羅針盤戦争~闇を裂く男たち
●グリードオーシャンにて
「ここがケット島か……ショボい島だぜ」
血のように赤いマフラーを巻き、血のように赤い手袋をはめ、血のように赤いブーツを履いた男がボートから砂浜に降り立った。
その男は人間ではなかった。
ケットシーなのだ。
別の意味でも人間ではなかった。
コンキスタドールなのだ。
「ケットシーばかりが住んでいる島だと聞いたが、同族だろうと容赦はしねえ。とくに語尾に『にゃ』をつけるようなクソ野郎は――」
青い瞳に狂気と殺気を滾らせて薄く笑い、片手を一振り。
すると、大振りのナイフが掌中に出現した。手品のように。魔法のように。
「――徹底的に痛めつけて、苦しめて、責め苛んで、地獄を見せてやるぜ」
悪役らしい台詞を決めた後、ケットシーのコンキタドールは笑みを消し、誰もいない場所に目をやった(カメラ目線だ)。
そして、フラグを立てた。
「もっとも、今時そんなベタなケットシーはいねえだろうけどー」
「にゃにゃにゃ!? なにやら怪しい奴が上陸したにゃ!」
「もしかして、あれはコンキスタドールにゃ?」
「コンキスタドールかどうかは判らないけど、カタギじゃないのは間違いないにゃ」
砂浜を見下ろせる小高い丘の上でケットシーの一団がフラグを回収していた。
全員、いかにも海賊といった風体である。しかし、あのコンキタドールのケットシーに比べると、迫力も貫禄も殺気も足りない。飼い主の手で海賊のコスプレをさせられた猫に見える。
「フッ……何者だか知らんが、我ら『タイガーズ・ブラック』の縄張りに足を踏み入れるとはいい度胸だにゃ」
「だけど、度胸だけで生きていけるほど、このグリードオーシャンは甘くないにゃん」
「いっちょ、締めてやるにゃ!」
甘くないグリードオーシャンに生きる百戦錬磨の海賊猫たちは意気揚々と丘を降り始めた。
百戦どころか千戦万戦の修羅場を潜り抜けてきた敵が待っていることも知らずに……。
●グリモアベースにて
「本日のおやつはキウイとパパイヤとマンゴーのストロベリーチョコソースがけ! 糖分は正義! 大、正、義!」
伊達姿のケットシーが猟兵たちの前でフルーツの盛り合わせを手掴みで食べていた。
グリモア猟兵のJJことジャスパー・ジャンブルジョルトである。
JJは『大正義』の摂取を終えると、ストロベリーチョコソースで斑になった肉球を舐めつつ、本題に入った。
「今回の任務地はグリードオーシャン。このフルーツの産地であるところの『ケット島』っていう小さな島だ。安直な名前だから察しがつくだろうけど、ケットシーばかりが住んでる島なんだぜ。で、オブリビオンがそこを襲撃しようとしているんだが、そいつもまたケットシーだったりするわけ」
オブリビオンの名は『赤足のロジャー』。魔法のナイフや不可視のロープを巧みに操って戦うコンキスタドールだ。ケットシーだけあって外見は愛らしいと言えなくもないが、性質は残虐極まりないという。
「そいつは語尾に『にゃ』を付けるケットシーをひどく嫌ってるらしい。ケットシーに限らず、見た目が猫っぽい奴でも『にゃ』を付けて喋ったら、勘気に触れちゃうかもなー。相手のペースを乱すためにあえて怒らせるってのも面白いかもしれないが、くれぐれも油断はするなよ。ロジャーってのは普通のオビリビオンよりも手強いんだ。なにせ、巷で噂の『七大海嘯』の息がかかった精鋭だからな」
顔をきりりと引き締めて(ただし、口の周りがストロベリーチョコソースまみれなので様になっていない)皆に警告するJJであったが、すぐに相好を崩した。
「しかーし、どんなに手強い敵だろうと、数の上ではこっちが勝ってる。しかも、戦うのはおまえさんたちだけじゃねえ。ケット島を縄張りにしている『タイガーズ・ブラック』っていう海賊団が助っ人になってくれるはずだ」
タイガーズ・ブラックの面々もケットシーである。海賊というよりも島民の自警団に近いのだが、当人(当猫?)たちは海賊のつもりでいるらしい。
「なんちゃって海賊だからして、腕っ節のほうはおまえさんたちと比ぶべくもない。だけども、全員がなにか一芸に秀でてるんだよ。たとえば、目が良かったり、走るのが速かったり、ジャンプ力が凄かったり、泳ぎに熟練していたり、料理が上手だったり、声帯模写の名人だったり、数独が得意だったり……そういう一芸を上手く活かせば、戦いを有利に進めることができるかもな」
戦いの役に立ちそうにない一芸も含まれているような気がしたが、猟兵たちはあえてなにも言わなかった。言ったところで、『大食い』という一芸を誇るJJは耳を貸すまい。
「さーて、それじゃあ――」
大食いのグリモア猟兵は転送の準備を始めた。
「――行くとするかにゃ!」
『にゃ』を付けたのはわざとだろう。
土師三良
土師三良(はじ・さぶろう)です。
このシナリオは1章で完結する戦争シナリオです。執筆ペースがゆっくりめなので、スピードを重視されるかたは御注意ください。
●戦闘とプレイングボーナスについて
ケット島(読みは「けっととう」ではなく、「けっとしま」)なる島の平和を守るため、オブリビオン『赤足のロジャー』を倒してください。
島の海賊団『タイガーズ・ブラック』と協力して戦うと、プレイングボーナスがつきます。
『タイガーズ・ブラック』の面々はそれぞれが一芸に秀でているので、その芸を自分のユーベルコードと組み合わせたりすれば、思わぬ効果が生まれるかもしれません。一芸の種類はJJが例に挙げた以外にも色々ありますので、お好きなものを指定してください。ただし、あくまでも『一芸』止まりであり、超常的な異能とかはありません。
とくに一芸を指定せず、普通に陽動役や応援役や盾役(ひどい)として協力してもらうこともできます。
それでは、皆さんのプレイングをお待ちしております。
※基本的に一度のプレイングにつき一種のユーベルコードしか描写しません。あくまでも『基本的に』であり、例外はありますが。
第1章 ボス戦
『『赤足の』ロジャー』
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POW : ロジャー流惨殺術『軛返し』
命中した【ナイフ】の【切っ先】が【返しの付いた形状】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
SPD : ロジャー流捕縛術『インシデント』
見えない【ロープ】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
WIZ : ロジャー流殲滅術『ベルナデッタ』
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【魔力で作ったナイフ】で包囲攻撃する。
👑11
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●幕間
平和な島の日常を血の色で染め上げるべく、赤足のロジャーはゆっくりと歩き出した。
しかし――
「……ん?」
――三歩も進まぬうちに足を止めた。
砂浜の先にある木々の間から海賊らしきケットシーが次々と姿を現したからだ。
「おやおや。獲物のほうからやって来るとはな……」
ロジャーはニヤリと笑った。野獣のように牙を剥き出して。
それに負けじと海賊たちも笑ってみせた。フレーメン反応のように半口を開けて。余裕があることを示すため、ゴロゴロと喉を鳴らし始めた者までいる。色々と台無しだ。
そんな台無しな面々のうちの一人がロジャーに指(の先からムニュっと出した爪)を突きつけた。
「獲物はおまえのほうだにゃ」
「……」
語尾の『にゃ』を聞いた瞬間、ロジャーの左目の端がピクリと痙攣し、全身から放射されている殺気がより険難なものに変わった。
それに気付くことなく、別の海賊が挑発の言葉を投げかける。
「尻尾を巻いて逃げるなら、今のうちだにゃ」
「……」
再び、ピクリ。
「この『タイガーズ・ブラック』をなめてかかると、痛い目を見るにゃ」
「……」
またもや、ピクリ。いや、ピクリだけではない。額の血管が盛り上がっている。
さすがに海賊たちも相手の様子がおかしいことに気付き、顔を見合わせて囁き合った。
「あいつ、なんか怒ってるみたいにゃ?」
「なぜだろうにゃ?」
「たぶん、俺たちのカッコよさに嫉妬して苛立ってるんだにゃ」
「なるほどにゃー」
ちなみに『囁き合った』というのは当人たちの感覚であり、実際は普通の声量だ。
当然、ロジャーの耳に届いている。
「『なるほどにゃー』じゃねえ!」
額に浮かぶ血管を更に太くして、残虐極まりないコンキスタドールは残念極まりない海賊たちに怒鳴りつけた。
「てめえら、楽に死ねると思うなよぉ!」
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●JJからのお知らせ。
ロジャーが海賊どもを攻撃しようとしているところに猟兵たちがかっこよく登場! ……ってな感じでリプレイは始まると思う。
戦闘の場所は島の砂浜だ。海賊以外の島民は近くにいないから、周囲の被害とかは考慮しなくても大丈夫。
グリモアベースでも説明した通り、一芸に秀でた海賊たちと協力して戦うことができるぜ。一人の猟兵が複数の海賊と協力(複数の一芸を連動させる感じ?)したり、複数の猟兵が一人の海賊を共有したりするのもOKだ。
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神喰・柚々子
にゃんこかわよー!にゃーにゃー!
と、冗談はこれぐらいにしといてー、協力者がいるのは心強いね!
『タイガーズ・ブラック』の皆には敵を指定した場所におびき出して貰おうかな。声が大きいとか煽るのが上手い人がいると上手くいきそう。あと、語尾に『にゃー』は付けて貰わないとダメだね!
それと、指定した場所に落とし穴を掘るか水を張って動き難くして貰うのもお願い!罠に嵌まってくれれば、私が全力で【破壊のドラゴンブレス】を叩きこむだけ!
協力してくれたケットシーさん達はササミジャーキーあげるから頑張ってねー!
片桐・公明
【SPD】
本「猫……、ねこ、ネコ!!」
敵を見定めるや否や全速力で敵に突っ込んでいく本体
飛んでくるロープは適当に回避と受け流しで対応する
そしてそのまま全身でタックルして
抱き着く
本「あ~も~。かわいい~。」
ひたすら普通の猫をかわいがるように敵の全身をまさぐる
何だったら服とかも脱がす。
じたばたしても、口悪くののしられてもめげずに続ける
本「こういうツンツンしているところがたまらないのよね。」
もはや一人幸せ気分である
少し離れたところからケットシーと共に眺めている分身
分「今の荒れには近づかない方がいいぞ。一緒に撫で回されたいなら別だが。」
一応本体が危機に瀕したら妖刀で割り込む
(絡み、アドリブ歓迎です。)
鈴木・志乃
いやーまったくびっくりだにゃー。
すぐに怒って手を出すなんて、脳筋が透けてるにゃよ?
こんなのが海賊だなんてお笑い草だにゃー。
(露骨な挑発)
UC発動。幻想展開。
幻想でケットシーを大量に生み出し、ここに猫の楽園を建設。
沢山にゃーにゃー言ってもらいながら延々挑発を続けて貰いましょう。
あ、リアリティを出したいので(味方の)皆さんも、思い思いの『カッコイイ』行動してもらっていいですか?
大丈夫、ちょっと座標ずらして投映しますので。オーラ防御も張っときますね念の為。
凄い跳躍力にゃ! ロジャーより凄いにゃ! 島一番にゃ~。
疲れてる所にじわじわと催眠術籠めてさらに攪乱して、と
高速詠唱全力魔法でぶっとべ、ロジャー。
栗花落・澪
語尾なんか人それぞれでいいじゃん
短気は損気って言葉知らない?
翼を広げて【空中戦】
僕の作戦は簡単
さー皆でにゃーにゃー言うにゃー!!
僕は空から、海賊達は一芸を駆使して
挑発しながら敵から離れて分散してもらう事で
怒りの矛先と狙いを分散させる目的
あと可愛い
視線が僕から逸れたら【高速詠唱】で氷魔法の【属性攻撃】
足を地面に貼り付けちゃう
ついでに【催眠術】を乗せた【歌唱】で眠気を誘う
猫の聴覚には効くでしょ
【彩音】発動
今ロープ投げても軌道は限定されるでしょ
だから届く前にロジャーさん目掛けて
思いっきり「わーーーーーーっ
!!!!」
って叫ぶね
具現化した巨大な文字は物量のある塊となって
ロープも巻き込み激突するって寸法
ニィナ・アンエノン
ねぇねぇ、にぃなちゃんてばちょっと猫さんっぽくない?
つまり割とこの戦い向きってワケにゃ☆
とゆーことで行くぞやろーどもー!やってやろーにゃん☆
猫さんって事は体が柔らかかったりして、縄抜けが得意な子もいるかな?
にゃーにゃー言って怒らせて、こっちに攻撃してくる様に仕向けるぞ!
【聞き耳】と【情報収集】で見えないロープが来る方向を掴んだら、縄抜けが得意な子に勝手に庇ってもらう!
【盾受け】とも言う☆
これで【時間稼ぎ】して、敵も怒って海賊さんの方に注意を向けたらもっといいね。
その一瞬の隙ににぃなちゃんはブラスターを【クイックドロウ】してユーベルコードで攻撃するぞ☆
よく言うでしょ?銃はロープよりも強し、にゃ☆
エドゥアルト・ルーデル
安易な語尾をつけやがって!
恥を知るがいいでござるにゃ!
相手の【ナイフ】の刺突を【流体金属】君を壁にさせて防御、硬化させれば抜けないでござるね流体金属君から
更に壁で姿が見えない隙をついて背後から残りのナイフを【スリ盗り】でござる
俊足ケットシー共出番ですぞ!とスリ盗ったナイフを渡して散開!追いかけるロジャー!
猫ちゃんが戯れているのは和むでござるなァうnうn
お前もにゃあと言わないか?
和んでいたら一体のケットシーがスリのテクを教えて欲しいとか
これをこう、でタイミングはこうで…よし今から試験ですぞ!この爆弾をロジャーにスリ渡してこい!
ロジャーを足止めしスリ渡したのを確認したら離脱
良くやったお前は男だな!
●エドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)
「てめえら、楽に死ねると思うなよぉ!」
ケットシーの海賊団に向かって怒鳴っているのは、同じくケットシーのコンキスタドール『赤足のロジャー』でござる。
「……ん?」
そのロジャーの表情が憤怒から困惑に変わったでござるよ。
なぜなら、拙者たちが砂煙をあげて駆けつけ、奴の前に立ちはだかったからでござーる! 頼れるヒーローチームがかっこよくタイミングよく都合よく現れるというお約束のシチュエーション。これが漫画なら、見開きで描かれること間違いなし。『ジャジャーン!』とか『ドン!』とかいった擬音つきで。
「ふん!」
ロジャーはすぐに困惑から脱し、不適な面構えをして鼻を鳴らしたでござる。漫画の悪役に相応しいリアクションでござるな。
「この島の連中だけを相手にすればいいと思っていたんだが……ほんのちょっぴり面倒なことになっちまったな。まあ、あくまでも『ほんのちょっぴり』ってレベルだが」
『なにもんだ、てめえら!?』などという三下っぽい台詞を吐かないのは、オブリビオン特有の本能(猟兵を敵として認識できるというアレでござる)ゆえでござろうか? なんにせよ、話が早くて助かるでござるよ。
一方、拙者たちが背にかばう形となった海賊団は――
「なにもんにゃ、てめえら!?」
「もしかしたら、我ら『タイガーズ・ブラック』のフャンにゃ?」
「握手やサインは後にしてくれにゃあ。今、俺たちは忙しいにゃ」
「あと、観戦したいのなら、もっと後ろに下がるにゃ。そこに立たれていると邪魔にゃ」
――状況がまったく呑み込めてないでござるなぁ。
「いやいや。拙者たちはファンではなく、助っ人でござるよ」
と、わざわざ『タイガーズ・ブラック』のほうに振り返って、勘違いを訂正してあげる真面目な拙者。
「助っ人? そんなものは必要ないにゃ」
「まあ、どうしてもと言うのなら、一緒に戦ってやってもいいけどにゃ」
「足手まといになるにゃよ」
あっさりと受け入れてくれましたが……ナチュラルに上から目線でござるな。
あ? 公明殿が顔を伏せ気味にして、体をぷるぷると体を震わせているでござるよ。眼鏡とポニーテールという組み合わせの可愛らしいお嬢さんなのでござるが、その姿からは鬼気迫るものが感じられるでござるな。きっと、上から目線の『タイガーズ・ブラック』に対する怒りを必死に抑えているのでござろう。
そんな彼女と対照的なのが人派ドラゴニアンの柚々子殿。
「にゃんこ、かわよー! かわっ! ホントにかわっ! にゃーにゃー!」
海賊たちを眺めて、デレデレと頬を緩めているでござる。『非暴力主義者』を自称する柚々子殿に相応しい平和的な光景でござるなぁ。
●神喰・柚々子(おーばーぱわー・f30741)
「かわよい! とうとい! あー、かわよとうとい! ……って、デレるのはここまでにして、猟兵としての本分を果たそうかなー」
私は、かわよとうといケットシーさんたちからロジャー(この子も結構かわよとうといんだけどね)に視線を移した。
軍服を着た髭面のおじさん――エドゥアルトくんもロジャーに向き直った。
そして、戦闘開始! ……とはいかなかった。
私たちが攻撃を仕掛けるよりも早く――
「猫! NEKO! ねこ! ネコォーッ!」
――藍色の疾風が奇声とともに駆け抜けていったから。
その疾風の正体は公明ちゃん(髪が藍色なの)。ロジャーに向かって飛んでいったけど、体当たり系のユーベルコードとかでぶつかったわけじゃないよ。普通にタックルして押し倒したの。
「あー、もう! 猫、かわいい! かわいすぎるぅー!」
押し倒すだけでは終わらず、全身をモフモフモミモミとまさぐり始めたよ。服まで脱がしそうな勢い。さっきの私よりハイテンション。
「な、なんだ、てめえは!? 離せ! あっち行け! 気持ち悪ぃんだよぉ!」
ロジャーは必死に抵抗してる。まあ、当然だよね。モフモフされているだけだから、ダメージは受けてない(少なくとも、物理的なダメージはね)みたいだけれど、だからといって耐えられるもんじゃない。ぶわっと膨らませた尻尾をびったんびったんと地面に叩きつけながら、公明ちゃんのお腹めがけて本物の猫さながらに後ろ足で蹴り蹴り蹴り蹴り!
でも、公明ちゃんは怯む様子を見せない。
「こういうツンツンしているところが堪らないのよねー!」
……むしろ、喜んでる?
そんな地獄だか天国だか判らない光景を眺めながら、エドゥアルトさんが唸った。
「うーむ。公明殿は先程まで体をぷるぷると震わせておられましたが、あれは怒りを抑えていたのではなく――」
「――猫に対する欲望を抑えてたんですね」
苦笑を浮かべて後を引き取ったのは志乃ちゃん。黒いパーカーを纏ったオラトリオのお姉さんだよ。
「まあ、抑えきれなかったわけだけが……」
と、志乃ちゃんの横で公明ちゃんが付け足した。
……え?
「なんで、公明ちゃんがもう一人いるのぉ!?」
思わず叫んじゃった。
すると、もう一人の公明ちゃんはなんでもないことのように言ってのけた。
「私はユーベルコードで生み出された分身だ」
分身かー。見た目はあんまり変わらないけど、雰囲気はかなり違うね。なかなかに興味深い。でも、観察は後回し。今はロジャーの相手をしなきゃ……と、思って行動を起こそうとしたんだけど、別の猟兵が先に動いた。
「いくぞぉ、やろうども! やってやろーにゃん!」
拳を突き上げて叫んだその『別の猟兵』とはニィナちゃん。人間の娘なんだけど、小動物めいた雰囲気を有しているから、ケットシーの一団と並んでいてもあんまり違和感はないかな。
●片桐・公明(Mathemの名を継ぐ者・f03969)
かわいい! かわいい! かわいすぎるぅ! あー、なんて幸せなのかしら! ロジャーのほうは幸せだとは思ってないのか、ぎゃあぎゃあ怒鳴りながら、蹴りつけてきたり、噛みついてきたり、引っ掻いてきたりしてるけど、私は気にしなーい! 塩対応をされても、猫がかわいいという事実は変わらないから! もう、このまま永遠にもふもふしくぁwせdrftgyにゃんこlp……
●片桐・公明(Mathemの名を継ぐ者・f03969)……の分身
本体の私は理性と思考を失ってしまったようだ。まあ、そうなることを見越して、分身の私を事前に召喚していたのだろうが。
彼女がロジャーを襲っている(?)間に猟兵たちは戦闘準備を整えていた。
「いくぞぉ、やろうども! やってやろーにゃん!」
ニィナが拳を突き上げ、『タイガーズ・ブラック』の面々に叫んだ。
「おう! やってやるにゃ!」
『タイガーズ・ブラック』は走り出そうとしたが――
「ちょい待ち!」
――煽った当人であるニィナが止めた。
「なんの策もなしにぶつかっちゃダーメ。ちゃんと作戦を立てよっ! ね?」
「どんな作戦にゃ?」
「そうね……この中で縄抜けが得意な子はいる?」
「はーいにゃ!」
海賊の一人が挙手した。いや、挙前足か?
その海賊に顔を近付け、ピンと立った三角の耳に囁きかけるニィナ。作戦の内容を伝えているのだろう。
「僕らも作戦を立てよう」
少女のごとき外見の少年――オラトリオの澪が他のケットシーたちに語りかけた。
「敵を挑発する役を誰かやってくれないかな?」
「私も挑発役を募集中だよ」
柚々子が作戦会議に加わった。
「あと、穴掘りが得意な人はいる?」
「それなら、ワシに任せるにゃ!」
シャベルを担いだケットシーが胸を張ってみせた。
「じゃあ、任せるね」
シャベルのケットシーに微笑みを返した後、柚々子は皆を見回した。
「他の人たちも頑張ってね! 戦いが終わった暁には美味しいササミジャーキーをあげるから!」
「うにゃにゃにゃー!」
ケットシーたちは一斉に歓声をあげた。先程までの上から目線はどこへやら。ササミジャーキーで完全に飼い慣らされてしまったようだ。なんとも安い連中だな。
「では、作戦開始!」
澪が翼を広げて舞い上がり、空から海賊たちに指示を送った。
「さあ、皆でにゃーにゃー言うにゃー!」
「せぇーの!」
と、ニィナが大声で合図。
それに応じて、海賊たちは――
「にゃー!」
「にゃーにゃー!」
「にゃーにゃーにゃー!」
――ロジャーをにゃーにゃー囃し立てながら、周囲に散開した。
「うるせぇ! 『にゃー』はやめろ、こらぁーっ!」
必死にもがきつつ、ロジャーが怒鳴った。何故にもがいているのかというと、まだ私の本体に組み敷かれているからだ。
●栗花落・澪(泡沫の花・f03165)
「えーい! はなせぇーっ!」
公明さんの背中にナイフを突き立てようとするロジャー。
それでも、公明さんは離れない。相手の行動に気付いていないのか、あるいは『モフモフ天国を満喫できるなら、刺されたって構わない!』とでも思っているのか(なんとなく、後者な気がするなあ)。
なんにせよ、彼女にナイフが刺さることはなかった。
「さすがに見てられんな……」
そう呟いて、分身のほうの公明さんが素早く駆け寄り、赤黒い刃の刀でナイフを弾き返すと同時に本体の公明さんの襟首を掴んでロジャーから引き剥がしたから。
「ちっ!」
舌打ちしつつも、ロジャーは二人の公明さんに追撃はせず(本体の公明さんの執拗なモフモフ攻撃から逃れるという目的は期せずして果たせたわけだし)、立ち上がった。
そして、にゃーにゃーと騒いでる海賊たちを攻撃……したいみたいだけれど、その場から動かず、あっちこっちに視線を向けるばかり。標的が定めづらいみたい。海賊たちは分散している上に走り回っているからね。
それこそがこっちの狙い。あと、猫たちが走り回るという萌え死にそうな光景を見たかったという狙いもあったんだよね。ケットシーの海賊たちは地上で見てる分には可愛かったけど、こうして空から見下ろすと……やっぱり、可愛い。うん、可愛い。
「ちょこまか動いてんじゃねえ、にゃにゃー野郎ども!」
「やれやれだにゃー」
ナイフを振り回して怒鳴るロジャーの前で志乃さんが『にゃー語』を発した。大袈裟に肩をすくめながら。
「そうやって怒ってばかいる様はいかにも脳筋って感じだにゃ。こんなのがコンキスタドールを気取ってるなんて、とんだお笑い種だにゃー」
「うむ。恥を知るがいいでござるにゃ!」
と、エドゥアルトさんも続けて挑発。
「黙れ、ヒゲオヤジ!」
ロジャーはエドゥアルトさんを標的と定めたらしく、彼に向かって突進し、ナイフを突き出した。
だけど――
「出番でござるよ、Spitfire!」
――エドゥアルトさんの叫びに応じて壁が出現し、ナイフを封じた。その壁はスライム状の金属みたいな代物。液体金属ってやつかな?
「くっ……」
ロジャーは苛立たしげな呻き声を発して、『Spitfire』に突き刺さったナイフを抜こうとした。だけど、抜けない。『Spitfire』ががっちり銜え込んでいるんだろうね。
その隙を衝いて、エドゥアルトさんが――
「いっただきでござるぅ!」
――壁の向こうから現れ、目にも留まらぬ速さでロジャーの背後に回り込み、彼の腰からなにかを掏り取った。
「なにしやがる!?」
「パスでござるよー!」
ロジャーが慌てて振り返ると同時にエドゥアルトさんは飛び退り、掏り取った獲物を放り投げた。
「よし来たにゃ!」
と、海賊の一人が獲物を受け取った。彼の動きはエドゥアルトさんほどに素早くはなかったけれど、そのおかげ獲物をようやく視認することができた。『Spitfire』に刺さっていたのと同型のナイフだ。ロジャーが持っているナイフは一本だけじゃなかったんだね。
●鈴木・志乃(ブラック・f12101)
「返せ、この野郎!」
「今度はそっちにパスにゃ!」
「返せよぉ!」
「おう! 次はおまえにゃ!」
「いいかげんにしろぉ!」
「へいへーい! こっちにもパッチを回すにゃー!」
足を止めることなくキャッチボールならぬキャッチナイフをする海賊団と、それを追い回すロジャー。
そして、満足げに頷くエドゥアルトさん。
「うんうん。猫ちゃんたちが戯れている光景は心が和むでござるなぁ」
「可愛い……」
と、澪さんも頭上で呟いています。
そうこうしている間に――
「もーらい!」
――ニィナさんがナイフを受け取りました。
「さあ、これを返してほしかったら、かかってくるがいいにゃーん」
ロジャーを見据えて、指先をくいっと動かすニィナさん。
「調子に乗ってんじゃねえ! 言っておくが、俺の武器は――」
ロジャーが腕を振り下ろし、叫びました。
「――ナイフだけじゃねえぞぉーっ!」
「言われるまでもないにゃ! キミが見えないロープも使うという情報は聞いてるにゃ!」
と、叫び返すニィナさんの前に小さな影が飛び込ました。海賊の一人です。
「にゃにゃ!?」
その海賊は苦鳴を漏らして、空中で停止しました。ロジャーが投擲した不可視のロープに拘束されたのでしょう。
彼が盾となっている間にニィナさんが光線銃を抜き――
「昔からよく言うにゃ。銃はロープよりも強しってにゃ!」
――ロジャーめがけて緑色の光線を放ちました。
「んぐわっ!?」
光線の直撃を食らい、ロジャーは転倒。
一方、ニィナさんの盾になった海賊さんはロープからするっと抜けて、華麗に着地しています。縄抜け名人だったようですね。
ニィナさんはその海賊とハイタッチ(身長差があるので、ニィナさんからするとロータッチですが)を決めて、ロジャーをまた挑発しました。
「ニィナブラスターのお味はどうだったかにゃん?」
「うるせえ! 『にゃ』を付けるなって言ってるだろうがよ!」
「まーた、そうやってすぐに怒るぅ」
立ち上がったロジャーを澪さんがからかいました。これ見よがしに翼を大きくはためかせながら。
「『短気は損気』って言葉を知らないの?」
「『腹は立て損、喧嘩は仕損』という言葉も知らないのでしょうね」
と、私も便乗して挑発。ついでにユーベルコード『流星群(メテオストリーム)』も発動させておきましょうか。
「今一時、銀貨の星を降らせる。世界の祈りの風よ」
●ニィナ・アンエノン(スチームライダー・f03174)
志乃ちゃんが詠唱を終えた瞬間、何十人ものケットシーの幻影がそこかしこに出現した。ただでさえ猫成分多めだった空間が更に猫まみれに!
「猫の楽園を築かせてもらいました」
志乃ちゃんがそう宣言すると、公明ちゃんが歓喜の声を響かせた。
「ねこ! ねこ! ねこ! ねこぉー! これはもう楽園なんてレベルじゃないでしょ!」
「……」
分身の公明ちゃんは無言。本体の壊れっぷりに呆れてるみたい。
「幻影だけではリアリティー不足なので、皆さんもご協力お願いします。カッコいいポーズでも取って、敵を攪乱してやってください」
「任せろにゃ!」
志乃ちゃんのお願いを聞き入れて、次々とカッコいいポーズを決める海賊さんたち。香箱をつくったりとか、丸くなったりとか、エジプト座りをしたり、猫みたいに顔を洗ったりとか……カッコいいというよりも可愛い感じのポーズが多め。はしゃいでる子犬のようにジャンプしまくってる海賊さんもいる。で、その海賊さんを志乃ちゃんがにゃーにゃー語で褒めちぎったりして。
「凄い跳躍力にゃ! ロジャーなんかよりも凄いにゃ!」
比較対象にされちゃったロジャーといえば、最初に海賊さんたちが散開した時と同じように視線をきょろきょろさせてる。志乃ちゃんの狙い通り、カクランされてるみたい。
「くそっ! 目標を絞るのはやめだ! まとめてブチ殺してやらぁ!」
とかなんとか叫びながら、ロジャーは前に踏み出そうとした……けど、動けなかった。いつの間にか地面が凍って、赤いブーツの底がぴたっと貼り付いてたから。
「な、なんだ、こりゃ!?」
「ケットシーたちに気を取られてる間に氷の属性魔法を使わせてもらったよ」
と、澪ちゃんが空中で手を振った。
「この小娘ぇ!」
地面に足が貼り付いた状態のまま、ロジャーは腕を『ぶん!』と振った。例の見えないロープを投げたんだね。
すると、小娘ならぬ小息子の澪ちゃんは――
「わぁーっ!」
――と、大声を吐き出して反撃した。
『吐き出した』っていうのは比喩じゃないよ。本当に吐き出したの。つまり、『わぁーっ!』という叫びが実体化したということ(ちなみに言っとくと、ヒビが入った石のような字体ね)。
ユーベルコードで生み出されたであろう『わぁーっ!』の文字は(目に見えないから判らないけど、たぶん例のロープを巻き込みながら)凄い勢いで落下して、ロジャーに命中。
「ぎゃふん!」
と、漫画めいた悲鳴をあげてロジャーはまたもや転倒。その拍子にブーツが氷からベリっと剥がれた。
それにタイミングを合わせるように――
「ぶっとべ、ロジャー!」
――志乃ちゃんが魔法をぶつけた。見るからに全力って感じの魔法。澪ちゃんの『わぁーっ!』のあたりからずっと呪文を詠唱して力を溜めてたんだろうね。
魔法で吹き飛ばされて、砂浜を転がっていく哀れなロジャー。それでもなんとか立ち上がり、ナイフを構え直したけど。
「ほほう。新しいナイフを取り出したにゃ。ということは、ヒゲのおっさんに掏り取られたあのナイフはもういらないにゃん?」
近くにいた海賊さん(シャベルを担いでた)がせせら笑った。
その海賊さんに向かって、ロジャーは突進――
「黙れ! ……って、のわぁーっ!?」
――したけれど、いきなり姿が消えちゃった。
落とし穴にはまっちゃったから。
「穴を掘ってくれて、ありがとう! ササミジャーキー、楽しみにしといてね!」
と、シャベルの海賊さんにお礼を言いながら、柚々子ちゃんが落とし穴の縁に駆け寄った。
そして、穴の底めがけてブレスを吐き出した。
おもいっきりブオォーってね。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リーヴァルディ・カーライル
…よく分からないこだわりを見せるオブリビオンね
語尾ぐらい好きにしたら良いと思うけど…
…それに、にゃって言った方が可愛いのに…
残像のように存在感を消すオーラで防御して気配を絶ち、
早口で「にゃ」を連呼させて敵をおびき寄せUCを発動
反響定位を用いて不可視の攻撃を暗視して見切り、
大鎌をなぎ払う早業のカウンターで迎撃し海賊を護る
…貴方は早口言葉が得意と聞いたわ
…その特技を活かして是非、敵をおびき寄せる協力をして欲しい
魔力を溜めた指向性の超音波を乱れ撃ち敵の体内に収束
限界突破した震動波で体内を破砕する音属性攻撃を放つ
…やはり出てきたわね。必ず釣れると思ったわ
…狙いは既についている。受けなさい、音の刃を…
朱鷺透・小枝子
なぜそこまで拘る?
…解らない。が、利用しない手もない!
大声の得意な猫様、を捕まえます。いえ保護です。背に捕まっていてください。そしてにゃーと言い続けてください。『眼倍起動。』
おびき寄せ、にゃの言葉でロジャーを挑発し、注意を向けさせます。
そして視力×1㎞半径内の敵の動き、ロープの位置を瞬間思考力で把握。
(耳が痛い!我慢です!!)
なぜそこまでにゃーに拘る!
騎兵刀でロープを切断し、拳銃で雷の属性攻撃。
継戦能力、背後を庇いつつ戦闘を続行し、フェイント。
ディスポーザブル03を遠隔操縦。
スナイパー、エネルギー充填していた03で長距離からのビーム攻撃!
くだらないとは言いません。心の傷は人…猫それぞれですので
菱川・彌三八
…夫れ、触れちまったか
俺も気になってたんでェ
其の、安易な語尾
…まァ善いや
おい、お前ェらの中に波にコウ…板を浮かべてヨ、乗る事が出来る奴ァ居るかい
俺がとっときの大波を呼んでやる、ちいと滑って見せねェナ
…猫だがまァ、水が平気な奴が居たって可笑しかねェだろう
筆の一閃で波を呼び、悠々を猫を渡らせる
善き哉善き哉
其の侭敵に近付けて…狙いは小刀
ぐらりと波を揺らして猫を落とした其の隙に、板に小刀をぶつけるってェだけなンだがヨ
抜けねえんだろ、足掻く間にも波は次々襲い掛かるぜ
お前ェは水がイケるクチかい?
…あ?板が?知らねェよ諦めろ
…仕方ねェ、まっさらなのを持ってきたら一筆入れてやろうからヨ
神宮時・蒼
…ねこさんの、けっとしぃの、島、ですか…
…相手も、けっとしぃ…
…行くしか…、いえ、何でも、ありません。…何も、あり、ません
(ねこさんが関わるとIQが激減します)
【WIZ】
…ん゛…
…失礼、しました。…取り、乱し、ました…
…何故、頑なに、語尾に、こだわる、の、でしょうか…
何か苦い思い出でも…?
それにしても、あのナイフは厄介ですね
眼の良いねこさんと、的当てが得意なねこさんに助けを乞いましょう
けっとしぃ方々は「結界術」で攻撃から保護
落とし損ねたナイフは「全力魔法」「範囲攻撃」を乗せたUCで払い落しましょう
ナイフと共に攻撃を巻き込めれば僥倖ではありますが…
…あ、ねこさん、ご協力、ありがとう、ございます
●リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)
「く、くそったれがぁ……」
ロジャーが落とし穴から這い出てきた。柚々子のブレスに焼かれて酷い有様になっているけれど、『七大海嘯』麾下の精鋭だけあって、致命傷には至ってないみたい。
「にゃははははは!」
シャベルを持っていたケットシーの海賊がふんぞり返って笑ってる。
「俺様の力を思い知ったかにゃ!」
「なんで、てめえが勝ち誇ってんだよ! たんに穴を掘っただけのくせに! あと、『にゃ』はやめろぉーっ!」
「なぜ、語尾にそこまでこだわる?」
ロジャーの怒声が響く中、騎兵のサーベルを手にした娘――小枝子が首をかしげた。
「なぜかしらね」
私は肩をすくめた。
ロジャーのこだわりは理解できない。私は『にゃ』の語尾は嫌いじゃないわ。可愛いし……。
「か、かわいい……」
と、私の心とシンクロしたかのように呟きを漏らしたのは蒼。酔ったような顔をして、四方を見回している。いえ、四方にいるケットシーたちを見回しているのね。
「ねこさんが……ねこさんがいっぱい……か、かわいい……」
「ちょっと」
ぶつぶつと呟き続けるヤドリガミの少女の肩を私はつついた。
「あなた、大丈夫? さっきから様子がおかしいみたいだけど?」
「し、失礼しました……ボク、ねこさん絡みの、こととなると、色々と取り乱して、しまうんです……」
「俺も猫って奴ぁ、嫌いじゃないが――」
キモノ姿の男が口を開いた。彼は彌三八。なんでもサムライエンパイアで絵師を生業にしているのだとか
「――取り乱すのは敵を倒してからにしようや。おーい」
彌三八は視線をぐるりと巡らせ、ケットシーたちに呼びかけた。
「おめぇらの中に……ほら、なんてんだ? こう板っきれを波に浮かべてよ、変な具合に腰を屈めて乗っかる遊びがあるだろ。あれをやれる奴ぁ、いるかい?」
「サーフィンのことかにゃ?」
「名前はどうてもでいいんだよぉ。やれるのか、やれねえのか?」
「サーフィンなら、ボクにお任せあれにゃ!」
と、一人のケットシーが胸を張ってみせた。
「自慢じゃないが、『波乗りタイガー』の異名を取るほどのサーフィン名人だにゃ」
「そいじゃあ、その名人芸を見せてくんな」
「いやいや、この状況では無理にゃ。肝心の波がないにゃ」
「なあに、その点は心配いらねえ」
彌三八はニヤリと笑い、商売道具と思わしき絵筆を取り出した。
「俺がとっときの大波を呼んでやる」
●神宮時・蒼(終極の花雨・f03681)
「ちょっと待っててにゃ。サーフボードを持ってくるからにゃ」
『波乗りタイガー』とかいう、ケットシーが、駆け出しました。ちなみに、彼の、毛皮の柄は、白黒のブチ。タイガーなのに、トラネコじゃない。
「この状況で波乗りだと? てめえら、どこまでナメてんだ!?」
ロジャーが、また、怒鳴りました。声だけを、聞いていると、激怒しているような、印象を受けるかもしれません。けれど、落とし穴から、出てきた直後に、比べれば、ちょっとは、落ち着いてきたかも。
もっとも、ケットシーの一人が――
「にゃー! にゃー! にゃー!」
――と、にゃーを連発すると、また怒りが、ぶり返してきた、みたいです。釣り気味の目を、更に吊り上げて、そのケットシーを、キッと睨み、つけました。
「にゃー! にゃー! にゃー!」
ケットシーは、にゃーの挑発を、続けながらも、ロジャーの視線に、恐れをなしたのか、顔を隠しました。
小枝子様の、頭の、後ろに。
そう、そのケットシーは、小枝子様に、背負われて、いたのです。
「にゃー! にゃー! にゃー! にゃーん!」
「うるせえってんだよぉ!」
にゃーにゃーと叫ぶ、ケットシー(を背負ってる小枝子様)を睨みつけながら、ロジャーは、片腕を、頭上に掲げ、手首を何回転かさせた後、振り下ろしました。幾度となく、繰り出してきた、不可視のロープの、攻撃を、また仕掛けたのでしょう。
しかし、小枝子様は、慌てず、騒がず――
「眼倍(ガンマ)起動」
――そう呟いて、サーベルを、一閃、させました。おそらく、知覚を、上昇させる類の、ユーベルコードを用いて、不可視のロープを、認識し、サーベルで、断ち切ったのだと、思われます。
そして、間を置かずに、防御から、反撃に、転じました。ロジャーに向かって、踏み込み、サーベルを突き出す……と、見せかけて、空いてるほうの、手で、拳銃を抜き、発射。
「……にゃ!?」
雷光を帯びた、弾丸に、撃ち抜かれ、ロジャーは体勢を、崩しました。回避することが、できなかったのは、サーベルによる、フェイントに惑わされたから、でしょうか?
「あ? 今、こいつ『にゃ!?』って言ったにゃー! にゃーにゃー言う奴をバカにしてくたくせににゃ! にゃはははは!」
小枝子様に、背負われている、ケットシーに、そう指摘されると、ロジャーは、慌てて否定、しました。
「いや、言ってねーし!」
「いや、言ったろうがよ」
彌三八様が、『言った』に、一票を投じました。ニヤニヤと、笑いながら。
「言ったわね。確かに聞いたわ」
リーヴァルディ様も、『言った』派、でした。
もちろん、私も、そうですよ。
●菱川・彌三八(彌栄・f12195)
いやさ、実を言うと、俺もちぃとばっかし気になってたんだ。例の安易な語尾についてな。なにやら触れちゃあいけねえ話題のような気がしたし、やいやい抜かすのも野暮だから、ずっと黙ってたけどよ。
しかし、あのロジャーとかいう野郎は野暮だと思われても構わないらしく――
「言ってねえ! 言ってねえ! 絶対に『にゃー』なんて言ってねぇーっ!」
――まぁーだ、やいやい抜かしてやがる。
もちろん、抜かすだけでは終わらねえ。俺らに向かって、小刀を投げてきた。手で投げわけじゃねえし、そもそも手に持っていた小刀を投げたわけでもねえぞ。手妻めいたユーベルコードで何百本もの小刀を生み出して、念の力かなにかで放ったんだ。
小刀の群れはカクカクと折れ線を描いて、あるいはクルっと円を描くようにして、四方八方を飛び回った……と、悠長に解説できるのは、その小刀が俺たちにブッ刺さらなかったからだ。
なんで刺さらなかったのかというと――
「……なんにも染まらぬ、誠実なる、白。なんにも、染まる、無垢なる、白……舞え、吹き荒れろ……」
――蒼が呪言を唱えて杖を振り、これまた手妻みてえなユーベルコードを披露しているからだ。杖が宙に文様を描く度に白い花吹雪が巻き起こり、小刀が吹き飛ばされてんだよ。
「あっちだにゃ!」
「次は向こうだにゃ!」
蒼の両脇にはそれぞれ一人ずつケットシーが立っていて、あちらこちらを指さしている。目の良さを活かして小刀の動きを読み、優先して攻撃する標的を蒼に教えてやってるらしい。
やがて、すべての小刀が落とされて(地面に触れた途端、泡みてえに消えやがった)、花吹雪も収まった。
「ご協力、ありがとう、ございます……」
と、両脇のケットシーたちに礼を言ってる蒼の後ろからリーヴァルディがずいと出てきた。はしっこい感じのケットシーと一緒にな。
「では、手筈通りに……」
「おう! やってやるにゃん!」
リーヴァルディに声をかけられると、そのケットシーは大きく頷いた。
そして、猛烈な勢いでがなり始めた。
「にゃまむぎにゃまごめにゃまたまご! となりのきゃくはよくかきくうきゃくにゃ! ぼうずがびょうぶにじょうずにぼうずのえをかいたにゃ!」
あー。おおかた、こいつは早口言葉が得意な海賊なんだろうな(ここの
海賊どもは皆、なにかしらの特技を持ってるそうだから)。
なにがやりたいのか判らねえが、ロジャーを苛立たせることが目的だとしたら――
「早口言葉にまで『にゃ』を付けてんじゃねえーっ!」
――大成功だわな。
●朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)
「あかばりにーずあおばりにーずきばりにーず、あめしょぴょこぴょこぴょこみぴょこぴょこぶりしょあわせてむぴょこぴょこ、どすこいどんすこいどんとこい、しゃるとりゅーえじぷしゃんまうらがまふぃん……」
リーヴァルディ殿が従えている猫様の早口言葉は徐々にスピードを増し――
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!」
――ついには、『にゃ』しか聞き取れない高周波めいた音になりました。
ちなみに自分が背負っている猫様もまだ耳元で『にゃー! にゃー! にゃー!』と叫び続けているので、鼓膜が破れそうです。でも、我慢しましょう。
「うるせえって言ってんだろうがぁーっ!」
我慢という概念と縁遠いであろうロジャーが腕を振り回しました。不可視のロープを投擲したのだと思われます。目線から判断する限り、標的は早口言葉の猫様。
私は再び『眼倍』を起動し、ロープを騎兵刀で切断しようとしました……が、その必要はありませんでした。
「捉えたわ」
リーヴァルディ殿が黒い大鎌を横薙ぎに払ったのです。常人の目には無造作に鎌を振ったようにしか見えないでしょうが、『眼倍』の力を得た私は認識することができました。鎌の一薙ぎによって、不可視のロープが退けられる様が。
「見えない、ロープを、どうやって、捉えたのですか?」
蒼殿がそう訊ねると、リーヴァルディ殿は簡潔に答えました。
「ユーベルコードを使って、反響定位の能力を得たのよ」
なるほど。エコーロケーションですか。あの猫様の『にゃにゃにゃ!』という早口言葉はソナーの代わりだったのですね。
「見えないものを見るだけじゃなく――」
先程よりも激しく大鎌を振り回すリーヴァルディ殿。
「――見えない刃で斬ることもできる」
「ぐほっ!?」
ロジャーがいきなり吐血し、身を折りました。エコーロケーションの応用である音波攻撃を受けたのでしょう。
「よーし。次ぁ、俺の番だな」
絵筆を手にした彌三八殿がゆらりと身構えました。
その傍に駆け寄ってきたのは、あの『波乗りタイガー』さん。ケットシーサイズの派手なサーフボードを頭の上に抱えています。
「お待たせにゃー」
「おう。じゃあ、最初に請け負ったとおり――」
彌三八殿は宙に絵筆を走らせ、なにもないはずの空間に絵を描き出しました。あれは……波の絵?
「――大波を呼んでやらぁな」
いえ、もう絵ではありません。
その波は実体化し、飛沫を撒き散らしながら、激しく逆巻き、ロジャーへと襲いかかったのです(ちなみに自分たちは波に飲まれませんでした。指定した者だけを襲うユーベルコードなのでしょう)。
浮世絵風の二次元の波が三次元に動くシュールな光景。
それをよりシュールにしているのは――
「ひゃっほー!」
――サーフボードに乗ってるタイガーさんの勇姿。波間を滑り、ロジャーのいる場所へと向かっています。
そのロジャーといえば、最初は波に飲まれたもの、今は上半身を水面から出しています。立ち泳ぎをしているようですね。
「ほう。おめえは水がイケるクチかい?」
彌三八殿がロジャーに問いかけた瞬間、波が揺れて(彌三八殿が意図的に揺らしたのでしょう)タイガーさんが水中に落ちました。
そして、残されたサーフボードがロジャーめがけて突っ込みました。より正確に言うと、ロジャーが持っているナイフめがけて突っ込みました。
「くそっ!」
毒づくロジャー。ナイフがサーフボードに突き刺さり、抜けなくなったようです。エドゥアルド殿の流体金属に銜え込まれた時の再現……いえ、その時よりも酷いかもしれません。ナイフを抜こうと悪戦苦闘している間もずっと荒波に揉まれてダメージを受けているのですから。
さて、自分もダメ押しの一撃を……。
「うぉーっ!」
ビームが迸り、ロジャーは吹き飛ばされました。ビームの発射元は、離れた場所に待機させているキャバリア『ディスポーサブル03』。遠隔操作で長距離射撃を見舞ったのです。
ロジャーが地面に落ちると同時に二次元にして三次元である波は消え去りました。その結果、水中に落下していたタイガーさんの姿もまた現れました。
「にゃにゃにゃ!? ボクのボードはどこいったにゃ?」
タイガーさんは辺りを見回していますが……サーフボードが見つかるはずもありません。ナイフで串刺しにされた挙げ句、『ディスポーサブル03』のビームで粉微塵になってしまいましたから。すいません。
「板っきれなんざ、どうでもいいじゃねえか」
彌三八さんがタイガーさんに近寄り、慰めになってない慰めの言葉をかけながら、頭をぽんぽんと叩きました。
「どうでもよくないにゃ!」
「しょうがねえ。今度、まっさらなのを持ってこいよ。一筆入れてやっから」
サムライエンパイアの本物の絵師が描いた浮世絵仕様のサーフボードですか。プレミアがつきそうですね。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フェルト・ユメノアール
敵も味方も猫だらけ……可愛いけど見た目で判断しちゃダメだよね
大事な戦争の第一歩、全力で行くよ!
その勝負、待ったァー!
みんなを傷付けるっていうならボクが先に相手になるよ!
と海賊とロジャーの間に割り込み戦闘開始
まずは、相手のUCを防ぐ!
さあ、夢幻の射手のご登場だ!
現れろ!【SPトリックシューター】!
この瞬間、トリックシューターのユニット効果発動!
ナイフ攻撃を吸収して、相手に矢として打ち返す!
そして、相手が怯んだ隙に『ワンダースモーク』を使用
煙幕で視界を奪った隙に小声で作戦会議
たしか声帯模写が得意な子がいるんだよね?
声帯模写でロジャーの注意を引きつけて、そこを背後から奇襲する作戦なんてどうかな
リル・ルリ
【春告鳥】
わぁ、クロウ
けっと島……!
ねこだ!いや。けとし、がたくさんいる
僕、猫はちょっと怖いけど、けとし、なら怖くないよ
言葉の後に、にゃ、をつけるとあの猫さんはイライラするのかな
僕、にゃをつけてみる
ヨルも猫ペンギンにするんだ
がんばるにゃ、クロウ
任せるにゃ
僕が得意なのは歌―うたうよ
皆を魅了する『魅惑の歌』をにゃ!
油断大敵、歌が得意な子がいたら、一緒に歌うにゃ
皆で力をあわせて立ち向かうんだにゃ
心を掴むように、笑顔だ歌うんだからにゃ!
クロウへの鼓舞を歌声に込めて響かせる
ヨルも一緒に踊るにゃ
水泡のオーラ防御で守るにゃ
傷つけさせはしないのにゃ
僕が敵を引き寄せてるうちに…今だよ、クロウ!!
かっこいいにゃ!
杜鬼・クロウ
【春告鳥】アドリブ歓迎
島の名前面白ェな
一度聞いたら忘れなさそうだわ
しかしケットシーだらけで集中力が削がれるぜ…
リルが猫っぽくにゃって言ったら苛つくかもなァ
うっ…待て
先に俺があてられてる
ヨルも猫に?(猫耳生えるのか?
おう、気合い入れるわ(自身の両頬ぱちん
見た目に惑わされたら痛い目見る
猫達とリルが可愛すぎて天を仰ぐ
仲間には指一本触れさせず
リル達が歌で惹き付けてる間に敵の背後を取る
(相変わらず凄ェ歌
俺の好きな、)
銀のピアス二つ代償にUC使用
双剣に形変え
意思を力に
手数増やし怒濤の五月雨
まだ制御不安定な風属性纏い十字斬り
敵のナイフが刺さってもリルの水泡で軽傷
剣突き立て
ッ…肉も切らせず骨を断つ、ってなァ!
木霊・ウタ
心情
ケット島の皆と協力して
ロジャーを骸の海へ還してやるぜ
戦闘
以下の名人達とギターで協奏
太鼓
マラカス
タンバリン
笛
歌
ケット島の民謡とか
ブラック団のテーマとか
そんな曲で
旋律に破魔と炎の属性を乗せて
破魔で魔力を分解
獄炎でナイフを溶かし防御
炎のビートを刻むぜ!
でロジャーの背後から声が
「お前の負けだにゃ」
そう腹話術名人の声だ
一瞬でも苛ついて反応するだろ
「かかったな、猫野郎」
という俺の台詞も囮だ
すかさず俺に対したロジャーを
陽光に紛れ急降下した鷹サイズの迦楼羅が
炎矢の如く貫く
事後
ケット島の民謡で鎮魂
仲間と一緒が羨ましかったんだろ
賑やかに送ってやろうぜ
安らかに
その後は祝宴で演奏会かな?
食べ過ぎんなよJJ(いる?
●リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)
「も、もう許さねえ……絶対に許さねえぞぉ……」
小枝子のキャバリアの光線で吹き飛ばされた『ロジャー』とかいう猫さんがよろよろと立ち上がった。呪詛するかのように呻きながら。
「あ? あいつ、まだ生きてるにゃ」
「ほほう。我らの猛攻を受けてなお立ち上がれるとは、たいしたもんだにゃ」
「うんうん。実にタフな奴だにゃあ」
「敵にしておくには惜しいにゃ」
海賊の猫たち……じゃなくて、『けとし』っていうんだっけ? 僕、猫はちょっと怖いのだけれど、けとしなら、べつに怖くないかな。まあ、それはともかく、海賊のけとしたちは猫さんの強靱な生命力に感心してる。
でも、僕の横に立ってるクロウは呆れてるみたい。敵の猫さんじゃなくて、けとしたちに対してね。
「なにが『我らの猛攻を受けて』だよ。あいつに猛攻を加えたのは主に猟兵だろうが」
クロウが指摘すると、けとしたちは一斉に顔を伏せ、両耳を水平に寝かせた。聞こえない振り?
「まあ、そう言うなって。こいつらが色々と手伝ってくれたからこそ、戦いを有利に進めることができたんだから」
と、ウタがけとしたちをフォローした。僕がそうであるように彼も音楽系のユーベルコードを得意としているらしく、ギターを抱えてインカムを装着している。
一方、クロウは武器の類を手にしていない。今はまだね。
「今度は俺を手伝ってくれよ。おまえらの中に楽器が得意な奴はいるか?」
けとしたちに尋ねるウタ。
だけど、誰かがそれに答えるより早く、猫さんが大声を出した。
「そうはさせるか!」
大声だけじゃなくて、ナイフも出した。どこからともなく何十本も何百本も。たぶん、ちょっと前に使ってみせたのと同じユーベルコードだね。その時と同じように、ナイフの群れは僕らに向かって飛んできた。
だけど――
「『そうはさせるか』はこっちの台詞だよ!」
――ピエロっぽい格好をした女の子が僕らと猫さんの間に滑り込んできた。彼女はフェルト。不思議なカードの使い手。
「さあ、夢幻の射手の御登場だ! 現れろ、SPトラックシューター!」
腕に装着した機械にカードを素早く挿入して、フェルトは叫んだ。
そしたら、すべてのナイフが軌道を変えてフェルトへと向かった……けれど、一本も彼女には命中しなかった。命中する寸前に消えちゃったから。
いや、消えたというよりも――
「――吸収したのか?」
クロウが呟いた瞬間、ナイフの群れがまた出現した。今度はフェルトの周囲に。吸収したのを吐き出しってこと?
「いっけぇーっ!」
機械を装着した腕をフェルトが突き出すと、ナイフの群れは猫さんめがけて飛んでいった。
「ぐぎゃあーっ!?」
自分が放ったはずのナイフに次々に串刺しにされる猫さん。傷だらけで血塗れだ。でも、まだ死んではないよ。けとしたちが評したように『実にタフな奴』なんだね。
●木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)
「あの猫さんをイライラさせるため、僕も『にゃ』を付けてみるにゃ」
リルが『にゃー語党』への入党を宣言した。こいつは人魚みたいな姿のキマイラなんだが、そこいらのケットシーよりも『にゃー』の語尾が似合うな。
「僕だけじゃなくて、ヨルも猫ペンギンにしたにゃ」
リルは足下を指し示した。そこにちょこなんと立っているのは小さなペンギンの雛だ(本物のペンギンじゃなくて使い魔や式神の類だと思う)。頭に猫耳をつけてやがる。新手のゆるキャラかよ。
「さあ、クロウ。がんばるにゃ」
「あ、ああ……」
リルに声をかけられると、クロウは戸惑い気味に頷いた後、なんともいえない表情をして天を仰いだ。体が微かに震えている。リルやペンギンの猫っぷりにあてられたらしい。ピアスだらけの顔をした三十前後の男(クロウはヤドリガミだから、実年齢は三十前後どころじゃないだろうけど)が『にゃー語』の若造に萌える図ってのは情けなくもあり、微笑ましくもあり……。
「どうかしたにゃ?」
リルが怪訝そうに尋ねた。どうかしたもなにもおまえが原因だっての。
「いや、なんでもない」
クロウは顔を下ろし、両頬をぴしゃりと叩いて気合いを入れた。
「それじゃあ――」
リルもロジャーに向き直った。ロジャーはなんとか体勢を立て直し、攻撃を仕掛けようとしているようだ。
「――いくにゃー。僕は歌で戦うにゃ。歌が得意な子がいたら、一緒に歌うにゃ。皆で力を合わせて立ち向かうんだにゃ」
「よっしゃ! 歌ってやるにゃ!」
一人のケットシーがリルの右側に並んだ。
「俺の美声に酔いしれるがいいにゃ!」
別のケットシーが左側に並んだ。
そして、その二人とともにリルは歌い始めた。
「なにを見ているの♪ どこを見ているの♪ なにを聴いているの♪ そんな暇があるなら、僕を見て♪ 僕の歌を聴いて♪ 離してあげないから♪」
清水のように澄み切っているにもかかわらず、海水じみた粘っこさで魂に絡みついてくるような不思議な歌声だ。さすがに歌詞に『にゃ』はつけていない。ケットシーたちはつけてるけどな(『離してあげなにゃいから~♪』ってなもんだ)。
その歌に合わせて、あのペンギンがよちよちと踊ってる。
「かわいい!」
フェルトが黄色い声をあげた。
確かにリルの両隣で体を揺らして歌うケットシーたちも足下で踊るペンギンも可愛い。だけど、可愛すぎるもんだから、クロウがまたあてられてるぜ。
ロジャーも別の意味であてられていた。攻撃を仕掛けようとしていたはずだが――
「ぐうっ……」
――苦しそうに顔を歪めて、立ち尽くしてやがる。どうやら、リルの歌には敵の動きを鈍らせる効果があるらしい。
「いけねえ。魂が飛びそうになってたぜ……」
クロウが我に返り、再び頬を叩いた。
そして、意外なところから武器を取り出した。
●フェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)
クロウくんが自分の顔に手をやり、銀のピアスを外した。右手に一つ、左の手に一つ。
次の瞬間、その二つのピアスは二本の剣に変わっていた。
「あいかわらず、すげぇ歌……」
リルくん(&ケットシーのデュオ)の歌への感想をぽつりと呟いたかと思うと、いきなりダッシュ。もちろん、ロジャーに向かって。
ロジャーはナイフを突き出して迎撃! ……したかったみたいだけど、のろのろと腕を突き出すことしかできなかった。リルくんの歌がまだ効いてるんだね。
その隙にクロウくんは相手の背後に回り込み――
「肉も切らせず、骨を断つ!」
――二本の剣で斬りつけた。
「よーし。俺たちもいくぜ」
ウタくんがギターを構え直した。
「さっきも言ったが、楽器が得意な奴らがいるなら、協力してくれ」
「よし! 『太鼓タイガー』の異名を取る俺様が力を貸してやるにゃ!」
「この『マラカスタイガー』も助太刀するにゃ!」
「『タンバリンタイガー』を忘れてもらっちゃあ、困るにゃ!」
マルチタムを装備したケットシー、腰にマラカスを差したケットシー、使い込んだタンバリンを持ったケットシーがウタくんのもとに集まった。どーでもいいけど、異名がそのまんま過ぎるよね。しかも、全員がタイガーって……まぎらわしくない?
「皆、タイガーって名前なのかよ。まぎらわしいな」
ウタくんも苦笑してる。でも、すぐに気を取り直したらしく、ギターの演奏を始めた。ケットシーたちもマルチタムを叩き、マラカスを振り、タンバリンを鳴らした。リルくんの歌に伴奏がついたね。
だけど、ロジャーも負けてない。
「うぉぉぉぉぉーっ!」
猫っぽい外見に相応しくない野太い咆哮を響かせて、リルくん(&ケットシーのデュオ&ウタくんカルテット)の歌の呪縛に抵抗。
そして、無数のナイフを飛ばすあのユーベルコードをまた使ったけれど――
「俺も『そうはさせるか』って言わせてもらうぜ!」
――ウタくんが演奏をヒートアップ(釣られて、三人の『タイガー』たちもヒートアップ)させると、ナイフは一本残らず消滅した。カルテットの旋律に破魔の力を乗せて放ったみたい。
あと、ウタくんは同時に別のものも放ったよ。空に向かってね。
その『別のもの』とは炎を纏ったような鳥。リルくんの可愛いペンギンと同じく、使い魔みたいな存在なのかもしれない。
●杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)
「なにを見ているの♪ どこを見ているの♪ なにを聴いているの♪」
「それっ!」
リルの歌声に紛れて聞こえたのはフェルトの叫び。
次の瞬間、カラフルな煙がロジャーの姿を覆い隠した。どうやら、発煙弾の類をぶつけたらしい。
その間にフェルトは傍らのケットシー(種類はサバトラだ)になにごとかを話しかけている。小声なので聞き取れないが、作戦みたいなものを伝えてるんだろう。
「くそったれがぁ!」
ロジャーが煙の奥から飛び出してきた。毒突きながら。
すかさず、俺は斬りかかった。その斬撃は躱されちまったが、構いやしねえ。敵の意識をこっちに向けることができりゃあ、それでいい。俺は攻撃役であると同時に囮役であり、盾役なんだからな。なんらかの作戦を立てたであろうフェルトや歌い続けてるリルには指一本触れさせねえ。あと、リルが言うところの『けとし』たちにも。
「そんな暇があるなら、僕を見て♪ 僕の歌を聴いて♪」
リルの歌声を背中で聞きながら、もう一回、ロジャーに剣を繰り出す。
奴はナイフで斬撃をなんとか受け止め(そう、『なんとか』がつくほどギリギリの動きだった)、横っ飛びして俺の間合いの外に出た。
しかし、息つく暇もなく――
「おまえの負けだ!」
――後方からウタが挑発の言葉をぶつけた。
ロジャーは素早く振り返り、ウタに攻撃……できなかったんだな、これが。
なぜなら、そこにウタはいなかったから。
「かかったな、猫野郎!」
別の方向からウタの声が聞こえた。
ロジャーはまたもや反転。今度はウタを視界に捉えることができたようだ。
ただし、またもや攻撃はできなかった。
攻撃に移るよりも早く、炎の鳥(さっき、ウタが飛ばしたやつだ)が矢のような勢いで空から降ってきたからだ。
ウタに気を取られていたロジャーにそれが躱せるはずもない。
「んぎゅあぁぁぁーっ!?」
炎に焼かれ、身悶えるロジャー。
その背中にナイフが突き刺さった。フェルトが投げたナイフだ。
続いて動いたのは俺。ロジャーの懐に飛び込み――
「離してあげないから~♪」
――リルの歌声が流れる中、二本の剣を交差させた。
十文字の軌跡が走り、ロジャーの体は四つに分かれて地面に落ちた。
リルに代わって、ウタが歌い始めた。
ロジャーへの鎮魂歌らしい。
「作戦どおりにやってくれて、ありがとうね」
鎮魂歌が終わると、フェルトが笑顔で礼を述べた。
相手はあのサバトラのケットシーだ。
「いいタイミングだったぜ」
と、ウタもサバトラにサムズアップ。
「それにしても、俺の声にそっくりだったなぁ」
「当然にゃ! 声帯模写で俺の右に出るやつはいないにゃ!」
サバトラはドヤ顔を決めている。そう、ウタの声音を真似て(あの『おまえの負けだ!』ってやつさ)ロジャーを惑わせたのはこいつなんだ。
「きっと、君の二つ名は――」
と、リルがサバトラに言った。
「――『物真似タイガー』なんだろうね」
「な、なぜ判ったにゃ!?」
判らいでか!
大成功
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