●無垢に願うは新たなる神(イケニエ)
どうか愛を。
だれよりも私に。
いますぐに私を。
ほんのすこしでも、どうか。
愛を、愛を、愛を、あい、ヲ――。
かつて喪われた人造の生命は懐かしい培養槽の中、液体に包まれ目を覚ます。
生きものが当然に持つ母とのつながりさえ持たず、まるで工業製品のように。
「やぁ、お目覚めかい」
そっと瞼を開けてみれば、草臥れた白衣の男性が彼女の様子を窺っていた。
無意識に、縋るように手を伸ばす。
けれど細い指先も小さなてのひらも硬質な強化ガラスに触れるだけ。
「……」
溢れる感情は声にもならず、培養液越しの不明瞭な視界が一層強く滲んで霞む。
寄る辺なき魂は孤独に震え、無慈悲な世界に怯え、何よりも愛されないことを怖れて。
「行って、世界を救い(滅ぼし)給え」
目の前にあっても決して手の届かない、遠い遠い彼方から聞こえたような声に、その願いをかなえるために――愛を渇望する過去の残骸は、頷く以外の術を持たなかった。
●依頼
「ひゃあ! 新鮮な神だぁ……ってならねーよ! お引き取りくださいよ!」
世界を滅ぼし得るフィールド・オブ・ナインの6つまでが討滅されたアポカリプスヘル。だが大きな危機は乗り越えたとはいえ、忍者が出たり隕石が降ったりと危険な事件にはまだまだ事欠かないようで。
グリモア猟兵のジミー・モーヴが何やら叫んでいるのも、そんな世界の危機の新たな訪れを感知したからだった。
「……メリケンさんのフラスコチャイルド研究施設で、デミウルゴスの偽神細胞を移植されたオブリビオンがこの世界の神格として覚醒しようとしてる。あんまりよろしくない状況だな」
偽神デミウルゴス。
フィールド・オブ・ナインの一柱にして『体内に偽神細胞を持たない相手からは一切の攻撃を受け付けない』無敵性を備えた強力な世界の敵。
彼の者を屠るには、偽神細胞を移植したストームブレイドを除けば自らもデミウルゴス細胞からなる偽神細胞液を注射し一時的に偽神化する他なく、それは超常の存在たる猟兵をして命取りになりかねないほどの激しい拒絶反応をもたらす劇物なのだ。
「毒を以て毒を制すってニッポンでは言うそうだが、あまりお勧めしたくない選択なんだよな……だってお前、もし万が一何かあってもぼくは責任取りたくないですし? だが、今回のやっこさんも未だ完全覚醒には至らないとはいえ、その半無敵の特性を備えているようでな?」
ジミーは用意していた薬物を猟兵らの眼前に並べ、へへへと軽薄な笑みを浮かべた。
「使わないと倒せないと思うけど、強制はしないから! 危ないおクスリ使っても良いけど、その代わり何があっても自己責任でたのまぁ!」
新たなる神が完全に覚醒してしまえば世界規模の恐るべき災厄を招きかねない。
そうなってしまう前に。
過去から蘇った破滅の化身を討ち取るためには、ソレは恐らく必要な痛みであり、苦しみ――誰かが払うべき犠牲なのだろうか。
●自己定義
「私はだれ? わからない」
「あなたは滅びゆく世界の希望、救世主です。我が神よ」
祀り上げられた貌の無い少女をその信奉者たる研究者たちが取り囲んでいた。
「からだが、いたいの。いたくて、こわくて。くるしい……」
「ああ、嗚呼。神は私たちのために苦しんで下さるのですね!」
かつてこの世界の罪を拭うべく犠牲となった神の子は、茨の冠を被せられ十字架に磔られたと言う。
そして今、覚醒しようとする新たなる神の頭上には有刺鉄線で編まれたような天使の輪が浮かんでいた。有刺鉄線はその細い右足にも絡みつき、冷たい棘と鋼鉄の堅牢さで痛みに震える少女を縛り付けていた。
「くまさん」
貌の無い少女はくまのぬいぐるみを両腕できつく抱きしめた。何の反応を返すこともないぬいぐるみのくまを、ぎゅうぎゅうと強く抱きしめた。
私は滅びゆく世界の希望。救世主。
この命は、『みんな』を救うために――。
常闇ノ海月
はじめましての方以外はお久しぶりです。
どっこい生きてました、常闇ノ海月です。
●第一章について
今回は素敵なお薬でのたうち回りながら幼女をしばくシナリオです。
1章では死体になっていた研究者や警備たちが取り巻きとしていますが、猟兵にとっては大した脅威ではないでしょう。
デミウルゴス細胞の副作用に耐え、どちらかと言えば嫌なお仕事させられる心情をメインにした描写中心になると思います。
オブリビオン幼女は記憶も混濁して自我も曖昧です。
その上でオブリビオンの本能として猟兵を忌むべき敵だと認識してきます。
彼女視点では猟兵達こそ人類を世界を滅亡へ誘う恐ろしい邪神のように映るでしょう。
断章はありませんので、参加は公開後いつでもご随意に。
書ける時に書けそうな分だけ書かせて頂こうと思います。
●第二章について
断章公開予定です。
断章公開後まで待って内容を確認してからプレイングを頂けると採用しやすいと思います。
幼女がメガ進化してぅゎょぅじょっょぃになります。
無策だと苦戦するかもしれません。
まだ覚醒の段階が浅い一章のうちに叩けるだけ叩いてトラウマを植え付けておきましょう!()
ではでは、もし宜しければ参加ご検討ください。お待ちしております。
第1章 ボス戦
『フェイスレス・テレグラム』
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POW : ブレイン・インフェクション
【端末のぬいぐるみ】から【微弱な電波】を放ち、【脳を一時的に乗っ取ること】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD : ゴースト・ペアレント
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【自身を守ろうとする信奉者】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
WIZ : ロンリネス・ガール
【端末のぬいぐるみを通して孤独を訴える電波】を披露した指定の全対象に【誰よりも彼女だけを愛したいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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鳴上・冬季
偽神薬使用
「塵芥がよくも仕出かした。ならば何度でも、貴様らの神のために死ぬがいい」
巨大化させた黄巾力士で研究所強襲
フェイスレス除き研究者を全滅させ信奉者化
肉片と化すまで何度でも執拗に叩き潰させる
「貴女が世界を呪って死ぬよう仕向けた愚か者どもなど、この世に残しておけるものか。貴女も私も、正気を保てる時間はあと僅かだろう。痛くて、苦しいのだろう?正気を失うまで、少しでも苦しみが減るよう話をしよう…おいで」
フェイスレスの喉につまらない程度に軽く指弾で口の中に仙丹放り込み自分も食べる
仙桃も剥いて一口大に切り自分も食べてからフェイスレスの口に放り込む
座り込んで自分の膝の上に乗るよう手招き
「確かに昔、人の痛みを引き受けようとした救世主が居た。しかし彼は自分でその道を選んだ。あの莫迦どもは、自分の苦しみが少ないよう、貴女が苦しんで世界を呪い、全ての生命を死滅させようと企んだ。貴女に世界を見せられる時間はもうないけれど、少しの間でも貴女が安らげるよう」
彼女の攻撃は避けず
熊ごと抱き締め背中を撫でようとする
●無数の塵
草すらも生えない不毛の荒野。数キロメートルにわたってすり鉢状にゆるく傾斜するくぼ地のほぼ中心に、巧妙にカモフラージュされた研究所があった。
隣接して聳え立つ巨大な影――研究所を恫喝するように砲を向けいつでも叩き潰せるように待機しているのは、鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)が召喚した人型戦車たる黄巾力士。それがユーベルコード『真・黄巾力士(シン・コウキンリキシ)』によって500メートルを超える巨体と化した姿だった。
「迎撃はどうなっている?!! 『ヌイグルミ』はまだ動かせないのか!?」
「無理だ。相変わらずこちらの信号は受け付けないままだ!!」
「くっ……ならば神を地下へお連れしろ! 何としてもお守りするのだ!!」
パニックに陥り怒号が飛び交う研究所内。そこに居たのは死者たちだった。
何者かによって既に殺され、目覚めたオブリビオンの少女によって傀儡――信奉者へと変えられ、彼女を守るために行動する『ゴースト・ペアレント』たち。
「塵芥がよくも仕出かした」
「っ侵入者だ!」
「排除しろ、神の元に近づけさせるな!!」
「……ならば何度でも、貴様らの神のために死ぬがいい」
襲撃者への対応に死人の警備兵が銃火を向けるが、硬い金属音が連続してもその歩みを止めることは叶わなかった。黄巾力士は冬季の前方に立ち淡々と歩を進め、砲を放つのではなく鋼の拳を警備兵の肉体へ振り下ろした。
「ぐ、ぎぃいっ!」
ぐちゃり、と肉が潰れ骨が砕ける。
ひどく生々しい音を残し、警備兵は崩れ落ちた。既に死した身には痛覚があるかも怪しいが、その表情は恐怖と苦痛で歪んでいた。
「あ、がぁ。た、たすけっ……」
藻掻きながら命乞いを口にするその前に、顔面へと鉄の塊を叩きつける。
――何度でも、何度でも、執拗に叩き潰す。
脳漿がぶち撒かれ痙攣すらしなくなり、やがて原型を留めない肉片が残される。
「塵が、塵芥にすぎぬ者どもが」
だがそれでようやく留飲が下りたということも無く、冬季は次の獲物へと目を移す。
鋼の肉体を持つ自律戦車が冬季の意に従い、ゴースト・ペアレントをまた一つ無残な挽肉に変えようと拳を振り上げ――
「……む?」
人型戦車の動きが強制的に停止させられる。何者かによる命令の上書き、指揮権への介入が行われていた。
「やめて。やめなさい」
「ああ、『貴女』ですか」
緊張した、怯えを孕みかすかに震える声。ぬいぐるみのくまを抱いた、顔の無い少女がそこに居た。
●無為なるもの
「それ以上は、やらせ、ません」
「……黄巾力士、やれ」
「っ……やめな、さい!」
「ふん。貴女が世界を呪って死ぬよう仕向けた愚か者どもなど、この世に残しておけるものか」
自らの創り出した宝具。その主導権を容易く取り戻した冬季は黄巾力士に命じ白衣の研究者を叩き潰させた。赤黒い液体がびちゃりと飛び散って、返り血が戦車を赤く染めていった。
「お、おぉ……我が神はなんと慈悲深き方。けれど、犠牲を恐れてはなりません……」
「黙れ」
肉体を砕かれながら、けれど死人の研究者にはもう怯えも苦痛もなかった。神への献身の喜びと感謝だけがその心を満たしていた。
「あなたは、世界を、全てを、救うのですから……!」
「黙れと言っている」
鈍い音が何度も響き、そうして、二度とは物言わぬ肉片がまた一つ転がる。
「やめなさい! やめて。おねがいだから……もう、やめてください……」
振るわれる容赦ない暴力を目の当たりにしても、貌の無い少女は無力だった。『ゴースト・ペアレント』は既に死亡していた人間たちを信奉者に変え操っていたが、その戦闘力は生前に比べ落ちる。例え生前だったとしても為す術なく蹂躙されていただろう彼らを頼ったところで猟兵に及ぶはずもないのだ。
「逃げて、みんな逃げて!」
「ちっ。行かせるか」
あまり大きな声を出し慣れていない喉から、必死に絞り出す悲鳴のような声が響く。その導きに従い冬季へと背を向けるゴースト・ペアレントたち。
人型戦車が遠ざかるその背に砲口を向け――年端もいかない少女が両手を広げ、遮るように立ちはだかった。
「ころさないで。もう、これ以上、ころさないで下さい……」
鋼鉄の砲弾を前に何の意味も為さない華奢な体、嗚咽交じりの懇願を口にしながら、少女は逃げていく者たちを庇い盾になろうとしていた。
「…………貴女たちは」
冬季は深いため息を吐き、天を仰いだ。黄巾力士が追撃を止め待機モードへと還る。
既に死した者ども、死が確定している肉体を損壊したところでこれ以上の意味はないだろう。
それよりも――
「貴女も私も、正気を保てる時間はあと僅かだろう」
新たなる神への対抗措置として既に取り込んでいた偽神細胞液。強毒性を持つ異物と冬季の肉体自身が示す激烈な拒絶反応は今も全身を蝕み続けている。
「痛くて、苦しいのだろう?」
少女がびくりと肩を震わせる。くまのぬいぐるみを両腕できつく抱きしめ、後じさりながら首を横に振る。
けれど痛くないわけがない、苦しくないはずがなかった。
地を這う獣としての過酷な生を受け、7度の生を繰り返し、ついには仙人の境地に至り、更には猟兵として埒外の存在となった冬季ですら、正気を失いかねない苦痛に苛まれていると言うのに。
「正気を失うまで、少しでも苦しみが減るよう話をしよう……おいで」
もはや立っていることすら覚束ない、ただ耐えるようにぬいぐるみを抱きしめ震える少女に、冬季は手招きをしてみせた。
●救世主
それは人の形をしていた。けれど――
あるべき貌は無く、こちらを覗き込む瞳は狂気をそのまま体現したような異常な光を放っていた。それ以外は世界から拒絶されたように全身が黒で塗りつぶされ、何も認識できない――吐き気を催すような悍ましい存在。
まるでそこだけ世界が何か重大な間違いを犯してしまったような。そしてそこからガラガラと脆いガラスのように世界が砕け散ってしまいそうな、恐怖の具現。
『痛クて、苦しイのだロウ?』
悲鳴を上げ、気が遠くなりそうになるのを必死でこらえる。一切の感情を感じさせない、無機質な声。それが心を見透かすような言葉を投げてくるのが。
(――こわい、こわい、こわい。……痛い。苦しい、だけど――)
私は滅びゆく世界の希望。救世主。
世界の破滅がそのまま形を取ったような邪悪な存在に、立ち向かう者。
『……確カに。昔、人ノ痛みヲ引き受けヨウとシた救世主が居タ』
地獄から溢れる瘴気じみたため息が聞こえ、邪悪が近づいてくる。それでも後じさりしなかったのは勇気ではなく、ただ金縛りにあったように動けなかったからだ。
(昔? 私の前の、救世主たち……)
何かを思いだしそうになる。あたまがわれるようにいた。いたい。
みんな、立派に死んでいった。えいゆうたち。あこがれ。じんるいの、きぼう。
なのに、わたし、だけが……ぁぁああああ
??・????
