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殲神封神大戦⑰〜嗚呼、開幕ノ鐘ガ鳴ル

#封神武侠界 #殲神封神大戦 #殲神封神大戦⑰ #渾沌氏『鴻鈞道人』

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#渾沌氏『鴻鈞道人』


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●そこに立つのは
 転送された猟兵達。
 その視界に移った人物に疑問を感じるものは多いだろう。
 何故なら自分達を転送したグリモア猟兵がそこに居るのだから。

 氏家・禄郎。

 探偵屋を自称する、只の人間。
 強大なユーベルコヲドすら持たず、あるのはグリモアと人としての知恵だけの男。
 彼がキャスケット帽をかぶり直すと袖を通したステンのコートを翻し、猫のように背を丸めて音もなく歩み、そして銃を抜く。

(絶えず時は運び、全ては土へと還る)

『それ』は言葉はでなく、脳に直接刻まれた。

(お前達が生きるために踏みしめてきた、過去。そして過去を知り未来を視る者)

 男の口は動かずとも脳に届く声。
 一方でグリモア猟兵はリボルバーの撃鉄を起こすのみ。

(多くの未来を視た異能無き、只人だからこそ私は選んだ)

 その目は――猟兵を見据えていた。

(さあ罪深き刃を刻まれし第六の者達よ)
(今、ここに相争わん)
(そして見せてくれ)

 左目が色を失う。
 焦茶色の瞳は白となり、ただ有る物へと変わり果てる。

(戦いがもたらす破滅を――未来の終わりを)

 その場に立つのは氏家・禄郎。
 魂魄に交じりし渾沌は鴻鈞道人。
 今から始まるのは悲劇か、それともいつもの通りの物語か。
 どちらにしても猟兵は争わなくてはならない、自らを転送したグリモア猟兵と。

 口上は終わり戦いは始まる。
 鐘はもう鳴ってた。
 氏家・禄郎が送り出すために使ったタイプライター。
 そのベルこそが戦場へ誘う始まりの鐘なのだから。


みなさわ
 渾沌選びしは戦場を歩き、人の思惑を歩き、そして未来を歩く探偵屋。
 こんにちは、みなさわです。
 今回は皆様に大変お世話になっておりますグリモア猟兵と融合した鴻鈞道人との戦いです。

●プレイングボーナス
 グリモア猟兵と融合した鴻鈞道人の先制攻撃に対処する。

●グリモア猟兵に関して
 鴻鈞道人の膨大な力によって『渾沌の諸相』を身につけ襲い掛かってきます。
 鴻鈞道人は強敵であり、仮に猟兵達がそのグリモア猟兵と何らかの『心のつながり』があったとしても、一切有利には働きません。
 ただただ、融合した鴻鈞道人が力尽きるまで戦うしかありません。
 勿論、手加減が出来るほど簡単な相手でもございません。
 まあ、上手く生き残ることを祈っておいてください。

●戦場
 ただの広い部屋。
 いまだ形定まらぬ『渾沌の地』故に有利にも不利にも働くことはないでしょう。

●その他
 マスターページも参考にしていただけたら、幸いです。

 それでは皆様、心の準備をお願いします。
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第1章 ボス戦 『渾沌氏『鴻鈞道人』inグリモア猟兵』

POW   :    肉を喰らい貫く渾沌の諸相
自身の【融合したグリモア猟兵の部位】を代償に、【代償とした部位が異形化する『渾沌の諸相』】を籠めた一撃を放つ。自分にとって融合したグリモア猟兵の部位を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    肉を破り現れる渾沌の諸相
【白き天使の翼】【白きおぞましき触手】【白き殺戮する刃】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    流れる血に嗤う渾沌の諸相
敵より【多く血を流している】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●探偵屋という男

 氏家・禄郎という男は別に強くもない男であることは調べれば明白だ。
 戦争においても依頼においても、強大なユーベルコヲドを行使したことは無く、むしろ策謀や相手の思考を推理することを好んだ。

(……なるほど)

 だが、その男は君の前にいつの間にか立っていた。
 端から見れば、何気ない動きだ。
 達人から見れば未熟な運足だ。
 それでも、猟兵の虚を突く程度の事はした。

(この肉体はこういう風に動くのか)

 誰かの背後、思念はそこから。
 振り向けば、片手でいなされる。

(この身こそが罪深き刃)

 少しでも意識を逸らせば、姿は消え。
 闇よりまた現れる。

(この思考こそが刃)

 手近な石を蹴っ飛ばしたと思えば、もう銃を構えている。
 六発。
 威嚇ではない。

(この武器も使い方を知った)

 把握。

(さて、私は『これ』を理解した……なら始めようか?)

 コートを翻し、男が近づく。

 足りないものを知恵で補い、観察力と推理で戦いの解を解き、意識の虚を突き立ち回る。
 強くはないが曲者であろう男。

 今はそれが渾沌の諸相という強大な力を以て襲い掛かる。
 君達が相手するのはそういう男の肉を借りた渾沌であった。
トリテレイア・ゼロナイン
グリモアを通じて轡を並べて戦った間柄、多くは申しません

…凱旋はご一緒して頂きますよ

如何なる戦闘技法使おうと
マルチセンサーによる●情報収集にてその挙動を見逃しは

……

憂慮するは機械的な欺瞞工作
瞬間思考力にて「こちらの“眼”を封じての騙し討ち」の動きを予測
渾沌秘めた銃弾と格闘を剣と盾にて受け止め防御

…捉えましたよ!

全身の格納銃器の乱れ撃ちにて退路断ち
懐に飛び込む動き牽制するは触手の如きワイヤーアンカー
剣と盾での連撃も含むUCの怒涛の一転攻勢

如何なる猟兵も上回る強大な“個”たる鴻鈞道人
故に依り代と生じる“ズレ”

僅かなソレが突破口
其処を攻めて攻めて拡大し…致命に至る隙を作り上げ
剣を一閃



●積み立て、重ね、そして穿つ

「グリモアを通じて轡を並べて戦った間柄、多くは申しません」
 トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)が剣を抜き、盾を構える。
「……凱旋はご一緒して頂きますよ」

(ことわる)

 言葉が電子頭脳に直接送られた。
 男の意識はすでに渾沌氏の物というばかりに。
 警戒を緩めずトリテレイアはマルチセンサーを励起し……そして横へ跳んだ。
 起動、認識、精査。
 秒に満たない闇。
 それを男は突く。
 距離を取る戦機の視界にはトリテレイアの背後から後頭部を撃ち抜こうとした探偵屋の姿。
 直後に動体センサーが男の動くのを捕えた。
 見えたらもう動いている。
 動作自体は速くない。
 何を掴んで先手を得ているのか……戦機の視界に入るのは色の無い左目。
「……そういう事ですか」
 得心した騎士の鎧の各所――センサーが次々と緑色に発光する。
 同時に探偵屋の動きも止まった。

 アイコンタクト、相手の目を見る……。

 目という物は大量の情報を処理することが出来、そして同時に情報を発している。
 トリテレイア・ゼロナインという戦機の目も同じ要素を持つ。
 そこから行動のタイミング見抜かれていた。
 ならばどう対策するか?
 光を消す……愚問だ。次は駆動音やイオン臭、吸排気の流れを探りに行くだろう。
 だからこそ――情報を増やす。
 取捨選択の要素を増やすとともに、彼が次に行うであろう行動を誘発するため。
 その姿はさしずめ燐光を纏いし光の騎士であった。

 道人が大盾の死角に潜り込めば盾を身を預けるように騎士は光を纏いて体当たりを行う。
 さすれば探偵屋は盾の縁に指を引っ掻け、互いの位置を入れ替えるようにすれ違い。
 振り向きざまにトリテレイアの剣が横に薙ぎ払われるのと、男のコートが投げつけられるのは同時であった。
 布地に刃が絡みつき、センサーの三割が闇に包まれる。
 そこを狙うか――いや、狙わないだろう
 大盾に伝わる感触。
 渾沌の諸相を以て死角から盾ごと貫くのがトリテレイア自身のセンサーを欺き、放てる最速の手。
 だからこそ、盾を押し込む様に力を入れ体格差で射線をずらした。

 放たれるは肉を喰らい貫く渾沌の諸相

「……捉えましたよ!」
 異形の弾丸によって大盾と左肩が吹き飛び――引き換えに戦機は男の正面を捉えた。

 全ての格納銃器が展開され場を制圧する。
 射出されたワイヤーアンカーが距離を作り、右手の剣が道人が持つ銃とぶつかり合い拮抗を生み出す。

 如何なる猟兵も上回る強大な“個”たる鴻鈞道人。
 故に依り代と生じる“ズレ”

 それを作り出すには相手が手札を出す前に一気に攻める。
 それこそが技巧、それこそがユーベルコード。
 それこそが――

 Battle Arts
 熟練戦闘技巧

 渾沌の諸相によって強化された氏家・禄郎の肉体が銃弾に圧し切られ、アンカーに絡み取られ、膝を着く。
 男が逆襲の機を伺い重心をかけるが……最早そこは剣の射程。
 叩きつけるような一閃によって、鴻鈞道人は地に伏せ床を舐めた。

「まずは……一太刀」
 マルチセンサーの機能をオフにし、纏いし光のベールを脱ぎ捨てた騎士が呟く。
 まだ終わらない。
 戦いはこれからだ。

 それにつながる綻びを――まずトリテレイアは穿った。

成功 🔵​🔵​🔴​

荒谷・つかさ
……全く、いろんな意味で面倒な。
後で、ミネルバには謝っておかなくちゃいけないわね。

手甲「鬼瓦」を装備、急所を防御しつつダッシュで距離を詰める
兎に角目は離さず意識も逸らさず先制攻撃の回避もせず、真っ直ぐに最短を突き進む
銃は急所さえ外せば脅威でなし
正面からのぶつかり合いにさえ持ち込めば、彼特有の強みは潰せるはず

