●グリモアベースにて
手元のガイドブックに落とした視線を何往復かさせた後、佐伯・キリカ(陽気に元気・f00963)は顔を上げた。そうして息を吸い込み、大きな声で猟兵たちに呼びかける。
「加奈陀のエルズミア島に行ってくれる猟兵さん募集だよ! 『冬桜護』さんたちから広報の依頼が来たんだよ!」
『冬桜護』は、辺境や秘境にある幻朧桜を巡回するのが仕事のユーベルコヲド使い部隊。部隊名に「冬」とつくだけあって、元々は「厳寒の雪の中、幻朧桜を調査しに行く部隊」だった、のだが。
キリカは眉根を寄せた。
「いま、冬桜護さんの仕事はとっても大変なんだよ……。季節も降雪も関係なし、幻朧桜が咲いているならどれほど危険な場所でも赴いて、桜の様子を確認するのが仕事なんだよ……!」
普通の人間には過酷すぎる仕事内容に加えて、冬桜護そのものがあまり知られていないこともあるのだろう。最近では、冬桜護のなり手が減っているらしい。
どうしたものかと考えた冬桜護たちの出した答えは「広報の一環として、冬桜護の仕事内容をキャメラにおさめて活劇にする」こと。
それだけでは弱いと考えたのだろう、超弩級戦力である猟兵も一緒であれば有効な一手になるのではないか、活劇を見た前途ある若者が部隊に入ってきてくれるのではないか、と期待しているそうだ。
「そんなわけで、冬桜護さんたちから依頼された仕事の流れを説明するんだよ。まずは冬桜護さんと一緒にエルズミア島の雪原を抜けて、幻朧桜の元を目指すことになるんだけど……当日、現地は氷点下30度で雪が降ったり吹雪いたりするんだよ」
キリカは息を呑む。
凍えるどころでは済まない気温の中、雪、あるいは吹雪に立ち向かいながら冬桜護と共に幻朧桜を目指す。それも、冬桜護のキャメラに映してもらったり、自身でキャメラを回して撮影したりしながら。猟兵に依頼が来るのも納得の現場である。
「雪原を抜ければ、真っ白な景色の中に佇む一本の幻朧桜があるはずなんだよ。もしその幻朧桜に影朧が巣くっていたら、倒して鎮めて欲しいんだよ」
ここで戦闘となれば、猟兵たちには影朧との戦闘に専念してもらいたいとのことで、キャメラでの撮影は冬桜護たちに一任して欲しいそうだ。また、戦闘になれば吹雪は収まって緩やかな降雪になっているはずだという。
「無事に影朧を倒せたらキャメラでの撮影は終了、幻朧桜のふもとで儀式——あっ、堅苦しくならなくて大丈夫なんだよ、儀式といっても宴会をするんだよ!」
哀しい魂を鎮めるための、華やかで楽しい宴。宴会用の食べ物や飲み物を持ち込むのも良いだろう。
「お腹いっぱいになったら、幻朧桜を眺めつつ少し歩いてみてもいいかもしれないんだよ。そうそう、ここの桜の花びらと雪が舞う風景を見ると、昔の思い出がよみがえることもあるんだとか! とっても不思議なんだよ!」
そう言い終え、一息ついて猟兵たちを見るキリカ。
「今回は……ちょっと……かなり……とっても……むちゃくちゃ……寒すぎる、けど! よろしく頼むんだよ!」
ガイドブックに掲載された写真に「ひぇ」と零しつつ、キリカは猟兵たちに頭を下げた。
雨音瑛
サクラミラージュでのシナリオとなります。
カナダのエルズミア島で雪中行軍・戦闘・宴会の予定です。
●第1章 冒険
カナダのエルズミア島で、5人ほどの冬桜護と共に幻朧桜を目指します。氷点下30度、急に吹雪くこともある雪原を行きます。冬桜護の皆さんがキャメラを回して広報に使う映像を撮影しています。猟兵の方でキャメラを回すこともできます。
●第2章 ボス戦
幻朧桜に巣くっている影朧との戦闘です。雪ははらはらと降る程度になっています。
●第3章 日常
同道した冬桜護と一緒に幻朧桜のふもとで宴会をします。宴会をしつつ雪と桜を眺めることができます。食べ物・飲み物の持ち込みもOKです。
第1章 冒険
『秘境の桜をめざして』
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POW : 体力と腕力で危険な冒険を切り抜ける
SPD : 迫り来る危険を察知し、回避する
WIZ : カメラワークや演出を駆使し、格好いい広報映像を撮影する
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神明・桐伍
我が思うに、吹雪の中撮影をしてもよく見えないのではないであろうか。
全行程を撮る訳でもあるまいし、要所要所で映せば事足りよう。
撮影ポイントでは氷嵐虎に騎乗して仙術で嵐を抑え、錬気で寒さを耐えながら「む、酷い嵐だが、この先に我等が目指す幻朧桜があるのであろうか」「そこに桜が待つならば行かねばならぬ」などと记者様の発言をする。
大半は隠袖の裡でゆっくりと過ごしながら嵐虎に運んでもらうとしよう。『冬桜護』殿らも出番でない時は共に休まれるが良かろう。
厳しい仕事であるからこそ、休める時に休むのも仕事のうちであろうから。
・・・しかし、これは中々に大変な职业であるな。
雪を伴った強風は、まるで肌を切り裂くよう刃のよう。
エルズミア島は普段どおりの、しかし凶暴な天候で猟兵と冬桜護を出迎えていた。
「そろそろ撮影を開始したいのですが……見事に吹雪いてきましたね」
冬桜護が、キャメラの入った鞄を開きあぐねている。
この荒れ模様でキャメラを向けても、真っ白な風景だけが映ることになるだろう。
「ならば——我の仙術を」
神明・桐伍(神将の宿星武侠・f36912)が軽く片手を挙げる。すると数秒の後、風は弱まり、周囲数メートルの視界が確保できるほどになった。
「これなら撮影できるであろうか?」
「はい、ばっちりです! 準備しますので、少々お待ちを」
鞄からキャメラを取り出して撮影準備をする冬桜護。彼が機材の状態を確認しているのを横目に、桐伍は傍らの白虎を撫でた。
「氷嵐虎、撮影が始まったら我と同じ方を向いてくれるか」
名を呼べば、首を縦に振ってくれるのは白虎の「氷嵐虎」だ。ふかふかの毛並みには少し雪が降り積もっているが、指を埋めれば温かな体温がある。
冬桜護に撮影可能だと告げられ、桐伍は氷嵐虎の背に乗った。
キャメラは行く手の吹雪を、次いで桐伍の横顔を映しているようだ。
「この先に、我等が目指す幻朧桜があるのであろうか」
瞳をふちどる睫に、ひとひらの雪が付着した。
目指す方角を真っ直ぐに見つめる双眸は、故郷の森とはまるで異なる白銀の地を映している。
「——そこに桜が待つならば行かねばならぬ」
吐息すら凍りそうな中、気を練って耐える桐伍。瞬きに雪が溶ける気配を感じながら、氷嵐虎と共に向けられたキャメラが下ろされるのを待つ。
「……はい、ま、まずはここまで、で、ですね。ありがとうございま、ます」
キャメラを下ろした冬桜護は、強く瞬きをしながら震えている。常人には耐えがたい気温だ、当然だろう。
「冬桜護殿、次の撮影ポイントまでどれくらい時間がかかるのであろうか?」
「そ、そうですね……す、少なくとも30分は歩くかと」
桐伍の仙術で吹雪を弱めながら進んだとしても、なかなかに大変な行程だ。
少し思案した桐伍は氷嵐虎から降り、冬桜護へと片手を差し出した。次いでもう片方の手で、自らの袖を示す。
「我の袖に触れてもらえるか? 心配無用、寒さへの対策と休息である」
冬桜護は素直に手を伸ばした。その指先が触れるが早いか、仙境の風景が二人を包んでいた。
「これは……ユーベルコヲドの力でしょうか?」
「うむ、時の流れが異なる仙境である。撮影時以外は、ここで共に休まれるが良かろう。休める時に休むのも、仕事のうちだ」
「とっても助かります、こんな天気の中で普通に休憩すると死んじゃいますからね……そうだ、お礼と言ってはなんですが、これを」
冬桜護は鞄を探り、笑顔で筒状のものを取り出した。
「お茶を持ってきたんです、猟兵さんの口に合えば良いのですが」
開けた蓋をカップにして、茶を注ぐ冬桜護。差し出されたカップから立ち上る湯気に目を細め、桐伍は受け取って口をつける。
「これは有り難い……む、とても美味である」
茶の温かさと味わいに、思わず桐伍の顔が緩んだ。それを見て、冬桜護は安堵したように微笑む。猟兵不在の状態でエルズミア島を訪れたならば、決して見せない表情だ。
(「冬桜護……中々に大変な职业であるな……」)
だからこそ、桐伍の協力は冬桜護にとって想定以上に助かっていることだろう。
休憩と撮影を繰り返し、桐伍たちは確実に幻朧桜へと近づいて行った。
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
そもそも、この極限環境下でも幻朧桜が咲いているって事が驚きだけど
こんな所まで調査に来る人達がいるって事も、なお驚きだ
今回の調査も含めて、少しでも力になるとしよう
かつて軍学校に通っていた頃に、雪中行軍のいろはを学んだ事もあるが………さてどうだったか
普段の装備に加えて、防寒具の類に食料品。吹雪ではぐれないようにロープ。その他にも必要そうなものがあれば用意して
体力には余裕があるし、多少荷物が増えても大丈夫だろう
こうも雪だらけだと上手く撮れるものか心配だが、一応キャメラを借りておく。
道中は随時声をかけて様子を伺いつつ、休憩も適宜挟もうか
到着してからも一仕事だし、道中で消耗しすぎるのも良くないしな
行けども行けども、頬を刺すような冷気が間断なく襲って来る。
冬桜護から借りたキャメラに周囲の風景を収める夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は、小さく息を吐いた。
「まさに極限環境だな」
氷点下のエルズミア島は、おそろしく冷え切っている。普段の装備に防寒具も加えた鏡介の判断は正解だった。
雪を踏みしめて進む鏡介は、なんとなしに軍学校に通っていた頃のことを思い出す。そこでは確か、雪中行軍のいろはも学んだはずだ。
(「迅速な判断が肝要なのは、何も雪中に限らないか」)
先行する冬桜護とは、ロープで身体を繋いでいる。鏡介が軽くロープを引くと、冬桜護が振り返った。
「そろそろ休憩にしないか? まだ距離もあるんだろう?」
「そうですね。本格的に吹雪いてくる前に一休みしましょう」
鏡介が下ろした荷物が、雪にめり込むように沈む。その様子を見て、冬桜護は目を丸くした。
「そ、そんなに重いものを運んでたんですか?」
「体力には余裕があるからな。さて、そろそろ何か腹に入れておいた方が良い。手っ取り早くエネルギーになるものだと……この羊羹はどうだ?」
一口サイズの羊羹を数本、冬桜護に差し出す鏡介。
「いいんですか? 本当にありがとうございます、幻朧桜の元に同行してもらえるだけでもありがたいのに」
「少しでも力になれれば良いのだが……しかし、こんな場所であっても幻朧桜が咲くとは驚きだ」
「はは、本当ですよね。自分も初めて見た時はびっくりしました、その頃は帝都の幻朧桜しか見たことがなかったので——わ、美味しいですね、この羊羹!」
笑ったり、驚いたりしながら羊羹を口にする冬桜護。
(「だが、なお驚きなのは——」)
鏡介は羊羹の包装を開けつつ、冬桜護を見遣った。
(「こんな場所まで調査に訪れる者がいること、だな」)
僅かに口角を上げ、鏡介も羊羹を味わう。
会話が仕事と雑談を何往復かしたところで、冬桜護が時計を見た。
「おっと、そろそろ出発しますか?」
「そうだな。無理せず、確実に進もう。到着してからも一仕事あるからな」
「はい。色々とご面倒おかけしますが、よろしくお願いしますね!」
荷物をまとめ、雪道の歩みを再開する猟兵と冬桜護。
吹雪の中を行く冬桜護の背に、鏡介はそっとキャメラを向けた。弱音ひとつ吐かず真っ直ぐ進む姿に憧れ、冬桜護を志す——そんな者が現れることを、願って。
成功
🔵🔵🔴
ユイン・ハルシュカ
極北の地に咲く、冬の桜か。
オーロラと同じく見るまでが険しい道のりだが、踏破してみせよう。
ふ。悪魔は寒さに強いのだろう、と?
安心しろ、弱点だ!!(びゅおおお)
……い、いや、じじじ実に寒いな。
唇がわなななないて体が勝手にここ小刻みに震えてくる。さむ、い……。
まともに歩いてては遭難しかねん! 何か体を温める策はないのか!
……何? 辛いものを? 一気にかきこむ?