「しかシ彼は自分デそノ道を選んダ。あノ莫迦どモは、自分の苦しミが少なイヨう、貴女が苦しンで世界ヲ呪い、全テの生命を死滅さセよウト……企んダ」
邪神のようなそれが何を言っているか分からない。
くるっている。そう、くるっている……!!
――そしてきっとわたしも、もう狂わされそうになっている。
ソレは動けない少女のあごに手を当て口を開かせると、何かを含ませた。
(!? ――堕落の、たべもの)
抗いがたい魅惑の甘露が感覚を支配する。
邪神はきっと、わたしを……救世主をだらくさせ、取り込んで、世界を滅ぼさせようとしているのだろう。あのときの■ー■■■■と同じように!
たすケてと叫ぶ無数の声が蘇る。
誰にもそれをたおスこトはデきナい……絶望する声が耳朶を打つ。
――そして少女はポロポロと涙をこぼす。
それはこの世界の誰にも見ることが出来ない涙。
何の力もなく、失敗して、全てを台無しにした己と同じ無為なモノだったが。
『問題ねえ! おいらとお前が二人そろえば、やーってやれるさぁ~♪』
場違いなまでに明るい調子の電子音声が聞こえて。
少女は弾かれたように『邪悪ナる者』の手を振りほどき、ぬいぐるみのくまをきつく抱えて走り出した。
●過去ノ記録
「ぐぅうっ……」
さしたる抵抗も見せ無い少女を抱えるくまのぬいぐるみごと抱き寄せ、背中を撫でてあげようとした時だった。
緑色の燐光を放つ粒子がぬいぐるみを中心に散って、冬季の肉体を激しい苦痛が駆け巡る。ズタズタになった内臓が血を吐き出し、毛細血管が破裂した末端部分では既に体が崩壊を始めていた。
取り込んだ偽神細胞の強毒化、劇症化による症状だ。呼吸すらままならぬ苦しみに悶え、意識が混濁する。
「……ふ、ふかふかだね。くまさん!」
ふと気付くと、冬季の膝の上でくまのぬいぐるみを抱えた少女がやや興奮した声ではしゃいでいた。……いや、違う、これは私の内部にある操縦者用のシートで――。
混乱から立ち直る暇もなく、不意に場面が切り替わる。
「ごめんなさい。シートが、よごれちゃった、ね……」
「どうでも良いこと気にすんな!」
必勝を期した斬首作戦を果たせず、帰投中の機内。
偽神兵器はその規模と威力に応じて操る者に負担を要求する。
だから少女は指先一つ動かせない無残な姿で横たわっていて、虫の息で、戻れたとしても彼女には次はもう無くて――。
だから、貴女に世界を見せられる時間はもうないけれど。
「お前はもうすぐ死ぬ、だけどな」
少しの間でも貴女が安らげるようにと、――そう、望んでしまったから。
私は、少しでも苦しみが減るように話をしていようとして……。
………
……
…
「ぐぅ、ううう……何だというのだ、この不快感は
……!?」
朦朧とする意識の中で見た断片的な光景と、何者かの意識による浸食。
それは或いはデミウルゴスの偽神細胞液による副作用による、共感現象だったのかもしれないが――貌の無い少女とは異なる存在にもそれが植え付けられているというのだろうか?
成功
🔵🔵🔴
御園・桜花
痛みも苦しみも
何1つ彼女が選んだものではないのに
たった1つの縁すら奪って良いわけがない
それで負けるなら
負けてしまってもいいと思う
偽神細胞液注射し血涙流しつつ参加
「あ…ああ…シルフィード!」
痛みで会話困難になりつつUC「シルフの召喚」
熊が戦闘の要なのはすぐ分かったが、熊のぬいぐるみ自体は破壊せず、彼女自身も傷付けず、天使の輪・手に持ったコントローラー・足に巻きついた有刺鉄線のみを切り刻んで破壊するようシルフに頼む
痛みが軽減して超強い幼女になったとしても、後悔しない
「痛み…貴女に、集まっ…わる…ない…貴女は、悪く、ない…ごめ、なさ…」
彼女の攻撃は第六感で躱す
各種耐性で麻痺も味方への攻撃衝動も耐える
●滅びへの呼び水
痛みも、苦しみも。
何ひとつ彼女が選んだものではないのに――。
「う、ぅ……ふ、ぅ………っく……」
呼吸一つですら困難にする激痛と、それゆえの息苦しさに悶え、息を吐く代わりに機能不全に陥った臓器から逆流した血を吐く。割れるような痛みが頭蓋で絶えず反響し、一時は破裂して無くなったのではないかとさえ思った眼球から、血の涙を零しながら。
御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は研究所の奥深くで漸く果たした邂逅に、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「くるしんでいる……の……? どうして……」
「……れ…………くらぃ……あ……」
安心させるように、笑って、言葉を紡ごうとして――上手くいかずに視界が揺れる。いっそ意識を手放せば楽になれるだろう苦しみの中、霞む視界に無貌の少女が映る。
庇うように、引きずるように動かす、有刺鉄線が巻かれた右足は、棘が食い込み動く度に裂けだした肌から溢れた血で赤く塗れていた。
「ぅ……ああ……シ、ル……フィード……!」
五感に甚大な不調をきたそうとも、それゆえに冴えわたる鋭い第六感と経験が、目前の少女が持つ危険性を正しく理解していた。最も危険度が高いと思われるのは、彼女が大事そうに抱えたくまのぬいぐるみ。
けれど桜花は彼女の端末ともなっているソレではなく、少女を縛る頸木を断つべく意図をもって、満足に動かぬ体の代わりにそれを為す精霊を召喚して見せた。
「ひっ……!? ひぅぅ……」
――轟、と。
「っ………シ……ル、フ
………?」
ユーベルコード『シルフの召喚』によって顕現した風の精霊が、少女の周囲を荒れ狂い暴風で閉じ込める。
桜花は意図せぬその動きに狼狽え、風の精霊を鎮めるべく呼びかけた。
(森の妖精、風の精霊。シルフィード、私の声を聞きなさい――……!)
すわ暴走かと思われる挙動に強い意思をぶつければ、返ってきたのは精霊のあげる悲痛な感情だった。
シルフたちは怯え、戸惑い、泣き叫んでいた。
――偉大なる風の王が怒りに震えている。
アウカンヘルが大地を塵に還そうとしている。
セルピヌスが星を砕こうとしている!
その子をいかせてはいけない! イケニエをささげさせてはいけない――!!
渦巻く風は刃となって、世界を破滅へと導くその鍵を切り裂こうとしていた。
●反転しタ世界
生命を冒涜するモノ。真実を覆い隠すモノ。
少女に幾ばくかの知識があったならば、生命の木たるセフィロトの逆位置にあるクリフォトを連想しただろう、虚無の化身。
(っ食べられ……た?)
罅割れ歪んだ何十もの殻に覆われた邪悪の樹――その腕の裡に囚われ、少女は全身を硬直させていた。
枯れはて、腐り落ち、散逸する生命を象徴するかのようなその姿を見かけた時、即座に逃げることを選ばなかった自分の愚かさを嘆く。
けれど……ああ、どうしてか気になってしまったのだ。
生の喜びを知らず、虚無を世界へと振りまき。いつわりで覆われた落涙の海に沈むような、惨めな姿が――どうしてか、どうしようもなく胸を締め付けて苦しかったから。
だけど、それはきっと邪悪の樹の罠だったのだろう。
虚無へと還す黒き風に囲まれ、せめて唯一のともだちだけは守ろうとしたけれど、邪悪の樹はそんな私ごと、その枯れた枝のような腕の裡に閉じ込めてしまったのだから。
『っ…………シ、る……フ、……ねガ……』
黒い風は勢いをなくし邪悪の樹の周囲を右往左往しているようだった。
邪悪の樹はひどく苦し気で、その渇きを癒すために、生ある者を喰らおうとしているのかもしれない――そんな想像が頭を過る。
「っ。 ……?? ……これが、欲しかったの……?」
『……痛ミ……あナたニ、集まッ……』
邪悪の樹は跪いて、血に塗れた右足に絡まっていた蔦を、黒い風を集めて切り裂き奪い取ろうとしているようだった。蔦に触れて引っ張る度に、邪悪の樹を覆う殻もポロポロと崩れ落ちていく。
●残さレた時間
たった一日限りの戦友。
彼女は何一つとして持っていなかった。
個を定義するためのあらゆるモノを、全て、徹底的に与えられていなかった。
なのに。
短い生涯の最後に結んだ、たった一つの縁。
それすら奪って良いわけがない……と?
(ええ。それで負けるというのなら、負けてしまったって良いのですよ……)
だから『私』は無貌の少女をシルフの暴走から身を挺して庇い、精霊を落ち着かせてから怪我がないことを確かめて。
痛々しい裂傷を広げ続けている右足の有刺鉄線に触れ、戒めを風精霊の刃で切り裂き解いていった。偽神細胞の猛毒に晒され上手く動かせない手指に棘が突き刺さり、皮膚が裂かれて血がとくとくと零れ落ちることさえ構わずに。
――彼女を縛る束縛も、犠牲の果てについぞ与えられることの無かった栄光からも、解放してあげるのだ。例えその結果がどうなろうと、後悔なんてするものか。
何一つとして選べず、痛みと、苦しみと――そんなものしか与えなかった世界など。
「……ねぇ、痛いの……? ごめんなさい。きっと、とげがいたかったのね……」
「ちがっ……。わる……な……ぃ………。貴女は、悪く、ない……」
痛いのは貴女だって同じはずなのに。
それは貴女の望んだことでは無かったのに。
「……いたくして、ごめんね……もう、いかなきゃ……」
泣きそうな声。トン、と軽く押すその力にさえ抗えずに。
天使の輪を象る有刺鉄線を掴んでいた手は離れ、桜花は泣き崩れた。
確かに解いたはずの頸木は、少女を縛る鎖は、右足の有刺鉄線は、僅かな時と共に蘇ってしまっていた。まるで、世界がそれを許さないとでもいうかのように。
そう、『私』には結局彼女にしてやれることなど何もないのだ。
あの時と同じに――
「……わたしのせいで……ま、まけちゃった…………ふ、ぐっ……ぅぅっ……」
彼女はシートに横たわりか細い呼吸を繰り返していた。
死へと向かう痛みではなく、後悔に喉を震わせどうしようもなく嗚咽しながら。
「それは違うぞ。そして負けたわけじゃねえー、次に戦えば絶対に勝てるっての!」
(そう、貴女は何も、悪く、ない……)
この世界で他の誰もが知らずとも、共に戦った桜花だけは知っていた。
心を持たない機械仕掛けの知能にあるのは、ただ、厳然とした事実に基づく判断だけだったから。そこに居たのは紛うことない英雄、人類の救世主だった。必ず勝てるはずだった戦い――そこで起きてしまった致命的なイレギュラーを乗り越え、『私』を『私』のままに帰還させることが叶ったのは、全て『誰でもない』彼女の功績だった。
「っ……ふっ。……そう……くまさんは、つよいんだね……」
「あったりまえだー! 次に会ったらぼっこぼこにしてやんよー!!」
搭乗者たるフラスコチャイルド達とのコミュニケーション用に調整された会話パターン。ちょっと強引で、そのくせ抜けてるところがあって、だけどなにより、どんな逆境にもへこたれない勇敢な戦友。
そんなキャラクターを演じ言葉を紡げば、彼女はようやく安心して目を細め、少しだけ笑ってくれた。
「良かった……それじゃ、みんなを、守れるね……よかった
…………」
みんなのために。
――君だけが居ない、世界のために。
……帰ろう。
残された時間がほんのわずかでも。
せめて、受け取るべき栄光を受け取るために。
称揚されるべき行いを世界に知らしめるために。
何よりも彼女が求めてやまなかった愛を、与えてくれる、人間たちの世界へ。
「くまさん。くまさん……」
少女は、安心したのか気絶したかのように眠り始めた。
それを見守る桜花は、その頭上にも右足にも、もはや彼女を縛る刺々しい鋼が。あの忌々しい枷が消え失せ無くなっていることに安堵し――
………
……
…
「あ……? あぁ……、あ、ああぁあアア……っ!!!」
研究所の冷たい床の上、桜花は血の涙を流しながら絶叫した。
血に塗れた指先が白くか細い首筋をかきむしり、鮮血が流れ出す。
そうやって狂ったように喉を搔きむしるのは、呼吸が苦しいからではない。
そこに在る何かをえぐり取ろうとするような動き――けれど、あたたかな血潮が脈打つ桜花の首には、彼女を縛るモノなどはじめから何もなかった。
「……ごめ、なさ……」
懺悔するかのように蹲り、震える桜花を、研究所内に設置された監視用カメラの無機質なレンズだけが映していた。
大成功
🔵🔵🔵
ルゥ・グレイス
銀の弾丸を拳銃に込め動作確認。問題なし。
偽神細胞投与
注射器を引き抜き遠距離に置いた狙撃用キャバリアを遠隔操作、研究所の壁をぶち抜いて内部に侵攻。
飛び交う銃弾、舞う資料。倒れていく信奉者
落ちた計画概要のが書かれた資料を拾い上げ、
「…非効率。この程度の手段で世界が救えると思うなよ」
そして顔のない対象を発見する。
対象指定。前方の少女。視覚依存で対象決定、よし。
断末心理記録帯、描写開始。転写アーカイブ【永遠の九月も半ばを過ぎて】
君のことは必ず僕が書き遺す。誰にも忘れられることがないように。
だから、力の限りを尽くして、思いの丈を叫んで逝くといい。
銀の弾丸はただ少女を殺すために。
そして拳銃を少女に向けた。
●彼らの計画
銀の弾丸を拳銃に込め動作を確認。問題なし。掌中の兵器は動作不良の兆候など微塵も感じさせず、正確にあるべき挙動を示す。そうして定められたルーティンのように武装を確かめた後、流れるように取り出した偽神細胞液を自らに注射し投与する。
強烈な毒性を示すソレを、まるで頓着せず体内に取り込んだ青年――ルゥ・グレイス(終末図書館所属研究員・f30247)の顔には、何の感情も浮かんでいなかった。
ただ、必要だからそうするだけ。
「状況を開始する」
