてみるとか?割り易くなるし
回避は第六感と見切りで
【禁域の守り蛇】
手近な敵に絡みつかせて締め付けさせて、生命力吸収で美味しく頂くわ
あら、動かなくなった?
これ、お城にぶつけてみようかしら
狙われていたり、戦闘訓練をしているアリスなんかがいたら、ピンチになったら助けてあげても良いわ
流石に他の猟兵もついてるでしょうけど
目の届くところで死なれるとエリィの遊園地デビューが残念になるのよ
●
救出成功ド派手に万々歳、では収まらない。
「やっぱりそうよねぇ。」
かしゃんと己の鉄を吐き出す相棒を音立てて、ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)はやや控えめに、汽車の「上」に腹ばいになってクレインクィンを構えている。
【的殺(インターフィア)】。
その精度を上げるためにも、ライフル銃を放つような安定感で出来る限り反動の少ないものを選んだ。
己の後ろにも警戒は解いていない、――さきほど赤頭巾の彼が後ろに回っていたのだ、何ら問題もあるまい。
せいぜい盛大に、動く的にもならぬ壁がこちらに迫りくるというのだから、出迎えてやろうとした彼女であるが。
――とは言うものの、あたしの火力じゃちょっと不安残るのよねぇ。
事実、ティオレンシアの今構えているそれは――クロスボウなのだ。
先鋒の猟兵たちが「心臓」を壊して機能停止をさせているから、確実に己の技能とコードを乗せた一撃で屠れる自信はあった。
しかし、相手の数が多すぎる。
――いまいち遠距離武器とこの手合いの相性はよろしくない。なので、スナイプをすることにしたのだ。
どこかに、派手に戦う火力の高そうな猟兵はいないかと視野を巡らせているころに。
「あ。」
真っ白な淑女が躍るように戦うのを、薄く開いた赤い瞳におさめた。
「デス・ショー?――良いわ、死になさい。」
エレニア・ファンタージェン(幻想パヴァーヌ・f11289)が宣言するとともに――大鉈でばさりと巨人を薙ぐ!
もとよりさほど見えていない紅の色でありながら、なかなかどうして彼女の狙いは的確なのだ。
奮って、割いて、振り下ろされた剣は己の鉈で軌道をそらさせてから態勢を低くして貧相な足を薙ぐ。
すてんと転がったそれの心臓めがけて、勢いよく鉈をもう一撃振り下ろしてやれば――氷の恩恵を授かったそれが、心臓を起点にして巨人を眠らせていた。
凍てつくほどの呪詛を鉈にまとったまま、エレニアはため息をひとつ吐く。
――きりがない。
「もう、エリィ華やかなショーを期待したのに……!キャストの予算が狭いのでは?!」
立派なクレームだ。
これほど客を疲れさせる三流の芝居に、どうして付き合ってやらねばいけないのだろう!
きぃきぃと不満を明らかにして今にも駄々をこねてしまいそうなエレニアである。
その彼女を――ティオレンシアが見ていた。
「ああ、おかんむりだわねぇ。」
それもまぁ――致し方ない。
エレニアの戦いぶりを見ていればわかるように、いささか機転の利く直情的なところはやはり少女らしいそれなのだ。
では戦場において経験豊富のうまれであるティオレンシアが、遠くからエスコートしてやればもっと力を振るえるだろう。
手助けをしない理由も、リスクもなかった。
「あら?」
では次、と鉈を構えたところで。
エレニアの背後に迫った巨人が、きしむ音を立てて崩れ去る。
いつの間にか殺してしまったのかしら――なんて陽気に思っていたのに、その心臓に矢が刺さっているのを見て判断した。
「キューピッドがいるのね!?」
ぱあ、と顔を明るくした少女に対して。
「うーん、どっちかというと死神かしらねぇ。」
と遠方からあきれた声を出すティオレンシアである。
そもそも、エレニアはヤドリガミなのだ。今更「外身」である人間の体を傷つけられたところで、本体である阿片の煙管に問題がなければこの戦いに痛みなどはない。
だから、やりたいように踊りたいように踊るそれである。ただ、踊り子に触れたいと思う下賤な輩はどうしても出てくるものだから――娼館の用心棒「だった」ティオレンシアが「守りやすい」気分になる組み合わせだったのだ。
各個撃破されていく仲間たちにしびれを切らしたのか、巨人のうち一人がトランプ兵を吐き出した!
刻印の刻まれたあらたなる哀れな羊どもに、エレニアは音だけでその愚かさを知る。
それらがエレニアではなくて、その横を風を切って走っていくのを感じて彼らの最終目標を知った。
やはり――このキャストたちは不出来が過ぎる。
「――ああ、目の届くところで死なれるとエリィの遊園地デビューが残念になるのよ。」
あきれた声で、エレニアが呪詛を風に流れるまま蔓延らせたならば――。
【禁域の守り蛇(アウリン)】は此処に顕現したのだ!
地面を腹で滑っていくのは――エレニアにしか見えない不可視の蛇どもである。
うねりながら煙めいた灰の呪詛をひきつれたそれらが、足元のお留守なトランプ兵をしばりあげて食らいついて、丸のみにするのをティオレンシアも目視した!
――蛇は見えずとも。
「なぁにあれ、はは――確かに火力あるわ。」
賞賛と、畏怖である。
あきらかに、あの技を使っていた無邪気な少女は『超常』の存在でもあるのだ。
握るクロスボウに力が籠められるというものである。そのまま、グリップをしかりと握って蛇の群れで死にぞこなうトランプ兵を巨人の数を瞬時に察知した!
「――アタシ、キライなのよ。子供が泣くの。」
細い狐のような目にあったのは、憧憬と――それから。
ばう、と吠えた弓の音直後で、兵士の心臓は二枚抜き!
それからばうばう!と連続で吠えた犬のような声に、エレニアが驚いたころには巨人の心臓にも二連撃!
「犬だわ、犬は嫌なの!」
――あまり犬にいい思い出はない。
ぶん、と空気を裂く大鉈の一振りで、二つの矢に刺された巨人にとどめの一撃を下してやった!
「いい調子。」
そのエレニアを見守りながら、ひょいと三つの石を投げてやったティオレンシアである。
――ルーン文字。
ソーン。イス。ニイド。
それぞれの叡智が宿りし三種の遅延魔石をなげうってやったなら!
エレニアの少し前で転がったそれらは、円形の魔法陣を作り出す。
「さあて、存分に暴れていいのよぉ。」
白い頭の煙の女神へ、独り言をうそぶくようにして腹ばいになった態勢のまま、ティオレンシアはまだ気が抜けない。
不可視の蛇どもが縛り付けるのにてこずる鎧の動きを鈍くしていく呪術を、エレニアは――目視できなくとも。
「あら、のろまになっちゃったのね。」
彼女の大鉈を前になすすべなく砕かれていく巨人どもがすべてを彼女に語るのだ。
足も縛られ、動きも神聖なる「呪術」によって鈍くされて、それから心臓は分解されることもなくただただ暴虐の前に砕け散る。
助けてくれ、と手を伸ばしたように見えた巨人の腕も――。
エレニアが視認しきるよりも早く、鉄の矢が肘を射抜いてからエレニアがその胸から胴を叩き切ってやるのだった。
「あら、なんだったのかしら。言いたいことでもあったの?」
聞いてあげはしないのだけれど――。
失恋のような余韻を漂わせて、鎧仕掛けの兵士は灰となって消えていったのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
冴木・蜜
◎
尚も標的はアリスなのですね
ならば彼らと共に居る方が確実でしょう
未だ戦えぬアリスも居る筈
私は引き続きアリスを守ります
それにしても数が多い
注射器で『偽薬』を使用
己の毒を更に濃縮
アリスの傍に付き
襲い掛かる巨人との間に割って入り庇います
物理攻撃なら体を少し液状化し
ある程度衝撃を殺せますしね
攻撃を受け流したら
体を液状化し地面を這う形で
巨人の軍勢の足に毒蜜を塗り込みましょう
武器で攻撃されれば
飛沫さえ利用して得物を這い上がり
その腕に触れてやります
言ったでしょう
私は死に到る毒
故に――触れるだけで良い
鎧さえも溶かしてみせましょう
アリスに触れたいのなら私を越えていきなさい
越えられるものなら、ね
●
この状況になってもまだ――この獰猛な巨人も獣も、兵士も、すべてがアリスたちを狙ってくるのだ。
ほかの猟兵たちもしかりと彼らを守ってはいるものの、仲間を討たれど理念は其処にあらずといわんばかりの勢いと作り出されるトランプ兵たちの圧力がまだ衰えない!
地面を蹴って小走りで走ってくる脅威たちに、己の背後で悲鳴があげられて恐れを聞いたのが冴木・蜜(天賦の薬・f15222)である。
――恐れるのも、無理はあるまい。
振り返って蜜が再びアリスを見渡してみれば――飛び出していった人形遣いの彼女と、それから赤頭巾と戦場を駆ける狼少女以外はやはり震え上がって身を寄せ合っていた。
足をわななかせるアリスには先ほどの魔術とそれから加護の恩恵があったとしても、少し前まで「足首から先が」なかったのだから。
引き続き守らねば、なるまい。
蜜はこの場からは動けなかった。汽車の内部で、震える幼い命たちを置いてはいけない。
――ただただ。この弱きを救いたい。
きゅう、と口から零れる黒液に栓をするように、唇をすぼめた。
己の腕に【偽薬(プラシーボ)】をためらいなく突き刺すのはアリスたちには当て見せつける。
「もう、大丈夫です。」
絶対に守って見せます、とは言い難い顔色と表情だったかもしれない。
だけれど、その毒素が漆黒の勢いを増したのが何より、アリスたちにはさらなる脅威を彼から感じさせるには十分だった。
――こわいけれど。
きっと、彼だって――蜜だって、強いに違いないのだ。
ぎらりと紫の瞳が輝きを増す。
視線の先に在ったのは、巨人の影だ。スモークガラスにはりついた胴体が色濃く黒を落としている。
汽車に飛びついて扉に張り付く巨人たちの敵意と殺意は、むしろ彼への嫉妬も混じっていた。
「それほど、アリスが欲しいですか。」
がしゃん、と窓を割って侵入を果たしたけだものに一瞥をし、黒液の彼に襲い掛かることなく一目散にアリスたちへ向かった一体の脅威に黒がまぶされた。
振り下ろされた剣を腐らせ、泡立て、溶けさせていく黒は――紛れもなく蜜の白衣からあふれ出たものである。
タ ー ル
ただしくは、その剣を受け止めた右手からぶわりとあふれ出た 黒 油 !
「言ったでしょう、私は死に到る毒。」
まるで、泡が弾けてしまったかのように。
飛び散った黒は、アリスにふりかかることなく兵士たちと巨人に浴びせられる!
蜜の宣告と同時に、インクをぶちまけたような黒がその腕からも滴った。
――飛 び 出 ぬ 、 血 の 代 わ り に し て は 凶 暴 す ぎ る !
「鎧さえも溶かしてみせましょう。」
あふれ出た黒の水たまりが、どろりと地面を這うならば。
じゅわりと音を立てて貧相な足どもが溶かされて消えていくのだ。
きしむ音とともに鈍く崩れ落ちる巨人どものひざから、そしてその鎧の隙間から蔓延る漆黒の油があった。
悲 鳴 す ら 、 上 げ る こ と を 許 さ な い 。
まず、そのあるのかないのかも判別つかぬ内臓から焼いてやるのだ。
たぎる黒は死の毒である。薬も与えすぎれば毒になるというように――まさに、この冴木蜜は「そのもの」だった。
どろりとあふれた黒が、無礼にも振り下ろした腕に真っ黒な液体を沁み込ませて溶かしていく。
「アリスに触れたいのなら私を越えていきなさい。」
腐食が始まって金属疲労に見舞われる毒素である。
鉄の錆びたにおいと、それから溶けだした金属片をためらいもせずに握って見せた蜜は――。
「越えられるものなら、ね。」
その細い指で、鉄鎧を握って砕く。
まるで紙屑でも作るかのように、ばらりと溶けたそれが黒に飲まれて消えていくのを横目で見た。
絶対に守る。この漆黒は――アリスを染めようとする何色をも許さないのだから!
大成功
🔵🔵🔵
リーオ・ヘクスマキナ
◎★
俺は、戦えるって知ってから猟兵になる事を決めた
けれど彼らは覚悟する間もなく、娯楽のように死を強要される
……好きにはなれないね、この世界の仕組みは
汽車を陣地代わりに、後方からライフルで敵のコアを狙撃するよ
……何せ、此処は敵のテリトリー。実はアレが陽動で、後ろから敵が……なんて可能性も考えておいた方が良いかもだし、ね
赤頭巾さんには暫くそのままの格好で、あまり離れすぎない程度の距離で前衛をお願いする
今のアリスさん達に、普段の幽霊姿はちょっと刺激が……ねぇ?
アリスさん達には、汽車を中心に敵の群れの来る方向を除いた他3方向を見ていて貰おう
……こんな対策、無駄になるのが一番良いんだけど……
●
一度深く、ため息をついて。
――やっぱり、好きにはなれないね、この世界の仕組みは。
リーオ・ヘクスマキナ(魅入られた約束履行者・f04190)は己以外を立ち入ることの許さない車掌室にて、ライフルを構えていた。
美しい少年らしい顔を憂いにして、重々しい鉄の塊の調子を見てやる。
ひらり、と視界を舞った赤の呪詛が、己のその姿を見てから「世話が焼ける」と言いたげに不服そうな顔をしていた。
「ありがと、赤頭巾さん。」
異形の彼女――こと、リーオがリーオで在る意識が目覚めたときからそばにいる彼女に苦笑いをこぼす。
リーオは。
戦えると己の実力を知ってから、猟兵の道を歩んだ。
己のことを忘れていても、筋肉が、骨が、どのように戦場を歩んできたのかを覚えている。
昔の己のことは思い出せないけれど、戦うことはできるから。その日々の中で、いつか己の真実にたどり着くために――未来への途方もない戦いに身を投じた。
対して、このアリスたちは真逆なのだ。
己が誰かも知っていて、帰る場所も知っているのに、覚悟をきめる暇すらなく――ただ。
「――よし。後ろに行こう。」
娯楽のためだけに、死を強要される。
リーオがいささか力をこめてしまったから、少しばかり必要外な音量で車掌室のドアは閉じられた。
アリスを驚かせてしまったかもしれないが――隠せない憤りがあったのだ。
死は、誰にでも訪れるものではある。だけれど、誰かに強要されるべきものではない。
リーオは、それをわかっていた。ずきりと脳の奥が情緒に呼応して緊張したのがわかる。
赤い瞳を細める彼の奥では、きっと――いつかの映画館で見た、あの光景も広がっていたに違いなかった。
頭を振って。
深呼吸を何度か繰り返してから、冷静さを取り戻す。
戦況をリーオなりに判断した結果だが――今この場、この世界、もしくは元遊園地は。
紛れもなく、敵のテリトリーである。警戒度は常に高く、そして緊張状態が求められるだろう。
己が歩んだ戦場の数を思い出せないが、ほぼ刻み込まれた感覚がリーオをより警戒心とともに強かな傭兵の勘へと変えていく。
「赤頭巾さん。近くに居てね。」
決して、恐ろしいからではない。
――あの怯え切った顔をした弱った少女たちに、この幽霊は少々刺激が強すぎると思ったから。
リーオは己から近い位置で、赤頭巾の亡霊を戦わせようと陣取ったのだ。
表では派手な戦火が上がる。
裏は、雨男の彼が一度、戦火を上げた程度でそこまで騒がしくはない。
――妙だ。
リーオの予想通りであるならば、彼の選択は正しいと言えた。
表は陽動で、裏でもし――敵が潜んでいたなら。
アリスを「殺すためならば」なんでも使うような獣性をすでに垣間見ている。
トリガーに指をかけて、緊張を保つ。
余計な怒りもいらない。余計な心配もいらない。ただ、待つ。
心は平静で、それでいて達観するべきだった。この作戦が無駄であってもいい、無駄であるほうがいい。
だけれど――。
汽車の背後にあったわずかながらに残された木々の間から、わああっと巨人どもが湧く!
「やっぱり!」
【赤■の魔■の加護・「化身のヨン:ブリキの木樵」】で強化された赤頭巾が、その脅威をまずひと薙ぎした。
それでも――多い!
「だろうと思ったよ。」
リーオは、己の声が恐ろしく平坦だったのを知る。
予想はしていた、だけれど驚いたのは事実だった。しかし、今この場において。
赤頭巾が薙ぐ、ひしゃげる鉄の塊がある、生み出されたトランプ兵がおどけた調子で走ってくる。
「いい的だ。」
紙を撃ち抜くなど、たやすい――!
どう、と放たれたライフル弾の衝撃を体で受け止めて、リーオが後方の車両上から狙撃を開始した!
ぴぃ、とか情けない声が上がって絶命をしてゆく兵士たちに沈黙を押し付けてやる。
赤頭巾が殺し損ねた巨人の心臓に、照準を合わせるまで――。
タ イ ム ラ ク ゙ ・ セ ゙ ロ
瞬間的に、かつ正確に!
「――行けっ。」
巨人のコアが撃ち抜かれて――光を失ったそれを、赤頭巾の巨大な一撃でめちゃめちゃに破砕するのを見送ったのだった。
沈黙を訪れさせよう。
金属音を立てて空洞になった薬きょうが、リーオの功績を讃える。
訪れるべくは、脅威の足音すらない――静寂である!
大成功
🔵🔵🔵
非在・究子
◎★△
お、お次は、巨人の、兵隊達、か。
ど、鈍重、そうな、やつだし、こ、ここは、TASさんの、力を、借りると、するか。
ゆ、UCの、力で、仮想ツールTASさんを呼び出して、現実を書き換えつつ、自分を操作させる、ぞ。
(召喚された『現実』を【ハッキング】し、物理法則すらゆがめるツールの力を使い、驚くべき速さと、反応性、そして、時に乱数調整のための奇怪にしか見えない動きを交えつつ、愛用の『ゲームウェポン』をゲームで使ったことのある様々な武器に変形させ、トランプ兵団を薙ぎ払いつつ、巨人にヒット&ウェーでダメージを重ねていく)
はぁ、はぁ……ちょ、ちょっと、休憩を……だめ? ぐっ、ぐぇー
ヴィリヤ・カヤラ
◎★△
アリスが後ろにいるなら何があっても退けないよね。
見てたけど、あの兵隊は血は出ないのかな?
それなら安心だね、
これ以上見ると本当に血が欲しくなりそうだったし。
敵は一体も通せないし攻撃もアリスに当たったら困るから
敵の動きはよく見て動くね。
【四精儀】で炎の竜巻を作って、
敵の動きの阻害も狙って攻撃していくね。
数はある程度減ってそうだけど徹底的に叩いておきたいし、
竜巻ならショーの失敗を主催に知らせる事も出来そうだしね。
仲間かアリスが敵の攻撃を受けそうだったら、
【瞬刻】を使って割り込んでフォローに入るね。
その場合は自分が怪我をするのは覚悟で行くね、
怪我は後で治せば良いしね。
●
さて――表面。
やはり巨人の群れとその兵隊たちの数は底知れない。
前衛であれほど布陣を展開していてもなお、勢いは絶えないのだ。湖に近い拠点からは全滅したと聞いたが――。
「ど、鈍重、そうな、やつだし、こ、ここは、TASさんの、力を、借りると、するか。」
非在・究子(非実在少女Q・f14901)は、この状況を楽しんでいた。
実のところ、彼女はゲーマーでありながら――効率など捨て置いて整合性も取れない破綻したプログラムが好きである。
いわゆる、クソゲー。
それを愛する彼女であるからこそ、この状況はひどく興奮しただろう。
ぐへぐへと汚い笑いを浮かべてしまうのも無理はない。彼女が攻略するのは、魔術的な法則も人間的な道理も無視した武力での圧力である!
「こ、こーいうの、知ってるぞ。む、むそー、ってやつだ。」
類似するゲームの種類を手繰って、己の攻略法を使うよりも――。
プログラムのかけらもないこの獣性どもに、あえて規則性を見出すのが究子である!
その近くで、端から見れば怯えているようにも見えたからひょっこりとなりにやってきてみたのが。
「見てたけど、あの兵達って血は出ないのかな?」
「びっ」
究子が押しつぶされそうな声を上げるのも無理はない。
ヴィリヤ・カヤラ(甘味日和・f02681)が麗しい顔をしたまま隣で戦況を見ていたのだ。
容姿端麗、眉目秀麗。
まさに究子の知るところ「美少女ゲーム」よりは「乙女ゲーム」に出てきてもおかしくないだろう悠々とした振る舞いに思わず固唾を飲まされる。
「で、でで、でっ、出ないんじゃ、ないか。ほ、ほら、だって、て、鉄ッ、鉄だし。」
「だよねぇ、――それなら安心だ。」
ふ、と長いまつげの影ができるヴィリヤの肌を見る究子の鼓動は見知らぬ彼女と戦場の未知に期待ではやるばかりである。
しかしそれでも、緊張ながらにヴィリヤの考えを後押しできるのは――彼女が、ゲーマーもとい分析家であるからだ。
ヴィリヤは。
「これ以上見ると本当に血が欲しくなりそうだったし。敵の動きはよく見て動かないと。」
ダンピールである。
忌まわしき血統をその身に宿しながら、罪な美しさを持つ種族だ。
よって、吸血衝動――体の半分をめぐる異形の本能はついてまわってもおかしくないのだが、ヴィリヤはそれをこの状況下でおさえつけていた。
立ち込める血の匂い、幻惑のかおり、黄昏色の世界、悲鳴、吹き上がる芋虫の血潮だって。
すべて、すべてこらえてこの戦場に立っているのは強い理性と自我のおかげである。
決して、猟兵であることと理性的であることを捨てはしなかった。そして、これからの立ち回りを考えたときに――他、血を一番流してしまいそうな危惧すべきトリガーを考える。
アリスたちを、傷つけさせるわけにはいかない。
少女の柔肌に刃が入れば、紛れもなく夥しい量で血があふれるだろう。
それだけはよろしくない。防がねばならない。アリスのためにも、皆のためにも――。
ヴィリヤの、ためにも。
「そういうの、得意そうと思ったんだ。」
「うぇ!?」
だから、ヴィリヤは究子のそばまでやってきた。
分析と規則性、そして瞬発力においてはゲーマーである究子はおそらくヴィリヤよりも優れていると踏んでいる。
もちろん、それに関しては究子もわかっているのだが――期待に応えられるだろうかとも思う。
緑の髪の毛が彼女のオレンジを隠すが、それでも歪んだ現実認識には己のステータスと彼女のステータスが映っていた。
「で、できない、ことは、無いと、思う。ふ、へへっ、ぐひ。」
『ハイスコア』の可能性が、限りなく高くなる――とっておきがあるのだ。
巨人たちは。
己らの前に立ちふさがった、ヴィリヤを見た。
「悪いね――ここから先は通さない。」
ゲームっぽいセリフとやらを言ってみたのは、あくまで雰囲気作りでありつつわりと快感がある。
ぐるりと彼女の周りに熱気を伴った火の粉が散り始めて――あっというまにそれは竜巻となった!
【四精儀(シセイギ)】
「 失 敗 だ よ 。」
立ち上った真紅のそれは、まるで空を昇る龍が如く!
これだけ派手な演出を魅せてやれば、この悪趣味なショーの主催にも届いただろう。
この殺戮劇は間違いなく破綻する。いいや、もう破綻しているのだと!
ヴィリヤが形の良い唇を、少しいたずらに微笑ませて――己の剣を敵に向ければ。
炎 の 龍 が 巨 人 を 一 体 呑 み 込 ん だ !
熱で鎧が歪んでひしゃげる悲鳴が聞こえる。そのまま龍は止まらない!
慄くトランプ兵を焼いて、ヴィリヤを止めようとしたしびれ効果のあるカードを打ち砕き、それを灰にかえてまた龍が呑む!
この『現実』がまさに、地獄絵図そのものであるのを。
「ぐひ、っひひひ、――い、ぃ、い、いくぞぉ。」
より大打撃に変えるために!
ヴィリヤの炎龍の規則性を分析させてから、究子が発動したのが【Tool-Assisted Superplay(ツール・アシステッド・スーパープレイ)】!!
通称――TASと呼ばれたその競技名である。
本来はスピードを追求するために使われる名ではあるが、今回はそうでない。人間が再現することのできない理論上はゲーム本体で再現可能な動きを、バーチャルキャラクターである究子だからこそ再現できるのだ!
物理法則をゆがめて――究子がまるで鉄球のように巨人を撃ち抜く!
その驚くべき速さに。
「わぁ。」
ヴィリヤの衣装もはためいたほど!
「――すごいけど、負けてられないね!」
愉しんでいる。
ヴィリヤもまた、炎の龍の苛烈さを増した!
うねりながらとぐろを巻いたそれが、中心で5体ほどの巨人を締めあげながらトランプ兵を薪にしてより苛烈さを増している!
それを――視界に収めてから。
乱数調整をかねて動かされる究子の体は、ひどい勢いで虚空に吹っ飛んでからまた隠されたオレンジの瞳を晒すほどの風圧とともに兵士に直撃する!
視界の端に、50HITという文字を見てからにやりと笑った究子が次に構えたのは、彼女がプレイしたことのあるゲームの武装だ!
「す、すーぱー、すた、すたいりっしゅ、ってな!」
鈍色の拳銃を二丁構えて、乱射!
巨人にはヒット&ウェーで対処しつつ、トランプ兵団は薙ぎ払う!そして、その動きを止めようと召喚されるカードはヴィリヤのどう猛な炎の竜巻が呑むのだ!
まさに、圧倒。
ま さ に ――こ の 戦 果 、 最 高 値 !
