荒ぶる浮き輪ボートレースwith花火
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「どうだ、乗ってくか?」
グリモアベースでそう語るのは、全身黄色の水着……否、バナナボートにその身を包んだグリモア猟兵――ゴリ・ゴリ(ミュータント・ゴリラーズ・f18193)だ。
ゴリによれば水着コンテストの行なわれた会場でやっている妖怪花火を背景に、ボートレースが行なわれるというのだ。
だが、それは単なるボートを使うのでは無い。
付喪神たる浮き輪たちに乗って争うのだというではないか。
「暗いことなど気にするな、コースはしっかりと照らされているからな」
鬼火によって照らされた海上のコースに、カッパなど水生妖怪による救助隊。
安全はバッチリ確保されたレース故に、心配は不要とのことだ。
だが、何故そこまで手厚いのだろうか?
その疑問の意味するところは――つまりは、そのレースはそれだけ激しいということ。
「どうやら荒ぶっているようだな……浮き輪たちも」
パリピな持ち主たちの影響を受けたのか、妖怪浮き輪たちの気性は荒いものだらけ。
オーソドックスな浮き輪にワニ、シャチにそれこそバナナボートまで。
夏の海を彩るビニール遊具たちは、総じて激しいスピードで海上を滑走するという。
つまりは吹き飛ばされず乗りこなせるかどうかこそ、勝負の分かれ目と言えよう。
「まぁ、サポートも手厚いし猟兵の皆であれば万一ということもあるまい。存分に楽しんでいってくれ」
そう語るグリモア猟兵は皆を送り出す。
自身もまた泳ぐのだと、そうストレッチをしながら。
きみはる
●ご挨拶
ご無沙汰しております、きみはるです。
何とか滑り込めそうですので、皆様の夏を彩る一助になればと嬉しいです。
●プレイングについて
花火をバックに水上レースに挑んで頂きます。
参加者は浮き輪などビニール遊具をご指定下さい。
団体様の場合応援のみの方も可能ですが、最低一人以上はレースに参加下さい。
荒ぶる浮き輪を乗りこなしたり、盛大に吹き飛んだりして頂きます。
ゴリは希望者のところにだけ現れますが、お邪魔キャラです。
妖怪浮き輪を使わず自力で爆走し、皆様を海に突き落としていきますのでお覚悟の上お声がけ下さい。
●募集について
プレイング募集は8/5(木)8:31~となります。締め切りは集まり具合を見ながら適当にタグでご回答させて頂きます。
尚、ちょっときみはるの執筆自体がお久しぶりになってしまいリハビリがてらなところもあり、書きやすそうだなと思った方優先で少な目進行となるかもしれません。
あらかじめご了承下さい。
それでは、皆さまの盛大に美しく散る姿を楽しみにしております。
第1章 日常
『猟兵達の夏休み2021』
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POW : 妖怪花火で空へGO!
SPD : 妖怪花火の上で空中散歩
WIZ : 静かに花火を楽しもう
👑11
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ハルア・ガーラント
乗りこなし・吹き飛びお任せ
荒ぶる浮き輪を御してこそ真のオラトリオ
ペンギン型フロートで挑戦します
ゴリさんも一緒に……え、妨害?
お、OKです!
わたしだってやる時はやってやりますとも
フロートの持ち手部分をしっかり掴んで、≪咎人の鎖≫でも補強し振り落とされないように
翼は滑空するように広げ速度アップを図ります
花火は見る余裕なさそう
わぶっ、水飛沫が!
水着ずれちゃう!
濡れた翼が重い!
ゴリさんのお邪魔は[第六感]で感じ取り回避――できたとしてもバランス取れるかな
UCを発動し翼で僅かに海面に触れましょう
凪いだ海面でスピードアップ若しくは海に落ちた時の衝撃緩衝に!
怖かったけど楽しい
終わったら思わず笑ってしまいそう
●
「荒ぶる浮き輪を御してこそ真のオラトリオ……」
鬼火に照らされた夜の海の上を颯爽と滑走する黒と白の影が存在した。
よくよく目を凝らせば見えるは鳥の姿――ペンギン型フロートとそれを乗りこなす白き翼を広げた少女――ハルア・ガーラント(宵啼鳥・f23517)の姿だ。
「わぶっ、水飛沫が!」
ペンギン型フロートは波から波へと飛び移るように海面を跳ねる。その度にはじけ飛ぶ水飛沫に目を細めながらも、しかし彼女はしっかりと持ち手をつかみ振り落とされる様子は無い。それは彼女が決してその手を離さぬよう……しっかりと己が手と持ち手を金色の鎖――咎人の鎖によって結びつけているが故だ。
「ハッハッハ、ハルアでは無いか!? 良く来たな!」
懸命にしがみつくハルアに声をかけたのは闇夜に浮かぶ黄色の塊――しかもよくよく見ればその中央には黒い穴のようなものが開いているではないか。幽霊か何かとびくりと身をすくませるハルアではあったが、鬼火に照らされたことでその黄色い塊が己が恋人の友人であるゴリであることに気付く。
「ゴリさん? ゴリさんも一緒に……」
「悪いな! 今日の俺は妨害役だ!」
ハルアの言葉は急激に襲い掛かる衝撃によって止められた。和やかに挨拶をしようかと思えば、突如としてその黄色い塊――バナナボートを身に纏い豪快にバタフライで泳ぐゴリが近づいてきたからだ。
彼の全長は3mは超すほどのサイズだろうか? その巨大な腕はひと掻きひと掻き身体を前に進める度に巨大な波を引き起こす。あえて彼が近づいて来るその意味は――彼のこのレースにおいて選手を妨害しに来ているという言葉が真実であること。
「お、OKです! わたしだってやる時はやってやりますとも!」
「よく言った! そうではなくてはな!」
悪意の欠片も無く正面から妨害すると言い放たれれば、気の弱いハルアとて受けて立つと言ってのけざるを得なかった。
(波が激しいっ! 水着ずれちゃう! 濡れた翼が重い!)
しかしばっしゃんばっしゃんと水をかけられ波に揉まれる彼女の内心は、いっぱいいっぱい。頭からかけられた水を吸って重くなった羽にズレかかった肩の紐。今彼女は彼女の猟兵人生の中でかつてないほどのピンチを迎えようとしていた。
「そろそろ終わりにしてやろう!」
まるで悪役のようなセリフと共に海上で急旋回を行なうゴリ。そうして向けられるは黄色い先端――バナナボートの可愛い黒ポッチが荒ぶるペンギンさんの横っ腹を貫かんと突撃する。
「あ、危ないっ!」
しかし彼女とて歴戦の傭兵。水飛沫に視界を奪われる中、とっさに鎖を引き見事に波乗りペンギンウィリーを決めて見せる。そうして危機を回避したなら、あとはゴールをするだけのこと。そう勝利を確信した彼女を襲ったのは――豪快に通りすぎたゴリが引き起こした一際大きな波であった。
「あわわ! な、なんとかしないと!」
いくらその身を鎖で固定しようとも、乗り物その者がひっくり返ってしまってはどうしようもない。しかし僅かにその羽が海面を捉えたなら、不思議と波がその身をすくい上げたのだ。
「……は、あははっ!」
優しい波の助けにより海に飲み込まれることは逃れたハルア。しかし気付けば彼女と違い波に助けてもらえなかったらしいペンギンはその手から離れはるか遠くへ吹き飛ばされていた。痛みは無いが己の身を襲った豪快な現象に、ハルアは思わず笑いを零す。
それはまるで絶叫マシーンを楽しんだ後の爽快感のようで。
そうして落ち着いて初めて目に入る花火を見上げながら、彼女はゆっくりと砂浜を目指して移動を始めるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ディアナ・ロドクルーン
【天狼月】
荒ぶる浮き輪なんて面白いものがあるわね
私使わないけど
でもせっかくの海なんだから楽しまないとね
人が落ちるのを見て(ほら楽しそうな催しがあるわよ)
あっ、いっけなーい。本音の建前が逆になってたわ
…まあ、そういう事なので此処はミコトさんに格好いい所を見せてもらいましょう
ねえ初音ちゃん?
それとも一緒に乗っちゃう?
私は、本気で、真面目に海がダメだから全力で応援する!!
あ、ゴリさん。あの人(ミコト)思い切り海に落としちゃっても良いですから
寧ろやって下さい
初音ちゃんが優しい…うん、足くらいだった…何とか
(微かに震える手だったか、きゅっと握ると落ち着いたようで)
今の何?……ミコトさんの方に落ちた…わね
羽月・初音
【天狼月】
久しぶりの海
友達と来るのは酷く久しぶりで
思わず浮足立って、子供のように彼方此方へ
二人の方が年下なのに、私の方が子供みたいね
私は浮き輪、使おうかしら
溺れたら怖いし……
何より二人に迷惑を掛けたくないもの
でも、流石にレースには出ないわよ?
水着姿で注目の的になるなんて、恥ずかしくて
ええ
一緒に応援して、後で浅瀬で遊びましょうか
足がつくところなら安心でしょう?
手を繋いで入れば大丈夫よ
……流石ね
思わず見惚れちゃいそう
ワニに乗ってるなんて少し可愛い
私も後で乗せてもらおうかしら
曇り一つない晴れの日に
何の前触れもなく一太刀降りてきた
……ねぇ
あれ、ミコトさんの方に落ちてない?
ミコト・イザナギ
【天狼月】
ほう、カクリヨにはこんな遊戯もあるのですね。
では、オレはこのデッカいワニに跨って参加いたしましょう。
ですがレースってオレ一人ィ!?
タイムアタックしろと?
ってそこの駄目人狼、端からオレが落ちると信じて疑ってませんね
いいでしょう、この天狗のドライビングテクニックを御覧に入れましょう
はははっ!!
カーブもジャンプ台も何のその
波が足りぬ、障害が足りぬ
MOTTOMOTTO!
然しこのワニ乗り心地いいですね
うちの雷獣よりも乗り易いから乗り変えましょうか、ハハ、は?
あれ、ヌエさん?ヌエさん?
呼んでもないのにどうして此処に
いや待って今レース中だからオレに向かって稲妻纏って怒りの突貫とかやめ、ぬわああ!!
●
「久しぶりの海……」
花火に照らされ浮かび上がる海を見つめ、羽月・初音(愛し恋し・f33283)は嬉しそうに砂浜を駆ける。
その足取りはまるで童心に返ったようで……久方ぶりに友人と共に訪れたことにより心浮かれた彼女は、嬉しそうに静かに笑うのだ。
「荒ぶる浮き輪なんて面白いものがあるわね」
そんな初音と共に砂浜を歩くディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)はグリモアベースで聞いた催しについて思いをはせる。
自分がそのような催しに参加し大変な思いをする気はさらさら無いけれど……かといって楽しまないという手は無いだろう。
であるならば……。
「ほう、カクリヨにはこんな遊戯もあるのですね」
ミコト・イザナギ(語り音の天狗・f23042)はいつもの調子で興味津々といった雰囲気で海を見つめる。
お調子者の彼らしく、既にこの破天荒なレースへ参加する気満々……むしろ他の皆も参加するものであろうとそう確信すらしている様子だ。
「ほらほら、人が落ちるのを見て……あっ、いっけなーい、ほら楽しそうな催しがあるわよ」
そんなミコトの言葉を聞き……さぁ、楽しそうな催しへ参加しましょうとばかりディアナは背中を押す。そんな彼女の言葉に何か引っかかる気がしないことも無いが、その疑問を深く考える前に新たな言葉が耳に入る。
「私は浮き輪、使おうかしら……溺れたら怖いし」
「では、オレはこのデッカいワニに跨って参加いたしましょう」
静かにそう言葉を零す初音に対し、ミコトはさぁ一緒に参加しようとばかりに初音に声をかける。しかしどうにも嚙み合っていない雰囲気を感じた二人は不思議そうに視線を交わす。
「流石にレースには出ないわよ? 水着姿で注目の的になるなんて、恥ずかしくて」
浮き輪は欲しいが、それはあくまで通常のもの。
薄暗いとは言え照らされているこの環境で、レースなど参加して参加するはずが無いとそう言い切るのだ。
助けを求めるように視線を向けられたディアナ――しかし彼女の回答は断固としての拒絶であった。
「え……私使わないけど?」
「レースってオレ一人ィ!? タイムアタックしろと?」
何を言っているの? と心底心外そうなディアナ。取りつく島は欠片も無さそうだ。
「……まあ、そういう事なので此処はミコトさんに格好いい所を見せてもらいましょう。ねえ初音ちゃん? それとも一緒に乗っちゃう?」
そうおだてられれば男としては受け入れるしかあるまい。