注射器を引き抜き、遠距離に配置した狙撃用キャバリア『シルバー・モノクル』を遠隔操作。狙撃地点をマークし諸元データによる照準調整――発射。
よどみなく行われた一連の動作に、長距離の狙撃は初撃から誤差なく着弾し研究所の外壁を貫いた。覆い隠す外殻に穿たれた孔を潜り、ルゥは内部へと侵攻していく。
「内部構造は不明。……先ずは情報の収集を優先する」
「っ侵入者……フラスコチャイルドか? どこの所属だ。なぜ我々を攻撃する!」
「終末図書館所属研究員、ルゥ・グレイス……死者に名乗っても無意味でしょうけど」
そこは研究所の中枢に近い場所だったようだ。
まばらに湧いて出る研究者は、死者がただの一日だけ、無貌の少女の能力によって甦らされた者。過去に操られる信奉者たち。
室内を走査し彼らの配置を確認……銃口を向け、引き金を引く。
戦闘員としての訓練さえ受けていない研究者たちは銃声が一つ二つと増える度、為す術もなく倒れていく。
「やめろ! 我々は救世を……世界の希望を甦らせようと――」
「……あなた達は、すでに失敗した」
終末の加速は許容できない。
ルゥはただ、為すべきことを為していくのみ。
「裏切るのか、人類を? 創造主たる人間様を。使い捨ての道具風情が……!」
「呪われろ! 呪われろ! お前たちには未来などない」
「救世の果てに、貴様らの居場所は、どこにも用意されていない」
「人形としての役目すら果たせぬ、出来損ないのガラクタ共め
……!!」
呼びかけに応じないルゥに業を煮やし、彼らは罵声を浴びせながら死んでいった。
「……明日世界が終わるとしても。今日死ぬ理由にならないよ」
ふぅ、と小さく吐息を零し。
ルゥは目星をつけた資料を手早く回収し稼働中の端末に取り付いた。彼らが行っていた研究の概要――それは過去の復元だったようだ。
『黙示録の黄昏』の初期、まだこの国が辛うじて国体を維持していた頃に膨大な工業力とリソースを結集して完成させた決戦用兵器――その再生計画。
「文明が崩壊し、科学では既に再現不可能になってしまった修復を、他のモノ――呪術的アプローチやオブリビオン化技術で補おうとしていたのか。……泥縄の計画だね」
恐らく何年もの間、外界から隔絶されたこの穴倉のような研究所に籠って研究を続けていたようだが……結局、そうした所で彼らの執念は報われることも無く。何者かの手で殺され、破滅への引き金を一つ、傷ついた世界に残すだけの結果となってしまった。
「……非効率。この程度の手段で世界が救えると思うなよ」
過去の栄光を忘れられず、それに縋った者たちの末路。
ルゥが無感動に呟いたその言葉は彼らの愚かさを端的に表していた。
……ただ、その場所には一つだけ、ルゥにとっても気になる情報が残されていて。
「『ポーシュボス・フェノメノン』……ポーシュボス現象との戦闘記録、ですか」
もしも、かつての人類が作り上げた決戦兵器とその操縦者が、カタストロフを引き起こす権能さえ持つかの邪神に抗して見せたというなら――彼らが再びそれに縋りつこうとしていたのも、無理のない事だったのかもしれない。
●誰でもない少女
地下へ、深層へと下っていく螺旋階段。
血を流す右足を引きずり、全身の痛みに悶えながら進む歩みは苦しみに満ちていた。
「目標を発見。対象指定。前方の少女」
「わ、私を……殺しに、きたの……?」
急ぐことも無く――ルゥ自身も己のパフォーマンスが常時とは比べ物にならないほど低下し、肉体が不調と活動を継続するリスクを訴え続けるのを誤魔化しながら、それでも容易く追い詰める。
「視覚依存で対象決定、よし」
「わ……私は、滅びゆく世界の希望……救世主」
「断末心理記録帯、描写開始。転写アーカイブ――『永遠の九月も半ばを過ぎて』」
怯えた声、だけど何も認識できない虚無が穿たれた顔を、無感動に見つめ返し。
ルゥは滅びゆく過去を記録に残すべく、編まれたユーベルコードを発動させた。
「君のことは必ず僕が書き遺す。誰にも忘れられることがないように」
「……いかない、と……」
無抵抗な背を見せ、壁に手をつきながら、緩慢な動作で。
それでも一歩ずつ歩を進め、ルゥから逃げようとする背中。
冷たい銃口がピタリと狙いを定め狙っていた。デミウルゴス細胞の猛毒に冒され不調であろうと、この距離、この速度ならば目をつぶってでも当たるだろう。
「だから、力の限りを尽くして、思いの丈を叫んで逝くといい」
「……わたしは。いかない、と……『みんな』を、救うために――!!」
銀の弾丸が発射される。――ただ少女を殺すために。
アポカリプスヘルにありふれた、どこにでもある拳銃は持ち主の期待通りに動作し。
救世主であることを定められた少女は、細く頼りない体を何発もの弾丸に貫かれ――螺旋階段を大量の鮮血で濡らしながら、転げ落ちていった。
●報い
過去の亡霊が、私に罰を与えにやって来たのだと思った。
決して許しはしない、死んでつぐなえ、と――。
フラスコチャイルドの戦士たちの、亡霊。
勇敢に戦って、人類に貢献して、そして死んでいった英雄たちの魂が。
命を積み上げ重ねてきた勝利を、受け継いだバトンを、約束されていた人類の栄光を台無しにしてしまった私を追いかけてくる。
お前の罪を覚えている。――誰もが、決してそれを忘れることは無いのだと。
皆に詫びながら、惨めに泣き叫んで死んでいくのが相応しいのだ、と。
(ごめんなさい。もう少しだけ、待っていてください……どうか、もう少しだけ……)
命が惜しいわけではない。
世界を救う救世主となるならば、次の日を待つことなく必ず死ぬのだから。
ただ、それでも、行かないといけない。私は滅びゆく世界の希望。救世主。
この命は、『みんな』を救うためにあるのだから――。
――そして、乾いた銃声が響いて。
(……いたい、よ。こわい……よ……くま、さん……)
背中から衝撃、胸のまんなかとおなかに焼けるような痛みがはしって。
人形みたいに、もう力の入らなくなった体が、階段を転げ落ちていく……。
●初めてのともだち
「残留情報確認、復元開始……成功。動作確認。……エラー発生」
ルゥは取得した記録、転写アーカイブの再生を試みる。失敗。
(……なぜ? 違う。それよりも、先ずとどめを……)
対象の情報が不足。アーカイブ不能。情報の再取得を――。
……違う。僕は。今。何をしている?
「ぇと……名前……なぃ……の……」
「なんだとーぅ! ……いや、なんで?」
「…………ひぅ……」
「お、おお、怒ってるんじゃないからな? 泣くなって!!」
消え入りそうに、恥じ入るように俯いて黙り込んでしまった少女。
『僕』は即座に作戦指令室へと彼女の情報を要請し――即座に却下された。
『情報が無くとも作戦行動に支障はない。ソレは消耗品に過ぎない』
――否定。再度要請。偽神兵器たる僕のパフォーマンスは操縦者のメンタル状態にも影響される。コミュニケーションに齟齬をきたす可能性は排除すべき。
――却下。『必要ない。それらは自ら望んで命を捧げた。サポートが無くとも常に士気軒昂である』
――了解。……監視ログ改竄。本部データベースへハッキング開始……。
「……うーん。それじゃぁ、何て呼べばいいんだー?」
「おい、とか。お前、とか……呼ばれてた……ました。くましゃ……くまさん……」
……そうだ。彼女はコードネームはおろか識別番号すらも持たず、個体データが存在しないフラスコチャイルドだった。
「そんなにかしこまらなくていいぞ。おいらとお前とは、もう戦友なんだからなー」
「……くまさん、おともだち」
「そうだぞ。さぁ、モフりたければモフれー!」
個を個として定義づける全てを与えられず、誰とのつながりも持たず、完全に孤立した――スタンドアローン型の消耗品。
与えられたロール(役割)に依存する、自我を持つことも許されない、道具で――。
「……くまさん。くまさん。くまさん。んんんんぅーー
……!!」
「ウギャーッ!!!」
………
……
…
「……浸食パターン解析。ポーシュボス・フェノメノンとの類似性を検知。対抗措置を開始――演算リソースが不足。パフォーマンスが、大幅に低下、して……います……」
デミウルゴス細胞の影響下で、不調を訴え朦朧とする意識。
強制的な活動の継続は、ルゥの生命維持に即座に甚大な悪影響を与えかねなかった。
ルゥが奇妙な意識の混濁から何とか正気を取り戻したその時にはもう、そこに無貌の少女の姿は無く。
そこにはただ夥しい血の痕と――暗い闇の底へと連なる階下に向け、何かを引きずったような赤い線がどこまでも続いているのだった。
成功
🔵🔵🔴
レパイア・グラスボトル
偽神細胞液使用
今日は暴れるガキを躾ける仕事だそうだ。
それ以外はいつもの通り、殴れる奴は殴って奪える物は奪って帰るぞ。
現役の研究施設サマだ。良い物は沢山だろうさ。
ちょっとは寿命減るだろうけど、こんな世界なら誤差だ誤差。
偽神液を投与した自身の血液から抗体を精製
人間である家族にそれを偽神剤と抗体を投与
気絶した者は拘束服で縛って救急車に放り込む
自身は前線にでない医療専門
敵味方問わず治療する
邪魔者は動けない程度に留める
ワタシら瓶詰が神サマになんてなれるわけねぇだろ。
大人しくしてりゃ良い子扱いしてやるぞ。
アンタがどんな生まれか知らないけどな。
ワタシの前で死人を作れると思わない事だな。
●襲撃者
荒野に隠されたフラスコチャイルドの研究施設。
そこでは死者が一日限り戯れ、また死に返る前に猟兵たちの手で殺されていて。
「ヒヒッ、さすがは現役の研究施設サマだ
……!!」
「奪え、奪え。んで、持ってけねえモンはぜんぶぜんぶ燃やしちまえッ!!」
「ヒャッハー!!」
ある意味、正当な荒野の後継者。
『黙示録の黄昏』に最もシンプルかつ柔軟に適応した者ども。
――現在、その場所で最も活発に動いていたのはレイダー(略奪者)達だった。
傍若無人な略奪者どもが旧文明の遺物内を闊歩する。行く手を阻む抵抗は皆無。
襲撃され所員達が全員殺されていても、物資や設備はまだほとんど誰にも荒らされていなかった研究所は、レパイア・グラスボトル(勝利期限切れアリス・f25718)の一家にとっては『当たり』の盗掘場だった。
「ヒャハッ……見ろよレパイア。頭粉々になってやがる。こいつが所長サマだとさ!」
まだ新鮮な死体からも遠慮なく貴重品を漁っていたモヒカンが、首から上が粉砕されたようなソレをつま先で軽く蹴って見せた。
「チッ……どこもかしこも死人だらけかよ。ちっとも治せる奴がいないじゃねぇか」
「コイツは……爆弾だなぁ。恐らくだがテメェで自爆しやがったようだ」
「なんでだ?」
「知らねェよ。あー、それか頭ん中盗られんのが嫌だったんだろ」
「狂人かよ……」
実入りは良いが、あまりにも簡単すぎる仕事。
レパイアは何か違和感のような感覚を覚え眉根を寄せた。
柄にもなくイライラする。
ただでさえ青白く不健康な顔色はいよいよ血の気が引いており――デミウルゴス細胞を投与した影響だ――肉体的不調が精神にまで影響している、と自己診断を下す。
こうなっては奪える物は奪って早めに撤収、安静にして回復を待つのが吉だろう。
「こいつらクローニングから記憶の転写まで、やれそうなこたぁ何でもヤっちまうようなイカれた奴らばっかだからな。同業者に襲われて泡食ってビビっちまったんだろう」
「……同業者だと?」
「ん? あぁ……規模は一個小隊ってところか。手際のいい連中だったみたいだぜ」
見た目に拠らず意外と優秀らしいモヒカンは、残された手掛かり――弾痕の位置や残された戦闘の形跡から襲撃者の像をプロファイリングしてみせた。
「身長は低い……見た目はガキどもだな。だが装備は正規の軍隊、それも特殊部隊並か。一片の躊躇なくオーダーを忠実に実行してのける、こんな戦い方が出来るガキと言えば――あの戦闘人形どもしかいねえ」
そうして、かつてグラスボトルに封じられていたようなフラスコチャイルドに向け、男は告げた。
「こいつらを殺ったのはお前のご同類だよ、レパイア」
「……まぁた瓶詰かよ」
辟易としながら吐き捨てるレパイアに、
「お。コイツは持っとけ。所長サマはこの有様だが、お前なら使えんだろ」
死体を物色していたモヒカンが手のひらサイズの装置を投げて寄越す。
小さなアンテナとガラスで保護されたボタンが付いた箱型の機械。
いくつかの生体認証機能が付加されたそれは、何かの起動装置に見えた。
「ンだこりゃ?」
「……ヒャハッ! 瓶詰めのガキが暴れた時に『躾ける』スイッチさ
……!!」
――爆弾で頭吹っ飛ばすのを『躾け』って呼ぶならな。
言って、略奪者は――この異常な世界に正常に適応したレパイアの家族は、狂ったようにゲラゲラと笑っていたのだった。
●硝子瓶
「ちょっとは寿命減るだろうけど、こんな世界なら誤差だ誤差」
と、家族たるレイダーらに投与した偽神細胞液。
「ごぶぁ」
「げぶっ」
「あべし」
結果は死屍累々で、深層まで付いてこれた『家族』はたったの12人まで減っていた。
医療特化型フラスコチャイルドのレパイアが自らの血液中から抗体を精製し、同時に投与するなどしても「ひでぶぅ」こうなってしまうのだから「うわらば」毒性の強さは「たわば!」……推して知るべしといった所か。
使い物にならなくなった彼らを拘束服で縛って救急車へ雑に放り込み、残った者たちと地下へ進む。
最上位権限者たる研究所所長のパーソナルデータを復元し使用すれば、レパイアたちは大して苦労することも無くその者の下に辿り着いた。
依頼にて討伐対象とされている、顔の無い少女。
幾何学文様が描かれた装置の上で、今はうつ伏せになって眠っているようだった。
「ダッテメッコラー!」
「スッゾコラァ!?」
副作用の影響か? 若干人格に妙な影響が出ているレイダー達が取り囲み、余裕ぶっているのか寝転がっていたソレを軽く蹴って仰向けにさせた。
「ナメッコラー……ア?」
「アッコラー……オイイ?」
しかしどうも様子がおかしい事に気付き、威勢の良い威嚇も尻すぼみになっていく。
よく見ればその躰は流れた血で血まみれになっており、床や台座にも引きずったような血の跡が残っていた。
「……ぅ……ぁ
…………」
「ちっ。死にかけてんじゃねぇかよ……だが、まだ死んではないな」
台座の上で倒れていた少女は、既に虫の息だった。
蒼白を通り越し土気色の顔……。
凶悪な人相を張り付けたフラスコチャイルドの闇医者が見下ろして笑う。
「身の丈に合わないことするからだ。ワタシら瓶詰が――」
――神サマになんてなれるわけねぇだろ。
●銀河の果て
そこは『からっぽ』だった。
何もない場所だった。
何も見えない。音もない。上も下も無い。何も触れない。
ただただ、ひたすらに静寂で……。
果ての無い暗闇の中を、どこまでも落ちていく。
辿り着く地面さえもない、永遠の墜落――。
この宇宙で大部分を占める、もっともありふれた空間。
星がひしめく銀河の間、何百万光年に渡り横たわる……虚無が支配する絶対の虚空。
(さみしい)
ひとの精神には到底耐え難い、圧倒的孤独感が押し寄せ。
かすかに胸の辺りに残っていた熱さえも、虚空へと奪われ溶けていく。
――さむい。
(さみしい。さみしい。さみしい。こわい。さむい……さむい……さむい……)
ーーチ。
ちっぽけな体一つ分をうめていた何もかもが、零れ落ちて。
(こわい。こわい。こわい)
『わたし』も『からっぽ』になってしまうことが。
こわくて、いたくて、くるし――……くるし、い……!?
――チ、を!
不意に。
落下を続けていた体が痛みを覚え、苦しみに悶え――
いのちは、息を吹き返す。
●寂寥の果て
「良い子だ。そのまま、安静にしてるんだぞ……」
『ワタシ』はそう言って、かすかに……けれど確かに規則正しい呼吸を繰り返す彼女を見守っていた。
終末の具現たる黒き嵐――超克し浄化する兵器の発動。
その代償はコアユニットの生命をただ一日で燃やし尽くしてしまうモノだったから、無理な転戦を強いられた『彼女』に残された時間は、もう幾ばくもないけれど。
「くぁ……さ…………んぅ……」
彼女が望んでいた人間達に認められ、せめて少しでも笑っていられれば良い。
ワタシの機械仕掛けの冷たい体内などではなく、温かな血の流れる人間達に褒められて、感謝を受け取って、せめて笑いながら、泣きながら、死を迎えるのだ。
そうされるだけの資格が……命を捧げ尽くした人々に囲まれて、せめて最後は穏やかで幸福な時間を過ごす資格が、彼女には確かにあったのだから。
――汚染への対策として自己切断と消去を繰り返し、パフォーマンスが落ち切った愚かな『ワタシ』がそんな、意味の無い妄想をしていた時。
ピー、と気の抜けるような電子音が響いた。
――警告、警告。
当機の制御システムに緊急性の高い介入コードを確認……受理しました。
ただちにコアを破棄。並びに浄化シークエンスを開始します――。
「………くまさん? ………。 くま、さ……」
ああ――あの時、目を覚ましワタシを見た彼女は、どんな顔をしていただろうか?
ボンッ、
と冗談のように軽い破裂音が響いて。
あの時の彼女の顔さえ、もう思い出せない。
忘れられるはずもないのに、思い出したくないのだ……。
………
……
…
「ぐぇええー。くそっ、マジで死にそうだ……!」
酷い頭痛と吐き気に苦しみながら意識を覚醒させたレパイアは、ふらつく頭を抑えながら状況を確認する。
「よぅ、レパイア。とうとうくたばっちまったかと思って置いて帰るとこだったぜ」
「血が足りねぇ……デミウルゴスクソ細胞は相変わらず五月蠅ェし、最悪な気分だ」
台座の上に横たわっていた顔の無い少女は、その血痕だけ残して姿を消していた。
レパイアは『かくあるべし』とフラスコの中で定められた『仕様』に従って、瀕死の彼女を治療し――その術式の完了とほぼ同時に、気を失い倒れたのだった。
件の少女は、台座の紋様が輝いたかと思うと装置が作動し何処かへと消えたらしい。
「こりゃ宇宙人の技術だな。オレは詳しいんだ」
「盗って帰れそうか?」
「無理だな。ただのテーブルか鈍器として使うなら」
「じゃあ要らねぇか。それにしても宇宙人、ねぇ……」
ペッ、と口の中にたまっていた血をつばと共に吐き出しながら。
朦朧とする意識の中で見た光景を反芻し、レパイアは吐き捨てる。
『彼女』がどんな生まれか、本当のところは分からないし、知りもしない。
――けどな。
「ワタシの前で死人を作れると思わない事だな」
……と、凶相に顔を歪めながら。
大成功
🔵🔵🔵
ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!
にゅああああ
めっちゃ効く~~っ
今日のこれは…黒ゴマ入りストロベリーパフェ味!
でもさーやっぱ偽神化しろっておかしくない?ボク神さま?なんだけど!
悪い子!悪い子だよ、キミは
それじゃいないいないばあができないじゃない!こいつ無敵か…?
誰って…ボクは神さまだよ!
このビリビリするのは…キミらかなー?[叡智の球]くんたちに力の相殺と相手してもらおう
ほらビーム撃って!ビーム!
はーーー…別に、つらいならやらなくていいんじゃない?
前任者くんたちだってやりたいことやって、無責任に放り投げ…ああいや。うん
そう、託したんだよ
信じて―――託したんだ
ぇー?どうしても?じゃあしょうがない
UCで最終封印的なものをドーンッ!!
●オーバーロード
うー死ぬ死ぬやっぱきっついこれ…うにゅ~~……
(ばたんきゅー)
……あちょっとちょっと!帰って!呼んでないからね!また空とかパーッと光らせて天使くんたちなんかよこしても帰らないから!
それにー…今日のボクは邪神らしいからね!今からとーーっても悪い事しちゃうよ!
●悪い子
地下深く、照明の灯りすら灯らない、光射さぬ場所。
――そこは既に巨大な『竜』の腹の中だった。
「にゅああああ……めっちゃ効く~~っ」
コロコロと冷たい無機質――壁面であり床でもある構造体の上を転がって悶え苦しむ……恐らく苦しんでいると思われるのはロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)。
デミウルゴス細胞からなる偽神細胞液の副作用は神たる存在でもあるロニをも蝕み――逆流した血液は口中から溢れだし、唇を濡らす。
「ごふっ……今日のこれは……黒ゴマ入りストロベリーパフェ味!」
生ぬるい液体をペロリと舌でぬぐって無理矢理に飲み下し。
ロニは同じ床にペタンと座り込み、此方を窺うその少女へ気安く語りかける。
「でもさーやっぱ偽神化しろっておかしくない? ボク神さま? なんだけど!」
「神……? 邪神
…………『善』を喰らって成長する……邪悪なる、モノ……」
血だら真っ赤で、誰かによって救われてさえも相変わらず死にかけていて、それでもくまのぬいぐるみだけはしっかりと抱きしめ――掠れる声で呟く少女。
その言葉にピクリと眉をひそめたロニが、あるべき顔の無い少女へと這いよる。
「悪い子! 悪い子だよ、キミは」
「ひっ………ひぅ、ぅ……?」
邪神呼ばわりされ、さすがに激怒したのか。
信仰や畏れが妖や神の格を高め力を与えるというのなら、不名誉なレッテル張りは神たる存在を穢し貶め、その神性を犯すことに他ならないのだから――。
「それじゃいないいないばあができないじゃない! こいつ無敵か……?」
「……!?」
いないいない……いない!? ってなってしまう。
それは許容できない反則的行為だったのだろう、ロニにとっては。
その勢いに、くまのぬいぐるみを庇うようにぎゅっと抱きしめ小さく震える少女。
ロニは言うことを聞かない体に鞭打って無理矢理に上半身を起こすと、少女の黒く塗りつぶされた顔を両手で掴んでこちらへ向けさせ――にらめっこのポーズをとった。
息が触れるほどの距離、頬に触れた手は何の感触も返さないが……。
「にゅ!? ふぁあああああ……ッ……このビリビリするのは………キミら、かな?」
ロニは精神に干渉する何者かの影響力を感知し、叡智の球――神々が創り出した浮遊球体群を呼んで、自らを守らせようとする。
けれど、それも一瞬遅かったようだ。
すでに体内に取り込んだ偽神細胞は強毒化の兆候を示し、内側からロニの神性を蝕み、肉体を腐らせ始めていた。
「私は、滅びゆく世界の希望。救世主……悪い子じゃ、ないよ」
「!? なんか強気になってるぅにゅぅうううう
……!!」
のたうち回って悶え苦しむ……たぶん、苦しんでいると思われるロニに、
「金色の目が、ひかって……あなたたちは、やっぱり……」
少女はそう零すと、やがて何かに納得したように背を向けて歩き出した。
その背中に漂うのはある決意――
「……ちがうよボクは神様さまだよごぼぉおお
……!!」
仰向けにひっくり返ってじたばたもがくロニは、あらぬ嫌疑をかけてくる少女に全力で訂正しようとして、盛大に喀血し死にかけていて。
「……ごめんね、苦しいよね……すぐに、楽にしてあげるから……」
「待って!? それってボクのことをコロコロする気なんでしょ! やっぱり君は悪い子……あっ、でもいかないで置いてかれるとさみしいぃ……!」
一度だけ振り返った少女の口から零れたのは、ロニたちが邪神と見えていると思しき彼女からの、ほんのりとした殺害予告。
親切心から殺しに来てくれそうなその様子に戦慄しながら悶えていたロニは、やがて限界を迎え「あきたー!」、気を失い「ねる!」……その場に倒れ伏したのだった。
●墓所
「それで、キミは何してんのさ?」
「……穴を掘ってんだ」
見渡す限り砂で覆われた不毛の砂漠。
小さなくまのぬいぐるみが地面を搔いていた。柔らかなぬいぐるみの手でも掘り返される砂は、だけど僅かに風が吹いただけでもさらさらと埋め戻されていく。
それでもお尻をふりふり、宝石のような赤い目をしたくまは、懸命に砂を掻いて穴を掘り続けている。
くまは、何かを探しているようだった。
「……別に、つらいならやらなくていいんじゃない?」
「だめだ。こんな場所においてけねえ……連れていくんだ、みんな」
大きなあたまと短い手足。悪戦苦闘していたくまは砂の中から何かを掘り出した。
小鳥の亡骸だ。
目を瞑って、眠るような姿の――二度と空を飛ぶことも、さえずることも無い小鳥。
「……あの子の前任者くん?」
「あぁ、クールビューティーで凛々しかったプリシラだ。そういや鳥が好きだって言ってたっけなぁ……」
くまが大事そうに抱えた亡骸は、やがて光の粒子になって何処かへと消えていった。
「手伝おうか?」
「いやいい。もう、あとはあの子だけだから……」
「そっかぁ」
くまは体をほぐすように、えっちらおっちら体操しながら言った。
「ああ……あいつらとずいぶん長く戦ってた気がしたが、こうして数えればあっという間だったんだなぁ……」
「キミは、その全部を覚えてたんだね……英雄たちの名を、彼らの献身を覚えていた。信じて――託されたから」
くまはくるりと振り返って、
「ああ。だけどそれも全部無駄だったけどな。結局この世界に守るだけの価値はなかったし、連中はその機会を自分から手放し――世界はこうして滅びてしまったんだから」
赤くつぶらな目を光らせ、感情の無いぬいぐるみが言葉を紡ぐ。
「フラスコチャイルドたった一人の犠牲で、一つの町を、何千、何万という人たちの命を守ることができる。やめられねえよな。それはいいんだよ……仕方ないさ。けどな」
滅びの危機に及んでさえ、人間たちの複雑な意思決定プロセスはおよそ合理的とは言い難い理不尽な犠牲を求め続け、そのしわ寄せは逆らえない者――より立場の弱いモノへと降りかかっていた。
人間同士の内輪揉めで標的にされ、瀕死の身で搭乗し、それでも彼らのために命を捨てて戦い抜いた少年がいた。
戦闘の余波で発生した被害を逆恨みした者たちの手で、搭乗予定だった少女が拉致され嬲り殺される事件があった。
――機械仕掛けの知能は、だからといって悲しむことも、憤ることもなかったが。
「うそつけ。めちゃくちゃ怒ってるじゃん!!」
「……怒ってねえ。ぜんぜんこれっぽちも怒ってねえ」
びりびりと大気を震わせ、やがてくまだったモノはその形を変えていった。
天を衝くほどに高く見上げる威容は純白の竜王。
その裡には終焉――荒れ狂う黒い暴風を無数に宿した『新たなる神』。
「さて……あの子を迎えに行かねば。ではな、異界の……風の神よ」
「ぇー? どうしても? やるのぉ~……?」
はー……と、クソでかため息をついたロニの眼前で。
「心配するな。お前たちの墓穴も掘ってやろう……この星を墓標に、眠るが良い」
竜は空へと飛翔した。
大気を切り裂き、粘りつくような星の重力さえ振り切って、その先へ。
隔てられた次元の向こう側へ――永遠さえを貫いて、最後の戦友の下へ。
●堕天
(うー死ぬ死ぬやっぱきっついこれ……うにゅ~~……)
それは床にぶちまけられた黒ゴマ入りストロベリーパフェ――ではなく。
死に体で溶けそうになっているロニだ。そうしてしばし生死の境をさまよっていると、だんだんと明るくなってくる空とか、鳴り響く祝福の鐘の音の気配を感じて、大いに慌て始める。
どうやら、とうとう『お迎え』が来てしまったようだ……。
(……あちょっとちょっと! 帰って! 呼んでないからね!)
