あの時、此処に咲いた桜庭のその下で
●
……ダメ。
それは、ダメ。
そのあなたの望みを叶えるモノは、誰も幸せにする事が出来ない。
……誰か。
誰か、力を貸して。
誰かが不幸になる事を、お願い、見過ごさないで……。
●
「その人の埋めた骨に、この短剣を突き立てなさい」
それがある日、『彼女』……白い衣装を好む、皆に『撫子』と呼ばれる少女に手紙で伝えられた言葉だった。
――あの人が、埋められた場所……。
それは……とある場所にある墓地。
――共同墓地と呼ばれる、『影朧』達との戦いで死んでいった名も伝えられぬ人々を弔い、その魂を安らがせる場所。
咲き乱れる幻朧桜と共に在る、桜並木にひっそりと守られた、知る人ぞ知る、『うたう花の園』とも呼ばれる鎮魂曲の流れる墓地。
其の花の園に、少女は一本の漆黒の短剣を持って立っている。
――此を突き刺せば、死んでしまったあの人が蘇る。
そう、認識していたから。
だから……彼女は其の墓に短剣を突き立てる。
――そして……。
●
――帝都桜學府、某所。
寒さ故か、少し人影の少ない夜を思わせる帝都桜學府の一地区に。
1人の男と、1人の少女が訪れた。
訪れたその先にあったのは、こじんまりしながらも、其れなりに整えられた一軒家。
その一軒家の表札を見て、お互いに目配せをした2人が、玄関を叩いた時。
――ざっ、ざっ、ざっ。
その2人を囲う様に『その者』達は現れた。
現れた者達を見て、男と少女が顔を強張らせ、息を呑む。
『……貴様達に邪魔はさせぬぞ、帝都桜學府諜報部の協力員共』
その男と娘に向けて。
凍える様な殺気を突きつけながら、現れた兵士達の代表がそう告げる。
告げられたその言の葉に、男と娘は目前に迫る『死』と向き合う事しか出来なかった。
●
「……柊さん。紫蘭さん……」
グリモアベースの片隅で。
双眸を瞑った先に視えた光景を視て、北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)が重い溜息を漏らす。
それから、何かを悟った様にゆっくりと蒼穹に輝く双眸を開いて、皆、と何時の間にか目前にいた猟兵達に囁きかけた。
「猟兵達の何人かが接触したとこのある、桜の精である紫蘭さんと、帝都桜學府諜報部の協力者柊さんが殺されそうになる事件が視えたよ」
其れは、一部の猟兵達とは幾度か関わったことのある者達。
紫蘭は嘗て影朧と化し、それから桜の精として転生し、今の命を生きるもの。
そして、柊は……。
「柊さんは嘗て、死んでしまった自分の娘を救うために、影朧と協力して、彼女を『黄泉還り』させようとした、帝都桜學府諜報部所属の研究者だ。その2人が今、新たに起きようとしているとある悲劇を回避するために行動を開始している」
それに帝都桜學府諜報部の幹部の1人、竜胆が気がつき、優希斗にその情報をリーク。
奇しくもその情報は、つい先程、優希斗が『視た』状況と一致していた。
「柊さんと紫蘭さんが今回、この事件に携わった理由は簡単。帝都桜學府で『撫子』さんと呼ばれる1人の少女が叶えようとしている願いの先にある悲劇を止めるためだ」
白い衣服を好む『撫子』の愛称で呼ばれる其の少女の恋人は、先日、とある影朧から人々を守る為に殺害され、民の命を守った。
それは、英雄的な行動と本来ならば称されるべきであるが……『撫子』と呼ばれるその少女には、耐え難い苦痛と後悔の念を満ちさせる結果となった。
そこに、彼女や人々の為に命を落とした帝都桜學府の青年の命を『反魂者』として黄泉還らせる方法が、提示されたのだと言う。
「とは言え、その彼は『影朧』として黄泉還る。……還ってしまう。つまり、この世界のバランスを崩す存在としてこの世に再び生を受ける、と言う結果になってしまったんだ」
その可能性を、白衣装の『撫子』は薄々感じ取っている。
それでも……感情的にそうせざるをえなかった、と言うのが実情だろう。
「その『撫子』を説得するために、事情を知った柊さんと紫蘭さんが現場に向かった。……そこに影朧達が現れ、彼等を殺そうと画策している。……此処に何らかの陰謀が張り巡らされている可能性は否定できない」
そして、その先に訪れるであろう悲劇も、また。
「だから皆には、この悲劇を食い止める為に全力を尽くして欲しい。具体的には『撫子』の事情を聞き取るために、柊さんと紫蘭さんに接触、彼等を殺すために現れる影朧達から守る為に戦いながら、『撫子』と死した恋人について調査して貰う必要がある」
勿論、戦いのことは他の仲間に任せて、『撫子』について調査をする、と言う選択肢も無きにしも非ず。
だがそれは緻密な連携の出来る仲間がいなければ、出来ない。
それは、『柊』と『紫蘭』を救う可能性を放棄することとほぼ同義だ。
「だから、皆には其々に選択して欲しい。何が最善で、自分が如何すれば良いのか……その現実を」
そこまで告げたところで。
優希斗が、微かにふっ、と息を吐き、言の葉を紡ぎ続ける。
「非常に厳しい任務になるのは間違いない。けれども、此が皆が追い続けている事件に1つの波紋を投げかける可能性も十分ある。だから……どうか皆、宜しく頼む」
優希斗の、その言の葉と共に。
蒼穹の風が吹き荒れて……猟兵達が、グリモアベースから姿を消した。
長野聖夜
――此は、生と死と、罪と贖罪。そして……後悔と未練、その先の今を見据える物語。
いつも大変お世話になっております。
長野聖夜です。
サクラミラージュのシナリオをお送り致します。
このシナリオは、下記タグの拙著シリーズと設定を多少リンクしております。
最も、旧作の設定はオープニング上である程度説明しておりますので、旧作未参加者でも、傘下は歓迎致します。
参考タグシリーズ:桜シリーズ。
第1章での主要人物は下記となります。
1.『撫子』
白い衣装を好む少女です。帝都桜學府に所属していた恋人が居りましたが、その恋人は影朧との戦いで戦死しました。
其の恋人を黄泉還らせる為に、今回の事件を起こしております。
尚、恋人については既に蘇生が完了しています。
但し、どんな人物像なのか、詳細は不明です(此は情報収集の結果で判明します)
2.『柊』
桜シリーズ初出は、拙著『愛と死の、桜の木の下で』です。
娘の黄泉還りを目指しましたが、今はその過去の過ちを認め、償いとケジメを付けるために活動しております。
3.『紫蘭』
桜シリーズ初出は、拙著『この、幻朧桜咲く『都忘れ』のその場所で』です。
胸元に羽根を付けている、桜の精です。
様々な事件に巻き込まれており、故に今回の事件を止めたいと心底願っております。
紫蘭はユーベルコヲドとして、『桜花の舞(鈴蘭の舞相当)』or【桜の意志】のユーベルコヲドを使用できます。
此は、プレイングで指定が可能です(特に指定が無ければ、桜花の舞を使用します)
2人とも戦場からの撤退は致しません。
但し、柊と紫蘭は猟兵達に信頼を置いています。
普通の市街地(人が住んでいる住宅街での戦闘)となりますので、一般人達が巻き添えになる可能性もございます。
その為ある程度対策を講じた方が良いでしょう。
何の対策も無ければ柊も紫蘭も、一般人にも死者が出る可能性はありますが、判定に影響は出ません。
『柊』も『紫蘭』も、『撫子』と恋人に関する情報は多少は持っていると思われます。
第1章のプレイング受付期間、リプレイ執筆期間は下記です。
プレイング受付期間:2月4日(金)8;31以降~2月5日(土)14:00頃迄。
リプレイ執筆期間:2月5日(土)15:00以降~2月7日(金)一杯迄。
変更がございましたらマスターページ及びタグにてお知らせ致します。
――それでは、最善の結末を。
第1章 集団戦
『名も忘却されし国防軍擲弾兵大隊』
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POW : 戦車殺しは我らが誉れ
【StG44による足止め牽制射撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【パンツァーファウスト】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 弾はイワンの数だけ用意した
【MP40やMG42による掃討弾幕射撃】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ : コチラ防衛戦線、異常ナシ
戦場全体に、【十分な縦深を備えた武装塹壕線】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
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馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第四『不動なる者』盾&まとめ役武士
一人称:わし 質実剛健古風
武器:黒曜山(刀)
はてさて、関わるのは何度目かな。…放っておけぬのよ。
わしなのは、今は護衛に専念するためよ。守るは我が領域。
聞き出すは、誰かがやるであろうしな。
結界を張りつつ、UC使っての迎撃よな。これは不可視の置き斬撃ゆえ、装備ごと斬ることも可能ぞ。
黒曜山に未来を写し、少しでも被害を少なくしていこう。共にいる柊殿や紫蘭殿、猟兵仲間への忠告・助言になるかもな。
また、陰海月には念のため、二人の護衛を言い含めておく。
※
陰海月、必要とあらば弾力のある身体で弾いて防衛する。ぷきゅっと鳴く。
灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員で連携
相変わらず、戦火の傷に付けこむ連中が後を絶たない様子ですね…
先ずは柊さん達の目的地までの経路・到着地周辺の地理情報を
事前に(情報収集)し敵が包囲の為に待伏せし易い地点を
(戦闘知識)で分析し当たりを付けておく
指定UCで高高度滞空型偵察ドローンを作成、飛行させ、
敵が見つけ難い高度より周辺と経路上監視下に置き
自身も局長達が柊氏達に接触次第、2人とその周囲が見渡し易い
なるべく高所を移動しながら即応狙撃態勢を維持しつつ、
2人を中心に全周監視。航空偵察情報と合わせて脅威の可能性を発見次第、即時に仲間へ伝達し敵の奇襲妨害に努めます
戦闘開始後はミハイルさんの阻止線構築の射撃に呼応し
敵側面へ動きつつ味方の攻撃に釣られ遮蔽から動き出してくる
無反動砲手・機関銃手を頭部狙いで狙撃(スナイパー・先制攻撃)し
確実に排除して火力点を潰す様戦う
一般人の動きを察知した場合は指定UCでカラーの煙幕と音響手榴弾を作成、
先んじて投擲し煙で敵から隠しつつ音で異常事態を解からせ遠ざけるよう図ります
アドリブ歓迎
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動
やれやれ、今度は大挙して押しかけてくる団体客の相手をしろとさ。まったく、相変わらず面倒事が多くて涙が出てそうだぜ。
ま、いい。鉛弾でタップリ歓迎してやる。
敵が来襲する前に、件の一軒家周辺に付近にあったあり合わせのモンかき集めて即席のバリケードを可能な限り構築。後は俺の機関銃設置すりゃ、即席の防御陣地だ。まぁないよりマシ程度だが、弾避け位にはなる。
ここを主防御線にして敵の攻撃を受け止め、UC使用しながら迎撃。後はこのまま敵主力を受け止めている隙に、敵の側背を突く遊撃隊がいれば御の字だが…ま、その役は他の猟兵に任せよう。
ここの通行税は高いぜ?覚悟しな
アドリブ・他者との絡み歓迎
ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動
お久しぶりです、柊さん、紫蘭さん。詳しい事情をお伺いしたいのですが、ここは間もなく敵の襲撃があります。敵の迎撃は他のSIRDメンバーが引き受けてくれますので、我々は護衛として同行致します。ですので、話は道すがら。
柊さんと紫蘭さんの護衛に付き、周囲を警戒しつつ2人から今回ここに来る事に至った経緯を聞き出す。可能ならば、撫子さんとやらの一軒家への侵入及び家屋内の捜索を試みる。できれば、撫子さんの身柄を押さえたいとこですが…在宅しているかどうかもわかりませんから、いたら直接事情を聴き、もしいなかった場合、何か手掛かりになる様な物品を探します。
アドリブ・他者との絡み歓迎
ラムダ・マルチパーパス
SIRDの皆様方と共に行動
アドリブ及び他者との絡み歓迎
えーと、つまり、ここにいらっしゃる団体のお客様をおもてなしすればよろしいのですね?承りました。そういった事ならば、わたくし精一杯務めさせて頂きます。
ミハイル様のバリケード作りをお手伝いしつつ、同時に外部スピーカーで周辺住民に避難を呼びかけます。
「こちらは帝都桜學府です。只今この辺一帯に、重大な災害が起こる危険性があります。周辺住民の方は、直ちに避難して下さい」
まぁ下手に猟兵云々言うより、帝都桜學府の名を出した方が信用できて避難し易いでしょう。
後は、バリケードの前でUCを発動、いわば固定砲台となって敵の目を引き付けます。団体様、ご案内~。
天星・暁音
反魂…か…
どんな世界でも、いつの時代でも死者を取り戻したいは共通の願いか…
死反を求めるものは幾らでもいる
死反の為には足、生、道反の三つも必要、揃えば可能だろうけど…そんなものが簡単に出来るはずもないしね
戦場に自身の領域を作り上げ、領域内は味方の戦いやいす様に、町を壊す心配がないように、平原に変えつつ。必要があれば都度改造します
展開時に一般人を可能な限り領域の外に除外し敵のUCを封じるのに援護と割り切って封じたら直ぐにターゲットを変えて飛び回って攻撃します
封じ回り終えたら護衛に回り情報収集の邪魔をさせないように立ち回ります
護衛優先度は、一般人、柊、紫蘭になります
スキルUCアイテムご自由に
共闘歓迎
真宮・響
【真宮家】で参加
確かに紫蘭と柊なら経験上、歪んだ生は見逃して置けないだろうね。アタシも夫を戦いの中で無くしてる。本意での別れでないなら蘇りに賭けたい撫子の気持ちも分からないでもない・・・でもそれは望んではいけないんだよ。
急ぎ紫蘭と柊の元へ駆けつける。アタシは敵をなんとかしようかね。弾幕には出来るだけ当たりたく無いので、【忍び足】【目立たない】で敵の背後を取り、【気合い】【重量攻撃】【武器落とし】【貫通撃】【範囲攻撃】を併せた飛竜閃で攻撃。近づいてしまいばお得意の銃も上手く機能しないだろう。更に【追撃】で【怪力】【グラップル】で敵の一人を集団に蹴り込んでやる。
集団でご苦労なこって。邪魔だよ!!
真宮・奏
【真宮家】で参加
一度死んだ人間を元の通り蘇らせるなんてそんな上手い話がある訳ありません。特に紫蘭さんと柊さんに取って野放しにしておけませんよね。私は信念のままに、護るだけです。
急ぎ紫蘭さんと柊さんの傍に駆けつけ、更にトリニティ・エンハンスを使い、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【受け流し】【ジャストガード】で防御体制をとり、いつでも紫蘭さんと柊さんを【かばう】ことが出来るように。
これ以上進軍させて無関係の人に被害が及んだら大変ですので【結界術】【拠点防御】で堅牢な防御陣地を敷き、近寄ってくる敵を【衝撃波】や【怪力】【シールドバッシュ】で片っ端から吹き飛ばします!!
神城・瞬
【真宮家】で参加
そう簡単に一度失われた命は戻らないものですよ。撫子さんの気持ちは良く分かるんですが。紫蘭さんと柊さんにとっては歪んだ命は放って置けないでしょうね。
とにかく群れでの銃撃が厄介ですね・・・紫蘭さんと柊さんに弾が当たりかねない。先手をとって【高速詠唱】で【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【部位破壊】【武器落とし】を併せた【結界術】を【範囲攻撃】化して敵集団に展開。【追撃】で裂帛の束縛を仕掛けます。更に【多重詠唱】【魔力溜め】した【電撃】で敵を仕留めて行きます。
敵の攻撃は【オーラ防御】【第六感】で凌ぎますね。
誰に命じられたかは分かりませんが、被害が及ぶ前に撃破させてもらいますよ!!
朱雀門・瑠香
また厄介ごとに巻き込まれていますね・・・ともあれ敵は切り伏せるのみです!
なんで独逸兵が・・・とは言いません。変装して一般人に成りすまして目立たないようにして建物の塀とかを利用しながら回り込むように接近。ダッシュで迫れる間合いになったら一気に近づいて遮蔽物を利用しながら銃撃を見切って回避し武器受けでいなしオーラ防御で耐え間合いに入ったら範囲攻撃で蹂躙します!
こいつら、依然戦った連中と関係が?ないのならどこの誰なのか・・・・
館野・敬輔
【POW】
アドリブ連携大歓迎
…反魂、か
断じて認めるわけにはいかない
柊と紫蘭の護衛につく者も情報収集に回りたい者も
経緯を考えれば必ずいるだろう
ならば俺は敵陣内に切り込み時間を稼ごう
何、策はある
「ダッシュ、先制攻撃」で先んじて敵陣に切り込み
全身に漆黒の「オーラ防御」を纏いながら指定UC発動
敵の弾を「なぎ払い」ではじき返し「武器受け」で逸らし
時には自身の被弾覚悟で弾丸の雨から味方を「かばう」ように動き全体の被弾軽減
被弾の痛みは「激痛耐性」で耐えよう
代償の理性喪失も極力「狂気耐性」で耐えたい
射撃の雨が止んだ一瞬でダッシュで敵陣に肉薄し
片っ端から「2回攻撃、怪力」で斬り捨ててやる!
二人はやらせん!
藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
…まあ、情報収集せずに痛い目に遭ったことがあるので
事前に『撫子』と恋人の件は洗い出さないとマズイ
可能なら襲撃犯の正体も知りたいところか
というわけで今回の私は
歌ではなくもふもふさんで皆を支援しよう
指定UC発動し
柊さんと紫蘭さん、及び護衛の猟兵達に1匹ずつつけて
継続的に「祈り、鼓舞、元気、救助活動」で怪我の治療をさせるぞ
柊さんと紫蘭さんには誰か質問するだろう
だから私はダメもとで敵方に質問だ
貴方方は柊さんと紫蘭さんが邪魔だと言ったが
やはり黄泉還りに、反魂に関係するのか
巴里や水の都の件と同様
貴方方が与する集団が糸を引いているのではないか?
…なぜ、過去に留まることを望むのかな
ウィリアム・バークリー
二人だけでこんなところまで来るなんて、無謀すぎます。紫蘭さんも柊さんも、後ろへ下がっていてください。ここはぼくらが引き受けますから!
一応、ぼくの乗騎の『ビーク』をそちらへ回しておきます。
ぼくも自分の仕事をしなくちゃ。
氷の「属性攻撃」「オーラ防御」「範囲攻撃」「盾受け」のActive Ice Wallを広域展開。
あのお二方を守るように、手前ほど防御を手厚く、末端は薄く。氷盾の疎密が分かればすぐにお二方の居場所は割れるでしょうが、切り込んでくれば来るほど氷盾の密度は上がりますよ。
さあ、防衛戦の開始です。氷盾の陣形を組み替え続けながら、敵の銃撃を防ぎきります。
『戦場のインフラ』は伊達じゃないですよ。
彩瑠・姫桜
柊さんと紫蘭さん護りを中心に
一般人の対応はあお(f06218)にお願いしたから
私は身内の護りに集中するわ
>戦闘
【血統覚醒】使用
前に出てかばい、武器受け併用して攻撃受け流すわ
攻撃の余力がありそうならドラゴンランスで串刺しにしていくわね
かばう優先順位つける必要があるなら
柊さん>紫蘭さん
特に柊さんは身を守る術持たないし、重点的に
とはいえお馴染みの面々もいてくれると思うから
連携とりながら状況に応じて臨機応変にいくわね
というか、解ってるとは思うけど一応
柊さんは特に無茶しないでよ?!
(この人も放っておくと無茶なことしそうだと思ってる)
撫子さんの状況がわからないけれど
彼女は今この場にいるのかしら
そして襲撃される対象に含まれてるのかしら
必要なら彼女が怪我しないようにってところも気をつけて動きたいわ
>情報収集
柊さんと紫蘭さんは、撫子さんと
その恋人さんのこと知ってるってことなのよね?
もともと顔見知りなのかしら
戦闘が落ち着いて話が聞けそうなら、
撫子さんとその恋人さんについて、
二人が知ってる話を聞いてみたいわね
榎木・葵桜
一般人の保護をメインに動くよ
敵には【桜花捕縛】と「範囲攻撃」併用
できるだけ大人数の行動制限を仕掛ける
必要に応じて"胡蝶楽刀"での「なぎ払い」で攻撃するよ
敵からの攻撃は「武器受け、激痛耐性」でやりすごすね
敵の狙いは帝都桜學府関係者さん達だろうけど
人数多いとどさくさ紛れて関係ない人に危害加えかねないもんね
ないとは思いたいけど
該当の一軒家以外の民家に無理やり押し入るとかないように
一応目を光らせておくね
万が一、敵が一般人を攻撃してきたら
できる限りその前に出て「かばう」のも忘れない
同じように一般人対応に動いてくれる仲間とも連携して
動いていきたいな
それにつけても…この関係者と縁がつながるなんて思ってなかったかも
私もなんやかんやで
帝都桜學府関係者と縁が繋がっちゃった感じ?
なんてね
ともあれ
今回もなんだかハードっぽいし
人手多い方が都合いいだろうし
姫ちゃん(f04489)からもお願いされたし、
しっかり頑張るよ!
調査は…んー、一般人の方々とお話できそうなら
撫子さんと恋人さんについての情報を少しでも集めるね
文月・統哉
反魂ナイフ、柊さんは複雑な思いだろう
止めようと動いてくれたなら
俺もまた力になりたい
柊さんと紫蘭に話を聞き情報整理
件の二人はどんな人物で
どんな未来を描いていたのだろう
そして彼の亡くなった事件とは?
撫子さんの後悔の在処を推察
足りない情報を補完する為にUCで協力者を呼び
自分の代わりに調査を頼む
頼りにしてるよ、裕哉
他に調査に行く仲間がいれば連携フォローし合えると有難い
自分は残って二人を護衛
仲間と連携し襲撃者を迎え撃つ
オーラ防御で結界張り流れ弾を防ぎ
衝撃波で銃弾を叩き落とし被害を防ぐ
二人を庇いながら敵の動きを観察・情報収集
軍隊の統率とれた動きは厄介だが
狙いが分かれば対策も取り易い
勝機を見切り連携して倒す
クラウン・アンダーウッド
アドリブ・連携大歓迎
全く、時と場所を考えてほしいなぁ。もっと綺麗に戦闘しようよ。何か嬉しいことでもあったのかい?...なんてね♪
10体のからくり人形を呼び出し投げナイフを持たせ、戦場に多数の懐中時計を展開。
民間人や仲間へ向かう銃弾を懐中時計で逸して防衛、自身は遮蔽物に隠れ、からくり人形達に投げナイフによる攻撃を実施させる。
●
――帝都の一地区にある、その場所。
人通りと活気もそこそこにある住宅街の奥へ、奥へと進んでいく柊と紫蘭。
(「竜胆から貰った情報によれば、この先にあの子がいる筈なんだ」)
……止めなければ。
嘗て自分が犯した過ちの罪を振り返り、柊は思う。
自分と同じく道を踏み外し、不安定な心の化身とも言える影朧達を繁栄させようとしてしまう悲劇を止めなければ……。
その固い決意を現す様にきつく唇を噛み締める柊と、その目に何かを案じ、不安の色を湛えた紫蘭が連れだって歩くその背中に。
「お久しぶりです、柊さん。紫蘭さん」
不意に、そう声が掛けられた。
思わぬ、けれども何処か懐かしさを感じさせる呼びかけに、柊と紫蘭が思わず背後を振り返ると……。
「あなたは確か……超弩級戦力のネリッサさん、でしたね?」
そう頭の中のカードを捲る様にして問いかけてくる柊に、そうです、と短くSIRD……Specialservice Information Research Department局長、ネリッサ・ハーディが首肯した。
周囲の人々はネリッサ達の姿に特に驚いた様子も見せずに過ぎ去る様に歩いて行くのに安堵を交えて少し頷く。
「また、あなた達の命の危機に関わる事件の情報が、グリモア猟兵によって予知されました」
「……『撫子』の件ですか」
ネリッサの問いかけに確認する様に呟く柊にはい、と淡々とネリッサが返す。
「全く……如何して、あなた達はいつも事件に巻き込まれている様な事をするの!? 特に柊さん、あなたは、ユーベルコヲド使いですらない一般人よね!?」
そのネリッサの後ろから姿を現した、腰まで届く長い金髪の少女、彩瑠・姫桜の心配と叱責の綯い交ぜになった悲鳴の様な怒鳴り声に。
「……ごめんなさい。でも……」
柊に変わって、ポツリ、と意気消沈した様に目をしょぼしょぼさせて、顔を俯ける紫蘭のその姿に。
「あっ?! い、いや、別にあなた達を守るのが嫌とかそんなんじゃないわよ!? たっ、ただ、私が少し、き、気になるってだけで……」
焦った様に頬を赤らめ、モジモジとした様子で、もみあげを誤魔化す様に弄る姫桜に、榎木・葵桜がにっぱりと八重歯を見せて笑う。
「ふふん……相変わらずのツンデレさんだね、姫ちゃんは。良いね、良いね♪」
「ちょ……ちょっとあお!」
ニコニコとからかう葵桜に顔を耳まで真っ赤にしながら叫び返す姫桜。
もう敵との接触も間近にも関わらず、緊張感の欠片も無いやり取りをJTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioを通して聞いた灯璃・ファルシュピーゲルが息をつく。
灯璃が陣取っているその場所は、戦場となる一軒家とその周囲の住宅街を見回すことが出来る高層建築物の屋上。
無線機のマイクと音量調整を弄りつつ、端末で地理情報を集積し、影朧達が控えているであろう場所に見当を付けながら。
「首尾はどうですか、ミハイルさん、ラムダさん」
ともう間もなくネリッサや姫桜、葵桜達が柊達と共に辿り着くであろう、目標地点に先行して辿り着いていた者達に呼びかけると。
「やれやれ、今度は大挙して押しかけてくる団体客の相手をしろときたもんだぜ。ったくよぉ」
火を点けた煙草の灰を地面に落とし、手近にあったゴミや、廃棄物の類を積み上げていくミハイル・グレヴィッチのぼやきと。
「そうは仰いますが、口の割には随分と口元が楽しそうに笑っている様にわたくしめにはみえるのでございますが、ミハイル様」
作業用マニピュレーターを使ってミハイルを手伝いつつ高性能感知カメラ機能を周囲に巡らせる、ラムダ・マルチパーパスの呟きに。
「……あっ? まあ、一応ギャラは出るからな。どうせなら危険手当も山ほどついて欲しい所だが……にしても、相変わらず面倒事が多くて涙が出そうだぜ」
わざとらしく肩を竦め、出てもいない涙を拭う様にサングラスの奥の瞳を擦る振りをするミハイルに灯璃が何となく空を仰ぐ。
――と、此処で。
「局長、姫桜さん、葵桜さんが、柊さん・紫蘭さん、目標地点到達まで、後、30」
ふと表情を引き締めて、無線機から情報を流す灯璃の其れに。
「こちらは、帝都桜學府です。只今この辺り一帯に、重大な災害が起こる危険性があります。周辺住民の方々は直ちに避難して下さい」
ラムダが、自らの外部スピーカー機能をONにして周囲一帯に呼びかけた。
『帝都桜學府』による避難勧告と言う部分が聞いたのか、目端の利きそうな人々は此処から離れ始めるが……。
(「流石にこの付近にいる住人の皆さんが直ぐに避難する、と言う訳には行きませんか。彼等は周囲に隠れ潜む様にしていますから、何も騒ぎが起きていませんしね」)
人々が避難する状況を確認しながら、灯璃が内心でそっと溜息を1つ。
そもそも、災害用の防災キットなどを取りに一度家に戻る者や、近隣で遊んでいるのであろう家族を探しに外に繰り出す者も出てきている。
それでも効果がゼロでは無いであろうことが分かるのはせめてもの救いだった。
……と。
「了解だ、灯璃殿。……さて、関わるのは、何度目かな。まあ、放ってはおけぬが」
馬県・義透――SIRDにいつも顔を出す静かなる者ではなく、纏め役たる不動なる者……内県・賢好……の落ち着いた声が響くと。
「ええ。そうですね、義透さん。……それにしても柊さんと紫蘭さん、ですか……」
ミハイル達の築き上げたバリケードの上をひょい、と軽々と飛び越え、魔獣『ビーク』を呼び出し、灯璃と共に空を監視させながら。
「戦闘能力の低い2人だけでこんな場所まで来るなんて、無謀すぎますよ……」
ルーンソード『スプラッシュ』を抜剣し、青と白の綯い交ぜになった魔法陣を空中に描き出すは、ウィリアム・バークリー。
その間にも、義透の影に潜んでいた陰海月が影渡りをするかの様に、柊と紫蘭の交差する影の元へと移動した……刹那。
「……局長、敵襲、来ます!」
灯璃が危機感に満ちた声を無線機越しに張り上げるのに、ネリッサが忽ち表情を引き締め頷くと。
さっ、と柊の前に姫桜がすかさず立ち上がり、右手に漆黒の槍schwarzを、左手に純白の槍Weißを構えて風車の様に回転させる。
真正面に不意に現れた、兵士達が一斉に構えたStG44からフルオートモードで放たれた弾丸を叩き落としながら。
「ぷぎゅっ!」
義透のミズクラゲ、陰海月がそんな姫桜と共に、柊と紫蘭を守る様、海色の結界を展開、姫桜の防御支援をしてくれるその間に。
「あお!」
と姫桜が葵桜に呼びかけると。
「分かっているよ、姫ちゃん! 其の分柊さん達はちゃんと守らなきゃ駄目だぞ?」
葵桜が、ヒラヒラと、懐から取り出した桜舞花を開いて振って、不意に轟いた銃声に、息を呑む人々の所へと駆け去って行く。
葵桜は無視して、姫桜に火力を集中させようと、StG44を抱える様に構えて乱射しながら突っ走ってくる兵士を押さえるべく。
「走って下さい、柊さん、紫蘭さん! 此処は、私達SIRD――Specialservice Information Research Departmentが引き受けます!」
愛銃G19C Gen.4を構えて掩護の射撃を放ちながら、叫ぶネリッサ。
そのネリッサの声に促される様に後方のミハイル達の用意したバリケードに向かって駆けていく柊と紫蘭。
その柊と紫蘭の左側面から……。
――ガガガガガガッ!
狙い澄ました様に短機関銃MP40を乱射しながら肉薄してくる兵士達。
その凶弾は、今、正しく柊の命を捕らえようと……。
「させないぜっ!」
――斬。
昼の明るい太陽の輝きを断ち切る様な漆黒の線を曳いた大鎌が一閃され、その弾丸の一部を叩き落とすとほぼ同時に。
「紫蘭さんも柊さんも、私達は、絶対にやらせませんからっ!」
漆黒の大鎌……『宵』による一閃で文月・統哉が叩き落とせなかった弾丸をエレメンタル・シールドを真宮・奏が翳して受け止め。
「紫蘭、柊。確かにアンタ達の今までの経験上、歪んだ生は見逃しておけないだろうねぇ。でも……だからといって、自分達だけで『撫子』を止めようなんてのは無茶な話だよ!」
その奏の影から飛び出す様に姿を現した真宮・響が、左側面の兵士達の背後に回り込む様にしながら、ブレイズブルーを一閃。
青白く光り輝く炎を思わせる輝きを灯した一閃が、突撃した兵士達を薙ぎ払い。
「だから……ぼく達が守ります。歪んだ命を放っておけず、自分達の危険を省みる事無く、『撫子』さんの元へと向かおうとしていた紫蘭さんと柊さんを」
呟きと、共に。
右側面へと展開している部隊がMP42の猛射を行おうとする直前に、其方に向かって六花の杖を突きつけた神城・瞬が静かに首肯する。
首肯と共に、六花の杖の先端から放たれた氷の結晶の様な礫の嵐を解き放ち、MP42の銃口に叩きつけ。
「全く、正直もう少し時と場所を考えて欲しいよねぇ。どうせするなら、もっと綺麗に戦闘すれば良いのに……ねぇ?」
その様子を見て、道化染みた笑みを遮蔽物の影で浮かべたクラウン・アンダーウッドがそう呼びかけると。
――プップカプー、プッププ、プップカプー!
