モノクロームの花束を
●
「癌が発見された。さて、他の体組織への転移をさせない為に、どんな処置を考える?」
見るものが見ればいつも通りにべっとりと目の下に隈を張り付けた忌塚・御門(RAIMEI・f03484)は、自らの呼びかけに応えて集まった猟兵たちにそんな問いを投げかけた。
「癌細胞そのものを切除するなりなんなりして、なくしちまうのが普通だ。だが、癌細胞があまりにも多く、転移の可能性が高かったら? そして、ここに――患者の命の是非は含まれなかったら?」
めちゃくちゃな命題だ。机上でしか成り立たない、思考実験の類だ。御門は皮肉気に陰鬱に笑う。
「癌は猟兵で、まだ健康な体組織は猟兵に目覚めていない一般人とする。そして、執刀医はUDCだ。――猟兵を世界の癌だと考える、UDCの医者がいてな」
そのUDCが出した答えはこうである。
「癌が増え続けるって言うなら、未だ健康な体組織の方を患者の肉体から余さず取り出して、癌が転移しないようにした」
――とある地方で、UDC組織の職員ばかりが軒並み行方不明になったらしい。物証が一切残っていないってんで捜索は難航したが、つい先日予知によってその全貌が明らかになった。
「UDCの活動痕跡を消すことに長けたUDCってのがいるらしい。そいつが件のUDCの医者に雇われて、職員を浚った痕跡を消してやがった」
今から行けば、とある五階建てのビルの最上階に存在する二種類のUDCたちを最も少ない犠牲によって討伐できると、御門の予知は告げていた。
「ビルを1フロアごとに進んでたんじゃあ、時間がかかって逃げられちまうが。裏口から入って階段を一階から五階までぶっちぎって進めば、本命のUDCを逃がす前に間に合う。……ただ、その場合にはちょいと障害物があってな」
意思と意識を残したまま体だけを操られたUDCの職員が、猟兵たちに襲い掛かってくるらしい。痛覚も自分が何をしているのかも理解しているまま、体だけは侵入者を排除しようとしてくるのだそうだ。
「あちらから見れば突然の突入になるからか、武装はしてねえ。殴るか蹴るか、その程度しかできねえだろうから、猟兵の腕なら簡単に黙らせらせるが……いかんせん数が多いうえに、こいつらは猟兵じゃない、唯の一般人だ。ちょっとでも加減を間違えたら、すぐに死んじまう。UDC職員ってことは俺にとっても同僚なんでね、頼むから一人も殺さないでくれ」
くれぐれも一般人の命は奪うなと、御門は真剣な目で猟兵たちに釘をさすように言う。
「階段を上り切ったら、最上階の廊下にUDCの集団がいる。UDC関係の証拠を消すことに長けたUDCたちだ。こいつらはアヒルの被り物をしてるが、頭部が本体なんで肉体に頓着しない。気を付けて戦ってくれや」
集団のUDCたちを倒せば、その先の部屋に親玉がいる。名前は「ヴォルフ・E・シュトルツァー」――医師と看護婦の二人組のUDCで、職員たちを攫い、猟兵に覚醒しないよう処置――肉体改造を施そうとしていたようだ。
「UDCが考える改造だ。どんなもんかはわからねぇよ。だが、操られた状態になった職員たちは組織の方で治療が可能な状態だ。だからこそ、今のうちに一人も殺さず確保することが肝心なんだ」
階段の入り口ではUDCの職員たちが猟兵たちの邪魔をしない程度に待機しており、攫われた職員たちを確保して医療機関へ輸送する手筈となっている。暴れる攫われた職員たちを無力化した後のことは考えず。先に進んでよいとのことだ。
「現場までの転送の役目は俺が請け負った」
そう言うと、御門は手にした万年筆で空中に何事か書きつける。文字を描き出したインクが空中で輝き、門を形作った。
「準備が出来次第、俺に話しかけてくれや。そんじゃあ、頼んだぜ」
遊津
遊津です。UDCアースのシナリオをお届けします。
第一章冒険、第二章集団戦、第三章ボス戦の三章構成となっております。
「第一章について」
五階建てのビルを裏口の階段から一気に駆け上ってください。途中、操られているUDC職員たちが生身で襲い掛かってきます。彼らは意識があり、意思の疎通は可能ですが、肉体は全く言うことを聞かず猟兵たちを襲います。猟兵ではない只の一般人であるため、死なせないよう傷をつけすぎないよう加減して無力化させてください。
能力値の行動は判定の指針程度に考えてくださって結構です。
また、閉所であり室内の為、空中に逃れるなどはできません。何かをレベル分召喚するようなユーベルコードは、レベルによっては数を調整しないとみっしり詰まります。
戦闘に利用できるようなものは発見できるかもしれませんが、そもそもまともに戦わないでください。職員が死んでしまいますので。
無力化した職員たちはUDC組織のメンバーが階下で待機しており回収してくれますので、上り切ることを第一目標としてください。
「第二章:集団戦について」
最上階の廊下にて、「ゴシゴシアヒル隊」との戦闘になります。
詳細は二章の追記をお待ちください。
「第三章:ボス戦について」
最上階最深奥の部屋にて、「ヴォルフ・E・シュトルツァー」との戦闘になります。
詳細は三章の追記をお待ちください。
当シナリオは2/2(水)朝8:31からプレイング受付を開始いたします。
シナリオ公開の時間によっては上記タグ・マスターページにプレイング受付中の文字が出ていないことがありますが、その状態でもプレイングを送ってくださってかまいません。
諸注意はマスターページに書いてありますので、必ずマスターページを一読の上、プレイングを送信してください。
また、オーバーロードについて更新を行いました。普段からご参加してくださっている方も今一度マスターページを見直していただきたく思います。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 冒険
『帰らずの塔』
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POW : 取り合えず突っ込んでみる
SPD : ひっそりと潜入して待つ
WIZ : 魔術や呪術の痕跡が無いか探ってみる
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木々水・サライ
【灰色】
あーあー、きこえなーい。ボスの名前きこえなーい。
帰って来んなって言ったのに帰ってきた奴らの名前きこえなーい。
……やっぱ呼ばれてるよなぁ俺ら。
しかたねー……行ってやるかぁ……。
だからさ、バイク取り出すのやめよ? 一般人だよ?
合法的に轢き殺せるー!じゃねぇから。どうやって上まで上がるんだよ。
こういうのは地道に登っていくに限る。
一般人の対処なぁ……。
そういや最近親父のせいでチビ共が煽ること覚えちゃったし、やるか。
UC【煽り立てるちまこい白黒人形】で。(※少数だけ)
『なんでさっさと逃げなかったん?』
『やべーやつが近いのわかってて逃げなかったのマジ雑魚』
『雑魚乙』
……親父よりもひどくない? これ
金宮・燦斗
【灰色】
おや、聞き知ってる名前ですねぇ。
ヴォルフ・E・シュトルツァー……ええ、確かに私の師匠でありサライの本当の父。
ほらほら、師匠がお呼びですよ、サライ。
一緒について行ってあげますから、行きましょ?
(バイク準備後サライに怒られる)
えー。バイク……(しょんぼり)
私、エレベーター派なんですけどぉ……。
階段……やだぁ。
あっ、一般人の対処はチビちゃんが煽りに煽った後にUC【影の箱舟】で寝かせてあげます。
煽られた後に寝るとだいたい悪夢見ますからねぇ。
ついでに私も煽っときましょ。
「本当に、その体たらくでよくぞUDCを研究しようなんて考えましたね?」
「所詮あなた達は雑魚でしかないんですよ!」
あー、楽しい。
●因果はここに結実する
「おや、聞き知っている名前ですねえ」
「あー、あーあー、聞こえなーい!ボスの名前なんて聞こえなーい!」
グリモア猟兵の告げたUDCの親玉の名前に苦笑を零す金宮・燦斗(《夕焼けの殺人鬼》[MörderAbendrot]・f29268)と、耳を塞いでうずくまる木々水・サライ(《白黒殺戮人形》[モノクローム・キラードール]・f28416)。
「ヴォルフ・E・シュトルツァー……ええ、確かに私の師匠でありサライの本当の父の名ですとも」
「帰って来んなって言ったのに帰ってきた奴らの名前なんてきこえなーい!!」
駄々をこねるサライ。それを宥める燦斗。世にも珍しい光景が繰り広げられていた。え? 逆じゃなくて? 逆じゃないんです。燦斗が宥めてるんです。
「ほらほら、師匠がお呼びですよ、サライ。一緒についていってあげますから、行きましょ?」
「……やっぱ、呼ばれてるよなあ俺ら……。仕方ねー、行ってやるかぁ……」
ぶつぶつと不満を漏らしながら立ち上がったサライ。さて、ここからは急がなくてはならない。ぼやぼやしていると敵は逃げてしまうらしい。場所はビルの裏口から繋がる、地上から五階まで直結の階段の前だ。
「では、ちゃちゃっと行ってきましょうか」
燦斗が取り出したのは愛車のオフロードバイク「クリムゾンウィッチーズ号」。もう一回言うぞ、ここは階段の前だ。それで上っていくとか言わんよな?
