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帝都櫻大戰㉑~サウダージの幻影

#サクラミラージュ #帝都櫻大戰 #第三戦線 #幻朧帝イティハーサ #ビームスプリッター


 ――世界型大魔術『スタアラヰトステエジ』。
 猟兵の味方となったエンシェント・レヰス『ビームスプリッター』が、幻朧帝の膨大な力を逆利用し生み出した、広大無辺な客席、舞台、そして舞台装置の広がるその世界が、第三戦の舞台のひとつなのだと、一ノ瀬・漣(Pour une infante défunte・f44080)は口火を切った。
「そこではね、想像力と表現力の続く限り、オレたちの戦闘力が無限に増幅していくんだって。……けど」
 そんな強い力が、なんのデメリットもなく得られるわけがないよね? そう続けた漣は、硝子越しの血色の双眸を僅かに伏せる。
「代わりに、その場に居る人は終わりのない幻想の空間に閉じ込められる。
 ……きみたちの個々に起こりうる“破滅の未来”か……もう失われてしまった“幸福な過去”の、どちらかに」
 最悪の未来か、最良の過去か。
 スタアラヰトステエジの舞台背景を構成する書割かきわりが勝手に変化し、そのどちらかの風景が極めてリアルに具現化される。
「どのくらいリアルかっていうと……そうだね。“今、まさに目の前で起こっているかのように”……って言えば、伝わるかな」
 思い当たる光景が浮かぶ者ならば、容易に察せよう。
 どちらの方が、など比較出来うるものでもなく――それに抗うことが、どれほどの困難を極めるのかを。

 次の言葉を選んでいるのか、漣は少し間を空けてから皆へと視線を戻した。笑みを見せ、鼓舞せんと明るいトーンに切り替える。
「幻朧帝イティハーサがどのくらい強敵か、ってのはみんなも知っての通り。
 でも、その幻影を強い心で打ち破れれば、そのとき生まれる強いエネルギーでイティハーサに傷を負わせられるよ」
 絶望に染む未来を、打ち破るために。
 未練塗れの過去を、振り払うために。
 奮い立たせた心の強さの分だけの、傷を。

「色んなものを乗り越えて、今ここに居るみんなだもの。きっと、大丈夫。……けど、祈らせて」
 ――どうか、無事で。
 その想いを紡ぎながら、漣は静かにグリモアを起動させた。


西宮チヒロ
こんにちは、西宮です。

帝都櫻大戰のシナリオをお届けにまいりました。

⚠️当シナリオ難易度は【やや難】となりますため、通常より厳しめの判定となます。

●補足
・1章のみで完結。
・短期運営を想定しておりますため、挑戦者数によっては全員採用できない場合もございます。
 (受付開始および〆はタグにてご連絡いたします)

●プレイング
・あなたにとっての「最悪の未来」か「最良の過去」および「それにどう抗うか」をご記載ください。
 ※幻影の中ですので、場所や時間帯、その他シチュエーションはご自由にどうぞ。
 ※幻朧帝イティハーサへの直接的な戦闘プレイングは不要です。
  その分、心情に全振りしたプレイングをいただければ幸いです。
・公序良俗に反する行為、未成年の飲酒喫煙、その他問題行為は描写しません。

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プレイングボーナス:
あなたの「最悪の未来」を描写し、絶望を乗り越える または
あなたの「最良の過去」を描写し、未練を振り払う
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●補足
今回は皆様にとって一際大切な過去/未来を描写することになりますため、
私の方で解釈に迷ったプレイングは採用を見送らせていただきます。
大変申し訳ありませんが、予めご了承願います。

●同伴人数
いずれも冒頭に【IDとお名前】か【グループ名】をご明記下さい。
今回はオーバーロードの使用有無問わず、「ご自身含め2名迄」といたします。
※オーバーロードは同伴者全員適用必須
※オーバーロードは極力全採用できるよう努めますが、お届けまで時間を要すると判断した際は流れる場合もあります。

皆様のご参加をお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『幻朧帝イティハーサ』

POW   :    天羽々矢 undefined arrow
【矢】を非物質化させ、肉体を傷つけずに対象の【生命】のみを攻撃する。
SPD   :    征服せし神鷹 undefined falcon
【神鷹】による超音速の【飛翔突撃】で攻撃し、与えたダメージに応じて対象の装甲を破壊する。
WIZ   :    歴史を見る骸眼 undefined eye
対象の周りにレベル×1体の【滅びし歴史上の強者達】を召喚する。[滅びし歴史上の強者達]は対象の思念に従い忠実に戦うが、一撃で消滅する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​
神夜・未来
幻朧帝イティハーサね…どんな奴だろうと
諸悪の根源はぶちのめすだけよね。
私の未来の火が幻朧帝を撃ちぬく光景を想像して
それを表現するだけの力を高めるわ。

その間に映し出される『最悪の未来』。
想像したくないけれど、リアルに思い浮かんでしまうわ。
オブリビオンに敗北し、多くの命が蹂躙され
失われていく様を何度も見せつけられるわ。
灼滅者でない私には何も出来ず、最後には闇堕ちした
少女の頃の母に首を絞められて終わりを迎えそうになるわ。

それでも猟兵としての意志は忘れず
涙を流し絶望に圧し潰されたとしても、
引き金を引く事だけは止めないわ。
舞台の幕は決して降ろさせない。
地獄まで付き合ってもらうわよ。

アドリブ歓迎



●ヴェルダージの魂
 不意に息が詰まり、神夜・未来(金色のミライ・f43869)は咄嗟に口を開いた。
 喉に掛かる圧は、人の手によるものだった。幼い未来を睨めつけながら、良く見知った顔が――母の顔が、闇に染まる。
「かはッ……」
「――、――」
 遠のく意識のなかでは、母の言葉さえも未知のものに聞こえた。
 なにかを告げたのだろうか。それともただの幻聴か。すぐ眼前に在るというのに、唇が動いたか否かすらも、少女の身のまま抗う術を――灼滅者の力を持たぬ未来には分からない。
 透いた夜を思わせる美しい青い双眸が、今や狂気を滲ませながらかがやく。堕ちてしまった母の後ろでは未だ、無数の命が幾度も、幾度も、蠢くオブリビオンの群れによって蹂躙される光景が終わることなく続いている。
 喉にめり込むほどの指の力に、耐えきれず目眦から一筋の涙が零れた。
(最悪、なんて……良く言ったものだわ)
 想像すらしたくなかった。
 そうならないよう、全力を賭してきた。
 ――だのに、
(幻朧帝イティハーサ、ね……)

 ――最早世界を創るのに、新たな『未来』など必要ない。
 ――新世界は、これまで形作られた『過去の断片』を組み合わせるだけで、容易に作り出せる。

 歴史を意味する名を持つ帝の言葉が脳裏を過ぎり、不要だと棄てられた名を持つ娘が歯を食いしばる。
(まだ……まだ、失くしてないわ……)
 呼気もろとも命を圧し潰さんとする力でも、心を絶望で塗りつぶさんとする光景でも、わたしの“炎”を消せやしない――!
 だらりと垂れ下がった腕に、指に、力を込める。
 まだ、手の裡には残っている。
 私の愛銃が――未来の耀きが。
「……どんな奴、だろうと……諸悪の、根源は……ぶちのめすだけよ……!」
 今一度、魂が震える。命の熱が灯る。
 不思議と、息は苦しくはない。
 トリガーに指をかけたまま、未来はゆっくりと愛銃を構えた。あの優しい微笑みを忘れた母の――否、その先に見える歴史イティハーサへと、照準を合わせる。
「舞台の幕は、決して降ろさせない……地獄まで付き合ってもらうわよ」
 未来の唇が弧を描くと同時。
 昏き世界に一閃、金色の光条が迸った。

成功 🔵​🔵​🔴​

夜刀神・鏡介
見える光景はいつかの未来
戦い続けた果て、神刀の代償によって身体が神器と成り果てる
――死ぬのではなく、自我を失って彷徨う姿

既に左腕は完全に神器となっている。他の部位も変異しつつある
例え神刀を手放したとしても、最早止まる事はないだろう
幾らか寿命は伸びるかもしれないがね

……最悪の未来とは言うが、そういうのは予想していないからこそだろ?
そういう意味で、この光景は――実は、それほどでもない
最初に神刀を握った時から、ずっと覚悟していた

死への恐怖や、身体が変わっていく事への忌避感はもちろんある
それでも俺は、前に進むんだ
それが俺の生きるということだから

それと、イティハーサの奴を否定してやりたいからな



 舞台のライトが一際強く光った、その一瞬。
 唯一度だけ瞬いたその刹那に、夜刀神・鏡介(道を貫く一刀・f28122)の世界が変わった。
 何処かも分からぬほど、荒廃した暗夜。その闇に、一筋の光が過ぎる。
 其は何かなどと、問うまでもない。
 これまで幾度も見てきた、己が腕で振るってきた、それは神刀の耀きだった。真に斬ると定めたものを、因果と法則を越え絶ち斬る刃が今、鏡介の視界に広がる爛れた戦場を彷徨っている。
 瞠目し、息を飲む。目を逸らせぬまま、男は刀を見つめていた。当て処もなく浮遊する姿は、惑っているようでもあり、狂っているようでもあった。
(……これが、いつかの未来か……)
 あれは、来たるべき日の己の姿。
 とうに分かっていたことだ。神刀に選ばれ、闘い続けるなかでその力を振るい続けていれば、いつしか身体全てが神器と成り果てるのだと。
 ――至る先は死ではなく、自我を失いただ彷徨う存在となるばかりだと。
 既に今も、その片鱗は現れ始めている。左腕は完全に喰われ、ほかの部位も変異しつつある。こうなってしまってはもう、今更神刀を手放したとてその進行を止めることはできないだろう。精々、幾許かの寿命が延びる程度だ。
 それでも、男は一歩、踏み出した。静かに、ゆっくりと歩を進めながら距離を詰め――神刀を前に、僅かに口角が上がる。
「……最悪の未来とは言うが、そういうのは予想していないからこそだろ?」
 想い描きもしなかったからこそ、現実となった光景に絶望する。
 だからこそ、この未来は客観的に見れば絶望と言えるが、男にとっては絶望たり得るものではなかった。
 既に、覚悟なぞ済んでいる。――神刀に選ばれ、そしてこの力を振るうと決めた、あの日に。

 意志を失くして茫洋と彷徨う神刀へ手を伸ばし、再び柄を握る。
 途端、死への恐怖と、身体の変異への忌避感が一層強く湧き上がった。
 だが、鏡介は唇で弧を描く。
 闇を、戦場を見据え、刃を構える。
 これが、己にとっての生き様だから。
 ――それに、
「イティハーサの奴を、否定してやりたいからな」

 何時どんなときも。
 生命が在ってこその、世界なのだと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

近江・永都
※アドリブ歓迎

失われた幸福な過去
それは竜宮の玉手箱と出会う前
僕の体はまだ若者で、ごくごく普通の大学生であった頃

現れた光景は、通い慣れた大学のキャンパス。
あの頃の僕は文学部のゼミと、バイト先の飲み屋と、
始めたばかりの写真部の部室を行ったり来たりの毎日だった。

友達とくだらない話で盛り上がって、
締め切り間近のレポートに頭を抱えて、
同級生の女の子の事がちょっと気になっていたりもして。
それなりに騒がしく、とても穏やかで平和な、
世界結界に覆われた、小さな小さな世界。

何も知らないあの頃に戻れたらとは今でも思います。
でもあの平和の裏側では、あの時の僕より年若い子供達が命を懸けて戦っていた。
助けられた僕は老体を抱えて、
見えざる狂気の狭間からただ見守る事しか出来なかったけど、
それでも彼らの戦いをこの目で確かに見てきたから、
その全ての先にある今もまた大切に思っているのですよ。

だから過去の世界とはさよならです。
でもそうですね。
カメラなんてもう長く手にした覚えがなかったけど、
また初めてみるのもいいかもしれません。



「永都ー! 昼飯行こうぜ! 俺腹減ったぁ!」
「あっ、近江じゃん。丁度良かった。部長が5限終わったら部室暗室集合だってさ」
「近江くん! ごめん、あとで藤巻先生の課題レポートちょっと見せて貰えないかな? 参考にしたくて――」

 若者で賑わうキャンパス。
 窓から差し込んだ春の陽に包まれた廊下を行き交う、学生たちの声。
(ああ……これは……)
 ――とうにこの手から離れてしまった、幸福な過去あのころ
 メガリスなんぞ知らぬ、ごく普通の大学生だったころの風景だ。

「なぁ、永都。帰りに駅前のラーメン屋行かね? 新作メニュー出たんだってさ」
「ごめん。今日は夜バイトがあって……」
「そっかー。じゃあまた今度な。にしても、飲み屋のバイトってキツくね? 部活もあんだろ?」
「確かに、ちょっと厄介なお客さんがいたりもするよ。……でも、すごく充実してるんだ」
 眼鏡の奥の双眸を細める自分に、堪らなく胸が締めつけられる。
 そう、あのころは満ち足りた日々だった。
 毎日のスケジュールは、文学部のゼミと、バイトと、始めたばかりの写真部の活動で埋まっていて。締切間近のレポートに頭を抱えたり、バイトも写真も覚えることが山ほどあった。
 それでも、初めての世界はどれも燦めいていたし――同級生に、すこし気になる女の子もいた。
 気の置けぬ友人たちと、くだらない他愛のない話で馬鹿みたいに盛り上がって。変わらない、けれど当たり前のようにゼミに出て、バイト先に行き、写真の技術を習った。
 それなりに騒がしくて、それすらも穏やかで平和だと思えるほどの、ちいさなちいさな世界。
 ――世界結界に覆われた、護られていた、僕の日常。

(……そうですね。今もまだ、思いはしますよ)
 何も知らぬあのころに戻れたら、と。
 けれど、永都は知った。世界に隠されていた“現実”を。当たり前のように享受していた平和は、自分よりも若い子供たちが命を賭して闘った結果、もたらされていたものだと。
 海で遭難し、再び目覚めたとき、背に触れる何か――竜宮の玉手箱を手に取ってしまってから一変した人生。
 そこで自身を助け出してくれたときも、その後も、己は唯々見えざる狂気の狭間から彼らを見守ることしかできなかったけれど――それでも。
(……みんなの姿は、この目で確かに見てきましたから)
 彼らが生きてきた、死と隣り合わせの青春。
 そのすべての先に在る“今”もまた、何にも代え難い大切なものだから。
 敢えて、永都は離別の言葉を紡がなかった。
 唯、嘗てあった光景を映していた眸を、ゆっくりと閉じる。
 次に瞼を開いたときはもう、そこに在るのは現実の――漸く立てた、彼らと同じ闘いの場だろう。
 だからこそ、想う。
(カメラなんてもう長く手にした覚えがなかったけど……また、始めてみるのもいいかもしれません)
 ありふれた、けれどかけがえのない貴重な日々を、彩るために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ステラ・バールフリット
ちょっと前のアレ幻朧封じの儀は語るだけで気楽でしたが今回は最良の過去美しい想い出を打ち破らなければならないのですか
今はグリモア猟兵ですから粉砕可能な事件最悪の未来など恐れるに足りませんが過去は厄介です
さて、何が出ますことやら

……っ!
ここは青色の湖上!?
箒に乗って……隣には叶……!
あぁ……その笑顔、将来へ向けて楽し気な談笑……
ここで一歩踏み出していれば大戦後に叶の一番近くに立っていたのは私だったかもしれない
いっそ奪ってしまえば……
叶と呼びたい
この手で、全身で、叶を抱きしめたい
しかし、私の手は同胞の血にまみれている
ダークネスというだけで多くを手にかけもした
こんな手で叶の手は握れない

だからあの日と同じ会話を
もはや変えられぬ過去未練を、この瞬間を思い出に納めて振り払う

……さすがは多智花様、ご慧眼ですね
私の小細工などお見通しでしたか
あの防水ケースが多智花様の一助となれば幸いです

美しい夢を否定しておいてこれでは白い蝶フラウ オンブラに何を言われますことやら



「……ラ、ステラ、おーい?」
「っ……え?」
「? どーした?」
 振り向きながらきょとんとした金の眼差しで見上げる少年に、ステラ・バールフリット(Reizend Zauberin魅力的な魔女・f44391)は一瞬息を飲んだ。
 眼下、いや視界全体に広がるのは、凍てつきながらも清々しい、冬の朝空めいた優しい青。ほんのりと緑の混ざる透いたその湖面の上空を、己が箒に乗ってふたり、ゆっくりと遊覧している。
(……やはり、そちらで来ましたか……)
 先日の幻朧封じの儀は、語るだけであったから気も楽だった。
 それに対し今回は、些か打ち破らねばならないハードルが高いやもしれぬと思ってはいたが、そうは言っても今やグリモア猟兵でもあるステラにとっては、粉砕可能な事件最悪の未来は畏れるほどでもなかった。
 厄介なのは寧ろ、最良の過去美しい想い出。なれど、怯み歩みを止めるという選択肢は魔女にはない。
 だからこそ、この光景が再現されることも、心のどこかでは察していたのかもしれない。
「大丈夫か?」
「ええ。申し訳ございません、すこし考えごとを」
「そっか」
 良かった、と言外に含みながら安堵の笑顔を見せると、少年――叶は再び周囲へとカメラを構えた。
「次はあっちの方、いーか?」
「はい、参りましょうか」
 10年前と同じ会話を交わしながら、何事もないかのようにステラは箒を旋回させた。心中の想いなぞ、今も――あのときも、彼は知る由もあるまい。
 心の奥底に眠っていた、後悔の残滓。
 ここで一歩踏み出していれば、かの大戦後に彼の一番近くに在ったのは自分だったかもしれない。
 ――いっそ、奪ってしまえば。
 過ぎった想いを、即座に否定する。
(私の手は……同胞の血に塗れている。それに、ダークネスというだけで多くを手にかけもした……)
 叶、と。
 その名を呼び、全身で抱きしめたい。その衝動に駆られて伸ばしかけた手を、ステラはどうにか引き留めた。
 こんな手で、どうして彼の手を握れようというのか。

 声を弾ませながらも、ファインダーを真剣に覗く少年の横顔は、あのころと何一つ変わらなかった。
 だからこそステラも、あの日と同じ言葉を返す。
 もはや変えられぬ過去未練を、この瞬間を思い出に納めて振り払う
「あの時の防水ケース代の返済、おれの誕生日プレゼントってことで、ステラたちが手伝ってくれたんだろ? だから、礼を言うならおれの方だ」
 はにかみながら「ありがとな」と添える叶へ、ステラもまた眦を緩めた。
「……さすがは多智花様、ご慧眼ですね。私の小細工などお見通しでしたか」
 あの防水ケースが、多智花様の一助となれば幸いです。
 その本心の言葉で、残る想いの欠片を――そっと、砕く。
 ステラの言葉を受けて笑みを深めた叶の姿が、音もなく静かに白へと還ってゆく。
(美しい夢を否定しておいてこれでは、白い蝶フラウ オンブラに何を言われますことやら……)
 裡でひとつ息を吐きながら魔女は、その光景を最後まで見送っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雷陣・通
【雷桜】

過去:誰かのために走る八重を眩しそうに見ている自分

「しまった!? 八重! どこだ」
一緒にいるはずの彼女の姿が居ない
やられた!
となると

「……やはりそうだよな」
目の前にいたのは誰かのために走る巫女服姿の少女
その誰かのために伸ばす手が眩しくて惹かれていったその姿
「あいつのそういう走っていく姿が眩しかった」
遠目で眺めて呟く
けど、その姿は俺の見た姿であって
かつて俺が憧れた姿。今の俺が知る八重は、俺と一緒に走ってくれる八重だ!

だから聞こえるんだ!
「例え幾万光年離れていようが俺を呼ぶ八重の声が!」

強者たちを電撃で蹴散らし
隙を突いての『雷迅桜』
そして八重の元へ

「悪ぃ待たせたな――八重」
目の前にいるただの女の子を受け止めその手を取る
過去、誰かのために走ったこいつが現在、俺と一緒に走る未来の為に

「行くぜ、雷流星」
紫電のオーラを纏い流星が彗星を守るようにバレルロール!

三十六世界を跨いだ手を舐めんじゃねえ!
俺は八重と一緒に世界を
「護るんだーーーーーー!!!!」


御桜・八重
【雷桜】

未来:自分を拒絶する通。

「あれ……?」
一緒に転送されたはずの通くんがいない。
ぞくり、と嫌な予感に体が震える。
最悪の未来って、まさか……

現れたのは通くん。
その目は冷たくわたしを拒絶している……!

誰かの助けを求める手を掴むために、何時だって頑張って来た。
一人で突っ走ってきた道だけど、辛い時、大変な時、
いつの間にか彼が一緒に走ってくれていた。
わたしが助けて欲しい時、彼の手はいつもそこにあった。

でも、目の前の彼は、もうわたしの手を取ろうとしない。

幻とわかっていても感覚は極めてリアル。
「そんなはず……ないっ。でもっ…!」
絶望に沈みかけた心が、抗うように強く祈り、叫ぶ。
「通くん!!」

彼がそこにいた。幻じゃない
涙を堪えながらしがみつく。

「行くよ、通くん!」
通くんと並んで桜彗星を発動。
いつもより強力なオーラの護りは神鷹の突撃くらいじゃ破れない!

幻朧帝、わたしたちは弱いよ。
でもね、だからわたしたちは支え合って生きているんだ。
これからも誰かの手を掴むために、わたしは走る。
通くんと一緒に!!



 暗転したのも一瞬。
 切り替わった景色に、傍らにいるはずの存在がいないことに気づいた雷陣・通(雷轟一閃・f03680)は、反射的に叫んでいた。
「しまった!? 八重! どこだ」
 やられた! と心中で舌打ちをする。となれば、自ずと導き出される答えがある。
 ――これは、最良の過去だ。
 遠く眼前に現れたのは、いつしかの懐かしい姿。
 いつだって誰かのために駆けていた、巫女服姿の御桜・八重(桜巫女・f23090)。
「……やはりそうだよな」
 またひとり、助けるべき相手を見つけて、その細い腕が伸ばされる。
 どうしようもなく眩しくて、惹かれて――目が離せない。
「あいつのそういう走っていく姿が、眩しかった」
 誰へともなく独り言ちる。
 だが、それはかつて己が見つめていた、憧れた姿でしかない。
 ほかの誰でもない、自分自身がそれを一番良く知っている。
(そうだ……今の俺が知る八重は、俺と一緒に走ってくれる八重だ!)

「――通くん!!」

 現実味を帯びながらも揺らぎ始めた光景のなか、確かに響いた声。
 良く通る澄んだそれが、聞き馴染んだ愛しいそれが、まるで抗うように、強く祈るように鼓膜を震わせる。
「八重……!!」
 気づけば地を蹴っていた。どこぞから湧いて出た強者たちの群れを電撃であしらい路を作りながら、一声に飛びかかられるよりも一拍早く、通が高く跳躍する。
 信じているからこそ、逃すことはない。
「例え幾万光年離れていようが、俺を呼ぶ八重の声ならな!」
 叫ぶと同時、男の姿が忽ち消えた。

 ✧   ✧   ✧

「あれ……?」
 直ぐさま異変に気づいた八重は、息を潜めながら視線を巡らせた。
 暗転したのち、僅かに光を取り戻しつつある光景は、未だ茫洋として定かではない。だが、一緒にいたはずの片割れがいない。
(最悪の未来って、まさか……)
 嫌な予感が、無意識に身体を震わせる。瞬間、強い視線を感じた八重は、そちらへと弾けるように顔を向けた。
「通、くん……?」
 じわりと明るくなり始めた光景に在るのは、確かに通の姿だった。背丈も、顔も、服装も、どれもがいつもの彼を象っていた。
 ――その視線以外は。
「違う……違う……!」
 凍てつくような眼差しに、娘は知らずと声を震わせ零していた。熱血さを秘めた緑の双眸はなく、明らかな拒絶を孕んだ射貫くような視線に、無意識に結んだ唇をちいさく戦慄かせる。
 助けを求めんと伸ばされた手を掴むために、いつだって走り続けてきた。
 その路はいつも独りだったけれど、辛く挫けそうになったときは、気づけば傍らで彼が一緒に走ってくれていた。
 助けて、と。わたしが手を伸ばした先には、いつだって彼の手があったのに。
「そんなはず……ないっ。でもっ……!」
 でも、眼前の通はもう、わたしの手を取ろうとしない。取ってはくれない。
 幻影だと、頭では分かっている。それでもこの拒絶感が、肌を伝って心を見る間に浸食していく。
 身体が、唇が震え、声が上手くでない。絶望が視界を、思考を埋め尽くす。それでも、諦めたくはない。堕ちたくはない。手放したくはないのだ――その手を。

「――通くん!!」
「……悪ぃ。待たせたな――八重」
 すべてを振り払いたくて叫んだ声の残響に、欲しかった声が重なった。心を震わす、大切なひとの声が、娘の名を紡ぐ。
「通くん……!」
 無我夢中で伸ばした手に、通の掌が重なった。そのまま腕のなかに飛び込む八重を、通も確りと抱き留める。
 確かに伝わる熱に、幻ではないことを知る。不意に込み上げた涙を堪えながら、震える身体のまま娘はその腕にしがみついた。
 今、通が抱きしめるのは、ひとりのただの少女。
 これまで、誰かのために走り続けた――そして、今は共に走る唯一の存在。
 もう大丈夫、と零れた囁きののち、再び見せた八重の顔は晴れやかだった。
「行くよ、通くん!」
「ああ――行くぜ、雷流星」
 肩を並べたふたりの前に最早幻影はなく、現実の光景が鮮やかに浮かび上がる。
「幻朧帝、わたしたちは弱いよ。……でもね、だからわたしたちは支え合って生きているんだ」
 告げながら纏うのは、乗り越えた強さを秘めた桜色のオーラ。
 それは、決して神鷹の突撃なぞでは破られぬ絆。
「これからも誰かの手を掴むために、わたしは走る。――通くんと一緒に!!」
 言わずとも知れた、阿吽の呼吸。
 八重と同時に飛び出した通もまた、力強く飛翔した。身を翻しながら螺旋を描き、紫電のオーラで軌跡を描きながら、桜の燦めきを纏う八重を――彗星を護る流星の如く、一足飛びに間合いを詰める。
「36世界を跨いだ手を舐めんじゃねえ!」
 共に繰り出すこの一撃は、共に歩む未来のため。
「俺は、八重と一緒に世界を……護るんだ――――!!!!」
 意志ある咆吼と2色のオーラが、戦場一帯を震わせながら一際大きく爆ぜた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

戒道・蔵乃祐
◆最悪の未来
敵も味方も男も女も老いてようが幼かろうが関係無ぇ…
何奴も此奴も殴り殺す
何のための技か、誰のための拳か、そんな思索に何の意味がある?
目障りなら殺すし興が乗っても殺す。それが暴力の本質だ!!俺が俺である証左だ!!


たとえ僕の本質がそうだとしても、辿ってきた道は、繋がってきた絆は決して消えない。裏切らない
いつか倒されるべき悪鬼として討たれるならば僕はそれでも構わない
この拳は遍く人々を護るために、この技は力無き者の祈りを掬い上げるために
手折られることを免れた命の数々は、未来を創る、世界を回す

戦うことだけが取り柄の修羅道にも『報い『贖い』』はある
そう悲嘆に暮れることも無いんじゃないか?



 途切れた意識を紡ぎ直した先、俄に響いてきた音に戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)は瞠目した。
 それは、男も良く知る音だった。
 骨まで断たん勢いで、肉を穿つ音だ。聞くだけで分かる。今、眼前で殴られた男の腹はもう、肋の数本はやられているだろう。
 喀血した男をまるで肉の塊と言わんばかりに放った巨漢は――未来の自分は、次の獲物の胸ぐらを掴んだ。間髪を容れずに頬を殴り、鳩尾を突き、崩れ落ちたその背を強打する。

 ――敵も味方も、男も女も、老いてようが幼かろうが関係無ぇ……何奴も此奴も、殴り殺す。

 男の考えていることはさしずめ、そういった類いだろう。
 何のための技か? 誰のための拳か?
 そんな思索に何の意味があるかと強く問いかけんばかりに、闇雲に拳を振るう。その男の手が一度、止まった。ぎろりと光を帯びた双眸が、蔵乃祐を捉える。
「目障りなら殺すし興が乗っても殺す……それが暴力の本質だ!! 俺が俺である証左だ!!」
「……たとえ僕の本質がそうだとしても」
 そう、これは己の本質と言えるのかもしれない。
 どんな綺麗事を並べようと、心の何処かではそう思っている自分がいるのかもしれない。
 ――だとしても。
「辿ってきた道は、繋がってきた絆は……決して消えない。裏切らない」
 常にそこには、信ずるものがあった。正しいと思う路があり、交えた言葉が、想いがあった。
 だからこそ、蔵乃祐はもうひとりの己へと宣する。
「いつか倒されるべき悪鬼として討たれるならば、僕はそれでも構わない」
「なんだと……!?」
 飛びかからん勢いで一歩踏み出した男。だが、そこで動きを止めた。蔵乃祐の貫くような視線が、揺らがぬ意志を纏う覇気が、最悪の未来望まぬ可能性の動きを封じる。
「この拳は遍く人々を護るために、この技は力なき者の祈りを掬い上げるために。――手折られることを免れた命の数々は、未来を創る、世界を回す」
 其処に、己はなくとも良い。
 それでも屹度、未来は、世界は、命を紡いでいく。
 抗うことすらできぬまま消え始めた影へと、蔵乃祐は微かな笑みを向けた。
「戦うことだけが取り柄の修羅道にも、『報い『贖い』』はある」
 ――だから、そう悲嘆に暮れることも無いんじゃないか?
 その拳は、一度も掲げることはなく。
 悪僧の猟兵は唯、男の在った場所を見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

遠藤・修司
見せられるのは『最悪の未来』
とはいっても、別に落ちぶれたりしてるわけじゃない
寧ろ今よりも猟兵としても人としても上手くやれている
だってあそこにいる“僕”の中に、僕がいないんだから

人には向き不向きがあるから
僕が駄目なのは仕方ないって思ってたけど
“僕”達と一緒になって、そうじゃないって知った

他の世界の“僕”は、僕の癖に一角のことを成し遂げていて
その中には僕よりも酷い環境にあった“僕”もいた
僕が何をやっても上手くいかなかったし
今も何をしたらいいか、何をしたいか分からないのは
環境とか才能のせいでなく、単に僕が駄目だったというわけだ

他人なら仕方ないって思えるけど、相手が自分じゃどうしようもない
“僕”達に悪意はなくて、悪いのは僕しかいない
コンプレックスを募らせて、何もかも嫌になって
僕は身体を手放して他の“僕”達に全て委ねてしまったんだ

わからなくもないけどね
僕よりも賢くて強い“僕”が決めた方が
多分良い結果になるんだろう

ああでも、あれが最悪だって思える程度には
まだ僕は自分であろうと思ってるってことかな……



 なにをもってして“最悪”と呼ぶかは、その人の知見に寄るところが大きいだろう。
 この世に数多存在する可能性のうち、その一部しか知らない者とすべてを知る者とでは、自ずと見える未来も異なってくるからだ。
 その点で言えば、遠藤・修司(ヒヤデスの窓・f42930)という男は後者だった。
 アーティファクト『ヒヤデスの窓』に触れたことで、他世界の自分の姿を知るどころか、彼らとの意識を共有させられてしまった青年。
 そんな修司だからこそ、この光景は見えている――いや、見せられているとも言える。

 眼前で日々を過ごす自分は、猟兵としても人としても、今よりもずっと上手くやれていた・・・・・・・・
 周囲と協調し、主張と引き際を心得て、“社会”という枠組みに馴染んでいるその姿を唯漠然と眺めながら、修司はひとつ息を吐いた。嘆息ではない。人が生きていくために必要な、呼吸として。
 そういう未来があっても、なんら不思議ではなかった。
 この裡に在る無数の人格のなかには――平行世界に生きる別の“僕”は、僕のくせに一角のことを成し遂げた者も、逆に今の僕よりも劣悪な環境に在る“僕”もいる。ならば、落ちぶれずに上手に生きている“僕”がいてもおかしくはない。
 ただ、彼がそう・・だと言うのなら、明確なことがひとつだけある。

 ――あの身体なかに、この僕はいないということだ。

『人には向き不向きがある』
 生きた年数だけ聞き慣れたフレーズ。誰しもよく言う言葉だ。
 かく言う修司もまた、故に己が駄目な人間であるのは仕方のないことだと思っていた。――“僕”たちと身体を共有することになるまでは。
 今はもう、知っている。
 なにをやっても上手くいかないのも、今になってもまだ、なにをすべきか、なにをしたいのかが分からないのもすべて、環境や才能に起因することなぞこれっぽっちもなく、唯単に自分が駄目だっただけなのだと。
 それを突き詰めてしまうと、ああなってしまうのだろう。
 他者との比較であれば諦めがつくものも、相手が自分となればお手上げだ。僕よりも優れた“僕”たちに悪意はなく、すべての原因は己に返ってくる。
 その現実にコンプレックスを募らせ、なにもかもが嫌になり――そうして終ぞ、身体を手放した。修司は消え、ほかの“僕”たちにすべてを委ねてしまう。そんな未来。
(……わからなくもないけどね……)
 それはそうだ。
 自分よりも賢く強い自分が決断したほうが多分、屹度――良い結果になるのは明白なのだから。
 だが、あれ・・を最悪だと思えるということは、まだ己は自分であろうという意志があるということに他ならない。
 そう、つまりはこの光景が現れた時点で、結末は決まっていた。
 あとは、その意志を改めて見つめ直せばいい。

 この場で唯ひとりそれを知る男は、静かにそっと瞼を伏せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

彩瑠・翼
破滅の未来は
サイキックハーツの世界の父さん(f44030)と母さんから、オレが生まれない未来

猟兵に目覚めてから知ったこと
サイキックハーツ世界の、父さんと母さんの物語
あの世界の父さんのことを、オレは知ってる
上の姉ちゃんはもう生まれてるし、もうすぐ下の姉ちゃんも生まれるよ

でも、オレは?

まだ、オレは父さんと会ってないけど
同じ猟兵だから、いつかは対面するよね
その時、オレを見て父さんはどう思うのかな
もしいらないって思われて、そう言われちゃったら

(そんな一抹の不安が広がり映し出されるは”破滅の未来”
あまりにもリアルで、足がすくんでしまうけれど)

…ううん
(パン、と両手で自分の頬を叩いて)

オレは知ってるじゃないか
オレの世界の父さんが、オレに話してくれたこと
父さんが、母さんやオレ達をちゃんと愛してくれてることだって

世界が違っても、父さんは変わらず父さんだ
不安だからって動かないでいるのは違うよね
ちゃんと信じて、会いに行くんだ!

オレの鎧は破滅を打ち崩す光の鎧!
鎧で敵の攻撃を防いだら、希望の灯火で敵を切り裂くよ



 ――平行世界。
 似ていながらも異なるその世界の群れのことを彩瑠・翼(希望の翼・f22017)が認識・・したのは、猟兵に目覚めてからのことだった。
 別の世界にも自分がいて、両親も、きょうだいも存在する。
 縁とは不思議なもので、巡り巡って異世界の家族のことを――サイキックハーツ世界の父のことも、少年は知っていた。父がどうやって母と出逢い、過ごし、想いを重ねてきたのか。そうして今、どのように生きているのかを。
 だからこそ、一抹の不安が過ぎる。
 自分の世界の家族構成と同じように、サイキックハーツ世界の父の許にも長女が産まれ、次女ももうすぐ誕生するはずだ。
(……でも、オレは?)
 異世界の父のことを知っているとは言え、まだ対面は果たせていないし、なにより向こうがこちらを知らない。
 その状況でもし――もし、出逢ったとしたら?
(オレを見て、父さんはどう思うのかな……もし『いらない』って思われて、そう言われちゃったら――)
 不意に浮かんでしまった不安は、忽ち心を喰らった。スタアラヰトステエジの書割が見る間に変わり、別の光景を映し出す。
「っ……!」

 ――君が、僕の息子……? 本当に?
 ――息子、ね……。もう娘がふたり居るしな……これ以上は、考えてないんだよね。だから――、

 ――違うんじゃない・・・・・・・

「そっ……そんなこと……」
 己の世界の父と同じ声が、同じ顔が、拒絶する。
 サイキックハーツ世界には不要だと、躊躇いもなく口にする。
 五感すべてで受け取った光景はあまりにも現実味を帯びていて、翼は堪らず俯いた。涙を堪えて喉が痛み、身体が震えて足が竦む。
 瞬間、一際鮮烈な音が響いた。
 自ら叩いた頬が、じんじんと傷む。
「……ううん。オレは知ってるじゃないか」
 母や子供たちを、どれほど愛しているか。
 そう語ってくれた、実父の姿を。
 翼は大きく息を吐くと、ゆっくりと顔を上げた。そこにはもうサイキックハーツ世界の父の姿はなく、安堵と淋しさが綯い交ぜになったまま、それでもどうにか呼吸を整える。
 世界が異なろうと、父であることには変わりない。
(不安だからって、動かないでいるのは違うよね。……ちゃんと信じて、会いに行くんだ!)
 見つめていた拳を、強く握る。
 そこから生まれた光が鎧となって、忽ち少年の身体を包み込む。
「オレの鎧は、破滅を打ち崩す光の鎧! ――もう幻影は効かないよ、幻朧帝イティハーサ!」
 そう言い切った翼は、高速で向かい来る非物質化した矢を弾き返しながら、その希望の灯火で切り裂かんと大きく地を蹴って跳躍した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

浅間・千星
ここまで生きていたら、当然得たものも失ったものもある
失うのはいつも怖いよ
お気に入りのモノほど、壊れたら悲しいし
捨てるときは心が痛む

それは人も同じ
家族や友人、愛する人
心を傾けた分、別れは辛くなる

だけどわたしが一番恐れる『最悪な未来』は
わたしという命が消えること

舞台に映し出されたのは、オブリビオンだろうか
ヤツが放った非物質化した矢は、一瞬でわたしという生命を射抜いていった

エスパーは寿命以外では死ななくなった
だけどたったひとつ、わたしを消す術がある
それはオブリビオンのユーベルコード

地面に伏して
最期に聴くのが、愛する人の慟哭だったとしたら
最期に見るのが、愛する人の涙だとしたら
わたしは微笑んで『綺麗事』が言えるかな?

いや、無理だ
こんなところで斃れるわけにはいかない
キミには笑っていてほしい
一緒に生きたい!

右手を握れば、甲の傷跡が裂けて星の煌めきが溢れる
白髪銀目の『真の姿』に変身し、ロッドを支えに蹌踉めきながらも立ち上がって
『最悪な未来』を打ち破ろう

わたしの命はもう、わたしだけのものじゃないんだから…



 胸に受けた衝撃に為す術もなく、浅間・千星(Stern des himmels・f43876)の身体は地に伏すように崩れ落ちた。
 肌に触れた堅く冷ややかな床が、否応なしに熱を奪っていく。朦朧とする意識のなか、このまま死を迎えるのだと自ずと悟る。
(ああ……そうだ……これが、わたしの一番畏れていた“未来”……)

 大戦が終結し、灼滅者たちの選択によってエスパーとなった者たちにもたらされたもののひとつが、頑強な肉体であった。病気や怪我をもものともせず、彼らを終焉たらしめられるのは寿命のみ。
 ――だが、それも新たな敵“オブリビオン”の出現によって覆される。
 長く続くと思われた安寧は、たった数年で消え去った。それは、エクスブレインとして多くの仲間の背を見送ってきた千星においても例外ではなかった。
 無論、寿命という長き年月に比べればまだ序盤とも言えるものの、成人という節目を超えるほどの年月を生きていれば、得たものも失ったものも数知れずある。
 幾度繰り返しても、喪失は未だ慣れるものではない。
 気に入りのものほど壊れれば悲しみが胸に押し寄せ、棄てざるをえないときは心が軋み悲鳴を上げる。
 それは、人に対しても変わらない。家族や友人、愛する人――心を傾けたそのぶんだけ、離別は千星の裡に無数の痛みを生み、刻み込む。
 その最たるものが今、娘を襲っている。
 直前に見た光景は、舞台に映し出されたオブリビオンらしき姿。その腕が弓を引き、己を討たんと非物質化した一矢を放った。
 今なお胸を貫かれたまま、薄らいでゆく呼吸を堪えながら、娘はどうにか仰向けになった。最期に見る景色を、星なき昏い地面にはしたくはなかった。
 ――違う。
 それよりももっと、耐えられないものがある。
 ぼやけた視界でも分かる。遠のく意識でも聞き取れる。愛するひとが零す、大粒の涙。迫り上がる悲しみを抑えきれず、わたしの名を呼びながら慟哭する声。
 それを前にしてわたしはまだ、微笑んで“綺麗事”が言えるだろうか。
(……無理だ……絶対に、できない……)
 送り出すだけでは嫌だと、闘う力が欲しいと強く望んだではないか。
 そのための努力を、幾つも重ねてきたではないか。
 そのたびに、なにもなかった裡にひかりが灯り、すこしずつ星を増やしてきたはずだろう?
(……そう、だ……だから、わたしは……)
「わたし、は――こんなところで、斃れるわけには……いかない……」
 愁い嘆くその頬へ触れるように、天の星を掴むように、震えながらも伸ばした右手を、強く握る。

「キミには、笑っていてほしい……。――一緒に、生きたい!」

 瞬間、幼いころに追った甲の傷痕が割け、弾けるように星の燦めきが溢れ出した。眩いまでのひかりに、閉じかけていた蠍の灯を思わせる双眸に力が宿り――星めく銀のそれへと転じる。
 眠りし力が、四肢を巡る。艶やかな闇染む髪を天河のような白へと変えながら、手繰り寄せたロッドに身体を預けながら、娘は蹌踉めく足で立ち上がる。
「わたしの命はもう、わたしだけのものじゃないんだから……」
 だから、諦めない。
 闘うことを――生きることを。

 未だ眼前に在る、最悪の未来を見据えながら。
 千の星の名を持つ娘は、一等星の耀くロッドを掲げ、昏き戦場へと無数のひかりを降り注いだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都嘴・梓
なぁんだろ

んー…
最悪

“俺が邪神共に喰われる”とか?

まーあね?そりゃあワンチャン狙ってんでしょーよコイツら今まで喰った奴らもさ
…—で、
喰われるとそーなるワケだ?

纏わりつく触手に頭から顔半分を覆う花、猫耳尻尾にお供は竪琴の乙女
ひらひら周りを舞う青白い炎の蝶は目元も覆っている
覗く眼はぎょろりと赤い
…あー、うん
喰ったわ

どれもこれも喰ったものばかりがお行儀よく俺を喰っている
うへぇキモ
あーでも…こりゃあ随分豪華なパレード厄災ですことぉ

いやあこのまま出したらやべーよなやべーよ
始末書じゃすまねーっつか、あー、まぁどーせ中の俺なんかガワだろ?

—けど、随分旨そう
ふふ
さぁ、リバイバル再演といきましょう
最悪な最良を同時に平らげましょう

生憎ワタシの一番得意なことですから!UC
構いません!あぁ!さぁ!
歴史の胎よりよほどワタシの胎の方が安心するでしょう?
—何せ、アナタたちの“実家監獄”なのだから!
さぁさぁお家へ帰りましょう?鳴く烏は疾うに喰いましたが—…
ワタシの胎が鳴っている併用UC:悪食歎美



 顔半分を頭から花に喰らわれ、蠢く触手を身体に纏い、加えて茶トラ猫の耳と長い尾っぽ。その傍らに携えるのは、竪琴の乙女。
 目許すらも覆い隠すように、ひらひらと周囲を舞う蝶の群れ。その蒼白い炎の隙間から、昏く耀く赫い眼がぎょろりと此方を見た。
「あー……喰われるとそーなるワケだ?」
 存外同様することもなく、都嘴・梓(嘯笑罪ぎしょうざい・f42753)はへぇなるほど、と寧ろ感心すら覚えた。
 “最悪の未来”と言われて、思いついたひとつがこれ・・だ。
 これまで喰らってきた邪神共に、今度は己が喰われる結末。
(まーあね? そりゃあワンチャン狙ってんでしょーよ、コイツら今まで喰った奴らもさ)
 捕食すれば消化されて消滅する、などという単純な仕組みであれば良かっただろう。実際のところ、身体の処理的には・・・・・・・・そうなってもいる。
 だが、魂であれ怨念であれ、何かしらの残滓はこの裡に溜まり続けていた。無論、目に見えるものでもないが、彼らを取り込んだからこそ、“在る”のだと梓は知っている。
「……うへぇ、キモ」
 邂逅した記憶のある奴等が、雁首揃えて行儀良く自分の姿をしたものを貪っている様に、男は露骨な嫌悪を口にした。敢えて彼等にも聞こえるように言ってやったというのに、聞こえないふりをしているのか、はてさてその耳らしきものはやはり紛い物なのか、此方を見る素振りすらしやしない。
「あーでも……こりゃあ随分豪華なパレード厄災ですことぉ……って、いやあこのまま出したらやべーよなやべーよ」
 こんなものを表沙汰にしたものなら、始末書処の騒ぎでは到底済むまい。
 どうせ、中の“俺”なぞガワでしかないのだろうが。
「――けど、随分旨そう」
 他人ひとが美味そうになにかを食している姿は、見ている此方も食欲をそそられるのは自然の理と言っても過言ではない。梓にとってはこの光景すら、それに等しい。
 無我夢中で己を喰らう様子に、男は静かに喉を鳴らした。煮え立ち始めた水面のように、ふつふつと衝動が湧き上がり、弧を描いた唇から笑み声が洩れる。
 さぁ、リバイバル再演といこう。
 最悪な最良を、同時に平らげんがために。
「だってそれが――生憎、ワタシの一番得意なことですから!」
 一際良く通る聲とともに放たれた蜜馨の紋章が、忽ち蠢く邪神たちのすべてを捉えた。彩を得た梓の双眸にも同じ紋が浮かび上がり、そうして彼等もまた解を得る。
 ――再び、この男に喰われるのだと。
「構いません! あぁ! さぁ!」
 まだ残っていた“梓だったもの”をぼとりと地に落とした邪神の群れは、ゆっくりとした歩調で近づいてくる男へと一歩、また一歩と後退った。艶然とした笑みを湛えたまま、梓が言う。
「歴史の胎より、よほどワタシの胎の方が安心するでしょう? ――なにせ、アナタたちの“実家監獄”なのだから!」
 無論、邪神喰らい食通ならば、食べ零しも、ましてや食べ残しもいたしませぬ。
「さぁさぁ、お家へ帰りましょう?」

 疾うに喰ろうた鳴く烏をちらりと思い出した男の胎が、ひとつ鳴った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユウ・リバーサイド
グリモアベース?
つまり未来の方?

(漏れ聞こえる「カタストロフ」「UDCアース」「避難失敗」)
(父は…故郷は…俺が傷つけた人々は…?)
…っざけんな!
いくら幻想でも悪趣味がっ

(瀕死の有翼犬を見つけ)
…リンデン!!
海莉は!?

(グリモア猟兵ごと失敗したチームの話が聞こえ
一つ二つじゃない)

…海莉!?
先生!?
ミージュ!?
勇弥さん!?

(大切な猟兵達の姿を探す…無い)

(有り得ないとは言えない
これが戦争、敗戦だ)

俺、だけが
俺だけが…

(贖罪の誓いは、幸せを望む人々は…?)
(なんで死にたがりの俺が生きてて皆が!?)

(今度こそ俺が生きてる理由なんてどこにも)

…あ、る

(血を吐くように絞り出す
虚栄?痩せ我慢?)
上等だ
俺は役者だから)

海莉が
皆が
望んだから
おれに幸せになってと

だからこんな未来は壊してやる

(皆の笑顔を思い出す
今度こそ運命と差し違えたって折れない)

俺は諦めない
もう恐れない

(ガタガタと震える己の体をそれでも左腕で抱き
右手を硬く握り締め
この世の果てまで届けと声を張り上げる)

幸せになる未来のために生き足掻くんだ!



 見知った景色――即座に此処・・がグリモアベースと察したユウ・リバーサイド(Re-Play・f19432)は、つまりはこれは未来――それも最悪の――だと悟った。

『――……に襲われ、UDCアースは大混乱に……――』
『――これはカタストロフと――……前代未聞の……――』
『――の地域も……すべて避難失敗。別働隊も行方不明、上空からの救助隊は肥大甚大で、既に……――』

(カタストロフ? UDCアースってことは、父は……故郷は……俺が傷つけた人々は……?)
 警報の如く次々と入り鳴り響くアナウンスが耳に届くものの、詳細までは記憶に留められぬまま流れていく。呆然と眼を見開いたまま、ユウは苛立ちを抑えきれずに傍らの壁を拳で叩いた。
「……っざけんな! いくら幻想でも悪趣味が――」
 憤りを吐き出しながら、気づけば歩き――いや、駆け出していた。
 一言でグリモアベースと言っても、相応に広い。闇雲に走り回ったとして、なんになろうか。そんなことくらいはユウにも分かっていた。だが、じっとしてなどいられない。動かずにはいられなかった。
 なにかを、誰かを探して息を切らしながら走っていた視線の先に、横たわるちいさな背が飛び込んできた。レトリーバーを思わせる有翼犬のそばに落ちている、見覚えのある犬用の帽子に気づき、一気に駆け寄る。
「……リンデン!! 確りしろ!! 海莉は!?」
 優しく抱え上げるも、あんなにも艶やかだった毛並みは血に塗れて汚れ、開きっぱなしの口からは浅い呼吸が辛うじて聞こえるばかり。無理はさせられまいとそっと床の端へと下ろすと、ユウは再び当て所なく奔り出す。

『――……に続き、チームFも反撃失敗。グリモア猟兵以下10名、重体。現時点での死傷者は……――』
(失敗……? それも、1つや2つじゃない……!?)
 無慈悲な情報ばかりを伝えるスピーカーが、唯々途切れることなく基地全体へと発信を続けている。焦りばかりが湧き上がり、呼気が乱れるのも構わず、ユウは口を突いて出た名を叫ぶ。
「……海莉!? 先生!? ミージュ!? 勇弥さん!?」
 聲を張り上げながら虱潰しに探すも、大切な猟兵たちからの返事も、彼等の姿も何処にもなかった。絶望に塗りつぶされた思考のまま、徐々に速度が落ち――足を止める。
 こんな未来は有り得ない。
 そう言い切れたらどれほどに良かっただろう。
 猟兵であるからこそ、ユウも知っていたはずだった。これこそが戦争であり、敗戦というものなのだと。
「俺、だけが……俺だけが……」
 こうして五体満足で生き残っている。無意識に開いた掌が、どうしようもなく戦慄く。この止め処ない震えは怒りか、嘆きか。それすらも男には分からない。
 贖罪の誓いは。幸せを望む人々は。
 何故死にたがりの己がこうも無様に生き長らえていて、皆の命が危ぶまれなければならないのか。
(今度こそ、俺が生きてる理由なんてどこにも――)
 堰き止められぬほどの想いに塗れていたユウの思考が、止まる。
「……あ、る……」
 血を吐くように喉から絞り出した声が、雑然とした空間に零れた。
 虚栄だの痩せ我慢だの言われようと、構うものか。上等だ。
 ――俺は、役者だから。
「海莉が……皆が、望んだんだ」
 俺に、幸せになってほしいと。ならなくてはいけないと。
 在るべき未来を、示してくれた。
「だから……こんな未来・・は、壊してやる」
 未だ、震えは止まらない。それでもユウは、己の身体を左腕で抱きしめ、右手を堅く握り締める。
 もう、諦めたりはしない。
 畏れるものもない。
 ――今度こそ、運命と差し違えたって折れやしまい。
 裡に鮮明に浮かぶ皆の笑顔が、心の奥底にある勇気を、熱を、奮い起こす。
「俺は……幸せになる未来のために、生き足掻くんだ!」

 込み上げる想いのまま、腹の底から張り上げた声が。
 その涯てへと届くほどに、最悪の未来 世界 を震わせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
【最悪の未来】
破滅の未来
自分の死よりも怖いもの
仲間の命が脅かされる事
特に…僕のせいでそうなってしまう事

かつて囚われた時は
僕を攫うためだけに両親や村の人達
皆殺された

囚われた後も
時々僕を哀れみ救おうとする人がいたけど
皆殺された

本当は今もまだ怖い
頼る事、好意を持つ事、持たれる事も
僕に関わったせいで失ったら、って

【抗い方】
でも、例えこれが現実になったとしても
足は止めないって決めてるんだ
死は誰にでも訪れる
それが遅いか早いかの違いだけ

それに、恋人と約束したから
最期の瞬間は彼が僕を殺してくれる
それまでは何があっても守ってくれるって

別に文字通りの意味じゃない
言い換えれば
僕が死ぬ時には必ず傍にいてくれる
他の奴になんか僕の命は奪わせない
だから、それまで生きろ…って事

彼が先に死んだのなら
彼が天使…なんて柄じゃないか
死神となって迎えに来てくれるまで
意地でも生きて、僕が約束を果たすだけ
それまでは立ち止まってなんてやらない

これが僕の意地で、希望で
どんな未来にも負けない力だ

指定UCで、偽りの未来に手向けの花を



 これは、誰のものだろう。
 腕か、脚か。最早形すらも分からぬ、細長く煤けたものが眼下にあった。視線を僅かに上げた先、今度は見知った――幾人もの仲間の姿が無残な有様で投げ捨てられている光景に、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は声もなく瞠目する。
 嗚呼、またか。そんな想いが裡を過ぎる。
 幼いころは、自身を攫わんとする者たちによって、両親や村の人々は皆殺された。
 そうして囚われの見となってからも、この境遇を哀れみ手を差し伸べてくれた者たちも時折いたが、彼等も皆、命を奪われた。
 誰も彼もが、死んでしまう。
「……僕の、せいで……」
 とうの昔に分かっていたことだのに、我慢しきれず言葉が口を突いて出た。無意識に握り締めていた拳に気づき、脱力するように力を抜く。

 最悪、破滅――それらと“未来”を結びつけたとき、澪が思い浮かべた光景がそこに在った。
 仲間の命が脅かされること。
 特に、己に起因したその結末は、否が応でも想像せずにはいられなかった。その暗澹たる思考は、まるでこびりついてしまった汚泥のように、拭い去ることなぞできぬまま澪の奥底を埋めている。
 僕に関わったがために、仲間の笑顔が、命が、失われてしまう。
 だからこそ、未だ怖かった。
 頼ることも、好意を持つことも――持たれることも。
「……でも、もう決めてるから」
 たとえこの光景が現実となったとしても、決して歩みは止めやしないと。
 死は、誰にでも平等に訪れる。
 そこに在るのは、早いか遅いか、唯その違いだけ。
 冷酷だと云うひともいるだろう。ならば云えばいい。その答えに至るまでに惑い悩んだ己のことは、自分が誰よりも知っている。
 畏れるものなぞ、なにもない。
恋人との約束もあるしね」
 一歩踏み出した澪が、緩りと両手を天へと掲げた。裡から湧き上がる力が、指先を伝い空へと渡ってゆく。
「最期の瞬間は、彼が僕を殺してくれる……それまでは、何があっても守ってくれる」
 なにも嘆くことはない。
 云うならばそれは、己の死に際には必ず、傍に居てくれる。他の何者にも、この命を奪わせはしない。
 ――“だから、それまで生きろ”と。その想いが詰まっているから。
「もし……もし、彼が先に死んだとしても、彼が天使……なんて柄じゃないか」
 云って、洩れた笑みのまま眼前を見据え、
「死神となって迎えに来てくれるまで……意地でも生きて、僕がその約束を果たすだけ」
 茫洋と広がっていた闇に、ひかりが灯る。
 ひとつ、またひとつと、天に耀きが増えてゆく。
「だから、それまでは立ち止まってなんてやらない」
 昏き偽りの未来を――その先に居るであろう幻朧帝イティハーサを見据え、高らかに告ぐ。

「これが僕の意地で、希望で……どんな未来にも負けない“力”だ……!」

 希望へと繋ぐ決意を、万彩の燦めく手向け花に変えて。
 降り注ぐ破魔なるひかりが、世界を染め上げてゆく。

 何処までも何処までも、白く、柔く――あたたかに。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年10月01日


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#サクラミラージュ
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト