22
春よ、

#サクラミラージュ #反魂ナイフ


 この國では、常に桜が散っていて。
 本当の桜がいつ咲くかなんて、もうきっと誰も覚えていない。

 その箱が届いたのは、数日前のことであった。
 箱の中には一振りのナイフと、一枚のメッセージ。
『愛しき人の遺骨に突き立てよ』
 そのメッセージに、私は震えた……。
 もう一度かの人に会えるということが、嬉しくて堪らなかったのだ。


「いいんじゃないの。人間らしくて」
 リュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)は、よくある話だとそれをそう評した。
「悲劇になるか、喜劇になるかは知らないけれど、読み物としては読みでがある」
 些か非人道的な台詞であったが、彼はいつもそのような感じである。彼はあくまで「旅人」であり、訪れた世界をただ外側から見つめるだけのある種観察者であるからだ。
 しかしながら喜劇。どこに喜劇的要素があったのか。そんな風に誰かが口に出すその前に、リュカはことの経緯を説明した。
「……とにかく。ある人間のもとに、匿名で荷物が送られてくるのが始まり」
 それを影朧兵器、『反魂ナイフ』と呼称しよう。
 別に名前がついて送られてきたわけではなかろうから。
 ナイフは、その名の代わりにメッセージが添えられていた。いわく、『愛しき人の遺骨に突き立てよ』。
「そういう事件が、おそらくはすでに何件か起こってる。それを影朧兵器と知ってか知らずか、確信をもってか半信半疑か、そんなことはどうでもいい。とにかく、今回の案件も、そのナイフを遺骨に突き立ててしまった人がいた。そこから始まる。……そう」
 もちろん、と彼は目をすがめた。その視線に、ほんの少し鋭さが加わる。
「言葉通り、その愛しい人は甦る。そうでなければ喜劇にも悲劇にもならない。知識も記憶も感情も、生前そっくりそのまんまのように見える何かが目の前に現れる。突き立てたもの……仮に生者と呼ぼう。生者は、喜ぶ。そして同時に、恐れるんだ」
 何をか、問うまでもないだろう。罪の発覚を、である。
 死者を生き返らせること。古今東西、それはどの物語を見ても結局のところ罪である。死者は甦らない。それは世界共通のルールで、破ったものは例外なく罰を受けるのだ。いかなる事情があり、同情され、涙を誘っても結局のところ、
「ダメなものはダメ、なことだからね。……あとはまあ、このご時世だから、周囲の目もある。と、言うわけで彼らは甦った死者を隠し、己の幸せを守ろうとするんだ。……とまあ、ここまでがざっくりした経緯」
 そうして、リュカは手帳を取り出し、一枚破って周囲に見せた。そこには一組の男女の絵が描かれていた。
 穏やかな表情でほほ笑む男女。女性のほうが生者で、男性の方が死者……『反魂者』だ、とリュカは告げた。
「舞台は、桜散る庭園だ。……最初に現われるのは低級の影朧。数だけは多いけれども、それを倒していけば道にたどり着く」
 ただの道だ。ただひたすら長い道だと彼は言う。両側に桜が植えられている。それ以外に何もない。……なにもない道を、ただ歩く。
「進み始めた頃に、聞かれるかもしれない。こういう問いに対する答え、用意しておくといいだろう。……『あなたもこのナイフがご入用ではありませんか?』『会いたい人愛する人はいませんか?』」
 それは、死者を呼び出した彼女からのメッセージだ。
「正直なところ俺にはこの回答に対する正解を提示することができない。いや、俺は「そもそも会いたい死者がいないしそんなものはいらない」だけど……彼女が、どういう回答を欲しているか、っていうのが見えてこない。だから、ここは好きに答えていいと思う」
 彼女を納得させるなら、それに即した回答が必要だが、今回はそれが見えないので、己の思うがままを応えればいいのではないかとリュカは言った。
「……桜並木を抜ければ、その死者……『反魂者』と闘いになる。『反魂者』の魂と、強力な影朧が融合した怪物を倒せば、今回の依頼は終了だよ」
 そこそこ歯ごたえのある敵になる可能性もあるから、注意するように、と。
 そう言って、リュカは話を締めくくった。
「いつだって奇跡を起こすのは死者じゃなく生者の仕事だ。死者では何も進まない。けれど……」
 死者を思うのも生者の特権であり、傲慢さなんだろうね。なんて、ぼやくような言葉とともに。


ふじもりみきや
いつもお世話になり、ありがとうございます。
ふじもりみきやです。
状況は大体リュカが言った通り。

第一章:集団戦
第二章:日常
第三章:ボス戦
です。
各章に移る際、断章を追記します。詳しいスケジュール等もそこに記載いたしますので、ご確認ください。
若干心情よりですが、参加者様やプレイングによって雰囲気は左右されると思います。
毎度のことですが、これが正解とか言わないし、あんまり難しい判定はしませんので、お気軽にどうぞ。
263




第1章 集団戦 『殭屍兵』

POW   :    アンデッド イーター
戦闘中に食べた【仲間の肉】の量と質に応じて【自身の身体の負傷が回復し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    ゾンビクロー
自身の【額の御札】が輝く間、【身体能力が大きく向上し、爪】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    キョンシーファクトリー
【死者】の霊を召喚する。これは【仲間の死体に憑依する事で、負傷】や【欠損箇所が完全修復し、爪やユーベルコード】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 箱の中には一振りのナイフと、一枚のメッセージ。
『愛しき人の遺骨に突き立てよ』
 そのメッセージに、私は震えた。
 どうしてここに、「彼」がいることを知ったのか。
 どうしてここに、「それ」があることを知ったのか。
 そんなことは。……そんなことはどうでもよくて、
 ただ私は、そのナイフが入った箱をそっと抱き涙した。
 これでもう一度、あの人に会える。と……。
 机の中に大事に大事にしまってあった箱を手に取る。
 これは遺骨。大事な大事なあの人の遺骨。
 私が殺した……あの人の遺骨。
「さあ、生き返って。愛しているわ。愛しているの。大好きよ。あなたを忘れた日は一度たりともなかった。もう一度会いたかった」
 あの笑顔を覚えている。優しい声を覚えている。その腕にナイフを突き立てた時のことを覚えている。生きたままきれいに切り分けたことを覚えている。苦しむ表情く紺の叫び。全部全部覚えている。全部綺麗に切り取って切り分けて腑分けしてずっとずっと眺めていた。
 肉が腐っていく匂いを覚えている。半分食べたその味を覚えている。どろどろと解けた肉の下から骨が出てきた時の喜びを覚えている。それをきれいに並べた時の喜びを覚えている。
「愛しているわ。愛しているの。……もう一度会いたいの。もう一度、殺したいの」
 帰ってきて。
 私に、殺されるために……。
「そして、もう一度聞かせて……」
 あなたの、最期の声を……。

 彼女の愛は、その心は、間違いなく本物で。
 それは本当にほんとうに、たちの悪いことでした。

●桜の森、満開の下
 猟兵たちがその場所に転移した時、空気が震えたような気がした。
 ……桜だ。桜が咲いている。
 満開の桜が彼らを包み、そして桜はどこまでも続いている。
 そこがどのような場所であるのか、皆目見当がつかない。
 敢えて言うならば、広場であり、それにつながる道であろうが。この道がこの広場からどこへとつながっているのか、何のための道かが全く分からない。
 ただ桜並木と土の道が、ひたすらに伸びていた。他には何も見えない……否。
 死体がある。桜の下で死体が戯れている。庭園にも、その、桜並木にも。
 殭屍兵と呼ばれるそれは、感情を持たぬ死体の群れである。
 それがたくさん。死体の下で戯れるようにして……殺しあっている。そして、食い合っている。
『愛しているわ、愛しているの』
 どこか歌うような声が、桜に乗って流れてきた。殭屍兵が一斉に猟兵たちの方を向く。
『だからね、だから……殺しましょう』
 愛しているわ。愛しているの。
 それが愛だと、女性はただ只管、幸せそうに言い放った。

●マスターより
状況は大体記した通りです。
敵は共食いをしていますが、猟兵を見ると優先的に襲ってきます。
特に戦闘に支障が出る障害はありません。また、POW等は飾りですので、お好きなようにプレイングをかけていただけたらと思います。
プレイング募集期間はOP公開時より12日(土)20:00までです。
また、幸いにも参加者様に恵まれた際には、再送になる可能性があります。
その際は、お手数ですがプレイングが返ってきたその日の23時までにプレイングを再送お願いします。

それでは、よい桜を。
クック・ルウ
(腐肉の匂いと咀嚼の音が体を震わせる)
(愛を謳う声が師匠の面影を呼び起こさせる)
愛する者を食うことは人らしい事だろうか
あの人の骨を見つけたら、私はそれを口にするだろうか
(湧いた疑問を一笑に付そう)

私にとってそれは超えてはならない一線だ
何でも食える身だからこそ
人らしい食事を大事にしている
それが師匠の教えでもあるのだから……

しかし理想を語れど、私は悪食である
【溶けて混じれ】春の土を魔力と変えて
魔力を込めた斬撃波を浴びせよう

人の食事をとやかく言える身でもないが
……戯れるように食らうんだな、貴殿らは
私まで食いたいというのか?
よした方が良い、汚泥の味など知りたくもないだろう



 クック・ルウ(水音・f04137)にとってその音は慣れ親しんだ音であり、そして耐え難いものでもあった。
 喰らう。音を立てて、肉を喰らい水分を啜る。それは生きるために当たり前のことであり、なくてはならないものである。
 ……けれども目の前で繰り広げられる光景は、当たり前の、日常とはかけ離れた光景であった。
(……愛する者を食うことは人らしい事だろうか)
 目の前で死体が死体を喰っている。その上に無数の桜の花弁が降り注ぐ。
 その光景をどこか他人事のように見て。そして他人事でない証としてクックはその身を震わせていた。
(あの人の骨を見つけたら、私はそれを口にするだろうか……)
 愛していると。本当に心の底から愛おしそうな言葉を聞いたから、クックはそんなことを思うのか。
 ちらりと頭の片隅によぎった師匠の面影に、クックはしかし、静かに首を横に振った。
(違うだろう。……違うだろう。食べる事は生きる事だと師匠は言っていた。これは、生きるためなんかじゃない。もっと別のもの。もっとそう……)
 そう。愛だ。
 生きるため以外に喰うなんて、愛以外に他ならない。
 ……なんて。
 降ってわいたような囁くような声にクックは首を横に振った。
 まとわりつくようなその感情を、一笑に付して前を見据える。
 向こうも食事に片が付いたのだろう。二体の死体のうち、生き残ったほうがクックを向いた。クックはタールでできた尾びれを……クックは食べた物の珍しさ、調理法、料理人の真心等に応じて力を得る性質を持つ、ブラックタールであった……軽く払う。
 一瞬、睨み合う。
「人の食事をとやかく言える身でもないが。……戯れるように食らうんだな、貴殿らは」
 愛の代わりに囁いたクックの声は、その死体に届いたのか。
 死体ははじけるように鋭い爪を持ち、クックに肉薄した。
「……!」
 一撃目……避ける。一歩下がって回避した瞬間、死体が歯を剥いた。さらに踏み込んで、クックの腕にかみつこうとする。
「それは……甘いだろう!」
 尾びれを払う。払って身を守ると同時に敵を吹き飛ばす。
「!」
 桜の木にしたいがたたきつけられたのを確認する前に、クックは大きく飛んだ。その背後に、別の死体が迫っていたことに気づいたからだ。
 鋭い歯が通過して、体の一部がえぐられる。えぐったほうの死体は、それを咀嚼して……飲み込む直前、クックの衝撃波が炸裂してはじけ飛んだ。
「……私にとってそれは超えてはならない一線だ。何でも食える身だからこそ、人らしい食事を大事にしている」
 租借されていく自分の一部を見ながら、クックは胸に手を宛てた。それが師匠の教えでもあるのだから……。大事にしたい。大事にしたいとは思っている。けれど、
「しかし理想を語れど、私は悪食である。故にこういう。……いただきます」
 そんなことを言ってもいられない。二体、三体……と死体は増えていく。目をすがめてクックは体を柔らかくした。足元から体が溶けていく。
「お前たちは喰わない。それは私の矜持でもある」
 地面の土とクックは同化する。同化すると同時に、近寄ってくる死体が弾け飛んだ。魔力を込めた衝撃波は弾丸のように、近寄る死体たちを薙ぎ払っていく。
 タールの身体は消化能力に特化していて、早急に土を溶かす。何でも食える。けれども決して、倒した死体や動く死体には手を付けない。それが誇りだというように。己はヒトの形を損ね魔法を撃ち続けながらも、クックは土を喰らい続ける。
「私まで食いたいというのか? よした方が良い、汚泥の味など知りたくもないだろう」
 まあ正直……、
 こんなものは食べるものではないだろう。なんて。
 静かな目をしてクックは魔法を撃ち続けた。
 敵が目の前から消えるまで。そうしたら……この愛をささやく声も。頭をちらつく誰かの面影も、消えるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

藤原・桔梗
レクス(f07818)と参加
【心情】
「桜の下には死者が埋まっている」なんて言いますけど、サクラ・ミラージュの影朧兵器、本当に何でもアリですね
ただの便利アイテムなら良かったんですけど、こういうのはキッチリ対処しましょう

【戦闘】
「串刺し」で牽制をしつつ、自分の身は「結界術」で防御
「祈り」「優しさ」を用いてUCによる周囲の回復を行います

結構な数がいる上に、耐久力も高いようです
であれば、こちらも怪我なんて負っていられませんから
「こっちに来ないでください! 桔梗を食べてもおいしくないので」

「レクスさん、あまり無茶しないでくださいよ?」

こういう場所にはお花見とかで来たかったです


レクス・マグヌス
wiz
藤原・桔梗(f10098)と行動
【心情】
実の所……大事な人を生き返らせたいという気持ちは大いに分かる
僕自身、オブリビオンには国を、家族を奪われた身の上だ

だからこそ、その人の心に付け込む影朧兵器など、看過するわけにはいかない

「嵐よ起きろ! 戦いの時だ!」

【戦闘】
「生命力吸収」「属性攻撃」で攻撃をして、「残像」「敵を盾にする」で防御
攻撃が当たったところでUCを用いて、敵のUCを封じる

「そこをどけ、と言うつもりはない。悪いがそのまま死者の国へと戻ってもらう」

「すまない、桔梗さん。助かる」

まったく、こんなきれいな桜が咲いているというのに、無粋な戦いをしなくてはいけないとはね



 桜だ。視界一面に、桜の花が咲いている。
 本来ならば春を思い出し浮き立つ気持ちにされるそれも、今日はどこか、不思議な不気味さをもって彼女たちを迎え入れた。
 どうして。……どうして。
 何が違うのか。本当に何の気なしに考えて、藤原・桔梗(四海の龍と共に征く・f10098)は思い至った。……音がしないのだ。風の音も、木々の音も、桜が散る音も、地を踏みしめる音も。
「「桜の下には死者が埋まっている」なんて言いますけど……、サクラ・ミラージュの影朧兵器、本当に何でもアリですね」
 ほう、と舞い落ちる桜を見て、桔梗は息をついた。彼女のいるUDCだってたいがい何でもありだけれども、サクラミラージュの何でもありとは少し方向性が違う気もする。そんな言葉に、彼女の隣を歩いていたレクス・マグヌス(嵐をもたらすもの・f07818)はふと、足を止めた。
「実の所……大事な人を生き返らせたいという気持ちは大いに分かる。僕自身、オブリビオンには国を、家族を奪われた身の上だ」
「そう……ですか」
 レクスより遅れて数歩。桔梗も足を止める。レクスの言葉に、桔梗はほんの少し言葉に詰まって。窺うようにレクスを見つめた。今回の件は、レクスにとってどう映るのだろうか。ほんの少し心配するような桔梗と、レクスの目が合う。
「だからこそ、その人の心に付け込む影朧兵器など、看過するわけにはいかない」
「……! そうですね。ただの便利アイテムなら良かったんですけど、こういうのはキッチリ対処しましょう」
 しかし、かえってきたのは力強い言葉であった。故に桔梗はほんの少しうれしくなる。嬉しそうに笑うと、レクスもほんの少し微笑んで……、
「……まったく、こんなきれいな桜が咲いているというのに、無粋な戦いをしなくてはいけないとはね」
 ふと桔梗に伸ばした手を、止めた。桔梗も顔をあげる。
 満開の桜の下、戯れながらこちらにやってくる姿を見つけたからだ。

 それは死体の群れだった。屍たちはすでに死にながら、殺しあいながら、食い合いながら、桜の下を進んでいる。
 ちょうど二人の視界に入ったころには、その数は三体になっていた。レクスは即座に使い手の命を蝕む災厄の名を冠する魔剣を構える。
「嵐よ起きろ! 戦いの時だ!」
 声とともに、レクスは駆けた。屍たちもレクスを認識し、また駆けた。
 爪が走る。それをすかさずレクスは魔剣で受ける。
「災厄を穿て! 我こそが最悪の災厄なり!」
 その爪を受け流して巻き取るようにして動きを封じる。同時に、桔梗の小刀が敵の体を串刺しにした。
「結構な数がいる上に、耐久力も高いようです……!」
「ああ!」
 まずは一体。仕留めた瞬間、桔梗は結果術を使用する。己の身を守るように展開されたそれは、すぐさま襲い掛かる次の屍の爪をはじく。
「こっちに来ないでください! 桔梗を食べてもおいしくないので」
 数も多く手間がかかる。であるならば怪我なんて追っていられない。小さな傷でも即座に回復することが大事だと桔梗は思う。数歩、下がって、
「あなたに力を……! レクスさん、あまり無茶しないでくださいよ?」
 癒しの波動が即座にレクスの傷をいやした。倒したと思えば、敵は増えている。その爪を。あるいは牙をさばきながら、レクスは一歩、前に出る。
「すまない、桔梗さん。助かる」
 らちが明かない。故にさらに一歩踏み込み、敵軍の中に飛び込んでレクスは魔剣をふるい続ける。それを桔梗もまた、支え続けた。
 どれぐらい時がたったであろうか……、
「こういう場所にはお花見とかで来たかったです」
 尽きることのない気配に、桔梗が思わずぼやいた。レクスもうなずく。頷いたとたんに、桜の角から再び屍が現れるのを見て、
「そこをどけ、と言うつもりはない。悪いがそのまま死者の国へと戻ってもらう」
 わずかに苦笑の形に口元をゆがめながら、レクスは魔剣をふるい続けるのであった。

 ひらひらと。
 音のない世界に桜が散り、戦いは続く。
「……っでも、負けませんから……!」
「ああ。二人で止めよう。やはりこのような事態、許すわけにはいかないな……!」
 けれども二人は懸命に、懸命に戦い続ける。その呪いのような桜の世界から、狂った屍たちを解放するために……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「反魂ナイフを使って迄会いたい方はおりません。死んだ方とは何れお会いするのですから」

「強い負の感情に誘われて当てられて…お可哀想に」
UC「精霊覚醒・扇」
高速・多重詠唱で桜鋼扇に破魔と浄化の属性付与し吶喊
桜鋼扇使い最前線で乱打戦
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す
躱せないと思った攻撃は盾受けし可能ならカウンターからのシールドバッシュに繋げる

「食べて回復して又食べて…結局何も残らなくなってしまうじゃありませんか。幾ら影朧同士とは言え…貴女達が少しでも残っているうちに、骸の海に還して差し上げないと」
一人ずつ着実に還す

「何時か、落ち着いた場所で会えたなら。どうか今度は、転生を望んで下さい」
慰めのせ鎮魂歌歌う



 御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)はしっかりと桜を見据える。
 ともすれば自分も桜の一部になってしまうかのような。そんな、圧倒的な花の色にただ静かに、己の掌を見つめた。
「反魂ナイフを使って迄会いたい方はおりません。死んだ方とは何れお会いするのですから……」
 囁くように、彼女は言って。ぎゅっとその手を握りしめる。
 全ての世界に転生を。桜花の望むものはそれだけなのだ。可能か不可能か、そんなことすら考えない。それを目指す。それだけを考える。だから死者には、焦らずともいずれ合える。転生した姿に。
 だから……、
「強い負の感情に誘われて当てられて……お可哀想に」
 こんな姿は見ていられない。常は明るい微笑みに彩られている桜花であったが、今日ばかりはそうも行っていられなかった。険しい表情で、死体が、死体を喰らっていくさまを見る。
「不肖のメイドですが……お救い致します」
 見た。と思った瞬間、駆けていた。屍がその風に反応するかのように桜花の方を見る。視線すら定かではない死者が、共食いをやめて彼女へと牙を向いた。
「我は精霊、桜花精。呼び覚まされし力もて、我らが敵を討ち滅ぼさん!」
 ざあ、と桜の花が揺れる。それがどの桜であるかはわからない。一瞬にして桜花の体は桜の花精へと変化していた。桜の花びらの刻印がある鋼を連ねた鉄扇が翻る。桜吹雪とともに、距離を詰めた桜花は扇を屍にたたきつけた。
「――!!」
 悲鳴は、上がらない。恐らく敵の発声は不能。ただ肉が粉砕される音がする。優雅な動きでその頭蓋をたやすく粉砕した桜花は、留まることなく体を捻ってもう一体の屍の胴を強く打った。
「――!!」
 吹き飛ばされる。今度は少し浅かった。体を砕きながらも死者もまた、桜花のほうに突進する。
「……っ、右!」
 右に、避けようとして、思わず叫んでいた。新手が迫っていたからだ。正面の死者の牙を躱すと同時に右から迫る死者の爪を紙一重で潜り抜け、その背後背中向かって扇をたたきつける。
「食べて回復して又食べて……結局何も残らなくなってしまうじゃありませんか」
 同じ具は侵さない。背中を撃ちそのまま流れるようにもう一度、撃つ。強く心臓のあたりをたたき伏せると、それは動かなくなった。同時に迫っていた、先ほど正面にいた死者の爪を桜花は扇で受け、そしてそのまま押し込む。
「幾ら影朧同士とは言え……貴女達が少しでも残っているうちに、骸の海に還して差し上げないと」
 一人ずつ着実に。殺す……は違う。桜花は還すつもりでやっている。押し返すと同時に気にたたきつけそれの体を壊す。もう動かないことを確認して、
「何時か、落ち着いた場所で会えたなら。どうか今度は、転生を望んで下さい」
 歌うのは慰めの鎮魂歌。
 舞い散る桜の花びらの中、せめてものはなむけに桜花は歌う。歌うが……、
「……」
 すぐそこに死者の音。そして……揺蕩うような、凶器を孕んだ女の気配。
『愛しているわ、愛しているの』
 口を閉ざし。前を見据える。……まずは、出来ることを。そう、思い。桜花は走り出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜見・佐久良
殺し愛、といったところでしょうか。
あらゆる愛の形を否定することはしません…が、眠りについたものを呼び覚ます行為は良しと致しませんね。

えぇ、えぇ、私にも居ました、愛した人が。そしてそれを送りました。
キミがキミの愛を貫くのなら、私も私の愛を貫きましょう。
死せるものには相応の世界を、正しく黄泉の旅路へ見送ることが、私の愛。

UC葬送歌を発動、囁き歌う声にも負けぬ歌声で、周囲にいる殭屍兵の殲滅をはかりましょう。
耐え抜き攻め入るなら踊るように避け絶葬華にて切り結びます。

あるべき場所へ還りなさい、冥土の土産に、桜纏いし舞歌を差し上げるわ。
それこそが私なりの「殺し愛」



 夜見・佐久良(オラトリオのシンフォニア・f20410)は数度、目を瞬かせた。
 桜が降ってくる。まるでこの世のものとは思えないその薄紅色は、佐久良の宵闇を落とし込んだような艶やかな夜空の髪にもひとひらの花弁を落とした。
 どこか静かで静かで、どこよりも黄泉に近い。そんな気さえするその場所で、屍たちが殺し合い食い合っている。
「……殺し愛、といったところでしょうか」
 ゆっくりと目を細める。刀の上に軽く手を置いた。屍たちもまた、こちらに気づいたようであった。食いあいをやめ……食い合っている途中引きちぎられた体のままでそれらは佐久良のことをひたとみる。
「あらゆる愛の形を否定することはしません……が、眠りについたものを呼び覚ます行為は良しと致しませんね」
「――!」
 声はない。もとより喋れないようであった。屍が二体、一斉に佐久良へと襲い掛かる。
「あるべきところへ送りましょう」
 佐久良が歌う。歌うと同時に愛刀を抜いた。魂をも切る刀。悪鬼羅刹を切り結び、その魂を黄泉へ送ると語られる、絶葬華という名の持つ刀が、襲い掛かる屍の爪をはじく。
「えぇ、えぇ、私にも居ました、愛した人が。そしてそれを送りました」
 歌うように、否、実際歌いながら佐久良は爪をはじき襲い来る屍の葉に刃を突き立てる。同時にはじき出すように屍たちに襲い掛かるのは黄泉へと誘う歌声だ。
「キミがキミの愛を貫くのなら、私も私の愛を貫きましょう。死せるものには相応の世界を、正しく黄泉の旅路へ見送ることが……、私の愛」
 歌を歌ように。どこからともなく聞こえる女の声に負けぬように。佐久良は声を張り上げる。その愛しているという声が、少しでも届かぬようにと声をあげ続ける。
「私の愛とキミの愛、並び立つことができぬならば、いささか残念ではありますが……」
 一体。歌の力に耐えきれずに体が崩れた。ぐずぐずと人の形を失い消失していくそれに目もくれず、もう一体が佐久良に肉薄する。
「私は私の愛を、貫きましょう。……あるべき場所へ還りなさい、冥土の土産に、桜纏いし舞歌を差し上げるわ」
 座あ、と風が吹く。桜の花弁が揺れる。かろうじて形を保っていた死体を、佐久良の愛刀がためらうことなく斬り伏せた。
「それこそが私なりの「殺し愛」……」
 す、と音もたてずに納富する。それと同時に、もう一体残っていた屍も崩れ落ちる。
『愛しているわ、愛しているの』
 それでもなお。途切れることなく歌うそれはどこか呪いにも似ていて。
「いいでしょう……私もこの力尽きるまで、黄泉への歌を歌い続けます」
 佐久良は一度、天を仰いだ……

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
目深に被ったフード
きっと酷い顔をしている
いや、もしかしたら表情などないのかもしれない

反魂ナイフという影朧兵器の存在がオレには怖ろしい
駄目なものは駄目だとわかりきっているのに
思考が掻き乱されて
「もしも」を考えてしまう

覚束ぬ足取りで辿り着いた広場で繰り広げられる光景と、声
ああ、頼むから

死者が生き返っているだとか
愛しているだとか
殺すだとか

…少し黙ってくれないか

自分を起点に発動する青光の魔法陣
毛を逆立てたネージュの力を借り
辺りの熱を奪って急激に凍らせる霜の花咲かせ

…力の調節がうまく出来てない
これじゃやりすぎだ
まさに、冬か

微かな自嘲
どうしてここに来てしまったのだろう
自分がどうしたいのか、まだわからない



 ディフ・クライン(雪月夜・f05200)はフードを目深に被りなおした。
 こんなとき、どんな顔をしていいのかわからない。
 そして……自分がどんな顔をしているのかも、想像がつかなかった。
 きっと酷い顔をしている……いや、もしかしたら表情などないのかもしれない。
 どちらにせよ、その顔を確認する気も、晒す気にもなれなかった。

 桜の道を、歩く。
 ここまでどうやって歩いてきたのか、よく覚えていない。
 視界いっぱいの薄紅色。ただただ降り積もるその花弁は、美しいはずなのにどこかうすら寒く感じられる。
 どこからともなく、声がする。楽しそうな……本当に楽しそうな声がする。
 声は囁く。幸せそうに。……愛しているのだと。
 それは……、
「……」
 ディフは足を止めた。
 同時に、思考を止めた。
 わかり切っていたことだった。……こう、なることが。
「オレは……」
 反魂ナイフ。
 だれが何のために作ったかわからぬ影朧兵器。
 その存在がオレには怖ろし……、
「……」
 本 当 に ?
 と。聞こえたのは外からだったか、内からだったか。
 本当に怖ろしいのは。
 駄目なものは駄目だとわかりきっているのに「もしも」を考えてしまう愚かしさではないのか?
 正常な思考ができなくなっている自分自身ではないのか?
 死者は甦らない。それは世界共通のルールで、破ったものは例外なく罰を受ける。
 わかっていてなお、それでも、と考えてしまうことは……、

 は、と。
 いつの間にか一人、桜並木の中足を止める。
 足が止まったのは、生き物の姿を見たからだ。殺しあい、食い合う屍たちの群れ。
 そして、
「ああ、頼むから……、今」
 さっきからずっとやむことのない、幸せそうな愛のささやき。
 雪精のネージュ掛けを逆立てている。向こうも、自分のことに気づいたらしい。襲ってくる様子に警戒しているのか……。それともほかの何かに警戒しているのか。
「死者が生き返っているだとか、愛しているだとか、殺すだとか」
 だが今はそんな相棒の様子にまで気持ちが及ばない。呟いた声音は氷のように冷たかった。ディフは屍たちを一瞥もしなかった。……とにかく、不愉快で。疎ましくて。見ることすら耐えがたく、
「……少し黙ってくれないか」
 だから。一番手っ取り早い手法。一瞬で周囲の熱を奪い視界に入るすべてに一斉に霜の花を咲かせた。
「――!!」
 屍たちは声も上げずに巻き込まれていく。一瞬で氷漬けになる。それだけではとどまらず、周囲の桜たちも一斉に霜に包まれ時を止めた。
 視界一面、霜に覆われて生命活動を停止した世界。
「これじゃやりすぎだ。まさに……、冬か……」
 すべてを、敵でない、植物さえも。力の制御ができずにすべて氷漬けにした。
「…………どうして……」
 声音は僅かに自嘲を含んでいた。
 どうしてここに来てしまったのだろう
 自分が……どうしたいのか。
 わからない。
 桜が凍り付くとともに、さっきまで疎ましいくらい響いていた声も消えてしまった。
 今はだれも、いない。
 どこにも、いない。生きているものが、ない。全部凍ってしまった。
「でも……行かないと」
 だから、ここで足を止めればよかったのだ。そうすれば帰ることができた。この話を聞く前の自分に。
 けれども、ディフは足を踏み出した。死した木々を抜け、その、再びその声のする桜の世界へ……、

大成功 🔵​🔵​🔵​

コルネリア・ツィヌア
思い出も、供える花も、『反魂ナイフ』も、――極論すれば、骨すら、最早生者のものよね
だから、骨にナイフが突き立てられることもあるんでしょう
ただ、その、ちょっと予想外というか……

さしあたって、私に出来ることをやりましょう
フェイントを交えて振るった戦旗で殭屍兵をいなし、ダッシュと空中浮遊で誘導
出来るだけ一度に多数を巻き込めるようにしてからUCを発動
折角の桜に、無粋な得物で失礼

まあ正直言うとあんまりごめんと思えなくてごめんなさいというか
この漏れ聞こえる……ええと、強い、自己主張……??
『喜劇』って言葉を選んだ意味がわかった気がするわ
ええ、この案件は……いっそ清々しいほど、生者のためのものね



