闇の救済者戦争㉒~爪痕を刻み込め
●過去を呼ぶ光
――心するがいい。私の言葉は全てが【Q】なのだから。
猟兵達が見たであろう予兆の中で、そう宣いしはライトブリンガー。全ての吸血鬼を統べる『始祖ヴァンパイア』にして、ダークセイヴァーの真なる支配者『
五卿六眼』の統率者。
故に其の言は、誇張に非ず。
言葉の全てが【Q】となる。
その意味は、過去の再現。
――銀河皇帝。
――ドン・フリーダム。
――織田信長。
――クライング・ジェネシス。
――大魔王。
――帝竜ヴァルギリオス。
――オウガ・オリジン。
――カルロス・グリード。
――大祓骸魂。
――フルスロットル・ヴォーテックス。
――張角。
――魔王ガチデビル。
――虚神アルカディア。
――聖杯剣揺籠の君。
それら過去に猟兵達が戦ったオブリビオン・フォーミュラの能力を、儀式魔術を通して再現すると言うもの。
「うん、別に問題はないだろう?」
けれどもルシル・フューラー(新宿魚苑の鮫魔王・f03676)は、集まった猟兵達に事も無げにそう告げた。
「たった1人でそれほどに儀式魔術を使いこなすのは、まあ確かに大したものだと思うけどね」
猟兵も儀式魔術を行使する事は出来るが、そうポンポンと使えるものでも、必ず成功するものではない。
されどかの者の儀式魔術に失敗はなく、その発動を止める術はない。
――だとしても。
だとしてもだ。
それは勝てない事にはならないとルシルは告げる。
――何故なら其れらは全て、倒し、乗り越えて来た過去なのだから。
「一度は倒した過去に負ける君らじゃないだろう?」
何の憂いもなく、ルシルはそう確信している。
「それに、如何に儀式魔術と言えども、同時に幾つもの過去を再現できるわけではないからね」
再現されるものは猟兵1人に対して、1つの過去。
ライトブリンガー自身の力である光や炎を操るユーベルコードこそ併用して来るが、儀式魔術は1つのみ。
同時に複数のオブリビオン・フォーミュラーの能力と対峙するわけではなく、能力によってはライトブリンガーにも扱い切れないものもある。
そして、こちらはそれを識っている。
どんな過去を再現して来ようと、対処する術はあろうというものだ。
「今回はどう頑張ってもライトブリンガーを滅ぼす事は出来ない。だけど、傷を残す事は出来る」
戦の終わりと共に撤退するが、猟兵から受けた傷は完全には癒せないらしい。
「刻み込んでやればいい。爪痕を」
それがいつかに繋がる傷になるかすら、今はまだ判らないけれど。
今の自分達の力を刻んで来いと。
ルシルは笑みを浮かべて、猟兵達を戦場へ送り出す。
泰月
泰月(たいげつ)です。
遅ればせながら、ようやく闇の救済者戦争のシナリオを出せました。
㉒五卿六眼『ライトブリンガー』となります。
プレイングボーナスは下記となります。
「ライトブリンガーの儀式魔術【Q】」をひとつ選び、それに対抗する。
ライトブリンガーの儀式魔術【Q】の詳細については、闇の救済者戦争のページをご確認下さい。
儀式魔術の指定が無い場合は、同ページに記載の通り、こちらで戦闘手段を決定します。
或いは人数が充分な場合は、指定が無い方はお返しになる事もあります。
字数省略はOKです。
【Q】「ワープドライブの賦与」→ Q:ワープ にするなど。
プレイングはOP公開から5/22(月)23:59まで受付予定です。
なお闇の救済者戦争のページに記載のある通り、今回の戦争ではライトブリンガーは滅ぼせません。
但し撃破回数は記録される模様です。
かつ、闇の救済者戦争の終了条件にも関係しない為、戦争期間ギリギリまでかけても良いかな、と言う事で。
今回はオバロもOKです。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 ボス戦
『五卿六眼『ライトブリンガー』』
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POW : 【Q】天翔ける五つの黄金剣
【天翔ける五つの黄金剣】から、レベル×5mの直線上に【光】を放出する。【精神力】を消費し続ければ、放出を持続可能。
SPD : 【Q】匣の中の太陽
【手にした匣】から、戦場全体に「敵味方を識別する【太陽の炎】」を放ち、ダメージと【超業炎】の状態異常を与える。
WIZ : 【Q】欠落の月より至る光
戦場にレベル×5本の【光の柱】が降り注ぎ、敵味方の区別無く、より【弱い】対象を優先して攻撃する。
👑11
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山吹・慧
またトンデモ能力を持った相手ですね…。
とは言え情報はありますからつけ入る隙もあるはず。
それにヴァンパイアの始祖となれば退くわけにはいきません。
Q:無限災群
向かってくる敵の群れに炸裂弾をばら撒きます。
爆発と激しい光による【目潰し】で混乱を誘いましょう。
その隙にブラッククロークの【迷彩】による姿隠しで
敵陣をすり抜けていきます。
尚も寄ってくる敵は【グラップル】で捕まえて
敵が密集している箇所にブン投げて【吹き飛ばし】てやります。
ライトブリンガーが視界に入ったならば
【聖天覚醒】により真の姿となって飛翔し接近。
敵のUCは【集中力】による【空中機動】で回避。
【功夫】による打撃の【乱れ撃ち】で一気に攻めます。
●逆境を飛び越えて
【Q】「来たか――六番目の猟兵達よ」。
遠くを眺めていたライトブリンガーは、何かを感じ取り目を細める。
【Q】「無限災群の賦与」。
そしてそう告げれば、その目の前に広がる地は、たちまちの内に無数のオブリビオンが地中から溢れ出した。
「またトンデモ能力を持った相手ですね……」
まさに雲霞の如き敵軍に、山吹・慧(人間の玄武拳士・f35371)の口から溜息が零れる。
「しかも、なんで変なのばかりなんでしょうね?」
溢れ続けるオブリビオン。その中でも包丁と提灯を持った魚人の様なオブリビオンが妙に多い様に見えた。
――少なくとも慧が今いる場所から見える限りでは。
偶然か、何か意図があるのか。
「まあ、どうあれやる事は変わりません」
タイプの偏りがあろうがなかろうが、無数の敵が湧いて来ると判っていたのだ。その対策と準備はして来ている。
それは、慧の両手の指の間に現れた。
袖の中から指で挟む形で取り出したのは、小さな円筒形の何か。
それを慧は、敵の群れに向かって放り投げる。
放物線を描いて飛んだそれが、敵群の中に落ちた――直後。
――カッ――ドンッ!
直視すれば視界が灼けたであろう激しい光が瞬き、ほぼ同時に爆発が巻き起こる。
投げれば光と爆発を起こす手投げ式炸裂弾。
スタングレネードの様なものだ。
それを次々と敵群に向かって投げる慧の姿が、スゥッと薄れていった。
ブラック・クロークに施した、姿隠しの魔術の発動。
(「さて――そろそろ行きますか」)
胸中で呟いて、慧は地を蹴って飛び出した。
そのまま敵軍の中に飛び込み、音を立てない様にスルリと隙間を縫って進んでいく。
「な、なんだ!?」
「敵、なのか!?」
光と爆発に目と感覚をやられて混乱の坩堝にある敵群に、姿隠しの魔術で周囲に溶け込んだ慧の姿を捉えられる者はいないだろう。
――しばらくは。
(「さて、このままライトブリンガーを目視できる所まで、抜けられれば好いのですが」)
魔術で隠せているのはあくまで姿だけ。
匂いや気配、物音で気取られない様にしなければならないし、進めば炸裂弾の効果が及んでいない敵もいるだろう。
進みながら更に炸裂弾をばら撒くか、力ずくでブン投げて突破するか。
そう思案する慧だったが、ひとつ、失念していた事もあった。
ライトブリンガーが黙って見ている保証がないと言う事を。
【Q】「欠落の月より至る光」。
ライトブリンガーが告げれば、戦場に光が降り注ぐ。
「っ!!?」
空からの光は、敵味方の区別なく慧もオブリビオンもその下にいる者を悉く撃ち抜いていく。弱いものを狙う筈の光だが、こう数が多くては、慧より周りを優先していても巻き添えを避けるのは難しい。
「っ……そう来ましたか」
炸裂弾の爆発と光が止まった事で、動き出したことを気取られたか。或いは、それほど時間をかけたつもりもなかったが、時間をかけすぎたのか。いずれにせよ、想定外の状況だと、慧は臍を噛む。
――だとしても。
「ヴァンパイアの始祖を相手取るこの機会、この程度で退くわけにはいきません」
容赦なく降り注いだ光は、周囲の敵を更に混乱させていた。
今ならば、きっと飛び越えられる。
「全て乗り越えましょう……」
聖天覚醒。
慧の背中から迸った2つの光は、光を帯びた翼となって顕現する。
強引に真の姿を呼び起こした慧は、背に逆境を超える光の翼を広げ、地を蹴って飛び上がった。敵群の先に見えるは、羊の様な角を持ち左だけの金眼を持つもの――ライトブリンガー。
「届いた!」
【Q】「まだだ、猟兵よ」。
敵の群れも降り続ける光の柱も、全ての逆境を飛び越えて来た慧の拳はしかし、黄金の剣に阻まれる。
「ならば!」
一撃で一つの剣を。
打撃の乱れ撃ちで全ての剣を打ち払い、慧は最後の一撃でライトブリンガーの頬を打ち抜いた。
大成功
🔵🔵🔵
ガーネット・グレイローズ
五卿六眼、ライトブリンガー…
あの女が私達ダンピールの大元になった、始祖吸血鬼だというのか?
【Q】は天災天賦。
あれこれ考えるのは後回しだ、まずは奴の【Q】を破らなければ!
まずは《瞬間思考力》《戦闘知識》で、光の雨の回避に専念しよう。
奴がコンコンコンから拷問具と罠を放出したタイミングを見計らい、
こちらも終末異界兵器:審判を発動。天使型魔導兵器が
ラッパを吹き鳴らした瞬間に辺りが終末の光で覆われ、
ライトブリンガーを含むすべてのターゲットに
ダメージを与える。奴が生み出したすべての無機物には10倍ダメージだ。
ある程度罠が破壊されたら、ライトブリンガー本体を
クロスグレイブの《レーザー射撃》で攻撃だ!
仇死原・アンナ
Q:天災天賦
アドリブ歓迎
…時は来たれり!
…始祖たる者よ…さぁ行くぞ…私は処刑人だ…!
鉄塊剣や妖刀をなぎ払い狩猟罠と拷問具を破壊しながら敵へと近づこう
【凄惨解体人間】となり己の肉体を解体、血液と血肉となり溢れ出す罠と罠の隙間を潜り抜けよう
黄金剣から放たれる光には血肉と化しドロドロに溶けた肉体を利用し光を避けてやろう
…腹立たしいが貴様を完全に倒すことは出来ない…今は…
だが…私は処刑人…死と救済を齎すものだッ!!!
処刑人の覚悟を胸に灯し
地獄の炎纏わせた武器を振るい鉄塊剣での怪力と重量攻撃で叩きつけて
妖刀振るい敵の目に突き刺し傷口をえぐり切り捨ててやろう…!
…今ここで葬らん!忌まわしき吸血鬼よッ!!!
●こんなコンコンコンは要らない
【Q】「無限災群、解除」。
1人の猟兵の撤退を見て、ライトブリンガーが儀式魔術を解除する。
「あの女が私達ダンピールの大元になった、始祖吸血鬼だというのか?」
それにより見えたライトブリンガーの姿に、ガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)が呟いた。その声の調子は、何処か半信半疑と言った様子だ。
確かに始祖吸血鬼と言っても、余り『らしさ』はないかもしれない。
羊の角に、身体と翼に刻まれた謎の紋様は――何だ?
そもそも、あれを『あの女』と呼ぶのは正しいのか。
体型は女性のそれではあるが、言葉全てが【Q】であると言う存在を、そんな常識に当て嵌められるものなのか。
【Q】「次は2人同時か。問題ない」。
ガーネットがそんな事を考えていると、ライトブリンガーがそんな事を口走った。
視線はガーネットの後ろに向けられている。
「時は来たれり! 私は、お前の処刑人だ!」
その視線を真っ向から見返し、仇死原・アンナ(地獄の炎の花嫁御 或いは 処刑人の娘・f09978)が、普段のぼんやりとした様子からはかけ離れた程の熱を込めて声を張り上げた。
今この場でライトブリンガーを滅ぼす事は叶わない。
そうと判っていても――或いは、いるからこそか。倒せないと言う腹立たしさすら熱となっているのか。
「始祖たる者よ……さぁ行くぞ!」
【Q】「天災天賦の賦与」。
両手に武器を持ち進み出るアンナの殺意をライトブリンガーは意に介した風もなく、次なる儀式魔術を行使する。
直後、ライトブリンガーの背後の地面が柱の様に隆起した。
「あれこれ考えるのは後回しだな!」
柱の表面に幾つもの血の色の花が咲き誇るのを見て、ガーネットは堂々巡りになりかけていた思考を振り払うように頭を振る。
「『武器庫』よ、異界兵器の一つ<審判>を解禁する権利を求める……開門せよ」
ライトブリンガーが背後の柱をコンコンコン、と叩くのを見ながら、ガーネットは何かに命じるようにそう告げた。
まずは敵の【Q】を破らなければならない。
そして天災天賦ならば、あの花の柱が即席構築された簡易型システム・フラワーズなのだろう。
ならばそこから出て来るものは――。
ギロチンに、鉄の処女、ファラリスの雄牛に、苦悩の梨。
他にも何に使うのか、名前もわからぬ拷問具の数々がガーネットとアンナ目掛けて柱から飛び出して来る。
だが、ほぼ同時に空から何か大きなものもゆっくりと降りてきていた。
それは、翼を広げた天使の像。
ガーネットが呼び寄せた、天使型の魔導兵器。
終末異界兵器「ⅩⅩ:審判」。
――光あれ。
天使型魔導兵器がラッパを響かせれば、その周囲に光が放たれる。
それは終末の光。殊更、無機物に対しては破壊的な効果を発揮する。どんな力で生み出されたにせよ、拷問具は無機物だ。
終末の光に呑み込まれた拷問具は、ガーネットに届く事無く、粉々になって光の中に消えていく。
【Q】「欠落の月より至る光」。
それを見たライトブリンガーは、空より光を降り注がせる。
月の光と終末の光が、空中のアチコチでぶつかり合う。
戦場が眩い光に照らされる。
ガァンッ!
そんな戦場に響く鈍い打撃音。
アンナが振るう鉄の処女を模した巨大剣『錆色の乙女』が、システム・フラワーズから放たれた鉄の処女を叩き落した。
「おぉぉっ!」
声を張り上げ、巨大剣と妖刀をアンナが振るう。
アンナもまた放たれる拷問具の破壊を狙ってはいたが、その手段は己の武器と言う、言ってしまえば単純な力業。
【Q】「そんなものか」。
そんなアンナに、ライトブリンガーは更にコンコンコンと生み出した拷問具を放っていく。
力で来るなら、量で攻めると言わんばかりに。
「くっ!」
そして程なく、振るう刃が間に合わず、アンナの腕に鎖が絡みつく。鎖に引かれ、開いた鉄の処女の中に吸い込まれる。
そして――ガシャンとあまりにも軽い音を立てて、鉄の処女が閉じた。
その内側から、ドロリと赤黒い血が流れ出す。
ドロリ、ドロリ、ドロリ――。
「くっ……」
【Q】「救出などさせぬ」。
そちらに視線を向けたガーネットの意を読んだように、ライトブリンガーは天使型魔導兵器を向けさせまいと光を降らせる。
「あ、大丈夫。自力で抜け出せるから」
しかし、そこにアンナの声が響いた――どこから?
くぐもった調子でもなく、鉄の処女の外から響いた様な声だったが。
その間にも、ドロリ、ドロリと赤黒い血は止まる事無く流れ続けている――いや、あまりにも多くはないか。
「こう見えても痛くはないんだよ」
その流れ続ける血から、アンナの声が響いた。
――凄惨解体人間。
全身を、赤黒色の血液と細かい肉片と髪の毛の束に変異させるアンナの業。
その姿はさながら、動く血の池地獄。
「だからお構いなく。その光で拷問具ごと吹っ飛ばされる方が、合体に時間がかかるかもしれないし」
「お、おう」
【Q】「猟兵とは」。
ガーネットもライトブリンガーも驚くくらいには、今のアンナは中々の人間離れっぷりである。
だがそんな見た目の異様さとは裏腹に、無数の拷問具を生み出すライトブリンガーの【Q】に対する策として、アンナのその変異はほぼ最適に近いと言って良いだろう。
大半が血液になっていると言う事はつまり、今のアンナは液体生物の様なもの。
どんな拷問具を持ってこようが、水を捕らえる事など敵わず。
【Q】「どちらが化け物かわからぬな」。
少しだけ、呆れた様に告げるライトブリンガーもその事に気づいたのだろう。
もう拷問具を飛ばした所で無駄だと。
【Q】「天翔ける五つの黄金剣」。
故にコンコンコンはせず、背後に浮かぶ五つの黄金剣をアンナに向ける。
「最初に言ったぞ! 私は処刑人……死と救済を齎すものだッ!!!」
その切っ先から放たれた五条の光を、アンナはドロドロになった身体を変形させて直撃を避けた。
人の姿を保ったままでは、絶対に出来ない避け方。
後で、すぐに淡々とした調子に戻って告げる。
するとライトブリンガーの背後に浮かんでいた五つの黄金剣から、五条の光がアンナに向かって放たれた。
ライトブリンガーもその事に気づいたのだろう。
もうコンコンコンして拷問具を飛ばした所で、無駄だと。けれども安心はできない。アンナの背後ではジュッと言う音がして、焦げ臭い匂いも漂っている。光が通り過ぎた地面は、溶けた様に抉れていた。
拷問具が効かないこの身体でも、光を避け損ねれば無傷では済むまい。
【Q】「光を剣と成さん」。
ライトブリンガーもそう思ったか、黄金剣から光を放出し続けながら縦横無尽に動かしていく。
さながら、光の剣の乱舞。
だが、そこに横から飛来した光が、ライトブリンガーの光の一つを弾き飛ばした。
「2つの攻撃を同時に行うのは、こちらも出来るのだよ」
ガーネットがクロスグレイブから放った、レーザー光線だ。
「……今ここで葬らん! 忌まわしき吸血鬼よッ!!!」
ライトブリンガーの体勢が僅かでも崩れた今が好機と、アンナは一気に飛び出した。距離を詰めた所で変異を解除し、胸に灯した処刑人の覚悟を地獄の炎と変えて、纏わせた妖刀を深く突き刺し、抉るように斬り裂く。
「その【Q】、破らせて貰う!」
体勢を崩したライトブリンガーに照準を合わせ、ガーネットが引き金を弾く。
クロスグレイブの砲塔から放たれた光が、ライトブリンガーとその後ろの柱も撃ち抜いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
結城・有栖
Q:現実改変UC
…この感じ、アリスナイトの力に似てますね。
「どうやら、オウガ・オリジンの力みたいダヨ。
フォーミュラの力を使いこなすって厄介ダネ」
大丈夫ですよ、オオカミさん。
怪物が相手なら、勇者か狩人の出番です。
まずは「怪物狩りの狩人」の姿を想像して変身です。
飛んでくる攻撃を【野生の勘で見切り】、ウィンドボードに乗って飛翔しつつ【軽業】を駆使して回避。
攻撃を避けつつ、【カウンター】で雷の【属性攻撃】を付与した咎断ちの大鉈を分解して伸ばし、【念動力】で操って攻撃です。
雷で感電して精神力が途切れれば攻撃も止まるでしょう。
その隙を狙って破壊の大鷲さんを呼び、敵に向けて飛ばして【追撃】してあげます。
●さいきょうの在り方
【Q】「天災天賦でも猟兵は止まらぬか。想定内」。
即席構築したシステム・フラワーズを崩されても、ライトブリンガーは動じていない様だった。
【Q】「現実改変ユーベルコードの賦与」。
淡々と告げて、次なる猟兵に対する儀式魔術を行使する。
その力が何処までも拡がっていく。世界がライトブリンガーの力に塗り替えられていく。
「ん……この感じ、アリスナイトの力に似てますね」
塗り替えられた世界の感覚は、結城・有栖(狼の旅人・f34711)には馴染みのあるものではあった。
想像力がものを言う世界の空気。
『どうやら、オウガ・オリジンの力みたいダヨ。フォーミュラの力を使いこなすって厄介ダネ』
けれどもこれは遥かに強力な力だと。
身体の内からオオカミさんがそう告げて来るのは、既にライトブリンガーが山の様に巨大な怪物になっているからか。
クドラク、ナハツェーラー、エンプーサ。
オオカミと豚と牡牛と――様々な伝承に於いて吸血鬼が取ると言う獣の姿を全てごった煮にしたような姿。
怪物と言うより他に、何とも形容しがたい異様な姿。
「大丈夫ですよ、オオカミさん」
それを真っすぐ見据えて、有栖は落ち着いた様子で返す。
「怪物が相手なら、勇者か狩人の出番です」
有栖の想像する『さいきょう』たる自分の姿は、怪物狩りの狩人。
「行きます」
ウィンドボードに飛び乗って、狩人となった有栖は飛んだ。
怪物の身体から伸びて来た腕とも爪ともつかぬものを、空中で回転して避ける。
「お返しです」
咎断ちの大鉈に雷の力を宿し、その刃を最小単位に分解。それを念動力の鎖でつないで、怪物の巨体に絡みつかせる。
「雷で感電して精神力が途切れれば、攻撃も止まるでしょう」
【Q】「効かぬよ」。
そんな有栖の考えはしかし、カンッと言う固い音を立てて弾かれた大鉈の刃と共に霧散した。
雷属性が効いた風もなく、怪物の姿のライトブリンガーは動き続けている。
『さいきょうのそんざい』に変身し『さいきょうのちから』を振るう。
それが、この【Q】の中の戦いの突破口。
雷の属性を付与した大鉈による攻撃で感電させる。それは『さいきょうのそんざい』ではない、普段の有栖でも出来る事だ。それが果たして、ライトブリンガーの『さいきょう』を上回る『有栖のさいきょう』たり得ていたのか。
その答えは目の前に。
(「もっと、強い想像力のイメージが必要、という事ですか」)
止まるでしょう、では足りなかった。
もっと強いイメージを。
そうでなければ、イマジンモンスターとなったライトブリンガーの『さいきょう』を超えるには、きっと届かない。
【Q】「天翔ける五つの黄金剣」。
されど、ここは戦場。
有栖が『さいきょうのちから』のイメージを固めるのを、ライトブリンガーが待ってくれる筈もなく。怪物の姿のまま黄金の剣を有栖に向けて来る。その切っ先に、光が生まれる。
「まだです」
そう――まだだ。
まだ有栖の目は諦めていない。
この土壇場で、新しいイメージを作り上げるのは難しい。だから有栖が選ぶのは、使い慣れた想像具現の力。
「来て、破壊の大鷲さん。敵を破壊して」
破壊する。
それは狩人が、獲物を残す狩りを諦めたからこそ選べる切り札。
本当はもっと有利な状況で使うつもりでいたけれど、そんな事は言っていられない。
有栖はライトブリンガーの黄金剣から放たれる光を何とか避けながら、炎の大鷲を具現化させる。破壊の力を持つ炎を、いつもよりも強く、大きく、熱く、燃え上がらせる。
そして羽撃いた炎が、ぶつかった光を弾き飛ばした。
――想像具現・破壊の大鷲。
ライトブリンガーの光にも負けずに燃え上がる破壊の炎の勢いは、長くは持たない。
3分で燃え尽きる前に、炎の翼がライトブリンガーに届くか。光が有栖に届くか。炎と光が空を飛び交いぶつかり合う。
1つ、2つと炎が光を喰らい蹴散らし、されどその度に炎の翼は小さくなっていく。
ついには炎の翼を撃ち抜いた光が、有栖も撃ち抜き――。
【Q】「強き炎だ。匣を使うべきであったな」。
炎の大鷲の嘴に穿たれたライトブリンガーが、悔やむように呟いていた。
大成功
🔵🔵🔵
ロリータ・コンプレックス
ルシル様良いこと言うね。一度倒した過去には負けない。その通りだわ。
たとえ滅ぼすことが出来なくとも、癒えない傷痕を残してやる。
こっちだってあなた達ヴァンパイアにどれほどの傷を付けられたか。
この右翼を失ったとき私はあなた達に抗う術を持たなかった。
でも今は……きっと戦える!
【Q】現実改変?
あなたは何を最強と信じるの?始祖ヴァンパイア。
……【神】様、あなたの力を奮う無礼をお許しください。
私は全智にして全能。
あなたの行動も先の運命も全てを知り、自由に書き換える事も出来る。
今すぐにあなたを滅ぼすことだって容易よ。私に不可能はないの。
今までの人生は神と共にあったわ。簡単に揺らぐ信念じゃない。覚悟しなさい。
●アウェイクニング・ゴッデス
「あなたは何を最強と信じるの? 始祖ヴァンパイア」
入れ替わりに現れたロリータ・コンプレックス(死天使は冥府で詠う・f03383)の問いかけに、様々な獣が入り混じった怪物の姿を取っていたライトブリンガーは、予兆の姿に戻ってみせた。
【Q】「信じる。その必要はない。私の言葉は全てが――」
「【Q】だって言うんでしょう?」
その言葉を遮って、ロリータはライトブリンガーを見上げる。
その瞳に宿るのは、アイドルをしている時には決して見せないであろう――怒り。
「この右翼を失ったとき私はあなた達に抗う術を持たなかった」
左だけの片翼を広げ、ロリータは告げる。
「でも今は……きっと戦える!」
【Q】「ならば来い、小さき猟兵。私の言葉を遮りに来たわけではないだろう――現実改変ユーベルコードの賦与、継続」。
「言われなくても!」
ロリータの激情も表情一つ変えずに受け止めて、ライトブリンガーは淡々と告げる。
想像する『さいきょうのそんざい』のイメージは、既にロリータの中で固まっている。
(「一度倒した過去には負けない。その通りだわ」)
送り出したエルフの発破をかけて来た言葉を胸中で反芻しながら、ロリータは目を閉じた。
「神よ。私にあなたの使命を遂行するにふさわしき力を今一度与え給え。仇敵を滅ぼすに足る力を私に」
唱えるは神に力を請う言葉。
かつて喪われた右翼が、ロリータの背中に再び現れる。
覚醒――アウェイクニング・エンジェル。
死天使サリエル。その名の持つ意味は神の命令。死を司ると言う天使の姿――だと信じているこの姿がユーベルコードにて呼び起こしたロリータの真の姿であるが、『さいきょうのそんざい』となるのなら、更にもう一段上へ、近づくべきだろう。
――神に。
「……【神】様、この一時、あなたの力を振るう無礼をお許しください」
右翼と共にロリータの頭上に現れていた弓張月の様な円環が煌々と輝き出す。輝きはロリータの全身から、両翼にまで広がっていく。
【Q】「神を騙るか」。
その様子を見ていたライトブリンガーの姿が、再び変わりゆく。
黒い髪が全身に絡みつきながら巨大化し、背中にあった翅は消え、不思議な紋様のあった翼は漆黒の悪魔の様な翼に。
ライトブリンガーと言うその名は、その言葉の意味から、堕天使の長にして魔王の別名とも言われる。ライトブリンガーがその話を知っているのかは判らないが、ロリータの変身を見たライトブリンガーの変身は、まさに魔王の様なそれであった。
小さな女神と、巨大な魔王の対峙。
「どんな姿になっても無駄よ。今の私は全智にして全能」
【Q】「大きく出たものだな、猟兵よ」。
両翼を広げ浮かび上がるロリータを睥睨し、ライトブリンガーが告げる。
敢えて猟兵と呼ぶ事で、神ではないと意識させるつもりなのか。
だとしたら、無駄な事だ。
「あなたの行動も先の運命も全てを知り、自由に書き換える事も出来る。今すぐにあなたを滅ぼすことだって容易よ」
今は倒せない知りながら、ロリータはライトブリンガーに告げる。
【Q】「それは不可能。私はまだ滅びる時ではない」
「出来るわ。私に不可能はないの」
滅びぬとライトブリンガーが返す言葉を、ロリータは笑って否定した。
【Q】「欠落の月より至る光」。
問答無用と、ライトブリンガーが空から光を降り注がせる。
しかしその光は全て、ロリータに当たる前にその頭上でぐにゃりと曲がって逸れていった。
サリエルとは、月の支配者でもある。その姿から想像力によって神の位階に踏み込んだロリータは、光が届くのを許さない。
「今までの人生は神と共にあったわ。簡単に揺らぐ信念じゃない」
神の実在。それは永遠に答えが出ない問いかもしれないが、ロリータは信じて来た。今も信じている。この身に神の力が宿っていると。その力を振るう事を、神が赦してくれていると。
「あなた達ヴァンパイアにどれほどの傷を付けられたか。そのお返しよ。覚悟しなさい」
この世界で流れた血は全て、天蓋血脈樹を通してライトブリンガーに捧げられていると言う。
そんなシステムになっていなければ、或いは――。
翼の意匠を持つ刃を、ロリータが振り下ろす。
「たとえ滅ぼすことが出来なくとも、癒えない傷痕を残してやるわ!」
その一閃は、ライトブリンガーのさいきょうの姿を斬り裂き、変身の中にいたライトブリンガーの身体にも届いていた。
大成功
🔵🔵🔵
夢幻・天魔
【Q】「現実改変ユーベルコードの賦与」
(※超絶厨二病、厨二ならば何でもOK)
フッ、『さいきょう』か……
それは俺にこそふさわしき呼称だ!
この場であれば、全ての封印を解放し、全力を見せることができるというものだ
そう、俺こそが数多の世界を救い……あるいは滅ぼした最強の戦士だ!
(さいきょうのそんざいとして、妄想上の絶対無敵究極最強の自分に変身する)
フハハハハハ!!!
我が一撃は宇宙開闢の爆発に匹敵し、空間破砕すらもこの俺には通じない
神をも超えるこの力で滅びること、光栄に思って逝くがいい!
(設定を盛りまくって『無双設定撃』でさらに強化)
ファイナル・クロス・ジ・エンド!
(魔剣と神剣による十字切りを放つ)
●さいきょうと言う病
言葉が全て【Q】になる。
【Q】「神を想像するか。見事なものだな。だが、あれ以上の想像を出来る者などいないだろう」
それが本当に一切の例外もないのならば、ライトブリンガーのこの言葉は迂闊だったと言わざるを得ないだろう。
「フッ、何を言っている! 『さいきょう』……それは俺にこそ相応しき呼称だ!」
その言葉に呼ばれたかのように、自信満々に夢幻・天魔(千の設定を持つ男・f00720)が出て来たのだから。
フラグになるような事を、言うもんじゃない。
「この場であれば、全ての封印を解放し、全力を見せることができるというものだ」
【Q】「封印……?」
天魔の言葉を訝しむように、ライトブリンガーが視線を向けて来る。
無遠慮に、全身をじぃぃぃっと上から下までねめつけるように、天魔を観察するライトブリンガー。
【Q】「封、印?」
しかし何も感じなかったと、その目が丸くなった。
そりゃあそうであろう。天魔の何処にも封印なんぞない。ただ彼自身がそう言っているだけである。
所謂――
そう言う設定である。
それも、大分拗らせてる感じのやつである。
「フッ……どうやら貴様の目には、俺を縛る72の封印が見えないようだな、ライトブリンガー! ならば教えてやろう!」
ここぞとばかりに、天魔は設定を披露していく。
「俺こそが数多の世界を救い……あるいは滅ぼした最強の戦士だ!」
この男、ノリノリである。
【Q】「どこの世界の事を言っているのだ。知らぬ。わからぬ」。
対してライトブリンガー、困惑である。
「わからないなら、その身体に教えてやる。あまりにも強力過ぎて普段は封印している、この力でな!」
更にノッテきた天魔は、バッと右腕を顔の前に掲げた。
そして肘から先に巻いてある包帯を、ライトブリンガーに見せつけるように解いていく。
「ククク……後悔しても、もう遅いぞ」
器用に指先まで巻いてあった包帯が、天魔の足元に落ちた。
「この封印の帯は役目を終えたのだ。巻き直した所で、新たな封印を施さない限り、俺の右腕はもう抑えられない」
確かに抑えられないだろう。
ツッコミを入れられる者が、誰もいないのだから。
「更に72の封印と言ったが、それは真実ではない! 今まで誰にも言わずにいたが、俺の封印には表と裏がある。そう。実は合わせて144の封印だったのだ! そして今ここで、解放した右腕以外の、残る134の封印も全て解除する!」
まだ増えるのかよ、とか、右腕の封印が意外と少ないな、とか、誰も言ってくれないのだ。
ライトブリンガーは沈黙し続けている。
「これが……絶対無敵究極の力だ!」
そうして設定を盛り盛りにした末に、ついに天魔は変身した。
何かこう頭髪がぶわっと逆立って、身体の周りで謎の発光エネルギーみたいなものが幾つもバチバチしてる系の変身である。
天魔の想像した『さいきょうのそんざい』とは『最強の自分』に他ならない。
「フハハハハハ!!! 力が溢れて来るぞ! 今の我が一撃は
宇宙開闢の爆発に匹敵する!」
そして『さいきょうのちから』とは、何かこう、そう言う感じのすごい力である。
ふわっとしてそうではあるが、天魔の中でのイメージはがっちり固まっている。
【Q】「なんだこれは。何の変身なのだ」。
ライトブリンガー、置いてけぼりだ。
「どうした! 早く変身しろ! その程度の力で俺に勝てると思っているのか! この変身は30分しか出来ないんだぞ!」
【Q】「現実改変ユーベルコードの賦与……再継続」。
まだ設定増やしてる天魔に急き立てられて、ライトブリンガーは新たなイマジンモンスターへと変身する。
ライトブリンガーに血を送っていたと言う、天蓋血脈樹。
それが周囲の月も取り込んで、赤く輝く巨人になった様な姿へと。
「いいぞ、いいぞ! 中々強そうじゃあないか! そうでなくては!」
それを見た天魔は右手に万物を斬り裂く魔剣を、左手に天地開闢の神剣を構え、ライトブリンガーへと駆けていく。
【Q】「欠落の月より至る光」
そんな天魔へと、ライトブリンガーが空から光を降り注がせる。
「無駄だ! 空間破砕すらもこの俺には通じない!」
けれど天魔は、そんなのまるで効いてない様に平然と光の中を突き進んできた。
「神をも超えるこの力で滅びること、光栄に思って逝くがいい! ファイナル・クロス・ジ・エンド!」
タンッと地を蹴って跳んだ天魔が、ライトブリンガーの前で魔剣と神剣を同時に振るう。
無双設定撃。
その実態は、ただの二刀での十字切り。
しかし今この瞬間に於いては神すら殺す一撃となって、ライトブリンガーの変身体を一撃のもとに斬り裂いた。
大成功
🔵🔵🔵
七那原・望
【Q】「再孵化の賦与」
しゃくですね。本当なら苦しめて殺したいところですけど、それはまだ叶わないのですか。
仕方ないです。せめてなるべく痛めつけるとしましょう。
果実変性・ウィッシーズオブザーバーを発動したら強化属性の全力魔法で自身の身体能力と速度を限界突破させます。
強化された動体視力に加え第六感と心眼と気配感知も併用してライトブリンガーと再孵化されたオブリビオンの行動、黄金剣から放たれた光の軌道を見切り、回避しつつ敵が回避困難なタイミングでセプテットによる銃撃で両者にダメージを与えます。
そちらは殺せるみたいですね。
魔法で再現出来る可能性の死を見たら全力魔法で再現し再孵化オブリビオンは仕留めます。
●再孵化の基準
「しゃくですね、これだけ戦っていても倒せないなんて」
先行した猟兵達とライトブリンガーの戦いの一部始終を見ていた七那原・望(比翼の果実・f04836)が、不満げに呟く。
この分だと、今は滅ぼせないと言うのは覆しようがないのだろう。
「本当なら苦しめて殺したいところですけど、それはまだ叶わないのですか」
溜息混じりに呟いて、望は次は自分の番とライトブリンガーの前に進み出る。
出来ないものは仕方ない。ならばせめて、出来る事を。
【Q】「再孵化の賦与」。
望の接近と敵意に気づいたか、ライトブリンガーが新たな儀式魔術を行使する。
(「さて、何が出てきますか」)
「わたしは望む……ウィッシーズオブザーバー!」
再孵化は止められない。
ならばその前に、望は自身の力を高める
果実変性を発動しておく。
【Q】「さあ、蘇れ」。
そしてライトブリンガーの眼前の地面が赫々とした輝きを放ち、その光の中から新たなオブリビオンが現れる。
「む? ここは――……おおお、あ、貴方様はまさかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
周りをきょろきょろと見回し、ライトブリンガーを見るなり奇声を上げたその姿を望は知っていた。
いや、直接は見ていなかったのだけれど、忘れようはずもない。
でっぷりと太った腹に、無駄に豪華な衣装。
貴族然とした毛先がくるっとカールした金髪。
元人間の吸血鬼貴族である。
「なんで、ですか」
見るに堪えないからとわざわざ目隠しまでして戦った相手の再孵化に、望がたまらず声を張り上げた。
「他にもいくらでもいたでしょう! いましたよね!?」
【Q】「いたな」。
「いたな、ではなくて」
「おい小娘! 始祖吸血鬼様に無礼であろう!」
「ああもう黙っててください、って言うか視界に入らないでください」
ライトブリンガーの淡々とした答えに苛立ちを隠せない所に、吸血鬼貴族も口を挟んで来るものだから、望の苛立ちは募るばかり。
【Q】「それが答え。あなたにはこの者を再孵化させるのがベストと判断した」。
つまりライトブリンガーは、望が最も嫌悪するであろう敵を選んだと言う事か。
「へぇ……そうですか」
望の中で、何かが切れた。
「身体能力向上、速度向上、第六感向上」
ブツブツと呟き、思いつく限りの強化の術を全力で、限界を超えるまでかけていく。
「出し惜しみ無しでいきます」
そうするしかない。
果実変性・ウィッシーズオブザーバー。
再孵化完了に先んじて発動しておいたその術は、無数の可能性の死を視る能力と超精度の動体視力を得るもの。その真価が活きるのは、目を開いて戦っていてこそだ。今回は目隠しするわけにはいかない。
「セプテッド、全銃口スタンバイ」
銃奏・セプテット。
望の頭上に浮かび上がった7つの銃器。その全ての銃口が、ライトブリンガーと吸血鬼貴族に向けられる。
「斉射」
【Q】「天翔ける五つの黄金剣」。
望が短く告げると同時に、ライトブリンガーも淡々と告げる。
7つの銃口が一斉に火を噴き、五つの剣が光を放つ。
望は強化された動体視力と身体能力で光を避け、ライトブリンガーは黄金剣を盾がわりに銃弾を凌ぐ。
そして、吸血鬼貴族は――。
「うぶわっ」
ロケラン辺りを食らったか、吹っ飛んで倒れていた。
「お、おのれ、猟兵め! すぐにあのお方が現れ蹴散らしてくれるぞ!」
だがまだ生きていた。むくりと起き上がり、想像から偉大で高貴な吸血鬼を創造せんとする。
「お判りだと思いますが、そこにいるのは吸血鬼の始祖です。その前で、どんな吸血鬼を創造するつもりですか?」
「あ……えと……」
その創造は疑念を持つと途端に弱くなる。
想像する前に望が打った先手に、吸血鬼貴族は二の句を告げられなかった。
そしてその瞬間――見えた。可能性の死が。
「そちらは殺せるみたいですね――さようなら。もう二度と会いたくないです」
可能性の点――吸血鬼貴族の額を、セプテッドの1つの銃口から放たれた弾丸が撃ち抜いた。
膝から崩れ落ちた吸血鬼貴族が、そのまま消えていく。
そして、ウィッシーズオブザーバーの効果は、望の眼を強化するだけではない。
1発でもダメージを与えれば、セプテッドの銃撃を間断なく続けることが出来る。
「折角です、なるべく痛めつけるとしましょう」
【Q】「出来るものかな」。
果実変性《トランス》の効果が切れるギリギリまで、望は光の直撃を避け続けて粘り、あらんかぎりの弾丸をライトブリンガーに浴びせてみせた。
大成功
🔵🔵🔵
ユディト・イェシュア
【Q】ワープ
このダークセイヴァーを支配する
ヴァンパイアを統べる存在
ライトブリンガー…光をもたらすもの
なんとも皮肉な名前ですね
儀式魔術を使いこなし
今は滅ぼすことは出来ない…
厄介すぎる相手ですが
立ち向かわなくては
ええ、爪痕を刻み込んでみせましょう
俺に出来るのは傷つくことを厭わず
攻撃を叩き込むことだけ
死も痛みも怖くはありません
必ずここに姿を現すのなら
その瞬間を逃さず痛恨の一撃を
その一瞬に弱点を視ることは出来ないかもしれませんが
守りは度外視で全力でメイスを叩き込みます
戦闘不能になったとしても
猟兵は一人ではない
仲間達がきっと何とかしてくれるはず
そうやって今までも大きな戦いを乗り越えてきたのだから
●視ると言う事
視る。
眼を使うその行為を、日常の中で『意識して行う』事が、どれだけあるだろうか。
敢えて視ないと言う事はあっても、視ようとして視ると言う事は、そう多くはないのではないか。多くの人にとってそれは、あって当然の感覚であり、出来て当然の行為だろうから。
だからこそ難しいのかもしれない。
どんな状況でも、何があっても『視る』と言う事は。
「始祖ヴァンパイア。
この世界を支配するヴァンパイアを統べる存在、ですか」
ライトブリンガーの前に立って、ユディト・イェシュア(暁天の月・f05453)が眩しそうに目を細める。実際、ライトブリンガーの存在はユディトには眩しく見えていた。
人の持つオーラが色彩を伴って見える。ある種の共感覚なのかもっと超常的な能力なのか、ユディトが持って生まれた能力。
それ故に見えるライトブリンガーの色は、なかったのだ。
敢えて言うなら白。光そのものの色。
科学的に捉えればあらゆる色を含んでいる事になる。
或いは、強すぎて色が出ない様に見えているのか。
【Q】「あなたには他の猟兵とは私が少し違って見えているようだな」。
ユディトの内心を見透かしたように、ライトブリンガーが言葉を発する。
「……そうですね。俺にはあなたは、眩しすぎる」
少し迷って、ユディトは隠さずに答えた。そんな話はなかったから、まさか心を読まれているわけでは無かろうが、別に隠した所で大した意味もないだろう。
「そんなあなたが、ライトブリンガー……光をもたらすものであり、光の簒奪者でもあるとは、何とも皮肉な名前ですね」
【Q】「故に私は戦うのだ。あなた方と、光の簒奪者として」
その答えの意図は何処にあったのだろうか。
【Q】「ワープドライブの賦与」。
それ以上ユディトが訊ねる間を与えず、ライトブリンガーは唐突に新たな儀式魔術を行使してきた。
問答は終わりという事か。
「……こんな会話の最中に儀式魔術を混ぜて来るなんて、本当に使いこなしてるんですね」
さすがに少し驚きながら、ユディトは銀のメイスの柄に手をかける。
思えば、他の猟兵との戦いでも、そうだった。
ライトブリンガーは多少の会話には応じる事もある。そしてその中でさらっと儀式魔術を行使する。
言葉の全てが【Q】になっていると言うのも、恐らく本当なのだろう。
「その上、今は滅ぼす事も出来ない……厄介すぎる相手ですね」
それでも、立ち向かわなければならない。
その為に来たのだ。
「爪痕を刻み込んでみせましょう」
そう告げて、ユディトは『払暁の戦棍』を両手で高く構える。
その直後――ユディトの目の前から誰もいなくなった。
【Q】「匣の中の太陽」。
「っ!!」
聞こえた声。同時に感じたのは気配と熱。
目の前に現れたライトブリンガーが開いた匣から溢れ出たのは陽なる炎。
遥か宙の彼方から、昼を生む光を放つ程の熱。
(「視ろ――視ろ、視ろ!」)
まさに計り知れないほどの高熱の炎に焼かれる痛みに耐えながら、ユディトは殊更意識して目を見開いていた。
この目を絶対に、閉じてはならぬと。
黎明の導き。
ユディトが反撃に放たんとするその業は、視認している対象に効果を発揮するユーベルコード。
オーラの色で弱点が見えるか以前に、攻撃の瞬間に敵が『視えて』いなければならない。
(「視ろ――この瞬間を視逃がすな!」)
そう自分に言い聞かせながら、ユディトは炎の中で『払暁の戦棍』を振り下ろす。
ゴッと鈍い手応え。
そしてユディトの視界が暗転し――熱が消えた。
【Q】「その焼けた両眼では、しばらく戦えまい」。
「そ……でしょ、ね」
何処からか聞こえるライトブリンガーの声に、ユディトが途切れ途切れに返す。眼だけでなく喉も焼かれたのか、ひどく喋り難い。それでも構わなかった。あの手応えと消えた熱から、一矢報いたのは明らかだったから。
「猟兵は、ひとりではない……すから」
途切れ途切れに告げたユディトに、返ってくる言葉はない。
気配も消えている。何処か他の猟兵の元へ、ライトブリンガーはワープしたか。
そう確信して、ユディトは背中から地面に倒れ伏す。
(「……帰ったら、目薬しましょう」)
そんな、少しずれた事を考えながら。
大成功
🔵🔵🔵
冴島・類
【Q】異門同胞の賦与
手強かろうが、先に繋がるなら
数ある中でも制御できていないものを
集められた強敵達
取れぬ統率をさらに、乱しに
戦場に鏡片を撒いてから
好き勝手に動き始めるオブリビオンへ向け
薙ぎ払いで攻撃仕掛け
鬱陶しい虫と思わせ
己の姿の位置を放つ光で別のオブリビオンの立つ場へとずらし
こちらへの攻撃を敵に当てるよう誘導
彼らの内で同士討ちを起こし
混戦始まれば
隠しながら敵影を盾にや
残像用いたフェイントも使い
瓜江と共に間縫い駆け…
ライトブリンガー近くのオブリビオンの攻撃も
光で誘導し彼へ
そちらに注意が向く隙を狙い
全力で破魔の力込めた薙ぎ払いを
降る光は…可能な限り見切り致命傷は避け
結界で、威力を和らげられたら
●視えるものを信じられるか
【Q】「異門同胞の賦与」。
ライトブリンガーが新たに行使した儀式魔術。あらゆるオブリビオンを支配下に置くと言う効果で、数十万ものオブリビオンがその元に集まった。
されど、その能力だけはライトブリンガーにも扱い切れないもの。
【Q】「あなた達には猟兵の相手を――」
「断る!」
故に、ライトブリンガーの言葉を遮る炎と声が上がる。
「私は……叛逆する……!」
早々に叛逆の意を示したのは、不死鳥を思わせる炎の鳥人騎士。
「ライトブリンガーに従わんと言うか」
「私の邪魔をするなら、お前達全てに叛逆する!」
止めようと立ちはだかった銀髪の吸血鬼に、鳥人が敵意を剥き出しにする。
「全てだと? 舐めるな」
その狂気的なまでの意志に、影狼を束ねる者が面白くなさそうな表情を見せた。
「苦労してるみたいだね」
そんな一触即発の空気の中に、冴島・類(公孫樹・f13398)が1人踏み込んだ。
「もっと苦労させてあげるよ」
告げて地を蹴り駆け出した類がまず目を付けたのは、やたらと目立つ南瓜頭。
「その頭……ええと、すごい変だよ」
「あ? 俺様ちゃん、もしかして喧嘩売られてる?」
精一杯の挑発と共に短刀『枯れ尾花』で斬り付けて来た類に、南瓜頭の目が怪しく輝く。
「余、これでも王様ぞ?」
捨てきれぬ王の矜持が滲む南瓜の王の敵意を無視して、類は銀杏色の組紐飾りを翻す。
「そっちの鳥さん。叛逆は口だけ?」
「何だと!?」
挑発と共に飛ばした刃風は、炎の鳥人へ。
そしてまたすぐに、その場で踵を返す。指から伸びる赤い糸。類が手繰るその先で、濡羽色の髪を持ち鴉面を付けた絡繰人形『瓜江』が敵に躍りかかる。
「そっちの厳つい人も、睨むだけ?」
「貴様!」
類の言葉と瓜江の攻撃を浴びて、銀髪の吸血鬼が苛立ちを露わにした。
ライトブリンガーが集めたオブリビオンは、1体でも1人で倒すのは難しい強敵揃い。数いる配下を数体倒した所で、焼け石に水。
まともに戦って勝てる数ではない。だから戦わない。戦わせるのだ。
類に必要だったのは、数体の有力な敵に自分への敵意を与え、戦場に『魔鏡の欠片』をばら撒く為の時間。
半身と共に次々と違う敵に一撃与えると言う、一見非効率そうな戦い方もその為。
オブリビオン達が、鏡片に気づいた様子はない。人混みで落とした硬貨を探すのは難しいものだ。
準備は整った。
「其れ等の両眼、拝借を」
――閃輝鏡鳴。
魔鏡の欠片から放たれた光が、オブリビオン達の視覚を灼いていく。
猟兵として様々な世界を巡る内に、類は色々な知見を得た。
その一つが、UDCアースで知った『かめら』なる道具。その構造から案を得た術式。瞳は像を写すもの。ならばそこは、鏡の宿神たる類の力及ぶ領域であると。
魔鏡の光に灼かれたオブリビオン達の目はもう、像を正しく映せない。
「これはお前達に向ける叛逆の輝きだ!」
類もその周りのオブリビオンも纏めて焼いてやる。炎の鳥人がそんなつもりで放った火炎弾は、しかし全く違うオブリビオンの頭上に降り注いだ。その熱量に、弱いオブリビオンは一瞬にして灰燼に帰す。
「この鳥野郎……!」
配下の影狼を焼かれた丈夫が、新たな影狼を嗾ける。
されどかの者の目に炎の鳥人と見えていたのは、毒蛇の巨人。
「貴様ら、何を考えている!」
「そっちがそのつもりなら、俺様ちゃんも黙ってないって」
銀髪の吸血鬼と南瓜の王も、見当違いの方へ攻撃を放つ。
【Q】「何をしている。猟兵を排除しなさい」。
ライトブリンガーが【Q】で何を言っても、もう遅い。
類によって目に映る像の位置をズラされた。それだけで、統率が取り切れていない中に始まった同士討ちの混乱は、あっと言う間に周囲に伝播していく。
「あいつだ! あいつが何かをしたんだ!」
「そうだよ。そして其の両眼も、拝借だ」
それが類の仕業だと気づいたオブリビオンがいても、その敵意にまた魔鏡の光を放つだけ。
【Q】「欠落の月より――」
ライトブリンガーも、その絡繰りに気づいたのだろう。無限災群の時には構わず放った光の柱を、放てずにいる。この状況で敵味方区別なく類を撃っても、混乱に更に拍車をかける事になりかねない。
「こんなに上手く行くとは思わなかったよ」
短刀を手に、類は少し安堵したように告げた。実際、運に助けられた部分はある。視覚があるのか怪しいようなオブリビオンもいる。その手合いが多く集まっていたら、こう上手く事は運ばなかったかもしれない。
「そっちが動けなくても、こっちからは行かせて貰うよ!」
破魔の力を込め、短刀を一閃。先に繋がると信じて、類が全力で振るった刃がライトブリンガーを斬り裂いた。
大成功
🔵🔵🔵
樂文・スイ
Q:虞の賦与
いーやぁ、一人何役こなすんだよお前…
んでも怪異マシマシって面白そうだよな
虞…つまりはマジでやべぇからとっとと本気出せってことだろ?
そりゃあ楽しいこった、俺の真の姿、目ん玉かっぽじって見とけよ!(狐耳→人耳、瞳が金→紫、ヤクザかホストっぽい黒スーツ)
最高にアガってから指定UC発動、小鬼どもを目くらましに俺も攻撃を
【目潰し】【急所突き】あたりで敵さんへのダメージを増やして
【世界知識】【幸運】【勝負勘】でメチャクチャになった世界でもうまいこと立ち回る
呪われそうでも【呪詛耐性】もあるしな
【フェイント】【闇に紛れる】で攻撃も回避するぜ
こちとらだって「妖」の名は冠してんだ
幽世だろうが現世だろうが、お前をぶっ刺すのにはなんの違いもないね
レナータ・バルダーヌ
ライトブリンガーさんご本人からは、悪意のようなものはあまり感じられませんけど、吸血鬼を統べる者ならば倒すべき敵です。
何か目的があるとしても、人々を苦しめてきたという事実は同じ。
滅ぼすことができないからといって、見過ごせるはずはありません。
【真の姿】になることで【∀.D.アライズ】を発動し、【Q】「虞の賦与」に対しこちらも世界改変で対抗します。
この力は広域防御としても働くので、一緒に戦ってくださる猟兵さんがいれば、戦術的な効果はより期待できるかもしれません。
敵の攻撃はサイキック【オーラで防御】します。
防ぎきれなくても【痛みに耐える】のは自信があるので、致命傷さえ避けられれば大きな支障はありません。
【念動力】で敵の動きを抑えつつ、翼を象る黄金の炎で【焼却】。
この世界の皆さんが受けた痛み、少しは思い知ってもらいます!
●その虞に悪意はあるか
【Q】「異門同胞、解除」。
【Q】「虞の賦与」。
制御しきれぬ数を集めても勝機はないと、ライトブリンガーが儀式魔術の力を霧散させる。
しかしまたすぐに新たな儀式魔術を行使した。
【Q】「時停崩落」。
ライトブリンガーの纏う空気が一変すると同時に、周囲に集められまだ残っていたオブリビオン達の動きが固まった。
その足元の大地が崩れて、割れる。オブリビオン達が動けぬままに、裂け目に呑み込まれて消えていく。
「ふぅん? これが究極妖怪の虞ってやつか」
妙に重苦しいような、勝手に胸の奥がザワザワするような空気。
「成程な。マジでやべぇ怪異の気配ってやつが、どんどん広がってんね」
種族の名に妖の字を持つ妖狐であるが故か、樂文・スイ(欺瞞と忘却・f39286)は急速に広がった虞の気配を敏感に感じていた。されど、その口元には面白がるような笑みが浮かんでいる。
「でも……」
そんなスイとは対照的に、レナータ・バルダーヌ(護望天・f13031)は首を傾げていた。
「ライトブリンガーさんご本人からは、悪意のようなものはあまり感じられないんですよね……」
レナータがそう感じるのは、この虞の本家本元とも対峙した事があるからだろうか。
何しろあの時のレナータと来たら、端的に言ってゴボウ料理作ってただけだったし。
とは言え、それだけでもあるまい。
予兆で、ライトブリンガーはこう言っていた。
――この世界より光奪いし者の責務として戦う、と。
【Q】「然り。私は責務として、あなた達と戦っている」。
通常、責務としてと言うその言葉は、責任感や義務感、使命感と言った類の
今も繰り返したその言葉を疑わないのであれば、責務だと言うのは使命感や責任感の類から発せられた様に思える。少なくとも、そこに悪意はなさそうではあるのだ。あくまで、疑わないのなら、という前提だが。
「でもよ」
レナータの推論を聞いていたスイが、眼前を指差す。
「あいつ、取り巻き全部、地割れにポイしちまったぞ」
スイの言う通り、ライトブリンガーは不要になったオブリビオンをいとも容易く捨てた。
それが幻覚の類でなかったのは、周囲の大地に残る痕跡が示している。崩落し割れた後に歪に閉じた場所もあれば、崩れたまま底の見えぬ奈落の入口と化している場所もある。もはや他のオブリビオンは影も形もない。
そしてその崩落は――段々と2人に近づいてきていた。
「ああなりたくなけりゃ、とっとと本気出せってことだろ?」
「そうなんですよね」
現状に即したスイの言葉に、レナータも頷いた。
「何か目的があるとしても、人々を苦しめてきたという事実は同じ。吸血鬼を統べる者ならば倒すべき敵です」
悪意の多少がどうであるかと、敵であるかどうかというのは別の話だ。
それにライトブリンガーの真意がどうあれ、レナータの過去が変わるわけでもないのだから。
●概念と法則が変わる世界
迫りくる大地の崩落から、レナータとスイは左右別々の方向に跳んだ。
取り敢えず距離を取る――2人とも、そのつもりの行動だったのだろう。
【Q】「概念消失。距離」。
しかしライトブリンガーが淡々と告げれば、2人が取った筈の距離は殆どゼロになった。
より正確に言うならば、動いた筈の距離が最初からなかった事になった、と言うべきだろうか。
【Q】「動く事、能わず」
そしてレナータもスイも、そこから動けずにいる。
距離と言う概念が世界に無ければ、遠くも近くも、寄るも離れるもない。
たった一歩と言うその距離すら、消失したのだ。
手を伸ばしても、そこが何処になるのか定まらない。
今立っているそこだけが、その者の世界。
こうなってはライトブリンガーに攻撃を届かせる事は愚か、目前と迫る大地の崩落から逃れる術もない。
「――こんなの、囚われているのと同じじゃないですか」
頭で動こうとしても、世界に動く先がない。
後にも先にも進めない。そこからは何処にも行けはしない。
そんな世界を、レナータは受け入れられない。
囚われていた過去を思い出させると言うだけでなく――こんな世界では、誰も護れやしないから。
その姿が、黄金の炎に包まれる。
炎の中で短かった髪が腰まで伸びて、纏う衣服も法衣の様なものへ変わり、黄金の飾りと宝冠を纏う。そこまでの変化を終えた所で、黄金の炎はレナータの背に収束し、左右二対の4つの翼を象った。
「あなたが世界を変えるのなら、わたしも世界を変えましょう」
真の姿を晒したレナータは、足元の崩落にも構わず黄金の炎の翼を広げ、空中に浮かんで座禅を組む。
直後、世界の崩壊が止まった。
――∀.D.アライズ。
アヒンサー。サンスクリット語に於いて暴力の忌避を意味する言葉。
ドミニオン。支配域と言う様な意味であり、第四位たる『支配』を司る主天使の名でもある。
合わせれば即ち、非暴力による支配域。
「落ち着いてゴボウを栽培できるくらいの平和でいいんです。護ってみせます」
レナータが戦場に広げたのは、人々の潜在意識に共通する『平和』を具現化した世界。平和の具現たる世界で大地の崩落など起こる筈もなく、どこにも行けないような不自由がある筈もない。
【Q】「概念拡大。
天」。
ならばとライトブリンガーは、消失ではなく別の概念で上書きを計る。
星無き
天が覆いつくし、また大地が消えた。駆ける地面も、ゴボウを植える地面もない。
しかし、そんな世界になっても、既に距離の概念は戦場に戻っていた。
「究極妖怪の虞に、仏の真似事。いーやぁ、怪異マシマシは面白ぇけど、一人何役こなすんだよ、お前」
距離の消失はまるで釈迦の掌だったと笑うスイの声は、ライトブリンガーのすぐ背後から聞こえた。
【Q】「いくつでも」。
背後に立った黒スーツの青年に、ライトブリンガーは淡々と返す。
【Q】「私の言葉は全てが【Q】。私に出来ぬことなど――滅多にない」。
ライトブリンガーが言葉にするだけで儀式魔術が使える、と言うのは、最早疑いようもない。
それが正真正銘の実力なのか、欠落によるものか。或いは何かの別の絡繰があっての事なのか。詳細は不明であるが、どうであれ今この時にライトブリンガーの儀式魔術を止める術はない。気にするだけ無駄と言うものだ。
「ないか。そりゃあ楽しいこった」
だから、スイは面白いと笑い飛ばした。
「俺の真の姿、目ん玉かっぽじって見とけよ!」
羽衣を黒スーツと変え、その頭部から妖狐の証である狐の耳が消え、金色の瞳は紫色へ。このような戦場ではなく、新宿の歌舞伎町界隈とか、そう言う夜の歓楽街の方が違和感が無さそうな、まるでヤクザかホストのようなその姿こそが、スイの真の姿。
振り上げた腕の袖口から暗器が飛び出す。閃く刃が、仰け反ったライトブリンガーの黒い右目を掠めて額に傷をつけた。
●平和を喰い合う世界で、刃を突き立てる
【Q】「概念拡大。天」。
【Q】「欠落の月より至る光」。
再び星無き
天が世界に広がり、そこに光が生まれる。
空より無数の光の柱を降り注がせる。これまでの他の猟兵との戦いでもライトブリンガーが何度も使って来た、ライトブリンガー自身の光を操る力による術。
されどこの
天しかなくなった世界であれば、その光が降る空は何処にでもある。
「メチャクチャだな」
「大丈夫ですよ」
まさに縦横無尽。上下左右あらゆる方向から降り注ぐ光の柱に思わず呻くスイだが、レナータは落ち着いていた。
その理由はすぐに判明する。
光の柱は2人に当たる事無く、その全てが明後日の方向へと逸れていった。
「手出しはさせません! わたしの世界の中では、【生命を害する行為は禁止】ですから!」
それがレナータが【∀.D.アライズ】で具現化し書き換えた世界の効果。
生命を害する行為は禁止と言う法則に違反した行動は、滅多に上手く行かなくなる。術者であるレナータを始め、周囲にいる他の猟兵への広域防御になる。
ライトブリンガーは攻撃の為の布石として【Q】で世界を書き換えたが、レナータは護りの布石として書き換えていた。
「ん? それって、俺達の攻撃は通じんのか?」
それを聞いたスイが、ぽつりと疑問を口にする。
生命を害する行為と言われれば、あらゆる攻撃が――自分達がライトブリンガーに向ける攻撃も該当してしまいそうなものだが。
「大丈夫ですよ」
しかしレナータは、事も無げにそう返した。
そして、ライトブリンガーを指差す。
「ライトブリンガーさんは滅ぼせません。滅ぼせない相手に何をしたら、生命を害する事になるんでしょうね?」
「あーぁ、はいはい。なーるほどね」
レナータの言わんとする所を察したスイが、ニマリと笑う。
『欠落』が健在な為か、或いは他の要因か。いずれにせよ、この戦いではどう頑張ってもライトブリンガーを滅ぼす事は出来ない。それは出発前にも聞かされていた事だ。
「この世界の皆さんが受けた痛み、少しは思い知ってもらいます!」
レナータの背で、黄金の炎翼が燃え上がる。
四翼の炎を束ね合わせて放ったレナータの炎撃が、高いレベルの念動力で動きを押さえたライトブリンガーに直撃し、歪な世界に黄金の爆炎を盛大に咲かせた。
これだけやっても、ライトブリンガーは滅ぼせない。
滅ぼせないオブリビオンという事は、死なない存在と同じ。
滅ぼせず死なない敵が相手ならば、何をどうしたところで生命を害する事になる筈もない。ならば2人の攻撃はレナータの世界の法則に反していない。何とも都合の良い話ではあるが、これは普通の戦いではないのだ。
【Q】「概念消失。平和」。
濛々と立ち込める煙の中から、ライトブリンガーの声が響いてくる。
告げた言葉は、平和と言う概念の否定。
――戦え。戦え。戦え戦え戦え戦え戦え――。
儀式魔術によって、世界に戦を求める呪詛めいた声が響き出す。
その声に呼ばれるように、大地の一部が形を変えた。隆起を繰り返し生まれた歪な岩錐を持って、変わらぬ大地に牙を突き立てる。
昏い天と豊かな大地が何度もせめぎ合い、荒れ果てた挙句に世界が喰い合う。
世界の終わりとはこう言うものなのかもしれない。
「面白い――最高にアガってきたぜ」
そう思わせる光景の中に、スイはやはり笑って飛び込んだ。
呪詛めいた声は右から左に聞き流し、己の勘だけを頼りに牙剥く大地を駆け抜ける。こんな幽世も現世もないような様相では、もう世界知識も及ばない。
そんな綱渡りの様な戦いに覚える高揚が、スイには必要だったのだ。
「ほぉらみんな、メシの時間だぜ」
貪欲な流行神。
感じる高揚を引き金として喚び出した、スイの影から現れた130体の小鬼の群れ。
小鬼達はスイが何も言う前に、ライトブリンガーに向かって殺到して行った。
1体1体は小さいながら、その爪は肉を引き裂き、その牙は血肉を喰らう。けれども今は、小鬼の残虐な力よりも、高揚を与えた相手を追跡する特性が重要だ。その貪欲なまでの追跡が、スイに世界に喰われず進む道を示してくれる。
【Q】「世界よ、喰らえ」
ライトブリンガーは更に世界に牙を剥かせ、小鬼を喰わせる。
小鬼が殲滅されるのが先か、スイの刃が届くのが先か。
「お前、平和が嫌いなのか?」
そんな中、ますます荒れる世界にスイは訝しむ声を上げた。
「結構じゃねえか、平和な世界。何が悪い?」
レナータが世界に具現化した法則を破る。その為に平和の概念を消失させた。
それはわかる。なれど、その結果が世界が世界を喰い合う様なこの光景となる必要性はあったのだろうか。もしもそこにライトブリンガーの意志が介在しているのだとしたら――。
大多数の妖狐がそうであるように、スイも人間が好きだ。
その精によって若さを得られるからというだけでなく、ヒトと言う種そのものが。その喜びも悲しみも、快楽も苦痛も――死すらも見届けたいと思う程に。
そんなにも好きだからこそ。スイは殺人衝動が起きる度、衝動のままに罪を犯してきた。重ねた罪はもう幾つになるだろう。
けれどもし、誰も誰かの生命を害する行為を禁止すると言う平和な法則が全ての世界にあったなら。
「――羨ましいのか?」
平和を羨ましいと事もある。自身もそうだからこそ、スイが辿り着いた結論。
「ま、なんでもいいけどな」
その答えを待たずに、スイはついにライトブリンガーに肉薄した。
今でもこれからも、好きなように生きるだけだ。羨ましいと思っても、スイは自分の生き方を変える気はない。
「こちとらだって『妖』の名は冠してんだ。何を考えてようが――お前をぶっ刺すのには、なんの違いもないね」
何処に隠していたのか。
さっきまで何も持っていなかった掌に掴んだ刃を、スイは一切の躊躇なくライトブリンガーの喉元に突き立てた。
重苦しく胸がザワつく空気が霧散する。
荒れ続けていた大地が嘘の様に静まり返り、ピタリと動かなくなっていた。
【Q】「祈りの双子が敗れたか」
喉から血を流したまま、ライトブリンガーは淡々と告げる。
【Q】「六番目の猟兵達よ。未だ、この名の意味を知らぬ者達よ。またいずれ」。
それがこの世界の更に上層での事なのか、或いは別の形になるのか判らないけれど。
ライトブリンガーが滅ばない以上、いつかはまた会う事になるだろう。
消えゆくその姿を見送るしかないスイとレナータの姿は、いつの間にか真の姿ではなく普段の出で立ちに戻っていた。
大成功
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