彼から伸長した糸で操られた人形楽団達が嘲る様に一斉に喇叭を吹き鳴らし。
「全くです。ともあれ、敵は斬り伏せるのみでしょう!」
鋭く突き刺す様な声を張り上げた朱雀門・瑠香が、物干竿・村正を鞘から抜刀すると同時に横薙ぎに一閃。
ミハイル達の用意したバリケードから飛び出した瑠香の死角をついた一閃が、端に展開されていた兵士達の一部を斬り裂くその間に。
「……反魂……か……」
星具シュテルシアを、錫杖形態に変えて。
自らの体に刻み込まれた共苦の痛みから針の筵に突き刺されるかの如き痛みを与えられた天星・暁音が呟いて。
「……どんな世界でも、いつの時代でも死者を取り戻したいのは共通の願い……。その気持ちが、その渇望そのものを間違っているとは言い切れないけれど……でも、だからこそ、そんな簡単に出来る筈がないんだよね」
――カンッ!
と星具シュテルシアの柄を地面に叩き付ける。
同時に金色の両目を大きく見開き、戦場全体を自らに刻みつけるかの如く、その場を睥睨する。
――天からこの地を見下ろす……『星の船』の目をも借りながら。
把握した空間を金色の平原へと塗り替え始める暁音。
(「まあ……直ぐに上手く行く、とは思えないけれども。……っ」)
そんな暁音の身を苛む様に、鋭く共苦の痛みが警句の如き痛みを発している。
――それは、いつも聞いている筈の、世界の嘆き。
しかし、ただそれだけとは到底思えぬ何かを訴える灼熱感を伴う痛みがあった。
「……さて、未だ戦いは始まったばかりだが……一応、貴方方に聞かせて貰おうか」
(「……以前にも情報収集をせずに、痛い目に遭ったことがあるからな。と言うか、多少でも良いから、『撫子』と恋人の件は洗い出さないと絶対に大変なことに……」)
そう胸中で重苦しい溜息をつきながら、グリモア・ムジカを指揮棒形態に変形させる藤崎・美雪。
美雪は四方を囲む様に展開されている兵士達に向けて、敢えて一言呼びかけた。
「貴方方は柊さんと紫蘭さんが邪魔だと言ったが、やはり黄泉還りに……反魂に関係するのか? それとも、巴里や水の都の件と同様、貴方方が与する集団が糸を引いているのではないか?」
そう鋭く、美雪が問いかけたその刹那。
『……愚かにして無知なる者よ、特別に聞くが良い』
この戦場全体にいる兵達の誰から聞こえてもおかしくない声が響いた。
それは銃声だけでなく、戦地と化したこの場所の戦いとは無縁だった一般人達を更にパニックに陥らせるには十分な声。
慌てざわめく大衆達の金切り声と怒号を背景にして、『其れ』は続けた。
暴動まで発展しなかったのは、予めの避難勧告による警告があったからだろう。
それが、不幸中の幸いだ。
『我等は、世界に光と闇の均衡を取り戻すための聖戦に参加を許された聖戦士也。我等が裁くべき魔女は今、我等が前にあり。今こそ我等が聖戦の成就を果たすべき時』
嘲笑と悪意と、正義に満ちたそれが無謬の言葉の針と化して、紫蘭を襲う。
まるで何かに縋る様に咄嗟に胸の羽根を握りしめる紫蘭の青ざめた表情に、統哉が思わず声を掛けようとしたその時。
「それが……反魂、か」
――ならば……と。
すらり、と黒剣を抜剣しつつ、ネリッサと姫桜の前に蒼穹の風に包まれて舞い降りた館野・敬輔が静かに言の葉を紡ぎ。
「そんな事、断じて認めるわけには行かない」
タン、と。
真正面の敵兵達に猪の如く大地を蹴って猪突した敬輔の其れが、戦いの始まりの引金を引いた。
●
「皆様、私達は、帝都桜學府の者です。この様な事態に対応する為に、皆様を必ずお守りします。皆様をお守りする帝都桜學府學徒兵の指示に従い、落ち着いて避難をして下さいませ。繰り返します……私達は……」
災害の際の緊急避難時の繰り返される放送アナウンスの様に。
スピーカー機能をフルオープンさせ、避難放送を繰り返すラムダ。
その間にも正面、左右、そして……。
「ウィリアムさん、後ろです」
建造物の屋上からその状況を監視しながら、素早く手を振り上げる灯璃。
その手のJTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioの携帯端末に、プログラムを起動させるかの如く、下記の文字が表示されてく。
『……Was nicht ist, kann noch werden.(今はだめでも、希望を捨てるな)』
その文字の表記と共に上空に飛び出したのは、高高度滞空偵察型ドローン。
各ドローンが天からの目となりて収集して来る情報を、PDAを通して解析しながらの灯璃のその叫びを。
「……くっ、既に包囲は完了していたという訳ですか。だからと言って、好きにさせるわけにはいきません……Active Ice Wall!」
ウィリアムが聞き届け、先程『スプラッシュ』で描き出した青と白の綯い交ぜになった魔法陣の中央に『スプラッシュ』を突き出すと。
中央に1個大きく描かれた魔法陣を中心に、更に5つの小さな魔法陣が展開され、其れが一斉に明滅し。
大量の氷塊を怒濤の様に吐き出した。
それらは背後から、MP42による機銃掃射の支援を受けながらMP40を構えて一斉掃射しつつ躙り寄っていた兵士達の弾幕を遮る盾となる。
と、その間に。
『プランAによる、ミッション達成の難易度は困難。プランBに移行する』
何処からともなく、そんな声が響くと同時に。
グワン! と突然戦場が大きく震撼し、戦場全体の下にぽっかりと巨大で長大な縦深の掘られた穴が作り出される。
「えっ、此は不味いよっ! そんな事、やらせないんだからっ!」
張り巡らされていた弾幕を、神楽舞を舞う足取りで軽やかなステップを刻んで躱しつつ、桜舞花を翻す葵桜。
瞬間、生み出された桜吹雪が怒濤の様に大地に降り注ぎ、ぽっかりと開いた穴を埋める様に花弁で一杯にしていく。
「皆っ! あの中に落っこっちゃったら、迷子になってまともに戦えなくなるよ! 気をつけて!」
自らの生命が削れていくことを証明するかの様に、肺が内側でぐしゃりと嫌な音を立てて血に満たされるのを感じつつの葵桜の警告。
その声にウィリアムが頷き、呼び出した氷盾の一部を動かして、地面にぽっかりと空いた穴を埋める様に尽力していく。
「Active Ice Wall! Priorityを猟兵達に、All Free! 皆さん、何かあったら氷塊を好きに使って、あの塹壕に落ちない様にして下さい!」
「了解です、ウィリアムさん」
ウィリアムの呼びかけにネリッサが応えながら、ジリジリと滲みよってくる兵士達にG19Cの銃口を向けて引金を引く。
――タン! タン! タン!
テンポ良く撃ち出された弾丸が、何体かの兵士を撃ち抜くその間に、さりげなく背中に回した左手で手信号を送ると。
「Yes.マム。さーて、たっぷり、鉛弾で歓迎してやるよ!」
ミハイルが頷き、口元にどことなく愉快そうな笑みを浮かべて、煙草を噛み潰し。
同時に、即席のバリケードを台座代わりに構えたUKM-2000Pの引金を引いた。
――ドルルルルルルルルルッ!
派手な爆音と共に薬莢が飛び跳ねつつ、その銃口が焼け切らんばかりの勢いで放たれる無数の弾丸。
撃ち出された弾丸が、ネリッサや姫桜、柊や紫蘭を守る様に飛び出し、兵士達を撃ち抜き、その勢いを少し弱める。
その様子を見て口元に笑みを浮かべつつ、しかしなぁ……とミハイルがぼやいた。
「正面切っての撃ち合いについちゃあ、俺達で役不足な位だろうが、どうせなら、側面をついてくれる遊撃隊でもいやしねぇかねぇ? いりゃ御の字、なんだけれどよ」
「そうでございますね、ミハイル様。とは言え、わたくしめはこの場を動くことは出来ませぬが。……モード・ツィタデレ。電磁防御フィールド、出力強化」
その左腕に取り付けられているMkⅦ スマッシャーのモーター回転速度を上げて、ミハイルの弾幕を支援しながらのラムダの呟き。
淡々と撃ち返される無数の銃弾は、電磁防御フィールドから放たれる磁気に吸い寄せられ、勢いを無くして地面に落ちる。
灯璃がそれらの情報をJTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radio付属の統合戦術無線機を通じて戦場に伝達した時。
「奏、瞬! アタシに続きな! 左側面の連中を一気に切り崩すよ!」
先程最初の一小隊を一閃し、薙ぎ倒した兵士達の1人の正面に回り込み、真紅のブーツで彼を蹴り飛ばした響が叫び。
「はい、母さん!」
左側面から肉薄していた部隊に蹴り込まれた兵士の肉体が、陣形に僅かに生んだ綻びを狙って奏が氷塊を蹴って肉薄し。
「あなた達に、これ以上余計な進軍をさせて、無関係の人々にまで被害を及ばせなんて、させませんからっ!」
エレメンタル・シールドに風の魔力を這わせて敵部隊に向けて叩き付けつつ、シルフィード・セイバーを大地に擦過させた。
次々にその地面に敷かれていく氷塊の大地を摩擦熱で削り取り、跳ね飛んだ氷礫の波を叩き付け。
「……これ以上、あなた達に弾幕を張らせる機会は与えませんよ」
其処に瞬が六花の杖を突き付けて、空中に複雑な形をした紋章を描き出す。
水晶色で描き出されたその魔法陣から飛び出したのは、アイヴィーの蔓。
放たれた蔓が幾重にも分裂し、奏と響の死角に回り込み、その銃口を突きつける兵士達のStG44や、MP40の銃口を絡め取り。
「まだまだ……!」
更に大地から槍の様に突き出した無数のヤドリギの枝が兵士達の足を貫き、その動きを止めたところに。
「其処であろうな」
柊に貼り付いている姫桜と対照的に、紫蘭に貼り付く様にバリケードに向かう様に共に走っていた義透が、『黒曜山』を一閃。
黒一色に染まった視認不可能な袈裟の斬撃が黒い剣風と化して、瞬がヤドリギの枝で絡め取った兵士達を纏めて薙ぎ払った。
「……統哉殿、右翼の兵士達を」
その漆黒の刀身に映し出された未来の一端を垣間見た義透の其れに。
「……ああ、了解だ!」
統哉が応じて横っ飛びに飛び、『宵』を素早く風車の如く回転させる。
その統哉の動きによって前面に展開されたクロネコ刺繍入りの緋色の結界が展開され、同時にそこにMG42から発射された弾幕を受け止めて。
グイッ、と『宵』を押し込む様に統哉が突き出すと。
クロネコの刺繍が顕現する様に飛び出して、黒と緋の混ざり合った波と化して、MG42で後方支援をしていた兵士達を打ちのめし。
バラバラバラ……と統哉の前で撃ち出された弾丸の薬莢が地面に落ち、塹壕に向かって落ちていく。
「ほらほら? どうかしたのかな? 何か嬉しくて楽しいことでもあったのかな? 何だかキミ達、ボク達にまで気が回っていないみたいだよ?」
ニコニコと、何処か寒気を感じさせる道化の笑みを浮かべ。
指に結びつけた10体のからくり人形に人形楽団達を交代させたクラウンが飄々とした様子で、其の手に投げナイフを握らせて。
「さあて、It’s Show Time♪」
と歌う様に口遊みながら、周囲に自らの本体の模造品……懐中時計を展開して防御を固めつつ、からくり人形達にナイフを一斉投擲させる。
轟々、と地獄の焔を刀身に纏った投げナイフ達が、地面と水平に風を切りながら飛び、兵士達に突き立ち、其の体に炎を着火。
着火された地獄の炎に焼き払われる事で、こじ開けられたその道を瑠香が緋色の残象を曳きつつ風の様に走り、刃を一閃。
――銀刃一閃。
物干竿・村正から放射される大気を断ち切り生み出された風の衝撃波が、兵士達を切り裂き、体をよろめかせたところで。
「……お前達の統率の取れた動きは厄介だが……それだけに奇襲に弱い!」
そこに緋の残像を曳いた統哉が漆黒の大鎌を肩に担いで肉薄し……。
「行け、統哉さん!」
呼び出したもふもふ小動物さんを護衛に付けた美雪が、激励も兼ねてその背を押す様に声を張り上げた。
指揮棒形態のグリモア・ムジカで、もふもふ小動物……ニャンニャン鳴いている猫さん達の大合唱を指揮しながら。
「かっ……可愛い……も、もふ、もふ……」
にゃあにゃあと足下にすり寄り喉を鳴らすもふもふさんにその瞳を真紅に染め上げた姫桜が頬を赤らめ足下をプルプル震わせる。
のほほんとした弛緩した空気が戦場を包み込み、不可思議な癒やし空間の形成による戦力の増加と、ほぼ同時に。
――斬!
と統哉が瑠香が切りそびれた右翼の兵士達の一角を切り崩し、そこに義透の不可視の漆黒の斬撃が飛んだ。
それは、兵士達には到底捌くことの出来ぬ不可視の一閃。
それを捕らえる暇も無く、瞬く間に地面に崩れ落ちる右翼の兵士達。
だが、その後方からMG42を地面に構えて援護射撃を行っていた兵士達は。
「統哉さん、瑠香さんは一度、ラムダさんの位置まで後退を。……ミハイルさん」
「やれやれ、人使いが荒いってーの。まっ……お礼は、利子を付けて返してやらねぇとなぁ……!」
無線機越しの灯璃のそれに、素早く新しいガンベルトを装填したミハイルが、バリケードに隠れる様にしながら、統哉と瑠香の方へと銃口を向け。
「文月、朱雀門。後ろ、振り返るんじゃねぇぞ」
そのまま引金を引き薬莢を撒き散らしながら、UKM-2000Pを乱射する。
機銃から放たれた数万発にも及ぶ弾丸が、雨あられと追撃を掛けようとしていた兵士達に洗礼を浴びせかけ。
「こっちです、統哉さん、瑠香さん!」
そこにウィリアムがひゅっ、と空中で手を振って、氷塊を統哉と瑠香の四方八方に移動させ、即興の弾除けを作成。
統哉と瑠香がそれらを足場にして右翼から離脱し、その目の端にウィリアムの『ビーク』がブレスを吐きつける兵士達を認め。
「……大丈夫だよ。俺がこれ以上、あなた達の好きに戦場をさせる理由は無い。……戦場領域、構築完了。……現出せよ!」
暁音が、カン、と再び錫杖形態の星具シュテルシアで地面を叩き、氷塊と桜吹雪に満たされた戦場に、黄金色の草原を重ね合わせた。
生み出された黄金色の草原に塗り潰された戦場を、制圧するかの如く天空の星の船から砲撃が。
更に暁音の手から飛び出した聖なる銀糸が、周囲に溶け込む鋭い刃と化して兵士達を切り裂き。
続けざまに左手に構えた一丁の銃……エトワール&ノワールから宵空に浮かぶ星の瞬きを思わせる弾丸を掃射する。
放たれた弾丸に頭部を撃ち抜かれ、力尽きていく兵隊達。
だが、まだ抵抗の気配が止む様子は無い。
「柊さんと紫蘭さん……護衛対象のバリケードへの護送は無事完了しました」
そのネリッサの報告が、暁音の耳に取り付けられていた無線機に入ってくる。
「でも、こいつら……全然諦めた様子を見せてないけれども……!」
――ボタリ、ボタリ。
血の涙を大地に滴らせ、自らの寿命を削りながら、二槍を大地に突き立てる様にして、真紅の衝撃波を解放しながら姫桜が呻くと。
「こぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ
!!!!!」
柊と紫蘭達を真正面から追っていた部隊の方から、人のものとは思えぬ咆哮が、戦場に轟いた。
●
「やらせるものかよ!」
それは、最初に柊と紫蘭を真正面から狙った兵士の大隊に漆黒のオーラを纏って突進した敬輔の叫び。
その叫びに応じる様に、四肢と腹部、そして赤い左目が異形の音と共に、白く硬化し、光を伴う。
その白き異形の姿を晒した敬輔の頭の中で、理性の箍がブチリ、と音を立てて千切れる音が鳴り響いた。
「こぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ
!!!!!」
その人のものとは思えぬ咆哮と共に、力任せに刀身が赤く光り輝く黒剣を振るう。
振るわれた黒剣から白と黒の光が迸り、StG44……アサルトライフルでの突撃を敢行していた兵士達を一瞬で肉塊へと変えた。
誰かを斬り裂き、過去から生まれ、過去へと葬るための肉を斬り裂く感触が人の本能に刻み込まれた闘争欲を満たし。
敬輔は続けざまに黒剣を振るい、只管に兵士達を斬り刻んだ。
思わぬ斬撃の嵐に瞬く間に切り崩されていく正面の精鋭部隊。
理性を弾き飛ばし、本能的に暴れ回る敬輔を支える様に。
戦場を覆った黄金色の草原が、その力を更に高めていく。
「ああああああああああっ!!」
内側から溢れる、『渾沌の諸相』の残滓と共に。
切り滅ぼされていく兵士達を見つめ、敬輔は微かに笑っていた。
●
「正面には、理性を弾き飛ばした敬輔さん。左側面には、奏さん、響さん、瞬さん。そして右側面はクラウンさん、瑠香さんが対応。南側面は暁音さんが生み出した黄金色の草原にその身を絡め取られている。ならば、私達が狙いを定めるべきは、南側ですね、ミハイルさん、ラムダさん」
「OK、OKだ、灯璃。やれやれ、人使いが荒いったらありゃしねぇなぁ、おい。まあ、此もビジネス、ビジネス……ってな」
灯璃の通信を受け取りよっこらせ、とUKM-2000Pを肩に担いだミハイルがバリケードの中を意気揚々と後方に向かって歩き。
「私はこの場を動く事は出来ませぬが……レーザーシステム起動、広域探索モード」
ラムダがプログラムを読み上げる様に、複合式多機能カメラセンサー・システムの広域探索レーザーを起動。
それから理想的な着弾点を算出し。
「それでは、参りましょう! 炸裂爆発型HEAT弾、発射!」
と叫び、その場から動くこと無く、肩部のカノン砲、M19サンダーロアの砲塔を回転させて後ろに向け、ドン! と一発の弾を解き放つ。
放たれた戦車砲の一発が放物線を描いて、ウィリアムが後方に展開した氷塊に着弾し、炸裂する。
炸裂した閃光爆発に装甲を打ち破られ、消し飛んだ兵士達の屍を乗り越えて肉薄してこようとする兵士達に。
「……行きます」
灯璃が、MK.15A SOPMOD2 SASR"Failnaught"のスコープ越しに覗き込み、狙いを定めて引金を引いた。
音も無く放たれた一発の弾丸が、爆発の向こうからMG42による掩護射撃を行っていた兵士の眉間を綺麗に撃ち抜きその場に崩れ落ちさせて。
「オラオラオラオラオラオラ! こいつはてめぇらへの特別報酬だぜ。喜んで受け取ってくれや」
その間に素早くUKM-2000Pをセットしたミハイルが三度その引金を引く。
――ドゥルルルルルルッ! ドゥルルルルルルッ!
薬莢を派手にばらまきながら叩き込まれる数十万の弾丸が、銀糸に絡め取られていた兵士達を纏めて蜂の巣にする。
黄金色の草原と氷塊の盾によって、隔離されつつある戦場。
その間の、葵桜や暁音による、一般人の護衛もまた功を奏し。
「局長。戦況は優勢となっています。……柊さんや紫蘭さん達に事情をお伺いするのは、恐らく今しか機会が無いかと」
高射程・高高度からの遠距離スナイプを続け、次の狙点へと移動しながらの、灯璃の其れに。
「了解しました、灯璃さん」
ネリッサがそう灯璃に応える様に頷いて、柊を姫桜が、紫蘭を統哉が護衛しているのを確認し、先導する様に『撫子』の家に入り。
「さて、何か情報が少しでも入れば良いのだが……もふもふさん、もふもふさん、皆のことを、頼んだよ」
ひっそりと其れに付き従う様に美雪もまた、『撫子』の家に足を踏み込み。
「安心するが良い。此処から先にお主達が一歩も進むことは叶わぬのだからな」
その入口を塞ぐ様に義透が立ち塞がって、兵士達の不可視の斬撃で斬り捨てていく。
……戦いは、収束への道を歩み始めていた。
●
「……やはりこの中には、『撫子』さんはいませんか」
外から聞こえてくる、戦いの音を気にしながら。
G19Cのマガジンを取り替えつつ、気配を探るが、音沙汰無し、と判断したネリッサがそっと溜息を1つ漏らす。
その間に、統哉は黒ニャンコ携帯で、あるUDC-Pに連絡を取っていた。
そのUDC-Pの名は……。
「もしもし、祐哉? 『撫子』と其の恋人についての情報の裏取りと確保、調査を頼む。信じているぜ?」
祐哉。
そのUDC-Pである祐哉に統哉が、情報の収集を依頼するその間に。
「未だ、完全に戦いが終わったわけではありませんが、このまま行けば収束するでしょう。ですので、柊さん、紫蘭さん。今回の件について、改めて少しお伺いさせて頂いても宜しいでしょうか?」
ネリッサが柊と紫蘭にそう問いかけると。
「恐らくそうなるだろうとは、私も思っていたよ」
覚悟を決めた様に、柊が静かに首肯を返した。
一方で、聞きたいことが超弩級戦力達にあるであろうことは、紫蘭にとっても予測の範疇であったのだろう。
「何を、聞きたいの?」
そう軽く小首を傾げて問いかけてくるのに、ネリッサが実は、と話しかける。
灯璃からの通信は、今も変わらず、現在の状況が優勢である事を伝えてきている。
ならば、今の内に聞けることは聞いておいたほうが良いだろう。
(「先程の兵士達の言葉……聖戦、そして紫蘭さんをどうにも中心に狙っていると言う事もまた、判明しているが……」)
そう美雪が思考を進めるその間に。
「皆さん、其々に聞きたいことがあるとは思うのですが先ずは私に質問させて下さい。如何してあなた達が、此処に来る事になったのかの経緯でしょうか?」
率直なネリッサの質問は、柊にとっては予測の範疇だったのだろう。
1つ頷き、ちらりと『撫子』の家の中を見渡し、其処にある一着の男物の衣服……帝都桜學府の制服だろうか……を見やり頷く。
「竜胆が情報を渡してくれたんだ。どうやら、私と同じ過ちを今、繰り返そうとしている菖蒲という娘がいることを、ね。本当は、雅人を護衛として連れて来る手筈になっていたんだが……」
柊の口から出た人物の名前を聞いて、統哉が思わず、と言った様子で口を開く。
「……雅人を?」
「ああ、そうだよ、統哉君。元々、彼女……菖蒲さんが黄泉還らせようとしている人物は、私とも多少、縁のあるものでね。彼の名は、椿君、と言う」
「……椿さん。それが、この事件を起こしてしまった少女……菖蒲さんの恋人の名前、と言う事か」
確認する様に問いかける美雪の其れに、そうだね、と柊が静かに首肯を返した。
「そう、椿君。生真面目でシャイなところもあるけれど、誰よりも菖蒲ちゃんの事を気に掛けていた、そんな子だったよ。そして影朧達……人の心の不安定さや未練が原因で、この世界に在り続ける彼等の事を、いつも心配していた。彼等を輪廻転生の輪に戻すこと……その苦しみから解放し、救済する帝都桜學府の理念と仕事に誇りを持っていた、そんな若者だった」
「つまり、椿さんは帝都桜學府に所属していたのね。菖蒲さんは、そんな椿さんの恋人だった。そう言うことで良いのよね?」
――ボタリ、ボタリ。
真紅の瞳と化し、その瞳から血の涙を滴らせながらの姫桜の問いかけ。
それに柊が何かを答えようとするよりも、統哉が軽く。
「姫桜。今は吸血鬼化を解除しておいた方が良い。その力の代償は決して安くない。……そうだろ?」
そう呟くと。
「……そうね。分かったわ、統哉さん」
素直に姫桜が首を縦に振り、自らのヴァンパイア化を解除。
普段の青い瞳に戻ったのに、そっと美雪が安堵の息をつくのをちらりと見やって微苦笑を綻ばせ、柊が続けた。
「その通りだ。雅人とも仲は悪くなかった。正直に言えば、私よりも雅人の方が、年も近いこともあって椿君とは仲が良かったよ。だから今回の件、本来であれば彼も一緒に来るべきだったし、その筈だった」
「でも、雅人さんは来れなかった。其れは如何してなのかしら?」
柊の、ゆっくりと状況を纏める様な回答に、軽く小首を傾げて姫桜が問いかける。
柊はそんな姫桜の青い瞳を真っ直ぐに見つめ、それは、と軽く頭を横に振った。
「雅人に別の任務が振り分けられたからだ。竜胆としても、本当ならば、この事件に雅人を回したかったようだが、彼にしか対応出来ない案件だったらしくてね」
「……雅人さんにしか、対応出来ない案件?」
柊の口から漏れた其れに、美雪が微かに怪訝そうな表情になる。
その美雪の問いかけには。
「すまない。その内容について迄は、私も知らされていない。只、一時期ラジオで騒がれた巴里の事件と関わりがあるそうだが」
その柊の戸惑いと謝罪を籠めた言の葉に。
(「……巴里で起きた事件、か。となると花蘇芳の件、か? そうなると確かに、雅人さん位しか適任がいないな……」)
巴里で起きたあの戦いのことを思いだし、微かに嫌な表情をする美雪。
しかしその事件そのものには、紫蘭も、柊も、直接的な関わりは無い。
(「恐らく、何らかの陰謀が起きているのは間違いないが……現状では其れについて調査をする術は無さそうだな」)
そう美雪が推察を立てるその間に。
では、とネリッサが、今度は紫蘭の方を向いて問いかける。
「あなたは、如何してこの事件に?」
「……夢を、見たから」
ネリッサの問いかけに、訥々と応える紫蘭。
思わぬ返答が来た事に、えっ? と姫桜が思わず口を開く。
「夢?」
「そう……夢。ある娘……多分、柊の言う菖蒲が、沢山のお墓があるその場所に、漆黒の短剣を突き立てる夢。そうしたら……黒い服を纏った男の人が、現れて……」
其れを見た時、何となく思ったのだと言う。
止めなくちゃ。
誰も幸せになる事が出来ない、そのままにしておけば誰もが不幸になる其れを止めなければ。
半ば強迫観念の様に紫蘭がそれを感じ取り、そしてその夢の光景と夢に現れた人を求めて帝都を流離い。
そうしている間に柊と再会し……。
「それで、やっとその人が、『菖蒲』と『椿』と言う人の事だと分かったから……」
「だから、柊さんと一緒にこの場所を訪れた。……そう言うこと、ですか」
確認するように繰り返すネリッサに、うん、と紫蘭が静かに頷く。
その両手が胸の前で握りしめられ、胸の羽根が、不安を象徴するかの様に風に靡いて揺れている。
「少し、状況を整理してみよう。先ず反魂ナイフで、帝都桜學府の學徒生の、椿さんがある事件で殺害された。その椿さんを椿さんの恋人……菖蒲さんが、黄還がえらせた。ここまでは確実だよな?」
その統哉の問いかけに、そうだね、と柊が頷きを1つ。
と、此処で、あっ、と何かを思い出したかの様に短く声を上げ、柊が続けた。
「椿君が死亡した理由だが、此については竜胆から話に聞いている。ある影朧が現れ、それを椿君が止める任務に出たのだが、その任務で戦死したそうだ」
「……えっ? それって……」
姫桜がはた、と何かに思い当たったかの様に、ちらりと気遣う様に紫蘭を見やる。
(「確か、紫蘭……いいえ、紫苑さんも影朧を止めようとして止められずに殺害されていたわよね?」)
姫桜のその怪訝な表情を汲み取ったのだろう。
柊がそうだね、と静かに頷き話を続けた。
「帝都桜學府が掴んでいる情報の限りだと、その事件は椿君の実力があれば、十分達成できるだけの任務だったそうだ。別に彼で無くても良い。ある程度の訓練を受けた帝都桜學府の學徒兵であるユーベルコヲド使いであれば、1人で十分解決できる程度の任務だったそうだよ」
「だが……現実にはそうはいかなかった。実際に椿さんは戦死し、それを黄泉還らせるべく、菖蒲さんが動いてしまった……」
(「何か、予想外のトラブルが起きた……と言う事か? ……何だか裏がありそうな予感がヒシヒシと押し寄せてくるが……」)
美雪のその内心に纏われた不安は、払われることが無かった。
●
――一方、その頃。
暁音の黄金色の草原によって切り分けられた空間の向こう側で。
「ええいっ!」
空間が断裂されるより前に雪崩れ込む様に姿を見せた兵士達に、胡蝶楽刀を横薙ぎに振るう葵桜。
チリン、チリン、と柄に取り付けられた魔除けの鈴の鳴る音が辺りへと響き渡らせ、朱の一閃が兵士達を断ち切り消失させていく。
「今、葵桜さんの攻撃で、一般人周囲の兵士達の敵影が0になりました。恐らく彼等に被害が出ることはもう無いでしょう」
そうドローンの目で戦況を見渡していた灯璃からの報告を受けて、微かな安堵に胸を満たし、ふぅ、と額に掻いた汗を拭う葵桜。
肺を侵食していた血は吐き出したが、寿命を削られたと言う事実は拭えない。
けれども……。
「皆、もう大丈夫だよ!」
そんな暗い事を少しも思わせない八重歯を光らせた笑顔を浮かべる葵桜を見て、人々がそっと安堵の息を漏らした。
「流石は帝都桜學府の學徒兵の方達だ!」
その笑顔に安堵して、漸く人心地ついたのだろう。
ラムダの避難勧告の関係も在り、すっかり帝都桜學府の學徒兵と見做しているその人物の称賛に思わず葵桜が微苦笑を零す。
(「……私もなんやかんやで、すっかり帝都桜學府関係者と縁が繋がっちゃって……何だか一員みたいになっちゃたなぁ」)
口元を少し汚していた血を軽く舐め取り、自分達の無事に、安堵の息を吐いている人々を見ながらしみじみと思う。
郷愁を誘う様な奇妙な感慨に耽りつつ、まあ、いいか、とお気楽に考え直す葵桜。
「今回の仕事もハードっぽいし、人手多い方が都合良いだろうし、何よりも姫ちゃんからお願いされちゃったしね。大丈夫だよ、皆のことはきちんと私が守るから!」
「ああ、ありがたや、ありがたや……流石は帝都桜學府の學徒兵様……。やはり影朧の救済を望む人々だけあって、人情に溢れた方が學徒兵様には多いのかねぇ?」
そう軽く小首を傾げてすりすりと手を合わせて葵桜を拝む様にする老婆。
そんな風に褒められることに対する照れ臭さを感じると同時に……その老婆の発言の中に気になることがあり、葵桜がさりげなく水を向けた。
「人情に溢れた方が多い? あの、お婆さん。お婆さんは帝都桜學府の學徒兵さんに会った事があるんですか?」
その葵桜の問いかけに。
「ええ、会っているどころか、ご近所の菖蒲ちゃんの恋人さん……椿さんが正しくそう言う人だったからねぇ。ワシも困っている時にはちょくちょく色々と手を貸して貰ったものじゃ。ああ、ありがたや、ありがたや……」
「……椿さん? もしかしてその人が、今回の事件の……? ねぇ、お婆さん。『撫子』さんって人の事知っていますか? それと、菖蒲ちゃんって誰ですか……?」
そう、葵桜が問いかけた時。
「その話、俺にももう少し詳しく聞かせて欲しいな」
不意に葵桜の隣にひょこりと姿を現した黒髪黒目で、何か少し猫っぽい雰囲気を持つ青年がぐいっ、と首を突き出してきた。
不意に現れた青年に、葵桜がわっ、と目を丸くして驚いた様に口をパクパクさせるが、老婆は気にした素振りも見せずに頷いた。
「ああ、勿論。『撫子』って言うのは、菖蒲ちゃんの事を椿さんが呼んでいた愛称じゃよ。愛らしくて、自分を一途に思ってくれる君は、僕の『撫子』さんだねと言っておったわ」
「そうなのか。それで、その椿さんって人は、最近は如何しているのですかな?」
青年が興味津々と言う様に目を輝かせて話の続きを促すのに、老婆もすっかり安心したか、ペラペラと話の続きを捲し立てた。
「偶に、菖蒲ちゃんの家に顔を出しておったよ。黒服に全身を包み込んで、ね。ああ、ただ……目を戦いでやられたとかで、最近は……」
「最近? その椿さんって人が、最近は如何したんですか?」
その葵桜の問いかけに。
先程葵桜を称賛していた青年が椿君は、と話を続けた。
「目の色が赤くなっていたな。確か、戦いで怪我をして目をやられたから、その目の補助道具が赤くてとか、何とかで……」
「……赤い目に、黒い服、か」
呟く黒髪黒目の青年に、そう言えば、と何かを思い出したかの様に青年が微かに遠くを見る表情になる。
「数ヶ月前、菖蒲さん、えらく塞ぎ込んでいた時期があったなぁ。……自分が彼を止めていれば、こんな事にはならなかったかも知れないって。わたしのせいで、椿君がそんな事になってごめん、と謝っている時があるし」
「そうなんですね」
「ありがとうございます。参考になりました」
葵桜が相槌を打ち、隣に不意に現れた青年がそう言って男と老婆に頭を下げる。
それから改めて避難を促し、更に戦場の外へと押しやる様にしながら、葵桜が小さく呟いた。
「……菖蒲さんだったら、椿さんが死ぬのを止められたかも知れないって……どう言うことなんだろうね?」
「さぁ、これだけでは何とも分からないな。統哉が貰った情報と付き合わせれば、何かが分かるかも知れないが」
そんな葵桜の独り言の様なそれに、黒猫っぽい青年が相槌を打つ。
そこで漸く葵桜が改めてその青年を見て、あのさ、と彼に問いかけた。
「あなたは、誰なのかな? 私、多分初めて会うと思うんだけれど」
「ああっ、自己紹介が遅れてしまったね。俺の名前は猫屋敷・祐哉。……統哉に頼まれて、この事件の裏を取る手伝いに現れた黒猫さ」
グルン、と。
クルリとその場で一回転し、ドロン! と言う音と共に黒猫に姿を変える、祐哉。
目を丸くしてマジマジと自分を見つめてくる葵桜に何処か自慢する様な笑みを浮かべて、祐哉が素早くその姿を消した。
●
――柊や紫蘭からネリッサ達が、一般人から葵桜達が情報を集めるその間に。
兵士達の数は大幅に減り……彼等は現在、壊滅的な状況に陥っていた。
「ハッハッハッ! 此処で一気にフィナーレだよ♪」
此処を好機と見て取ったクラウンが愉快そうな高笑いと共に、糸で操るからくり人形達に一斉にナイフを投擲させる。
獄炎の焔を纏ったそのナイフが一斉に兵士達を貫き、MP40を持ち、突撃を敢行していた右翼の部隊を一斉に焼き払い。
「此で……終わりです!」
その獄炎の焔を突っ切る様にして撃たれた銃弾を、ラムダの結界で受け止めて貰い、滑る様に戦場に躍り出た瑠香が、物干竿・村正を一閃。
再び放たれた衝撃の波が、極僅かな生き残りを斬り裂き、そして、遂に右翼連隊を殲滅させたことに、ふう、と息を吐く瑠香。
そんな瑠香を、狙う様に。
暁音の銃撃とミハイルのUKM-2000Pの機銃掃射、そしてラムダの方から放たれた対戦車砲の猛火を潜り抜けた生き残りがStg44の銃口を向けるが。
「……遅いですね」
その時には、スナイパーライフルに取り付けられたスコープを覗き込み、狙いを定めていた灯璃が、その引金を引いていた。
自分達よりも遙かに高い位置から不意に撃たれた銃弾が、音も無く、その兵士の米神から脳を撃ち抜き、どうと地にひれ伏させ。
「どうやらこの戦い、わし等に分があった様だな」
その呟きと、共に。
「おおおおおおおおおおっ!」
最初に柊と紫蘭を襲撃した兵士達を皆殺しにせんと虐殺を繰り返していた敬輔の背後を取ろうとした兵士に、漆黒の剣閃が落ちる。
そのまま、どうと崩れ落ちる兵士を一瞥し、続けて敬輔が義透を振り返った時。
「敬輔殿。これ以上の戦いは無用だ。後は瞬殿達が掃討するであろう」
漆黒の刀、黒曜山の反り返った刀身に映し出された未来を認めた義透の窘めに、引き千切った理性の欠片が光となって敬輔に戻り。
「……柊と紫蘭は、守れたのか?」
白く光り輝いていた左目を赤色に戻し、異形と変貌していた自らの姿を戻しつつの敬輔の其れに、うむ、と義透がキッパリと頷くと。
「此で終わりだよ……アンタ達!」
その義透の言の葉を裏付ける様に、響の声が戦場に響き渡ると同時に青白い閃光が走って、左翼の生き残りの兵士達を一掃し。
「あなたで……最後です!」
瞬が呼び出した藤の蔓が絡め取った兵士に、エレメンタル・シールドを叩き付け、そのままぐしゃりと奏が兵士を叩き潰した。
「や~れ、やれ。此で一先ず第一ミッションコンプリートって感じかねぇ?」
面倒そうに欠伸をしながら、UKM-2000Pを肩に担いだミハイルの其れに、そうですね、とウィリアムが静かに頷きその手を挙げる。
周囲に展開されていた氷塊達が、そのウィリアムの手の動きに合わせて雲散霧消。
氷塊が消えた後には、先程までぽっかりと開いていた筈の塹壕は無く、最初にここを訪れた時と同じ地面が広がっていた。
「……あの塹壕も消えたと言う事は、恐らく彼等の討滅は完了したのでしょう。此で、柊さんと紫蘭さんを守るのは先ずは成功した、と言って良いのでしょうね」
「そうですね、ウィリアムさん」
空のドローン達の目を借りて。
ウィリアムが無線機に告げた其れに、空かの目を使い、状況終了の一部始終を見据えていた灯璃が同意する様に頷いている。
(「しかし相変わらず、戦火の傷に付け込む連中が後を絶たない様子ですね……」)
そんな思いが胸中に宿り、密やかに灯璃が漏らす溜息を聞き取ったのであろうか。
「それはある種仕方の無い事だと思いますよ、灯璃さん。人には如何しても付け入る隙というものが生まれてしまいます。其処を狙ってくる者達がいる限り、私達の様にその問題を正す組織もまた、必要となってくるのですから」
ネリッサが宥める様にそう告げるのに、灯璃がYes,マム、と短く挨拶を告げ返す。
「柊さんと紫蘭さんは?」
「無事です。今、ある程度情報を聞き取ることが出来ました。ただ……『撫子』さん……本名、菖蒲さんがこれから何処に行くのかの手がかりは無さそうですね」
灯璃の問いかけに、ネリッサが事務的にそう答える。
同じく、黄金色の草原と戦場を化させていたその力を解除した暁音もまた、星の船の目を借りて、天空から菖蒲達を探そうとした、その時。
――ドクン。
「……っ!」
『共苦の痛み』が激しく燃え上がる様な痛みを与えてくるのに、暁音が一瞬だけ顔を歪めた。
(「これは……あの時の感覚によく似ている」)
――それは、決してわかり合えない。
世界の嘆きを痛みを具現化した様なそんな痛みの後ろに、灼熱の溶岩の様に蠢く昏く、深い感情を想起させる、そんな痛み。
「……美雪さん。菖蒲さんと、恋人さんの情報は、どの位聞く事が出来た?」
「ああ、暁音さんか。取り敢えず如何して菖蒲さんが今回の行動に及び、椿さん……どんな恋人を生き返らせたのかは取り敢えず判明した」
美雪のどうにも煮え切らないと言った口調の籠められた其れを捕捉する様に統哉がそれに、と話を続ける。
「後、菖蒲さんが何故、椿さんを黄泉還らせようとしたのか……その後悔の理由も、推測できる。どうやら、もし自分が椿さんの出撃を止めることが出来れば、椿さんが死ぬ事は無かったのに、と後悔しているらしい」
「……その後悔から、反魂を……?」
統哉の呟きに含まれる何かを感じ取り、暁音が微かに考えこむ様な表情になる。
(「死反の為には、足、生、道反の3つは必要……揃えれば可能なのは確かだろうけれども……でも、それだったら、この胸騒ぎは……? 共苦の痛みが、伝えようとしているこの痛みの意味は……何だ?」)
――そう。
それはまるで、負の感情の全てを内包したかの様な……そんな痛み。
その痛みの意味を捕らえきれず考え込む暁音をからかう様に、ピュイッ! とクラウンが口笛を1つ。
「まあ、今其れを考えても仕方ない感じがボクにはするけれどね♪ きっと、次に進むことが出来れば色々と分かる事もある筈さ♪ いや~、今度は美しい戦場だと良いんだけれどねぇ?」
そう言って、クスクスと笑うクラウンの其れに、瑠香が軽く溜息を1つ漏らしつつ、物干竿・村正を鞘に納め。
「それはさておき、こいつらは以前に戦った連中と関係があったのかどうか、何か手がかりの様なものはありませんでしたか? 何で独逸兵が……とは、言っても仕方ないので言いませんが」
そう無線機越しに問いかけると。
「其れなんだが……無関係とは言い切ることが出来ないと言うのが私の所感なんだ」
無線機越しに美雪が返し、ネリッサの指示の下、姫桜や柊、紫蘭が証拠と思しき何かを物色するのを見ながら、溜息を1つ。
(「……雅人さんがこの戦いに参加できず代わりに、柊さんがこの任務に使わされたのは、恐らく今回の陰謀を仕掛けた敵の、策謀なんだろうな」)
それは、雅人と紫蘭の2人に集まられては困ると考える存在が、此の裏で糸を引いている可能性が高いと言う事。
心当たりが無きにしも非ずな状況に、美雪が思わず頭を抱えた時。
「……駄目ですね、特別な証拠は流石に見つかりませんか」
周囲を探索し、先程の帝都桜學府の制服を除いてめぼしい何かが見つからなかった事に、軽くネリッサが頭を振ったところで。
「ねぇ、柊さん。もし、柊さんが菖蒲さんの立場だったら、椿さんを何処に隠れ住ませるかとか……分からないかしら?」
駄目で元々、と言った様子で、姫桜がそう問いかけると。
「……! 椿さんを黄泉還らせれたであろう場所ならば、心当たりは、ある」
はっ、とした表情になってそう呟く柊に、姫桜とネリッサが思わず、と言った様子で顔を見合わせた。
「……その場所とは?」
そうネリッサが尋ねると。
「ああ、それは、あそこだ。この時分であれば、幻朧桜だけじゃ無い。季節ものの桜も咲き始めるであろう、影朧によって殺された帝都桜學府の學徒兵達を鎮魂するために埋葬されるその場所。それは……」
「……あの共同墓地、か」
その時の事を思い出し、義透がそう呟く。
扉から中を覗き込む様に見つめてくる義透に、柊がそうです、と静かに頷いた。
「あそこになら、そう言った黄泉還った死者が人目につかぬ様に隠れて生を過ごすことが出来る小屋の様な場所もある筈です。あそこならば、菖蒲さんが椿君と一緒に過ごしていたとしても、おかしくはない」
「……それでは、次の目的地はあそこ……になるんですね」
(「ぼく達が、紫陽花さんと戦った、あの……」)
無意識に自室に飾った無銘の刀と、その持ち主のことを思い出しながら。
出来るだけ平静を装った口調でウィリアムがそう呟くと、そうだね、と響が静かにウィリアムの肩を叩いた。
「また、あの因縁の地に行くことになるとはね。……熟々アタシ達は、あの場所と縁があるらしいね、ウィリアム」
「そうですね、響さん。ですが……だからといって、此処で立ち止まるわけにも行きません」
そう響に応えを返すウィリアムの声を聞いて。
「そうですね、ウィリアムさん。では、私達も急ぎましょう」
奏が同意をする様に頷き、猟兵達は、柊と紫蘭を連れて、白『撫子』……菖蒲の家を後にする。
――彼女が彼と共にいるであろう、その共同墓地に向かう為に。
成功
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第2章 日常
『うたう花の園』
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POW : 花々が生い茂る場所へと散策する。
SPD : 花弁や春風につられ、花見を楽しむ。
WIZ : 春が訪れゆく景色を静かに見守る。
👑5
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●『椿』
――眩しい程に咲き乱れる、幻朧桜の端々に見える、その小さな桜の花達が、歌う様に見守るその場所で。
静謐さと荘厳さに満ちた共同墓地の片隅に、今は廃れ、忘れられた小屋がある。
ひっそりと咲く幻朧桜と、瑞々しい小さな桜達が沢山の月光を受けて優しく見守るその小屋の中で。
「ねぇ、椿」
少女……白い衣装に身を包んだ菖蒲がそう問いかけると。
「フフフッ、如何したんだい? 僕の大切な『撫子』さん?」
茶目っ気たっぷりの表情で漆黒の服に身を包み込んだ赤い瞳の少年が首を傾げた。
からかう様なそんなやり取りは、生真面目な彼が、時々菖蒲の前で見せるあの頃の茶目っ気と、変わらなくて。
だからその目が赤くなっていたとしても、菖蒲は此の人が、此の人として黄泉還ってくれたのだと信じている。
――信じている、けれども。
「あなたが生き還ってくれたのは、本当にわたし、嬉しいの。でも……」
俯き加減になる、菖蒲の其れに。
「何か不安なことでもあるのかい?」
軽く瞬きをする少年……椿の質問に、ううん、と菖蒲が軽く頭を横に振る。
(「気のせい、よね……」)
わたしの為に、黄泉還ってくれた此の人が。
影朧の救済を、あれだけ一生懸命に頑張っていた此の人が。
何故か時折、何かの影に連なってしまっている。
そんな風に思えてしまえる――なんて。
誰に言う事が、出来ようか。
「ふふ……ちょっと変だよ、僕の大切な『撫子』さん。でも、僕は今、深く、深く君に感謝しているんだ」
何処かからかう様な、優しい赤い眼差しを向けて。
深い情愛と感謝の念を籠めて呟く椿に、菖蒲がえっ、と目を瞬く。
「わたしに……感謝?」
「そうだよ。だって、君が生き還る事を願わなければ、僕は此処にはいないから」
――だから。
「ちゃんと君の所に還ってきたんだ。だから、せめて、ただいまと言わせておくれ。僕の最愛の人……『白撫子』」
その椿の呼びかけに。
「うん――お帰り、あなた」
菖蒲が少女らしい優しい微笑みを浮かべ、椿のただいまを受け入れた。
――大丈夫、此の人は……『椿』は、わたしの傍にいる。
その優しい微笑みと、その手の温もりがと共に、わたしの所にいるのだから……。
●???
――キキキッ。キキキキキッ。
それは、嗤う。
その瞬間が訪れるその時を、今か、今かと待ち続けている。
――此を食らえば、『我』は更なる力を得られる。
多くの者達が血を流し。
自らに起きた理不尽を、死を怨み、呪い、死んでいった。
ヒトによって齎される闘争の愉悦は、それだけで『我』を滾らせる。
――キキッ。キキキッ。
それは、嗤う。
今までに起きてきた数多の奇跡であり、軌跡である其れを。
魂の救済とされる希望を打ち砕くその瞬間が来るその時が訪れるのを待っている。
――何よりも、『我』にとっては『其れ』が全て。
『彼女』を食らい、あれを食らえば、『我』は誰にも止められない力を得る。
――さあ、さあ、さあ!
もう間もなく訪れるその時を、『我』は、もう少しだけ待つとしよう。
正義と革命という名の美旗の下に集う、醜き死と破壊の時を。
自らの手で齎す事が出来る瞬間が、訪れる其の時を。
●
――ゾクリ、と。
背筋が冷たくなる様なそれを、紫蘭は確かに肌に感じた。
「どうかしたのかい、紫蘭さん?」
その紫蘭の震える姿に気がついて。
宵闇と幻朧桜の咲き乱れる共同墓地へと超弩級戦力を案内した柊が声を掛ける。
その柊の呼びかけに。
「……怖い」
震える声で呟く紫蘭の其れに、柊が思わず顔を俯かせた。
微風に靡く咲き始めの桜の花達が、何処か脆く、儚げに思え……それが、柊の胸に痛痒を掻き立てる。
(「でも……あの子が来るとしたら、此処しか無い」)
如何に菖蒲さんと云えど、黄泉還ったとされる椿君を、他に隠し通せる場所なんて、在る筈が無いのだから。
(「もし此処に来たのが、私では無く、雅人であったのならば……」)
紫蘭も此処まで怯えることも無く、この墓地に足を踏み入れることが出来ただろうに、と深い憐れみの情を柊が胸に抱いた時。
――シャン、シャン、シャン。
傘に取り付けられた鈴を鳴らしながら。
1人の少女が少年と連れだって、共同墓地に咲く、桜並木を歩く姿が目に入った。
「菖蒲さん! 椿君!」
傘に顔を隠す様にして、横顔が微かに透けてしか見えないが。
けれども、微風にくゆられて、チリン、チリン、と鈴を鳴らす向こうに見えた少女の横顔は、間違いなく柊の知る菖蒲のものだ。
その柊の呼びかけが、聞こえてしまったのだろう。
あっ、と反射的に顔を上げ柊の姿を認めた菖蒲が思わず、と言った様に息を呑む。
その隣にいる椿もまた、何処か惚けた様な表情で、柊の事を見つめていた。
――その背が紫蘭を認め、微かに喜びに震えている事実にも、気付かぬままに。
「やっぱり、此処にいたんだね、菖蒲さん」
そう告げて。
ゆっくりと近付く柊に震えながらも、静々とついていく紫蘭。
菖蒲もまた、後ろめたいものでもあるのだろうか。
黙って顔を逸らしこそしたが、それでも柊と猟兵達の前から逃げたりはしない。
――否。
「やぁ、柊さん。お久しぶりですね」
朗らかで照れくさげな、友好的な笑みを湛えたままに。
椿の方から柊と紫蘭の方へと歩み寄るのだから、そこから菖蒲が逃げることが、出来よう筈も無かった。
「椿君……。本当に、君なのか……?」
何処か、不安げな表情で。
唸る様に囁き問いかける柊に、はい、と笑顔で椿が頷く。
「その節は、ご心配をお掛け致しました。不肖、椿。無事、生還致しました」
「……そう、か。そう……だな」
――違う。
彼は間違いなく、一度死んでいる。
其れは分かっている。
分かっているが……其れを否定しきることが、柊にはやり切れない。
当然であろう。
それは、過去に自らが犯した罪……それと同じ罪に手を染めてしまった、菖蒲の心を傷つけ、もしかしたら壊してしまう行為になりかねないから。
其の時に菖蒲が、そして椿がどうなるのか……それが柊には分からないのだ。
だから、柊は誤魔化す様な笑みを浮かべて。
「良かったら皆と一緒に、この夜の桜並木を散歩しないか。花見などをしても良い。その為の用意なら、超弩級戦力の皆にならして貰える筈だから」
苦渋の決断とでも呼ぶべき柊の提案に。
「あっ……それは……」
微かに迷う様な表情を見せる椿と対照的に。
「……ねぇ、椿。折角黄泉還ったんだから、皆にも貴方が無事に還って来たことを祝って貰いましょう?」
悩む様な表情を見せながらも、柊の提案に乗る菖蒲の其れに。
「……僕の『撫子』がそう言うなら、そうしよう」
やや不承不承と言った様子で、椿がそう頷くのに、柊がそっと胸を撫で下ろす。
そうしながら……そっと後ろ手に、1枚の紙を猟兵達に差し出していた。
差し出された其れを、猟兵の1人が受け取った時。
何時の間に仕込んでいたのであろう。
予めプログラムされていたかの如く、紙の上にタイプライターで書いた様に文字がゆっくりと浮かび上がった。
「今、私は何とか菖蒲さんと椿君を、この共同墓地の花の園で、楽しむ舞台に引きずり出すことが出来た。けれども私には、菖蒲さんに椿君の死を受け入れさせ、黄泉還った椿君の事を諦めさせる手段が思いつかない。紫蘭の不調の理由も。そして……雅人が此処に来れなくなってしまったその理由も。只、これだけははっきりと分かっている」
それは……。
「椿君に安らかに自らの死を受け入れ貰う事。そして、その為にも、菖蒲さんの折り合いのつかない思いに折り合いを付けて貰うこと。此が恐らく必要なのだろう、と言う事だ」
――だから。
「超弩級戦力の皆さんに、椿君がどう言う状態なのか、そして菖蒲さんに椿君の事を諦めて貰うには如何したら良いのか、その方法を探り、菖蒲さんを説得して欲しい。私に出来ることがあれば、勿論私も協力する」
そして、もう1つ。
「私には、雅人の代りは務まらない。だから、紫蘭の不安を打ち明けて貰い、可能であれば紫蘭の心を開いて欲しい。此はきっと……君達にしか出来ない事だから」
紙に熟々と書き並べられたその文章に目を通し。
猟兵達は其々の表情を浮かべて、行動を開始した。
*以下、今回のルールです。
1. この章は、心理戦に近い内容となる予定です。
2. 断章が全部で3段(●が3つの為)になっておりますが、内2つの断章については、タイトルがついています(タイトル:1.『椿』、2
.???)
此は現在、柊達の目前にいる椿が、『椿』と???が融合している状態である事を意味しています。その融合の結果として椿が黄泉還ってきています。
この『椿』と???の魂を分離させることが第3章の難易度を下げる手段となります。その為には、菖蒲の協力が必要です。上手く菖蒲を説得してあげて下さい。
但し、断章の???のシーンで書かれている心理描写は猟兵達には初期の儘では分からないと判定します。その点は注意して下さい。
3.柊と紫蘭の扱いは下記となります。
A.柊
菖蒲の説得に協力して貰うことが出来ます。彼は元々、死んでしまった娘を黄泉還らせるために、一度影朧と手を組みました。
その為、菖蒲の気持ちは理解出来る人物です。一方で、黄泉還らせることそのものが正しい命の在り方では無いと認識しているため、彼女を説得したがっています。
柊を上手く使えば、菖蒲に椿の事を諦めさせる事がやり易くなるかも知れません。
柊に協力して貰うかは任意です。もし柊に協力を要請する場合は、『柊同行希望』とプレイングの冒頭に記入して下さい。
尚、【チーム】で説得を行う場合は、誰か1人が『柊同行希望』と書いておけば、共通事項扱いと判定し、柊の協力を得られます。
B.紫蘭
『椿』との接触により、不安定な状態になっています。その為、現状ではユーベルコヲドを使用することが出来ません(此は、第3章の判定に影響を及ぼします)
紫蘭の精神を安定させる事に挑戦する際には、冒頭に『d』と記入して下さい。
『d』を冒頭に記載された場合、紫蘭との会話のプレイングが可能となります。
但し、『紫蘭』との会話を行うシナリオでは、菖蒲の説得等は行わなかったと判定します(また、紫蘭の説得シナリオは、第3章の難易度に影響を与えるだけなので、最大でも『成功』判定扱いです)
紫蘭の状況は、第3章の判定に影響します。尚、紫蘭に対して何もしなかった場合、紫蘭は第2章のラストで死亡します。
4.今回のシナリオでは強制改心刀を初めとする、精神浄化・回復・操作系及び、敵にダメージを与えるユーベルコードや技能の使用は出来ません。
精神に干渉しない情報収集や、フラグメントのイベントを円滑に出来るユーベルコードや技能は問題ありません。
5.シナリオの成否には直接関係しませんが、桜シリーズの設定の一部を調査する事も可能です。此は通常通り、他のプレイングと一緒にやって頂いて構いません。
但し、雅人が現在関わっている事件については、調査できません。
6.プレイングの際、【d】も、他のこともやりたいと言う場合には、優先順位を付けて頂く必要があります。
記載が無い場合の優先順位は菖蒲の説得>【d】>桜シリーズ情報収集となります。
但し、二兎を追う者は一兎をも得ずの為、判定結果は芳しくなりにくいです。
もし【チーム】で参加して、紫蘭の説得と、菖蒲の説得を両立する場合には、どうチームで動くのかの順番のプレイングが優れていれば、判定結果が上がる可能性がございます(この場合のみ、紫蘭の説得による成功が最大という判定結果の上限が撤廃されます。但し【チーム】内は勿論、他の猟兵達との綿密な連携も必須でしょう)
――それでは、最善の結末を。
朱雀門・瑠香
アドリブ連携可
こうなったら椿君が関わったという事件を調べてみますか・・・
桜學府に出向いて直接調べるとしましょう。
事件の概要、影朧が出たらしいのでそれが何者か詳細情報、事件の顛末こんなとこですかね・・・
後は椿君の個人情報も詳しく調べておきますか、今接触している菖蒲さんへのなにがしかの足掛かりになればいいですけど・・・
藤崎・美雪
桜シリーズ情報収集
アドリブ大歓迎
他猟兵との連携連絡は緊密に
一言断り共同墓地にはいかず
急ぎ竜胆さんに連絡or接触
菖蒲さん達の行き先を伝え
念のため周囲の封鎖を要請
その上で竜胆さんに質問
1章で殲滅した兵士達は「光と闇の均衡を取り戻す」と言っていた
多分闇の天秤の信奉者なんだが
人造影朧の可能性も否定はできぬ
派遣しそうな輩の心当たりはあるか?
もうひとつ、椿さんの死について
概要は柊さんからも聞いたが
影朧の戦力情報の齟齬がどうも腑に落ちない
椿さん派遣の切っ掛けとなった情報は如何にして得た?
そして、椿さんが派遣された理由は?
…嫌な存在思い出した
以前遭遇した負の想念…切り裂きジャックだ
私らを「超弩級戦力」と呼んだ理由が謎だったが
もし花蘇芳さん一派と手を組んでいるならその呼称も知ってるだろう
しかもジャックは転生前の紫苑さんに手を貸していたことすらある
…玉梓や姉桜達が口にしていた「あの方」はジャックか?
…これさ
全てがジャックと闇の天秤、花蘇芳さん一派が結託した陰謀では?
目的は、天秤を崩す存在たる紫蘭さんの殺害
●
――帝都桜學府。
「……一応、皆に断りは入れてきたが、相変わらず此処は賑やかだな……」
學徒達が他愛ない話に興じ、或いは青春を謳歌する姿を認め、藤崎・美雪が何とも言えない表情で溜息を漏らす。
「私達が関わっている事件もまた、氷山の一角に過ぎないのでしょうね。まあ、全ての人々が関われば解決できる、と言う話でもありませんが」
周囲を見回しつつ、美雪と共に足を踏み入れていた朱雀門・瑠香もまたそっと息を1つ吐き、美雪に相槌を打っていた。
(「さて……椿君が関わった事件についての情報があるであろう場所は、やはり資料室でしょうか」)
そう瑠香が思案を巡らし、資料室の方へと足を運ぼうとした、丁度其の時。
『わざわざご足労頂きありがとうございます、美雪さん』
不意に背後からそんな声が掛かり、思わずビクリ、と肩を竦めて美雪と瑠香が同時に背後を振り返ると。
『ああ、此は失礼致しました、朱雀門・瑠香殿。貴殿も美雪さんとご一緒でしたか』
「竜胆さん、あなたが急に私達の後ろから姿を現すとはどう言うことなんだ?」
軽く半目になって問いかける美雪の其れに、此は失礼、と丁寧に一礼を返す竜胆。
『先程、美雪さんよりございました件の手配をして来たところですよ。本来であれば執務室に戻るつもりでしたが、丁度貴女方がいらっしゃったものですので』
普通であれば難事であろう事を当然の様にやってのけてきたと言う竜胆の其れに、美雪が軽く頭を振る。
「……それでは、件の場所の周囲の封鎖は」
『ええ、既に完了しております。……皆様が菖蒲の家で戦った影朧達の騒ぎの二次被害の可能性、と言う名目ではございますが。此で皆様に事件を解決して頂く間に、一般人が事件に巻き込まれる可能性は無くなったでしょう』
「相変わらずの手際の良さ、ですね。まるで手配屋の様です」
ほう、と溜息を零す瑠香に、いえ、と竜胆が軽く頭を振りながら、周囲に聞こえない程度の囁き声で話し続けた。
『この位の事であればいつもの事でございますので、お気になさらずに。しかし……菖蒲の件に関しては、美雪さん達にご迷惑をお掛けしてしまった様ですね』
静かに嘆じる様に呟く竜胆の其れに美雪が微かに怪訝そうな表情になる。
「……竜胆さん。柊さんにあなたが今回の件をリークしたという情報は……」
と、美雪が其処まで告げたところで。
すっ、と静かに人差し指を持ち上げ、竜胆がゆっくりと前を歩く。
何の感情も見せず、スーツ姿でゆっくりと前を歩く竜胆の様子に、美雪が思わずそっと溜息を漏らした。
(「……やはり今回の件も、関係者以外にはあまり知られたくない話の様だな。何だか果てしなく嫌な予感がするぞ……」)
そう胸中で嘆じる美雪の様子に、自らの人気の無い執務室の前までやってきた竜胆は、美雪と瑠香に一瞥を送るだけだった。
●
――カチャリ。
『どうぞ、お入り下さい。あまり時間も無い様でございますので、ごゆっくりとおくつろぎ下さい、と申し上げることは出来ませぬが』
そう応接室のソファーに席を勧める竜胆の様子に、美雪と瑠香が一先ずソファーに腰を落ち着ける。
最低限の礼儀、と言う事だろう。
手近の棚に置かれていた緑茶を竜胆が自ずから入れ、一先ず美雪と瑠香の前に差し出してから、さて、と小さく咳払いをした。
『無線機越しに、美雪さんは私に聞きたいことがあると伺っておりましたが、今回は、どの様な件についてでございますかな? いえ、菖蒲と椿に関わる件なのは重々承知の上ではございますが』
竜胆の其れに微かな違和感を覚えつつ、美雪が現在の状況を簡潔に説明を始めた。
「先程交戦してきた兵士達について、如何しても気になることがあってな。菖蒲さんの家に向かっていた柊さんと紫蘭さんを狙った兵士達は、『光と闇の均衡を取り戻す』と言っていた」
静かに話を切り出す美雪の其れに、竜胆が小さく溜息を1つ漏らす。
『やはり、光と闇のバランス……あの天秤に纏わる者達が、再び姿を現しましたか』
「ああ、そうだ。恐らく闇の天秤の信奉者だとは思うのだが……グラッジパウダーで作られた所謂人造影朧の可能性も否定が出来なくてな。それで、派遣しそうな輩に心当たりはないだろうか?」
軽く玉露で喉を潤しながらの、美雪の問い。
その美雪の問いに、顎を両手の上に乗せ、束の間記憶を探る様に空に目を向けていた竜胆だったが、程なくして軽く頷いている。
『候補が無い訳ではありません。例えば、幻朧戦線に身を投じ、獅子身中の虫を燻り出すのに一役買った紫陽花の思想だけを借りた過激派。或いは、花蘇芳の勢力の残党が盛り返してきている可能性もございます。そして、最後の1つは、『天秤』に関わる勢力でしょうか』
さりげなく告げられた竜胆の其れに、思わず美雪が眉を顰めた。
「『天秤』の勢力? だが、あの勢力は紫蘭さんと雅人さんと私達で、大本は転生させた筈だが……?」
その美雪の言の葉に。
そうですね、と竜胆が軽く溜息をついて頷きつつ、話し続けた。
『美雪さんの仰るとおり、雅人や紫蘭が大本であった、かの光と影のバランスを論じる存在は、救済し、転生させることには成功しました。ですがかの者は、元々この世界のシステム、我々が『救済』する影朧達の光と影の縮図なのでございます』
その竜胆の言の葉に。
美雪が思わず溜息を吐き、そう言えば、と少し気が滅入った様に渋面を作る。
「あなたは水の都での事件の時、こうも言っていたな。あの時、私達が戦った玉梓は、不安定な影朧に取り憑き具現化した負の『概念』そのものだと」
『はい、その通りです。……その様な者達が転生する事、誰かが黄泉還る事。『死』にながらも不安定な心を持つ者達にとって、この2つは、性質的には真逆の意味がございます』
美雪の呟きに相槌を撃ち返しながら、静かに返す竜胆。
竜胆の言葉の端々に隠れた其れを聞く度に、美雪の顔が強張り、自分の中での嫌な予感が大きく膨れ上がっていく。
「……確かにそう言われればそうだな。あなた達の言う『救済』……転生は失われた自らの生を受け入れ、新たな生を営むこと。それに対して、黄泉還りはその記憶を保ったまま生き続ける……過去に拘泥し続ける事だ。『転生』による新たな命への生まれ変わりを『光』とするのであれば、黄泉還りは『闇』、か」
『はい。オカルトめいているかも知れませんが、この世界では黄泉還りは少数派であり、ある意味で、極めて異端的な発想です。無論、思想そのものを差別してはいけませんが、『幻朧桜』による転生は世界の理。その常識の中で黄泉還りを容認する訳には参りません。ですが其れを受け入れることが出来ず、革命という名のより多くの人の血が流れる戦いを望む者達がいる』
「700年以上続いた平和に倦み、その平和を乱すべく活動をするテロル組織……安定では無く、不安定を望む者達……或いはその心そのものが敵だ……と……?」
と此処まで美雪が告げたところで。
(「……むっ?」)
在る事が脳裏に引っ掛かり、美雪は一瞬、ゾクリ、と背筋を震わせる。
背筋を走る嫌な悪寒、思考の片隅にへばりついていた其れが少しずつ形になって姿を現してきているのを感じ、益々渋面になった。
その間に。
「椿君が関わった事件というのは、どの様な事件だったのでしょうか?」
そう瑠香が問いかけると、竜胆は軽く首を横に傾げた。
『椿の関わった事件ですか? もし瑠香殿達が柊に会っているのであれば、既にご存知かと思っておりましたが……?』
その竜胆の問いかけに、ごほん、と軽く咳払いをする美雪。
「通り一辺倒の事は柊さんからも聞かされているが、どうにも腑に落ちないことが私にはあってな」
その美雪の問いかけに。
『ふむ……』
小さく唸る様に頷きながら竜胆が静かに先を促す。
「具体的な事件の概要としては、ある地域に影朧が現れて、其れの救済のために椿君を派遣したと言うのは分かります。ですが、影朧についての具体的な情報、事件の顛末迄は聞かされていない、と言う状況なのです」
美雪に変わって、そう告げたのは瑠香。
瑠香のその問いかけには竜胆が1つ頷き、それはですね、と静かに話す。
『柊には大体話はしてあるのですが、もう少し捕捉させて頂きましょう。本当のところ、私は椿を派遣した1件、可能であれば雅人を派遣したかったのです』
「……と言う事は、雅人さんと関わりが……?」
そう問いかける美雪の其れに、そうですね、と静かに頷く竜胆。
『はい。それは、影朧が出現した場所故です。そこは、貴女方も知る場所でした。其れは嘗て情と知を司る者が住み、祀られていた彼の地でした』
竜胆のその言の葉に。
「……!」
美雪と瑠香が思わず息を呑み、顔を見合わせる。
竜胆は無論、と小さく頷いてから、話を続けた。
『既にあの時の戦いの痕跡は残っておりません。またそう言った場所故に、警戒も十分させておりました。そして……ある意味では極めて不安定な場所であるが故に、立ち入り禁止地区として指定しておりました。ですので、私達の情報網で十分、どう言う状態の影朧だったのかは、把握できておりました。只……場所が場所のため、如何しても諜報部でも、私が信のおける學徒兵を送る必要があったのも確かです』
「……待て。と言う事は、椿さんには、あなたは其れなりに信をおいていたのか」
竜胆の思わぬ一言を美雪が追求すると、そうですね、と竜胆は粛々と頷いた。
『元々椿は雅人とも交流があり、更に菖蒲とも深い関わりのあるものです。只、それでも私と椿の間には、上司と部下という関係が先立ちますが』
「……? その言い方ですと、竜胆さん。椿君はまるで、あなた個人と関わりのある人物の様に聞こえますが……?」
眉根を潜めて首を傾げる瑠香の其れに、そうですね、と竜胆が微苦笑を零した。
『菖蒲が私の妹だった、と言ったら瑠香殿はお信じになりますか?』
「……はっ?! 妹……っ!?」
思わぬ竜胆の発言に、素っ頓狂な声を上げる美雪。
瑠香もまさか、と言った様に口をあんぐりと開けてみせるが、竜胆はそれ以上を語ること無く只、淡々と話続けるのみ。
『事情はどうあれ、椿は私には信のおける部下の1人だったのですよ。無論、普通の影朧であれば救済する事が出来る実力は十分持っておりました。ですが……』
「……つまり、こう言う事か? 観測された影朧の実力は帝都桜學府として把握出来る限りでは、ある程度の実力を持つユーベルコヲド使いであれば対処できた。だが、その影朧が出現した場所は、嘗て私達も訪れたことのある場所だった。だからこそ、土地勘に詳しい雅人さんを本当は送りたかったが、雅人さんは別の事件で動けない。その結果、雅人さんとも親しく実力もある程度裏打ちされている椿さんを出撃させた。しかし……椿さんは影朧に殺されてしまった」
状況を整理した美雪の其れに、重苦しい溜息を吐きつつ竜胆がはい、と首肯する。
『……はい。此は、私の判断ミスでもあります。事件の発端となった影朧の救済は成功したと言う報告は、私の所にも上がっておりました。その帰還の途上で椿は……』
沈痛そうに呟く竜胆の其れに、美雪が小さく軽く頭を横に振る。
(「だが、竜胆さんの性格的に、早々粗を出すとは思えない。しかも当初は雅人さんを派遣するつもりだった。と言う事は……」)
自分の胸中の嫌な予感が半ば確信に変わっていく様な、そんな感覚を覚えながら。
竜胆さん、と美雪が静かに言の葉を紡いだ。
「……突発的に何処に現れてもおかしくない、負の想念……其れが形作った存在に、椿さんが目を付けられた、とも言えるな。……そうなると、如何しても奴の存在が私の頭から離れない」
『流石に、美雪さんは鋭いですね。ええ、私も今回の事件の首謀者については、ある程度見当を付けております。だから今度こそ、雅人を送りたかったのですが』
「竜胆さんに其れを出来無くさせる相手……つまり花蘇芳の一派が起こしている事件、と言う事か。そしてそれを解決するべく雅人さんを今、現場に向かわせている。となると……やはり奴位しか、これだけの大がかりな事件を起こすことが出来るものは思いつかない、な」
――それは。
「自らを負の想念、『殺したくて殺したくて仕方ない』という理不尽な欲望を抱く者……決して輪廻の輪とは相容れぬ、破壊する者の権化と定義づけたあの影朧……切り裂きジャック。奴と花蘇芳さん一派が手を組み、今回の事件を起こしていると?」
『恐らくそうでしょう。美雪さんや瑠香殿達が一度関わったかの存在は、元々人の負の想念に引き付けられ、自分に益があると判断した者に力を貸します。……その先に生あるモノを殺すことが出来ると言う原始的な欲求が存在しているからです』
そう大きく溜息を吐く竜胆の其れに、美雪が思わず頭を抱えた。
「……では玉梓や姉桜達が口にしていた『あの方』は、ジャックの事、なのか?」
その美雪の問いかけに。
『そうとも言えますし、そうとも言えないのです。ジャックは、ジャック自身負の想念ではありますが、元々、『天秤』であったかのモノに吹き込まれた命です。つまり、その上に……』
――更に別の存在がいる。
そして恐らく其れは、花蘇芳一派にも力を貸した『闇の天秤』とも深き関わりを持つモノなのだろう。
「……となると、ジャックの本当の目的は……『闇の天秤』の化身を浄化した紫蘭さんの殺害……下手をしたら紫蘭さんを吸収すること、か」
『はい。……美雪さんの仰るとおりでしょうね。情と知の存在を継いだモノの存在は、引き続き私達の方で調査を続けます。ですので美雪さん達は、今は目前の相手に集中して下さい。無論バックアップは惜しみませんので』
そう一礼する竜胆に見送られ、美雪と瑠香は帝都桜學府を後にした。
●
帝都桜學府を退出して、再びあの共同墓地に向かいながら。
「ある程度、予測がついていたとは言え……実際に裏を取ってみると、相変わらずとんでもない話、だな……」
美雪が愚痴の様に言葉を漏らすのに瑠香もそうですね、と小さく頷いている。
「……椿君について新しく分かったことは、竜胆さんも信を置いていたと言う事ですが、それ以上に……」
「……正直、私は半信半疑だが……とは言え、竜胆さんの言っている事が本当だったのであれば、菖蒲さんの罪悪感にもある程度説明がつく」
――それは竜胆の情に訴えれば、もしかしたら、椿を止められたかも知れないと言う可能性。
其れをしなかった罪悪感もまた、椿を黄泉還らせた理由の1つなのかも知れない。
(「無論、竜胆さんの事だ。情に訴えた所で結果は変わらなかっただろう。本当の敵は、雅人さんが影朧の対処に回れなくなってしまった状況を作り出した花蘇芳の一派だ」)
花蘇芳の一派……或いはその残党……は、元々帝都桜學府の反逆者と一般的には認知されている紫陽花の過激派だ。
である以上、事情を知る者を最優先で派遣しなければ、帝都桜學府も、内部にある諜報部も少なからぬダメージを負うことになる。
「これも、組織の闇と言う事か……」
「ですがこの件、共同墓地にいる皆さんに伝えておけば、菖蒲さんと椿さんの説得にも役に立つかも知れませんね。それだけでも全然違います」
その瑠香の囁きに。
「ああ……そうだな。もふもふさん、もふもふさん。私達よりも先行して、このことを皆に伝えておいてくれ。頼んだよ」
そう美雪が小さく詠唱をし。
呼び出した110匹の影のモッフモフな小動物さん達に手紙を括り付けて、共同墓地へと送り出す。
――この情報が、菖蒲の心を少しでも開きやすくなる糸口になるよう祈りながら。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ウィリアム・バークリー
難題ですね。
愛して喪った人が黄泉還ってきたら――。
そばに居てほしいと思うのは自然なことです。
ですがサクラミラージュにあって自然なのは、影朧を輪廻の輪に戻すこと。
椿さん、あなたは還り来て、何を為したいのです? 愛情は大切なものですが、それだけで在ることは人間社会では出来ない。
現に、椿さんと菖蒲さんは、新天地で新しく暮らし始めるのではなく、人目をはばかるようにこの共同墓地に隠れ潜んでいます。
残念ながら、菖蒲さんが掴もうとしている手は、未来へは繋がっていないんですよ。
椿さん。あなたはどうです? 菖蒲さんを自分の道連れに、人前に出られないあり方を望みますか? それは本当に彼女の幸いなんでしょうか?
天星・暁音
…大切な人を取り戻したい
その気持ちは痛い程によく分かるよ
それでも、誰かを生き返えらせるというのは、許されざる事だ
言われなくても知ってるし分かってるけど、止められないよね
だから、俺からは君への問いかけ
ねえ、君の隣に立つその人は本当に君の会いたかった人?取り戻したかった人? 何時だって中途半端な死反は悲劇を呼ぶ
ちゃんと見て、考えてあげて、その人は本当に君の愛しい人?
菖蒲さんへ問いあとはクレインを気づかれないように放ち、椿さんに気付かれないよう警戒し、何かあれば直ぐに3人を護ったり庇える用にします
念の為外部からの警戒もしつつ、他猟兵と連絡を取れるようにしておきます
スキルUCアイテム自由
アドリブ連携可
灯璃・ファルシュピーゲル
『柊同行希望』で【SIRD】一員で菖蒲さんの説得にあたる
落ち着けるよう桜を見ながら適当な処で誘って座り、
可能なら、個別にお伺いしたい事もあるのでと椿さんには少し離れて貰い、菖蒲さんが本当に感じてる事を話し易いよう場所を整える
警戒心をほぐす為にも、雑談がてら彼女自身や椿さんの人となりや思い出話等を聞き、人柄を知ると同時に、菖蒲さん自身にも改めて、本来は椿さんはどういう人かという事や、今現在の逃亡生活が幸せと言える物かを冷静に見つめ直せるよう誘導していく様に努め(コミュ力・情報収集)冷静に聞いてくれてる様なら説得を試みます
大体の兵士にとって大義と同じかそれ以上に戦う理由は、
家族や…そして恋人を守る為です。柊さんや貴方から聞いて本当に彼は真面目で大切な人の事を必死で守る人なんだろうと私でも解ります…それだけに、そんな彼が大事に思っている人が罪の意識を抱えながら、世の暗がりを生きていく事を、本当に喜ぶでしょうかね…辛く思わないでしょうか?
※他グループとも連携し椿さんの動向に警戒する
※アドリブ歓迎
ラムダ・マルチパーパス
SIRDの皆様方と共に行動
アドリブ及び他者との絡み歓迎
成程、死者の蘇生。(アーカイブで検索し)…死者を蘇らせる手法と言うのは、人類が遥か太古から様々な方法を試みてきた様ですねぇ。とはいえ、成功したという信憑性のある話は寡聞にも聞いた事はございませんが。わたくしAIですので、人間の死という概念には大変興味あります。
おっと、個人的な話はさておき、まずは菖蒲様の説得ですね。
わたくし、疑問に思っていたのですが…その蘇った椿様は、本当に椿様なのでしょうか?いえ、生前の事は生憎直接存じ上げませんが、蘇生前の椿様と蘇生後の椿様、果たして同一か否か…ひょっとして見かけは椿様でも、中身は何か変わっているのでは?
ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動
柊同行希望
まず菖蒲さんの説得にあたって、本人を刺激しない様注意を払いつつ、まず話を聞きます。この手のネゴシエーションの基本は、相手の言動に耳を傾ける所からです。菖蒲さんの話を吟味しつつ説得します。
これは想像ですが、椿さんは影朧から皆を守る為に危険に身を投じたのではないでしょうか。ここの市民を、ひいては菖蒲さんを守る為に。
そんな椿さんの努力を、菖蒲さんが理解してない可能性は低いですね。そしてその努力を、今回の件は水泡に帰してしまうのではないでしょうか。
確かに、菖蒲さんの気持ちは理解できますが…我々SIRDは「良識」ではなく、「常識」で動いていますので。
アドリブ歓迎
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動
やれやれ、説得か…苦手なんだよな、そーゆーの。まぁ説得は局長達に任せて、俺はその背後で念の為警戒しとくぜ。万が一交渉が決裂した時に備えて、な。
(いつでもMPi-KM構えられる様、油断なく相手を見つつ煙草吹かし)しっかしまぁ、死んだ人間に未練があるからって、外法にまで手を出すとはな。親兄弟恋人友人が自分残して死んじまったなんて話、戦場じゃ掃いて捨てる程出てくるぜ。前も言った気がするが、死んだ人間の事は適度に忘れねぇと、健康に悪いぜ。もっとも、その辺は俺の感覚が麻痺しちまっただけなのかもしれねぇし、第一こんな事菖蒲に言ったら逆効果だろうから、局長達に任せて黙っていようぜ?
森宮・陽太
アドリブ大歓迎
他猟兵との連携連絡は緊密に
彼の道人のせいで大分消耗して家で寝込んでいたが
ここからは俺も手伝うぜ
墓地に入る前にヴァサゴ召喚
俺に憑依させ異変予知時は知らせる様厳命
よぉ、みんな遅くなってすまねえ
この世界の珈琲と紅茶を持って来たからよ
皆で飲みながら花見としゃれこもうぜ
珈琲と紅茶は実際に皆に振る舞う
もちろん、菖蒲や椿にもな
…椿が飲んだ時、菖蒲はどう反応する?
影朧なら生前と反応変わってもおかしくねえぞ?
以後は柊の護衛につき不慮の事態に備えつつ
菖蒲の説得を
菖蒲、過去は消せねえし変えれねえ
変えれるのは未来だけだ
もう気づいているんだろ?
目の前の『椿』はどこかおかしい、って
…今ならまだ、間に合うぜ
馬県・義透
【SIRD】
『不動なる者』のまま。黒曜山は左手を覆う鏡面籠手に変形。
さて、黒曜山による未来視(特に椿殿)は続けつつ。何か見えたら他猟兵へもこそりと告げる。
菖蒲殿への説得に。
最初の方は菖蒲殿の話を聞こう。椿殿も菖蒲殿も、まだよく知らぬのでなぁ…。
あと、同じ思いを抱けるのは柊殿だけであろうて。
まあ、わしも『黄泉還り』した存在ではある手前、強く出られぬし、そもそも否定はせんのだが…自らの死は受け入れておるのよ。
ただ、『我ら』の場合は自ら考え黄泉還ったからな…自分が死んだときの苦痛(腸食われた)全てを覚えているのを含めてな。
『黄泉還り』全てが覚えていると断言はできぬが。…それは覚悟がいることなのよ。
館野・敬輔
d
アドリブ大歓迎
他猟兵との連絡連携は緊密に
紫蘭さんが不安定になったのは
この墓地に入ってからか?
だとしたら、この墓地に何か潜んでいるかもしれない
「第六感、聞き耳」で周囲に、特に椿さんに注意を払いつつ
指定UC発動し不慮の事態に備えながら紫蘭さん護衛
一応紫蘭さんと話はする
紫蘭さん、不安?
それとも、怖い?
兵士達に狙われたこともあるし
雅人さんがいないからかもしれないが
…この場の気配に怯えている気がする
大丈夫、今回も皆がいる
椿さんの心残りを解消して在るべき流れに還してあげよう
まあ、死者の魂と共に在る僕が言っても説得力はないけどな(苦笑い)
万一紫蘭さんが狙われたら
「早業」で即座に割込み「オーラ防御、かばう」
彩瑠・姫桜
【文月探偵倶楽部】
【SIRD】さん、及び他猟兵とも必要応じ連携
柊さん同行希望の上、菖蒲さんと話をするわ
紫蘭さんは統哉さん(f08510)とあお(f06218)にお願いする
説得だなんて偉そうなことはできない
でも、かつて柊さんと話した時みたいに
菖蒲さんと椿さんの人となりを知りたいから話をしたいの
菖蒲さんに聞きたいのは、椿さんの話
できれば「今」ではない、かつてお互いに普通に笑い合ってた頃の二人の話を聞いてみたい
椿さんのどういうところを好きになったとか
こういうところが困ってしまうとかいう他愛ない話ね
その時に交わし合って重ね合った想いがあるからこそ
「今」の菖蒲さんと椿さんに繋がっていると思うから
私ね、貴女と椿さんと似た人達を知ってるわ
紫蘭さん…になる前の紫苑さんと、雅人さん
話を聞いてて、なんだか重なるの
黄泉還りを望んだのは
椿さんを大切に想うからよね
でもそれは、本当に二人の幸せに繋がっているのかしら
私は「椿さんも、貴女も幸せになれない未来は嫌」よ
だから二人の未来のために
できる事は何だってするんだから
榎木・葵桜
【文月探偵倶楽部】
【d】
姫ちゃん(f04489)や統哉さん(f08510)ほどお付き合いはないけど
私なりに紫蘭さんへ言葉を伝えるね
紫蘭さん
「怖い」って感情ってどこからやってくると思う?
諸説色々あると思うんだけど、
私個人としては、その感情の原因って大まかに2つあると思うんだよね
ひとつは「過去に何かしら経験した記憶からくる怖さ」
心の中に怖い思いをした経験が刻まれてて呼び起こされちゃうんだよね
もうひとつは「未知」
わからないから怖いって、見たくないって思っちゃう
紫蘭さんは、どっちの「怖い」かな?
両方?
それともその原因を見ること自体が怖いかな?
でもね、ここはえいやーって、ちょっと覗いてもいいかもだよ?
原因をはっきり特定する必要はないよ
「あ、私の恐怖はここかも」ってあたりをつけるだけでも
ちょっと心が軽くなったりするから
姫ちゃんから伝言
「不安に押し潰されずに、自分が抱くその思いと、それを守る私達を信じて欲しい」
だって
貴女は一人じゃない
統哉さんも、姫ちゃんも、皆もいるから
ちゃーんと寄りかかってほしいな!
真宮・響
【真宮家】で参加(他猟兵との連携化)
アタシも戦いの中、夫の律を亡くした。菖蒲も愛しい人を戦地でなくし、どうしても取り戻したい気持ちは痛い程良く分かる。でも今のままではいけないんだ。
菖蒲、人は死んだら二度と生き返らない。アタシはそう思って律の思い出を糧にして生きて来た。命を捨ててまでアタシと奏を守ってくれた律の行為に報いる為に。
もし椿が、影朧の救済の為に命を賭けていたならば。今の椿の有様を肯定する事は何よりの椿の生き様を否定する事になる。それで果たしていいのかい?
菖蒲の説得をしながら、様子がおかしい椿の動きを監視する為に密かに陽炎の騎士に見張らせる。何が起きてもおかしくない状況だからね。
文月・統哉
【d】
【文月探偵倶楽部】で紫蘭対応班として行動
【SIRD】や他の仲間と連携し
菖蒲の説得を紫蘭の心の安定化にも繋げたい
紫蘭の様子
椿さんと菖蒲さんに
嘗ての紫苑と雅人の姿を重ねているのだろうか
紫苑にはなれない自分を責めているのかも
でも雅人は分かった上で全てを見届けて
今も紫蘭の幸せを願ってる
菖蒲さんが椿さんを想えばこそ
彼の転生先の未来を願ってくれたなら
その様子を見せる事で
紫蘭もまた望まれて生まれて来たのだと知って欲しい
紫蘭は紫蘭だよ
俺が雅人の代わりではない様に
君は紫苑の代わりじゃないし、なる必要もない
君が見た物触れた物感じた事
全てが君だけの経験
紫苑もまた君の代わりにはなれないんだ
大事なのは紫蘭自身がどうしたいかって事
(巴里土産の紫蘭の花模様のスカーフを紫蘭の手に巻いて
紫蘭が紫蘭として生きていく事が
紫苑が、幾つもの生を全うした君の中の魂が
今を生きる君に託した願いなのだと俺は思うよ
■
白撫子は重ねの色目、表は白で裏は蘇芳
ナイフを送ったのが花蘇芳とすると
彼らと花蘇芳の関係は?
そしてあの嗤い方…ジャック?
真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との連携化)
愛する人を戦地で失ったら叶わぬ願いでも取り戻したいですよね。でもその方が以前のままでないなら。
紫蘭さんにとっては心揺れる状況ですよね。色々辛い想いをされてきましたから。大丈夫、しっかり支えますよ。貴女の心も護ってみせます。
人は、不安になると手を繋いで貰うと何よりも安心すると聞きます。だから風の妖精さんの助けを借りて、【手をつなぐ】の技能レベルを100にして、剣と盾を傍に置いて、しっかりと紫蘭さんの両手を手で包み込むように握ります。小手は外して置いた方がいいですかね。
様子がおかしい椿さんの動きは常に警戒しておきます。非常事態は十分起きうる状況ですし。
神城・瞬
【真宮家】で参加(他猟兵との連携化)
『d』
敵も姑息な事をしてきますね。愛する人を思う気持ちにつけこむとは。蘇った愛しい人が以前のままではないならば、今のままではいけない。
今までの経験から、目の前の状況は紫蘭さんの動揺ぶりはいかほどか。でも紫蘭を奪われる訳にはいきません。
僕に出来る最大限の事を。銀のフルートで精霊顕現を発動。精霊の力を借りて、【演奏】を100レベルにして穏やかな、流れるような曲を奏でます。紫蘭さんの心の波が収まるように。
音楽を奏でている間でも椿さんへの警戒は怠らないように。何が起こってもおかしくありませんし。
●
彩瑠・姫桜が後ろ手に柊に渡された手紙を受け取り、回されたその手紙の内容を確認しながら。
(「……難題ですね、此は」)
ウィリアム・バークリーは胸中でそう思う。
目前には震える様に蹲り、両手で体を掻き抱く様にしている紫蘭と。
そんな紫蘭にそっとKirschbaumを掛ける様にした上で、榎木・葵桜や文月・統哉達とアイコンタクトを交わす姫桜の姿。
(「……大切な人を取り戻したい。その気持ちは、痛い程に分かるんだけれど」)
――鋭く突き刺さる針の様な灼熱感を感じながら。
天星・暁音が僅かに同情を寄せるが、だが、それがこの痛みに関係したものであるのかどうかは分からない。
(「やれやれ、説得か……。正直苦手なんだよな、そーゆーの」)
周囲一帯に漂う重苦しい空気に軽く頭を掻いて、煙草を咥えたミハイル・グレヴィッチは途方に暮れた表情を浮かべている。
「まあ、局長。説得は局長達に任せるんで、俺は念の為、周囲の警戒に勤しませて貰うぜ。どんな時にだって、万が一に備える必要はあるんでな」
「分かりました。其方はお願いします、ミハイルさん」
小声で素早く耳元で囁き掛けてくるミハイルの其れに、ネリッサ・ハーディが小さく首肯を1つ。
灯璃・ファルシュピーゲルもまた、敬礼でミハイルに応じ柊に協力を仰ぐべく、上目遣いに目配せをするその間に。
(「……む。もうすぐ誰か来るようだな」)
左手を覆う、漆黒の鏡面篭手に変形させた黒曜山で、次に来る未来を見通した馬県・義透――不動なる者、梓奥武・孝透が呟く。
そうして、現在置かれている状況を義透が確認しているその間に。
(「成程。死者の蘇生。……アーカイブ検索中」)
自らのAIに搭載されているデータアーカイブを起動し、『死者の蘇生』について、ラムダ・マルチパーパスが検索を開始。
無限にも等しいアーカイブに記録されているものから、『死者の蘇生』に関する情報を抽出して分析する。
「……然様でございますか。死者を黄泉還らせる手法というのは、人類が遥か太古から様々な方法で試みてきた様ですねぇ。とは言え、成功したという信憑性のある話は寡聞にも聞いた事がございませんが……」
独り言の様に呟くラムダの其れに、義透が微かにほろ苦い微笑を浮かべた。
『悪霊』として、ある意味目前に黄泉還った証人がいることに、この高性能ドロイドは、果たして気付いているのか否か。
そんな中で。
「よう、敬輔。久し振りだな」
紫蘭の様子を見る様に片膝をついて傍にしゃがみ込んでいた館野・敬輔へと掛かる呼び声。
敬輔がその呼びかけに後ろを振り返ると、義透が『黒曜山』の篭手の鏡面で見ていた人影が視認される。
その手に、珈琲と紅茶のセットを用意して片手を上げ、左手を決まり悪げにパタパタと手を振る……。
「陽太さん。もうお体の方は大丈夫なのですか?」
敬輔と同じく気がついた真宮・奏が懸念を交えて問いかけると、まぁな、と苦笑して森宮・陽太が軽く肩を竦めた。
「まあ、かの道人と皆の拳で体中痛くて家で寝込んでいたけれどな。もう、大丈夫。奏達の手伝いが出来る位には無事回復したぜ」
そう告げる陽太の背後に憑依する様に姿を現したのは、髭を豊かに蓄えた老人の姿をした悪魔『ヴァサゴ』
『ヴァサゴ』の予知の権能を借りる限り、今の所は引っ掛かる様な事も無いことを確認する陽太に。
「正直、渾沌氏も姑息な事をしてきたと思いますがね。……相手の心や誰かを思う気持ちに付け込んで、死した命を黄泉還らせたのですから」
抑えた声と表情で含んだ言い回しをしながら、精霊のフルートをチューニングする神城・瞬に。
「まあ、そうだね。でも、だったら尚更、アタシ達もあの子達に寄り添ってやるのが重要だろう? 菖蒲の事は、アタシと皆が受け持つから、瞬。アンタは、紫蘭と敬輔達の方を見てやりな」
微苦笑を綻ばせ応える真宮・響に、瞬が分かりました、母さん、と頷いた時。
「ところで、何時迄も此処でぼんやりしているのも、少々味気ないでしょう。折角柊さんが提案して下さいましたし、落ち着けるところで夜桜を楽しみませんか?」
灯璃がさりげなく菖蒲と椿に提案すると、菖蒲はそうですね、と頷き。
椿は微かに意味ありげな視線を紫蘭に送りつつ首肯を1つ。
その椿の視線の中に籠められていた些細な変化に、サングラスの奥の茶色の瞳を、ミハイルが思わず眇め。
面倒そうに咥えていた煙草の煙をゆっくりと吸い込み、溜息と共に吐き出した。
(「やれやれ……こいつは面倒な事になりそうだぜ。まあ……菖蒲やら紫蘭やらに慰めなんぞ俺には掛けられんから……退屈凌ぎ位にはなるか」)
肩に担いだMPi-KMの安全装置を外し、何時でも射撃が出来る態勢を整え、口元に微かな笑みを浮かべながら。
●
「紫蘭さん、大丈夫? 動けるかな?」
静謐として、まだやや肌に冷たく感じられる空気。
寒空の上に輝く星々の光を存分に受けて、何処か神々しさを与える幻朧桜を眺めつつ葵桜が呼びかけると。
「……動く位は、出来るから……」
姫桜の羽織っていたKirschbaum……トレンチコートを大切に羽織る様にしながら頷く紫蘭の手を、統哉が優しく握って立たせている。
(「紫蘭は、椿さんと菖蒲さんに、嘗ての自分……紫苑と雅人の姿を重ねているのだろうか」)
軽く左目を瞑って紫蘭の胸に大切に差されている羽根を見つめながら、改めて雅人と紫苑について、思いを馳せる統哉。
「この辺りでしたら、ゆっくりと花見を楽しむことも出来そうですね。先ずは此処で人心地つくとしましょう」
まるで月光に向かって行く様に咲き、夜の共同墓地を慰めるかの様に満開になった幻朧桜並木の一角でネリッサがそう提案すると。
「Yes.マム」
打てば響く様に灯璃が応え、暁音がドリームコンツェルトからシートを取り出し、地面に素早く敷いた。
近くには休憩椅子なども設置されてはいるが、流石に全員分、とは行かない。
「紫蘭さんは此方の椅子に腰掛けて、少し気持ちを落ち着けてみたらどうだ?」
周囲を警戒する様に、左の赤眼で世界を見つめながらの敬輔の其れに、葵桜に支えられた紫蘭が静かに頷きその椅子に腰掛ける。
その両隣を守る様に、支える様に葵桜と統哉が腰掛けるのを横目に捕らえて姫桜がそっと桜鏡を弄り始めた。
その表面に飾られた玻璃鏡の鏡面から水滴の様な粒が、微かに滲む。
それは緊張故か、それとも別の何かだろうか。
(「でも紫蘭さんの事は、統哉さんとあおにお願いしておけば大丈夫。私が今したいこと、出来ることは、きっと……」)
そんな事を姫桜が考えるその間に。
「まっ、こう寒い時には此が一番だよな。皆、紅茶か珈琲、好きな方を選んでくれ」
陽太が気楽に肩を竦める様にしながら、人数分のティーカップを用意。
更に紅茶と珈琲の入ったティーポットをレジャーシートと休憩椅子と共にある机の上に適当に並べていく。
(「……こりゃ、どうせならお茶菓子とかも用意しておいた方が良かったか?」)
等と言う思考が陽太の脳裏を微かに過ぎるが、生憎陽太は、其方は不得手。
(「まあ……お茶菓子を忘れた事が影響を与えるとは思えないから、気にしない方が無難だろうな」)
と取り敢えず1人納得し陽太が頷くその間に。
――ヒュルリ~、ララ。ヒュルヒュルヒュル~。
不意に、幻朧桜を擦り抜ける様に一陣の風がお花見会場を浚っていく。
風に靡いた幻朧桜が、桜吹雪を吹雪かせるその中を、穏やかな曲が満たしていく。
その音の主……目を瞑り、精霊のフルートを奏でる事に集中する瞬の周りには9体の氷の精霊達がふわふわと漂っていた。
流れる様な、穏やかな調べ。
静謐に囲まれた夜桜咲いた共同墓地でのその調べは、失われた者達への哀悼の様にも聞こえ、菖蒲と紫蘭と柊は静かに耳を欹てる。
しかし椿は微かに顰め面になり出された珈琲に口を付け、其れを飲み干していた。
(「おや? 椿様のこの反応は……わたくし共めが聞き及んでおります椿様とは、少し異なる様な感じが致しますね」)
「まあ、わたくしめはAIですから、こう言った調べに対するヒトが抱く思いというものには、どうにも疎いところがございますが」
「……まあ、死んだ人間に未練がある奴、そうで無い奴、こう言った感傷に浸る奴、浸らない奴ってのは、色々いるからな。少なくとも、俺もあまり興味の無い話だぜ」
ラムダの囁く様な呟きに、煙草の煙をふう、と吐いたミハイルが、シートに座りつつそう呟き、なんとも言えない苦笑を浮かべた。
(「まあ単純に、その辺、傭兵として常在戦場だった俺の感覚が、麻痺しちまっているだけかも知れねぇがな」)
そんな干からびた郷愁が微かに脳裏を過ぎるのに、ミハイルが柄じゃねぇな、と軽く頭を横に振った。
そして、その椿の顰め面は菖蒲の隣に座る姫桜と灯璃の目撃する所となり。
「椿さん、どうやら神城さんの曲がお気に召さない様子。もし宜しければ、向こうで少し風に当たってきたら如何でしょうか?」
そう灯璃が何気なく水を向けると。
「あっ、丁度良いですね。ぼくも、椿さんと少しお話をしたかった所ですから、ぼくもご一緒して宜しいでしょうか?」
その灯璃の言葉を後押しする様に、ウィリアムが椿にそう告げる。
椿がそれに対して、微かな顰め面を、今度ははっきり渋面に変えて、気遣わしげに菖蒲を見やるが。
「椿君。ウィリアムさんは雅人とも年が近いし、それなりに近しい間柄だ。きっと話が弾むと思うよ」
柊がさりげなくそう後押しを続けるのに、流石に断ることが出来なくなったか、分かりました、と小さく頷き。
『それじゃあ、ちょっとこの場を離れるよ。僕の大切な『撫子』さん?』
茶目っ気を籠めて菖蒲にウインクをする椿に、やや躊躇いがちになりながらも。
「うん……また後でね、椿」
そう頷く菖蒲に、微かに寂しげな微笑を残し、珈琲を片手にウィリアムと共に、菖蒲達から距離を取る椿。
(「ふむ……。流石は、椿殿の事も菖蒲殿の事も知っている柊殿と言った所か。此では椿殿も灯璃殿の提案を無碍にする事は出来ぬな」)
黒曜山の漆黒の鏡面で、ウィリアムと椿が離れたところで、何かおかしな事が起きないのかどうかの未来視を行い、頷く義透。
陽太のヴァサゴも特別な反応を示さず、敬輔の赤眼も、10秒先に流血沙汰を視ない事から、大丈夫と互いに目線で頷き合った。
「……ごめんなさい、ありがとう。でも、如何して……?」
椿が離れるのをやや心細げに見つめながらも。
掠れ声の様に囁く菖蒲の其れに、ネリッサがいえ、と軽く頭を横に振り。
「私達も、この機会に、菖蒲さんから椿さんの事を聞きたい、と思ったからよ」
と姫桜が言葉を選びながらそう続けると、菖蒲が粛々と言の葉を紡いだ。
「うん……。椿さんは、とても優しい人だった。帝都桜學府の學徒兵としての仕事で大変なのに、時間を作ってわたしに会いに来てくれて」
「そう言えば、時々雅人が私に愚痴っていたな。椿君は良い奴だけれど、彼にとって一番大切なのは、菖蒲さんとの時間なんですよねって」
雅人に聞かされていたのであろう愚痴を思い出しながら、柊がさりげなくそうフォローを入れる。
柊の言葉を聞いて、菖蒲は思わずポッ、と頬を赤らめた。
「ひ、柊さん、今、そんな事……!」
慌てふためき、あわあわと手を振る菖蒲に微笑を零しながら姫桜が何気ない様子で自分の指を顎の上に当てて呟く。
「私はその話、凄く興味があるわね」
「うっ……うう~……!」
姫桜のさりげない其れに顔を真っ赤にする菖蒲。
菖蒲の様子に思わず苦笑を零し、彩瑠さん、とネリッサが宥める様に口を開く。
「あまり菖蒲さんをからかわないであげて下さい。こういう時は、菖蒲さんが話したい事を話して頂くのが一番ですよ」
「あっ……いけない、いけない。そうね……ごめんなさい」
ネリッサの其れにはっ、とした表情になって謝罪を口にする姫桜だったが、菖蒲は顔を真っ赤にしつつも慌てて首を横に振った。
「あっ……違うんです、違うんですっ! べ、別にわたし、話したくないんじゃなくて……只……その、惚気にしか、ならないだろうから……!」
「別に菖蒲さんがお話をしたいと言う事でしたら、私達は問題ございませんが」
「はい。寧ろそう言ったあなたと椿さんの思い出話には、私も興味がありますし」
ネリッサが軽く頭を横に振るのに、灯璃が静かに相槌を打つ。
柊もその辺りの事は良く心得ているのだろう。
優しく微笑み、軽く菖蒲がしたい話をする様に促すと、菖蒲が訥々と話し始めた。
「わたしが、あの人と初めて出会ったのは、2年程前。わたしが、ある所に迷い込んで影朧に出会ってしまい……其の時に助けて貰った時」
「……2年前。私達が丁度この世界を見つけ始めた頃の話、ね」
そう相槌を打つ姫桜の其れに、そうかも知れないわね、と曖昧な微笑を浮かべつつ、菖蒲が続ける。
「彼は、あの頃から既に帝都桜學府に所属していたわ。その中でも諜報部と呼ばれる部署に配属されていた。兄……竜胆さんが組織していたあの帝都桜學府諜報部に」
「……兄?」
何気なく呟き、慌てて誤魔化す様に取り消した菖蒲のその呟きを繰り返す様に舌に転がすネリッサ。
――と、此処で。
『ニャーゴ』
影の様に黒い110匹程の猫が姿を現し、ネリッサ達にゴロゴロとすり寄ってくる。
すり寄ってきた影猫を姫桜が軽く撫でてやると……。
(「モ……モッフモフ
……!」)
ふわぁぁぁぁぁ……と思わず夢見心地になってしまいそうなモフモフ感に姫桜が思わず背筋に雷撃が走る様な痺れを感じる。
「此は……ああ、帝都桜學府に向かった彼女達からの連絡ですか」
気がついた灯璃がモフモフ猫の首に巻かれた手紙を取り、さっ、と内容を一瞥。
(「成程。菖蒲さんは、竜胆さんの実の妹、でしたか。そうなると竜胆さんは、自分の妹と部下が付き合っていたことを知っていた、と考えるべきでしょうね」)
そう頭の中に軽く書き留めながら、同じく手紙の内容を確認したネリッサが頷く。
現れた影猫に驚愕しつつもそのモッフモフさに感動を覚えたか軽く震えながら、菖蒲が懐かしそうに話を続けた。
「そう言えばあの人も猫とか、動物好きだったな……。逢瀬の為に、わたしの家に来た時にも、偶々近所の人が探していた猫を一緒に探す手伝いをしてくれたっけ」
「そっ、そうだったのね……それは、ちょっと菖蒲さんにとっては、困ってしまうことだったかも知れないわね」
もふもふな小動物さん達を存分にモフリたい衝動に囚われながら、姫桜が顔を赤らめ気を取り直す様に咳払いを1つ。
それでも可愛い小動物達には叶わないのか、今すぐにでも消えてしまいそうな猫達をモフリ続けているままだったが。
そんな姫桜の相槌に、何処か夢見心地な表情で話を続ける菖蒲。
「いつも、あの人はそうだった。自分の事よりも、他の人のことばかり気に掛けて……わたしに対しては、僕の『撫子』なんてからかっていたけれど……でも、其れが彼なりの気恥ずかしさの表れなのは、良く分かっていた」
――自分と椿の関係は深く、純粋な想いに満ちていた、と思う。
「そう……。そうして、貴女と椿さんはお互いの想いを重ね合い、交わし合っていったのね……」
気を取り直し、自らの腕輪に嵌め込まれた玻璃鏡の鏡面が漣の様に揺れているのに気がつきながら、姫桜が頷くと。
うん、と心から嬉しそうに頷いてから、何よりも、と菖蒲が話し続けた。
それまでの粛々とした様子の中に、熱に浮かされた様な抑揚を籠めて。
「あの人は、誰かのために自分が力になれる事を、誇りに思っていた。人の心は脆く、折れやすいものだから。そして沢山の不安を抱えているものなんだって……だから、その不安が形として残ってしまって、『影朧』となってしまうのは、その人の心残りなんだって……。その心残りを満たさせて魂を輪廻転生の輪……『救済』する事こそ、自分達の大事な使命なんだよって……」
「ああ、そうだね。椿君は、帝都桜學府の中でも、本当に影朧を救済する自分の職務に忠実だった。そのひたむきさと真摯さは、皆にも一目置かれていた位に……」
菖蒲による椿の邂逅に同調し、その思い出に柊が優しく寄り添い、相槌を打つ。
(「これ程までに、柊殿が菖蒲殿の心に寄り添うことが出来るのは、やはり同じ帝都桜學府の人間だから、であろうな。であれば、其れを救いたいと願う菖蒲殿の想いに共感し、同調できるのは、今、この場では柊殿だけであろうて」)
菖蒲への柊のフォローを耳にした義透がふとそう思い、穏やかな好々爺の眼差しで、菖蒲を見つめている。
黒曜山は幸いにも、未だ、悲劇的な未来を映し出していない。
「それからわたしは、あの人が休暇の時は、良く一緒に遊びに行ったりもしたし、カフェー何かも一緒に覗いたり、服を選びに行ったりもした。本当に何気ない事ばかりしていたけれど、その間わたしは幸せで……あの人も心の底から幸せそうに笑ってくれていた」
そう話を終えたところで。
すっかり温くなってしまった紅茶に口を付けた菖蒲が、そう言えば、と何気ない言葉を漏らす。
「わたしが紅茶を好きになったのも、あの人が淹れてくれた紅茶がとても美味しかったからだったわね。一緒に初めて入った喫茶店で飲んだあの紅茶が今でも、わたしには忘れられない……」
その菖蒲の一言は、陽太がその翡翠の瞳を鋭く細めさせるのに十分だった。
(「さっき椿の奴が飲んだのは、紅茶じゃ無くて珈琲だった。もし菖蒲が嘘を言ってねぇんだとしたら、あいつが『椿』として黄泉還ったんなら、紅茶を飲んでもおかしくねぇ。……今の『椿』を象っているあいつが、情報通り、切り裂きジャックって影朧ならば、話は別だが」)
帝都桜學府に調査に向かった者達から貰った情報を脳裏に思い起こしながら陽太はふとそう思い、周囲を見回す。
紫蘭は統哉と葵桜、敬輔とおり、ウィリアムもまた椿と共に戻ってきていない。
「……ヴァサゴ。何か変わった様子はねぇか? あれば俺にその世界を見せてくれ」
呟く陽太の其れに、自らの背に憑依しているヴァサゴは何も答えない。
其れはヴァサゴが今視ている未来には、未だ回避できない危機が訪れていないことの証明であろう。
(「さて……どうなる?」)
さりげなく柊を守れる範囲に移動し、その話の続きを聞こうと耳を欹てる陽太。
けれども、そこで、ある程度自分の気持ちを吐露したと判断したのであろうか。
菖蒲が何も言わずに2杯目の紅茶をカップに注いだ時だ。
「1つ、お聞きしても宜しいでしょうか?」
それまで手元の紅茶に口を付け、静かに話を聞き続けていたネリッサがゆっくりと確認する様に口を開いたのは。
「何……ですか?」
2杯目を注ぎ、濛々と舞い上がる湯気の向こう側から、何かを見透かすかの様に。
何かに怯える様に声を出す菖蒲を見つめ返してネリッサが静かに問いかけた。
「菖蒲さん。此は私の想像に過ぎないのですが……椿さんが帝都桜學府諜報部に所属したその理由。もしかしたら其れは人々を守る為に、自ら危険に身を投じる為だったのでは無いでしょうか? 其れこそ市民を、ひいては菖蒲さんを守る為に」
ネリッサのその問いかけに。
「……それは……」
憤るでも無く、震えた声で呻く菖蒲に、灯璃が藍色の瞳を軽く細めて話を続けた。
「そうですね。局長の仰る事は全てとは言いませんが、的を射ているのでは、と私も思います。ましてや菖蒲さん、あなたから椿さんの話を聞けば聞く程、今のあなた達の在り方は、嘗てよりも遥かに、歪なのでは無いだろうかと」
「……!」
不意を打つ様な灯璃のその呼びかけに、菖蒲が思わず息を呑む。
――カラン!
その手から紅茶のティーカップが滑り落ち、座る彼女の足下を濡らすが、その事すら、気がついていないかの様に。
「菖蒲さん……」
柊が急いでポケットにしまっていたハンカチを取り出し、菖蒲の足下を零らした紅茶を拭き取った。
ちらりと其方を一瞥しながらネリッサが淡々と話し続ける。
「少なくとも、菖蒲さん。あなたが椿さんの事をよく理解しているのはよく分かります。彼が他人を救う事に自らの生き甲斐を見出し、そして、皆さんやあなたを守る為にその命を賭す覚悟があったことも。しかもあなたは、あの竜胆氏の実妹であるとの話です。であれば尚更、椿さんの任務の重さ、責任の重大さを理解していた筈です」
「そっ……それは……!」
ネリッサの問いかけに、思わず、と言った様子で悲鳴の様な声を張り上げる菖蒲。
その彼女の想いを象徴するかの様に、彼女の全身がプルプルと震えていたが……。
(「憤怒や憎悪……は感じられない、かな。少なくとも、俺の共苦から伝えられてくるこの痛みは、多分、彼女の心の奥底にあるそれに対してという感じじゃ無い」)
菖蒲の震えを見つめていた暁音に刻み込まれた共苦の痛みが激しく鋭く伝えてくるその痛み。
世界の嘆きとも取れるその痛みは、敬輔の復讐を見届ける時には其れに呼応する様に激しい灼熱感を伴っていた筈だが……。
(「……違う。この痛みは、そうじゃない。少なくとも……菖蒲さん『だけ』の痛みじゃ無い」)
――菖蒲の痛みと仮定するには、その灼熱感と針の様に突き刺す痛みが、あまりにも鋭すぎるのだ。
まるで世界そのものを憎むかの様な激しい負の感情の揺れが、焼けた鉄棒と化して、共苦の痛みに突き立っているかの様な……。
暁音がそんな激しい痛みを受けている事に気がついているのか、いないのか。
「そうですね。この共同墓地で、人々の目から逃げる様にして、あなたと椿さんが生活していること……それが私には幸せな様にはどうにも思えません」
灯璃がそう冷静に指摘し、それに更に大きく目を見開く菖蒲。
そんな、菖蒲の様子を見て。
「そうでございますね。わたくしめ、AIですので人間の死という概念には大変興味がございますが……その上でお伺いさせて頂きます。菖蒲様、わたくし、疑問に思っているのですが……今、菖蒲様が黄泉還らせております、あの椿様は、本当の椿様、なのでしょうか?」
ラムダが改めて、と言った様に女性型立体ホログラムアバターを現実に投影し、その女性型アバターに小首を傾げさせた。
「……あっ……それ、は……」
「わたくしめの所属するSIRD……その局長のネリッサ様も仰いましたが、菖蒲様のお話を聞けば聞く程、同一の方とは思えぬのです。いえ、わたくしめはそもそも生前の椿様の事を直接存じ上げているわけではございませんが……」
やや躊躇いがちに紡がれるラムダのその言の葉を聞いて。
何本目かの煙草に火を点けて周囲を警戒していたミハイルが軽く鼻を鳴らす。
瞬の奏でる静けさに満ちた音楽が酷く切なく、色褪せた景色の様に遠くに思えた。
(「死んだ人間に未練があるからって、外法にまで手を出した。親兄弟恋人友人が自分残して死んじまったなんて話、戦場じゃ吐いて捨てる程出てきやがるが……」)
等と一方的に批難をしたところで状況は好転しない。
であればこそ、ミハイルは独り言の様に皮肉げに鼻を鳴らしながら、ちらりと紫蘭に根気よく話し続けている統哉達を見てから呟く。
「文月達には前に一度言った気がするが、死んだ人間の事ってのは、適度に忘れねぇと、健康に悪いぜ? ……少なくとも、戦場ならば、な」
そのミハイルの独り言が聞こえていたのだろうか。
「……菖蒲」
震える菖蒲の両肩をしっかと握りしめる様に掴み込んで。
「アタシは、アンタに後悔を抱いているままではいて欲しくない。だから少し、アタシの話を聞いて貰うよ」
茶色い瞳で菖蒲を見据える様に告げる響の其れに、菖蒲が思わず顔を俯ける。
目を合わせない菖蒲の事を咎めるでも無く、響は静かに其れを語り始めた。
――その胸の中に疼く激情を押し殺す様に抑え込みながら。
「菖蒲。アタシは戦いの中、夫の律を亡くした。アンタと同じで、愛しい大切な人を、戦場で亡くしたんだ。アタシだけじゃない。あそこのアタシの娘、奏でもね」
響の、その呼びかけに。
「……!!」
ハッ、と表情を強張らせる菖蒲の様子を気遣わしげに柊が見やる。
その柊の表情にも痛ましい痛みの様なものが見えていた。
そして菖蒲は……柊の『娘』が病に死に、兄の友である『紫陽花』もまた、戦いの中で『娘』を喪ったと薄らと聞き覚えがあった。
「だから、アンタのどうしても取り戻したいと言う気持ちは、痛い程良く分かるんだ。アタシも、奏も。そして……」
――ヒュルリー、ヒュルヒュルヒュル……。
「……この鎮魂曲にも聞こえる音色を奏でている瞬も、ね」
その、響の言の葉に。
「……あっ……」
大きく目を見開く菖蒲に呼応して、暁音の共苦の痛みが疼きの様な痛みを発した。
「でも、だからと言って、誰かを生き返らせると言う事は、許されざる事だ。こんな事言われなくても、菖蒲さんは知っているだろうし、分かっているとは思うけれど。そもそもこの世界の理にしてシステムでもある幻朧桜と桜の精による『転生』が、黄泉還りと対極にある理念の筈だからね」
「……幻朧桜と桜の精による『転生』……ううん、あの人が影朧を『救済』したいと何よりも願う礎となった理念……」
呆然と呟く菖蒲の其れに、だから、と暁音が問いかけた。
「ネリッサさんの様に、俺も君に1つ問いかけをさせて貰う」
そう告げて。
此方を凝固した様に見つめている椿の方を一瞥する暁音。
何かの動きを見せようとしている様にも思える椿をウィリアムに任せて敢えて意識から外し、淡々と菖蒲に重ねて問いかけた。
「君の隣に立っていた彼……『今』の椿さんは、本当に君の会いたかった人なの? 取り戻したかった人なの?」
ラムダと重ね合わせたかの様な、暁音のその問いかけに。
「それ……は……」
舌を縺れさせる菖蒲に暁音が悟った様に軽く頭を横に振り、錫杖形態の星具シュテルシアを椿へと突きつけた。
「……何時だって中途半端な死反は、悲劇を呼ぶ。何も肉体的なものだけじゃない。中途半端に思想を再生し、其の遺志を継ぐ等と言うのもまた、新たな悲劇を生み出していく。俺達は、そう言った戦いを幾度も見て、そして解決してきた。だから……」
――そう。だから……。
「ちゃんと見て、考えてあげて。あの人が、君が黄泉還らせた『椿』さんが、本当に君にとって愛しい人なのか、と」
「……其れ、は……」
低く呻く様な声を上げる菖蒲。
その菖蒲の心の声を呼び覚まそうとするかの様に、響が菖蒲、と肩を揺すって呼びかけた。
「人は死んだら、二度と生き返らない。アタシはそう思って律の……アタシの旦那の思い出を糧にして生きて来た。命を捨ててまでアタシと、紫蘭の前にいるあの子……奏を守ってくれた、律の行為に報いるために」
「……うっ……うぁ……」
じわり、とその瞳に白い雫を溜め込んで。
呻く様な声を上げる菖蒲に、響が杭を打ち込むかの様に鋭い一言を叩き込む。
「もし椿が、影朧の救済の為に命を賭けていたならば。今の椿の有様を肯定する事は、何より其れまでの椿の生き様を否定する事になる。それでアンタは本当に良いのかい!?」
「そ……それは……! でも……でも……!」
鞭の様に鋭い響の叱咤に金切り声を上げる菖蒲。
其の両の瞳に堪っていた滴……涙が溢れ、シートを叩く。
――ザァァァァァッ。
瞬の鎮魂曲を思わせる静かなる曲と共に薙いだ微風が、地に落ちるよりも前に涙の一部を浚っていった。
と……此処で。
「ま、わしも『黄泉還り』をした存在ではある手前、暁音殿や、響殿の様に強く出ることは出来ぬし、そもそも『黄泉還り』そのものは否定できぬ」
煮詰まった感情を涙に変え溢れ出させる菖蒲を庇う様に共感を示したのは、義透。
「えっ……?」
響達の背後に控え、漆黒の鏡面篭手で周囲を予知視し続けていた義透が不意に紡いだ其れに、菖蒲が思わず目を瞬かせ、彼を見る。
義透は巌の様な安心感を感じさせる笑みを湛え、ただ、と軽く頭を横に振った。
「これでも、わし……『我等』は自らの死を受け入れ、『我等』の意志で黄泉還ったのだ。……だからこそ、『我等』は、自分が死んだ時の腸を食らわれた時の苦痛を含めた全ての痛みを覚えている」
――その深き痛みも、其の業もまた、義透を構成する4人の『悪霊』達の記憶。
「其の痛みは何かあれば何時でもわしを、『我等』を蝕み、想像を絶する苦痛を時に伴うことすらある。『黄泉還り』し者達の全てが、覚えていると断言は出来ぬが……『痛み』と常に向き合い続ける為には、『覚悟』がいるものなのよ。それは誰かによって『黄泉還り』を経験した者が、何時迄も耐え続けられるとはわし……『我等』にはとても想像出来ない話だ」
そこまで告げたところで、ゆっくりと息を吐く義透。
其の義透の一挙一動を見つめながら、響に肩を掴まれた儘の菖蒲もまた、ゆっくりと重い息を吐きだした。
「……誰かに与えられた命……『黄泉還り』では、自分の死や痛みと向き合うことが出来ない、と……そう言う事、なの?」
その菖蒲の呟きには。
「ああ……そうだな。鈴蘭……私の娘も本当に最期に伝えたかった一言の時間以外に生きる時間を、あの時、望んでいなかった。『黄泉還り』をしてまで、生きる時間を与えて欲しいとは、言わなかったな」
その時の事を思い出し、そっと目頭を熱くし、沈痛に呟く柊。
其の柊の様子に、菖蒲が小さく息を呑み、頷いた時。
「……菖蒲さん。私ね、貴女と椿さんと、似た人達を知っているわ」
頃合いを見計らった、と言った所であろうか。
何処か懐かしそうに目を細めた姫桜が、奏とそっと手を繋ごうとしている紫蘭を見つめ、それから菖蒲に向き直る。
「わたしと、あの人と、似た人達……?」
その菖蒲の呟きに、ええ、と姫桜が青い瞳を優しく、微かに悲しげに揺らめかせて小さく頷く。
桜鏡に嵌め込まれた玻璃鏡が、そんな姫桜の想いを代弁するかの様に鏡面に淡く儚い泡沫の一時を思わせる泡を立たせていた。
「あの子……『紫蘭』さん……になる前の紫苑さんと、椿さんの友達だった雅人さん。貴女の話を聞いていると、如何してもあの2人が重なるの」
――大切な人を守る為に、仲間と共に、情と知を問う巨大な影朧と遭遇し、命を落としたあの少女、紫苑。
その紫苑が転生し、紫蘭となり、再びかの『世界の天秤』と自らを称した影朧の心を解し、転生させた。
――紫苑の死後、ユーベルコヲド使いへと覚醒した、雅人と共に。
(「その上、嘗て私達も赴いたあの場所で、『椿』さんもまた影朧と戦い、そして命を落とした」)
「……本当によく似ているの。雅人さんと境遇も。『椿』さんの事も。だから、貴女が黄泉還りを望んだ理由は、椿さんを大切に思っていたからなんだ、と思う」
――初めて雅人と出会った時に、彼が影朧と化した紫苑を匿っていたのと同様に。
それもまた……紫苑を彼が想うが故の行動だった。
「でもそれは……本当にあなた達の幸せに繋がっているのかしら。響さんは、今のままでは、椿さんが胸に抱いていた思いを、貴女が否定してしまうことに繋がると言った。ラムダさんと暁音さんは、今、『黄泉還り』をした、椿さんは、貴女のよく知る椿さんと同一人物なのか、と聞いた。そして……義透さんは、死者が他者に『黄泉還り』をさせられれば、その死者は、生き続けることに向き合うことが出来るのかと問いかけたわ」
其の姫桜の呟きに。
「……」
無言で責める様な眼差しを向けつつ、続きを促す菖蒲の其れを受けとめて、私は、と姫桜がきっぱりと告げる。
「皆が其々に言ってくれた事、それは私が聞きたい、この質問に集約すると思っているの。それは……このまま、椿さんを『黄泉還り』させた儘で、あなたも、椿さんも幸せになれるのか? と言う事よ」
「……っ!!」
姫桜の、その言の葉に大きく目を見開く菖蒲。
其の菖蒲に対して姫桜は大きく頭を横に振り、私は、と再び続けた。
「私は嫌よ。『椿さんも、貴女も幸せになれない未来』なんて。だから、2人が幸せになれる未来のために、今出来ることを何だってしてみせるわ。それがきっと……『今』の菖蒲さんと椿さんに繋がる未来だと思うから」
そう姫桜が締めくくったところで。
「菖蒲。お前はもう気付いているんだろ? あの『椿』は何処かおかしいって」
畳みかける様に告げられた陽太の其れに、沈黙を以て返す菖蒲へと。
「これは、大多数の兵士にとっての話となりますが」
灯璃がそう告げるのに、菖蒲は今度は微かに上目遣いに灯璃を見た。
「彼等にとって戦う理由。それは、家族や……恋人を守る為です。柊さんや貴女から聞いた彼……椿さんは本当に真面目で大切な人の事を必死で守る人なんだろうと私でも解ります」
――だからこそ。
「……それだけに、そんな椿さんが大事に思っている貴女が、罪の意識を抱えながら、世の暗がりを生きていくことを、本当に喜ぶのでしょうか? それで椿さんは、彩瑠さんの言う『幸せ』になれるのでしょうか……と。寧ろ、生前の椿さんであれば、それを辛く思うのではないでしょうか……と」
その灯璃の問答を引き取って。
「……菖蒲さん」
改めてネリッサが、其の名を呼ぶ。
――彼女のことを、呼ぶ。
「菖蒲さんの気持ちは真宮さん程ではありませんが、私にも理解出来ます。ですが……今回の件の様に椿さんの努力を水泡に帰してしまうのではないだろうかと思えるこの行動を私は……私達SIRDは、容認できません。我々SIRD……Specialservice Information Research Departmentは『良識』ではなく、『常識』で動いていますから。そして、この世界の『常識』では……」
「……『黄泉還り』が、あの人の生き様を、全てを否定してしまう。……そう言うこと、なんですよね……」
――ポタリ、ポタリ。
そう告げて、静々と涙を流しその場に蹲る菖蒲の其れに。
「ああ。その通りだ。俺達にとっては、其れこそが『常識』だ」
同郷である陽太がその事実を突きつけ、そうだね、と暁音が厳粛に頷いた。
「俺達は、この先に必ず悲劇が待ち受けているであろうことを知っている。そして生者である菖蒲さん、あなたの『幸せ』がこの先には無いと言うことも解っている。それが、俺達の答えだ。菖蒲さんは、それでも良いのか?」
「……解っている! 本当は、心の何処かで解っていたの……! わたしがしたことは間違いだって……! でも……でも……!」
嗚咽を堪えきれずにその場に沈み込む様にして金切り声を上げて泣く菖蒲を、姫桜がそっと抱き抱える様に包み込んだ。
●
菖蒲と姫桜達のやり取りがされるその間に。
(「愛して喪った人が黄泉還ってきたら――」)
灯璃の意向を受け、椿をさりげなく少し遠くへと連れて行ったウィリアムの胸中に、ふと、そんな考えが過ぎった。
「……傍にいて欲しいと思うのは、自然なことですね」
『それはそうだね。僕達人間は脆い。脆いが故に、互いに寄り添いあい、誰かと共にあるのだからね』
ウィリアムの独り言に、『椿』がさも当然と言った様子でそう答える。
その口調の中に何か引っ掛かる様なものを感じ、ウィリアムが彼に対して鋭く目を細めて睨み付けた。
「ですが、この世界……サクラミラージュにおいて自然……理とされるべきものは、影朧を輪廻の輪に戻す事です。不安定な人々の心、世界に未練を残し、漂ってしまっている負の想いを、情念を転生し、浄化させることです」
そのウィリアムの呟きに。
『……何だ君は? 君は一体、何が言いたいんだ?』
何処か不愉快さの混じった表情を浮かべてそう問いかける『椿』を振り返り、ウィリアムが其の目を鋭く細めた。
「……椿さん。皆さんを代表して、ぼくが問わせて貰います。あなたは如何して、還り来たのですか? そして、還り来て何を為したいのですか?」
ウィリアムの、鋭く突き刺さる様な其の問いかけに。
『……何?』
何処か昏い情念を想起させる低い声で続きを促す『椿』に、ウィリアムは益々『椿』に鋭く射貫く様な視線を叩き付けた。
「愛情は大切でしょう。ですが、それだけで在る事は『人間社会』では出来ません。生きるための糧も必要ですし、人目につかぬ様、何らかの対策を講じる必要があります」
――そう、今、正に。
「椿さんと菖蒲さんが、新天地で新しく暮らし始めるのでは無く、人目を憚る様にこの共同墓地に隠れ住んでいるのが、何よりも其れを証明しているでしょう」
『キキッ……汝は……!』
微かな嘲弄を交えた唸りの様な笑い声。
それが『椿』の笑いでありながら、椿のものではないであろう事を確信しながら、ウィリアムが言の葉を紡ぐ。
「残念ながら、菖蒲さんが掴もうとしている手は、姫桜さん達の言う、未来には繋がっていません。其の原因は、黄泉還ってきた『椿』さん。あなたにある」
『……っ!!』
憤怒の表情を浮かべる『椿』
いや……此は先程齎された情報にあった、切り裂きジャックのものであろうか。
「どうなんですか? 菖蒲さんを自分の道連れに、人前に出られない在り方を、椿さん、あなたは本当に望んでいるのですか? そんな状況で彼女が……菖蒲さんが幸せに生きていけるのだと、本当に『貴方』は思っているのですか!? 答えて下さい! 『椿』さん!」
そのウィリアムの糾弾に。
『……』
『椿』は何も答える事が出来ず、只、ギリリと其の唇をキツく噛み締めた。
●
菖蒲と姫桜達の一連のやり取りが始まった丁度その頃。
表情を青白くさせ、統哉と葵桜に左右を挟まれる形で休憩椅子に座った紫蘭は、顔を青ざめたままぼんやりとしていた。
目前で起きた突然の何かに圧された様に座り続ける紫蘭の様子を見て、敬輔がうん……? と軽く首を傾げる。
「ずっと押し黙ったままだけれど……紫蘭さんが急に不安定になったのは、この墓地に入ってからだったな?」
その敬輔の問いかけに。
「ええ、そうですね」
瞬が精霊のフルートを奏で、微風に乗せた静かな鎮魂曲に耳を澄ませながら、奏がそう静かに首肯を1つ。
時折菖蒲を説得する響の声の中に自分と自分の父の名前が混じっているのが聞こえ、それが極めて胸に痛い。
「……愛する人を戦地で失ったら、叶わぬ願いでも取り戻したくなりますよね。最も、その方が以前の儘であれば、と言う条件がつきますが」
その奏の何気ない一言に、益々何やら塞ぎ込む様な表情となる紫蘭。
紫蘭の普段ならぬ様子を見て、統哉がああ……と何処か納得した様に声を上げた。
(「椿さんと菖蒲さんに、嘗ての紫苑と雅人の姿を重ねているのだろうか」)
――紫苑。
紫蘭の転生前の女子學徒兵にして、雅人の大切な人だった、そう言う少女。
共有された情報によれば、椿が殺されたと思われる現場は、嘗て紫苑を殺めてしまった影朧のいたあの場所だと言われている。
(「偶然の一致とはどう考えても思えないよね。とは言え、この情報は俺達は紫蘭には共有していない。でも……菖蒲にとっての椿の様に、雅人にとっての紫苑になれない自分を、紫蘭は責めている……のか?」)
左目を瞑ったままに推理を続け、顔色の悪い紫蘭を優しく横目に見つめる統哉。
「……特別な音や声が聞こえる様子はないな。……ああ、いやバリケードを組み上げていく音は聞こえる気もするが」
(「一先ず、直ぐに脅威に巻き込まれると言う事は無さそうだが……如何したものだろうな」)
状況を整理しつつ、どんな風に声を掛けてやれば良いのかが思い浮かばず、微妙に途方に暮れる敬輔。
そんな敬輔の戸惑いや、統哉の推理の切っ掛けを与えるかの様に、紫蘭に対して、口火を切ったのは……。
「ねぇ、紫蘭さん。『怖い』って感情って、何処からやって来ると思う?」
藍色の瞳で紫蘭を横合いから見上げる様にして見つめる葵桜だった。。
――ヒュルリー、ヒュラヒュラヒュラ……。
瞬が精霊のフルートで奏でる静謐で穏やかな音楽が、鎮魂曲の様にも、子守歌の様にも聞こえたのは敬輔の気のせいだろうか。
「……えっ?」
予期せぬ葵桜の問いかけの意味が解せなかったのだろう。
軽く瞬きをしながら小首を傾げる紫蘭に唇に微笑を浮かべて、葵桜が何処か楽しそうに話しかけていく。
「いや、怖いって感情ってさぁ、諸説色々あると思うんだけれど。私個人としては、其の感情の原因って、大まかに2つあると思うんだよね」
「ふたつ?」
右手で胸に刺さった羽根を隠しきれない不安を拭う様に弄くりつつ。
小首を傾げたまま左手で、2を作って葵桜に見せる紫蘭にそうだよ! と葵桜が同じくVサインを作って返した。
「ひとつはね、『過去に何かしら経験した記憶から来る怖さ』」
其の葵桜の言の葉に。
「……うん」
と返す声が微かに震えているのを耳にして、敬輔がこれか? と言う様に静かに右の青の目で紫蘭を見る。
左目はウィリアムと椿の方に向けたままだ。
その先で口論する未来は見えたが、其れが直ぐに刃傷沙汰にはならないと判断、紫蘭へと意識を戻した。
その間にも瞬のフルートの音色が静かに澄み渡る様に花見場へと鳴り響き、其れが落ち着いた空気を醸し出すのに葵桜が頷きを1つ。
「心の中に怖い思いをした経験が刻まれてて、其れが呼び起こされちゃうんだよね。此が、1つ目」
「じゃあ……ふたつめは?」
紫蘭の当然の問いに、それはね、と葵桜が頬をポリポリと掻きながら返す。
「もうひとつはね、『未知』。今までに無かった事で、分からないから、怖いって、見たくないって、思っちゃうんだよね」
「……みち」
葵桜の説明に、拙い口調で返す紫蘭。
その紫蘭の様子を左目を瞑って見つめながら統哉が淡々と思考を進めていく。
「例えば、だ。もし紫蘭が雅人の事で何かを負い目に感じていて、その事でもしかしたら本当は自分は必要ないんじゃ無いか、と思うならばそれは『不安』。そうでなく、何か見知らぬ、聞いた事の無い拭えない何かに不安定になったのなら、其れは『未知』への恐怖になる」
ゆっくりと嚙んで聞かせる様に。
静かに説明を続ける統哉の其れに1つ頷き、敬輔が紫蘭さん、と呼びかけた。
「紫蘭さんは、怖いのか? それとも漠然とした何かを感じ取っているのか?」
其の敬輔の問いかけに。
「……分からないの。只、怖いという気持ちは強い。あの人……椿を見たあの時から、何か胸の中に妙なモヤモヤが降りてきて……。其れが酷く私の胸を締め付けてきて、それが堪らなく、怖い」
その紫蘭の呟きに、そう言えば、と統哉が先の戦いの時、ネリッサや姫桜達と共に紫蘭から聞き取った情報を思い出した。
(「紫蘭が此処に来たのは、夢を見たからと言っていたな。放っておけば取り返しにつかなくなると言う夢を見たって。その夢の中にあった漠然とした不安……其れがもしかして、椿に会った瞬間から、際立つ様になったのか?」)
そんな統哉の思考を見透かしているかの様に。
「兵士達に狙われた事も有るし、雅人さんがいないからもあるかも知れないが……」
敬輔が自分の思考を纏める様に考え込むその様子を見て。
「敬輔さん?」
と奏が首を傾げて問いかけてきたのに気がつき、奏の耳元に敬輔が。
「僕にはどうも、紫蘭さんがこの場の気配そのものに怯えている様に見えるんだ」
其の敬輔の囁きに、そうですね、と奏が頷く。
目を瞑り、自らの演奏に集中していた瞬もまた、敬輔が紫蘭に感じた其れに同意したか、ちらりと片目を開けて頷いた。
「う~ん……そうなると紫蘭さんが抱えている『怖い』って、やっぱり『未知』に対する『怖い』、なのかな?」
葵桜が軽く小首を傾げて呟くのに、紫蘭は良く分からない、と言う様にフルフルと頭を横に振る。
言葉よりも、其の表情と仕草こそが、今の紫蘭の心境を過不足無く現している様に統哉には見えた。
だから……。
「大丈夫だよ。紫蘭は紫蘭なんだから。俺が雅人の代りでも、菖蒲に対する椿の代りで無いのと同様に。紫蘭、君は誰かの代わり何かじゃないし、そうなる必要も無い」
統哉のその言の葉に何処か茫洋とした表情で瞬きをする紫蘭。
姫桜のKirschbaumに包まれたその内側で、ぎゅっ、と震える様にキツく両手が握りしめられ、膝の上に移動しているのに奏が気がつき。
「今回は、色々なことが一気に起きています。それだけ、紫蘭さんの心が揺さぶられ、不安になるのも分かります」
自らの周りに瞬の奏でる精霊のフルートに合わせる様に微風を靡かせる風の精霊達を呼び出し、紫蘭の前にしゃがみ込み。
――シルフィード・セイバーとエレメンタル・シールドを地面に置いて。
そして空いた両手で、震える紫蘭の両手を優しくそっと握りしめた。
「大丈夫、私達がしっかり支えますよ。雅人さんじゃ無いけれども、貴女の心も、私達が必ず護ってみせます」
奏の手から伝わる温もりが、紫蘭には酷く温かい。
それは紫蘭の中で育まれた説明のつかない理不尽な不安や恐怖を解してくれる。
「そうだな。奏さんの言う通り。今回も僕達が……皆がいる。だから、皆と力を合わせて椿さんの心残りを解消して、在るべき流れに還してあげよう」
(「あの『椿』は正確に言えば、椿さんでは無いけれども」)
そう呟き励ます敬輔の其れに、静かに首肯する紫蘭。
そんな紫蘭の様子を見ていた葵桜がもしかして、と小首を傾げて問いかけた。
「もしかして紫蘭さんが怖いのは……あの人、椿さんの事? あの人の中に見知らぬ何かがあって、其れが怖いのかな?」
その葵桜の問いかけに。
「……多分、そう、だと思う……」
本当にそうなのかどうかまで、確証を得ることも、其れを覗き込むことも出来ない、得体の知れない不安だけれども。
そう心の中でそっと付け足す紫蘭の奏が握っている右手の手首に。
――キュッ、と。
統哉が、紫蘭の花模様のスカーフを巻き付けて、微笑んだ。
「統哉……此は……?」
怪訝そうに首を傾げる紫蘭の其れに、ニャハハ、と笑ってみせる統哉。
「雅人と一緒に巴里に行くことがあってね。其の時に、雅人と一緒に紫蘭のために選んだお土産だよ。これならきっと、君のことを護ってくれると思うから」
「だからきっと、一緒にえいやーって、ちょっと覗いて見ても良いかもだよ? 恐怖の理由に心当たりがあって、それを私達に打ち明けてくれるだけでも、私達はもっと紫蘭ちゃんの力になれるんだから」
その葵桜の呟きを後押しする様に。
瞬のフルートの音色が一際煌めきを浴びたかの様に強くなり、奏が紫蘭の手を握る力がより一層、強くなる。
「大丈夫。紫蘭には、紫蘭が見た物、触れた物、感じた事。君だけがした全ての経験がある」
そう統哉が、ちらりと紫蘭の胸についた羽根を見やりながら。
「紫蘭の中には、幾つもの生を全うした魂があり、其れを浄化してきた経験もある。其の力を君が使える様になったのも、きっと『今』を生きる君に、皆が託した願いなんだと俺は思うよ」
――だから。
「姫ちゃんからの伝言を聞いて、紫蘭ちゃん」
「姫桜の……?」
その葵桜の言の葉に、軽く瞬きをしながらKirschbaumを見つめる紫蘭。
そんな紫蘭にニコニコ笑顔を浮かべながら、葵桜が手を差し出した。
「不安に押し潰されずに、自分が抱くその思いと、其れを護る私達を信じて欲しい。だって此処には、統哉さんも、姫ちゃんも……皆もいるから」
そう葵桜が告げた時。
「ありがとう……もう、大丈夫」
紫蘭が漸く微かに晴れた様な笑みを浮かべ、そして奏にそっと右手を離して貰い、自分の右胸に、自らの手を当てる。
「……私の不安。それは、あの人。『椿』そのもの」
「……椿さんそのもの?」
紫蘭のその言の葉に、思わず首を傾げたのは敬輔。
念のために、と赤い眼で10秒先の未来を見た時……。
(「……? そう言えば後輩からの連絡にあったな。あいつが……切り裂きジャックが今回の真犯人だと」)
既に共有された情報のことを思いだし、敬輔が鋭く思考を張り巡らす。
そして帝都桜學府で得られた其の情報……切り裂きジャックの目的が紫蘭を殺害し、或いは吸収に在る事も。
其の敬輔の呟きを引き取る様に思索を進めるのは統哉。
(「だが……1つだけ、未だ腑に落ちていないことがある」)
それは――。
今回ナイフを送った犯人の目星。
と……此処で。
(「待てよ。白撫子は重ねの色目、表は白で裏は蘇芳……か」)
白『撫子』と言う渾名に籠められた其の意味について思考する統哉。
もしこの仮説が正しいのだとすれば。
(「今回ナイフを送ったのは……花蘇芳、或いは其の一派、と言う事になるな」)
では……ジャックは今、何処にいる?
其処である閃きを得て、統哉が何気なくウィリアムと『椿』の方を見やれば……。
『……キキッ……汝は……!』
怨嗟と苛立ちの籠められた嗤い声が統哉の耳に入り、其れが統哉の脳裏を高速で回転させた。
(「……そうか。『椿』……椿の魂と融合しているのが、ジャックか……! となると、ジャックの魂と椿の魂を切り離さないと
……!」)
だが、その為には何が必要だ?
何か。
そう……何か、どうしても足りないピースがある。
そう焦りを覚えた統哉がウィリアムと『椿』……椿と切り裂きジャックが融合した目前の影朧の方に意識を向けた時。
「……ごめんね、あなた」
何処か透き通った様な覚悟を籠めた菖蒲の声が、この共同墓地全体に奇妙な圧迫感を以て、響き渡った。
「……そろそろ来る……! 皆のもの、気を抜くでないぞ」
「ヴァサゴも同じ状況を確認した! 皆、柊と菖蒲、紫蘭への守りを備えて、『椿』と向き合え!」
義透と陽太が警戒の叫びを発し。
「へっ……漸く荒事専門の出番って訳か。……さて、楽しませて貰うぜ」
ミハイルが煙草を噛み潰して鱶の様な笑みを浮かべ、目前に現れた強大な『其れ』と対峙した。
大成功
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第3章 ボス戦
『切り裂きジャック』
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POW : ジャック・ザ・リッパー
自身の【瞳】が輝く間、【刃物を使った攻撃】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
SPD : フロム・ヘル
【秘めたる狂気を解放する】事で【伝説の連続殺人鬼】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 霧の都の殺人鬼
自身に【辺りを覆い尽くす黒い霧】をまとい、高速移動と【斬撃による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
👑11
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●
「ごめんね、あなた」
(「嗚呼……良かった」)
『彼女』が漸くそう言ってくれたことに、『僕』は心の底から安堵する。
『彼女』……『僕』の大切な人が、超弩級戦力の皆と共に、近付いて来てくれる。
「本当は、心の何処かで分かっていた。あなたがもう、あなたの儘に戻ってくることは無いって。でも……わたしは、その可能性に縋ってしまった」
――与えられたから。
漆黒の短剣……人を『黄泉還り』させる事が出来るなんて、都合の良い道具を『誰か』が授けてくれたから。
「だからわたしは、あなたが生き還ると言う幻想に……希望に囚われてしまった」
――そんな事、在る筈なんて無いのに。
「其の結果、わたしは、あなたをより長く苦しめてしまった」
――大丈夫、だよ。
僕は君のためならこんな事、苦しくなんて、無い。
元々、僕の事を想い、僕のために君がしてくれたそれを……。
如何して僕が否定する事など出来ようか。
――でも。
「そうじゃ無かったのよね。この短剣は、あなたをあなたであって、あなたでは無い誰かにしてしまうものだった。だから……」
其処まで彼女が告げたところで。
『キキッ……キキキキキッ。汝はよく、我のために働いてくれた。今、此処に其の褒美をくれて……!』
そう告げて。
『椿』の姿をした其れが、全身を漆黒の殺意に満ち満ちた姿に変貌させて、其のナイフを菖蒲に振り下ろそうとした、其の時。
――や……め……ろ!
『僕』……椿が胸中で叫び、自らの……今は『彼』の物となってしまった其の体を一瞬だが、戒める。
『キキッ……! 汝の様な生き残りたいと言った惰弱者が、我の動きを止めようなどと片腹痛い……! キキッ、キキキキキッ!』
耳障りな嘲笑と共に『其れ』が、『椿』の意識を食らわんとした一瞬をついて。
「こっちだ……!」
柊が引き倒す様に、菖蒲を後ろへと下げて。
「やら……せない……!」
『椿』の意識を敏感に感じ取った紫蘭が周囲の幻朧桜に祈りを手向ける。
手向けられた祈りと同時に、吹き荒れる花吹雪。
其の花吹雪が彼の……全てを殺すことにのみ愉悦と快楽を求めるその魂を打ち据えて、思わず『彼』をよろめかせていた。
『キキッ……! 我が創造主、天秤の主を転生させ、この世界のバランスを崩した小娘が……! まさか、汝が我が前に立ちはだかるとはなぁぁぁぁぁぁぁぁっ! キキッ! キキキキキッ! 丁度良い、今此処で、貴様の腸1つ残らず食い散らし、全ての生に死を与える権化と我が化す為の糧にしてやろぉぉぉぉぉぉぉっ! 我が望みを叶えるための贄となれること、光栄に思ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ
!!!!!』
――其れは、拒絶の意志。
この世界のありとあらゆるシステムを忌み、そして全てに理不尽なる『死』を与えることこそ、至上と見做す人の心の闇の塊が生み出したモノ。
『さぁ、如何した、如何した、如何したぁっ?! 世界を否定する数多の意志の権化にして、其れこそがヒトの意志である事を体現した我を転生させることを望むか汝達!? ヒトに救う醜き闇を、殺戮と闘争の愉悦に変え、世界に真なる救済を与えることの出来る我をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!? キキッ! キキキキキキキッ!!』
全身から漆黒のオーラを迸らせ、その瞳を血の様に紅く煌めかせながら。
嘲笑と殺意と悪意を隠すこと無く叩き付けてくる『其れ』と、猟兵達は対峙した。
*第3章のルールは下記となります。
1.第2章の判定の結果、菖蒲は椿の生存を諦めました。しかし、彼の魂を救済できることを望んでおります。
2.椿は、『椿』という人格と、『影朧』と言う2つの意識が混在している状態です。本来であれば椿の人格を食らい強化される筈でしたが、菖蒲の説得に成功しましたので、混在した状態になりました。
3.この状況から、『椿』という人格と『影朧』の人格を分離させることは可能です。分離させた場合でも、最終的に『椿』は死にますが、魂の救済……転生させることは可能です。
4.第3章のNPCの扱いは下記になります。尚、NPCの生死は撃破できるかどうかの判定には影響を及ぼしません(紫蘭除く)
また、NPC達は戦場から撤退できません。
a.菖蒲
1.猟兵の指示には従います。
2.『椿』を救済して欲しいと願っています。また、『椿』を分離させ、その魂を成仏させるには最低でも彼女の生存が必須になります。
3.『椿』を救済できなかった場合、『椿』は影朧にその魂を食らわれ、影朧の能力が強化されます。この場合、最終的な判定は最大でも『成功』判定扱いになります。
4.彼女は自己防衛の術を持っていません。その為、何もフォローが無ければ自動的に死亡します。
b.柊
1.猟兵の指示には従います。
2.防衛する等の何らかの処置をしなければ戦いに巻き込まれて、死亡します。
3.嘗て、『黄泉還り』を研究していた研究者の為、もしかしたら魂を分離させる何らかの手段を持っているかも知れません。
c.紫蘭
1.猟兵の指示には従います。
2.第2章の判定の結果、ユーベルコヲドの使用が可能になっています。
使用できるユーベルコヲドは桜花の舞(鈴蘭の舞相当)or桜の癒しです。
(指示が無い限り、彼女は桜花の舞を活性化しているものとして扱います)
3.桜の精ですので、『椿』の魂を救出できれば当然転生させてくれます。
4.『切り裂きジャック』の最終目標であり、切り裂きジャックは彼女を殺し、其の力を奪うことを優先した行動を取ります。
5.猟兵達のフォローが無ければ殺され、切り裂きジャックの能力が強化されます。
具体的には最低でもレベル2420の見切り、早業、瞬間思考力、暗殺、範囲攻撃、残像の技能が追加され、手の付けられない相手となります(判定は失敗になります)
――それでは、最善の結末を。
ウィリアム・バークリー
随分と勝手なことを垂れ流してくれますね、殺人鬼。
あなたの刃、誰にも届かせはしません!
「全力魔法」「オーラ防御」「範囲攻撃」氷の「属性攻撃」「盾受け」「受け流し」でActive Ice Wall!
いつも通り、氷塊が必要な方にはpriorityを渡します。
さあ、氷結の戦場を構築しますよ。一般人のお三方は防御を特に手厚く。
ただの刃物攻撃なら、前衛が対処してくれるはず。伝説の殺人鬼に変身したところで、それも結局同じこと。問題は斬撃による衝撃波ですね。
押し寄せる衝撃波が一般人の三人に及ばないよう、氷塊を互い違いに配置。
高い視野がほしい。『ビーク』、ぼくを空へ連れて行ってください。戦場の動きを把握します。
天星・暁音
…護衛する対象は3人…少し手を増やすとしようかな
菖蒲さん、椿さんの名前を呼んであげて、そして貴方の想いを、告げて上げて、貴方の声が道標になるように…
椿さん、大切な人が貴方を求めて呼んでるんだよ
人として、意地と根性見せなさい! 大切な人の声を道標に出来るのだと、想いは暗闇にも届くのだと、示してみせて!
星霊のレベルを上げる指定技能はかばうで、3人に均等に分けて護衛し、常にかばい続け、本体は菖蒲の護衛に加わり集中します
星霊が倒れたら即座に追加召喚し、菖蒲に椿への想いを、伝えさせ呼びかけ続ける様にお願いし、椿にも、負けるなという主旨の言葉を投げかけ続けます。
スキルUCアイテムご自由に
共闘アドリブ歓迎
ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動
…切り裂きジャック、と言いましたね。あなたの行いは、最早死者への冒涜に等しい。
SIRDはこれより、切り裂きジャックを明確な敵と認識、全力でこれを撃滅します。交戦規定はウェポンズ・フリー、全ての攻撃手段の使用を許可します。
まずは紫蘭さん達3人の安全を確保するのが先決。G19で牽制射を加えつつ、できるだけジャックを3人から引き離す様な立ち回りを試みます。
慎重にチャンスを見計らいUCで黄衣の王を召喚、一気にジャックの殲滅を図ります。
先程、全ての生に死を与える、と言いましたが…それならば、生と死という概念を持たない邪神が相手になりましょう。
アドリブ及び他者との絡み歓迎
ラムダ・マルチパーパス
SIRDの皆様方と共に行動
アドリブ及び他者との絡み歓迎
ははぁ、あのジャック様とやらは、随分と傲慢な方の様ですねぇ。確か、「奢る者は久しからず」という言葉があったかと。これはお灸をたっぷり据えてやりませんと。
わたくしは紫蘭様達の護衛に就きます。特にジャック様は紫蘭様に執着されている様ですし。兎に角、3人の位置がばらばらだと何かと不都合ですので、3人一緒になって貰い、その前に立ち塞がる様にしてUCを発動、3人の盾になります。
大変危険ですので、わたくしの後から出ないで下さいませ。いやぁ、わたくし頑丈なのが取り柄でして。この程度の攻撃くらい、何ともございません。
3人の盾になりつつ、各種兵装にて攻撃。
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動
ふん、手前みてぇなヤツは傭兵時代に散々目にしてきたぜ。他人の弱みに付け込んで煽った挙句、食い物にしちまうクズ共。威勢のいいコト言ってるが、結局手前もそんなクズ共と同類、ってこったな。
先の説得に直接関わらなかったのを幸いに、密かに狙撃に向いてるポイントに移動。そこでSV-98Mでジャックへの狙撃を行う。但し、慎重に狙いを定める。恐らく、文月か誰かが説得を行うハズだ。チャンスが訪れるのを根気強くひたすら待つ。何、待つのは慣れてる。標的がスコープに飛び出す瞬間を、な。
流石にクリティカルポイント狙うのは、色々と寝覚めが悪い。狙うは、手足か、はたまたヤツの持ってるナイフ辺りか。
灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員で参加
ただの一部の主張をさも全てかの様に言うあたり、殉教テロと一緒ですね…体現出来てるのはヒトの意思じゃなく、狂信者の誇大妄想な口振りくらいですよ?
戦端が開くと同時に指定UCで黒霧を(先制攻撃)で展開、
敵からの視界を遮りつつ、牽制射撃をかけながら近場に居る柊さん、菖蒲さんを防護しラムダさんの防御範囲へ誘導。紫蘭さん達の護衛班へ合流し保護対象を纏める事で、仲間と連携し防御を固めつつ、攻撃にも人手を割き易い様にする
敵が黒霧使用or変身したら指定UCの狼達を足狙いで集中攻撃させ移動妨害に専念。更に腕狙いで集中狙撃し攻撃を妨害し味方前衛を戦闘支援する
(スナイパー・2回攻撃)
アドリブ歓迎
朱雀門・瑠香
さぁて、お久しぶりですね。椿さんを助けるために消えてもらいますけどね・・・・殺人鬼さん!
嘗ての戦闘経験を元にして黒い霧による視界妨害や高速移動を警戒。ダッシュで接近して奴の瞳が輝いたら高速の斬撃を見切って躱し或いは武器受けで受け流す。
破魔の力でもって切り捨てましょう、今度こそ!
終わりです切り裂きジャック!!
馬県・義透
【SIRD】
『不動なる者』のままにて。黒曜山は刀へ変化。
む、つまり…今の椿殿は擬似的な多重人格…みたいなものか。
菖蒲殿には陰海月を派遣し、わしは柊殿へ。ラムダ殿の防御範囲へと誘導しよう。
また、他護衛の仲間と連携は密に。
なあ、菖蒲殿。一つお願いがあるのだが…椿殿の名を、椿殿に聞こえるように呼びかけてはくれまいか?
この中で一番、椿殿の力になるは…間違いなく菖蒲殿であるからの。
わしは黒曜山での未来視を続けつつ、来る攻撃は置き斬撃で散らし、四天霊障をも利用して決して護衛対象に届かぬように。
ま、最悪…わし自身は傷を負うてもよいしな。
※
陰海月、誘導しつつ護衛張りきる。守りきるため、海色結界も張っている。
真宮・響
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)
切り裂きジャックか。二度と会いたくなかったが、一度滅ぼしただけでは完全に滅びなかったか。二度と甦られないように徹底的に潰してやるよ。
ジャック相手に下手な隠密は効かないね。炎の戦乙女で手数を増やして、【オーラ防御】【見切り】【残像】【戦闘知識】で敵の攻撃を凌ぎながら【衝撃波】で牽制。いざとなれば攻撃は炎の戦乙女に受けさせる。
隙を見つけたら強引に槍を【串刺し】【貫通攻撃】でブッ刺して足止め。必殺の【怪力】【グラップル】【武器落とし】【鎧砕き】を併せた正拳→【重量攻撃】【目潰し】を併せた頭突きを喰らわせてやる。
二度と出てくるんじゃない!!存在自体が災害だからねえ!
真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)
ちょうど紫蘭さんの側にいたので、体を張って紫蘭さんを守ります。
切り裂きジャック・・・またあの悪夢を見るとは。紫蘭さんを最悪の悪夢に飲み込ませる訳には行きません。
【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【受け流し】【ジャストガード】で防御を固めた上で白銀の騎士を発動、紫蘭さんの側を離れる気はありませんので、移動距離を犠牲に防御力を上げ、いつでも紫蘭さんを【かばう】ことが出来る様に。ジャックが接近してきたら【怪力】【シールドバッシュ】【耐性を崩す】【衝撃波】などあらゆる手段を使ってジャックを遠ざける。
悪夢よ、消え去りなさい!!その悪意、世に振り撒くのは阻止します!!
神城・瞬
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)
少なくとも、貴方の救済を人の世は求めませんよ。切り裂きジャック。貴方が振り撒く悪意を、そのままにはしておけません。
辛いでしょうね、菖蒲さん。貴女をここで死なせる訳には行かない。守ります、貴女を。
まず菖蒲さんを【オーラ防御】【結界術】で保護。ヘヴンリィ・シルバー・ストームで仲間を援護しながら、【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】【武器落とし】を併せた【電撃】を【高速詠唱】で敵に撃つ。ジャックが近づいてきたら【誘導弾】【吹き飛ばし】で距離を離す。
僕自身は【オーラ防御】【第六感】で凌ぐ。
まだまだ大きな闇が隠れていそうですが、今出来ることを。
森宮・陽太
【WIZ】
アドリブ大歓迎
他猟兵他グループとの連携は緊密に
…システムを否定するのは勝手だが
ジャック、てめえを死の権化にはさせねえ
理不尽な死はばら撒かせねえよ!