鴻鈞道人のコードには手甲と「怪力」を活かした受け流しを狙う
異形の部位を横殴りし、攻撃の軌道を逸らす
鴻鈞道人にとって氏家さんの身体は大した代償でもないはず
上乗せ火力が無いならやってみせる

逸らしたらそのまま懐に踏み込んで【鬼神拳・極】発動
全身全霊、全力の拳を腹狙いでぶち込む



●飛び込み、流し、そして打ち込む

 次に立つのは羅刹の女。
「……全く、いろんな意味で面倒な」
 荒谷・つかさ(逸鬼闘閃・f02032)の呟きには色々なものが含まれていた。
 グリモア猟兵として会っている。
「後で、ミネルバには謝っておかなくちゃいけないわね」
 人となりは彼の妻やその友人たる妹から聞かされている。
 だが、ここで情けをかける余裕が無いことも分かっている。
 故に全力。
 手の甲から肘までを覆う長めの手甲を腕に嵌め、腰を落とす。

(物思いは終わっ――)

 思念を無視して、つかさは踏み込む。
 色の無い左目はもう羅刹を捉えていなかった。

 急所を庇っての最短距離での突進。
 クロスレンジに持ち込んでの正面のぶつかり合いなら強みは潰せる……はずだった。
 衝撃が手甲に伝わり、そして耐え切れず両腕が跳ね上がる。
 視界に見えるのは同じように仰け反る氏家・禄郎。
 その左腕はあらぬ方向に曲がっていた。
 簡単に言えば、肘を出し、カウンターで突進を潰してきたのだ。
 最小限の動作で出来る、次善の手段。
 視覚で捉えられないものを空気の鼓動を聴き、戦場の流れを読む。
 兵士として生き残れた戦闘感覚。
 勿論、そのような方法では肘も無事では済まない。
 だが体勢は崩れても銃は撃てる。

 荒谷・つかさの手段が間違っていたかというと、そうではない。
 他の手段ならおそらくは行動そのものを潰されていた。
 羅刹が選んだのは最善の方法故に鴻鈞道人は腕を犠牲にする方法を選んだ。
 敢えて言うなら相性。
 水は油を溶かさないし、油は水を弾く。
 だからこそ不安定な状態でも互いに行動を起こすことが出来た。

 先に動くのは探偵屋。
 これは渾沌の諸相が重なった故の結果。

 銃弾の名は――肉を喰らい貫く渾沌の諸相

 異形の鉛がつかさの頭を食らいつかんとすれば、ぎりぎり踏ん張った羅刹が弾丸を手甲で殴りつける。
 衝撃を吹き飛ばされたとはいえ、その怪力を生み出す体幹は安定している。
 身長も幸いした。
 背が小さいからこそ、身体の安定度は高い。
 だが放たれるはユーベルコード。
 一度崩された影響にて完全に弾丸を逸らすに能わず……弾の威力に手甲は割れ、銃弾は耳朶を撃ち抜き、鼓膜を破る。
 三半規管に伝わった衝撃は耳石を揺らし、足元を揺らした。

(……捉えた)

「それはこちらの台詞よ」
 片耳の聴覚を失い、眩暈で足に力が入らない中、脳に聞こえる道人の言葉に対し、つかさは応え渾身の一歩を踏み込む。
 対する相手は不利を悟り羅刹の膝を砕かんと蹴りを放つ。

 だが遅い。

 射程圏内に入った相手が攻撃を繰り出せば、必然防御は落ちる。
 守りを兼ねた攻撃もあるが、これは其れではない。
 ならば先に当たるのは――鬼神が一撃。

 Fierce God Fist
 鬼  神  拳

 Extreme
 ――極!

 腹を穿つは全身全霊!
 埒外到達に至った力の技巧!
 放つ拳の威は全力という言葉すら非力の例え。

 極大威力の拳が鴻鈞道人の、氏家・禄郎の、腹を穿ち肉の奥にある骨すら砕く。
 身が跳ねる事すら許さない勢いは部屋の床とコートが擦り切れるほどの摩擦によってどうにか止まる。
「……本当にミネルバに謝らないといけないわね」
 全身筋肉痛――筋繊維損傷と平衡感覚の異常により天井を仰ぎつつ、荒谷・つかさは呟いた。
「それにしても……痛ったぁ……」

 鬼神の拳が繋ぐは絆の糸。
 その糸を手繰るのは誰か。
 どちらにしても……拳は未来を繋ぐ。

成功 🔵​🔵​🔴​

木常野・都月
氏家さんって、直接話した事はないけれど、凄く大人で頭が良いんだ。
いつも任務前に俺にも分かるように説明してくれて。
優しい、良い人なんだ。

だから、お前みたいな奴が、氏家さんの体を使ったらダメだ。
その体は、氏家さんのものだ。
氏家さんに返して貰おうか。

手加減できる相手じゃない。
頭の良さでは負けるけど、考えるより早く動けば良いだけだ。
風の精霊様、俺の空気抵抗を減らして欲しい。

先制攻撃は[カウンター、高速詠唱]で電磁障壁で防ごう。
氏家さんの武器は鉄の武器が多いはず。
鉄以外の攻撃なら[野生の勘、第六感、激痛耐性]で避けるか受けるかすればいい。
それよりも氏家さんの中にいる奴をぶん殴る方が大事だ。

チィ、お手伝い頼む。
UC【精霊共鳴】で魔法の出力を上げておこう。

この方法なら全力で攻撃しても氏家さんは数日起き上がれなくなる程度ですむ…かも?割と平和な方法のはず…多分。

雷の精霊様、お願いします!
[属性攻撃、全力魔法]で氏家さんをぶん殴ろう。
氏家さんから出て行けぇ!

戦いが落ち着いたら、手当てしますからね…?



●阻み、迸り、そして放つ

 木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)は氏家・禄郎と個人的に話す機会はなかった。
 あるのは依頼における説明の時だけ。
 依頼の度に出してくる紙は時々、分からないことも書いてあったけれど、それでも――
「優しい、良い人なんだ」
 少なくとも都月自身に対して分かるように説明はしていた。
 だからこそ、返してもらわねばならない。
「お前みたいな奴が、氏家さんの体を使ったらダメだ」

(断る、今は鴻鈞道人也)

 当然の拒絶。
 だが狐が下がることはない。
「その体は、氏家さんのものだ。氏家さんに返して貰おうか」

(最早、この身体は氏家・禄郎のもの有らず。私が操る道具にすぎぬ)

 やや猫背気味の男がゆっくりと歩を進める。

(さあ罪深き刃を見せろ、それが今の私が求めるもの)

 鴻鈞道人の姿が消え、遅れて衝撃が都月を襲った。

 打ち込まれたのは鼻への膝蹴り。
 獣の本能が足を動かし、骨が折れることはかろうじて避けたが痛みで涙が止まらない。
 これは都月が泣き虫な訳ではない、鼻への衝撃は涙を誘発する生理作用があるのだ。
 けれど、これで狐が止まることはない。

 ……次が来る!?

 考えてはいけない、思考に意識を持っていた瞬間を相手は突いて来る。
 少しでも早く、風の精霊の助力で空気抵抗を無くしてでも速度で上回れ。
 出ないと――
「うわぁっ……とっ!」
 転ばされる。
 都月の知らぬ間に相手の方が動きが速くなっていた。

 ――流れる血に嗤う渾沌の諸相

 負傷してもなお力を引き出す渾沌のユーベルコードがその答え。

 都月が起き上がるより先に道人の持つ銃が視界に入り、炎を吐いた。

(金行の術か、獣の生まれにしては賢しいな)

 探偵屋は弾丸を止めた狐の障壁――電磁障壁に評価し、そしてさらに弾丸を叩き込む。

 二発
 三発
 四発

 障壁に火花が走る、衝撃が走る。
 都月がそれに耐え抜こうと力を込めたとき、転がる手榴弾。そして距離を取って伏せる男。
 咄嗟、狐は電磁障壁に込める力を強くした。
 直後、爆発が視界を覆った。

 煙が晴れ、道人が、都月が立ち上がる。
 片や、コートの男は外套が被った塵芥を叩き。
 片や、獣の男は咳をし、痰に混じる黒いものを見た。
「チィ、お手伝い頼む」
 空咳が収まったところで、相棒たる月の精霊を呼ぶ。
 精霊の子は霊体と化してエレメンタルダガーに力を貸した。

 ――精霊共鳴

 狐の短剣が媒介となって月の精霊の狂気を、そして
「この方法なら全力で攻撃しても氏家さんは数日起き上がれなくなる程度ですむ」
 雷の精霊の電光を宿し互いに拮抗させる。
 ぶつかり合い、手を繋いだ精霊が作り出すのは雷光の剣。
「戦いが落ち着いたら、手当てしますからね……?」
 対する道人はリボルバーを向け引鉄を引いた。

 互いに大地を蹴った。

 まず都月が銃弾を叩き落とすために刃を振り下ろす。
 その視界に入るのは探偵屋。
 銃弾の対処に合わせて、次の手を繰り出さんと走っていたのだ。
 剣を振り下ろし、次へ繋げる刹那の溜め……そこを狙わんとする掌底。

 武芸者なら鍛錬の末に一つの流れに出来るタイミング。
 だが、狐は精霊の術士。
 戦いの心得はあっても、隙を消すには至らない。
 だから遠慮なく、身を翻しその尻尾で道人の視界を塞いだ。
 突然入ってくる情報量。
 野生が生み出す勘が渾沌氏の、氏家・禄郎の、計算をしのぐ。
 探偵屋の掌底が空を切り……
「氏家さんから出て行けぇ!」
 全力を込めた精霊の一撃が男の腹に叩き込まれた。
 
(ぬぅう! させぬ……炎の破滅をこの目に刻むまでは)

「うるさい!」
 都月が吼えた。
 それは男の咆哮。
 誰かを取り戻さんとする獣……いや、人たる意志。
「とにかく……お前は出ていけぇ!!」

 それこそ――超越の力!