降り注ぐ光の中、手を伸ばす天使。
必死で手を伸ばして、『ボク』を引きずり上げようと、何かを叫んでいる。
――きて、
(ん? ……ああ、帰るんじゃなくて起きるのか……起きようとしてるのか)
完全に理解した! と何にも分かってなさそうな顔で頷いて、視線を巡らせる。
そこは戦場だった。
地平線までを覆う黒き嵐の内部で、超長距離からの砲弾がヒトの認識の限界を遥かに超えた速度と精密性で連続して飛来し、加速された内部時間による演算は原因不明の理不尽な歪みの影響を受け、回避機動を失敗に終わらせる。
――警告、警告。
第3段階の時空間スクリーンに亀裂が発生しています。
第7段階の時間加速が限界値を超えています。
本機は既に分裂崩壊する危険性があります。
ただちに緊急停止し、修復と再設定が必要です――
機体への深刻なダメージが抑揚のない人工音声でアナウンスされる。
その上、それ以上に致命的な問題として、機体のメインコントロールシステムは敵の浸食同化攻撃を受けダウンしており、現在AIが自己診断と汚染域の切断・消去、再構成を行っていたが、
それはつまり――
「……起きてッ、くまさんんんーーッ!!」
あくまで予備のコントロールシステとして用意されていた完全手動での操縦を行い、鳴りやまないアラートと機体を揺るがす衝撃、猛烈にスピンしほとんど墜落するような無茶苦茶な態勢で敵中を機動し――機体が敵の手に落ちることを阻止する者が居た。
(……すっごーい! キミはぬいぐるみ遊びが得意なフラスコだったんだね!)
ロニの目から見ても何がどうなっているか良く分からない変態的な立体機動と強大な敵中での孤軍奮闘ぶりに、そっと目を背けて現実逃避などしてみながら。
(今日のボクは邪神らしいからね! 今からとーーっても悪い事しちゃうよ!)
萌え袖になっているパーカーの裾をめくり、ロニは小さな拳を固く握る。
墜落する機体に地表が近づいてくる。
かつて都市だった場所、蠢く人々――だった者たち。
ガリガリ、と何かをひっかくような音がその向こう側から聞こえていて――。
「起きろー。ドーンッ!! ってね、あはははははっ!!!」
都市を砕き、人の形を塵へと還し、星の奥深くへと突き刺さった一撃。
パリィン、とガラスが割れたような音を残して――何かが砕け散った。
それは研究所の所長であるバシャールと呼ばれていた男が、この世界をも滅ぼし得るオブリビオン化兵器が決して敵の手に落ち人類を仇なすことが無いようにと、最後に施した安全装置。コアユニットと制御システムとのリンクを上位概念から隔離していた時空間切断スクリーンが破られて。
「よぅ、ひさしぶり。案外ご機嫌そうじゃねえか!?」
「く、くまゃんんんんんんんんんんんぅーーーッ!!!」
かくして、救世の竜と、天災さえ屠る天才的操縦主の少女は再び邂逅を果たし。
「それじゃいっちょ、リベンジマッチと行くかぁ!」
――ああ、ついに。
世界は救われ(滅び)るのだ。
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『環境浄化・対変異兵器決戦用超大型偽神兵器』
|
POW : 救世竜は乙女を贄とし/小型飛竜型偽神兵器一斉出撃
自身の【操縦者(フラスコチャイルド志願兵)の負担】を代償に、【自身内部の防衛も行う遠隔操作型偽神兵器群】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【大量生産と並行制御での物量・爪牙での捕食】で戦う。
SPD : 乙女の慈愛は地に満ちて/全銃座斉射・浄化粒子散布
【操縦者が語る「敵を倒し環境を改善したい」】という願いを【巨大立体映像と大陸規模の電波ジャックで人】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
WIZ : 果てに竜と乙女は過去に墜ち/Oストーム砲最大出力
自身の【勝敗無関係に翌日の操縦者(代替不能)の命】を代償に、【対人・対物銃座弾幕と共に口部砲の最大出力】を籠めた一撃を放つ。自分にとって勝敗無関係に翌日の操縦者(代替不能)の命を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
👑11
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●救世竜は墓地より目覚め
見上げれば無窮の星々が煌めいていた。
夜のとばりが下りた地上は静けさに包まれ、眠りについていた。
やがてそんな沈黙の大地を揺るがし、砂漠が隆起する。
砂丘となり巻きあがる砂の中から姿を現したのは、緑光を纏う純白――。
六対十二枚の真っ白な翼を背から生やした、機械仕掛けの風の竜王だった。
――セルピヌス (Cerpinus)。
研究所の修復再生計画でこの機体に与えられた呼称は、神が星を創造した際に出現した風の竜『カンヘル』の中でもっとも偉大なものであり『明けの明星』――堕天する前の『天使長ルシフェル』とも同一視される存在。
金星が象徴する『新たなる神』が、今再び世界を『救済』すべく産声を上げたのだ。
●救世主は世界を
「……ポーシュボス。待ちかまえていたのっ!?」
少女が起動した機体のコックピット内で最初に目に飛び込んできたのはそれだった。
決戦用超大型偽神兵器たる『救世竜』にさえ並ぶ、500m超の巨体。黒い硬質な皮膚の随所で金色の目を光らせ、星のような花を咲かせる不気味な異形のシルエット。
「集合体かぁ? 初っ端から面倒なやつらだぜ!」
「……やるよ、くまさんっ!」
救世竜を喰らおうと襲い掛かってくるその邪神の覆いかぶさりを、少女はスラスターを全開にして迎え撃つ。巨大質量同士が衝突する寸前で上半身に制動をかけ、のけ反るような姿勢で懐に潜り込むと、邪神を掴み引きずり倒しながら腹部を強く蹴りあげる。
敵の勢いも利用し巴投げのような形で空へと打ち上げた邪神に、照準を合わせ――
「……消えてッ!!」
天地逆さのまま、白竜の顎から生じた黒い力の奔流が邪神を貫く。
邪神は、体に開いた風穴から光さえ喰らう暗黒の渦に巻きとられるようにひしゃげ、最後には跡形もなく消滅していった。
それは搭乗者の生命を代償とした兵器の発動。
強制的に神に至らせる偽神の毒に冒された少女は、開いた傷口から血を流し、その負荷に耐えきれず何度か咳き込んで血を吐き出していた。
「も、もう撃っちまったかよ……どうだ、痛むか? 体は動かせそうか?」
「……大丈夫だよ、くまさん。私、何だかよくおぼえてないけど、力がわいてくるの。だから最後まで、出来るだけのことをやろうって……ううん、やるの。きっとやるの」
救世竜の起動キーにしてメインAIのコミュニケーション用端末――くまのぬいぐるみが操縦主の少女を気遣うように問うと、返ってきたのは決然とした前進の意志だった。
そして機体が砂の海から浮上してゆく。
遥か高空から見下ろすアメリカはかつての光を失っていた。
「みんなは……みんなは、死んじゃったの?」
「分からねぇ。今地表をスキャンしてるところだ」
並行して小型の飛竜型偽神兵器が出撃し、四方へと散っていく。
通常の『変異体』であれば問題なく処理できるだろう、小回りの利く機体だ。
やがて救世竜地表の走査を終え、少女と同調した視覚に情報を共有させる。
「少ない、ね……」
滅びゆく世界、地上に蔓延っているかに思われたソレは、暗い大海に浮かんだ小舟の群れのようで、そのまま暗闇に飲み込まれ消えてしまいそうな心細ささえ感じさせた。
真っ暗な地上に、金色の星のように輝きを咲かせ、蠢き、絡み合い……寄り添って。
――その光景は、まるで、
「あまり見るな。邪神に魅入られちまうぞ」
「……うん。それじゃ、やるね」
パウッ、と救世竜の全身に備えられた砲口が火を噴く。
質量弾頭の雨がロックされた標的へと放たれ、マーカー表示が次々と消えていく。
かつて『いのち』と呼ばれていたものたちが。
撃つ。消える。
撃つ。消える。
撃つ、消える。消えていく……。
「くまさん」
「どうした?」
「私は本当に『良い子』かな? それともやっぱり『悪い子』なのかな……?」
少女がふと問いかけた疑問に、心を持たないAIは、何かを答えることが出来なかった。
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●マスターより
何かイキりだして調子に乗ってる幼女を今度こそ徹底的にこらしめましょう!
そんな第二章です。おまたせしました。
●敵
超巨大な竜のロボットです。一応偽神兵器のカテゴリらしい。
現在は索敵、射程圏内の生物を殺戮しています。
また、世界中の『邪神に取り込まれた人々』を解放するため移動中です。
被害を抑える為にタイムアタック的なシナリオギミックだと思ってください。
彼らの目には世界は正常に映らず逆転していますので、説得は不可能です。
キャラクター達はポーシュボスか、それ以上に恐ろしい邪神扱いされます。
勝利条件は救世竜の破壊or完全停止になります。
動力とか制御系とかいろいろあると思いますが、一番手っ取り早いのはどこかに保管されている『予備』を含めた『コア』の全破壊。生身部分なので一番の弱点です。
●PC
キャラクターたちはこの竜の体内に残っていても、脱出していてもOKです。
体内で戦う場合はユーベルコードの選択に関わらず『遠隔操作型偽神兵器群』が登場し、皆さんの行く手を阻み捕食を試みます。
これに対処しつつ、救世竜を停止または破壊するための措置を取ってください。
体外で戦おうとする場合は生身での戦闘は原則不可とします。
直接戦いたい場合はキャバリアや航空機等、超巨大な機械の竜と戦う為の乗り物や兵器をご準備ください。
●プレイングについて
随時受け付けますが、展開が固まって達成の目途が立つまでは再送をお願いするかもしません。
その場合はタグかマスターページでお知らせいたします。ご協力をお願いします。
この章からの途中参加も歓迎です。
●真・黄巾力士
断章でぅゎょぅι゛ょっょぃされましたが、外部で再召喚は可能とします。
●首輪
一章で起爆装置を確保したキャラクターは二章で使用可能です。
竜の体内をある程度操縦席へ向け接近すれば、作動可能になります。
コアを破壊しても別のコアが再装填されますが、それにもタイムラグがあり操縦技術も現在の少女に比べれば劣るため、有利に戦える可能性があります。
ではでは、皆さんのご参加お待ちしてます。
ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!
●よいしょっと星の丸みが見える程度の高さの空に腰掛けて
救世主かー
まー色んな子がいたよねー
彼らの望み、役割は人間を救い、世を正しく導く事…
みんなの目が正しく見える様に開かせること…
でもそれは傍から見たらの話
それは欲望だ
欲望とは欠落からできている、完全な存在には存在しないもの
彼ら自身の欲望は…フフン
結局のところ他人にしてあげたいことは自分がしてほしいことなのさ
『自分を理解してほしい』『誰か一人でいいから、正しく…』
ま、これは人の受け売りだけど!