 コルネリア・ツィヌア(人間の竜騎士・f00948)の掌に、薄紅色の花弁が舞い降りた。
 普段なら、どこか浮き立つような優しい気持ちを覚える出来事のはずであった。
「思い出も、供える花も、『反魂ナイフ』も、――極論すれば、骨すら、最早生者のものよね」
 だから、骨にナイフが突き立てられることもあるんでしょう。と。言いながらコルネリアはその手をぎゅっと握りしめ、その花びらを握りこんだ。
「ただ、その、ちょっと予想外というか……」
 声にはわずかに迷うような色が乗っている。迷うというか……引いている。ちょっともう理解できない、みたいな顔をコルネリアはしていた。
 異界のような美しい景色も、そうなってしまえば関係ない。目の前で繰り広げられている屍たちの惨劇に、コルネリアは走る。深い青に金糸で車輪が刺繍された戦旗を翻し、
「折角の桜に、無粋な得物で失礼」
 一瞬で、敵がコルネリアを見つける前に距離を積め。そうして戦旗で視界を防ぐように力いっぱいかざした。
「さしあたって、私に出来ることをやりましょう」
「――!!」
 そこで初めて、敵もコルネリアに気づいたようであった。一斉に食い合いをしていた敵が彼女を向く。
「……う」
 食い合いしていたそのままで見られると、やっぱりコルネリアは若干引く。だが、くじけはしない。気持ちはあれだけれども体は正確に、その視線を遮るように。その爪を躱すように戦旗を翻し、後退すると同時に屍たちの動きを制限した。
 屍の爪が頬を掠る。骨が見えている腕でそれはコルネリアをつかもうとする。コルネリアは空中に逃れた。満開の桜が彼女の体に降り注ぐ。
「まあ……正直言うとあんまりごめんと思えなくてごめんなさいというか」
 桜を追いながら、コルネリアは思わずぼやいた。ぼやいてしまうのは、桜が散るたびにひらひらと。本当に楽しそうな……、
「この漏れ聞こえる……ええと、強い、自己主張……??」
 愛しているとの、その言葉。
「『喜劇』って言葉を選んだ意味がわかった気がするわ」
 愛とはいったい、なんであろうか。コルネリアはそんなことを考えてしまう。愛をささやくその声が、コルネリアにとってはお芝居の台詞みたいで、 
「ええ、この案件は……いっそ清々しいほど、生者のためのものね」
 ただ、そんな気がするのだ。そうぼやきながらも、コルネリアは的確に周囲を見回す。かわし、いなし、敵の動きを制限し。そうして屍たちを集めた。うじゃうじゃと食い合いをする屍たちが多数コルネリアの足元に集まっている状況は、やっぱりちょっと、なんともごめんといえなくてごめんというか。
「……あなたとのお別れに、浄化の夢を天に描こう」
 けれども屍は屍。死者は死者。そうしながらもコルネリアは飛んだ。複雑な文様を描くように空をかけた瞬間、浄化属性を帯びた魔法の槍たちが屍の群れへと降り注ぐ。
「ああ……」
 降る。降る。降る。この桜のように、容赦なく
 貫かれ、悲鳴も上げずに屍たちは消えていく。それを見送って、
「……やっぱり」
 ほんの少し、同情心が湧かないことが申し訳なくなった。
 そして同時に思ったのだ。きっとそれが……普通のこと、なのだろうと。
 ここはどうにも、異界が過ぎる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

邨戸・嵐
蘇らせてまでもう一度会いたいってのはともかく
美味しいものを何度でも食べたい気持ちなら分かるよ

君の愛はどんな味だろ
溶けるほど甘い、痺れるほど辛い?
歌う声に聴き入っても舌に乗せるにはまだ遠すぎるかな

餓えて殺して食い合って
他人事とは思えないけど、ちょっと俺の趣味じゃない
感情ってものがないなら俺の飯でもないや
こんなに大勢いるのに残念
生きて、情動を動かすものじゃなきゃ、俺にとっては価値がない

いちめんに広がってちゃ勝手が悪いな
並木の一本に乗って高さを稼ごう
群れを目掛けてUCを
桜が咲いてても此処は寒いねえ

なにもない道の先を遠く見晴るかす
問い掛けへ答える言葉のあった君が、ちょっと羨ましい
ほんとにちょっとだけね



「うぅ……ん」
 邨戸・嵐(飢える・f36333)はほんの少し難しそうな顔で目を眇めた。眇めた目がどこか蛇を連想させる。視線の先は、桜の下で戯れるように食い合っている屍たちがいた。
「蘇らせてまでもう一度会いたいってのはともかく……」
 その顔に嫌悪感はない。常人なら顔をそむけたくなるようなその景色も構わずに、さく、さく、さく、と、嵐は歩を進める。歩くたびに踏みしめた桜の花弁から、どこか嗅いだことのある、さびた枯草のようなにおいがする、気がした。
「美味しいものを何度でも食べたい気持ちなら分かるよ」
 ねえそれは、おいしいの。と。
 まるで語り掛けでもするように、嵐はそんなことを呟いた。
 どこか笑うような声がする。
 どこか歌うような声がする。
 愛しているという声は、誰にでも聞こえるようでいて……どこか嵐に親近感のようなものを持っているような気がするのは嵐の気のせいだろうか。
 ……見られている。そんな気配。
「君の愛はどんな味だろ」
 応えるように、嵐は視線を屍から桜へと移した。
「溶けるほど甘い、痺れるほど辛い? ああ。一度……」
 そう。一度………………、
 囁くように桜に手を伸ばしかけた。ところで、嵐は一歩引いた。
 無粋な爪が、嵐の指先を掠る。
 身体のあちらこちらを互いに食い荒らした屍たちが、新たな獲物を見つけたとでもいうように嵐のことを取り囲んでいたからだ。
「……」
 す、と。桜から何かが遠ざかるような気配。人によっては不気味な不気味な静けさがあたりを支配する。
「……舌に乗せるにはまだ遠すぎるかな」
 それで、嵐は屍には構わずそうつぶやいた。呟いてから、ようやく屍の方を向いた。
「餓えて殺して食い合って。……他人事とは思えないけど、ちょっと俺の趣味じゃないかな」
 いつの間にか、囲まれていた。それでも嵐は気にしない。迫りくる刃をナイフで受け流す。乾いた音を立てて弾いたところで……もう一撃。
「おっと」
 別の屍の噛みつきをもう一度避けて、嵐は片手を挙げる。
「……夜は寒いよねえ」
 どこか詩を詠むように彼は言って、言った瞬間凍てつく白焔が屍たちに襲い掛かった。
「――!!」
「いちめんに広がってちゃ勝手が悪いな」
 炎が燃える。嵐の攻撃は一直線だから、線上にいた屍だけが体中から月光の力を孕んだ焔に焼かれて倒れた。もとより発声機能がないのか、声も上げずに生き残った屍が嵐に殺到する。
「感情ってものがないなら俺の飯でもないや。……こんなに大勢いるのに残念」
 そっちから寄ってくるのにね。と、嵐はどこか詰まらなさそうな顔をしていた。自分が死ぬことも、喰うことも食われる頃もわからぬままに進む屍は、嵐にとってはいわく、「生きて、情動を動かすものじゃなきゃ、俺にとっては価値がない」のだそうだ。
 桜の木に飛び乗る。もう一度広範囲に向かって白い焔を放つ。今度はどれだけ巻き込まれるだろうか。……そんなことは、もう嵐には関心がなくて、
「……桜が咲いてても此処は寒いねえ」
 ただ、ぽつりとつぶやいた。
 何もない道の先を見れば、ほんの少し胸によぎるのは……、
「ほんとにちょっとだけ、ね」
 問い掛けへ答える言葉のあった君が、ちょっと羨ましい……なんて。
 口に出すことも、ないだろう……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
大切な人にもう一度会いたいみたいな気持ちは否定されるものじゃないけれど
死者が自由に蘇るなんて事になったなら、どちらがあの世か分かったもんじゃない

もし、世界がそうなったなら。死者が自由に蘇る事で、生者より死者に目を向ける人が多くなったのなら
多分、世界は停滞するのだろうな

利剣【清祓】を抜いて殭屍兵達に切り込んでいく
桃の木ではなく桃の花を使った刀だが、魔を祓う力を持つのは変わらない
条理から外れた殭屍達にはよく効くんじゃないか?

囲まれないよう注意して動いていく。回復され続けては面倒なので、適当にダメージを与えた所でいっきに首を撥ねるなどしてとどめ

そんなものをばら撒くなど。作ったやつは何を考えているのか



 うーん。と。夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)はちょっと困ったような顔を、していた。
「大切な人にもう一度会いたいみたいな気持ちは否定されるものじゃないけれど……、死者が自由に蘇るなんて事になったなら、どちらがあの世か分かったもんじゃないだろう?」
 呟きに答えは返らない。その代りにさわさわと桜が揺れた。……どうにも、歓迎されていないようだ。そんな気配がする。
 こんなに満開の桜があって、
 他に何もないくらい美しい場所なのに。
 なんだかうすら寒くて音の一つも聞こえない。
 そんな世界に、鏡介はうん、と、息をついた。
「もし、世界がそうなったなら。死者が自由に蘇る事で、生者より死者に目を向ける人が多くなったのなら……。多分、世界は停滞するのだろうな。だから……」
 さわ、と、桜が揺れた。
 だからどうしたと、言われている気がした。
「いや、世界のために個人の幸せを蔑ろにしろって、言っているわけじゃないけれど……」
 なんとなく困ったような顔を鏡介はしている。この異界にあって、鏡介はあくまで普通であった。そして普通のままで、
「それでも、世の中には大切なものがあるんだよ」
 利剣【清祓】。淡紅色に輝く破魔の力を宿す刀が、一刀のもと鏡介に近づいた影を破壊した。
 それは、死してなお動く屍であった。
 気付いてないような顔をしての一閃に、じりじりと鏡介に近寄ってきていた屍たちは怯んだように……見えた。見えたが、それも一瞬のことであった。
「――!!」
 発声器官がないのか、声も上げずに屍たちは走りこんでくる。死の恐怖よりも、空腹が勝ったのだろうか。ある者は爪を閃かし、そしてあるものはそのまま鏡介に噛り付こうとした。
「剛刃一閃――参の型【天火】」
 かまわず冷静に、鏡介は対処する。囲まれないように動きながら、適度に数をまとめて一気にその首を刎ねる。
「桃の花を使った刀だ。魔を祓う力を持つ。……条理から外れた殭屍達にはよく効くんじゃないか?
 首が落ちる。倒れる屍はそれ以上起き上がっては来ないので、高価はあるのだろう。しかしながら構わずにそれを踏み越えてさらなる屍たちは鏡介に迫る。
 もはや、どちらかというとそれは処理に近い。淡々と数をさばきながら、鏡介は息をつく。
「……あんなものをばら撒くなど。作ったやつは何を考えているのか」
 やっぱり答えはないけれど、桜は揺れて花を散らす。
 それはやはり……常識的な思考を拒絶しているように、鏡介には思えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャト・フランチェスカ
意思の疎通は困難か
何故、殺すのが愛なのか
聞いてみたかったのだけど

魍魎たちが操るのは
「傷口をえぐる」単調なもの
四足の獣のような姿を取る

愛しているから傷をつけるのか
それとも傷をつけたら愛しくなるのか
獣たちにも心は宿っていないが
後者ならきみたちが為すのは心の交歓ってことになる

難しいね
僕も、書こうとしたことがある

「彼女」は好きな人に絞殺してほしいと願い
「彼」はそれを叶えるんだ
彼女の真意が作中で語られることはなかった
僕が途中で、執筆を放棄してしまったから

殺しあう一時だけは
互いに存在を独占したような気分で居られる
と、予想はしたけれど
どうも腑に落ちなくてね

死してなお呼び戻される気分も
想像しきれないけれど



 シャト・フランチェスカ(殲絲挽稿・f24181)は桜を見上げた。
 静かな。……怖ろしいほどに静かな、その世界。
「……意思の疎通は困難か」
 愛しているわ、愛しているの。
 そんな言葉があるようでないようなどこか遠くで聞こえて近くで聞こえるような言葉にシャトは手を伸ばす。桜が揺れる。……まるで無声映画を見ているかのように、音もなく。
「……」
 風の音。花の音。そんな世界の音すら消え去ったこの世界。
 満開の桜が温かく出迎えているはずなのに、いっそ真冬のような薄ら寒差を感じさせるこの世界。
「何故、殺すのが愛なのか。聞いてみたかったのだけど……」
 どうやら、それは無意味なようだとシャトは思った・
 きっと、「そう」だから「そう」なのだ。……なんて、意味の分からない回答が、返ってくるだけのような気がしたから。
「ああ……つまりは喜劇でもなく悲劇でもなく、怪談なのかい?」
 は、と。わずかに目を見張ってシャトは呟く。
 怪談。怪異はほとんど説明がつかず、「そう」だから「そう」なのだとされるもの……。
 どうして、そんなことを思ったのかはわからない。
 けれどもわかる前に……音のない世界に音が聞こえた。
 屍だ。屍たちが近づいてくる。食い合いながら戯れるように近づいてくる。それは足音ではない。ただ只管、屍が屍の肉を咀嚼する音が近づいてくる。
「……愛しているから傷をつけるのか。それとも傷をつけたら愛しくなるのか。獣たちにも心は宿っていないが……後者ならきみたちが為すのは心の交歓ってことになる」
 ふ、と。シャトが息を吹きかけるように囁いた。
 囁きとともに現れたのは獣……、四足の獣のような姿を取る、"創作意欲"の魑魅魍魎であった。
「難しいね。僕も、書こうとしたことがある」
 シャトの獣はまっすぐに屍へと向かう。喰いついた跡のある腕に。引きちぎられた足の付け根に。へし折られた首の筋に。傷口をえぐるように、獣たちは攻撃を加える。
 そこに屍たちが殺到する。死した仲間を踏み散らしながら進むさまは理性も知性もないようであった。それもまた獣といえるだろう。獣と獣の闘いが始まる。
「「彼女」は好きな人に絞殺してほしいと願い、「彼」はそれを叶えるんだ。……彼女の真意が作中で語られることはなかった」
 だから、シャトはただそれを見ている。まるで安楽椅子に座る探偵のように静かに、語り掛けながら事の経緯を見守っている。
「……僕が途中で、執筆を放棄してしまったから」
 だから。この獣たちが生まれたのだと。文豪は独白した。
「殺しあう一時だけは、互いに存在を独占したような気分で居られる……と、予想はしたけれど。どうも腑に落ちなくてね。キミならこの物語に、どんな感情を乗せる?」
 そして語り掛ける相手は、ここにはいない。愛を囁いている女だ。……ここにはいない。だが、桜は揺れる。どこかで誰かが見ているような。そんな気が、シャトはしていた。
「この未完の物語に、何か足すものがあるだろうか?」
 返事はない。徐々に屍たちは数を減らしていく。まずは、シャトの勝利であろう、とシャトは冷静に判断する。
「死してなお呼び戻される気分も……、想像しきれないけれど」
 ぽつん、と。地面に散らかった屍の残骸を見てシャトはつぶやいた。
 答えはない。……答えはない。ざわ、と揺れる音もない桜は、やはり不気味であった。
「わからないなら……僕も探しに行くよ」
 だったら、答えを探しに歩いていけばいい。シャトは残骸を踏み越えて歩き出す。獣とともに、未完の物語を携えて……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジュジュ・ブランロジエ
お友達のコノさん(f03130)と
アドリブ歓迎
『』は裏声でメボンゴの台詞

愛してるのに殺したいの?
殺しちゃったらまた会えなくなるのにどうして…

食い合う殭屍兵の様子に戦慄
これって女の人の思念に操られてるのかな
愛してるから、殺して、食べるの…?

どうして愛する人を食べたくなるのか全然わからないよ
『メボンゴもわからない』
でもわからないまま否定したくない
そこに想いがあるのは確かだから

えっ、どういうこと?
良かったら教えてくれないかな?
少しずつでもいいから
『コノちゃのこと知りた〜い』

うん、約束するよ

・戦闘
UCで攻撃力重視の強化をコノさんと私に
炎属性付与した衝撃波で攻撃

反撃対策にオーラ防御をコノさんと私に展開


コノハ・ライゼ
ジュジュちゃん/f01079と

浅く嗤うのは
彼女にではなく屍たちへ

愛ナンてその数だけ形があるわ
嫉妬や独占欲も愛のカタチ、食べるコトがそうってコトもあるでしょうよ

声に混ざるのが苛立ちか侮蔑か
自分でも分からないまま

攻撃見切り避けつつ目立つ動きで誘った敵を【黒喰】で一飲みに
自分らだけでヨロシクやってりゃ良かったのに
丸呑みされちゃあ、再生のしようもナイわねぇ?

そう、ケドね
喰らうってぇのは分からなくもない
ヒトのコト言えた身じゃあねぇからネ

無理に理解しようとしなくてイイのよ
理由なんて大概些細なモノ
アナタにはアナタの真っ直ぐな愛がある

そうね――知っても無理に笑ったり平気な振りしないって約束できるなら、話すわ



「……」
『……』
 その日は最初から、ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)の表情が暗かった。相棒のメボンゴも、しんなりと耳を垂らしている。いつもなら元気な裏声のメボンゴ音声が聞こえてくるのだが、今日はその余裕すらないようだ。
「……」
 満開の桜の下。……だというのにぬくもりも感じさせない、音のない静止画のような世界で。どこか空気にとげがあるようなそんな世界で。いつもならしょげている彼女に気づいて足を止めてくれるコノハ・ライゼ(空々・f03130)は、どこか苛立たしげにその桜の空間を通り抜けよう……として、ジュジュがついてきていないことに気が付いた。
 足を止める。二人の間には、いつもより遠い距離があった。
「ジュジュちゃん」
「……」
 今のコノハは、ジュジュになんと声をかけていいかわからない。振り返ってジュジュを見る。ジュジュは顔をあげる。顔をあげて……その表情が固まった。
 コノハの向こう側、桜の下で戯れる屍たちが見えた。
 踊るように、戯れるように。くるくると回り、そして……喰いあっている。
 隣の誰かの腕を喰えば、喰ったものを別のものが傷つける。
 そんな永劫に続く呪いのような光景に、ジュジュは言葉を失ったのだ。
「これって女の人の思念に操られてるのかな。愛してるから、殺して、食べるの……?」
 絞り出すようなジュジュの声は、もう泣きだす手前であった。視線が一瞬、さまよう。そして屍からコノハに戻して、
「愛してるのに殺したいの? 殺しちゃったらまた会えなくなるのにどうして……。どうして、こんな……」
 泣きたくなる。実際瞳が涙でにじんだ。こんな景色は、どうあっても衝撃的すぎる。いつもは明るいジュジュのそんな顔に、コノハも言葉を飲み込んだ。
「愛ナンてその数だけ形があるわ。……嫉妬や独占欲も愛のカタチ、食べるコトがそうってコトもあるでしょうよ」
 浅く嗤うのは、ジュジュに向けてではない。
 何か別のものに向けてだ。けれどもその対象が、なんだかぐるぐるとドロドロと歪んで回っているようでそれはコノハ自身にもよくわからない。
 喰いあう屍を。それを愛と呼ぶ女を。嗤っているのか。
 もしかしたら自分自身を嗤っているのか。そんなことすらわからなかった。
 ただ、いつものように励ますようにコノハは口を開いたはずなのに。
 その声がひどく苛立っていることにコノハは自覚していた。
 あるいは侮蔑か。ではそれは何に対して……。己自身への問いかけは、そこでひとまず中断される。ふるふるとメボンゴを抱きしめたジュジュが、首を横に振ったからだ。
「どうして愛する人を食べたくなるのか全然わからないよ……」
『メボンゴもわからない……』 
 ともすればそのまましおれてしまいそうな声。励まさなければとコノハは反射的に手を伸ばしかける。
「無理に理解しようとしなくてイイのよ。理由なんて大概些細なモノ。……アナタにはアナタの真っ直ぐな愛がある」
 それは優しくて……でもどこかとげがあって。ほんの少し拒絶を含んだような言葉であった。その狂気を、理解する必要はない。受け入れる必要はない。それは……あってはいけないモノだとコノハは言いかける。やっぱりほんの少し汚泥の底に渦巻くような苦い感情とともに。……が、
「でもわからないまま否定したくない。そこに想いがあるのは確かだから」
 す、と。その手が伸びる前にジュジュはそう言って、まっすぐにコノハを見た。
「わからないなら、わからなくとも、せめて寄り添えるようになりたい。……わがまま、かな?」
 泣きそうになりながらも、その目は、真正面にコノハをとらえていた。
「……ジュジュちゃんは、いい女ネ」
「へ!?」
 思わず、コノハの口をついてそんな言葉が漏れた。……この大切な友人は、なんと力強い光を放っているのか。と。柄にもない思いが漏れた。
 そしてコノハは気付いた。そのたった一言を聞いて、自分のその台詞から、苛立ちの色が消えていることに。
「言葉通りの意味よ。素敵な女の子だって言ったの。……そう、ケドね」
 いつもなら話はそれで終わりだった。そんな和やかな会話と、信用できる友人との戦いで終わらせることもできた。……けれども今日は、コノハは続きを口にした。
「喰らうってぇのは分からなくもない。ヒトのコト言えた身じゃあねぇからネ」
「……うぇ?」
 なので、それを聞いたジュジュの方もまた目を丸くして瞬きを数度、繰り返した。
「えっ、どういうこと? 良かったら教えてくれないかな? 少しずつでもいいから」
『コノちゃのこと知りた〜い』
「あはは、ジュジュちゃん、喰いつき過ぎよヨ」
 身を乗り出すジュジュに、コノハは思わず声をあげて笑う。笑ってから、ふと正面を向いた。
「でも、その前にこっちネ。じらすわけじゃないけど……」
『ほんとだ! いつのまにかいっぱーい!』
 先に片づけねばならないものがある。二人を見つけた屍たちが、差し迫っていた。途中、食い合いをしていたのであろうか。あちらこちらに腕がちぎれたり、足がなかったり。口から血を滴らせたり。そんな個体が見受けられる。
「行こう……コノさん、メボンゴ!」
 その異様な光景に、ジュジュは具、と息を飲み込んで頷く。同時に踊るようにメボンゴが走った。
「星の魔法をここに。此度の演目を彩るは星の輝き!」
『エターナル!』
 炎の衝撃波を放つ。放ちながらジュジュは手早く星との力をジュジュとコノハに分け与え、それで力を底上げする。
「コノさん! 私が集めるよ!」
『ぐるぐる回って回ってー!』
 そのままジュジュは衝撃波とメボンゴの動きで、群れを牽制しあいながら一か所に集めていった。りょーかい、とコノハは軽く片手を挙げる。
「自分らだけでヨロシクやってりゃ良かったのに。丸呑みされちゃあ、再生のしようもナイわねぇ?」
 オイシイ? と、聞く前に。
 桜しかない世界で雷が瞬く。全てを飲み込む黒き狐の影が、ぐわりとその足元に顕現し、まるで地面ごと丸のみにするように、一か所に集まった屍たちを丸呑みにした。
「そうね――」
「……うん?」
 音もなく貪り食われていく屍たちを見ながら、コノハが言った。それを倒しても、次、また次と敵は現れる。自分たちにオーラによる守りをかけながら、ジュジュも答える。
「知っても無理に笑ったり平気な振りしないって約束できるなら、話すわ」
 それは先ほどの続き。続きがあったことにジュジュは瞬きする。そして、
「うん、約束するよ」
 真剣な声で、ただ一つ頷いたので。コノハはほんの少し、微笑んだ。
「そうネ。なら……」
 桜はどこかよそよそしく、冷たく咲き続ける。
 まるで異界。化け物の腹の中のようなその場所で、もうひとつの物語が今、語られようとしていた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クーナ・セラフィン
反魂か。代償は術者本人の命っていうのがよくある話だけども。
縋りたくなる気持ちは分からなくもないけど騎士的には止めないと、ね?

…それにしてもこの声の人が生者なのかな。
すっごくヤバい気配がするんだけど…反魂ナイフとか関係なしに。
影朧もなんか従ってるし…怖くて従ってるとかではないと思いたい。
基本的に攪乱、援護重視で行動。
しっかし共食いとか本当に怖いなぁ…UCで防御力高めつつ戦おうか。
基本は捕まらないよう戦場を駆け回って翻弄しつつ頭部などの急所目掛け突撃槍で串刺しにしよう。
槍には破魔の力を乗せておけばより効果的かな。
仲間を喰おうとする奴がいるならそいつ優先で叩き回復を妨害するね。

※アドリブ絡み等お任せ



 クーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)は知らずのうちに、その毛を逆立てていた。
 ……はじめ、どうしてそうしているのか、自分でもよくわからなかった。
 けれども、謎の声を聴いて。
 そうして満開の……満開の美しい桜のはずなのにどこか怖気の走るような。けれどもなぜそう思うのか理解できないような。そんな桜の空間に足を踏み入れた時、
「……それにしてもこの声の人が生者なのかな。すっごくヤバい気配がするんだけど……反魂ナイフとか関係なしに……」
 クーナは気付いたのだ。自分の毛が、訳もなく逆立っていることに。
 何か。……怖ろしいことが起こっているような気がする。
『反魂か。代償は術者本人の命っていうのがよくある話だけども……。縋りたくなる気持ちは分からなくもないけど騎士的には止めないと、ね?』
 なんて思っていた少し前の自分が遠くに感じられる。感じられながらとてとてと、クーナは歩き始めた。桜の枝から枝へと飛び移ることもできただろうが、ここの桜は妙に、そんな気にはなれなかった。
「……う、わ」
 そうして、たどり着いた。たどり着くとともに絶句した。
 道々を進むと、屍たちが目に入る。
 桜の下躍るように舞いながら、互いが互いお喰いあっている、屍たちが。
「……」
 言葉もなかった。息が……詰まる。
 肉の咀嚼する音がやけに大きく聞こえる。いったいが、クーナの方をふいに向いた。
「……!」
 瞬間、クーナははじけるように駆けた。向こうがこちらを認識した瞬間、無心に足を動かす。……その屍の目に、どこか狂気のようなものを見たからだろう。
 ひらりと、桜が落ちる。それを切り裂くように、クーナは白雪と白百合の銀槍を翻した。
「怖くて従ってるとかではないと思いたい……とは、思ってたけど!」
 明らかにあの正気のない、深い泥のような眼を見ていられなくて。本当に怖ろしく感じて、クーナは水の魔力で己の防御を強化しながらも槍をふるう。
 敵もまた、生半可な傷ならば傷も気にせず爪をふるい、牙をむき出しにして喰いついてくるので、
「冷静に……っていうかまずは喰いに来る方を優先的に!」
 破魔の力を込めた槍で突き刺して、逃げ回りつつも着実にとどめを刺していった。
「ああ。もうやだー」
 怖い。ていうか、ついていけない。
 己を喰らいにくる魔物の群れに、クーナは槍を翻しながら声をあげる。
 声をあげなければ、その気味の悪さを再認識してしまいそうで。
 務めて明るく言葉を選びながら、クーナは敵に槍を向け続けた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】

胸糞悪くなる相手だネ
顔を顰める
気分が悪いのはこの件を受けてからずっとだ

反魂ナイフ
僕が使うとしたらそれは両親なのか
歌声が耳に届いて
急に狂気のような嫌な感情に囚われる

いや、僕は使わない
大鎌を手に敵ににじり寄る

僕はまだ両親の死を観測していない
遺骨なんてない死に顔さえ見ていない
大鎌を振り下ろしながら

だからお父さんお母さんが生きている可能性はあるんだ
僕がやるのは反魂ではなく、過去の事実を修正して
事故そのものがなかったことにしてやる!

目の前の醜悪な敵が自分自身のように感じる
以前はいつもそう思ってた
でも今は?

ソヨゴの声で過去の自分から引き戻される
そう
彼女が僕を認めてくれている限り
僕は蛆虫どもとは違う


城島・冬青
【橙翠】

桜の下でB級ゾンビホラーですか
共食いしあってるゾンビって初めて見るかも

それにしても死者蘇生か…
故人との再会を望むのは別れを経験したことのある人なら誰しもあるだろうけれど
大体はよろしくない結果になるよね
アヤネさんはやはりご両親のことを考えてるのかな

どこからか女の人の声が聞こえるような気がする
でも今は目の前の殭屍兵に集中しないと

アヤネさん、敵が来ています
先ずは倒しましょう

アヤネさんがいつもと違う
…いえ、何となくこうなるような気はしてたんですよね
声をかけて当初の目的を思い出させる
大丈夫、大丈夫

刀を構え最も近い殭屍兵にダッシュで近づき攻撃される前に叩っ斬る
次に刀の鯖になりたい亡者はどこですか?



