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大祓百鬼夜行⑫〜「もういいかい、」「まあだだよ」

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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「もういいかい、」
「まあだだよ」
 鴉が鳴いた。
 キャハハハハ……。迷路みたいな団地の中で、子供の笑い声が響く。郷愁を誘う、甲高い声……ばたばたと、公共の廊下や、部屋の畳を裸足で走り回る足音……鉄の扉や、空の襖を乱暴に開ける音……夕暮れ時に鳴る童謡……扇風機が回っている、風鈴が揺れる。
 この団地のどこから見ても、太陽は地平線の下へは行かない。傾いたオレンジ色が、団地全体を照らしている。鳴いた鴉はもう死んだ。だから子供は遊びを続ける。
「ねえ、かくれんぼしよお」
 忘れ去られた幽世の、団地の中で童が笑う。

 ●

 その団地には妖怪が住んでいる。
 彼らは『団地闘法』と呼ばれるものを駆使する妖怪集団――団地武装団というものであるという。しかしながら、彼らは既に骸魂と合体しており、団地の中ではオブリビオンとしてそこに居る。

「ただ、そやつらは――辛うじて、という状況ではあるが、自身としての遺志を保っておるらしくてな」

 団地の中で自分を倒してくれる存在を待っているらしいのであるよ。葛籠雄九雀は、普段通りの、相も変わらず緊張感のない口調でそう言った。

「例の、『自分たちがあえて大祓骸魂の軍門に下れば』……というやつであるな。大祓骸魂のために戦う彼奴等を倒すことで、間接的に猟兵にその存在を認識させ、居場所を教える……という仕組みである」

 猫背の仮面は、そこまで言うと一旦言葉を区切り、「そこで」と続ける。

「今回、この団地武装団の居る団地に赴いてもらいたいのであるよ」

 居るのは骸魂童子という、着物に裸足の子供の姿をしたオブリビオンである。団地の中を隠れたり走ったりと、如何にも子供らしく行動している。

「すまぬが、当の団地はオブリビオンによって迷宮じみた構造に改造されておって、オレも内部のことまではわからん。尤も、カクリヨはどこもそうであるが……しかしそれを上手く使えば、相手の先手を打って戦うことも可能なはずである」

 あとは、と仮面が言う。

「子供……であるからな。もしかしたら、団地の中で遊んでおるかもしれんであるな」

 これは憶測であるが。九雀は首を傾げるようにしてそんな情報を追加した。

「まあとにかく、立地さえ活用してもらえれば有利に事を運べるはずであるから、是非活用して欲しいであるよ」

 カクリヨファンタズムはUDCアースに隣接しているため、カクリヨファンタズムが滅べば雪崩れるようにUDCアースも滅ぶ。それは流石に、九雀も少々困るのであった。

「……と言っても、オレは結局、送ることしか出来んのであるが」

 九雀が取り出す琥珀のグリモアの中には雀蜂が入っている。

「ろくな情報が出せずすまぬが……よろしく頼むであるよ」

 そして仮面は、いつものように、猟兵たちへと頭を下げた。


 


桐谷羊治
 なんだかポンコツなヒーローマスクのグリモア猟兵にてこんにちは、桐谷羊治です。
 少々お休み中でしたが流石にカクリヨが滅べば諸共UDCアースが滅ぶと聞いてやってきました。八本目のシナリオは戦争シナリオです。

 そんなわけで、初めてのカクリヨファンタズムです。お手柔らかにお願いします。
 プレイングボーナスは以下の通りです。

 =============================
 プレイングボーナス……迷宮のように改造された団地を利用して戦う。
 =============================

 今回はプレイング受付から先着順かつ書けると思った順にスピード重視に書いていくので文字数が普段よりちょっと少なめになるかもしれませんので予めご了承ください。
 また、書けると思ったプレイングを執筆させていただくので先着順でも不採用が有り得ます。こちらも予めご了承ください。
 合わせは二人まででお願いします。三人以上は不採用の確率が極めて高いです。

 心情はあれば書きます。なくても大丈夫です。全体的にいつもの通りです。
 若輩MSではございますが、誠心誠意執筆させていただきたく存じます。
 よかったらよろしくお願いします。
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第1章 集団戦 『骸魂童子』

POW   :    怪力
レベル×1tまでの対象の【尻尾や足】を掴んで持ち上げる。振り回しや周囲の地面への叩きつけも可能。
SPD   :    霊障
見えない【念動力】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
WIZ   :    鬼火
レベル×1個の【鬼火】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

鹿忍・由紀
迷宮なんてめんどくさい作りだな
見つけるのも一苦労だ
こっちは遊びに来てるわけじゃないのになぁ

先が見えない様子にうんざり
音と気配に注意しながら
とりあえずどんどん先へ歩いてく
地道だけどしらみ潰しに

団地なんて縁がないものだったけれど
ノスタルジーってこういうとこに感じるものなのかな

見ぃつけた
そう言うんでしょ、かくれんぼって
次は影遊びでもする?
こう見えて結構得意なんだよ

夕暮れ時は影が濃くなる
長く伸びたそれから浮かんだ刃が降り注ぐ
団地の狭苦しい作りなら逃げ場なんて作らない
黒で埋め尽くすみたいに雨が降る
太陽が落ちたら帰らなくちゃね

見つけて欲しかったんでしょ
わざわざ身を挺してまでご苦労様
あとはぼちぼちやってくよ


冴島・類
滅びを防ぐ為己を使い
しるしをつけようとしてくれてるんだ
見つけ、助けねばね
鬼ごとでも、隠れ鬼でも
お付き合いしましょう

入り組んだ場の探索だ
手は幾つかあった方が良い
灯環、クレア
身を隠せそうな場を探ろうと連れも頼り
君らは攻撃されぬよに結界張っておくんだよ
何か気配があれば、知らせておくれ

瓜江は相縁にて糸から離し
わざと距離持たせ、足音など忍ばせずに進ませ
己は逆に忍び足で気配を断ちながら捜索
五感、特に耳を注意し
瓜江の接近に反応する音がないか注意

もし、見つければ瓜江とは逆
裏に周り、逃げ道を塞ぎ追い込むか
引き付け攻撃を放って来た瞬間を、踏み入り
至近なら刀で斬り、距離があるなら薙ぎ払う

やあ、ちゃんと
みーつけた、よ



 
 さて――と、転送され、団地へと立った冴島類は、一先ず辺りを見回してみた。確かに、幼い声や足音などこそすれ、姿はどこにもない。やはり隠れ鬼をしているのだろうか。類の立つ廊下は、差し込む斜陽に照らされて燃えていた。積み木のように重ねられ、並べられた団地の内部は、詳しくない自分にさえ無理矢理繋げられたのだろうとわかる。それでも不可思議な夕焼けは、この廊下を照らすのだ。
 この迷宮で、子供たちは……否、骸魂に飲み込まれた妖怪たちは、どこにいるのだろう。
 今回の相手は、ただ『敵』とだけ呼んでよいものではない。彼らは己らの意思で、猟兵と戦うことを『選んでくれた』。
(滅びを防ぐ為己を使い、しるしをつけようとしてくれてるんだ)
 ならば、類がやるべきことは一つ。
(見つけ、助けねばね)
 この声の主である骸魂童子たちを倒し、この世界の妖怪たちの決意に報いねばならない。そのためなら、鬼ごとでも、隠れ鬼でも。
「……お付き合いしましょう」
 姿を見せない子供たちへ向けるようにそう呟いて、類は、己の肩に乗っていたヤマネの子――灯環や、赤く燃える炎を纏った精霊、クレアたちへと手を差し出す。それだけで、灯環は承知したようにちょこんとそれに乗り、クレアは類の眼前にやってきた。縁とはまこと、有り難いものだ――そんなことを思う。
「入り組んだ場所の探索だ、手は幾つかあった方が良い。灯環、クレア。お願いできるかい?」
 身を隠せそうな場所を探りたい、と小さな友たちにそう告げれば、彼らはこくりと頷いてくれた。
「君らは攻撃されぬよに結界張っておくんだよ――」
 何か気配があれば、知らせておくれ。そう言って灯環たちを送り出す。
「……其方は頼むよ、瓜江」
 そう語りかけ、傍らに立っていたからくり人形を、相縁にて糸から離す。それでも彼が動くのは、決して断たれぬ縁の糸ゆえだ。そのまま瓜江を先んじて歩ませ、自分から離し、足音なども忍ばせずに進ませる。瓜江の存在を隠さないのは、自分が潜むためだった――瓜江とは反対に気配を断つよう忍び足で、わざと距離をとりながら、類は五感を研ぎ澄ませ歩き始める。
 ――ふと、左手の方へ目を向ければ、随分下の方に、公園があるようだった。赤紫と白を散らした躑躅の植え込みと、錆び付いた、箱型の――四人ほどで座れるような――ブランコや、滑り台と思しきものが見える。
 ああ――寂しい場所だ、と思った。
 類はその光景に、僅か目を細めると、探索に戻った。瓜江の接近に反応する音がないか、特に耳で注意しながら。
 そうしてしばらく、扉を開けて、廊下を歩き、階段を上って。
 ……ねーぇ。もーういーいかぁい?
 子供が、比較的近くで――誰かにそう言うのが聞こえた。だが、どこにいるのか。今までよりも注意を引かせるように、その声に気付いたのは瓜江だとでもいうように遠隔で彼を操りながら、より慎重に、己も潜む子供を探し――丁度、類の立つ階段から何階か下りた場所、大きく張り出したベランダで、小さく蹲る骸魂童子を見つける。下か――どうする。できれば瓜江を先に行かせ、自分は裏へ回って、逃げ道を塞ぎ追い込みたいが――
「――え」
 そう考えていた類の体が、いきなり浮いて。
「しまっ――」
 瞬きよりも短い刹那に、曲がりくねった階段の手すりを越えて、空中へ放り出された。
「――――ッ!!」
 視界いっぱいに、突き抜けるような夕焼けの空が見える。焦燥と共に左右へ視線を走らせても、掴まれるものは何もない。罠として瓜江との距離を離していたのが裏目に出た――何もかもが遠すぎる――間に合わない。落ちていく類を、先程ベランダにいた骸魂童子が立ち上がって見下ろし、言った。
「――るいくん、みーつけた――」
 次は、るいくんが鬼だよ。キャハハハ、と子供は笑って、団地の中へと入っていく。
 それを見ながら、類は瓜江を操る。これくらいの距離ならまだ動かせる――追ってくれ、瓜江。そうして着地と呼ぶには乱暴な衝撃や、それに伴う激痛への覚悟を決めて――
「――うっ!」
 直後、横から飛んできた『何か』に受け止められ、そのまま一緒に何処かへ墜ちて転がり、最後は壁か扉かわからないものに背中を強打して止まった。その痛みで流石に咳き込んでいると、先に立ち上がったらしい『何か』――否、『誰か』に声をかけられる。
「……何やってんの」
 羽もないのに飛んだら死ぬよ。
 その台詞で顔を上げれば――白みがかった金髪の男が、気怠げに類を見下ろしていた。

 ●

 ――迷宮なんてめんどくさい作りだな。
 転送された団地を歩きながら、鹿忍由紀はその夕暮れ色の光景に、そんなことを思った。
(見つけるのも一苦労だ)
 こっちは遊びに来てるわけじゃないのになぁ。
 音と気配に注意しながら、由紀は、とりあえずどんどん先へ歩いていく。止まっていても仕方がないし、手掛かりがない以上、地道だけどしらみ潰しにしていくのが最もよいと考えたのだった。
 それにしても――鉄の扉を開いて出てきた階段を上がりながら、由紀は思う。団地なんて縁がないものだったけれど、ノスタルジーってこういうとこに感じるものなのかな。気配はまだ遠い。表札はどれも塗り潰されるか、まず存在していなかった。
 次に開いた扉の先は、普通の――と呼ぶべき――家だった。玄関から土足のまま、中へと入っていく。扇風機が回っている、暑くもないのに。歩き回って見つけた、本来はベランダと思しき硝子戸の先には、何もなかった。手すりもないので、気を付けていなければ下へと真っ逆さまという、悪質な行き止まりだ。ただ、向こう側には崩れ落ちたように突き出した渡り廊下の残骸と、先へ進めそうな扉があるので、本来は道だったのかもしれない。一応、思い切り跳べば、跳べそうではある。どうしようかと一応下へと目をやれば、古い型の車ばかりが停められた駐車場だった。じゃあ上は、と、見上げれば――
(……え、)
 少年と思しき人影が、随分上から落ちてくるところだった。骸魂童子か、と一瞬身構えるが、それならこのように落ちては来ないだろうと考え直す。
 このまま見過ごしたら確実に死ぬな、と思った。少年がすぐそこまで落下してくる、瞬きほどの時間を考えて――結局由紀は、少しの助走をつけて、行き止まりの縁を思い切り踏み切った。届くか? ――届く。少年を捕まえ、そのまま、廊下の残骸へ二人で転がり落ちる。扉に少年の背がぶつかって咳き込んでいたが、そこまで面倒を見るつもりはない。
「……何やってんの。羽もないのに飛んだら死ぬよ」
 自分の言葉で顔を上げた少年は、どこかで見た顔をしていた。どこだっけ――と考える由紀と、きっと似た表情を相手もしていたので、多分どこかで会ったことはあるのだろう。お互い覚えてはいないが。
「すみません――ありがとうございます」
 骸魂童子に落とされまして――感謝を口にしながら少年が立ち上がる。
「僕は冴島類です。あなたは?」
「鹿忍由紀」
 お互い名乗って、どちらともなく、扉を開けた。この迷宮で唯一のいいところは、どんな扉にも鍵がかかっていないことである。
「どうして落とされたの」
「見つけたと――言われまして」
 次は僕が鬼だと。類の言葉に、ふうん、と由紀は考える。それならば、類についていくのが一番早いかもしれない、かくれんぼなんて――『見つけて』、『見つけてもらわなければ』、遊びとして成立しないのだから。遊びを続けるために、鬼の近くへ来るかもしれない。
「一緒に行くよ」
「あ――助かります」
 少年がぺこりと頭を下げる。それにひらりと手を振って、由紀は一つ閃く。
「……ああ、そうだ」
 鬼なんでしょ、類が。由紀はすぐ傍にあった窓を一つ開けて、類を手招く。
「もういいかい、って」言って。そう伝えればすぐに得心したらしい類が、窓に近付いて叫ぶ――もういいかい。
 まーだだよ、と――聞こえて来たのは、三階ほど上からだった。
「意外と近いね」やはり類を追いかけているようだ。
「瓜江――僕の人形に追わせているので……追い込みましょう」
「賛成」
 提案に乗り、由紀は類と共に声の場所へと向かう。どうやら人形の他にも相手の居場所を知る手があるようで、類の歩みは淀みなかった。幾つかの扉を開け、何度も階段を上り――最後に到着した、団地の棟と棟を繋ぐ、少し広い廊下。その真ん中に、裸足に着物の子供が立っていた。奥には小動物と赤い精霊を連れた黒い人影――おそらく類の言う瓜江だろう。
「――やあ、ちゃんと」
 みーつけた、よ。類がそう微笑めば、オブリビオンも笑った。それに合わせて類の肉体が持ち上げられる、が。
「……二度も同じ手は食らわない」
 そこから何をされるよりも早く、黒い人形が背後から骸魂童子へと向かっていく。童子がそれに気を取られて攻撃を中断した隙に、着地した類が大きく踏み込み――刀で斬り払った。一瞬の抜刀で袈裟に斬り上げられたオブリビオンが、何を言うこともなく倒れるのを由紀は黙って見続け――
「……それで」
 ――最後に一つジャンプをすると、『背後から己の脚を掴もうとしていた別の骸魂童子を』避けて、廊下の手すりへと着地した。類の行動を見続けていたのは、単に己の背後に来ていた『これ』が近寄りきるのを待っていただけだ。不意をついたつもりだったらしい童子が、笑いだかなんだかよくわからない表情で、攻撃を避けた由紀へと顔を向ける。
「――見ぃつけた」
 そう言うんでしょ、かくれんぼって。表情の一つも変えず、由紀は言う。
「次は影遊びでもする? こう見えて結構得意なんだよ――」
 逃げようとする子供の背を見ながら、手すりの上で立ち上がれば、夕焼けに照らされた由紀の長身で、黒い影が伸びた。丁度、童子まで届くほど。
「――夕暮れ時は影が濃くなる」
 貫け。淡々と告げれば、長く伸びたそれから浮かんだ刃が、童子へ向かって降り注ぐ。団地の狭苦しい作りならば逃げ場なんて作らない。黒で埋め尽くすみたいに雨が降る――赤い陽が翳るほどの黒い雨が。まるで夜を作るように。
「……太陽が落ちたら帰らなくちゃね」
 見つけて欲しかったんでしょ、わざわざ身を挺してまでご苦労様。
「あとはぼちぼちやってくよ」
 そんなことを言って――由紀は手すりから下りたのだった。

 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴォルフガング・ディーツェ
レグ(f02517)と

団地闘法か…俺達なら機術闘法ってところかね、レグ?(拳を突き出してにぱり)

オブリビオンが子供の精神性なら取る戦術は一つ
何時か九雀には見せた幻想の花火、今一度披露しようか
攻撃性が高いならあまり見つからない様に、そうでないなら敢えて目立っていこうか
屋上到着後は【指定UC】で強化した電脳魔術、展開させたナノマシンで物理法則に干渉
泡沫の電子花火を幾度も打ち上げよう

オブリビオン達が引っ掛かったら花火に光・太陽のルーンを絡めせ目くらまし
レグの拘束で無力化した子から「衝撃」の属性を乗せた掌底突きで意識を刈り取る
いやあ、君といると仕事がホント楽~!見事なギブ&テイクじゃない?


レッグ・ワート
ヴォルフ(f09192)と出る
生体多い世界が巻き込まれるのぞっとしないだろ

まんまなのか捻ってそれなのか、
てお前も逞しいな(軽く拳合わす)
とりま妖怪の位置や傾向、建物内部の情報収集がてら、迷彩起こしたドローンを先行させつつ屋上目指す。目星探しにも仲間探しにも支度終わるまでそう絡まれたかないし。忍び足するかはヴォルフに合わせる。着いたら惹く用意の間に屋上の確認と物の片付け、複製した糸を操作して出入口近くと、周りに張る。後は敵の攻勢か花火の切換を機に糸ぐる巻いて結んでく予定。少なくとも衣類なりに絡ませとけば妨害や時間稼ぎに使えるだろ。

そいつは上等、話早くて助かってるよ。
連中って後で手当した方がいい?


ジニア・ドグダラ
なるほど。駆け巡るよりは、適切に捜索するのが良さそうですね。
その上で、童の遊び場。幾つか思い浮かびますが、分かりやすい所から……

腕部のフックワイヤーを射出、のち急速に巻き取らせて団地の壁やベランダの柵を蹴りつつ、登ります。
移動する場所は、屋上。高い所は人も寄らず、秘密な場所として人気だからこそ。
いなければ、階段へと続く扉へ。行き止まりの閉所もまた一つ人気な場所。

遭遇時、フックワイヤーで物を釣り投げ、敢えて敵の目を引きながら逃走。迷宮した化したとはいえ屋上付近、遮蔽物もフックを掛けられる場所も無く、敵はすぐ来ることでしょう。

だからこそ、ヒャッカ。撃って良いです。
扉裏に潜むなんて、いつの間に、ね。



 
「レグがこういう世界に来るって珍しいね?」
 首を傾げてそう言ったのは、しばしば一緒に仕事をするため、すっかり顔見知りになった人狼、ヴォルフガング・ディーツェだった。しかも生きてる人を救えとかそういう話でもないし、まずこの世界に生きた人いないし、と青年が言うので、レグは理由を簡潔に答える。
「生体多い世界が巻き込まれるのぞっとしないだろ」
 カクリヨファンタズムを踏み台にしてUDCアースを滅ぼす。その事実を知ったレッグ・ワートが思ったことは一つ、それだけであり、それは生体に関する奪還や支援を主な目的として稼働するレグにとって十分動くに値する事実であった。
「まあそれはそうだねー」
 俺もUDCアースには知り合いがいるし、縁もあるしね、とヴォルフガングが言う。
「それで、どうしよっか」
 レグとヴォルフガングがいるのは、転送されたばかりの団地、その廊下だった。夕暮れの赤色が、周囲を照らしている。
 ふーん、とヴォルフガングが目を閉じ、顎に手を当てて思案気にして、それから、「うん」と頷き、最後にレグを見上げた。
「団地闘法か……俺達なら機術闘法ってところかね、レグ?」
 団地に居るから団地闘法で、団地武装団。
 ヴォルフガングがレグへ向かって拳を突き出し、にぱり、と、悪戯をする前の子供のような笑顔を浮かべた。
「まんまなのか捻ってそれなのか、……で、お前も逞しいな」
 尤も、殆どいつものことだが。今に限らず、この青年はこういう時いつもこのように飄々として、所謂『お道化た』言動をすると記憶している。青年の拳に己の拳を軽く合わせてから、レグは辺りを見回した。迷宮と言うだけあって、秩序も何もない場所だった――今いる廊下の少し先には、駐輪場が何故か設置されている。ここ何階だと思ってんだ、見た限りエレベーターもなさそうなのに。機能を考えて物を作れよ。レグはそんなことを考えながら、「しかし」と首を傾げる。
「かくれんぼねえ、お前さんやったことある?」
「どうだったかなあ」
 青年が笑いながら曖昧な返答をする。
「でもルールは知ってるよ。子供がやることだってこともね」
 オブリビオンが子供の精神性なら取る戦術は一つ。今まで浮かべていた『子供』の笑みを消して、ヴォルフガングが鋭く目を細め、獲物に食らいつく直前の、獣じみた表情になる。
「あの仮面の彼には、一度見せたことがあるんだけどね」
 花火を屋上で上げてみようよ、と青年が言う。
「子供ならきっと食いつくよ――綺麗な打ち上げ花火」
 青年の顔は、獣のものから子供のものに戻っている。それに何を思うこともなく、ただレグは「なるほどな」と頷いた。
 確かに、探し回るよりは誘き寄せた方が早そうだ。廊下の手すりから上を見る限り、少し遠くはあるものの、屋上は確かに存在しているようだし。
 それなら、とレグはドローンの迷彩を起こすと、自分たちの行く手に浮かべる。
「とりま妖怪の位置や傾向、建物内部の情報収集がてら、こいつら先行させつつ屋上目指すか」
 目星探しにも仲間探しにも支度終わるまでそう絡まれたかないし。
 そう提案すれば、「オッケー!」と青年が笑顔で了承したので、レグとヴォルフガングは、飛んでいくドローンからの情報をしばし精査する。だが何もない――子供と思しき声は時々聞こえるが。それでもドローンが襲われる様子などがないので、その後をついて、レグたちも歩き始めた。
「攻撃性が高くなさそうだし、わざと目立っちゃおうか」
「了解。……まあ、俺の方はわざとも何もないだろけどな」
 過去の記憶だとか言うだけあって、現代基準の建築でないのか、団地はレグにとって非常に狭かった。比較的細身なウォーマシンではあるものの、身長は一般のウォーマシンと然程遜色なく、二メートルと六十程あるので、ただ歩くだけで縦も横もギリギリと言った有様である。これで隠れろというのもなかなか難しいものだっただろうから、相手が攻撃的でないのは助かったと言える。
 己の頭部すれすれに設置された蛍光灯を避け、低い扉を少し屈んでくぐり、ウォーマシンの重量を支えられるのか少々不安にも思える階段を何度も登っていったところで――ドローンに映ったそれを見つけて、レグは「ん」と少し声を上げた。その声に、前を歩いていた――横に並べない――ヴォルフガングが歩みを止めないままにこちらを振り向き、首を傾げた。
「どしたの? レグ」
「団地の外壁をジニアが――猟兵が登ってるな」
「ジニアが?」
 ジニア・ドグダラ。以前一度、UDCアースの予知で一緒になったことがある猟兵である。その事件にヴォルフガングはいなかったはずだが、名前で通じたところと、僅かに驚いた顔をしているところからして、どうやら他のところで出会っていたらしい。当のジニアはこちらには気付いていないようで、黙々とワイヤーを使って登山のように団地を進んでいる。動きから推測するに、彼女も屋上を目指しているようだ。
「どうする? 合流する?」
「いや、目的地は一緒っぽいから、このまま行くわ」
 手伝いも必要なさそうだし、このペースなら多分同時くらいで着けるだろ。言えば、ヴォルフガングが「わかった」と答える。
「ジニアも喜んでくれるかな、花火」
「それは知らんが、多少なら驚きはするかもな」
 そんな会話をしながら。
 レグたちは、屋上へと進んでいったのであった。

 ●

 相手は子供で、団地の中は迷宮になっており、彼らはそこで遊んでいる。
(なるほど)
 それならば、とジニアは転送された夕暮れの団地、空中庭園のようになった公園で、一人考える。彼女がいる場所、その周囲には団地の壁が聳えている。見上げれば、かなり高いところに屋上のものと思しきフェンスが見えた。反対に、公園と団地を繋ぐ廊下の手すりから下を覗けば、かなり遠くの方に、コンクリートの地面と、それを囲む団地の壁に、集合ポストが幾らか見える。どうやら、いかな迷宮と言えど、地面と屋上くらいはあるようだ。
(駆け巡るよりは、適切に捜索するのが良さそうですね)
 その上で、童の遊び場。
(幾つか思い浮かびますが、分かりやすい所から……)
 この公園には誰もいないから、ここではないだろう。そう言えば、この公園に設置されたボックス型の――と言うのか――ブランコは確か、子供が首を挟むなどの事故を起こすからと撤去されて久しい類のものだったように思う。少なくとも、最近の公園では見ない。ここの骸魂童子たちは、こういうもので遊んだりもしているのでしょうか、とジニアは少しだけ思った。
 夕暮れにブランコを揺らす子供たち――郷愁を誘う光景。UDCアースから徐々に失われて蓄積していったもの。燃える夕暮れに甘い眩暈を起こすのは、UDCアースに生まれた者だからであろうか。――いずれにせよ、ここにオブリビオンがいないのであれば、次は別の場所を探すだけである。ジニアは先程見た屋上のフェンスをもう一度見上げる。そう言えば屋上も、事故が起きるからと閉鎖されることが多い場所だ――大人に禁止された、子供たちの秘密基地。
(きっと、人気でしょうね)
 あれだけ高いならば、余計に。迷宮の規模からして、ある程度の広さもあるだろう。
 ジニアは聳える団地の傍まで歩いていくと、腕部に取りつけていたフックワイヤーを、近くに張り出していた廊下の手すり部分へと巻き付けた。そのまま一気に、ワイヤーの機構を利用して、自分の体をワイヤーの巻き取りによって持ち上げる。いかな迷宮でも――『その外』である壁を登っていけば、間違いなく辿り着けるだろう。
 目指すは屋上である。高い所は人も寄らず、秘密な場所として人気だからこそ。ジニアはそこを目的地に選んだのであった。
 ワイヤーの射出と巻き取りを繰り返し、団地の壁やベランダの柵を蹴りつつ、ジニアは屋上まで一直線に登っていく。もしいなければ、階段へと続く扉なども探すつもりだった――行き止まりの閉所もまた、一つ人気な場所であるはずだから。登るベランダに、朝顔の鉢があった。子供が使うプラスチックの鉢には、黒い油性ペンによるらしい何かが書かれていたけれど、ジニアにそれを読み取ることは出来なかった。でも多分、名前だろう。
 登山めいた移動を繰り返しているうち――不意にどこかから童謡が聞こえてきて、ジニアは驚きに少し足を滑らせる。が、どうにか体勢を持ち直し、また登る。聞こえて来たのは、耳馴染みのあるものだった……スピーカーが壊れているのか、音量が大きすぎるのか、少し音が割れていたけれど。それから、子供の帰宅を促す言葉――
「――じにあちゃん、みーつけたぁ」
「――ッ!」
 聞こえて来た声で咄嗟にそちらへ目をやれば、骸魂童子が、三軒ほど先のベランダから顔を出してキャハハと笑っているところだった。体が自分の意思とは関係なく浮き上がって、ワイヤーも解かれて空中へ放り出される――が。
「くっ!」ジニアは再度ワイヤーを射出すると、一つ下にあったベランダの手すりに巻き付けた。そのまま振り子の要領で団地の壁に着地する。勢いが良すぎて足に痺れが走ったが、落ちて死ぬよりは余程よい。それに、行動不能になるほどの衝撃ではなかった。己が小柄であることに僅かばかり感謝しながら、ジニアはそのまま急遽ワイヤーを巻き取りベランダへ飛び込むと、置かれていた陶器の鉢植えをフックワイヤーで巻き取る。そうして、まだ顔を出したままだった童子へと、機構の加速もつけて、かなりの速度で投げつけた。
「次は、じにあちゃんが――っ」
 鬼、とでも言おうとしたらしいオブリビオンが、鉢植えの直撃を受けて悲鳴を上げ、頭に土をつけたまま、団地の中へと逃げていく。だが、倒したわけではない。急ぎ、ジニアは壁を登っていく。もうすぐ屋上だ。そして、迷宮化したとは言え、屋上付近である。おそらく遮蔽物もフックを掛けられる場所も無く、敵はすぐ来ることだろう。
 登るジニアの耳に、ひそひそと子供の声が聞こえてくる。あの子、かくれんぼはいやなのかな? じゃあ、鬼ごっこにする? 追いかけようか、追いかけよう……。声は一つではなかった。
(急がないと)
 流石に壁面を登っている最中に複数の骸魂童子からあんな念動力を使われれば確実に死ぬ。今度はベランダへ掴まることも許されないだろう。それに、予想通り、屋上が近くなればなるほど、住居部分ではなく、張り出して途切れた廊下や歪んだ階段が多くなっていて、投げられそうなものがなくなっている。途中、先程聞こえた童謡の元であろうスピーカーも見つけたけれど、流石にフック程度でどうこうできそうな作りではなかった。
 ――そうしてジニアが屋上のフェンスにワイヤーを掛けて壁面を登りきるのと、屋上へ続く複数の扉のうちの一つを、見覚えのある猟兵たちが開いたのは、殆ど同時のことだった。

 ●

 レグと一緒に迷宮の中を――あえて鼻歌混じりに――歩いていたヴォルフガングは、突然流れてきた童謡に、少しばかり彼らしくない悲鳴を上げて耳を押さえた。どうも至近距離にスピーカーがあったらしく、音の割れた楽曲が人狼の耳を貫いたのである。レグでさえ「うおっ」と呻いたので、お互い予測していなかったものであるようだ。ということはつまり、オブリビオンの攻撃ではなく、単純な『風景』の一部だったのだろう。自分たちが音源の近くに居過ぎただけで。そう言えばなんだか童謡が鳴るとか言っていたっけ。鴉は鳴かない、もう死んだから。
「おい、大丈夫か?」
「だ、だいじょーぶ……」
 衝撃に頭を振りつつ階段の手すりから少し身を乗り出して外を見てみると、大体レグに肩車でもしてもらえば届きそうな位置に、馬鹿みたいに大きなラッパ型のスピーカーが、がっちりと壁へ埋め込まれていた。これで耳が大丈夫じゃなかったらあらゆる手段でスピーカーを叩き壊していたところである。続いて、再びそのスピーカーから子供の帰宅を促す声がする、そうだ、早く帰りなよ。家のないお前たちなら、骸の海か。そうしたら俺達の仕事はもっとずっと簡単に終わるのだ。がんがんと鳴り響く割れた音のアナウンスが、ひどく耳障りだった。
「そう言えば、さっきスピーカー見た時に確認したけど、もうちょっとで屋上だよ」
「ようやくか」
 というかオブリビオンが出て来ないな、とレグが言う。
「俺達とは遊びたくないって思われてるのかな?」
 それとも単に、自分たちの運がいいだけか。どちらにせよ、何もなく屋上へ辿り着けるならいいことだと男は思ったし――
「――やあ」
 最後に開いた扉の先、思っていたより随分広い屋上の反対側、フェンスを乗り越えてきたらしいジニアに、ヴォルフガングは手を振って笑った。
「久しぶりだね」
「あ……」
 どちらともなく近付き、三人合流する。ジニアは、僅かに驚いた顔をしていた。
「ヴォルフガングさん……と、レグさん、ですよね。お久しぶりです」
 その節はお世話になりました、と、ぺこり、少女が頭を下げる。
「おう、久しぶり。こっちこそ世話になったよ――で、単刀直入に言うと、今からここにオブリビオンを呼び寄せるけどいいか?」
 レグの直截な言葉に、ジニアは顔を上げると、「構いませんよ」と返事をする。
「ですが多分……呼び寄せるまでもなく、私を追って来ると思います」
「追って?」
 ヴォルフガングが首を傾げると、少女は淡々と答えた。
「私が鬼だそうなので」
「なるほどね……」
 一つ頷いて、状況を把握する。どうやら、オブリビオンたちは、ヴォルフガングたちではなく、ジニアの方を遊び相手に選んでいたようだ。
「……でもまあ、やることは変わらないか」
 それに、ジニアを追いかける童子たち以外にも釣れたら重畳だ。ふ、と老いた笑みを一瞬だけ浮かべると、ヴォルフガングは詠唱と共に『調律・機神の偏祝〈コード・デウスエクスマキナ〉』を使用して、それにより強化した電脳魔術と、展開させたナノマシンで物理法則に干渉していく。レグはと言えば、そんなヴォルフガングから離れて、屋上に置かれていた、よくわからない玩具の類や、空の貯水槽、粗大ゴミにも似た何かを迅速に片付け、その上で幾つかある扉のそれぞれに、複製したカーボン糸を設置していた。ジニアはただ、じっとその茶色の瞳で周囲を窺っているだけだ。まあ彼女なりの策があるのだろうと思いながら、準備が完了したヴォルフガングは、歌うように口を開く。
「――さあ見ておいて、今から花火を打ち上げるよ――」
 何時か、あの仮面には見せた幻想の花火、今一度披露しようか。
「――とっても綺麗でね、仮面の彼のお墨付きなんだ――」
 まやかしの。
 音も熱もない。
 泡沫の電子花火を、幾度も打ち上げよう。
 夕暮れの空いっぱいに、色とりどりの光が弾けて閃く。さあ、子供たち。この花火を見てやっておいで。ほら、綺麗な綺麗な光だろう、楽しい楽しい遊び〈ショー〉の始まりさ――その光は、ハーメルンの笛にも似ていただろうか?
「……来たな」
 レグが呟く。
「……来ましたね」
 ジニアが囁く。
 キャハハハ、と笑いながら、子供たちがやってくる。
「ふ――ふふ。まさか本当に来るなんてね」
 屋上へと続く扉を、子供たちが開いていく。ひとり、ふたり、それよりもっと。花火だ、花火だね――子供たちが楽しげに囀る。
「……馬鹿なやつらだ」
 自分のその言葉に、ジニアが何かを察したらしく目を瞑って俯き、フードで顔を隠した。
(有難いね――)
「全員、太陽にその瞳を焼かれるがいい」
 ――瞬間、ヴォルフガングの頭上から放たれた閃光が、屋上を支配した。
 絡ませた光と太陽のルーンで、花火が変化したのだ。白い稲光にも似たそれが消えれば、目を押さえて悲鳴を上げる子供たちが残るばかり。それも、先程の光の間にレグの糸が絡め捕っており、身動きが取れない。
 後は、まったく簡単な仕事だった。『衝撃』の属性を乗せた掌底突きで、動けなくなった子供たちの意識を刈り取っていくだけだったから。そうして最後の一人の顎に掌底を叩き込んで――男の仕事は終わった。
「いやあ、君といると仕事がホント楽~!」
 ヴォルフガングは満面の笑みで、レグにそう言う。
「そいつは上等、話早くて助かってるよ」
「俺もだよ、見事なギブ&テイクじゃない?」
 そんな会話をして、そう言えばジニアはどうしているだろうと見るより先に――
「――花火!」
 開いたままの扉から、更に二人の童子が現れて――何故か一人は頭に土がついていた――、ヴォルフガングは顔を顰めた。引き寄せられたのはあれで全部じゃなかったのか、鼠みたいにちょろちょろと鬱陶しいやつらじゃないか。折角の気分を邪魔された苛立ちと共に、ヴォルフガングは再度ユーベルコードを使おうとし、レグも視界の端で糸を放とうとして――
 それよりも早く。
「……ヒャッカ、撃って良いです」
 ジニアの台詞と共に二発の銃声が轟いて、童子たちがその場に倒れた。流石に驚いて、少女と、それから、銃撃が放たれた方向を見る。そんなヴォルフガングに、ジニアが控えめに微笑んだ。その背後、開かれたままの扉の影から。
 するり、と、現れたのは、ジニアと同じ顔をした、『誰か』だった。
「土を落としてやってきていたのかと思っていましたが……」
 違いましたね。ジニアと同じ顔で、ジニアとは違う冷たい目をした『誰か』が、ジニアに近付いて並ぶ。くす、と少女は口元に手を当てて柔らかく笑っている。
「扉裏に潜むなんて、いつの間に、ね」
 いつの間に、だなんて言うが、おそらく、自分の閃光の時だろう。口振りからして、自分を襲ったオブリビオンを覚えていて、それが来ていないことを警戒し続けていたようだ。その事実に、何となく――ヴォルフガングは思わず、あはは、と笑ってしまった。丁度、今の童子で引き寄せられたのも最後であるらしい。
「……ところで」
 糸を回収し終わったらしいレグが、いつもの調子で言う。骸魂から吐き出された後の妖怪についてなんだが。
「連中って後で手当てした方がいい?」
 その質問に答えられる者は、とりあえず、その場にはいなかった。

 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

臥待・夏報
風見くん(f14457)と

団地って実はよく知らない
住んだことないし、友達も居なかったし
かくれんぼするなら……ベランダあたりが狙い目かな

死角に潜んで、目立たないよう闇に紛れる
夏報さんがUCで本気を出せば、誰にも見つかりっこない
……誰にも見つけてもらえないとそれはそれで困るのが
この遊びの難儀なところだな

誘われてきた骸魂童子がベランダに来た瞬間、見つかる前に『釣星』のロープで捕縛
念動力による抵抗は甘んじて受けつつ、あくまで遊びの体裁で言いくるめよう
捕まえたし、見つからなかったし、夏報さんの完全勝利だもんね〜
諦めて大人しくしなさ〜い

ありがと、風見くん
君にも見つけてもらえなかったらどうしようかと思ってた


風見・ケイ
夏報さん(f15753)と

母と住んでいた団地は一棟だけで、こんな迷宮ではなかったな
童子の様子から情報収集して、見つかりそうなところに隠れて
――見つかっちゃった……今度は私が鬼だね
なんて嘯いて遊びを続けさせる

UCで童子の痕跡を探して追跡
誘導先は夏報さんがいる所だ
……君が本気で隠れたら、探偵でも見つけられないかも
でも、見えるものが全てじゃない

君のこと、ずっと見てきた
だから探偵ではなく友達として考えてみる
団地でかくれんぼ、室内から死角になる、……ベランダ、かな

足を掴んできても既に観察済みだから見切って避けて
夏報さんを助けるため、捕まった童子の骸魂を拳銃で狙い撃つ

どこにいたって見つけてみせるよ
なんてね



 
「団地って実はよく知らない」
 そう呟いた臥待夏報は、転送された場所である階段の踊り場、その手すりに凭れて、外を見ていた。だから彼女が、どのような顔でそう言ったのか、風見ケイにはわからなかった。
「住んだことないし、友達も居なかったし」
 灰色の髪が、夕暮れの赤色にたなびく、その後ろ姿を見ながら、ケイは応えるように――というわけでもなかったが――口を開いた。
「私は団地に住んでいたけれど」
 母と住んでいた団地は一棟だけで、こんな迷宮ではなかったな。夏報が眺める外の景色はどちらかというと、日本の団地というよりは、どこか他の、アジアの景色を思わせるような構造をしていた。尤も、正気の人間が建築したとはおよそ思えない、物理法則や次元さえも無視していそうな風景は、地球上のどこにもないだろうとは思ったが。見れば、遠くのベランダの幾つかに、洗濯物と思しき布の類がはためいていた。ああ――そろそろ取り込まないと、洗濯物が冷えてしまう。
 狂気というよりは郷愁を強く抱かせる光景に、ケイは、これが地球と骸の海の隙間に生まれた光景なのだというなら、例の海はどのような感情を私たちに齎すのだろう、などとぼんやり思った。
 どこかで、風鈴が、ちりりん、と鳴った。後ろを向いたままの女が言う。
「アハハ、風見くんは変なこと言うね」
 普通はどんな団地も迷宮じゃないよ。言葉と共に手すりから離れ、ケイの方を振り向いた夏報は既に笑っていた。
「さて、風見くん、」
 かくれんぼだって。夕暮れをバックに、女は笑ったままである。
「そうですね」
「どうしたらいいかな?」
「では、先に私が見つかりそうな場所に隠れて、『鬼』になってきます」
「そっか。じゃあ、夏報さんは隠れておくよ――場所は教えておいた方がいい?」
 風に揺れた灰色の髪をかき上げて、女が問う。それにケイは少し考えて、それから、「いいえ」と答える。
「もしこの会話が聞かれていたら面倒ですし……ああでも、大まかな場所だけ教えてください、見当違いな場所に追い込んだら『こと』ですし」
「りょーかい」
 女が――少女じみた仕草で、敬礼みたいなポーズをした。
 そうして童子を、夏報の隠れる場所まで誘導し、彼女に捕まえてもらう――そういう計画で、二人は合意した。その後は、他愛のない話をしながら、手頃な部屋を見つけて、夏報がケイに「じゃあ夏報さんは隠れておくから」と手を振るのを見届ける。
 灰色の女が去ってしまった、夕焼けの団地迷宮。成人した自分には幾分狭苦しい団地の廊下を歩いて、夏報の隠れた部屋から遠ざかる。彼女がすぐに見つかったら困るから……それでも遠くにはなりすぎないような、丁度よいと思われる部屋で、ケイは足を止めることにした。部屋の中は、どこか、昔住んでいた部屋を思い出させた――それほど似ているわけではないのに。間取りも違えば、窓の位置も、ベランダの作りも、階数も違うのに。
 開かれたままのガラス戸で、レースのカーテンが揺れている。
 ――ふと、どこかから、もういいかい、と声がした。
 その声に、ケイは窓へと近寄ると顔を出し、「もういいよ」と叫ぶ――さあ、私を見つけてみて。それから、近くにあった空っぽの押し入れへと入る。こんな年になって、押し入れでかくれんぼをすることになるなんて、とケイは少しだけ口角を上げた。童子が見つけやすいように押し入れの襖を少しだけ開いておいて、ケイは片膝をついたような姿勢で骸魂童子を待つ。背後は壁だったから、彼女はただ、押し入れの先だけを見ていた。
 だから。
「――けいちゃん、みーつけた」
 がごごん!と、背後で工事のようなけたたましい音が聞こえて、驚きに振り向いた時にはもう遅かった。黒い髪で顔の半分を隠した骸魂童子が、押し入れの壁を――ごっそり『外して』、ケイの後ろに立っていた。
 僅かな焦燥と共に逃亡を選ぶより先に、童子がケイの足首を掴んで、一息に引っ張った。押し入れから放り出される、と言うにはあまりに暴力的過ぎる浮遊感と、それから、ジェットコースターよりも強烈な振り下ろしによる衝撃が、女の背を襲う。隣室のフローリングがばぎばぎ割れる音と、めぎぃ、と、己の肋骨の軋む音が、確かにケイの耳朶を打った。背骨は――背骨は無事か。肋骨だけなら動ける、大丈夫。だが、キャハハ、と笑う童子は、ケイを離さず、もう一度部屋の中で、女の長身を振り回した。足は完全に掴まれていて、逃げることができない。ならばせめて観察を――『観察』をしなければ。
『間違い探し〈リット・ア・ライト〉』。
 己の体躯でダイニングテーブルを叩き壊される衝撃に耐え、それでもケイは童子から目を離さず、観察し続ける。この童子が去った後も、痕跡を探して追跡できるように。それから二度ほど部屋の何かに叩きつけられたところで、あ、と童子が突然残念そうな声を上げ――ケイの体は壁に吹っ飛んで解放された。
「ごめんね。手、はなしちゃった。けいちゃんだいじょうぶ?」
「……だい、じょうぶ」
 口を開けば、内臓のどこかをやったらしく、ごぼっと血が溢れた。まあ、五回くらい交通事故に遭ったようなものですからね。そんなことを、冷静な頭の隅で思う。
「――見つかっちゃった……今度は私が鬼だね……」
 そう嘯けば、キャア、と歓声を上げ、じゃあ次は鬼ごっこしよお、と童子が駆けていく。それを見ながら、ケイはふらふらと立ち上がる――そう、まだ、大丈夫。手足は折れていないし、動ける。口の中に溜まった血を仕方なく床へ吐き捨ててから、ケイは童子を『間違い探し』の効果のままに追跡し――誘導する。
「つかまらないよお!」
 そう叫ぶ童子の動きの予測を立て、時に銃などで退路を断ち、ひとり、この団地の一室で待つ夏報の元へと。
 ――君のこと、見つけられるかな。
 はしゃぐ童子が夏報のいる部屋へ入っていくのを見届け、僅かに速度を落とす。彼女が、滞りなくあの子供を捕まえられるように。
 ……君が本気で隠れたら、探偵でも見つけられないかも。そんな弱気も起きる。
(でも、見えるものが全てじゃない)
 ちゃんと見つけて、夏報さんと帰ろう。
 鴉が鳴かなくっても。
 太陽が落ちなくっても。
(君のこと、ずっと見てきた)
 だから探偵ではなく、友達として考えてみる。団地でかくれんぼ、室内から死角になる、
(……ベランダ、かな)
 それだけ考えて、きっとまだ『少女』のままの女は、童子の喚く声を聞いて部屋の扉を開ける。童子はベランダで暴れていた。
 ああ――やっぱり、そうだ。
「……そこにいるんですね」
 夏報さん。

 ●

 ケイと別れて佇む部屋は、やっぱり、よく知らない光景だった。部屋数はないし、大体どの部屋も狭いし、敷きっぱなしにされた布団はぺらぺらで、キッチンも、ただ古い型の換気扇が、からから回っているだけ。コンロもすっかり焦げがこびりついて、でも食事なんてどこにもなくて。ダイニングテーブルには、安そうな、ビニール製と思しきクロスがかかっていた。ベランダには、真っ白なシーツやタオル、それから真っ白な少女向けのブラウスとか制服のスカートとか、なんだかそういうものが、沢山吊られている。夕暮れにゆらゆら揺れるその布たちに、夏報は目を細めた。ただ、西日が眩かったから。
(かくれんぼするなら……ベランダあたりが狙い目かな)
 はためく布の中に、女は入っていく。どこかでまた、風鈴が、ちりりりん、と鳴った。この団地は夏なのかな、気温は全然そんなことないけど。暑くもないし、寒くもないし。でも干されたブラウスは半袖で、吊られたネイビーのスカートは薄手の生地だった。
「……見つかりっこ、ないよ」
 ぽつりと呟いて、夏報はユーベルコード『茜のいろはにほへと〈ハウ・トゥ・フェイド〉』を使用する。そのままベランダに干された洗濯物の中でも、更に部屋の中から死角になるような場所、橙に沈む、紫の闇までふらりと移動する。そこにしゃがみ込んで、女は隣の家との境目になる壁にそっと頭を預けた。
(――夏報さんが『茜のいろはにほへと』で本気を出せば、誰にも見つかりっこない)
 それを彼女は知っていた。でも、『かくれんぼ』となると、それではいけないこともまた、夏報はちゃんと知っていた――だってかくれんぼは、『見つけてもらえる』ことで初めて遊びとして成立するのだから。見つかるか、見つからないか。そのスリルを楽しむ遊びだから。
 決して、神隠しみたいに消えてしまった『誰か』を探して彷徨う遊びではない。
(……誰にも見つけてもらえないとそれはそれで困るのが)
 この遊びの難儀なところだな。夏報は夕暮れの闇の中でそんなことをぼんやり思い、小さく溜息みたいに呼吸をした。暇だし、と女は、揺れる布を見て思う。風見くん、早くここまで連れてきて――そうしたら夏報さんが、ちゃんと童子を捕まえるからさ。フックワイヤー『釣星』を手にして、微睡のような時間を、女は、ただ待つ。子供がやって来るのを。もう一人の女が、自分を見つけてくれるのを。
 ――そう遠くはない場所から、くぐもった破砕音が聞こえて来たのは、それからしばらくした頃のことであった。
 驚き、瞬きをして見上げるが、どこで何が起こっているかまではわからない。何かを叩きつけているような音が数度響いて――止まった。胸がどきどきした――風見くんが何か失敗したろうか。そんなことはないと思うけれど。それでも動くわけにもいかず、夏報は釣星を強く握った。つかまらないよお、子供の声。ああ――大丈夫。
 夏報の潜む部屋の扉が開いて、童子と思しき裸足の足音が、ぱたぱたと色んな場所を見ているのがわかる――そして最後に、ベランダへ飛び込んでくる。黒い子供は、白い布の中でひどく目立っていた。
 それじゃあ、見つかる前に。
 す、と童子へ近付いた女は、手にしたままだった釣星で、その幼い体躯を捕縛した。子供が、特有の甲高い声で悲鳴を上げる。童子の力だろう、夏報の体が少し浮くが、女は釣星で骸魂童子と繋がっている。捕まっている自身まで浮かび上がったことに驚いたのか、童子はすぐに夏報を下ろした。代わりに、ベランダにあった朝顔の鉢や、なんだかわからない石、それからガーデニングに使うような謎の人形などが女の背にどかどかとぶつかって来る。
「いてて、いて!」
 普通に痛いぞ、これ。まあ我慢するっきゃないんだけど。逃がすわけにはいかないし、念動力による抵抗は甘んじて受けつつ、夏報は一通り悲鳴を上げてから、はなしてと喚く童子へ、揶揄うような口調で言った。あくまで遊びの体裁で言いくるめるように。
「捕まえたし、ッ、見つからなかったし、夏報さんの完全勝利だもんね~。アイテッ!?」
 頭に人形をぶつけられたので、流石にちょっと腹が立ち、童子の頭に軽く拳骨を落とす。子供を怒る要領で。
「こらっ、人に物をぶつけちゃだめだろ」
「んー!」
「諦めて大人しくしなさ~い」
「……そこにいるんですね」
 ばたばたと暴れる童子の音に紛れて、ケイの声がした。だが、その声はどこか濡れたような響きで、弱々しい。童子が、釣星の拘束の届く限りまで逃げようとして、洗濯物の中から顔を出す。けいちゃん、ずるいよ。鬼ごっこだよ。骸魂童子はそんなことを言った。夏報の角度からは、ケイがどんな顔で何をしているのかわからない。
「夏報さん、今助けますよ――」
 囁くような女の声に続いて、銃声が響いた。そしてそれが、骸魂童子の終わりだった。ケイの銃弾で骸魂部分のみを狙い撃たれた童子は、釣星に拘束されたまま力を失い、倒れた。このまま放っておけば、いずれ元の妖怪へと戻るだろう。釣星を回収して、夏報は、ケイの動きを待つ。
 ――どうしてだろう。
 出ていっていいだろ。
 骸魂童子は倒したし――隠れておく必要なんてない。それにどうせ、童子が暴れていたから、夏報さんがここにいることくらい風見くんはわかっている。ならこのまま出ていって、合流して帰って――それで終わりでいいじゃないか。
 でも。
 でもさ。
 ただ色褪せて、何処にでも居そうで、何処にも居ない……何処にも居なくなってしまった女を――否、『少女〈夏報〉』を。
 もういいかい。まあだだよ。もういいよ。
 かくれんぼって――見つけてもらわなくっちゃ。
 終われないじゃないか。
 ケイが、少し笑う気配がする。
「……もういいかい」
 返事は、しなかった。女がこちらへ歩いてくる音がする。夏報はただ、洗濯物の影で、女を待っている。見慣れた、右手だけ手袋に包まれた腕が、洗濯物を、ざあっと、左右に開く――目の前には、血塗れになった友達。重傷を負っているのはすぐにわかる。
 だが、それでも。
「……夏報さん、みーつけた」
「……」
「夏報さんのおかげで足を掴まれる心配もなく倒せました、ありがとうございます」
 観察済みだったので見切れるとは思いましたが、今の体だと、避けるだけでもダメージが大きそうだったので、助かりました。
「それでは、帰りましょう」
 そう微笑む女に、いつの間にか胸の前で握っていた手を、夏報はゆっくり開いて、言う。
「ありがと、風見くん」
 君にも見つけてもらえなかったらどうしようかと思ってた。
 そんな言葉を口にしながら、ケイと一緒にベランダから出ていく自分が、どんな顔をしていたか。夏報にはよくわからない。笑っていたはずだけど。
 ただいずれにせよ――風見ケイという女は。
 そんな臥待夏報という女の方へと振り向いて。
「どこにいたって見つけてみせるよ」
 なんてね。
 少女みたいな笑顔を浮かべて、そう言ったのだった。

 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年05月07日


挿絵イラスト