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お伊勢参りと子狐の祈り

#サムライエンパイア #戦後


●拾われ子狐、伊勢に到着す
「やっとお伊勢さんに着いたで!」
 エンパイアの世界で暮らす人々の間で、一生に一度是非とも行ってみたいと謳われているのが――「お伊勢参り」だ。
 江戸や大阪、名古屋に果ては陸奥の山奥まで。共同体の中からお金を出し合い、代表者を送り出したり。奉公先の主人に内緒で奉公人達が抜け出して、一斉に伊勢を目指したり。或いは、「おかげ犬」として、犬を送り出したりも。
 形や方法は様々だが、人々は挙って伊勢のその地を目指すのだ。
 そしてここは、「お伊勢参り」で有名な伊勢神宮及びその門前町。
 黒と白の石畳が敷き詰められた落ち着いた通りは、人が何人も広がって歩いてもぶつからない程に広く、石ころ一つ落ちていない。参道の両端には深い色彩に染まる木造の家屋が所狭しと軒を連ねており、真昼を前に益々活気づいている。
 と、参拝者や商人、旅人達でごった返す門前町の風景を見渡し――何やら、瞳を煌めかせている、1人の子狐の姿が。
 歳の頃は漸く2桁を迎えた頃か。快活そうな笑顔を浮かべ、ひょこひょこと忙しなく狐耳を左右に動かし。まん丸な瞳を零れ落ちんばかりに輝かせている様は、この門前町では些か不釣り合いな様であった。
 一生に一度憧れるお伊勢参りだが、その道中、危険や事件に巻き込まれる可能性だってある。常ならば、2、3人で行動するのが定石というもの。それが、年端もいかぬ女子1人なのだ。目立たない方がおかしいだろう。
 少女の脇を通り過ぎていく人々が、訝し気な視線を寄せているのにも気付かずに。お伊勢の門前町に心躍らせた子狐は一度駆けだすと、あっという間に人波に呑まれ――すぐに、その姿が見えなくなってしまった。

●おかげ子狐と伊勢の景色
「門前町は気になるんやけど、誘惑に負けたらアカンな」
 あっちへこっちへ。誘惑も多かったら、見たこと無い粋なモンも多い。門前町のざわめきは気になるけれど、まずはばぁばの病気平癒に参拝や。
 最初はウチを拾った物好きなばぁばも、「ただの風邪やで、寝とればすぐ治るわ」やとか。そんな軽口叩くくらいの元気はあったんや。
 それがどういう訳か、日に日に体調がわるうなってしもて。今やともう、床の間から起き上がれへんくらいにまでなってしもた。
 村人達も揃って首傾げるばかりやし、そうこうしとる間に、ばぁば以外にも寝伏せる人が増えてきてしもたし。
「村の中で一番元気なウチがみんなの思い背負って来たんや! 大神様にお祈りしたら、きっとみんな元気になるはずやで!」
 父親の記憶はあらへん。オカンに聞こうにも、オトンの話になると途端に不機嫌になってもうて……やで、結局最後まで聞けずじまいやった。
 母親のことは憶えてへん。気がつけば、他に好いた男連れてどっかいってもた。ウチがうんと小さい頃の話や。
 そんな孤児のウチ拾て、今まで実の子みたいに育ててくれたばぁばのとじぃじには、これでも一応感謝してやっとるんや。
 やから、ウチがみんな元気になるように、神様にお祈りせんと!
「にしても、やっとお伊勢さんに着いたんか……。今まで、ほんまに長かったで」
 お伊勢さんに来るまでの道中は、ほんまに苦難の連続やった。
 仕事場抜け出してきたっちゅう変な姉ちゃん達に絡まれるし。やっと巻いたかと思ったら、今度はわんこに追い回されるし。
 やっと松阪着いたかと思たら、関所のオッチャンに言い方指摘されて、
「アンタもか!? 『松坂』とも『まつざか』ともちゃうわ!! 『松阪』で『まっさか』やで!!」
 とか。叱られたりもしたんやけども。
 「松阪」でも、「松坂」でも。「まっさか」でも、「まつさか」でも、「まっつぁか」でも。何でもええやん? いちいち細かいんやわ。いずれ表記統一されるかもしれへんけど、今はバラバラなんやし。
「にいちゃん、串焼き一つくれへん?」
「はいよ、串焼き一つやなぁ。って、嬢ちゃん一人できたんかぁ? どっから来たんや?」
「せやな、ウチ1人やよ! お山から松阪経由で参道ずっと歩いてきたんや!」
「そりゃ、えらかったなぁ。こんな小さいのにまた一人でなぁ。どないしたんや?」
「なんか知らんけど、村の人達どんどん寝伏せってしもてな? ウチが代表して、病気平癒も併せてお伊勢参りに来たんや」
「そりゃあまた、難儀なことやなぁ。しかし……嬢ちゃんもそれなんかぁ。最近増えとるんよ。病気平癒でお伊勢さんくる人がなぁ。……モノノケか何か、悪さしとるんやろかなぁ?」
「なんやそれ、うちの村だけやないんか。しっかし、流行病でも無いっちゅう話やし……なんなんやろな?」
「理由分からんからこそ、神様の出番ちゅうことなんやろなぁ。あとな、嬢ちゃん、」
「ん、なんや?」
「『まつさか』とちゃうって、『まっつぁか』やでなぁ?」
「にいちゃん、アンタもか!」
 ――伊勢の町に響くのは、「どっちでもええやん!?」という子狐の叫び声。一等元気なそれは、高く響き渡った後、初夏の空に吸い込まれていった。

●伊勢の地に集いしは、
「――っとまぁ、UDCアースでも有名な『お伊勢参り』は、エンパイアでも流行りの様でして。これだけなら、病気平癒の参拝が多いという話で済むのですが――この『原因不明の病』には、どうやら物の怪、オブリビオンが関わってるようなのです」
 グリモアベースに集った猟兵達を前に、何やら神妙な面持ちで話を切り出したのは、エンパイアでの事件を予知したという曙・聖(言ノ葉綴り・f02659)だった。
 予知の内容は単純なもので、物の怪の大群が伊勢を目指して集結し始めているというもの。この物の怪達は病魔や災いを齎す性質を併せ持っているのか、伊勢の近隣では原因不明の病が流行り始めているのだという。
「ですので、皆様には現地に赴いていただいて、この物の怪達を討伐して頂きたいのです」
 物の怪達はまだ、本格的に伊勢へと辿り着いてはいない。
 しかし、伊勢近隣では既に病に倒れる人々が出てきている。物の怪達が少し通っただけでこれなのだ。その物の怪達が参拝者や商人、旅人達で賑わう伊勢の門前町に集結したとなると――そこから先は、あまり考えたくはない話だろう。
「すみません。物の怪達はまだ本格的に伊勢の地に集結してはいない様で、詳しい現地の潜伏地までは予知することが出来ませんでした。現地に行けば、何か情報は手に入ると思うのですが……」
 だから、お伊勢参りがてら噂や情報を集め、病魔や災いを運ぶ物の怪達をそっと退治して欲しいと聖は告げる。
 もとより、物の怪達が齎した病なのだ。元凶である彼らを退治してしまえば、病に倒れた人々も快復するだろう。
「つかの間の日常を楽しみ、疲れを癒すことも大切な仕事のうちでしょう。門前町と神宮をのんびりと観光して、それから物の怪達を退治してはいかがでしょうか」
 門前町と神宮近隣は、大勢の人々で今日も賑わっている。つかの間の日常を楽しむのも、偶には良いだろうから。
 転送すべく用意を始めた――ところで、ふと思い出したかのように聖はポツリと呟きを漏らした。
「参拝者が伊勢に物の怪を連れてきた、というよりは……物の怪達も何かを求めて伊勢へと辿り着いたという方が、しっくり来るような……」
 情報無き今、推察するしか方法は無いが。物の怪達も、何かを求めて伊勢へと赴いたのかもしれない。
 まずは、伊勢の地で情報収集と行こう。


夜行薫

 お世話になっております。夜行薫です。
 今回は、伊勢参りがテーマの小噺を一つ。ご案内いたします。

●舞台について
 エンパイアでのお伊勢参りということで、伊勢神宮及びその門前町を舞台に物語が進みます。
(※本シナリオでは外宮には立ち寄りません。何卒ご了承下さいませ。)

●進行について
 断章追加:全章とも有り。
 受付/締切:タグとMSページでお知らせ。
 グループ参加:3名様まで。
(※4名様以上は難しいです。)

●拾われ子狐『琴都姫(ことひめ)』
 11歳前後の妖狐です。伊勢弁風の口が達者な少女。
 養親である「ばぁば」が原因不明の病に倒れてしまい、病気平癒の為にお伊勢参りを決行しました。
 数々の受難(?)の果てに、漸く伊勢へと到着したところです。

●第1章:日常『そぞろ歩き』
 現地調査も兼ねた日常章です。
 お伊勢参りとして、門前町(現:おはらい町・おかげ横丁周辺)〜伊勢神宮内宮をご自由にお過ごしください。
 参拝でも、門前町の観光でも。お好きな様に。あれもこれもと詰め込まれるよりは、したいことを幾つかに絞っていただいた方が、描写が濃くなるかと。
 街並みや雰囲気等の詳細につきましては、検索していただければ。
 「交流したい」「情報収集がしたい」等が無い限り、琴都姫を始めとする参拝客及び地元民とは交流しなくても構いません。買い物やそぞろ歩きがてらちょっと尋ねるだけで、自ずと噂は耳に入ってくるでしょう。
 ※「桜の練り切り」等、詳し過ぎない指定をお願い申し上げます。
 実在の商品等の描写は致しかねますので、ご了承くださいませ。商品名や物品の詳細等が記載されている場合、採用を見送らせていただきます。

●参考までに
 伊勢近隣で有名なものといえば、真珠に伊賀組紐、伊勢牛(現:松阪牛)に伊勢うどん、てこね寿司など。
 他、門前町では茶屋や竹細工、お札、つまみ細工の品を扱うお店等もあるようです。

●第2章:集団戦『???』
 多分、コイツらが噂の元凶。
 詳細は第2章の断章にて。
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第1章 日常 『そぞろ歩き』

POW   :    周囲をくまなく歩いてみる

SPD   :    効率よく散策してみる

WIZ   :    色々なものを観察しつつ歩く

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●いざ、伊勢の地へ
 ――正午が目の前に迫った神宮の門前町は、人々の話声で満ちていた。
 参拝者を呼び寄せる売り子の宣伝に、伊勢牛の串焼きを始めとする、物の焼ける匂いが入り組んだ町中に静かに広がっている。広々とした参道の両端には、土産物店や茶屋、商屋といった深い焦げ茶色に染まる木造の建物が軒を連ねて並んでいた。
 札や暦、饅頭といった旅の邪魔にならない小さな土産から。真珠を用いた簪や帯留、伝統工芸品だという伊賀組紐を用いた装飾品と、職人が手作りした高級そうな品まで。伊勢が名産地として有名な品以外に、伊賀や松坂等近隣の品も。商人が伊勢近隣から遥々運び込んで、参拝者へと「土産」として商いをしていた。
 門前町に沿う様にして流れている五十鈴川の流れも緩やかなもので、初夏も間近に迫った陽光を受けて、キラキラと川面を輝かせていた。
 門前町の裏手、五十鈴川添いともなると街の喧騒は何処かへ。石造りの階段を下りて――緩やかな流れの川を覗き込めば、澄んだ川底と目が合うことだろう。露店や店で軽食を買ったのなら、川縁に腰掛けて一息つくこともできそうだ。
 昼前であるからか、茶屋や軽食屋の賑わいは一日のうち一番のもので。五十鈴川の風景を眺めながら甘味と共に一服するも、伊勢うどんや手こね寿司といった郷土料理に舌鼓を打つも。どちらも捨てがたい。
 門前町から神宮内宮は、歩いてすぐだ。鳥居を潜り抜け、立派な造りの宇治橋を渡ったのなら――後は、冷涼な空気漂う静謐な参拝道を道なりに沿って進むのみ。
 参拝者や商人達で賑わう伊勢の地は、今日も平穏なものであるようだ。
カツミ・イセ
僕の神様は言ったよ。『伊勢うどんおいしい。あと、「まっさか」よ』って。
…そういえば、僕も、僕の神様も名字由来(伊勢)はここからだっけ。

というわけで、僕の神様おすすめの伊勢うどんを食べに来たよ!薬味としてネギだけ入れよう。
今住んでるところ(シルバーレイン鎌倉)だと、売ってないんだよね…。
…気づいたら二杯頼んでた。そのまま食べちゃったけど、おそろしいね…。

あとは、お土産…伊賀組紐ので、髪まとめるやつないかな?やっぱり、おしゃれはしたいからね。水色に似合うやつー♪
(鼻唄歌いながら探してる)
それを探してたら、たぶん、自然と噂は聞こえると思うんだよね。も、目的は忘れてないから!




「僕の神様は言ったよ。『伊勢うどんおいしい。あと、「まっさか」よ』って」
 うどん屋の目の前を通れば、鰹節や昆布、醤油の加わった――美味しそうなつゆの匂いが柔らかな風に乗って運ばれてくる。
 微かに漂うつゆの匂いに、カツミ・イセ(神の子機たる人形・f31368)は、自然と足取りを止めていた。
 故郷の異変を察した「神様」の、子機存在であるカツミ。そのカツミの親たる「神様」が言っていたことを、カツミはよく憶えている。伊勢の地に来たのなら、絶対に食べるべきだという雰囲気で、伊勢うどんを勧めてきたのだから。
「……そういえば、僕も、僕の神様も名字由来はここからだっけ」
 カツミもカツミの「神様」も、共通の「イセ(伊勢)」という苗字を持っていた。その「イセ」の由来は――他でもない、この地「伊勢」から来ているのだ。
 だからだろうか。何処か懐かしい感覚に身を委ねながらも、カツミは止めていた足を再び動かし、目の前にあったうどん屋の中へ。
「というわけで、僕の神様おすすめの伊勢うどんを食べに来たよ! 薬味としてネギだけ入れよう」
 「神様」オススメともなれば、食べない訳にはいかない!
 木製の長椅子に腰掛けて伊勢うどんを注文すれば、さほど待つことも無くカツミの前に伊勢うどんが運ばれてくる。
 大きめのどんぶりをそっと覗き込めば、「普通のうどん」と比べればコシが無く、随分と麺の太い――「伊勢うどん」が、じっと器の中からカツミのことを見上げていた。
 殆ど黒に近い茶色のつゆは本当に少しだけ器の中に入れられていて、具は薬味として頼んだネギだけ。普通のうどんを比べると随分シンプルかもしれないが、それが「伊勢うどん」なのだ。
「今住んでるところだと、売ってないんだよね……」
 シルバーレインの世界にある、鎌倉に住んでいるカツミ。伊勢の企業や店々が協力して、商品開発に努めた結果、「店で食べるもの」であった伊勢うどんも家で食べられるようになってきてはいるが……しかし、鎌倉ではそれが売られていないのだ。何とも残念だった。
 濃厚なつゆに麺をしっかりと絡めて。箸で口へと運べば、まろやかで甘いつゆの味が口内いっぱいに広がった。甘みのあるつゆと、もちもちとした柔らかな麺の組み合わせは、最高と呼べるだろう。
 それに、ネギの存在が、つゆの甘みをしつこ過ぎないものに仕立て上げてくれる。
「……気づいたら二杯頼んでた。そのまま食べちゃったけど、おそろしいね……」
 柔らかくもちもちとしたうどんと、濃厚なつゆの組み合わせがクセになりそうで。これでは、二杯といわず幾らでも食べられてしまいそうな。
 「神様」の言っていた『伊勢うどんおいしい』は、本当だった。伊勢うどんの魔力に少し恐ろしい気持ちになりながらも店員に礼を告げ、勘定を済ませたカツミは再び門前町の雑踏へ。
「あとは、お土産……伊賀組紐ので、髪まとめるやつないかな? やっぱり、おしゃれはしたいからね」
 伊勢の地に来たのだから、お土産も欲しいところ。門前町を散策していたカツミは、視界の端を掠める極彩色の奔流に足を止めた。
 赤、青、緑に橙。丁寧に編まれた組紐は、独特の光沢を放っていて。視界の端に極彩色を生み出していた存在の正体は、カツミが探し求めていた伊賀組紐を扱う屋台だ。
「水色に似合うやつー♪」
 カツミは鼻歌を奏でながら、並べられている伊賀組紐の髪紐の一つ一つ手に取り、「これも良いかも」と水色の髪に合わせては備え付けの鏡を覗き込む。
 白に金糸が交じる涼しげなものに、紫と黒で編まれた上品で落ち着いたもの。そのどれもが魅力的に思えて、ついつい髪紐選びに夢中になってしまうけれど――。
「川のにきの森から、狐の鳴き声が聞こえるっちゅう話なんやけど――」
「あんなとこに狐なんておったか?」
 聞こえてきた地元民と思しき二人連れの会話に、カツミはハッと我に返る。
 そうだ、今回の観光は情報収集も兼ねていたのだった。
(「も、目的は忘れてないから!」)
 そう。ちょっとばかり髪紐選びに夢中になっていただけで、決して情報収集を忘れていた訳ではない、はず。
 髪紐をしっかりと両手で握り締めながら、心のメモ帳にはしっかりと先ほどの噂を忘れないように書き込むカツミだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
WIZ
お伊勢さまに物の怪ですか。
何とも奇妙な組み合わせに感じますが、もしかしたら物の怪と言われるものも何かしら縋りたいものがあるのかもしれませんね。

折角のお伊勢さまですし内宮参拝としましょう。
五十鈴川を渡って高い木々に囲まれた砂利の参道を黙々と歩いて。
ただ一つの川、橋を隔てただけなのに。周りに参拝の人々がたくさんいるのに。ここはとても静かで……どうしてか少し、懐かしい。思わず空を見上げてしまうわ。
故郷のサクラミラージュの方でもお伊勢参りはまだした事がなかったはずだけど……。そういえばサクラミラージュのあるお社に行った時も懐かしかった。
やっぱり私が私となる前は神社に縁があったのかしらね。




「お伊勢さまに物の怪ですか」
 片や、サムライエンパイアの世界でも有名な神様を祀る神宮であり、祀られている神も、他とは一線を画す特別な存在で。対するもう片や、過去から蘇りし悪しき存在である。
 自らの力が増すような、恨みつらみが降り積もる曰く付きの地では無く、この伊勢の地を。対極に位置する物の怪達が神聖なこの地を目指すのは、何とも奇妙な話に思えたから。
「何とも奇妙な組み合わせに感じますが、もしかしたら物の怪と言われるものも何かしら縋りたいものがあるのかもしれませんね」
 そう。物の怪達とは言えども、縋りたいものがあったからこそ、この地を目指したのかもしれない。
 ふむ、と。少しばかり思考を巡らせて。吐き出された吐息に、森の清涼な空気が揺れる。
 伊勢の森の空気は涼しくも何処か、穏やかで。何もかもを平等に受け入れてしまいそうなこの空間に、身を委ねたくなる気持ちも分からなくもない。
 夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)の推理は――存外、的を射ているのかもしれなかった。

「折角のお伊勢さまですし、内宮参拝としましょう」
 まるで、現世と幽世を隔てているかのように。内宮に足を踏み入れた直後に目に入るのは、長くどっしりとした造りの宇治橋の姿だ。
 宇治橋は木製とは思えない程に、芸術的な造りをしていて。ちょっとやそっとのことでは壊れない、ある種の頼もしさを感じさせてくれる。
 宇治橋の下をゆったりと流れるのは、五十鈴川だ。澄んだ水を宿し、ゆったりと真下を流れて行く。
 広い川の向こう岸まで。大きく伸びた木製の橋へ一歩足を踏み出せば、カタリと靴底が橋を打つ、軽い調子の音が響いてくる。
 カタカタと足を踏み出す度、木々が奏でる橋の音色に身を委ねながら。藍は長い宇治橋を、ゆったりとした歩みで渡りきった。
(「ただ一つの川、橋を隔てただけなのに。周りに参拝の人々がたくさんいるのに」)
 五十鈴川を渡り切った向こう側。真白い玉砂利が敷き詰められた参道は、曲がりくねりながら先へ先へと続いていた。
 門前町の喧騒も嘘のように静まり返り、時折、小鳥達の鳴き声が聞こえるだけ。すれ違う参拝者の口数も少なくて。
 風に梢を揺らす木々の葉音も、何処か澄んだもののように聞こえてくる。神の領域に来たと、自然と感じさせられた。
(「ここはとても静かで……どうしてか少し、懐かしい」)
 藍もまた、周囲の人々と同じように。御正宮までの道のりを黙々と歩んで行く。時折、森と寄り添うようにして存在している宮々を目にする度、言葉に出来ない懐かしさが込み上げてくるのを感じながら。
 サムライエンパイアの伊勢神宮には、初めてきたはずなのに。何処か懐かしくて暖かい感情が、そっと藍の胸中に生まれて、灯火のようにそっとその想いが広がっていく。
 何処か安心感を覚えてしまう静けさに、「帰ってきた」とでも言うかのような安心感が身を包み込んで。
 何かに導かれるようにして、そっと白雲の広がる青空を見上げるのだ。
「故郷のサクラミラージュの方でも、お伊勢参りはまだした事がなかったはずだけど……」
 誰かが癒しを授けてくれたから。誰かが転生を祈ってくれたから。誰かが、次の生を願ってくれたから。藍は今此処に居る。
 だからかもしれなかった。神社に、懐かしさを感じてしまうのは。藍が藍となる前――その時に、神社と何か縁があったのかもしれない。
 藍が藍となる前の、影朧であった時の名残りが、神社への懐かしさを感じさせているのかもしれなくて。
 見上げた空に、「そういえば」と。気付くことが一つだけ。懐かしさを感じたのは、何も伊勢神宮だけの話では無かったのだ。
「そういえばサクラミラージュのあるお社に行った時も懐かしかった」
 そう。懐かしさを感じたのは、サムライエンパイアの伊勢神宮だけでは無くて。生まれ故郷であるサクラミラージュのお社に行った時も、今と似たような想いを感じていたのだ。
「やっぱり私が私となる前は神社に縁があったのかしらね」
 そっと吐き出された呟きが、静謐な森に木霊して――やがて、溶けて消えていく。
 内宮の片隅、静かに立ち止まって佇む藍を見守っているかのように。森が、風が、空が、宮々が。宿す空気は優しく、穏やかなものだ。
 先程吐き出された、確かな呟き。それは、「もしかしたら」というような推測では無くて。半ば、確証めいた色彩を宿した呟きだった。
 やはり――藍が藍となる前は、神社に縁があったのかもしれない。藍となった今も、ずっと続いている確かな縁が。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レスティア・ヴァーユ
◆【ここに来るのは初めてです】
サムライエンパイア…?いや、知っては、知ってはいる…知識としては。
…ただ、予知も無ければ降り立った事も無く。伊勢に向かえば、世界単位特有の異文化にただただ目を見開くのみ。
『おいせまいり』というものは、今互いに住んでいるUDCアースの神社参拝と同じであろうか。今回の病についての人が祈る気持ちは分かるが……本件に関しては、それは猟兵の物理で解決出来る。

それならば、と。門前町にて、興味先立ちあちこちを見て回る。
アシュエルに言われるまで、情報収集の目的は忘れていたなど、些細なアクシデントはあったが、やはり何もかもが目新しく。
目についたのは真珠飾りのついた繊細な竹細工の容れ物。UDCアースでも竹細工はあるが、ここまでのものはあまり目にしない。ひとつくらい土産に…と伸ばし掛けた手を止めた。
『互いの空間に、新しく物を置くことを躊躇われた』
しかし、悩んでいる間にアシュエルがこちらの意を察したように買ってしまった――……最近、こちらの思考を全て読まれているような気がして困る。


アシュエル・ファラン
◆【ここに来るのは初めてです】
サムライエンパイアは…そうだな、行ったことがないな。げ、マジでお前もか!…互いに見たいことも無い……そっかー…大丈夫かな、依頼…心配しかないんだが。

しかし、来てみれば。大分、UDCアース日本の古い時代と似たような感じというところか。お伊勢参りもほぼ同じ文化だと思えば納得
これなら何とかなりそうな気はするが――レスティアの複雑そうな表情を見て……神宮参拝とか、まあ神に参拝して祈るのは柄ではないわな。ダークセイヴァーの出身だと、どうしても、な。
じゃ、そっちの情報収集は他の猟兵に任せて、俺らは門前町の方に行きますかっ

少しでも入り組んでるようなら立地確認に地図が欲しいな。観光名所ならあると嬉しいんだが…って、お前はまたフラフラしてー!情報収集は仕事です!
まあ、依頼を忘れる程にこいつにとっては目新しいんだろうなというのは分からなくもない
互いに、軽く噂話に聞き耳立てて。その最中であいつが一つの竹細工をじっと見ていたので躊躇いなく購入
…お土産ってさ、やっぱ心的に大事じゃん?




 ――依頼として次に向かう世界が、「サムライエンパイア」だと聞いた瞬間、あまりピンと来なかったのか、レスティア・ヴァーユ(約束に瞑目する歌声・f16853)は澄んだ青空色の瞳をパチパチと数度瞬かせていた。
「サムライエンパイア……?」
 そう。サムライエンパイアの世界である。
 「和」な感じがして、ニンジャやサムライ、ショーグン、アヤカシなんかが出てくる――辛うじて思い出せたのは、その辺りの話だ。後は、木で造られた家に住み、キモノを着て「ワショク」を食べるくらいの知識くらいしかパッと思い浮かばない。
「サムライエンパイア……いや、知っては、知ってはいる……知識としては」
 知識として知っている「サムライエンパイア」を記憶の奥の方から引っ張り出しつつ、己に言い聞かせるかのように一人でウンウンと頷いている親友を見……アシュエル・ファラン(盤上に立つ遊戯者・f28877)は、自身の背中に冷たい汗が伝うのを感じていた。
 何故だろう。エンパイアの地に降り立つ前から、そこはかとなーく嫌な予感がする……。
「サムライエンパイアは……そうだな、行ったことがないな」
「――……ただ、予知も無ければ降り立った事も無く」
「げ、マジでお前もか!」
 どうやら、早速アシュエルの嫌な予感は的中した様だった。
 「マジで!?」と些か大袈裟な程に驚いてみせるアシュエルを横に、「だが、アシュエルがいるだろう?」と至極当然のように小首を傾げるレスティア。「アシュエルが居るから……まあ、初めてでも何とかなるだろう」と。そう思っていることを、微塵も隠しもしない反応である。
 ある意味、レスティアが自分のことを信頼してくれているのは嬉しいことなのだが……しかし、本音を言うのならば心配しかない。
「……互いに見たいことも無い……そっかー……大丈夫かな、依頼……心配しかないんだが」
 何処か奇妙な所で抜けている致命的世間知らずの行動を見守りつつ、初めて訪れる世界を探索する――割とどんなことでもそれなりに器用にこなす自信のあるアシュエルとて、少々骨の折れる内容だった。
 目下、アシュエルの心労の最大の要因である、目の前の服を着て歩き回る心配事(レスティア)を眺め、それから力無くため息を吐き出す。
 何はともあれ、どうにでもなれ。どうこう言っているよりも、さっさと現地に行ってしまった方が手っ取り早いのだから。

「大分、UDCアース日本の古い時代と似たような感じというところか」
 実際に降り立ったサムライエンパイアの世界を前に、アシュエルはほっと安堵の息を吐いた。
 江戸時代とサムライエンパイアの世界。双方がさほど乖離していなかったことに安堵しつつ、隣で固まっているレスティアの背中をちょいちょいと突いてみるが、反応が無い。どうやら、初めて見る世界に脳内の処理が追い付いていない様だ。
「これなら何とかなりそうな気はするが――」
 普段だとすぐに耳に飛び込んでくる親友の呟きも、今ばかりはするりと通り抜けていってしまう。
 己の知る幾つもの世界と装いも異なれば、文化や街並みだって異なっている。網膜や耳を通して入ってくる「未知の世界の情報」の濁流を前に、レスティアはただただ目を見開いて固まるのみだった。
 世界単位特有の異文化が齎した衝撃は、後頭部を鈍器で殴られるよりも遥かに強く。
「『おいせまいり』というものは、今互いに住んでいるUDCアースの神社参拝と同じであろうか」
「そうだな。お伊勢参りもほぼ同じ文化だと思えば納得できるし」
 若干のフリーズの後、漸く調子が戻ってきたらしい。
 奇想天外な目の前の文化に驚きつつも、サムライエンパイアの世界が自分の住んでいるUDCアースの古い時代だと解れば、案外スッと理解することができた。
 未だ目の前の異文化の衝撃に圧倒されながらも、その衝撃をどうにかして飲み込みながら。レスティアは擦れた声音でやっとそれだけを吐き出した。
「今回の病についての人が祈る気持ちは分かるが……本件に関しては、それは猟兵の物理で解決出来る」
 そう。知識として知っている――「八百万神」とも言うように。江戸時代の人々は皆、様々な「神」の存在を信じ、日常に神の存在を感じながら、生活を送っていることは。
 正体不明の病。だから、身近に居る「神」に祈りたくなる気持ちは分かるが。だがしかし、この一件は猟兵で解決できるものだ。
(「……神宮参拝とか、まあ神に参拝して祈るのは柄ではないわな。ダークセイヴァーの出身だと、どうしても、な」)
 何処か、此処ではない遠くを見つめるようにして、それだけを言い。黙り込んでしまったレスティアの様子に、アシュエルはそっと瞳を伏せる。
 異端の神が支配しているダークセイヴァーと。神の存在が日常生活に溶け込んでいるサムライエンパイアと。信仰の意味で言えば、ある意味対極に位置しているのかもしれない、2つの世界なのだ。
 サムライエンパイアで言う「神」は、人々を護り導く、善なる存在であったとしても。ダークセイヴァーでは、死と破壊と破滅を齎す、畏怖の対象にしかならない。
「じゃ、そっちの情報収集は他の猟兵に任せて、俺らは門前町の方に行きますかっ」
 思うことがあるのならば、無理にそちらの道へと進む必要も無い。神宮での情報収集は、エンパイアに親しみのある仲間に任せることとして。
 アシュエルは故郷への憂いを吹き飛ばすように努めて明るい声音で断言すると、未だ惚けたままのレスティアの手を取り、人々で賑わう門前町へと駆け出した。

「同じ場所を彷徨っている気がするんだよな……」
「アシュエル、犬がいるぞ」
「やっぱり、ここさっきも通ったか?」
「ああ。通ったな。あの白犬には見覚えがある」
「入り組んでるもんな。迷子になったか? 立地確認に地図が欲しいな」
「そうだな。是非とも触れ合ってみたいところだ」
「……。なあ、レスティア?」
「どうした、アシュエル?」
「……会話、噛み合ってなくないか?」
「そうか?」
 興味の赴くまま、思いのまま。門前町をあっちこっち見て回り――合間合間に、主人の代わりに「伊勢参り」に訪れた「おかげ犬」達に静かに目を輝かせ――を繰り返すレスティアを追いかけるようにして門前町を巡っていれば、すぐに現在地が分からなくなってしまった。
 観光名所なら、地図があるだろう。そう思ったアシュエルが地図を貰いに行こうとしている少しの合間に、ふと目に留まった真新しいものに釣り上げられたレスティアがふらふらとそちらの方を目指してしまうものだから、本当に気が抜けない。
 地図を貰うどころでは無い。一度姿を見失ったのなら最後、入り組んだこの門前町の中から、この世間知らずを見つけ出すのは……きっと、とても骨が折れるだろうから!
「アシュエル、あれはなんだ? UDCアースのうどんとは、少しばかり姿が異なる様だが」
「『伊勢うどん』じゃないか? この辺りでよく食べられている料理、らしい」
 長椅子に腰掛け、昼食を摂っている人々が食べている料理が気になったらしい。
 具が無く、つゆも少量で麺の太いうどん。確かに、普段目にする「うどん」とは違うから、気になるのかもしれない。
 ちょいちょいと袖を引いて問いかけてくるレスティアに、「しょうがないな」とアシュエルは親友が齎す質問に、知識をフル動員させて答えていく。
 伊勢うどんを見たレスティアは「辛そうだな」と感想を漏らしたが、「見た目は辛そうだが、案外甘いらしいぞ?」と答えてやれば。黒いつゆが思いのほか甘いという情報が新鮮だったのか、食い入るようにして見つめていた。
「なあ、アシュエ「地図、漸く手に入ったぞ……って、お前はまたフラフラしてー! 情報収集は仕事です!」
 藍染の糸を紡績し、様々な模様を作り出す。近くで見れば確かに模様があることが分かるが、遠目から見てみると無地にしか見えない。
 そんな不思議な藍色の布は、松阪もめんと呼ばれるもので。松阪もめんを素材とした小物を扱う土産物店を食い入るように眺めていたレスティアの瞳が、とある一点ばかりを見つめていることに気付き――レスティアがとやかく言う前に、アシュエルは速攻でその場から連れ出した。
 漸く地図を入手できたかと思えば、すぐにこれなのだから。
 ふらっふらと目先の「松阪もめんで作られた猫のぬいぐるみ」に釣られていたレスティア。
 やっと地図を貰ったら親友が居なくなっていたとか、自分の仕事が増えるだけなのだ。猟兵としての依頼に加え、迷子の捜索までは何としても避けたい。
 後ろの親友はまだ何か言いたげだったが、アシュエルは気付かない振りをして歩みだした。軒先にあったのは、猫やら犬やら、狐やら。大小さまざまな「動物のぬいぐるみ」たち。
 レスティアが松阪もめんのぬいぐるみを選び出したのなら――きっと、時間が幾らあっても足りないだろうから。本格的な観光は、仕事が終ってから!
「しかし、犬の姿もよく見るな。エンパイアの犬は、『おいせまいり』できる程賢いのか?」
「まあ、主人が色々とワケあって伊勢まで来られない場合は、犬が代理で参っているみたいだし。出来るんじゃないか?」
「そうか。健気では無いか……!?」
 そう。主人に色々と理由があって「お伊勢参り」出来ない場合は、「おかげ犬」と呼ばれる飼い犬達が代わりで参ってきていたそうな。
 お札や暦やご飯代、通行上で必要になるお金等を括り付けて。人々に交じって伊勢を目指す犬達の存在は、割とポピュラーなものであるらしい。
 人々の力を借りて、この地に辿り着き。購入した御札や暦なんかを身体に括り付けて貰って。てっこてっこと短い脚で一生懸命歩いて行く様は、「可愛い」以外の何物でもない。
 何やら感極まっている様子のレスティアの襟首を掴んで引きずりつつ――が、目先の「犬」に気を取られたレスティアは梃子でも動かない。見れば、地面に根っこでも生やしたかのように、ぐっと意地でその場に踏みとどまっている。
「さっき地図を貰った店の店員も、『動物の鳴き声が町の外れからよく聞こえる』って言っていたし、増えているみたいだな。ブームか?」
 「あ、これ、動かないやつだ」――即座にそう判断したアシュエルは、パッとレスティアの襟首を手放し、小さくため息を吐く。
 一方のレスティアと言えば、地面にしゃがみ込み「おかげ犬」を迎える準備バッチリで構えているのだから。親友のため息も、聞こえていないに違いない。
「賢く、良い子だな。立派だぞ。そうだ。このままこちらに――「おー。確かに、一匹でお使いに来られるくらいには賢いみたいだな」
 レスティアとて、もふもふとの接し方は勉強済みだ。怖がらせないように、凝視し過ぎず。かつ、静かに相手の動きを待って……。
 てこてこと短い四肢を懸命に動かして。こちらへと向かってくる白犬は、にっこにっこと満面の笑みを浮かべ、両手を広げて歓迎するレスティアの元――を、通り過ぎ、アシュエルの傍へ。
「元気なヤツだな」
「キャウン!」
「…………」
 ……「へっへっ」と尻尾をふりふり無邪気に「キャン!」と鳴いてみせる白犬の視線は、アシュエルただ一人だけを捉えている。
「おかしい。完璧だったはず、何がいけなかったか? 不自然過ぎたか……?」
「お札も買えたみたいだし、残り半分だな。主人の元まで頑張れよ」
 にこやかな笑顔を浮かべて白犬を見送るアシュエルの背後で、レスティアが何やらブツブツと呟いているが……きっと気のせいだろう。
「キャン?」
「……!!」
「ほら、行くぞー」
 レスティアがしょんぼりとしていたところ、不意打ちで訪れたのが「キャン?」の鳴き声で。
 去り際に白犬がレスティアに送ったのは、何ともあざと可愛い行動だった。「視野に入っていません」なお澄ましモードが一転、「行っちゃうの?」と問いかけるかのように瞳を潤ませて、振り向いてコテンと首を傾げてきたのだから。
 白犬の「振り向き小首傾げ」にハートを穿たれたらしいレスティアを、アシュエルは今度こそ連れて歩き出す。白犬の仕事の邪魔をするのは、ちょっとばかり悪い気がしたから。
(「まあ、依頼を忘れる程にこいつにとっては目新しいんだろうなというのは分からなくもない」)
 アシュエルが店員から仕入れた「動物の鳴き声」の話に、漸く情報収集のことを思い出したらしいレスティアに、アシュエルはそっと目を配る。
 世間知らずのレスティアにとって、依頼を忘れるくらい、見るもの全てが真新しかったに違いない。こいつらしいと言えば、こいつらしい話だ。
 だが、それが「いつもの」ことで――また、それで良い話だった。
 どうか、そんな日々がこれからも続くことを願って。
 胸の中でひっそりと重ねた願い事。それを知るのは、アシュエル本人だけなのだから。
(「ひとつくらい土産に……」)
 その後も情報収集を兼ねて、門前町を散策する傍らで。ふと、レスティアの目についたのは――真珠飾りのついた繊細な竹細工の容れ物だった。
 細く割かれた竹が、均一に編まれ、無数の模様を作り出している。繊細に編み込まれた竹細工の容れ物は、まさに「匠の技」と呼ぶべきもので。遠目から見ればレースと見紛うほど、繊細で緻密な造りである。
 UDCアースにも竹細工の製品はあるが、ここまでのものはあまり目にしないから。
 半ば反射的に伸ばしかけていた己の手を――しかし、その手が容れ物に届く前に、我に返ったレスティアは伸ばし掛けた手を止めてしまっていた。
(『互いの空間に、新しく物を置くことを躊躇われた』)
 そう。互いの空間に、新しい物を置いてしまえば。形に残る想い出を、創ってしまったのなら。そんなことを、積み重ねていってしまったのなら。
 ……いつかくる「その時」が、一等辛く、悲しいものになってしまうだろうから。
「……お土産ってさ、やっぱ心的に大事じゃん?」
 と、手を伸ばしかけた中途半端な体勢のまま固まるレスティアの腕を追い越して。背後から伸びてきた手が、先程の竹細工の容れ物を迷いなく攫っていってしまう。
 何が起きたのか分からぬまま。気が付けば、会計を済ませたアシュエルが自分の手に先ほどの竹細工の容れ物を「買ってきたぞ」と乗せているところで。
(「――……最近、こちらの思考を全て読まれているような気がして困る」)
 「それに何容れるんだ? 帰ってから決めるか?」なんて。呑気な声で「続き」を話すアシュエルの声も、何処か薄膜一枚隔てた様に……レスティアの耳には、遠く聞こえていた。
 最近、自分の思考を全て読まれているような。それでいて、決して逃がさないとでも言うかのように、行動の一つ一つに先回りされているような。そんな気がしてならないのだ。ただの――気のせい、かもしれないが。
 「アシュエルは、自分の思考が読めるのか?」なんて。冗談に見せかけた、本当に尋ねたい質問すら出来ないまま。レスティアは、会話を続けるアシュエルに困ったような微笑みを返した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

逢坂・理彦

『お伊勢参り』は憧れではあるけどまさか猟兵の仕事で来ることになるなんてねぇ…。
小狐ちゃんの事も気になるしなんとかしてあげたいね。
彼女を視線の端にとどめつつ俺もお伊勢さんを楽しもうか。
俺が小狐ちゃんに絡むと怪しく見えるかもしれないし…でも心配ではあるからねぇ。
家で待つ彼に何かお土産になるようなものを…何かおすすめの物がないか聞いてみようか。
そこで何か今回の事が聞けたらもうけものかな。




 短い様で長い人生。一寸先は闇という言葉があるように、未来には何が起きるか分からないもの。
 憧れである「お伊勢参り」に、こうした形で縁があったとは――本人である逢坂・理彦(守護者たる狐・f01492)もまさか、予想できなかったに違いない。
「『お伊勢参り』は憧れではあるけど、まさか猟兵の仕事で来ることになるなんてねぇ……」
 なんとも奇妙な巡り合わせではあるが、これも何かの「縁」なのだろう。それが何処でこうやって巡ってくるものなのか、ハッキリとは分からないことだが。
 理彦は今一度、様々な人で賑わう伊勢の門前町の街並みを仰ぎ見た。
 入り組んだ古い造りの建物に、昼を目前に活気付く街並み。装いも格好も様々な人が行き交い、中には札やお土産を手にしている人々も少なくない。
 「お伊勢さん」として親しまれる伊勢の門前町は今日も平和なもので。
 だからこそ、物の怪達からこの地を守らなければいけないと思うのだ。様々な人がお伊勢参りに訪れるこの地を、人々の憧れの地である伊勢を。
(「小狐ちゃんの事も気になるしなんとかしてあげたいね」)
 と、理彦がそっと見つめる先に、明るい瞬きが一つ。チラとだけ向けた視界の端を、稲穂のような金の髪が靡いていく。髪の持ち主は無論、一人でこちらに来たという、小狐少女の存在だ。
 養親の病気平癒を願って一人遥々この地までやってきたのだ。何とかしてあげたいと思うし、どうにかしてあげたいとも思うところ。
「俺が小狐ちゃんに絡むと怪しく見えるかもしれないし……でも心配ではあるからねぇ」
 興味と好奇心が擽られるままに。真新しいものに瞳を煌めかせて、ちょこまかと動き回る小狐の行動は、危なっかしくてつい声をかけたくなるものではあるけれど。
 初対面の男性である理彦が絡んでしまって、逆に怖がらせてはいけないから。だから、理彦は小狐を少し離れたところから見守ることに決めたのだ。
 何かあった時にそれとなく助けに入れるように、視界の端にその存在を捉えつつ。理彦もまた、お伊勢さんを楽しむために門前町の雑踏へと溶け込んでいく。
「家で待つ彼に何かお土産になるようなものを……何かおすすめの物がないか聞いてみようか」
 土産を求める人々で賑わう門前町の一角を散策しながら、理彦の脳裏に思い浮かぶのは――家で理彦の帰りを待つ「彼」のこと。
 折角、伊勢の地に来たのだ。彼にも何か、お土産になるようなものを買っていってやりたかったから。
 伊勢の名物である食べ物も良いだろうし、形に残る品も良いかもしれない。「どれにしようかな」なんて、門前町に並ぶ土産屋の品々をゆったりと見て回って歩きつつ。理彦は、彼のことを考える。
 どれを選べばより喜んでくれるだろうか、なんて。そんなことを少し考えただけで、自然と浮かぶ表情は柔いものになってしまうから。
「おすすめのものはどれかな?」
 土産屋の店主である老婆へと問いかけて――勧められたのは、伊賀組紐の髪紐や小物だった。
 瞼の裏に彼の姿を思い浮かべ。彼の髪に似合う色彩を描き出しながら、理彦は髪紐を選んでいく。勿論、お土産探しの最中に情報を集めることも忘れずに。
「お兄さんも、やっぱりお伊勢参りに来たのかい?」
「そうだねぇ。お伊勢参りは憧れであったから」
「そうかい。まぁ、気を付けなさんなよぉ。何でも、五十鈴川のほとりに動物が出るっていう話だからね! 土産を奪われないように、用心しないと」
「この辺りで動物が出るのは、珍しいことなのかな?」
「そうさね。近隣で流行ってるっていう病とおんなじで、最近の話だよ、こんなに頻繁に出るって聞くのは。何の動物か、正体までは見られなかったらしいけどねぇ」
 ケラケラと豪快に笑ってみせる老婆に、「それはそれは。情報をどうもありがとう」と、柔和な笑みでお礼を告げて。
 何か情報が得られたらもうけものと思っていたところ。意外にも詳しい情報を得られることが出来たのだから、これ以上の収穫はないだろう。
「彼の髪色に合うものはこれかな」
 金糸交じる、赤と緑が交互に織り込まれた髪紐を手に取って。それからもう一つ、真珠が編み込まれた揃いの伊賀組紐の根付も併せて。
 和紙で出来た袋に包んで貰ったのなら、家で待つ彼に土産を渡す瞬間が――早くも待ち遠しかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鹿村・トーゴ
◆■
旅装束で人の流れに紛れていくか
ってか人多っ
(相棒の鸚鵡ユキエが肩に来て)
『ちょっと都会行くといつもソレねーユキエは慣れた!
えー偉いじゃん
やっぱオレ田舎モンだしーお伊勢さんとか来て良いんかね
『もう着いたって
余裕あったら飴行商しよーと思ってたがこりゃ無理だ
折角だ、お参りしとこ
『そうしましょ。ねえ熊野と何が違うの?
…いろいろ違うぜ?オレはあっちのが親しみあるけど(ひそひそ
ここは国一番の神さんをまつるお宮だ(笠を取って段の下から一礼
『登らないの?
うん。殺生に関わりすぎてるもんオレ、…畏れ多いや
『??