 その話を聞いた時から、アヤネ・ラグランジェ(十二の結び目を解き放つ者・f00432)の様子がおかしいことに城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)も気が付いていた。
「胸糞悪くなる相手だネ」
 と、顔をしかめていたアヤネは、本当に気分が悪そうで。
「……」
 冬青はじっと、その顔を窺って。
 小さく一つ、アヤネに気づかれないようにうなずいたのであった。

 ひらひらと桜が落ちている。
 本当ならば美しいその景色が、どこか遠くに感じられる。
 土を踏む。その感触がなんとも不確かだとアヤネは思う。
(反魂ナイフ……)
 歩くたびに思うのはそんなことだ。
 アヤネが使うとしたら、それは両親なのか。
 それとも……、
『■■■■■■、■■■■■■』
 先ほどから耳に届く、その歌声すら不確かだ。
 何を言っているのか理解できないのに、何を言っているのかはっきりと理解してしまう。
 突き上げる騒動は、どこか狂気を孕んでいるようで……、
 目の中に屍の群れが飛び込んでくる。
 死んでいるのに生きているように動き、死体を口にするその化け物がなんだか息苦しい。
 そして……、

 ……大変なことになっちゃったなあ。なんて。
 冬青は他人事のように考えていた。
 隣のアヤネの表情が暗い。
 大鎌を握る手が震えているのに、アヤネ自身気付いているのだろうか?
 いつもと違う、アヤネの様子に、
(……いえ、何となくこうなるような気はしてたんですよね)
 冬青は心の中で、そんなことを思う。
(アヤネさんはやはりご両親のことを考えてるのかな……)
 実害はないので、もうしばらく、放っておく。
 もちろん、戦闘に入れば声をかけるつもりであるが……、
「それにしても死者蘇生か……。故人との再会を望むのは別れを経験したことのある人なら誰しもあるだろうけれど、大体はよろしくない結果になるよね」
 桜の中を歩きながら、冬青はそんなことを声に出していってみる。
「私は、そこまでして会いたいっていう相手は……」
 どうなんでしょうねえ。とは、口の中。ちらりとアヤネの方に目をやる。明らかに調子の悪そうな彼女であるが、
(いつか、もしものために……とっておきたい、なんて考えは不謹慎ですかね)
 今、そこまでして会いたい相手がいないのだとしても、
 将来もずっと、そうであるとは限らないのだ。
(……なんて、不吉ですよね)
 アヤネが死にそうな顔をしているのはいつものことだ。
 だから、冬青が支えないと。
 ……そんなことを考えながら、桜の道を行く。きれいなはずなのに、なんだかちっともきれいに思えないその桜の向こう側に、動く影が見えた。
「桜の下でB級ゾンビホラーですか。共食いしあってるゾンビって初めて見るかも……」
 死体を喰いあう死体の群れ。
 笑えない、と冬青が表情を引きつらせる。ひきつらせたその時……、
「いや、僕は使わない……」
 突然、アヤネが声を発した。大鎌をもって、アヤネは冬青が止める間もなくかけた。
「僕はまだ両親の死を観測していない……。遺骨なんてない死に顔さえ見ていない」
「あっ」
 「アヤネさん、敵が来ています。先ずは倒しましょう」。そういう前にアヤネは鎌を持って走っていた。いつものような美しい軌道ではなく、無茶苦茶に腕を振り回して、あちらこちらを薙ぎ払い、引きちぎって屍の肉を切り裂きまき散らす。
「だからお父さんお母さんが生きている可能性はあるんだ。僕がやるのは反魂ではなく、過去の事実を修正して……事故そのものがなかったことにしてやる!」
「……うわあ」
 叫びながらも、鎌をふるう。とどめを刺すとか、きれいに殺すとか、そんなことは考えていない。無茶苦茶でぐちゃぐちゃで。けれども敵も痛みを感じていないのか。発声器官すらないのか。切り刻まれて腕をなくそうが足をなくそうが。構わずアヤネに迫り、這い、食らいつこうとしている。
「ちょっとこれ、のんびり見てる場合じゃないですね」
 どこからか女の人の声がするけれども、それにも構っていられない。冬青は慌てて駆けた。アヤネは大概、放っておいても大丈夫だと思っているし信頼もしているけれども、これはよくない。
「……あぁ!」
 鎌をぶん回して、引きちぎる。体を半壊させられた屍が、かまわずアヤネに迫る。
「スカシバちゃん達、やっちゃって下さい!」
 それを振り払うように、冬青の花髑髏が走る。斬撃と同時に発生した魔力より、無数の花弁が出現する。そしてそれは次の瞬間虫となった。変形したオオスカシバが、追撃のように屍に突き刺さる。オオスカシバはかわいい。
「アヤネさん、落ち着いてください。……大丈夫、大丈夫です」
「……!」
 冬青の言葉に、はっ、とアヤネは顔をあげる。焦点の合わない瞳が、冬青を見る。一気にその表情に、光がさす。
「そう。彼女が僕を認めてくれている限り、僕は蛆虫どもとは違う……!」
「なんかよくわかんないけど、アヤネさんは大事な私のアヤネさんですよ!」
 また碌でもないことを考えていたんだろう。なんて冬青の口ぶりにアヤネは苦笑する。
「ごめんね……ソヨゴ」
「いえいえ。行きましょうアヤネさん!」
 小さなアヤネの詫びに、冬青は笑う。そして、
「次に刀の鯖になりたい亡者はどこですか?」
 しっかりと敵を前に見据えて、花髑髏を構えた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴島・類
この手の兵器を広められるのは
厄介でしかない
大切な者の不在は惑うに充分な動機
行為の善悪論や、理性を上回る感情は
説いて止まる線を越えてる場合が多いし

踏み行った先で聞こえる声
出迎える影朧の様

なんとも…まあ

愛という人の数だけ形ある命題
けち付けるのは僕らの仕事ではないから
手繰る瓜江と共に駆け

爪等の近距離攻撃は彼の残像交えたフェイントで引きつけ
機動力を削ぐ為脚を蹴撃で狙わせ
自身は、刀に込めた破魔の火で
死肉に宿る霊ごと斬りに

食い合い崩れる身体は
痛みは感じないのかもしれないが
終わりへおかえり

幸せそうな声と
先で問われるかもと聞いたのが、過ぎり
胸が、ちりつく
答えがあることと
折り合いがついているかは…違うものだな



 冴島・類(公孫樹・f13398)は、自分でも意外なほどに冷静な顔をしていた。
 いや……冷静な顔をできていた、というべきかもしれなかった。
「この手の兵器を広められるのは……厄介でしかない、か」
 桜の世界で、酷く静かに分析している自分がいる。
 大切な者の不在は惑うに充分な動機。
 行為の善悪論や、理性を上回る感情は、説いて止まる線を越えてる場合が多い。
 罪であるから、罰があるから、してはいけないから。……それでも、せずにはおられない人間というものの感情を、類はよく、知っていた。
 風が吹いて桜が流れる。
 それなのに、物音一つしなかった。
 薄紅色はどこか青白く。景色は無声映画のように静かだ。
 ただ、どこか恍惚としたような女の声が聞こえている。
 それと……、
「なんとも……まあ」
 喰う音……。そう、それは喰う音だ。
 屍が、屍同士が喰いあう。その肉の音だけがしていた。

「……」
 人間なら、恐怖を感じる場面だろうかと類は思う。
 けれども類は、そう思わなかった。
 代わりに、感じたのは……なんだろう。
「愛という人の数だけ形ある命題にけち付けるのは僕らの仕事ではないから。感想は差し控えることにしようか」
 そう言いながらも、思うのは、
 操られたように食い合う屍たちのことだろうか。どこかその動きは、人形じみたものを感じて
「……瓜江」
 言葉に応じて、絡繰り人形の瓜江を動かす。人形は駆ける。まるで意思を持っているかのように。……けれども、大事な相棒だけれども、動かしているのは類である。
 瓜江の銀杏色の組紐飾りの付いた短刀が舞う。振るえば風呼び脚を掬い、祈り唱え降ろせば魔を祓う。といわれているその刀は、まっすぐ一直線に、屍の首を刎ねた。
「――!!」
 発声器官がないのだろう。悲鳴は上がらない。ただ、ぎょろりと大きな目が瓜江を見ていた。構わず、類は絡繰りを手繰る。倒した屍の、すぐ近くにいた屍が瓜江に向かって手を伸ばしたからだ。
「見えている」
 そう、ただ端的に言って。瓜江の像がゆがんだ。……屍が食らいついたように見えたのは、瓜江の残像であった。そのまま舞うように、瓜江は屍の背後に回り込み、一刀のもとにそれを叩き伏せる。
「……」
「――!!」
 痛みを、感じていないのかもしれない。死肉に宿る霊ごと斬り裂き、崩れ伏した二つの屍に、かまうことなく別の屍が殺到する。
 その動きに何のためらいもなく。恐怖も感じていないかのよう。そもそも感情がないのかもしれない。……それを、
 哀れと呼ぶのは、少し違う。
 類はほんの少し、寂しかった。
「終わりへおかえり……」
 瓜江が舞う。舞うと同時に。
「聞かせて。君の業、その全てを」
 ぼっ。と。
 絡繰り糸が燃え上がった。
 十指に繋いだ赤糸より。向けられた負の感情を喰い浄化する炎は瞬く間に屍へと飛び火する。不思議なことにそれは燃えていながらも、瓜江も、その糸も、燃やしてはいなかった。
「――!!」
 ただ、屍のみを燃やし尽くす。……負の感情に反応する炎が、感情のなさそうな屍を燃やすのは。それは……、
「桜が……」
 先ほどから。音もなく散る桜が。
 恐ろしいくらい寒い空気が。
 屍たちを見えない糸で操っているからか。
 それとも……これは。無理やりに殺しあわされている、屍たちの嘆きを汲み上げているからだろうか。
 ……遠く、どこからか。幸せそうな声が聞こえる。
 幸せそうなのに、こんなにも薄ら寒い。
 幸せそうなのに、どこか悪意を孕んだような、その言葉。
「……」
 答えを、用意しておけといわれた。
 それを思い出した時、類の胸はほんの少し、傷んだ。
「答えがあることと、折り合いがついているかは……違うものだな」
 罪であるから、罰があるから、してはいけないから。……それでも、せずにはおられない人間というものの感情を、類はよく、知っていた。
 自分が、そんな思いをするとは思わなかった。
 正しいこと。正しい答え。そんなものは類にもよくわかっていた。
 けれども……、
「……」
 は、と、顔をあげる。
 すでに動くものはなく。瓜江が静かに、類を見ていた。
 瓜江の顔に、感情は浮かばないけれど。
 類は瓜江を、大切にしたいと思ったから。
「……大丈夫だ。大丈夫……。お前を……正しくないものに、持たせるわけにはいかない」
 ぽつんと、
 それだけは大切なことだと。どこか強く言い聞かせるようにつぶやいて、類は歩きだす。
 青白い炎を纏った屍の着物の切れ端が、桜とともに風の中に翻って。そうして静かに、消えていった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベイメリア・ミハイロフ
リュカさまのお話を伺った所では、ただ純粋に
愛する方の蘇生を願う女性のお話かと
勝手ながらに思っていたのでございますけれど
な、なんと…非情な、猟奇的なお話であったのでございますね
これは、蘇生されるお相手の為にも、お止めしたい所存でございます
…しかしながら、お相手は
切り刻まれることを良しとしていらしたのでございましょうか?

舞い散る桜の花弁の中に紅色をさすように
紅の花弁を纏いつつ敵陣へと向かいます
殭屍兵からの攻撃は、第六感にて見切りオーラ防御で防ぎながら
Red typhoonにて殲滅を図ります
互いを殺し合い食べ合う様子、これもまた
この先に存在する、狂気を宿した女性を
象徴するものなのでございましょうか…



 ベイメリア・ミハイロフ(紅い羊・f01781)は胸の前で静かに手を組んだ。
「……」
 彼女は祈っていた。その上にも、ひらひらと桜が舞い落ちる。
 薄紅色の、美しい桜だ。……それなのにどこか、ベイメリアにはこの薄紅色が恐ろしかった。
 そういえば先ほどから、物音一つしない。
 まるで異界のようだと、ベイメリアは思った。思いながら……、
「わたくしは……いったいどこに、迷い込んでしまったのでしょう……」
 漏れ出した呟きは、ほんの少し、途方に暮れたような色をしていた。
「リュカさまのお話を伺った所では、ただ純粋に、愛する方の蘇生を願う女性のお話かと勝手ながらに思っていたのでございますけれど……」
 現状確認。ベイメリアの形の良い眉がしおしおと下がっていく。
 いやまあ、何ら間違ってはいない。純粋に愛する人の組成を願っているのだ。かの女性は。
 ただ、その愛を表現する方法が、ほんの少し……いや、相当、かなり。ベイメリアの理解の範疇を超えていた、だけで。
 「な、なんと…非情な、猟奇的なお話であったのでございますね」と。思わず漏れていた呟きがリュカに届いていたならば、「うん。でも情はあるんじゃない? その愛は本物だったみたいだし」なんて至極冷静に返されて、そしてベイメリアはますます眉を下げることになっただろう。
 ……というか、そうなる自分が今もなおありありと想像できる。ベイメリアはプルプルと首を横に振った。
「これは……、蘇生されるお相手の為にも、お止めしたい所存でございます。些かわたくしには、刺激が強すぎますが、ええ。……ええ」
 頑張ります、よ。
 きゅ、と拳を握りしめて、ベイメリアは歩き出す。歩き出そう……として、
「……っ」
 さっきを感じた。思わずあとさずる。ベイメリアの頬のあたりに、何かがかすめる……それが歯だとわかった瞬間、ベイメリアの背筋が震えた。
 今まさに、ベイメリアの顔をかみ砕こうと飛び込んできた屍を間一髪で避けて、ベイメリアはすかさず切先のない剣を模したメイスをかまえる。
 屍たちはあちこちにかじられたようなあとがあった。ベイメリアを見るまでは、互いに互いを喰いあっていたのだろう。だが、ベイメリアを見つけたから……新しい食料を見つけたから、飛んできた。そんな想像に、ベイメリアは小さく頷く。
「互いを殺し合い食べ合う様子……。これもまた、この先に存在する、狂気を宿した女性を象徴するものなのでございましょうか……」
「――!!」
 返事はない。そもそも発声器官がまずないようであった。そのまま歯を鳴らして、屍が突っ込んでくる。
「は……っ!」
 紙一重で避ける。よけた場所を狙いすましたかのように飛んでくる爪は、オーラの防御を施した腕でそのままガードした。
「それ……っ!」
 剣を模したメイスで目の前に迫る屍の足を払う。漂う腐臭には表情を変えずに、ベイメリアはそうして敵を引き付けた。
「紅の聖花の洗礼を受けなさい……!」
 メイスが一瞬にして深紅のバラの花びらへと変わる。うすら寒い薄紅色の中に、強烈な輝きを放った紅の花弁が現われた。それは桜の花びらを覆うように、塗りつぶすように。嵐のように。周囲に吹き荒れ、屍たちを倒し、そして桜を巻き込むように舞い散っていく。
「少々びっくりいたしましたが……推し通りますよ!」
 そうしてそのまま、ベイメリアは駆けた。
 桜の花びらの中を突っ切って、そして先に……、
「……しかしながら」
 先に進みながら、ふと。
「お相手は……切り刻まれることを良しとしていらしたのでございましょうか?」
 ふと。ベイメリアは。そんなことを考えた。
 ごう……と桜の花びらが音を立てて散った。
 今まで不気味な暗い音のなかった世界に、初めて立った嵐の音であった。
「……」
 枯草と中に混じった赤錆のようなにおいがする。
 その呟きがどこかで見ている何かをえぐったことに……彼女は最後まで、気付かなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】
……私には、判りません
そうした形のものはあるのかもしれませんが
少なくとも、今目の前に見えるものが美しいものだとは思えないです

いえ……怒っている訳ではないのです
理解が出来ないからこそ、怒りや悲しみが湧かず
ただ、憐れと思ってしまうのですよ

先ずは、戦いましょう

視力にて敵の数を確認
敵が多い所へ駆け出して接近し、抜刀術『陣風』
2回攻撃となぎ払いにて攻撃範囲内の敵を斬り刻む
倫太郎と狙う対象を変えて、分担して数を減らすようにしましょう
攻撃を終えた後、直後に反撃されない為に斬撃波で討ち漏らした敵を吹き飛ばす

敵の攻撃は見切りにて対応を判断
数が多ければ残像にて回避、数が少なければ武器受けにて防御
防御の際は隙を見てその場で反撃

……私と倫太郎は、共に逝くのが理想なのでしょう
仮に私だけになったのならば……そうですね
誰も来ないような、ひっそりと過ごせる所へ貴方を埋めたいですね
人と関わるのが億劫という訳ではないのですが
「どうか、今は一人にしてくれ」と、思うのかもしれません


篝・倫太郎
【華禱】
愛ゆえに殺したい、か……
そういう心境ってな、判らなくもないけどな
って、そんな顔すんなよ、夜彦

今の俺は判ってても選択しないし
この光景が美しいとは思えないってのは同意だ
とりあえず、こいつら片付けようぜ?

拘束術使用
射程内の敵全てを鎖で先制攻撃と同時に拘束
未拘束の敵は吹き飛ばしをのせた華焔刀でなぎ払い
刃先返して2回攻撃での範囲攻撃

無論拘束されてるのも巻き込むように攻撃

敵の攻撃は見切りと残像で回避
回避不能時はオーラ防御でジャストガード
負傷した場合は以降の攻撃に生命力吸収を乗せてく

さっきの話だけどさ
あんたを俺が殺したら……俺は残されちゃうだろ?
それなら逝く時も一緒がいいし、そのつもりなんだけど?

でも、死した後の唯一無二を誰かの目に晒したり
俺以外の誰かに触れられたりするのも嫌って意味で
殺しちまいたいって気持ちは
ちょっとだけ、判るなぁってさ……

はは、そう言うのも悪くないし
その選択をしたくなる気持ちも判る
もしも俺が残されたら……
やっぱり、同じようにすると思うし

でも、それはそれで子供達に叱られそうだ



 月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)は静かに顔をあげた。
 それが見えないくらい、視界は桜に覆われていた。
 ……本来なら、美しい光景のはずなのに。
 それがちっとも美しいものと思えなくて。
 むしろどこか……そこから冷えるような。そんな寒さを伴っているような気がして。
 夜彦は小さく、息をついた。
「……私には、判りません」
 心の底から出たような言葉に、隣を歩いていた篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)もまたゆっくりと顔をあげる。
「愛ゆえに殺したい、か……」
 先ほどからひらひらと。桜とともに聞こえてくる言葉に倫太郎は耳を傾ける。
「そういう心境ってな、判らなくもないけどな」
 倫太郎はそう評した。そう評した倫太郎を、夜彦は何とも言えない顔で見やる。
 先ほどから聞こえてくる声は、桜と同じでどこか幸せそうなのに底冷えするような寒さを感じさせた。少なくとも、夜彦はそう感じる。
「そうした形のものはあるのかもしれませんが……、少なくとも、今目の前に見えるものが美しいものだとは思えないです」
「そうか……って、そんな顔すんなよ、夜彦」
 淡々という夜彦の、その顔を覗き込んで。思わず倫太郎は笑った。それを聞いて、夜彦は初めて自分の表情を自覚する。思わず己の頬に手を触れた。
「いえ……怒っている訳ではないのです。理解が出来ないからこそ、怒りや悲しみが湧かず、ただ、憐れと思ってしまうのですよ」
「はは、夜彦らしいな」
 軽い口調で、倫太郎は笑う。すると……何か言いたげに、夜彦が倫太郎を見るので、
「今の俺は判ってても選択しないし……この光景が美しいとは思えないってのは同意だ。とりあえず、こいつら片付けようぜ?」
 倫太郎はは笑顔を、安心させるようなものに変える。ぽんと夜彦の肩に手を置くと、夜彦は一呼吸置いた、のち。
「……そうですね。先ずは、戦いましょう」
 小さく、うなずくのであった。
 すでに視界には屍の姿がある。桜の下、どこか踊っているようで、殺しあっている。遠くで見ると楽しそうだが、よく見ると生産である。そんな景色をしっかりと夜彦は見やって、
「四体……参りますよ」
 敵の数を確認。すると同時に夜彦は走った。
「りょーかい」
 倫太郎も後に続く。先に手を伸ばしたのは倫太郎の方であった。見えない鎖を作り出し、すぐさま屍たちへと放つ。
「……っと!」
 見えない鎖は即座に屍たちを拘束した。その勢いを利用して接近すると、
「倫太郎!」
「応!」
 夜彦の一言だけで、倫太郎は察する。鎖から漏れた一帯を含んだ右に、倫太郎は僅かに方向をそらして、華焔刀を翻すと目の前の敵を薙ぎ払った。
 祖の生末までは確認しない。声をかけた段階で倫太郎のことは信じているので夜彦はすかさず左の方に視線を向ける。
「全て、斬り捨てるのみ」
 曇り無き刃の愛刀が走る。宙を舞う桜の花弁すら残さず斬り裂いて、夜彦は一刀のもと切り伏せた。無数の斬撃は屍たちを切り刻み、反撃の爪を刃で受けながらも、夜彦は刃を押し込んでいく。
「っし、前方おかわりだ!」
「はい!」
 瞬く間に切り倒された屍だが、新手がまた前方から姿を現す。……だが、攻撃だけではなくきちんと守りも整えている彼らにとっては敵ではない。
 二人がその場にいる屍たちをせん滅するのに、そう時間はかからないだろう。

「さっきの話だけどさ。あんたを俺が殺したら……俺は残されちゃうだろ?」
 刃をふるいながら倫太郎はそんなことを呟く。
「それなら逝く時も一緒がいいし、そのつもりなんだけど?」
 ぼやくようなその言葉に、夜彦は少し難しい顔をした。
「……私と倫太郎は、共に逝くのが理想なのでしょう」
 現実的には、それは難しいことはわかっている。そんな夜彦の口ぶりであった。……現実的な話をすれば、そうかもしれない。少なくとも戦場でともに散るというのは、出来る限り避けたいかもしれないと思えばなおのことである。
「この桜のように、ともに散ることが……いえ。それにしてはこの桜は、いささか不吉が過ぎるのですが」
 刀を振るいながらも、両断された花弁のひとひらを見ながら夜彦はそんなことを考える。ロマンチックでありながらも、どこか現実的な夜彦の言葉にむぅ、と倫太郎は言葉を重ねる。
「でも、死した後の唯一無二を誰かの目に晒したり、俺以外の誰かに触れられたりするのも嫌って意味で……。殺しちまいたいって気持ちは、ちょっとだけ、判るなぁってさ……」
 たぶん、賛同はされないだろう。倫太郎が好きになったのはそういう人だ。
 そう思いながらも、倫太郎は自分の考えを述べる。……そんな倫太郎の思いに、気付いたのであろう。夜彦もまたかすかにほほ笑んで、小さく頷いた。
「仮に私だけになったのならば……そうですね。誰も来ないような、ひっそりと過ごせる所へ貴方を埋めたいですね」
 あんまり考えたくないことだけれども、かとか言って考えないわけにもいかないだろう。静かに、誠実に。夜彦は考えを述べる。
「人と関わるのが億劫という訳ではないのですが、「どうか、今は一人にしてくれ」と、思うのかもしれません」
 そんな夜彦の言葉に、そっか。と倫太郎も笑った。
「はは、そう言うのも悪くないし。その選択をしたくなる気持ちも判る。もしも俺が残されたら……やっぱり、同じようにすると思うし」
 そういったところで、ぶん、と一度倫太郎は華焔刀を薙ぎ払った。……今ので、最後。たたらを踏む屍は、まだほんの少し息があった。……息があるという表現はおかしい気がするが、確実にとどめを刺さなければこの屍は腕がちぎれようが足がなくなろうが戦おうとすることはわかっていた。夜彦が静かに刀を一閃させる。的確な斬撃が屍の胸を貫き、それは音もなく崩れ落ちた。
 ……満開の桜の中。物音一つ立てずに新進と降り積もるその花弁を夜彦は何となしに見上げる。沈黙した周囲に、倫太郎もわずかに笑ってその隣に立つ。
 美しい光景のはずなのに、どこか冷たい。その理由に二人は思い至った。……音がしないのだ。風の音も、桜の落ちる音も。誰もしゃべらなくとも、なんとなく発生する世界の音がしない。
 ただ彼らが刃をふるう音や、土を踏み音だけが静かに残る。
「こういうの……死後の世界って言われても不思議じゃないな」
「そうですね……。ならそのまま行ってしまいましょうか」
 互いに冗談であることはわかっている。顔を見合わせて、倫太郎は肩を竦めた。
「でも、それはそれで子供達に叱られそうだ」
「ああ……」
 何気なく。しかしどこか真剣に。言った倫太郎の言葉に、夜彦も小さく頷く。
「そうですね……」
 ぎゅっと手のひらを握りしめると、握りこまれた桜の花びらのかすかな感触に、夜彦はただ、うなずいた。
 その感触はほんの少し、どういうわけか夜彦に痛みを残すのであった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 日常 『うたう花の園』

POW   :    花々が生い茂る場所へと散策する。

SPD   :    花弁や春風につられ、花見を楽しむ。

WIZ   :    春が訪れゆく景色を静かに見守る。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 桜の木々は視界いっぱいに手を伸ばし。
 まるで首でも括れそうな塩梅になっていた。
 あなたたちが屍の群れを撃破し、その間道を進んでいると、
 女が一人。その桜の下に立っているのを見つけるだろう。

「……ごきげんよう」

 女は、どこにでもいるような普通の顔立ちをしていた。着物も、どこにでもあるようなありきたりの着物を着て。街ではやりの誰でもしているような髪型でほほ笑んでいた。
「あなたも、これが入用ではありませんか?」
 そして胸には、一振りのナイフを抱いていた。
 『反魂ナイフ』と呼ばれるものだと、誰もが一目見てそれと分かった。
「いいえ。どうにも必要かもしれない、と思いまして。会いたい人愛する人はいませんか?」
 穏やかな声で、女は言った。満開の桜の下、あくまで買い物の提案をするかのように、当たり前の顔をして。
「どんなものであれ、貴重なものなら使ってなくなるものなら兎も角。なくならないものであれば共有すべきでしょう?」
 微笑む顔には悪意のひとかけらも見えず。
 ただ、純粋な善意で彼女が言っていることは、誰の目から見ても明らかであった。
 異常だと、誰かが言った。女は首をかしげた。
「では、その正常は、誰が決めたものですか……?」
 と。
「人間が、すべて違うというのなら。見ている世界は、誰一人として同じものではないでしょう? 価値観だって、人によって違うのは当たり前でしょう? 誰かが決めた常識も法律も、誰かが決めたものであって……あなたが決めたものではないのですよ」
 だから。
 女は優しい顔をして言った。
「あなたは、あなたのしたいことをしていいのです」
 と……。
 桜が揺れる。音もないのに風が吹くかのように枝を揺らして花を散らす。
 誰かが瞬きをしたその時に、女の姿は消えていた。
「答えは、またいずれお伺いした時に」
 耳に、そんな言葉が残っている気がした。
 誰かが、問うた。あなたのその愛を、あなたの連れ合いは許容したのかと。
 その瞬間……一度だけ。ひどく冷え切ったような。だというのに愛しくて愛しくて堪らないとでもいうような。そんな声が響いた。
「私も……その答えを探しております」
 と。
 その声を最後に、女の声は途切れた。

 ……『反魂ナイフ』で甦った人間は、生前がどのように温和な人間であったとしても、影朧と融合したことにより悲劇をまき散らす存在になる。
 その影響がこんなところに出たのだろうか。
 女の姿は最早なく、ただあとはぞっとするような桜が、花を散らしているだけであった。
『死者を生き返らせること。古今東西、それはどの物語を見ても結局のところ罪である……』
 君はあのときの警告を、思い出してもいいし、思い出さなくてもいい。そして……、
 あの優しい顔をした悪魔は、一度たりともそれを「君たちが求めるなら渡す」という言葉を口にしなかったということを。
 君は、気付いてもいいし、気付かなくとも構わない。

●マスターより
第二章は、桜の道を延々と歩きます。
桜は綺麗ですが、不気味です。
女は最初に出会った限り、最後まで会えませんが、どこかで見ている気配はします。
気にいる発言をしたら出てくるかもしれませんが、基本ないものと思ってください。
なので、ずっと、延々と、歩き続けることになります。延々と。延々と。延々と。
桜ばかりで時間の経過も曖昧になってくる中を、ずっと。
一人できた方は一人で。お連れ様がいらっしゃる場合は、その人たちだけで。
たぶん脳が暇をすると思うので、いろいろ余計なことも考えるでしょう。頑張りましょう。
逆に本当に何も考えないという人は、何かすることを考えないと本当に歩くだけのリプレイになるので、何かしら考えることをお勧めします。
また、凄まじい陽の気で「お花見する!」と言い出しても一応可ではあります。その胆力には敬意を表します。お任せください。

●プレイング募集期間は、
16日(水)8:30~19日(土)20:00まで。
また、幸いにも参加者様に恵まれた際には、再送になる可能性があります。
その際は、お手数ですがプレイングが返ってきたその日の23時までにプレイングを再送お願いします。

それでは、良い歩みを。
クック・ルウ
(歌うような声は消えた後も波紋を残していった)
私は愛する人の帰りを待っている
育ての親であり師匠である人
私の正常を決めるのも師匠だ
あの人の教えが私の規範となっている
クックを人間足らしめたのは師匠だから当然だ
(あのナイフを使うことを師匠は許さないだろう)

あなたの愛する人は
あなたにとってどのような存在だったのだろう

愛しているから、殺す……
それがあなたの愛だというのなら
あなたは愛する人に殺されたいのだろうか

(声は届いていないかもしれないが)
あなたの善意は恐ろしい
未熟者ゆえ、その誘いは毒になる
笑みの奥で、私は一瞬あの人の面影を汚してしまった
(私はそれを罪深く感じていると、気配に向けて告解しよう)



 クックは茫然と、女の消えた場所を見つめていた。
 何もない。……なにもなかった。
 声はもう聞こえなかった。
 そこにはただ、ただ、雨のように降る桜があるだけであった。
「……」
 そっと喉元に手を宛てる。
 そうしないと、この心の中でぐるぐる回る、歌うような声が。クックの喉を締め上げて息ができなくなってしまうのではないかと思ったからだ。
 ……ブラックタールであるクックに、本当の意味で喉なんて、あるはずもないのに。
「ぁ……」
 行かなければならない。進まなければならない。
 けれども足は、凍ったように動かなかった。
「私は……」
 私は、壊れてしまったのだろうか?
 私は、正常ではないのか?
 私は。私を。私の。私の正常を決めるのは、師匠だ。
 あの人の教えが、私になっている。
 私を人間足らしめたのは師匠。だから当然だ。すべては師匠が決めるところによる。
 そして、師匠はそれを、あのナイフを使うことを、許さないだろう。
『誰かが決めた常識も法律も、誰かが決めたものであって……あなたが決めたものではないのですよ』
 わからない。そんなことは私にはわからない。
 私には決められない。だって、私は人ではないから、人のことなんて、ほんとうは、なにひとつわからない。
 ただ、私は愛する人の帰りを待っている。
 育ての親であり師匠である人。その帰りをただ待ち続けている。
「迎えに……」
 ふと。考える。その言葉に、私はふと気づいた。
 迎えに行かなければならない。待っている人がいるなら、迎えに行くことは何らおかしいことではない。むしろそれは「正しいこと」ではないのか?
 私が正しいと思うことは、私の世界において正しいことで間違いはない……、

 ……、
 …………!
 知らず。
 強く強く喉を抑えていて、私は。否。クックは我に返った。
 息もしないくせに強くむせる。せき込みながらクックは顔をあげた。
「……、……あなたの愛する人は……、あなたにとってどのような存在だったのだろう」
 知らず、口をついて言葉が出た。そうしてクックは歩き出した。歩いていないと、止まってしまいそうだったから。自分が、自分という生き物が。生き物であることをやめてしまいそうだったから。
「あなたの善意は恐ろしい。未熟者ゆえ、その誘いは毒になる。……笑みの奥で、私は一瞬あの人の面影を汚してしまった」
 好きにしていいと、彼女は言った。
 それが、こんなに恐ろしいことだとは思わなかった。
 まるで、それは摘みを告白するかのようであった。食材の旅のように、彼女はゆっくりと、ゆっくりと、歩く。歩いていく。
「愛しているから、殺す……。それがあなたの愛だというのなら、あなたは愛する人に殺されたいのだろうか……」
 答えはない。ただ、静かな息づくような気配だけが、まとわりつくようにクックについてくる。
 桜の影から、じぃ、と。誰かが見ているような気がした。
 ……クックのその言葉の中に、ひとひらの真実が含まれていることにクック自身が気づくのは。
 もうしばらくは、先のことであったろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜見・佐久良
桜を宿した私にとって、随分と見慣れた景色です。
いくら歩を進めても変わらぬ景色、動かぬことと何が違うのでしょう。
違うのは、私が進んでいて、見送り続けることはないということでしょうか?
こうしてひとつところに留まらず歩めるのは幸福に思えます。

…あぁ、でも、それでも。

私は、あらゆる命を送れることを、愛した人を送れることを、その最後の最期を見届けられることを、何より幸福に思います。
黄泉平坂の桜を餞にできることを幸福に思います。
そうして黄泉路の先で安寧を与えられることを願い続けるのです。

どんなに起こり得なかった"もしも"を夢想して、それを実現できるとしても。
私は、死者の復活を望まず。永久の死の安寧を願う。



 佐久良は静かに歩いていた。
 天に広がる桜は、音もないざわめきで葉を震わせる。
 それを、何と思うことなく静かに佐久良は歩いていた。
 佐久良にとって、それは恐れる景色ではなかった。
 もとより……桜とともに死者の魂を送ることが、佐久良の日常であれば。見慣れたその光景を、恐れる必要など、なかったのだろう。
 土を踏む。無音の世界にひた、とどこからともなく彼女を追う足音がする。
 息遣いがする。誰もいないのに誰かの吐息が聞こえる気がする。
「いくら歩を進めても変わらぬ景色、動かぬことと何が違うのでしょう」
 そう、佐久良は桜に向かって吟じた。返事はなかった。ただ、ひたひたと追いかけるような人の気配を感じるだけで……けれどもそれとて、佐久良にとっては珍しいことではなかったのである。
 変わらない。
 この、不気味なまでに静かな桜は、佐久良にとっては日常だ。
 だから。……ああ。けれど。ただ・……
「……違うのは、私が進んでいて、見送り続けることはないということでしょうか?」
 ふと、そんなことを思った。……そんなことを発見した、といってもいい。
「こうしてひとつところに留まらず歩めるのは幸福に思えます」
 ほんの少し、微笑んで。
 佐久良はためらうことなく歩き続けた。
 今日は見送るわけではない。
 どちらかというと迎えに行くのだ。
 幸か不幸か。悪意か善意か。
 わからぬけれども、誰かがこの先で、必ず佐久良を待っている。
 それが敵であったとしても……、
「……あぁ、でも、それでも」
 それは恋する乙女のような、胸躍る記憶であった。
 見送るだけであった佐久良の胸に、誰かが待ってくれているという喜びがともる。
 それは喜びであり、幸福であり……、
「私は……、あらゆる命を送れることを、愛した人を送れることを、その最後の最期を見届けられることを、何より幸福に思います」
 そして、己の幸福を、さらに知ることとなった。
 佐久良は、己の役割を愛していた。
 それを、幸福に思っていた。
「わたしは、黄泉平坂の桜を餞にできることを幸福に思います。そうして黄泉路の先で安寧を与えられることを願い続けるのです。だから……」
 きっとそのナイフは必要ではありませんね。と。
 それを教えてくれたことを嬉しいとして、佐久良は心から、ゆっくりとほほ笑んだ。
「どんなに起こり得なかった"もしも"を夢想して、それを実現できるとしても。私は、死者の復活を望まず。永久の死の安寧を願う……。死は、悲しいことですが、それは、わたしの誇りなのです」
 ひょう、と風が吹いた。
 それだけやけに、無音の世界の中音を立てて聞こえ、佐久良の耳に残った。
 桜が散る。佐久良の言葉を拒むように。どこかあざ笑うように。
「……ええ」
 けれども。佐久良は構わず前を見て。そしてゆっくりとほほ笑んだ。
「わたしに、幸福を教えてくれて、ありがとうございます」
 桜は、ただ。
 ひらひらと花を散らすだけであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リケ・ヴァッハ
キリエ・チョコレート(スイーツの国の召喚獣・f35078)と行動

ほれ、菓子の獣や我を乗せてたもう

なぜ真(まこと)の姿になっているか?
ほほっ、情景に合わせているのじゃ
それにお主と共に居たら様になるじゃろ?、のう桜餅の獣や。

そんなに不貞腐れるでない。妾とお主の仲じゃろ

のぉ苺の獣。

怒るでないキリエ。


キリエ・チョコレート
リケ・ヴァッハ(「太陽」を司る小さな聖女神・f35566)と行動

なぁリケちゃん?なんか、ここ怪しない?
迷い込んでもうてウチらでれんのぉ?
それになんで真の姿なん?

