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悲哀と狂騒のレクイエム
●サイバーザナドゥ:四葉市――ロウアータウン・某所
ロウアータウン全体が冬の冷気と夜闇に包まれ、静寂が満ち始めた頃、ロウアータウンの一角に銀髪の少年が姿を現した。
「任務――開始します」
少年は何処かへと通信を入れた後、瓶をいくつか取り出し地面に叩きつける。
数分後、割れた瓶から零れた薬品が混ざり合い、煙が発生し始めた。
音もなく静かに、急速に周囲に拡散し始め、家屋の隙間から屋内に侵入する。
やがて、周辺の家屋の中から、次々と苦悶の声と何かがはちきれるような音が漏れ始めた。
数分後、家屋の内外から、人ならざるものの咆哮が、そして何かが破壊される音が響き渡り始める。
それに紛れるように、ある家屋のドアが破られるような勢いで開き、壮年の男性と小柄な少女が外に飛び出してきた。
「ガガアアアアアアッ!!」
壮年の男性は目を血走らせながら、少女を捕まえようと手を伸ばす。
「い、いやあああああ!!」
少女が怯えながら悲鳴を上げた、まさにその時。
――斬ッ!!
オブリビオン化した男性の肉体を、少年がレーザーブレイドで両断する。
「あ、ありが――」
少女が少年に礼を述べようとした、その時。
「――連行する」
「え?」
きょとんとした少女の首に、少年の手刀が叩き込まれた。
「素質ある者を発見。連れていけ」
首筋を強打され気を失った少女を、黒スーツに身を包んだ男が丁重に抱え、連れ去っていく。
その間にも、少年の周囲ではオブリビオンと化した住民が、目を血走らせながら手当たり次第にモノを、そしてヒトを次々と壊していった。
●グリモアベース
「……時間がかかっちまったが、ようやく尻尾を掴んだぜ」
グリモアベースの片隅で、集まった猟兵達を前に、グリモア猟兵森宮・陽太(未来を見据える元暗殺者・f23693)が苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべながら説明を始める。
「今回、皆に頼みてえのは、サイバーザナドゥの四葉市におけるオブリビオン大量発生事件――の主犯格らしきオブリビオンの討伐なんだが、いつもと毛色が少し違う。まずは話を聞いてくれねえか?」
どういうことだ、と言いたげな猟兵達の視線を受けながら、陽太は少しずつ重い口を開き始めた。
「ここ数か月の間に、ロウアータウン全域で何件ものオブリビオン大量発生事件が発生している。もちろん、オブリビオンになったのは罪なき一般人たちだ」
それだけなら、猟兵達が四葉市に関わり始める前から何度も発生しているようだが、今回は少し様子が違うと、陽太は語る。
「今回は事件現場にある少年が姿を現しているという共通点がある。どうやら少年は何らかの手段で特定の区域に薬をばらまき、一般人が『ベルセルカー』……凶暴なオブリビオンと化すかどうか見ているようだ」
もし、薬の効果で『ベルセルカー』と化した場合、少年がその場で始末する。
一方、薬を摂取しても『ベルセルカー』化しなかった者は、四葉製薬が何処へと連れ去っているらしい。
「正直、なかなか尻尾が掴めなくてよ、俺も後手後手に回っていたが、ようやくグリモアが次の事件現場の情報を齎してくれた――ここだ」
そう言って陽太は地図を広げ、ロウアータウン西部の住宅街の一角を指差す。
「ここはロウアータウン内でも比較的治安がいい場所だ。そこで『ベルセルカー』が大量発生したとなれば、街の治安は一気に悪化し、ロウアータウン全体が無法地帯になっちまう」
そんなことを許すわけにはいかねえ、と強く拳を握り締めながら、陽太は猟兵達に深々と頭を下げる。
「だから皆には、何としてでもこの事件を阻止してほしい」
頼めるか、と呟く陽太に、猟兵達は其々の想いを胸に頷いた。
「少年の正体だが……かつて義憤によって
クワハラ・ファーマシーに対するテロ行為を計画・実行し、それを半ば成功させた恐るべき犯罪者『
最終死刑囚』だ」
何らかの理由で蹶起し、メガコーポに対する抵抗活動を起こした少年は、その類まれなる能力でたちまちメガコーポを追い詰めるも、何らかの理由で敗北し――逮捕されたという。
「逮捕された最終死刑囚達は、皆、数百年にわたる刑期を課され、地下深くの秘密監獄に閉じ込められているばかりか、本人が存在した証拠すら完全に秘匿されている……つまり
最終死刑囚のことを、その呼び名さえ含めてこの世界の一般の人々は全く知らねえ」
もちろん、少年の本名も存在も、メガコーポが厳重に隠匿しているため、全く伝わってはいない。
「更に最悪な事に、メガコーポの上層部は、監獄の中で少年に『骸の海』を投与し続け、オブリビオン化させやがった。今や少年は完全にメガコーポの傀儡と化し、上からの命令に従って罪なき人々を人体実験に巻き込み、虐殺している」
かつてメガコーポへの反乱行為を成功させかけただけに、少年の戦闘能力や作戦能力は極めて高く、真っ向からぶつかれば苦戦は必至だろう。
「少年の記録は消し去られているが、サイバースペースにいるアンダーグラウンドの情報屋が、少年について何か知っているらしい。だからまずは情報屋に接触し、少年の情報を得てくれ」
サイバースペース内に潜ると、異世界のような世界が広がっているという。
それはダークセイヴァーのような夜闇に支配された世界かもしれないし、カクリヨファンタズムのような幽玄な世界かもしれないが、どのような見た目でも迷宮と化していることに変わりはない。
「この迷宮は情報屋は仕掛けた罠だが、情報屋が“新客”の力を見極めるための試練も兼ねている。迷宮を突破し情報屋と接触できれば、気前よく情報を渡してくれるだろうさ」
どうしてもサイバースペースに潜りたくなければ、猟兵達が過去に関わった人物と接触し、情報を持っていないか聞いてみても良いだろう。
どのような形であれ、少年に繋がる情報を手に入れたら。
――後は出現が予知されている住宅街に向かい、現れた少年を倒すだけだ。
「ようやっと、全容が見えて来た――ロウアータウンは、四葉製薬の体のいい実験場になりつつある」
――現状、四葉製薬の“実験”を止められる者は、四葉市内には存在しない。
頼みのYCP―Yotsuba City Policeも鎮圧に動く気配はなく、特にYCPロウアータウン分署は、数か月前に分署内で発生した大量オブリビオン発生事件の影響で壊滅状態に陥っており、全く動けないという。
「現状、止められるのは俺たちだけだ。これ以上の狼藉を許すわけにはいかねえ」
だから、何としてでも阻止してくれと力強く頼み込んで。
陽太は二槍と獅子のグリモアを光らせ、猟兵達を四葉市に転送した。
北瀬沙希
北瀬沙希(きたせ・さき)と申します。
よろしくお願い致します。
サイバーザナドゥの四葉市にて、幾度目かの発生となる大量オブリビオン発生事件。
今回は、事件を引き起こしているらしきオブリビオンの討伐をお願いします。
本シナリオの舞台となる四葉市は、シナリオタグ「#クワハラ・ファーマシー」「#四葉製薬」のシナリオにて登場している地方都市ですが、関連シナリオは未読でも支障はございません。
初めての方も歓迎いたしますので、気兼ねなくご参加いただけますと幸甚です。
●本シナリオの構造
冒険→ボス戦→日常となります。
第1章は冒険『電脳夢迷宮』。
サイバースペースに広がる迷宮を抜け、その先にいる情報屋と接触してください。
迷宮の見た目や罠は猟兵によって異なるようですが、罠を突破し迷宮を抜ければ、同じ場所に出るようです。
ちなみに、サイバースペースに潜らずとも、過去の「#四葉製薬」シナリオで遭遇したNPCに接触できれば、情報を得られる可能性があります。詳細は第1章の断章にて。
第2章はボス戦『名もなきベルセルカー』。
今回の事件の首謀者であり、『
最終死刑囚』たるオブリビオンとの戦闘となります。
1章で入手した情報があれば、少年を弱体化させられるかもしれません。
第3章は日常『バイオカワヅザクラは夜に映える』。
1章で情報を提供してくれた人々への礼も兼ねて、あるいは猟兵達の息抜きも兼ねて、花見を開きましょう。
場所はサイバースペース内でもリアルでも、どちらでも構いません。
なお、3章に限り、プレイングでお誘いがあれば、グリモア猟兵森宮・陽太も同行します。
●プレイング受付について
全章、断章執筆後からプレイングの受付を開始。
締切はマスターページとSNS、タグで告知致します。
なお、本シナリオはサポートを交えつつゆっくり運営致します。
参加するタイミングによっては、プレイングが失効しお手元に戻る場合もございますので、もしお気持ちが変わらなければ再送いただけますと幸いです。
全章通しての参加、気になる章のみの参加、どちらでも大歓迎です。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 冒険
『電脳夢迷宮』
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POW : 己の勘と体力を信じて道を進む
SPD : 異世界の知識と経験を思い出しながら出口を探す
WIZ : ハッキングでプログラム改竄、無理矢理近道を作る
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●サイバーザナドゥ:四葉市――ロウアータウン・場末の酒場
猟兵達が転送されたのは、ロウアータウンにひっそりと存在する場末の酒場。
サイバースペースじゃないぞ? と首を捻りながら猟兵達が入口を潜ると、店の主人らしき青年が出迎えてくれた。
「おう、話は聞いている。俺があんたらをサイバースペースに送り込んでやるから、付いてこい」
おそらく、自力でサイバースペースに
潜入できない猟兵のために、グリモア猟兵が事前に話をつけておいてくれたのだろう。
ともあれ、猟兵達は青年に酒場の奥にある隠し部屋に案内された。
隠し部屋には、サイバースペースに
潜入するための機材が一通りそろっている。
「じゃ、これを付けてくれや」
店主は猟兵其々に合わせた機材を見繕い、猟兵達に装着した。
「それじゃ、気を付けて行ってこいや。――くれぐれも機嫌を損ねるじゃねぇぞ?」
青年が
潜入装置を起動させた瞬間、五感の全てが一瞬だけ消失し。
――次の瞬間、周囲の風景は酒場の一室から一変していた。
●サイバーザナドゥ:サイバースペース――電脳夢迷宮
サイバースペースに潜入した猟兵達の目の前には、それぞれ異なる見た目の迷宮が広がっている。
ある猟兵の目前に広がっているのは――ダークセイヴァーのような夜闇に支配された世界。
微かな明かりすら存在しない深き森を、餌を求め彷徨う原生生物や獲物を求めうろつくヴァンパイアに対処しながら抜けなければならないようだ。
ある猟兵の目前に広がっているのは――カクリヨファンタズムのような、幽玄な世界。
魔訶不可思議な力で天地が反転している和風の街中を、ある意味で重力に逆らって進まねばならないようだ。
もちろん、何方にも当てはまらない世界を見せられている場合もあるだろう。
ただし、どの迷宮もファンタジックな要素に満ちており、仕掛けられている罠を突破しないと抜け出せないようだ。
――そう。
猟兵達は、既に情報屋の試練に取り込まれている。
全てがファンタジックな要素に満ちているのは、恐らく情報屋の趣味だろう。
この世界で猟兵達が為すべきことは、ふたつ。
ひとつは、目前に広がる迷宮という名の試練を突破し、情報屋のもとに到達すること。
そしてもうひとつは――情報屋から、今回の首謀者である少年の情報を得ること。
今は少しでも手掛かりを掴むために。
そして、ロウアータウンを混沌から掬い上げるために。
――猟兵達は、電子の迷宮を進み始めた。
※マスターより補足
第1章では、サイバースペースに広がる迷宮を突破し、情報屋と接触してもらいます。
本章で可能な行動は「迷宮の突破」と「シナリオボスたる少年の情報収集」の2種類です。
目の前に広がる迷宮の見た目と罠の種類は、オープニングで描写された2種類から選んでいただいても、ご自身で設定いただいても、どちらでも大丈夫です。
以下、各迷宮(+サイバースペースに潜らない場合)の補足説明となります。冒頭のアルファベットは文字数節約用としてご活用ください。
【A】ダークセイヴァーのような夜闇の世界
明かりひとつない深い森の中を、襲い来る原生生物やヴァンパイアを退けながら出口まで進んでいただきます。
【B】カクリヨファンタズムのような幽玄の世界
街全体の天地が反転している街中を抜けてもらいます。
床が天井に、天井が床になっており、下手すれば重力に導かれて「天井を突き抜けて」しまいかねない摩訶不思議な世界を、どのように抜けましょうか……?
【C】その他、思いつく限りのファンタジックな迷宮
猟兵の思考と嗜好によっては、情報屋は【A】【B】いずれにも該当しない迷宮を生成することがあるようです。
この選択肢を選ぶ場合は、「第六猟兵に存在する世界(PBWアライアンス不可)のうちひとつの名称」と「迷宮に存在する罠」、そして「罠への対処法」をプレイングに記載願います。
ただし、ファンタジックな要素が皆無、ないしは公序良俗に反する見た目の迷宮が生成された場合、情報屋の機嫌を損ねてしまい、強制的にサイバースペースから
ジャックアウトさせられてしまいます。この場合は判定は失敗となり、情報屋と接触できません。
【D】サイバースペースに潜らず、過去の案件で出会ったNPCから情報収集を試みる
オープニングでも言及した通り、過去の「#四葉製薬」案件、かつ『ロウアータウンで』遭遇したNPCと接触し、情報を得ようと試みることもできます。
この選択肢に挑戦したい場合は、接触したいNPCの名前を、プレイングに記載してください。(名前が判明していないNPCの場合は、登場したシナリオ名と特徴を記載願います)
ただし、NPCによっては全く情報を持っておらず、情報収集自体が空振りに終わる可能性もございます。この場合でもリプレイはそのまま仕上げますので、空振りの場合不採用を希望する場合は、プレイングの冒頭に「【D】×」と記載願います。
――それでは、良き情報収集の旅を。
殺風景・静穂
【B】
迷宮ですって?
まあ、楽しそう。私も混ぜてほしいわ
見慣れない景色を楽しみながら、気の向くままに進んでみるわ
私の得意は幻覚術
幻覚を操ってわざと罠を起動したりして、楽しみながら行きましょう
まだまだ遊んでいたいけれど、森宮くんに叱られてしまいそうね
ユーベルコード「鏡略瞳」
ゴールまでの道筋はこれでわかるし、最初に遊んだおかげで、仕掛けられている罠の癖や特徴もつかんだつもりよ
迷宮の攻略法としては、ちょっとズルいかもしれないけれど……私は正々堂々の猟兵じゃないの、ごめんなさいね
さて、と……あなたが情報屋さん?
なにか面白い話、聴かせてくださる?
●
「迷宮ですって? まあ、楽しそう」
殺風景・静穂(計算ずくの混沌・f27447)は、私も混ぜてほしいわ、と楽しそうに呟きながら、サイバースペースに
潜入する。
ダイブの瞬間、一瞬だけ視界が閉ざされ――次に視界に広がったのは、魔訶不可思議な力で天地が反転している和風の街中。
静穂にとっては、空から家屋が生えているように見える景色は見慣れないし、『床』を見上げながら『天井』を歩くのは違和感を覚えてしまうけど、それはそれで楽しみで。
ひとまず、風の向くまま、気の向くままに進んでいると、やがて『天井』が途切れた。
何か罠はないか、と幻覚術で幻覚を呼び出し、先行させてみる。
無数の小さな正方形が寄り集まったような幻覚は、どこかぎこちない動きで『天井』が途切れたあたりを調べようとして足を踏み入れる。
――ガラガラガラ……!!
幻覚が天井の一角を踏んだ瞬間、突然『天井』が崩れ出し、幻覚が巻き込まれて消滅した。
無数の0と1で構成された空間ゆえ、幻覚術で呼び出された
幻覚もどこかちぐはぐした感じがするが、『天井』に仕掛けられた罠を起動するには十分だったようだ。
(「殺意が高そうな罠ね」)
もし、静穂自身が巻き込まれていたら、おそらく膨大な電子の海の何処かに放り出されてしまっていたはず。
幻覚が巻き込まれたからこそ、罠は回避できたけど――それはそれで楽しそうな予感。
(「これで、幻覚で遊べるのはわかったわ」)
その後も、静穂は行く先々で幻覚を先行させ、罠を調べ、発動させてゆく。
正直、まだまだ遊んでいたいけれど。
(「これ以上遊んでいると、グリモア猟兵に叱られてしまいそうね」)
ならば、と頼りにするのは――ユーベルコード【鏡略瞳】。
『迷子になりそう。困ったわ』
言の葉を電子の海に流すと、静穂の周囲に幻影でつくられた現在地周辺の地図が浮かび上がる。
通常なら幻覚や幻影を0と1の記号に変換することはできないが、サイバーザナドゥにおいて失われた古代の叡智『ユーベルコード』であれば、一時的にではあるが幻覚を電子の海に重ねられるということだろう。
ともあれ、これでゴールまでの道筋は見えた。
さらに、罠で遊んでいたおかげで、仕掛けられている罠の癖や特徴も掴んだつもり。
(「迷宮の攻略法としては、ちょっとズルいかもしれないけど」)
「私は正々堂々の猟兵じゃないの、ごめんなさいね」
おそらく、この光景を見ているであろう情報屋に謝りながら。
静穂は重ねられた地図の通り進み、罠を回避し、時には幻影を先行させわざと発動させながら、ゴールの街外へ向けて楽し気に歩いて行った。
●
街中を抜けると、突然景色が和風の街並みから剥き出しのコンクリートの部屋に変わる。
どこか殺風景な部屋の片隅には、陰陽師姿の青年が立っていた。
「おう、ここまで辿り着くとはな」
「ちょっとズルしてごめんなさいね」
「ズルかどうかは気にしねえよ。アレを突破できりゃ無問題」
にやり、と笑う陰陽師に対し、静穂も軽く笑いながら声をかけた。
「あなたが情報屋さん? なにか面白い話、聴かせてくださる?」
「おもしれぇかどうかはあんたが判断することだが……今のあんたが求める情報なのは確かだぜ」
※情報屋から得られた情報は、2章冒頭の断章で公開いたします。
新章開始の連絡がありましたら、ご確認をお願いします。
大成功
🔵🔵🔵
セルゲイ・アダモヴィチ
【A】
"恒星柿の枝"を松明のように掲げ
辺りを照らしつつ森を歩く
電脳空間への潜入はこれが初となるが……まこと面妖な技よ
儂の"生身"は酒場の隠し部屋にて、ごてごてと機材(からくり)を纏い座したまま。
いま操るのは通信網(ねっとわーく)上に再現された仮初の躰なのだという。
この枯枝を踏みしめる触りも、淀み湿った森の匂いも、虚構の感覚に過ぎぬ、と……信じ難いが。
木々の隙間より聞こえる息遣い、いつの間にか囲まれておる
魔術の再現のほどは如何ばかりか、1つ試すとしよう
笠を深く被り直し、自身の目耳を保護した後【晶星殉明】
闇に生きる者共に、星の晶光はさぞ眩しかろう
敵が怯んだ隙に走り抜ける、これを繰り返す
●
「電脳空間への潜入はこれが初となるが……まこと面妖な技よ」
ダークセイヴァーのような夜闇に包まれた森を歩きながら、セルゲイ・アダモヴィチ(貪老・f44644)はひとりごちる。
今、セルゲイが操っているこの身体は、通信網(ねっとわーく)上――サイバースペースに再現された
仮初の躰。
(「儂の“生身”は、酒場の隠し部屋にて、ごてごてと機材(からくり)を纏い坐したまま」)
"恒星柿の枝"を松明のように掲げ、辺りを照らしつつ歩みを進めてゆくと、足裏から枯枝や枯葉を踏みしめる感覚が伝わってくる。
ふと、鼻先を淀んだ森の匂いが掠めた気がした。
(「……踏みしめている枯枝の障りも、日が差さぬ故に淀み湿った森の匂いも、全ては虚構の感覚に過ぎぬ」)
ここはサイバースペース――全てが無数の0と1で構成された虚構の世界だが、今セルゲイの五感に訴えかけている感覚は――
現実の感覚そのもの。
「……信じ難いが、これが今の現実なのか」
ここまで再現できるのかと、セルゲイが興味深そうに呟いた、その時。
――ガサッ。
周囲の茂みが、ごくごく小さな音とともに揺れた。
セルゲイが足を止め周囲に目をやると、木々の隙間から複数の息遣いと唸り声が漏れ出している。
「いつの間にか囲まれておった、か」
囲んでいる気配の主は、おそらく原生生物だろう。
ひょっとしたら、うまく気配を誤魔化したヴァンパイアも混じっているかもしれないが、敵意を持つ者に囲まれている事だけは確か。
「さて、魔術の再現のほどは如何ばかりか」
ひとつ、試すとしようと笠を深くかぶり直し、目と耳を確り保護した上で、恒星柿の枝を高く掲げる。
『今際の星、あらん限りに爆ぜよ!』
魔術を発動すると、杖の先端に煌々と輝く球体が現れ――膨張し始める。
――カッ!!
輝く球体に原生生物が怯んだ直後、球体が爆発し、周辺一帯に閃光と轟音が荒れ狂い、隠れし者どもの視聴覚を奪う。
直後、強烈な衝撃波が木々と茂み、そして隠れている者どもの肉体を吹き飛ばした。
「――闇を生きる者共に、星の晶光はさぞ眩しかろう」
セルゲイの呟きに応える者は――誰もいない。
どうやら、先程の衝撃波で、原生生物もヴァンパイアもまとめて吹き飛ばしてしまったようだ。
(「敵が怯んだ隙に走り抜けるつもりであったが、ちと威力が強すぎたか」)
通常なら魔術を0と1の記号に変換することはできないが、サイバーザナドゥにおいて失われた古代の叡智『ユーベルコード』であれば、サイバースペース内でも魔術が再現できるということなのだろう。
ちとやりすぎたかと心の裡でそっと苦笑いを零しつつ、セルゲイは再び恒星柿の枝を翳しながら、敵の気配が失せた森の奥へ進んでいった。
●
その後も、セルゲイは原生生物やヴァンパイアの気配を察するたびに星の晶光で吹き飛ばし、先を急ぐ。
森を駆け抜けた先には、さらなる暗い森……ではなく、剥き出しのコンクリートの部屋があった。
どこか殺風景な部屋の片隅には、陰陽師姿の青年が立っている。
「おう、ここまで辿り着くとは、感心したぜ」
「お主が情報屋とやらか」
セルゲイの誰何の声に、青年は深く頷いた。
「もちろんさ」
※情報屋から得られた情報は、2章冒頭の断章で公開いたします。
新章開始の連絡がありましたら、ご確認をお願いします。
大成功
🔵🔵🔵
リオン・リエーブル
【D】
仮想現実に潜るのも面白そうだけど
現実世界でできることをやってからだよね
という訳でYCPの野上警部補と話をするよ
例のベルセルカーについて新情報が出たんだ
情報提供するから
その後の捜査で分かったこととか教えてよ
こちらはグリモア猟兵の情報を、そちらは足で稼いだ情報を
すり合わせれば新情報が出るかもね
あと薬のサンプルあったら頂戴
指定UCのゴーレムさんに錬金術で解析させとくよ
あとジェイムス・アッシュさんと連絡を取るよ
あの後例の薬草研究に進展あったか聞きたいね
時間ができたら解毒薬作成できるように準備しとくよ
できれば少年を保護したいからさ
無理でも彼の誇り高い魂を少しでも取り戻させてあげてから還してあげたいね
大規模な実験をするには準備は不可欠
ここ数カ月以内のメガコーポのお金や物資の流れに不審な点がなかったか
以前の事件と類似点がないかを教えて貰おう
今後似たような事件が起きた時
初動で有利を取れるようにしときたいからね
準備ができたら情報を手に情報屋さんのところに行こう
警部補も来る?
どんな情報が出てくるかな?
●
――他の猟兵達がサイバースペースにて迷宮に挑んでいる頃。
リオン・リエーブル(おとぼけ錬金術師・f21392)はあえて現実世界に残り、YCPロウアータウン分署に向かっていた。
「仮想現実に潜るのも面白そうだけど、現実世界でできることをやってからだよね」
という訳で、以前の事件で協力したYCPの野上警部補と話をすべく、足を運ぼうとロウアータウンに踏み込み……すぐ異変に気付いた。
――ロウアータウン全体に、異様な空気が漂っている。
「街全体に活気がなくなっているねえ」
リオンに気づいた住民たちが一瞬視線を向けてくるが、すぐに外す。
住民たちの表情からは、リオンにというよりは、もっと別の“何か”に怯えている気がしてならない。
(「気にはなるけど、野上警部補に聞いてみるか」)
こうなれば、頼りになるのはYCPだけだろう。
そう考えたリオンは、真っ直ぐYCPロウアータウン分署へ向かった。
●
分署内に一歩足を踏み入れた瞬間、街全体に漂っていた異様さはさらに濃くなった。
署内に、人の気配がほとんどしないのだ。
(「人がいないねえ」)
その原因に何となく思い至った直後、廊下の端からひとりの警官が姿を現す。
警官はリオンの姿を認めると、直ぐに駆け寄って来た。
「リオンさんじゃないですか!」
「おや、野上警部補。久しぶりだねえ」
「リオンさんも元気そうで」
「それより、妙に人が少ないようだけど?」
「ええ、実は……」
野上いわく、数か月前のオブリビオン大量発生事件で多くの署員が“ベルセルカー”化し命を落とした後、かろうじて“ベルセルカー”化を逃れた署員たちも次々と署を去り、署員の数が激減して署の機能を維持するだけで精いっぱいらしい。
それでも、野上を中心に、残った署員たちで何とか分署を立て直せないかと奔走しているものの、期待していたYCP本部の援助がほぼ得られず、立て直しにも着手できてないのが現状のようだ。
「本部の手助けが得られない、ねぇ……」
(「まあ、前回の事件に署長が噛んでいたのなら、本部も深くかかわっているだろうからねえ」)
リオンの推測を裏付けるように、野上は一つ首肯した後、続ける。
「ええ。しかもあの事件以後、“ベルセルカー”化する市民の数は急激に増えておりまして、そちらの対処にも人手が必要ですが……正直、手が回っていないのが現状です」
心ある市民から通報が入る都度、何とか人手を割いて対応に回ってはいるが、いかんせん多勢に無勢で返り討ちに合っているのが現状。
結果的に、ロウアータウン全域の治安は急激に低下し、いつ暴動が起こってもおかしくない状態だと、野上は告げた。
――このまま放置しておけば、遠からずロウアータウンは混沌に沈む。
その前に手を打つべく、リオンは野上に切り出した。
「その、例のベルセルカーについて新情報が出たんだ。情報提供するから、その後の捜査で分かったこととか教えてよ」
グリモア猟兵からの情報と、足ですり合わせた情報を合わせるべく、提案してはみたが、野上の反応は芳しくない。
「その後の捜査、と言われても、対応で精一杯で進展はほぼないのです。ですが、署員のひとりが首謀者らしき人物の顔を見ていました」
そう言いながら、野上は似顔絵が描かれた1枚の紙をリオンに見せる。
デジタルではなく、アナログの紙に記録してあるのは……本部に悟られぬようにするためだろう。
紙に描かれていたのは、どこかあどけなさを残す10代程度の少年の姿だった。
(「おそらく彼が
最終死刑囚なのかな?」)
一先ずその姿を記憶しておき、リオンは別の話題をもちかける。
「あと、ジェイムスさんとは連絡が取れる?」
以前、とある『秘境』で邂逅した人物の名を出すが、野上の反応は――否。
「どうやら、秘密裏に世界中を飛び回って、クワハラ・ファーマシーと対立している方々を探しているようで……最近は連絡も取れないです」
「薬草研究に進展があったか聞きたかったけど、仕方ないかあ」
連絡取れたら教えてね、と頼み、リオンはほんの少しだけ沈思黙考した。
――実はリオンは、できれば少年を保護したいと考えていた。
その肉体は救えないかもしれないが、彼の誇り高い魂を少しでも取り戻させてあげてから還してあげたい。
ゆえに、時間が出来たら解毒薬を作成できるよう準備しておきたかったが、ジェイムスと連絡が取れないのでは、おそらく間に合わないだろう。
一旦諦めるしかないな、と思考を切り替え、リオンは話題を変えた。
「ここ数か月以内に、
クワハラ・ファーマシーのお金や物資の流れに不審な点はなかったかな?」
「一応調べてはいますが、もともと我々にも閲覧が許されていない情報ですから……厳重極まりないセキュリティを突破して閲覧できないか挑戦はしていますが、なかなか」
もし、腕のいいハッカーの手を借りられれば、サイバースペース経由で強引にYCPのシステムに侵入できるかもしれないが、時間がかかるのは想像に難くない。
ならず者たちに武器弾薬や薬物が渡っているか否か、ロウアータウン全体を駆けまわって情報を稼ぐという手もなくはないが、人手が絶対的に足りていない現状ではそれも困難のようだ。
(「今後似たような事件が起きた時、初動で有利を取れるようにしときたかったけど」)
そのためには、今起こっている事件を根本的に解決するのが先だろう。
まずは今回の事件を解決するか、と思い直し、リオンは情報収集と根回しを打ち切った。
●
「ありがとう。今から情報屋さんの居所に向かおうと思っているけど、野上警部補も来る?」
「私は周囲を固めておこうと思っておりますが……おや?」
リオンに告げた直後、野上の持つ端末からコール音が鳴り響く。
野上が端末を手にすると、画面にはひとりの陰陽師の青年が映し出された。
『よ、YCPロウアータウン分署の警部補さん』
「……察するに、情報屋でしょうか?」
『大正解。そっちにも伝えておいた方がよさそうだからね』
どうやってこの端末を把握したかは詮索しないでね、と姿に似つかわしくない軽い口調で語りながら。
陰陽師は野上の背後にいるリオンにちら、と目を向けながら、話し始めた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『名もなきベルセルカー』
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POW : フォールン・サイコブレード
自身の【漆黒の瞳 】が輝く間、【サイキックエナジーを凝縮したブレード】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
SPD : フォールン・ベルセルカーモード
【理性なき狂戦士(ベルセルカー)形態 】に変形し、超兵器【高出力サイコブレード】と超装甲【高出力サイコシールド】を得る。極めて強力だが、戦闘終了後に大切な記憶1つを失う。
WIZ : フォールン・カリギュラ
戦場内に【青白き炎状のサイキックエナジー 】を放ち、命中した対象全員の行動を自在に操れる。ただし、13秒ごとに自身の寿命を削る。
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●サイバーザナドゥ:サイバースペース――情報屋の居所
「あんたたちが求めている情報はこれだな――
クワハラ・ファーマシーが捕えている
最終死刑囚の
個人情報」
陰陽師姿の青年が手にした札を空中に放り投げると、空中に
最終死刑囚の全身写真が映し出される。
全身を鎧のようなボディスーツに包みながらも、どこか幼げな印象を残している少年の写真をそのままに、情報屋はどこか懐かしそうな口ぶりで猟兵達に告げた。
「今、彼に関する記録はほとんど残っていない。残っている……いや、
覚えているのは、俺たちアンダーグラウンドの情報屋くらいだ」
ここからは昔話と思って聞いてくれや、と前置きして、情報屋は少しずつ話し始めた。
「もう、何十年も前になるか。かつて、この四葉市周辺で都市全体を巻き込む抗争が勃発した」
抗争の原因は、今となってはわからないと、情報屋は告げる。
だがその結果、街全体が悉く破壊され、住民たちも日々の生活に窮する程にまで追い込まれた。
「荒廃した地を建て直そうと立ち上がったのが、当時メガコーポとして台頭し始めていたクワハラ・ファーマシーだった」
事実、街の復興のために人財を投資し始めたものの、その手法は強引を極め、金や武力で強引に用地を接収し、人心を掴み、行政を骨抜きにし、好き勝手に街を広げていったそうだ。
「もちろん、元々の住民たちも抵抗したが、金と武力を揃えたメガコーポ相手にかなう訳がない。彼もそのひとりだった……はずだったんだがな」
しかしある日、少年は現代で言うサイコブレイカーの力に目覚め、クワハラ・ファーマシーに立ち向かおうと決意したそうだ。
「彼はその力を持って、クワハラ・ファーマシーの暴虐振りにたったひとりで立ち向かった」
得た力を己の為ではなく、住民たちのために使おうと決意した少年の力は凄まじく、彼を排除しようとしたクワハラ・ファーマシーが送り込んだエージェントは次々と追い払われ、軍隊すら少年ひとりに全滅させられたそうだ。
「……俺らにとって、彼は街を守ってくれた、伝説の存在だったのさ」
最終的に敗北し、囚われの身となりはしたが、クワハラ・ファーマシーが受けたダメージは計り知れなかったそうで、復興は大幅に遅れたそうだ。
「だからこそ、クワハラ・ファーマシーは彼の全てを抹消したかったんだろう。故に表向き彼に関する記録は残っていないし、おそらく彼からも記憶は消されている」
ならばどうすれば、と問う猟兵達に、情報屋は新たな写真を映し出しながら告げる。
「記憶を消されても、思い出は簡単に消せるものじゃない。思い出の手掛かりを突き付け、記憶を揺さぶるんだ」
情報屋が新たに出した写真には、年相応の屈託ない笑顔を浮かべている
最終死刑囚の少年と、ほぼ同年代と思われる少女のふたりが写っていた。
「写っている少女の名はホサト。――もちろん、彼女の存在も皆の記憶から抹消されている」
この少女が少年にとって重要な存在だったのは、想像に難くない。
少女の存在を突き付け、思い出を想起させれば――少年を揺さぶれるはずだ。
「もうひとつ伝えておく。俺たちは、彼のことをこう呼んでいる――“はじまりのベルセルカー”ってな」
それはどういう意味だ、と問いたげな猟兵達の視線をあえて無視しながら、情報屋は深々と頭を下げた。
「もし、この意味を聞きたかったら、彼を倒してくれた後に話そう。――頼む、彼を止めてくれ」
情報屋の願いが、心の底からのものだと感じながら。
猟兵達は情報屋に礼を述べ、サイバースペースからいったん
ログアウトして現実世界へと舞い戻った。
●サイバーザナドゥ:四葉市――YCPロウアータウン分署
同じころ、ロウアータウン分署に足を運んだ猟兵にも、分署の警部補に繋ぎを取った情報屋から、同様の情報が伝えられていた。
「……これで我々も確信をもって断言できます。最近ロウアータウンで“ベルセルカー”を大量発生させているのは、この者です」
サイバースペースで入手した似顔絵と分署側で作成した似顔絵を照合し、確証を得たのか、警部補は彼が首謀者だと断言した。
「今回、使われている薬品は、これまでにない新種のものです。おそらく、これまでで蓄積したデータをもとに、改良が加えられているのでしょう」
――だとすれば。
「止める方法はただひとつ……薬物を使われる前に少年を倒す。それだけです」
その上で、薬物のアンプルを手に入れれば、解毒薬作成の可能性も生じると、警部補は告げた。
「そしてもうひとつ。情報屋からの伝言です。『彼を止めてくれれば、クワハラ・ファーマシーのシステムへの侵入を手伝う』と」
――その上で。
「我々からも、彼を討伐してくれるよう、お願いします」
ロウアータウンのためにも……と告げる警部補に、猟兵は一も二もなく頷いていた。
●サイバーザナドゥ:四葉市――ロウアータウン西部
情報を得て、根回しも終わらせた猟兵達は、グリモア猟兵が指示した現場に急行する。
猟兵達が現場に到着すると、程なくしてサイバースペースで見せられた写真そっくりの、
最終死刑囚の少年が現れた。
「邪魔をするなら――排除する」
一瞬で猟兵達を妨害者と看破したのか。
少年は両の瞳に冷たい光を浮かべ、両手にサイキックエナジーを集約しながら、猟兵達に襲い掛かった。
※マスターより補足
第2章は『名もなきベルセルカー』との戦闘です。
少年はクワハラ・ファーマシーの手で
最終死刑囚だった頃の全ての記憶を奪われた後、徹底的な洗脳調教を受け、クワハラ・ファーマシーの忠実な先兵と化しております。
ですが、情報屋から得た情報を少年に突き付ければ、少年は記憶の奥底にある何かを揺さぶられ、何かを思い出すかもしれません。
よって、第2章のプレイングボーナスは【
最終死刑囚の少年に得た情報を突き付け、揺さぶる】となります。
情報をどのように突き付けるかは、猟兵達にお任せします。
もちろん、あえて突きつけずに、苦戦覚悟で真正面から挑んでいただいても構いません。
――それでは、悔いなき邂逅と戦いを。
網野・艶之進(サポート)
「正直、戦いたくはないでござるが……」
◆口調
・一人称は拙者、二人称はおぬし、語尾はござる
・古風なサムライ口調
◆性質・特技
・勤勉にして率直、純粋にして直情
・どこでも寝られる
◆行動傾向
・規律と道徳を重んじ、他人を思いやる行動をとります(秩序/善)
・學徒兵として帝都防衛の技術を磨くべく、異世界を渡り武芸修行をしています
・自らの生命力を刃に換えて邪心を斬りおとす
御刀魂の遣い手で、艶之進としては敵の魂が浄化されることを強く望み、ためらうことなく技を用います
・慈悲深すぎるゆえ、敵を殺めることに葛藤を抱いています……が、「すでに死んでいるもの」や「元より生きていないもの」は容赦なく斬り捨てます
●
両の瞳に冷たい光を浮かべ、任務を遂行しようとしている
最終死刑囚の少年を見て、網野・艶之進(斬心・f35120)は腰に佩いている
御刀魂の柄に手をやる。
「正直、戦いたくはないでござるが……」
「邪魔をするつもりなら排除する――それだけだ」
漆黒の瞳に宿す光をさらに輝かせながら、
最終死刑囚の少年は迷いを見せる艶之進にサイキックエナジーを凝縮したブレードで躊躇なく斬撃を浴びせる。
一振りすれば九振りに等しいブレードの斬撃を
御刀魂で受け流しながら、艶之進は少年を観察した。
――オブリビオンは、骸の海から滲みだした『過去』が受肉したもの。
ゆえに、個体によっては『生きたままオブリビオン化』している場合もあると聞く。
『すでに死んでいるもの』や『元より生きていないもの』であれば、艶之進は容赦なく斬り捨てるが、艶之進の目には
最終死刑囚の少年はまだ『生きている』ように見えた。
……ならば。
「少年の心を取り戻すきっかけを作れば良いか?」
艶之進はユーベルコード【久遠斬】を発動し、
御刀魂に霊力を籠めながら、攻撃がいったん途切れるのを待つ。
『剣術とは、人を斬る技に非ず
……!!』
少年がブレードを振り下ろし切った直後、艶之進は
御刀魂を一気に振り上げた。
――斬ッ!!
御刀魂の刃が肉体には一切傷を付けず、邪心のみを斬る。
「が、あ……?」
その一撃で記憶にほころびが生じたのか、少年の瞳が微かに揺らいだように見えた。
成功
🔵🔵🔴
殺風景・静穂
ベルセルカーモード、か。
「極めて強力」なのも厄介だけれど、「大切な記憶1つを失う」というのも……勿体ないわね。
ベルセルカーモードを起動させる前に、大切な記憶を失ってしまう前に、思いとどまってくれると良いのだけれど、ね。
得意の幻覚術で「ホサト」とかいう少女の幻像を創ろう……と、試みるけれど、私は「ホサト」の容姿も人柄も知らないのよね
そこでユーベルコード「琴線戯」
「ホサト」の幻像のディティールを補完するのは、少年の深層心理に任せましょう
琴線戯が効いている間は、彼の目にはホサトそっくりに映るはずよ
彼の心を揺さぶって、動揺させ、疲労させて……
後のことは他の猟兵に任せようかな
私、直接攻撃するのは苦手なの
●
「あ、あ……」
最終死刑囚の少年は、先に挑んだ猟兵に記憶を揺らがされたか、両の瞳に浮かべている冷たい光を揺らめかせている。
その姿を見て、殺風景・静穂(計算ずくの混沌・f27447)は、ほんの少しだけ同情を瞳に浮かべていた。
おそらく、目の前の少年は、ベルセルカーモードとやらを発動し、超火力で屠ろうとして来るはず。
極めて強力なのも厄介だが、それ以上に――。
「――『大切な記憶ひとつを失う』というのも……勿体ないわね」
願わくば、思いとどまってくれると良いのだけれど、目の前の少年は思いとどまる様子はない。
「邪魔をするなら、排除する――ガアアアアアッ!!」
静穂を目にするや否や、少年はベルセルカーモードを発動。
瞳から冷徹な、しかし理性的な光が失われると同時に、少年の手に超兵器『高出力サイコブレード』と超装甲『高出力サイコシールド』が現れた。
もし、高出力サイコブレードで斬られれば――猟兵とてただではすまない。
斬られる前に、一手打たねばならないだろう。
――今こそ、情報屋が示唆した『ホサト』の存在を突き付ける時か。
静穂はホサトの人格も容姿も知らないが、ホサトの容姿は――つい先ほど目にしている。
(「――情報屋が見せてくれた写真を思い出せば、ある程度までは補完できそうね」)
静穂は写真の少女の容姿を思い出しながら、ユーベルコードで幻覚を創り出し、纏う。
『見せてあげる』
静かに言の葉を紡いだ直後、静穂の姿が写真の少女そっくりに変化した。
しかし、少年は静穂の姿を意に介さず、高出力サイコブレードを振り上げようとする。
「姿を変えても無駄……っ?」
至近距離で静穂の顔を見た少年の足が――止まった。
ユーベルコード【琴線戯】で創り出された幻覚は、対象の深層心理を刺激する特徴を持つ。
(「【琴線戯】が効いている間は、彼の目にはホサトそっくりに映るはずだけど……」)
予想通り、深層心理を刺激されているのか、少年はゆっくりと高出力サイコブレードを下ろし、静穂の顔を眺める。
「……君、は……」
そして、少年は何かの確信を得たかのように、がらりと声音を変えて呼びかけて来た。
「――ほさ、ちゃん?」
心の奥底に封じられていた記憶が蘇ったのか、少年の声音は、冷徹ではなく、大切な誰かに呼びかけるかのようになっている。
(「ほさちゃん……彼はホサトのことをそう呼んでいたのかしら」)
ならば、少年の名を呼んで応えてあげるべきか?
そう一瞬考えて――しかし静穂は直ぐに諦めた。
――情報屋は、ホサトの名前を明かしはしたが、少年の名前は明かしてくれなかった。
(「おそらく、彼を倒せば情報屋も話してくれるとは思うけど……」)
限りある情報の中で、静穂はかけるべき言葉を探り、少女のような口調で呼びかける。
「……うん、ホサトだよ」
「あ、あああ……」
少年の目から、狂気と敵意が消え、一滴の涙が零れ落ちる。
いつの間にか、手にしていた高出力サイコブレードと高出力サイコシールドも消滅していた。
(「よかった、記憶を失う前にベルセルカーモードを解除してくれた」)
「……ごめん、ほさちゃん、本当に……」
ほっとした静穂の前で、少年が涙ながらに口にした、その時。
『――*W?D&%#=+|~=』
少年の耳元から、ごく小さな声で、不明瞭な言語らしきものが流される。
「――――ッッッ!!!」
直後、少年が足を止め、全身を大きくのけ反らせた。
(「
メガコーポの傘下企業が、少年を再洗脳したのかしら!?」)
静穂が驚いている間に、少年は大きく全身を痙攣させた後、目の焦点を失い、膝をつき項垂れる。
数秒後、再び少年がゆっくり立ち上がるが、その瞳に先ほどまでの柔らかさはなかった。
「……任務了解。排除、します」
再び立ち上がった少年の声にも、大切な思い出は――ない。
少年は再び――
メガコーポの忠実な兵士へと戻っていた。
少年の心は揺さぶれた。
そして同時に――少年を傀儡として利用しようとする悪意も垣間見えた。
直接攻撃が苦手な静穂に、これ以上打つ手はないだろう。
(「ここまで引き出せたなら上々ね。後は他の猟兵に委ねましょう」)
少年の思い出を引き出す楔を打ち込めた、との手ごたえを得て。
少年が改めてベルセルカーモードを発動するより早く、静穂は身を翻し撤退し――次の猟兵にバトンタッチした。
大成功
🔵🔵🔵

亞東・霧亥
彼のフォールン・カリギュラ。
あのUCを巧く使えれば、記憶を揺さぶる事が出来るかもしれない。
【UC】
キマイラ・フューチャーから新人電脳コスプレイヤー(バーチャルキャラクター)を召喚。
感情を制御して演技に長ける者より、彼の姿に感情移入して寄り添える者が適任。
「任務は彼の記憶を取り戻す一助となる事。報酬はこの世界で彼の関係者から知名度を得られる事。気負わずに君は君らしく在れば良い。」
写真から得た容姿と服装に変身してもらった後、彼のWIZ・UCを浴びてもらう。
彼がホサトに変身した相手に望む言動は、表層より深層に刻まれた記憶に強く作用するはず。
囁きなど耳に入らない程、深く集中してくれたら好機は訪れる。
●
「邪魔をする者は、全て排除する
……!!」
最終死刑囚の少年は、瞳に冷たい光を宿しながら、明確な殺意を振りまいている。
先に挑んだ猟兵に記憶を揺らがされ、大切な人の記憶を呼び覚まされたにも関わらず、少年は
メガコーポの傘下企業の手で再び洗脳され、
メガコーポの先兵に戻ってしまっていた。
そんな少年の前に、亞東・霧亥(峻刻・f05789)が立ちはだかる。
(「……彼の少年が使うというユーベルコード【フォールン・カリギュラ】」)
戦場内に青白き炎状のサイキックエナジーを放ち、命中した対象全員の行動を自在に操れるというユーベルコードの存在を知った霧亥の頭に、ひとつの仮定が浮かび上がる。
「あのユーベルコードを巧く使えれば、記憶を揺さぶることができるかもしれないな」
霧亥はスマホを取り出し、アプリを起動する。
そのアプリの名は――『異世界召喚』。
一見すると、何らかのゲームのアプリに見えるそれは、霧亥が言の葉を唱えながら起動すれば、文字通り望むモノを召喚するための鍵となる。
(「ここは感情を制御して演技に長ける者より、彼の姿に感情移入して寄り添える者が適任だな」)
『為せば成る、為さねば成らぬ、何事も』
言の葉を口にしつつアプリを起動すると、『彷徨う者』の名を持つ悪魔が、キマイラフューチャーの新人電脳コスプレイヤーの姿を取って現れた。
「ご主人様、ご用は何でしょうか~?」
明るく振る舞う『彷徨う者』に対し、霧亥は情報屋から手に入れたホサトの写真を見せながら命じる。
「君の任務は、彼の記憶を取り戻す一助となる事。気負わずに君は君らしく在れば良い」
「それなりの報酬はあるんですよね~?」
「報酬は……そうだな。この世界で彼の関係者から知名度を得られる事だ」
「わっかりましたぁ……それっ☆」
交渉成立、と言わんばかりに『彷徨う者』が軽く手を一振りすると、その姿が写真のホサトと同じ姿に変化した。
「あ、あ……」
その姿を見た少年が、表情を和らげコスプレイヤーに近づこうとした、まさにその時。
『――*W?D&%#=+|~=』
再び、少年の耳元から、不明瞭な言語が流れ出した。
「――――ッッッ!!!」
その言語を耳にした少年は全身を大きく痙攣させ、眼を大きく見開き眼球を頻りに動かすが、今度は気を失うまいと耐え続けていた。
――一度深層心理に穿たれた楔は、そう簡単に抜けるものではない。
だが、
メガコーポの悪意は、その楔を破壊せんと少年に悪意を吹き込み続ける。
「あ、ああああーっ!!」
少年が何かに抗うよう悲痛な叫びを上げながら、両腕から青白き炎を迸らせる。
サイキックエナジーの炎は、ホサトに変身したコスプレイヤーに命中し、全身を覆い尽くした。
「……っ!?」
突然炎にとらわれたコスプレイヤーが一瞬身を捩るも、その炎から何らかの意志を感じ取ったか、すぐに抵抗を止める。
(「彼がホサトに変身した相手に臨む言動は、表層より深層に刻まれた記憶に強く作用するはず」)
霧亥はその可能性に賭け、わざとコスプレイヤーに【フォールン・カリギュラ】の炎を受けさせた。
囁きなど耳に入らない程、深く集中してくれたら好機は訪れると思っていたのだが、先に再洗脳のための囁きを耳に入れられてしまっている。
こうなれば、囁きが勝つか、それとも霧亥が狙う好機が訪れるのが先か。
霧亥が固唾を吞みながら見守っていると、炎に包まれたコスプレイヤーの身体が、少しずつ少年の下に引き寄せられていった。
――間違いなく、少年がホサトを呼び寄せている。
コスプレイヤーもそれを察し、引き寄せられるまま少年に接近した。
やがて、少年の手がコスプレイヤーの手に届く。
お互いの指が触れた直後、少年は涙を流しながら、ホサトの姿をしたコスプレイヤーを引き寄せ、抱きしめた。
「ほさちゃんごめん、本当にごめ……ん……」
少年に応えるように、コスプレイヤーもまた、少年の身体をぎゅっと抱き締める。
「いいの、謝らなくても、いいの……」
「でも、でも……」
「わたしはね、
帰って来てくれただけで嬉しいから」
それは、コスプレイヤーなりに少年の記憶と感情に寄り添ってかけた言の葉。
この言の葉が事実かどうかは、霧亥にもコスプレイヤーにもわからないが、少年の表情からは険が取れ、声音は年相応の少年のそれに変わっている。
「でも、僕は、もう……」
そう、少年が口にした直後、少年の耳元に囁かれる声が大きくなった。
『――*W?D&%#=+|~=!!』
声が大きくなると同時に、少年がコスプレイヤーを引き離すように突き飛ばす。
直後、少年の首元が僅かに盛り上がったかと思うと、眼が血走り、表情が険しくなり始めた。
(「首元から薬物が投与されたのか!?」)
「あがっ、ああっ、ああ……っ!!」
直感的に察した霧亥の目前で、少年が大きく身をよじらせながら、サイキックエナジーの炎を四方八方に放ち始める。
その炎に籠められた性質が変化したのを察し、霧亥とコスプレイヤーは咄嗟に炎を避ける。
だが、炎をばら撒いている間も、少年は涙を流し苦悶の表情を浮かべ続けていた。
大成功
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