「ええ、そうですが? 相手は操られてるんですから合法的に轢殺できますしね?」
「だからさあ!!そういうのやめよ!? 相手一般人だよ?」
違う。違う。そこじゃない。あとどこの世界でもどんな理由があっても合法的な轢殺はできません。
「どうやってバイクで階段を上まで上がるんだよ!」
それです。そこをツッコんでほしかったんです。ありがとうございました。
「ええー、気合でなんとかなりませんかねえー?」
「ならねえよ!こういうのは地道に上っていくに限る!」
「えー……私、エレベーター派なんですけどぉ……階段……やだぁ」
「贅沢言わないの!!」
燦斗を引きずりながら階段を駆け上がっていくサライ。急いでくださいこれは速攻作戦なんです。
階段の向こうからわらわらと現れるのは、何かに引っ張られるようなぎくしゃくした動きをした男女数十名。皆、病院の手術着らしきものに身を包んでいる。
「うわああああ!避けろ!避けてくれー!」
「逃げてくれ!体が!体が勝手に!」
悲痛な声を上げながら容赦なく襲い掛かってくる攫われて何らかの改造を受けたUDC職員と思しき一般人たち。
「あー、来たか、一般人……」
「そうだ私たちはUDC組織で働いていたが先日UDCに攫われた一職員!何かされたようだ!体の自由が利かない!どうか避けてくれると助かる!」
「説明的な言葉をどうもありがとうよ!さて、どうするかな……そういや、最近親父のせいでチビどもが煽ること覚えちゃったし、やるか……――来い、チビ共!」
「「さっらーい!」」
【煽り立てるちまこい白黒人形(ファン・モノクローム)】により、わらわらとサライのちまこい複製義体たちが現れる。本来なら五百体くらい現れて階段にみっしり詰まるところだが、今回はきちんと加減して少数だけの召喚となっている。
「さっらー、なんでさっさと逃げなかったん?」
「やべーやつが近いのわかってて逃げなかったのマジ雑魚」
「雑魚乙」
「ああっ!心が痛いっ!!」
「面目次第もございませんっ!!」
「はーい!私も!私も煽りますねー!ざーこざーこ!本当にその体たらくでよくぞUDCを研究しようなんて考えましたね?」
「そんなこと言われたって私は事務職!体鍛えてない!!」
「所詮あなたたちは雑魚でしかないんですよ!」
「うぅっ反論できない!面倒見てる私よりUDC-Pちゃんたちの方が強いものっ!」
「あー楽しい!」
煽り言葉に綺麗に心を抉られてくれる職員の皆さん。皆さん良い人である。逆上させて自棄になってたらどうするつもりだったの? この職員さんたちの善良さに感謝しようね?
「さて、それではチビちゃんたちが煽りに煽って私も気持ちよくなったところで、はーい【影の箱舟(ソンブラ・アルカ)】~」
ててててん。ひみつ的な道具を取り出しそうな効果音付きで放たれた影の箱舟は、善良な職員さんたちを包み込み眠らせる。眠って動けなくなった職員さんたちを、UDC組織の方々が片っ端から回収していった。
「あ、お疲れ様でーす」
「ふふふ、煽られた後に眠るとだいたい悪夢見ますからねえ」
えげつねえなおい。
そうして襲撃してくる一般人の壁を越えた二人は、五階まで直通の階段を速足で上っていくのだった。
大成功
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上野・修介
※アドリブ連携歓迎
「少し厄介だな」
障害となるのは操られた一般のUDC職員。
下手に攻撃は出来ない。
しかも『身体だけを』となれば、上手く昏倒させても意識の有無とは無関係に襲い掛かってくる可能性もある。
何より、下手に時間をかければ元凶を逃がす可能性もある。
(申し訳ないが、今はさっさと突破するのが無難か)
調息、脱力、戦場を観据える。
周囲の状況、UDC職員たちの数と配置を確認。
UC:防御重視
重心を下げ過ぎず、小回り重視。
初動から足を止めず、フェイントを交えつつ壁や天井を足場として使用しながら極力交戦は避け先に進む。
やむを得ない場合は柔術主体に、相手の衣服などを利用し手足を拘束して傷付けない様に対応。
●達人は拳を振るわない
「さて……少し厄介だな」
そう唇から漏らしたのは、上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)。
修介の周りにいるのは、どこのものかもわからない病院の手術着に身を包んだ成人の男女たち。
「うう……すまない!避けてくれ!」
「体が!体が勝手に動くんだ!君を傷つけたいわけじゃない!逃げてくれっ!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!よけてぇぇ!!」
彼ら彼女らはめいめいに修介に忠告し謝罪し、回避を懇願しながら修介に襲い掛かってくる。さもありなん、先にグリモア猟兵から聞いていた通りに、彼らは攫われてUDCに何らかの改造を受けたと思しきUDC組織の職員たちだった。幸い、グリモア猟兵の予知通りならばまだ彼らは治療して元に戻すことが出来る。そのためにも、下手に傷をつけるような真似はすることはできなかった。
(……もしも、俺の考えが正しかったら、それを口に出すことも今はしたくないな……)
修介の懸念。それは、彼らが「身体だけを」操られているがゆえに、上手く傷をつけずに昏倒させても意識の有無とは無関係に襲い掛かってくる可能性があるのではないか、ということだった。もしそうなら、それを聞いてしまえば職員たちはパニックを起こしてしまうかもしれない。故に、修介は口を噤む。
(何より……下手に時間を掛ければ元凶を逃がす可能性もある……申し訳ないが、今はさっさと突破するのが無難か)
フゥーッ、と息を吐き出した。息を整え、全身の筋肉から力を抜き、俯瞰的に戦場を観据える。
(敵……職員の数、ざっと十五名。ここは階段だ、あちらの動きも自由ではない……分散しようとすれば、両側の壁が邪魔になる。ならば!)
【拳は手を以て放つに非ず】。防御力を重視して自身の肉体を強化する。重心を下げすぎず、小回りを重視した姿勢に。そして、修介は飛ぶ。
「はっ!」
「おお……っ!?」
「凄い……!」
修介の動きを目で追った職員たちが思わず感嘆の声を漏らす。ひしめき合う操られた職員たちの上を通るように、壁を蹴り、天井さえも足場にして、職員たちの攻撃の外に、交戦は避けて飛んでいく。
「お疲れ様です!全員息はあるか!今から助けてやるからなっ!」
階段を飛んでいく修介の遠く後ろで、UDC組織の人員回収班が操られた職員たちに追いついた。彼らは時間を掛けながらも職員たちを拘束し、外に止めてあるらしき車の中へと運んでいく。これがUDC組織に出来る最低限のバックアップであった。
修介は彼らに小さく頭を下げつつも、動かす足の速度は下げずに階段を上っていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
さって、と。
久々に普通に依頼に出てみればまたビルの踏破かな?
オーケイオーケイ、手加減はしっかりやってみるさ。
そん位、アタシの『操縦』テクならやってやれない筈はないさ!
……たぶん。
え?二番煎じ?まっさかぁ!
ま、非殺傷の徹底はしっかりとするよ。
反撃は最低限に、『マヒ攻撃』の『衝撃波』に留めとく。
そうやって進路を開けながら、空いた隙間を駆け登ってく。
なんだかんだ、階段をカブで登るってのも何度目だったかな?
まあこのビルを登るのは初めてか。
とにかく正面衝突と轢き逃げだけは勘弁さ!
ゴールド免許を維持したいからね!
●もしかしたらひそかに流行しているのかもしれない階段バイク上り
「さってと……久々に普通の事件解決に赴いてみれば、またビルの踏破かな?」
数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は眼前に長く高くそびえるビルの階段を前にして伸びをした。最近は戦争だの、他の事件のお手伝いだのに走り回っていた多喜である。
「オーケイオーケイ、腕は鈍っちゃいないだろ。手加減だってしっかりやってやるさ……そんくらい、アタシの操縦テクならやってやれない筈はないさ!」
宇宙カブJD-1725にまたがって、多喜はにやりと不敵な笑みを浮かべた。待って? ここから先階段ですよ? ここをバイクで上っていくとあなたもおっしゃる?
「え、うんそうだけど?」
ここ階段ですよ? あとあなたで二人目なんですが何なんでしょう流行ってるの?
「え? 二番煎じ? まっさかぁ! こんなことをする奴がアタシ以外にいるわけないだろ!」
あははと一笑に付す多喜。いやそれがいるんですよね。
そんな多喜の前に現れたのは、どこのものともしれない病院の手術服だけを身にまとった男女十数人。彼らは何かに引っ張られるような不自然な動きをしながら、多喜の方へと集まってくる。
「すまない!あなたは猟兵の方とお見受けする!」
「我々はUDC組織の職員!攻撃するので避けて欲しい!」
「私たちは改造されてしまったらしい!体が言うことを聞かない!」
「グワーッ体が勝手にー!ちなみに私は事務仕事歴十二年だが通信空手三段だー!!大変申し訳ないー!!」
「すまない!本当にすまない!なんとかよけきってほしい!私たちはあなたが傷つくことを望んではいないんだー!」
「わかったわかった、こっちも非殺傷の徹底はしっかりするよ!ちょいと痺れるかもしれないけど、それぐらいは我慢しておくれね!」
宇宙カブの前輪を持ち上げギャリギャリとぶん回し、車体を振って衝撃波を撃ちだす多喜。その衝撃波には麻痺効果が含まれている。多喜を囲んでいた操られた職員たちが、意識が残ったままに糸が切れたようにその場に倒れ伏す。
「ごめんよ!後は組織の回収班の人たちに任せたからね!」
「ご、ご武運を……祈ります……!」
かろうじて声帯から言葉を絞り出したUDC職員を尻目に、多喜は宇宙カブにまたがって大ジャンプをかまし、倒れ伏した職員たちを避けて階段を進んでいく。多喜のユーベルコード【無限走破(ホイーリング・ディーリング)】の効果によって、階段の上を走っているとはとても思わせないスマートな走りようだ。
「いやあ、なんだかんだで階段をカブで上るのも何度目だったかな? まあ、このビルを上るのは初めてか!」
バイクで階段上るの初めてじゃないんですか。そんなに経験あるんですか。マジかよ。
「とにかく、正面衝突と轢き逃げだけは勘弁さ!ゴールド免許を維持したいからねぇ!」
そう軽快に叫ぶと、五階までの階段を多喜は宇宙カブに跨ったままで駆けあがっていくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィオット・シュトルツァー
わー、おんなじ名字~。
……ってそらそうよな。従兄弟(アイツ)はもう先行っとるんかな。
っていうか猟兵を世界の癌って。変なの。
一般人どうにかしろ言われたし、ひとまず猫好きにしといたらええやろ。
猫好きに悪いやつなんかおらん!!!!
UC【精霊猫大行進!】で全員猫好きにしたれ!!!
はーーーー猫可愛い!! 現実の猫には会えてへんけど!!!
(3階ぐらいまで走って咳き込み始めた)
…………し、しぬ……。
う、運動不足が……祟った……!!
そういや最近バイク乗せてもらったりで自分で走ってへんわ……!!