え?周りの景色に合わせてる?
相変わらずえらい呑気どすなぁリケちゃんは
それにウチの名前はキリエどす

でも怪しいところやけど綺麗な桜やなぁ…リケちゃんの今の姿でウチに乗ってたらなんかお偉いさんが道を通ってるみたいで様になるなぁ

え?今、馬っていうた?
もぉ…ウチは一応召喚獣やのに…もう和菓子作ったれへんでぇ?

ふふ、冗談どす
途中で苺大福食べよっか

それとウチはキリエどす。



 天には視界いっぱいに桜の枝が広がっていた。
 まるで、首吊りでもできそうないい塩梅であった。
「なぁリケちゃん?なんか、ここ怪しない?」
 薄紅色の花弁が落ちる。不思議なくらい静かな中をキリエ・チョコレート(スイーツの国の召喚獣・f35078)は歩いた。ピンク色の毛並みがさわりと揺れる。
「迷い込んでもうてウチらでれんのぉ?」
 どうにも恐ろしい気配がする。風が吹くのに物音一つしない桜並木は、ただただ怖気が走るほど静かで不気味だ。返事がないことに耐えかねて、リケはちらりと視線を植えにやる。
「それになんで真の姿なん?」
 と、言うのも、一緒にいるリケ・ヴァッハ(「太陽」を司る小さな聖女神・f35566)がキリエの上に載っていたからだ。
「まあまあそういうな。ほれ、菓子の獣や我を乗せてたもう」
 不満そうなキリエの声に、リケがそう答える。今日は真の姿で、リケは鷹揚にうなずいた。
「なぜ真(まこと)の姿になっているか? ほほっ、情景に合わせているのじゃ」
 若干機嫌がよさそうである。そんなリケの言葉に、キリエは瞬きをした。
「それにお主と共に居たら様になるじゃろ? のう桜餅の獣や」
「え? 周りの景色に合わせてる? 相変わらずえらい呑気どすなぁリケちゃんは」
 そのいい方にキリエはちょっと呆れてしまう。呆れながらも、
「それにウチの名前はキリエどす」
 と、訂正することは忘れなかった。この明らかにしたいでもぶら下がってそうな桜の中で、よくやるものだとキリエも思うが、
「そんなに不貞腐れるでない。妾とお主の仲じゃろ。のぉ苺の獣」
 なんてリケが言うので、そういうものかとほんの少し首をかしげながらも、キリエは桜の道を進む。
「まあ、そうですけど……。でも怪しいところやけど綺麗な桜やなぁ……リケちゃんの今の姿でウチに乗ってたらなんかお偉いさんが道を通ってるみたいで様になるなぁ」
 そう言われれば、そんな気がしてくるものである。まあ、そういうものなら、そういうものなのだろう、とキリエは深く考えないことにした。考えても不気味なだけだからだ。それより……、
「え? 今、馬っていうた?」
 もっと大事なことがあったので、キリエは思わず声をあげる。
「もぉ……ウチは一応召喚獣やのに……もう和菓子作ったれへんでぇ?」
「む……言うてはおらぬ」
 若干声音が低くなるキリエに、リケは焦る。キリエの上にいるので、キリエははっきりとは顔は見えないけれども、リケが焦っているのはなんとなくわかった。
「ふふ、冗談どす。途中で苺大福食べよっか」
 くすくすと。笑う。笑いながらも、
「それとウチはキリエどす」
 くぎを刺すことは忘れない。ややあって、
「怒るでないキリエ」
 そんな言葉が返ったので、キリエは大いに満足げにうなずいた。
 そうして二人は静かな桜の中を、いろいろな会話をしながら歩いていく……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コルネリア・ツィヌア
目的地に向かって歩き続けるのは苦じゃない
リュカが言うなら、最終的には存在する

でも、色々考えてしまうわね
もう一度訊かれたら、きっと私はこう言う、とか

「ありがとう。要らないわ」
「星は、獲るより観る方が好きなの」

うーん。これ以外思いつかない
私は、ドン引き以上の感情は無い
この世界の歴史に敬意を表して、誰かが決めた司法に彼女を突き出すだろう

ただ。もし心を乱された人がいたなら、……私の事務的な方針が、何か役に立てばいいな、とも、思う。……。


「世界は全て貴女のものだったのね」
「でも、答えを探しているのね」
「なら、永遠に――死者の『勝ち』ね」

なんて惨めな独り相撲
禁忌は、過去からの忠告なのかも
お前もこうなる、と



 コルネリアはぼんやりと、桜の道を歩いていた。
 目的地に向かって、歩き続けるのは苦ではないと思っていた。
 それは……最終的には、ちゃんと目的地にたどり着けるということを知っていたからかもしれない。
 そうでなければ、もう少し焦ってあちこち自分なりに探し、足掻いただろう。
 そう思えば、この桜の景色も何とも言えぬ安心感がある。
 たとえそれが……見るからに首吊りを連想させるような。不快な枝ぶりの花だとしても。
「それでも……色々考えてしまうわね」
 とはいえ。コルネリアも変わらぬ風景を見ながら歩くと思わずそんな言葉が口をついて出てしまう。
「……」
 コルネリアは、本当に普通だったから。
 普通の感性で、それこそ、女の提案を完全に無視する、なんてこともできなかった。
 投げかけられた言の葉を、正確に吟味する。
 もう一度聞かれたら。きっと自分は何というだろう。
「そうね……」
 「ありがとう。要らないわ」「星は、獲るより観る方が好きなの」すんなりと言葉が浮かぶ。
 ちょっと立ち止まって見て、眉根を寄せてひらひらと散る桜を見つめるけれど。
「うーん。これ以外思いつかない。……やっぱりだめ。これで精いっぱい」
 なんだろう。もうちょっとカッコイイ正義も味方っぽく、敵を断罪する台詞とか。
 もしくはヒロインのように、敵に同情して涙を流すとか。
 そんな何かしらの感情がないかしら。なんて、コルネリアは自分で自分のことを振り返って考えて、
「……無理ね。私は、ドン引き以上の感情は無いみたい」
 そう、肩を竦めて呟いた。
「……」
 ひらり、ひらりと桜が散る。
 目を眇めてそれを見る。
 結局コルネリアにとってこれは……ひとかけらも理解できない世界。
 だから、やることは決まってる。敵は倒し、人間である狂った彼女はこの世界の歴史に敬意を表して、誰かが決めた司法に彼女を突き出すのがいいだろう。
「そっか……たぶん、全然。違うのね」
 たぶん、最初から。彼女とは常識の階層がずれているのだろう。だから、ひとかけらの理解も、共感も、出来はしなくて。
「でもきっと、苦しむ人はいるのね……」
 ただ、彼女の言葉で心を苦しめている猟兵がいるかもしれないと。それを思ったとき、コルネリアの胸はほんの少しだけ、痛んだ。
「あとで提案してみよう……」
 こんな情緒も何もない事務的な方針だけれども、
 それが何か役に立てばいいな、とも、思う。……。
 きっと、それは正しいことだから。
 それこそ本当に正しいことなんて、誰にも、わからないから。
 さわりと、桜の花びらが揺れる。
 コルネリアは静かにそれを見上げる。
 首なんて括ってやらない。
 コルネリアにとっては、桜は美しく楽しんでみる方がいい。
「世界は全て貴女のものだったのね……でも、答えを探しているのね」
 空に向かって、問いかける。桜の影から、じっと誰かが、こちらを見ているような気がした。
「なら、永遠に――死者の『勝ち』ね」
 最初は人だったであろう彼女は、もはや人なのに人ではなくなっていた。……そんな気が、コルネリアはした。
 禁忌は、過去からの忠告なのかもしれない。……お前もこうなる、と。
「なんて……惨めな独り相撲」
 答えはない。ただじぃと、こちらを見る気配に。
 コルネリアもまた応えずに、歩き出した。
 最後にはきっと何かにたどり着ける道なんて、何も怖くない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
ああ…いるさ
過去の惨劇をなかったことにして
再び取り戻したいと願う人が居る
あの日守るべきはオレで、守られるべきは彼女だったのに
一度は幽世で会えて話せたのに
哀しませてばかりだったオレを息子だって呼んでくれたのに
それでもまだ、貴女に生きて欲しかったと願い続けて

…わかってるよ、ネージュ
愚かなのも馬鹿なのも全部わかってる
代償無く死者が蘇るなんて思ってない
赦されないのだということも
彼女を悲しませるだけだということも
全部わかっていて諦めきれないオレが一番傲慢で怖ろしいのだということも
…わかってるんだ…

…オレが抱いた愚かな願いの末路が、きっとこの先にある
見届けにいこう、ネージュ
オレはきっと、その為に来たんだ



 綺麗な桜だと、ディフは思った。
 音もなく散るさまは、深々と降る雪のようであった。
 降り積もって降り積もって……、
 あるいは、いろんなものに蓋をして隠してしまうのであろう。
 いっそこの気持ちも、蓋をしてくれればいいのに。なんてディフはぼんやりと考えた。
 ……先ほどから見えているのは足元ばかり。
 綺麗な桜の絨毯を踏み歩く自分の靴ばかりが目に入る。
 顔をあげる気にはならなくて。何となく重いものを引きずるようにして歩けば、
 警戒するように雪精のネージュが、せわしなくあちこち見まわして異常があればすぐ主人に知らせる心づもりであった。
 ……歩く。どこか巡礼のように。歩きながら、耳に残るのは先ほどの声だ。
 優しく囁く、あの声だ。
「ああ……いるさ」
 ぽつんと、口をついて出た呟き。
 出てしまったことに、ほんの少し後悔して。ディフは足を止めた。
「……」
 出てしまったことで、その気持ちが鮮明となったから。
 ぱりりと、まだうまく制御できない冷気が桜の花弁をとらえて。凍らせて地に落ちた。
「そうだ。……そう。要るに決まってる……」
 過去の惨劇をなかったことにして、再び取り戻したいと願う人が居る。
 何にもなかったように、その隣で暮らせればどんなに幸せかと思うことがある。
 それができる。……今なら、出来るのだ。
 あの日守るべきはオレで、守られるべきは彼女だったのに。
 一度は幽世で会えて話せたのに。
 哀しませてばかりだったオレを息子だって呼んでくれたのに。
 それでもまだ、貴女に生きて欲しかったと願い続けて……、
 ……、
 ぎぃ、と。
 まるで首吊りのようにきしんだ音を桜がたてた。
 その隙間から何かがのぞいている。
 桜の影に。ただ一つ。目だけがこちらを見ている気がする。
 だったら。
 そうすればいいのにと、誰かが背中を押した気がした。
 後悔があるのなら、やり直せばいいと。桜が囁いている気がした。
 警戒するようにネージュが桜の方をにらむ。低いうなるような声にディフは足を止めた。

 桜の影から、誰かが見ている。

「……わかってるよ、ネージュ」
 ディフは、呟く。ネージュは警戒をやめない。
「愚かなのも馬鹿なのも全部わかってる。代償無く死者が蘇るなんて思ってない。赦されないのだということも。彼女を悲しませるだけだということも」
 わかってる。わかってることを呟く。視線は相変わらずうつむいたまま。凍った花びらを見つめ絞り出すような声をあげる。
「全部わかっていて諦めきれないオレが一番傲慢で怖ろしいのだということも……わかってるんだ……」
 人は、愚かだ。愚かだとわかっていながら、それをするのをやめられない。
「こんな思いをするのなら、何も知らなければよかったのかな……」
 人のようであるということが、こんなに辛いことだとは思わなかった。
 心があるということが、こんなに苦しいことだとは思わなかった。
 知らなければ。何も持っていなければ。こんな風に苦しむことも、なかった、野に……。
「……」
 なら、手放そうか。もう、手放してしまおうか。
 桜の向こう側から、じぃ、と、誰かが見ている。
 まるで何かを、歓迎しているかのように。
「……オレが抱いた愚かな願いの末路が、きっとこの先にある。見届けにいこう、ネージュ」
 胸によぎるそんな思いを否定して、ディフはまた歩き始める。
「オレはきっと、その為に来たんだ……」
 もう、二度と。
 こんな思いはしたくない。そんな風に思いながらも。こんな気持ちはいらないとどこかで思いながらも。
 ディフは歩みを、止めることができなかった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャト・フランチェスカ
こんな場所で
いかにも普通ですよ、なんて女
なにか、致命的にズレている

答えを探している?
どうだか
死人に口無しだ
幾ら黄泉還ったように見えても

彼女が欲しいのは言い訳
自分に都合の良いシナリオ

あのナイフが要ると言ったら
どんな顔をするんだろう
同志だと喜び手を取る?
それとも彼女の決めた「正常」で以て
自分たち以外の「主人公」を排除しようとするだろうか

反魂に代償がないとは思えない
ただ、齎される悲劇――たとえば周囲に滅びを振り撒くことが
当人たちの価値観で喜ばしいものだったとしたら
死んでなお、生き返ってなお
罪も罰も存在しなかったことになるのかな

猟兵が手を下したとしても
……古来から、心中なんてのは
何故か愛の象徴だものね



 シャトはぼんやりと、目の前の女を見ていた。
 手を伸ばそうとすれば、いつの間にかいなかった、
 一度軽く、眉根を寄せる。
 あとにはただ、寒々しい桜が花を散らすだけであった。
「……」
 こんな場所で、いかにも普通ですよ、なんて女。
「なにか……」
 致命的にズレている。と。言いかけてシャトは口を閉ざした。
 どこからか、じぃと。
 何かが見ているような、気がするからだ。
「……」
 歩き出す。とにかく先に進まないと。
 桜を踏む。舞い散る花弁はどこかうすら寒いものにシャトには思えて。地に落ちる花弁をためらいなく踏む。
 生き物がついてくる気配はないのに、どこからか見られている、そんな感触はやまない。
 女は。ひとだと聞いた。
 あんなひとがあってたまるものかと、シャトは思った。
 答えを探している?
「どうだか……」
 ふと、口についたのは苛立つような、嘲るような。そんな声。死人に口無しだ。幾ら黄泉還ったように見えても、それがそのものでないことなんて明白だろう。
 死を体験したことのない人間が、死を体験したことのある人間と、同じであるなんてシャトには間違っても言えない。
 だから、彼女が欲しいのは言い訳で。
 自分に都合の良いシナリオを作り出しているだけなんだと。
 シャトはそんなことを考えながら、ゆっくり、ゆっくり、歩いた。
 その思いを問う。その思いを追いかける。
 彼女という登場人物を思う。
「あのナイフが要ると言ったら……どんな顔をするんだろう?」
 同志だと喜び手を取る? ありえない。
 あれは同志を喜ぶタイプではない。己の中で。己の幸せで完結するタイプだ。
「なら……」
 それとも彼女の決めた「正常」で以て、自分たち以外の「主人公」を排除しようとするだろうか……。
「……」
 しっくりこない。シャトは歩きながら考える。徐々に思考は埋没していく。どこか、物語を考えるみたいに。
 どこからともなく、桜が散る。それはどこか温かみのあるもので、おやと思えば自分で出していたものであった。
 ひらひらと散る桜は、周囲に咲く桜と同じ顔をしていたのに、どういうわけか全く違う色をしている気がした。
 ぎぃ。と。物音一つない世界に、音が鳴った気がした。
 それは、誰かが首でも括ったかのような音だったか。
「……」
 掌に桜を浮かべ、シャトは考える。
 反魂に代償がないとは思えない。奇跡には何かしらの代償が必要だ。
 具体的に言うと、きっとこの世界。齎される悲劇は――たとえば周囲に滅びを振り撒くことではないか。
 と。
 そこまで来て、シャトはふと足を止めた。
 目を見開いて、食い入るようにその桜を見る。
「……それじゃあ、こういうことかい?」
 ぽつりと漏れた、呟き。
 起こりうる悲劇が。当人たちの価値観で喜ばしいものだったとしたら。……もしくは、どうでもいいものだったら。
「死んでなお、生き返ってなお、罪も罰も存在しなかったことになるのかな……」
 きゅっと、桜を握りしめる。
「驚いたね。怖いものなんて、何もないじゃないか」
 だから、どうでもいいのだ。親切そうなふりをしたその提案も、うわべだけのもので実際の答えなんて聞いていかなかった。
 彼女は、シャトたちが罪を暴く狩人だと知っているだろう。……なら、
「猟兵が手を下したとしても。……古来から、心中なんてのは……、何故か愛の象徴だものね」
 最強だね。とシャトはつぶやいて。どこかひきつるような、皮肉気な笑みを浮かべる。
 桜の向こう側から、じぃと、何かが見ている。
「さて、答え合わせしたとしても……」
 この物語は、自分の趣味には会わないかもしれないな。なんて。
 シャトは未完に物語を思い、ため息を一つ、歩き出すのであった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
どうにも、嫌な空気が漂ってるな。さっさと抜けてしまいたいが……
歩きながら、なんとなく思考を巡らせよう

人が見ている世界は全て別。世界は己の認識のみで成り立っている……唯識論、色即是空だったか?
尤も、その辺りは軽く齧っただけで詳しくないが

にしても、死者の蘇生か。デッドマンや僵尸のように何かの理由で復活した奴もいるけれど……
ナイフで簡単に蘇生するようになっちゃ、その辺りも形無しだが……さておき、本題は「反魂ナイフが欲しいか」だったか?

俺が蘇らせたい奴は……もし使ったら、確実に俺を殴るだろうな
禁忌を犯して復活させたのにそいつに殴られるとか。割にあわないにも程があるだろう
だから、それは必要ない。悪いな



 鏡介は、うん、とわずかに眉根を寄せた。
「どうにも、嫌な空気が漂ってるな。さっさと抜けてしまいたいが……」
 こういう時こそ、焦ってはいけない、なんて思いながらも、鏡介はゆっくりと歩を進めた。
 怪異の類は、普通さを失った方が負けなのだ。
 目の前を花弁が落ちていく。
 薄紅色は本来ならば美しいはずなのに、どこか今日の桜はうすら寒く、鏡介には感じられた。、
「……」
 無音。土を踏む音すらも桜が吸い取って消してしまうかのような沈黙。
 どこからか、じぃと何かが見つめる気配。
 だというのに、探しても影も形も見ない、矛盾しているかもしれないが生き物の気配すらないその道のり。
「ああ……」
 これでは、考えるなというほうが酷というものだろう。
 だからなんとなく、鏡介は思考を巡らせる。
 「人が見ている世界は全て別。世界は己の認識のみで成り立っている……唯識論、色即是空だったか? 尤も、その辺りは軽く齧っただけで詳しくないが……」
 巡らせるのであるなら、それはやはり先ほどの言葉となる。
 自分の世界は、自分の決めたことが正しい。そういわれてみれば、確かにそうという気もするし、
 それはおかしいといえば、やはりおかしい、とも思う。
 とはいえ思想とか一般論とか、そういうことを言われては……、
 ……、
 …………。
 正しいも違っているも、基本やっぱり人それぞれ。なんて無体な感想が出そうになったので、鏡介はゆっくりと首を横に振った。
「にしても、死者の蘇生か。デッドマンや僵尸のように何かの理由で復活した奴もいるけれど。ナイフで簡単に蘇生するようになっちゃ、その辺りも形無しだな……」
 時代かな。なんて若干年寄りのような見解。
 昔はあんなに苦労したのに……。なんて考えかけて、鏡介はそこでぱちりと瞬きをした。
 歩みはいつの間にか、止まっていた。
「……さておき。本題は「反魂ナイフが欲しいか」だったか……?」
 改めて。鏡介はそんなことを言った。
 とりとめのない思考はようやく終息を見せた。世界のこと、いろんな生き返りのこと。そんなことを考えた末に一つ、自分の感情に鏡介は思い至ったのだ。
「俺が蘇らせたい奴は……もし使ったら、確実に俺を殴るだろうな……」
 ふ、と遠い目をする。禁忌を犯して復活させたのにそいつに殴られるとか。割にあわないにも程があるだろう。それはもう、とても痛い目に遭うに違いない。
 ……殴るのは向こうの話だが、鏡介は殴られたくない。
 それは間違いなく、自分の側で考えた、自分の気持ちだった。
「だから、それは必要ない。悪いな」
 ふぅ、と鏡介は苦々しげな橋上を緩めて息をつく。
 じぃ、と見つめる気配はあれど、どこにいるかはわからないので。やせ細った老婆のように手をを伸ばす桜の木を見つめてそう告げた。
「……まあ、もっとかっこいい理由でも、良かったんだが」
 今一つしまらないかもしれない。と自分で言って自分で考え。
「……でも」
 何よりそれが大事なのだと。小さく、音のない世界でつぶやいた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

邨戸・嵐
一生ここで迷い続けることになると困るなあ
ずっと静かで飽きが来そう
我慢してお行儀よく歩き続けなきゃ

桜は食べられるからいいよねえ
散る花を見て心動かすひとたちのお零れに預かるのも

君の感情は汲みたての水みたいに透明だった
枯れることない桜に慣れ切ってしまったせいかな
君の探す答えが見つかったら、はっきり味がつくのかな

俺にとっては美味しいかどうか、腹が膨れるかどうかだけが大事
この価値観がどうもズレてるらしいって知ってるから
一方的に、君は俺のお仲間だって思ってる
親近感ってやつ

会いたい人、愛しい人
ゴールまでに考えておこう
君の心揺らす話が出来る自信はないけど
愛の味を教えて貰うために
君の気を惹く準備ぐらいはね



 ひらひら。
 ひらひら。
 桜が散る。
 なんだか嬉しくなって、その花びらを一枚、蝶を追う猫のように捕まえて握りしめてみる。
 ぱ、と掴まれた瞬間。手の中が真っ赤に染まった気がして。
 けれども手を開くと、そこには何もなかった。
「……」
 そんな。
 気が滅入るような事態すら、心底楽しそうに嵐は口の端をあげて笑った。
「一生ここで迷い続けることになると困るなあ」
 どこか機嫌よく笑いながら、嵐は歩く。困るなあ、なんて言いながらも、それは愛しい人の我が儘を、困るなあ、なんて言いながら聞いているもののように聞こえなくも、なかった。
 そんな風に歩いていく嵐であったが、もちろん何も感じていないわけではない。
 延々と続く桜の枝は、まるで首でも括れそうな塩梅で。どこからともなく軋むような音だけが。響いて嵐の耳に届く。他に何も音がしないのと相まって、ぎぃいいぎぃ、という音はどこから聞こえてきたのかわからぬぐらいはっきりとしていた。
 誰かがどこからか見ている気配がする。視線は感じるのに、生きているものの気配はまるでしない。……なのに、視線は嵐が歩くたびについてくる。ひた、ひたと、しっかりと、嵐を追いかける。
「ずっと静かで飽きが来そう。我慢してお行儀よく歩き続けなきゃ」
 そんな、普通の人間であるならば気が狂いそうになる世界を。その一言で嵐は制して歩き続ける。
 別に強がりでも何でもない。
 嵐は心からそう思っていた。
 その証拠に、行く足取りはまるでどこか遊びにでも行くようであったという。
「それにしても……」
 薄紅色の花弁を踏みながら、嵐は考える。何がぐにゃりと、弾力があり、腐ったような匂いのするものを踏んだような気配がするが……振り返っても何もない。
「桜は食べられるからいいよねえ。散る花を見て心動かすひとたちのお零れに預かるのも」
 ただ振り返れば、そこには首を吊りたくなるような桜があるだけ。その感想がそれ。ひたと嵐から離れない視線を気付いていないわけでは無かろうに。嵐は心からそんなことを思って笑う。
「……ねえ」
 そっと、舌を濡らす。
 返事はないとわかっていて、愛を囁くように嵐は囁く。
 視線は一点に。そこには何もない。ただ桜と桜の間から、
「君の感情は汲みたての水みたいに透明だった」
 ひとつ眼球が、
「枯れることない桜に慣れ切ってしまったせいかな。君の探す答えが見つかったら……、はっきり味がつくのかな」
 覗いている、と思った瞬間、空は真っ赤な花弁をまき散らして消えていた。桜の薄紅よりも濃い赤が、一瞬視界を染めて、またすぐに消えていく。
「ねえ」
 眼球は消えた。けれども視線がする。
 じぃ。と。どこからか何かが見ている気配がする。
「俺にとっては美味しいかどうか、腹が膨れるかどうかだけが大事。……この価値観がどうもズレてるらしいって知ってるから、一方的に、君は俺のお仲間だって思ってる。親近感ってやつ」
 その異界。その怪異。そのすべてが愛しいのだというように、嵐は両手を広げる。
 答えは返ってこない。そんなことは知っている。
 あれは人のようで最早人でない。嵐が言っていることを理解できて、回答できるかどうかもわからない。……そんなことは、百も承知だ。
「会いたい人、愛しい人。ゴールまでに考えておこう」
 君の心揺らす話が出来る自信はないけど……、
「愛の味を教えて貰うために。君の気を惹く準備ぐらいはね」
 知っていて。わかっていて。嵐は歩く。とてもとても楽しそうに。これから恋人を、エスコートしに行くような足取りで。
 その先に満足いく回答が得られたとしても、得られなかったとしても。きっと嵐はどちらでも構わないのだろう。
 ただその道中を、楽しそうに彼は歩き続けるのであった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベイメリア・ミハイロフ
桜の中を歩く間、女性の仰った事について考えます

わたくしは、わたくしの愛する方々は
例え無念の中命を落としたとしても、
失われた者の為よりも、今存在するものを大切に、と仰るでしょう
わたくし自身も、そうでありたい…
ましてや、大切な方のお骨にナイフを突き立て
更に傷つけるなど、とてもとても
そのような恐ろしい事、できたものではございません
わたくしは、この女性とは、考え方が大分異なるようでございます

影朧となったお相手は、やはり
生前に切り刻んだ女性のことを、お倒しになられたのでございましょうか
女性にとっては、自業自得、と申し上げるべきでございましょうか
女性はこれを、業などとは、全く思っていませんでしょうけれど