「いやぁ、楽しかった!」
一帯を消し炭に変えてから、己らの担当したエリアの沈黙を確かめて微笑むヴィリヤの横で。
地面にうずくまりながら全身から汗を吹き出す究子がいたのだった。
まだ余熱で、地面はほんのり温かい。
「はぁ、はぁ……ちょ、ちょっと、休憩を……。」
見るからに疲労困憊ではあるのだけれど。
ヴィリヤが困った顔をして、かわいらし気に己の頬に人差し指をあてがいながら究子と、次なる戦場へと視線を交互に向けた。
「うーん、そうしてあげたいところなんだけど。ほら、あっちにおかわりが来てて。」
「ぐっ、ぐぇー!」
まだまだ、攻略は終わらない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鷲生・嵯泉
まだ悪趣味な遊戯を続けるか
ならば此方も相応の遣り方で対してやるのみ
図体ばかりの壊れた玩具の兵なんぞ、さっさと廃棄されるがいい
見切りと戦闘知識にて攻撃は躱し、武器受けで弾いて後ろへは通さない
多少の傷は激痛耐性で無視し、脚は止めずに前へ
態々合体するのを待ってやる必要が何処に在る
其の前に出来るだけ各個撃破で数を減らしてくれよう
まあ、纏まった所で大差は無い……斃す事に変わりはないのだからな
怪力に鎧砕きを重ね、カウンターでの攻撃で叩き斬る
耳障りな放送も此れで終いだ
何時から其の城に隠れているのか知らんが
流石にこうなっては逃げ果せる等とは思っていまい
前座の出番はもう終わりだ、いい加減出て来るがいい
コノハ・ライゼ
助けた子達に声掛けとくヨ
賢いコ達、君らなら分かるよネ
互いを守ったその歌声が生きるアリスを救うコト
ボディーガードは任せて、歌って
さぁて言うたからには体張りましょ
いざって時は『オーラ防御』纏い攻撃から『かばう』ケド
派手に立ち回り目を引いて、さっさと減らす方がやり易い
「柘榴」で肌裂き【紅牙】発動
猟兵を抜けようとする敵、手近な敵から一体ずつ仕掛けよう
斬りつける刃にに『マヒ攻撃』乗せ『スナイパー』で足を『部位破壊』
先ずは機動力削ぎ
『2回攻撃』で刻んだ『傷口をえぐる』よう喰らいつき『生命力吸収』
どこまでもついてって邪魔したげるネ、と『呪詛』を撒く
だって笑顔も幼い命も、これ以上
あげてしまうのは惜しいじゃナイ
●
「――まだ悪趣味な遊戯を続けるか。」
斬りはらった鉄くずになんら躊躇いも感慨深さもない。
しかし、鷲生・嵯泉(烈志・f05845)の前にはおびただしい鉄くずが転がるのに対してその数はいまだに衰えてはいなかったのだった。
悪夢の終わりは――未だ来ない。
ならば斬るのみである。
前へ、前へと進みながら、右肩をかすめていった剣に身じろぎひとつしてやらぬ。
そのまま、二本の剣を突き刺して、巨人を持ち上げてから――。
「さっさと廃棄されろ。」
ばづん、といやな音を立てて中身のコードや身ごと引き裂くように、剣で両断して見せた。
まるで逆さの鋏でも使ったかのような剣技で、修羅のごとくまた前へと進む嵯泉を見る三人は圧倒される。
「マァ、すごい。鬼神っていうのはああいう人のコトいうのかもネ。」
コノハ・ライゼ(空々・f03130)は――先ほど助けたアリス二人をそばにおいて、戦況にどう斬りこんでいくのかを考えていた。
その彼らの横を突っ切っていったのが、金色の夜叉である嵯泉だったのだ。
こちらから確認できるほうの瞳でライゼに一瞥をしてから歩いて行ったあたり、彼とそのアリスたちの存在を認識した立ち回りにするのは悟れる。
現に、巨人一匹たりとも。
その破片すらも今のところはこちらに飛んではこない。
絶対にここは通さぬという、隻眼の羅刹が振るう二つのつるぎがライゼたちを守っている戦局であった。
とはいえ、ではだれがあの黄金を守ってやるというのか。
「賢いコ達、君らなら分かるよネ。」
呆気に囚われていた双子のアリスは、お互いの顔を見てからライゼのほうに視線をやる。
銀髪に遮られてもなお輝かしい蒼が潤んでいるけれど、それでもきっと――姉であろうか。自立心の高いほうがライゼに声をかけたのだ。
「う、うた、歌うっ!」
「そ!よくわかってくれてるネ。イイコ、イイコ。」
ぽふ、と柔らかな銀の頭をひと撫でしてやってから。
彼らは、発見時。ライゼの目の前で確かにお互い、よくよく耳を立ててやらねば聞こえぬほどか細い声で歌っていたのだ。
今や彼らの体力は万全で、脅威など己ら猟兵が――そして先ほどから前衛で力を振るう嵯泉が殲滅することを証明し続けている。
未熟でまだ変声期も迎えていない声色である。彼らが女であるか、それとも男であるかは問題ない。
多少、決意に至るまでにラグがあった程度かもしれない。だけれど、もう片方の片割れも金色の背中を見て頷いたのだ。
穏やかながらに、震える歌声が嵯泉の耳にも届いた。
「……歌、か。」
鉄を割りながら、いやな高温を一瞬奏でたそれを足で蹴って地面へと跳ねさせる。そのまま、延長線上にいたトランプの彼らを薙いだ。
呆気ない耐久力だなとも思う。彼は、紙切れどもをわざわざ集まってやるのを待つ必要もない。
続いてくるりと刀をバトンのようにして振り、手首の凝りを戻したなら。
「なるほど、治癒までついてくるとは。」
僥倖である。
先ほど赤く切った程度の肩の傷は癒され始めていたし、筋肉にたまった疲労も溶け始めている。
隻眼は細く弧を描いて、彼の戦意と戦闘続行をしめしていた。
金色の後ろで、アリスたちは手を組みあって大きな声で歌い始めていた。
――彼らの歌声は。
傷ついたものを癒す、ユーベルコードそのものである。
【シンフォニック・キュア】は今ここから始まったのだ!
――ボディガードは任せて、歌って。
なんていった軟派な彼との間に築かれた信頼が、その音量を上げさせたのだ。
やはり売るべきものは恩であるし守るべきは縁というものであるが――此度は、素直に受け取ってよいだろう。
ライゼは、そのさまを背後に受けながら。
「さぁて言うたからには体張りましょ。」
いつのまにやら、嵯泉のそばで歩きながらためらいなく己の掌を万象を映す鉱石のナイフで切り裂いた。
赤い血が滴って、その二振りが真っ赤な柘榴よろしくみずみずしい赤をはらみだす。
ライゼの掌の傷なら問題はあるまい、たちまち双子の歌声が傷を塞いで癒していった。彼がナイフを握りなおすころには痕ひとつとして残らない。
「うまく使ったな。」
ペテンだとは思っていなかった。
ただ、その心を奮い立たせてやったのは、ライゼの手腕だろうと思っての嵯泉なりの賞賛である。
「そりゃあモチロン!」
軽やかに笑って――否定もしない。
ライゼを襲おうと飛び出したトランプ兵どもを、遠心力とともに己の真紅から振 る い 落 と す !
「『――イタダキマス。』」
地面に流れるようにたたきつけられたそれらが、ぎぃだとか苦痛めいた悲鳴を上げたのをさらにもう片方のナイフで頭を砕いてとどめとした。
【紅牙(ベニキバ)】形態であるからこそできる、完璧なまでの戦闘法である。
てろりとナイフの切っ先から跳んだ己の血液を舐めて、より水色の瞳がぎらりと輝きを増したのは体の熱でよくわかっていた。
嵯泉と取っ組み合おうとする巨人がいたならば、その腕関節に刃を差し込んでしびれさせてやる。
「どこまでもついてって邪魔したげるネ。」
けたりけたりと嗤う狐がこの巨人たちを惑わすのだ!
狐がとどめを刺すのではない、その裏に潜む金色の虎が、その爪と牙で引き裂くのである。
施しをうけて――嵯泉は!
「『――縛を解く。是を以って約を成せ』」
【烈戒怒涛(レッカイドトウ)】を宣言した!
鈍い音が一度して、まるで地面に何かぶつかったように振動をわななかせてから嵯泉が吹っ飛んでいく。
ライゼの細やかで艶やかな紫の色が舞い上がって、彼の勢いを物語っていた。
アリスには、触れさせぬ。
触 れ る 前 に 、 断 つ !
「耳障りな放送も此れで終いだ。」
接敵。
そして、顕現する呪縛のカードを体を高速移動させることで回避してから縦に両断!
すぐさま回し蹴りとともに放つ一刀で鎧の首をはねる!そのまま前に踏み倒してコアを足で踏み潰したなら、己の横を過ぎようとした巨人の腹を力任せに横一閃!
まさに、殺戮、獰猛!
夜 叉 よ り も 恐 ろ し い 剣 豪 が 此 処 に 在 っ た !
「何時から其の城に隠れているのか知らんが、流石にこうなっては逃げ果せる等とは思っていまい。」
己らの前に立ちはだかる鎧を殲滅させてから、ゆらりと立ち上がる金色のそれである。
破けてほつれて、埃まみれの服などどうでもよい。彼の強靭な体はこの膨大な質量を前にして、なおさら鋼のごとき強靭さを見せつけた!
「前座の出番はもう終わりだ、いい加減出て来るがいい。」
片側しか見せぬ赤の瞳で、この状況を見て焦っているのだか、それとも恐れたか。
まだ見ぬゲームの主催者に宣戦布告をする。
刀を向けて、威嚇して見せる嵯泉の表情は。
何者よりも恐ろしい、――人 間 の 、それであった。
穏やかな、アリスたちの癒しの歌だけが戦場に響いている――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
遊星・覧
◎★
(破壊・爆破された遊具と遊園地に唖然)
ワー……やっべ胸のトコ超ヒュッてなった
遊園地が壊れるシーンはクるなァ
正直トランプ兵より怖ェもん
◆
ちょーっと危ねえケド
巨人がいっぱいの前線に出ていこっかネ
ランだけじゃ存在感足りねーからァ、さっき助けたアリスと一緒に!
ダイジョーブ、怪我はさせないヨ
それではお手を拝借。さん、にィ、いち、
【泡沫遊星】!
討ち漏らしが出たらアリスと一緒に倒してこ
ゲームですよお客サマ(アリス)
従業員とお客サマが一緒に遊ぶのはアリでしョ?
◆
なーんて
これからも危険な目にあうだろうお客サマ(アリス)が
自分のカラダ守れるくらいには強くなりますよーに!
マレーク・グランシャール
◎【壁槍】カガリ(f04556)と
生きるために喰らうのでも、弄ぶために殺すのでもない別の何かを感じる
異世界からの召喚に何か意味があるのだろうか
敵の目的はあくまでアリス
今回も猟兵ではなくアリスを狙ってくるだろう
助けたアリス達の護衛はカガリに任せ、俺は力任せに攻撃してくる巨人を相手する
いつもはカガリが盾となってくれるが今日は俺が氷の盾だ
【竜牙氷纏】を発動したら迫り来る敵の群れに吹雪(風圧・凍結)を浴びせ、さらに無尽の氷の槍を投げつける
動きを留めてアリスが逃げる隙を作り、接近される前に敵を討つために
足場を凍らせれば滑って容易には近づけまい
本命の【碧血竜槍】(鎧砕き・部位破壊)を投げて豪腕を砕いてやる
出水宮・カガリ
◎★△
【壁槍】まる(f09171)と
敵の狙いはあくまでありす
ならば、その狙いをことごとく隠してしまおう
ありす 理不尽な弱いひと
肉体だけでなく、その心さえも、脅威から隔絶されるべきだ
敵の足止めはまるに頼む
汽車にいるありすに、視線を合わせて声をかけるぞ
ここは危ない、怖いことはしなくていい
この世界から出してやる事はできないが、少しの間だけ、あの怖いのから逃げなくていい場所に連れていってやれる
これに触れたら、いい、と言うまで、外へ出てはいけないぞ
【亡都の紋章】を渡し触れさせ、【夢想城壁】へできるだけ避難を
慌てなくていい、全員行けるから
念のため、ありすを守るために【鉄門扉の盾】を念動力で浮かせておく
●
夢の国の崩壊というのは、いつ見ても彼の胸を焼く。
「ワー……やっべ胸のトコ超ヒュッてなった。」
快感――には至らない。
遊星・覧(夢・f18785)はUDC組織によって「認定」を受けた「遊園地」である。
かつてにぎやかに、そしてそれなりに人々を笑顔にしてきた「兎熊FP(トグマファミリーパーク)」は今や廃墟であるが――それこそが、彼の本体だった。
だからこそ、この「パレードの跡」は。
「遊園地が壊れるシーンはクるなァ。」
正直、怪奇や狂気よりもずうっと恐ろしい。
破滅だ。
もしくは、覧がそうなるべきであった姿がここに再現されてしまったようで、猟兵たちの催しがひどく染みた。
でも、壊されてやってよかったのかもしれない――とも思う。
誰かの笑顔を作るのではなくて、誰かの傷を増やしてしまうためだけに働かせ続けられるのは一体どんな苦痛だっただろうか。
誰かの笑顔のためであれと願われたのに、もたらされたのはこの狂った遊戯である。
未来のある若い命をいたずらに殺して、誰かを乗せるはずだった乗り物は鉄さびて、出来の悪いキャストにめちゃくちゃにされて。
助けて、と哭きもできなかったに違いない。
この「遊園地」は、殺されてよかったのかも、しれない。
胸をおさえながら、派手なサングラスで表情を隠していた覧を――。
「あ、」
見ていたのは、出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)である。
カガリがそうであるように、覧もまた、ヤドリガミなのだ。
声を、かけてやりたいと思って口を開いたが、すぐにカガリは口を閉ざす。
――彼もまた、猟兵であるから。
そして今はまだ任務の途中である。
「どうした、カガリ。」
友の様子を不思議そうにして見やるマレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)にここまで付き合わせてやることもないのだ。
終わった後で――無事に任務が終わってからなら、しっかりと話ができるだろう。
何を感じて、どう思って、どう克服するのか、またはしたのかを――あとで、ゆっくりと。
「ん――大丈夫だ!」
に、と頼もし気に笑ったカガリに、マレークもそれ以上の追及はしない。
そして、マレークは。
――生きるために喰らうのでも、弄ぶために殺すのでもない別の何かを感じる。
この戦況の中で、あえて――この世界のことわりから敵を探る。
先ほどの芋虫たちは、そうだったのだ。喰らうために懸命であった。だけれど、この巨人たちはそうでない。
一目散にアリスめがけて走ってくるさまは、もはや使命感すら感じられる。
予想通りの動きで突っ込んできた彼らに――マレークもまた、躊躇いなくユーベルコードを奏でた。
「『其の侭でも強い人。貴方の力にもう一輪、雪の花の加護添えて』『此の氷は貴方を傷つけず護り、此の風は貴方の背を押すために吹く』」
凛とした、詠唱ののちに。
展開されたのは、【竜牙氷纏(ヴァッハビン・ロヒカールメ・ファング)】!!
ごう、と吹き荒れる吹雪に、向かうばかりの能無しどもは凍てつかされるばかりだ!
苦しまぎれに放たれた捕縛のトランプも、マレークが己の魔術をコントロールし――ためらいなく、氷槍を作ったならば!
「―― 貫 け 。」
呆気なく!
その効果を発揮することなく沈黙させられるのだ!
そして、巨人たちが生み出した兵士どもにも同様に無尽蔵である氷の槍は降り注ぐ!
――ここに大気がある限り。
もはや、この世界のすべてがマレークの武器となるのだ!
口の端から、白い吐息を立たせながら。他愛なし、と微笑むマレークがあった。
しかし、まだ油断はできない。きりりとした眉まで笑わないところが、彼の警戒を物語る。
そして、その戦況とほぼ同時に。
敵が狙うのが「ありす」だというのなら。
「ありす、――理不尽な弱いひと。」
汽車の一室に乗り込んだカガリが、しゃがみこんで彼女らと視線を合わせてやった。
黒油の彼がいるのとは別の車両に、カガリがやってくる。
隣から破砕音と戦闘が聞こえてくるのに怯えていた彼女らが、少しは救われた顔をしてくれたのがカガリにはうれしかった。
「ここは危ない、怖いことはしなくていい。」
――戦わなくていい。
「この世界から出してやる事はできないが、少しの間だけ、あの怖いのから逃げなくていい場所に連れていってやれる。」
――どうする?
逃げ出したい気持ちで、いっぱいだろうなとカガリも思う。
あまりにも彼らは理不尽なまでに、この環境においては弱者なのだ。
そもそもアリスの年齢が、ことごとく10にも満たないのである。自我もあやふやで、未来なども想像しきれない。
ただ目の前の現実で愉しんで成長するはずだった彼らに、絶望を突き付けて、さらにそれを見せつけることなどは――カガリにはできない。
彼は、「門」だ。
誰かを守る――もしくは、地獄の蓋のような――門だったのだ。
これからも、そうありたい。そうあらねばならない。
だから。展開したのは【夢想城壁(ミニエスケープウォール)】だったのだ。
手に握られたカガリの紋章は、今はもはや「喪われた」それである。
ただ、此処にいる限りは――カガリの中で、守ってやれるのだ。
「これに触れたら、いい、と言うまで、外へ出てはいけないぞ。」
まるで、内緒ごとの罪でも侵すかのように。
やはり明るく笑ってやって、己の唇の前に人差し指をたてたなら。たちまち、アリスたちは少し顔を明るくして彼の引率に従ったのだった。
「慌てなくていい、全員行けるから――。」
ゆったりと浮かした彼の盾が、まるでアリスたちをこの世界から――幻想から、隔絶されるべきだと主張するように。
カガリもまた、しかと彼女らを引率していく。黄昏色のこの世界から、豊かな黄金の都市へ。
そして、その理想郷には至らなかったアリスがひとり。
遊園地の彼と、常世の理想に至ろうと今、その手を握っていた。
アリスの三つ編みがゆれているのが、どこかいとおしい気がして、覧はこわばった手を確かめる。
「ダイジョーブ、怪我はさせないヨ。」
アリスを連れたから。
明らかに巨人たちのヘイトは――嫉妬めいた色をもって、覧に向けられる。
いったいこの女性にも満たない未熟な彼女らに、何を求めていたのだろう。苦笑いで覧が返してやった。
「さぁて、次のアトラクションは。」
ア リ ス
ゲームですよお客サマ。
ぱち、ぱち。と目を瞬かせたアリスは、覧の真っ赤な瞳を見た。
黄昏色が差し込んで、いささか穏やかな赤になっている彼のそれは、どこか温かでいて。それから――頼もしい。
「おにいちゃん。」
「うは!お兄ちゃん!いい役だァ。十分すぎるくらいですヨ。」
でも、それがお客様のご希望であるならば。
従業員とお客様が一緒に遊ぶのは、善しであろうと――。
「ンじゃー、アリス!お兄ちゃんとご一緒に!――さん、にィ、いち。」
そして――黄昏色の悲劇を彩ったのが、【泡沫遊星】。
きらりきらりと沈みに沈まぬ太陽が大きなシャボン玉たちとともに沸き立った。
アリスと覧の体から、正しくはその魔力をシャボン液にして――風に乗って、吹き荒れる。
吹雪を巻き起こしていたマレークが、凍てつくそれの出力を下げたのを覧が口だけで感謝する。
ア、リ、ガ、ト、ネ。
ぱくぱくと動いた覧の動きを確かに竜の瞳に収めてから、その横を走っていくマレークなのだ。
しかと握った碧の槍が、巨人の腕を貫いて――ひねりを手首にくわえてやれば、いとも簡単に機械の関節は砕け散る。
アリスは。
「――わぁ。」
この幻想的な世界に、魅せられる彼女がいた。
これは、ほんのささやかな――出来の悪い従業員のお詫びと、それから。
ア リ ス
「これからも危険な目にあうだろうお客サマが」
すう、と息を吸って大きな声を張った覧に、驚いた様子を掌越しに感じて。
それでもなお、覧が叫んだならば!
「 自 分 の カ ラ ダ 守 れ る く ら い に は 強 く な り ま す よ ー に ! 」
――花火みたいだ。
汽車にいた、最後のアリスを黄金郷に案内し終えて。
金色の髪をなびかせながら、うたかたの破裂を見る。
きらめいて、爆ぜて、それから狂気に満ちた敵どもを火種にしてささやかながら、そして華やかな祈りに満ちた空があった。
彩られる――空は、まさに幻想の世界だった。
ついえた遊園地に、どうか最後に一人でも多くの微笑みを。
マレークもまた、その花火を見てそれを願う。喩え、この殺戮の遊戯に「別の目的が」あったとしても。
この幻想の土地に、罪などなかったのだから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
水衛・巽
【大喝采B】◎★△
前衛:ネグル、穂結
中衛:水衛
後衛:ニルズヘッグ、鳴宮
*後衛は最終防衛ラインを形成
私は七星七縛符で敵を足止めしつつ
遠・符、近・刀と使い分け討ち漏らしを排除しましょう
ヘイトを取らぬよう物陰を利用のうえ行動は最小限に
穂結さんやギュネスさんの行動とタイミングを合わせ、
可能なかぎり注意を惹かない
ダメージ受けた場合は吸収でセルフ回復
攻撃には鎧無視、破魔を乗せ一撃死を狙いますか
穂結さんの手は患わせたくありませんし
ニヴルヘイムさんや鳴宮さんのラインまで抜かれたくないので
しかし城の主は随分と臆病なようで
アリスにこれだけの数を差し向けたうえで自分は引きこもりですか
早くそのご尊顔を拝みたいものです
鳴宮・匡
【大喝祭B】◎★△
遊具遊びの次は殺戮ショー、ね
回りくどいもんだ
余程悪趣味か、でなきゃとんだ臆病者だな
遊覧汽車の上部で待機
得物はアサルトライフルに持ち替え
じゃ、兄さん(ニルズヘッグ)、
防衛は任せたぜ――と言っても
ここまで敵が近づくことは、まずないだろうけどさ
汽車上部からトランプ兵を狙撃
狙いはこちらへ抜けてくる敵が最優先
抜けてくる敵がいない場合は
味方の死角にいる敵を順次仕留める
判り易く前衛が引きつけてくれてるんだ
いいように隙を晒してくれるだろうさ
兄さんが前に出るならそちらへの援護射撃もするよ
足や眼を狙って動きを止めるのが主
どうしても距離的にあちらで対応しきれない敵があれば
それはこちらで排除するかな
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【大喝祭B】
全くもって悪趣味な催しだ
ヒーローショーでもやらんぞ、こんなもん
ま、潰せば良いだけなら楽で良い
潰す方は……向こうがやってくれそうだけどなァ……
今回は死霊どもに頼る必要はなさそうだ
蛇竜を槍に変えておこうか
ふは、最近どうも「兄さん」と呼ばれる機会が多いな
援護射撃の方はよろしく頼むよ、匡
何にせよ防衛専守、後方でアリスたちを守るのが私の仕事だ
万事任せろ、命に代えても通しはせんよ
ふはは、最終防衛ラインか、燃えるな
とはいえ【呪纏】があれば少々前に出ても構うまい
黒炎で前衛の援護をしつつ、アリスに寄るものがあらば高速移動で叩き潰すとしよう
匡の方に向かいそうなものがあれば、そちらも可能な範囲で対処する
穂結・神楽耶
【大喝祭B班】◎★△
どうも、派手な演出がご趣味の主催のようで。
まったく好みではありませんけれど…目的地が明白であることだけは朗報ですね。
道を拓きましょう。
…まず壊しに行きそうな心当たりしかありませんけど。
【朱殷再燃】にて、最前衛を担当致します。
ギュネス様に頂いた情報を基に、派手に燃えてトランプ兵達の進路を妨害。
大挙して押し寄せるなら《範囲攻撃》《なぎ払い》で壊していきましょう。
打ち漏らしは皆様にお任せします。
その代わり、攻撃は後方まで通しません。
水衛様やギュネス様を生かすためにも。
後方のアリスを安心させるためにも。
攻撃は全てこちらで引きつけます。
存分に力を発揮してください。
ネグル・ギュネス
ああ、分かり易くで良い
奴らを鉄屑に変えれば、この不愉快な企みを破砕出来る場所に行ける
『Max power on』
行くぞ、【スターダスト・トリガー】 …変身
アリス達の光射す未来の為、流れ星となりて敵を穿つ!
青白い装甲を手脚、身体に纏いて飛翔
高い場所から目標距離、及びルートを解析───全員に通達
【迷彩】機能発動、敵に急速接近し、あの醜悪なツラに、【破魔】の【属性攻撃】の弾丸を叩き込む
さらに脚や関節部分に弾丸を放ち、敵を阻害、ヘイトを此方に向ける
さあ来い
アリスの障害は此処にあるぞ!
【残像】を駆使しながら、飛び回り、撃つ、穿つ、破壊する
穂結さんだけに無理はさせん
君の事も私が守るから、必ずだ!と庇い返す
●
――さて。
この足並み不揃いな行進劇も、そろそろ終わりにしてやろう。
そう言って集まった猟兵たちは、先発の猟兵たちと別方向にあった。
彼らが南北を守るなら、この猟兵たちは――東西を守っている。
四方八方からアリスめがけて走ってくる巨人たちを、どのようにして防いで、蹂躙しつくすか。
「しかし城の主は随分と臆病なようで。アリスにこれだけの数を差し向けたうえで自分は引きこもりですか。」
がらんとした戦場内には、先ほど壊しつくした遊具の足元や、燃やしきれずにまだ燃える部品やらが散らばっている。
少々、蒸してきた。思わず、愚痴のひとつやふたつ口から小さく零れるというもので。
黄昏に立ち向かうように、西日の光になお焼かれるジェットコースターの足場に背を預け、ふぅ、と息を吐いた彼が水衛・巽(鬼祓・f01428)である。
此度――絶対防衛のラインを仲間とともに動くのを絶対条件とした。
深く吐いて、吸った息を、殺す。
だからこそ――彼は今、この場において誰よりも目立ってはならない。
巽の前には、二人がいた。その後ろにも、二人がいるのだ。
仲間たちと組んだこの防衛線において、巽の術式は必要不可欠のそれである。そして、仲間たちも誰一人とて失うわけにはいかない。
――足を引っ張るわけにはいかないのだ。
巽の視線の先で。
向かってくる鎧たちが、まだ「足の在った」レールをなぎ倒して果敢に攻め入るのを。
「前」を任されたふたりのうち一人が――燃 え 盛 る 。
「どうも、派手な演出がご趣味の主催のようで。」
まったく好みではないが。
皮肉めいて笑って見せて、足並みも揃えられぬ愚鈍なそれらを見やったのが穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)である。
ちらちらと彼女が握る「刀」を焼く火の粉が、陶器のような肌を明るく照らしてその命を削りながら彩っていく。
「道を拓きましょう。」
後続の存在がある。
ちらり、と傍らに立った機人を見上げてやる女神で非ずが微笑んでやれば。
「ああ、分かり易くて良い――奴らを鉄屑に変えれば、この不愉快な企みを破砕出来る場所に行ける。」
ぎらぎらと使命感と戦意に。そして舞う火の粉でさらに瞳の中を燃やすのは、ネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)である!
ならば早々に、――彼は流れ星のごとく希望を切り開いてかなえてやらねばなるまい。
己の身にまとう脈動が、確かにユーベルコードに変わったのを体全部で感じながら。
「『『Max power on』――。」
告げる。
神楽耶が、そのネグルの姿を見守っていた。穏やかに、そして悔悟に燃えながら、この機人が姿を変えていくのを目で追う。
「行くぞッ、――【スターダスト・トリガー
】!!!」
開戦の合図となる、咆哮のち――流星であった!
どう、と土煙を上げながら頭を低くして空気抵抗を減らして走るネグルの体に、青白く輝く装甲がとりつけられ、ブラスターの恩恵を受けながらまるでほうき星がごとくの軌跡を残す!
そのまま、助走をつけたままつま先で高く飛び上がって――己の手足と体を蒼い閃光で包んだのだ。
彼の役目は。
「───全員に通達!」
ア ナ ラ イ ザ ー
状 況 索 敵 !
間抜けな行進のはるか上で、ネグルだからこそ見渡せるものがあった。
後続の巨人どもはもはや存在しないのだろう。西から足並み揃えず走ってくる彼らの向かう先は――紛れもなく、アリスたちが未だ少しだけ残る汽車だ。
「巨人どもは真っすぐ汽車に向かってる!この布陣で問題ない。ただ、――ああ、くそ。やっぱり回り込んでくるぞ!」
そのために――敷いた戦陣であるのだけれど。
できれば、ネグルは。彼らの番で掃討してやりたかったのだ。
しかし敵も一筋縄ではいくまいとし、躊躇いなくネグルは己の鎧に搭載された武装をフル活用する!