●猫は液体なので五百匹いても階段には詰まらない
「ヴォルフ・E・シュトルツァー……わ~、おんなじ名字や~……ってそらそうよな、叔父さんやもんなぁ……」
ヴィオット・シュトルツァー(猫のそばに居たい・f35909)は階段を上りながら、数奇な運命に対してため息を吐いた。
UDCとして蘇ってしまった叔父。彼の実の息子に当たる従兄弟のアイツは、もう先に行ってしまっているのだろうかと思いを馳せる。
わかっている。別に自分は行かなくていい。行かなくてはいけないのは、従兄弟のアイツの方。アイツが自分の父親を殺せば、それで叔父の捻じ曲げられた輪廻は終わりを告げる。この物語に、ヴィオット(じぶん)の居場所は別になくていい。それでも、これはヴィオット(じぶん)の人生だ。ヴィオットは叔父一家の確執に、巻き込まれに来たのだから。
「……っていうか、猟兵を「世界の癌」って。変なの」
叔父が何を思ってそんな思想を振りかざしているのかすら、ヴィオットには分からないけれど。
やがて先に進むと、どこのものかもわからない病院の手術着を着こんだ集団……攫われて改造を受けたらしいUDC職員たちが現れる。
「君は猟兵か!すまないがよけてくれ!ハァーッ!」
「わたしたちはUDC組織の職員だ!UDCに攫われ改造を受けてしまった!この通り自分の意思では動けないんだ!トリャーッ!」
「ほんまに自分の意思で動けてはらないんですか!?」
「本当だ!壁を殴った手がものすごく痛い!折れてるかもしれない!」
「うわどないしよこの人たちどうにかせなあかんのやろ……ええわ、ひとまず猫好きにしといたらええやろ!【精霊猫大行進!(ガイスト・カッツェ・トルッペ)】!」
わっさぁと猫が階段中に溢れた。手加減してないので四百四十五匹、猫でなかったら詰まっている。それにただの猫ではない、精霊猫である。精霊猫は詰まるなんて愚行を起こさない。何せ猫は液体なので!
「ね……ねこだーーー!!」
「マンチカン……アメショ……スコティッシュフォールド
……!!」
「ああ……体が言うことをきかなくて触れないのが残念でならない
……!!」
「「「ねこだいすきー!」」」
たちまち状態異常:ねこだいすきにされていくUDC職員たち。その横をこそこそと通り抜けていくヴィオット。【精霊猫大行進!】には、敵対者を麻痺状態に、味方を隠密状態にする効果もあった。ねこだいすきになりながらも動けない職員たちはそばを通り抜けていくヴィオットに気づかない。
そして、三階分ほど上ったころだろうか。
「ぜぇ……ぜぇ……ゼヒューッ……ゼヒューッ……げほっ、ゲホガホッ」
ヴィオットはやべぇ音を立てて咳込んでいた。
(…………し、しぬ……)
運動不足が祟った。常日頃から電脳世界で非実在猫とゴロゴロしている毎日、そして移動にはバイクの後ろに乗せてもらったりで自分で走ったのはものすごく久しぶりである。
「帰ったらなんか……何か楽にできるええ運動始めよかな……」
楽にできるといっているあたりで割と舐めた考えを巡らせながら、よたよたとヴィオットは最上階へと向かって歩き出したのだった。さあ間に合うのかヴィオット!どうなるヴィオット!
大成功
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ティオレンシア・シーディア
異常の内にある正常はあるいは異常とも言える…「一眼国」の案件ねぇ。誰かに頼まれたわけでもないでしょうに、随分とまあ仕事熱心だこと。
無力化ならあたし得意なほうだし、特に問題なさそうねぇ。
●圧殺起動…閉所だし、グレネードの類はやめときましょうか。自爆とか味方の邪魔とか、ロクなことにならなそうだし。イサ(停滞)・ソーン(障害)・ニイド(束縛)の遅延のルーン三種で〇捕縛しつつ突っ切りましょ。
…あたしのミッドナイトレースは飛べるから階段でも使えるけど…いくら急いでてもさすがに轢いたらマズいし。大人しく走って行くわねぇ。
回収班の職員さんたち、後よろしくねぇ?
●轢かないでくれてありがとう
「異常の内にある正常はあるいは異常とも言える…「一眼国」の案件ねぇ」
一眼国。一つ目小僧を見世物にしようとした男が、一つ目の人間しかいない国で二つ目男として逆に見世物にされるという落語の噺のひとつである。
「誰かに頼まれたわけでもないでしょうに、随分とまあ仕事熱心だこと」
ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は、脳が蕩けるような甘い甘い声でそう言った。
ティオレンシアの持つバイク型UFO「ミッドナイトレース」は空を飛べる。飛べるので階段でも使える。えっちょっと待ってくださいあなたもバイクで階段を? あなたで三人目ですよ!? これはバイクで階段上るフラグメントじゃないんですよ!?
「そんなことしないわよぉ、いくら急いでてもさすがに轢いたらマズいし。大人しく走っていくわねぇ」
本当ですか!本当ですか!ありがとうございます!
さて、そうしてティオレンシアが階段を上っていくと、前方から何かに引っ張られるようなぎくしゃくした動きをした男女の軽く十数人が現れる。誰も彼もどこのものかもわからない病院の手術着を着て、一様に裸足だ。
「すまない!あなたは猟兵の方とお見受けする!避けてくれ!」
そう言った男の拳がティオレンシアの顔スレスレに放たれる!
「我々はUDC組織の職員である!不覚にもUDC怪物の襲撃を受けてなにかされたようだ!」
「身体が勝手に動くのです!なので!ああ!よけてください!あぶない!」
「痛い痛い痛い!人間の腕はそっちには曲がらないのぉ!にげてぇ!」
丁寧な物腰ながら悲痛な声を上げる職員たちに、ティオレンシアは甘い声で返した。
「大丈夫よ、無力化ならあたし得意な方だし。特に問題なさそうねぇ」
ユーベルコード【圧殺(アレスト)】を起動させる。
(閉所だし、グレネードの類の使用はやめときましょうか。自爆とか味方の邪魔とか、ろくなことにならなさそうだし)
催涙弾や閃光弾などの銃弾を愛用のシングルアクションリボルバー「オブシディアン」に詰める。本来なら意思とは無関係に肉体だけ操られている相手には意味のない代物だが、ユーベルコードの効果とティオレンシアがあらかじめ弾丸に刻んである遅延のルーン、停滞のイサ・障害のソーン・束縛のニイドの三種の魔力で捕縛が可能となっている。
弾丸を乱射し、着弾した弾丸から放たれた魔力で出来た網状の閃光がUDC職員たちを拘束してゆく中を、ティオレンシアは悠々と歩き階段を上っていく。
背後から聞こえてくるのは、UDC組織の回収班の声だ。
「回収班の職員さんたち、後はよろしくねぇ?」
そう言ってティオレンシアは振り向くことなく前へと進んでいくのだった。
大成功
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第2章 集団戦
『ゴシゴシアヒル隊』
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POW : 大型ゴミ対応モード!
【超酸性の泡を付けたブラシ】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : 有機汚れ対策アヒルちゃん
レベル×5本の【超強力分解酵素を含ませた、追跡】属性の【アヒルちゃんスポンジ20匹】を放つ。
WIZ : 記憶お掃除アヒルちゃん
【混乱】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【BIGサイズアヒルちゃん水鉄砲】から、高命中力の【記憶を洗い流す水】を飛ばす。
👑11
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「お掃除だゴッシー!大掃除だゴッシー!」
「このビルをおさらばする前に、僕らの証拠を全部消していくゴッシなー!!」
猟兵たちが階段を上り切ったところ、最上階の廊下ではアヒルの被り物をしたUDCたちが大掃除の真っ最中だった。
「ゴッシー!? 猟兵ゴッシー!」
「なんでもう来てるゴッシー!?」
「しまったゴッシー!裏口から来られたゴッシー!」
「卑怯なゴッシー!」
「お掃除取りやめだゴッシー! 戦闘だゴッシー!」
「こうなったらお前たちも全部まとめてお掃除してやるゴッシー!!」
アヒル頭たちはやる気だ。どちらにせよ彼らを放置しておく理由はないし、放っておいては親玉の所にもたどり着けないのだ。戦うよりほかに道はない。
……ところで、お前ら本当にその語尾でいいのか?
猟兵たちはそんなことを思ったとか思わなかったとか、
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第二章 集団戦「ゴシゴシアヒル隊」が開始されました
おめでとうございます。猟兵たちの活躍により、攫われて改造されたUDCの職員たちは無事に傷つくことなくUDC組織に回収されました。彼らは治療により元の生活に戻れることでしょう。
そして、最上階の廊下にたどり着いた猟兵たちは、集団敵と遭遇しました。
以下に詳細を記します。
「戦場について」
ビルの五階、廊下での戦闘となります。廊下全体が戦場となり、廊下以外の場所に行くことはできません。
親玉のいる部屋を含め、五階の他の部屋には入ることはできません。
また、戦闘開始以降、四階以前に戻ることは不可能です。
窓はありますが嵌め殺しで開きません。戦闘の邪魔になるようなものは存在しません。
利用できそうなものは、ビルの廊下にあるようなものならあるかもしれませんが、使用する場合は「使えるものは何でも使う」といった様な曖昧なものではなく、「何」を「どうやって」使うかプレイングに明記して下さい。
戦闘はすでに始まっているため、前もっての準備はできません。全て戦闘と同時にこなすことになります。
閉所であり天井があるため空中戦には不向きです。廊下であるため数を絞らなくても召喚系のユーベルコードは過不足なく使用できます。
「集団敵「ゴシゴシアヒル隊」について」
アヒルの被り物をしたUDCの集団です。コミカルな造形をしていますが、UDCの証拠を消すという能力は非常に強力です。
被り物が本体であるため、肉体が傷つくことに頓着なく戦います。また、本体以外への攻撃では仮に心臓を穿ち抜いたとしても普通のオブリビオンよりもダメージが軽微となります。その体質を利用して戦います。
ユーベルコード以外にも、デッキブラシや水鉄砲を武器として戦います。棒立ちにはなりません。
第二章のプレイング受付開始は2/9(水)朝8:31からとなります。
時間帯によっては上記タグやマスターページに受付中の文字がないことがありますが、時間を過ぎていればプレイングを送ってくださって構いません。
マスターページを一読したうえでプレイングを送信してください。
それでは、親玉までの道のりの前に立ちふさがったアヒル頭の集団を排除してください。
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木々水・サライ
【狼討伐】
お、ヴィオじゃん。久しぶり。とまあ再会の挨拶はこれだけ。
……なあ、親父、ヴィオ。アレ(敵)どっちの趣味だと思う?
俺はアレ、母さんの趣味だと思う。父さんはもっと可愛いのが好きだから。
母さん、遠目に見たら可愛いのに近くで見たら絶妙にぶっっっさいくな人形を俺に渡したことあるからな……。
あと、母さんは基本的に可愛いの基準がズレてる。
戦いはUC【解放する白黒人形】でドンドンぶっ刺していくぞ。
的確に傷口を抉り、一撃必殺の勢いでやっていかねぇとな。
あ、コレ無差別だからヴィオは近づくなよ。親父はいいけど。
すまん、一言だけ言わせろ。
鳴き声が絶妙に可愛くねェ!!
やっぱこれ母さんが選出してるやつだよ!!
ヴィオット・シュトルツァー
【狼討伐】
ああ、サライ。やっぱ先におったんやな。ゲホッ。
そちらの人は……ああ、お前を育ててくれた。
どーも。従兄弟が世話んなってます。
……あー、趣味……あー。
叔父さんは……どっちかって言ったらまるっこい系が好きよな。
だから多分叔母さんの趣味やろ、これ。
叔母さんの可愛いの基準がズレてる。それな。
サライに近づいたらアカンのか。
そしたら俺はUC【暗闇の中にご用心】で遠くから攻撃するわ。
サライの影も、燦斗さんの影も有効活用出来て便利やん? コレ。
あとは適度に回復受け取っといて。
あー確かに! めっちゃそれ思っとった!!
これは叔母さんの趣味確定やわ!!
っつか、叔母さん俺の親父と趣味そっくりやったもんな!
金宮・燦斗
【狼討伐】
おや、従兄弟さん? どうも、お世話してます。
と言っても私は後ろから支えるだけなんですけど。
アレは師匠の趣味ではないですね。断言します。
師匠の趣味だったら、もうちょっと……チビちゃんみたいな可愛いのを連れてきますよ。
何処かが絶妙に可愛くないのに、可愛いと言いはる主義。これは奥方様です。ええ。
おや、サライが突撃していっちゃった。
じゃあそうですね……UC【生まれ出るは虚無の仔】を発動。
サライを加速、敵は減速の指示を与えます。
こうしないとみんなやんちゃだから掴みたがるんですよね~。
あー、なるほど。確かに絶妙に可愛くない。
師匠はこれ、絶対奥方様に押し切られましたよね。
押しに弱いんだから、全く。
●ゴーッシッシッ、敵陣の真っただ中で雑談とは舐められたもんゴッシなー!!
「げほっ、ゲホガホッ、ぜひゅー……」
「お、ヴィオじゃん。久しぶり」
「ああ、サライ。やっぱり先に来とったんか……ごほっ、ゲッホゴホッガッホ!!」
「いやお前大丈夫か?」
「おや、大丈夫ですか? 医者の出番ですか?」
「いや仮にそうだとしても親父の出番は永久にねえよ、ねえから。引っ込んでろ」
「あー、唯の運動不足なんで……えーと、そちらのヒトは……ああ、お前を育ててくれた。どーも、従兄弟が世話んなってます」
「おや、従兄弟さん。どうも、お世話してます。と言っても私は後ろから支えるだけなんですけど」
本当に? 本当にお世話してるの? 金宮燦斗が? お世話されてる方じゃなくて? 地の文はとんでもなくそのへん気になったがそんな場合ではない。此処は既に戦場だ。
「無駄話してる余裕があるゴッシー!?」
「ムカつくゴッシなー!無視すんなゴッシー!」
アヒル頭の両手からアヒルちゃんスポンジが500個くらい放たれる。そのスポンジに含まれた超強力分解酵素の効果の凄まじさたるや、壁に貼られたポスターがスポンジがぶつかっただけで一瞬で跡形もなくなる勢いだ。ぽこんぽこんと次々にぶつけられるスポンジを黒鉄の刃で弾き飛ばしながら、サライは背後の二人に振り返る。
「なあ、親父、ヴィオ。アレなんだがよ……父さんと母さん、どっちの趣味だと思う?」
「ゴッシー!?」
「俺はアレ、母さんの趣味だと思う。父さんはもっと可愛いのが好きだから」
「あー、趣味、あー……叔父さんは確かに、どっちかって言ったらまるっこいのが好きやな。やったらこれ多分叔母さんの趣味やろ」
「アレは師匠の趣味ではないですね。断言します」
師匠の趣味だったらもうちょっとチビちゃんみたいな可愛いのを連れてきますよ!と胸を張る燦斗。
「母さん、遠目に見たら可愛いのに近くで見たら絶妙にぶっっっさいくな人形俺に渡してきたことあるからな……」
そのサライの台詞に、一部のアヒル頭たちが反応する。
「ゴッシー!僕らは可愛くないって言うゴッシかー!!」
「暗にその人形と同じくらい絶妙にブサイクって言ってるゴッシかー!!」
「ムカつくゴッシー!ぶっ殺すゴッシー!!」
「生きていた痕跡も残さねえゴッシなー!!」
一部のアヒル頭たちは烈火のごとく怒り狂った。ぽこんぽこん、くらいだったスポンジの投球がボボボボボボボボボボボボッ!!って感じの勢いになった。それでもサライの口は止まらない。
「あと、母さんは基本的に可愛いの基準がズレてる」
「叔母さんの可愛いの基準がズレてる。それな」
「何処かが絶妙に可愛くないのに、可愛いと言いはる主義。これは奥方様です。ええ」
「はっきり絶妙に可愛くないって言ったゴッシー!!もう許さねえゴッシー!!」
「みんなー!!こいつら粉にするゴッシー!!囲んで棒で叩くゴッシよー!!」
「おっと、そいつぁ上手くいくかな!?」
「……ゴシッ!?」
一体のアヒル頭の頭部に、白銀に輝く刀が突き刺さっていた。脳天を貫かれたアヒル頭はそのままどろりと白い泡――洗剤らしきものに変わってばしゃりと消える。
気づけば、廊下中にサライの十二の刃――黒、白、紅、蒼、翠、琥珀、灰、黄金、紫、透明、空色、そしてもう一度黒の刃が飛び交っている。
「【解放する白黒人形(リベレイション・モノクローム)】――こいつは無差別だからな、ヴィオは近づくなよ、親父は良いけど!」
「そっか、サライに近づいたらあかんか……ほな、これでどや」
ヴィオットは【暗闇の中にご用心(シャッテン・クリンゲ)】を発動させる。アヒル頭の視界が暗闇で覆われ、サライから、燦斗から、そしてそれぞれのアヒル頭たちの影から影の刃が伸び、アヒル頭を貫いた。
「にゃーん」
「適度に回復受け取っといて」
影から出てきた影の猫の頭をなでながら、ヴィオは言う。
「ゴ……シッ……!」
「おっと、サライが飛び出して行っちゃいましたかぁ」
それでは、と口角を上げ、燦斗は己のユーベルコードを発動させる。床に描かれる魔法陣。どれだけブラシで擦ってもその魔法陣が消えることはない。そこから現れるのは、無数の燦斗の“「弟」たちの幽霊”。
「さあ、さあ。私の“弟”たち。楽しい楽しい玩具がそこを通りますよ、私に仇為す者は掴んで、私に協力する者を助けなさい――」
歌うように詠唱する燦斗。その魔法陣を踏んだサライのスピードは更にさらに速く研ぎ澄まされ、空中に散らばった十二の刃でもってアヒル頭を貫いては斬り払っていく。
「ゴッシィィィ!!逃げられないゴッシなー!!」
「……すまん、一言だけ言わせろ」
サライがアヒル頭の一体を泡に帰しながら指を突き付ける。
「鳴き声が絶妙に可愛くねェ!!やっぱこれ母さんが選出してるやつだよ!!」
「あー確かに! めっちゃそれ思っとった!!これは叔母さんの趣味確定やわ!ってか、叔母さん俺の親父と趣味そっくりやったもんな!」
「ゴッシィィィィィィ……」
「あー、なるほど、確かに絶妙に可愛くない。師匠はこれ、絶対奥方様に押し切られましたね。押しに弱いんだから、全く」
「ごっしぃぃぃ!!全然一言じゃねえゴッシー!!」
アヒルちゃんスポンジが乱れ飛び、デッキブラシが宙を舞う。被り物の上からでは表情は分からないが憤怒の声色になったアヒル頭たちを殲滅せんとサライは飛び回り、影の刃が乱立していく――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
上野・修介
※アドリブ連携歓迎
「推して参る」
階についた時点からそのまま足を止めず、敵陣との距離を詰めながら『観』据える。
周囲の地形状況、敵戦力の数と配置を確認。
あまり時間をかけたくは無い。
敵が迎撃態勢を整え切る前に速攻をかける。
UC:攻撃重視
立ち回りは基本ヒット&アウェイ。
体勢は蛇の様に低く、フェイントを交えつつ壁や天井も足場として利用しながら上下に揺さぶるように初動から常に動き回り、近くの敵を遮蔽、もしくは殴る・蹴る・ぶん投げる等で投擲物として利用し、包囲と被弾を極力回避しながら殲滅。
極力、頭の本体のみを狙う。
例え手遅れだったとしても、後できちんと身元を調べて弔えるように可能な限り身体の方は傷付けない。
●例え手遅れだったとしても
「推して……参るっ!」
修介の足は止まらない。アヒル頭の集団たちの中に突っ込みながら、全体を観据える。
廊下の長さ、曲がり角の位置、角度、部屋のドアの場所、全ての地形状況を把握しながら敵の数と配置を確認する。――常人には不可能な同時進行での脳内処理を、修介の脳は精密に行う。修介の様に突っ込めば敵集団側は逃げる準備をしていた最中だ、こちら側からの奇襲と言う形に近い。迎撃態勢を整えるまでに僅かなりとも時間がかかる。
(あまり時間を掛けたくはない――速攻をかける!)
