ぽつ、ぽつと雨が落ちる。
ふうわりと立った香のかほりが綻んでは傘の下から緩やかに庭へと広がってゆく。
ぽつぽつと降り始めた微かな雨音に混じる香のかほりは甘くも爽やかで、ただ心地よく美しささえ感じられるほど。緩やかに歩む衣擦れの音小さく、土の上でも引き摺る上衣に泥さえつかせぬ衣擦れの主――遥か昔、平安の物語から抜け出たような姫君の歩みがひたりと止まった。
『……――
、』
本を抱き、天より降り来る雨に向けた淡い姫君のか細い祈りは徐々に強くなる雨音に霧散すれば、相反して雨を吸い立つ土の香り――そして水を含んだ香の匂いが徐々にかほりの大輪を花開かせ辺りを満たしたその時、飛び石を無視した無礼な化け物の足は落花を踏み躙り香りを蹴散らしてしまう。
祷りを喰らい、花を潰し、雨をものともしない化け物――デモノイドは、紫陽花鮮やかに彩付く庭を荒らしたさに体を揺らしどこか嗜虐的にわらっていた。
――“人”としての思考など疾うに弔い、ただ暴威の衝動だけを胸に生臭い息を吐きながら。
●『わたくしは、どうすべきだったのでしょうか?』
「馨る花には虫が寄るとは申しますが、異形の悪魔が寄り来るとは思いますまい」
“さて、困ったものですわね”と壽春・杜環子(懷廻万華鏡・f33637)が眉を下げ微笑んだのも束の間、パンと手を打ち空気を変えるや手にしたのは一枚の紙。
——先の戦い“獣人世界大戦線”において討ち取られた者の中に、ある男がいた。
「帝都において暗躍していた
黯党首魁 本田英和――は、皆様ご記憶にございましょう。しかして、黯党の残党がおりました」
例え首魁が死のうと、連鎖は断ち切れない。
残党の行動は恐ろしいほど素早く、本田亡きあとを同盟を組んだ者に“
ある悪魔”を託したのだ。
悍ましいことに、悪魔――デモノイドは、元は人だという。人間に“デモノイド寄生体”を植え付け生み出された人造悪魔。主人に忠実で、理性弔った異形 デモノイド。
「多少なり混乱でもして見せれば良いものを、憎たらしいほど判断が素早いったらありませんわ。余程優秀な者をあつめていたか……それとも、その同盟者が唆したのか。そう、その同盟者の名は――」
“幻朧戦線将校 カルロス・グリード”
「この“カルロス”の名を耳にしたご経験のある方もいらっしゃるとは伺っておりますが、以前同様かはわたくしに判別はつきませぬ。しかしこのカルロスなる男の判断も、非常に速いものでございました」
カルロスは託された悪魔生物 デモノイドを、生前の未練や執着に常に苛まれているか弱き影朧に供したのだ。
影朧とは、か弱き存在――……であるからこそ、焦ることない対処の
しようがあった。しかし、本来揮えるはずのない力を手に入れてしまった影朧がどうなるか……いや“
どのようなことをするか”など、想像に難くない。
「……まして、かの将校は悍ましいことに影朧へ“世界の復讐を成せ”と。――さぁ、準備はよろしくて? 理解が早くて助かりますわ。そう、わたくしたちは急がねばなりませぬ」
にこりと微笑んだ杜環子が自身の手にした鏡を撫でれば、柔らかに浮かぶのは柔らかに閉じた蕾のようなグリモア。
きらきらと輝くそれが一際強く輝き花開いた時――世界は変じてゆく。
「力の何たるかも知らず暴走寸前のデモノイドを討ち、慣れぬ力に振り回される影朧を
止めねばなりませぬ」
どうか、ご武運を。
皆川皐月
お世話になっております、皆川皐月(みながわ・さつき)です。
馨る花に、雨に、鬼来る。
●現場
紫陽花鮮やかな
洋風庭園
●天気:雨
●第一章:悪魔生物『デモノイド』
人の自身を弔った悪魔。
●第二章:『香煙を薫らせて』
庭園は紫陽花と初夏の花、木々で仕切られた迷路のようになっています。
庭を満たすは夏前の緑の香と雨、そして花々と“辿るべき本当の香り”と――悲し気な少女の声、です。
雨の中、ヒントたる“本当の香りだけを辿り影朧の元へ。そして“悲しげな声”から影朧の祈りを察し説得のヒントにすることも叶うでしょう。
また、花を愛でなかが歩む僅かな余裕がございます。
●三章:承香殿の女御『紫の宮』
白い頬を滑る涙の意味を。
祈るような声を、どうか聴いてあげて。
●約束
公序良俗に反する行為、未成年の飲酒喫煙、その他問題行為は描写しません。
●同伴人数
いずれも冒頭に【ID+呼び名】または【団体名】をご明記下さい。
・オーバーロード使用なし:ご自身含め2名まで
・オーバーロード使用あり:人数上限無し
※同伴者全員オーバーロード適用必須
●オーバーロード:基本全採用です
●プレイング受付期間
タグにてご連絡いたします。
オーバーロードは送信可能であればいつお送りいただいても構いません。
皆様のご参加、心よりお待ちしております。
第1章 集団戦
『悪魔生物『デモノイド』』
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POW : デモノイドグラップル
単純で重い【悪魔化した拳】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : デモノイドカッター
【剣状に硬質化した腕部】で近接攻撃し、与えたダメージに比例して対象の防御力と状態異常耐性も削減する。
WIZ : デモノイドロアー
【恐ろしい咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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数宮・多喜(サポート)
『アタシの力が入用かい?』
一人称:アタシ
三人称:通常は「○○さん」、素が出ると「○○(呼び捨て)」
基本は宇宙カブによる機動力を生かして行動します。
誰を同乗させても構いません。
なお、屋内などのカブが同行できない場所では機動力が落ちます。
探索ではテレパスを活用して周囲を探ります。
情報収集および戦闘ではたとえ敵が相手だとしても、
『コミュ力』を活用してコンタクトを取ろうとします。
そうして相手の行動原理を理解してから、
はじめて次の行動に入ります。
行動指針は、「事件を解決する」です。
戦闘では『グラップル』による接近戦も行いますが、
基本的には電撃の『マヒ攻撃』や『衝撃波』による
『援護射撃』を行います。
●淡雨に滲む琥珀
肌を撫でるような淡い雨を気にせず、数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は素早く周囲を伺いながら庭を駆け、内心で舌打ちしそうになっていた。
「……ったく、にしたって人間なんて」
幾多数多の事件や戦いを越えてきた多喜からすれば、グリモア猟兵の言葉に驚きを覚えることは無かった。悪党と研究者というのは、組めば自ずと人間として踏み外してはならぬ道を踏みやすいと聞くが、それはあくまで物語やゲームの話。
二次元的に描かれるものを、まさか現実にする馬鹿がいてしまうとは。
「一体、悪魔になってまで何がしたかったんだい」
問えればよかった。
悩みがあるなら、聞いてやれることがあっただろう。
苦しみがあるなら、分かち合える何かがあっただろう。
――もしかすれば、
『ッォオオオオオオオオオオオオオオオオ
!!!!』
「あっ、っぶないねぇ!!」
頭部目掛けて降り抜かれた剛腕を仰け反り避けられたのは、庭へ降り立ってから常に多喜は発動していたテレパスのお陰。素早く転がり受け身を取ると、拳振り上げたデモノイドの二撃目を多喜はギリギリで躱す!
「(話通り理性無し、衝動あり。そして、)」
『グルァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
「っ人間性、0かっ……!」
行動原理など、ただ多喜が“六番目の猟兵”でデモノイドには“殺戮対象である”以外にない。
脳裏で“デモノイドは元人間”という情報が痛み滲むのを振り切るように多喜が拳を握れば、淡い雨に濡れた革手袋が擦れ合い甲高い声を上げていた。
「いいさ、あなたの相手はアタシだよ。全力でやろうじゃないか」
『ァァアアアアアアアアアアアア
!!!!!』
ファイティングポーズを取った多喜を威嚇するように咆哮したデモノイドが紫陽花を圧し折り振り払いながら突貫する!
「――! なんて、アタシが後手に回ってるだけだと思うんじゃないよ! ―――来やがれ、オーヴァード!」
――絶対座標チェック、空間クリア。サイキックロード接続――
UC
心機一体!!
多喜の愛機“JD-Overed”の自動機構が素早くデモノイドを殴打で弾き飛ばし、デモノイドが立ち上がるよりも早くキャバリアに搭乗した多喜の一撃が、深々とデモノイドを貫いた。
しっとりと雨に濡れた髪をかき上げながら、多喜は未だ曇天の空を仰いだ。
「……なんで、こんな事件」
人を悪魔にする――……夢門語りにしてはあまりに後味が悪く、あまりにも人としての道を踏み外した所業の答えは未だ掴めない。
成功
🔵🔵🔴
下原・知恵(サポート)
「話は聴かせてもらった。つまり……ここは
戦場だな!」
◆口調
・一人称は俺、二人称はお前
・ハードボイルド調
◆癖・性質
・公正と平等を重んじ、己を厳しく律する理想主義者
・自分の現況を何かにつけてジャングルとこじつけたがる
◆行動傾向
・己を顧みず同志の安全と任務遂行を優先する(秩序/中立)
・UDC由来の人工心臓が巨大ゴリラの変身能力をもたらす
・ジャングルでの戦闘経験から過酷な環境を耐え抜く屈強な精神力と意表を突くゲリラ戦術を体得している
・とりあえず筋力で解決を試みる。力こそパワー
・手軽に効率よく栄養補給できるバナナは下原の必需品
・生真面目がたたり、意図せずとぼけた言動や態度をとることがある
●蒼き密林に
端的に言って実に不義理な行いだと、下原・知恵(ゴリラのゲリラ・f35109)は胸をざわつかせた感覚そのままに葉巻を噛んだ。
「(そのようなこと、人もゴリラも許さないだろうな)」
デモノイドという人造悪魔をカルロス・グリードに託したのは、本田英和に傾倒していた魔術師たちだという。おそらくだが、
同盟者に少なからず“本田のようにいてほしい”と残党は淡い期待を寄せていた可能性を耳にしたからこそ、思う。
だが、人造悪魔を救うには遅く、防ぐには手遅れとなった今――残されたのは戦い、そして勝つことのみ。
「……――つまり、ここは
戦場だ」
『グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
!!!!!!!!!!1』
叩き下ろされたデモノイドの巨腕を転がり避け、知恵が素早く飛び込んだのは紫陽花の木々の中。纏う迷彩が雨に濡れた紫陽花の葉に同調し、瞬く間に知恵の姿をデモノイドの視界から消してしまう。
「(悪魔にされた人間……それは公正に選ばれたのか。それとも、)」
考えたところで、情報源たる本田英和はもういない。頭を振り思考を切り替えた知恵は素早く紫陽花の木々の間を匍匐前進しデモノイドを見た。
「……始めよう。もうお前は俺の
間合いへ踏み入った。出すわけにはいかない」
UC―
超獣技法《
五里五里舞霧 》―!
静かに雨降る中、肌に触れた雨水も湿気から感じた汗をも瞬く間に蒸発させた知恵が自力で霧を作り出す。
あまりに自然に立ち込めた霧はデモノイドの視界を瞬く間に奪い、戸惑ったデモノイドが首を巡らせる間に数センチ先さえ知れぬ真の濃霧を化していた。
『グォ、オ……?』
「お前の話は聴かせてもらったぜ。だからこそ、ここで俺が止める」
静かな知恵の声も発砲も濃霧にまかれデモノイドには一切届くはずもなく、当然防ぐ術は無い。ただ四方八方から放たれる銃撃へ抵抗しようと、わけもわからず振るわれるデモノイドの腕が紫陽花を散らすだけ。
花に罪はないと知る知恵は素早くワサビニコフ自動小銃の引き金を引き、齎すのは終焉。
命として、人間として、本来存在は平等であったはずの悪魔へ引導を渡すがごとく正確無比な銃撃に、ただデモノイドは咆哮した。
『ッッッォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
!!!!!!!!!!!!!』
「無理もねえ。霧の中じゃあきりきりまい。俺の技も見切れまい……」
泥濘の地に、重い音を立てた青い体が倒れ伏す。
成功
🔵🔵🔴
青梅・仁
……嗚呼、胸糞悪いな。カルロスも黯党も余計なことばかりしやがる
……これが本当に人だったなんて、思いたくねえよなぁ
だが、分かる。分かってしまう。確かに人だったんだと
望んでなったのか望まずなったのかは分からんが……
だからこそ、無意味な暴力を振るわせたくはない。ここで止めんとな
刀を抜き、『挑発』
ほら、遊ぼうぜ?お前さんらが先に潰さなきゃいけねえのは俺だ
剣状になった腕は刀で受け止める
鍔競り合いになるだろうが、そこに尾で一撃加えてからUC
至近距離での『斬撃波』――加減はしない、長く痛めつける気はないからな
そんな姿になって、罪を重ねるような使われ方をするくらいなら、早く倒れたほうがいいだろ?
●藍より青き憎悪の塵殺
酷い話だ。
あまりに惨い話だと、ただ一つの生命として青梅・仁(鎮魂の龍・f31913)は思わずにはいられなかった。
「なんで、こう――」
“にんげんは、いのちをたいせつにできないのか”。
尊ばれるべき命を、たった一つの命を擲ってでも
人の理を外れてまで成したかったこととは、一体何なのだろう――などと考えたところで些末なこと。
発端の
黯党首魁 本田英和は戦場にて討死。そして事情を知っているはずの
悪魔の一柱、ブエルもまた猟兵たちによって討滅された。
「……胸糞の悪ぃもん残しやがって」
立つ鳥が後を濁してなんとする。
そんな思いを胸に、ゆらりと紫陽花の庭へ仁は泳ぎ出す。
・
・
・
『ッ、ォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
!!!!!!!!!!!!』
「ったく!」
紫陽花の間に仁を見つけた瞬間、雨空を劈くような咆哮を上げたデモノイドが情緒も風情も何もかもを薙ぎ倒し仁へ迫る!
せめて無辜の花々に被害を少なくしようと思ったものの、どうやら本日の運は味方をしなかったらしい。
仁が舌打ちする暇も無く、膂力のみで振り下ろされる一撃を拳が纏う風圧に抗うことなく身を滑らせ躱した仁をデモノイドが忌々しく睨み上げ、生臭い息を溢し子供のように地団駄と踏めば舞ったのは踏み躙られた紫陽花たち。
花の盛りを誰にも見られることなく
踏み荒らされ姿の惨さに仁が眉間に皺を寄せようそ、一つも悔いる様子の無いデモノイドは仁の想いに気付きもせず幾度も幾度も紫陽花を踏みつけ踏みつけ殺してわらった。
「(これが、例え人間でも――)」
きっとこの悪魔は、迷わない。躊躇わず紫陽花を踏みつけたように、人を殺すだろう。
ただ“猟兵だけを狙って”襲うのだ。間違いなく、デモノイドの力は塵殺するためだけの装置なのではないかとさえ思えてくるほどに残酷だ。
「……そんなもん、“人”にやらせてんじゃねぇ。手前で――そうだ、手前でやればよかっただろうが!」
忌むべきは本田か
黯党か。それとも、
この知恵を授けた真の悪か。
苛立つままに仁が握りしめた一刀の柄が軋むにつれて透明な香りが銀の波の刃へ集い、滴る
雨の気が仁へと添った。
「止めてやるさ。――そうだ、楽しくあそぼうじゃあないか。なぁ、“
俺”が欲しいんだろう?」
『ガアッァァアアアアアアアアアアアアアア
!!!!!!!!!!』
軽やかに尾鰭で宙を蹴り、無遠慮に揮われるデモノイドの腕の間を落ちるように抜けるやデモノイドの間合いへ滑り込んだ仁が断つは、悪魔と人の境。
「斬るぞ」
UC―妖剣解放―!
洗練された水の太刀が幾筋も、透き通る水の香を残した痕には粉々の石畳に沈む
人造悪魔 デモノイドただひとつ。
雨は降っている。
静かに、異形の血を流すようにしとしとと。
大成功
🔵🔵🔵
蓮見・双良
雨露は気にせず
どの世界にもいますよね…
人を媒介に何かを生み出す方々って
あまり趣味が良いとは言えませんし…何より僕の好みじゃないので
早々に終わらせます
念の為自身に夢のオーラ防御をかけつつ
極力先制攻撃か
敵の攻撃は身軽さを活かして軽業で回避か
銀鋏で受け流してから
カウンターでUCによる範囲攻撃
夢使いの弱点は、夢を見ない相手
それは重々承知の上ですし、物理での対抗策もあります
それでも、まだ夢を見る魂が残ってると信じて
最期の弔いに、貴方にはその裡に在った魂が望む夢を
…この世界なら、デモノイドとして死んでも…
生前の過去から影朧となる事もあるんでしょうか
そうすれば、まだ…
…いえ、ここでその悪夢は終わらせましょう
●煙る夢の雨にうたうならば、君は
どこか諦めたような、不機嫌そうな顔で導いた白く愛おしい背がどこか弱々しく、身長以上に小さく見えたのが蓮見・双良(夏暁・f35515)がこの紫陽花の庭へ足を踏み入れる直前の記憶。
「(……杜環子さんは、)」
深い藍色の瞳が孕んだ憂いにあったのは、長命種らしい思考のようであった。
いつの日だったか、ぼんやりと杜環子の家で話したことがあったのだ。“ねぇそらくん、どうして人間は短い命を大切にしないのかしら”と、なんともない顔で杜環子は言ったのだ。
杜環子の家にあったテレビのニュースを眺めながら盗み見た白い横貌は明日の夕飯を聞く程度の軽さだったことを双良は覚えている。
この会話を、恐ろしいという人間もいるだろう。
「(貴女は、いつだって心配してくれているのですよね)」
長く生きるからではない。
短い命だからではない。
“精一杯生きること”の価値を杜環子は知っていて、そんな杜環子のことを双良は知っている――ただそれだけの話。
ついと摘まんだ帽子の鍔を軽く上げ曇天の空を伺ったのち、糸のような雨を一切気にすることなく双良は紫陽花の合間へと爪先を向ける。
『グォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
!!!!!!!!!!』
「本当に、どの世界にもいますよね……」
巨腕の揮う膂力に身を翻した双良は、淡く明滅する夢のオーラを纏ったままデモノイドの追撃を躱し着地する。
紫陽花の庭で遭遇――というより、遥か遠方より
気付かれた双良は真っ直ぐに突進してくるデモノイドを正しく迎え撃っていたのだ。
数瞬の間に纏い終えた夢のオーラ防御は星雲の如く双良を守り、未だ身代わり鏡も健在の双良に傷一つない。そんな双良に業を煮やしたのか、頭上より力一杯叩き下ろされるデモノイド拳は敢え無く双良のバックステップで空振りに終わってしまう。
「人を媒介に何かを生み出す……ある意味、最も簡単な手法でしょう。そういう方々は世界の至る所にいますが、」
『グルォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
!!!!!!!!!』
双良の声を遮るように暴れ回るデモノイドが藍色の紫陽花を圧し折り踏み躙った瞬間、双良の目の色が変わり鋭くなったことに気付いた者は誰一人いなかった。
「――あまり、趣味がいいとは言えません。それに何より、僕の好みじゃないので」
にこ、と笑った双良は一見いつもの蓮見双良に見えるだろう。しかし、分かる者が見れば“逆燐に触れた”微笑みを浮かべた双良の銀の裁ち鋏の切っ先が泥濘の地を突く。
瞬間、果てなく広がるは泥濘より影より濃き悪夢――!
UC―ナイトメア・イロージョン―!!
悲鳴はない。上がるはずもない。人を捨てた者へ語りかける声柔らかに
その魂が望む夢を見せるのがこのUCなのだから。
「さぞ――
この域へ踏み込むのは、恐ろしかったことでしょう。どんな想いがあったのか、今知るすべはありませんが……あなたに、まだ夢を見る心が残っていると信じて」
沈め沈めや夢の涯。
泥濘捕える帰れぬ場所へ、さぁ。
「……生前の過去、あなたにもあるでしょう。デモノイドとして、死のうとも」
二度と動かぬ青が沈みきった時、少し強さを増した雨が陶器めいた双良の白い頬を滑って落ちた。
大成功
🔵🔵🔵
ラップトップ・アイヴァー
◎
つまりは人間だったのが、
理性ごと葬られ弔われ、
ここに居る、というわけね。
で?
人々の想いを利用されることはほんっとうに赦し難いことだけれど、
その程度でもう私は止まりませんわよ。
だって救えない以上は最早いつもの、
お出かけですものね?
死体の私に変身して、UC発動。
2分と言わず最速キルの心算で相手をしてあげる。
武器は使わずできる限り距離を詰めて咆哮の聴こえる中をゆきましょう、2回攻撃で拳を繰り返し叩きつけたり、蹴りを放ったりする暴力によって蹂躙してさしあげる。
敵の攻撃は回避せず激痛耐性で受けて――死体は痛みを感じない――カウンターで逆にサマーソルトキックの要領で蹴り上げてあげたりとかね!
しっかりと身体を動かして、葬り直してあげなくてはね!?
ふふ、思い出しますわね、ここに度々来るものだから。
花が綺麗だったりとか、美希に見せてあげたいけれど……今はまた今度、かしら?
しっかりと片付けることが出来たら、のびのびと背伸びでもしましょうね……。
それにしても。
世界に復讐だなんて、なんて
素敵。
●青を振り切る赫であれ
――どんな世界でも、いのちは淘汰される時がある。
人に、環境に、不意に。
「(……どういった理由で
そこへ至ったのかは分かりませんが、)」
異国の古い言葉に“捨てる神あれば拾う神あり”という言葉をどこかで聞きいたことをラップトップ・アイヴァー(動く姫君・f37972)は思い出しながら、拾った者も拾われた者も、ただ道を踏み外したのだと降り注ぐ淡い雨ごと一旦思考の端へ切り離す。
雨が降っている。
まるで、幽けき蜘蛛糸でも垂らしたような淡く細い雨が降っている。
猟兵でありながらアスリートであるラップトップにとって、この程度の雨ならば気にするものでもないと傘は差さずに静かに庭を歩き、息を潜めて
デモノイドを探す
ラップトップの目についたのは青い紫陽花。
此処へ来る直前まで見ていた友である杜環子の瞳にも似た青は雨に濡れ、一層深さを増してゆく。
「理性を弔い、葬られ――」
静かに聞いた
人成らざる者である杜環子の言葉が抱いていた、憂い。悔いにも似た想いごと反芻した言葉がほとりと庭へ落ち、波紋を立てたその時――
ソレは来た。
『ア゛ォオオオオォオアオアァァッァァアアアアアアアアアアアア!!!』
「っ、紫陽花を……!」
無遠慮に踏み荒らし花散らし迫る蒼き脅威の絶叫が
ラップトップの耳を劈いて脳を揺さぶる。
そ知らぬフリをして競り上がった血を吐き捨てた
ラップトップは、転がるように受け身を取るや振り上げられた拳の暴威を逃れ素早く立ち上がると冷静に体勢を立て直す。
「(やはり“殺戮目的”にしか興味を示していませんのね――!)」
話通りだと思う反面、だからこそこの雨に濡れた紫陽花を楽しめる風雅な庭にデモノイドという無礼な存在が許せなくなりながら、
ラップトップは改めてデモノイドを見た。
どろりとしていそうにも見える繊維質な青が、うねり絡んで一つの形を作っている。
剥き出しの歯。
伺い知れぬ瞳。
凶悪な剛爪と、変異した肘部分から伸びた棘。そして、背にあるのは翼にはなり得なかった何か。
きっと、もう人にはモドレナイ。
背を向けた――向けさせられた道に、今はまだ帰る術がない。
「――私は、あなたを憐れなどとは思わなくってよ」
『 ッ、オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
!!!!!!!!!』
雨散らし飛ばすデモノイドの咆哮の余波が
ラップトップの頬に赤いラインを引こうと、琥珀色の瞳を吊り上げ
ラップトップは引かない。しっかりと踏鞴を踏んで、一歩。
呼吸の隙を縫ってデモノイドの懐に踏み込むや
ラップトップが吼えた。
「それはあなたの選んだ道!!方法は存じません!無理やりだったのかもしれない!騙されたかもしれない!望んで、いなかったかもしれない!」
“もし”など、誰だってどんな人生だって良くも悪くも思うことだ。
想像してしまう、心ある限り。でも、目の前の
デモドイドだって“以前”思ったかもしれない。
しかし、捨てた。
全部、全部全部、
捨ててしまった。
良しとしたかは知れないだが、
結果が全てだ。
「だからこそ――
“今”のあなたは、その先へ行くべきですわ」
返事は聞かない。
“
死より昏くへ、”とわらった赫が纏うは躯の海――!
UC―Trigger
/2―!
そう――踏み躙られ色濃くなった青より濃き藍の瞳の友は言っていた。カルロス・グリードにデモノイドを持たされたのは影朧だと。そして、彼らの願いは――……。
「私、その発想――私、嫌いではなくってよ?」
あぁ、
世界に復讐だなんて、なんて
素敵!
高らかに笑った
ラップトップの鋭いサマーソルトキックが強かにデモノイドの顎を蹴り上げ咆哮を潰し吞ませ、更に空いた
ラップトップの膝が目の伺えぬデモノイドの顔面にめり込んだ。
もんどうりを打ち、巨体が仰け反ろうと
ラップトップは止まらない!
蒼い側頭部を殴り飛ばし、デモノイドの肩を足場に飛び上がる。回転して落下しながら踵落しを叩き込む。
闇雲に揮われる拳を泳ぐように逃れた
ラップトップが顔の横に両手をつき受け身を取れば、上から圧し掛かってこようとしたデモノイドの顎を再び蹴り上げ黙殺。
筋肉質な青を殴る拳がじんと痛もうと、蹴り上げた足の裏がズキリと軋もうと、
ラップトップに引く気はない。
本当は“美希”と楽しみたかった紫陽花が、大柄なデモノイドに踏み荒らされようとこの
バケモノは今ここで止めるべき存在なのだから――!
鈍い音を立て泥濘の地へ沈み込んだ時、残されたのは呼気荒い
ラップトップのみ。
白い顎を伝い落ちた雨が、静かに音を庭へと落す。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 日常
『雨上がりの紫陽花路』
|
POW : 全てを満喫して楽しむ
SPD : おいしいとこどりで楽しむ
WIZ : ゆるりと穏やかに楽しむ
|
真宮・響
夫の律(f38364)と参加
アタシ達の家はサクラミラージュにある。一番お気に入りの世界と共に秘める闇が深すぎてね。いつでも動けるようにしてる。
デモノイド自体は知らない。でも本来あるべき人の有りようを変化させる。この世界の闇をしる身としては放って置けないね。
これでも名家の令嬢でね。香りには詳しいんだ。律は傭兵なんだが、意外と風流な男でね。何気に出かける時に香水をつけることもある。嫌みにならないように。こういう粋な旦那は滅多にいない。
ただよう香りをたどりながら赫灼のグロリアを。こういう風流な紫陽花の風景では一つ夫婦で演奏してみたい。
音色の先に聞こえるのは嘆きの声・・・いかなければね、律。
真宮・律
妻の響(f00434)と参加
ああ、魂人としていきなり戻ってきて大張り切りの奏と瞬につれてこられたのが外国のサクラミラージュだったか。あの時代は激動の戦の合間にはさまれたからこその風流さなんだな。戦を経験して良く分かった。
傭兵としてはこの世界はとても放って置けなくてな。家を購入して住んでいる。だからこそ、デモノイドは知らなくてもきな臭い戦の影が見えるなら。
まあ、傭兵だが、響は元名家の令嬢に相応しい男になりたいのは当然だろう。今盛りの20代の子供、宝石の二人。いつまでも粋な父親でなければな。
雨は憂鬱だが、紫陽花はそういう時に美しい。白銀の行進曲を奏で、悲しみの声に気づく。
ああ、行こう、響。
●清廉なる青を仰ぐならば
湿った石畳の上を歩きながら、ふと真宮・響(赫灼の炎・f00434)は降る淡い雨を遮るように手を翳して空を仰いだ。
「……デモノイド、またアタシ達の知らない存在がこの世界に落とされたんだね」
「綺麗なところだとは思ったが……明るい分、妙に昏さが目立つな」
少し眉を寄せた響へ困ったように微笑みかけたのは、寄り添い歩く夫の真宮・律(黄昏の雷鳴・f38364)。
元々二人は
ダークセイヴァーの出身だが、ある事件に巻き込まれ律は命を賭して妻である響と娘の奏を救った。その悲しい別れから時を経て――……出身地たる世界のみならず数十はある異界を渡り歩く猟兵となった妻子と律は不思議な因果を経て、再会を果たすことと相成った。
そして魂人となり現世へ戻ってきた律は思い出話もそこそこに、大張り切りの娘――奏に手を引かれてやってきたのがサクラミラージュである。
律にとっては未だにどこか外国の趣は感じるものの、居を構え日常を送る響や年相応に流行りの店に詳しい奏に連れられるうち、徐々に“
サクラミラージュ”に慣れ始めていた。だからこそ、幻朧桜に守られるこの国の闇を歪に感じずにはいられない。
「この国の戦いは、この間の大戦を経てまた変わったな……激動から穏やかになって、また来た歴史の転換点。やはり、あの程度では終わらないみたいだな」
二人の出身国も経た、猟兵とオブリビオンの大戦。日々波紋の如く起こされるオブリビオンによる事件は後を絶たないが、大戦後に起きる問題としては
デモノイド問題はあまりに波紋が大きい。
――なにせ、悪魔の材料は“人”だ。
静かに険しくなる律の横顔を静かに見た響が静かに頷き、手にしたブレイズランスを手に、油断なく紫陽花と薔薇が共演する庭を行く。既に討伐されたデモノイドの情報を、脳裏で反芻しながら、花と草木の合間で微かに燻ぶる香を辿って。
「……アタシは、まだデモノイド自体知らない。でも、それは」
「あぁ。命が本来あるべき姿では――ない、な」
響も律も、命の尊さはよくよく知っている。デモノイドの材料となった人間が、世界でたった一人の人であり顔も知らぬ誰かの子供であることも。
どんな苦悩を経て、悪魔になろうなどと思ったのか。それとも望んで人の道を踏み外したのか。
今となっては知り得ない全てをどうできるなどとは思わない。だが、世界の裏側へ踏み込める猟兵だからこそ、
知らぬ者はそのままであった方がいいとつい思ってしまう。
日常は日常のままであるべきだ……と。非日常にも身を置く者だからこそ、余計に。
「……きな臭い戦いがまた起きなければいいんだがな」
「たしかにそうだ。……そうだ律、折角だから花に元気をやるのはどうだい?」
「いいな。たしかに……先程の戦い、少し聞いたが紫陽花が多く犠牲になったというし」
通りすがりに、踏み潰され折れた紫陽花を見るたび少しづつ律の瞳が悲し気になるのことに響は気づいていた。――しかも、響や奏の瞳に似た紫の紫陽花が手折られているのを見ては一等悲し気な色をしていたのだ。
手を取り距離を詰めれば微かに香る律らしい香りに、柔らかく瞳を細めた響はつい微笑んでしまう。キチンとTPOを踏まえつつ、今日は少し石鹸めいた自然な香りを纏う律。傭兵の過去を持つ男とは思えない洒落た気遣いも、響は好きだった。
「(……今日のお姫様は香を辿るからこそ、全く違う匂い。でも、鼻につかない自然な匂い……ふふ)」
「響?」
「ふふ、何でもないよ。さ、始めるよ! ――ねぇ律、あの嘆きの香も声もアタシたちが助けに行こう」
「ああ。行こう、響」
UC―
赫灼のグロリア!
白銀の行進曲!―
青鮮やかな庭を染め上げるは活力に満ちながら何ものをも押し退けぬ鮮やかなる歌声。
愛する妻―響―の声に瞳を細めた律は、油断せず歩みながら先に待つ姫君を想った。たった一人、静かに涙する女性という存在にどこか強がりをしてしまう妻と娘を重ねながら。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
蓮見・双良
雨の中の紫陽花なんて、これまでも見てきたはずなのに
綺麗だと心から思うのは…気づかせてくれたのは、杜環子さんだから
仕事じゃなければ一緒に見たかったな
いや…ここじゃなくても、別の紫陽花の綺麗な場所に誘えば良いか
ふたりでどこへ行くか決めるのも楽しいだろうし
オーラ防御を纏い、雨を防ぎつつ
悲しげな少女の声を聞き耳で探り
辿るべき本当の香り…
甘くも爽やかで心地良いそれを辿って
花も愛でつつ庭園を歩きましょう
できる限り少女の言葉、その内容を聞き取るようにします
『どうか』と祈るほどの想いを探る切欠になればと
その上で…説得するか、“夢”を見せるか…
それは彼女と対峙した時に決めます
――少女にとっての“最善”となる方を
●手中の
白いアザレア
手中の花も、自身も濡れないように淡く薄い“きみいろ”のオーラ防御を纏う。
杜環子を案じた蓮見・双良(夏暁・f35515)へ、大粒の瞳を細めて微笑んだ杜環子を思い出す。
『そらくん、お気を付けて』
無意識に取って握った小さな手を離すのが妙に惜しくて、つい二、三理由を付けて言葉を交わしていたら微笑んだ愛しい人は細い手で自身の頬を撫でると髪に飾ったのは白いアザレアの花だった。
「……私のために、お体を大切に」
西洋躑躅の名を持つ白いアザレアを一輪、手中てくるりと躍らせた双良が思うのは此処へ導いた万華鏡こと杜環子のこと。双良にとって“何の変哲もない紫陽花”をひどく魅力的にしてくれる存在。
「(……まぁ、僕にとって魅力的なのは紫陽花ではないでしょうけれど)」
きっと、自分が本当は今みたいのは“杜環子と一緒に見る紫陽花”だと気付いた瞬間、双良の胸にすとんと心が落ちると同時に、飛来したんは淡い寂しさ。……本日の杜環子は、双良も嫌というほどよく知った“お仕事”なのだ。
ふんわり幼い少女のような杜環子ではあるものの、決して本人が仕事を投げ出さないことを双良は知っている。少し寂し気に自身を送り出すくらいならと言いかけて双良は言葉を呑んだのがついさっき。
柔らかに降る雨の中、しっとりと濡れた深い藍色の紫陽花が白い手袋に包まれた双良の指に触れられふるりと揺れた。
「……――貴女が、仕事でなければ」
子供のようなことを、と視線を遠くに剥けながら双良が胸に滲んだ寂しさを口に出せば雨に濡れる薔薇が風に揺れ、紫陽花たちはより一層雨で輝きだしたような気さえしてくる。
――杜環子は、この光景を何と言うだろうか? そう思うだけで不思議と双良の胸は温もり、口角が上がるのを押さえられない。手で口元を隠しながら紫陽花に囲まれ微笑む杜環子の手を引きたい――……柔く馨る香の道を辿りながら、唐突に双良は気が付いた。
「いや……そうか、此処じゃなくても別に――」
紫陽花の綺麗な場所を探そう。
近隣にレストランやカフェのある場所がいいだろうか? きっと、紫陽花関連メニューのあるような店があればもっと喜ぶはず。
それとも、杜環子の方が詳しいサクラミラージュの紫陽花寺を巡ってみるか。
「なら、この説得は成功させなければいけませんね」
もとより、微かに耳打つ悲しい声を討つ気など双良には無かったけれど、杜環子はこの悲しき影朧の救出を望んだから。
甘くも爽やかで嫌味の無い香と、近づくほど鮮明になる後悔の涙声を頼りに双良は行く。
手中の“
白いアザレア”をくるりと躍らせて、儚い祷りを辿りながら。
『どうか、どうか……』
「――成しましょう、最善を」
双良の歩みに、ぱしゃんと水溜まりの水が静かに跳ねた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『承香殿の女御『紫の宮』』
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POW : あなた様の大切なものは何ですか?
対象への質問と共に、【手にした和綴じの本 】から【深層にある本心を吐露させる文字の群れ】を召喚する。満足な答えを得るまで、深層にある本心を吐露させる文字の群れは対象を【動揺させる藤の花吹雪】で攻撃する。
SPD : あなた様は、生きて――
【七弦の琴の演奏 】を披露した指定の全対象に【生きていていいのだ、生きたいという強い】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
WIZ : わたくしは、どうすべきだったのでしょうか?
【愛用の青磁の香炉で愛用の香の香りを聞く 】時間に応じて、攻撃や推理を含めた「次の行動」の成功率を上昇させる。
👑11
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透き通るような声が、淡く泣いている。
白い頬を美しく流れる一筋の涙は、どこまでも透明だった。
『……――わたくし、は』
“どうすればよかったのでしょう”
歌を紡ぐような後悔で自身を繋ぎ止め女はうたう。
酔いそうなほど甘く、しかし悲しみのように涼やかな香りを濃密に漂わせて。
『あなた様は……』
どうか、生きてください。
ミーヤ・ロロルド(サポート)
『ご飯をくれる人には、悪い人はいないのにゃ!』
楽しいお祭りやイベント、面白そうな所に野生の勘発動させてくるのにゃ!
UCは、ショータイムの方が使うのが多いのにゃ。でもおやつのUCも使ってみたいのにゃ。
戦いの時は得意のSPDで、ジャンプや早業で、相手を翻弄させる戦い方が好きなのにゃよ。
口調だけど、基本は文末に「にゃ」が多いのにゃ。たまににゃよとか、にゃんねとかを使うのにゃ。
食べるの大好きにゃ! 食べるシナリオなら、大食い使って、沢山食べたいのにゃ♪ でも、極端に辛すぎたり、見るからに虫とかゲテモノは……泣いちゃうのにゃ。
皆と楽しく参加できると嬉しいのにゃ☆
※アドリブ、絡み大歓迎♪ エッチはNGで。
●琥珀の煌めきが夏空に映える日に
「(……どうして、そんなことしたのにゃ)」
ふわりと香る香を辿った先でミーヤ・ロロルド(にゃんにゃん元気っ娘・f13185)が見たのは、細く儚い姫君めいた背中。
女房――つまりあの影朧は平安時代貴族に仕えていた女性だと聞いてはいたものの、時代が違うせいか纏う鮮やかな着物の重ねについ“お姫様”と声を掛けそうになってしまい慌てて口を押え、じっと様子を伺ってみる。
「……すごく、寂しそうにゃ」
東屋で一人、ぼうっと書物を眺めているようだがあまりに寂し気な背中にミーヤは元気づけてやりたいと思うと同時にあの女性がデモノイドを使い、庭を破壊したいと願っているようには見えなかった。
音を立てず、静かに紫陽花の園を移動し横顔を伺えばあったのは憂いのみ。
知識にある影朧には、あまりに荒唐無稽な行為と感じた勘は正解だったらしい。ならばと影朧が本を閉じたタイミングで静かに前へと歩み出て驚き瞠目した影朧へ一言、挨拶を。
「こんにちにゃ!」
『……どちら様、かしら』
淡く、敵意のない様子。
ただじっと見つめる瞳は凪いで、探られていることだけは分かる。
「ミーヤはミーヤっていうのにゃ! おねーさん、素敵なお庭は好きにゃ? 今日はちょっと雨にゃけど、紫陽花にはぴったりにゃと思うしピクニック日和にゃ!」
『ぴくにっく……? ねこ、濡れてしまうわ』
「んもう! ミーヤ、狼にゃにょ……!」
猫めいた語尾で子供のように屈託の無く微笑むミーヤに薄く微笑んだ紫の宮は檜扇で口元を隠しながら、優しくミーヤを手招き撫でようと手を伸ばして――そして、ふと泣きそうな声で呟いた。
『かわいい――そう、かわいい……あぁ、 様……わたくしは、どう――したら』
「……にゃっ!」
唐突に思い出の一瞬を過らせたような表情を紫の宮が浮かべた瞬間、一気にぶわりと濃くなる香り。
その香りに酔いそうになりながら、吸い込まぬよう咄嗟に口許を隠したミーヤが思考を巡らせると、強気な笑顔で吹き飛ばす!
「――ミーヤにいい考えがあるにゃ! そういう時は、おいしいおやつにゃよ!」
『まぁ……!』
UC―おいしいおやつの時間にゃー♪―!
ポケットから青空のようなロリポップを取り出した瞬間に発動されたユーベルコードが東屋の屋根の裡に降らせるのはお菓子の山!
きっと彼女――目の前の紫の宮の時代には存在しなかった菓子の群れに目を白黒させた紫の宮に、ずいっとミーヤが差し出したのは肉球型の焼き菓子。
「悩んだ時は甘いものにゃ! だって、美味しい甘いもので元気なってから、もーいっかい考えたらいいこと思いつくかもしれないにゃ!」
呆気にとられ紫の宮が目を見開いたのも数瞬。ふふと上品に微笑で、もう淡くなった美し香りの中で小さなお茶会は幕を開く。
しとしとと降る雨はもう止んで、雲間から覗く陽光が天の階を下し始めていた。
悲しみの雨に、甘い飴のような傘を差す。
成功
🔵🔵🔴
白羽・菫
「お嬢さん、どうか泣かないで下さい。」
相手がたとえ人で無くても、悲し気に泣く声は聞いていられない。特に相手がレディだなんて。
だから、何が有ろうと笑って貰う為に全力を尽くしましょう。今宵の獲物は美術品でも宝石でもない。たった一人のレディの笑顔。
得意のマジックで自己紹介を。
さあ、このハットに注目して。次に何が現れるでしょう?
夢を魅せる奇術でダメならお話をしましょう。
貴女が涙を流したその理由をお聞きしましょう。
兎に角対話とマジックで気を引きます。相手に攻撃する姿勢が無い以上は此方から傷付ける事はしません。
●――今日は、貴女に宝石のような涙流させる“
原因”を盗み笑顔を頂戴しましょう
例えそれが、人成らざる者の感情だとしても。
この美しい庭で怪盗に盗めぬものなど何一つとして、無いのだから。
遠目にも、みどりの黒髪は雲に遮られた微かな陽光に煌めき艶やかだと分かる時代ぬそぐわぬ姿の女性が、白木作りの東屋でそっと腰かけている。
人成らざるゆえの美しさというには麗しすぎて、同性でも振り返りたくなる影朧 女房 紫の宮の横顔は、誰の目から見ても悲嘆に暮れていた。
ほたりと白い頬を涙が滑るほど周囲へ放たれる香りは濃くなっている気がして、そっと口許を覆いそっと白羽・菫(白菫の奇術師怪盗ヴィオレッタ・f44185)は眉を寄せながら観察する。
「(なるほど、あの悲しみに比例して香りが強くなっているんですね……)」
未だ淡く降る雨の止まぬ中、菫は静かに瞳を細めてもっと観察し出方を伺おうとして――やめた。
紫陽花に沿うように咲く青や紫の花の間を抜け、颯爽と石畳を鳴らし紫の宮の前へ。
口元を覆っていたのは先程までで、凛と背筋を伸ばした菫は恭しく膝をつくと真っ白なハンカチを差し出し微笑みかけてみる。
「お嬢さん……どうか、泣かないでください」
『わたくしは、そんな』
“お嬢さん”ではございませんわ、と涼やかな声で呟く紫の宮が恥ずかしそうに視線をずらすと、流れるような所作で手にした檜扇を広げ表情を隠してしまう。
そんな所作が少女らしいのだと言ったところで、紫の宮は首を振るだろう。ただ、会話をすることで噎せ返るようだった濃密な香りが薄れたことに気が付いた菫が恭しく帽子を脱ぐと、ゆっくりと一歩下がって恭しい礼を。
「ならば、レディと。――ではレディ、こちらのハットにご注目ください」
『れでぃ? はっと……?』
生きた時代の齟齬からか幼い発音で菫の言葉を反芻した紫の宮へ微笑んだ菫は慣れた所作で帽子の淵を叩いて合図!
「さぁ、ご挨拶も兼ねてぜひ私のマジック――いえ、奇術をご覧ください」
『きじゅつ……それは、一体……』
「――タネも仕掛けもございません、ですがこうして!」
1・2・3――!
UC―ハイカラさんは止まらない―!
菫の輝きに触発され雨さえ吹き飛ばす輝きの中、次々と繰り出される奇術は紫の宮の瞳を丸くさせ、花の紙吹雪に微笑ませ無限かと思わせるほど湧き出る国旗の連なりに知識を深め、爆ぜる花火には驚きを!
そうして、フィニッシュには合図に合わせ飛び出た白き鳩が全てを攫ってゆく。
『……きゃっ!』
「白き鳩は異国にて、平和の象徴とうたわれているんです。――それに今、先の悲しみを忘れる程驚きと新しさに包まれた貴女の笑顔は美しい。私はそう思いました」
『……え、がお?』
驚きの連続に呑まれた紫の宮は、気付けば全てを目の前の新しさに奪われていた。
菫が仕上げに送り出さ板白鳩を見送る瞳が潤んだのも一瞬……“じゆうに、”と泣きそうな瞳で微笑んだから。
決定的なことは伺えない。
しかし、悲しみを紛れさせた菫が改めて膝をつき“挨拶の続き”をしようとすれば、居住まいを正した紫の宮が眉を下げ静かに問うた。
『……名を、教えてくださいますか』
「私は――白菫の奇術師怪盗ヴィオレッタ! 貴女の悲しみごと、その笑顔を頂きました! 世界に唯一の宝……ぜひ、所以を伺いたい。宝は物語を得て撚り輝けるのです!」
不思議な子、と困ったように笑った紫の宮は淡く心地よくなった香りの裡で語る。
徒然に、歩んだ苦難とその足跡――そして、絡まり合い継ぎ接ぎな影朧として入り組んだ似た境遇の女性の記憶を。丁寧な言葉と声で、柔らかに。
大成功
🔵🔵🔵
青梅・仁
――どうすればよかったか、だなんて
そんなもん、多分、誰にもわからないんだ
俺だって“あの時何が最善だったか”と考えることはあるが
答えが出たことはないな
ただ一つ言えるのは……
お前さんはデモノイドを使ってでも何かを為そうとしていたようだが
それは過ちだ
なあ、見ろよ
紫陽花、荒れちまっただろ
お前さんだって、それを見て何も思わない程冷徹じゃねえだろ
誰かに生きてくれと願えるほど優しいんだから。な?
泣いて少しでも楽になれるのなら泣いていいんだぜ
雨を強めれば誰もわかりゃしねえ(UC)
過去、どうすべきだったかはわからずとも
今は……お前さんは立ち止まってみるのも必要なんじゃないか?
頭冷やして考えてみたらどうだい?
●だれもしらない
後悔ばかりが先に立ち、もしもを探して幾星霜。
――つまり、もう事は済んでいる。
星の如き瞬きの間しか選択の瞬間は存在せず、最良を選ぶには余りに時は足りぬもの。だが悲しいかな、命ある限り人も神も実は等しく悔いる可能性を秘め“生きている”のだ。
今日もどこかで“すくいあれ”と涙が落ちる。
か細くすすり泣く声の主を見た時、青梅・仁(鎮魂の龍・f31913)はその小さな背中を憐れまずにはいられない。
「(……“形”を取っているだけ、か)」
おそらくアレは見目と同じ“ホンモノ”ではないことはすぐに分かった。おそらく、似た女性たちの悔いの集合体――それこそ、本体の残り香のようなもの。
「――どうすればよかったか、だなんて」
“俺だって知りたいさ”
ごくりと飲んだ言葉は仁の腹で溶けて消えていく。誰にも知られず、誰にも届かぬまま。
だがそれで良しとした仁は、わざと人が歩むように紫陽花を掻き分けた癖に音もなく飛び石へ降り立つとじっとすすり泣きの主―女房 紫の宮―を見据えゆっくりと口を開いた。
「なぁ、お前さんは一体何がしたかったんだ」
『あなた、は』
「さぁ? そうだな――俺が言えるのは、経験者としての知見くらい。そう、最善なんてものは誰にもわからねぇもんだ、って」
『……!』
雨が降っている。
しとしとと、ほたほたと。
仁が紫の宮の心へ波紋を落した瞬間、一気に香は濃密になりじっとりと重くなる。
“その先を言うな、”と言わんばかりに眦を睨みつける紫の宮へ悠然と微笑んだ仁は、困ったように眉を下げ香の煙を払うのみ。
人成らざる者――それも神という人間とはまた異なる価値観を持つ節もある仁からすれば、影朧はほぼ人に近い。その執着も、その感情的な性質も。その、幼ささえも。
「まして探し主のお前さんさえ分かってないなら、いかに力を使おうと見つかるワケがないよな。ただ、過ちを重ねただけ」
『……
っ、』
東屋の周囲……一部の紫陽花は踏み潰され、圧し折られ、
無辜の花はただ在っただけで理不尽な暴力に晒され、屍を晒していた。
鮮やかな色は失せ、茶色く萎び泥に塗れた姿は悲哀に満ちている。
唇を噛み言葉を詰めた紫の宮へ、なお躊躇いなく仁は静かに畳みかけた。
「なあ、見ろよ。紫陽花、荒れちまっただろ?」
『そ、れは……っ!』
咄嗟に紫の宮が檜扇で表情を隠そうと、細い肩が震えているのは分かる。だが儚き“命”の対価くらい、少しの心の痛みで払ったって罰は当たらないだろうと考えながら、頭の片隅で思うのはこの“力”のこと。
――大方、大きな力を揮った経験の無さからデモノイドが猟兵“だけ”を狙うという言葉でも鵜吞みにしたのだろう……そう推察しながら、仁は諭すように言葉を重ねてゆく。
「お前さんだって、これを見て何とも思わないほど冷徹じゃねえだろう? なら、」
花とて人とて等しく命。
古き歌人にそう詠む者とて存在するのだ、平安の世といえ貴族に仕えた女房の座に就くのとて両家の子女ばかりだったのは想像に難くない。皆まで言わずとも“
この形を取れる影朧”ならば、と考え仁が向けた水は紫の宮に理解させるには十分立ったらしい。
白い貌にほろほろと涙を流した紫の宮は、反響する複数人の少女の声から見合わせたように囁く。
『……わたくしは、ただ……ただ、あの方に、いきて、ほしくて』
「そうかい。……おっと参った、おじさんちょいと雨の音で――」
“お前さんの涙が見えないな”
ザァッと降りしきるUC―龍の黒雨―が東屋で腰を下ろした二人を世界に閉じ込める。
誰も傷つかぬ雨の下、流れるは濃密だった香りのみ。
大成功
🔵🔵🔵
真宮・響
【火雷の絆】で参加
紫の君、承香殿・・・なるほどね。かの光君の物語のキーパーソンに結びつく。元になった女性がどれほど苦悩したのがわかる。人生についても、恋愛についても。
ああ、私と奏に似てるかい?星羅にも似てるね。あの子も強がりだ。
心から同情するからこそ、これ以上苦しませる訳にはいかにね。
確かに本心は実家で音楽を学んでいたかったよ。それは家族も承知の上だ。でもアタシは律が音楽に精通していたからこそ歌を歌い続けられている。
【迷彩】【心眼】【オーラ防御】【残像】で致命傷を避けながら拳で浄火の一撃。女性に槍で一撃は可哀想だ。
この一撃は心残りを燃やし尽くす炎。いずれ戻る時は幸せな人生を。
真宮・律
【火雷の絆】で参加
俺も有名な光の貴公子の話は聞いてるぞ。読書熱心の息子がいるんでな。色々考えさせられるが、男の事情に巻き込まれるのはやるせないな。目の前の元になった方の悲しみがわかる。
俺も家族を置いて死んだ身だからな。余計な口きけば逆効果だ。伏雷の意志発動。【オーラ防御】【心眼】【回復力】で耐えながら生きたい、生き続きて欲しい気持ちをそのまま与える。
生きてほしいならば。貴方が死んでは意味がない。貴方はもう死んで影朧となった身ならば、転生して新しい出会いを。一度死んで家族を置いていった身として心から願う。
心を込めて【電撃】を。大丈夫だ、痛みは一瞬だ。おやすみ、紫のお嬢さん。
●|Once upon a time……|《むかしむかし……》
淡く降る雨が、柔らかに肌を撫でる。
だが徐々に濡れゆく髪も体も重くなり、湿り気を帯びた空気が孕む強すぎる香の匂いが重苦しい空気を作り上げてゆく。
じんわり絡みつく匂いは、東屋へ近づけば近づくほど嫌に強くなる――得も言われぬ不快感を覚えながら、そっと紫陽花の茂みから東屋に佇む影朧―紫の宮―の姿に目を細めた真宮・響(赫灼の炎・f00434)と真宮・律(黄昏の雷鳴・f38364)は、ふとここに辿り着くまでの会話を反芻するように囁いた。
「……なるほどね。律、アタシ“もしかしたら”に当たったかもしれない」
「――光の貴公子、だろう?現代まで数多の逸話が残っていると、前にあの子が教えてくれた記憶がある」
紫陽花や薔薇、そして野の花を楽しむ風でその実“紫の宮”という存在について話し合っていた時、二人はふと似たような名を過ったのだ。
響はとある物語で聞いた、似たような名として。
律もまた、義理の息子が読み終えた本の感想で似たような名を耳にした瞬間を思い出して。
「まぁ、完全に一致しているかは分からないけれど少し重ねてみるのも悪くはないと思うんだ」
「たしかにな……ただ、男の事情に巻き込まれたまま悲しみに暮れるっていうのは、」
細い背が、そろりと雨降る空を仰いでは淡く泣いている。
もしかすれば、物語上の君のようではないのかもしれないと響も律も理解していた。
だが、影朧――……つまり“存在を重ねるような思いをしたものの集合体”である可能性はあるのだ。
悲しみの渦中に置いておくことはないからこそ、一思いに楽に――……と思い得物を手に紫の宮の前へ出た二人は、目が合おうときょとんとしたままの紫の宮の様子と、比例した殺気の無さに瞠目した。
『……あなたがた、は?』
まるで、少女のように。“どちらさまですか?”と問う姿に、一瞬響の脳裏を過ったのは義理の娘の存在。どこか思慮深くも警戒心の淡い瞳に、無意識に響は愛槍を後ろ手に隠してしまう。
「――アタシたちは、」
「こんにちは、お嬢さん。なぁ、なんで
デモノイドに庭を滅茶苦茶にさせたんだ?」
『……――!』
律の言葉にハッと目を見開いた紫の宮が、律の横で圧し折られめちゃくちゃにされた紫陽花の木を見た。
青々とした葉は踏み潰されて変色し、千切れ散った花々は泥に塗れ空しく命を閉じている。
「花にも、命があるからね! でも、紫陽花って実は強い花なんだよ。知ってるかい?」
一輪拾い上げた紫陽花の泥を払った響が、泣きそうな顔で唇を震わせる紫の宮を慰めるように明るく微笑みかければ、ふるりと紫の宮は首を振った。
紫陽花の花言葉は“浮気”、“移り気”、“無情”とマイナスな言葉が多いが、実は“辛抱強い愛”、“家族団欒”、“変節”、“元気な女性”――と、全く逆の言葉も持っている不思議な花でもある。
「(もしかしてこの子――……デモノイドっていう力に、慣れてなかった?)」
元々、影朧は強大な力を持たない。
人に守られる事件も存在し、対話も叶うことが多いのだ。まして、二人の前でほろほろと涙を流し、一切の攻撃性を見せないどころか対話も叶う紫の宮にハッとした響が律に目配せを一つ。
響の意を察した律が、じっと紫の宮を見つめそっと言葉を連ねていった。
「……貴女は、貴女が影朧であることを分かっているんだよな?」
言葉なくこくりと頷いた紫の宮が、恥ずかしそうに檜扇で表情を隠しながら目を伏せた姿に、困ったように笑いながら律は諭すように問いかける。
「なら、生きて欲しかったという思いは……この紫陽花に、かけてやることはできないか。そして、涙は雨に紛れさせればいい」
「人生も恋愛も、悩みごとは多いものさ。でも――……アタシは同じ女として、アンタが苦しんだままなのを黙って見過ごしたくはないんだよ」
律の言葉を後押しするように笑いかけた響に、細い肩が震えて泣いている。
『……わたくし、は』
――きっと“あの時どうすればよかったのか”なんて、神様にも分からない。
ただ苦しみの中に自分を置き、悲しみの刃で影朧が自身を刺し続けるのを猟兵はそっと止めて諭してゆく。
響の炎は濃すぎる香りだけを焼いて浄化し、律が齎した雷撃が声を上げて泣く紫の宮の泣き声を掻き消した。
秘密秘密、辛抱強い紫陽花の乙女の涙は永久に秘密なまま。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
蓮見・双良
後悔は自分の振る舞いを顧みる事でもありますから
寧ろ、しても良いものだと僕は思います
…ですが、それも必要なだけで十分なんです
あなたのように長く、ご自身の事を責め続けなくても良いんですよ
どうすれば良かったのか
あなたの過去を知る術のない僕には答えられませんが
ひとつ、分かる事はあります
本当は…あなたもその人と生きたかったんじゃありませんか?
それが一番の願いで…
こんなテロ行為は、本来望んでいだ事じゃないでしょう?
…僕も、あなたの立場だったら悔いるでしょう
何故大切な人と離れなければいけなかったんだろう、と
ですが、悪夢は自らの手でしか消せません
…あなた自身が、前を向くしかないんです
説得だけでは屠れぬようならUC
今の僕にできるのは、眠りのお手伝いくらいですから…
勿論見せる夢は良い夢を
どうか痛みなく安らかに
もし討伐の為に攻撃も必要なら
具現化したナイトメアで捕食し精神攻撃
このときは苦しまないよう一瞬で最大限の攻撃を
…人が本当の意味で死ぬのは、皆に忘れられた時…とも聞きます
だから、覚えておきます
この香りと共に
●青紫にきみ想うなら
雨降る庭を歩きながら、蓮見・双良(夏暁・f35515)は帽子の鍔を上げ、鈍色の雲に覆われた空を仰いだ。
未だ降り止まぬ雨に濡れてしまえば紫陽花色の瞳をした想い人が心配するだろうと張ったオーラのバリアを纏ったままなお陰で、傘は無いが濡れずに済んでいる。
「(……涙雨のようですね)」
まるで庭を満たす香の主に呼応するような天気に頭を振って視線を戻した時、ふと東屋の屋根が目に留まった。ふと思い出したようにスマートフォンを取り出しアクセスしたのは、この庭園を運営している団体が公開している庭園のホームページ。タップして洒落た庭園地図画像を拡大すれば、双良は自身の位置がちょうど東屋付近の紫陽花と青や紫の薔薇が整えられた雨神の道だと気が付いた。
青の群れにそっと瞳を細めて、雨に潤む濃い青の紫陽花に触れてみる。
「たしかに、神秘的な青は神様の色……と言えるのかもしれません」
“僕の神様も、青い目ですし”と心の裡で囁くのは、なんとなく花にさえ秘密にしたかったから。青薔薇の花言葉は“神の祝福”……この青より、自身の瞳の方が青いですし――などと淡く浮かんだ小さな競争心を鎮めるように、胸ポケットへ入れたままの鏡のお守りに触れ無意識に口角を上げたまま双良が爪先を向けるは、東屋で待っているであろう主犯――影朧 紫の宮の下。
後悔とは、それこそ文字通り常に後ろにいる。
救えなかったものに足を引かれ、助からなかったなにかに後ろ髪を引かれ。学生時代の戦う力が無かった身の上で双良は散々それを経験した。
「(僕が悔いているかと聞かれれば、きっと)」
思うところは勿論ある。
だが、その想いと双良の考えを汲み数多の学友が手を貸してくれたことを忘れた日はない。
全ては学びであり、経験だ。そしてその学びと経験の全てが、双良自身が猟兵として“力”揮えるようになった今も、一つの動力となってくれている。
「……――きっとではなく、僕は幸運なのでしょう」
沢山学び、学ばせてもらい、そして得たものは数え切れぬほど。
今も続く縁もあれば、新たにできた縁もあって……。時を止めていないからこそ得られた全て。だが、目の前の影朧は停滞したまま――……自ら悲しみに身を投じ、そして抜け出せぬものの集合体。
きっと今、紫の宮の形を取った影朧は悪夢の渦中に居るのだ。
デモノイドでは解決できぬ、暴力では救えぬ悪夢の中に。
「(夢は醒める……いいえ、醒めなければならないものですから)」
――夢の醒まし方を教えましょう――
紫陽花の間から、あえて石畳を鳴らし進み出た双良にハッと顔を上げた紫の宮が双良の姿を目にすると同時にはくりと小さく揺らした口から漏らしたのは驚きに満ちた声。
『……あなた、は』
「後悔というものは、し過ぎても変わるものではありません。出来るのは……そうですね、自分の振る舞いを顧みることでしょうか」
にこりと笑った双良が自己紹介よりも先に“涙の意味は悟っていますよ”と、紳士的に言葉で示せば淡く頬を染め恥じ入った紫の宮が檜扇で慌てて表情を隠した。
「(……なるほど、やはり戦闘の意思は無いのですね)」
元々、双良は件の影朧に戦意は無いであろうと踏んでいた。説明した杜環子の言葉から汲んだのもあるが、紫の宮が檜扇の向こうで涙を拭い、心を繕った瞬間から香の匂いが薄れたからだ。
「(デモノイドの狂乱が、この影朧の悲しみの衝動に起因しているならば――)」
1つの糸口を見つけ出した双良だが、一人東屋に立っていた紫の宮が呟いた“どうしたらよかったのか”という言葉にすぐ応える気は、無かった。
何故なら、目の前の高貴な女性を象った影朧 紫の宮が急拵えの安い慰めの言葉を求めているようには見えなかったのだ。
「ですから、僕は“後悔とはしてよいもの”だと思います。……ですが、それもあくまで必要なだけで十分だとも」
『……必要な、量?』
哲学的だが、どこか論理的に聞こえる双良の言葉に紫の宮がきょとんとすれば、優しげに瞳を細めた双良は言葉を続ける。
「そう。……つまり、あなたのように長くご自身を責め続けなくても良いということです」
『……――、』
双良が紫の宮へ与えたのは、許しだった。
「“どうすればよかったのか”――……とは、先程呟かれていたようにあなたを含め誰しも思うもの。あなたの過去を知る術のない僕には答えられませんが……ひとつ、分かることはあります」
震えた手の握った檜扇が緩く下がり、茫洋とした紫の宮の瞳から涙が溢れ、どこか遠くを見つめた瞳から溢れた涙が、音もなく白い頬を伝ってゆく。
「本当は……あなたもその人と生きたかったんじゃありませんか?」
『っ……、いき――たかった、』
生きたかった。
往きたかった。
逝きたかった。
どこまでも共に、手を携えやくそくしたあの瞬間を忘れたことなんて一時も無かった。
帰ってこないあなた。
還ってこないあなた。
返ってきてしまったあなた――だったもの。
「それが、あなたの一番の願い。そして……このテロル行為は、望んでいないはずです」
「
」
雨音よりも静かな声で泣いて、ほたほたと落ちる涙が東屋の床板の色を濃くしてゆく。
置いていかれることは、一番怖いことだと双良は知っている。いっそ、どこまでも連れて行って欲しい。どんな恐ろしい場所だとしても、きっと貴女とならばと――双良は逆の立場ならと分かるから。
香が俄かに濃くなっては薄まり、そして濃くなりと繰り返す。
紫の宮を象る影朧も、どこか分かってはいるのだろう。もう“ない”ことを。
「……僕も、」
『……あなた、も?』
「あなたの立場ならば、悔いるでしょう」
きっと、双良の神様はそんな時ばかりズルくて酷いのだろう。きっと、そうして笑うのだろうと分かってしまう。
「何故、大切な人と離れなければいけなかったんだろう、と」
けれど、双良は手離す気など無かった。
どんな手を使ってでも追う。母校で学んだ根性だろうと執念だろうと、例え――きみがないても。幼くして悪夢を制した心の逞しさはいまだ健在だから。
「ですが、あなたが心で自らを責め繰り返す自責の悪夢は誰かに消してもらうものではありません」
『、』
天藍の瞳が紫の宮を見た。
「あなた自身が、
明日へ向くしかないんです」
雨は止んだ。
“……そうですね、”と力なく笑った紫の宮は強い意志宿った天藍に宿った心を察し、まるで“負けました”と困ったように微笑むと指先から雲間より差した日差しに解けてゆく。
全て全て、本当は分かっている。
けれど――どうしても、諦められない瞬間に会ってしまった。
想い出の花々が、どうしても憎たらしくなってしまった。
似合うと笑ってくれたあの人の顔を……未だ、覚えていたというのに。
「僕は、忘れませんよ……この香りと共に、あなたを」
“人”とは、皆に忘れられて初めて本当に死ぬのだという。
ならば意地を見せた彼の影朧を、少し頭の片隅に残しておくのも悪くないだろうと双良は雲間より差す天の階が如き陽光に淡く微笑んだ。
きらりと光り弾いた胸元のお守り作った想い人の方へ、静かに踵を返して。
大成功
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