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終ノ夢

#UDCアース

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#UDCアース


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●終焉
 おかあさま。
 おかあさま、おかあさま。
 ああ、おかあさま。『わたしたち』は、ここに、います。

 たくさんのこどもたちの、夢を食べて。
 たくさんのおとなたちの、狂気に触れて。
 終焉(ゆめときぼう)に染まった宝石の中で、『わたしたち』は、いきています。

 おかあさま、見えていますか。
 おかあさま、聞こえていますか。

 めぐり、まわり、かさねて。
 あなたの心のままに、愛されるために。
 ――『心』を対価として、あまねくすべてに『しあわせ』な夢を。

●望む終わり
「皆さんには一度、死んで頂きます」
 ファン・ダッシュウッド(狂獣飢餓・f19692)は、淡々と告げる。
 招集に応じた猟兵達の中には思わず、目を見開いた者が居たかもしれない。
 或いは、『死』という響きに息を呑んだ者も居ただろう。
 ……其々の反応を確認した後、彼は資料を手に言葉を続けようと。

「とは言え、実際に死ぬ訳ではありません」
 UDCアースで偶発的に行われた、復活の為の儀式。
 精神に寄生、苗床とする事で実体化する邪神が確認されたとの事だ。
 残念ながら、既に苗床にされている者達もいるらしい。

 しかし、ファンの言葉通り。
 彼らは皆、死んでいない。生きているのだ。
 精神の芯が抜け落ちた『ヒトガタ』に、邪神が乗り移っているだけ。
 後遺症は残るだろうが、解放した後の事はUDC組織に任せても問題無い。
 さて……問題は儀式の内容、だが。

「儀式が行われるのは丑の刻。現代の時刻に表すと、午前二時頃となります」
 其の時間に、とある場所で邪神復活の儀式が行われる様だ。
 其処には少なからず……其の上、夜分遅くに人が集まるらしい。

 儀式の最中に足を踏み入れれば、最後。
 各々が望む『死の夢』に囚われて、現実へと戻れなくなる。
 そして、邪神は残った肉体を苗床として利用するのだ。
 ……夢というならば。どうして、内容が死に関するものなのか。

「其処が、自殺スポットとして使われている物件だから……かもしれませんね」
 疑問の声に、ファンは静かに返した。
 其れだけは解るのだが、詳細な場所までは視えなかったらしい。
 自殺スポットと呼ばれる様な場所で、最近は何の音沙汰も無い場所。
 誰かが使おうとした形跡などから、猟兵達の手で場所を調べてほしいとの事だ。

 そして、丑の刻に其処へ侵入。
 無意識の内、もしくは意識的に望んでいる『幸せな終わり』に抗わなければならない。
 現実に戻った後は、不完全に復活した邪神を撃破するのみ。

「それでは……これより皆さんを、UDCアースへと送らせて頂きます」
 皆様自身が胡蝶とならぬ様に、くれぐれもお気を付けて。
 本の形をしたグリモアを操りながら、ファンは猟兵達へ静かに呟くのだった。


ろここ。
●御挨拶
 皆様、お世話になっております。
 もしくは初めまして、駆け出しマスターの『ろここ。』です。

 四十四本目のシナリオの舞台は、UDCアースとなります。
 糖蜜のような心、生命諸共に棄てると言うならば。
 ……終焉(ゆめときぼう)と引き換えに、わたしたちにくださいな。

●心の行方(冒険)
 邪神復活の儀式が行われる場所を、皆様の手で探し当てて頂きたく思います。
 導入執筆完了後、改めて受付期間をお知らせさせて頂きます。

●死合わせな夢(冒険)
 例外無く、各々が『死の夢』を見る事になります。
 もう会えない人の腕の中で、眠る様に息を引き取るかもしれません。
 過去の過ちによって喪った人の代わりに、自分が生命を散らすかもしれません。
 無意識か、意識的か、皆様の思う様にプレイングに記載頂ければと。

 複数人で参加している場合、第三章で合流とさせて頂ければと思います。
 詳細は導入にて……。

●×××××の欠片(ボス戦)
 夢魔たる能力を操る、邪神との戦いとなります。
 彼女達は夢や希望を喰らい、幻覚を利用して狂気を齎す事でしょう。
 苗床とされている人々は、戦いの後でUDC組織が保護しますので御心配無く。
 此方も、詳細は導入にて……。

 以上となります。
 グループでの参加の際はグループ名を、お相手がいる際にはお名前とIDを先頭に記載をお願い致します。迷子防止の為、恐れ入りますが御協力をお願い申し上げます。

 それでは、皆様のプレイングをファン共々お待ちしております。
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第1章 冒険 『危険な流行』

POW   :    儀式等を行おうとしている人々を力尽くで止める

SPD   :    過去に儀式等が行われた場所へと赴き情報を調べる

WIZ   :    聞き込みやインターネット検索により流行の発生源を探る

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【お知らせ】
 プレイング受付開始は『3月12日(金)8時31分(予定)』からとなります。
 導入は今暫く、お待ち下さいませ……。
**********

●夢現
 猟兵達が、UDCアースへと到着した後。
 UDC組織に所属する者達が、現時点で知る限りの情報を共有してくれた。

 儀式に巻き込まれたと見られる、失踪者達の情報。
 彼らが利用していた、自殺志願者が集うウェブサイトのリンク。
 残念ながら、どちらも儀式が行われる場所に関する痕跡は消されている模様だ。
 また……失踪者の自宅に程近く、曰く付きの物件を調べてはみたが。
 此方も手掛かりらしい、手掛かりは見付からない。

 しかし、彼らは生きている。
 失踪したとされる日から、後日。丑の刻を過ぎた後。
 自宅近くの、或いはまったく別の場所の監視カメラに映っていたらしい。

 隔日の時もあれば、連日の時もある。
 確認次第、直ぐに現地に向かうも……其処にはもう、誰も居なかった。
 別の者が映像を監視していたが、瞬く間に消えてしまったらしい。

 ――自分が見たものが夢か現か、判らなくなってくる。
 誰かが頭を抱えながら、ぽつりと零した。

 現在は未の刻、午後二時頃。
 次の儀式が始まる前に、場所を特定しなければならない。

『しあわせな夢を見たいです。お願いします、僕にしあわせをください』
 ……ほうら。
 終焉(ゆめときぼう)を望む者がまた、ひとり。

**********

【プレイング受付期間】
 3月12日(金)8時31分 ~ 3月13日(土)23時59分まで

 参加人数次第では、誠に恐れ入りますが再送をお願いする事になります。
 其の際は担当グリモア猟兵より、再送期間を添えたお手紙をお送り致します。

 皆様のプレイングを心より、お待ち申し上げております。
榎本・英
自らの手で幸福を掴むならまだしも
他人に縋りついてまで得たい物なのだろうか。

しかし、いつ訪れてもこの世界には驚かされるよ。
こんな薄い板一つで自殺志願者が集まるのだからね。
桜の世界とは別の意味で恐ろしい世界だ。

自殺志願者のふりをして調べよう。
ウェブサイトとやらを見た自殺志願者が現れるかもしれない。
誰かが居たら同士と偽り、話でも聞いてみようか。
何か得る物があれば良いのだが。

奇怪な事件だとも。
仕掛けがあるならまだしも、明確な証拠が残っていない。
幽霊でも見ているかのようだ。

自殺志願者と云いながら、彼等は生きている
あまりにも矛盾しすぎだ

怪奇現象では無いのなら何かしらの手掛かりはあるはずだ
別の場所を調べよう




 いつ訪れても、此の世界には驚かされる。
 こんな薄い板一つで、自殺志願者が集まるとは。
 同時に……桜の世界とは別の意味で恐ろしい世界だ、とも。
 榎本・英(人である・f22898)はそう、強く思わざるを得なかった。

「本当に、奇怪な事件だとも」
 仕掛けがあるならまだしも、明確な証拠が残っていない。
 まるで、幽霊でも見ているかの様だ。
 或いは……集団で、現実味を帯びた白昼夢にでも囚われている様な。

 ――ふと、榎本は足を止めた。
 擦れ違った少女の手元が目に入り、彼女の様子に目を細める。
 右へ左へと視線を彷徨わせている所、何かを探しているのだろうか。

「嗚呼。そこのお嬢さん」
『は、はい……?』
「一寸、尋ねても良いかな」
 穏やかな、優しい声。
 少女は戸惑いながらも、首を小さく縦に振る。
 其れを確認した後、榎本が先程見たもの――自殺志願者が集うウェブサイトの事を知っているか、と問い掛けると。
 少女は目に見えて、動揺する素振りを見せていた。

『なんで、それを?』
「君と同じ志を持つ者だから、だよ」
『本当に……?』
「丑の刻に向かうべき場所を探しているのだが、何か知っているかな」
 ――何か、得る物があれば良いのだが。
 此の少女が探しているのは十中八九、あの場所だろう。
 彼女も見付けるには至らない様子だが……何か、知っている可能性はある。
 榎本の言葉、其の真偽を図りかねながらも。少女は静かに、語り始めた。

『私も、詳しい場所は知らないの。ただ……』
「ただ……?」
『この辺りで、一度だけ見たわ』
 深夜、人気が無さそうな自殺スポットを探している時の事。
 蕩ける様な笑みを浮かべて、軽い足取りで進む女性の姿を見た様だ。
 其の姿は、幽霊の様には見えなかったらしい。
 だが、不思議な雰囲気に惹かれるがまま、彼女の後を追い掛ける内に……急に消えてしまった、とも。

『でも、彼女が言っていたの……夢が、しあわせをくれるんだって』
 自分が知っている事は、ここまでだと。
 見当違いの情報だったらごめんなさいと告げて、少女は再び歩き始めた。
 ……やはり、怪奇現象と断定するには目撃証言が多過ぎる。

 自殺志願者と云いながら、彼等は生きている。
 死にたいと云う願望を抱きながら尚、心臓の鼓動を止めてはいない。
 あまりにも矛盾し過ぎだと、榎本は思うのだ。

「(何かしらの手掛かりはあるはずだ)」
 別の場所を調べれば、何か分かるかもしれない。
 そんな風に思考を巡らせながら、榎本は歩みを進めるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シャオロン・リー
POW

調査なぁ、俺こーいうんは苦手やねんて
俺の本分は暴れ倒す事やし
せやのにここに来たんは…ああ決まっとる
俺は悪党や、誰かを救うためになんぞ働かへん
動く理由は私欲や
死の夢、しあわせな夢
俺も、それを見たいからや
「はぁ、ダッサいなぁ」
ロスの奴にはとてもやないけど言えへんわ

とりあえず何すればええんやろな
役に立つような技も持ってへんし、片っ端から街ン中ぶらぶら歩きまわってみるしかあらへんか
…もしかしたら
俺がこんな気持ちでしあわせな死を見たいと思うとるんや
案外、似たようなこと考えとる奴が見つかるかもしれへんな
そういう気持ちの奴らて、何やかやで惹かれ合うんちゃう?
そんな気がしとる

「ホンマ往生際悪いなぁ、俺」




 ――俺、こーいうんは苦手やねんて。
 シャオロン・リー(Reckless Ride Riot・f16759)は溜息を吐きつつ、後頭部を乱雑に掻いていた。
 己は暴れ竜だ。其の本分は調査や情報精査ではなく、破壊と暴虐。
 役に立つような技も持っていない。
 故に、片っ端から街中を歩き回るしか思い付かない。

「夢、なァ……」
 死の夢、しあわせな夢。
 シャオロンを、此の依頼へ赴かせた理由。
 誰かを救う為に働くのではない。彼はただ、私欲の為に働くだけだ。
 ……本当に見る事が出来ると言うならば、見たい。其れだけ。

「(俺がこんな気持ちで、しあわせな死を見たいと思うとるんや)」
 類は友を呼ぶ、と言った所か。
 歩いている内に、似た様な事を考えている者が見付かるかもしれない。
 同じ様な気持ちを抱える者同士、なんやかんやで惹かれ合う。そんな気がする。

 ひたすら歩くのはお手の物。
 さあて、其れらしき人物は近くに居るだろうか。
 シャオロンが己の直感のままに、歩き続けていると……。

「オッサン、何しとるん?」
 遠い、何かを懐かしむ様に。
 小さな公園のベンチに腰掛けて、とある古びた遊具を見つめている。
 其の様子が気になったのか、シャオロンは男性へ不思議そうに声掛けた。
 ……男性は一度視線を彼へ向けるも、直ぐに遊具へと戻して。

『君には関係無いだろう』
「あァ、関係あらへんな。俺が気になっただけや」
『……正直だな、君は』
 無関係の人間だからこそ、少しだけ話す気になったのかもしれない。
 男性曰く、中学生の息子が行方不明になったそうだ。
 元々訳あって、不登校だったのだが……ある日突然、部屋から姿を消していて。
 靴も無くなっていた事から恐らく、自分で家を出たのだろう。
 しかし……其処から先、何処へ向かったのかは分からない。

『此処は昔、息子と遊んだ公園でね』
 あの日に戻りたい。
 また、あの頃の様に笑って欲しい。
 守ってやれなかった自分が、そんな事を思う資格など無いのだろうけれど。
 ……男性が言葉を止めると同時、シャオロンは静かに其の場を離れ始める。

「ホンマ往生際悪いなぁ、俺」
 水底に沈んだ、しあわせ。
 小さなヴィラン組織【鋼の鷲】の一番槍。
 悪党として槍を振るい続ける日々を、俺はまだ引き摺り続けとるんや。
 ロスの奴には、とてもやないけど言えへんわ。

 先の男の言葉が、耳に残る。
 もういない『彼ら』を置いて、時は進む。
 進んだ針は決して戻らない事を、シャオロンも重々理解している。
 ああ、解っている。解っていても――。

「はぁ、ダッサいなぁ」
 酷く渇いた笑みが、思わず溢れ出た。

成功 🔵​🔵​🔴​

宵雛花・十雉
自殺スポットで儀式をねぇ
絵に描いたようなキナ臭さだな
けど自殺の名所ならオレにとっちゃ好都合さ
そこに行けば地縛霊なり浮遊霊なりいるだろうからな

まずは聞き込みや雑誌、ネットの書き込みなんかから『情報収集』して
いくつかの自殺スポットに目星をつける
現地に行けば『第六感』で話が出来そうな霊を見つけて
この場所で妙な儀式が行われていないか
或いは何処か儀式が行われている自殺スポットを知らないか
儀式を見かけたならどういったことをしていたか
を聞いてみる

『第六感』で見つからなけりゃ『降霊』で呼び寄せて同じ質問をするぜ

こういう時だけは霊が見えて良かったと思うよ
集めた情報は可能な限り他の猟兵とも共有するように動く




「自殺スポットで儀式を、ねぇ」
 絵に描いたようなキナ臭さだな、と。
 宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)は独り言ちつつ、廃工場の中へ入ってゆく。
 此処は彼が、UDC組織からの情報に加えて、雑誌やインターネット上の書き込みから目星を付けた場所の一つ。
 荒廃した作業場を危なげなく進み、向かうのは……内側に設置された事務所。

 ――こういう時だけは、霊が見えて良かったと思うよ。
 生者だけではなく、亡者からも情報を入手出来る。
 情報収集という点において、其れは大きなアドバンテージと言えるだろう。
 そして……彼の第六感が告げる。コッチヨ、女の囁く様な声が導く。
 此の先に居る幽霊は、何かを知っている。
 何となく、そんな気がした。

『あ?まーた、オカルト好きか何かか――』
「なぁ、一つ尋ねてもいいかい?」
『――うおっ!?え、アンタ、俺が見えんのか?』
「そういう体質なんでね」
 作業着を着た男――の幽霊は、判り易く動揺していた。
 恐らく今まで、霊を見る事が出来る者に会った事が無かったのだろう。
 からり、と宵雛花が楽しそうに、悪戯めいた笑みを浮かべる。
 ……さて、此処からが本題だ。

「この場所で、或いは何処か儀式が行われている自殺スポットを知らないか」
『儀式だ?俺ァ、そういうのは興味ね……いや、待てよ』
「何か知ってるのか?」
『噂じゃ最近、自分の死んだ場所から離れた奴がいたらしいぜ』
 知り合いの浮遊霊に聞いた話だと、前置いた上で。
 男はどうにか思い出そうとしながら、少しずつ話し始める。

 此処から少し離れた別の廃工場に、少女の幽霊が迷い込んで来たらしい。
 酷く弱っている様子だった為、元々の住人が保護したそうだが。
 ……彼女は其の理由を、決して誰かに話そうとはしない様だ。
 其の上、自分の死に場所に戻らないのかと問い掛けただけで震える始末。

『儀式とやらは知らねぇが、ソイツが何か知ってるかもな』
「成程、有難うな」
 短く礼を告げた後、宵雛花は事務所を出る。
 男の知り合いの浮遊霊とやらを別の場所で呼び寄せて、話を聞こうと考えつつも。

「(逃げて来た霊とやらにも、話を聞きたい所だな)」
 もしかしたら、他の猟兵が聞いてくれるかもしれない。
 或いは其の周辺で、別の有力な手掛かりが見付かるかもしれないと。
 宵雛花は早速、他の猟兵達へ情報共有を試みたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ディフ・クライン
…夢ね
夢なんか見たくないんだが

さて、一先ず失踪者の周辺から当たってみようか
ウェブサイトというならパソコンやスマホを使っているかな
組織から警察の身分を貸してもらって
失踪者のメールやサイトの閲覧・やりとりの履歴を見させて貰えないか試してみよう
部屋に入れるならノートやメモなどに何か残っていないかも探してみようか
些細な呟きや変化から、共通点やヒントが見つかるといいんだけど

それにしても幸せな夢ってなんだろうね
幸せな夢を見させてあげるって、ヒトにはそんなに魅力的なのかな
泡沫と分かってなおそれに縋ったり、逃げ込みたいということなら
業が深い

…大丈夫、ネージュ
オレは逃げないよ
覗き込む雪精をそっと撫で




 彼らの中で、捜索願が出されているのは一人だけ。
 実家暮らしをしている、とある男性会社員だ。
 被害者達が失踪してから、それなりに日が経っているというのに。
 ……其れすらも、何故か公表されていないらしい。
 其の理由を、ディフ・クライン(灰色の雪・f05200)はまだ理解出来ない。

『あの子の部屋は、そのままにしておりますので……』
「ありがとう御座います」
『いえいえ。何かありましたら、申し付けて下さいね』
 そう告げて、初老の女性は静かに居間へと戻ってゆく。
 UDC組織から警察の身分を借り受けて、ディフは被害者の両親と接触を試みたのだ。

 そして、彼は被害者の自室に居る。
 母親が居間に戻った事を確認してから、ディフが静かに名を呼ぶと。
 ――ひょこっ。
 彼の肩から顔を出したのは灰色のオコジョ――雪精、ネージュだ。

「ネージュ。何か気になる物があれば、オレに教えてくれるかな」
 ディフの言葉に頷いては、早速周囲をきょろきょろと。
 雪精の様子を見て、彼もまた手掛かりの捜索に取り掛かる。

 本棚を見る限り、とても勉強熱心な人物だったと見受けられるが。
 其処は整理されているのに、デスクの上は荒れ放題。
 更に……拭い切れなかったであろう、袖机の僅かな血痕を雪精が示した。

 ディフはゆっくりと、袖机の引き出しを引く。
 入っていたのはタイトルの無い、一冊のノートだった。
 声に出せない悲鳴。周囲への疑心。理不尽な上司への憤怒。
 激情のままに綴られた言葉の羅列に動じる事無く、彼が淡々と読み進めていく内に……徐々に生気が失せる様に、記された文字が減ってゆく。

 ――しあわせ、なりたい。
 ――しあわせな、ゆめが、まってる。やっと、おわれるんだ。
 此れまでとは違った筆跡で、喜びを露わにする様な。
 最後のページ全面に記された文字を見た後、彼は元の場所へ戻した。

「……幸せな夢って、なんだろうね」
 ディフは漸く少しずつ、感情を学び続けてきたが。
 彼にとって『幸せ』とは、中々難しい問題だったのかもしれない。
 幸せな夢。ヒトにとっては、そんなに魅力的な響きなのか。
 儚き泡沫と分かっても尚、其れに縋りたい。逃げ込んでしまいたい。

 ――業が深い話だ。
 まるで……強い感情が、ヒトを破滅に導くかの様で。
 耳元で聞こえる小さな鳴き声に、ディフはほんの僅かに目を細めた。

「大丈夫、ネージュ」
 覗き込む雪精をそっと撫でながら、ディフは静かな決意を告げる。
 正直、夢なんか見たくない。其の考えは変わらない。
 ……其れでも、オレは逃げないよ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ロキ・バロックヒート
ひとはどんな風に死ねばしあわせなんだろう
痛みがないように?苦しまないように?眠るように?
ひとが死ぬことに忌避はないけれど
終わりを願う者はいつも似たり寄ったりで
世界の滅びまで願う者はそう居ないよね
来世ではしあわせになるとでも思ってるのかなぁ
なんて

第六感でこれは、と思う自殺志願者が集うウェブサイトに幾つか書き込む
ぜんぶ終わる夢を見たい
早く眠りたい
天国に行きたい
どうか助けてください――と

ふふふ!
駄目だ可笑しくて笑っちゃう
半分本当で半分嘘
文字って便利だよねぇ
笑ってるのが見えなくて良かった

これで手掛かりがあっちからやって来たら良いんだけど
接触して来たなら指示に従うかな
さあどんな楽園に連れてってくれるの?




 ――ぜんぶ、終わる夢を見たい。
 ――早く眠りたい、天国に行きたい。
 ――どうか、どうか助けてください!しあわせをください……!

「ふふふ……!」
 嗚呼、笑いが堪え切れない。
 ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)はクスクスと笑いながら、スマートフォンをタップ。軽快に文字を打ち込んでいく。
 ……文字とは本当に便利なものだ。
 UDC組織から聞いたものも含めて、これはと思うウェブサイトに書き込みながら彼はそう思っていた。
 可笑しさに笑いながらも、死にたいと希う人物を演じられる。本当に面白い。

「(半分本当で、半分嘘だけどね)」
 ……其れは、本心?
 或いはこういった嘘の方が、信憑性が高く感じられるだろうという考えか。
 さあ、どうだろうね。単なる戯言、悪巫山戯のつもりかもしれない。

 ――さてと、食い付いてくるかな。
 此れで、手掛かりがあっちからやって来たら良いんだけど。
 手隙に電子掲示板の他の書き込みを眺めては、ロキはぽつりと呟いた。

「それにしても、終わりを願う者はいつも似たり寄ったりだね」
 ……別に、『ひと』が死ぬ事に忌避は無い。
 彼は『ひと』を愛でてはいるけれど、愛している訳じゃない。

 ただ、不思議だとは思う。
 『ひと』はどんな風に死ねば、しあわせなんだろう。
 痛みがない様に?苦しまない様に?眠る様に?
 現世での最期くらいは穏やかに、嫌な思いをしたくない?
 皆、来世ではしあわせになるとでも思ってるのかなぁ。

 心の底から死にたいと願うなら、厭世観に浸っているのなら。
 いっその事、世界の滅びまで願えばいいのに……なんて。

「さあ、どんな楽園に連れてってくれる――」
 とあるウェブサイトに、個人宛メッセージの通知が届く。
 メッセージを開くと、文字の代わりに短い動画が添付されていた。
 ロキが迷いなく、動画の再生ボタンをタップする。

 瑠璃色の蝶々が、夜を舞う。
 沢山の煌めきを降らせる様に、緩やかに揺蕩う。
 煌めきを浴びた人々は皆、蕩けた様な笑みを浮かべて……其の場に崩れ落ちた。
 ――あまねくすべてに『しあわせ』な夢を。

 彼は、確かに捉えた。
 映像が進むにつれて、濃度を増してゆく狂気すらも楽しんでいる内に。
 夜空を映した様な二つの眸が、自分を覗き込んでいるのを。
 一般人ならば惹き込まれて、其のまま意識を奪われて。
 ……後は言わずもがな、かな。

「楽園には程遠い場所にいるだね」
 儀式場がある方向に、視線を向けながら。
 とても愉快だと言いたげに、ロキは微笑んでいた。

成功 🔵​🔵​🔴​

志島・小鉄
事件デスネ!
いやはや、まっことおっかしな事件デス。
今時ノ若者ノ考えは分かりマセンネ〜。
妖怪穴掘モグサン!
わしよりも探偵歴の長ゐモグサンデス!
助言ヲお願ゐしマス!

ほぅほぅ。
デシタラ、モグサンは地中カラ人間サマの足音ヲ聞ゐて、人間サマの動向ヲ確認して下さゐ。
わしは隠れて尾行ヲしマス!

人間サマは何ヲ考えているのでせうか。
ジジィのわしニハさっぱり分かりマセン。
人間サマのしあわせの感情ヲ食べる妖怪も居マスガ
わしは感動ノ方が好きデスネ〜。
おっと危なゐ。見失う所デシタ……!
モグサンと合流ヲしたら情報ヲ共有しマス。
何か有リマシタか?




「――事件デスネ!」
 いやはや、まっことおっかしな事件デス。
 顎に手を添えながら、志島・小鉄(文具屋シジマ・f29016)は首を傾げていた。
 人間の世界に合わせてか、今の彼は黒髪の青年の姿をとっている。

 いやいや、其れは其れとして。
 捜査を行うにしても、如何せん情報が少ない。
 今時の若者の考えも分からない、とくれば……取る方法は一つ。

「出番デス、モグサン!」
『おぅい、出番デスぞー』
 近場の公園の土が、不自然に盛り上がる。
 其処から顔を出したのは、何とも陽気な土竜の妖怪――モグサンだった。
 なんと、このモグサン。志島よりも探偵歴が長いとの事。

「モグサン、助言ヲお願ゐしマス!」
『ふぅむ……おや、あのお嬢サン……』
 志島とモグサンが視線を向けたのは、一人の女性。
 背格好を見るに、恐らくは大学生……だろうか。
 スマートフォンを見て、標識を見て、少しずつ歩みを進める様は迷子の様。

「デシタラ……モグサンは地中カラ、人間サマの動向ヲ確認して下さゐ」
 ――わしは隠れて尾行ヲしマス!
 其れを聞いて、モグサンは地中へと。
 志島は気付かれない様に、少し離れた場所に隠れながら女性の様子を窺う。

 ソレにしても、人間サマは何ヲ考えているのでせうか。
 ジジィのわしニハ、さっぱり分かりマセン。

 人間のしあわせな感情を食べる妖怪も居るが、彼の好みは感動だ。
 しあわせになりたいと思う程、しあわせが欲しいと願う程。
 そんな感情を抱くに足る、何かがあったのだろうか。
 ……やはり、考えても解りそうにない。

「(おっと、危なゐ。見失う所デシタ……!)」
 女性は少し先で、また立ち止まってはスマートフォンを見ている。
 探し物をしているだけではなく、土地勘が無い様に志島は感じていた。
 少しだけ間を置いて、モグサンが戻って来る。

「何か有リマシタか?」
『お嬢サンは、被害者ノ知り合いデスな』
 モグサン曰く。
 被害者の一人、女子大学生との写真をスマートフォンの壁紙に設定している様だ。
 彼女が其れを落とした際、偶々確認出来たらしい。
 尤も、写真の二人は今よりも若く……恐らく、高校生の頃だろうとも。

『あのお嬢サンから、色々聞けるヤモしれマセン』
「そうデスネ、では……」
 志島はモグサンに、重ねて頼み事。
 此の先に居るであろう、自分の知人に情報を伝えて欲しいと伝えれば。
 モグサンは力強く頷いて、再び地中へ潜るのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

蘭・七結
【紅苺】

何もかもが彼方に消えてしまうだなんて
まるで現と夢が交わりあっているかのよう

えすえぬえす……
が扱えたのならば良かったのだけれど
わたしもまいも、むつかしそうね
思案を重ねたとて歩みは進まない
どうしましょう――きゃ、
まい、何処へ往くと云うの

まあ、甘やかな香り
これはくれーぷ、と言うのだったかしら
ベリーたっぷりのものをいただける?

色鮮やかなあかいろの甘味
思わず頬が緩むようだわ

周囲を見た渡して
おんなじ年頃のひとがいるかしら
噂が好きそうな子をみつけて
そうと、尋ねてみましょうか

『幸せな終わり』ってご存知?
とても興味深いのだけれど
糸を手繰る方法がわからないの

垂らした糸に触れるのは
いったい、誰なのでしょうね


歌獣・苺
【紅苺】

そんな魔法みたいなこと
あるんだねぇ?

えすえぬえす?
なぁにそれ
美味しい…?(そわそわ)
…なぁんだ
食べ物じゃないんだね
機械かぁ…
確かに私には難しそう…
なゆもあなろぐ?派?っぽいもんね

一瞬美味しそうなもの
想像しちゃったから
お腹すい…あ!あれは!!
なゆ!こっち!(手を引いて)

そうそうクレープ!
とっても美味しいよ!
ほら、甘い物食べたら頭の回転
良くなるって言うでしょ?
…食べよ!?
やったあ!
これとこれとこれでしょ~?
それから…あれ
なゆ1つでいいの?足りる?

女の子は噂好きだもんね!
ナイスアイデア!
早速聞いてみよ!

私も教えて欲しいな~!
良かったらこの中から
好きなクレープあげちゃうし
座って話さない?




 知人の遣いから、情報を共有してもらった後。
 目的の女性と出会う為にも、暫くは此の公園に留まった方が良いだろう。
 二人はそう、判断したものの……。

「何もかもが彼方に消えてしまうだなんて」
「そんな魔法みたいなこと、あるんだねぇ?」
「……まるで、現と夢が交わりあっているかのよう」
 蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)と歌獣・苺(苺一会・f16654)は目を合わせて、揃って首を僅かに傾けていた。
 誰一人として、見ていないという事は無いのだろう。
 えすえぬえす……が扱えたのならば良かったのだけれど、と蘭が呟くと。

「えすえぬえす?」
 もしかして、美味しい食べ物!?
 歌獣の黒色の兎耳がぱたぱた、と忙しなく跳ねる様。
 彼女の様子はとても愛らしいけれども、蘭がそうではないと告げれば。

「……なぁんだ。食べ物じゃないんだね、残念」
「わたしもまいも、むつかしそうね」
「なゆも、あなろぐ?派?っぽいもんね」
 機械の扱いは、中々に難しいもの。
 えすえぬえすとやらを駆使するのも、同様に。
 思案を重ねたとて、邪神に繋がる糸を手繰る術は見付からない。
 さて、どうすべきか――。

「――なゆ!こっち!」
「きゃ、まい。何処へ往くと云うの?」
 美味しそうなものを発見した、腹ペコさんは止まらない。
 蘭の手を引いて、歌獣が真っ直ぐ向かうのは……クレープ屋のキッチンカー!
 ふわりと漂う甘やかな香りに、蘭は目を細めていた。

「これはくれーぷ、と言うのだったかしら」
「そうそう、クレープ!とっても美味しいよ!……食べよ!?」
 ほら!甘い物食べたら、頭の回転良くなるって言うでしょ?
 歌獣はそわそわ、そわそわと。蘭の返答を待つ。
 いただきましょうか、と。彼女が告げると、歌獣は全身で喜びを示していた。

「ベリーたっぷりのものをいただける?」
「これとこれとこれでしょー?なゆ、一つでいいの?」
 どれもとても、美味しそうで。
 相談に花を咲かせつつ、二人は好きなクレープを注文。
 手際良く焼き上がるクレープ生地の香りを楽しみながら……この前のぱふぇも美味しかったよね、なんて笑っていると。

「なゆ!なゆ、あの子……!」
「ええ、そうでしょうね」
 先に聞いた容姿と、完全に一致している。
 ほぼ間違いなく、彼女が被害者の知り合いなのだろう。
 此の場に到着すると同時、彼女はスマートフォンを片手に何かを探している様子。
 共にクレープを受け取った後、そうと……声を掛けたのは、蘭だった。
 ――しあわせな終わりって、ご存知?

『君達、どうして……?』
「とても興味深いのだけれど、糸を手繰る方法がわからないの」
「私も教えて欲しいなー!」
 垂らした糸に、反応はあった。
 女性の反応は全く知らぬ其れではないと、蘭は確信していた。
 彼女の声に続く様に、歌獣も続けて問い掛ける。
 口元には既にクリームが付いていたが……ある意味、微笑ましく感じられた。

『その、ぼ……私は、人を探していて』
「……良かったら、少し話を聞かせてくれるかしら?」
「うん、うん!好きなクレープあげちゃうし、座って話さない?」
 そして、三人は近くのベンチへ腰掛ける。
 女性の手には、オーソドックスなチョコバナナのクレープ。
 蘭の手には色鮮やかなあかいろ、甘酸っぱいベリーたっぷりクレープ。
 歌獣は右手にブルーベリーとクリームチーズ、左手には黒蜜きな粉と抹茶アイスのクレープを持っていた。洋風と和風、同時に食べ比べ!

 ――いただきます!
 一口頬張れば疲れを癒す様に、口一杯に甘さが広がる。

『美味しい……久しぶりに戻って来たけれど、こんなお店があったんだ』
「今までは、遠くで暮らしていたのかしら」
『受験失敗しちゃってね。でも、高校の時の友達と連絡が取れなくなって』
 ――しあわせに死にたい、ごめんね。
 メッセージアプリに届いた言葉は、其れが最後だったらしい。
 元々、両親からのプレッシャーが辛い、苦しいと女性に悩み相談をしていた様だ。

『その時に、こんなサイトがあるって聞いた事があったの』
 女性が差し出した画面に表示されていたのは、件のウェブサイトだった。
 実際に、被害者が書き込んだ事もあったらしい。
 ……だが、今は全て削除されている。何かあった筈なんだと。

『クレープ、ありがとう。それから、ぼ……あ、いや……』
「……言い直さなくても大丈夫だよ?」
 ありのままの自分で、いいの。
 あなたは、あなたらしくしていいんだよ。
 歌獣自身も、蘭や多くの仲間にそう教えてもらったから。

 そんな彼女の言葉に、心動かされるものがあったのだろう。
 女性は小さく頷いてから、安堵した様な笑みを浮かべて。

『僕の話を聞いてくれて、ありがとう』
 少し、心が軽くなった気がした。
 そんな風に告げては、女性は其の場を立ち去ってゆく。
 彼女の横顔は吹っ切れた様に見えて……何処か、張り詰めた糸にも似た雰囲気で。

「ねぇ、なゆ。もしかしたら……」
「……そうね、まい」
 自殺志願者が集うウェブサイト。
 全て匿名ではあったが、彼女も書き込んでいる可能性も――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ライナス・ブレイスフォード
…ウェブサイト…?
あー…一応持ってっけどこれで調べればいいのかよ
そうスマホを操作しリンクのページを眺めんぜ
場所の痕跡は消されたかもしれねえけどよ
被害者が出た大体の地域とかは絞れるんじぇねえの?

その後は被害者が映った監視カメラの位置を全て確認
被害者が良く映っている地域にある監視カメラの場所に向かいながらコンビニ等未だやってる店で何か最近変な事が無えか聞き込みを
…瞬く間に消えるとか…監視カメラに吸い込まれてるとか流石にねえよな?
そう監視カメラの場所に付けば監視カメラを見遣りつつも、その後は『第六感・聞き耳』を使い異変がないか調べて行こうとそう思うぜ
…本当に、何処にどう移動してんだろうな。




「ウェブ、サイト?」
 一応持ってっけど、これで調べればいいのかよ?
 ライナス・ブレイスフォード(ダンピールのグールドライバー・f10398)は眉を顰めながら、スマートフォンを操作してゆく。
 画面上に表示されているのは、自殺志願者が集うウェブサイトだった。

 ……本気と冗談が混ざり合った、混沌の海。
 生きていたくない。眠る様に死にたい。誰も助けてくれない。
 電子掲示板に並ぶ短文の羅列を眺めながら、彼は悠然と歩き続ける。

「あー、此処か……」
 ライナスが足を止めたのは、とある監視カメラの真下。
 此処は被害者の一人、とある男子中学生の学区内。
 そして、もう一人――女子大学生が深夜、何度も映る様になった通り。
 此処を通り過ぎたかと思えば、彼女は不意に闇に溶ける様に消えたのだ。

「瞬く間に消えるとか……」
 ――監視カメラに吸い込まれてるとか、流石にねえよな?
 そんな事は有り得ないと思いつつ、ライナスは監視カメラを見遣る。
 他の場所にも設置されている、普通の監視カメラだ。
 細工がされている様にも見えない、至って普通の代物。だからこそ、解せない。
 先程、自分が見た映像は何の仕掛けも無い……本物の映像という事だ。

 近くで営業している店の従業員に聞き込みをした所、殆ど似た様な回答ばかり。
 確かに、被害者の女性を見掛けた事はあるが。
 遠目だった上、変に笑っている為か。酔っ払っているのだと思っていた様だ。

「……この世界でも、似た様な事はあんのな」
 一つだけ、気になる事を聞いた。
 とあるコンビニエンスストアの従業員の話。
 派手な髪型、荒い言葉遣いの、男子中学生のグループが良く利用するらしいが。
 揶揄する様な声で、彼らはこう言っていたらしい。

『なあ、そういや下僕は?』
『よくわかんねぇけど、学校来なくなったらしいぜ』
 ――ウケる!アッハハハッ!
 強者を気取った輩が、弱者を食い物にしては笑う。高らかに嗤い続ける。
 話を聞く限り、彼らも被害者の行方が分からない様だ。

「本当に、何処にどう移動してんだろうな」
 監視カメラじゃないなら、夢にでも吸い込まれているんじゃねぇか?
 被害者が、実体を持ったまま消えたなら。
 逆にあれだ、姿が見えない様に何かで隠されたとか。

 ――なあ、あんたはどう思うよ?
 視線を隣に向けて、そう言葉を続けようとするも。
 ライナスが代わりに吐き出したのは、深々とした溜息だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

月守・ユア
アドリブ◎

自殺志願者のウェブサイトか
スマホを弄って【情報収集】をしよう

夢か現か分からなくなってくる…だなんて
この世界も奇妙な事が沢山で面白いなぁ
まるで丑の刻の神隠し

自殺志願者が揃って利用してたのはサイト
痕跡は消されているが
自殺志願を装って同じようにサイトを使えば何か得られるかな?

スマホを弄りながら
僕は失踪者が映ってたと言われた
監視カメラの場所を巡り【黒葬蝶】を使ってUC使う

「何でもいい
失踪者に関係する噂、痕跡…
人の声に”聞き耳”立てて飛んで」

人々の噂話から手掛かりを掴めればいいが
噂は時に重要なヒントをくれるから

僕は自殺者を装い
自殺志願サイトに書き込む
『お願い
僕にも幸せな夢を見させてください』




 ――お願い。
 ――僕にもしあわせな夢を見させてください。
 静かに紫煙を燻らせ、月守・ユア(月影ノ彼岸花・f19326)は手早く投稿を完了。
 画面上に自分が打った文が表示されるのを確認した後、ふうと息を吐き出した。

「夢か現か分からなくなってくる、だなんて」
 まるで、丑の刻の神隠し。
 此の世界も奇妙な事が沢山で面白いと、月守は思う。
 携帯灰皿に煙草の先端を押し付け、火を消しつつ。

 ふと、見上げた先には監視カメラ。
 夢か現か、境界を曖昧にした現象……其れが発生した場所だ。
 此の付近ならば、何かしら――。

「Mission Start――」
 紅の雫と共に、黒き蝶が舞う。
 ひらり、ひらりと翅を揺らして、其れは月守の手の甲に止まった。
 彼女に触れている部分から、死の香りに満ちた魂の欠片が送られていた。
 ……其れは、黒葬蝶の偵察能力を高める為の儀。

「何でもいい。失踪者に関係する噂、痕跡……」
 ――人の声に、聞き耳立てて飛んで。
 月守の言葉を聞いたからか、紅色が強くなった気がした。
 其のまま、ふわりと浮かび……黒葬蝶は遠くへ飛んでゆく。

 直後、スマートフォンが小さく震える。
 彼女が先程書き込んだ、自殺志願者が集うウェブサイト。
 其の個人メッセージに対して、新着通知のマークが付いていた。
 ……本文は無い。ただ、短い動画が添付されているだけ。

「何かに反応して、送って来たのかな」
 不思議な話だ。
 画面越しだと言うのに、此の動画からは『死』の匂いがする。
 月守が再生ボタンを押すと、瑠璃色の蝶々が画面一杯に舞い始めた。
 鱗粉にも似た煌めきを浴びた人々が、恍惚とした笑みを浮かべては倒れてゆく。
 ――あまねくすべてに『しあわせ』な夢を。

 一見、神秘的な映像の様にも見えるが。
 実際の所は、他者を狂気に陥れる魔性の夢幻。
 同時に……彼女の脳裏を過ぎったのは、とある場所の映像。

 黒葬蝶が戻って来る。
 再び、月守の手の甲に止まると……魂の繋がりを通じて、情報が流れ込む。

 まことしやかに伝わる、噂。
 『しあわせ』を謳う、神出鬼没な人々の話。
 複数人存在するらしいが、実際に目にした者は少なく。
 仮に見付けたとしても、触れる前に消えてしまうとの事だ。

「(触られたら、困る事でもあるのかな……)」
 月守は思案を巡らせながら、先程見えた場所へ向かおうと歩き始めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

レモン・セノサキ
死。……か。
此処じゃない朧な記憶
其の中で友は何人先に逝ったっけ?
私みたいな逝き遅れが皆に追いつける夢なら
まぁ、そこまで悪か無いね

ふむ、監視カメラの前で人が瞬く間に消える、か
他の人も何処かしらで消えてるのかな?
なら神隠し……いや、所謂”特殊空間”染みたヤツだろう

直径15km圏内、虱潰しと行きますかっ
UCで複製した偽身符を風に舞わせ、87人の分身を召還
人、動物、虫、何でもいい
浮遊霊達に銀塊の一片を与え、ゴーストとして[降霊]し
目撃情報を徹底的に収集する
成仏出来るよう弔いも忘れずに

チーム"CLONE"、散開!

失踪者が消えた場所を地図に書き込んでいく
線で繋いで行けば……手掛かりを掴めたりはしないかな?




「――チーム"CLONE"、散開!」
 八十七枚の古い偽身符を、風が遠くまで運び始める。
 レモン・セノサキ(金瞳の"偽"魔弾術士・f29870)は其れを確認すると、続けて取り出すのは銀の塊。
 其れは持ち主の意の儘に形を変える、特殊な魔法触媒だ。
 浮遊霊に一片与えれば、ごく短い時間だがゴーストとして降霊出来る。
 直径十五キロメートル圏内まで飛んで行った複製体達も、同様の手段で目撃情報を集めようとしているだろう。

「さーて、虱潰しと行きますかっ!」
 ――後は、物量戦だ。
 人、動物、虫。何でもいい。
 話を聞けそうな浮遊霊に対して、レモンは手当たり次第に情報収集を試みる。

 監視カメラの前で、人が瞬く間に消える。
 神隠し……いや、其れとは少し違う様な気がする。
 所謂、特殊空間染みたヤツかもしれない。

 先の現象の発生箇所が複数存在し、其々の距離が離れている事から。
 恐らくは小規模且つ限定的なものと、彼女は推察していた。
 仮に儀式場を中心として、巨大な特殊空間が作られているとするならば……被害者が少な過ぎる。

「(監視カメラに映らない所で、ボロを出しているかもしれないね)」
 何の前触れも無く、目の前から消える人。
 或いは、其の逆。不意に現れた人の目撃情報を、複数聞く事が出来た。
 共通点は――皆、スマートフォンを手に持って歩いていたらしい。
 加えて、彼らは一様に恍惚とした笑みを浮かべていた様だ。

 消えたと思えば、何処かに現れる。
 監視カメラから離れた、人目に付かない場所とは言えども。
 途中で敢えて、何かしらの術を解除するのは何故だろう。
 ……道中、しあわせな夢を見せる事に魔力の重きを置いている為か。

「死……か」
 情報提供に対する感謝を告げて、浮遊霊達の弔いを終えた後。
 レモンは静かに空を見上げながら、ぽつりと溢す。

 此処じゃない、朧な記憶。
 銀色の雨。未知や怪異との戦い。
 其の中で……友は何人、先に逝ったっけ?
 本物から続く記憶と無念を懐きながら、レモンは今も生きている。
 足を止めるつもりは無い、壁をぶち破ってでも前へ進む。
 でも……ほんの一時、皆に追い付けるのならば。

「(まぁ、そこまで悪か無いね)」
 しあわせな夢とやらに浸るのも、また一興。

「だけど――」
 其れは、私みたいな逝き遅れの話だ。
 死にたくないと思いながら、死を選ばざるを得ない。
 そんな状況にまで追い込まれた人に、見せるものじゃない。

 ……少なくとも、レモンはそう思うからこそ。
 彼女は事件解決の糸口を掴むべく、奔走し続けるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャト・フランチェスカ
自殺志願者のサイト
これ自体は残っているなら
また儀式の告知がされるんじゃないか
ああ
嘘は吐いてない
希死念慮は常に此処に在る
儀式の参加者に名を連ねてもいい
だから応えて
応えられるものならそうしてよ
邪神/天使様

《シェリ》、
きみたちは死の馨りが好きでしょう
あれは儚くて綺麗なものだから

学生がいいだろう
彼らが独り蹲ったとき
己を掻き抱いたとき
静かに透明な涙を流したとき
その独白やノートの隅
死に惹かれる言葉を見つけたら
僕に教えて

しあわせの在り処は
多分、自力では探せないんだ
いつか、どこかの『シャト』がそうだった
僕はまだ探してる
諦めながら小説を書いてる
心を削る血潮の洋墨で

手放したらあっという間さ
きみたちはまだ、間に合う




 ――しあわせな死が欲しい。
 ――だから、応えて。応えられるものならそうしてよ。

「(邪神、天使様)」
 シャト・フランチェスカ(侘桜のハイパーグラフィア・f24181)は投稿を終えた後、声無き声で呟く。
 嘘は吐いてない。希死念慮は常に此処に在る。
 儀式の告知があるのならば、参加者に名を連ねてもいいと考えつつ……彼女は多くの枯骨を喚び寄せる。

「シェリ、きみたちは死の馨りが好きでしょう」
 あれは儚くて、綺麗なものだから。
 影朧のこころの蒐集家たる、桜を纏う春色の乙女。
 激情のともがらは、死に惹かれる言葉を探さんと揺らめいた。
 
 独り蹲り、己を掻き抱く。
 絞り出す様な独白、ノートの隅に記された叫声。
 見付けたのは、人気の無い場所で静かに涙を流す……中学生らしき少女の姿。

 ――ミュリエル。
 きみだったら、この子にどんな言葉を掛けるのかな。

『誰……?』
「きみは、どうして死を望んでいるのかな」
 シェリを通して、彼女が死を望んでいる事は解る。
 けれど、何故そう思うのか。ひとの心が読み解けない。
 シャトの声に揶揄の念を感じなかったからか、少女は口を開き始めた。

『気持ちの吐き出し方が、わからなくなっちゃったの』
 こんなにも息が詰まる世界で、生きたくない。
 以前、此処の近くで見掛けた人のしあわせそうな顔。
 夢がしあわせをくれるという言葉が、とても甘美に聞こえて。

 私もしあわせな夢を見たい、と。
 沢山のオカルト系のサイトに書き込みをしたらしい。
 心無い言葉で刺され続けても、変な動画が送り付けられても。
 ……其れでも、しあわせが欲しかった。見付けたいと思ったの。

「しあわせの在り処は……多分、自力では探せないんだ」
 いつか、どこかの『シャト』がそうだった。
 自分ではない、誰かの体験を思い出す様に……シャトは告げる。
 其の真意に気付く筈も無く。けれど、彼女の言葉には真実味を感じられて。
 少女は思わずと言った様子で、問い掛ける。

『……あなたは、諦めたの?』
「僕はまだ探してる」
 諦念を懐きながら、小説を書いている。
 羽根ペンを手に、朧に惑う自己を繋ぎ留める様に。
 心を削る血潮の洋墨で、シャトは物語を綴り続けている。
 ――僕は綴ることをやめない。

「手放したらあっという間さ。きみはまだ、間に合う」
『そう』
 短く呟いて、少女はシャトに背を向ける。
 死にたいという願いに、嘘偽りは無いけれど。
 まだ、生きたいって気持ちが残っていたみたい。不思議よね。
 僅かに微笑みを浮かべては、少女は彼女から遠ざかってゆく。

「シェリ」
 先程の書き込みに反応したかの様に。
 シャトの元にもまた、瑠璃色の蝶々が夜を舞う動画が届いていた。

 ――あまねくすべてに『しあわせ』な夢を。
 動画を再生して、直ぐの事。
 他者を耽溺に誘う様な死の馨りに、枯骨が音を立てて笑った。

成功 🔵​🔵​🔴​

木槻・莉奈
シノ(f04537)と

【Venez m'aider】で近隣の動物達を招集
『動物と話す』で過去に儀式が行われた場所近辺で、情報を持つ動物がいないか聞き込みし『情報収集』
におい等後追い可能な情報があれば追跡を依頼
雨等追跡に支障のある天候の場合は『天候操作』で追跡しやすいように補助を
どれだけ人の目から痕跡を隠したところで、動物達全てを欺くのは簡単じゃないわ
逃がしてたまるもんですか

シノ、考え過ぎてぼんやりしてるみたいだけど大丈夫?
…無意識の夢がどんなものだろうと、大丈夫よ
だって、意識的にはシノが私との約束を破るわけないもの

ほら、まだ起こってない事を気に病むのは後!
まずは見付けないと話にならないんだから


シノ・グラジオラス
リナ(f04394)と

動物達はリナに任せて、俺は機械と人づたいで『情報収集』するとするか

監視カメラの映像が見れるなら、失踪者の視線の向きや歩く先などを『追跡』で
向かおうとしている方向等を調べておく

監視カメラに写っていた場所で近隣住民らしい(特に噂に詳しそうな)人に『コミュ力』で
友人が自殺を仄めかして行方をくらましたから、心配で探しているって言う体で話を聞き出す

可能なら現地周辺まで行って『聞き耳』や『失せ物探し』なども使って失踪者の痕跡を探すけど
…死の夢ねぇ。確かに甘美な響きではあるかもしれないが…と、すまん。少し考え事してた

リナの言葉が心強いな。分かってる、もう簡単に死ぬつもりなんてないさ




「確か、この辺りだったか」
 シノ・グラジオラス(火燼・f04537)と木槻・莉奈(シュバルツ カッツェ・f04394)が到着したのは、とある監視カメラが見える場所。
 事前に見た映像から、被害者の一人が此処を通っていた事は間違いない。
 其の上、此の通りは……他の猟兵達が見付けてくれた儀式場らしき場所から、そう遠くない。何かしら、有力情報を得られる可能性は高いだろう。
 自殺を仄めかして消えた友人を探している体で、シノは近隣住民へ聞き込みを試みる。そして、木槻は――。

「みんな、力を貸してね」
 どれだけ、人の目から痕跡を隠しても。
 動物達全てを欺くのは簡単じゃない、何かが残っている筈だ。
 ――逃がしてたまるもんですか。
 近隣の動物達を集めながら、木槻は強く思う。

 彼らに守護、補助魔法を付与。
 聞き込みを終えた後、他にも情報を持つ動物が居ないか探して欲しいと。
 彼女の言葉を聞き、動物達は散り散りになって動き始めた。

 ……少し、間を置いて。
 彼女の元へと戻って来たのは青色の瞳の猫と、何か小さな物を咥えた野良猫。
 野良猫曰く。最近、此の近くで『目の前で消える人間』を見たらしい。

「ぬいぐるみ……?」
 野良猫が咥えていたのは、愛らしい魚のぬいぐるみだった。
 恐らく、キーホルダーの一部であろう其れは……所々、土埃で汚れている。

 人間から奪い取ったけれど、全然美味しくない。
 これ、餌じゃなかった。だから、直ぐに返そうと思ったけれど。
 ……気付いた時には、人間が居なくなっていた。
 他の動物達から話を聞く限り、此の野良猫だけではなく。
 『目の前で人間が急に消えた』という、目撃証言は幾つかあったらしい。

 木槻がある程度、動物達からの報告を聞き終えた所。
 情報提供者なのだろう。見知らぬ少年を連れたシノが、彼女へ声を掛ける。

「リナ、ちょっといいか?」
「どうしたの?」
「一緒に見て欲しいものがあってな。さっきの動画、彼女も一緒に見てもいいか?」
『構いませんけれど……本当に、トリック動画じゃないですからね』
 ――本当に、本物なのだと。
 少年は念を押す様に告げてから、シノと木槻にスマートフォンの画面を見せる。
 其の後、彼は動画の再生ボタンをタップした。

 どうやら、女性の正面から隠し撮りされた動画の様だ。
 街路灯に照らされた道を、女性がゆっくりと歩いて来る。
 蕩けた笑み、何処か虚ろに見える瞳。
 ……何よりも二人は、其の女性の顔に見覚えがあった。

「これって……!」
 被害者の一人、失踪した女子大学生だ。
 少年は二人の様子に目を丸くしつつ、動画の再生を続けていた。
 そして……何の前触れも無く、まるで風景に溶け込む様に。
 彼女の姿が画面から消えてゆく。

「ここまでは、俺達が見たものと一緒なんだけどな」
「えっ?」
 ――ガシャンッ!
 少年の動揺が続いたかと思えば、妙な音が聞こえて来た。
 先程まで撮っていた場所には、もう誰も居ない。
 少年が慌てて振り返り、スマートフォンを構え直した先には。

 不思議そうに周囲を見回す、女子大学生。
 そして、何か小さな物を咥えている猫の姿が在った。
 此の猫は先程、木槻が話を聞いた野良猫の様に見える。

 彼女がしゃがみ込みながら、落とした物を拾っていたが……。
 立ち上がると同時、再び其の場から消えてゆく。
 どうやら、動画は此れで終わりらしい。

『正直、俺もビックリして何がなんだか……って感じで』
「ありがとう、とても参考になったわ」
 木槻に続けて、シノも助かったと礼を言う。
 馬鹿にされなかった事に驚きながらも、少年は頭を下げてから其の場を去った。

「……しあわせな終わり。死の夢、ねぇ」
 確かに、甘美な響きではあるかもしれない。
 少なくとも、昔の自分が聞いたら……どんな風に思うだろうか。
 夢幻の出来事だとしても、雪狼の代わりに。
 そんな有り得たかもしれない可能性が、牙を剥くのではないか。
 シノが考え事をしている内、いつの間にか木槻の視線は彼へと向けられていて。

「シノ、考え過ぎてぼんやりしてるみたいだけど……大丈夫?」
「すまん、少し考え事してた」
「……無意識の夢がどんなものだろうと、大丈夫よ」
 木槻が木槻らしく、在る限り。
 此の先、二人の関係性が変わったとしても。
 必ず傍に居ると、今までと変わらず味方でいるのだと。
 そう、シノは約束をしてくれたから。彼を、信じているからこそ。

「意識的には、シノが私との約束を破るわけないもの」
「……分かってる。もう簡単に死ぬつもりなんてないさ」
 約束を破るつもりなど、全く無い。
 其れに……己は、黒猫と共に生きると決めたのだから。
 シノの言葉に頷いた後、木槻は気を引き締める様にぐっと拳を握り締めた。

「ほら、まだ起こってない事を気に病むのは後!」
 ――まずは見付けないと、話にならないんだから。
 ああ、そうだ。頼もしいのは、言葉だけじゃなかったなと。
 木槻の凛とした微笑みにつられて、シノも思わず笑みを浮かべるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

百鬼・智夢
与えられた情報を手がかりに
実際に歩いてみましょう
★手鏡にも得られる限りのヒントをもらいながら
それでも痕跡が途絶えたなら、私と…★リアムの出番

青く光る瞳に惹かれるように集まる霊達
この近隣に住まう浮遊霊や地縛霊なら
生者のように眠らず動くこともない彼らなら
もしかしたら何か見たかもしれない
それに…自殺スポットのような負の集まる土地は
彼らが溜まり場にしている事も多いから

最近、誰かが立ち入った場所…ないですか
もし知ってたら…案内、してほしいの

下級霊なら儀式のせいで追い出された人もいるかもしれない
それなら、取り返すから
すぐに正解に辿り着けなくても
彼らにとって心地の良い気配を纏う場所を巡り
痕跡探し…頑張ります




 自分が死んだ場所。
 恐らく……儀式場と思われるから、逃げて来た霊がいるらしい。
 他の猟兵から聞いた情報を踏まえながら、テディベアを抱き締める少女――百鬼・智夢(慈愛の巫女・f20354)は歩き続けていた。
 廃工場までの道は、魔法の手鏡に住む鏡の精が教えてくれる。
 だからこそ、彼女は迷わず現地へと辿り着く事が出来た。

「リアム、お願い……力を貸して」
 百鬼の声に呼応する様に、テディベアの瞳が青に輝く。
 惹かれる様に現れたのは浮遊霊、地縛霊と呼ばれる者達。
 其の人数から……此処は彼らの溜まり場なのかもしれないと、彼女は感じた。

 お客さんかい?誰かの知り合いか?
 霊同士の会話の中、奥の方で俯く小さな影一つ。
 ――あの子が、自分の死に場所から逃げて来た霊でしょうか……。

「最近、誰かが立ち入った場所……ない、ですか……?」
『生きてる奴で、此処に来た奴はいねぇな』
『ああ、深夜にふらふらしてたっつーか……様子おかしい奴は見た気がするぜ』
 被害者らしき男性の目撃情報はあるが、其れだけだ。
 まだ話を聞いていないのは、奥に居る少女だけだったが……。
 匿った当人達もやはり、話を聞く事が出来ていないらしい。

「(怖がっている、のかな……)」
 逃げて来た、と百鬼は聞いた。
 何があったのか、深く尋ねる事は出来ない。心の傷を抉るだけだ。
 でも、せめて――彼女は少女に近付き、目線を合わせてから。

『…………』
「私達が……取り返す、から」
『えっ?』
 少女の霊が、驚きと共に顔を上げた。
 泣き腫らした跡を見て、百鬼は静かに思う。
 此の子にとって、どんな場所だったかは分からない。
 けれど……巻き込まれて、無理に追い出されて。どれ程苦しかった事か。

「貴方にとって、大切な場所は……私達が、取り返します」
『ほんと、に……?おうち、かえれる、の?』
「だから……案内、してほしいの」
 ――お願い、します。
 百鬼の真摯な思い、優しい声色に安心したのだろう。
 其れでも、実際に戻るのは……震えてしまう程に、怖いから。
 少女は他の浮遊霊に道を教えた上で、百鬼の道案内を頼んだ後――。

『お、おねえちゃん』
「……?」
『あのね……ほしぞらさんに、きをつけてね』
 星空の様な両目の、見知らぬ誰か。
 自分が生きていた頃も、死んだ後にも見た事が無いひと。
 少女の言葉を聞いて、百鬼は其の人物が元凶ではないかと考えるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

自ら命を絶つ者
心の底から生きたいと望む者
生きたくても生きられぬ者の多いことなのに
折角の命を自ら消すとは……今の私には解らぬ事が多い
サヨはそんなふうに死を望んだことがある?

巫女が口にした苦い想いに縋るように手を握る
…サヨは生きたくないのだろうか
私と共にずっと生きて行こうと願ってはくれないのだろうか?
ゾッとする程熱く冷たい慾(ねがい)を呑み込んでから
笑みを返す

そう
ならよかった

サヨ、書込む事に先ず意味があるのではないか
宿る意図と絲が繋がる
束ねられた想いが路を繋ぐ
もしかしたら其の場所は現ではなく夢の中にあるのやも

…きみが死に惹かれないように
つれていかれるその前に
神匿しないと

なんでもないよ
私の巫女


誘名・櫻宵
🌸神櫻

カムイ…
死を望んだことがあるのかと、無垢な己の神に問われて思わず口を噤む
……あるわ、ずっと思っていた
贄になるくらいなら
このまま生き続けるくらいなら
はやくはやく終わってしまいたいと

素直に口にする
あなたには嘘をつきたくなかったから
縋るような神に、かぁいらしと微笑んで大丈夫と伝える
私は死にたいなんて思わないわ
あなたの過去になど成りたくないもの

自殺者が集うサイトに書込んで
反応を待つ
其れから同じ様な書込みをしている人に反応してみましょ
同意と同情と死という夢のような救いへの切望をそえて
カムイが云うなら結ばれるのかも

呪華の蝶を飛ばせ情報を集めながら自殺スポットにも行ってみましょうか


カムイ?今、なにか




 ――しあわせな死を頂戴な。
 ――甘い夢に溺れて、安らかに息を止めたいの。

 自殺志願者が集うウェブサイト。
 此処に書き込む事に先ず意味があるのではないか、と。
 朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)の言葉に頷いては、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)がスマートフォンを用いて書き込みを終える。
 誘名が視線を横に向けると、朱赫七が不思議そうに思案を巡らせていた。

 どうしたの、と誘名が声を掛けるよりも早く。
 首を僅かに傾けつつ、朱赫七は問う。

「サヨは、死を望んだことがある?」
「カムイ……」
 名前を音にするだけで、精一杯だった。
 誘名の神、朱赫七は無垢な童にも似た……未熟な神の雛。
 其れは、純粋な疑問故の問い掛けなのだろう。

 自ら命を絶つ者。
 心の底から生きたいと望む者。
 生きたくても生きられぬ者の多い事。
 ……何故、折角の命を自ら消す事を望むのだろうか。

 朱赫七には、解らない。
 解らないからこそ、彼は己の巫女に問う。
 其の問い掛けに答えるべきか、否か。少しだけ口を噤んで。

「……あるわ、ずっと思っていた」
 其れでも、朱赫七に嘘を吐きたくはなかったから。
 偽りの無い本心を、終わりを希っていた事実を。誘名は、静かに口にする。

 贄になるくらいなら。
 このまま、生き続けるくらいなら。
 はやく、はやく、終わってしまいたいと。玉の緒よ絶えねば絶えね、と。
 吐き出される言葉の数々に、朱赫七は苦い想いを感じ取っていた。

「サヨは、生きたくないのだろうか」
「大丈夫よ。私は死にたいなんて思わないわ」
 ――あなたの過去になど、成りたくないもの。
 目は口程に物を言う、とは……今の朱赫七の事を示すのかもしれない。
 かぁいらし、と誘名は思わず微笑みを浮かべていた。

「そう。なら、よかった」
 私と共に、ずっと生きて行こうと願ってはくれないのだろうか?
 我が事ながら、ゾッとする様な熱く冷たい慾(ねがい)。
 ……咄嗟に呑み込んだけれど、サヨには何処まで伝わってしまったか。
 胸の中心で響く音が早鐘の様で、其れでも朱赫七は笑みを返す。

 ――あまねくすべてに『しあわせ』な夢を。

 そんな時、だった。
 誘名のスマートフォンにもまた、メッセージ通知が届く。
 添付されていた動画に、邪な気配を感じるも……彼は動画を再生した。
 瑠璃色の蝶々、魅了される様な美しい煌めき。
 画面内で倒れゆく人々は皆、不自然に蕩けた笑みを浮かべていて。

「……サヨ、結ばれたよ」
 宿る意図と、縁の絲が繋がる。
 同意、同情、死という夢の様な救いへの切望。
 束ねられた想いに反応して、二人と縁が結ばれる。
 邪神が潜む場所の外観、そして……大まかな位置が見えた気がした。

 恐らく此れは、邪神が力を送り込む為の繋がりだ。
 力が強まった頃合いに、繋がりを通して……標的だけに夢幻を見せる為の。
 だが、猟兵ならば抵抗する事は出来るだろう。
 此のまま、正確な位置を特定――否、此れは……。

 夢幻の向こう側から覗き見る、星空の瞳。
 朱赫七は即座に誘名との、次いで己と間に結ばれた見えぬ厄を断つ。
 ――私の巫女に手を出すな、と言わんばかりに。

「……全員に送られた訳では無さそうね」
 何かしら、キーワードの様なものがあるのかもしれない。
 ウェブサイトの書き込み一覧を見る限り、誰一人として動画に触れていなかった。
 もしも全員に動画が送られているとすれば、あまりにも不自然過ぎる。
 此のまま、さっき見えた自殺スポットにも行ってみようか。
 何かしらの手掛かりが、見付かるかもしれない。

「さて、戯れましょうか」
 呪華による黒蝶が、ひらりと舞う。
 誘名が先の動画と同質の呪いを探るべく、召喚したもの。
 微笑みを湛えて、歩む姿。カムイ、と己を呼ぶ声が反芻する。
 ……仮初の死。彼に、己に齎される死とはどんなものだろうか。
 未知に対する感情が、朱赫七の胸を締め付ける。

「(きみが死に惹かれないように……)」
 だめだ。いやだ。
 ……きみが居なくなるのが怖い。

 往かないで。
 逝かないでおくれ、私の巫女。
 三途の川を渡る前に、黄泉路を歩み切る前に。つれていかれる、其の前に。
 巫女の手を引かなければ、神匿しないと。サヨ、サヨ――。

「カムイ?今、なにか?」
「……なんでもないよ、私の巫女」
 愛月撤灯。私の月、私の巫女。
 きみとの絲を、『死』に断ち切らせはしない。
 朱赫七の言葉を聞いて、誘名はまたかぁいらしと笑うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荒谷・つかさ
足取りを追っても、尻尾が掴めない。
掴んだと思ってもすり抜ける……厄介ね。
とはいえ、私にできる事なんてたかが知れているし、いつも通りやるだけね。

事前に【不撓不屈】発動
曰く付きの物件と失踪者が映っていた監視カメラのある場所を、時間いっぱい虱潰しに探ってみる
何も見つからなくても諦めず、地図と照らし合わせてみたりして何か見えてこないか探る
それでもダメなら、ヤマ勘で張り込みを行う
【不撓不屈】は失敗し続けることで可能性を潰し、勘を磨き成功を引き寄せるコード
私が諦めさえしなければ、収穫ゼロということは無いはずよ

にしても、失踪者はどうやって行くべき場所を知ったのかしら。
私も最初から辿れればいいんだけど。




 足取りを追っても、尻尾が掴めない。
 漸く掴んだと思えば、するりと抜けてゆく。
 ……本当に厄介なものだと、荒谷・つかさ(逸鬼闘閃・f02032)は思う。

「とはいえ、いつも通りやるだけね」
 私に出来る事なんて、たかが知れている。
 荒谷自身、其の事実は重々承知の上。
 だが、逆に言えば……自分が取るべき行動が明確であるという事。

 失踪者はどうやって、行くべき場所を知ったのか。
 邪神の儀式場に使われている、曰く付きの物件は何処か。
 監視カメラに映っていた筈の人物が、一瞬で消える仕掛けとは。
 ――ごちゃごちゃと考えるよりも早く、彼女は猛スピードで駆け出していた。

「(まずは、この近くにある廃墟……!)」
 仮に外れならば、別の場所へ。
 其処も違うならば、また別の場所へ向かうだけだ。
 たとえ収穫を得られなかったとしても、荒谷は決して諦めない。

 不撓不屈。
 諦めなければ、必ず届く。
 失敗し続けることで可能性を潰し、成功を引き寄せる。
 私が諦めさえしなければ、きっと届く。否、届かせてみせる……!