 閃光が弾け、探偵屋の肉体は二度、三度と床を跳ね、地に伏した。

「やった……の……か?」
 狐がどうにか言葉を絞り出す。
 精霊の共鳴、全力の魔術。
 体力は最早限界だった。
 答えを知ることなく、その視界は暗転する。

 綻びに差し込まれた糸。
 それは精霊によって運ばれていく。

 少しずつ、少しずつ、奥へ、奥へ……。

成功 🔵​🔵​🔴​

御桜・八重
あの禄郎さんが、何にも手を打たないなんて考えられ無い。
もし、全く何もしてないのなら。
それはなにもする必要が無いってこと。
『君たちなら当然だろう』
当たり前のように言ってのける姿が目に浮かぶ。

よーし。
それなら、いっちょやってやろうじゃない!

とは言え、敵の攻撃は苛烈。
強力な一撃が、禄郎さんらしい嫌らしさ(他意無し)で襲ってくるんだから、
厄介なことこの上ない。

「やあーっ!ふぁっ!?」
常に主導権を握られる攻撃を第六感とオーラ防御で耐えるけれど。
見えつ隠れつする影はどんどん遠のいて行くようで、
幾度も幾度も心が折れそうになる。

でも。
「不撓不屈。わたしは絶対あきらめない!」
そんなに簡単に折れてなんかやらないー!

その姿は。
巫女でありながら剣士であり。
魔導でありながら英雄の相を持つ。
覚醒、魔法巫女少女!

真の姿に変貌を遂げ、幻惑を超えるスピードでラッシュをかける!

きっと禄郎さんは助けを求める手を伸ばさない。
なら、こっちから強引に掴みに行く。
掴んで引っ張り出して。
「ネリーちゃんにお仕置きしてもらうんだからね!」



●諦めず、掴み取り、そして華咲かす

「あの禄郎さんが、何にも手を打たないなんて考えられ無い」
 御桜・八重(桜巫女・f23090)が男を前にして刀を抜く。
「もし、全く何もしてないのなら」
 それはなにもする必要が無いということ。
「……君たちなら当然だろうとか言いそうね」
 そんな答えが返ってきそうで笑みが漏れる。
「よーし。それなら、いっちょやってやろうじゃない!」
 右に陽刀、左に闇刀、両手に握る決意と共に八重は踏み込み――そして空を舞った。
「ふぁっ!?」

(この男がお前達に期待するものなど無い)

「なっ……!?」
 背中に伝わる衝撃と言葉。
 思考を読んできたと桜の巫女が気づいた時には既に氏家・禄郎の履く革靴が視界に入った。
 すんでに立ち上がって距離を取る。
 これは正解だった。
 顔面を狙っていたはずの蹴りは軌道を変えて、刀を握る小指を潰そうと爪先を伸ばしてきたのだから。

(この男は何も期待しないし、心配もしない。そのような心はすでに消えた)

 男の右腕が伸び、拳銃弾が連射された。
 この人らしい嫌らしさと思いつつ、八重は拳銃弾を叩き落とした。
 自分は最小限の動作でこなせる選択を、相手には大きな動きを強いる攻撃を、人の虚を突くばかりでなく、戦い方でもそれを作りだそうとしている。

(故に笑って送り出しただろう? 故に冗談を口にしていただろう? この男はただそうやってお前達を戦地に送り出した)

 ――影が動いた。
 ――感が働いた。

「……違う!」
 脇腹に叩き込まれる肘の痛みに耐えながら桜の巫女は否定する。
 ……相手のこめかみに刀の柄尻を叩き込んで。
「少なくとも……今の禄郎さんはそうではなかった! だって!」
 距離を取った八重の思考に浮かぶのは桜色の髪の少女。
 彼女を幸せにしたのは、目の前の人なのだから。
「やあーっ!」
 ぽっくり下駄からオーラを吹き出し、自分の間合いで刀を振るう。

(ならば、これが本来の性なのだろう)

 だが先に腹に銃が突きつけられ、渾沌が暴れた。

 ――肉を喰らい貫く渾沌の諸相

 一発の銃弾が御桜・八重の腹を穿ち、貫いた。

(でなければ、こうも罪深き刃はお前に刻まれない)

 かろうじてのオーラ防御が銃弾を作り出す暴威を食い止めてくれた。
 おかげで只の穿孔に留まり、死は免れた。
 けれど身体が言う事を聞かない。
「……違う」
 刀を杖代わりに八重は立ち上がる。
 呼吸が苦しい、身体が重い、思考が鈍る。
「禄郎さんはそうじゃない……」
 でも動かなければならない。
 きっと助けを求める手を伸ばさない人なのだから。
「誰にでも優しい……そうかもしれない」
 確かにそれは誰にも期待しようとしなかった証拠かもしれない。
「でも……彼女にはそうではなかったもの!」
 本当は違う事を、心の底では何かを望んでいたことを……信じたい、そうでありたい!

(だが、もう遅い。この身は渾沌氏、鴻鈞道人也)

 男の気配が消え、影が遠のく。
 手が届かない。
 もう遠くへ行ってしまいそう。

 ……だけど!

