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アポカリプス・ランページ⑯〜雪時雨

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 かつてデトロイトと呼ばれた都市は、その原型を全く留めていなかった。
 あらゆる物質・概念を「機械化」する能力を持つマザー・コンピュータは、デトロイトの都市全てを「増殖無限戦闘機械都市」に変形させてしまっていた。都市そのものが戦闘機械となったしまったその場所は、最早母の体内と同義。
「物事はシンプルにいきましょう。私の決戦兵器のひとつ、増殖無限戦闘機械都市によるグリモア必殺計画。さあ、かかっていらっしゃい」
 自身が創造した超巨大コンピュータのコアの中で、マザーは薄い笑みを浮かべた。


「激戦が続ているけれど、皆身体は大丈夫かい?」
 慌ただしく猟兵たちが行き交うグリモアベースの一角で、ディフ・クライン(雪月夜・f05200)は穏やかに話を切り出す。フィールドオブナインとの戦闘はどれも熾烈を極めているが、少しずつ流れは猟兵たちへと引き寄せられつつある。
「遂にマザー・コンピュータへの道が開いた。場所は元々デトロイトと呼ばれていた都市だ。マザーはそこを自身の機械化の能力で、都市ごと戦闘機械都市に変えてしまっているようだね」
 機械都市に変えられたデトロイト市は、既にマザーの手の中と言っていい。そこに猟兵を誘き寄せ、ありとあらゆる機械兵器を使って猟兵たちを抹殺しに来る。
 ビルに無数に配備された銃やミサイル。上空からばら撒かれる手榴弾や爆撃。地を走る自走式爆弾や各所に配置されたセントリーガン。デトロイト市にある工場で次々と製造される対猟兵用戦闘機械歩兵。そして、それを繰るマザー自身。
 大地も空も戦闘機械で埋め尽くされたこの都市で、激しい攻撃を凌ぎながらマザーを撃破せねばならない。
 だが、問題点はもう一つある。
「この戦闘都市が厄介でね。転移してきた猟兵を全員、この都市に閉じ込めてしまう。転移を担当したグリモア猟兵ごとだ」
 そう告げたディフは、考え込むように腕を組んだ。
 普段、予知を担当したグリモア猟兵は転送後は安全地帯で待機している。それは予知を担当したグリモア猟兵が死ぬと、新たな猟兵を呼ぶことも、転送した猟兵たちを帰還させることも出来なくなってしまうからだ。
「今回は転送したグリモア猟兵……つまり今回はオレだけれど、オレも皆と同じ戦場に居ることになってしまう。グリモアを確実に排除したいんだろうね。オレ自身は戦える身ではあるけれど、皆の帰還の為にも今回はあまり積極的に前に出ることはしないつもりだ。……とても歯がゆいけれどね」
 戦場に居るならば、仲間は護りたいと思うのがこのドールだ。だがそれによって猟兵たちの帰還を妨げてしまっては本末転倒だ。ゆえに、ディフは既に自分のすべきことは心得ている。
「ただでさえ熾烈な戦いになる。自分の身くらいは自分で守れるから、オレのことはそう気にしなくて大丈夫だよ。ただ、見かけた時に危なかったら、ちょっとだけ手伝ってくれたら嬉しい」
「けれど、閉じ込めてられてしまえばマザーは物量で攻めてくる。足を止める暇もないかもしれないから、皆も気をつけるんだよ」
 ほんのりと心配そうに眉を下げ、ディフは真白の雪華のゲートを開く。しんと冷たいそれに触れて、ディフは改めて皆の顔を見渡して。
「必ず全員帰還させるから、必ず全員で帰ろう。誰一人、欠けてしまうことのないよう。約束だ」
 そう言って、静かに笑った。

 ゲートの先から漂う硝煙と油の匂い。
 母の肚の中で今、激戦が始まる。


花雪海
 閲覧頂きましてありがとうございます。花雪海と申します。
 此度は「アポカリプス・ランページ」の一舞台、『増殖無限戦闘機械都市』へとご案内致します。

●プレイングボーナス:【グリモア猟兵を守りつつ、増殖無限戦闘機械都市の攻撃を凌ぎつつ、マザーと戦う】
 ディフを守ることは必須ではありません。ディフ自身も死なないことを大前提に動きますので、お声がけ程度でも十分です。
 有り難くもプレイングでお声がけを頂いた場合、ディフもリプレイにご一緒させて頂きます。面識の有無に関わらず、ご自由にお声がけ下さいませ。喜びます。

●プレイング受付・締め切り・採用について
 当シナリオに断章はありません。
 プレイング受付期間は、【9/20(月)8:31~9/22(火)22:00】を予定しております。
 オーバーロード使用に関しては、MSページに記載してありますのでご参照下さい(必須ではありません)
 また、今回グループ参加は【1グループ2名様まで】でお願い致します。
 もし再送になってしまった場合は、返却されたその日のうちに再送頂けますと幸いです。

 それでは、皆様の熱いプレイングをお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『マザー・コンピュータ増殖無限戦闘機械都市』

POW   :    マシン・マザー
全長=年齢mの【巨大戦闘機械】に変身し、レベル×100km/hの飛翔、年齢×1人の運搬、【出現し続ける機械兵器群】による攻撃を可能にする。
SPD   :    トランスフォーム・デトロイト
自身が装備する【デトロイト市(増殖無限戦闘機械都市)】を変形させ騎乗する事で、自身の移動速度と戦闘力を増強する。
WIZ   :    マザーズ・コール
【増殖無限戦闘機械都市の地面】から、対象の【猟兵を撃破する】という願いを叶える【対猟兵戦闘機械】を創造する。[対猟兵戦闘機械]をうまく使わないと願いは叶わない。
👑11
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栗花落・澪
念のためディフさんに【オーラ防御】を付与
ごめんね、なるべく気は回しておくけど
状況次第では気づけないかもしれないから
危なくなったらなんでもいいから声出して
必ず聞き取る

防御を全てディフさんに当てる代わりに自分は防御を捨て
致命傷だけは避けつつ【激痛耐性】と回避重視

【指定UC】を発動
【聞き耳】で兵器類の音や方向を聞き分けつつ素早い【空中戦】
攻撃用の花弁で機械武器を切断したり
【高速詠唱】で炎魔法の【範囲攻撃】を行いまとめて誘爆させる
機械が相手ならやりようはあるよ

更に連続爆発により発生し続ける爆煙を煙幕代わりにマザーさんに急接近
★杖で落雷を起こす【属性攻撃、全力魔法】で
マザーさん目掛けて強力な感電攻撃




 戦端は唐突な爆発音によって開かれた。
 連続する爆発、そして銃撃音。機械歩兵が関節を軋ませて駆ける音。都市の至る所で聞かれたそれは、だがある地点に重点を置かれている。
 グリモア必殺計画。それが指し示す狙いはひとつ――今ここに転送するゲートを構築したグリモア猟兵を、確実に殺す事。
 
 止まない銃撃音は位置を変えて響き続ける。更にそこに重点的に襲う爆撃を追えば、黒尽くめのドールが駆け抜けている場所がわかる。
 あからさまに向けられた大量の攻撃兵器は、マザーの殺意と計画完遂の意識の高さを否応にも感じさせる。そこに、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は飛び込んだ。
 物陰に隠れて一息ついていたディフを、突如優しく温かなオーラが幾重にも包み込む。花の香りで織ったヴェールのようなそれに驚いてディフが咄嗟に上を向くと、そこに小さな天使がいた。
「澪!」
「ごめんね、なるべく気は回しておくけど、状況次第では気づけないかもしれないから。危なくなったらなんでもいいから声出して。必ず聞き取る」
「待って、澪。こんなに手厚いオーラをオレに施して、貴方はどうする……っ」
「僕は大丈夫。なんとかするよ」
「……っ、ユーラ」
 大丈夫と笑った澪に、ディフは雪華の杖を向けた。召喚された深海の精霊が、澪の体を淡い水の膜で包む。
「数度の攻撃なら防ぐはずだ。援護をありがとう、澪。澪も気をつけるんだ、よ……ッ」
 ディフの言葉は、隣接するビルから叩きつけられる銃撃音にかき消された。返事を返している暇はない。澪は一瞬で豪華絢爛なドレス姿に変身すると、聖なる杖【Staff of Maria】を振りかざして飛んだ。
 澪自身の防御は全てディフに充てた。自分の防御を捨てた分、ある程度の怪我は既に覚悟済みだ。水の護りがあるとはいえ、そう何度もの攻撃には耐えてくれないだろう。ならば、致命傷だけは避けつつ我慢と回避重視で空を翔けるのみ――!!
「まずは……そこ!」
 舞い散る花弁を纏って、澪は手近なビルへと飛ぶ。窓にずらりと並んで銃を斉射し続けていたのは、マザーの生み出した対猟兵戦闘機械兵の一部隊だ。その銃口は容赦なく澪へも向けられる。
「機械が相手ならやりようはあるよ!」
 高速で飛んで弾丸の雨を出来るだけ縫う。避け切れぬものは水の膜が弾き、その分膜に穴が空いていく。だが、水の守りが消えてしまう前に澪の花弁が刃一閃と空を切った。弾丸も機械兵も真っ二つに切り裂いて、バチリと弾けた火花を後目に澪は更に上空へと翔け抜ける。
 止まってなど居られない。ビルそのもの、ひいては都市全てがマザーの手の内だ。機械兵の一部隊がやられようと、更に別の機械兵器がすぐさま澪とグリモアに銃口を向けるだけ。キリのない戦闘に終わりを見つけるなら、マザーを止めねばならない。
「なら、ビル一個くらい――!!」
 杖に炎魔法が宿る。遂にビルの上空に達した澪を狙って、屋上に配置されたミサイルポットや武器を構えた機械兵が引鉄を引いた――その瞬間、澪は杖をビルに向けた。
 
 それは、まるで隕石が墜ちるかのようだった。
 
 特大の火球が放たれる。火薬を使った武器などひとたまりもない。火球が飲み込んだ兵器が次々と爆発を起こし、補給ラインの弾丸にまで引火してビル全体が轟音と共に崩壊を巻き起こしていく。
 土煙と爆煙が一瞬にして一帯に広がる。それは同時に、マザーのモニターやセンサーから澪とディフを覆い隠してしまっていた。
『……くっ、対象をセンサーからロスト、一体どこに……っ』
 マザー自身は、戦闘機械兵器の大部隊に守られた巨大戦闘機械の中に居た。此処で最も大きく硬く強い兵器、これそのものがマザーでありコアとなるコンピュータである。
 センサーが使えないのならば、マザー自身の目視も索敵に加えて分析すべきか。そう思案し、現場の判断を怠ったたったの数瞬の隙に。
 
 爆煙の中から、澪が飛び出した。
 土煙に汚れた姿に、既に水の守りはない。爆発の衝撃や熱風であちこちに傷を作りながらも、澪は真っすぐマザーに急接近する。
 驚愕したマザーの目に飛び込んできたのは、澪が振りかざした杖が落とした一条の雷。
 一億ボルトにも達する強力な雷が、マザーの乗る巨大戦闘機械を貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

亞東・霧亥
グリモア猟兵から気を逸らしつつ攻勢に出るための策。

【UC】
ディフ・クラインのレプリカをありったけ作製する。
これは『攻撃や衝撃を受ける事で特殊な電磁波を発生させ、敵の行動を阻害する仕掛け罠』のため、非常に精巧である。

これをクラインの周辺、ビル内、路地裏、大通り、スラム、マザーに辿り着くまでのルートに次々と配置していく。

俺を襲う敵には『残像』を攻撃させ、『暗殺者』の技術を用いた的確な『切断』による『解体』か『グラップル』での『部位破壊』を試みる。

「マザーへの道は俺が切り開く!それと、クライン!周囲の動きが鈍い敵にトドメを!だが、決して無理はするなよ!」

戦友として、お前の事は頼りにしてるぜ。


パティ・チャン
■POW
ここでディフさんが倒れてしまっては、この世界から帰れないばかりか、今後他の世界で起こるであろう事件を予見して伊田だけ無くなってしまう!