 ベイメリアはゆっくりと桜の古道を歩いていた。
 こんな気持ちで、お花見をするなんて思いもよらなかった。
 いつの間にか世界からは音が消えて、
 ただどこかで、ぎぃ……と何かが首を括ったような音がしている。
 歩けば立つはずの土を踏む音も聞こえない。
 誰もいない場所に、誰かがどこからか見つめている。そんな気配だけがしている。
「これは、とんでもないお花見になりましたね……」
 呟いた。ベイメリアの声だけが美しく桜の中に吸い込まれていった。
「……」
 ほんの少し。寒くもないのに寒気が走った気がしてベイメリアは身を竦める。
「……」
 何か。何かそう……考えなくては。このままでは、良くない。
 歩く。ただ歩き続ける。行けども行けども同じ景色。行けども行けども感じる視線。どこかで何かが腐ったようなにおいがするような。それとも、しないような。
「……わたくしは、わたくしの愛する方々は」
 それで。
 ベイメリアは口に出してみることにした。口に出さねば耐えられない、というほどでもなかったが、やはり口に出さずにはいられなかった。
「例え無念の中命を落としたとしても、失われた者の為よりも、今存在するものを大切に、と仰るでしょう……」
 親しい人たちの顔を思い浮かべる。そうするとほんの少し、心が支えられる気がした。一人一人、丁寧に思いながら歩くと。足取りもほんの少し、軽く、早くなる。
「そして、わたくし自身も、そうでありたい……」
 ましてや、大切な方のお骨にナイフを突き立て更に傷つけるなどどうしてできようか。
 そうしてまで、生き返りたいなどとどうして思おうか。
「なんということを。……なんということをしてしまったのですか、あなたは」
 そのような恐ろしい事を。
 改めて考えてみれば、どうしてそのようなことができたのか。
 ベイメリアはきゅ、と拳を握りしめ、胸の上で置いた。
 どれだけ考えても、その気持ちが理解できなくて。
 ましてや、自分がよければそれでいいのだという気持ちにもなれなくて。
「わたくしは、この女性とは、考え方が大分異なるようでございます……」
 ふるりと、首を横に振って。息を吐くようにベイメリアはそうつぶやいた。
「世の中には……そのような方も、いらっしゃるのですね」
 敵の影朧はあくまで旦那の方であり、女性の方は関係ない。
 彼女は、ただの人間なのだ。そのことを聞いて、ベイメリアはほんの少し恐ろしくなった。
 ただの人間が、愛しているから殺すなんて。そしてまた殺すために生き返らせるなんて。
 なんて……。
「……」
 自然と、足が止まっていた。
 ふう、とベイメリアは息を吐く。
 さざめく桜は、もうなにも恐ろしくはなかった。
 それよりも、恐ろしいものに出会った気がしたからだ。
「影朧となったお相手は、やはり、生前に切り刻んだ女性のことを、お倒しになられたのでございましょうか……」
 先ほどの異様な気配。まるで生き物ではないようなその顔に、ベイメリアは思う。……もしかしたら、そうであってほしいとも思ったのかもしれない。あんなような。……あんなような「ただの人間」がいるなんて、恐ろしくて仕方がない。
「……女性にとっては、自業自得、と申し上げるべきでございましょうか」
 だから、ベイメリアはそう言って、ほんの少し遠い目をした。
「女性はこれを、業などとは、全く思っていませんでしょうけれど……」
 本当に。
 愛というものは恐ろしく、わからないのだと。ベイメリアは思うのであった。そして、
「どうかわたくしは、わたくしの思う正しい愛を持ち続けられますように……」
 祈るのであった。そんな恐ろしい思いを抱くことなく、まっすぐに前を向いて歩けるように……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クーナ・セラフィン
桜道を延々歩きながら思案。ホラーの気配強すぎないここ。
…気になるのは生者を何で反魂者が襲わないのか。
普通そんな仕打ちされたら真っ先に狙われそうだけど…
既に手遅れかそれとも…愛に応えようとしているのか。

ああ反魂ナイフはにゃー…要らないかな。
そもそも遺骨もないしにゃー。
火炙りされてその行方さえも分からないまま時間も経ってるし。
…けど遺骨があったとしても使わないだろうね。
だって、クーナはそんなもの使わないよ?
人でなしなのは間違いないけど、そういうタイプの人でなしじゃないし。
私はクーナらしくない事はしたくないんだ。
逆にキミは本当にやりたい事をやってるの?とか桜の方に問うてみたり。

※アドリブ絡み等お任せ



 桜の枝が伸びている。まるで干からびた死体のような枝であった。
 先ほどから音がない。足音すら立たない景色で、どこからともなくぎぃ……と首吊りの音がする。
「……」
 クーナは、歩く。桜道をただ歩く。延々と歩く。
 桜が舞い散る。どこかから誰かが見ている気配がする。……足音すら立たないのに? それはクーナの移動に合わせて、ひたと目線を合わせてついてきている気がする。
「……」
 花びらの中に、地のような赤が混じる。それがクーナの鼻先をかすめたと思ったら、次の瞬間には消えていた。
「……ホラーの気配強すぎない? ここ」
 それで。堪りかねたようにクーナが口に出した。
 降参、と両手をあげるクーナであったが、応えるのは桜の花が揺れるだけ。無音で、さわさわと枝だけが揺れるので、肯定なのか否定なのかもわかりはしない。
 ここまで悪趣味にする必要があったのかと、正直思う。
「いや……」
 そりゃ、なかっただろう。別に。だからそこを考えても仕方がないのか、とクーナは思い返す。
 ……こういうときは、怖いものを見て怖いことを考えていても仕方がない。
 なら……、
「……気になるのは生者を何で反魂者が襲わないのか。かな。普通そんな仕打ちされたら真っ先に狙われそうだけど……」
 そりゃそうだ。話を聞くところによると、愛していた妻にその反魂者は殺されたのだ。
 裏切りと取られても仕方がない。いくら愛を主張しても、明らかにいたんであることには変わりがない。
「既に手遅れかそれとも……愛に応えようとしているのか」
 むぅ、と髭をそよがせるクーナ。そのどちらであるかは、いくつか仮説を立ててみたけれどもこれと行ってピンとくるものもなかった。……なければ自然と、その考察は反魂ナイフに、うつる。
「ああ反魂ナイフはにゃー……要らないかな。そもそも遺骨もないしにゃー」
 そうだなあ。と。次に考えるのはやはりあのナイフのことだ。
 クーナとて、蘇らせたい人がいないわけではない。
 いないわけではないが、あれはちょっと、違うんじゃないかな、という気がクーナはしている。
「……」
 そもそも、クーナの蘇らせたい人はすでに遺体は燃やされた。骨まで燃え尽きたか、それとも野ざらしにされたか。あるいはどさくさに紛れてだれかがもっていったか。そんなことすら今やもうわからない。
「……けど遺骨があったとしても使わないだろうね」
 たとえあったら。仮定してみてもクーナとしては首を横に振るしかない。なぜなら、
「だって、クーナはそんなもの使わないよ? ……人でなしなのは間違いないけど、そういうタイプの人でなしじゃないし。私はクーナらしくない事はしたくないんだ」
 そういうことだ。会いたいし、蘇ればきっと嬉しいけれどもそれは違う。違うからしない。至極単純なことだとクーナは言って、
「逆にキミは本当にやりたい事をやってるの?」
 ひとつ、顔をあげた。
 どこからかクーナを見ている気配が、どこにあるのかわからなかったから、とりあえず天を見上げてみた。
 桜は揺れる。どこか嘲るような笑みを含んだ。そんなものを感じさせるざわめき。けれども花が揺れても、音一つ立てない静かな世界。
「……そう」
 答えはわからなかったけれども。進めばいずれ、その答えにも出会えるだろう。
 そう結論付けて、クーナは道を進む。音もなく桜が散るその道を……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

藤原・桔梗
レクス(f07818)と参加
【心情】
桔梗にとって「生き返らせたい人」というのはいません
お父様お母様などは幼いころ亡くしましたが、そのせいで逆にしっかり覚えていないからです
寂しかったかと言われると、お姉ちゃんがいましたし

だから、単に離別の悲しみを知らないだけなのかもしれません
未来に後悔するかもしれません
それでも、反魂ナイフはきっちり破壊します

【行動】
さすがにここでお花見できる程の胆力はありませんが
お団子とお茶を用意してきました
歩きながらでも食べられますし、いただきましょう

「ただただ歩くなんて退屈じゃないですか。せっかくなんですし、お花見気分を味わいましょう」


レクス・マグヌス
藤原・桔梗(f10098)と行動
【心情】
『このナイフがご入用ではありませんか?』と聞いては来るが、『使うなら渡す』という話をしていないな
ただただ答えを探しているのかもしれないな
とすると、彼女自身も『反魂ナイフ』に囚われているのか
もちろん、人を惑わすだけの幻に過ぎないのかもしれないが

【行動】
桔梗の団子をいただく
「いけないな、桜のせいか思考が堂々巡りになってきた…って桔梗さん、それはいったい?」

そこまでの神経は持てないけれど…いや、その位の神経が無いとここを歩くのは難しいかもしれないな
ありがたくいただこう

「貴女の名前は知らないが、死者を蘇らせたものは例外なく罰を受ける。貴女も罰を受けているのか?」



 レクスはちらりと桔梗の方を見た。
 桔梗は、いつもと変わらぬ様子でゆったりと歩いていた。
 しかしながらレクスの視線に気が付いたのであろう。桔梗はゆっくりと顔をあげる。
「……その」
 視線。と痛げな桔梗が口を開く前に、ゆっくりとレクスは口を開いた。
「先ほどの、ナイフの話だ」
 それを考えていたのだと彼が言うと、桔梗は納得したようにうなずいた。
「ああ……」
 ひらり、ひらり。……ひら、ひらと。
 桜は散る。散っていく。
 音すら立たぬ桜吹雪は、どこか絵の中のことのようで。
 時折感じる二人を窺うような視線も、まるで誰かが首を括っているような枝の軋む音も、
「どう思う?」
 それよりも、聞きたいことがあるとでもいうようなレクスの言葉に、桔梗はほんの少し微笑んだ。
「桔梗にとって「生き返らせたい人」というのはいません。お父様お母様などは幼いころ亡くしましたが、そのせいで逆にしっかり覚えていないからです。……寂しかったかと言われると、お姉ちゃんがいましたし。桔梗が、輪郭しか覚えていない両親を思って泣いたら、きっとお姉ちゃんは悲しむでしょう」
 特に無理をしているでもなく、自然な様子で桔梗は語る。
「桔梗は……たぶん幸せ者なのでしょうね」
 ほう、とそれは息つくような声音で。
「だから、単に離別の悲しみを知らないだけなのかもしれません。……未来に後悔するかもしれません。それでも、反魂ナイフはきっちり破壊します」
 桔梗は、そんなことを言ってほんの少し、桔梗は目を伏せた。
「桔梗は……桔梗に恥じるような行いを、したくないのです」
「そう、か……」
 桔梗の言葉に、レクスは思わず黙り込む。
「……」
「……」
 ……視線を感じる。それは先ほどから、どこにいるかわからないのにじぃと見つめる気配のものかと思っていたら、
「レクス。桔梗ばっかり、ずるいです」
 ほんの少し、拗ねたような。冗談めいた顔で、桔梗がレクスを見ていたので、レクスもちょっと笑った。
「『このナイフがご入用ではありませんか?』と聞いては来るが、『使うなら渡す』という話をしていないな。……とは、思ってはいた」
「ああ……」
「だから、僕がどうしたいというよりも、それが気になった。……ただただ答えを探しているのかもしれないな。とすると、彼女自身も『反魂ナイフ』に囚われているのか……、もちろん、人を惑わすだけの幻に過ぎないのかもしれないが……」
 どちらかというと、レクスは考察の方に気持ちが向いているらしい。この異界のような気配も、女の常人ならざる様子も。レクスは気になっていた。
 さくさくと、考え込みながらレクスは歩く。桔梗も黙ってともについてくる。ついてきながら、
「いけないな、桜のせいか思考が堂々巡りになってきた……って桔梗さん、それはいったい?」
 桔梗が何かしてる。と思ったら。団子を取り出していた。レクスは目を丸くする。
「さすがにここでお花見できる程の胆力はありませんが、お団子とお茶を用意してきました。歩きながらでも食べられますし、いただきましょう」
 ほらほら。と、持ってきたお茶菓子と出納を示して見せたのである。
「……ここで?」
「はい」
「歩きながら?」
「ええ。さすがに座ってお花見はできません」
 そんなに豪胆ではないですよ、と胸を張る桔梗。いや、それは、結構豪胆だと、思うのだけど。
「それともレクスさんは、座ります?」
 ちょっと怖いけど、やぶさかではない。なんて。ちらりと桔梗が視線を桜の方にやった。ちょうど座るのによさそうな桜の切り株……は、ないけれど。なんだか蛇のように動く木の根が目に入った、ような。
 は、と思って見直すと、動く桜の根などどこにもなかったけれど……、
「そこまでの神経は持てないけれど……いや、その位の神経が無いとここを歩くのは難しいかもしれないな
ありがたくいただこう」
 思わず。詰めていた息を吐いてレクスは言う。その言葉に、桔梗もふふ、とどこか嬉しそうに笑った。
「ただただ歩くなんて退屈じゃないですか。せっかくなんですし、お花見気分を味わいましょう」
「ああ……そうだね」
 団子をもらって、口に入れる。優しい甘みが広がって。それでレクスは……自分がつかれていたことを知った。疲れが、溶けていくようであった。
 もらったお茶が温かくてほっとする。
「どう? 落ち着くでしょう?」
「……ああ」
 得意げな顔の桔梗に、レクスはもう一度うなずいて。
「貴女の名前は知らないが、死者を蘇らせたものは例外なく罰を受ける。貴女も……罰を受けているのか?」
 ぽつんと、お茶を見ながらつぶやく。
 色のついた水面が揺れて、そこに移る桜がひとひら、真っ赤に染まったような、気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

城島・冬青
【橙翠】

なんか言いたいことだけ言って消えちゃいましたね
変なひとー
え?!急に惚気ですか
わかってますよ

しかしアヤネさん大丈夫ですか
戦闘では顔色があまり良くなかったから
ここに立っていても仕方ない
歩きましょう
手を繋ぎます?それとも腕を組みます??
きゃー!

反魂ナイフってどう思います?
私ですか?全然いらないですね
包丁の方が欲しいです

んー
びっくりするけどこうして触れてお話できるならあんまり気にしないかも
ほら猟兵って色んな種族いるじゃないですか
妖精とかそれこそデッドマンとか
だから実は死んでて幽霊でしたー
とかそんな大した問題じゃないですよ
こうしてそばにいてくれるなら
できれば私が死ぬまでは成仏しないで下さいね


アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】

愛と憎しみは裏腹なんだろうさ
言うとも無しにそう口にしてから
いやソヨゴには愛100パーセントだからっ
慌てて言い繕う

ソヨゴの手を引いてぎゅっと抱きしめる
あなたがいてくれれば大丈夫
彼女の暖かさが冷えた気持ちをほぐしてくれる

じゃあ腕を組んで行こう
歩き出す

反魂ナイフか
僕はいらないネ
ソヨゴは?

返答にさらに
もし僕が死んでたらどうする?
と質問する



 冬青はとてとてとてー。と、速足で桜に突撃した。
「……!」
 くるん。と桜の木を取り囲むように一周。
「なんか言いたいことだけ言って消えちゃいましたね。変なひとー」
 ひとしきり桜の周りをふんふん確認して、冬青はお戻ってきた。
 どうやら、木の陰に消えた女が隠れているかどうか確認したらしかった。
 本当にいたら、どんなリアクションを取っていたのだろうかと、アヤネはちょっと思いながらも。
「愛と憎しみは裏腹なんだろうさ」
「へえ?」
 なんとなく呟いたアヤネの言葉に、不思議そうに冬青は返事を返す。その声に、アヤネははっ、として、
「いやソヨゴには愛100パーセントだからっ」
「え?! 急に惚気ですか。わかってますよ」
 慌てたように言いつくろうアヤネに、冬青は笑って答えるのだった。多分、アヤネの慌てた意味をあんまり分かっていない。ほっとするような、ちょっと不満なような。
「……しかしアヤネさん大丈夫ですか? さっきから顔色があまり良くなかったから……」
 そんなアヤネの感情を知ってか知らずか。不思議そうな顔で冬青はアヤネの顔を覗き込む。……いやこの顔は、絶対知らない。
「ここに立っていても仕方ない。歩きましょう。手を繋ぎます? それとも腕を組みます??」
 ほらほらー。なんて楽しそうに差し出された手に、アヤネは瞬きをひとつした。
「……うん」
 手を伸ばす。冬青の手に触れる。それからぎゅっとその手を引いて、アヤネは冬青を抱きしめた。
「あなたがいてくれれば大丈夫」
「!?!?!?!?!?!? きゃー!」
 急なことに思わず声をあげる冬青。アヤネは構わずに、ぎゅぎゅっと冬青を抱きしめ続けた。
「ソヨゴの暖かさが冷えた気持ちをほぐしてくれる。だから……大丈夫」
「そ、そうですか……?」
 顔を真っ赤にする冬青に、アヤネは笑う。それはどうも……? 何て、ちょっと良くわからない回答をしながらも、
「と、とにかく! ここでいても仕方がありません。行きましょうー!!」
 むきー! とじたばたしながら冬青は声をあげた。嫌ではなかったが、恥ずかしかったのだ。だってさっきから、どこからともなくじぃとみる視線を感じる。
 どこにも、誰も、いないのに。眼球だけが浮かんでこちらを見ている気配がするのだから落ち着かない。
「じゃあ腕を組んで行こう」
「はーい。もう。そうしましょう」
 そわそわする冬青に、アヤネは笑いながらも手を放し、そして腕を組みなおした。
 そうしてゆっくり、二人は歩き出す。不気味な道中も、おしゃべりしていればきっと、怖くなんてなかった。
「反魂ナイフってどう思います?」
「反魂ナイフか。僕はいらないネ。ソヨゴは?」
 ただ自然と、会話はそんなものになる。あっさり答えたアヤネに、うーん。と冬青もちょっとだけ考えこみ、
「私ですか? 全然いらないですね。包丁の方が欲しいです。なんでも切れる包丁とか、切った瞬間で鮮度が完全保存される包丁とか」
「あはは。ソヨゴらしいネ。じゃあ……」
 ふと。アヤネは足を止めた。
「もし僕が死んでたらどうする?」
 自然と、冬青の足も止まった。
「んー」
 ほんの少し、冬青は考えた。先ほどよりも真剣な顔をして考えた。死んだらどうする? ではない。死んでたらどうする? だった。なら、
「びっくりするけどこうして触れてお話できるならあんまり気にしないかも……。ほら猟兵って色んな種族いるじゃないですか。妖精とかそれこそデッドマンとか」
 ほんの少し、言葉を選ぶ。目の前のアヤネが生きる屍だったら。何度も考えたけれども、答えは一つだった。
「だから実は死んでて幽霊でしたー。とかそんな大した問題じゃないですよ。実は幽霊でも、実はしたいでも、実は猫でも、実はカボチャでも、私はアヤネさんがアヤネさんならいいですよ」
「……実はカボチャって、ちょっと無理がない?」
「そ、それは……たとえです!」
 冬青の答えに、アヤネはちょっと吹き出す。冬青はまた別の意味で真っ赤になった。恥ずかしくて真っ赤になって。そしてそれを隠すようにぐいと組んだ腕を抱き寄せて、
「……こうしてそばにいてくれるなら。……できれば私が死ぬまでは成仏しないで下さいね」
 そうして。囁くように言ったので。
 アヤネはほんの少し笑って。それから小さく頷いた。
「    」
 答えは小さな声で。どこからともなく見ている眼に見つからないくらいにささやかに告げようか……、
「またアヤネさんはそんなこと言って!」
 冬青の照れたような声が、大きく桜の中に響くのであった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴島・類
機嫌よう

見計らったように現れた女性
見ていたんだろうなぁ…
猟兵のことを知っていたら
それをどうしに来たかは見当つきそうなもの

なのに敵意でなく
笑みと問いに、薄ら寒さもあるが
返すより先に消える姿

桜並木をただ探し歩くのも暇だから
さっきの言葉を反芻し

愛したもの
会いたい人
そりゃいますけど
要らないし、呼び戻す気は無いですよ

禁忌だから、罪だから駄目
と言うのは少し違う
…て良いと言う判断は
個々が下すものだとその口でうたうように

自分自身の判断で
して良いと思わないから

「していい」は貴女の答え
神様でも悪魔でもないのに
誘うのはやめて下さいよ

異様な気配のさくらが舞う
ひとひらずつに
何もかも間に合わず、溢れた命が過ぎっても

会いたいのは、自分の欲
その欲は、眠るひとの魂使って
嘗てと同じにはならない
歪んだものにする理由にはならず

愛の名のもとにあれば
何でもしていいってわけじゃない
その刃を送りつけた者も、あなたも
亡くした上に
自分を慰める為に選んだら

一度もかみさまになれなかったのに
今度は
瓜江や友たちの顔をまともに見れなくなる



「機嫌よう」
 音のない世界で、類は声をかけた。
「ええ。こんにちは。いい桜ですね」
 驚いたことに、返事があった。女は笑ってそう返事をした。あくまで、普通に。道端ですれ違った人が、普通に挨拶をして、また別れたように。
 桜がひとひら。
 翻って地に落ちる。
 音もない世界で、そんな人の言葉だけ。
 類が瞬きを一つする間に、女はいなくなっていた。
「……」
 見計らったように現れた女性。そしていつの間にか消えている姿。
 優しい笑み。あくまで親切ぶった言い回し。
 すべてタイミングよく行われたその所業に、類はぽつんと呟いた。
「見ていたんだろうなぁ……」
 で、あるならば。恐らく先の屍との戦いも見ていたはず。
 猟兵のことを知っていたら、それをどうしに来たかは見当つきそうなものと考えれば。
 彼女が、ただの親切で言ったのではないことは明白であった。
 ……うすら寒いともとれる、笑顔を思い出しながら類は一歩踏み出す。
 耳を貸すことは誤りであると、類は知っている。
「……」
 けれども。それでも、ただ延々と続く桜並木は。耳が痛くなるほどの沈黙は。どこからともなくじぃと見つめるその気配は。
 何も考えずに歩くには、
「……暇だな、少し」
 ほんの少し、長かった。
 だから類は、地面を蹴りながら考える。
 愛したもの。会いたい人。勿論いる。そんな人たちの顔を一つずつ思い出す。
「要らないし……、呼び戻す気は無いですよ」
 思い出の顔はどれも大切で。大事に大事にしまっている姿を思い出せばほんの少し気持ちが上向く。
 だからこそ、類にとってはそんなことはできなかった。
 なぜ、と、自分の中で誰かが問う。
 疑問ではなく確認のようなその声に、類は頷く。
「禁忌だから、罪だから駄目と言うのは少し違う。確かにそれは、個々が下すものであり誰にも邪魔されるべきものではないと思うから」
 どこか歌うように、普段と変わらぬ足取りで、類は歩く。延々と続く桜並木を。何一つ変わらぬような薄紅色の世界を。
「自分自身の判断で、して良いと思わないから僕はしない。……「していい」は貴女の答え。神様でも悪魔でもないのに、誘うのはやめて下さいよ」
 ほんの少し非難するように。そしてどこか冗談が混ざるように。やっぱり歌うように歩く類。その視界の隅にも、桜がひとひら舞い落ちる。
 無数とも呼べる桜吹雪。
 そこに類は、何もかも間に合わず、溢れた命の姿を見た。
 ならばこの道は、死体の山か。
 空を舞い地に落ちた桜の花びらを踏み分けながら、類は進む。
 無数の死体を踏み越える様に、
「あながち……間違っていないのかもしれないな」
 そんな呟きが、ぽつりと漏れた。
 視界いっぱいの花びらが、一瞬真っ赤に染まったような気がしたが、
 それもまた、一瞬のことであった。
「……」
 もちろん、会いたいという気持ちはある。
 会いたい人はいる。けれどもそれは、自分の欲だ。
「愛の名のもとにあれば、何でもしていいってわけじゃない。眠るひとの魂使って、嘗てと同じにはならない、歪んだものにする理由にはならず」
 歌うように言う。勿論、返事があるわけではない。けれどもそれは類もわかっている。ただ歩みを進めながらも、
「その刃を送りつけた者も、あなたも……」
 そうして、何か。
 言おうとして、類はやめた。
「……一度もかみさまになれなかったのに」
 そうして、ぽつりと、呟いた。
 それは先ほどまでの、歌うような言葉ではない。
 ただ淡々とした、静かな。それこそこの無音で舞い散る桜の花弁のように。
 新進と降り積もる、雪のような静けさを持った声だった。
「今度は……瓜江や友たちの顔をまともに見れなくなる」
 それは何より恐ろしいことと。
 こんな景色と比べるべくもないと。
 類は目を伏せて、深呼吸をする。
「……僕は、僕が顔をあげられなくなるようなことはしない」
 地に落ちた桜の花弁を超えながら、類は歩く。
 どこからか、彼をじぃと見つめる気配がする。
 それでも、彼は構わなかった。……自分だって、自分を見ているから。
 決して、間違わぬように……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】
死後の世界といっても、思い描くのは人それぞれなように思います
天国や極楽浄土と呼ばれる美しいものもあれば地獄のようなものもある
それとも……暗く、静かで何もないような所
ですから、桜並木のある死後の世界もあるかもしれませんよ

先程の言葉を本物にするのは難しいですよ
私達には……お互い以外に、大切なものが増えましたからね
私達の為にも、彼等の為にも戻らなければなりません

時折話をしながら、先程のナイフを渡した女性のことを考える
初めは小さなものだったのかもしれません
相手を想い、焦がれ、それが膨れ上がり、変質していく
それとも変質等はせず、初めから「それ」が正常だったのかもしれない

主に恋焦がれていた頃の私ならば「生き返らせる」という言葉は魅力的でしたでしょうね
それ以外は全て失っても構わないというくらいに、強く、強く願っていたもの

ですが、倫太郎にはそう思わないのです
実際に起こってみなければ分からないので、何とも言えませんが……
私の心の中には、貴方が居てくれていますから
もう、寂しくはないのですよ


篝・倫太郎
【華禱】
さっきも言ったけど、この情景はなんていうか……
『死後の世界』みたいだよな
尤も、黄泉平坂が桜並木なんて話は聞いた事ないケド

そのまま行ってしまいましょうか――
さっき夜彦が零した言葉……
確かに随分と魅力的な言葉だったけど
それでも、還る場所があるし、待つ人が居る

なんて話をしながら、手を繋いで道を往く
本当は……還る場所は夜彦の隣だし、待つ人もこの人だから
そのまま逝くのも誤りではないのだと
声に出すことなく思いながら
ナイフを入用ではないかと問うた女の事を想う

……あれは、妄執なんだろう
愛情と言う名の、妄執
それは多分、誰の内にでもあるもので
それに囚われるか否かは個々人の性質で……


でも、あんたやあんたの主には縁遠い気もする
俺は……判る方、だけど

でも……生き返らせるくらいなら
櫻の樹の下で共に死体になる方を選ぶ方よな、俺は……

なんだっけ?いうだろ?
櫻の樹の下には死体が埋まってるって

あんたじゃないけど
人の来ない山奥で遅い春に咲く山桜根元に埋められてしまいたい
そう思うくらいはしそうだから……

なら、良かったや



 桜が散っていた。ひらひらと。音もなく。
 どこかそれは雪のように静かに降り、
 どこかそれは砕いた人骨のように不気味に降った。
 音がしない世界に、ぎぃ、とかすかに。首でも括ったかのような軋む音がする。
 人の気配は全くないのに、どこからともなく誰かがこちらを窺っているような。そんな気がして堪らなかった。
 そんな中を、倫太郎と夜彦は手をつないで歩いていた。
 先ほどまでいた女の姿もいつの間にか消え失せている。
 淡々と、音もなく桜の花びらを踏みながら道を進めば、
「さっきも言ったけど、この情景はなんていうか……」
 倫太郎は思わず、そんな感想を口にしたのだ。行けども行けども、ただ、静かな桜の世界。
「『死後の世界』みたいだよな。尤も、黄泉平坂が桜並木なんて話は聞いた事ないケド」
 ぼんやりとした感想。顔を見上げて桜の木を見ると、視界の端に何かが移ったような気がして、ふと見る。……なにもない。
「死後の世界といっても、思い描くのは人それぞれなように思います。天国や極楽浄土と呼ばれる美しいものもあれば地獄のようなものもある。それとも……暗く、静かで何もないような所」
 例えばこのような。と、夜彦も同じように桜を見上げた。……決して、美しいと手放しに誉めることができない桜。けれどもそれがなぜなのか。考えたとたんにわからなくなる桜。
「……ですから、桜並木のある死後の世界もあるかもしれませんよ」
 それが、この世のものでないというのならばそれはそれで納得できることでしょう。と、夜彦は微笑むので、そうか。と小さく倫太郎も頷いた。頷くと同時に、
「そのまま行ってしまいましょうか――」
 先ほど聞いた言葉が、なんとなく耳によみがえった。
 それはあまりに鮮やかで、倫太郎は夜彦が、もう一度同じ言葉を言ったのではないかと思った。
「なにか?」
「いや……さっきの言葉を、考えてたんだ」
 思わず足を止めた倫太郎に、同じように合わせて足を止める夜彦。首をかしげて倫太郎の方を窺ったが、言われた言葉にああ、と微笑みを苦笑にかえる。
 桜がひらひら、舞い落ちる。美しい陽なのに、それはどうにも、薄ら寒くて二人は落ち着かなかった。
「先程の言葉を本物にするのは難しいですよ。私達には……お互い以外に、大切なものが増えましたからね」
「……だな。確かに随分と魅力的な言葉だったけど、それでも、還る場所があるし、待つ人が居る」
「そう。私達の為にも、彼等の為にも戻らなければなりません」
 ね? なんて。子供に言い聞かせるようにわざと行ってみる夜彦に、葉は、と倫太郎は笑ってうなずいた。そうだなあ。と、つないだ手を引いて倫太郎は歩く。
(本当は……還る場所は夜彦の隣だし、待つ人もこの人だから。そのまま逝くのも誤りではないけれど……)
 口に出さずに、倫太郎はその時そんなことを思っていた。
 きっと口に出したら、夜彦は悲しそうな顔をするだろうと思ったから。
「……」
 不自然に、言葉をためらったことで沈黙が落ちる。
「……あの、女のことだけど」
 それで。少し倫太郎は話題に悩んで。それから、先ほどあった女の話をした。反魂ナイフが入用化と尋ねて、消えていった女のことだ。
「彼女ですか……」
 言われて、夜彦もまたほんの少し、考えた。こちらは夜彦の気持ちも知らずに、まじめにそれと向き合っている。
「初めは小さなものだったのかもしれません。けれど、相手を想い、焦がれ、それが膨れ上がり、変質していく……」
 そういうことも、あるのかもしれないと夜彦は言った。言ってから、もう少し考えこんだ。
「それとも変質等はせず、初めから「それ」が正常だったのかもしれない……」
 どちらだろう。と、眉を難しい形に曲げて考え込んでいる。倫太郎は、とちらりと倫太郎を見るので、彼もまた少し考えて、
「……あれは、妄執なんだろう。愛情と言う名の、妄執。それは多分、誰の内にでもあるもので。それに囚われるか否かは個々人の性質で……」
 自分は……、
 言いかけて、はっ、と倫太郎はやめる。余計なことを言いそうになったからだ。
「……でも、あんたやあんたの主には縁遠い気もする。俺は……判る方、だけど」
 かわりに、苦笑交じりに言った倫太郎の言葉に、なるほど。と夜彦は頷いた。そしてほんの少し……遠い昔を見るような、目をした。
「主に恋焦がれていた頃の私ならば「生き返らせる」という言葉は魅力的でしたでしょうね。それ以外は全て失っても構わないというくらいに、強く、強く願っていたもの……」
 縁はかつてはあったと。主の姿を思い出しながらも夜彦はそんなことを語る。
「ですが、倫太郎にはそう思わないのです。実際に起こってみなければ分からないので、何とも言えませんが……」
 言葉を探したのは、一瞬だった。
「私の心の中には、貴方が居てくれていますから」
 そうしてどこか、誇らしげに笑う夜彦に、倫太郎はそうか、と頷く。それは普段よりもほんの少し、嬉しそうな声音が上乗せされていた。
「でも……生き返らせるくらいなら、櫻の樹の下で共に死体になる方を選ぶ方よな、俺は……」
「死体……ですか?」
「なんだっけ?いうだろ? 櫻の樹の下には死体が埋まってるって」
「ああ……」
 桜の下。といいながら地面を指さす倫太郎に、夜彦は一度、瞬きをする。
「あんたじゃないけど……、人の来ない山奥で遅い春に咲く山桜根元に埋められてしまいたい。そう思うくらいはしそうだから……」
「倫太郎」
 ふと。倫太郎の言葉を夜彦は制した。倫太郎が顔をあげると、
「私は、もう、寂しくはないのですよ」
 ただ、静かにそう言って笑う夜彦の姿があった。
「……なら、良かったや」
 そう。と納得したような倫太郎の言葉に、そうです。とどこか楽しげに夜彦は微笑む。そうして二人、歩いていく。
 無音の世界の中、桜だけが静かに散っている。
 ぎぃ、と、無音の世界なのに、どこかで誰かが首を括るような音がしていた。
 桜の影から、眼球だけがじ……っ、と二人を除いているような気がした。
 けれども、二人して。そんな風に、語りながら歩けば。
 どんな道だって、怖くない気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「私には入用ではありませんが。きっと、入用と思われる方は居るでしょう」
女の居た方を見遣る

