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灯籠夜市と風暴の峰

#封神武侠界


 傾いた太陽が紅い光を帯びる頃、その街は静かに息づき出す。
 どこからか一人、また一人と出てきた住民達は、通りを埋める屋台の内側に入り、その夜の仕込みを始めるのだ。
 青果や鮮魚、乾物を並べる軒先に、料理を供する小さな店。大きな蒸籠が白い湯気を立て始める頃には、夕焼け空を縦横無尽に切り取る綱に吊るされた色とりどりの灯籠が辺りを鮮やかに照らし出す。
 けれど――。
「……ひと雨きそうだな」
 仕込み途中の鍋を掻き混ぜる手を止めて、年配の男が空を仰いだ。燃えるような夕焼けの遥か彼方では、巨大な黒雲が空にとぐろを巻いている。

●狂風怒涛
「大変、大変! 誰か手伝って!」
 七月も半ばを過ぎたある日のことである。息せき切らしてグリモアベースに駆け込む一人の猟兵の姿があった。少年――リンシャオ・ファ(蒼空凌ぐ花の牙・f03052)は素早く拱手して頭を下げ、そして言った。
「凄い嵐が来そうなんだ!」
 夏に風雨はつきものだ。けれど封神武侠界のとある街を襲う此度のそれは、夏の風物詩と言うには余りにも荒々しく、凶悪な災害だった。
 見て、と掌のグリモアで海辺の街を映し出し、リンシャオは続けた。
「この海沿いの街、藍水(ランシュイ)って言うんだけど。この街にもうすぐ、とんでもない嵐がやってくる。それも多分、ただの嵐じゃなくて――」
 それは幾重にも積み重なった雲の峰から出でて、激しい雷雨と竜巻であらゆるものを蹂躙する狂風。自然災害ではない、と思ったのは、それが余りにも真っ直ぐに、的確に、悪意を持ってこの街に向かってこようとしているからだ。
「多分、オブリビオンが関わってるんだと思う。それに、そうじゃなくてもここはこの時期、『灯籠夜市』を見に来る人が沢山いて……」
「灯籠夜市?」
 聞き返す声にはっとして、少年は補足する。
「夏の夜にだけ、この街で開かれる市場だよ。食べるものなら大体なんでも揃ってるし、吊るし灯籠が綺麗で、あっちこっちから見に来る人が沢山いるんだって。つまり――このまま放っておいたら、大勢が犠牲になる」
 だからお願い、と頭を下げて、少年は言った。
「この街を助けたいんだ。危ない仕事になるかもしれないけど……みんなの、力を貸して欲しい」
 嵐の只中に待つものは、過去の亡霊か旧き神々か――それとも?
 猟兵達が顔を見合わせる今、この瞬間にも、稲光を抱いた黒雲は鄙びた漁港へ迫りつつある。


月夜野サクラ
 お世話になっております、月夜野です。
 夜市で美味しいもの食べたい。旅に出たい。そんな思いを託しまして。

●第一章:冒険
 封神武侠界の一角、夏の夜にだけ開かれる『灯籠夜市』に迫り来る、嵐の中心部へと向かいます。
 断章追加後、プレイング受付を開始いたします。

●第二章:ボス戦
 嵐の中心部にいると目されるオブリビオンとの戦闘です。詳細は断章を追加いたします。

●第三章:日常
 無事、オブリビオンを撃破し嵐の被害を防ぐことができた場合は、灯籠夜市の散策を楽しむことができます。色とりどりの吊るし灯籠を眺めて歩くもよし、屋台の中華飯に舌鼓を打つもよしです。
 リンシャオがお誘いを受けた場合、本章にのみ顔を出します。

●プレイングの受付期間について
 新章の開始ごとにタグとマスターページにてご連絡いたしますので、お手数ですが都度ご確認下さい。
 フライングや締切後に送付頂いたプレイングは、申し訳ありませんがお返しさせていただきます。

●諸注意
 ・複数のプレイングをまとめて採用する可能性があります。NGの場合は、お手数でもその旨プレイング中にお書き添え下さい。
 ・複数名でご参加の場合は、同行する方のIDやグループ名を明記ください。
 ・採用人数は少なめを想定しています。想定より多くのプレイングを頂いてしまった場合、内容に問題がない場合でもプレイングをお返しさせていただく場合がございます。
 ・シナリオの雰囲気にそぐわない行為、合意のない確定プレイングやその他の迷惑行為、未成年の飲酒喫煙など公序良俗に反する行動は描写いたしません。

 以上、ご了承頂けますと幸いです。
 それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております!
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第1章 冒険 『仙境大嵐地帯』

POW   :    嵐に巻き込まれた凶暴な獣の襲撃から身を守りつつ、嵐の中心に向かいます

SPD   :    吹き荒れる暴風と雷雨をかわして、嵐の中心に向かいます

WIZ   :    嵐の風に逆らわず、強風の流れを見切って、嵐の中心に向かいます

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 燃えるような空の色が美しい夕暮れだった。広がる海と水平に奔る緋色の帯に、棚引く雲は赤に茜に色を変え、沈み往く陽の残照に煌々と輝いている。ただ、一点、彼方より迫り来る暗雲の峰を除いては。
 風が唸り、空気が冷える。
 大粒の雨が降り出して、石敷きの道を濡らしていく。
 意思を持った生き物のように迫り来る雲の中に、何があるのか――彼らは、確かめなければならない。
 急速に色を喪っていく藍水の街を背に、猟兵達は走り出した。
壱織・彩灯
【黒緋】

おや、淡い灯りがぽつぽつ並ぶ景の祭りか
鬼灯の灯籠が有るならば是非げっと、しなければなあ
レンと揃いも良いな、などと爺の甘えも置いとこう

ああ、斯様なときに
空が泣いてしまうは惜しい
まこと不思議、曇天と冷たい雫には縁が在るが…
浸るは後か、れん、往くぞ
むう、そういう爺への配慮は無用じゃ、
なんの是式。走れるぞ、現役侮るでない(きりっ

広がる重苦しい空気に、荒い風と雷が響いて
噫、宜しくない気配じゃ
はて、引き起こすは…天をも味方にか
神の類じゃと厄介よの…
傍らの頼もしき獣の直感に同意を重ね

伸ばされた手に躊躇いなくそっと繋いで
お前となら嵐の中とて、また、愉しくなりそうだ

奔る、奔る、共に中心へと


飛砂・煉月
【黒緋】

ねぇねぇ、彩灯
灯籠夜市だってさ〜
鬼灯の灯籠とか絶対綺麗じゃない?
あっは、お揃いもイイね!ってへらり
甘えは同意で拾っちゃお

他愛ない話に空が泣いて大粒の雨
キミに預けた秘密の時を思い出すけど
でも空気が変わったのは解る
急いだ方が良さそうだね
あ、走るの辛くなったら言ってな!
えー、別に爺ちゃん扱いしてないのにー
キメ顔には…うん、何かあったら担ごうと心に決めて

…何かあの雲、変
生き物の様な其れに感じる厭な臭い
獣の本能がじわりと嫌な感覚を教えてくる
耳と尻尾は隠した儘でも本質は狼に変わりない

…彩灯、行こ
キミに手を伸ばす
確かなぬくもりを結ぶ為
任せてよ、彩灯となら嵐だって楽しんじゃうし!

早く、疾く、其の中心へ



 戸外へ一歩踏み出せば、熱せられた空気がむわりと纏わりつくような午後だった。
 熱の篭った潮風を吸い込んで、壱織・彩灯(無燭メランコリィ・f28003)は石を積んだ家屋の狭間に歩みを止める。屋根の間に覗く空は昼から夜へ移ろう時に特有の白色で、吊るし灯篭を下げた紐で縦横無尽に区切られていた。足元に視線を落とせば落ちる花模様は朝顔、紫陽花、立葵に金魚草。ありとあらゆる夏花が、石敷きの道を影絵のように飾っている。
「鬼灯の灯籠が有るならば是非げっと、しなければなあ」
「あっは、なにそれ絶対綺麗じゃない?」
 何の気なしの呟きを耳に留めたものか、その背から飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)がひょこりと顔を出した。白く小さな竜を肩に停め、お揃いもイイね、と笑う人懐こい青年に、彩灯は眩げに目を細める。
 刹那――ぽつりと落ちた水の玻璃玉がとろけて、白磁の頬を滑った。
「……来たか」
 空気が変わるのは一瞬だった。
 目の覚めるような夕映えに、黒い雲が割り込んでくる。降り出した雨の粒は地面に点々と染みを作り、世界を鼠色に塗り替えていく。雲の峯はまだ遥かながら、時折吹きつける風の勢いと低く唸るような雷鳴は、これより来たる嵐の激しさを如実に物語っていた。
「斯様なときに、空が泣いてしまうとは」
 惜しいな、と呟いて、彩灯は眉を寄せた。曇天と冷たい水の雫には奇妙な縁のある二人だが、今日の嵐は想い出に寄すには余りにも荒々しく、重苦しい。
「急いだ方が良さそうだね」
「噫、宜しくない気配じゃ」
 促す煉月に頷いて、彩灯は緋色の外套を翻した。野良猫達が見詰める路地を抜け、開店前の店が並ぶ通りへ出て、香辛料の香り立つ湯気の中を駆けていく。市場で働く人々はまだ、これから訪れる嵐の恐ろしさを知らないのだ。
「走るの辛くなったら言ってな!」
「そういう配慮は無用じゃ。現役侮るでない」
「えー、別に爺ちゃん扱いしてないのにー」
 冗談めかして声を掛ければ拗ねたように唇を尖らせる友人の姿に、煉月はけらけらと笑った。何かあったら担ごう、と口には出さず決心する彼の腹の内を知ってか知らずか、彩灯はきりりと表情を引き締める。行く手には巨大な、黒い雲――二人を取り巻く柔らかい空気が、冷ややかな緊張に変わっていく。
「……何かあの雲、変」
 耳と尻尾は隠しても、煉月は狼だ。まるで生きているかのような雲から微かに臭う厭なにおいに、獣の本能が警鐘を鳴らしていた。その直感は鋭く、よくも悪くも外れることは余りない。隣を行く青年に頼もしげな視線を流して、彩灯もまた雷光を纏う雲を仰いだ。
「うむ。神の類じゃと厄介よの」
 訪れる災厄は天をも味方につけたものか、その手で空すら操るものか。
 いずれにせよたちの悪い何かであるのは間違いないが、恐れはなかった。それを断つために、彼ら猟兵はこの街に集ったのだから。
「彩灯、いこ」
 伸ばした手の先が触れる。隣り合った体温が、確かに伝わる。握り返す手に深紅の瞳を煌めかせて、煉月はふわりと笑った。
「一緒なら、嵐だって楽しんじゃうし!」
「うむ」
 共に行くならば、嵐の中とてまた。
 愉しくなりそうだ、と頷いて、彩灯もまた笑み返した。
 次第に強さを増す向かい風の中、二人と一匹は駆けていく。早く、疾く、この嵐の中心へと至るために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鎹・たから
綺麗な夕暮れが
どんどん真っ暗になっていきます
海の彩だって
輝いていたのに

人々が危険な目に遭う前に
たからも嵐へ向かいましょう

自分にメダルを貼り
暴風や雷雨から身を守ります
幸運を呼ぶ妖精のメダルですから
きっとたからに力をくれます
【幸運

風に飛ばされる際はうまくジャンプ
流れもよく見て進みましょう
【空中戦

雷が墜ちればダッシュで躱し
オーラの膜で身を守ります
これからオブリビオンと戦うのですから
なるべくダメージを防がなくては

降り注ぐ雨が強くても
へこたれたりしません
実はちょっぴり痛いですが

嵐に巻き込まれて
いのちを喪う人々が出ないよう
たからは前に進みます

どんな敵が待ち受けようとも
たからは皆さんをすくいます
【勇気、覚悟



 風が、翳りゆく空を運んでくる。穏やかな水面を輝くばかりの夕陽に煌めかせていた海は、早くもその姿を一変させていた。次第に高さを増す波は青ずんだ鈍色の壁となって、小さな漁船が舳先を連ねる湾内にまで押し寄せつつある。猟兵達が先を急ぐその間にも、燃える夕焼けに染み出した黒雲はじわりじわりとその裾を広げていた。
(さっきまであんなに、晴れていたのに)
 額から伸びる角と同じ、雪晶を纏う翡翠の衣を翻して、鎹・たから(雪氣硝・f01148)は暮れなずむ街を奔走する。
 人々がこの風雨をただの夕立と思っていられるうちに、事を済ませたかった。災厄じみた嵐がこの街に向かっているなどと知れ渡れば、混乱は避けられないだろう。ささやかな日々を営むだけの人々に、いかな傷痕も残したくはない。路地裏に遊ぶ慎ましくも無邪気な子ども達には、尚のことだ。
 ここより遥か北欧の地に伝わる妖精の描かれた小さな記章を胸に押しあてて、握り締める。幸運を呼ぶ妖精はきっと、苛烈な雷雨と暴風の中で彼女を守ってくれるだろう。
 波の打ち寄せる波止場を横目に道を駆け抜け、市門をくぐればそこはもう街の外だ。見渡す限りの平野に伸びる舗装のされていない細い道は、海を左手にして遠い森へと続いている。
 黒雲が森を越えてこの平野に至る時、それが猟兵達に与えられた刻限だ。これを過ぎれば、背にした街は市場から民家まで、壊滅的な被害を受けることになる。
(そうはさせない)
 たからは、感情を顔に出すのが得意ではない。その分、銀に輝く瞳はその意志、決意を映し出す。道の先を見据え、ただ前へ、前へ――ひた走る猟兵達の一団は、やがて森の入口へと辿り着く。
「っ!」
 みしみしと、空が鳴いた。見上げたたからの瞳の中で光が弾け、轟音が響く。咄嗟に地を蹴り飛びのいた先で振り返ると、今しがたまで踏んでいた土の地面が雷に抉られ、白い煙を立てていた。向かってくる猟兵達を敵と認識したものか、嵐は明らかな悪意を持って彼らを狙っているようだった。
(たからは皆さんをすくいます)
 弾丸のように吹きつける雨が、少しくらい痛くても――たとえあの雲の中心に、どんな敵が待ち受けていようとも。
 細い手足に守りのオーラを纏わせて、たからは深い森を分けていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラファエラ・エヴァンジェリスタ
…夜市
私も行ってみたい
しかしその前にひと仕事か
夕立ならば夏を感じて悪くもないが…これは少々度が過ぎる

愛馬Tenebrarumに騎乗し、嵐の中心を目指す
頼んだよ、テネブレ
悪路走破は問題なかろうが、嗚呼、叩き付ける雨が疎ましいな
飛来物など防ぐ意味も兼ねてオーラ防御を展開

嵐の中に危険はあるのだろうか…敵だとか
怖いな
「黒孔雀」片手に内心身構えながら
愛馬には不安が伝わらぬ様に騎乗姿勢は殊更に美しく
敵が居ようと我が愛馬は蹂躙して駆けてくれようが、刹那とは言え彼女を危機に晒しては胸が痛い

それにしても酷い天気だ
テネブレ、帰ったら湯浴みの用意をさせてやろう
おやつもね
嗚呼、良い子だ
もう少しだけ頑張って走っておくれ



「夕立ならば夏を感じて悪くもないが……」
 酷い天気だ、と呟いて、ラファエラ・エヴァンジェリスタ(貴腐の薔薇・f32871)は駆ける黒馬の背中の上、畳んだ扇を唇に添えた。暗い雲に近づくにつれて激しさを増す雨は、猛暑を潤す恵みの雨と言うには少々、度が過ぎるようだ。両手の手綱が滑り落ちぬよう握り直せば、鞍の下で黒馬が身震いし、水を吸った鬣から飛沫が散った。
「頼んだよ、テネブレ」
 濡れて艶めく頸をひと撫ですると、高らかな嘶きで応える愛馬が頼もしい。叩きつけるような横殴りの雨は疎ましいものの、数多の世界を共に駆けた彼女は泥濘の悪路などものともしないのだ。
 吹く風に正面から立ち向かえば、濡れた土と木々の青い匂いが色濃く香った。
(――少し、怖いな)
 何よりもまず、視界が悪い。街の南に広がる森は防風林の役割も果たしているのだろうが、嵐の中で黒々とさざめく枝葉は季節柄みっしりと寄り集まって、ただでさえ雨に煙った視界の大部分を覆っている。
 加えて、これはただの嵐ではないのだ。敵意を持った何者かがどこからか飛び出してこないとも限らないと思うと、一瞬たりとも気は抜けない。
「!」
 風を切る音の微かな揺らぎに気づいて守りのオーラを纏わせた瞬間、陶器のようなものが障壁に触れて砕け散り、止まったはずの心臓が鳴る気がした。暴風はその破片すら巻き上げて、暗雲立ち込める空へと吸い込んでいく。
「大丈夫、お前を危ない目には遭わせないよ」
 駆ける愛馬には刹那の動揺も伝わらぬよう、死姫はぴんと背筋を伸ばして前を向く。鼠色に沈んだ世界のどこからか敵が現れようとも、テネブレならば悉く蹴散らして行けるだろう。その道を守るのは、その主たるラファエラの仕事だ。
「帰ったら湯浴みの用意をさせてやろう。おやつもね」
 赤に黄に、多種多様の灯籠が照らす夏の市は、どんな幻想的な夜景を見せてくれるのか。背にした街の異国情緒溢れる街並みは、寵姫の興味を大いに惹いた。よく言えば多様性に飛んだ、悪く言えば雑多な市場には、彼女がまだ知らないものが沢山あるのだろう。それを間近に触れることなく踏み荒らされるのは惜しく、そして腹立たしい。
「だからもう少しだけ、走っておくれ」
 囁けば大丈夫だと言うように、黒い馬は鼻を鳴らして応えた。曇天に色を失った世界の中で、微笑む女の唇ばかりが鮮やかに紅い。
「嗚呼、良い子だ」
 風に逆らい、風の吹く方へ。その背にただ一人の主人を乗せて、黒い馬は駆けていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冬・鷙灰
やれ、雨はあまり好きではないが……。
だがこれが自然現象ではなく、某の悪意であるならば。
平穏な街を蹂躙するを看過できん。

如何に雨粒が鋭くとも、足は止めん。
風が巻き上げる障害物などがあれば、破壊できそうなものは壊しておく。
これらが街を破壊するような事があると困る。
ただ、己の手に余るようなものであれば、凌ぎ躱す。
これが街を襲わぬよう、一層はやく駆ける。
逆に、それらのものが諸悪の方角を知らせてくれるだろう。

手がかりがなければ、ひたすら雨風の酷い方角を目指す。
無心で駆ければ、いつか辿り着くだろう。
胸に浮かぶは強敵との邂逅。
嵐が強ければ強い程、期待が高まるというもの。

しかし……嵐は好かんな。
疵が、痛む。



 鈍色に煙る雨の中、湿った虎耳を絶えず動かして、冬・鷙灰(忍冬・f32991)は風の流れを探っていた。濡れた肌を冷ややかに撫でる空気は、渦巻く大気の動きを教えてくれる。
 雨は、あまり好きではない。まとわりつくような湿気を吸い込んで、身体が重くなるような気さえする。しかし捨て置けばこの暗雲は、海辺の街を完膚なきまでに破壊するのだろう。そこに亡霊どもの関与があるのなら尚のこと――祓わねばならぬ。
 ふ、と短く息を吐いて地面を蹴りつけ、男は躍んだ。どこから飛ばされてきたのだろうか、風に煽られた一枚板を爪の一撃で素早く叩き割る。こんなものがこの勢いで街の方まで飛んで行ってしまったら、嵐そのものを食い止めたとしても被害は免れないだろう。
(此方から飛んできた――と、いうことは)
 しなる大樹の幹を蹴って空中で体勢を立て直し、素早く風上へ目を配る。暴風に耐えるような灌木が揺れる向きとは反対側に、嵐の中心があるはずだ。そして恐らくはそこに、この雲を引き連れてきた誰かがいる。
 進むにつれて鋭さを増す雨風の中、飛来する木の枝やガラクタを砕きながら、鷙灰は無心で脚を運ぶ。まだ中心には届かぬというのにこの有様なのだから、直撃を受ければ街がどんな壊滅的な被害を受けるかは火を見るよりも明らかだ。小さな街の未来は、ここに集った猟兵達の肩に懸かっている。
 しかし――。
 握った拳に力が籠り、千切れた手枷の鎖がじゃらりと鳴った。大粒の雨に打たれるその口元は黒いマスクに覆われて見えないが、琥珀色の鋭利な瞳には隠し切れない高揚が滲んでいる。
 この嵐の只中に、何が待ち受けているのか。吹く風が強ければ強いほど、期待は否応なしに高まっていく。こんな時にとは言う勿れ、安寧をよしとせぬ男にとって、強者との邂逅ほどに血湧き肉躍るものはないのだ。
 一つだけ気にかかることがあるとすれば、それは。
(……疵が、痛むな)
 無意識に触れた口元で、雨に打たれる腕で、脚で。身体中に刻まれた傷がつきりと疼くのは、嵐のせいなのか――それとも?
 否、と黒の混じった灰色の髪を振り、白虎は真っ直ぐに前を向く。向かい風を切り裂く灰色の一矢となって、渦巻く暗雲の真下を目指し駆けていく。
 そこに思考は必要なかった。今この場にあって求められるものはただ、目の前の災いに喰らいついていく爪牙のみである。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
SPD
自然災害ではないとのことですが、それならばまだましなのかもしれませんね。
無差別だからこそ本当の自然の驚異は恐ろしい。
そしてあの嵐の中にはどんな存在がいるのでしょう?
UCで嵐の竜王を呼ぶのもあって、少し気になるのですよね。
あとこの町の名前も気になる理由ですよね。
天候操作で少しでも嵐を軽減できれば。そして進むべき方角は第六感と風の強さから情報収集して判断します。
転倒しないように気を付けますが幸運で回避できるといいですね。

この仕事を終えたら夜市での美味しい食事と灯籠を楽しみにしておきましょう。



 木々の枝葉を激しく唸らせ、茂る草花を根こそぎ薙ぎ倒して、黒い嵐は進み行く。遠目に見た時にはそれほど大きくはないように見えた雲は今や猟兵達の頭上を覆い尽くし、その進路に加えて規模、密度の点から言っても、自然発生したものではないことが明らかであった。
 あの雲の下に、悪意を持った何者かがいる。想定しうる事態は猟兵達を緊張せしめたが、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は一方で、どこか安堵している自分に気づいていた。
(自然災害ではない……とのことですが)
 災害には悪意もないが、善意もない。何者にも分け隔てなく無差別に襲いかかるからこそ、自然というものは恐ろしいのだ。この嵐の中心に何が待っているのかは不明だが、そういった観点から言えば、対処のしようがあるだけ状況は最悪よりも幾らかましなのかもしれない。そこにいるのが何者であれ、だ。
 目深に被ったフードを吹き飛ばす風に眉をひそめながら、藍は雷を孕む雲を見やる。銀色の髪が零れて流れたが、この状況ではいくら衣服を整えた所で無駄だろうと諦めた。
(あの中に、何が)
 雨雲を呼び、風を巻き起こす邪仙か?
 それとも彼女が操る竜王のような、人ならざる者か?
 想像は尽きないが――今はただ、行動あるのみ。
 夜市の温かな食事と灯籠のある景色を心置きなく楽しむためにも、まずはこの仕事を成し遂げなければ。
 藍水の街並みと人々の暮らしを護るため。風向きとその強さを藍晶石の眼差しで見極めて、水晶の娘は嵐の只中に至る道を辿っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴上・冬季
「何でもある…ふむ。どんな甘味があるか、楽しみですね。それでは行きましょうか」
齧っていた仙桃投げ立ち上がる

「成層圏まで凡そ高度11km、積乱雲は最大で高度12km。上まで上がって俯瞰してから考えましょうか」
UCで黄巾力士を最大の120m級まで巨大化させ、その肩に乗ったまま垂直に雲上の成層圏まで飛行
雲上から積乱雲の中心部分又は雲内で戦闘が発生していると思われる場所を探す

「仙と人とは違うのですよ。同じ生身ではないからこそ出来ることに違いがある。ふむ、あそこに降りてみましょうか」
怪しいと思った場所に上空から式神ばらまき敵影又は戦闘中の猟兵がいるか確認
黄巾力士にオーラ防御で庇わせつつ一気に降下する



「成層圏までおよそ十一キロメートル、積乱雲は最大で高度十二キロメートル。上まで上がって俯瞰してから考えましょうか」
 鈍色の世界を背に降り頻る雨の中、天頂を目指し垂直に上昇を続ける巨大な影が一つ。巨大化した人型宝貝・黄巾力士の機体の表面を、打ちつける雨粒が川のように流れていく。その肩で遥か地表を見下ろしながら、鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)は悠々と仙桃を齧る。黒々と茂る濡れた森は瞬く間に霧がかり、やがて立ち込める雲の下へと消えた。
 めざすのはこの空の高み、雨雲をも凌ぐ場所。一定程度上昇するとやがて雲は眼下に遠ざかり、遥か地平が丸みを帯びる。頭上には、深海の青にも似た群青と去りゆく残照の茜色が交わる空間が拡がっている。
 常人ならば意識を保ってはいられないような高度でも、詰襟の下にいくつもの尾を隠し、いくつもの世界を渡り歩いた狐にとってはどうということもない高さだ。甘い桃の最後の一口を飲み込んで、冬季はふむ、と口元に手を当てた。
 見下ろす世界は青々として美しく、しかしその足元には、不自然なほどに凝縮した灰色の雲が渦を巻いている。索敵のために放った式神の情報を確かめながら、男は雲中の一点を指さした。
「あの辺りに降りてみましょうか」
 そこに何が待ち受けているのかまでは、まだ分からないけれど。
(何でもある……と、言いましたか)
 垂れ込める雲の向こう側、湾に面した港町は、今はまだ光の中にある。何も知らない人々は夕立の気配を肌身に感じながら、今この時も夜市の準備に動き回っているのだろう。
「どんな甘味があるか、楽しみですね」
 狙いを定め急降下すれば、黒い外套が空に一条の軌跡を描いていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

菊・菊
ルーファス(f06629)と

はあ?へばらねーよ!
ほっとけ、…たぶん走れる

って言ってたけど無理
背中押されても、もー無理
正直立ってるのもやっとなわけ

負けた気がすっけど、もームリ
差し出された手を取った

おぶって

俺よりずっと広い背中がムカつく
くっそ、ムカつく
アーーーー!!!!!!
って叫んでたら、なんかおもろくなってきたわ

嵐の日って外出たくなんね?
ひひ、文句言いながら律儀に運ぶんだよなあこいつ

じゃあ、なんか飛んでくるもんは俺とナイトが弾いといてやっか

『円舞曲』
上手に踊れよ、寒菊

邪魔なもんは殴って切り倒して
目指すは嵐のど真ん中
特等席は、スリリングで、まあ悪くねえ

ぎゃは!
しょうがねえなぁ、守ってやんよ。


ルーファス・グレンヴィル
アキ(f29554)と

燃えるような空の色
まるでオレの瞳みたいだ、なんて
ぼんやりした思考を振り切って

ほら、走るぞ!

勢い良くドンとアキの背中を叩く
これから向かうは、嵐の中心
けれど隣の君は今にも倒れそうで

なあ、辛いならおぶってやろうか
なんて意地悪く手を差し伸べる

こら、アキ、うるせえよ
黙っておぶられてろ
舌噛んでも知らねえぞ

それでも君を背負う手は
優しさ滲み出る兄貴分のもの
代わりに肩から飛び立つ黒竜は
周囲を警戒するように旋回していて

そうだな、駆けるのはオレに任せろ
アキとナイトに、オレの命預けてやるよ

向かってくる獣へ
アキの剣技に合わせるよう
相棒竜が炎の息を吐き出した

ッは、上出来だ
しっかり捕まっとけよ、アキ!



「ほら、走るぞ!」
 一喝する声と共に、叩かれた背中に衝撃が走る。前を行くルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)の背を追ってなんとか一歩を踏み出した菊・菊(Code:pot mum・f29554)であったが、雨水を吸ったズボンは重く足に纏わりつき、数歩と進まぬうちに爪先は泥濘に縫い留められてしまう。
「無理、もー無理」
 この程度でへばらねーよ、と大見得を切ったのはつい先刻のことだ。しかし吹きつける雨風の勢いは予想以上に強く、菊の細く骨ばった腕から体温を奪っていく。
「辛いならおぶってやろうか?」
 膝に手をつき肩で息をしていると、草を踏む足音が近づいてきた。顔を上げればルーファスが、意地悪げな笑みを浮かべて手を差し伸べている。この手を取るのは癪だけれども、立っているのもやっとというのが正直な所なわけで――。
「……もームリ」
 ぶすりと頬を膨らせて、菊は差し出された手を取った。少々、負けたような気がするけれども、背に腹は代えられないという奴だ。おぶって、と手短に請えば、しょうがねえなと笑って屈むその背中がやけに広い。呼吸は楽になったはずなのに妙にむしゃくしゃして、少年は両手を天に突き上げる。
「ア――――!!」
「こら、アキ、うるせえよ」
 黙っておぶられてろ、と肩越しに少年を顧みて、ルーファスは呆れたように言った。しかし乱暴な言葉遣いとは裏腹、破天荒に振る舞う弟分が振り落とされてしまわぬよう、支える手には隠しきれない優しさが滲んでいる。
 声に出したことで鬱憤が晴れたのか、菊はけろりとしてルーファスの顔を覗き込んだ。
「なあ、嵐の日って外出たくなんね?」
「あんま喋ると舌噛むぞ」
「へいへい」
 文句を言う割に律儀な男だと、白い歯を覗かせて菊は笑う。耳を澄ませば雨音に混じって聞こえるのは、野獣の息遣いだろうか。
「じゃあ、なんか飛んでくるもんは俺とナイトが弾いといてやっか」
 ちらりと見やる金の瞳の意図するところを察したように、上空を旋回する黒い竜が高らかに鳴いた。前方から迫る複数の足音は、野犬の群れか何かだろうか。
「駆けるのはオレに任せろ」
 その代わりこの命は、預けてやる。
 そう言って不敵な笑みを浮かべ、ルーファスは駆ける足を速めた。その背でぎゃははと声を上げ、菊は白鞘の日本刀を抜き放つ。広く頼もしい友の背中は彼だけに許された、この世でいっとうスリリングな特等席だ。
「しょうがねえなぁ、守ってやんよ!」
 見えない糸に操られるように、少年の手を離れた刃が宙を舞い、同時に黒い竜が炎のブレスを吹きつけた。襲い来る獣も、飛来する瓦礫も、道を阻むすべてを切り倒して、二人と一匹は嵐の中を突き進む。
 上出来だ、と口角を上げてルーファスは言った。
「しっかり捕まっとけよ、アキ!」
 背にした道の遥か彼方、僅かに残る夕映えが雲の端を紅に染めていた。同じ色をした羅刹の瞳は戦いの予感に爛々と輝いて、吹き荒ぶ風の向こう側を見つめている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

水鏡・多摘
自然災害…という訳ではないか。
災害を装い人の営みを破壊するなどあってはならぬ。
原因を突き止め嵐を止めてくれよう。

UC起動し嵐を一気に突っ切る。
天候操作で多少嵐の勢いを弱める事ができればいいがあまり期待はせず。
空中機動と空中浮遊、地形・環境耐性を活かし嵐中の飛行を行う。
視力と暗視、瞬間思考力で視界の悪い中の障害物を把握し回避、狂暴な獣が飛んできた場合は軽く神罰の雷降らせて落とすか祟り縄で縛り地上に放り投げてくれよう。
もし嵐の中雷が降ってくるなら結界術で雷避けの結界を宝珠で展開し直撃を回避。

夕暮れの雨、そして夜が来る。
夜の帳が落ち切る前に、嵐の中心へ。
そこには何がいるのか…

※アドリブ絡み等お任せ



「災害を装い人の営みを破壊するなどとは」
 雨は大地を潤し、生きとし生ける者達を支える。
 風は草花の種を運び、人々の汗を拭う。
 いつも優しく穏やかというわけではないが、それらはこの空の下に生きるすべての命にとってなくてはならない存在だ。だからこそ、畏怖すべきその力を悪用するなどということがあってはならない。それは、水鏡・多摘(今は何もなく・f28349)という龍にとっては殊更に度し難い行いであった。
(何者かは知らぬが)
 かつて水神と祀られた者として、見過ごすわけにはいかない。必ずや止めてくれようと、多摘は雲の峰をぎろりと睨みつける。曇天に舞い上がるその姿は、まさしく龍神である。
(どこに居る?)
 上空の風は地表付近よりも遥かに強いものの、抗い進むことに困難はなかった。時折やってくる飛来物は鞭のようにしなる尾で叩き落とし、灰色に霞む雲をかき分けて、龍は嵐の只中を往く。今のところ近くにオブリビオンが潜んでいる気配はないが、その身を包む雲は無感情な悪意に満ちているようだ。
「む」
 風の唸りと共に、空気がみるみる張り詰めていく。視界の右から左へ、左から背後へ――自身を取り巻くように雲を裂く稲光に、多摘は眉根を寄せ、鬣をぼうと逆立てる。雨粒を受けて艶めく翡翠の鱗の表面で、青い電気がパリパリと音を立てた。
「なんの――」
 光が弾け、雷鳴が轟く。胸の前に構えた宝珠を中心に多摘の身体を取り巻く電気が結界と化し、至近距離で炸裂する雷を相殺した。ほうと小さく息をつき、横目に見やった雲の切れ間は紫の彩を帯びている。
(じきに、夜が来る)
 分厚い雲の向こう側で夜の帷が落ちる前に、彼らはこの嵐の中心へ辿り着かねばならない。
二発、三発と後を追う雷撃を急降下、急上昇で振り切って、龍は嵐の中を泳いでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

東天・三千六
ひと夏のほんの短い夜、憩いの時を散らかそうとする邪魔者さんにはお引き取り願いましょうか

ああ、随分と酷い天気…
傘をくるりくるり回しながら暗く煩い嵐の中心に歩を進めます

降る風雨に瞳を向けて
技能【誘惑】を乗せUC嫦娥炯眼を放ちます
うふふ、雨に風に、嵐のあなた、どうぞ僕に快適な道をくださいな
ただの嵐ではない現象にお願いして中心への進路の天気を穏やかなものにしてもらいます【天候操作】

友誼をきらさないよう友好的に接しながらUCを絶やさず放ち目的地へ進みます
ふふ、嵐の根元は今の僕にはどうにもできませんが、雲の裾を払うことくらいは、ね



「ああ、随分と酷い天気……」
 進むべき方向へ進むことすらままならない嵐の中、いとけない呟きはどこか悠長にも聞こえた。けれどもそれは、虚勢ではない。
 草はおろか石飛礫までも巻き上げるような暴風の中で、東天・三千六(春雷・f33681)は小さな両手に赤い和傘を携え、低い空を見上げていた。長い角と長い耳、大きな尾はそこかしこに霊験あらたかなる瑞獣の霊力を感じさせるが、四尺半にも満たない体はそれでも小さい。しかしごうごうと唸る風の中で今にも吹き飛ばされてしまいそうなその手足は、淀みなく、押し返されることもなく前へ進んでいく――それもそのはず。
 橄欖石に似た瞳が、幼い見た目に反して凄絶な色を帯びた。
「嫦娥炯眼【テンプテーション】」
 くるり、くるり。
 小さな手の中で弄ばれ、赤い傘が廻る。長い房飾りをふわり浮かせ、牙を剥く狂風などまるで存在しないかのように――否。事実、少年を取り巻く空気は無風であった。
 うふふ、と蠱惑的な笑みを溢して、三千六は渦巻く風雨に語り掛ける。
「雨に風に、嵐のあなた。どうぞ僕に、快適な道をくださいな」
 それは研鑽の賜物か、人ならざる身の成せる業か。あどけなく、それでいて甘い色を宿した眼差しは、森羅万象を誘惑する。人や獣、命あるものはおろか、物、天候さえも、このあえかなる少年の前では無力なのだ。
「ありがとう。あなたは優しいひとですね?」
 雨が弱まり、風が凪いだ。暗がりに射した一条の光を辿り、甘い笑顔を振り撒きながら少年は往く。そうして微笑みを絶やさぬうちは、この雲の裾を祓うことができるだろう。そしてそれは、後に続く他の猟兵達にとっても有利に働くはずだ。
(さあ、邪魔者さんにはお引き取り願いましょうか)
 ひと夏のほんの短い夜、人々の憩いの時を散らかそうとする何某かには。
 穏やかなる光の道を行き、あるいは吹き荒ぶ雨風を乗り越えて、猟兵達は疾駆する。嵐の中心は、もうすぐそこにまで迫っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『古龍髄厳』

POW   :    古龍炎
【龍の炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【音もなく燃える】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    髄厳の裁き
対象への質問と共に、【虚空】から【黒雲】を召喚する。満足な答えを得るまで、黒雲は対象を【落雷】で攻撃する。
WIZ   :    古龍天舞
自身の【龍気が全身を覆う状態】になり、【鱗が攻撃を弾く】事で回避率が10倍になり、レベル×5km/hの飛翔能力を得る。
👑11
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 渦を巻く黒雲の中心に、それは悠然と存在していた。
 いつかの時代、どこかの国を脅かし、或いは護ったかもしれない伝承の龍。
 人々に畏れられ、崇め奉られた挙句に殺されて、忘れ去られた神代の亡霊。
 曇天の下にあって輝きを失わぬ碧い鱗と、三又に分かれた真紅の角は見る者に神々しささえ感じさせるが、その瞳には研ぎ澄まされた刃のような憎悪が燃えている。
「グオオオオオオ!」
 耳を劈く咆哮が、低い空に轟いた。
 吹き荒ぶ風に金の鬣を靡かせて、空を泳ぐ巨大な龍は今まさに、猟兵達に襲い掛かろうとしている。

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第一章へのご参加、誠にありがとうございました。
以下の通り、二章について補足させていただきます。

二章は龍のオブリビオンとの戦闘となります。
龍はざっくり三階建ての雑居ビル程度の大きさで、意思疎通は不可能です。
猟兵達に攻撃を仕掛ける時のみ、地表近くへ降りてきます。炎と雷のほか、爪などによる物理的な攻撃も行ってくるようです。

皆さんの取り得る行動は、大きく分けて次の二つです。

(1)空中戦を仕掛ける
飛行能力を有する方は、滞空している敵を直接殴りに行くことが可能です。

(2)地表におびき寄せ、迎撃する
何らかの方法で竜の気を引き、地上付近に降りてきたところを狙って攻撃します。

その他、(1)(2)に該当しない行動(サポートや、特殊な作戦)を実行して頂いても構いませんが、参加者全体の行動と照らし合わせた結果、実行が難しいと判断される場合には、描写を見送る場合もございますのでご承知おきください。

それでは、ご参加を心よりお待ちしております!
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夜鳥・藍
やっぱりこの暴風雨の原因は龍でしたか。
雷も炎も使役するというのは少々厄介ですね。
ですが私の力になってくださる方とどちらが上でしょうか。でも私は私の力になってくれるこの方を信じます。
なぜでしょうね、この方とは浅からぬ縁感じますから。

神器を投擲後念動力で操作し確実に命中させます。
距離が足りないならあらかじめ自分自身を念動力で浮かし飛んでおきます。
あてさえすれば竜王を召喚し雷撃で攻撃を。かつその隙に近づき青月で直接斬りつけ、空中戦をしましょう。
空中機動を駆使し第六感で攻撃は回避しますが、炎の攻撃には残念ながら火炎耐性はありませんが激痛耐性で身体を焼く痛みには耐えられるはずです。


ルーファス・グレンヴィル
アキ(f29554)と

竜を見て口笛ひとつ
でけえな、
相手にとって不足なしか

こきこきと肩を鳴らす
隣の少年を見て不敵に笑い、
お前の言う通りだよと一言返す

さあ、アキ、たっぷり遊ぼうか

オレは空なんて飛べないが
代わりに黒竜が肩から飛び立った
ここまで連れてこいよ、ナイト
挑発くらい造作もねえだろ
少年の言葉に相棒竜も鳴いて応える

ああ、そういえば
アキの十八番はそれだったか
お前の口撃はオレには可愛いモンだけど

くくく、と愉しげに声漏らし
双子鉈を引き抜いて
ふたりが頑張ってる間
得物を振り回し力を溜める

上等だ、
お前らのエスコート
しっかり受け取った!

さあ、ドラゴン!
全力の一撃で屠ってやるよ


菊・菊
ルーファス(f06629)と

ぎゃは!的がでけえってことは、
殴り甲斐があるってことだよなあ?ルーファス

笑う隣へ返すは、高い子どもの笑い声

飛び立つ黒竜に続いて
笑い声が宙に浮く

ウィザードブルーム『方舟』
子どもを一人乗せるくらいは
この嵐の中でも造作ねえ

戦闘にはちっとも役に立たねえけど、
このデカブツ挑発するくらいは朝飯前

デカブツの周りををびゅんびゅん飛んで
吐き出すは思いつく限りの罵詈雑言

俺は走るより殴るより何が得意って
ひひ、馬鹿にすんのが一番うまいってわけ!ぎゃは!

まあ本命はこっちだけどよ
『楽園』

箒から降る毒が、俺を幾重にも増やして
エスコートしてやるよ

行く先は、勿論、決まってる
喰らわせてやれ、ルーファス


鳴上・冬季
「…ふむ。つまりあれを地面に縫い付けられれば他の方の攻撃も届く、ということですね。ならば…行け、黄巾力士!あの蛟を地に縫い止めよ!」

飛行し接敵
UCで黄巾力士を龍が押さえ込めるほど巨大化させる(それでもMAXで全長634mまで)
継戦能力とオーラ防御で黄巾力士が破壊されないようにしつつ飛来椅の推進能力で地面に押し付けて押さえ込み他の猟兵が飛ばずとも攻撃できる状況を作り出す
なお敵が口を開けたら肩まで腕を突っ込み金磚で口内に射撃
砲頭のサイズがぴったりなら砲頭を口内に突っ込んで射撃
可能なら鎧無視攻撃の効果も上乗せする

自分は空中から雷公鞭で雷撃しつつ周囲フォロー
他者を式神に庇わせたり薬品調合で癒したりする


冬・鷙灰
成る程、龍か。
龍の爪――重く鋭いならば、我が武の参考にできよう。

近づいてくるならば、接近に合わせて反撃。
それだけで疵を与えようなどと、欲はかかん。
負傷も覚悟で矮小な敵だと印象づける。

落雷に関しては致命傷だけ警戒し、駆けるのみ。
荒ぶる龍が心の内で何を問うか、
俺などが満足のゆく答えなど持ち合わせぬだろう。
ふん、枷程度はハンデとくれてやろう。

兎角、こちらは地に伏す虎……いや鼠だと思わせた後、宿星天剣戟を使用。
此方も飛翔するが、狙いは相手の背を駆け登ってその首の後ろ。
逆鱗が何処かは解らんが、大体の生き物は此所が弱点だろう。
果たせる限りの爪による連撃で削る。

龍であれ、無辜の人々の幸せを害する事は許さぬ。


東天・三千六
わあ、大きな姿に大きな声
はじめまして、いにしえのあなた
会ったばかりでいきなりではありますが
さようなら

道具『瑞雲』を侍らせ空から攻撃を仕掛けます【空中機動】
とはいえ風に飛ばされては困るのでほどほどに距離はとります

あちらどうやら面白い気を纏っている様子
ならば【呪詛】【マヒ攻撃】【捕縛】の技能を乗せUC轟神来雷を撃ちます
雷による損傷と、いましめで少しでも動きを鈍らせればこちらのもの、追撃します
他の猟兵の一助にもなりましょう

そおれ、いくら躱しても、僕の執念深い呪詛はあなたをしかと捉えますよ
あはは、ふふ
残念でしたねえ


鎹・たから
(1)

とても立派な恐ろしい姿をしています
ですが、たからは怖いと思いません
だって
悲しい鳴き声に、聴こえたのです

風の中を飛び跳ね龍に接近
突っ切り、彼の身体を渡り走る
【空中戦、ダッシュ

落雷は雪のオーラの膜を張り
鋭い爪は残像と共に躱しましょう

それでも避けきれないなら、突っ込むまでです
忍者手裏剣を二度振るい
気付かれ振り落とされるならセイバーで貫きます
【暗殺、切り込み、2回攻撃、貫通攻撃

あなたが満足する答えを
たからは持っていないかもしれません
あなたが持つ痛みを
たからは理解できないかもしれません

ですが、こども達をすくうために
たからはあなたをほろぼします

あなたの憎しみは
雨雲と共に断ち切りましょう
【勇気、覚悟


ラファエラ・エヴァンジェリスタ
嗚呼、貴公は…
否、同情は不要であろう
貴公自身がそれを求めまい

ゆえに全力で向かおうか
我が騎士よ
彼の竜を狩ってきておくれ
強いて空中戦を強調せずとも実体持たぬ貴公には可能であろう
オーラ防御でその身を護ってやりながら、我が身は後方に控えるのみ
愛馬に騎乗しつつもひっそりと
…主役は私でないがゆえ

その後竜たちに地上に気を向けさせておきながら、上手く気を引けたなら
「茨の抱擁」と「血の恩寵」を用いてたたみかけ
……騎士の反応を眺める
貴公、上手くやるのだろう?

…だってひとり遊びには限度があるというし、しかたあるまい?
悪びれずに笑うのだ

ところで会話はやっばり赤裸々で
だるいね


水鏡・多摘
龍か。
本質的には我も近いのじゃろうが…だが八つ当たりはよろしくない。
人は護るべきもの、それを無残に破壊しようとするなら容赦はせぬ。

空中戦を仕掛ける。
空中浮遊と空中戦で上空の龍へと接近。
迎撃の炎を水属性を付与した呪殺弾で相殺、仕切れないものはオーラを乗せた結界で防御する。
そして炎に隠しつつ水属性纏わせた祟り縄を操り、龍の体のどこか…尾の先や鬣等に気づかれぬよう伸ばし、そして一気に巻きつかせて引き付け距離を詰める。
そしてその加速を乗せつつUC起動、その胴や頭に強烈な一撃をくれてやろう。
多少の反撃は結界と勢いとで突っ切る。
躊躇っていては暴風を抜けるも払うもできぬからな。

※アドリブ絡み等お任せ



●雨中に見ゆ
 剥き出しの手足に打ちつける雨粒が痛いほどの嵐の中だった。
 ひときわ明るい稲光が一瞬、世界を白に染める。軽銀の燃えるような輝きが曇天に映し出す影の大きさに、猟兵達は息を呑んだ。
 暗く渦を巻く空の高みで金色の眼を爛々と光らせ、『それ』は彼らを見下ろしていた。
「成る程、龍か」
 濡れた青草を踏み締めて、冬・鷙灰(忍冬・f32991)は遥かな敵を睨み据える。ひっきりなしに閃く雷光に、黒く輝く龍の爪はまるで鉄塊のようだ。
 絶えず蠢く虎の耳を掠めて、ひゅう、と鋭い口笛が鳴った。
「でけえな。相手にとって不足なしか」
 そう言って、ルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)は不敵な笑みを浮かべた。こきりと鳴らした肩には、背に負った菊・菊(Code:pot mum・f29554)の細い腕がまだ絡みついている。
「ぎゃは! 的がでけえってことは、殴り甲斐があるってことだよなあ?」
「ああ、その通りだ」
 たっぷり遊べるな――と目配せ一つ。交わした二人の頭上で、黒い雲が電気を帯びる。
「来ます!」
 夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)の促す声に、猟兵達が頷いた。瞬間、バリバリという激しい音を伴って、青い稲妻が迸る。
「ち――」
 一発、二発、三発と、生き物のように追ってくる雷を避けながら、その軌跡を真似るように鷙灰はジグザグと戦場を奔る。直撃をかわし続けるうちに敵の方が痺れを切らしたものか、雷撃が止む代わりに風の唸る音がした。
 咄嗟に身体を捻り、翻転したその足で地を蹴って跳躍する。そこへ、龍の爪が落ちた。黒の混じった銀髪の一糸をはらりと散らした鉤爪は衝撃と共に地面へ沈み、一対の足跡ごと抉り取っていく。草花ごと地を削って這う皮膚は硬く、体重を乗せて突き立てた爪を苦もなく押し返してしまう。しかし――。
「……面白い」
 無意識に零した呟きは低く、敵を目の前にした獣の唸りに似ていた。琥珀の瞳に獰猛な光をぎらつかせ、鷙灰は口元の傷を舐める。
(奪ってくれよう)
 その爪の重さも、鋭さも。すべてこの身の糧として。
 強さを求める貪欲な虎の前では、災害としか呼べぬ獣も高みへと至るための足がかりに過ぎないのだ。
「そうでないかとは、思っていましたが……」
 やっぱりと眉をひそめて、藍は昇り行く龍の背を追い、空を仰いだ。
 龍の咆哮は嵐を呼び、雷鳴を轟かすと伝えられる。だからこの話を聞いたその時に、ひょっとしたらと思っていたのだけれど。
 不気味な鳴動を伴って、空気が巻き上げられていく。
 その視線で地上の猟兵達を捉えたまま、ぐるぐると上空を旋回する龍の姿を、鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)は滞空する宝貝・黄巾力士の肩の上で見つめていた。側頭部まで裂けた龍の口が大きく開き、赤黒く蠢く喉の奥がぎらりと光る。
「敵口腔内で急激な温度上昇を確認。来ますよ!」
 冬季の鋭い一声を受け、猟兵達は散開した。刹那、紅く燃える炎の息吹が地表目掛けて吹きつける。高熱の空気がちりりと肌を刺して、藍は髪を隠したフードを押さえた。
「炎まで使役するとは、少々厄介ですね」
 オブリビオン。骸の海より訪れる、過ぎ去りし時の混ざりもの。恐らく一筋縄では行かないのだろうと吼える龍を見つめていると、ひたり、背後で誰かが足を止めた気配がした。
「わあ。大きな姿に、大きな声」
 鈴を転がす声と共に、赤い大きな傘がくるりと回る。長く垂らした房飾りの下から顔を覗かせたのは、東天・三千六(春雷・f33681)である。
「はじめまして、いにしえのあなた」
 ひたひたと歩みを進めて空を仰ぎ、少年は巨大な龍へ呼び掛ける。石も吹き飛ぶような嵐の中でなぜか、その周りだけが凪いでいた。傘を畳んで片手を胸に、片手を龍へと差し伸べて、鈴を転がすような声音で瑞獣は言った。
「会ったばかりでいきなりではありますが――さようなら」
 花の咲くような笑顔は、始まりの合図だ。その身を取り巻く光の帯がほどけ、吹き荒れる風がふわふわとした真白の髪を舞い上げると同時、七色に光輝く雲が少年を攫い、鉛色の空へと連れていく。
 次は此方の手番。先を行く仲間達の後を追い、鎹・たから(雪氣硝・f01148)は宙を蹴った。
(なんて立派で、恐ろしい姿)
 翡翠の鱗は曇天の中にあって鈍くも光り、枝分かれした紅い角は珊瑚の如く。威風堂々たるその姿は、あらゆる生き物をして畏怖せしめるだろう。空を揺蕩う神獣は、それだけの風格を備えていた。
 けれど――不思議と、怖いとは思わない。
(だって)
 たん、たん、たん。
 空気を踏む軽やかな足音と共に、見えない螺旋を登っていく。一歩、また一歩と近づくたびに、龍の瞳が近くなる。
(悲しい声に、聴こえたのです)
 ぎろりと光る金眼は宝石のように美しく、憤怒と憎悪に燃えていた。それがなぜで、誰に向けられたものなのかは、たからには知る由もない。知ったところで、どうにかなるとも思っていない。跳躍を重ねること八十歩を数える頃、少女は空を行く龍に並んだ。追尾する雷撃を淡雪のオーラで弾きながら龍の尾に着地すると、うねる背を一直線に走り渡る。
 しかし敵も、されるがままではない。
「っ!」
 ぐるん、と視界が反転した。龍が身体を捩ったのだ。足場を喪った身体は宙に投げ出されるが、咄嗟に二度、三度と空を蹴って体勢を立て直す。息つく暇もなく襲い来る爪撃を身体を反らしてかわすと、たからは再びその背の上に飛び乗り、振り落とされぬようしっかりと硝子の刃を突き立てた。
(汝もまた、いつかどこかで祀られたものか)
 旋回する龍に並んで空を泳ぎながら、水鏡・多摘(今は何もなく・f28349)は白く長い眉の下で翡翠の瞳を細くする。
 人は自分達とは異なる存在を羨み、畏れ、疎んじる。それは時と場所が変わっても、変わることのない人の業だ。そして多摘自身が、今日まで身を以て体感してきたことでもある。恐らくはかの龍も、人界と仙界の交わるこの地で、人と隣り合い生きたのだろう。敬われ、疎まれて命を落とし、恨みを残した亡霊は、悪霊となって今を生きる多摘の在り方にも大いに重なるところがある――とはいえ。
「だが八つ当たりはよろしくない」
 人は護り、慈しむべきものだ。たとえこの身に向けられるものが恐れであれ、憎しみであれ、人なくしては成り立たないのが彼ら神獣である。
「人里を破壊せんするならば、容赦はせぬ」
 吹きつける火炎の息は水の弾幕に阻まれて、白煙となり空へ昇った。
「――嗚呼」
 猛る龍の咆哮に秘められた嘆きの音を感じ取っていたのは、ラファエラ・エヴァンジェリスタ(貴腐の薔薇・f32871)も同様である。愛馬の背で上空遥かな龍を仰ぎ、娘は色のない手で手綱を握った。
 愛されて裏切られたのか。
 憎まれて忘れられたのか。
 真実がどんなものかは誰にも分からない。けれどぎらぎらと燃えるような憎悪を手向ける龍は、何も心寄せられたくてこんなことをしているわけではないのだろう。
 開きかけた唇を引き結び、ラファエラは人知れずヴェールの下の瞳を閉じた。
(同情は不要であろうな)
 いかなる憐れみも、『あれ』には意味を成すまい。ここへ辿り着いた以上は、その憎しみごと受け止めるだけ。彼女ら猟兵が彼に与えられるものは、終わりだけだ。
「ならば――全力で向かおうか」
 畳んだ羽扇を唇に寄せ、添えた掌にふ、と嘆息すれば、冷たい吐息はやがて人の姿を象っていく。
「さあ、我が騎士よ」
 彼の竜を狩ってきておくれ。
 囁く声に応えて現れたるは、銀の甲冑に目の覚めるような青を引いた御魂の騎士。たった一人の主の命がため、騎士は白い馬を駆り、暗雲の只中へと駆け上がっていく。

●龍麟かたく
「ぎゃはは! 行くぜえー!」
 淀んだ空に拳を突き上げ、菊は叫んだ。愛用の箒に飛び乗った悪童は並走する黒竜のナイトと共に、吹き降ろす風をものともせず、暗雲の中へと昇っていく。『方舟』と名打たれたウィザードブルームは戦いにおいては然程役に立たないが、ことこの空を駆けることにかけては申し分のない菊の相棒なのだ。
「よぉーデカブツ! よく見りゃ可愛い顔してんじゃねえか、なあおい? 返事しろよ、トカゲ野郎!」
 馬鹿。阿呆。間抜け面。
 龍の周りを飛び回りながら、菊はありとあらゆる罵詈雑言で――ボキャブラリーが小学生レベルだ、ということは、この際置いておくとして――龍を挑発する。けたたましく叫び、笑う弟分の声を頭上遥かに聞きながら、ルーファスは思わず苦笑した。
「そういやお前の十八番はそれだったな」
 よく言えば繊細、悪く言えば貧弱な少年は、走るよりも、殴るよりも口が回る。ルーファスに取っては可愛い口撃に過ぎないが、真っ向からぶつけられたら堪らない。想像すると笑えてきて、思わずくつくつと喉が鳴った。
「さあ、連れて来いよ」
 ルーファス自身に空を飛ぶ力はない。けれども彼は、一人と一匹の相棒達が敵を引きずり降ろしてくれると確信していた。腰の左側に下げた鞘から真紅の鉈の一対を引き抜き、大きく振り回して身構える。菊と黒竜は相変わらず、巨龍の顔の周りをうろちょろと飛び回っている。
「なあおい、聞いてんのか? お前のことを言ってんだ、ぜ!」
 箒から伸ばした右足で、菊は龍の身体をガンと蹴りつけた。言葉は何ら解さない龍であるが、視界を行き来する彼らの存在が煩わしいことには違いないらしい。大口を開けて噛みつこうとするのを寸でのところで切り抜けて、菊は急降下を試みる。
「地獄の窯までエスコートしてやんよ」
 にたり。笑う少年を乗せた箒の尾が突如、龍の鼻先に毒を振り撒いた。吸い込んだものに幻覚を見せるその毒は龍の正常な思考を奪い、彼らの狩場へと誘い込む。
「喰らわしてやれ――ルーファス!」
 声の限りに叫び、地上すれすれで反転して、菊とナイトが離脱した。上等だ、と引き受けて、ルーファスは告げる。
「全力で屠ってやるよ」
 その眼前に、龍の巨体が墜ちてくる。振り被った鉈の一撃は、龍の頸の中心を捉えた。やったか、と、その場の誰もが息を詰めたが。
「……マジかよ」
 ずるり、ずるり。
 地に這ったのも束の間、龍は再び動き出す。決して、彼らの連携が至らなかったのではない――単純に、敵が恐ろしく頑丈なのだ。
「あーあー、だっせ」
「るせっ、決まるはずだったんだよ今ので!」
 笑う菊の声に眉を寄せ、ルーファスは言い返す。どこか緊張感のないやり取りに、いいや結構、と口を挟んだのは冬季だった。
「お手柄ですよ? ほら」
 御覧なさいと言うように伸ばした指の先を見やり、兄弟は『あ』、と惚けた声を重ねた。よくよく見れば龍の長い髭が、断ち切られて短くなっている。
「髭を切られた龍は力を失うと言いますからね」
 ふむふむと顎に手を添え頷きながら、人を装う妖仙は傍らに漂う水龍に目配せする。実際の所どうなんですかと尋ねると、多摘は小さく首を捻った。
「切られたことがないのでな」
 分からぬ、と答える龍に、そうですかと応じて狐は笑う。いずれにせよ、目の前の巨龍が動きを鈍らせているのは明らかだ。ここを責めない手はないと、人ならざる者達は獣の瞳を光らせる。それは瑞雲を駆り龍の動きに追走する、三千六も同じだ。
「面白い気を纏っているんですね」
 龍の体表を覆う気配を見てとり、少年は興味深げに呟いた。長い尾が巻き起こす風に小さな雲は時折押し流されそうになるが、その表情から余裕が失われることはなかった。
「それじゃあ、これはいかが?」
 甘く微笑む緑の瞳に、一条の敵意が入り込む。白く小さな瑞獣の掌で、電撃がバチバチと音を立てた。
「いくら躱しても、僕の呪詛はあなたをしかと捉えますよ」
 僕は、執念深いので。
 そう言って上目遣いに見上げた瞳は、見る者に底の知れないものを感じさせた。そおれ、と無邪気に差し出す手から、走る雷が龍を捉える。猟兵達の猛攻に敵も無傷ではいられないのだろう、抵抗する力は戦闘開始直後に比べると格段に弱っている。
「あはは、ふふ。残念でしたねえ」
 口元に手を添えて、三千六はコロコロと笑った。これを好機と念動力で自らを浮遊させ、藍は動きの鈍った龍に近づいていく。そして投げつけた神器を媒介に、呼び出すのは嵐の王――竜王。同じ嵐を司る獣がここに相見えたことに、浅からぬ縁を感じないわけにはいかなかった。
「あなたの力と、私の王。どちらが勝るでしょうか」
 凛として輝く藍晶石は、真っ直ぐに敵を見据えたまま。二匹の龍が咆哮し、紅い鉛色の雲を背に紅蓮の炎と紫電とが真っ向からぶつかり合う。煌々と燃える火は竜の背に立つ娘の手足をちりちりと焦がしたが、肌を焼く痛みなどこの期に及んでは些末なことだ。抜き放つ日本刀は青白い光を纏って、炎の中で揺らめいている。
「私は、私の力になってくれる方を信じます」
 さあ――ここからが正念場。雷光照り返す刃を下げて、娘は果敢にも巨龍の懐に挑んでいく。

●雲晴るる
 なぜ、此処に在る。
 私は、おまえは、なぜ?
 旧き龍は、もがく。再びこの世に舞い戻ったその訳を求めるように、吼える姿は猛々しくも痛ましく映った。
 衰えぬ雨脚に濡れそぼつ前髪の隙間から天を仰ぎ、鷙灰は龍の挙動を追う。
(お前の満足のゆく答えなど、俺などが持ち合わせるわけもない)
 どこから来て、どこへ往くのか。誰のために、何のために此処にいるのか。教えて欲しいことはあっても、教えてやれることなど何もない。
 だが行き場のない憎しみがその身体を焼くならば、終わらせてやることはできる。
 ぽん、と空気を蹴りつけて、たからが躍んだ。
「あなたが満足する答えを、たからは持っていないかもしれません」
 その痛みを苦しみを、想像することはできても、理解することなど不可能に等しい。だからこそ。
「たからはあなたをほろぼします」
 せめてその憎しみは、雨雲と共に断ち切ってみせる。海辺の街に屯す子ども達の姿を脳裏に描けば、刃を握る手には力が篭もった。負けるわけにはいかない――絶対にだ。
 決着の時は、着々と迫りつつあった。断続的に吹きつける炎の矢を巧みにかわしながら、多摘は機を窺っていた。龍の背に並んだ突起に手持ちの祟り縄を巻きつけると、それを頼りに一気に距離を詰める。
「汝は既に、過去」
 骸の海へ、還るがよい。
 厳かに告げて、悪霊の水神は巨龍の背骨に自らの尾を叩きつける。もんどり打った龍は雲を裂いて堕ちながら体勢を立て直し、雷の網を走らせた。多少の反撃は覚悟の上――しかしそれらは猟兵達に触れる前に、冬季の宝貝から生まれる雷撃によって相殺され、空中に黒い煤を残すばかりである。
「やれ、なかなか埒が明きませんね」
 図体ばかりの獣と思ってみれば、その巨体も見掛け倒しではないということか。弱体化してもなお、猛威を振るう龍の息吹は無視できるものではない。猟兵達の体力も無尽蔵ではない以上、そろそろ片を付けたいところだ。
 頃合かと歪めた唇に、獲物を狩る狐の野生が覗いた。狐は群れで狩りをしないが、だからといって狩りの仕方を知らないわけではない。地上では仲間の猟兵達が空の上の戦いを注意深く見つめている。
 『其処』へ落とせば、彼らの勝利だ。
「行け、黄巾力士! あの蛟を地に縫い止めよ!」
 黒鉄光る宝貝がその体積を増していく。見下ろす龍を抑え込めるだけその四肢を広げ、冬季とその乗騎は雲間の一点を目掛け落下する。衝撃と共に龍の腹へ乗り上げた宝貝の背中で、学徒は金磚を構えた。
「残念でした」
 白々しいほどの笑顔と共に、宝貝の砲身が火を噴いた。その鱗を砕くことは能わずとも、至近距離の砲撃は龍の骨を軋ませる。それでもどうにか空へ舞い戻ろうとするその身体に、黒い蝶が纏わりついた。
「痛くはしないよ」
 だから、其方の血をおくれ。
 戦場の中心を一歩退き、黒馬の上でラファエラが微笑った。群がる蝶は瞬きの間に数を増し、もがく巨龍を連れていく。
 その先に、その瞬間を待つ者がいた。
「枷程度はハンデとくれてやろう」
 ふんと小さく鼻を鳴らし、鷙灰は低く身構える。空翔ぶ翼も持たぬ矮小な生き物と、思わせたのはただこの時のためだ。勢いをつけて空へ飛び出すや龍の背に着地して、不安定な足場をものともせずに駆け上る。そして頸の後ろへ辿り着き、白虎は腕を振り被った。
「無辜の人々の幸せを、害する事は許さぬ」
 仲間達が力を合わせて龍の力を削り取った今ならば、彼らの刃が届くはず。曇天を震わす雄叫びと共に突き立てる爪は、龍の逆鱗を貫き――そして。
 弦の切れるような悲鳴が上がった。風が止み、雨が上がって、切れゆく雲の隙間から無数の光の階段が伸びる。
「……やったか」
 梃子摺らせやがってと毒づいて、ルーファスは二振りの鉈を鞘へ戻した。その隣では、攪乱のため飛び疲れたのだろう菊が荒い息をついている。光芒の中に古塔の如く突き立つ龍の影は見つめる猟兵達の視線の中心で、黒い塵となり散っていった。
「おや――主役のご帰還かな」
 崩れてゆく骸を見送り立ち尽くすラファエラの元へ、白馬の騎士が舞い降りる。黒い蝶を停めた手袋の指先を口元へ寄せれば、仮面に隠れた騎士の表情がわずかに翳ったような気がした。
「しかたあるまい? ひとり遊びには限度があるというし」
 端役には端役なりの演じ方があるというもの。
 悪びれた風もなく唇に淡い笑みを刷き、娘は言った。
「さて、帰ろうか」
 嵐の雲は霧散して、雨上がりの空に茜が差す。藍水の街を飾る無数の吊り灯籠にも丁度、灯が点る頃であろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『賑やかな市』

POW   :    料理を食べる/自分も作る

SPD   :    歌や踊りを観る/自分も参加する

WIZ   :    買い物をする/自分も商う

👑5
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●それから
 漁火踊る暗い海から陸の方を一望すれば色とりどりの灯りに照らされて、街の輪郭が浮かび上がる。
 入り組んだ路地裏を埋め尽くす屋台の軒先に、並ぶ料理は古今東西。八角を利かせた肉そぼろを白飯に合わせた魯肉飯に、油で揚げた肋肉を乗せた排骨麺、卵とネギを包んで焼いた蛋餅。色も形もさまざまの点心と、甘い物なら芒果、釈迦頭といった果物に、芋圓、豆花。切り紙細工の吊るし灯籠を、買い求めるのもよいだろう。
 ここは藍水、潮風の街。
 水平線に落ちゆく太陽が翠の光を残したら、灯籠夜市に夜が来る。

==================

第二章へのご参加、誠にありがとうございました。
第三章は日常パートです。
食事や買い物など、藍水の街の夜市で思い思いにお過ごしください。
三章のみへのご参加もどうぞお気軽に。

なお本章での描写は、「個人」または「グループ単位」となります。
ご参加を心よりお待ちしております。

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冬・鷙灰
【春冬】
夜に浮かぶ灯籠の鮮やかさ。食欲のそそる匂い。幸福の象徴のような喧噪。
安堵はしているが……どう過ごすべきか。
悩みながら当て所なく散策し。

腹拵えをすれば良いという己があり。
この場所で無くてもという己もある。
……俺も難儀だな。

肉饅頭を袋に詰めてもらい、散策しながら食べる。

目についた吊るし灯籠、睡蓮の意匠に懐かしさを覚え、店先に寄る。
買っていくか、と。
我ながら感傷が過ぎるが、偶には悪くない。

不意に猫の声を聴き、振り返れば。

鷙呂?

共に生き延びて、以後ずっと会えなかった弟分(だったはずだ)
咄嗟に何も思い浮かばず。

……食うか?

実に平穏な再会で安堵するような、気が抜けるような。
……変わらないな。


春・鷙呂
【春冬】
藍水の灯籠夜市、か…。美しい光景だな
路地裏で出会った黒猫には礼を言っておこう
これで夕餉には困らないさ

それに…吊るし灯籠か、睡蓮、懐かしいものだな
皆と居た頃を思い出す。ひとつ買っていっても…

あの、色は

僅かに見えた背に、名を呼ぶ声は音にならず
忘れたことは無かった同じ星を追い求めた兄弟子

(だが…何度違った。あの背を、面影を追いかけて)
何度も探してしまうのならば…もう、と

それでも期待を泥に沈めることもできずに

…にゃあ

小さく声を投げる。返る声も無いと思っていたのが

——鷙、灰

生きて出会うことなど無いと思っていた
驚いて何も言えずいれば、差し出された肉饅頭

幼い頃もそうだった

貰おう、でも半分で良い
鷙灰



 雨上がりの濡れた空気は、若く青い草の匂いがする。
 市門の下で暮れなずむ空を見上げ、春・鷙呂(春宵・f32995)は呟いた。
「美しい光景だな」
 東の海に面した漁港の街、藍水。夕立の強い雨脚は石敷きの道をしとどに濡らしたが、立ち込める暗雲が晴れた今、吹く風は道行く人々に穏やかな涼気を運んでいる。
 此処を訪れたのは、偶然だった。たまたま出逢った黒猫の尾に連れられて来てみたら、この市場の灯りが見えたのだ。
(あの猫に礼を言わないとな)
 機会があればと心の中で嘯いて、鷙呂は質素な市門を潜る。これで夕餉に困ることはないだろう。
 街外れの小径から夜市の中心へ、近づくにつれて次第に賑やかになる通りは、無数の灯籠に照らされていた。空を分ける黒い綱から屋台の軒先まで、点々と吊られたそれは色も模様もさまざまで、多くは花の意匠を凝らされている。
 その内の一つに――睡蓮を刻んだ一挺を見つけた。
「……睡蓮か」
 思い出すのは、志を同じくする者達と共に過ごしたあの頃。
 郷愁じみた懐かしさに駆られて、灯籠を売る土産物の屋台に目を向ける。しかしその瞳は目当ての灯籠を見つけ出すよりも早く、店の向こう側へと続く道の一点に引きつけられていた。
(あの、色は)
 自身とほとんど同じ背格好に、黒の混じった銀髪。何より、それと同じ色をした白虎の尾。けれどわずかに見えた背中はすぐさま、人波の中に紛れてしまう
「待っ……」
 呼ばう名は、声にはならなかった。今日の今日まで忘れたことのない、同じ星を求めた兄弟子の名。黒衣の袖から覗くそこばかり白い手をぎゅっと握り締めて、黒猫は雑踏の中を走り出した。
 
 一方、その頃。
「……俺も難儀だな」
 呆れとも詠嘆ともつかぬ息をつき、冬・鷙灰(忍冬・f32991)は足を止めた。
 ほの温かい光を湛えた吊るし灯籠の色彩に、食欲をそそる香辛料の匂い。戦いは終わり、人々は普段と変わらぬ夜を迎えようとしている。市場を包む喧騒はささやかな日々の幸せを象徴するようで、安堵はするが――鷙灰のような男には、少しばかり居心地が悪い。
(どう過ごすか)
 腹拵えをしておくべきか。
 けれどそれは、この場所でなくてもよいのではないか。
 つまらないことを悩みながら、当てどなく賑わいの只中を行く。途中、声を掛けてきた露店の主に勧められるまま肉饅頭を求め、袋を手にぶらり歩いていると、ふと、屋台に吊られた灯籠の一つに睡蓮の意匠を施したものがあると気がついた。
(…………睡蓮か)
 一つ買っていくかと手を伸ばしたことは、きっと、後になって振り返れば感傷の過ぎた衝動だったと思うのだろう。けれど確かに、『悪くない』と感じたのだ。そしてそこに生まれたわずかな時間は数奇にも、再び運命を交差させる。
 にゃあ、と猫の鳴く声に虎耳をぴくりと動かして、鷙灰は声のする方を振り返った。
「……鷙呂?」
「――鷙、灰」
 その瞬間の心の動きを、どう表したものかは分からない。
 あの日を共に生き延びて、けれどそれ以来会えずじまいでいた兄弟分。咄嗟に言うべき言葉は何も思い浮かばないのに、互いに『そう』だと言うことだけははっきり理解っていた。
 往き過ぎる人々の合間、二人の周りだけが時を止めたような沈黙の中で、鷙呂は息を詰める。
 その背中を、面影を追いかけては、何度も違えた。生きて出逢うことなどないと諦観を抱きながら尚、期待を泥に沈めることもできずにいた。そうして探し続けたその人が――今、目の前に立っている。
 二の句を告げずにいる鷙呂を前に、腕に抱えた紙袋を探り、鷙灰は饅頭を一つ差し出した。
「食うか?」
「…………」
 それは突然の再会には不釣り合いなほどなんでもない言葉で、それゆえに、二人の間に横たわる空白を越えていく。変わらないな、と呟くような声にはなんと返したものか分からずに、鷙呂は差し出された饅頭を受け取り、そして応じた。
「半分で良い」
 道は、再び交わった。この先二人がどこで何を成し遂げるのか、それはまた別の物語である。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鎹・たから
たくさんの色の灯り
おなかがすく匂いと海の匂い
たからは、この街を守れたのですね

ごはんを食べましょう
魯肉飯というのを食べてみたいです
リンシャオが居ればお誘いを
お疲れ様です、リンシャオも夕飯を食べましょう
あなたは何がすきですか?

…(ずっとふぅふぅしている
たから、熱いのが苦手なのです
ですがお肉の味がしっかりしています
ごはんが進みます
…(ふぅふぅ
かわいい形の点心も、熱くてなかなか食べるのが大変です

人の賑やかさ
きらきらした笑い声と街の彩にまばたき
ここで生きている人々の声は
とても素敵なものに思えます

お土産に吊るし灯篭を買いましょう
またこの街に来られるように
帰っても、自宅でこの街のことを思い出せるように



 港を望む高台に立ち、鎹・たから(雪氣硝・f01148)は一人、宵闇に沈みゆく街を見つめていた。
 白い煙を上げる小窓は夕餉の支度をしているのか、それともあれも夜店の仕込みだろうか?
 潮風に混じるよい匂いに空腹を覚えて、帰ってきたのだと実感する。いつものように夜市を開く人々は、ほんの先刻までこの街が滅ぶか否かの瀬戸際にあったということを知らない。人知れず嵐に立ち向かった猟兵達の戦いもまた、誰に知られることもないだろう。
 けれど、それでいいのだと想う。
(たからは、この街を守れたのですね)
 とん、と軽やかに石垣の段差を飛び降りれば、そこはもう賑わいの中。今し方まで準備中だった店々も、ちらほらと看板を掲げ始めている。
「あ、きみ!」
 そこの、と呼ぶ声が自分に向けられていると気づくのには、少しだけ時間が掛かった。雑踏に足を止め振り返ってみると、白金の髪に朱い花を咲かせた少年が小走りに駆けてくる。
「きみ、猟兵だよね?」
「ええ、と」
 リンシャオ、と名前を呼べば、そうそうと応じて少年は笑った。
「手伝ってくれてありがと。放っておいたらこの街、大変なことになるとこだった」
「こちらこそ、教えてくださってありがとうございました。……おかげで、子ども達も守ることができました」
 誰に認められなくとも、その事実だけで十分。温かな灯りがぽつぽつと灯る夜市の並びを一望して再び少年に視線を戻し、たからは言った。
「よかったら、一緒にごはんを食べませんか」
 魯肉飯というのを食べてみたいのです、とささやかな願望を口にしてみると、リンシャオはにっと口角を上げた。
「だったら、オススメのとこに案内するよ」
 こっち、と袖を引かれるまま、七色に燃える灯籠の下を駆け抜けて。やってきたのは市の外れの小さな屋台だった。顔馴染みなのか、あるいは面識など関係ないのか、少年は屋台の脇に据えられた粗末な椅子にさっさと座ると、たからが口を開くより早く、『魯肉飯二つ』と声を上げる。
 そろそろと隣の椅子に腰掛けて、たからは言った。
「同じものでよかったのですか?」
「ん? うん、おれも魯肉飯好きだし!」
 交わした言葉は、ほんの二言三言。そこへ、屋台の主人が大きな丼を両手に持ってやってくる。
「……早い、ですね」
「まあ、できてるものを盛るだけだしね」
 いただきます、と匙を取るリンシャオに倣って、たからはおずおずと肉そぼろの乗った白飯に匙を差し入れる。そして、あつ、と短い悲鳴を上げた。
「大丈夫?」
「……たから、熱いのが苦手なのです」
 ふうふうと息を吹きかけて、今度は慎重に口へ運ぶ。八角の効いた甘辛いそぼろは肉の味がしっかりして、粒だった米によく合った。何気なく視線を上げれば、無数の灯籠が夜を飾って淡い光を放っている。
(お土産に一つ、買って帰りましょうか)
 ささやかで、けれどとてもキラキラしたこの街の輝きを、いつでも思い出せるよう。
 そして願わくはそれをよすがにして、またこの街を訪れることができるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ダンテ・ホーンテッド
【彷徨い兄弟】

浴衣を身に纏い
実弟のジークムントが乗る車椅子を押しながら夜市を散策する

2人ともオフの日は久々だし多めの臨時収入もゲットしたし…
予算内になっちまうが俺様が奢ってやるからな!
何か買いたい物があれば遠慮なく言えよな!

弟と共に華やかな灯籠夜市を散策し
屋台で釈迦頭や芒果スイーツや愛玉を食べたり
欲しがった画材と人形や彫刻を買ってあげてたら
雑技団や歌や踊りを披露する人々が集う大広場に辿り着き鑑賞する事に!

観てたらいつの間にか兄弟揃って創作意欲に火が付きスケブに絵を描き始めてしまった

お互い描いた絵を見せ合いながら
やっぱ俺様達は兄弟だよなーと言い嬉々と笑い合う


ジークムント・ホーンテッド
【彷徨い兄弟】

実兄ダンテに車椅子を押してもらい灯篭夜市を散策!
(髪型はショートヘア、女物の可愛い浴衣着用)

久々に兄さんと一緒にお出掛け嬉しいな!
兄さん奢ってくれるの?!僕に気を遣わなくても…本当にいいのかい…?
うーんまずは釈迦頭食べたい!芒果のスイーツも愛玉も美味しい…!
この筆は妖獣や瑞獣の毛を使ってるんだってどんなのだろ…
あ!このドール可愛いっす!隣の仙人の彫刻も精密で素敵っすね!

ドールと彫刻を買ってもらい喜んでると
歌や踊りを披露する人々が集う大広間に辿り着き鑑賞してたら
踊り子の女性に一緒に踊ろう!と誘われるけど
僕は足が不自由だから踊れないよと言うと
ごめんなさいゆっくり観ていってねと言われる



 石畳の道にからからと、車輪の回る音が連なっていく。頭上に揺れる無数の吊り灯籠に負けずとも劣らない鮮やかな色彩を纏い、ダンテ・ホーンテッド(黒い幻雷と紫水晶・f23827)は車椅子を押しながら、立ち並ぶ店の庇が左右に張り出した小径を進んでいく。夜祭の灯りを金色に照り返す漆黒の髪に、赤や緑の光彩を帯びて輝くファントムアメジストの肌は色鮮やかな浴衣と相まって、まるでこの夜市を体現するかのようだ。
 幻想的な灯りを点す夜空を見上げながら歩いていると、車椅子の前からジークムント・ホーンテッド(車椅子の女無天色疾風は吹きすさび・f34164)の朗らかな声がした。
「久々に兄さんと一緒にお出掛け嬉しいな!」
 短く整えた黒髪に花簪を飾り、人よりも白い肌がよく映える愛らしい顔立ちの少年は、女物の浴衣を纏ってはいるがダンテのれっきとした弟だ。生まれつき足の不自由な実弟は、精霊の力を宿したこの特製車椅子のおかげで日常生活に――それどころか、戦場でさえも――苦労することはないのだが、こうして兄弟二人で散策に出る時はダンテが弟の背を押すことが当たり前の光景となっているのだった。
「二人ともオフの日は久々だしな。多めの臨時収入もゲットしたし、何か買いたい物があれば俺様が奢ってやっから言えよ!」
 予算内になっちまうがと付け加えて、ダンテはからからと気前よく笑う。本当に、と聞き返すジークムントは、しかし少しだけ遠慮がちに応えた。
「僕に気を遣わなくてもいいんだよ」
「ばーか、実の弟相手に気なんか使うかよ。遠慮すんな」
 くしゃりと髪を掻く手が、不思議と温かい。嬉しそうに目を細めて、少年は夜市の並びに目を戻した。
「じゃあ、まずは釈迦頭食べたい!」
 港町藍水の夜市には、さまざまなものが集まってくる。変わった形の果物や、それを使った甘味なども、通り一つ見渡すだけで目移りしてしまうほどだ。ごつごつとした突起をむしって食べる釈迦頭は勿論、芒果、愛玉――。一つ口にしてはまた次へ、舌鼓を打つ弟の笑顔が幸せそうで、ダンテは金色の瞳を細めた。
「お――こっから先は雑貨を売ってるみたいだな」
「本当だ」
 琥珀に煌めく愛玉ゼリーの最後の一口を喉の奥に流し込み、ジークムントは行く手に目を配る。芸術家肌の兄弟の目を特に引いたのは、妖獣や瑞獣の毛を使って作ったという絵筆だ。その描き心地はいかがなものかと、想像するだけで興味をそそられた。画材だけではない――大熊猫の人形や仙人を象った緻密な彫刻など、並ぶ品物は色も形も雑多で、だからこそ一層面白い。
 興味津々の弟に画材や彫刻を買ってやり、ダンテはその喜ぶさまを微笑ましく見つめていた。弟のこんな顔が見られるならば、この程度の出費は安いものだ。
 往く道はやがて、賑やかな広場へと辿り着く。
「流石、賑わってるな」
 楽器を奏でる人。歌い、舞い踊る人。軽業を披露する者もいる。淡い光を落とす灯籠の下、繰り広げられる芸事は見事な一言で、思わず目を奪われてしまう。足の悪いジークムントは、踊りの輪にこそ加わることができないけれど――。
「描くか?」
 すいと兄から差し出されたのは、使い差しの写生帳。いいの、と問えば兄は笑って、弟の手にそれを押しつけた。
「やっぱ、俺様達って兄弟だよな」
 この鮮やかな夜を前にして、絵を描きたくないはずがない。そんなことも、手に取るように分かってしまう。
 広場の片隅に陣取って、買ったばかりの画材を紐解いて。走る筆は一時も止まることなく、白紙に夜市の風景を写し取っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーファス・グレンヴィル
アキ(f29554)と

飽きずによく頑張ったよ
お前にしたら、だけどなあ
でも風切るのとか楽しかっただろ

ぐい、と顔を近付け笑い返せば
くしゃくしゃと頭を勝手に撫でた
何でも好きなの買ってやるよ

でもアキもオレも好みねえからな
店主の勧められるままに食うか
辛いのと苦いのはオレが食べてやる
ほら、これとか甘いぞ、と
口許に差し出す芒果

あ? これくらい普通だろ
最後の一口をパクリ
薄い腹を気にする様に瞳細め
落ち込みそうな彼の気分を感じて

それより、ほら、アキ、灯籠
折角だから土産に買って帰ろうか

少年を心配したのか
黒竜は彼の頭上へ
覗き込めば勘違いされて
ふん、と顔を逸らしていた

そんなやり取りを後ろから眺め
──ふ、と穏やかに笑った


菊・菊
ルーファス(f06629)と一緒

やーと遊べんじゃん
ひひ、ずっと遊んでねーし、頑張ったろ、褒めろ
きゃは

そう言って満足げに笑って、隣を見上げた
腹減ったから奢れよ

見たことねー飯な
匂い嗅いでみても全然わかんね

ルーファスがうまいって言うのを食うか
口開けて待っとく
ん、うまい
これおかわり

はー、腹いっぱいだわ
つかお前どんだけ入るわけ?
…だから俺よりでけーのかって思って
薄い腹を苦々しく見つめる

ん?灯籠?
よくわかんねーけど、きれーじゃん

握り潰せばすぐに壊れてしまいそうな
繊細な紙細工のひとつを手に取って
ぼんやり眺める

肩に止まった黒竜に、にたりと笑って
なあんだよナイト、これ食えねーよ?
ひひ、馬鹿にすんなって?



「やーと遊べんじゃん」
 灯籠の燃える夜空にぐぐっと伸びをして、菊・菊(Code:pot mum・f29554)が言った。嵐を連れた暴れ龍を退治た帰り道、立ち寄った夜市は色とりどりの光に包まれている。
「ずっと遊んでねーし、頑張ったろ、褒めろ」
「ああ、飽きずによく頑張ったよ」
 お前にしたら、だけどなあと付け加えて、ルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)は弟分の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。気まぐれでいたずらな悪童も褒められて悪い気はしないのか、きゃは、と笑う甲高い声には喜色が滲んでいる。
「でも、まあまあ楽しかっただろ」
 濡れ鼠になりながら嵐の中を箒で飛び回るなんて、そうそう普段から経験するものではない。たっぷりとした結い髪は未だ雨の名残に濡れて、けれどそれを気に留める風もなく、少年はぐりんと上体を倒すと兄貴分の顔を覗き込んだ。
「腹減ったから、奢れよ」
「何でも好きなの買ってやるよ」
 ルーファスが負けじと顔を近づければ、どちらからとなく悪い笑みが溢れた。極彩色の市場を満たす匂いは芳しいが独特で、そして食欲をそそられる。
「とは言え何を食うかだな」
「ん、匂い嗅いでみても全然わかんね」
 これといって食にこだわりのない二人だが、見たことのない食べ物に興味を惹かれないわけでもない。珍しい果物が並び、姿焼きの鳥や豚が無造作に吊るされた市をぶらぶらと歩きながら、ルーファスは買い込んだ食べ物を次々と菊に手渡していく。
「ちょ、ま。こんないっぺんに食えっかよ」
「いいだろ、辛いのと苦いのはオレが食べてやるから」
「聞けよ」
 量が多いって言ってんだよ、と睨む少年を、まるで息をするように甘やかしていることには、多分無自覚なのだろう。両手に紙皿を持たされ身動きの取れない菊の口元に、ルーファスは鮮やかな山吹色の芒果を差し出した。
「ほら、これとか甘いぞ」
「あむ」
 甘い、の言葉に条件反射で口を開けば、齧りとった果実の芳醇な甘みと香りが鼻腔へと立ち昇る。
「ん、うまい。これおかわり」
「自分で食え」
 肉の乗った一皿を引き取られる代わりに芒果を握らされ、菊は黙々とそれを咀嚼する。視線を走らせれば大勢の人々で賑わう街角は、嵐の前の鄙びた風情とはまるで別世界のようだ。
 食べたことのない料理をおっかなびっくりつまみながら、光溢れる小道をそぞろ歩く。やがて市の外れに辿り着く頃にはもう、胸の上まで食べ物が詰まっているような気分で、菊はけぷっと息をついた。
「はー、腹いっぱいだわ。つかお前どんだけ入るわけ?」
「あ? これくらい普通だろ」
 そう言って、ルーファスは胡椒餅の最後のかけらを口に放り込み、苦もなく飲み込んだ。
「……だから俺よりでけーのか」
 身長はそう極端に変わらないものの、体格という観点で見ると、二人の間には埋まらない溝がある。
 肉づきの薄い腹を苦々しく見つめる少年が、それを気にしているのは分かっていた。可愛いところもあるのだと思わず目を細めながら、弟分が気落ちしてしまわぬよう、ルーファスは敢えて話題を逸らすことにした。
「それよりほら、アキ、見ろよ」
「んだよ」
 拗ねたように睨みつけた菊の瞳が、男の指先に誘われて道の先へと縫い止められる。見つめる屋台の軒先には、灯りを点した大小さまざまの灯籠が並んでいた。
「折角だから土産に買って帰ろうか」
「よくわかんねーけど、きれーじゃん」
 吸い寄せられるように手に取った紙細工は、力を込めればすぐに潰れてしまいそうなほどに頼りなく、しかし精緻だ。美しくも弱々しいその姿は、鏡か何かを見ているような気がして――淡い光をぼんやりと眺めていると、ひらひらと辺りを飛び回っていた黒竜が菊の肩に舞い降りた。
「なあんだよナイト、これ食えねーよ?」
 どこか遠くを見つめていた少年の表情に、悪餓鬼じみた笑みが戻る。それを見つめるルーファスの口元にも、穏やかな微笑が浮かんでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
WIZ
どれもこれも美味しそう。
問題は私の食が細い事ね。
果物丸ごとなら日持ちまではいかなくても、持ち帰ってから食べる事ができるかしら?
実はライチ好きなのよね。やや硬い殻だけど素手で簡単に剥けるし。芒果も甘くて好き。
少し小腹を満たすぐらいの……点心をいただいて、それから持ち帰り用の果物を探しに街を歩きましょうか。
吊るし灯篭は切り紙細工が本当に見事ね。どれか一つ欲しい気がするけどどれがいいかしら。
草木を表現したものもいいし、特に花々のは素敵ね。
……月の満ち欠けを表現したこの灯篭いいわね。背景は流れゆく雲かしら。
うん、これにしましょう。
灯篭を購入したら再び果物を探しに街歩きを始めましょう。



(どれもこれも、美味しそう)
 氷水で冷やされた宝石のような果物の串。
 甘辛のたれに艶々と光る肉の角煮に、白魚のすり身を浮かべた淡い金色のスープ。
 しかしそのすべてを試すには、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)の食は細すぎる。
 たまたま目に留まった店で仕入れた一皿の点心をつまみながら、クリスタリアンの娘はところ狭しと屋台が並ぶ市場の一角を分けてゆく。目当ては、色も種類もさまざまの果物達――今この場では食べることができなくても、新鮮な果物なら持ち帰っても少しは日持ちするだろう。白い真珠のような瑞々しい茘枝に、山吹色の鮮やかな芒果の果肉の蕩けるような甘さを思い描くと胸の躍るような心地がして、淡い唇がつい、綻んでしまう。
 どこで買おうか。
 何を買おうか。
 迷い悩む時間も、夜市の中でならば楽しい。目移りしながら歩いていると、道はやがて灯籠を売る屋台の並びに辿り着く。軒先に並んだ色も形もとりどりの灯籠は精緻な切り紙細工が実に見事で、藍は吸い寄せられるように歩み寄った。
(どれか一つ欲しい気がするけど……)
 並ぶ灯籠の多くを占めるのは、草木の影を映し取ったものだ。特に花の紋様を描いたものは種類もあり、華やかでいい。けれどそんな中で一際彼女の目を引いた灯籠は、他のものとは少し毛色が違っていた。蒼い薄紙に棚引く雲と月の満ち欠けを表したそれを手に取って、藍は満足げな笑みを浮かべる。
「うん、これにしましょう」
 数枚の硬貨と引き換えにした灯篭を右手に、『まいど』と叫ぶ景気の良い声を背に受けて、銀色の娘は歩き出す。この調子では目当ての果物もつい買い過ぎてしまいそうだけれど、たまにはそんな夜があってもいいだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

東天・三千六
人の行き交う場、どこを見てもお店がたくさんの夜の市
賑やかですねえ
僕もお邪魔させていただきましょうか

ふらふらとあてもなく、人の流れに身を任せます
気分で路地へ進み、目に付いた灯籠の屋台へと足を向け
軒下に吊されていた多種多様の灯りの中から可愛らしい唐草模様の切り絵灯籠を購入します
ぼんやりと淡い緑色に灯る様子を眺め、ひとり満足に笑いながら機嫌良く他の店にも顔を出していきます

お腹も空いてきたので果物の店でも探しましょうか
ああでも、大餅も美味しそう…ふふ、あちらの菜包もいいですねえ…

(スタンスとして「灯籠夜市が無事でよかった」など祝いの類の言葉を口にはしません。ただただ夜市や夜涼みを楽しみます)



「ふふ、賑やかですねえ」
 右も左も、前も後ろも。見上げる夜空さえもが七色の灯りに染まった夜の市。立ち並ぶ屋台の只中を、東天・三千六(春雷・f33681)はふらり歩く。行き先は、特に決めていない――人の流れに身を任せている方が、存外、面白いものに出逢えるというものだ。
「あ」
 小さな手を口元に当てて、瑞獣の少年は声を上げた。紙細工の吊るし灯籠はこの街を照らすのみならず、土産物としても売られているらしい。小走りにその店先へ走り寄って、三千六は茫洋と光る多種多様な灯籠達に目を配る。
「これを一つ、くださいな」
 屋台の軒下に吊された唐草模様の切り絵が可愛らしい灯籠を指して、少年は言った。愛くるしいその笑顔に店主の老婆は眉を下げて笑い、おまけにと言って三千六の髪に切り紙細工の花を飾ってくれた。
 やわらかな淡い緑色の光を放つ灯籠を手に提げて、少年は鼻唄混じりにぴょこぴょこと夜を渡っていく。赤に黄に、青に緑に、紫に。夜空を区切る吊るし灯籠は、張られた薄紙の色によって、さまざまな彩を見せてくれる。
 ぐう、と微かな音がして、三千六は薄い腹に手を当てた。
「お嬢ちゃん、よかったら一つどうだい」
 足を止めて顔を上げると、果物を売る屋台の店主と目が合った。店先に並ぶ果実はどれも鮮やかで瑞々しく、切り口から漂う甘くも爽やかな香りが心地よい。
「うふふ、では頂きましょうか」
 間違えられている、ことは気にも留めずに甘やかに笑い、三千六は果物の串を一本手に取った。
(ああ、でも、)
 肉を挟んだ大餅も、韮を包んだ菜包も、目につくものすべてが魅力的で。さて次はどうしようかと思うけれど、そう易々とは定まらない。
 風の囁きにも似た笑い声を溢しながら、少年は夜道を弾んでいく。何も急ぐことはないだろう――今宵の市はまだ、始まったばかりなのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
f11024/花世

灯籠のうつくしさに
双眸を和らげたのも束の間
活気に満ちた市場へ向かう足取りは
心逸るまま
いそいそ
そわそわ

花世お勧めの品々へ興味深く頷きながらも
彼方へふらり
此方へふらり
方々の店へ立ち寄っては
手に幾つもの串の山

…苺飴、おいしいですよ

欠けた器が故の
満腹知らずの底無しで
止め時が分からぬものだから
誰かとの食事は指針になって有難い…とは、言葉にしないまま
ただ存分に滋味を堪能致しましょ

花世からどんどん差し出される匙へと
次々食いついて
まるで餌付けされているみたいねぇ

おや
もしかして本当に餌付けの心算

悪戯っこのように
二人で笑い合う

花世の頬も燈を映して耀いているもの
私もきっとずっと笑顔のままに違いない


境・花世
綾(f01786)と

異国の夜市はまるで迷宮
危険な罠に満ちている
そう、おいしいものをやっつけないと、
先に進めない罠が——

くっ、葱油餅! 無視できない!

緒戦から果敢に挑む油モノ
さくふわ香ばしい風味は
ふたりにかかればあっという間

次は何をやっつけようかと
振り向けば一瞬で蛻の殻
歩く度に罠にかかってるらしい、
食いしん坊の神さまったら!

仕方ないと手にする秘密兵器は
絶妙な塩加減が最高な雞肉飯
あーんと差し出したなら、ちゃんと隣にいてくれる?
次は蚵仔煎、お次は大鶏排もと運んでしまうのは
きみがあんまり楽しそうに齧るから

……餌付け気分、なんて

くすくすと笑み交わす夜市の迷宮
すっかり囚われて、まだまだ出られそうにない



 夜空に無数の光暈を点す灯籠の美しさに、目を細めずにはおれなかった。しかし街並みが次第にその輪郭を明瞭にするに連れ、穏やかな夜景は活気溢れる市場の喧騒へと形を変えていく。そわそわと逸る心に釣られるように足取りを早めて行き着いた夜市は異国情緒に溢れ、雑多で、かつ過密で、まるで迷宮に迷い込んだかのようだ。
「迷宮につきものといえばなんだと思う?」
「迷宮につきもの?」
 首を捻る都槻・綾(絲遊・f01786)を見て、境・花世(はなひとや・f11024)はふふんと笑った。
「迷宮はいつだって、危険な罠でいっぱいなんだよ」
 そう、人を惑わし足止めする巧妙な罠が、この夜市の至るところに張り巡らされていた。即ち、『おいしいものをやっつけないと、先に進めない罠』がだ。
「くっ、葱油餅! 無視できない!」
 踏み込んで早々罠に掛かるのを、嘆かわしいとは言うなかれ――これは不可抗力というものだ。外はさくさく中はふわもちの生地に刻んだ小葱がたっぷり入った葱油餅は、油物にもかかわらずあっという間に食べ切れてしまう。
 鼻に抜ける香ばしい香りに目尻を下げて、綾は言った。
「なるほど、随分と手強い迷宮のようで」
 灯籠夜市には、なんでもある。誰かがそう言ったのは、あながち誇張でもないらしい。料理、食材の類は勿論、土産雑貨から織物まで、ありとあらゆるものが狭い路地に寄り集まっていた。
「さて次は、」
 何をやっつけようかしら、と花咲く目元を綻ばせて、花世は隣を歩く男を見上げた。否、見上げたつもりだったのだが。
「あらっ?」
 振り向いたそこに、綾の姿はなかった。長い睫毛に縁取られた瞳をぱちくり瞬かせ、探す姿は雑踏の中。果物を売る屋台の前にその姿を見つけると、目が合うや否やひらひらと、男は手を振ってきた。
「もう、食いしん坊の神さまったら! 歩く度に罠にかかってるじゃない」
「苺飴、おいしいですよ」
 ずんずんと人混みを分ける娘の鼻先に、飴を絡めた真っ赤な苺の串を差し出し、綾は悪びれた風もなく笑った。
 花世の勧める品々はどれも外れがないし、その上この市場には、古い香炉もまだ知らないものがいくらでもあるのだ。そこをふらふらするなと言われても到底無理というもので、珍しい色や匂いに誘われ歩けば、手には竹串が増えていく。
(欠けた器、ですからねぇ)
 満腹知らず、底なしの身体は止め時を知らない。だから、誰かと共にする食事は参考になるのだが、人に合わせて止めてしまうには余りに惜しい夜だ。
 さてお次はと目を配っていると、油と肉の良い匂いが鼻先をくすぐった。視線を落とせばひと匙の米を綾の口元に突きつけて、花世が悪戯っぽく笑っている。
「あーん……ってしたら、ちゃんと隣にいてくれる?」
 落ち着きに乏しい困った宿り神様を、繋ぎ止めておく最終兵器。屋台料理の定番、鶏肉飯。差し出されるまま口にすれば、油で艶めいた白米は鶏の旨みと塩気がしっかりときいて、正に絶品と言えよう。
「こっちもどう? それからこっちも」
 小粒の牡蠣を沢山包んだオムレツ、蚵仔煎に、鶏胸肉を叩いて揚げた五香粉匂い立つ大鶏排。出せば出しただけ食べてしまう綾があまりに楽しそうなものだから、食べさせる花世の方までつい、楽しくなってきてしまう。
「まるで餌付けされているみたいねぇ」
「……え」
 愛玉ゼリーを掬った匙が、口元へ届く前にぴたりと止まる。
「おや、もしかして本当に餌付けのつもりで?」
 だめ? とでも言いたげに揺れる牡丹へ、ふるりと首を横に振り。綾は娘の手に手を添えると、愛玉の匙を口に運んだ。
 華やかに照らされた光の迷宮に囚われて、ならばとことん、迷うまで。
 悪戯な子どものように耀いた笑顔のまま、夜市の奥へ分け入る二つの影を無数の灯籠が照らしている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

水鏡・多摘
嵐は訪れず市は平和に行われる。
なら一時この空気を楽しむのも悪くなかろう。
異国であってもこのような祭りにもよく似た賑やかな空気は…中々好ましい。

夜市の灯篭を見つつゆっくりと街を見て回ろう。
灯篭にも色々工夫が凝らされていて見ているだけで飽きない。
小ぶりな灯篭を二つか三つ、買って帰るのも悪くはないか。
…キラキラ派手なのも中々…!

途中リンシャオ(f03052)を見かけたら声をかけよう。
多分この街に詳しいだろうから美味しい店や屋台を聞いてみて。
これだけの料理が並んでいる中どれかを選ぶのは悩ましく、
かといって全部を食べるには小食であるからのう。
もしよければ一緒に夕飯食べぬかと尋ねる。

※アドリブ絡み等お任せ



 嵐は去って、星と灯籠の穏やかに瞬く空の下。異国の市は夏の夜の熱気に包まれていた。単に暑いというのもあるが、行き交う人々の活気が尚更にそう感じさせるのだろう。家屋を結んで張り巡らされた無数の吊るし灯籠は夜市を見下ろして、薄紙越しに柔らかな光を投げかけている。
 夜明りに長い影を引き、水鏡・多摘(今は何もなく・f28349)は雑踏の中に足を止めた。
(まるで祭の賑わいだな)
 料理に食材、雑貨に骨董。雑多な店がずらりと並ぶさまはある種壮観で、故国の夜祭を彷彿とさせた。雨が酷くならなくてよかったよ、とあっけらかんと語り合う人々の会話を小耳に挟めば、自然と口元が笑みを描く。
 この先、彼らの戦いが日の目を見ることはなくとも、彼らが守ったものは確かにこの場所で日々を紡いでいくのだ。報酬として、それ以上のものは何もあるまい。
(しかし実に、見事)
 見上げれば白く豊かな鬣を五色の彩に染める灯籠は、一つとして同じものがない。骨組みに色紙を張り、さまざまな形に切り出した金板で描き出される花紋様は光の加減や向きによっていかようにも形を変える。店先に並ぶ土産物のそれは一層華やかで、大きいものから小さいもの、慎ましいものから煌びやかなものまで様々だ。
 二つか三つ、買って帰るのも悪くないかと手を伸ばしたその時、背後から掛かる声があった。
「あ、多摘さんだ!」
 こんばんは、と続く朗らかな声に振り返るとそこには、見知った顔の少年が立っていた。リンシャオ、とその名を呼べば駆け寄ってくる少年を見下ろして、龍は瞳を瞬かせる。
「よく分かったな」
「分かるよ、多摘さん目立つもん」
 悪い意味じゃないよ、と付け加えて、リンシャオは笑った。そうだろうかと頭に手を当ててみて、まあそうか、と多摘も笑み返す。
「この街には詳しいのか」
「それなりかな。まだ分かんないことの方が多いけど、ご飯は安くておいしい」
「ふむ」
 おいしいと言う言葉にふと、昼から何も口にしていないことを思い出して、多摘は夜店の並びに目を移した。漁港の街だけあって焼き物は魚介類が充実しているようだが、肉も甘味も一通りある。込み入った屋台のそこかしこには白い湯気が立ち昇り、食欲をそそる香辛料の匂いを辺り一面に振り撒いている。
「これだけ数があると、どこで何を食べてよいものか分からぬ。どこかいい店を知らぬか」
「片っ端から試すっていうのは?」
「それができればよいがのう」
 端から端まで食べ尽くすには、身体が足りない。長い首を捻る多摘に『冗談だよ』と申し訳なさそうに笑って、リンシャオは続けた。
「じゃあ、何か一緒に食べに行こうか」
 美しい景色の中に立ち止まり、廉価で美味しい屋台飯を好きなだけ食べて。ほんの一時でいいから、この夜に羽根を休めよう。
 平穏を取り戻した街が奏でる命の音色は、いつかまた次の戦いに挑む時、必ず彼らの力になるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴上・冬季
「いいですねえ、こういうのは好きですよ」
芒果
釈迦頭
芋圓
豆花
他甘味だけ選び食べ歩きに集中

「私は甘党ですので。甘いものだけ食べて生きていけるんです。…仙にとっては食自体が嗜好品ですから」
仙骨を育てた修行の果ての不老不死
事故での死はあっても在るがままにおいての死はない
昇仙自体が本来の命からの解脱なのだ
生命における三大欲求は必須ではなく、存在するための欲求のみでその場に在るモノ
それが仙
「師を敬い同門を助け己が望みに邁進せよ。師から賜った洞門の掟はこれだけで、そして仙にとってこれ以上のものはない掟です」
仙になれば係累との繋がりは切れる
不老不死であるがゆえに在る理由が必要となる

「他の望みは…そのうちに」



「――実に、いいですねえ」
 切れ長の瞳を狐のように細くして、鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)は呟いた。
(こういうのは好きですよ)
 凹凸のある黄緑の果皮が特徴的な釈迦頭、芋頭と珍珠をごろごろ載せた温かい豆花に、南瓜とさつま芋の芋圓善哉、宝石じみた果物の串、熟れた芒果をこれでもかと盛った雪花冰。
 これらはこの夜市のある通りで売られている甘味の例であり――また、今夜ここを訪れてから冬季が口にした物のリストである。
 一言に甘党と言っても限度がありそうなものだが、甘いものだけ食べていても冬季には何の障りもない。というのもだ。
(仙にとっては食自体が嗜好品ですからね)
 仙骨を育て、厳しい修行の果てに不老不死を体得した仙人達は普通、戦や事故で命を落とすことはあっても、老いて死ぬことはあり得ない。昇仙するということ自体が、本来の寿命からの脱却なのだ。いわゆる人間の三大欲求は生命を維持する上で必須ではなく、内より出でる欲求のみでその場に在るもの――仙というのは、そういうものだ。
 手にした草仔粿の最後の一口を飲み込んで、冬季は学生帽のつばを深く押し下げた。
(『師を敬い、同門を助け己が望みに邁進せよ』)
 かつて、彼がまだ違う名前を名乗っていた頃。師から賜った洞門の掟は、それだけだった。不老不死を得んとする彼らにとって、これ以上はない掟だ。
 永遠を生きることは、多くを喪うことに等しい。親兄弟から妻子まで、近しい係累、或いは友が死に絶えた時、彼らに何が残るのか。終わりのない命を持つ彼らには、理由が必要だった。
「まあ――今は」
 これでよしとしておきましょう、と上機嫌に口にして、冬季は外套を翻した。この市の甘味を食べ尽くすこと、それが今宵のレゾン・デートルである。

大成功 🔵​🔵​🔵​

壱織・彩灯
【桜緋月】

れんれん!ゆくぞ!
屋台がたくさんじゃ!
鬼灯の灯篭も探しつつな

掛けられた声音はよく識るもの
おお、千鶴ではないか
お前も遊びに…では無いな
むう、そう睨むでないぞ
俺も息抜きしたいんじゃ…赦せ…(屋台ごはんに視線は釘付け)
千鶴は俺の親戚だ、まさか既に縁あったとは…
レン、良い提案だな
折角だからみなで巡ろう

…ほう、まんごー、に…
ばんれいし…トゲトゲじゃの
どれ、爺が剥いてあげよう
ふたりに渡してぱくり
甘い、これは勝ちの味だな!
レンと一緒にハイタッチ

なるほど、灯篭に縁を結ぶか…
千鶴と合流出来たしな
鬼灯、桜、彼岸花で揃いにするか?
顔を綻ばせる二人に
可愛いのう、って
わしゃわしゃ撫でて
ご機嫌に灯篭は揺らめく


宵鍔・千鶴
【桜緋月】

暗海から別世界の様に並ぶ鮮やかな灯り
此れなら、見つけやすいかな
さて、彩灯…御当主探しと行こうか

暫し屋台を眺めていれば
…ん、あれ、…レン?
見知った顔に声を掛けてハクを撫でつつ
ちらと視線の傍らには探し人
見つけました、御当主
また遊び歩いて…
なんてむす、と不貞腐れていればレンのお誘い
…なら仕方ない
見たことない果物沢山有るね
何だろこれ…葡萄に似てる?
…ふふ、怖くない。
食べてみようよその緑の

燥ぐ二人をハクと見詰めて
俺が知らないレンと御当主の顔
不思議な感覚

吊るし灯篭?賛成
俺も折角だから少しくらい想い出作っちゃおう

いつまでも幼子扱いの御当主に拗ねるけれど
撫でられるまま
其れでも灯篭はぎゅうと胸の中に


飛砂・煉月
【桜緋月】

れっつごー、彩灯!
鬼灯の灯籠はあるかな〜?
視線巡らせてたら聞き覚えのある聲がオレを呼ぶ
お、千鶴じゃん!偶然〜
大きく手振り、ハクは逸早く彼の処へ

あれ、千鶴と彩灯は知り合い?
ふたりの顔を交互に見て
あっは、親戚!
なら皆で一緒に回ろてへらり

あ、果物!
マンゴーとこっちの緑のは何だろ〜
未知の物、皆で食べれば多分怖くない?
確かに緑の葡萄っぽいねと観察だ
剥いて貰ったのをハクと食べれば甘くて美味しい〜
此れオレ達の勝ち確!
いえーい、彩灯とハイタッチ!
千鶴とハクの視線にはきょとん顔を

ね、記念に吊るし灯籠買わない?
其の揃いイイね、最高!
オレ達って感じする
撫でられたら嬉しそうにへらり
灯籠にも熱がきっと、宿って



 今は穏やかな波の寄せる波止場に立って見上げると、石段の先に広がる街が鮮やかな光彩を放っている。それは背にした海の暗い沈黙とはまるで対照的で、宵鍔・千鶴(nyx・f00683)は呟くように言った。
「此れなら、見つけやすいかな」
 さて――探し人は今いずこ。
 ほう、と一つ嘆息して、少年は歩き出す。少し急な石段を登り、舗装された道を街の中心に向かって進んで行くと、程なくして夜市の賑わいにぶつかった。見上げれば頭上に吊られた無数の灯籠は錦の色を纏って煌々と燈り、見渡せば夕餉を求める人々が行き交う夜店には見たことのあるものもないものも、さまざまな料理と食材が並んでいる。物珍しさも手伝って、きょろきょろと目を配りながら歩いていると。
「ん?」
 あれ、と思わず声を上げて、千鶴はその場に足を止めた。通りを一つ挟んで向こう側、夜店に群がる人々の中に、見覚えのある後ろ姿が並んでいる。
「れんれん! ゆくぞ! 屋台がたくさんじゃ!」
「いえーい! れっつごー、彩灯!」
 気分上々に肩を組み、壱織・彩灯(無燭メランコリィ・f28003)と飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)は空いた片手を空へ突き上げる。きゃっきゃとはしゃいで行く道の左右には、色も大きさも様々の灯籠を売る店が続いている。
「どれどれ、鬼灯の灯籠はあるかな――」
「レン」
「へ?」
 身を乗り出して灯籠を物色していた煉月の耳に、聞き覚えのある声が届く。だれ、と来た道の先を振り返るとそこには。
「お、千鶴じゃん! 偶然ー?」
 大きく手を振る煉月の肩から白い竜がはばたいて、千鶴の元へ飛んでいく。慣れた仕草で抱き止めた竜の喉を折り曲げた指の背で撫でて、千鶴は友人の隣に立つ人物を一瞥した。
「見つけました、御当主」
「おお、千鶴! お前も遊びに…………では無いな」
 じろりと見やる視線に、彩灯の声が窄んでいく。はあ、と聴こえるように溜息をついて、千鶴は口元をへの字に曲げた。
「どこに行ったかと思えば、またこんなところで遊び歩いて――」
「むう、そう睨むでないぞ」
 俺も息抜きしたいんじゃ――と、真摯に弁明するはずだった視線は、鼻先をくすぐる白い湯気に誘われるまま屋台の料理へ泳ぎ着く。聞いているんですかと眉をひそめる千鶴と、困り顔の彩灯を交互に見比べて、煉月はあれ、とぼけた声を上げた。
「二人とも、知り合い?」
「千鶴は俺の親戚だ」
「あっは、親戚!」
 納得、と手を打って、煉月はやおら二人の間に割って入ると、満面の笑みでその肩を掴んだ。
「なーら、皆で一緒に回ろ!」
「はは、それはいい!」
 からからと笑う彩灯ごと抱き込まれた腕の中で、千鶴は面食らったように瞳を瞬かせる。こうなってはもう是非もない――仕方ない、と眉間の溝を揉むと、やった、と弾む声が重なった。
「じゃー早速、ほら、果物食べよ! えーっとこっちはマンゴーで……こっちの緑のは何だろ」
 小さく首を捻りながら、煉月は店先の果物の中から黄緑の皮がごつごつとした丸い果実を取り上げた。猟兵として様々な世界を訪れてきた彼らだが、異国の市にはそれでもまだ知らないものが沢山ある。
「何だろこれ……葡萄に似てる?」
「確かに、緑の葡萄みたい……に見えなくもない?」
 それにしてはギュッとしてるけど。と、煉月は果実の表皮をつつく。指先に返る感触は固く、とげとげとして、鼻先へ近づけても特別匂いはしないようだ。
 どれ、と煉月の手から果実を引き受けて、彩灯が言った。
「ばんれいし、という奴ではないかの」
 蕃茘枝。別名、釈迦頭。とはいえ彩灯も話に聞いて知っているだけで、食べたことはない。どうやって食べるのかと店主に尋ねてみれば、曰く、食べごろのものを半分に割り、房状に分かれた果肉を食すのだとか。ほお、と感心したように見つめる彩灯の袖を引いて、煉月が言った。
「未知の物、皆で食べれば多分怖くない?」
「ふふ、そうだね」
 怖くない、と同意して、千鶴も続ける。
「食べてみようよ、その緑の」
「うむ、では爺が割ってあげよう」
 ちゃりん、と小銭が音を立て、黄緑色の果実が彩灯の手の中で二つに割れた。まだ少し若いのだろう、白い果肉はある程度しっかりとして、房ごとにむしり取ることができる。まずはひと房――三人同時にぱくりと含むと、クリーム状の果肉が口の中でとろけ、濃厚な甘みが広がった。瞬時に瞳を輝かせて、彩灯と煉月は顔を見合わせる。
「これは勝ちの味だな!」
「うぇーい勝ち確!」
 ぱん、と頭上で片手を合わせる音が小気味よく鳴った。子どものように笑い合う二人を、千鶴は一歩離れたところできょとんと見つめている。
(あんな顔も、するのか)
 知っているつもりで、まだ知らない二人の表情を見るのは不思議な心持ちだ。肩に停まった白い竜は、立ち尽くす千鶴の顔を覗いて小さく首を傾げている。
 ねえ、と掛かる声にはっと我に返って、千鶴は煉月を振り返った。
「記念に吊るし灯籠買わない?」
「そうだね、賛成」
 物はついでだ。折角ここまでやってきたのだから、少しくらい想い出を作っていくのもよいだろう。
 なるほど、と引き受けて、彩灯が続ける。
「灯篭に縁を結ぶか。では……鬼灯、桜、彼岸花で揃いにするか?」
「其の揃いイイね、最高!」
 色も形も異なれど、花は花。喜色満面にじゃれつく煉月と、どこか拗ねたような顔の千鶴は、灯籠の明りの下でまだまだあどけなく見えて――紅の瞳に慈しむような色を宿し、彩灯は言った。
「かーわいいのう」
 わしゃわしゃと二人の髪を撫でて、足を向ける先は光の海。夜店の連なる小径を並び歩けばきっと、それぞれに相応しい一挺が見つかることだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年07月28日


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#封神武侠界


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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
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👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト