ゴーストタウン浄化作戦:青森県むつ市特殊鋼管工場
●コウモリ屋敷の異変
青森県むつ市。
1940年代、その地には国営の極めて大規模な製鉄工場があったという。折しも時代は金属需要が増していた時期。一時期は800人近い従業員を抱える大工場にまで発展した。
だが、やがて時代は移り変わり、それに伴って工場も閉鎖されることとなった。主要なエネルギーが石油に代わり、砂鉄から鉄を作るよりも鉄鉱石から製錬する方法が主となったためだ。
かくして、工場は閉鎖されたのだが、なにしろ巨大な施設である。取り壊しにかかる費用も膨大であり、解体されぬまま放棄され……いつしか、周囲を草木で覆われた、巨大な廃墟と化していた。
地元の住民は、その工場の跡地を『コウモリ屋敷』と恐れて近づかない。人の手がなくなった今、そこは巨大なコウモリ達の根城とされていたからだ。
だが、そんな『コウモリ屋敷』に、ここ最近で異変が起きた。森の中からは昼夜を問わず甘い香りが漂い、コウモリ達もめっきり姿を消してしまった。
真相を確かめるべく、何人かの廃墟マニアが廃工場へと向かったが、帰って来た彼らは既に人としての理性を失っていた。
「あぁ……砂糖……砂糖をくれぇ……」
「甘いもの……なんでもいいから、浴びるほど飲みたい……」
そう言って、彼らは虚ろな瞳をしたまま砂糖を齧り、蜂蜜や生クリームを飲み続け……病院に収容されても状態は改善されず、やがて命を落としたという。
●生クリームは飲み物です!?
「青森県のむつ市で、ゴーストタウン現象が確認されたみたいだね。なんだか美味しそうな……じゃなくて、危険な香りがするし、これは放っておけないんだよ」
思わず本音が漏れそうになり、穂村・耶子(甘党残念剣士・f35497)は咳込みながら猟兵達に告げた。
ゴーストタウン。それはシルバーレイン世界において、人のいなくなった廃墟や廃村などを、危険なゴーストが跋扈する異界に変貌させたものである。
「このゴーストタウン現象を引き起こしているのは、オブリビオン化したゴーストだよ。銀誓館学園の能力者でも、猟兵じゃない人だと手に余る相手なんだ」
耶子の話では、現象が確認されたのは、市内の雑木林の中央に位置する廃工場。地元ではコウモリ屋敷として有名で、誰も近づかない場所だったが……いつしか、林から甘い香りが溢れ出し、コウモリ達の姿も見かけなくなったという。
異変の原因を調べるべく、興味半分、廃墟マニア達の中には廃工場へ向かった者もいるらしい。だが、その誰もが精神を破壊され、重度の甘党となった挙句、最後は甘味欠乏症で死んでしまった。
「あ! 今、あんまり怖いくないって思ったでしょ! でも、甘い物が食べられないで死ぬって、本当に辛いことなんだからね!」
どうやら、超絶な甘党である耶子にとっては、他人事とは思えなかったらしい。まあ、それを抜きにしても、甘い物が食べられないと死ぬ身体にされてしまうというのは、なかなかどうして恐ろしい。
「僕の予知だと、工場の中には白い液体が流れている場所があるんだよね。事件が事件だけに、たぶんこれ、生クリームだと思うんだけど……」
問題なのは、そのクリームを口にして、果たして無事でいられるのかということ。被害者達のことを考えると、あまり触れない方が良いのかもしれないが……しかし、このクリームの川を越えなければ、工場の奥には入れない。
「工場の奥に進めば、今回の事件を起こしているオブリビオンゴーストに会えるはずだよ。甘い物好きに悪い人はいないって思いたいけど……説得でどうにかできる相手じゃないよね、たぶん」
どちらにせよ、ゴーストタウンをこのまま放置しておくわけにはいかないのだ。放っておけば、危険な生クリームがいずれは工場から溢れ出し、近くの街を飲み込むかもしれない。
そうなる前に、なんとしても事件の元凶たるオブリビオンゴーストを討伐して欲しい。ついでに、何か甘い物を買って来てくれたら……。そんな言葉を慌てて飲み込みつつ、耶子は猟兵達を青森県の廃工場へと転送した。
雷紋寺音弥
こんにちは、マスターの雷紋寺音弥です。
青森県のむつ市で、ゴーストタウン現象が確認されました。
場所は、かつての特殊鋼管工場跡地です。
内部に潜むオブリビオンゴースト達を撃破し、この地を浄化するのが最終目的になります。
●第一章(冒険)
謎の白い液体が流れている場所を通過します。
ここを通過しないと先へ進めませんが、何も考えず液体に触れるのは、あまり好ましくないかもしれません。
●第二章(集団戦)
廃墟内を徘徊するオブリビオンゴーストの群れと戦います。
敵の正体は、現時点では判明していません。
ゴーストタウン内部の地形を上手く利用して戦うと、プレイングボーナスが得られます。
●第三章(ボス戦)
廃墟の最深部で、事件の元凶であるオブリビオンゴーストと戦います。
敵の正体は不明ですが、どうやら甘い物を武器に利用する存在のようです。
第1章 冒険
『おかしな工場を突破せよ』
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POW : 我慢して移動する。
SPD : 急いで移動する。
WIZ : 他のことを考えながら移動する。
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オリヴィア・ローゼンタール
過剰な糖分摂取は病を招くそうですが……
ともあれ、調査のためにはこの白い川を越えねばなりませんか
ならば水着……去年着たスクール水着にしましょうか
アリスラビリンスなら生クリームの川が流れていても不思議ではないですが、UDCアースに近いこの世界では明らかに異常ですね
【トリニティ・エンハンス】で水の加護を得て防御力を強化し、白い川にざぶんと跳び込む
……ふぅむ、毒や呪いなら【浄化】できますが、単純に砂糖を多量に含むせいでべたついて泳ぎにくいですね
敵の襲撃はないようなので、焦らずに泳ぎましょう(水泳・水中機動)
川から上がっても全身がぬるぬるべたべた……早く終わらせて、普通の水浴びをしたいですね
●生クリームの川渡り!?
ゴーストタウン現象の報告があった廃工場を訪れると、そこはなんとも甘ったるい香りで充満していた。
「過剰な糖分摂取は病を招くそうですが……」
あまりに強烈な香りに、オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)は思わず顔を顰めた。何も食べていないのに、匂いだけで胸が焼けそうだ。いったい、いつからこの廃工場は、鉄工場からお菓子工場に変わってしまったのだろう。
「ともあれ、調査のためにはこの白い川を越えねばなりませんか」
目の前を流れる生クリームの川。橋などなく、さりとてジャンプで越えられるほどの幅でもない。天井を這って行くわけにもいかなかったので、仕方なくオリヴィアは、水着に着替えて渡ることにした。
幸い、去年まで使っていたスクール水着を持って来ている。周囲に誰もいないことを確認し、手早く着替えを済ませると、オリヴィアは意を決して生クリームの川へ飛び込んだ。
「うぅ……これは……」
瞬間、川から立ち昇る生クリームの匂いが、オリヴィアの鼻腔を刺激する。至近距離から匂いを嗅ぐと、それだけで甘い唾液が止まらなくなるほどに、強烈な香りを発している。
「……ふぅむ、毒や呪いなら浄化できますが、単純に砂糖を多量に含むせいでべたついて泳ぎにくいですね」
予め、ユーベルコードで水の加護を得ているとはいえ、それにしても粘性が高くて泳ぎにくい。足こそ容易に底へ届くものの、流れているのがクリームなので滑りやすく、一度でも転んだが最後、全身生クリームまみれになるのは間違いない。
アリスラビリンスならいざ知らず、こんなおかしな川が工場の中を流れているなど、シルバーレインの世界においては完全に異常事態。万一、これが工場の外に溢れ出しでもしたら、付近住民のパニックは避けられまい。
これは、一刻も早く事件を解決しなければ、色々と拙そうなことになりそうだ。慎重に歩を進めつつ、なんとか川を渡り切ったオリヴィアだったが、やはりというか全身は生クリームにまみれてベタベタだった。
「……早く終わらせて、普通の水浴びをしたいですね」
思わず、軽く舐め取ってしまおうかとも思ったが、事件の被害者達のことを思い出し、それは止めた。全身に付着したクリームのせいで、ともすればイケない妄想を喚起しそうな姿になっているが、それはそれ。
見た目は普通の生クリームでも、きっと何か仕掛けがしてあるに違いない。こんな場所で砂糖中毒にされては堪らないと、オリヴィアは誘惑を振り切って工場の奥へと歩を進めた。
大成功
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露木・鬼燈
謎の白い液体ねー
なんかイヤな予感がするよね
とゆーことで回避していくのがいいのかな?
まぁ、飛んでしまえば避けるのは簡単なんだけど…
ここを避けても先でまたかかわる気がする!
なので先に進む前に対策をする必要があるのです
この液体を分析して中和剤とか解毒剤を作っておくっぽい
<微小機械技師>で必要なナノマシンを作って作業するですよ
ふむふむなるほどなー
耐性付与と治療用のナノマシンができたっぽい
これさえあれば謎の液体も怖くないのですよ!
まぁ、それでも避けて進む方が賢明だけどね
●甘いものは麻薬です!?
目の前を流れる生クリームの川。粘性の高い純白の液体を前に、露木・鬼燈(竜喰・f01316)は二の足を踏んでいた。
「謎の白い液体ねー。なんかイヤな予感がするよね……」
これまでの経験からして、こういう変なものに触れたが最後、理性を失いアホにされてしまう可能性が極めて高い。被害者の状況からして、イケない悪魔が用いる謎の白濁液……なんてことはなさそうだが、どちらにしろ触れないに越したことはない。
辺りを見回しても橋のようなものはないので、仕方なく鬼燈は飛んで行くことにした。空を飛べる者にとっては、こんな川など障害にもならない。だが、ここで何もなく川を渡れても、この先で再び同じ生クリームが現れないとも限らないわけで。
「……先に進む前に、分析しておく必要があるっぽいね」
生クリームを軽くすくって、鬼燈は成分分析にかけた。自分で触れなくとも、作業はナノマシンがやってくれるから安心だ。そして、気になる成分の方だが……まず、糖度が物凄い! 完全に数値が振り切れており、殆ど測定不能である。
「うわぁ……。これは、糖尿病患者が舐めたら即死するっぽい?」
砂糖の塊より甘い生クリームに、鬼燈は完全にドン引きだった。いったい、何をどうすれば、こんな常識外れの物体が作れるのか。おまけに、クリームには麻薬に似た成分も含まれており、一度でも体内に摂取したが最後、重度の糖質中毒になる可能性が極めて高かった。
やがて、成分分析を終えた鬼燈は、それをベースに態勢付与と治療用のナノマシンを作成した。とりあえず、これで万が一にも生クリームを食べることがあっても、砂糖中毒にはならないと思うが。
「これさえあれば謎の液体も怖くないのですよ! まぁ、それでも避けて進む方が賢明だけどね……」
さすがに、ナノマシンの性能を過信してクリームの川にダイブする勇気はなく、鬼燈は川の上を飛んで渡って行くのであった。
大成功
🔵🔵🔵
鈴乃宮・影華
E『グリモア猟兵のあの子、結構な甘党みたいだけど影華ちゃんはどうなの?』
私も蟲達も「腹に溜まれば何でもいい」派です
銀誓館入学前は味がどうこう以前にまともな人間用の食事が無かったもので
……E.N.M.Aが『アムレートゥム』でこの近辺のスイーツを検索しだしたんですが
穂村さんへの差し入れですか?
さて、まずは生クリームの川を踏破しないといけない訳ですが
『ペルフェクティオ』をグイっとキメて『フォルティストラ』着用の後指定UC起動
諸々の耐性を上げた状態で普通にざぶざぶ浸かりながら通過しましょう
要は生身で摂取しなければ大丈夫だと思うんですよ
……しかし何でできてるんでしょうね、このクリーム
●原料はどこから?
甘味が悪意を持って、人の心を侵して来る。冗談で済めば笑い話だが、現実となれば悪夢である。
事件を解決すべく、鈴乃宮・影華(暗がりにて咲く影の華・f35699)もまた現場へと向かった。だが、彼女が油断なく廃工場を進む中、相棒の制御AIは、何故か近辺にスイーツの店がないかどうか検索していた。
「グリモア猟兵のあの子、結構な甘党みたいだけど影華ちゃんはどうなの?」
「私も蟲達も『腹に溜まれば何でもいい』派です。銀誓館入学前は、味がどうこう以前にまともな人間用の食事が無かったもので」
過酷な生活を続けていたこともある影華にとって、食事とは栄養補給以外に意味を持たないものだった。しかし、それにしても……何故にAIはスイーツの店など検索しているのだろうか。もしかすると、事件を解決した後に、グリモア猟兵に土産を買うための店を探しているのかもしれない。
「……さて、まずはこの川を渡らないといけないわけですが……」
やがて、生クリームの川が流れている場所に辿り着き、影華は辺りを見回した。
橋やゴンドラといった、物理的に川を越えるための手段は用意されていない。ここは気合で渡るしかなさそうだが、さすがに生身のまま謎のクリームに飛び込むわけにもいかない。
装甲服に身を包み、専用のドーピングを服用した上で、影華は意を決して生クリームの川へと飛び込んで行く。幸い、深さはそこまでないようで、足がつくため泳ぐ必要もなかったが。
(「……ちょっとでも油断すると滑りそうですね」)
粘性の高いクリームの中では動きが取り難く、おまけに浮力も水ほど働かない。滑って転んで、その拍子にクリームを飲んでしまった等という事態になれば、洒落にならない未来が待っているのは明白だ。幸い、強化服や黒燐蟲が守ってくれたのか、影華の身体には何の異変も起きていなかったが。
「……しかし、何でできてるんでしょうね、このクリーム」
無事に川を渡り終えたところで、影華は改めてクリームの材料について考えた。こんな廃工場に生クリームの原料があるとは思えないので、やはりゴーストが自らの能力で生成しているのかもしれない。
どちらにせよ、その答えは先に進めば分かるはず。まだ見ぬ謎の敵を倒すため、影華は付着した生クリームを軽く払い落とし、廃工場の奥へと進んで行った。
大成功
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ソフィア・ガーランド
甘味は良い物ですが、それが人に害を与えることになるのならば浄化しなくてはなりませんね
猟兵として覚醒した以上、わたくしも責務を果たします
それにしても栄枯盛衰とはこのことでしょうか
昔は活気のあるところだったのでしょうが、今はもう木々が生い茂る廃墟ですね
自然に還るといえば聞こえはいいですが……
生クリームの川は触れないように渡るために、周囲を散策し地形を把握しながら迂回できそうなところや、川幅の狭そうなところを探しましょう
いい場所を見つけましたら周囲の廃材などを川に投げて浮かべ足場とし、月光の魔力を放出して一気に駆け抜けます
●フロート・タイム・アタック!
人の味覚を破壊し、脳を破壊し、その果てに甘味欠乏症で死に至らせるという恐るべき生クリーム。月光の魔女として、そして猟兵としての責務を果たすべく、ソフィア・ガーランド(月光の魔女・f37563)もまた廃工場を訪れていた。
「甘味は良い物ですが、それが人に害を与えることになるのならば、浄化しなくてはなりませんね」
それにしても、周囲に漂う甘い香りとは反対に、工場は随分と荒れ果てている。ここに来るまでも草木が鬱蒼と生い茂り、何も知らない者であれば、ここに廃工場があることされ気付かないかもしれない。
正に栄枯盛衰。自然に還るといえば聞こえはいいが、実際は今までも巨大蝙蝠たちの巣にされており、そして今は危険なゴーストに利用されてしまっている。人間の作り出したものというのは、最後は人間の手で壊してから自然に還さねば、大なり小なり、やがては人間の生活を脅かす元凶になってしまうのかもしれない。
「さて……これが、問題の川ですね」
生クリームの流れる謎の川を前に、やがてソフィアは足を止めた。
工場内を流れる川なので、幅の広い、狭いはそこまでない。迂回できそうな場所もなく、橋が架かっているわけでもないので、まともに渡るのであれば、中に飛び込むしかないのだが。
「さすがに、あの中に飛び込むのは気が引けますね」
クリームの正体が分からない以上、迂闊に触れるのは危険が高い。ならば、せめて足場を用意しようと、ソフィアは周囲の廃材を生クリームの川へ投げ込んで行くが。
「廃材が沈む!? ……あまり、時間はなさそうですね」
油分の多い生クリームは、それだけ水と比べても浮力が弱い。そのため、水であれば浮くものも、廃材の素材次第では、生クリームの川底へと沈んでしまう。
このまま眺めていては、折角の足場が台無しだ。意を決し、月光の魔力を全身から放出することで、ソフィアは一時的に身体能力を向上させて跳躍する。足場を踏んだら、その足場が沈む前に、再び跳躍。自分が沈むのが先か、足場が沈むのが先か……正に、数秒の差を争いながら、ソフィアは最後の足場を蹴り飛ばし。
「どうやら、無事に渡れたようですね」
最後の足場が自分の代わりに沈んだところで、ソフィアは周囲の気配に意識を向けながらも、廃工場の奥へと歩を進めた。
成功
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ティエル・ティエリエル
あまーいものは美味しいけど、食べすぎはよくないんだよ♪
甘いものばっか食べてたらママにも怒られちゃうからね!
きちんとお野菜もた、食べてるよ!はちみつばっかり舐めてないからね!
なんだかママのこわーい視線を感じた気がするけど、気を取り直して工場の奥まで飛んでいっちゃうぞー☆
ふふーん、生クリームの川なんて空中を飛んでいけばへっちゃらだよね♪
ちょこーーーっと、どれくらい甘いのか気になってたら、頭上から生クリームが!?
なんとか間一髪避けて、生クリームはお仕事後にたっぷり乗ったパンケーキを頼むことを決めて我慢我慢だよ♪
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
●甘い香りの恐い誘惑
訪れた者達を悉く甘味中毒とし、死に至らしめる恐るべき廃墟。甘い物好きのティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)にとっては魅力的な誘惑だったが、しかしさすがにスイーツを食べて死ぬわけにもいかない。
「あまーいものは美味しいけど、食べすぎはよくないんだよ♪ 甘いものばっか食べてたらママにも怒られちゃうからね!」
冒険のため実家を飛び出してからも、ちゃんと食生活は心がけている。ハチミツばかり舐めているわけではなく、しっかり野菜も食べている……はずだと、自分の心の中に言い聞かせるが、何故か先程から鋭い視線を感じて仕方がない。
「なんだかママのこわーい視線を感じた気がするけど……気のせいだよね」
ここはゴーストタウン。きっと、親玉のゴーストが、どこかで目を光らせているからだと、ティエルは強引に自分を納得させた。
なお、彼女は妖精国のお姫様なので、彼女の母親は当然ながら妖精国の王妃様。そのため、猟兵ではなくとも多少は魔術の心得などもあるはずで……実は、水晶玉でティエルの活躍を今までもこっそり覗いていたとか、生活を監視していたとか、そういった可能性がないわけでもないのだが。
それでも、余計なことは考えず、ティエルは廃工場の奥へと進んでいった。しばらく進むと、生クリームの流れる川が姿を現したが、空を飛べるティエルにとっては関係ない。
「ふふーん、生クリームの川なんて空中を飛んでいけばへっちゃらだよね♪」
こんなもの、障害にもならないと、ティエルは余裕で上を飛んで行く。だが、下から立ち昇る甘い香りに、思わず心を乱されてしまいそうになる。
ほんの少し……ほんの一口だけ、どれくらい甘いか試してみるくらいは良いのではないか。そんな思いが彼女の心を掠めた瞬間、何故か大量の生クリームが頭上から降って来た。
「うわわ! あ、危なかった……」
後少し、反応が遅れたら、全身生クリームまみれにされて川底へ叩き落されているところだった。
粘性が高く、おまけに浮力も殆どない生クリーム。一度でも落下したが最後、そのまま底に沈んでしまい、二度と再び浮かんでくることはできなかっただろう。いくら甘い物が好きとはいえ、生クリームに溺れて死ぬなんて冗談ではない。
生クリームは、仕事終わりに近所のカフェでパンケーキを注文し、それにたっぷりと乗せて楽しめば良い。そう割り切って、ティエルは辛くも川を越えると、廃工場の更に奥へと飛んで行った。
大成功
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第2章 集団戦
『寂しがり屋の苺雪兎』
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POW : ヘヴンリィ・ストロベリー・ストーム
戦場全体に【苺果汁の雪(ストロベリースノウ)】を発生させる。レベル分後まで、敵は【苺色のベタつく雨】の攻撃を、味方は【優しい雪】の回復を受け続ける。
SPD : 小苺奏甲
【小さな苺】を纏わせた対象1体に「攻撃力強化」「装甲強化」「敵対者に【苺の香りによる腹ペコ状態】を誘発する効果」を付与する。
WIZ : 苺影杖
自身と武装を【苺のオーラ】で覆い、視聴嗅覚での感知を不可能にする。また、[苺のオーラ]に触れた敵からは【生命力と満腹感】を奪う。
👑11
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●Give me strawberry ?
甘い香りの漂う廃工場。なんとも異質な雰囲気の場所を進んで行くと、その奥から現れたのは、これまた場違いな衣装に身を包んだ少女達だった。
「あっ! また、お客さんだよ」
「あの人達は、苺さん持っているのかな?」
苺の髪飾りに苺の杖が目を引く、兎の耳を生やした少女達。ともすれば、メルヘンの国にでもいそうな格好の彼女達ではあるが、しかしここはアリスラビリンスではなく銀の雨が降る世界。
ゴーストタウンにいる以上、彼女達もまた危険なゴーストなのだろう。果たして、その予想は正しく、少女達は互いになんとも危険な言葉を口走り始めた。
「苺さん持っているかどうか、今から調べてみない?」
「うん、そうね。頭をガツンと割ってみたら、今度こそ苺さんが出て来るかもしれないし♪」
いったい、こいつらは何を言っているのか。笑顔のまま物騒な話をしているのが、一周回って恐ろしい。苺を持っているかどうか調べるため、侵入者の頭をカチ割るなど、完全に常軌を逸している。
彼女達は、純粋に苺を欲しているだけなのかもしれない。しかし、この地に漂う毒気に中てられたのか、はたまたオブリビオンゴーストとして顕現してしまったが故か、その欲望は恐ろしい程にまで歪まされていた。
「ねえ、あなた達は、苺さんを持っている人?」
「持っていたら、私達に頂戴ね。持っていないなら、代わりに命を頂戴ね♪」
屈託のない笑顔のまま、とんでもないお願いをしてくる少女達。少しばかり可哀想な気もするが……ここで彼女達の願いを受け入れるわけにはいかない。この地を浄化するためにも、彼女達には在るべき場所へ、還ってもらう他になさそうだ。
鈴乃宮・影華
生クリームの川の次は苺好きの兎さんかぁ……
ここシルバーレインですよね?
E『大丈夫よ影華ちゃん、同じ世界の別の場所に移動しただけ』
あぁ、それならいいんです
デビルキングワールドとかだとあんな言動してても人死にが出てなかったりするので
多少の加減が必要になるんですけど――
いつものゴースト退治なら、遠慮は要りませんね
苺は持ってないので
飛翔する『閃閃狂鋏』や『ラディウス』投槍でプレゼント攻勢
姿を消されたら指定UC起動
「にゃはは、光華お姉ちゃん相手にそれはムダムダというものだにゃー」
姿が消えても其処に「居る」以上、荒れ狂う暴風はあなたたちをブッ壊すにゃ!
生命力とかを奪われても風が浄化してくれるにゃ
●兎さんに逃げ場なし!
生クリームの川を越えたら、その先に待っていたのは苺好きの兎さん。廃工場にゴースト退治に来たはずなのに、どこかメルヘンチックな雰囲気は、どうしても相対する者の感覚を麻痺させてゆく。
「……ここシルバーレインですよね?」
ともすれば、アリスラビリンスにでも迷い込んだのではないかと錯覚し、鈴乃宮・影華(暗がりにて咲く影の華・f35699)は思わず呟いた。
『大丈夫よ影華ちゃん、同じ世界の別の場所に移動しただけ』
「あぁ、それならいいんです。デビルキングワールドとかだと、あんな言動してても人死にが出てなかったりするので、多少の加減が必要になるんですけど……」
AIの言葉に、影華は気を取り直して武器を構える。
これは、いつものゴースト退治だ。それならば、何も遠慮することはない。相手の容姿がいかに愛らしいものであったとしても、それがまやかしに過ぎないと影華は知っていた。
「ねぇ……さっきから、誰とお話しているの?」
「あなたは、苺さんを持っている人? 持っているなら、ちょうだいね」
そうこうしている内に、周囲に兎達が集まって来た。相変わらず、苺を催促するばかりだが、ここで『持っていない』と答えれば、八つ当たりに人の命を奪うような連中だ。
「生憎ですが、苺は持っていません。その代わり……これをプレゼントしてあげましょう」
そう言うが早いか、影華は手にした巨大な鋏や飛翔する槍を、兎達目掛けて投げつけた。いきなり攻撃されるとは思っていなかったのか、鋏や槍の直撃を食らった兎は、瞬く間に霧となって消滅してしまった。
「きゃぁっ! この人、怖い!」
「は、早く隠れなきゃ!!」
自分達の所業を棚に上げて、兎達は苺のオーラで身体を覆うと、その力を利用して影華の視界から消えて行く。だが、いかに姿を隠そうと、そんなものは影華にとって、なんの意味もないものだ。
「彼の力を以て世界を騙す……記憶より現れよ、我が親愛なる家族」
まるで本物の魂が肉体に降りたかの如く、影華は唐突に己の姉の物真似をし始めた。すると、周囲には暴風が荒れ狂い、兎達を情け容赦なく吹き飛ばして行く。
「にゃはは、光華お姉ちゃん相手にそれはムダムダというものだにゃー」
雰囲気や仕草だけでなく口調まで姉のものに代わり、影華は兎達を吹き飛ばし続ける。いかに姿を消したところで、そこに存在する以上、無差別攻撃の前には完全に無意味だ。
「「「きゃぁぁぁぁっ
!!!」」」
哀れ、兎達は逃げる暇もなく吹き飛ばされ、そのまま固い床に叩きつけられて消滅した。もしかすると、彼女達は本当に苺が食べたいだけだったのかもしれないが……それでも、人を殺める可能性がある以上、放っておくわけにもいかなかったのは事実。
「さて……露払いは、これで十分ですね。先へ進みましょう」
やがて、影華の口調が元に戻った頃には、周囲は再び静寂を取り戻していた。
大成功
🔵🔵🔵
オリヴィア・ローゼンタール
着替えも水浴びもできてないので全身が生クリームまみれ、頭部に赤色(眼鏡)、たしかにイチゴのショートケーキに見えなくも……いえ、ないですね
敵の言動もアリスラビリンスめいて困惑を誘いますが、見えず、聞こえず、匂わず……なかなか厄介な能力を持っていますね
しかし対策はある
【怪力】を以って聖槍を【なぎ払い】、【衝撃波】を巻き起こす
何十年も前に打ち捨てられた工場ならば、砂や埃が堆積している筈
辺り一面を塵で覆ってしまえば、逆にぽっかりと何もない場所が浮かび上がる
透かさず呪い(属性攻撃・全力魔法)を帯びた聖槍、【呪穿魔槍】で突き穿つ
――苺は毒林檎に成り果てり
●毒苺の洗礼
生クリームの川を、強引に渡って越えたオリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)。だが、その代償として彼女の身体はクリームまみれ。水浴びもできていないので、未だに全身がベタベタだ。
「あ! あっちの方から、ショートケーキが歩いてくるよ!」
「本当だ! 苺さん、食べられるかな?」
そんなオリヴィアの姿を見て、何故か勘違いした兎達が、大量に集まって来た。確かに、今の彼女は赤い眼鏡に生クリームまみれという格好だが、何故にそんな結論に辿り着くのだろうか。
「たしかにイチゴのショートケーキに見えなくも……いえ、ないですね」
思わず納得しそうになり首を横に振るオリヴィアだったが、兎達は相変わらず勘違いしたままだ。彼女達は早々に苺オーラで姿を消すと、こっそり忍び寄ることで、オリヴィアに齧りつこうとしているようだが。
「見えず、聞こえず、匂わず……なかなか厄介な能力を持っていますね。ですが……!」
怪力に任せて、オリヴィアは槍で周囲を薙ぎ払った。無論、それで当たるとは思っていない。本命は、槍の一閃によって生じる衝撃波。ここが既に打ち捨てられた廃墟である以上、床には砂や埃が堆積しているわけで。
(「うぅ……なに、これ
……!」)
(「うへぇ……埃を食べちゃったよぉ……」)
思わぬ先制攻撃を食らい、混乱する兎達。それでも、やはり彼女達の姿は見えない。埃を巻き起こせば、それで透明になった部分が姿を見せると思われたが……彼女達の使用する苺オーラは、五感による認識を歪めるユーベルコード。恐らく、ペンキをぶっかけたところで、そのペンキ諸共に透明化させてしまうような代物だ。
「埃を使っても姿は見えないようですね。もっとも……『身体に触れていない埃』までは、さすがに消せないようですが」
それでもオリヴィアは、微妙な埃の流れの変化から、兎達の位置を特定して槍を放つ。いかに周囲の背景と同化しようと、それでも実態が存在する以上、それが邪魔して埃が真っ直ぐに落ちない箇所が生じるからだ。
「我が槍に穿たれしもの、決して癒えることなし……」
(「えぇっ! な、なんで、こっちの場所が!?」)
自分達の居場所を正確に捉えて来るオリヴィアに、兎達は驚愕の表情を浮かべながら、次々と狩られて行くだけだった。透明化したことも相俟って、完全に油断していた彼女達は、避けるという考えすらなかったようで。
「……苺は毒林檎に成り果てり」
槍先から迸る呪詛が、猛毒となり兎達の身体を蝕んで行く。苦しむ彼女達を尻目に、オリヴィアは先を急いだ。多少、可哀想な気もするが……彼女達が危険なゴーストである以上、戦いは避けられなかったのだから。
成功
🔵🔵🔴
ソフィア・ガーランド
見た目は可愛らしいウサギの女の子ですが、元よりゴーストの危険性は見た目によらないですからね
この場所をあるべき姿に戻す為、一つ心を鬼にして挑みましょう
残念ながらわたくしは苺は持ち合わせておりません
好きではありますけどね
代わりにはなりませんが、貴女たちには浄化の安らぎを、そして眠りにつくに相応し舞台を用意いたしましょう
杖の柄で地面を叩き月夜を発生させます
苺雪兎の攻撃は杖でいなし、こちらは見えない三日月の刃で責め立てていきつつ、鉄骨やコンクリ塊など何か破壊しても問題ない物が周囲や天井にあればそれも切断し倒したり落としたりして追い詰め、確実に仕留めていきます
●兎、月夜に逃げ惑う!?
見た目は可愛らしい兎の少女。しかし、ゴーストの危険性というものは、見た目によって判断できるものではない。
この場所を在るべき姿に戻すためには、彼女達を排除せねばならないのだ。心を鬼にして、ソフィア・ガーランド(月光の魔女・f37563)は兎達に挑む。たとえ、彼女達が本当は、単に苺を欲するだけの存在だったとしても。
「ねえ、あなたは苺さんを持っているの?」
「持っていたら、隠さないで全部ちょうだいね」
相変わらず兎達は、苺にしか興味がないようだ。ともすれば、侵入者が苺を隠し持っているのではないかと疑い、叩き殺してでも調べようとするほどに。
「残念ながら、わたくしは苺は持ち合わせておりません。好きではありますけどね」
せめて、その代わりに浄化の安らぎを与えようと続け、ソフィアは月皇女の力を発動させる。苺と違って食べられないかもしれないが、せめて魂だけでも浄化して、眠りにつくのに相応しい舞台を与えようと。
「月は等しく、皆様を照らします」
「え? いつの間に外に出ちゃったの……?」
ソフィアが杖の柄で地面を叩いた瞬間、建物の中であるにも関わらず、周囲が月夜に変化した。それだけでなく、どこからか飛んでくる三日月の刃が、次々と兎達を斬り刻んで行く。
「きゃぁ! なにこれぇ!」
「こんなの要らないよぉ! それより、早く苺さんちょうだいよぉ!」
泣きながら逃げ惑う兎達だったが、ある意味では自業自得な結末だ。どれだけ愛らしい姿でお願いしようと、彼女達が自分の願いを聞き入れなかった者を、残虐な方法で殺したかもしれないという事実は変わらないのだから。
「逃げ場はありませんよ。どこにも……」
咄嗟に、窓の外へ飛び出そうとした兎の前に、ソフィアは天井を攻撃することで瓦礫の山を降り注がせた。哀れ、逃げ出そうとしていた兎達は瓦礫の山に押し潰され、そのまま動きを止めて消滅して行った。
大成功
🔵🔵🔵
露木・鬼燈
わかる、わかるですよ
苺と生クリームの相性はバッチリ
生クリームがあれば苺がほしくなるよね
あの生クリームの川が伏線だったとはっ!
まぁ、ここに苺なんてないから意味はないんだけどね
僕の頭をかち割っても苺はでてこないなですよ?
もちろん命も上げられないのです
ふむふむ、交渉決裂でバトルです?
まぁ、そーなるよね
とゆーことで<響怨>をドーン!
これは感知とか関係ない範囲攻撃なのできっと最適解っぽい
そして相手の状態がわからないのでひたすら連打するですよ
雑な攻撃は時と場合によっては強いのだっ!
●地獄の響怨リサイタル
生クリームといえば苺! 苺といえば生クリーム!
この二つが奇跡の融合を果たしたショートケーキは、オーソドックスにして誰もが喜ぶ極上のスイーツ!
「わかる、わかるですよ。苺と生クリームの相性はバッチリ! 生クリームがあれば苺がほしくなるよね」
きっと、この兎達も生クリームの匂いに釣られて来たのだろうと、露木・鬼燈(竜喰・f01316)は勝手に納得していた。そんな鬼燈の姿を見て、兎達も何かを期待する眼差しを向けて来る。
「ねぇ、あなたは苺さん、持ってるよね? 隠すと、ためにならないよ?」
「苺さんくれないなら、頭をガツンと割っちゃうよ。苺さん持ってないなら、代わりに命をちょうだいね」
いや、それって、どっちにしても死にますよね? なんとも無茶苦茶なお願いをしてくる兎達に、さすがの鬼燈の苦笑を浮かべる他にない。
「僕の頭をかち割っても苺はでてこないですよ? もちろん命も上げられないのです」
そういうわけで、交渉は決裂。バトルで黙らせる他にないわけで……鬼燈は魔剣を引き抜くと、その中に込められた竜の怨嗟を解き放ち、周囲に凄まじい咆哮を響かせ始めた。
「剣我一体……魔剣技・響怨!」
「「「いやぁぁぁぁっ! なにこれ耳がぁぁぁぁっ
!!!」」」
途端に、兎達は杖を放り投げ、両手で耳を押さえて蹲ってしまった。
兎というものは耳が大きいだけに、遠くの音でも拾って聞ける。故に、至近距離で轟音を発せられると、それだけで身体が痺れてしまう。
ましてや、鬼燈の放ったのは、聞いただけで呪われる竜の咆哮。そんなものを浴びせられれば、もはや兎達にとっては戦うどころの話ではない。
「あぁ……ぁぁぁ……」
ある者は、口から泡を吹いて完全に失神し、もはや倒されるのを待つばかり。他の者達は一斉に姿を消して逃げようとするものの、鬼燈の放つ音は全方位に響くため、当然のことながら逃げ場もなく。
「まだまだ連打するですよ。そ~れ!」
「「「ひぎゃぁぁぁぁっ! ま、また来たぁぁぁぁぁっ
!!」」」
姿を消していようと、音の影響からは逃れられない。鬼燈の情け容赦ない無差別攻撃の前に、兎達は殆ど何もできないまま、呪詛の咆哮を浴びせられて完全にノビてしまったのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ティエル・ティエリエル
ようし、到着だー♪
あれ、まだまだ先があるのかな?
とりあえず苺のウサギ達はオブリビオンみたいだね?
むむ?(ボクの髪色を見て)苺じゃなくてオレンジなら入ってるかもだって?
頭を割っても苺もオレンジも出てくるわけないぞと文句を言ってやっつけてやる!
苺の香りでとってもお腹がペコペコになってきたけど我慢我慢。あとでパンケーキが待ってるんだ!
【妖精の一刺し】で1体ずつどんどんやっつけていっちゃうね♪
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
●空腹の誘惑
生クリームの川を越えた先。そこがオブリビオンゴーストの住処だと思われたが、しかしまだまだ先は長いようだ。
「ようし、到着だー♪ ……って、あれ? まだまだ先があるのかな?」
ようやく川を越えたのに、まだ先があるのかと、ティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)は首を傾げた。
待っていたのは、苺を欲しがる兎のオブリビオン。しかし、彼女達はこの工場の主ではない。本来は、ただ苺が食べたいだけのゴーストだったのかもしれないが、工場の異様な空気に飲み込まれ、完全に危険な存在になってしまっている。
「ねぇ、あの娘は苺さん、持ってるかな?」
「たぶん、持ってないんじゃない? 苺じゃなくて、オレンジだったら持ってそうだけど……」
苺を持っていないのであれば、容赦はしない。ティエルの髪色を見てひそひそと話す兎達だったが、その言葉はしっかりとティエル本人にも聞こえていた。
「むむ、失礼な! 頭を割っても、苺もオレンジも出てくるわけないぞ!」
こんな兎に好き勝手されてなるものかと、ティエルは剣を抜いて突っ込んで行った。しかし、兎達は咄嗟に小さな苺を纏い、攻撃力と防御力を強化する。
「あれ? なんだか、急にお腹が空いて来たような……」
攻撃を苺で弾き返された途端、凄まじい空腹に襲われ、ティエルは思わず我を失いそうになった。
食べたい。何故だか知らないが、とにかく何かを食べたい。それこそ、あの生クリームの川に戻って中へダイブし、好きなだけ生クリームを飲み干したいという衝動に駆られてしまう。
「うぅ……我慢、我慢! あとでパンケーキが待ってるんだ!」
さすがに、あの川へ飛び込んだが最後、無事では済まないことはティエルも理解はしているようだった。腹が減って仕方がないが、それでも耐えられない程ではない。
気合で空腹を堪え、ティエルは再び剣を構えて兎達へ突撃して行く。狙いは敵の着ている衣服の隙間。どれだけ防御力を上げようと、首筋のように覆えない場所は存在するわけで。
「いっくぞーーー!! これがボクの全力全開だよ☆」
「えぇっ!? は、速……っ!!」
兎達が反応するよりも速く、ティエルは彼女達の急所を凄まじいスピードで的確に貫いて行く。元より、戦いはそこまで得意ではなかったのか、兎達は何もできないまま次々と消滅させられて行き。
「……ふぅ、なんとか終わったかな?」
廊下の端まで辿り着いたところで振り返ると、先程まで通って来た場所は静寂を取り戻し、殺風景な廃工場の様子が広がっているだけだった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『甘蝕』
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POW : 甘蝕症候群
自身が装備する【ショルダーバックに入った小瓶】から【甘い食べ物への執着心を齎すカラフルな砂糖】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【甘い食べ物以外への躰の拒絶反応】の状態異常を与える。
SPD : シュガー・ホリック
【幻覚を引き起こす、恋する彼女の純粋な言葉】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能)。
WIZ : Sweetheart
自身と対象1体を、最大でレベルmまで伸びる【得物のスプーンに付いたピンク色のリボン】で繋ぐ。繋がれた両者は、同時に死なない限り死なない。
👑11
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●甘い、甘い、甘~い誘惑❤
苺好きな兎達を成敗し、工場の最深部へと辿り着いた猟兵達。気のせいか、周囲に漂う甘い香りが、更に強さを増している。
そんな香りの中心から現れたのは、巨大なスプーンを持った女の子。どこからどう見ても、危険なゴーストには思えないが……しかし、猟兵達の直感が告げている。彼女こそ、この事件を引き起こした元凶である、オブリビオンゴーストに他ならないと。
「あれれ? こんなところまで来るなんて、あなた達、普通の人じゃないみたいね」
スプーンを持った少女は、何故か楽しそうな笑みを浮かべて言った。自分が追い詰められていると理解していないのか、それとも何か秘策があるのか。
「まあ、折角来てくれたんだし、ちょっと甘い物でも食べていかない? え、要らないの? もう、そんなこと言わないで……ほらほら、遠慮しちゃダメだよ♪」
そんな猟兵達の心情などお構いなしに、少女は大量の甘味を勧めて来た。ここがゴーストタウンでなければ、思わず口にしてしまいたくなるが……それをしてしまったが最後、哀れな犠牲者達と同じ砂糖中毒にされ兼ねないため、これは絶対に手を出してはいけない代物だ。
「む~、つまんないの~。折角、私が美味しいスイーツを用意してあげたのに……」
こうなったら、力づくでも食べさせて、甘味の虜にしてやろう。そう言って、本性を露わにした少女はスプーンを構え、猟兵達と対峙する。
甘蝕。あらゆる生命を甘味中毒にせんと企む、ある意味では恐ろしいオブリビオンゴースト。彼女の企みを阻止するためにも、彼女が廃工場の外にまで手を出す前に、ここでしっかり討伐してしまった方がよさそうだ。
露木・鬼燈
甘いものの取り過ぎは体に悪い
まぁ、それ以前にここまで続くとね
甘い香りも過ぎれば気持ち悪くなるよね
とゆーことで遠くから攻撃するですよ
香りもUCも届かな距離から攻撃すればへーきへーき
化身鎧装<与一>を用いた狙撃で削っていくですよ
狙撃・移動・潜伏を繰り返すことで安全に、ね
他の猟兵さんと戦っているときなんかは狙い時だよね
まぁ、焦らず落ち着いてやらせてもらうですよ
でもこの戦い方だと謎の液体の分析とか意味なかったよね
まぁ、そーゆー時もある
ちょっと過程にガバがあっても結果がすべて
かてばよかろうなのだー
オリヴィア・ローゼンタール
甘味で汚染して喰うつもりなのかと思いましたが、どうも違うようですね
布教活動、に近いでしょうか?
ともあれ、人を脅かすならば討つのみ
聖槍でスプーンと打ち合う……なんとも妙な絵面になりますね
彼女の紡ぐ力ある言葉、しかしそれらは私には通用しない
【気合い】による精神防御(呪詛耐性・狂気耐性)、そして【戦女神の聖鎧】が悪影響を弾き返す
彼女の能力は精神攻撃を主体とするもの
スプーンを槍の如く振るおうと、技量は武辺者には遠く及ばない筈
【怪力】を以って聖槍を縦横無尽に振るい、斬り打ち穿ち【薙ぎ払う】
甘言、という言葉がある
甘いだけの言葉など、人を害する毒にしかならない
我が槍の齎す苦き死を以って、良薬とするがいい!
●甘さも過ぎれば毒となる
甘い香りの漂う工場の奥で待っていたのは、甘い物が好きな少女だった。だが、見た目は少女でも、彼女は危険なオブリビオンゴースト。そして、なにより不明なのは、彼女がこの工場をゴーストタウン化させた目的だ。
「甘味で汚染して喰うつもりなのかと思いましたが、どうも違うようですね。布教活動、に近いでしょうか?」
無性に甘味を進めて来る甘触の様子に、オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)は思わず首を傾げた。それはそれで、危険な宗教に違いはないのだが、内容が内容だけに、どうにも調子が狂ってしまう。
「甘いものの取り過ぎは体に悪い。まぁ、それ以前にここまで続くとね……。甘い香りも過ぎれば気持ち悪くなるよね」
それでも、ここで甘味漬けにされては堪らないと、露木・鬼燈(竜喰・f01316)は甘触の申し出をキッパリと拒絶し、徹底抗戦の意思を見せた。
「そっちが香りを武器にするなら、こっちは遠くから攻撃するですよ。……この一矢は竜をも射殺す!」
まずは鬼燈が、遠距離から甘触を弓で狙い撃つ。その一方で、オリヴィアは香りなど全く気にしていないのか、果敢に槍で斬り掛かる。
「気高き戦女神よ、我が身を邪悪から護り賜え――!」
「あ、もしかして戦うつもり? もう、仕方ないなぁ」
激突する槍と巨大スプーン。なんともシュールな光景だが、気を抜いた瞬間、やられるのは自分と知っているため、オリヴィアも決して手は抜かない。
互いに拮抗する力と力。その拮抗を破るべく放たれるのは、鬼燈の矢だ。お互いに退けないところへ矢など射られれば、それは避けられるものではなく。
「……っ! なにするのよ、痛いじゃない! あぁ……もう、頭来たわよ!!」
完全にブチ切れた甘触は、しかし直ぐに気を取り直し、周囲に甘い声で何かをねだって行く。
「ねぇ~ん、お願ぁ~い💕 私の言うこと、聞いてくれると嬉しいな♪」
甘い言葉で誘惑し、こちらを懐柔するつもりだろうか。確かに、それがユーべルコードであった場合、油断のならない攻撃だが。
「そんなものに惑わされるほど、僕達は甘くない……って、なんか瓦礫が飛んできたです!?」
鬼燈の矢を相殺する形で、なんと周囲の瓦礫が勝手に飛んで襲い掛かって来た。それだけでなく、ともすれば廃墟に生えている植物が伸びてこちらを絡め取ろうと蠢き、挙句の果てには生クリームを乗せた巨大なスプーンが、次々とクリームを投擲し始めたではないか!
「アハハハ! どう、凄いでしょ? 私の言葉を聞いちゃったら、植物や道具でも言うこと聞いてくれるんだよ」
甘触の言葉が惑わすのは、なにも人間だけとは限らない。植物、動物、果ては無機物の類まで、彼女の言葉を聞いたが最後、無意識に彼女に対して友好的な行動を取ってしまう。
(「これは……どうやら、生クリームの分析をしておいたのは、無駄にならなかったようですよ」)
咄嗟に解毒剤を取り出して、鬼燈は付着した生クリームの毒素を解除した。まさか、こんなところで調合しておいた薬が役に立つとは。もっとも、このままでは防戦一方になり兼ねないので、何か現状を打破する策が欲しいところ。
「ほらほら、あなた達も、早く私の虜になっちゃいなよ。そうすれば、甘い物を死ぬまで食べさせてあげるから♪」
それは至高の快楽なのだと、甘触は笑顔を振りまきながら、再びオリヴィアの槍とスプーンを重ねた。だが、どれだけ甘い香りと言葉で迫られても、オリヴィアが折れることは決してなかった。
「……甘言、という言葉がある。甘いだけの言葉など、人を害する毒にしかならない。我が槍の齎す苦き死を以って、良薬とするがいい!」
気合で誘惑を吹き飛ばし、その勢いでオリヴィアは甘触をスプーン諸共に跳ねのける。否、気合だけで吹き飛ばしたのではない。彼女の周囲を覆う聖なる光。それは自身の食らった状態異常を、そっくりそのまま相手へ反射するための防壁だ。
「あ……あぅ……。な、なん……で……私……が……」
自分の誘惑を諸に反射され、今度は甘触が混乱する番だった。
今の彼女は呪い返しを受けたに等しい状態。故に、オリヴィアや鬼燈に対し、どうしても友好的な行動を取ってしまう。オブリビオンゴーストは生命体でこそないが、それでも『具現化する残留思念』という、シルバーレイン世界における一種の自然現象に他ならないわけで。
「どうやら、勝負あったようだな」
「さすがに、自分で友達だと思っている相手を、攻撃なんてできないはずですよ」
オリヴィアの投げた槍と、鬼燈の放った弓が、それぞれに甘触の身体を正面から貫く。あらゆる存在を誘惑できるからこそ生じた慢心。二人は正に甘触の『甘さ』を突くことで、彼女に手痛い一撃を負わせたのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ソフィア・ガーランド
なるほど、貴女が今回の元凶ですか
名は体を表すとはよく言ったものですが、表しすぎた結果が今回の事件というわけですか
行動範囲が広がればより深刻な被害となるでしょうし、危険な存在ですね
場所が建物の内部で良かったです
此処であれば―――貴女には逃げ場などないと知りなさい
ユーベルコードを発動しながら私も相手を範囲内に捕らえ続ける様に動きます
幸い相手のユーベルコードを伝っていれば隠れ続けるのも難しいでしょうし
そしてその力は死なないのではなく、死ねないという事を理解していただきましょう
自らその力を解きたくなるように
始めに言ったでしょう?
貴女には逃げ場などないと
●危険なゴーストに逃げ場なし
甘い香りで人々を誘惑し、無機物や自然現象すら操る危険なゴースト。見た目とは裏腹に凶悪な能力を持つ甘触と、ソフィア・ガーランド(月光の魔女・f37563)は油断なく対峙していた。
「なるほど、貴女が今回の元凶ですか。名は体を表すとはよく言ったものですが、表しすぎた結果が今回の事件というわけですか……」
もし、彼女がこのゴーストタウンを抜け出し、好き勝手に行動すれば深刻な被害を周囲に齎すだろう。それこそ、街一つが彼女の作る生クリームで覆われて、住民が軒並み甘味中毒で死に兼ねない。
場所が廃工場の中に限定されていて、本当に良かったとソフィアは思った。なにより、このような廃れた場所ならば、周囲を気にせず思う存分に戦えるのだから。
「此処であれば―――貴女には逃げ場などないと知りなさい」
問答無用とばかりに、ソフィアは100個もの円月輪を呼び出して、それらで一斉に甘触のことを攻撃した。さすがに、これは堪らなかったのか、甘触は思わず逃げ出した。
「わわ! ちょ、ちょっと待ってよ!!」
円月輪をスプーンで跳ね返しながら、甘触はソフィアと距離を取る。それでも諦めず、執拗に円月輪で攻撃を仕掛けて行くソフィアだったが、あまりの猛攻に観念したのか、ついに甘触も逃げるのを止めた。
「……もう、怒ったわよ! こうなったら……あなたが死なない限り、私も死なないようにしてあげるんだから!」
そう言うが早いか、甘触はスプーンについているリボンを伸ばし、ソフィアと自分の身体を繋いだ。それ自体には何の破壊力もないようだったが、このリボンで繋がれてしまったが最後、お互いは同時に死なない限り絶対に死なないのだ。
「私を倒したかったら、あなたも死なないといけないのよ? それでも、私と戦うつもり?」
相討ちを望まないのであれば、ここは刃を納めて欲しい。そう言ってソフィアに勝利を宣言する甘触だったが……ソフィアは気にすることもなく、再び円月輪で攻撃を仕掛けて行く。
「きゃぁっ! ちょっと、私の話を聞いていなかったの?」
「いいえ、ちゃんと聞いていましたよ。ですが……その力は『死なない』のではなく、『死ねない』の間違いではありませんか?」
不死というのは、ある意味では最も辛い罰だとソフィアは告げた。なにしろ、どれだけ痛みや苦しみを感じようとも、死して逃れることが許されないのだから。それは、正に今の甘触にも言えること。彼女は全身を円月輪でズタズタにされて行くが、どれだけ攻撃され、全身に酷い痛みを感じたところで、消滅することができないのだから。
「始めに言ったでしょう? 貴女には逃げ場などないと……」
そちらが技を解除しない限り、この苦しみは永遠に続く。正に、地獄の根競べ。命を持たないゴーストであっても、これは耐えがたい苦痛だったのだろう。
「も、もう嫌! こんなの、やってられないわよ!!」
ついに甘触は自らユーベルコードを解除して、廃工場の奥へと逃げ出した。もっとも、どこへ逃げようと既に工場内を猟兵に制圧されている時点で、彼女の敗北は必至であった。
大成功
🔵🔵🔵
ティエル・ティエリエル
今度こそ最深部に到着ー♪
って、あー! もうみんな戦ってる! ボクも急いで参戦しなきゃ☆
甘いお菓子の誘惑になんて負けないぞ!
空中を飛び回ってレイピアでチクチクしていたけど、わわっ、リボンに絡まっちゃった!?
繋がってる間は一緒に死なないと死なない?
むむむっ、それならこうだとぐるぐるぐるーと甘蝕の周りを飛んで伸びたリボンでぐるぐる巻きにしちゃう!
それから【妖精姫のいたずら】でお洋服の中に飛び込んで身動きできないところをこちょこちょ攻撃だ☆
我慢できなくなってUCを解除したところにレイピアの一撃を叩き込んじゃうね。
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
●恐怖のくすぐり地獄
猟兵達の猛攻に、思わず逃げ出した甘触。だが、そんな彼女は工場の奥から出ようとした瞬間、ティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)と鉢合わせてしまった。
「今度こそ最深部に到着ー♪ ……って、あー! もうみんな戦ってる! ボクも急いで参戦しなきゃ☆」
そう言うが早いか、ティエルはレイピアを抜いて甘触へと突撃して行った。いきなり小さな妖精に纏わりつかれ、驚いたのは尼触だ。
「痛っ! ちょっと、なにこの羽虫! 鬱陶しいんだけど!!」
ティエルを叩き落そうと、甘触がスプーンを振り回す。もっとも、そんな攻撃に当たるティエルではない。華麗な動きで攻撃を避け、ともすればスプーンの上に尻を乗せて、盛大に甘触を挑発する始末。
「ふふ~ん♪ そんなスローな攻撃じゃ、虫……じゃなくて、妖精だって止まっちゃうよ☆」
「なっ……!? 言ってくれるじゃない! だったら、こうしたらどうかしら?」
ティエルの挑発にブチ切れた甘触が、怒り心頭のままリボンの封印を解く。無限に伸び続けるリボンは瞬く間に周囲を覆い尽くし、ティエルの足に絡みついた。
「わわ! ちょっと、なにこれ!?」
「捕まえたわよ。もう、逃がさないんだから!」
この状態では、どれだけ攻撃を食らったところで、繋がっている限り同時に死なないと死ぬことはない。倒される心配がなくなったところで、改めてティエルを生クリーム漬けにしてやろうと甘食が迫るが……しかし、ティエルもこの程度では諦めてはいなかった。
「むむむっ……それならこうだー!」
幸い、羽は自由に動かせたので、ティエルは甘食の周りを高速で飛び回り、彼女のことをリボンでぐるぐる巻きにしてしまった。当然、そんなことをすれば、ますます死にたくても死ねなくなるわけだが……元より、ティエルに甘触を殺すつもりなどない。
「ようし、服の中からこちょこちょしちゃうぞー☆」
「え……? きゃぁっ! ちょっと、やめなさ……あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
武器で攻撃することを止め、ティエルは甘触を服の中からくすぐり始めた。
ぶっちゃけ、これは拷問である。人間の死に方で、もっとも苦しいといわれるのが、窒息死と笑い死に。しかし、ゴーストである甘触はくすぐられても死なないし、何かの間違いで死ぬはずでも、今はリボンで繋がれているので絶対に死なない。
「おぼぼぼ……あばばば……ぶひゃっ! ぶひゅっ! どひゅっ!!!」
ついには、変顔全開になって、顔面から謎の汁を噴き出しながら転げ回り始めた。折角の美少女が台無しであるが、それでもティエルはくすぐることを決して止めず。
「それ~! 次は、脇の下だ~♪」
「ひぅっ! ……も、もう勘弁してよぉ!!」
ついに甘触はリボンをスプーンに引っ込めると、ティエルを服の中から強引に叩き出し、後ろを振り返ることもなく逃げ出して行った。
成功
🔵🔵🔴
鈴乃宮・影華
さっきの生クリームの川、ボス部屋、あるいはボス自身から流れているものだと思っていたのですが
特にそういう訳では無さそうですね?
E『ここは元・製鉄工場だったわね。あのクリームは銑鉄の製造工程を流用して大量生産してるんじゃないかしら』
あー、あの川って
炉でドロドロになった鉄を流すあの部分かー、そりゃあ橋やゴンドラが用意されてない訳ですね
じゃあこの部屋の近くに鋳型があって、冷やして固めてる最中なのかな
なんにせよ、あの甘蝕が監修した甘味は食べられる物ではないですね
蟲達は大丈夫でしょうけど、私はお腹周りが不安です
黒の葬華からの斬撃波や飛翔する『閃閃狂鋏』で攻撃
リボンは回避できないので繋がれてしまうでしょうが
これは死なないという強化を得た状態、つまり指定UCの効果発動条件を満たしているとも解釈できます
『ラディウス』を用いてUC起動
「スイーツは、貴女一人で食べに逝って下さいな」
※片付いたら
『アムレートゥム』の検索結果を元に
穂村さんへの差し入れ買って帰りましょう
●甘味を追い続けた果てに
廃工場の奥へと足を踏み入れた鈴乃宮・影華(暗がりにて咲く影の華・f35699)。今回の事件の主犯が直に生クリームを流していると思っていたが、しかしそんな施設は見当たらない。
「さっきの生クリームの川……ボス部屋、あるいはボス自身から流れているものだと思っていたのですが、特にそういう訳では無さそうですね?」
「ここは元・製鉄工場だったわね。あのクリームは銑鉄の製造工程を流用して大量生産してるんじゃないかしら」
影華の疑問に、AIが答えた。なるほど、確かに溶鉱炉で溶かした鉄を流す溝を流用していたのであれば、橋やゴンドラといった設備がなかったことも頷ける。もしかすると、遠回りすれば川に入らず工場の奥へ行けたかもしれないが……ここは空間の歪んでいるゴーストタウン。本来ならば設置されていない場所にまで溝が設けられ、完全に道が断たれていたと考えた方が早いだろう。
「じゃあ、この部屋の近くに鋳型があって、冷やして固めてる最中なのかな? なんにせよ、あの甘蝕が監修した甘味は食べられる物ではないですね」
舐めただけで甘味中毒になるクリームなど、毒物以外のなにものでもない。それに、下手に食べてしまったが最後、お腹回りも心配だ。
ここは、早々に元凶たる甘触を撃破して、この地を開放した方が良いかもしれない。そんなことを考えながら進んで行くと……果たして、元凶の甘触が彼女の方からこちらへ向かって来るではないか。
「はぁ……はぁ……。まったく、やってられないわ……って、なんか、まだ人がいるんですけど!?」
既に他の猟兵との戦闘で消耗していたのか、彼女は随分とズタボロだった。だが、それでも直ぐに身構えると、影華と戦う意思を見せて来た。
「なんだか知らないけど、私のパラダイスを、これ以上は好き勝手にさせないわよ!」
どうやら、よほどこの施設が気に入ったらしい。しかし、人を狂わせる代物を生み出している以上、影華としても、ここで彼女を放置しておくという選択肢はない。
「自分から向かって来ますか。むしろ、好都合ですね」
黒き剣を抜き放ち、巨大な鋏を飛ばして影華は甘触を迎え撃つ。鋏をスプーンではじき飛ばしながら迫る甘触だったが、彼女の繰り出した渾身の一撃を、影華もまた剣で受け止める。
「むぅ……往生際が悪いわね! あなたも、さっさと私のクリームを食べて、甘い味の虜になっちゃいなさいよ!」
「その言葉、そっくりお返ししますよ。あなたこそ、いい加減に諦めて、この地を解放したらどうですか?」
お互いに、一歩も退かぬ攻防戦。いったい、何故に彼女はそこまで甘味に拘るのか。そして、そもそも製鉄所を使って生クリームを大量生産しようと考えたのは何故なのか。
「なんで甘いのに拘るかって? そんなの当たり前じゃない! 甘くない食べ物なんて、この世界から消えちゃえばいいのよ。それにね……」
甘触がニヤリと笑う。今まで見せてた屈託のない少女の笑顔から一転し、その表情には微かな狂気が潜んでいる。
「甘い物をたくさん食べて太った子から絞った生クリームは、と~っても質がいいんだよ♪ 美味しいお菓子を食べて良い夢が見れたんだから、最後はお菓子の材料にされても文句ないよね?」
なんと、あの生クリームの原材料は、甘味中毒になった者達の慣れの果てだと甘触は告げた。人間に犠牲者がそこまで出ていないことからして、最初に犠牲になったのは、この廃墟を住まいにしていた様々な動物達だろうか。
勿論、それが野生動物であったとしても、やがては人間を材料に生クリームを絞ろうと考えている以上、ここで放置しておくわけにはいかない。
「……よく、分かりました。やはり、あなたはここで消えるべき存在です」
黒剣で力任せにスプーンを押し退け、影華は飛翔する鋏で甘触に追い打ちを放った。さすがに、これ以上のダメージは拙いと察したのか、甘触もスプーンのリボンを解いて影華の腕に結びつけるが、それさえも影華の想定内。
「さあ、これで私とあなたは、同時に死なない限り死なないわよ?」
「そうですか……。では、こちらも条件を満たしましたので、切り札を切らせていただきますね」
そう言うが早いか、影華は魔力の奔流を推進剤とし、槍を握り締めて一気に甘触へと突撃する。リボンで二人が繋がれている以上、槍で腹を貫かれても死なないはずだが……それでもお構いなしに、影華は槍を甘触の身体へと突き立てた。
「彼の力を以て世界が消える――綺麗になぁれ!」
「え……? あ……がふっ
……!?」
槍が甘触の身体を貫いた瞬間、彼女の身体が徐々に薄れて消えて行く。
いったい、これはどうしたことだ。リボンが切れてもいないのに、何故自分だけが消滅するのか。信じられないといった表情で影華を見つめる甘触だったが、それこそが影華の用いるユーベルコードの効果である。
「私の黒燐蟲の力で、あなたの強化を解除しました。よって、もうあなたは『不死』という強化を得ることはできません」
それは、相手が強くなっていればいる程に、制約を与えるユーベルコード。あらゆる強化を虚無に返し、二度と再び強くなれぬよう呪詛と言う名の枷を課す。
「あ……あ……いや……。そ、そんな……」
消えたくない。そう言って懇願する甘触だったが、影華は非情にもその手を振り払う。己の欲望のために、人も動物も関係なく、多くの命を奪った罪。今後も、それを重ねるというのなら、後は地獄の閻魔に審判を任せる以外にないのだから。
「スイーツは、貴女一人で食べに逝って下さいな」
もっとも、消えた先で甘い物が食べられる可能性は皆無に等しく、悠久の闇が広がっているだけかもしれないが。そう、影華が告げたところで、甘触の身体は廃工場の中に霧となって消えてしまった。
「……さて、これで全て終わりましたね。穂村さんへの差し入れを買って帰りましょう」
踵を返すと同時に、影華はスマホで検索しておいたスイーツの店へと向かい歩を進めた。どうやら、この市内には大正時代から続く由緒正しい甘味屋があるようだ。洋菓子ではなく和菓子の店だが、生クリームの香りに辟易してきた頃なので、むしろ気分転換には丁度良さそうだ。
大成功
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