「最期の時を、言葉を得られず最愛を喪った方が。お骨をお墓に納める、その別離すら耐えられなかった方が。きっと貴女を…反魂ナイフを望むのでしょう」

「しかし其れは、生きていた者の願いです。そうされて甦った死者の願いではありません。しかも、影朧として甦った死者は、影朧としての望みに塗り潰され、其の方の顔を被っただけの別人へと容易く変じていきます」

「其れは死した方の思い出を塗り潰し、其の方を2度死なせる行為です。私には反魂ナイフは不要です。見付け次第、私はナイフを折るでしょう」

「しかしそれでももしも、貴方が百年を生き抜いてツクモガミになれたなら。優しい送り人として、人を癒し人に寄り添い人の死を看取れる優しい猟兵になれる可能性もあるのです。貴方を手にした誰かが金策に長じていて、貴方の望みを最低限だけ叶え続けたら叶うかもしれない未来、ですけれど」

「使われぬ不満は淀んで惨事を起こします。私は…貴女を滅しに参ります」



 桜花はただ、静かに桜の道を見やった。
 ひらひらと、桜が散っている。美しい薄紅色。あちらこちらにある桜と変わらぬその姿。
 だというのに、どこか奇妙なその桜の道。枝は植えた老人のように枯れて節くれだったように見えるし、
 歩く足音すら立たぬ世界で、魏ぃ、と何かが気につるされたような。そんな音が聞こえてきていた。
「……」
 視線を感じる。
 桜の根の影に、眼球が転がっている。それがじぃと桜花を見ている。そんな気配。
「私には入用ではありませんが。きっと、入用と思われる方は居るでしょう」
 そんな中、桜花は静かに、道の向こう側を見つめていた。……先ほど、女がいたとされる方向を。ただ、静かに。見ている。
 息を吸い込む。どこか空気が棘になったかのように桜花の肺を刺した。構わず、吸い込む。
「最期の時を、言葉を得られず最愛を喪った方が。お骨をお墓に納める、その別離すら耐えられなかった方が。きっと貴女を……反魂ナイフを望むのでしょう」
 女の姿は、見えない。気配もない。ただどこからか、見られている気がする。……見られている気がするのに、生き物の気配はない。そんな中で、桜花はためらうことなく、はっきりと言い切った。
「しかし其れは、生きていた者の願いです。そうされて甦った死者の願いではありません。しかも、影朧として甦った死者は、影朧としての望みに塗り潰され、其の方の顔を被っただけの別人へと容易く変じていきます」
 今回の件もそうだし、今まであった度の件もそうだ。反魂ナイフは、不幸しか呼ばない。桜花はそう思っている。
 不可思議な怪異に騙されてはいけない。異様な事件に惑わされてはいけない。……大事なことは、ただ一つだ。
「其れは死した方の思い出を塗り潰し、其の方を2度死なせる行為です。私には反魂ナイフは不要です。見付け次第、私はナイフを折るでしょう」
 それは、この世の断りを守るということ。はっきりと、桜花は折ると言い切った。言いきった瞬間、音もないのに風が吹いて桜が揺れた。舞い散る桜吹雪は無音のまま散って。散って。散って。
 まるで桜花を部外者だと。敵対者だと認定するかのように降り積もる。
「……」
 桜花は、肩に降り積もった桜を無表情に払う。
 一瞬、その指先が花びらに触れた瞬間、真っ赤な液体に桜と指先が染まった気がした。
 しかしそれは一瞬で、あとには何も残らない。
 ……そんな怪現象の数々も、惑わされてはいけないと。桜花は一つ、息をつく。
「しかしそれでももしも、貴方が百年を生き抜いてツクモガミになれたなら。優しい送り人として、人を癒し人に寄り添い人の死を看取れる優しい猟兵になれる可能性もあるのです」
 なる気はあるか。と、桜花は暗に告げて。……ないだろうな、と一瞬でそんなことを思う。それぐらい、赤く染まった指先は強烈な敵意を感じさせた。
「貴方を手にした誰かが金策に長じていて、貴方の望みを最低限だけ叶え続けたら叶うかもしれない未来、ですけれど」
 なので、ため息交じりに行った桜花に。ただ桜は降り積もる。
 ……この程度の怪異なら、何の力にもならないと。
 桜花はそう、思っていた。
 どれだけ音が世界から消えようと。見えない視線がいつまでも追いかけてこようと。目の前が時折赤く染まろうと。
 それらは、所詮は現象。桜花も、誰も、直接害することはない。
 人を直接害することができるのは、現象ではなく人なのだ。……それは、猟兵だって同じだ
「使われぬ不満は淀んで惨事を起こします。私は……貴女を滅しに参ります」
 あなたを、害する。真剣な顔で桜花はそう宣言した。
 宣言して、歩き出した。一度宣言すれば、それで終わりであった。……これ以上の問答は、時間の無意味。桜花は必ず、影朧を倒し。反魂ナイフを破壊し、この怪異を収束させると告げると、
 ひら、ひらと。桜が揺れた。
 それが肯定か否定か。問いただす必要を桜花は感じなかった。
 桜花は歩き出す。一度歩き出せば桜花はもう、振り返りも立ち止まりもしなかった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジュジュ・ブランロジエ
コノさん(f03130と
アドリブ歓迎
『』はメボンゴ

ね!胡散臭いよね!
あの女の人、幽霊なのかな?
殺されたのだとしたら満足してるのかな

も〜、コノさんが笑って誤魔化してどうするの〜?
気遣いなのはわかるけど!
と心の中でむむっとなる

理由を聞いて納得
コノさんが積極的に人を殺めるとは思えなかったから
そっか、そんなことが
そういうことならわかるっていうか
いや本当の意味ではわからないんだけど、なんていうか…
『コノちゃ、ぎゅ〜!』
(コノさんに抱きつくメボンゴ
勢い余って突進
『言葉で上手く言えないからボディランゲージで!』
ほら、拳で語るってよく言うよね
『メボンゴはメボンゴで語る〜』

でもさ、あの女の人とコノさんは違うと思う
上手く言えないけど根本的な何かが違うよ
コノさんは苦しむ声を聴きたいとは思わないんじゃないかな
コノさんの愛ならわからなくもないけど、あの女の人の愛は理解したくない

私はナイフはいらない
蘇らせたい人がいないから言える綺麗事かもしれないけど、そういうのはしちゃいけないと思うんだよね

コノさんの答えににっこり


コノハ・ライゼ
ジュジュちゃん/f01079

ふふ、イイコト言って結果もその責にも言及しないのは――騙す側の遣り口よねぇ


どんな形でも、ソレが愛だというなら否定しないわ
……話。丁度イイからしましょうか

記憶を失う境目のあの時
オレは「あの人」を喰い殺した

飢えて飢えて死にそうだったオレに血をくれて……なのに耐えきれず、そのまま、……全部、喰らってしまった

あの人は最期まで笑ってた
オレもあの人が大切だった、記憶を失ってもソレだけは分かる
後悔してる、でも同時にどうしても忘れられないの
その後食べた何よりもあの人は、――

聞かせたくない言葉は吐息で誤魔化す
いつものように軽く笑い

以来ネ、気に入ったものは美味しそうに見えちゃうから
いっつもお腹空かさない様にして……ンわ!(脇腹にヒット)
び、びっくりしたぁどうしちゃったの急に

……そうヨ、ソレでイイの
オレはあのナイフであの人が還るなら、欲しい
でもその結果も、あの人が喜ばないのも、命を喰らった自分が一番よく知ってる
だから壊すわ
愛は押し付けるモノじゃあナイと、教えてくれたのもあの人だから



 桜が散っている。
 天を覆うばかりの桜の木。視界いっぱいの桜の木。美しい景色のはずなのに、どこか化け物の腹の中を思わせるような桜の木が、延々と、延々と続いている。
「……」
「……」
 一瞬。視線を交錯させて。
 コノハとジュジュは、戦闘態勢を解除した。
「ふふ、イイコト言って結果もその責にも言及しないのは――騙す側の遣り口よねぇ」
「ね! 胡散臭いよね! あの女の人、幽霊なのかな?」
『メボンゴあのひと、ちょっとめー!』
 め、とは、やな感じとかそういう雰囲気である。べーっ。と何もない場所に向かって舌を出すようなしぐさをして見せるメボンゴであるが、ジュジュとコノハは顔を見合わせて、軽く肩を竦めたりなんかしていた。
 先ほど突然現れた、見知らぬ女。
 言いたいことだけ言って、消えてしまったその女。
 むぅ。とジュジュは腰に手を宛ててちょっと憤懣やるかたない、みたいな顔をしている。
「例えばあの女の人は幽霊で、殺されたのだとしたら満足してるのかなー。少なくとも、後悔してるとかいう顔じゃなかったけど」
 言いたいだけ言われっぱなしだったことが若干気になるらしい。ぐぬぬ~。なんて隣で踊るメボンゴにおかしげにコノハは笑って、
「どんな形でも、ソレが愛だというなら否定しないわ。他人がどうこう言うものでもないでしょ」
 と、あっさり言った。人それぞれ。……と、話はそれで、いつもなら終わるはずだっただろう。
「……話。丁度イイからしましょうか。歩きながらでいい?」
「ん」
 この桜がどこまで続いているかなんてわからない。
 ただ、花見のお供にするにはちょっと暗い話よ、とコノハは念を押した。

 ちらちらと桜が舞い散る中を二人で歩く。
 音一つ立たぬ桜たちは、まるで生きているのに死でいるかのようであった。
 あるいは、これは長い長い無声映画なのかもしれない。
 ……なんて。そんなことをとりとめなく考えてから、コノハは口を開いた。
「記憶を失う境目のあの時……オレは「あの人」を喰い殺した」
 ぼんやりと。どこから始めようかと考えて。そうして一番大事なことから口にする。
「飢えて飢えて死にそうだったオレに血をくれて……なのに耐えきれず、そのまま、……全部、喰らってしまった。全部、オレの我慢が、足りなかったんだ」
 強い意志を持っていれば、耐えられたかもしれない。
 やめようと思えば、やめられたかもしれない。
 耐えきれなかったのは、自分の弱さだと、コノハはそっと目を細める。
「あの人は最期まで笑ってた。……オレもあの人が大切だった、記憶を失ってもソレだけは分かる後悔してる」
 どうしてこんなことをしたのかと呪ったし、自分のことを責めた。……けれど、
「でも同時にどうしても忘れられないの」
 桜を踏む。ゆっくりゆっくり二人は進む。
 こんなことを話したら、ジュジュは自分を恐れるのではないかと、コノハはほんの少し心配していた。
 それと同時に、それを口にしたら「もっと自分を信じてよ!」と怒られるような気もしていた。
 ……わかっていた。ジュジュはそんなことでは自分を恐れないと。
 だから、恐れているのはむしろ……、
「その後食べた何よりもあの人は、――」
       。
 そんな風に考える、自分自身で……、
「……」
 ため息を一つ、ついて。それからコノハは軽く笑う。
「……」
 そんなコノハを、ジュジュはじっと見ていた。
(も〜、コノさんが笑って誤魔化してどうするの〜?)
 そんなジュジュの声が聞こえてきそうだけれども、ジュジュはそれを言わなかった。それがコノハの気遣いなのはわかっていたし。コノハもジュジュが考えていたことをなんとなく顔を見て察したので、余計言えなくなった。
 ジュジュは心の中でむむむむむっ。となっていることはコノハにもよく察せられた。
「……そっか」
 なので、そんな会話をする代わりに、ジュジュはしばらくしてから静かに、口を開いた。
「理由を聞いて納得したよ。コノさんが積極的に人を殺めるとは思えなかったから。……そっか、そんなことが……」
 そういうことならわかるっていうか。
 そう言いかけて、ジュジュは押し黙る。
 いや本当の意味ではわからないんだけど、なんていうか……。
 なんて言うか。心の中でジュジュは言葉を探す。
 話を聞いても、コノハを恐がるなんて、出来るわけがなかった。
 それが何でかは、上手く言えないけれど……
「以来ネ、気に入ったものは美味しそうに見えちゃうから」
 言葉を探しあぐねているジュジュの沈黙に添えるように、コノハは話を続ける。
「いっつもお腹空かさない様にして……『コノちゃ、ぎゅ〜!』ンわ!」
 ……続ける話を、メボンゴのダイレクトアタックが炸裂して止めた。
「び、びっくりしたぁどうしちゃったの急に」
『言葉で上手く言えないからボディランゲージで!』
 コノハに抱き着こうとして勢い余って突進することになったメボンゴだが、あわててコノハはそれを受け止める。
「ほら、拳で語るってよく言うよね」
『メボンゴはメボンゴで語る〜』
「うーん。こんなぐらいじゃオレは倒れないわネ」
『だったらもう一回! えいえいえいえいえいえいえいえい』
 どすこいどすこい。とメボンゴがしきりにコノハを押す。コノハはそれを受け止める。
『コノちゃ~~~~~』
「はいはい」
『言葉にならないメボンゴの思いを受け止めて~~~!!』
「うんうん、わかってるカラ」
 よしよし。とメボンゴの頭をコノハは撫でる。撫でてから……ふと、真剣な顔でコノハを見ているジュジュと目が合った。どうやらこのやり取りの間で、自分の気持ちをまとめていたらしい。
「……でもさ、あの女の人とコノさんは違うと思う。上手く言えないけど根本的な何かが違うよ」
 言葉を選んで。そしていつもよりも静かに、ジュジュは語る。うん、と小さく頷いて、
「コノさんは苦しむ声を聴きたいとは思わないんじゃないかな。コノさんの愛ならわからなくもないけど……、あの女の人の愛は理解したくない」
「そう……」
 コノハも小さく頷く。その仕草に、ふふ、とジュジュはちょっと笑った。
「私はナイフはいらない。蘇らせたい人がいないから言える綺麗事かもしれないけど……、そういうのはしちゃいけないと思うんだよね」
 自分の言葉を、素直に口に出すことに若干照れる。照れながらもはっきり言いきったジュジュに、コノハも、
「……そうヨ、ソレでイイの」
 そういうジュジュでいてほしいと。かすかな希望を込めて。ぽん、と軽くジュジュの頭を撫でた。
「オレはあのナイフであの人が還るなら、欲しい。……でもその結果も、あの人が喜ばないのも、命を喰らった自分が一番よく知ってる。だから壊すわ」
 きっと。その人が生き返っても。
 もし、何も損なうことなく、何の問題なく甦るのだとしても。
 コノハの罪は、きっと一生消えないだろう。
 それはコノハが、コノハを許さないのだ。
「愛は押し付けるモノじゃあナイと、教えてくれたのもあの人だから……」
「……うん」
 コノハの答えに、ジュジュもにっこりと笑顔でうなずいた。
「そうと決まれば、こんな怖いところ、さっさと抜けちゃおう!」
『出撃出撃~!』
「うんうん、急いで転ばないでネ」
 走り出すジュジュを、コノハが見守る。
 それはいつもと同じようで……ほんの少し、いつもと違う。
 優しい中でもほんの少し、違う優しさが含まれていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『夜香影』篝火』

POW   :    我が生、斬り足らぬ
対象の攻撃を軽減する【篝火を滾らせる即時回復状態】に変身しつつ、【生命力を奪う斬撃】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    我が生、斬り足らぬ
【己の生命力】を籠めた【提灯を燃え上がらせ負傷を治癒し、斬撃】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【生命力を奪い、意識】のみを攻撃する。
WIZ   :    我が生、斬り足らぬ
自身の【命を宿す提灯の滾る炎】が輝く間、【対象の生命力を奪う斬撃】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 桜の花が散っている。
 永劫。この世界では桜の花が散る。
 それを不思議に思うものは、どこにもいない。

 たどり着いたのは、崩れかけた學校であった。
 最早もう何年も、人の生きた気配はなく。遠くに見える硝子のどこかしらは破られているかもしれず。古びた木でできた壁は崩れているのかもしれないが、ここからではその様子は明らかではなかった。
 何年、何十年とそうしていたのだろう。建物は桜に飲まれ、埋もれて、ただそのまま朽ちていた。
 周囲の木々は、桜のみ。ただ、永遠に咲く桜が、誰にも見られることもなく、それらを取り囲み花を散らし続けていた。
 そこはただ、そういうものだった。それ以上には、何もなかった。
 その廃墟にたどり着く前。もしあったとすれば、それは校門前だろうか。
 門前に、山のように何かが置かれている。それはそのまま切り倒したような木や、朽ちかけた机や、果ては箪笥や、ごみのようなものまで。山のように渦高く積まれて、通路をふさぎ、そしてそのまま朽ちていた。
 まるでその先の學校には、誰も入ってはいけないとするかのように。
 まるでその先の學校から、何も降りてくることがないように。
 けれども今、それは背景に過ぎない。ここはただの、物語の終点、それだけの話。それだけの演出である。
 そんな、ある種堰の前に。
 それは最後の敵として、猟兵たちを迎え入れたからだ。

「……ようこそ」
 それは、男の声をしていた。
 傘を目深にかぶっていて表情は見えない。どこにでもいるような男だが、提灯と刀を持っていた。
 瞬きをする。するとどこか、二重に別の人間の姿が見えるようであった。
 そして目の前には、女が倒れていた。
 猟兵たちが先ほどであった、女であった。
 女は全身を真っ赤に染めて、地に伏していた。
 男の手に持つ刀が赤く濡れている。それは、たった今しがた斬られたように見えた。
 女はもう、どう見ても息がなかった。
 ただ……、よく見ると女は、心の底から幸せそうな顔をしていた。
 罰を受ける機会は永遠に失われたのか。それとも罰を受ける必要はなかったのかはわからない。

「彼女は、勝ったのだ」
 男は、それだけ言った。そこに何の感情がこもっていたのかはわからない。
「そしてこれよりは、怪異の時間である」
 そのまま、男は猟兵たちへと向き直った。
 じぃ、と誰かが見ている気配がする。
 ぞわぞわと、桜の影から何かがのぞき込む。影朧だ、と気づいた時に猟兵たちに緊張が走った。
 それは反魂者にひかれて集まる敵級の影朧。多くは女に影響を受け屍として顕現し、食い合い、猟兵たちに狩られていったなれのはて。
 なれのはてにもなれなかったなり損ないたちが、猟兵を見ている。
 そんな、何の障害にもならないものは気にもせず、誰かが声をあげた。聞いたことは女のこと、男のこと、様々なことであったが、
「さて。……我は怪異に従いこれを殺し、我とともにあるものは何かしらの感情をもってこれを殺した。そこにあったのが愛か、怨念かと問われれば、知らんとしか答えようがない」
 男は言った。それはきっと、本当に「わからない」ということなのだろう。
 そして、女はきっとそれを愛と解釈したのだろう。
「この世には、明らかになる真実の方が少なかろう」
 男は。それは。静かにそう言った。
 例えば、誰もがこの、永遠に咲く桜を疑問に思わないように。
 例えば、愛するものを殺してはいけないという法を、誰も疑問に思わないように。
 例えば、人に害なす人を、影朧を、倒すことを、誰も悪と思わないように。
 例えば……、誰もが死者を、よみがえらせてはいけないと信じているように。
「この世には、そうと決められたことはそうなのだ。……わが名は篝火。他人の命を簒奪する剣豪。そしてそのように生きる怪奇人間。……さらにそれがひとと混ざり合ったなり損ない」
 男は笑った。それは若く、そしてひどくしゃがれた年寄りのような声であった。
「他人の命を篝火に燃べる、人を斬り続けるとされている化け物は、そうとされているそのままに刀を振るおう」
 そして……誰もが疑問に思わなかった。
 誰もが疑問に思わなかったけれども、みなそうと信じ、そうと感じていた。
 この敵を倒せば、この怪異は収まり、この女が始めた物語は終わるのだと。
 誰も何の根拠もないのにそう信じ、そして実際にそれは正しいので。
 あなたたちは武器を取った……。

●マスターより
そういうわけで、戦闘です。
大体断章はフレーバーです。敵を倒せば集まった弱い影朧たちも霧散しますし、怪異は収束しますし、このシナリオは終了します。
あとは皆様、お好きにどうぞ。
プレイング募集期間は、24日(木)8:30~27日(日)20:00まで。
また、無理ない範囲で書かせていただきますので、再送になる可能性があります。
その際は、プレイングが返ってきたその日の23時までにプレイングを再送お願いいたします。
夜刀神・鏡介
彼女が死んだ以上、何を考えていたのかを知る事は出来ない、か
蘇らせでもすれば話は別かもしれないが。それに意味があるとも思えないしな
こうなった以上は、奴を倒してこの事態を収拾するだけだ
神刀を抜いて、男と相対する

特殊な斬撃を繰り出してくるようだが、神刀と神気の加護があれば一方的にやられる事はあるまい
敵の斬撃を神刀で受け流してカウンターで斬り込んでいく
しかし、この手応えからすると奴にはさほど効いてない……か?

だが、こういう時こそ落ち着いて。冷静に弱点を見極める
怪しいのは提灯かな。刀を振るうには明らかに邪魔だろう
澪式・参の型【双影】で敵の刀を掻い潜って提灯に一撃を。それで崩せたなら一気に攻め込もう



 鏡介は相手の姿を見つめた。
 それの顔は見えなかった。
 怪異、というにふさわしい姿だと鏡介はそれを見て思った。
 二重にぶれた姿は、どちらが本物なのかわからない。
 しゃがれた声は若い男のようにも、年老いた老人のようにも聞こえる。
 何もかもがわからない。鏡介は軽く嘆息した。
「彼女が死んだ以上、何を考えていたのかを知る事は出来ない、か……。蘇らせでもすれば話は別かもしれないが。それに意味があるとも思えないしな」
 ぼやく。きっと彼女の見えている者は、鏡介の見えていたものと違っただろう。何を語るか、それで興味はなくはないが。けれどもそれは、鏡介にとっては真実と思えない代物であろうことは明白であった。
「……まあ、いい。こうなった以上は、奴を倒してこの事態を収拾するだけだ」
 なら。鏡介は切り替える。己の愛刀を手にする。
 神刀【無仭】……。森羅万象の悉くを斬るとされている刃で、『真に斬ると決めたもの』のみを断つといわれる刀である。刀から、微かに神気が漂っている。それは神刀から溢れる力の一端であり、鏡介の力を底上げしているのだ。
「……」
 対する。怪異は無言である。古来、怪異は語らない。多く語るのは人を誑かす時のみと相場は決まっているが、この怪異は誑かすタイプではないだろう、と鏡介は冷静に考える。
「いざ」
「……」
 一瞬。
 怪異が動いた、と思うと同時に、鏡介も動いていた。
 一刀、凄まじい勢いで暗い炎のまとった刀が走る。それを即座に鏡介は受け流す。
「……!」
 刃を弾く。弾いた瞬間、鏡介はさらに踏み込んだ。仄かに流れる神気がその足取りを確かなものにする。そのまま、相手の懐を一閃させる。斬った、と思ったと同時に、怪異のほうが後ろに引いた。
「……」
 切った、と思った。
 しかし、
(しかし、この手応えからすると奴にはさほど効いてない……か?)
 喜ぶのは早い。冷静に鏡介は敵を見据える。……即座に敵も、刀を構えて接近の姿勢を取る。
 そうして気付く。
(あれは……刀を振るうには明らかに邪魔だろう)
 手にしていた提灯。それが気になった。あの怪異の戦法であるなら、両手で刀を握ったほうが強い。なら……、
「そこに何か意味がある……! 見切ってみせろ――澪式・参の型【双影】!』
 刀は敵の真正面に。再び同じように切り込むと思われたその瞬間、唐突に軌道を変えた。狙うは……敵の手にした、提灯だ。
「……!」
「させるか……!」
 怪異が腕を引く。しかしながら鏡介は追いかける。提灯は思っていた以上に硬かった。何物も断つといわれる鏡介の刀であるが、まるで太く中身の詰まった金属を弾くかのような音を立てて刀は弾かれる。
「だが……傷はつけた。ならば斬れる!」
 しかしながら、提灯にははっきりと傷がついていた。明らかに庇うような動作を見せた怪異に、鏡介はさらに加速し踏み込む。
 斬れぬものではない。なら、切るだけだ。鏡介はそう静かに、当然のことのごとくそれを受け止め覚悟を決め、刀を振るい続けた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
【華禱】
『篝』火に『剣豪』……
少しばか、因縁じゃねぇけど感じちまうや

なんて、戯言はここまでにして……
いつも通り往こうぜ、夜彦

衝撃波を乗せた華焔刀で先制攻撃のなぎ払い
刃先返して2回攻撃

敵の攻撃は華焔刀で受けていなしてカウンター
カウンター時に業返しを使用
精神攻撃も乗せ、技を発動

明らかになる真実が少ない?
俺にいわせりゃ、『真実』ってな人の数あるもんだぜ?
立ち位置で移ろう真実には興味はねぇよ
あんたを倒して、終わらせる
その事実だけあればいいんだからな

夜彦の攻撃が届きやすいよう
出来るだけ敵の意識を引きつける形で立ち回る

あの女が信じた、あの女の愛
その正体はもう永劫に判らない
でも、多分……それでいいんだろう


月舘・夜彦
【華禱】
「私達」ですか?
その並びを聞けば思う所がありますね
……良い縁では、ありませんが

同じ剣士とならば私も剣術を以てお相手致しましょう
――倫太郎、参ります

抜刀術『風斬』
基本は攻撃力を重視、敵が躱す際には距離を詰めて命中率重視
時折2回攻撃を併せた攻撃回数重視に切り替えて防御できないよう牽制

生命力を奪う斬撃
時間を掛けて消耗させるか、回復が間に合わない程に攻撃を仕掛けるか
狙うは後者

敵の攻撃は回避せずに防御優先
見切りにて動きを読み、武器受けにて防御
防御後は速やかに反撃

答えは己が見つけるもので他者が定めるものではありません
人の感情というものは特に
少なくとも、貴方に斬られた者は見つけたようですね



 倫太郎と夜彦はそうして敵と相対した。
「『篝』火に『剣豪』……。少しばか、因縁じゃねぇけど感じちまうや」
 冗談めかして言う倫太郎に、夜彦が目を瞬く。
「「私達」ですか? その並びを聞けば思う所がありますね」
 なるほど。と若干納得するように夜彦は言って、
「……良い縁では、ありませんが」
 と、ほんの少し苦笑で答えた。倫太郎も笑う。
「だな。そんな、戯言はここまでにして……いつも通り往こうぜ、夜彦」
「そうですね。同じ剣士とならば私も剣術を以てお相手致しましょう。――倫太郎、参ります」
 そうして二人は、敵に向かって走り出した。

 炎がともる。暗き炎を纏った刀が一閃される。
「う……りゃ!」
 倫太郎の衝撃波を乗せた華焔刀が交錯する。
 華焔刀は煎じて敵の刃をいなし、返す刃で切りつける。それと同時に、
「我が刃、風の如く」
 夜彦が刀を一閃させた。
 夜天に移す銀の月、空に舞う小さな花弁さえも斬り裂く一振り。曇り無き刃の愛刀が翻る。
「生命力を奪う斬撃……。時間を掛けて消耗させるか、回復が間に合わない程に攻撃を仕掛けるかならば、狙うは後者でしょう」
「だな。その身にかえれ……っ!」
 倫太郎の華焔刀が受け止めた技を返しながら斬り込んでいく。
 敵もまた語ることなく、淡々と刀を振るった。手ごたえはあるが、その負傷が効いているのかどうかは今ひとつわからない。そもそも敵から、生き物の気配がしないからだろうか。
「倫太郎、大丈夫聞いています。怯まず行きましょう」
 その異様さを察したのか、夜彦が刀を翻しながら声をかける。迫りくる刃を己の刃で受ける。受け止めた瞬間、すかさず反撃する。そうして着実に、敵に切り込んでいった。
「おう!」
 倫太郎もまた、怯むことはしない。何度も刃をふるい、返せば、
「明らかになる真実が少ない? 俺にいわせりゃ、『真実』ってな人の数あるもんだぜ? 立ち位置で移ろう真実には興味はねぇよ」
 夜彦の攻撃が届きやすいように、敵を引き付けるように意識して立ち回る。
「あんたを倒して、終わらせる。その事実だけあればいいんだからな!」
 言いながら、倫太郎は全力で華焔刀を薙ぎ払った。
 衝撃波を伴う斬撃に乗せるよう、夜彦もまたスゥっと心を落ち着けるようにして、一呼吸。
「参ります」
 言葉少なく、一閃。瞬く間に攻撃を合わせて、逃げられぬよう両側から斬り裂いていく。
 敵が一歩引いた。構わず倫太郎は踏み込む。敵も冷静に対応しているが、このまま押し続ければ問題はないだろう。
「あの女が信じた、あの女の愛……。その正体はもう永劫に判らないんだな」
 だから、ちょっとした隙間から。倫太郎はぽつんと呟いた。その言葉に、ちらりと夜彦は倫太郎を見る。
 戦闘の師匠にならない範囲内で、夜彦は倫太郎の方へと一歩、踏み出した。
「……答えは己が見つけるもので他者が定めるものではありません。人の感情というものは特に……」
 それは、倫太郎に向けた言葉ではなかった。敵を見据えて静かに言う。そして、
「少なくとも、貴方に斬られた者は見つけたようですね」
 ちらりと、地に伏せる女の姿も夜彦は見やった。
 どちらも敵に向けての言葉である。けれども倫太郎は夜彦を見ると、夜彦も倫太郎を見た。
 ……互いが互いをどう思っているのかは、本当のところ、誰にも分らないのだ。
 本当は……信頼とはもっと別の。何かが二人の間にもあるのかもしれないのだ。
 本当のことなんて、きっと誰にも、わかりはしないのだ。……おそらく、本人同士でさえも。
「でも、多分……それでいいんだろう」
 そんなことを、一瞬思った間であった。その一瞬ののち、倫太郎がぽつんとそういうと、夜彦も小さく頷いた。
『だから、信じるってことが……必要なんだな」
「きっと……そうですね」
 その夜彦の穏やかな声音に倫太郎はちょっと笑う。
 わからないけれども、それでもかまわないのだろうと思える一瞬があって、それだけでいいのだろうと、二人は思ったのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クック・ルウ
歪められた思考はすべてを肯定する
私はあなたの事を否定しない
ただ、幸せそうな顔が目に焼き付いた

剣を手に取る
怪異は倒さなければならない
わが名はクック。人らしくいたい人でなしだ――いざ
提灯に対し水の【属性攻撃】を【斬撃波】に乗せて斬り合う

自己が揺らいでいる処に意識を切られれば
奪われた生命力を取り戻そうと食欲が起こるだろう
あなたを見る目は飢えた獣のようになる
あなたを食べるべきではない、それは残酷なことだ
けれど、ああ……御免
私は私のしたいことをしていいのだと
あの声が離れない
愛しているわ、愛しているの

愛のままに欲望を向けることは人らしいことなのか
その答えは、人でなしに出せるはずもない



 クックはじっと見ていた。
 人と、死体の、境目はどこにあるのだろう。
 たった今しがたまで生きていた人間は、今は死体になっていて。
 クックの目の前でその体をさらしている。
 どんなに見た目が変わらなくとも、……女には、命がないのだ。
 それはどういうことかと、クックは少し考えて、
「……そうか」
 と、小さく納得するようにうなずいた。
 クックは魔法権を手に取る。さやから静かに抜き放てば、深呼吸を一つする。
「……」
 つい今しがたまで生きていたものの会話がよみがえる。ひとつずつ、思い出す。思い出して、そっして、
「……私はあなたの事を否定しない。すべてを、受け止める」
 最後に。ただ、幸せそうな顔が目に焼き付けた。
 一歩。クックが踏み出すと同時に、怪異もクックのことに気が付いた。
 じり、とにじり寄るように、刀を持って向き合ってくる。
「……」
 なりそこない、と彼は言った。その言葉通り、その男の存在感は不思議と安定しない。
 そこにいるはずなのに、何者かわからない。老人のようにも見えるし、若い男のようにも見える。引き攣れたように捻じれた声で、怪異はひとつ。「ほう」といった。
「……わが名はクック。人らしくいたい人でなしだ――いざ」
 怪異は倒さなければならない。怪異が何に対して感嘆の声をあげたのかはわからないけれども、クックは剣を構えて、真正面から怪異に向かって飛び込んだ。
「我が生、斬り足らぬ」
 ひび割れた声とともに、クックの動きに応じ刀が一閃される。
「……っ!」
 提灯が、揺らぐ。揺らぐと同時にクックの意識が飛ぶ。すかさず数歩。クックは下がる。
 ……ほかの猟兵につけられていた傷が、提灯が瞬いたと思った瞬間、癒えていた。
 同時に、クックの頭……が頭にあるかどうかなんてクックにも分らないのだが……が、揺さぶられるような衝撃を受けて、クックは思わずたたらを踏んだ。これは……これが、敵の攻撃か。
「ま だ だ」
「だ……っ」
 後退だけで怪異はクックを逃さない。そのまま再び踏み込んでもう一撃。タールの体が弾けると思ったら、傷ひとつついていないはずなのにクックは激痛にのたうち回った。
「だめだ……っ」
 脳が揺れる。いや。揺れているのは心だろうか。意識だろうか。そんなものはどこにあるのか。兎角クックは攻撃を受けている。痛みがそれを証明している。
「……おぉ……っ!」
 三撃目、来る前にクックは飛んだ。そのままその腕か。もしくは喉笛にかみついてかみ砕いて飢えた獣のようにばらばらにして喰いつくしてしまいたい……!
「……っ!!」
 それは。それだけはいけない。
「ああ……ああっ!」
 噛みつきそうになる己の体をぎりぎりで下に沈める。同時に刀も避けることになる。地面に無様に転がりながら、クックはなるべく敵から離れようと距離をとって起き上がる。
「あなたを食べるべきではない、それは残酷なことだ……!」
 血を吐くような、声。呪いのような、言葉。
 まるでどちらが怪異だろうか。クックはぎちぎちと歯を鳴らすような仕草までして、今でも喰いつきたいと願っている。
「……」
 いっそこのまま切り刻んで砕いてほしいのに。距離を取ったことで怪異は警戒気味にクックを見ている。……このまま、戦闘を続けてくれれば、余計なことを考えずに済むのに……!
『愛しているわ、愛しているの』
「う……るさい!!」
 音一つない世界に、クックの絶叫だけが響く。
「ああ。ああ……」
 私は私のしたいことをしていいのだと。……あの声が離れない。
 体が溶ける。溶けていく。クックの本来の姿が現れる。
「愛のままに欲望を向けることは人らしいことなのか……」
 その答えは、人でなしに出せるはずもない。
 黒い液体と化したクックは、最後に、
「ああ……御免。私は、腹が空いているんだ」
 そう、呟いたという。
 人であるクックの記憶は、ここで途切れる。
 彼女が、己の欲望のままに相手の一部を喰らったのか否かは、
 それは、彼女にしか……。否、もしかしたら、彼女にさえ、わからないのかもしれない……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レクス・マグヌス
藤原・桔梗(f10098)と行動
【心情】
貴女が何者であったのか、願わくは聞いてみたかったが、その機会も失われたか
ならばこれからは、猟兵としての時間だ

「聞くがいい! 我が名はレクス・マグヌス! 滅びし都の最後の王!」

【行動】
僕の妖剣と同種の能力
ならば、剣技でお相手しよう
「残像」で攻撃を回避しつつ、「武器落とし」で隙を作って「生命力吸収」の斬撃を見舞う
UCで相手の能力を封じてしまえば攻撃力は決して劣りはしない
「怪奇人間、お前が恐怖を与える時間はもう終わりだ。大人しく眠りについてもらおう」


妙に物思いに、迷いの生じる戦いだったが、これも春と桜のもたらす幻なのかもな
春よ、お前は思いの外に気まぐれな季節だ


藤原・桔梗
レクス(f07818)と参加
【心情】
彼女は『反魂ナイフ』で誰かを生き返らせたい
桔梗たちは『反魂ナイフ』を止めたい

この世には明らかになる真実の方が少なくても、それでもみんな自分の願いのために戦っています
だから桔梗はあなたと戦います

猟兵だからそうとされるままにでなく、桔梗自身が選んだ選択として
「桔梗で良いなら、お相手しましょう」

【戦闘】
UCを開放して、全力で戦います
「一斉発射」「串刺し」「衝撃波」による全力攻撃で回復状態の上から攻撃
生命力吸収に対しては「結界術」で防御します

【戦闘後】
せっかくですし、夜桜を楽しみながら帰りましょう
来る前はそれどころではなかったですが、お花見もできますし



 レクスは静かに正面を見据えた。
 桜が散っている。その中にそれの姿がある。
 無音の世界。打ち棄てられたその場所に、女の死体とその傍らに佇む怪異の姿。
 音もなく散る桜は、一つ散るごとに周囲の空気を冷えさせているようで。レクスは深呼吸した。
「貴女が何者であったのか、願わくは聞いてみたかったが、その機会も失われたか……」
 女の死体を前に、レクスはぽつんと呟いた。悲しむというほど親しみがあったわけではないが、何も思わないほど知らない者でもなかった。
 ともにいた桔梗が、胸の前で手を組む。
「彼女は『反魂ナイフ』で誰かを生き返らせた。桔梗たちは……『反魂ナイフ』を止めたかった」
 結局、使い手が死んだのだ。ここで怪異を倒せば、此度の怪異はこれでおしまいとなるだろう。……なにもわからなくとも。
「それは。桔梗たちの願いは、世界のためです。この世には明らかになる真実の方が少なくても、それでもみんな自分の願いのために戦っています。だから……桔梗はあなたと戦います」
 猟兵だからそうとされるままにでなく、桔梗自身が選んだ選択として、桔梗はそう宣言した。この世界に住む人たちの生を守りたいなら、ここでこの怪異を野放しにしてはいけない。
「桔梗で良いなら、お相手しましょう」
 だからしっかりと前を見据える桔梗に、レクスは頷く。
「我が機会は失われた。ならばこれからは、猟兵としての時間だ」
 災厄の名を冠する魔剣を怪異に向かって構える。怪異はこちらに気づいているのだろうが、笠の下であるのでその表情は見えない。
 ただ、手にしていた刀と提灯が、明らかにレクスたちに気づいているとわかった。なので、
「聞くがいい! 我が名はレクス・マグヌス! 滅びし都の最後の王!」
 まず、レクスは名乗りを上げて。そうして血を蹴った。怪異もまた、レクスに向かって提灯をふわりと振る。
「我が生、斬り足らぬ」
「ならば、剣技でお相手しよう!」
 刀が振られる。それをレクスは紙一重で回避する。
「九頭竜、その力を解放して!」
 同時に桔梗は、UDC九頭竜を解放し、それと一体化した姿に変化する。
「参ります!」
 これより桔梗は作戦もなくただ全力で暴れる竜と近くなる。だが、それを恐ろしくは思っていない。
「災厄を穿て! 我こそが最悪の災厄なり!」
 レクスが己の件を解放して、怪異と切り結んでいる。それ以上に、頼もしいことはなかった。
 桔梗もまた、己に結界を施し強化しながらも全力で怪異に向かって攻撃する。衝撃波を伴う攻撃を行う桔梗の間に合わせるように、レクスは相手の武器を狙い、時に牽制して桔梗への攻撃を引き受けつつ徐々にその怪異を削っていった。
「怪奇人間、お前が恐怖を与える時間はもう終わりだ。大人しく眠りについてもらおう……!」
 戦いはそうやすやすと決着はつかないだろう。
 だが、レクスも桔梗も、あきらめずに戦った。そして、

 長い戦いの末に、倒れた怪異を見送り。二人はふと息をつくのであった。
「妙に物思いに、迷いの生じる戦いだったが、これも春と桜のもたらす幻なのかもな……」
 あとにはただ、桜が散るのみ。ひとつの死体が残される。思わず、レクスがつぶやいた。
「春よ、お前は思いの外に気まぐれな季節だ」
 舞い散る桜の花びらを、ぱしりと捕まえ握りしめる。もう、先ほどまでのような恐ろしい気配は、どこにもなかった。
「せっかくですし、夜桜を楽しみながら帰りましょう。来る前はそれどころではなかったですが、お花見もできますし」
 元に戻った桔梗が、ゆったりとほほ笑む。その微笑みにレクスは視線を向けて、
「いいな……。それでは、帰り道は、ゆっくりと帰ろうか」
 と、少し笑った。
 レクスが聞きたかったことは失われた。けれどもそれはレクスにとって、ほんの少し残念なことではあったけれども、
「そういうことも、あるのだろう」
 ぽつんと呟いた言葉が、桜の中に消えていった。
 二人で見た桜は、いつものように綺麗だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クーナ・セラフィン
うん、まあそうなるよね。
しかしなんて幸せな表情なんだろう。
…愛した人が自分を殺す、それを喜んじゃったとかでも驚きはないけどさ。
何にせよ本当の所は反魂者の心境も含めて本人にしか分かんないんだろう。
…けど、恋の後の怪異には始末付けないとね。
恐らくキミも相当イイ性格してるみたいだし。

距離を取りつつ遠距離から支援。
刀は突撃槍で受けつつわざと飛んで衝撃を流すようにして回避。
提灯の炎が強く輝いたらUCでカウンター。
花弁と吹雪で幻惑しつつ成り損ないを盾にして連続攻撃を凌ぐ。
そして連続の斬撃が鈍った瞬間に切り込み突撃槍で串刺しにしよう。
騎士として、これが正しい戦いなのかは知らないけどね。

※アドリブ絡み等お任せ



「うん、まあそうなるよね……」
 クーナがそれを見た時、最初によぎったのはそんな感想であった。
 まるで雪のように降り積もる桜と、
 堰のように積み上げられたがれき。
 どこかに忘れ去られてしまったかのような、切り取られた學校。
 そして、倒れている女。
 一目見て、死んでいるとわかるその女。
「……しかしなんて」
 幸せな表情なんだろう。と。言いかけて。言いきれず。
 クーナは息を飲み込む。
 愛した人が自分を殺す。それを彼女が喜ぶ。そうであることに、何ら不思議はクーナにはなかった。出会った女の言動が、「そういうことも考えるかもしれない」と思わせるに十分だったからだ。
 けれども、実際のところそうだったかなんてわからない。クーナは、その死の瞬間を見たわけではないのだ。
「何にせよ本当の所は反魂者の心境も含めて本人にしか分かんないんだろう。……けど、恋の後の怪異には始末付けないとね」
 だから、考えてもわからないことはひとまずは置いておくことにした。何せ怪異が、こちらを見て刀を握っているからだ。
「恐らくキミも相当イイ性格してるみたいだし」
 悲しむべきか。それとも自業自得と肩を竦めるべきか。どういう感情を抱いていいのか今ひとつわからないままに、クーナは距離をとった。
「……」
 怪異は、姿が揺らいでいた。それは度重なる猟兵の攻撃に消耗しているようにも見えたし、最初からそうだったような気もしていた。
 姿かたち、印象、存在感が一定しない。それも怪異ゆえだろうか。
「だったら……、こんな趣向はどうだい?」
 いうなり、白雪と白百合の銀槍をふるった。刃の届く距離ではない。だが、槍から放たれた雪交じりの花吹雪が怪異の足を鈍らせる。
「!」
 それでも、即座に距離を詰められた。提灯が瞬いている。それと同時に至近距離でも、クーナは花吹雪を降らせ続ける。
「でも……遅いよ」
 クーナの攻撃は、確実に聞いているのだろう。わずかな鈍りや隙も、クーナは見逃さない。紙一重でよけながら、その瞬間に切り込んで、槍を怪異の腕に突き刺していく。
「騎士として、これが正しい戦いなのかは知らないけどね……!」
 怪異の刀が振られる数以上に、クーナは槍を怪異の腕に突き刺していく。
 傷はつかない。だが、手ごたえはある。
「だったら、やるまでだ……!」
 相手が倒れるまで戦う。と。
 クーナは幾度も、その体に銀槍を突き刺した……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コルネリア・ツィヌア
心境的には、天に向かって唾を吐いた気分ね
多分違うけど
きっと眼中になかった、独り相撲

それでも私は考えるだろう
考え続ける事を止めないと思えるうちは

でも、それは今じゃない
目の前に立つ篝火
私がいま見るべきなのは、あの男だわ

エレメンタルソードを手にUC使用・防御特化
呼び出した水の魔力を圧縮して練りに練って、斬撃の勢いを殺し、受け止める
剣はフェイント。本命の得物は、竜形態で背中に隠していた槍
そのままリーチと水の壁を維持して、合間を縫って突きで牽制・攻撃
相手の命運、削れるだけ削って、これ以上は無理と感じたら撤退して後に託す
撤退時は、全部の水を錐状にしてぶつける

……貴方の、貌も
明らかにならない部類の事柄かしら


ベイメリア・ミハイロフ
…ああ、
傷つける事を愛情と感じていたこの女性は
自分が傷つけられ斃れた事で、彼に愛されたと感じたのでございましょう
彼が、どちらの気持ちで、彼女を傷つけたのかは
彼が影朧となった今、
この先もう誰も知り得る事はないのでございましょうけれど
知らず斃れた事は、彼女にとって、幸せだったのでございましょう

しかしながらわたくしは、愛情からではなく
怪異を止めるために、彼の者をお斃し申し上げます

回数のある攻撃には、Judgment arrowの矢にて
相殺を試みます
とはいえ本体を攻撃しなければ、終わりは見えませんね
お相手からのある程度の攻撃は激痛耐性で受ける覚悟で
可能であればオーラ防御又は武器受けにて捌きたく存じます



 むぅ、とコルネリアは難しい顔をしていた。
 その隣で、ベイメリアは不思議そうにコルネリアを見つめた。
 ちょうど二人は、敵を目の前にして出会ったのだ。……ならば共闘しても、おかしくはないだろう。
 なんでもない、とコルネリアは首を横に振る。
「心境的には、天に向かって唾を吐いた気分ね。多分違うけど」
「まあ……」
 きっと眼中になかった、独り相撲、と。コルネリアは小さく息を吐く。それをなんとなく察したのか、ベイメリアも小さく頷いた。
「傷つける事を愛情と感じていたこの女性は、自分が傷つけられ斃れた事で、彼に愛されたと感じたのでございましょうね……」
 ちらりと視線を向けるのは、席のように積み上げられたがれきの前で倒れ伏す女の姿。
 心から幸せそうな目をする女の姿。
「彼が、どちらの気持ちで、彼女を傷つけたのかは、彼が影朧となった今、この先もう誰も知り得る事はないのでございましょうけれど……。知らず斃れた事は、彼女にとって、幸せだったのでございましょう」
 両手を組んで、祈るような仕草をする。その優しげな感想に、コルネリアはうーん。としばし悩んだ。
「確かに、この女の人にとっては、幸せだったかもしれないね。私には理解できないけど」
 理解できないけれども、幸せそうだとは思う。
 それだけはコルネリアにもわかるのだ。
「まあ、それでもやっぱりありかなしかって言われたらなしだけど」
「な、なるほど。確かにわたくしも、ありかなしかといわれればなしです」
 肩を竦めて言われたコルネリアの言葉に、ベイメリアはちょっとびっくりしたように目を丸くして答えた。コルネリアの言葉が斬新だったのだろう。そして、確かにその通りだと思ったのだろう。驚いたようにベイメリアは目を見開いてから、
「それではわたくしは、愛情からではなく怪異を止めるために、彼の者をお斃し申し上げます」
「……そうね。そうしましょう」
 ほんの少しコルネリアに微笑んでから、厳しい瞳で敵を見るベイメリアに、コルネリアもうなずいた。
 いつまでも敵……にすらならなかった女について、この場だぐだぐだ悩むなんてなんてまっぴらごめんだと。コルネリアは気持ちを切り替える。
(それでも私は考えるだろう。考え続ける事を止めないと思えるうちは)
 意味が分からない。ありかなしかで言われれば当然なしだ。……けれども、そこで終わりたくないとコルネリアは思った。けれども、それは今じゃない。
「目の前に立つ篝火。私がいま見るべきなのは……、あの男だわ」
 宣言するようなコルネリアの言葉を前に……怪異もまた、こちらに気づいたのであろう。静かに向き直り、刀に手を置いた。

 刀が走る。音のない桜散るこの世界で、風の音すらせずに斬撃が牙をむく。
「コルネリアさま!」
「うん、大丈夫!」
 どちらに来るか、一瞬までわからなかった。それほどの鋭い動きだが、ベイメリアが見逃さず声をあげる。それに頷いて、コルネリアも剣をぐっと前に押し出した。
 剣と刀が触れ合うかと思われた、その一瞬。水音のみが立つ。コルネリアの作り出した魔法は、練りに練った。小さくして小さくして。恐ろしく強くした水の塊であった。それを剣の周囲に展開していたのだ。それで威力を殺して、コルネリアは斬撃を受け止めた。
「そのまま……動かないでよね!」
 水の力で敵の刀をからめとったまま、コルネリアは声をあげる。とたん、コルネリアの背後から何かが飛び出した。
「!」
 飛び出したのは小型のドラゴンだった。それが即座に槍へと変化して、勢いそのままに敵の喉元に突っ込む。
「そのまま……押さえておいてくださいまし!」
 ベイメリアが、切先のない剣を模したメイスで喉に槍が突き刺さった敵を側面からぶん殴った。
 怪異が腕を振るう。喉を貫かれ、した高瀬を殴られながらも構うことなく腕を伸ばす。降られたのは剣ではなかった。提灯だ。
「我が生、斬り足らぬ」
「く……っ!」
 提灯が瞬く。その瞬間、即座に無数ともいえる斬撃がコルネリアとベイメリアに降り注いだ。
「大丈夫です。下がってくださいまし!」
 すさまじい速度の攻撃に、ベイメリアが前に出る。
「裁きの光を受けなさい……!」
 あらゆる属性の光の矢が、ベイメリアの正面から発射される。無数の斬撃は、無数の矢で受け止められた。あらゆる装甲や防御をも貫く光の矢が、敵の刀を弾き飛ばす。一つ一つが刀を砕かんとばかりに放たれたものであるが、ベイメリアはそれを使って敵の攻撃を相殺していく。
「これは……すごいわね」
「ですが、本体を攻撃しなければ、終わりは見えませんね」
 弾く。弾くだけで手いっぱいだ。あらゆる角度から来る斬撃を跳ね飛ばすベイメリアに、わかった。とコルネリアもうなずいた。
「じゃあ、そっちは私に任せて。相手の命運、削れるだけ削って、これ以上は無理と感じたら撤退して後に託す。……それでいいかしら?」
「はい!」
 二人顔を見合わせ、小さく頷いた。それに何かを感じ取ったのか。怪異の攻撃の速度が上がる。
「ここは……通しません!」
 対処しきれない部分はオーラ防御を施した自分の体で止める。止めきれずに刀が体を傷つけるがベイメリアは気にしない。
「ええ。それじゃあ私も……頑張らないとね」
 それを横目に、コルネリアは駆けた。時折流れてくる攻撃を水ではじきながら、そのリーチを生かして、
「遠慮はいらないわよ。全部もらってちょうだい」
 槍をもう一度。怪異の喉元にたたきつける。それと同時に、防御に回していたすべての水を錐状に変化させた。それを思い切りぶつける。怪異の体に無数の穴が開く。
「コルネリアさま!」
「ええ!」
 ベイメリアの言葉に応じ、コルネリアも即座に下がる。後は牽制しつつ距離を稼ぐ……その前に、
「……貴方の、貌も。明らかにならない部類の事柄かしら」
 コルネリアはつぶやく。こんなに近づいているのに。怪異の顔は、見えなかった。
「ああ……。なるほどそれは」
 ほんの少し、悲しいことですね。とベイメリアはつぶやいた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャト・フランチェスカ
●傷口をえぐる

穏やかな語らいは出来ずとも
答え合わせは叶うかと思ったのにな
斬ってしまったのか

でも、その表情は苦悶からは程遠い
彼女はもう一度、逢えたのか
その鋭い一閃を抱擁の如くに受け止めたのか

或いは
殺さぬ愛では満足できない人生に別れを告げて
かの人物が居ない世界から自身も消えるのが
余程待ち望んだ結末だったのか

僕はそんなことばかりが気になるし
誰も答えを持たないのなら
こんなふうに、勝手に創作をしてしまう
文豪の業だね

誰かにとって蛇足でも
当事者たちにとってすら惰性でも
「了」の一文字まで見届けたいのさ

きみを斬ったら少しはうまく想像できるだろうか
彼女が愛しい人を二度も手に掛けた気持ちとか
殺された側の、こころとか



 シャトはちらりと、視線を瓦礫の方に向けた。
 怪異より後方。がれきのようなよくわからないものが積みあがった場所の近くに、女が倒れている。
 先ほどまで推理小説の犯人のように喋り続けていたのに、今はもう、一言も語らない。
「……」
 ひとつ、呼吸をする。
「穏やかな語らいは出来ずとも……答え合わせは叶うかと思ったのにな。斬ってしまったのか」
 これではどうやっても取材はできそうにない。残念といえば、残念だ。
 どうしても理解できないそれを、本人の口から聞いてみたかった。様々なことを訪ねて、どう答えが返るのか聞いてみたかった。
「ああ……」
 でも、その死に顔はとても穏やかだった。苦しいことなど何一つないような、幸せな顔をしていた。
 それは当たり前のようで、それは少し不思議だった。
 彼女はもう一度、逢えたのか。
 故にその鋭い一閃を抱擁の如くに受け止めたのか。
 或いは殺さぬ愛では満足できない人生に別れを告げて、かの人物が居ない世界から自身も消えるのが、余程待ち望んだ結末だったのか。
 どちらだろう。あるいは、どちらでもないのだろうか。
 答えを知る機械は、永遠に失われた。
「……おかしいだろう? わからないからこそ、僕はそんなことばかりが気になるんだ」
 両手をあげて、冗談めかしたポーズをとる。それで、怪異もシャトのことを意識に入れたようであった。
 怪異がシャトの方を向く。向いた、と思った瞬間、それは刀に手をかけていた。
 目深にかぶった笠。浪人のようでいて、剣豪のようでもある。若い男性のように見えるが、年寄りのようでもある。刀を持っているのに提灯を手にしていて、その顔はどうやっても見ることができない。
「ねえ」
「……」
 ちらりと声をかけるシャトに、怪異は答えなかった。
 ただ、その姿が消えたと。そう思った瞬間、
「我が生、斬り足らぬ」
 目の前に刀があった。
「いけないかい?」
 それを紙一重、一歩後退してシャトは避ける。提灯の火が揺れる。構わず怪異はさらに踏み込む。それを、シャトの目の前に現れた怪物が割り込んで受けた。
「でも、ごめんね。僕はそんなことばかりが気になるし、誰も答えを持たないのならこんなふうに、勝手に創作をしてしまう。文豪の業だね」
 割り込んだのはシャトに子息の獣。獣は傷つきながらも怪異にその牙をもって食らいつく。一匹だけではない。総勢九体の獣は、彼女の未完の著書から生み出された力だ。
「誰かにとって蛇足でも、当事者たちにとってすら惰性でも。「了」の一文字まで見届けたいのさ。……ねえ、この物語は終わってないだろう?」
 数歩、また下がる。下がると同時に獣たちが入れ替わるように前に出る。怪異に食らいついた傷を、さらにえぐるように食らいつく。
「さて」
 応えは、ないと思っていた。けれども答えがあった。怪異は、獣に食らいつかれながら。しかしそれを何も感じていないかのように刀を振るう。
「もはや彼女の物語は別の物語にとって喰われた。なり損ないの物語が一つの物語を喰った。我もまた汝らの手によって敗れるであろう。そしてこの物語はなり損ないのまま完結する」
 怪異は言った。倒れたら、それで終わりだと。
「なるほど……。たとえば打ち切りのようなものだね。どんなに深い事情があり、難しい伏線があっても、打ち切られてしまえば物語もそれで、終わりだ。それを「了」と取るか「未完」と取るかは、作者の腕次第……だね」
 打ち切り。若干嫌な言葉だとシャトは眉を寄せる。しかしながら淡々と、創作の獣たちは怪異に食らいつく。怪異もまた、刀を振り回して捜索の獣たちを殺していく。
 まるで、物語と物語が喰いあっているようだと、シャトは思った。
「もしくは読者の想像力次第……ともいえるだろうか」
 変わらず、シャトは己から攻撃を行わない。少し離れたところで獣たちの動きを見ながら、ほんの少し、彼女は首をかしげる。
「さあ、考察しよう/絞殺しよう。きみを斬ったら少しはうまく想像できるだろうか? 彼女が愛しい人を二度も手に掛けた気持ちとか。殺された側の、こころとか。教えてくれないならば、考察するしかないだろう?」
 そうして僕が、その物語をつなごう。……なんて。
 獣たちを見守りながら、シャトはほんの少し。儚く揺れる花のように。ささやかにほほ笑んだ。
「きっと素敵な物語になることを約束しよう。もっとも……」
 締め切りがない物語だ。いつ完結するかはわからないけれどもね。なんて。
 嘯くシャトの目は、やはりどこか探偵のような。真実を探るような眼をしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城島・冬青
【橙翠】

女の人が…!
こうなることが本望だったのか
もう聞くことはできない
今できることは目の前の影朧との戦いに備えること
アヤネさん…こいつ強い
ガチでいきましょう!

二対一ですみませんね!
アヤネさんと連携攻撃で応戦
スカシバちゃんを纏わりつかせ影朧の注意を逸らし死角からマヒ攻撃をしかけていく
影朧の攻撃でアヤネさんが危険な時は衝撃波を放って邪魔をする
お前の相手はこっちですよ!

えっ!?提灯ですか?
ふむふむなるほど…
このまま闇雲に斬り合いしていてもジリ貧でピンチになりそうですし
弱体化に賭けてみましょう
スカシバちゃん達!援護して
奴の提灯をぶった斬る!
ダッシュを利用した突き攻撃で提灯を狙いにいく


アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
死人に口なしか
話をして何かが変わるとも思わなかったし
死んだことを惜しいとも思わないけれど
残念だネ
と僕なりの弔いの言葉を口にする

ああ分かってるソヨゴ
そう言って目を細める
こいつなんか混じってるネ
女が生きていれば付け入る隙もあっただろうか
こうなると真っ直ぐに斬り込む以外に方法はないだろうか

宙に手で弧を描き
袖口から大鎌をずるりと引き出す
ソヨゴと呼吸を合わせる
最初はやや受けに回りながら相手の動きを探る
ソヨゴへの攻撃は全て逸らす

読めた
ヤツの弱点は炎だ
提灯を狙い打とう
そうソヨゴに伝える
UC発動
相手の炎を奪いとれ!
触手を敵の腕に絡ませ
鎌で提灯を狙い打つ



「ああ……!」
 冬青は思わず駆けだそうとして、アヤネに止められた。
 血だまりで倒れる女は、もうどう見ても、生きていないことが明らかだったからだ。
「死人に口なしか」
 その地を見て、アヤネはぽつんと呟いた。先ほどまで見ていた顔が思い浮かぶ。
「話をして何かが変わるとも思わなかったし、死んだことを惜しいとも思わないけれど。……残念だネ」
 どう思っていいのか。若干アヤネは判断のつかない顔で目を伏せた。それが彼女なりの弔いだった。
 悲しむほど親しくはなかったし、傷むほど好意を向けられる性格をしていなかった。それでも、残念と感じてしまうアヤネに、冬青も若干旬、とした顔でうなずいた。
「こうなることが本望だったんですかねえ……。もう、聞くことはできないんですね」
「ん、聞きたかったの? ソヨゴ」
「はい。……わからなくても、聞きたかったです」
 悲しそうな顔をする冬青に、そう、とアヤネも小さく頷く。
「でも、今できることは目の前の影朧との戦いに備えることだけですね……」
 それから、気持ちを上向かせようとするかのように冬青は言う。怪異もすでにこちらに気づいていた。じり、と冬青は間合いを図る。
「アヤネさん……。こいつ強い。ガチでいきましょう!」
「ああ分かってるソヨゴ」
 視線が交錯する。その一瞬だけで、冬青は相手の力量を感じた。
「こいつなんか混じってるネ」
 対するアヤネは目を細め、相手の異常さを感じた。
 どこか生きているようで死んでいるような気配。若い男のように見えて年老いた老人のようにも見えるからだ。提灯が揺れる。男はふ、と提灯を持たぬ手を刀において、
「いざ」
「……!」
 言った瞬間、冬青の目の前にいた。
「二対一ですみませんね!」
 即座に冬青も応戦する。一瞬、切られそうになった腕を花髑髏で刃を受けて回避する。
「女が生きていれば付け入る隙もあっただろうか……。でもこうなると真っ直ぐに斬り込む以外に方法はないのかな」
「きっと女の人が生きてても私たちが付け入る隙はなかったと思いますよ!」
「いや、女を人質にとるとか……」
「わ。アヤネさん悪役ぅ!」
 冗談めかして言っているが、実際に生きていてもそれを採用したかどうかは怪しい。
 それだけ……この怪異が、心を持たぬ。何か名状しがたい生き物とは違う、別のような気配を漂わせているからだ。
「僕が正義の味方じゃないことに対して異論はないよ」
 軽口をたたきながらも、アヤネも冬青に一泊遅れて反応する。宙に手で弧を描き、袖口から大鎌をずるりと引き出すと。今にも冬青の喉元に迫った刃をアヤネは弾き飛ばした。
「……」
 ふわり、と提灯が揺れる。
「ごめんあそばせですよ!」
 冬青が気合の声をあげる。アヤネが刀を弾いた瞬間、刀から発生したオオスカシバが怪異の顔面にまとわりついた。一瞬のスキを逃さず、その資格に入り込んでそのまま花髑髏をたたきつける。
「アヤネさん!」
「ああ!」
 相手の動きを止めるような一撃とともに、冬青は衝撃波を放って逃げ切目の太刀を弾いた。弾いたまま、今度は怪異の胴体に冬青は刀を突きさす。
「お前の相手はこっちですよ!」
「―――」
 ちらり、と。怪異は冬青を見る。
 冬青を見た……と、思った。
 笠をかぶっているとしても、冬青は敵を見上げている。見上げているというのに、その顔が一切冬青には見えない。
 ただ、見られているのはわかった。ぎょろりと、何かが冬青を見ていた。
「……っ!!」
 刀が振られる。ぎりぎり避け損なった切っ先が冬青の腕先を裂く。アヤネが声をあげそうになるも、それをぐ、と飲み込む。
「読めた! ヤツの弱点は炎だ。提灯を狙い打とう!」
「えっ!? 提灯ですか?」
「そう!」
 敵が冬青を攻撃した瞬間の敵の動き。
 まったく聞いていなさそうな怪異の在り方。
 根拠を交えて、アヤネがそれを語ると、
「ふむふむなるほど……」
 まったくわかってない顔で、斬撃を躱しながら冬青は頷いた。
「このまま闇雲に斬り合いしていてもジリ貧でピンチになりそうですし、弱体化に賭けてみましょう」
「ああ! UDC形式名称【ウロボロス】術式起動。相手の炎を奪いとれ!」
 冬青の了承に、すかさずアヤネが反応する。細かい打ち合わせは必要ない。アヤネの影から現れた、複数の蛇に似た異界の触手が提灯に向かって殺到する。提灯を持つ腕を引こうとする。その腕に絡みつき、アヤネの鎌が提灯向かって走った。
「スカシバちゃん達! 援護して! 奴の提灯をぶった斬る!」
 アヤネの鎌をよけようと捨て腕を動かすのを、冬青は見逃さなかった。
 刀から発生した魔力の花弁がオオスカシバに変形し、敵の腕へと突き刺さる。それと同時に、冬青の花髑髏が、まっすぐに提灯を突き刺した。
 提灯が明滅する。怪異の動きは変わらない。だが、粘着くような威圧感がほんの少し安らいだ気がして、二人はそれで、作戦が成功していたのだと知る。
「アヤネさん!」
「ああ。このまま押すよ、ソヨゴ!」
 そうなれば後はこちらのものだ。二人は一斉に、提灯に攻撃を開始した……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「質問が。反魂ナイフは何処ですか?私は彼を折らねばなりませんから」

「成り損ないで在る事を自嘲するなら、全き貴方に成る為に、転生すれば良いでしょう。剣豪で在る事、怪奇人間で在る事を誇るなら、何度でも転生すれば宜しい。骸の海に還っても、今の貴方の儘甦るより、貴方の願いに沿うのではないですか?」

「そうですね、消滅する最後の瞬間に、貴方自身が選び願えば済む事です…何度でもお付き合いしましょうとも!」
高速詠唱で召喚した氷の精霊の属性を桜鋼扇に付与し接敵
敵の攻撃を第六感や見切りで躱しながらカウンターでUC使用

「今の貴方を殺す事に変わりはありませんから。同じ土俵に立たねば不公平でしょう?」
倒せぬ場合重体覚悟



「質問が。反魂ナイフは何処ですか?私は彼を折らねばなりませんから」
 事態を確認した時に、桜花はまずそう言った。
 ひらひらと、桜が散っていた。音もなく散るそれは、雪のようであった。
 視界中に、桜が満ちている。そして忘れ去られた廃校と、山と積まれた瓦礫たち。それもまた年月で風化して、今にも崩れそうである。
 そしてその前に、倒れ伏した女が一人。そして、怪異が、一つ。
「成り損ないで在る事を自嘲するなら、全き貴方に成る為に、転生すれば良いでしょう。剣豪で在る事、怪奇人間で在る事を誇るなら、何度でも転生すれば宜しい。骸の海に還っても、今の貴方の儘甦るより、貴方の願いに沿うのではないですか?」
 怪異は、桜花の方をじぃとみていた。笠を目深にかぶり、顔すら見えないのに桜花はこちらを見ているとわかった。怪異は語らない。語れないのか、語らないのかは桜花にはわからない。
 視線を移す。倒れ伏した女は、何かを大事に抱いているように見える。……あれが反魂ナイフで、間違いないだろう。と桜花は即座に直感していた。何の根拠もなかったけれども、それは確かだと思った。……そして、怪異は女にはもう、興味がないように見える。ならばナイフの回収は、怪異が片付いた後でいいだろう。
「――――」
 それで、怪異はゆっくりと口を開く。何か言っているようであったが、桜花には聞き取れなかった。そもそも最初から、言語になっているかどうかすらわからなかった。けれども、桜花はその声を聴き、一つ頷いた。
「そうですね、消滅する最後の瞬間に、貴方自身が選び願えば済む事です……。何度でもお付き合いしましょうとも!」
 桜花が宣言する。宣言すると同時に怪異もまた、動いていた。目と鼻の先、踏み込んだ桜花の目の前に、すでにそれはいた。
「我が生、斬り足らぬ」
 老人のような。青年のような。男のような。女のような。何ともわからぬ声がした。と思ったら、刀が一閃された。同時に提灯がゆらりと揺れる。
「は……っ!」
 気合とともに、桜花はそれをぎりぎり紙一重で避けた。同時に召喚した氷の精霊が、愛用の桜鋼扇に入り込む。
「そちらから来てくださるなら、好都合です……!」
 避けた。その体制のまま桜花は鉄の扇を振るった。
「鉄扇は棍代わりに使えますの。召喚した精霊の属性を纏った至高の一撃、冥土の土産話に如何でしょう?」
 氷と、破魔と浄化の力が一体化された扇が舞う。それはまっすぐに怪異の懐に入り込み、怪異の懐を深く打った。
 手ごたえは確かにある。……効いている。血も出なければ、悲鳴も上がらないが、手ごたえは確かにある。
 提灯が揺れていた。桜花が強く打つと同時に、扇は鎖が弾けばらばらになって地に落ちる。……が、
「今の貴方を殺す事に変わりはありませんから。同じ土俵に立たねば不公平でしょう?」
 残った扇の欠片を握りこんで、桜花は拳を固めて全力で怪異の顔をぶん殴った。
「それでも……最後には我々が勝てそうですが!」
 怪異は傷を負い、倒すことができるだろう。桜花には、あのナイフをへし折るという仕事があるのだ。
 いざの場合も考えていたが、それを使わずとも己の仕事を完遂できるだろう、と桜花は握る拳に力を込めた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジュジュ・ブランロジエ
コノさん(f03130と
アドリブ歓迎
『』はメボンゴ

あの人やっぱり殺されちゃったのか
殺すのが愛ならこれで満足なんだろうね
私には勝ったとは思えないけど…
そっか、本人的にはそうなのかも

ふふふ、お行儀悪くてもいいよ
遠慮せず食べちゃって!
『コノちゃ、怪異の踊り食いする?』
その表現はちょっと、どうかな…

光属性付与したオーラ防御を私とコノさんに
怪異には光!
なんとなくそんな感じしない?
破られたら早業ですぐにかけ直す

UCに浄化と破魔の力も少々加え、風の刃でコノさんを援護
人の命を奪う存在ならば捨て置くことはできない!

こちらこそ!素敵なお友達がいて嬉しいよ
『メボンゴもっ!』
それじゃあ美味しいスイーツ食べたいなー!


コノハ・ライゼ
ジュジュちゃん/f01079と

満足ってンなら勝ちかもね
ナニに殺されたかさえ理解出来てなくっても
何であれ、後片付けも出来ないンじゃ行儀が悪くてよ
手間賃にゃ足りねぇケド……食事の時間ネ

ま、アタシもお行儀良いナンて思っちゃいないから、文句言うも目を背けるも遠慮なく

淑女達へのお礼に、アタシも遠慮なしにいかせて貰うわ
状況見切り彼女のオーラを盾に激痛耐性も併せ敵の眼前に飛び込む
斬撃誘うよう敢えて隙見せ、カウンター狙い【紅顎】発動
喰らい、回復されても2回攻撃でまた喰らうわ
腐肉は好みじゃねぇの、さあ頑張って
アタシの腹を満たして頂戴?

ふふ、カッコいい友達がいて幸せネ
綺麗に片付けて、お口直ししに行きましょ



 桜がちらちらと散っている。
 先ほどまで一面だった薄紅色は、今は違う景色を見せていた。學校へと続く道。それを阻むように積まれたなんともわからぬ瓦礫たち。そして、
 その前に倒れ伏す女と、刀を構える何か。
「……あの人、やっぱり……」
 殺されちゃったのか。と。ジュジュは言いかけて、言葉を詰まらせた。
 別に親しいわけではないし、どちらかというと敵の分類だっただろう彼女。
 だけど、別に死んでほしいとも思ってなんていなかった。素直に喜ぶこともできなければ、
「……殺すのが愛ならこれで満足なんだろうね。私には勝ったとは思えないけど……」
 なんとも、曖昧で。よかったのか悪かったのかわからない。そんな微妙な感情が残る。
 音一つ立たない桜の中、着物を赤く染めて倒れる女は、それだけでこの世のものでなくなってしまったような空気を醸し出していた。
「満足ってンなら勝ちかもね」
 悲しんでいいのか。喜んでいいのか。微妙な感情がないまぜになったようなジュジュの言葉に、コノハはほんの少し、苦笑する。
「ナニに殺されたかさえ理解出来てなくっても。……傍から見て、幸福だなんて思えなくても。どんな思い違いがあったとしても。……結局、自分が幸せなら、それでいいんじゃないカシラ」
「そっか……」
 むぅ。とジュジュは少し考えて、
「本人的にはそうなのかも」
 そんなことを言う。その目が若干納得してなさそうな顔であったので、
「もちろん、他人に迷惑をかけちゃいけないし、最低限の守るべきことは守るべきだと思うの。……まあ、アタシが言っても説得力ないけどネ。……つまり」
 すぅ、とコノハは目を細める。目の前の怪異がこちらを向く。笠をかぶる、その下の顔は見えない。顔は見えないが、こちらを捉えたとコノハは思った。
「何であれ、後片付けも出来ないンじゃ行儀が悪くてよ。手間賃にゃ足りねぇケド……食事の時間ネ」
 敵を見据えたまま、コノハは一対のナイフを握りこむ。そして、
「ま、アタシもお行儀良いナンて思っちゃいないから」
 なんて言うので、それでジュジュの表情が、思わず和らぐのであった。
「ふふふ、お行儀悪くてもいいよ。遠慮せず食べちゃって!」
『コノちゃ、怪異の踊り食いする?』
「その表現はちょっと、どうかな……」
 そこでようやく、ジュジュの相棒メボンゴが言葉を発する。ジュジュの気分が上向きになったのを示すように、くるくるコノハの前で踊るメボンゴに、コノハは軽くウィンクした。
「アリガト。じゃ。美味しく……美味しいかどうかはわからないけれども、いただいちゃうワ」
 いうなり、コノハがまず先に前に出た。怪異もすでにコノハのことに気づいていたのだろう。数歩、二人が踏み込んだところに、
「……」
「……!」
 数歩。刀とナイフが激突した。
「コノさん!」
『がんばって~!』
 すぐさまジュジュの援護が追いかける。コノハの前にオーラの防御を展開させる。
「怪異には光! なんとなくそんな感じしない?」
『いつもより二倍ピカピカにしてみました!』
 それは光を伴って、コノハの周辺を守るようにうっすらとつつむ鎧になった。
「圧し切る」
「それはどうも!」
 端的に放たれた怪異の言葉が、どこか老人のようで、どこか若い男性のようであった。
 刀がまず閃く。それが一刀のもとコノハを切り伏せようと刃をコノハの方に食い込ませた。ジュジュの防御で軽減してもなお、届く痛みにこらえながらもコノハはさらに一歩、踏み出す。
「イタダキマス」
 そうして怪異の腹のあたりにナイフを突き刺した。手ごたえはある。だが地は流れない。それでもコノハは構わなかった。そのままコノハのナイフは血濡れの牙を持つ顎に変化する。それは、言葉通り補色に適した形で、そのまま傷口をえぐるように食らいつき、そのまま傷口を腐食させる効果を持つ。
『どう? ぴかぴか効いてる?』
「うーん。わかんないワ」
『がーん!』
 正直なところ手ごたえはあるがどの程度ダメージを与えているかは全くわからない。
 怪異は、傷だらけのように見えて、まったく傷を負っていないように見える。
 こんなに目の前にいるのに、その顔が、その存在が、はっきりと理解できないのだ。
「でも……やることは変わらない。喰らい、回復されてもまた喰らうわ。効いていないなら効くまで喰らうわ」
 喰らえているので、聞いているのだろう。なんてあっさり言い放つコノハに、
『うぅー。だったらメボンゴもお手伝いする!』
「もちろん! さあ、踊って!」
 ジュジュもまた宙に魔法陣を展開させた。適宜攻撃に合わせてコノハへの守りを請け負っていたが、合間を見て仕込んでいたのだ。
 魔法陣から無数の風の刃が放たれる。それはまっすぐに怪異に向かって、雨のように刃をたたきつける。
「人の命を奪う存在ならば捨て置くことはできない!」
「きゃー。ジュジュちゃんかっこいいー」
「ふはっ。ちょっとコノさん」
『きゃー。ジュジュちゃかっこいい~』
 おどけたように言ってみたコノハに、思わずジュジュが噴出した。メボンゴも楽しそうに笑っていて、
「腐肉は好みじゃねぇの、さあ頑張って……アタシの腹を満たして頂戴?」
 いつものような和やかな戦場に、コノハは一息ついてから。再び何度も、ナインども、刃をその、もはや肉なのか何なのかわからない敵の体の中に次々と押し込んだ。
 同時に風の刃が全身に突き刺さる。やはり、これだけの風にさらされても笠の下の顔は見えず。外見に変化はない。……だが、相対しているコノハには、聞いているとはっきりわかる。敵の太刀筋が、手ごたえがそれを示している。
「ふふ、カッコいい友達がいて幸せネ」
 しみじみとした。本当に心からのコノハの呟きに、
「こちらこそ!素敵なお友達がいて嬉しいよ」
『メボンゴもっ!』
 すちゃっと即座に声が上がるのもまた、コノハにとっては心強かった。
「ふふ。……綺麗に片付けて、お口直ししに行きましょ」
 思わず漏れた言葉にも、
「それじゃあ美味しいスイーツ食べたいなー!」
『イチゴもりもりタルトでおーけー?』
 聞こえる声は明るく……本当に心から生きているという感じがして、
「こういうのを、幸せと思えればよかったのにね」
 ぽつん、とつぶやいたコノハの言葉は死した女に向かって。
 けれどもそれはもう、届くことはなかった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
…こんなものが、オレの願いの行き着く先か
確かにこれは悲劇で喜劇で…それを生んだのは生者の傲慢、か…
なんてひどくて、虚しい末路だ…

…母さんをこんなものに出来ない
こんな虚しい成れ果てになんてさせられない
ああやっぱり、今度はオレが諦める番だ

…今なら力を貸してくれるかい、王よ

ずっと応えてくれなかった王
愚かな者には力を貸さぬ王
身体を貴方に明け渡すから
共に、あれを斬ろう

黒炎纏い
王の剣と力を降して
この身削ってでも斬り合ってみせる

母さん
母さんごめんよ
二度と馬鹿な願いは抱かない
こんな愚かな願いなんか叶わなくていい
どれ程胸が辛くて苦しくても
これ以上貴女を泣かせてたまるか
その為にこそ
ここで負けるわけにはいかないんだ



 桜が、散っている。
 忘れられた世界を、覆いかぶせるように散っている。
 朽ちた廃校も、積み上げられたがれきも。
 そしてその下に倒れる死体さえも、すべて隠してしまうかのように。
「……」
 そう、女はすでに、死んでいた。
 とても、幸せそうな顔をしていた。
 何も知らない人が見たら、本当に幸せそうだというだろう。
 けれどもディフには……、そうは思えなかったのだ。
「……こんなものが、オレの願いの行き着く先か」
 ぽつん、と彼は死体と、そして怪異を前に呟いた。
 彼女は幸せのままに死んだのかもしれない。
 けれども実際に目の前にいるのは、ただのなり損ないであった。そう、自分自身を評する、人ではない何かであった。
「確かにこれは悲劇で喜劇で……それを生んだのは生者の傲慢、か……」
 なんてひどくて、虚しい末路だ……と、呟いた声には力がなかった。
 彼女は、幸せそうに死んでいた。
 幸せそうなのは、彼女だけであった。
「……母さんをこんなものに出来ない。こんな虚しい成れ果てになんてさせられない……」
 けれどもやっぱり、彼女は幸せそうであったのだ。
 つまり……ディフだって、幸せになれるかもしれないのだ。
 女は、大事そうに何かを抱えて死んでいる。あれが恐らく、反魂ナイフであろう。奪うことはたやすそうだと、誰から見ても明らかである。
 けれど……、
「ああやっぱり……、だったら今度はオレが諦める番だ」
 けれども、それならば要らないのだと。確かに、ディフは思った。
 自分だけが幸せそうにしているのなら、それは違うと、そう、感じたのだ。
「……今なら力を貸してくれるかい、王よ」
 天を仰ぐ。誰にともない声だったが、今日は、どこかから答える声がある気がした。
 ずっと応えてくれなかった王。
 愚かな者には力を貸さぬ王。
 漆黒の騎士王を、ディフは呼ぶ。
「王よ。オレの身体を貸そう。嘗ての蛮勇を、貴方の力の全てを今、此処に」
 身体を貴方に明け渡すから、共に、あれを斬ろう。と。
 その、提案と呼ぶにはあまりにささやかで切実な声に。声による返答はなかった。
 代わりに、ディフの体が黒い炎に包まれた。

 怪異が刀を振るう。揺れる提灯は、鮮やかで温かいのにどこか沼の底のような暗さを感じさせた。
「……!」
 相対するのは黒焔の魔力を纏った剣で、ディフはそれを受ける。
 不思議な暗いからだがよく動いた。すかさず刀を払い、その胴に刃を突き立てる。
「我が生、斬り足らぬ」
 怪異は、短とそれだけ言った。言うと同時に、己の体に県が刺さったまま、刀を振るう。漆黒の鎧が刃を弾くが、弾いたはずなのにディフの体に衝撃が走った。
「この身削ってでも斬り合ってみせる……!」
 傷はない。なのに傷を受けている。その情報を精査する前に、ディフは構わず、二撃目を打ち込んでいく。負傷を気にすることなく、敵をせん滅するようにディフの体は動く。
 母さん。
 声をあげるいとまもない。しかしながら、ディフは心の中で。声をあげ続けた。
 母さんごめんよ。二度と馬鹿な願いは抱かない。こんな愚かな願いなんか叶わなくていい……、
 上げるのは、ひたすらそんな言葉だった。こんな、なれのはてのような。よくわからないものに自分の大事な人そしてしまうなんて、考えただけで怖かった。
 けれども、
「どれ程胸が辛くて苦しくても……」
 つらかった。死んだ女は、やっぱり一人、とても幸せそうだったからだ。
「これ以上貴女を泣かせてたまるか……!」
 けれども、乗り越えるべきだとも思った。それは怪異が、あまりにも虚しく見えたからだ。
「その為にこそ、ここで負けるわけにはいかないんだ……!」
 一刀。応えるようにすさまじい剣戟とともに黒い炎が上がる。きっと敵が倒れるまで、「彼」はともにいてくれるだろう。
 それでいいのだと、やっぱり見えない誰かがそう言っているような気が、ディフにはするのだった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

邨戸・嵐
罰だなんて考えてもなかった
君が君の望む通りに生きていてうれしいって
言うならそれぐらい

最初から最後まで彼女の話だったんだ
発端がどんな怪異だったとしても
ひとの思いがこの世を作っているんだから

道を守ってルールに従って
俺はこんなにお行儀よくしたんだよ
勝手に横入りして来ないで

ナイフを手に
間合いの中で前後不覚にはなりたくない
UCで密度を上げて出来る限り弾いていく
食らっても体に不調が出ないのはありがたい
大仰にふらついた振りして隙が作れるなら幸運

出来るだけ近くで削り合おう
期待してた皿が下げられた分、ひとくちぐらい食べさせてよね

彼女が愛情だって言うならそれでいいんだよ
素敵な名前がついてる方が美味しそうだもの



 桜が散っている。綺麗だと、思う。
 誰かが不気味だと評しても、そんなことは嵐にとって関係なかったんだ。
 一面の薄紅色。使われなくなって久しい校舎。放置された瓦礫の山。そんなものだってどうでもいい。
 ただ、その瓦礫の前に倒れ伏す女の姿だけが、嵐には信じられなかった。
「……」
 罰だなんて考えてもなかった。もとより嵐も、そのようなものだ。
「君が君の望む通りに生きていてうれしいって……」
 絞り出すような声が、ようやくそれだけ出た。
 言うならそれぐらい。
 彼女の顔が、あまりにも安らかだったから。
 話したいことも、聞きたいことも山のようにあったけれども。
 彼女が本当に幸せそうに死んでいたから。
 だから……それ以上は何も言えなくなってしまった。
 駆けつけて、その顔をきちんと確認したかった。
 嵐は一歩、女性の方に踏み出して。
 そして、目にも入っていなかった一つの影に阻まれた。
「……」
 刀と提灯を持った、人のように見えて人でないものが、こちらに石を向けていた。
 なんとなく、彼女を殺したのはこれだと、嵐は直感で判断した。
 それが、嵐と女の間をふさぐようにして立っている。
「道を守ってルールに従って、俺はこんなにお行儀よくしたんだよ。……勝手に横入りして来ないで」
 月光を汲んで浸した銀の毒牙を手に、敵が動き出す前に嵐は駆けた。
 相手もまた、すかさず刀に手をかける。
「そっちに興味は……ないんだよ」
 瞳が瞬く。凄まじい速度で嵐は愛用のナイフを旋回させた。幾度も幾度も。瞬きをする間に幾度も、刀を握るそれに向かってナイフを突き立てる。
「……」
 対するそれは、一刀。凄まじい速度で、嵐の喉元にナイフを迫らせる。
「……っ」
 なるべく、弾く。まあ胃の中で前後不覚にはなりたくないから、すさまじい勢いで嵐は攻撃をナイフでさばいていく。
「我が生、斬り足らぬ」
「そう。俺はね……喰い足らないんだよ」
 淡々とした言の葉に、淡々と押収する。時々、捌き損ねた刀が嵐の体を削ぐも、不思議とその体に傷は追わない。ただ、すさまじい激痛が嵐を襲う。
「……っ」
 激痛。そんなものよりもそう。この空腹の方が問題だ。
 嵐は大きく当たたらを踏む。よろけるような姿勢を好きとみとったのか、相手の刀が唸る。
「……期待してた皿が下げられた分、ひとくちぐらい食べさせてよね」
 けれどもそれの刀が嵐の首を刎ねようとした瞬間、嵐は姿勢を低くしてそれを躱し、さらに懐に飛び込んで相手の腹にナイフを突き立てた。
「最初から最後まで彼女の話だったんだ。発端がどんな怪異だったとしても、ひとの思いがこの世を作っているんだから」
 手ごたえがあった。確かに強い攻撃を与えた。そのように思うけれども、それの体は傷ひとつつかず。血の一滴もこぼれず。悲鳴の一つも上がらない。
 それは最早人ではなく怪異。嵐が求める何かを、どこかに置いてきてしまったものだった。
 それでは……つまらない。あまりにもつまらないし、おいしくない。
 だから嵐はナイフを振るった。いつもより早く。いつもよりも的確に。もっともっと。早くこれを倒して……、
「君が愛情だって言うならそれでいいんだよ。素敵な名前がついてる方が美味しそうだもの」
 素敵な彼女に会いに行こう。幸せそうな、彼女の顔をちゃんと見よう。死に顔だってかまわない。彼女はきっと、幸せだった。
 本当のことなんてどうでもいい。彼女は嵐の……同類だと。嵐が思っているのだから。
 ずっとずっと、会いたかった仲間に……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
望む結末を得た、と言うことなのか

与えられる終わりに答えを見て
旅立った彼女の始めたこと
共に果てるでなく
呼んで混じったかたわれは残って

誘う声をかけ笑んでも
想いの向かう先が閉じていた彼女
どこまでも彼と彼女だけの話で完結すれば
つっこむ手は持たなかったんだけど

長く息を吐き、吸う
嘆息でなく、祈る息吹にする為に

枯れ尾花を解き、手向けの花とし
周りの影朧や相手の斬撃へ向け
手数を弾き視界を奪って距離を詰め

二回攻撃
残していた黒曜で提灯持つ手を狙い斬る

彼らの都合と想いが閉じたなら
怪異は僕らの領分なので
左様なら
巡る事があれば、いつか迄

事後反魂ナイフが現場にないか探して
同様の事件を防ぐ調査の為
回収して桜學府に提出したい、が
そも、残ってないかも
無ければそれは深追いせず

どちらにしても
倒れていた彼女の身体は遺族がいれば其方へと
それこそ本人は望まないかも、しれないが



 桜が散っていた。
 類は見た。サクラミラージュではたくさんの桜を見た。
 それと同じ桜が散っていた。静かに。……静かに。
 人のいない學校も、何かを封じるような瓦礫の山も。……そして女の死体すらも、すべて桜が隠してしまうかのようで。
 その女の傍らで佇むそれが、本当にぼうと、朧気乍らに立つ怪異が、ことさらその桜の世界を強調させていた。
「……望む結末を得た、と言うことなのか」
 そっと。類は声をあげた。怪異に声をかけたのか、女に声をかけたのか。それとも、独り言であったのか。それは多分、類にも分らないことであった。
 与えられる終わりに答えを見て、旅立った彼女。
 その彼女が始めたことであるはずなのに、片割れはともに果てるでもなく混じり物として残された現実。
「どこまでも彼と彼女だけの話で完結すれば、つっこむ手は持たなかったんだけど……」
 思わず声に出したのは、彼女との会話を思い出したからだろうか。
 彼女は類に語り掛け、そして微笑みながらも。
 類に何か別のものを見ていたし、その執念のごとき思いの向かう先は、閉じていた。
 それでも、当人同士が幸せなら。あるいはそれでいいではないかと思ったかもしれない。
 けれど……、
「……」
 類は長く息を吐き、吸う。まるでそれは信じの前の呼吸のようで。何かを祈るための仕草のようであった。
 倫、と。どこか音が鳴るような静謐な空気が類の周囲に作り出される。手にしたのは銀杏色の組紐飾りの付いた短刀であった。振るえば風呼び脚を掬い、祈り唱え降ろせば魔を祓うといわれていて、名を枯れ尾花という。
 ……怪異退治に、これほどの適任はないだろう。と。
 類ははそんなことを考えながら、手向けの花のように刃をひとならざるものの方へと向けた。
「彼らの都合と想いが閉じたなら、怪異は僕らの領分なので。……片をつけよう」
 向こうも、こちらのことを視界にとらえる。両者が駆けて。そして刃と刃が交錯する、その一瞬、
 ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん。
 と。
 すさまじい、金属でできた金切り声のような音が周囲に響き渡った。
「……咲け、常春」
 相手の刀から発せられたそれを、かまわず類は刃を振りぬく。同時に類の刀は一瞬にして山桜の花びらとなり、すべての相手の剣戟を迎え撃った。音を立てて刃がたまらず落ちる。それに見向きもせずに、類は隠していたナイフを翻した。
 刀身から柄まで全てが黒い一振りのナイフが閃いたのは、二回。
 一度でその腕を落とし、返す刃でそのまま提灯を貫いた。
「左様なら。巡る事があれば、いつか迄」
 しんと静まり返った桜の園に、類の言葉が響き渡る。
 度重なる猟兵たちの攻撃に、刀は俺。刀が折れたと思われた瞬間、
 ぼう、と提灯が炎に包まれて燃え上がった。
 それは赤く赤く……燃え上がり。そして、ゆっくりと消えていく。
 提灯の炎が消えた時、怪異の姿はもう、どこにもなかった。
 同時にわだかまるように漂っていた影朧の気配が、すべて。まるで最初から何もなかったかのように、消え去っていた。
 ……あとにはただ。
 どこにでもあるサクラミラージュの桜が、花びらを散らすのみ。
「……春よ」
 ふと風が吹いて、その風の音に思わず類は言って目を細めた。それは暖かい春の風。
「……」
 けれども、彼の仕事はまだ、終わってはいなかった。
 軽く両手を合わせて祈るようにすると、類は刀とナイフを収めて歩き出す。
 ……反魂ナイフ。
 それを、探すためであった。
 ナイフはすぐに見つかった。
 たった一人、残された女が、大事に大事に胸に抱いていたからだ。
 破壊するか、同様の事件を防ぐ調査の為、回収して桜學府に提出するかがほかの猟兵たちの間でも話し合われた。
 類は、調査したいと思ったけれども。強く破壊したいというものがいれば、それもまた構わないかもしれないと思った。
 そも、残ってないかもと思っていたもの。
 もう悪用されぬなら、それはそれで構わないのだ。
 倒れていた女は、身寄りがいなかった。
 旦那も亡くし、両親も亡くしたらしい。……どのように亡くしたのかは、知れない。理由があったのか、彼女が殺したのか。それはもう誰にも分らなかった。
「まあ……本人は、望まなかったかも、知れないな」
 全てが終わった後、類はぼんやりとそんなことを呟いた。結局彼女の遺体は、どこかの寺に預けられることになるだろう。
 そういう、些末だが大事なことを一通り終わらせて、今回の事件は、幕を閉じた。
 人間というのは、死んでからも兎角手間がかかるものなのだ。
「でも……」
 それで、おしまい。終わってみれば、まるで桜たちは最初から何もなかったかのような顔をしていて、
「とても、人間らしい話だったな……」
 女の思想は、とても人には耐えられるものではなかったのに。
 類はそんな感想を、抱いたのだという。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年03月29日


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サクラミラージュ
🔒
#反魂ナイフ


30




種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はルーダス・アルゲナです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト