山塞は古に眠る
●予知
「――力を貸して。民に被害が出る前に、制圧したい敵がいるの」
グリモアベース。夜から朝へ向かう空の色持つ髪を揺らして現れたエリーカ・エーベルヴァイン(花蕾・f03244)は、どこか気品を帯びた語り口で猟兵達へと呼び掛けた。
肩の高さに掲げた手には、紅い花蕾のグリモアが魔力を帯びて花開く。――つまり、エリーカはグリモア猟兵。
予知だ――察して猟兵達の視線が集まれば、エリーカはふん、と鼻を鳴らして髪を肩から背へと払った。
「……コードネーム・アックス&ウィザーズ。竜の世界ね。古き人が作った山中の砦が、今ゴブリンに占拠されているのだけど、……砦の内部に、少々強力な魔物の存在も確認したわ」
そこは、至る道の険しさから、あまり人の寄り付かない山中の砦だと言う。
その地域の歴史を紐解けば、古くは砦近くの山間部が街道として利用され、人の行き来も盛んであった。しかし、周辺地形の起伏の激しさや落石による道の封鎖、そして新たな街道の整備と共に――次第に人の生活圏から街道そのものが切り離されていったのだという。
「生きる人々の発展が在って、道は絶えて木製の砦は朽ちて自然に還りつつある。……そこまでは良いわ。寧ろ発展や繁栄が伴うなら喜ぶべきことと言ってもいい。でもね、そこが魔物の拠点になるというなら話は別よ」
――エリーカは、予知してしまったのだ。朽ちて廃墟と化した砦の中に跋扈する無数のゴブリン、そして幻惑の花粉を撒き散らす、大喰らいの花の魔物の存在を。
「いいこと? 先ほども言ったけれど、私の転移で向かう木製の砦は、朽ちて自然に還りつつあるわ。つまり周辺の山林と一体化しつつあるということ。火を掛けてしまえば簡単、なんて安易な考えでいるのなら改めることね」
ひとたび砦へ火など掛けようものなら、朽ち果て乾いた建物は燃えて、一気に山林へと炎広がり大火となることだろう。ユーベルコードの炎ならば操作も可能かもしれないが――その場合、炎攻めの混乱の中、砦の敵が山林の中へと散開してしまいかねない。
「私はあなたたちを砦の前、真正面の目立つ所へ転移させるわ。ゴブリンは知能が低くて好戦的な魔物よ、敵と気付けば勝手に出て来る。そこを迎え撃つ。――少し荒っぽくて強引な手段だけれど、それが一番効率が良いの。……その先の戦いに於いても、ね」
含みを持たせてエリーカが語るのは、ゴブリン殲滅後の戦い。その敵は砦一階の奥の間に居て出てこないため、朽ちた砦の内部へ進む必要がある。
ゴブリンを外で倒しきってしまった方が、砦内部の索敵の手間が無いのだ。
「奥の間に居るのは、大地に根付く竜の魔力を吸い上げて変質した花の魔物よ。振り撒く花粉で命を惑わし、獲物を喰らう摂食植物。……そんなものが万が一にも人里へ至ったら、無力な民はひとたまりもないわ」
ぎゅっと、エリーカの手が腰に提げる細身剣の柄を握った。絶対に外へ放逐してはならない――そんな強い決意をその様子から感じても、猟兵達は知っている。予知したエリーカは、自力で戦うことが出来ない。
猟兵達の転移の維持に、かなりの集中力を要するためだ。
「……悔しいけど、あなたたちに頼るしか私には手段がないの。だから、歯痒いけれど全て託すわ」
ぷい、と拗ねた様に顔を背けてエリーカは言う。
「……気を付けてよね。怪我とかしても……私には、送ることしか出来ないんだから」
でも、ごにょごにょと最後に漏れた言葉には、気遣いが滲んでいた。
蔦
蔦(つた)がお送りします。
よろしくお願い致します。
さて、今回ご案内しますのはアックス&ウィザーズ、湖にほど近い古き砦での戦いです。
以下の構成でお送りします。
第一章: VSゴブリン(対複数/集団戦)
第二章: VS幻惑喰いの大花(1体/ボス戦)
第三章: 湖でのひととき(非戦闘パート)
第一・二章の戦闘はお遊びなし。確り判定します。
第一章のゴブリン戦、敵の具体的な数を明示しておりませんが、これについてはシナリオへの参加人数に合わせて調整するため、あまり気にせずでお願いします。参加人数よりは多くいます。
第三章は、オープニングで語られてはいませんが、砦近くにある自然湖で、自由度高めに散策などが可能です。能力内容は気にせずに行動をご指定ください。
詳しくは三章導入部にてご案内いたしますが、人の手の入っていない透明度の高い湖です。山桜や水辺の花が咲く景色が広がっています。
お店などはありませんので、お食事等をお考えでしたら各自ご持参くださいね。
また、プレイングにてお声掛けいただけましたら、この章のみエリーカがお傍に伺います。
●ご注意ください
各章、プレイングに受付開始時間を設けさせていただきます。蔦のマスターページにて都度告知致しますので、ご確認の上ご参加ください。
また、蔦はプレイングの全採用を保証しておりません。着順でもありません。
内容に問題がなくともプレイングお返しの可能性がある点、予めご了承の上ご参加を検討ください。
それでは。猟兵の皆さんの活躍、エリーカと共に見守っております!
第1章 集団戦
『ゴブリン』
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POW : ゴブリンアタック
【粗雑な武器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 粗雑な武器
【ダッシュ】による素早い一撃を放つ。また、【盾を捨てる】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ : 足払い
【低い位置】から【不意打ちの蹴り】を放ち、【体勢を崩すこと】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
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アウレリア・ウィスタリア
砦に住まうゴブリン
弓は持っているのでしょうか?
手首を切り裂き【血の傀儡兵団】を召喚
さあ、軍勢には軍勢をぶつけましょう
1体やられたのなら3体で
それでも勝てないなら10体で
数の力で押し潰しましょう
ボクは兵団の指揮を取りつつ
空中から魔銃で攻撃しましょう
それとあわせて血糸レージングで網を張って
僅かでもゴブリンに隙を作りましょう
兵団の切り込むきっかけにもなるでしょう
他の猟兵が活躍するきっかけになるかもしれません
あとはボクが飛び道具や
高所からの奇襲に気を付ければ問題ありませんね
出来る限りの自分への攻撃は見切っていきたいところです
この世界は空が綺麗でとても好きなんです
だからボクは全力でこの戦いに挑みましょう
有栖川・夏介
ゴブリン退治ですね。
相手は結構単純なようですし、下手な小細工などはせずにシンプルにいきましょう。
砦の前で【殺気】を放ち、自分は敵としてやってきたのだということをアピール。
ゴブリンが姿を現したところを「お茶会セット」から針を取り出し【投擲】して攻撃し、仕留めます。
「初めまして。……そして、サヨウナラ」
今回は基本的に中距離から攻撃。
万が一間合いを詰められてしまったら「懐の匕首」で斬りつけて離れ、体勢を整えます。
敵の処理に時間がかかってしまったり、敵に囲まれてしまったらUC【何でもない今日に】を発動し、ゴブリンを一掃します。
仁科・恭介
※アドリブ、連携歓迎
初めての世界なので転移後周りを観察する。
「状況把握は第一に。…これなら十分に走れるか。しかし、良い風景だ。」
火責めでは無い事に安堵しつつ、砦の位置と猟兵の位置を把握。
山間部の砦という事で入口は一か所と思われるが、隠し通路からの奇襲を警戒する。【失せ物探し】
その上で【携帯食料】を食みつつマフラーを巻き直し、2対1のような優位な状況になるよう心掛けながら【ダッシュ】で誘導しつつ斬る。
逆に【ダッシュ】で駆けつけ隙をつく。
マントに目が慣れた(【学習力】)と感じたら、マフラーを懐にしまい【目立たない】よう背後から。
「好戦的ならそれを利用させてもらわないとね。だけど、気は引き締める」
●山林は戦に騒ぐ
ふわり、と転移の光から新たな大地へ舞い降りて、仁科・恭介(観察する人・f14065)はくるりと辺りを見回した。
(「――此処が、アックス&ウィザーズ」)
恭介にとっては初めての世界だ、状況把握は第一に。とんとん、と何度か鳴らした大地に置いた足には、踏み固められた土の感触が在った。
「……これなら十分に走れるか」
山中だと聞いていた。足場が柔らかい腐葉土や泥濘などであったなら、移動にも不便をきたしたかもしれなかったが――旧街道が近いこと、そして、目の前に無数に穴開き木々が突き抜けかろうじて砦と解る程度の大きな建物が存在することも、きっと足場の良さに影響を及ぼしたのだろう。
風化し今や風前の灯火といった風情の、古の砦。それを正面に迎えた恭介の立つ場所は、これも風化し朽ち果てた砦門の内側だ。
砦の前にぽっかりとそこだけ拓けた空間は、恐らく嘗ては幾度と人を受け入れ、或いは砦門からの侵入者を迎え撃った場所であったに違いない――。
「しかし、良い風景だ」
何とは無しに呟いた恭介の言葉は、周囲に青々と茂った山林の美しさに由来する。
砦前の空間に身を置く今でさえ、空を仰げば木々高く、伸びて頭上覆う様に広がる青葉。その隙間から漏れる光は影の中に燦燦と空の輝きを大地に落とし、遠くまで強固に視界を確保していた。
永き刻に乾いた砦と反して空気はしっとりと瑞々しさを帯びて、静けさの中に耳を澄ませば微かに聞こえる水流の音。恐らくは、近くに水場もあるのだろう。
――そして、同時に聞こえてくる。前方の砦の中に、自然には無い異形の無数蠢く気配。
「ゴブリン退治ですね。相手は結構単純なようですし、下手な小細工などはせずにシンプルにいきましょう」
有栖川・夏介(寡黙な青年アリス・f06470)は呟いて、薄緑の短髪撫でる一時閉じていた瞳をすっと開いた。鮮血の様な真紅の瞳が殺気を纏って鋭さを帯びた瞬間に――ビリ、と痛いまでに張り詰めた空気は、やがて朽ちた砦の中から、ざわりと不穏で騒がしい気配を連れて来る。
自分は敵だと主張する夏介の殺気が、ゴブリン達を誘ったのだ。正面に見据える砦の扉は既に外れ落ちて開け放たれたままだったが――その奥に、チカ、と金属の反射光を幾つか察知し夏介は駆けた。
懐に差し入れた手が、す、と引き出したのは針。『お茶会セット』――聞くに和やかな名を付けたそれは、しかし夏介の持つ暗器の一つだ。
「初めまして。……そして、サヨウナラ」
呟き、投擲――魔力を帯びた鋭き針が、正に今招かれざる客を殲滅せんと入口から出て来たゴブリン達へと一斉に襲い掛かった。
「――ギャッ!」
「グギッ!?」
ドドド、と肉穿つ鈍い音は無数の奇声・悲鳴を誘い、癒しの森林空間は、その一瞬で血肉断ち切る戦場へと一変する。第一陣――最初に現れた三体ほどのゴブリンが砦からただの一歩で塵と消えれば、敵の殺意を理解したのか仲間屠られた怒りからか、後続のゴブリン達から一斉に雄叫びが上がった。
「グギィィイイイイ!!!」
「ンギッ! ギァア!!」
その声は、次第に見えぬ砦の中へも広がっていった。どれだけ居るのか、波の様に伝播し砦の穴という穴から外へと漏れ出る無数の雄叫び――その騒がしさに、恭介は前へと駆ける傍ら、赤へ傾く茶の瞳を砦の壁面へ巡らせる。
(「山間部の砦だ、入口は一か所だろうが――これだけ朽ちてると、隠し通路なんかが無くても出入り出来そうな大穴の一つや二つはありそうだ」)
奇襲を警戒、砦の壁に沿って駆けながら手に握る携帯食料をガリ、と食んだ恭介は、響く雄叫びの中真横の壁にミシ、と木の軋む音を察知して、加速の足で前に転がり予測した衝撃を回避する。
バキン! と響いた木割れの音と共に――そこに現れたのは、砦壁を内から破壊し振り下ろされた鉄のこん棒。
手荒に砦の新たな出口を生み出した、新手のゴブリンと視線が交わる。
「……! 無いなら、作るってか……!」
転がり受け身取った低い位置から、二、と笑んだ口元をくるりと巻いたマフラーで隠して、恭介は疾走した。
食した携帯食料と、現れた敵の戦意を糧にして。全身の細胞を活性化させ得た力を足と腕に集中させた恭介は、一気に敵の懐までも距離を詰め、握る刀を真下から頭上へと振り上げる。
ユーベルコード『共鳴(ハウリング・レスポンス)』――強化状態での至近からの斬撃は深く深くゴブリンを斬り裂き、ぶつりと肉断つ感触と共に、棍棒握る片腕を根本から斬り落とした。
「――ッギァアアアア!!!」
耳を劈く絶叫にも、恭介は怯まない。破壊された壁穴に、更に迫る新手の気配も感じている――懐を離れて瞬時に背後へ回り込み、今度はゴブリンの首元へと愛刀を差し入れると、恭介は引き抜く刃で頸動脈と悲鳴の声帯を断ち切って、あっという間に一体を沈黙、絶命させた。
「……さて、どれだけいるものか。上手く誘導出来ればいいが」
ひゅん! と刃に付いたゴブリンの血を払い、恭介は斬り伏せた屍を見下ろす。
ゴブリン一体一体はさほど強くは無さそうだが、数がいればそれなりに厄介かもしれない――思えば恭介は即座に大穴から距離を取り、敢えて目に付く様な振る舞いでマフラーを背へと払った。
目に付かせて、敢えて目立って。惹き付けた敵を速度で躱して、また速度で斬り付けながら、一体でも多く殲滅する。対多数と戦うイメージは出来ていた。
「相手が好戦的ならそれを利用させてもらわないとね。……だけど、気は引き締める」
大穴から新手の敵影を目に留めて――恭介は、再び二、と口の端に好戦的な笑みを浮かべた。
(「あれだけ朽ちで穴のある砦……ゴブリンは、弓は持っているのでしょうか?」)
飛来武器に最大限の警戒を張るのはアウレリア・ウィスタリア(瑠璃蝶々・f00068)だ。しかし恐れるわけではなかった。黒白と左右分かたれた色の翼を羽ばたかせて空へと駆けた美しき少女は、華奢な手首に刃を滑らせ、ぶつりと白肌へ傷を刻む。
「……さあ、軍勢には軍勢をぶつけましょう」
空から大地へ滴り落ちる血の雫が――一つ、また一つと人型の小さな血人形をかたち作った。
ユーベルコード『血の傀儡兵団(ブラッドマリオネット)』。小さな小さな兵達の群れが、ゴブリン出でる砦の入口へと隊を成して前進を開始した。
統率するのは無論、媒体たる血の主・アウレリアだ。空中から敵の動きを観察しながら――その手から同じく手首の血で編んだ血糸レーシングを解き放つ。
視認も危うい微細な網に絡め取られたゴブリン達が、ぎしりとその動きを止めた――。
「一体やられたのなら三体で。それでも勝てないなら十体で。……数の力で押し潰しましょう」
そこへ殺到する血の兵団。一つ一つは一撃で消え失せるほどの脆い兵だが、殺到すれば数の暴力。顔を覆い尽くされたゴブリン一体が呼吸を奪われ窒息すると、しかし血糸の拘束逃れた一体が、窒息した仲間の顔ごと手に持つ盾で血兵を圧し潰し蹂躙する。
しかし、そのゴブリンを突如背から無数に穿つ針が襲った。
「……貴方には、特別な日になるでしょうか?」
――夏介。これも持て成しと言わんばかりの優美さでこう語り、繰り出したその力はユーベルコード『何でもない今日に(デッドエンドアニバーサリー)』。
無論、その針が穿ったのは一体ではない。アウレリアの張り巡らせた血糸に絡み取られた哀れなゴブリン達、その数六体。うち五体が網の中で絶命、霧散し消え失せれば、残る一体へはアウレリアの魔銃『ヴィスカム』が、空からその銃口を額へ向ける。
「この世界は空が綺麗でとても好きなんです。だからボクは全力でこの戦いに挑みましょう」
美しき顔を黒猫の仮面に覆い隠して、情浮かべるに難しい唇が、静かに思いを解き放つ。
心に伴い放たれた破魔の力帯びた魔弾は、ゴブリンの額中へと命中し――穿つその穴は忽ち広がり、魔物を世界から消し去った。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
ショコラッタ・ハロー
転送後、茂みや木陰に伏せて身を隠す
泥や草の汁を塗ったくって体臭と見た目を誤魔化そう
あいにくと盗賊育ちなもんでね
"おつとめ"に入る先の連中に姿を見られるのはイヤなんだ
ゴブリンの連携行動を崩すことを第一に動き、
集団に「道化師の慧眼」を放って撹乱を狙おう
攻撃後はすぐに移動して、居場所を特定されないように
敵がおれの探索や追撃にきたら、草木に身を隠しながら迎撃
少数孤立した連中を物陰からダガーで暗殺していく
万が一囲まれでもしたら、腹括って切り結んでやる
敵の死骸や盾を手に、ダメージを抑えながら殲滅を試みる
お宝には期待できないし盗賊としてはハズレ仕事だが
これでも猟兵のはしくれだ、すべき事はわかってるつもりさ
藤・稔
おれを形作るガジェット、展開と行きましょう。
両脚は加速機、両腕は属性砲、掌にダガー、喉に変声、蓄音とコアーーその他数多有。
排熱で周りも熱いかもしれませんが、すみませんね。
喉を弄り変声、耳障りに甲高い警笛を嗚呼嗚呼派手に吼える。
こうゆう派手な音が本能レベルで嫌われるのは、人もゴブリンも同じに御座いましょう。
出て来いよ。
ガジェットの加速とギャンビットの加速を組み合わせて疾れば閃光。
身体から噴き出る排熱蒸気を目眩しに、ゴブリンに接敵、細腕を振るわばダガーが飛び出し敵を斬る。
派手に燃やすのがNGでしたら。盾でダガーを防ごうとした子には、その盾にぺたりと触れて、電撃属性砲を差し上げましょう。効くだろ?
開戦の狼煙とばかり、派手な立ち回りを見せる仲間達を横目に、転移光から解き放たれた瞬間、ショコラッタ・ハロー(盗賊姫・f02208)は降り立つ一歩で大地を蹴ると、その身を隠す様に木々の中へと滑り込ませた。
(「あいにくと盗賊育ちなもんでね。……"おつとめ"に入る先の連中に姿を見られるのはイヤなんだ」)
ザザ、と木の葉が身に擦れる音は、各所に響く戦闘音と雄叫びに掻き消される。敵の一体にも気取られることなく自然の中へと身を潜めたショコラッタは、手近な木の葉を引き裂くと、誰もが一見に盗賊とは思わぬ繊細な美貌の肌や髪へと草の露を塗りたくった。
体臭と見た目を誤魔化して、狙うは無数に犇めく敵の攪乱。気配を殺し、存在を押し殺して――しかし、その体には今密やかに魔力が満ちたりつつあった。
ひゅる、と取り回しながら懐からその両手へと掴み出された華美なき短剣『アンタルジーク』『アンティドート』。その姿がショコラッタの手の中で仄かに揺らめく魔力光を纏うと、山林の生い茂る木の葉の合間、空へと無数に複製される――。
「――おれを形作るガジェット、展開と行きましょう」
森林の中で密かに着々と奇襲準備が進む中、宣言と同時、藤・稔(あこがれ・f16177)の全身を魔力光が包み込む。
「両脚は加速機、両腕は属性砲」
言葉に伴い光は弾けて、両脚の裏には瞬時に大気を取り込み射出するジェット機構、両の腕には手首から肘に掛けて取り付け型の筒状の属性砲が。
「掌にダガー、喉に変声、蓄音とコア――その他数多有」
取り付け型ゆえに空いた両手には無骨だが軽いダガーを掴み、首元には声を操る特殊機構がその姿を現した。
『ガジェットショータイム』――装着された何れもが稔にも初見のガジェットだが、満ちる魔力はそれらを自在に操れると、心に教えてくれていた。
「――排熱で周りも熱いかもしれませんが、すみませんね」
言葉に詫びを表しても、ニッと浮かべた笑みと響いた声音は何処か不遜で不敵だった。稼動を始めたガジェットによって、稔の周辺大気は次第に熱を帯び始めるけれど――その熱の大気を胸いっぱいに吸い込んで、稔は山中一体へと響く警笛をその喉から吐き出した。
「……っ嗚呼―――――
!!!!!!!!!!!!!」
その音色は、先までの言語明解かつ男の様な低温の声とは異なる甲高き変声の音。耳に障る音色に敢えて特化させて放ったそれは、戦う最中の仲間も思わず耳塞ぐほどの強烈な吼え声だ。
「……こうゆう派手な音が本能レベルで嫌われるのは、人もゴブリンも同じに御座いましょう。……――出て来いよ」
元の声へと音色を戻して、挑発的に稔が呟く。砦の中、ざわついていた魔物達の声や気配がその音色の不快さ故か、一際ガチャガチャと騒がしくなったためだ。
今や砦の出口は二つ。正面にある入口と、少し離れて壁面穿たれた大穴と――その両方ともから、やがて幾分怒りに殺気立ったゴブリン達が雪崩れ出て来た。
「嗚呼、嗚呼。続々と出ていらっしゃいます。あんなにも沢山――……でも」
ふ、と稔が笑んだ瞬間、地形を囲む木々の中から、無数のダガーがドドド! とゴブリン達へ一斉に降り注いだ。
「ギャゥウ!?」
「ギギャァアアッ!!?」
叩き付ける暴雨の様に、或いは夜空を翔ける流星の様に。狙いこそ少々荒くはあったけれど、その突然の全方向からの一斉射出は――稔ではない、ショコラッタだ。
ユーベルコード『道化師の慧眼(ダグオラージュ)』。
「――はは! ほら、こっちだ」
声は山林中に軽快に響くけれど、その居所は決して知れない。ショコラッタは攪乱すべく優美な姿を山林中へ溶かしたまま、足を止めずに駆け抜けては、新たに生み出す『アンタルジーク』『アンティドート』を戦場へ散らばし、敵目掛けて解き放つ。
(「お宝には期待できないし盗賊としてはハズレ仕事だが、これでも猟兵のはしくれだ。すべき事はわかってるつもりさ」)
美しき顔立ちに不敵な笑みを浮かべても、淡き灰の瞳が複製短刀に混乱極めるゴブリン達を追いかけようとも、その表情は今誰にも見えない。――しかしショコラッタには確りと、勝ち筋が見えていた。
狙い通りに連携崩れたゴブリン達の群れ目掛け、ショコラッタもよく知るギャンビットの加速と両脚のガジェット加速とを組み合わせ、閃光の速さで迫る人影――。
「どのように、死にたい?」
突如背後至近に響いた男の様な低い声。反応するゴブリンの首に鈍く光る刃が触れれば、自ら振り向く動作によってぶつりとその首が断ち切れる。
両の手の刃に魔物の噴き出す血を滴らせるその細腕は――稔だ。
「グッギャァア!!」
目の前での仲間の絶命に、一体のゴブリンが無骨な剣を振り上げる。稔へと落ちる――しかしその瞬間に、稔の周囲の空気が揺らぎ、落とした剣は空を切った。
「ギャ!?」
「――遅い」
まるで、空間転移。身体から噴き出る排熱蒸気によって生まれた虚像が消えた時、既にゴブリンの背後に在った稔は再びダガーをゴブリンの喉元へと差し入れ、真横に一閃掻っ捌いた。
そのまま真横、もう一体も巻き込まんと奔らせた刃は、鋼の盾に阻まれるけれど――。
「……派手に燃やすのがNGでしたら」
盾と押し合うダガーをぱ、と落としてあっさり放棄、代わりに稔は空いた手でそのままぺたりと冷たい盾に触れる。
「電撃属性砲を差し上げましょう。……効くだろ?」
口元に不敵な笑みを浮かべた瞬間、その手にバチン! と火花が散った。
手首から肘に取り付けた筒状の砲身から眩き電撃砲が放たれると、弾けた雷は周辺一帯のゴブリンを巻き込み――光ののち、そこから敵影は消えていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と
新しい街道が整備されたら、こっちは廃れちゃったんだ
ちょっと淋しいね
……まぁ、感傷に浸る暇はないみたいだけど
準備はいいよね?
君にゴブリンを近付けるようなヘマはしないから、
心置きなく『闇』を放って!
視野を狭めないよう常に心掛けて
戦場全体をよく見て、
複数のゴブリンがある程度固まっていたら
【範囲攻撃】で一気に【なぎ払い】
傷の浅いゴブリンは【2回攻撃】で、与えた傷を更に抉るように
ヨハンに矛先が向いたら【武器受け】で庇う
ここは抜かせない、絶対に!
速さなら私も負けない
見切られないように【早業】で素早く槍を振るいたいな
後悔したって遅いよ
この砦はあんた達が奪っていい場所じゃなかったの
ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と
利便性をとるのは至極自然なことですからね
古い物もそれはそれで良いのでしょうけど
悪鬼の棲みつく場となるのは残念なものです
……あの、そんな石を投げるみたいな気軽さで言われましても
やれやれ……
蠢闇黒から闇を這わせ、底冷えるような呪詛を与えてやろう
俺は近接戦に向かないので、中距離からオルハさんの援助を
彼女の三叉槍の範囲に敵が入るよう、黒刃を繰り敵の行く手を導く
足止めだけが役目と思ったのなら貴様らの見込み違いだ
心の臓まで穿つよう、闇を伸ばし一刃に仕留めてやろう
後悔して逃げだすならまだ可愛げがあったかもしれませんね
まぁ、逃がすつもりもありませんけど
「新しい街道が整備されたら、こっちは廃れちゃったんだ。……ちょっと淋しいね」
古の砦を前に、愛らしき春の色持つ大きな耳をしゅんと下げて、オルハ・オランシュ(アトリア・f00497)の唇からはぽつりと今日の思いが零れ落ちる。
「利便性をとるのは、至極自然なことですからね。古い物もそれはそれで良いのでしょうけど……悪鬼の棲みつく場となるのは残念なものです」
一方、隣の少年――ヨハン・グレイン(闇揺・f05367)は眼鏡の奥、藍染めの瞳を静かに伏せると、全身を覆う黒に等しい静の声でその心中を紡いで応えた。
古の時代に、確かに人が生きた痕跡。移り変わる時代と共に、世界へ、自然へ還ろうとするその流れが魔物によって断ち切られようとしていることは残念なことであった。
しかも、その魔物はオブリビオン――感傷に浸る暇はないと理解するオルハはぴん、と下げた耳を立てると、今度は素直な信頼を、笑顔に乗せてヨハンへ向けた。
「準備はいいよね? 君にゴブリンを近付けるようなヘマはしないから、心置きなく『闇』を放って!」
「……あの、そんな石を投げるみたいな気軽さで言われましても」
ヨハンは少々戸惑いの声を返すも、既にオルハは臨戦態勢。手に愛槍『ウェイカトリアイナ』をくるりと回して前へと歩み出るその背中に、ヨハンはふぅ、と溜息一つ、指の銀環に今は待つ『蠢闇黒』を前へと差し出した。
「やれやれ……」
差し出す手とは逆の手でくい、と眼鏡を整えると、銀環に沈黙していた闇石が魔力を帯びて妖しく明滅を開始する。
眩い煌きではない。どこまでも暗く深く冷たい地底を彷徨う様な闇色が、ずるりとヨハンの指上を離れた。
ユーベルコード『降り注ぐ黒闇(ブラック・レイン)』。
「――穿て」
呟くヨハンの言葉を合図に、這う闇はそのまま中空で無数に分かれると――黒刃となり、駆け出すオルハの背を追い奔った。
「速さなら、私も負けない……!」
たん、と軽やかに前へと地を蹴り、春宿す髪を揺らして駆けるオルハが目指すは五体のゴブリン。
やや散開がちなその群れは、ひゅん! とオルハの横を抜けた援護の黒刃に突如襲われ、それがヨハンの誘導と知らず次第にぎゅっと身を寄せ固まる。
新緑色の瞳にその様子を認めたオルハは、ゴブリンを射程に捉え愛槍を振り被った。
「――見切れるなんて、思わないでくれる?」
呟く瞬間、注ぎ込んだ魔力に三叉槍『ウェイカトリアイナ』が風を纏った。
疾風散らして右から左、薙ぎ払う槍術一閃。斬線に魔力光帯びるその一撃の名はユーベルコード『フィロ・ガスタ』。
接近の速度を上乗せ振るわれた力の槍は、巻き込む風で斬ったゴブリンを蹴散らす様に空へと高く跳ね飛ばした。しかしそれで終わらない。オルハは体の左へ流れた愛槍をくるりと取り回し持ち替えると、手応え浅く討ち逃した一体へと、今度は突き刺す一撃でその体を貫いた。
どすん! と激しい音がすれば――そこに、追い討ちの様に無数の黒き闇刃が飛来する。
ゴブリンを取り囲む様に飛来した刃はしかし、先ほどとは異なる命、異なる魔力を帯びていた。
「足止めだけが役目と思ったのなら貴様らの見込み違いだ。心の臓まで穿つよう、闇を伸ばし一刃に仕留めてやろう。――鳴け」
起動言語。やや離れた位置から放たれた主たるヨハンの声に従って、空舞う黒き闇刃達はゴブリンへ向けて鋭くその刃を伸ばした。
ドスドスドス! と無数に刺し穿つその力は、ユーベルコード『影より出ずる者(シャドウ・ルーラー)』。
空に刺し留められたゴブリンは、心臓と脳とを貫かれ絶命。魔力の刃がその効力を失い消えるよりも早く――塵と化して、さらさらと空間の中に散っていった。
「後悔して逃げだすならまだ可愛げがあったかもしれませんね。……まぁ、逃がすつもりもありませんけど」
くい、と眼鏡を手で押し上げ、見送ったヨハンは闇より深い藍の瞳を静かに閉ざす。
「後悔したって遅いよ」
すると、目の前でゴブリンを見送った春色の髪の少女・オルハは、愛槍をまるでこの一時だけの墓標の様に地面へ突き立てこう締めた。
「――この砦は、あんた達が奪っていい場所じゃなかったの」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
蒼城・飛鳥
まーたゴブリンか!
相も変わらず数だけは無駄にいやがって!
ま、それならそれでこっちも斬りがいがあるってもんだぜ!
来い、ツンデレ!(アスカ召喚)
「って、誰がツンデレよ!変な呼び方するんじゃないわよッ!」
はっはっは!いやー、ここに送ってくれたのもツンデレ少女だったんでな
まぁ可愛さでは向こうの方が断然上…って、うぉ、蹴るなおい!?
おふざけはここまでにしてフォースセイバーで斬り込んでいくぜ!
囲まれねーように指示よろしく!
後の戦いも控えてるからな
此処で無茶はしねー
確実な作戦で頼む
他の猟兵とも連携して斬って斬って斬りまくる!
ダッシュで肉薄されても慌てないぜ
その勢いも利用したカウンターの一撃を繰り出してやる!
壥・灰色
壊鍵、起動
無差別攻撃が悪手なら、一匹一匹潰すだけだ
魔術回路「壊鍵」の破壊力、その身で味わえ
中距離に位置取り、徒手で与しやすい相手とみせ、敵を誘き寄せる
衝撃波を足下で炸裂させることによる爆裂歩法にて、引き寄せた敵に急激に近接
顎
首
心臓
水月
肝臓
土手っ腹
人間であればバイタルが集中するであろう部分に、一体一発、一発一殺、必殺必中の拳脚を叩き込み、壊鍵の『衝撃』で粉砕する
敵からの攻撃も爆裂歩法にて常に回避し、至近距離に寄せての敵同士討ちも誘いながら、引き寄せた敵を鏖殺する
その後は他に後衛として射撃戦を行う猟兵に便乗して接近戦を
身軽だし、最前衛で敵を掻き回して戦うのは得意だ
狩り尽くしてやろうじゃないか
転移光から戦場へと降り立った時、仲間達が戦い繰り広げる様子を目の当たりにした蒼城・飛鳥(片翼の鳥は空を飛べるか・f01955)は――左手を額に当て、はぁ、と落とした溜息で辟易した感情を吐露する。
「まーたゴブリンか! 相も変わらず数だけは無駄にいやがって!」
心に素直なその声だが、直ぐに勝気な笑みを浮かべたその表情に飛鳥の戦意は明確だった。寧ろ、幾分張り切ってもいた。額に当てていた左手を前へと翳すと、掌の上に、ほどなく瞬き始める蒼い光は魔力の兆し。
「……ま、それならそれでこっちも斬りがいがあるってもんだぜ! 来いっ、ツンデレ!」
この世界の眩き蒼穹の様な明るい飛鳥の蒼瞳が、強気の笑みと溢れる魔力光に煌いた。幾度と勝利を掴み取ってきた掌の上に、喚ぶは飛鳥の小さくも頼もしき勝利の女神――。
「――って、誰がツンデレよ! 変な呼び方するんじゃないわよッ!」
ぱん! と光が弾けた瞬間に、現れたのは見目も愛らしいフェアリー型戦術指南AI『アスカ』。
「はっはっは! いやー、ここに送ってくれたのもツンデレ少女だったんでな。まぁ可愛さでは向こうの方が断然上……って、うぉ、蹴るなおい!?」
「もうっ、馬鹿! 知らないっ! いいからさっさと戦いなさいよ!」
戦闘を前に何とも気の抜ける会話ではあるのだが、こうして肩の力を抜くことも飛鳥流の戦闘準備ではあった。ガスガスと音立てるアスカの蹴りを苦笑いで受け入れると、飛鳥は顔の高さに右手を差し出し、注いだ魔力によって現れた光の剣を掴み取る。
「へいへい。んじゃまぁ……――おふざけはここまでだ。囲まれねーように指示よろしく!」
明るさから一転、二、と影帯びる笑みを浮かべて前傾の構えを取った飛鳥は、目標を一際数多いゴブリンの群れへと定めると、脇目も振らず駆け出した。
「っらぁああああああ
!!!!」
突撃からの、斬り込み。実体持たぬ光剣が返す手首でひらりひらりとゴブリンの群れの中に弧を描くと、通りすがりに一体、二体、三体……足を止めずに斬り裂いて、通った道に血飛沫の雨を撒き散らす。
「突撃するなら、足を止めてはダメよ! 止まった瞬間に囲まれるわ!」
「了解!!」
ユーベルコード『バトル・インテリジェンス』――アスカの戦術指南を受けて、突き進む飛鳥にしかし、ゴブリンも黙ってはいない。
「――グギャッ!!」
「わっ!!」
斬り裂き倒れた一体を壁にして、死角から突如新手の一体が飛鳥へ高速突撃してきたのだ。油断はなくとも、予期せぬ強烈な体当たりに飛鳥の体が後傾して、しかし踏みとどまるけれど――結果動き止まった一瞬に、ぐるりと周囲をゴブリン達が取り囲む。
――ち、と小さく舌打ちした。
「後の戦いも控えてるからな、此処で無茶はしねー。……アスカ、こっからどう動く?」
傍らに羽ばたく小さな妖精型のブレーンへ問い掛けると、アスカはにっこりと微笑んだ。
「このままでいいわ」
「このまま?」
「惹き付けは十分よ。――一人じゃないもの」
アスカの意味深な笑顔と言葉に、飛鳥が視線をゴブリンから一瞬ちらりとアスカへ向けたその瞬間。
「――壊鍵、起動」
低く無表情な男の声が、魔力的な不思議な音色を孕んで飛鳥の鼓膜を震わせた。
刹那の後に飛鳥の視界の一角から、ごっそりとゴブリンの群れが消え失せる――否。凄まじい接近速度と膂力によって、一瞬で吹き飛ばされたのだ。
正しくは、膂力ではなく拳打と同時に炸裂させた『衝撃』。体内に近接戦闘に於いて爆発的な破壊力を発揮する魔術回路『壊鍵』を持つまだ少年と言える年齢の男は、名を壥・灰色(ゴーストノート・f00067)といった。
ここまで、中距離に位置取り、徒手で与しやすい相手とみせて敵を誘引しては逆に衝撃を移動力へ応用した瞬速の接敵で不意の有利を取ってきた灰色は、既に骸の山をこの戦場に築き上げて来ていた。
「無差別攻撃が悪手なら、一匹一匹潰すだけだ。――魔術回路『壊鍵』の破壊力、その身で味わえ」
淡々と呟く傍らにも、その進撃は止まらない。
――先ず一体、左の拳に衝撃を炸裂させてゴブリンの眉間を破壊。するとその間に背後から振り下ろされる剣、回避し差し出された腕を掴むと、それを引いて肝臓付近への膝蹴りでこちらは内臓を破壊する。
移動に一歩踏み出す度に足元で炸裂させる衝撃波は灰色に神速とも呼べる速さを齎し、回り込んで背後を取った新手のゴブリンへはその移動速を上乗せた回転蹴りを首へ見舞って頸椎を木端微塵に打ち砕いた。
敵が横に吹き飛び空いた空間へ更に迫る新手は盾持ちだが――問題無し。鋼の盾をも変形させる衝撃を放つ拳はその威力でゴブリンを後方へと弾き飛ばし、なお迫る二打目では胸部、即ち心臓を直接打って沈黙させる。
速度、力に衝撃を加えて叩き込む拳脚は、ほぼ全ての敵をただの一撃で骸の海へと沈めていく。顎、首、心臓、水月、肝臓、土手っ腹――人であるならばバイタルが集中する場所を的確に攻める打撃の全てが一体一発、一発一殺、必殺必中。
一切鏖殺――灰色の拳脚、壊鍵の『衝撃』、戦闘術の全てが、この世界の空の様に今日も冴え渡っている。
「身軽だし、最前衛で敵を掻き回して戦うのは得意だ。――狩り尽くしてやろうじゃないか」
衝撃と力積を支配する色彩褪せた少年は、その顔も紡ぐ声音も、一貫して無表情。
しかし戦いに身を投じるその姿は――その技も力も表情豊かに、こののちも戦場内を縦横無尽に駆け回る。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
マレーク・グランシャール
グリモア猟兵は何を予知しようが自らは戦いに加わることが出来ない
まるで大いなる時の流れが未来を見てしまった者の干渉を許さないとでも言うように
だからエリーカの歯痒さか俺にはよく分かる
せめて剣の柄を握る華奢な指先から早く力が抜けるよう手を貸すだけだ
初戦は砦からゴブリンが出てきたその瞬間が好機
一方向に進み出てくるゴブリン達に向かい、まずは【竜骨鉄扇】の衝撃波+範囲攻撃で薙ぎ倒し出鼻を挫こう
体勢を立て直す前に【碧血竜槍】に持ち替えて串刺し、トドメを刺す
注意は砦を出て乱戦になってきてから
敵に囲まれたらUC【ブラッド・ガイスト】で殺傷力を増し、力押しで突破
ゴブリン共を血祭りに上げて喰らってやるさ
斬断・彩萌
はーん、数の暴力ね。いいわ、量より質って事を教えてあげるんだから!
●SPD
二挺拳銃を構えて、いざ蹴散らすわよ!
【クイックドロウ】と【スナイパー】を『BoostRoar』で強化して、速攻を狙うわ。
同じ個所を【2回攻撃】して、【傷口をえぐる】ように発砲。素早さなら私も自信があるわ、かかってきなさいよ!
近づかれたらOracleで反撃して、距離をとる。躱せないならTraitorで【武器受け】。
近くに味方がいたら援護に回るわね。後方から急所を狙撃、前衛を勤める猟兵がやりやすいよう動く。
※アドリブ・絡み歓迎
セリオス・アリス
アドリブ歓迎
誘き出すんなら派手にだな
そんで火は使わない、だっけか?
『歌』で身体強化
敵を『挑発・誘惑』するように響き渡らせて
まずは挨拶代わりの『先制攻撃』
出てきたばかりのその鼻っ面に【蒼牙の刃】を叩き込む
『ダッシュ』で距離を詰め
風の『属性』を纏わせた剣で『2回攻撃』
『見切り』ながらさらに連続で斬りつけて
足払いをされたら下手に堪えずそのまま倒れ
手を床について体を捻るように蹴りあげ『カウンター』
そのままバク転のように回転して体勢を調え剣を縦に連続で回転させて近づいて来る敵を斬る
さあ、次はどいつだぁ!?
時折大きな声で『挑発』して
…誰かさんに無茶はしねえって約束したが
まあ、これくらい無茶にはいんねぇだろ
「はーん、数の暴力ね。いいわ、量より質って事を教えてあげるんだから!」
転移の光から大地へトン、と降りたその脚で前へと駆け出し、斬断・彩萌(殺界パラディーゾ・f03307)は左右の手、くるりと二挺拳銃を構える。
眼鏡の奥、蜂蜜色の視線を巡らせる戦場には、一際ゴブリンが群れる一角が見受けられた。しかし次々と蹴散らされ、バタバタと倒れ伏していく様子を見るに――その中心には、恐らく仲間が居るのだろう。
ならばと彩萌が狙うは別所だ。散開していて狙いにくい標的も、射程のある拳銃ならば動かず容易に対処出来る。胸の前で交差させた銃持つ腕を前へと延ばし、異なる二方向へ銃口向けて、彩萌はニィ、と笑みを浮かべた。
「――いざ、蹴散らすわよ!」
叫びトリガーを引く直前に、指先と標的狙う瞳の奥に、魔力の光が揺らめいた。
ユーベルコード『BoostRoar』。速さと精確を両立させる、銃使いの為の技――巡らせた力を反映させて愛銃『Executioner』と『Traitor』から異なる標的へと解き放たれた弾丸は精神力製だ。故に弾丸無限、リロード不要で速射が可能。
立て続けに二発の銃弾が流星の様に空へ強固な光の線を描くと、その直撃に生じた激痛に何が起こったか把握出来ないのか、二体の離れたゴブリンが同時に苦痛の悲鳴を上げた。
「――ンギィイイ!?」
「ギギャッ!!? ギィィイイイイ
!!!!」
「……ふふっ、まだまだ!」
標的を変えてまた二発、銃弾放っては位置を変えるため駆ける足に、濃紺のプリーツスカートがひらりと跳ねて翻る。その間も忙しなく戦場内を巡る彩萌のスナイパーの視線は、砦から出て来るゴブリンの数の減少に気付いていた。
(「そろそろ打ち止め……的な? なら、私はこの戦略の維持で事足りる」)
仲間の支援。射程武器だからこその立ち回りを意識した彩萌の視界に、砦から溢れた最後の敵群の進路へ立ち塞がる背中が見えた。
マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)だ。
「先ずは……出鼻を挫く」
立つ男がその手に広げしは、竜骨の強度が攻守を担う『竜骨鉄扇』。切れ長の紫紺の瞳は迫り来る敵影五体を鋭く射抜き、下から上へと扇ぐ一振りは、真っ直ぐと衝撃波を大地の上に走らせた。
同時に、マレークは衝撃波を追って駆け出す。
「ギィイイイア
!!!!」
正面から向かい来る衝撃波を躱そうにも、その直ぐ後ろから碧玉嵌め込む美しき槍を掴んだマレークが迫るを見れば、ゴブリン達は立ち回りに迷う。
――その一瞬が命取り。嵐の風より疾く駆ける衝撃波がゴブリン達へ直撃しその身を地から空へと浮かせば、最早突き刺す槍の恰好の的だ。
『碧血竜槍』――突き出す愛槍一本が、並ぶ二体のゴブリンを貫きその体に宿りし命を絶った。
マレークの片手一本、槍に串刺された二つの骸が中空に留まる中――傍らでどさどさと地に落ちた二つの骸は、後方から支援した彩萌の銃弾によるものだ。
そして、もう一体――マレークの先の衝撃波だけでは説明出来ない無数の斬り傷を全身に刻んだ骸の周囲には、大気を蒼く揺るがす風の刃が踊り、やがて空へと溶け消えた。
後方にて右手を翳し魔力を編んだ、セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)の――ユーベルコード『蒼牙の刃(アズール・ファング)』。
「まずは、挨拶代わりだ」
自らが放った風刃が散らした大気の余韻に、艶めく長い濡羽色の髪を揺らして。漆黒に身を包む中性的な美しさを纏う男は、しかし何処か幼さも同居する好戦的な笑みを浮かべ、骸に背を向け次なる標的へと向かって駆けた。
砦から出て来るゴブリンは、恐らくはこれにて全て。残るは、既に表に蠢く残党だけだ。
蒼き風の魔力の名残を剣へと注いで、セリオスは標的目掛けひた走る。その間に、まるで呼吸の様に自然にその唇から零れ落ちる歌声は、強化のユーベルコード『望みを叶える呪い歌(アズ・アイ・ウィッシュ)』。
「誘き出すんなら派手にだな。――そんで火は使わない、だっけか?」
挑発、誘惑、セリオスが紡ぐに叶うあらゆる要素を帯びた歌声が山林の青葉を震わせれば、群れ成し戦うゴブリンも、散開するゴブリンも、一斉にその視線がセリオスへと集まった。
(「……誰かさんに無茶はしねえって約束したが、――まあ、これくらい無茶にはいんねぇだろ」)
注目に、狙われていると意識すれば――過った記憶に、セリオスの口元が二ィ、と少々悪い笑みをかたちづくる。
「……さァ、折角来たんだ、遊んでけ!!!」
ひゅっと駆ける速度を上げて、セリオスの体が最寄のゴブリンの懐へと入り込んだ。
――スパン! 上段から叩くような風纏う両断の剣は、斬り裂く瞬間疾風を放ち、その傷口に更に複雑な亀裂を生み出した。まるで爆発する斬撃だ。耳を劈く悲鳴が上がる間にも、セリオスの二度目の刃は今度は下段から空へと抜ける。
そこに強烈な蹴りを加えて反動で一度その身を後退させると、着地の足を、寄って来たゴブリンの足が払った。
「……っあ!? ……っと
!!!!」
しかし、セリオスは冷静だ。反射的に転倒堪えようとする思考を放棄、剣を鞘へ瞬時に収めて倒れる刹那に空いた両手を大地へ付けると、その手を軸に、捻る体で足払いのゴブリンを空へ向けて蹴り上げた。
そのまま倒立、腕の力で空へと跳ねて更に蹴り上げたゴブリンを地面へ向けて蹴り落とすと、くるりと浮かぶ身を返し、再び白剣の柄を掴む。
着地と同時の抜剣の一閃で――周囲に居たゴブリン二体を斬り裂き、その体を上下二つに両断した。
「――さあ、次はどいつだぁ!?」
挑発的に声を張り上げ、嗤うセリオスのすぐ傍で――マレークもまた、集まりつつある残党達へと愛槍振るいながら、過る思いに紫紺の瞳を僅かに細めた。
(「――グリモア猟兵は、何を予知しようが自らは戦いに加わることが出来ない」)
真正面に迎える一体の、心臓部を先ずは穿って。引き抜きばしゃりと散った血が大地に染みる前に消え行くを見送り、思うは、今日を予知した唯一見送る猟兵のこと。
(「まるで大いなる時の流れが、未来を見てしまった者の干渉を許さないとでも言うように。……だから、見送る者の歯痒さが俺にはよく分かる」)
転移の光に送られるその刹那に、マレークは確かに見た。剣の柄を握るその猟兵の指先は、僅かだが――確かに震えていたのだ。
「……せめて、剣の柄を握る華奢な指先から早く力が抜けるよう、手を貸すだけだ」
だから、では無い。それだけが理由では無いけれど――思いの最後を声にして今日至った世界へ放つと、マレークは己が血を代償に、槍へと渇きの魔力を注ぐ。
敵を斬り裂き、突き貫くその刃が帯びる殺戮への渇望感――殺傷高める呪いの力は、ユーベルコード『ブラッド・ガイスト』。
「全て血祭りに上げて喰らってやるさ。……逃れられると思うな」
淡々と落ちるマレークの声に反して、槍は自由に、無遠慮に、求めるままにゴブリン達の命を喰らう。
やがて、武器から捕食の衝動が消える頃には――戦に騒ぐ山林の中に、脅威は跡形も無く消え失せていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『幻惑喰いの大花』
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POW : 喰らいつく
単純で重い【花の中心にある口による噛みつき】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 蔦を振り回す
【蔦の先の花粉嚢】が命中した対象を爆破し、更に互いを【頑丈な蔦】で繋ぐ。
WIZ : 幻覚を見せる
【幻を見せる効果のある花粉】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を花粉で埋め尽くし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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●惑わしの大花
静けさを取り戻した山林から、猟兵達は古き砦へと踏み込んだ。
既に扉失われた入口から中へ進めば、内部はもう砦としての形を殆ど保っていなかった。ゴブリンに荒らされたこともあっただろうが――各部屋を仕切る壁はその悉くが割れ崩れ、正面から見た限りは二階建てと思われたにも関わらず、一階に立つ猟兵の目に天井各所の大穴から天を覆う青葉が見えた。
足元には、踏む度ぎしりと軋む木の床と山林の大樹の根とが混在し、まるで大黒柱でもあるかのような自然さで天井を突き抜け聳え立つ大樹すらある有り様だ。
奥行深く広がる筈の内部が照明も無く先々まで見渡せることから見ても――どの部屋も恐らくはこの状態なのだろう、と判断するには充分だった。
――そして、そんな荒れ果てた光景の中で何よりも猟兵達の視線を惹き付けたのは。
「……湖
……?」」
広き古砦の奥行きの更に先。やや遠くに、美しい水面が見えた。
戦いの最中微かに聞こえた水流の音は、恐らくあの湖に由来するものだろう。遠くて詳細は解らないまでも、水辺には木々の緑ではない色彩が囲む様子も窺えた。
花絢爛のこの季節だ、恐らくはそういうことだろう――この戦いを無事終えたなら立ち寄ってみるのも良いかと、幾分目元と心を和ませそんな風に思う猟兵達の視界をふと、……黄色い靄が遮った。
その正体を、猟兵達は知っている。
――ぎしり。
今にも割れそうに軋む床を踏み進み、猟兵達は靄を辿る。吸い込まぬ様に細心の注意を払うのは、それが人を惑わす魔の花粉であることを心得ていたからだ。
「……シュルルルル……」
かくして――靄の出所、砦の奥の一角に、それは居た。
花絢爛の今に咲く、その花の容貌は醜悪だった。棘持つ体の頂点に咲く大花はその中央に巨大な口と牙を持ち、捕らえた獲物を溶解させる唾液をだらしなく滴らせている。
漂う花粉が噴出するのは、花ではなくどうやら取り巻く長い蔦からだ。蔦の先に膨らんでいるのが、恐らくは花粉嚢だろう。
大地に張らぬ根は露出し、ずるりと音立て波打っては花の体躯を右に左に自在に移動させていた。あの落ち着きの無さでは、どうやら戦いの最中もじっとしていてはくれそうにない。
……幻惑喰いの大花。ただの自然には存在しえない脅威――骸の海から来た魔物。
今にも崩れ落ちそうな砦だが、幸いこの部屋の天井は失われてほぼ屋外。床も恐らくはこの大花の滴る唾液に失われてしまったのだろう――土の地面と山林の根が露出して、戦うには却って不利が無さそうだ。
古き砦を占拠した、過去からの刺客。この世界の民の害となる前に――猟兵達は再びその手に武器を握ると、脅威との最後の戦いへ駆け出した。
有栖川・夏介
花粉が厄介ですし、花粉嚢のある蔦をどうにかしたいところです。
切断に特化した「処刑人の剣」を装備して戦います。
蔦を切断するために、まずは敵の動きを観察します。
不用意に蔦を切断してしまっては、花粉が飛び散る可能性があるかもしれません。
【見切り】で蔦の動きを読み、懐に潜り込んで切断。
切断と同時に【怪力】で誰もいない方向へ投げ飛ばします。
もしも失敗したときは、花粉を吸いこんでしまわないように【絶望の福音】で回避。体勢を整えなおして再度挑戦。
植物にも心があるのでしょうか。
……とはいえ相手は敵。そんなことを考えたところで無意味ですね。
ただ倒すだけなのだから。
「……散り、枯れろ」
容赦なく剣を振るう。
マレーク・グランシャール
美しい女は大輪の花に例えられるが妖花ならば討たねばなるまい
一人歯痒さを噛みしめながら吉報を待つエリーカの紅い花のグリモアが哀しみに萎まぬように
敵の噛み付き攻撃は強力で蔦を伸ばしてもくるが、さほど射程距離は広くないようだ
ならば【碧血竜槍】を大きく開いた敵の口の中めがけて投げて【流星蒼槍】を成就
双頭竜の高威力の追撃で一気に片を付けてやる
一撃必殺を決めるには狙いを定めてUCの初撃を命中させる必要があるため猟兵仲間と連携
また一撃を食らわせたからと言って油断せず、すかさずもう一度槍で攻撃するくらい周到に構えよう
花ならば散れ
骸の海へ還れ
この地は野辺に咲く花のもの
今は蕾の花のため討たせて貰うぞ
「美しい女は、大輪の花に例えられるが」
低く深い声音に静かなる闘志を秘めて、マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)は正面から大花に向き合う。
「シュルルル……シュアア!!!」
ずるりずるりと根を波打たせて忙しなく蠢く大花は、向かう影を敵と知って威嚇する様に声を上げた。するとマレークの傍らに飛翔し追随する小竜も、大花へ威嚇を返す様にきしゃりと一声荒く吼え――やがてその体が瞬く間に碧眼から広がった光に包まれると、形を変え、今日二度目のマレークの愛槍『碧血竜槍』として顕現する。
「――妖花ならば討たねばなるまい」
優美な長槍を掴み取り、放ったずしりと重いマレークの声には、語らぬ思い――大花討滅の他にもう一つ、心に誓った願いを乗せた。
(「一人歯痒さを噛みしめながら吉報を待つ、……彼女の紅い花のグリモアが、哀しみに萎まぬように」)
――願うならば、掴む様にと。紫紺の瞳に鋭さを帯びてマレークが大花から迫る蔦を槍で払うと、古血こびり付く暗器で同様に蔦を叩く有栖川・夏介(寡黙な青年アリス・f06470)も、淡々と、感情希薄な声を落とした。
「花粉が厄介ですし、花粉嚢のある蔦をどうにかしたいところです」
滴る鮮血の様な強い赤を宿す瞳は、冷静に目の前の花、そして蔦の軌道を追う。
目障りとばかりに不快帯びた奇声を上げ、手あたり次第に猟兵達へ振るわれる蔦は全部で八本。花粉嚢の重みを生かしてか、蔦先に近い部位程その動きは高速だ。
――だが真に警戒すべきは、地に落ちる度に零れ落ちる幻惑の花粉。
「不用意に蔦を切断してしまっては、花粉が飛び散る可能性があるかもしれません」
「……では?」
「――蔦の根本を。動きが速い蔦先と花粉嚢を躱して懐へ潜り込めれば、或いは」
問うマレークに応えながら、夏介はその手に切っ先無き奇妙な剣の柄を握った。
『処刑人の剣』――切断に特化し、突くという手段を捨てた使い手を選ぶ技巧剣。
「潜り込みます。……惹き付けをお願いしても?」
「……いいだろう」
敵が言葉を解すかは解らないが、その声は互いに低く、他には響かぬ静けさで交わされ――一瞬の間の後に、二人の男は役目果たすべく散開する。
「魔性の花、世界はお前を求めていない」
姿を消した夏介に対して、マレークはやはり大花の真正面、他の何より誰より大花の目に付く場所へと立った。もっとも、眼が在るかなど知れないが――それでも挑発的に言葉を放てば、大花はその敵意に気付き再びマレークへの威嚇を開始する。
剥き出される鋭き牙から、酸の唾液が飛び散っている。
(「あの酸もある、噛み付き攻撃は強力だろうが……蔦と比べ、射程は広くないようだ」)
ならば、噛み付き攻撃が届かぬこの位置から――判断してマレークが愛槍投擲の構えを取ると、魔力帯びた槍は碧色の光を帯びた。
ユーベルコード――『流星蒼槍(メテオ・ストライカー)』。
「ッシャァアアアア!!」
しかし、直ぐには放たない。あからさまなマレークの魔力増大に、大花は酸を散らして吼えると、八本ある蔦の内、二本をマレーク目掛けて伸ばして――。
「……散り、枯れろ」
瞬間、一閃。
スパン! と小気味よい音が響いて、伸びかけた二本の蔦が大花から切り離された。
――夏介だ。身を潜ませて好機を計り、動きを見切って身を躍らせる様に大花の足元へと滑り込んだ夏介は、切り離した蔦二本を掴むと、そのまま仲間の居ない方へと投げ捨てる。
花粉が仲間へ散らぬ様にとの措置。しかしその一瞬の間が、夏介へ大きな隙を生んだ――。
「キシャアァアアアアッ
!!!!」
怒り帯びる荒い声と共に、大花の残る六本の蔦が一斉に夏彦へ迫った。ドドド、と音立て殺到する。殺到して、蔦先から花粉が飛び散って――しかし、その圧倒的な質量と勢いの暴力は、黒土を叩くばかり。
(「……植物にも心があるのでしょうか」)
猛攻から逃れて、夏介は既にマレークの後方にまで下がっていたのだ。額から幾分流れる鮮血が、同じ色の瞳に流れかかって夏介はぐい、と瞼を拭った。
拭って開かれた真紅の瞳が、淡く魔力に輝いていた。未来予測でもしたかの様に対象の攻撃を予測するその力は――ユーベルコード『絶望の福音』。
敵の速度に幾分負傷はしたものの、傷はその額一筋だけだ。蔦は数を減らして六本。敵の攻撃手段を一部奪って、まだまだ充分に戦える。
「……相手は敵。そんなことを考えたところで無意味ですね。ただ倒すだけなのだから」
ヒヤリと背筋も凍り付きそうな冷たさで呟く夏彦の視線の先には――マレーク。
夏彦の強襲に気を取られたのだろう、今一時、大花の意識はマレークから外れていた。今こそ好機と、魔力を練り上げた愛槍を、マレークは遂に解き放つ。
「――花ならば散れ。骸の海へ還れ」
碧色の長き魔槍は、大花の奇声に開け放たれた口へ向けて真っ直ぐに投擲され、流星の様に輝き帯びて空を駆けた――。
「シャァアァアアア
!!!!」
しかし――バキン!! その輝く槍の一撃は大花の牙に噛み遮られた。
大花はマレークを見ていなかったのだ、これは完全に運によるものであったろう――噛み挟んで初めて気づいたという様子の大花はしゅるりと口元へ蔦を伸ばすと、それが攻撃だったと理解してか、槍を地覆う山林の根へ投げ捨てた。
だが、槍は根でなくマレークの元へ真っ直ぐと飛び帰る。空翔けるその長き柄を掴み取り、マレークは鋭き紫紺の瞳で大花を見つめた。
手応えに察する。油断など皆無であったけれど、それでも――やはり、攻略は簡単では無い。
「この地は野辺に咲く花のもの……今は蕾の花のため討たせて貰うぞ」
しかし呟く声音は開戦時と変わらず低く深く、決意を帯びて大花へと放たれた。
苦戦
🔵🔵🔴🔴🔴🔴
ショコラッタ・ハロー
きったねー花だな
まさかあいつの唾液でお宝も溶けちまったとか?
確かめる術はねえが、八つ当たりさせて貰うぞ
突撃は避け、蔦攻撃や食らいつき攻撃をよく観察
動きの速度や手数をある程度把握してから回り込むように接近する
蔦はダガーで振り払うor地面を転がって直撃を避けるぜ
鼻から下を布で覆って花粉対策
おれか仲間が幻覚を見て同士討ちの恐れがあれば、
体をひっぱって一度下がり、体勢を整える
本体まで到達したら"盗賊姫の宝石箱"から大鎌を取り出す
やることは一つ、雑草を刈り取るだけだ
噛み付かれないよう常に本体の周りを移動しつつ、根や蔦や茎を刈っていく
ここまで来たら、どっちが先にくたばるかの力勝負だ
枯れ果てろ、バケモンめ
シェーラリト・ローズ
「うへぁ…こういうお花はやだねぇ」
気を取り直して、たおそー
でかい・リーチありそう・花粉…面倒多い花だなぁ
「まー当てること優先で」
【セイクリッド・ランス】を【2回攻撃】するよー
手抜きはしないから全力込めて!
目的はマヒ付与ー
完全に動けなくなるってことはないだろうけど動きが鈍くなればいいなって
撃ったらすぐ撃った場所の反対側へ走るよー
だって反撃されたくないしー
でも、あれだけ大きいと1回2回当てても効かないかもなので何度か撃つことになりそー
この辺りは皆とれんけーして外さないよーにしたいねー
攻撃は落ち着いて動きをしっかり見たり、動作音聞いて回避できるよーにしたいねー
あと、風向きに注意しとこーこわいもん
「シャァアア!!」
猟兵達を言葉無き声で威嚇する醜悪なる大花。だらりとだらしなく牙から零れる酸の唾液に、淡きピンクのバラを髪に戴くシェーラリト・ローズ(ほんわりマイペースガール・f05381)は眉根を寄せる。
「うへぁ……こういうお花はやだねぇ」
「きったねー花だな。……まさかあいつの唾液でお宝も溶けちまったとか?」
応えたショコラッタ・ハロー(盗賊姫・f02208)も不快げに顔を顰めるが、その興味は外見の醜悪さよりも、もしかしたらこの砦にあったかもしれない宝の行方へ向けられていた。酸の唾液に溶け切った床面を見れば、至った想像には人形の様な繊細な顔立ちも更に険しさを増して大花を睨む。
「確かめる術はねえが、八つ当たりさせて貰うぞ」
「うん。気を取り直して、たおそー」
身を低く両手に短剣を構えたショコラッタの言葉に、シェーラリトも頷いた。年齢よりも歳幼く見える愛らしき薔薇の少女の手の甲には、風と花模す紋を描いた聖痕『メモリア』が、魔力を帯びて煌き出す。
(「でかい・リーチありそう・花粉……面倒多い花だなぁ」)
大きな金瞳で具に大花を観察しながら、シェーラリトの手の甲にはどんどんと魔力が集約されていく。伴い眩さを増していく翼の少女の魔光を見遣り、ショコラッタも勝気に笑むと、鼻から下を持参した布で覆い隠した。
花粉対策。ショコラッタはこれからあの魔物に接近し――狙うは、先に蔦を両断した仲間同様に蔦の根本。
「やることは一つ、雑草を刈り取るだけだ」
――呟く瞬間、肩からぱらりと落ちた金糸の様な髪が、大地蹴る勢いに跳ねた。
駆ける足で、向かうは回り込み大花の背後。未だ六本ある蔦の、さて何本を刈り取れるか――軽やかな駆け足の中、思えばショコラッタはニィ、と歯を見せ不敵に笑んだ。
そして、そんなショコラッタの攻勢を後押しするのがシェーラリトの存在だ。ショコラッタの意図、その心を知ってか知らずかマイペースな花の少女は、花色の魔力が明滅する手の甲を掲げ、その指先をす、と真っ直ぐに大花へ向ける。
「まー当てること優先で」
幾分間延びした声で呟いて、しかしシェーラリトの魔力に手抜きは無い。全力で、と小さく呟いた瞬間に、指先から放たれし光の線が大花目掛けて真っ直ぐ奔った。
「太陽、月、星……生者の味方の光よ、滅びの運命を貫き、砕き───彼らに安息を与えたまえ!」
魔力持つ声が導く光の線の正体は、輝ける槍――ユーベルコード『セイクリッド・ランス』。目にも留まらぬ速度で駆ける光の槍は左右に蠢く大花の動きに速さで勝り、ドスン! と鈍い音を立てて棘の体へ突き刺さった。
「シュルァアアア!?」
躱すつもりが貫かれ、大花が上げたのは恐らく困惑、そして怒りの混じった声だ。しかし牙持つ花を槍の飛来した方へ向けても、そこに既に人影はない。
(「同じ場所にはいられないよ、だって反撃されたくないしー」)
注目を避ける様に駆けるシェーラリトの進路は、察してか無意識なのか、ショコラッタとは逆方向。移動の間にも手の甲の魔光は再び花色宿して煌き、二度目、三度目の光槍放つ魔力を手繰る。
(「何度か撃つことになりそー。少しでも動きが鈍くなればいいけどなー」)
思うシェーラリトは、密かに光槍へと痺れの力を込めていた。それが極々微細に大花の動きを鈍らせていたことは、きっと猟兵達の目も、大花自身も気付かない程の小さな変化。
しかし、終始観察に目を光らせていたショコラッタには見えていた。
「――はは、足元がお留守だぜ。そんなに痛かったのか? ざまあみろ」
光の槍に気を取られていた隙。貫く一閃が齎した僅かな痺れに動きが微かに鈍った隙。そして反撃に転じようとしてシェーラリトを見失った一瞬の動揺――大花に生じた全ての隙を利用して、大花の背後、足元へとショコラッタが立っていた。握っていたダガーは今両手に無い。代わりに――空間に輝く四角い光に手を差し入れ、引き出すは幻影の武器。。
ユーベルコード『盗賊姫の宝石箱(クレプトミラージュ)』――標的に適した幻影武器を齎す力は今、植物刈るには最適な大鎌をショコラッタの手に誘った。
「こいつでおまえの命を盗ってやる。――枯れ果てろ、バケモンめ」
ひらりと頭上から刃の重みで足元へ翻した弧描く一閃が、大花の蔦の根本を断ち切った。先ず一本。次いで二本目――そう思った時背後から迫る異なる蔦の気配を察すれば、ショコラッタは地面を転がり、その一撃を回避する。
「――ち、一本かよ」
好機に得た戦果には、自分に厳しく舌打ちをして。しかしショコラッタはまだ退かない。
ここまで来たら、どちらが先に倒れるかの力勝負――負けぬと誓う強い心を笑みに乗せ、ショコラッタは大花の足元、二度三度と大鎌を振るう。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と
そっか、この床はそういうことか……
もっと早く来ることができていたら、
砦への被害を多少は抑えられたのかな
……いずれ朽ちちゃうのはわかってるけど、
少しでも長く在ってほしくてね
いこう、ヨハン!
あの蔦に気を付けた方が良さそう
ちょっと嫌な予感がするの
UCで[防御力]を借りておこう
自分への攻撃は【見切り】
ヨハンへの攻撃は【武器受け】で凌ぐけど
舞い散る花粉を武器受けとは流石にいかないだろうし
私自身を盾にして彼を守るよ
大丈夫
今の私はけっこう打たれ強いんだから!と
心配かけないように笑ってみせて
護りに徹するから、ヨハンは攻撃に専念して!
花粉で埋め尽くされたって、
君の闇で覆い尽くしてあげてよ
ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と
……朽ちる未来は変えられませんが、
これから及ぶかもしれない被害は抑えられますよ
せめて静かに眠れるよう、
醜悪な大花には消えていただきましょう
行きますか
互いに油断のなきよう
正直、護られるのはあまり好きではないんですよ
身を挺してまで庇われるのは心配が勝る
――ですけど、
この場合は攻撃する方が彼女を護ることになるか
焔喚紅より、黒炎を爆ぜさせる
花粉ごと焼ききるように、怨嗟を絡め
地を動こうと、視てやろう
蠢く混沌で影からの黒闇を放つ
縫い留め、闇で覆いつくしてやろう
長くは続けられない
振り解けようと、弱らせられれば上々だ
(「そっか、この床はそういうことか……」)
狂った様に足元叩く騒がしき大花を前にして、オルハ・オランシュ(アトリア・f00497)の新緑の双眸はしかし、自らが立つ砦の朽ちた柄を見つめる。
「……オルハさん?」
春色の大きな耳が幾分下がり、悲しみが見えたその背中に並んで――ヨハン・グレイン(闇揺・f05367)はそっと少女へ声を掛けた。僅かに屈んでその顔を覗き込めば、悲しげな視線を返すオルハの顔には苦い笑み。
「もっと早く来ることができていたら、砦への被害を多少は抑えられたのかなって。……いずれ朽ちちゃうのはわかってるけど、少しでも長く在ってほしくてね」
大花の、酸の唾液が溶かした木床。オブリビオンが関わったことで、砦の寿命は確実に縮まったことだろう――思えばオルハは悲しかった。古の人の生きた証が、こんな風に失われてしまうなんて。
……だけど、それでも。眼鏡の奥、深藍の瞳で真っ直ぐとオルハを見つめてヨハンは告げる。
「……朽ちる未来は変えられませんが、これから及ぶかもしれない被害は抑えられますよ」
平時は愛想に欠けるヨハンだが、しかし今オルハへ向けるその声音は優しかった。新緑の瞳が少年の温もりに触れて瞬くと、ヨハンはその視線を外し、今度は大花を真っ直ぐ見遣る。
「せめて静かに眠れるよう、醜悪な大花には消えていただきましょう」
次いで大花へ向けられた言葉からは、優しさが姿を消していた。しかしその強い声に背を押されて――下がっていた耳をピンと立ててこくり、頷き上げたオルハの顔には悲しさが消え、強気の笑みが浮かんでいた。
「……うん。いこう、ヨハン!」
「行きますか。互いに油断のなきよう」
共に征くその言葉に、互いへの信を預け合い。その場で魔力を練るヨハンから離れて駆け出す最中、オルハは手中の愛槍を取り回しながら、警戒を口にする。
「あの蔦に気を付けた方が良さそう。……ちょっと嫌な予感がするの」
だから、暴れまわる大花の影にざくりと槍を突き刺して、オルハは力を解放する。
『スカー・クレヴォ』――魔力注ぎし愛槍で、大花の影から奪う力は防御、即ち護る力。
――しかし。
「シュルルァアアアッ!!!」
「……わっ、――っ!!」
流石に、敵も黙って奪われるわけでは無い――花の中央に開かれし大口から、牙がばくりとオルハへ迫った。
影に突き刺した槍を盾に、何とか体抉られるを遮るも――槍掴んでいた両の手だけは牙に傷付き、舞った己が鮮血にオルハは思わず顔を顰める。
「オルハさん!」
「――大丈夫!!」
それでも、ヨハンの声には心配かけまいと笑ってみせた。
「今の私はけっこう打たれ強いんだから! 護りに徹するから、ヨハンは攻撃に専念して!」
言いながら、地には手から槍を伝って血が滴り落ちていく。痛みには槍握る力が弱まりそうにもなるけれど、それでも護ると決めたオルハは笑みを湛えて影から槍を引き抜いた。
力入れる度に、傷から鮮血がどぷりと溢れる。それでも構わなかった。だって今、大花は次なる一手とばかり、花粉噴き出す蔦を高く掲げて振り下ろそうとしているから。
(「花粉は流石に槍で受けるとはいかないだろうし……私自身で
……!」)
これほどまでにオルハが攻めを捨て、盾に、護りに徹しようと思えるのは――信じているから。
ヨハンの強さを。ヨハンを護り切れたなら、きっとこの戦いに勝てると。
「……正直、護られるのはあまり好きではないんですよ。身を挺してまで庇われるのは心配が勝る」
――溜息でも混じっていそうな幾分困った声色で、オルハは自分のやや後方から響くヨハンの言葉を大きな耳に掬い上げた。
俯くヨハンの周囲には今、ごう、と熱量が渦巻いている。ゴブリンとの戦いの時とは異なり、今その手に魔力を帯びて輝く石は揺らめく炎の紅石――闇の石と隣り合わせに、煌々と眩き灼熱色の光が銀環の上に瞬いた。
「――ですけど、この場合は攻撃する方が彼女を護ることになるか」
呟き、ゆらりとその面を上げた時――眼鏡の奥、ヨハンの見開かれた藍の瞳に怨嗟の黒き炎が爆ぜた。
友へと迫る醜悪なる花の振るいし凶暴なる蔦へと、黒炎が解き放たれる。引火した蔦の一本と漂う花粉を焼き切って、或いは生じた気流で届かぬ様にと花粉を空へ高く押し上げ、怨嗟纏う呪いの炎は蹂躙せんと大花の周囲を取り巻いた。
「シッ、シャァアアッ!!」
流石に植物。炎にまかれ幾分動きに精彩を欠く様子を見せた大花への、ヨハンの攻めはしかしこれで終わりでは無い。
「何だ、遠慮するな。地を動こうと、視てやろう。――沈め」
言葉放てば、見開かれたままの藍の瞳が忽ち闇色の魔力に覆われる。真っ直ぐと、鋭くも呪わしきその視線が大花をじっと追い掛ければ――やがて突如大花の影から暗き闇がずるりと空へ背を伸ばし、棘持つ大花の体を絡め取る。
黒闇が覆いしその力は――ユーベルコード『蠢く混沌(ケイオティック・ダークネス)』。
「縫い留め、闇で覆いつくしてやろう。……振り解けようと、弱らせられれば上々だ」
「シャァアアアアッ
……!!」
長くは維持出来ない能力だ。それでも、囚われ力奪われ自由利かぬ己が体に、大火は苦悶の声を漏らす。
残る蔦はあと四本。大花を打ち崩す決定打は未だ無いものの――戦況は、次第に猟兵達へ形勢傾きつつあった。
苦戦
🔵🔵🔴🔴🔴🔴
仁科・恭介
※アドリブ、連携歓迎
しばし花の動きを観察後、【携帯食料】を食み脳細胞を含めて活性化。
【学習力】で対策を検討。蟻は他の猟兵に被害がでるから却下
「近接武器しかないし、シンプルに行くか。花粉嚢を狙う」
【失せ物探し】【追跡】で花粉嚢にインフォーカス。
行って、斬って、帰る。
「私ならできる。私ならできる」
息を止めて走れる時間をシミュレートし大きく息を吸い込む。
花粉を吸い込まないようにマフラーを鼻まで引き上げる。
真剣に蔦攻撃を見極め、UCを両足に乗せて【ダッシュ】し斬る。
一回では無理なら複数回挑む。
その際は花粉が届かない範囲に移動し、猟兵に注意しながら花粉を払い大きく息をする。
「しんどいね。しんどいけど!」
誘名・櫻宵
✲連携や絡み歓迎
美しい花には刺があると言うけれど
これは醜すぎて刺だらけね
見るに耐えないわ
さっさと伐採しちゃいましょ!
花の首を落とすのも、また一興よね
花粉は浴びたくないけれど
刀に宿らせるのは呪詛
動きが速いならば、広範囲に斬撃を走らせてなぎ払い
傷ができたら抉るように2回攻撃
その部位を断ち切るわ
やぁね、もう
この液体も花粉も穢らわしいわ!
触りたくないのよ
見切り躱して
風属性を纏わせた剣風…衝撃波でなるべく
吹き飛ばし
隙を狙われたなら残像も活かして咄嗟の一撃を
懐に飛び込めたら、絶華を放つ
散り際くらい
桜のように美しく散りなさい!
美しい湖の音が聴こえる
愛しの人魚が喜んで泳ぎたがりそうな綺麗な湖……守らなきゃ、ね
「美しい花には刺があると言うけれど、これは醜すぎて刺だらけね」
ぎしりと縛る闇に囚われもがく大花を花霞の瞳で見据えて、美しき男――誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)はふう、と一つ息を落とした。
「……見るに耐えないわ。さっさと伐採しちゃいましょ!」
醜悪さに辟易して櫻宵がこう声を上げれば、返事の代わりに隣からはガサガサと袋の中に何かを探る音がする。
仁科・恭介(観察する人・f14065)だ。持参した携帯食料を引っ張り出してガリ、と食むと、次第に活性化していく脳細胞で恭介は大花への対応を探っていた。
(「蟻、は他の猟兵に被害がでるから却下。……近接武器しかないし、シンプルに行くか」)
頷き即断、恭介の次第に赤く染まり行く瞳は今、未だ少々距離置く大花の蔦先、花粉嚢へと照準を定める。『共鳴(ハウリング・レスポンス)』――摂取した食料と対象に定めた相手のテンションに応じて内から強化を進める力は、この戦いで再三荒れ狂う動きを見せた花粉嚢から存分に力を引き出した。
「――花粉嚢を狙う」
断言した瞬間に、ふ、と美しき笑みで応じた櫻宵と二人、踏み出す一歩はとん、と軽やかにその体を前へと押し遣る。
「私ならできる。私ならできる」
行って、斬って、帰るだけ。花粉嚢、即ち大花の蔦へと狙いを定める恭介は、呪文の様に呟いて、花粉吸わぬ様ぐい、とマフラーを鼻を覆うまで引き上げた。
舞う花粉を吸わない為の一番単純な解決方法は、呼吸をしなければいいだけだ。呼吸静止の己が限界時間を鑑みて、大きく息を吸い込んだ恭介は――細胞活性に勢いを増す駆ける足を存分に回転させ、びゅっと音立て振るわれた蔦先の大きな膨らみを、連れ違い様愛刀で真っ二つに両断した。
ぱぁん! 弾けた嚢の中から、ぶわっと黄色い花粉が舞う。幻惑の花粉だ、放置すれば極めて面倒なことになる――一瞬猟兵達の中に走った緊張は、しかし即座に払われた。
未だ周辺に名残と揺れる魔力の黒炎が、その一部へと引火したのだ。穏やかに空中で延焼進むそれを横目に恭介は急ぎ大花から離れると、ぷはっとマフラーから鼻口を出し、清浄な空気を目いっぱい肺に取り込んだ。
「はあっ……――しんどいね。しんどいけど!」
荒く肩で息をしながら、しかし確かな手応え感じて恭介がそう声を上げると、その紅へ変わり行く瞳の中に、舞う様に淡墨の髪を背へと靡かせ駆ける美しき男の姿が映った。
駆ける櫻宵の、握る刀は刀身紅き血桜の太刀だ。幻惑花粉放つ嚢を恭介の両断に失った蔦をその刀の鎬に滑らせ払うと、櫻宵が今狙うは大花、その素首ただ一つ。。
「……花の首を落とすのも、また一興よね。――その液体も花粉にも触りたくないの!」
近付くほどに、牙持つ醜悪な口から落ちる酸の唾液が穢らわしい。人を惑わし命を狩らんとする花粉も。その滅びを心から望めば、櫻宵が振るう真紅の刃は呪詛を宿して更に紅く色を変える。
その色彩、どこか華やぎは残しながらも、まるで鮮血に似て――。
「……桜のように美しく散りなさい!」
懐へ至った瞬間に、一閃。真紅の斬線描いた超高速の技の名は――『絶華(ヨミジマイリ)』。
「……シュラァアアアア!!!」
花首を狙ったその一閃は、上下左右忙しない大花の動きに阻まれ首ではなく牙の一部を刈るに留まる。しかし至近僅か30㎝から放たれるその技はまさしく絶技だ。牙に神経でも通っていたか、大花は甲高い悲鳴を上げて、黒闇の高速溶けた棘の体をうねうねとうねらせ悶えた。
返す刃で嚢失った蔦の根を斬り、しかし口から飛び散る酸に櫻宵は一度後退して大花を再び花霞の瞳で見据える。
蔦はこれで残り三本。喰らいつく牙の脅威も、一部が欠けて噛み合わなくなりいよいよ大花の戦闘力は削がれてきている。
思えば――再びマフラーの中に呼吸を閉ざして大花へ駆け出す恭介を視界に捉えながら、櫻宵はゆるりと不敵に口角を上げた。
「愛しの人魚が喜んで泳ぎたがりそうな綺麗な湖……守らなきゃ、ね」
美しき水音が遠くに聞こえるのを感じながら、櫻宵もまた、恭介を追って再び駆けた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アウレリア・ウィスタリア
天井が失われているのは幸いでした
ここでもボクは空を舞うことができます
白黒の翼を羽ばたかせ大花を飛び越え
この世界の綺麗な空に舞い上がりましょう
空から距離をとって【今は届かぬ希望の光】で攻撃しましょう
蔦や花粉には注意が必要ですけど
空からなら相手の動く様子も観察しやすい
ボクや他の猟兵を狙う攻撃を光剣で牽制し
その際できた隙にその花の中心に残りの剣を突き立てましょう
素敵な自然が溢れるこの世界に
お前のような危険な花は必要ありません
この世界の人々へ害を与える前に滅されてしまいなさい
アドリブ歓迎
蒼城・飛鳥
おおお?湖か!
思いもかけないごほうびが待ってそうじゃねーか
ツンデレ美少女をデートに誘うチャンス!俄然やる気が湧いて来たぜ!
…なんてな
浮かれて怪我でもすりゃ格好悪い事この上ねー
…きっと気にするタイプだろうしな
仕事はきっちりやるぜ!
ゴブリン共は倒し切ったんだ
もう炎を使うのに遠慮はいらねーよな?
駆け巡れ、不死鳥ッ!
あの醜悪を焼き尽くせッ!!
勿論、燃やすのは敵とその花粉だけだ!
ここの景色にお前の姿は不釣り合いだぜ!
(喰らいつかれそうになったら)
おいおい、俺の前でそんな大口開けて良いのか?
そんなに喰いたきゃ存分に喰らいな…俺の炎をなッ!!(怯まず自分から踏み込んで口の中に腕を突き出し全力の炎を放つ)
「湖か……思いもかけないごほうびが待ってそうじゃねーか!」
遠くの水音に思い馳せる猟兵は此処にも。蒼穹に等しい色の瞳で大花を真っ直ぐと見据え、蒼城・飛鳥(片翼の鳥は空を飛べるか・f01955)は握った手に魔力を手繰る。
「俄然やる気が湧いて来たぜ! ツンデレ美少女をデートに誘うチャンス!」
両手に力満ちるに伴い語られる言葉は明るく響くも――しかし飛鳥の脳裏には、剣の柄に乗せた手を震わせていた、見送る少女の姿が在った。
(「……なんてな。浮かれて怪我でもすりゃ格好悪い事この上ねー……きっと気にするタイプだろうしな」)
彼女が一体どんな娘であるのかを、飛鳥は未だ印象でしか知らない。でもその印象だけで心痛めていたと知れるから――調子良く見せかけても、飛鳥に今油断は無かった。
ただただこの後、きっと好い報告が出来ると信じている。飛鳥の体内、抱いた闘志が魔力へと変換されれば、手に集まったその熱量はやがて蒼き炎と化した。
「――仕事はきっちりやるぜ! ゴブリン共は倒し切ったんだ、もう炎を使うのに遠慮はいらねーよな?!」
ごう、と音立て飛鳥の手の中膨れ上がっていく灼熱は、次第に飛鳥の肩へと止まる一羽の巨鳥へそのかたちを変えていく。その美しさを――鳥の様に背に負う黒白の翼羽ばたかせ、アウレリア・ウィスタリア(瑠璃蝶々・f00068)は今、上空から俯瞰していた。
(「天井が失われているのは幸いでした。ここでもボクは空を舞うことができます」)
美しき、アックス&ウィザーズの空――山林に頭上覆われても光が差して明るい中へと舞い上がるアウレリアは、飛鳥の蒼き炎の鳥を黒猫の仮面の下、琥珀の瞳に穏やかに映す。
何かを守らんと生み出されるその炎は美しくて、きっとこの空にも映えるだろう――思えば手に握る魔銃『ヴィスカム』、その銃口は自然と大花の蔦の根本へ向かった。
空から見下ろす醜悪なる花の魔物は、今ひたすらに気が散っていることが窺える。無数の猟兵に付かず離れず攻められて――空舞うアウレリアの姿になど、全く気付いていないのだろう。
(「あまり、知性は感じられません……ならば、この策は間違ってはいないはず」)
そっと琥珀の瞳を閉ざし、アウレリアは魔銃へと魔力を注いだ。
すると、銃ではなくアウレリアの周囲に、集いし魔力は七つの光剣を生み出した――。
「……素敵な自然が溢れるこの世界に、お前のような危険な花は必要ありません。この世界の人々へ害を与える前に滅されてしまいなさい」
すぅと細く瞳を開いて宣言した瞬間に、僅かに時間差を作りながら、先ずは三本、光剣が大花目掛けて空を奔った。
ユーベルコ―ド『今は届かぬ希望の光(セブンソードバレット)』。まるで虹を描く様な虹色の色彩は、ドド、と音を立て二本、大花の行く手を遮る様に真上から大地へ突き刺さった。
醜悪なる花がぐるり、とその首を空へ持ち上げれば、高き場所にアウレリアを見付けたか、蔦を一本上空へ延ばす。無論、アウレリアが至る上空は届く距離では無かったが――恐らく花粉を飛ばすつもりだ。
「――なにものにも染まり、なにものにも染まらぬ七色の光。貫け、天空の光剣」
しかし蔦を伸ばした瞬間こそが、アウレリアの狙いに他ならなかった。呟いた瞬間に残る四本の光剣が、一斉に大花の元へと射出される。
その全て、向かう先は大花の中心、醜悪なる牙覗く口。しかし一本、それらとは異なる軌道を行く、先に射出された光剣が在った。
大花の背後から――伸びたことで狙い易くなった蔦の根本へ突き刺さると、ぶちり、とそのまま貫通して、蔦を体から切り離す。
「シュルルァアアア!?」
その突然の衝撃は全く予期しなかったのだろう、動揺した様にがばりと口開け身を仰け反らせた魔物の中心へと、まるでダーツでも投げ落としたかの様に、上空から四本の剣が突き立った。
「ジュラァアアアアア
!!!!」
それまでに無い、人ならば声を枯らす様な絶叫。大きく口開け叫ぶ姿、そこに好機を見出せば、飛鳥の肩から遂に炎鳥は空へ羽ばたく。
「――おいおい、俺の前でそんな大口開けて良いのか?」
舞い上がった蒼い灼熱を腕へと纏い、踏み込んだ一歩で飛鳥は高く跳躍した。そのまま――ガボン! 酸の唾液にも鋭き牙にも怯まず突き出した腕を魔物の口内へ叩きこめば、その内部を、酸の唾液すら蒸発させる脅威の熱量が一気に焼いた。
「ジャアアアアアアアアッ
!!!!!!!」
「そんなに喰いたきゃ存分に喰らいな……俺の炎をなッ!!」
内から焼かれる痛みと苦しみに、大花はガシガシと牙を動かし、飛鳥の腕を傷付ける。痛みに顔を顰めながら何とか腕を引き抜いた飛鳥は――しかしやがて強気に笑むと、血と炎とが共存する腕を前へ突き出し、大花へこう宣言する。
「――ここの景色に、お前の姿は不釣り合いだぜ!」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
セリオス・アリス
アドリブ歓迎
外套で口元を覆い
【望みを叶える呪い歌】を歌う
『ダッシュ』で駆け炎の『属性』を剣に纏わせ熱で焼ききる
下が地面なお陰で燃える心配はねえだろ、たぶん
敵の攻撃は『見切りカウンター』で『2回』斬りつけ切断狙い
時々敵の蔦すら足場に跳んで
ああけど、もっと近寄らねえと埒があかねえな
あえて左腕で受け
ぐっ…
…傷、治してから帰んねぇとどやされるかもな…
例えどう幻覚を見せようと
繋がってるっつーことは本体はこの先だ
蔦を頼りに
半ば引き寄せるようにして辿り
めんどくせえ根と花が分断されるようにと幹の部分に『全力』の斬撃による『衝撃波』を連続で叩き込む!!
壥・灰色
壊鍵、起動
炎殺式、多重起動
撃炎、装填
『炎殺式』とは、壊鍵の余剰領域に書いた火焔炸裂の術式
それを従来の衝撃と合わせて多重起動し、四肢に装填する
蒼白い炎を纏う両腕を打ち合わせ、真っ向、巨大な花を睨む
焼き砕いてやる
足下で炸裂するは、常と異なる爆炎
爆裂歩法に爆炎が伴い、周囲に舞い散る花粉を焼く
空中で炸裂
炸裂、炸裂、炸裂
破裂音を連続で響かせ、衝撃と爆炎で宙を薙ぎながら跳ぶ
魔力を漲らせた両腕を引き、宙を『駆け下り』、接敵
爆炎によるラッシュ、加速で使った五十発を除くなら……きっかり百発
燃え尽きるまで叩き込んで、お前を骸の海に叩き帰してやる
魔剣六番器の破壊力、骨の髄まで刻み込んで消えていけ!
斬断・彩萌
せめて可愛いお花なら摘んで押し花にでもしたのにね。
その大きな口に強烈なのをぶちこんであげるわ!
【POW】
位置取りは常に風上を。別に花粉症じゃないけど、あんなヤバそうな粉に当たりたくないし。
動き回って相手を霍乱、一定の場所には留まらない・遠距離を保つ。
Devastatorを敵の口目掛けて乱射。ふふ、弾丸の味はどうかしら?
敵が背を向けたり、他者に気を取られたら接近。渾身の『殺界壱式』をお見舞いする!
追われている味方がいたら拳銃に持ち替えて、万が一にも仲間に当たらないように気をつけて撃つわ。
※アドリブ・絡み歓迎
「ジャアァアアアアア
………!!!」
叫ぶ魔物の声はがらりと嗄れ、哀しく山塞の中へと響き渡る。
「せめて可愛いお花なら、摘んで押し花にでもしたのにね」
その声すら耳に煩い醜き大花の風上に、斬断・彩萌(殺界パラディーゾ・f03307)は立っていた。その手にアサルトライフルを握り、眼鏡の奥の蜂蜜色の明るい瞳は今は鋭く影を帯びる。
風上を選んだのは、花粉を極力避けるためだ。
(「別に花粉症じゃないけど、あんなヤバそうな粉に当たりたくないし」)
ガシャン! と弾倉を銃に装填、彩萌は愛銃『Devastator』を構える。敵の射程外、かつ自分の射程内という距離を維持する今の彩萌は、銃の前後二つの照準を大花の大口へと重ねて笑んだ。
「――その大きな口に強烈なのをぶちこんであげるわ!」
叫ぶと同時、遂に引かれたトリガーに銃は激しく連射音を打ち鳴らした。
銃口からは、幾重にも火花が瞬く――間断なく軽快なその破裂音を耳にして、夜の星海の様な濡羽色の髪を風に流すセリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)はふ、と小さく笑みを浮かべる。
――まるで、戦いに歌う様と、思えば自然とセリオスの喉から溢れ出る歌声は伸びやかに、蠱惑的に、そして挑発的に辺りへ渡る。
「――歌声に応えろ、力を貸せ。俺の望みのままに」
その間にも乱射の弾丸の蹂躙を受け幻惑の魔物が悲鳴を上げるけれど――セリオスは場に在る全ての意識を此方に寄越せとばかりに傲慢に、高めた歌声で根源魔力を己が奥底から引き出した。
ユーベルコード『望みを叶える呪い歌(アズ・アイ・ウィッシュ)』。星海宿す青の瞳が、根源の闇を轟かせ笑む。
「……行くぜ!!!」
ぐい、と引いた外套で口元を覆い、セリオスは大花目指して駆け出した。脚に宿る古の魔力が足底に爆ぜ、地を蹴る度に前進の速度は増していく。
(「蔦は……あと二本か」)
幻惑の花粉を内包する花粉嚢――大花の自由で蠢く蔦は数を減らして残るは二本だ。依然警戒は必要だった。しかし、様子ばかり窺っていても戦いは終わらない。
「――殴ってりゃ大体の敵は死ぬんだよ!」
二、と美しい顔かたちが攻撃的な笑みに爆ぜた瞬間、セリオスの握る純白剣の剣身が、急速な熱上昇に紅く染まる。
「下が地面なお陰で、燃える心配はねえだろ
……!!」
彩萌の弾丸の嵐を掻い潜り――大花へ接近したセリオスが、残る蔦の片割れに、炎の属性纏いし剣を振り下ろす。瞬間ごう、と剣身から炎が上がれば、大花は警戒露わにそれを躱して、セリオス目掛けてもう一方の蔦先を鞭様に撓らせ落とした。
「――ぐっ……!」
ボン! 激しく籠る様な音を鳴らして、花粉嚢が咄嗟に差し出したセリオスの左腕に当たって爆ぜた。激しく打つ衝撃は脳を揺らす強烈な振動を齎し、くらりと一瞬感じた眩暈は、目の前に記憶の世界をセリオスに垣間見せる。
懐かしくも、儚く痛い――鈍色の記憶の世界。
「……ああ――もっと近寄らねえと埒があかねえな」
――俯いて呟く声は、いつものセリオスとは幾分異なる昏き低さを帯びていた。
しゅるりと左腕に巻き付く蔦を逆に左の手で掴み、セリオスは顔を上げる。左腕の外に頭にも傷を負ったか、額から顔へと鮮血の筋が幾つも滑るが――それを全く気に留めず、蔦握る手はぎり、と次第に音立て強まり、やがてぐい、と力強く大花を引き寄せた。
「幻覚とかめんっどくせえな! 繋がってんならてめーはもうすぐそこだろうが!!!」
その声は、大花へ向けてのものだったのか、或いは垣間見た幻惑に一瞬揺らいだ自分の心への叱咤だったのか――セリオスは再び熱宿す炎剣を、引き掴みし蔦の根本――より幹に近い所へ抉る様に深く突き立て、生じた炎で焼き切った。
「……ッッシャァアアアアアアアアアアアアア!!!」
みるみる内に蔦を辿って広がる炎が、大花の棘持つ体へも渡った。負傷にふらつく脚でその炎撒く大花を蹴って、敵射程を逃れたセリオスは、そこで漸く額の血を拭い、血に染まる手に苦笑する。
(「……傷、治してから帰んねぇとどやされるかもな……」)
出血が多いためか、セリオスは酷い消耗を自覚していた。どかっと地面に倒れる様に座り込む。まだ戦いは終わっていないが――勝気な笑みを浮かべ前向くセリオスは、もう動く気は無かった。
勝利を、確信していた――視線の先に、頼もしき仲間の背中が大花を見据えて立っていたからだ。
「――壊鍵、起動」
壥・灰色(ゴーストノート・f00067)。瞳閉ざし、色の無い声で淡々と呟かれた起動言語に灰色の全身を巡る魔術回路は活性化、膨大な魔力が駆け抜けるが――連ねる魔術を導く声は、更に回路の奥深くから新たな術式を呼び起こす。
「炎殺式、多重起動。――撃炎、装填」
灰色の四肢が、突如苛烈なまでの熱を帯びた。
引き出されし力の根源――それは応力と撃力を操る魔術回路・壊鍵の余剰領域に搭載された火焔炸裂の術式だ。
『壊鍵『炎殺式』(ギガース・フラムヴェルク)』――四肢に渡った熱き魔力はやがて外界へ表出し、青白き炎を生み出す。
炎纏いし両腕を、準備は整ったとばかり――灰色は強く打ち合わせた。
「……焼き砕いてやる」
声と同時、褪め色の強く鋭い眼差しが瞼の下から世界へと解き放たれた瞬間、灰色の足下で炸裂した蒼き爆炎が大地を叩き、その身を空へと送り込んだ。
常ならば、足底より放つ衝撃で大地を蹴り移動力へ応用してきた爆裂歩法。しかし、今その一歩は地では無く宙を駆け、足底から放たれし蒼炎は炸裂する度激しい熱と破裂音を辺り一帯へ響かせる。
炸裂する。炸裂する。炸裂する。今、周囲に飛散する花粉を焼きながら灰色を高き宙へと加速しながら押し上げる、その音はまるで――。
「……ふふ、弾丸の味はどうだったかしら?」
派手な灰色の立ち回りの中に潜み、ひらりと学生服のスカートを翻して――それまで遠距離を保ち立ち回って来た彩萌は今日初めて、大花の至近背後を取った。明らかに灰色の挙動に気を取られていた大花の醜き花へと、まるで拳銃でもあるかの様にアサルトライフルの銃口を押し当て――あまりにも精確に狙いを射抜くであろう位置につけて見舞うは彩萌渾身の魔力弾。
ユーベルコード、『殺界壱式(シャープシューター)』。
「残念だけど、おやすみなさい」
眼鏡の奥、蜂蜜色の瞳でにっこりと笑みを浮かべて。トリガー引き、解き放たれた『Devastator』からの連射音が――宙を薙ぎ今大花の頭上に至った灰色の足底に鳴る爆炎と重なった。
「……爆炎によるラッシュ、加速で使った五十発を除くなら……きっかり百発」
上昇から一転、身を翻して地へ向かい宙を駆け下りる灰色の視線と、銃撃終えて宙を見上げた彩萌の視線が重なった。二、と笑んで見せた特徴的な巻き髪の少女は、即座に弾倉引き抜いたアサルトライフルを放棄すると、懐から引き出した二丁拳銃を、後退しながら大花目掛けて解き放つ。
灰色の援護。これが最後の攻勢と、解って大花の意識惹き付ける様に執拗に撃ち出す弾丸が、蔦の最後の一本を遂に大花から切り離した。
――これで、もう幻惑の花粉の脅威は無い。仲間の功績を理解すれば、今日初めて、無彩色だった灰色の口元に微かな笑みが刻まれる。
魔力を漲らせ引いた両腕が、再び苛烈なる蒼炎を灯した。
「燃え尽きるまで叩き込んで、お前を骸の海に叩き帰してやる」
大地に根付かぬ異形の花――幻惑喰いの大花へと、言葉は落下速度も上乗せた鋭き魔弾と共に落ちる。
「――魔剣六番器の破壊力、骨の髄まで刻み込んで消えていけ!」
百を数えるまで空から落ちた熱き爆炎と衝撃纏いし破壊の拳に――大花は次第に燃え欠けて、光眩き世界の中に塵となって消え失せた。
大成功
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第3章 日常
『水辺で自由なひと時を』
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POW : 泳ぐ!
SPD : 水辺の散歩
WIZ : ぼーっと景色を眺める
👑5
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●山塞は古に眠る
――そこは、古の時代に人から放棄された領域だ。
「……うわぁ……!」
「へえ……」
朽ち果てた山砦から出で、続く山林を抜けた先で猟兵達は感嘆の声を上げた。
山に座す大きな湖は、今まさに花の盛りの季節。水辺をぐるりと一周、多種多様な極彩色が彩って――呼吸する鼻腔は、湖に近付く程に甘く優しく、芳しい花の香りに満ち満ちた。
はらり、はらりと風吹く度に舞っては落ちるは淡紅に色づく花弁。サムライエンパイアで、色こそもっと淡かったけれど似た様な花を春に咲く『桜』だと呼んでいたから、恐らくこれはこの世界での桜と呼べる花なのだろう――空舞う一枚を目で追えば、ひらりひらりと戯れに漂ったのち、しとり、とやがて水面へ触れた。
境界から更に視線落とせば、透明度の高い湖水には、砦同様に朽ちて湖底に沈む木の舟さえ姿を晒して、嘗ては人が此処にも立ったと古の時代を今に伝える。あぁ、然し――砦朽ちるほど永い歳月過ぎた今、残る古き人の手掛かりは僅かだ。
――そこは、大自然が支配する、美しき世界。
そっと目を伏せ耳を澄ませば、さわりと葉擦れの優しい音や、野鳥や動物の声、そしてせせらぐ水音がする。――ぱしゃん! と不意に水面打つ音して眼を見開けば、跳ねた魚を、舞い降りた鳥が器用に嘴で掴み取った。
もう一つ、ぱしゃん! 今度は近くに鳴った水音に視線を送れば、猟兵の一人が水面に裸足を浸していた。少し冷たいな、と笑いながら浅瀬を波紋散らして進めば、水温にも直ぐ慣れて、長い時間でなければ泳ぐことも出来そうに思われた。
湖に入って水と戯れるも良い。湖岸を辿って花と戯れるのも良い。芝の様に低く咲く花が広がる一帯もあるから、花の香の中昼寝を決め込んでもきっと心地よいだろう。
さっきの器用な鳥の様に、魚を狩ることが出来たならば。山林には調理に適した食材も豊富だ、併せて調理し美味しくいただけたら、戦いの後の腹も満たされるに違いない。
時はちょうど昼下がり。楽しい時間になりそうだ――思い見上げた視界の先には今、アックス&ウィザーズの雲一つない蒼空が広がっている。
ショコラッタ・ハロー
エリーカの手が空いているなら同行を
おれもこの世界で生まれ育ったけれど、こんな綺麗な場所に来たのは初めてだ
世の中にはちょっと探せばすごい光景が広がってるんだな
だが、この光景が隠されたお宝だ、なんて言葉で騙されたりしないぞ
おれは盗賊だ、最後までお宝は諦めないぜ
着込んだモンを取っ払って身軽なワンピース姿に
砦のなかがダメなら湖のなかだ
探せば金貨の一枚くらい沈んでるだろ
エリーカ、賭けるか?
おれがなにか見つけたら、昼メシおごってくれ
見つからなかったらおれがおごる
湖底に広がる幻想的な風景に驚きながら、お宝さがし
無ければ水中花でも一輪摘んでエリーカに渡すかね
コイツでおれの勝ち、なんて言わないから安心しな
「おれもこの世界で生まれ育ったけれど、こんな綺麗な場所に来たのは初めてだ」
視界一面の大自然の美しさを薄灰の瞳に広く遠く捉えて語るショコラッタ・ハロー(盗賊姫・f02208)の横顔に――一瞬見惚れたと自覚して、少し頬を赤らめながらエリーカ・エーベルヴァイン(花蕾・f03244)は慌てて景色へ視線を戻した。
「……そ、そう。私も生まれはこの世界だけれど、こんな景色は絵画でしか経験が無かったわ」
返った言葉にショコラッタがエリーカを見遣れば、その表情には間もなく、声に滲んだ照れが消え、眼前の広い世界に輝く瞳が浮かぶ。
「……素晴らしいものね」
「世の中には、ちょっと探せばすごい光景が広がってるんだな」
同郷だが全く異なる環境で育った二人は今、全く同じ世界を、景色を共有している。互いに上げる感嘆の声には笑みが浮かんで――やがて視線が重なると、ショコラッタは少しだけ照れくさそうに、冗談めかして言葉を継いだ。
「……だが、この光景が隠されたお宝だ、なんて言葉で騙されたりしないぞ。おれは盗賊だ、最後までお宝は諦めないぜ」
言うなりバサバサと身に着けた装備品やら装飾品を取っ払い始めるショコラッタに、エリーカは慌てた様子できょろきょろと周囲の視線を伺った。
「……えっ……ちょっと、こんな所で何をしてるの!?」
「砦のなかがダメなら湖のなかだ。探せば金貨の一枚くらい沈んでるだろ」
躊躇なく着込んだあれこれを脱ぎ捨てて、年頃の美しい少女・ショコラッタはあっという間に身軽な薄いワンピース姿になると、裸足を湖へと差し入れる。
「エリーカ、賭けるか? おれがなにか見つけたら、昼メシおごってくれ。見つからなかったらおれがおごる」
ニッとその繊細な出で立ちからは想像しない気さくな笑みを浮かべ振り向いたショコラッタに、エリーカは――驚きと羞恥入り混じる複雑な表情からやがて溜息交じりに笑んだ。
「こんな時期に水に入って、風邪を引いても知らないわよ? ……まぁ、帰ったら温かい食事くらい、一緒してあげないこともないけれど」
最後には少し頬を赤らめて。ふい、と顔を横に逸らした友に、ショコラッタもはは、と笑う。素直でない返答だが、どうやら付き合ってくれるらしい。
「――っし、約束な!」
気合一声、ショコラッタはぱしゃん! と湖水の中へとその体を深く浸した。
どこまでも澄んだ湖底世界は、朽ちた木や泳ぐ魚が天光浴びてキラキラ輝き、外界とはまた異なる幻想的な趣きだ。驚きに淡灰の瞳を見開きながらも――まだ見ぬこの地のお宝求めて、ショコラッタは水を掻いた。
(「お宝が無いなら――水中花でも一輪摘んでエリーカに渡すかね。……コイツでおれの勝ち、なんて言わないから安心しな」)
きっと内心はらはらしながら地上で待っているだろうエリーカを思い描き、ショコラッタは微笑むと、友の髪の色にも似た、美しい薄紫の湖底花へと手を伸ばした。
大成功
🔵🔵🔵
仁科・恭介
アドリブ、絡み歓迎
大花との戦闘で汗をかきすぎ気持ちが悪い。さらに花粉が舞っていた中を走り回りすぎた。不快感が肌を見せないという信念を超える。
「すまん。ちょっと見張りを頼む」と【影達】を呼び出す。
他の猟兵達からかなり離れた場所で服を脱ぎ湖へダイブ。火照った筋肉に冷たい水が心地よい。(※)
泳いでいるうちに味が気になり【学習力】を駆使して魚を捕る。
ある程度魚が捕れたら岸へ。
身支度を整えて捕った魚を下処理して猟兵達の下へ。
「泳いでたら脂がのってて美味そうでね。皆で食べよう。誰か火をくれないか?」
※泳いでいる時見られた場合、見た人のところに行き「君は何も見なかった。全て忘れてくれ」とお願いする。
有栖川・夏介
大自然の美しさに見とれる。
他の世界でも似た光景をみたことはありますが、いいものですね青空というものは。
私の故郷ではこのような空は珍しいので……。とても綺麗です。
さて、せっかくの大自然。釣りをしたいところなのですが、あいにくと釣り竿を持参するのを忘れていました。
釣り竿を使わないで魚を獲ります。
暗器類をしまっている「お茶会セット」から針と糸を取り出し、それらを繋ぐ。
水面をじっと見つめ、魚が浮き上がってきたところを狙って針を【投擲】
魚にヒットしたら、針が抜けないよう気をつけつつ、糸を引き寄せる。
さて、うまく釣れるでしょうか?
釣れた魚を調理してくれる方がいたら、おまかせしたいです。
壥・灰色
魚を捕ってきて食べる
壊鍵でどばんどばんすると景観的に良くないことになりそうだなあ
侵徹撃杭の出力を最低限に抑えて射出
水面を叩いて浮いた魚を、折角なので泳いで取りに行く
……完璧に着替えのこととか考えてなかったな
枝木を集めて炎殺式で火を熾し、隅っこの方で焚き火と焼き魚でささやかな昼飯を摂ろうかと
肌着を干してるので上半身剥き出しなのは許してほしい
誰かタオルない?
エリーカが通りかかるのが見えたら、魚を食べなよと勧めてみる
……彼女、育ちが良さそうだし、こういうワイルドなめしを食べるかどうか解らないけど
いや、一応ワタくらいは取ったよ……ワタも小苦くて好きなんだけどね、おれは
気に入るといいけども
おかわりあるよ
一方――広い湖畔、他の猟兵が未だ至らない離れた場所へと急ぎ来て、仁科・恭介(観察する人・f14065)は澄んだ湖水に持参したタオルを浸す。
(「汗をかき過ぎた……気持ち悪ぃ」)
まだ肌に冷たい湖水だが、タオル絞る手上を流れる感触は心地良かった。幾分爽やかな気持ちになりながらも――湿ったタオルで体を拭けば、戦いでの多量の汗と空舞う醜花の花粉が張り付いた肌は、やはりべったりとタオルを簡単に肌へ滑らせてはくれなくて。
「……『ワンス・アポン・イン・タイム……ある男が僕達を放ちました』」
その不快感は、ついに肌を見せないという恭介の信念を凌駕した。魔力紐解く鍵の言葉を唱えると、恭介の足元に現れたのは無数の――狼の様な黒い影。
「すまん。ちょっと見張りを頼む」
ユーベルコード、『従順なる影達(シーズナル・フード・サーチャー)』――彼等に番を依頼して、恭介はとうとう身に着けた着衣を薄衣一枚まで脱ぐと、人の目が無い事を確認してから静かに湖へ飛び込んだ。
(「少し冷えるが……火照った筋肉には心地良いな」)
陸から近い湖底がある程度窺える程に透明度が高い水だ、人目を気にして、恭介は一掻き毎にごぼりとより深みへ潜る。
すると、水面からの光を反射して煌く魚影が、湖底へ近付くほど数を増して――フードファイターである恭介としては、次第にその味も気になって来る。
ごぼり、水を掻いて更に深く――恭介には完全アウェーの水中世界で、魚との水中勝負が幕を開けた。
「――他の世界でも似た光景をみたことはありますが、いいものですね、青空というものは……」
高き空と底透く湖、花絢爛の大自然を紅の瞳に映す有栖川・夏介(寡黙な青年アリス・f06470)は、その美しさに見惚れる自分を隠さず感嘆の声を漏らした。
「私の故郷ではこのような空は珍しいので……。とても綺麗です」
見上げた空に、大鳥の影が見えた。くるり、くるりと湖上を旋回しながら少しずつ高度を下げている所を見るに、――恐らくは、狙う魚が居るのだろう。
「――さて、せっかくの大自然。私も釣りをしたいところなのですが……」
思えど。今日の夏介に釣竿の用意は無かった。何とか代用出来る物は――顎に手を当て暫し考え、夏介は、懐から暗器類を収めた『お茶会セット』を引っ張り出した。
「針と糸ならありますね。……これを繋げて……」
本来は武器として使うそれらは、使い慣れている以上、狙い通りに扱うことなど夏介には造作もないことだ。
「さて、うまく釣れるでしょうか?」
水面を紅の瞳で注意深くじっと見つめ、魚が浮き上がってきたとみれば、糸に繋いだ針を投擲、魚に引っ掛けて引き寄せる。
とはいえ、水中は魚の領域だ。多少逃す魚影もあったが――それも釣りの醍醐味だ。当たり前に全て狩れてしまっては、人智を超える猟兵の力を使わず魚に挑む意味も無い。
かくして――夏介が見つけて敷いた大きな葉の上に、やがて魚がずらりと並んだ。
「――おお、結構採ったな」
ふと届いた声に振り向けば、そこには恭介の姿。水の滴る茶の髪をガシガシとタオルで拭きながら、その手には即席で作った弦製の網を持って。
中にはまだ生きる魚がぴちぴちと尾を振る音が聞こえる。素潜りで取ったのだろうと知れれば、凄いですね、と夏介は素直な称賛の声を上げた。
「はは。泳いでたら美味そうに見えてね。皆で食べよう」
笑んで返した恭介は、夏介の釣った魚も一緒に、と網を差し出す。夏介も頷くと、一匹ずつ魚を網の中へと運び入れた。
「釣れた魚を調理してくれる方がいたら、おまかせしたいです」
「火があれば事足りるんだがな。誰か……」
湖畔の猟兵の中に火を点せる者を探そうと恭介が顔を上げた、――その時。
――ドンッ! バッシャン!!
突如静かな湖畔の遠くから鳴り響いた派手な水音に、二人は目を丸くした。
「……壊鍵でどばんどばんすると景観的に良くないことになりそうだなあ」
派手な水音は、やや遠間の湖面に向けた拳からの衝撃によるものだ。それでも戦闘時より圧倒的に出力を抑えた『侵徹撃杭(マーシレス・マグナム)』――案外難しいものだなと、壥・灰色(ゴーストノート・f00067)はその手を眼前でぐっぱと握り開きしてみせる。
もっとも、今の一打で灰色の目的は既に達成されていた。少し遅れて湖面にぷかりと幾つも浮き上がったのは――魚だ。
少しばかり力加減を間違えたけれど、結果としては問題無かった。実際、景観を損なう程の大事には至っていない。何しろ一発しか撃っていないのだ。
そして、水面を叩き、浮いた魚をどうするか――それは無論、食べる。
折角なので泳いで取りに行くことにして、灰色は湖の中へ躊躇なく飛び込んだ。
「……完璧に着替えのこととか考えてなかったな」
――ほどなく。両手に溢れる魚を抱えて地上へ戻った灰色は、一先ず魚を適当な岩の上に置くと、脱いだ肌着を絞って木に干す。
拭くものが何も無かった。裸の上半身に髪から流れ落ちる冷たい湖水を首振って払いながら、灰色は辺りに落ちる枯れ枝を集めて――。
「「「――あ」」」
灰色が炎殺式で集めた枝木にボッと火を熾した瞬間、魚の調理に火を求めていた恭介と夏介が通り掛かった。
「ああ良かった。実は今魚焼く火を探して――凄い魚の数だな」
岩に置かれた山積みの魚を恭介と夏介がまじまじと見つめた時、灰色は髪から水を滴らせながら、恭介の肩に乗るタオルを見て一言。
「誰かタオルない?」
この際、多少濡れたタオルでも灰色は構わなかった。
「えっ……ちょっと、貴方どうして裸なの?」
男三人、火を囲んで魚の下処理と焼きの作業を進める中――通り掛かったエリーカは、上半身裸の灰色に思わず問うた。
「肌着を干してるので、上半身剥き出しなのは許してほしい」
「そんなこと聞いてないわ。いくら火の傍でも、裸で過ごせる季節じゃないでしょう? ……別に私は心配なんてしてないけれど」
お風呂ではのぼせて、今度は夏でもない今裸なの? と。呆れなのか心配なのか複雑な表情で灰色の前に膝を付いたエリーカは、灰色の肩に羽織っていた春物のストールを掛けた。
ありがとう、と素直に灰色が礼を述べれば、エリーカは頬を赤くして、拗ねた様に顔を背ける。
「……別に。貸すだけよ。それじゃ」
「魚を食べなよ」
立ち上がり去り掛けたエリーカへ、灰色は魚を勧める。
目を丸くしたエリーカに、灰色は一本、木串に差した焼き魚を差し出した。ささやかな昼食だ。ストールのお礼では無いけれど――。
(「……彼女、育ちが良さそうだし、こういうワイルドなめしを食べるかどうか解らないけど」)
未経験ならばなおのこと。大自然の中で、採れたての大自然の恵みをいただく贅沢を、エリーカにもと。
「いや、一応ワタくらいは取ったよ……ワタも小苦くて好きなんだけどね、おれは」
「ああ、下処理はした。脂がのってて美味いぞ」
灰色の言葉に恭介も続けば、夏介もエリーカへ頷いて見せ、ぱくりと手に持つ魚の腹に喰らいつく。すると意外や意外、エリーカはすんなりと灰色から焼き魚を受け取った。
「……別に好き嫌いなんてないわ。魚のワタも食べられるわよ」
すとんと灰色と恭介の間に座ると、夏介に倣う様にがぶりと魚の腹へ齧り付く。少女の思いがけないワイルドな食べっぷりに、男三人が目を丸くすると――視線に気付いたエリーカは、可笑しそうに笑みを浮かべた。
「こういうのは、郷に入っては郷に従え、……でしょう?」
自然の流儀に即して、美味しそうに続きを食するエリーカに――灰色の口元も思わず綻んだ。
「おかわりあるよ」
「流石に、そんなに沢山は食べられないわ。このあと昼食の約束もあるのよ」
一人増え、四人で炎を囲む一時は、何気ない会話を伴い、緩やかに過ぎていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オルハ・オランシュ
ヨハン/f05367と
応急処置した両手に包帯を
良かった、ヨハンが無事で
見て見てヨハン、あそこ
花があんなに沢山咲いてる
行ってみようよ!
えっ、いいの?
ありがとう!……これで手、繋いで行けるね
不得手なのに癒術を施してくれる
その気持ちが何より嬉しくて
傷口の消えた手でぎゅっと彼の手を握る
んー、いい香りっ
仰向けに寝転がり、隣を軽く叩いて彼を促す
さっきあんなに頑張ったんだもの
一休みしたっていいよね?
視線を隣に向ければ、なんだかくすぐったい
長閑でいい場所だね
時間の流れを忘れちゃいそう
青い空を泳ぐ鳥の囀る声、葉擦れの音
心地好い音達にやがて眠気を誘われて
……ねぇ、
ずっと、このままで……
言い終える前に、眠りに落ちた
ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と
彼女の両手の包帯を見て、
些か歯がゆい思いに駆られる
回復魔法も学んだことはある、が
少し、迷って
待ってください
花を見に行くのはいいですけど
……手、繋いで行きましょう
歩きながら治療します
得意ではないので時間がかかりますけど
一休みの誘いには、まぁ今日くらいはと
素直に隣に腰を下ろす
寝転がるのは汚れるとか土が冷たいとか、
言いたいこともあるんですけどね
視線を感じて隣を見れば、
そんな事も口には出せず
そうですね
こうゆっくり出来ることは然うないのかもしれない
目を閉じれば感じる花の香り
隣に人のいる気配
どこかむず痒いが……悪くはない
眠ることは出来ないけれど
今はこのまま、彼女に付き合おう
「――良かった、ヨハンが無事で!」
笑顔で語るオルハ・オランシュ(アトリア・f00497)の包帯に巻かれた両手を見つめ、ヨハン・グレイン(闇揺・f05367)は些か歯痒い、遣り切れない思いを抱えていた。
戦いに傷付き、応急処置を終えた少女の手。目の前のオルハは全くそれを気に病む様子も無く、新緑の瞳で湖の景色を嬉しそうに見つめているが――ヨハンの藍染めの瞳には、それがどうしようもなく痛々しい。
回復魔法も学んだことはある、が――広げた己が手の平を見つめ、ヨハンが一人逡巡する中、オルハは『あっ!』と明るい声を上げると、湖畔の一角を指差して、ヨハンへ振り向き笑い掛けた。
「見て見てヨハン、あそこ! 花があんなに沢山咲いてる……行ってみようよ!」
一際華やかに、地面を背の低い花々が埋める一角。包帯の指でそれを指し示し、くるりとオルハが身を翻すと――迷う心を差し置いて、ヨハンの手は思わず前進するオルハの手首を掴んだ。
「待ってください。……花を、見に行くのはいいですけど……」
意外なヨハンの行動に、オルハは目をきょとんとさせて振り向いた。まだ何処か躊躇うような藍の瞳は掴んだ少女の手首を見つめて俯くけれど――やがて決意した様に顔を上げると、視線を合わせてオルハへ告げた。
「……手、繋いで行きましょう。歩きながら治療します」
「――えっ、いいの?」
申し出聞くなり、オルハの頬が薔薇色に染まった。驚いた様に見開かれた新緑色の大きな瞳にヨハンは意を決したように頷くと、そっと痛みの無い様に、恐る恐るとその手を取った。
「……得意ではないので、時間がかかりますけど」
「ありがとう! ……これで手、繋いで行けるね」
繋いだ手に感じる温もりは、ヨハンの治癒術によるものか、それとも――重なる所から感じる熱に、オルハは頬を染めたまま、幸せそうに微笑んだ。
花咲く様なその笑顔は、今日の花絢爛の世界にも負けぬ華やかさ。不得手なのに癒術を施してくれる、その気持ちが、何よりも嬉しくて――思えば、徐々に痛みの消えゆくオルハの手には、次第にぎゅっと力がこもった。
そうして歩んで、……やがて。二人は手を繋いだまま、華やかな花絨毯の世界の中心へと至る。
「……んー、いい香りっ!」
そっと繋いだ手を離すと、その鼻腔に、肺に、めいっぱい花の香りを吸い込みオルハは花の中へと寝転がる。雲一つ無い青空を仰げば、陽射しは眩しく、新緑の瞳が思わずぎゅっと細まった。
「……ね。さっきあんなに頑張ったんだもの、一休みしたっていいよね?」
少し甘える様に、でも朗らかにヨハンへと笑んで、寝転がった自分の隣をぽんぽんとオルハは叩く。するとヨハンは仕方ない、といった様子で軽く息を吐き出して、素直に隣へ腰を下ろした。
「……まぁ、今日くらいは」
「やったぁ! ……ふふ」
くすくす、と嬉しそうな無邪気なオルハの笑顔を見れば、ヨハンは返す言葉を失い、観念した様にオルハの隣へごろりとその身を横たえた。
――花の香りが、鼻腔を擽る。
(「寝転がるのは汚れるとか土が冷たいとか、言いたいこともあるんですけどね」)
内心には思っても、結局ヨハンは、それを口には出せなかった。
視線を感じて隣を見た時の、――オルハの蕩けそうに幸せな笑顔が、呼吸まで奪ってしまうようだったから。
「長閑でいい場所だね。……時間の流れを忘れちゃいそう」
胸に感じるくすぐったさに、くすくすと笑みは絶えず照れ隠しの様に瞳を閉じて、オルハはそっと大きな花色の耳を澄ます。
撫でる様に優しく鼓膜を揺らすは、心地よい自然の音色。
青い空を泳ぐ鳥の囀る声、優しく吹く風、せせらぐ水、葉擦れの音――全身、心にまで感じる穏やかな幸福感に、オルハの意識は、次第に自然の中へと溶けていく。
「……ねぇ、ずっと、このままで……」
「……オルハさん?」
――やがて。すぅ、と隣に横たわる少女から規則正しい穏やかな寝息が聞こえれば、ヨハンはふ、と微笑んで、藍の瞳で空を仰いだ。
「……そうですね。こうゆっくり出来ることは然うないのかもしれない……」
少女を起こさない様にと、いつもならば闇に落ちる静かな声は今日は優しく、光の世界の中に零れた。
(「隣に人のいる気配。どこかむず痒いが……悪くはない」)
眠ることは出来ないけれど――目を閉じれば、甘く芳しい花の香りがヨハンの鼻腔を優しく擽る。
オルハがやがて光の世界に再び笑顔を咲かすまで――一人ではない少年の穏やかな時間を今、世界を覆う花達と、舞い散る花弁が見守っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
カチュア・バグースノウ
SPD
水辺で散歩するわ
水着足浸してもいいようにタオルをもってく
桜……って言ってもほとんど変わらないような、全く別ものなような不思議な花。でも淡いピンク色は桜ね
んーー(うろうろ
この辺なら、桜見ながら水に足突っ込んでゆっくりできそうね
…学生の時は、親友たちと一緒にこうしてだらだらしながらお花見したわねー
またああやって、3人でだらだらお花見したいなぁ
大人になるってつまんないわねー
…なんて大人になりきれてないあたしがいうのも変な話か
…あら、エリーカ
あなたも花見?あたしは花見
だらだらしてたところよ
あなたもだらだらする?なんて、そんな暇ないか
グリモア猟兵はいつも忙しそうだもんね
いつもお疲れ様!
アドリブ歓迎
「桜……って言ってもほとんど変わらないような、全く別ものなような不思議な花。でも淡いピンク色は桜ね」
絶えず舞い続ける花弁の一枚を気紛れに掴み取り、ふ、と笑んでカチュア・バグースノウ(蒼天のドラグナー・f00628)は一人ゆるりと水辺を行く。
何をしたいという明確な目的は無かった。ただ、湖畔に咲く桜花は綺麗で、澄んだ湖水はとても気持ち良さそうだったから――座って花見をしながら足を浸せる場所を探して、カチュアはうろうろと散策がてら水辺の様子を窺っていたのだ。
「……ん。この辺なら、ゆっくりできそうね」
やがて少々大きな岩が散見する一角に辿り着くと、白い素肌の足をちゃぷん、と静かに水の中へと浸す。
澄んで底まで見える湖水は肌に馴染んで気持ち良い。ゆらゆらと脚を揺らして水面の波紋を楽しむと、そこにもはらりと舞い落ちる花弁に氷蒼の瞳は自然と空を仰ぎ見る。
「……学生の時は、親友たちと一緒にこうしてだらだらしながらお花見したわねー。またああやって、三人でだらだらお花見したいなぁ」
今日の空を舞う花弁と記憶の景色が重なって、呟くカチュアは懐かしそうに微笑んだ。思い出した様に先に花弁掴んだ手をそっと眼前で開いてみれば、白い手の中から現れた花弁は、するりと再び風に煽られ世界へと再び飛び立つ。
――それはまるで、過ぎ去ってもう戻らぬ時間の様な。
「大人になるってつまんないわねー。……なんて、大人になりきれてないあたしがいうのも変な話か」
今のは少し自嘲ぎみなつぶやきだっただろうか? 苦笑してやはり空を見上げるカチュアの周囲を、心地よい風が吹き抜けた。
繊細に細く艶めく長い雪白の髪が、花弁と共に舞い上がる――。
「……おかしなことなんて、何もないと思うけれど」
ふと、後ろからエルフの長耳を揺らした声に、カチュアは背を反る様に視線を上げた。
――エリーカ。此処へ誘ったグリモア猟兵の少女が、逆さに見つめるカチュアを少し呆れた様に見下ろし立っていた。
「……あら、エリーカ。あなたも花見? あたしは花見」
くす、と小さく微笑んで、カチュアは姿勢を正すと今度は視界が逆さにならない様に、腰からくるり、エリーカへと振り向いた。
「だらだらしてたところよ。あなたもだらだらする? ……なんて、そんな暇ないか。グリモア猟兵はいつも忙しそうだもんね」
いつもお疲れ様! と、明るい調子でそう告げれば、肯定も否定もせずに、エリーカはカチュアの隣へ腰掛けた。おや? とカチュアが不思議そうに目を丸くすれば、ちら、と横目でカチュアを見たエリーカは、少し頬を赤らめて、拗ねた様な顔をぷい、と反対側へ逸らして隠す。
「何を思って、何を言うのも貴女の自由よ。でも今がつまらないのなら、楽しく変えていけばいいじゃない。……例えば、一人でお花見しないとか」
エリーカのその言葉に、カチュアの氷蒼の目はますますきょとんと丸くなった。
つまり、一人がつまらないなら花見くらいは付き合うと、どうやらそういうことだろうか――。
「――ふ」
とても素直じゃない言葉の真意を理解して思わず吹き出したカチュアに、エリーカはじろりと赤い顔でカチュアを睨むと、再びぷいっと顔を逸らす。
カチュアの中、かつての記憶と重ねた景色が、今日だけの新たな記憶へと、かたちを変えた瞬間だった。
大成功
🔵🔵🔵
リル・ルリ
■櫻宵(f02768
アドリブ歓迎
「湖!櫻宵、ありがとう!」
僕の住む薄暗い湖とは全然違う
胸いっぱい空気を吸えば瑞々しい花の香り
湖に飛び込めば冷たくて心地よい
陸に咲く花と湖に映る花の両方が観られて壮観だ
尾鰭で水を弾き
潜って
また顔を出して遊ぶ
「櫻もおいでよ。綺麗なお花が浮いてたよ」
泳げないなんて
君は本当にポンコツだよね
これがこの世界の桜
綺麗
1番は、僕の櫻だけれど
見つめられて恥ずかしかったから
えい!と水をひっかける
せめて水遊びをと思っていたら
櫻が湖に滑って落ちた
なんで落ちれるのかと思いながら捕まえて助けて
そうだこのまま
「ほら、みて」
湖の真中から見る絢爛を
嬉しげな君と一緒に笑い
嗚呼
君がいい子にしてたらね
誘名・櫻宵
🌸リル(f10762)
アドリブ歓迎
湖ではしゃぐ可愛い愛しの人魚の様子を湖畔に腰掛け見守る
そんなあなたが見たかったの
リィと一緒に泳げたらよかったけど
あたし泳げないのよね
うっ
ポンコツ……言い返せないわ
水に足を浸してぱしゃり
あらリィ
お花?これはこの世界の桜だって
あなたがあたしを綺麗に咲かせてくれるからでしょ?
嬉しげな人魚に微笑んで見つめ
あっ、ちょ!
いたずらっ子ね!
浅瀬ならと立ち上がろうとしたら滑って転んで転落し
去年24歳か、と走馬灯がよぎる
気がつけば
きゃあ、綺麗……!
リィに抱えられ湖の真中
湖から見る陸の景色に感嘆の声を上げる
カッコはつかないけど
あなたと同じ光景が見られて嬉しいわ
でも絶対離さないで!
「湖! 櫻宵、ありがとう!」
ぱしゃん! 美しい水の世界へと飛び込んで、リル・ルリ(瑠璃迷宮・f10762)ははちきれんばかりの笑顔を浮かべる。
(「僕の住む薄暗い湖とは全然違う
……!」)
冷たくて心地よい水を全身に感じながら、美しき尾鰭で水を弾き、リルは湖底の世界を泳ぐ。一面に咲く水中花は天から注ぐ陽の光に輝いて、仰向けに体を返せば、湖底からも美しき今日の世界の青空が広がっていた。
水面に乱反射して煌く光を掴んでみたい心地がして、リルは一気に浮上すると、ばしゃんと大きな音を立てて水面にその笑顔を咲かせた。
胸いっぱいに地上の空気を吸えば、瑞々しい花の香りが鼻腔を擽る。瞳を開けば、陸に咲く花と湖に映る花の両方が観られて壮観だ。
「櫻もおいでよ。綺麗なお花が浮いてたよ!」
その存分にはしゃぐ笑顔を、湖畔に腰掛け見守るのは誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)だ。水の世界に生きるリルを、この美しい湖を知った瞬間から連れて来ようと決めていた。
潜っては顔を出し、その度に笑顔が眩しいリル。そんなはしゃぐ可愛い愛しい人魚の姿を――どうしても見たかったのだ。
「櫻ー? おいでよ!」
「リィと一緒に泳げたらよかったけど、……あたし泳げないのよね」
無邪気なリルからの何度目かの声掛けに、応えたい気持ちはあれど――櫻宵は苦笑してこう応じる。するとリルはええー、と少しだけ拗ねた声を上げると、櫻宵が佇む水辺へとざぶざぶ泳ぎ進みながら、愛らしくも美しい顔に似合わぬ真っ直ぐな言葉を継いだ。
「泳げないなんて、君は本当にポンコツだよね」
「うっ……ポンコツ……言い返せないわ……」
両手で胸を押さえて、櫻宵はがくりと項垂れる。本当のことだから否定出来ない……思いながら、ならばせめてと、そろり、履物脱いだ素足をそろりと湖の水面へ付けた。
ぱしゃん。まだ少し肌に冷たい温度だけれど、浸せばするりと肌に馴染む湖水はとても気持ち良い――。
「……あら? リィ……お花?」
ふと、水に浸す足元へ近付いてきたリルの乳白色の髪を彩る淡色の花弁に気付き、櫻宵は手を伸ばした。
今この時も、空舞う花弁。淡色のそれは、リルにも櫻宵にも馴染みの花であるという。
「リィ、これはこの世界の桜だって」
ふ、と花霞の目元を緩めて髪飾る花弁を摘まんだ櫻宵に、リルはそっとその花弁を受け取ると、両手の中にじっと見つめる。
これが、この世界の桜――少し知るものよりは紅が強い印象だけれど、それでも確かにその形、その柔の色彩は春に咲く風情の花。
「……綺麗。一番は、僕の櫻だけれど」
「ふふ。それはあなたがあたしを綺麗に咲かせてくれるからでしょ?」
花霞の瞳が、リルの言葉に嬉しそうに細められた。その柔らかな微笑みがじっとリルの瞳を覗くと――急に恥ずかしくなったリルは、照れ隠しに櫻宵へえい! と水をひっかけた。
「……あっ、ちょ! ……いたずらっ子ね!」
リルからの急襲に、浅瀬ならばと反撃に転じようと立ち上がろうとした櫻宵は――しかしそのまま、脚を滑らせた勢いでリルが顔出す深間へ沈む。
「きゃあっ!!」
「櫻宵っ!? あぁもうなんで……っ!」
ばしゃぁああん!!!
冷たい水の奈落へと、落ちていくようだった。享年二十四歳か、なんて走馬灯が過った様な気がしたが――しかし櫻宵はその直後、水中の自分の体をぐい、と強く上へ引く力を感じる。
「櫻宵。ほら、みて」
聞き慣れたその声に、櫻宵はそろりとその瞳を開いた。
「――きゃあ、綺麗……!」
見開いたその視界には、湖を取り囲む花絢爛の世界が全方位に広がっていた。陸で見る景色とは違う。湖の中央からぐるりと見渡す、境無く広がる美しい花の世界――元居た岸辺からは随分と離れていたが、湖への落下の救助がてらリルに抱え連れて来られたのだ。
「綺麗でしょう?」
「えぇ……ええ! カッコはつかないけど、あなたと同じ光景が見られて嬉しいわ!」
「なんで落ちれるのかな……」
「それは言わないで!! そして絶対離さないで!!!」
軽口混じりに会話が弾めば、櫻宵はぎゅっとリルへしがみ付く。本当に全く泳げない様だ――少々本気の感情をその声音から感じ取れば、仕方ないなとリルは笑って、しがみ付く櫻宵の手をぎゅっと強く握り返した。
「嗚呼、君がいい子にしてたらね」
呟くリルの微笑みに、櫻宵は勿論よと頷くと――再び二人、絢爛の世界を眺めて幸せそうに微笑んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
マレーク・グランシャール
水辺に咲く花を摘み、帰り際エリーカへ贈ろう
花の髪飾りをしているくらいだ、きっと花が好きなのだろう
グリモア猟兵は悲劇を予知しても見ていることしか出来ず、仲間を信じて待つことしか出来ない
そしてグリモアが見せる凄惨な光景から目を逸らすことも、嗚咽や悲鳴に耳を塞ぐことも出来ない
そのことで歯痒い思いをすることも、心を痛めることもあるだろう
だが悪の花を散らしたその先に、小さく優しい花が芽吹くのを見ることもあるはずだ
そう言って彼女を労い、花を渡したその時に、彼女の指先がもう震えていないのを見て俺は安心するのだろうな
この先如何なることが起きようとも、エリーカの花が萎れず咲き続けるよう祈っている
「エリーカ」
呼ぶ声に振り向けば、紅蓮の瞳のその前にはマレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)が立っていた。
同じグリモア猟兵だ。今日の戦いの最中にも、マレークはずっとエリーカの心と共に在ったつもりだった――予知してしかし戦えなかった少女の、その心の断片でも労ってあげられたらと、花の世界へ誘う言葉に、エリーカは応じて湖岸の道を進む。
「グリモア猟兵は悲劇を予知しても見ていることしか出来ず、仲間を信じて待つことしか出来ない。そしてグリモアが見せる凄惨な光景から目を逸らすことも――嗚咽や悲鳴に耳を塞ぐことも出来ない」
道行く最中に語るのは、グリモア猟兵が対面する現実だ。
気質が真面目な者ほど、予知に悲劇や蹂躙を視て、ただ待つことは耐えがたいのかもしれなかった。今日猟兵達を送り出したエリーカも、そうではないのかと――自身も極めて真面目な性分故に、マレークは心配したのだ。
「そのことで歯痒い思いをすることも、心を痛めることもあるだろう。……だが悪の花を散らしたその先に、小さく優しい花が芽吹くのを見ることもあるはずだ」
自分よりも年上のマレークの言葉を、隣を同じ速度で進むエリーカはただ黙って聞いていた。表情も歩様にも、終始毅然とした様子のままで――しかしこの時マレークが差し出した花束には、エリーカは目を丸くする。
「花の髪飾りをしているくらいだ、きっと花が好きなのだろう? ……この先如何なることが起きようとも、エリーカの花が萎れず咲き続けるよう祈っている」
エリーカの瞳の様な紅蓮の花と、暁へ向かう夜空の髪の様な薄紫の花。少女のこの先の安寧を願って水辺に咲いていた中から選んだそれらをエリーカに手渡せば、受け取る少女のその手が震えていないことを知り得てマレークは安堵する。
――少しは、不安を取り除くことが出来ただろうか。
「……真面目な方ね、貴方は」
ずっと黙ってマレークの言葉に耳を傾けていたエリーカが、初めて声に思いを綴った。花束に視線を落として、先の言葉を選んでいるのか暫し沈黙したエリーカに――マレークはただ、その次の言葉を待った。
するとエリーカは左手に花束を抱くと、右手でスカートの裾を摘まみ淑女の礼をマレークへ取る。
「でも――感謝しますわ。予知に応えて、戦ってくださったこと。導く私の心の未熟に――こうして心を砕いていただいたことも」
礼から上げたエリーカの顔に、不安の影は名残も無い。
ただ今日の猟兵達とマレークへの感謝だけが――ふわりと浮かべた花の笑みの中に、ありありと滲んでいた。
大成功
🔵🔵🔵
アレクシス・ミラ
アドリブ◎
セリオス◆f09573と
妙に嫌な予感がして心配でセリオスを迎えに探し歩く
無茶をしていないといいが
…予感は的中か
此方に気づいた途端、逃げ出そうとする彼の襟首を掴む
逃げるな
はぐらかす彼にじとりと半眼になる
気づいていないと思ったか
まだ逃れようとする彼に叱るように
いいから、診せるんだ
ほら座って、と彼の傷を診て…触れる
…君には色々言いたいことがあるが、先ずは治療だ
少し強引に引き寄せ、抱き込む
こうでもしないと君は逃げるだろ
そのまま【生まれながらの光】で治療
悪かったの言葉と仕草に返すように腕に込める力を少し強くする
…説教するつもりだったけど
…君が無事でよかった
いいね。お供しよう
…お疲れ様、セリオス
セリオス・アリス
アドリブ◎
アレクシス◆f14882と
負傷は頭と左腕か?
このままじゃマジでどやされ…げっ…!
アレスの姿を見て回れ右
逃げようとする
…よお、アレス
お前もこっち来てたんだな
あ!あっちの湖、魚とかいたし釣りでもすりゃいいんじゃねえか!
意識を反らそうとしたけど…やっぱダメか
けどよぉ、見た目より痛くねぇん…ッ!
触られたら痛くて目を反らす
大人しくアレスの治療を受けるけど
…何でこの体勢なんだよ
逃げるって俺は動物じゃねえぞ
いやまあさっき逃げたけど
文句は言うが大人しく抱え込まれたまま
代わりに飼い主の顎や首に頭を押し付ける猫の様にすり寄る
…心配かけて悪かったな
あとで一緒に釣りでもしようぜ
けど、今はまだ少しこのまま
「……痛ぅっ、……負傷は頭と左腕か?」
ぱしゃん、と音立て血のこびり付く左腕を湖水に沈め、セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)は戦いに負った傷を洗う。
「……あー顔ひでえなぁ。血固まってら」
水面に映る見慣れた筈の自分の顔は、額から顔へと流れ落ちた血が固まって――目で見てそうと自覚すれば、あまり気持ち良いものでもなかった。傷に冷水染み入る痛みには美しい顔を顰めながらも、セリオスは掬った湖水で顔を清める。
もしもこのまま帰ったとしたら――想像の翼を広げれば、脳裏に青と金の美丈夫から滾々と説教を受ける未来が過る。
「見つかる前に何とかしねーと、このままじゃマジでどやされ……」
「……セリオス?」
「げっ……!」
呟いた瞬間に背後から届いた聞き慣れた声には、セリオスも思わずびくりと肩を揺らした。
恐る恐る振り向けば、そこには正に思い浮かべたばかりの青と金を宿す美貌の騎士、アレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)。優しさと強さ、穏やかさと凛々しさが共存する蒼穹の瞳は心配そうにセリオスを見つめていたが――セリオスの星海煌く瞳と視線重なった瞬間に、その表情は血の落ち切らない顔や左腕の肌を見留めてやっぱり、とばかり険を刻んだ。
「嫌な予感がして迎えに来てみたが。……的中か」
しかし一方のセリオスは、真実アレクシスがそこに居ると知れるや回れ右。そそくさと背を向け逃げようとして――。
「――逃げるな」
むんず、と背後からその襟首をアレクシスに掴まれた。
「……よお、アレス。お前もこっち来てたんだな。いいとこだもんな綺麗だし……あ! あっちの湖、魚とかいたし釣りでもすりゃいいんじゃねえか!」
少々早口になる自分自身を自覚しながら、セリオスは話を逸らして懸命にその手から逃れようとするけれど――呆れた様にじとりと半眼の視線を向けられれば、しおらしくなって抵抗を止める。
「……スミマセンデシタ」
「全く……気づいていないと思ったか? いいから、傷を診せるんだ」
少し叱る様にそう言って、アレクシスは襟首掴む手を離すと、そっとセリオスの頭の傷へと手を伸ばした。
血が洗い流された左腕と違って――こちらは、濡羽色の髪が未だ血に固まる様子から見ても、まだ処置が追い付いていない。
「けどよぉ、見た目より痛くねぇん……ッ!」
「……君には色々言いたいことがあるが、先ずは治療だ」
強がろうとして、傷に触れられ生じた痛みにセリオスが声を詰まらせれば、アレクシスは溜息一つ、ぐい、とセリオスの右手を少々強引に引き寄せた。
「ほら、座って」
「……何でこの体勢なんだよ」
その手の導きに従ったセリオスは今、アレクシスに抱き込まれる様に腰掛けていた。少々不満げに、そして幾分照れた様な拗ねた様な声音でそう言葉を返すけれど、アレクシスは眼差しも真剣そのものにセリオスの髪を掻き分け傷の具合を確かめている。
「こうでもしないと君は逃げるだろ。……これでも大分抑えているんだ」
「逃げるって俺は動物じゃねえぞ。……いやまあさっき逃げたけど」
ぶちぶちと文句は言いながらも、セリオスは大人しくアレクシスに抱え込まれてそれ以上の抵抗は見せなかった。その間にふわりとアレクシスの手の中に灯った光と優しき騎士の心の様な仄かな温もりは――癒し齎す聖なる力、『生まれながらの光』。
血の汚れこそ取れずとも、心まで温まる様な柔らかな光と熱に――セリオスは観念したのか、或いはそうしたいという願いの発露か、まるで飼い主の顎や首に頭を押し付ける猫の様に、アレクシスにすり寄った。
「……心配かけて悪かったな」
――ぽつり。あまりにも素直で、でも消え入りそうに呟かれたセリオスの言葉を耳にして、アレクシスは目を丸くすると、その心に応える様に、腕に込める力を少しだけ強くした。
「……説教するつもりだったけど。……君が無事でよかった」
その声に、凛々しく美しくも穏やかなアレクシスの微笑みが見えるようで――セリオスは抱かれた腕の中、少しくすぐったそうに頬を染めて俯いた。
「……ホント綺麗な湖だからさ、あとで一緒に釣りでもしようぜ」
「いいね、お供しよう。……でも髪や肌を清めてからだな」
「わかってる」
終始素直にアレクシスの言葉に頷くしおらしいセリオスに、アレクシスは苦笑して、抱き締めた腕はそのままに、傷の癒えた頭を撫でる。
「……お疲れ様、セリオス」
その温もりと、共に在る時の心地よさに――セリオスは瞼の奥に星海煌く瞳を閉ざすと、声には出さない甘い願いを、心の中に反芻した。
(「――けど、今はまだ少しこのままで」)
ぎゅっとアレクシスの着衣を掴む手の力だけが、素直に僅かに強まった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴォルフ・ヴュンシェン
「足を少し入れてみるか」
夏なら泳ぎたくなる冷たさだが、腹を隠す水着でもない限り泳がない…と無意識に自分の腹部を触っていたことに気づいて手を離す
思考を変えたいから砦を見る
(砦にいた先人もこういう風に水の中に足を入れていたかもな)
泳ぐ訳でもないし足を拭いたら花を見に行く
花好きの友達が好きそうな景色だから土産話にでも
淡紅に色づく花を見、先ほど話に出たサクラを思い出す
(どういう花か知らないんだが…似てるのか)
だが、ちょっと気になるな
グリモア猟兵のエリーカなら何か知っているかもしれないし聞いてみるか
「サクラってどんな花か知ってるか?
さっき知ったレベルなんだ」
知っていても知らなくても感謝を
「春はいいな」
せせらぐ湖の岸辺に立ち、ヴォルフ・ヴュンシェン(願う者・f13504)は微笑んだ。
「足を少し入れてみるか」
湖の底まで見える水の透明度の高さには、此処まで多くの猟兵達が足差し入れる姿を目にした。見つめていると、吸い込まれるよう――その魅力には抗えずに、ヴォルフもそっと素足で浅瀬に踏み込む。
夏ならば泳ぎたくなる冷たさだ。まだ春というこの時期でも、実際泳ぐ猟兵もいたようだが――腹を隠す水着でもない限り泳がない……と、無意識にその手が腹部に触れていると気付けば、ヴォルフは思考を遮る様に腹部から手を放し、足浸すままの湖から山林の砦を見遣った。
木漏れ日に照らされる山林の中、湖から見た朽ちた砦は全く砦と解る様相ではない。木片が散らばり、かろうじて何か建物が在ったとうかがわせる程度の景色――そこに確かな歳月は感じても、湖底に沈んでいた木の舟なども思い出せば、嘗て此処に人が立ったと、感慨深い気持ちにもなって。
(「砦にいた先人も、こういう風に水の中に足を入れていたかもな」)
美しい顔立ちに自然浮かぶ笑みを隠さず、ヴォルフは静かに瞳を伏せた。
瞑目すれば、ふわりと鼻腔を甘い香が擽って、視界に認める景色よりも、今が花の盛りだと主張するようだった。だから再び瞳開くと、ヴォルフは湖から出でて、花咲く道を歩き始める。
花好きの友人が聞いたら、喜びそうな春の世界だ。土産話になる様にと、一つ一つ景色を飾る色彩を目に留めながら――進む前をふわりと淡紅の花弁が横切った。
湖岸沿いに、無数並び立つ淡紅の花咲く樹。この世界の『サクラ』なのだと、誰かが言うのを先ほど聞いた。
(「どういう花か知らないんだが……似てるのか」)
この一面の花世界に、華美なこともなく、かといって決して地味でもなく咲き誇る不思議な花。儚さすら帯びて舞い散る花弁は触れれば柔く、見つめていると華やかさの中に不思議と切なさまで内包するようで――その魅力を理解すれば、サクラとはどんな花なのか、その興味は尽きなくて。
「ちょっと気になるな……」
「……何か悩み事でも?」
突如後ろから届いた声に振り向けば、エリーカがそこに立っていた。今日を導いたグリモア猟兵である少女――彼女なら何か知るかもしれないと、ヴォルフは試しに問うてみる。
「いや……ちょうど良かった、エリーカ。サクラってどんな花か知ってるか? さっき知ったレベルなんだ」
「……桜? 私も、その名を知ったのはグリモア猟兵――世界の渡り人になってからのことだけれど」
エリーカは語る。各世界毎、様々な花が存在するけれど――特にエンパイアやUDCアースで、春を彩る様に時を同じくして一斉に咲くピンクの樹花があるのだと。
「この淡色を『桜色』とも表現するくらい、民に馴染んで愛されている花の様よ。……此処の花弁は、それらの世界のものよりは少し紅が強く出ている様に思うけれど」
「そうなのか。ありがとう、……美しい花だ」
笑んで礼を告げたヴォルフが、再び視線を淡色の花へと送る。見上げるその視線を追って、エリーカもまた樹花を見上げた。
「そうね。……華やぎの季節を教えてくれる花、か……」
エリーカの呟きに、ヴォルフもまた頷いた。――続けた言葉は、まるで今日のこの美しき世界への感謝の様に花弁舞う空へと溶けていく。
「――春はいいな」
脅威去ったこの山に、この温かな季節がこの先も巡る様にと――そっと、願った。
大成功
🔵🔵🔵
蒼城・飛鳥
うぉおおお、こいつは本当に絶景だな…!
よし、ここは有言実行!
ツンデレ美少女、もとい、エリーカ嬢をデートに誘ってみせるぜ!
そこの美しいお嬢さん、俺とデートしてくれませんか?(キリッ)
(どんなに冷たい対応でも握りこぶしで感動し)
…くっ、なんというツンデレ…!
ごほうびは確かにいただいたぜ…!!
…なんてな
一人ではしゃぐのもつまんねーし
良かったら付き合ってくれよ
勿論、大勢でも大歓迎だぜ!
折角だし、散歩しながら花や湖の風景を楽しむか
(ちょうどいい枝ぶりの桜?の樹を見つけたら)お、いい感じだな
登ってみよーぜ!
へへ、花が近いな
風も気持ち良いし、絶景だぜ!
あ、馬鹿は高い所が好きだとか思ってるだろ!?とほほー
「うぉおおお、こいつは本当に絶景だな……!」
蒼い空の下に広がる光と花の世界に感嘆の声を上げながら、蒼城・飛鳥(片翼の鳥は空を飛べるか・f01955)は道の先、樹花を見上げるエリーカの背中を見留める。
(「よし、ここは有言実行! ツンデレ美少女、もとい、エリーカ嬢をデートに誘ってみせるぜ
……!」)
飛鳥とエリーカ、顔合わせるのはこれが二度目だ。幾分表情をキリッとさせて、飛鳥はエリーカの背へと声を掛ける。
「――そこの美しいお嬢さん、俺とデートしてくれませんか?」
「……え、私? あら、貴方確か……」
突然のことに目を丸くするエリーカは、記憶の中に飛鳥の姿を見つけたか、あの時の、と小さく呟いた。――しかしやがて。エリーカの紅蓮の瞳が、すう、と半分まで細められる。
「……女性を誘いたいのなら、先ずは名乗ることから覚えるべきね。それから、お顔が引き攣っているわよ? 三十点、と評価させていただくわ」
釣れない様子で顔を背けるエリーカの言葉は、エスコート初心者の飛鳥には中々に辛辣だ。うっと言葉突き刺さる胸元を押さえた飛鳥だが――続いたエリーカの言葉を聞けば、一気にそのテンションが元以上まで跳ね上がる。
「……まぁ、らしさを失する多少の無理をしても声を掛けた、その行動力は評価するけれど」
えっ、と顔を上げたそこには、顔を逸らした少女の頬が少し紅潮しているのが見えた。飛鳥はくるり、一度エリーカに背を向けると、握りこぶしを震わせて、ガッツポーズで感動する。
「くっ、なんというツンデレ……! ごほうびは確かにいただいたぜ
……!!」
「え? 何? ……貴方、一人で忙しい人ね」
飛鳥の様子に困惑して、エリーカが思わず呟くと――素に戻った少年は、はは、と人懐っこい笑顔を浮かべた。
「なんてな。悪い、俺は蒼城・飛鳥ってんだ。一人ではしゃぐのもつまんねーし、良かったら付き合ってくれよ」
「――エリーカ・エーベルヴァインと申します。お誘い、感謝致しますわ」
スカートの裾を掴み、淑女の礼で応えたエリーカは、飛鳥に伴い歩き出した。風景楽しむ道の先、飛鳥は枝ぶりの良い淡紅花の樹を見つけると、ぱっと瞳を輝かせた。
「お! いい感じだな。登ってみよーぜ!」
「え? 登るって……」
驚くエリーカの言葉を待たず、ひょいひょいと軽やかに桜の木を登った飛鳥は、無数に咲く小さな花の中から、エリーカを見下ろし笑顔を見せた。
「――へへ、花が近いな! 風も気持ち良いし、絶景だぜ!」
その無邪気な様子に、エリーカは一瞬瞳を輝かせるが――やがてはっとしたように頬赤らめ、拗ねた様な顔をぷい、と背けた。
「あ、馬鹿は高い所が好きだとか思ってるだろ!? とほほー」
「呆れているだけよ。……デートと誘っておきながら、一人で楽しそうですこと」
その言葉に、飛鳥はふむ、と口元に手を当て考えたのち、すっとエリーカへ手を差し出した。
「……何?」
「ほら。手。引き上げてやるからさ」
「……私、スカートなのだけれど」
「この辺他に誰もいねぇし。ほら」
にこっと明るい笑顔で誘いの手を差し出す飛鳥に、エリーカも次第に毒気を抜かれる。
「……仕方ないわね、どうしてもって言うなら、付き合うわ」
少し溜息交じりに、笑って。でも、結局言葉は素直になれない少女の手が、樹上へと引く飛鳥の手に重なった。
大成功
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アウレリア・ウィスタリア
水辺を歩きつつ歌を歌いましょう
ボクは暖かな日差しの指すこの世界が好きです
この世界に来るといつも思う
この暖かな日差しをボクの故郷にも……と
こんな暖かな日差しがあれば
きっと争いのない穏やかな日々を得られるのだろうと
だからこの世界には平和で穏やかな日々を届け続けたい
いつかこんな穏やかな日々をあの世界に届けるために
仮面をはずし日差しと風を一身に浴びて歌い踊ろう
真に平和とは言えないのかもしれない
それでも、この世界の穏やかな日々を祝福して
一時の休息を楽しもう
アドリブ歓迎
――歌声が、響いていた。
アウレリア・ウィスタリア(瑠璃蝶々・f00068)。ロベリアの色彩を纏うその姿こそが花の様な美しい少女は、水辺の道を歩きながら、花が春を謳歌する世界を祝福する様に美しい歌を奏でていた。
(「ボクは暖かな日差しの指すこの世界が好きです。この世界に来るといつも思う
。この暖かな日差しをボクの故郷にも……と」)
猟兵として様々な世界を渡る様になり、こんなにも光満ち輝く世界の在ることを、アウレリアは初めて知った。こんな暖かな日差しがあれば、きっと争いのない穏やかな日々を得られるのだろうと――思うほど、故郷の空の暗さには、果てない悲しみを胸に覚えることもあるけれど。
(「――だからこの世界には、平和で穏やかな日々を届け続けたい。……いつかこんな穏やかな日々を、あの世界に届けるために」)
今美しいこの世界が、永劫に輝き続けるものである様に。歴史を紡いで生きる人達が、これからも幸せな笑顔である様に――願う少女は、歌う最中にそっと胸へ手を当てた。
心開いて紡ぐ歌声に、もっともっと日差しと風を。世界の光を――思えば、アウレリアはそっと顔に当てる仮面を取ると、その繊細な顔立ちを美しき世界へ晒し、ふわりと背の羽、足を覆うヴェールを翻して光の中に舞いを披露する。。
ユーベルコード、『空想音盤:愛(イマジナリーレコード・シングマイラブ)』――生きとし生けるものへ捧ぐ、命を癒す清らかな歌。
ひらりと、躍る足が湖の浅瀬へ踏み込んだ。ぱしゃ、ぱしゃん! と踏む度上がる水飛沫は、まるで舞いが世界と一体化していくかの様だ。
空に高く跳ねた雫はキラキラと陽光に煌いて、アウレリアの生み出す舞台をより華やかに仕立て上げる。吹く風は淡紅の花弁を浚い、それらはふわりと水面に落ちる前に、揺れる白黒の大翼によって空へと再び舞い上がった。
(「歌い踊ろう。真に平和とは言えないのかもしれない――それでも、この世界の穏やかな日々を祝福して」)
華やぎの世界の中に、歌声は渡る。どこまでも、遠く湖の果てまでも――絢爛の景色に彩り添えるその音色は、やがて山林の中、古き砦の元へも至った。
――そこは、至る道の険しさから今では人の寄り付かぬ、朽ち果てた山中の砦。
猟兵達の活躍で、古の砦には再び平穏と静寂が訪れた。あとはもう、朽ちて手の入らぬ砦は自然の中に身を任せ、その寿命を全うするのみ。
嘗ての人の生きた証は、時の移ろいの中次第にその痕跡を失うのだ。今日の猟兵達の歩みを最後に――此処は人の手を離れ、古から脈々と繋ぎ育まれてきた大自然の中へと還る。
――おやすみなさい。
光満ちた世界を願う、アウレリアの歌声はまるで子守歌の様。
やがて世界へ還る山塞は、歌と世界に見守られながら――ただ穏やかに、果ての時までの眠りについた。
大成功
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