なるほど、とんでもない事を考えたモノですね……

それでは、UC展開後、分身妖精を[オーラ防御]展開の上、ディフさんの護衛に配置。
完全にマザーの手の内で有ることを考え、どんな戦闘機械を、どこから出してこられるか解らないので、[学習力、情報収集]は怠らない。
反撃用の[カウンター]と、緊急事態に備えて[医術]の用意も

物量には、私も物量!
仲間のとの連携で防御の枚数調整の上[2回攻撃、なぎ払い、カウンター、属性攻撃、鎧砕き、衝撃波]で攻撃

※連携・アドリブ共歓迎




「ここでディフさんが倒れてしまっては、この世界から帰れないばかりか、今後他の世界で起こるであろう事件を予見していただけ無くなってしまう! ……なるほど、とんでもない事を考えたモノですね……」
 フェアリー故の小さな体を活かし、狭い場所や機械兵器の隙間を縫ってパティ・チャン(月下の妖精騎士・f12424)が飛ぶ。
 以前からグリモアや予知の存在を知るオブリビオンは居た。だが、直接的にグリモア猟兵を狙った攻撃は今回がはじめてであろう。
 パティが言う通り、予知を担当したグリモア猟兵が倒れれば今此処に転移した猟兵は援軍を呼ぶことも帰る事も出来ない。あとはここに残された猟兵たちを確実に殺してしまえばいいということなのだろう。そうして全て静かになってしまえば、マザーは心置きなく永遠の思考に身を浸せる。
 だが、それを簡単に受け入れるわけには行かない。いくつもの死線を潜り抜け、困難に打ち勝ってきた猟兵であればこそ、そんな企みに否を突きつけるのだ。
 
 亞東・霧亥(夢幻の剣誓・f05789)もまた、すっかり原型のないデトロイト市街の片隅で策を巡らせていた。各所では戦闘の始まった音が響いている。銃撃音や爆発音、轟音が響いたかと思いきや、都市を貫く落雷が巨大な機械兵器を貫いていた。
 こういった場合、敵のボスは最も高く、最も強く、最も固く、そして最も目立つところに居るのがセオリーだ。恐らくはマザーもあの巨大な機械兵器の中。落雷に打たれても未だ健在の兵器ではあるが、少なくとも計器やセンサーの類はやられたはずだ。いくらマザーと言えど復旧に多少の時間を要するだろう。その隙を、霧亥は見逃しはしない。
 何と言っても今回は敵の手中で踊るようなもの。場所も数もすっかり分が悪い中、倒されてはならぬ者がいる。それ故霧亥が案じるのは、グリモア猟兵から気を逸らしつつ攻勢に出る為の一計。
「起きろ」
 ユーベルコードの起動の合図はただの一言。
 それによって起き上がったのは、無数の『ディフ・クライン』。そのレプリカである。『攻撃や衝撃を受ける事で特殊な電磁波を発生させ、敵の行動を阻害する仕掛け罠』を仕込んだレプリカは非常に精巧だ。マザー自身でもある超巨大コンピュータですら、一見しての見分けは困難であろう。
 霧亥はマザーのセンサーが修復される前に、レプリカを機械都市の各所――ビル内、路地裏、大通り、スラムなど、マザーに辿り着く迄のルートに次々を配置していく。そして攪乱の意味でも、ディフ本人の周囲にも。突然現れた自身のレプリカに一瞬の驚きを見せつつも、霧亥の姿を確認し、ディフはそっと笑んで頭を下げた。

「それでは、皆さん!!」
 同時刻。
 マザーの一時的な隙を狙い、パティもまたユーベルコードを展開する。それは無機物を武双した、パティを模した妖精群へと変える技だ。
 此処は最高に都合がいいと、パティは不敵に笑った。なにせ此処は戦闘機械都市。周囲を取り囲むのは無機物ばかり。マザーの放った戦闘機械兵も弾丸もミサイルも爆弾も、全てがパティの軍勢へと成り得るのだから――!!
「全軍、全速前進!!」
 設置された兵器を全て妖精の大軍勢へと変えて、パティは光剣を高く掲げて叫んだ。

 その頃、センサー類の回復を完了させたマザーが、動きを再開させていた。放たれた強力な落雷はマザーの駆る巨大機械兵のみならず、その周囲の電子機器全てに影響を及ぼしていった。使い物にならなくなったセンサーを捨て、復旧と同時に新たなセンサーを取り付けた機械兵を生み出して補う。その間の戦闘行為は、全て事前にプログラミングされた通りだ。
 都市に閉じ込めた猟兵全てを抹殺する。
 その単純で、かつ強力な指令はどんな状況であれマザーの指示なしにも充分に機能するようになっている。
 だが。
『これは……ダミーを使う者がいましたか』
 センサー類を復旧し、届く情報にマザーは不機嫌に眉を顰めた。都市の至るところで、複数の「ディフ・クライン」、そして小さな軍勢による攻防が行われていたのだ。

 地より湧き出でた戦闘機械兵と、妖精の軍勢がぶつかり合う。上空から降り注ぐ手榴弾を払いのけ、往来どころか建物にも無数に設置されたセントリーガンの斉射には、何人かの妖精たちを犠牲にしながらも応戦する。
「左の道が開きました、手薄な方から回り込んで攻めますよ! 貴方たちはあっち、護衛をお願いします!」
 パティ自身も戦闘機械兵の腕を光剣で叩き斬りながら指示を出す。一部の妖精たちをグリモア猟兵の護衛に向かわせつつも、パティはこの戦況をじっと分析していた。
 ここは完全にマザーの手の内だ。どんな機械兵器を何処から出してこられるか解らない。というか、どんな機械兵器も何処からでも出してくるのだ。だが、マザー自身が完全にコンピュータではなく、生体コアであることにパティは着目していた。オブリビオンであってもヒトであったことには違いない。ならばランダムかと思われている敵の出現方法にも必ずクセや法則性が見えてくるはずだ。その為に情報収集は必要と断じ、パティはそれを決して怠らなかった。
「何か見えたか」
 霧亥がパティの傍に駆け寄る。思案しながら戦う彼女の様子に気付いたのだろう。霧亥を追ってブレードを振り上げる戦闘機械兵を残像でやり過ごし、瞬間的にその背後に回り込んで雷迅と名付けられた刀で的確に解体する。
「はい! 多分、間違ってないかと!」
 そうしている間にも考えを纏めたパティは、不敵に笑って頷いた。戦闘音に紛らせるようにして伝えた考えは、霧亥も納得するに足る。
「よし、わかった。マザーへの道は俺が切り開く! それと、クライン!」
 考えが纏まったならば、パティと霧亥はすぐに実行に移した。ここでは時間をかけることはそのまま猟兵側の消耗に繋がる。求められるのは迅速果断な行動だ。パティが準備に入り、霧亥は未だ戦闘が続く市街で名を呼ぶ。そう呼ばれて霧亥と目線が合う人形は一人だけだ。
「周囲の動きが鈍い敵にトドメを! だが、決して無理はするなよ!」
「了解した、任せて」
 涼やかに返る声に、水の矢が機械兵を貫く音が重なった。あまり長くの会話はマザーにディフ本人の居場所を気取られかねない。けれども、最後に一言だけ。
「戦友として、お前の事は頼りにしてるぜ」
 目を細めて笑う霧亥に、ディフもまた柔い笑みを浮かべて。
「オレもだよ。ありがとう、霧亥、パティ、二人とも気をつけて。帰りのゲートで待ってる」
 それは約束。そして誓い。
 誰一人欠けることなく、此処を出る為に。
 
『いくらダミーを作っても、いくら自分で軍勢を作ってみても、この都市の中では些細なことです。それを上回る物量こそ、シンプルな強さなのだから』
 コアの中で分析を繰り返しながら、マザーが戦闘兵器たちに指示を出す。この圧倒的有利な戦場の中で、たった一人を探し出す為の複雑さに必要性を感じないのだ。
『全て全て殺す。それが最もシンプルな答え』
 永遠の思索へと耽るために、マザーは指令を下す。グリモア猟兵と全ての猟兵を殺すために、今見える全てを殺せと。

 ――だが、その黒き願いに否を突きつけてこそ。
 
「シンプルシンプルと、マザー。貴女さては難しいこと考えるの嫌いですね!?」
 不意に何処かから響くパティの声に、マザーはモニターから顔を上げた。
 真正面の大通りには、霧亥とパティ、そして彼女の軍勢だけがいる。
『何を言っているのでしょうか』
「いいや、何度も思考を中断してシンプルに行こうなんて言っているのがいい証拠だ。だから気づかなかった」
『……っ、これは!!』
 いつの間にかマザーが駆る巨大機械歩兵の周りにいた護衛たちが居ない。それもその筈だ。たった今、マザー自身が近辺に居た機械兵器たちに指示を出したばかり。誘き寄せられたことに気付かずに機械兵器たちがレプリカやパティの軍勢を狙って散った結果、軍勢の本隊が通る為の道――即ち、大通りが開いていた。
「今更気づいたって遅いですよ! 物量には、私も物量! 全軍突撃!!」
 パティの凛々しき号令と共に、妖精軍はマザーの乗る巨大機械兵器へと襲い掛かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

藤代・夏夜
はぁいディフちゃん
サイボーグオネエエージェント参上よ!
義によって助太刀致すってやつね♪

一番狙われるのディフちゃんかしら
でもいい感じの戦闘機械作っても
“届かなきゃ意味ない”わよね?
て事で使えるものフル動員でやってやるわ!
戦闘機械は捉え次第念力でガッと掴んで
軌道変えて仲間のいない所へ突っ込ませたり
空中で握り潰して壊しちゃいましょ
近い所のはUCで直々にぶっ壊しコースね!
足りなければ自慢の怪力でメキョッと
片っ端からジャンクにしてマザーへGOよ

手癖足癖が悪くてごめん遊ばせ~
だってディフちゃんを傷つける気満々なんですもの
そんなの私の目がゴールデンな間は許さなくってよ♪

世界も仲間も
ハイドウゾ
なんてあげないわ




 マザーと猟兵たちの攻防が続いている。
 だが、増殖無限戦闘機械都市と化したデトロイトには、未だ猟兵の数を圧倒してやまぬ程の戦闘機械がある。マザーの注意が一時一方向に逸らされようとも、彼らに与えられている命令はシンプルに一つ。猟兵とグリモアを殺せ、だ。

 なれど上等。鉄の空に咲く露草色を。鋼鉄の手足に銀の煌きを。
 そして常に忘れぬ笑みを携えて、そのUDCエージェントは何処だって軽やかに駆け抜ける。

 機械兵が迫る。振り上げたブレードが黒き背に吸い込まれそうになる瞬間、飛び出した露草色がその腕を捉えて力任せに放り投げる。重い音と共に飛んで行った機械兵は、仲間を何体も薙ぎ倒してゴロゴロ転がっていった。
「はぁいディフちゃん。サイボーグオネエエージェント参上よ!」
 殺伐とした戦場に不似合いな程明るい声。弾む楽しさを隠しもせずに、その青年――藤代・夏夜(Silver ray・f14088)はまるで青空と太陽みたいに笑っていた。
「夏夜?」
「イエス! 義によって助太刀致すってやつね♪」
「……ありがとう、夏夜。とても助かるよ」
 バッチーン!と金の瞳でウィンクをすると、まるで星が飛び散っているようだ。いつだって楽し気に笑うことを忘れない夏夜の笑みにつられるように、ディフも瞳を和らげる。
「一番狙われるのディフちゃんかしら」
 金の瞳が、ディフを追ってくる機械兵器を見遣る。都市全域で戦闘は発生しているものの、此処に差し向けられる敵兵の量は明らかに違っていた。
「そのようだね。恐らく転移を担当したグリモア持ちを優先的に狙うんだろうと思う」
「ふふん?」
 マザーにより創造される無数の兵器たち。ドローンも機械兵も次々と投入されており、キリも果てもないようにさえ思える。
「でもいい感じの戦闘を機械を作っても、“届かなきゃ意味ない”わよね?」
 だが、どんな時もマイナスの面ばかりを見ず、小さなプラスを見つけるのがオネエのいいところ。当たり前だからこそ見逃す「届かなければ意味がない」と一点を、夏夜は起死回生の策へと定めた。
 決めたならあとは、迅速果断に実行すべし!
「なら使えるものはフル動員でやってやるわ!」
 夏夜の笑みが一層に深くなった。
 
 かくしてサイボーグオネエエージェントと戦闘機械兵器がぶつかり合う。
「近づいてくる戦闘機械は、こう!」
 二人の傍に近寄る機械兵を、夏夜は念力でガッと掴んで軌道を変える。そのままパワフルに腕を振り回せば、夏夜の描いだ腕の軌道通りに機械兵が突っ込んでいった。仲間の居ないところで上半身をすっかりビルの壁に埋めた機械兵は、藻掻けども簡単には抜け出せない。銃口を向けるドローンも、捉え次第念力でギュッと握り潰せばスクラップの出来上がりだ。
「近いところのは、直々にぶっ壊しコースね! 届かせやしないわよ!」
 飛び掛かってきた飛び掛かってきた機械兵には、微笑みと共に音速を超える速度で繰り出される飛び蹴りが炸裂した。機械の四肢から放たれる強力な蹴りは、速度も相まって頑丈な機械兵を真っ二つにするに足る。
「で、最後に……こう!!」
 更に別方向から襲い掛かる機械兵を纏めてロケットパンチで殴り倒し、夏夜自慢の怪力でメキョメキョッと潰す。ボールのように一纏めにされた機械兵を、夏夜は全力でぶん投げた。その先に居るのは巨大な機械兵器――即ち、マザーの居場所。
 咄嗟にマザーのガードに入った戦闘機に機械兵のボールが直撃し、まるで玩具のようにバラバラになって崩れていく。
 それを見届けて、夏夜は不敵に笑った。
 
