始皇帝の後継者だろうと名乗るだけなら自由ではあるが
●そもお前とその同姓の人は敵同士だっただろう
『そーっひょっひょっひょっひょ』
空飛ぶ巨大要塞の中に笑い声が響き渡っていた。
『わしの姓は曹!皇帝となった者と同じ姓!ならばわしが皇帝を名乗ろうとなんら問題はあるまいて!』
いや、そのはっそうはおかしい。そう突っ込む者はいなかった。たしかに封神武侠界(あるいは他世界におけるそれとよく似た国家)においては同姓の者は血縁でなくても親戚扱いとするって地域もあるらしいけど、でもその皇帝一族とこいつは血縁関係はないはずだ。たぶん。
『この要塞の力で曹家から帝位を簒奪した司馬家を滅ぼし!あらためてわしが皇帝となるのじゃ!そーっひょっひょっひょっひょ』
……いろいろおかしいが、それでも行動力だけはあるようだった。少なくとも、この曹姓の男がいかなる手段を用いてか、かつて始皇帝が運用していた地上要塞『始皇帝陵』および空中要塞『阿房宮』を得て、凶悪な侵略行動を開始した事は確かなのである。
「……本当に、彼も元気だねえ」
その曹姓の男に心当たりがあるのか、大豪傑・麗刃(25歳児・f01156)はなんかげっそりとした顔をしていた。それは決して夏バテが原因というわけでもなさそうだった。
「本来ならわたし自身が出向いて彼とは決着をつけなければならないところだが、今回はここから動く事ができない身。なんとかみんなにがんばってもらうしかないのだ」
麗刃となにやら因縁があるらしいそのオブリビオンは、かの『殲神封神大戦』でも強烈なインパクトを残した『始皇帝』の後継者を名乗り、本気で晋朝打倒を目指しているのだという。そして、そのための力も手に入れてしまったらしいのだ。
「彼は始皇帝も使っていた移動要塞で……えっと、徐州は下邳城か。彼にとっては因縁の地だな。そこに攻め込もうとしているので、その前に彼をやっつけて止めてほしいのだ」
ボスがいるのは空中要塞『阿房宮』だ。そこに入るためには地上要塞『始皇帝陵』を経由するのが一番わかりやすいだろう。始皇帝陵は巨大な迷宮となっており、また守備兵の周囲には『増殖する辰砂』なる鉱物が飛び回り、刃物と化して守備兵と同時攻撃を仕掛けたり、盾と化して敵の攻撃から守備兵を守ったりするらしい。このあたりの対策は必要となるだろう。うまいこと迷宮を逆に利用する事はできないだろうか。
そして始皇帝陵の最奥は阿房宮に繋がっているが……。
「……あれ?そういえばかつての戦争の阿房宮って、なんか妙な感じになってたような気がしたんだけど、なんだっけ?確か水銀がどうとか……まあ行けばわかるか。ともあれ、なんとかがんばってほしいのだ!」
最後はなんかちょっと頼りない感じになってしまったが、それでも麗刃の一礼を受け、猟兵たちは封神武侠界へと向かうのだった。
らあめそまそ
らあめそまそです。身の程知らずにも始皇帝の後継者を名乗ってしまった愚かなオブリビオンを退治してください。
このシナリオはかつての戦争と似たような状況のため、同様のプレイングボーナスが存在します。これをプレイングに取り入れる事で判定が有利になります。
1章:迷宮を利用して辰砂兵馬俑をかわす。
2章:水銀蒸気に対抗する。/ボスの愚かさを利用する。
それでは皆様のご参加をお待ちしております。
第1章 集団戦
『動く石の屍『ストーンキョンシーズ』』
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POW : 重石重撃
【重い石の拳】が命中した敵をレベル×10m吹き飛ばす。
SPD : 同族支援
【もう一体の同族】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : 石化閃光
【両瞳】から【赤い閃光】を放ち、【石化状態】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
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●石と鉱物
移動地上要塞『始皇帝陵』に踏み込んだ猟兵たちを待ち構えていたのは巨大な迷宮、そして石でできた兵士たちだった。迷宮の主は水銀の影響を受けないようにと石の兵を選んだようだが、どうやら始皇帝陵には水銀の影響は認められず、あんまり意味はなかったようだ。それでもなお石でできた体は攻防ともに強力であり、周囲を飛び交う鉱石『増殖する辰砂』とのコンビネーションでさらに強力になるだろう。
動く石の屍の能力は以下の3種類だ。
【重石重撃】は文字通りの重い石のような打撃による攻撃だ。その重さは猟兵など軽く吹っ飛ばしてしまう威力があるという。刃物のように飛び交う『増殖する辰砂』が移動を妨害することで回避の難易度が上昇することだろう。
【同族支援】は単純に数を増やす行動だ。だが強力な敵が数を増やすというのはそれだけで単純に脅威である。攻防ともに強力に作用する『増殖する辰砂』の事もあり、こちらも相当に攻撃の手数を増やす必要があるだろう。
【石化閃光】は目から石化光線を放つものだ。光の速さで飛ぶ光線は回避が困難であり、また石化は一時的ではあるが、その間は攻撃もできなければ、飛んでくる『増殖する辰砂』を回避する事もできないだろう。残念ながら猟兵は石化しても防御力は上がらないらしい。
以上、石の体だけあって攻撃力・防御力ともになかなかのものがあり、その上単純な力押しだけではない搦め手も使ってくる厄介な相手である。そこにさらに『増殖する辰砂』が刃と化して猟兵に傷を与えつつ行動を制限しようとしたり、盾となって猟兵の攻撃を防いだりするのだ。それでもこいつらを倒さない事には先に進めない。戦場が複雑かつあちこちに罠が仕掛けられている迷宮ということもあり、これをうまいこと利用できないだろうか。皆様の創意工夫に期待するものであります。
グリルド・グラタニア
封神武侠界のご飯は身体が温まるし独特の風味があるからちょっと勉強したいから、軽率な感じに滅茶苦茶にされるとボク的に色々と困るんだよねぇ。
【指定UC】で以前獣人戦線で食べた火炎放射兵を何名か傀儡として召喚。彼らに【転化食源】を使えるようにして先行させるね。迷宮内で派手に暴れさせて『悪目立ち』させ、キョンシー達を誘引するよ。光線を床を炎で炙って食材に変えての足止め…あと可能であれば『集団戦術』の利点を活かしてキョンシーを辰砂ごとチョコレートに変えたりして無力化できれば上等だけど…。ボクは召喚獣とキョンシーがドンパチやってる間に『闇に紛れて』迷宮の別ルートから阿房宮に向かいたいところだねぇ。
●死人と死人(?)
我々のよく知るアース世界の中華料理は晋の時代よりさらに1000年を経た頃にその完成をみたとされている。が、こと仙術武侠文明が発達した封神武侠界においてはそんな事情知った事かとばかりに超級料理人を頂点とした料理人たちがその技を競い、現代の中華料理に勝るとも劣らぬ豪勢な料理が王族から庶民に至るまでその舌をおおいに楽しませているのである。そんな封神武侠界の料理は他世界の料理人からも注目を浴びているようで。
「封神武侠界のご飯は身体が温まるし独特の風味があるからちょっと勉強したいんだよね」
と言うのはグリルド・グラタニア(一人三役の自己完結型グルメ集団・f41012)であった。彼女はグリルドとグラタニアという二重人格を持っており、調理師のグリルドが料理を作り、グラタニアがそれを食べるという流れを作っていた。ただこの流れだと一人二役ではあるが、果たして三役とは何を指す言葉なのだろうか?それはさておき、おそらく今表に出ていると思われるグリルドが封神武侠界での戦いに参加する理由は、まさにこれであった。
「軽率な感じに滅茶苦茶にされるとボク的に色々と困るんだよねぇ」
戦場となる徐州は中国四大料理のひとつである上海料理の原型とされる江蘇料理のひとつ徐海料理(徐海菜)が知られている。主に海産物と野菜を使い、はっきりとした味が特徴的とされている。料理人としては絶対に守らなければならない場所であり、グリルドが(おそらくグラタニアも)戦う動機としてはこれ以上のものはないと言えた。
そんなこんなで始皇帝陵へと突入したグリルドを、早速
動く石の屍たちが出迎えた。両腕を前に伸ばし、両足をそろえて跳ねながら前進するキョンシーたちであるが、戦闘においてはおそらく普通に動いて来ることだろう。そしてキョンシーたちの周囲を飛び交う無数の鉱石も認められた。間違いない、事前情報にあった『増殖する辰砂』だろう。まともに戦っては厄介な相手である。できればまともに戦わず、やり過ごす事を考えたい。で。
「ここはわたくしの出番ですわね」
グルマンであるグラタニアの人格が表に出た。そして放たれるは……
「わたくし達に総てを奪われ、魔界で異臭を放つ汚泥として揺蕩うかくも愚かな魂魄よ、今一度招来なさい!」
ユーベルコード【
魂煮傀奪】……グラタニアの呼びかけで現れたのは、火炎放射器を持つ、狼の顔をした二足歩行の人物であった。石のキョンシーたちには彼らが獣人戦線における『階梯2』という呼び方など当然知らないだろう。そして、その呼び出された狼の獣人たちが、何ゆえグラタニアの呼びかけでここに出てきたかについても。
『……こ、ここは……』