道すがら物の怪の噂を【聞き耳/情報収集】
名産品より廉価なおにぎりやお茶を買いあちこちの方言等楽しむ




 一生に一度のお伊勢参り――と云うだけあって、門前町はエンパイアの各地から伊勢参りに訪れた人々で賑わっていた。
 人々の織りなす生活音、土産を勧める商人の声に、昼食や旅の情報を求める旅人達の賑わい。
 門前町の雰囲気自体はとても穏やかで平和なのだが――如何せん、人が多い。
 それが特に、都会にあまり馴染みのない鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)ともなれば――人の存在に圧倒されてしまうのも、無理のないことだろう。
 着慣れた旅装束に身を包み、人の流れに紛れていこう。そうは思ったものの、人の流れすらあっちへこっちへとごちゃごちゃしていて、いったいどれが何処へと続いているものなのやら。
「ってか人多っ」
 殆ど反射的に吐き出してしまった、驚きの呟きも。人々が生み出す足音や風音、話し声に紛れ、あっという間に溶けて消えてしまう。
 と、少しだけ引いた位置から行き交う人波を眺めていたトーゴの肩に、バサバサと大きく翼を羽ばたかせた白い鸚鵡――トーゴの相棒である、ユキエがストンッと華麗に着地を決めて見せた。
『ちょっと都会行くといつもソレねーユキエは慣れた!』
 やれやれと大きく頭を振って『仕方ないわねー』と答えてみせるユキエの素振りは、人間よりも人間らしいもので。
「えー偉いじゃん。やっぱオレ田舎モンだしーお伊勢さんとか来て良いんかね」
『もう着いたって。着いてるって』
「余裕あったら飴行商しよーと思ってたがこりゃ無理だ」
 これほど人が多いと思っていなかったものだから。飴を売り歩こうにも、多くの人々を処理できる自信が無い。行商したのなら最後、延々とお客の対応に追われ続けることになりそうだ。
「折角だ、お参りしとこ」
『そうしましょ。ねえ熊野と何が違うの?』
 飴行商はスッパリ諦めて、折角ならばお参りしておこうと、トーゴは神宮へと続く道のりへと歩き出す。
 内宮へ行く人々が作り出している一際賑やかな人の流れに紛れたのなら、あっという間にお伊勢参りに来た旅人の一人として溶け込んでしまった。
「……いろいろ違うぜ? オレはあっちのが親しみあるけど」
 大きな鳥居を潜り、長い宇治橋を渡っていく。
 内宮ともなれば、橋一つを隔てただけというのに、別世界の様にシンと静まり返っていて。
 ただ、サラサラという木々の葉擦れ音や鳥の鳴き声、微かに風のせせらぎが聞こえるだけだ。
『トーゴってば都会よりも自然の方が良いって思ってるー』
「やっぱ自然の方が親しみあるって」
 ひそひそと肩に止まったままのユキエに、熊野と伊勢の違いを分かりやすく解説しながら、参道を行けば。長いはずの正宮までの道のりは、何故だかあっという間なものに感じられた。
「ここは国一番の神さんをまつるお宮だ」
 正宮を前に、ユキエへとそれだけを告げ。目深く被っていた笠を取ったトーゴは、段を上らず――その下から、そっと正宮に向かって深く一礼をする。
 他の参拝者達は上っているのに、トーゴだけ。その様子を不思議に思ったのか、ユキエがポソリと首を傾げながら聞いてきたが。
『登らないの?』
「うん。殺生に関わりすぎてるもんオレ、……畏れ多いや」
『??』
 ユキエへの返事も、何処か上の空のまま。正宮を見上げるトーゴの脳裏に浮かんでは消えて行くのは――トーゴが今まで仕事として、殺めてきた人々の顔だ。
 一瞬で終わらせてやるのが慈悲だと言われても。躊躇いがちに向けられた刃では、その「一瞬」は実現させられない。それでも命令には刃向かえず、気が付けば……仕事としての殺しに、慣れてしまっていた。
 そう。そんな殺生に関わり過ぎた自分が段を上って参拝するなど、畏れ多いこと。だから今は、段の下から。
 ユキエは不思議そうに首を傾げていたが、それでも何かを悟ったのか、それ以上尋ねてくることは無かった。
『ユキエアレ食べたい』
「ユキエにあれは……いや食べられそう?」
 お参りを終わらせた一人と一匹は再び門前町へと戻ってきていた。
 おにぎりを片手に食べ歩きながら、町を行くトーゴの肩に乗っかったままのユキエは、伊勢の地の美味しいものが気になるよう。あっちへこっちへと忙しなく首をキョロキョロと動かしている。
 トーゴはユキエがおねだりした伊勢の美味しいものを買ってやれば、「その鸚鵡にあげるんかな?」と屋台の店主が話しかけてきて。
「ああ、そうだけど」
「やったら、気を付けやなアカンかもなぁ。最近、犬か何かよぉ分からん動物がこの辺出るみたいでな? 油断しとると、あっという間に盗られてしまうかもしれんで」
『大丈夫。ユキエそんなヘマしなーい』
「ははっ。頼もしい鸚鵡やなぁ」
「もし盗られても、二つめは無いからな?」
 店主にもグッと胸を張って。『大丈夫』と言いきってみせるユキエの姿に、トーゴも思わず苦笑を零すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

秋津洲・瑞穂
(アドリブ・連携OK)

やれやれ。
ともあれ御稲御倉にご報告を。柏手パンパン。
「宇迦さま、宇迦さま、瑞穂です」

そりゃ、父さま(須佐之男命)のお力が籠った注連飾りがあれば、
なまなかな病厄など神宮には及びませんでしょうけれども。
事が大きくなっても面倒ですので、散らして来ますね。

◇◇◇◇

まずは内側から順繰りに押さえないと、広すぎて目が漏れるわ。
旅行李から巫女装束を引っ張りだして着替えて。
内宮を回って行きましょう。

狐火一匹お供に連れて、見回りがてらもお仕事お仕事。
参拝の助言でも、観光案内でも、迷子の保護でも何でも御座れ。
病厄が及べば呪詛耐性で判るし、医術破魔浄化もお手の物。
ついでに噂に聞き耳を、と……。




(「やれやれ。ともあれ御稲御倉にご報告を」)
 何やら事件が起こると予知を聞いてみれば、伊勢の地に物の怪が押し寄せているのだとか。
 親しみのある地に病厄を持ち込まれることは、避けたいことで。やれやれと頭を振りながら、秋津洲・瑞穂(狐の巫女・f06230)はザクザクと玉砂利を踏みしめ目的の場所へと迷いなく歩んで行く。
 物の怪達が押し寄せるその理由について考えたところで、推測の域を出ず――かといって、放っておくなんて選択肢は傍から無い。
 この地に集結し始めているという物の怪達のことは、厄介の一言に尽きる話で。何処にいるのかも、何が目的かも分からないが……とりあえず、報告はするべきだろう。
 そんな考えのもと、瑞穂は神宮内宮にある御稲御倉を訪れていた。
「宇迦さま、宇迦さま、瑞穂です」
 パンパンと静謐な内宮に反響するのは、手を打ち合わせる乾いた音だ。柏手を打った瑞穂は、今回のことのあらましをザックリと説明する。
 物の怪達が押し寄せていることと、それらが災いや病魔を齎すこと。
 物の怪達の数が多いとはいえ、ちょっとやそっとことでは此処まで病厄が齎されるとは思えなかったが――。
「そりゃ、父さま(須佐之男命)のお力が籠った注連飾りがあれば、なまなかな病厄など神宮には及びませんでしょうけれども」
 中途半端な存在なら、そもそも、此処へ辿り着けることすら出来ない。途中でその命が滅されるのがオチだ。
 しかし、だからといってここ以外の近隣や周辺で厄介事を繰り広げられても困ることであり――なにより、土足で伊勢の地を踏み荒らさせることは、みすみす赦すつもりも、見逃すつもりもなかった。
「事が大きくなっても面倒ですので、散らして来ますね」
 気合十分、凛々しい表情でしっかりと真正面を見据え。それだけを告げると、瑞穂は元来た道を戻っていく。
 物の怪の一体とて、この地に足を踏み入れさせることは――まあ、物の怪達にそれが可能であるならば、の話だが――させたくなかった。

「まずは内側から順繰りに押さえないと、広すぎて目が漏れるわ」
 狭い様で、その実広い内宮だ。物の怪達が隠れられそうな、人の立ち寄らない静かな場所だって幾つもある。
 内側から順番に見回っていかないと、物の怪達の侵入も見落としてしまうかもしれない。
 狐火一匹をお供に連れて。手早く巫女装束に着替えた瑞穂は、ゆっくりと内側から順に内宮を回っていく。
 玉砂利を踏みしめ、見慣れた神宮の風景を仰ぎ。金色の狐耳をひょこひょこと動かして、参拝者達の噂にちょっと耳を立てれば――観光相談や雑談に交じって、何やら不思議な噂が耳を掠めて言ったような。
「や、それがウソみたいに消えちまったんだよ。おかげ犬かと思ったんだが……見間違いかねぇ」
 そうやって不思議そうに首を傾げている男性は……どうやら、伊勢参りに来る道中で四足歩行の妖しげな生物を見かけたらしい。
 おかげ犬かと思い、一緒に伊勢まで行こうかと見守ろうとしたところ――伊勢に着く直前になって、その姿がいつの間にか掻き消えてしまっていたそうな。
「例の物の怪達かしら」
 幸いなことに、内宮を見て回る中で妖しげな影は見つけていない。病厄が既に内に及んでいるのならば、直感的に理解も出来るが……周囲にその様な気配は認められなかった。
 もし見かけることがあったのなら、四足歩行の妖しい生物には注意ね、と。心の中でしっかりと書き留めて。瑞穂はお仕事に戻っていく。
「父様、母様あぁぁ!! どこ? どこいっちゃったの?」
「あら、迷子ね」
 見回りがてら、お仕事も手を抜かずに。そうして内宮内を回っていたところ、ふと聞こえてきたのは子どもの泣きじゃくる声で。
 きっと逸れたのね、と。そちらの泣き声のする方に行ってみれば。案の定、年端もいかぬ童が一人で道端に座り込んで大泣きをしていた。両親を探すうちに転んでしまったのだろう、擦り剝けた傷からは出血が見られた。
「ほら、手当してあげるから。だから泣いてはだめよ」
 童を慰めながら、瑞穂は慣れた手つきで淀みなく処置を施していく。
 医術も破魔や浄化も、巫女である瑞穂にとって、できて当たり前のことだ。
 「凄い……!」と、泣くことも忘れて華麗な処置の手つきに見入っていた童の手を取り、瑞穂は童の両親を探して内宮へ。迷子の保護も、お仕事のうちだから。
 ――童の両親が見つかり、その両親から何度もお礼を告げられるのは、そこからもう少しした時分のことだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ウィリアム・バークリー
オリビア(f28150)と

『お伊勢参り』、か。巡礼の旅のようなものかな。
こういうことは、平和なところでしか出来ない。幕府の治安対策が功を奏してる証拠だね。
人間相手はそれでいいとして、人外のことはぼくらが引き受けなきゃ。

さて、どうやって情報を集めようか?
参拝して願いをかけるにも特に困ってないし、門前町で噂話でも拾うのがいいんじゃないかな。

伊勢うどんって、どんなのだろう? とりあえず買ったそれを、食べ方を教わってから、二人で五十鈴川の川縁へ。
うどんをすすりながら、きらめく川面を眺めるよ。

後ろからは相変わらず繁華な人の声。神域というには、ちょっと風情にかけるね。
どこの世界でも、人間は逞しい。


オリビア・ドースティン
【同行者:ウィリアム・バークリー(f01788)】

「伊勢参りというのも風情があって素敵ですね」
景観を楽しみつつウィリアム様と共に参りましょう

情報収集は噂を集めれば良いみたいですし二人で歩きながら集めましょう
途中で伊勢うどんを購入したら二人で川辺でいただきます
「汁ではなくタレでいただくみたいですね、どうかわるのでしょうか?」
味わっていただきつつ和やかに食事を楽しみます

賑やかですしこうしていても色んな話が聞こえてきますね
「とても賑わってますしもう少し噂を聞いてからまとめた方が良さそうですね」




 お伊勢参りという文化は、サムライエンパイアやUDCアースの日本特有の文化であるらしい。
 エンパイア各地に在住している人々が挙って伊勢の地を目指すという光景は、他の世界を知る者達からしてみれば、珍しく映ることもあるのだろう。
「『お伊勢参り』、か。巡礼の旅のようなものかな」
 そう。サムライエンパイア特有の、巡礼の旅とも言えるのだろう。伊勢に立ち寄るついでに近隣の観光や食文化を楽しみ――そして、各々土産を手にして故郷へと戻っていくのだから。
 エンパイア流の巡礼の旅を新鮮な眼差しで見つめるウィリアム・バークリー(“ホーリーウィッシュ”/氷聖・f01788)が、門前町をあっちへこっちへ行き交っている人々を眺めながら、感想を漏らせば。
 オリビア・ドースティン(西洋妖怪のパーラーメイド・f28150)もまた、相槌を打ちながら言葉を返すのだ。
「伊勢参りというのも風情があって素敵ですね」
 客を呼び込む威勢の良い声に幾重にも重なり合って響く生活音、旅先の情報交換も兼ねた雑談に。伊勢参りが目的の人々で賑わうこの門前町は、他の世界にはない、特有の趣が感じられる。
 物の怪の気配が微塵も感じられない、平和で穏やかな光景にオリビアがふわりと表情を和らげると、オリビアに同意を示すようにウィリアムがゆっくりと頷いた。
「こういうことは、平和なところでしか出来ない。幕府の治安対策が功を奏してる証拠だね」
 人々が日常と観光を謳歌する門前町に、争いの気配はない――徳川の世は、今日も安泰の様だ。
 それもそのはず。巡礼の旅は、ウィリアムの言う通り平和なところでしか出来ないのだから。治安の悪い地で巡礼の旅をしようものなら、あっという間にならず者達の標的になってしまうことだろう。
「犬や子どもだけで伊勢参りに来ることもあるのですね。大丈夫なのでしょうか?」
「周りの人々が見守っているみたいだし、大丈夫なんじゃないかな」
 路銀を入れた入れ物を身体に括り付けた犬だけがちょこちょこと歩いていたり、奉公先を抜けてきたと思しき子どもの集団が居たり。トラブルに巻き込まれないか、つい心配にもなってしまうが。
 よくよく観察してみれば、周囲の人間がそれとなく彼らのことを見守っているのが分かる。
 無論、トラブルが皆無ではないだろうが。犬や子どもだけでもお伊勢参りが可能なのだから、かなり平和なのだろう。
 「旅は道連れ世は情け」を体現するかのような光景にオリビアが目を丸くする隣で、ウィリアムは鷹揚に頷いてみせた。
「人間相手はそれでいいとして、人外のことはぼくらが引き受けなきゃ」
「そうですね。人外のことを対処できるのは、私達だけですから」
 人間相手のトラブルなら、岡っ引きを始め対処できる人間が数えきれないほど居るが。物の怪――オブリビオンに対応できるのは、猟兵達だけなのだから。
 長閑な門前町の日常を守る為にも、事態が大きくなる前に物の怪達を退治しなければ。
 伊勢の地に集いつつある物の怪達の潜伏地を探すためにも、情報収集をと。二人は門前町の雑踏へと踏み出していく。
「さて、どうやって情報を集めようか?」
「人で賑わっている門前町や神宮なら情報も集まりそうですが、どちらにしましょう」
「参拝して願いをかけるにも特に困ってないし、門前町で噂話でも拾うのがいいんじゃないかな」
「では、門前町で景観を楽しみつつ情報を集めましょうか」
 伊勢の地でも特に人で賑わっているのは、門前町と神宮内宮で。
 しかし、幸いなことに願い事には困っていない。ならば、噂話に耳を傾けながら、エンパイア特有の景観を楽しむのも乙なものだろう。
 他の世界ではあまり見かけない竹細工や、お香、組紐といった存在は真新しく目に映り。エンパイア特有の、古い木造建築が作り出す独特の街並みを眺めながら。二人は街中を歩いていた。
 ひょっとしたら江戸に負けないくらい賑やかかもしれない門前町は、少し歩くだけで、様々な情報や噂が耳を通り過ぎて抜けていく。
 「伊勢の地に来たのなら、伊勢うどんを食べなければ」とか、「土産を買うならあそこの店が良い」とか。情報交換もあれば。
 中には少し気になる、不穏なものも聞こえていた――「門前町の外れで、妖しげな四足歩行の生物を見かけた」とか、「お伊勢参りの途中でならず者達に襲われたおかげ犬が、自分を殺めた犯人を探しているらしい」だとか。
「伊勢うどんって、どんなのだろう?」
「名前に伊勢とついているくらいですし、この地だけで食べられるうどんではないのでしょうか」
 物の怪達に関係しているものと思われる不穏な噂は忘れないように、しっかりと書き留めつつ。
 時々噂に紛れる「伊勢うどん」なる料理に好奇心が擽られる――と、丁度伊勢うどんについて話していた途中で、今歩いている通りに面したうどん屋があることに気が付いた。
 気になって、伊勢うどんを食べている人々を観察してみれば。普通のうどんとは異なり、汁も具も無いうどんであるようだ。それに、麺がとても太い。
「どうやって食べるのかな?」
 折角ならば、この地の郷土料理もと。
 うどん屋に入ったウィリアムとオリビアは、伊勢うどんを二つ注文して。伊勢うどんの食べ方を店員から教わった後、盆に乗せて五十鈴川の川縁へと移動していく。
「そこ、段差が大きいから気を付けてね」
「あ、本当ですね。ありがとうございます」
 喧騒満ちる門前町も、中心部から離れた外れとなれば、物静かなもので。
 川縁に沿うようにして設けられていた長椅子に腰掛け、揃って教わった通りに伊勢うどんを食べ始める。一般的なうどんとは少し異なった食べ方をするのが、また興味深かった。
「汁ではなくタレでいただくみたいですね、どうかわるのでしょうか?」
「しっかり絡めると美味しいって言っていたよね」
 食べ方に作法や決まりは無い。自由に食べるものであるらしいが、タレがしっかり絡むように麺とよく混ぜると美味しいんだとか。
 店員に聞いたお勧めの通りしっかり黒に近いタレ麺をかき混ぜて。焦げ茶色になった麺を一口食べてみれば、風味のきいた甘い味が口内に広がっていく。
 もちもちとした柔らかい触感と優しい甘みは、他のうどんには無い伊勢うどん独自の美味しい味だった。
「タレはたまり醤油が主になっているって聞いていたけれど、見た目みたいな辛さはないみたいだ」
「昆布や鰹の風味がきいていて美味しいですね」
 麺の太さともちもちとした柔らかさは、一般的なうどんとは少々異なったものだが。それが伊勢うどんの魅力なのだろう。
 具が殆ど無い分、タレの味をより一層味わえることもまた良い。
 穏やかに流れていく五十鈴川の水流に、柔らかな陽光がキラキラと乱反射を繰り返している。五十鈴川に架かる橋や背後の建築物はエンパイア特有のもので、サムライエンパイアに来たのだと改めて強く感じさせられた。
 五十鈴川は優しい水色に染まり、対岸の川縁は夏を目指して芽吹き始めた木々の新緑がそっと彩っている。うどんを啜りながら眺める五十鈴川の風景は、エンパイアらしく「和」を感じさせるもので、美しい。
「神域というには、ちょっと風情にかけるね」
 これで聞こえてくるのが水音や、葉擦れ音、鳥の鳴き声だけなら「神域」という雰囲気にピッタリだったのだが。そうはならないのが、伊勢という地なのだろう。
 背後からは、門前町の喧騒が遠く響いてきている。
 神域と呼ぶには風情にかけるが、きっとこれがこの地の在り方なのだろう。それほどこの地が有名で、神が人々に親しまれている、と言うべきか。
「とても賑わってますしもう少し噂を聞いてからまとめた方が良さそうですね」
 門前町の外れである、静かな五十鈴川の川縁ですら、時折通り過ぎていく人々の話声が耳に入ってくるのだ。
 先ほど門前町で収集した噂とすり合わせながら、情報を纏める必要があるだろう。
 神域の近くでも、賑やかに過ごし。時折、人々の話題に上る不穏な噂があったとしても。何も変わらぬように、この町の人々は日常を送っている。
 どこの世界でも、人間は逞しい。そんなことを思いながら。
 ウィリアムとオリビアは、もう少し情報を集めるべく、人々の話し声に耳を傾けるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳳来・澪
【華蝶】◆
わぁ…!ほんに活気溢れるええ場所やね!
(人も店も賑わいに満ちた様子を目にすれば、つられて自ずと笑顔溢れ)

甘味から装飾品まで、見渡す限り色とりどりで目移りしてまうねぇ
あ、この真珠と組紐の髪飾り、姐さんに似合いそう…!
そっちの御品もめっちゃ可愛えね!
(お揃い嬉しいなぁとにこにこ頷きつつ)
勿論大賛成よ、目一杯楽しも!

(途中、琴都姫ちゃんを見かけたら優しく声かけ)
こんにちは、一人で来たの?
偉いねぇ――そしたらこれ、良かったら御守り代わりにどうぞ!
おばあちゃんとまた元気に過ごせるよう、祈ってるね!
(身体健勝の祈りと破魔の加護込め、髪飾りを一つ――何処か嘗ての己と似た、目映いおばあちゃんっ子へ)


花川・小町
【華蝶】◆
神前の静謐な雰囲気も素敵だけれど、門前の精彩満ちる様子も好いものよね
(人々や澪ちゃんの笑顔に誘われ楽しげに微笑み)

甘味の彩りも装飾品の輝きも、本当に魅力的で堪らないわ
まぁ、有難う――早速素敵な逸品と巡り会えて、幸先良いわね
ふふ、此方の髪飾りは澪ちゃんの愛らしい雰囲気に良く映えそうよ(少し色味が違う髪飾りを示し)
折角だしお揃いで頂きましょうか
ふふ、このまま一頻り装飾品を見て、その後に甘味休憩と洒落込みましょう

(ふと見かけた琴都姫ちゃんにも、同じくそっと微笑み)
御機嫌良う、お嬢さん
立派ね
それじゃあ、私からも――
(おばあ様と貴女の幸運を祈って――甘味の手土産を、可愛い妹を見る様な眼差しで)




 伊勢の門前町と伊勢神宮。その二つは、とても同じ地にあるとは思えない程に、異なった顔や様子を見せてくれる。
 エンパイア各地からの参拝者で賑わう門前町と。五十鈴川を超え、宇治橋を渡り切った先に広がる静謐な緑に抱かれた神宮内宮と。ともすれば対照的な門前町と神宮だが、この地においては当たり前のようにそうやって共存していた。
 神宮の入り口となる活気満ちる門前町を少し行けば――四方八方から様々な音が聞こえてくる。
 町全体が一つの大きな楽器になったかのようなそれは、この地に訪れた人々の高揚を更に高めさせるものなのだろう。現に、隣を歩いていた旅人と思しき青年達が「やっと着いた!」とばかりに、伊勢の門前町の光景に瞳を輝かせているのだから。
「わぁ……! ほんに活気溢れるええ場所やね!」
 そこに憂いや不安といった負の影は、微塵も感じられなくて。ただ、人々の笑顔の花が今日も変わらず見頃を迎えているばかり。
 正午を目指して高くなる一方の太陽に、ついに物陰の隅へと追いやられてしまったのか、暗い雰囲気というものはその残滓すら一抹も漂っていない。
 時折聞こえてくる、「野犬と思われる生物が出た」といった不穏な噂も、「じゃあ、気を付けやなアカンな」という数言であっという間に押し流されてしまい――人々は、伊勢の地に着いたという事実で浮足立っている。
 日常と非日常の境界が織りなす、不思議な熱気に当てられるまま。キラキラと瞳を太陽よりも眩く煌めかせた鳳来・澪(鳳蝶・f10175)は、ふらふらと引き込まれるようにして門前町の中心へ。
 楽しそうな人々を目にすれば、自ずと自らの表情も柔いものになってしまうと言えよう。隙間なく敷き詰められた石畳の上に自分の影を踏みながら、後ろを歩む存在よりも先を行くこと数歩。
 門前町の喧騒が手前まで迫ったところで、澪は漸く足早になる歩みを止め――振り返り、ゆったりとした歩調で後ろからついてきている存在の到着を待った。
「ええ、神前の静謐な雰囲気も素敵だけれど、門前の精彩満ちる様子も好いものよね」
 門前町には門前町の活気付いた風情が。神前には神前の厳かな空気が。それぞれあるのだから。
 どちらもまた趣があって良いと、花川・小町(花遊・f03026)は鷹揚に頷いてみせた。
 門前町の光景と、それから己の先を跳ねるようにしていく澪を。優雅な動作で見守る小町の顔にもまた、柔らかな微笑が湛えられていた。
 人々や、それに何より、澪の笑顔が心底楽しそうなものであったから。
 初夏も間近に迫った春の陽気の下、人々の笑顔に誘われたのなら、小町が纏う雰囲気もまた、自然と柔らかいものになる。
「甘味から装飾品まで、見渡す限り色とりどりで目移りしてまうねぇ」
 一度町中を歩けば、甘味から装飾品まで。色鮮やかに光り輝いてみえる様々なものが、次から次へと視界に飛び込んでくる。
 甘味屋一つとっても何軒もあって、どの甘味を食べるか――それを話す時も、きっと楽しい。
「甘味の彩りも装飾品の輝きも、本当に魅力的で堪らないわ」
 あっちへこっちへと忙しなく視界を向けては、気になったものに瞳を輝かせて。そんなことを繰り返す澪に、小町も「ふふ」と笑み零す。
 と、見渡した店々の先に一際気になる一店があったのか、澪はパタパタと駆け足で近寄ると、目を惹かれた一品を小町へと差し出した。
「あ、この真珠と組紐の髪飾り、姐さんに似合いそう……!」
 それは、紅から橙へと徐々に色彩が移り変わる、金糸の交じる組紐の髪飾りで。繊細な金色の座金に乗せられた、花を模した真珠の飾りが髪飾りの抱く雰囲気を一等上品なものに仕立て上げている。
 深い色彩の落ち着いた髪飾りは、気品溢れる小町によく似合うだろう。
「似合いそうやなくて、似合ってるやね!」
 そっと小町の髪に髪飾りを当て、明るい笑顔で澪はそう告げた。
「まぁ、有難う――早速素敵な逸品と巡り会えて、幸先良いわね」
 澪に勧められるまま、小町が備え付けられていた鏡を覗き込んでみれば。確かに、自分の髪に澪が選んだ髪飾りはよく溶け込んでいる。
 早速素敵な品と巡り会えたことに喜びながら。小町は少し色味が異なる髪飾りを、そっと澪へと差し出した。
「ふふ、此方の髪飾りは澪ちゃんの愛らしい雰囲気に良く映えそうよ」
「そっちの御品もめっちゃ可愛えね!」
 金色の座金に真珠の花飾りはそのままに。小町が澪へと差し出した組紐は、鮮やかな赤色から淡い桃色へと色彩が変化していっている。
 明るく可愛らしい澪に似合いそうな可愛らしい髪飾りを手渡せば、「めっちゃ映える!」と澪は嬉しそうに鏡を覗き込んで破顔した。
「折角だしお揃いで頂きましょうか」
「お揃い嬉しいなぁ」 
 小町の甘美な提案に、澪もにこにこと微笑んで頷いてみせる。
 早速、と。お揃いの色彩でお互いの髪を彩れば、それだけで嬉しさと共に笑顔になれるから。
「ふふ、このまま一頻り装飾品を見て、その後に甘味休憩と洒落込みましょう」
「勿論大賛成よ、目一杯楽しも!」
 お伊勢の門前町には、様々なお店がある。見て回るだけで、かなりの時間がかかるだろうから。
 他の装飾品に、甘味休憩に。今から楽しみが沢山の二人だった。

 装飾品を一通り見終わったのなら、今度は休憩も兼ねて甘味屋へ。
 どのお店が美味しそうかと比べている時間もまた、楽しいもので。
「全部回ってしまいたいくらいやね」
「そんなに沢山食べられるかしら」
「甘いものは別腹って言うし!」
 店前におかれたお品書きを「どれにしようかな」と、見て悩んで。でも、向かいにあるお店や少し離れた甘味屋の甘味もまた魅力的で。
 あちこち比べながら「これ!」という一店を探していたところ、ふと目に飛び込んできたのは――ひょこひょこと忙しなく動き回る狐耳。子狐の琴都姫だった。
「こんにちは、一人で来たの?」
「御機嫌良う、お嬢さん」
 琴都姫の姿を見かけた澪と小町は、ふっと微笑んで優しく声をかける。
 おばあちゃんの為に頑張る彼女のことを見守り、労ってあげたくもあったから。
「こんにちは。せやで! ウチ、一人で来たんや! ばぁばの病気がよぉなるようにって」
「偉いねぇ――そしたらこれ、良かったら御守り代わりにどうぞ! おばあちゃんとまた元気に過ごせるよう、祈ってるね!」
「立派ね。それじゃあ、私からも。おばあ様と貴女の幸運を祈って――」
 おばあちゃん想いのその様は、何処か嘗ての自分に似ているようで。
 在りし日の自分の面影を感じさせる子狐の姿にそぅっと瞳を細めつつ、澪は身体健勝の祈りと破魔の加護を籠めた髪飾りを、少女へ。
 澪の他にもう一人、幼い妹が出来たかのような。慈愛に満ちた瞳で、小町もまた少女へと甘味の手土産を手渡した。
「姉ちゃんも、お姉さんもええの? ありがとうなぁ!」
 にぱっと花咲くような満面の笑みを浮かべる琴都姫に、にっこり笑って別れを告げて。澪と小町は、再び甘味屋の方へ。
 どの甘味屋さんも捨てがたかったけれど、このお店の芸術品のような品に一等興味を惹かれたから。
「なんこれ!? 寒天の中にお花咲いとるんやね?」
「ふふ、まるで本当に本物のお花が閉じ込められているみたいね」
 ――まるで、季節の花を寒天の中にぎゅっと閉じ込めてしまったかのような。
 透明な寒天の中に閉じ込められた桜の花を見て、澪は驚きながら、運ばれてきた甘味をじっと見つめている。
 食べるには勿体ないくらいだけど、美味しそうだから……。食べないのも、また勿体ないくらいで。
 キラキラと目を輝かせて甘味を眺める澪を優しく見つめながら。小町は、五十鈴川の風景を模したという涼しげな琥珀糖の乗った小皿を手に取った。
「甘過ぎないから、幾らでも食べられてしまいそうね。あんまりのんびりしていると、澪ちゃんのも食べてしまうわよ?」
「えぇ!? それはアカンて!」
 小町の冗談を耳にするなり、目にも止まらぬ速さで自分の分の甘味を死守した澪。
 その俊敏さに、小町の表情も綻んでしまう。
 お話と甘味と。二人仲良く、暫しの甘味休憩の時間だ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

お伊勢参りねえ。子狐の子も気になるが、まず観光だね。え?美味しい物食べたい?奏ならそういうと思ったよ。五十鈴川の方にいい店があるらしい。行こうか。

伊勢うどんとてこね寿司は流石に美味しいね。奏の食欲が半端ない。え、店をはしごしたい?伊勢牛食べたい?折角来たんだ。行こうかね。

牛鍋を突きながら五十鈴川を眺める。ああ、いい眺めだ。あ、物の怪の情報も集めないとね。店の人なら詳しいだろうかね。食事を運んできた店員にさりげなく聞いてみるよ。


真宮・奏
【真宮家】で参加

お伊勢参りに来た子狐の子・・・人里に出るのも大変でしょうに。無事に伊勢参りが出来るように物騒なものは追い払っておきたいですね。その前に・・・観光です!!美味しいもの、食べたいです!!


伊勢うどんと手こね寿司が出てきて目をキラキラ。笑顔でもぐもぐ食べます。

ここに伊勢牛はありませんか・・・別の店行きましょう!!(瞬の手ぐいぐい)

牛鍋を食べて最高に満足です!!あ、情報を集めなければ。この牛、美味しいですね!!ところでこの頃物の怪が出るとかいう物騒の噂を聞いたんですが、何か知りませんか?


神城・瞬
【真宮家】で参加

お伊勢参りですか・・・伊勢参りに希望を託すのは誰も変わらないという事ですか。子狐のお嬢さんは無事に伊勢参りをして欲しいですね。情報集めの為にも・・・美味しいものを食べるんですね。分かりました。

五十鈴川沿いの店で伊勢うどんと手こね寿司に舌鼓を打ちます。美味しいですね。え?伊勢牛食べたいから他の店行く?そんなに引っ張らなくても一緒に行きますので。

奏が牛鍋に夢中ですので、情報集めは主に僕がしますか。地元の方ならきっと詳しいでしょうし。




「伊勢と言えば、何が一番有名だったかね。やっぱり伊勢うどんかい?」
「真珠やお茶は有名ですよね。他には――……」
「えっと。伊勢うどんにてこね寿司に。後は、伊勢牛や……あ! 伊勢エビも――」
 門前町に木霊する、楽しげな話し声が三つ。歩幅を合わせて歩めば、すぐに人々で賑わう門前町を訪れた一行として、あっという間に溶け込んでしまう。
 今日も賑やかなこの地は、来るもの全てを平等に受け入れるかのように、穏やかな空気が漂っている。昼前ということもあり、何処のお店や屋台にも客の姿が見られるようで。美味しそうな香りに、ついふらふらとそちらへと引き寄せられてしまう。
 家族で伊勢の地を訪れていた真宮家。昼前ということもあり、話題は自然と伊勢の美味しいものに。
 中でも美味しい食べ物に目が無い真宮・奏(絢爛の星・f03210)は――思考回路に一度火がついてしまえば、止まらない様だった。
 底なしの胃袋を持つ奏。きっと、お店を何軒も梯子することだって、当たり前のように行ってしまうのだろう。次から次へと奏の頭の中を流れていく、「伊勢ならでは」の美味しくて是非とも食べたい料理の数々。
 両側に立ち並ぶお店を見て食べたいものを指折り数える奏の姿を、神城・瞬(清光の月・f06558)は優しい眼差しで見守っている。美味しいものや好きな食べ物を見て瞳をキラキラと輝かせる彼女の姿は、年相応で可愛らしいものであったから。
 それに何より、奏は本当に美味しそうに料理を食べるから。瞬も、見ていて飽きないのであった。
「食べたい料理も沢山ですね、奏?」
「はい! あ、マグロと真鯛を忘れていました!」
「全く……。食欲があるのは良いことだけど、食べ過ぎてお腹を壊さないように気を付けるんだよ?」
 観光地に来たのなら――奏がこうなることは分かっていたから、美味しい料理を出すお店や甘味屋はコッソリと事前に調査していたり。
 母である真宮・響(赫灼の炎・f00434)は苦笑しながら、釘を刺しておくことも忘れていなかった。
 食欲があるのは良い事だが、食べ過ぎて腹痛を起こしたら、本末転倒だから。
 伊勢の地に来たのなら、地元の美味しい物を。お伊勢参りの人々も、奏と同じ思考回路を持っているようで。少し噂話に耳を傾けてみれば、「あそこの店が美味しい」とか、「あの店は味が濃いだけだった」とか。そんな情報もちらほらと聞こえてきた。
「お伊勢参りねえ。子狐の子も気になるが、まず観光だね」
 折角伊勢の地に来たのだから、観光は外せない。子狐の少女が無事にお伊勢参りを遂げられるように、物の怪達を退治しなければ、と。
 子を持つ響だからこそ、子狐の少女のこともまた、気になるもの。少女の養親とて、きっと少女が無事に帰ってくる日を首を長くして待っているに違いないのだから。
 観光への楽しみもありつつ、早くも物の怪退治への気力も十分な響。準備運動の様にぐるぐると腕を回していれば、「「早いですよ」」と、子ども二人から突っ込まれた。
「お伊勢参りですか……伊勢参りに希望を託すのは誰も変わらないという事ですか。子狐のお嬢さんは無事に伊勢参りをして欲しいですね」
 周囲の人々をそれとなく観察してみれば、皆、お伊勢参りに希望や願いを託している様にも見えて。
 神様への感謝を祈りつつ、願いを託すこともあるのだろう。伊勢の地を訪れている沢山の人々が無事に故郷に帰れるように。瞬は改めて気を引き締めた。
 門前町を訪れている人々は皆、帰る場所があるのだ。だから――無事に、伊勢参りを終えて故郷に帰って欲しい。物の怪達の被害を受ける人々は、少ない方が絶対に良いのだから。
「お伊勢参りに来た子狐の子……人里に出るのも大変でしょうに。無事に伊勢参りが出来るように物騒なものは追い払っておきたいですね」
 きっと、今も門前町の何処かを楽しげに駆け回っているに違いない。奏は、同じ町に居る子狐の少女に想いを馳せる。
 他の世界の様に、車や電車と言った交通機関がある訳では無い。全て、徒歩なのだ。お伊勢参りの行程は、決して楽なものでは無い。
 少女が真っ直ぐ村に帰れる為にも、物の怪達にはお帰り頂かなくては。だが、その前に。
「その前に……観光です!! 美味しいもの、食べたいです!!」
 ――そして、話は再び伊勢の美味しいものへと舞い戻る。
 旺盛な食欲を肯定するように、頭の中から「腹が減っては戦ができぬ」ということわざを引っ張り出しながら。まずは腹ごしらえを。
「奏ならそういうと思ったよ。五十鈴川の方にいい店があるらしい。行こうか」
「情報集めの為にも……美味しいものを食べるんですね。分かりました」
 情報集めと、美味しいもの。全く異なっている様にも思える、二つのこと。独立した点と点が暫しの間繋がらず、こてりと瞬は首を傾げていたが。
 観光を楽しんでいたら、その合間に噂も耳に入ってくるだろう。それに、奏の喜ぶ顔が見たかったから。
 響の言葉に、「分かりました」と返事を返す。
 「いいお店」の言葉に、奏のテンションは有頂天だ。ぴょんぴょんと飛ぶようにスキップで一歩先を歩む娘の後ろ姿に苦笑を浮かべ、瞬と顔を見合わせて。響と瞬もまた、お店の方へと歩んで行く。

「伊勢うどんとてこね寿司は流石に美味しいね」
 伊勢の地と言えばな二品ということもあり、伊勢うどんとてこね寿司の定食は流石に美味しかった。
 カツオやマグロを醤油で漬けて。豪快に酢飯の上に乗せたてこね寿司は――調理方法は簡単だが、その味は一口食べれば虜になってしまいそうな程で。
 丼の中のてこね寿司は、豪華なことに、二層になっているよう。箸で一口分を掬えば、真ん中に隠れていた、カツオやマグロの漬けが顔を覗かせる。
 先程掬い上げたてこね寿司を、響はゆっくりと口に運んでいた。 
 てこね寿司に添えられていた漬物の存在もあり、伊勢うどんとてこね寿司の甘い風味をしつこいと感じることもなかった。
「ええ、美味しいですね」
 伊勢うどんを上品な手つきで食べていた瞬もまた、響の言葉に相槌を打つ。
 一般的なうどんと異なる伊勢うどんは、タレが少量で具も殆どない。もちもちとした柔らかな太麺にタレを絡めて食べるのだが――甘めのタレと麺のもちもちとした触感が、クセになってしまいそうな美味しさで。
 てこね寿司と伊勢うどんの組み合わせも、バッチリだった。それなりに量のある定食だが、あっという間に完食できてしまいそうな程。
「伊勢うどんもてこね寿司も、どっちも美味しいです!!」
「……奏の食欲が半端ないね」
「奏、大盛りで頼んでいましたよね?」
 遡ること、少し前。定食が運ばれてくるなり、瞳を零れ落ちんばかりにキラキラと煌めかせて定食を眺め――手を合わせると、無言で食べ始めた奏。殆ど食べ終わった今でも、その勢いは止まることなく。
 とびきり美味しそうな表情で、今もてこね寿司を咀嚼している。
 奏の見事な食べっぷりを、響と瞬は優しい表情で見守っていた。
 大盛りで頼んでいたはずなのだが、誰よりも早く食べ終えてしまいそうだ。
「ここに伊勢牛はありませんか……」
「もう選び始めているんですね。奏、食べ終わったばかりで苦しくは無いですか?」
「大丈夫です!!」
 定食を食べ終えて「ごちそうさまでした」と、手を合わせて。
 奏がまずしたことと言えば、お品書きを再びペラペラと捲ることだった。
 けれども、探しても探しても「伊勢牛」の料理は見当たらなくて。「食べたかったのに」と若干しょんもりとした奏の姿を、瞬がそっと慰める。
「まあ、一つのお店だけで終わらせなくても良いだろうからね」
「そうですね。母さん! じゃあ、伊勢牛を食べられる別の店行きましょう!!」
「折角来たんだ。行こうかね」
 そう。美味しい料理は沢山ある。無理に一つのお店で完結させる必要も無いのだ。ゆっくりと幾つかの店を回ってみるのも、また良い事だろうから。
 響の提案に、ぱあっ! っと輝く紫色の双眸。奏はそのまま勢い良く席を立つと、瞬の手を引いてグイグイと伊勢牛が食べられるお店の方へ。
「伊勢牛が私達を待っていますよ!」
「そんなに引っ張らなくても一緒に行きますので」
「伊勢牛は走って逃げないよ。ゆっくり行こうじゃないか」
 ゆっくりと言い聞かせても、奏の脳内は目の前にぶら下げられた伊勢牛のことで頭がいっぱいのようで。
 瞬と響の声も聞いているのか、聞いていないのか。ワイワイと賑やかに話しながら道を言えば、あっという間に牛鍋が食べられるお店に到着した。
 伊勢牛を食べられるお店は、五十鈴川に面していた。真宮家の三人が通された座席は二階の――五十鈴川の風景を一望できる、窓に面した眺めの良い座席だった。
「川も森も穏やかで、綺麗な景色ですね」
「ああ、いい眺めだ。美しい景色を眺めながら食べる牛鍋は、また格別なものになるだろうね」
 窓越しに眺める五十鈴川の光景に感嘆の息を吐く瞬や響の背後で、食欲の化身と化した奏は早速座布団の上に座ってスタンバイ!
 花より団子の光景に、瞬と響は苦笑交じりの笑みを浮かべながら。注文した牛鍋が届くのを、少しの間待っていた。
「最高に満足です!!」
 運ばれてきた牛鍋に目を輝かせ、目にも留まらぬ速さで一口運んで奏は満足げ。
 食べることに夢中な奏を見――瞬はふっと優しい笑みを湛えた後、料理を運んできた店員に噂の事を尋ねる。
「お伊勢参りに来たのですが、その道中で何やら妖しい動物が出るという噂を耳にしたのですが……何かご存知でしょうか」
「うちは子どもも居るからね。危ないことは極力避けたいと思ってさ」
 伊勢参りに来た参拝者を装いつつ、さり気なく尋ねてみれば。
 店員は「そういえば、最近その様な噂を耳にしますね」と瞬と響の質問にこくりと首を頷かせた。
「私達のお店からは、ご覧の通り五十鈴川の眺めが一望できるのですが……。夜遅く、あの川縁を何かが横切ったのを見たことがあるんですよね」
「野犬でしょうか? 何はともあれ、気を付けることに越したことは無いですね」
「そうなんだね。ありがとう、気を付けるよ」
 お礼を告げながらも、瞬はじっと店員の様子を冷静に観察していた。「お役に立てたのなら」と、笑顔で答えつつ――しかし、去り際に「あれ、本当に野犬だったかな……?」と店員が自問自答のように呟いたことを、瞬は見逃さなかった。
「……野犬ではなさそうですね」
「そうだね。となると、噂の物の怪達とやらか」
 店員の様子と先ほどのやり取りを思い返しながら。瞬と響は、小声でひそひそと考えを交わす。
 不思議そうに首を捻っていた店員の様子を見るに、どうやら、店員が見かけた何かの正体は――野犬では、なさそうだ。
「五十鈴川付近に出るのなら、張り込んだり辺りを捜索したりして潜伏地を探そうか」
「そうですね。事態の集束は早いに越したことがないですから」
 二人が今後の方針を決めている間も――奏は黙々と箸を動かしている。
「あ、情報を集めなければ。この牛、美味しいですね!!」
 漸く当初の話題を思い出して。ハッと我に返ってみれば、瞬も響も何やら作戦会議をしている最中で。
 話しかけることも躊躇われ、奏は隣の座席に座っていた参拝者と思しき男性に話しかけた。
「ところでこの頃物の怪が出るとかいう物騒の噂を聞いたんですが、何か知りませんか?」
「ああ。お嬢ちゃんもその噂を耳にしたのかね。俺達も聞いたよ。何でも、門前町の外れでよく目撃されているとかいう話じゃないか」
「……美味しい匂いに釣られて、出てきちゃったんですかね?」
「ははっ! そうかもしれねぇなぁ」
 豪快に笑い飛ばしてみせる男性に、お礼を述べながら――先ほど聞いたことを忘れないように、しっかりと心のメモ帳に書き留めた。
「それにしても、本当に美味しいですね」
「奏まではいかないけれど、いくらでも食べられてしまいそうだね」
「おかわり頼んでも良いですか!」
 奏が男性との会話を終えた丁度その頃、瞬と響もまた話し合いを終えたようで。
 五十鈴川の風景を眺めながら、家族三人で。仲良く食べる牛鍋は、とびきり美味しい味がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

吉備・狐珀
【狐扇】
原因不明の病…元凶のオブリビオンを倒せば解決するようですが…。
何かを求めて伊勢に、というのが気になりますね。
などと考えていたけれど、門前町を目にした瞬間。
お伊勢参り!いつか神宮にお参りしたいと思っていたんです!
語さん、さっそくご挨拶に行きましょう!と、思わず大興奮。
手を握り、語さんへと向き直ったところではたと我に返って。
興奮していたことが恥ずかしくて赤面してあわあわ。

深呼吸して、落ち着いてからご挨拶をしに境内へ。
ご挨拶が済んだら情報収集、と思うけれど。
門前町を通れば賑わいにますます心躍ってしまう自分がいて。
あ、あの簪素敵、この小物も可愛い。あ、あれ美味しそう、なんてそわそわ。

ついつい夢中になっているのに気が付いて「あ…」と照れ笑い。
もう少しだけ、見てもいいですか?と素直におねだり。
それと―。あそこで出来立てのあんころ餅が食べられるみたいなんです。
食べていきませんか?とお店を指さして。

お仕事だけれど、好きな人とお伊勢参りも堪能したいから。
だから、あと少しだけ―。


落浜・語
【狐扇】

伊勢神宮って言ったら、霊験あらたかなとこの最上位の一角みたいなイメージあるし、何かしらあるんだろうけど…
そう言うのに集まられるのは困るよなぁ。

大興奮する狐珀にニコニコ。でも、気持ちはわかる。
俺も伊勢神宮は初めてだし、行ってみたかったから、興奮するのはわかるなぁ。

狐珀が落ち着いてから、参拝。
門前町はやっぱり活気があって賑やかだなぁ。楽しくなったり色々気になるの、すごいわかる。色々目移りするよな。
もう少しみても、に頷いて。
そこまで急ぐわけじゃないし、色々見ながら行こう。そのほうが色々聞けるだろうしね。合間に噂話に聞き耳を立てたり、店先の会話を兼ねて情報収集したり。
休憩兼ねて、あんころ餅食べていこうか。

仕事だけれども、これくらいはきっと許されるはず。




 一生に一度は、お伊勢参りを。それくらい、サムライエンパイアの人々にとっては神宮と伊勢の地は憧れでもある訳で。時には奉公先を抜け出してまで参拝しようとする者もいるくらいなのだから。
 通った場所に災いや病魔を齎しながら、伊勢の地を目指している元凶である物の怪達――過去から蘇りしオブリビオンも、何が理由かは分からないが、この地を目指しているらしい。
 参拝者であるのならば来るもの拒まず、非日常と憧れのせいで多少羽目を外したくらいなら神様だってお目こぼししてくれるはず……とは言え、流石に正常なる時間の流れに逆らいしモノ達の集合は、歓迎されないだろう。
 常ならば、時間の流れは絶えずして一方通行で在るのだから。
「原因不明の病……元凶のオブリビオンを倒せば解決するようですが……」
 グリモア猟兵から一通り説明を聞き終わった吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)の表情は、何処か晴れない。
 病自体はオブリビオンを倒せば、解決する。しかし、重要なのはそこでは無いのだ。いちばん問題なのは――物の怪達が、いったい何を目指して伊勢の地を目指していたのか、というところだろう。
「何かを求めて伊勢に、というのが気になりますね」
 ちらと狐珀が隣の落浜・語(ヤドリガミの天狗連・f03558)へと視線を向ければ、語もまた、神妙な顔をして今回の事件に関しての思考を巡らせているようだった。
「伊勢神宮って言ったら、霊験あらたかなとこの最上位の一角みたいなイメージあるし、何かしらあるんだろうけど……」
 サムライエンパイアで伊勢神宮と言えば、その存在を知らぬ者が居ないくらい有名な地だ。信仰や霊験云々に関しても、その他とは比べ物にならないくらい強いことは想像に難くない。だが。
「そう言うのに集まられるのは困るよなぁ」
「霊験が狙いでも、集まられるのはちょっと遠慮したいですよね……」
 何が狙いであったとしても、流石にオブリビオンに集わられては……と、困り顔でお互いに考えを交わしているうちに、転移が終っていた様で。
 いつの間にか、目の前に広がっていたのは不規則に風景を移り変わらせるグリモアベースではなくて。お天道様が燦々と降り注ぐ、真昼の門前町だった。
 門前町の外れであるというのに、賑やかな喧騒がこの場所まで届いてきている。門前町の中心部に足を向けたのなら、きっと何倍も人々で賑わっているに違いない。
「お伊勢参り! いつか神宮にお参りしたいと思っていたんです!」
 人々で活気付く門前町の賑わいを前に、先程まで狐珀の脳内いっぱいを占めていた、物の怪達がどうやらといった考えは何処かに吹き飛んでしまった様で。
 ひょっとしたら、グリモアベース辺りに置いてきてしまったのかもしれないな、と。そんなことを心の中で思いながら、語は喜色満面な様子で浮足立つ狐珀を優しい眼差しで見つめていた。
 参拝日和と言っても過言ではない晴天に、穏やかな門前町の光景。それに、今日も狐珀が可愛らしい。これ以上のことは無いだろう。
 ニコニコと大興奮の狐珀に微笑み返しつつ、「一秒だって惜しいです!」という雰囲気で差し出される自分よりもその小さな手をそっと握り返した。
「語さん、さっそくご挨拶に行きましょう!」
「そんなに急がなくても。でも、俺も伊勢神宮は初めてだし、行ってみたかったから、興奮するのはわかるなぁ」
 自分を見つめる彼の瞳は、ニコニコと細められていて、とても優しい色彩を宿している。
 まるで、お祭りを前にはしゃぎまわる幼子を見つめるようなその視線に。ふと、何処かに言っていたはずの理性がふわりと戻ってきたような。
 ぎゅっと手を握って。彼へと向き合って――その瞳と視線がかち合った途端、狐珀は自分の興奮が急速に落ち着いていくのを感じていた。
 冬の様な冷たさが自分の身体を駆け巡ること、数秒。それから一瞬も経たないうちに、今度は急速に身体に熱が回っていくのを感じる。
 頬まで真っ赤になるのを自覚しながら、アタフタと両手をあっちへこっちへ忙しなく動かしながら、遅すぎる弁明を。
「いえ、これはその……! ちょっと楽しみで、はしゃぎ過ぎたとか、その……!」
 顔の端まで真っ赤に染めて、我に返ってあわあわと慌てる狐珀の姿もまた可愛い。
 小動物がみせるようなちょこまかとした動作に、思わず緩みそうになる頬に力を籠めながら。語は狐珀が落ち着くまで、ニコニコと微笑ましく忙しなく手を動かし回る彼女の様子を見守っていた。
「じゃあ、行こうか?」
「は、はい……! 行きましょうか」
 恥ずかしさの名残で未だ頬の端を薄赤く染めさせたまま。手を取り合った二人は仲良く境内へ。
 この地を訪れたという挨拶と、平和な日常への感謝を込めて。
(「ご挨拶が済んだら情報収集、と分かってはいるのですが」)
 参拝をつつが無く終えて、二人は再び人々で賑わう門前町へ戻ってきていた。
 行きは好奇心と興奮でじっくり見る余裕が無いくらい、参拝が楽しみであったのだけれど。参拝を済ませた途端、急に視界が広がったような気がして。
 参拝で頭がいっぱいだった行き道には気にならなかったものが沢山、おいでおいでと手を招いて話しかけているみたい。
 簪、髪紐、小物に、甘味に――……と、指折り数え出したらキリがない。
 キョロキョロと忙しなく参道の両端に広がる店々を見渡して。落ち着きなく瞳を輝かせている狐珀の姿に、語は優しく話しかける。
「門前町はやっぱり活気があって賑やかだなぁ。楽しくなったり色々気になるの、すごいわかる。色々目移りするよな」
 狐珀がキョロキョロしてしまうのは無理もない話だし、それに、語だって興味をひかれるものが幾つもあるのだから。興味の赴くままにあっちもこっちもと見て回るのも、きっと楽しいことだろう。
 どれか選べないのなら、一つ一つそのどれも全てを巡ってみても、今日くらい許されるだろうから。
「狐珀は何が気になるのかな?」
「あ、あの簪素敵、この小物も可愛い。あ、あれ美味しそうです」
 簪に指を差し。それから、少しの間も置かずして、狐珀の瞳は向かいの露店の小物を捉えている。見るもの、目に映るもの全てが素敵に輝いてみえて。
 そわそわしつつも好奇心を瞳に宿し、語の問いに――選びきれず、ちょっと申し訳なさそうな表情で振り返った。
 ついつい夢中になって門前町の光景を眺めていたことに気が付いて。
 「あ……」と振り返った先にいた語に向かって、狐珀は照れ笑いを浮かべる。
「もう少しだけ、見てもいいですか?」
「勿論」
 照れ笑いを浮かべながら告げられた素直なおねだりに、語は二つ返事で「良いよ」と頷いた。
 照れたり笑ったり、ハッと我に返ったり。色々な表情をくるくると変えながら見せてくれる彼女の顔は眺めていて飽きないし――それになにより、愛しい人のおねだりともなれば、叶えてあげたくもなりたくなるもの。
 彼女が楽しそうなら、それだけで十分なのだ。一緒にこうしているだけで、語も十分に満たされた心地になれるのだから。
「そこまで急ぐわけじゃないし、色々見ながら行こう。そのほうが色々聞けるだろうしね」
「はいっ」
 うずうずと期待を隠しもしない声音の返事に宿るのは、楽しそうな感情で。
 あっちこっちと、色々見て回った方が、噂も情報もたくさん集まるだろうから。
 狐珀の手をそっと攫ったのなら、まずは彼女が気にしていた簪を扱うお店の方へ。
「漆に螺鈿に……どれも素敵ですね」
「狐珀はどれが気になる?」
「私はあの簪が……!」
 一口に「簪」と纏めても、その数は様々だ。
 町娘に人気があるという花咲いた可愛らしいものに、細やかな金銀細工に真珠を始めとする宝石をあしらった豪奢のもの、べっ甲や象牙を用いた、シンプルだが上品さが漂うものまで。
 遠目から見ただけでも素敵であったのだから。近くで実際に手に取って眺めてみた時の感動ときてみれば。
 自分好みの簪を探し、瞳を煌めかせる狐珀の横で。語はこっそり、狐珀が手に取ったり、気に入ったりした簪のデザインを忘れないように記憶していた。
 いつか贈り物として贈るかもしれない。大切な人の好みは、憶えておいて損は無いだろうから。
 と、そんなことを考えながら次に狐珀が手にした簪を見てみれば。
「狐珀、それプロポーズ用のじゃないかな?」
「……えっ? ……ぁ、そうですね? そうでした……!」
 思わず息をするのも忘れてしまいそうなほど、繊細で芸術品のような意匠に。静かに見入っていたと思ったら、語の言葉をきいた次の瞬間にはパッと顔を真っ赤にしてアタフタと。
 「このタイミングで教えてくださらなくても」なんて。少し恨ましげな視線で力無く語を見上げても――真っ赤な顔では、少しも怖く無くて。
 むぅっと自分を睨み付けてくる狐珀の表情に、語は堪らず表情を緩ませた。
「語さん、お犬さまがいますよ!」
「おかげ犬って言うんだっけか。主人の代わりにここまで来たのかな」
 素敵な小物や装飾品を扱うお店を後にして、再び門前町へと繰り出せば。
 わいわいがやがやと各々の目的地を目指す人々に交じって、ちょこちょこと忙しなく四つの脚を動かして門前町を歩むまんまりな白もふの姿が。
 人々に交じってちょこちょこと歩む白もふ――様々な理由で参拝に行けぬ主人の代わりに、伊勢の地までやってきたおかげ犬の姿は、何とも愛くるしい。
 道中、同じように伊勢の地を目指す沢山の人々に助けられてここに来たのか、白いおかげ犬はちょっとふっくらしてきているようで。
 これは、助けられただけじゃなくて、色々と美味しいものを食べさせてもらったに違いない。
 「クゥン?」と何処かあざとさが残る鳴き声で近寄ってくる様は、「構って?」と言ってきているみたいで。
「語さん、お犬さまがころんってしてますよ!」
「もふもふして良いけど、構い過ぎないように気を付けようか」
「勿論です!」
 ――ごろんと仰向けになって尻尾フリフリされたのなら、それに耐えられる狐珀では無かった。
 歓声を上げて小走りで近寄っていく狐珀の後ろ姿に、苦笑交じりで語はそれだけを告げる。
 おかげ犬も、仕事の途中なのだ。彼らにだって、帰りを待つ主人がいるのだから。
 語の声に威勢の良い返事を返して。もふもふする狐珀をのんびり眺めていたら、語の脚を控えめにテシテシとする何かが、後ろに居るような――……。
「随分と人懐っこいおかげ犬だな?」
 語が振り返ってみれば、そこに居たのは真っ白まん丸の犬だった。
 狐珀が撫でている柴犬よりもまるっとしていて毛もふかふかで、耳だって三角と丸の中間のような形をしている。
 丸いおかげ犬は短い前足でテシテシと語の足先を突くと、一拍おいて控えめに「遊んで?」と言うように上目遣いで見つめてきた。
 控えめな主張に、「遊んで欲しいのか?」と困り顔で語はそっとしゃがみ込む。
 わしゃわしゃと喉元を撫でてやれば、ピスピスと嬉しそうに鼻を慣らした。
 そうやって暫しの間、丸いおかげ犬と戯れていたのだが。
「……語さん、その子、お犬さまじゃなくて、お狸さまでは?」
「……。……え?」
 何か言いたげな狐珀がこちらを見ていると思ったら、ややあって聞こえてきたのが「犬では無くて、狸では?」の問いで。
 間の抜けた返事を返しつつ、語は思わず狐珀と丸いおかげ犬――改め、おかげ狸を何度も交互に見渡して。
 確かに、犬みたいにシュッとしていないし、妙にもふもふで手足も短い気がするけれど。それでも、個性の範囲のように思えていたから。
「でも、お座りができるけど」
「……もしかしなくても、狸としてではなくて、犬として飼われてきたんでしょうか」
 語が「お手」と手を差し出せば、ちょこっと短い前足がその上に乗せられる。芸や躾の類も完璧のようだ。
 おかげ狸が首に巻いている風呂敷も、おかげ犬に持たせる路銀やご飯代が入った、一般的なもので。風呂敷の中には、親切な人に買ってもらったと思しき神宮の札も入っていた。
 自分が犬だと信じて疑わないような目の前のおかげ狸に、思わず目を丸くさせる語。きっと、顔も名前もしらない主人だって、目の前の彼(或いは彼女)が狸とは、夢にも思っていないだろう。
「それにしても、よく分かったな」
「もふもふには詳しいので」
 どやっと何処か得意げに微笑んでみせる狐珀。もふもふ好きとして、見間違えるはず無いのだ。
「――ほら、やっぱり狸じゃないか」
「いや、まさか狸が紛れているとは思わないだろ? おかげ犬に紛れて、狸に狐に……今度は犬に似た動物の代参が流行りなのかね」
 と、おかげ狸をもふっていた語と狐珀の耳に聞こえてきたのは、二人連れと思われる男性の話声で。
 どうやら彼らも「あの白もふは犬か、狸か?」について話していたそうで。狸を見つめては、何やらと話し込んでいる。
「狐と言いやぁ、最近外れの森から鳴き声が聞こえてきているよなぁ」
「伊勢参りに来たは良いけど、帰れなくなちまったんじゃねぇのか。可哀想に……」
 狸から話題が逸れたのだろう。「今頃主人が心配しているだろうに」だとか。そんなことを話しながらゆっくりと歩き去って行く二人連れ――しかし、語と狐珀は聞き逃さなかった。
 二人連れの後ろ姿が見えなくなる直前、「でも、帰れなくなっちまったにしては、聞こえる鳴き声が多くねぇか?」と男の一人が疑問を口にしたことを。
「さっきの……物の怪達と何か関係があるのでしょうか」
「分からないけど、全くの無関係ではなさそうだね」
 暫し、男たちの去って行った方向を眺めた後。どちらからともなく、顔を見合って。
 確証は無いけれど、きっと無関係ではない。そんな気がする。
 けれど、断定するには情報がまだ少しだけ足りない。それなら。
「噂をもう少し集めてみる必要がありそうですね。それと―――。あそこで出来立てのあんころ餅が食べられるみたいなんです」
 「食べていきませんか?」狐珀が指を差した先には、美味しそうなあんころ餅を扱うお店の姿があった。
 洒落た外見の餅屋は、茶屋も兼ねているようで。今も数人の客でにぎわっている。
「そうだね。休憩兼ねて、あんころ餅食べていこうか」
 おかげ犬とおかげ狸に別れを告げて。目指す先は一つ、あんころ餅のお店だ。
 仕事として情報を集めることも大切だけれど、お伊勢参りも楽しみたいから。
(「仕事だけれども、これくらいはきっと許されるはず」)
(「お仕事だけれど、好きな人とお伊勢参りも堪能したいから。だから、あと少しだけ――」)
 だから、あと少しだけこの時間が続けば良いな、なんて。そんなことを思いながら。
 あんころ餅は舌に触れた途端、あんこが柔らかく溶けだして。二人で並んで食べるあんころ餅は、とても美味しい味がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『憎しみに濡れた妖狐』

POW   :    神通力
見えない【波動】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    鬼火
【尻尾から放たれる怨嗟の炎】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    心眼
【常に相手の思考を読んでいるかのように】対象の攻撃を予想し、回避する。
👑11
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 「見守っていたおかげ犬っぽい何かが、伊勢の地に着く直前で消えた」とか。「五十鈴川の川辺で妖しげな四足歩行の動物を見た」だとか、「外れの森から、狐の鳴き声が聞こえる」とも。
 そんなこんなの噂をかき集めたのなら、物の怪達が潜伏していると思しき場所は、存外簡単に絞り出すことが出来た。
 門前町の外れ、五十鈴川沿いの森は――門前町に近いのに、不気味な程に静まり返っている。
 神宮の近くにはあるが、それだけの話。木々が鬱蒼と生い茂り、だだっ広いだけのこの森に、好き好んで立ち入る者は居ないのだろう。
 そこに、彼らは居た。

 ――曰く、とある社に祀られていた高位の妖狐だとか。
 ――曰く、ある時行方不明になったかと思えば、またある時ひょっこりと姿を現して。その時にはもう、既に周囲に病魔や災いを振りまく存在に変貌してしまっていただとか。
 ――曰く、何者かに頭部を喰われたような跡があったとか。

 他にも所説あるが。今となっては、真実は分からぬこと。彼らは過去であるのだから。
 ならず者達に襲われたのかもしれないし、獣に襲われたのかもしれない。
 社に祀られていた過去を思い出し、この地を目指したのだろうか。
 自らに仇なした存在を見つけ出すために、神の力を借りるつもりであったのだろうか。
 この地に赴き、変貌する前の力を取り戻すつもりだったのだろうか。そうして再び、在るべき場所に。自らの居場所に戻るつもりだったのだろうか。
 思い浮かぶ推測は幾つかあるが、真実は分からない。
 しかし――彼らがこの地に集い願ったとしても、過去ばかりは変えられない。
 祝福と寿ぎを齎す存在には、もう戻れない。社で人々を見守る存在に戻ることは、幾ら神々に願ったところで――もう二度と。
 己の存在がすっかり変貌していることに、気付いているのかは、分からないが。
 これ以上、病魔と災いを各地に齎す前に――討伐することが、彼らの為になるだろう。
秋津洲・瑞穂
ふう。

あなたたちが本物であれば既に神なのだから、祀れば済んだけれども。
過去に存在したものの、在り方を写し取った版画ではね……。

今日は帰りなさい、送ってあげるから。
また逢うこともあるでしょう。
そこが長居できる場所だったら、愚痴くらいは聞いてあげるわ。
たとえ喋れなくてもね。

神獣刀を正眼に構えて、長い吐息を一つ。
「新当流太刀術、秋津洲瑞穂。参ります」

あなたたちも知っている筈よ。きつねは視力に頼らない。
見えない力も脅威にはならないわ。
ダッシュ/野生の勘/聞き耳/見切り/カウンター/なぎ払いで、
そちらの手は私に届かない。わたしから逃げる事もできない。

痛みもなく斬ってあげるから、またね。




 ――頭部こそ無いものの、あたかもそこに瞳が存在しているかのように。
 ゆらゆらと怨嗟の焔宿る三つの尻尾を揺らめかせながら、妖狐達はジィっと静かに秋津洲・瑞穂のことを見つめていた。
 出方を伺っているのだろうか。こちらが動かない限り、妖狐達もまた動かないだろう。
 ただ見つめるだけの彼らに相対した瑞穂は、双眸を伏せて「ふう」と小さく息を吐き出した。
「あなたたちが本物であれば既に神なのだから、祀れば済んだけれども。過去に存在したものの、在り方を写し取った版画ではね……」
 彼らが本物の神であるのならば、神として祀れば済む話だった。
 この土地は彼らの社があった地では無いだろうが――きっと、平穏と息災を齎してくれるはずだ。嘗て、彼らが祀られていた社で、そうしていたように。その地に住まう人々を見守って。
 しかし、今此処に居る彼らは本体を元に写し取られた版画でしかない。
 恐らく、神として祀られていた本体はとうの昔に――一度行方不明になった時には、もう。
「今日は帰りなさい、送ってあげるから」
 そのことに思うことが無い瑞穂では無かったが、神でない以上、居るべき場所に還すしかない。
 彼らがこの地に居るだけで、世界は過去に蝕まれ――人々の未来が、脅かせられてしまうのだから。
 還すしか方法が無いのならば、せめて心穏やかに。一瞬で送ってあげられるようにと。瑞穂は神獣刀の柄に手を伸ばす。
「また逢うこともあるでしょう。そこが長居できる場所だったら、愚痴くらいは聞いてあげるわ。たとえ喋れなくてもね」
 迷いなく居るべき場所に還ることが出来たのならば。きっと、また逢うこともあるはずだ。
 ――頭部は無いはずだが、瑞穂の耳には、確かに「コォン」と何処か哀しげな鳴き声が聞こえた。
「新当流太刀術、秋津洲瑞穂。参ります」
 鞘から音も無く抜き取られた神獣刀が、梢の合間を潜り抜けて落ちてくる陽光の光を浴びて、キラリと鋭い光を返す。
 剣先が迷いなく向けられた先。神獣刀の先端が指し示す先には、妖狐達の姿がある。
 剣先を妖狐に向けたまま。一瞬、瞼を伏せて。長い吐息を一つ。深く長く続けられる呼吸と共に、徐々に脳内が冷静になっていく。
 息を吐き終わると共に、伏せていた瞳を上げて。
 再び瑞穂がその双眸に妖狐達を捉えた時にはもう――その場に居たのは、凛とした雰囲気を身に纏った、一人の巫女の姿だ。
「あなたたちも知っている筈よ。きつねは視力に頼らない。見えない力も脅威にはならないわ」
 迷子を導く巫女として彼らに相対した瑞穂は、先程とは少しだけ纏う空気を変え、真剣な表情で。真っ直ぐに駆けて行く。
 真に彼らの為を想うのならば――迷い無く、一瞬で断ち切る。それだけだ。
 狐は視力に頼らない。微かな音や匂いを頼りに、相手の位置を正確に導き出すのだから。
 自身へと向かって放たれる波動が発する、微かな音の津波と空気の振動を俊敏に聞き取りながら。瑞穂は、妖狐達へと肉薄していく。
「そちらの手は私に届かない。わたしから逃げる事もできない」
 波動の位置が割れたのなら、それを避けるだけの話だ。造作もない。
 力強く焦げ茶色の地面を踏みしめる。そのまま波動を避けるようにして草むらへと足を踏み込めば、ふわりと草の香りが鼻を擽った。
 自分へと向けられた波動を躱しながら、妖狐達の背後へと回り込んだ瑞穂は、彼らに向かって告げる。
「痛みもなく斬ってあげるから、またね」
 ――願わくは、再び逢う時は「神」として逢えることを願って。
 振り下ろされた白銀の太刀筋は、刀身いっぱいに澄んだ陽光の光を反射させながら、妖狐達の身体を斬り裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レスティア・ヴァーユ
◆【心想い】
「…お前達も、本来はそのようなものではなかったのだろうな」
呟く…この様な敵を前にすると、いつも己の甘さと悲しみを痛感する

心を読んだように攻撃を回避する
ならば、こちらの心を読んだ上で尚、回避の出来ないようにすれば良い
アシュエル、お前ならばこの私の思考を見抜く事が出来るだろう?
昼間のように―そう思い掛け―己の甘えなど捨てよと、時折自分が自分に囁き掛ける
「……出来るだろう?」

敵を考え『目的が神宮ならば、敵であっても建物まで攻撃が至れば困るのでは?』
敵を神宮を挟んで指定UC発動、これで敵は神宮への逃亡一筋か、自ら攻撃に当たらねば神宮を守れない
―制止が聞こえれば、我に返ったように攻撃を止めて


アシュエル・ファラン
◆【心想い】
レスティアの静かな問い掛け
ごく稀に聞く日常より僅かに低くて、そして威圧とか冷徹さを感じる声
…そんな事を思っている場合じゃないのは分かっている
でも本当を言うと、聞きたくない
――こいつは、昼間みたいに、ぼんやりしているくらいで丁度良いのだから――

「…ああ、よゆーだな!任せとけって!」
【指定UC発動】
敵の攻撃は、基本身切りとダッシュで回避、最悪受け流し。まともに喰らったらアウトだ
…レスティアの攻撃方向は―確かにそれは敵には2択に限りなく近いがちょっと待てッ!!
距離に合わせダガーの投擲か2回攻撃!一番注意するのはレスティアのUC!
建物が危なくなる手前で「レスティア、そこまでだ!」と止める!




 八百万の神が見守るこの地で。神々が人々を見守るこの世界で。妖狐達もまた、嘗てはその中の一柱であったに違いない。
 ある時屠られ、それから憎しみに染まり骸の海より蘇った彼らは――ただ、静かな怨嗟を抱いてその場に佇んでいた。
「……お前達も、本来はそのようなものではなかったのだろうな」
 風が吹き抜ける。さらさらと流れるように涼やかな葉擦れの音と共に、森の奥へと走り去ったレスティア・ヴァーユの独白は、果たして、妖狐達へと届いていたのだろうか。
 否――仮に届いていたところで、今更どうこうできる話では無い。それは解っている。
 しかし、そう理解してもなお。理性では解っていてもなお。そう簡単に、割り切れやしなかった。
(「……この様な敵を前にすると、いつも己の甘さと悲しみを痛感する」)
 ――自らの命を刈り取る存在がいつしか現れるのであれば、それは、他ならぬ己自身の甘さと悲しみである他ならないのに。
 敵へと向けた情けや躊躇い。その一瞬が、己の命を奪うのだから。
 だから、そのようなモノは不要だ。情け、同情、甘さも感情も。
 そうやっていとも容易く捨て去ってしまえるのならば、こんなにも心が締め付けられることは無いのに。
(「心を読んだように攻撃を回避する。ならば、こちらの心を読んだ上で尚、回避の出来ないようにすれば良い」)
 心を読むという能力を、逆手に取れば良い。その上で、利用できるものは全て利用してしまえば良い。
「アシュエル、お前ならばこの私の思考を見抜く事が出来るだろう?」
 門前町で、やってみせたように。
 そうやって、いつものようにレスティアは己の親友へと振り返りながら問いかけた。
 ただ一つ、彼らの日常のやり取りと異なる点を挙げるのであれば――振り返った天使の目が無感動過ぎる程に、何の感情も宿していなかったことくらいか。
 「敵と相対するのならば、己の甘えなど捨てよ」と。もう一人のレスティアが甘えを捨てきれぬ自身に囁きかけ続けている。
「……出来るだろう?」
 冷徹なもう一人の自身に唆されるようにして、吐き出した言の葉は――逆らうことすら許さぬという、命令の声色を宿していた。
 戦場で生き抜くために必要なことは、ただ一つだけ。
 敵ならば全て屠れ。
 そうすれば、己は血腥い戦場において勝ち続けることができる。
 そうならば、甘えも悲しみも不要であるはずなのだから。この感情は、不必要なはずなのだから。

「……出来るだろう?」
 一般人が一度耳にしたのなら、底知れぬ威圧感と極地の様な冷徹さによって、たちまち竦み上がってしまいそうなほどの声色であるのに。
 問いかけでもなく、確認でもなく。ただ静かに、逆らうことの許されぬ命令を下されたアシュエル・ファラン本人と言えば、他人事のように冷静に親友の齎した命令を受け取っていた。
 レスティアに一番近しい存在であるアシュエルですら、ごく稀に聞く程度の、威圧や冷徹さを感じさせる声。
 その声は日常のそれより微かに低いとか、久々に聞いただとか。
 そんな関係のない思考がアシュエルの脳内に浮かんでは、思考の海に流されて消えていく。
 頭の片隅で「今」に全く関係のない、至極くださぬことを考えていたのは、目の前に広がった現実からの逃避であるのかもしれなかった。
 レスティアは、自分に問い掛けてきている。
 「やるか」でも、「出来るか」でもなく。ただ、「やれ」と。酷く単純で残酷な問いを。
(「……そんな事を思っている場合じゃないのは分かっている。でも本当を言うと、聞きたくない」)
 聞きたくも無ければ、あの表情も見たくは無かった。
 まるで、己の全てを一切合切捨て去ってしまったような、冷徹なまでの覚悟に満ちたレスティアの姿だけは。
 あの表情を見せたが最後、最悪、彼は己の命すら道具の一つとして扱ってしまうだろうから。
(「――こいつは、昼間みたいに、ぼんやりしているくらいで丁度良いのだから――」)
 そうだ。昼間みたいに危なっかしくてポヤポヤしていて、少し抜けているくらいが一番レスティアらしい。
 しかし、そんなことを心の中で考えているとは微塵も感じさせず。
 ただ、問い掛けられたアシュエルは涼しげな笑みを湛え――レスティアへと笑いかけた。
「……ああ、よゆーだな! 任せとけって!」
 それを彼が望むのであるというのならば、己は喜んで道化を演じよう。

 アシュエルが視線を逸らすことなく真っ直ぐに射抜いた先には、空中に怨嗟の焔を浮かべた妖狐達の姿がある。
 二人が本気だと悟った彼らは、攻撃の構えを見せていた。
 己へと向けられる紫焔の舞踏の合間を駆け抜けながら、アシュエルは妖狐達へと接近していく。
 時に真っ直ぐに飛来する鬼火を大きくステップを踏むことで躱し、また時に身を屈めて自分の身スレスレを飛翔していく炎の流れを見切りながら。
 身を屈めた自身の少し上を、ごうごうと静かに怨嗟の焔が通り過ぎていく。ヒンヤリとした寒さのうちに、確かな熱を孕んだそれは――まともに喰らえばひとたまりも無いだろう。
(『目的が神宮ならば、敵であっても建物まで攻撃が至れば困るのでは?』)
 妖狐達へと接近するアシュエルの後ろ姿を見送りながら、レスティアは静かに思考を巡らせていた。
 考えるのは一点。「己が敵であるのならば、どう考えるか」という点のみだ。
 聞けば、あの妖狐達は元はとある社に祀られていたのだと云うから――自らに縁のある建物を破壊されるのは、何が何でも避けたいに違いない。
(「これで敵は神宮への逃亡一筋か、自ら攻撃に当たらねば神宮を守れない」)
 そうと決まれば、後は決行のみである。
 神宮を護るか、己が身を優先するか。二つに一つだ。そしてその二つどちらを選んでも――攻撃を受けることに、変わりはない。
 甘えや悲しみは捨てろ。敵の殲滅が最優先だ。その為なら、人々に親しまれている神宮やその建物、今参拝に訪れている人々のことすらも――……。
「――確かにそれは敵には2択に限りなく近いがちょっと待てッ!!」
 思考の海に溺れそうになったところで、背後から飛来したダガーがレスティアの以降の思考をまるきり斬り落とした。
 己のすぐ脇を空間ごと斬り払って飛んでいく銀色の流星は、レスティアの横髪を一瞬撫ぜるようにして掠め去った後、美しい直線を描いて妖狐達に突き刺さり。
 流れ星もかくやのダガーの飛来に巻き込まれ、上空に舞ったのは鮮やかな金の光を宿す数本の髪の毛だった。風によって舞い上げられた数本の髪の毛が、はらはらと重力に従って散っていく。
「レスティア、そこまでだ!」
 ダガーがその身に深々と突き刺さった妖狐達の存在すら、今は認識の埒外にあるらしかった。
 レスティアはただ、ダガーがすぐ脇を掠めた際に斬り落とされた自身の髪の毛が地に落ちていく様を呆然と見つめ。
 それからややあってハッと我に返った時にはもう、アシュエルが剣の柄に手をかける自分の腕をしっかりと握りしめているところだった。
「さすがにそれはアウトだっつーのッ!!」
 息せき切って駆けてきたアシュエルは、何やら興奮気味に捲くし立てているが、何を言っているのか。声は聞こえるが、言葉として理解することを脳が拒んでいる。
(「そこまで思いきるとは思わないだろ……!」)
 惚けた表情で自分を見つめている親友の姿を見、アシュエルは間に合って良かったと安堵のため息を吐き出す。
 レスティアの行動を未遂で止められてもなお、まだ心臓が喧しく警鐘を鳴らしているかのようだ。
 聡明過ぎる己が親友に、アシュエルの背中を滝のように冷や汗が伝う。こいつに覚悟を決めさせてはいけないと、先程から直感が絶えず囁きかけていた。
 最悪、目的遂行の為ならどんな犠牲だって厭わなくなりそうだ。
 甘えや悲しみといった、レスティアの少し抜けていてぼんやりした部分を全て捨て去ってしまったのなら最後、目の前のこいつは――どうなってしまうのだろうか。
 少なくとも、人に戻れないであろうことは容易に予測できた。
「神宮じゃなくて、妖狐の方な?」
 アシュエルの声に、導かれるようにして。レスティアは「ああ」と、未だ何処かぼんやりとした様子で剣先を妖狐達へと向け直す。
 天空より降り注ぎし幾重もの聖光を見上げるレスティアの後ろ姿を見、アシュエルは先のことを鮮明に思い返していた。
 こいつの手を離してはいけないと、心に強く思う。こいつが歩む先の道を、違えてしまわぬようにも。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鹿村・トーゴ
◆■
注連縄…
首無しのお狐様か
噂通り昔は身近に祀られてたのかな
鎮守の森に思えたんだろーか
住処もなくてここに惹かれて?
なんだか可哀相だねェ…

相棒の鸚鵡ユキエも肩から飛び立たないので

よし、ユキエ
お前手伝ってくれるかい?
『ウン

UCで白猪を喚び騎乗
距離を詰めつつ手裏剣を【投擲】
敵UC炎を可能なら相殺もしくは【野生の勘/視力】視認し躱しすれ違い際に手にした猫目雲霧を棒化し撲つ
即、騎乗のまま振り返り背後から突き、突撃し追撃に横からなぎ撃ち
布化し【ロープワーク】で絞め上げるか槍化し【串刺し】
接近中被弾する炎は【激痛耐性】で堪えて

もと神様か
化生かは解んないけど
こんなやり方でごめんよ

神域に近いし流血は最低限だけに




 一際大きく燃ゆる怨嗟の紫焔が宿る首元にかかるのは、古びた注連縄だった。
 今はもう、妖狐達も己の首元を彩るそれのことなど、もしかしたら忘れ去っているのかもしれないが――首元に巻かれた注連縄の存在こそが、彼らが嘗て何処かの社で祀られていた、確かな証で。
 彼らが過ごしてきた平穏だったであろう嘗てを思えば、少し胸が痛むような気さえした。
 嘗てあった頭部は、今は無く。ただ、静かに怨嗟の炎が宿るのみ。
 静かに自分の出方を伺っている妖狐達の姿を観察し、鹿村・トーゴは小さく呟いた。
「噂通り昔は身近に祀られてたのかな。鎮守の森に思えたんだろーか」
 首元の注連縄が示す通り、嘗ては身近に祀られて、人々に親しまれていたのかもしれない。
 五十鈴川沿いの森の空気は澄み渡っていて、それに静かだ。
 彼らが嘗て祀られていた、社の雰囲気を思わせるのかもしれない。
 行き場を失い、導かれるように。或いは、この地の神を頼りに此処を目指したように。そうやって、この地に集ってきたのだろう。
「住処もなくてここに惹かれて? なんだか可哀相だねェ……」
 可哀相に思えども、それでも――彼らがこの場に居るべきではないことは、確かだ。
 何か思うことがあるのか。トーゴの相棒である鸚鵡のユキエも、先程からじっと妖狐達の姿を見つめたまま、トーゴの肩から飛び立とうとはしない。
 ならば。
「よし、ユキエ。お前手伝ってくれるかい?」
『ウン。ユキエも手伝う』
 ばっさばっさと翼で身体いっぱいに主張してみせる、小さな相棒が頼もしい。
 ユキエと顔を見合わせ、頷き合ったトーゴは、己の脚となる白猪の召喚に取り掛かった。
『寄せの術……依り代はここに、来い白猪』
 依り代となるは、鸚鵡のユキエ。
 トーゴが口遊んだ詠唱と共にユキエの姿が白光に包まれたかと思うと、徐々にその光が強くなり――光が晴れた後、その場に居たのは一体の大きな猪の姿だった。
 依り代となるユキエを思わせる真白い被毛に、赤い瞳。黒曜石のような四つの蹄はしっかりと地を踏みしめ、蹄と同じ色彩を宿す牙は、爛々と輝いている。
「さ、行くぞ」
 姿形違えども、その本質は頼もしい相棒であることに変わりはない。
 白猪に飛び乗ったトーゴは、妖狐達と距離を詰めつつ手裏剣を手にした。
 ごうごうと風の唸り声をすぐ耳元で聞きながら、風の流れと、跳ね回るように軽快に此方へと向かってくる敵の動きを読んで。
 「今だ」と思うその一瞬、向かいくる妖狐達への群れへと手裏剣を投げ放った。
 手裏剣がトーゴの手を離れた瞬間と時を同じくして。トーゴへと向けられたのは、ゆらりと憎しみ宿す紫の鬼火。
 空中で激突しあった紫焔と手裏剣は、各々小さな爆発音を木霊させながら、面へと落下して行った。
「避けてくれよ」
 だが、トーゴへと放たれる怨嗟の焔はそれで終わりではない。
 己を標的に飛来する第二波が辿るであろう進路を導き出したトーゴは、鬼火が着弾する直前で白猪に少しだけ横に避けるように指示を出し、擦れ擦れのところで鬼火を避ける。
 そして、此方へと駆けてくる妖狐達を真っ直ぐに見据え。手にしていた猫柄の六尺手拭い――猫目雲霧を棒化させ、勢いそのままに妖狐達の横腹を強打させた。
 突然、横腹に生じた強い衝撃と痛みに体勢を崩す妖狐。崩れ落ちるようにして地面へと向かっていくその身体に向かって、振り返って背後から突き上げる。
「もと神様か化生かは解んないけど、こんなやり方でごめんよ」
 謝りながらも、追撃の手は緩めない。彼らを倒すことこそが、この地に平穏を齎す唯一の方法なのだから。
 突き上げられ、宙へと投げ出された妖狐へと。白猪に突撃を命じたトーゴは、敵の身体が落ちてくる瞬間を見計らい、更に横からなぎ撃った。
 妖狐に接近するたびに静かな憎しみを宿した鬼火がトーゴの身体を掠めて去っていくが、向かいくる焔は歯を食いしばることによって耐えて。
(「神域に近いし流血は最低限だけにしたい」)
 神域はすぐ近くにある。不必要な血は流したくは無かったから。だから、撲つことによって。
 トーゴと白猪が駆け抜ける先には、撲たれた妖狐達の身体が点々と足跡のように続いていた。
 地に伏した妖狐達の身体はピクリとも動かず――時間と共に薄っすらとその身体が透け。やがて、まるで最初から何も無かったかのように消えてしまった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

逢坂・理彦

可哀想に…なんて同情は望んでいないかもしれないけれど。
自らの意図せぬところで厄災になっていることを知らず自らの祈りを捧げようとしている…
同じ狐として何とかしてあげたいと思うし祀られていたものがいるなら丁重に送ってやりたいとも思うから。

UC【禊祓祝詞】
せめて纏ってしまった呪詛が少しでも晴れるように。目一杯の【破魔】と【祈り】を込めて墨染桜で【なぎ払い】

相手の炎は【第六感】で回避もしくは【火炎耐性】と【呪詛耐性】で耐えるよ。




 何故、自分であったのか。
 何故、己を手にかけた存在はのうのうと生き永らえているのか。
 何故、もう人々を見守ることができぬのか。
 妖狐達の周囲にはただ、無数に生まれ落ちた数えきれぬ「何故」が憎しみとともに漂っていた。
 彼らはただ、己を死に追いやった相手を探し出し、復讐することだけを望んでいるのかもしれない。
 或いは。ただ、再び祀られていた社に戻り、その地に住まう人々を影からひっそりと見守りたいだけなのかもしれない。
「可哀想に……なんて同情は望んでいないかもしれないけれど」
 もしかしたら、妖狐達は同情なんて望んでいないのかもしれない。
 けれども、その痛ましい姿には同情を禁じ得ない。
 ゆらゆらと妖しげに揺らめく怨嗟の鬼火を見つめ、逢坂・理彦は小さく息を吐き出した。
 彼らはきっと、今の己がどのようなモノに成り果ているのか、きっと気付いていないに違いない。
 己の姿がすっかり変貌してしまっていることに気付かぬまま、真摯に祈りを捧げようとこの地に集っていたらしかったのだから。
「自らの意図せぬところで厄災になっていることを知らず、自らの祈りを捧げようとしている……」
 スッと理彦の瞳が細められる。
 彼らの身を襲った出来事を思えば、「悲劇」と称するに他ならない。
(「同じ狐として何とかしてあげたいと思うし、祀られていたものがいるなら、丁重に送ってやりたいとも思うから」)
 理彦も目の前の彼らもまた、同じ狐だ。
 仲間として、彼らの為に出来ることがあるのならば、何とかしてやりたいところで。
 それに――もし、「こう」なるまえに社に祀られていたものがいるのならば。居るべき場所に、丁重に送り届けてやりたかった。
 彼らの身に起きた悲劇を変えられないのであれば、せめて少しでも――纏い、抱いた呪詛や憎しみが軽くなるように。
 そんな願いを抱いて、理彦は愛刀である薙刀・墨染桜に手をかける。
 墨染桜綻ぶ柄を確りと握り締め、理彦は何処か哀しげに佇む妖狐達へと向き合った。
「せめて纏ってしまった呪詛が少しでも晴れるように――諸々禍事罪穢を払へ給ひ清め給ふと申す事の由を天つ神地の神八百万神々等共に聞食せと畏み畏み白す」
 鋭い太刀筋で呪詛ごと断ち切ってしまうように。
 祝詞を口にし、足の裏に力を籠め、刃先を妖狐達へと向けて真っ直ぐに射抜けば――理彦がその気であると悟ったのか、妖狐達の纏う雰囲気が俄かに禍々しく騒がしいものへと変わり始める。
 が、それに動じる理彦ではない。
 妖狐達が雰囲気に突き動かされるその瞬間が訪れるまで。正面だけを見据え、いつでも行動できるように戦闘態勢を取っていた。
 狙うは一つ。彼らが行動を動かし始めたその一瞬だ。
 聞こえてくるのは、仲間達が周囲で戦う物音と、時折風が吹いてくる音くらいで。戦闘と呼ぶにはあまりにも静か過ぎる、長い様で短いその時間が過ぎ去った時。
 不意に、妖狐達が動いた。
「一瞬で終わらせてやりたいところだね」
 長引かせたのなら。その分だけ、彼らを苦しみに晒してしまうだろうから。だから、一撃で。
 まずは一体。先陣を切ってきた妖狐へと構えた姿のまま、力強く一歩前進して。迎え撃つように、鋭い突きを放つ。
 突きによって首元にかかっていた注連縄が切り裂かれ、はらりと地面に舞い落ちた。刃が深々と首元に刺さった妖狐は力なくずるりと倒れ、徐々にその姿が薄くなっていく。
 先陣を切って駆けてきた妖狐が注意を引き付けているうちに、と思ったのか。後に続くようにして、数匹の妖狐達が鬼火を放ちながら跳躍してくる。
 鬼火を纏い、決死の体当たりを仕掛けた彼らを――理彦は、右から左へと思いきり薙ぎ払った。
 周囲の空間ごと妖狐達を一薙ぎにした、重く鈍い音が乱立する木々の合間に響き合って森の奥へと木霊していく。
 少しでも、彼らの纏う呪詛が軽くなるように。
 そんな目一杯の破魔と祈りが込められた薙ぎ払いによる一撃は――薙ぎ音が聞こえなくなることにはもう、すっかり妖狐達を居るべき場所へと還すことになった。
「もし、次があるのならば」
 音無く地を駆け、古びた倒木をジャンプ台にし、一気に理彦との間合いを詰めて。
 妖狐達はまるで、舞いでも披露するかのように軽快に森の中を駆け回っていた。
 その合間、接近と共に放たれる鬼火の炎は火炎と呪詛による耐えて。理彦は薙刀を振るっていく。
 もし、次があるのならば。今度こそは、彼らが本来の姿で人々の前に現れることを祈って。

成功 🔵​🔵​🔴​

真宮・響
【真宮家】で参加

最も尊い神が祀られる聖域に何故迷い込んだのか。元々は祀られる側だったかもね。・・・・真実はどうあれ、人に害をなす前に倒すのが得策だろうね。行くよ、奏、瞬!!

炎にはまともに当たりたくないねえ。【忍び足】【目立たない】で敵の背後に回り込み、【オーラ防御】【残像】【見切り】で敵の攻撃を回避。場合によっては【ダッシュ】で炎を突っ切る。【戦闘知識】で隙を見つけ、飛竜閃で攻撃。次の攻撃に移る前に【グラップル】【怪力】で正拳突きして【足払い】して体勢を崩す。

こんな姿になったのは同情するよ。でもアンタらはもう居てはならない存在だ。ここは聖域だからね。骸の海へ還りな!!


真宮・奏
【真宮家】で参加

このような痛ましい姿になったのは何か訳があったんでしょうね。神域に関係がありそうなのは予測できます。でも、今はもう人に害する存在。被害が広がる前に倒しましょう。

母さんが後ろから攻撃するので前から抑えを務めます。トリニティ・エンハンスで防御力を上げ、【オーラ防御】【拠点防御】【盾受け】【武器受け】【受け流し】【ジャストガード】【火炎耐性】でしっかり防御を固め、【衝撃波】を放ちながら接近。【怪力】【シールドバッシュ】でプレッシャーをかけます。

痛ましい姿になったのは同情しますが、貴方達はもう穢れきった存在ですので、最も尊い方が座する神域に居てはいけませんよ。眠ってください。


神城・瞬
【真宮家】で参加

狐は良く祀られる対象ですよね。目の前にいるのも祀られていたかもしれませんが、もう人に災厄を齎す存在ならば、害を広げる前に祓わなければなりません。

敵の攻撃が激しいのでまず動きを制限しましょう。【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【部位破壊】【目潰し】を併せた【結界術】を【範囲攻撃】化して展開。【追撃】で【高速詠唱】【全力魔法】【魔力溜め】【多重詠唱】を重ねた氷晶の矢で攻撃します。たとえ回避しようとしても大量の矢は避け切れるでしょうかね?

敵の攻撃は【オーラ防御】【第六感】で凌ぎます。

かつての姿がどうあれ、この伊勢に災厄を起こす訳にはいきません。骸の海へお還りを!!




 今はもう、真実を明らかにすることは叶わないが。
 その昔、彼らもまた祀られていたのかもしれない。首元に残る、注連縄はその名残であるのだろうか。
 祀られていた当時のことを思い出して、この地に迷い込んだり、この地を目指したりしたのかもしれなかったが――存在がとうの昔に滅んだ「過去」である以上、この場に留まらせている訳にはいかなかった。
 幾ら雰囲気が、彼らの祀られていた社に似ているのだとしても。此処に、彼らに親しみ、彼らを祀っていた人々は居ないのだから。
 自らの生命を絶った何かを憎むあまり、すっかり姿も変貌してしまったのだろう。
 あるはずのない頭部には、首元から生じた怨嗟の焔が宿るばかりで。
 彼らが望もうと、望むまいと。憎しみを募らせるあまり、すっかりその性質が変貌してしまった彼らが齎すのは、病魔と災いだ。
 これ以上、被害が拡大する前に――彼らを討たなくてはならない。
「このような痛ましい姿になったのは何か訳があったんでしょうね」
 真宮・奏の発した呟きに応じるようにして、あるはずのない妖狐達の瞳がじぃっとこちらに向けられたような……そんな錯覚がした。
 妖狐達は何かを訴えるかのように奏達を見つめているが、真実が明らかになったところで――今、彼らにしてやれることは無いだろう。残念だが。
 ゆらゆらと揺れる怨嗟の焔。彼らの憎しみを原動力に、より一層強く燃え上がっているかのようだった。
 怨嗟の焔灯る場所は、首元からすっぱりと切断されていて――頭部の一部だけでは無く、首元から先がすっかり失われてしまっている。
 その姿が、彼らが巻き込まれた何らかの事件や事故の凄惨さを物語っていた。
「神域に関係がありそうなのは予測できます。でも、今はもう人に害する存在。被害が広がる前に倒しましょう」
 痛ましい姿になってしまったことに同情しこそすれ、だからと言って、彼らを見逃してやることはしない。
 討つのであれば、彼らの背負う業がこれ以上重くならないうちに。奏はそっと、盾を握る手に力を込めた。
「ええ。狐は良く祀られる対象ですよね」
 奏が口にした推測の言葉に、神城・瞬もまた頷きながら相槌を打つ。
 サムライエンパイアでは、狐は良く祀られる対象だ。彼らもまた、サムライエンパイア各地に存在する社で祀られている他の狐達と同じく、祀られ、人々の生活を見守っていたのかもしれない。
 しかし、それももう……昔のことだ。
 憎しみに濡れ、怨嗟の鬼火操る彼らの様子からは――祀られていた頃の面影は、僅かにしか感じることが出来なかった。
「目の前にいるのも祀られていたかもしれませんが、もう人に災厄を齎す存在ならば、害を広げる前に祓わなければなりません」
 過去である以上、その姿が変貌してしまった以上。害を広げる前に祓ってやることが、瞬達が彼らに出来る、最大限のことだった。
「そうだね。最も尊い神が祀られる聖域に何故迷い込んだのか。元々は祀られる側だったかもね」
 真宮・響もまた、瞬と同じ考えを抱いていた様だ。
 何故、彼らが最も尊い神が祀られる聖域に入り込めたのか。それは、彼らが元々祀られていた側であったことが理由かもしれない。
「……真実はどうあれ、人に害をなす前に倒すのが得策だろうね。行くよ、奏、瞬!!」
「はい!」
「続きます!」
 しかし――真実はどうであれ、彼らの存在がすっかり変貌してしまったことに変わりはない。
 憎しみや無念さを依り代に過去として蘇った以上、被害が大きくなる前に倒さなければ。
 威勢の良い響の掛け声に、奏と瞬もまた頼もしい返事を返した。
 響は拳を固めて敵陣を駆ける構えを。奏は盾を手にし、敵群を正面から受け止める姿勢を。そして二人の背後で、瞬がいつでも妖狐達の動きを封じ込められるように、絶えず彼らの様子を観察していた。
 臨戦態勢を取った三人に向かうかのように。頭は無いはずなのに、妖狐達の「コォン」という甲高い鳴き声も響いていく。
「前からの抑えは任せてください!」
「はいよ!」
 真っ先に動いたのは、響だった。
 刹那、その姿がノイズの様にかき消えたかと思うと――気が付けば、妖狐達の群れの方へと走り出していた。妖狐達の群れを背後から叩く作戦だ。
 木々の影の間を移動するようにして、目立たぬように駆け。華麗な身のこなしで鬼火すらも置き去りにし。妖狐達の群れの背後へと軽快に駆けていく響を視界の端に、奏はぎゅっと盾を握る手に力を籠める。
 響が背後から敵を攻撃する時間を稼ぐ為にも、奏と瞬が正面から妖狐達を相手にするのだ。
「貴方達の相手は私です!」
 響が背後へと向かっていることを、彼らに悟らせる訳にはいかない。
 敵の注意を一身に受けるかのように、奏は努めて大きな声を張り上げ妖狐達の注意を引き付けた。
 先の大声が効果的だったのか、じっくりと三人の出方を伺っていた妖狐達の注意も、奏に向き――一番の脅威だと判断したのか、奏から先に攻撃することに決めたらしい。
 攻撃の合図を告げるように。静かな森に反響するのは、何処からともなく聞こえてくる妖狐達の鳴き声。遠吠えのようなそれが消えいくと同時に、妖狐達は一斉に奏へと向かって駆け始めた。
 向かいくる妖狐達の姿を視認した奏は、しっかりと腰を引き、攻撃の衝撃に耐えられるように準備を始める。
 構えた盾に炎、水、風の三つの魔力を流しこめば、盾の持つ護りの力が何倍にもなって引き出された。
「痛ましい姿になったのは同情しますが……」
 カンカンと砂利の雨が盾の表面を打ち流れる、軽い反響音が聞こえてくる。
 妖狐達に先んじて到着したのは、彼らが神通力で投擲した砂や小石だった。
 小さな石程度なら魔力の力により何倍もの防御力を得た盾の敵では無いが、砂利が厄介だ。
 目に入ってしまわぬようにと。砂利の雨は顔を伏せ、目を細めることによってやり過ごして。少し大きい石や木片が飛来した時は、盾の角度を変えることによって受け流し――勢いそのままに、向かってくる妖狐達の方へと跳ね返した。
 と、先程跳ね返した石が身体の何処かに当たったのだろう。ゴフッと妖狐の体毛に石がめり込む短い衝撃音が聞こえたかと思うと、苦しげな呻き声が上がる。
「貴方達はもう穢れきった存在ですので、最も尊い方が座する神域に居てはいけませんよ」
 撃ち返された石や木片を受け、疎らに仲間が勢いを失っていく様を見ても。勢いを止めぬ彼らに言い聞かせるように、奏は落ち着いた声音で呟いた。
 すっかり病魔と災いを振りまく存在と化してしまった今、彼らがこの地に居ることは出来ないのだから。
「眠ってください」
 波動を纏いながら体当たりを仕掛けてきた妖狐の攻撃を、歯を食いしばって耐える。数匹一度に襲い掛かってきた為、少し後退してしまったが……作戦の範囲内だ。
 妖狐達の体当たりを受け止めきった奏は一歩前進し、振りかぶった勢いそのままに盾による重い強打を妖狐達にお見舞いする。
 体当たりが終った直後という攻撃の合間の不意をつかれた彼らは、風に弄ばれる木の葉のように吹き飛んだ。
「敵の攻撃が激しいですね。動きを制限しましょう」
 奏が妖狐達の注目を引いたおかげで、前方に攻撃が集中している状態だ。
 だが、この状況が続くと奏の負担になり、また、妖狐達がちょこまかと動き回るせいで響だって攻撃を当てにくいに違いない。
 そう判断した瞬は、妖狐達が目の前の奏の存在に夢中になるあまり、自分の存在をすっかり忘れ去っている今が絶好の機会だと、手にした杖を振り上げ上空に氷の矢を生み出していく。
 ヒンヤリとした冷気と共に上空に刻まれていくのは、薄青色の魔法陣だ。
 空の青さに姿を隠すかのようにひっそりと現れた複数のそれらからは――次々に、氷の矢がその姿を覗かせた。
 瞬が生み出した氷の矢の総数は六百を超える。妖狐達も気付かぬうちに上空に生み出され、静かにそれらが発射される瞬間を待ちわびるその様子は――軽く威圧感を与えるものであった。
 幸か不幸か。己の命を裏から狙う凍てついた死神が、すっかりその存在を露わにしていることにも気付かずに。妖狐達は目の前に佇む、小さな砦と化した奏と彼女が構える盾に攻め入ることに熱中している様である。
「恐らく、攻撃されたことにさえ気付かないでしょうね」
 まずは妖狐達の攻撃の裏に隠すようにして、少数を。
 瞬が杖を振り下ろすと共に、上空で待機させてあった氷の矢の一部が放たれた。
 放たれた少数の氷の矢は、音も無く虚空を切り裂き――妖狐達の急所へと突き刺さっていく。
 目に、前足に、或いは太ももに。突如として飛来した氷の矢は深々と彼らの身体に突き刺さり、急速に機動力を奪い去った。
 突然想定していなかった方向から放たれた正体不明の攻撃に、妖狐達は混乱に陥った様だ。忙しなく周囲を見渡して、己を攻撃した姿の見えぬ存在を警戒している。
「たとえ回避しようとしても大量の矢は避け切れるでしょうかね?」
 妖狐達が混乱した状況に乗じるようにして、追撃を。
 魔力を溜めつつ、妖狐達が隙を見せた瞬間を狙って。瞬は前へと杖を振りかざした。
 上空に刻まれた魔法陣が一際大きく輝きを放ったかと思うと、妖狐達へと向かって氷の矢が一斉に放たれる。
 瞬が持ちうる全力の魔力を籠めた氷の矢は、先の何倍よりも凍てついており――凶悪な光を、その矢じりに宿している。威力は先の攻撃の比ではない。
「かつての姿がどうあれ、この伊勢に災厄を起こす訳にはいきません。骸の海へお還りを!!」
 無慈悲な氷の嵐として降り注ぎ始めた氷の矢。回避しようにも、回避した先に別の矢が降り注ぐのだから、避けようがない。
 絶え間なく飛来する氷の矢により、前方に居た妖狐達は皆、なす術もなく氷の矢によって討たれていった。
「炎にはまともに当たりたくないねえ」
 仲間が討たれたことに、怒りを覚えたのか。
 後方より迫っていた妖狐達が瞬と奏に向かって駆け出そうとしたところ――不意に、駆け出した体勢のまま真横に吹き飛ばされた。
 自身の身に何が起きたのかも理解できぬまま、木の幹に叩き付けられる妖狐。ずるずると力無くその身体が重力に沿って地面に落ちたかと思うと、薄っすらと身体が透けていく。
 その時になって、漸く妖狐達は気が付いたようだった。いつの間にか……自分達の背後に居たはずの仲間達が、鳴き声一つ上げることなく消え去っていることに。
 背後に沢山いたはずの存在が、何故だか討たれてしまっていることに。
「こんな姿になったのは同情するよ。でもね」
 異変に気付いた妖狐達が一斉に振り返った。
 背後から回り込み、ひっそりと仲間達を討った相手へと一斉に攻撃を仕掛けるように。鬼火の群れを姿見せぬ敵へと放っていく。
 妖狐達が操る鬼火の舞を、必要最低限の身の動きで躱しながら。彼らの背後から姿を現したのは、響だ。
 奏と瞬が注意を引いている最中に、少しずつ群れの最後尾に居る妖狐達から葬り去っていた響。どうやら妖狐達は、この時になるまで自分達が背後からも攻撃されていたことに気付かなかったらしい。
「アンタらはもう居てはならない存在だ。ここは聖域だからね」
 聞き分けの悪い、諦めの悪い幼子に言い聞かせるように。
 やれやれと頭を振りながら、響は大きく息を吐き出すと――迎え来る鬼火の波を突っ切るようにして、ダッシュで炎の海を横断した。
 途中にあった、自然が生み出した木の根っこによる段差を利用して。思いきり跳躍し、一気に妖狐達との距離を詰める。
 ジャンプの途中で飛び掛かってきた妖狐を空中で蹴り上げ、吹き飛ばしながら。響は妖狐達の目の前へと着地した。
「骸の海へ還りな!!」
 再び鬼火が放たれる前に。攻撃に転じる隙を与えぬかのように。
 身の内から生じる、猛るような感覚と共に真正面に拳を突き出し――妖狐の体勢が崩れたところを狙って、足払いで転ばせた。
「今だよ!」
「はい、仕留めます!」
 妖狐が体勢を崩した瞬間、引導を渡すべく瞬が氷の矢を放つ。
 その少し離れた場所では、響が吹き飛ばした妖狐へと奏がシールドバッシュをお見舞いしているところであった。
 大勢の群れよりも、少数の絆。
 真宮家の三人による破竹の勢いの攻撃に、妖狐達はたちまちにしてその数を減らしていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ウィリアム・バークリー
オリビア(f28150)と

この狐が病魔のもたらし手か。オブリビオンか妖怪か分からないけど、これ以上被害を出さないようにしっかり討滅しないとね。

わ、オリビアが二人になった!? 性格は変わってないんだよね?
よし、一緒に戦おう。

トリニティ・エンハンスで攻撃力を上げて。
「全力魔法」光の「属性攻撃」の「レーザー射撃」を『スプラッシュ』から放って攻撃するよ。

お狐さんは見えない攻撃か。ちょっと厄介だけど、「オーラ防御」でダメージを防ごう。
オリビアの誘導弾を回避するところに、回り込んでのルーンソード一閃! 刺突で「貫通攻撃」を繰り出す。
さあ、黄泉路を降る時間だ。「全力魔法」氷の「属性攻撃」で、急速に熱を奪う。


オリビア・ドースティン
【同行者:ウィリアム・バークリー(f01788)】

「元凶は見つかりましたね」
では掃除を始めましょう

ウィリアム様の攻撃を援護する為、心からの援護で別人格の私を呼び出します(黒メイド服のキキーモラ)
「厄介な攻撃が多いみたいですが連携でカバーしましょう」
別人格に追尾弾を打って貰いそれを追うように息の合ったコンビネーションで攻撃します。
相手の攻撃は見切り・第六感・オーラ防御なので対処します

「こちらは大丈夫です、ウィリアム様トドメをお願いします」
連携で押さえ込めればウィリアム様の全力魔法も入れやすいと思います




 人気の少ない五十鈴川沿いの森に、彼らは居た。
 恐らく、こうなる前は何処かの社で祀られていたのであろう。
 在りし日の残滓を体現するかのように、古びた注連縄が妖狐達の怨嗟の紫焔に照らし出され、その姿に影を落としている。
 嘗ては別の色彩を宿していたであろう体毛も、憎しみを抱くあまり――彼らの静かなる憎悪を表すような、おどろおどろしい紫に染まりきってしまっていた。
 指先の合間から見える爪は不自然に伸びていて。地を踏みしめる四肢のなかで、一際異質な存在感を放っている。
「元凶は見つかりましたね」
 何かに喰われたという頭部こそ無いものの、まるで、その無いはずの頭部に宿る憎しみの火を灯す双眸がジィっと静かに射抜いているかのようで。
 何か言いたげに佇む妖狐達の姿を見、オリビア・ドースティンは静かに呟いた。
 嘗ては、社に祀られていたと語られても真実味を帯びてくる、何処か威厳のある姿と佇まい。
 しかし、今はすっかり憎しみに呑まれ、嘗てとは全く別の存在へと変貌してしまっている。そのことを肌で感じ取れる。
「この狐が病魔のもたらし手か」
 オリビアの声に、ウィリアム・バークリーもまた小さく頷いた。
 彼らの身体からはある種の禍々しさと、残滓の様な神聖を感じさせる何かが放たれている。病魔を齎した元凶は、彼らで間違いないだろう。
「オブリビオンか妖怪か分からないけど、これ以上被害を出さないようにしっかり討滅しないとね」
 どちらであるかなんて、この場においては些細なことだ。どのみち、彼らは討滅しなければならない存在であるのだから。
 じっと様子を伺うかのように妖狐達から絶えず注がれる、あるはずのない視線を感じながら。ウィリアムはルーンソード『スプラッシュ』の柄に手を添えた。
「では掃除を始めましょう」
 西洋妖怪(キキーモラ)であり、メイドでもあるオリビアにとって掃除は得意中の得意分野だ。
 サムライエンパイアの伊勢の地をひっそりと裏から蝕む汚れを一掃すべく、愛用のモップを構える。
 「軽くて! 丈夫で! へこたれない!」な三強であるこのモップは、妖狐達との戦闘においても強靭な頼もしさを発揮してくれるだろう。汚れは少しも残さないに限るのだから。
「主の為に連携の協力お願いします」
 これも、主であるウィリアムの攻撃をサポートするため。
 オリビアの呼び出しに応えるようにして姿を現したのは――黒いメイド服を身に纏った、別人格のオリビアの姿だった。
 姿形はそのままに。だが、黒いメイド服を着ていることもあってか微妙に雰囲気の異なる二人のオリビアを、ウィリアムは目を丸くさせて交互に見つめる。
 普段は赤いメイド服を着こんだオリビアの姿をよく目にしているせいか、黒いメイド服を身に着けた彼女の姿は少し新鮮に感じられた。
「わ、オリビアが二人になった!? 性格は変わってないんだよね?」
「はい。そうですね」
「よし、一緒に戦おう」
 二人並んだ姿のオリビアを新鮮に感じながらも、ウィリアムは『スプラッシュ』を構えに入る。
 ウィリアムの両脇に並んだ二人のオリビアもまた、各々の武器を携え妖狐達に相対するのであった。
「厄介な攻撃が多いみたいですが連携でカバーしましょう」
 鬼火に、見えない波動を用いた攻撃をしたり、相手の心を読んだように行動を取ったりと、妖狐達の攻撃は厄介なものが多い。
 しかし、連携でそれらの難点をカバーすると共に彼らの攻撃を逆に利用してしまえば、優位に立ち回ることができるのだろう。
「トリニティ・エンハンスで攻撃力を上げて――」
 妖狐達が何らかの攻撃を取る前に、と。一番に動いたのは、ウィリアムだった。
 まずは挨拶代わりの一撃をお見舞いする準備として、炎、水、風の魔力を自身の身体に巡らせて、身体を強化していく。魔力を身体に巡らせるたび、身体が軽くなり、視界がクリアになっていく感覚に包み込まれた。
 準備を終えたウィリアムがレイピア型のルーンソード『スプラッシュ』に乗せるのは、光の属性だ。
 全力で込められた魔力に呼応するようにして、刀身に刻まれたルーンの文字が神々しい輝きを放っていく。
 そして、網膜さえ焼き焦がしてしまいそうな程の眩い魔力が刀身を覆い隠したところで――極限まで圧縮されていた光の魔法を、レーザー状に妖狐達へと放出した。
 一瞬様子を伺うために直視することすら許さぬ程の眩い光の奔流は、時折妖狐達にぶつかり小規模な爆発を巻き起こしながら、群れの間を光速で飛び去って行く。
 ウィリアムが開戦の合図代わりに放った一撃は、至近距離でレーザー射撃を受けた妖狐達を一瞬で骸の海へと還し。遠距離で光を浴びた妖狐達の視界を白く染め上げ、奪い去っていった。
 開幕の戦果としては上々だろう。
 ウィリアムが作り出した隙を突くようにして動いたのは、別人格のオリビアだ。
「追尾弾ですので、簡単には躱せないはずです」
 光の奔流によって平衡感覚を失ったところに、襲い掛かってくる追尾弾の群れ。
 妖狐達とて、何かがやってくることまでは理解できても――漸く元に戻りつつある視界では、それが一体どちらの方向からやってきているのか、とんと判断が出来ないのだろう。
 追尾弾を避けようとしたあるものは、走り去る方向を誤り自ら追尾弾に頭から突っ込む形となり。またあるものは、盛大に仲間である別の妖狐に衝突してしまっていた。
「脇ががら空きですよ?」
 追尾弾を追うようにして、本体であるオリビアもまた敵群の中を駆けて行く。
 追尾弾に追いかけ回され、どうにか体勢を立て直しつつもふらふらと駆ける妖狐達の姿は――当てやすい的にしかならない。
 追尾弾を避けることに専念するあまり、背後から迫ったオリビアに気付けなかったことが仇となった。走り回っていた数匹の妖狐の姿が一瞬でかき消えたかと思えば、次の瞬間にはオリビアが放ったモップよる一薙ぎで、空中へと思いきり放り出されてしまったのだから。
 受け身を取る間もなく身体を強かに地面に打ち付けた妖狐達の姿が、薄っすらと消えていくのを見送りながら。オリビアはウィリアムへと合図を送る。
「こちらは大丈夫です、ウィリアム様トドメをお願いします」
 相手の心を読もうにも、オリビアは二人居る。
 そして、どちらかの心を読んでいる間――もう一人の方が、フリーになってしまう訳で。
 妖狐達を翻弄させ、混乱させる為に。別人格の自身と巧みに連携を取りながら、ウィリアムがトドメを刺しやすいようにとオリビアは敵群を押し返していく。
「お狐さんは見えない攻撃か」
 オリビアからの合図を受け、敵群の中心を目指して駆け始めたウィリアム。と、背後から何か迫ってくる気配に気付かない彼では無かった。
 背後から飛んできたのは、石の礫と波動による弾丸の雨で。妖狐達が見えない波動を放ち、地面に転がっていた石を投げつけたのだろう。
 オーラによる盾を展開させて、石礫や飛んでくる弾丸状の波動を弾き落としながら。ウィリアムは別人格のオリビアが放つ誘導弾の場所へと向かっていく。
 狙うは一つ。敵が誘導弾を回避して、油断したところだ。
 妖狐達が回避の為に跳躍し、着地した場所へと回り込み、ルーンソードによる鋭い一閃を放つ。
 迷いなく奮われた剣による軌跡に数匹の妖狐が屠られたが、それで手を止めるウィリアムではない。
 一閃を放った流れと勢いそのままに、波動を身体に纏わせながら突進してきた妖狐へと重い刺突を繰り出した。
 四肢を動かす暇さえ与えぬまま。次々に繰り出す刺突による死の舞踏で、妖狐達の機動力を奪い去っていく。
「さあ、黄泉路を降る時間だ」
 残る妖狐達の体力を削ったのなら。いよいよ、最後の一撃だ。
 ウィリアムの宣告に呼応するかのように、ルーンソードの刀身が絶対零度の冷気を纏い始める。
 決して一匹たりとも取りこぼさぬように、と。
 そんな気迫の込められた一薙ぎは、妖狐達を凍り付かせただけでは留まらず――その周辺の地面や木々までもを凍り付かせてしまう。
「ふう。もう動く狐はこの辺りにはいないみたいだね」
「そのようです。ウィリアム様、お疲れ様でした」
「オリビアの方こそ」
 後に残ったのは凍り付いた地面や木々ばかりで、周囲には妖狐の姿が認められない。
 どうやらこの辺り一帯の討伐は終わったようだ。
 そのことを確認すると、ウィリアムとオリビアはお互いの健闘を称え合うのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

カツミ・イセ
僕の神様は言ったよ。『やりたいことをやりなさい』と。

これは『反転』状態だね。悲しいことだ。
それでも、求めてここに来たのかな?
だからこそ…送らないとね。僕のやりたいことだ。

ここは伊勢。神の御座すところ。
ならば…UCで、全てを投擲武器に。
この投擲武器、礫のようにしてるから血は流れない。水といっても、塊だとかなり痛いからね。それを投げつけていこう。
避けられないように、偽装皮膚も解除して網のようにしてあるよ。

その鬼火…そうだね、受けてもいいかも。ここ、燃やすと大変だから。
僕自身は『水の聖印』や僕の神様の加護(肉体改造+医療)で治るから、大丈夫。
…性質上、僕(浄化の水)とは対極だね。やっぱり、悲しいや。




 したいこと、しなければいけないこと、出来ること。
 似ているようで異なる三つの言葉だが――その中でも、カツミ・イセの神様はこう言ってくれたのだ。『やりたいことをやりなさい』と。
 『猟兵として、しなければならないことをやりなさい』でも、『出来ることをしなさい』でもなく。カツミがしたいことを、やりなさいと。
 だからこそ、カツミは自分の「やりたいこと」を確りと抱いてこの場に立っている。
 自らの生命を絶った存在へと怨嗟を抱くあまり、すっかり変貌してしまった彼らと向き合っている。
 嘗ては社に祀られていた高位なる妖狐であったのだとしても。
 今ではすっかり、憎しみに濡れ病魔と災いを齎す存在へと変わってしまった。
 憎しみに濡れる妖狐達を前に、カツミは悲しそうに緩く頭を振る。
 嘗ては社のある地に住まう人々に、祝福と寿ぎを齎していたであろう妖狐達から、その「嘗て」の姿は全く失われてしまっていたのだから。
「これは『反転』状態だね。悲しいことだ」
 彼らが自身の「反転」に気付いているのか、定かではないが。命を奪った存在を恨むあまり、存在そのものがすっかり変わってしまったらしい。
 嘗て祝福と寿ぎを齎した存在は、病魔と災いを運ぶ存在へと。
 「コォン」と微かに聞こえる鳴き声に、今一度カツミは彼らの姿を確りと観察する。
「それでも、求めてここに来たのかな? だからこそ……送らないとね。僕のやりたいことだ」
 自らが司るモノがすっかり変わってしまっても。それでも、救いや祈りを求めてこの地にやってきたのかもしれない。
 彼らが求めるというのならば。それならば――カツミのやりたいことは、唯一つ。彼らを居るべき場所に、送り届けてやることだ。責任を持って、最後まで。
「ここは伊勢。神の御座すところ。ならば……全てを投擲武器に。僕の神様、その根源となる力を」
 伊勢の地は、かの有名な神が御座すところだ。
 聖なる地での流血を始めとする、不浄や不穏に繋がる状態はなるべく避けたいからと、カツミは空気中に存在している水を集結させると、上空にそれらを浮かべ礫型の形へと変化させていく。
 血が流れないように、礫型に。しかし、ぎゅっと圧縮して強度を増させることも忘れない。
「水といっても、塊だとかなり痛いからね」
 たかが液体と侮ってはいけない。塊と化した水がぶつかる衝撃は、かなりのものなのだ。だから当然、痛みも耐え難いものとなる。
 水流手裏剣と化した水の塊を自らの手元におびき寄せながら、カツミは自らの関節を保護する偽装皮膚も解除していく。
 偽装化が解除され、露わになったのはドールとしての関節だ。
 関節を覆う偽装皮膚は、その一部を武器としても扱える優れもの。避けられない様に、と。解除した偽装皮膚を、網のようにして広げていく。
「その鬼火……そうだね、受けてもいいかも」
 カツミが水流手裏剣を投擲すれば、高速で投げつけられたそれを途中で撃ち落とそうと、妖狐達もまた鬼火を放つ。
 しかし――硬い水の塊に、鬼火が敵うことは無く。
 空中で真正面からぶつかり合った水流手裏剣と鬼火は、蒸気を放ちながら爆発し。ややあって、燃え尽きた鬼火の中を水流手裏剣が貫通したかと思うと、妖狐達へと降り注ぐ。
 身体中のあちこちに水の礫による攻撃を受け、くぐもった鳴き声を上げる妖狐達であったが、されるがままでは終わらない。
 今度は水流手裏剣の投擲主であるカツミを狙い、その鬼火を放ちに入った。
「ここ、燃やすと大変だから」
 今居る場所は森だ。燃えるものなんて沢山あるし、それに、近くには神宮だってある。
 火災が大規模になってしまえば、消火は容易では無いだろう。
 だからこそ。自身へと飛来する鬼火の軌道を見つめながら、カツミは覚悟を決めて――その鬼火を受け止めに入った。
「僕自身は『水の聖印』や僕の神様の加護で治るから、大丈夫」
 鬼火を受けた腕や手が鈍く痛むが、それも少しの間のこと。
 カツミの言葉通り、少しずつ身体に受けた傷跡が治りつつある。
「……性質上、僕とは対極だね。やっぱり、悲しいや」
 カツミの性質は、浄化の水。妖狐達は、怨嗟の炎。
 恐らく、妖狐達は元は違った性質を持っていたはずだ。反転してしまったことで、こうなってしまっただけで。
 彼らが自分とは対極的に位置することを悲しみながらも、水流手裏剣を投げる手は止めない。
 また一匹、水流手裏剣を身体に受けて。憎しみに濡れた妖狐が、居るべき場所へと送られていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

吉備・狐珀
【狐扇】
元はどこかで祀られていたようですね…
神宮に辿り着いた様々な理由は憶測でしかありませんが、可能ならそれらの願いを叶えたい―、けれど 私達に出来ることは、貴方を還るべき場所へ導くこと

UC【鎮魂の祓い】使用
月代、ウカ、みけさんに衝撃波や砲撃で神通力で操作された物を弾き落とし、見えない波動はウケの結界で防ぐ
魂迎鳥は貴方の悲しみや苦しみ、そのような姿にされた憎しみ、あらゆる負の感情を包み込み、浄化する
憎しみに囚われていては道に迷い続けてしまいます
病魔を引き寄せ、民を苦しめる存在になるのは本望ではないでしょう?

穢れを祓い骸の海へ導くこと それが神に仕える身として、猟兵として私に出来ること


落浜・語
【狐扇】
まぁ、本当の所はどうなのか、わからないし、知る術もないけれど。
きっと市井の人に被害を出すことは、本当に望む事ではないだろうしね。
変えるべき場所に送り返しますか。

UC『紫紺の防禦』を使用。花弁と炎で周りに被害が行かない様に区切りつつ攻撃を。
そう簡単に割り切ったりとか、なんだとかできる事ではないけれど、このままここにいることはお互い良くないからな。
還る為に不要なものは、全部狐珀が祓ってくれるから。そんなモノは全部この場に置いて行けばいいよ。




 「こう」なる前、果たして自分達がどのような存在であったのか。
 目の前の彼らは、それすらも忘れている様であった。
 嘗ての面影は記憶の奥底に残滓として漂っているだけで、今はただ、己の生命を絶った何かを憎むばかり。
 三つの尾に浮かばせている、静かに燃え盛る憎しみだけが、全ての行動の原動力となっているのか。
 猟兵達の活躍によってその数を大きく減らした今となってもなお、立ち向かうことを諦めてはいない様である。
「元はどこかで祀られていたようですね……」
 何処かに在るその社で、人々に親しまれていたに違いない。
 当時の面影を感じさせる、首元をひっそりと彩る注連縄だけが、ただ、寂しげに揺れている。
 沈痛な面持ちで静かに声を紡いだ吉備・狐珀の視線の先は、その注連縄を捉えていた。
 憎しみを抱いた妖狐達は、己の首元にかかる注連縄の存在を忘れてしまっているようで……それがまた、痛ましく思えてしまった。
「神宮に辿り着いた様々な理由は憶測でしかありませんが、可能ならそれらの願いを叶えたい――、けれど 私達に出来ることは、貴方を還るべき場所へ導くこと」
 彼らが何を思い、何を願ってこの地に辿り着いたのか。
 理由は憶測でしか語れず、そして叶うのならば、その願いを叶えてやりたい。
 しかし、妖怪(オブリビオン)である以上――狐珀達に出来るのは、彼らを居るべき場所へと導き、還すことだけだ。
 せめて、その胸に抱く憎しみややるせなさが、少しでも軽くなることを祈りながら。
「まぁ、本当の所はどうなのか、わからないし、知る術もないけれど」
 狐珀の言葉に、落浜・語もまたゆっくりと相槌を打つ。
 全ては恐らく、遠い過去の出来事だ。長い時間が過ぎ去った後で、彼らの身を襲った悲劇の詳細を調べようにも……きっと、真実が明らかになることは無いだろう。
 過去が変えられないのなら、せめて。未来は。
「きっと市井の人に被害を出すことは、本当に望む事ではないだろうしね。還るべき場所に送り返しますか」
 彼らとて、本来はこのような状態では無かったはずだ。
 きっと、何かに命を絶たれる前は――社のある地に住まう人々を見守り、彼らの平穏無事を祈る妖狐であったに違いない。
 語と狐珀が彼らにしてやれることは、彼らが市井の人々に取り返しのつかない被害を齎す前に、還る場所へと送り届けてやること。
 気持ちを引き締めて、お互いに頷き合った語と狐珀は、戦闘態勢へと移っていく。
「月代、ウカ、みけさん。お願いしますね」
 狐珀の掛け声に月白色の仔竜である月代、黒狐の倉稲魂命のウカ、狐の姿をした御食津神が宿ったAIロボットのみけさんがそれぞれ飛び出して、三者三様の頼もしい返事を返してくれる。
 「頼みましたよ」という狐珀のお願いに、月代もウカも、みけさんだって。
 元気良く前足を上げてやる気であることを示すと。小さい身体でも臆することなく、主人である狐珀の前に護るかのように飛び出した。
「月代、ウカ、みけさんは、衝撃波や砲撃で神通力で操作された物を弾き落とし下さい。それから――」
 まだ途中である狐珀の指示を待たずして。じぃーっともの言いたげに狐珀を見つめる影が一つ。
 誰かと思えば、視線の持ち主は、唯一名前が呼ばれていなかった白狐の保食神であるウケで。
 じっ……っと狐珀を見上げる姿こそ可愛らしいものの、その視線には注目せざるを得ない、無言の圧力が秘められている……。
「ウケ、何だかすごく狐珀のことを見つめているな」
「待ちきれないのでしょうね」
 ジトっと一秒たりとも逸らされずに。
 自分に向けられる視線とその持ち主に気付いた狐珀は、ウケの放つ無言の圧力に苦笑しながらも、ウケへもまたお願いを伝えに入る。
「ウケには違うことをお願いしようと思っていたのです。見えない波動を結界で防いで貰えませんか」
「お、ウケもやる気満々みたいだな」
 語が狐珀とウケのやり取りを見守るなか、お願いを受けたウケと言えば。
 漸く自分の出番が来たと、意気揚々と結界を展開しに入った。
「頼もしい助っ人も沢山いる訳だし、俺も負けていられないな」
「はい。頼りにしていますよ、語さん」
「よし、任された――何人も呪いも超えられぬ壁となりて我を護り理に背く骸を還す力となれ」
 一歩前へと踏み出した語が放つのは、持主を護る能力を持つ花弁による花吹雪だ。
 この花弁は守護の花飾ったループタイ――Brodiaeaから放たれているものであり、Brodiaeaは今も傍に居る大切な人から贈られた品でもある。
 胸元を宿るそれに優しく手に添えながら、語は舞い踊る花吹雪の指揮を執っていく。
 周りに被害が行かない様に、と。花吹雪で周囲の空間をまるきり区切る形とした。
「っと。悪いけど、そちら側には行かせられないんだ」
 花吹雪なら、と。妖狐のうち数匹が花弁の壁を突破しようとした瞬間、不意にその壁を構成していた花弁が激しく燃え上がり、妖狐達の身体を焼き払った。
 触れた者を燃やすこの花弁は、一度燃え上がると熱く激しく――しかし、妖狐が宿す禍々しい鬼火とはまた異なった頼もしい様相で、周囲の空間を漂い続けている。
「絶えざる歩みを続ける貴方に我は一時の休息を与えん」
 妖狐達が神通力で投げ飛ばした石や木片を、月代、ウカ、みけさんがそれぞれ撃ち落としていく。
 そして、時折飛来する目に見えぬ波動は、ウケが結界を展開することによって弾き返した。
 語が花弁と炎を操り、妖狐達を追いかけている間。ふと響いてきたのは、狐珀が奏でる『魂迎鳥』の笛の旋律で。
 戦闘音で騒がしいというのに、寄り添うかのように優しく、何処か悲しげな旋律は、不思議と途絶えることはなく――それぞれの耳元へと入っていく。
 それは、負の感情を祓う為の調べ。
 少しでも彼らが背負っているものを軽くし、居るべき場所へと還すための。
 そして、彼らが道に迷うことなく居るべき場所に還られるように、道標となるための。
 旋律に耳を傾け、少し大人しくなった妖狐達の様子を見逃さず。語は彼らに語り掛ける。
「そう簡単に割り切ったりとか、なんだとかできる事ではないけれど、このままここにいることはお互い良くないからな」
 この世にはどうしたって、割り切れず、納得できないことだってある。
 語本人も、何度も経験してきた出来事で。
 だからこそ妖狐達の感情もまた理解できるのだと、彼らに諭すように声をかけた。
「憎しみに囚われていては道に迷い続けてしまいます。病魔を引き寄せ、民を苦しめる存在になるのは本望ではないでしょう?」
 チラ、と語が目配せした先には、狐珀の姿が在る。
 穢れを祓う笛の音の旋律を奏でる合間に妖狐達へと問いかければ、微かに「コォン」という返事が響いてきた気がした。
 妖狐達とて、病魔や災いを引き寄せるのは――本望では無いはずだ。
「還る為に不要なものは、全部狐珀が祓ってくれるから。そんなモノは全部この場に置いて行けばいいよ」
 語の声が、合図となった。
 狐珀が響かせる祓いの旋律は、静かに。しかし、より大きく力強く、森全体へと木霊していく。
 笛の音が森中を覆い隠すと共に、語は静かに花弁と炎を手繰り寄せた。
 苦しませぬように、一瞬で。
 ふわりと妖狐達の頭上から降り注ぐ花弁の雨は、妖狐の身体にその先端が触れた途端、一際眩く燃える炎となった。
(「穢れを祓い骸の海へ導くこと それが神に仕える身として、猟兵として私に出来ること」)
 花弁の炎は、妖狐達を在るべき場所へと導く灯火となる。
 狐珀の奏でる旋律に背中に押されるようにして。また一匹、身体が炎に包まれた妖狐の姿が透けるようにして消えていった。
 その様子を見送りながら。狐珀は想う。
 これが自分に出来ることなのだから。最後まで、彼らのことを見守ろうと。
「還っていったみたいだな」
「……そうですね」
 やがて、最後の一匹の姿が透けて消えた後で。
 後に残ったのは、再びの静けさを取り戻した初夏の輝き宿す森だけだった。
「居るべき場所に還れたのでしょうか」
「還れたさ、きっと」
 夏近づく青々とした空を見上げて。
 それから、語は静かに狐珀へと手を差し出した。
 自分達にも帰る場所があるのだから。
 「何処か寄っていく? それとも、真っ直ぐ帰ろうか?」と、狐珀へと問いかければ。
 ふわりとした優しい笑みが、語に向けられた。


 静謐な内宮の森に響き渡るのは、神聖な地に似つかわしくない少々騒がしい少女の声。
 そう。声の持ち主は、おかげ子狐である琴都姫だ。
 正宮へと向き合った彼女は、大きく息を吸うと元気良く願い事を告げた。
「ばぁばや皆が元気になりますよーに!!」
 大声で願い事を告げて。それから、ややあってこてりと首を傾げる。
「――あれ? そや、お伊勢さんって個人の願い事したらアカンのやったっけ? ま、えっか!」
 細かいことは気にしない。それに、個人の願い事をしてはいけないのであっても――神様だって断り辛い他の言い方だってある。
 仔狐はにっぱりと満面の笑みを浮かべると、こう言うのだ。
「伊勢の地を訪れた人、皆が幸せになりますよーに!
 ……あ? おかげ犬とか、あと狸とか狐も居ったよーな? やったらアレやな、生物――で、ええんやろか? ともかく、皆が幸せになりますように!!」
 ――少女の声に反応するようにして。何処からともなく、「コン」という何かの鳴き声が聞こえたような。
「お土産よし、暦もお札もお守りも買うたし。あ、ばぁばへの言い訳――は、帰りながら考えやなアカン!! 勝手に遠出したって、怒られるに決まっとる!」
 「神様は今日くらい見逃してくれても、ばぁばは見逃してくれへんよな!?」と。
 駆け出した彼女は、ばぁば達が待つ村へと元気良く帰っていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2022年05月10日


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 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サムライエンパイア
🔒
#戦後


30




種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト