帝都櫻大戰⑱~コンコンコンはどう使う?
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ポップでカラフルな色合いのキマイラフューチャーの都市部に、突然無数の幻朧桜が現れる。
それと同時に輝く後光を背負った存在が現れ、かのものを中心として、清浄な黄金の光が広がってゆく。
異変に驚きの声を上げながらも、慣れた様子で逃げてゆく住民達を、じりじりと光が追いかける。
だれも生きられない清浄さの中に取り込まれれば。もう、戻っては来られない。
「私を幾許かでも食い止める手立ては無いだろうか……。私の大きな誤りを、未来へ残さぬ術は……」
光の中心で、神王と呼ばれた存在が憂う。
その言葉に応えるように、ひとりの声が響いた。
「システム・フラワーズ始動! キマイラフューチャー、フルオープン!!!」
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「幻朧桜の発生と、それに伴う強大な存在の出現。今回は、キマイラフューチャーに向かって欲しいの」
グリモアベースで、コルネリア・ツィヌア(人間の竜騎士・f00948)が端的に告げる。
「相手はエンシェント・レヰス『神王サンサーラ』。世界ひとつを作ったほどの存在ではあるけれど、その偉大さから、顕現し続けることに限界がある」
具体的には、一撃でも入れることに成功すれば、一時的に顕現が解ける。
それを数回繰り返せば、しばらくは同地点に出現はしない。その状態に持って行くまでが今回の目的だ。
「厄介な点としては、元の神王サンサーラの特質が、オブリビオン化によって『骸の海を無限に広げる能力』となってしまっていることよ」
つまり、顕現し続けるだけで、骸の海が無限に湧いて出てくる。
そのまま放っておけば、キマイラフューチャーは骸の海の中に沈むだろう。
「神王サンサーラ自身もそれを望んではいないわ。とはいえ、本能的に反撃してしまうのは、どうにもならないようだけど」
広がり続ける骸の海と、神王サンサーラ自身の力。この二つが主な障害となる。
「そして今回、この事態に対してカウンターとして呼び出されたのが、ゴッドゲームオンラインの『黒聖者』というプレイヤー・キャラクターよ」
欲望を是とする黒教の教祖。詳しいことはわからないが、どうも彼女は、キマイラフューチャーの『コンコンコン』を完全に使いこなせるらしい。
「具体的には、何処を叩いても、望んだとおりのものを望んだだけ出してくれるわ。詳細は本人もよくわかってないし、そもそもプレイヤーは統治機構内で生きるごく普通のひとらしいけど……」
その辺りの詮索はさておき、そのコンコンコンならば無限の骸の海に対処出来る、ということだ。
さすがにドン・フリーダムの技術を超えるものは出せないが、それでも、猟兵が各自で作ろうと思って作れるものを即座に取り出せる。
それを各自のユーベルコードと組み合わせれば、広がり続ける骸の海にも、神王サンサーラにも太刀打ち出来るかもしれない。
「重要な点として、彼女は何でも作り出せるけれど、彼女の想像力や欲望自体は『彼女ひとりぶん』なのよね」
だからこそ、彼女にはない発想や経験を持った猟兵が赴くのだと、コルネリアは続ける。
「猟兵は、大体が自分だけの背景を持った品々を持っているでしょう? それがどういう経緯で手元に来たのかすらも、数え切れないほど」
何を出し、どうやって使い、役立てるのか。
その発想力こそが、この戦場で必要なものだ。
「『何でも出来る』と『何も出来ない』は、案外背中合わせかもしれないわね」
どうか武運をと話を結び、コルネリアは転送の準備を始めた。
越行通
こんにちは。越行通です。
「帝都櫻大戰」のシナリオをお送りします。
今回の舞台はキマイラフューチャー。コンコンコンをフル活用し、ご自分の得意技ややってみたいことを全部乗せしてみて下さい。
OPにもありますが、出せるもののスペックは『現在、猟兵がアイテムとして作成可能な物品(非生物)』限定となります。
生物・非生物のラインは複雑なのですが、このシナリオに限定して言えば、『使役・召喚系』『ドラゴンランスなどの変化系』は無理、意思疎通可能というアイテムは微妙ラインになります。目安になれば幸いです。
以上を踏まえて、プレイングボーナスは、以下になります。
『プレイングボーナス……コンコンコンで出してもらったアイテムを利用して戦う。』
どうか、猟兵さんらしく、やりたいことをやってみて下さい。
皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『神王サンサーラ』
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POW : サンサーラディーヴァ
自身の【眼前】を【広大無辺の仏国土】化して攻撃し、ダメージと【神王サンサーラへの到達不能】の状態異常を与える。
SPD : サンサーラノヴァ
【かざした両掌の間】から、詠唱時間に応じて範囲が拡大する、【五感封じ】の状態異常を与える【神王光】を放つ。
WIZ : 強制転生光
レベル秒間、毎秒1回づつ、着弾地点から半径1m以内の全てを消滅させる【サンサーラの光】を放つ。発動後は中止不能。
👑11
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戒道・蔵乃祐
世界を股に掛ける総力戦ですからね
今まで全く面識が無い相手が居てもおかしくないかと!助力感謝です!頑張りましょう!
◆大獄殿
金丹仙薬によるドーピング+限界突破の造血作用で魔王の欠片の代償に耐える
コンコンコンではラビットバニー、そして
ドン・フリーダムも使った赤べこキャノンを召喚して貰います
古来から機能美に優れたとても由緒正しいデザインだそうです!あとすごくエモい!らしいです!
では僕は乗り込みますので発射までお願いします
早くッ!もってくれよ僕のカラダ!!
絶対無敵バリアを展開し、ジャンプ+重量攻撃の人間大砲で広大無辺の仏国土を飛び越えて
グラップル+空中戦のグーパンチです!
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キマイラフューチャーの町並みを侵食するように広がる骸の海の中心に、神王サンサーラは変わらず座している。
距離を維持しながら立つ謎の黒聖者は、戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)の姿に気づくと、丁重に頭を下げた。
ちなみに、蔵乃祐にはゴッドゲーム・オンライン世界へ渡った経験がない。
その為、黒教の教祖どころか、いわゆるゲームキャラを纏った相手とも初対面である。
「世界を股に掛ける総力戦ですからね。今まで全く面識が無い相手が居てもおかしくないかと! 助力感謝です! 頑張りましょう!」
「はい! こちらこそ、大規模レイドはともかく、世界間レイドなんて初めてですが、頑張ります! 宜しくお願いします!」
が、礼儀正しさと目の前の状況、ふたりの気質によって、あまり問題にならなかったようだ。
「早速ですが、コンコンコンで赤べこキャノンを召喚して貰えますか?」
「赤べこ……? あっ、大丈夫です、そちらが欲しがっていれば出せる筈!」
コンコンコンと適当に叩いた所から現れたのは、紛れもなく数多の猟兵を苦しめた赤べこキャノンである。
「こういう感じのものなんですね。シンプルに見えて結構複雑な仕組みのような」
「ラビットバニー、そして
ドン・フリーダムも使っていた武器ですよ」
金丹仙薬を奥歯で噛み、軽く肩を回しながら、蔵乃祐が補足する。
「古来から機能美に優れたとても由緒正しいデザインだそうです! あとすごくエモい! らしいです!」
「なるほど、これがこの世界のエモ……!」
世界は言い過ぎだが、ここはキマイラフューチャーなのでおおむね大体間違ってはいない。
そんなわけで黒聖者の反応は気持ちよく流し、準備運動を終えた蔵乃祐は大真面目に告げた。
「では僕は乗り込みますので発射までお願いします」
「えっ。……あっ、つまりそういう!? そういうエモですね、了解です!」
作戦を何となく把握した黒聖者が、弾丸の収まるべき場所に入った蔵乃祐に『あっ、これお餞別です!』と何かを背中にくっつける。
それについて考える前に、蔵乃祐は大連珠を手に巻きつけてユーベルコードを発動。
同時に押されたスイッチにより、赤べこキャノンから勢いよく発射された蔵乃祐は、瞬く間に遠ざかり、星になった。
噛み砕いた仙薬の効果が現れ、全身の細胞があるべき流れを遥かに飛び越してゆく。
そこにもうひとつ。劇薬に等しい、魔王ガチデビルの欠片が血が蔵乃祐の身体に憑依し、全身を巡る血液に乗る。
欠片を乗せた血液はたちまち枯渇する。仙薬と、限界突破によって増加した血液との間で天秤が揺れる。
――早くッ! もってくれよ僕のカラダ!!
そうして、流星と同じく、己を燃やしながら飛んでゆく。
時間で言えば一瞬だった。
その一瞬で蔵乃祐の失った血液量は凄まじかった。だが、彼は辿り着いていた。
赤べこキャノンの効果で絶対無敵バリアを展開した状態で、近寄るものすべてを阻む広大無辺の仏国土を飛び越え、阻むものを振り切って、神王へと肉薄する。
「汝、その覚悟は――」
何かを言いかけた神王は、沈黙を選び、目を閉じた。
己のすべてを懸けた蔵乃祐の拳が、加速と重量を乗せて、神王サンサーラへと突き出される。
ここまで接近すれば、どこにでも当たる的だ。後はただ、全力を注ぎ込むだけ――!
「――……!」
その結果は、神王サンサーラの顕現解除によって、明らかになった。
ひとり空中に残された蔵乃祐の背面で、ぽん、と音を立てて、キマイラフューチャーらしい色彩のパラシュートが開いた。
大成功
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カーバンクル・スカルン
黒教ねぇ……ゲーム中で噂は重ね重ね聞いてるが、どのルートで知って連れて来たんだキャンピーくん。
とにかく、今は共同戦線と洒落込みましょうや。相手が闇を光で塗り潰してくる気なら、こっちは侵される前に跳ね返せばいいんだ。
コンコンコンと呼び出してもらうはサンサーラの周りを囲み隠せる巨大な鏡の山! 私が怪力やらカタリナの車輪やら何やら使ってガンガン運ぶから教祖様はとにかくノックしまくって!
とはいえ企みに気づかれて光を出してこなくなったら意味がない。【クリスタライズ】でギリギリまで姿を隠して暗躍の構え。
鏡自体が骸の海に沈む前に何重にも囲んでいって……自分の身から発せられる光で自爆してもらいましょうや!
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「黒教ねぇ……ゲーム中で噂は重ね重ね聞いてるが、どのルートで知って連れて来たんだキャンピーくん」
恐縮です、と言っている黒教の教祖はさておき、カーバンクル・スカルン(クリスタリアンの懲罰騎士・f12355)の疑問は至極もっともである。
彼女の脳内のキャンピーくんが『よくわかんない!』と朗らかに言い放つところまで想像し、軽く首を振った。
「とにかく、今は共同戦線と洒落込みましょうや。相手が闇を光で塗り潰してくる気なら、こっちは侵される前に跳ね返せばいいんだ」
「ふむふむ」
「だから私が出して貰いたいのはね、サンサーラの周りを囲み隠せる巨大な鏡の山!」
「なるほど……ちなみに山って、999個とかそういう山ですよね?」
コンコンコンを使って鏡を引きずり出し、黒教の教祖が振り向く。
「この位でいいでしょうか……わあ!」
「あ、これはカタリナの車輪って、私の持ち物。運ぶのは私がガンガン運ぶから教祖様はとにかくノックしまくって!」
「わかりました! えいえいえいえい」
運搬に支障がないと知った教祖が片っ端からその辺をノックしまくり、うずたかく積み上がる鏡を針があちこちについた巨大な車輪に載せ、それを更に抱きかかえるようにしてカーバンクルが運び出す。
――とはいえ、企みに気づかれて、光を出してこなくなったら意味がない。
クリスタライズの能力を使って透明化し、『鏡が次々に現れる』ことまでは察知しても、その意図に完全に気づかれないように。
――何重にも囲んでいって……自分の身から発せられる光で自爆してもらいましょうや!
かなりの力技ではあるが、今のところ神王は『誰かが何かを起こそうとしている』までしか察知していない。
あるいは、察知していてもいなくても、自分を止められないかもしれないが。
これ以上は最初のひとつが沈む、という頃合でカーバンクルは移動を止め、神王サンサーラの眼前に躍り出る。
鏡の配置はすべて記憶済みだ。神王サンサーラが変わらぬ姿勢のまま放った光の最初のひとすじを、鏡の裏側に回りこんで受け止める。
閃き、反射する光が、神王サンサーラを確かに撃った。
1秒に1回閃く光すべてを反射させることに全神経を集中し、カーバンクルは絶えず動き回る。
そして、不意に光の飛来が止む。
振り仰げば、顕現が解けた後の広々とした空間だけが、そこに残されていた。
大成功
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ドロシー・ダーカー
イオナ(f03734)・エテルネ(f36956)・ミケーレ(f43592)と
一般プレイヤーさんにあまり危険な目にはあって欲しくないのですが。黒聖者さん、無理はしないようにお願いします。
そしてイオナさん。作戦は聞かせてもらいました。
バクプロトコルをNPCへ改造出来ないか試したら猟兵になった子(ミケーレ君)が部下に居るので連れてきました。突撃は彼に任せましょう。
早速コンコンコンして材料を集めましょう黒聖者さんよろしくお願いします。
私もクラフターへジョブチェンジして作成を手伝わせて貰いますよ。
……
ミケーレ君が近づけたらリンクから出てドラゴンの姿でビームブレスを吐きましょう。
上野・イオナ
ドロシー(f41915)・エテルネ(f36956)・ミケーレ(f43592)と
骸の海対策だけどブレインバイシクルを作ってみたい!
キングブレインやハビタント・フォーミュラはコレで世界間移動してたし、時宮さんのユーベルコードでも骸の海を超えれるって言ってたはず。
なんか特別製っぽいからコンコンコンで直に出せるか分からないけど材料さえあれば僕のユーベルコードで模倣品を作れるかも。
不安点をあげるとすると確認している使用者がみんなオブリビオンだから生きてる人がブレインバイシクルで骸の海を越えられるかだね。
……
ミケーレ君が近づけたら、リンクから出て三刀流で攻撃しに行くよ。
エテルネ・イミタージョ
イオナ(f03734)・ドロシー(f41915)・ミケーレ(f43592)と
その自転車を作るのはいいけどそのあいだにも骸の海は広がり続けてるわよ。
ワールドデータカードを使ってUC【コラプティドワールドデータ:アイスプリズン】のワールドデータを配るわ。
というわけでこの中で作業しなさい。ちょっとは時間を稼げるはずだわ。
黒聖者さんにも緊急避難用に渡しておくわね。
それで自転車にも出入口のリンクを貼って起きましょう。ミケーレがサンサーラの元に着いたらみんな出れるはずよ。
ミケーレ・アンジェリコ
イオナ(f03734)・ドロシー(f41915)・エテルネ(f36956)と
元より僕も黒教の教祖様とお話したいと思っていたところです。もちろんミズ・ダーカーにお供しますよ。
僕の信じる教えと黒教の教えは正反対な所も多いですが、あまり敵対するつもりはありません。
我欲に飲み込まれないようにする為には節制が大切だと信じていますが、息抜きがダメだとは思っていません。むしろゲームの中ならばちょっと欲深いぐらいがいいのでしょう。
異世界で聞く事ではないかもしれませんが、教祖さんはGGOを楽しんでくれていますか?
さて、ミズ・ダーカーからのお願いどおり自転車でミスター・サンサーラの元へ向かいましょう。戦闘は苦手ですが神王様ともお話はしてみたいですから。
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いつも賑やかなキマイラフューチャーは、神王サンサーラの出現と広がる骸の海を前に、一時的な静けさの中にあった。
電子掲示板が点滅を繰り返すだけのビルの上で、状況を実見した上野・イオナ(レインボードリーム・f03734)は、やはりあの骸の海が関門と断じた。
「で、骸の海対策だけど。ブレインバイシクルを作ってみたい!」
その言葉で理解した様子のエテルネ・イミタージョ(La vastiĝanta cibermondo・f36956)と、謎のアイテム名にとりあえず静観する黒教の教祖。
「キングブレインやハビタント・フォーミュラはコレで世界間移動してたし、時宮さんのユーベルコードでも骸の海を超えれるって言ってたはず」
「何だかすごそうなアイテムですね……?」
テレポートできる自転車で、レースとあらば片っ端から参加した挙句テレポートで逃げる怪人が乗っていた自転車である。
「その残骸をシステムフラワーズの中枢にぶちこんだりもしてたわよね」
情報量が多い。黒教の教祖は、現状に必要な部分以外は一旦全て脇に置いた。
「なんか特別製っぽいからコンコンコンで直に出せるか分からないけど、材料さえあれば僕のユーベルコードで模倣品を作れるかも」
「あ、なるほど!」
そのものを出すのが難しければ、材料だけ出してユーベルコードで加工する。
『材料』の技術レベルならこの世界はかなり上等と仮定出来る以上、勝算は高そうだと黒教の教祖は請け負う。
「不安点をあげるとすると、確認している使用者がみんなオブリビオンだから、生きてる人がブレインバイシクルで骸の海を越えられるかだね」
そうイオナが述べたところで、別な声がかかる。
「神王サンサーラへの一撃。準備が着々と進んでいるようですね」
話し合いの合間に、ドロシー・ダーカー(竜妃ドロシー・f41915)が、ひとりの少年を伴って彼らのほうへ近づいてきていた。
ドロシーは黒教の教祖に視線を向け、しみじみと告げる。
「一般プレイヤーさんにあまり危険な目にはあって欲しくないのですが。黒聖者さん、無理はしないようにお願いします」
「はい、有難うございます。大丈夫です、なんとかなりそうな気がしますから」
ドラゴンプロトコルとして、ひとりのプレイヤーである黒教の教祖を気遣うドロシー・ダーカー(竜妃ドロシー・f41915)に、その正体を知ってか知らずか、やはり丁重に礼が返ってくる。
「そしてイオナさん。作戦は聞かせてもらいました」
改めてイオナへと向き直ったドロシーは、平然とした調子で続ける。
「バクプロトコルをNPCへ改造出来ないか試したら猟兵になった子が部下に居るので連れてきました。突撃は彼に任せましょう」
「えっ」
なかなかの爆弾に、黒教の教祖が目を大きく見開く。
ドロシーの言葉を受けた少年、ミケーレ・アンジェリコ(異端の白聖者・f43592)が進み出て、柔らかく微笑んだ。
「元より僕も黒教の教祖様とお話したいと思っていたところです。喜んでミズ・ダーカーにお供させていただきました」
かれは紛れも無い『白聖者』NPCである一方で、ドロシーと同じく友好的な様子である。
ゴッドゲーム・オンライン世界の知識の所為で硬直している黒教の教徒をよそに、作戦会議は次々と進んでゆく。
「その自転車を作るのはいいけどそのあいだにも骸の海は広がり続けてるわよ」
そう言ったエテルネが、はいこれ、とカードを配る。
「私の作ったワールドデータ。内部では時間経過がない電脳世界を、だれでも使えるようにしたカードがこれ」
主に黒教の教祖向けに説明し、改めてイオナの方を見る。
「というわけでこの中で作業しなさい。ちょっとは時間を稼げるはずだわ。黒聖者さんにも緊急避難用に渡しておくわね」
「あ、ありがとうございます」
一旦気を取り直してカードを受け取る黒教の教祖。
「早速コンコンコンして材料を集めましょう。黒聖者さん、よろしくお願いします」
「はい。えーと、この人たちの欲しい、すごいパーツを! 完成品、私も見てみたいです!」
きっちり欲望を載せたコンコンコンをそこらじゅうに仕掛け、転がり出てくる部品をイオナとドロシーがキャッチする。
「よし、キングブレイン非公式FC元会長の熱意を見せよう」
「私も作成を手伝わせて貰いますよ。クラフターへジョブチェンジしましたから」
ユーベルコードを発動させて、早速リンク先へ向かうイオナとドロシー。職人の背中に、黒教の教祖は思わず生産職への敬礼を行った。
程なくして(実際の経過時間は不明だが)、やりきった顔の二人が一旦戻ってきて完成を告げる。
ミケーレが到達時点で畳み掛けるためと、エテルネが自転車にもリンクを施す傍らで、そっとミケーレが黒教の教祖に呼びかけた。
「いま、少しだけ宜しいでしょうか」
「……はい。何でしょう」
カードと自転車を交互に見ていた黒教の教祖が、すっと背筋を伸ばす。
『プレイヤー』が『NPC』と『ゲーム外で』会話を交わしはじめる。
「僕の信じる教えと黒教の教えは正反対な所も多いですが、あまり敵対するつもりはありません」
ひとつ、頷く。彼がドロシーの部下となった時点で、分派として活動しはじめたことは聞いていた。
「我欲に飲み込まれないようにする為には節制が大切だと信じていますが、息抜きがダメだとは思っていません。むしろゲームの中ならばちょっと欲深いぐらいがいいのでしょう」
「私もそう思っています。ゲームの喩えで言えば、明日こそはあのダンジョンを攻略したい。その欲望は、進化に繋がる種子の筈です」
教祖の言葉に、柔らかな微笑みのまま頷きをひとつ返し、ミケーレは、今日の望み――尋ねてみたいと思っていたことを、尋ねた。
「異世界で聞く事ではないかもしれませんが、教祖さんはGGOを楽しんでくれていますか?」
「はい」
返答は、いっそ簡潔だった。
けれども、それだけで良かった。
黒教の教徒は胸に手を当て、真っ直ぐにミケーレを見ている。
「私がここに居るのも、そのおかげだといいと思っています」
両者の間に、理解と親しみの空気が広がる。
そして、どちらからともなく、最終点検中のブレインバイシクル(イオナ製)を見る。
「さて、ミズ・ダーカーからのお願いどおり、自転車でミスター・サンサーラの元へ向かいましょう。戦闘は苦手ですが神王様ともお話はしてみたいですから」
最終的な動作確認を含めた、すべての準備が整った。
「これでよし。ミケーレがサンサーラの元に着いたらみんな出れるはずよ」
「じゃあ、そのタイミングで畳み掛けだな」
皆の言葉に、ミケーレは頷いて、イオナ製ブレインバイシクルに乗る。
彼の仕事は、ただこのペダルをこぎ続けること。辿り着くまで、こぎ続けること。
ペダルを踏み込む。後はただ、一定のリズムでこいで、進み続ける。骸の海を、広大無辺の仏国土を、自転車ひとつで進んで行く。
聖痕が白い光を放ち、だれも生きられない清浄な光を遮断し、前へ前へと進む。
――あなたは、いったい、どんな祈りを抱いているのでしょうか。
ただそれだけが静かに胸に浮かぶ。足は、休まずペダルをこぎつづけている。
神王サンサーラは、そうして進んでくる自転車と、そこに乗る白い聖者を見た。
戦意は一切なく、ただ、進むために進んでいる。不思議な、意思を持った何者か。
一瞬、視線が交わる。神王サンサーラは、告げる言葉を持たない。
聖者の口元が、『どうか』と動きかけたのを、確かに見た。
――そして、その自転車から現れたドラゴンがビームを放ち、二振りの妖刀がビームに合わせた軌跡を描き、それを繋ぐように虹色の軌跡が描かれる。
ひとことの感謝を、と開いた唇から、正しく意思は届いたろうか。
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神王サンサーラが、幾度目かの顕現の解除を迎える。
祈りのかたちをとっていた指先を解き、黒教の教祖は深く息を吐いた。
しばらく神王の居た跡地を見つめ、んん、と大きく両手と身体全体を伸ばす。
猟兵たちの望み、自分では考え付かない作戦、戦い方、連携して立ち向かう巨大な存在。
色々と飽和状態ではあったが、いっぱいに満ちる充実感に浸る。
この充実感だけは、コンコンコンでも出せないだろう。
――何しろ。この短時間で、何倍も何十倍にも、彼女の世界は広がったのだから!
大成功
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