冗談を言え、冗談を!
ボクはカレーでも甘口以外は……しかし寒いな……ええい、くそ!
おのれー! と火を噴き、眼前には融雪の道。
けほっ、こほっ……確かに身体は温まるな。
ついでに道も拓けたようだ……皆、ボクの屍を超えて先に行け……(とさり)。
凍える風が吹きつける中で、冬桜護はユイン・ハルシュカ(山羊角の悪魔の四天王・f33153)にキャメラを向けた。インタビューのようなシーンを撮影するつもりでいるようだ。
「そういえば悪魔は寒さに強い、と聞いたことがありますが……」
「……ふ。安心しろ、弱点だ!!」
目を見開き、キャメラをかっ! と見上げるユイン。
氷雪混じりの風が、ユインの大きな角を白く染めてゆく。ユインの身体は勝手に小刻みに震え、唇がわななく。
「……い、いや、じじじ実に寒いな。何か体を温める策はないのか、冬桜護!」
このまままともに歩いて行っては遭難しかねない。ユインの言葉に少々考え込んだ冬桜護は、持ち込んだ荷物からいくつかの食料を取り出して見せた。
「カレーは缶詰とレトルトパック、麻婆豆腐はレトルトパックがありますよ。あとはカップ麵ですが、担々麺と……担々麺しかないですね」
「ど、どれも辛いものではないか!」
「そうです、辛いものです! このどれかを一気にかきこめば、きっと体温が上昇しますよ!」
「なんで嬉しそうなんだ! 冗談だろう、ボクはカレーでも甘口以外は……」
そこまで言って、ユインは頭に積もりつつある雪を手で払った。
極北の地に咲く、幻朧桜。オーロラと同様、見るまでが険しい道のりであることは間違いない。
(「……それでも、踏破してみせよう、と思ったのだ。それなら……」)
ユインは冬桜護を見上げ、腕組みをする。
「……温めよ」
「はい?」
「カレーを温めよ、と言っている! 辛口でも中辛でも構わない、できれば甘口がいい!!」
「わかりました! 辛口を温めますね!」
「ええい、わかっているのか本当に! 甘口は無いのか甘口は! い、いや、これ以上待つのは危険だ、もう辛口でも構わないから早くするのだ……!」
震えながら待つこと数分、ユインの前にはほかほかの辛口カレーが差し出された。
「さあ猟兵さん、冷めないうちに!」
笑顔で差し出されたカレーを、しぶしぶ受け取るユイン。冬桜護も、自分の分を手にしている。
「……ええい、くそ!」
受け取ったカレーからは、辛めに調合されているであろうスパイスの香りが立ち上っている。辛口だ、紛うことなく辛口カレーだ。
冷え切ったスプーンを手に取り、ユインはカレーを一気にかきこんだ。口の中に広がる辛さは、ユインが許容できる範囲を超えている。
「おのれー!」
叫びと共に火を噴けば、ユインの眼前に融雪の道が広がった。これならば幻朧桜の元まで容易に進むことができるだろう。
その光景を見て冬桜護はカレーを食べる手を止め、急いで撮影を再開する。
「おお! さすが猟兵さんですね!!」
「けほっ、こほっ……覚えておくがいい、四天王に不可能はないのだ……」
むせつつも、ユインは確かに身体が温まることを実感していた。だが、次の瞬間に身体が傾き、雪が残る場所にとさりと倒れ伏す。
「ついでに道も拓けたようだ……皆、ボクの屍を超えて先に行け……」
「猟兵さん……? 猟兵さーーーーーーーん!!」
叫びつつも、なんだかドラマチックな光景を演出してくれるユインにキャメラを向けるのを忘れない冬桜護であった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『琥珀の天使』
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POW : 裁きの一閃
【大鎌】が命中した対象を切断する。
SPD : 夢見る琥珀
【煌めく琥珀の髪】から、戦場全体に「敵味方を識別する【美しい幻を見せる輝き】」を放ち、ダメージと【戦意喪失】の状態異常を与える。
WIZ : 堕天してでも
【翼が砕けた状態】に変身し、武器「【大鎌】」の威力増強と、【砕けた翼】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
👑11
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吹雪が収まり、視界が開けてゆく。
弱まった雪に交じって舞う桜の花びらに、冬桜護は表情を緩めた。だが、幻朧桜を見るや否や空を仰ぎ、片手で顔を覆った。
「ああ、やはり……!」
幻朧桜の根元に、石像のようなものが一つ鎮座していたのだ。
髪と脚部には琥珀が用いられているのだろうか、見事な輝きを放っている。背から生えた翼も丁寧な仕上がりだ。おそらくは高名な芸術家によって造られたに違いない。
しかし何より目を惹くのは、巨大な目玉が嵌まった大鎌だ。異様な部位の存在が、この石像は人々に仇なす影朧である、と認識させる。
やがて彼女の目がゆっくりと開き、猟兵と冬桜護を捉えた。
こちらを「敵」と認識したようだ。
「猟兵の皆さんは影朧への対処に集中してください! 撮影はこちらで行いますので!」
冬桜護はそう言って攻撃の及ばない場所へと駆け出し、キャメラを準備した。
ユイン・ハルシュカ
ふむ。天使の翼もつ影朧か。
ただの彫刻なら綺麗だろうが、あれでは花見もできまい。
髑髏柱を立ててやろうかと思ったが、気が変わった。
たまには真っ向から撃ち合ってやろう。
全魔力を投じ、ミゼリコルディア・スパーダにて百本余の魔法剣を順次展開。
動きを見極め、空飛ぶ敵の勢いも利用してカウンター気味に剣を突き立てる。
飛翔突撃に飛び退く際にも剣でそらし、被弾を防ごう。
やれ、集中力のいる戦いもたまには悪くない。
天より堕ちても、か。気概は認めるが、
お前を創り給うた主はそんな姿を望んだか?
ボクも力に溺れた悪魔を見たが、空しいヤツだった。
トモダチもいない。ピクニックも一人だ。
本当にそれでいいのか、よく考える事だな……!
少年の双眸は、雪と桜、次いで影朧『琥珀の天使』へと移った。
この天使がただの彫刻であったなら、そのまま花見をする、という選択肢もあっただろう。
目を閉じたユイン・ハルシュカ(山羊角の悪魔の四天王・f33153)は、こめかみに人差し指を当てた。
「髑髏柱を立ててやろうかと思ったが、気が変わった」
ゆっくりと目を開くユイン、その身体から魔力が放出される。
「ボクが真っ向から撃ち合うのは珍しいんだ」
魔力は剣へと変じ、ユインの周囲に展開されてゆく。次々と顕現した剣の数は、百本余となった。
天使は様子をうかがうように立ちすくんでいる。この猟兵は、無策で挑むにはあまりに危険な相手である——そう判断するかのように。
やがて天使は背筋を伸ばし、両手を広げた。直後、砕けた翼の破片を自身に絡みつかせて飛翔を開始する。
「わかりやすい動きだ」
ユインが呟くと、剣のいくつかが垂直に飛翔した。空中で複雑な幾何学模様を描く剣を一度だけ視認し、後方へと飛び退く。
「やれ、集中力のいる戦いもたまには悪くない」
剣は切っ先を下にして一列に並び、垂直に落ちる。行く先を剣の壁に阻まれ、天使は速度を落とした。
天使は体勢を変え、上昇する。剣を乗り越えて飛翔を再開し、ユインとの距離を詰めてる。
「この程度では諦めない、か。気概は認めるが、お前を創り給うた主はそんな姿を望んだか?」
一人の悪魔を思い描き、ユインは嘆息した。
(「かつてボクも力に溺れた悪魔を見たが、空しいヤツだった」)
天使が大鎌を振りかぶる。
剣が緩やかに幾何学模様を描き、二つの群れを成す。
(「トモダチもいない。ピクニックも一人だ」)
天使が加速する。大鎌が雪と桜を散らし、弧を描く。
剣の半分は上空へ、残り半分はユインの周囲に展開する。
「本当にそれでいいのか、よく考える事だな……!」
飛び退き、天使を睨むユイン。
周囲に展開させていた剣が、ユインの前方で天使を迎え撃つ。剣は次々と天使の前面に突き刺さり、彼女の速度を減衰させてゆく。
そうして振るわれた大鎌の刃は力なく、ユインに届くことなく。上空から落ちた剣によって、無慈悲に弾き返されたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
雪と桜と天使の彫像。良いところだけを取り出してみれば芸術的、幻想的だと思えるが……
残念ながら、あの天使はそんなに良いものでもないな。手早く破壊してしまうとしよう
利剣を抜いて敵と相対。雪に足を取られないように幾らか意識を割くようにする
まずは攻撃を躱しつつ、敵の動きを見極めてから、澪式・陸の型【隼返】の構えに移行
刀の峰で大鎌の刃を受け止めてそのまま受け流しつつ敵の体勢を崩して、返す刀で鎌を握る腕を切り付ける事で武器を落とさせる
武器を失っただけで戦えなくなるなんて事はないにしても、素手になれば脅威度は格段に落ちるだろうから、一気に反撃に転じる
当然、落とした大鎌を拾うような隙は与えない。
雪と桜が舞う中に佇む、天使の彫像。それだけ聞けば、芸術的で幻想的な光景を思い浮かべることだろう。
しかし目の前の影朧はそのようなものではない、と夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は理解している。
「悪いが、破壊させてもらう」
利剣【清祓】をすらりと抜き、やや慎重に『琥珀の天使』と相対する。
普段と異なるのは、何より足元の状況だ。この雪上では、迂闊な動きをしようものなら足を取られかねない。
天使が鏡介の間合いに入ったと同時に、大鎌がゆらりと動いた。
「先に来るか、いいだろう」
頭上から襲い来る巨大な刃を回避して次の動きに注意を払えば、横から薙ぐような動きで捉えようとする。
華奢な天使が振り回すにしては、あまりにも暴力的な武器。縦横無尽に襲い来る大鎌を、鏡介は難なく回避する。
元より大きな動きを伴う攻撃だ、数多の戦場を経験した鏡介に当たるわけがないのだが。
鏡介はそのまま数分ほど回避に努め、小さく息を吐いた。
「なるほどな。——把握した」
獲物が大きければ、攻撃方法はある程度限られてくる。それに、軌道も見えやすい。
鏡介は雪を踏みしめ、利剣を水平に構えた。
これ幸いとばかりに天使が突っ込んで来る。直後の大鎌の動きは、鏡介の予想どおり。
頭上から振り下ろされる縦方向の斬撃は、鏡介の眼前で止まった。
大鎌は、いくら天使が力を込めようとも利剣の刃より先へは進めない。鏡介は大鎌の刃を横へ受け流し、天使の右側面へと回り込む。
返す刀で加えた一撃は天使の右腕に傷を刻み、亀裂を入れた。
元が彫像の影朧だけあって血が流れることは無いが、天使は目を見開いている。
右手から落ちた大鎌が、彼女の視線の先にあった。武器を落とための攻撃が仕掛けられるとは思っていなかったのだろう。
すかさず天使は大鎌を拾おうとする、が。
「そんな隙を与えると思うか?」
天使の視線が鏡介へと移る。
相手が武器を失ったいま、鏡介は一気呵成に反撃へと転じる。
武器を失った程度で天使が攻撃手段を失うとは思っていないが、脅威は大きく減ることだろう。
さらに踏み込んだ鏡介の利剣から繰り出される一閃。淡紅色に輝く刀身は、天使の腹部に深い直線を刻んだ。
大成功
🔵🔵🔵
中村・裕美(サポート)
副人格のシルヴァーナで行動します
『すぐに終わってしまってはもったいないですわね』
多重人格者の殺人鬼× 竜騎士
外見 赤の瞳 白の髪
口調 (わたくし、~さん、ですわ、ますの、ですわね、ですの?)
裕美のもう一つの人格で近接戦闘特化。性格は享楽的な戦闘狂
戦闘では【残像】が残るような優雅ステップで敵に近づき、惨殺ナイフによる【切断】を【早業】で繰り出す
ドラゴンランスを使うことがあれば、相手を【串刺し】にするか、竜に変えて【ブレス攻撃】
【瞬きの殺人鬼】使用後の昏睡状態はもう一つの人格に切り替えカバー
電脳魔術が使えないので裕美の能力が必要な場合は【オルタナティブ・ダブル】で呼び出します
あと、虫が苦手
凍える空気の中に、雪のような色をした挑発がなびいている。
中村・裕美(捻じくれクラッカー・f01705)は、白髪を風に弄ばれるがまま、『琥珀の天使』を興味深そうに見つめた。
「まあ……お美しい姿。すぐに終わってしまっては、もったいないですわね。まずはお手並み拝見とさせていただきますわ」
惨殺ナイフ『principessa di tagliatore』を片手で弄び、挑発的な笑みを浮かべる。いま、表に出ているのは副人格「シルヴァーナ」だ。
空を仰ぐ琥珀の天使、その髪が光を放ち始めた。緩やかに形を変えてゆく光は、琥珀の天使に似た氷像となった。氷像に届いた光は体内で屈折し、宝石のようも見える。
煌めく氷像の群れは、ゆるりと裕美へ手を差し伸べた。
しかし返答は冷たく、惨殺ナイフの斬撃のみ。
「残念ですわね。わたくし、そういった攻撃には耐性がありますの」
瞳を細め、いっそう妖しい笑みを浮かべる裕美。消え失せた幻影の向こうに立つ琥珀の天使へ、歩みを進める。
「面白いものを見せていただいたお礼ですわ。どこでも構いませんので、あなたが好きな身体の部位を一箇所、教えていただけます?」
どこまでも優雅な足取りで、裕美は琥珀の天使へと接近する。
あと数歩となったところで足を止め、ダンスへ誘うようにナイフを突き出す。
「——ああ、でもあなた、言葉を話せるようには見えませんわね」
であれば、と裕美は口角を上げた。
血のように赤い瞳が光を帯びるや否や、琥珀の天使の眼前に身体を踊らせる。
「わたくしが選んで差し上げますわ」
琥珀の天使の背面に抜け、ナイフを閃かせた。残像は未だ、琥珀の天使の眼前にある。急ぎ振り返った彼女が見たのは、周囲を巡る赤い光と九つの音を響かせた刃の軌跡であった。だがそれもまた、残像。
琥珀の天使がようやく捉えた裕美は、ナイフを手に微笑んでいた。
直後、天使の顔に驚きと苦痛の混じった表情が浮かぶ。
数秒前まで彼女の背にあった翼は、凍った地面に落ちて砕け散ったのだった。
成功
🔵🔵🔴
星羅・羽織(サポート)
魔術師ローブのヤドリガミ。
何世代にも渡って受け継がれてきたローブがヤドリガミになったもの。
その内には蓄えられた膨大な魔力によって疑似的な宇宙が成っている。
見た目は小学生くらいだけれど、年齢は数百歳。
性格は見た目通り幼めで、寂しがり。
困っている人は放っておけないタイプのため、遠回りなことを言いながらも、積極的に手伝ってくれる。
蓄えられた知識は広く深い。それを活用して必要とあらば助言もする。
喋りはたどたどしい。
戦闘は中遠距離からの宇宙魔法を駆使して行う。
セリフや行動は完全にお任せ!
好きに喋らせたり動かしたりしてください。
話し方は読点(、)多め。
「私が、助ける、から。安心して、ね」
みたいな感じ。
フィルート・オフハート(サポート)
「さてと、ボクの出番かな?」
猫獣人の姿をしたバーチャルキャラクターです。
UCは指定した物を状況に応じて使い分けます。
意外な使い方をしたりして、器用ではありますが、正面から突破するほうを好みます。
魔法系のUC以外には双創刃や、魔創剣を用いた接近戦もある程度でき、近接系のUCは基本それを使います。
基本的には冷静に事を運ぶ手段を考えます。
ただ、考えた上で必要となれば、目的のために、無茶な手段を強行したり、仲間の為に自分が傷ついたりすることを厭わないこともあります。
連携歓迎、あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
星柄のマフラーに口元を埋め、星羅・羽織(星空に願いを・f00376)はぶるりと震えた。そうして星空のローブの前を合わせ、何度も瞬きをする。
「ここは、とても、寒い、ね。早く、影朧、倒そう?」
寒さのせいにしつつも、困っている人がいれば放っておけないのがこの魔術師ローブのヤドリガミだ。
共に極寒の地を訪れたフィルート・オフハート(理を識る旅猫・f36752)は舞い散る桜の花弁、その一枚に指先で触れてうなずく。
「ボクの生まれた場所もなかなか寒いけれど、ここも相当な寒さだね。撮影している冬桜護たちが凍えないうちに片付けよう。さて、キミの方は準備できてるかな?」
二振りの剣を抜いて両手に構える猫獣人は、羽織を見遣る。
「大丈夫。どんな、攻撃が、来ても、そのまま、行って。援護、する」
たどたどしい口調で告げる羽織。しかし星色をした瞳には、確かな意思が宿っていた。
「心強いね。それじゃ――行こうか! まずはボクが敵の攻撃を惹きつけよう!」
フィルートの着る赤いコートが翻り、手にした刃が輝いた。
二人の相手は『琥珀の天使』。異形の大鎌を手にした女の石像は、今のところ猟兵の動きを観察しているようだ。
「様子見、するなら、見せて、あげる」
羽織が両手を前に突き出せば、ブレスレットに連なる星と三日月がしゃらんと鳴る。
「練り直せば、どんな形にも、なれる。私の、神髄、ここにあり」
喚ばれたのは、空中に出現する百を超えるローブたち。そのどれもが、羽織の着ている星空のローブと寸分違わぬものだ。
ローブの出現に反応するように、琥珀の天使の髪が輝いた。とたん、琥珀色の眩い光が戦場へ広がってゆく。
「この、光は、危ない、ね」
呟いた羽織は、ローブの制御を始めた。宙を舞うローブは、羽織とフィルートの周囲にそれぞれ10ほど展開する。
フィルートはローブを一瞥して笑みを浮かべた。
「なるほど、確かにこれなら足を止めずとも問題ないわけだね。助かるよ」
フィルートに追随するローブが、彼女の前で面を成すように整列する。次いでローブの前が一斉に開き、中に広がっている宇宙が光を受け止めた。光を吸収し終えたローブは、フィルートの進行方向を妨げぬよう側面に移動しながら追随する。
フィルートは剣の切っ先を琥珀の天使に向け、問う。
「さあ、キミの攻撃はこの通り防いだ。次はどうするのかな?」
大鎌の刃が水平に構えられる。どうやらそれが琥珀の天使の答えらしい。
「なるほど、では覚悟するんだね」
真横に振られた大鎌を細身の刃で受ければ、凄まじい力がフィルートを後方へと押しやった。それを見て、すぐさまローブへと指示を出す羽織。
「フィルートを、支えて、あげて。お願い、ね」
側面にいたローブたちが、フィルートの背へと回り込む。ローブは整列するように並んで重なり、フィルートの背を支える壁となった。
「よし、このまま反撃に出るよ。……万物の理よ、その力の一端を解き放ち破壊せよ」
フィルートは片手を掲げ、高らかに告げる。
凝縮された力が、一気に弾ける。琥珀の天使が放ったものよりも更に鮮烈な光は、フィルートが示した相手のみを包み込み、爆音を響かせる。
雪を巻き込んだ爆煙が流れ去った後――琥珀の天使は、今にも砕けそうなほどの亀裂を全身に走らせていた。
成功
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サンディ・ノックス
この世界のオブリビオンは影朧って言うんだっけ
上手くやれば転生に導ける存在
それをはじめて聞いた時、すごく羨ましかったんだよね
また新たな機会を得られる
他の世界のオブリビオンにはそんなもの無いんだから
でも俺は優しいから目の前の影朧が救われることを願ってあげよう
桜の精じゃないから転生させることはできないけどさ
冬桜護さんの中にいるかもしれないし
だから俺のやることはこの影朧の気を晴らす事
話せないみたいだから何を思っているのかはわからないけど
戦って不快な気持ちをぶつけておいで
俺が全部受け止めてあげる
攻撃回数を重視したUC解放・宵を発動し影朧と切り結ぶ
回数を重視していることで攻撃は受け流ししやすいはず
「確か『影朧』っていうんだっけ」
他の世界でいうところのオブリビオンをこの世界での名で呟くのは、サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)。線の細い青年は、確かな足取りでゆっくりと歩みを進める。
影朧が他の世界のオブリビオンと異なるのは、上手くやれば――荒ぶる魂と肉体を鎮めた後に桜の精が癒やすことができれば、転生に導けるという点だ。
(「転生できるってすごく羨ましいことだよね。そもそも他の世界のオブリビオンには新たな機会なんて無いんだから」)
思考する猟兵と敵意を示す影朧の距離が、徐々に縮まってゆく。
『琥珀の天使』は、猟兵たちの攻撃によって無数の傷を負い、身体の一部を切り落とされている。
「そういえば、お前は話せないんだね。だから、何を思っているのかはわからないけれど……俺と戦うことで、少しでも気を晴らして欲しい」
どこか不釣り合いな雰囲気がある黒剣を抜き、サンディは構える。
「さぁ、おいで。俺が全部受け止めてあげる」
直後、禍々しい大鎌の先端が弧を描いた。
石柱をも切断しそうな力で放たれた一撃をいくつもの斬撃で受け、流す。
「それで全てかい?」
穏やかに告げられた問いに、大鎌に込められた力がいっそう強くなる。
しかし大鎌は無数の斬撃によって弾き飛ばされ、雪上に突き刺さった。
琥珀の天使が大鎌を一瞥する暇もなく、黒剣は閃き続ける。
先ほどまで大鎌を受けていた刃は攻撃へと転じ、琥珀の天使の身体へと幾筋もの直線を刻んだ。
「いつか、お前が救われることを願ってるよ」
優しく告げたサンディが、黒剣を収める。
そうして琥珀の天使の顔に視線を向ければ、どこか悲しげな、しかし感謝するような微笑みを浮かべているように見えた。
不意に、琥珀でつくられた髪から欠片が落ちた。続いて顔が、腕が、足が、大鎌が——あらゆる場所が次々と砕け、無数の破片となってゆく。
やがてすべての破片は桜の花弁と雪に紛れ、白い景色の中に消えていった。
大成功
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第3章 日常
『雪の中に散る』
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POW : 雪と桜を眺める。
SPD : 降り積った上を歩く。
WIZ : 昔のことを思い出す。
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猟兵の活躍により、エルズミア島の幻朧桜に巣くっていた影朧は消滅した。
撮影に専念していた冬桜護たちは、安堵の表情を浮かべている。
「これにて撮影は終了です、おつかれさまでした。皆さんのおかげで良い広報資料が作れそうですよ! ——さて、ちょっとお待ちくださいね」
冬桜護の一人が撮影機材を鞄に仕舞い、背負っていた折り畳みテーブルを下ろす。広げる場所は、幻朧桜のふもとだ。続けて他の冬桜護たちが食品や飲料を次々とテーブルの上に並べてゆく。
「撮影も調査も終わったので帰還しましょう、と言いたいところですが……」
「影朧の魂を鎮めるため、宴会を始めますよ!」
そう、これもまた冬桜護の仕事。
危険な場所に咲く幻朧桜を調査し、もし影朧が巣くっていれば倒し、その後は影朧の魂を鎮めるための宴会を開く。そうしてやっと、冬桜護の勤めが完了するのだ。
「さぁ、猟兵さんもどうぞ遠慮なく!」
冬桜護が、桜色をした和硝子のグラスを猟兵に差し出す。
別の冬桜護は幻朧桜を見上げ、表情を緩めている。
「無事に終わって、本当に良かったです。……なんだか、冬桜護になったばかりの頃を思い出しちゃいました」
その言葉を聞いて、他の冬桜護も思わず幻朧桜を見上げた。
雪景色の中に灯る淡く温かな花の色は、猟兵と冬桜護たちの周囲で踊るように舞うのだった。
夜刀神・鏡介
吹雪は収まっているとはいえ、雪の中で宴会をするのは中々剛の者って感じだが、これも必要な事か
尤も、考えてみればこんな事をする機会は……というか、そもそもこんな所まで来る機会は滅多にないし。少しのんびりするのもいいかな
それに、復路だって大変だ。体力を回復しておいた方が良いだろう
酔っ払う訳にはいかないが、宴会だし。雪と桜を見ながら一杯
考えてみれば、雪と桜の組み合わせを当然のように見られるのはこの世界くらいのものか
他の世界でも場所よっては見ることができるとは聞いたけど
そう考えると幻朧桜ってのも大概謎だよなぁ
いや、これは今考える事でもないか
今はこの宴会を楽しんで、そして彼らを見送るとしよう
幻朧桜の枝が風に揺れ、桜の花びらが舞い落ちる。
吹雪は収まっているとはいえ、雪の中ということに変わりは無い。このような場所で宴会を行うというのは、中々に剛の者だ。
そんなことを考えながら、夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は桜色をしたグラスに酒を受けた。
「ありがとう、その位で大丈夫だ」
注がれた日本酒は、グラスの中で2センチメートル程度となっていた。透明の液体が揺れ、華やかな吟醸香が桜の香りと重なる。
鏡介は冬桜護たちとグラスを合わせ、日本酒を口に含む。喉を通る熱に対し、外気の冷たさが僅かに心地よい。
これも、影朧の魂を鎮めるために必要なことだ。
よく考えてみれば、このようなことをする機会は滅多に無い。いや、カナダのエルズミア島を訪れること自体、そうあることではないだろう。
「少しはのんびりするのも、いいかもしれないな」
それに、帰り道のこともある。既に一度通っている道ではあるが、厳しい寒さに変わりは無い。体力を回復しておいた方がいいだろう。
目の前を通り過ぎてゆく雪と桜を一瞥した鏡介は、ふと気付く。
このような風景をさも当然のように見られるのは、サクラミラージュくらいかもしれない。他の世界でも、場所によっては見られると聞いたことはある鏡介だ。
「大概謎だよなぁ、この幻朧桜ってのも」
「そうですね……って、私たちが言ってしまっていいのかどうか」
なんとなしに呟いた言葉に、冬桜護が同意を示して笑う。
鏡介と彼らの視線の先で、薄く色づいた花を咲かせる大木——幻朧桜。鏡介は目を細め、かぶりを振った。
(「いや、今考えるべきことではないか。今はただ、この宴会を楽しんで——」)
鏡介はグラスを傾け、幻朧桜を見上げた。
影朧の魂を鎮め、見送るために。
大成功
🔵🔵🔵
神明・桐伍
宴会を催すことで影朧を慰めることが出来るのか、興味深い。
では、我も「仙壺」より身体を温めるような飲食物を供しよう。生憎と宴会芸などは心得がないが、剣技の型や軽業ならば披露することも可能であろう。
剣は断つ物ゆえ、わだかまる気の残滓を断つ気で振るえばしがらみをも断ち切れるやもしれぬ。
しかし、やはり寒いな。
氷嵐虎に埋まって暖まれば
相伴に預かりながら、冬桜護殿らの志願された由や経験談など聞かせていただきたいものだ。
(冬桜護さんエピソードなどありましたら是非!)
穏やかで優しい、しかしどこか悲しげな音色が響く。冬桜護の一人が奏でるヴァイオリンによるものだ。
宴会を催すことで影朧を慰めるというは、神明・桐伍(神将の宿星武侠・f36912)にとって興味深いことであった。
氷嵐虎に身体を埋めて目を閉じ、音の連なりにしばしの間耳を澄ます。
(「生憎、我に宴会芸の心得は無いが――」)
立ち上がり、宿星剣の鞘を払う。
切っ先は緩やかに移動と停止を繰り返す。音の遷移に合わせて、桐伍の四肢がしなやかな舞いを見せる。
剣は“断つ”物。
わだかまる気の残滓を、何より影朧のしがらみを、少しでも断ち切ることができればと願いながら桐伍は剣を振るった。
やがて音楽が止み、剣が鞘に戻る。一礼する桐伍たちに、冬桜護は喝采を送った。
「――しかし、寒いな。我も何か飲食物を供するとしよう」
桐伍は、おもむろに仙壺の中へ手を入れた。数十秒の後に取り出したのは、湯気の立ち上る粥と酒だ。どちらからも湯気が立ち上っている。
食欲をそそられたのだろう、冬桜護は思わず喉を鳴らした。
「粥には乾燥させた生姜、松の実、胡桃。薬酒には陳皮、桂皮。どちらにも身体を温める効能があるものが入っている」
「ではいただきます! ……これ前回の仕事の後にも食べたかったですね。マフィア街に行ったんですよ」
「私は前回、砂漠だったっけ。あの時は幻朧桜が蜃気楼か本物か、見分けつかなくて」
冬桜護たちの話に微笑む桐伍は、薬酒の入ったグラスを手に再び氷嵐虎に埋もれた。
「斯様に大変な仕事だというのに、どういった由で冬桜護に志願を?」
その問いに、冬桜護たちは身を乗り出した。
「私は、親が冬桜護をしていまして。大変とは聞いていたんですが、無事に帰ってきたときに見せてくれる笑顔が好きだったんですよね。それで気付いたら冬桜護になってました」
「憧れの先輩が冬桜護を目指してるって聞いて、一緒の職場で働きたいなあ、なんて……」
酒の勢いも手伝ってか、熱のこもった言葉で語る冬桜護たち。
まだまだ止まぬ冬桜護たちの言葉を聞きながら、桐伍はグラスを傾けた。
大成功
🔵🔵🔵
サンディ・ノックス
ああ、ユインさん(f33153)も来てたんだ
チェーザレさん(f38414)もいらっしゃい
一緒に宴を楽しもうよ
かまくら作りと聞いて首を傾げる
かまくらもイグルーも聞き覚えのない言葉だから
雪を固めてブロックにして積むんだね
分業したほうが早かったりするかな
もしそうするならどっちをやってもいいよ
寒そうな二人を涼しい顔で見る
かまくら完成後は宴会
戦うからと飲食物は持ってこなかったのでおすそ分けを期待して
楽しんでる皆と桜を慣れない手つきでスマホのカメラに収める
俺も写りたくないかって?そりゃ写りたいよ
なるほど、冬桜護さんにスマホを貸して撮ってもらうって発想は無かったなあ
三人、いや冬桜護さんも一緒に、はいチーズ!
ユイン・ハルシュカ
無事、事は成ったか。
サンディ、それにチェーザレも来たのだな。
せっかくだ。極北の桜でめいっぱい花見と洒落込もうじゃないか。
まずは手袋をはめて、かまくら作り。
本で読んだぞ、こちらではイグルーと呼ぶそうだ。
雪を固めてブロック状にして積み上げていこう。
む、サンディは初めてか。
ボクの届かない所にブロックを積んでくれると助かる。
……うう、寒いな。何か暖を取るものはないか?
かまくらができれば、中に火を灯そう。
雪の壁から少し離して、窓の外が見えるようキャンドルの火を。
和硝子をかざせば、風情も出るだろう。
見たまえ、雪桜に炎。美しいものづくしの共演だ。
せるふぃー、という奴だな。よかろう。
ワルく撮るのだぞ、ワルく!
チェーザレ・ヴェネーノ
宴会するって聞いて駆け付けたよ!
あれ?ユインとサンディはもう着いてたの?
戦ってたんだ、偉いねぇ
桜綺麗…これがない景色想像つかなくて、これ冬の花じゃないって言われてもピンと来ないかも…
ん?かまくら…?ふーん、冬っぽくて良いね
じゃあ俺とりあえず雪を固めるやつやりたい
めっちゃ完璧に美しいブロックを作…いや無理だこれ、雪冷たっ
無心で早く完成させよう…暖をとるもの?雪が溶けちゃうから駄目!
和硝子って初めて見たけど綺麗だねぇ
なんかこれあれでしょ、映えるやつじゃない?
めっちゃ撮るけど俺も映りたい…
あ、冬桜護の人に3人で撮って貰うの? 良いね
ねぇ、このアプリで撮って!普通のカメラより良い感じになるから!
白い世界に舞う雪と桜の欠片は、チェーザレ・ヴェネーノ(月に毒杯・f38414)の眼前を緩やかに通り過ぎてゆく。
「綺麗……」
幻朧桜が無い景色は、まるで想像がつかないチェーザレだ。だから桜は冬の花ではない、と言われてもピンと来ないかもしれない。
その身に雪と桜を受けるがままに幻朧桜を眺めるチェーザレに、サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)がひらりと手を振った。
「チェーザレさん。それに——ユインさんも、お疲れ様」
「あれ、サンディとユインはもう着いてたの?」
「サンディ、それにチェーザレも来ていたのだな。無事、事は成ったようで何よりだ」
肩の雪を払うユイン・ハルシュカ(山羊角の悪魔の四天王・f33153)は満足そうな笑みを浮かべた。
「二人は戦ってたんだ、偉いねぇ。俺はねぇ、宴会する、って聞いて駆けつけたよ!」
無邪気な笑顔を見せるチェーザレに、つい先ほどまで影朧と戦っていたユインとサンディの表情が緩む。
「当然だ、ボクは四天王だからな。さて、提案なのだが……宴会の前に『かまくら』を作るのはどうだ? こちらでは『イグルー』と呼ぶそうだがな」
ユインは本で知ったという知識を披露しつつ、手袋をはめた。
「ふーん、冬っぽくて良いね。かまくら作り、俺は賛成!」
「かまくら……? イグルー……?」
挙手をして同意するチェーザレに対し、馴染みのない言葉に首を傾げるサンディ。
「サンディは初めてか。まずは雪を固めて、ブロック状にするのだ」
ユインがしゃがみ、雪の上に指先でレンガのような直方体の図を描く。続けて矢印を描き、その横に緩やかな曲線二つで完成図を示した。
「そしてブロックを積み上げ、かまくら――このような形のものを作るのだ」
「なるほど、これは分業したほうが早かったりするかな?」
サンディの問いに、チェーザレは素早く身を乗り出した。
「はいはいはい! じゃあ俺とりあえず雪を固めるやつやりたい!」
「なら、ボクはブロックを積むとしよう。サンディはボクの届かない所にブロックを積んでくれると助かる」
「うん、任せて。積む場所の指示があったらよろしくね」
「見てて、ブロック製造担当長としてめっちゃ完璧に美しいブロックを作……いや無理だこれ、雪冷たっ」
得意気な笑みを浮かべたと思いきや、一瞬で無表情になるチェーザレ。その後は無心でブロック製造をこなしてゆく。
めっちゃ完璧に美しくなる予定であったブロックは、それとなく大きさを揃え、だいたい同じような形でサンディとユインの横に置かれる。手が冷え切る前に終えるというコンセプトで、スピード重視の製造に切り替えたチェーザレだ。
ブロックを積み上げる中、ユインがあたりを見回した。
「……うう、寒いな。何か暖を取るものはないか?」
「それは雪が溶けちゃうから駄目!」
チェーザレがすかさず厳しい視線を送る。言いつつ、指先をこすりあわせて寒そうではあるのだが。
そんな二人を涼しい顔で見るサンディは、寒さなどものともしていない様子で順調にブロックを積み上げていく。
「――これで最後、かな?」
ドーム状に積み上げた雪のブロックは、見事なかまくらの姿になった。
「まだだ、仕上げが残っている」
ユインは身を屈め、かまくらの中に何やら置いた。数秒の後、かまくらの中がぱっと明るくなる。
「見たまえ、雪桜に炎。美しいものづくしの共演だ」
かまくらから出て来たユインが、得意気に胸を反らす。サンディは小さく拍手した。
「キャンドルか! またいっそう綺麗だね」
「良いねいいね、撮影必須だよね」
チェーザレは慣れた手つきでスマホを取り出し、素早くかまくらを撮影した。
完成に際して盛り上がる三人に、冬桜護が声をかける。
「作るところを見ていましたが、見事なかまくらですね! こちらをどうぞ、お疲れかと思っていっぱい持ってきましたよ」
「ありがとう。持ってきたのは戦闘に必要なものだけだったからとても嬉しいよ」
サンディが冬桜護の差し出す飲み物や食べ物を快く受け取り、頭を下げる。
桜色をした和硝子のグラスに飲み物を注いだら、宴会の開始だ。
炎に和硝子のグラスをかざせば、硝子と液体を通した光が雪に反射して輝く。
「和硝子って初めて見たけど……綺麗だねぇ」
ため息交じりのチェーザレ、その灰色の瞳には炎の色が揺れている。そのまま少しの間ぼんやりとグラスを見つめていたかと思ったら、はっとした表情でスマホを取り出した。
「なんかこれあれでしょ、映えるやつじゃない?」
キャンドルの横にグラスを置き、構図を探りながら撮影するチェーザレ。
サンディもスマホを取り出した後、慣れない手つきでカメラを起動して撮影を始める。
断続的にシャッター音が響いた後、チェーザレがうつむいた。
「……俺も映りたい……」
「そうだね、俺も映りたいよ……」
サンディもしんみりとして撮影する手を止める。
そんな二人を前にユインは目を細め、人差し指を立てた。
「ここにいるのはボクたちだけではないだろう? ――冬桜護に撮ってもらうのはどうだ?」
「あ、良いね! 三人一緒に撮って貰おう!」
「なるほど、その発想は無かったなあ」
ユインの提案にチェーザレは顔を輝かせ、サンディが手を打ち鳴らした。
呼ばれ、駆けつけてきてくれた冬桜護へ、チェーザレがスマホを渡す。
「このアプリで撮って! 普通のカメラより良い感じになるから! 操作方法はね……」
冬桜護へのレクチャーが終わったところで、三人はかまくらの前にわちゃわちゃと集まった。
「ユインとサンディは準備いい? もちろん俺は準備完了」
「当然だ。冬桜護、ボクのことはワルく撮るのだぞ、ワルく!」
「うん、俺も大丈夫。三人、いや冬桜護さんも一緒に、はいチーズ!」
チェーザレがカメラに目線を向け、ユインが得意気に悪い顔を作り、サンディが合図する。それから間もなく、カメラアプリのシャッター音が何度か響いた。
三人とかまくらに加えて、雪と桜も映り込んだ一枚――どころか何枚かの写真は、どれも影朧の憂いが吹き飛びそうなほどに賑やかな画であった。
大成功
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