ジャックの足は少しでも止めてえんだよな
「高速詠唱、魔力溜め」+指定UCでスパーダ召喚
スパーダの短剣全てに「破魔、浄化、属性攻撃(光)」のオーラを纏わせ
進路妨害するように短剣を断続的に降らせて「制圧射撃、蹂躙」
黒い霧に覆い尽くされたら短剣で霧を切り裂き「浄化」してやらあ
俺自身は柊の護衛につきつつ柊に質問だ
なあ、柊
椿を救済したいのはてめぇも同じだろ
ジャックと椿を切り離す…魂を分離させる方法はあるか?
あと、あの漆黒の短剣に見覚えはあるか?
藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
他猟兵他グループとの連携は緊密に
ジャック
生きとし生ける者としては、生への執着は世界問わず根源的な欲求だ
愛する人がいるなら、尚更強くなろう
想いを弄び、己が想いのまま人を死に誘うようなあなたに
人を惰弱者と断ずる資格はない!
菖蒲さん
椿さんの事も含め、事情は竜胆さんからも聞かせてもらった
彼の死は天秤の主たる輩を転生させた我々にも多少の責がある
だからこそ、これ以上椿さんをあの輩の思う儘にはさせん!
過去の交戦経験から
ジャックがスピードで翻弄してくる相手だとわかっている
ならばこちらは手数を増やして対抗だ
いざという時は菖蒲さんを「拠点防御」で守れるようにしながら
「歌唱、鼓舞」+指定UCで皆を回復しながら再行動させよう
柊さんから魂の分離手段を提供されたら
多少の危険は覚悟の上で即座に試すぞ
…今は彼の知識が頼りだからな
撃破後でいいので菖蒲さんに質問
その短剣、誰から渡された?
…人の心を道具として使う輩、許すまじ
…全ては情と知のあの地に繋がっている
我々の手で、決着をつけねばならぬのか
彩瑠・姫桜
防衛中心
真の姿解放の上【血統覚醒】使用
[かばう、武器受け]駆使し攻撃を通さない[覚悟]で挑む
優先順は「菖蒲さん>柊さん」
私は器用ではないけど
できる限り臨機応変に立ち回るわ
必要に応じて
あお(f06218)や仲間に助けを頼み
声掛けと連携は常に意識
誰も死なせたりはしない
絶対に諦めたりしない
かっこ悪かろうと、何だろうと関係ない
思いつく限りのことは全部やってみせるんだから
私は、菖蒲さんと椿さんが笑顔でいられる未来を望むわ
菖蒲さんがいなければ椿さんはそれこそあがく気力を失ってしまう
椿さんがジャックに負けてしまったら、菖蒲さんの笑顔が失われてしまう
柊さんが二人に抱いてる想いだって絶対に無駄にしないんだから
そして、紫蘭さん。貴女がここで力尽きたら、それこそ雅人さんはどうなるのよ!
椿さん、貴方だって同じ気持ちでしょ?
皆が菖蒲さんを護ってくれていても、肝心の貴方が足掻かなくちゃ
誰が菖蒲さんの笑顔を守れるのよ!
ジャックになんか負けないで、気合い入れて生きて
そして、菖蒲さんとの未来のためにもう一度生き直すのよ!
榎木・葵桜
姫ちゃん(f04489)や仲間の猟兵達と連携
できるだけ、その場の状況に応じて臨機応変に動きたいんだよね
だから、できるだけ戦況見渡して、一番足りないところに向かいたい
とはいえ行動優先は決めておかないと逆に動けないか
優先は「紫蘭さんの護り>ジャックの攻撃を牽制」で行くよ
基本は紫蘭さんの護りで
紫蘭さんの護りが足りてるようなら
切り裂きジャックの攻撃を牽制できるように前に出る
そしたら、切り裂きジャックが誰を狙って攻撃を仕掛けてしたにせよ
その威力を少しは削ぐことができると思うから
護りにせよ牽制で前に出るにせよ
真の姿解放し【巫覡載霊の舞】で神霊体に変身した上で
[第六感、見切り、戦闘知識]で切り裂きジャックの動きは意識
攻撃する際には[なぎ払い、衝撃波、2回攻撃]を駆使する
敵の攻撃は[かばう、武器受け、激痛耐性]で凌ぐよ
痛かろうと血が出ようと怯んではいられないし絶対倒れてなんかやらない
菖蒲さん、柊さん、紫蘭さん、そして椿さん
誰が欠けても私達が望む結果は得られない
だからこそできることを全力でやってみせるよ!
館野・敬輔
【POW】
アドリブ大歓迎
他猟兵他グループとの連携は緊密に
切り裂きジャック
ある意味、貴様が全ての糸を引いていたのか
俺も闇側の人間だが
光まで失くしちゃいない
貴様の望み、ここで断つ!
そういえば、以前交戦した時
ジャックの心の闇に寄り添おうとして奴に狙われた猟兵がいた
なら、寄り添うのではなく、闇を闇で制するほうが弱体化できないか?
もちろん、試すのは椿とジャックを切り離した後だが
魂切り離しの手段が得られるまでは
「かばう、オーラ防御、武器受け、激痛耐性」で紫蘭の盾になろう
彼女がジャックの手にかかったら全てが終わる
何としてでも通さない!!
切り離しを確認したら
他猟兵に紫蘭護衛と戦闘終了後の自身の制止を託し指定UC発動
俺は憎悪と闘争を以て影朧…オブリビオンを狩る騎士
さあ切り裂きジャック、徹底的に殺し合おうじゃないか!
「ダッシュ、視力、見切り」で素早い奴の挙動を追跡し
徹底的に纏わりついて「2回攻撃、切り込み」で闘争心の赴くままにひたすら斬り刻んでやる
奴の9回攻撃は「オーラ防御、激痛耐性」併用で耐え抜くぞ
クラウン・アンダーウッド
アレが影朧として正しい存在なら、どんな経験をすればあそこまで愉快な存在が生まれるのか興味深いね。キキッ♪
光と闇、生と死。相反するものがあるからこそバランスが成り立つなら善人も悪人も平等に救済されるべきなんだよ。という訳でボクは椿さんは勿論だけど、キミも助けるよ『切り裂きジャック』君♪
そうだ、菖蒲さん。御守りにコレを貸しておくよ。
スノードップの白い花が埋め込まれた、刀身がアレキサンドライト製の宝石花剣を手渡す。
クラウンは呼び出した10体のからくり人形と感覚を共有し、相手の動きを捉え攻撃の射線上に割り込むように仲間を守護
戦場に幾つかの塊にしたの業火を展開して、敵も味方も分け隔てなく癒やしていく。
文月・統哉
オーラ防御展開し、宵を手に前へ
攻撃見切り武器受けで凌ぎ
カウンター狙いつつ応戦
仲間と連携し
紫蘭・菖蒲・柊さんへの攻撃は絶対に通さない
読心術と情報収集で心の変化を読みながら
椿さんに呼びかけ意識を繋ぐ
大切な人を護りたいと願い
影朧の救済に誇りをもって戦った椿さん
その生き方に共感すると共に
彼だからこその可能性に賭けてみたい
椿さんの救済は勿論の事
彼に協力を頼み
内と外からジャックの救済を試みる
元より人の心は揺れる天秤、光にも闇にも染まる
菖蒲さんも椿さんも紫蘭も俺も
そしてジャックの闇もまた人の心から生まれた想念だ
天秤から切り離されようと光と闇は表裏一体
不安定な影朧である君が闇のままであると何故言える?
幻影の君は『我思う、故に我ある』と言ったけど
転生が救済であると思い至ったのもまた君自身
何故君はそう思ったんだい?
それは他の誰でもない君自身の持つ可能性
言っただろう俺は諦めないって
最初に出会ったあの日から
君の魂が救われる事を俺は願い続けてる
椿さんとジャック両方の転生を願い
祈りの刃を
そして紫蘭にも桜の癒しを頼む
●
「……切り裂きジャック、と言いましたね」
まるで真冬の夜の雨の様に冷たい声音で。
ネリッサ・ハーディが静かに愛銃、G19C Gen.4の撃鉄を起こし、両手で構えながらのその問いに。
『キキッ!! そうよっ!! 我こそは、切り裂きジャック!!! 我こそが世界を否定する数多の意志の権化にして、ヒトの意志である事を体現したモノよ!! 我の殺戮による滅びこそ、真なるこの世界の救済!! 其れこそが我が我たらしめる理由よ、超弩級戦力達! キキッ!!! キキキキキッ!!!』
嘲笑と愉悦を籠めた、侮蔑の笑い声と共に返す切り裂きジャック。
その全身を瞬く間に覆いつくす霧を見て、ネリッサが益々その瞳を鋭く細める。
「……あなたの行い、言動……其の全てが最早死者への冒涜に等しい。……SIRD――Specialservice Information Research Departmentが局長、ネリッサより各員へ。SIRDは此より、切り裂きジャックを明確な敵と認識、全力で此を撃破します。交戦規定はウェポンズ・フリー、全ての攻撃手段の使用を許可。……この様な悪鬼に遅れを取るわけには参りません」
ネリッサの、其の言の葉に。
『Yes.マム!』
其々に応えたSIRD所属の局員達が、素早く其々に配置につく。
その初手として、動き出したのは。
「随分と勝手なことを垂れ流してくれますね、殺人鬼」
ウィリアム・バークリーがルーンソード『スプラッシュ』を抜剣、空中に青と桜色を綯い交ぜにした魔法陣を描き出すのに合わせて。
「そうですね、ウィリアムさん。ただの一部の主張をさも全てであるかの様に語らうこの輩の其れは……殉教テロと一緒です」
――パチン。
指を鳴らした、灯璃・ファルシュピーゲル。
指パッチンと共に、切り裂きジャックの視界に、某国にある全ての光を飲む漆黒の森の様な霧を形成。
其の視界を覆い尽くそうとした刹那。
『キキッ! キキキキキッ! 果たして本当にそうか? 我が与えうる救済が、汝等全てのモノ達の望みで無いと何故言い切ることが出来る!? 我は我思う故に、我在りしモノ。我を造り出したモノは世界の意志! 汝等が闇と忌み嫌い、滅ぼし続ける限り、我が消えることも非ず!』
戦場を覆い尽くさんばかりの黒霧を生み出し、背筋が寒くなる程の殺気を放出する切り裂きジャック。
「……ふん。テメェみたいなヤツは傭兵時代に散々目にしてきたぜ。他人の弱味に付け込んで煽った挙句、食い物にしちまうクズ共はな」
軽く鼻を鳴らし、噛み潰した煙草を吐き捨てる様にして。
ミハイル・グレヴィッチがそう呟き、灯璃の展開した霧に覆い隠される様にその姿を消していく。
それを複合式多機能カメラセンサー・システムのレーダーシステムで探知して。
「ははぁ、あのジャック様とやらは、随分と傲慢な方の様ですねぇ」
と女性型ホログラムに然もあらんと言った表情を浮かべさせ首を縦に振るラムダ・マルチパーパスに。
「あの時の彼も、こんな感じだったよ。でも、あの時よりも、彼はきっと……」
――其の瘴気が、力がより高まっている。
針の様に突き刺す痛みの中を駆け抜けていく灼熱感……其れも溶鉱炉に突っ込まれたかの様な熱……を共苦の痛みに与えられながら。
何食わぬ顔で星天の書を左手で持ち出しパラパラと本の表紙を捲らせて、あるページを探しながらの天星・暁音の一言に。
「本当にね。正直、二度と会いたくなかったが……一度滅ぼしただけでは完全に滅びなかったって訳だ」
真宮・響が軽く頷いた、刹那。
「……いかん! 陰海月、皆のもの。菖蒲殿、椿殿、紫蘭殿を護るのだ」
漆黒の鏡面篭手から刀へと変形中の『黒曜山』の刀身に映し出された未来に、咄嗟に馬県・義透――『不動なる者』が叫び。
「紫蘭さん!」
「ぷぎゅっ!」
其れを聞いて咄嗟に地面のエレメンタル・シールドを蹴り上げたのは、真宮・奏。
奏を守る様に陰海月が飛び出し、海色の結界を展開、準備の整っていない奏の殺しきれない衝撃を緩和する一方で。
「くっ……菖蒲さんをやらせはしないわよ!」
思わず、と言った様子で舌を打ち、柊に地面に引き倒されていた菖蒲の前に矢の様に飛び出したのは、彩瑠・姫桜。
咄嗟に瞳を真紅の瞳にし、ヒトには叶うことのない膂力を得て、ヴァンパイア化した右腕に嵌めた桜鏡の玻璃鏡の鏡面を突き出すが。
「って姫桜でも間にあわねぇ……?! 糞がっ!?」
驚愕のあまりに息を飲みながら、仁王立ちの様に柊の前にその身を晒したのは森宮・陽太。
「くっ……あの時よりも強くなっているのだとしても、僕達が、人の世が貴方の救済を求めはしませんよ、切り裂きジャック!」
精霊のフルートから咄嗟に口を離し、其の先端で月読みの紋章を描き出したのは、神城・瞬。
空中で描き出された瞬の故郷にのみ代々伝わっていた紋章が月光色の結界を構築し、陽太を護り。
「姫ちゃん……! 姫ちゃんも、皆だってやらせないんだからっ!」
榎木・葵桜が朱色地に金装飾のついた胡蝶楽刀を抜刀、大地を擦って斬り上げた。
リンリンと柄についた魔除けの鈴を鳴らしながら放たれた衝撃波が、漆黒の斬撃とぶつかり爆ぜる音が周囲に響く。
――鼓膜を激しく叩いて鈴の音を搔き消す程の、爆音と化して。
「くっ……! 切り裂きジャック……! 椿さん!」
千々に乱れて桜吹雪と化した幻朧桜が礫の様に叩き付けられるのを結界で受け止めつつ呼びかけたのは、文月・統哉。
あまりの衝撃に、咄嗟に展開した筈のクロネコ刺繍入りの緋色の結界が、まるで消える直前の蛍光灯の如く、儚い点滅を繰り返す。
『キキッ!!! キキキキキッ
!!!!!』
狂った様な嘲笑をあげて、漆黒のナイフを軽く一振りする切り裂きジャック。
『如何した、如何した、如何したぁぁぁぁぁぁぁっ!? 汝等の力など所詮この程度かぁぁぁぁぁぁっ?! 此で分かっただろう、我と汝等の実力の差が! 此こそ正しく、在るべき影朧……ヒトの意志の体現たる我の力よ! キキッ! キキキキッ!』
「人の意志の体現だと?! 巫山戯るな。想いを弄び、己が想いのままに人を死に誘う様なあなたにその様な事を言われる筋合いは無い!」
ジャックの嘲笑に、怒声で報いたのは藤崎・美雪。
『キキッ! キキキキキッ!!』
その怒声を嘲弄し、全身を巡る狂気をジャックが解放しようとした其の刹那。
「や~れやれ。アレが影朧として正しい存在なら、どんな経験をすればあそこまで愉快な存在が生まれるのか、興味深いねぇ……キキッ♪」
まるで道化の様な、奇術師の様な。
胡散臭さとからかいとジャックに似た狂気の籠められた笑い声が戦場に響く。
それと、ほぼ同時に。
戦場を覆う切り裂きジャックの霧を焼き払う様に静かなる炎が灯り、それが紫蘭・菖蒲・柊を護った者達を癒やした。
――その獄炎の焔の、其の主は。
「……クラウンさん。来ていたのか」
思わず問いかける美雪に、クラウン・アンダーテッドが軽くウインク。
「ああ、安心してよ美雪さん。キミ達があの竜胆さんだっけ? に頼んだ件は、きちんと終わらせてきたから」
「ではこの周囲を封鎖するのにクラウンさんは協力していたと言うのですか!?」
瞬きするのも忘れ唖然とする朱雀門・瑠香に、まーね♪ と口笛で返すクラウン。
そうしながら、守ってくれるよ、と菖蒲に宝石花剣を手渡している。
其の柄に白い花、スノードロップ……『希望』の花言葉を持つ花が埋め込まれ。
刀身はアレキサンドライト……昼と夜に輝きの異なる光を齎す『光輝』の宝石で作られた其の御守り刀を。
クラウンに渡された宝石花剣に菖蒲が驚いた様に目を細めるその間に。
「彩瑠様、森宮様、真宮様、どうか此方へ。一箇所にお集まり頂ければ、わたくしめの力で皆様を護りきらせていただけるかと存じ上げますので……!」
――パン、パン、パパン!
ネリッサの牽制の銃弾に合わせて響き渡るラムダの機械音声。
「……聞いているだけで狂ってきそうな狂信者の誇大妄想な口振り。少し静かにしていて貰いますよ……!」
呻く様に呟いた灯璃が、Hk477K-SOPMOD3"Schutzhund"の引金を引いた。
取り付けられたスコープ越しに自らの作り出した漆黒の霧の向こうの相手を正確に捉えた一射がジャックの肩を掠めていく。
思わぬ一射にジャックが次の一手を僅かに逡巡、その算段を纏めるその間に。
「ええ、分かったわ……! 菖蒲さん、下がるわよ!」
「柊、お前には確認したいことがある。此処は俺と一緒に来てくれ!」
「急いで、此方ですよ、紫蘭さん!」
ラムダの音声に導かれ、姫桜が菖蒲を、陽太が柊を、奏が紫蘭の身柄を其々に抱えて後退する様に誘導。
『キキッ! この我が、汝等を逃がすものかぁぁぁぁぁっ!!』
算段を纏めたか、その瞳を紅に煌めかせ、血色の残像を曳きながら爆発的な速度で駆けるジャックの前に。
「お~と、此処から先は通行止め、だよ♪」
クラウンが素早く10体のからくり人形を展開、その動きを鈍らせる微かな時間を作り上げ。
其の時間を利用して。
「椿さん! 大切な人を護り、影朧の救済に誇りを持って戦っていた椿さん! 貴方も切り裂きジャックも、俺達が必ず救済する!」
『宵』を右手に構えて姫桜達と入れ替わる様に前に飛び出した統哉に追随して。
「切り裂きジャック。ある意味、貴様が全ての糸を引いていたんだな……!」
館野・敬輔が黒剣を抜剣し、一歩前に踏み込み、切り込んで。
「初っ端はかましてくれましたが……椿さんを助けるためにも消えて貰いますよ……殺人鬼さん!」
瑠香が物干竿・村正を抜刀し。
「紫蘭さんも、皆も、絶対にやらせないんだからっ!」
胡蝶楽刀を構え直して真の姿と化し、同時にその全身を神霊体へと変身させた葵桜が神楽を舞う様な足取りで其れに続いた。
●
『キキッ! キキキキキッ! 汝等愚かの極みなりぃぃぃぃぃぃぃっ! 我を、天秤にして、闇の代行者たる我を止めようなどとはなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
――ヒュン、と。
目に見えない程の圧倒的な速度で紅の瞳を怪しく光らせナイフを振るうジャック。
振るわれた漆黒のナイフの刃先が瞳と同じ禍々しき紅の輝きを伴った剣閃と化して、目にも留まらぬ速さで放たれる。
糸で繋がれた10体のからくり人形達が、其のナイフに切り裂かれ、一時的な機能停止に追いやられるその間にも。
「椿さん。俺は、貴方の生き方に共感している」
――大切な人を、愛する人を護り。
――影朧を救済する事に誇りを持っていた。
其の信念を、想いを貫く様は、この全てをズタズタに斬り刻むであろう剣閃よりも遥かに尊く、守られるべきもの。
からくり人形に軌道を逸らされた斬撃の内の3閃を、『宵』をプロペラの様に回転させて辛うじて捌きながら、告げる統哉。
その剣閃に乗せられる圧倒的な威圧感と共に、出鱈目に放射される斬撃の余波。
其の余波を……。
「モード・ツィタデレ起動。正面からの其れは私めが受け止めさせて頂きますので、紫蘭様、柊様、菖蒲様。わたくしめの後ろから必ずでないで下さいませ」
目前に展開した、バリ、バリと電磁波の走る高密度防御電磁フィールドで受け止めたラムダのあやし。
けれども、ラムダの電磁防御フィールドが絡め取る様に受け止めた余波ですら、更に細かい分裂を繰り返して。
まるで無限増殖する細胞の様な数珠繋がりの波を、schwarz&Weiß……二槍で叩き落とした姫桜が、血の様に紅い瞳から。
「……誰も死なせたりはしない、絶対に諦めたりしない」
ポタリ、ポタリと血の滴を落としながら膝頭を震わせて、誓いの様に呟き。
「ぷぎゅ!」
陰海月が海色の結界を張り巡らして紫蘭に伝わろうとしていた斬撃の余波を相殺仕切れず苦痛の声を上げるのに。
「紫蘭さんを殺されたら終わりなんだ、やらせるわけには行かない……!」
敬輔が黒剣をジャックに振り下ろし牽制、残滓で放った漆黒のオーラで陰海月と其の結界を押し潰そうとする斬撃波を受け止めさせ。
「すみません、此で少しは戦況が楽になる筈……Active Ice Wall! Priorityの権限は猟兵の皆さんに任意譲渡、All Green……!」
その瞬間にウィリアムが後方で『スプラッシュ』の先端に描き出した白と桜色の混在した中央に星形の描かれた魔法陣を起動させた。
更に其の魔法陣を中心に、上下左右に従える様に描き出された4つの魔法陣が明滅しながら中央の魔法陣の周りを時計回りに回転。
其処から無限にも等しい大きさも形も十人十色な氷塊の塊が出現し、戦場全体を覆い尽くさんばかりに放射される。
放たれた氷塊の塊を鼻歌交じりに蹴って上へと上がり、近くの先程の余波の影響を受けていない幻朧桜を見つけたミハイル。
(「おっ……こいつは丁度良いか」)
内心で軽く指を鳴らして飛びのり、幻朧桜の主幹の窪みにSV-98Mを台に乗せて固定してアンブッシュしつつスコープを覗く。
(「さて、そう簡単に隙を見せてくれるとは思えねぇが……この一発を撃ち込む機会を気長に待つとしようか」)
何、そう言うのには慣れている。
数多の戦場を傭兵として潜り抜けてきた。そんな自分がアンブッシュと勝利のための、千載一遇のその機会を見逃すことがあろうものか。
「とは言え……文月。お前達みたいな甘ちゃんの説得で出来るその機会を見逃さないってのは、アイツみたいにある意味誰かの弱味に付け入るってことだ。そう言う意味では、アイツとあまり変わらねぇかも知れないがな。まあ……うちのボスから承認は得ている以上、気にするような話でもねぇが」
小声でぼやき、スコープを覗いて戦場と状況の変化を俯瞰するミハイル。
と……その間に。
「……っ! こんな痛み、物の数になんかならないんだからっ!」
深紅の剣閃に左手を切りつけられ手の甲から血飛沫を迸らせながらつつ藍色の眼差しでジャックを睨む葵桜が。
胡蝶楽刀をプロペラの様に回転させて大上段から唐竹割りに振り下ろすが、それを軽く身を捻ってひらりと躱すジャック。
そのジャックの逃げた先の進路を塞ぐ様にウィリアムの氷塊が移動して。
「アンタ相手じゃ下手な隠密は効かないね。なら此処はこいつで行かせて貰うよ!」
其の氷塊の影からジャックの死角をついて、体を屈め込ませていた響が飛び出し、パリンッ! と魔法石を砕く。
響が代償に捧げた魔法石と入れ替わる様に響の背後に姿を現したのは、響のブレイズランスと同じく赤熱する槍を構えた戦乙女。
響自身と同格の力を持った其の戦乙女が赤熱する槍を上段から突き出し、響は下段からブレイズブルーを突き出す。
――灼熱の如く燃え盛る炎の槍と、冷たく青白く光輝く情熱を秘めた槍。
並のオブリビオンであれば瞬く間に滅ぼす事の出来たであろう、炎と氷を思わせる二槍をしかし、爆発的な反応で躱すジャック。
『キキッ! キキキキキッ
!!!!! 生きたいと望んだ愚者を取り込んだ我に、汝の攻撃が早々当たると思うな!』
圧倒的な狂気による爆発的な直感力。
先程振り抜いたナイフから迸った剣閃が漸く響と戦乙女に迫り、態勢の崩れている響と戦乙女を斬り刻んだ。
「ちっ! この災厄そのものが!」
「ですが……此なら幾ら貴方でも避けきれないでしょう!?」
傷つき、舌打ちする響と入れ替わる様に物干竿・村正を突き出す瑠香。
放たれた神速の一突きがジャックに迫るがまるで其れが来る事を分かっていたかの様に。
『キキッ! キキキキキッ
!!!!!』
ナイフで絡め取ることすらせずに、大地を蹴ってバク転で躱すジャックに、流石に目を見張る瑠香。
(「絶妙のタイミングで放った私の神速の一撃の軌道を見切って躱す
……!?」)
「ですが、空中に出たのは命取りですね。……仕事の時間だ、狼達<<Kamerad>>!」
其の状況を冷静に観察していた灯璃がピュイッ! と口笛を鳴らす。
鳴らされた口笛に応じる様に、灯璃がジャックの視界を塞ぐべく召喚した漆黒の森の様な霧から、飛び出したのは影の群。
――グルグルグルグルグルグル……!
そんな唸りが聞こえてくるかの様な無音の咆哮と共に。
光すらも食らい尽くす狼達が空中に浮いたジャックの足を食らわんと、一斉に其の足に向かって飛びかかった。
――然れど。
『キキッ! 無駄、無駄、無駄、無駄、無駄ぁ! 我は闇そのもの! 光を食らい尽くす狼、我が同胞達よ! 我と何処までも共に行くとしようぞ!』
支離滅裂な声を上げ、漆黒のナイフを横一文字に振るうジャック。
振るわれた血色の線を曳いた漆黒のナイフから漆黒の三日月が溢れ出し、ジャックの足を食らわんとした狼達を纏めて薙ぎ払う。
「システムを否定するのは勝手だが、ジャック、てめぇを死の権化になんぞさせねぇよ!」
左手の濃紺のアリスランスを伸長させ、その隙を穿つかの如く牽制する陽太。
その間にも右手の淡紅のアリスグレイヴを振るって、素早く自らの近くに召喚陣を描き出し始めている。
其の魔法陣の中央に、捻れた2つの角を持つ漆黒と紅の悪魔を描き出しながら。
陽太の濃紺の光を伴う槍の一突きが、華麗に着地をしようとしているジャックに迫るが。
『キキッ!』
ジャックがその場に前傾姿勢になり、陽太の槍が其の頭の皮を掠めていった。
「すみません、皆さん。行きます……!」
僅かに出来た隙を縫う様に瞬が空中に描いた月読みの紋章に手を突き入れて。
それから空を指差すや否や、銀色の雲が空を覆い、ゴロゴロと、雷音が轟き始め。
――シトシト……。
と銀の雨を降り注がせた。
銀雨の合間を縫ってジャックに向かって降り注ぐは万色の変化を齎す稲妻の嵐。
逆に降り注ぐ銀雨の滴は、葵桜達が負った傷を癒していく。
『キキッ! このユーベルコヲドは初見だな……! だが、我が力の前には無力!』
降り注ぐ万色の雷を受けたジャックが自らの周囲に展開した漆黒の霧の濃度を上げ、深き濃霧と共に、更に自らの速さを上げる。
雷も上回る程の速度で斬撃の衝撃波を、紫蘭達の集まる場に放射しながら。
「ですが……この場にいるわたくしめの電磁防御フィールドの前には如何なる力も十時は致しません。どうか皆様ご安心の程を……」
ラムダが、自らの後ろに避難している紫蘭達を落ち着かせる様に告げた時。
「危ない、ラムダさん!」
血の涙を滴り落とした姫桜が甲高い叫びと共に、ラムダと斬撃波の間に割り込む様に飛び込み二槍を十文字に構えて防御。
目前に展開された氷塊が次々に砕かれ威力を減殺するが、雷光の如き加速を付けたジャックの斬撃波は止まらない。
激しく叩き付ける様な衝撃が姫桜を襲い、けれども何とか両足で大地を全力で踏みつけ、食いしばる様にその場に立ち塞がる。
『キキッ……動かせば問題ないと思っていたが……そうは問屋が卸さないか!』
嘲笑と、微かな気づきを得る様なジャックの呟きに。
「……やはり先ずはジャックと融合している椿さんの魂を救い出し、ジャックと分離させる必要がありそうだな」
トッカータの譜面をグリモア・ムジカに展開し、シンフォニックデバイスの調整をしながら美雪が重々しく呟くと。
「ああ……そうだね」
其れまで陽太に守られていた柊が静かに頷き、鋭く目を細め、何かを決意するかの様に、自らの胸の辺りを強く握った。
●
「漸くか。……スパーダ! あいつの動きを少しでも良い、止めてくれ!」
柊が胸の辺りを強く握る、その様子をちらりと横目に見ながら。
陽太が明滅を繰り返す程に眩く完成した魔法陣を持ち上げる様に、淡紅のアリスグレイヴを持ち上げる。
その穂先に生み出された魔法陣を潜り抜ける様に淡紅色の線が走り。
「グオオオオオオオオッ!」
咆哮と共に勇ましき姿を現したのは、捻れた二つの角を持つ漆黒と紅の悪魔。
周囲には、刀身に複雑な幾何学紋様の描き出された1140本の紅の短剣が浮かんでいる。
其の短剣の1本、1本が白き輝きに包み込まれて、複雑な包囲網を練り上げるべくジャックに向かって降り注いだ。
「……ビーク、ぼくを空へ!」
氷塊を、手を振るって動かし、スパーダの短剣によるジャックの進路阻害を援護するウィリアムが『スプラッシュ』を地面に突き出す。
『スプラッシュ』の剣先が地面に描いたのは、幻獣グリフォンが中央に描き出された魔法陣。
その魔法陣から光の残滓と共に姿を現し、見事な一対の白翼を羽ばたかせた幻獣グリフォン『ビーク』が嘶く。
それに頷き、ウィリアムが跨がろうとした、正にその時。
「すまない、ウィリアムさん。俺も途中まで同乗させて貰って良いかな?」
星天の書の星と夜空の魔術以外のページが開かれて、そのページの紙をピン、と立たせた暁音がそう聞いてくるのに。
「構いませんが、どうかしましたか?」
ウィリアムが問いかけると。
「……俺も空から状況を見定めた方が良いと思ったんだよ。この際、天からの『目』は幾つあっても足りないだろうから」
そう返し、空の一点を指差す暁音。
其処にあるのは、自らと感覚を共有する『星の船』
その『星の船』でも捕らえることが出来ない程の速度で戦場を疾駆するジャック。
其の在り方と危険性を強く警告するかの様に灼熱感を増していく共苦の痛みを受けながらの暁音の其れに。
「ええ、分かりましたよ、暁音さん」
ウィリアムが首肯して暁音を『ビーク』に同乗させ、『天の目』となるその間に。
「なぁ、柊。椿を救済したのはてめぇも同じだろ」
そう陽太に問いかけられ、柊が其れに首肯で返した。
その胸元をより強く握りしめる姿を認めながら。
「……はっはぁ~、どうやらキミは、何か手段を持っている、その様だね♪」
何処か愉快そうに鼻を鳴らして、からくり人形達を再び糸で繋ぎ、後退しながら、軽い調子で話の続きを促すクラウン。
そのクラウンの道化師めいた口調と目前でカタカタと動く人形が、柊の其の背を押したのだろうか。
柊がそうだね、と握りしめていた胸元の中に手を突っ込み、何かを探す様にゴソゴソとその中を漁る。
(「柊さん、何を持っている
……?」)
美雪が譜面と疑似鍵盤をグリモア・ムジカに顕現させ、其れに伴奏を奏でさせながら、内心でそう問いかけると。
「本当は、かなりの危険が伴う上、実験段階だから使いたく無かったんだが……」
覚悟を決めた表情の柊が取り出すは、白い粉末状の粉の入った小さなカプセル。
「そいつは……?」
と陽太が何気なく聞いた時。
以前、水の都で竜胆と話した内容が美雪の脳裏を過ぎり、思わず身を震わせた。
「まさか其れは、グラッジパウダー? 人為的に影朧化させると言う……」
「違うとも言えるし、そうとも言える、か。此は私が黄泉還りの研究の途中で作り出したグラッジパウダー……人為的に影朧化出来る対生物兵器……の中和剤だ。本来科学者は、自身が新しい薬物を作る時、当然其れに対応出来る手段を用意しておく物だ。……其れによって起きてしまった悲劇を止められる可能性に賭けて、ね」
光と闇が、二律背反に在る様に。
アレキサンドライトが、昼と夜で青緑色と赤紫色の異なる色彩を見せる様に。
そして光ある所に影が、影ある所に光があるのと同様に。
人為的に影朧化出来る薬を作るのであれば、その効果を中和する薬を開発しておくのは当然だろう。
「とは言えこの中和剤は現在、この1つしかない。此を何らかの形で椿君の体に撃ち込む事が出来れば少なくとも、皆の声がより鮮明に椿君の魂に届く可能性は高くなるだろう。……賭けの様なものではあるが」
その柊の説明に。
「だが、賭けてみる可能性はあるであろうな。いや……、其れを使うしかこの状況を覆す方法はあるまいて」
それまで『黒曜山』で戦況を見続けていた義透が、粛然とした口調で呟く。
「そうだな。……だったら、やってみるしかねぇ、か」
思い詰めた表情で頷く陽太の其れに、菖蒲が微かに表情を青ざめさせた。
「でも、それだけで、あの人の心が戻るの……?」
「いいや、無理だな。此はあくまでも、影朧と渾然一体化している椿君の意識を表面に浮かばせるための手段に過ぎない。其処から魂を分離させる手段は……」
その柊の呟きに。
「菖蒲さん。君が、椿さんに呼びかけるんだ」
其の状況をビークから『星の船』に移乗して見て取った暁音がそう諭す。
「そうね……きっとそうするしか、私達が、椿さんを救う方法は無いわ」
血の涙を滴らせながら告げた姫桜の其れ。
姫桜の其れに、菖蒲が胸を締め付けられる様に自分の胸をキツく押さえた。
――それしか、方法が無いとは分かっていても。
本当に其れで大丈夫なの?
そう言う不安が、拭えない。
「……菖蒲殿。わし等がお主に、辛い役目を背負わせようとしていることは、分かっている。だが、それしかわし等に出来ることは無い。……後の問題は、誰がこの薬を浴びせられる様に戦うか、だけだが……」
漆黒の刀……『黒曜山』を見つめながらの義透の呟き。
その義透の呟きに頷いた美雪が其れを手に取ろうとするが。
「いや……私には射撃の技量など無いからな……。流石に此を撃ち込む事は出来ないか。では……誰に其の役割をやって貰うか……?」
そう美雪が途方に暮れた、其の瞬間。
「このカプセルを銃弾として、椿さんに撃ち込めば良いのですね」
ジャックの高速移動に翻弄されながらも尚、ジャックと切り結ぶ統哉や敬輔、瑠香に葵桜に掩護の銃弾を放ちながら。
確認する様に呟いたネリッサの其れに、そうだね、と柊が頷いたところで。
「でしたら……私達に任せて頂けませんでしょうか?」
そうネリッサが微かに胸を張る様に薄らと笑って頷いて見せる。
思わぬネリッサの笑みに一瞬ぽかんとなる柊に、ラムダが得意げに話を続けた。
「わたくしめどもSIRDには、優秀な狙撃手がおりますので」
ラムダが何処となく得意げにその言葉を紡ぎ、其方の方を見た其の時。
「其れが任務だというのであれば、特に問題ございません」
手持ちのHk477K-SOPMOD3"Schutzhund"をMK.15A SOPMOD2 SASR"Failnaught"に持ち替えた灯璃が軽く敬礼を1つ行った。
●
「……しかし、グラッジパウダーに対抗する薬が作られていたとはな……。いや、まあ確かに柊さんからすれば、当然の処置なのかも知れないが」
何となく、諦めた様に海よりも深い溜息をついて。
美雪がトッカータの伴奏を終え、愈々メロディーを歌う態勢に入るのに。
「そもそも此も、私なりの贖罪だからね」
そう応えた柊の其れに、陽太がガシガシと頭を掻く。
灯璃は、先程柊から手渡された弾丸をMK.15A SOPMOD2 SASR"Failnaught"に装填し、其の狙いをジャックへと定めていた。
「だが灯璃殿が其れを上手く撃ち込めたとしてもその先は、菖蒲殿を初めとした椿殿を説説得する者達に掛かっている」
義透から告げられた其れに震える様にぎゅっ、とクラウンに持たされた宝石花剣を両手で強く握りしめる菖蒲。
そんな菖蒲を安心させる様に、大丈夫、と彼女の肩を姫桜が叩いた。
「しかし、この状況では只遠くから声を掛けるだけでは上手く行かない可能性の方が高くなって参りましたね。となると、この場を動けぬわたくしめが護りきることが出来るのは、柊様と、紫蘭様だけとなりますが」
状況を分析したラムダのその言葉に、ですが、と牽制射撃を続けながらネリッサが軽く頭を横に振った。
「其れがこのミッション……切り裂きジャックを確実に滅するのに最善だというのであれば、それを行うのもまた私達の使命です。……灯璃さん、お願い出来ますか?」
「Yes.マム。此方は何時でも準備は大丈夫です。……馬県さん、其方は?」
スコープ越しに狙いを定めながらの灯璃の問いかけに。
「……後、10秒。9、8、7、6、5……」
『黒曜山』で見て取った未来を見つめカウントダウンを行う義透の其れに頷いた灯璃が、"Failnaught"の引金に掛けた手に力を込める。
灯璃の砲口が向いているその先では、敬輔が黒剣を振るい、統哉が宵を一閃。
それらの攻撃を軽々と避けるジャックの内側に踏み込んだ響が正拳を叩き付け。
更に赤熱した槍を構えた戦乙女が槍を振り下ろすのを軽々とジャックが側転して避ける。
滑らかな曲線を描き出した側転と共に其の足で大気を切り裂き、ラムダの電磁防御フィールドの隙を縫う浸透波を放つジャック。
それは紫蘭に当たれば即死は免れ得ぬ攻撃ではあるが。
「させませんよ!」
奏が紫蘭とその衝撃の間に割り込む様にエレメンタル・シールドを翳し、その攻撃を受け止めて。
「はあっ!」
敬輔が黒剣を大上段から唐竹割りに振り下ろして、ジャックの側転による着地点を微妙にずらした。
――そして、其の着地点こそが。
「……0!」
義透が振るった『黒曜山』の不可視の斬撃を置いていた箇所。
思わぬ義透の一閃に、ジャックが浅い傷を負ったその瞬間を狙って。
「~♪ ~♪」
美雪が決して諦めない意志を称賛し、貫く事を願うトッカータを歌い、暖かな七色のオーロラ風を吹かせ始める。
後方から突如として吹いた暖かな七色のオーロラ風に背を押され、統哉や敬輔、葵桜に響の連携が加速。
「行くぞ、敬輔!」
「ああ!」
統哉が『宵』を一閃し、敬輔が振り切った黒剣を撥ね上げる様に強引に切り返す。
統哉と敬輔の『宵』と黒剣をナイフを振るって受け流し、合わせる様に槍を突き出した戦乙女の其れを紙一重で躱したジャックに。
「行くよっ!」
と響が背を大きく仰け反らせると同時に頭突きを叩き込んだ。
思わぬ頭突きを頭部に叩き込まれ軽くパーカッションを鳴らして、2、3歩軽く其の足をよろめかせたジャックに向けて。
「……Feuer!」
灯璃が、MK.15A SOPMOD2 SASR"Failnaught"の引金を引いた。
●
――音無き一射が、ジャックの体を撃ち抜いた。
その瞬間、ジャックは体の中の何かを抉られるかの様な不快感を覚え。
同時に自らに貼り付いた『其れ』がまるで水晶が剥離していくかの様な錯覚に囚われる。
『キキッ……?』
それは、ジャックが自らの在り方に対する微かな疑問と化して、育まれるもの。
何故、我は今、この様に戦える?
抱かれた疑問によって芽生えたほんの一瞬の間隙を拭って。
『僕』が双眸を開き、外から聞こえてくる其れに耳を傾け始めた。
――そう、それは……。
●
「私は、菖蒲さんと椿さんが笑顔でいられる未来を望むの! だから椿さん、負けないで!」
両目から血の涙を滴らせながら。
二槍をプロペラの様に回転させる姫桜が、ジャックの瞳が深紅に輝くと同時に放たれた九の斬撃を受け止め全身から流血しつつ叫ぶ。
彼女の周囲には、菖蒲を守る為に暁音が星天の書から展開された星屑の精霊……暁音と同じ姿を持つ書の星霊達。
その星霊達が銀糸を編み上げて作り上げる星色の結界による手助けで紅に煌めく九連撃を捌きながら。
「私は……私は、菖蒲さんと椿さん、2人が笑顔でいられる未来を望んでいるの! あなたがジャックに負ければ、菖蒲さんから笑顔が消える。そんな事は認められないの! だから……聞いて! 私達の声を聞いて! 椿さん!」
姫桜がありったけの感情を籠めて、悲鳴の様に叫び続ける。
姫桜の感情の波を際立たせるかの様に、桜鏡に嵌め込まれた玻璃鏡の鏡面が激しく漣波だっていた。
『キキッ! そんな汝等の呼びかけなど無駄だ! 奴はもう、我の中にはいない! 我がその魂の全てを食らい、我が糧としたからなぁぁぁぁぁぁっ!』
狂気の嘲笑を叩き付けながら。
目も眩まんばかりの勢いで放たれる研ぎ澄まされたナイフ術が瞬く間に姫桜を、そして暁音の星霊達を切り裂いていく。
「き、姫桜さん……!」
自分を守る為に、同じ年頃の娘が悲鳴を上げながらジャックの攻撃を受け止めるその姿に怯えた様に気遣いの声を上げる菖蒲。
けれども消されても、消されても星の船に搭乗し上空から戦局を監視していた暁音は、次から次へと星霊を呼び出すことを止めたりしない。
――共苦の痛みは、絶えず痛みを送り続けてくるけれども。
だからと言って、此処で諦めるという選択肢は、暁音達には無いのだ。
「姫ちゃんなら大丈夫っ! 菖蒲さんは、菖蒲さんのするべき事に集中してっ!」
傷つけられては瞬の雨で再生される姫桜の身を守るべく。
神霊体と化した代償に自らの命が削り取られていく感触を存分に味わいながら、胡蝶楽刀を振るう葵桜。
その髪を愛らしく飾っていた桜の花を想起させるリボンが、あまりの高速戦闘の影響で吹き飛び、黒髪を月夜の下に曝け出している。
それでも、葵桜もまた、止まらない。
背後から胡蝶楽刀の魔除け鈴を鳴らしながら横薙ぎに其れを一閃、其処から放たれる衝撃波でジャックの背を切り裂く。
酷使され、寿命を払い続ける体が悲鳴を上げ、其の鼻や耳から血が流れるが、此処でこの手を緩めては……。
「駄目なんだよっ! こんな事で痛いなんて、そんなこと言っていられないんだよ! 菖蒲さん、柊さん、紫蘭さん、そして……椿さん。誰が欠けても、私達が望む結果なんて得られないんだからっ! だから菖蒲さんも、呼びかけを続けてっ!」
血を滴らせながらの文字通りの命がけの葵桜の祈り。
「そうよ、菖蒲さん! それに……紫蘭さん! あなたもよ! あなたが此処で力尽きたら、それこそ雅人さんはどうなるのよ!?」
葵桜の祈りに呼応して続けて紫蘭に怒声を浴びせる姫桜。
其の姫桜の真っ直ぐな想いの籠められたものを聞いた紫蘭が紫の髪を風に靡かせ、目前のジャックと菖蒲を交互に見つめる。
そんな紫蘭を守る様に、傍に控えていた奏が小さく頷いて。
「大丈夫ですよ、紫蘭さん」
そう、励ましの言葉を投げかけ、紫蘭の手をそっと握りしめると。
「……菖蒲、お願い、続けて」
心落ち着かせる様に静かに頷き、ラムダの背後で、隣から奏に手を握られた紫蘭が祈る様に言葉を投げかけるのに。
「椿! 椿!」
菖蒲が我に返った様に気を取り直し、再びその人の名前を呼ぶ。
――もう、生きて戻ることの無い……不帰らずの愛する人の名前を呼ぶ。
『キキッ! キキィッ?!』
ラムダの防御圏内から飛び出した菖蒲の叫びは高速戦闘を行うジャックの……否、『椿』の魂へのノックと化したか。
ジャックの滑らかで機能的な動きが、微かに、本当に微かに鈍り出した。
そこに……。
「椿さん、大切な人が貴方を求めて呼んでいるんだ! 人として、意地と根性を見せなさい! 大切な人の声を道標に出来るのだと、想いは暗闇に届くのだと、人の思いは、光も闇も越えてゆくことが出来るのだと、示して見せて! 人は……転生する事で、新たな生を歩み、新たに幸福になる事が出来る権利が在る事を……今、この場で証明してみせるんだ! 貴方が、本当に、帝都桜學府の人間として、自らの行っていたことに誇りを持っているのだならば、尚更!」
暁音が叩き付ける様に『星の船』のスピーカーをONにして、戦場全体に響き渡る声を張り上げた。
叱咤の籠められたその声が、椿の中の『椿』の意志を激しく揺り動かすのは必然。
育まれた『椿』の意志が自らの体の支配権を内側から取り戻していくのに……。
(「キキッ?! こ、此は
……!?」)
ジャックの胸中に、微かな恐怖と動揺が芽生え、育まれる。
其の動揺の中にある僅かな、本当に極僅かな、自身の制圧した体の中にいる『椿』への恐怖を見抜いたネリッサがばっ、と左手を掲げた。
「The Unspeakable One,him Who is not to be Named……さぁ、貪り尽しなさい!」
ネリッサの、鋭い詠唱と共に。
轟、とネリッサの背後に不意に現れ異形の……黄衣を纏った何という形容が正しいのか分からぬ、不定形の魔王……が咆哮する。
其れは、根源的な恐怖を呼び起こす身の毛もよだつ恐ろしい雄叫び。
不定形の姿も相まり、微かに胸に差した恐怖がじわりとジャックの中で広がった。
『キキッ?!』
「先程あなたは、全ての生に死を与える、と言いましたが……それならば、生と死という概念を持たない邪神が相手を致しましょう。……行け!」
その短い、ネリッサの号令に応じる様に。
魔王が無数の禍々しき触手を一気に伸長してジャックの体を締め上げ、其の体を締め上げたその瞬間。
「文月さん、馬県さん」
其のネリッサの呼びかけに。
「うむ、任された」
厳粛に頷いた義透が『黒曜山』の不可視の斬撃の一撃を袈裟に放ち、ジャックの体を切り裂きその動きを止めたところに。
「ジャック……俺は!」
統哉が、『宵』の刃を一閃した。
其れは宵闇の如き闇に包み込まれた幻朧桜並木のその中でまるで蛍の光の様の淡く儚く……けれども優しい星彩を伴うそれを。
其の一閃に、統哉が籠めた願いと祈り。
――其れは。
「椿さん、頼む。ジャックを救済するためにも、其の力を俺達に貸してくれ」
――『影朧』を救済する事を至上とした、椿の心に訴えかける祈りを叩き付け。
「そうよ、椿さん! 貴方が、ジャック何かに負けていたら、誰が菖蒲さんの笑顔を守れるのよ! 菖蒲さんの未来のためにも……椿さん! あなたはもう一度生き直すのよ!」
更に姫桜が怒号の様にその声を叩き付けた、其の刹那。
――ゴボリ。
『がっ……?! ガァァァァァッ
……!?』
ジャックの内側から不意に激しい嘔吐感と目眩が襲う。
内部からの不意打ちにジャックが体を傾がせ、ゴボリと口から黒い塊が零れだし。
同時に果てしない虚脱感がジャックを襲い、其の機動力を更に奪った。
(「キキッ……此は
……?!」)
と、同時に。
――ズドゥゥゥゥゥゥーンッ!
一発の銃弾が狙い澄ました様に其の手のナイフを捥ぎ取る様に撃ち抜き、ジャックに凄まじい痛打を与えた。
其の痛打を与えた本人は……。
『……Начать съемку(射撃開始)』
それまでの戦いの状況を、ずっとSV-98Mのスコープ越しに覗き、千載一遇の機会を狙い続けていたミハイル。
「まっ……流石にこの状況でクリティカルヒットな部分を一撃で狙うってのは寝覚めが悪い。せめて無力化位にさせて貰おうか」
呟くミハイルの其れに気がついているのかいないのか。
その一射でナイフを弾き飛ばされたジャックに、飄々とクラウンが語る。
からかう様に、愉快そうに。
けれども――真剣な狂気を孕んだままに。
「本来、光と闇、生と死。そう言った相反するものがあるからこそ、バランスが成り立つなら、善人も悪人も救済されるべきなんだよ」
告げると同時にクラウンの周囲に再び展開される113の地獄の焔。
生み出された焔が踊る様に舞い、今までに戦場で流血した者達の傷を次々に癒やしていくその間に。
「ジャック!! 俺は……お前を絶対に許しはしない! 憎悪と闘争を以て影朧……オブリビオンを狩る騎士として、貴様を此処で斬り殺す!」
気合いの声を張り上げて。
四肢と腹、左目を鎧毎白く硬化させた状態へと変化させた敬輔が、自らの理性を吹き飛ばし咆哮した。
「ごおおおおおおっ!」
戦場を飲み込もうとする其の闇は、敬輔の内に秘められた力を暴走させ、渾沌の諸相……骸の海の力の一部を敬輔に与えるが。
――然れど。
『キキッ! 愚かな! そんな闇で! 我を! 倒せると思ったかぁぁぁぁっ!』
ゴボリ、と零した黒い液体……そう、『椿』の澱んだ魂を零して、其の力を失ったとは思えぬ力強さで。
紅の瞳を憎悪に滾らせ、再生させたナイフによる九連撃を放ち、ジャックが敬輔をズタズタに斬り裂いた。
●
――少し考えれば分かる、単純な話だ。
闇に、闇で抵抗する。
つまりそれは力に対して、力で抗しようとするのと同じ。
そもそも今は、『光』側に世界のバランスが……天秤は傾いている。
この時、闇に闇を叩き付ければどうなるか……其の結果は言うまでも無いだろう。
強い力はより強い力に飲み込まれる宿命なのだから。
「こおおおおおおおっ!」
その影響で、理性も何もかもが喪われ、只、本能の赴くままに黒剣を振るう敬輔。
けれどもジャックは其の攻撃を、愉悦を混ぜて楽しそうにいなし、九連の斬撃を容赦なく敬輔に叩き付けている。
――けれども。
「まあ、ボクはどちらも等しく救済されるべきだと思っていたからね♪ 安心してよ、敬輔さん♪ キミが無理矢理叩き付けようとして、失敗したバランス取りは、きちんとボク達がさせて貰うからさ♪」
クラウンがハミングでもするかの様にそう告げて。
生み出した獄炎の炎を今、目前で戦う理性を失った獣と化した敬輔と純然たる闇の塊と化したジャックの『双方』を癒やす。
撃ち出された癒しの焔が、敬輔に理性を取り戻させ、ジャックはその度に勢いを削がれる様に苦しげに微かに呻いていた。
『キキッ……この焔は……!』
「そうだな、クラウンの言うとおりだ。元より人の心は、揺れる天秤」
苦しげにのたうつジャックに向けて。
肉薄した統哉が粛々とそう告げて、クロネコ刺繍入りの緋色の結界を展開し、敬輔の肩を軽く叩く。
――統哉の手から伝わる人肌の温もりが、暴走した敬輔の渾沌を和らげた。
「光にも、闇にも染まる。敬輔も、俺も」
――菖蒲さんも。
――椿さんも。
そして……。
「そう……ジャック。君の闇も、だ。君が人の心から生まれた想念。……天秤から切り離されようと表裏一体の光と闇であり、不安定な影朧である以上、君が闇の儘なのだと何故言い切れるんだ?」
其の呟きと、共に。
クラウンの獄炎が統哉の漆黒の大鎌『宵』の刃先に食らい付く様に纏わり突き、其の『宵』の淡い輝きを灯の様な緋色に変えていく。
「俺は君の幻影と此処では無い別の世界で一度戦った。其の時、君はこう言ったんだ。『我思う、故に我ある』と」
『きっ……キキッ?! 何を……っ!』
訳が分からぬ事を、とその瞳を真紅に光らせ九連撃を解き放とうとするジャック。
だが、其の時には手負いの獣の中に微かな理性を取り戻した敬輔が統哉とジャックの間に割って入る様に飛び込み黒剣を翳していた。
張り巡らされた漆黒の結界が、クロネコ刺繍入り緋色の結界と重なり合い、強力な盾と化して、その連撃を受け流す。
「……すまない統哉さん。僕も闇側の人間で、光まで無くしていない以上、奴の望みを断ち切れると思ったんだが……」
四肢と腹、左目を鎧の如く硬化させたまますまなそうに呟く敬輔にニャハハ、と思わず笑う統哉。
「流石に闇に闇でぶつかるのは無謀だよ。そもそも、ジャックだって光と闇……表裏一体の不安定な影朧なんだから」
「まあ……闇だけで存在することが出来る筈がないし、そもそも、こう言う手合いもまた、本来ならば救済されるべき存在だからね」
飄々と、何処か戯けた口調で肩を竦めてそう告げるのはクラウン。
「……クラウンさんにそんな事を言われるとは思っていなかったな」
微かに憮然とした表情になる敬輔にニヤリと狂気を思わせる笑みを浮かべ、再び獄炎の炎を解き放ち理性を回復させるクラウン。
其の炎は心身の双方を癒やす。
だが癒しという名の甘き毒は、ある者には猛毒にも等しい力となりうるのだ。
『ギッ、ギギィッ?!』
呻くジャックへと踵を戻し、統哉が如何して? と問いかけた。
「君が齎すものは真の救済。それが殺戮であり、全てを無に還す事。と言う事は、真ではない救済もあると言う事。そして其れが転生だと……転生を否定しているが故に君自身は思い、そう言っている。何故、君はそう思った?」
『キキッ……! キキキキキッ
!!!!!』
その統哉の言葉を搔き消そうとするかの様に。
叫びと共に、紫蘭を目掛けて高速移動で斬撃波を放とうとするジャックの目前に段階的な氷塊が生まれ落ち。
「させませんよ! 既に椿さんとあなたの体が分離している以上、この防御を抜けきることは貴方には出来無い筈ですから……!」
『ビーク』に跨がるウィリアムの叫びに応える様に『神霊体』の儘の葵桜が、氷塊の影から飛び出しながら胡蝶楽刀を振るう。
放たれた衝撃波が、斬撃波とぶつかり爆ぜ、濛々と湧いた煙の向こうから……。
「スパーダ! 行けっ!」
陽太の命令に応じたスパーダが咆哮し、1140本の刃に複雑な幾何学紋様の刻み込まれた聖なる光を帯びた短剣を投射。
突き立った短剣に自らの体が浄化されていくのをジャックが感じる正に其処に。
「これで……!」
瑠香が続けざまに神速の突きを解き放ち、其れをその胸に突き立てて。
「どうですか!?」
94回の無限にも等しい斬撃を叩き込み、其の体をズタズタに切り裂いて。
「悪夢よ、消え去りなさい!! 其の悪意、世に振りまくのは阻止します!」
そこに奏が飛び込む様に踏み込んでエレメンタル・シールドを振るう。
振るわれたエレメンタル・シールドから放たれた衝撃がジャックを打ちのめし、彼がよろけた瞬間に。
「此処は押し時でございますね。M19サンダーロア、発射」
その肩部に取り付けられた120mmカノン砲……M19サンダーロアから、APFSDSを発射するラムダ。
放たれた対戦車砲の砲弾が着弾し、爆発の花を咲かせて空中へと吹き飛んだジャックに向かって、氷塊を蹴りながら。
「最初に出会ったあの日から、君の魂が救われることを、俺は願い続けているから。だから……紫蘭」
統哉が空中へと向かって行くと、『宵』の漆黒の刃先にクラウンの放った心身を癒やす慈愛の獄炎が纏われて。
宵闇を切り裂く『緋』の線を曳く様にして、そのまま地面から宇宙に向かって駆け出していく彗星の如く急上昇し。
そうして『宵』を振り上げる統哉の動きに合わせて、義透に庇われていた紫蘭が小さく、短く祈りを捧げると。
――フワリ、フワリ。
降り注ぐように舞い散る桜の花弁が、ジャックの体を覆い尽くし、ジャックから零れ落ちた『椿』の魂を掬い上げた。
其の桜の花弁達に包み込まれ、導かれる様に黒く澱んだ『椿』の魂が純白に……生まれたままの姿と化し。
「――ありがとう。僕の白『撫子』」
柔和な笑みを菖蒲に向けて浮かべて消えていくのを見送る様に。
統哉の癒しの獄炎を纏った『宵』の刃が、ジャックに向けて一閃された。
願いと祈りの籠められたその刃が……ジャックの肉体を傷つけること無くその魂を浄化させ。
クラウンの慈愛の獄炎が、其の体を温める様に癒やす様に焼き、桜吹雪に飲み込ませて強く心地よい眠気を催させる。
其の温もりに体を抱かれ深き眠りに陥りかけながら静かに落下するジャック。
『キキッ……何故……何故我が……此処で、敗れる……この、愚かなる、生者達の……魂の権化たる、我が……』
重力に捕らわれ、深き眠りの其処へと沈んでいく感覚を覚えながら、寝言の様に呻くジャックに向けて。
「ジャック」
トッカータを最後まで歌いきった美雪が子守歌をグリモア・ムジカに奏でさせながら、緩やかに其の名を口に乗せた。
「生きとし生ける者としては、生への執着は世界問わず根源的な欲求なんだ。愛する人がいるなら、尚更その思いは強くなろう。……貴方は、その思いを弄び、己が想いのまま人を視に誘うように誘き出した。故に……あなたは統哉さんやクラウンさんの想いに負けたのだ」
――大切な誰かを守る為。
――光と闇、生と死……どちらもまた、表裏一体で忘れては行けないものなのだという、人の思いを忘れてしまったあなただから。
「お前を許すことは出来ない。だが……其の裁きは今此処に下された。安らかに……眠れ。貴様が惰弱者と断じた……私達、人の手によってな!」
その美雪の言の葉が。
切り裂きジャックが聞いた、最期の言葉になった。
●
――そうして戦いが終わり。
「おい、柊」
一旦戦いが終わったと見て取った陽太が息をつく柊に呼びかける。
「如何したんだい?」
その陽太の呼びかけに応えた柊にお前は、と陽太が問いかけた。
「椿を黄泉還らせるために使われた、漆黒の短剣とやらに見覚えはあるか?」
その陽太の問いかけには、首を横に振る柊。
――けれども。
「……菖蒲さん」
美雪がそう菖蒲に問いかけると。
別れの言葉を告げて浄化されていった『椿』の魂を想い、さめざめと白い滴を零していた、菖蒲が。
「ど……如何し、ました?」
辿々しく問い返してきたのに、胸を貫かれる様な痛みを覚えながらその……とやや躊躇いがちに美雪が問いかける。
「彼を黄泉還らせるのに使った其の短剣を……誰に貰った?」
「……貰ったわけじゃ、ありません。只、一緒に来たん、です」
美雪の言葉に菖蒲が応えた其れに、益々美雪が首を傾げ、怪訝そうに眉を顰めた。
「一緒に来た? 何と?」
「手紙と、です。椿の、名前が入った、遺書……その中に、入っていた、手紙と一緒に、あれは入っていました……。でも其処には、署名も何も、無くて……だから、誰がくれたのかと言われれば、分かりません」
漸くの思いでそこまで告げてその場に蹲って涙を流す菖蒲。
「……そうか。すまなかったな、菖蒲さん」
ヴァンパイア形態を解除した姫桜がそっと慰める様にその肩を優しく叩くのを見ながら、謝罪の言葉を内心で美雪が紡ぐ。
(「本当であれば、本人に伝えてやった方が良いのかも知れない。それによって私達を恨むなり何なりすれば、彼女の心は多少は救われるのかも知れない」)
そう……竜胆から聞いたあの話を。
『椿』と如何して『ジャック』が融合していたのか、其の理由。
その原因、責任の一端は、確かに自分達にもある。
ジャックは主を喪った結果、別の何者かの助力を受け、この作戦を敢行したのだ。
でも、本当に今、其れを伝えることが出来るだろうか?
クラウンが渡した『希望』の花言葉……スノードロップの嵌め込まれた剣を大切そうに握りしめ切なく涙を零し続ける菖蒲に対して。
やりきれない想いを抱きつつ菖蒲から目を逸らした美雪が腕を組み、双眸を瞑る。
(「竜胆さんが渡したとは思えない。となると、此を送りつけてきたのは……」)
「……誰か、ではなく何か、だろうね。世界の概念、とでも言うべきなのかな」
美雪と菖蒲のやり取りを無線で聞き取ったのだろう。
浮かない表情を『星の船』内で浮かべた暁音が、溜息と共にポツリと呟く。
突き刺し、自らの身を焼き付く様な共苦の痛みから与えられる其れは、急速に鳴りを潜めていた。
そう……あの時。
統哉とクラウンの癒しの刃と獄炎を、ジャックが受けた其の時から。
「つまりあの痛みは、世界に残留していた人々の意志が助けて、と俺達に漏らしてくれていた声だった、と言う訳だ。でも……」
――まだ、疼く様に其の痛みが。
痒みがまだ……残っている。
それは……。
「……まだもう少しだけ、先がある、と言う事なのでしょうね」
銀の雨に照り返され、最初に此処に来た時より美しく煌めく幻朧桜を見つめながら、瞬がそっと溜息を漏らせば。
美雪が静かに其れに首肯して。
「……人の心を道具として使う輩、許すまじ。……全ては情と知のあの地に繋がっている以上、決着は我々の手で、付けなければならない様だな」
そっとグリモア・ムジカをしまいながら、自らの手を強く握りしめる美雪。
――そう遠くない未来に訪れるであろう、其の未来に想いを馳せて。
そんな美雪の表情を見た、瞬がそうですね、と静かに頷き。
「やれやれ……まだ決着はつきそうにねぇな」
アンブッシュしたままだったミハイルが何処か愉快そうにぼやいて、懐から煙草を取り出しそっと火を点け、煙草を咥え。
訪れた平穏と共にゆっくりと吸い、煙と共に吐き出し、味わいながら。
大成功
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