バトルオブフラワーズ⑤〜金太郎鉄道
「よく来てくれた、猟兵」
グリモアベースで猟兵たちを迎えたのは、グリモア猟兵の石動・劒だ。
「今、キマイラフューチャーで起きているバトルオブフラワーズでの事件は知ってるか?」
バトルオブフラワーズ――キマイラフューチャー世界にある『システム・フラワーズ』を巡るオブリビオンとの戦争だ。猟兵たちはこの『システム・フラワーズ』を占領しているオブリビオンどもを倒すべく、メンテナンスルートから進行する。
「そのメンテナンスルートを通るために、システム・フラワーズを守る6つのステージを制圧しておく必要がある。俺たちはその内の一つ『ザ・ゲームステージ』で、オブリビオン『ふんどし過激派怪人』と戦って貰う」
………………………………。
しばしの沈黙の後、猟兵の一人が「今何て?」と問いかける。劔は真顔で「『ふんどし過激派怪人』だ」と返した。
「仕方ねえだろ、これが正式名称なんだ。……えーと、それでこのふんどし怪人との戦闘なんだが。ステージには特殊な戦闘方法が適用される」
曰く、このザ・ゲームステージに適用される『ゲームキャラクター』なる特殊戦闘ルールでは、猟兵たちはゲーム内のデジタル世界へと侵入し、そこのキャラクターとしてゲームクリアを目指すのだという。
「ゲームクリアの直前になるとオブリビオンが出現して妨害のために戦闘を仕掛けて来る。そいつを撃破できりゃ晴れてステージクリアってわけだ」
蓋を開けてみれば何ということはない。オブリビオンを倒す前にゲームをクリアまで持って行かなくてはならないだけである。
「で、肝心のお前さんたちが侵入する先のゲームの内容なんだが、ちょいと変わったある種のスゴロクゲームでな。タイトルは……『金太郎鉄道』だったか」
この『金太郎鉄道』略して『金鉄』にある種のゴールは無い。プレイヤーたちは鉄道会社の社長となり、諸国漫遊しながら次々に定められていく目的地を目指して行く先々で企業やら土地を買い占める――というゲーム内容である。
「作中にはそれぞれプレイヤーに“ビンボー”って貧乏神が憑いててな。土地を売ったり、使い捨てスキルみたいなカードを破棄して妨害してくる。プレイヤーの所持金が少なくなると、こいつが“ビンボ王”に変身する」
プレイしたことがある者もいるのだろう。猟兵たちの何人かが「あったねえ」と懐かしむように頷く。
「このビンボーをビンボ王に変身させることがクリア条件だ」
既プレイ勢の何人かが「嘘だろお前」とばかりに目を剥いた。あるいは「これそういうゲームじゃねえから!」と叫びさえ上げる。
「落ち着け、いやマジでそれが今回のクリア条件なんだって。この変身先のビンボ王がさっき言った『ふんどし過激派怪人』なんだ。つまりお前たちはビンボ王=ふんどし過激派怪人と戦うことになる」
ビンボーをビンボ王に変身させるためには、とにかく手持ちの所持金を少なくすることが大切だ。物件を買い漁るなり、使い捨てスキルに該当するカードを買い漁るなど、豊富な初期資金を溶かしに溶かしまくってビンボ王に変身させなくてはならない。
「モタモタしてると金が増えるから気を付けろよ、所持金を溶かすには速度が大事だ。何としてでも豪遊するなりして所持金を溶かせ。『いかに素早く所持金を溶かし、ビンボ王に変身させるか』そして『ビンボ王になったふんどし過激派怪人をどうやって倒すか』が重要だ」
今回は電脳魔術士の協力を得て、ゲーム内世界でビンボ王が現れるまではユーベルコードがゲーム内で無限に使える特殊な『カード』になっている。クリアと戦闘、どちらを優先するかよく考えながら使うと良いだろう。
「ふんどし過激派怪人はふんどしを投げ付けて、ふんどしを穿いていなければダメだというルールを宣告してきたり、脱力状態の時に受けたユーベルコードを赤褌から反射してきたり……あとはNPCを赤褌同志に変えて襲いかかってきたり……とにかく厄介な連中だ。気を付けてくれ」
彼らは褌を至上の下着として崇め、下着の多様化を許さない。つまり容赦なくズボンやらスカートやらを物理的に剥いで褌を穿かせようとしてくる。青少年のなんかそういうの的な意味合いで大変に危険な怪人だ。備えよう。
「お前さんたちだったらきっとゲームをクリアして敵を倒せるって信じてるぜ。行って来い、猟兵!」
三味なずな
お世話になっております、なずなです。
今回はコメディ寄りの依頼です。あなたも鉄道会社の社長になって散財しまくろう!なおうっかりすると所持金はモリモリ増えて行くのでお気をつけ下さい。現実もそうなら良いのにね
!!!!!!
対怪人戦についてですが。あなたはPCの下着の種類や色について文字数が余っていたらプレイングやアイテムで言及しても良いし、言及しなくても良いです。言及されていた場合、ズボンやスカートが剥かれてチェックされます。
また、なずなのマスターページにアドリブ度などの便利な記号がございます。よろしければご参考下さい。
ゲームのルールや仕様、「こんなカードがあったんだよ!」などなど。捏造して下さっても構いません。都度矛盾が生じないように整合性を取った上でリプレイに反映させます。
皆様のプレイングをお待ちしております!
第1章 集団戦
『ふんどし過激派怪人』
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POW : 至高の履物とは
【ふんどし】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD : 赤褌とは強さの象徴なり
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【赤褌】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ : ふんどしの魅力を知れ!
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【同志】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
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浅沼・灯人
◎
うっわマジかよ金鉄じゃん……
ちょっとビンボーブリーダーになってくるわ
定番は買い占めだが、それだけだと金が貯まる
ここは効率よく移動系と赤マスカードを買い漁ることに専念しよう
そして冬は海に出る、おら来いよビンボー
……は、お前はガジラ!
まあお前が町破壊した方が買い占めループできっし金の消費は激しくな……
なんでキンタロマン出て来てんだよ!!!誰だ使ったやつ!!!
ちくしょう、一か八かだ、俺が、俺自身がガジラになってキンタロマンを食い止める!!
行け!ガジラ!!町を滅ぼして経済を回せ!!
キンタロマンとの戦いに疲弊した俺は静かに倒れる
お前ら、そいつ(ビンボー)のことは頼んだぜ……!!
※下着は苺柄ボクサーです
キリ・ガルウィング
この手のゲームは手慰みにいくつか
…どうなってんだコントローラーぐっちゃぐちゃじゃねェか
抜けても知らね
効率よく負債を負う……破滅願望かよ
オレはほどよく目的地を目指さない
基本は海の上だ
ビンボー背負った奴からなすりつけられるのも忘れずに
デビルカード寄越せ
お守りと天使は要らん
ちまちまと着実に負債を積み上げてやる
オレより巨額の借金負った奴がいたらビンボーをやろう
立派に育てろよ
誰かがやり遂げりゃ勝ちだ
……しかし割と暇だな
うっかり金が入ったら農場でも買うか
あっ(台風)(何もかも浚われる)(全 滅)
それでいい
…オレのみかん畑の怨みはテメェで晴らしてやるぜ褌野郎
褌着けた事あるが
トランクスの方が楽だろ(青)
シャルロット・クリスティア
◎
てれびげーむ、というのは一応UDCアースとかで概念は知ってますけど……。
こうして遊ぶのは初めてですね。
お金を失くすゲームなんですか?変わってますねぇ……。
え、本来は違う?
……????(混乱中)
……と、とりあえずこう、赤いマスとか止まって行けばいいんですよね?ね?
それで、カードを使って、お金を奪ったりばら撒いたりする……感じですか?
え、えと、その、このカードどうやって使えば(無駄打ちしたり妙にお金が増えたり)
……気付いたんですけどこれ、各々がお金散財せずに、示し合わせて誰か一人に集中攻撃すればよかったんじゃあ……。
怪人はなんかいい感じに撃ち抜いて成敗です。
(※アイテム12)
アウレリア・ウィスタリア
ボクはゲームには詳しくないので
他の仲間たちがビンボ王?を呼び出すのを待ちましょう
あ、でも所持金マイナスとかあるのですっけ?
なら、ボクと血人形を含めて196回
一度踏むだけで一気にマイナスにできますね
敵が現れたなら
血人形の数で対抗しましょう
ふんどしが飛んできても血人形を盾にしてしまえば
当たった瞬間に消えますからね
そして血人形が崩れた血はボクの刃になる
血糸に変換して敵を捕らえその隙に攻め落としましょう
集団を指揮しつつ空を飛び地を駆け
敵を翻弄するように戦場を舞い踊りましょう
ボクの普段着って水着みたいだって言われるんです
この前は河童に水着だって言われましたし
とても心外です
普通の黒い下着つけてますから
◎
新堂・ゆき
◎あの…なぜこんな事に。(悲しそうな顔をしつつさくっと順応する子)
大都市っぽい場所の物件は積極的に買い漁りましょう。
後で怪獣が街をまるごと壊滅に追い込んでくれますから。
秋冬は赤いマスの多い所に止まるのが必勝法。色々間違えてますけど、気にしたらダメですよ?
災害カードと書いて、レゾナンスと読むユベコで都市に怪獣を召喚
季節によって、台風とか起こってもおかしくないよ!
カードは買えるところではお金に糸目つけずに買い、カード貰える
ところではビンボーさんのお友達に付いてきていただきましょう。
怪人は月照丸でべしべし。
この子なら褌でも何でも。さわやかスマイル
皐月・灯
ユア(f00261)と
「例のメンバー」との絡みも可。アドリブ歓迎
ゲームって殆どやったことねーんだが、こういうもんなのか?