なぜここにいるのか狼たちにも分かってはおるまい。彼らが持つ最後の記憶は、村を襲撃しようとして猟兵に倒された事。その後は……彼らは知るまい。自分たちが倒された後、グリルドに料理され、グラタニアにおいしく食べられた事を。すなわち彼ら『食材』こそ『三役』の最後のひとつ……ということでいいのでしょうか。
「さあ、お行きなさいな!」
狼たちにとっては忘れたくても忘れられない声が響き渡る。火炎放射兵たちはなぜかそれに逆らう事ができず、石の兵たちに突撃していった。火炎放射器から派手に炎が吐き出され、閃光と轟音と灼熱が迷宮で暴れ回った。当然その派手な動きはキョンシーたちの目をおおいに引き、グラタニアよりも狼たちを敵として認識することになる。たちまち石の屍たちと屍と化したはずの狼たちの間で戦端が開かれた。
『ヒャッハー!死体は消毒だぁ~!』
恐れを知らない(ように見えるだけかもしれない)狼の火炎放射兵は襲い掛かるストーンキョンシーたちに炎を浴びせかけるが、防御力の高い石の体にはさほど通用せず、さらに辰砂の防御も貫けない様子だった。逆にストーンキョンシーズの強烈なパンチをくらい、壁まで吹っ飛ばされた。
『ぐはっ!?』
「あ~、やはりこうなりますわね。遠慮せずあれをお使いなさいな」
むろんこの展開はグラタニアの想定の範囲内だった。だがそう簡単に火炎放射兵たちに終わってもらうわけにもいかない。そのためにグラタニアは火炎放射兵たちに新たな能力を与えていたのである。
『……ヒャ、ヒャッハ~!!』
強烈な打撃を受けながらもなんとか立ち上がると火炎放射兵たちは炎を床へと向けた。すると驚くべき事が起こった。床の炎で焦げた部分がチョコレートと化したのである。【
魂煮傀奪】は傀儡として召喚したオブリビオンにグラタニアあるいはグリルドの持つユーベルコードを貸し与える効果もあるのだ。狼たちが借りたユーベルコード【
転化食源】の効果で生み出されたチョコレートに足を取られたストーンキョンシーズの動きは覿面に鈍った。石の体が逆に不利に働いたのである。このまま火炎放射兵たちがストーンキョンシーズや辰砂もチョコレートに変える事ができれば良いのだが、グラタニアには戦いの結末を見るよりも優先すべき事があった。
「それでは、後は頼みますわ。わたくしは先を急ぎますので後は頼みますわ」
闘いをよそに、闇に紛れるようにこっそりとグラタニアは阿房宮に続く道へと向かっていった。これはあくまでオードブル。メインディッシュはこの後なのだ。
大成功
🔵🔵🔵
夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎
■行動
戦争時の始皇帝の拠点は「羌族」の居留地に有った気がするのですが。
よく下邳城まで持ってきましたねぇ。
『FAS』により飛行、『FLS』の空間歪曲障壁で周囲を覆いまして。
『始皇帝陵』内で【尅譴】を発動、『波動』を注ぎ込みますねぇ。
『辰砂』が相手の制御下に無ければ制御を奪えますし、最低でも『それ以外の構造物』を操作して盾に出来ますから、『辰砂』の悪影響は高確率で問題無く防げますぅ。
後は、其等のオブジェクトで石兵達の接近を抑えるか攻撃し、殴り飛ばされた石弾等は空間歪曲で対処、『存在吸収』による内部破壊で材質の防御力を無視可能な『FRS』『FSS』の[砲撃]を追加し仕留めますねぇ。
●トラクタービーム
今回の戦いの場が徐州と聞き、夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)としてはどうしても気になる事があった。
「戦争時の始皇帝の拠点は『羌族』の居留地に有った気がするのですが」
そうでした。かの【殲神封神大戦】において、戦争マップでは始皇帝は最西端にいたわけですが。もうちょっと細かく言えば、三国時代の中国においてもっとも西に位置する涼州や益州のさらに西に住んでいたのが羌族なわけです。
「よく下邳城まで持ってきましたねぇ」
たしかに、徐州といえばものすごく簡単に言えば中国のもっとも東の海沿いだ。移動要塞とはいえ、どうやって気付かれる事なく運んできたかというのはるこるでなくても気になるのは当然であろう。これについては空中要塞の阿房宮については一応の説明はできる。というのもかの戦争において阿房宮は実体があったわけではなく、始皇帝のユーベルコードによって作り出された存在でしかないのである。つまり今回のボスがなんらかの手段でそのユーベルコードを入手して現地で使ったならば阿房宮の『転移』は可能だ。問題は地上要塞である『始皇帝陵』の方だが……。阿房宮と一緒に作り出す事ができるのか、阿房宮が出現した所に自動的に転移されるのか、なんとかがんばって秘密裏に運んだのか。真実を知るのはボスだけだろうが、かつての戦争を知るものなら、おそらくボスに聞いてもまともな返事は帰ってこないだろうことは容易に想像できるだろう。
そんな事を考えつつ、3対のオーラ翼【FAS】で飛行しながら始皇帝陵へと突入したるこるの前に、さっそく
動く石の屍たちが立ちはだかった。むろんその周囲には『増殖する辰砂』なる鉱石が不規則に飛び交い、いつでもこちらに飛んでこようという構えのようだ。
「来ましたねぇ、では早速【FLS】発動ですぅ!」
祭器『フローティングリンケージシステム』略してFLS。これは浮遊する16枚の札であり、本来の機能はるこるが持つ他の祭器全ての動きを制御し
連携させるものであるが、他に空間を歪曲する障壁を発生させる機能もあるらしい。祭器同士を連携させる機能の副産物であろうか。そしてるこるはユーベルコードを発動させた。
「大いなる豊饒の女神の象徴せし欠片、その刑台の理をここに」
【
豊乳女神の加護・
尅譴】……『尅』は厳しい事を指し、現在では同音の『刻』『酷』が一般に使われる。『厳刻(酷)』は非常に厳しくむごいことを指す。『譴』は罪を咎める事を指す。『しょけつ』は『処決』だろうか。まさに邪悪なるオブリビオンを処断するのに相応しい名前のユーベルコードといえるだろう。しかし、むろん勝負は技名だけで決まるものではない。問題はその名に相応しい威力を有しているか、であるが。
「さて、問題はあの辰砂がただ浮いているだけなのか、それとも相手のコントロール下にあるか、ですが」
るこるはユーベルコードで発生させた『女神の波動』を辰砂に注ぎ込んだ。女神の波動には注ぎ込んだオブジェクトを自在に操作する力がある。本来は自身の祭器をコントロールするのに使うものであるが、それ以外の操作にも使えるのだ。これで『増殖する辰砂』を奪ってしまおうというのがるこるの狙いであったのだ。そして辰砂に波動が注ぎ込まれ……。
「……どうやらうまくいったようですねえ」
るこるに高速で突撃しようとしていた辰砂の動きが止まった。どうやら女神の波動は辰砂のコントロールを奪う事に成功したようだった。さすがにこの事態にはストーンキョンシーズの無表情な顔にも動揺が走った。仮に辰砂のコントロールを奪えなかった場合、るこるは迷宮のオブジェクトを辰砂のようにコントロールして辰砂にぶつけ相殺する事を狙っていたようだが、どうやら最も有利な形で戦いを展開できるようだった。それでも恐れを知らぬストーンキョンシーズたちはるこるを石の拳で殴り倒そうと次々に突撃を敢行してくる。
「では、早速活用させていただきましょうねぇ」
るこるは辰砂を石の屍たちに向けて突撃させた。本来猟兵の動きを制するするために使われるはずだった辰砂は今やオブリビオンの兵を傷つけるために使われている。だがそこはオブリビオン、辰砂よりも自分たちの体の方が堅いんだと言わんばかりに飛んでくる辰砂を石の拳で殴り飛ばし、弾き返しながらるこるに接近しようとする。
「なるほど防御力はあるようですねえ、ですがこれならどうでしょうか……FRS!FSS!起動ですぅ!」
自分の方に跳ね返ってくる辰砂を空間歪曲で対処しつつ、るこるは球体型の浮遊砲台とビームシールドを浮遊させた。これらの祭器にも女神の波動は作用しており、その攻撃には存在吸収による内部破壊の効果、かつ治療不可の状態異常を付与する効果が追加されていた。
「一斉発射ですぅ!」
迫りくるストーンキョンシーズに苛烈きわまる砲撃が加えられた。さしもの防御力を誇るストーンキョンシーズも、存在自体を吸収し、さらに回復まで封じられたとあってはさすがに抗する事もできず、次々と倒されていった。まさに厳刻なる処決の名は伊達ではないといったところか。敵陣の崩壊を見ながら、るこるはゆうゆうと前進を続けたのであった。
大成功
🔵🔵🔵
アイ・リスパー
「アインシュタインレンズ、展開――この通路の先は安全みたいですね」
『では、いきましょうか、アイ』
重力レンズで迷宮の先を調べながら、罠や敵がいないことを確認しつつ先に進みましょう。
私が先を歩き、後ろから機動戦車オベイロンがついてきます。
「いや、隠密性皆無ですよね、これ!?」
『アイが考えた作戦ではないですか』
石のオブリビオンと遭遇したら、重力レンズで石化光線を曲げて回避しましょう。
「ふっ、そんな光線効きませんよ」
『アイ、スカートの裾や服の端が石化していますが』
「えええっ!?」
パキパキパリーンと砕け散っていく服を必死に隠しながら――
「オベイロン、反撃です!
大型荷電粒子砲、収束発射!」
●誰も見てなくても恥ずかしいものは恥ずかしいのである
封神武侠界の始皇帝陵の内部は見事なまでにトラップ満載の迷宮となっており、立ち入る者たちを容易に先へは進ませまいとする作り手の強い意思を感じさせるものであった。余談だが様々な理由から史実の始皇帝陵はいまだに発掘調査が行われておらず、その全容は明らかになっていない。少なくとも迷宮になっていない事は確かなようではあるが、大小さまざまな兵馬俑が発掘され、さらに当時を記す歴史書『史記』には始皇帝陵を守る自動発射の弓矢の存在が示唆されているという事は、封神武侠界の始皇帝陵における守備兵やトラップの数々を連想させるものではあるまいか。さらに言うなら『史記』では『アース世界の』始皇帝陵の中には水銀の川が流れているとされ、辰砂とは本来水銀の原料になる鉱石を指すものであった。
そんな迷宮を突破して先に進む事を、アイ・リスパー(
電脳の天使・f07909)は迫られていた。
『どうしますか、アイ』
機動戦車オベイロンのサポートAIがアイに聞いた。さすがに無策のまま敵と罠が満載の迷宮に突撃するわけにもいくまい。アイはドジっ娘ではあるが、さすがに電脳魔術の使い手なだけあって脳筋ではない。ない胸を張って断言した。
「ふふん、私にいい考えがあります!」
『……なにやらフラグめいた言い方が気になりますが、アイの考えを聞かせていただきましょう』
「要するに迷路だろうと先が見えていれば何も問題ないわけです!行き止まりだって罠だってそこに行かなければいいわけですから!」
『なるほど』
さすがにアイをサポートするオベイロンはそれで全てを察した。通常なら、なるほど完璧な作戦っスねーっ不可能だという点に目をつぶればよぉ~~と言われそうではあるが、こと猟兵に関しては全く事情が違うのである。当然、そのために用いる手段についても。
「では早速……アインシュタインレンズ、展開」
本来人間の視界は直線上の物しか見る事ができない。だが高質量の物質を介在させることで光学レンズに似たような効果が発生させ、視界の軌道すらゆがめて本来見えない範囲の物すら見えるようにする。重力レンズと呼ばれる現象である。これを使えば普通は視線が通らない曲がり角の先が通路なのか行き止まりなのか。罠があるのかないのか。そして敵がいるのかいないのか。そういうのを全て見通した上で先に進めるのだ。
「この通路の先は安全みたいですね」
『では、いきましょうか、アイ』
サポートAIのお仕事はあくまでサポートなので実際の確認はアイが自身の目でやらなくてはならない。そして仮にアイに失策があったとしてもオベイロンはアイに従うだけである。例えば……。
「ってなんで見つかってるんですか!?」
先の通路に敵がいないと確認して角を曲がったはずなのに、なぜかストーンキョンシーズが目の前に現れたとか、そういう状況である。
「確かにいなかったはずなんですよ!」
『それはそうでしょうね』
普段からアイに苦言を呈する事の多いオベイロンではあるが、さすがに敵がいなかったから先に進んだというアイの言葉は疑っていない。ただし。
『おそらく私たちの気配を察知して集まって来たのでしょう』
「……あ」
言われてアイは気が付いた。アイが先頭を歩き、後方から機動戦車オベイロンがついてくるという隊列。オベイロンはどうにか通路は通れるとはいえ明らかに人間より大きく、静音性やステルス性についてはよく分かっていないが、さすがに狭い通路を無音で動くのはかなり困難であろう。つまりである。
「いや、隠密性皆無ですよね、これ!?」
『アイが考えた作戦ではないですか』
「そ、それはそうなんですけど!?」
アイが考えた事ならオベイロンは基本従う。それがサポートとしての役割だからだ。それはそれとしてダメ出しは容赦なく行うようではあるが。
『それよりもアイ、光線が来ます』
ストーンキョンシーズは赤く光っていた。石化閃光を放つ前準備であろうか。これを食らってはまずい。アイは当然行動が不可能になるし、オベイロンもアイの指示なしで自由に動く事は、たぶんできない……ロボット三原則が適応されるならアイを、そしてオベイロン自身を守るために動く事もあるかもしれないが。
「ふっ、そんな光線効きませんよ!」
重力レンズは視界を曲げるためだけのものではない。石化光線回避にも使うものだったのだ。直線に飛ぶ光線の軌道を曲げてやる事で、いくら光速で飛ぶ光線であっても決してアイに当たる事はない。事実アイはこのとおり五体満足の無事……が、そこに思わぬオベイロンの言葉。
『アイ、スカートの裾や服の端が石化していますが』
「えええっ!?」
どうやら光線の曲げ方が少しだけ甘かったようだ。アイ自身の体にはなんの影響もないのは幸いではあったが、石化した場所から服は砕け始め、やがて石化が及ばなかった部分にも破損が波及しはじめた。
『ですが幸いにも男性はこの場にはおりませんし、そう慌てる必要もないのでは』
「そういう問題じゃないです!オ、オベイロン!反撃です!」
どうにか無事な部分を必死で抑えながらアイは指示を下した。相手がもともと高い防御力を持つのにさらに辰砂で防御力を加えるなら、それを上回る圧倒的大火力でぶち抜くだけだ。
「大型荷電粒子砲、収束発射!」
『ウィルコ。FIRE』
アインシュタイン・レンズの本来の使い方、すなわち重力レンズによる光線の増幅で強化された荷電粒子砲は一瞬のうちに辰砂もろとも石の屍たちを粉砕していった。あとは先に進むだけだ……ボス戦までに破損した服が修復できるか悩みつつ。
大成功
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ヴィリー・フランツ
心情:始皇帝を名乗ると漏れ無く水銀中毒になる呪いでも掛けられてるのか?まぁいい、兎に角叩き潰すぞ。
手段:「(装甲気密服のバイザーを上げ)情報通り酸素濃度は問題無しか」
【宇宙海兵強襲部隊】を召喚、部隊を20人程度の小隊で分散させ先行、キョンシーを掃討しながら迷宮を進軍する。敵と出会ったらブルパップ方式小銃での銃撃、陵墓内の障害物で上手くカバーしながら撃とう、全身を晒すよりはナンボかマシだろう。海兵隊は幽霊なんだが…石化光線は効くのか?
素直に迷宮攻略は面倒クセェな、プラズマグレネードや海兵の携帯ロケット砲で壁ぶち抜いてショートカットできねぇか?そうりゃ楽なんだがな。
●戦いは数だよ兄貴
装甲気密服に身を固めて始皇帝陵へと突入したヴィリー・フランツ(スペースノイドの傭兵・f27848)はかつての殲神封神大戦で阿房宮に突入し、始皇帝その人と相対した事がある。当然その際に始皇帝がちょっとばかし頭がおかしくなった光景も見ているわけで。
「始皇帝を名乗ると漏れ無く水銀中毒になる呪いでも掛けられてるのか?」
そんな風な事を考えずにはいられなかった。まあ始皇帝がいた阿房宮の様子を鑑みれば、仮に今回のボスが運用する阿房宮があれと同種のものであるならば水銀中毒になるのは確実だろうし、始皇帝を継ぐことがあれを継承する事とイコールであるならば確かにそれはある種の呪いと言えるかもしれなかった。ただヴィリーは始皇帝の愚かさについては水銀でイカれる以前の問題だったと考えているようだ。果たして今回のボスが水銀中毒の影響で晋王朝打倒などという愚かな事を考えるようになったのか、それとも頭がやられる以前の問題だったのか。それはまあ、自分の目で判断するしかないであろう……まあ水銀中毒の影響を受けている者が以前はどうだったかを判断するのはなかなか難しい事かもしれないが。結局ヴィリーの結論はもっともシンプルにしてストレートなものであった。そしておそらくは正解の選択肢であろう。
「まあいい、兎に角叩き潰すぞ」
ヴィリーはバイザーを上げて素顔を空気にさらし、始皇帝陵の状況を肉眼と肌とセンサーで確認した。
「情報通り酸素濃度は問題無しか、水銀蒸気の浮遊も確認できないようだな」
確認後、早速ヴィリーは【
宇宙海兵強襲部隊】を召喚した。敵が多数ならばこちらも数をもってこれに対抗する。基本的にして有効な戦術だ。ヴィリーの呼びかけに応じ、重装甲気密服に身を包み、銃火器で武装した宇宙海兵隊の幽霊が出現した。その数685人。
「行くぞ野郎ども!
今日は死ぬには良い日だ!」
『サー!イエッサー!』
ヴィリーは宇宙海兵隊の幽霊たちを20人程度の小隊に分散させて迷路に先行させた。ふたまたの道があればチームを二手に分ければ片方は正しい道につながる。単純な論理だ。どんなに迷宮が複雑だろうが、全ての道に人を送り込めば必ず誰かはゴールに到達するのだ……ただしそれは障害物が迷宮のみならば、という話である。やがて迷宮のあちらこちらで銃声が鳴り響き始めた。どうやらストーンキョンシーズたちと接敵した小隊が出たようだ。
「よし、俺が行くぞ」
ヴィリーは1小隊とともにブルパップ式小銃を抱えて銃声の方に向かった。行った先では既に宇宙海兵隊の幽霊たちとストーンキョンシーズの激戦が始まっていた。海兵隊幽霊たちはストーンキョンシーズに軽機関銃を撃ち込むも、石の体の防御力と浮遊する辰砂による防御をなかなか撃ち抜けずにいた。一部の幽霊はストーンキョンシーズの石化光線を浴びたらしく物言わぬ石像と化していた。
「おいおい冗談だろ?海兵隊は幽霊なんだが……幽霊にも石化光線が効くのかよ」
石化は一時的なものとはいえ、その間に破壊されたら石化解除とともに戦線離脱となるのは間違いない。そうこうしているうちにストーンキョンシーズたちが、増殖する辰砂が、石化した海兵隊を破壊しようと接近してきた。ヴィリーはすぐさま命令を下す。
「1隊は飛んでくる鉱石を撃ち落とせ!残りは石の野郎を狙い撃て!近づかせるな!」
必死の弾幕でどうにか時間を稼ぎ、やがて海兵隊幽霊にかけられた石化の効果が消えて生身に戻る。すかさずヴィリーは復活した隊員を石化光線を回避できる障害物の後ろに下げさせた。
「障害物を盾にしながら撃つんだ!全身を晒すよりはナンボかマシだろう」
実際これは有効な戦術だった。障害物に隠れればヴィリーや海兵隊員たちがストーンキョンシーズの石化光線を受ける可能性はいちじるしく低下するだろうし、万が一くらっても他の隊員がすかさず障害物の後ろに隠せば追撃を受ける事はまずないだろう。あとは飛んでくる辰砂に対応さえすれば良い……が、一方ヴィリーたちの射撃もなかなか辰砂の防御を貫けず、ストーンキョンシーズたちの所に届いてもなかなか石の体を貫く事ができずにいた。到底ただの石の防御力ではない。このまま膠着状態に陥ると思われたが、ヴィリーには勝算があった。
「どうやら、間に合ってくれたようだな」
他の所で探索を行っていた海兵隊員たちが駆けつけてきたのだ。すぐさま開始される銃弾の嵐による飽和攻撃の前に、さしものストーンキョンシーズや辰砂の防御力も紙も同然であり、敵は次々と破壊されていった。
あとは新手が来る前に迷宮を突破するだけであった……が。
「素直に迷宮攻略は面倒クセェな」
ヴィリーが思うのも当然であった。せっかく部隊が集結したのに、迷宮探索のためにまた散会し、接敵したら再度終結するのではちょっと手間がかかりすぎる。で、考えたのは。
「……壁ぶち抜いてショートカットできねぇか?そうすりゃ楽なんだがな」
思いついたらまずやってみる、これは重要な事である。早速ヴィリーはプラズマグレネードを壁に投擲、同じ場所を狙って海兵たちが携帯ロケット砲を撃ち込む……思いの外あっさりと、壁は崩れ去った。
「最初からこれやりゃよかったな」
迷宮の作り手が見たら間違いなく嘆くだろうが、そんな事情はヴィリーには全く関係がない。かくして数と火力でヴィリーたちは始皇帝陵を突き進んでいったのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ガーネット・グレイローズ
始皇帝の後継者を名乗るオブリビオンか。
偉人と同じ名前を自慢したいのはわかるが、状況によっては
抹殺対象になったりするんだよなぁ。
にわとりドローンのメカたまこEXを《索敵》モードに。
石が動いているのなら、かなりの物音がする筈だ。《聞き耳》を立てよう。
辰砂トラップはスラッシュストリングを《念動力》で振るって迎撃。
ヴァンパイアバットをキョンシーにけしかけ、光線を撃とうとしたところを《目潰し》攻撃で出鼻を挫く。勿論それだけで封殺は出来ないだろうが、
UC発動の隙を作れるなら十分だ。
石で出来た敵ならば、このユーベルコードのダメージは10倍。
そして辰砂…水銀で出来たトラップならば、この攻撃も有効な筈だ!