【拳は手を以て放つに非ず】。力は溜めず、息は止めず……意地は貫く。原理は先ほど使用したのと同じ。けれど今回は攻撃力を重視する。今度は素早く、しかし確実に仕留めなければならない相手であるからだ。
「ゴッシぃ―!!」
大振りのデッキブラシの一撃を蛇のように体勢を低くして避ける。修介の後ろでは、デッキブラシの先端についた泡を諸に喰らった壁がどろどろと腐食し溶け始めていた。まともに喰らっては危険な一撃がアヒル頭の群れの中から、次々と繰り出される。だん、修介は床を蹴る力を強め、天井へと飛び上がる。そのまま天井に靴跡をつけて一回転すると、壁を押す反動で追ってきたデッキブラシを避けた。
「ゴッシぃ!? 離すゴッシよー!」
一体のアヒル頭の襟首を掴んで振り回す。遠心力のかかったそれは巨大な鈍器となって周囲のアヒル頭たちをなぎ倒していく。そのままぽいと捨てると、アヒルの被り物だけをぐしゃりと踏み潰した。
修介は決してアヒル頭たちの胴体を、否、首から下を狙わなかった。それは事前にグリモア猟兵から得ていた、頭部の被り物が本体だという情報が故。本体が被り物であるならば、それ以外の部分――体は誰か、人間のものだ。もはや息をしているものではないかもしれない、それでも、例え手遅れだったとしても、UDC組織ならば後できちんと身元を調べて、どんな形でも家へと帰してやれるのではないかと信じるがゆえに。
常に動き回り続ける修介を捕えるのは集団で戦うことを得意としているUDCと雖も困難であった。包囲しようとすればすり抜けられ、空中を舞うように逃れられ、挙句の果てに味方を武器にされてぶん投げて来られる。何度も何度も振り下ろされたデッキブラシが空を切る。
「このおお、止まるゴッシー!!」
「そう言って止まる奴は馬鹿かよほどの正直者か、どちらかだな……いずれにせよ、俺には当てはまらない」
四方から一斉に突きかかられたデッキブラシを天井に逃れることで避け、そして修介の拳がまた一つアヒル頭の頭部を吹き飛ばした。
大成功
🔵🔵🔵
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
いよぉーうお仕事ごくろーさん!
ヒトの事を汚れ扱いたぁ、
随分潔癖症のアヒル共だねぇ。
キレイさっぱりさせるのは悪かないが、
悪事の傷跡はしっかり残していきな!
道徳のための反面教師、って奴さ!
最上階までカブで乗り付けたのはこのためさ、
開始早々【人機一体】発動!
アーマーを纏って『衝撃波』でスポンジたちを迎撃しながら、手近な消火栓へ駆け寄りアヒル共に向かって放水!
水の勢いも相まって、奴らを押し返すくらいはできるだろ。
そうして動揺させている内に、マスクを狙った熱線と電撃の『属性攻撃』で被り物をこんがり焼いてやる!
汚物(オブリビオン)は消毒だぁー!
……てアレ?これ悪役の台詞だっけ?
●そう言った彼女は悪鬼もかくやと言った形相をしていた
「いよぉーう、お仕事ごくろーさん!」
ガシャン、ガシャン、ガシャン、パワードアーマーが駆動音を立てる。
「ご、ごっしぃ……?」
怯えた声を出すアヒル頭たち。それに構わず、多喜はアヒル頭たちに話しかける。
その姿は一変し、【人機一体(チャージアップバディ・ジャンクションドライブ)】によって宇宙カブJD-1725と一体化し、カブが変形したパワードアーマーを身に纏った多喜は、軽快なトーンでアヒル頭どもに話しかける。
「ヒトの事を汚れ扱いたぁ、随分潔癖症なアヒルどもだねぇ……」
しかしその軽快な声色とは真逆に、多喜のバイザー越しの視線は鋭い。
「キレイさっぱりさせるのは悪かぁないが、悪事の痕跡はしっかり残していきな……道徳のための反面教師、って奴さぁ!!」
「ややややややべえゴッシー!!なんか知らんけどこいつやべえゴッシよー!!」
「構わねえからやっちまえゴッシー!!」
スポポポポポポポポポポポポポ!!超強力分解酵素を含んだアヒルちゃんスポンジがアヒル頭たちから発射される。避ける多喜だったが、スポンジは追跡属性を持って多喜を追ってくる。そのスポンジに触れたものがどうなるのかは、多喜を追いかける途中でぶつかった木製のドアが一瞬でボロボロになったところからも明らかだった。
「オラぁッ!!」
多喜が放った衝撃波がアヒルちゃんスポンジたちを叩き落す。その間に多喜は走る、目標は――消火栓だ。
本来消火栓を起動させるには七つほどの手順が必要だ。しかし今はそれを待ってはいられない。迫りくるのは炎ではなく、もっと手ごわい敵なのだから。叩き割らん勢いで起動ボタンを押し、赤色灯の点灯を待たずしてホースを無理矢理に引き出す。バルブを開け、開閉レバーを次々と開いていく。ややあってノズルから放水が始まり、ホースの先から怒涛の勢いで水が噴き出した。
「ごっしぃぃぃぃぃ!!」
水に押し返された数体のアヒル頭が後退する。ビル内にジリリリリリリリリとベルの音が鳴り響いた。階下の人々は何事か起きたのかと慌てているかもしれないが、この最上階へたどり着くには時間がかかるだろう、それまでに仕留める!これは、速攻作戦なのだから!
「オラオラオラ、汚物(オブリビオン)は消毒だぁッ!!」
パワードアーマーから発射されるメーザーと電撃によってアヒル頭たちがこんがり焼けていく。戦場では、動揺した者からいともたやすくトチッて死ぬ――アヒル頭たちが断末魔の叫びをあげた。多喜はそのまま片手にホースを握ったまま、放水と熱線の照射とを続けていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎
…見た目と口調はなんていうか割とアレだけど。能力的にも状況的にも軽視していい手合いじゃないのよねぇ…
あたし、どっちかと言えばこういう閉所戦闘のほうが得意なのよねぇ。
●鏖殺・狂踊起動、狙うは壁・床・天井、それに先に撃ちこんだ銃弾。ソーン(障害)の弾丸を混ぜておけば跳弾させる射角の選択肢も増やせるし、相手の邪魔もできるしで一石二鳥かしらぁ?
どういう理屈と成分の洗剤か知らないけれど…絶対生身で扱ってタダで済むような生易しいものじゃないわよねぇ、あれ。きっちり撃ち落としましょうか。
逃して後々余計な事されても困るし、一匹残らずしっかり潰しきっちゃいましょ。
●終幕を落とすタランテッラ
猟兵たちの猛攻によって、アヒル頭のUDCたちは次々と駆逐されていく。グリモア猟兵から先だって伝えられていた通りに被り物を本体とするアヒル頭たちは肉体が傷つくことになんの頓着も見せずに猟兵たちに襲い掛かるが、「頭部が本体である」との情報を得ている猟兵たちによって――一部、そんなことはお構いなしに全身を滅多切り滅多刺しにしていた者たちも居たが――的確に処理され、数を減らしていた。
「な、ななななななんだこいつらゴッシー!」
「やべえゴッシー!!」
「話が違うゴッシなー!!」
「あらぁ、話ってどういうことかしらぁ?」
恐慌状態に陥ったアヒル頭の耳に、脳が蕩けるような甘い甘い声が吹き込まれる――ティオレンシアだ。
「ごっしぃぃぃぃぃ!?」
スポポポポポポポポポン、とどこかコミカルな音を立ててアヒルちゃんスポンジが一斉発射される。
(……見た目と口調はなんていうか割とアレだけど。能力的にも状況的にも、軽視していい手合いじゃないのよねぇ……)
「逃して後々余計な事されても困るし、一匹残らずしっかり潰しきっちゃいましょ」
幾百と飛んでくるアヒルちゃんスポンジを避け、あるいはダガーを投げて打ち落として行くティオレンシア。しかし彼女はすぐに気が付く。スポンジに触れた投擲用のダガーたち、どれもこれもそんじょそこらの安物ではない。本来ならばスポンジを貫けば天井に刺さると予想していたが、すべて床に落ちている。刃先から貫通力が失われているのだ。見れば、刃が一様にぐじゅぐじゅに崩れている。スポンジに含まれた超強力な分解酵素の所為だと、ティオレンシアはすぐに悟った。
(どういう理屈と成分の洗剤か知らないけれど……絶対生身で扱ってタダで済むような生易しいものじゃないわよねぇ、これ……!)
ポポポポポポポポポポポポポポポポ、四方八方から投げつけられるアヒルちゃんスポンジたち。ティオレンシアは武器を変えた。ダガーから、弾丸へ。シングルアクションリボルバー・オブシディアンに弾丸を込め、スポンジを撃つ。普通の弾丸の速さでは本来スポンジを貫いてしまうところだが、ルーンの力で弾丸自体の速度を下げ、天井、壁へと縫い付ける。
「さぁて、それじゃあ御立ち合い。一指し御付き合い願いましょうか。……嫌だと言っても逃がさないけれど……ね?」
――あたし、どっちかといえばこういう閉所戦闘の方が得意なのよねぇ。
【鏖殺・狂踊(アサルト・タランテラ)】――起動。狙うはアヒル頭そのものではなく――壁、天井、床、そして先程スポンジを撃ち落とすために放っておいた弾丸だ。間断ないオブシディアンからの連射と、跳弾によって不規則な三次元弾幕が形成される。
「ゴシッ
……!?」
飛び交う弾丸の中で、避けきった筈の弾丸に背後から貫かれたアヒル頭が白い泡状になって絶命する。ユーベルコードの効果によって、跳弾の威力は三倍に上がっている。さらに、ティオレンシアがあらかじめ弾丸に刻んでおいた障害のルーンの効果のおまけつきだ――ただのビルの廊下であった筈の場所はすでに、ティオレンシアの狩り場と化していた。飛び交う弾丸が壁を床を天井を跳ねまわり、アヒル頭たちを白い泡へと変えていく。
そして、すべてのアヒル頭がいなくなった後、ティオレンシアは蕩けるような甘い甘い声で言った。
「まったくもう、こんなに汚して。何がお掃除だっていうのかしらぁ」
後にはただ、白い泡と洗剤が撒き散らされているばかりだった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『ヴォルフ・E・シュトルツァー』
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POW : じゃあ、癌は切除しなきゃな?
【医療用メス】が命中した対象に対し、高威力高命中の【医療用高圧電流】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : アンナ、助手を頼めるか?
自身が戦闘で瀕死になると【共に死んだ嫁】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
WIZ : 俺に切除出来ねぇモノは無い!!
【怒りと憎悪】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【共に死んだ嫁の持つカバン】から、高命中力の【相手を追い続ける医療用メス】を飛ばす。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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廊下にいたUDCの集団を倒した猟兵たちは、突き当たりの部屋へと雪崩れ込む。
そここそが、今回の事件の黒幕「ヴォルフ・E・シュトルツァー」の隠れ家であった。
「来たか、世界の癌どもが――俺の手配した掃除屋どもは役に立たなかったようだな」
そう言う黒コートの男の横で、ふわりふわりと揺れる白い女の影。
「あらあら、そんなこというものじゃないわ、あなた。せっかく来て下さったんですもの、歓迎して差し上げなきゃ」
「……ああ、そうだな。懐かしい顔もいる。ゆっくりとは言わねぇが、せいぜいじっくり相手してやろう」
ヴォルフのその言葉と共に、天井の照明がカッと光輝いた。
「俺の改造手術室にようこそ、癌ども。さあ、手術(オペ)をはじめようじゃねぇか」
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第三章 ボス「ヴォルフ・E・シュトルツァー」とその嫁「アンナ」が現れました。
おめでとうございます。猟兵たちの活躍により、廊下にいたUDC集団はすべて排除され、今回の事件の黒幕の隠れ家へと辿り着きました。
以下に、戦闘の仔細を記します。
「戦場について」
十畳ほどの広さの部屋です。中央に手術用の大きなベッドが存在しています。
室内であり、ほどほどの高さに天井があるため空中戦には向きません。戦闘に利用できそうなものは壁や床、ベッドなどの他は特にありませんが、同時に戦闘の邪魔になるものもありません。
そこそこの広さがあるため召喚したものが詰まることはありません。
天井はすべて手術用の照明と同じつくりのものがとりつけられており、とてもまぶしい光に照らされています。
何らかの仕掛けが施されているのか、室内はこの光によって、たとえユーベルコードやアイテムであっても「闇」や「影」の生成には本来よりも二倍の時間が掛かるようになっております。そして、戦闘の間――UDCが生きている間、この照明は破壊などによって排除することが出来ません。
大光量の光と同時に高熱もを発しているため、天井を歩く・天井に飛び移るなどということもできなくなっております。ご注意ください。
部屋に踏み込んだところからリプレイが始まるため、事前の準備などをしておくことはできません。すべて戦闘と同時に行うこととなります。
「ボス――ヴォルフ・E・シュトルツァー と その嫁 アンナ について」
二人で一体のUDCです。アンナはヴォルフのユーベルコードとして扱われますが、常にその場に存在しています。
SPDとWIZのユーベルコードを用いない場合は、アンナは基本的にふよふよ浮いていますが、自分が攻撃の対象になった時は回避行動を行います。
ヴォルフはユーベルコード以外にも、医療用メスを用いた攻撃を行います。棒立ちになることはありません。
第三章のプレイング受付開始は2/16(水)朝8:31からとなります。
時間帯によっては上記タグやマスターページに受付中の文字がないことがありますが、時間を過ぎていればプレイングを送ってくださって構いません。
マスターページを一読したうえでプレイングを送信してください。
それでは、ヴォルフ・E・シュトルツァーを殺すための、最後の戦いを始めてください。
どうぞ、悔いのない戦いを。
上野・修介
※アド連携歓迎
調息、脱力、敵を観据える。
相手の得物、体格、服装、殺気から間合いと戦力を量る。
(至近に居つくのは悪手か)
――為すべきことを定め、水鏡に入る
立ち回りはヒット&アウェイ。
接近・後退時は左右へ揺さぶる様な軌道で狙いを付け辛くし被弾を抑制しつつサイドから攻める。
攻撃は当てることを重視。主に脚、胴体部を狙い、少しづつ確実に削る。
時折『本命』として真正面から突貫する拍子を量るような所作を見せる。
横からの動きに対応してきた処で真正面から間合いを詰め、敢えて半端な距離で急停止し、医者の顔と傍らの霊体狙いでタクティカルペンを投擲し虚を衝き背後へ回り込んでUCによる渾身のスープレックスを叩き込む。
●狩り、追い詰めるための呼吸
――ふっ、と、全身から力を抜く。息を整える。そのまま敵を観据える――対するは黒い男と、その傍らでふわりふわりと漂う白い女。恐らくは、今のところは――注意すべきは男の方。得物は手にした医療用のメスだろう。その体格と殺気から修介は相手の戦力を推し量る。
(至近距離に居つくのは悪手、か……!)
床を蹴り急接近。左右に揺さぶるような軌道を描きながら近づき、狙いをつけ難くして敵からの攻撃を制しながら――サイドから拳を放つ。
黒衣の男、ヴォルフ・E・シュトルツァーから放たれる医療用メス。これに当たってはいけない、傷つけられてはいけないと修介の長年培ってきた戦場での勘が告げる。すぐさまにバックステップで、斜め後ろに飛ぶように距離をとる。修介の眼前で、メスが銀色の軌道を描いた。
修介は心を水鏡の境地に落ち着ける。すなわち、水がありのままに物の姿を映し出すように、ありのままのすべてをよく観察し、その真情を見据えることのできる精神状況へ。戦いながらそれを為すのは至難の業であるが、実践と日々の地道な鍛錬で鍛え抜かれた修介の精神であればそれも可能であった。
決してひとところにとどまらず、飛び石を繰り返し踏んでいくように軌道を揺らす。右斜め前、左斜め後ろ、右、左、正面を挟んで、また右斜め前――黒衣の男の脚部と胴体部とを狙って蹴りと拳とを叩き込み――時折それが本命であるかのように正面から拳を放つ。男が振るうメスには当たらない、当たってはいけない。髪の毛一筋も切られぬように紙一重で避け続けながら、蹴り、拳を放ってはすぐさま左右に揺れるようにして離れていく、一撃一撃は若干軽くなるが、それでも「当てる」ことを重視した猛攻を繰り出していく。、
しかし、同じことを続けていれば敵も慣れてくるものだ。修介の攻撃に、男の対応が早くなる。拳が届かなくなる。敵も愚かではない、メスの初撃を警戒していることを読まれたのだろう、拳や蹴りの当たる位置にメスを構えられる。
(駄目だ――当たるわけには、行かない)
体を捻り、飛び上がり、本来狙っていた位置とは違う場所を蹴り上げて縦に一回転。
「が……ふっ……!」
男が体をくの字に折り曲げて呻く。その間に体勢を整え、真正面から殴りかかる――だが、修介の足は半端な距離で止まった。無理矢理に急停止した反動を抑え、男の顔面と横で揺れる白い女めがけてタクティカルペン――対UDC様に詠唱紋の刻まれたアサルトペンを投げつける。
「きゃあ!」
「アンナっ!」
だが、それは虚を衝く為の行動に過ぎない。男の気がペンに取られた瞬間を見逃さず、修介の体は高速で動いた。背後に回り込み、男の両脇を抱え込む。
「しまッ……」
「さあ、ここからが俺の間合いだ――」
そのまま上体を反らし、男の体ごと【――崩す】。密着状態でしか使えない大技――体を反らして男の上体を床に叩きつける、スープレックスが見事に決まる。
「がぁッ……!」
「――あらあら」
苦悶の呻きを上げる男に対し、女はどこか間延びした様子でぱちくりと目を瞬かせる。
男が起き上がる前に、修介はタクティカルペンを握りこみ、その腹へと拳を叩き込んだ――。
大成功
🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎
…死んでからも夫婦仲睦まじいことは実に結構ではあるんだけど。できればそのまま永遠に寝ててほしかったわねぇ…
ふぅん、メスが得物なのねぇ。それじゃあ…ゴールドシーン、お願いねぇ?
●黙殺起動、描くのはイサ(停滞)・ソーン(障害)・ニイド(束縛)。目には目を、刃には刃を…なぁんてね?
…ところであたし、あなたたちに怒りとか憎悪とかまるっきり感じてないんだけど。その技、ちゃんと機能するのかしらぁ?
理由?だって「そういうお仕事」だもの、別に感慨も何もないわぁ。
…それともあなた、治療するとき病原菌とかガン細胞に一々怒っちゃうタチ?もしそうなら難儀な性格してるわねぇ。
●蕩けるような甘さで
「……死んでからも夫婦仲睦まじいことは実に結構ではあるんだけど。できれば、そのまま永遠に寝てて欲しかったわねぇ……」
ティオレンシアは脳が蕩けるような甘い声でそう零した。
黒衣の男、ヴォルフ・E・シュトルツァー。そしてその横でふわふわと浮かぶ白い女。
女は抱えた医療カバンをかぱりと開け、男はそこから幾本ものメスを取り出す。
「残念だが、色々あったもんで、なァ」
「あらそう? まあ、聞く気はないのだけれど」
男はティオレンシアへとまっすぐ医療用メスを投擲した。投げつけられたメスを、ティオレンシアは数歩横に避けることで躱す。
「ふぅん、メスが得物なのねぇ。……ところで、あなたのユーベルコードだけれど」
「あァん?」
「あたし、あなたたちに怒りとか憎悪とか、まるっきりこれっぽっちも感じてないんだけど。その技、ちゃんと機能するのかしらぁ?」
「……はァ?」
「まぁ、理由っていえば……「そういうお仕事」だもの、ってところね。別に感慨も何もないかしらぁ」
猟兵にもさまざまなタイプがいる。オブリビオン、UDCたちに対して明確な敵意や存在への怒り、憎悪を抱いて戦う者。そんな存在には、黒衣の男ヴォルフの使うユーベルコードは覿面だっただろう。けれどティオレンシアは違う。淡々と仕事をこなす、仕事人だ。
「それともあなた、治療するとき病原菌とかガン細胞にいちいち怒っちゃうタチ? もしそうなら難儀な性格してるわねぇ」
「あらあら。困ったわね、あなた。医者の言うことを聞かないで、しろといったことをしないでするなといったことをする愚患者には怒りは覚えるけど、別に病原菌自体に怒ってるわけじゃあないものね?」
「……奥さんは物分かりがいいのねえ。そういうことよ。それじゃあ、ゴールドシーン。お願いね?」
ティオレンシアはシトリンの輝くペンの形をした鉱物生命体「ゴールドシーン」を取り出す。祈りに応え、願いを叶える力をもつそれはティオレンシアに無いものの代わりを務めてくれる。
「あたし、魔道の才能は本気で絶無だもの。お願いねぇ、ゴールドシーン」
ゴールドシーンがひとりでに空中を舞う。ペンの形をしたその先端、空中にインクのごとき色を残してペン先が描くのは複雑な魔術文字だ。その文字の意味はティオレンシアには一ミリも理解することはできなかったが――それで良い。肝心なのは「出来るかどうか」であって、「理解るかどうか」ではない。逆に言えば、どれほどに「理解っていた」としても、「識っていた」としても、出来なければ何の意味もないのだから。
それでもティオレンシアにもわかるものはある。新たに描き出されたそれはいわゆるルーン文字と呼ばれるもの。停滞のイサ、障害のソーン、束縛のニイド。
「目には目を、刃には刃を……なぁんてね?」
ティオレンシアがそう言うと同時、空中に描き出された魔術文字から魔力の矢と刃とが放たれる。幾何学模様を描き複雑に飛翔するそれは1210ずつ。ちょうど同数、二倍の数。
最早一つ一つを黙視することすら難しい輝く魔力の矢と刃とが、複雑なタペストリーを織り上げるようにしてヴォルフとアンナの二人を取り囲み、そして切り裂き、貫いていった。
大成功
🔵🔵🔵
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
雑居ビルの最上階に手術室かよ、
こんだけ煌々と照らしてくれるそのエネルギーにゃ恐れ入るよ。
この電気代だけで、どれだけ足が着きそうなもんか……
ま、お喋りはどうもアンタを知ってるヒトがいるみたいなんでこれ位にして。
お膳立てをしておこうじゃないのさっ!
纏っていたカブをパージし、そのパーツで『盾受け』するようにメスを受け流しつつ、『マヒ攻撃』を込めた電撃の『属性攻撃』で反撃する。
実際は痺れさせるよりも、天井の光源からの電流、漏電を誘う為だけどね。
『衝撃波』も交えて戦いつつ、じわじわ聖句を唱え上げ。
【黄泉送る檻】に夫婦仲よく閉じ込める!
誰が真に切除される相手なのか、よく考えな!
●灰は灰に、塵は塵に
「はッ、雑居ビルの最上階に手術室とはね!」
黒衣の男、ヴォルフ・E・シュトルツァーのメスを避けながら、多喜は叫ぶ。
「こんだけ煌々と照らしてくれるそのエネルギーにゃ恐れ入るよ、この電気代だけで、どれだけ足が着きそうなもんか……」
「その為にわざわざ掃除屋どもを雇ったんだよ、じゃなけりゃァあんなわけのわからねェ連中と組むもんかよ」
「あらあら、私はあの子たちのこと可愛いと思っていたのだけど。可愛いかったじゃない?」
黒衣の男の横で、白い女の影がふわふわと浮かび揺れる。
(……可愛かった、かぁ?)
多喜は先ほど自分が片づけてきたアヒル頭の集団を思い出し、いやあんまり可愛くはなかったなとかぶりを振った。どうもこの女の方は「かわいい」に対する尺度が絶妙にズレているらしい。
「……ま、アンタらにとっての懐かしい顔って奴らもいるみたいだからね、お喋りはここまでにしておこうか。――お膳立てってのを、しておこうじゃないのさっ!」
パワードアーマーとして纏っていた宇宙カブJD-1725をパージし、そのパーツでメスの猛攻を受け流しつつ、麻痺の状態異常効果を付与させた電撃を放つ。
「きゃあっ!」
「退がってろ、アンナ!前に出るんじゃねェ!」
「おっと、寂しいこと言いなさんなよ、夫婦仲よく寄り添ってな――骸の海で、永遠にな!」
「ぐぁぁ……っ!!」
多喜の電撃が黒衣の男とその伴侶を打ち据えるたび、天井の大光量照明がジジジと音を立てる。何らかの仕掛けにより彼らが力尽きるまではこの照明が壊れることはない、この照明が消えることはない――だが、逆にこの照明の「電力」、電流を操作し、漏電を誘うことならば――サイキックライダーである多喜には容易なことだ。
「“ashes to ashes,dust to dust,past to past……”」
バチリ、天井の照明から電流が稲妻の様に落ちた。それは金属――無造作に投げられたと見せかけて、多喜が誘導しておいたメスに落ちる。怯んで一瞬メスを手から放す黒衣の男、その瞬間を多喜は見逃さない!
「おらァッ!!」
多喜の生み出した衝撃波が黒衣の男を打ち据え、男を、二、三歩後退させる。それが多喜の狙っていたベストポジション。手のひらから放った高圧電流――エレクトロキネシスが、二人の男女を囲むように電流の檻を作る。
「“ashes to ashes,dust to dust,past to past……!収束せよ、サイキネティック・プリズン”!」
電撃を張り巡らせ、聖句を唱えることによりブーストされたサイキックブラスト。サイキッカーの猟兵であれば誰でも使うことのできる超基本的な高圧電流を放つユーベルコード、その百二十倍の威力を持つ【黄泉送る檻(サイキネティック・プリズン)】が、黒衣の男と白い女を囲い、劈き、打ち据える――
「きゃあああああっ!」
「ぐ……おおおおおおッ!!」
(さあ、誰だか知らないけど、こいつらに因縁のある誰か!!これがあたしに出来る精一杯のお膳立てさ!……遠慮なく、ぶちのめしてやんな!)
男女の苦悶の声を前に、多喜は心の中だけでそう叫ぶと、二人を囲む電流の出力をさらに上げていった――。
成功
🔵🔵🔴
木々水・サライ
【狼討伐】
(お前は癌になるなと言われて)
うるせェ、今の状況だとテメェらが癌なんだよ。
いい加減理解しろよ。
そんじゃあ、全力でぶっ潰してやるよ!
今日のために、12の刃を研ぎ澄ませておいたんだからなァ!!
親父、ヴィオ、準備はいいな!?
UC【無謀な千本刀の白黒人形】ッ!!
(普段は黒鉄からだが、今回は黒玉刀から逆順に使用)
『始まりは黒の記憶。寒空の下で玻璃を眺め、死を乞い願う者に黄金は輝き、灰と琥珀を用いて翠を浮かばせ、蒼と紅を映し、黒から白へと還す』
ガキの頃に俺がアンタから教わった技術を応用した戦い方だ!!
的確な部位破壊、戦闘知識、暗殺技術、傷口の上手い抉り方……。
全部、全部テメェに返してやる!!
ヴィオが攻撃を防ぎ、親父が足蹴にされ……。
やっぱり変わってねェんだよなァ……。
変わったのは……アンタら夫婦がオブリビオンになっちまったってことだ!!
(黒鉄刀と黒玉刀の二刀流を最後に構え)
父さん、母さん。
帰ってきてくれたのは嬉しかったけど、これは違う再会だ。
――テメェらを絶対向こうに還してやるからなァ!!
金宮・燦斗
【狼討伐】
やはりオブリビオンこそが癌。間違いない。
骸の海から這いずり出てきて、異物となってしまったのでしょうね。
ああ、可哀想に。さっさと切除しなくては、ねぇ?
誰にモノを言ってるんですかねぇ、サライ!
私なんてこの瞬間が待ち遠しかった!
準備なんて、とっくの昔に終わってますよ!
UC【再び現れる夕焼けの殺戮者】!
たとえ生成が遅れようとも、私はコレを出します。
コレは、私の全て。本質なのでねぇ!
私は師匠を、影で奥方様を押さえつけましょうか!
教わった全ての技能、そして作法を!
その身にお返しして差し上げますよ!
貴方が使っていた黒鉄刀、その模造刀でね!
ああ、そうそう師匠!
サライは立派に、殺人鬼への道を歩んでますよ!
私の息子となったのですし、このぐらい(この辺りで蹴られて頭を踏みつけられ無理矢理土下座)
い、いや、待って、なんでそんなに怒る……??
あれぇ……私に預けたから、そうしていいのかと思ってた……。(なお駄目)
……さて、これだけは言っておかなきゃ駄目ですよね。
――師匠、必ず還して差し上げますよ!!
ヴィオット・シュトルツァー
【狼討伐】
……やっぱ、オブリビオンになると思考もおかしくなるんかな。
俺が叔父さんに会ったのは幼い頃やけど、こんな考え方する人やなかった。
少なくとも、今のような人じゃあなかったで。それだけは言える。
準備か。正直言うとあんまり良くないけど……まあ、しゃーなしよな。
俺は飛んでくるメスを予告状叩きつけて落としてサライの道を切り開く。
サライ、思いっきりぶつけてやったれ!!
って、ヤバ。2人に怒りの感情なんて与えたら、それこそアウト。
ってことで相手のUCは俺が全部防御!
からの……UC【黒い精霊猫は真似が大好き!】でお返し!!
1度きりなんがちょいきついが……いや、これは今使うべきやろ!
叔母さんからの一撃を目一杯浴びればええわ!!
燦斗さん地味にヤバいこと言ってない?