気まずげにこちらを見上げる初音に対し、強く押し切るわけにもいかない。
「いいでしょう、この天狗のドライビングテクニックを御覧に入れましょう!」
もはやこうなれば開き直るしか無いと、ミコトはワニを担ぎ海へ向かうのであった。
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「はははっ!! 波が足りぬ、障害が足りぬ……MOTTOMOTTO!」
先ほどまで渋っていたミコトであったが、それは一人だけ参加することに対するもの。
本来は最初から参加する気満々であった通り、豪快に水面を滑走するワニの上で、怖がるどころか楽しそうに乗りこなしている。
波があれば豪快に乗り上げ、ステージの障害すらなんのその。
プロサーファー顔負けのアクロバットな動きは妖怪浮き輪の激しい速度とそれを操る猟兵の身体能力あってこそだ。
「私は、本気で、真面目に海がダメだから全力で応援する!! がんばれ!!」
「……流石ね、思わず見惚れちゃいそう」
そんなミコトの勇士を見つめ、砂浜から残った二人は応援する。
ディアナが断固として海に入らなかったのは、意地悪の為でも初音のように水着姿を他人に見られるのを嫌がったわけでは無い。
彼女の言葉の通り、本当に心の底から海が苦手であるが故だ。
「一緒に応援して、後で浅瀬で遊びましょうか……足がつくところなら安心でしょう? 手を繋いで入れば大丈夫よ」
そんなディアナに対し、初音は優しく声をかける。
せっかく海に来たのだから、見ているだけではもったいないと――せめて砂浜で水に触れるくらいであれば、自分が一緒にいるからどうだろうかと。
「初音ちゃんが優しい……うん、足くらいだった……何とか」
想像しただけで、やはり怖いのだろうか。
海に浸かる自分を想像し小さく震えるディアナ。足元くらいであれば耐えられるか否か……不安げに悩む彼女の手を、そっと初音は握る。
気付けばその震えも消え去り、二人は互いに笑い合うのだ。
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「……って、あの駄目人狼、欠片もこちらを見ていませんね」
何か知らないが遠目に見える砂浜で見つめ合ってなんだかいい雰囲気になっている二人。
せっかくの見せ場も見られていなければ、悪態の一つも零したくなるもの。
「然しこのワニ乗り心地いいですね……うちの雷獣よりも乗り易いから乗り変えましょうか、ハハ、は?」
まぁいいとばかりに気を取り直し、ミコトはレースに意識を戻す。
そうして思うのは、この妖怪浮き輪たるワニの乗り心地の良さ。
本心では無いものの、お調子者の彼はついつい普段の相棒を揶揄してしまう――それが本人に伝わってしまうことも失念して。
「あれ、ヌエさん? ヌエさん? 呼んでもないのにどうして此処に……」
しかし己がすぐ傍に現れたのは――己が普段召喚し戦う相棒たる、雷獣・奴延鳥。
ヌエと呼ぶその相棒は苛立たし気に牙を剥き、その身に雷を纏っているのではないか。
「いや待って今レース中だからオレに向かって稲妻纏って怒りの突貫とかやめ、ぬわああ!!」
悲鳴をかき消すかのように、夜の海に雷鳴が轟く。
そうして一筋の雷光は轟音と共に海へと突き刺さるのだ。
「……ねぇ。あれ、ミコトさんの方に落ちてない?」
「今の何?……ミコトさんの方に落ちた……わね」
その凄惨な現場などつゆ知らず、浜辺の二人は不思議そうに光の消えた海の方を不思議そうに見つめるのであった。
彼女らが事件の内容を理解したのは……しばらくして黒焦げとなったミコトが波に打ち上げられてからのことであった。
大成功
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鵜飼・章
おや…カブトムシを探していたら
ボートレース会場に着いてしまった
僕は意外とこういう奇祭が好きなんだ
もちろんこのヘラクレスオオカブトフロートを選ぶよ
うんうん、とても元気ないい子だね
この浮き輪も生き物のようだから
きっと僕の動物会話力が通用する…かも
コミュ力で気性の荒さに対抗しよう
速度が出過ぎていれば「落ち着いて」
追いつかれそうな時は「頑張って」と声かけ
おや…あのバナナ…いやゴリラ…
バナゴリラは…妖怪?
選手なの?すごい人がいるな
まああの人よりは僕の方が
まだ人間らしいと言って差し支えないな…
ねえなんで自分がボートになろうと思ったの?
(鵜飼流人間奥義正論)
隙あらばヘラクレスの角で一突き
転覆を狙う
勝敗お任せ
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「おや……カブトムシを探していたらボートレース会場に着いてしまった」
花火によって彩られる空を見上げながら、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は一人言葉を零す。
章の言葉の通り、彼が一人暗い森で行なっていたのはカブトムシ探し。
このカクリヨの森であればまだ見ぬ妖怪オオカブトが見つかるのではないかと、歩き回っていたのだ。
残念ながらそれは未だ叶ってはいなかったが、しかしこのような奇祭を見ては参加しないわけにはいかない。
カブトムシ探しは一度中断し、章はレースの受付へと足を運ぶのであった。
「うんうん、とても元気ないい子だね」
水上を滑走するは、章が選んだヘラクレスオオカブトフロート。
ビニール製の雄々しき日本角は荒々しい水飛沫を浴びきらりと光る。
形状としてはきっとこのような水の抵抗の原因となる手足がついていないシンプルな形状のフロートの方が適切であるかもしれないが、しかしこのヘラクレスオオカブトを選ばないという選択肢など章には無かった。
「大丈夫、落ち着いて」
両手にしっかりと持ち手を握り、章はヘラクレスオオカブトを乗りこなす。
虫であれ、動物であれ……あらゆる生物と心を通わせることに長けている章。
彼のコミュニケーション能力は、物言わぬ付喪神すら意思疎通を可能とする。
ついつい荒ぶり全力で加速したがる妖怪浮き輪を宥め、見事波を乗りこなし先へ進むのだ。
「おや、あのバナナ……いやゴリラ……あのバナゴリラは……妖怪?」
章が訝し気に見つめた先には、薄暗がりにでもはっきりと目立つ黄色い塊。
それが荒々しく水飛沫をあげながらも、海面を跳ねているように見える。
そうして次々と他のレース参加者へと突撃しながら、次々と転覆させていっているのだ。
「選手なの? すごい人がいるな。まああの人よりは僕の方がまだ人間らしいと言って差し支えないな……」
人間として生まれながらも、その思考回路から人間らしくないと自覚している章。
しかし荒ぶり海面を跳ねる3mの黄色い物体を見れば、そしてその中身がどう見ても人間というか完全にゴリラであることを確認すれば、少なくとも自分は人間だと自身をもっと言い切ることが出来ると、そう考えるのだ。
「フハハハハ!」
「ねえなんで自分がボートになろうと思ったの?」
豪快な笑い声をあげながら水面を跳ねるように豪快なバタフライでこちらに近づくゴリに対し、章はふと疑問に思ったことを口に出す。
それは明らかに今争っているこのタイミングで口に出すべき内容ではなかったが、この鵜飼流人間奥義正論こそ、彼が彼たる所以と言えよう。
「ぬ? そうだな、強いて言えば俺の体格に合う浮き輪が見つからなく――」
「あ、ごめん」
章の純然たる疑問に対し、ゴリは素直に回答を返す。
むしろそれが分かりやすいように体を横にして己が水着らしきものを見せつけてくるゴリに対し、章はその分かりやすい隙を突かざるを得なかった。
彼に空気を読むという選択肢など無いのだから。
隙を見せる方が悪いのだ。
「でも、そんな甘い考え方じゃ人間界で通用しないから……」
水上でひっくり返りあたふたとするゴリを尻目に、章は悠々と水上を滑走する。
とても素敵な微笑を浮かべながら。
大成功
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