#アリスラビリンス
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「私は、魔女では、ありません」
まだ白を切るか、強情な、白々しい、魔女に違いない、尋問など無意味だ、生温いのではないか、拷問を、はやく処刑せよ――。
息も絶え絶えに否定の言葉を紡いだ少女を、周囲の者達は口々に責め立てる。鋭い音を立て、鞭が撓る。
「あなたのおばあ様は、もう認めましたよ」
「……え?」
「彼女は明日、火刑に処されます。孫娘は違うとの事ですが……果たして本当でしょうか? 何年もお二人で暮らしてきたのでしょう?」
そんなまさか、おばあちゃんが魔女のわけがない、きっとこの責め苦に耐えきれなくて。驚愕に言葉を失う少女に、異端審問官は続ける。
「あなた達の家の庭には、たくさんの毒草が生えていますね?」
そんな事が証拠だとでもいうの、確かに有毒だけれど薬効もあるから育てていたの、おばあちゃんは薬師だもの。少女は反論しようとするが、その度に鞭が細い身体を打擲する。
「まあ、あなたが魔女であろうとなかろうと、あの庭は焼却すべきですね」
やめて、やめて、どうしてそんなにひどいことをするの。
どうして、誰も助けてくれないの。
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「今年も綺麗に咲いたよ、おばあちゃん」
釣鐘状の花が幾重にも連なり、夜空を突くように伸びていた。穏やかな風が頬を撫で、赤紫の花々が揺れる。
「後でパパとママのお墓にも持って行ってあげようかな?」
一面に広がる、ジギタリスの花畑。その中央にある小さな家の前で、たった一人。少女は満月を見上げていた。
「――あれ? 誰か来たみたい」
来訪者の気配を感じ取った少女は、酷く顔を歪ませた。眉根を寄せ、ぎりぎりと歯を食いしばり、悲痛に満ちた瞳を気配がする方向へと向ける。
「お客さんかな、お客さんかな? また? またなの? このお庭を奪うつもりなの? おばあちゃんのお庭を傷つけるの? また痛い事をするの? ……許さない。許さない。許さない許さない許さない許さないッ! ……いいよ、おいで。ようこそ、歓迎するよ。……毒で。毒で、苦しめばいい。大丈夫、私は一人でも大丈夫。一人でも、このお庭を守るの」
どうせ、誰も助けてくれないのだから。
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「エルヴィラって少女はアリス……いや、元アリス、か。このオウガを倒して、『絶望の国』をぶっ壊してきてくんねーかな」
『自分の扉』に辿り着いたにも関わらず、取り戻した元の世界の記憶に心が折れてオウガと化した『枯樹死華のアリス『エルヴィラ』』について、二本木・アロは話し始めた。
「魔女裁判っつーの? あらぬ罪で家を焼かればーさん殺され拷問を受け、このオウガの境遇も可哀想ではあるんだけど。このまま放っとくと新たなオウガが生まれちまう」
既に絶望の国の内側には、誕生を今か今かと待つオウガがひしめいている。絶望の国はエルヴィラを倒す事で崩壊はするが、崩壊と同時に溢れ出す無数のオウガも倒さなければならない。
「このオウガなんだけど、すっげーいっぱい居る。全部倒すのは無理、マジで断言できる。ただ、一つだけ解決策があって」
エルヴィラの絶望を和らげる事が出来れば、個体数が激減するらしい。倒さねばならない相手ではあるが、やってみる価値はありそうだ。
「……っと、ちっとばかし厄介なコトがあってさ。エルヴィラが居るのは超広いジギタリスの花畑の中央なんだけど、花畑には『人の心を凶暴にさせ、歯止めを効かなくさせる』効果のある満月の光が満ちてんだ」
月光に惑わされて花畑を荒らしてしまえば当然エルヴィラの怒りに触れるし、そのような精神状態ではエルヴィラへの説得といった行動は難しくなるだろう。なんらかの方法で満月の狂気に抗わなければならない。
「凶暴化への対抗策、絶望を和らげる手段、戦闘。やるコト多くてごめん。でもさ、ばーさんとの思い出の花畑が絶望の象徴みたいになっちまってんの、やるせねーっつーか。彼女を元に戻してやるコトはできねーけどさ……」
どうか、誰か助けてやってくれねえか。アロはそう言って、頭を下げた。
宮下さつき
ジギタリスが綺麗に咲く時期ですね。宮下です。
●世界
アリスラビリンスです。初めて書かせて頂きます。
●戦場
夜のジギタリスの花畑です。
月明りがありますので、戦闘に支障はありません。
●第一章『狂気に満ちた満月の下』
本来の性格に関係なく、攻撃的な感情が増幅されます。
理性を失う、オウガを憎悪する、人格が変わる……等、何らかの異変が起こり、凶暴化します。
狂気に対抗し、広大な花畑をひたすら進んでください。
●第二章『枯樹死華のアリス『エルヴィラ』』
彼女の絶望を和らげる手段を講じながらの戦闘となります。
この章では満月の狂気に対抗済みと判断し、プレイングに再度対策を書く必要はありません。
火を点ける等、わざと花畑を傷つけるプレイングを書かない限り、戦闘によって周囲の花に多少の被害が出ても(花を踏んでしまった、折れてしまった等)マイナスの判定になる事はありません。
●第三章 集団戦
『オウガのゆりかご』より生まれたオウガとの戦闘です。
二章のエルヴィラの絶望の度合いによって戦力が増減します。
それでは、よろしくお願い致します。
第1章 冒険
『狂気に満ちた満月の下』
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POW : 狂気にただひたすら耐える。
SPD : 狂気を紛らわせたり軽減するような方法を取る。
WIZ : 狂気に陥っても問題ないような対策をとっておく。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ナハト・ダァト
アドリブ歓迎
狂気カ…構わないヨ。
今更私ニ、どんナ狂気が来ようト。
「瞳」ハ決しテ、過たないサ。
対策
狂人の智慧
それは常人に耐え難い狂気を与えるモノ
所持者は常に発狂を抱えており
故にこそ、狂気に対して最も効果的な耐性を備えている
いざないの苺香
狂気にあって、手放せないモノ
とある少女との約束
栞から発される狂気
常に情報を流し続ける「瞳」
己のものとも知れぬ聲を響かせ続ける「啓示」
元よりソレは、狂い切っている
異常である事に、気づきながら
享受している
だからこそ、忘れ得ぬ約束で己が身を縛ることが出来るのだ
コノ程度カ
涼風だネ
サ、先へ進むヨ
聖者と呼ぶには禍々しく
狂人と呼ぶには余りに無垢に
白痴の賢者は、歩を進めていく
月の光に照らされ、灰汁色のローブ姿の男がゆったりと歩んでいた。
静々と。静々と。赤紫の海を揺蕩う小舟のように、ナハト・ダァトは花畑を進む。
「狂気カ……構わないヨ」
長い年月を生きた老君のように寛容に、初めて会った友人を遊びに誘う幼子のように他意はなく、ナハトは月下に身を晒す。今更ダ、と顔を上げれば、冴え冴えとした月光が、瞳を優しく刺した。不快感。だが、それだけだ。
「どんナ狂気が来ようト。『瞳』ハ決しテ、過たないサ」
嘯いたわけでもなければ、軽んじたわけでもない。月光の齎す呪縛を、誕生を、経緯を、感情を、狂気を――、ナハトの視界には夜の花畑という風景以上の情報が映り込み、花々のささめきに混じり託宣が続く。常人であれば脳の処理が追い付かず、とうに廃人となっている所だ。或いは、既に彼は。
ふ、と小さく漏れた笑いは、楽し気でもあり、自嘲的にも思えた。彼は比較するのも馬鹿らしい、より悪辣な狂乱を孕んだ栞を手放すつもりは毛頭なく、頭上の月如きに今更抗う事もしない。受け入れるのみだ。
ちり、と金鎖の鳴る音がした気がして、ナハトはふいに首に提げた植物標本を意識した。情報の奔流に押し流される事も無く、あの少女は、あの少女との約束は、確かにここに在る。
「コノ程度カ」
ちっぽけな小さな花は、濁流に飲み込まれないよう、今も力強くナハトを縫い留めている。
「涼風だネ」
凪いだ声で呟いて、ナハトはゆるりと漕ぎ出した。突き出た花々の合間を、ただ静かに進む。
大成功
🔵🔵🔵
ティレア・エウドーレ
ヴェールには蒼い花を戴いて。羽ばたかずにそっと歩いて。こんにちは、お客さんですよ。花々に微笑みかける無害な妖精です――と、まあ、こんな感じでいきましょうか。
(歩を進めながら、ジギタリスの花畑へ)(いとけない声で、気をまぎらわすように)噂好きな花たちもいるけれど、お前たちは喋らないのね。お前たちの主は一人で、ずいぶん壊れてしまったようですが、ふふ、何か云って差し上げたらいいのに。
花畑と、絶望したオウガ。少し前に弔った元アリスの記憶がふと情景に重なって。…ゆっくりと、過去を思い出しながら歩きます。有象無象を薙ぎ払って済ませたくなるような悪神の衝動も、そうすれば静められるでしょうから。
アドリブ歓迎
さあと風が吹き、花の海に細波が生まれた。赤紫の波間に、ミルク色が揺らぐ。
「こんにちは、お客さんですよ」
無害な妖精を名乗り、ティレア・エウドーレは楚々と笑む。事実、清廉な印象を与える外見に寸分違う事なく、他者を害そうなどという悪意を彼女はこれっぽっちも持ち合わせてはいない。――尤も、悪意が無ければ害さないという方程式は成り立たないのだけれど。彼女にこの花々を傷つけようという意思が無い事だけは、確かだった。
「噂好きな花たちもいるけれど、お前たちは喋らないのね」
アリスラビリンスにおいては姦しい花も珍しくはないが、何処までも続くジギタリスは一般的に『花』とされる存在と同じく沈黙していて、時折囁くように葉擦れの音をさせるばかりだ。
「お前たちの主は一人で、ずいぶん壊れてしまったようですが――ふふ、何か云って差し上げたらいいのに」
アリスを主たらしめるのは、かつての絶望か、オウガになったが故の変質か、月光に因るものか。花を慈しむように微笑んだティレアは、ここで初めて月を意識した。
普段翡翠色をしている羽は月光に照らされ、裏柳色の羽衣が垂れているようだ。儚げな姿とは裏腹に、ティレアの中でふつふつと湧き上がってくる衝動は、所謂『善神』とは程遠く――。
ふと花畑の中に、かつて斃したオウガの姿を見た気がした。
(「彼も、花がお好きでしたね」)
花を愛した断罪者の絶望を、星々の嘆きを。回顧し、ティレアは歩みを進める。
薙ぎ払う事は容易いけれど、それではきっと、知る事が出来ないから。人を騙るにはあまりに無垢な彼女の、『ひとを知りたい』という探求心だけは、酷く人間らしかった。
ふわり。蒼い花を戴いたヴェールが揺れる。
成功
🔵🔵🔴
月見里・見月
綺麗なお花畑ですね、死に場所にも良さそう……でも折角だから、私一人で自殺を選ぶよりも、周りの皆さんも一緒に死なせてあげるべきなのでは?
……はっ! 今、とんでもないことを考えていたような……仕方がありません、邪心だけを斬る霊力の刀を、自分に突き刺しておきましょう。まさか初の相手が自分だとは思いませんでしたね……
他人の選択を奪うなんて、誰にも出来ませんよね。私にも、それに……彼女がオブリビオンになった原因、選択肢を奪った人間にも。見逃すことは出来ませんが、出来るなら円満に、最期くらいは自分の意志で生命の結末を選択して欲しいものです……
月明りに照らし出される、何処までも続く花の絨毯。雲一つない夜空だというのに星は無く、天満月だけが異様な存在感を放っている。
「綺麗なお花畑ですね」
ほうと熱の篭った息を吐き、月見里・見月は些か現実離れした光景を眺めた。そこに何らかの情念を抱き舞台を見出してしまうのは、文豪の性か。
「死に場所にも良さそう」
うっそりと見つめる様は、所謂恋する乙女そのものだ。――焦がれた先が、人生の終着点ではあるけれど。
「ああ、でも折角だから」
一人で自殺を選ぶよりも、周りの皆さんも一緒に、と。この風景を分かち合いながらの平等な死を。だが美しい舞台が整えど、問題は相応しい死に方だ。人生で最も重要な選択肢に対し、一切の妥協は許されない。
「――はっ! 今、とんでもないことを考えていたような……」
思考を巡らせ、はたと我に返る。それが月光の狂気のみが原因かはさておき、よろしくない傾向にあった事は確かだ。仕方ない、と見月は霊刀を取る。
「……まさか初の相手が自分だとは思いませんでしたね」
自身に刃を向け、一突き。破邪の刃は見月の身体を傷つける事なく、異心のみを斬り捨てる。
「他人の選択を奪うなんて、誰にも出来ませんよね。私にも、それに……彼女の選択肢を奪った人間にも」
狂おしい程の憧憬を手放した今ならば、冷静に考える事が出来た。自ら選択する事にこそ、価値がある。
「……出来る事なら、円満に……」
見逃す事は出来ないが、その選択肢を与えてやりたい。退魔刀を握る手に力を込め、見月は真っ直ぐ前を見据えた。
(「最期くらいは自分の意志で……生命の結末を選択して欲しいものです」)
成功
🔵🔵🔴
霧島・絶奈
◆心情
魔女とは本来は、知恵者への畏敬の念を込めた呼称です
…故に権威にとっては邪魔だったのでしょうね
◆行動
狂気を引き出す「環境」ですか…
であれば、【狂気耐性】と【環境耐性】を高めた【オーラ防御】にて適応力を高めるとしましょう
【オーラ防御】は視界を妨げない範囲で濃度と密度を高め、浴びる月光の量を少しでも減らしましょう
…真に憎むべきはアサイラムにて暴挙に出た者ですので、花畑やアリスに向けるつもりはありません
それにしてもジギタリスですか…
優れた薬効を持ちながら、素人が手を出せば毒にしかならない花…
この正気と狂気の狭間に咲くには相応しい花なのかもしれません
そしてその狭間は、花言葉の「熱愛」にも相応しい…
(「魔女とは、本来は知恵者への畏敬の念を込めた呼称です」)
薬師をしていた老婆ならば、そのように呼ばれる事もあっただろう。そっと分け入り、霧島・絶奈は己の知識を辿る。
(「……故に」)
この花を魔女の手袋と称したのは、何処の国の言葉だったか。眼前に広がる花畑は、尖塔が連なる街並みにも、列をなすペニテンテにも似ていた。ぽつり、言葉が零れる。
「権威にとっては、邪魔だったのでしょうね」
魔女を迫害の対象に仕立て上げた要因は種々あるが、その多くに支配者層が関わっている。魔女熱狂の歴史に思いを馳せながら、絶奈はふと思い出したようにその身に纏うオーラを整えた。
「……真に憎むべきは、アサイラムにて暴挙に出た者ですからね」
花に罪は無く、アリスに与えるべきは罰でなく。狂気じみた月光は絶えず絶奈に降り注いでいるが、濃密に編まれた神気がそれを阻んでいる。微かに感じた心のざわつきは、既に凪いでいた。
「それにしても」
絶奈は自身の腰元まである花に、視線を落とす。
「ジギタリスですか」
何かと不吉な俗説の多い花だが、絶奈は不思議と悪い印象を抱いてはいなかった。
「優れた薬効を持ちながら、素人が手を出せば毒にしかならない花……」
相反する効能を持ち合わせた、二面性のある花。そこに、ある種の好ましさすら覚える。
「この正気と狂気の狭間に咲くには、相応しい花なのかもしれません。そしてその狭間は――」
不意に風が吹き、絶奈の言葉を攫った。フードを目深に被る彼女の表情を窺い知る事は出来ないが、ただはっきりしている事は。愛はヒトを狂わせる、という事くらいだろうか。
成功
🔵🔵🔴
エリアス・アッヘンバッハ
魔女と聞いて駆け付けた魔女狩りじゃない魔女狩り参上。
本職の魔女狩りとしては風評被害も甚だしいとここに遺憾の意を表明するよ!
さて、話を戻して。
まずは狂気に耐えなくっちゃいけないんだよね、さてどうしよう。都合よく精神耐性なんて持ってないし普通の人間である以上バリバリ効いちゃうからなあ。
仕方がない、鏡の破片を握りしめて定期的に尋ねよう。「鏡よ鏡、自分は正気ですか?」
正気だったら何もなし、狂気に陥りかけていたらめっちゃ痛いから痛みで正気に戻る!よし完璧!血まみれの手を除けば一部の隙もない完璧な対策!
傍目だとこの行動自体が狂気な気がするけどそこは気にしないことにしようそうしよう。
「魔女と聞いて駆け付けた、魔女狩りじゃない魔女狩り参上」
やれ不吉だなんだと言われる花を前にしても臆する事なく、エリアス・アッヘンバッハは明るい声で、誰に聞かせるでもない名乗りを上げた。とはいえこの先に居るのは、魔女の嫌疑をかけられただけの少女で。何処となく物憂げに、エリアスは肩を竦めた。
「本職の魔女狩りとしては、風評被害も甚だしいとここに遺憾の意を表明するよ」
彼が日頃相手にしているのは、権力の誇示に使われたり、自然災害の責任を取らされたりといった仕立て上げられた魔女でなく、正真正銘本物の魔女。あらぬ罪をでっちあげるだけの者達が魔女狩りを名乗るなど、言語道断だ。
「……と、話を戻して」
気は進まないが、致し方ない。エリアスは小さな鏡の破片を握り込み、花畑へと歩み出た。
「鏡よ鏡、自分は正気ですか?」
それは真偽を見抜くユーベルコード。もしも答えが偽りならば。いつ訪れるかわからぬ痛みに、エリアスは身構えながら、歩みを進める。
「鏡よ鏡――」
幾度目かの自問自答。当然「はい」と答えるエリアスの掌に、痛みが走った。
「……ッ」
痛覚の多い箇所に薄い刃を這わせたような、鋭い痛み。ぬるり。指の間を、血が伝う。
「……よし、完璧! 完璧な対策!」
傍から見ればこの行動こそが狂気の沙汰かもしれないと思いつつも、思考が冴えてゆくのを自覚し、エリアスは口の端を上げた。
「さて、もうひと頑張りといこうかな」
掌の痛みは、簡単には引いてくれそうもない。だがエリアスは再び破片を握り締めると、負傷を感じさせない程に力強い表情で前を向いた。
成功
🔵🔵🔴
ヘルガ・リープフラウ
エルヴィラの境遇、敵とはいえ何て哀れな……
彼女の受けた仕打ち、聞けば聞くほど同情を禁じえません
魔女裁判、異端審問……彼らさえいなければこんな悲劇は起きなかったのに
罪なき人を悪と決め付け命を奪う権利が、誰にあるというの
許せない
許せない
自分達の都合と独善で人を踏み躙り食い物にする偽善者たち!
貴奴らこそ裁きの業火に焼かれ地獄に堕ちればいい……!
……駄目よ、駄目
憎しみは新たな絶望を生む。後に残るのはただ凍てついた虚無
呪詛と狂気に屈してはいけないと、この胸の聖痕が告げる
傷ついた人の悲しみを掬い上げ、その心を慰める
絶望の闇の中にあっても、優しく暖かな光を灯し続ける
それがわたくしの救世のあり方なのだから……
艶やかな花の合間に、透き通った白雪と、清楚な瑠璃色のミスミソウが揺れる。花を傷つけまいと周囲に視線を巡らせれば、自分が祈るように胸元に手を当てていた事に気付き、ヘルガ・リープフラウは眉尻を下げた。
「哀れな」
思わず漏れた呟きは、この先に居るであろうエルヴィラを想って。敵と言えど、あんまりではないか。
(「彼女の受けた仕打ち、聞けば聞くほど同情を禁じえません」)
オウガとなるのが必然とも思える境遇。元の世界に帰った所で、決して救われる事はなかっただろう。それというのも、彼らが。
魔女裁判。異端審問。ヘルガは悲劇の元凶を、考えた。――考えてしまった。
「……罪なき人を悪と決め付け命を奪う権利が、誰にあるというの」
零れた声は、普段の彼女からは想像も付かない程に平坦。それでいて、心の中は酷くざわついている。許せない。その言葉だけが、思考を占めていく。
「自分達の都合と独善で人を踏み躙り食い物にする偽善者たち……!」
月光よりもなお白い、儚げな身体に激情を宿して。ヘルガは不条理を嘆く。
「貴奴らこそ、裁きの業火に焼かれ……」
――地獄に堕ちればいい。悲嘆が口を衝こうとした時、胸の聖痕がじわりと熱を持った。
「……っ、駄目よ、駄目」
憎しみが希望となりえぬ事も、その先に虚無しか残らぬ事も知っている。ヘルガはかぶりを振った。
(「絶望の闇の中にあっても、優しく暖かな光を灯し続ける」)
敵にまで心を砕き、この世の痛みを引き受ける事の、如何に過酷な事か。だが、ヘルガは目を逸らすまいと、しっかりと顔を上げる。
「それがわたくしの救世のあり方なのだから」
大成功
🔵🔵🔵
ロラン・ヒュッテンブレナー
【POW】
アドリブOK
感情が尻尾や耳によく表れる
うわぁ、すごい光景なの…っ!
一面お花畑、すごいなぁ
えっと、あそこに見えるのが目的の場所だね
ん?電脳空間にアラート?
あ、満月の魔力の反応!
だめ、人狼病が…っ
このままだと暴走しちゃう…
出てこようとしてる魔狼を解放して、制御しなきゃ
精神を防御する魔術陣の首輪【ハッキング】と
人狼の魔力を狼の身体の形に抑えつける魔術回路の鎖【オーラ防御】で
狂気と暴走を、耐えるの
この病気と、向き合って、乗り越えるって決めたから、負けないの
先に待ってる人が、例え明日のない人でも
ぼくにもできる事があると思うから
だから、待ってて
【勇気】
魔狼の姿のままゆっくりと進むの
「うわぁ、すごい光景なの……っ!」
藤紫の瞳を零れんばかりに見開いて、ロラン・ヒュッテンブレナーは眼前に広がる花畑に頬を綻ばせた。はたり、尾が揺れる。
「えっと、目的の場所は……」
花の絨毯は何処までも広がり、地平線まで続いているかのようだ。ロランが小手を翳し、ほんの少し背伸びをした刹那、異変は起きた。警鐘。
「ん? 電脳空間にアラート……っ」
呪詛。悪意に撫でまわされるような悪寒。魔力の干渉。浸食。反射的に元凶を見上げてしまい、ロランは柳眉を寄せた。
「満月――!」
血が巡るのを認識出来る程に滾り、内に秘めた魔狼が引きずり出されようとしている。このままでは。
「だめ、人狼病が……っ」
抑えつけるように己を掻き抱きながら、ロランは即座に魔術陣を展開した。月光が凶暴化を強制するというのなら、いっそ自分から解放してしまえば良い。決してリスクは小さくないが、幼い外見からは想像もつかない程に熟達した技術を以て、ロランは回路を構築してゆく。
「『月夜の獣、我が命によりて――』」
編み上がった鎖は空色に輝き、ロラン――竜胆色の狼を、縛るように収束した。
(「この病気と、向き合って、乗り越えるって決めたから、負けないの」)
僅か七歳で背負うには重すぎる病に対し、果たして彼はどれ程の覚悟をしたのだろうか。悲嘆を欠片も見せず、ロランは顎を上げる。
(「先に待ってる人が、例え明日のない人でも、ぼくにもできる事があると思うから」)
魔狼の姿のまま、音も無く進む。その姿は獣と言うよりは、まるで神の使いのように。月下、凛と顔を上げ、しなやかに歩いている。
(「だから、待ってて」)
成功
🔵🔵🔴
リカルド・アヴリール
ライナス(f10398)と
アドリブ歓迎
月の光は人を狂わせる、とは聞いたが
己は機械であると言い聞かせていても
流石に例外とはならないらしい
オウガの境遇には同情もするが、それ以上に――忌々しい
そうだ、きっと誰も助けてはくれやしない
喪失を拒絶しようと
早く敵を殺してしまおうと、直ぐにでも前に出ようとするが
それよりも早く、ライナスが前に立ってくれたのに
どうしようもなく腹立たしいと感じてしまう
は?お前こそ、さっさと下がれ
お前は遠距離攻撃の方が得意だろう下がっていろ
其れが『所有物』に対する命令ならば従うが
自分に対しての苛立ちも、敵への殺意に変換される
壊してしまえ、殺してしまえ
もう誰にも、大事な相手を奪わせない
ライナス・ブレイスフォード
リカルドf15138と
毒草っつうけど結構綺麗じゃねえの
そう庭を見渡すも満月の光に照らされるリカルドを見れば不可思議な怒りが身に渦巻き眉を寄せる
何時も前衛に立ち盾とならんとする様を
そして自身の身などどうでも良いと敵に向かい怪我を負うその様を思い出せばついぞ相手を追い抜き前に出んと試みる
チッ…邪魔だっつの。あんたは後ろ歩いてろよ
そう声を投げつつもリカルドの血を断酒…否断血しているにも関わらず怪我を与え血を流させるだろう敵へと怒りが次いで向かって行く苛立たし気にリボルバーを指で弄びながら花畑を進む足を速めるぜ
…あいつの血が溢れる前に俺が必ず仕留めてやる
クソ、忌々しい…リカルドあんたも前出るなよ?
「毒草っつうけど」
憂鬱なロケットと形容したのは、何処の国の詩人だったか。陰鬱なイメージが付きまとうのは、日陰を好む花であるが故か。とはいえそれも、無数に咲き誇ればいっそ壮観というものだ。
「結構綺麗じゃねえの」
生憎と花を愛でるような生活とは縁遠いが、この風景は悪くない、と。広大な花畑を前に、ライナス・ブレイスフォードは目を細めた。
「綺麗、か」
リカルド・アヴリールは反芻するように呟くが、景色に心を動かされるような気配は無い。だというのに、先程から感じている胸の痞えは、凡そ機械らしからぬ焦燥で。
(「月の光は人を狂わせる、とは聞いたが」)
ほんの僅かでもオウガに同情してしまった事が、どうにも口惜しい。せめてこの酷く人間味を帯びた感情を、全て月光の所為にしてしまえれば良いものを。オウガの境遇に、彼女が経験したであろう喪失に、少しばかり自身を重ね見てしまったなどとは口が裂けても言えず、リカルドは吐き捨てた。
「――忌々しい」
早く、依頼を遂行すべきだ、と。花畑に足を踏み入れたリカルドを見たライナスが反射的に足を速めたのは、ほぼ無意識での事だった。
(「リカルド、あんたは、また」)
負傷を厭わず、盾として前に立ち続けるリカルドの姿が脳裏を過ぎる。彼の自身を顧みない様は、自己犠牲というより単なる自暴自棄ではないかとライナスは思う。
「チッ、……邪魔だっつの。あんたは後ろ歩いてろよ」
ずいと一歩前に出たライナスに、リカルドの眉がぴくりと動く。
「は? お前こそ、さっさと下がれ」
大体ライナスは遠距離攻撃の方が得意ではないか。そう言ってリカルドは場所を代わろうとするが、ライナスは頑なに譲らない。
「――其れが『所有物』に対する命令ならば従うが」
その言いざまに、今度はライナスが柳眉を寄せる番であった。牽制するようにじろりと睨むと、再び歩き始める。
かち、かち。土を踏む音に混じり、ライナスが撃鉄を弄る音が、嫌に響いていた。
それというのも、二人が無言で歩んでいるからだ。常であれば、二人の喧嘩じみた言葉の応酬など然して珍しい事でもない。むしろ楽しんでいる節すらあるのだが、今は。
(「……あいつの血が溢れる前に、俺が必ず仕留めてやる」)
自分ですら、長らく美酒に、――血に、酔いしれていないというのに。
恐らく戦いが始まれば、彼は前に出ようとするのだろう。行き場のない敵への怒りをぶつけるように、ライナスは手の色が変わる程にきつくグリップを握る。
「クソ、忌々しい」
(「どうしようもなく、腹立たしい」)
前を行こうとするライナスも、それに苛立つ自身も。己は機械だといくら言い聞かせてみたところで、リカルドはどうしようもなく人間である部分を自覚させられる。
――ならば、壊してしまえ、殺してしまえ。
ふと閃いたそれは天啓にも似ていて、ひとたび気付いてしまえば湧き上がってくるのは敵への純粋な殺意ばかりだ。
(「もう誰にも、大事な相手を奪わせない」)
ライナスより前へ、ライナスより先に。
リカルドより前へ、リカルドより先に。
双方とも相手を想うが故に怒りを覚え、怒りが敵へと足を急がせる。結果、二人は脇目も振らず花の合間を通り抜け、エルヴィラの元に辿りつくのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 ボス戦
『枯樹死華のアリス『エルヴィラ』』
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POW : 魔女殺し
【猛毒の呪詛】を籠めた【マンチニールの果実の投擲】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【生命力】のみを攻撃する。
SPD : 狼殺し
【スナバコノキの実の破裂】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【高速でまき散らされる種子】で攻撃する。
WIZ : 悪魔殺し
自身の装備武器を無数の【ゼラニウム】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
イラスト:とのと
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠大宝寺・風蘭」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「お客さん、かしら」
夜空にぽっかりと浮かぶ狂気が、少女の顔を青白く照らす。
「お薬ですか? ごめんなさい、おばあちゃんは……」
少女は猟兵に――来客に対し、多少は迎え入れようという気持ちはあったのか。笑おうとして、失敗していた。唇は弧を描くどころか戦慄き、眉間の皺は取れず、ただ顔の肉を引きつらせている。
「おばあちゃん、は」
少女は背後の小さな家に、視線を向けた。その扉は、固く閉ざされている。
「もういない」
言うが早いか、少女は腕に提げたバスケットから果実と花を取り出した。――有毒植物だ。
「何しに来たの。何で奪うの。……魔女じゃないのに」
許さない、と呟いて。『枯樹死華のアリス『エルヴィラ』』と猟兵達との戦いが始まった。
ナハト・ダァト
花言葉は「不誠実」、だったカ。
君ト、君ノ大切ナ者達への結末ヲ視るト。
ソレは迫害しタ彼等ニ言えるノだろウ。
……だガ、それでモ尚。家族へ愛情ヲ持っているのハ。
もう1つノ花言葉「熱愛」だネ。
裏返しノ憎悪ヲ抱けバ。
愛情ハ、やがテ消えテしまうヨ。
高速の攻撃に対し「瞳」と三ノ叡智で回避
被弾した種子は、体内に残らないよう
溶け込む夜の液状化と気化で払い落とす
毒に対しては、激痛、呪詛耐性、ドーピングで体を動かしながら
世界知識、医術で抗体を生成し、解毒
催眠、精神攻撃、言いくるめ、時間稼ぎでダメージを負ったように見せかけた残像を残し
本体は迷彩、ダッシュで接近
UCで攻撃
忘れ、そしテ思い出すト良イ
家族ガ望んダ、結末ヲ。
ヘルガ・リープフラウ
助からないとは分かっています
それでもわたくしは彼女の心を救いたい
でなければ、あまりにも哀れではありませんか
ジギタリスの毒もゼラニウムの花びらも臆せず、エルヴィラのもとに歩み寄る
彼女の知る絶望は、こんなものではなかったのだから
彼女の手をとり口ずさむは幼き日の懐かしい歌
お祖母様と過ごした優しい日々
ここはとても美しい場所ね
ゼラニウムの花言葉は「貴方がいて幸せ」
きっとお祖母様も同じ想いだったはず
たとえ世界を敵に回しても
あなたがお祖母様を信じたように
わたくしもあなたを信じます
毒と薬は表裏一体
人を毒で殺す誘惑に負けず、救う意思を貫くことは
強く優しい心を持つ証だから
もう苦しむことはないの
安らかにお眠りなさい
「魔女じゃないって、言ってるのに!」
叫喚。どうして信じてくれないの、尋ねる少女の掌には、南瓜に似た小さな実が一つ。
「嗚呼、これハいけないネ」
ぞふり、ナハト・ダァトの影が膨れ上がり、輪郭が揺らいだ。同時、ダイナマイトの異称を持つ実が爆ぜたが、高速で撒き散らされる種子の軌道も、彼の瞳にはコマ送りの映画のように映っている。人の形を曖昧にしながら、彼はヘルガ・リープフラウの前に立つ。
「ありがとうございます。お身体は?」
「大丈夫。体内ニは残サないヨ」
黒い霧と化した身体からぱらぱらと種子が落ち、ヘルガは胸を撫で下ろした。彼の調子から察するに、解毒すらも可能なのだろう。エルヴィラを見やれば、射殺さんばかりの視線でこちらを睨みつけている。
(「助からないとは分かっています。――それでも、わたくしは」)
心を、救いたい。一歩歩み出たヘルガに身構え、エルヴィラは花を手にした。独特の青臭さがある芳香は、ゼラニウムの。
「来ないで! おばあちゃんの家に、近寄らないで!」
赤、ピンク、紫。色とりどりの小さな花びらが、無数に舞った。柔らかな形からは想像も付かない凶刃となり、猟兵達を襲う。
(「ジギタリスの花言葉は『不誠実』、だったカ。ソレは迫害しタ彼等ニ言えるノだろウ。……だガ、それでモ尚。家族へ愛情ヲ持っているのハ」)
ナハトはヘルガの気持ちを慮ってか、今度は庇わない。自身の回避に徹しながら、エルヴィラに声を掛ける。
「裏返しノ憎悪ヲ抱けバ。愛情ハ、やがテ消えテしまうヨ」
「知った風な事、言わないで!」
「私ハ、知っテるヨ」
ナハトの目には、確かな『愛情』がまだ見えている。そんなやり取りにヘルガは口元を緩ませ、花吹雪の中を歩き始めた。小さくとも鋭い刃が白い肌を傷つけたが、些事だとばかりに足を進める。
「ここはとても美しい場所ね。『とこしえに穢れることなき夢の都へと――』」
囁くような、それでいてよく通る歌声。突然歌い出したヘルガにエルヴィラは一瞬呆けたような顔をしたが、攻撃の手は緩まない。それでも、ヘルガは歩み寄る。
「たとえ世界を敵に回しても。あなたがお祖母様を信じたように、わたくしもあなたを信じます」
「え」
――信じてくれるの?
それは恐らく、全てを否定され、痛みだけが与えられる世界で、少女が最も望んだ言葉であった。花吹雪が、徐々に、徐々に静かになってゆく。
「やァ、それが本当ノ月だネ?」
ナハトの言葉に空を見れば、つい今しがたまで責め立てるように見下ろしていた満月は、優しい光を湛えてそこに在る。ヘルガの歌は、エルヴィラの幼き日の庭を織り成していた。
(「ゼラニウムの花言葉は『貴方がいて幸せ』――きっとお祖母様も同じ想いだったはず」)
どうか、お祖母様と過ごした優しい日々を思い出して。ヘルガの想いが伝わったのか、動きを止めたエルヴィラに、いつの間にか傍らに立っていたナハトがそっと触手を伸ばす。
「忘れ、そしテ思い出すト良イ。家族ガ望んダ、結末ヲ」
こつん。エルヴィラの額を、触手の先で慰撫するように小突いた。
「もう苦しむことはないの。安らかにお眠りなさい」
声も、姿かたちも、まるで違う。だというのに、エルヴィラの脳裏に過ぎるのは、幼き頃の。
「……ぱぱ、まま」
ゼラニウムの花びらが、地に落ちた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ティレア・エウドーレ
わたくしは何も奪いませんよ
花を見に来ただけですから
今日はお客さんが多いのかしら
ごめん下さいね
ねえ、今このお庭がお好き?
…あの月の光はお好き?
あなたのお話を聴きたいわ
実のところ、来た理由はそれだけ
わたくしね。花を手向ける仕事をしているの
うふふ、本当よ
この蒼も、紫に添えばきっと綺麗だわ
聖職者はお嫌いでしょうか
神の名の下で悪魔の業を行う者もいましたね
わたくしは、そんな輩と同じではありませんよ
(だからといって、善い者とも云えないけれど)
聖人擬きは月下に笑う
翡翠色の幻で、僅かでも月光を遮ることができたなら
思い出を垣間見ることができたなら。
✮
隙作りが主、被弾しても気にせず
アタッカーがいない時は自分から攻撃
霧島・絶奈
◆心情
ゼラニウムの花言葉は『尊敬』と『信頼』でしたか…
◆行動
【優しさ】を籠めて対話
その植物に対する造詣の深さは誰に学んだものでしょうか?
貴女の先生は素晴らしい方だったのでしょうね
そしてきっとその方は、貴女を護る為だけに魔女の汚名を被ったのでしょう
花畑は直せても、人を蘇らせる事なんて出来ないから…
貴女の薬学の知識も経験も、おばあ様を想う気持ちも…
誰にも奪う事など出来ません
私には貴女の哀しみを癒す事は出来ませんが、貴女の嘆きを受け止める位はしてみせましょう
各種耐性と【オーラ防御】で護りを固め、彼女の嘆きを受け止めます
嘆きが途絶えたら『涅槃寂静』にて「死」属性の「月虹」を行使
彼女の絶望を終わらせます
「なん、で。家族を……思い出させて、どうしたいの?!」
猟兵達に因って引き出された優しい記憶は、エルヴィラを混乱させていた。必死に守ろうとしがみついているこの庭が虚構である事に、薄々気付いているのかもしれない。どうもしませんよ、と無邪気に微笑むものだから、ティレア・エウドーレにエルヴィラは一瞬毒気を抜かれたような顔をしたが、すぐに怒りの形相へと変わる。
「嘘!」
ざあざあと。急に降り始めた豪雨にも、喝采にも似たざわめきが巻き起こり、ゼラニウムの花びらが荒れ狂う。だが、ティレアは一歩たりとも動かない。
「ほんとうですよ。わたくしは花を見に来ただけですから」
躱す事もしなければ、反撃もしない事がその証左だ。花が人の器を傷つけるが、彼女はただ凛とそこに在る。
「ゼラニウムの花言葉は『尊敬』と『信頼』でしたか……」
霧島・絶奈は吹き荒れる花びらの中から真っ赤な一枚を摘まみ取り、「それから、『君ありて幸福』」だと言った。絶奈もまた花嵐の中に身を置いていて、その場から離れようとはしない。
「私には貴女の哀しみを癒す事は出来ませんが、貴女の嘆きを受け止める位はしてみせましょう」
静かに告げる二柱に、エルヴィラは息を飲む。わけがわからない、そう口に出す事が憚られる程に、二人の女は神々しい。
「ねえ、今このお庭がお好き? ……あの月の光はお好き?」
「好きに……」
決まってるでしょと言おうとして、続かなかった。――この庭は、あの月は、思い出の中のそれらとは似て非なる――、言葉を詰まらせたエルヴィラに、ティレアは母を思わせる柔らかな笑みを向ける。
「あなたのお話を聴きたいわ。実のところ、来た理由はそれだけ」
エルヴィラは彼女のヴェールを飾る花が何かは知らなかったが、紫に沿う蒼を綺麗だと思った。ふと、何となしに見つめていた蒼い花の背後に、翡翠の輝きを認める。
「わたくしね。花を手向ける仕事をしているの。うふふ、本当よ」
蠢く翡翠の、その向こう。回り灯篭のように流れる幻影は、絶望を通り過ぎて更に遡る。そこに映るは、ありし日の。
「おばあちゃん」
思わず祖母を呼んだ少女に、絶奈は花びらの猛攻を物ともせずに歩み寄る。
「その植物に対する造詣の深さは誰に学んだものでしょうか?」
「それは……」
「貴女の先生は素晴らしい方だったのでしょうね」
――そうよ。素敵な先生だったの。魔女だなんて、殺されるなんて。
少女は鞭に晒された事よりも、尊敬する祖母を悪し様に言われる方が辛かった。漸く祖母を認めて貰えた少女は、縋るように絶奈を見つめる。
「ねえ、おばあちゃんの望んだ結末ってなぁに?」
家族の望んだ結末を思い出せ。先程、他の猟兵から言われた言葉だ。きっと、と言いつつある種の確信をもって、絶奈は答える。
「貴女を護る為だけに魔女の汚名を被ったのでしょう」
「――!」
「……花畑は直せても、人を蘇らせる事なんて出来ないから」
エルヴィラはティレアの幻影に視線を戻した。口を開けど声にならず、唇だけが祖母を呼ぶように動いている。そんな彼女に、絶奈はおもむろに手を差し伸べた。
「貴女の薬学の知識も経験も、おばあ様を想う気持ちも……誰にも奪う事など出来ません」
だから、ただ絶望を終わらせるだけ。夜空に架かる虹は、オウガとしての生に、死を齎す為に。
悪魔殺しの花吹雪は、いつの間にか止んでいた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リカルド・アヴリール
ライナス(f10398)と
アドリブ歓迎
月の光で浮かぶ殺意を抑えて
ライナスの前に立とうとしながら少女を見る
どうせ、誰も助けれくれない
……その気持ちには、とても共感してしまう
だからこそ、独りでも守ろうとする
彼女の行為を責める事は出来ない
だが……お前の祖母は何の為に毒草を育ててきた?
侵入者を害する為か?敵を殺す為なのか?
……違うだろう
誰かを、家族を、お前を
病から守る為だったのではないか?
他人の心に寄り添おうとする、などと
欠陥だらけの機械と嗤うか?
そうか……お前に嫌われていないなら良かった
馬鹿、って……お前な……
ライナスに向かう花弁を出来る限り
UC:光で撃ち落とす
お前こそ、俺に守られる覚悟はしておけ
ライナス・ブレイスフォード
リカルドf15138と
リカルドを押しのけんと試みるも動かぬ無駄に重い相手を見れば眉を寄せ斜め後ろより二人の様子を窺うぜ
誰も助けてくれねえ、なあ
んなの当たり前だと思ってたからな。あんたの気持ちは解らねえけど…リカルドがそう言うならそうだったんじゃねえの?
ま、それが本当にあんたのしてえ事なら何も言わねえけどよ…って
…元々理解出来ねえ俺みてえな人間も居んだからいいんじゃねえの?それに俺はあんたのそういう所嫌いじゃねえしな
戦闘は【リザレクト・オブリビオン】にて呼び出した騎士と蛇竜をリカルドの盾にしつつリボルバーにて攻撃を
前に出んなっつってんだろが、ばあか
怪我なんざさせてやらねえからな。覚悟しとけよ?
広い広い花の海を守るには脆弱過ぎる少女の姿に、リカルド・アヴリールは幾分殺意が和らぐのを感じた。この花々を守ろうとする行為を責める気には、到底なれなかった。
「誰も助けてくれない……か」
「んなの、」
当たり前の事ではないか、ライナス・ブレイスフォードは独り言つ。今日も今日とて彼の故郷では不条理が瀰漫し、自身で打開できぬ者から犠牲となっている事だろう。だが、ライナスは前に立とうとするリカルドを『無駄に重い』と嘯いて、今度は制止しようとはしなかった。
「ま、それが本当にあんたのしてえ事なら何も言わねえけどよ」
ちらりとエルヴィラを見やれば、猟兵達が掛けた言葉の数々に思う所があったのか、心ここに在らずといった様子のまま、両手で包むように木の実を取り出した。
「何も言わねえ――が、手は出すからな」
――パァンッ!
言うが早いか、狼殺しの実が爆ぜた。同時、ライナスの影から死霊が立ち上がる。
「前に出んなっつってんだろが、ばあか」
死せる蛇竜がしなやかな身体を滑り込ませ、種子の凶弾を受け止めた。直後、その身を煙らせた蛇竜に代わり、騎士がリカルドの傍らに立つ。どう足掻いても、ライナスは大人しく守られていてはくれないようだ。
「馬鹿、って……お前な……」
文句の一つも言いたい所であったが、エルヴィラがすぐに次の攻撃に出た為、口を噤む。ぶわりと舞ったゼラニウムの芳香に顔を顰め、リカルドは借り物の銃を抜いた。小気味よい音を立て、運命を冠した銃は花びらの不規則な動きを正確に捉えてゆく。
(「……やっぱり、あんた自身が後回しじゃねえか」)
一見片端から撃ち落としているようでいて、ライナスはその法則性に気付いていた。だから、自分も死霊騎士にはリカルドを優先するよう厳命する。
「怪我なんざさせてやらねえからな。覚悟しとけよ?」
「お前こそ、俺に守られる覚悟はしておけ」
軽口を交わして花びらを掻い潜り、リカルドは視界にエルヴィラを捉えた。
「お前の祖母は何の為に毒草を育ててきた?」
「……おばあちゃん?」
声を掛ければ、花びらこそ止まないものの、視線はリカルドへと向く。
「侵入者を害する為か? 敵を殺す為なのか?」
「ちが、う」
「ああ、違うだろう。誰かを、家族を、お前を。病から守る為だったのではないか?」
手元の花かごに視線を落としたエルヴィラは、顔をくしゃりと歪ませた。そこには薬に加工する為に必要な処理がされぬまま、ただの毒物が詰まっている。
「今更、どうしろというの」
頼りなく呟いたエルヴィラの足元に、ぽとぽとと木の実が零れた。何もかもが手遅れだ。この力を得た時には既に祖母は殺されており、漸く祖母の愛情に気付いたものの、とうにヒトである事をやめている。今にも泣きそうな彼女に、リカルドが口を開いた。
「安心しろ。俺達が送ってやる」
皮肉なもんだと肩を竦めていたライナスは、その力強い声に目を見開くと、微かに口角を上げた。
「『達』? 俺も含まれてんの」
「――欠陥だらけの機械と嗤うか?」
他人の心に寄り添おうとする、などと。自嘲するように言うリカルドに、ライナスは小さくかぶりを振った。
「いや」
二つの銃口が、エルヴィラに向く。その弾丸を受け入れるとでも言うかのように、少女の周りで渦巻いていた花吹雪がぴたりと止んだ。
「あんたのそういう所、嫌いじゃねえ」
「そうか」
お前に嫌われていないなら良かった。口の中で呟き、引き金を引く。
銃声。少女の身体が、跳ねるように揺れた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ロラン・ヒュッテンブレナー
(第一章のUC【魔狼解放】の姿のまま参加※使用する)
はぁ、はぁ、…
ながく、解放しすぎたの…
でも、辿り着いたよ
聞いて
ぼくは、奪いに来たわけじゃないよ
キミには、骸の海に帰ってもらわないとだけど…
でも、傷付けにきたわけじゃないの
UC【魔術回路001】を展開
魔術器官で予測演算しながら攻撃を避けて近づくね
狼の姿を活かして【残像】が残るくらいの【ダッシュ】で走って避けて
避けきれないものは【オーラ防御】でがまんするの
近寄れたら狼の姿のまま慰めるように寄り添うね
