●結婚式と涙のあじ
「結婚したのか……俺以外の奴と……」
涙を零しながらとぼとぼと歩むのはバウムクーヘン怪人。
「……また、また、また。どんどん皆、結婚していく……」
結婚に焦がれる訳ではない。ただ、そういった怪人としての性質故に、キマイラフューチャーの人々の結婚を見つける度、傷つき、力を得てしまう。
ふらり、ふらり。俯きながら歩いていた彼の周りから唐突に音が絶える。
「……?」
キマイラフューチャーとは思えぬ静けさ。その先から、楽し気な、それでいて不安を抱かせる奇妙な音色がする。
「あれは……?」
引き寄せられるように歩いていくバウムクーヘン怪人。
そこに広がるは煤けた遊園地。
壊れかけたメリーゴーラウンド、軋む観覧車、錆びついたローラーコースター。
そして、外れた音を奏でながら進む機械仕掛けのパレード。
色はあるのにモノクロに感じてしまう程の、キマイラフューチャーとは違う世界。
息を呑むバウムクーヘン怪人の視界で、一つだけキラリと強く色づいたものがあった。それはバウムクーヘン怪人に気づいたのか、ひらりと機械から飛び降り、彼に駆け寄った。
「何だ、泣いてるのか?」
煌き――鉱石ランプ頭の怪人は首を傾げる。
「皆、結婚していく……俺以外の奴と……」
嘆くバウムクーヘン怪人の言葉に少し唸ってから、彼女はぽん、と肩を叩いた。
「そんなに恨めしいのなら、壊してしまえ」
「……恨めしいわけじゃ」
バウムクーヘン怪人の声が途切れる。いつのまにか彼の身体に電飾が絡まっているではないか。
「な、なんだこれ!?」
焦るバウムクーヘン怪人に笑いかける女怪人。
「心配するな、それはお前をパレード怪人に変える物だ」
「パレード怪人……!?じゃあ、お前は、ここは……!」
「ああ、名乗るのを忘れていたな。私はランプリット・リシュア。シュナイト・グリフォンの意志を継ぐ者。そしてここは――」
――シュナイト・グリフォンの遺した、絶望遊園地さ。
●血色ドレスで婚礼を
「エリーゼ、アッシュ、結婚おめでとうー!」
「ありがとう!」
最近人気が出て来たスカイダンサーグループの結婚祝いを兼ねたショー。
観客は決して多いとは言えないが、彼らを応援する人々は温かな拍手を送る。
「皆、今日は来てくれてありがとう!我らがセンター・エリーゼとプリンス・アッシュの結婚祝いのショーな訳ですがっ!実は本人達、直前までめっちゃ嫌がっててー!」
MCを務める女性――ララが観客の笑いを誘う。
「だって恥ずかしいんだもん、ねえアッシュ!?」
「そうだぞ、普通にショーやればよかったのに!SNSで挨拶はしたし……ああもう、皆、来てもらって本当ごめん!」
いーよー!とファンが声を揃えて叫ぶ。
顔を赤らめる二人が纏うのは普段は身に着けない白い衣装。ドレスとタキシードをアレンジした衣装は色数は少なくとも、華やかだった。
「皆来てくれたってことはお祝いしたかったってことじゃん?素直に喜びなよー」
そーだそーだ!ファンもララの言葉に同意する。
「んもー、そんなに素直に喜べないならね、いつも以上に良いダンス見せるしかないっしょ!」
「……そうね!」
「それじゃ、ミュージック」
ごとん。鈍い音が響く。次いで耳を劈くハウリング。
機材が転がったのかと視線を横に向け、その次に下を見たエリーゼは悲鳴をあげた。
先程まで楽し気に話していたララの頭が――身体から離れて転がっている。
「ッ、怪人かもしれない」
アッシュは辺りを見回し、その元凶を見つけた。が、注意を促す前に顔面に凶器が叩き込まれた。
鈍器に変わったバウムクーヘンがスカイダンサー達を襲う。
一つ当たれば最後、戦う力を持たぬ彼らは死に至る。
出番を待っていた居たはずの男がステージに弾き飛ばされる。その身体は半分以上潰れていた。
ギターを持っていた女の身体はギターごとへし折られている。
観客には被害は及ばない。だが、その場から離れようとしても無数のバウムクーヘンが壁を作り、彼らを逃がさない。その惨劇を見届けることを強いるように。
「なんで、どうして……」
最後に血の海に残ったのはエリーゼ。
彼女は震えながら、近づいてきたその悲劇を生んだ者に目を向ける。
彼女の前に立った怪人は虚ろに言葉を零す。
「お前と結婚するのは俺だと思ってた……」
「あなた、」
誰、と問う声は頭蓋ごと砕かれた。
これは、しあわせな――死あわせな結婚式。
●ブラッディウェディングを消し去って
「先月はお疲れ様」
凄い戦いだったな、と苦笑いを浮かべる尾花・ニイヅキ。疲れているだろうに申し訳ないが、と本題を告げる。
「シュナイト・グリフォンを覚えているだろうか」
キマイラフューチャーに存在していた猟書家幹部。彼は討たれたがその意志を継ぐオブリビオンは現れ続ける。
「『ランプリット・リシュア』というオブリビオン。ヤツが今回の事件の首謀者だ。シュナイト・グリフォンの意志を継いで事件を起こそうとしている。やはりスカイダンサーを狙って、な」
意志を継ぐというだけあって狙いも変わらないんだな、と肩を竦める。
「ヤツはまず『バウムクーヘン怪人』をけしかけてくる。……美味しそうだよな。実際美味しいらしいんだ」
これだけ聞くと何とも間抜けな感じだが、パレード怪人として強化され、自身の嘆きと周囲の絶望を力に変える今は狂暴なバウムクーヘン。
「バウムクーヘン怪人はショーの最中だったスカイダンサー達に襲い掛かってくる。皆はヤツらが攻撃する前に駆けつけることは出来るが、初擊から守ってもスカイダンサー達はパニックを起こすかもしれない。そこもどうにかして欲しい」
散り散りに逃げてしまえば殺されてしまう可能性が高い。スカイダンサー達を落ち着かせつつ、バウムクーヘン怪人と戦う必要があるだろう。
「バウムクーヘン怪人を蹴散らせばランプリット・リシュアが動くはず。『絶望遊園地』も再現出来ているらしいから、引きずり込まれるのは覚悟してくれ。それと、絶望遊園地では心に何か影響が出るかもしれない。なんせヤツは記憶に干渉できるようだからな」
シュナイト・グリフォン本人の力もあり脅威となった絶望遊園地だが、今回のランプリット・リシュアも記憶への攻撃に長けている。記憶や心への攻撃は増幅されているだろう。
「……猟書家幹部本人でないとはいえ、強敵だ。だけど、心を強く持って。そうすれば勝てるはずだから」
皆なら大丈夫だよな。口の端を上げて、ニイヅキはキマイラフューチャーへ続く空間を開いた。
春海らんぷ
春海です。先月はカクリヨ戦争お疲れさまでした。
結婚式シナリオを書きたい、でもシュナイト・グリフォンさんの意志を継ぐ者も書きたいと思ってたら何故か合体してしまいました。どうして。
●シナリオについて
このシナリオは猟書家幹部シナリオで、二章構成です。
なおこのシナリオには以下のプレイングボーナスがあります。
●プレイングボーナス
『スカイダンサーに応援される(華やかですが戦力はゼロです)。』
スカイダンサーは踊りだけでなく、良い感じにフラワーシャワーやリボン、色付きの羽根等を持っています。頼めばバンバン撒いてくれます。戦場に華を咲かせましょう!
※二章では花嫁・花婿のみが絶望遊園地に転移されますが、応援能力の低下はありません。
●第一章
『バウムクーヘン怪人』さんとの戦いになります。
結婚式が多いこのシーズン、彼らの涙はバウムクーヘンをカチカチの鈍器に変えます。しかし何故か食べられます。カチカチだけどおいしい。
パレード怪人化した彼らですが、派手なお土産感が拭えません。
スカイダンサーを守ることが出来れば観客はパニックを起こさないので、観客へのフォローは無くても問題ありません。
●第二章
『ランプリット・リシュア』さんとの戦いになります。
人々の記憶を鉱石に変える、鉱石ランプの女怪人さんです。
記憶を奪う攻撃が多く、その喪失感や違和感で動けなくなることもあるかもしれません。
どのような記憶を失いそうになるか、それにどのように抗うか。猟兵の皆さんの想いを示してください。
特に記憶が奪われない場合は『心臓を抉られていると錯覚する程の痛み』が発生します。この場合もどう対処するか記してください。
●ノリについて
ここまで(できるだけ)シリアスな雰囲気で書いてきましたが、春海は基本的にあたまゆるゆる・ドタバタカオスを書いております。
なのでキマフュー感あるカオスなノリも大丈夫です!どんなテンションでもどうぞ!
カオスは(雰囲気もぶち壊して)全てを解決する。たぶん。
●注意事項
・アドリブが入りやすいのでアドリブがNGの場合、お手数ですがプレイングの最初に「×」を入れていただけますと幸いです。
以上、よろしくお願いいたします。
第1章 集団戦
『バウムクーヘン怪人』
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POW : 結婚したのか…俺以外の奴と…
【青春時代の甘酸っぱい思い出】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【バウムクーヘンに仕込んだ苦い涙】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD : お前と結婚するのは俺だと思ってた…
【失恋の嘆きをたっぷり含んだバウムクーヘン】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : 涙のバウムクーヘンエンド
【引き出物の入った紙袋】から【涙で濡れているバウムクーヘンの包み】を放ち、【憐れみを誘うこと】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
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陽殿蘇・燐
故郷も騒がしいったら。でもいいわ、たまには故郷で猟兵活動(兼高性能スマホで生配信)もいいじゃない。
ごきげんよう、愛しの電飾巻き付いた怪人さま。
(※愛しの~さま呼び=敵認定。燐の出身原作ゲームをしてる人がいるとピンとくる)
ふふふ、私が憐れみを持つと思って?
考えてみなさい。私は『悪女』であり『ラスボス』なのよ?
憐れむわけ、ないじゃない。そんなのは主人公(男女選択可能、途中変更も可)の役目よ。
何をするか。もちろん、指定UCで燃やすわよ。燃えて暗闇を見て…そして燃えつきなさい。
その涙さえも蒸発させてしまうほどに。
私は『炎術士・燐』。そう定められた者なのよ。
「故郷も騒がしいったら」
ふう、と呆れたような、物憂げな吐息を漏らす女の名は陽殿蘇・燐(元悪女NPC・f33567)。
スカイダンサー達に向け飛んで来たバウムクーヘンを視認した彼女は、す、と指を向ける。彼女の周りに現れた炎纏う黒揚羽が一斉にバウムクーヘンを包み込むように飛び、それらすべてを消し炭にする。
「でもいいわ、たまには故郷で猟兵活動もいいじゃない」
次々飛んでくるバウムクーヘンを灰へ変えながら、するりと取り出したのは高性能スマホ。生配信用に手に入れただけあって、読み上げ機能もついている。
「さ、今日の配信を始めましょうか」
ぴ、と配信を始める。タイトルは『悪女NPC(ラスボス)だったけど、猟兵になってみた』。
このタイトルの通り、燐はとあるゲームの悪女NPCだった上にラスボスだった。だが、仮初の命を得て、猟兵にもなった彼女はオブリビオンにとっての『敵』に変わった。
ついでにキマイラフューチャー生まれの宿命なのか、ノリで動画配信者にもなっている。ラスボスの威厳は何割下がっているのだろうか。
「あ、あれ……?どこかで見たような……?」
守られたスカイダンサーの一人がきょとんと彼女を見る。観客の中には配信をつけ、より近くで彼女を見る者もいたが、既視感を覚えても思い出しきれない。キマイラフューチャーで活躍する猟兵は多い。だからどこかで見かけたのかも、と思いながらも違う場所で見覚えがある、と首を傾げる者も少なくなかった。NPC、という字に何か引っかかりを感じながら。
既に彼女が何者かを理解し興奮している者もいるが、そういった人々はネタバレに配慮しているのか彼女の姿を拝むばかりである。「尊い」と涙を流す者もちらほらと居る。
そんな会場をよそに再び飛んでくるバウムクーヘン。今度は蝶のようにひらりと避けた燐は怪人を確りと見て笑う。
「ごきげんよう、愛しの電飾巻き付いた怪人さま」
その時、人々に衝撃が走る。燐の言葉に聞き覚えがある。
「……思い出したーッ!!」
人々の思いを代表するようにギターを抱えていたスカイダンサーの女がぶぉんとギターを掲げる勢いで立ち上がる。
「そうだよ!『炎術士の燐』様だ!!!」
そうだー!!と思い出した観客が沸く。「誰?」という反応をした観客に布教活動する者も出始めた。
「あら。私の事を知っているの?」
「チートでしたッ!!」
燐の原点であるゲームをプレイしたことがあったのだろう。本人と出会えた喜びもありつつ、当時余程苦戦させられたのか、喜び八割、思い出し泣き二割といった表情で燐に手を合わせた。
「そうでしょうね?だって私はラスボスなのよ?」
「ですよね!!」
そんな会話を引き裂くように再びバウムクーヘンが飛んでくる。
「話は後でするとして。今は下がっていなさい」
興奮するスカイダンサーを庇い、再び黒揚羽を放つ。庇われた彼女も僅かでも応援を、と思ったのか黒揚羽の舞を彩るように鮮やかな花が混じった。
「……悪女、ラスボス?なら、俺の気持ちもわかるだろう……?」
「ふふふ、私が憐みを持つと思って?考えてみなさい」
バウムクーヘン怪人は虚ろに燐を見る。そのまま、紙袋からバウムクーヘンの包みを引き出した。
涙に濡れ湿気た引き出物は憐みを誘い、彼の憎しみの色宿す目は、心優しき誰かが見れば手加減をしたくなったかもしれない。ふらり、とした動きに反し、力強く投げつけられたバウムクーヘンの包みを見て燐は笑った。その表情は、僅かな嘲りすら混じっているようにも見える。
「敵だったなら……キマイラフューチャーに歓迎されない俺の気持ちも……」
縋るような言葉に笑みを深くし、切って捨てる。
「『悪女』が憐れむわけ、ないじゃない。そんなのは主人公の役目よ」
「主人公の役目……?じゃあ、ラスボスは何を」
「何をするか?もちろん、燃やすわよ」
舞踊を始めるかのように、芭蕉扇を開く。先程の倍以上はいるであろう黒揚羽の群れが彼女の周りに集い、少しずつ炎を纏っていく。
「燃えて暗闇を見て……そして燃え尽きなさい。その涙さえも蒸発させてしまうほどに」
バウムクーヘン怪人に向けて扇ぐようにすれば炎蝶の群れは敵に纏わりつき焼き焦がす。
「あ゛あ゛熱い……!」
「私は『炎術士・燐』。『悪女』にして『ラスボス』――そう定められた者なのよ」
敵は全て燃やし尽くす残酷な悪女。焼け崩れるバウムクーヘン怪人を見て美しい笑みを浮かべた。
成功
🔵🔵🔴
カーバンクル・スカルン
結婚式の邪魔をせず、襲いかかってくる怪人に対応しろってか。中々に難しい内容だけど……パフォーマーの体で潜り込みますかね。
ご来賓の皆様、お集まりいただきありがとうございます! 新郎新婦のお二方はおめでとうございます! 今回は新しい門出を祝い、パフォーマンスをさせていただきまーす!
道化っぽく振る舞いつつ慇懃な礼を取った後、最寄りの怪人を蹴り飛ばして車輪に拘束。そのまま車輪はひとりでに転がり出して近くにいる別の怪人達も巻き込んだラートを披露! 無駄にライトアップされてるし、見栄えは十分でしょう!
バウムクーヘンって棒に生地の素を振りかけながら焼くんだよね? ならもう一度突き刺さってろ(小声でボソッと)
結婚式の邪魔をせず、襲い掛かってくる怪人に対応する。厄介な状況に暫し考えたカーバンクル・スカルン(クリスタリアンのスクラップビルダー?・f12355)はうん、と頷く。
「パフォーマーの体で潜り込みますかね」
賑やかなノリが大好きなのがキマイラフューチャー。結婚式に余興も欠かせない。となれば、この潜り込み方なら自然であろう。
「ちょっとマイク借ります」
「え、あ、どうぞ」
転がっていたマイクを拾い上げ、カーバンクルはにこやかに元気よく、テンプレとも言える台詞を発す。パフォーマーらしく軽やかなステップとジャンプも忘れない。
「ご来賓の皆様、お集まりいただきありがとうございます!新郎新婦のお二方はおめでとうございます!」
唐突なパフォーマーの登場に面食らったバウムクーヘン怪人は投球フォームのまま固まっている。
「……何してんだ猟兵」
「今回は新しい門出を祝い、パフォーマンスをさせていただきまーす!」
バウムクーヘン怪人の零れたツッコミもスルー。意味も分からずフリーズしたままの怪人をこれ幸いと蹴り飛ばし、手際よく針だらけの車輪――『カタリナの車輪』に張り付ける。
どうみても拷問器具に見えるそれはカーバンクルのお手製らしい。スクラップビルダー、お転婆娘という事を考えてもどうしてそうなったのかは謎である。
「お、おい、なんだこれ、放せ!放せっ」
「余興のご協力よろしくお願いしまーす」
近くに居るスカイダンサーにも聞こえないように、少し低い声で威圧。
「嫌だ、やめろ、あ゛ーっ!!」
暴れる協力者を無視してカーバンクルはちょん、と指先で車輪を押す。バウムクーヘン怪人の願い虚しく、カタリナの車輪は回りだし――ぐるりぐるりと速度を増していく。
「ご覧ください、バウムクーヘン怪人の見事なラートです!」
そのラートの外見がどう見てもラートと呼ぶには離れすぎているにも関わらず、スカイダンサー達からも観客からも大きな拍手。恐らく彼らにはカタリナの車輪にある針は見えてないのだろう。頼む、見えてないと言ってくれ。
「良いですねー、素晴らしいですねー!」
既にバウムクーヘン怪人は目を回しているが車輪は止まらない。速度が上がっていくと共にライトアップまで始まった。ぴかぴかと派手に輝く針付きラートは突撃しようと控えていた怪人達に突っ込んでいく。
「おあ、あ、来るなっ、来るな!」
「おいお前どうにかしろ!」
わたわたと慌てるバウムクーヘン怪人達。そのラート――拷問器具を止めろと張り付けられた怪人に呼びかけるも目を回して泡を吹きだしている彼がどうにか出来るはずもなく。
「猟兵!頼む、止めてくれ!頼むっ、」
カーバンクルはにっこりと笑顔を浮かべたまま、だが冷たい視線でバウムクーヘン怪人を見る。その目ははっきりと言っていた。
――止めるわけないじゃん。
ザクザクザク、悲鳴をあげて次から次へと針に突き刺され巻き添えにされるバウムクーヘン達。車輪に突き刺さる黄色の輪は愉快な飾りにしか見えない。
他の怪人が突き刺さっていたおかげで轢かれるだけに済んだ怪人の身体も勢いに負けて吹っ飛んだ。すかさずショーの司会者のノリで実況するカーバンクル。
「なんとっ、バウムクーヘン怪人達の身体を張ったボウリング!凄い飛びっぷりです!」
わぁ、と会場から割れんばかりの拍手。
数秒後、べしゃん、と音を立てて着地したバウムクーヘン怪人は朦朧としながら顔を上げた。そこには笑顔を浮かべたままのカーバンクルが立っていた。
「バウムクーヘンって棒に生地の元を振りかけながら焼くんだよね?なら――」
その言葉に全てを察したバウムクーヘン怪人。だが、逃げようにももう手足に力は入らない。命乞いをするのが精一杯だ。
「やめろ、やめてくれ!」
「もう一度突き刺さってろ」
小声でぼそりと、死刑宣告をしたカーバンクルは余っていた針に容赦なくバウムクーヘン怪人を突き刺した。そして。
「最後はラートとバウムクーヘン怪人の輪!夫婦円満を願う、二つの輪です!」
それっぽい事を言ってパフォーマンスを締めたのだった。
成功
🔵🔵🔴
ニクロム・チタノ
めでたい祝いの場を壊そうなんて許さないよ!
みんなもう大丈夫
チタノ私に反抗の祝印を
みんな反抗の竜がみんなを守ってくれるよ、チタノボクを乗せて
先代反抗者のみなさん、チタノ行くよバームクーヘンなんてやつけちゃお
ここはキマイラフューチャーこれぐらい派手でもいいよね?
これより反抗を開始する悪趣味な猟書家の後継者に反抗の鉄槌を!
「めでたい祝いの場を壊そうなんて許さないよ!」
スカイダンサー達とバウムクーヘン怪人達の間に割って入ったのはニクロム・チタノ(反抗者・f32208)。
「猟兵、お前は、愛した人が別の人と結婚した時に、邪魔しないのか……?」
「しないよ」
バウムクーヘン怪人の言葉にきっぱり言い切る。その意思の強さにぐぬぬとバウムクーヘン怪人が唸る。
「……チタノ、私に反抗の祝印を」
唸るバウムクーヘン怪人を無視し、そっと胸に埋め込まれた印に触れ、ニクロムは反抗の竜――チタノに願う。
間を空けることもなく、守護竜、そしてかつてその竜に選ばれた歴代の反抗者達が現れた。
「みんな、もう大丈夫。反抗の竜がみんなを守ってくれるよ」
その場にいる全員を安心させるように声を掛けるニクロム。
現れた竜の姿と反抗者の数に怯えたバウムクーヘン怪人が怯えを払うようにバウムクーヘンを投げつけるが、竜は容易く弾いた。
「チタノ、ボクを乗せて」
ニクロムの言葉に従い、チタノは彼女を背に乗せる。竜に乗り、反抗の妖刀握る彼女の姿はまさに竜騎士。その姿は敵に畏怖の念を抱かせる。
「……竜に乗れば強いだなんて、そんなことはないんだ」
自らに言い聞かせるようにバウムクーヘン怪人は呟き、彼女とチタノを墜とそうとバウムクーヘンを投げつける。チタノはバウムクーヘンの攻撃を軽く焼き焦がし、翼で払い落す。
「先代反抗者のみなさん、チタノ、行くよ。バウムクーヘンなんてやっつけちゃお」
「させるか!」
バウムクーヘンの群れを破壊する為の隊列が出来上がる前にとバウムクーヘン怪人は包みを投げる。反抗者達に憐みを誘い、その動きを封じて反撃に移ろうとしたのだろう。だが、オブリビオンへの反抗がそれっぽちで止まることはない。
「――これより反抗を開始する。悪趣味な猟書家の後継者、その下僕に反抗の鉄槌を!」
刀を振り、ニクロムが号令をかける。それに応じるように吼えるチタノ、反抗者達。反抗者達の攻撃がバウムクーヘン達を蹂躙し、辛うじて攻撃を避けた者もチタノが焼き払う。圧倒的な戦力の差に、バウムクーヘン怪人達は手も足も出ない。
「やめろ、なんで分からない!?」
攻撃されながらも、それでもせめてスカイダンサー達を傷つけようとバウムクーヘンが放り投げられる。しかし、威力の弱ったバウムクーヘンはスカイダンサー達に届くことはない。たとえ届きそうになったとしてもチタノが焼き払うだろう。
「気持ちがわかったとしても、ボクらがスカイダンサーのみんなを守るのは変わらないよ」
淡々と返しながら戦況を確認するニクロム。彼女の指揮により早々に陣形が崩れたバウムクーヘン怪人達は、反撃する余裕もない。生き残ろうと逃げ出す者も出始めた。
「逃げようとしても……無駄だよ!」
刀を向ければ逃げようとしていたバウムクーヘン怪人が大地に叩きつけられたのかのように崩れ落ちる。チタノの能力の一つである超重力だ。
戦線崩壊、超重力によって逃亡も封じられた。後はヒーローショーの悪者よろしく、ニクロム達にボコボコにされるのがバウムクーヘン怪人の未来。
「ここはキマイラフューチャー、これぐらい派手でもいいよね?」
もしかして、これでも足りないのかな?と首を傾げつつ、倒れ伏すバウムクーヘン怪人を焼き払うようにチタノに命じる。
「チタノ、トドメの一撃をお願い」
派手さを増しておこうとチタノに頼めば超火力の蒼焔が吐き出される。バウムクーヘン怪人を焼く炎は蒼の美しさもあり会場を大いに盛り上げた。
成功
🔵🔵🔴
巨海・蔵人
■UCで、結婚式の大成功を願いつつ
ほのかな苦みがビターチョコにも似て良いアクセントだね。
食べたらおいしいと聞いていたけど、本当においしいね。
怪人。
皆のイイねが僕の力!愉快なバイオモンスター蔵人君
今日は、何と地元。キマイラフューチャーからお届けです
(ドローン(飛ばない)
で撮影と
光のパフォーマンスするよ)
バームクーヘンの壁を食べるとそこは結婚式でした。
新郎新婦さん方、是非応援お願いしまーす(一緒に目立とうと誘い)
バームクーヘンさんはごちそう様、でも一言。
そんなに言うならカメラにもどうぞ。
でも、代わりに愛してた彼女のお名前、教えてね。
もし答えられないなら、それ、気まずいっていう気落ちだよ(煽ってみる
「皆のイイねが僕の力!愉快なバイオモンスター蔵人君。今日は、何と地元。キマイラフューチャーからお届けです。スカイダンサーさんの結婚式をお祝いしにきたよ」
テレビウム型ドローンに手を振り配信を開始した巨海・蔵人(おおきなおおきなうたうたい・f25425)、配信開始早々すっ飛んで来たホールのままのバウムクーヘンを見ずにキャッチ、もぐもぐと食べる。
「ん、おいしい」
「……食いやがった!!」
いつかは来るかと思っていたし、なんならきっとこれまでの仲間も食べられたものも居たのだろうが、この戦場ではバウムクーヘンを喰らったのは彼が初。「食いやがった」と言いつつもちょっと嬉しそうなのはやはりバウムクーヘンという『お菓子』の本能か。
「食べたらおいしいと聞いていたけど……ほのかな苦みがビターチョコにも似て良いアクセントだね」
食レポも披露。流れるコメントは『おいしいんだ!』『たべたーい』など完全にフードレポ動画と化している。……余談だが、蔵人はディーバを名乗りたいのだがフードファイト動画ばかり伸びている。こんなに食レポも上手だし美味しそうに食べるならそちらの方が伸びるのも納得である。
おかわり、ではなく次こそスカイダンサー達を屠ろうと投げつけられるバウムクーヘンも蔵人の身体にぶつかり届きはしない。バイオモンスターという生きる防壁を突破するにはバウムクーヘン怪人の肩はいささか弱かった。それどころか、蔵人はまくまくとバウムクーヘンを食べ進める。燃費が悪い彼なので、バウムクーヘンの弾はただの燃料でしかない。
「……バウムクーヘンの壁を食べるとそこは結婚式でした」
どこぞの有名な一文をもじったようなことを呟きながら少しの間空を仰ぐ。テレビウムドローンはばっちりと良い角度で撮影。白い光まで放ってとても神々しい演出。
「今日は新郎新婦さんの為のステージだから。是非応援……、そうだなあ、素敵なダンスをお願いしまーす」
二人の、スカイダンサー皆の力が僕の力。応援してくれた分だけ素敵なステージになるはず、守ってみせるよ、と微笑む蔵人が大きな手を伸ばす。促された二人は頷き合い、踊り出す。普段の軽快なダンスとは違う、まるで物語の王子と姫の踊りのような、愛を体現するような踊り。テレビウムドローンは暫くそちらを映し、淡い光でロマンチックに演出する。
「とっても素敵だよね。二人にもイイね、よろしくね」
それまでもどんどん増えていた配信へのイイねのスピードが格段にあがる。蔵人は高まる力を感じながら、バウムクーヘン怪人に穏やかに笑む。
「バウムクーヘンさんはごちそう様、とってもおいしかったよ」
「あり……がとう?」
猟兵のお礼に身構えるバウムクーヘン怪人。敵対する存在に礼を言われ、褒められるなど、なかなかない。『おいしかった』という言葉はバウムクーヘン怪人にとって、最高の褒め言葉である。嬉しさと警戒がないまぜになり、挙動不審と言えるくらいに手足がもじもじと動いた。
「でも一言」
その言葉に手足の動きが止まる。なんだ、おいしいと言ったのに何か欠点を言われるのだろうか。味の批評かと思いごくりと喉を鳴らしたバウムクーヘン怪人に、全く違う言葉が投げつけられた。
「お前と結婚するのは俺だと思ってた、とか言ってるみたいだけど。そんなに言うならカメラにもどうぞ」
「えっ」
突然の話題転換に硬直する。いつの間にかテレビウムドローンもバウムクーヘン怪人の足元に居て見上げている。ご丁寧にズームまでしている。
「代わりに愛してた彼女のお名前、教えてね」
絶賛配信中のこの場で言えと?穏やかな顔してなんて酷いことを言うんだと救いを求めるように蔵人を見る。
「もし答えられないなら、それ気まずいっていう気持ちだよ」
にこにこしながら煽る蔵人。纏うふわふわな空気に反して容赦がない。
バウムクーヘン怪人は考える。自分が本当に愛していたのは誰だったか。イチゴ味に変化するのかという思うくらいに頭を真っ赤にし――ぱたり、と倒れた。
成功
🔵🔵🔴
真宮・響
【真宮家】で参加
ああ、こいつらと相対したのは去年の7月だったけ?忘れたころに出てくること自体ネタっぽいというか。とにかく奏と同じスカイダンサーの子達の子を襲うのは許せないよ!!
スカイダンサーの子に応援を頼む。奏を見て分かるが、派手なパフォーマンスは元気が出るからねえ。
【目立たない】【忍び足】で敵の集団の背後に回り込み、【戦闘知識】で相手の攻撃の軌道を読み、【残像】【見切り】【オーラ防御】で凌ぐ。そして【カウンター】気味に【気合い】【怪力】【範囲攻撃】を併せた飛竜閃で薙ぎ払う!!アンタ達のようなお土産はいらないよ!!前座はとっとと退場しな!!
真宮・奏
【真宮家】で参加
ああ、いましたよね、バウムクーヘン怪人。今年も出てきましたか。今度は私と同じスカイダンサーの子達を襲うとは!!毎度の事ながら迷惑なのは変わりませんね。成敗です!!
スカイダンサーの同志に応援を頼みます!!同じ夢を持つもの同士、必ず護って見せますよ!!
トリニティ・エンハンスで防御力を上げ、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【ジャストガード】【受け流し】で防御を固め、スカイダンサーの同志を護りながら【範囲攻撃】【衝撃波】【二回攻撃】で攻撃します。
この夢の舞台に場違いなお土産怪人はいりません!!ここは私達スカイダンサーが夢を叶える場所です!!
神城・瞬
【真宮家】で参加
相変わらず結婚絡みの恨みで出てきますかバウムクーヘン怪人・・・今度は奏の同業のスカイダンサーの子も巻き込まれるとなると尚更放っておけません。
スカイダンサーの皆さんに応援を頼みます。盛り上げ、お願いしますね。
【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】【武器落とし】を併せた【結界術】を【範囲攻撃】化して敵に展開、【二回攻撃】で風花の舞を使います。敵の攻撃は【オーラ防御】【見切り】で凌ぎます。
前にも言ったと思いますが、身勝手な嫉妬で人に迷惑をかけるのは見苦しいだけですよ?さあ、被害が広がる前に退場して貰いましょうか!!
またか。
真宮・響(赫灼の炎・f00434)、神城・瞬(清光の月・f06558)、そして真宮・奏(絢爛の星・f03210)は目の前の怪人をじとりと見た。
「こいつらと戦ったのは去年の七月頃だっけ?」
「相変わらず結婚絡みの恨みで出てきますか……」
「今年も出てきましたか……」
時期もほぼ同じ。響は深い深い溜息を吐いた。
「忘れた頃に出てくること自体ネタっぽいというか……」
「何だその目は……この時期に結婚式が集中するのが悪いと思わないのか……」
「思いませんね」
とんだ言いがかりをつけるバウムクーヘン怪人に即座に言い返す瞬。
「今度は私と同じスカイダンサーの子達を襲うとは!毎度の事ながら迷惑なのは変わりませんね。成敗です!!」
ただでさえ結婚式に駄々をこねに来るような存在と認識している上に、今回の標的はスカイダンサー。奏と同じ彼らに危機が迫るとなれば、怒りは昨年以上だろう。
「同じ夢を持つ者同士、必ず護って見せますよ!!」
「いつも娘を見てるから分かるが、派手なパフォーマンスは元気が出るからねえ。応援のダンス、頼むよ」
「盛り上げ、お願いしますね」
スカイダンサー達に応援のダンスを依頼し、走り出す三人。普段使っているのか派手な音楽が鳴り響き、力強い踊りを魅せるスカイダンサー達。
「猟兵、頑張れーっ!みんなも応援しよっ!」
彼らが応援の声を上げれば観客達も声を揃えて応援する。
踊るスカイダンサーに接近するバウムクーヘン怪人を阻むのは奏。魔力を纏い、防御力を高めた彼女は強靭な壁となる。しかし、彼女一人では複数の怪人達を阻めない――ように見えた。
「なっ、なんだ!?」
見えない壁だ。彼女が構えた盾は見た目以上の範囲を護る。精霊の力が込められた盾に更に奏の守りの力を込めたそれは容易に突破できない。
「おっと、後ろがお留守だよ」
赤き剣がバウムクーヘン怪人達を背後から斬り裂く。
「いくら奏が可愛くて強いからって集中してるのは良くないね」
いつの間にかバウムクーヘン怪人の背後に回り込んでいた響が笑いながら連続で斬りつける。
「くそっ……挟まれた!」
突然の攻撃に対応しようとバウムクーヘンをがむしゃらに投げる怪人達。だが、武闘書を使い込む程に戦闘知識を叩き込んでいる響には雑な攻撃は当たるどころかかすりもしない。
「どうした?そんなもんかい?そんなんじゃ――」
その言葉に続くように、バウムクーヘン怪人達が投げたバウムクーヘンが砕かれる。ボロボロになったバウムクーヘンは転がり、一部のバウムクーヘン怪人の頭もすぱりと切れた。
「う、うわあああああ!?なんだこれ!?」
切れても大丈夫な頭とはいえ、意味も分からず切れては動揺する。慌てるバウムクーヘン怪人の一人が、笑みを浮かべた瞬を見る。
「お前がやったんだな!?」
「ご明察。でももう遅いですよ。あなた達は攻撃結界の中です」
「じゃあ逃げれば……」
結界の外へ出ようとするバウムクーヘン怪人。だが、足が動かない。麻痺している。足が動く者もいるが、ふらふらと明後日の方へ歩いている。どうやら一時的に目が見えないようで、仲間を踏み、転んだ。
「っ、こんなんで止まるかああああ!!」
結婚式の恨みだけでなく、三人の絆への妬みも得てか、バウムクーヘン怪人数人が気合で結界を破り、そのまま奏に突っ込んでいく。鉄壁の守りを得た奏とはいえ、勢いを増した複数の怪人達の突撃は突破をされてしまうかもしれない。
奏は絶対に同志を護ると決意を力にし、盾から衝撃波を放とうとした――が、それより前にバウムクーヘン怪人が青白い光に包まれ、崩れ落ちる。響が高速で回した槍が、纏めて彼らを払ったのだ。
「アタシを無視して奏の護りを突破しようだなんて百年早いよ!」
結界に取り残されているバウムクーヘン怪人達は結界外の仲間が次々に倒されている事実を認める。もう残り少ない味方でどうこの戦況を突破するか。
「う、おおおおおおおお!!」
自棄を起こしたかのように、バウムクーヘンを投げつける。それに続くバウムクーヘン怪人も多く、戦場にはバウムクーヘンが乱れ舞う。
「せめて、せめて一人でも倒れれば勝てる……!」
近い位置にいる瞬を狙う者も多いが、攻撃は当たらない。当たったと思ってもオーラの守りが彼を傷つけない。
「そちらがそう来るなら……少々乱暴な手段でも構いませんね?行きます」
愛用の『立花の杖』が宙に浮き、光を纏い――光が弾けると共に百以上に増える。
「そんなのアリか……!」
「そちらも投げているバウムクーヘンの数は軽く百は超えているのですから、狡くはありませんよね。避けないでくださいね?」
透き通ったそれをバウムクーヘン怪人へ向け、放つ。通常であれば刺突するには鋭さが足りないが、魔力により加速されたのであればそれらがバウムクーヘン怪人を貫くことは可能だ。
「がは……っ」
「まだ終わりませんよ。前にも言ったと思いますが、身勝手な嫉妬で人に迷惑をかけるのは見苦しいだけですよ?さあ、被害が広がる前に退場してもらいましょうか!1」
飛び交うバウムクーヘンを突き破る杖、まだ戦意を見せるバウムクーヘン怪人を殴り倒す杖。結界内でも戦い続けたバウムクーヘン怪人も、一人、また一人と膝をついていく。だが、嫉妬、恨みの力でその場に立ち続ける者もいた。
「……これさえ届けばいい……花嫁だけでも……道連れにしてやる……!」
絶望の色濃い目を向け投げられたバウムクーヘンはこれまでのどの攻撃よりも速い。
「なっ」
自身や奏、響に攻撃が向くことは覚悟していても、このタイミングでスカイダンサーを狙いに来るとは思っていなかった瞬は瞠目する。だが、その先で立つ少女の目を見て、確信する。
(奏なら、護り抜けますね)
瞬の確信通り、奏の護りは最大の力を込められ、鋭いその一撃からスカイダンサー達を護り抜いた。
「道連れになんかさせません!……ここは、私達スカイダンサーが夢を叶える場所です!この夢の舞台に場違いなお土産怪人は……いりません!!」
今度こそ放たれる魔力の衝撃波。少し離れた位置に居る怪人すら吹き飛ばす強力な波動は、一度ではなく二度放たれた。鋭い攻撃を放ったバウムクーヘン怪人には特に強く攻撃がぶつかり、あっけなく崩れ去った。
「本当にね。アンタ達のようなお土産はいらないよ!!前座はとっとと退場しな!!」
未練がましく消滅を免れようと手を伸ばすバウムクーヘン怪人に怒りと呆れを込めて響が叱りつける。その声に負けたのか、へたりと手が落ち、バウムクーヘン怪人は消えていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御形・菘
はっはっは、妾、推っ参!
怪人よこんにちは! 皆に手を出す前に、妾と楽しくバトろうではないか!
結婚式にサプライズ乱入をキメる程度であれば、かるーくボコって済ませてやったのだがな
流石にこれは見過ごせんぞ?
右手で、眼前の空間をコンコンコンっと
はーっはっはっは! ようこそ妾の統べる世界へ!
そして皆の衆よ、妾にもっともっと華を! 応援という名の力をバンバン与えてくれ!
独り、苦くて酸っぱい思い出で強化されたお主と、皆の応援による喜びと感動で強くなった妾!
果たしてどちらが強いかなど、考えるまでもない!
アガッて攻撃力を限界まで高めた、妾の左腕の一撃で! ド派手にブッ飛ぶがよい!
「はっはっは、妾、推っ参!」
猟兵の活躍のおかげで盛り上がりまくっている舞台に飛び込んできたのは御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)。真の蛇神にして邪神たる彼女は世界に悪が蔓延る現状を憂い、怒っていた。
邪神なのに?と思う人もいるだろう。邪神なのに、である。邪神は設定だから――おっとなんでもない。まあ邪神にも色々あるのだ。
「怪人よこんにちは!」
「えーっと……こんにちは?」
「挨拶が出来て偉いぞ!」
ハイテンション邪神に目をぱちくりさせながらも挨拶を返した怪人を菘はハイテンションのまま褒める。
「皆に手を出す前に、妾と楽しくバトろうではないか!キマイラフューチャーらしく派手にな!」
仲間達が散々倒されてきたのを見てそれに積極的に応じるはずもなく、じりりと後退するバウムクーヘン怪人にふう、と息を吐いて。
「結婚式にサプライズ乱入をキメる程度であれば、かるーくボコって済ませてやったのだがな。流石にこれは見過ごせんぞ?」
良くある『乱入する時に扉を勢いよく開く』ポーズをした後、シュビッと指さす菘。
「どっちにしてもボコるんじゃないか!」
「いいリアクションだな!」
ちゃっかり動画配信『妾がいろんな世界で怪人どもをボコってみた』を開始していたようで高性能AIドローン『天地通眼』――通称『天地』がふよふよとバウムクーヘン怪人を映す。菘の活躍も勿論だが、敵のリアクションも良ければ動画はより面白い。
「さーて始めるとしようか!」
邪神は右手をすっと前に伸ばす。何もない場所にノック三回、コンコンコン!
黒い謎物質が彼女の右手から湧き出し、ぐにゃりと空間が歪んだかと思うと、彼女の領域が展開された。
「はーっはっはっは! ようこそ妾の統べる世界へ!」
高笑いして邪神ムーブ。それに反して展開されたのはふわふわと花が舞う明るい空間。見ているだけでアガる。今回もエモな世界だ、なんてちょっと思いつつポーズをキメた。
「こんな明るい世界でいいのか!?」
「ではお主はバウムクーヘンなのにバウムクーヘンを投げて良いのか!?」
「お、俺のは武器だから……!」
意外な領域の展開に動揺したバウムクーヘン怪人のツッコミも笑って流してからの逆ツッコミ。
苦しい言い訳をしたバウムクーヘン怪人にそれ以上突っ込むことはせず、菘はバッと手を掲げた。
「皆の衆よ、妾にもっともっと華を!具体的には応援という名の力をバンッバン与えてくれ!」
バックダンサーも大歓迎だ!と笑えばスカイダンサー達は任せろと空を舞う。彼らの舞と共に空から降り注ぐ花とリボン、白い羽根。
「いいぞいいぞ!もっと、もっとだ!ノリにノっていけ!妾の戦いだからと言って遠慮は無用だぞ?なにせ、今日はお主らの祝宴だからな!」
菘の言葉に鼓舞されるように、スカイダンサー達はのびやかに踊る。その踊りと熱意は邪神の心を揺さぶりアゲていく。
バウムクーヘン怪人のじめりとした雰囲気とは対照的に太陽のような明るさを纏った菘はふっふっふ、と笑う。
「独り、苦くて酸っぱい思い出で強化されたお主と、皆の応援による喜びと感動で強くなった妾!果たしてどちらが強いかなど、考えるまでもない!」
「……けるか」
「ん?」
賑やかな空間の中で言葉を絞り出すようにバウムクーヘン怪人が何かを言った。耳を傾けてあげる菘。
「お前達なんかに負けるか!!この悲しみはっ、誰よりも深くっ!簡単な明るさなんかで消せやしない!!」
「はーっはっはっはっは!その意気や良し!妾の動画高評価の、そして結婚する二人の糧となる栄誉を与えよう!」
すっと左腕を掲げる。掲げた手を握りしめ、バウムクーヘン怪人に殴りかかる。
「アガッて攻撃力を限界まで高めた、妾の左腕の一撃で!ド派手にブッ飛ぶがよい!」
防御する隙も与えぬ腹パン。バウムクーヘン顔が潰れないように配慮した。打ち上げられるように一撃を喰らったバウムクーヘン怪人はきらりと星になった。
大成功
🔵🔵🔵
菫宮・奏莉
【カティア(f05628)】さんと
はい。幸せになってこその結婚式なので……。
え? わたしとのですか!?
逃げずにですと、まだ5年くらいはかかってしまうのですよ!(ぷしゅー)
お、お姉ちゃん、嬉しいですけど、その、
練習はバームクーヘンの後で、なのです。
わ、お姉ちゃん綺麗です、舞みたいなのですー!
わたしも負けていられませんですね!
お姉ちゃんの刻んだバームクーヘンを、
【松葉杖】のゴルフスイングで、ドライバーショットなのです。
こ、これ、食べられるのですか……?
あーんしてもらって、思い切って食べてみますが、
カチカチといいますか、カリカリなのです。ちょっとシリアル(こく)
やっぱり柔らかい方が美味しいですね!
涼月・カティア
【菫宮・奏莉(f32133)】さんと
結婚式は死あわせではなくて幸せであってほしいと思います
そうですね、奏莉さん結婚式はいつにしましょう?
あと5年?ふふ、楽しみです
それじゃあ今から練習しましょう
え?先にバームクーヘンですか?
【巫覡載霊の舞】を使って神霊体に変身
なぎなたから衝撃波を放ってそこら辺を飛んでいる
バームクーヘンをすぱすぱ切っていきましょう
ふふん、お姉ちゃんもやる時はやるんですよ?
ところで小さく切ったバームクーヘンって美味しそうですね?
奏莉さん、はい、あーん
そうですか…やっぱり手作りじゃないとダメなんですね…
悲しみの舞を舞いつつ、なぎなた振り回しますね
(バームクーヘンをさらにすぱすぱ切る)
「結婚式は『死あわせ』ではなくて『幸せ』であってほしいと思います」
「はい。幸せになってこその結婚式なので……」
こんな状況はあってはならぬ、と涼月・カティア(仮初のハーフムーン・f05628)は眉を顰め、菫宮・奏莉(血まみれもふりすと ときどき勇者・f32133)は悲し気に呟いた。
「そうですね……奏莉さん、結婚式はいつにしましょう?」
奏莉の悲しそうな表情を見ていられず敢えての話題なのか、それとも結婚式という状況で思いついたのか。カティアはにこやかに奏莉に問う。
「え?わたしとのですか!?」
突然の話題に顔をぽぽぽと赤くする奏莉。暫くもじもじと考えた後に、恥ずかしそうに答える。
「逃げずにですと、まだ五年くらいはかかってしまうのですよ!」
そこまで言う頃には奏莉はぷしゅーと湯気が出そうになるくらい真っ赤になっていた。
「あと五年?ふふ、楽しみです」
そう遠い未来ではないですね、と笑って爆発寸前の奏莉の手を取る。
「それじゃあ今から練習しましょう」
笑むカティアは実は女装系男子。しかし外見だけでなく立ち振る舞いも女性らしいのでこの絵面は百合でも咲き誇りそうで。
「……悪くない、悪くないけど……俺の前でっ、イチャイチャするなーっ!!」
もの凄く複雑そうな表情でバウムクーヘン怪人が叫ぶ。
ハッとした奏莉はぱっ、と手を離す。
「お、お姉ちゃん、嬉しいですけど、その」
「なんでしょう?」
「練習はバウムクーヘンの後で、なのです」
「……先にバウムクーヘンですか?」
む、と少しだけ不満そうにカティアは頬を膨らませたが、それらの討伐に来たので奏莉の言う事は尤も。
「仕方ないですね。さっさと片付けて練習しましょう」
薙刀の先を向け、バウムクーヘン怪人に威嚇。
可愛らしい少女(少年だが)に睨まれたバウムクーヘン怪人は少しの罪悪感を抱きつつ、負けじと睨み返す。
「……まだ見ていたい気はするがやはりイチャイチャは許せん……!それに女子二人ならスカイダンサー共は守れないだろう……! ……ん?スカイダンサー共を始末した後に見るのなら……アリか?」
あれそれ考えながらもブンッ、と音が出るくらいの剛速球でバウムクーヘンをスカイダンサーに向け、投げつける。
だが、スカイダンサーどころかスカイダンサーの前に立つ奏莉にも届かぬうちにバウムクーヘンは切れ、ぽとりと落ちる。
「なんだ?もしかして少し切れ目でもあったのか……?」
今度はよく確認してから投げつけるが、またもや切れて落ちた。
何度も確かめ投げても、切れて、落ちて。
「なんでだ
……、……!」
嘆く瞬間に衝撃波が掠めたのをはっきりと感じた。横を見れば神霊体に変じたカティアが浮いていた。
「気づくの遅くないですか?」
「おわああ!」
この至近距離では頭を切られると逃げる。逃げながら今度はカティアに向けてバウムクーヘンを投げつけまくるが、それもすぱすぱ切られてしまう。
「お姉ちゃん綺麗です、舞みたいなのですー!」
「ふふん、お姉ちゃんもやる時はやるんですよ?」
若干ドヤ感を漂わせつつバウムクーヘン怪人を追撃する。
投げつけられたバウムクーヘンは片っ端から切り刻まれ、やがて戦場はバウムクーヘンの欠片だらけになる。
足場が悪くても斬られまいと懸命に逃げ回るバウムクーヘン怪人だったが、ここで予期せぬ攻撃を受けることとなる。
「わたしも負けていられませんですね!」
奏莉が気合を入れて手にしたのは松葉杖。本当は勇者の剣なのだが……どうみても松葉杖。更に主な使い方は鈍器として振るうというのだから驚きである。
包帯だらけの少女、そして松葉杖からは想像もつかぬ見事なドライバーショット。
その球速はバウムクーヘン怪人の投げるそれの倍以上のスピード。逃げ惑うバウムクーヘン怪人相手にも関わらずしっかり直撃させた。
「ごああああ……!だあああ……!」
頭を押さえ痛みに悶絶するバウムクーヘン怪人。あまりの悶絶っぷりにカティアは攻撃をやめ――ふと、その場に転がる小さく切られたバウムクーヘンを見る。
「……小さく切ったバウムクーヘンって美味しそうですね?」
落ちている物を食べるのは嫌なので、と未だ叫ぶバウムクーヘン怪人からスパッと欠片を二つ頂戴する。悲鳴が一層大きくなったがカティアにとっては些事である。
「奏莉さん、はい、あーん」
「こ、これ食べられるのですか……?」
つい数秒前まで怪人の頭だったそれに戸惑いつつ、えいっ、と思い切って食べる。
「……カチカチ……?といいますか、カリカリなのです」
バウムクーヘンというよりもちょっとシリアル、とこくりと頷く彼女。
「やっぱり柔らかい方が美味しいですね!」
人の好みの固さはまちまちではあるが、奏莉は断然ふわふわバウムクーヘン派。
そんな反応を見てカティアは本当にそんなにカリカリなのでしょうか?と思いながら自分の分を食べる。
「私的にはまだギリギリバウムクーヘンではありますが……薄く切ったら本当にシリアルになりそうですね……」
味自体は美味しいとは思うが、これはバウムクーヘンではなくシリアルかもしれない、と思えてきて。
「……やっぱり手作りじゃないとダメなんですね……」
未だ悲痛な声を上げてのたうち回っていたバウムクーヘン怪人にトドメを刺すためにふわりと近づき、再び舞う。
だが、奏莉の嬉しそうな顔を見られなかった所為か、その舞は悲しみに彩られ――その感情をぶつけるように、すぱぱぱ、と一瞬で数個に薙ぎ斬る。
頭を殆ど失ったバウムクーヘン怪人は転がることも出来なくなり、ぐたりとした。
「……美味しいバウムクーヘン、探しましょう、作りましょう」
奏莉を喜ばせる為にひそやかに決意するカティア。そんなカティアを見ながら首を傾げる奏莉。
バウムクーヘン怪人はぐたりとしたまま、最後の力を振り絞って呟く。
――リア充爆発しろ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 ボス戦
『ランプリット・リシュア』
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POW : その記憶は大事なものか?
【記憶を鉱石に変える力】を籠めた【大鎌】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【失いたくない記憶】のみを攻撃する。
SPD : 思い出したら教えてくれよ
【鉱石ランプ】から【追憶の灯り】を放ち、【記憶を鉱石に変えて取り出す事】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : お前が持つ強さの訳を知りたいんだ
自身が【敵意】を感じると、レベル×1体の【記憶を鉱石に変えて奪う鉄の鳥籠】が召喚される。記憶を鉱石に変えて奪う鉄の鳥籠は敵意を与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
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バウムクーヘン怪人が闇に溶ける。もう安心だ、とスカイダンサー達が笑顔を取り戻し、再び空を舞おうと地を蹴った時。
猟兵の世界は、反転する。
色は褪せ、音は死に。急激に揺らいだ世界に猟兵ですら僅かに眩暈を覚える。
眩暈が収まる頃に漸く蘇った音は、奇妙なものばかり。
「やはり猟兵は強いな」
拍手をしながら近づいてくるそれは、時折しゃらり、と音を立てる。猟兵達の前に現れたのは煌く鉱石ランプの怪人。
「ようこそ、猟兵。それから運の良かった花嫁に花婿。私はランプリット・リシュア。お前達を祝おう」
怪人であるにも関わらず祝福の言葉を述べる。だが、敵対する者から、そしてこの空間での祝いの言葉は恐怖でしかない。
「祝いに絶望遊園地にご招待、だ。ああ、そんな怖い顔しなくても良い。お前達にはまだ手を出さないさ。私は猟兵の強さを知りたいんだ」
花嫁花婿に笑い、猟兵達に目を向ける。顕現させた鎌を突き付けて、問う。
「なあ、猟兵。教えてくれ。お前達の強さはきっと記憶の中にもあるのだろうから」
ランプリット・リシュアは、その煌きの奥で、己より眩しいものを見るように猟兵を眺めた。
「どうしてお前達はそこまで戦える?どうしてそんな希望をふりまける?どんな経験があれば、どんな記憶があればそんなに戦える?」
彼女の煌きは記憶を断ち、鉱石と変える。
その煌きの前に記憶を零すか、それとも繋ぎ止めるか。
たとえ美しい鉱石に変わっても、それを自身へ還す価値は、縁は、心はあるか。
記憶がないのなら、心の臓を差し出してでも戦うことは出来るか。
たとえ抉られたと錯覚する痛みを抱いても、魂はその身を動かせるか。
「教えてくれ、どうしたら」
お前達のように強く在れる?
陽殿蘇・燐
なるほど、そんな話なのね。
私の過去・記憶が知りたい?なら、原作ゲーム及び派生小説読みなさい。だいたい書いてあるわ(なにか言い出した)
『男なりせば』と言われ続けたこの私。本来、女なら『炎術士』になれないのよ。私の家。
でもね、なってみせたの。ラスボス悪女になってでもね。
言っておくけれど。私の視界内からは逃げられないわよ?
ゲームのお約束であるわよね?
回り込んでるのは、黒い蝶(一部蛾)だけれど。
私の動きを止めても無駄よ。私の武器(名前に『揚羽』とつくやつ)は、自動的に動くもの。
『記憶を奪われた』という過去さえ黒揚羽は焼いてみせるわ。
…焼かれなさい。静かに。
私が猟兵やってるのは、単に選ばれたからよ。
「なるほど、そんな話なのね」
案外簡単な話だと陽殿蘇・燐は息を吸う。
「私の過去・記憶が知りたい?なら原作ゲーム及び派生小説を読みなさい。大体書いてあるわ」
「え、えぇ……?」
捲し立てるような、そして流れるように行われた宣伝活動に流石のランプリット・リシュアも困惑する。
「いや、お前自身の経験や記憶を見せてくれと」
「言ったでしょう。『原作ゲーム及び派生小説を読みなさい』、と。ああ、設定資料付きの攻略本もあったかもしれないわ。それも読んでおくと良いかもしれないわね」
力強い宣伝、再び。しかも増えた。
困惑を表すように揺れる鉱石の内の光を少し眺めて、ふう、と溜息を吐く燐。
「少しだけのネタバレならいいかしら。――『男なりせば』と言われ続けたこの私。本来、女なら『炎術士』になれないのよ、私の家」
困惑しつつ、素直に話を聞くランプリット・リシュア。それで、と話を促すあたり律義だ。
「でもね、なってみせたの。ラスボス悪女になってでもね」
燐はその才を腐らせない為に、どう呼ばれようとも、その力を完全に自身の物にした。その先にあるのが、ラスボスという立場で――いずれ倒される運命になったとしても。
「……それがお前の力の源か」
その称号と力を得る為に、自身の命を賭した彼女の記憶にやはり興味深く思うランプリット・リシュアは大鎌を構える。
「面白い!そこに伴う心は、記憶はお前自身の物だろう?それは本やゲームなんかではきっと知れない。『本物』を見せてくれ!」
大鎌を振るうが、燐の身どころか着物さえ断ち切れない。蝶に阻まれ、薙ぎ払うのも一苦労。
一度態勢を整えようとしたランプリット・リシュアに重い力が圧し掛かる。見えない力が、彼女の足を引き留める。
「……何だ?」
後ろに引くことが出来ない。足が諦めたように、後ろには動かない。前や横には動くということが、一層奇妙だった。
「言っておくけれど。私の視界内からは逃げられないわよ?ゲームのお約束であるわよね?」
知っているでしょう?と微笑む燐。
「回り込んでいるのは私ではなく蝶だけれど」
「逃げる気はないんだがな」
笑い返すランプリット・リシュア。首だけ動かして後ろを見れば黒い蝶が退路を塞ぐように空を泳いでいた。
「……流石ラスボス様というやつか」
「こういう能力がないと、務まらないのよ」
引けぬならもう攻撃を叩き込むしかない。距離を詰め、蝶を切り払うように大鎌を振るうランプリット・リシュアだが、蝶は切れてもまた闇より出でる。
「埒が明かない」
苦笑に似た笑い声の後、ランプリット・リシュアはその頭から眩い光を放つ。
から、と小さな音が落ちる。黒く艶めく鉱石が、そこに落ちていた。それと共に、燐の放つプレッシャーが、僅かに弱まる。
主の記憶に寄り添うつもりなのか、黒い蝶がひらりと鉱石に止まった。
「お前の記憶は、お前自身の物だと言うのに。ゲームなどでは知れない部分は、こうして鉱石に――」
拾い上げようとした手に、炎が灯る。黒い蝶は炎に変わり、鉱石を焼き尽くそうとしていた。
「っ!?」
炎を払い消そうと鉱石を投げ、手袋を叩く。
「動きを止めたつもりだったのね。残念だけれど、私の動きを止めても無駄よ。私の武器は……この子達は勝手に動くもの。『記憶を奪われた』という過去さえ、黒揚羽は焼いてみせるわ」
鉱石が燃え消えると共に、燐はゆるりと手を伸ばした。
「……焼かれなさい。静かに」
その合図とともにランプリット・リシュアに炎纏う揚羽達が群がる。近寄らせまいと鎌を振るうも彼らは動じず、圧倒的な物量でランプリット・リシュアを襲う。
「っく、あああ……!」
ランプリット・リシュアは焼かれる痛みに呻きながらも、炎を消す。
「答えになるかわからないけれど。私が猟兵やってるのは、単に選ばれたからよ」
「選ばれたから……?」
息を荒げながら焦げた服を軽くはたき、燐の言葉に訝し気に視線を向ける。
「元々ラスボス悪女ですもの。ある程度のチートはあるに決まってるでしょう?」
猟兵としての経験や記憶故に強いのではなく、ラスボス悪女だった時点で強くて、それでたまたま猟兵になったのだと、燐はウインクしてみせた。
成功
🔵🔵🔴
真宮・響
【真宮家】で参加
どうしたら強くなれる、かい?人の心を弄ぶような輩に言っても無駄かと思うが。その身に強さを刻むことは出来るよ!!さあ、アンタが仕出かした事の報いを受けて貰おうか!!
ランプから放たれる灯りは【残像】【見切り】で回避したいが、灯が当たって動きが止められて記憶がぐらついてもアタシには分かる。傍にいる二人の子と後ろにいる沢山の人が護るべき人だということは!!目の前にいるランプ頭が倒すべき敵だという事は判断できるさ。
たとえ記憶がすっぽ抜けても、その胸に宿る赫灼の炎は消せやしない!!とりあえず湧き上がる気持ちのままに情熱の炎を目の前のランプ頭に叩きつけるよ!!
真宮・奏
【真宮家】で参加
スカイダンサーの同志を、多くの人々を危険な目に遭わせといて今更私達の力試しですか?心無きものに力は宿りません。今、証明してみせましょう。
心を直接攻撃する攻撃に物理的防御は意味ないと思いますので、【呪詛耐性】【狂気耐性】で心が奪われそうになるのを歯を食いしばって耐えます。
父さんが命を捨ててまで母さんと私を護ったように、出来る限り命を護る、これが私の信念です。この心は意地でも譲れません!!足を踏みしめて、【怪力】【二回攻撃】で全力の信念の拳を!!
神城・瞬
【真宮家】で参加
あれだけ人々を危険に巻き込んで、僕らの力の意味を知りたい、ですか。まず人の心を試す時点で真の強さは分からないかと思いますが?まあ、力を示すことは出来るので。
【オーラ防御】【第六感】で鳥籠の回避を試みますが、おそらく回避しきるのは無理なので、目の前の胡散臭いランプ頭は排除せねばならない気持ちのまま、無意識に口が動いて【高速詠唱】【二回攻撃】で氷晶の矢で鳥籠と敵の本体を巻き込みます。
傍にいる女性二人は護らなくてはいけない・・・そんな気がします。後ろにいる恐怖に震えている多くの綺麗な服を着た人々も。
「どうしたら強くなれる、かい?」
そんなことを知りたかったのか、と真宮・響は肩を竦める。
「人の心を弄ぶような輩に言っても無駄かと思うが」
「それに、まず人の心を試す時点で真の強さは分からないと思いますが?」
響の言葉に続けるように神城・瞬は冷たくランプリット・リシュアに言い放つ。
「……そのために、スカイダンサーの同志を、多くの人々を危険な目に遭わせたのですか?」
静かに、ランプリット・リシュアに怒りを向けるのは真宮・奏。手を強く握りしめ、敵を睨みつける。
「心無きものに力は宿りません。今、証明してみせましょう」
力を示す事なら出来る、と響も瞬も構える。
彼らの言葉に可笑しそうに笑いながらランプリット・リシュアは大鎌をくるりと回す。
「はっはっは、言ってくれるな。――『心がない』と断ずる方が、よっぽど心がないんじゃないか?」
揺さぶるような言葉を投げかけられた奏が息を呑んだ。その隙をついてランプリット・リシュアは距離を詰める。
「奏!」
娘を守ろうと咄嗟に響は前に立ち、振り上げられた鎌の攻撃に備えて剣を構える。だが、彼女を襲ったのは光だった。
「な、っ……!」
「母さん!」
「二人とも、この光を見るんじゃないよ!」
彼女は半ば無意識で危険性を知らせたのだろう。母の言いつけを守ろうと奏も瞬も目を閉じる。
「ふうん……親子愛はやはり強いものだな」
微笑ましいと笑うランプリット・リシュアの手には小さな鉱石が握られていた。
「その石……!返しなさい!」
鉱石――恐らくは響の記憶のひとかけらに気づいた奏は拳を向けるがひらりと躱される。だが、ランプリット・リシュアの籠を矢が掠めた。
「なかなかいい連携だな」
「どうも。……奏の言う通り、返して貰いますよ」
瞬は氷の矢を生み出す魔術詠唱を続け、放つ。
それを弾くように現れたのは歪な鉄の鳥籠達。見ただけで危険だと分かる代物は瞬を傷つけようと襲い掛かった。
だが、瞬も黙って襲われるつもりはない。氷の矢で迎撃し、相殺を図る。
「瞬兄さん、後ろ!」
奏が代わりに破壊するには僅かに時間が足らない。瞬は振り返ると同時に氷の矢を放つが、それは前方に居た籠よりも大きい。破壊は間に合わず、瞬は地面に叩きつけられる。
「っ……!」
「――なあ。何で返して欲しいと思ったんだ?」
倒れてもすぐ起き上がろうとする瞬に楽しそうに問うランプリット・リシュア。視線は新たに得た鉱石に向けられていた。
「……何で」
問いは、返せない。ただ、ただ、その石を奪い返さねばと思ったのだけは覚えている。
「答えられないのに、何でそんなに必死なんだ?傷ついてまですることか?」
「そんなことに理由がいるのかい?」
ランプリット・リシュアの責めるような問いかけを断ち切るように、響が拳を振るう。記憶が戻ったのかとランプリット・リシュアは手にしていた鉱石を見るがそれに変化はない。
「……成程な。意志が強いのは当然として……絆ってヤツは大きいんだな」
「さっきから何ブツブツブツブツ言ってるんだい?迷ってる間に倒させて貰うよ!」
「怖い怖い。お前は何故私を倒そうとするんだ?記憶もないだろうに」
三人の中で一番戦闘に長けた響の一撃を喰らいながらも、鉱石ランプは砕けない。
「記憶がない?ああ、どうりで違和感があるんだね……」
納得したように呟いてから、響はニッと笑う。
「記憶がなくてもね……後ろにいる人が……傍に居る二人の子が護るべき人だということは!!アタシには分かる!」
「へえ。それは凄いな」
なら、と流れるように標的を変えるランプリット・リシュア。響から離れ、奏に鎌を振り上げる。
「二人の記憶が無くなって。お前も忘れられて寂しいんじゃないか?寂しいのは悲しいよな。忘れてしまえ」
勢いよく振り下ろされた鎌を抑える剣。だが、その抑えは意味がないと奏は理解していた。剣の抑えも、鎧の守りも全く意味がない。今攻撃されたのは、自分の心――失いたくない、失ってはいけない記憶。
(忘れては、だめ……)
崩れ、零れ落ち始める遠い記憶。父が身を挺して幼かった自分と母を守ったという記憶が、彼女の信念を支える記憶が、脆く朽ちていく。
(忘れては、だめ……)
身体から記憶が零れ落ちる感覚に抗いたくて歯を食いしばる。足に力を込める。手を握りしめる。
それでも、記憶は流れ続け。
(何を、忘れては……? ……そうだ、父さんのこと)
朧げになる記憶。けれど、どうにか自分の中で繋ぎ止めるように心の中で文字を浮かばせる。
「頑張るなあ。そうだよな、お前が忘れたら、もう三人とも記憶がバラバラになってしまうものな」
怪人は愉快そうに笑いながら、忘れてしまえばいいのにな、と今度は身体を傷つけようと鎌を振る。
「させません」
警告のように、ランプリット・リシュアの手に突き刺さる氷の矢。彼女の注意は必然的に瞬に向く。
「いいところなんだがな」
「胡散臭いあなたは排除せねばならない気持ちなんですよ」
「酷い言い様だ」
悲しいな、と笑って言ってのけるランプリット・リシュアに瞬は溜息一つ。
「それに。後ろに居る人々もそうですが……傍にいる女性二人は護らなければいけない。……そんな気がします。だから邪魔させてもらいますよ」
目の前に立つ少女が、何故そんなに肩を震わせているのかは今の瞬には分からない。けれど、きっと何かを耐えているように見えたから。そんな少女を更に傷つけようとする怪人は許せなかった。
氷の矢を躱し、弾き返そうとするランプリット・リシュアの身体に打ち込まれたのは炎の拳。回り込んでいた響の一撃だ。
予想外の方向から、そして力一杯振り抜かれた炎宿す拳に、ランプリット・リシュアもよろける。
「アンタの決意、アタシと似てるね。……いいや、きっとアタシ達みんな、同じように思ってる。三人とも、皆護ろうって思ってる」
その言葉が、奏の心を打つ。
(……そうだ、私は!)
鉱石となりかけていた記憶が再び奏の中に宿る。その記憶をはめ込むように、叫ぶ。
「出来る限り命を護る、これが私の信念です。――この心は、意地でも譲れません!!」
かちり、と何かが収まった感覚。もう揺らがない記憶は、信念は、彼女を突き動かし、重い一撃をランプリット・リシュアに打ち込む。
「っ、と!」
どうにか耐えたランプリット・リシュアは即座に反撃しようとするが――
「これで済むと思いましたか」
怒りのように、決意のように、重いもう一撃が叩き込まれる。
「ぐあ……っ!」
地面を転がるランプリット・リシュアの手から落ちる二つの鉱石。それは響と瞬の前に転がり、二人は引き寄せられるように手を伸ばした。
持つべき人に握られた鉱石は、響と瞬の無意識の願いに反応したのか、小さな光の粒子を伴って消えていく。
「……ああ、なんだい、アタシはこんな簡単なことを忘れちまってたのか」
「……簡単と思えるくらいに当たり前で、とても大切な記憶なんです」
二人の事をすっかり思い出した響が額を押さえて溜息を吐く。それに対して僅かに嬉しそうな、安堵したような表情でそっと胸を押さえ微笑む瞬。
「大切な記憶ほど抜き取られる……か。ある意味、証明にはなったのかね」
「証明する必要なんてないです!……もう、二人とも、心配したんですからっ!」
奏が怒りと安堵が混ざったような表情で二人に近寄る。
瞬はそっと手を伸ばし、彼女の頭にぽふりと手を乗せた。
「奏、良く頑張りましたね」
柔らかな髪を撫でられる。二人にまだ何か言おうとしていた奏だったが、それに免じたのか口を閉じた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御形・菘
はっはっは、妾の強さの根源を知りたいのか
ならば存分に教えてやろう!
右手を上げ、指を鳴らし、スクリーン! カモン!
はーっはっはっは! 本日も元気かのう皆の衆よ!
此度相対する怪人は、なんかちょっと精神攻撃的なものを仕掛けてくるようだが…
な~に、皆の声援があれば、そんなものは心配無用!
応援の受け続ける限り、妾は絶対無敵最強の邪神となる!
偉大なる妾を見くびってもらっては困るのう
見る者すべてを昂らせるド派手なバトルを! 皆から貰った数多の喝采を!
星の数よりも多い、感動の記憶すべてを、たかが数百程度の眷属で奪い尽くせると?
お主も、妾の華々しき栄光の記憶の一つに加えてやろう、この左腕の一撃でな!
「ふっふっふ……はーっはっはっは!妾の強さの根源を知りたいのか、ならば存分に教えてやろう!鉱石に変えずとも分かるくらいに教えてやろう!!」
ババーン、という効果音が付きそうな勢いで手をランプリット・リシュアに向ける御形・菘。
ランプリット・リシュアもなんだか流されてしまい、わー、と小さく拍手。やはりキマフュソウルは彼女にも存在している模様。
「いいぞ怪人!礼儀正しいのは嫌いじゃない!スクリーン、カモン!」
右手を掲げ、パチン!と指を鳴らす菘。ぱぱぱぱぱ、と無数のスクリーンが空に浮かぶ。
「なんだこれは……?」
驚くランプリット・リシュアに良い反応だと言わんばかりにうんうん頷いて、菘はいつも通りに視聴者に向かって手を振った。
「はーっはっはっは!本日も元気かのう皆の衆よ!」
『元気~!』『菘様~!!』『菘様も元気ですか?』とコメントが流れる。
「ああ、ああ、妾も元気だぞ!此度相対する怪人は、こちら……えーと」
挨拶に返すコメントに手を振った後、今回の怪人を紹介しようとして……名前が思い出せない。なんだったかな、と悩んでいると本人が口を開いた。
「……ランプリット・リシュア」
「だそうだ! なんかちょっと精神攻撃的なものを仕掛けてくるようだが……」
思わぬ助け舟に小さく感謝のポーズをしつつ、視聴者への説明を続ける、と。
「間違っては無いが厳密には記憶をちょっとこう、ガツッとして鉱石に」
何故かここでも口を挟んできた。こだわりがあるようだ。
「らしいが、な~に、皆の声援があればそんなものは心配無用!」
「心配無用だな……って何ノってるんだ私はっ!!」
パァン!と人でいうところの頬にあたる部分であろう場所を叩くランプリット・リシュア。
「はっはっは、割と律義で嫌いではないが、怪人は怪人、ボコるぞ!」
「大人しくボコられてやると思っているのか?」
「思ってはいないが、大人しくボコられるしかないだろうな?皆の応援を受け続ける限り、妾は絶対無敵最強の邪神となるのだからな!」
「なら、見せて貰おうか」
ランプリット・リシュアが鎌を振るうと、禍々しい鳥籠が生み出され菘に飛ぶ。
「それしきか?偉大なる妾を見くびってもらっては困るのう」
生き物のように口を開け、菘の身と記憶を食いちぎらんとする鳥籠。数は多いが応援を受ける菘には恐れるものではない。
「ふふん、甘いのう、数に頼りすぎて狙いが甘すぎる!」
「結構うまく回避するじゃないか。だが……気を抜くのは良くないんじゃないか?」
ガッ、と菘の頭に籠が襲い掛かる。ぶつかった衝撃でよろけた瞬間に次々に籠が食らいついた。
「あはははははっ!どうした絶対無敵最強の邪神様?その程度か?」
嘲笑うランプリット・リシュア。記憶を奪えるだけ奪ってしまおうと籠を放ち続けるが、やがて生み出せる籠は全て鉱石を抱き限界が来る。
『菘様頑張って!』『菘様大丈夫!?』とコメントが流れるが、菘は黙っている。
「記憶も全て失くせば誰に応援されているかも忘れてしまうんだろうなあ」
わざとらしく肩を竦めるランプリット・リシュア。一拍おいて、可笑しそうに、ふは、と菘が笑った。
「……見る者すべてを昂らせるド派手なバトルを!皆から貰った数多の喝采を!星の数よりも多い、感動の記憶すべてを!たかが数百程度の眷属で奪いつくせると思ったか?」
顔を上げた菘はいつものように豪快に笑う。
安堵、そしてここからの逆転劇を確信した視聴者からのコメントが怒涛の勢いで流れる。それと共に高まる菘の力。
「たまにはこういう逆転劇も悪くないのう、なあ皆の衆!」
高まる力を感じ取ったランプリット・リシュアは鳥籠に自身を守らせようと指揮する。
「勢いが高まろうが、この数を壊すのは容易じゃないだろうな!」
「都合が良い事をしてくれる!今の妾の力を見せるのに良い!刮目せよ!」
菘は拳を叩き込む。鳥籠は次々に破壊され、中にあった鉱石も粉々になる。
「お主にとっては取るに足らない記憶かもしれんがな、妾にとっては皆から貰った想いや感動の記憶はすべて大切な物だ!返して貰うぞ!」
砕け散る鉱石の煌きと共に、輝く記憶が菘に戻ってくる。その記憶の大切さを改めて感じれば力が更に湧き上がる。
「記憶の大切さを教えてくれたお主には……礼として妾の華々しき栄光の記憶の一つに加えてやろう!」
一つ残らず籠を破壊し、鉱石を砕き、記憶を自身に呼び戻した菘の勢いはもう止まらない。ランプリット・リシュアが再び鳥籠を放つ前に、菘の左腕の一撃が鉱石ランプの頭を揺らし――ぴしり、と籠に罅が入った。
大成功
🔵🔵🔵
ニクロム・チタノ
また厄介そうなヤツがでたね、薄気味悪い場所だね油断しないよ!
大鎌は振りかぶらないと威力がでないから一気に接近戦に持っていくよ、もらった!
う、ランプからの灯りが強く・・・何それ、ボクの記憶?
大切な反抗の記憶が、ボクのお義母さんの思い出
返せ、お願い返してよボクはもう反抗出来ないもう猟兵じゃ・・・
あれ、声がみんなの応援が聞こえる
そうだ、まだ残ってる反抗の力猟兵の責務これはまだ忘れる訳にはいかない
覚悟はある私は戦う
この流血の痛みを力に変える反抗の妖刀を開放するよ
この限界まで高めた超重力勝ち誇ったその体にくらわせてやる
大切な記憶を弄ぶ悪に反抗の一撃を
「また厄介そうなヤツが出たね……それに薄気味悪い場所だね、油断しないよ!」
ランプリット・リシュアを見、次に彼女の得物を見たニクロム・チタノは一気に距離を詰める。
(大鎌は振りかぶらないと威力が出ないから……一気に接近戦に持っていけば!)
もらった、とニクロムは妖刀でランプリット・リシュアの身を斬り薙ごうとする――が、ランプリット・リシュアも大鎌での迎撃は間に合わないと判断したのか、その頭部の光を強めた。
「っ……う……?」
ぐらり、ニクロムの中で何かが揺れる。過るのは、義母との思い出。それが薄れていくうちに、ランプリット・リシュアの手に白銀の鉱石が握られた。
「……何それ、ボクの記憶?」
「ご名答。そうさ、お前の大切な記憶さ」
動揺するニクロムに楽しそうに笑うランプリット・リシュア。残る僅かな記憶を失わないように、取り戻すようにニクロムは手を伸ばす。
「大切な反抗の記憶が……、返せ、お願い返してよ、ボクはもう反抗できない、もう猟兵じゃ……」
戦う意味も分からなくなり、足から力が抜ける。へたり込んだニクロムにくつくつとランプリット・リシュアは笑う。
「そうかそうか、この記憶がないならお前はもう猟兵じゃないのか」
「返して……、大事な記憶なんだ……」
何の記憶だったかももう殆ど思い出せない。だが、それが大切なものだったことだけは覚えている。ニクロムは必死にランプリット・リシュアの持つ鉱石に手を伸ばした。
「猟兵が減るチャンスだというのに返すと思っているのか?」
「……お願い、返してよ」
ランプリット・リシュアの嘲りも気にせず、縋るように手を伸ばすニクロム。その手は記憶の欠片に届かない。やがて、何故それに手を伸ばす必要があったのかも分からなくなる。
「猟兵さん、頑張って!」
(声……?応援……?)
戦う意志を失いつつあったニクロムの中に光が差すように声が届く。花嫁が声を上げたのだ。
「一緒に戦うことは出来ないけれど……あなたを応援することならできるから!諦めないで!」
怪人に攻撃されるかもしれないという恐怖はあるのだろう、僅かに震えながらもニクロムに叫ぶ。妻を支えるように抱きしめ、花婿もニクロムに声を掛ける。
「あなた達が来てくれたおかげで、俺達は生きてる!……あと少しだけでも良い、助けて貰えないか!」
猟兵を、ニクロムの力を信じる花婿の言葉。
ニクロムの中でひとしずくの水が落ちるように、二人の言葉が響き――頭が冴える。
「そうだ」
記憶が欠けても、力は全て奪われていない。
(反抗の力はまだ残ってる……猟兵の責務。これは、まだ、忘れる訳にはいかない)
立ち上がる。手にしていた刀を強く握りしめ、覚悟を新たに、自身に、応援してくれた花嫁と花婿に誓うように力を呼ぶ。
「――覚悟はある、私は戦う」
妖刀が命を得たように呪いを宿す。呪縛、敵の血を多く流す呪い、猛毒の霧。その呪いの片鱗に侵されたようにニクロムは血を吐く。
それでも、先程までとは違い、敵を見据え、今自分が何をすべきかをはっきりと認識している。反抗の力が、意志が再び湧き上がる。
戦意を取り戻したニクロムに気づき、ランプリット・リシュアが距離を取ろうとしたが、それよりも大きく踏み込み反抗の妖刀で薙ぎ斬る。
呪縛の力で留めた後、次々と斬りつける。衝撃で鉱石が砕け、大切な記憶がニクロムに舞い戻る。
「……記憶を奪って、勝ち誇って。やっぱり厄介なヤツだったね」
嫌なヤツでもあるね、と呟いて、チタノの力を借り受け、超重力も刀に宿す。
「大切な記憶を弄ぶ悪に、反抗の一撃を」
ランプリット・リシュアの胴体を圧し斬るように、刀を振るう。そのスピードは、敵に対応させる余裕を与えない。
「がは……っ!」
見た目以上に重い一撃に、ランプリット・リシュアが崩れ落ちた。
大成功
🔵🔵🔵
巨海・蔵人
■動画配信は変わらず
念のため、音声はミュート設定でお送りです、動画は字幕で楽しんでね。
と、言うわけで。皆のイイねが僕らの力、愉快なバイオモンスター蔵人君、絶望遊園地にご招待されました、幻想的なランプと電飾が何とも言えずミスマッチ。
どうか応援お願いします。なお、投げ銭はご祝義として例の魔女さんのコスメセットを進呈の予定です。
■記憶
リシュアさんはどうやら記憶をとてもきれいで大切なものに思ってるみたいだね。
こんな形に変えるくらいだし、
でも、記憶は大事な一部だけど全部じゃないよ。
(対策は、元より記憶はクラウド化してるので随時再読込、
ドローンからソーシャルレーザーで援護射撃)
手数とイイねを合わせてみたよ
「バウムクーヘンの次は遊園地……」
でも楽しい雰囲気ではないね、と奇妙な音色に眉を寄せ、配信をミュートモードへ変更した巨海・蔵人は改めて配信のご挨拶。
「皆のイイねが僕らの力、愉快なバイオモンスター蔵人君、絶望遊園地にご招待されました。念のため、音声はミュート設定でお送りです。動画は字幕で楽しんでね。どうか応援お願いします」
ちょっとこの音は嫌いな子もいそうだから、と困ったように笑ってみせる。動画にはテレビウムドローンが字幕を付けてくれている。
「こんな雰囲気なんだけど、幻想的なランプと電飾が何とも言えずミスマッチ」
テレビウムドローンが早速様子を映す。退廃的な雰囲気の遊園地に、ランプリット・リシュアの放つ淡い光、所々に飾られた電飾。アンバランスな光景に恐怖を覚える者もいるのか『怖いよー』や『蔵人くん大丈夫なの……?』というコメントも流れる。普段以上の応援のつもりなのか投げ銭が入った。
「あ、投げ銭ありがとうございます。投げ銭はご祝儀として例の魔女さんのコスメセットを進呈の予定です」
視聴者がそれに反応したのか投げ銭が一気にぶち込まれる。蔵人を応援する気持ちと、スカイダンサーの花嫁を祝う気持ちが一緒になった投げ銭は蔵人に力を与えてくれる。
「……コスメセットってご祝儀になるのか?」
「あれ、駄目かな」
暫く黙って絶望遊園地を撮らせてやっていたランプリット・リシュアが首を傾げる。その頭は罅も増え、傷だらけだ。
「女性なら嬉しいと思ったんだけど……」
「まあ余程変なものでなければ……」
他世界ならご祝儀はその世界の通貨が多いだろうが、ここはキマイラフューチャー。喜んでもらえればそれで良しな世界。ランプリット・リシュアは何となく疑問に思っていたようだが、他に案もないようでそれ以上口は出さなかった。
「……ところで、放送の気は済んだか」
「え、まだ始まったばかり――」
ヒュッ、と蔵人の横を何かが過る。ランプリット・リシュアの大鎌だ。
「そっか、もう待ってくれないんだね」
仕方ないよね、と距離を取る蔵人。
「もう充分時間をくれてやったつもりだが?」
「そっか、うん、ありがとうね」
素直な言葉にランプリット・リシュアは戸惑ったのか言葉を詰まらせた。それを誤魔化すように鳥籠達を放つ。
「……キマイラフューチャーの住人は幸せそうな奴らばかりだ。どうしたらそんなに笑っていられるのかずっと不思議だった。お前の記憶を見れば分かるのかもしれないな」
蔵人に襲い掛かる鳥籠達を打ち落とそうとテレビウムドローンがソーシャルレーザーで射撃する。蔵人自身も頭を振って長い髪の毛でばしりばしりと弾き飛ばすが、それでもしぶとく食らいつく鳥籠達。鉱石は次々に生み出され、蔵人の記憶を封じ込める。
「……?」
ランプリット・リシュアは妙なことに気づく。彼の記憶の欠片である鉱石は色も形も殆ど同じものばかり。
「……リシュアさんは、どうやら記憶をとてもきれいで大切なものに思ってるみたいだね」
こんな形に変えるくらいだしね、と優しく微笑む。
「でも、記憶は大事な一部だけど、全部じゃないよ」
「……お前、記憶が無くならないのか」
何一つ変わらない蔵人の様子に訝し気に思いながらも、再び鳥籠を放つ。
「ごめんね。僕の記憶は簡単にはなくならないようになってるんだ」
鳥籠達に何度記憶を奪われてもクラウド化されている記憶を読み込み続けることで記憶を失わずにその場に在り続ける蔵人。応援の力もあり、リロード速度は速い。
「リシュアさん、このレーザーは皆のイイねの力もあるんだ。記憶だけじゃなくて、繋がりとかも大事だと……僕は思うんだ」
ランプリット・リシュアの鳥籠達を射抜く光線。イイねの力が高まったソーシャルレーザーは高威力の砲撃を繰り返す。
鳥籠達を焼き払い、がら空きになったランプリット・リシュアに繋がりの力を教えるように強い光の一撃が放たれ――彼女の身体を跳ね飛ばした。
成功
🔵🔵🔴
涼月・カティア
【菫宮・奏莉(f32133)】さんと
(奏莉さんを後ろからハグしながら)
どうして、と言われましても
私は奏莉さんのもちもちほっぺを守るために頑張っているとしか(つんつんぷにぷに)
ええ、猟兵になったのは成り行きでも、今は私の意志で歩いているのです
その大鎌の一撃、食らうわけにはいきません
(【トリニティ・エンハンス】で防御力強化しつつ武器受け
……っ
貴方、いま奪おうとしましたね?
自分の勝手な都合で、私の大切な記憶を……
奏莉さんの至高のもちもちほっぺを
例え記憶を奪われたとしても忘れるわけはありませんけども
理不尽にヒトのものを奪う者を私は許しません!
私を怒らせてタダで済むと思うな?
全身、切り刻んであげます!
菫宮・奏莉
【カティア(f05628)】さんと
どうして、と聞かれましても……(幸せそうに抱き返しつつ)
記憶と言われましても、わたしには、
理緒お姉ちゃん(実の姉)がメッセージを残して、いきなりいなくなっちゃいましたので、
帰ってくるまではわたしが頑張らないとって思ったくらいでしょうか?
お姉ちゃんには会えましたですけど、
それでもあのときの想いが、わたしを猟兵にしてくれたんだと思うのですよ。
それにいまではカティアお姉ちゃんもいますですし、
希望というなら、そちらのほうが大きいかもしれないですね。
わたしの大事な未来なのです!
これは絶対になくしませんのですよ。
奪おうとするなら、全力の悪運、お分けしちゃいますのです
「どうして戦えるか、ですか。……どうして、と言われましても」
涼月・カティアは菫宮・奏莉を後ろから抱きしめながら、愛しい人のほっぺをつんつんぷにぷに、つんぷに。
「奏莉さんのもちもちほっぺを守るために頑張っているとしか」
「わたしも、どうして、と聞かれましても……」
つんぷにされている奏莉は幸せそうにカティアを抱き返している。
「……頭に入ってこないからその動きやめないか?」
頭が痛いと言わんばかりに頭の籠に手を当てたランプリット・リシュア。しかしそんな相手の一言で二人のイチャイチャが止まるはずもなく。
「わたしには、理緒お姉ちゃん……実のお姉ちゃんがいるのですけれど、メッセージを残していきなりいなくなっちゃいましたので、帰ってくるまではわたしが頑張らないとって思ったくらいでしょうか?」
戯れを続行しつつ、ランプリット・リシュアの問いにしっかり答えた奏莉。
そうか……とランプリット・リシュアは疲れたような声で返事をした。
「頑張る、か……。猟兵でなくてもある感情なのに、か」
「お姉ちゃんには会えましたですけど、それでもあのときの想いが、わたしを猟兵にしてくれたんだと思うのですよ」
ふわりと笑う。その表情に少し和んだカティアも、彼女を肯定するように言葉を繋ぐ。
「ええ。猟兵になったのは成り行きでも、今は私の意志で歩いているのです」
猟兵となったのは偶然。オブリビオンと戦う存在となったが、それでも自分を失わずに進むことも強さだとカティアは語る。
「頑張る、というか、自分の意志でそうしようとする、ことが強いんだろうか……」
ランプリット・リシュアも少し理解したのか、ぼんやりと言葉を零す。
「多分そういうことですね」
「希望も大きいと思うのです。わたしにはいまではカティアお姉ちゃんもいますから」
ぽ、と顔を赤らめながら奏莉は自分の力の源の一つを示す。可愛らしい表情につんぷにをやめ、カティアはぎゅっと彼女を抱きしめた。
「ずっとそばにいますからね」
「嬉しいです」
「やめろやめろ、またイチャイチャするんじゃない。私の頭の整理が追い付かない」
イチャイチャ度が更にアップしたことに再び頭を抱えたランプリット・リシュア。彼女の文句にカティアは冷たく突き放す。
「勝手に整理してください」
「酷いな。……そうだ。意志の力を形成する記憶はあるんだろうか」
それを知りたいとランプリット・リシュアは大鎌を握った。やはりオブリビオンの為か無理矢理暴きたくて仕方がないようだ。
「その大鎌の一撃、食らうわけにはいきません」
カティアはするりと奏莉から手を離し、庇うように彼女の前に立つ。
素早く魔術の防御を自身に施し、ショートソードで受け止めた。
ガキィン、と嫌な音を立てる大鎌とショートソード。だが、本当の攻撃はカティアの記憶を断つ見えぬ刃だ。
「……っ!」
記憶を断つ一撃は魔術によりどうにか耐えきったが、カティアの中でぷちん、と何かが切れた。
「……貴方、いま奪おうとしましたね?」
「少し見せて欲しいだけだが?」
「……自分勝手な都合で、私の大切な記憶を……」
ゴゴゴ、と音がしそうな程に真っ黒な怒りを纏うカティアは息を吸い、半ば叫ぶようにランプリット・リシュアに言い放つ。
「――奏莉さんの至高のもちもちほっぺを!」
「それは狙ったつもりはないが。お前の記憶を見たかったんだ」
ランプリット・リシュアは少しペースを乱されながらも、再び大鎌を振るう。二度もその手は喰らわないとカティアは容易く退けた。
「たとえ記憶を奪われたとしても忘れるわけはありませんけども……理不尽にヒトのものを奪う者を私は許しません!」
「記憶は奪わせないのです!わたしの……わたし達の記憶は、大事な未来でもあるのです!」
これまで共に過ごした記憶は、これからの未来に繋がるもの。それを奪われるわけにはいかないと奏莉も声を上げた。
「わたしの記憶も……カティアお姉ちゃんの記憶も。これは絶対なくしませんのですよ。これ以上奪おうとするなら……わたしの全力の悪運、お裾分けしちゃいますのです」
カティアに視線を向ける。カティアも奏莉の方を見て、頷き合う。
カティアがランプリット・リシュアに飛び掛かるように間合いに入り、ショートソードを振るい、浅い傷を与え続ける。
「そんなものか?さっきまでの威勢はどうし……うぐっ!」
カティアの影に隠れるようにして迫っていた奏莉が飛び出し、松葉杖で深い一撃を入れた。浅い傷を抉り、悪運を注ぎ込む。
「な、なんだ……?何か変な感じが……っ、うわぁっ!?」
バナナの皮でも踏んだかのように、後ろに転ぶランプリット・リシュア。
「何か踏んだか?あれ、何もない……?」
恐る恐る起き上がろうとして、今度は自分の靴に躓いて前にべしゃりと転ぶ。
「さっきからなんだ!?足がおかしいわけでもないのに……!」
「それ、普段のわたしの悪運なのです」
「お前いつもこんなに大変なのか」
怪我に繋がるようなドジをしてしまう、極めて危険なドジっ子属性。それがランプリット・リシュアに付与された『悪運』の正体だ。
漸く立ったランプリット・リシュアに襲い来るのはカティアの一撃。
「私を怒らせてタダで済むと思うな?」
しかも奏莉さんと話すなんて、と今度は薙刀を振るう。回避をしようとしたランプリット・リシュアの足首がくにゃんと曲がり、よろける。
「痛っ」
そこを見逃さずカティアは薙刀をすぱりと振るう。
「ぐ、う」
更なる痛みに呻くランプリット・リシュアに容赦する理由はない。
「全身切り刻んであげます!」
薙刀を振るい続け、ランプリット・リシュアが何度倒れて、起き上がり、また転んでを繰り返しても追撃する。
「カティアお姉ちゃん、それくらいで良いと思うのです」
「なんでですか、まだまだ……」
「それ以上一緒にいると、カティアお姉ちゃんも巻き込まれて怪我しちゃうかもなので……」
おずおずと言う奏莉。奏莉が言うのなら本当に巻き込み事故が起きるかもしれない。それに悪運が続くのならば、自分がこれ以上攻撃しなくてもランプリット・リシュアは更なる怪我を負うだろう。
本物の悪運持ちの奏莉の直感を信じて、カティアは手を止めた。
「……優しい奏莉さんに免じて、これくらいにしておいてあげます」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
カーバンクル・スカルン
「スクラップビルダーに転向した経緯とスクラップビルダーとしての記憶」を失い、純粋な咎人殺しだった頃が前面に出る。
【クリスタライズ】で姿を隠し、誰にも気づかれることなく後方を取り、リシュアの首や頭を狙って鎖を投擲。巻き付いたらフックを鎖の穴に引っ掛けて簡単には抜けないようにする。
そんで力任せに強引に観覧車の元へ引っ張り、持っている方をゴンドラに固定。あとは彼女が観覧車の動きに合わせて宙吊りになって死ぬのを見送るだけ。
私らの仕事は暗殺に見せかけないこと。思い出の遊園地と運命を共にしたかった……何の矛盾もない良いシナリオじゃありませんか?
「記憶が見たいって、また変わってるというか……。それに、記憶を見たからって強さのわけが分かるとは限らないと思うんだけど」
面倒そうな相手だと眉を顰めるカーバンクル・スカルンにランプリット・リシュアは笑う。
「確かに強さの理由が分かるとは限らないだろうさ。けれど、手掛かりにはなる。そう思わないか?」
「考えた事ないかな」
カーバンクルはきっぱりと言い切り、『カタリナの車輪』を手にする。
「まあ考え方がそれぞれあるのは否定しないさ。なら、私は私で勝手にやらせて貰おう」
ランプリット・リシュアは鳥籠達を放つ。鳥籠達は一斉にカーバンクルに向かうが、カーバンクルの放ったカタリナの車輪で弾かれる。
だが、いくら大型の車輪とはいえ、全てを弾き飛ばす事はかなわない。そんなことを理解しているはずなのに、それ以上の対策をとらないカーバンクルに、ランプリット・リシュアはどこか奇妙なものを感じていた。
「っ」
襲い来る痛みに、僅かにカーバンクルは呻く。だが、抵抗はしない。
鳥籠が記憶の鉱石を作り出した後、カーバンクルの纏う空気が変わる。
溌剌とした雰囲気は陰鬱で鋭くなり、目に宿す光は冷徹な処刑人のそれ。
カーバンクルが失った記憶は『スクラップビルダーに転向した経緯』、そして『スクラップビルダー』としての記憶。つまり、残された記憶は彼女が『咎人殺し』であった頃のものだった。
殺意――それもただ殺すだけでは済まさぬと静かに語るカーバンクルの視線に、ランプリット・リシュアは身震いする。
「……さっきまでの雰囲気は嘘だったのか?」
「嘘?さあ。答える必要があるんでしょうかね」
冷たく言い捨てると共にカーバンクルの姿が消え、ランプリット・リシュアは身構える。
(猟兵であれば速度で姿を消したと思わせる者もいれば本当に姿を隠せる者もいる……どちらにせよ恐らくは背後に回ってくる)
何かを感じ取って、振り向きざまに鎌を振るう。だが、その後ろ――ついさっきまで向いていた方向から何かが巻き付く。重い金属の音。鎖だろうか。見えないが、確かに存在する何かが、ランプリット・リシュアの首を絞めつける。
姿を透明に変えたカーバンクルは、確かにランプリット・リシュアの後ろに居た。だが、敵が警戒し振り向くと同時に再び回り込み、完全に敵の意識が逸れた位置から鎖を放ったのだ。
がちん、と見えない鎖が見えない金属で固定される。ふ、と息が聞こえ、ランプリット・リシュアは猟兵がそこに居ることを理解する。首を絞められているのなら、早くこの状況から切り抜けねば。
鎌を振る余裕もなく、見えない相手に肘で攻撃しようとするが、当たった感触はない。
「っ、う゛う……!」
弱まらぬ拘束に、息が苦しくなる。だが、まだ死へ追いやられる程ではない。『わざと生かされている』。
ランプリット・リシュアは見えぬ鎖に手をかける。外そうとするが外せるわけもなく、手袋の中で鉱石の爪が欠けた。
「無駄な抵抗はみっともないって思わない?」
温度の無い声でカーバンクルが声を掛ける。ずるりずるりとランプリット・リシュアを引き摺り始めた彼女が向かう先は、軋んだ音を立て、ゆっくりと回る観覧車。
「何の、っ、つもり、だ……?」
カーバンクルの意図が見えず、ランプリット・リシュアは息を荒げながら問う。カーバンクルは姿を見せぬまま、鈍色の空を見る。
「私らの仕事は暗殺に見せかけないこと」
「……?」
語りだす猟兵に意味が分からず、抵抗をしながらも必死に何を意図するのかを考えるランプリット・リシュアだったが、自力で答えに辿り着く前に、カーバンクルから答えが示された。
「思い出の遊園地と運命を共にしたかった……何の矛盾もない良いシナリオじゃありませんか?」
「……まさ、か」
がりがり、がちゃん。
ゴンドラに結ばれた鎖が漸く見えるようになる。ゴンドラはゆっくりと上がり、それと共にランプリット・リシュアの身体も宙に浮く。
「や、めっ、やめろっ!外せっ、これを外せ!」
「記憶を奪い、弄ぶ。悪趣味なことをするのなら……覚悟は出来てるでしょう?」
姿を現したカーバンクルの目はどこまでも冷たい。どんなに泣いても喚いても、この鎖を外すことはないだろう。
ランプリット・リシュアも普段であれば自力でどうにか出来たかもしれない。だが、連戦で酷く疲弊していた彼女に解決する力はもうない。
暫くもがき続けていたが、やがて鉱石に灯る光は弱くなり――ランプリット・リシュアごと消えた。
「……人の記憶を覗こうとするからそうなるんだよ」
ランプリット・リシュアが消滅したことで記憶を取り戻したカーバンクルはやれやれと息を吐く。
「さ、帰りますか。お二人も早くステージに戻りましょ」
花嫁と花婿を促し、崩れ消え行く遊園地を去るのだった。
大成功
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