【イラストSS】 真の姿『音狼』
ロラン・ヒュッテンブレナー 2020年6月25日
様々な魔導書が封じられているとある書庫の一室、
結界で作られた魔導実験室でしっぽを揺らすロラン。
緊張でこわばった表情で、メモ帳に目を通している。
”人狼の魔力”
人狼病発症者を蝕む魔力で、満月の光に含まれる魔素を受けて活性化、
精神に作用し、体を変異強化、暴走を引き起こす。
ロランの人狼病は、そう言った症状を見せる。
そして、”人狼の魔力”は、ロランの寿命も削る。
ロランにとっては禁忌の力だった。
暴走で他人を傷つけ、自身の命を削る病気。
その時に頭に響き渡る、狼の遠吠え…。
満月を避け、他人を避ける様になったロランに転機が訪れる。
猟兵への覚醒、外の世界、大事な友人。
広がった世界と、成長した自分。
寂しさと生きることへの執着が、ロランを人狼病との闘いに駆り立てる。
パタンとメモ帳を閉じて内ポケットにしまう。
プロセスを電脳空間と繋いでいる魔術器官に呼び出し確認をする。
「これで、大丈夫の、はずなの…。」
緊張で浮かぶ冷や汗をハンカチで拭う。
まだ幼いロランの、トラウマ克服が始まる。
必要なプロセスは3つ。
まずは電脳空間にアクセスできるもう一つの脳”魔術器官”に魔術起動プログラムを指示する。
ダークセイヴァーには存在しないはずの生体コンピュータにして、
ロランの生まれ持った才能。
ロランオリジナルの電脳魔術を発動する。
『月光魔素、生成式展開』
AI音声の様な無機質な詠唱と共に、ロランの周囲で月光の様な輝きが生まれる。
物理的パラメータを書き換えて現実に影響させる電脳魔術。
魔術器官の演算速度と電脳空間からのアクセスで成り立つ、ロランの最も得意とする魔術だ。
発動した魔術が自分の周辺に満ちている魔素の性質を、満月の魔素に書き換える。
疑似的に作り出された満月の魔素を受け、ロランの精神に激しい高揚感が生まれる。
そして、あの遠吠えが響き渡り、意思を破壊衝動が塗潰していく。
同時に身体もめきめきと音を立てて変化していく。
顔が狼のそれに変異し牙が鋭くなっていく。
足も獣のそれに変じ、体全体が大きくなる。
まさに二足歩行の怪物、人狼へと変わっていく。
ここからがもっとも難しく困難な2つ目のプロセス。
家伝のヒュッテンブレナー式結界魔術を用いた”人狼の魔力”の封印。
「あ、う、…。魔術触媒…、きどう…っ。」
消えてしまいそうな意識と変態の痛みの中、ロランは身に着けた魔術触媒へコマンドワードを苦し気に呟く。
家紋やループタイなどの装飾から光が溢れ魔術回路が身体中に描かれる。
一方でロラン自身も魔力を練り、触媒で増幅させ、自分を中心に大きな陣を中空に描く。
陣に命を吹き込む様に、ロランはか細い声で詠唱する。
『月夜、の…獣、我が命、によりて…、この…身に現れ、よ…。』
力のある言葉によって陣に回路が構築される。
完成された魔術陣は光を放ち、回転しながら獣化した首の位置に移動する。
衝動を刺激する満月の魔素の流れを結界で遮り、少しばかり冷静さが戻る。
『我…が、銘に、より…て、汝…っ縛され、る、べし…っ』
変態を続ける身体の痛みに朦朧としながら、詠唱を続ける。
回転を続ける魔術陣から、魔術回路の鎖が何本も伸びる。
その鎖は意志を持つかのように変異しつつあるロランの身体に巻き付き締め上げると、
無理矢理に姿を狼の形に固定させる。
歌うように響いていた遠吠えは苦し気なうめきに変わる。
身体の変態も落ち着き、衝動も治まって意識を保てている。
意図的に人狼化し、それを封じて安定させる事が出来たようだ。
最後のプロセスまで漕ぎ着けた事に、一安心する。
「ふぅ、ふぅ…。も、もう少し、なの…。」
初めて扱う魔術は、加減がわからないので消耗が激しい。
身体の変化を伴う危険なものとなると、さらに。
狼の姿のまま、ロランは荒い息を整える。
実を言うと最後のプロセスはおまけ程度だ。
現状ではまだ、”ロランの中の人狼”に支配されないようにしただけだ。
これを、”人狼状態のロラン”にする事で、ようやく”人狼の魔力”を制御できるようになる。
その為には何が必要か?
それは、”契約”を交わす事。
超常の存在である”人狼の魔力”との”契約”には、その存在を定義し掌握するものを用いる。
ロランは、恐怖を呼び起こすあの遠吠えを思い出す。
歌う様に呼びかける様に響く狼の咆哮。
「汝の”名”は、音狼…。」
瞬間、自分の魔力と”人狼の魔力”が繋がる感覚。
同時に五感が鋭くなる。
全身に力と魔力が漲る。
”名前”を与える事で”契約”は無事完了し、ロランは”人狼の魔力”を制したのだ。
「やった、……、やったの!」
魔術を成功させ、喜びを表すロラン。
”契約”を行った事で、ロランは3系統目の魔術を手にし、魔術師として大幅な強化になり、
これで少なくとも満月の魔素を浴びて暴走する危険はなくなった。
即座に一連のプロセスを魔術器官に保存、ユーベルコードに昇華させる。
次回からはスムーズに魔狼状態になれるだろう。
達成感と安堵がロランの中に満ちる。
それは狼の遠吠えとなって実験室に響く。
今まで自信を苛んでいたものが、今は自分の意志で誇らしげに発される。
「そろそろ、解除しようかな…。」
満月の魔素の生成を止めるプロセスを立ち上げようとした瞬間…。
――――どくん
突然、息が吸えなくなり意識が遠のく。
身体に力が入らずにそのまま床に臥す。
電脳空間はバイタル低下のアラートを響かせ、発動中の魔術が全て強制解除される。
人の姿に戻りながら起き上がろうとするが、力が入らない。
意識を失う直前、ロランの耳に響いたのは、けたたましいアラートと、
狼の遠吠え…。
『るぅぉぉぉおおおぉぉぉぉぉ
・・・・・』
次に見た景色は、見慣れた自室のベッドだった。
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