羅針盤戦争〜金眼が闇を見下ろす
「みんな~! あの『七大海嘯』が、新しい島を侵略しようとしてるよ!!」
グリモアベース中に通りそうな大声で、少女めいた装いの少年が叫んだ。
なんだなんだと集まってきた猟兵たちを見て、グリモア猟兵はうんうんと頷く。
「よかった、誰も来なかったらどうしようかと思ったよ。じゃ、説明してくね!」
少年……クイン・クェンビーは、テンションそのままに語り始めた。
"王笏"カルロス・グリードの分身体が起こす、凶悪なる侵略劇の話を。
――七大海嘯。
それはこのグリードオーシャンをめぐる『羅針盤戦争』で、もっとも強大な壁。
そして今回クインが予知したのは、フォーミュラたる存在であった。
「カルロスが標的にしてるのは、あっちの人たちには『金眼島』って呼ばれてる島だよ。
いつも薄暗いけど、お月様がいつでも金色にパーッて光ってるからなんだって!」
おそらくこの島は、ダークセイヴァーから落着した島なのだろう。
曇天でも雨模様でも、金色の月が隠れることはないのだという。
だがこの島は今、カルロス・グリードの恐怖によって支配されつつある。
「カルロスは『紋章』っていう、キモチワル~い寄生虫でパワーアップしてるみたい!
これって、ダークセイヴァーにあるものらしいけど……なんで持ってるんだろう??」
猟兵の中には、紋章の力で強化された『辺境伯』と戦った者も居るかもしれない。
宝石の身体に触手を持つ、実に不気味で、そして厄介な謎の生物だ。
カルロス・グリードは、その『紋章』の力で異形の強化を遂げているらしい。
「もともと強いオブリビオン・フォーミュラが、さらに強くなるなんて、サイアクだよ!
しかも相手は分身体だから、ここでやっつけても完全に斃すことは出来ないんだ。
おまけに先制攻撃は向こうが絶対に仕掛けてくるし、問題・難題・強大すぎ!!」
そんな死地に猟兵を送り出すクインは、はあ~、とため息をついた。
しかし気を取り直すと、ぐっと握り拳を作って猟兵たちを鼓舞する。
「でも、こうやって島を取り戻していけば、いつかあいつらのアジトが見つかるはず!
フォーミュラをやっつけてこの世界を救うためにも、どうかみんなの力を貸して!
クインは応援することしか出来ないけど……でも、負けないって信じてるからね!」
敵は強く、状況は何もかもあちらの有利に働く。
それでもなお、猟兵は同じような状況からいくつもの世界を救ってきた。
その実力と、何よりも堅き信念を信じ、クインは猟兵たちを送り出す。
転移が始まる――金の瞳が見下ろす島で、死闘を繰り広げるときだ。
唐揚げ
金目鯛です。戦争シナリオ第四作は七大海嘯とのガチバトル!
以下に色々諸注意がありますので、出来るだけご一読ください。
●プレイングボーナス条件
『敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する』
難易度は「普通」ですが、通常のシナリオよりは少しだけ厳しめに判定します。
ちなみに『紋章』を狙っても、特にプレイングボーナスは得られません。
あくまで対策が重要です。その点、念のためご注意ください。
●プレイング採用について
本作は戦争シナリオなので1章で完結する特殊なシナリオになっています。
またシナリオの完結本数が戦争の進退を左右するルールになっているので、
全採用よりは完結を優先して執筆していくつもりです。
参加数次第では、同フレームで2つ目3つ目のシナリオを出します。
ってな感じなので、締切も特に決めず書ける時に書きます。ご参加はお早めに。
第1章 ボス戦
『七大海嘯『一の王笏』カルロス・グリード』
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POW : 闇霧の紋章
【紋章の力】に覚醒して【触れた者の生命力を奪う黒き霧の体】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : 紅き月の紋章
【無数の三日月型の刃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : 黒百合の紋章
自身の装備武器を無数の【触れたものを呪詛で侵す黒百合】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
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アルトリウス・セレスタイト
退場の時間だ
大人しく引きこもっていろ
戦況は『天光』で逐一把握
受ける攻撃は『再帰』にて自身の周囲に無限遠の空間を構築、且つ『絶理』の断絶の原理も循環させ到達させない
敢えて姿だけは見せておく
全行程必要魔力は『超克』で“世界の外”から常時供給
破界で掃討
対象はオブリビオン及びその全行動
それ以外は「障害」故に無視され影響皆無
高速詠唱を『刻真』『再帰』にて無限に加速・循環
瞬刻で天を覆う数の魔弾を生成し斉射
更に射出の瞬間を『再帰』で循環、無限継続する隙間ない飽和攻撃を「一手で」実行
霧も花も触れ得ねば無意味
消し飛ばせば後腐れもなかろう
最速での討滅を図る
※アドリブ歓迎
●呪詛VS無限
アルトリウス・セレスタイトの纏う蒼き光は原理の輝き。
それは概念的な無限遠の空間を構築し、断絶の原理の循環によってそもそも攻撃の到達を許さない。
時間と空間の両面から、触れずして敵を倒せる――そういう術式だ。
しかし敵もまたフォーミュラ、分身体といえどその力は伊達ではない。
黒百合の紋章は『触れたものを呪詛で侵す黒百合』の花びらへと変じる。
触れたもの――それは何も、物質的存在に縛られるとは限らないのだ!
「実に興味深い術式だ。斯様な力が我の知らぬ領域にあるとは、面白い」
アルトリウスの周囲を、膨大な数の黒百合の花びらが狂ったように舞う。
それは呪詛という形而上の力により、無限遠の空間そのものを侵食している。
無限をも喰らい尽くす呪詛――なるほど、侵略者には似合いの紋章だ。
「その力を我に見せてみよ。汝は我が所有するに足るものかも知れぬぞ、猟兵」
「お前の宝に成り下がるつもりは、ない」
アルトリウスは端的に拒絶を示し、同時に万象消去の魔弾を生み出した。
カルロスは周囲をおびただしく舞う黒百合の花びらを盾めいて収束、展開。
再帰継続された無限の魔弾と、無限をも食らう呪詛とがぶつかり合う!
金色の瞳が見下ろすなか、黒と蒼が世界を削るように拮抗していた。
拮抗……いや、それは正しくない。蒼を徐々に黒が侵食しているからだ。
「我の持つ紋章は一級品。汝の力とて、この呪詛を以て侵し尽くしてくれよう」
「……言ったはずだ」
アルトリウスは双眸を蒼く輝かせて言った。
「お前の宝に成り下がるつもりはない。ここで倒されるつもりもないということだ」
「……何?」
「退場の時間だ。お前が、この島から退場する側だ」
黒が蒼を侵し尽くす……はずだった。だが!
「我の紋章の力が、圧されているというのか!」
蒼き燐光は、徐々に呪詛の力を跳ね除け……そしてついに花の嵐を破る!
「猟兵……なるほど、ただの奪われる側ではないということか。
わが麗しの姫君と、大いなる神が警戒するだけはあるようだな……」
カルロスは柳眉を顰め、蒼い魔弾を浴びながらも撤退した。
無限と呪詛の戦いは、無限に軍配が上がったのだ。少なくとも、今この時は。
成功
🔵🔵🔴
久遠寺・遥翔
アドリブ歓迎
キャバリア・イグニシオンに【騎乗】
まずはあのとんでもない刃を避けなきゃどうしようもねぇな
【残像】で相手の的を散らしながら相手の動きを注視し
【視力】と【銭湯知識】からの予測だけでなく【第六感】で予測を補正して何とか直撃を避けるぜ
それでも攻撃を受けそうな場合、機体を【結界術】と焔の【オーラ防御】で二重に守り耐える
耐えきったら【カウンター】でUCによる無数のソードビットのオールレンジ攻撃を叩き込むぜ
360度全方位から一気にぶち抜いて【焼却】だ!
●紅月は獲物を切り裂く
いびつな『紋章』がドクンと鳴動し、触手を宿主の全身に這わせた。
カルロス・グリードは平然とした表情で、肌に這い回る触手を受け入れる。
全身に蜘蛛の巣めいた枝葉が浮き出るさまは、まさしく異形そのものだ。
『……来るッ!』
久遠寺・遥翔は第六感で危機を察知し、とっさに後方に飛び退いた。
するとイグニシオンがいた場所を、無数の三日月型の刃が切り裂く!
「避けたか。だがもはや汝に逃げ場はない」
カルロス・グリードの言葉は、まるで信徒に託宣を与える神の如し。
世界そのものを侵略兵器となす王笏に相応しい、傲慢さと威風を備えていた。
『どうかな……辿り着いてみせるぜ、お前のもとへ!』
「やってみるがよい。この月の刃の嵐を越えられるならばな」
イグニシオンは直線的に加速しようとし――遥翔は、絶望的な感知を得た。
(……囲まれてやがる
……!!)
然り。
新たに出現した三日月型の刃は、背後と言わず正面も側面も、上下も包み込む。
360度全方位に、数え切れないほどの極小の刃が生まれたのだ。
それらはカーウォッシャーめいて、あるいはバズソーめいて高速回転!
原子運動を思わせる不規則な動きを加えながら、猛スピードで縮まっていく!
『うおおおおお……ッ!!』
遥翔は機体の姿勢をミリセコンド単位で精密に調整し、バーニアを噴射した。
螺旋を描いて刃の嵐をかいくぐるさまは、世界的水泳選手のようだ。
さらに機体全体を結界と焔のオーラ防御で二重に包み、衝撃に備える。
三日月の刃はどこまでも無慈悲。カルロスに至っては無表情であった。
イグニシオンのボディを、三日月の刃が容赦なく切り裂く、切り裂く、切り裂く!
「――なんと」
しかし、驚愕するのはカルロス・グリードのほうだった。
イグニシオンは、辿り着いたのだ。
全身におびただしい切断傷を負い、バチバチとあちこちから火花を散らし、
まるで血のように焔の残滓を噴き出しながら、それでも眼前に到達した!
『我が身に纏え、落陽の剣! 行け、イグナイト・セイバーッ!!』
「紋章の力を乗り越え、わが前に立ちはだかるとは、不遜なり……!」
カルロスは三日月の刃を攻撃ではなく防御のため、盾めいて展開した。
今度は王笏が追い詰められる番だ。全方位からソードビットが刃の壁を切り裂く!
『焼却してやるッ、カルロス・グリード!!』
「認めざるを得まい……汝のその意気、そして執念……わが予測を越えていたと」
異形化した肉体をソードビットが切り裂き、熱と刃が責め苛んだ。
血痕を残しつつも、カルロスは忌々しげに顔を顰めてその場から撤退する。
傲然とふんぞり返る王の首筋に、焔の剣はたしかに届いたのだ。
成功
🔵🔵🔴
マリーノフカ・キス
いやはや、全く
正直苦手なんだよね、このシチュエーション
こちとら速さがウリだというのに、先手を譲ってくれないというんだから
……けれど、そうも言っていられない
騎士として、もっと前に進むと決めたんだ
手の届かない物を、掴めるくらい
僕の自慢出来る武器は、鞘の中で高めた魔力とサイキックエナジーを推進力にした、魔導の居合い。それだけ
だから――先手を取られても。後から追いつくしか、ないね
竜の翼を広げ、一刀の速さに全てを賭ける
後の先を以て、刃の纏うサイキックエナジーで遅い来る霧の体を切り裂いて、
そのまま魔力を流し込み、内側から破壊する
済まないね、カルロス卿
僕の踏み台に、なってもらうよ
●後の先より敵を斬れ
強大なオブリビオンとの戦いは、しばしば絶対的な先制攻撃を赦すことになる。
敵にとって最適な戦場で、かつ最高な状況で、そして最悪の攻撃が来るのだ。
不意打ちや奇襲の類はほぼ通用しない――何もかもが不利な戦場だった。
「……正直苦手なんだよね、このシチュエーション」
そして今。
金色の瞳が見下ろす闇の中、マリーノフカ・キスは王笏と相対する。
カルロス・グリードの全身を、おびただしい触手が這い回り、異形化させた。
浮かび上がる紋章は闇霧のそれ。身体が徐々に先端から黒ずみ闇に溶ける。
「いちいち言うまでもないだろうけど、僕の得物は"これ"しかない」
鞘に収まったルーンソードの柄をとんとんと叩き、マリーノフカは言った。
並のオブリビオンであれば、弁舌で注意を惹きつけることも出来よう。
しかし、カルロス・グリードはフォーミュラ、そして侵略者の頂点に立つ男。
生半可なペテンは通じないし、マリーノフカの得手ではない。
だからあえて、最初から手の内を明かすことにしたのだ。
「ただ最速で斬る。それしかウリがないんだよね、僕は」
「それは違うな、猟兵よ。汝の瞳の奥にはたしかに意気がある」
カルロス・グリードは言った。
「我を討たんとするたしかな殺意と、勝利を求めてやまぬ欲望の輝きが見えるぞ。
汝の技は、すなわち我を討つに足る絶技であると見た。でなくば此処には居まい」
「……これから殺し合う相手に褒められるってのは、ゾッとしないな」
カルロスもまた、勝利を確信しているからこそ、褒美めいて称賛したのだろう。
生きるか、死ぬか――マリーノフカは緊張を覚えつつ、目を細めた。
「ならばカルロス卿。先に「すまない」と謝っておこうか」
「ほう」
「――僕の踏み台に、なってもらうよ」
……面白い。
王の言葉は闇霧に溶け、そして完全な暗黒へと消えた。
完全な霧散。吸血鬼ならざる身でありながら可能とするは紋章の力か。
物質的な攻撃は一切作用すまい。頼れるのはサイキックエナジーだけだ。
(たとえ霧になろうと、あちらは僕に触れざるを得ない。ならば)
ばさりと竜の翼を広げ、発進準備する戦闘機のように呼吸を研ぎ澄ます。
(後の先を以て、あとから追いつく――ただ、それだけだ)
一度そうすると決めてしまえば、揺らぐ心も不思議と落ち着いてくる。
ある程度の山場を超えると腹が据わる……マリーノフカはそういう男だ。
守るべきものは此処にはない。けれども不思議と虚勢は張れた。
(いや、違うな)
マリーノフカは思った。
(僕がこれから守るのは、この世界そのものなんだから――!)
それは形を持たないが、たしかにここにある。自分自身が此処に、居る。
そう思うと、己を包み込む闇が、大気が、そして見下ろす金の瞳が。
まるでマリーノフカに味方するように、全感覚に情報を知らせてくれた。
敵の狙い。
霧の動き。
視・聴・触・味・嗅の五感に、世界そのものが雄弁に語りかける!
……そして!
「そこだ――ッ!!」
『!!』
闇霧の先触れがマリーノフカの身体を包んだのと、斬撃はまったく同時。
爆発的加速をもたらしたサイキックエナジーは、そのまま光の奔流となる。
暗闇に差した光が煙の影を映し出すように、カルロスの異形をくっきりと描いた!
『霧となりし我の身体を、斯様に斬るとは……!』
ドォウッ!! と両者の間で超常が炸裂し、闇を吹き飛ばした。
ダメージは入った。手応えと、飛び散った血痕がそれを示している。
そして、それはマリーノフカにとっても同じ。
ただ一瞬触れただけで、霧は彼の体力の大部分を奪い取ったのだ。
極限の集中のせいもあろう。マリーノフカは剣を地面に突き刺し、身体を支える。
「……まだまだ、僕らの意気はこんなものじゃないさ」
その瞳は、空に君臨する金の眼よりもなお、執念に輝いていた。
大成功
🔵🔵🔵
夷洞・みさき
君達、分身体はそこかしこに湧いて出てるけど、みんな同じなのかい?
例えば、別の島の君の方が、大事な人に好かれているとかさ。
ま、ここの月は、綺麗だから印象は良いかもしれないね。
挑発交じりに話しかけ、印象付ける。
【WIZ】
攻撃を受けて無事でいられるほど頑丈じゃないけれど、仕方ないか。
敵が海沿いに来た時を狙う。
水泳で可能なまで近寄り、被弾承知で接近。痛みは耐える。
UC発動の力だけ残してその他被害は無視。
【目潰し】をして【傷口をえぐる】
海沿いに来てくれて助かったよ。
皆、僕の代わりに頼むよ。
咎人殺しの霊が指定前に入れ代わりながら敵を攻撃。
目潰しにより指定を難にする。
みさきはついでに安全圏まで運搬される。
●海の彼方より
「海の支配者たる我を相手に、海を舞台に戦おうという意気は見事なものである」
カルロス・グリードは、路傍の石を見るような目で夷洞・みさきを見下ろす。
「だが、いささか思いきりと思い上がりが過ぎたようだ。汝の命運はここに尽きた」
「…………」
みさきは無言……いや、言葉を返せるわけもなかった。
黒百合の呪詛はその全身を侵し、猛毒のように作用している。
口を開く体力すら残っていないだろう――そもそも生きているのが不思議なのだ。
「生命の埒外とされる猟兵の生命力……我の予測を越えているな」
わずかな呼吸と脈拍を地面伝いに足から感じ、カルロス・グリードは顔を顰めた。
しぶとさは海でもっとも必要とされる、そして訓練では補えぬスキルだ。
最後に立っていたほうが勝つ……無法者の世界はそういうものである。
「…………その、傲慢さも……みんな同じ、だと、したら……」
「何?」
まだ口を動かせるだけの余力があったことに、カルロスは驚愕を禁じ得なかった。
みさきが顔を上げる。闇を渦巻く黒百合の嵐の中、金の光が差し込んだ。
光が闇を切り取って映し出したその表情は――明らかな、侮蔑と嘲笑のそれ。
「君は、どうやら……誰かに好かれるということは……なさそうだ、ね。
せっかくのきれいな……月も……その偉そうな態度では……悪印象だろう……」
「…………」
挑発だ。カルロス・グリードはぴくりとも表情を変えない。
怒りよりもむしろ、この状況で言葉を繰る度胸と執念への敬意があった。
「汝は死してのち、わが船団の一部として迎えられることだろう」
呪詛をもたらす黒百合の嵐が、みさきをシュラウドのように覆う……!
「――悪いけど、僕にはもう、乗るべき船がある」
その声は、いやにはっきりと侵略者の耳に届いた。
カルロス・グリードは、弾かれたように海岸線を見た――船影がひとつ。
遠くにあると見えたそれは、一瞬で海岸に近づいている。妖しのたぐいだ。
黒百合の嵐はみさきの身体を離れ、船を包み込もうとする……だが、遅い!
恐れよ、海の彼方より来る船を。
刮目せよ、掲げられし我らの紋章を。
咎人よ。そして知るがいい。
――我らは、此処に、やってきた。
「ぬ、う
……!!」
船から飛び出した咎人殺しの霊たちが、花の嵐を切り裂いて王笏を襲う。
拷問具の針が白磁の肌を貫き、血を啜り、拘束具はその身を戒めようと口を開いた!
みさきを殺せば消えるはずの幽霊船、だがしかし彼女はもう居ない。
「ここまで織り込んでなお、それだけの力を残していたのか……猟兵め」
最後に立っていたほうが勝つ。それが、無法者の、海の世界のルールだ。
カルロスはそれを痛感することになった――痛みと屈辱とともに!
成功
🔵🔵🔴
桐生・零那
敵の首魁、カルロス・グリード。その分身体たる一の王笏が相手か。
直接その首を刎ねてやれないことは残念だが、いいだろう。まずは薄気味悪い紋章で飾り付けたその醜い分け身を討つとしよう。
敵の先制攻撃、舞い襲ってくる花びらは触れたものを呪詛で侵すという。
ならば、触れる前に対処すればいいだろう。
袖口に仕込んだ投げナイフ、地面を刀でえぐって飛ばす石礫。弾には事欠かない。これらでカルロスへ行く道を遮る花びらのみを蹴散らしていく。
先制攻撃をしのぎ切り、奴への道筋が立ったのなら狙うはそのそっ首。だがまぁ、最悪掠ればいい。
≪偽りの聖痕≫
そのかすり傷が命取りだ。終わらぬ苦痛が貴様を襲いつつけるだろう。
●その黒を裂いて征け
黒百合の花びらが、海を泳ぐ魚の群れのように闇を覆っていた。
暗黒よりもなお昏き呪詛の塊。紋章が生み出した、触れ得ざる死のかたち。
おお、見よ――ヘドロを浄化する光のように、煌めく刃が黒を裂いていく。
上下左右前後、あらゆるすべてが敵愾した闇の中を、桐生・零那が進む。
「――面白い」
カルロス・グリードは不動。王者とはそういうものである。
玉座にあって万物を睥睨し、見下し、そして踏みにじるもの。それが王だ。
零那は挑戦者である。闇を裂いて進む一条の光――いや、同じ闇か。
それは王の生み出した黒き軍勢に侵されることなく、刃を煌めかせ走る。
黒百合の呪詛が侵すのは、何も物質に限った話ではない。
空気も、空間さえも、それが触れたものは等しく呪詛で汚染される。
ゆえに立ち止まるのは愚策も愚策。ただ、前へと斬って進むしかないのだ。
時間という質量がそうであるように、暗黒の道もまた進めば戻れない。
後ろには死がはびこり、前に待つ王もまた死をもたらすものである。
だが、零那は恐れない。恐れを見せることもなくまっすぐに進む。
「直接その首を刎ねてやれないことは残念だ――しかしその代わりに」
相対距離10メートル。猟兵の、そして零那の身体能力ならば一息で詰められる距離。
だが、おお。この暗黒の中ではその距離があまりにも遠い。
遠いゆえに進む。零那の刀が音を越え、刃のかたちをした光めいて煌めく!
「薄気味悪い紋章で飾り付けた、その醜い分身を討つとしよう――!」
進むべきは前である。横でもなければ後ろでもない。
零那はここに、敵を討つためにやってきたのだから。
それ以外の経路はすべて無駄。回避も防御もすべて不要。
あまりにも自殺めいたその決意と覚悟が、結果的に暗闇を切り裂く灯火となる!
そして、ついに岐路は訪れた。
闇すらも喰らい尽くす暗黒の嵐は、一秒の半分の半分の半分だけ、途切れた。
零那が斬ったのだ。ただ前に進むという意思のもとに。
わが前に、挑戦者が道を拓くとは。
カルロス・グリードは、そのような言葉を吐こうとしたやもしれぬ。
だが、時間はそれを許さない――そんな悠長な暇は零那にもなかった。
風のような速度でまっすぐに駆け抜ける。
……遅れて、斬撃が水平線のようにまっすぐに伸びた。
「ぐ――ッ!!」
カルロスは首狙いの致命傷を避けていた。避けざるを得なかったのだ。
不動のまま挑戦者を踏みにじるべき王が、防御をセざるを得なかった。
しかし傷口はもたらされ、結果的にそれが光の楔を闇に撃ち込む。
「終わらぬ苦痛に苛まれ続けろ。それが神々の奇跡である」
「……我を、見下す、その目……忌々しい
……!!」
だが同時に、どうしようもなく美しくもあった。
限りなき欲望を持つ侵略者は、それゆえに宝に惹かれてしまう。
凛然たるその意思という、けして手の届かぬ光に、惹かれてしまうのだ。
成功
🔵🔵🔴
ネグル・ギュネス
強敵、強敵か
厄介極まりない能力だか、退く理由もない
世界を救うと、誓ったばかりなのでね
数多の刃を対処するには、独りでは不可能だろう
嗚呼、『独りでは』な
故に、2人がかりで挑ませて頂く
【共鳴せよ、我らは陽光也】
俺自身がもう一人、なれば呼吸は阿吽が必然
刃を一人が受け流せば、もう一人が走り、一人が受け止めればそれを飛び越え次の刃をカバーし突貫
衝撃波で払い、銃で乱れ撃ち、距離を詰めれば勝機は目の前
今度は逆に、二人がかりの無数の攻撃で削りすり潰しにかかってやる
その類の戦術は、最近仲間から受けたばかりでね
アンタに恨みは無いが──まあ、運が悪かったな
●揺るがぬ誓い
この戦いは、誰かのためのものではない。
正義も、責務も、名誉も、憤怒も、敵愾心も、それはすべてネグル・ギュネス自身が抱き、決め、背負い、求め、燃やし、そして見出すものだ。
だからこれは、究極的に言えば「己がそうしたいから」そうするのである。
命を賭ける理由など、そのぐらいでいいのかもしれない。
渦を巻く三日月の嵐は、たとえるなら一寸先の見えない吹雪のようだった。
それら一つ一つが、分厚い鋼鉄をも切り裂く極限まで鍛え上げられた刃の如し。
人体など容易に切断しうる、まさしく王笏に相応しい紋章の力。
隙間などない。間隔も、ない。嵐は前後左右上下から襲い来る!
「『おおおおお――ッ!!』」
黒と白、モノクロめいてツートーンのふたりのネグルが、裂帛の気合をあげた。
黒が刀で三日月を払い、こじ開けた活路を白が駆けようとする。
その行く手を遮る刃の壁を、白が無理矢理に受け止め、肩を足場に黒が跳ぶ。
同一人物だからこそ、一心同体にも等しい阿吽の呼吸。
三日月の嵐が同時に来るように、白と黒の連携もまた間隙なく続く!
「なにゆえにそこまで生き急ぐ、猟兵よ。我に敵対する理由が汝にあるのか」
『てめえが納得できそうな理由は、あいにく持ち合わせてねえよ』
黒のネグルが言った。回転し、左右からの三日月による攻撃を弾く。
「言って聞かせるつもりもない。この信念は、俺自身のものだからだ!」
白のネグルが王笏に斬りかかる――王は不動。
カルロス・グリードを守る近衛兵めいて、三日月の渦が白を阻んだ。
「我が従えてきた海賊の中には、汝のように怒りを燃やす者も少なくなかった。
海の自由がどうだの、支配されるつもりはないだのと勝手をのたまってな」
『それで? 俺も同じようにねじ伏せてやるっていう脅しか』
「やれるものならやってみろ。貴様ごときにひれ伏すくらいなら死んだほうがマシだ」
カルロス・グリードは目を細める。これは、彼にとって飽き果てた問答だ。
そうやって生意気な啖呵を切る海賊を、彼は何百と討ち倒し、従えてきた。
そして過去の残骸として使役する――強欲なる王はその権利を持つ。
彼にとって支配とは当然の権利だ。生物が生きるのと同じように。
ゆえに、王はネグルの意気を理解しない。そもそも出来るわけがない。
だが――。
「我は汝のような男を好ましく思うぞ。よきコンキスタドールとなるであろう」
「『言ったはずだ、願い下げだとッ!!』」
首をはじめとして致命的部位を真っ二つにしようと、三日月刃がほとばしった。
ふたりのネグルは背中合わせに立ちながらぐるりと回転斬撃を放ち、相殺。
それは相容れぬ陰と陽。だが、表裏一体の黒白に死角も隙も存在しない!
「俺は、世界を救うと誓ったばかりなんだ」
『そしてこの手の戦術は、仲間から受けたばかりでね』
「『運が悪かったな、カルロス・グリード!!』」
斬撃が、到達する――王は、切り裂かれた我が身を信じられぬ顔で見下ろした。
「何?」
痛みと屈辱が遅れてやってくる。ネグルの斬撃は一度きりではない!
展開した三日月の刃を壁めいて防御に使わねばならない屈辱。
そして、防ぎきれぬ傷のダメージ。見下すべき王が、見下されている……!
「何が汝をそこまでさせる。一体どんな欲望が――」
「俺が求めるものは、いまのところただ一つだ。オブリビオン」
ネグルは決然たる面持ちで言った。
「てめえを、てめえの本体も、取り巻きも何もかもを叩き斬ることだけだッ!!」
斬撃が、王笏の余裕とその身を徐々に徐々に切り刻んでいく……!
成功
🔵🔵🔴
ルヴトー・シフトマン
こいつがこの戦争の首魁…ですか
どうやら倒してお終いとはいかないようで
大将自らがのっけから動き回るとは……
──その自信、咬み千切る
……2秒先が見えた!あの花弁は絶対にまずい!!
【早業】で素早く<黒鉄之雨>を抜いて射撃
弾をばら撒いて花びらを落としにかかりながら、<飛天陽光>も抜く
撃ち漏らしを正確に撃ち抜いて、歪な二丁持ちで対処します
これでしのげるか…?でもやるしかない
凌げたら、2回目の発動はさせない
俺の牙はもう、喉元の傍だと分からせる──『重圧』
もう一度使おうとしてみろ
即座に撃ち落としてやる
ハッタリじゃあない…俺は「先を見てる」
プレッシャーで動きが鈍くなってる隙に接近
<霹靂剛拳>で叩き潰すッ!
●その名は先駆者(シフトマン)
オヴリビオンに、真の意味での死は存在しない。
――という事実を、ルヴトー・シフトマンは改めて突きつけられた。
(こいつが、この戦争の首魁……!)
キャバリアという強力な兵器に搭乗していてなお、このプレッシャー。
大将自らが侵略に打って出るという、一見すると非合理的な戦術は、
『この男ひとりで島を制圧しうるのだ』という事実によって納得させられる。
それだけの、オーラがある。世界を統べる王に足るカリスマが。
同時に、同じだけの拭いきれない邪悪さを感じてもいた。
これは許してはならぬ悪なのだと、本能が叫ぶ。
――よもや質量で勝ったからといって、我を討てると思ってはいないだろうな。
「!」
「よもや質量で勝ったからといって、我を討てると思ってはいないだろうな」
幻視の直後に、カルロス・グリードが未来視と同じことを口にした。
ただ相対しているだけで、未来視が発動した。すなわち……。
(もう、それだけの危険に面してるってことか……)
こめかみを冷や汗が伝う。カルロス・グリードは無表情である。
「答えよ。我の前に立つキャバリア使いよ」
「……俺は機狼衆がひとり、ルヴトー・シフトマンです」
問いかけに対する名乗りの意味を察せぬほど、カルロスは馬鹿ではない。
ルヴトーが"やる気"なのだということを、それだけで理解する。
「その意気やよし。ならばあとは、汝の力量で答えを見せてもらおう。猟兵よ」
「上等です――その自信、咬み千切る」
ルヴトーが見ている前で、黒百合の紋章がおびただしく触手を蔓延らせた。
それはあっという間にカルロスの全身を覆い、異形化させていく……!
そして脳裏に閃くのは、無数の黒百合に呪われもがき苦しむ己の姿!
(あの花弁は、絶対にまずい!!)
BRATATATATATATATAT!!
未来視に従い、〈黒鉄之雨〉で飛来する花弁を撃ち落としていく。
だが、花弁の量は異常だ。闇をなお色濃い黒で塗り潰すような物量!
未来視は依然として、更新されながらルヴトーの死を知らせ続けている。
動かねばならない。ハンドキャノンとの二丁拳銃で花弁を撃ち落とす!
「彼我の力量を見誤るほどの莫迦ではないか」
カルロス・グリードは無感情に言い、さらに大量の"黒"を生み出した。
(これで凌げるか……? なんとか距離を取って、死角を――)
ルヴトーの未来視は死を伝え続けている。少年の主観時間は、異常に鈍化した。
……後ろに下がる。
キャバリアの機動力ならば、ひとまず花弁の嵐からは逃れられるだろう。
それで? そのあとはどうする。
側面なり背面なりを取って、こそこそと気配を消して近づくか。
……否。断じて否! それではこの未来視を覆すことは出来ない。
なによりも、己は目の前の敵を斃すためにここへ来たのだ。
取るべき道はひとつ――正面以外にありはしない!
「うおおおおッ!!」
ルヴトーは決死の思いで、弾丸をばらまきながら前へと推進した。
カルロスの眉根が、ぴくりと揺らぐ――それは驚愕の証左。
黒百合の嵐は、ルヴトーの背後を包み込むようにして広がっていたのだ。
「我に自ら近づく度胸はあったか。我が敵を見誤ろうとは」
「俺の牙は、逃げ惑うためのものじゃあないッ!」
キャバリアのカメラ越しに、ルヴトーの重圧がカルロスを射抜いた。
そして退いたのは、カルロスだ。君臨すべき王が、挑戦者を前に退いたのだ!
「絶対に、逃さない
……!!」
未だ死を知らせ続ける未来視を打ち砕くが如く、ルヴトーは機拳を突き出した。
仮初の死のヴィジョンが割れ、剛拳が王笏に――届いた!
「ぐ
……!!」
「俺は先を見ている。俺自身が勝利する未来を!」
時の流れに逆らい未来を掴む者――その名を先駆者(シフトマン)。
彼の視る未来は、彼自身が掴み取る必然の未来なのだ!
成功
🔵🔵🔴
鳴宮・匡
◆夕立(f14904)と
無数の刃だろうが関係ない
視えるものなら、殺せるものだ
こちらを襲い来る刃を、影の銃で迎撃していく
軌道を【見切り】、落とせる限り撃ち落とす
意識を集中して確実な精度で迎え撃つよ
他に目をやる余裕を与えさせないようにな
……まあ、そんなことしなくても完璧に潜伏するだろうけど
相手はフォーミュラだ、完全封殺はできないだろう
回避を織り交ぜながら、致命傷になりかねないものを選んで撃ち落とし
継戦能力に大きな支障を出さない範囲のものは敢えて受ける
夕立が一撃入れれば隙は出来るだろう
こっちからも一撃くらい返してやらないとな
――頭、狙えるならば紋章の位置でもいい
好き放題やってくれた礼だ、受け取りな
矢来・夕立
傭兵さん/f01612
▼先制対策:SPD
傭兵さんが撃ち落としてくれるそうです。
戦闘音に乗じて《闇に紛れる》つもりですけど、アイツ自分はどうするんでしょうね。
手助けしてバレたら最悪なんで何もしませんが。
ある程度凌いだあとならいいでしょうか。
目についた危ないやつ、撃ち落としてあげても。
前々から考えていました。
侵略だの掠奪だの、ずいぶん面白そうなことを進める。
このオレに声のひとつもかけないで、悪いことをする。
その辺りの気配りが下手だから死ぬんですよ、可哀想に。
月夜なのに暗殺なんて。
…まあどうせ一回では死なないんでしょ。あのクソバケモノ。
次も手伝ってもらいますよ。一対二の方が好きなんです。ズルくて。
●血と血が混じり合い
撃つ。
撃つ。
撃つ。
無限めいて闇の中に輝く三日月型の刃を、淡々と、確実に、撃つ。
鳴宮・匡の照準は機械さえも見劣りするほどに正確かつ的確であった。
とはいえ、所詮は生身の人間が、トリガを引いて撃っているのだ。
突撃銃を使おうが、紋章が生み出す三日月の刃の量には劣ってしまう。
徐々に徐々に空間を制圧されていく。匡は、ダメージを覚悟の上で動く。
回避するための余剰空間を弾幕で作り出し、そちらに跳ぶのだ。
たとえるなら、当て所もなくトンネルを掘り続けるような作業である。
闇に紛れた矢来・夕立ですら、無差別な攻撃によって負傷を余儀なくされた。
(アイツ、本気で自分ひとりで凌ぎ切るつもりかよ)
声を出せたら、「こっち怪我しちゃってるんですが?」くらいの軽口は叩いていたかもしれない。
もちろん、口には出さない――居場所を悟られないためというのが一つ。もう一つは、夕立もひたすら回避に集中しなければならないがため。
無差別攻撃は半径200メートルをゆうに超える範囲に展開されているようで、
カルロス・グリードを攻撃しようとするなら、どうしても身を置かざるを得ない。
夕立が潜伏し続けられているのは、匡が敵の注意を惹きつけているからだ。
彼が死ねば、夕立も死ぬ――そういう達観がある。道連れにされるつもりはないが。
(せいぜい目立ってくれないと困るんだけどな)
滲んだ血を服に吸わせて音と匂いで悟られないようにしながら、夕立は思う。
匡を心配する様子はない――そもそも、死なせるつもりがなかった。
「先ほどの仲間は、どうやら我の首を狩るつもりらしいな」
カルロス・グリードは不動だ。なぜなら、動く必要がない。
彼は紋章の力を発動し、ただ自分の周りのすべてを切り裂けばいいのである。
匡はずいぶんと持ちこたえていたが、そんなものは誤差に過ぎない。
弾丸が切れるか、体力が切れるか、あるいは動けなくなるか……。
どれであれ、どの面であれ、カルロスに絶対的優位がある。
王とは、そういうものだ。ましてやカルロスは、侵略者の王である。
あらゆるものを、命を、奪い尽くす。支配し、簒奪し、痛ぶる。君臨する。
挑戦者のために足を動かしてやるつもりなど、これっぽっちもない。
「あとどれだけ耐えられる? 10秒か? 20秒か? 仲間は見捨てたようだな。
我は汝のその目の良さを好ましく思うぞ。大いなる神が警戒するだけはある」
カルロスから見れば、支配された空間を必死に回避する匡の悪あがきは、
いわば虫かごに放り込まれた芋虫のような……そういうレベルの児戯である。
だが、技術と動きは目覚ましいものだ。略奪し支配する価値があると考えていた。
「額づけば助けよう、などとは言わん。一度死ね。そして汝は我がものとなる」
匡はカルロスの言葉を左から右に聞き流しながら考える。
カルロスが自身の周囲に残している刃は、防御に必要な最低限のものだ。
攻撃は匡に集中しており、そして制圧的――つまり夕立は見つかっていない。
もしも彼の隠密が見抜かれているなら、そこを狙って攻撃しているはずだ。
ならば、それでいい。匡はただ撃つ。視えたものを、視えたように。
(視えるものなら、殺せる。あとはあいつが仕掛けるのを待てばいい)
少なくとも匡は、夕立の腕前に関しては全幅の信頼を置いていた。
もっとも彼にとってそれは、信頼というよりも当然の評価というのが近い。
夕立ならやれるという確信がある。それを、感じたとおりに評価しているだけ。
それだけで、命を懸けるには十分だ。ここで死ぬつもりもないのだから。
恐怖などするはずもない。……それがカルロスの癪に障った。
「見上げたものだが、少々小賢しいな」
思案する。奴の狙いはもうひとりからこちらの注意をひくことだ。
すべての刃を集中させれば、どれだけ悪あがきしても5秒で殺せるだろう。
5秒――その間カルロスは無防備となる。リスクは高い。
ならばまず、闇に隠れたあちらを殺してしまえばいいのではないか。
そう考えた瞬間、三日月の刃のひとつが砕けた。
苦無である。カルロスの無表情な瞳がついと動き、刃が視線に従った。
苦無の飛んできた方角を、カーウォッシャーじみた刃がずたずたに切り裂く。
「前々から考えていたんですよ」
声は背後からした。
「侵略だの略奪だの、ずいぶん面白そうなことを進める――このオレには声もかけずに、悪いことをする。そのあたりの気配りが、王にしては下手すぎますよ」
闇の中にはらはらと散るもの。……紙くず。
惑わされた? このカルロス・グリードが? こんな幼稚な手口に?
いや、そもそもだ。あんな迷いを抱く時点でおかしいではないか。
絶対的優位であったはず――ならば、迷う必要などない。両方殺せばいい。
選択を強要されていた時点で、すでに優位など消えていたというのか。
刃が横に滑り、黒の中にぼたぼたと血が溢れた。
危うく首を描き斬られるところだったカルロスは、ゴロゴロと地面を転がる。
まるで殴り倒された無法者めいて――否、もはやその通りなのか?
「散々好き放題やってくれたよな」
瞳が、ふたつ。
空に君臨する金色の瞳よりもはっきりと、カルロスを視ていた。
「――その礼だ、受け取りな」
黒い黒い、闇よりもなお昏い弾丸が、まっすぐに飛んでくるのが見えた。
感嘆があり、驚愕があり、なによりも屈辱と怒りがあった。
言葉にすることは出来なかった――代わりに王が吐き出したのは、苦悶。
追い詰められていると理解したのは、自分のその声を聞いた瞬間だった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
朱鷺透・小枝子
戦闘に集中する。
こんな時も月はきっと綺麗だろう。
しかし今の小枝子には、関係のない事だから。
回点号に搭乗、操縦。
後方へ向かって全力推力移動!
瞬間思考力、向かってくる三日月刃を素早く判断し、戦鎌でなぎ払い、難しいなら受け止め防ぎます!
早く、もっと早く!刃も奴も、動くより先に!飛べ!!
『3番目の加速機』機体全身にスラスターを増設、後方へ加速。
ランスチャージ。遠く離れた距離から、
一気に、敵カルロス・グリード目掛けて最大速度で突っ込みます!
動体視力でカルロスグリードを捉え、シールドバッシュ。
全身に纏ったシールドと加速の威力で三日月型の刃を跳ねのけ、敵を貫く!!
ジフテリア・クレステッド
先制対策には(敵の先制の方が確実に速いと分かった上で)こちらもそれに合わせて【先制攻撃】するぐらいの気持ちの反応で各偽神兵器から毒弾の【一斉発射】、毒音波の【範囲攻撃・衝撃波】で無差別攻撃の相殺を狙う。(偽神兵器双方の使用が無理なら片方だけでも)
それでも届く攻撃は【念動力】で無理矢理逸らし、攻撃を防ぎきれなくても【激痛耐性・継戦能力】で敵の先制攻撃後にダメージを感じさせない動きで即座に対応してUCを発動。真の姿を纏って【ダッシュ】で敵の懐に飛び込んで完全制御された【毒使い】の毒で紋章もカルロスも【蹂躙】する。
毒を完全に制御できる真の姿でもなきゃ見せられない私のご尊顔だよ。
ときめいて死んでよね!
枯井戸・マックス
「さっそく大ボスの御登場とは気前がいいねぇ」
月明かりがあるとはいえ、暗い中で黒い霧に変身されたら厄介だ
なら目に頼らず行動するしかないか
敢えて目を閉じ【第六感】を研ぎ澄ます
霧が這いよって来たら回避しつつ、ラリホーンサックスを【楽器演奏】して催眠音波で【カウンター】を狙う
「体積が広くなった分、音の振動はもろに響くだろ!」
攻撃をいなしたらUCで鎧を召喚し機動力アップ
白羊宮の鎧でサックスの力を更に高めた音波攻撃で動きを封じてやる【催眠術・鎧無視・生命力吸収】
「さあ、月夜の音楽会を楽しみな」
牡羊座の鎧:黒スーツに桃色の羊毛ファーを巻いたギャングスタイル
行動セリフ連携などアドリブ歓迎
蛇塚・レモン
分身体とはいえ侮ったりしないよっ!
敵の先制攻撃対策
あたいの黄金霊波動のオーラ防御は、突っ込んでくる蒸気魔導機関車も止められる斥力を発揮するよっ!
更に神烏の杯が霊水の結界を周囲に展開して、敵の攻撃を弾き返す!
呪詛に侵される前に(継戦能力・激痛耐性)雷属性全力魔法で花びらを焼却!
三段構えで先制攻撃をしのぎ、身躱す仕草で自然とUCへ
カウンター・ダンス・だまし討ち
よもや蛇神様に睨まれただけでマヒ攻撃・捕縛・生命力吸収・精神攻撃の呪詛が発動するなんて思わないはずっ!
あたいは神楽鈴で自身と蛇神様、そして猟兵のみんなを回復っ!
トドメは蛇神様と一緒に念動力+呪殺弾の衝撃波で貫通攻撃!
からの、蛇腹剣でなぎ払い!
メリー・スペルティナ
むー、紋章は驚きですが、実際の行動そのものは吸血鬼と比べて随分堅実な感じですわね
先制対策は薄暗いし《闇に紛れ》つつの《第六感》頼み
ただこっちも《呪詛》の使い手、無効化は無理でもやれることはあるはず
どのみち防戦一方で侮られるでしょうけど、「だったらほんとに格下かその身で確かめさせたやりますわよ!」と啖呵を切り……と見せて【強化呪式:王に届かせる刃】で自己強化。
加えてわたくしの血を呪法によって剣の形に圧縮固化した『ブルートヴァッフェ』の形態を変えて呪詛帯びた血の触手状に。
花びらへと伸ばし叩き落して、拓いた道の先の王へともう一つの剣『シュバルツシュテルン』を叩き込むだけですわ!
※アドリブ他歓迎
●金眼が闇を見下ろす
「……認めるしかないようだ」
数々の猟兵との戦いでおびただしい傷を帯びたカルロス・グリード。
その身体に三体の『紋章』が絡みつき、全身を触手で覆い尽くす。
「我をしてなお、汝らの力量は全力を……否、死力を尽くさねばならぬのだと。
ならば我の肉体が崩壊しようとも、『紋章』の力をすべて引き出さねばなるまい」
分身体とはいえ、フォーミュラをして『紋章』の同時使用は無茶に過ぎる。
しかしそこまでせねば、もはや猟兵には勝てないと奴は認めたのだ!
「吸血鬼に比べて堅実な感じかと思いましたが、どうやら追い詰められたみたいですわね!」
メリー・スペルティナは身構えつつも、決然たる面持ちで言った。
つまりはここが分水嶺、あと一息を押し込めば金眼島を解放することが出来る!
そしてカルロス・グリードが最初に繰り出したのは、『紅き月の紋章』による攻撃。
闇の中に無数の三日月が浮かび上がり、高速回転しながら無差別に全方位を襲う!
「先制攻撃されるからって、わざわざそれに合わせるつもりはないってね!」
誰よりも早く動いたのは、ジフテリア・クレステッドだった。
敵に先制を許してなお、確実に先に来る攻撃に同時に合わせるという意気。
ともすれば被弾すら恐れぬ前のめりな毒弾の乱射が、三日月の嵐を相殺する!
「まだだ……この程度で我は終わらぬ……!」
カルロス・グリードは紋章の力をさらに引き出し、なおも刃を生成した。
その範囲は半径200メートルを軽く越えている。これがフォーミュラの制圧力か!
「早く……もっと早く! 刃よりも、奴よりも
……!!」
朱鷺透・小枝子の駆るキャバリア『回点号』の戦鎌が、溢れ出した三日月を薙ぎ払った。
ジフテリアの弾丸と鎌の刃、そのふたつが存在しない刃の空白を生む。
そして小夜子は不可解にも後方へ全力移動し、ジフテリアは逆に前に出た。
ここでカルロスは、どちらを集中攻撃するかを選択せざるを得ない。
支配者にとっては選択を強いられる時点で業腹だ。だが奴は考える。
ジフテリアは平然と振る舞っているが、刃が与えた傷は決して小さくない。
対して気にかかるのは小夜子である――なぜ、キャバリアでさらに後ろへ?
単に無差別攻撃を回避するためならば、いい。しかし周囲には味方がいる。
図体の勝るキャバリアであれば、前に出て盾になろうとするのが自然だ。
つまり――あの後退には、何か攻撃的な意図がある。距離を稼いでいるのか!
「させん」
選択は小夜子の追撃。カルロスはその身体を闇に溶ける暗黒の霧へと変え、
同時に『紋章』の力により呪詛の黒百合を生み出し、爆発的に加速した。
「前に出た!?」
予想外の加速力に、猛毒による追撃を繰り出そうとしていたジフテリアは驚愕。
霧の身体ゆえにジフテリアをすり抜け、黒百合の花弁で回点号を飲み込もうとする!
「そうはさせない! 蒸気魔導機関車も止める斥力、見せてあげる!!」
その間に割って入ったのは、蛇塚・レモンであった。
全身を覆う黄金の霊波動……すなわち念動力の源である強固なオーラ障壁が、
触れたものを呪詛に侵し即座に死に至らしめる黒百合を、真正面から受け止めた。
恐るべきは黒百合の紋章! 呪詛は非物質的なオーラさえも侵していく!
だがそれは、レモンも承知の上――彼女は同時に雷撃を放ち、花弁を灼いた!
「チィ……」
「格下だと見くびっていたその驕りを、その身で確かめさせてやりますわよ!」
闇から飛び出すメリー! 彼女はやる気だが、明らかに分が悪い。
カルロスは紋章の力で、その身体を霧そのものに変えているためだ。
しかもこの霧は、触れた相手の生命力を超速で吸収する攻防一体の変身体。
いかなダンピールといえど、生命力を吸いつくされてしまう……!
しかし、メリーには考えがあった。
まずひとつ――彼女の使うユーベルコード"強化呪式:王に届かせる刃(エンハンス・エクリプスブレード)"は、かなり特殊な条件によって発動する術式だ。
その条件とは、『敵対者から格下や弱者であると認識される』こと。
つまりカルロス・グリードのような、圧倒的強者に対しては相当に強い。
とはいえ、その強化を得たとしても、攻撃が届かなければ意味はない。
彼女が打って出たふたつ目の理由。それは、第五の猟兵の存在である!
「ずいぶん必死みたいじゃないか、これなら目を閉じて集中する必要もないな」
枯井戸・マックスはそう言って不敵に笑い、ラリホーンサックスを吹き鳴らした。
霧化したカルロスには物理的攻撃は通用しない。だが音波ならば!?
「ぐ……ッ!?」
答えは一目瞭然である。音波は霧化したカルロスの肉体を撹拌せしめた!
「体積が広くなったぶん、音の震動はもろに響くだろ!」
「汝
……!!」
カルロスにそのつもりがなくとも、『紋章』はそのダメージを嫌う。
霧化は不完全なものとなり、苦痛と屈辱に震えるカルロスの顔が実体化した。
新たな花弁を生み出そうとも、焼却されたものを再生させるのは難しい……!
「本家本元の吸血鬼ならば、そんな能力は完璧に操っていたはずですわ。
あなたはさぞかし強大な侵略者なのでしょうけれど、だからこそ隙があります!」
剣の形に圧縮固化されたメリーの『プルートヴァッフェ』が、呪詛を帯びた鮮血の触手状に変形し、新たに生まれた黒百合の花弁を根こそぎ喰らい尽くす。
そしてもう一方の手に握られた『シュバルツテルン』を、カルロスに突き刺した!
王笏に、刃が届いた。カルロスは驚愕に表情を歪め、血を吐き出す!
「我が、斯様な一撃を受けるなどと
……!!」
「もしかして私のこと忘れてる? そんなことないよねえ?」
「!!」
背後! 実体化したカルロスの肩を掴み、ジフテリアが顔を近づける。
防毒用マスクが外れ、魔界盗賊としての真の姿があらわとなった。
一見それは見目麗しい少女の相貌――だが浮かべた笑みは、死神の如し。
「滅多に見せられない私のご尊顔だよ。ときめいて死んでよね!」
至近距離で叩き込まれる猛毒が、傷口から侵入しカルロスの身体を蝕んだ。
呪詛と刃とであらゆる敵をひれ伏させた王が、毒の苦しみにのたうち回る!
「……まだだ、たとえ我が分身体に過ぎぬとしても、我は"王笏"、奪うもの。
猟兵よ、汝らは危険に過ぎる……ここで、なんとしても死んでもらうぞ……!」
「まだあがくつもりだね? その根性だけは褒めてあげるっ!
けど、それはあたいたちの台詞だよ。絶対にここで斃れてもらうから!」
霧化しようとしたカルロスの身体を、レモンの白き蛇神がひと睨みで縛った。
マヒによる拘束は、カルロスが十全であれば一瞬で終わっていたかもしれぬ。
しかしジフテリアの流し込んだ毒と、マックスの音波攻撃によるダメージ。
さらにメリーの血がもたらした呪詛という三重苦が、抵抗をねじ伏せた!
「……ッ!!」
「このまま押し切るよ、みんな!」
レモンは神楽の舞を踊り、清らかなる鈴の音で猟兵たちの傷を癒やす。
そして闇雲に撃ち出された三日月刃を軽やかに躱し、蛇腹剣を袈裟懸けに振るう!
カルロスの胸部から腰にかけてがばっくりと切り裂かれ、鮮血が噴き出した!
「こいつはお前さんを送る葬送曲だ。さあ、月夜の音楽会を楽しみな」
ギャングめいた黒スーツスタイルに変身したマックスは、再びサックスを鳴らす。
ファッショナブルな格好は実際のところ、彼の力を高める星座の鎧なのである。
先ほどよりも数段強化された音の波が、内側からカルロスの骨身を揺さぶる……!
「ぐ、お、おおお……! 我が、死刑囚のごとく、縛られる、など
……!!」
もはや王に自由は効かず、ただ執行を待つことだけが許されていた。
そして、見よ――後方に大きく距離を取っていた回点号が、急速に近づく。
先ほどの猛攻に比べれば、闇に浮かび上がった三日月刃のなんとかそけきことか。
「疾く――何よりも、疾く!!」
小夜子はそれらをシールドバッシュで一蹴し、最後の加速を終えた。
亜音速に到達したランスチャージが――傲慢なる略奪王を、百舌鳥めいて射抜く!
大海に君臨せし王笏の最期は――それが分身とはいえ――屈辱的な串刺し刑。
猟兵を侮り、己を絶対的支配者と信じて疑わぬがゆえの、当然の敗北だった。
「……麗しの姫君、よ、汝の恐れは……正しかった、か……」
カルロスはごぼりと穢れた血を吐き出し、そして息絶えた。
寄生していた紋章はずるりと力なく身体から外れ、地に落ちると砕け散る。
決着を見下ろすのは、空に浮かぶ金色の瞳だけ。
月は最初からこの結末を知っていたかのように、ただ煌々と輝いていた――。、
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