黄昏色の屈折を確認して――消えてみせた奇跡の彼である。
そのさまを確認して、神楽耶はネグルから受け取った情報から己の攻撃できる範囲を絞り込む。
何もかもを燃やせばいいというものではない。
己の内側を焼く、悔悟の炎が猛々しく揺らめいたのを感じて鼻で笑ってやった。
――【朱 殷 再 燃 (シ ュ ア ン サ イ ネ ン ) 】!!
神楽耶の一喝とともにほぼ、爆発のような力強さで!
炎は渦巻いて、それから「狙い通り突っ込んできた」トランプ兵どもを火種とした!
ぎゃあだとか、人間らしい声を上げたのに少し顔をしかめてから、なお燃やす!
――この焔は、皆を生かすための炎である。
「水衛様やギュネス様を生かすためにも。」
――この焔は、弱きを助ける炎である。
「アリスを安心させるためにも。」
これほど、燃え盛れば。
いくら盲目的で短絡的な巨人たちとは言え、神楽耶のことは無視できない!
咆哮、のち、壊れたスピーカーからのハウリングで!
「ァッ――。」
神楽耶の耳を貫いた!
きぃいいいん、と三半規管が震えて異常な高音が神楽耶の「ガワ」を支配する。
人間を愛して、人間の皮を被った女神の彼女が――唯一、「中から」の攻撃を許してしまったのだ!
ぐらりとした視界を感じて、瞼を閉じる。そう、「しょせん、ガワ」なのだ。
この身を穿たれたところで、「本体」が無事であるながら神楽耶はいくら「ガワ」を燃やされても響かない。
その魂までも持っていかれることは無いから、好きにするがいいと――嗤ってやったのだ。
「攻撃は、全て、こちらでっ、引きつけます。――存分に力を発揮してくだ、さいっ!」
こんなことでしか己を止められない、巨人どもの愚かさよ!
耳穴から血を垂らしながら、己の声量もわからぬ哀れなでかぶつが大きな剣を振りかぶるのを睨めつけてやった。
決して、逃げない。
神楽耶はこの状況でなお逃げない!
たとえ人の身が断たれても、友を喪わない。絶対に――灰になるはずだった身を犠牲にしてでも 絶 対 に !
「う、ぅうううぉおおおおおおおおおおおおおおッッッッッ
!!!!!!!!」
――轟くは、咆哮!
狼のごとく、そしてエンジンのうなりがごとく!
流星の恩恵を授かる拳が、まず一度右で神楽耶へ牙をむく大剣を砕き!
そして腰のひねりを加えた左で――巨人の胴体を貫いたのだ!
「さあ来い、アリスの障害は此処にあるぞ!」
破砕、破砕、破砕――!
休むことなく、そのまま動きを止めないネグルは!
だらんと心臓を喪って力を亡くした巨人をひっつかんで、たたきつけるようにして別の巨人へと投げつける!
そのままお互いの重さでひしゃげて潰れ合うそれらに目もくれず、次は急速接近のち内蔵された武器でゼロ距離射撃!!
耳から血を垂れながす女神の残骸が、てらてらと炎に身を撫でられているのを鎧越しに見た。
見てしまったのだ。
「穂結さんだけに無理はさせん――。君 の 事 も 私 が 守 る か ら 、 必 ず だ !」
聞こえた、だろうか。
仲間の一声は聞こえただろうか――ああ、きっと聞こえていた。
心穏やかに笑って見せた「なりそこない」が、「ひとのこ」の言葉を聞き逃すはずがなかったのだから。
――打ち漏らしは皆様にお任せしましょう。
さて、「汽車」までの中間地点。
燃やされて撃たれて穿たれて、数を減らしたもののやはり狂気の集団は勢いを止められやしないのだ!
息をひそめて、この時を待っていた彼――巽が、己の力を全身にいきわたらせる。
これは、毎秒命を削る呪いである。しかし、成功すれば敵の動きを完全に止めることができるうえ、その生命力の吸収をも可能とする。
彼は。
この城の主とは違って、臆病ではない。
己の実力というものをよくわかっているのだ。――だから、ずうっと息を殺してこの時を待っていた!
ぎい、と突如、すべての鎧たちが動きを止める。
彼らのどれもが、コアを点滅させながら体の異常を訴えていた。
「どうです――うまく刺さりました?」
【 七 星 七 縛 符 】 ! !
それは、護符を静かにこの場に張り巡らせていた彼の罠である!
七つの点を持つ星の形で、その範囲に収まったすべてを止めてみせたのだ!
――やはり。
「はは、――キツいですね。」
肺の中に、じんわりとにじむ鉄の味がある。
この技を行使する間は彼の生命力も削られてしまうのだ。そして、今回は量が量であるから、やはり早期の決着を求められる!
喘鳴めいた呼吸音が響き始めたのを、聞かなかったことにして!
肘から、刀を振るった!
まだ成人男性に近くとも、体の出来上がり切っていない彼からの一撃であっても。
動きを止められた鎧どもは其処から動くことがきでないまま、体を破壊される!
――断ち切ることはできないが、どうやら絶命はさせてやれるらしい。
「突き落とした」一撃が、胸のコアを深々と刺したのを確認してからそれを抜く。
「――ッは、」
やはり。
生命力は戻ってくるものの、痛めた気管支はその悲鳴を止められないのだ。
――もう少し、耐えてくれ。
祈るように、咳をかみ殺しながら。呼吸を止めてまた刀を振るう!
振って、符を投げて破壊して、後続二人に少しでも響かせられるように。
必死なのかもしれない。だけれど、どうしてこんなに必死なのかは――彼が、やはり。
「鳴宮さん、ニヴ、ニルズヘッグさん――!」
この戦いを、勝ち抜きたかったから――!
「回りくどいもんだ。」
「ふはは、――万事任せろ!」
遊覧汽車の上に座った鳴宮・匡(凪の海・f01612)が、地面に立って堂々と胸を張るニルズヘッグ・ニヴルヘイム(世界竜・f01811)を見下ろす。
「じゃ、兄さん。防衛は任せたぜ――と言ってもここまで敵が近づくことは、まずないだろうけどさ。」
がちゃりと己の獲物を持ち帰る。
匡が次に手にしたのは――殺すための武装である、アサルト・ライフルだ。
腹ばいになって、しっかりと重心を固定する。こちらに向かおうとしたそれらが、徐々に呪縛から解き放たれそうな順番で撃ち抜いていく。
一発。
二発。
三発。
丁寧、かつ迅速に――そこに余計な感情は要らないのだ。
これこそ、匡の【千篇万禍(ゼロ・ミリオン)】の神髄であり、極めし状態である。
苦し気にせき込み始めた巽をスコープで見て、それからまた彼の近くにいた巨人の腕を撃ち抜いてやる。
触らせまい。
「余程悪趣味か、でなきゃとんだ臆病者だな。」
匡は。――このゲームの主催が、まるで「こうなることを」望んでいたように思えてしょうがなかった。
ありとあらゆる障害を用意して、猟兵たちが訪れるまできっとこのゲームを繰り返す予定だったのだろうか。
頭があって、考えて、そして未来に愛される猟兵たちに、――こんな愚鈍ばかりを押し付けて、自分は城の中で優雅に紅茶を飲んでいる。
いらだちよりも、あきれのほうが強い。
またトリガーを引こうとして、巽の様子を見た。
まだ立てそうであるが、女神を連れた己の相棒が駆け寄ったのを見ると。
「出番らしい。兄さん。」
ニルズヘッグに、最後の締めくくりを渡すタイミングであった。
静かな宣告と、そして友の「命令」に――男は破顔一笑で応えてみせる!
「ふは、最近どうも「兄さん」と呼ばれる機会が多いなァ!」
己の相棒を、腕にまとわりつかせてやれば。
呼応するようにそれが豪奢な槍へと変わったのを握りしめる。
「全くもって悪趣味な催しだ。ヒーローショーでもやらんぞ、こんなもん。」
ニルズヘッグもまた、直感であるが――。
この催しが、主催の「ねがい」であるのをこの場に蔓延る呪詛からもう「聞いてある」。
ならばことごとく潰してやったほうが「誰も」の気も晴れそうであるが。
「援護射撃の方はよろしく頼むよ、匡。」
――命に代えても、友の命を救い、何人たりとも通しはしない。
構えた。走る構えを取った。
うっとうしく付きまとう夢の呪詛どもと、己の半身に暗くのしかかる「彼女」の呪詛を混ぜられて――体の中が痛々しくもみなぎっていくのを感じる。
狙うは、仲間たちのところ。
蒼い彗星がこちらめがけて、駆けてくるのであれば。
ニルズヘッグは――。
「お、ォオオ、お――」
吠える。
吠える声とともに!
「おおおおおおおおォオ゛おおおおおッッッッ
!!!!」
黄昏の空に、新たなる線を引いたのが――【 呪 纏 (ファランダ・フォラズ)】!!
彗星とすれ違うようにして、黒い炎が悔悟の炎の中に飛び込んでいった。
蒼い光の中にいた誰もが、それを見ていた。
驚いた。それでいいと思った。――待って、と言いたかった。
そして――匡だけが冷徹に、状況を見ていた。
「いい仕事だ。」
ニルズヘッグの着地を、大きな剣で迎え撃とうとした巨人のコアを鉛玉が貫いている。
彼の中に巣食う呪詛の熱が具現化された黒が、悔悟の炎とまじりあってろくに動けぬ巨人どもを燃やし尽くす。
――その表情を、匡だけが見ていた。
だけれど、気にしない。そのさまに割いてやる感情のリソースはないだろう。
・ ・ ・ ・ ・
匡は気にしないから、きっと。ニルズヘッグもその状況で 笑 え た の だ。
動けぬ巨人どもに炎を走らせながら、相棒の槍で高速まかせに突っ込んで貫く。
そして破砕、破片が炎にくべられてもっと勢いを増した。
ごうごうと燃える熱が彼の肌を焼くことは無い。まるで、ほめたたえるように撫でてゆくばかりだ。
「ニルズヘッグさんは――。」
「大丈夫だよ、ちゃんとやってる。」
心配そうに、炎の在り処を見る巽に匡が代わりで返事を返す。
「匡、――大丈夫なのか。」
重ねて聞いたのは、相棒であるネグルだ。
「元気そうだよ。」
ふ、と微笑んでネグルにかえしてから。
その話題の主がこちらへと戻るのをスコープにおさめて、匡はいつも通りけだるげな顔で体を起こしたのだった。
ごうごうと黒炎は燃え盛って、遊具の脚も残骸も何もかもを燃やしつくしたところで。
完膚なきまでの勝利を感じた巽が、彼の気配に安堵して息をようやく長く吐けた。
耳から血を流した神楽耶が、炎から帰ってくる彼を見たのだ。
「おう!皆、無事か?」
いつも通り、笑う彼を――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
式島・コガラス
【大喝祭A】◎★△
……夕立さんが思う通りに立ち回れるよう、前方で敵を引きつけておきましょう。
ケルピーはもちろん、馬に乗ったこともありません。はぁ……あまり急ぎすぎないでくださいね、正純さん。
実質五発しか撃てない私が集団を相手取るならば、一発一殺のペースでなくてはならない。
その鍵となるのは、先程アリスの少女が破壊した「巨人のコア」。
その位置さえ理解していればいい。我が【呪殺弾】がそのコアにヒビの一つでも入れれば、その傷は深く根を張り核を砕く。
五体分はきっちり仕留めましょう。
さぁ、突撃は任せ――あれっ。なんか馬上跳んでます……?
まぁ……効果的ならなんでも構いませんが……。
矢来・夕立
【大喝祭A】◎★△
機動力が欲しい。
鎧坂さん。馬一頭借してください。馬上戦の心得ならあります。
先鋒は銃眼さんと手帳さんに任せました。
“伏せ札”役は端役さんに譲ります。
『刀絶』を槍型に変形。
馬で大群の中に突撃
しません。
《だまし討ち》《串刺し》
馬上戦の心得?ウソですよ。
接敵前に槍を投げて巨人をブチ抜いて、他の馬へ跳び移る。
戦場中の馬をぜんぶ足場にします。
八艘跳び…四十六艘跳びくらいか。
足が滑って手帳さんの頭など踏むかもしれません。
『封泉』を差し込んで鎧ごと爆破。
『幸守』を滑り込ませて内側から破壊。
コアが見えているなら『雷花』で斬ります。
こちらは問題なし。端役さんの方も…問題ないか。
あの迷彩、いいな。
鎧坂・灯理
【大喝祭A】
矢来君、機動力でしたらお任せを。馬が居ます。
一頭と言わず、十でも二十でもお連れください。
――そうすると思ったよ、嘘つき小僧め
ケルピー共 他のメンバーを援護しろ
彼らを振り落とそうなどと夢にも思うなよ!
「大道具担当」より「お客様各位」へ
行ってらっしゃいませ
心ゆくまで「アトラクション」をお楽しみください
流鏑馬ショーの開幕だ
さて、私は私で動こうか。『白虎』に跨がり敵の群れへ
トランプカード? これはこれは、「武器」をどうも
念動力で止めて相手にぶつけてやろう
己を捕縛していろ 解除するにも一手は潰せる
良い的だよ 心臓《コア》を撃ち抜いてやる
ヴィクティム・ウィンターミュート
【大喝祭A】◎★△
ウィズ!とんだ名馬を持ってるじゃねえか!
いいね、正に八艘跳びだ。
天下無双の忍び、大立ち回りってな
───さて
コガラスも正純も前で気を引いてるなら…攻め手を加えるか
灯理、ちっと行ってくるな
UC起動、ステルスクローク、アクティベート
敵集団の後ろに隠密機動で回り込み、後ろから一人ずつ「処理」する
前で飛び回る夕立、正純とコガラスがいるから後ろへの注意は向きにくい
音もなく、静かに…消えちまえ
とはいえ、だ
バレないわけがないんだよな、これ
そりゃ後ろで屍積みあがったら気づくさ
まぁ──
そ れ で い い
後ろに不可視の死神がいる中でなぁ?
まともに動けるならやってみろ
恐怖は伝播し、足を止めるんだぜ?
納・正純
【大喝祭A】◎★△
コガラス、ケルピーに乗った経験は? ソイツは重畳、得難い経験として記憶しておこうぜ。灯理に感謝だな。目立ちに行くぞ、付いて来い
方針
今度は俺とコガラスが前座を務める番だ
灯理からの足も借りて二人で馬上の銃撃戦を行うとしよう
どこまでも派手に動き、敵の意識をこちらに惹きつける
前座が気を引いてるうちに、主役たちが役目を果たしてくれるだろうから
差し当たっては、UCで作る弾丸は6つだけ
上等。6つの弾丸があれば、6方向の敵は残らず殲滅できるさ。コガラスの狙いも良いとこだ、ここは一枚噛ませてもらおう
夕立、ヴィクティム。俺らの腕を貸してやる。敵の目は盗んでおいてやるから――。騙してきな、存分に
●
派手に炎が沸き立った西を見る。
――残酷な、悲鳴のようだなと。
鎧坂・灯理(不退転・f14037)はそのさまを一瞥して、仲間たちに向き直った。
「機動力が欲しい。」
ぽつり、影が言葉をこぼす。
影の言葉にはその場にいた――最高の「おとくいさま」がたが皆頷いた。
矢来・夕立(影・f14904)は、暗殺者である。
各個撃破を得意とし、一撃での掃討を不得意とするのだ。――手数が多いことに越したことはないのだが。
なにせ、「東側」にも。
「まるで、サンライズじゃねぇか。」
ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)が、日が昇らず月が昇るはずである方向を見る。
夕焼けに焼かれて半分ほど身を焦がした空の地平線から、ぞろりぞろりと黒が湧いていた。
彼らの背後にある、汽車。もとい、「アリス」への気配めがけて。
「矢来君、機動力でしたらお任せを。馬が居ます。」
顧客のニーズには常いかなる時でも応えてやらねばなるまい。
ヴィクティムが、鶴の一声よろしく声を上げた灯理を見た。
――何するってんだ。
それは、まったくもって好奇心であり。「隙あらば」その技術を「盗む」目である。
最も、盗むという言い方は――彼には不適切かもしれないが。
「『プログラム開始。ホロ召喚陣展開設置完了、電霊転換流入開始、正常起動を確認。全幹ライン、オールグリーン。――駆け泳げ、水底の駿馬』」
この電脳探偵には適切な物言いであろう。己の電脳を司る出来すぎた脳みそを働かせてやれば。
「一頭と言わず、十でも二十でもお連れください。」
【電脳幻想具現化処理:水妖馬(エレクトロ・リアライズ・ケルピー)】!!
ふわりと空中からホロを纏うプログラムで召喚された、電脳の幻想生物である。
ぶるると嘶く鼻も、長いまつげも、水を掻くようにして空中を好んで走る特殊な足も伝承通りのそれを忠実に再現していた。
「ウィズ!とんだ名馬を持ってるじゃねえか!」
歓喜するヴィクティムが、その出来の良さを讃えていた!
――この、ヴィクティムがである。
彼もまた、電脳の申し子でありながら――電脳を司る手術を体中に施した存在だ。その彼が、「褒めた」!
「鎧坂さん。馬一頭借してください。馬上戦の心得ならあります。」
ためらいなくそのうち一つに手を伸ばし、ひらりと長い体躯を座らせた夕立である。
もっともっていけばいいものを、という顔で見上げる灯理の後ろで――。
「コガラス、ケルピーに乗った経験は?」
「ケルピーはもちろん、馬に乗ったこともありません。」
「ソイツは重畳、得難い経験として記憶しておこうぜ。灯理に感謝だな。」
「はあ……。」
やり取りは軽く、しかしながら仕事中らしく淡白で。
納・正純(インサイト・f01867)と式島・コガラス(呪いの魔弾・f18713)はこの作戦においての動き方をすでに打ち合わせてある。
先ほどは彼らが最後の引き金を引いたから。
「今度は俺とコガラスが前座を務める番だ――目立ちに行くぞ、付いて来い。」
ひらりとコートをたなびかせ、そして、にやりと口角を上げて鋭い歯で笑って見せる。
正純の顔は間違いなく肉食獣のごとくそれで、虎のようだなと灯理が見上げていた。
どうしたって、彼は我とともに強いのだ。
皆を引っ張っていく統率力も、その頭の回転からの行動力、キレの良さひとつひとつが彼の「強さ」を表している。
「あまり急ぎすぎないでくださいね、正純さん。」
だから――ケルピーに跨ってコガラスだってついていく。
「先鋒は銃眼さんと手帳さんに任せました。」
夕立だって、目を伏せて頷く。
「コガラスも正純も前で気を引いてるなら…攻め手を加えるか。」
ヴィクティムだって、信頼して前を任せる。
ならば、灯理は――。
「『大道具担当』より『お客様各位』へ。――行ってらっしゃいませ。」
快く、彼らの活躍をサポートしてやるほかない。
彼らの成功を、保証してやろうではないかと自信たっぷりにあくどく笑ってやった。
「心ゆくまで『アトラクション』をお楽しみください。」
彼女のしもべでありながら、彼らの脚である馬どもに命ずる。
――彼 ら を 振り 落 と そ う な ど と 夢 に も 思 う な よ !
「『一、飲み込め。二、覚えろ。三、研ぎ澄ませ。四、削ぎ落とせ。五で束ねて、――』」
己の耳朶が、風を受けて心地よい。
疾走する馬に程よく揺らされながら、正純は大群へと突っ込んでいく真っ最中だった。
彼が舌をかまないよう、唱えるのは魔術の定理である!
木々がまるで、彼を導くように、いざなうように、邪魔などしないように道を開かせるのは駿馬の恩恵に違いなかった。
だからこそ――弾丸は。
「『六で極めろ。知識と経験、全てを用いて。六合を穿て、六の弾丸
』!!!」
【 六 極 定 理 ( ワ イ ル ド キ ャ ッ ト ) 】
彼 が 籠 め る 弾 丸 は 、 六 つ で い い !
がうん!と放たれた鉄の弾が――紛れもなく、確実な一撃だったのだ!
群れの最先端にいた巨人のコアをあっけなく貫いてその動きを止める!後ろにいた巨人が貧相な足をもつれさせて転がった。
「――ビンゴォ。」
連鎖反応が起きる!
一つが立ち止まれば後ろの木偶は立ち止まれない。それが横倒しになればもう一つも倒れてしまう。繰り返し、繰り返す過ちばかりが積みあがる!
壊れたスピーカーから漏れた放送も聞くに堪えないハウリングを交えて、まるで断末魔のように途切れるのを確認して。
――勝ちを、正純は確信したのだ。
さて、その隣で同じく馬を駆けながら銃を構えたコガラスも。
なにせ銃を撃つ以外には取り柄がないと豪語する女なのである。
事実、彼女は銃を撃つことにおいては己の中でも誇りがあった。この無茶苦茶なパーティめいた戦いだって、戦場である限り。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
撃 っ て 当 た る な ら 、彼 女 の 獲 物 だ 。
瞬間の一撃。
コガラスは――先ほどのアリスと猟兵の戦いをリサーチしていた。
アリスが、己の意志できちんと巨人を倒していた時、狙っていた一撃があったのだ。
「コア」である。
右胸、ちょうど心臓の位置にあってよかった。
――狙い、撃てば死ぬ。そういう弱点が、そこにあるのならば。
重なり合う瞬間を、見ていたのだ。
駆ける馬に乗りながら銃を構えていた。
【魔弾炸砲(クイックマジックバレット)】を発動した己の腕に、コンマ単位でのチャンスが巡ってくるのを知っている。
大きな紅い瞳を見開いて、瞬きをしないまま。
一直線上に――こちらへ走ってくる巨人たちの心臓が並ぶのを、視た!
「『私にできるのは、これ一つです』」
引き金を、引く!
「おおっと、狙いも良いとこだ――ナイスだぜ。」
5体の巨人の「コア」を。たった「一発」の鉛玉で撃ち抜いて見せる。
こくりと頷いたコガラスの顔が、自信に満ちていて。なんだか正純まで「できる」気がしてきたのだ。
「ハハ――こりゃあいい。」
この後に控える後続のアサシンたちの、よい影を造れそうである。
また正純が銃を放てば、六方向は「必ず」破壊する銃弾が巨人たちを貫いていく!
またドミノ倒しが始まって、今度はさっきよりも数が多かったのを知って彼もまた、凶暴に笑うのだった。
――さて。
端役、と自他ともに認めているのはヴィクティムである。
最近はどうやら身内にもその称号は認められなくなってき始めているのだけれど。絶対数的には彼の意志のほうが大きい。
「ステルスクローク、アクティベート。」
淡々とした宣言とともに、彼の体は光の屈折と、それから周囲に残った破片や残骸と「おなじ」になる。
【Invisible Ferryman(フカシノアンサツシャヲオソレヨ)】。
物音も気配もすべて断ちながら、彼がとった手段が。――隠密行動である。
正純とコガラスがひどく暴れて、群れからはぐれた個体は多い。
怯えて逃げ出したというより、遠回りをしてでもアリスに会いたい――そんな執念だったのだろう。
だらりと舌を垂らして、鎧を軋ませながらうごめく彼らを。
――音もなく、静かに。消えちまえ。
ひとつひとつ、確実にナイフで「処理」していく。
深々と突き立てたナイフが、機械のハートを貫く作業は淡々としながらスリルに満ちていた。
徐々に積み上げられた亡骸に、いよいよもって巨人たちはあたりに警戒を訴える。
剣を振るい、地面を足踏み、叫んだ。
そ れ で い い。
恐怖は、伝播する。
巨人たちが足を止めたのなら、すかさずヴィクティムがナイフで「処理」する。
スクラップが、どんどん積みあがっていくのがたまらない。
派手な音を立てて、傾斜を少し滑っていった鎧の音だけではない――この空気が。
最前線の戦場までも混乱させていたのだ!
巨人たちの足並みはより不ぞろいになった。
「はァッは、――いいね!正に八艘跳びだ。」
あらかた始末し終えた恐怖の張本人が、電脳の布を風になびかせながらそれを見ていた。
「天下無双の忍び、大立ち回りってな。」
蒼の瞳が、楽し気にきらめく先には――。
妖馬に跨った夕立の姿があった!
真紅の眼光を置き去りにして、彼もまた――敵陣に突っ込んでいく。
馬術の心得はあると宣言した。己の武器も「それ用」に『刀絶』を槍型に変形させて、戦闘形態をとっていた。
馬鹿正直に――そのまま突っ込んでいく夕立である。
脅威である夕立を、混乱の中目に入れた巨人どもは身構えた!
「馬上戦で来ると思いました――?」
だから、嗤ってやる。
薄く唇を開いて、それが真っ赤だったのを。
巨人たちは、どう感じただろうか――。
「 ウ ソ で す よ 。 」
馬術の心得。そんなものを、「忍び」である夕立が心得ているはずがない!
馬で接敵する前に己の槍を投げる!夕立を迎え撃たんとしたそれの心臓に、深々と槍が刺されたのだ。
「――そうすると思ったよ、嘘つき小僧め。」
言葉とは裏腹に――。
どこか、それを悟っていたような笑みを浮かべた悪い大人が灯理である。
くるりと宙を舞って、細長い彼の体が矢のように放たれた先に一頭を送り込んでやった。
異変を感じたのは、コガラスである。
己の狙いを定めた世界に、余計なノイズが入るような気がして。
ちらりと、走る視界のまま上を見上げた。
「正純さん。――あれっ。なんか馬上跳んでます……?」
「気にすんな気にすんな。アレも演出のうちだから。」
戦場を――先ほど電脳探偵が生み出したそれが舞っている。
誰も乗せてはいない。だけれど、舞ってちゃんと目的地へと着地しているようだった。
「まぁ……効果的ならなんでも構いませんが……。」
灯理のもとに控えていた馬どもが、すべて――戦場に配置される!
「流鏑馬ショーの開幕だ。」
その馬どもの背を足の踏み場にして。
「『上を失礼』。」
とん、とんと身軽に動きながらも夕立は!
「八艘跳び――四十六艘跳びくらいか。」
【夜雲(ヨルクモ)】の恩恵を授かり、ありとあらゆる暗殺を行使するのだ。
『封泉』を鎧の隙間に差し入れて、するりと転がしてやる。
肩で風を切って過ぎ去るころには後方で無残な爆発音がした。
続いて、『幸守』たちにはありとあらゆる方向から複数の鎧に忍び込ませる。
巨人どもは気づかないのだ。――愚鈍であるから。
「頭使わないと、長生きできませんよ。」
「い゛ってェッ」
「あ。すいません。」
割と素の声である。
内側から食われて殺されていく巨人の悲鳴らしい悲鳴を背後に、夕立が正純の頭を「足が滑って」蹴っていった。
次に取り出したるは――『雷花』である。
「愉しんでいるようで何よりです。」
戦況を見てやりながら。悪い笑みのまま、『白虎』と名付けられた彼女の相棒に跨る灯理であった。
二輪がうなり、土を蹴り上げて爆速!
木々を蹴破り、唸るゴムで削り、地面をバウンドして生み出されたトランプ兵などはひき殺してやったのだ。
他愛ない。このような手合いではこの意志の怪物を止められない!
――だから、捕縛対象になる。
「トランプカード?」
ふわりと走る彼女に追いついては、旋回を始めたのは巨人の悪しき術がかかったそれである。
すこし片眉をあげたのは――あまりにも、お粗末だったからだ。
この鎧坂灯理を止めるのに、これごときで務まるとでも思ったのだろうか。
「 鎧 坂 灯 理 を 舐 め る な よ 。 」
まるで、それは低い唸り声のようで。
灯理を捕縛する前に、すべてが――彼女の手中に落ちる。
比喩でない。片方のグリップから右手を放したならば、其処にすべて収まってしまったのだ。
サ イ キ ッ ク
念 動 力 。
にぃい、と挑発的に笑ってやれば、そのすべてが巨人どもに跳ね返され、術式を再び組み――縛り付けた!
「良い的だよ。心臓《コア》を撃ち抜いてやる――夕立。」
お膳立ては、しましたよ。
つぶやきながら、灯理が己の「朱雀」から呼び出した拳銃があった。
そして彼女の上から――日本刀を構えた真っ黒の青年が、飛び出す。
「 「 死 ね 。 」 」
二つの声が重なって――。
東の地平線に、沈黙が訪れる。
誰の悲鳴も聞こえない。歓喜の声もない。ただただ、仕事を終えた彼らがこの場に立っているだけなのだ。
当たり前のように、いつも通りに任務をこなす。
――彼らこそ、プロフェッショナル。
残る城と、其処からようやく這い出てきた主の大きな影に、そのすべての目が依然殺意と共に向けられていたのだった。
・・・
まだ、彼らのゲームは終わっていない!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『切り裂き魔』
|
POW : マッドリッパー
無敵の【殺人道具】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD : インビジブルアサシン
自身が装備する【血塗られた刃】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ : 殺人衝動
自身が【殺人衝動】を感じると、レベル×1体の【無数の血塗られた刃】が召喚される。無数の血塗られた刃は殺人衝動を与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
●
城から、巨大な影が出た。
――城そのものにまるで、詰まっていたかのように。
真っ黒な影が這い出ては湖に黒を満たしていく。
オキャクサマガタ
「初めまして。猟兵諸君――」
愉しんでいただけているだろうか、と笑う。
血に染まった感覚はどうだった?誰かを守る代わりに振るう暴力はどうだった?
彼のために働いた兵士たちの心臓の味は?食べることしか知らぬ生き物を殺す気分はどうだった?
からり、からりと彼の中で。
影の中で歯車がきしみだしたなら――それは彼の形を作り上げていく。
黄昏の世界を、大きな彼の体が埋め尽くしていくのを猟兵たちもアリスも見ただろう。
『切り裂き魔』。
大きな手のひらに無数の刃物。彼のすべてをそれが体現していただろう。
「私は、愉しいものでございましたよ」
猟兵たちが、知能のないそれらを蹂躙して見せる力が。
「出口はあちら。」
――満足したのだ。
主催である彼はゆったりと、宙を覆うほどの大きさをしたまま猟兵たちを見下ろす。
指先のむこうには「扉」があった。
「最後のアトラクションは、追いかけっことなります。アリスたち――」
キャストがいなくなってしまったから。
ああ、ちゃんともてなせなくて申し訳ないなと思ったからこそ出てきた責任者である。
「アリス」たちがこの狂気の国から帰るための「扉」はすでに用意されている。先ほどのアーチのむこうに、順に並べられていた。
駆けこもうにも距離は遠い、そしてアリスたちがそれに触れられるかはわからない。
――恐怖で体をすくませたり、おびえて扉に触れれないアリスもいるかもしれない。
それでも、ここはどうか悪夢だったのだと。
「私と、追って追われて死にましょう?」
そして、立ち向かう猟兵たちがこの夢を終わらせるのだと、導くことができたのなら――!
刃物がアリスに追いつくか、猟兵たちが未来に導くか!
今、狂気の「追いかけっこ」と共にこの悪夢のフィナーレを始めよう。
◆◆◆
*プレイング募集は8/11 8:30~です。
*アリスを扉に無理やり導いてもOKですが、何か一声かけてあげると扉のむこう(元の世界)に帰りやすいかもしれません。
*説得に向いていない、という人はぜひ戦う雄姿を見せてあげてください。
*こんなアリスに説得したい、声をかけたいというものがあればぜひ文字数許す限りでプレイングにご記入くださいませ。
*『切り裂き魔』との追いかけっこという体ですが正々堂々殴り掛かってもOKです!ご自由に!
→大きさ:空を埋め尽くすくらい大きい姿での顕現です。いっぱい暴れていただいてOKです!
*それでは、皆さまの素敵なプレイングを心よりお待ちしております!
ジュジュ・ブランロジエ
◎
エレニアさん(f11289)と
一章のアリスやマリアさんに呼び掛け
大丈夫、走って!
絶対に守るから私達を信じて
一歩踏み出せたならその先に道ができるよ
未来へ続く道が
エレニアさんと合流
悪趣味な主催はクビにしちゃおう!
ちょっと面白いこと試してみない?
金属って熱した直後に急激に冷やすと脆くなるんだって
火属性付与した白薔薇舞刃(花弁に変えるのはメボンゴ以外の武器)を二回攻撃
よし、熱々になったね!
続くエレニアさんの氷属性攻撃が効いたら
やったね!とハイタッチ
飛んでくる刃は範囲攻撃で範囲を広げた衝撃波(メボンゴから出る)で勢いを削ぎながら叩き落とす
加えてオーラ防御+範囲攻撃を早業で展開しエレニアさんと私をガード
エレニア・ファンタージェン
ジュジュさん(f01079)と
追いかけっこ?嫌よ
エリィもう少し遊園地らしいアトラクションを楽しみたいの
ジェットコースター乗れなかったし…
…あっ、ジュジュさん
そうね、ここの経営陣はクビ!
何、何それ、楽しそう!
夏休みの自由研究?というのよね、そういうの
エリィ、蛇の吐息に氷属性攻撃をのせて、冷やしてみるわ
上手く行ったら、ハイタッチ!
冷気と毒を漂わせながら、得物を大鎌に変えて切り刻むわ
切り裂き魔…でしたっけ?
切り裂くのって、エリィ、なかなか得意なのよ
あら、アリス、まだそんなところにいたの?
邪魔よ、呪うわよ
貴方が扉を開くまで恐怖を感じられない呪詛をかけてあげるわ
●
空を。
赤が覆いつくす。赤黒い呪われし狂気が、愉悦を浮かべて猟兵たちを見下ろしていた。
猟兵たちは一先ず一か所に集まってアリスたちを背に対峙する。
「追いかけっこ?嫌よ」
真っ先に、誰よりも早く返答に拒絶を混ぜた猟兵がいる。
真っ白の髪をぬるくて甘ったるい風になびかせていたが、どうやら紅茶の砂糖でもまざっていたのかこの風は随分粘っこいのだ。
同じく陶器のような白い腕にまとわりつく不快な感覚に美しい顔をゆがませる彼女である。
もう少し――遊園地らしいアトラクションだったなら、此処まで不機嫌にはならなかったのに。
「――エレニアさん!」
「ああ、よかった。ジュジュさん!」
偶然か、必然か。見知った猟兵の顔を見て安堵する二人もいた。
ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)と先ほどまで顔を険しくしていたエレニア・ファンタージェン(幻想パヴァーヌ・f11289)はお互いの両手を握り合うようにして存在を確かめる。
――もとよりエレニアは目がよろしくない。こうして握り合ったほうが相手に存在が伝わるだろうとジュジュなりの無意識な配慮かもしれなかった。
「ジュジュさん聞いて、ひどいわこの主催。エリィ、遊園地らしいことをもっと楽しみたかったのに!」
「うん、うん。そうだね。ひどいや」
ジェットコースターにも乗りたかったし、土産話にするにしては最後が鬼ごっこなんて、そんな粗悪なサービスがあってたまるものか。
嘆くエレニアを慰めるように、真剣な顔で聞きながらも頷くジュジュは人を喜ばせることに真面目であった。
確かに、今この場の猟兵たちによって主催の遊具はすべて削られたやも知れない。しかし、言うに事を欠いて――鬼ごっこなど。
「悪趣味な主催はクビにしちゃおう!」
「――ええ!そうだわ。そうね、ここの経営陣はクビ!」
主催者が手ずから出てきてもてなすなどばかばかしいのだ。
真にエンターテイナーであるならば、その体をも遊具にすべきだろうに!
ジュジュが不敵に笑って主催を見上げれば、主催もまたジュジュを見下ろしている。
エレニアがそれに対して叫んだのなら。
「あア――お客様。クレームは困ってしまいます。」
十分なサービスをしたつもりの赤黒が。
「殺したくなって、しまいますので」
牙をむく!!
襲い掛からんとする赤黒を前に、ひぃ、と悲鳴が小さく上がったのを聞いた三人である。
――そうだ、後ろに。とジュジュが振り向いたのと同時に。
「あら、アリス、まだそんなところにいたの?」
面倒くさそうなエレニアの一声がやってきたのだ。
アリスたちは、小さく身を寄せ合って一人は震えていた。エレニアが助けんとした一人のアリスである。
先ほどは遊園地の彼に夢を見せてもらって、次はエレニアからの現実が与えられる小さな少女だ。
もう一人のアリスはジュジュのゴーカートに乗せられて振り回された子だ。その子もまた、同じように目の前の脅威に慄いている。
それに寄り添うのが、――ジュジュと先ほど一緒に戦ったマリアであった。
「大丈夫だよ。だいじょうぶ!ジュジュさんは強いんだから!」
「あら、エリィも強いわ。」
見下ろすエレニアは、確かにこの三人には「強さ」という圧を与えるには十分である。
例えば、この小さな三人にどう映っていたかというと――ちょっと子供嫌いな悪役に見えていたかもしれないくらいには、威圧的だ。
だから、お手本のように。
「そうだよ、大丈夫。」
しゃがみこんでやるのはジュジュである。そうすればエレニアも、「そういうものね」としゃがんだ。
目線がようやく合ったとしても、エレニアにはほとんど見えていないが。赤の瞳を間近で見て、ようやくアリスたちは震えを減らした。
「絶対に守るから私達を信じて。」
ね、と言ったジュジュがマリアを見る。マリアは、頼もしく頷き返していた。
「絶対に勝つよ。ぜったいに、ぜっったいに、ジュジュさんたちが勝つの!」
マリアが――根拠もなく信じているわけではない。
一緒に戦った、一緒に人形師としての一連を踏んだ。だからこそ、相手の実力はよくわかる。
「マリアね、ジュジュさんみたいな人形師さんになるから!そしたら――また、みんなを護れるように、強くなるの!」
だから、だから。
マリアの決意だ。その大きな瞳からあふれる涙が美しい。
「そうだね、そうだよ。ゴンザレスさんと一緒にまた、メボンゴも戦いたいって」
何度もうなずいて、何度も聞き届けてやる。
主催の軋みがどんどん強くなるのはエレニアの耳が拾っていた。
――殺してやりたい気持ちが、昂っているのだろうな、と思う。
「アリス。もう時間だわ、エリィたちはもう戦いに行くの。此処にいたら邪魔よ、呪うわよ」
弾くような言葉ではあるが、エレニアの口調には笑みが含んであった。
「貴方たちが扉を開くまで恐怖を感じられない呪詛(おまじない)をかけてあげるわ。」
ヒ ラ ケ ゴ マ
――オープン・セサミ!
すると。
アリスたちの震えが止んで、こくりと皆が力強くうなずいていた。
負けない、こんな運命に。こんな茶番に負けない――!
力強くなった視線にエレニアが満足そうにしたならば、ジュジュも勝気に微笑んでみせて。
「一歩踏み出せたならその先に道ができるよ、未来へ続く道が!――さあ、走って!」
小さな背中を、とん。と押してやった。
ジュジュは扉に向かって走っていくアリスの三人を見送る。エレニアは見ていない。見ていなくても、足音が遠ざかるのは聞こえていた。
それでいいのよ、と言ってから。
「ああ、始まりました。では、では、では!」
殺戮にたぎるこの主催をねめつけてやる二人である。
その無数の刃で――あの三人を蹂躙しようというのか。そうはさせてたまるかと二人して臨戦態勢をとる。
「ねえ、ねえ、エレニアさん。ちょっと面白いこと試してみない?金属って熱した直後に急激に冷やすと脆くなるんだって」
「何、何それ、楽しそう!夏休みの自由研究?というのよね、そういうの。」
同意を得てから、躊躇いなく。
ジュジュは己の「手品用の」道具たちを空中にばらまいた。
それは、主催の体に軽々と弾かれて目くらましにもならないようである。
「お客様、どうか。ゴミはごみ箱に――」
「いいえ、『お客様』」
自棄になったのかと言いたげに憂いめいた一撃を放とうと、ナイフが無数にジュジュをむく。
しかし、ジュジュはその場で嗤ってやった。この程度のミス・ディレクションも見抜けないで主催気取り!
――面白おかしいコント狙いなら、重畳だったろうが。
「種も仕掛けもある、白薔薇の手品でございます。」
高らかな宣言と共に、ぱちんと指を鳴らしたジュジュである!
「『ご覧あれ、白薔薇の華麗なるイリュージョンを!』」
演目、【白薔薇舞刃(ホワイトローズイリュージョン)】――!!
ぶわりと空中を舞ったまままだったジュジュの道具たちがすべて炎を纏った花びらに変わった!
その花弁をちりちりと焦がしながら――燃え盛るそれらが主催のナイフをすべて焼くのだ!
「なに、何――何を!?」
恐れた主催がのけぞったのを、すかさずほかの白薔薇だって焼いてやる!
「おおお!!おお!!」
立派な一張羅を焼かれて、刃だらけの掌で火の粉をはたく彼が面白おかしい。
からからと笑ってやってから――夏の黄昏にエレニアの冷気を混じらせていた。
真っ白なそれが、鮮やかな日の光を受けていて紫や緋色に満ちてから白い彼女にまとわりついた。
絹のような髪が大きな蛇へと変わる。
【夢路の舞曲(オピウム・パヴァン)】!!その口から――きらめくダイヤモンドの吐息を吐き出した!
「すっかり暑くなっちゃったんだもの。」
これはサービスよ。と微笑んだ口元を隠してしまうほどの冷気!
蒸された空間に瞬時に解けながらも、あたりを真っ白が包んだのだ!
「なんと――ッッ!?」
ばきん。と一つに亀裂が走ったなら。
展開された大きな刃物共はどんどんと砕け散る!
主催たる切り裂き魔の身体すらばきばきと音を立てて腹部から割れて、たまらず彼がのけぞった。
アリスたちに届かぬ、届かせぬ!
「やったね!」
「ええ、やったわ!」
ぱちん、と二人で掌を合わせあったなら。次はその手にお互いの武器を構える!
まだまだこれからが正念場だ。エレニアが握った大鎌がぎらりときらめいて、それから――白うさぎの人形、メボンゴが衝撃派を放つ!
「おおおお、お客様ァ――ッッッ!!!」
マナーのなっていないお客様は、この主催とて許せぬと!
ぶぉんと大きく振るわれた掌に衝撃波を喰らわせてジュジュが一度弾く!そのあと――エレニアの足元も衝撃波で穿った!
当然、エレニアが宙に舞う。足元の空気で出来たトランポリンが、ジュジュの一撃なのだから。
そのまま――大鎌をまるで新体操のバトンよろしく腰にあてて遠心力を使ったのなら。
「切り裂き魔……でしたっけ?」
まるできっと、美しいポールダンスのように――彼女を彩っただろう。
「切り裂くのって、エリィ、なかなか得意なのよ」
斬 烈 ! ! !
どう、と振り下ろした衝撃が空気事引き裂いて――かの主催の掌に大きな傷跡を刻み付けてやったのだった!
「ああ。嗚呼――!!」
主催の目に映っていたのは。
エレニアでもなければ、ジュジュでも、そのウサギであるメボンゴでもないのだ。
「――ア゛ァリ、スゥウウウ゛ウウウウッッッ
!!!!!!!!!!!」
ゲンジツ
三人の少女たちが今、躊躇いなく未 来へと帰っていく――!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ゼイル・パックルード
◎★△
さっき刀を貸したガキに最後に話しかけるか
敵の命を奪ったときにどう感じたのか、それが生きてきた今までと比べてどっちが大事に思えるか。殺し殺されることを恐怖するか、歓喜するか、許せないと思ったか。せいぜい帰ってゆっくり考えるんだな。お前ならあんな扉何てことないだろ?
しかしつまんねぇ主催かと思ったら、案外面白そうなヤツじゃないか
手出しはさせないぜ?だっていつか俺の敵になってくれるかもしれないヤツだからね
さて、飛び道具が数飛んでくるのは面倒だ。そいつらを弾くのと集中を削ぐ狙いで、鉄塊剣とナイフ投擲する。同時に敵の方へダッシュ、武器を抜いてUCで残りを弾きながら攻撃していく。
●
鉄を砕かれておぞましさが余計に増した気がしたのだ。
――案外面白そうな相手だと思ったのは、その規格外の大きさに驚かされたのもある。
「ハ、いいね。ビックリショーだ。」
ゼイル・パックルード(火裂・f02162)が鼻で笑って見せる。
先ほど刀を貸したアリスは彼のそばで、やはり震え切った手で刀を握っていた。
――離せないのだ。
「おい。」
ゼイルが声をかけてやれば、びくりと彼女が肩を跳ねさせる。
殺したことのない、もしくはそれは必要としない世界からの出らしい。――UDCアースだろうか。
それでも抗う力があった、すぐさま自分が殺す、と抵抗を示してすでにいくつかの命を奪わせることに成功した。
だからもしかすれば、――いいや、そんなことはどうでもよいのである。
ゼイルがにたりと笑って、アリスの握る己の刀をざらついた掌で「返せ」といわんばかりに握ってやった。
そのまましゃがみこんで、わざと目を合わせる。
「なあ。――どう感じた?」
彼が、問う。
「生きてきた今までと比べてどっちが大事だ?ええ?教えてくれよ」
殺し殺されることを恐怖するか、歓喜するか、許せないと思ったか。
小さな肩が、先ほどまでの感覚を現実だったとようやくとらえて――ゼイルの琥珀を見る。
「い、いや、いやだった」
「へえ」
「でも、――ひつようっておもった」
「必要?」
「……イ、生きる、ため」
生きるために。
この少女は、生きるために――あの戦いが必要だったという。
震えながら、人を先ほどまで殺したことのないような、蚊も殺せなさそうなこの少女が、ゼイルの瞳を見て――ぎらぎらとした瞳に変わっていた。
「ぁは、はははははっ……!そうか、そうかよ。おもしれぇ」
そんなものは。
きっと、これから彼女が戻る世界でどう役立つのなんかはゼイルも考えてやらない。
それでも確実に、きっと――このアリスの人生を変えたのはゼイルなのだ。彼のひとつひとつが、きっと。
火裂の称号に恥じぬ傷を、少女に刻んで燃やしたのである。
その命を。
闘 争 で 、 燃 や し た の だ !
「じゃあ――せいぜい帰ってゆっくり考えるんだな。お前ならあんな扉何てことないだろ?」
これからそのくすぶりをどうするのかを。
刀をひったくってやる。この得物はこの少女にやらない。自分で考えて、自分で選ぶがいい。
ツール
――人を殺すための道具を。
「行けよ。」
背を向けないのは、ゼイルなりの真摯さだ。
ひとごろしとして――これから生きていくだろう、小さな命への敬意がそこにある。
それが、もう戻れない夢への光を捨てて駆け出していく。扉めがけて一目散に、待ちきれないのだというぐらいに。
「ああああ、アリス、アリスゥウウウウウ
!!!!」
「手出しはさせないぜ?」
逃げ出そうとする愛しのお客様に絶叫を降り注がせたところで、もうあのアリスは止まらないのだ。
哀れにも失恋したかのように叫び散らす主催にゼイルが一言釘をさしておいた。
その一言と同時に放たれたのは――彼のナイフと、続いて鉄塊剣!
炎をも諸共しない鈍色の鉄共はきらめいて、彼の地獄を纏いながら煌々と燃え盛りアリスに向けられた無数の刃を弾きながらランダムに動き回る!
耳障りな叫びも、そのむなしい鈍色もすべて撃ち落とす無数の一撃に紛れて彼は走りだした!
【Not narrative nightmares(カタラレルコトノナキシノアクム)】
「――『さぁ、止めてみな』」
跳躍、そして――撃ち落とされていく刃たちを足場にしてまた上へ、上へと駆け上る彼である!
飛び道具をすべて穿ち、一つたりともアリスには至らせない。
「いつか俺の敵になってくれるかもしれないヤツだからね、――お楽しみはとっておきたいんだよ」
くつ、くつ、と喉の奥で笑う彼の体を、地獄がその胸を焦がす!
しかし、構わない。ああ、構うものか――と。
振るう鉄塊も、飛び道具が掠って頬から吹き出した赤々とした液体だって、今は何も惜しくはない。
彼の寿命さえも――何もかも、どうでもいい。だってきっと、あのアリスは!
「 俺 を 殺 し に 来 る 日 ま で は 、生 き ろ よ 」
この悪辣に笑う悪の焔を忘れない――!
ゼイルが放った九連続、そして九倍の攻撃が――ダメ押しとばかりに、主催の指を一本切り落としたのだった。
黄昏を背に、黄昏色に燃える彼をきっと。
扉に入る前に振り向いたあの少女は脳に灼け付かせていたことだろう。
「さよなら、わるいひと」
大成功
🔵🔵🔵
マレーク・グランシャール
【壁槍】カガリ(f04556)と
これまではカガリがアリス達を導き守ってきた
だが彼は今、敵を阻む壁となり、俺にアリス達を託すという
ならば扉までの最後の一押しは俺がしよう
扉の向こうに幸福が待っているとは限らない
辛い現実が待ち受けていることもあるだろう
だが待っている人も帰る場所もなかったとしても、想い出がそこにあるのなら扉の向こうへ行くがいい
それは死の悪夢から逃れる道、未来へと続く可能性だ
アリスを見送ったらカガリを振り返る
過去も未来もない俺にとって、友の盾こそ現在ここに命を繋ぎ止める扉
待たせたな、カガリ
俺も共に戦うぞ
『此の風は貴方の背を押すために吹く』
【竜牙氷纏】で迫る敵を吹雪で凍らせ氷の槍で貫こう
出水宮・カガリ
【壁槍】まる(f09171)と
ちょっと、怖いのが見えているが、大丈夫だありす
出口は、もう見えている
まる、まる、ありすを頼んだぞ
カガリは大丈夫だ、ひとではないのでな
しかし、相手がここまで大きいのは幸いだ
カガリは城門だからな、ちょこまかされるよりずっといい
その刃、カガリにもありすにも、まるにも届くことは無いと知れ
【泉門変生】でありす達を出口まで囲い、敵の刃から守る
最後の一人が出るまで城壁を維持するぞ
ひとを殺すための刃が、壁に刺さろうはずもない
壁ごと崩れて、内のひとを苦しめるようなカガリではないぞ
まる、ありす達は…戻ったか、そうか
やはり、まるは内に囲うより…こうして傍で生きてくれるのが、いいな
●
空を覆う赤が、悲鳴を上げる。
「ああ!ああ!アリス!アリスどうして――ああ!」
もしその顔にちゃんと目玉があったのならきっと涙の雨を降らしていただろうか。
いいや、むしろその悲壮ぶりからうかがうには血の涙になっていたやもしれぬ。
「ちょっと、怖いのが見えているが、大丈夫だありす」
それを見上げる少女たちの顔色は大変悪い。
先ほどまで極彩色の迷宮にて安全を保障されていたのに、いざもう大丈夫だと出てくれば彼らの上に居るのは彼らを求めてやまない狂人のみであった。
すべてを覆うほどの狂気で、黄昏すらも隠してしまおうとするかの主催は悲痛にみちた唸り声を上げている。
このか弱き命たちが怯えるのも無理はない、しかし先ほどの空間のまま扉の外に出してやることはできない。
少しだけ、恐怖にどうか打ち勝ってほしいのだ。
「出口は、もう見えている――まる、まる!」
だから、出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)は吠えるように友の名を呼んだ。
それに応ずるのが彼の友である。
マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)は、友の要求を待ってみせる。
少しこの黒竜も纏う強者の雰囲気が恐ろしいやもしれないが、それよりも大きく空を覆うあれにくらべれば――ずっと頼もしいぞんざいに見えていたのだ。
動き出した彼の姿を注目するアリスたちの瞳はみんな助けを彼に求めている。
マレークはもちろんアリスにも――助けを差し伸べる気で入るのだが尤もその理由は「友」がそうしたいからだ。
「頼んだぞ、まる。」
ありすたちを数名、マレークに引き渡すカガリである。
そんなかがりの掌を、小さな手が握った。まだ、成長に乏しいその持ち主が幼く問う。
「いかないの?」
――少しの、沈黙があって。
「カガリは大丈夫だ、ひとではないのでな」
優しく、しかし頼もしく頭を撫でてやったカガリである。
門であるから、どこにも行けぬ。
それはその気質であるけれど、己が飛び出せない存在であるのならばせめてこのアリスたちは外へと逃がしてやりたい。
この地獄めいた空間で息を詰まらせて死なぬように。嘗ての彼が、――悪夢を閉じ込めていた時の後悔は再び起こさせない。
だから、マレークに頼んだのである。この黒竜が義に厚く、それから誰よりも頼もしい存在であるからだ!
友が、敵を阻む壁になってみせるというのならば。
このマレークにできることは、彼が今までやってきたこの代理である。
「引き受けた。」
すべてのアリスが彼の元へやってきて、マレークはカガリにようやくまとまった返事をする。
口数の少ない、そして表情に乏しいながらに黒竜が蒼を鈍く光らせながら、そばにやってきた面々を見てから踵を返す。
「アリスを――!!」
連れていかないで、と叫ぶ往生際の悪い主催に、きっとにらみつけて笑ったのはカガリである!
この主催が――ここまで大きいのは幸いだった。
「その刃、カガリにもありすにも、まるにも届くことは無いと知れ」
なぜなら、この金の彼は――城 門 の 化 身 だ か ら で あ る ! !
【泉門変生(オオカミオロシ)】!!
黄金郷の城壁たちが――どう、どうと地面から「生えて」きた!
走るマレークと、その後ろを必死についていくアリスたちを黄昏の色から隠すように、トンネルのようにしてしまい込んだ。
「嗚呼!隠さないで!!隠さないで――私のアリスたちを!!」
「壁ごと崩れて、内のひとを苦しめるようなカガリではないぞ」
「そんな、どうか!どうか!!」
この木偶が――。
カガリを狙う気は全くないところが、また恐ろしい。
人を殺すために振るう鉄ごときで、このカガリの城壁はびくともしない。黄金を禿げさせることにも至らないのだ。
――そんな衝動と、この絶対の城門の意志はくらべものにもならぬ!
「扉の向こうに幸福が待っているとは限らない。辛い現実が待ち受けていることもあるだろう」
だから、マレークは。
この友が作り上げた場所を信じている。アリスたちを扉の前に立たせて、一人一人に聞こえるようにしかりと声をあげた。
城壁が多少揺れたところで、衝撃の音は遠い。
アリスたちもいちいちの揺れに怯えないのは、きっとここにマレークがいたからだ。
先の戦いで彼の強さはもうまざまざとみているし、なによりこれを作り上げた――カガリをも信じている。
善い目をする、人の子どもがそこにいたのだ。マレークも薄く、ほんの数ミリ単位の表情の変化だったがきっとアリスたちの印象を変えるには十分だった。
「だが待っている人も帰る場所もなかったとしても、想い出がそこにあるのなら――扉の向こうへ行くがいい」
選ぶがいい。
命令はしないのだ。この後の未来をどうするかを選ばせるのも、また「猟兵」の仕事である。
猟兵は導くのではない、ただ「未来を切り開く」だけなのだ。その後の世界をその世界がどうしようが、関われないのが常だ。
アリスたちにもそれはかわらない。アリスたちが――これから戻った世界で、どれほど痛ましい現実にさいなまれても助けてはやれない。
それが平等である、ということ。
それが世界の天秤である、ということであるから。
これだけは――どうしようもないのだ。
この一瞬、友が己に託したのは「扉をくぐること」だけであるが。
それでも――共に閉じ込められて守られるアーチを仰ぎ見て、マレークはアリスたちに告げる。
「それは死の悪夢から逃れる道、未来へと続く――可能性だ。」
幸であっても、不幸であっても。
その先に広がる未来は多種多様に分岐するのだ。
一つの掛け違えで命が潰えることもあれば、ひとつのきっかけで命が栄えることもある。
この竜は、その有様を――どこか遠くで見てきた。
蒼を細めて。
「選んでみろ。」
命令でなく、激励を。
弱きひとのこどもへの、背の一押しに彼らが応える。
現実のほうが厳しいかもしれない、生きるほうがつらいかもしれない。
それでも、この悪夢が――この希望達と巡らせてくれた生ならばきっと、意味がある。
幼心に理屈はわからぬ、だから彼らは直感で動いたのだ。
扉が、――開いて。
「ぐぬ、ぬぬ、ぬ」
唸るカガリがいた。
漸く木偶の切り裂き魔が、この術中を破壊するにはカガリから狙ったほうが早いと知ったのだ。
アリスばかりを求めてあがく哀れな案山子もどきが、その刃を彼に振るったのを受け止めたカガリである!
拒絶の隔壁で精一杯その一撃を拒んでいた!
ぎりりと金属と鋼鉄がかみ合って嫌な音を立てていても。この城門は決して揺らがぬ!
行かせない、そうはさせるか――。
「ありすたちに、とどかせるかッ!!」
叫んだ守り神の声に合わせて!
「待たせたな、カガリ――!」
駆けてきたのは――やはり黒のこの男である!
「『此の風は貴方の背を押すために吹く』――」
静かで、確かな詠唱がカガリに冷気とともに届いた。
カガリのどこをも冷やさない、ただこの蒸し暑い空気を取り除いてやっただけのそれが――!
「ぁああああッッッッ
!!!!?」
主催の体を凍てつかせる!
【竜牙氷纏(ヴァッハビン・ロヒカールメ・ファング)】。
もはや溶けることすら許されぬ氷の槍はマレークの手に収まってから、たちまち投げられたのだ!
どう、と大きな音を立てて凍てつき張り詰めた切り裂き魔の右手を打ち砕く――!!
「ぎぃ、ぃいいいいいァアアアあああ!!!」
絶叫と共に、己への力が収まって弾かれるようにして後退したカガリである。
「まる、ありす達は……」
「戻った。皆、無事に」
「――戻ったか、そうか」
そのまま、彼の体を肩から担いで、マレークが宣戦を離脱しようと試みる。
よくぞ、よくぞ長時間悪夢に耐えてくれたものである。この友の功績をここで無駄にせんと、マレークが確かに地面を踏んだ。
「やはり、まるは内に囲うより――」
頼もしい、友の力を借りて。
動けぬはずの城門の彼は、導かれるように歩けるのである。
過去も未来もない竜にとって、友の盾こそ現在、ここに命を繋ぎ止める扉であると――マレークが想うように。
「こうして傍で生きてくれるのが、いいな」
カガリもまた、友がそばで生きているからこそ、戦い続けるのだ。
かくして、主催の右腕を穿った二人である!
ココロ
彼らに希望を見たアリスたちの扉が、その未来が。どうか、どうか守られんことを――!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ユエイン・リュンコイス
◎☆
…成る程、成る程。これは予想外だ。そろそろ機械神から降りて、とも思ったけれども…良いだろう。
そちらがそう来るのなら、こちらも最後まで応じてやろう。
戦法はこれまで同様だけど、今度ばかりは相手の方が大きい。『グラップル』で格闘戦を仕掛けつつ、真っ向からのぶつかり合いだけじゃなく『フェイント、カウンター』で虚実を織り交ぜて『時間稼ぎ』。最低限、アリスの脱出までは持たせてみせよう。
相手の大きさも問題だ。機械神を足場にして、敵の上半身部分へ至る突入経路を構築。仲間の侵攻を支援しようか。
安心し給えよ、アリス達。彼の名前こそ【機械仕掛けの神】、御都合主義の権化。その名に恥じぬ戦い振り、今一度見せようか。
ティオレンシア・シーディア
◎★△
ああ、成程。なぁんかやたらとシナリオの出来が悪いと思ったら。
あなた、監督でも脚本家でもなくて…舞台装置、だったのねぇ。どおりで。
さすがにあたしじゃ正面から直接どうこう、ってのはちょっと無理かしらねぇ。
…けど。邪魔な武器を撃ち落とすくらいなら、あたしでも十分できるのよぉ?
飛んでくる刃を片っ端から●鏖殺で〇吹っ飛ばしてアリスたちの直掩するわぁ。鏖殺の射程は半径50m弱。アリスたちの中心にいれば、大分射程内に収められるはずよねぇ?
○コミュ力駆使してあんまり離れないように○言いくるめたいわねぇ。
一緒に行きましょ?
あたしとオブシディアンの弾(手)の届く範囲くらいは、どうにかしてあげるわぁ。
上野・修介
◎★
全員は助けられなかった。
生き残った彼女らも無傷ではない。
故に、これ以上傷つけさせない。
この身、この拳に賭けて送り出す。【覚悟】
――恐れず、迷わず、侮らず
――熱はすべて四肢に込め、心を水鏡に
調息、脱力、戦場を観【視力+第六感+情報収集】据え、敵の戦力、拍子と間合いを量【学習力+戦闘知識+見切り】る。
得物は素手格闘【グラップル】
UCは防御強化。
無駄な動きを抑え、攻撃の軌道を【見切り】、身を盾にし、ひたすら迎撃に徹する。
殺人道具は優先的に破壊、或いは受けて耐え、疑念を感じさせて弱体化を量る
意地でもダメージは見せない。【勇気+激痛耐性+だまし討ち】
送り出すための言葉はない。
ただ、この拳を揮うのみ。
●
右腕を穿たれて。
ああ、ああ、と泣きわめく主催のなんと――狂気的な様か。
泣き声をあげれば耳をつんざき、思わず猟兵たちも耳を塞いでしまう。
まるで壊れたスピーカーのように、喧しい――。
「成る程、成る程。これは予想外だ。そろそろ機械神から降りて、とも思ったけれども……良いだろう。」
コックピッドを揺らされて、たまらずユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)は機体の状況からまず確認した。
彼女が乗る先ほどからの巨機神の損傷率は――モニタが言うには大したことがない。
「――そちらがそう来るのなら、こちらも最後まで応じてやろう。」
最も、この機械神が後ろに背負うアリスたちすべてを護れるとは思っていないユエインである。
大きな機械にはもちろん鼓舞されるアリスもいただろうが、――その機械よりもこの主催は大きいのである。
ただ、先の猟兵たちがダメージソースをはたきだしていく。
ならば、と敵性反応をスキャニングさせ、それから弱点部位の演算を始めさせていくのだ。
むやみやたらにマシンを動かしてアリスを踏んでは笑えない。
かといってこの大きな赤に油断はできぬ。全力で――絶対の破壊をしてやらなくては。
ちらりと、サイドのモニターを見れば猟兵二人がこちらに向かってきている。
やはり彼らも途方もない大きさをしたこの主催相手に、胴攻撃したものかを決めあぐねているらしい。
ならば――。
デウス・エクス・マキナ
「安心し給えよ、アリス達。彼の名前こそ【機械仕掛けの神】、御都合主義の権化。」
主催の悲鳴でない声が、黄昏に響いたのだった。
「その名に恥じぬ戦い振り、今一度見せようか。」
――そうだろう、仲間たち。
その少し前で。
「ああ、成程。なぁんかやたらとシナリオの出来が悪いと思ったら。」
この施設の仕組みになんとなく違和感と、それからちぐはぐ具合を拾い集めていた女がいた。
ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は、己の顎を指で何度か撫でてやりながら鉄臭さの蒸す園内を鼻で嗤う。
「あなた、監督でも脚本家でもなくて、舞台装置、だったのねぇ。」
――どうりで。
めちゃくちゃなことばかりをするわけである。
さしずめ、この主催は自分を最後のアトラクションになると理解していないのだ。
姿を見せて、謝罪する。だなんて気取っているけれど求められているのはそれでない。
顧客である猟兵たちにとって必要なのは「遊具」なのだから、「そのように」映るに決まっているのに。
さて、それでは「殺す」ではなく「壊す」にシフトチェンジして今一度戦況をみやるティオレンシアである。
――どこからつつこうか。
そう考えさせられるのも、彼女は「人間」であるからだ。
サイズ的に見ても、一撃必殺の心得のないティオレンシアには真正面からの戦闘は向いていない。
ならば――アリスに向かおうとする哀れな鉄くずどもをすべて撃ち落とすことを優先すべきだろうかと思い、己の武器に手をかける。
さあ、どう出たものか。相手の一手を待つほうが良いのか。
それに――足元で怯えるアリスたちもうまく連れて行ってやらねばらない。
ひしりとティオレンシアのズボンにしがみついて震える子もいれば、目の前の脅威に凍り付く子だっているのだ。
まとめるのに時間がかかりそうであるがためらってもいられまい。
「一緒に行きましょ?どうにかしてあげるわぁ。」
手
――彼女と、オブシディアンの弾の届く範囲くらいは。
守れるべき範囲で守ろうと、ティオレンシアが己の得物を空へ向けた。
黄昏色に――その鉄が染められる。
戦う決意をしたティオレンシアの横を、ずん、と確かな踏み込みで歩く男がいた。
アリスたちの中心で座り込んで、彼女らの相手をしていた彼である。
真摯で、それからどこまでもまじめな男だ。
上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)は今までの戦果を振り返っていた。
全員は助けられなかった。生き残った彼女らも無傷ではない。
それは、現状――彼の描いた理想の結末とは程遠い。
到着したころにはすでに遅かった?いいや、何の関係があるのだ、そのようなこと。
この修介の拳が届く、その命がそこに在ったのならば、駆けつけてやらねばいけなかったろう。
傷ついて、心まで裂かれたアリスだっている。
泣き叫ぶ主催よりもずっと悲痛な、声にならぬ泣き声がそこにあるではないか。
――ならば。
いいや、故に。
――これ以上傷つけさせない。この身、この拳に賭けて送り出す。
それは、決意よりももっと強い覚悟。
修介の瞳に宿る闘志に、その色が混じる。アリスたちを励ます手が――震える少女たちの頭を優しくなでてから前へと立ち上がらせる。
――恐れず、迷わず、侮らず
――熱はすべて四肢に込め、心を水鏡に
怒り狂う。もう、腸も煮えくり返ってしょうがない。
だからといって、それを力に変えてはただの暴力なのだ。
吸って、吐いて。呼吸を整える。
それから、戦場を見る。脱力し、今一度頭の中を――空っぽにしてから。
目を閉じて、見開いたなら。
【拳は手を以て放つに非ず(ケンハテヲモッテハナツニアラズ)】!!
ぎらりと闘志に燃えた瞳が強く相手を見据える!
戦場に在った仲間の機械が攻撃ののろしをあげたなら、それに躊躇いなく飛び込む修介だ!
ああ、視よ。
この背中を視よ!
少女たちのために飛び込む雄姿を、この男の生きざまを!
ただ前へと、己の拳と意志を信じて覚悟を決めて進むことしか男は知らぬ!
どう、と地面を蹴って駆けていった修介が、機械仕掛けの神の近くまでやってくるのなら。
「いいよ、――行こう!」
ユエインが歓迎する。
生体反応から計算して――彼の体にたまった強化の度合いを見た。
なるほど、防御力を底上げしたか。と確認して勝利へのルートを機神の脳内で計算させる!
「乗って!」
ユエインの声が巨神のスピーカーから聞こえたなら、頷いてからその機体から飛び出すワイヤーにつかまる修介である!
あっという間に引っ張られて――その肩に飛び乗った彼がいた。
よし、と左サイドに拡大で表示される修介のフィジカルを確認してから、ユエインは己の操作パネルをはたきだす!
「行くよ――!」
ごう、と空気を焼きながら!
けたたましく機神はまず――この主催とぶつかりあった!
「ぎぃい、いい、お客様、お客様どうか――お引き取りを!ああ、ああアリス!!アリス――ッッッ!!!」
ご都合主義の機械仕掛けとつかみあって、それからお互いに手を弾きあったなら主催は大きくのけぞって――無数の刃を放つ!
「甘い甘い、冷静に撃つものよォ」
じゃないと、無駄玉になっちゃう。
【鏖殺(アサルト)】!!
しかりと両手を固定して、絶対命中の鉛球を浴びせてやるのはティオレンシアだ!
己の半径50mにあるものをすべて撃ち落とす神業で、アリスたちに至る前に――跳弾も、何もかもを使って確実にランダムの刃を撃ち落とす!!
規則性などはないだろうなと踏んでいたのである。
随分とヒステリーな舞台装置だ、ただ――舞台装置であるからこそわかりやすい。
「射程内だわぁ、ふふ――いいわよ、二人とも!ぶちかましてぇ!」
こちらに、負担はない!
いまだに降り注ぐナイフたちをすべて撃ち落とし、それからたちまち神速でリロード!
撃鉄のたびに足に散らばる薬きょうに、アリスたちが勇気づけられていく。
助かるかもしれない。
負けないかもしれない。
「がんばれ」
一人が、ぽつりとつぶやいたなら。
「がんばって、おねえちゃん!」
「がんばってー!」
「がんばって、機械のひと!」
「がんばっておにいちゃん!!」
――子供たちの声は、勇気に満ちる!
「おやおや、これは――。」
「負けられないわねぇ」
ふ、とコックピッドの上で戦闘指示を出し続けるユエインが笑い。
そして声援を間近で背に受けるティオレンシアも笑う。
この未来たちのすべてが、今彼らにすべてかかっているのだ。
拾った音波をそのまま――肩のスピーカーから、修介に届けてやるユエインがいた。
「聞こえているかい」
「ああ」
修介の返事は短い。
呼吸を乱すわけにはいかないからだ。
――その瞳にやどる闘志と、その燃え盛りが隠せていないのをユエインが笑う。
「じゃあ、頼んだよ!」
どう、と修介の乗った左肩からこぶしを突き出す機械神が!
巨悪を打ち砕かんとして――大きな左の掌で衝撃を吸収された。しかし――!!
追撃に、宙を舞った修介がいたのである。
完全にそれは、主催の予想外であった。
現に、その瞳になろう場所からは修介への注意が集まっていなかった。
ならば。
この男は、――しくじらぬ。
少女たちを送り出すための言葉はない、だけれど――この拳が叫ぶのだ。
生 き ろ 、と―― ! !
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ
!!!!!!!!」
破 砕 ! !
大きく揺らいだ――赤の影が、確かにその頭の一部をまるで大砲か何かで撃ち抜かれたように穴をあけたのである!!
歓声、そして激励。拍手まで沸き起こるさまはまさにヒーローショーだったろうか。
未来を切り開く一撃は、今三人によって果たされた――!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
レイニィ・レッド
◎
やれやれ
…説得なんてガラじゃねーんですけどね
そろそろお帰りの時間です
イイですか、アリス
テメェの帰り道はあそこ、です
辿り着いたらテメェの勝ち
単純明快でしょう
生き残りてェなら頭を使うことです
それは此処から帰っても変わりません
結局は生き残ったモン勝ち
どれだけ生き汚くともね
それだけ忘れなければ
アンタは大丈夫でしょう
…イイでしょう
浴びた雨も十分
最後に名乗っておきましょう
自分は『雨の赤ずきん』
雨を纏い 赤に塗れて現れる――「怪物」です
今まで浴びた紅を糧にして
自分の負傷すらも踏み台にして
化け物になってやりましょう
アリスへ襲い来る刃物は鋏で弾き
デカブツの刃すら足場にして
派手に刻んでやりましょ
●
――大きな風穴を頭にあけて。
やはり機能を止められないのは、彼が絡繰り仕掛けであるがゆえだろう。
哀れなことである、少女を愛し命を求めても、決してどちらかも振り向いてはもらえない。
――同情などもいるまい。
「そろそろお帰りの時間です」
――説得などは、ガラでないのだが。
赤と共に、同じく前を見据えていた狼の少女である。
おそらく赤がこの少女を「説得」せねばならないという内容は、どの猟兵たちとも異なっていただろう。
「にげろって、いうのかッ!」
がぉ、と吠える狼の少女にやはり彼もまた、めんどくさそうな顔をした。
この狼少女は不屈の女である。赤の強い髪の毛は、彼女の野生を余計に彩っているし、何なら黄昏に反射されていっそ美しい。
だけれど――それに気圧されるような彼でない。
ほかの猟兵たちのように寄り添ったり、それから目線を合わせたりはできないのだ。
彼にできることは。
「イイですか、アリス。テメェの帰り道はあそこ、です」
「いやだ」
突き放すこと。
「――辿り着いたらテメェの勝ち。単純明快でしょう」
「さいごまで、たたかうッッ!!」
聞き分けの悪い狼である。
はあ、と何度目かのため息をついて頭をがしがしと掻いた赤だ。
どう――言ったものか。あまり問答いがいの会話は得意でない。まして、猟兵が相手でもない。
だから彼は、「本当のこと」しかこの少女に言ってやれないのだ。
「生き残りてェなら頭を使うことです。それは此処から帰っても変わりません」
狼の少女が、彼の言葉に頭を打たれたような顔をした。
ぴこりぴこりと愛らしくも大きな耳は、きっと――寿命の短い彼女の大きくなった姿が立派であろうと赤に告げる。
「結局は生き残ったモン勝ち。どれだけ生き汚くともね」
しゃきん、と。
彼の証である銀の鋏が空気を斬った。
それを見て、それから赤を見て――狼の少女は閉口する。
ここで、戦ったところで。きっとこの赤頭巾の邪魔になる。
それは分かっているのだけれど、なんで、どうしてこの自分には立ち向かう力がないのだろう。
こどもだから、泣くことでしか不満は訴えられない。
あふれ出てきた涙を片手でこするさまを見て、レッドはまた――この生き物の強かさを見た。
抗う、生き物だ。
己の宿命にも、己の運命にもきっとこのけものは抗うだろう。――この少女は、「大丈夫だ」。
「イイでしょう。浴びた雨も十分。最後に名乗っておきましょう」
カーテンコールは、もういらない。
ひらりと赤のレインコートを翻して、ゴシックめいた衣装に包まれた彼が踵を返す。
アリスの先にあるのが扉で、向こうでは猟兵たちがまだ狂気めいた巨悪と戦っている。
だから、お互いに――止めないし、振り向かない。
為すべきことを成すために前を行く一人の男が、――この、利己主義の権化がひとつ、激励の代わりに笑ったのだった。
レイニィ・レッド(Rainy red・f17810)
「自分は、―― 【 雨 の 赤 ず き ん 】」
この名を聞いたものは、問答される。
汝は――正しいか?
「雨を纏い、赤に塗れて現れる――「怪物」です」
その彼の前で、生き残ったのは「正しい」生き物だけ。
この赤頭巾は、この狼の少女を――「正しい」と、認めてみせたのだ!
「――レイニィ・レッド。わたしは!」
振り返らぬ赤に、狼が吠える。
「わたしは――ユイ!ホン・ユイ――!」
紅の、雨と描いて。
何の因果やらと赤頭巾がもう一つ、鋏を抜いた。
全身の赤が彼に力をもたらす。
すっかり酸化し始めた鉄の匂いすら、すべて引き連れて!!
彼は、このダーク・ヒーローは狼の少女を人知れず扉の前において飛び立っていった!
赤は、振るう!
アリスは一人として逃がさぬと、主催が放った銀を同じく銀色の鋏で無数に落とす!
叩く、蹴る、また鋏で切り落として――赤頭巾をとらえようとした無数の爪をひとつに集めさせたのを両手の鋏でとらえた!
「ああ、ああああ!いま、忌々しいッッ!!」
「そりゃァいい。自分もアンタみたいなのは――クソくらえですよ」
この戦いざまを、見ているか。
狼の少女は目が離せなかった。
扉にしっかりと手をかけたまま――その雄姿を見た。
赤を翻して、赤が刃を握って、米粒のような小ささになっても巨悪の刃を踏んで駆け上っていくのが分かった。
「 ア ン タ は ――正 し く な い ッ ! ! 」
叫びと共に!
・・
無数の死線が走って――主催の体に亀裂が大きく走る!
ばしゅう、と出た赤の液体は紅茶の匂いがして、それが――狼の少女に彼の勝利を知らせたのだ。
雨が、降るだろう。
また紅い雨の中、あの男は笑うのだ。
顔を真っ赤に濡らした、あの男がきっと――また、世界のどこかで現れるのを信じている。
ばたん、と力強く扉がまたひとつ閉められたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
鷲生・嵯泉
何が愉しいものか
何の感慨も無い
いや、お前と云う存在の不快さを実感しただけに過ぎん
……得手では無いが、双子のアリスへ伝える事がある
お前達には他を護る事が出来るだけの強さがある
――振り返らず、扉まで走れるな?
後は此方が引き受けよう
決してアリスの後を追えん様に間へ割り込む
手数を増やすと云うのなら、其れに見合った数に替える迄
視界に捉えたならば逃がしはせん
攻撃は見切りで躱し、或いは武器受けで弾き落とす
多少の傷等、激痛耐性と覚悟で抑え込み前へ
牽制と残像使ったフェイントで死角へ移動し一気に叩く
悪趣味な下卑た遊戯は終いだ
奪うだけの刃なんぞに私の刃を折る事は叶いはせん
此の下らん悪夢ごと死ぬなら独りで死ぬがいい
●
無数の紅茶の雨を降らせ、悲しい悲しいと嘆くそのさまを見てやる金羅刹がいたのだ。
――そらみろ。何が愉しいものか。
嗤ってもやらぬ。
ただこの狂気の絡繰り仕掛けが、ますますおぞましく不快であることしか実感できていない。
正直、得手でない。
説得、というものよりも実行においてその戦果で説得力を上げてきた男である。
鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は双子のアリスにわずかだけ、赤の視線をやった。
二つ揃えでないこの赤も、頭上で泣きわめき悲しむ機械に比べればおぞましくないであろう。
そう踏んだ嵯泉の予想通りに、アリスたちは震えるのをやめて彼を見ていた。
「お前達には他を護る事が出来るだけの強さがある。」
嵯泉の傷を。
双子らは、幾度も癒した存在である。
寄り添いあいながら、体力を削って、恐怖に煽られながらもしかりと互いを握り合って歌う彼らに――少なくとも助けられた。
だから、無責任な物言いではない。本当に、確信があったのだろう。
「――振り返らず、扉まで走れるな?」
物言いが、穏やかだったのはきっと――。
こくりと頷いて、双子がどちらともなく手を繋いで走り出す。
二つの因果とは――不思議なものであるなと嵯泉も目を細めてそれを見送ってから、前を見た。
彼の使命は、感慨に浸ることではない。
「――追わせんぞ。」
ぎりりり、とまるで歯ぎしりをするかのように。
頭のてっぺんちかくにある歯がきしんでいる主催である。客に対する態度ではないなと、金夜叉たる彼が嗤うのもまた不快であったらしい。
「アアア!!ああああ!!!」
暴れ狂う。
身を掻き抱いて、泣き叫ぶさまが女々しくて惨たらしい。
ア リ ス
「 私 た ち の お 客 様 が ッ ッ ッ ッ ! ! 」
お代は命、歓迎は命がけのアトラクション。
――ふざけたことを。
「悪趣味な下卑た遊戯は終いだ。ここで散れ。」
夢の終わりを――宣告する!
黄昏色の世界に照らされて、金色の煌めきとなり走り出した夜叉が踏み込んだ!
アリスを求めて振るわれる銀があるのならば。
「『――形態移行だ。残らず叩き潰す』」
彼の持つ二つの牙は、大きくしなる鞭となる!
一つの瞳で視認するにはあまりにも、十分すぎる量だ。
【破群猟域(ハグンリョウイキ)】!!
右足から踏み込んで、そのまま赤の瞳で空間をとらえた。
視認できる範囲、すべて。上からも横からも正面からもアリスとこの嵯泉ごと貫こうとする刃どもを――打ち砕く!!
しなる剣は蛇腹となって!
足のない獣よろしく――空中を鞭のように飛んでまとめてはたき落とす!!
己に降りかかる分には見切ってしまえばよい。しかし前身は止まない!
前へ、前へと進んでいく嵯泉が諦めを知らないのだ。この主催に諦めてもらうしかあるまい。
ずん、と踏み込んで――そのまま体をつま先を軸にしてから回転させ、銀の刃を躱す!
降りかかる食器のような刃物どもなど、回った勢いで肩を振るえば主催に打ち返す始末だった!!
「奪うだけの刃なんぞに私の刃を折る事は叶いはせん」
こうなることは、必然だ。
奪うだけの――命をもてあそび我欲を満たすためだけの刃に信念などない。
この嵯泉という、生ける剣豪に――その業を背負う男にそのような刃が届くはずもない!
頬を赤で染められた、腕を斬られた、首筋に伝う赤がある。
だからなんだ、なんだというのだ。
こ の 程 度 で 鷲 生 嵯 泉 が 折 れ る と 思 う か !
「――此の下らん悪夢ごと死ぬなら」
無数の刃をはじき返されて、面食らう切り裂き魔である。
ああ、切ることは慣れていても――斬られることは慣れていないらしかった。
ならば。
「独りで死ぬがいい」
この――銀に紛れた金が、地面から飛び出していたことなど気づけまい!
無数の光の反射に隠れた嵯泉が、主催の爪を蛇腹で握って、そのまま歯ぎしりをする口を――叩き切ってやった!!
「ぎゃ、あああああああああ゛ああああァアア―――――ッッッ
!!!!???」
「やかましい。静かに死ねんのか」
振り落とされた金夜叉が嘲笑すらしてやらぬ。
そのまま地面に受け身を伴って転がってやった。
あの双子のことは――諦めてもらう、と剣をまた前へと構える夜叉がいたのだ。
もし、この主催に表情があったのならきっと戦慄していたに違いなかった。
小さく見える嵯泉の影が――夕焼けに照らされて、ずうっと己より大きなものに見えたのだから。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィリヤ・カヤラ
◎★△
隠れてたり動けなくなってるアリスがいたら守りながら、
居なければ敵を止める方だね。
ここまで我慢出来たのに、
ここでアリスが血を流して倒れたら
我慢するのが大変そうだしね。
元の世界に会いたい人や、
愛してくれる人、
やりたい事があるなら帰らないとね。
その扉の向こうにはそれが待ってるからね。
私も強くなる為にやりたくて戦っているし、
ここは頑張らないとね。
『高速詠唱』と『全力魔法』の【四精儀】で
氷の津波を作って攻撃と壁にしてみるよ。
タイミングがあれば【ジャッジメント・クルセイド】も重ねて使うね。
少しでも足を止められたら時間ができるしね。
武器は宵闇を使って距離を確保しつつ、
アリスが全員逃げるまでは粘るよ
●
たまらず、この悪夢が空を覆ってしまったから逃げ出したアリスだっている。
無理もないな、とその背中を追うヴィリヤがいたのだ。
――ヴィリヤも、先ほどから血の匂いに煽られて己の理性が焼き切れそうなのを感じている。
「待って、アリス」
目の前にいる泣きわめく少女だって、もう半分くらいは血袋に見えてしょうがない。
それでも、まだヴィリヤは猟兵であることを捨ててならないのだ。
誇らしい「家族」の本能をけっして疎ましいとも思わない。これこそヴィリヤ・カヤラ(甘味日和・f02681)である証なのだから。
――ここまで我慢できたのに。
もし、アリスがあの畜生に刃を刺されて貫かれたりでもしたら。
――我慢するのが大変そう。
もう、きっと。
あふれだした本能がどんな惨劇を生むのかなんて想像せずとも察しが付く。
だって――ヴィリヤの父が、今までそうしてきたのだ。
『世の中を知って力を付けたら俺を殺しに来い』だなんて世間の何もを知らないような娘に言い放って送り出すような父親が、ヴィリヤを閉じ込めていた城の中でしてきたことを、彼女もまた娘であるから繰り返すことになるだろう。
それは。
――避けなくてはならない。
ようやく、逃げるアリスの肩を掴んだ。
振り返るアリスの顔は、美しいそれである。
「君も、――ダンピール?」
よくよく見てやれば、そのアリスの瞳は瞳孔が狭まっている。
吸血衝動に抗いながら走っていたからか、口からは唾液が糸のようになって垂れているし、目は涙でいっぱいだ。
あふれだした涙すら、――涙は鉄分を含まないだけで、血とは変わらぬ温度があるから――「おしゃぶり」程度にはなるらしい。
己の涙をすすろうと、舌で頬を撫ぜる顔はそれでもやはり恐怖に満ちていた。
「怖いよね。」
私も、とは言葉を続けなかった。
吸血衝動に駆られて、それを我慢できるのはヴィリヤだって「世界」を知ってきたからだ。
経験、知識、それから「狩られる」側の気持ちを知りはじめて、もうそろそろ長いといっていい。
この狂気に満ちた空間に揺蕩う紅茶の色も、そのにおいも、それから――どす黒い血の匂いだって、ヴィリヤは経験があるから耐えられる。
だけれど、この少女はそんなもの耐えられない。
まだ経験がない、まだ知らない刺激なのだ。
「はなし、はなして」
ふるふると首を振る彼女は、己の扉めがけて走っていたわけでないのだ。
ヴィリヤが、肩を掴んでやった彼女を無理やり抱き上げてアリスたちの方向を見た。
――やっぱり。
「皆と一緒に、いれないよね」
もう、きっとこの腕に抱いたダンピールのアリスは、あの中に戻れない。
こくこくと何度もうなずく小さな頭に、ヴィリヤも顎を乗せてやる。その気持ちは――優しいものだよ、と囁いて。
「いい子だね、アリス。」
だから――その視界を覆ってあげよう。
発動されたのは、氷の魔術をかたどった魔術式である!
【四精儀(シセイギ)】――!!
どう、と湧き出た氷の津波が頭上を覆いつくす悪夢をその質量で突き倒した!!
「ォあ―――ッッッ!!?」
鈍い音の後に、降り注いだ紅茶の雨。ああ、これが紅茶でよかった、と安堵するヴィリヤである。
さすがに、仲間の前で本能をあらわにするわけにいかないのだ。
白い軍服めいた服にシミが多数残ったが、まぁなんとかなるだろう、と思いつつあたりを包んだ冷気に手ごたえを感じる。
アリスの視界からは、もう氷の塊しか見えない。
「ねえ、アリス。元の世界に会いたい人や、愛してくれる人、――やりたい事があるなら帰らないとね」
そういうものは、ある?と尋ねてみる。
アリスの今一番やりたいことは「ごはんをたべる」ことだろうが。
――きっと、この優しい半魔の子は。
「ままに、あいたい。」
父親とは、言わないだろうとわかっていた。
「そうだね、じゃあ、扉に行かないと。――ママが待ってるからね。」
同じ業だ。
ヴィリヤとこの半魔のアリスは、きっと同じ道を歩む。
だけれど、彼女は「お母さんっこ」だったのだ。それだけがきっと、二人を大きく分かつだろう。
「ママはどんな人?」
「やさしいけど、からだがよわいの」
「そう。」
穏やかな会話と共に、扉の前にアリスを下した。
「ママによろしくね。」
小さく手を振ってやれば、アリスも――鋭くとがった歯を見せて、手を振った。
「おねえちゃんも、ダンピールなの?」
「まあね。強いよ、私。――だから」
アリスも、きっと大丈夫だよ。だなんて。
無責任な一言だったやもしれない。でもその一言で、優しい嘘だったかもしれないそれで、扉の向こうにアリスが至ったのなら重畳だ。
アリスを送り出したヴィリヤに、無数の刃が放たれる。
ほぼ、反射的にヴィリヤが指先ごとそちらに振り向いたなら!
――す べ て 、 無 か っ た こ と に さ れ る !
【ジャッジメント・クルセイド】!!黄昏からの光がすべての悪意を打ち砕いていた!
「もう遅いよ。」
――もう、手遅れだよ。
氷を打ち破って、這い出てきた主催にあくどい笑みを浮かべてやるのだ。
もう、誰も狂気に至れない。このヴィリヤですら堕ちなかったのだから。
「夢から、醒めて?」
――こ の 半 魔 は 、 揺 る が な い !
大成功
🔵🔵🔵
リーオ・ヘクスマキナ
◎★△
この汽車じゃ、「動けない」アリス達を逃がすには速度が足りないかなぁ
そも、レールが戦闘でボロボロだし
仕方ない。赤頭巾さんに抱えられるだけ抱えて貰って、ダッシュで扉まで行こうか。交戦は最低限、離脱を最優先で、ってね
俺は赤頭巾さんの背の武装ラックを足場に、後ろから来る刃の相手をしておく。多少俺達が傷つくのは織り込み済み
何故と問われても……何故だろうね? 傷つかなくて良い筈の人が傷つくのが嫌なのかも
扉を通った後、君達がどうなるかは分からない
けど、君達は生きてる
生きてるなら、きっと何時か。「何か」を掴めると思う
(―――あの時、俺が殺してしまった彼女と違って)
だから、まずは一歩だけでも進んでみない?
冴木・蜜
◎
最後まで趣味の悪い方ですね
ですが
悪夢は醒めるもの
此処で終わりにしましょう
体内毒を濃縮した上で『無辜』
身体を気化
戦場を見渡し攻撃に備えます
刃が召喚されたら数を確認の上
即座にアリスの傍まで飛び
身体を液状化させた上で庇います
飛び散った飛沫さえ利用し
その刃を全て融かし尽くします
この身が傷付こうが
恐れられようが構いません
毒の身で救えるというのなら
私は喜んで怪物となりましょう
刃の群れが落ち着いたら即座に接敵
これ以上追いかけられぬように
そのか細い脚を融かし落としてしまいましょう
さあ、アリス
これで悪い夢は終わり
あの扉の先にそれぞれの現実が待っている
この夢を超えた貴方達ならきっと大丈夫
●
汽車に乗せられたアリスたちは。
身を寄せ合って怯えているし、先ほどまで戦っていた二人の猟兵たちにすがろうとしてその衣服を掴んでいたほどである。
「うーん……、この汽車じゃ、「動けない」アリス達を逃がすには速度が足りないかなぁ」
そう、己の衣服を引っ張るアリスに合わせてしゃがみこみながら頭上を覆った影を車窓からにらみつけるのはリーオ・ヘクスマキナ(魅入られた約束履行者・f04190)だ。
「最後まで趣味の悪い方ですね。――ですが、悪夢は醒めるものです。」
悍ましい彼ですら。この世界を覆う赤黒はなんとも醜いものに見えてしまう。
ああ、はやく、このような場所から「未来」であるアリスたちを助けてやらねば。
静かなる使命感に燃えながら、黒油たる冴木・蜜(天賦の薬・f15222)はリーオを目で追う。
蜜の白衣につかまるか弱き命たちを、どうにかして扉へと進めてやらねばならない。
しかし――扉、というのは「抽象的」なものだ。
こころのとびら、といのがアリスたちにとっての「脱出口」である。
これを抜けるために彼らのメンタルを整えてやらねばならないが、今はそれに対する十分な時間がない。
では、醒ますためには――どうしたものか。
蜜が目標の達成方法を考えているのは、同じ空間にいたリーオが逃げ道を考えているからである。
「そも、レールが戦闘でボロボロだし――やっぱり、ここは赤頭巾さんかな」
リーオがトランプ兵たちを蹂躙した自分の相棒を眺めながら、的確に活路を開こうとする。
赤頭巾の彼女は先ほどから表で彼女よりも大きな脅威に威嚇を続けていた。
声をかけるには、スムーズなほうがよさそうである。今の彼女はどうやら気が立っているらしい。
【赤■の魔■の加護・「化身のヨン:ブリキの木樵」(パラサイトアヴァターラ・ランバージャック)】で呼び出してからずっとこの狂気の空間にさらしていたのもあるだろうが、なにより振り回される剣斧と杭打ち盾が彼女の怒りをいっぱいいっぱい主張していた。
さて、ならば――蜜と共にアリスたちの説得に回ろうか、としたときである。
がぁん、と汽車が大きく横に揺れた。
「わっ!?」
「アリス!」
粘液の体を保つようにして、ふらついたリーオを受け止めてからアリスたちに声をかける蜜である。
「そこに、いっぱい、お客様がいらっしゃいます、ねぇええ?」
返して、返して。
そこから出して、さいごのおもてなしをさせてくれ。
と、狂気がどうやら訴えとともにこの汽車を「つかんだ」らしい。
大きな手である。しかし、指一本かけている。壊せないことは無い。
「赤頭巾さん――!!おねがい!!」
交戦は最低限。そして離脱は最優先であるべきだ!
この状況下、まして一撃必殺の彼女をリーオが移動手段に使う限りは、――蜜に時間稼ぎを頼むしかない。
できるか、どうか。
その瞳を見たのは、数少ない。この戦況下であっても、彼とのコミュニケーションは薄かった。
だけれど、リーオはずっと見ていたのだ。この蜜が、アリスの身をずううっと案じて、己を削ろうとしたのは。
この空間においても、彼はずっとアリスたちを見ている。リーオに目線を預けないのはリーオが「猟兵」だからだ。
強きものより、弱き者を助けねばならないという使命感はいっそ脅迫めいていて。
――だからこそ、リーオは任せられると信じた。
「おねがいします!」
声を向けられて、蜜が初めて彼を見る。
それから、少し眼鏡の奥の瞳が瞬いて、――頷いた。
「さあ、アリス。」
彼の白衣を握って、恐怖からどうにか身を護ろうとするいのちたちはすっかり蜜を恐れない。
時間はない。じきにこの汽車を握りつぶしてしまうだろう。天井が、ぼこりと手の形に歪みだした。
「これで悪い夢は終わり、あの扉の先にそれぞれの現実が待っている」
ひとりひとりの頭を、なんとか撫でてやる。
「――この夢を超えた貴方達ならきっと大丈夫。」
無責任な一言かもしれない。
だけれど、けしてうそではないのだ。
幼い命たちの心を支えようとした掌は、末端から溶け出しそうなのを何とかこらえていた。
その分だけ、くちからどぶりと黒があふれたが、構うものか。
アリスたちの悲鳴がしたが、今の蜜にはなんら痛みにもならない。
それで、よいのだ。そうあるべきだ――アリスたちの「悪夢」の一部であればよいと、願うばかりであるだろう。
蜜の体は、溶けだしていた。
「『救うために 私は怪物となりましょう』」
【無辜(ポワゾン)】!!
体を気化させた真っ黒な霧の彼が、窓から飛び出していく。
ひい、とか、きゃあ、とか喚く声を置き去りにしようと――すべてを飛び出していこうとしたときに。
「がんばって」
かすかな、声が聞こえた。溶けて液状になり、残った意識で声の主を見た。
さきほどから、たった一人ずっと、蜜の白衣を握るアリスがいたのだ。
感情の薄い子だとは思っていた、もしくは――情緒が少し欠けている仔であろう。
きっと、彼女だって現実に戻れば蜜と同じく「つまはじき」にされるのは想像にたやすい。
しかし、だけれど、――それを止めるのは、許されないのだ。
この悪夢が、蜜の体がせめて彼女を、いつかふと思い出す夢の一部であればよいと願う。
蜜を送り出す顔が「わらっていた」のはきっと、真っ黒の彼が――たった一人の弱きこころを救えたからに違いないのだから。
「行こう!!」
リーオが急いでアリスたちを誘導する。
たちまちアリスたちは叫びながら赤頭巾の彼女につかまっていった。
上へ、上へ、脚をもつれさせながらも逃げようとする彼女たちに手を貸してやりながら――リーオが後ろを振り向けば!
真っ黒な彼に手を溶かされて、泣きわめく赤黒があった。
「あああ!あああああ!!あつい、あついッ!!アリス、どうか、どうか最後まで――!!」
身もだえ、苦しむ。
――そのさまのなんと、哀れなことだろう。
こんな茶番に付き合ってやる必要もない、と切り捨ててリーオは、子供たちの背中を押してやった。
すべてが乗ったのならば、あとは赤頭巾の彼女に走ってもらうだけだ!
「おっと――そう簡単にはいかないか!」
赤頭巾の彼女に備わった、背中の武装ラックに足を乗せつつも――やはり黒い彼を振り切ってでも飛んでくる無数の刃がある。
すべて撃ち落としてやらねば!
身の丈よりもある銃火器を構えたならば、己の体を切り刻まれることは無視して――撃つ!撃ち込む!!
赤頭巾がその腕で彼らを守っているのだ、ならばリーオがすべてを撃ち落とす気であらねばらない。
利己主義なのだ、本来は。
傷つかなくて良い筈の人が傷つくのが嫌なだけである。そのはずだ。
だから――この行為にためらいはない!
どう、どう、どう!と撃ち落とされる銀たちのほかに、大気に乗ってやってくる黒が飛来する!
その黒が――脅威を溶かす、溶かしつくしていく!
「ありがとう!」
蜜のおかげだ。
確信をもってリーオが礼をいえば、その黒がどう思ったかは――表情がないのでわからないが。
少なくとも、きっと勢いを増してくれたのだ。喜んだのだろう。
ようやく、相手の手も衰えたところで赤頭巾の彼女からアリスたちが降ろされていく。
ああ、怖い。もういやだ、と泣く子供たちがやはり多い。
――蜜になついていた一人を除いては、皆が「今から救われる」ことなど理解できていなかった。
無理もない。だが、――リーオは最後の「説得」に出る。
「不安だよね。申し訳ないけど、俺にも扉を通った後、君達がどうなるかは分からない」
事実だ。その後の保証はできない。
ぎゅ、とした唇をかんだ。銃火器をおろして、彼女らに向き合う。
「けど、君達は生きてる。」
死んでいない。
死なない限りは、こうしてリーオのように前へ歩ける。
「生きてるなら、きっと何時か。「何か」を掴めると思う。」
死んでしまったら――いつかのあの日、リーオが殺してしまった「彼女」のように「なにも掴めない」。
だから、どうか。
まだ歩ける二つの脚があって、その命があるのなら。
「まずは一歩だけでも進んでみない?」
苦難ばかりで、いいじゃないか。
――できることばかりがあるじゃないか。まだ、この人生をたった一度の悪夢で諦めるには早すぎる。
「これは夢だよ。でも、忘れないで。」
――君たちには、明日があるよ。
おさないこころに、その一言はあまりにも意味が大きすぎる。
だからこそ、純粋に。
だからこそ、無駄なく伝わったのだろう。
アリスたちが、不安げにしながらも――あしたを信じている。
「アリス!アリス待って――どうか!!どうかァ!!!」
その口を覆うように、黒が舌から流れ込んでやれば血反吐をまき散らすばかりで。
ああ、愛とは程遠い!
己よりも――腐ったことを言う口を、蜜が溶かしてやったのだった。
「ばいばい、ありがとう、おにいちゃん」
ささやかな声は、大気をもたゆたう黒に聞こえただろうか。
未来の数だけ、扉は旅立っていく!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
遊星・覧
◎★
アア、上がやっと出てきたネ
こーんな悪趣味なことして、自分が楽しんで
遊園地に、ココ作った愉快な仲間に、
何よりアリスに土下座して謝れっての
◆
ココは現実だけど、悪夢だったってことにしてあげなきゃネ
ピンマイクの出力ヨシ、喉のコンディションもバッチリオーケー!
【シンフォニック・キュア】!
ご来場のお客サマ。こちら閉園時間となりましたァ
どうぞご用意しております扉を抜けて、お家にお帰り下さい
「また」のご来園は必要ありません、どうか良いお目覚めを!
後は図体のデカい主催にガンガン狙撃!
カラフルに塗って塗って、夢みたいな色にしまショ
◆
遊園地はサ、ホントは超楽しいトコだから
帰ったら「本物」に行ってくれるといいなァ
非在・究子
ま、まあまあ、楽しい、アトラクション、だったか……ちょ、ちょっと、悪趣味なのは、好みに、外れるけど、な。
……ほ、ほら、さっさと、いけ、よ。
お、お前たちは、ちょっとばかり、勇気を、見せて、ゴールまで、突っ走る。
あ、アタシ達は、あのウエメセ主催者を、引き摺り下ろして、刃を叩き折って、ブチのめす。
そ、そしたら、予定調和の、ハッピーエンドで、万々歳、よ、余裕でクリアだ。
と、と言うわけで、最後は、派手に、パーティタイムと、いこうじゃ、ないか。
ちょ、ちょうどいい、ドレスも、あるし、な。(そうして、UCで重火器を満載した、強化外骨格を呼び出し搭乗)
そ、それじゃあ、レッツ、パーリィ、猟兵魂を、見せて、やる。
●
おお、おお、と嘆く山のような彼に。
もの申したい彼が居たのだ。
「アア、上がやっと出てきたネ」
はあ、と重苦しいため息をついて前へ出てきた彼である。手にはしっかりとメガホンをもって、一度マイクテストをかねてハウリングさせてみた。
「――?」
高い音を拾ったのか、主催がさめざめと泣きながら、口から毒を吐いて苦しんでいる。
その視線が遊星・覧(夢・f18785)をようやっととらえて――にやりと笑って見せた。
「言いたいこと、いわせてもらうヨ」
彼は、遊園地のヤドリガミである。
彼がまだ「機能していた」ころは、そこそこに栄えていたのだ。
休日になると決まって人は増えたし、覧の中で働くキャスト達も日々あくせくしながら額に汗を浮かべて笑っていたのである。
お客様も、それから従業員も幸せになれる場所として、覧は――兎熊FP(トグマファミリーパーク)はそこに在った。
「アンタ、経営者失格!」
がう、と吠えて指さしてやる彼である。
きぃいん、とやはり強くハウリングをさせてやって、少々がびがびとした音質に咳払いが混じった。
「こーんな悪趣味なことして、自分が楽しんで。遊園地に、ココ作った愉快な仲間に。」
大きく身振り手振り、それこそ誰にでも見えるように。
彼は主張したいのだ、こんなところに――こんなところを、遊園地だなんて掲げやがって!
「――何よりアリスに土下座して謝れっての!」
遊園地はこのような場所ではない!
めいいっぱい腕を振って主張する彼がいたのを――遠くから非在・究子(非実在少女Q・f14901)が聞いていたのだ。
ただしくは、ハウリングの音に何事かと思って飛び込んできたともいう。
――究子としては。
まあまあ、愉しいアトラクションだったとは思うのだ。
無数にやってくるエネミーたちとの殺し合いはハイスコア。リザルト結果は文句なしのSSS。
何の不満もないどころか、愉しんで過ごしていた彼女である。――しいて言うなら、悪趣味なのは好みに外れるが。
しかし、考えても見れば。
「た、たの、たのしくない、なら――い、いみ、ない、な。」
ゲーム大会なのだ、ここは。
それぞれの猟兵たちが多くアリスを救い、エネミーを妥当し、戦果をあげる。
それを見ているオーディエンスたるアリスたちが、喜んでいるかどうなのかも大事なのだ。
プレイヤーである猟兵たちのモチベーションにもかかわる、すなわちそれは――チームとしてのリザルト結果にも関わる。
ならば、ならば。
「ピンマイクの出力ヨシ、ン、ンン゛ッ――喉のコンディションもバッチリオーケー!」
ここは、現実だったけれど、悪夢だったということにしてあげよう。
派手な髪をした覧が、この場を面白おかしくしてやらねばと思うように。
究子もまた、己の為すべきことをしてやろうと思う。振り返った先に、まだ扉へ至れず汽車へもたれかかって小さくなっているアリスたちがいた。
三人程度なら――究子でもきっと、どうってことない。
「ご来場のお客サマ。こちら閉園時間となりましたァ!」
かぁん、とするどい音が響いて。
それが覧の声だと――オウガであるこの切り裂き魔が理解するのに時間がかかる。
「どうぞご用意しております扉を抜けて、お家にお帰り下さい」
不思議なことに。
この覧の一言が、どうにこうにも――アリスたちには穏やかな呼吸をもたらすのだ。
家に帰れる。
おうちにかえれるの、とみんなで寄り添いながら顔を見合わせる彼らに気づいて、覧がひとつウィンクをして。
「「また」のご来園は必要ありません、どうか良いお目覚めを!」
閉園アナウンス
これこそ、彼の【シンフォニック・キュア】!!
その一言と共に――彼がもう片方の腕で握っていたペンキの弾丸で主催の体を面白おかしくぬりたくってやるのだ!
花火も用意できないなら、せめてからだを花火のように彩ってやろう――!
人を楽しませるのは、まず「視覚」から。
「印象ってダイジ。覚えとけッ!」
覧がまた――どどうと極彩色をぶちまけていた!
「き、き、聞こえただろ。……ほ、ほら、さっさと、いけ、よ。」
彼女らの扉なのだろう、それぞれの髪色で分けられた扉に向けて究子が案内している。
彩られる悪夢が泣き叫んでいても、すっかり面白おかしく染められていて恐怖はないのだ。
ただ、やはり魅入ってしまうものだから。
「お、お前たちは、ちょっとばかり、勇気を、見せて、ゴールまで、突っ走る。」
簡単なゲーム説明を、身振り手振り。
究子の大きさはアリスたちとそう変わらない。体つきくらいだと思うが――それは彼女が「キャラクター」だから致し方ないのだ。
大きく揺れて注目を集めた究子に、アリスたちがようやく意識を集中させた。
びく、と緊張でこわばってから。
「あ、アタシ達は、あのウエメセ主催者を、引き摺り下ろして、刃を叩き折って、ブチのめす。そ、そしたら、予定調和の、ハッピーエンドで、万々歳、よ、余裕でクリアだ。」
オーケイ?
尋ねてみれば、アリスたちは「ゲーム」という印象の軽さを受け入れたようである。
「そっか、これ、ゲームなんだ」
「そうだよ、そう」
「じゃあ、逃げたら勝ち?」
子供は――楽しいことに恐ろしいほど弱い。
うまく好奇心に刺激を与えてやれたことに動揺しつつも頷く究子である。
「そ、そうだよ、そういう、こと。できる、できるよな?」
こくり。
三つの首が、覧の一声と最後のアトラクションを改めて説明する究子に従順な反応を見せたところで。
「そ、それじゃあ、――は、走れッッッ!!」
きゃあ、と蜘蛛の子を散らしたように。
それから究子が――己のコードを発動させた!
「ふ、ふぃ、フィナーレだ。じゃ、じゃあ、ち、ちょっとばかし、サ、サービスし、しよう。ドレスもあるし、な。」
――まるで、彼女の太腿から突き出たのはクリノリンのように。
【SSR衣装・武装少女(エスエスレアイショウ・アームドガール)】!!
そのクリノリンどもに――がしゃがしゃと取り付けられた武器たちがすべて主催へと向けられる!
「そ、それじゃあ、レッツ、パーリィ、猟兵魂を、見せて、やる――!」
どん、どん、ぱん。
「っわぁ」
アリスたちが、扉の手前で後ろを振り返った。
まるで花火が、まき散らされているように。
悪夢の一部一部に大穴が開いていく。みるみるうちに西の空を覆っていた黒が消えてなくなっていくのが圧巻だった。
――遊園地はサ、ホントは超楽しいトコだから。
そんな彼の願いが届いたかどうかは、わからない。
このアリスたちが帰る場所に、そしてその世界に――遊園地があるかどうかも。
だけれど、願わざるを得ないのは彼が「遊園地」だからだろう。
「帰ったら「本物」に行ってくれるといいなァ!」
最後まで、笑って!
キャストたる覧が笑顔でペンキを打ち上げれば、それを究子が銃撃で破裂させる!
飛び散るインクで赤黒いホラーテイストなアトラクションをきれいに染めてやるのだ。
「ぐ、ぐひひ、ひひ!――お、お似合い、だぞ!」
意地悪く下世話に笑ってやる究子が空中を爆裂と共に自由に飛び回る。
どんどん、ぱらら。
打ち上げられる花火を名残惜しそうにしながら、小さな未来たちはゆっくり扉を閉めていく。
此処にいるべきではない、そんな自分たちへの――さようならの合図を確かに記憶に刻んだのだった。
さようなら、アリス。
どうか――この夢の最期が、面白おかしかったことだけを覚えていて!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
辻森・朝霏
◎
感じ取ってはいたのだけれど
趣味は合わなそうね
自分でした方が余程…いえもしかしたら
悩み、苦しむ私達こそ
眺めたかった光景かもしれないけど
そんな柔な精神、持ち合わせてないの
残念ね
それに今は、こっちの気分
ねえアリス
私と逃避行、しましょ?
拾ったあの女の子と、もう一人…
可能ならもう幾人か、見繕って
鬼ごっこの対象にならない様、静かに素早く
これで最後だから、きっとお家に帰れるからねと
此方への攻撃はナイフで応戦
彼、爪剥ぎで痛みは感じるのかしら
また会うときは、分からない
またいつか、なんてない方がいい
感傷はない
所詮は快楽のそれ
でも今は愛を込めて
こう皮肉りましょう
ばいばい
哀れなアリス達
私達に、見つからないといいわね
●
殺人には、センスが必要である。
人を殺すというのは、自己表現だ。
それは――辻森・朝霏(あさやけ・f19712)と「彼」にも当てはまる。
むやみやたらに、乱暴に殺しているような知能のない世間一般で言われる通り魔にだって、その行為にメッセージがある。
――喩えるのなら。
残虐な犯罪犯ほど、その過去は大多数から見れば壮絶だ。
日常的な虐待、存在の否定、アイデンティティの崩壊、子供の時に与えられるべきだった幸福、愛、安全、健康――。
すべてを奪われて獣となった彼らに必要なのは「同情」ではない。
己がどう感じて、何に不満をもって、どう表現するか――そのツールが「殺人」なのだ。
不器用な生き物たちである。そして、それは認められるべきでない表現なのだ。
その熱量で別のことを、どうしてやらなかったのだと責める声はご尤もである。だが、「そうしかできない」彼らが生まれてしまったのだ。
彼らの「センス」は、「殺人」という表現においてずば抜けている。
この朝霏にだって――。
そんな、壮絶な出来事というのはもしかしたらあったり、なかったりするのやもしれないが。
皆に気づかれない、教室の隅で難しそうな本を読んで物憂げな表情をする美しい風景が似合うように「擬態」してみせているように。
退屈に憂うだけで、その退屈に我慢が出来なければ――「殺人鬼」となるだけである。
時は金なり、時間は人生の長さだけ。
その手首に錠がされ、首に縄が巻かれるかもしれないその瞬間までの命にとって、「暇」というのはあってはならない。
――趣味は合わなさそうね。
朝霏が、そう思ったのは。
この主催が嘆き苦しみ、もがき。わあわあと泣いているさまを視たからである。
体中をばかばかしく極彩色で染められて、挙句の果てに花火なんて挙げられている。
まるで、出来の悪い人形劇でも見ているような気がしたのだ。――くだらない。
朝霏が、この主催だったなら。
きっとこの惨状をもっと良いものにできていたに違いない。
たとえばそう。こちらに飛んでくるナイフを、同じくナイフで応戦して見せる朝霏のほうがきっとこの主催よりもひとを「いじめる」センスがあるのだ。
コードを使わずとも、朝霏は的確に雨のように降ってくるナイフたちを「必要最低限」弾き飛ばす。
その背にはやはり、アリスたちがいたのだ。
彼女が観覧車で拾った一人のアリスと、それからもう数人。
三人ほどを引き連れる彼女にも等しく「ハイエナ」共が群がるのも仕方あるまい。
――もっともっと、悩ませたし苦しめたというのに。
この惨状に心を痛めた猟兵たちは多かった。
いいや、むしろ――そうでなければ困る。猟兵たるもの「正義」であるのが普通なのだ。
朝霏「たち」のように、この場を冷静に評価するほうがちゃんちゃらおかしいのである。
しかし、そうせざるを得ない理由があるだろうと。また、朝霏は軽く体を動かしてやれば勢い任せに銀のハイエナどもを叩き落していった。
なんてことはない――。
所詮、「頭を使わない」欲求に満ちただけの暴力である。
本当は、この場が「朝霏のものであれば」もっともっと劇的な暴力にしてやっただろう。
多くの猟兵たちが嘆き悲しむような「アトラクション」にできていたはずなのだ。
ああ――なんて、手ぬるい。
「残念ね。」
朝霏が困ったように眉を寄せてやれば、アリスたちはぞくりと身を寄せ合っていた。
銀どもをはたき落とした彼女に襲い掛かる「爪」を――。
「センスがないわ。」
朝霏は!
ばぎ。と破砕音がして――絶叫が黄昏に響く!
「ああああああああああああああああああッッッッ
!!!!????」
先ほど一本、爪を折られた。
それとは別に、次は確実に穿たんとして一点に集中させてから朝霏に放った爪たちが、す べ て 剥 が れ て い た の で あ る !
ああ、どうやらあんなナリでも痛いものは痛いらしい。その点においては、己の技術が活かせそうで安堵する朝霏である。
金髪をかきあげて――アリスらへ振り向いてやる。
戦慄、のち、硬直。と、いったところだろう。ふわりと笑った朝霏の蒼すら恐ろしいらしい。
「ねえアリス。私と逃避行、しましょ?」
――知らない人には、ついていってはいけません。
「これで最後だから、きっとお家に帰れるからね」
――怪しい人には、近寄らないようにしましょう。
ああ、やはり。
この小さな命たちは、好奇心と恐怖心に煽られてこの殺人鬼についていってしまうのである。
どこまでも、どこまでも狙われやすい哀れな小鹿たちが、まるでハーメルンにつれられるがごとくあさやけの彼女に導かれていく。
絶叫の主に隠れるようにして、物陰と猟兵たちの間を縫って当たり前のように突っ切っていくのだ。
「あたりまえ」に忍ぶことに慣れすぎているこの悪鬼は――いっそ、今は存在すら忘れられていたやも知れない。
この行為に感傷や感動などは持ち合わせていない彼女である。
もとより、己のやりたいことを好きにやる――わがまますぎるような彼女なのだ。
また会うときは、わからない。
またいつか、なんてないほうがいい。
手を繋いで歩いてやったところで、次にきっとこの命たちと巡り合うのは「血まみれ」の彼女やもしれない。
それでも、このアリスたちが彼女をあっけなく信頼して着いていったのは――「今は助かる」だからだろう。
そうだ、それでいいのだ。この殺人鬼だって止まらずにアーチの向こうへ案内してやる。
アリスたちがようやく三人とも、それぞれの扉の前に立ったところで。
そのまま送り出すのは、何かもったいない気もした。
――やりたいことを、無駄にしないうちに告げるのだ。暇は、嫌いだから。
「ばいばい。哀れなアリス達。」
愛しき、弱弱しいあなたたちへ。
「――私達に、見つからないといいわね。」
きっと、アリスたちが扉を閉めるときに見たのは。
花火と、おもしろおかしくなった悪夢の主犯と。
――夢から醒めても、灼け付くような。
おそろしい「アイ」の籠った、鬼の顔に違いないのだった。
大成功
🔵🔵🔵
コノハ・ライゼ
◎
双子を扉へ送る
賢い、そして勇気あるコ達
巫山戯た悪夢はもうオシマイ、コレでサヨナラ
まるでオレと正反対な力持つキミ達は
自分達自身の明日の為、あの扉をくぐれるデショ?
なあに守ってくれたお礼代わり
盾となりどんな刃も防いでみせマショ
子供をタダ働きさせたとあっちゃあ、名前に傷がつくもの
さあ、と死角となり易い経路を探し示す
双子をかばい【彩雨】降らせ
敵の刃は針重ねた上にオーラ纏わせ盾とし防ぎ
防ぎ損ねた分は「柘榴」振るい弾き落としてくネ
マヒを乗せた針をまとめて腕を破壊する勢いで狙い撃ち込み
即座に続け降らせる針は細く鋭く傷口を狙い刺し込んで、その生命を啜ろう
在ってはいけないモノの戯言に、易々付き合う気はねぇのよ
●
金色の夜叉に送り出されて、なんとか走って逃げ出していた双子たちである。
はあ、はあ、と息を切らしてしまうのは、後ろの脅威からだ。
狂気の主犯が叫ぶたびに鼓膜は揺さぶられるし、逃げても逃げても追いつかれてしまう気がする。けして、猟兵たちを信じていないわけではないのに――!
よわいから。わたしたちが、よわいから!
駆けだす足がもつれそうになって、お互いを支え合う腕などは震えはじめていて。
――ああ、なんで。どうして私たちは、戦う力がないのだろう。
もし戦えていたのなら。
この真上から降る――大きな刃たちを跳ねのけていただろうか。
「ひ、」
どちらともなく、片割れの小さな悲鳴を聞いてしまって涙をあふれさせる。
どうしよう、どうしよう。癒すだけの彼らに――抗う手段はない!
勢いをつけて無数の銀は、悪夢の主催が妄執と共に放つ軌道で双つのアリスに向かうッ!
「在ってはいけないモノの戯言に、易々付き合う気はねぇのよ」
ぎゃいん、と。
悲鳴のような、それから弾かれるような鉄の音がして。
脅威と結末を恐れて、瞼をきつく閉じていた双子が――顔を、あげた。
双子にふりかかる身勝手で下品な鉄くずどもをすべて叩き落して見せたのは、コノハ・ライゼ(空々・f03130)!!
これは、この双子が先ほど己と金夜叉を守ってくれた礼である。
「子供をタダ働きさせたとあっちゃあ、名前に傷がつくもの」
――それはきっと、「あの人」だって行ったりはしないだろうから。
「どんな刃も防いでみせマショ。」
ウィンク一つ、双子たちに初対面のころと変わらぬ余裕で微笑んでやる。
しかし一度の波を防いだところで、やはり遠方まで追いやられつつある主催はアリスたちを諦めきっていないらしい!
「どうか、ああ、どうか――そのおふたりだけでも!!!」
「やァだね。」
べ、と舌を出してから。手にしていた鉱石がごとく鋭い牙を持つ短剣を右一本、掲げてやるライゼがいた。
双子を後ろに隠れさせながら、やはり――余裕めいた笑みを崩さぬ彼である。
ここで彼が、わかりやすい威嚇に出たならば。
きっとその彼をも、弱弱しい彼女らは恐れてしまうだろう。
それは――よろしくない。だから、ライゼは最初から最後まで笑っていてやるのだ。
「いったでショ。易々付き合ってやる気はねぇって――!!」
降り注ぐは、【彩雨(アヤアメ)】!!
水晶のきらめきを保った、氷の細長い針たちが――どんどん密集しては大きくなる。
そして。
そのまま、主催の左肩から腕が消し飛んだ。
「ァ――!?」
いいや、正しくは絶対の質量で穿たれたのである!
まるでロケットのように吹っ飛んでいった氷の針が目にも止まらぬ速さで――黄昏色に砕け散りながら撃ちだされたのならばいっそそれは「杭」となったのだ!
何が起きたのか。
さっぱり――主催も、この双子のアリスたちもわかっていなかったのをいいことに。
「行こう!」
ライゼが二人をつれて、茫然としながらも痛みに悶えだした主催の死角に潜り込む!
見えないだろう、と思っていたのだ。
傾いた帽子が隠す側の――おそらく、顔面に在るだろう視覚に至ればさすがに反射も遅れるに違いない。
もし襲い掛かってくるしつこい刃があるのならば、はたき落としてやろうとライゼが両手にナイフを握りながら、ほぼ平行するようにして双子と走ってやる。
後ろを走らせて、もし襲われたならば助けられない。
前を走らせてのんびりしていては時間がないのだ。
――並走こそ。スムーズな移動を冷静な対応が求められるがいちばん「はやい」!
「きゃ――」
アリスの頭上をかすめる刃は針がまず一度ぶち当たって勢いを落とす。
それをかっさらうのがライゼの握る「柘榴」であった!
びゅ、と空気を薙いで一本落とせばリズムよく他方向からも降る悪意を落としていく。
デタラメ
動きが不規則だったのを蒼がしかととらえてから。
正確に放てないのは、先ほどの針にしかと小針も追撃て追わせておいたライゼである。ぬかりない。――麻痺毒を仕込んでおいた。
うまく腕も頭も回るまい。この狐を侮るなかれ!と心中で嗤ってから。
「ヤケおこしてるネ。大丈夫、もう少しだよ」
双子に、微笑んでやる。
双子は、その笑みにやはり頷くしかできないのだ。
眼前にようやく迫ってきた扉に顔を明るくして、もうひと頑張りの走りを見せる。
同じく、ライゼもすべての脅威を――一度、遮断しきってしまおうと大きく「針」をそびえたたせた!
四方を囲んで、今やライゼと双子の特別空間である。冷えた空気が、ようやく蒸すそれを落ち着かせてくれて。
「はあ、はぁっ」
息荒く、噎せながら地面にうずくまった双子たちと、少し肩を上下させるライゼに沈黙を与えたのだった。
「やー、走った。走ったネ」
はは、と笑うライゼの笑顔はどこかさわやかで。走らせてごめんネ、なんて――やはり愛想よい一言が付いてくる。
ぶんぶんと首を勢いよく振る双子もなつくわけだ。
彼は、この二人に敬意をもって――ずっと、接し続けていたのだから。
子供は。
幼ければ幼いほど、「第六感」に優れているのだという。正しくは、危険予知や察知能力というべきかもしれないが。
生き抜くために鋭敏なそれらは、大人の感情をも鋭く拾ってしまうから。
先ほどの殺人鬼に怯える幼い命もあれば――こうして、ライゼの敬意に従って、彼への警戒を完全に解くこともできるのである。
「賢い、そして勇気あるコ達。」
囲われた空間の遠くで、やはりまだ戦いの音が聞こえる。
ああ――しかし、佳境だろう。
双子を交互に見てから、ライゼが穏やかに笑えた。
「巫山戯た悪夢はもうオシマイ、コレでサヨナラ。」
もう大丈夫。
しゃがみこんで、二人の小さな肩を掌で優しくぽんぽんと撫ぜてやる。
「まるでオレと正反対な力持つキミ達は、自分達自身の明日の為、――あの扉をくぐれるデショ?」
ライゼが見た先に在るのは。
双子と接するようにして間近にある二人分の大きな扉である。
ここから帰った世界は、何処だろう。ライゼが往くことのできる世界だろうか。
――想像もつかないが、彼らが明日も笑顔であることは考えられる。
それだけが、今のライゼにとっては充実感があったのだけれど。
「ううん」
「ううん、お兄ちゃん。あのね」
双子が、何かを訴えたいように首を振る。
「わたしたち、おにいちゃんにつよいの、おしえてもらったよ!」
「針が、どーんって、ばーんって。すごかったよ!」
ぱちくりと呆けるライゼを、せわしなく体精一杯で褒める彼らである。
ああ、なんだ――ちゃんと、そんな顔もできたんじゃないか。
楽しかったと、生きていてよかったと。嘘偽りなくを喜ぶ双子の彼らに、ライゼもまた――きっと。偽りなく微笑めたことだろう。
この話が、悪夢であってもきっと心は真実なのだ。
人を癒せるあの双子が、力をつけたならどれだけの人を助けられるだろう。
――いいや、もしかしたら。
この不定形な彼だって、助けられたのやもしれなかった。
「さて、ラストスパートだネ。――はりきって、ドーゾ。」
双子の扉が閉まって、消えていくのを見送ってから己の針を打ち砕く彼である。
ライゼの隣を。
彼の髪の毛がなびくほどの速さで!
さあ、いざ後夜祭を始めんと――、勢いよく飛び出す猟兵たちがいた!
大成功
🔵🔵🔵
水衛・巽
【大喝采B】◎★△
穂結さん達の前に出て、高速詠唱による【騰駝奈落】で切り裂き魔を狙う
お出まし下さったからには
早急に王座から退いてもらいます
ねえ、悪趣味な城主殿
切り裂き魔の弱そうな部分を第六感と戦闘知識で狙い撃ち
鎧無視と鎧砕きで貫通力も出しましょう
特にあの悪趣味な両手は早いうちに対処したい所
扉へ向かうアリスは常に背後に置き刃は決して漏らさない
その無駄に大きな図体をもってしても
猟兵が阻むかぎりアリスには一指も触れられませんよ
残念でしたね
まっすぐ走りなさい、振り返ってはいけない
この世界はパンドラの匣
あの扉は匣の底の向こう側
悪い夢と絶望はここに置いて
貴方の世界へ帰りなさい
穂結・神楽耶
【大喝祭B】◎★△
遊園地を謳う割にアナログな遊び方で締めますね…。
いえ、鬼ごっこ自体は嫌いじゃないのですけれど。
…さすがに耳が潰されると平衡感覚が馬鹿になりますね。
走れそうにありません。
ギュネス様。
魔と闇を祓うは炎と光と申しますね。
炎の加護を授けます。
ですのでわたくしの『本体』、連れて行ってくださいますか?
アリス様方。
もし、勇気が出ないのならば。
どうか見て行ってください、未来を守る希望の姿を。
そして、少しでも勇気が出たら扉へ向かってください。
大丈夫。わたくしたちが届かせますから。
是は悪しきを断つもの。善きを結ぶ刃なれば。
今こそ人の祈りを結びましょう──【緋結乙女】。
鳴宮・匡
【大喝祭B】
……優しい言葉なんて、持ち合わせちゃいないけど
生きることを諦めてないんなら、走りな
心配すんな
あのデカブツは絶対にお前らに追いつけない
何故って? ――ここで消えるからだよ
あとは振り返らずに仕事をするよ
【見切り】【聞き耳】を含めた全知覚を総動員して
戦場全体を「視る」
飛び交う刃の数、軌道
到達する順と到達予測時間を把握
早い順から狙撃し、墜としていく
一つたりとも届かせない
刃を撃ち落とすに紛れさせて
目玉や舌、刃物を持つ腕など
知覚・行動の要となる部位への狙撃を交える
全て当たれば相手の手を封じられるし
そうでなくとも相応に攻撃力は削れるからな
――さて
そのナマクラ、まだ「無敵」だって本当に思ってる?
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【大喝祭B】
この私を相手に鬼ごっことは
ふはは、ならば見せてやる
本物の鬼って奴をな
【灰燼色の呪い】を発動する
動きを止められればそれで構わん
何しろこちらには、腕利きの連中がついているのだからな
降りかかるものは全て『見切り』で躱そう
アリスに向かいそうならばこの身で『かばう』
でかいだけの翼が役に立つのは、こういうときだけだ
さァ見せてみろ
この場に満ちる無数の『呪詛』が
この場を覆う無数の怨嗟が
貴様の心を食い潰すさまを
絶望は存分に見たか、アリスたち
ならば私から言うことは一つだけだ
痛くとも、苦しくとも
――世界は愛と希望に満ちている
さァ走れ
貴様らの未来は、あるべき世界は
すぐそこに用意されているのだからな
ネグル・ギュネス
【大喝祭B】◎★△
貴様の遊戯にも、戯言にも興味は無い
さあ、懺悔の用意は出来ているか!
行こう、穂結さん
私の破魔と、貴女の炎で、必ず断ち切る
アリスには───ああ、口下手な自分が言えるのは、これだけだ
『オレ』を信じろ
全員救うし、敵も倒す
大事なのは、信じることだから、…あとはオレに任せておけ!
【ダッシュ】で敵に詰め寄りながら、【残像】を以って分身しながら、敵の撹乱
ご自慢の道具は、オレを殺せぬナマクラだ
そして見せよう、我が記憶に眠りし刃を
天に雷鳴、地に炎。結びて紡げ、紡いで祓え!
───【破魔の断・雷光一閃】!
雷鳴の如き速度で閃き、斬り裂いた敵は、結びた炎で闇を焼く
アリス達が受けた苦しみ、ここで精算しな!
●
――きぃん、と。
やはり耳は使い物にならない。走り出した己の平衡感覚が狂わされていることに、穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)は思わず眉をひそめた。
遊園地を謳う割にはアナログな遊び方であるが「主催自らもてなしたい」と叫んだ彼の悲愴すら、聞き届けるのも難しい。
耳鳴りはまるで壊れたマイクを内耳に充てられるように反響してしまう。
走れそうになく、他三人が飛び出すなか一人だけ彼女に合わせて動くのはネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)だ。
「行こう、穂結さん!」
せめて、口の動きでだけでも「読み取って」くれ――。
祈りつつも、この一瞬のやり取りの中「剣」と「刀」はお互いの性格もある程度わかっている。
利己主義になれないやさしいネグルなのだ。神楽耶だって、彼がどう判断するかは考えればすぐにわかった。に、っと微笑んでひとまずネグルと共に行動することにする。
刻一刻――黄昏色の世界に雲が満ちてきていたのを、走りながら感じ取るのは水衛・巽(鬼祓・f01428)だ。
陰陽師、という生業もある。「気」や「風」の流れには過敏であらねばならないから、いっそそれは「第六感」や「危険予知」に近い彼の勘だったのかもしれない。
「お出まし下さったからには、早急に王座から退いてもらいます。」
――ねえ、悪趣味な城主殿。
「おおおお、ォオオ、おおお゛おおぉおお。ォオオオオ!!!」
荒れ狂う長身のそれが、まるで起き上がりこぼしよろしくもんどりうっているものだからいよいよ狂人の駄々に見えてきてよけいによろしくない。
あたり一帯の「気」が負で満ちていくのを巽も理解していた。
ああ、やはり人の思念というのはおそろしいのである。怪物のものであればなおのことであろう。この「園内」だった場所を満たすくらいの狂気など、放ってやろうと思えば目の前の「いかれ」にはたやすいのだ。
アリスたちは――残された少女たちは、おびえちゃいないだろうか。どうせこの後に控えた集団が「蹂躙」するに決まっているのだ、助けに回ってやろうと巽も判断したように。
その前を走る男たちがいた!
「この私を相手に鬼ごっことは!」
ならば見せてやる――本物の鬼というものを。
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(世界竜・f01811)は、その身に呪詛を宿し、呪詛に喰らわれながら呪詛で生きるいきものである。
過酷な運命を背負いながら「そうでしか生きていけない」、人にも獣にもなりきれぬ彼だ。
なにものにもなれない。だから、――都合よく「何」にでもなれるのである。
土を蹴って走っていく彼の隣で。
鳴宮・匡(凪の海・f01612)はいつも通りの表情を崩さない。前を走りながら、彼の目的はまず「任務通り」であるアリスの保護からだ。
「兄さん、任せるよ。」
「おう!――万事任せろ!!」
任せていいものやら。
ニルズヘッグのわずかな「影」を感じて少々依頼達成度に不安を感じるものの、この献身的すぎる彼である。
きっと、うまくやるのだろうな――根拠のない考えではない。匡の観察眼によるものだ。
ニルズヘッグの異常なまでの責任感の強さはまるで世界にすがりつくようであるし、大口をたたいて見せたりあっけらかんと笑うさまは己を己で「そうであれ」と鼓舞しているようにも見える。
目的は、必ず果たすたちであろう。ならば、匡もとやかくはいってやらない。
まずは――彼らの目的地たる、逃げ遅れたアリスたちの保護からだ!
駆けだしたそれぞれが、それぞれの導ける範囲でアリスたちの前へと立つ。
何よりもまず、戦力にはなれなさそうである彼らの避難誘導からが先決だと踏んだ匡が――不器用ながらに、まず声をかけた。
優しい言葉なんていうのは、持ち合わせていない。ヒトデナシである。
だからこそ、――「それっぽい」言葉を選んでおいた。今この場に至るまでに。
「生きることを諦めてないんなら、走りな」
やや、投げるように。返事を求めない匡の一言があった。
「絶望は存分に見たか、アリスたち」
その言葉を補完するように、ニルズヘッグがしゃがみこんで、彼らの顔を見てやる。
怯え切っている。
――でも、ニルズヘッグの問いには少し間を空けてから頷けていた。
「ならば私から言うことは一つだけだ。」
少女たちの瞳の色を確認してから。
「痛くとも、苦しくとも――世界は愛と希望に満ちている。」
間違っていない。
匡もそれを聞きながら、それを齎すのが己らの仕事であるのを知っている。
皮肉なものだ。――人殺しが世界を救うというのだから。
「『オレ』を信じろ。全員救うし、敵も倒す!」
「ああ、心配すんな。あのデカブツは絶対にお前らに追いつけない」
口下手な己と同じで――この機人だって、声を大きくして精一杯の言葉をかけているらしい。
ならば「相棒らしく」言葉に説得力を持たせてやろうと匡が重ねたのは、ギュネスの主張だった。
ギュネスも、ニルズヘッグと同じくアリスたちを見下ろすことはしない。しゃがみこんでしっかりと小さな手たちを握ってやっていた。
守りたいものがたくさんある。
ギュネスは――子供たちが蹂躙されるのはいつだって、どんな時も許せない。
そういう世界であったって、なんであったとしても許してはおけないではないか。何のために己があるのだ。
彼こそ、正義を背負って生きている機人である。記憶のない今だって、それは変わらないのだろう。燃え盛る熱き思いは、強かで剣のように鋭い。
「大事なのは、信じることだから」
信じてくれねば、――助けられるものも届かない。
よくよく、「知っている」助けられない可能性だ。
「あとはオレに任せておけ!」
だから、それはゼロにしておく!
吠えるように、アリスたちに願うように熱く主張したネグルにはいっそ覇気がありすぎる。
そこを――拭うのが穏やかな神楽耶の声だ。
たとえ、女神でなくとも。女神になれなかった存在であっても、人の子が怯えているというのなら。
「『灰は炎に立ち返る。されど是には力なく、結びの片割れを待つばかり。なれば――』」
破魔と炎はいつだって、悪しきを断つに相性が良いから。
「きゃあ――」
驚いたアリスたちが声を上げる。
ああ、まだ黄昏色に花火が散っているなと匡が戦況の確認をしていたときだった。
もう少しくらい時間はありそうだ。――ギュネスの手に、「新たな」炎を宿したつるぎがにぎられていた。
耳は聞こえぬ、人の体で在った。
先ほどの戦いで壊されてからというものの、なんともしゃべりづらい。人の子のからだはどこかひとつ欠けるだけでこのように不便になってしまう。
ああ、だからこそ――それを経験するたびに「こんな痛みはあってならない」と思ってしまうこの非の女神であった。
煌々と体が燃え盛った神楽耶は、驚くアリスたちをよそにギュネスの掌に握られる刃へと体を変えてみせていた!
【緋結乙女(ヒムスビオトメ)】。
この「本体」ならば耳も口も必要あるまい。もはや、思念のみで語り掛けてやることだってできる。
――アリス様方。もし、勇気が出ないのならば。
――どうか見て行ってください、未来を守る希望の姿を。
――そして、少しでも勇気が出たら扉へ向かってください。
――大丈夫。わたくしたちが届かせますから。
オレを信じろ、と叫んだギュネスに力を与えたのは「わたくしたち」が届かせる、といったこの炎の女神である。
燃やし尽くす。炎はすべてをさらっていく。
だけれど――今は、使いようだ。
是は悪しきを断つもの。善きを結ぶ刃なれば。万全に振るう善き使途と共に在れ!
「はは、綺麗だなァ!」
ニルズヘッグが、その燃え盛るさまを「綺麗」と印象付ければ。
あたたかな焔を見つめるアリスたちの目は驚きから喜びに満ち溢れる。
「さあ、もう大丈夫ですかね。」
そして、まとめるようにして。
巽がアリスたちの顔色をひとつひとつ見てから――もう一度、巨悪を見てやった。
嘆く巨悪はもう人の言葉も話せないらしい。愚かで、哀れな――。
「まっすぐ走りなさい、振り返ってはいけない。」
きっと、振り返ったらまたこの狂気に縛られるだろう。
猟兵である巽たちであるからこそ、あてられやしないのだ。
――満ちている狂気に、さきほどからニルズヘッグの瞳も輝き始めている。
それは本能、またはさだめからくるものであろうが呪術に長けた彼が力を貯めているのだ。
――此処にもう、これ以上長くアリスたちを置いてはならない。
「この世界はパンドラの匣。あの扉は匣の底の向こう側」
巽が見た先を、アリスたちが見る。
猟兵たちが未だに警戒を解かぬまま見上げる方向とは真逆に在るのは、天井がばりばりと割れて崩れかかったアーチの向こうに在る扉たち。
数を見ても明らかである。この場にいる「勇気」と「愛」と「希望」を持った彼女らのものだ。
こころの扉は開かれている。だから――最後に、巽が説いてやるべきはひとつだけ。
「悪い夢と絶望はここに置いて、貴方の世界へ帰りなさい。」
諭すように。
それでよいのだ、と許すように。
微笑む巽の一言に、アリスたちはそれぞれ立ち上がりだす。
「またね、こわいおにいちゃん」
「怖――、おう、またな!」
先ほどニルズヘッグの顔を見て怯えたアリスが、今度は彼に笑いかけてから走っていく。
ひとのこたちが――歩みだしたのを。
ああ、よかったと燃ゆる炎で見送る神楽耶とそれを手にするギュネスが安堵する。
ならばあとは、護り切るだけのことであるから。守るという点において意地でも譲れないものがある彼らが存分にちからをふるうだけのこと。
一人だけ、もたもたとするアリスが――確認のように、匡の足元にやってきた。
匡は、見下ろさない。
ただ目の前の「標的」を観察していた。
こちらへ――そろそろ、注意をむけることだろう。
「――ここで消えるからだよ」
大丈夫、の理由を聞きたいのだろう、子供の頭をなでることもなく。
匡がいつも通りの声で言ってやったのがすべての答えなのだ。さあ、と導く巽の声で疑り深いアリスもまた走り出す。
それでよい。
疑り深く、なぜ、どうして。を突き詰めた生き物ほど生きるのに強い。
「――さて。そのナマクラ」
走り出した集団にヘイトが向くのは当然のことだ。
展開される無数の刃には、そればかりだなと鼻で嗤ってやる。
妄執、執着――いっそ一途なまでの「アリス」への愛情はこの場でなければうつくしかっただろうか。
この男には、それを知るすべも経験もないのだけれど。
いいやしかし、そうだ、それでよい。
構えた匡を合図に、皆が戦闘態勢を取った。
「まだ「無敵」だって本当に思ってる?」
【抑止の楔(ブレイクダウン)】!