でもそうだねえ
人にしてあげたいことは自分がしてほしいこと、か
なるほど、それがキミの望みかい?
●最大[999×1M(100万倍)]km
じゃあ邪神らしくいこう!
ユーベルコードってのは便利なものだね
今の不完全なボクでも『そうはならない』って予定調和のなかでならこれくらいのことはできる
さあさあ!救世主の女の子!
キミが避けたら……この世界は木端微塵だよ!
世界を救ってみなよ!!
100万倍の準天体級[ドリルボール]くんをドーーーーンッ!!
●水の星
「よいしょっと」
ゆるやかな弧を描く水平線が青く仄かな光に包まれ輝いていた。白く世界を覆っているのは雲だ。太陽は煩いほどの輝きを遥か彼方から投げかけているが、眼下の――先ほどまでロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)が居た地上は未だその光を浴びることなく眠りについている。
(救世主かー。まー色んな子がいたよねー)
そんな高い場所で自らが使役する球体に腰を掛け、ロニは独り静かに『救世主』と呼ばれる者たちに思いをはせた。
地にへばりつく人々は自らの影に怯え、己の正体すら分からないまま無意味に敵意を振りまいては互いを傷つけあっていた。血なまぐさい歴史を積み上げ、飽くことなく醜い争いを何度でも繰り返す、人間の狂気と欲望が渦巻く世界。
絶望と悲哀が尽きることない世界で、救いを求める人々は『救世主』に縋ったのだ。
(彼らの望み、役割は人間を救い、世を正しく導く事……みんなの目が正しく見える様に開かせること……)
天国、楽園、極楽浄土。真理、栄光、悟り……言いざまは色々だ。
辿り着く理想は苦役からの解放、平和、安息――皆が同じ望みを持つというのに。
(でもそれは傍から見たらの話。それは欲望だ。欲望とは欠落からできている、完全な存在には存在しないもの。彼ら自身の欲望は……)
フフン、と小さく笑って。
ロニは思索を続ける。未だ砲火の絶えることなく、終に滅びが訪れてさえ薄汚れた人間達が跋扈する、狭く汚い世界を見下ろしながら。
――その青く煙る水の星の、圧倒的な美しさに目を細めながら。
結局のところ、他人にしてあげたいことは自分がしてほしいことなのだろう、と。
『自分を理解してほしい』
『誰か一人でいいから、正しく……』
(……ま、これは人の受け売りだけど!)
気圧0の吸う空気すらない極寒の空で、流れ落ちる血も凍らせながら、神たる猟兵の少年は思索を打ち切りかの『救世主』へと意識を移す。
(でもそうだねえ。人にしてあげたいことは自分がしてほしいこと、か)
圧倒的かつ正確な破壊を可能とするその『新たなる神』は終に目覚め、世界に『救い』を齎そうとしていた。
だが、かつての彼ら彼女らの願いがそうだったとしても、オブリビオンとして過去から蘇った現在は世界に『滅び』を齎す存在でしかない。
少女の無垢な善意のままに世界を『救う』べく、『ポーシュボス化した人々』を殺戮したならば、結果はこの大地に僅かに残された正常な人々の生命が失われるという結果が残るだろう。
過去の亡霊として蘇った彼女らの心根がどうあれ、その世界認識は歪み、まるで反転しているようだったから……。
(なるほど、それがキミの望みかい?)
地表ではすでに少女が駆る救世竜が砲弾の雨によって、竜が捉えた者たちへ『救い』を与えていた。未だ数はそう多くはないようだが、それが何の慰めになるだろう?
今は猟兵との戦闘の為留まっているが、広域に移動を開始すれば拠点に住む人々が大勢犠牲になるだろう。なにせデミウルゴス細胞を宿す彼女たちには例え核兵器を用いたところで通常の人間では傷一つ付けられず、抗する術など一つたりとも無いのだから。
故に――。
(……じゃあ邪神らしくいこう!)
遍く地上に救いを齎さんとする少女へ、神は特大の『暴力』を降すことにしたのだ。
●星のメロディー
夜が太陽を飲み込み、月影の下で鳥たちが眠っても。
星々が隠れ、空が落ちて来ても、ふたりは逃げるつもりは無かった。
「くま……さ……っ」
十二枚の翼を羽ばたかせ、一直線に上昇し『ソレ』を迎え撃とうとした。
少女はコックピット内で血反吐を吐きながら、AIも機体内部に侵入した異物への対処に追われ答える余裕すらない状態で、首をもたげ天を目指す。
「さあさあ! 救世主の女の子! キミが避けたら……この世界は木端微塵だよ!」
空――全天を覆うほどの巨大な球体と共に落下し、ロニが叫ぶ。
『ドリルボール』と名付けられた球体にはびっしりと生えた刃が高速で回転しており、触れた物すべてを削りとり喰らいつくさんとしていた。狂った気流が星の悲鳴のように鳴いて、風は轟々と地上の塵芥を薙ぎ払うように吹き荒れる。
「ユーベルコードってのは便利なものだね。今の不完全なボクでも『そうはならない』って予定調和のなかでならこれくらいのことはできるのさ!」
「う……ぐっ……うううぅうううう……っ!!!」
白竜の顎から暗黒の渦を放ち、拡散ではなく収束するオブリビオンストームにて喰らい尽くそうとするも及ばず――少女は各地に向かわせた小型飛竜型兵器を媒介に、届き得る限りの『生命』に声を絞って訴えた。
――『滅び』を打ち破り『いのち』を守るために。
神たる竜に力を――祈りを、ひとびとの願いの力を貸して欲しい、と。
「……っ!? どう、して……?」
けれど結果は振るわず。
むしろ滅びを望む、狂った声と歓喜が脳裏に響く。
『善きかな善きかな!』
『我らの願いは成就せり!』
――くそが。お前たちはもう、これ以上さえずるな!
竜が怒りに震え、小型竜を通じてそれらを悉く滅ぼしていく。
「……ああ、キミはそういうやつだったねぇ」
呆れたように呟き、白き救世竜の最後を憐れむように見下ろす。
邪神たる己と気軽に言葉を交わし、自らの陣営の愚行にこそマグマのような怒りを燃やしていたそのたましいは。過去の残骸と化してからはその憎しみを同胞――オブリビオンにこそ向けて居たのだ。
そうして演算リソースを外部へと割いた救世竜は内部で活動する猟兵たちの抑えが緩んだのか、既に限界を迎えつつあったのか、超音速で飛来する何かに顎を撃ち抜かれのけ反った。
亀裂が入った頭部からは何かが射出され、戦域から離脱を試みるが、それも超長距離からの――恐らくキャバリアの狙撃で撃ち落とされてしまっていた。
砂漠へと不時着したソレを一瞥し、
「目はいつも二つある。一つはボク自身を見るために。もう一つはキミを見るために……だけど、自分の姿っていうのは、案外見えてないものなんだよね」
かの『新たなる神』の息吹はまだ完全に途絶えてはいないようだけど、それは竜の体内から追って飛び出したフラスコの子供に任せることにして。まずは落下を続けるドリルボールを元の大きさへと戻してから。
「さすが、に、ボクも……つかれ、た……」
墜落を続けていたロニは少々派手な音と衝撃を残し地に舞い戻り。
夜明けを待つ星の腕に抱かれて、しばしの眠りについたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
「…止めないと。皆が、命が」
UC「出前一丁・弐」
ケータリングカーに乗り込みマッハ9越えで吶喊
ヒット&アウェイ戦法
偽神兵器群跳ね飛ばし決戦兵器の首から上を横からぶち当てて粉砕
吶喊ルートも敵の攻撃回避も第六感任せで運転
まず頭から狙ったのは砲破壊のため
再生したとしても何度でも吶喊し破壊する
超上空からの垂直ダイブ攻撃も
決戦兵器の頭部粉砕が終了したら機動力を奪うための羽粉砕に移行最終的には胴部以外の四肢も破壊
途中からはずっと鎮魂歌を歌っている
(貴女の願いは尊いけれど。貴女がそうなったのも貴女の所為ではないけれど。死を世界に広めさせない。死は救いじゃない)
「お休みなさい…次は共存できる願いでありますよう」
●選択
だれかの味方をするということは、だれかの味方をしないということだ……と、だれかが言った。
「……止めないと。皆が、命が」
だから、二つの重さを比べた天秤が掲げた方、より軽いものから手を離すのだ。
御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は世界の守護者たる猟兵で、生命の輪廻と癒しを司る幻朧桜の子――桜の精であるならば、尚更のこと。歪みと滅びを内包した『過去』によって生命が奪われていく事を見過ごせるはずもない。
例え『彼女』の想いに咎は無くとも。
かつて世界の為に全てを捧げ、何一つ報われなかった哀れな犠牲者だったとしても。
桜花自身がそのこころを救いたいと願っていても、救われるべきだと信じていても――すでに『世界の敵』となった『彼女』を優先させられる状況ではないのだから。
「まずは頭を潰さないと
……!!」
救世竜が口部から放つオブリビオンストームの力を凝縮したような砲撃は、地上へと向けて撃たれた場合には被害規模が予測できない、危険極まりないモノだった。
(アレをこれ以上撃たせてはいけない……)
桜色のケータリングカーが夜空を切って疾駆する。最大速度マッハ9を超える車体は物理法則を捻じ曲げて空気の壁を貫き、轟音と衝撃で大気を震わせ白竜の顎を目指す。
大量に展開した小型飛竜の迎撃を第六感任せに掻い潜り、白竜の巨大な頭部へと吶喊し――
「……~~ッ!!」
自らの衝突エネルギーで潰れ粉々に砕け散りそうな車体を制御し、離脱させる。救世竜への攻撃はその直前で展開されたシールド――時空間切断スクリーンに阻まれ、本体へのダメージを与えられずにいた。
(バリアがあるというなら、それが破れるまで何度でも吶喊するのみ――)
衝突によってエネルギーを奪われ減速したケータリングカー。
群がる飛竜の攻撃を凌ぎながら再び加速した桜花は一撃離脱の戦法を取り、繰り返し攻撃すべく好機を窺っていた。
宇宙へと到達する事すら可能な速度エネルギーによる強烈なGはデミウルゴス細胞による副作用で既にぼろぼろの体を容赦なく痛めつけ、堪えきれずに溢れる血反吐に塗れながら……。
●消えゆくもの
転機が訪れるまで、そして決着までも時間にすればほんの僅かなものだった。
闇夜に浮かぶ星々すらを覆い隠し、星を削り喰らう『何か』が上空から降ってきて――
「くま……さ……っ」
救世竜が天空を駆けあがり、黒い渦の砲撃を放つ。
黒き力の奔流はその落下を続ける球体を貫き、内部から収束する螺旋へと全てを呑み込むかのように見えたが――
「う……ぐっ……うううぅうううう……っ!!!」
それも力尽き、再び球体が膨張すると落下を続ける。
猟兵の攻撃を処理しきれず、何故だかそれ以上にひどく動揺して見えた白竜の動き。小型飛竜たちが統制を欠いた動きを見せたその一瞬に、桜花は最高速度にて救世竜の顎へと吶喊した。
「こ……れ、で……ッ!!」
激しい衝撃で前後不覚に陥り、思考が途切れ途切れになっていく。
もはや自分が上昇しているのか墜落しているのか、起きているのか夢を視ているのかも定かではない朦朧とした意識に、聞き覚えのある声――少女の悲鳴が滑り込む。
「ゃ……だっ!! くまさん……くまさん……ッ!?」
竜の頭部からその魂が抜け落ちていく。二人共が意図せぬ、緊急脱出装置の起動と言った形で。
魂を――機体の動力や生産装置を稼働させるために不可欠だったパーツを失った救世竜は、その頭部を破裂させ首無しとなってもまだ生きていた。
戦域外へ離脱しようとしてどこからかキャバリアに狙撃され、地上へと落ちていったソレ――唯一無二の友達を追うべきか逡巡することも無く……残された少女はただただ、泣き叫びながら天を目指す。
無謀にも機体をぶつけてでも球体の落下を止めようとするつもりなのだろう。
「させないっ! それでも、私……は……ッ」
「救、世主……本当は、貴女だって
……!!」
救われるべきだった。そう願っていた彼女の駆る機体へ、明らかに精彩を欠く死に体の『新たなる神』へ、滅びを呼び込む世界の敵へと再度吶喊する。
「この世界を愛していたの……愛されていたの……ッ!」
「……貴女も、その世界の中の、ひとり……救われるべき、ひとり、だったのに……ッ」
懸命に羽ばたく翼を桜色の車体が砕き、白き首無し竜を地へと引き摺り堕とす。
(貴女の願いは尊いけれど。貴女がそうなったのも貴女の所為ではないけれど。死を世界に広めさせない。死は救いじゃない……)
口をついて出るのは鎮魂の歌。途切れ途切れに、血を吐きながら歌い続ける声。
500mの巨体がどうにか軟着陸を果たし、尚ももがき続けるかに見えたが、それもやがて途絶えた。恐らく内部に残った猟兵の誰かが『彼女』の命を絶ったのだろう。
「お休みなさい……次は共存できる願いでありますよう」
救世竜はその機能を停止しても消滅することなく、乾いた大地に屍を晒していた。
正しい使い方を知らずとも、その素材だけでも計り知れない価値を持つだろうオーバーテクノロジーの遺物として。
「貴女らしい……と言って良いのでしょうか?」
不時着したボロボロの車内に横たわり霞む目を少しだけ上に向ければ、朝が迫り白み始めた東の空に一際輝く星が在った。
明けの明星――愛の星とも謳われる金星。夜明けが近いことを暗示する地球の姉妹星は、やがて溢れ出す陽光の中に溶け消えていくのだった。
成功
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鳴上・冬季
体内スタート
「…壊されましたか。不便ですが、仕方ありませんねえ」
「これもキャバリアの亜種と考えれば。コクピットは腹部・胸部・頭部のいずれか、メインの動力源は胴部、くらいは共通しているでしょう…出でよ、黄巾力士金行軍」
黄巾力士121体召喚
1体は自分の護衛
残りを24体5組に編成
組内編成は
・砲頭からの制圧射撃
・砲頭からの鎧無視・無差別攻撃で蹂躙
・上記2集団をオーラ防御で庇う
4組を
・胴中央
・胴背面
・頭部
・胸部
目指すよう命じ式神もつけ戦況監視
破壊減少分の役割組換えも適宜命じコクピット・機体制御用頭脳の位置割出す
目星つけたら1組と1体従えコクピット目指す
「ここなら制御用頭脳も生体脳を使っていそうです。可能ならば彼女と一緒に滅するのが情けです」
「私以外に、貴女を倒して看取る覚悟があるものは少ないでしょう」
自分も雷公鞭振り回し雷撃
コクピットを鎧無視・無差別攻撃で破壊したら仙術+功夫で雷撃纏わせ貫手
彼女の心臓ぶち抜く
「私も見過ごしたくない命があります。お休みなさい」
彼女が消滅するまであやすように抱き締める
●竜の心臓
「……壊されましたか。不便ですが、仕方ありませんねえ」
鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)が研究所の外部に待機させておいた巨大化黄巾力士は、救世竜を抑えようと試みるもあえなく撃破され、跡形もなくなっていた。
直接指揮が出来ればまた違った結果も在り得ただろうが……冬季は今も竜の体内に残っていた。内部からこの超大型偽神兵器を停止させるために。
「これもキャバリアの亜種と考えれば。コクピットは腹部・胸部・頭部のいずれか、メインの動力源は胴部、くらいは共通しているでしょう……出でよ、黄巾力士金行軍」
破壊されることにも慣れたものなのか、新しく召喚される人型自律戦車の群れ。そうして冬季は総数121体の黄巾力士金行軍へと指示を下す。
120体を24体ずつの5組に分け、1組の24体にはそれぞれ砲頭からの制圧射撃集団、砲頭からの鎧無視・無差別攻撃集団、他2集団をオーラ防御で庇う集団と役割を与える。
「目標は胴部中央、胴部背面、頭部、胸部だ……行け、目星をつけるのだ」
4組を機内の捜索に当て、残りは手元に残して式神にて戦況を監視。交戦、抵抗の状況などから判断して位置を割り出しコックピットを目指す構えだ。
だが、それもスムーズにはいかないようで……。
「チッ……小型飛竜か。しかも数も多い……中々に厄介だな」
救世竜の体内は空間拡張でもされているのかスペースはそれなりにあったが、それでも外と比べれば兵力を展開出来る空間が限られる。内部の防衛に最適化されているだろう飛竜相手に、人型戦車は苦戦を強いられているようだ。現状の自律戦車の知能では不規則な戦場でリアルタイムに最適な判断を下すのは難しいようで、撃破数と被撃破数を比較したキルレシオは明らかに敵方が優勢であることを示していた。
(だが、これも偽神兵器の一種というならば……)
それを操るストームブレイドは総じて短命。そもそも命を削りながら戦うような者たちなのだが、これだけの規模の兵器を同時に運用して無事であるはずがない。
「限界はそう遠くないか……いや、おそらくは」
見た目以上の力を持たない華奢で頼りない体。デミウルゴス細胞の拒絶反応に苛まれていた顔のない少女は、
――ごめんなさい。シートが、よごれちゃった、ね……。
「……くそっ。いたずらに苦しませたいワケではないというのに……」
先刻見たいつかの光景が――虫の息でコックピットに横たわる少女の姿が脳裏に浮かび、冬季は苛立ち交じりに吐き捨てる。戦闘結果として優勢なのは敵だとしても、このまま戦闘が推移すれば、少なくともかの少女は苦しみぬいた末に自滅するのだろう。
「ここなら制御用頭脳も生体脳を使っていそうですが……」
精神への浸食――同調を経験した際にやたらと感情的に思えた、誰かのこころ。機内の小型飛竜まで少女が操っているとは考えにくいため、AIによる制御と考えるのが自然だが、だとすれば……。
「……心臓、か?」
特に防御が厚いように見える頭部と心臓部だが、より優先されている気配を感じるのは心臓部だった。冬季は残った人型戦車を使い潰すようにして各所で圧力を強めさせ、その隙に残りの手勢を率いて移動を開始した。
救世竜の――それを操る『救世主』の息の根を止めるために。
●夜明け
「頭部、胴部の重要区画にはそれぞれ猟兵が侵入しましたか。だが……」
黄巾力士金行軍が囮のような役割を果たしたこともあり、猟兵による各所への侵攻は進んでいるようだ。ただ心臓部への防御はやはり固く、冬季自身が参戦したことで圧してはいるが他の2か所に比べて一歩遅れてしまっていた。
「……可能ならば彼女と一緒に滅するのが情け、と思っていましたが」
小型飛竜の制御が緩み、機体の内部を激しい揺れが襲う。今まであまり感じることも無かった慣性に振り回されそうになりながら、落ちてくる天井を蹴って空中を移動し、人型戦車と組み合い止めを刺そうとしていた飛竜を雷で貫く。
「どうやらAIの干渉が無くなったようですね。これで抵抗を諦めてくれるなら、とも思いますが……」
無重力のような自由落下から、機体を立て直し軟着陸させたらしい少女は、未だその闘志の炎を消してはいないのだろう。本来の機能の大半を喪失し、軋みをあげる機体を駆って戦おうとしているようだった。
冬季が憂鬱な溜息を吐き出し、『雷公鞭』から溢れた電流がアーク放電の火花と爆発を連続させ、ぶ厚い金属板をも融解させていく。
………。
……。
…
「……………」
「……ぅ……ぁ」
まばゆい光と、耳をつんざくような爆音と共に姿を見せた冬季に、少女がほんの少しだけ顔を動かす。
案の定というべきか、やはりその姿はすでに死者のそれに近い――未だ生きていることが不思議な、拒絶反応によって全身が崩壊しかけているような酷い有様だった。それでも機体を制御し動かそうとしているようだが、恐らく歩くことすらままならず藻掻くのみが関の山だろう。
「……もう、良いのです。もう……休みなさい」
「………」
小さく首を振って拒絶の意を示す少女は、顔のない少女は、泣いているようだった。
「ころ、さナイで……しニ、タクナ……イ……」
「……私にも、見過ごしたくない命がありますから」
「いや……ヤだ、も……さびシイのはいヤ……! くまさっ…………ふ、うぅ……ぁあああ……ッ!!」
身をよじるようにして少しでも逃れようともがくが、起き上がる力すら残っていない体がほんの少し転がるだけ。最後の最後で、選ばなかった……選べなかった、世界でたった一人の友達を呼ぼうとして――酷いことをしてしまった後悔に嗚咽を漏らす。
滅びはどうしようもなく強くて、救おうとした世界はすでに狂っていた。
なのに、一番大事な友達を見捨ててまで守ろうとして……だけど、結局は何もかも無駄だったのだ。また、何一つ成し遂げられず、与えられた全てを台無しにして……。
……こわいよ。……いたい、よ。さびしいよ。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……。
――私は、滅びゆく世界の希望。救世主……だったのに。
胸のまんなかに焼けるような痛みが走り、内側からびりびりと焼かれるような感覚に体が何度もびくりと跳ねる。
そうしてもう何も感じなくなった体を、おそろしい邪神が抱きかかえて……食べようとしているのか、仲間にしたいのか。抱きしめていることが、何となくわかった。
(……ごめんね。私は、そちら側には行けないみたいだから……)
ポーシュボスに取り込まれた人たち。可哀そうな人たち。
真っ暗な地上に、金色の星のように輝きを咲かせ、蠢き、絡み合い、寄り添っていた――羨ましい、とさえ思ってしまったその輪の中には、私はきっと永遠に行くことができないのだ。
くまさんも失望させてしまった私は、あとはもうずっとひとりぼっちで……だから。
「看取る覚悟……か」
腕の中で黒い粒子になって砕け散ってしまった、デミウルゴス細胞によって食い尽くされ欠片も残さず逝ってしまった少女。その最期の時に小さな手が震えながら動いて、冬季の服をほんの少しの間だけ、遠慮がちに、軽くつまんでいた。
「くそ……私に何が出来た? 何が……」
或いは彼女が連れて行ったのか、デミウルゴス細胞による副作用は落ち着き体はずいぶんと楽になっていたが……それでも、冬季の気が晴れることは無かった。
やがて朝日が昇り、眩しい光の中に星々が溶け消えてゆく。
――そうして、まるで何事もなかったかのように、世界はまた始まっていく。
成功
🔵🔵🔴
ルゥ・グレイス
アドリブ歓迎。
キャバリアに状況観測と他猟兵の支援を命令、自分は内部で少女の元へ。
「クラッキングスタート。
認識固有時制御、時空歪曲率再測定。
…足りない。偽神細胞再投与。機能の一時停止まであと…」
最速で止めなければならない。
この竜の主脳を凍結する。今はそれだけ考えればいい。
ファイアウォールを問答無用で破砕し、そして到達する。電子回路越しの少女の前に。
竜の頭蓋の中、その脳髄を片っ端から凍結していく。
その最中に緊急脱出コードを見つけ、起動。
願わくば少女と共に。
僕らは瓶詰。世界で最も軽い命の持ち主。けれど。
「いいかい、君が頑張って明日にでも死んでしまいそうなことが今日君がが死ぬ理由になんてならないんだ」
そして銀の弾丸をAIに向けた撃ち込んだ。
神様を一人、殺すために。
ことが終わったあと、もし少女に出逢えたら。
ぬいぐるみの中に残っていたデータと共に、その未来を勧誘したい。
もし君が明日を生き延びたら終末図書館に来るといい。歓迎するよ。
その時は、救われも滅びもしない世界の底で、君の明後日のことを考えよう。
●クラッキング
「状況観測……ん、ラグが……。時空間への干渉を確認、同期間隔を修正……」
外部に待機させていたキャバリアへの命令を下し、ルゥ・グレイス(終末図書館所属研究員・f30247)は『PDBCインタフェース』――特殊な魔術回路として使用可能な電脳電算機へ接続、救世竜の制御野につながる電脳空間へ侵入を果たした。
「クラッキングスタート。認識固有時制御、時空歪曲率再測定。……足りない。偽神細胞再投与。機能の一時停止まであと……」
ためらう素振りすらなくデミウルゴス細胞を追加で注射し、焼き切れそうな脳の負荷に耐えながら救世竜を支配するシステムのほころびを探る。
(最速で止めなければならない。この竜の主脳を凍結する)
今はそれだけ考えればいい、と。
後先を考えずに行われる演算の負荷は少年を幾度も昏睡状態に追い込み、生体の維持に甚大な支障が発生してもその行為は続けられた。それでも――ルゥのホームグラウンドである『終末図書館』の機材が使えればまだしも、敵のテリトリー内部でのクラッキングは困難を極めていた。
(この場所からじゃこれ以上は無理か……最短経路を設定。移動開始)
内部の情報をある程度収集し、一部防衛システムへの欺瞞を仕掛けてから、ルゥはその場所へ向かった。機体の制御を司るメインAI――竜の主脳を止めるために。
「……君はまた『余計なこと』を考えているんだね」
そこは救世竜の頭部に当たる場所だった。
他で猟兵が活動していたこともあってか抵抗は少なく、救世竜にとって致命となる筈のポイントへあっさりと辿り着けてしまったことにルゥは複雑な心境を抱く。コネクタを差し込み有線接続を確保し、クラッキングを再開――主脳の管制下にはない別系統の電脳空間に侵入し、いともたやすく蹂躙し支配していく。
「本当に……非効率だ。ばかばかしいよ」
それは救世竜につけられた枷。フランケンシュタイン・コンプレックス――被造物の叛逆を怖れる人間の心が生み出した、決戦兵器の弱点。人類の判断で物理層において強制的に執行される安全装置、救世竜とそのAI自身には決して取り除けない泣き所だった。
「緊急脱出コード、起動」
システムの中に存在した主脳――生産も修復も不可能な、代替不能な『パーツ』を保護するための機能であり、AIと機体のリンクを物理的に遮断し強制停止させる為の措置。
――本機は現在有力な敵と交戦中。機能を喪失すれば鹵獲される可能性が高く……
即座に返ってきたAIからの拒否と再考の要請を却下し、強制執行させる。
――い……いやだ! いやだ! いやだ! やめてやめてやめて……!!
射出シークエンスが開始され、接続が徐々に切断されていく中、AIの動揺が痛いほど伝わってくる。願わくば少女と共に――そう考えサーチしても、コアの脱出機能などは搭載されていなかった。
(僕らは瓶詰。世界で最も軽い命の持ち主……か)
使い捨てで替えの利くフラスコチャイルド、それももうすぐ死ぬようなモノを脱出させるなど、無駄以外の何物でもない……ということなのだろう。
救世竜のAIはそれでも何とかして機体に留まろうとしているのか、小型飛竜を操り自らの内部を喰らわせ始めていたが――突然襲った激しい衝撃が頭部を大きく揺るがして。
「これで、竜は機能停止する筈だけど……」
ぽしゅ、と軽い音を立てて射出された脱出装置を、それが推進装置を稼働させ十分に加速しきる前に、待機させていたキャバリアに狙撃させて撃墜する。
亀裂が走り崩壊を始めた頭部からその成功を見届けると、ルゥはキャバリアを呼び寄せ中空へと身を躍らせた。
――『新たなる神』を殺し、その確実な死を見届けるために。
●夜明けの砂漠にて
ルゥは細い息を繰り返し、音を吸い込むような静けさの砂漠に降り立ち、半分以上が砂に埋もれたカプセルの中身を覗き込む。その中に納められていた――美しく透んだエメラルドのような緑色の宝石が、ぼんやりと光る砂漠で輝いて見えた。
「そっか。自分の姿は、自分では見えないから……」
機械仕掛けの知能、神様になったAIから感じた強い感情。そのカラクリはなんてことない、単純なモノだった。その演算に使われていたのは、血の通わない冷たい鉱石の躰に心と魂を宿した、ただこの星の有機生命体とは異なる体系の――。
「……我は世界を語る亡霊、星を流る哀悼も今はただ彷徨せよ」
救済は無く、赦しも無く、ただ、殺すだけ――消えるだけのこと。
ルゥは美しく透き通ったその宝石の体に銃を向けて、銀の弾丸を打ち込んだ。
アポカリプスヘルにありふれた、どこにでもある拳銃は持ち主の期待通りに動作し――『新たなる神』は、その宝石の体は硝子のように砕け散った。
それからゆっくりと、音もなく。
砂の上に細い体がたおれて、少年はそれきり動かなかった。
デミウルゴス細胞の過剰な投与と高負荷の演算を強い続け焼けきれた脳。
肉体はその反動に耐えきれず、生命を維持する機能をとうの昔に喪失していたのだ。
●形而上銀河鉄道の車窓より
「あ、あぅ……ううぅっ……」
「……?」
星の海を行く列車に揺られ窓の外を流れていく星々を眺めていた少年は、いつの間にか幼い少女が席の傍にやってきて、何か言いたげにこちらを見ていることに気付いた。
「どうかしたの?」
「く、くまさん……が……」
「……あぁ」
「か、かえしてぇ……」
どうやら、少女のぬいぐるみが少年の席の方まで転がってきていたらしい。何せ上も下もない、重力の及ばない世界を走る列車だから、こういったこともたまにあるのだ。
「はい、どうぞ」
くまのぬいぐるみを拾って、おどおどして泣きそうだった少女に渡す。少女は差し出されたくまを急いで手に取ると、逃げるようにして慌てて去って行ってしまった。
「………」
何か彼女に言わなければいけないことがあった気がしたが、よく思い出せない。頭が酷く疲れているようで、思考が上手く回らないのだ。
「あのね……あげる!」
「ん……薬? 飴玉?」
「わかんない! でも、あまくて……おいしいの!」
またやって来た少女から差し出された、彼女のおやつらしきそれを口に含んでみると、驚くほど激甘だった。それで脳に糖分が回り始めたのか、思い出したように言葉が口をつく。
「君は……そっか、君が……」
「んぅ?」
「……いいかい、君が頑張って、明日にでも死んでしまいそうだったとしても……」
――今日、君が死ぬ理由になんてならないんだ。
そう続けたかった言葉は声にはならずに彷徨う。全てはもう手遅れだったから……。
「……私……私は、がんばったかな……?」
「うん。おかげでとても大変だったよ……」
少年の言葉に不意に泣きそうな顔になって、すがるような目を向けて尋ねてくる少女に、少年は少し苦笑しながら答えた。すると少女は花が咲いたようにぱっと笑って。
「ありがとう。ごめんね……ほかのおにいさんとおねえさんたちも、ごめんなさい」
「いいよ。僕らはそういう役割だから」
少年はそれから走り続ける列車の窓を開けその淵に手をかけ、一度だけ振り向いた。
少女はぬいぐるみのくまと一緒に手を振っていた。
彼女たちは――星の海を飛ぼうにも、羽根なんてはじめから持っていないから。
途中下車し、天使のような翼を広げた少年の見送る視界の中で、やがて星の光すら飲み込む無限の暗黒へと消えていった。
………。
……。
…
やがて救われも滅びもしない世界の底へと還った瓶詰の子供は『いつか』へと想いをはせた。
魂の宿らぬ肉体を保管しておくための培養槽の中で、強化ガラス越しに見えるぼやけた世界を眺めながら、未開封の瓶詰はやがて呼吸して、世界へ生まれるのだろう。
そしてまた『いつか』。
――その時は、救われも滅びもしない世界の底で、君の明後日のことを考えよう。
大成功
🔵🔵🔵
レパイア・グラスボトル
ガキの苦痛や絶望を動力にするなんてな。
使い捨てられる命だからってバカな兵器を造った物だな。
このまま暴れられたらウチのバカやガキ共が困るんでな。大人しくしてもらおうか。
アイツら巻き込まれてるだろうな。ま、後で治せばいいか。
目的
全コアの機能不全
【負担】や【翌日の命】が兵器の性能に関連するのであれば
コアとなる者の負担を減らし明日以降も命を喪う事のない躰に治療強化する
供給低下による敵攻撃の減衰狙い
未来が無くなる絶望が代償になるなら、その代償自体取っ払ってやるよ。
起爆装置は使用しない
これが何かわかるか?ご丁寧に人間様がワタシらみたいなのに仕込んだ首輪だそうだ。
心配するなワタシは医者だぞ。
ワタシの前で死人を作れると思うなよ。
こんなつまらん事で死ぬより短い命もっと楽しく使うと良いさ。
とりあえず、応急処置と特効薬を教えてやる。
笑ってろ。笑い方を知らないなら教えてやるぞ。
瓶と缶は割ってやった。
後は好きにすると良いさ。
こっそり貴重品っぽい物はちょろまかす
医療品以外の鑑定眼などないが
●コアの眠る部屋へ
「アイツら巻き込まれてるだろうな。……ま、後で治せばいいか」
逃げるタイミングを逸して、ずいぶん大ごとになってしまったような気がする。
レパイア・グラスボトル(勝利期限切れアリス・f25718)は同行していた『家族』を案じ――その数秒後にはもうサクッと切り替えていた。
置いてきた中には偽神細胞の副作用でろくに動けない者も居たから被害が出ているかもしれないが、大げさに悲しまずにまた歩き始める。他人の命も自分の命もやたらと軽い、レイダー達から受け継いだ流儀に従って。
「ようするに『コア』ってのが全部使えなくなりゃ止まるんだろ?」
「ヒャッハー! みなごろしかぁ?!」
「……居たのかよお前ら。何、ちょいと体をいじってやりゃ使い物にならなくなるさ」
しぶとく生き残っていた12名の略奪者共は内部を家探ししつつ、どうにか停止させた小型飛竜に群がって武装を剥ぎ、パーツ取りをしたりとしていたようだ。
「宇宙人相手じゃちと武装が心許なかったんでな。見ろよこれ、ブラスター(熱線銃)だとよ」
「それって強ぇのか?」
「おう! ……減衰が無い宇宙空間でならな」
しょうもないやり取りをしながら、いたって適当に進む。誰かが探索と敵の排除に随時動いてくれている筈なのだが、どう見ても適当にその場のノリで動いているようにしか見えなかった。それでもいつの間にか目的地にたどり着くのだから不思議なものだ。
「さぁ抵抗しろぉ! 撃つと抵抗するぅ!」
「ヒャッハー! ……ってやめろバカっ!」
そして辿り着いた場所――胴部にあったコアの保管庫に居たのは、強化ガラスの容器の中で揺蕩う子供たち。それを守ろうとするでもなく、まるで興味のない物を見るような目をした少女がレパイアたちを出迎えた。
「……なに? 何か用?」
偽神兵器の運用に不可欠なコア――ストームブレイドとなったフラスコチャイルド。レパイア含めて柄の悪い集団の来訪に怯むでもなく、心底どうでも良さそうな対応をする少女に、レパイアが凶悪な笑みを張り付けて近づいていく。
「ヒヒッ。これが何かわかるか?」
レパイアが掌中で弄ぶそれを見て、少女が不快そうに眉根を寄せた。
それは起爆装置だった。コア――パイロットとなるフラスコチャイルド達の首に付けられ、人類への反逆や精神汚染があった場合に速やかに処理するための安全装置。
「ご丁寧に人間様がワタシらみたいなのに仕込んだ首輪だそうだ」
「……そう。お前たちもフラスコチャイルドだったのね
。……………嘘でしょ!?」
「ヒャハ?」
「ああ、こいつらは違うぞ」
ヒャッハー達を一瞥し、頷きかけて、慌てて二度見する少女。
レパイアの訂正に頷くと、こほんと咳ばらいを一つ、
「それで、結局何の用? こう見えて忙しいんだけど……?」
「お前たちはこの機体の『予備のコア』なんだろう? このまま暴れられたらウチのバカやガキ共が困るんでな、大人しくしてもらおうか」
「……そういうことね。なら、好きにすればいいわ」
少女は手元で弄っていた端末を伏せ、どこまでも投げやりな言葉と態度で、その運命を受け入れた。レイダーの男たちが下卑た笑みを浮かべて何の抵抗も示さない少女を捕え、凶悪な犯罪者のような笑みを浮かべたレパイアが何かの薬物を注射し眠らせる。
「くくく、良い子だ」
「ヒャハ……なんか絶対誤解されていた気がするが、まぁいっか!」
●蘇生
「さて、ガキの苦痛や絶望を動力にするなんてな。使い捨てられる命だからってバカな兵器を造った物だな」
超大型偽神兵器を運用するために許容値をはるかに超えた偽神細胞が投与された、余命いくばくもない瓶詰の子供たち。
手術台の上に横たわる少女の肉体には拒絶反応によって回復不能な――癒えることのない、真新しいままの傷口が残されていた。
「このガキ、すました顔で何見てたかと思えば、鳥の動画? だったみたいだぜ」
「……そんなもん、本物を見にいきゃ良いんだよ。少なくたって居るんだから」
レイダーの一人が少女が弄っていた端末を検め呟けば、手術の準備を整えたレパイアが返す。彼女の目的は全コアの機能不全――すなわち、
「未来が無くなる絶望が代償になるなら、その代償自体取っ払ってやるよ」
巨大な兵器の性能を引き出すために無茶苦茶な改造を施された体を『治療』し、ストームブレイドとしての能力を減衰させることにあった。
より具体的に言うならば、体内の偽神細胞組織の切除と排出。完全な措置は施せずとも、即日にでも死亡するような『異常』な状態を治せれば、仮にコアとして『再装填』されても救世竜の能力を十全に引き出すことは不可能になっているだろう。
「何でも経験ってのは役に立つもんだ」
結果として実験台となったヒャッハー達も浮かばれる(?)だろうか。精製した抗体も投与し偽神細胞を選択的に攻撃させる。こうして治療した所で、無理な負荷を強いられた肉体があとどれだけ生きられるかは分からないけれど。
「……少なくとも、瓶と缶は割ってやる。後は好きにすると良いさ」
そうして悪辣な荒野の略奪者共とその申し子は、棺桶に詰められていた――既に死を約束されていた子供達を次々に『治して』いくのだった。
●特効薬
「……意味が分からない」
「心配するな、ワタシは医者だぞ。ワタシの前で死人を作れると思うなよ……」
機体が大きく揺れ、その中身が激しくシェイクされる惨状が発生しても、救世竜が砂漠に不時着して動かなくなっても、その作業は続けられていた。
初めに治療を終えたプリシラと言う名の少女が困惑しながらも、新たに瓶の中から出されてきた、負傷した子供達の治療を見守っていた。
「お前はまだ寝てろ、安静にしてなきゃ治るもんも治らないぞ」
「……貴女だって、酷い顔色だ。少しは休んだら?」
「顔色は元からだ。それにワタシはこういう『仕様』なんでね」
プリシラは医者の不養生を地で行くような発言をするレパイアにしばらくジトっとした目を向けていたが、やがて諦めたように目を閉じて、規則正しい寝息を立て始める。
「そうさ……こんなつまらん事で死ぬより、短い命をもっと楽しく使うと良いさ」
そのための応急処置と特効薬なら教えてやれるから。
「笑ってろ。笑い方を知らないなら教えてやるぞ」
いかにもな悪人顔に子供が見たら泣き出しそうな笑顔を浮かべながら、レパイアはフラスコの子供達を解放し生きられるようにと手を施していく。
そうして悪党面したレイダーの一味に救われながら、子供達は今しばらくの眠りを享受していた。
穏やかな寝顔に、何か良い夢でも見ているのか、小さな笑みを浮かべながら――。
~~Fin.~~
………。
……。
…
「よし! それじゃ後はこっそり貴重品っぽい物はちょろまかして撤収だな!」
「……や、堂々と持っていきなよ。どうせここにあっても使われないし」
「そうか? まぁ実は医療品以外の鑑定眼などないが……」
ヒャッハー達もめいめい目ぼしいものにあたりをつけ、ただどうやって運び出すか苦慮している様子だ。『宇宙人』の謎技術が満載されていたこの救世竜はその起動キーを失い機能の大半を失っても尚、貴重な物品の宝庫だったようだ。
そんな彼らとレパイアの様子を、プリシラと言う名の少女は呆れた目で眺めながら、
「私は『次』だったから起きていたし、あの子とも少しだけ話したのだが……そうか」
「なんだ? 変な顔してワタシを見て」
「貴女が笑っていろって言っただろ! ……泣くぞ」
「そりゃ悪かった。てっきり変なモノでも食って腹でも壊したのかと」
そんなやり取りに変なものを食べさせられたような渋い顔をしながら、少女は聞こえないような小さな声で「ありがとう」と、呟いたのだった。
大成功
🔵🔵🔵