●砂は風に弱く音にも弱いらしいので石も似たようなものだろう
「始皇帝の後継者を名乗るオブリビオンか」
始皇帝陵への突入に際し、ガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)はこれから相対する敵の事を考えていた。そのオブリビオンの姓は現在封神武侠界を支配している晋王朝の前の王朝の皇帝と同じ『曹』だという。始皇帝の姓である『嬴』(『趙』という説もある)とは違うらしい。が、掲げているのは前王朝の復興ではなくあくまで始皇帝の後継者らしい。そこに深い意味があるのかないのかはわからない。ただ曹だろうが嬴だろうが言える事もあって。
「偉人と同じ名前を自慢したいのはわかるが、状況によっては抹殺対象になったりするんだよなぁ」
これだ。王族や皇族を僭称する事、あるいは新たな王や皇帝を名乗る事はそれだけで捕まったら普通に死ぬのである。タイトルに反して名乗るだけなら自由って事はないのだ。まあ大体こういうことやらかす人は最初から負けたらどうとか考えずやるわけだし、やる人なりには十分な勝算があってやるのだろう。事が成ってしまえば勝ちなのである。実際、晋王朝の前には3つの国があり、それぞれが皇帝を抱いていたが、彼らは皆敗れた後も王としては存続できていたわけだし。出る前に負ける事考えるバカいるかよ。むろん猟兵としてはそうなる前に潰さなきゃならないわけだけど。
そんなわけでどっかの皇帝と同じ姓の奴を潰すために始皇帝陵に突入したガーネットは早速にわとり型ドローン【メカたまこEX】を索敵モードにした。迷宮ということもあり、敵にとっては隠れたり不意を討ったりとやれることは多いだろう。不意打ちを防ぎ、可能ならば逆に先制攻撃を仕掛けたい。そして今回の相手は……全身が石でできたキョンシー。
(石が動いているのなら、かなりの物音がする筈だ)
ガーネットはブレードワイヤー『スラッシュストリング』を構えつつ、ドローンのみならず自らの聴覚もフル活用して敵の居場所を察知しようとした。敵が出現すればその瞬間にいつでも反応できる構えだ。そして。
(……来たな)
ガーネットの耳は確かにそれを捉えた。重いような足音が複数。メカたまこEXも反応している。間違いない。事前情報で見たストーンキョンシーズだ。目の前の曲がり角の、そのむこうにいるはずだ。敵の襲撃に備え、ガーネットはヴァンパイアバットの群れを宙に舞わせた。敵が曲がり角から出てきた所を攻撃するか、それともこちらから突撃するか、決断の時……。だが逡巡に許された時間は存外短かった。
「……!!」
反射的にガーネットはスラッシュストリングを振るっていた。飛んできた何か鉱石のようなもの……『増殖する辰砂』がワイヤーに弾かれるも再度宙を舞う。再度の辰砂の突撃をさらにガーネットは迎撃するが、そこにストーンキョンシーたちが突っ込んできた。キョンシーたちは一列に並ぶとガーネットに石化閃光を浴びせかけるべく、赤い目をさらに光らせた。
「そうはさせん!」
機先を制し、ガーネットはストーンキョンシーズたちにヴァンパイアバットの群れをけしかけた。コウモリたちはキョンシーズに向かって舞い飛ぶと、石の屍の目を潰して光線を封じようとした。石であってもこれは気分の良いものではないらしく、キョンシーたちも目を守らないわけにはいかない。あるいは石化光線がコウモリたちに向け放たれ、石化したバットが数匹床に落下した。幸いにも落下の衝撃で砕けた者はおらず、じきに復活するだろうが。
ガーネットは飛んでくる辰砂を防ぐのに精いっぱい、ヴァンパイアバットによるストーンキョンシーズの足止めもいつまで続くかわからない。このままではジリ貧だ……いや、そうではない。まだガーネットには切り札があった。それを発動させるだけの時間が稼げればそれで良かったのだ。
「『武器庫』よ!」
そして時は成った。あとは解き放つだけだ。
「異界兵器の一つ<審判>を解禁する権利を求める……開門せよ!」
その名は【
終末異界兵器「ⅩⅩ:
審判」】……大アルカナのカード番号20の名が与えられた兵器であった。タロットに記されたラッパを吹くガブリエルを彷彿とさせる天使型魔道兵器が高らかにラッパの音を鳴り響かせた。終末の力の込められたラッパの音はストーンキョンシーズに、増殖する辰砂に及ぼされると、たちまちのうちにそれらは風で吹き飛ばされる砂の如くに砕け散っていった。
「石でできた敵や、辰砂……水銀でできたトラップならば、この攻撃は有効だと思っていたが、どうやら予想通りだったようだな」
ラッパの音は無機物に対しては有機物の10倍のダメージを与える効果がある。まさにストーンキョンシーズや辰砂に対しては特効兵器と呼ぶべき恐るべき威力を発揮したのであった。
かくして猟兵たちは守備兵や迷宮を潜り抜けて始皇帝陵の最奥にまで到達した。あとはここからボスの住まう阿房宮へと突撃し、決戦を挑むだけだった……が。
「いかん」
ガーネットの足が止まった。阿房宮より流れ出てきた邪悪なモノに気が付いたのである。
「これをなんとかしないことには、先には進めないな」
かつて始皇帝と戦った者たちをおおいに悩ませた、その正体とは……。
大成功
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第2章 ボス戦
『曹豹』
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POW : 血盟軍団員全員集合
敵1体を指定する。レベル秒後にレベル×1体の【曹豹血盟軍軍団員】が出現し、指定の敵だけを【白兵戦による集団戦術】と【弓矢の一斉射撃】で攻撃する。
SPD : 娘婿への内通
【娘婿・呂布】の霊を召喚する。これは【方天画戟】や【赤兎馬の騎乗突撃】で攻撃する能力を持つ。
WIZ : 魔人の罵声
【真剣な或いはどこか滑稽な、魂からの罵倒】を給仕している間、戦場にいる真剣な或いはどこか滑稽な、魂からの罵倒を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
👑11
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●たぶん曹操の一族と血縁てことはないとは思う
「……思い出したのだ」
グリモアベースにて、グリモア猟兵は手を叩いた。
「あの阿房宮は水銀だらけだったのだ!始皇帝くんの時と一緒なのだ!」
阿房宮はその全てが水銀で作られた水銀楼閣である。当然大気中にも水銀蒸気が充満されている。普通水銀中毒は長期的な摂取で起こるようだが、水銀蒸気となると話が変わってきて超猛毒かつ即効性であるらしい。まともに吸い込んだら猟兵といえど一瞬でグリモアベース強制送還となる事は間違いないところである。そんな大事な事を言い忘れたグリモア猟兵は後でしばくとしても、今から阿房宮に突入せんとする猟兵たちは今からでも水銀蒸気に対する対策をとらないとまともに戦えない事だろう。
そしてその先で待つのは……。
『そーっひょっひょっひょっひょ』
そのオブリビオンの名は曹豹といった。
名の呼びは『そうひょう』あるいは『そうほう』。まあ呼びやすい方でいいだろう。晋による天下統一の約80年前に徐州の陶謙ついで劉備に仕えた武将だ。しかし劉備が外征に出ている時、劉備の義弟張飛に皆の前で辱めを受けたために恨みを持ち、客将にして娘婿の呂布に内通して城を明け渡してしまった。その際に曹豹は張飛に殺されている(演義準拠)。これだけならただの小物なのだが、どういうわけだか局地的にとはいえこの曹豹が話題になってしまった事があり、その縁で(かどうかは分からないが)韓信配下から禁軍猟書家にまでなってしまった経緯がある。現在は禁軍猟書家の任を解かれて一般オブリビオンとなっているようだ。ついでにいろいろあって性格がかなりエキセントリックなものになってしまったようだが、これが水銀の影響なのか元からなのかは判断しづらい所である。
『早くここまで来るがよい猟兵ども!おまえらごときにこのわしが勝てるわけがなかろう!きさまらなどこのわしが剣のサビになってくれるわ!』
なにやら言ってる事がおかしい気がするが馬鹿にしてはいけない。曹豹の『魔人の罵声』を馬鹿にした者はとんでもない目にあうのだ……具体的には後述。
『連中をみんなぶち倒し!「猟兵など雑魚かった」と総評してくれよう!曹豹なだけに!!』
史実の曹豹は武人だったが、さまざまな事の影響で今の曹豹は近接戦ははっきり言って弱いようだ。だがそこは禁軍猟書家にまでなった男である。様々な要素が曹豹を強敵たらしめているのだ。
まず韓信配下マークはついてないが、なぜか韓信が配下に与える『神器』のひとつ【EP風火輪】を持っている。使用者に炎の竜巻による高速移動と遠距離攻撃を可能にする神器により、曹豹は高速で逃げつつ飛び道具を撃ってくる事だろう。さらに以下に示す3つの能力も【EP風火輪】とかなり相性がいいようだ。
【血盟軍団員全員集合】は曹豹血盟軍と呼ばれる忠実な兵を呼び寄せて白兵戦や弓矢で猛攻をくわえるものだ。軍団員たちは戦意も曹豹への忠誠心が高く数も多いので強敵だろう。幸いにも軍団員は水銀蒸気への対策のために来るのには多少時間がかかるが、曹豹はEP風火輪で軍団員たちが集まるまでの時間を稼ぎにかかることだろう。
【娘婿への内通】は世に知られた天下無双の飛将軍・呂布を呼び寄せるものだ。一日千里を行くとされる名馬『赤兎馬』に乗り、方天画戟を振るう呂布が強いのは当然として、呂布のために逃げ回る曹豹への攻撃が届きづらくなるのも問題だ。呂布や赤兎馬は水銀蒸気の影響を受けるが、なにせ呂布は強いので猟兵ひとりと戦っている間ぐらいはどうにか持ちこたえてしまうらしい。
【魔人の罵声】は曹豹得意の罵声を受けた者の行動速度を超絶的に減少させるものだ。行動速度が減少したらEP風火輪への対処が難しくなるし、水銀蒸気への対策も無効化される恐れがある。対抗するには罵声に対してあきれたり白けて馬鹿にしたり怒ったりするのではなく『楽しむ』必要がある。曹豹的に『楽しむ』とは『畏敬の念を抱いて平伏し忠誠を誓う』程度の意味らしいが、そこは猟兵なので自分のやり方で楽しんでくれればいいだろう。なお罵声の内容は前述したような感じだが、プレイングの字数に余裕があれば『曹豹に言わせたい罵声』を書いてみるのもおもしろいかもしれない。
以上、禁軍猟書家を張っただけあって、さらに水銀蒸気の件もあり、なかなか面倒な事この上ない相手ではあるが、幸いな事にかつての始皇帝がそうであったように、曹豹も水銀蒸気を吸った事でかなり思考力が低下している可能性が高い(元からかもしれないが)。そこは付け込む隙になるかもしれない。ともあれ、こいつをなんとかしてくださいお願いいたします。
ヴィリー・フランツ
心情:はいはい水銀水銀、俺はちゃんと覚えてたぜ(装甲気密服のバイザーを下げる)。いっその事、阿房宮から阿呆宮に改名したらどうだ?
手段:「あ、駄目だコイツ。前皇帝と同じ水銀で汚染される前から馬鹿だ」
引き続き【宇宙海兵強襲部隊】を活用、大軍に区々たる用兵など必要ない、必要なら他の猟兵を援護しながら海兵のレーザーライフルの掃射 ちょこまか逃げるなら飽和攻撃で仕留めるだけだ。
俺は指揮に専念するが、必要ならライフル片手に攻撃に参加する
『曹豹に言わせたい罵声』
「お前の能力値、石器時代の勇者〜」
コーエーだな、俺みたいな兵卒上がりにはそれで充分だぜ。どこぞの武将みたいに全能力値が平均より遥かに下よりはマシだ。
●14作出ているシリーズの2作目
「はいはい水銀水銀、俺はちゃんと覚えてたぜ」
装甲気密服のバイザーを下げつつヴィリー・フランツは呟いた。ヴィリーの身に纏う装甲気密服は本来過酷な宇宙空間において使用するものだ。無重力、真空状態、有害な宇宙線、絶対零度に迫る超低温、そういった物から人体を守り、活動を可能にしてくれる。それならば到底人間が生存不可能な水銀蒸気の中であっても問題なく行動できるのも道理である。事実、それは始皇帝との戦いの時に既に実証済みだ。今回も対策は同じで良いだろう。それは当然の判断だといえた。先刻に引き続きヴィリーが率いる海兵隊の幽霊たちも同様の気密服を着用している。なにせ幽霊に対し石化閃光が有効だった例を見たばかりである。ならば水銀蒸気だって幽霊に深刻なダメージを与える可能性は決して低くないと考えるべきであろう。備えあれば憂いなしだ。
早速ヴィリーと海兵隊たちは阿房宮に突入した。体に異変はない。装甲気密服はちゃんと機能している。あの時と全て一緒だ。そう、かの殲神封神大戦で阿房宮に突入し、始皇帝と相対した時と。ならばと迷うことなく最短距離で進み、その先にいた人物のみがあの時とは違っていた。
『そーっひょっひょっひょっひょ』
玉座にて高笑いをする人物……曹豹。姓こそ前王朝の皇帝と同じだが、到底それに相応しい威光など持たぬ人物だ。どういうわけだか一部の人間を惹きつけたようなのでもしかしたらわけのわからないカリスマめいたものがあるのかもしれないが、少なくとも人の上に立つ者のそれではない。豪華絢爛を装おうとしているが水銀一色ではいまいち盛り上がりにかける宮殿は、分不相応な身でありながら至高の座に座る男をそのまま表しているようではないか。
「あ、駄目だコイツ。前皇帝と同じ水銀で汚染される前から馬鹿だ」
ヴィリーがそう判断したのは当然だろう。実際その判断は間違っていない。なんでこんな事になってしまったのかといえば……なんというか、一時期評判になった際の扱いに問題があったとしか言いようがないのだが。
「いっその事、阿房宮から阿呆宮に改名したらどうだ?」
うまい。確かに歴代の阿房宮の主の事を鑑みても、あんまり頭のいい人は見られないようで。実際の阿房宮(未完成で終わりはしたが)の主についても始皇帝はともかく二代目は実質上宦官の傀儡だったし、三代目はすぐ殺されたので評価は難しいが。そしてこの曹豹……。
『何を言うか!』
頭の働きは落ちてはいるが、それでも悪口を言われたという事は理解できたらしい。曹豹はやおら立ち上がると、手にした【EP風火輪】を振るいあげた。たちまちその体が炎に包まれ、宙に浮かび上がった。
『大口を叩くのはこの攻撃を破ってからにすることだな!』
高速飛行を可能にする【EP風火輪】の働きで海兵隊に突っ込み三国無双する……と思われたが、そこはかつて張飛に侮辱を受けても決闘を挑むのではなく裏切り者の力を借りた(某三国志マンガ準拠)曹豹である。むしろ海兵隊とは逆の方向に飛んでいった。そして距離を取って振り向くと、そこから大量の火炎弾を撃ち始めた。
『そーひょひょひょ!近寄れまいて!』
「ちっ、ちょっと厄介なオモチャだが、まーでもやる事は一緒だ」
なかなか密度の濃い弾幕ではあるが、それでも敵は単体だ。ヴィリーは大軍を率いている。大軍に区々たる用兵など必要ない。圧倒的な数の力で圧殺するだけである。
「撃て!」
ヴィリーの指示を受け、690人の完全武装の海兵隊の幽霊たちがレーザーライフルを一斉に発射した。さすがにこの飽和攻撃にはさしもの神器の力でも回避も相殺も困難であり、幾本ものレーザー光線が曹豹に叩き込まれていく。
『くっ!おのれ猪武者どもめ!きさまらなどこのわしが剣のサビにしてくれるわ!』
だが曹豹はひるむ様子もない。このあたりのタフネスは元禁軍猟書家の面目躍如といったところであろうか。むしろその戦意はますます旺盛になったようで、ヴィリーにむけ猛烈な罵倒を飛ばしてきた。
『きさまは勇者だ、ただし石器時代のな!お前の能力値石器時代の勇者!』
これぞ曹豹得意の【魔人の罵声】だ。対応を間違い行動速度が減少してしまったら、いかに飽和攻撃といえど高速で動く曹豹を捉えられなくなる恐れがある。それだけならまだしも仮に装甲気密服の酸素循環システムに遅延が生じたら、最悪バイザーを下げたまま酸欠になるか、バイザーを上げて水銀蒸気を吸い込むかの二択を迫られかねない。ヴィリー小考……ののち、口を開いた。
「……コーエーだな」
うまい(2回目)これは実に高度なダブルミーニングになっている。あえて解説はしないが。
「俺みたいな兵卒上がりにはそれで充分だぜ。どこぞの武将みたいに全能力値が平均より遥かに下よりはマシだ」
『い、い、言うてはならぬ事を~!!』
うん、これは確実に楽しんでいる。行動速度は……落ちない。そしてヴィリーの逆襲の罵倒はどういうわけだが曹豹に的確に突き刺さったようだった。
『おにょれ猟兵~!わしが炎で火だるまになるがよいわ!』
「この程度で取り乱すとはな、やはり阿呆宮の馬鹿だったか」
完全に冷静さを失った曹豹は火炎弾を乱射するが、所詮それはただの無秩序な連射に過ぎず、ヴィリーの的確な指揮で統率の取れた海兵隊の敵ではなかった。さらに精密極まるレーザーの嵐が曹豹に的確にダメージを与えていったのだった。
大成功
🔵🔵🔵
夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎
■行動
張闓さんの件と言い、彼と言い、陶謙さんは人を見る目に問題が有った気が?