放たれた弾丸がすべての合図だった!!
匡は、ずっと視線を逸らすことがなかった。
この狂気の「いかれ」が相手であっても、その動きを冷静に見ていたのである。
くせがある。壊されたほうの腕がきっと利き手だったのだろう。
右のほうが比較的に弾幕が薄いから――そっちは相棒と燃え盛る非女神のつるぎにまかせようと判断した瞬きの間である。
鉛が、絶えず!鉄どもを叩き落す!!
遅れるなと飛び出したギュネスたちが雷と炎を引き連れて右へと飛び出した。
相棒の射線には出れまい。まあ――彼が仲間を撃ち抜くこと「だけ」はないのだが。
「見せよう、我が記憶に眠りし刃を――!」
残像を残すほどの速さで、電撃を使った電磁誘導によってネグルの動きは加速する!
もとより早い彼であるが、よ り 早 い !
銀色の髪すらいっそ神々しいまでに煌めかせて、彼は――己が握る彼女に、術式で合図を送った。
握られた炎の女神は微笑んだのだろうか。
彼の勝利に?いや――!
「天に雷鳴、地に炎。結びて紡げ、紡いで祓え!」
皆の勝利に!
───【 破 魔 の 断 ・ 雷 光 一 閃 】 !
アリスたちが受けた苦しみを、ここで清算するがいいと吐き捨てて――ネグルが一撃、空を覆う赤黒の右肩を切り落としてやった。
「――ひィイイ、ぎッ」
「おっと」
喪失に一度、反応を狂わせた主催の軌道が変わる。
これでは匡の「読み違い」が起こりやすくなってしまうから――それを阻むのがニルズヘッグなのだ。
「見せてやると、言ったよなァ?」
発動されるのは【灰燼色の呪い(ムスペルヘイム)】!!
ぎしり、と巨悪の動きがまるで縛られたようになって止まってしまう。
ああ――これはいい、と匡が思わず楽を覚えてから弾丸を装填するのを隣に感じてもなお、ニルズヘッグは巨悪をにらみつけたままだ。
「さァ見せてみろ。この場に満ちる無数の『呪詛』が」
――この場を覆う無数の怨嗟が。
「貴様の心を食い潰すさまを」
きっと、術者である彼の耳をも塞いでいる。
動きを止めるだけが――彼の目的であった。空を飛べぬ翼では、せいぜいアリスたちを護る盾の役目しか果たせない。
おとぎ話の英雄には、彼だけはどうしてもなれないのだ。
それは。
――隣に在る匡も同じであった。
的となったならば話は早い。
匡が――あの「いかれ」にしか見えていないだろう呪いに沈黙したこの間で。
膝、肘、肩、念入りに残った胴まで――撃ち抜いてみせた。
それから降り注ぐ刃を弾き落とした跳弾で、目玉、溶けた舌を破壊する。
けしてまぐれでない、これはすべて彼の「観察」の結果だ。放たれる脅威のスピード、その角度にジャストで合わせた鉛だけで――ここまで!
この巨悪の脅威を大幅に削って見せるのである!
「それでは、夢から醒める前に」
悪趣味な両腕がもし復活しては困るもので。
ずるりと――巽の服の袖から黒が漏れる。
「――とびきりの悪夢を。」
その正体が、どれほど身を穢すものやらわからぬだろう。ニルズヘッグがそちらに視線をやったあたり、「相当」なのだ。
――【騰蛇奈落(トウダナラク)】。
煮えるように燃え盛る蛇なのだ。漆黒の体を持つ蛇にはニルズヘッグのような立派な翼がないが飛行能力はある。
真っ黒な影をどんどん燃やして――天を支配する凶将は、真っ黒な太陽のような禍々しさを孕んで顕現したのだ!
ああ、大きな手合いでよかったと。
巽も思わず、この凶将の持つ禍々しさに冷や汗をかく。
何もかもを燃やす炎なのだ。非女神の彼女が恐れるような炎よりもずうっと、苛烈で、おぞましい!
その蛇が――切り落とされた腕をばくりと呑み込んで、念入りに火の粉を散らし体内で燃やすのを見てから。
空中を舞う刃すら呑み込んでいくのである。昇る龍がごとく、天を我が物顔で泳ぐような黒を――どうか、アリスたちが見ていないことを巽は祈った。
「さあ、――呑み込めッッ!」
召喚した巽すらもを燃やしてしまいかねない、そんな苛烈さで――!
黒の焔がでくの坊に襲い掛かっていたのだ。
のみこめ、と命じられた念がきっとよく効いた。口を大きくあける蛇は――「すべて」呑み込んで見せた。
「ああああああ゛ッッッ!!!あつい、熱い、アツ――――!!」
熱かろう。
その場に膝をついた巽とて、同じような熱さをやはり手にするのだ。
燃えろ、燃やせ、燃え尽きろと蒼が睨んでいても、やはり扱いきるには若すぎる。
「は――、ッ」
呼吸が乱れれば、黒の焔も揺らいで――豪奢な鉄を熱量でゆがませ、溶かすには至っていた。
「ああ、やはり。――譲らねばならないようですね」
匡も、ニルズヘッグも、ギュネスも。その手に握られる神楽耶すらも。
焼かれ穿たれ斬られ、もう――潰えるであろう悪夢を後続に任せることにした。
匡の右肩に、しかと左の掌を乗せたニルズヘッグのそれを合図にして黒炎は消える――!
さあ、準備は整いあとは大きな一発をあの舞台装置に打ち上げるだけ。
狂った遊園地に――来るべき終焉がやってくる!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴィクティム・ウィンターミュート
【大喝祭A】◎★△
ウィズ──夕立、いい仕事だ
こりゃファンサービスに身が入る
正純─お前の射撃に、アンコールはいらねえよな?
『Sanctuary』セット
地形情報変更
ここからは俺の脚本で、俺の書くことだけがチップ・トゥルースだ
理解したかい?ウィルソン
空間情報書き換え
遮蔽展開、ナイフを阻む
遮蔽はそのまま砲弾として撃ちだし、牽制
コガラスの銃弾に合わせて、地面から電子の槍で右足を串刺す
6発目のデメリットは──コガラスと奴の座標を入れ替え──いや
デカすぎる、ここは
"空間ごと切り取って入れ替える"
ハロー、6発目の呪いはお前が立て替えてくれ
鎧坂!加速地点だ!使え!
行け…奴が最後に引くのは──エースオブスペーズさ
鎧坂・灯理
【大喝祭A】
……何を喰ったらあんなに育つんだ?
まあいい、ガリバーよろしく油断してくれ
その方がやりやすい
ミスタ&ミス・魔弾が奴の足を破壊《ヤ》ってくれるそうだから
私は奴が膝を突いたところから『白虎』で駆け上ろう
無重力下でも念動力があればこれくらいは出来るさ
頼れるコウモリたちと私の運転技術、Arsene殿の支援があれば、
妨害など無きに等しい
そのハート型の石ころ、いかにも大事そうだなあ?
――UC発動。
誇り高き忍を道化になどさせない
電脳王のセッティングを無駄になどしない
レールは繋がれた、あとはゴールするだけだ
貴様などが無敵であるものか!私の脳髄に不可能などない!
その石引っぺがしてブチ砕いてやる!
式島・コガラス
【大喝祭A】◎★△
お出ましですね……。それにしても、とにかく大きい。
しかしその大きさの割に、それを支える足は随分貧弱に見えますね?
狙わせてもらいます。
しかし、いかに細い足といえど残る弾数も少ない。壊しきれるかわかりません。……となると、やむを得ません。ヴィクティムさん、すみませんがサポートをお願いします。
足の細くなっている部分に【呪殺弾】を撃ちます。そして、第六の魔弾……必ず私の側に跳ね返ってくる弾丸も撃ちましょう。
命中後はヴィクティムさんの能力で敵と自身の座標を入れ替えます。魔弾を代わりに食らってもらいますよ。覚悟してください。
さらにリロードし、追加の五発分を右足に。その足を崩します……!
納・正純
【大喝祭A】◎★△
コガラス、ヴィクティムと協力しながら敵を崩す一撃を。二人とも、頼めるかい?
撹乱はお手の物だろ? 好きにやれ、上手く合わせる。蝙蝠借りるぜ、夕立
灯理へは特にねぇ。Giant Killingを掴み取ってこい。俺らでアイツを跪かせてやる
方針
狙いは敵心臓部の破壊による迅速な撃破
俺は敵の足止め、及び敵ナイフの迎撃担当だ
敵の札の全てを四人で止め、こちらの切り札をハートにぶつけよう
味方の攻撃に合わせUC発動
夕立の蝙蝠を魔弾の軌道上に配置し、敵の刃を跳弾で破壊し尽くしてやる
跳弾を繰り返して魔弾が向かうのは敵の左足だ。両脚を壊せば、敵も動きを止めるだろ
魔弾は何も外さないさ。
さあ、一発勝負だ。
矢来・夕立
【禍喰鳥】を4人に派遣
緊急時に《かばう》よう指示
1羽を残して、戦況を逐次確認。
《忍び足》で移動しながら《だまし討ち》で行動の阻害
少しの邪魔で構いません。
このメンツはたった少しの誤差を自分の勝ち筋にできます。
自称端役が“舞台芸術”をやれないって決まり事はないんですよね。
よいセッティングです。13羽進呈。
銃眼さんにはもう一働きしていただくので、お守りのようなものです。縁起の悪い数字ですけど、13羽護衛。
手帳さん。外したらあとで助走つけて殴ります。13羽監視。
誰かが言っていました。
ポーカーフェイスは勝てなきゃ道化だと。
勝たせてくださいよ。
――鎧坂さんにベット。13羽どうぞ。
●
「ん゛ゥウウウウウ――――ッッッ
!!!!」
燃え盛る黒にやられて、狂気の主犯が暴れ狂う。
なんとかして炎を消そうと体中を振り回すのは腕がなくなってしまったからだ。
それにしても――それであっても、悍ましい大きさである。
「……何を喰ったらあんなに育つんだ?」
駆けつけたはいいものの。
鎧坂・灯理(不退転・f14037)はほぼ脅威を失ったに等しい眼前の「塔」を眺めている。
突き崩してやれば面白そうだなとも思うし、まだ足があるとも思う。――さ、どうやって削ってやろうか。
相手がガリバーであるなら自分たちは人間らしく立ち回ったほうが「やりやすい」。
「お出ましですね……。それにしても、とにかく大きい。」
やはり式島・コガラス(呪いの魔銃・f18713)も、灯理と着眼点は同じである。
しかし――やはりここの世界の脅威はアンバランスで、コガラスのように「撃ち抜く」ことに特化した人間にとっては「狙いたい放題」にも見えてしまうのだ。
大きな体を支えている割に、脚は随分と貧弱である。
ならば狙わない道理もあるまい。しかし、問題は――コガラスの「弾数」であった。
やむを得ないだろう。
コガラスは、強化人間だ。
しかし、無から有を生むような能力はない。彼女ができるのは、有を無にすることだけなのだ。
手にするのは一つ。魔銃アプスー。
呪われた六発の魔弾を持つ銃である。
コガラスは、かの英雄の地「ヒーローズアース」にて兵士となるべく改造を受けた少女だ。
その代償もあって、空間把握と反射神経が常人を超え、もはや怪物などには並んで見せるそれになった。
しかし、体の成長はそれを代償に止まってしまう。
同じく、彼女は幼いころより訓練を受け続けている。早打ちの精度――必ず人を殺すための手段は達人のそれといっていい。
しかし、それだけなのだ。殺すことばかりで生むことがない。
――人間としての成長など、捨て置いてきてしまった少女なのである。
その点においては、隣に並ぶ灯理も同じやもしれない。
彼女もまた、「出来の良すぎる脳」が武器だ。
意志、思念、それから――ド根性、というよりはもはや意地や覚悟が彼女を作っている。
頭がよすぎ、それを使うことばかりで生きるしかなかった彼女だってコガラスと同じで、成長するべく大きさには至らなかった。
だから、きっと灯理はこの中で仕事がしやすかったのだ。
此処にいるのは、「ひとでなし」ばかりで――いい。人であることを、主張できる。
さて。その女性陣二人の後ろにて。
「ヴィクティムさん、すみませんがサポートをお願いします。」
「任せとけって。」
から、っと笑って見せるのがヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)だ。
電脳の支配者でありながら、彼が支配できるのは電脳のみにとどまらない。
電脳を――次元の壁を越えて「現実」に至らしめるのが彼の仕事なのだ。
英雄からのオーダーがあれば、それを確実にかなえてやるのが端役の役目である。
「勝ちに行こう。」
にい、とあくどく。
しかし、余裕めいて――ホロの画面をこの場に展開していく。
紫の電脳ゴーグルを嵌めて相手の情報を見てやれば、どうやら相手はほとんど虫の息であるが。
いいや、やはり油断すべきでないなと悟る。
「ビフ、まだやる気だぜ」
それはそうだろうな、と灯理だけが納得する。
――恋焦がれる相手を奪われつくしたのだ。怒り狂って最後のあがきを見せるに違いないと思っていた。
「いやはや、恐ろしいな。愛の力とは。」
は、と鼻で嗤ってやって。
「――いい勉強になったよ。」
「笑うとこですか?」
黄昏色を背後に背負いながら、真っ黒な影がふ、と吹いた息に乗せて――五十二羽の蝙蝠たちが飛ばされる。
一匹一匹が、空を揺蕩い周囲を黒に染め上げた。
たった一匹は――矢来・夕立(影・f14904)の右手に乗ったままとどまっている。
【紙技・禍喰鳥(カミワザ・カクイドリ)】。
これからあの塔に、とどめを刺してやろうとする仲間たちへの夕立からささやかな支援である。
「それじゃあ――最後に、方針の確認だ。」
夕立と対になるようにして、前面にこの男は黄昏を浴びている。
きらきらと反射する琥珀色の髪が、多少涼しくなった風にあおられて湧いていた。
納・正純(インサイト・f01867)は「イカしたやつら」との仕事にわくわくとしているのか、やはり口元の笑みが隠せない。
凶暴な歯を見せながら――まるで、いたずら計画でも話すようにキャッチーにすませていく。
「狙いは敵心臓部の破壊による迅速な撃破。俺はアイツの足止め、及び敵ナイフの迎撃担当だ」
「手帳さん。外したらあとで助走つけて殴ります。13羽監視。」
「監視かよ!」
半分は嘘である。
――すい、と。
夕立の合図とともに真っ黒な蝙蝠が正純の周りで、円を造るように浮遊を開始する。
ゴリヤク
これの効能はよくわかっているからこそ、普通にありがたくもおもうのだが。
「アー、撹乱はお手の物だろ? 好きにやれ、上手く合わせる。蝙蝠借りるぜ、夕立」
肩をすくめてみせる夕立の返事は、半分くらいはイエスなのだ。
「――コガラス、ヴィクティムと協力しながら敵を崩す一撃を。二人とも、頼めるかい?」
「了解しました。」
「オーケイ。正純─お前の射撃に、アンコールはいらねえよな?」
確かに、そして疑いなく仲間の提案に頷くコガラスと、快く返事しつつも一応問いかけるヴィクティムに。
「魔弾は何も外さないさ。」
正純がますます笑みを深くして応えてやる。
それを見てから確かに、と頷いてヴィクティムが己のプログラムを展開し始めた。
「セット――【Rewrite Code『Sanctuary』(イマカラココハオレノシハイカダ)】」
行われるのは、地形情報の書き換えである!
>
>....
>Rewrite....Code:[Sanctuary]...
◆
ああ――悪いね。
・・ ・・・・
ここからは俺の脚本で、俺の書くことだけがチップ・トゥルースだ。
理解したかい?ウィルソン。
「自称端役が“舞台芸術”をやれないって決まり事はないんですよね。――よいセッティングです。13羽進呈。」
「ウィズ──夕立、いい仕事だ。」
音声記録と映像記録になっちまうから、これを見てるチューマ(観客)たちにもArseneが教えてやるぜ。
俺の周りを旋回するのが、夕立の蝙蝠たちだ。
今回はほとんど固定して戦場にいる予定だからな。動き回る暇もなさそうだったからありがたいね。
「銃眼さんにはもう一働きしていただくので、お守りのようなものです。縁起の悪い数字ですけど、13羽護衛。」
そういうの気にするんだな――。
いちいちコガラスもちゃんと礼をするもんだから、そういうお国柄なのかねって思っちまうよ。
まあ、仕事にゃ関係ないか。そんでもって最後に正純が目を合わせるのが――サイキック・鎧坂灯理ってわけで。
「灯理へは特にねぇ。Giant Killingを掴み取ってこい。俺らでアイツを跪かせてやる」
「掴み取ってこい――?ははは、ご冗談を。『掴み取ります』。」
「――鎧坂さんにベット。13羽どうぞ。」
そうだなァ、ポーカーフェイスは勝てなきゃ道化。ンー、いいセリフだぜ。人生の格言ってカンジがするね。
ウー、チルだ。めちゃくちゃ燃えるやり取りじゃねえの。これだから、端役っていうのはやめられねえ。
英雄たちのやりとりの向こうで――この端役『Arsene』、やってやろうじゃねぇの。なあ?
「ああああああ!!ああッ、アリスがいない!いないッ!!いないィイイイッ!!」
うるせぇ。
うるせぇが、それがアイツの宿命だってんならはやく終わらせちまうに限るよなって。
つうことで――まずこの時に飛び出したのは、コガラスと正純と夕立だったわけだ。
やることが明確だから、奴らにまったく躊躇いはねぇんだよな。躊躇いがねぇってことはどういうことかッつうと――ほら、『最強』ってやつだ。
で、ここに最高の端役が来るとどうなると思う?そりゃあもう、最高なわけだよ。まあ、よく聞いて見てなって。
「――ヴィクティムさん!」
ほら来た。
コガラスがこのArseneにオーダーだ。じゃあ俺はそれに完璧なまでに応えてやればいい。
緊張がたまらねえ。目の前じゃ、コガラスがあの呪いたっぷりの鉄持って正純と走ってやがる。
二人を襲うのが――ワックド!この俺がびっくりする数のナイフだ!
どこにあんな量忍ばせてんだろうな。思わず手に汗握っちまった。
「見えてませんか」
ウィズ!夕立のナイスアシストだ。
さっきのトランプ兵をぶっ殺したのと同じサムライブレードで二人に襲い掛かるナイフはぎたぎたにされやがる。
いいねぇ、いいねえ。砕け散る鉄って火花を散らすからいい演出になっちまう。
――あの光はなんだ?
ああ、そうか――ありゃあ正純の【魔弾論理(バレットアーツ)】だ!
「さあ、一発勝負だ。」
俺も今必死に地形の書き換えと脚本の書き換えをやってるもんだから、すぐに判断できなかったが――ハハッ!チル!
正純のやつ、全部だ!
全部――、一 発 で 撃 ち 落 と し や が っ た !
「オラ見ろ、やってやった!」
「うーん、まごついたのでやっぱり殴ります」
「なんでだよ!」
ハハ!奴ら――あの戦況で笑ってやがるんだぜ!?スワッグ!大したヤロウどもだよな。
でもまだ来るぞ。どんどんアイツ、焼けこげてる服の裏側から手品みたいにナイフを出してきやがる。
無数っつゥのは――やっかいだな。こちとら一人で書き換えてるんだぜ。戦ってるのは四人だけどな!
さて、そろそろ時間かな。
あたりの空間を書き換えながら、音も全部こちとら拾ってるんだ。
座標軸――位置情報の割り出し、動き回る夕立や正純は除外。隣に立ってる鎧坂もな。
ワァオ、いそがねぇとヤバそうだ。コガラスの周りにあった蝙蝠の数が減ってやがる。
そりゃそうだよな、高汁間にもナイフはどんどん奴らを襲ってる。夕立も立ち回って逃げながら腕やら脚やら切っちまって――あ、やっぱ正純が助けたな。
「『覚悟は決めました。あとは引き金を引くだけです』」
「オーケイ、じゃあ行こうか。」
【第六の魔弾(マジックバレット・スーサイド)】っつゥのをご存知かい?
このコードはコガラスのものなんだが、こいつがまたすげえ効果がある。
十秒だ。
十秒さえありゃあ――どんなコガラスの中にいる961mのオブリビオンもオウガも蜂の巣にされちまうのさ。
で、今回は弾を含めて呪われた弾をぜぇんぶ脚に撃ち込んでやるってわけ。そ、何処狙うかっていったら――やっぱ。
「膝です!!」
ハハッ――だよな!
俺も狙いやすいようにコガラスの銃弾に合わせて、地面から電子の槍で右足を串刺す!
さて、ここからがArseneの魅せどころになるわけだ。
このコードには、もう一個チルな点がある。『命中後、自分の急所に跳ね返ってくる』のさ。
ほら、今膝を撃ち抜いた弾で――右ひざをぐらっとさせやがった。駄目押しついでに正純もまた魔弾で左もせめてるな。
ワオ。跳弾使ってんのか!?ハハッ!これだからガンマンどもはすげぇ!
さあて、ではArsene――動くぜ。
「おっと。6発目のデメリットは──コガラスと奴の座標を入れ替え──いや」
デカすぎる、そう、悟ったのさ。
あの呪いの弾は小細工じゃとまっちゃくれねェらしい。ならここは、『空間ごと切り取って入れ替える』しかねえ!
タイプミスは許されねぇこの緊張感だ。脳はびっくりするほど冴えてやがった。
はは――エラーもないシステム画面は気持ちがいいね!
「ハロー、6発目の呪いはお前が立て替えてくれ!!」
ぐるっとあの塔ごと切り取って――コラージュだ!
コガラスの空間とあのデカブツを入れ替えてやれば、帰ってきた魔弾は全弾ヒット!
ホット・エルズィ――蜂の巣だぜ、右ひざ。
ウー、いいね。この調子で股関節も撃ち抜いてやれ、コガラス!っとと、いけねぇ。
さすがだぜ正純。俺に向かってくる前にナイフを魔弾だけで撃ち落としてくれてる。いいねぇ、チルだ。
――それから、夕立がうまくヘイト取ってる。
夕立はニンジャだ。動くのが早い――できたアサシンだよ、まったく。腕斬られようが脚斬られようが関係ねぇ。あの速さは欲しいね。
その夕立が顔の前をびゅんびゅん飛ぶもんだから、そりゃあ怒り狂っちまうよなぁ。
「ああ、あああうっとうしい!あなたは、アリスじゃない、アリスでは――!!」
「当たり前です」
ほうら、おしゃべりなんてしてるから。
魔弾の射手が左足の崩壊だ!スムーズでバグもねぇ、あの野郎、膝を壊されて滑り落ちるみたいにしてやがる!
「鎧坂――!加速地点だ、使え!」
さあて、ここで俺たちの切り札の登場ってわけだ。
鎧坂・灯理。ぶっちぎりのスピードを見せてくれよ。――おっと、これ以上は書き換える必要もなさそうだ。
はは、返すぜ。
いつも通りを愉しんでくれ。チューマ!
◆
鎧坂灯理は――。
電脳の支配者が敷いた「レール」の上を踏んでから、己の『愛機』たる白虎の彼で戦場を駆けた!
ミスタ&ミス・魔弾の射手と彼女の信頼する戦友がやってのけた戦果を無駄にするかと突っ込んでいく!
ぎいい、と悲鳴を上げて白虎のハンドルを持ち上げてやる。
・・・・
それから――行うのは、ウイリー!!
ギアを上げて、クラッチを素早くひねり、フロントの角度を調整して体の力を念動力で底上げしたまま後輪だけで膝をついた塔を駆け上っていく!!
転げたりなどしてやるものか――茫然として何もを考えられない木偶から落ちてなどやらない!
「『私の脳髄に不可能など、――無い』ッッッッッ
!!!!!!!!!」
【異形の脳(ミーミルズ・ブレイン)】!!
超強化して見せた体に無重力もなにもかもを凌駕する脳からの力が与えられる!
ここまでに至るに。
彼女の周りを旋回する「命綱」たる蝙蝠を配った誇り高き忍びの彼が居た。
彼を道化にさせてやるものか――昇る。鎧坂灯理は獣のうなりと共にまだこの我楽多の上を昇る!
成功させるに決まってるだろう、しかも「全員無事」でだ!
電脳王たるヴィクティムのおおがかりなセッティングを無駄になどしない。
レールは繋がれた、あとはゴールするだけだ――その胸に備わった、宝石をめがけてひた走るッッ!
灯理を襲うナイフは、魔弾の彼の跳弾が撃ち抜き。
それでもかいくぐるというのならナイフを蝙蝠が道連れにして。
誰もが、「人間である」彼女との勝利を――!!
「なあ、――そのハート型の石ころ、いかにも大事そうだなあ?」
にやりと。
悪い顔をしてやるのだ。
まだこの期に及んで、大事そうに体の真ん中に埋め込んだ「ハート」なんか抱えていやがる。
灯理は、そのさまが滑稽で、哀れに思えてしょうがなかったのだ。
――ここで潰える、その程度の愛だよ。
鼻で、笑ってやって!!
裂傷。
いいや、もはやミンチにする勢いだった。
しっかりと整備の行き届いた白虎の牙で――振り下ろした前輪で宝石を打ち砕く!!
がぅん、とタイヤが空を蹴って灯理と白虎が空中に放り投げられても抜かりはない。
彼女は、サイキックなのだ。
何が無敵だ、何が最強だ――思い込めなければ、そこまでだろうが。
「はは、はははは!」
そのまま、念動力を手繰って――白虎に跨りなおした彼女が、地面に着地すると同時に!
どう、と悪夢が崩れ落ちて霧散したのだった。
もう何も残らない。いいや、ここには何も残れない。
消えた悪夢の惨劇すらも、きっとすべて夏の夕焼けが呑み込んで――真っ黒に染めただろう。
ぎぎ、と悲鳴めいたサイレンが足元に転がっていた正純である。
『――ほ、ン、じ、じジツは、終了、い、ィ。いたし、ま、マし、タ。』
「ああ、『また』は、いらねェよ。」
ぐしゃり。
振り上げた足で――壊れた機械を叩き潰して、この悪夢の終焉を齎したのだった。
もう、遊び場が惨劇に染まることは無いだろう。
――Thank you for Playing !
大成功
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