キミは十分苦しんだし
最後までがんばったから…
今も苦しむ必要なんてないよ
ゆっくり休んで、目を覚ましたらきっと幸せになってるから
だから、ここに縛られないで
(「ながく、解放しすぎたの」)
静かになった花畑に、荒い息遣いだけが響いている。文字通り命を削りながら駆けてきたロラン・ヒュッテンブレナーは、呼吸を整えると努めてにこやかに声を掛けた。
「聞いて。ぼくは、奪いに来たわけじゃないよ」
傷付ける意思はこれっぽっちも無く、帰るべき場所に帰って貰うだけだと。その手助けをしに来たのだと。拙いながらに言葉を選ぶロランに、エルヴィラは初めて頬を緩ませた。
「うん、知ってる。……取り返しがつかない事も」
猟兵達が自分の為にここまで来てくれた事も、花畑が虚構である事も、もうやり直せない事も。エルヴィラは何処となく寂しげに、だが幾分晴れ晴れとした表情で言う。
「だから、離れて」
だらりと力なく下げられた腕の先、エルヴィラの足元には花かごが落ちていた。その籠からいくつか零れているのは、スナバコノキの実だ。ロランが理解するが早いか、狼殺しの実が炸裂する。
パン、パン。乾いた音と共に、平たい種子が撒き散らされる。直後、ロランの魔力器官は最高速度で演算を行い、経路を導きだした。後脚が力強く大地を蹴り、飛び散る種子の合間を縫う。
「何で……っ」
逃げるどころか駆け寄ってきた狼に、エルヴィラは声を震わせた。自身は次々と破裂する実に穿たれ、骸の海に還るだけの存在だというのに。ふわ、と滑らかな毛並みが、エルヴィラの手の甲に触れる。
「キミは十分苦しんだし、最後までがんばったから……今も苦しむ必要なんてないよ」
柔らかな毛皮を押し付けるように、ロランはエルヴィラに寄り添った。
「だから、ここに縛られないで」
消えゆく少女の安らかな眠りを願うロランの耳に、ありがとう、と呟く声が聞こえた気がした。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 集団戦
『ミミクリープラント』
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POW : 噛み付く
【球根部分に存在する大きな顎】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【習性と味】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
SPD : 突撃捕食
【根を高速で動かして、突進攻撃を放つ。それ】が命中した対象に対し、高威力高命中の【噛みつき攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ : 振り回す
【根や舌を伸ばして振り回しての攻撃】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
イラスト:猫家式ぱな子
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ジギタリスの花畑にある、小さな家。かつて老婆と孫娘が暮らしていた家に酷似したその建物の扉に、亀裂が入った。
『こんにちは』
『いらっしゃいませ』
『おくすりをおさがしですか』
『しょうじょうは……』
固く閉ざされていた扉を突き破り、次々と顔を出したのは笑顔を浮かべる花々。それだけ見れば、薬屋を営む愉快な仲間に見えなくもない。
――が、それらは全て、醜悪な口を持つ球根に繋がっていた。喋る花は、疑似餌といったところか。
『いらっしゃいませ』
『おくすりは……』
あの小さな家にどれ程の絶望が詰まっていたのだろうか。溢れ出した『ミミクリープラント』は、ずんぐりとした根を器用に動かし、花畑に広がっていく。
だが、倒せない数ではない。
猟兵達は、確かにエルヴィラの心を救っていた。
ナハト・ダァト
真の姿解放
一匹たりとモ、逃すとものカ
トラップツールⅡからジギタリスの花畑から精製した毒を散布
動きの鈍った敵へ召喚した樹を伸ばし
絡め、枯れ果てるまで絞り尽くす
吸収、捕食を繰り返す毎に樹々は増え
樹海の様相を呈しながら群れへその枝を伸ばしていく
目ニ映ら無イ存在程、
生命ガ恐れル物ハ無イ
故ニ恐怖シ、時ニ克服ノ為
知を付けルのガ生き物ダ
絶望の具現を残さず平らげんと
隠れ逃げようとする敵は地中から生やした根で対応する
全テ、過去へ還り給エ
ソレはもウ、未来ニ要らなイ物ダ
ティレア・エウドーレ
(声を立てて笑う、
その絶望の果てが、悲劇の終りが、気に入ったのだと。
満足しきった観客のように)
ああ、この場所には似合いませんから
あの五月蝿い花共は掃除してやりましょうか。
お前達は静かに凍りついてくださいね、
決して変えられない過去みたいに。
指笛を吹けば翼ある悍しい魔物を呼んで、
「お行儀よくね、」
優しげな女神の微笑で。
「 食べていいわよ 」
戦いの中で、赤紫の花が掌に降れば。
――これは手元に残るのかしら。
エルヴィラ、だったかしら
それがあの子の名前ね
さようなら、エルヴィラ
綺麗な幻だったわ
ねえ、
誰かがあなたたちを憶えていますように。
-+-+-+-
恐怖を与える/薙ぎ払い/捕食/翼の令嬢
アドリブ諸々おまかせ
「ふふ」
ティレア・エウドーレが浮かべた笑顔は、まさに花が綻ぶようなという喩えが相応しい。それだけ満足していたのだ。一人の少女の絶望と、悲劇的な生の結末に。
『いらっしゃいませ』
『おくすりはいかがですか』
だから、溢れかえったオウガの存在は蛇足以外のなにものでもない。鑑賞後の余韻に浸っている最中に喚く彼らはただただ無粋だ。ティレアの想いを知ってか知らずか、ミミクリープラントはお面でも貼り付けたかのように同じ笑顔を浮かべ、同じ言葉を繰り返しながら闊歩する。
「あの五月蝿い花共は掃除してやりましょうか」
「そうだネ。一匹たりとモ、逃すものカ」
同意を示したナハト・ダァトのフードの下に、光が満ちる。光を宿しているなどという表現では生温い。そこに在るのは光そのもので、光がローブを着ているかのようだ。
持ち主の居なくなった花畑を見回せば、背丈の高い花は折れ曲がり、オウガが踏み入った跡がしっかりと付いている。オウガとは対照的に、花に触れるナハトの触腕は優しかった。
「花ヲ頂くヨ」
正確には、その毒を。戦場の至る所に生えたジギタリスが、罠に変わった瞬間だった。そのような事を知る由も無いオウガは、無遠慮に花を踏み荒らす。
『こんにちは』
「はい、こんにちは」
だらしなく垂れた舌を振り回しながら迫るオウガにも、ティレアは笑みを崩さない。その身に纏う神気で攻撃を防ぎ、花から花へと飛ぶ蝶のように戦場を舞う。オウガ達は毒が回り始めたのか、次第に足代わりの根をもつれさせ、動きを鈍らせてゆく。
「お前達は静かに凍りついてくださいね、決して変えられない過去みたいに」
鐘が、鳴った。毒にのたうつオウガを見下ろすティレアの瞳には、感情らしきものは見当たらない。ただ無価値なモノが映っているだけだ。やがて苦しみ藻掻く事すら許されず、オウガは蒼い魔法陣に縫い留められた。ひゅう。ティレアの指笛を聞きつけ、黒い魔物が音も無く舞い降りる。
「お行儀よくね」
「毒を使っテしまったケれド、そのご令嬢ハ大丈夫かナ?」
「ええ、お恥ずかしながら見境が無くて」
「良い事ダ」
ナハトの背後には、いつからそこに在ったのか、大樹が生えていた。生命力に漲っているというのに存在が希薄で、視覚での認識が困難な、奇妙な木。翼の令嬢と生命の樹に挟まれたオウガ達は本能的に捕食される側になった事を悟ったのか、身を縮こまらせている。
「――食べていいわよ」
ティレアが優しげな微笑みを向けたのを合図に、黒き魔物は牙を剥いた。同時にナハトの樹が枝を伸ばし、オウガ達を絡めとってゆく。
「目ニ映ら無イ存在程、生命ガ恐れル物ハ無イ。――故ニ恐怖シ、時ニ克服ノ為
知を付けルのガ生き物ダ」
生命の樹は吸収すればする程に数を増やし、神が遍在するように戦場に広がっていった。花畑の一角が樹海に変貌したと言っても過言ではない。搾り取られ枯れ果てたオウガを、魔物は底なしに貪り喰らう。最早オウガ達に反撃の術は無い。ナハトは宣告する。
「全テ、過去へ還り給エ。ソレはもウ、未来ニ要らなイ物ダ」
はらり。上から下へと赤紫が過ぎり、気紛れに広げたティレアの掌に花びらが一枚乗った。
「エルヴィラ、だったかしら」
恐らく、もう呼ぶ事は無いのだけれど。最後にその名を噛み締める。
(「さようなら、エルヴィラ。綺麗な幻だったわ。――ねえ、」)
誰かがあなたたちを憶えていますように。いつも祈りを捧げられる側の彼女が、祈るように呟いた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
虚偽・うつろぎ(サポート)
世界問わず大歓迎
世界を超えての自爆活動だよ
アドリブ連携等ご自由にどぞー
登場即自爆
とにもかくにも速攻で自爆
台詞よりも活躍よりも速攻で自爆することが最優先
1歩も動かず即自爆
自爆自爆自爆
何かいきなり自爆する動く怪奇現象
自爆という概念生物
技能:捨て身の一撃を用いてのオウサツモードによる広範囲自爆
対象は範囲内の敵全て
強化は攻撃力重視
射程範囲内に敵が1体でもいれば速攻で自爆
自爆することが最重要
なので敵がいなくても自爆するよ
近づかない動かない、即自爆
捨て身の一撃なので自爆は1回のみ
1回限りの大爆発
自爆後は爆発四散して退場さ
アララギ・イチイ(サポート)
語尾に ~なのねぇ、だわぁ と付ける特徴的なしゃべり方
戦闘、非戦闘を含めて(自分が)楽しい行為が大好き、戦況に関わらず自分勝手な行為を楽しむ愉快犯(依頼を失敗させない、被害を拡大させないなどの最低限度の礼儀はわきまえている)
戦闘は衣服に仕込んだ隠し武器のハンドアックスによる肉弾戦
近接・射撃戦に特化させた戦闘人形を利用した集団戦闘
別空間に収納している機関銃、ロケット弾、迫撃砲、グレネードランチャー等を利用した射撃戦
砲身+砲機関部+動力炉を合体させて組み上げた重砲による砲撃戦
その他、ドリルキックやワイヤーを駆使した攻撃方法も取る事がある
他人の心情的なフォローは苦手、適当にはぐらかす事しか出来ない
雲母坂・絢瀬(サポート)
ややおっとりめ、マイペース系関西弁女子ね。
臨機応変な柔軟さがモットーなんよ。
スキルやUCは使い時にはしっかり使うていく方針。
【見切り】【残像】【敵を盾にする】で相手を撹乱しつつ、間合いを詰めてからの【なぎ払い】が基本戦術やろか。
ヒットアンドアウェイ大事やね。
UCは基本的には多数相手に【雪払い】、同じく多数相手や搦め手に【剱神楽】、とどめには【千霞】、【天狼】、牽制や巨大な敵相手には【白灼の殲刃】、無力化狙う時は【火光】、【三弁天】ってとこやね。まあ柔軟に、やわ。
基本お任せのアドリブ大歓迎でよろしゅうお願いします。
夜空に浮かぶ満月よりも白く、研ぎ澄まされた閃耀が真円を描いた。ただでさえ大きく裂けたミミクリープラントの口が更に開き、ぱくりと上下に分かれる。
「ほんま、ようさんおるわ」
妖刀を振り抜き、雲母坂・絢瀬は感心したように呟いた。軌道上に居た敵全てを両断したというのに、その穴を埋めるように斬撃の範囲外に居たオウガが雪崩れ込んでくる。
「この数を討ち漏らさないように……となると、援軍に呼ばれたのも頷けるわぁ」
アララギ・イチイはオウガの突進を手斧で受け止めると、戦闘人形を起動した。手数は多いに越した事は無い。
「一匹たりとも逃がさず倒す――だけ。わかりやすくて良いわねぇ」
「せやね」
ぶん、と空気を切る音。ちらりと見やれば、オウガの鞭のように撓る舌が真横から迫っていた。
『きずぐすりをおさがしですか』
「手当が必要なのはお仲間さんやないかな」
絢瀬がひょいと他の敵と入れ替わった為、同士討ちが発生する。混乱が生じた隙を見逃してやるはずもなく、アララギの人形が放った擲弾が二匹まとめて粉砕した。
「こうなったら手当のしようもないわねぇ」
それはそれは楽しそうに目を細め、アララギは辺りを見回した。襲い来る敵は全て順調に倒しているというのに、数が減った気がしない程度にはオウガが溢れかえっている。
「あら」
縦横無尽に振り回される根に対処していた二人は、ふと敵の密集する中に猟兵が居る事に気付いた。果たしていつからそこに佇んでいたのか、或いは訪れたばかりなのか。そのブラックタールの男――虚偽・うつろぎは何も語らないが、名が『うつろぎ』である事だけは体が雄弁に語っていた。
二人が彼の存在に気付いた刹那、その流れるような書体で表現された『うつろぎ』の文字が、ごぼりと膨れる。
「これは……下がった方が良さそうねぇ」
「ちょお、待っ」
アララギと絢瀬が跳躍するのと同時、うつろぎの身体が破裂した。小さな破片と化した彼の身体が四散する。
『いらっしゃいませ』
恐らく飛来する肉片を喰らうつもりなのだろう、待ち伏せるオウガの大きな口に、うつろぎの身体の一部が吸い込まれるように消える。だが。
『おくすり、は』
彼を喰らったオウガの背に穴が開き、黒い球体が飛び出した。いかに柔らかくとも、圧力が掛かれば水ですら鉄を切断する事が可能なのだ。まるで弾丸のように、彼の身体はミミクリープラントの身体を強かに叩き、裂き、穿ち、砕く。
「私も負けてられないわぁ」
自爆というある種の美学すら感じられる彼の戦術に感嘆の声を上げ、アララギは不敵に笑む。フギンと名付けられた人形がシールドを展開し、飛んできたオウガの残骸を受け止めた。同時、内蔵された滑腔砲がまだ息のあるオウガに向けられる。発射、着弾。一見するとアララギの人形は少女のように繊細だが、本来戦車に搭載されるような兵器だ。爆ぜた砲弾は周囲の敵も巻き込み、砂煙を上げた。
『こんにちは』
『こんにちは』
それでも仲間の死骸を踏み越え、オウガの群れは猟兵へと向かう。
「人海戦術ってやつやね」
濛々と煙る砂塵の中から躍り出たのは絢瀬だ。摺り足で踏み込んだ彼女は舞うように刀を振るい、次々と現れる敵を斬り捨てる。汚らしいオウガに彼女の美しさが理解出来るとは到底思えないが、不思議と吸い寄せられるように絢瀬の下へと群がっては、その刀の切れ味を身を以て証明していた。
ミミクリープラントは未だ湧き出すように現れているが、猟兵達は着々と周囲に骸を積み上げていった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
ライナス・ブレイスフォード
リカルドf15138と
倒れた少女とリカルドを見遣ればその背を一度強く叩かんと試みる
…ま、後悔なく逝けたんじゃねえの?
そう声を投げながらも敵を見れば行くかと、声を投げつつ【影なる蝙蝠】
視界に映る出来るだけ多くの敵を巻き込み影の蝙蝠にて攻撃を試みるも
リカルドに迫る敵へは手にしたリボルバーを構え『クイックドロウ・スナイパー』で素早く狙いを定め確実に『暗殺』して行こうと試みる
…んなとこで壊れてどうすんだよ…って
はは、んだよ?俺の言った事覚えててくれてんわけ?
そう軽口を投げながらも自然と瞳が笑みに細まったのは…ま、気のせいって事にしとくか
…ま、背だけじゃねえで全方位護ってやるよ
だからそれ以上怪我すんなよ
リカルド・アヴリール
ライナス(f10398)と
アドリブ歓迎
少しでも、穏やかに逝けただろうか
己の不安を見透かす様に背を叩かれれば
安堵の息と共に、現れた敵の殲滅を試みる
大剣『穢』を用いて、前衛へ
ライナスへの攻撃は【かばう】で受け止めつつ
相手の【体勢を崩す】様に攻撃を
ライナスのユーベルコードで視界不良の敵を優先して狙うつもりだ
敵の体勢が崩れた所で、UC:虐を
損傷は軽微だ、問題ない
大体勝手に壊れるな、と言ったのはお前だろう?
……置いて行くなという我儘を聞いてもらったのだから
俺もお前の願いは聞くつもりだ、と
お前の方こそ
俺なんかよりも自分を優先してく……いや、違うか
お前への攻撃は俺が受け持つ
だから、好きに撃ち抜け
(「少しでも、穏やかに逝けただろうか」)
最初に見た時よりも、幾分表情が和らいでいたようには思う。だがそれも所詮は主観で、何処かで都合よく解釈しているだけかもしれないという思いは拭えない。少女が沈むように消えていった花の海を睨むリカルド・アヴリールの背を、ライナス・ブレイスフォードはばしりと叩いた。
「な……っ」
「ま、後悔なく逝けたんじゃねえの?」
声に出した覚えはない。投げかけられた言葉は無責任に軽い。だというのにライナスに筒抜けだった事と、その言葉に安堵してしまった自身に、リカルドは一種の居た堪れなさを感じた。は、と小さく息を吐き、黒い大剣を担ぐ。
「行くか。……いや、必要無えわ。『来た』」
『いらっしゃいませ』
ライナスの目と鼻の先で、ミミクリープラントの口が開いた。鮫に似た歯が並ぶ口が迫るが、ライナスは動じない。めき、と音がした。
「んなとこで壊れてどうすんだよ」
「損傷は軽微だ、問題ない」
ライナスを喰らおうとした口は、剣を握る腕一本で受け止められていた。軋むような音は、骨からではなく何らかの金属が発したようだ。
「大体勝手に壊れるな、と言ったのはお前だろう?」
斬るというよりは叩き潰すように『穢』で押し返したリカルドに、ライナスは感心したように目を見張る。
「はは、んだよ? 俺の言った事覚えててくれてんわけ?」
ざわり。ライナスの影が膨れ上がり、水風船のように爆ぜた。噴き出したのは蝙蝠だ。翠色の瞳が向けられた先では吸血蝙蝠に群がられたオウガが根をくねらせ、奇妙な動きで逃げ惑っている。
「……置いて行くなという我儘を聞いてもらったのだから」
――俺もお前の願いは聞くつもりだ、とリカルドは言った。辺りの花々が姦しいが、恐らくライナスに届くであろう声で。
「……ははっ、見ろよあれ」
対してライナスは、滑稽な動きを見せるオウガ達に、愉快そうに蝙蝠を嗾けている。リカルドに向けて笑みの形に目を細めたのは、きっと気のせいだ。照準を合わせる為に、目を眇めただけかもしれない。現に、今しがたリカルドの背後から現れたオウガは球根の中央を撃たれ、既に沈黙している。
「ま、背だけじゃなく全方位護ってやるよ」
ライナスはくるりと手の中で拳銃を遊ばせ、唇は余裕たっぷりに弧を描く。その割に、「だからそれ以上怪我すんなよ」と自身が続けた言葉に、少しばかり照れ臭そうに目を逸らした。
「お前の方こそ、俺なんかよりも自分を優先してく……いや、違うか」
群れていた蝙蝠が飛び立ち、露わになったオウガの脳天に大剣が振り下ろされた。穢はオウガを叩き割り、返す刀でライナスに伸ばされた根を斬り払う。
「お前への攻撃は俺が受け持つ。だから、」
ライナスがリカルドを優先するのは、ライナス自身はリカルドが守るだろうという全幅の信頼を寄せているからだ。そのように信頼されては、応えるしかない。――元より、髪一筋すら傷付けさせるつもりはないのだけれど。
「好きに撃ち抜け」
「言ってくれるじゃねえか」
絶望の扉からは、これ以上新たなオウガが増える様子は無い。あと少しだ。二人は互いを守りながら、着実にオウガを減らしていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ロラン・ヒュッテンブレナー
アドリブOK
感情が尻尾や耳によく表れる
(最後まで魔狼解放状態で参加)
あの子は、帰れたかな…?
ふぅ、ふぅ、…、もう少し、もう少しだけ…
もうちょっと、もって…
あの子を縛りつけるものを、無に返さないと
ぼくの意識が持つ限り
魔狼の魔力で
消し飛ばすよ!
【高速詠唱】でUC【狙い定め撃つ破滅の光】を【全力魔法】で【乱れ撃ち】なの
防御は結界(【オーラ防御】)と魔狼の耐久力にお任せ
あの子を苦しめる元凶
全部、全部、ぜんぶ、消し去るの!
いつか循環から帰って来たあの子の魂が、笑顔で入れる様に
ぼくも…キミみたいに、あきらめないよ…
最後の、その瞬間まで…
(終わったのを見届けたら魔狼を解除して眠りにつく)
ヘルガ・リープフラウ
※アドリブ・連携歓迎
世界にはまだ、個人の努力ではどうにも出来ない悪意が満ちていて
わたくしだって、もし巨大な「世界の悪意」に飲み込まれたら
エルヴィラのようになってしまうかもしれない
……それでも、わたくしは戻らなくては
彼女が辿った悲劇を繰り返すことのないように
救いの手を差し伸べ、希望の光を示すために
【奇しき薔薇の聖母】に身を変え、仲間たちを守るように敵の攻撃を茨で振り払う
優しさと慰めを込め
無辜の人々を守りたいと
遍く世に満ちる悲しみを癒したいと
人を踏み躙る「世界の枷」という限界を超えよと祈りながら
もしも天国というものがあるならば、願わずにはいられない
エルヴィラ、今度こそどうかお祖母様と共に幸せに……
霧島・絶奈
◆心情
…私の誕生花に掛けて、この絶望すら愛しましょう
其れこそが、私の『熱愛』です
◆行動
では、此方も「数」を揃えるとしましょう
<真の姿を開放>し『666』を使用
一部の<私>は軍勢に紛れ【目立たない】様に行動
【罠使い】の技能を活かし「魔法で敵を識別するサーメート」を複数設置
燃焼範囲は狭いので、花畑自体に深刻なダメージは無いでしょう
設置を進めつつ【空中浮遊】を活用し<私達>全員で射線を調整
其々が【範囲攻撃】する【マヒ攻撃】の【衝撃波】で【二回攻撃】し敵を殲滅
負傷は【オーラ防御】で軽減し【生命力吸収】で回復
…最後になけなしの【優しさ】を籠め【祈り】を捧げましょう
彼女達の憩いが、せめて安らかである様に…
「ロラン様、お加減は」
「ふぅ、ふ……っ。も、少し。もう少しだけ……」
ヘルガ・リープフラウは心配そうに、肩で息をするロラン・ヒュッテンブレナーの顔を覗き込む。この花畑に足を踏み入れてから、ずっと人狼病を制御し続けている彼の負担は如何程のものだろうか。
「あの子を縛りつけるものを、無に返さないと……っ」
「……何かあれば、仰ってくださいまし」
年端も行かぬ少年に無理をさせたくないという気持ちはあれど、その瞳に悲壮な決意を見出し、意思を尊重する。何より敵は待ってはくれない。ロランの疲弊した様子を好機と判断する程度の知能は持ち合わせているのか、ミミクリープラントの根が、舌が、少年へと迫りくる。
「では、此方も『数』を揃えるとしましょう」
そう言って敵の群れに立ちはだかった霧島・絶奈の周囲には、いくつもの人影――否、異形の姿があった。日頃の騎士然とした存在感は希薄になり、彼女を取り囲む異端の神々との境界は酷く曖昧だ。――むしろ、全てが彼女と言うべきか。それらが一斉に衝撃波を放つものだから、オウガの魔の手など払い除けるどころか幾本も吹き飛んでいった。
「ぼくの意識が持つ限り……魔狼の魔力で、消し飛ばすよ!」
しっかりと四本の足で立ったロランの後ろで、ヘルガは眩しいものでも見るかのように目を細める。
(「世界にはまだ、個人の努力ではどうにも出来ない悪意が満ちていて……、わたくしだって、もし巨大な『世界の悪意』に飲み込まれたら、エルヴィラのようになってしまうかもしれない」)
それでも。或いは、だからこそ。険しい道行きであろうと成さねばならぬ事があるヘルガもまた、真っ直ぐに敵を見据えた。
「……わたくしは戻らなくては」
ミスミソウが咲くヘルガの髪を同じ色のヴェールが覆い、足元には薔薇が咲いた。彼女が祈るように両手を組めば、茨の蔓は辺りに手を伸ばしてゆく。
「行ってください。わたくしが守ります」
ヘルガの援護を受け、ロランは口の中で何がしかを呟いた。言葉として認識出来ぬ程に速いそれは、詠唱。直後、中空に描かれた魔術陣が明滅し、熱と冷気の渦がオウガ達を打ちのめす。
「あの子を苦しめる元凶……! 全部、全部、ぜんぶ、消し去るの!」
――いつか循環から帰って来たあの子の魂が、笑顔で入れる様に、と。ロランの繰る破滅の光は絶えず放散し、集束し、撹拌するようにオウガの間で荒れ狂った。オウガは苦し紛れに舌を振り回すが、自在に動くヘルガの茨に阻まれる。
「聖母様、どうかわたくしに」
無辜の人々を守る力を。悲しみを癒す奇跡を。彼女が何かを願う時は、常に誰かの為だ。人々を救おうと聖母に祈る彼女の姿こそが、聖母そのもののようであった。ヘルガの祈りを聞き届けたとでも言うように、薔薇の花びらが吹き荒れる。
「……私の誕生花に掛けて、この絶望すら愛しましょう」
舞う花びらよりなお赤い花を戴いた『絶奈』が、ぽつりと漏らした。軍勢に紛れて浮かぶ彼女は消え入りそうな程に儚げで、だというのに他を圧倒する悍ましさと荘厳さを併せ持っている。絶望を率いた彼女は、逃げ惑うオウガ達に静かに告げた。
「其れこそが、私の『熱愛』です」
ごう、と。間欠泉が熱水を噴くように、戦場のあちらこちらから火柱が上がる。絶奈の罠に嵌り逃げ場を失ったオウガを、ロランの魔法が射抜く。オウガが死に物狂いで牙を剥けど、ヘルガがそれを許さない。
「ぼくも……キミみたいに、あきらめないよ……」
終わりが見え始めた。花畑を覆い尽くさんばかりに居たはずのオウガは、もう成すすべも無く消えてゆく。
「最後の、その瞬間まで」
ロランの見つめるその先で、最後の一体に火が付いた。炎の中で揺らぐ影を見届け、彼は魔狼から幼さの残る少年へと姿を変えた。
「……あの子は、帰れたかな?」
「ええ、きっと」
振り絞るように声を発した彼を安心させるようにヘルガが微笑むと同時、ロランの身体が頽れた。絶奈はすかさず手を伸ばし、華奢な身体を抱き留める。
「祈りを捧げましょう。彼女達の憩いが、せめて安らかである様に」
私もなけなしの優しさを籠めて祈りましょう、と言った絶奈に、ヘルガは僅かに瞠目した。絶奈の力を以てすればオウガを焼き払う事も容易かったであろうに、あえてそれをせずに、――後は崩壊するだけの花畑を気遣い、被害を最小限に留めていたのは『優しさ』ではなかろうかと。だが、ヘルガはあえて指摘をせず、ただ頬を緩ませた。
「ええ、そうですわね。もしも天国というものがあるならば――」
エルヴィラ、今度こそどうかお祖母様と共に幸せに。
絶望の国が、崩れてゆく。少女の思い出という名の牢獄が、絶望と共に消えてゆく。猟兵達の勝利は、今、一つの悲劇に終わりを齎したのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2020年06月22日
宿敵
『枯樹死華のアリス『エルヴィラ』』
を撃破!
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