帝都櫻大戰⑯〜最弱故弐覆ス~
●ゲエムノ札
「諸君、これはトランプの2のカードだ。大抵の場合、これは限りなく“弱い”札として扱われる」
グリモア猟兵スフィーエ・シエルフィートはトランプのカード――四つのスートに2と描かれたそれを取り出して見せつけていた。
最低値の1を示すAのカードは、
最高値をも上回る扱いをするゲームも珍しくない中で、最弱と言えるカードは正にこれだろう、と。
「しかし、時に認められれば最強を覆す唯一の最弱となる」
唯一、最強のカードを打ち破れる最弱のカード――畳んだカードの代わりに、薄金色のグリモアを輝かせ、映し出す世界は色を変えていく。
「そうだ諸君。君達には、最弱が最強を覆すことを認められた戦場に赴いて貰いたい」
エンシェント・レヰス『神王サンサーラ』――任意の場所に骸の海を無限に生成し、破壊を撒き散らす極めて強力な存在だ。
それがサイバーザナドゥのサイバースペース全域、ひいては現実世界全てを破壊せんと、骸の海を広げ続けているのだという。
「が、そんな都合の良いことばかりじゃない。その能力を使うには、
傷一つ無い状態でなければならないんだ」
つまり、無限に破壊を続ける骸の海を乗り越え、たったの一撃、掠り傷程度であったとしても、傷を負った瞬間にサンサーラは撤退する。
一先ずは倒さなくても良いのだから、一撃だけ当てれば良い……と考えれば楽そうには見える、が。
「……オーケー、言いたいことは分かる。その一撃を届かせるのすら、ハードルが高すぎる、ということだろう」
猟兵達の険しい顔に気付き、肩を落としながら語るスフィーエ。
実際、無限に広がる骸の海を越えるのは至難の業、限りなく長い射程や、攻撃を転送して直接当てる類の攻撃ですら、骸の海を抑えねば自動的にその攻撃を飲み込み無力化してしまう――どう足掻いても飛び越えるしかない割に、それがあまりにも高すぎるハードルなのだと。
「だがね諸君、下を潜ることも横を回ることもできないハードルならば、誰かに肩車して貰えばいい。その肩車をしてくれるのが――彼だ」
そういって指し示すは、カクリヨファンタズムで相対した猟兵もいるであろう、竜神の親分格、『碎輝』という若き竜神だった。
「知ってる者もいると思うが、竜神親分『碎輝』の力は、無限に成長を続ける力だ。無限の広がる骸の海に対抗できる、唯一の切り札だ」
無限に成長を遂げ、無限に強くなる碎輝の力ならば、無限に広がる骸の海にいずれ対処もできるだろう。しかし――。
「その通り。成長し切るまでは、彼はハッキリ言って“弱い”」
忖度も何も無く言い切るスフィーエ。実際、無限に成長を遂げる者といえど、その成長は一過性、戦いが始まるその時は間違いなく猟兵達よりも数段劣る。
「よって君達は、彼が成長するまで守り抜いて欲しい。そして成長した彼と一緒ならば、無限に広がる骸の海を破れる筈!」
骸の海や、サンサーラ自身の攻撃――そのいづれも強力だが、それを凌ぎ、無限の海に対処できるまで成長を待ち、そして一撃を食らわす。
ただ乗り越えて一撃を試みるよりは、ハードルはかなり下がるだろうが――それでも困難な道には変わりないので、くれぐれも気を付けてと語り。
「無限の広がる最強の絶望、迎え撃つは最弱と言われた勇者……まるで何処かの歌劇か何かのようであるけれど」
一呼吸置き、これもまた胸の踊る――と言いながらも、とん、とん、と杖代わりにしていたサーベルの柄を指先で叩き。
「迫る脅威は虚構じゃない。そして打ち破る痛快な結果は、君達なら現実にしてくれると信じてる。……では、準備が出来たら声をかけてくれたまえ」
確かな猟兵達の信頼も含めた笑みに顔を変えると、薄金色のグリモアは戦場に続く門を象っていくのであった。
裏山薬草
どうも、裏山薬草です。
地味にサイバーザナドゥにまつわるシナリオは今回が初めてではありますが、何はともあれ戦争頑張っていきましょう。
さて今回は無限に広がる骸の海を操る敵に対し、無限に成長を遂げる味方を護りつつ、一撃を入れに行くシナリオとなります。
性質上、ある程度纏めての描写となるかもしれませんが、ご容赦願います。
●プレイングボーナス
「弱い状態の碎輝を守って戦う」or「強力に成長した碎輝と協力して戦う」
プレイングの受付状況に関しては、タグにてお知らせします。
それでは皆様のプレイングをお待ちしております。
裏山薬草でした。
第1章 ボス戦
『神王サンサーラ』
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POW : サンサーラディーヴァ
自身の【眼前】を【広大無辺の仏国土】化して攻撃し、ダメージと【神王サンサーラへの到達不能】の状態異常を与える。
SPD : サンサーラノヴァ
【かざした両掌の間】から、詠唱時間に応じて範囲が拡大する、【五感封じ】の状態異常を与える【神王光】を放つ。
WIZ : 強制転生光
レベル秒間、毎秒1回づつ、着弾地点から半径1m以内の全てを消滅させる【サンサーラの光】を放つ。発動後は中止不能。
👑11
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アニェス・ドルレアン
サイバースペースに実家のような安心感を覚えるのは、私がゲーム内の存在(NPC)だからでしょうか。
……それはそれとして、守るのは女騎士の務め。
必ずや、果たしてみせます。
碎輝さん、共に頑張りましょう。
弱い状態の碎輝を守り抜くことに専念。
「輝身装甲」で光の障壁を展開。
物理的な破壊は
装備の重さを物ともしない膂力によって振り回す二刀で直感的に受け流して弾き、骸の海の浸食(状態異常)は
障壁により世界の理を歪め阻む。
常に碎輝が輝神装甲の効果範囲に入るよう立ち回り、阻み切れない分のダメージと状態異常も
彼を庇って肩代わりした上で、KIAIで
限界を超えてでも耐え凌ぐ。
こちらの事(被害)はお気になさらず。
敵に一撃入れれば我々の勝利、その為の役割分担。
適材適所で行きましょう。
世界を、人々を、共に戦う仲間を守り抜けることを、女騎士として証明する事が私の存在理由ですから。
空桐・清導
POW
「昨日より今日!今日よりも良い明日を齎す!
それがヒーローの役目だ!」
それぞれ口上を述べて握手する
「会いたかったぜ碎輝。」
UC発動
光を碎輝に纏わせて無敵の盾とする
世界の流出を受け止めるたびに変身して碎輝に纏わせる光も増やす
更に碎輝の成長に呼応して負けじと[限界突破]
UCによる強化と限界突破の二重無限で碎輝に並ぶ
碎輝を護りきった頃にはもはや空を覆うほどに巨大化
碎輝と目を合わせて己のエネルギーを両手に収束して光剣を創造
到達不能の状態異常を[気合]と[根性]で突破
無限距離の空間を握りしめて引きちぎってサンサーラを捉える
光を収束して創造した光剣を
サンサーラに接敵する碎輝と共に必殺の一撃を叩き込む!
レン・ランフォード
敵は理不尽ですが、それを覆すのが私達のお仕事です
行きましょう、私達!
親分さんもよろしくお願いしますね
鎧と高速移動手段として大典太弐式に搭乗
戦場でまずは発煙弾複数発動し目潰しと光を遮る壁とします
親分さんを煙と隠形符で隠し
私は壁が消えて光が此方に届く前にリミッター解除
機体の高性能を駆使した操縦で骸の海を飛び越え空中機動で陽動を掛けます
変わり身丸太くんが一度は身代わりになってくれますが
全て見切って躱し時間を稼いで見せましょう
親分さんが成長したら渡したスマホで合図の後私に攻撃を撃ってもらいます
私は神王を指さしUCを発動、強制転移で位置を入れ替えます
自身の光と親分の雷、両方が貴方を撃ち抜くでしょう
神城・瞬
【双月の絆】で参加
久しぶりですね。碎輝。貴方の無茶振りは相変わらずですね。無理しないでほしいのは山々ですが、貴方の覚悟に応えないと。ええ、朔兎が一度でも共闘を願っていたので。せめて貴方の戦いを守りましょう。
無限に光の範囲が広がりますか・・・下手な回避は無効ですね。まず【オーラ防御】【結界術】を【高速詠唱】に碎輝に防御結界を。朔兎が辛そうなので僕が前にでましょう。もういちど【連続魔法】で【結界術】【オーラ防御】を自分に使い、月読の騎士発動!!
【残像】【第六感】【心眼】【回復力】で致命傷をふせぎながら、【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】を込めた【誘導弾】を撃つ!!
人の強さを、今見せよう、朔兎!!
ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード
まったく、面倒な後始末をさせてくれるね。
まあ悪いのはアンタじゃないし、何とかしようか。
碎輝さんは久しぶり、かな。力を貸してもらっていいかい。
さて、碎輝さんを無限に広がる骸の海から守るなら、とりあえず機動力が要るかな。
【獣相疾駆】で巨大な獣に変身して、碎輝さんを背中に乗っけて骸の海から走って逃げるよ。
まあ他にもっと良い守る手段がある人が居るならそれでもいいし、
図体がデカいから最悪盾くらいにはなれるしね。
碎輝さんが成長した後まだあたしが動けるようだったら、
一緒にサンサーラに向かって突っ込んでいこうか。
やれやれ、皆してぽんぽん無限の力なんて使ってくれちゃって。
付いていくのも楽じゃないよ。
源・朔兎
【双月の絆】で参加
なんか初めてあったような気がしないんだよな。気質が似てるんだよ。碎輝。状況で共闘する事になるなんて。戻れなくなる可能性がある、か。貴方の覚悟、受け取った。未熟者なりに尽力させてもらうな。
五感封じか。さすが神を名乗るだけあるな?でも身の犠牲も考慮にいれた碎輝の前で情けない姿はみせられない!!【瞬間思考力】【第六感】【根性】【回復力】でほぼ本能的な動きで月白の輝きを撃つ!!無限に成長する戦友・・・碎輝が思う存分戦えるように!!前にでる瞬さんの助けになるように、俺は【限界突破】して頑張る!!
神王が何だ!!たとえ強力な力でも、絆の力合わせれば!!侮るなよ!!
●其レハ未ダ芽吹キニ過ギズ
――触れる者を容赦なく踏み躙り、過去の遺物と化し砕き切り、誰が称したかそれを「骸」の海とはよく言ったものか。
呑まれれば最後、その海に揺蕩う骸とする破壊の海が広がっていく中、それに抗う一つの黄金の輝きがあった。
「無限に広がる骸の海、だが、俺は強くなる……強くなって乗り越えてみせる!」
カクリヨファンタズムが頭が一つ、竜神親分『碎輝』――無限に成長を遂げる力を持った彼ならば、この無限の増殖を続ける骸の海に抗うに適した人材というものだろう。
されど――無限の成長を遂げる前の
碎輝は、骸の海だけを相手にするにも、そしてその先に控える大敵を相手にするにはあまりにも弱く。
されど。
骸の海の浸食が碎輝を犯さんといよいよ以て勢いを押し込もうとした時、それを颯爽と救うべく現れた六人の勇士たちが駆けつけていた。
「…………」
「んぉ? どうした?」
「あ、いや……貴方の覚悟、受け取った。未熟者なりに、尽力させてもらうな」
「ありがとな!」
その内の勇士が一人、源・朔兎(既望の彩光・f43270)は、碎輝という竜神親分へ初見の気がしないようで、どこか懐かしさを感じつつも、二度と帰れなくなるかもしれないと身を呈する碎輝に向けて彼自身の覚悟を示し。
そして実際に何度か相まみえたこともある、熱い青年――空桐・清導(ブレイザイン・f28542)は骸の海を躱したばかりの碎輝と力強く握手を交わした。
「会いたかったぜ、碎輝」
「久しいな! 元気だったか!」
「ああ!」
「僕からも久しぶりです。……無茶しますね。貴方は」
続けて碎輝へと挨拶を交わすのは神城・瞬(清光の月・f06558)――先程に碎輝に興味を向けていた朔兎の方へと目を向けて。
「朔兎が一度でも共闘を願っていたので」
と、苦笑いを浮かべながら語るのは、碎輝の為さんとしていることが、無茶であることを承知しているから――そして、それを承知で尚、覚悟を無にはすまいと決意を固めているから。
「敵は実に理不尽、しかし、それを覆すのが私達のお仕事です」
「おう! 昨日より今日! 今日よりも良い明日を齎す! それがヒーローの役目だ!」
そして冷静に侵略の状況と、敵の気配を見定めながら、レン・ランフォード(近接忍術師・f00762)は親分さんもよろしくお願いしますね、と続けては今、ここで改めて立ち向かう覚悟を示し、両拳を打ち合わせた清導が続けていた。
そしてこれまでの間、常人の領域を遥かに超えた膂力と、常人ならば持ち上げるのすら至難な筈の装備を、軽々と持ち上げ、概念すらも弾きかねない程の膂力と圧で骸の海の侵略を弾き飛ばしたるは、アニェス・ドルレアン(女騎士ガチ勢・f43512)であった。
そのような中でも、彼女はこの身を置く空間に思う所があるようで。
「…………」
電脳世界にどこか安心感を持ってしまうのは、彼女が同じ
電脳の世界の住人であるからか。
しかしそれはそれ、ここまでの盛り上がった碎輝との共闘の空気に、そのような感傷を冷静に別へと追いやり、改めて碎輝の方へと向き直り。
「碎輝さん、共に頑張りましょう」
「ああ! ……まずはこいつを何とかしないと、な」
無限の侵略を広げて破壊を齎す骸の海、その後ろにそびえる圧倒的な存在感――二重の強敵なれども、立ち向かうのは一人じゃない。
心強い仲間の終結に、体中から稲光を迸らせ、侵略に抗う雷の広がりを増した碎輝の元へと、一頭の巨大な獣が現れていた。
碎輝が黄金ならば、こちらの纏うは青い雷――ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード(混沌獣・f07620)が自らの背を示していた。
「アンタも大変だね。乗りな。当たらなきゃどうということはない」
「……悪い!」
「飛ばすよ、しっかり掴まってな!」
碎輝を乗せ、雷か光か――黒き骸の海の侵略に抗い疾走する雷の閃光を皮切りに、猟兵達と碎輝、そして神王サンサーラと骸の海との戦いが始まった。
●サレド勝利ノ樹育メバ
圧倒的な、というこれ以上と無い表現すら陳腐になりかねない、絶望。
そのような状況でもなお、諦める、ということを知らない勇士たちの姿に、サンサーラは静かに口元を緩めていた。
「――……私には近づけない。例え何人たりとも……」
「……! 来ます!」
されどオブリビオンとしての攻撃性に容赦の文字もまた無く。
本格的な攻撃の気配に呼応するように、キャバリアに搭乗しながら投げ放った発煙弾が立ち込められ、サンサーラの目を覆っていく。
されど膨大に広がっていく仏国土の勢いは止まらず、その牙は碎輝に及ぼうとしていた、が。
「オレの魂からあふれ出る光をオーラに変えて! いくぜ!」
仏国土の侵略をせき止め、碎輝を守っていたのは、清導が広げた光の壁であった。
骸の海の流出も含めて防ぐ、無敵の光の盾で受け止めながら、清導は手早くに手を動かし――
「変身!!」
黒き骸の海の浸食をも振り払うような、黄金の輝きが戦場に駆け巡る――光が晴れたその時には、清導の身体は巨大に輝く黄金の巨人と化していた。
だがそれでも、仏国土の侵略は留まることを知らずに、碎輝の、猟兵達の侵略を阻まんとする大波と化して襲い掛かる。
「こちらのことはお気になさらず。敵に一撃入れれば我々の勝利、その為の役割分担」
それでも尚、常人離れした膂力を以て世界の侵略を受けとめ、自らの身にヒビを入れながらも、心配するなとアニェスが力強く意志を示す。
「近寄ったとて、戦う力を奪えば同じこと」
「くっ……」
なればと、手段を変え、五感を奪う光に手口を変えたサンサーラの攻撃が猟兵達に襲い掛かっていく。
その魔手に真っ先に掛かってしまったのは朔兎、何もかもが薄れゆく中で、それでも――無様は晒すまいと闘志と本能を昂らせ。
「アアアアアアッ!!!」
二本一対、白銀の刃が掲げられれば、青白い軌跡も鮮やかに振るわれる刃がサンサーラへと襲い掛かる。
五感を封じられようと本能で乗り越え攻めるそれを、骸の海で飲み込みながら舌打ちを一つサンサーラは打ってから。
「――ならば、消えなさい」
そして解き放たれゆくは、最大の脅威――触れたものから周囲を巻き込み消し去る、必殺の閃光が注ぎ込まれていく。
「こりゃ、絶対に避けないとねぇっ!?」
咄嗟に着弾した箇所から大きく飛退き躱すペトニアロトゥシカ。
最悪、巨躯を活かして盾になればいい――とは思っていたが、触れたが最後、防御も意味を為さず文字通りに消滅せしめる閃光。
こうして乗って運ぶ手段を取ったのは正解であったか――続けさまに撃ち放たれた光を、再び清導の放った黄金の輝きが阻むと。
「もう一度変身だ! ウォォォォオオ!!」
二度目の変身による力の、膨大な奔流が駆け巡る――まだまだ到達には及ばぬとはいえ、巨大にして強大な力の化身の存在は、サンサーラへと少なからずの圧を与え、攻撃の精度を鈍らせる。
「はぁ、はぁ……!」
「朔兎、ここは僕が」
五感を封じられながら、それでも剣を振るわんとする朔兎を制し、一歩を前に出す瞬。
無理をして欲しくない。
友にも碎輝にも、それは山々であるものの、さりとてその覚悟を無にするも、また友らしからぬこと。故に。
「……我が身は大切な者を護る為にある!!」
月読の紋も刻まれた鮮やかなる鎧を身に纏い。
純白に輝く翼を備えた様は、戦場で全てを守り抜く守護天使のように――下手な回避は無意味と見て、杖を掲げ張り巡らされる結界が、降り注ぐ光を文字通りに阻み相殺されていく。
その中で駆け巡る碎輝達へと、レンがキャバリアの拡声器を通して語りかけた。
「足を止めないでください! この光は私が何とかします!」
「僕だっていますよ。……どうやら拡散までは選べないようです」
再び煙幕弾を放ち光を多少なりとも和らげるレンと、背に輝く翼を広げながら、碎輝を中心として結界を張り巡らせる瞬。
着弾から周囲を巻き込み消滅させる光なれど、器用に着弾と拡散のタイミングを見計らうことはできない――なればと瞬は高速で詠唱を紡ぎ、只管に次々と、矢継ぎ早などというものでない速度で張り巡らされるそれが、破壊の光を阻む。
やがては煙幕が途切れる中、ここぞとばかりにレンはリミッターを外し、一気にサンサーラの元へ肉薄せんとする。
「ハァァァァッ!」
「――させません」
振り切って突貫を試みたレン――しかし予測していたと言わんばかりに、差し向けられる破壊の光が、そのまま彼女を貫いた。
――否。
破壊の光が貫いていたのは、咄嗟に打ち出し、彼女とキャバリアの姿を象った丸太――それでも尚襲い来る膨大な閃光の合間合間を縫いながら、見事にサンサーラの横を擦れ違ってみれば。
この一撃の時間をモノの見事に無駄にしたと歯噛みするサンサーラ。
「……行ける……!」
稼がれた時間の中、碎輝は感じていた――この鬱屈とした戦況を覆す為の成長、その領域に達する目処というものを。
「ッ……!」
当然のように、膨れ上がる気配をサンサーラは見逃すはずもなく、力を振り絞るように全てを消滅させる破壊光を放つ。
持前の高機動でその間間を縫うように潜り抜け、時に瞬の張り巡らせる結界を使い捨ての盾として防いでいても。
本気で仕留めにかかる為の猛攻の全てを阻むこともならず、碎輝へと消滅の光が喰らいかかろうとしたその刹那だった。
「多少の被弾程度は私が肩代わりします。……守り抜いて見せます!!」
僅かながらにその身を削っていながらも、大振りな得物を軽々と構え、凛然と目に確かな輝き宿らせながら。
受けるダメージを限りなく減らす為に、その装甲から放つ障壁を碎輝へと集中させアニェスは立ち回る。
「……仕方ないね。しっかり掴まってるんだよ!」
「……ッ、すまねえ!!」
――誰も彼も、本当に無茶ばっかりだ。
それは人のことを言えないのかもしれないけれどと、ペトニアロトゥシカが再び碎輝を乗せたまま戦場を駆け巡る。
「……」
そして瞬の促す通りに、一旦の休憩を取っていた朔兎であったが、改めて戦場の状況を俯瞰する。
五感は封じられ薄れつつあり、そして戦場にこれでもかと飛び交い続ける、触れるものを容赦なく消し去る光。
ただでさえ骸の海が浸食を続け、それに呑まれてもアウトなこの状況、絶望しかないこの状況――されど、無様は見せられない。
「――そうだ、神王がなんだ!!」
この場にいる猟兵達の言葉全てを代弁するかのように、朔兎が高らかに叫んだ。
薄れゆく五感を、それを超越した感覚――俗にいえば「本能」の領域で力強く踏み出し、双剣を掲げ言い放つ。
「たとえ強力な力でも、絆の力合わせれば!! 侮るなよ!!」
そう、この場に集う誰も、強大な敵と侵略に対して諦めるという意志も、敗走するという予定もない。
無限に成長する
碎輝と、前に出る瞬の助けとなるようにと双剣を輝かせ――
「輝け!! この世界を照らし出す為に!!」
それは暗雲を照らす月光――否、月の光をも飛び越えて太陽の輝きにも迫るかの如く、月白の閃光がサンサーラの目を焼き、その勢いを揺るがせた。
――しかし、ここまでしても尚、神王サンサーラの身体に傷を与えるには未だ至らず。
骸の海の侵略と、サンサーラ自身の強大な能力による猛攻は留まらず。
それでも尚、猟兵達は各々の力を活かし、碎輝を守り抜き、その好機を待とうとするものの――永遠に続く、時の牢獄に囚われたかのような膠着は続き、さしもの猟兵達の顔にも若干の焦りと、拭いきれない疲弊が伺え始めてきたその時だった。
「――昨日より今日、今日より明日……」
――風が、変わった。
戦場の誰もが、その呟きよりも早く、肌を以て感じていた。
まるで閉塞して蒸されていた身体に、心地よい一陣の風が吹いて一気に冷めてくるような、そんな感覚が。
「俺は、俺達は、まだまだ強くなる!!」
●今此処ニ花開ク完全勝利
戦場にそれはそれは眩い黄金の輝きが迸っていく――黒雲を切り裂き走る稲妻宛らに、戦場に凛然と現れた巨大な黄金竜より迸った雷が、戦場に巡っていた骸の海を駆け巡っていく。
次々と、広げられていく骸の海が走る雷に砕かれていく度に、サンサーラは必死に骸の海を広げ抗わんとするものの。
「無駄だ! この雷は自ら成長し広がっていく無限の雷……先に骸に還す!!」
黄金竜が吼え、雷が更に走る――猟兵達の奮戦という水と肥料の下、華々しい大樹を咲かせるが如く聳え立つ竜の雷が、骸の海の侵略を逆に飲み込もうとしていた。
「ここが決める時か――! オレもいくぜ! 究極!! 変・身!!!」
碎輝の最後の成長に合わせて、清導もまた空を覆い尽すほどに強大な、光の巨人と化し、その威容がサンサーラを圧倒する。
幾度となく成長を遂げた竜王に合わせ、無限に湧き上がる、燃え盛る闘志の輝きが清導の姿もまた碎輝に劣らぬ威容を齎していた。
「――来るな……来るな……!」
ここで初めて、今の自分が脅かされようとすることへの恐怖――よくよくに耳を澄ませて聞いてもいれば、それに僅かな安堵も見えるのは気のせいか。
されどサンサーラの眼前は侵略を阻む為の仏国土と化し、掲げられた両掌からは五感を奪い去る光が放たれる。
骸の海を退けられても尚、届かせるものかと到達不可の概念と、力を奪う光が広がっていく――が。
「到達を阻む骸の海の浸食――その浸食を、私が阻みます」
猟兵達と、碎輝の誰よりも前に力強く踏み込んだるは、アニェス――侵略を続ける仏国土の膨大な質量と破壊の波を、自らの身がいくら傷つくことも厭わずに、そして到達不可の概念を与える侵略の波動を、一身に受け止める。
「それが女騎士としての
役割、共に戦う者を守り抜ける証……私の存在理由」
――概念を埋め込み到達不可を植え付けられようと、五感を奪われかけようと。
自らの纏う世界の理すらも歪め阻む障壁にて自らを守り、そして仲間がその牙を届かせる為の盾となる。
女騎士という
役割を見事に果たしたアニェスの姿に、サンサーラは分かりやすい動揺という形で隙を晒し、そして猟兵達は奮起する。
「人の強さを、今見せよう、朔兎!!」
「ああ!」
決めるのは今だ――瞬と朔兎がそれぞれ、杖と双剣を掲げた。
限界を超えて輝く二人の解き放つ、神王へと吸い込まれるように放たれる魔力の弾丸と、青白い月光を彷彿とさせる斬撃が神王サンサーラへと食い込む。
骸の海の浸食を止める傷一つ――それに留まらない、サンサーラを怯ます快挙を機にと、眼鏡のブリッジを指で押し上げてレンは碎輝に目配せをする。
「親分さん、今こそ私に!」
「わかった! 滅びの……光ィィィィイ!!!」
サンサーラへと指を突き出したレンの合図に従い、碎輝は身に走る電流を集約し、口から解き放つ――自ら増殖と成長を遂げ続ける、無限の破壊光をあろうことかレンへと放っていた。
血迷ったか――とサンサーラは安堵を通り越して愕然とすらするものの、その愕然は違った意味での愕然の顔と変わっていた。
何故ならば、サンサーラの喉元を、その身を、レンと碎輝の放つ二つの光が既に貫いていたから――
「これぞ身代わりの術……」
静かに印を組み、
サンサーラがいた場所でそう呟いたレン。
到達を幾ら阻むつもりでも、こうして自分と場所を入れ替えれば――光線を阻む骸の海が消えてしまった状況ならば、いとも容易く引き寄せられるのだから。
「到達不可能? 関係ないぜ! 皆で届いた、届かせれば不可能なんて……無いッ!」
それでも尚、無限に広がる仏国土で距離を取らんとするものの、熱き想いにて限界を軽々と突破せしめた清導は――何と、
空間を握り逃げようとするサンサーラを文字通りに引き寄せて留めていき。
碎輝と目を合わせては、戦場を覆い尽し輝かんまでの清導自身の光を手に集約し、光の剣と化したそれを構えると。
「行くぜ碎輝!」
「おう! ……突撃、一緒に頼めるか?」
ここで決める――トドメの一撃を喰らわさんと光の剣を真っ直ぐに突き出した清導の横で、戦場を共に駆け巡り、脚を担ってくれたペトニアロトゥシカへと碎輝が声をかければ。
「やれやれ、皆して無限の力なんか使ってくれちゃって。付いてくのも楽じゃないよ」
無限に広がる骸の海、無限に成長を遂げる力、無限に超える限界、無限に湧き上がる策略、無限に耐え切る矜持――溜息混じりにペトニアロトゥシカは独り言ち。
それでもまだ、自分の身体は動く。
そして期待されたからには、最後の一撃の一端を担うからには――
「楽じゃないけど――轢き飛ばすよ!」
「――これで、終わりだァァァァァアアアアアア!!!」
声と攻撃が重なり、眩い閃光と衝撃が“世界”を揺るがしていた。
黄金と青雷を纏い、迅雷そのものの勢いで共に突撃を敢行した碎輝とペトニアロトゥシカの――単純な質量と膨大な雷を纏った一撃が槌とするならば、二つの輝きに勝れども劣らぬ清導の振り翳した光剣は杭。
清導の烈しい気合と共に振り下ろされた刃がサンサーラの身体に深く食い込むと同時、叩き込まれた二つの質量がサンサーラを過ぎ去り、その身体を盛大に切り裂いていた。
たったの一撃で良い――明らかなこれはオーバーキルであっても、猟兵と碎輝が力を合わせて為した勝利の花を盛大に開かせるように。
盛大に放たれたその攻撃は、間違いなく虚無と破壊を齎す神王を追いやり――こうしてまた一つの世界を救った猟兵達は、碎輝と共に勝利の歓喜と敢闘を讃え合うのであった。
大成功
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