『FMS』のバリアで出入口を封鎖し『血盟軍』到着を妨害しまして。
『FLS』の空間歪曲障壁で『水銀蒸気』の接触を阻害、更に『FXS』の治癒結界と『FES』の対毒結界を重ね、尚抜けて来る分を防ぎましょう。
そして『FAS』で飛行し【繃炗】を発動、『刀』を指定し『光波霊』に変化しますねぇ。
『風火輪』の防御機構は『超光速飛行』からの斬撃と『FIS』の転移を併せ「カバーを間に合わせない」ことで対処、『遠距離攻撃』も射程が有る分『障壁』で軽減可能ですぅ。
後は曹豹さんの周囲を飛び回り、各方位から斬撃を仕掛けますねぇ。
●分断策ふたたび
阿房宮の奥で待ち受ける敵将が曹豹と聞き、夢ヶ枝・るこるは思わずつぶやいた。
「張闓さんの件と言い、彼と言い、陶謙さんは人を見る目に問題が有った気が?」
張闓も曹豹同様陶謙の将であるが、彼が歴史に名を残した唯一の業績(罪状?)は曹操の父曹嵩を殺害した事であった。この件について『演義』ではあくまで張闓の単独犯であり、陶謙は監督責任はあるにせよ基本とばっちり受けたた被害者という扱いになっている……ただ正史では陶謙の指示があった説となかった説が両方出てたりするので正直わからない。陶謙は袁術派閥なので袁紹派閥の曹操とは対立する立場にあり、陶謙が曹嵩殺害を主導したとしてもなんら不思議はない気もする。人を見る目以前に少なくとも正史においてはもともと問題の多い人物だったようだし。ただまあこの事で良くも悪くも(特に劉備と呂布にとって)物語が動いたと思えば世の中分からない。閑話休題。
さて、るこるもかつての殲神封神大戦で阿房宮に突撃し始皇帝と戦った事があった。さらに言うなら禁軍猟書家時代の曹豹とも戦った事がある。このふたつの戦闘経験が今回の戦いにおいてアドバンテージとなると信じつつ、るこるは阿房宮への第一歩を踏み出そうとしていた。
「では早速【FLS】【FXS】【FES】展開ですぅ」
つい先刻は物理的な防御に使用したFLSによる空間歪曲を、今回はるこるは水銀蒸気の防御に使うようであった。さらに寿命を延ばすという封神武侠界の『
仙桃』のごとくに回復を早める【
FXS】、毒を防ぐ結界を張る【
FES】による防御の重ね掛けを行い、万全の準備を整えると3対6枚のオーラ翼【FAS】をはためかせ、水銀蒸気の中に飛び込んでいった。
『そーっひょっひょっひょっひょ!来たな猟兵!』
水銀蒸気の中を泳ぐように飛んできたるこるを早速曹豹が迎え撃つ。るこるにとっては以前見たのと同じ顔だ。戦場が以前と違う事で、なんとなく偉そうな感じが増した感がないでもない。まあ虚栄なのだろうが。
『よりにもよってたったひとりで来おったか!ならばわしにも考えがあるわ!』
相手が単独なのを見て、曹豹としては何か思いついた事があったようだ。それはつい先刻、曹豹自身が味わった屈辱に関係していた。
『我が忠勇無双の精鋭たちよ!ここに集結せよ!数の暴力で圧殺するのじゃ!』
つい先刻、自らがやられた数押しによる戦法。これを再現すべく、信頼する部下の『曹豹血盟軍』を呼び出そうとした。の、だが……。
「……あ~、曹豹様のお呼び出しだ……」
「対水銀装備つけなきゃならないんだけど……」
「めんどくせえんだよなあ、あれ……」
「……」
『……』
「来ませんねえ」
むろん、血盟軍軍団員の到着が遅れるのはるこるには分かっていた。以前と相対した時にも見た光景だからである。
『ええい!水銀程度でここに来れぬとは情けない!それくらい忠誠心があればどうにでもなるだろう!』
「それはさすがに無茶というものでは」
『猟兵が口を出す事ではないわ!だが来ないものは仕方がない!そのうち来るであろう!』
言うなり曹豹は【EP風火輪】の力で超高速で逃げた。血盟軍の到着まで時間を稼ごうという考えだろうか。考え自体は決して間違ってはいない。が、曹豹にはふたつほど誤算があった事に気が付いていなかった。
「大いなる豊饒の女神、あなたの使徒に『玉光の加護』をお与え下さいませ」
るこるが使ったユーベルコードは【
豊乳女神の加護・
繃炗】と言った。『繃』は『包』とほぼ同義で『炗』は光る事だ。ヒョウシュツは表出だろうか。ショウシは……るこるは光波霊なる姿に変わった。まさに光を包み込む姿だといえようか。
「参ります!」
るこるが飛んだ。その速度……なんと超光速だという。かのオブリビオンマシン『哪吒』が使用していたオリジナルのEP風火輪はレベル×100km/hの速度を叩き出すという。曹豹のものはコピーなのでせいぜい半分だろうが、それでもマッハ11.7ぐらいは出るらしい。しかしるこるの速度が超高速だというなら……光速でマッハ88万らしい。これはひどい。そう、曹豹の誤算のひとつめは、相手が自分より高速な事だった。
『なんじゃそりゃあ!』
さすがに曹豹も驚愕した。さらに悪い事に、るこるは刀をもって突っ込んでいるが、【繃炗】の効果で自身の得物より射程距離の長い攻撃は全てダメージが1/100になるという。当然曹豹の火炎弾もその対象になってしまうわけで。
『ええい!だが相手が超高速だろうと圧倒的多数で包囲してしまえばなんとかなるわい!』
それでも曹豹は折れない。白兵戦を得意とする血盟軍さえ到着すれば逆転は可能なのだ。普通に考えれば何人集まろうと超光速の相手が捉えられるとも思えないが、そこはまあ、猟兵とオブリビオンの戦いなので、やりようによってはなんとかなるのだ……到着できれば、の話だが。
「包囲というのはあの人たちによってですかぁ?」
だがるこるの声が曹豹の希望を打ち砕いた。
「そ、曹豹様~!入れません~!!」
『!!??』
そう。以前るこるはあらかじめ【FMS】でバリアを張り、血盟軍の侵入を妨害したのである。なにげにこれはかつて曹豹と戦った時に使った戦法と一緒であった。頼みの綱の血盟軍が到着しない事。これこそ曹豹ふたつめの誤算といえた。
「さて、あとは切り刻むだけですねぇ」
『お、おにょれー!こんな肉のかたまりが超光速とか反則なッッッ』
かくして白兵戦の力が皆無な曹豹は凄まじい速さのるこるから防御も回避も逃走もできず、四方八方からの攻撃に一方的にやられまくったのであった。
大成功
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ガーネット・グレイローズ
水銀対策として、ローズタクトで周囲に癒しの風を発生させる。万全とは言えないが、お守りにはなるだろう。【グラビティマスター】を使い、空中戦。
さて、奴の口撃はいかなるものか…女ゆえ、余計に軽く見られるかもしれない。ここは頭を空っぽにして、へりくだる態度をとろう。
「私のような無知な異邦人に対して、勿体無いお言葉でございます」
奴の口調はパワハラ系上司の典型。おまけに水銀に頭をやられて、言ってることが支離滅裂だ。その支離滅裂っぷりを敢えて面白がる。だが私も商会を束ねる身。きっちりと反撃はさせてもらおう。素早く距離を詰めて、《功夫》による《連続コンボ》を叩き込む。
「失礼、兜に虻が止まっておりましたゆえ」
●あくまで当時の思想でありそれ以上の何かではありません
ガーネット・グレイローズはかつての戦争で始皇帝と戦った事はなく、当然阿房宮への突入もはじめての経験だった。
「さて、どうしたものかな」
入口より漏れ出てくる水銀蒸気は肺に入れば覿面に人体を汚染する。水銀中毒は通常は長期の吸収で発生するものだが、これだけ高濃度だとごくごく短期間で、最悪吸った瞬間に影響が出かねない。そうなったら曹豹と戦うどころの騒ぎではなくなるだろう。
「要は肺に吸い込みさえしなければ良いのだろう」
ガーネットはそう結論付けた。水銀は皮膚から吸収しないでもないが、その量は消化器や呼吸器を経由した場合に比べてごくごく微量であり健康にほとんど影響はないとされる。むろん超高濃度の場合はわからないし、純粋な水銀よりも有毒性が高いとされる水銀化合物の場合はまた話が違ってくるが。まあ体に近づけないという点では一緒だ。ガーネットが取り出したのは一本の指揮棒であった。一振りすればたちまち周囲はバラの香りに包まれ、さわやかな風に包まれた。到底戦場とは思えないようなさわやかな風にかぐわしき香りで水銀蒸気を遠ざけるのがガーネットの狙いであった。
「万全とは言えないが、お守りにはなるだろう」
水銀を吹き飛ばすほどの強烈な気流を発生させるわけではないので対策としては確かに頼りないものだったかもしれないが、それでも水銀蒸気をまともに吸い込まないだけでも十分だ。ガーネットは阿房宮へと一歩を踏み出した。肺が焼けつくような感じもなく呼吸には問題はなさそうだ。とりあえず即グリモアベース送りだけは免れたようで、安堵と不安が半々な気持ちながらもガーネットが水銀宮殿の中を進む事はできた。そして最奥に待っていた敵のボス。
『そーっひょっひょっひょっひょ』
(さて、奴の口撃はいかなるものか……)
高笑いする曹豹を前に、ガーネットは考えていた。敵は逃げながら戦うらしい。ガーネットもまた封神武侠界の修行で重力を制御する術を身に着けており、高速で飛び回り敵の攻撃を回避する事はできる。だがその飛行速度はレベル×5km/hだ。一方、曹豹のEP風火輪によって得られる飛行速度はオリジナルでレベル×100km/hだという。コピーなのでせいぜい半分としても同レベル換算としてガーネットの10倍だ。追いかけっこはできれば避けたいものであった。また【魔人の罵声】と呼ばれる口撃も問題になってくる。対応を誤って行動速度が低下すれば、ただでさえ速度差があるのにそれがより絶望的なものとなるだろう。最悪の場合、ローズタクトで発生させた桐生の動きが低下することで水銀蒸気への対策が弱まり、有毒な蒸気をまともに吸い込むような事態にもなりかねない。曹豹の口撃に対処し、なおかつ曹豹を逃がさない、そのような手段はあるのだろうか?
『そーひょひょひょ、どうした猟兵、来ぬのか?』
攻めてこようとしない猟兵を侮ったか、曹豹が嘲るような高笑いをした。
『やはり強そうに見えても所詮はおなごじゃのお!いざとなったら足がすくんで動けぬか!』
(……来たか)
女ゆえ余計に軽くみられるかもしれない、というガーネットの予想は的中した。なんといっても三国志の時代といえば女性の名が記録に残る事がほぼほぼないぐらい女性の地位は軽かったのである……まあこれは封神武侠界というよりアース世界の三国志の話ではあるが。
『女なら女らしく大人しくしておけばわしが酌をする権利を与えてやろうというのじゃ!』
(お前が酌する方なのか)
曹豹の口調はパワハラ系上司の典型である上に、おまけに水銀に頭をやられて、言ってることが支離滅裂。このあたりもガーネットの予想通りであった。まあ曹豹自身が張飛っていう超絶パワハラ系上司の被害者であるから、パワハラを受けて育てば自分もまたパワハラ系になってしまうというのはまあわからないでもないし、多少は同情の余地がないでもないが、であっても別にわざわざパワハラ系になる義務があるわけでもなし。そもオブリビオンに同情してやる義務は……たまにそういうケースもなくはないが今回に限っては間違いなくないと断言できよう。
「私のような無知な異邦人に対して、勿体無いお言葉でございます」
これを『楽しむ』方法としてガーネットが選んだのは、まずは頭を空っぽにしてへりくだる態度を取る事。これは相手の戦闘意欲を抑え、逃走を防ぐ効果も狙っていた。
『そうそう、そうやって大人しくしておけばわしが側室にでもなってやってもいいんじゃよ』
(お前がなる方かい)
そしてなんかおかしい発言をあえて面白がる。だがガーネットとて人の上に立つ身である。曹豹のパワハラセクハラの上に支離滅裂な発言を楽しむのにもそろそろ限界が来ていた。今はまだ速度減少は起こっていないが時間の問題かもしれない。そうなる前に決着をつける必要があった。
「ちょっと失礼」
ガーネットは重力を感じないような動きで素早く曹豹に近づいた。水銀で判断力が弱まっている上に、ガーネットの言葉にすっかり油断し切っている曹豹はガーネットの殺意に気付く事もないようだ。
『ん?なんじゃ?キッスでもしてくれるのかの?』
「哈ッッッ!」
『!!!!????』
無防備な曹豹にガーネットの連続攻撃が叩き込まれた。もともと白兵戦が弱い上に完全に弛緩しきった曹豹がこれを回避できるはずがなかった。
『ななななにをッッッ』
「失礼、兜に虻が止まっておりましたゆえ」
しれっと言ってのけるガーネットは、どこかすっきりとしたような顔をしていた。
大成功
🔵🔵🔵
アイ・リスパー
「水銀蒸気ですか。
そんなものパワードスーツに変形したオベイロンに乗り込んだ私には通用しません!」
曹豹はこちらを鈍重な人形と罵倒してくるでしょうが、その油断こそ付け入る隙!
パワードスーツの高機動戦闘で一気に決着を付けてあげましょう!
――ですが。
「なっ!?
わ、私の……体重が重いですってー!?
確かに最近、ゲーム三昧、おやつ三昧で、ちょこーっと体重増えてますけどっ!」
『落ち着いてください、アイ。
相手は私が鈍重だと言いました。アイの予想通りではないですか』
「予想通りでも乙女のハートは傷つくんですよっ!
オベイロン、ミサイル、レーザー、荷電粒子砲一斉発射!
プラズマブレードで一気に片付けちゃってくださいっ!」
●幕間劇をプレイングとして採用できないのは心底残念でありました
先の戦いで衣服に大きなダメージを負ったアイ・リスパーだが、どうにか阿房宮の入り口までは到達できた。だが突入しようとしたアイをサポートAIのオベイロンが止めた。
『水銀の反応を察知、建造物の大部分を構成している水銀が水銀蒸気として建造物の内部に充満している事が想定されます。無策での突入は危険かと』
「水銀蒸気ですか」
水銀蒸気をまともに吸い込んだら危険だし、普通は皮膚からの接触では大したことはない水銀とはいえ大量に存在するとあっては話が変わって来るかもしれない。だが存在がわかればいくらでも対策がとれるというものだ。
「オベイロン!変形です!」
『了解』
「パワードスーツ形態への変形を確認。パワードスーツ、装着します!」
つい先刻、宇宙空間での活動スタイルをもって水銀蒸気への対応とする猟兵は先刻もいたし、それが有効なのは既に実証済みであった。オベイロンは宇宙用ではなく水陸両用の戦車ではあるが、気密性という点ではまあ水中用でも問題はないだろう。ちなみに阿房宮は体高5mのキャバリアだと始皇帝の玉座周辺には入れないという説もあるようだが、フルアーマーアイの身長は3m強なのでまあセーフだろう。
「やはり水銀蒸気なんか、パワードスーツに変形したオベイロンに乗り込んだ私には通用しません!」
『アイ、油断は禁物です。確かに私の防毒性能は水銀に対しても完璧だと自負しておりますが、敵はわけのわからない技で私たちの速度を低下してくるようです』
パワードスーツに身を包み、さっそく阿房宮に突入したアイは既に勝利を確信したようにドヤったが、だがオベイロンは慎重だった。そう、確かに曹豹の技にはあやしげな罵声を飛ばして対応を誤った相手の行動速度を下げてくるものがあった。動きが鈍重になれば高速で動く曹豹の動きを捉えられなくなるのは当然としても、CPUの処理速度が低下した日には水銀蒸気を防ぐ要であるパワードスーツの気密性にも問題が出るような事にもなりかねないだろう。だがアイは断言した。
「大丈夫です!敵が何を言ってくるかを予想さえしていれば、相手の言葉に腹を立てる事などなく冷静に対処できるはずです!」
『なるほど。ではどんな風に来るとお考えですか』
「おそらく、こちらが巨体なのを見て、体重が重いとか動きが鈍いとか、鈍重な人形とか、だいたいそんな感じでののしってくるはずです!で、あとはそれを見事に受け流し、相手が油断しているところに付けこんでパワードスーツの高機動戦闘で一気に決着を付けてあげましょう!」
『な!なんじゃありゃ!』
高さ3mを超えるパワードスーツの巨体が飛び込んできて、さすがの曹豹も驚いた。
『噂に聞く南蛮にもあんなに巨大なやつはおそらくおらんぞ!』
三国志の南蛮で巨大として知られるのはなんといっても兀突骨である。先の戦争では三皇『神農』と合体した『神農兀突骨』として登場したのを覚えている方もおられるだろう。その兀突骨ですら身長3mはなかったとされているのだ。曹豹が驚くのは当然と言えただろう。
「ふっふっふ、さすがに驚いているようですね!」
『アイ、油断しないでください。曹豹の例の技がそろそろ来ます』
巨大な敵に負けぬよう、大音響の【魔人の罵声】を飛ばすべく、曹豹は水銀蒸気とともに息を吸い込んだ。まず曹豹血盟軍を呼んで動きを抑えつつ【EP風火輪】で逃げながら火炎弾を撃つのが狙いだが、なにせ敵があれだけの巨体なので決着を付けるのは時間がかかると考え、万が一にでも途中で捕まる可能性を極限まで抑えるべく、まずは速度低下を狙ったようであった。
『このデカブツめ!』
そして曹豹の大喝が来た。
『そんな巨体ならさぞかし鈍重であろう!この百貫デブの体形でわしの速さをとらえられるものならとらえてみい!』
『アイの予想通りの言葉のようですね……アイ?』
どこか感心したようなオベイロンの声……が、どこかしら不安を抱えたようなものに変わった。
「なっ
……!?」
曹豹の言葉にアイは怒っていた。怒ってしまった。
「わ、私の……体重が重いですってー!?」
たしかに女の子にとっては致命的な言葉であった。しかも、どうやらアイには思い当たるフシがおおいにあったようで。
「確かに最近、ゲーム三昧、おやつ三昧で、ちょこーっと体重増えてますけどっ!」
『落ち着いてください、アイ。相手は私が鈍重だと言いました。アイの予想通りではないですか』
「予想通りでも乙女のハートは傷つくんですよっ!」
なだめるオベイロンの声もアイには届かない。まずい。これはまずい。曹豹の言葉に激怒したら【魔人の罵声】の効果が発揮されてしまう。そうなったら速度低下により致命的な事態が発生しかねない……と、思われていたのだが。
「オベイロン!ミサイル、レーザー、荷電粒子砲一斉発射!プラズマブレードで一気に片付けちゃってくださいっ!」
『Wilco。全装備フルバースト、FIRE』
『そひょー!?』
どういうわけか行動速度は低下せず、超絶的な弾幕の嵐にはさしもの曹豹もこれを回避も相殺もできず、ついにで到着した曹豹血盟軍たちも巻き込んでまともにくらったのであった。ちなみにアイが無事だった理由は、アイが激怒している分、それを楽しんでいた者がいたからであった……そう。オベイロンがアイの様子やらなにやらについていろいろ楽しんでいたという事実は、あえてアイに伝える必要がない事であった。
大成功
🔵🔵🔵
グリルド・グラタニア
アドリブ連携◎
げぇっ呂布…の義父!
「知ってるのグラたん?」
あのねえ。アナタの頭には料理知識しか入ってませんの?
「ハァ?グラたんだってUDCアースでちょい噛みした漫画知識しかないじゃん。」
だまらっしゃい。
さておき、【魂煮傀奪】で冥土忍軍と火炎放射兵を傀儡とし呼び寄せます。このUCの効果で【転化食源】を付与し、火炎放射で水銀をでかいアラザンの足場に変えさせつつ、苦無や皿を投擲させて遠隔攻撃を主とする血盟軍団員に対応しますわ。
可能なら生還した火炎放射兵にチョコレートに変えたキョンシーを持ってきてもらって食べて近接対応の肉壁として召喚したいですが、そこは帰還者の有無も含めて流動的に。
私自身は【指定UC】で能力上昇し、『戦闘演算』『受け流し』『激痛耐性』『恐怖を与える』を獲得。『バーサーク』で理性を希薄にし罵倒を『受け流し』、張飛もかくやな槍働きで血盟団員をなぎ倒し曹豹を威嚇しますわ。
呂布の霊(メインディッシュ)が喚ばれたら一騎打ちを。傀儡が側背から彼か彼の愛馬を食品に変えられればベストですわね。
●今回は見送りで
『おにょれー!猟兵どもめー!』
水銀の玉座にて曹豹は怒り狂っていた。当然だろう。曹豹の威光をもって放たれた【魔人の罵声】は通用せず、曹豹血盟軍たちも次々に撃破され、これまでまったくと言っていいほどにいいところが見られないのである。だが元禁軍猟書家として、後漢末期の混乱で戦っていた(戦い抜いたとは言わない)者として、そう簡単に心折れるわけにはいかないのである。
『わしはまだ負けておらんぞ!負けたと思うまで大丈夫たる者は負けないのじゃ!』
まあ残念ながら既に青丸は11個超えており、曹豹に勝ちの目はまったく残ってはいないのだが……。
さて、グリルド・グラタニアは阿房宮の入り口には到達していたが、そこで悩んでいた。
「うーん、さすがに水銀は食べられませんわね」
グラタニアの方の人格はまじめな顔で言った。たしかに基本ユーベルコードを確認してはみたが、現時点では食えないものをなんとか食えるようにするユーベルコードはあっても、食えない物そのものを食べるユーベルコードはまだ存在していないようだ。
「まあ、あってもおいしくない物は食べたくはないですわね」
仮に水銀が食べられたとしても決しておいしくはないだろう。グラタニアはただの食いしん坊ではなく美食家なのだ。ではどうするかといえば、先刻言ったではないか。食えない物を食えるようにするユーベルコードなら存在する、と。
「では早速……わたくし達に総てを奪われ以下略ですわ!」
それは先刻も使用したユーベルコード【魂煮傀奪】であった。これで先程はかつて食べた狼人の火炎放射兵を呼び出したわけであるが。今回はという火炎放射兵は同様に呼ばれていたが、それだけではなかった。
『おかえりなさいませご主人様……ご主人様?』
メイド服に身を包んだ少女たち。やはりどうして自分たちがここにいるのかわかっていない様子である。冥土忍軍と呼ばれる彼女らもまた、かつてグリルドと戦って敗北し、料理に変えられてグラタニアにおいしく食べられた敵であった。ケルベロスディバイドの敵なので火炎放射兵と違ってオブリビオンではなくデウスエクスなのだが、どっちでも傀儡として使える事に代わりはないようであった。
「では早速お願いいたしますわ」
グラタニアは火炎放射兵に【転化食源】を付与すると、水銀蒸気の最前線に立たせた。そしておもむろに空間に猛烈な炎を発射させる……と。無機物を食材化するユーベルコードの効果を付与された火炎放射器の力で水銀蒸気が固体化し、地面に降り積もっていく。それだけではない。銀色の別の物に変わっていたのである。
「これで先に進めますわね」
水銀は砂糖の粒子に銀爆でコーティングされたもの……アラザンに変えられたのだ。ひとまずの安全は確保されたが、なにせ建物全体が水銀でできている以上、水銀蒸気は半永久的に出てくる事だろう。火炎放射兵たちに休む時間は与えられず、ほぼ常時炎を放ち続けないといけないだろう。
「ほらほら、手を止めているとあなたたちも水銀にやられてしまいますわよ」
『ヒャ、ヒャッハー!!』
傀儡に水銀が効くのかは……まあ効いてもおかしくない。そも火炎放射兵が手を止めたら彼ら以前にグラタニア自身が危なくなる。なんとしてもなるべく長い事動いてもらわなければならない。そんなわけでグラタニアは火炎放射兵たちに適度に檄を飛ばしつつ、宮殿の奥へと進んでいった。
「そういえば例のアレは手に入ったのですの?」
『申し訳ねえ、1個だけですが』
「それだけあれば十分ですわ」
狼人間に手渡されたチョコをパクつきつつ、グラタニアが進んだ先には……。
『そーひょひょひょ』
高笑いをしている曹豹の姿にグラタニアは驚きの声をあげた。
「げぇっ呂布……の義父!」
「知ってるのグラたん?」
どうやらグリルドは知らなかったようだ。ちなみに呂布の側室が曹豹の娘というのは演義限定の設定であり、さらに言うなら残念ながら呂布が徐州に流れてきた頃には既に亡くなっていたようだ。で、曹豹が張飛といさかいになった時に婿の名を出して張飛をさらに激怒させ……という流れは皆様もご存じの通りである。なお正室は正史では魏氏、演義では厳氏といい、また演義では妾として中国四大美人のひとりである貂蝉がいる。
「あのねえ、アナタの頭には料理知識しか入ってませんの?」
あきれたようにグリルドの無知を指摘するグラタニアだったが、グリルドにも言い分はあった。
「ハァ?グラたんだってUDCアースでちょい噛みした漫画知識しかないじゃん」
「だまらっしゃい」
漫画ってのはおそらく最も有名な全60巻あるやつだと思われるが、曹操を主人公にした方かもしれないし、個人的には呂布が死んだ所で第一部完作品が好きなのだが……まさか現代日本から来た少年少女が出てくる奴じゃあるまいな。そもあれは呂布も曹豹も出ないし……。
『ええい!わしを前にしてごちゃごちゃひとりごととはいい度胸じゃな!』
おっとその曹豹を忘れていた。無視されたかと思った曹豹はすっかりおかんむりであった。まあ目の前の猟兵が二重人格であり、その人格同士で会話しているなどという事なんか、水銀で頭がやられていなかろうと到底想像できる事ではないから独り言言ってると思われるのはまあ仕方あるまい。なお『一人三役』の件は、これまで食べた『食材』が三役目なのかと思いきや、なにやら第三の人格の存在が示唆されているフシも見受けられるが……まあ今後の展開を待とう。
「あ、ごめんさいわね、ちょっと取り込んでいたものですから」
『謝る必要などないわ!』
曹豹、意外に寛大なところを見せた……と思いきやさにあらず。ちゃんと根拠があった。
『お前たちがぼやぼやしていたおかげで、わし自身が時間を稼ぐ必要がなくなったわ!あれを見よ!』
と、指さした方向にいたのは、今回3度目にしてようやっと出番が与えられた曹豹血盟軍たちだった。曹豹への忠誠心のみならず、2回も出番がスカされていたストレスもあり、相当に戦意は上がっていた。
『ヤッチマイナー!!』
曹豹の号令で弓をつがえ、あるいは刀槍を手に襲いかかって来る血盟軍軍団たち。だがグラタニアにもちゃんと備えがあったのだった。
「お行きなさい!」
グラタニアにも兵隊がいた。つい先刻呼び出した冥土忍軍たちが苦無や皿を投擲して飛んでくる矢の雨を撃ち落としにかかった。そしてさらに援軍がいた。物言わぬストーンキョンシーズたちがいつの間にか戦列に加わっていたのだ。そう、第1章で火炎放射兵たちが戦っていたストーンキョンシーズである。結局チョコに変えられたのは1体だけだったようだが、グラタニアがそれを食べた事で配下に加える事ができたのだ。石の屍たちは自ら盾となって血盟軍の攻撃からグラタニアを守るべく立ちふさがるのであった。
「チョコ1個じゃ全然足りませんわ!わたくしは!お腹が!空きましてよ!」
呼び出した傀儡たちが稼いだ時間でグラタニアもまた戦闘準備を整えた。ユーベルコード【
飲馬転功】を発動すると、槍を手に自ら最前線へと躍り出たのである。その見事な槍さばき、敵に与える恐怖を伴った威圧感、その姿に曹豹の脳裏に浮かんだ、ひとりの武将。
『……ちょ、張飛……!おのれ酒飲みの猪武者め!これだから酒飲みはいかんのだ!あの張飛といい!酒飲むんじゃねえ!酒んじゃねえ!ざけんじゃねえ!!』
怨敵への怒りが頭に回っている水銀とあいまってわけのわからない【魔人の罵声】を曹豹は飛ばしてきたが、戦闘への高揚感でいささかトリップ状態になっていたグラタニアはこれを受け流した……あれ。受け流すのはいいのかな?まあいいか。気が付いたら血盟軍軍団員はおおよそ倒されていた。
『お、おにょれー!!』
「燕人グラタニアこれにありですわ!わたくしと勝負したい奴はおりますか?」
『ここにいるぞ』
「……来ましたわね、メインディッシュが」
『おお!婿殿!』
現れたのは赤兎馬に跨った呂布の霊。その人だった。
『出番がなくていささか退屈していた所。汝ならば我が飢えを満たす事はできるのだろうな』
「飢えですって?」
なにげない呂布の言葉にグラタニアは敏感に反応した。
「お生憎様、飢えに関してこのわたくしの右に出る者がいるとは思わない事ですわね。あなたをおいしくいただいて、わたくしの飢えを満たさせていただきますわ」
『面白い』
何やら噛み合っているようで噛み合ってないような、そんな会話が交わされたのち、グラタニアと呂布は互いに武器を構えた。
『いざ!参る!!』
……それはそれは、壮絶な一騎討ちであった。
グラタニアは傀儡を使い、呂布あるいは赤兎馬に【転化食源】を使用して食材に変える事を狙っていたようであったが、なかなかそんな隙も生まれなかった。だが……。
『……ふん、我とした事が、いささか油断したようだな』
呂布の右腕が失われていた。【転化食源】を食らったのだ。
『だがそれは父の精、母の血。そう簡単にくれてやるわけにはいかん』
残された左腕で方天画戟を振るうと、右腕を奪った傀儡を一刀のもとに斬り伏せ、かつては自らの一部だったものを手にすると、一飲みに飲み込んだ。
『さて、まだ片腕だけの事。闘いはむしろこれからと言いたいのは山々ではあるが……』
呂布の視線は舅である曹豹の方を向いていた。
『そ、そ、そひょー
!!!!』
頼みの綱の呂布が腕を奪われた事で完全に精神的にやられ、今まで蓄積されていた水銀やら戦闘やらのダメージが一気に襲い掛かって来たのか、断末魔の叫びを上げていた。
『どうやら、これまでのようだな』
そして曹豹が倒れれば呂布もまた存在理由を失い、ともに骸の海に還るは必然であった。
(猟兵は強かった!そう総評してやろう!曹豹なだけに!)
(この腕欲しくばまた取りに来るが良い、いつの日かわからんがな)
言葉を残し、曹豹と呂布の姿は掻き消えていった。かくして曹豹の野望は消え失せ、同時に阿房宮も徐々にその姿を失っていく。
「せっかくのメインディッシュを食べ損ねてしまいましたわね」
消えつつある空中要塞から急いで脱出しつつ、心底残念そうにグラタニアはつぶやいた。
「……いつの日かって、次は、あるのでしょうか?」
曹豹はまた現れるのか?それは神のみぞ知る。
大成功
🔵🔵🔵