「(虱潰しに探れば、きっと何かが見えてくる筈よ)」
 彼女が手にしている紙の地図に、バツ印が増えてゆく。
 此れまで確認した監視カメラの数々に、細工の形跡は残っていなかった。
 怪しい物件も幾つか見て来たが、特段妙な気配は感じられない。

 其れでも尚、彼女の精神は折れはしない。
 寧ろ、鍛錬に丁度良いと言わんばかりの笑みを浮かべているではないか。
 さあて、次に向かう場所は――何かが光った、気がした。

「見付けた……!」
 とあるバッジが、雑草の間に紛れ込んでいた。
 其の形状は間違いなく、失踪した男性が所属する会社のもの。
 偶然落とした可能性もあるが、其れにしては敷地内に入り込み過ぎている。
 何よりも、研ぎ澄まされた荒谷の勘が告げていた。

 ――此の場所には、何かがある。
 彼女の手で、内部の探索は既に終えている。
 失踪者を含めて気配は感じられず、何も無い様に見えたけれど。

 ……ならば何故、此処にバッジがあるのか。
 監視カメラから急に消えた現象も、もしかしたら関係しているのではないか。
 廃団地を睨み付けながら、彼女は他の猟兵へ情報伝達を行うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
夜はきらいじゃないけれど
今回ばかりは何だか落ち着かない

人が映っていたというカメラの場所を地図に記して
何か法則はあったりしないかしら
集まっているところ、
若しくはポイントを繋いだエリアに自殺スポット?というのはない?

該当する場所があれば『小さなお友だち』を喚んで
隙間から入って中を調べてもらうわ
天井みたいな、本来ひとが入れない所も念入りに

もし怪しい人がいれば後を追ってもらいましょう
例えば元気のないひと、
良すぎるひと、とか

時計を持って、常に時間を確認しておきましょう

しあわせな夢って
しあわせなのかしら




 夜は、きらいじゃないけれど。
 今回ばかりは何だか落ち着かない。
 それに……しあわせな夢って、しあわせなのかしら。

「(わからないことばかり、ね)」
 現在は酉の刻、午後六時頃。
 ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は、歩きながら静かに思う。
 彼女は今、他の猟兵から聞いた儀式場――廃団地の内部を調べていた。
 ……此処に何かがあるのは間違いない、筈だ。

「おねがい、探して」
 ルーシーが召喚したのは、小さなネズミのぬいぐるみだ。
 彼女と五感を共有する、大切なお友だち。
 こくりと頷いて、ネズミはすんなりと狭い通路の中に入って行った。
 もし此処に誰かいるなら、追跡を。
 其れ以外にも何か、普通なら有り得ないものや場所が無いかと。

 ……しあわせな、夢。
 文字通りの『幸せ』ならば、もしかしたら。
 青花に怯える事もなく。また、会えるのかしら。
 ママ、パパ。それから本当の――。

「(過去は、過去よ)」
 帰るべき場所が、ルーシーにはある。
 此の依頼を無事に終わらせて、彼女は帰ると決めているから。
 過ぎる思考を振り払う様に、駆ける。駆け抜ける。
 己の片目、お友だちの両目に映るもの。何処かに、何かが。

「……?」
 上の階へ向かう階段を、駆け上がった先。
 ルーシーが居る場所から離れた部屋、ドアの前に立つ少女の姿があった。
 外側は漆黒、内側は紫苑の特徴的な髪。
 太腿に刻まれている特徴的な模様に、彼女は見覚えがあった。

 やはり、此処だったのだ。
 少女は口を開き、何かを紡いだかと思えば……其の姿が揺らぎ、消えてゆく。
 ルーシーは慌てて追い掛けようとするも、間に合わず。
 伸ばした手は、部屋のドアノブに触れようとして――空を切った。

「えっ?」
 同じドアノブにもう一度触れようとするも、ルーシーの手は再び空を切る。
 ネズミが向かった先にも、同様に触れないドアノブが存在している様だ。
 ……ドアの中に幻が混ざっている?
 でも、何の為に?何の意味も無く、用意したとは考え難い。
 彼女は一度立ち止まり、少しの間考えて……ある可能性に気付いた。

「何かを隠すため、とか?」
 此処も、ネズミが見付けた場所も、幻の先は壁だったけれど。
 同じ様に隠されていて、奥に被害者達が隠れている空間があるかもしれない。
 UDCと遭遇した件も含めて、ルーシーは他の猟兵達へ情報を共有しようと動くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
夢見るように終われたら、か
寂しいですが…尽きないですねこう言う話は

サイトなどからは消されているなら
虱潰しに痕跡を探るしかないかな?

失踪者が自宅から全く異なる場で写っているのが発見されたという
監視カメラ映像の情報を聞き
そこに近い自殺スポットや廃墟などないか
志願者の集う「さいと」等を調査

ある程度候補があれば
現地で痕跡の調査へ

姿が見えないのは、オブリビオンの術も絡むのかも
魔力痕跡や、視界を妨害する結界、封印などないか
封印を解く際の応用で
建物に自分の魔力を流し探り
六感も活用、直近で人の残した残留物がないかも捜索

万一現時点では失踪してない志願者を発見時は
自分も志願者を装い、死の夢の噂を知らぬか聞きこみを




「夢見るように終われたら、か」
 ――寂しいですが……尽きないですね、こう言う話は。
 冴島・類(公孫樹・f13398)は廃団地を見上げて、小さく呟いた。
 彼の傍らには、濡羽色の髪持つ絡繰人形の相棒――瓜江が立っている。
 物言わぬ人形なれど、向ける視線は気遣う様な其れで。
 大丈夫だよ、と。冴島は頷き、静かに目を閉じて……再び開く。

 今も、昔もそうだ。
 短い生の中で現実への嘆き、悲しみ故か。
 天寿を全うする事無く、自らの手で命を終わらせる者は少なからず居た。
 ……考えても仕方がない事だとは、彼も理解しているけれど。
 あの『さいと』に匿名で書き込んでいた人々の何人が、心から人生の終わりを望んでいるのだろうか。いや、今は其れよりも。

「(虱潰しに、痕跡を探るしかないかな?)」
 廃団地の何処に、儀式場があるのか。
 被害者達が居るのかまでは、まだ判明していない。
 だからこそ、出来る限り広範囲を捜索するべく。
 冴島は封印を解く際の応用で、建物に自分の魔力を流し始めた。

 邪神の魔力の痕跡、視界を妨害する結界。
 彼は時折移動しながら、少しずつ調査を進めてゆく。

 ……ふと、小さな鳴き声が聞こえた。
 足元に視線を向けると、何時の間にか手伝っていたらしい。
 明るい茶色の毛並みを持つヤマネの子――灯環が、何かを咥えていた。

「これは……」
 其れは何処か温かみを感じられる、小さなぬいぐるみだった。
 動物の編みぐるみは泥だらけで、綿が零れる程に目に見えてボロボロで。
 ……こんな惨い事を、持ち主自身がやったとは思えない。

 そういえば、被害者の中に不登校になった者が居た筈だ。
 まだ、其の理由までは分からなかったが。
 もしかしたら、此れが関係しているのかもしれない。

「(彼は、きっと此処に居る)」
 此の建物の何処かで、助けを求めている。
 此の編みぐるみは、被害者の声無き声なのかもしれないと。
 視界を妨害する幻想の先、冴島は本来在り得ない空間を探り続ける。
 特に、自分が今居る場所を重点的に魔力を流し続ける内に――彼は、遂に見付けた。

 ……場所は、一階だ。
 幻想の扉の先、建物の構造上は在り得ない部屋が存在している。
 今ならばまだ、間に合う。今こそ、と駆け走る。
 彼は瓜江、灯環と共に、急いで其の場所へと向かうのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

リオン・エストレア
理想の死の夢
あまりに魅力的で、恐れるものでありながら
どこか惹かれる甘い幻想
その闇に惹かれるのは当然だと知っている
俺もまたそれを望む1人なのだから
その気持ちは理解ができる

死は救い
死は安らかなるもの
それが彼等の”死”の認識

俺は彼等を救うことは出来ない
彼等を苦しめる結末にしか導けない
多くを救う為に
誰かを捨てるしかない
幼き頃のあの時のように

俺は……
死霊達と共に儀式の跡を探そう
次の儀式が始まる前に
奴らに関わる何かが見つかるだろうから
魂の残滓まで見逃さずに調べ尽くす

より多くが傷つかない為にも
人から夢を奪う忌まれ者に
幸せな夢を壊す悪とならなければ

そして最後に
本当に消えられたのなら
なんて、唯の我儘か




 吸血鬼と聖者の間に生まれた、忌み子。
 光と影の狭間に沈み、深淵へと足を踏み入れる者。
 蒼き血流るる者――リオン・エストレア(黄昏へ融け行く”蒼”の月光・f19256)が還り着く場所は、一体何処なのだろうか。
 嗚呼、其れこそ……終わりは、死した先にしか無いのかもしれない。
 被害者である彼らもまた、同じ様な思いを抱いたのだろうか。

「(そうだとしたら、俺は……)」
 死は救い。
 死とは安らかなるもの。
 きっと其れが、彼らの死の認識なのだろう。

 彼らを救うことは出来ない。
 彼らの生命を守れたとしても、心までは守り切れない。
 己が導く結末は、彼らを苦しめるだろうと……リオンは重々承知している。

 理想の死の夢、なんて。
 恐ろしい筈なのに、何処か魅力的に聞こえてしまう。
 何とも甘い響きだろう、甘美な幻想なのだろう。
 其の闇に惹かれてしまうのは、当然だと彼は知っていた。
 ――彼もまた、其れを望む一人故に。其の気持ちは理解出来る。

「だが、次の儀式が始まる前に――」
 廃団地の内部を、リオンは死霊達と共に探索していた。
 虚実入り混じる空間、其れでも確かな輝きは存在している筈。
 被害者達の行方、彼らの魂の残滓まで見逃さない様に……彼は歩く。

「此処、か」
 建物の一階、奥まった所。
 幻想によって生み出されたドアの前に、リオンは立っていた。
 実際に触れてみると、ただの壁の様にも見える。
 だが……其処が行き止まりの様に感じられたとしても、魂は決して嘘を吐かない。

 彼が、壁を押す手に力を籠めれば。
 ずずっ……と、地面を擦りながら、何かが動く音が微かに聞こえてくる。
 恐らく、回転扉の様な仕掛けになっているのだろう。
 彼は、此の先に儀式場があると見たが……邪神が動き出すのはもう少し後の筈。
 他の猟兵達と合流した後、丑の刻に此の奥へ向かうべきか。

「(より多くが傷つかない為にも……)」
 人から夢を奪う忌まれ者に。
 しあわせな夢を壊す、悪とならなければ。
 幼き頃のあの時の様に、多くを救う為に誰かを捨てるしかない。
 ……解っている、解っているんだ。そうしなければならない事を。

 嗚呼……もしも、壊した先。
 最後に、本当に消えられたのならどれ程――なんて、唯の我儘か。
 足掻き続けるリオンを、内に秘める怪物が嗤った様な気がした。

成功 🔵​🔵​🔴​

木常野・都月
元々狐は夜行性。
最近は妖狐として昼行性の生活をしてるけど、夜中のこの時間帯は狐の時間だ。

流石に雪原のようにはいかないけれど、深夜の静けさの中なら、複数人の足音を探すのは、多分そんなに難しく無いはずだ。

感覚が鋭い狐の姿になって、[情報収集]をしよう。
[野生の勘、第六感]と、風の精霊様にお願いして、足音と人の匂いが集まっている場所を探そう。

見つけたら[ダッシュ]で集まってる人達の付近を捜索、儀式の場所を探そう。
事は邪神復活の儀式だ。
多分近くまでくれば、魔力なり精霊様なり、何か周囲の変化があるかもしれない。
それに邪神だからな。変な魔力の臭いがするかもしれない。

チィはどうだ?何か感じたりするか?




 子の刻――。
 深夜の静けさ、其れは狐の時間。

 背中に蒼白く光る小狐――月の精霊、チィを乗せて。
 日付が変わったばかりの頃、漆黒の狐が街を駆け抜ける。
 其れは、木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)が変化した姿だった。
 ……否、昔の姿に戻ったと言うべきか。

「チィ……」
「大丈夫だぞ、チィ」
 邪神の力が強まっているのか、嫌な予感が離れない。
 本能的な恐怖故か、チィが忙しなく首を左右に振り続けている。
 其れを見て……木常野は柔らかく、少しでも安心させる様に声を掛けた。

 邪神復活の儀式場。
 其の近くを駆けている内、何か周囲の変化があるかもしれない。
 ……流石に、雪原の様にとはいかないけれど。
 他の猟兵達から伝え聞いた儀式場に近付く足音を、彼は軽快な動きで追う。

 不自然な人の足音、妙な魔力の移動。
 離れた場所の匂いは、風の精霊様が運んでくれる。
 野生の勘や第六感も駆使して、彼は異変を突き止めるべく動くのだ。

「チィはどうだ?何か感じたりする――」
 ――全身の毛が逆立った。
 角を曲がった先、木常野とチィの視界に一人の女性が映った。
 片手にスマートフォンを持ちながら、不規則なリズムで歩いている。
 蕩けた笑みを浮かべては、足元から消え始めて……。

「チチィ――ッ!」
『……っ!?』
 女性の手に、チィが跳躍からの突撃!
 ……軽い音を立てて、其れが地面に落ちた瞬間。
 消え掛けている様に見えた女性の身体が、元に戻り始める。
 其れと同時。虚ろな目に生気が戻り、表情は驚愕一色へと変わっていた。
 チィは其のまま、落ちた物に対して警戒心を露わにし続けている。

「……うん。もう、変な魔力の臭いはしないな」
『狐が喋った!?って……あれ、此処は?』』
「覚えていないのか?」
『だって私、さっきまで友達を探してて……』
 別の通りを歩いていた。
 道中、道に迷いそうになった為、スマートフォンで地図を確認していた筈だと。
 だが……不思議と、其れ以降の記憶が無いらしい。

 でも、どうしてだろう。
 昔を思い出す様な、優しい夢を見ていた気がする。
 首を傾げている女性から、妙な魔力の臭いが消え失せた事を確認した後。
 木常野もまた、スマートフォンに視線を向ける。

「チィ……」
「そうだな、チィ」
 間違いなく、此れが失踪の原因だと。
 スマートフォンから妙な魔力が離れゆくのを見ながら、木常野とチィは頷き合った。

成功 🔵​🔵​🔴​

アンリ・ボードリエ
自死を望む気持ち…ボクにはよくわかりませんが、苦しかったり、寂しかったり…非常に辛いことは想像に容易い。
そんな気持ちを抱える人達を利用するような事…絶対にしてはいけないと思う。

La décadenceでツバメさん達の霊を【降霊】し、彼らにも手伝って頂きましょう。
ツバメさん、ツバメさん、どうか遠くまで羽ばたいて、件の儀式の場所を探していただけませんか。
早く失踪者達を見つけてあげなくては。
ボクもユーベルコードを使用し、翼を授かり、空からそれらしい場所がないか探してみましょう。
一人でも多くの人が手遅れになってしまう前に…邪神復活の犠牲になるにしても、自ら死を選ぶにしても。




 アンリ・ボードリエ(幸福な王子・f29255)は、思う。
 自死を望む気持ち、其れを完全に理解する事は難しいけれど。
 苦しかったり、寂しかったり……非常に辛い事は、想像に容易い。
 そんな気持ちを抱える人達を利用するような真似は、絶対にしてはいけないのだと。

 ――La décadence。
 ツバメ達の霊を降ろして、彼は助力を願う。
 遠くまで羽ばたき、儀式場の周辺を警戒して欲しいと。
 自身もユーベルコードを使用して、背中に光る翼を生み出した。
 消え掛けている蝋燭の灯りの様な其れは……時折揺らめきながらも、アンリの決意を示す様に決して消える事は無い。

「急ぎましょう」
 手遅れになってしまう前に。
 もっと高く、もっと速く飛ばなければ。
 邪神復活の犠牲になるにしても、自ら死を選ぶにしても。
 其れは自らが選択する事であり、他者に決められる事では無い筈だ。

 ツバメ達とこまめに情報共有を行いつつ、アンリは空を翔ける。
 そんな中、彼らが見付けたのは……目に見えて様子がおかしい少女の姿だった。
 ――嫌な予感がしますね。
 彼は直ぐに地上に降り立ち、少女の前に立ち塞がった。

『ふふっ、嬉しい……』
 其の容姿は、他の猟兵達から聞いた女子中学生と酷似していた。
 彼女の瞳は明らかに、アンリを捉えていない。
 スマートフォンを手に虚空を見つめて、覚束無い足取りで歩き続けている。
 恐らく、邪神が見せている夢に囚われているのだろう。
 彼は少女が再び姿を消すよりも早く、ツバメ達に原因――彼女が持つスマートフォンを落とさせた。

 すると……ぴたり、と彼女は足を止めて。
 アンリを、そして周囲を不思議そうに見回していた。

「大丈夫ですか?」
『あ、れ?私、何で此処に……?』
「覚えていないのでしょうか?」
 アンリの問い掛けに、少女はこくりと頷いた。
 部屋で横になりながら、スマートフォンを操作している内に……不思議な夢を見ていた気がする。
 単に寝落ちしたのかと思っていたが、どうして外に居るのか。
 少女自身も解らず、困惑しきりと言った所だ。
 同時に、彼女が手にしていたスマートフォンから何かが離れる様に抜けていく。
 彼女と邪神との繋がりは途絶えた、と考えて良いだろう。

「そろそろ、ですか……」
 刻々と、時間は過ぎてゆく。
 女子中学生を家へと送った後、アンリは儀式場たる廃団地へと向かおうとする。
 ……彼女の行く末に幸多あらん事と、静かに祈りながら。

成功 🔵​🔵​🔴​

兎乃・零時
💎🌈
※アドリブ歓迎

一度死んじまうのか…
実際に死なねぇとはいえ、どんな感じなのかな…

正直痛いのも死ぬのも嫌だ
でも、それに恐れちゃ夢も叶わない
何より…怖がる彼女を不安にさせたくない
だから安心させるように彼女の手を握る

大丈夫!なんかあっても俺様が全力で護ってやるし、引き上げて見せっから!

流石に死ぬのは確定事項らしく
そこは防げない
だからせめて心だけでも護りたい
それぐらいはしてあげたいのだ
だって大事な友人なんだ
友達が大変な目に合う方が、よほどいやだ

そんじゃどうすっか…
アイツらは現地に集合する

‥なら待ち伏せ出来るよう広い視界で…
よし!
パル呼びつつ
俺様の箒に乗って空から怪しい場所を見つける様に動こうぜ!


音海・心結
💎🌈
※アドリブ歓迎

……ね、零時
みゆたち一度、死んじゃうみたいですよ

本当に死ぬ訳でなくても少しは怖い
ゆっくりと彼に手を伸ばして、掴む

共に居られるのなら
怖いものはないと思いましたが
実際目の当たりにすると……

薄紅の唇や聲が震える
今まで怖いものなんてないと思っていた
でも大切な彼を
大切になってしまった彼を――

作り笑みで笑めば
言葉少なに箒の後ろに乗り、高く高く天へと
空から怪しい人だかりがないか目視確認
彼方へ此方へ漂い、彼やパルと協力して
見つけたならバレないように尾行
小声で秘密話をするように話し、
徐々に緊張感は抜けているように見えた
いや、必死に忘れようとした

……この不安が零時に伝わりませんように




 高く、高く、もっと高く。
 彼の箒に乗って、天へと向かう。
 星々が掴める気がする程、高くまで。
 こんなにも綺麗な夜空を二人で見られるなんて、嬉しくない訳がないのに。
 きゅっ、と。静かに唇を引き結んで、音海・心結(瞳に移るは・f04636)は思う。
 ……お願い。どうか、この不安が彼に伝わりませんように。

「心結、どうした?」
 怪しい人だかりや、廃団地の状況の変化など。
 兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)の箒に乗って、音海と彼の式神――紙兎パルは目視確認による警戒にあたっていた。
 そんな中、彼はふと振り返る。
 いつもより言葉少ない音海の様子が、少し気になったのだろう。
 出来る限り、聲が震えない様に気を付けながら……彼女はぽつりと零した。

「……ね、零時」
「ん?」
「みゆたち一度、死んじゃうみたいですよ」
「だよな。実際に死なねぇとはいえ、どんな感じなのかな……」
 本当に死ぬ訳ではない。
 だが、避ける事が出来ない死の夢。
 邪神の領域に侵入すれば、強制的に引き摺り込まれるのだろう。

 死ぬ事は確定事項。
 防ぐ事は決して出来ず、例外無く死ぬ。
 其の上、夢を見せられている間は離れ離れにされてしまう。
 ……恐ろしくないと言えば、嘘になる。
 ゆっくりと伸びる音海の手は、其のまま兎乃の手に重ねられて。
 そんな彼女の手を、兎乃は強く……安心させる様に握った。

「大丈夫!」
「零時?」
 正直、痛いのも死ぬのも嫌だと……兎乃は思う。
 けれど、其れに恐れていては夢も叶わない。
 何より……怖がる彼女を、不安にさせたくないと思うから。
 にっこりと、彼は眩い笑みを浮かべる。

「なんかあっても俺様が全力で護ってやるし、引き上げて見せっから!」
「……ありがとですよ、零時」
 兎乃の心強い言葉に、音海は微笑みで返す。
 其れは作り笑みながらも、ほんの僅かな安堵が込められていた。

 共に居られるのなら、怖いものはないと思っていたけれど。
 実際、目の当たりにすると……そんな事は無いと思い知らされる。
 そんな思いを抱く程に、彼の事が大切になってしまった。
 とても大切で、喪いたくないと――。

「(だって、大事な友人なんだ)」
 ――せめて、心だけでも護りたい。
 再び正面を向いて、兎乃もまた内心呟いていた。
 死を免れる事が出来ないなら、其れぐらいはしてあげたい。
 昔話に出てくる最強の魔術師なら、きっと出来る筈。
 目指すのは全世界最強最高の魔術師、友達の心を守れなくて何が最強最高だ。
 それに、友達が大変な目に遭うのは……よほど、いやだから。

 彼方へ此方へと漂いながら、地上の様子を見遣る。
 其の間に、様子がおかしい人々の影が見えたが……既に他の猟兵達が救出に動いてくれていて。
 他の人々の様子をパルと共に確認したが、特に異変は無さそうだ。
 気付いた時には……二人は小声で、秘密話をする様に雑談をしていた。

 クリスマスの、サンタ捕獲大作戦。
 ソフトクリームを片手に、見頃を迎えつつある桜を眺めた事。
 楽しかった思い出を語り合う内に、徐々に緊張感は抜けていく様に見えた――直後、時計の針が午前二時を示す。

「零時、あれ……!」
「ああ……行こうぜ、心結!パル!」
 廃団地の嫌な気配が、益々強くなってゆく。
 贄たる人々を自分の元へ誘おうとしていたが、妨害されてしまった為だろう。
 ……最早、気配を隠そうとする事は無く。
 寧ろ、妨害した者達――猟兵達に狙いを変えたかの様にも見える。

 仮初の死。終焉の夢。
 本当はまだ少しだけ、音海は怖いと思う。
 必死に忘れようとした恐怖が、再び込み上げ始める。

 何があっても全力で護ると、引き上げてみせると言ってくれた。
 そんな心優しい大切な人が――兎乃が、死んでしまう。
 自分が死ぬ事よりも、彼女にとってはそっちの方が恐ろしくて。

「(……みゆも、零時を守りたいのです)」
 でも、守られるだけではなく。
 大切な人を守る、二人で一緒に帰るのだと。
 其の覚悟を決めて音海が頷けば、兎乃は彼女の手を握り締める。
 二人は箒に乗ったまま、パルと共に廃団地へと急行するのだった。 


 おかあさま。
 わたしたちは、ここに、います。
 たくさんの『心』を集めましょう。
 欠片が足りないのならば、多くの『心』で補いましょう。

 おかあさま。
 見えていますか、聞こえていますか。
 ――は、ここに、います。ここに、確かに。

 幸福な死を。
 とても幸せな、望む終わりを。死合わせな夢を。
 ――逃避の対価は、皆様の『心』で。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『老朽団地(ゴーストタウン)へようこそ』

POW   :    人が住んでそうな部屋を一軒一軒訪ねて根気よく聞き込み

SPD   :    外から人の出入りが不自然に多い棟を探す

WIZ   :    集会所など団地事情に詳しい人がいる場所に目星をつけて情報収集

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【お知らせ】
 プレイング受付開始は『3月26日(金)8時31分(予定)』からとなります。
 導入は今暫く、お待ち下さいませ……。
**********

●耽溺
 廃団地のとある扉。
 幻想で隠された壁を強く押して、回転扉を開く。
 其の先にある道を、猟兵達は少しずつ進み続けていた。

 此の先に邪神、被害者達が居るのだろう。
 気配もはっきりと感じられるのに、やけに静かだと。
 誰かの呟きが耳に届くと同時に――夜が、猟兵達を見つめていた。

『――――』
 ぞくり、と。
 肌が粟立つ様な錯覚に陥った途端、暗転。
 猟兵達は散り散りとなり、真っ暗闇の中にぽつんと立っていた。
 共に依頼へ赴いた筈の仲間の姿も、今は見えない。
 邪神は何処に行ったのか、仲間を探さなければと足を踏み出した……筈、だった。

 ある者は、大切な作品に埋もれながら静かに息を引き取った。
 ある者は、己が最も信頼する人に看取られながら痛み無く終わりを迎えた。
 ある者は、幼い頃の幸せに浸りながら眠る内に心音を止めた。
 ……穏やかに、安らかに。そう、望んでいたのでしょう?
 怖がる事などありはしない、君達にもしあわせは齎されるのだから。

『あまねくすべてに、しあわせな夢を』
 すべては、夢。
 意識的だろうと、無意識だろうと。
 猟兵達の理想を反映した、とても甘い終わりの夢。

 勿論、外傷は無い。
 君達の精神だけが、夢に囚われているだけ。
 だが……もしも、終焉(ゆめときぼう)を受け入れたならば。
 肉体は息をする事を忘れて、瞼を開く事さえも忘れて。
 対価を奪われ、本当の終わりを迎えてしまう。

 夢魔に『心』を奪われてしまう前に。
 心地良い夢想に抗え、己を抱く腕を振り払え。
 ――目を醒ませ、猟兵達よ。

**********

【プレイング受付期間】
 3月26日(金)8時31分 ~ 3月27日(土)23時59分まで

 本章では例外無く、各々の理想を反映した死の夢を見る事になります。
 見る事が出来る夢は一人につき、一つだけとなります。
 また、ペアもしくはグループ参加の場合、個別の描写となります。
 本章での合流は出来ませんので、御注意下さい。

 過去、現在、未来。
 もう居ない誰かの代わりに?
 或いは、有り得ない幸福に包まれながら?其れとも……?
 皆様の終焉(ゆめときぼう)を是非、プレイングにてお聞かせ願えればと。

 もしも、夢に溺れたままでいたいと願う人が居ましたら。
 プレイング冒頭に『★』の記載をお願い致します。
 其の場合、苦戦判定とさせて頂きますので御了承頂ければと思います。
 (尚、第三章開始時点で、目覚めた猟兵の誰かに救出される事になります)

 皆様のプレイングを心より、お待ち申し上げております。
木常野・都月
俺は野生の中で生きてきた。
だから、本能で絶対に生き抜こうとする。
俺にとって当たり前の事。

でも…無意識に、猟兵になった頃から気付いている。
死ねばいつでもじいさんに逢える事。
それは、骸の海を知ったから。

生きているのに、死にたい。
そんな事、生きてる者が思ったら駄目なのに。

だけど、死にたくないって思いながら、俺の知らないどこかで喜んでる。

あぁ、じいさん。
俺、思ったより、いっぱい頑張れたよ。

素性の分からない俺だけど、じいさんが俺を助けたみたいに、俺も誰かを救えたんだ。

でも、じいさんに会うために死んだって言ったら、きっとじいさん、怒って悲しむ。

本当の死がくるまで、俺、もう少しだけ、頑張ってくる。
またな。



●帰心
 ――生きて、生きて、生き抜かねばならない。
 野生の中で生きてきた、木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)にとって……其れは当たり前の事だった。
 生存本能故に、彼は進んで死ぬ事を考えてはいない。

 だが、もしも……己の命の音が途絶えたならば。
 骸の海で、いつでもじいさんに逢えるのではないかと。
 無意識の内に気付いたのは、彼が猟兵になった頃からだったか。

『都月。お前はよく、よぉく頑張った』
「じいさん……」
 もういいんじゃないか。
 沢山頑張っただけ、ゆっくり休んだって罰は当たらない。
 ……皺だらけの手が、木常野へとゆっくり差し伸べられていた。

 森で生きる自分を、助けてくれた手。
 妖狐として生きる為に、多くの事を教えてくれた手。
 教えてもらった事が初めて出来る様になった時、自分を優しく撫でてくれた手。
 此の手を取れば、もしかしたら……。
 じいさんと、また一緒に居られるかもしれない。

 生きているのに、死にたい。
 そんな事……生きてる者が思ったら駄目なのに、いけないのに。
 死にたくないって思いながら、彼の知らないどこかで喜んでいて。

「俺……思ったより、いっぱい頑張れたよ」
『そうじゃな……』
「じいさんが俺を助けたみたいに、俺も誰かを救えたんだ」
 出自も分からないまま、素性の分からない妖狐だけれど。
 友と、仲間と共に多くの戦場を駆け抜けてきた。

 じいさんと、もっと話したい。
 色々な世界の話をしたい、喜んで欲しい。
 またあの日々みたいに、傍に居たい。そう、木常野は思うけれど。

 でも、じいさんに会う為に死んだって言ったら……きっと怒って悲しむ。
 彼の知るじいさんは、そういう人だから。
 もう少しだけ。いつか天寿をまっとうする、其の日が来るまでは――。

「俺、頑張ってくる。だから……じいさん、またな」
『そうか……のう、都月』
「……?」
 木常野へと伸びた手は、彼の手に触れず。
 彼の頭を緩やかに撫でてから、翁は穏やかな笑みを浮かべていた。

 ――気を付けて行っておいで。
 じいさんの手の温もりは、あの頃と全く変わらなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シャト・フランチェスカ
清潔すぎる真っ白な箱庭
ロアやミュリエルがお見舞いに毎日寄ってくれたから
あたしは幸せだったと思うの
ふたりが看取ってくれるなら
未練なんて何ひとつ――

ぐしゃりと原稿を捨てるように
おかしな心象風景を振り払う

僕はきみの後悔の残滓
桜の樹に縛られた紛い物
きみには彼らがいた
僕には誰もいない
だというのに、まだ我儘を言うの

『シャト』。
僕はきみという枷から逃れたい
代用品じゃない『僕』になれるなら
孤独でいい
死んでもいい
ただ、僕として
微睡むように目を閉じて

ああ
本当にそうだろうか

我儘は僕のほう
赦せるものかよ
僕をこんな「ひと未満」に創った神様が憎い
僕に代わりをさせるきみが憎い
僕が、僕を、憎くて

この刃が、
己の心臓に届いたら。



●遺体、痛い、僕になりたい
 清潔に保たれた、真っ白な箱庭。
 アルコールの臭いが、鼻を突き刺すにもかかわらず。
 其れが当たり前であるかの様に、二人は気に留める素振りを見せない。
 ……否、そうするだけの余裕が無かったのだろう。

 ――シャト、シャト……!

 夜が、紅が名前を呼ぶ。
 悲しい哉、海の様な青の瞳はもう見る事は出来ない。
 病に倒れて、落命した少女は……幸せそうに微笑んでいた。

 ロア、ミュリエル。
 そんな悲しい顔をしないで、あたしは幸せだったと思うの。
 ふたりがお見舞いに毎日寄ってくれたから。
 ふたりが看取ってくれるなら、未練なんて何ひとつ――。

「(巫山戯るな)」
 ぐしゃり、と紙を握り潰す様な音が聞こえた気がした。
 シャト・フランチェスカ(侘桜のハイパーグラフィア・f24181)は原稿用紙を捨てる様に、眼に映るおかしな心象風景を振り払う。

 しあわせ?
 こんなのは、ただの我儘でしょう?
 僕はきみの後悔の残滓、桜の樹に縛られた紛い物。
 きみには彼らがいた、僕には誰もいない。
 だというのに――きみはまだ、我儘を言うの。

「シャト」
 己ではない、少女の名を呼ぶ。
 其れはきみのしあわせであって、僕のしあわせじゃない。
 ――きみという枷から逃れたい。
 其れが『シャト・フランチェスカ』と呼ばれる桜の精の、心からの望みだった。
 
 代用品じゃない『僕』になれるなら。
 看取ってくれる誰かなんて、居なくても構わない。
 ……孤独でいい、死んでもいい。
 ただ、僕として微睡む様に目を閉じられたら――本当に?

「(ああ……本当に、そうだろうか)」
 ――赦せるものかよ。
 そうだ、我儘は僕の方。恨めしい、羨ましい。どうして。
 僕を、こんな『ひと未満』に創った神様が憎い。
 僕に代わりをさせる、きみが憎い。
 僕が、僕を、憎くて……内側を焼き尽くす様な憎悪が、痛い。

 気付いた時には、シャトの手にカッターナイフがあった。
 刃毀れは酷く、錆び付いているけれど。
 此の刃が、己の心臓に届いたならば。

「(きっと、夢から醒める筈)」
 夢から醒めたとしても。
 どうせ、枷(きみ)から逃れる事は叶わないのだろうけれど。

成功 🔵​🔵​🔴​

百鬼・智夢
父の死因は事故死
誕生日にリアムを貰って数ヶ月も経たない頃
私は小学校に行く途中で、父が見送りに出てくれて
そこに車が突っ込んで来た
父は私を庇って亡くなった
私の、目の前で

その日から私は……勇気を無くしてしまった
叶うなら私が代わりに死にたかった
そしたら不登校で母を悩ませる事もなかったのに

夢に溺れかけて
けれど突然リアムから聞こえてきた声に驚き

『死ンデハイケナイヨ、智夢。ソンナ夢ニ囚ワレテハイケナイ。
 サァ、パパト一緒ニ帰ロウ』
「リアム……パ、パ……?」
『智夢ハ僕ガ守ルカラネ。ズット、ズット……』

放たれた【破魔】が夢を打ち破り
けれどその時にはリアムはただのぬいぐるみに戻っていて

今のも、夢……?
それとも……



●悪魔ハ見テイル
 ねぇ、パパ。
 パパは怒るかもしれないけれど、ずっと思っていた事があるの。
 叶うなら、あの日……私が代わりに死にたかった。
 そうしたら、不登校で母を悩ませる事もなかったのに。

「(あ、れ……?)」
 気付けば、百鬼・智夢(慈愛の巫女・f20354)は小学校へ続く道を歩いていた。
 目線の高さも低くなっていて、片方の手でテディベアを抱き締めて。
 もう片方の手は、穏やかな雰囲気の男性と繋いでいる。
 ……見間違える筈も無い。

「パパ……?」
『なんだい、智夢?』
 其の場にしゃがんで、目線を合わせながら男性――百鬼の父親が名前を呼ぶ。
 ただ、其れだけの事が懐かしくて、嬉しくて。
 思わず涙が溢れそうになるが、彼女はぐっと堪えた。

 はっきりと覚えている。
 凄惨たる光景は、百鬼の心に深い傷を残していた。
 あの時、彼女の目の前で……父親は彼女を庇い、亡くなった。

 其の後は、どうなった?
 母子家庭である事を揶揄され、高い霊感が災いして陰湿なイジメを受けて。
 追い詰められた結果、不登校になった事で……母を悩ませてしまった。

「(今度は、私が……)」
 もう少しで、あの事故が起きる。
 父親に庇ってもらう前に、転んだ振りをして前に出よう。
 ……ごめんなさい。百鬼が心の中で、両親への謝罪を呟いた直後だった。

『死ンデハイケナイヨ、智夢』
「えっ……?」
『智夢?何かあったのかい』
『――黙レ、ニセモノ』
 百鬼が抱き締めていた、テディベア――リアムの瞳が淡く光っている。
 驚きのあまり立ち止まるも……夢の中の父親には、聞こえなかったのだろう。
 するりと、繋いだ手が離れてゆく。
 そして、再び其の手を繋ぐ事はリアムが許さない。

『サァ、パパト一緒ニ帰ロウ。ソンナ夢ニ囚ワレテハイケナイ』
「リアム……パ、パ……?」
『智夢ハ僕ガ守ルカラネ。ズット、ズット……』
 リアムを中心として、真白の光が溢れ出す。
 高められた破魔の力が、邪神が見せる夢から百鬼を隔離する様だった。
 あまりの眩さに彼女が目を瞑り、ゆっくりと開くと……先程まで見ていた光景は、跡形も無く消え失せていて。

 ――今のも、夢……?
 知る必要は無いよと、姿無き誰かがくすりと笑った。

成功 🔵​🔵​🔴​

シャオロン・リー

しあわせな、死の夢
俺がいなかった場所、辿り着くことも出来ひんかった場所
俺たちの、【鋼の鷲】のアジト…仲間がみんな死んだ、あの日の
俺は、この日に、ここで死ぬべきやった!!

俺の手には一振りの槍
ああそやな、何の仕掛けも名前もない、折れる前の一本きりの槍や
それから…俺らのアジトに土足で上がり込んできた奴ら

間に合うことさえ出来とったら
銀の人狼、俺の相棒が居った筈や
潮時やなとか頭領の命令違反やななんて言うて笑て
せやけど俺らは戦うことしか知らんしな

俺はこの日に、ここで戦って死ぬ
暴れ尽くして、敵を屠るだけ屠って死ぬ
俺だけが此処に居らんと生き延びたなんて嘘や
皆が此処で死んだんやから、俺もそうなるべきやったんや



●乱戦の果て
 【鋼の鷲】が壊滅した日。
 あの日、あの時――シャオロン・リー(Reckless Ride Riot・f16759)は戦うどころか、アジトに居る事さえ出来なかった。
 其の事実があるからこそ、彼は今も生きている。
 だが、何度後悔した事だろう。どれ程、切に願っただろう。
 ――俺は、この日に、ここで死ぬべきやった……!

「仰山おるなぁ、上等や」
『頭領の命令違反やな』
「……せやな。ま、潮時にド派手な花火上げるのも悪ないやろ」
 銀の人狼が、紅の暴竜――シャオロンが笑う。
 自分達のアジトに土足で上がり込んで来た者達を見て、嗤う。
 大人しく投降しろ?少しでも動けば射殺する?
 はっ――随分と【鋼の鷲】をナメてくれたものだ。

 多勢に無勢は百も承知。
 何の仕掛けも、名も無き朱塗りの槍を器用に回転させてから。
 シャオロンは両手で持ち、即座に構える。彼の周囲に、紅蓮の炎が舞った。

『行くで、Fafnir』
 相棒との間に、返事など必要ない。
 人狼の咆哮を聞いて、敵の一部が恐怖のあまり足を止めてしまう。
 其の隙を見逃す程、暴れ竜は優しくない。

 銀の人狼が爪で引き裂き、吼える。
 紅の暴竜が存分に槍を振るい、敵の心臓を穿つ。
 二騎当千。彼らと相対して、立ち続ける者は居ないと言わしめる程の力。

 ……だが、敵の数が多過ぎた。
 敵もまた人数差の利を活かして、二人を確実に疲弊させてゆく。
 呼吸が乱れる、赤い服には幾つもの赤黒い染みが出来ている。
 そして――何人屠ったかもわからぬまま、シャオロンは地面へ倒れ伏した。

「はっ……暴れ……足りん、なぁ……」
 相棒の猛る声が聞こえない。
 シャオロンの声も、騒々しい声の数々に掻き消されてしまう。
 予想以上の損害に慄く敵の声もまた遠く、遠く。

 ……此れで良かったんや。
 暴れ尽くして、敵を屠るだけ屠って死ぬ。
 きっと、今此の時こそが現実の続きで。
 俺だけが此処に居らんと生き延びたなんて、嘘だったんや。

「たの、し……かっ……」
 嗚呼――本当に、楽しかったなぁ。
 皆が此処で死んだんやから、俺もそうなるべきやったんや。
 ニヤリ。とびきり満足気に笑いながら、シャオロンは静かに眠りについた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

志島・小鉄
(人間サマの姿デス)

真っ暗デスネ~。何も見えマセン!
ははぁ。困りマシタ。おぅい、モグサン~。
モグサンの声も聞こえマセン。
おぅや。アレはわしのよぅく知る光景デス。
人間サマが沢山居りマス。わしは人間サマに囲まれておりマス。
わしは人間サマの様々な感情が大好きデス。
人間サマがわしに感情ヲ差し出して来マス。

妖怪は恐ろしゐデスヨ。妖怪は見えてはいけないのデス。
デスガこんなにも沢山の人間サマに囲まれて
しかもわしが昔々二世話になった皆様二囲まれて幸せデス。
此処は夢ノ中でせうか。昔々ノ皆様はもう居マセン。
夢でも会えて嬉しゐデス。有り難う御座ゐマス。

わしは暗闇ノ中ヲ歩きマス。
おぅい。モグサンや~。



●懐かしき日々
「おぅい、モグサンー」
 ――ほいさ!出番デスぞー。
 普段ならば、そんな陽気な声が聞こえて来る筈なのに。
 声だけではなく、気配すら感じられない。加えて、真っ暗で何も見えない。

「ははぁ。困りマシタ」
 志島・小鉄(文具屋シジマ・f29016)は、思わず溜息を一つ。
 今も尚、彼は『人間サマ』の姿を維持している様だ。
 ……いやはや、此の暗闇は何処まで続くのだろう。
 そも、他の猟兵達の声すら聞こえなくなっているのは不自然だと。
 そんな風に考えつつ……探偵の先輩である土竜の名前を呼び続けながら、彼は暗闇を歩き続けていた。

「おぅや。此処は……」
 瞬き一つの内に、志島の視界に映る景色が切り替わるとは。
 これはこれは、なんとも不思議な現象だろうか。
 其れに、此れは彼がよぅく知る光景で……。
 物腰柔らかな女性が、活発な少年が。彼に気付き、笑みを浮かべていた。

『おやまぁ、小鉄さん』
『探偵さーん!』
 あっという間に、志島の周囲に人が集まってゆく。
 其れと同時に、彼に差し出されるのは――数多くの、様々な感情だった。
 今の彼は人の姿なれど、彼らは妖怪としての姿を見ているのだろう。
 ……あゝ、あゝ、されど夢は夢に過ぎない。

「(昔々ノ皆様はもう居マセン、カラ)」
 彼らの顔は覚えている、世話になった恩を忘れる訳が無い。
 こんなにも、沢山の人間サマに囲まれるなんて。
 大好きな人間サマの感情を沢山、沢山貰えるなんて。
 夢でも、昔々二世話になった皆様二また会えて幸せデス。

「嬉しゐデス。有り難う御座ゐマス」
 デスガ、妖怪は恐ろしゐデスヨ。
 夢ノ中でも、妖怪は見えてはいけないのデス。

 人々に囲まれながら、志島は遠くを見遣る。
 其処は先程の様な暗闇で、周囲の人々は見てはいけないと止めるけれど。
 彼は迷わず、暗闇へと足を進めて行く。
 ……有り難う御座ゐマス。
 もう一度だけ礼を告げた後、彼は夢に背を向けるのだった。

「おぅい、モグサンやー?」
 再び、暗闇の中を歩き始めたけれど。
 土竜の声が聞こえる様になるまで、もう少し掛かりそうだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

誘名・櫻宵


此処がその場所ね、カム…!
崩れ落ちるように暗転する

桜が咲いている
ふかふかの布団の上で眸を開けば

─おはよう、お兄様!
明るく笑う妹が笑う

─美珠。いけませんよ
妹の優しい母が彼女をおさえる

─お前は寝坊助だね
呆れたように笑う炎竜の義兄がいる

─そう言いなさんな、若様はお疲れなのだ
じぃやが笑って義兄を窘めて

─さっさと起きなさいよ!
心の醜い巫女が急かし

─もう少し寝かせてあげません?
醜い顔を隠す心の美しい巫女が苦笑する

─遊びましょ!
元気に告げるのは側仕えの友

─櫻宵
暖かな母上の微笑みが包む

こうなればよかった
ならなかった
皆、私の腹の中
愛呪の贄
きっとそれこそ夢


生きている
罪悪感も呪もない心地よい春の中で

もう少しだけ



●呪影無き春
「此処がその場所ね、カム――っ!?」
 足元が崩れ落ちた様な、そんな感覚。
 誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は思わず手を伸ばすが、届かない。

 ――サヨ!行かないで、サヨ……!
 朱桜の声が聞こえる。
 嗚呼、なんとかぁいらしい。
 大丈夫、大丈夫よ。私に何かあれば、神なる華が咲き誇るのでしょう?

「(何処まで、落ちてゆくのかしら)」
 終わりは唐突だった。
 何時の間にか目を閉じていたらしく、目蓋越しに日差しを感じていた。
 静かに目を開けると……其処には、美しい桜が咲いている。

 何が起きたのだろう?
 此処を、此の屋敷を彼は知っている。
 布団から起き上がった状態のまま、誘名がぼんやりとしている内に……誰かの足音が聞こえて来る。

『おはよう、お兄様!』
「美、珠……?」
 どう、して。
 其の一言を紡ぐ事も出来ず、息を吐き出すだけ。
 明るく笑う少女――妹の美珠は、不思議そうに首を傾げていた。
 後に続く様に現れた女性――美珠の母が、彼女を宥める様におさえるけれど。
 其れもまた、誘名にとっては本来有り得ない出来事。

『美珠、いけませんよ』
『ごめんなさい……お兄様、行きましょう!』
 誘名よりも小さな手が早く、早くと引いた先。
 広間では老若男女問わず座っており、彼が現れると各々の反応を示していた。

『お前は寝坊助だね』
『そう言いなさんな、若様はお疲れなのだ』
 呆れた様に笑う炎竜の義兄を、じぃやがやんわりと宥める。

『さっさと起きなさいよ!』
『もう少し寝かせてあげません?』
 心の醜い巫女、醜い顔を隠す心の美しい巫女。
 正反対の言葉はまるで、彼女達の心の在り様みたいだと誘名は思っていた。
 たったったっ。庭園から足音が聞こえて、其処には――。

『おはよう、櫻宵!遊びましょ!』
 側仕えの友の元気一杯な声に、返す事も出来ないまま。

『櫻宵』
 暖かな、春の陽だまりの様な。
 穏やかな母上の微笑みが、誘名の心を包み込む。
 こうなればよかった。皆、生きている、笑ってくれている。

 でも、こうならなかった。
 皆、私の腹の中。愛呪の贄となった。
 其れこそが、妹の言う通り夢だったのだろうか。
 ……そうは思えない、けれど。其れでも、簡単に振り払う事など出来ない。

 嗚呼、もう少しだけ。
 罪悪感も呪もない、心地よい春に浸らせて。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

朱赫七・カムイ
──いけない
サヨの障りになる

慌てきみに手を伸ばし──掴んだのは

いつかの「君」の細い腕

カグラ……いいや、イザナ
不思議そうに君は首を傾げて、どうしたのだと笑む君

泣きたくなるくらい懐かしい
されどこれは戻らぬ日々だと壊れそうなくらい
解るのだ

お前は独りではないよ、神斬

優しい声
君は、私を独りにしない為に桜となったと知っている

イザナ
私はもう神斬ではないんだよ

イザナ
『私』は君の隣りで眠れたかな
ずっとずっと望んでいた
不死などかなぐり捨て
天へ廻る君の隣へ逝きたいって

でも
伸ばされる手を握り掌に接吻をおとす
驚いたように見開かれる眸に笑む

私は朱赫七・カムイ

イザナサヨ
今を生きるきみの元へ行くよ

今度こそ
私はきみを救う

約束だ



●今生の約束
 此れは、駄目だ。
 いけない。サヨの障りになる。
 朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)は、即座に理解するも。
 そう思った時には、サヨとの縁を薄める様に『何か』が覆う気配がした。

「サヨ!行かないで、サヨ……!」
 朱赫七は咄嗟に手を伸ばしたが、掴んだのは――サヨじゃない。
 カグラ?……いいや、人形の腕では無い。
 此れは、いつかの『君』の細い腕。

『どうしたのだ、神斬』
 誘七の始祖、イザナイカグラ。
 巫女たる彼と同じ貌で、『君』は静かな笑みを湛えている。
 夜空の向こうでは、大輪の焔華が咲いていた。
 此れは何度目の花火の夜だろう。ああ、噫、其れよりも。

 ……泣きたくなるくらい、懐かしい。
 戻らぬ日々だと云う事実が、朱赫七の其の気持ちを増幅させる。
 解るのだ。彼は、此れが夢だと痛い程に理解していた。

 自分は今、どんな顔をしているのだろう。
 置いて逝かれた様な、寂しさが滲み出ていたのだろうか。

『神斬』
「イザナ……」
『お前は独りではないよ、神斬』
 お前が望むのならば、此のまま共に居ようと。
 声と同じ様に、イザナの手が朱赫七へと優しく差し伸べられる。
 だが……彼は其の手を、直ぐに取る事が出来なかった。
 イザナは『神斬』を独りにしない為に、桜となったと知っているからこそ。

「私は、もう神斬ではないんだよ」
『そうだな』
「イザナ……『私』は、君の隣りで眠れたかな」
『……『神斬』は櫻宵の力で、廻る天へと葬送られた』
 其れこそが答えだと、イザナは笑む。
 不死などかなぐり捨て、天へ廻る君の隣へ逝きたい。
 ずっと、ずっと。抱いていた思いは、願いは、果たされていたのか。

 イザナは問う。
 今生のお前は――朱赫七・カムイは、どうしたいのかと。
 彼は、自分へと伸ばされた手を握り……掌にそっと、接吻をおとす。
 驚いた様に目を見開くイザナを目に焼き付けて、彼は何も言わずに背を向けた。

「イザナサヨ、私の巫女」
 今度こそ、私はきみを救う。約束だ。
 だから……今を生きる、きみの元へ行くよ。
 サヨ、サヨ。どうか応えて、私の名前を呼んでおくれ。
 きみが呼んでくれるのならば、きみの聲を辿り、きっと何処へだって行けるから。

 ――聞こえるわ、カムイ。
 愛おしい声と共に、最愛の桜の香りを感じた気がした。
 噫……もうきみを離さない、ひとりにはしないよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
誰も居ない世界の果てで一人
もう一人の自分と向き合っている
彼だ
この身体の本来の主たる魂

目覚めたのかい
ならばやっと、オレは貴方にこの身体を返せる
貴方が目覚めたならそれでいい
あの人が望んだ貴方ならば、この身体を惜しみなく返せる

そう言って彼の手を握る
オレの中にあった何かが彼へと渡る感覚
彼が実体を帯びてきて、オレは少しずつ朽ちていく
これでいいんだ、やっと望みを果たせた

――そう思っていた、はずなのに

オレたちは気づけば互いに手を放していた
オレから渡る筈だった体の主導権を渡すのを
惜しいと思ってしまっている
記憶の中の友が、オレと会えて良かったと言っているんだ

あの人に望まれぬ朽ちかけたオレでも
まだもう少し
生きたい



●唯一無二
「此処は……」
 其処はまるで、故郷の様な極寒の地。
 其処は、誰も居ない世界の果て。
 其の中心に、ディフ・クライン(灰色の雪・f05200)は一人立つ。

 先程まで肩に乗っていた、雪精の姿も見えず。
 代わりに、彼の正面に立つ……否、浮かび上がっていたのは。
 ――嗚呼、彼だ。
 穏やかに微笑む彼こそが、此の身体の本来の主。其の魂。
 あの人が望んでいたであろう、本当の『ディフ』の姿だった。

「目覚めたのかい」
『嬉しいのかな、ディフ』
「……そう、だね。やっと、オレは貴方にこの身体を返せる」
 あの人が望んでいた、貴方にならば。
 此の身体を惜しみなく返せる、貴方が目覚めたならそれでいい。
 浮足立つ様な感覚にも気付かぬまま、ディフは歩みを進めて……そっと、彼の手に触れた。

 ずっと、ずっと考えていた。
 血塗れの手で鳥籠の扉を開かれた、あの日から。
 今更遅いかもしれないけれど、あの人の望むオレに成る事が出来るならば。

 ……いや、もう考える必要も無い。
 ディフの中にあった何かが、アストラル体の彼へと渡ってゆく。
 内蔵魔力が減少するにつれて、半透明だった筈の彼の身体は実体へと近付いていた。
 少しずつ、薄れてゆく。徐々に消えていく。
 身体の主導権も、此れまで蓄積してきた知識も。
 そして、友との記憶も――。

「(これだけは、駄目だ)」
 朽ちても構わないと、思っていた筈なのに。
 気付いた時には、ディフと『彼』は互いに手を離していて。
 己の行動を理解出来ないのか、ディフは僅かに目を見開いていた。

「オレ、は……」
『――ディフ・クライン、聞かせてほしい』
 本当にすべて、自分に渡してもいいのかと。
 何処か博士の面影を感じる笑みを湛えて、『彼』は問い掛ける。
 其の問い掛けに対して、ディフは頷く事が出来なくて。

 朽ちかけたあの人に望まれぬ、オレでも。
 記憶の中の友が、オレと会えて良かったと言っている。
 此の記憶を、彼らのお陰で学ぶ事の出来た感情を渡したくない。

「オレは、まだ……」
 まだ、もう少し。生きたい。
 自らをからっぽと称する人形の内には、確かな願いがあった。
 多くの縁が、人との関わりが……ディフの内側に変化を齎していたのだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

レモン・セノサキ
暗闇に目が慣れる
此処は……大穴、か?

必死に撤退中の4つの人影
あの制服、間違いなく仲間だ
足止めは私に任せて、早く地上へ!
半身半骨の少女型の悪霊共を相手に
決死の持久戦

胸部を貫く鋭利な触手
クリームイエローのコートが赤黒く染まってく
白黒のガンナイフも掌を滑り落ちた
皆、無事逃げ遂せた、かな
地に落とされ後に待つのは甘美な即死
やっと本懐を、果たせ、た

……

ちぇっ
どう足掻いてもこの身は紛い物だと
此は夢だと突きつけられる
そもそも本物は、"瀬之咲"は此処に居なかったし
ヤドリガミはこの程度じゃ死ねないんでね!!
UCで火縄銃から大砲、果ては荷電粒子砲までも召喚

温い夢すら見られない八つ当たり
戦場を弾丸の大嵐で蹂躙し尽くす



●本懐
 スコップを手にした、半身半骨の少女。
 境界線を越えて、死の世界から現れた悪霊を蘇らせる悪霊。
 る、る、る。其れは、死の足音にも等しき声。
 見覚えのある制服を身に着けた四人の男女が、撤退を試みる中。
 異形の群れを、真正面から迎え撃つのは――レモン・セノサキ(金瞳の"偽"魔弾術士・f29870)だった。

「足止めは私に任せて、早く地上へ!」
 レモンは右手に、純白の刀身が付いたガンナイフを。
 左手には漆黒の刀身が付いた其れを手に、どちらも力強く握り締めていた。
 逃げなければと、無謀な戦いだと。本能が今も尚、叫び続けている。

 其れでも、逃げる訳にはいかない。
 彼らが逃げる為の時間を稼ぐと、決めたのだ。
 コートの裾を翻して、彼女は再び力強く駆け出そうと。

 異形の咆哮、発砲音が響き渡る。
 敵の注意を出来る限り、自分へと引き付けなければ。
 無茶でも何でも、彼女は戦う。休む間も無く、魔弾を撃ち続ける。

「か、は……っ!?」
 ……だが、一人で相手取るには敵の数が多過ぎた。
 淡い黄色のコートが、赤黒く染まってゆく。
 鋭利な触手がまるで杭の様に、レモンの胸の中心を貫いたのだ。
 両手からガンナイフが滑り落ちて、彼女の身体は宙へ投げ飛ばされてしまう。
 嗚呼、其れでも――。

「(やっと本懐を、果たせ、た……)」
 皆、無事に無事逃げ遂せただろうか。
 今はもう、そうであって欲しいと願うしか出来ないけれど。
 ……此れで良かったんだ。
 放り投げられながら、充足感に包まれている内――。

 レモンはくるりと回り、体勢を立て直す。
 口内に溜まった血を吐き出し、彼女は渇いた笑みを浮かべた。

 此れは、夢だ。
 本当に貫かれたと思う様な、鋭い痛みはある。
 しかし、本体である古い偽身符には傷一つ付けられていない。
 どう足掻いても、其の事実が……彼女の身が紛い物なのだと突き付ける。
 そもそも本物は、『瀬之咲』は此処に居なかったじゃないか。

「ヤドリガミは、この程度じゃ死ねないんでね!」
 ――換装……!
 全周飽和砲火陣による、弾丸の大嵐。
 温い夢すら見られなくなる程、すべてを焼き尽くす。

 情け容赦ない、レモンの八つ当たりにも似た一斉射撃。
 其れは夢想を呑む様に、一切合財を蹂躙し尽くすのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ライナス・ブレイスフォード
暗転した意識と共に床にしゃがみ込むも
次の瞬間柔らかなベッドの上、ベッドヘッドに背を預け身を起こしている己の状況を知覚すれば視線を漂わせんぜ
まず瞳に映るのは死んだ筈のー俺の血肉になった幼馴染の少女
その隣には正気を保っている母達と、その肩を抱く親の情を持つ祖父
そして明らかに人だとわかる父の姿と…死にゆく俺の手を握る、緑の髪の大事なあいつの姿で

アースで見る『普通』の家に生まれればきっと、当たり前の光景なのだろうと自嘲するような笑みを浮かべつつも、その幻影を散らすよう偽物のあいつの手を振り払うぜ
…穏やかな死なんざ俺に似合う訳ねえだろ
それに本物のあいつを一人にする訳にいかねえからな
生かさせてもらうぜ?



●得られなかった『普通』
 薔薇の花香に苦しめられる事も無く。
 光差さぬ闇が支配する世界で、儘ならぬ不条理に苛立つ事も無く。
 ブレイスフォード家が、代々続くだけの平凡な辺境貴族だったならば。
 当主である祖父が、両親や兄弟が狂っていなかったならば。
 ……こんな『普通』も有り得たのだろうか。

「……?」
 一体、何が起きた?
 意識が暗転したかと思えば、ライナス・ブレイスフォード(ダンピールのグールドライバー・f10398)は柔らかなベッドの上に横になっていた。
 片手で額を押さえながら、彼が上半身を起こすと――。

『ライナス、大丈夫!?』
『目を覚ましたんだな、ライナス』
 小麦に似た金色が、夏の森を思わせる深緑が。
 二人が口々に、ライナスの名を呼ぶも……。
 本人は思わずと言った様子で、目を丸くしていた。

 ――何で、あいつらが此処にいんだよ?
 いや、違和感の原因は其れだけじゃない。
 見覚えのある姿だが、彼が知らぬ雰囲気を纏う者達も居た。

 涙を堪える母達は、正気を失っている様にはとても見えない。
 そんな彼女達を支えて、そっと肩に手を添えているのは……人の情を瞳に宿す、人間の父と祖父だった。
 部屋の外では黒や茶色――兄弟達もまた、ライナスの身を案じているのだろう。

『ライナス?喉が渇いたなら、水を持ってくるか?』
 心配する様な声はあいつらしいけれど、らしくない言葉で。
 嗚呼、でも……もし、アースで見る『普通』の家に生まれていたならば。
 きっと、当たり前の光景なのだろう。
 ライナスは密かに、自嘲する様な笑みを浮かべて――。

「幻影の血じゃ、食指も動かねぇな」
『ライ、ナス……!?』
 ライナスは幻影の手を、叩き落とす様に振り払った。
 其の最中、相手の皮膚に爪を立てて僅かに血を流させるも……匂いは程遠い。

「穏やかな死なんざ、俺に似合う訳ねえだろ」
 少なくとも今はまだ、死ぬには早い。
 ……俺はあんたを一人にする気ねえ、と言い切ったのだ。
 故に、ライナスは本物の『あいつ』を一人にする訳にはいかないと思う。

 幼馴染の少女を喰らい尽くした事も。
 狂ってしまった祖父や母親達、兄弟達を置き去りにした事も。
 全部、消えない過去だ。だが、其れでも。

 ――生かさせてもらうぜ?
 危険な渇欲を抱えたままだとしても。
 全部引き摺ってでも、あいつと共に居ると決めたから。

成功 🔵​🔵​🔴​

月守・ユア
大切な妹が幸せになる為
長い時を駆け
僕は人を探している

”アイツ”がいないから
妹が泣く
アイツがいないと
妹は心から笑顔でいられない

其れは妹を幸せにする唯一の存在

だが
僕は知ってる
探している幸いは
既に何処にもいない事実

狂気に呑まれ命を落とした愛おしい人

アイツの代わりに僕が命を捧げれば
妹の幸福は叶えてやれるだろうか
アイツは狂気に苛まれずにいられるだろうか

世界に僕はいなくていい
2人が生きて
幸せだと笑うなら
それだけで…

追想する己に
黄の彼岸花が何処か誘うように己に絡む

幸いの為にと
死を囁くよう


ハッと自虐的に笑う
僕はこれじゃ死ねない
わかってるのに

僕は既に死に呪われ
魂が堕ちた身
死ねないんだ
こんなのじゃ

凪ぐ
愚かな夢を



●散ル事能ワズ
 大切な妹の幸せの為に、笑顔の為に。
 彼女に幸いを齎してくれる『アイツ』を、月守・ユア(月影ノ彼岸花・f19326)は長い時を掛けて探し続けている。

 其れは、妹を幸せにする唯一の存在。
 其の想いは少し、歪んでいる様に見えたけれど。
 姫巫女である妹を、忌み人と蔑まれた自分の事を。
 愛おしい人――彼女達の兄は家族として、双子姉妹を確かに愛してくれていた。

「(でも、僕は知ってる)」
 咲き誇るは、黄色の彼岸花。
 其の中心に立ちながら、月守は静かに追想していた。
 ……大切な妹に心からの笑って欲しいと希いながら。
 幾ら探しても見付かる筈が無いのだと、彼女は知っている。

 探している幸いは、何処にも居ない。
 多くの世界を巡っても、会う事は出来ない筈だ。
 愛おしい人は……狂気に呑まれて、既に命を落としているのだから。

 嗚呼、もしも。
 妹の幸福を叶える事が出来るなら。
 アイツが、狂気に苛まれずにいられるなら。
 二人が生きて、幸せだと笑うなら。僕は、其れだけで良い。
 其の為に、自分が代わりに命を捧げる事になったとしても……月守は構わないと思うのだ。

「(世界に、僕はいなくていい)」
 黄色の彼岸花が、少しずつ彼女に絡み付く。
 其れは誘う様に見えるが、彼女の身体を養分とする様にも見えた。
 嗚呼。幸せに溺れて、満たされた心身。
 きっと鮮やかな彼岸花が咲くだろう――普通なら、ね。

「――ハッ」
 思わず、自虐的な笑みが溢れた。
 死に呪われて、死に染められた……堕ちた魂。
 これじゃあ死ねない、こんなのじゃ死に切れない。

 月守の生はまるで、彼岸花の様だ。
 散ってしまいたいと願っても、散る事が出来ぬ花。
 死霊を喰らわなければ、其の魂が死に蝕まれて、萎びて。
 ……落ちる時は、あっという間なのだろう。

「死ねないんだ、こんなのじゃ」
 最愛の妹を幸せにする事が出来ないとしても。
 自分にとってのお月様の翳り、払い切る事が叶わずとも。
 其れでも、月守は生を繋ぐ為に呪花の刃を振るう。
 彼女は迷い無く、愚かな夢を一掃するのだった。

 ただ、守る為に。
 其れこそが、月守の存在理由。
 否……そうしたいと、彼女自身が思うから。

成功 🔵​🔵​🔴​

蘭・七結
★【紅苺】

気がつけば己が身ひとつ
共にしたあなた
まいは、何処へ行ったのかしら

親しむ闇を歩み続けて
気がつけば真白に包まれて
見渡す世界にあかい彩が散る

幾度となく目にした光景ね
やがて拡がりゆく生命の海
混じり合う鮮血を指さきに絡めて
甘やかに蕩かし嘲笑う鬼

巡りを得て
わたしを形作るものが変われど
根源たる慾が塗り変わることはない

幾度となく見送るさだめのもの
掬い切れないいのちたち
あなたもあなたも
あなたも

それならば、いっそ


嗚呼、いい香りね
おいしそう
私と共に在りましょう


所詮これは夢なのでしょう
理解っているわ

甘いひと時に溺れること
それもまた、一興でしょう
生も死も夢も現も関係ない
興の向くままに

そのおしまいを見届けるまで


歌獣・苺
★【紅苺】
ふと気付けば真っ暗闇
目を開けているのに
暗い
目隠しで実験された日を思い出す
こわい。こわいこわいこわい

なゆ、なゆ、なゆ!!!!!

手を握ってよ
水族館の時のように
温もりを頂戴
そうじゃないと、壊れてしまう

何度握ろうとしても
掴めるのは空ばかりで
助けなど来ない
あの日々を思い出してしまう

やだ、やだ。たすけて…。

そう願った瞬間
温もりに包まれた
私はこの優しくて幸せな
温もりを知っている
…まーくん。

ほんま、しゃーないなぁ苺は!

そう言って
抱き抱えてくれた時のように
優しくてもう手放したくなくて
ずっと、ずっと、
このままでいたくて

私、夢でも、現でも
まーくんのこの温もりになら
このまま殺されてもいいって
思っちゃうんだ。



●眞白染める紅
 ――まい?
 気付いた時には、己が身ひとつ。
 暗闇にぽつんとひとりきり、共にした眩い笑顔は傍らに無く。
 蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は二、三度瞬いた後、親しむ闇を歩み始めていた。

「まいは、何処へ行ったのかしら」
 ちゃぷ……。
 暗闇の中を歩き続けている内に、不思議な音が聞こえた。
 まるで、水溜まりを踏んだ様な……?
 蘭がそう意識した途端、世界が真白に塗り潰されてゆくではないか。

 赤、朱、赫、あか。
 唐突な変化に彼女が目を瞑り、再び見開くと。
 真っ白なキャンバスに、絵の具やインクを撒き散らしたかの様。
 見渡す世界にはあかい彩が、芳しい香りが。

 いとおしい、いのちのあか。
 生や死、夢も、現も関係ない。
 其れは熱を失うにつれて、今も徐々に拡がり続けている。

「嗚呼、いい香りね」
 巡りを得て、蘭を形作るものが変われども。
 彼女の根源たる渇慾が、塗り変わることはない。

 幾度となく見送るさだめのもの。
 其の中で……掬い切れない、いのちたち。
 あかのいとを縫いつけた、あなたも。
 嘗て、心を結んだあなたも。
 あなたも、あなたも、きっとそうなのでしょう。

「本当に、おいしそう」
 其れならば、いっそ――。
 所詮此れは夢なのだと、蘭は理解している。
 理解した上で、敢えてあかの幻夢を受け入れようとしているのだ。

 興の向くままに。
 そのおしまいを見届けるまで。
 甘いひと時に溺れるのも、また一興でしょう?
 混じり合う鮮血を指先に絡めて、彼女はそっと舌先で舐る。

「――私と共に在りましょう」
 置いて逝くこと、逝かれること。
 ひとりきりはとてもさむくて、とても恐ろしいから。
 蕩ける様なあかを両手で掬い取り、喉を鳴らして飲み干して。
 ああ、でも……此れでは、足りないの。もっと、もっと。

 数え切れぬ人々のあかに濡れて、塗れて。
 生命の海の中心で、いとしこいしと鬼が嘲笑った。

●甘やかな温もり
 目を開けている筈なのに、何も見えない。
 何処までも、何処までも続く暗闇。僅かな光明も見えぬまま。
 ……様々な負の感情を生み出す、其の状況は。

「ゃ……やだ、やだ……!」
 歌獣・苺(苺一会・f16654)にとっては、猛毒だった。
 暗い、なんで、やだ、こわい――こわいこわいこわいこわい!
 ぶんぶん首を振り乱しても、塞ぐ様に耳をぎゅうっと閉じても。

 ぽたり、ぽたり。
 薬液の臭いがする、音が聞こえる。
 此処はあの場所なんかじゃない、違うと言い聞かせても。
 何度も何度も、投薬による実験が続いて。
 嗚呼、今日もまた――。

「なゆ!返事して、なゆ、なゆ……!!!」
 ――手を握ってよ。
 水族館の時のように、温もりを頂戴。
 そうじゃないと、壊れてしまう。息が、出来なくなる。

 悲痛な叫びが響き渡るも、虚しく。
 先程まで傍に居た筈の、心を結んだ友の声は聞こえない。
 其の事実がより一層、歌獣の恐怖や不安を煽っていた。

「お…ねが、い……たすけて……」
 誰か、此の手を握って。
 空ばかり掴みながら、歌獣は縋る様に願うしか出来なかった。
 決して、助けなど来ない。惨憺たる日々を繰り返す。
 そんな絶望のあまり、彼女が打ちひしがれそうになった――其の時だった。

『ほんま、しゃーないなぁ!苺は!』
「えっ……?」
 温もりが、歌獣を包み込む。
 優しくて幸せな此の温もりを、彼女は知っている。

 ――唄舞。
 其れは、突然行方不明なってしまった幼馴染の名前。
 其れは、とある戦場にて切り落とした白蛇の尾。

 真っ暗で見えなくても、声だけで判る。
 此の人は間違いなく、私の知っている『まーくん』だ。
 ああ、ああ……ほんとのほんとに、まーくんが迎えに来てくれたんだ。

『愛してる、苺。あの頃も、今も。これからもずっと』
「まーくん……」
 ずっと、ずっと、このままでいたい。
 夢でも、現でも……もう手放したくないと思ってしまう。
 宥める様に優しく背を撫で叩かれて、歌獣の想いは一層強くなっていた。

 あのね、まーくん。
 私、まーくんの温もりになら。
 ……このまま、殺されてもいいって思っちゃうんだ。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

ルーシー・ブルーベル
ああ今日か

私は大人の姿で
目前に私に良く似た吾子がいて

笑み手を伸ばす
吾子が怯え震えるけれど
構わず力いっぱい抱きしめるわ

大切な愛し子
この日が来ても貴方が愛された事を憶えています様にと
毎日慈しんで抱きしめて

そして「コレ」を貴方に繋ぐ事をどうか許して

私達は
寄生され自死へ操られる虫
或いは
孵化した幼虫が食む蝶卵の殻
親を食べ
子に食べられ

青い人喰らいの花が吾子の左目に移る、侵す
孵化の瞬間はさぞ綺麗な青
もう何も見えないけれど

孵ったばかり
宿したばかりで空腹でしょう
さあ

泣かないで
残さないで
愛し子に食べられるなんて
何て幸せ

本当に?

なら何故
父は、あの人は
コレを愛娘に負わせまいと
代わりに私を使ったの

本当にコレは
しあわせ?



●揺り籠の宿命
 大好きよ、――。
 毎日、毎日、愛を伝える為に。
 大切な愛し子を抱き締めて、慈しむ母親が一人。
 美しい金糸の様な髪、青色の左目――其の人物は大人の姿をした、ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)だ。

『――も、ママだいすき!』
 自分の事を名前で呼ぶ所も。
 ニンジンが苦手な所も、ぬいぐるみが好きな所も。
 幼い頃のルーシーを連想させる程に、本当に良く似ている。

 似ているからこそ、胸が痛む。
 怯えて、震える吾子を……彼女は力一杯、抱き締めていた。

『マ、マ……?』
「どうか、許して」
 ――『コレ』を貴方に繋ぐ事を。

「忘れないで」
 ――貴方はずっと、愛されていたのだと。
 まるで、もう会えなくなるみたいに言うものだから。
 母親の声、何かを堪えている顔を見て、子は目を丸くしていた。

『――っ!?』
 青色の怖い何かが、子の左目に迫る。
 逃げる事は出来ない、母親であるルーシーが抱き締めているから。
 そう、こうなる事を知っていたかの様に。

 私達は、寄生され自死へ操られる虫。
 或いは、孵化した幼虫が食む蝶卵の殻。
 青花(ブルーベル)の宿主は親を食べて、子に食べられる宿命。
 そうして孵った人喰らいの花は、さぞ綺麗な青でしょう。
 ……もう何も見えないけれど。

 泣かないで、私の愛し子。
 孵ったばかり、宿したばかりで空腹でしょう。
 さあ……残さずに、余さずに食べて頂戴。
 愛し子に食べられるなんて、とても幸せ――本当に?

「(なら、何故)」
 食い千切る音、啜る音。
 何処か遠く聞こえる其れらを耳にしながら、ルーシーは思う。
 此れが本当に幸せなら、どうして。
 どうして、父は、あの人は……コレを愛娘に負わせまいと、代わりに私を使ったの?

「(本当に、コレは……しあわせ?)」
 しあわせって、どんなものだったかしら。
 ルーシーの意識がぷつりと途切れた、其の最中。
 ……何故だろう。真白の大きな背中が見えた、そんな気がした。

成功 🔵​🔵​🔴​

橙樹・千織
閑かな世界
雫がひとつ零れ落ちる

唯一無二のあの子が
桜の縁で結ばれた友人達が
幸せそうな姿

やっと、あの子があの夜を越え
手を取り合って歩める家族を得た
友人達がそれぞれ何かを越え
寄り添い笑い合っている
心の底から幸せそうに笑うあなた達が見られた

あぁ…
これで心残りは無い
安心して離れられる
逝くことができる

本当は……
うぅん、何でもない

あなた達が幸せならそれで十分
誤魔化し続けた心と想いを秘したままこの身と共に散らしてしまえる
あなた達の幸せな姿を胸に眠りにつくことが出来る

深く深く…

あなた“達”?

違う

あの子と彼らが
同じ時を過ごすことは
出来ない

なら
これは、ゆめ

起きなきゃ
せめて
彼らの幸せを見届けるまで

また
心と想いを秘めて



●杜若:幸せはあなたのもの
 遠い記憶の先で、叶わなかった事。
 今度こそ、大切な人達の幸せな姿を見届けたい。
 其れが、橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)の切なる望み。

「これは……」
 暗闇の向こう側が、少しずつ変化の兆しを見せる。
 恐らく、死の夢とやらが始まるのだろうと。橙樹は静かに身構えた。
 ――此処で立ち止まっている訳にはいかない。
 早々に抜け出して、大切な人達を護らなければ。
 彼女が力強く、一歩踏み出した直後……慣れた花香が鼻を擽った。

「――――」
 爛漫に咲き誇るは、千年桜。
 其の下には沢山の笑顔が見える、心の底から幸せそうな声が聞こえて来る。
 あの夜を越えて、あの子がやっと……手を取り合って歩める家族を得て。
 各々が抱えていた何かを越えたのだろう、友人達の表情も穏やかで。

 唯一無二のあの子の、桜の縁で結ばれた友人達の幸せそうな姿。
 彼らが互いに寄り添い、笑い合っている。
 嗚呼、嗚呼。なんと、愛おしい光景だろう。

 ぽたり、と……。
 閑かな世界に、雫がひとつ零れ落ちる。
 橙樹は頬を濡らしながらも、口元には安堵の笑みが浮かんでいた。

「(これで心残りは無い)」
 あぁ……少し、眠くなってきた。
 暗闇にぽつんと立つ己の姿に、彼らが気付かないのは僥倖か。
 誤魔化し続けた心と思いは、秘めたまま逝きたいから。

 本当は……うぅん、何でもない。
 呟く代わりに、橙樹は首を緩く横に振っていた。
 そして、ぼんやりとし始めた意識の中、彼女は静かに思いを馳せる。

 ――今まで、ありがとう。
 あなた達が幸せなら、それで十分。
 あなた達の幸せな姿を胸に、深い眠りにつくことが出来る。
 突き刺さる様な、胸の僅かな痛みも分からなくなって。

 深く、深く。
 何処までも深く――いいえ、違う。あなた『達』?
 見開かれた橙樹の目に気付くのは銀狼、唯一無二のあの子だけ。
 彼女の唇が動く、短い言葉を紡いでいる。其れを見て、彼女は確信した。

「(起きなきゃ……)」
 これは、ゆめ。
 あの子と彼らが、同じ時を過ごすことは出来ない。
 橙樹が銀狼の名前を呼べば、彼女は寂しげに微笑み……薄れてゆく。

 せめて、彼らの幸せを見届けるまで。
 再び、心と想いを秘めて。
 だから、また……さようなら、――。

成功 🔵​🔵​🔴​

ロキ・バロックヒート
光り輝く美しい都がどこまでも広がる
うたが、笑い声が聞こえてくる

天使めいた者を囲む
赤毛や青目や背高や
さまざまな人種の姿の者たち

天使と背高はうたい
赤毛は楽しそうに天使の髪を結うて
青目が摘んできた花を輪にして遊ぶ

ここが天国とでも云うのなら
これがそこで過ごす『私』ときょうだいたちなのかなぁ

でも
《過去》におとされた者たちが
こんな風に穏やかに過ごしているなんて思えない
それなのにあそこに共に居たいと願うような
心のやわいところを引っ掻く羨望すらあって――
かれらが私に気付く前に背を向ける

ゆめに溺れたままでも良いけれど
私が想う終焉はこれではないから
次に眼を開く時には醒めている

ああ
ゆめですらもない儚いきぼうだったね



●エンドロールは流れない
 ――天国、ってどんな所なんだろうね?
 死の夢を見せると言うのならば、ちょっとした旅行でも出来るのだろうか。
 ぺたり、ぺたり。素足で暗闇を歩きながら、ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)はのんびりと考えていた。
 ……ああ、向こう側に見える眩い場所が『其れ』なのかもしれない。
 一定のペースで、彼は歩みを進めてゆく。さあて、何が出て来るのかな。

「ふーん……」
 其処は光り輝く、広大な美しい都。
 耳を澄ませばうたが、笑い声が聞こえてくる。
 ロキは淡々と呟いた後、声の発生源へと向かう様に再び歩き始めていた。
 ……其処に辿り着くまでに、然程時間は掛からない。

 光を反射して、噴水が煌めいている。
 広場の様な場所で皆、穏やかな表情を浮かべているではないか。

 見目愛らしい純白の天使が背高と共に楽しげに、柔らかにうたう。
 赤毛は楽しそうに頷いて、天使の髪を結っていて。
 反対側では、青目が摘んで来た花々を輪にして遊んでいた。

「(ここが、天国とでも云うのなら)」
 ――これがそこで過ごす『私』と、きょうだいたちなのかなぁ。
 天使めいた者を囲む様に寛いでいる、様々な人種の姿の者達。
 うたに夢中になっているのか、彼らはまだロキの存在に気付いていないらしい。

 普段ならば、絵に描いた様な陳腐な天国(ゆめ)だと。
 とても甘やかで、酷く滑稽だと笑えたのかもしれない。
 『過去』におとされた者達が、こんな風に穏やかに過ごしていると思えない。

 ……ありえない。そう、思うのに。
 其れなのに、あそこに共に居たいと願うような。
 心のやわい所を引っ掻く様な羨望を、彼は抱いていた。

「(でも――)」
 きょうだいたち一人一人の顔を、眼に映した後。
 彼らが気付くよりも早く、ロキは何も言わずに背を向ける。
 ×××の羨望は、道化が奥底へと沈めていた。

 戯れとして、このゆめに溺れてみるのは悪くないけれど。
 私が想う終焉はこれではないから。
 ――ゆめですらもない儚いきぼうに、私を終わらせるつもりはない。

 エンドロールが流れる事無く、ロキは静かに眼を閉じる。
 次に開く時にはきっと、醒めている筈だから。

成功 🔵​🔵​🔴​

冴島・類
開いた先に広がる夜

開けた先に見えるは
焼けていない大銀杏と
不自然に壊れた社
収められた割れた鏡を新たな器に替えるため
伸ばされた、掌

お疲れ様と声をかける
村人達の目が、誰でもなく
其れを捉えていて

映るその光景が
穏やかで、芳しく
同じだけ胸の奥で違和がある
心地よい程
そう感じることが、腹立たしい

掻きむしるよう胸を掴めば
目が合う傷ついたくまの瞳
誰かの呼び声

ひとの願いに応える為に
与えられたかたち
安寧な終わりに、溺れて良い訳がない

そも、僕のさいわいを認めるかみなどいない
思い出すべきは、毎夜夢の代わりに繰り返す
焦げついた記憶とひとの声

大丈夫、忘れない
そちらが現だ

指を噛み覚醒を促し、相棒を呼ぶ
今届く命と声へ、手を繋ぎに



●今、やるべき事
 夜が明けた先、懐かしい光景が広がる。
 其れはとても穏やかで、芳しいと思うのに……胸が苦しくなる。
 複雑な感情が渦巻くばかりの胸を、冴島・類(公孫樹・f13398)は掻き毟る様に掴んでいた。

 焼けていない大銀杏。
 明らかに、不自然に壊れた社。
 嗚呼……偶然か、故意にかは不明だが。
 恐らく、社が壊れた際に割れてしまったのだろう。

『お疲れ様』
『今まで、ありがとう御座いました』
 役目を終えた器物への、感謝の言葉の数々。
 村人達の目は他の誰でもなく、其れを捉えていて。
 此れまで収められていた物から、新たな器に替えられる為だろうか。

 徐々に、冴島の身体が薄れてゆく。
 本体である器物が、鏡が壊れてしまったからだろう。
 もう、短い生の行く末を見送らなくても良いのだと……彼は、思わず安堵するも。
 ただ其れだけの事でさえ、胸の奥の違和は膨れ上がってゆく。
 心地良いと感じる事が、心の底から腹立たしい。

 ……どうしてだろう?
 慈しんでいた人々に送られる、とても優しい終焉。
 されど、胸は焼ける様に痛むばかり。受け入れるなと、警鐘を鳴らす様に。

『…………』
「君は……」
 傷ついたくまの瞳と、目が合った。
 彼女だけは、消えゆく冴島の姿をはっきり捉えている。
 厳しい眼差しはあの頃と変わらず、けれど雰囲気からは寂しさが滲み出ていて。
 そして――誰かの呼び声が、彼の耳に届いた気がした。

 其れはもう、戻らぬ嘆き。
 鼻を突き刺すのは、人と社が焼ける臭い。

「……大丈夫、忘れない」
 毎夜、夢の代わりに繰り返すのは――紅蓮に喰われた日。
 焦げついた記憶とひとの声、其れこそが現だと。
 ひとの願いに応える為に与えられたかたち、此のまま溺れて良い訳がない。

「瓜江」
 夢と現に分断されようと。
 相棒と繋がる縁の糸は、決して断たれる事は無い。
 安寧な終わりから抜け出す為に。
 冴島は血が出る程に指を強く噛み切って、相棒の名を呼ぶ。

 ――今届く命と声へ、手を繋ぐべく。
 現へ引き上げてくれと、冴島は瓜江へ助力を頼むのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

荒谷・つかさ
しあわせな夢、理想の終わり……ね。
……面白いじゃない。

・死の夢
「全力での死闘の末に敗北しての死」

様々な強者との戦を連続して乗り越えていく
果てなき命のぶつかり合いに精神は高揚し、魂は燃え上がる
その末に……いつか私も、打ち倒されるのだろう
未知の強敵、私より強いものに全力で立ち向かい、燃え尽きて死ぬ
それこそ、我が望み

……しかし、それは夢の中ではあり得ない。

【超★筋肉黙示録】発動し立ち上がり、打ち倒し続ける
これが夢であるならば、そこに「未知」は無く、己を信じる心は挫けない
それ故にこの場(夢の中)で私は最強であり、無敵であり続ける

まだまだ、物足りないわね……
私を殺したいなら、この一万倍は持って来なさい!



●夢幻無双
 老いも若きも、男も女も人種すらも関係ない。
 立ち塞がるなら、真っ向から打ち砕くのみ。
 荒谷・つかさ(逸鬼闘閃・f02032)は、堂々たる笑みを見せていた。
 ――いざや、いざや、戦わん。
 彼女にとっての理想の終わりとは、死闘の先にあるものだから。

『参る……!』
『ウオォォォッ!』
「良い踏み込みね――来なさい!」
 休む間も無い、連戦に次ぐ連戦。
 とある強者が荒谷の前に敗れたかと思えば、次なる猛者が彼女に襲い掛かる。
 果てなき命のぶつかり合い。純粋な力勝負の数々。
 死闘を重ねるにつれて彼女の精神は高揚し、魂は轟と燃え上がってゆく。
 だが、遂に……全身に傷を負いながら、彼女は地面に倒れ伏してしまった。

 戦い、打ち倒し、また戦う。
 其の末に……いつか私も、打ち倒されるのだろう。
 未知の強敵。私より強い者に全力で立ち向かい、燃え尽きて死ぬ。

「(それこそ、我が望み)」
 ……しかし、それは夢の中ではあり得ない。
 傷だらけになりながらも立ち上がる、荒谷の頭上には一冊の本が浮かんでいた。
 一部の強者達は怪訝な表情で、其れを見上げている。

 ――超★筋肉黙示録。
 彼女の想像によって生み出された、無敵の筋肉最強理論を記した書籍。
 此れが夢であるならば、其処に『未知』など存在しない。
 埒外の存在が居ないならば、己を信じる心は挫けない。

 故に……荒谷は最強であり、無敵。
 此の場において、彼女の筋肉に勝る者は無し。

「まだまだ、物足りないわね……」
 信じる心が、力(と書いて『きんにく』と読む)になる!
 筋肉こそ至高。筋肉さえあれば、大体どうにかなる!
 立ち塞がる者達を再び投げ飛ばしながら、荒谷は力強く吼えるのだ。

 ――私を殺したいなら、この一万倍は持って来なさい!
 こんなものでは、まだまだ足りない。彼女を殺し切るには、程遠い。
 しかし……こんなにも多くの猛者と死合える機会はそうそうない。

 だからこそ、鍛錬の一環として。
 夢幻の終わりが来たる其の時まで、彼女は戦い続けるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

音海・心結
※アドリブ歓迎

ぽわぽわする
零時はどこでしょうか

死しても尚、必死に彼を探す
その途中見覚えのある男性と出逢う

……パ、パ……?
どうしてこんなところに
その隣の人は誰ですか?

……ママ?
でも、既に亡くなって……
いえ、直接聞いたわけではないので、
みゆの思い込みかもしれませんが

優しくて綺麗な女性に自分に似た外見
ふたりが此方に手を差し出してくれた
おいでって

……みゆはパパとママと一緒に暮らすことに憧れていました
今だって、手を伸ばしたいです

でも

ごめんなさい
みゆにも大事なものが出来ました

本当は手を取りたくて涙が滲む

絶対絶対
何時か逢いに行くので
それまで待っていてくれますか?

せめて最後には笑みを見せたい
涙が零れたとしても


兎乃・零時
アドリブ歓迎

戦場だ
目の前には倒れ伏した強大な『何か』
多分敵
デカいなぁ、なんてつい思う
きっと勝ったのだ
勝利に払った代償はどうやら…命らしい
体中ひびが入って体は動かない
罅の間から溢れた赤い血…いや、水色の血だまりが出来ていた
直ぐに宝石になるだろう

周りにはそれ以外誰も居ない
大事な誰かがこの戦場に居ない
この戦場に『己以外』失う者が居ない

…良かった

己にとっての理想的な死とは何か
分からない

無意識化の、願い
大事な人たちを失わない事
ただ


…まだ


霞む視界で天を睨み
罅だらけの体を無理やり動かす


俺の夢は叶ってない


…終われねぇ…

血と言葉を吐き捨てる

誰が、死ぬか
死んでたまるか…
こんな所で、止まらねぇッ!!

彼の目は死なない



●其の心に寄り添うために
「(零時はどこでしょうか)」
 何だか、ぽわぽわする。
 不思議な感覚に首を小さく傾げながら、音海・心結(瞳に移るは・f04636)はゆっくりと歩いていた。
 既に死の夢を見ているのだとしても、彼女は『彼』を必死に探す。
 其の途中、二つの影が彼女に微笑みかけていて。
 ……片側の男性は、見覚えのある人だった。

「パ、パ……?」
 どうして、こんな所に?
 音海の中に浮かぶ疑問は、其れだけではない。
 父の隣に立つ、物腰柔らかで優美な女性は……彼女の記憶に居ない人物だ。
 
「その隣の人は、誰ですか?」
『そうね……貴女と会うのは、初めてだったわ』
『君のママだよ、心結』
「えっ……?」
 音海が、直接聞いた訳じゃないけれど。
 既に亡くなっていると思い込んでいた母親が今、目の前に居る。
 其れが叶うもまた、此処が夢の世界だから?

 動揺のせいか、心臓の音が早い。
 娘の様子に戸惑いながらも、両親は彼女に手を差し出した。
 ……おいで、と。三人で仲良く暮らしましょう、とも続けていて。
 ああ、今直ぐ飛び出したくなる。
 彼女はそんな風に、強く思う――けれど。

「ごめんなさい」
『心結……どうして?』
「みゆにも、大事なものが出来ました」
 涙が滲んで、視界は少しだけぼやけていた。
 其れでも決して、零さぬ様に。音海はぐっと堪えている。

 本当は二人の手を取りたい。
 パパとママと一緒に暮らしたい。
 ……伸ばしそうになる手に力を籠めて、彼女は両親に確りと目を合わせていた。

「絶対、絶対。何時か、逢いに行くので」
 ――それまで待っていてくれますか?
 死しても尚、探したい。会いたいと思う人がいるから。
 音海の両親は寂しそうな表情を見せていたが、互いに頷き合って。
 柔らかく微笑みながら、声を重ねるのだ。

『行ってらっしゃい、心結』
「……っ。パパ、ママ……行ってきます」
 ぽたり……。
 堪え切れなかった涙が零れて、地面へと落ちる。
 一度溢れてしまえば、もう、無理に止める事は出来なくて。
 其れでも――音海は精一杯の笑みを浮かべて、両親に背を向けるのだった。

「(今行くですよ、零時)」
 此の手は、大事な人の手を取る為に。
 みゆは傍にいますよ。此の声が、彼に届きますように。

●其の笑顔を護るために
 凄まじい戦いを終えて、静寂が場を包む。
 兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)の胸中を満たすのは充足感、そして――死の恐怖。

「良かっ、た……」
 ……デカいなぁ。つい、兎乃は思う。
 自分よりも一回り以上大きな『何か』は、動かない。
 多分、敵だ。自分は、巨大な其れと戦っていた筈。
 そうでなければ、こんなにも……全身罅だらけになる理由が解らない。

 兎乃は、勝ったのだ。
 勝利の為に払った代償は、あまりにも大き過ぎたけれど。
 全身の罅の間からは赤色――否、水色の血が今も溢れ続けている。
 血溜まりが出来ていたが、直ぐに彼の髪や瞳の様な宝石へと変わるのだろう。

「(誰も、居ない)」
 守りたい人も、友も、誰も居ない。
 此の場には自分と敵以外、誰かの気配は感じられない。
 大事な人達を失わずに済む、失うのは『己』だけ。
 ……怖くないと言えば嘘になるけれど、其の事実に兎乃は心から安堵した。

 己にとっての理想の死。
 此れがそうなのか、他にもあるのかは分からない。
 ただ、彼の無意識下の願いは確かに果たされていたのだ。
 だからきっと、此れで良かっ――。

「……ま、だ」
 終われない、終わらせるものか。
 霞む視界で天を、其の先に居る邪神を睨み付ける。
 罅だらけの身体で動くのは、傷口を深く抉られる様な激痛が走る事だろう。
 其れでも……誰が死ぬか、死んでたまるものか。
 兎乃には終わりを受け入れられぬ、確固とした理由がある。

「まだ、終われねぇ……!」
 全世界最強の魔術師になる。
 兎乃の夢は叶っていない、諦める訳にはいかない。

 ――こんな所で、止まらねぇッ!
 彼は挫けず、屈せず、へこたれない。
 やると決めたら、絶対にやる。其れが、兎乃・零時という男だ。
 血と言葉を吐き捨てて、彼は両足で確りと地面を踏み締める。

 其れに、自分は一人で此処まで来たのではない。
 全力で護る、引き上げてみせると『彼女』に言ったじゃないか。

「待ってろ、心結――ッ!」
 兎乃の目は死なない。約束を違える事は無い。
 激痛に眉を顰めながら、夢から抜け出すべく――彼は駆け出したのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アンリ・ボードリエ


あれ…ここは、どこ…?
どうして、こんな所にボクは倒れているんだ…?
目の前には力尽きたオブリビオン…。
ボクの身体には深い傷…そして…指一つ動かない。
あぁ…これは…相打ち、といったところかな…

このまま…ボクは、死ぬのか。
でも、オブリビオンを倒して…それで誰かを救えたはず…。
それなら、まぁ…いいか。

あぁ…もう、記憶を失うことに怯えることも…誰かを、何かを忘れた事による罪悪感に苛まれることも...自分は何者なのだろうと思い悩む事もないのか…!
なんて、なんて…胸が軽くて、幸福なのだろう…!

…これで…これで、本当にいいのだろうか...



●忘却の終わり
 指一本、動かせない。
 ここは一体、どこなのだろう……?
 アンリ・ボードリエ(幸福な王子・f29255)は息を吸おうとするも、上手く出来ず。
 こぷり、と口からは鮮血が溢れ出した。

「どう、し……て……?」
 ――どうして、こんな所にボクは倒れているんだ……?
 アンリは思い出そうとするが、浮かぶ記憶は朧げなものばかり。
 ああ、もしかしたら……彼は視線を僅かに動かして、目の前を見る。

 其処には、オブリビオンらしき姿が在った。
 力尽きているのか、ほんの僅かでも動く素振りは見せない。
 自身の負傷を含めれば、自ずと状況を察する事は出来た。

「あぁ……」
 これは、相打ちと言った所か。
 きっとまた、誰かを救う為にUDC――La décadenceの力を使ったのだろう。
 しかし、相手の力もまた強大で。其れ故に、ここまでの深手を。
 傷口からは血が溢れ続けて、止まる気配も感じられない。

「……そう、か」
 このまま、ボクは死ぬのか。
 アンリは静かに悟りながら、別の事を考えていた。

 自分は何者なのだろうかと。
 記憶を失う事に、怯える事も。
 誰かを、何かを忘れた事による罪悪感に苛まれる事も。
 木製の指輪の内側に刻まれた、イニシャルの意味も。
 もう、すべて、思い悩む事もないのか。ああ、なんて……!

「(胸が軽くて、幸福なのだろう……!)」
 全身が冷え切ってゆくにもかかわらず、アンリは小さく笑みを浮かべていた。
 胸に残る一抹の寂しさが、何故か気になるけれど。
 きっと其れも、終わりと共に消えるから。もう、いいんだ。
 彼は静かに目を閉じて、命の音が止まるのを待っていた。

 ……これで。
 これで、本当にいいのだろうか。
 忘却に怯えて、罪悪感に苛まれる辛苦を理解していても。
 其れでも『誰かの願いを叶えたい』という思いまで、此のまま終わらせてしまって良いのだろうか。

 答えを導き出せぬまま、アンリは沈む。
 自問に答える事も出来ない、思考がぼんやりとし始めている。
 ……緩やかに、彼はしあわせな夢に溺れてゆくのだった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

木槻・莉奈
シノ(f04537)と

見るのは遠い未来の夢
短いと言われる人狼の寿命も乗り越えて、老衰と言える程、長く共に
結婚して終わるお伽噺じゃない
ずっと傍にいたからこその、幸せな終わり

成程…幸せな終わりの夢、ね
…此処にいる限り、幸せな夢を見ていられる
だからずっと此処にいて、幸せを享受すればいいと…そう言いたいのね

お生憎様、私は夢で終わらせる気はないの
結末だけを先にネタバレするなんて、無粋もいいところなんじゃない?

今を生きる『覚悟』をもって、夢へと抵抗
夢の世界を壊す様に、【神様からの贈り物】
綻びを見付けられそうなら、そこへ『部位破壊』

未来は未来で待ってなさい
慌てなくても意地でも辿り着いてみせるわよ


シノ・グラジオラス
リナ(f04394)と

雪狼に赦されて迎え入れられ、黒猫に見送られて彼女の為に死ねるのなら、
きっと、これ以上の事はないだろう

けれどそれは、自分だけが楽になる方法に過ぎない
俺にとって、どんな死も何の救いにもならず、意味も持たない
俺の終焉は、リナだけが決められる
リナをどれだけ幸せにできたか。彼女との約束を守り切れたのか
それだけが今の俺の死に様を決める

少し前までならそれでも俺の命は刈り取れただろうが、お生憎様だったな
自己満足で死ねるほど、俺が抱えてる約束は安くない
欲しけりゃ奪い取るんだな。こっちも全力で抗ってやるよ

【洞映し】で夢を壊す
死に場所探しは止めたんだ。だから、安易な終わりはもう要らない



●望むならば掴み取れ
「成程……幸せな終わりの夢、ね」
 木槻・莉奈(シュバルツ カッツェ・f04394)が目にするのは、穏やかな光景。
 ずっと傍に居たからこその、幸せな終わりだった。

『リナ……本当に、ありがとうな』
『ふふっ、シノ。どうしたの?』
 おじいさんとおばあさんが寄り添って、手を重ねている。
 二人の瞳の色、顔立ちには……少なからず、木槻は見覚えがあった。
 ああ、でも。察するまでもなかったか。
 二人は微笑み合い、互いの名前を呼び合っているじゃないか。

 遠い未来の出来事。
 結婚して終わる、お伽噺。
 短いと言われる人狼の寿命も乗り越えて、長く共に在る二人。
 恐らく……皺の数から、老衰と言える程に長く生きているのだろうと読み取れる。

「そう……そういう事、ね」
 木槻は息を吐き、意図を解した様に呟く。
 ……此処に居る限り、幸せな夢を見続けていられる。
 だからこそ、ずっと此処にいて幸せを享受すればいいと――お生憎様。

 確かに此れは優しくて、穏やかで、幸せと呼べる夢なのだろう。
 だが……木槻は、夢で終わらせるつもりなど毛頭無かった。
 大体、結末だけを先にネタバレするなんて無粋もいい所だと彼女は断言する。

「――与えられるまでもないわ」
 私は、私の手で幸せを掴んでみせる。
 其の為にも生きて、此処を抜け出さなければ。
 死んで花実が咲くものか。生きて、生き抜いて、其の先に辿り着く。
 其れを妨げると言うのならば、薙ぎ払ってでも進むまで。

 今を生きる覚悟を以って。
 彼女は迷い無く、無数の花弁を生み出してゆく。
 彼に約束を守らせる事に、私が私の命を賭けると誓った。
 死ぬ気なんてさらさらない、私は生きて――彼の隣に並び立つ!

「未来は、未来で待ってなさい」
 ――慌てなくても意地でも辿り着いてみせるわよ。
 私は、守られるだけのお姫様じゃない。
 待っているだけでハッピーエンドなんて、まっぴらごめんなのよ。

●目に映すは、約束
 自分にとっての、理想の終焉。
 シノ・グラジオラス(火燼・f04537)は其れに、心当たりが無い訳ではない。
 今までは其れを望んで、其の為に生きていたのだから。
 だからこそ、目の前の光景に対しても平静を保っていられたのだろう。

「(きっと、これ以上の事はないだろう)」
 何かの境界線上に、シノは立っていた。
 片側には雪狼が、もう一方には黒猫の姿が見える。
 ……そうか。此れは生と死の境界線なのだと、彼は理解した。

 雪狼――セスが赦す様に、自分へ手を差し伸べている。
 黒猫――リナは涙をぽろぽろと零しながら、其れでも自分を見送ろうとしている。
 ああ、此れでやっと終わる事が出来るのかと……。

「なんて、少し前の俺なら思っていたかもな」
 シノは思わず、自嘲めいた笑みを浮かべる。
 様子が急に変化したのを見て、雪狼と黒猫は揃って目を丸くしていた。

 そう、以前の彼ならば。
 此れは抗いがたい夢であり、溺れていたかもしれない。
 彼の命を、刈り取る事が出来たかもしれないが――お生憎様だったな。
 今の彼にとっては、どんな死も何の救いにもならず。意味を持たないもの。
 そもそも、彼の終わりを決められるのは彼自身ではない。

 ――俺の終焉は、リナだけが決められる。
 本物の彼女をどれだけ幸せに出来たか、約束を守り切れたのか。
 其れだけが、今の彼の死に様を決めるものだ。

「死に場所探しは止めたんだ」
 雪狼の事を忘れる訳じゃない。
 彼女を、此の色を忘れるつもりなどない。
 自己満足で死ねるほど、抱えてる約束は安くない。
 故に……雪狼の事も背負って生きると決めた、其れだけの話だ。

 ゆらり、蒼炎が揺らめく。
 夢を焼き尽くそうとする様に、劫々と燃え盛っている。
 彼はもう、自分だけが楽になる方法を選ぶつもりは無い。
 生きて沢山思い出作らなければならない、と。
 そう告げた『彼女』が、そんな死を望む筈がないと知っているから。

「欲しけりゃ、奪い取るんだな」
 ――こっちも全力で抗ってやるよ。
 安易な終わりはもう要らない。必要無い。
 彼女の命が賭けられた約束を守り切る為にも、彼女の隣で……俺は生きる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

尖晶・十紀
理想◆
数日前から起き上がれない。
とうとう稼働限界が来たみたい。先日二十歳になった。思ったより長く持ったのは嬉しい。
やりたいことは全部終えた、お別れも済ませた、未練はない。
誰にも邪魔されない、この場所で。青い空の下、綺麗な空気に包まれながら。このまま眠るように静かに……



あり得ない。兵器として造られた自分が、数え切れない程の同族を処理した自分が、穏やかに死ねる訳ないのにね…

こんな夢、見せられたって…虚しい、だけ……。早く、覚めなきゃ……痛みでもなんでもいい、刺激を自分自身に与えて……



●終の景色
 code:spinel//010、通称検体10番。
 そう呼ばれていた場所から脱走して、猟兵として活動して。
 ……どれ程の時間が過ぎたんだろう。
 尖晶・十紀(クリムゾン・ファイアリービート・f24470)は薄れつつある意識の中、そんな疑問を抱いていた。

「(ああ、そうか……)」
 先日確か、二十歳になったんだっけ。
 思ったより長く保った事実を、尖晶は素直に嬉しく思う。
 しかし……少しずつ動きが鈍くなり、戦闘にも支障が出始めて。
 遂に、数日前から起き上がる事すら不可能となってしまった。

 其れでも、尖晶の心は凪の様に穏やかだった。
 やりたいことは全部終えた、仲間達とのお別れも済ませた。
 彼女の終わりに悲しむ人も居て、少しだけ胸が痛んだけれど。

 ――もう、未練は無い。
 其れに、彼女は終の景色も決めていた様だ。
 何人かの仲間に運んでもらう形で、彼女は巨木に寄り掛かる。
 清浄な環境は本来、フラスコチャイルドにとっては毒にも等しいが……。

「(綺麗、だね……)」
 死にゆく身体に、生命維持装置は不要だから。
 青い空の下、綺麗な空気に包まれて。
 誰にも邪魔されない、此の場所で……眠る様に、静かに逝こう。

 異能の血――灼血に適合させる為に。
 何度も改造を重ねて、戦闘用として調整された兵器。
 幾つもの戦いの中で焼いて、燃やして、紅華を咲かせて――。

「(――あり得ない)」
 こんな夢を見せられたって、虚しいだけ。
 兵器として造られた、自分が。
 数え切れない程の同族を処理した、自分が。
 ……こんなにも穏やかに、安らかに死ねる訳がないのに。

 起きなければ、動かなければ。
 鋭い痛みと共に、意識をはっきりとさせるべく。
 早く目覚めなければと、尖晶は赫炉を思い切り握り締めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リオン・エストレア

夢の中に写るのは最も望んだ理想
終わりの夢に沈んでいく

最初から誰かに裁いて欲しかった
この怪物を
誰にも望まれず
仲間さえ裏切った愚かな俺を
誰かに殺してもらいたかった

心の奥底で
誰かに止めて欲しいと願っていた
最初から俺が変わりに死ねばよかった
俺が死ねば誰もが幸せになる
友人や同胞を斬る事も無
流れる血を恐れる事も無くなる
それが最良の結末なんだ

明確に写し出せない
大切な人の朧気な姿に
この身を貫かれる
何かの声が聞こえてくる
憎悪の音でもいい、侮蔑の言葉でもいい
溢れ出る血に酔いながら
1番穏やかな笑顔で溺れて行けたのなら…

月が沈む頃に
生きた証さえ消えて行く
これで、良かったんだ……



●止まない雨
 こぽり、こぷり……。
 沈む、沈む、何処までも深く溺れてゆく。
 リオン・エストレア(黄昏へ融け行く”蒼”の月光・f19256)が再び目を開いた時、其処には朧げな姿が在った。
 其の人物は刃を手に、何処か悲痛な雰囲気を纏っている。
 対峙する者の姿が明確にならぬも、彼は瞬時に悟った。
 此れは間違いなく、自分の終わり……裁きの時は今、来たれり。

「そうか……」
 やっと、やっと。
 此の空虚な旅路が終わるのか。
 強く意識すると同時、リオンは此の上ない喜びを感じていた。

 もう、蒼き血の約定に縛られる事も無くなる。
 あの時……仲間だった者、嘗ての親友を手に掛けた時の様に。
 友人や同胞を斬らなくてもいい、流れる血を恐れなくてもいいんだ。
 そうだ。最初から――俺が、代わりに死ねばよかったんだ。

『……っ』
「いいんだ」
 震える切っ先を見ては、リオンは穏やかな声で告げる。
 初めから、彼は誰かに裁いて欲しかった。
 心の奥底で、誰かに止めて欲しいと願っていた。
 誰にも望まれず、仲間さえ裏切った愚かな俺(かいぶつ)を……誰かに、殺してもらいたかった。

 ――此れが、最良の結末なんだ。
 彼はゆっくりと、両手を広げて終わりを迎え入れる。
 大切な人に殺されるならば本望だと、心の底から思うからこそ。

 徐々に、月が沈みゆく。
 奇しくも時を同じくして、刃が深々とリオンの身体を貫いていた。
 ぼたり、ぼたりと……鮮血が溢れて止まらない。
 其れに酔い痴れる内に、彼が生きた証さえも消えて逝く。

『――、……っ!』
 嗚呼……此れできっと、良かったんだ。
 降り掛かるものが憎悪の音でも、侮蔑の言葉でもいい。
 そんな風に、リオンは思っていたけれど。
 実際には……温かい涙の雨がぽろぽろと溢れ、彼を濡らしていて。

 ――どうか、泣かないでくれ。
 同族殺しの自分には、あまりにも勿体無い幕引きだ。
 彼はふと、笑みを浮かべる。君のお陰で笑って逝ける、と。

 今まで生きてきた中で一番、穏やかな笑みを湛えながら。
 彼は眠る様に息を引き取るのだった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ゼロ・クローフィ
何人もの人がこちらをみている
嗚呼、アイツらか
俺の中に潜む奴ら

そもそもこの身体は俺なのか?
どうでもいい
この身体が誰なのか興味はない
あるのは俺は何者かだけ

悪いなここには俺が望むモノは無い
何も興味も無い俺にとって
夢も興味も無いモノだ

だから囚われない
捕らわれない
懐から煙草を取り出し口に咥える

女の声?
誰だ?たまに魅せる女
多分、自分と関わった奴なんだろう
恋人?兄弟?
わからない、が興味も無い
アイツじゃないならどうでもいい

ふぅとひと吐きする
どうせ魅せるならもっと面白いモノにしなよ
起きろというアツイの声にくくっと喉を鳴らす
面倒くさいアイツが何か言う前に帰るか



●零
 ――どうでもいい。
 ゼロ・クローフィ(黒狼ノ影・f03934)は深く息を吐き出して、懐から煙草を取り出す。
 夢でも煙草が吸えるのは重畳、酒が無いのは残念だが。
 紫煙を燻らせながら、彼は周囲に存在する『何か』に視線を向けた。

 ……目、だ。
 何者かが暗闇の中に潜みながら、彼の事を睨み付けている。
 どうやら、隠れているのは一人ではないらしい。
 複数人の鋭い視線が、彼に突き刺さっていた。

「(嗚呼、アイツらか)」
 彼らの正体に、ゼロは直ぐに気付いた。
 多重人格である彼の内に潜む、『零』ではない者達。
 実験に実験を強引に重ねた結果、崩壊した彼の人格の一部。

 ……そもそも、この身体は俺なのか?
 不意に浮かんだ疑問を、彼は即座にどうでもいいと一蹴する。
 此の身体が誰なのか、興味はない。
 彼にとっての興味の対象は、己が何者なのか。其れだけだった。

 此処には、彼が望むモノは無い。
 夢にも、理想の死とやらにも興味は無い。 
 何の興味も無い故に囚われない、捕らわれない。

「……誰だ?」
 女の声がする。
 其れは時折、魅せる女。
 確か、何処かの戦場でも見た様な気がするが。
 ……恐らくは、ゼロと関わりのあった人物なのだろう。

 恋人か?兄弟か?
 奴と関わっていたのは昔の俺か?他の奴か、或いは。
 ……さあ、どうだろうな。さっぱりわからない。
 どうやら彼にとっては、興味を抱く対象にすらなり得ないらしい。

「(アイツじゃないならどうでもいい)」
 ――起きろー!起きてくださーい!
 目覚まし時計なんかよりも効果的な声が、彼の耳に届いた気がした。
 再び紫煙を吐き出しつつ、ゼロは喉を鳴らす様に笑う。

「どうせ魅せるなら、もっと面白いモノにしなよ」
 多くの目も、魅せる女も。
 ゼロが興味を抱くには程遠いモノだった様だ。
 ――さて、面倒くさいアイツが何か言う前に帰るか。

成功 🔵​🔵​🔴​

朧・ユェー
ここは?
真っ白な世界
何も無い世界
過去も現在も未来も無い
何もすることの無いしなくてもいい
何無い、誰も居ない
真っ白な世界
そう望んでいた、ずっとずっと
ここで一人死んで逝こう…か?

これは夢、夢だ。
死とは幸せをまねくもの
死とは今を終わり
全てを無くせる

無くす?全てを
無くしたいと思った
あの日をあの記憶を全て
そして自分自身を
無くせば変わると思って

でも、声が聴こえる
あのあたたかい場所であたたかい声
僕がどんな奴かわからないのに
でも手を差し伸べてくれる
僕を優しく受け入れていれる子達
近くで護りたいと思った子達

愛おしいと思える子達が居て傍にいれてる幸せ
あちらの方が夢かもしれませんねぇ
さて、帰って紅茶を淹れなくては



●無彩⇒有彩
 過去も現在も未来も無い。
 ただ、何処までも『白』だけが広がる世界。
 何もする事の無い、しなくてもいい。静寂に包まれた場所。
 何もない世界と溶け合う様に、朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)はぽつんと立っていた。

「ここは……?」
 廃団地に足を踏み入れて、他の猟兵達と合流を果たしてから。
 確か、真っ暗闇を歩いていた筈だけれど。

 ……嗚呼、そうか。
 これは夢。邪神が魅せる、死の夢だ。
 そう判断すると共に、朧は此の光景の意味を理解していた。
 何も無い、誰も居ない真っ白な世界。己の終わり。
 其処は……彼がずっと、ずっと望んでいた場所だった。

 ――死。
 彼にとって、其れは幸せをまねくもの。
 今を終わらせて、己が全てを無に帰すもの。

「(ここで一人、死んで逝こう……か?)」
 全てを無くしたいと思っていた。
 あの日、あの記憶、父と同じ容姿……自分自身の存在を。
 全部無くしてしまえたら、何かが変わるかもしれないと信じて。

 嗚呼、今からでも遅くはない。
 此のまま無彩色の一部となって……静かに死して、消えてしまおうか。
 そんな思考が朧の脳裏に過ぎった瞬間、彼は微かな音を耳にする。
 ――己の名を呼ぶ、声が聞こえる。
 其れは、彼が近くで護りたいと思った子達の声だ。

「皆さん……」
 僕が、どんな奴かもわからないのに。
 彼らは、手を差し伸べてくれる。優しく受け入れてくれる。
 一人は慣れている筈だった、けれど……。
 其の温もりが優しくて、幸せだから。朧は手放し難いと感じてしまう。

 愛おしいと思える子達が居て、自分は彼らの傍に居られる。
 帰りたいと思える場所が、温かく迎えてくれる子達が居るから。
 ……ああ、あちらの方が夢かもしれませんねぇ。
 くすりと微笑みを浮かべては、彼は真白の世界に背を向けていた。

「さて、帰って紅茶を淹れなくては」
 彼らを悲しませない為にも。
 此のまま消える訳にはいかないと、朧は強く思ったのだろう。
 
 ――さあ、彩り豊かな夜へと帰ろうか。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『愛すべき『わたしたち』』

POW   :    『心』
【『わたしたち』】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
SPD   :    『夢』
【『おかあさま』の力】を籠めた【夢魔たる能力】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【夢を喰い、心に満ちた希望】のみを攻撃する。
WIZ   :    『狂気』
【関心】を向けた対象に、【"狂気"を齎す幻覚を、脳内へ直接送ること】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は百鳥・円です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【お知らせ】
 プレイング受付開始は『4月16日(金)8時31分(予定)』からとなります。
 導入は今暫く、お待ち下さいませ……。
**********

●欠片
 おかあさま。
 わたしたちは、ここに、います。
 百に砕けた欠片の一つは、ここに、確かに。

 たくさんの『心』を集めましょう。
 欠片が足りないのならば、多くの『心』で補いましょう。

 おかあさま。
 欠片(わたしたち)のすべては、貴女のために。
 貴女が在ること、貴女の元へ還ること。
 それこそが、わたしたちの――。

●狂爛
 とても甘やかな幸せに包まれた、死の夢。
 嗚呼、目覚めた時はどんな気持ちだったのだろう?
 
 夢幻の死などに負けないと、決意を新たにするのか。
 或いは、死に切れぬ現実に歯痒い思いをしているのか。
 其れとも……唐突な別離に驚きながら、胸を締め付ける寂しさに耐えているのかな。

 恐らく、多種多様な反応を見せているのだろう。
 ……だが、邪神は猟兵達を待ってくれない。

『どう、して……?』
 静かな室内に、女性の声が響く。
 其処には不自然な程、何の感情も込められていない。
 猟兵達の眼前には、被害者である女子大学生が――彼女の傍らに、昏い眼差しの少女が立っている。
 邪神と同調している為か、彼女の目にも星屑が僅かに散りばめられていた。
 彼女達の足下には、他の被害者達が横たわっている。
 どちらも此の上なく穏やかな表情で、深い眠りに入っている様だ。

『ねえ、どうして……?』
 此処に至る者達は皆、幸せな死を求める者ばかり。
 生きる事が苦しい、生きていたくない、もう疲れた……。
 故に、猟兵達の抵抗は邪神にとって不思議だったのだろう。

 そして、邪神は関心を抱く。
 どんな終焉(ゆめときぼう)ならば、其の心が満たされるのか。
 どれ程の『夢』や『希望』を喰らえば、其の心を手に出来るのか。
 ――彼女が両手を広げると同時に星屑が舞う、夢幻の夜空が拡がってゆく。

『おかあさま――』
 夢見の胡蝶たる、貴女。
 欠片(わたしたち)のすべては、貴女のために。
 だから……其の強き心を、わたしたちにくださいな。

**********

【プレイング受付期間】
 4月16日(金)8時31分 ~ 4月17日(土)23時59分まで

 本章では、邪神の力によって『夢』や『希望』が喰われます。
 其れにより、皆様にとって『大切なもの』が砕ける、壊れる幻覚を見る事になるでしょう。
 大切な人、大切な物、大切な場所ないしは其の風景。
 嗚呼、もしかしたら他にもあるかもしれません。

 自分を鼓舞して、或いは隣人と励まし合うなど。
 幻覚に抵抗した上で、邪神との戦いに臨んで頂ければと思います。
 また、犠牲者達が倒れていますが……。
 邪神の力によって、室内が特殊な空間に変化している為、戦闘に巻き込まれる事はありません。
 気にせず、戦いに集中して頂ければと思います。

 長々と失礼致しました。
 では、皆様――夢と現が交錯する戦場、良き戦いを。
レモン・セノサキ
な……?!
仮初の体が無数の符に解けながら無に還って行く
もとより襤褸襤褸の紙切れ一枚
いつ偽身符として機能しなくなっても不思議じゃないとは思ってたけど
嫌だ、私はまだ何も無念を晴らしてない
誰も救えずに終わるのは、もうウンザリなんだ!!

激情のまま叫び、狂気を強引に振り払う
足元から迸る蒼い光
薄黄色のコートに白黒のガンナイフ
夢で見た「本物」の装い
感覚も普段よりクリア
仮初じゃない実体の身体
文字通りの「真の姿」……皮肉だねえ

逃避の先の死に幸せなんてあるもんか
彼等を狩って来たホンモノが断言する
証拠は此処に
彼等の啜り泣きを
生への渇望を
そして託された願いを知れ!

対象は視界内全員
反動無視
起きろ、後輩(イェーガー)!!



●意志は千切れぬ
 『夢』や『希望』が喰われる。
 其の意味を、レモン・セノサキ(金瞳の"偽"魔弾術士・f29870)は直ぐに理解する事となる。

「な……っ!?」
 何かが破れた様な音と共に、両足の感覚が薄れてゆく。
 何事かとレモンが視線を向けると、身体が徐々に無数の符に解けているではないか。
 まさか、先程の音は――本体である偽身符が破れた音?

 元より、襤褸襤褸の紙切れ一枚。
 いつ、偽身符として機能しなくなっても不思議じゃない。
 其れは彼女自身、重々理解していた事だった。
 だが、此れは……嫌だ。私はまだ何も無念を晴らしてない……!

「誰も救えずに終わるのは、もうウンザリなんだ!」
 己を蝕む狂気を、激情を以って振り払う。
 レモンが叫ぶと同時に、無くなった筈の両足に蒼い光が迸っていた。
 全身の分解が停止、再構成によって纏うのは薄黄色のコート。
 そして……右手には純白、左手には漆黒のガンナイフ。

 感覚も普段よりクリア。
 仮初とは違う、実体の身体。
 ……夢で見た『本物』の装い、文字通りの真の姿。
 皮肉だねえ、と。彼女は内心ひとりごちて、すぐさま戦場を見渡した。

「逃避の先の死に、幸せなんてあるもんか」
 レモンが、彼等を狩って来たホンモノが断言する。
 世を見れぬ小さな彼等の啜り泣き、生への渇望……証拠ならば、此処に。
 ――悲不見世忌む哉、呱々の祟り。布瑠の言。

「招請……開示!」
 眠る訳にはいかない、そう強く思うならば。
 逃げる訳にはいかない、そう決意を固めたのならば。
 彼らの背を押す事こそが、今のレモンに出来る事だから。

「さあ――起きろ、後輩(イェーガー)ッ!!!」
 彼等から託された願いを籠めて、レモンは吼え猛る。
 そして、出来る限り多く、魂に刻まれた傷を少しでも癒やすべく。
 不可視の治癒符を意の儘に操り、仲間達へと飛ばし始める。

 もっと早く、もっともっと。
 力強い視線とは対照的に、彼女は不意にガクッと膝から崩れ落ちた。

 術の反動?
 嗚呼、そうだった。でも、彼らが前へ進めるのならば……それで良い。
 後は任せたよ、後輩(イェーガー)。

成功 🔵​🔵​🔴​

歌獣・苺
【紅苺】

どれ程の時が
経ったのだろう
このまま暖かなぬくもりの中から
抜け出すことも出来ず
死んでしまうのだろう
そう思って身を委ねていれば

ーーまい

呼ぶ声が聞こえた
あぁ、なゆ。
なゆに呼ばれてしまったのなら
私はそっちへ行かなきゃ
まーくん
私、やっと見つけた
本当の幸せの所へ行かなきゃ
こんな夢でも
ずっと抱きしめてくれてて
ありがとう
これからも、ずっと、愛してるよ

優しく口づけて
ぬくもりから抜け出して
変わり果てたなゆの元へ

なゆ、なゆ。
あぁ…こんなにほつれて
ゆらいで…
遅くなって、ごめんね。

ーー『咲って、むすんで』

館へ帰ろう。
私が運んであげるから
幸せな夢をみて、休んでいて。

壊れた貴女を優しく抱く

…今度は私がーー救うんだ。


蘭・七結
【紅苺】

ぱちんと弾けて消えてゆく
風景も、ひとも、何もかも
指さきを伸ばして繋いでも
手のひらから溢れ落ちるの

嗚呼、そう
すくえない
『あなた』もあなたも
アナタも貴方も貴女も

すべては硝子だ
すべては泡沫だ
無し色へと帰す

ーーは、アハハッ
もういいわ
もう、結構

結わう金環がこわれて
慾も諦観も溢るるまま

浮かぶ“邪”を綾めて
いとを星屑で彩めて
すべてあやめ獲ろう

星が堕ちるよりも瞬く間に
終わりの幕を降ろしてから
傍らのあなたへと微笑むの


まい


戻っておいでなさい
あなたは、いっては駄目
あなただけでも
元の心を取り戻してちょうだい

剥き出しの慾は留まらず
再び結わう環は揺らいだまま

この翼では飛べない
この足では歩めない
すこうし、睡らせて



●あやめて、むすんで
 まるで、童話の眠り姫の様に。
 歌獣・苺(苺一会・f16654)は、まだ眠り続けている。
 蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)が彼女を起こそうと試みたが、夢との結び付きが強い為だろう。彼女は、未だに目覚めないまま。
 ――されど、邪神は手を緩めない。

「……っ」
 しゃぼん玉の様に、ぱちんと弾けては消えてゆく。
 風景も、ひとも、何もかも……触れる事すら許されない。
 蘭が辛うじて指先を伸ばして繋いでも、するりと溢れ落ちるばかり。
 大切なものが少しずつ、泡沫の様に壊れてゆく。
 ……砕けたものは戻らない、すべて、無し色へと帰す。

「――は、アハハッ」
『……?』
「もういいわ。もう、結構」
 硝子が砕ける様な音が響き渡る。
 結わう金環がこわれて、慾も諦観も止め処なく溢れる。
 そう、すくえない。『あなた』もあなたもアナタも貴方も貴女も――。

 ――禁紅の惨華。
 紫の双眸が、七彩囚う金糸雀の眸へと変わりゆく。
 くれなゐを纏う真白の蝶が、蘭の周囲を舞い始めていた。
 裡に潜めた激情で、アヤ獲リ絲を作りましょう。
 彼女は浮かぶ邪を綾めて、いとを星屑で彩めて……すべて、あやめ獲とうと。
 アヤ獲リ絲が邪神に触れた直後、無し色の幻想は瞬く間に消えていった。

「まい……」
 あやめる意図は、一つだけではない。
 蘭は『アヤ獲リ絲』を以って、歌獣の心を囚える意図を殺めようとしていた。
 牡丹一華が崩れる前に、せめて……あなただけでも、すくわなければ。

 あなたは、いっては駄目。
 あなただけでも、元の心を取り戻してちょうだい。
 あなたには……咲っていて、ほしいの。だから、お願い。

 ――戻っておいでなさい、まい。

 静寂満ちる暗闇に、声が微かに響く。
 其れを確りと、黒色の兎耳は拾っていた。
 嗚呼。温もりに身を委ねて、どれ程の時が経ったのだろう。

「今の、声……なゆ……?」
『……行くのか?』
 歌獣の呟きに、幼馴染の幻――唄舞が問い掛ける。
 彼は時折宥める様に背を撫でて、大丈夫と優しく声を掛けて。
 最初から今まで、ずっと……彼女を抱き締め続けていた。

 其れが、歌獣が望む終わりだったから?
 しかし……彼の行動は本当に、其れだけなのだろうか。
 見方を変えれば、唄舞の言動は彼女の『心』を守ってくれた様にも――。
 そんな事は無いと解っていても。
 そうだったら嬉しい、と。彼女は小さく笑った。

「私……やっと見つけた、本当の幸せの所へ行かなきゃ」
『怖くないか?』
「うん」
 暗闇は怖いけれど、蘭の声と共に繋がりを感じ取ったから。
 此の『いと』を辿って、現実へと戻る事が出来る筈。
 歌獣の頷きに安堵したのか、唄舞が息を吐くと……彼の身体が少しずつ、透ける様に消えてゆく。

 夢が終わる。別離の時は近い。
 其れでも、彼女は目に涙を溜めるだけに留めていた。
 尻尾を切り落とした時は痛くて、意識が落ちてしまったけれど。
 暗闇で良く見えないけれど、せめて今回は……笑って、お別れを言いたいから。

「まーくん」
『ん?』
「こんな夢でもずっと抱きしめてくれてて、ありがとう」
 例え、此れが死を齎す夢だとしても。
 暗闇の中で独りきりだったら、自分はきっと壊れていた筈だ。
 あなたの温もりが、私の心を守ってくれたから。
 歌獣は精一杯の笑顔を浮かべて。告げるのは、さよならではなく。

「これからも、まーくんの事を……ずっと、愛してるよ」
『おぅ。綺麗になって待っときや、苺』
 其れは、再会の約束。
 歌獣が返事をするよりも早く、瞬く間に暗闇が晴れていた。
 其処にはもう、幼馴染の姿は無く。
 代わりに……彼女の目に映ったのは、傍らで地に伏した蘭の姿だった。

「ま、い……」
「なゆ、なゆ。あぁ……こんなにほつれて、ゆらいで……」
 ――遅くなって、ごめんね。
 色白の肌はより一層白く、歌獣の名を呼ぶ声はか細く。
 剥き出しにした慾は、留まる事を知らぬかの様。
 再び結わう金環もまだ、揺らいだまま。
 もしも、あと一歩遅かったらと思うと……蘭の様子に、彼女は思わず息を呑んだ。

「なゆ、館へ帰ろう」
「……そう、ね」
 けれども、此の翼では飛べない。
 此の足では歩めないから、だから今は……少し、だけ。

「すこうし……睡、らせて……」
「うん、私が運んであげるから」
 幸せな夢をみて休んでいて、と告げながら。
 今にも壊れそうな蘭の身体を、歌獣は優しく抱いていた。

 ――咲って、むすんで。
 ほつれた『いと』を、透明な彩糸で結び直す。
 蘭にさいわいに満ちた感情を、幸せな夢を与えながら……歌獣もまた、心に誓う。

「(今度は、私が救うんだ)」
 貴女から貰った彩で、貴女の心を彩ろう。
 歌獣の思いを示す様に、瞳には蝶を模した結び目が浮かんでいた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ロキ・バロックヒート
大切なものなんて
もうこの世界にはない
すべては《過去》になって
私だけが生き続けている

さっき見たゆめに溺れなかったのは
それが神ですら覆せない現で
当たり前のことだと
何度も繰り返し確かめたから

自分の髪すら結えない赤毛
青目は枯れた花に囲まれて
白い背高はこえすら出さず
天使は狂って滅びしか求めない
こんなふうにかれらが壊れていても
なんとも思わなくなったくらいに

ゆめときぼうを集めているの?
生憎とこの身の裡にはそんなものないよ
そこに転がってる可愛らしいかれらのような
今生の失意程度では足りない
世界が私と同じくらい
深くて昏い絶望を抱くのを
ずっとずっと待っている

そのときには【終幕】をおろしてあげるんだ
ね、すてきでしょう



●終焉
 大切なもの?
 そんなの、もうこの世界にはない。
 何十回、何千回、数え切れないくらい繰り返して確かめた。
 ……其れこそ、常人ならば気が触れる程に。

「ゆめときぼうを集めているの?」
『……あなた、は』
 首枷に繋がる、鎖が擦れ合う音を響かせながら。
 ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)は甘やかに、邪神へと問い掛ける。
 平然とした彼の様子に、邪神は小さく首を傾げていた。
 邪神の不思議そうな視線をうけて、ロキはくすりと嗤う。

「生憎と、この身の裡にはそんなものないよ」
『……?』
「足りないんだ、全然」
 先程、ロキが見た『ゆめ』もそうだ。
 何度も、何度も確かめた。されど、結果は変わらない。
 其れは神ですら覆せない現で、当たり前の事だと彼は識っている。
 ……だからこそ、溺れたくとも出来なかったのだろう。

 うたも、笑い声すら聞こえやしない。
 自分の髪すら結えない赤毛、枯れた花に囲まれる青目。
 白い背高はこえすら出さず、天使は狂って滅びしか求めない。
 すべて『過去』におとされて――私だけが、生き続けている。
 壊れ果てた『かれら』を目にしても、彼はもう何とも思わなくなっていた。

『何を、言って……』
「わからない?大丈夫、連れていってあげる」
 ロキが微笑みを浮かべると同時に、邪神の身体が僅かに跳ねた。
 直接送られた狂気を辿り、彼は邪神へ狂気を送り返したのだ。
 勿論……そっくりそのままなんて、優しい真似はしない。

 己が、己を保てなくなる様な。
 欠片が更に細かく砕けて、元に戻れない。
 貴女の元へ還れない。其の事実が、息を奪う様で――。
 狂気をも呑む深淵に触れたかと思えば、邪神の意識は再び現実へと戻っていた。

『今、のは……』
「ほんの一部分だけだよ」
 其処に転がってる脆く、可愛らしい彼らの様な。
 ……今生の失意、悲嘆程度では足りない。

 彼はずっと、ずっと待っている。
 世界が自分と同じくらい、深くて昏い絶望を抱くのを。
 其の時には自分が【終幕】をおろすのだと告げて、無邪気な子供の様に笑っていた。

「ね、すてきでしょう?」
 天国でも、地獄でもない。
 生きとし生けるものすべてを堕落させて、破滅へと誘う神。
 ……彼の邪神が導くのは、文字通りの終焉(おわり)なのかもしれない。

成功 🔵​🔵​🔴​

冴島・類
また幻惑を使われれば、手が止まる
先手をなぎ払いで牽制を放ちつつ
相手の攻撃の動作を見切り目指すが
最悪、受けることも覚悟で踏み込み、斬りたいが…

食らったと気づいた直後
砕ける相棒の鴉面
この身を得てから歩いた先で得た仲間や
友の笑顔に
罅が入り…みるみるうちに広がり…

嫌だ、嫌だ
こんなものを見せないでくれ
先程の夢から、幻だと言い聞かせ
それでも光景に胸の罅が軋む
噛み締めすぎた唇は裂ける、が足は止めない

暴いてくれるな
大切に思っていることを
勝手に、使うな
彼らを

僕を認め、呼んでくれるあの人達を
幻だとしてもこれ以上、と
瞳から花喚び逆に問うことで邪神を縛る

こころに、替えは効かないよ
誰かのを奪って、目的は叶うとお思いで?



●疾駆けるもの
 枯れ尾花を振るい、風を呼び招く。
 其れは、冴島・類(公孫樹・f13398)が牽制の為に放った一撃だった。
 ……邪神は事も無げに、表情を変えずに払い除けるも。
 間髪入れずに、濡羽色の髪持つ絡繰人形――瓜江が接近する勢いを乗せて、太刀を振り下ろした。

 しかし、彼が両断したのは幻影。
 ゆらりと揺れては、静かに消えてゆく。
 其の隙を突いて、邪神は人形の破壊を試みるも――。

「させるか……!」
 最悪、受けることも覚悟の上。
 両者の間に踏み込み、冴島は短刀を横薙ぎに振るう。
 邪神に触れられる代わりに、敵に斬り傷を付ける事に成功した。
 ……だが、まだ油断は禁物だ。
 怪我はないだろうかと、彼が瓜江に視線を向けると……彼の鴉面に、罅が。

「瓜江――ッ!?」
 冴島が咄嗟に手を伸ばすも、間に合わない。
 相棒の鴉面が、全身が無情にも砕け散ってしまう。
 彼の肩に乗る灯環も、苦しみの末に息を止めてしまって。

 ……嗚呼、其れだけではない。
 彼が肉体を得てから、歩いた先で得た仲間や友。
 彼らの笑顔に罅が入ったかと思えば、目の前で砕けてしまう。

「(嫌だ、嫌だ)」
 こんなものを見せないでくれ。
 先程の夢から、幻だと言い聞かせるも……狂気は、冴島の胸を深く抉る。
 胸の罅は軋むばかり、噛み締めすぎた唇は裂けてしまう。
 其れでも――足を止める訳にはいかない。否、止めてはならない。

「……暴いてくれるな」
 己が、大切に思っていることを。
 そう簡単に、軽々に、土足で踏み荒らすな。

「勝手に、使うな」
 ……幻だとしても、これ以上。
 僕を認め、呼んでくれるあの人達を好き勝手利用するな。
 胸が軋む音、裂けた唇の痛みも、今は気にしていられない。
 邪神との距離を詰めるべく、冴島は疾駆けて――跳躍。

 彼が顔を上げた時。
 褐色の肌には、青色の線が幾つも刻まれていた。
 其れは彼のユーベルコードによって喚ばれた、情念の花。
 根は、瞳から腕を伝い……邪神へと伸び始めている。

『くっ……』
「こころに、替えは効かないよ」
 ――誰かのを奪って、目的は叶うとお思いで?
 其れは、冴島の静かな怒りの証左だろう。
 彼の瞳から現れた青色の根は、邪神の身体をきつく縛り付けていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ディフ・クライン
大切なものって…

ピシリ
コアに罅が入った気がした
コアから広がった罅が蜘蛛の巣のように全身に広がって
オレが、壊れる

あ、
だめ、だ
壊れては、だめだ
大切な身体なんだ
あの人が生涯をかけて作った
あの人の大切な彼の為の身体
この身体を壊す訳にはいかないんだ
失う訳にはいかないんだ
この身体が、コアが壊れたら、彼の魂が
あの人が、泣いて――

――この体が壊れたら
もう、オレは誰とも繋がれなくなってしまう
あの人とも、彼とも、友達とも
嫌だ、それだけは耐えられない

絶対に――それだけは、許せない

王を呼ぶ
壊れていく身体の部品が零れないよう自分を抱きしめ
放たれる苦痛に軋むコアに喘いで
王よ、淪落せし騎士王
頼む

――あの敵を、斬ってくれ…!



●寒気と灼熱
 ――ピシリ、パキッ。
 胸の中心に存在するコアに、罅が入った気がした。
 其の真偽を確かめる間も無く、ディフ・クライン(灰色の雪・f05200)は糸が切れた人形の様に崩れ落ちる。

 何が、起きたのだろう?
 夢から覚めて、邪神と相対して。ああ、そうだ。
 オレの『夢』や『希望』が……大切なものが、壊れてしまう。

 修復が間に合わない。
 小さな罅が蜘蛛の巣の様に、少しずつ広がって。
 コアの崩壊と連動しているのか、彼の全身も同様に壊れてゆく。

「だ……め、だ……」
 内蔵魔力まで漏れ出しているのか。
 声を出す機能が上手く動かず、ディフは息絶え絶えに呟く。
 しかし、彼の言葉も虚しく……崩壊は止まらない。止められない。

 壊れては、だめだ。
 あの人が生涯をかけて作った、大切な彼の為の身体。
 壊す訳には、失う訳にはいかないんだ。なのに、どうして。
 この身体が、コアが壊れたら。彼の魂の依代が失われてしまえば。
 あの人が、泣いて――。

「あ……」
 壊れる音が、全身に響く。
 其の度に、未知の感覚がディフを苛み続けていた。

 自分が、壊れてしまう。
 あの人とも、彼とも、友達とも繋がれなくなってしまう。
 其れを考えるだけで……彼は無意識に、異様な寒気に目を見開く。
 背中を中心に、指先足先まで凍り付く様な錯覚。
 極寒の地にて生まれた彼にとって、普通の寒気ならば当たり前の筈なのに。

「王、よ……」
 ディフの声に応じて、淪落せし騎士王が姿を見せる。
 そして、少しでも崩壊を食い止めようと、彼は自身を抱き締めていた。
 壊れてしまえば、もう誰とも繋がれなくなる。
 嫌だ、それだけは耐えられない。絶対に、許せない。

 ――不思議だ。
 先程まで、いや今も……全身は異様な寒気に包まれているのに。
 壊れ掛けている筈のコアが、燃え盛る様に熱い。
 嫌だ。許せない。オレはまだ、友と在りたい。
 そう願う度に炎は勢いを増していくが、其れは決して己を害するものではない。
 寧ろ此れは、此の感情は……否、今は……!

「頼む――あの敵を、斬ってくれ……!」
 苦痛に声を震わせながらも、ディフは叫ぶ。
 其れに対して、王は語らず……ただ、武勇を以って応えるのみ。
 動けぬ彼の代わりに、渾身の力で邪神を斬り裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャオロン・リー
ああ、ホンマにええ夢やった
それでもこれは、良くはないわなぁ

血塗れで倒れとる、ロス
一人だけ生き残ってくれた、俺の…まぁ弟弟子みたいなもん
その背に刺さって縫い止めとるんは俺の槍
俺の槍に、ロスが、殺される光景

…でもなぁ
もう見飽きてんねん、こんなもんは
ロスは死なん、死ねへん
今生きとるロスが死ねば、新しいロスが起動する
「助ける」為にトドメ刺した事なんて、両手でも足りへんわ
そんでも、これを俺に見せた時点で決まったわ、オマエは潰す

二槍、蹴り、何でもええから攻撃を当てる
攻撃は激痛耐性と継戦能力で耐えて
真の姿限定解除、竜の翼生やして空中戦
火尖鎗
炎の属性攻撃付与した槍の一斉発射で範囲攻撃の貫通攻撃
暴力で蹂躙したる



●竜の逆鱗
 ――ああ、ホンマにええ夢やった。
 シャオロン・リー(Reckless Ride Riot・f16759)は目覚めた後、充足感に浸っていた。
 もしも、あの夢が現実だったならば。
 心からそう思う程に、彼にとっては幸せな戦いだった。

「それでもこれは、良くはないわなぁ」
 肉を抉る音がする。
 シャオロンの視界に映るのは、あの日の生き残りの一人。
 弟弟子――ロスが、血塗れの状態で地面に倒れ伏している。
 何故、起き上がらないのか。見れば分かる。
 シャオロンの愛槍の穂先が背を穿ち、縫い留めているのだ。

 ……殺したのは他でもない、自分なのだと。
 此の状況を理解しても尚、彼は平静を保っていた。

「はっ……」
 平静だからこそ、恐ろしい。
 助ける為に為にトドメ刺した事なんて、両手でも足りない程。
 今生きているロスが死ねば、新しいロスが起動する。
 シャオロンにとっては、見飽きた光景。
 だが、此れを見せて来た時点で……彼の中で決まった事がある。

「残機制不死って、知っとるか?」
『何の……』
「まあ、どっちでもええわ」
 朱塗りの中華槍――禍焔竜槍『閃龍牙』を握り締める。
 己に流れる竜の血を励起、真の姿を限定的に解除。
 其れにより、シャオロンの背には炎の様に真っ赤な竜翼が生えていた。
 ……嗚呼、腸が煮え繰り返る。胸糞悪い。

「オマエは潰す」
 暴れ竜の逆鱗に触れて、ただで済むと思ったんか?
 シャオロンはもう一本の槍――発破竜槍『爆龍爪』を手に、二槍と蹴りによる連撃を見舞おうと。
 何度も邪神の幻を薙ぎ払い、次が現れると同時に蹴り散らして。
 頬に一筋の傷が付いた事を視認すると、彼は竜翼を利用して邪神の真上に移動する。

「死にさらせ」
 淡々とした声から滲み出るのは、殺意。
 シャオロンの鋭い眼差しは、確りと邪神を捉えていた。
 焔を纏った無数の槍による一斉刺突は、さながら集中豪雨の様。
 邪神は幻を生み出して、敵の攻撃を少しでも逸らそうとするが――。

『……っ』
「逃がすかァ!」
 暴力による、広範囲に渡る蹂躙。
 手前都合で弟弟子を利用した輩に対する、シャオロンの激情は止まらない。
 虚実を全て焼き尽くす様な乱撃を、邪神は完全に回避する事は出来なかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

月守・ユア
どうして…ね

諦めてるからかな
生きるも死ぬも
それ以上に
いま死んでも
僕の求める幸いは訪れないと分かってるから

然し
目の前に触れるものは何か
誰かに死しか与える事の出来ない僕を嘲笑うように
大切な人達が壊れていく姿?
狂った兄が妹を殺す姿を視る

兄は僕らを愛した中でも
妹を強く溺愛していた
愛は狂気にもなりえる災厄
兄にはその危うさがあった
ずっと、ずっと

怖かった

だから
こんな幻覚を視るのか

殺させない
僕の唯一の愛しき子を
誰にも奪わせたりしない
誓ったの
二度と失わないと

人の夢を喰らったとこで
心なんて得れない
ここにある夢は全て他者ので
お前が見た夢じゃない

夢見る時間は終わり
今度はお前が喰われる番だ

命喰らう呪詛を刃に乗せて振るう



●お月様を守る為に
 愛とはとても美しく……そして、残酷なものだ。
 誰かを愛する自体は決して、間違っていない筈なのに。
 一歩間違えれば、其れは他者を傷付ける凶器と成り果ててしまう。

 何が切っ掛けだったのだろう。
 何が、アイツを突き動かしたのだろう。
 あの日の真相も、其れに至る理由も知らないけれど。
 月守・ユア(月影ノ彼岸花・f19326)は、薄々と理解していた。

「(兄は、僕らを愛していたけれど)」
 特に、双子の妹を強く溺愛していた。
 愛は狂気にもなりえる災厄、兄にはその危うさがあった。
 ずっと、ずっと……嫌な予感はしていたけれど。
 今思えば、彼の内に潜む死の気配を無意識に感じ取っていたのかもしれない。

「(……ずっと、怖かった)」
 だから、こんな幻覚を見るのか。
 妹を幸せにする唯一の存在が、彼女を殺そうとする悪夢。
 誰かに死しか与える事の出来ない彼女を、嘲笑うかの様な惨劇。

 狂ってしまった兄を、元に戻す事も。
 最愛の妹を、心から笑顔にする事だって。
 僕には出来ない。僕は、誰かに死を齎す事しか出来ないから。

「それでも……二度と失わないと、誓ったんだ」
 ――殺させない。
 唯一の愛しき子を、誰にも奪わせたりしない。
 二人の間に割って入り、妹の視界から兄を隠した後。
 迫る凶刃よりも速く、月守は呪花を以って彼の生命を断つ。

 ……其れは、幻の終わりをも意味していたのか。
 兄と妹の姿が溶ける様に消えて、彼女の目の前には邪神の姿が。

「どうして、ね」
 ――諦めてるからかな。
 先程の邪神の問い掛けに対する回答は、至極単純だ。
 生きるも死ぬも、月守の中には拭い切れない諦観が存在している。
 其れに……今死んだとしても、彼女の求める幸いは訪れない。

 呪花の刃を手に、月守は紡ぐ。
 命を摘み取る終焉の旋律、殺戮ノ呪歌を。

「今度は、お前が喰われる番だ」
 夢見る時間はもう終わりだと、月守は刃を振るう。
 此処にある夢は、全て他者のもの。お前が見た夢じゃない。
 人の夢を喰らったところで、心なんて得られない。

 死の力が込められた一閃。
 届かなければ、届くまで斬り続ける。
 そして、遂に――彼女の刃は邪神の身体を裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャト・フランチェスカ
大切なもの?

僕には何も視えない
穢されたのは淡い希望だけ
僕にも大切なものがあるんじゃないか、という
根拠のない期待だけ

形もない
色もない
ただ、心の何処かに罅が入ったのを聴いた

僕は大切なものを見つけられない
僕は誰かを大切にできない
僕は誰からも大切にされない
唯一に成れない
僕は何者でもない

刃を握る
迷い無く突き立てる

ああ、そう
淡い夢すら奪うの
なんでもない『私』からでさえ

微温いんだよ
お前の狂気は

此の身は紛い物
痛みも自我も曖昧な歪
白紙の私を染める赫い洋墨
激情の燃料にして
嫉妬のまま灼き払う

わたしたち
おかあさま
ああ、そう
きみですら想うものが在るの
僕はこんなに空洞なのに
僕は誰からもアイされないのに

僕は僕を憎んでるのに



●Who am I?
 穢されたのは、淡い希望だけ。
 僕にも、大切なものがあるんじゃないか……なんて。
 そんなもの、本当に在るのかさえ不確かなのに。

 根拠のない期待、過ぎた願い。
 滑稽だと解っているからこそ、渇いた笑いしか出ない。
 大切なものは全部、全部、『シャト・メディアノーチェ』のもので。
 紛い物には……なんでもない『私』には、大切なものなんて視えやしない。

 形も無い、色も無い。
 其れでも、淡い夢を抱くくらいは良いでしょう?
 そう、思っていたのに……シャト・フランチェスカ(侘桜のハイパーグラフィア・f24181)は心の何処かに、罅が入った音を耳にした。

「わたしたち、おかあさま……」
 片欠けの剪刀を、シャトは強く握り締める。
 内側の罅から、どろりと何かが溢れた様な気がした。
 なんでもない『私』からでさえ……きみは、淡い夢すら奪うの。

「ああ、そう。きみですら、想うものが在るの」
 ――僕は、誰からもアイされないのに。
 どろどろとした、妬みや嫉み。
 其れ以上に溢れ続けているのは、己への憎しみ。
 気付けば、シャトは左腕の傷口に刃を深く食い込ませていた。
 そして……溢れ出る激情を込めて、其のまま一息に抉る。

 咲き誇れない徒桜。
 痛みも自我も曖昧な歪。
 此の身を埋めるのは、空洞ばかり。
 そんな僕が、大切なものを見つけられる筈もない。
 大切に出来ない、大切にされない、唯一に成る事が出来ない。

「(僕は、何者でもない)」
 白紙を赫い洋墨で何度も染めても、染まり切らない。
 空虚な自分への憎しみを、ずうっと抱えながら。
 其れでも……朧に惑う自己を繋ぎ留めて、シャトは生きている。

 生きるも地獄。
 されど、睡る事すら赦されない。
 贋作と自覚しながら、己を見つけられぬまま。
 無慈悲な現実を幾度と無く直視しても、息を止められぬ苦行。
 解る?解らない、だろうね……きみ達に解られてたまるか。

「微温いんだよ、おまえの狂気は」
 華焔よ、燃やせ。
 灼き払え、壊してしまえ。
 アイしてアイされるきみ達に手向けるのは、鮮血の荊と寒緋桜。

成功 🔵​🔵​🔴​

百鬼・智夢
大切なもの
父や母
猟兵になってから親しくしてくれた仲間
この世界……そして、リアム
故郷で居場所を無くしてた私にとっては
どれもなによりも大切で、失いたくないもので…

だから
例え幻覚だとしても
壊れてしまうのは悲しくて、怖くて

いや…いやぁ……!

震えが止まらない
私だって猟兵なのに
涙が止まらない
1人にしないで
これ以上、私から居場所を奪わないで

無理矢理幻覚を振り払うように
【破魔】を宿した★薙刀で戦います
私の気力が続く限り

でも、それでも
もし途中で力尽きてしまったら
代わりにリアムが【指定UC】による【呪詛】で戦闘を

夢ヤ希望モイイケレド
タマニハ甘クテ美味シイ絶望ハイカガ?
僕ガ教エテアゲルヨ

サァ、鬼ゴッコヲ始メヨウ



●悪魔ハ笑ウ
 ――鈴の音が鳴り響く。
 破魔の薙刀が振るわれる度に、百鬼・智夢(慈愛の巫女・f20354)と共に泣き叫ぶ様に。
 こんな幻、早く終わってほしい。もう見たくない。
 彼女の悲痛な願いも虚しく、大切なものには罅が入るばかり。

「いや……いやぁ……!」
 百鬼の両親。
 つい先程まで、抱き締めていた筈のテディベア――リアム。
 彼女が猟兵となってから、親しくしてくれた仲間達。
 壊れゆくのは人や物だけではなく……思い出を作ってきた、世界までも。

 どれも大切で、失いたくないと思うものばかり。
 故郷で居場所を無くして……また、失ってしまうの?
 振り払おうと薙刀を振るい続ける彼女の様子は、酷く痛ましい。

「これ以上、私から居場所を奪わないで……!」
 百鬼の震えは止まらない。
 其れでも、私だって猟兵なのだと無理に鼓舞して。
 ぽろぽろと涙を零し続けながら、胸の内に渦巻く恐怖を堪えながら。
 彼女は只管に得物を振るう。気力が続く限り、破魔の力で幻を払おうとしていた。

 だが、全てを散らし切る事が出来ぬまま。
 彼女が意識を落としたのは、無意識に自身の心を守ろうとした為か。
 ……或いは、此の悪魔の仕業だろうか。

『バアッ!』
『あなた、は……』
『キミガ知ル必要ハナイダロウ?』
 クスクス、アハハッ!
 宙を自在に飛び回る様で、百鬼の傍からは決して離れない。
 彼女が意識を取り戻すまで、リアムに取り憑いた悪魔は高らかに嗤う。

 報復ノ時間ダ。
 キミハ僕ヲ怒ラセタ、理由ハ解ッテイルダロウ?
 僕ノ智夢ヲ、コンナニモキズツケタ……ユルサナイ、ユルサナイ。

『サァ、鬼ゴッコヲ始メヨウ』
 夢ヤ希望モイイケレド。
 タマニハ、甘クテ美味シイ絶望ハイカガ?

 質量を得た赤と黒の呪詛が、リアムの目の前に現れる。
 逃げる事は許されない……元より、逃がすつもりなどないけれど。
 百鬼を傷付けた敵には、とびっきり強い呪いを。

『バイバーイ』
 瞬間移動によって、邪神との距離を詰めた直後。
 リアムは圧縮された呪詛を、敵へと直接叩き付けたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

榎本・英
嗚呼。私の世界が壊れて行く。

家族、友人、君、ありふれた景色にありふれた日常。
私の夢見た全てが壊れて行く。

背負った物も、罪も、生も何もかもが崩れ去る。

嗚呼。そうだね。
そうだとも。

私の望む全ては、理想にすぎない。

ありふれた日常も。
ただの人として在る事も。
この筆で紡ぎ続ける事も全てが私の理想だ。

急に現実を突き付けられたかのような気分だよ。
君の見せる幻は、私にとっての現実だ。
やはり私は、この物語の中で佇む者では無い。

私が死したら、誰が彼らの事を覚えていると云うのだ。
私は生きねばならない。

生きて彼らを綴り続けなければならない。

絆いで遺す。
それが私の役目なのだよ。



●一人ではない
 すべて、崩れてゆく。
 嗚呼。私の世界が壊れて行く。
 ……私の夢見た全てが、壊れて行く。

「(こんなにも、呆気なく壊れるものなのか)」
 榎本・英(優誉・f22898)は、喪失感を抱かざるを得なかった。
 家族、友人、君……ありふれた景色に、ありふれた日常。
 背負った物も、罪も、生も何もかも。
 みんな、みぃんな崩れ去る。
 水泡の様に壊れて、消えて、失われて行く。

 嗚呼。そうだね。そうだとも。
 此れは紛れもなく、榎本が望んでいた『理想』のすべてだ。

 ありふれた日常も。
 ただの人として在る事も。
 春の嵐、己の名を呼ぶ母の声、数多の縁と記憶、何もかもが――。

「急に、現実を突き付けられたかのような気分だよ」
 今も尚、理想は崩れ続けるも。
 榎本は敢えて其れらに背を向けて、邪神と目を合わせる。
 少女の表情は今も変わらず、心を手にする機会を静かに待ち続けている。

 やはり、私はこの物語の中で佇む者では無い。
 此の幻は確かに、榎本にとっての現実だ。
 此の筆で紡ぎ続ける事さえ、きっと理想の内の一つに過ぎない。
 ……生きる意味も意義も壊して、其のまま息を止めてしまえと言いたいのか。

 もしも、ひとでなしのままだったならば。
 己が理想の崩壊と共に、生命を終わらせていたかもしれないけれど。
 もう、水底で終わりを迎えるつもりはない。

「残念だが、それは出来かねるね」
『もう……何もない、のに?』
「私が死したら、誰が彼らの事を覚えていると云うのだ」
 筆――糸切り鋏に、未明のあかを籠める。
 榎本は、ひとでなしではない。其れ即ち、彼は一人ではないと云うこと。

 私は生きねばならない。
 活きて、生き続けると誓ったのだ。
 此の筆で、此の手で……彼らを綴り続けなければならない。

「絆いで遺す」
 ――それが私の役目なのだよ。
 榎本の言葉に迷いは無く、故に心を渡す訳にもいかない。
 己の心を蝕む淀みを、彼は静かに断ち切った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木常野・都月
俺を助けてくれたじいさん。猟兵の先輩達。旅団の皆。色んな世界に住む人達。

皆大切だ。
皆大事な人達、大事な世界だ。

狐のままだったら、きっとこんな風に思わない。
人は、頭のいい、感情や心の機微に長けた生き物だから。

まだ妖狐になって2年も経ってない…俺も、自分の心の機微が、感情が、分からないんだ。

だけど…守りたいんだ。
そう思うんだ。
大事な人達が壊されるなんて、絶対に嫌だ。
全身の毛が逆立つみたいに、嫌なんだ。

だから、例え幻だとしても。
絶対に許さないぞ。

UC【九尾の狐】の力を借りてでも。
俺の全てで、皆を守るんだ。

真の姿で挑む。
火の精霊様、俺の妖気吸っていいから、皆を守って、敵を倒して。
どうかお願いします。



●大事な世界
 木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)は、目を見開く。
 思いもよらなかった光景に、目を離す事が出来なかったのだろう。
 そして、悲しい事に……其れを止める事も出来ない。

 俺を助けてくれたじいさんが、消えてゆく。
 色んな世界に住む人達、出会ってきた人々も。
 猟兵の先輩達、旅団の皆の姿までもが、瞬く間に崩れてゆく。
 ……すべて、無かった事の様にされてしまう様で。
 そんな光景に、胸の奥の何かが握り潰される様な心地がした。

「……っ」
 自分が狐のままだったならば、こんな風に思わなかっただろう。
 人は頭の良い、感情や心の機微に長けた生き物だと……木常野は思うから。
 彼が、妖狐として過ごした時間はまだ短く。
 自分の心の機微を捉える事が、抱いた感情に名前を付ける事が難しい。

「だけど……守りたい、そう思うんだ」
 全身の毛が逆立つ様な。
 守りたいと強く思う度に、木常野はそんな感覚を覚えていた。
 此の感情を、彼はまだ知らない。嗚呼、其れでも。

 ――例え幻だとしても、絶対に許さないぞ。
 木常野の黒い髪が、少しずつ伸び始めてゆく。
 其れに比例する様に、彼の内側を巡る妖気の量も増加していて。
 更に、彼が呼び出したのは――九尾の狐の骸玉だった。

「(俺の全てで、皆を守るんだ)」
 柔らかな毛並みを持つ木常野の尾が、九本に増える。
 ありったけの妖気を集め終えると、彼は精霊の石から火の精霊様を召喚した。

「火の精霊様、どうかお願いします」
 九尾の狐が持つ妖気だけじゃない。
 自分自身の妖気も、好きなだけ使って良い。
 だから……皆を守って、敵を倒してほしいのだと。
 強い決意を籠めた眼差しで、木常野は火の精霊様へ願う。

 ……良い目をする様になった、と褒める様に。
 彼の背を一度叩いた後、火の精霊様は邪神へと急速に迫り――灼熱の波を解き放つ!

「あっ……」
 九尾の狐に、精気を多く持っていかれた為か。
 広範囲に広がる紅蓮が、邪神を呑み込んだ所は見えたけれど。
 倒し切れたかどうか確認する前に……木常野は其の場に横たわり、眠りに落ちるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

荒谷・つかさ
幻覚:最愛の妹の凄惨な死と、何故助けてくれなかったのかという彼女の亡霊の声(詳細お任せ)

(視えた幻影に目を見開き、膝から崩れ落ち)
……ああ、そう。
よりによって、あの子を……
っ、あはははは……!
(笑いながら幽鬼のように立ち上がる)
(ただし、目は一切笑ってない)
……殺すわ。

(「妹を傷つける・偽る」行為が逆鱗に触れたため、怒りが絶望を凌駕)

【破界拳】発動
無造作に全力パンチを放ち、そこから先100mに至る「空間そのもの」を破壊して攻撃
(明らかにやりすぎな威力ながら怒りで加減が効かない)

例え偽物だろうと、あの子を傷つけた罪は重いわ。
ああ、最後に教えてあげる。

あの子は、あんなこと、言わない!(全力パンチ)



●其の拳は世界を砕く
 猟兵として目覚めた後も変わらない。
 戦国の世より代々伝わる、戦闘流派・荒谷流の正統後継者として。
 己が肉体を、精神を――只管に鍛え続ける。
 其の結果……荒谷・つかさ(逸鬼闘閃・f02032)の見目は華奢だが、内側には強大なる力を秘めていた。

 極端、とも呼べる程に研ぎ澄まされた『怪力』。
 彼女と純粋な力比べをして、勝てる者はそうは居ないだろう。
 ……故に、彼女の近親者を狙う者も存在したのか。

『許さない』
 声が、聞こえる。
 荒谷の耳にはっきりと届くのは、怨嗟の声。
 聞こえてきた少女らしき声を、彼女が聞き間違える筈もない。

『お姉ちゃん……どうして、助けてくれなかったの』
「…………」
『助けてくれるって、信じていたのに』
 其の声を切っ掛けに、荒谷は膝から崩れ落ちた。
 目の前には凄惨な有様の死体、少女――最愛の妹の成れの果て。
 身も心もボロボロにされた挙句、命を奪われたのだと見て取れる。
 ……この子は、もう笑い掛けてくれない。

「っ、あはははは……!」
 どれ程の力があっても、最愛の妹を守れない。
 其の事実が酷く突き刺さったのか、荒谷は嗤い始めた。
 自らの無力を嘆く様に、大切な人の喪失に哭く様に。
 嗤って、嗤い続けて……不意にぴたりと止まる。
 幽鬼の様に立ち上がる彼女の目は、決して笑っていない。

 ――ドォンッ!!!
 鈍い音が、空間内に響き渡る。
 其れと同時に、荒谷の足元には小規模のクレーターが。
 生み出したのは他でもない、彼女自身。殺意の拳。

「殺すわ」
 絶対に許さない。
 此れが幻だという事も、妹が偽者である事も判っている。
 だが……例え偽者だろうと、あの子を傷つけた罪は重い。

 加減など知らぬ、制御など今は無用だ。
 全力を超えた力で、邪神諸共殴り飛ばすだけ。
 ――ああ、最後に教えてあげる。

「あの子は――あんなこと、言わない!」
 其れは、幻想で創られた世界を破壊する拳。
 ただの腕力一つで、世界の境界へと届かせる。
 音速を超える拳圧は凄まじく、周囲へ衝撃波を生み出していた。

 夢も、現も、我が拳を阻めるものか。
 剛力無双の羅刹の怒りは、邪神の身体を強く吹き飛ばしたのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルーシー・ブルーベル
目覚めて、周囲を見回して
……そう

しあわせかは関係ない
何時かは到る未来だもの
未だその時ではなかっただけ
夢希望なんて元から
なのに

さっき一瞬見えた、白くて大きな背中
連なって次々浮かぶひと達のかお
今、大切なもの
ぜんぶを全て青花が喰いつぶしていく、壊れていく

息が止まりそう
勝手に叫んで
幻だと解っているのに手をのばす

だって忘れていたの
置いて行かれる事
置いていく事ばかり考えて
どこかで酷く安心すらしていて
そうだ、こんなにも恐ろしい

ひらと蒼蝶が目の前を通る
ルーも置いていってしまった側だった、ね

かえらなきゃ
置いて行くのが避けられなくても
少しでも長く、傍に
横に並んで歩いた足跡は残り続ける筈だから

だから、返せ
帰して!



●置いていかれる恐怖
 目が覚めて、周囲を見回せば。
 夢で見た時より手足は小さくて、視線も低い。
 右目に触れようとすれば、其処には母から賜った眼帯があって。
 其の事実が、現実に戻ってきたのだと……ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)に教えてくれた。

「……そう」
 ルーシーはぽつりと呟いて、息を吐く。
 ほっとしたけれど、でも……あれは何時かは到る未来。
 彼女にとってしあわせかどうか、なんて関係ない。
 今は未だ、其の時ではなかっただけの話。

 そう、夢や希望なんて元から無い。
 青花を継いだ者の末路は、決まっているのだから。
 いつか……自分は大切な人達を置いていく筈、なのに。

 夢の終わりに、ルーシーが一瞬見た白くて大きな背中。
 連なって次々浮かぶひと達のかお。
 彼女にとって今、大切なものに向けて――青花が、迫りゆく。

「――っ、いや……だめっ……!」
 ルーシーが咄嗟に手を伸ばしても、届かない。
 制止、拒否。思わず叫んだ所で、止まる訳もない。
 パパと呼べる人が、微笑みかけてくれる人達が。
 みんな、みんな……欠片も残さず、青花が喰らい潰してしまった。

 幻だと解っているのに、息が止まりそうになる。
 ……だって、忘れていたの。

「(ルーシーは、ずっと……)」
 置いていく事ばかり考えていた。
 置いていかれる事はないと、心の何処かで安心していて。
 こんなにも恐ろしい事だったという事を、忘れていた。

 いかないで。
 ルーシーの声はか細く、弱々しく聞こえる。
 そんな彼女の目の前をひらりと通るのは、蒼蝶だった。

 『ルー』も置いていってしまった側だった、ね。
 ……あなたもずっと、こんな怖さを抱えていたのかな。

「かえらなきゃ」
 避けられぬ宿命でも。
 横に並んで、歩いた足跡は残り続ける筈だから。
 ルーシーはおよぐお友だちを呼んで、導きの力を付与する。

「だから、返せ――帰して!」
 少しでも長く、大切な人達の傍に居る為に。
 ルーシーの気持ちを汲み取る様に、幻の出口へ向かおうと。
 宙を泳ぐ一角獣は真っ直ぐに進んで行くのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

志島・小鉄
人間サマの姿デス!

おぅい、モグサンや~。はぁ。歩ゐて来マシタが会えマセン。
おぉ?おぉお?
わしの目の前には人間サマ達が居りマス。
おぅい。おぅい!
人間サマに近付くと石ヲ投げられてしまゐマシタ。
痛っ、痛いデス!止めて下サイ!
わしは偽物デハ有りマセン!
偽物!偽物!
わしの人間サマの皮が砕けマス。ボロボロに砕けて妖怪ノ姿ノわしになりマス。
偽物じゃないデス。わしも仲間デスヨ~。
見て下サイ!わしも人間サマと同じ、おなじ、お姿…
獣デス。人間サマと同じ姿デハ有りマセン。
わしはトモダチになれないのでせうか。
どうして、どうして。一緒はダメでせうか。
わしは戦えマセン。



●トモダチ
「おぅい、モグサンやー?」
 返って来るのは、自分の声ばかりデス。
 あれから、ずうっと歩ゐて来マシタが会えマセン。
 はぁ。モグサンは一体、何処まで行ってしまったのでせう。

 志島・小鉄(文具屋シジマ・f29016)は静かに息を吐いて、歩き続ける。
 先程、邪神の姿を目にしたかと思えば……場所は再び、暗闇の中。
 夢から目が覚めても、まだ夢の中に居る様だ。
 そんな風に思いながら、彼は『人間サマ』の姿で歩いていると。

「おぉ?おぉお?」
 何時の間にやら、志島の目の前には人間サマ達の姿が。
 老いも若きも皆揃って、楽しそうに語らっているではないか。
 つい先程までは居なかった様な気がするけれど、今は情報収集が先決だと。

 ――おぅい。おぅい!
 志島が彼らに近付き、声を掛けた直後……雰囲気が一変する。
 朗らかなものから、明確な警戒心を隠さぬ様に。
 そして、一人が小石を手にしたかと思えば――彼に対して、思い切り投げつけ始めた。

『偽物!』
『こっちに来ないで、偽物!』
「痛っ、痛いデス……!止めて下サイ!わしは偽物デハ有りマセン!」
 止めて欲しいと願えど、石の雨は止まない。
 其れらが志島に当たる度に、少しずつ何かが崩れてゆく。

 『人間サマ』の皮が罅割れて、砕けて落ちて。
 気付けば、彼の姿は獣に……妖怪の姿になっていた。

「偽物じゃないデス。わしも仲間デスヨー」
 ――見て下サイ!わしも人間サマと同じ、おなじ……。
 己の両手を見てしまえば、其れ以上言葉を続ける事が出来なかった。

 人間サマと同じ姿では、ない。
 人間サマと同じでなければ、仲間じゃない?
 志島を偽物と蔑む声は止まない、今も続くばかりで。
 されど……彼らを武力で止める事を、彼自身は良しとしない。

「わしは、戦えマセン……」
 人間サマと同じ姿デなければ。
 獣では、仲間になれないのでせうか。
 わしは、人間サマとトモダチになれないのでせうか。
 其の事実が途方も無く悲しくて、寂しくて……。

「えっ……?」
 ――小鉄さん!小鉄さん!
 志島が項垂れようとした、其の時。
 あの日、パフェを半分こした少女の声が聞こえた気がした。

成功 🔵​🔵​🔴​

兎乃・零時
💎🌈

死の夢から目覚め
まず君の無事に安堵する

…どうして、だと?

ふんっ!
俺様達の終わりは自分で決める
他人にどうこうされる筋合いはねぇって事だ

何より
夢は自力で叶えるもんだ
最後の最後はテメェ自身がやるもんだ
だから―――止まらないんだッ!

UCによる…種族による宝石共鳴
疑似的な大人姿に変化

それに隣に大事な友達が居る
ならなおさら…敗けれねぇよなぁッ!


…それでも欲しいってんなら
お前の全部賭けて来な
俺様は勿論、心結のだって、奪わせねぇがな

自身や彼女へと強化術式付与
攻撃も喰らいながらも前へ!
零距離で最大火力の魔術をぶつける!

響け
煌めけ
輝響《グリット=コール》ッ!!!

ん?そうなのか?
だったら後で俺様の血飲む?


音海・心結
💎🌈
※アドリブ歓迎

再び巡り合えた彼に駆け寄る
一安心し、戦いに臨む

人は、人間は、
心から死を望んでいる訳ではありません
死にたくて死ぬわけじゃない
生きるのが辛くて、逃げたくて
結果、死という道を選んだだけ
本当に希望を与えるのなら
違うやり方で幸せにするべきでは?

……喩え
みゆの夢が幾度破られようと
大切なものが砕かれようと
みゆは、諦めない
傍に零時が居てくれるなら

その零時を
みゆの傍から離そうとするのならば
……分かっていますよね?
――全力で奪い返しますよ

さて、
お喋りはここまでですよ
貴方は絶対に許さない

UCで鋭い刃を持つ近接武器を形成
理性を血液を全て失う前に終わらせるつもりで

零時
……血を使い過ぎてしまいました



●己が手で掴む未来
「心結!」
「零時……!」
 互いの元へ駆け寄り、無事を確認した後。
 兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)と音海・心結(瞳に移るは・f04636)は同時に安堵の息を吐き、其のまま背中を預け合う。

 二人の目の前には邪神の姿。
 本物か、或いは幻なのか。見た目では判別がつかない。
 どうして?邪神の問い掛けに対して、強気な笑みで返したのは兎乃だった。

「俺様達の終わりは、自分で決める」
 ――他人にどうこうされる筋合いは、ねぇって事だ。
 其れに、夢は自力で叶えるもの。
 最後の最後は、テメェ自身の力で掴み取ってこそ価値がある。
 だからこそ、夢に溺れて足を止める訳にはいかないと……兎乃は力強く告げる。

「人は、人間は、心から死を望んでいる訳ではありません」
 生きるのが辛くて、逃げたくて。
 結果、死という道を選んだだけだと、音海は続ける。
 死にたくて死ぬ訳じゃない……本当に希望を与えるのなら、違うやり方があった筈。
 彼女が其れを伝えても、邪神は首を傾げるだけだったけれど。

「さて、お喋りはここまでですよ」
「隣に大事な友達が居るんだ、なおさら……敗けれねぇよなぁッ!」
『そう……』
 ――ピキッ。
 隣立つ者の姿に、罅が入り始める。
 大切な存在が砕かれる幻、狂気を齎す悪夢。
 其れでも、兎乃と音海の表情は揺らがなかった。

「俺様は勿論――心結のだって、奪わせねぇがな」
「全力で奪い返しますよ」
 二人ははっきりと目にして、壊れる音を聞いていたが。
 心の繋がりまでは壊せない……彼は、彼女は、傍に居る。確かに感じる。
 故に、確りと前を向く事が出来るのだ。

「それでも欲しいってんなら、お前の全部賭けて来な」
 響け、煌めけ。
 今も過去も此処に、未だ足りぬというのならば――。
 兎乃は自身の成長を進めて、一時的に大人の姿に変身する。
 研鑽の末に手にする筈の未来、彼の内側に巡る魔力量もより一層増えている。
 そして……自分と音海へ強化術式を付与した後、ぐっと杖を握り締めた。

「俺様の全てを賭して、望んだ未来を創り出す!」
 ――輝響(グリット=コール)ッ!!!
 光速にも近い速さで邪神へと迫り、兎乃は叩き付ける様に放つ。
 其れは約束を護る為の力、望まぬ幻想を祓う魔法。
 魔力をありったけ注ぎ込んで、彼が生み出したのは眩い光だった。
 邪神が僅かに眉を顰めながらも、辛うじて光から抜け出すと……向かう先には既に、音海が立っている。

「みゆは、諦めない」
 ――貴方は絶対に許さない。
 まだ終わらない、終わらせない。
 傍に兎乃が居てくれるから、音海は音海のままで居られるのだ。

 其の彼を奪おうと、離そうとした罪は重いと。
 音海は血に飢えたヴァンパイアに覚醒し、Secretに自身の血液を纏わせる。
 愛らしい見目は瞬く間に、禍々しい刃を持つ己と化して――。

『おかあ、さ――』
「タイムリミット、ですよ」
 邪神に向けて振り下ろし、其の身体を一息に抉る!
 深々と裂いた手応えはあったが、まだ留まるだけの余力は残っているらしい。
 ならば、もう一回。音海が足を踏み出した瞬間、彼女の視界が揺らいでしまうが。

「心結、大丈夫か!?」
「零時……血を、使い過ぎてしまいました」
 音海が倒れるよりも早く、兎乃が確りと抱き抱えてくれた様だ。
 彼女の理性はまだ残っている、けれど。
 ……思った以上に血を使い過ぎてしまったせいか、喉が渇いていて。

 嗚呼、もしも。
 彼の首筋に歯を立てて、血を啜れるのならば。
 其れはどんなに幸せな事だろうと、音海は思うけれど。

「ん?そうなのか?」
 ――だったら、後で俺様の血飲む?
 そんな風に、優しい言葉を貰ってしまったら。
 血への渇望は治まらないのに、兎乃を傷付けたくないと思ってしまう。

 だから、せめて。
 今だけは彼を独り占めにして、彼の腕の中で。
 音海は其れを声にせず、元の姿に戻りながら……静かに目を閉じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木槻・莉奈
シノ(f04537)と

そうね、おはよう
私が見た夢?
そうね…シノがいつか、同じ夢を見れる様になったら教えてあげる

心配しなくても大丈夫よ、シノ
貴方が傍にいるなら…どれだけ夢や希望が喰われたところで、私の意志は変わらない
変わらないなら、また新たな夢を見ればいいだけだもの

『高速詠唱』『全力魔法』で炎の魔力の【トリニティ・エンハンス】
敵の攻撃は『見切り』で回避
夢を喰われても『狂気耐性』『呪詛耐性』で耐久
シノへダメージが集中する様なら『挑発』による『時間稼ぎ』

誰かの夢も、希望も、その人のものよ
奪っても意味なんてないし、奪っていいものでもない
それも分からず暴れるなら…今すぐここで、骸の海へと還りなさい


シノ・グラジオラス
リナ(f04394)と

悪い、遅くなった。けど、今回は自分で起きれただろ?
本当に目覚めがいいよな、リナは見習いたいもんだ

(大切な人はモノは、リナとそれを取り巻く環境。
だから咄嗟にリナを相手から庇うが、返る言葉に笑みを刻み)
まったく。俺の終焉は心強い事で
それならリナが夢を見れるようにリナ自身も、約束も守らないとだな
そう、自分を『鼓舞』して戦う

【紅喰い】で命中率を上げ『先制攻撃』による『範囲攻撃』の『マヒ攻撃』を行う
自身への攻撃には『見切り』と『武器受け』、リナへのは『かばう』で対応

お前の腹が満たされないのは、他人のモノばかり喰らってるからだろ
自分の不足を見ろ。それを埋められるのは、お前のモノだけだ



●二人の騎士
「――ノ、シノ?」
「リナ……悪い、遅くなった。おはよう、か?」
「そうね、おはよう」
 もう少し遅かったら、無理にでも引っ張り上げる所だったと。
 木槻・莉奈(シュバルツ カッツェ・f04394)が微笑めば、シノ・グラジオラス(火燼・f04537)は噴き出し混じりに苦笑していた。
 あまりにも目覚めが良い彼女を見習いたいものだ、なんて思いつつ。
 シノはゆっくりと上体を起こして、目を覚ます為に緩く頭を振っていた。

「そういえば、リナはどんな夢を見たんだ?」
「私が見た夢?……シノがいつか、同じ夢を見れる様になったら教えてあげる」
 其の時までは内緒だと、木槻は悪戯めいた微笑みを浮かべた。
 今回は自分で起きられたから、もしかしたらがあるかもしれない。
 彼女の夢は気になるけれど。其の日まで、自分が少しずつ頑張るかと。
 そんな風に、シノが考えた瞬間――嫌な臭いが鼻を突き刺す。

「くっ……!」
 シノは咄嗟に、木槻を庇うべく動く。
 木槻を背にして、少女の姿をした邪神を睨み付けていた。

 終焉、狂気、知った事か。
 邪神にリナを、彼女を取り巻く環境を壊させたりしない。
 共に在ると決めた彼女の幸せを、好き勝手利用しようとしてんじゃねぇよ。
 ……シノの雰囲気の変化を察したのか、彼女がそっと背に触れた。

 義理堅く、彼の事だ。
 きっと自分の事を、関係する物を守ろうとしてくれたのだろう。
 其れは木槻も解っているけれど、でも――。

「心配しなくても大丈夫よ、シノ」
「リナ……」
「貴方が傍にいるなら、私の意志は変わらない」
 大丈夫だと、木槻はシノの背を撫で叩く。
 どれだけ夢や希望が喰われて、壊れたとしても。
 意志が変わらないならば、彼が傍に居る限り……新たな夢を見られるから。

「それに、言ったじゃない」
「……?」
「共に並び立つ騎士でいたいの、って」
 シノや、大切な親友と並び立つ為に。
 木槻は魔法騎士になりたいと願い、今も熱心に努力し続けている。
 だからこそ――彼女は迷わず一歩前進、シノの隣に立つのだ。

 其の横顔は勇ましく、とても美しく見えて。
 思わずといった様子で、シノは見惚れるも。直ぐに笑みを浮かべて。
 ――まったく、俺の終焉は心強い事で。
 ならば、彼女が夢を見られる様に……彼女自身も約束も守らなければ。
 左目を覆う眼帯に手を掛けながら、彼は自分自身をを鼓舞する。

『どうして、おそれないの……?』
「悪いけれど……その程度で揺らぐ程、私の覚悟は甘くないわ」
「リナがこう言ってるんだ、其れに……約束したからな」
 木槻が持つ剣――薄花桜に収束するのは、炎の魔力。
 此れまでに経験してきた、多くの戦い。乗り越えた試練。
 其れによって高められた彼女の魔力は、紅蓮の壁を生み出してゆく。

 ――グォンッ……!
 紅蓮の壁を引き裂いて、現れたのは――赤銅の毛並みを持つ狼。
 其れは紅喰いによって変身した、シノのもう一つの姿。スコルだ。
 彼の狼の咆哮は夢幻を砕き、音波によって邪神を苛んでゆく。
 其の隙を逃さず、木槻は迷いなく前へと出る。

「誰かの夢も、希望も、その人のものよ」
 ――奪っても意味なんてないし、奪っていいものでもない。
 木槻はそう断言して、炎を纏う刃を力強く振り下ろす!
 断つは幻影、ならば――更に一歩踏み込んで、刃を突き刺そうと。
 そして……彼女の突きは確かに、邪神の身体を捉えたのだった。

『う、ぐ……っ!』
「それも分からず暴れるなら……今すぐここで、骸の海へと還りなさい」
「……お前の腹が満たされないのは、他人のモノばかり喰らってるからだろ」
 自分の不足を見ろ。
 其れを埋められるのはお前のモノだけだ、と。
 シノの言葉を耳にしても、邪神が其れ以上口を開く事はなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
声がする
優しく楽しい声達
暖かな場所

嗚呼、あの子達が居る場所だ
何も無い僕に無いも要らないと思った僕に色をくれる子達
手を差し伸べる
こちらを振り向いて笑顔を向ける
が、一人一人と赤く染まっていく
白が赤に変わる

大切な子達だと思えば思うほど僕はあの子達を赤く染める?
また同じ過ちをおかすのか?

屍鬼
鬼へと化した暴食グールが喰らいつく

いや、まだ大丈夫だ
まだ何色にも染まって居ない
あの子達を見護ると誓ったじゃないか
あの子達の幸せを傍で

本当にあの子達を赤く染めるなら
自分自身を喰えばいい
でも、今はまだ…大丈夫。



●真っ赤な世界
 朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)は、目を見開いた。
 先程まで、邪神と相対していた筈なのに。
 ……文字通り、瞬きをする間に景色が一変する。

 優しくて、楽しそうな声がする。
 嗚呼、あの子達が居る暖かな場所だ。
 何も無い、何も要らないと思っていた……そんな朧に、色をくれる存在。

 皆、彼の訪れに気付いたのだろうか。
 早く、と笑い掛けてくれる。待っていた、なんて微笑んでくれる。
 其々の色が煌めいて、目映くて、彼は誘われるままに手を伸ばしたが――。

「えっ……」
 頭上に輝くのは、紅月。
 ああ、駄目だ。此の日は駄目だ。
 世界の何もかもが、真っ赤に染まり始める。
 大切だと思った色が次々に、赤で塗り潰されてしまう。
 手を伸ばした先も、朧の身体も、全てが……美味しそうに見えてしまう。

 大切な子達だと思えば思う程に。
 僕はあの子達を赤く染める?
 また、同じ過ちをおかすのか?

 ……違う。
 此れは幻だ、紅色の月も幻想の産物。
 まだ何色にも染まって居ない、あの子達は生きている筈だと。
 朧は心を落ち着かせる為、深呼吸をした後……自身の掌を短剣で斬り裂いた。

「まだ、大丈夫……」
 幻を砕き、払い、思うがままに。
 巨大な黒鬼が幻諸共、食欲のままに暴れ狂う。
 其の間、朧は自身へ言い聞かせる様に……小さな声で呟いていた。

 ……大丈夫、が何時まで続くだろう。
 赤への渇望を、暴れ狂う欲を、何時まで抑え切れるのか。
 嗚呼、でも……あの日、あの時の惨劇を繰り返すくらいならば。

「(自分自身を喰えばいい)」
 だって、ほら。
 ぽたりぽたりと……朧の掌からは今も尚、赤が滴り落ちている。
 彼の内側にだって、多くの赤が巡り続けているのだから。

 本当に、あの子達を赤く染める前に。
 気休めかもしれないけれど、少しでも自分を保とうと。
 狂気に溺れてしまわぬ様にと、彼は必死だった。

 ――今は、まだ。
 もう少し、もう少しを積み重ねて。
 出来る限り長く、あの子達の幸せを傍で見護りたいと……朧は切に希うのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

橙樹・千織
これは…何?
一体何があったというの?

つい先刻まで夢に見ていた
大切で
愛おしく
かけがえのない人達が

荒れ果てた
大切な場所で

地に伏している

受入れがたい光景
伸ばした手は震える


…お前か
邪神が視界に入ればぶわりと紋が咲き広がる

縁起でも無い
これを見せているのはお前か!
半ば叫ぶように放つ言の葉は麻痺を起こす言霊

幻の通りになどさせてなるものか
周囲を浄化する風を巻き上げ睨め付ける

この手で
この身をもって護れるならば
どんなに悪しき呪に血に濡れ
どれだけ傷を刻まれようと構わない

我は愛しき森を護りし巫女であり
縁結びし愛しき子らを護りし守護巫女である

彼らを
彼らの愛しき日々を
護れぬ私に価値は無い

この心も
彼らも
絶対に渡さない



●烈火の如く
「これは……何?」
 銀狼との静かな別れ、邪神との遭遇の後。
 橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)は現在、周囲を警戒しながら歩き続けていた。

 一体、何があったのか。
 先程見えた、館の皆は無事だろうか。
 気持ちが急くままに、彼女が足早に進んで行った先には――目を疑う様な光景が広がっていた。

「これ、は……!?」
 荒れ果てた地に、誰かが倒れ伏している。
 彼らは皆、橙樹と縁を結んだ……大切で、愛おしい人達。
 彼らの幸せを夢見る程、かけがえのない存在だというのに。

 受入れがたい光景に、伸ばした手が震える。
 どうして、こんな事になってしまったのだろうか。
 彼女が自分を責めても、眼前の光景は変わらない……いや、違う。
 星屑の瞳を持つ何者かが、項垂れる彼女を見つめていた。

 嗚呼、そうか。
 此の邪神は、心を奪うと言っていた筈だ。
 つまり……其れだけの為に、幻と言えど愛し子達を利用したのか。

「お前、か……」
『……?』
「これを見せているのはお前か――ッ!」
 痺れを招く咆哮が、邪神の動きを止める。
 凄惨な有様は、橙樹の怒りを煽るには充分過ぎた。
 激情の発露と共に、彼女の頬に朱色の八重櫻が咲き始める。
 其れは頬だけに留まらず、首筋や背中まで一斉に現れ……彼女の戦意の高まりを感じさせていた。
 
 橙樹が藍雷鳥を使い、空を薙ぎ払った直後。
 周囲に巻き上げられた暴風が、悪しき幻を散らしてゆく。
 ……浄化の風が収まった時、彼女は邪神を厳しく睨め付けていた。

「我は、愛しき森を護りし巫女」
 そして――縁結びし愛しき子らを護りし、守護巫女である。
 どんなに悪しき呪に血濡れ、塗れたとしても。
 どれだけ傷を刻まれようとも、橙樹は構わなかった。
 此の手で、此の身を以って……彼らを護る事が出来るならば、厭う理由などありはしない。
 蝋梅香の香気を辿り、彼女は邪神へと凄まじい速さで薙刀を振るう。

「絶対に、渡さない」
 此の心も、彼らも、護ると誓った。
 今生こそは、大切な人達の幸せを見届けるのだと。
 故に……彼らの愛しき日々を護れぬ私に、価値など無い。

 橙樹の決意、強靭な覚悟。
 如何に縁起でも無い幻であろうと、折る事は叶わない。

成功 🔵​🔵​🔴​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

サヨ……!
巫女の聲を辿りきみの元へ往く
桜が吹雪く
吹雪いて散っていく

きみと過ごす館が
絆ぐ手のひらと温もりと
きみの笑顔が

はやく夙くきみの元へ
私の大切な私の櫻が散ってしまう前に
私のさいわいを
私が存在する理由を迎えにいく

サヨ、そんな未来は約されない
そなたらに喰わせる夢など持ち合わせていない
否、例え夢であろうとも
私の巫女に触れ、喰らうことなど赦さない
醜い独占欲だろうが構わぬ
……この子は『私のもの』

きみへの厄を全て断ち切って
統べて倖に変えてあげる
大丈夫だよ
桜泪をすくう
サヨの大切なものはなにひとつ損なわれていない
きみの夢も希望も此処に咲いている

喰れた分も私の愛で埋めてあげるから
安心して
一緒にかえろうね


誘名・櫻宵
🌸神櫻

やめて!壊さないで!
桜が吹雪いて喰らうように、私の大切な人達を喰い殺していく
やっと得た私の居場所…桜の館もかぁいいあの子も愛しいあの子も
愛するものが、柔い日々が壊れていく
どうして?

壊してしまうの
いつかきっと私が

何故それを突きつけるの?

カムイ、カムイ……!
縋るように名を呼んで
奪うものを否定するように斬り壊す
私はあの子の巫女だもの
師匠だって、私を認めてくれたんだもの
負けやしない
折れない
慾(私)に私を渡さない!
悪しき夢も何もかも
桜にして咲かせてみせる

しかと結ばれた掌と優しい神様の愛と加護に安堵するわ

はやく帰ろう

愛しい眸に囚われ気づく

私、今
桜の館よりも先に、
あなたの腕の中へかえりたいと思った?



●慾(あい)と、あなたと
 八岐大蛇の呪い、愛呪。
 神斬を廻る天へと葬送った、あの日……完全なものに戻った、呪い。
 先に夢見た柔い春を呑み込んでも尚、まだ満ちぬ。まだ足りぬと。
 ……まるで、愛に飢えた暴食の化身の様な呪い。

 いつか、己の意思で御してみせると。
 多くの愛を知った、今の自分ならば出来る筈だと。
 そう、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は思っていたのに――。

「やめ、て……!」
 殺めないで、壊さないで。
 眼前の光景が幻だと解っている、惑わされてはいけないのに。
 誘名の嘆きは止まらない、桜花は血に染まってゆくばかり。

 どうして?
 何故それを突きつけるの?
 いつかきっと、私が壊してしまうかもしれないなんて。
 そんな事、痛い程に理解していると云うのに……!

 愛するものが、柔い日々が壊れていく。
 やっと得た居場所……桜の館も、かぁいいあの子も愛しいあの子も。
 桜は吹雪き続けて、誘名の大切な人達を喰い殺していく。
 彼が否定する様に屠桜を振るっても、嗚呼、今度は人魚の歌姫が――。

「い、や……!」
「サヨ……!」
 紅の桜吹雪が荒れ狂う最中。
 朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)は聲を辿り、漸く彼が見える所まで着く事が出来た様だ。
 ……だが、あまりにも悲痛な光景故か。
 己の名を呼ぶ声に、誘名は気付く事が出来なかった。

 はやく、夙く、きみの元へ。
 私の大切な存在理由、私の櫻が散ってしまう前に。
 さいわいの笑顔を取り戻す為にも、朱赫七は負傷を恐れず進む。
 触れられる距離まで近付き……闇雲に振るわれる刃を、迷い無く掴んで止めていた。

「カムイ……?」
「サヨ、そんな未来は約されない」
「噫、カムイ……!私、また――」
「愛しているよ」
 大丈夫だよ、と告げるつもりだったのに。
 朱赫七の口からするりと溢れたのは、妄執とも神一重の其れ。
 きみの夢も希望も、此処に咲いているのだと。
 そっと桜泪を掬い取り……彼は自分の掌と、誘名の掌をしかと結ぶ。
 優しい神様の愛と加護に、誘名は思わず安堵の息を吐き出した。

 彼が纏う雰囲気の変化を感じ取り、朱赫七もまた安堵する。
 そして、未だ薄紅を呑まんと欲する邪神へ鋭い視線を向けるのだ。

「そなたらに喰わせる夢など、持ち合わせていない」
 否、例え夢であろうとも。
 私の巫女に触れ、喰らうことは赦さない。

「……この子は『私のもの』」
 喩え、醜い独占欲だろうが構わぬ。
 浮かぶ微笑みは、黒桜纏う厄災の神に相応しきもの。
 誘名と邪神の間に結ばれた縁を断ち切り、朱赫七は統べて倖に――鮮やかに咲き誇る薄紅へと変えてゆく。

 ――懐かしい。
 私はこういうもの、であった。
 だから、愛してはいけなかった……朱赫七はそう、思っていたが。

 滾る熱、駆け巡る春。
 戀を識り、愛を識り……己の総てをきみの為に。
 神の寵愛と倖は確かに、誘名の心に光を灯したのだ。

「そうね……負けやしない、折れない」
 ――慾(私)に、私を渡さない。
 櫻龍の決意が、悪しき夢を塗り替えてゆく。

 私は、あの子の巫女だもの。
 師匠だって、私を認めてくれたんだもの。
 最悪の結末を迎えぬ為にも、挫ける訳にはいかないから。
 誘名は悲劇の幻想を桜花に変えて、空間内に咲き誇らせてゆく。

 ……総ては幻想だった。
 大切な人達、居場所も壊れてなどいない。
 大切なものは何一つ、損なわれていなかったのだ。
 其の事実に胸中が安らいだ時、誘名がかえりたいと思ったのは――。

「一緒にかえろうね、サヨ」
「カムイ……」
 あゝ、早くかえりたい。
 愛しい眸、穏やかに包み込む腕。
 春の陽だまりの様に暖かくて、狂おしい程に愛おしくて。
 浮かぶ願いを、朱赫七の名を呼ぶ声に乗せて……誘名はふと気付く。

 私、今――桜の館よりも、先に。
 あなたの腕の中へ、かえりたいと思った?

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アンリ・ボードリエ
ぁ...あ...?あああ...!!!!
La décadenceが...崩れて...!?

そんな...La décadenceが無ければ、ボクは...
……何もできない...。

…主よ...触媒道具が無くとも、ボクの声は届きますか...?
…死と言う名の浅はかな救済に溺れてしまい、申し訳ございませんでした...愚かなボクをどうかお許しください...
ボクは五体満足で死にたくはありません。
誰かのためになる事をして、ボロボロになって死にたいのです。
ここはボクの死に場所ではありません。
どうか...もう一度、ボクに力をお貸しください。

《La décadence》ボクに力を、幸運を...。



●主よ、導き給え
「ぁ……あ、あああ……!!!」
 大切な触媒――『La décadence』が崩れてゆく。
 崩壊を止める事が出来ない。もう、主に声が届かない……?
 あまりにも信じ難い光景に、アンリ・ボードリエ(幸福な王子・f29255)は目に見えて狼狽した様子を見せていた。

「そん、な……」
 呟く声は震えて、動揺を隠せぬまま。
 アンリは襲い来る無力感を堪えながら……胸の中心で両手を組み、祈り始めた。

「嗚呼。主よ、愚かなボクをお許しください……」
 死と言う名の、浅はかな救済に溺れてしまった事実。
 触媒無くして声が届くか、分からないけれど。
 其れでも……アンリは謝罪の言葉を紡ぎながら、尊きものへと祈りを捧げていた。
 己が無力だと強く感じているからこそ、其れしか出来なかったのかもしれない。

「どうか、ボクを導いてください……」
 ――ボクに力を、幸運を。
 砕け散った『La décadence』を掻き集めて、アンリはただ祈るばかり。
 先程は溺れてしまったが、今ならば断言出来る。
 此処は……決して、己の死に場所ではない。
 先の夢の様な、安らかな終わりを受け入れる事は出来ない。

 だからこそ、どうか。
 もう一度、ボクに力をお貸しください。
 アンリは五体満足での死など、望んでいなかった。
 己の身体や心を削り、記憶を対価にする事も厭わない。
 誰かの幸せの為に力を使い、戦い続けて……其の果てに死ねるのならば。

「(なんて、素晴らしい事だろう……!)」
 ――ボクなんて、どうなっても構わない。
 自己犠牲に等しい献身、純粋無垢な願望が届いたのか……変化は直ぐに訪れる。
 アンリを中心に生まれる光は、周囲の幻を消し去るだけではなく。
 邪神の身体をも、少しずつ呑み込み始めていた。

 UDCの力を引き出す代償。
 今までと同様に、アンリの記憶の一部が失われてゆくのだろう。
 代償となった記憶は面影も無く削除されて、二度と戻らない……本当、に?

成功 🔵​🔵​🔴​

ゼロ・クローフィ
どうして?それはお前さんにはわからない
それは俺も同じだが
夢や希望を壊す?
ふっ、そんなもの元々持ってない俺には関係無い事だ
夢や希望も興味は無い
生きたいかどうかもどうでもいい
自分の生死も興味無い

あるのは自分が何者かだけ
まぁ、少しはわからなくは無いか

一つ煙草を出して吸う
吐いた息の黒狼が噛み付く

自分が死を選ぶの負ける気がする
アイツとそんな勝負はしてないが
死すれば
何やってるんですか?死ぬなんてお兄さん弱いですよー
と言われるのは癪だからな

それにお前さん
ほかの奴の食ったってどうしようも無いだろ?
それがアンタの求める夢と希望なのかい?
自分から探し求めないならそれこそ負けと一緒だ

お前さんの本当の願いは?



●喰らうもの
 ――何やってるんですか?
 ――死ぬなんて、お兄さん弱いですよー。
 そう言われるのは癪だと、ゼロ・クローフィ(黒狼ノ影・f03934)は紫煙を静かに吐き出した。

「夢や希望を壊す?」
 そんなもの、元々持ってないゼロには関係無い事だ。
 彼は終焉――夢や希望に興味など無い。自分の生死もまた同じく。
 自分が生きたいかどうかも、はっきり言ってどうでもいい。
 彼の内にあるのは……自分が何者か、ただ其れだけ。

「(まぁ、それも少しはわからなくは無いか)」
『どうして……こばむ、の……?』
「さぁな」
 そもそも、無縁の長物。
 ゼロには知った事ではないし、きっと……邪神自身にも理解出来ない事。
 其の言葉通り、彼自身に拒んだ覚えなど一切無い。
 ……恐らく、邪神に宿る『おかあさま』の力が薄れつつあるのだろう。

 先に吐き出した紫煙が、少しずつ形を変えてゆく。
 鋭利な狂牙が鈍く光ると同時、四肢には獄黒炎が燃え盛る。
 黒狼ケルベロスは獲物の首を食い千切る機会を、今か今かと待ち侘びる様に唸り始めていた。

「アイツとそんな勝負はしてないが――」
『……?』
「自分が死を選ぶのは、負ける気がするからな」
 もしも、後でアイツが此の事を聞きつけたならば。
 後で揶揄われるのも面倒だと、ゼロがふうと息を吐き出した後だった。
 ……彼の中の偽善者か、或いは別の人格の気紛れか。
 最後に一つだけ、彼は邪神へ問いを投げ掛けようと。

「お前さんの本当の願いは?」
『……おかあさま。わたしたちは、おかあさまの……』
「自分から探し求めないなら、それこそ負けと一緒だ」
 少なくとも、アイツには劣るだろうよ。
 他の奴の夢や希望を食い尽くした所で、どうしようも無い。

 ――狩りの時間だ。
 たった一言、合図を送るだけ。
 黒狼は地を駆け抜けて、邪神との距離を急速に詰めてゆく。
 其のまま、喉笛目掛けて跳躍すると――ぶちっ、と何かが千切れる音が聞こえた。

 お……かあ、さま……。
 叶うのならば、貴女の元に。
 邪神が消える直前に呟いた言葉は、祈りにも似ていた。

●夢の終わり
 斯くして――。
 邪神の完全復活は、猟兵達によって防がれた。
 被害者である一般人達も、UDC組織によって無事に保護された。
 彼等は今後、後遺症の治療に努めてから……各々の日常に戻るのだろう。

 現実は無慈悲で、残酷で。
 またあの夢に溺れたいと願ってしまう。
 心に影が差す事も、あるかもしれないけれど。

『あっ、あのクレープ屋さん!早く行こ!』
『もう……焦らなくても、クレープは逃げないよ?』
 戻って来れて良かったと、思う日もあるから。
 そんな小さな幸せの可能性を、猟兵達は確かに守り抜いたのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年04月27日
宿敵 『愛すべき『わたしたち』』 を撃破!


挿絵イラスト