まあ、とにかくやってみるか。
オレはこの「ガキ大将カード」を使うぜ。
お前の物件オレのもの、って書いてあるから、そういうことだろ?
……それを待ってたのさ、ユア。
おいそこの精霊ちょっと手ぇ貸せ。……よし。オレの術式で焔を倍加してやる。
いいか、オレの物件も纏めて焼き尽くせ。その街はもう終わりだ!
……よし!
ったく、お前は下がってろ。
おい変態野郎、てめー相手は女だぞ、何してんだ!
この……は? オレの下着?
……あのなあ。(※黒のボクサーです)
まあ、とにかくブッ飛ばすことに違いはねーよ……。
ユア・アラマート
灯(f00069)と
「例のメンバー」との絡みも可。アドリブ歓迎
いや本当にそういうゲームじゃないからなこれ
とりあえずできるだけ赤マスに止まったり物件を買い占めて地道に所持金を減らすか
あっ、ももゼリー屋が食品キマフュー1に!このままじゃ臨時収入が入ってしまう
仕方ない…(召喚した焔の精霊を雷の精霊に肩車させる)灯、バフを頼む
お前たちは怪獣、怪獣だ。いいな。分かったらあそこのマスを焦土にしてくるんだ
ふう、これで大丈夫かな
下着?黒い紐…いやなんでもない
ああバカっ、私の服は下とか上とか無いんだから脱がすな!
むしろそんなもの付けたら余計目立つ!!
こっちに来るな!(灯の後ろに避難)
敵はなんかいい具合に殴ります
壥・灰色
これそういうゲームじゃなくない?
何度か疑問に思うものの指示がそうなのでそうすることにする
積極的に無駄に投資、金銭を譲渡するカードをどんどん使い、目的地とは関係のない方向へ無駄に進む。ハワイとかいいな、お金使い放題じゃない?
カジノとかで無駄にスロットを回したり競馬で無駄に大量の金を賭けてポンコツ馬にレリゴーしたりする
それでも足りないとなったら自分で買った物件をニーボンバーやらウエスタンラリアットやらで破壊する。え、ユーベルコード使えるんだよね? 使える(確信)
おれ自身がドジラとなることと見つけたり……
出てきた怪人の顔面に膝と肘を叩き込んで粉砕してステージクリアだ
クリアなのか? 疑問は尽きない
霄・花雫
こういうゲーム初めてやるー。お金減らすゲームなの?
んじゃ、建物買い漁ってー、買い占め買い占めっと。
んで、姫ねぇさまの出番だよね!ゆべこ使えるでしょ?使えるきっと使える。
ってワケで、姫ねぇさまに台風起こして貰っちゃお!港町なら盛大に津波でも良いかなー。
全部押し流して貰って、損害出してー。
あ、なになに、秋冬はマイナス多くなるの?
マイナスってこの赤いマスだよね、じゃあこれいっぱい選んでこっと。
あっ、なんか変なのついた。何これ?コウモリみたいな。
わーお金持ってってくれるの?
怪人出て来、わー変態!変態だよねこれは!見目が悪い!
姫ねぇさまやっちゃえ!
……え、このゲームほんとはこういう遊び方じゃないんだ?
ヴォルフガング・ディーツェ
◎
【SPD】
貧乏を目指すとか斬新すぎないこのゲーム??
1人ではしんどい系ゲームなので【調律・墓標守の黒犬】でテオを召喚し進めていっくよー。【動物と話す】スキル大活躍。
周りの猟兵とも必要あれば連携!
先ずは大都会に無駄に広い綺麗な庭付きの豪邸!うちのわんこ(※数メートル)が乗れそうなオープンカー!でっかいわんこのおうち!更には使用人たくさんをどーん!
後は何が良いかな…高級お肉と貴族が寝てそうなでかいベッドと…え?ダイヤモンドのフリスビー?買ったばかりの壊した?テオー!?
しかしまあ下着に拘る怪人とは濃いよねぇ…幾らなんでも見た目イケメンな100歳のはスルーでしょ…黒に赤ラインのボクサーパンツだけども
金太郎鉄道。今なお根強くファンたちに愛されている名作タイトルの一つである。
その金鉄の世界へと、10人の猟兵たちが入り込んでいた。
「うっわマジかよ金鉄じゃん……。ちょっとビンボーブリーダーになってくるわ」
浅沼・灯人もまた、金鉄ファンの一人であった。懐かしさからか、普段の険しそうに見られがちな表情が心なしか緩まっているように見える。
「この手のゲームは手慰みにいくつかやってたんだよね」
同じくキリ・ガルウィングも金鉄に似たスゴロクゲームの経験があるのだろう。仮想コントローラーを握る。
「てれびげーむ、というのは一応UDCアースとかで概念は知ってますけど……。こうして遊ぶのは初めてですね」
シャルロット・クリスティアはデジタル世界をきょろりきょろりと物珍しげに見回たり、コンソールを試しに操作したりしてみる。戦争とはいえ、やはり好奇心を抑え切れない様子だ。
「こういうゲーム初めてやるー。お金減らすのー?」
きゃっきゃとはしゃぎ回るのは霄・花雫だ。ステータス画面の初期所持金の欄を見ながら頭を傾げる。初期所持金には燦然と『5000兆イェン』と記されていた。10人協力で共有資産を使ってプレイする『合同会社モード』を使っているためか、初期所持金もとんでもなく高い。
ええ、とシャルロットが頷く。
「説明ではお金を減らしていくとクリアできるようになるらしいですけど……。変わってますよね」
「ゲームって殆どやったことねーんだが、こういうもんなのか?」
皐月・灯が怪訝な顔でゲーム内ヘルプを眺める。いや、とそれに対して首を横に振ったのは壥・灰色だ。
「これそういうゲームじゃなくない?」
実際そういうゲームではない。本来であればお金を溜めまくってスコアを稼ぐゲームのはずだ。
「貧乏を目指すとか斬新すぎでしょこのゲーム」
「効率よく負債を負うとか破滅願望かよ」
ヴォルフガング・ディーツェとキリ・ガルウィングも胡散臭そうにヘルプやステータスに目を通す。
「いや本当にそういうゲームじゃないからなこれ」
ユア・アラマートが申し訳程度に補足を入れるが、果たして金鉄初プレイ勢にその言葉は届いたかどうか。少し怪しいものである。
誤解を解くのは早々に諦めたのか、灰色は猟兵たちの後ろに立っていた半笑いで褌一丁二頭身ぐらいのキャラクターへと目を向けた。このゲームの今回のキーパーソンとなるビンボーである。
「とりあえずこのビンボーとか言うのがオブリビオンなんだよな?」
おもむろに灰色はメリケンサックを握り締める。ワンツーパンチ! ハイキック! ワザマエ!!
「アイエエエエエエエエエエ!?」
「落ち着けカイ! まだそいつはオブリビオンじゃない!!」
「やめろ灰色! そいつはまだ嫁入り前ならぬ戴冠前なんだぞ!? 傷でも付いたらどうするんだ!!」
情けない声で倒れるビンボーを庇うように灯人が立ち、ユアが灰色の肘関節を極めて物理的に制止する。
「あの……なぜこんなことに……」
あらゆる意味で何がなんだかわからなくなって新堂・ゆきが呆然と立ち尽くす。月照丸を見上げるが、彼は人形である。何も語りはしない。
「いやよくわかんねえけど。とにかく始めようぜ」
「そうだね……。とりあえずできるだけ赤マスに止まったり物件を買い占めて地道に所持金を減らそう」
灯の言葉に頷いて、正座する灰色に石を抱かせ終えたユアが指針を示した。「はい!」と最初に手を挙げたのは花雫である。
「じゃああたし建物買い漁って来るー!」
「花雫さんだけだと心配ですね……。私も行って来ます。大都市っぽい場所の物件を積極的に買い漁れば良いんですよね!」
今にも飛んで行かんばかりの花雫を見て、控え目にゆきも手を挙げて彼女の後を追って行く。
「なら俺はカード漁りでもするかな。カードはそれなりに高価で、数を買えば所持金が減らしやすい」
「そうだな。お守りと天使カードはいらねえ、デビルカードが欲しいところだ。ちまちまと着実に負債を積み上げていこう」
灯人とキリはゲーム内のスキルに該当するカードを探しに黄色いマスやカードショップのマスを目指しに行く。
後に残されたのは石を抱いた灰色と、初心者勢である。
「……と、とりあえずこう、赤いマスとかに止まって行けば良いんですよね? ねっ?」
「いえ私に聞かれても。ボクはゲームには詳しくないですし……」
シャルロットが同郷のアウレリア・ウィスタリアへと助けを求めるように視線を向けるが、当然彼女と同じくダークセイヴァー出身のアウレリアはゲームに詳しいはずもない。
だが、何かを思いついたようにアウレリアは小さく声を上げると、彼女はユーベルコードを発動する。ユーベルコードはカードとなって光り輝くと、アウレリアの姿を模した血人形たちが200体近くも現れた。
「これで手分けして赤マスで所持金を減らして行きましょう」
「人海戦術ですね。……よし、がんばりましょうっ!」
●
それから数ターンが流れて、ゲーム内での冬の季節。しばらく各々で金の浪費に時間を費やした。
「カードを買い漁ってきた。これで移動系、赤マスカードをみんなでこの冬に使えば効率よく所持金を減らせるな」
どさ、と拠点に大量のカードを置いて灯人は吐息する。ビンボーの妨害であるカード売却で相当に苦労しながらも掻き集めたようだ。
カードの山を物珍しそうに灯が漁り始める。カードの名称と効果を確認しながら、分類分けして山札にしているようだった。事前にしっかりと灯人がある程度仕分けしていたのか、その速度は結構速い。
「へえー……。ガキ大将カードなんてのもあるんだな」
裏表を確認して灯が呟くと、ガキ大将カードがぱぁっと光り輝いて消え失せる。と、同時にログに「新しい物件を手に入れました!」という表示が出てきた。一瞬「しまった」という顔になる。
「……まあ、大丈夫だろ。お前の物件オレのもの……って書いてあったし」
「ああ、4月の決算にならなかったら問題ない。それまで利益は出ねえはずだからな」
てきぱきと所持金の家計簿を付けながら灯人が答える。青マスに止まる、イベントを経るなどして所持金はある程度増えるが、最も所持金が増える定期的なイベントは4月の決算である。これは所有する物件に応じて増額されるものだ。
「わあ、すごいすごい! 冬に赤いマス踏むとホントにたくさん減るんだね!」
花雫が歓声を上げる。この時期に赤マスを踏んだことで、どうやら億単位での損失を引けたらしい。
遅れてキリもまた、大量のカードを持って帰って来た。
「俺もカードを漁ってきた。このデビルカードがあれば所持金を減らしてくれるぞ。花雫にも一つやろう」
「やったーなんかコウモリみたいな変なの付いた!」
黒いカードを花雫に渡すと、ハエのようなビジュアルのキャラクターが後ろにつく。ミニデビルと呼ばれるこのキャラクターは、毎ターン少しずつだが所持金を減らす効果があった。普段は鬱陶しいカードだが、今だけはありがたい効果である。
「ところで……。灰色さんとヴォルフガングさんを夏頃から見ないのですが、どこに行ったかご存知の方は?」
きょろきょろと辺りを見回していたゆきが皆へ問いかける。顔を見合わせる面々。
「そういえば、灰色さんはイイアワに行くとか何とか……」
思い出したようにシャルロットが口に出すと、アウレリアが頷く。
「確かキマイラフューチャーの観光都市の一つだったはずですね。ヴォルフガングさんも血人形たちがそこで見かけたと言っていました」
「……仕方ない。海上なら赤マスが多いから、それついでに二人の様子を見に行って来てくれ」
●
「え、なんですかこの豪邸は……」
ぽかんとした顔でゆきはイイアワの都市部一等地の大部分を占める大屋敷を見上げる。正門もまた格調高く、立ち入ることがためらわれるほどだ。
「すごーい! おっきいー!」
「こんなところに灰色さんとヴォルフガングさんが……?」
無邪気に花雫がはしゃぐ一方で、シャルロットが怪訝な顔をする。どうしても普段の二人を考えるに似つかわしくない場所のように思えてしまうようだった。実際、彼らであればこのような豪邸には住まうよりも潜入したりカチコミに行ったりする方が似合うだろう。
「ここにいること自体は間違いないようです。とにかく行ってみましょう」
アウレリアが正門の警備員に呼びかける。しばらくすると、門が音を立てて開いた。
「「「いらっしゃいませ。よくおいで下さいました、お客様。こちらへどうぞ」」」
門を開けた先にいたのは、何十人という使用人たちである。一斉にアウレリアたちへ頭を下げて、巨大なオープンカーへ乗るように勧めて来る。
促されるままに猟兵たちがオープンカーへ乗り込むと、豪邸へ向けて走り始めた。話を聞くにこの広大な土地の大半は庭であり、事実車の外を見れば綺麗な植え込みや噴水、プール、運動場がうかがえた。
しばらくドライビングが続き、自動車が停まったのは巨大な建物の前だった。看板が立っていて、その表には「テオのおうち」と書かれている。
大きな門のような扉を開くと、果たしてそこにはヴォルフガングが待っていた。
「やあ、よく来たね」
「よく来たって……ここで一体何をして?」
「貧乏になる前にこうやって豪遊しておこうかなーって……。テオもほら、なんか幸せそうだし」
やや呆れた様子のゆきに対して、少し照れるようにヴォルフガングは笑いながら視線をテオと呼ばれる黒犬の機霊へ向ける。そのテオは早速花雫と意気投合したのか、フリスビーで遊んでいるようだった。
「あははっ、ワンちゃんかわいいー! そーれ取ってこーい!」
それーっ、と花雫がキラキラと光るフリスビーを投げる。陽光を反射しながら回転し、飛んでいくフリスビー。それをジャンプしてキャッチするテオ。
ばきぃっ、という嫌な音を立てて、フリスビーが砕けた。
「テオー!? それ買ったばっかりのダイヤモンドフリスビー!!」
フリスビーが壊れたことを少し気に病んだのか、ヴォルフガングが意気消沈する。飼い犬よりも飼い主の方が気に入っていたようだ。
「散財するのが目的なんですから、壊れることは別に良いんじゃないですか?」
「まあこっちはこっちで問題なさそうですから、安心ですね」
シャルロットとアウレリアが呆れたように、けれどどこか安堵したように苦笑する。ゲームの世界とはいえここは敵地。クリアするまで敵が現れないとは聞いているが、用心しないに越したことはないのだ。
が、そこに待ったをかけるようにゆきが声を上げる。
「灰色さん! 皆さん灰色さんのこと忘れていませんか!?」
しばしの沈黙の後、3人の間に「そういえばそうだった」と言わんばかりの雰囲気が広がる。
「ああ、灰色を探してたの? 屋敷の中にいるよ。付いて来て」
●
屋敷の中を歩くことしばし。扉を開いて部屋に入ると――聞こえてきたのは実況だった。
「先頭は依然として8番のヤシロヤシロ! 先頭は依然として8番のヤシロヤシロ! 二番手はマガツカイリ! 二番手はマガツカイリ! さあそろそろ行くかなー!? ウサウサフィオがピーチカミサトの外へ! その外からチマキャットが追い上げるゥ――!! ゴォォォール!! 一着は――」
「さあもぉう一丁行きましょう! 行きましょう! 行きましょう! スタァァァトしましたァ! あァあァあァァッとォ!! これはフライングだァ――!!」
競馬、競艇。どちらもラジオから流れる、賭け事の実況である。
部屋の奥にはスロットマシーンが据え付けられており、その前にはやはり灰色が座っていた。
「えーと……次どの馬に賭ければ良いんだっけ。あ、スリーセブン」
動体視力でリールを見て、スリーセブンになるパターンに入ったと見るや否や灰色はスロットマシーンに拳を叩き入れる。叩き壊れる。
ようやく入室者に気付いたのか、灰色が振り返る。
「あ、ヴォルフガング。ちょうど良いところに。スロットマシーンだと完全に運だし、ちまちま賭けるしかないからもうちょっとお金減らせるカジノゲームってないかな」
「うーん、ビンゴゲームとかかな。それよりも、来客だよ」
「あ、みんなも来てたんだ」
よう、と灰色は手を挙げて挨拶代わりにする。
その挨拶に応えるように、ツカツカと前へ歩み出たのはゆきだ。
「灰色さん、あなたまだ未成年ですよね――!?」
呆れ混じりの怒気を放つゆき。しかし灰色はどこ吹く風である。
「まあ、ゲーム内のカジノだからか、そういう年齢制限とか無いみたいなんだよね」
「いえ、そういう問題ではないと思うんですけど」
通じてないですねこれは、とシャルロットが呆れたように笑う。
一方で花雫は二人の気苦労を知ってか知らずか、据え付け液晶ディスプレイに映された競馬を見て興奮した様子だった。
「すごーい! お馬さん走ってるー! はやーい!」
「お金溶かしやすくて、結構効率良いよ。花雫もやってみる?」
「灰色さん――!?」
ゆきの怒気が更に膨れ上がる。花雫とて年齢自体は灰色より2歳年下なだけなのだが、年齢制限をクリアしていないし何より彼女は精神年齢がやや低めなように感じられた。あまりそういうよろしくない遊びを教え込むのは危険だろう。
ぽん、とゆきの肩にアウレリアが手を置く。
「新堂さん、ここは一旦アラマートさんに連絡しましょう。彼女ならすぐに解決できるでしょうから」
怒った様子のゆきも、その言葉を聞いて同意するように嘆息する。
仮想端末を手にしながら、「待って下さい」とシャルロットが声を上げた。
「……今、そのユアさんから連絡が来ました」
●
「大変だ! 桃ゼリー屋が食品キマフュー1位になった!! しかも4月の決算がもうすぐそこに迫っている!! このままだととんでもない収入が入ってしまう!!」
悲鳴にも似て、ユアが声を上げる。5000兆イェン――それはあまりにも膨大な金額であった。それこそ、10人がかりであっても浪費しきれぬほどに。
「少しずつ負債を積み重ねて来たが、どうやら間に合わなかったみたいだな……。二年目でまたどうにかするか……?」
「だが、かなりの数の物件を買い漁ったんだ、下手すれば5000兆イェンを超えちまうんじゃ――」
キリと灯が真剣な表情で話し合う。短期決戦が為し得なかった以上、善後策を講じるべきだと考えたのだろう。
その矢先に、仮想ウィンドウが自動的に開いた。
『臨時ニュースです! キマフュスゴクヒロイウミで謎の大怪獣が現れました! あ、あれは――』
「あれは――ギジラ!!」
灯人が仮想ウィンドウに映し出された大怪獣を見て声を上げる。おお、と険しい表情をしていたキリが、喜色を浮かべて立ち上がった。
「そうか、あいつがいれば物件が破壊されて買い占めループができる!!」
「これなら決算期の収入も減る! ギジラがこんなに頼もしく見えるなんて……!」
ユアは笑みさえ浮かべて仮想ウィンドウの大怪獣を見る。本来都市を壊滅させてプレイヤーたちの努力を水泡に帰すギジラ。しかし今この時だけは猟兵たちにとっての心強い味方だった。
『このままでは街が破壊されてしまいます! システムキンタロズは街を守るためにキンタロマンを出動させました!』
「待て、なんでキンタロマンが出てきてんだよ!? 誰だキンタロマン高いからって購入したの!?」
灯人が目を剥いて叫んだ。キンタロマン――それはギジラに唯一対抗できる存在。都市壊滅を目論む大怪獣へと立ち向かう超巨大ヒーローである。通常プレイでは頼もしい存在であるはずの彼が、今では猟兵たちの仇敵として立ちはだかっていた!
「NPCたちの仕業だろう。奴らもギジラの襲う街に物件を抱えていたはずだ」
「このままだと決算期に突入するぜ。キンタロマンに更に対抗するようなカードはねえのかよ?」
「無い。ギジラは無かったものとして諦めるしか――」
まだ冷静なキリと灯が話し合うが、出た結論は同じだ。
ギジラは出現しなかった。決算に入り、二年目で更に大きな消費を見込むしか猟兵たちの勝利の道は――
「……いや。俺は諦めねえ」
震える声で、灯人が言った。皆が彼へと注目したが、俯いた彼の表情は伺い知れない。
「諦められっか! ここで諦めたら俺たちのビンボーが“王”になれねえ! 一か八かだ! ――俺が、俺自身がギジラになってキンタロマンを止めてくる!」
顔を上げた灯人の表情は、決然としていた。彼はその背からドラゴニアンの翼を出すと、空へと飛び立ってキンタロマンへと立ち向かっていく!
「キンタロマン! お前の相手はこの俺だ! そして行け、ギジラ!! 街を滅ぼせ!! お前が俺たちの鍵だ! お前がこの経済を回すんだ!!」
キンタロマンへ熱線を放ちながら、灯人が吼える。ギジラは一瞬のためらいの後に、灯人の武運を祈るように悲しげな咆哮を上げると、街へ光線を放ち始めた。
「灯人ばかりに任せてはおけない。私たちもやるぞ。灯!」
「そう言うのを待ってたぜ、ユア」
灯が魔術回路を起動し、ユアが炎の精霊と雷の精霊を呼び出す。呼び出された精霊は命令されるがままに肩車をさせられた。
「――さあ、お前たちは怪獣。怪獣だ。いいな? わかったらあの都市を焦土にして来るんだ。……それじゃあ灯、頼んだ」
「任せろ。アザレ・プロトコル2番――《焼尽ス炎舌》!」
召喚者・ユアに命じられて困惑する二体の精霊。しかし事態は一刻を争う局面だ。灯がガントレットを通じて炎の精霊へと拳をブチ込むと、炎の精霊の火勢が一気に膨れ上がった。
灯によって無理矢理に底上げされて暴走する力と召喚者の命令に従い、精霊たちもまた街を灰燼に帰すため出撃していく。その光景はほとんど実験体を街へと解き放つ悪の組織であった。
さらに通信チャネルを開き、ユアは灰色たちへと連絡を入れる。
「カイ、聞こえているかい? 決算期に入ってしまったら勝算が遠のく。そうなる前に――私たちで物件を破壊し尽くそう!」
●
「破壊とは、おれ自身がドジラとなることと見つけたり」
通信でオーダーを受け取った後の灰色の行動は早かった。街へと出て、自分たちが所有する物件へと赴き――そして壊鍵でもって破壊する!
「イラッシャイマセー!」
ニーキック!
「アイエエエエ!?」
「次だ」
「イラッシャイマセー!」
ウェスタンラリアット!
「アイエエエエ!?」
「次だ」
普段は地形や周囲の味方の存在もあって、ある程度セーブされている灰色の壊鍵だが、このデジタル空間であれば何も遠慮する必要は無い。破壊の嵐が巻き起こり、物件が次々に破壊されていく! おお、これが現代のソドムとゴモラだと言うのか!
「壊せば良いんだね! それじゃあ姫ねぇさまの出番だ!」
事態を理解した花雫が精霊姫たちの力を解放する。突如として現れる津波! おお、見よ! これが現代のノアの洪水である!!
「私も続きます! 災害カード【レゾナンス】!」
ユーベルコードをカードにして、何だかんだで順応したゆきが災害カードを発動する。巻き起こる竜巻! なんということか! 黙示録に記されていたアポカリプスは今、このデジタル空間に具現化しているのだ!
●
『た、大変です! 炎と雷の怪獣が! 街を衝撃波で破壊されて! ああっ! 津波が港町を覆い尽くしました! キンタロマンはギジラを止められず都市は壊滅! しかもミカン畑が台風によって破壊されてしまいました!!』
ニュースキャスターが画面の中で悲鳴じみてレポートする。ああ、だが悲しいかな。世界の破滅は逃れられない!
「み、みかん畑ぇ――ッ!?」
ニュースを見ていたキリがその場に崩れ落ちる。彼の目からははらはらと熱い涙が溢れていた。
「お前そんなの買ってたのか……」
「お金余ったから、みんなで食ったらうまいかなと思って……。いや、でもこれで良い。これで良いんだよな……」
最初は呆れた様子の灯も、悄然とうなだれるキリを見て多少哀れに思ったのか、彼の肩に手を置いて「大丈夫だ、現実に戻ればいつでも食える」と慰めの言葉をかける。
だが、悪いことばかりでもなかったらしい。
「――どうやら私たちの勝ちみたいだ。ビンボーが変身する!」
ユアの視線の先――そこには猟兵たちに憑いていたビンボーが光り輝いていた!
カッ、と眩いばかりの光が一気に膨張して、世界を包み込む。
気付けばこのデジタル空間に侵入していた猟兵たち総勢10人は、何もない荒野に――決戦のバトルフィールドに立っていた。
神々しい光と共に、赤いふんどしのみを身に付けた怪人が空から降り立つ。
「……オレのみかん畑の怨みはテメェで晴らしてやるぜ、褌野郎!」
キリの悲憤を孕んだ声が、冷たい荒野へと溶けた――。
●
鍛え上げられた筋肉!
顔は赤く長い赤鼻は天狗の如し!
身に纏うは「褌至上主義」と威圧的な字体でショドーされた赤いふんどし一丁のみ!
そう、あれこそがふんどし過激派怪人である!!
「怪人出て来――わー変態! 変態だよねこれは! 見目が悪い!」
そんな外見をしていたものだから、花雫がこのように怪人のことを評したとして誰もそのことを咎めることはできなかった。むしろ、何人かの猟兵は似たような感想すら頭に思い浮かべていたことだろう。
「愚かな非ふんどし派たちよ……。悔い改めて下着を脱ぎ、ふんどしを締めるが良い! とうっ!」
赤いふんどしの前垂れを風でたなびかせながら怪人がそう言ったかと思うと、彼の姿がブレる。
次の瞬間! キリ穿いていたボトムスが剥かれていた!! そう、パンツチェックである!!
「貴様ァ!! 和装を着ているにも関わらず、なぜふんどしを締めていない!?」
「面倒くさいからに決まってるだろうが! 俺は穿くだけで良いトランクスを付ける! そしてお前は倒す!!」
キリの穿いていたズボンを捨てながら怪人が激昂する。青のトランクスを晒しながらもキリの振る舞いは堂々としたものだ。羞恥心はみかん畑の怨みで掻き消されてしまっているのだろう。
「フンッ! その前に貴様ら全員にふんどしを締めさせてくれるわ!」
またもや怪人の姿がブレる。次の瞬間、ユアのスカート部分が消失した!
「ああバカっ、私の服は下とか上とかないワンピースタイプなんだぞ!? よりにもよってスカート部分だけ切り取るヤツがいるかぁ!?」
「ふはははは、さあその黒の! 紐パンを!! 今ここで脱いで!!! このふんどしを締めれば元に戻してやろう
……!!!!」
「むしろそんなもの付けたら余計に目立つ!! こっち来るなぁ――!!」
ふんどしを片手ににじり寄る怪人から逃げるように、ユアは黒の紐パンツを隠しながら灯の背中へと逃げ込む。
「ったく……。ユア、お前は下がってろ」
呆れたように溜息をつきながら、灯は怪人へと敵意の眼差しを向ける。
「おい変態野郎、てめー相手は女だぞ、何してんだ!」
「正義の行いだとも。さあ、お前も下着を脱ぎ、ふんどしを締めるのだ」
「訳わからねえことを……はぁっ!?」
気付けば、怪人の手には今まで灯が穿いていたズボンが握られていた! そして灯の下半身には今、黒のボクサーパンツが一枚のみ!
「あのなあ。野郎のズボン剥いでどうするってんだよ……」
「その黒のボクサーパンツをふんどしに変えるのだよ」
「……まあ、とにかくブッ飛ばすことに違いはねーよ」
呆れた様子だった灯はついに理解できないとばかりに魔術回路を起動する。
「随分濃い怪人だなぁ。まあさすがにオレは対象外――」
「否。対象外など存在せん」
やり取りをやや他人事のように傍観していたヴォルフガングのズボンが怪人の手によって剥ぎ取られる!
「さあ、その黒に赤ラインのボクサーパンツを変えてふんどしを締めろ!! 今ならそのワンコ用ふんどしも付けておいてやろう!!」
「テオにふんどし……うーん、確かにそれは可愛いからアリ……」
少し考え込むような仕草をするヴォルフガングへと、テオが覆い被さってその腕へガジガジと噛み始める。
「あっごめんテオ! 冗談、冗談だから噛まないで!」
「遊んでる場合じゃないですよ! 私が援護します!」
「血人形たち、私たちの盾となって!」
シャルロットが銃を構え、アウレリアが血人形たちを前衛に出す。しかし――
「悪足掻きを! 貴様らがふんどしを締めるのは! 確定事項なのだァ――!」
またも怪人の姿がブレたかと思うと、その手にはシャルロットのスカートとアウレリアのパレオが握られていた!
「きゃあああああああ!?」
堪らずシャルロットは銃を取り落とし、その場に座り込んで下半身を隠す。戦場では冷静沈着であろうとする彼女だが、このような事態にあって冷静になどいられようはずもなかった!
「アウラちゃん、ぱんつちゃんと穿いてたんだねー?」
「水着みたいだなんだと言われますけど、これがボクの普段着ですから。ちゃんと穿いてますよ」
ぱちくりと目を瞬かせる花雫へアウレリアは少しばかりむっと唇を尖らせる。以前河童に水着だと言われて心外に感じたことを思い出したのだろう。
「……アウラおねえちゃん、そんな黒なんて大人っぽい下着付けてたんですね」
「まあ、村にいた頃とはもう違いますから。そういうシャルロットこそ、ピンクのフリルなんて随分可愛いのを身に着けるように――」
「わー! わ――!? そ、その話は後! 後にしましょう! ねっ!?」
顔を真赤にしてトップスをぐいと下げ、シャルロットはピンクのフリルパンツを隠す。まだまだ純な乙女であった。
「ともかく早く片付けましょう! ――月照丸!」
後衛が立て直す時間を稼がなくてはならない。そう判断して、次に動いたのはゆきだった。彼女は糸を操り、月照丸と呼ばれる戦闘用人形を繰り出す。
「その前に貴様がふんどしを締めるのが先だ!」
「甘い! その辺に転がっていた浅沼さんガード!」
怪人の姿がブレる――それと同時に、糸を使ってキンタロマンとの戦いで燃え尽きちまった灯人を一本釣り! 怪人に対する盾とする! ALAS! ゆきの代わりに灯人のズボンが剥かれ、苺柄のボクサーパンツが露わになってしまったではないか!
「わー! かわいいー!」
「てめぇら……あとで覚えとけよ……」
苺柄を見て歓声を上げる花雫。醜態を晒させられた灯人は辛うじて恨み言を口にすることしかできなかった。キンタロマンとはそれほどまでに強敵だったのである……!
「倒そう、この怪人は今すぐに
……!!」
「そうだね! やっちゃえ姫ねぇさま!」
涙目になったユアが全力で魔術回路を起動し、このままだと自分の蓮花をモチーフにした下着まで晒されかねないと危惧した花雫も精霊姫たちの力を解放する。
「いってらっしゃい、テオ!」
「続きます! 月照丸!」
「行きなさい、血人形たち!」
「アウラおねえちゃん、援護します!」
ヴォルフガングがテオをけしかけ、ゆきが月照丸で攻撃し、アウレリアの血人形たちがそれに続く。それを射撃で援護するのはシャルロットだ!
「壊鍵、起動――」
そして壊鍵を起動した灰色が衝撃波を放ちながら放つのはニードロップ! そして炸裂するエルボー・バット!
「アバババババババババ――! サ・ヨ・ナ・ラ!!」
総勢10人の猟兵たちの一斉攻撃を受けた怪人は堪らず爆発四散! ナムアミダブツ!
そしてその爆発と共にデジタル花火が打ち上がり『GAME CLEAR!』の文字が出現する。猟兵たちが精神的疲労と安堵の溜息をついたのは語るまでもないことだろう。
現実世界に送還される中、灰色はいつもの無表情のままぽつりと呟いた。
「本当にクリアで良いのか、これ」
あらゆる意味で疑問はつきなかったが、それでも彼らは目的通りに怪人を倒すことに成功したのであった。どっとはらい。
大成功
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ショコラッタ・ハロー
◎
仲間にゃ悪いがゲームはゲーム、きっちり妨害はさせて貰う
おれはカードを買い漁って金を溶かすことに専念しよう
自分自身を"スリの銀三郎"に変身させるカード?
すれ違った他プレイヤーのカードを盗めるって?
面白え、本物の盗賊の腕前を見せてやるよ
くすねたカードで進路妨害、カードを奪う、冬眠させるetc
増えた資金は自分の有り金を0にするカードで消し飛ばしてやらあ!
ようやくお出ましか怪人
つーかスカート剥ぐんじゃねえ、この変態野郎!
バカ、見るな、見るなあ!(下着は白いドロワーズ)
ぜ、絶対にぶっ殺す!
盗賊姫の宝石箱から取り出した武器は……リアル妨害系カード!?
いいぜ! このカードの効果でふんどし諸共粉砕してやる!
ネグル・ギュネス
金を乱用しろとはまた面妖な話だ
されど敵を穿つ為、致し方ない
ノーコンテニューで、クリアしてやる!
まずは【勝利導く黄金の眼】で最適解を導く
ビンボには、物件を破壊し尽くす類もある
まずは物件をギリギリまで買いあさる
収益が少ない、高額な観光物件を買い、増収は抑え込む
さらにその近辺の物件を買って、準備完了
金が増えると油断したな?
───其処だ!
ビンボに雷の【属性攻撃弾】を放ち、ほんの一瞬でも動きを止めれば!
アサルト流、電脳【ハッキング】!
頭を掴んで、竜巻ビンボに変身させ、物件を破壊し尽くせ!
気づいたら、物件ゼロ、金は素寒貧
キングになった瞬間、肩に飛び乗り刀を引き抜き
一刀両断・首狩り!!
これが、旅館流剣殺だ。
マリアンネ・アーベントロート
◎
ふふーん、ゲームにだって催眠術は効く!
なぜならスリープモードとかあるからねっ。寝るなら催眠は効くのですっ。
というわけで『催眠・従順の子羊』をゲームにかけて私の指示を聞いてもらうよ。
ランダムイベントの『盗みの金次』を毎ターン発生させて高速で所持金を減らすんだ。
あ、盗みの金次っていうのはね、所持金を大幅に奪っていく泥棒だよ。
敵が現れたら『催眠・従順の子羊』で普通の下着派になってもらうと宣言して催眠をかけるよ。
そんなことを言われたら脱力も難しいよね。
相手の褌への想いは強いから抵抗されそうだけど、その拮抗が動きを止めるはずっ。
……私の下着?べ、別に背伸びして黒いのとかつけてないよ?本当だからねっ!?
パーム・アンテルシオ
ゲームかぁ。ふふふ、みんなと一緒に遊べるっていうのは、ちょっと楽しみかも。
周りの反応を見てる感じ、普通のとは違うみたいだけど…ひたすらお金を使えばいいんだよね。
まずは、経験者の真似をした方がいいのは明白だよね。
物件を買えるだけ買って。えっ、これ早いもの勝ちなの?
むむ。じゃあカードを買って。止まる所は、ふだんは赤マスを選んで…
サイコロ増えるカードばっかり出ても、あまり意味がないんだけど。
持ち込んだユーベルコードは戦闘用だから、ルール上、役に立たなさそうだし…
仕方ない、赤マス。次は…えっ、スリの金次?誰?その変装はおかしくない!?
私の下着?ふふ。秘密。
その方が、女の子らしいでしょ?
【アドリブ歓迎】
ヴィクティム・ウィンターミュート
◎
金を増やせ、ではなく使い切れか
しかも例によってユーベルコードが使えると…いつかを思い出すな
まぁー任せてくれ
俺の手札は無限にある。こういうのに対応できるのだってあるさ
所持金を溶かす方法だろ?まずは物件とゴミカードを買い漁るだろ?
そしてダメ押しのユーベルコードだ!
こいつは指定した対象の所持金を「全て溶かす」インチキカードだ
これを「自分」に使って所持金を溶かしきる
いや~リアルファイトが起きそうなゲームだけど、今回はそういうことなさそうだわ~
怪人が出てきたら開幕から【先制攻撃】で酸をどーん!!
褌ごと溶かしてやるし倒された怪人も溶かす!!おわりっ!
え?何?俺の下着?
普通に青のトランクスだけど…?
誤算があった。
「……さすがにそううまくはいかねえか」
苦々しい表情でヴィクティム・ウィンターミュートは呟いた。展開された数々の仮想情報ウィンドウの中から、彼が注目していたのは金鉄の所持金である。
そこには「1,500,000,000,000,000Yen」と記されていた。
「1500兆イェン……。大富豪の口座をハックしたってこんなバカげた額は出ねえっての」
「ダメだったか」
後ろから彼の相棒の一人であるネグル・ギュネスが話しかける。
「元々2500兆イェンだったのが、だいぶ減ったな」
「本来なら全部溶かし切れるはずだったんだが、俺のユーベルコードをカード化して減らせたのがこれだけだった。どうにもセーフティーがかかってるみたいだな」
ヴィクティムは強酸を召喚するユーベルコードをカード化することによって、文字通り所持金を全て“溶かす”ことを目論んだ――のだが、その目論見は半ばで折れてしまっていた。
「1000兆イェンが溶かせる限界だったみたいだな、この感じだと」
「ゲームの中とはいえ何に使うでもなく金を溶かすなんて、惜しい話だよな」
二人と同じくゲームの中の世界に入り込んでいたショコラッタ・ハローがカードを整理しながら呟く。
「ま、それだけ溶かせりゃ充分だろ。後はおれたちで消費すりゃ良い」
「そうだね。一つの手段でダメなら、いくつも手段を使うべきだよ。幸い私たちは頭数が多い」
少し楽しげに周囲の景色を見回しながら、パーム・アンテルシオがふふ、と笑う。彼女自身、あまりゲームで遊ぶ経験がなかったのか興味が尽きない様子だった。
「それに。こういうと緊張感が無いかもしれないけど、戦争とはいえせっかくのゲームの世界なんだ。みんなと一緒に遊べるっていうのも、楽しそうな話じゃないか」
「私も賛成! せっかくなんだし、楽しみながらクリア目指しちゃお!」
はいはーい、と手を挙げてマリアンネ・アーベントロートが賛意を示した。
「こうして5人でゲームの世界に入り込んだのもきっと何かの縁だと思うし。ね、ね?」
「楽しむこと自体は悪くない。だが、額が額だ、何かしら工夫をこらさなくてはならないだろうな」
「物件を買ったり、赤マスに止まったり……だけじゃ足りないの?」
「……物件を買いまくれば、かなり減らせはするだろうが。物件の数に応じて大きな収入ができる決算の存在が厄介だ」
難しい顔をして策を考えるネグル。わからないなりに大変なことなのだと理解したのか、パームも釣られてむむ、と少し難しい顔になってしまう。
「それなら、おれがカードを買い漁って来る。もしかしたらヴィクティムが使ったのと同じカードが見つかるかもしれねえ」
自分の手のひらに拳を打ち付け、自信ありげにショコラッタが笑みを浮かべる。
「おれのユーベルコードをカード化すれば、他人のカードを盗み放題だ。適任だろ?」
「確実に出るという保証は無いが、確かにこれ以上の配役は無いだろうな。任せる」
ネグルの言葉に、よっしゃ、とショコラッタがガッツポーズをする。気合充分のようだった。
各々やれることをやっていこう。チームの中でそんな雰囲気が広がる中で、ヴィクティムが底意地の悪い笑みを浮かべる。
「――なあ、チューマ。この勝負、もっとスマートに勝てるかもしれねえぜ」
「ハッキングか?」
ネグルが顔をしかめる。ハッキングはヴィクティムの十八番だ。一番最初に試したのは無論のことだが、内側からではプロテクトが固過ぎて侵入できず、かといってプロテクトを破壊しようとすればデジタル中の自分たちまで死にかねないということで断念された。
「半分当たりで半分外れだ」
悪い笑みを深くするなかで、ヴィクティムは視線の先をネグルから変える。
「――マリアンネ、一枚噛んでくれ」
「えっ、わ、私っ?」
●
吸って――吐いて――、吸って――吐いて――
あなたの身体から、だんだんだんだん力が抜けていきます――
力が抜けてリラックスしていきます――
リラックスすることは気持ちいい――、力が抜けることは気持ちいい――
無防備って気持ちいい――
あなたのなかに、カードが一枚あります――
そのカードは――『盗みの金次』。
「……ゲームにもスリープモードとかあるから、催眠術は効くとは確かに思ってたけど」
仮想ドライブ内で回転する催眠CDへと催眠力を注ぎ込みながら、マリアンネは苦笑する。
「まさかハッキングと催眠術の合わせ技なんて、考えもしなかったよ」
「催眠術単体じゃシステムまで辿り着けねえし、かと言ってハッキングは門前払いされる。それならハッキングで催眠術をプロテクトまで運んで、そこから先を催眠術でハックすれば良い。スマートな作戦だろ?」
一時的に無防備化したプロテクトから侵入し、ゲームステータスをモニターする。催眠術の効果通りに、カードの出現率が『盗みの金次』に固定されたようだった。
「ショコラッタさん、こっちは作戦完了だよ。そっちはどうかな?」
『おう、こっちは快調順調ゴキゲンだぜ! NPCが“盗みの金次”ばっかり持ってやがる!』
通信チャネルを繋げると、言葉の通り上機嫌なショコラッタの声が帰って来た。共有資産ステータスを見てみると、なるほど確かに盗みの金次のカードが大量に増えている。
「ある程度数が溜まったら、こっちに送ってくれるかな? そしたらこっちで一気に削っておくよ」
『ならこっちは盗みに集中できるってわけだ。ははっ、スリを盗むなんざ悪い冗談みたいで面白え! 大仕事と行こうじゃねえか!』
愉快そうなショコラッタの笑い声と共に、通信チャネルが切断される。後は任せて大丈夫だろう。
「さて、ネグルたちの方はどうだかな……」
●
『ケータイでもテレビ画面がくっきり~~~!』
どろろろろん!
なんと ワンセグケータイは スリの金次の変装だった!
スリの金次は 所持金の4分の1を盗んだ!
『あばよ社長さん! 次からはそんな大金持ち歩いちゃダメだぜ!』
「……えっ、スリの金次って誰? 今の変装おかしくない!? 今ケータイが人になったよ!?」
「そういうものだ」
マリアンネたちが使った『スリの金次』カードの効果でイベントが起きたのだろう。眼の前に現れたケータイが男に変わり、所持金を奪い去って行った。
パームは驚き、ネグルは瞑目しながら、ただ呆然とそのイベントを見送ることしかできなかった。
「それよりもパーム、物件の方はどうだ?」
「あ、うん。言われた通り物件をたくさん買ってきたけど、これで良かったかな?」
「ああ、これで問題ない。金次の効果もあって、だいぶ所持金も減らせたな」
購入済み物件の目録ウィンドウに目を通して、ネグルが頷く。
「でも、なんで物件なんだい? 金次があるとはいえ、決算を迎えちゃったらまた逆戻りなんじゃ……」
「だろうな。だが、逆を言えば物件を抱えずに決算期を迎えれば問題ない」
ネグルは薄っすらと笑みを浮かべるが、それを見上げるパームにはそれが何を意味するのかわからなかった。首を傾げて、けれど自分なりに考え始める。
「なに、すぐにわかるさ」
『ネグル、例の準備が整ったぜ。条件定義が終わった』
「噂をすれば影が差す、だな。仕事が早くて助かる」
唐突に、通信チャネルが開いてヴィクティムの声が聞こえて来た。ネグルは一つ頷くと、一丁の精霊銃を構える。銃口の先は――二人に付いて来ていたビンボーだ。
一切の躊躇なく引き金が引かれる。紫電と共に銃弾が射出され、ビンボーへ命中した。
「え……ええっ!? ビンボーはまだオブリビオンじゃ……」
ない、とパームが言おうとして、しかしそれは暴風によって遮られた。
「ビンボーにはビンボ王以外にも種類がある。その中でも一際凶悪な者が――“サイクロンビンボー”。物件を破壊していくビンボーだ」
暴風は暗雲を呼ぶ。そして雷雨と共に雲の間から現れたのは、青い身体のビンボー! “サイクロンビンボー”である!
サイクロンビンボーはその身を回転させながら街から街へと疾走し、そこにある建物を、物件を巻き上げては破壊する!
「これがアサルト流、電脳ハッキングだ。今回はヴィクティムとマリアンネがいて助かったな」
目録ウィンドウから次々に購入済み物件の名前が消えていくのを見て、ネグルは頷いた。
これならばじきに資金を枯渇させることもできるだろう。そう思った矢先――
『大変だネグル、パーム!』
通信チャネルが開き、ショコラッタの焦ったような声が聞こえて来た。
「どうした、何があった?」
『ビンボ王が来る! 予定よりも大幅に早い! マリアンネとヴィクティムが時間を稼いでいるから、二人とも早く戦闘準備を――』
ショコラッタが言い終わらぬ内に。稲光とはまた違った違った眩い光が世界を覆った。
「あ、あれは――」
空を見上げながらパームは驚きで目を見開く。
暗雲の中にいたサイクロンビンボーは、いつの間にかにふんどし一丁の怪人へと変わっていた――。
●
「ドレック(クソッタレ)! こんなに早く出現するなんて――」
舌打ちしながらヴィクティムは展開していたウィンドウを閉じる。スリの金次と物件の購入、そしてサイクロンビンボーによる出費。それらの要素が合わさって急激に所持金が減少していき、いつの間にやらビンボ王出現の条件を満たしてしまっていたらしい。
「ど、どうしよう……ショコラッタさんも、ネグルさんもパームさんも、みんな出現位置から距離が遠いよ!?」
「どうもこうもねえ。一番近くにいる俺たちで先手を打って時間を稼ぐ!」
即断即決。いきなりの事態に混乱するマリアンネを置いて、ヴィクティムは駆けていた。マリアンネが混乱している間、立ち直る時間を自分が稼ぐつもりなのだろう。彼の瞳には決意が浮かんでいる。
「喰らえよウィルソン(クソ野郎)! 理不尽に喰われて死にな!」
右腕のフェアライト・チャリオットから射出されるのは強酸を内包した無数のナノマシン群である。
着弾と同時に自己増殖し、見る間にその身体を溶かしていく――はずだった。
「野蛮な。やはりふんどし以外の下着を穿いているような者は俗悪だな」
ふんどし過激派怪人の筋骨隆々とした身体に着弾したナノマシンからの反応がロストする。無効化されたのだ。
まずい、と彼が回避行動を取ろうとした時にはもう遅い。
怪人の赤ふんどしから、何かが射出される。極小で肉眼では捉えられないようなそれの正体をヴィクティムは知っている。先程自分が射出したナノマシンと同じ物だ!
「畜、生ォ――……!」
終わってしまった。自分の手札を相手に逆に利用されて、時間稼ぎすらできなかった自分への悔悟と無力感がないまぜになった叫びが口から漏れる。
ナノマシンは下半身に着弾したらしい。自己増殖し、拡散するナノマシンたちは強酸を打ち込んで次々に溶解していく。
――ヴィクティムの穿いているそのズボンだけを!!
「は
……???????????????????????」
いつまで経っても骨どころか皮膚にすら強酸が届かないことに疑問を覚えて自分の下半身を見たヴィクティム。その目に飛び込んだのは自分が今朝穿いた青のトランクスだった。
「ええ
……???」
混乱。そして困惑。なぜ強酸でズボンしか溶けていないのか。というか今ので自分を殺せただろうに。考えに考えたが、出る結論は全て「この怪人の考えることはわからない」である。
「きゃあああああああああ!?」
後ろからマリアンネの悲鳴が聞こえた。はっと我に返ってヴィクティムは青褪める。今のは自分を足止めするための策で、本当に排除したかったのは最初からマリアンネだったのではないか――?
そんな彼の目に飛び込んだのは――スカートを溶かされて黒いパンツを露出させられたマリアンネの姿だった!!
「……ありがとう怪人。ありがとう都合の良い強酸。俺は今最高に感謝したい」
「み、見ないで! 見ないで――!?」
感極まって涙を流しながらもガン見するヴィクティム。マリアンネは座り込んで必死に下半身を手で覆い隠そうとするが、奴は恐らくサイバーアイの録画機能を使っていたことだろう。多分。
「愚かな非ふんどし派の者どもよ。今一度悔い改め、このふんどしを締めるが良い――」
「誰が穿くかってんだこのスットコドッコイ!」
短剣を両手に、ショコラッタが怪人の背後から奇襲する! 必殺を意図した二つの斬撃はしかし、怪人のブリッジ回避によるふんどしガードによって受け止められた!
「うわぁ汚えモン振り回してんじゃねえよ!?」
「神聖なるふんどしを言うに事欠いて汚いもの呼ばわりとは。非ふんどし派は愚昧だな」
筋骨隆々の変態が身に付けていたふんどしが眼前に現れて思わず怯むショコラッタ。距離を取って一度仕切り直そうとするが――怪人はそれを逃さない!
「貴様もまたふんどしを締めるが良い――!」
「うわああああああああっ!?」
全ては一瞬。後退していたはずのショコラッタのドレススカートが、不思議なことに一瞬にして散り散りとなって消失した! 露わになる白いドロワーズ! 顔を真赤にして慌てるショコラッタ! 育ての親から贈れられた、猟兵としての戦装束は見るも無惨な下半身丸出し状態になってしまう。
「そうか、ここが約束されしカナンの地だったか――」
「この、変態野郎っ! 見てんじゃねえぞバカ! 見るな、見るなあ!!」
青絹織の外套を当ててショコラッタは顔を赤くしながら必死に隠す。野郎のパンツなど盗賊団で腐るほど見て来たが、自分の下着姿を見られるのはそれとはまた別の話なのである。
マリアンネ、ショコラッタは『状態異常:恥ずかしい』で行動不能。ヴィクティムも下半身は丸出し。戦力がほぼ半壊したこの状況は猟兵たちに不利!
なんとかしてどこかで状況を打破しなくてはならない。
桃色の炎でできた小さな狐たちが現れたのは、そんな時だった!
「待たせた、大丈夫か!?」
「サイコロ増えるカードが出ても意味ないと思ってたけど、こんなところで役に立つなんてね!」
リニアカードを使って急行してきたネグルとパームだ。二人はそのまま一気に攻勢へと転じる。パームの操る火狐たちから逃れる怪人を、まるで追い込み狩猟のようにネグルが精霊銃で撃ち抜いた。
「くっ、まだ非ふんどし派がいたか……しかぁし!!」
火狐たちの一斉攻撃! しかしそれを怪人は敢えて受け止め――吸収する! ユーベルコードを無効化する脱力の構えである!
「あ、危ない! 逃げて――!」
「ふははははは、もう遅い! さあ、その服燃やされふんどしを締めるが良いわ!!」
スカートを溶かされたマリアンネの叫びも虚しく、怪人の赤ふんどしから赤色の炎の狐が放たれる。赤狐は一直線に飛んでいき、パームのキュロットパンツへ噛み付いて炎を灯す! 燃え上がった後は何も残らず彼女のぱんつは衆目に晒される――はずだった。
「おっと」
前垂れ、である。
首元かれ垂れる不思議な紋様の描かれた前垂れが、前方からの彼女のぱんつの露出を回避させた。更にパームは九尾の尻尾を巧みに操り側面もガード! 妖狐ゆえに叶う鉄壁!!
「ぬぅ――ッ、猪口才な!」
「私の下着はひみつだよ。ふふっ、残念だったね?」
悪戯っぽく笑いながら、パームは尻尾から気を放出し、それでもって火狐たちを再び召喚する。歯噛みする怪人。悔し涙を浮かべるネグル!
「これで良かった……これで良かったんだ……!! 女児の下着姿を見ようなどと紳士の行いに非ず
……!!」
「……泣くほど悔しかったんだね」
見てはならない/それでも見たい/男煩悩/悔し泣き(都々逸風)
煩悩に揺れる者とはかくも愚かしいものである。
「ふんっ、こうなれば強硬手段だ! 貴様らを倒し、そして我が同志へと変えてくれよう!!」
「お断りだっつーの! 死ね、変態野郎!」
怪人の高らかな宣言に対して、反抗の声を上げたのはショコラッタだ。たとえデジタル空間上での出来事とはいえ、そしてショコラッタ自身の好みにそぐわないような衣装であるとはいえ。それでもあのドレスは育ての親から贈られたもの。それを台無しにされてしまえば、彼女が瞳に怒りを宿すであろうことは当然のことであろう。
彼女は召喚した宝石箱から怒りの限りを込めて何かを投げ付ける。それは――妨害カード! 金鉄に登場するはずの、敵を縛り上げて1ターンの間は行動不能にする縄である!
「ヌゥ――ッ!?」
「隙ありっ!」
マリアンネが催眠光線銃からビームを放つ。催眠力が変換されたその光線自体には殺傷力は無いが、それは相手を催眠状態にする力があった。
そして彼女がそのビームに込めた催眠とは即ち――!
「あなたには普通の下着派なってもらうよ!」
「俺は……普通の下着派……否ッ! 違う、違う……はずだ……!! ヌゥー……ッ!!」
催眠にかかった怪人は、しかし強靭な精神力で抗っているのか、頭を抱えて苦悶する。
そして、その隙をネグルが見逃そうはずもなかった。
「一刀両断――」
怪人の後ろから肩へ飛び乗り、刀を振り被る。
「――首狩り!」
ひゅ、と刀が横に振られ。次の瞬間には、血飛沫をあげながら怪人の赤ら顔が宙を舞っていた。
「これが、旅館流剣殺だ」
血振るいの後に、刀を鞘に収める。どしゃり、と首が地に落ちると共に、黒い灰へと変わって行った。
こうして、ゲームの世界の怪人は打ち倒され。猟兵たちはこのデジタル世界から元の世界へと強制転送されるのだった。
とっぴんぱらりのぷぅ。
大成功
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ジョン・ブラウン
◎【(株)悪巧み】
「いやー、僕この手のゲーム上手過ぎてさ」
「貧乏になるとかちょっと逆に難しいんだよね」
「あ、赤マス」
「えーと何なに、『タコ焼きチェーン店を全国展開、しかし間違えてイカを大量発注、大赤字』……(無言でマスにケーブルを突き刺す)」
「これはタコ、問題ない。いいね?」(マスのデータを改竄しイカをタコだと言い張って売り捌き大儲け)
「やれやれ、これじゃあいつまでたってもお金が減らないや。
いやぁ皆に申し訳ないなぁ、我が社の株は急上しょ
…………」
鹿が咥えてきた新聞を見る
食品偽造の発覚、それにより発生する賠償金
信用墜落、スポンサー離れ、株価暴落
書き置き
『スプ◯トゥーンのフェスがあるから帰ります』
詩蒲・リクロウ
【㈱悪巧み】
パシャパシャパシャ
盛大なフラッシュが焚かれ、周囲を囲む人々は喧々囂々に騒ぎ立て、その顔には隠しきれぬ憤怒が浮かんでいた。
そうここは記者会見場。
数多くの大波乱を巻き起こした㈱悪巧みのリクロウ社長に是非を問う場で在る。
いま何故、謝罪させられて居るのか
そもそも何故、記者会見など開かれているのか
ていうか㈱悪巧みってなんだよ
「あんのぉ、三馬鹿ぁ……」
理由も分からぬ理不尽に、さしものリクロウも怒りが止まらぬ。
そんな最中に、丁度いいサンドバッグ(ふんどし)が現れればどうなるか?
答えは単純。
リクロウは今、八つ当たりの化身となり、湧き上がる怒りをぶつけんと立ち上がった。
リチャード・チェイス
◎【(株)悪巧み】
「経済というのは需要と供給、その循環で成り立つのである。
即ち、彼等が散在しようというのなら私達は蓄財しようではないか」
「良いかね、宣伝とは如何にして"これは良いものだ"と錯覚させるかである。
例えば、この物件は最寄駅まで徒歩30分と立地が悪い。
だが、最寄駅は主要駅の1つ隣である点に着目し、それだけ書くことで
まるで利便性が高いかのように見せる。嘘は書いていない」
「で、何かね? ジェーン・トッパン君」
鹿が咥えてきた新聞に踊る我が社を糾弾する文字の数々。
それによって巻き起こる世界的な経済不振、株価の暴落。
後の世に伝えられるリクローショックである。
書き置き
『急病につき入院するのである』
ティアー・ロード
◎【(株)悪巧み】
すまないが、ゲームでも手は抜けない
今回は怪人討伐をメインにするつもりだし、折角だから全力で遊ぼうか
「ふふん!安心したまえ!」
「私に良い考えがある!」
使用UCは【刻印「大義名分」】
「ハーッハッハ!どれ程借金しても大丈夫!」
「このカードの効果でプレイヤーの借金を0になるのさ」
「正義は我らにあり!」
「更に決算に色をつけることで借金し放題、完璧だ!」
「うん?どうしたんだい?」
「……え、粉飾決算ばれた?全部の借金復活?」
下着は純白の「マイティアーデント」
普段は仮面の中に収納してるよ
「怪人め!許さんぞ!」
「乙女の下着はこの涙の支配者が護る!」
書き置き
『おっと、続きは怪人を倒してからだよ』
当然のことではあるが。この世では貨幣の流通量に限りがある。
「経済というのは需要と供給、その循環で成り立つのである」
経済学の基本原則であるな、とリチャード・チェイスは会議室の椅子に座りながらのたまった。
「まず欲する者がいるために産み出す者が現れる。立ち返って、このゲームではどうであろうか?」
「……なるほど、このゲームの中で散財する他の猟兵プレイヤーたちはそこで言う供給側だ、と?」
いち早く意図を汲んだティアー・ロードへと、彼は首肯を返す。
「ゆえに、我々はここでは一度需要者となった方がより円滑にビンボ王を呼び出すことができると考えるのである」
「……えーっと、それってつまり、どういうことですか?」
田舎の出身である彼にはいささか理解が難しかったようで、頭を鉤爪で掻きながら歌蒲・リクロウが小首を傾げた。それに答えるのは、ジョン・ブラウンである。彼は会議室のプロジェクタに簡単な図式を表示させながら説明する。
「つまり、リチャードはみんなでバランスを取ろうって言ってるのさ。みんながみんな散財しようとすると貨幣価値の変化だのなんだの、そういう面倒で都合の悪いことが起きてしまう。だから俺たちが散財しない側に回ろうって話」
「そういうことである。彼等が散財しようというのなら私達は蓄財しようではないか」
リチャードの提案に、面々は顔を見合わせてから賛意の頷きを返す。
「異論はないね。せっかくのゲームの世界なんだ。遊んでからでも良いだろう」
「まあ僕もこの手のゲームがうますぎるからね。自分で自分の首を締めるようなプレイングってちょっと難しいからありがたいよ」
ティアーが少し楽しげに、何かを期待するように身体を揺らす。ジョンは「カーッ! つれえわー! ゲームうますぎてつれえわー!」とばかりに肩を竦めて首を振る。
「そうですね、自分もその指針で問題ないと思います。リチャードさんのマトモな提案はレアですし、その方向で行きましょう」
「私は常にマトモな提案しかしないが?」
真顔でのたまうリチャードに、目を合わせる者はいなかったという。
●
(ナレーションと共にゲームのイメージムービーが流れ始める)
――キマイラフューチャー、オーサカ・リゾートエリア。
ここには神をも恐れぬ、とある食物を売る店がある。
細分化されてなお熾烈な過当競争を繰り広げる食品業界。その中でも、ここオーサカ・リゾートエリアでの粉モノはまさにしのぎを削るような攻防が続く。
だが、蠱毒が如き粉モノの世に一条の彗星が落ちた。
――タコの唐揚げ。
タコ焼きと称して売り出されたそれは、まさしく神へ挑みかかる社運を賭した商品であった――。
(暗闇の中、光へと進んで行く者たちのイメージムービー)
(現れるタイトルロゴ)
(♪例のBGM)
――プロジェクト Chimaira Future――
●
「おっかしいなー、なんでかタコ焼きチェーン店が売れない……」
売上高を見ながら、ジョンは頭を捻っていた。オーサカ・リゾートエリアではタコ焼きがソウルフードとして愛されていることはリサーチ済み。
ゆえにこそ、焼くのではなく揚げるという斬新な切り口でもって新しい形のタコ焼きをウリにした。
ゆえにこそ、豊富な初期資金を元手に集中的にチェーン店を展開して来た。
初動は完璧――そのはずだ。だというのに、なぜか売上高はすぐに頭打ちになり、販売個数が低迷している。
「うーん、ヒロシマ焼きでもチェーン展開して事業を多角化するべきかなぁ。まあ粉モノ業界は過当競争が激しいし、イベントを進めれば何か変わるか」
そう言って、彼はサイコロを振る。そろそろ忘れているかもしれないが、彼らが今やっているのはスゴロクゲームなのだ。
出目に応じてマス目を進む。止まったマスは赤色で、そこで起きるイベントが書いてあった。
「えーと、なになに? 『タコと間違えてイカを大量に誤発注、大赤字』……」
ひゅっ、と乾いた呼吸音がした。慌てて原料の在庫状況と所持金を確認する。
画面上の表示では、あるべきはずだったタコは全てイカへと変わり。所持金は大きく減少してマイナスに振り切れていた。
「……え、どうすんのこれ」
「何を悩んでいるのだ、ジョン」
青褪めるジョンの後ろから、リチャードが現れる。彼はジョンが見ていた画面を覗き込むと、全てを理解したのか一つ頷き、ジョンの肩に手を置いた。
「禍を転じて福となす、だ。ジョン、こういう時にこそ私たちは冷静になって頭を使うべきなのだよ」
「福となすって言ったって、こんなのどうしようも――」
「ある。良いかね、宣伝とは如何にして"これは良いものだ"と錯覚させるかである。例えば、この物件は最寄駅まで徒歩30分と立地が悪い。だが、最寄駅は主要駅の1つ隣である点に着目し、それだけ書くことでまるで利便性が高いかのように思わせる」
それと同じことだよ、とリチャードは言った。
「――別にタコ焼きにタコが使われている必要はないと考えるのだ」
「タコ焼きに……イカ……そうか!」
何か閃きを得た表情で、ジョンは腕に装着したワンダラーから接続端子を伸ばして赤マスに突き刺す。赤マスの内容が書き換えられる。
『イカを使った斬新なタコ焼きを売り捌いて大儲け!』
「ヨシ!」
「ヨシ! それでは次だ。この赤字状況を挽回しなくてはならない。ティアーにまずは相談するべきだろうな」
指差し確認を終えた二人は、ただちにティアーを呼び出した。
「……成程ね。安心したまえ、私にいい考えがある!」
「本当かいティアー!? 是非頼むよ! このままじゃ多額の負債が押し寄せてしまう!」
呼び出されて笑いながら身体を逸らすティアーは、今のジョンには過去最高に頼もしく見えた。
「コードセレクト、ザ・ジャスティス!」
カッ、とティアーの身体が光ると、眼の前に一枚のカードが現れる。ユーベルコードのカード化である。
「これは?」
「いわゆる負債の帳消し権さ。このカードの効果で我々の負債はゼロ、晴れて黒字経営へ元通りというわけだね! ハーッハッハッハ! 正義は我らにあり!」
「な、なんこった! 最高じゃないか!」
「これで更に決算に色を付けることで借金を重ねて資金を水増しも可能! 完璧だね!」
「完璧だよティアー! これはもうキマイラフューチャーを僕たちが席巻するのも夢じゃないね!」
ワッハッハッハッハ……
三人の笑いがこだまする。そんな中、新聞を咥えた一匹の鹿がやって来た。
「ふむ、何かねジェーン・トッパン君。早速我々のタコ焼きが好評を博している記事でも見つけたのかね?」
鹿から新聞を受け取って、バサリと広げる。その一面記事には、以下の文字が踊っていた。
『㈱悪巧み 食品偽造、粉飾決算が発覚か』
「「「………………」」」
三人は書き置きを残して逃げ出した!!
●
パシャパシャ!! パシャパシャ!!
多数のカメラマンたちが何重にもフラッシュを焚いて写真を撮り続ける。
会場内に渦巻くのは隠し切れぬ怒りの感情。喧々囂々と人々は騒ぎ立て、混乱の様相すら呈している。
そう、ここは記者会見の会場。
そして――株式会社悪巧みの行った不正の数々を白日のもとに晒す、断罪の場でもあった。
「……このたび、株式会社悪巧みは、上半期の粉飾決済、ならびに食品偽造を行ったことを、お詫び申し上げます……!」
記者たちの目の前で社の代表であるリクロウが頭を下げる。それと同時にフラッシュの焚かれる音の激しさが一斉に増した。
頭を下げつつも、リクロウは疑問を抱いていた。
なぜ何も関与していなかった自分が謝罪させられているのか。
なぜ犯人たちがここにいないのか。
なぜそもそも謝罪会見など開かれているのか。
っていうか㈱悪巧みってなんだよ……!!
目尻に涙が浮かびそうになって、まぶたを閉じる。まぶたの裏側に浮かび上がるのは三人の残して行った書き置きである。
『スプ◯トゥーンで紅茶にミルクを入れる派VSミルクに紅茶を入れる派対抗フェスがあるから帰ります』(ジョン)
『持病が急激に悪化して尻が二つに割れてしまったため急ぎ入院し、療養に努めるのである』(リチャード)
『怪人が現れたと報告があったので討伐しに行って来ます』(ティアー)
「あんの、三馬鹿ァ……ッ!!」
シャーマンズゴーストの少年はこの世の理不尽にただただ怒りを感じながら、くちばしからぎしりと音を立てた。
ぽん、と頭を下げるリクロウの肩に、誰かが手を置いた。
振り返るとそこには、褌一丁で二頭身ぐらいの半笑いが――ビンボーがいた。
カッ、と。ビンボーが光り輝き、会場内が白で染まる。
気付けば、リクロウのそばにいたのはふんどし過激派怪人だった。そう、㈱悪巧みは数々の不正を暴かれたことや事業のさらなる低迷化によって、所持金が削れに削れてマイナスを突破していた。それが、ビンボーがビンボ王へと変身するためのトリガーとなっていたのだ。
「…………」
ふ、とリクロウは吐息する。今、この時だけ。神に少しだけ感謝したい気持ちになった。
神様、ありがとうございます。 オブリビオン
湧き上がる怒りに支配される中で――こんなにも都合の良いサンドバッグをくださるなんて。
――その後、リクロウは八つ当たりの化身となって怪人へ怒りの限りをぶつけて。4人は現実世界へと戻るのだった。
大成功
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