サライがその道歩みだしたらホンマに止められへんと思うのやけど。
あーでもちょっと見てみtげふん。なんでもない。
俺もまあサライの胃痛を眺めていたい派閥ではあるんやけどね。
叔父さん、叔母さん。心配せんでも、サライは大丈夫。
俺も、燦斗さんもおるから。
●オールアップに、白と黒と<モノクローム>の花束を
「クソがッ……猟兵どもが、世界の癌がァ……!」
黒衣の男――ヴォルフ・E・シュトルツァーは傷ついた自分の身体を引きずりながら、同じく傷を負った女、アンナの体を支えて毒づく。
「うるせェ。今更になってガタガタ喚いてんじゃァねェよ。今の状況だと、テメェらの方が癌なんだよ。わかんねーのか、いい加減理解しろよ」
「――サライ」
黒衣の男は……否、ヴォルフは謝ることなど彼の名を呼んだ。誤ることなどあろうか、父親が実の息子の名を呼ぶ時に、その名を。
「……やっぱ、オブリビオンになると思考もおかしくなるんかな」
ヴィオットは僅かに唇を震わせて言う。猟兵となる前にも無数の場数を踏んできたヴィオットだ、今更戦いの場で震えることなどない。けれどこんなにも手が震えるのは、目の前の男がただ排除する対象のオブリビオンではないからなのだろう。
(俺が叔父さんに会ったのは幼い頃やけど、こんな考え方する人やなかった……少なくとも、今のような人じゃあなかったで。それだけは、言える)
そんなヴィオットの肩を叩き、燦斗が上っ面だけは優しい声で言う。
「やはりオブリビオンこそが癌。間違いないですね。……骸の海から這いずり出てきて、異物となってしまったのでしょうね? ああ、可哀想に。さっさと切除しなくては、ねぇ?」
その声はうわべこそ悲しんでいるように見せながら、状況を愉しんでいる声だった。
「燦斗……愚弟子がァ……!」
呻くように言うヴォルフ。彼がメスを握ると同時に、サライは黒鉄の刃と黒玉の刃を両の手にして一歩足を踏み出す。
「そいつには大いに同意だが、アンタはもう黙ってろ。……そんじゃあ、全力でぶっ潰してやるよ!」
――今日の為に、十二の刃を研ぎ澄ませておいたんだからなァ!!
「親父、ヴィオ、準備はいいな!?」
「誰にモノを言ってるんですかねぇ、サライ!私なんてこの瞬間が待ち遠しかった!準備なんて、とっくの昔に終わってますよ!」
景気よく答える燦斗に対し、ヴィオットは未だ胸中複雑なままだった。
(準備……正直言うとあんまり良くないけど……)
「まぁ、しゃーなしよな」
「お前は退け、サライ!そこの愚弟子は殺す!」
「うるっせェ!!いつまでもガキ扱いしてんじゃねェよ、俺は!アンタたちを!もういっぺん殺しに来てんだぞ!!」
「あらあら、遅い反抗期かしら。まあ、そんなこともできなかったものねぇ……」
柔らかな声でそう言って、アンナはぱかりと医療用カバンを開く。ヴォルフは中の医療用メスを掴み、燦斗に向けて投擲していく。
「え、あれっ、私狙ってくるんです?」
「それは……まあ、そうよねぇ、息子は傷つけたくないのが親心ですものねぇー」
「だから!俺は!アンタたちを殺しに来てんだっつッてんだろォが!?」
「愚弟子は殺す」
「ああ、もう!何がなんやら!」
雨霰の如く降り注ぐメスを、ヴィオットが予告状を投げて軌道を反らして跳ねのける。
「――サライ、思い切りぶつけてやったれ!」
「おうよ!【無謀な千本刀の白黒人形(レックレス・モノクローム)】ッ!!」
いつもならば黒鉄から使われるその刃を、黒玉の刃から振るうサライ。
「……始まりは、黒の記憶」
己の記憶で作られた刀身を、実の父親に叩きつける。
「玻璃を眺め、死を乞い願う者に黄金は輝き、灰と琥珀を用いて翠を浮かばせ――」
「ぐ、ぉっ……こいつ、は……!」
「蒼と紅を映し、黒から白へと還す……!!ああそうだ、こいつはガキの頃にアンタから教わった技術を応用した戦い方だッ!!」
――的確な部位破壊。
――戦闘知識。
――暗殺技術。
――傷口の上手な抉り方。
慈しみ愛された記憶と同時に存在する、厳しい父に叩きこまれた技術の全てを、そう、自分はここまで育ったのだと教えるように一撃、一撃を籠めていく。
「来なさい、エーリッヒ……ああ、やはり遅いですか……!」
仕掛けが為された大光量の照明の下では影と闇の生成は二倍の時間がかかる。燦斗の呼び出す自分自身の影は、未だぼんやりとして輪郭が定まらない。
「あらあら、今がチャンス、かしらぁ」
(あかん、隙が出来とる……!今、二人に怒りの感情なんて与えたら、それこそアウトや……!)
アンナの持つ医療用カバンから飛び出してくるメスをヴィオットが前に出て防ぐ。豹変した叔父への戸惑いこそあれ、ヴィオットが二人に怒りや憎悪を抱く理由はない。故に、最小限のダメージで済んだそれを、彼は愛しの精霊猫を呼び出して、返す――【黒い精霊猫は真似が大好き!(オニキス・コピー・ラブ)】。
(一度きりなんがちときついけど、これは今使うべきやろ……!)
「受けたからには、ちゃんとお返しせなならんよなぁ、オニキス、頼むわぁ」
「ふぐるにょわー」
え? 今の猫の鳴き声? 鳴き声おかしくない? ねえそれって本当に猫?
「ふぐるにょわー」
精霊猫のオニキスがぼんやりとその形を崩し、アンナの姿を形どる。彼女の抱えた医療カバンから飛び出したメスがヴォルフを襲った。
「行ったれ!叔母さんからの攻撃、目一杯浴びたらええわ!」
「ぐ、があああああああっ
……!!」
「ふふ、いい声ですねえ師匠。ああ、そうそう。そうでした、貴方に会ったら言わなきゃいけないことがあったんでした!」
――サライは立派に、殺人鬼への道を歩んでいますよ!
「…………………………………………………………………………………………はァ?」
「私の息子となったのですし、このぐらい」
燦斗にその先を紡ぐことは許されなかった。高速で黒い影が近寄ってきたかと思えば、ぐるんと視界が回る。腹部に重い蹴りを食らって呻く間もなく、頭上から踵落としが降ってくる。気づけば床を這いつくばって無理矢理に土下座の体勢にさせられ、後頭部をぐりぐりと踏みつけられる。
「今ァなんつった愚弟子? あァん? サライが? 何だって? どうしたって? テメェ何をした? あァ? オイ愚弟子。うちの息子に何をしたって聞いてんだよゴルァ」
「い、いや、待って、なんでそんなに怒る
……??」
「わかんねェのか愚弟子が。この愚弟子。金宮燦斗の燦は惨劇の惨か? 頭ン中惨劇なのか? あァ? いくらなんでも酷すぎるってモンだろォが。なんでそうなった? あ? 世界中の親に聞いても同じ感想返ってくるぞ、なんで大事な息子をこともあろうに殺人鬼にさせられなきゃならねェんだっつってんだよ、この愚物がよォ!!」
「あ、あれぇ……私に預けたんだから、そうしていいのかと思ってた……」
「良いわきゃねェだろうが頭お花畑か?」
ぐりぐりとヴォルフの革靴は燦斗の後頭部を踏みにじる。ぐりぐりと床に擦りつけられる燦斗の額。それをヴィオットは両手で口を塞いで見ていた。何か言ったらこっちに矛先が回ってきそうだったからだ。
(いや、燦斗さんが地味にヤバいこと言うてんよな……サライがその道歩み出したらホンマに止められへんと思うんやけど、あーでもちょっと見てみたげふん、いやなんでもない)
俺もまあサライの胃痛を眺めとりたい派閥ではあるんやけどね。そんなん今言うたら次は我が身や。絶対言えへん。
「あらあら、大変なこと。でもお母さんもこれは怒っちゃうわぁ、ダメよサライ」
サライはその様を見てはぁ、とため息を吐いた。
「「父さん」に足蹴にされる「親父」……やっぱ変わってねェんだよなァ……。変わったのは、アンタら夫婦がオブリビオンになっちまったってことでよ
……!!」
もう昔と同じではいられないのだ、と、サライは郷愁を胸の中で千切り捨てる。
「父さん、母さん。……帰ってきてくれたのは嬉しかったけど、これは、違う再会だ。あっちゃいけない再会だ。だからよォ……――テメェらを、絶対向こうに還してやるからなァ!」
黒鉄の刃と黒玉の刃、二つの刃を両の手に握りしめて、サライは告げる。
「そう、そうですね……これだけは、言っておかなきゃ駄目、ですよね……」
「あァ? まだ何かあんのか恩を仇で返しやがってこの脳味噌惨劇野郎」
「……いえ。師匠、必ず還して差し上げますよ、ってね!」
「ッ!? この、愚弟子が……ッ」
燦斗が力技で黒鉄刀を抜き、ヴォルフを押さえつける。
「きゃあ!?」
「アンナっ!? 愚弟子、テメェ
……!!」
「失礼、奥方様!!」
長い長い時間をかけて形を取ったエーリッヒ……燦斗の影が本体と同じようにアンナを拘束していた。
「【再び現れる夕焼けの殺戮者(コール・アゲイン・アーベントロート)】……例え不利となっても、私はこれを使うつもりでしたよ、コレは私の全て、本質なのでねぇ!」
「テメェ、まさか時間を稼いでたとか言うんじゃねェだろうな、愚弟子ィ……」
「ええと、半分はそうです」
「この愚物がァ!!」
「ふふ、貴方に教わった全ての技法、戦いの作法、全てその身にお返しして差し上げますよ――貴方が使っていた黒鉄刀、その模造刀でね!」
ざん、黒鉄の刃が薙がれ、血しぶきをまき散らしてヴォルフの手が落とされる。血をぼたぼたと零しながら応急処置をしようとするも、組み付いた燦斗に体の関節を固められて適わない。
「クッソがァァ
……!!」
「……よくやったぜ親父。……さよならだ、「父さん」「母さん」」
「叔父さん、叔母さん。心配せんでも、サライは大丈夫。……俺も、燦斗さんもおるから」
「ああ。そうだ。俺はもう、大丈夫だ。……だから」
もう二度と、帰ってこないでくれ。
サライの握る二振りの黒い刃が、ゆっくりと、しかし確実に、二人の首を刈り取った――。
「悪い、一人にしてくれ」
「え、あ、けど……」
「はぁ、そうですか。じゃ、行きましょうか」
ヴォルフの再びの死により、室内の灯りは消えた。
夫婦の屍はゆっくりと、しかし確実に、じわじわと消失していく。
オブリビオンの屍は残らない。もはや彼らの二度目の死は。埋葬されるものではない。
ただ。ゆるゆると骸の海へと帰っていくだけ。
燦斗とヴィオットは部屋を出た。
この日を境に――ヴォルフ・E・シュトルツァーが、現れることはもう、二度とない。
出演を終えた役者に、満開の花束を。
白黒の花で飾られた、モノクロームの花束を――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2022年02月20日
宿敵
『ヴォルフ・E・シュトルツァー』
を撃破!
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