「不撓不屈。わたしは絶対あきらめない!」
 桜花紋が刻まれたロケットを握り、少女は叫ぶ。
「そんなに簡単に折れてなんかやらないー!」
 閃光と共に桜が舞った。

 白き装束巫女の相
 二つの刀は剣士の相
 光のケープは魔導の相
 その双眸は――英雄の相

 雷鳴を受けた岩を突き破るように開花する桜の相こそが真の姿へのユーベルコヲド。

 名を――石割桜!

 半透明のケープが輝き八重の姿が消える。
 遅れて大地を蹴る音が鳴り、遅れて空を駆ける音が響く。
 一撃! 闇刀が見えない角度から道人を切り付ければ、男はコートを投げ刀を絡み取ろうとする。
 だが外套は空を踊り、探偵屋の背後から陽刀が振るわれ、リボルバーを跳ね飛ばす。
 続くように叩き込めれた蹴りが男の腹に叩き込まれ、道人が宙を舞った。

 ――きっと禄郎さんは助けを求める手を伸ばさない。

 さっきも思ったが、これは確かだろう。
 彼は遠くで何かを置いてきたのだから。

 ――なら、こっちから強引に掴みに行く!

 だから首根っこ掴んで引っ張り出す。
「ネリーちゃんにお仕置きしてもらうんだからね!」
 乾いた音と共に平手が氏家・禄郎へと叩き込まれた。

(……くっ!)

 苦悶の言葉と共に鴻鈞道人の姿が消える。
「あとは……任せたよ」
 同時に八重が纏っていたケープも消え、その場に尻餅を着く。
「ネリー……ちゃ……」
 視界が暗くなり、やがて桜の巫女の意識は闇の向こうへ。

 糸は桜の針を以て、遠くにいる彼の元へ
 後はもう一度穴を穿ち、その心へと……。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ティオレンシア・シーディア
…うーわぁー…
あたし苦手な奴も面倒な輩もそれなりに多いけれど…個人的には「怖い」のはこういうタイプなのよねぇ…
…実力は知ってるから、ホント敵に回したくなかったんだけどなぁ…

読み合い削り合いはさすがに本職相手じゃ分が悪いわねぇ。できなくはないけれど、どっちかというとあたし強みを押し付けての先制蹂躙型だし。
全周防御で防げるほど温いわけもないし…となると。
ま、運否天賦の一点読みしかないかしらねぇ。
意識を散らして虚を突くなら狙い目は背後、あるいは翼を有するから狙える生物最大の死角である頭上。大雑把にこの二択…


――「ここまでは確実に読んでくる」。あたしでもできるんだもの、当然よねぇ?
故にこそ、「正面」。結界を前方に収束、無理矢理でも一撃凌いで○クイックドロウからの●封殺一閃。
当たれば金星負ければ終わり、命を的の逆張り大博打。上手くいったらお慰み、なぁんてね?

まあとりあえず、急所外す努力程度はするけれど。手加減できるほどあたしも余裕ないし…死んだらごめんなさいねぇ?



●ジンとライムを半分ずつ、他は要らない

 男と女がリボルバーを片手に歩む。
 二人とも見えない仮面をして、二人ともその奥に何かを秘めている。
 違うのは男が今は人形で、女は今も人間であるということだ。

「……うーわぁー……」
 45口径を片手にティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は溜息をつく。
「あたし苦手な奴も面倒な輩もそれなりに多いけれど……・個人的には『怖い』のはこういうタイプなのよねぇ……」
 その糸の様な目が見据えるのは猫背の男。
 男の持つ戦い方の『本質』を見抜いていたのは彼女を含め少数であろう。
「……実力は知ってるから、ホント敵に回したくなかったんだけどなぁ……」
 それは本音にして欺き。
 苦手な相手ではあるが、勝ちを引く切り札も無いわけではなかった。

 とはいえ、読み合い削り合いはさすがに分が悪い。
 強みを押し付けての先制蹂躙で攻めるならルーンを刻むその手を掴まれるだろう。
 そこに別の策を講じるのは相手の戦場でダンスを踊るようなもの。
 生憎とその手のダンスは好みじゃなかった。
 だからと言って全周防御なら?
 おそらくは渾沌の諸相が使われ、そこから男の手が伸びる。
 それだけは避けないといけない。

 ……となると。

「ま、運否天賦の一点読みしかないかしらねぇ」

 直後、探偵屋が血を吐き、そして姿を変えた。
 白き翼に白の軍刀。
 身を守るように身体に這うは白の触手。

 ――肉を破り現れる渾沌の諸相

 六発の銃声が響き、続くように鴻鈞道人が飛ぶ。
 弾丸は牽制、動きの選択肢を削る道具。
 新たな弾は既に装填済み、渾沌をねじ込めるだろう。
 選択肢はいくつか。
 一つ、背後を突き、腎臓を刺し、殺す。
 二つ、飛翔することで上を取り、天頂より銃弾を叩き込み、剣にて重力の乗せた一撃で力攻め。
 女の選択肢は結界か、回避か、もしくはファニングによる銃弾撃墜。

 ……もう一つあった

 弾丸そのものの陰、銃弾の威力という概念の裏側からの攻撃。
 つまりは弾丸に追従するように飛翔し、銃弾に対処するティオレンシア・シーディアという女に一撃を叩き込む。
 今の力なら撫でるだけで充分。その後に止めをくれてやればいい。
 そしてこの手段が一番、この肉体には合っている。
 正面に張り巡らされた結界。
 六発の弾丸がそれを破壊し、女の姿が見えればそこへ剣を叩き込もう。
「――ここまでは確実に読んでくる。あたしでもできるんだもの、当然よねぇ?」
 渾沌氏の思考を打ち切るは甘ったるい女の声。
 道人の左目がティオレンシアのホルスターに釘付けになったのはほぼ同時であった。

 読みに読む、故にこそ正面。
 切り伏せようと振るう探偵屋の剣は消えたはずの結界にぶつかり、視界を閃光一色に変えてしまう。
「前方に収束させた結界。渾沌の諸相なら分かるけれど、弾丸なら充分防げるわよぉ?」
 糸の様な細い目をさらに細め、ティオレンシアが銃を抜く――クイックドロウ。
 少し遅れて道人が右手に持った銃を向けた。
 45口径と38口径。
 二つの銃口が接吻するには遠く、大声で何かを伝えるには近すぎる距離で二つの炎が鉛を吐き出す。

 一発vs一発
 二発vs二
 三発vs
――四発!!

 ファニングによって撃ち込まれた女の銃弾は引鉄を引くだけの男の弾丸より速く発射される。
 リボルバーは機械操作故に連射速度は遅い。
 だが、人はそれを凌駕する技を作り出し、そして女は技術をユーベルコードへと昇華させていた。

   sealed
 ――封 殺

 攻撃に移る瞬間を狙った高速射。
 公称速度120分の1秒。
 実際は――其れより速く、そして『重い』
 銃弾がぶつかり合えば軽い弾丸の方が軌道は乱れ、場合によっては粉砕される。
 45口径、17g。38口径、10gを砕くには充分なパワーがあった。
「当たれば金星負ければ終わり、命を的の逆張り大博打。上手くいったらお慰み、なぁんてね?」
 倒れゆくは氏家・禄郎。
 軽口交じりに切り札を切ったのはティオレンシア・シーディア。
 博打と呟いたものの、それは自分の技術を充分に発揮できる戦場への誘い。
 相手をこちらの舞台に躍らせた時点で負けは無かった。
「手加減できるほどあたしも余裕ないけれど……でも」
 熱の残る銃を牛革のホルスターにしまい込み、女は背中を向ける。

 ――You're not ready to die.
「長いお別れにはまだ早いわよぉ」

 一言、残して。

 銃弾とメッセージ。
 その二つ以外、何も無ければそれこそは――最後の壁を穿つギムレットになるであろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

ミネルバ・レストー

お互いいずれはそういう時も来るって、覚悟はできてたつもりだけど
何て言ったらいいのかしらね
うちの旦那さまに目をつけるとはお目が高い?
うちの旦那さまに手を出して承知しないわよ?
……いいわよ、どっちでも
死なないことを信じてぶっちめて、一緒に帰るだけなんだから

何はともあれ初撃を何とかしないとね
あんまりエグくない部位を代償にしてくれることを祈りながら
「アブソリュート・ウィッチ」を「オーラ防御」の応用で
巨大な雪花のシールド状にして前面に展開
正面以外から攻撃してきたら都度シールドの角度を調整
最悪、攻撃の相殺でぶち割られても構わない

その時、わたしを攻撃する勢いで体勢が少しでも崩れればいい
「手加減はなしで」良かったのよね?
禄郎の姿をした鴻鈞道人を、本気で殺すつもりで「白金の銃声」を構える
狙いは――左目
忌まわしい色をした、その支配の証を撃ち抜く
普通はドタマぶち抜かれたら死ぬでしょうよ、でも信じるしかない
あなたの中に巣くった悪者だけを殺めて、あなただけを救い出せると

咆えろ、白金の銃声
【探偵屋】、発動!



●嗚呼、閉幕ノ鐘ガ鳴ル

 涙が必要ならいくらでも流してあげる。
 だが今はそうじゃないわよね?

「お互いいずれはそういう時も来るって、覚悟はできてたつもりだけど……何て言ったらいいのかしらね」
 ミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)の吐息は少し重く、少し寒い。
「うちの旦那さまに目をつけるとはお目が高い?」
 声楽者が如き振る舞いで遠くに立つ鴻鈞道人へ手を差し伸べる。
 勿論、その手は届かない。
「うちの旦那さまに手を出して承知しないわよ?」
 今度は歌劇女優が如く指を差す。
 まるで目の前の男が普段振舞うが如く。
「……いいわよ、どっちでも」
 肩を竦めて演技は終わり。
「死なないことを信じてぶっちめて、一緒に帰るだけなんだから」
 氷の結晶を伴ったこおりのむすめは日常へ戻るために歩き出す。

(別れは済んだか?)

 それは挑発でもなんでもなく、ただ情景から感想を述べただけ。
 けれどミネルバ=ネリーの心を揺らすには不充分。
「貴方とね。渾沌氏、鴻鈞道人」
 誰かを取り戻すためにミネルバ・氏家・レストーは人の歩みを続けた。

 男の姿が影に消え、女は雪の花を咲かす。

 嗚呼、開幕ノ鐘ガ鳴ル
 結末ハ見テノヲ楽シミ

 始まりの花の名はアブソリュート・ウィッチ。
 花弁を彩るはオーラの花。
 巨大な盾となりうる障壁がネリーを守り、探偵屋を阻む。

 一撃を相殺する。
 それがネリーの狙いなら。
 一撃を叩き込む。
 それが渾沌氏の狙い。

 雪花に革靴を引っ掛け、男は宙を舞い。
 見上げた女の頭を蹴った。

 衝撃でこおりのむすめの脳が揺れる。。

 ――嫌なのよね、これ。足の力抜けちゃうから。

 脳震盪の酔いを計算し、バランスを計算。
 バーチャルキャラクターである自分をこの時ばかりは感謝しなくてはいけない。
 だが、その思考は別の痛みで遮られた。
「……髪、掴んで!?」
 自慢の桜色の髪。
 道人はそれを掴み、腕力で引き寄せ、そして銃を向ける。
「こぉっのっ!」
 刹那のタイミング、ネリーは無理矢理に雪花をコントロールし、探偵屋へとぶつける。
 バランスを崩し、男が髪から手を離せば女は立ち上がり、アブソリュート・ウィッチごとぶつかっていく。
 休む暇はなかった、すぐに氷の精霊を細身の杖に変えて右手に握れば、それを振るう。
 あっちがこっちの守りを崩して隙を作るなら、こっちも攻めまくって相手の攻撃を誘導させてやるしかない。
 何かがぶつかって、杖が跳ね返る。
 男の左手には――
「それ、わたしがあげたんだからね」
 ネリーが贈った氷の竜槍。
 槍と杖がぶつかり合う音が部屋に響いた。

 ――おかしいわね。

 金属音が奏でるようなインストゥルメンタル。
 器楽が如き音を耳にしつつネリーの思考には浮かぶ疑問符。
 今までのように人の死角に潜り込まず、普通に打ち合っている。
 まるでこっちに意識を集中させるように。
 ……ああ、成程。
 そういう事ね。
 こおりのむすめが解を導いた時、杖は跳ね上げられ、同時に足元が掬われた。
 打ち合いはフェイント。
 武器での打ち合いに意識が行き、足元への警戒が緩む――その隙を狙っていた。
 最初から転ばすのが目的。
 そうすれば、後は空を仰ぐ自分に銃を向けるだけ。
 探偵屋が引鉄を引き。
 鉛はネリーの額を貫かんと異形と為す。

 さよならは――肉を喰らい貫く渾沌の諸相

「まったく……ふざけないでよ」
 弾丸は彼女の頭の横、髪の毛数本を撃ち抜き、床を穿つ。
「伊達に付き合い長くないんだから」
 左手に持つ雪の花はアブソリュート・ウィッチ。
 重ねたオーラが、衝撃と軌道を逸らし、花は砕ける。
「逃がさないわよ」
 痺れる左腕を伸ばし、男のネクタイを掴む。

 カエサナイッタノオボエテル? ダカラネ――
「手加減はなしで良かったのよね?」

 右手には白金のリボルバー。
 男が贈ってくれた38口径。

「あなたと一緒に帰るのよ」
 突きつける先は色失った左目、渾沌の瞳孔。
「――禄郎」

 Detective agency
 私と貴方が探偵屋

 ――なのだから。

 雷管が叩かれ鉛が氏家・禄郎の失った色を染めた。

 尻餅を着いたまま探偵屋がコートを脱ぎ、自分の妻に頭から被せる。
「僕がこう……君やみんなに手を上げるとはね」
 自嘲と罪悪感のこもった声。
「分かってるならいいわ」
 声はコートの奥から聞こえた。
「良いのかい?」
 ネリーの言葉に禄郎が問い返す。
「このままではい、さよならって済ます気はないんでしょ? 付き合ってあげる」
「そうしてくれるとありがたいな。助かるよおまえ」
 妻の言葉に男は感謝し、コート越しに頭を撫でる。
 掌から伝わる震えでもう充分だった。
「お小言は後でたっぷりと聞くとして……とりあえずは帰ろうか?」
 夫の言葉に応えるように外套が動き、ネリーがコートを探偵屋に返す。
「そうね。帰りましょう……みんな、待ってるんだから」
 頷き立ち上がった禄郎は受け取ったコートに袖を通し、そして少しだけ目の赤いこおりのむすめの手を取った。

 最後のギムレットが穿った綻びに糸は届き、渾沌に沈む男を引き上げた。
 かくして物語は閉幕。
 終わりの鐘を鳴らすのは、男が渡した白金の銃であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年01月31日


挿絵イラスト