『なんということですか、ただの一人にこうも簡単に!』
「手癖足癖が悪くてごめん遊ばせ~。だってディフちゃんを傷つける気満々なんですもの。そんなの私の目がゴールデンな間は許さなくってよ♪」
 コアの中で怒りを露わにするマザーに、夏夜は軽く受け流す。フィールドオブナインを相手に、夏夜には全く気負いがない。
 この男といい、今の戦況といい、物量的には圧倒しているはずなのに。
 何故か状況が上手くいかないことにマザーは静かな怒りを燃やす。
『ならばその目、その身体、潰してスクラップにして、私の機械兵器の一つに生まれ変わらせてあげましょう』
「やれるもんならやってみなさいな。世界も仲間も、ハイドウゾなんてあげないわ」
 マザーの射抜く視線すら一笑のもとに跳ねのけて。夏夜は譲らない信念の為に再び銀の手足に力を込める。

大成功 🔵​🔵​🔵​

向坂・要
こりゃまた盛大なお出迎え、ってやつですねぃ。
それじゃ、こっちもお礼しねぇと

お前さん達もそんなもん生み出すのは不本意ってもんでしょ
さぁ、いきなせぇ

語りかけるは大地と水

【全力魔法】【範囲攻撃】でUCが生み出すのは大地を貫く荊をもつ霜柱
【毒使い】としての【属性攻撃】による機能低下や腐食も狙いつつ、生み出される戦闘機械を端から貫き破壊を狙う
同時に霜柱により味方の盾も形成し

一番の狙いは味方の露払い、およびルート確保
【第六感】も活かし味方の穴、不足を補う様行動

後ろは任せましたぜ
と口元に笑み浮かべ
帰り道を護る戦友(ディフ)へ確かな信頼と共に背を任せる
ふと湧き上がる高揚感に
悪くねぇ
と内心呟いて




「こりゃまた盛大なお出迎え、ってやつですねぃ」
 転移するなり放り込まれた敵の大軍勢の最中。
 右を見ても左を見ても、上も下も機械兵器だらけの状況に、わかっていたとはいえ向坂・要(黄昏通り雨・f08973)は肩を竦める。今までいろんな戦場を見てきたが、都市全体が敵の本体であり体内であり決戦場であるとは、また珍しいものだ。
 何にせよ、いくつもの銃口や武器が要に向けられている。熱烈な歓迎への応対は早い方が良い。
「それじゃ、こっちもお礼しねぇと。お前さん達もそんなもん生み出すのは不本意ってもんでしょ」
 どんな歓迎相手だろうが、要の態度は常と変わらない。迫る機械音にも飄々とした笑みを浮かべながら、要は鋼鉄の大地に手を当てた。分厚い鉄の大地は触れると冷たい。最早此処に大地などないと、マザーによって全て機械へと変えられてしまったかのように感じられるが、それでも要は意識をもっともっと深くへと送っていく。
 大地は死なない。水は死なない。星が生きている限り、深く深くで必ず息衝いているものだ。
 ――理不尽に押さえつけられて、憤る大地が見える。底の底で力強く流れている水が見える。
 ならば要が添えてやるのは、ただの一手。
「さぁ、いきなせぇ」
 呼び声はユーベルコードとなって大地と水の怒りを呼び起こす。
 ドローンが飛ぶ。戦闘機械兵がブレードを振り上げる。地を自走式爆弾が滑走する。だがその地が震え――。
 
 爆音と共に、鋼鉄の大地を荊を持った巨大な霜柱が貫いた。
 
 周辺の機械兵やドローンが纏めて空へと打ち上げられる。間髪入れずに巻き起こるのは大爆発だ。霜から発生する冷気に不具合を起し、或いは荊に貫かれて損傷して部品を撒き散らしていた機械兵器やドローンたちが、自走式爆弾の爆発に巻き込まれて次々と誘爆したのだ。
 思いの外の大爆発だったが、それに見惚れている程呆けても居ない。更に霜柱を生み出しながら、毒使いとして巻きあがった爆風や霜柱にも毒や酸を混ぜ、破壊に至らなかった機械兵器も腐食や機能低下を狙う。霜柱や誘爆に巻き込まれれば、弱った機械兵器など余波でも充分に破壊できるだろう。要の一番の狙いは味方の為の露払い。そしてマザーへのルート確保だ。冴えわたる第六感を活かし、味方の穴や不足を補い、道を作る援護をする。此方に多めに視線を寄こしてくれるなら、むしろ好都合だ。
 だが、マザーとて要の行動を見過ごしはしない。フル稼働で生産される機械兵器を惜しみもなく投入し、次々と要を囲い込もうと円を描く。
『その程度で私の生産速度に追いつけるとでも?』
「作るより壊す方が早いってなことは、お宅さんらの方がよく知ってるんじゃねぇですかい?」
 そう言って口の端を吊り上げた要の目の前で、荊の霜柱が天を衝く。その荊には無数の機械兵器。一体が爆発すれば、傍に居た機械兵器を何体も巻き込んで四散する。爆発の光を背にしながら、要は「ほらね」と言わんばかりに目を細めて不敵に笑んだ。
 その爆発を切り裂いて、上空に武装ヘリが飛び込んできた。要へと――要が背に護る者へと一気に迫り、備え付けられたガトリングガンでハチの巣にする気だ。勢いよくバレルが回転する。大口径の弾丸が雨霰と吐き出され――しかしてそれは誰に届く前に生み出された霜柱に阻まれ、突如吹き荒れた吹雪によって機体のバランスを崩して別の霜柱に激突していった。

「こらこら、あんまり前に出ちゃだめですぜぃ?」
「大丈夫、出ないよ。援護ありがとうね、要」
 要が首だけで振り返った先で、冷気の残滓を纏うディフが静かに笑っていた。度重なる戦闘に少々疲れは見えるものの、駆けつけてくれた猟兵たちのお陰で怪我はほとんどない。
 ならば重畳。
 要は口元に笑み浮かべ、改めて前を向く。爆炎の中から機械兵器たちが迫ってくる。同じ機械兵士の残骸を踏み越え、体を軋ませて、赤く光る目が二人を威圧的に照らしている。
 それでも、背に居るのが友ならば。
「後ろは任せましたぜ」
 帰り道を護る戦友へと確かな信頼を寄せ、要は背を預ける。
「了解、任されたよ。こっちは振り返らなくても大丈夫。絶対に貴方まで通さないから」
「そらこっちの台詞ってもんですよ」
 くつくつと喉で笑って、要はふと気づいた。
 まるで鳥肌が立つように、ぞわりとする熱い感覚。胸に沸き上がる高揚感は、要自身を後押しする力になる。

 ――悪くねぇ。

 内心呟いて、要は恐れることなく地を蹴った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ドゥルジー
【邪蛸】
パウルの怒りがビリビリ伝わって来るぜ
かく言う俺もちょっとプンスコモードよ

ディフがそう簡単にやられるタマじゃねえのは知ってるけど念には念を、だ
【イーコールの匣】で空中浮遊する巨大な盾を作り出してディフを護るぜ
限界まで血ィ流して巨大で強固なヤツを精製
護りは充分な筈だ、ディフも攻撃に回りたかったら遠慮すんなよ

つーわけで護りに全力を割いた俺に残るのは炎とコレだけ
バタフライナイフをくるくる玩び
充分じゃん?と不敵に

【激痛耐性】と気迫だけで市すら駆る女に肉薄してやる
なんとかナイフが傷付けられそうな箇所めがけて振り下ろす
大した威力は出ねえかもな、でも俺は囮
パウルの怒りの射撃が火を噴くぜ


パウル・ブラフマン
【邪蛸】
オレらのマブのディフくんを狙ってくるとか
マジで生かしちゃおけないよね!
骸の海への直行便をご案内~♪

接敵中はディフくんが被弾しないよう
後ろ背に【かばう】ようにしつつ
ジャスパーの盾で防ぎきれなかった分は
展開したKrakeの【乱れ撃ち】で残さず撃ち落としていくね。

ジャスパーの挑発にマザーがノってきたら
彼女が油断した隙を突いて―UC発動!
射程を強化したKrakeを用い、腰撃ちで二砲【一斉発射】ァ!!

残り二砲は引き続きディフくん護衛用に使用。
接近してくる攻撃物を【見切り】、狙撃。
日頃の【運転】で鍛えた動体視力と【野生の勘】を舐めんなよ?
シンプルにいこうぜ。
オレ達は全員、生きてアンタの腹から出る。




 ビルの一つが土煙と爆炎をあげて崩壊する。その土煙の中を黒衣が駆け抜ける。
 物量で攻められると、どうしても味方と分断されてしまうのが厄介だ。駆ける先にある機銃を最優先で潰し、一度射線から外れるために角を曲がって――そこで待ち構えていた戦闘機械兵と真正面から鉢合わせてしまった。背にドローン。正面に機械兵。対処の判断に迷った為に生まれた隙に銃口がロックオンされる。
「やれやれ、激しいな」
 状況を判断し、それでもあきらめずに出来る一手を探る一瞬。デトロイトに響いたのは銃声ではなく場を切り裂くような砲撃音。そしてディフを挟むように降り立つ、赤と青。、
「オレらのマブのディフくんを狙ってくるとか、マジで生かしちゃおけないよね! 骸の海への直行便をご案内~♪」
 パウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)が触手に取り付けたKrakeで四方向に斉射する。触手が暴れるたびに破壊されて機械の破片が飛び散る様は、古の怪物クラーケンを想起するようだ。
 笑っている――ように見えて、その実パウルは笑っていない。肌をビリビリと痺れさせるような怒りを誰よりも敏感に感じ取っていたのは、彼の最愛、ジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)だ。明るい様子にも隠しきれぬ言葉尻の物騒さが、何より彼の怒りを物語っている。
 けれども、かく言うジャスパーとてちょっぴりプンスコモード。
「パウル、ジャスパー」
 土煙に汚れながら、ディフが二人の名をどこか嬉し気に呼ぶ。味方の援護のおかげでディフには動けぬ程の怪我はない。それでも銃弾で裂けた皮膚や、爆撃で焦げた服は隠すことが出来ない。
 聖者故の優しさか。優しさ故の聖者か。どちらにせよジャスパーもまた此度の件を許すことは出来ず、手にしたナイフで自らの腕を躊躇いもなく斬りつけた。
「ディフがそう簡単にやられるタマじゃなねえのは知ってるけど念には念を、だ」
「……ジャスパー、大丈夫なのかい?」
 ありがとうと、いつもなら真っ先に言うのに。
 今回ばかりは先にディフの口から零れ落ちたのは心配の言葉だった。パウルが周囲を引き受けている間、ジャスパーがディフの為に編み上げているのは空中浮遊する巨大な盾。そして盾を作成するために用いているのは、ジャスパー自身の血液だった。ジャスパーは出来るだけ巨大で強固な盾を作る為、限界近くまで血を流してそれを編み上げている。行動の阻害にならぬようなギリギリを知るのはジャスパーゆえであるけれど、それでも心配になることには変わりない。
 だがディフの問いに、ジャスパーは気さくに笑って返すだけ。心配ないと言外に告げながら、完成した盾を見て満足そうに頷いた。
「護りは充分な筈だ、ディフも攻撃に回りたかったら遠慮すんなよ」
「――わかった。ありがとう、二人とも」
 いつも通りの少年のような笑みに、ディフは杖を強く握り直した。

『どこまでも面倒な。ですがその盾も砲撃も、いつまでもつでしょうか。試してさしあげましょう』
 その様子を見ていたマザーが、遂に動いた。
 地響きと軋む金属音を響かせながら、マザーを乗せた巨大人型機械兵器が立ち上がる。都市全体を睥睨する程に巨大なそれの頭部分に、マザーは居た。飛ぶことが出来ぬ限りは労せず辿り着ける高さではない。
 高きにて見下ろすは神の如く。だが此処に、神を畏れ膝をつくような者が一人として居ただろうか――?
 答えは、否だ。

「つーわけで護りに全力を割いた俺に残るのは炎とコレだけ」
 バタフライナイフをくるくると玩び、ジャスパーは影を落とす巨大な機械兵器を見上げる。高きに坐し、都市そのものを武器にする母。相対するには小さな棘にもなれぬような心許ない武器一つ携えて。
「充分じゃん?」
 それでもジャスパーは高きに坐す女をねめつけて、不敵に笑った。
 
『随分と舐められたものですね。捻り潰してさしあげましょうか』
「おう、是非やってみてくれや。そういう痛みはまだ未経験だしなあ!」
 そう叫んでジャスパーが駆けだしたのと、マザーが戦闘機械兵器群に指令を出したのは同時だった。
「パウル!」
「わかってる!」
 巨大兵器の各所より放たれるミサイルや機銃の数々が、弾丸のカーテンとして三人を襲う。地からは駆ける戦闘兵器。空にはドローン。だが、相手にとって不足なし!!
 右手にバタフライナイフ、左手に火炎を灯してジャスパーが駆ける。戦闘機械兵を飛び蹴りで薙ぎ倒し、踏み台にして飛び上がって掴んだドローンを体全体を使って振り回して周囲に滅茶苦茶に乱射させて同士討ちを狙う。両手から放った火焔でドローンを焼き払って更に駆ける。置き去りにした機械兵器が向けた銃を尻尾でくるりと掴んで奪い取り、弾が尽きる迄乱射して道を開ける。ぽいと捨てたそれに残した青き焔は火種となって、それを狙撃した砲撃によって爆弾と化す。
「これじゃあ全ッ然足りねえ!! もっと寄こしてくれよ、なあ!!」
 美しく化粧を施した聖者は悪魔のように高らかに笑う。火炎すら彼を彩る舞台装置のようだ。そしてその道行きを守るのは怪物と呼ばれた男。
 ジャスパーに群がる敵を連続した砲撃で排除し、背にディフを庇いながら自分たちに接敵する戦闘機械も撃ち落す。戦闘音に紛れて静かに二人の背後に回ったドローンすら、彼の青い瞳には見えている。ドローンが機銃のバレルを回すより早く、風を切る触手がそれを薙ぎ払う。
「日頃の運転で鍛えた動体視力と勘を舐めんなよ?」
 パウルの目は一切笑っていない。意図して表情を作らねば、きっとその顔すらも。
 地上のみならず空も宇宙も自らのフィールドとするパウルの動体視力は尋常ではないのだ。高速で走る宇宙バイクを、デブリの溢れる地帯や悪路でも問題なく乗り回すには、動体視力や勘のみならず、それを受けて迅速に判断し行動出来るだけの判断力と経験も積まねばならない。その点に於いて、パウル・ブラフマンという男はこの場に居る誰よりも経験豊富な運転手だと言える。そうして培った全てを戦闘に応用した時、パウルは敵にとって怖ろしい怪物となる。
 
 ジャスパーの肌を銃弾がかすめる。カッターが滑って飛び散った血が燃える。それでも背を護る最愛を信じて一切振り返らなかったジャスパーは、遂にマザーの乗る巨大機械兵器へと取りついた。
 痛みを楽しむ間もなく、ジャスパーはなんとかナイフが傷つけられそうな箇所を探す。出来れば関節部がいい。さらに言えば、マザーが嫌がるような――。
「やっぱ配線じゃね?」
 ナイフに炎を纏わせ、ジャスパーは手近な配線に思い切りナイフを振り下ろした。断ち切られた配線に焔が引火する。小さな爆発が配線伝いに駆け上がり、巨大兵器の右足部がバチリと大きな音を立ててショートした。
『鼠のように!!』
 それは、巨大な兵器にとっては小さな爆発だ。それでもマザーの怒りを買うには充分だった。無数の戦闘ドローンがジャスパーを取り囲む。照準を定めるより先に吐き出された弾丸の雨に、ジャスパーが咄嗟に跳んだ。
「……ッ、パウル!!」
「Krake、二砲一斉発射ァ!!」
 マザーの気が完全にジャスパーに逸れる機を狙い、パウルは射程を強化したKrakeのうち二砲からありったけの弾を放った。狙うはジャスパーが起こした爆発箇所。回路と配線の一部断線により動きの鈍い右足。針の孔を通すように正確な砲撃が、ただ一点だけを正確に狙い撃つ――!!
 
 音が衝撃波になるほどの大爆発が、巨大兵器の右足で巻き起こった。
 
 歩を進めようとしていた兵器が崩れるように膝をつく。
 だがそこにはまだ、離脱中のジャスパーが居たはずで。
「ジャスパー!!!」
「――大丈夫」
 叫んだパウルの後ろから、間髪入れずに粉雪を乗せた冷たい風が吹いていった。
 爆煙から飛び出したジャスパーは、傷を増やしながらもドローンに追われながら全力で駆けている。パウルが咄嗟に狙いをドローンに定め直し、次々と撃ち落としていく。
 だが先に受けた傷も痛みもジャスパーの限界を超える、その前に。ふわりと辿り着いた粉雪がジャスパーをそっと包んだ。粉雪がそっと傷に触れると、淡く融けて包むように傷を塞ぐ。
 ジャスパーが顔を上げると、パウルの後ろで肩を息をしながら、それでも静かに笑うディフが居た。

 再び合流したジャスパーとパウルはタッチと笑みを交わし、改めてマザーを見た。
 未だ立ち上がれぬ巨大兵器の頭で、マザーは強く憎しみを滾らせて此方を見ている。母の怒りに呼応するように、周囲の機械兵器の目の全てが真っ赤に染まっていた。
「シンプルにいこうぜ」
 それに一切臆することなく、パウルがにいと口の端を吊り上げる。
 複雑な計画も難しい言葉も必要ない。目的は何よりもシンプルかつクリアなたった一つだ。
「オレ達は全員、生きてアンタの腹から出る」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナターシャ・フォーサイス
字面だけで危険とわかるこの有様…
ですがこれもまた、皆を楽園へ導くために必要なこと。
相手が神であろうと、変わることはないのです。
そも、過去から蘇りし哀れな魂であるならば…総て総て、導かねばならないのです。

【結界術】で結界を張り、【召喚術】で天使達を呼びましょう。
ディフさんには結界と天使、反射の加護で三重の防御を。
ディフさんは、ディフさんは絶対にやらせません…!!

マザーの飽和攻撃は結界と反射の加護で防ぎ、返しに【高速詠唱】【全力魔法】【範囲攻撃】で纏めて撃破します。
新たに増やすのならば、その力を封じます。
道中で【魔力溜め】もしつつマザーの許に辿り着けたなら…真の姿を開放し、全力で導きましょう。
天使達と再び【高速詠唱】【多重詠唱】【全力魔法】【浄化】の聖なる光を重ねるのです。
貴女もまた、過去から蘇りし哀れな魂ならば。

…それにしても。
何でしょうか、この感覚は…
頭に大量の情報が流れ込んでくるような。
…エリー、わかりますか?




「増殖無限戦闘機械都市」と、マザー・コンピュータは言った。
 無限に増え続ける戦闘機械は、まさにマザー自身の権能によって作られた鋼鉄の要塞であり、武器そのものである。
「字面だけで危険とわかるこの有様……」
 比喩なく、都市ひとつを全て機械化したこのデトロイト市。建物のみならず、大地も空も覆う鋼鉄は、冷たい拒絶をナターシャ・フォーサイス(楽園への導き手・f03983)に伝えていた。
 だがこれもまた、皆を楽園へと導くために必要なこと。誰一人例外はない。
 確かに此処は全て機械。武器そのものに魂はない。だがそれを繰る女がいるのだ。自らが想像した超巨大コンピュータを搭載した、最も巨大で堅牢な機械兵器の頭で猟兵を睥睨する女――マザー・コンピュータが。
 相手が神であろうとフィールド・オブ・ナインであろうと、変わる事はない。あれが過去から蘇りし哀れな魂、オブリビオンであるならば。
「……総て総て、導かねばならないのです」
 己が決めた信仰の為に。
 
 だが、導く前にひとつ、どうしてもやらねばならぬことがあった。
 鋼鉄の街を戦闘機械兵の包囲網を潜り抜けながら駆ける黒衣――此度標的とされたグリモア猟兵ディフ・クラインを守ること。「グリモア必殺計画」とマザーが呼ぶ計画を阻止する為にはどうしても完遂せなばならないミッションだ。
 青空のような瞳にその姿を映した瞬間、ナターシャは天使達を召喚しながら戦闘機械兵とディフの間に突っ込む。
「ディフさん!」
「……っ、ナターシャ」
 友の姿を見つけ、嬉しそうに目を細めるディフに目立った傷は少ない。だが、肩で息をしている様子は疲労を感じさせた。
「ディフさんは、ディフさんは絶対にやらせません……!! 楽園の一端を、此処に!!」
 ギリと、ナターシャは歯噛みする。使徒としての使命よりも、人としての心が先に出てしまいそうだ。ナターシャは襲い来る戦闘機械兵たちの対処を天使達に頼みながら、自身はその場で楽園の概念を敷く。召喚された楽園の祝福は、強力な守護結界を生んでディフを中心とした周囲に温かな護りで包み込む。更にふわりと飛んで光を授ければ、それが攻撃を反射する楽園の加護となる。結界。反射の加護。更に護衛に天使たち。三重の防御で護りを固めたナターシャは、決意を固めた表情でディフを見つめる。
 土煙と銃撃の跡に汚れた姿。肩で息をする様は、きっと自身を動かす魔力が減少してきたことを示すのだろう。それでもディフは、柔らかに笑みを佩く。
「ありがとう、ナターシャ。ナターシャの護りはいつも温かくて心地いいね」
「……ディフさん、ここで少々お待ちを。私は」
「行くんだろう。行っておいで。オレは大丈夫だから」
 ただ一人のマザーを倒さねば、終わらない戦いだから。
 それ以上の言葉は必要ない。どちらも分かっている。だから、ナターシャは真の姿たる機械仕掛けの翼を広げた。その姿に雪華の護りのオーラを送り、ナターシャとディフはそれぞれがすべきことへと向かった。
 
『機械仕掛けの天使ですか。なるほど、地に墜として身も心も機械にしてさしあげましょうか』
「お断りします。私は楽園の使徒。貴女の祝福は必要ありません」
『貴女に是非は問うていませんよ』
 膝をついて尚、巨大な機械兵器の頭で猟兵たちを睥睨するマザー。その視界で機械の翼を広げ、天使達を引き連れたナターシャを認め交わした言葉は、決して交わりはせぬことを確認しただけ。
 機銃やミサイルポットを搭載した戦闘用ドローン群が、ぶわりとマザーの前に浮かび上がった。まるで黒い雲のようにも見えるそれは、マザー自身が誇る圧倒的な数による飽和攻撃。個々人の戦力差は、数によって簡単にひっくり返る。それを――ナターシャも知っているから。
 戦場に楽園の概念を敷く。溢れる光から次々と姿を現した天使達が、ナターシャの周囲を守るように取り囲む。それが結界の役割を果たし、自身の防御力を十二分に上げたなら。
「貴女もまた、過去から蘇りし哀れな魂ならば」
『貴女もまた、私達の敵ならば』

 ――眠れ。
 
 白き天使たちと黒きドローン群がぶつかり合った。
 弾丸の雨霰を、天使達は反射の加護で弾き飛ばす。お返しとばかりに天使達はドローン群を一纏めに追い込んで闇祓う光で焼き払う。だが、その一団を撃破したとてすぐに同じ数のドローンが襲って来る。ミサイルポットから発射されるミサイルが天使達を狙い、接触と同時の爆発や爆風で天使達を排除し、ナターシャへと迫る。
 ナターシャと天使たちと機械兵器たちの戦闘は、高速に移動しながら角度を変えて幾度でもぶつかり合う。だが、途中からナターシャの表情は厳しいものへと変わっていた。いくら撃破したとてドローンの数が変わらないのだ。それどころか数を更に増やし、地上では機械兵器たちも集結し引鉄を引き続けている。これが「増殖無限戦闘機械都市」の真髄だというのか。
 この無限増殖をどうにかして止めなければ、勝ちを引き寄せることも出来ない。幸いにして、この現象を引き起こしている張本人とその方法はわかっている。
 中々近づけぬとて、マザーは此処にいる。眼前のドローン群を打ち払って、再びナターシャとマザーは真正面から睨み合う。
「この機械兵器を増やしているのは、貴女自身の能力ですね」
『だからどうしたと?』
 止められるものならば止めてみろと、マザーがナターシャを見下ろす。止められるなどとは思っていない。そんな目で。
 だが、マザーは知らぬのだ。ナターシャならば今、この場でその能力を――。
「封じれば良いだけのこと」
『……ッ?!』
 高速化した詠唱を天使達と多重に共鳴させ、持てる全力をただこの一撃の光に込め、ナターシャは聖なる光を幾重にも重ねてマザーへと放った。
 光はマザーを余すところなく照らす。あまりの眩しさに思わずマザーは目を閉じる。巨大コンピュータが警告を上げている。おかしな感覚がマザーの内に広がっているようだ。
 まるで自分の中を多重にロックされるような、何かが。
『……何をしたのです』
「ご察しの通りですよ」
『まさか……』

『ま さ か 私 の、機 械 化 の 能 力 を 封 じ た の で す か !!』

 自身を包む硝子を叩き、マザーが叫ぶ。
 その様子を、今度はナターシャが目を細めて微笑みながら睥睨した。

 ふと目眩を感じ、ナターシャは空中で頭を抑える。
「……それにしても。なんでしょうか、この感覚は……」
 先程から、ナターシャの頭に大量の情報が流れ込んでくるような圧迫感と目眩がある。マザーの攻撃かと思ったが、恐らくそうではない。
 何か、何か抑え込まれていた蓋が、開きそうな。
「……エリー、わかりますか」
 自らの内に問いかける。
 ナターシャの中で、幼い自分が厳しい顔をして言っている。
 
 それを知りたいなら覚悟しなさい、エリー。強く強く、もう一度自分を見失いたくないのなら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
都市全てを機械にとは、恐れ入る
兵器の数がとんでもないですね

とは言え、戦争の勝敗や
その先のこの地の世だけでなく
負けられぬさ、ここは

必ず全員で
そう言ったディフさんに、勿論と笑う
指切りや拳を合わすかわりに
くれあに、僅かでも彼の周囲に結界をと頼み
攻撃の威力軽減になれば

背に貴方と
貴方が繋ぎ帰してくれる道
それに、目標を同じくする猟兵さん達もこれだけいるんだ
大丈夫ですよ、きっと

自分は、刀抜き前へ
次々地面か生み出される機械達へ向け
歩兵は関節のような繋ぎ目や
飛行する手合いは爆弾放ちかけているものから、羽など狙い
薙ぎ払いで攻撃し、落としたい

が、兵器相手に刀では多勢に無勢
押し切られそうな場合
地に備えられた自動機関銃へ向け、綾繋の糸放ち
制御奪い、矛先を敵側へ

其方の母の願いを上書くことなど
できるとは到底思っちゃいないさ
けど、足並み崩すだけなら、やってみせる

護ろうとする彼を
撃破させない、って願いで負ける気はしないんだ




「都市全てを機械にとは、恐れ入る。兵器の数がとんでもないですね」
 乾いた風が吹き抜ける増殖無限戦闘機械都市。風に混じる匂いは火薬と炎、砂と土とオイルだけの、見渡す限りの鋼の都市。此処には草も花も木も、水も川もありはしない。
 草の代わりに機銃が。花の代わりにレーダーが。虫の代わりに自走式爆弾が走り、鳥の代わりにドローンが飛び、人の代わりに戦闘機械兵たちが跋扈する。
 ここは、どこか息苦しい。
 とはいえ。戦争の勝敗や、その先のこの地の世だけでなく。
「……負けられぬさ、ここは」
 そう口にした冴島・類(公孫樹・f13398)はひとり、戦地に立つ。その背は何処か、修羅のように凄烈な何かを秘めているようにも見えた。

「類」
「ディフさん。大丈夫です?」
「体はこの通り無事。ちょっと魔力が不足してきたけれど、大丈夫だよ。……ねえ、類」
 その背に、ディフは静かに声をかけた。
 猟兵たちが守ってくれたおかげで大きな怪我がない人形も、今は乱れた呼気を隠せずに居た。けれどもディフは己よりも、類が今ひとりで、共に居るはずの相棒が見当たらぬことに憂いを見せる。
「どうか無茶はせずにね。必ず全員で帰ろう。誰一人、欠ける事なく」
「勿論」
 そのつもりだと振り返った類は、常のようにやわらに笑っていた。
 指切りや拳を合わすかわりに、類は傍にある炎の精霊を目を向ける。煌々と燃える髪の少女の姿をした精霊は、この状況にも凛として類の傍に在る。
「くれあ。僅かでも彼の周囲に結界を。お願いしてもいいかい?」
 願えば頷いたclareは、焔の結界をディフに展開する。彼女の髪に似た煌々とした光がディフを包み込んだ。これで少しでも攻撃の威力軽減となるだろう。
 そうして類は、ディフの前に出る。
「背に貴方と、貴方が繋ぎ帰してくれる道」
 此処に連れてきた人形と、人形の作った雪華のゲート。こんな世界でも変わらずにしんと冷たいそれは、爆撃の中でも形を失わずにいる。
「それに、目標を同じくする猟兵さん達もこれだけいるんだ。大丈夫ですよ、きっと」
「うん、オレもそう思う」
 約束は確信に変わっている。
 ディフはせめてと粉雪の加護を類に施し、少しでも貴方の助けになるようにと笑う。熱と冷気を交換し合って、それが互いを守る盾となる。
 どんな死地だって、どんな苦境だって、猟兵たちは仲間と協力していつだって乗り越えてきた。
 ならばこんな荒廃した地の、敵の首魁の肚の中からであろうと生き残ってみせよう。

 幸いなことに、猟兵たちの活躍によってマザーへのダメージは蓄積している。
 彼女の駆る巨大戦闘兵器は移動に大きな難を抱え、センサー類は雷の影響ですべての修復は未だ済んでいない。妖精たちと砲撃の作った傷は確実に兵器の能力を削ぎ、最大の彼女の武器である「機械化」の能力は封じられた。現状以上に機械兵器が増えることはない。
「無限に増殖はもう出来ないのなら、やりようはあるか」
 次々と地面から姿を現す戦闘機械兵たちと、残ったドローンに目を向け、類は刀を抜いた。
「――いざ」
 刀を下段に構え、類は弾かれたように飛び出した。
 銃を構えようとしている機械たちに迫り、関節部や継ぎ目を狙って薙ぎ払う。鋭い一閃が機械であってもするりと両断する。二つに分かれていく機械の隙間から次の敵を見定めた類は、刀を逆手に持ち直して高く飛んだ。爆弾を搭載したドローンが、今まさにそれを投下しようとしていた。届く範囲のドローンの翼を狙って斬り落とし、最後に薙ぎ払って纏めて機械兵のいるところに落とす。周囲の一団を巻き込んで起こった爆発を背に、類は縦横無尽に駆けて刃を振るう。
 だが。
 
 ガキンと、嫌な音がした。機械兵器の関節部に刀が噛んでいる。
「……っ」
 力任せに引き抜くが、ただそれだけの時間でも一歩、二歩と余計に詰め寄られる。そも機械兵器相手では刀は多勢に無勢だ。相手は疲れも恐れも痛みも知らぬ機械。猟兵を殺せ、という母の命令だけを忠実に実行するそれは、同じ機械兵器がどうなろうと目的を遂行するだけ。
 刀を掴み込んでしまえば何も出来ぬと計算したか、機械兵器たちの狙いは明らかに刀とそれを持つ手に集中しだす。一体が向けられた刀を抱え込むように飛び込んできた。構わず押し斬ろうとすると、今度は抱え込んだ機械兵器ごと抱え込む様に別の機械兵器が飛び込んでくる。みしりと、重さに耐えかねる嫌な音が腕と刀に響く。このままでは身動きも出来ない。かといって刀を捨てていくわけにもいかない。
(「このままでは押し切られるか――、なら」)
 集団を無理矢理突破し、類は地に備えられた自動機関銃へ向けて、不可視の糸を放つ。綾を取って縁を断ち切り縁を繋ぐ糸は、制御権をマザーから奪ってその矛先を機械兵器たちへと向ける。
 突然の援護射撃に、機械兵たちの足並みが乱れた。そのまま数機の自動機関銃の制御を奪い、次々と味方へと引き入れて敵を殲滅する。
 だが、それを許し続けるマザーではないことは類も気づいている。フィールド・オブ・ナインの一人、自らを生体コアにした作り上げたコンピュータは、未だ健在なのだ。既に制御権の取り合いがはじまりかけていて、挙動が一定しない。埒外の力たる所以、ユーベルコードにすら対抗しうる強力な演算能力は全く油断を許さない。
『この子たちは、私の願いから生まれた私の機械兵器たち。母から子を取り上げることは許しませんよ』
 マザーの声がまるで0と1の津波のように押し寄せる。その度、機銃の制御件を取り返されそうになるけれど。
「其方の母の願いを上書くことなど、できるとは到底思っちゃいないさ。けど、足並み崩すだけなら――やってみせる」
 類はちらりと自分の背を見た。
 黒衣の人形は類の傷を癒そうと、粉雪の癒しを送っている。送りながら、自らとその背にあるゲートを守っている。
『私は私の願いの為に、貴方達を殺します』
「ええ、貴女はそうでしょうね。ですが」
 不可視の糸を手繰る指に力を込める。
「護ろうとする彼を撃破させない、って願いで負ける気はしないんだ」
 制御権を奪われそうになっていた機銃を無理矢理こちらに引き戻し、襲い来る機械兵器に銃を乱射する。
 この指離さぬ限り、もう何も、絶対に奪わせない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吉備・狐珀
グリモア猟兵を狙えば私達に隙ができる可能性は高い。
ですが、そう簡単に思い通りにならないのが猟兵です。

ディフ殿、お願いがあります。
雪の精霊の力をお借りすることはできますか?
ご自身の身は自分で守ると仰っていましたが、術を使う間はもちろん、戦闘が終わるまでウケを護衛につけます。
ウケにディフ殿の周囲に結界と護衛をお願いし、準備を整えたらUC『協心戮力』使用
起こすのは雹の嵐。
戦闘機械を凍結させ、機械をも貫通する雹でその動きを封じる。
万が一、避けられたとしても溶けた雹から私の扱う酸を含んだ毒水が機械を錆びさせ動きを鈍らせることになる。

真の目的はみけさんによる戦闘機械へジャミングとハッキング仕掛け、猟兵を撃破するという願いを阻害すること
相手はマザーの創造した戦闘機械
内外両方から一気に攻めます!

ハッキングに成功した戦闘機械はマザー討伐に協力してもらい、そうでないものは月代、ウカ、衝撃波で吹き飛ばしてしまいなさい!

統率のとれなくなった戦闘機械を隠れ蓑に紛れ、マザーの背後へ。
我が兄の剣技と炎を味わいなさい!




 グリモア必殺計画。
 これまでもグリモアや予知を知るオブリビオンは居た。だが、こうも直接的にグリモア猟兵を狙ったオブリビオンはマザー・コンピュータがはじめてだ。それだけ、オブリビオン内でも認知が進み、警戒の度合いが上がったということだろうか。
 確かに、と、吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)は思う。グリモア猟兵を狙えば、猟兵たちに隙が出来る可能性が高い。いくら猟兵が埒外の存在であるとはいえ、援護もなく帰還も出来ないということは分が悪い。
 だが、そう簡単に思い通りにならないのが猟兵だ。そしてマザーの願いは今、猟兵たちの力によって少しずつ終へと歩みつつあった。

 ディフと合流した狐珀は、手早く情報交換を行う。
 マザーは都市で最も大きい巨大機械兵器の頭に居ること。その移動兵器も移動に大きな難を抱えて歩行は出来ず、歩みは亀のように遅い事。猟兵たちの攻撃は確実にマザーの兵器の数を削ぎ、最大の彼女の武器である「機械化」の能力は封じられた。
「なるほど。では現状ある機械兵器たちがマザーの戦力の全てというわけですね」
「うん、そうだよ。どの程度戦力が残っているかは、まだ未知数だけれど……」
 都市ひとつ丸ごとを武器庫としているようなマザーだ。これ以上は増やせずとも、十二分に機械兵器を蓄えていた可能性はある。油断は出来ないが、チャンスでもある。
 狐珀はほんの少し考えながら、唇に袖をあてる。
「ディフ殿、お願いがあります。雪の精霊の力をお借りすることはできますか?」
「ネージュの力をかい?」
「ええ。お手伝いをお願いしたいのです。その代わり、ご自身の身は自分で守ると仰っていましたが、術を使う間は勿論、戦闘が終わるまでウケを護衛につけます。――ウケ、お願いします」
 名を呼ばれ、巻物を真っ白な狐が狐珀の後ろから現れた。ディフの足元に歩み寄ると、巻物使いディフの周囲にふわりとした風の結界を作り上げる。護りの力に長けたウケは、そのまま任せろと言わんばかりにふるりと尾を震わせて強く立つ。
「ありがとう、狐珀。こちらも……ネージュ、頼めるかい?」
 なんとなくその様子が愛らしいなと思いつつ、ディフもまた肩に乗っていた灰色オコジョに目を向ける。こくりと頷いたネージュは肩を飛び出し、狐珀の肩へと飛び乗る。ひやりと冷たい毛皮が、狐珀の頬をくすぐった。
「それでは、参ります!」
 準備を整え、狐珀は飛び出す。眼前には機械兵器の波。自動機銃はレールの上を走り、それぞれが武器を構えて此処へと迫る。
 だが、狐珀は決して恐れない。決して引かない。
「二つの力は一つの力に。我のもとに集いて、敵を貫く剣となれ――!」
 厳冬の雪の力を開放したネージュと、狐珀の力が強固に編みあがっていく。共に力を合わせて作り上げるのは雹の嵐。
 突如戦闘機械都市の上空に生まれた黒雲から冷気が吹き荒れる。冷気は瞬く間に嵐となり、生まれた雹が弾丸のように降り注いだ。
 厳冬の雹は戦闘機械に触れた瞬間に凍らせていき、凍り付いた場所を更に穿てば機械すらも貫通していく。まるで氷の弾丸だ。オブリビオンストームにも匹敵するような巨大な嵐が巻き起こっていた。
 ただの機械兵に、雹から逃れる術は与えられていない。あちらこちらに機械兵を閉じ込めた氷の柱を作り出し、多くの機械兵の動きを封じている。万が一、この雹を避けられたとしても、地に落ち溶けた雹から狐珀の扱う酸を含んだ毒水が広がっている。触れた機械兵たちは為す術無く錆びついていった。
 
 多くの機械兵器の動きを封じた狐珀は、ネージュと別れて走る。
 狐珀の攻撃はこれに留まらない。真の目的は、
「みけさん! 今です、ハッキングを!」
 狐珀の肩から飛び出したAIロボットによる、戦闘機械へのジャミングとハッキング。凍り付いた機械兵器に飛び乗ると、みけはすぐさまハッキングを開始する。
 探り寄せるは中枢系。機械兵器に強力に刻み込まれた「猟兵たちを撃破する」という母の願いを見つけ、それを阻害するのだ。相手はマザーの創造した戦闘機械。簡単に事が運ぶとは思っていないが、出来ないと諦めてもいない――!!
『くっ……私の、私の子達が……』
「さあ、内外両方から一気に攻めます!」
 マザーからの司令の伝達部位を焼き切り、ハッキングに成功して初期化した戦闘機械が、次々と狐珀を守るように布陣を組む。だが、全てハッキングしきれたわけではない。マザーの処理速度に追い付かず、鈍い動きで武器を構える機械兵器には素早く見切りをつけた。
「月代、ウカ、ハッキング出来なかったものは衝撃波で吹き飛ばしてしまいなさい!」
 名を呼ばれ、さあ出番とばかりに月白色の仔竜と黒狐が牙を剥く。
 樹氷に包まれたままの機械兵器を衝撃波が襲う。それはまるで樹氷を砕くが如く、澄んだ音を立てて崩れていった。
 
 雹の嵐とハッキングで、マザーの操る機械兵器たちの統率に乱れが生じている。特にドローン群が深刻な被害を受けており、この近辺に居たものは壊滅したと言っていいだろう。そんな混乱の中を、狐珀はハッキングした機械兵器を引き連れて進む。月代とウカの攻撃、そして同士討ちを狙う機械兵器の攻撃によって道を作り、時に隠れ蓑にして狐珀が目指すはただ一つ。
 マザーの居る巨大機械兵器がもう目の前にある。
 修理の追い付いていない右足を犠牲にしてでも、それは動こうとしていた。こんなものが都市を闊歩したら、それだけで被害甚大だ。そうなる前に、止めねばならない――!!
「我が兄の剣技と炎を味わいなさい!」
 マザーの背後を取った狐珀の十指には、からくりを手繰る為の絲。
 その先に、狐面の青年がいる。上段に刀を構え、その刀身に火炎を宿して高く飛ぶ。
 狙うは立ち上がろうとしている機械兵器の左腕。溶岩の如き熱で燃やした刀は機械をバターのように溶かしながら滑り込む。そしてそのまま、力いっぱいに振り切った。
 
『……っ、ああ!!』

 巨大機械兵器の左腕が焼き斬れる。支えにしていた腕の一本を落とされ、機械兵器は轟音と共に地に激突した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィゼア・パズル
【白岩】 「あぁ、承った。…砲弾と騎兵の雨霰、道を拓くは我が本懐…と。……行きますよ、フロゥラ、ダンクル。」
味方の侵攻方向の道を拓く露払いが主目的
空飛ぶ巨魚形態のDunkleへ跨り【空中戦】常時発動。できる限り敵の注意を空へ引き付け力を溜めつつ【カウンター】スタンバイ
真の姿へ移行 「先ずは、一撃目」
【属性攻撃、全力魔法・範囲攻撃】の星脈精霊術で広範囲に渡る豪風の壁を作り、背に居るグリモア猟兵の盾の代わりに。
同時に瓦礫や可能な限り敵自身を巻き上げる風の津波で機械同士の接触事故を起こさせる2撃目を放つ!
交代する様にDunkleをバイク形態へ。地面から無数に生まれる敵の一団を相手取り、次の攻撃を備える。鏃型の攻撃形態をイメージしつつ…スピードを一切落とさず突き進もう。
ーーさァ、退け。有象無象ども!


エスタシュ・ロックドア
【白岩】
はっ、なんてご無体な攻勢だよ
――相手にとって不足なし、行くか
露払いは任せたぜ、ヴィゼア

シンディーちゃんに【騎乗】【運転】
【ダッシュ】で敵の猛攻に突っ込むぜ
俺が狙うは一点集中強行突破
まっすぐマザーに向けて突っ走る
敵の攻撃は【第六感】を頼りにかわし、
あるいはフリントを【怪力】で振るって【なぎ払い】【吹き飛ばし】【カウンター】
血の代わりに青い業火垂れ流しつつ、
多少の傷は【激痛耐性】【火炎耐性】で耐える

ヴィゼアが真の姿になり良い感じに露払いしてくれたら、
敵の弾幕を隠れ蓑に俺も真の姿を解放
自走機能でシンディーちゃんを離脱させ、
ワタリガラスの姿に小型化して飛翔し【空中機動】【空中戦】
一瞬でも敵の目を眩ます
敵の攻撃が追いついてきたら『鋭晶黒羽』発動
【範囲攻撃】で俺の行く手を阻むもの全て切り刻む
ついでに羽根に紛れてマザーに吶喊
どっかに破損部位がありゃ【傷口をえぐる】ように、
弾丸の如くそこに羽根を叩きこむ

とっとと骸の海に還るんだな




 轟音と土煙が上がった。
 マザーの居る巨大戦闘兵器が地に伏したのだ。
 溶け落ちた左腕は未だ熱を持ち、既に機械化の能力を封じられた今とあっては修復もままならない。右足を機能停止に追い込まれ、左腕を失ってはもう立つことも儘ならない。
『なんてこと……なんてこと……私が、追い詰められて、いる……』
 地に擦りつけられた巨大兵器の頭部で、マザーが叫ぶ。彼女を包むコアの硝子はひび割れて、もういつ壊れたっておかしくはない。
『……いいえ、まだ手段はある。まだ、この子はやれる!』
 マザーの指が不可視のコンソールで踊る。まだやれることはあると、マザーは巨大機械兵器に搭載された総ての武装を開放し、総ての機械兵器を自らの元に集結させる。
 彼女が血眼で探しているのは、グリモア猟兵。そう、せめて、グリモア猟兵さえ殺せれば――。

「はっ、なんてご無体な攻勢だよ」
 都市全域から次々と兵器が集結してくる様を見て、エスタシュ・ロックドア(大鴉・f01818)は吐き捨てるように呟いた。
 ここまでの猟兵の攻勢でかなりの数を減らしていたはずだが、都市一個丸々を武器庫としていたようなマザーだ。矢張り備蓄は充分であったらしい。だが、それも恐らくこれで終わり。都市全域から集まるこれら兵器を全て駆逐すれば、もうマザーへの道を妨げるものはない。
「――相手にとって不足なし、行くか。露払いは任せたぜ、ヴィゼア」
「あぁ、承った」
 獄卒の笑みは凄絶に。その青き瞳が隣へと視線を向ければ、ふわりと柔らかな毛並みと柔和な見た目のケットシー、ヴィゼア・パズル(風詠う猟犬・f00024)が受ける。彼の種族にこの都市も機械兵器も、さぞ大きく映るだろう。だが、そんなものは何するものぞ。風と共にある狩猟者にしてみれば、機械だろうが都市だろうがフィールド・オブ・ナインだろうが、どれも狩るべき者という事実に変わりはない。
「……砲弾と騎兵の雨霰、道を拓くは我が本懐……と。……行きますよ、フロゥラ、ダンクル」
 故に余計な気負いなく、ヴィゼアは相棒たちの名を呼んだ。梟の姿をした風の精霊フロゥラ、鎧魚の名を冠した空飛ぶ巨魚ダンクル。それぞれに同じ敵を見据えたならば。
 狙いはマザーへの道の為の露払い。
 ヴィゼアはさ、とダンクルへと跨って、フロゥラと共に空を弾丸のように飛び出した。
 
 敵の主目的はグリモア猟兵。ならば、そこには自然と敵が集まるものだ。飛び込む起点はそこがいい。まずは下準備と、ヴィゼアはわざとダンクルのエンジンを盛大に吹かし、出来る限り戦闘機械兵たちの注意を空へと引き付ける。注意を引いたことで降り注ぐ銃弾やミサイルの攻撃は、ダンクルとフロゥラの力で正確に同じ方向へと弾き飛ばす事でカウンターとする。
 そうして、力を溜め切ったなら。
「先ずは、一撃目!」
 ヴィゼアは真の姿を開放した。ケットシーは精悍な青年の姿へと変わっていた。傷だらけのその身は数多の戦闘を乗り越えてきた証。そして、ヴィゼアはダンクルを一気に加速させると、グリモア猟兵と戦闘機械兵との間に突っ込んだ。
 着地と同時にダンクルを回転させ、フロゥラの風を纏った尾で周囲を一掃すると、すぐさまヴィゼアは星脈精霊術を発動させる。瞬間、彼を中心に巻き起こった豪風の風が更に襲い掛かる機械兵器たちを吹き飛ばす。そうして広範囲に渡る豪風の壁を作ると、背に庇ったグリモア猟兵を護る盾となる。これで機械兵器も銃弾も簡単には手出しが出来まい。
「二撃目!!」
 無論それで終わらない。
 ヴィゼアは間を置かずに豪風の壁を抜け出すと、再びフロゥラの力を借りて風の津波を引き起こした。緑の薫風は一度大きく引いて、やがて豪風の壁から巨大な津波となって増殖無限戦闘機械都市を襲う。風は地を攫って敵や瓦礫を巻き上げ、渦巻いて幾度もぶつかり合い、やがて形を失くしてぐしゃぐしゃのスクラップになっていく。
 そうして、最初の道が開いた。
「エスタ!」
「っしゃ行くぜ!!」
 愛用のバイク、シンディーちゃんに騎乗したエスタシュは、アクセルを思い切り踏み込んだ。ウィリー気味に立ち上がったバイクの後輪が、鋼鉄の床を切り裂くように駆ける。
 エスタシュの狙いは一点集中強行突破、ただ一つ。ただひたすらにまっすぐマザーに向けて突き進むのみ!!
 
 ヴィゼアが風の津波で作り上げた道が再び塞がれる前に、エスタシュは突っ走る。機銃やミサイル、果てはロケットランチャーによる攻撃も、自らの経験によって鍛え上げた勘を頼りに躱していく。
 避け切れぬ銃弾は、致命傷だけは避けながら耐えるだけだ。痛みも爆発の熱も、今は耐えられる。血の代わりに青い業火を垂れ流しながらも、エスタシュはアクセルは絶対に緩めない。そも、自由の象徴を誰が止めることが出来る――!!
 現れた装甲車が避け切れぬのなら、避けぬまでのこと。フリントと名付けられた鉄塊剣を振り被れば、ちりりと火の粉が舞う。エスタシュをロックするなり備え付けられた機銃を斉射する装甲車に、羅刹の膂力を存分に使ってフリントを薙ぎ払う。業火による熱でまるでバターを斬るように両断された装甲車の間を抜け、エスタシュは更にスピードを上げた。
 
 ヴィゼアもまた、そのまま引くわけもない。フロゥラと交代するようにダンクルをバイク形態へと変化させると、エスタシュの進むべき道へと駆けだした。地から空から、そしてマザーの巨大機械兵器から排出される敵の一団を相手取る。
 道を拓くが本懐とヴィゼアは言った。わらわらと湧き出て道を塞ぐ戦闘機械兵の打ち払ってこそ、その言葉が真となるのなら。
「――さァ、退け。有象無象ども!」
 銃弾、爆発、何するものぞ。弾丸に身体の傷を新たに増やされようとも。
 ヴィゼアは速度を一切落とさず、躊躇わず、鐵の鏃となってマザーへと一気に突き進むのだ。

 マザーへと至る道に、エスタシュを止める者は居ない。
 敵の弾幕や味方の攻撃を隠れ蓑に、エスタシュもまた真の姿を解放した。
 自走機能でシンディーちゃんを離脱させ、其処で黒き翼を広げたのは青い炎を宿す地獄の獄卒。地獄の導き手。
 爆煙に紛れてワタリガラスの姿に小型化したエスタシュは、機械の都市の空を飛翔する。冷たい鋼鉄の街には、カラスであっても命の熱と鼓動は異質だ。すぐに見つかるのも装丁はしていた。だが爆発やヴィゼアのお陰で混乱した状況では、エスタシュを捉える者は少ない。今、エスタシュの羽搏きを阻むのはマザーの居る機械兵器から撃たれ続ける攻撃のみだ。
「此処に示すは我が罪業、此の身を覆う黒単衣、以て羽撃く風切羽。――負けるかよ、切り刻むぜ」
 ワタリガラスの口角が、にいと上がったような。
 青き炎より生まれた鴉の羽が、矢のように飛んで銃弾を撃ち落していく。攻撃するのはエスタシュ自身が進むべき道だけでいい。他は全て余分だ。それらを置き去りに、エスタシュは最短距離でマザーへと吶喊した。
 
 地に伏せていた巨大戦闘兵器は、動ける右腕と左脚を使って、それでも起き上がろうと試みていた。その頭部で、マザーが憎々し気にエスタシュを見上げている。
 あの戦闘兵器の戦闘力は、全て削いでおいた方が良いとエスタシュは判断した。残しておいてもいいことはないし、何より、マザーをそこから叩き落してやらねば。
 エスタシュは岩をも刻む黒い鴉の羽根を、集中的に首の継ぎ目へと叩き込んだ。怒涛の勢いで突き刺された羽根は巨大機械兵器すら貫き――やがて。 
「とっとと骸の海に還るんだな」
 金属の破損音と、轟音。そして、激突音と地響きが空気をビリビリと揺らす。
 巨大戦闘兵器から、マザーの居る頭部が遂に地に墜ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リュカ・エンキアンサス
防戦は苦手だ
俺は殺すことしかできない人間だから
こんな先のわからない戦いは、普段なら近寄らない
けど…

灯り木で牽制しながらディフお兄さんを護る
ちょっと悪いんだけど、お兄さん隣にいて
情報の整理は星鯨、頼んだ
前出ないで
俺庇えないんだから。近寄ってくる敵相当するしかできないんだから
俺が多少怪我しようと、お兄さんは気にしなくていい
…大丈夫だよ。死にそうになったら、ちゃんとおいて逃げるから

攻めてくる敵の種類や戦法、あと位置なんかを常時探らせておこう
後は、灯り木で攻撃して片っ端から撃ち落としていく
歩兵は移動手段(足付近)、飛行機系は翼あたりの飛行手段を潰しながら、
常時敵の様子を把握して、敵や罠の少ないところに移動しながら戦うよ

…いや、別に
お兄さんなら大丈夫だろうとは思ってたんだけど
何だか放っておけなくて
柄でもないことは自覚してる
笑うといいと思うよ
自分でも柄じゃないとは思ってるんだから。どういう心境の変化だろうね
それにしても、こう…敵が固い
なんか派手な魔法ぐらい覚えておけばよかった
帰ったら、お兄さん教えて




 全てを機械にする能力を持つマザー・コンピュータ。目的は、ここへのゲートを開いたグリモア猟兵を殺す事。
 増殖無限戦闘機械都市なんて、名前だけでも面倒くさいことが伺い知れるような戦場で、しかも閉じ込められて。案の定機械兵器がたくさんで、本当にたくさん居て。
 そして、守るべき者の居る防戦だ。
「防戦は苦手だ」
 そう、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)は口にした。
「俺は殺すことしかできない人間だから」
 守るということはとても難しいことだ。殺してしまう方が、独りで戦う方が余程楽だ。守るべきものが居ると、危険な時に避けることが出来ない。守るべきものが居ると重荷になる。守るべきものが居ると――、自分の命が危うい。
 それは困る。リュカは死にたくは無いのだ。生きていたいから、先に殺してきた。
 だからそんな重荷が居て、こんな先のわからない戦いになんか、普段なら絶対に近寄らない。
「けど……」
 自分でもどうしてかわからない。
 だが、気づけばリュカはマザーの肚の中へと飛び込んでいた。
 
 戦況は、猟兵へと天秤を傾けていた。大勢は決したように思う。けれども未だ満身創痍とはいえマザーは健在で、マザーの準備していた戦闘機械兵は無限増殖することはなくなったけれど、それでも相当の数を残している。
「やれやれ、困ったな」
 戦闘機械兵を体術で捌きながら、ディフが苦笑いを浮かべる。
 この人形の場合、魔法を使えば体内の魔力を消費する。消費しすぎると動くことに支障が出るから、出来うる限り抑えられる場面では魔力消費は抑えていた。他の猟兵の施してくれた護りがあるから出来る無茶だ。だが、大勢の戦闘機械を前にそれが続くわけもない。現に既に魔力を求めて息が乱れている。
 戦闘の大勢は決しているとはいえ、だからこそマザーは主たる目的を果たさんと躍起だった。グリモア猟兵さえ殺してしまえば、その天秤を己の方に引き寄せられるはずだから。
 避け切れぬ銃弾が増えていく。流石に不味いだろうかと杖を握り締めた時、
「お兄さん、今動かないで」
 ディフの後ろから三点バーストの特徴的な音と、弾丸が飛ぶ。次いで、見慣れた星空のマフラーを巻いた少年がディフの前に滑り込んできた。
「……リュカ?」
「ちょっと悪いんだけど、お兄さん隣にいて」
 驚いた様子のディフをぐいぐいと自分の隣に押し込んで、リュカは灯り木の引鉄を引き続ける。彼の周囲を光で描いて作り出した小さな鯨の群れが漂っている。
「情報の整理は星鯨、頼んだ」
 リュカは鯨の群れの自分達の周囲に散開させると、周囲一帯の敵の種類や戦法、位置を常時探らせておく。これで危険は鯨が知らせてくれるだろう。後は片端から灯り木で撃ち落していくだけだ。
 近づく戦闘ドローンは、プロペラを狙って飛行手段を奪い去る。歩兵も同様に足を狙って移動手段を把握し、転ばせることで別の歩兵の足止めに使う。だがいかんせん敵の数が多い。捌き切れない敵の銃弾は、どうにか防ぐか受けるしかない。
「リュカ、危な……」
「前出ないで」
 庇おうと前に出かけたディフを、ぴしゃりと一言で牽制する。正直構ってられる状況ではないというのに、なんで前に出るのだ――なんて言いたげな目線を一瞬ディフに向けて、リュカは手早く灯り木のマガジンを交換する。
「俺庇えないんだから。近寄ってくる敵掃討するしかできないんだから」
「庇わなくていい。いいから」
「……ッ」
 そう言った先から、銃弾がリュカの脇腹を掠めていく。
「リュカ」
「……俺が多少怪我しようと、お兄さんは気にしなくていい」
 正直に言って痛いが、その程度は我慢できる。普段ならとっくに離脱している頃だが、それでもリュカはその場に居続けた。
 だが流れる血を、痛むであろう傷口を見たディフが、とん、と杖の先を地面につける。そこからふわりと冷たい魔法陣が展開された。
「……いや、無理だ。気になる。治療くらいさせてほしい」
「……いいけどさ」
 なんとなく、どう言っても聞かなさそうなので、好きにさせることにした。傷を冷たい粉雪が癒していくのを感じつつ、星鯨からの情報でリュカは素早く左に回り込んでいた戦闘機械兵を無力化する。
「リュカ、無理はしないでくれ」
「……大丈夫だよ。死にそうになったら、ちゃんとおいて逃げるから」
「リュカ……」
 ディフが困惑している雰囲気は、顔を見なくともなんとなく理解は出来た。出来たが、どう説明したものかはさっぱりわからない。なにせリュカ自身だって、その理由をちゃんと分かっていないのに。
 考え始めたら気が散ってしまうことを自覚して、リュカは少しだけ頭を振った。戦闘で忙しい中に考えることが増えてしまうのはいけない。余計な思考は命取りになる。物事はシンプルでいいと言っていたマザーのその言葉だけは、リュカもある程度同意出来た。

 他の猟兵の活躍で機械兵たちの数が減ったのをいいことに、星鯨からの情報を使いながら敵や罠が少ない場所へと、二人は徐々に移動していく。
 ドローンの類はもうほとんど居なかった。あとは歩兵が主だが、時折装甲車などが居るのでまだ油断も出来ない。一旦物陰に身を潜めて一息つく。灯り木の銃身がだいぶ熱い。多少冷まさねばならない。
「……いや、別に」
 周囲を警戒しつつ、少しだけ空いた思考でリュカは考えを整理するために思いを口にする。こういうのは口にしてしまうのが一番だ。頭に溜め込んでおいた分を放出するだけで、不思議と脳の容量が空いて物事が整理しやすくなる気がする。
「お兄さんなら大丈夫だろうとは思ってたんだけど、何だか放っておけなくて」
「……珍しいね。貴方はこういう戦いには来ないものだと思っていた」
「柄でもないことは自覚してる」
 リュカはちらりと隣のディフを見た。心配――しているように見える。それと同時に、不思議にも思っているのだろう。リュカがこういった防衛戦を好まないのは、ディフも知っている。しかも、グリモア猟兵が倒れれば此処から帰還することもできないという、自分の運命を他人が握っているような状況は特に好まない。
 好まないことは、変わりないのだが。
「笑うといいと思うよ。自分でも柄じゃないとは思ってるんだから。どういう心境の変化だろうね」
 どこか不貞腐れたような声音。わからないから今考えるのは止めた。そんなことよりこの状況だ。星鯨たちが、歩兵の接近を知らせている。
「笑わないよ」
 だというのに、こんな状況でも柔らかな声でディフが笑っていた。
「笑ってるじゃないか」
「そうかな?」
「自覚ないの?」
 呆れてディフを見ると、やっぱり笑っている。しかも、嬉しそうに。
「……オレが今笑ってるんだとしたら、嬉しいんだと思うよ。リュカが来てくれたから」
「……」
 なんだが座りが悪いような心地になって、リュカはふいと前を向いた。もう敵が近い。銃身もある程度冷めたことだし、リュカは再び攻撃を開始する。時折、弾丸が鋼のボディに弾かれて、小さく舌打ちをする。動く相手の同じ個所を狙撃するのは面倒だ。
「それにしても、こう……敵が固い。なんか派手な魔法ぐらい覚えておけばよかった」
 そうして小さく溜息をついた後。
「帰ったら、お兄さん教えて」
 無事に帰ったあとの話を、リュカがするものだから。
「……喜んで。無事帰ったら、とっておきを教えるよ」
 やっぱり人形は静かに、そして嬉しそうに笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・ディーツェ
成る程、俺達は獅子身中の虫かー
…でもディフは綺麗だからね、蝶を推すよ俺!

我が朋に「全力魔法」「結界術」「多重詠唱」「オーラ防御」を用いた守護のルーン魔術
俺からのささやかな贈り物さ

舞台が整ったなら【指定UC】を以て開演を

さて、一つ話をしようか
高度な脳を持った事、それがヒト種の繁栄に繋がったのは有名な話だね
…ならば、マザーの真なる「手足」は何かな?

機械歩兵達を「範囲攻撃」「ジャミング」で無効化した後に「ハッキング」
電脳ユニットを介して彼等のネットワークを掌握
しかる後「毒使い」、ウイルスを生成し汚染を広げよう

敵をマザーと植え付け、下す指令は「包囲しての抹殺」
後は彼等が導いてくれるというわけさ、母のお膝元にね

無論、敵に対策されないように目に映る施設設備も防具を接続体へと切り替え順次侵食

無数の子らに襲われる、おぞましき母君に一つ教授して差し上げよう
「暗殺」技能を用い、死角から急襲
近接戦闘技能を組み合わせ、雷の爪撃で中枢ユニットを破壊

お前、俺の友を殺そうとしたな?
ならば奈落に落ちろ、生かしては帰さん




 街の匂いは来た頃とすっかり様変わりしていた。
 瓦礫の巻き上げる土埃。爆発の名残の火薬臭さ。ごぽりと零れるオイルで地は汚れ、所々で火災が起こっている。
 フィールド・オブ・ナインが一人、マザー・コンピュータが誇った増殖無限戦闘機械都市は、最早壊滅の様相を呈していた。だが、まだ脱出は叶わない。まだ空は閉じたまま、まだゲートは閉じたまま。いくら都市が壊滅しても、マザーの能力「機械化」を封じられても、機械兵器たちがその数を相当数減らしていても。
 ここはまだ、母の中だと。母が生きている限り出る事は許さぬと。そう言っているかのようだ。
「成る程、俺達は獅子身中の虫かー」
 魔力の不足に肩で息をするディフの隣。ヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)はうんうんと頷きながら、遠くにあるマザーを見遣る。彼女が此度の元凶。そして目標。巨大な機械兵器の頭部であった部分は地に墜ち、その中で彼女は残ったコンピュータを操作しているのだろう。
 ともあれ、である。
「……でもディフは綺麗だからね、蝶を推すよ俺!」
 その背をとんと叩きつつ、ヴォルフガングはにこにこと人好きのする笑みを向ける。その様があんまりにもいつも通りで、ディフも思わず柔らかに笑み返す。
「オレが蝶かい? ふふ、ありがとう。じゃあヴォルフガングにはカブトムシを推すよ、オレ」
「かぶっ、え、なんで? なんか俺角っぽい? それとも黒っぽい?」
 完全に予想外の返しだった。
 確かにちょっと髪とか黒いけれど、言うほどでもないし。
 角? いや耳ならあるけど角は無いはず。というか何故に甲虫? 固いっぽい? いやーそれはどうかなー。
 なんて考えがぐるぐるしだしてどんどん悩み始めるヴォルフガングのことを知ってか知らずか。ディフは大層真面目な顔で頷いてみせる。
「常々カブトムシは世界一強くてかっこいいと言っている友がいて。だから、ヴォルフガングにはカブトムシかなと」
「あー俺それ誰だか知ってるよ……」
 一気に謎は解けて、ヴォルフガングは脱力した。
 とりあえず虫に関して然程詳しいわけではなさそうなディフの、精一杯のカッコいいのチョイスのようであることは伝わった。甲虫っぽい見た目だという話ではなくてよかったと、内心思ったことは言わないでおく。
「さて、少し動かないでおくれよ」
 気を取り直し、ヴォルフガングは詠唱を重ね、全力で魔力を練り上げたオーラで結界と成すルーン魔術をディフへと施す。ほんのりと冷たいようで、不思議と温かい。そんなオーラが、まるでヴォルフガングそのもののような。
 瞬くディフに、ヴォルフガングはとん、とその背を叩く。
「俺からのささやかな贈り物さ。少し隠れていられるかい?」
「身に余るほどに手厚い贈り物だよ。ありがとう、ヴォルフガング。……気をつけるんだよ」
「ん。じゃあ行ってくる」
 素直に頷いて物陰へと隠れるディフを見送って、ヴォルフガングもまた無造作に振り返る。マザーに辿り着くまでには、まだ機械兵器たちが残っている。
 ならば――。
 ひとつ策を思いついたヴォルフガングの、口角が上がった。
 脚本は決まった。さあ、開演だ。
 
「さて、一つ話をしようか。マザー・コンピュータ」
『私には話などありません』
 駆けだしたヴォルフガングの言葉を、マザーが拾う。こちらに注目している証左だ。これはいい。不意打ちもいいが、これはこれで面白いことになるだろう。
「そう言うなよ。高度な脳を持った事、それがヒト種の繫栄に繋がったのは有名な話だね」
 笑うように駆けて、ヴォルフガングは手近な機械歩兵たちの一団の前へと躍り出る。ジャミング効果のある電撃を範囲一帯に仕掛けると、それまで統率の取れた動きを見せていた機械兵器たちの挙動が途端に不安定になる。
「……ならば、マザーの真なる『手足』は何かな?」
『……私の、子達』
「ご明察。三手もあれば充分かな?」
 マザーの声がどこか震えていた。
 可哀想に。彼女が生体ユニットではなく、機械のままであれば。そんな風に想像して怖れを抱くこともなかったろうに。
 ――なんて。
 一つも可哀想になんて思っていないくせに、そんな思考をして。ヴォルフガングは目を細めた。
「そら、まずは一手」
 攻撃の手は容赦なく、迅速に。
 無力化した機械兵器たちにハッキングを仕掛けると、機械兵器たちの電脳ユニットに忍び込む。
「そして二手」
 電脳ユニットからネットワークを掌握したヴォルフガングは、更にそこに得手である毒を流す。電脳上の毒、即ちウィルスである。電脳の魔術師が流す毒は、1秒ごとにロジックを入れ替えて対処をしづらくさせ、迅速にネットワークに汚染を広げていく。巨大コンピュータの一部を破損しているマザーでさえ、それに追い付けない。
「最後に三手」
 ギチギチと不可解な挙動をしていた戦闘機械兵たちの動きがピタリと止まった。機械の瞳が金色に染まる。まるでヴォルフガングの髪を飾る金色の色が周囲一帯を染め、その全てがマザーへと向き直った。
「敵はマザー・コンピュータ。お前達の仕事は、あれの包囲しての抹殺。……ほうら、行っておいで」
 くつくつ、くつくつと。喉を鳴らして獣が嗤う。
 愉し気に下された指令のもと、金色を抱いた戦闘機械兵たちが駆けだした。後は彼らが母のお膝元へと導いてくれるだろう。
 もちろん、ヴォルフガングもそのまま悠々と無防備にしているわけではない。マザーに対策されないよう、目に見える防衛設備も身に付けた防具を接続体へと切り替えて、順次侵蝕していく。

 ここは既にお前のものではないというように。
 ここにはもう、お前のものはないというように。

『やめなさい、やめなさい、やめて!!』
 殆ど悲鳴のようなマザーの声が響く。
 必死にコンピュータを操作しているようだが、コントロールを奪い返すに至った機体数はヴォルフガングのそれに遠く及ばない。マザーの抵抗も虚しく、金色の目の機械兵は地に伏した巨大機械兵によじ登り、解体していく。
「はは、まるで蟻にたかられる砂糖菓子みたいだ」
 それを、満足そうに眺めた後。
「さあ、無数の子らに襲われる、おぞましき母君に一つ教授して差し上げよう」
 ヴォルフガングは獣の足を解放した。
 必死にコンソールを操作しようとしているマザーの死角を突き、ヴォルフガングは機械兵を足場に駆け上って一気にマザーの居る頭部ユニットへと迫る。
 ダン!!
 乱暴な音を立てて、ヴォルフガングが頭部ユニットへと着地した。分厚い装甲に守られているが、もう目と鼻の先にマザーが居る。
 恐る恐るマザーが見上げたヴォルフガングは――笑っていなかった。

「お前、俺の友を殺そうとしたな?」

 振り上げた右手に雷が迸る。逆光の中、妖しく光るのは赤の瞳とその内に燃える昏い炎だけ。
「ならば奈落に落ちろ、生かしては帰さん」
 振り下ろされた雷爪が、頭部ユニットの中枢コアを突き破った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

青和・イチ
ディフさん、僕は、ディフさんが好きだよ

……ん? ごめん、なんか言い方間違えた
大事な友達だと、思ってます
見守ってくれる姿は、歩いていく力をくれる
…僕も、ディフさんの力になりたい
絶対に守るよ

くろ丸は、ディフさんの傍で護衛して
感覚が鋭いし、素早いから、注意喚起もフォローもできる
刀で攻撃も防げるし…足手纏いにはならないよ
(ふんす!と、いつも以上の強面でディフさんの前に立つくろ丸

まずは、この周辺を抑えよう
【霆星】でディフさんの周囲の機械群を悉く感電させ破壊
増殖するそばから雷撃して、動きを止め…その隙にマザーを狙う

…すぐ戻るよ
向けるのは信頼の目
『オーラ防御』を纏い、『地形の利用』で機械を足場に駆ける
飛んでくる攻撃は『見切り』で避けたり、『念動力』で反転させてお返し
走りながら雷を降らせ、機械を感電・破壊していく

回避できない分の被弾は気にしない
『激痛耐性』と、必ず守る決意が『継戦能力』になる

…マザーさん、友達を狙った罪は、大きいよ
容赦無く、降り注ぐ雷の全てを彼女へ落とす
思索はここで、お終い




 増殖無限戦闘機械都市に、大きな爆発音が響く。
 もう何度目だろう。けれどもその爆発のひとつひとつが絶望の足音ではなくて、か細い未来への糸を手繰り寄せる音だった。
 マザー・コンピュータの計画した「グリモア必殺計画」も、ほとんど破綻したと言っていい。マザー自身が持つ「機械化」の能力は封じられ、無限増殖は止まった。有限となった機械兵器たちを、猟兵たちが各個に撃破していく。
 だが、まだ空は閉じられたまま。ディフが背に守る雪華のゲートもまた、帰還を許されてはいない。恐らくはマザー自身を撃破しない限り、この鳥籠が開くことは無いのだろう。
 僅かに残った機械兵器が、捨て身にも似た足取りでディフを目指す。あの人形さえ壊してしまえば、まだ思索を続ける為の一手を引き寄せられると信じて。
 だが、それを許さぬ者が居る。
 乾いた風に黒髪と、柔らかな毛並みを揺らす一人と一匹が。

「ディフさん、僕は、ディフさんが好きだよ」
 青和・イチ(藍色夜灯・f05526)は、ディフの正面に立ってそう言った。
 土煙に汚れ、魔力の不足に息を乱す人形に、まっすぐに、ドがつく程にストレートに。
 故にこそ、はじめは驚いたディフも、数度瞬いたのちに柔らかに微笑む。
「うん、オレもイチが好きだよ」
 人形は嘘をつかない。
 世辞でもなんでもなく、ディフはそう思うからそう返したわけだが。
「……ん? ごめん、なんか言い方間違えた」
 ストレートにはストレートで返すようないらえに、今度はイチが面食らう。そうしてやっと、言い方が多分ちょっと不味かったのだと思い当って、こほんと咳払いをひとつ。そんな姿を、イチの足元で行儀よくお座りをしていた相棒のくろ丸が見上げている。
「大事な友達だと、思ってます」
 これだ。これでいいはずだ。
「見守ってくれる姿は、歩いていく力をくれる」
 いってらっしゃいと、背を押した。
 きっと大丈夫と信じていると、笑った。
 ベニトアイトの瞳が、その歩みを、戦いを見守っていた。
「……僕も、ディフさんの力になりたい」
 友達の為に。
「ありがとう、イチ。オレも貴方を大切な友だと思ってる。だから、とても嬉しい」
 そっと、嬉しそうにディフは笑う。友と呼ばれることを、本当に嬉しそうにして。
 だからイチとくろ丸は顔を見合わせ、頷き合う。
「絶対に守るよ」
 それは約束。そして、覚悟。

 戦闘機械兵の一団が近づいている。恐らく最後の一団だろう。歩兵には焦りが見える――と言えば可笑しいかもしれないが、それはマザーの焦りをそのまま反映しているのかもしれない。
 まずは守ろう。そして終わらせよう。
 この鳥籠を開け放って、皆で共に帰るのだ。その為に、イチは膝をついてくろ丸と目線を合わせる。
「くろ丸は、ディフさんの傍で護衛して」
「イチ、オレの傍は危ないよ。くろ丸は貴方が連れて行ったっていいんだ」
 心配したように眉を下げ、ディフもまた膝をつく。
 くろ丸がイチにとってどれほど大切な相棒か、ディフも知っている。常に傍に在って、常に助け合った。まるで本当の兄妹、もしかしたらそれ以上かもしれない絆がイチとくろ丸の間にはある。
 けれど、イチはふるふると首を横に振った。
「大丈夫……くろ丸は感覚が鋭いし、素早いから、注意喚起もフォローもできる。刀で攻撃も防げるし……足手纏いにはならないよ」
 とん、と、そのふかふかの背に手を置いて。心を分け合った半身もまた、任せろと言わんばかりに「ふんす!」と鼻を鳴らして力強く立つ。いつも以上に強面も、今は頼もしさばかりを感じさせた。

「まずは、この周辺を抑えよう。……おいで」
 イチたち二人と一匹を視認して、戦闘機械兵たちが銃口を向ける。そのトリガーを引かれる前に、イチは天を見上げた。都市の上空にはいつのまにか雷雲が立ち込めている。黒く影を落とす厚い雲の下で、イチは機械兵を指差した。
 瞬間、閃光と轟音と共に空気が裂けた。
 雨の代わりに降り注いだ稲妻は、ここに迫る機械兵の一団を直撃する。感電し、基盤が電流に耐え切れずに発火して、機械兵たちが内側から燃えていく。その後ろからタイヤを鳴らして迫る装甲車にも、霆星を落とす。パリ、と、青い閃光に照らされたイチの顔は真剣で、そしてどこか静かに怒っているようにも見えた。
 迫りくる全ての機械兵を雷撃し、やがて静かになった。
 次は、もうない。無限増殖は止まり、とうとうマザーの最後の手足たる機械兵たちもそこが尽きたのだ。
「これで……ここは大丈夫だね。でも念の為、くろ丸、お願いね」
 それでも敵の主目的たるディフの為の警戒は解かない。戦いは油断した方が負けると、もう一度も幾度も潜り抜けた戦場で学んでいる。追い詰められた手負いほど、何をするか分からないものだ。
「行くんだね、イチ。気をつけて。大丈夫、くろ丸はちゃんとオレが守るよ」
「それじゃ本末転倒だよ、ディフさん」
「わかってるけど、大切なくろ丸を預けてもらうからどうしてもね」
 なかなか無茶苦茶な提案だと思う。けれど本人は至極真面目に言うし、なんとなく言っても聞かなさそうだし、今回は頷いておいた。
「……すぐ戻るよ」
「うん。ゲートの前で、くろ丸と待ってるよ」
 イチが信頼を込めた眼差しで見れば、同じように信頼の言葉が返ってくる。
 きっと大丈夫。
 言外にそう言っては頷き合って、ディフはいつものようにイチの背を見送った。

 星のオーラを纏い、壊れた機械や瓦礫を足場にイチは駆ける。
 機械兵器のほとんど壊れているが、防衛装置はいくつか健在のままだ。飛んでくる銃弾の軌道を見切ってギリギリで避けて、イチは破壊されて横転した装甲車に手をついて高く飛ぶ。
 その瞬間を狙っていたかのように、ミサイルポッドから発射音が響いた。空中では避けられないと判断してのことかもしれない――が、避けられないなら避けなければいいだけのこと。飛んでくるミサイルを念動力を使って無理矢理反転させて、元の場所へと返しておく。走りながら黒雲から雷撃を呼び、未だ動く機械兵器へと落として破壊するのも忘れない。
 イチは決して振り返らなかった。
 回避できない銃弾がイチを穿っても、イチを追いかけてきた粉雪が傷口で融けては癒していく。それだけで、大丈夫だとわかる。
 肌を焼く激痛も耐性で耐えながら走る。
 必ず守ると誓った、その決意がイチを突き動かす力になる。
 
 そして、道を塞いだ全ての機械兵器を破壊しおえて、イチは遂にマザー・コンピュータへと辿り着いた。
「……マザーさん、友達を狙った罪は、大きいよ」
 イチが見据える先にいるマザーは、もうボロボロだった。
 彼女を守る機械兵器も、彼女が駆る巨大兵器も、もう何もありはしない。彼女が作った巨大コンピュータは中枢ユニットを破壊され、マザーを生体コアたらしめていた硝子のドームは無残に砕けている。
『ここまで、ですか……残念です。必ず殺せると、思っていたのに』
 その中で、それでもマザーは残ったコンピュータに髪を繋いで、何かを為そうとしていた。諦めた口ぶりで、諦めきれていなかった。彼女を残すことは後々の禍根になると確信できる程に。
 だからイチは黒雲を集め、束ねた雷の全てを、
『もっと、思索に耽って、いたかっ……』
「だめだよ。思索はここで、お終い」
 一切の容赦なく、マザー・コンピュータへと叩き落した。
 
 パキンと、何かが割れる音。
 音の元を探るように天を見れば、空を塞いでいた鳥籠が割れて崩れていく。猟兵たちを捕らえる機能を失い、静かに静かに増殖無限戦闘機械都市は崩壊していく。
 それを見届けることなく、イチは踵を返した。
 帰還のゲートが開いているはずだ。
 
 くろ丸を迎えに行って帰ろう。
 皆が出発の時に交わした約束通り、誰一人欠けることなく。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年09月30日


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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト