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帝竜戦役⑰〜紫陽花奇譚

#アックス&ウィザーズ #戦争 #帝竜戦役 #群竜大陸

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 ああ、怖い。
 忘れ去られることが。
 ああ、怖い。
 大切なアナタからわたしが消えることが──。


 『変わる事』への恐怖を、あなたは抱いたことはある?
 立場が変わること、場所を移ること、別れること、大切な想いが変わること……。
 人生に、変わる事は避けて通れないけれど。
 それでもやっぱり、怖い事には代わり無い。
 あの時選択しなかった道筋。
 手のひらから零れ落ちていったものたち。

 花々が咲き乱れ、風光明媚な美しい景色。けれど油断しないで。ここは群竜大陸の中で最も危険だから──。

 この草原では、全ての草花が『変わる事』への強烈な恐怖を放つ。
 あなたはその恐怖心の中で立っていられるだろうか?
 恐怖なんてない、って? ほんとうに?
 恐怖心を認められなければ、オブリビオンの強力な苗床になってしまうから、さあ、大変。

 でもでも待って、道はあるよ。
 恐怖を認めて打ち勝てばいいのさ。そうすれば、キミの勝ち。
 え?そんな簡単に行くわけない、って?
 そうしたら思い出してごらん。
 今まで君をあたためてきた想いや人は、足を竦ませてじっとしているキミを喜ぶだろうか、ってね。
 もちろん、無理にとは言わないよ。
 気が向いたら来ればいい。
 なにせ、とってもとっても危険だからね──。


「……という事なのだけれど。受けてくださる勇者はいらっしゃるかしら?」
 ミリィ・マルガリテスは、自身のノートをぱたむと閉じて猟兵を見つめた。
 相変わらず唐突な案内だが、案内人のミリィ曰く、群竜大陸の中にある『約束の地』へ向かって欲しいとのこと。
「とっても綺麗な所なのだけれど。そこで、麗しき嘗ての勇者……オブリビオンが待ち構えているわ。彼女の戦闘力を削ぐためには、戦闘開始よりも前に『変わる事への恐怖心』に打ち勝っていただかなくてはならないの」
 そうしなければ、凶悪的な力をを持つ敵の思いのつぼ。その前に、自身の持つ「変わる事への恐怖」を思い浮かべて、心で打ち勝って欲しいとミリィは告げた。
「辛い想いをさせてしまうかもしれないけれど……皆さんならきっと出来ると思うわ。どうぞ、お気をつけてくださいましね」
 ミリィは、向かってくれる猟兵に敬意を込めてカーテシーをした。


蜂蜜檸檬
 こんにちは。
 蜂蜜檸檬(はちみつ・れもん)です。
 初の戦争シナリオにどきどきしつつお送りいたします。

●プレイング
「変わる事への恐怖(内容はお客様のご自由)」とそれを「克服する」プレイングをお待ちしております。
 戦闘よりも、心情に重きを置いていただけると成功しやすいです。
(戦闘よりも心情の比重を大きく割いて描写する予定です)

●プレイングボーナス
 以下のプレイングを頂いた場合、ボーナス対象となります。
 プレイングボーナス……「変わる事への恐怖」を認め、それを克服する。

●複数でのご参加の場合
 お名前(愛称)+IDを双方のプレイングに記載していただくか、【グループ名】の記載をお願いいたします。

●※この戦場で手に入れられる財宝
 宝物「約束の花」……触れた者の「思い」を吸収し、増幅した上で次に触れた者に感染する、おそるべき「感情汚染植物」です。告白に使えば相手を奴隷化しかねない危険な代物ですが、一房金貨1200枚(1200万円)で売れます。

●受付期間
 大変恐縮ですが、受付開始時期はマスターページをご覧くださいませ。
 受付締切時期が来たら、併せて記載させていただきます。

 それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『『紫陽細剣』ハイドレンジア』

POW   :    祝散華~スカッタード・ブラッサム~
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【レベル 】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
SPD   :    装飾花~オルナメンタル・フラワーズ~
レベル×1体の、【柄の花びら 】に1と刻印された戦闘用【の自身の分身たる装飾花】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    赤色変化~シフト・レッド~
【猟兵の取得🔴を自身のレベルに転写する 】事で【赤紫陽形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:蒼夜冬騎

👑8
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠幻武・極です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

文野・ハナ
綺麗な場所。
この場所を舞台にしたお話は、乙女達の心を揺さぶる物になるはず
でもこの気持ちは何?

恐ろしい
新しい環境も恐ろしい
アタシが変わる事も恐ろしい

元スタアのアタシが文豪の真似事をしている事も恐ろしい
あんなに輝いていたのに、こんなに暗い場所にいる事が怖い
叶うならあの場所で永遠に輝き続けていたかった
努力の結果が認められるキネマの世界で輝いていたかった

それも十の事
もう恐ろしくない
周りの環境が変わってもアタシは変わらないさ
スタアとして輝いていたハナはファンの胸の中で生きているでしょ

文豪としてのアタシこそが今のアタシだ
変化は怖かったけどもう怖くないよ

けどね、時々懐かしむくらいは許しとくれ




 ──綺麗な場所。
 幻想的な風景に降り立った文野・ハナ(よもすえ・f27273)は、己の瞳のように美しく咲き誇る紫陽花に思わず見惚れた。桜の精のハナだけれど、本当は紫陽花が大好きなのだ。象徴的な桜花の揺らぎの代わりに、紫陽花が咲いて欲しいくらいに。紫陽花だけではない。夢のように花々が咲き誇り、草木が瑞々しく生い茂っている。
 ……この場所を舞台にしたお話は、乙女達の心を揺さぶる物になるはず。そう思うのは少女の気持ちを代弁して綴る職業ならではか。文豪たる文・野花先生、いや、ハナは、思わず作品の構想を巡らせかける。
 いやいや、アタシは「そっち」の仕事をしに来たんじゃない。ハナは頭を振って待ち構える強敵に集中する。今回の敵は手強いって聞いたからさ。負けないようにと気合を入れないと。けれど余裕と気品は忘れずに、いつものようにその貌に可憐な微笑を浮かべて。

 ……でも、この気持ちは何?

 『約束の地』へ足を踏み入れる度に、せり上がってくる恐怖心。ぶわわ、と背筋から凍えていくよう。思わず両の腕で身体を抱きしめる。恐ろしく冷えた濃霧がいつの間にかハナを包んで、地面を踏みしめる度に正常な思考回路を奪っていく。

 ──恐ろしい。新しい環境も恐ろしい。
 ──アタシが変わる事も恐ろしい。

 ハナは、”元”国民的スタア。絢爛豪華な世界で蝶よ花よと愛された時間は、未だに記憶中で鮮明に輝いて見える。いついつまでも、切なくて、ハナの胸に灯る頁だ。

 (元スタアのアタシが文豪の真似事をしている事も恐ろしい)

 ハナは、ぶるりと身を震わせる。どうしてアタシはこんな場所に居るの?どうして、暗い場所でペンを執っているの?アタシは聴衆に愛されるスタアじゃなかったの?観客はどこ?アタシは愛されていなかったの?
 暗い、暗いよ。怖い。怖い。怖い。叶うならあの場所で永遠に輝き続けていたかった。努力の結果が認められるキネマの世界で輝いていたかった──。

 …………けれど。
 纏わりつく濃霧を振り払ったハナの瞳に強い光が灯る。

 それも十の頃の事。もう恐ろしくない。周りの環境が変わってもアタシは変わらないさ。スタアとして輝いていたハナはファンの胸の中で生きているでしょ。
 
 過去は過去、そう割り切れる強さが彼女にはあった。それに、今だって夢を与える仕事に変わりはない。文豪の文・野花は、昔と遜色ないほど愛されているのではないか。

(文豪としてのアタシこそが今のアタシだ。変化は怖かったけどもう怖くないよ)

 ハナが恐怖心から解き放たれると、傍らには、雨露に濡れた紫陽花から雫が滴り落ちていた。ふんわりと花を咲かせる様子は健気で、雨粒はきらきらと輝く甘い蜜のよう。
 ──ああ、綺麗だね。
 ハナは、紫陽花を愛でながら、ふ、と笑む。今のアタシがお気に入り。ひと時も姿を留めず移ろう紫陽花よ、アンタもかい?

 けどね、時々懐かしむくらいは許しとくれ。
 酸いも甘いも噛み分けてこそ、乙な人生ってもんだろう?

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・響
「変わる事の恐怖」か。一度アタシは大きく変わった。アタシは元々名家の箱入りだった。音楽を習いながら大事に育てられた。いかにも深窓のお嬢様って感じだったね。

でも夫と恋に落ちて、駆け落ちして、子供が生まれて、今のアタシがいる。2人の子供達の為に強い母親として生きて来たが、ふとアタシが別人のように変わってしまったら、子供たちは。恐怖はある。認めるよ。

でもどんなアタシでもあの子達の母親だから。どんなアタシでもあの子達の母親として強く立って行こうとする意志は変わらない。早く子供たちの所に戻れねばならないんだ。そこをどきな!!【怪力】【二回攻撃】で思いっきり【炎の拳】で敵を殴りとばす。




 風光明媚な景色の中、ひらりと青い蝶が傍らを舞った。さわさわと風に揺れる薔薇が、紫陽花が、なんとも美しい。数多の花々に囲まれながら、夢のように美しい花園に足を踏み入れた真宮・響(赫灼の炎・f00434)は、ふと己の軌跡を振り返った。
 響は、今でこそ竜騎士として活躍している逞しい母だけれど、もともとは名家の箱入り娘。音楽の教養と才を授かって、大切に育てられた深窓の令嬢だったのだ。その麗しい姿が窓辺越しに映ったならば、さぞや男達の憧れの的だっただろう。
 然し、とある男性……その後運命を共にするひとと恋に落ちた響は。蝶のように家から飛び出して、愛の熱の儘に駆け落ちした。そして、娘を授かり、ひとりの男の子と出逢い。2人の愛おしく大切な子どもを育てて──現在の響の在り方を形成している。男勝り、なんて自分では称するけれど。その姿は凛々しくも美しくて、はたから見れば眩しいほど。毎日を、一瞬一瞬を真摯に愛しながら駆け抜ける勇士だ。どんな姿も美しい。

 そんな響にも恐怖心はある。弱点が無いように見える彼女にだって急所はあるのだ。それは──。
 そう認めた途端、足元から恐ろしいほど冷えた空気が巡ってきて、響をそっと包み込む。ぞっとするような濃霧が辺りを覆い、美しい景色がみるみる霞んでゆく。
 (ああ、アタシは……)
 2人の子ども達の為に強い母親として生きて来た響。肝っ玉母さんとして、時には恐怖されながら、それ以上に愛情をたっぷり注いできた。その生き方に後悔はない。けれど、けれどもし。とある瞬間から響が別人のように変わってしまったら。また深窓の令嬢の頃のように、戦いを知らずに音楽を愛しみ、可憐な横顔を見せるようになったならば。夫に出会って運命の岐路を迎えたあの瞬間のように、丸切り変わってしまったら。それとも、今までの響とは全く異なって、子ども達の知らない表情を見せるようになったのならば。
 (認めるよ。アタシは、恐怖がある。もしもアタシが変わったら、何よりも大事な子ども達にどう思われるか)
 愛情深いがゆえに、響は苦悩の深みに嵌っていく。普段は心の裡に隠れていて見えない恐怖が、約束の地の影響でおばけのように顔を出していた。
 (ああ、そうだ。もしアタシが変わったら、子ども達は今と変わらずに慕ってくれるだろうか)
 ──怖い。
 鉛のように重くのし掛かる恐怖心が、響の思考回路を奪っていく。ああ、このままだと、帰るまでにアタシは変わってしまうかもしれない。そうしたら、あの子達は?変わらずアタシを迎えてくれる?アタシは、ずっとあの子達と過ごしていける?

 
 ……でも。
 脳裏に浮かぶのは愛しい子達の顔。寝顔も、笑顔も、泣いた顔も、怒った顔も、どんな時だって側にいた。それが今更変わるって?冗談じゃあない!

 響は、強い意志で濃霧を振り払った。そして、美しい花園を駆け抜けてゆく。
「どんなアタシでもあの子達の母親だから。どんなアタシでもあの子達の母親として強く立って行こうとする意志は変わらない」
 響は、赤銅の懐中時計を構えてすぅっと息を吸い込んだ。遠くでは、強大な敵とはとても思えない──可憐なる紫陽花纏う騎士姫の姿が待ち構えている。よくもまあ、色々と見せてくれたね。思う事はあるけれど……まあいいさ。それよりもずっと大切な事がある。
「早く子供たちの所に戻らねばならないんだ。そこをどきな!!」
 響は赤熱を宿した儘、紫陽花を模した敵へと猛勢に殴りかかり──。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トール・テスカコアトル
……誰かが、笑ってる
「イヤだ」
笑いながら人を殺して、弄んで、また嗤う……ヴィランだ
「だめ」
そのヴィランは……赤い眼と髪、立派な角と尻尾……大柄な女
「……どうして」
そいつは、トール・テスカコアトルだった

知ってる
多くのヴィランは次第にそうなる
普通の人達が変わって成るもの……どうして、トールが例外なもんか
「……こわい、な」
悪者やっつける事が全く楽しくないって言ったら嘘になる
結局、暴力に頼ってるもの
――嗤って愉しむヴィランの幻影

「いや、ああは成れない」
トールは、ビビリだもんな
あんな風に悩まず生きれるなら苦労しないよ
この臆病な性根が、ヒーローになる勇気をくれる
「……変身」
いくぞ悪役、優しく殴ってあげる




 ざあああああ。
 風が強く吹いてきた。木々は枝葉を靡かせて、強風に耐えきれなくなった儚い花々は、折れそうなほど茎が傾いでいる。

 ……誰かが、笑ってる?

 約束の地に足を踏み入れたスーパーヒーロー、トール・テスカコアトル(ブレイブトール・f13707)は、思わずびくりと体を震わせた。なんだ、風か……。トールは一先ず胸を撫で下ろした。可憐なドラゴニアンの少女は、既に恐怖に駆られながらも、それでも約束の地へと足を踏み入れた。だって、怖いから。怖いことはトールがやらなくちゃ。
 その心は勇敢なヒーローそのもの。ただちょっと、臆病で、とびきり優しいだけだ。
 トールの周りを冷気に満ちた濃霧が囲んでゆく。足元から白い靄が烟り出し、次第に腰の辺りまで覆ってくる。驚いたトールは思わず龍の尾を巻き込んだ。

 ケタ。ケタケタケタケタケタ。

 風?いや違う。今度こそ、誰かが笑っている──。
「イヤだ」
 トールは思わず耳を塞ぎたくなる。こんなにも醜悪で、耳障りで、けたたましい笑い声。ああ、そうだ。笑いながら人を殺して、弄んで、また嗤う……憎むべきヴィランの声と同じだ。
「だめ」
 トールは勇気を振り絞ってヴィランへと駆け寄る。みんなを守らなくちゃ。だって、トールはスーパーヒーローなんだから。怖くたって戦わなきゃ。でも、ヴィランのその姿は──。「うそ」、思わず声が零れ落ちた。
「……どうして」
 絶望に満ちた声音。それはどこから響いてくるの?だって、どこを見ても、いるべき敵の姿が見当たらない。そのヴィランは……赤い眼と切り揃えた髪、立派な角と尻尾……大柄な女の姿。目の前の女も、自分自身も、どちらもトール・テスカコアトルなのだから。
 トールは混乱に陥った。倒すべき敵、ヴィランがいない。ということは、トールが?
 愕然としたまま、膝が音を立てて揺れる。けれど、どこかで納得している彼女もいて。
 (……知ってる)
 多くのヴィランは次第にそうなる。最初からヴィランだった訳ではなくて、何かしらの切欠を機に変わっていくもの。ヴィランは普通の人達が変わって成るもの……。
 (どうして、トールが例外なもんか)
 濃霧は、トールの思考回路を惑わしていく。元々優しくて謙虚な彼女のこと。その「可能性」考えなかった訳じゃない。ただ、いつもは考えないように蓋をしていただけ。もしも、これがトールにとっての「切欠」だとしたら。
「……こわい、な」

 ……悪者やっつける事が全く楽しくないって言ったら嘘になる。いくら正義のためとはいえ、それは結局、暴力に頼っているもの。人助けと称して行なっている行為。これは、これこそは。
 ――嗤って愉しむヴィランの幻影。

「あああああああああああ──……」
 トールは頭を抱えて思わず蹲った。目の前のヴィランが満足そうに嗤う。そうだ、お前は既に堕ちているのだと。その証拠に、お前の目の前に見えているのはなんだ?トール・テスカコアトル!
 約束の地の効果は、トールの心を確実に抉っていた。優しい乙女は恐怖に心を囚われて、もう正義のヒーローなんかに戻れない。ただただ、何もせず蹲っていたい。誰かを冒し蹂躙して嗤うヴィランになるくらいなら、傷つけるくらいなら、このまま何もしない方がマシ──そう思った瞬間。

(けて──!)

「?」
 今度聞こえたのは、少女の高い声。また、空耳だろうか。

(すけて──!)

(助けて──!!)

「!」

 トールは反射的に立ち上がる。誰かが助けを呼んでいる。助けなくちゃ。そう思った刹那、変ふっと我に返る。あれ?トールは誰かを助けようとしている?
 ……ああ、そうだ。トールはスーパーヒーローだから。
 目の前の虚ろな瞳のヴィランを見る。ああ、なんだ。お前は楽しそうだな。
「ああは成れない」
 トールはビビリだもんな、と自嘲気味に呟く。自身の性格を自覚しながら、決して弱点には転換しない特性。それこそがトールの強さ。
(あんな風に悩まず生きられるなら苦労しないよ)
 トールはヴィラン達の単純な動機がある意味羨ましいくらいだ、と皮肉る余裕も出てきた。

 これ以上嘆いたりしない。
 だって、この臆病な性根が、ヒーローになる勇気をくれる。
 濃霧はいつの間にか晴れていた。澄んだ空からは、柔らかな日差しがトールに降り注いで。それは、トールの勝利の証。

「……変身」
 ──いくぞ悪役、優しく殴ってあげる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

弦月・宵
泣く事で逃げてたのを覚えてる
故郷に帰れなくなったんだと分かった時
当たり前だった全部が変わった
…怖かった
知らない事しかなくて
自分が消えてしまいそうで。

このままずっと涙が止まらないんだって思った

今は…
怖くなくなったんじゃない。
今だって足は竦むし、不安で潰れそうになる
けど、その感覚を越えて変化を見つめたら
自分を変えていく事ができるんだ、って!

最初に変わったのは、無知なオレから泣き虫なオレに、だった。
だから、自分が望む自分に、自分で変わっていきたいんだ!

攻撃は【UC:ゆるゆら】で鉱石を召喚して撃ち込むよ
広範囲を包囲して、相手の能力の変化をよく見て感じて対応!
相手が攻撃に接敵してきたら、組ついて捕まえる




 ……泣く事で逃げていたのを覚えてる。
 雨露に濡れて、雫をぽたりと滴り落とす、泣いているような花々を見て。弦月・宵(マヨイゴ・f05409)は茫と過去を思い出していた。まるでオレみたいな雨。花々は、涙雨に打たれながら何を感じているのだろう。
 宵は、過去に家族を失っている。それだけではない。次期当主として育てられていた宵は、その家柄も、役割も、重みも。全て理解する前に、将来護っていくはずのものを一瞬で失った。それは、どれだけの悲しみだったであろうか。知りたくとも、宵以外の誰もつぶさに感じ取る事のできない痛み。

 (故郷に帰れなくなったんだと分かった時、当たり前だった全部が変わった)
 それは、宵の人生を一瞬で変えてしまった出来事。今まで次期当主として育てられてきた道筋以外、何も知る由もない。不意に世の荒波に投げ出された、年端もいかない少女に泣くな、という方が無理があるだろう。
 宵は、過去の自分を胸に思い描く。その彼女は、「生き延びてしまった」悪運に絶望していた。

 ……怖かった。知らない事しかなくて。自分が消えてしまいそうで。誰もいなくて。

 泣いて、泣いて、泣いて。涙が涸れ果てることもなくて。このままずっと涙が止まらないんだって思った。
 宵は、ふるりと華奢な肩を揺らす。悲しかった過去。変えられない過去。もう二度と戻ってこない家族──。
 変わる事はこんなにも恐ろしい。大事なものを全て奪ってしまうのだから。ずっと、ずっとあのまま次期当主として育てられて、一族を背負うオレだったら……。常時は凛々しい輝きを宿す宵の金色の瞳が儚げに揺れる。まるで全て失ったあの頃に戻ってしまったかのようだ。不安で、怖くて、ひとりぼっちで。

 濃霧が、宵を狙うように包み込んでいく。深く深く、くらりと倒れ込むような昏い世界へ。
 
 けれど、宵は不安の靄に飲み込まれるような性質ではなかった。濃霧を瞬時に振り払うと、可愛らしい顔立ちに凛々しさを宿した。

 (今は……怖くなくなったんじゃない。今だって足は竦むし、不安で潰れそうになる。けれど、その感覚を越えて変化を見つめたら、自分を変えていく事ができるんだ、って!)
 前向きな光が彼女の瞳に戻る。きらきらと輝く瞳、生気に満ちた躰。恐怖心を踏み越えて、その先へと進む力。宵の何処にも、過去に囚われる気配は無かった。宵は、一気に花園を駆け抜けた。変わる事は確かに怖いかもしれない。でも。

 ──最初に変わったのは、無知なオレから泣き虫なオレに、だった。
 ──だから、自分が望む自分に、自分で変わっていきたいんだ!

 その身に尊い光を放ちながら、鉱石を召喚する宵。花園を抜けた先に、紫陽花を纏う可憐なる強敵──オブリビオンは驚いたように宵を見つめた。けれど、やがて微笑んで。待っていました、と言わんばかりに細剣を構える。

 「やあっ!」

 相手の変化を感知しながら、ゆるゆらを撃ち込む宵。
 オブリビオンの出方は果たして──。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディイ・ディー
この身は呪いに侵されている
右腕に広がる呪印
徐々に失われていく右眼の視力
この変化が恐ろしかったのに
それ以上に怖いことを見つけてしまった

大切なあの子に忘れられたくない
離れる時なんて来て欲しくはない
今が一番良い、変わって欲しくなんかない
俺を好きだと言ってくれる桜色のあの子を置いて
俺は呪いに蝕まれて、いつかは――

ああ、そうだよな
きっとそのときは必ず訪れる
怖がっていて何になるってんだ
怯えているだけで何かが変わるのか
答えは否、そんなの俺らしくねえ

来い、鐐。鐡も出番だ
呪いの元凶でもある蒼炎と妖刀を呼び、構える
行くぜ、俺達なら恐怖ごと斬って進める

いつか朽ちる時が来ようとも
そのときまでは絶対に止まってやらねえ!




 さあ、賭けを始めようぜ?
 俺が勝つか、お前が勝つか。全てはダイスの導く儘に。

 ディイ・ディー(Six Sides・f21861)は、約束の地を潜り抜けながら整った相貌を痛みに歪めた。双眼でよく見れば、鋭く尖った枝がディイの右腕に引っ掛かっている。ディイは舌打ちして枝を払い除けると、ふと重い思考に沈んでいく。

 ──この身は呪いに侵されている。

 右腕に広がる呪印と、徐々に失われていく右眼の視力。
 ダイスのヤドリガミたる彼は、最後の持ち主から継いだ邪神や呪物を使役して戦うUDCエージェントだ。霊力と苦痛を代価にして戦うディイは、右腕に宿る蒼炎の呪印の影響で右眼の視力が奪われつつある。

 ──大切なあの子の姿も、少しずつ右眼から霞んでいく。
 それはなによりも怖い変化だった。己を蝕んでいく呪わしき力。けれど、今はそれよりも怖いものが出来てしまった。ディイは空を仰ぎ見た。
 ……いつか大切なあの子に忘れられてしまったら。
 俺を好きだと言ってくれるあの子。愛おしくて大切な桜色の女の子。彼女から離れる時がもしも来てしまったら。忘れられてしまったら。既に蝕まれている身体だ。あり得ない未来ではない。
「今が一番良い、変わって欲しくなんかない」
 ディイの想いとは裏腹に、呪印に蝕まれていく身体。いつの間にかディイの周りに濃霧が漂う。触れると恐ろしく冷たいそれは、ディイの身体と思考回路を冷やしていく。決して絵空事ではない未来が、段々と確信に変わって行く。
 ……俺は呪いに蝕まれて、いつかは──。
 桜色のあの子を置いて行く未来。あの子は泣くだろうか?それとも、笑っているだろうか?悲しむだろうか?怒るだろうか?今は俺を好きと言っても、いずれ俺の事を忘れ去って、違う誰かと腕を組むのだろうか。
 嫌だ。考えたくもない。けれど否定が出来ない。どんなに理性で抗おうとしても、濃霧の影響でディイの脳裏には見たくもない景色が広がって行く。
「ッ……!」
 ジワリ、と目の端が滲んでいく。涙雨だ。気付かないうちに目の中に悪戯な雨粒が入り込んだらしい。痛覚を刺激されて、ディイは理性を取り戻した。そして、巨木が植わった先に、木漏れ日が見えた。花園だ。夢のように広がる景色に、暫しディイは呆然とする。

 ──あなたは、それでいいの?

 ゆらゆらと尋ねるように揺れる花々。

 ──ああ、そうだよな。
 ふ、と口の端を上げるディイ。言われるまでもない。きっとそのときは必ず訪れる。怖がっていて何になるってんだ。怯えているだけで何かが変わるのか。
 ──答えは否、そんなの俺らしくねえ。

 ディイはきっと花園の先に待つ強敵の影を見据える。花の如き麗しき紫陽花の騎士姫。にっこりと微笑みながら、細剣の柄に手を添えてディイを迎える彼女。──ダウト。惑わしの霧を放っていたのは、果たして誰だろうか。

 ──取り敢えず、誰でもいい。この賭けの結果は……

「来い、鐐。鐡も出番だ」
 低い声音で己が武器を喚ぶ。其れは呪いの元凶でもある、邪神の力を宿す蒼炎と妖刀。鐐と鐡を構えると、ディイは騎士姫に向き直った。

「行くぜ、俺達なら恐怖ごと斬って進める」

 いつか朽ちる時が来ようとも。
 そのときまでは絶対に止まってやらねえ!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロラン・ヒュッテンブレナー
おねえさん(f19492)に連れられて

【恐怖】ぼく、人狼になっちゃって
満月の魔力を受けると変身して暴走したり…
発動の度に自分じゃなくなる気がしてこわいの

でも、今はこの体もいいなって思ってる
成長した今なら、制御できるはずなの
おねえさんと【手をつなぐ】
暴走はやっぱり怖いけど、「キミ」と、向き合うよ
この力で、守りたい人たちがいるの
だから、ぼくの中の魔狼
力を、貸してね

【POW】
命を削るのも、こわくないよ
どんなに変わっても失くしたくないものがあるから
結界【オーラ防御】でおねえさんを守って
【高速詠唱】の【属性攻撃】魔術を【多重詠唱】【全力魔法】で発動して援護するの

これは、ぼくのこれからに必要な力だから!


エルザ・メレディウス
ロランさん(f04258)とお花畑へ足を踏み入れたのに...

【恐怖】:村での虐殺の中、私は騎士だったのに...あの男たちから誰も救えなかった。復讐に目を瞑ろうとしても、いつも犠牲者達の悲痛な顔と彼らを殺した男たちの残虐な顔が浮かぶの
逃げた私だけが幸せに生きていいの...?
復讐者としての生き方を変えていいの...?

でも
...私を暖かく迎えてくれた旅団の皆様、ロラン...そして。
【炎が揺らめく石】が変わることへの恐怖に打ち勝つ勇気を私に分けてくれる
だから、私は前へ進みます

★戦闘
白王煉獄...この技は私の大切な人の想いと絆が紡がれた一撃
未来を切り開くための浄化の炎...私に勇気と過去に打ち勝つ力を




 宝石のように雨露を飾る花々。ここはお散歩にはうってつけの、夢のような景色が広がる花園。
 そこに、馨しく咲き零れる百花繚乱にも負けない美女と、愛らしい男の子が足を踏み入れた。ふんわりと咲き乱れる花々に、思わず息を吸いこんで。ああ、いい匂い。
 綺麗なお花畑ですね、とにこやかに微笑みかけるエルザ・メレディウス(復讐者・f19492)と、はい、とお返事をするロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)。二人は仲睦まじくお花畑に遊びに来ていた。この後待ち受ける苦難と強敵の存在を知らずに──。

「おねえさん、これは何というお花ですか?」
「ああ、それはペチュニアです。……ピンク色が綺麗ですね」
 花々を愛でる二人は、まるで兄弟のよう。しかし、和やかな逍遥は長くは続かなかった。

 突然二人を襲う濃霧。あまりの冷気に身震いがする。エルザはロランを守ろうと手を伸ばすが、ロランの姿は掻き消えてしまう。

「ロランさん?ロランさん!?無事ですか、ロランさん!」
「おねえさん──!」


 ロランさんは何処だろう。無事かしら。そう、心配になるものの。
 エルザは、濃霧に包まれてからというもの、強烈に過去の幻に襲われてきた。なぜ突然、濃霧が自分たちを襲ってきて、同時に大きな恐怖に包まれたのか、皆目見当もつかない。対策も不明瞭だ。けれど、彼女が恐れている記憶は次々と蘇ってきて。濁流のように過去が脳裏に流れ込んできた。

 エルザは、その昔、騎士育成大学を卒業してから騎士に成った。けれど、ある日村で虐殺が起きて。エルザは騎士の身であるにも関わらず、だれ一人救えなかった。その記憶が、今でも彼女を蝕んでいる。
 エルザは自分を責めていた。喩エルザの所為ではなくても。あの男たちから誰も救えず、復讐には目を瞑ろうとしても。いつも犠牲者達の悲痛な顔が、彼らを殺した男たちの残虐な顔が脳裏から離れない。

 逃げた私だけが幸せに生きていいの……?
 復讐者としての生き方を変えていいの……?

 厄介な濃霧が、エルザの脳裏で葛藤を生み出し蝕む。

 いいえ、いけないわ。今、そんな事を考えている場合ではない。犠牲者を悼む気持ちは常にあるけれど。今でこそ、大切な誰かを護る時ではないの?
 炎が揺らめく石が、愛おしいあの人を想起させる炎が。変わることへの恐怖に打ち勝つ勇気を私に分けてくれる。
 ──だから、私は前へ進みます。

 濃霧に包まれていたエルザは、それを強い意志で振り払う。エルザの意志に、濃霧は儚く霧散して消え去った。エルザは前を見据える。今、ここで。守るべき人がそばにいるから。


 一方、ロランは。エルザとはぐれてしまってから、不安に駆られていた。おねえさんはどこだろう……?無事でいるかな。気品に満ちた小紳士は、自身の身よりもエルザの安全を案じていた。

 けれど、それも束の間。ロランの身を濃霧が蝕んでいき、抗い難い凍った空気に思考回路が蝕まれえる。ロランは、人狼の耳を思わずへたりと竦ませた。

(あれ……?ぼく、どうしちゃったんだろう。なんだかとっても……)

 ……怖いよ。

 立派に見えても、彼は11歳。恐怖に身を竦ませても当然なのだ。ロランは、普段は閉じ込めている恐怖心を独りでぎゅっと抱きしめた。

……ぼく、人狼になっちゃって。
満月の魔力を受けると変身して暴走したり……発動の度に自分じゃなくなる気がしてこわいの。
 それは、当たり前の感情。幼い身に圧し掛かるにはあまりに過酷な運命だ。

 自分が自分でなくなる、その時が。ロランには周期的に訪れる。怖い。ずっととっても怖かった。ぎゅっと手を握り締めるロラン。けれど、勇敢な彼は必死に空を見上げて。

──でも、今はこの体もいいなって思ってる。
──成長した今なら、制御できるはずなの。

それは、つらい経験をたくさん乗り越えてきたからこそ。彼の強さに濃霧はぱぁっと霧散した。その時。


「ロランさん──!」
「おねえさん!」

 濃霧が晴れてから聞こえてきたエルザの声に導かれて、ロランは思わず手を伸ばした。そしてふわふわとすべすべの手をしっかりと繋いだら、もう二度と離れない。さあ、二人でこの花園を出よう。


「おねえさん、大丈夫だった……?」
「ええ。ロランさんこそ無事で良かったです」

 再開を喜ぶ二人。しかし、花園を抜けたその先に──紫陽花を纏う美しい騎士姫の姿が在った。儚げな容貌に似合わず、その立ち居振る舞い凛々しささえ纏って。
 誰だろう、こんな所に一人で──。二人が疑問に思ったその矢先。長髪を靡かせて、紫陽花の君は振り返った。花の中で佇む美しい人は、慈愛に満ちた美しい微笑みを浮かべた。

「よくぞここまでいらっしゃいました」
「あなたはだあれ……?」
 柔らかな口調で話す紫陽花の君に、ロランは不思議そうに尋ねた。その瞬間。

「下がって、ロランさん!」

 細剣を神速で引き抜いた紫陽花の君──強敵のオブリビオンの剣戟を、咄嗟に彼の前に立ちはだかったエルザが防いだ。

「お早いですね。貴女は相当の腕の持ち主かと」
「そういう貴女は、ロランさんから狙うなんて。卑怯ではありませんか」

 エルザは紫陽花の君の言葉を蹴散らして言い放つと、白王煉獄を発動する。これは、エルザの大切な人の想いと絆が紡がれた一撃……未来を切り開くための浄化の炎。
「私に、勇気と過去に打ち勝つ力を!」
 エルザが白王煉獄を発動したのを見ると、ロランもオーラ防御でエルザを護りつつ、魔狼を解放した。暴走はやっぱり怖いけど。「キミ」と向き合うよ。この力で、守りたい人たちがいるの。──それは、彼の勇気の証。
「月光魔素、生成式展開」
「月夜の獣、我が命によりて、この身に現れよ。我が銘によりて、汝縛されるべし。汝の名は、音狼!」

「ッ……!」

 紫陽花の君──オブリビオンは。攻撃を展開する間もなく二人に焼かれていく。そして、それまでも数々の猟兵の強力な攻撃を受けてきた彼女は膝を折りかけて……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



 ──どうして。
 その人は言った。
 ──どうして、変わる事を恐れながら。それを克服できるのですか。
 猟兵という者たちは、特別な力を持っているからなのか。
 ──わからない。
 ──私には、解りません。

 だって、私は。
 怖くて怖くて、堪りませんもの。
トリテレイア・ゼロナイン
私の身体は電子と鋼の集合体
壊れては直し、取り換え、更新されゆくもの
既に目覚めた当時の部品は己のコアユニット…電子頭脳以外存在しません
技術は日々進歩し、身体に変化が齎され性能は向上していきますが…

何時か、己の電子頭脳が技術の進化に追いつけぬ日が来るのでしょう

世界が変わりゆき、それに置いて行かれること
それが時に恐ろしいのです

……ですが、それは世界の当然の理
その流れの中に騎士として戦った結果、護られた未来があったならば
誇りを胸に私の役目を終えましょう

役目を終えた御伽の騎士は『めでたしめでたし』と共に退場するのです
その日を迎えるまで戦機の騎士として踊り続けます

UCで攻撃を誘い剣で武器落とし
そのまま斬撃




 彼は言った。世界が変わりゆき、それに置いていかれること。それが時に恐ろしいのです、と。

 電子と鋼の集合体たる騎士、その名をトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)と言う。
 彼は非常に高度な知性を持ち、また同時に冷静な思考回路<演算機能>の持ち主だった。コアユニット<電子頭脳>を内包し構成する鋼は強靭で、柔らかな花園に時折吹く強風も、樹木から落ちる尖った葉も、激しく降り注ぐ涙雨も、彼に影響を齎さない。
 けれど。そんな彼にも恐れる事はあるのだ。

 彼は言う。
 己は壊れては直し、取り替え、更新されゆくものだと。その証拠に、中枢を司るコアユニット以外、初期の部品が己には存在しない事だと。

 濃霧がいつの間にか辺りを包み込んでも、彼の躰に影響は及ぼさない。然し、電子頭脳たる彼のコア<核>が反応する。
 (技術は日々進歩し、身体に変化が齎され、性能は向上していきますが……)
 仮面の向こうで戸惑うように緑光がチカチカと明滅する。

 ──何時か、己の電子頭脳が技術の進化に追いつけぬ日が来るのでしょう。

 それはとても恐ろしくて、想像もしたくない未来の一端。彼のコアユニットの性能が高いが故に、推測し得る結末をつぶさに彼に示すのだ。重たい<可能性>の一つを。
 誰一人として、己が消えゆく未来を想像したくはないだろう。「己だけが置いていかれる未来」……その恐怖はどんな強靭な精神の持つ主をも蝕む。過去の英雄たちとて、誰一人覚えていなければ英雄足り得ないかもしれない。それでも、謙虚で優しい彼は思う。いつの日か、私が必要とされなくなる日が来るのではないか、と。

 濃霧が花園を包み、景色がにわかに霞み、彼の放つ緑だけが鮮明に浮かび上がる。──然し。
 彼は、非常に冷静な思考を保っていた。

 ……何時か技術に追いつけなくなるかもしれない。
 ……ですが、それは世界の当然の理。

 その流れの中に騎士として戦った結果、護られた未来があったならば、誇りを胸に私の役目を終えましょう。役目を終えた御伽の騎士は『めでたしめでたし』と共に退場するのです。

 彼は潔い矜恃に満ちている。その高潔さのなんと眩しい事か。その美しさに花々の方から彼に見惚れるよう。彼は機械の身体であっても、紛う事なく「こころ」を持っているのだ。誰がそんな彼を置いていけるだろうか。

 彼は言う。
 ……その日を迎えるまで戦機の騎士として踊り続けます、と。
 敵も、濃霧も、オブリビオンも。彼の邪魔はできないだろう。喩え彼の道行を阻もうとて。只管、その騎士道を歩み続けるのみ也。

「徒に速度に恃まず、敵を誘い、撃たれる前に射線から外れ、死角に移動……理論は単純、実行は至難。さて、私の予測演算で何処まで踊れるか……」

 ガシャン、ガシャン。
 濃霧が漂うのも物ともせず、花園から歩いて来る誇り高きその姿。
 所々衣装が黒ずみ剥げ落ちた紫陽花の騎士姫は、誇り高き騎士の姿を驚愕の眼差しで見つめていた。

「貴方は、一体……」

 まことの騎士である、彼の名を知りたいか。
 その名は──トリテレイア・ゼロナインと言う。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユディト・イェシュア
紫陽花の花言葉は移り気と言いますが…
人の気持ちが時と共に変わっていくのは
当然のことだと思います
だから感情の変化をことさら恐れることはありませんが
そのせいで関係性が変わってしまうことは悲しくて

友達だと思っていたのに
たったひとつのきっかけで疎遠になってしまう
大切なものを失う恐怖
今も胸に深く棘のように突き刺さっていて…

でもこうも思うのです
変化は悪い方にばかりではないと
別れたはずの友人にまた会えたなら
今度こそは新しい関係性が築けるかもしれないと
変化がもたらすのは恐怖だけではありません
そこに希望をはらんでいるのです

紫陽花の花言葉にはいい意味もあるようですよ
力の苗床と化したあなたをその恐怖から開放します




 しゃらり。花園に見事に映える青年が降臨した。花々は彼を歓迎するように揺れて、蝶々は舞い踊る。その様子を優しい微笑みで見つめている青年は、ユディト・イェシュア(暁天の月・f05453)。優しい眼差しに見つめられては、花々も恥じらうだろう。清らかな空気が彼の周りを護るように包み込んでいる。それは彼に齎された加護だろうか。
 紫陽花が、きらきらと雨粒を飾って彼を見つめている。その色は桃色。そして、黄色。ああ、幸せの色だ。ユディトは目を細めて、紫陽花を見つめた。
 ふと、彼は思う。

 ──紫陽花の花言葉は移り気と言いますが……。

 そう。ユディトの推測通り、紫陽花は悲しい言葉を纏っている。「移り気」「冷酷」「あなたは冷たい人」。ユディトの心が呉須色に染まっていく。可憐な紫陽花は彼の心を癒したけれど、同時に彼の切ない気持ちを呼び覚ました。

 ──人の気持ちが時と共に変わっていくのは、当然のことだと思います。だから感情の変化をことさら恐れることはありませんが、そのせいで関係性が変わってしまうことは悲しくて。友達だと思っていたのに、たったひとつのきっかけで疎遠になってしまう。
 
 大切なものを失う恐怖。今も、彼の胸に深く棘のように突き刺さっている、辛くて、暗い色をした記憶。まるで、泥のようにのしかかってくる色たち。
 いつの間にか、彼を冷えた濃霧が襲っていた。そのせいだろうか。悲しい記憶を呼び覚まされてしまったのは。けれど、ユディトは思う。

 ──でもこうも思うのです。変化は悪い方にばかりではないと。

 別れたはずの友人にまた会えたなら、今度こそは新しい関係性が築けるかもしれないと。変化がもたらすのは恐怖だけではありません。
「そこに希望をはらんでいるのです」
 彼の清浄な気に、あっけなく濃霧は霧散した。その向こうに立っていたのは──。

「なぜですか」
 すっかりと襤褸の姿に変容していた、紫陽花の君。黒ずみ、花弁は剥げ落ち、それでもなお立ち続ける、美しく儚い、紫色の騎士姫。
「なぜ、貴方はそう思えるのですか」
 泣きそうな顔をした女性。ああ、彼女が。
「貴女がこの地に棲まうオブリビオンですね」
 出会い頭に看破され、ふ、と美しい貌に微笑を浮かべるオブリビオン。
「ええ。隠し立てする必要は無いでしょう。私は嘗て花の妖精より勇者に捧げられたレイピア。名をハイドレンジアと言います」
「勇者……レイピア、ハイドレンジア……」
「はい。ですが、私は激しい戦いにより消滅しました。そして、ずっとこの地に存在しているのです」
 紫陽花の君──ハイドレンジアは悲しい瞳で言う。その姿の通り、彼女に浮かぶ「色」も紫がかった青だ。なんて胸が苦しくなる色だろう。ハイドレンジアは続けた。
「誇り高き主人に使われる事が私の喜びでした。然し、今の私は過去の亡霊。世界に仇なす存在。嘗ての自分とはまるで違う、それがとても悲しいのです」
 そう言う事だったのですか。悲しげな彼女を、その周囲に漂う色を見て、ユディトはある推測をした。濃霧を放っていたのは、もしかして──。
「変わってしまった事がとても悲しい。そんな惨めな私を倒してくれる方を待っていました」
 ああ、やはり。彼女は待っていたのですね。力の苗床と化した自分を恐怖から解き放ってくれる人を。ユディトは静かに、優しい声音で告げた。
「紫陽花の花言葉にはいい意味もあるようですよ」
 え、とハイドレンジアが驚いたように呟く。
「辛抱強さ、そして寛容。貴女はずっと耐えていたのですね」
 ユディトの言葉に、はらりと涙を零すハイドレンジア。そう。ずっと、ずっと耐えていた。ずっと、ずっと、待っていたの。──私を倒してくれる誰かを。
「力の苗床と化したあなたをその恐怖から開放します」
 聖なる人は告げた。解き放った力は黎明の導き。その名の通り、彼女を解放する力。
「ああ……」
 最後に残っていた力を削がれ、ハイドレンジアは目を瞑った。彼女に黎明が訪れる。その貌に安らかな微笑が浮かんだ。

 ヒトの心は移ろうもの。
 我が身もやがて朽ちるもの。
 愛する人はいつか去り、己自身も忘れられていく。
 そんな残酷な世界なのに、どうして。
 どうして。
 こんなにもたまらなく、いとおしいのだろう。

 雨の降り頻るこの世界で。
 変わってしまった私は。
 ずっとずっと、待っています。
 また、玲瓏なるアナタに逢える日を──。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年05月21日


挿絵イラスト