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絶望と煉獄の輪の外へ

#ダークセイヴァー #人類砦 #闇の救済者 #復讐譚



「……」
 まるでグリモアから流れる何かに聞き入る様に。
 グリモアベースの片隅で、北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)が静かに目を瞑る。
 暫くの、静謐。
 その静謐を、自らの手で断ち切る様に。
 蒼穹に光る双眸を開いた優希斗が、皆、と周囲に集っていた猟兵達に囁きかけた。
「もう半年以上前になるんだが……。ある吸血鬼に虐げられていた村人達を猟兵の皆が救済したことがあった」
 その村は、既に滅びてしまったが。
 猟兵達に逃がされた人々は、その地の象徴でもあった弔いの鐘と共に新天地へと旅立ち、廃棄されていた城塞のある新天地を見つけ、新たな男衆や『闇の救済者』達を集めて、新たな『人類砦』を作り出したと言う。
「今、住人達にはこの地は『ホーリーベル』と言う名前で呼ばれている。しかし……」
 其の砦の象徴であり、拠り所でもあるその鐘と、次代を担うべきであろう者達が『救世主』によって操り殺され、更に其の村の子供達を連れ去り、『ホーリーベル』を滅ぼそうとされる光景が優希斗には予知出来た。
「裁き手たる天使と、それを操るオブリビオン。一度皆に救われ、鐘と共に新天地へと渡ったとは言え、彼等の戦闘術では、到底オブリビオン達の侵攻を食い止めることなんて出来ない。同時にそれは……」
 その侵攻をオブリビオンが成功させれば、ダークセイヴァーに住む人々の猟兵達と『闇の救済者』達への信頼を損ねることになるだろう。
「食い止める必要がある。皆の力を持ってね」
 そしてそれは、決して不可能なことでは無い。
「戦いの後には、嘗て一度鳴らされた鐘が再び鳴るだろう」
 弔いの様に。
 未来を奏でる様に。
「そこで皆がどうするか。それは皆に一任するけれど……何れにせよ、新たな『人類砦』たる、『ホーリーベル』をオブリビオンの好きにさせるわけにはいかない。だから皆、どうか宜しく頼む」
 その、優希斗の言の葉と共に。
 蒼穹の風がグリモアベースの中を吹き荒れて……気が付けば、猟兵達がそこから姿を消していた。


長野聖夜
 ――このメビウスの輪から抜け出すために。
 いつも大変お世話になっております。
 長野聖夜です。
 と言う訳で、今回はダークセイヴァーシナリオを一本お送り致します。
 今回の都市設定は下記となります。
 都市名:『ホーリーベル』
 村人の人数:100人程。
 戦闘できる兵士達:1割強(但し、避難の手伝いなどで一杯一杯です)
 村人達の猟兵への対応:協力的。
 *尚、粗雑な城壁への避難指示位は聞いて頂けるので、余り気にしなくても問題ありません。
 又、此方のシナリオは、下記3シナリオと設定を若干共有しております。
 勿論、新規参加の方も歓迎致します。
 1.滅亡と再生の輪の中へ
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=22820
 2.悦楽と後悔の対峙の果ては
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=24932
 3.闘争と復讐の輪の果てに
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=29086
 このシナリオは第3章のみ、お望みがあればグリモア猟兵である北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)の同行も可能です。
 お気軽にお声掛け下さいませ。
 プレイング受付期間及び、リプレイ執筆期間は下記の予定です。
 変更がありましたら、マスターページにてお知らせ致します。
 プレイング受付期間:12月11日(金)8時31分以降~12月12日(土)17時頃迄。
 リプレイ執筆期間:12月12日(土)18時以降~12月14日(月)一杯迄。
 2章以降のプレイング受付期間は、その都度お知らせ致します。

 ――それでは、良き結末を。
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第1章 集団戦 『光の断罪者』

POW   :    光の断罪者
自身に【反転した聖者の光】をまとい、高速移動と【破壊の光】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    主よ、憐れみたまえ
【洗脳の呪詛】を籠めた【反転の光】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【反抗心】のみを攻撃する。
WIZ   :    反転の呪詛獣
自身が戦闘で瀕死になると【自身を洗脳していた魔法生物】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
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ウィリアム・バークリー
あの村の皆さんも、無事に人類砦で暮らしていますか。
それは吉報ですが、同時に悪い知らせですね。かかる火の粉、ぼくらが振り払いましょう。

オブリビオンになる前は、さぞかし立派な聖職者だったんでしょうね。
だから、これ以上ヒトに害をもたらさないよう討滅します。

Active Ice Wall展開。Reflect Ice Wall機能付加。
さあ、反転の光を使ってみてください。この氷塊群が受け止めて、乱反射して跳ね返します。自分の攻撃で自分達を滅してもらいますよ。
この新しい術式を試すには格好の相手。手加減はしません。
氷塊自体は、今まで通り盾や足場に使ってもらえれば。
取りあえず今は反射の術式の具合を確かめます。


天星・暁音
ホーリーベル…聖なる鐘ね
其処を襲いに来るのが天使とはね…まあ相手が天使でも神でも悪魔でもやることは変わりはしないのだけど…
人々を襲うのなら立ち塞がるだけなのだから…
…とはいえ…もし望まずにやらされているのだとしたらせめて祈りは捧げてあげたいね



空間を支配した後に自分や味方を転移させて有利な位置取りをしたり攻撃範囲から逃がしたり空間壁や見えない手で敵を押し出したり無理矢理動かしたり時間停止での敵の行動妨害、空間の位相をズラしての防御等、主に支援系を重視しつつ
自身は転移を頻発して遠距離近距離で翻弄し武器や空間壁で囲い込んで圧縮して押しつぶしたり等で攻撃します

スキルUCアイテムご自由に
共闘アドリブ歓迎


白石・明日香
【教祖と共闘】
どこのだれかは知らんけど、まぁ、潰すか!
残像でかく乱しながらダッシュで接近。高速移動しようが光を放とうが挙動から見切ることはたやすい。
あ、でも通り抜けされると面倒だから軌道を見切って進路を邪魔しながら蹴り飛ばしたり、切りつけたりしたりで気を引いて少しでもこちらに集めよう。
ある程度集まったら範囲攻撃、鎧無視攻撃、2回攻撃でまとめて吹き飛ばす!
運がなかったのさ、あきらめろ使い魔共!
さて、本命はどこのどいつかな?


リーヴァルディ・カーライル
…たとえ新天地に移り住んだとしても、
世界を覆う闇を晴らさない限り、
本当の平和は訪れないのかもしれない

…それでも。人々が必死に築き上げてきた希望の地を、
お前達の好き勝手にさせる訳にはいかないわ

UCを発動して"御使い、魔動鎧、呪避け、魔光、
暗殺者、狂気避け、破魔、軍略"の呪詛を付与

敵の精神属性攻撃は●狂気耐性と気合いで受け流し、
過去の戦闘知識から敵の●団体行動を見切り、
●破魔の魔力を溜めた●誘導弾を乱れ撃ち命中した敵の●防具改造
浄化の●オーラで防御を無視して●呪詛耐性を付与し呪詛獣を●暗殺する

…素面に戻ったなら巻き込まれないように下がりなさい

…何度も闘ってきた相手だもの。この程度、造作も無い事よ


宮落・ライア
こんにちは。こんばんは。それともおやすみなさい?
あっは! 君たちにグットナイト!

洗脳には【狂信者の心】と『気合』、そして英雄投影で反骨心バリバリで対抗。
レッツ真正面から突っ込んで素手ごろ制圧。ノックダウンノックダウン。
洗脳している魔法生物とはいったい(技能違い)
まぁ操られてるっぽいからとりあえず気絶止め?

そういえば相手の攻撃が光でとくに肉体も傷つけないなら、一人気絶させてそれを盾にすれば楽になるのでは? 心も痛まない。

まったくダクセはいつも物騒だなー


司・千尋
連携、アドリブ可

詳しい事は知らないけど
暇だから手伝おうか?


攻撃手が足りているか敵に押され気味なら防御優先
無理なら敵の数を減らす事に注力
兵士達に村人の避難誘導するように頼む
危ないから村人達と一緒に避難してくれ


攻防は基本的に『子虚烏有』を使う
範囲内に敵が入ったら即発動
範囲外なら位置調整
近接や投擲等の武器も使い
範囲攻撃や2回攻撃など手数で補う
瀕死になると面倒だから片っ端から消失させる
まぁ召喚されてもどうにかなるだろ


敵の攻撃は細かく分割した鳥威を複数展開し防ぐ
割れてもすぐ次を展開
オーラ防御も鳥威に重ねて使用し耐久力を強化
回避や迎撃する時間を稼ぐ
間に合わない時は双睛を使用
村人や兵士への攻撃は最優先で防ぐ


森宮・陽太
【SPD】
アドリブ連携大歓迎

せっかく新天地に辿り着いたのに
ここで無に帰すわけにはいかねえな

…でもちょっと引っ掛かることがあるからよ
断罪人とやら、少し利用させてもらうぜ

「高速詠唱」からの【悪魔召喚「サブナック」】
サブナック、反転の光を全て呑み込め
そして、奴ら全員に徹底的に光を浴びせろ!
奴らの反転の光を奴ら自身に浴びせることで
逆にこちらから洗脳し返して戦意を削いでやる(覚悟、催眠術)

根拠はねえ憶測なんだがよ
おそらくこいつらも洗脳されている
ただの盲信であればいいんだが
…何か、妙な気配がする

断罪人らの反抗心を削いだら
リッパーナイフ突きつけて尋問だ
おい、てめえらに指示した吸血鬼はどんな奴だ

まさか、な…


館野・敬輔
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

また、彼らが蹂躙されるのか
それだけは決してさせない
希望に溢れた場を壊させるものか

しかし戸惑いは未だ隠せない
復讐の騎士と化した俺にはもう、何も戻ってこない
俺には希望なんて…ないはずなのに

今はただ、斬り伏せるのみ
「早業、ダッシュ」で接近後「切り込み、2回攻撃、なぎ払い」で確実に1体ずつ斬り伏せる
魔法生物が召喚されても同様
ただ、憎悪を以て斬るのみ

反転の光は予備動作を「視力、戦闘知識」で見切って指定UC発動
黒剣が喰らった魂たち(※少女たち除く)を放出し、光を遮らせて阻止

しかし、なぜ子供達を連れ去ろうとする?
…そしてなぜ、左肩の傷が疼く?

まさか、彼女たちを操っているのは…!?


パラス・アテナ
せっかく手に入れた新しい故郷
安寧の地に鳴る鐘を止めさせやしないよ
村の兵士は避難に専念するよう伝える
アンタ達の故郷はアンタ達が守るんだ

アタシは鐘と村人達の護衛を
足りてるなら他の猟兵達の援護を
どちらも・先制攻撃・援護射撃を併用して足止め後
・マヒ攻撃・2回攻撃・鎧無視攻撃を併用した【弾幕】で攻撃
これは指定した全ての対象を攻撃するんでね
敵が高速移動しようが関係ない
他の連中の攻撃に繋げるよ
敵の攻撃は・見切り・第六感で回避
・激痛耐性で堪えて・継戦能力で戦線維持

それにしても
黒幕は何故子供だけを連れて行くんだろうね?
奴隷として使うなら大人の方が力がある
吸血鬼化しちまえば隷属は簡単だろうに

…嫌な予感しかしないよ


文月・統哉
ホーリーベル、素敵な名前だね
マリーを倒し未来へと繋いだ命
この歩みを壊させはしない

一方で気にかかるのは敬輔と
ウルカの言葉
何故か重なる2人の姿
彼女は同族殺しとして敬輔の宿敵を倒した
その復讐心はどこから?
果たした復讐の先で
何を止めようとしていた?

仲間と連携
オーラ防御展開
兵士に村人の避難頼み
見切り武器受けで護り戦う

光の断罪者
彼女達は何かを知っている?
その上で断罪を?
彼らに、俺達に

巻き戻らない時の中で
人は誰しも罪を背負い生きている
それが生きるという事だから
何度も嘆き後悔して
それでも戦い前へと進む
未来へと希望を繋ぐ為に
嘗てのキミ達もきっと

祈りの刃の衝撃波で
反転した聖者の光を再反転させる
救いとなる事を、願う




「ホーリーベル……聖なる鐘、ね」
 ホーリーベルの周囲に作られた未完の城壁。
 見張り櫓も兼ねているのだろう、そこよりも一段高いところにある鐘楼をチラリと見上げながら。
 天星・暁音が誰に共無く呟いている其れに気がついた文月・統哉が口元に微苦笑を浮かばせて軽く首肯を一つ。
「素敵な名前だとそう思わないか、暁音は?」
 その統哉の呼びかけに。
 共苦の痛みが軽く体が軋む様な痛みを与えて来ているのに気がつきつつ、そうだね、と軽く暁音が茫洋と相槌を返した。
「でも、そこを襲いに来るのが天使か……まあ、天使でも、神でも、悪魔でも、俺達のやることに変わりはしないけれども……」
「……だな」
 その、暁音の呟きに。
 軽く頷き返しつつ、そう答え、険しい眼差しを戦場へと向けるは、森宮・陽太。
「それにしても、あの時の戦いで旅に出た村の皆さんが、無事に人類砦を築き上げて暮らしている、と言う状況ですか」
 陽太と同じ方角を目を眇めながら見つめるウィリアム・バークリーの発言の中には、微かな感慨と、そして……。
(「幸運と不幸が同時に来るのと同じ様に。吉報は、凶報と一緒に来るものなのでしょうか?」)
 諦念とも感じ取ることの出来る思いが籠められていた。
 ざっ、ざっ、ざっ。
 足音が、近付いてくる。
 反転した光を纏った、彼女達が。
 その、彼女達をオブリビオンと為さしめている『核』をゆっくりと探る様に。
「……ん」
 リーヴァルディ・カーライルが、その紫色の瞳で現れつつある断罪者達を静かに見据えている。
 そんなリーヴァルディの様子に、興味津々と目を輝かせた宮落・ライアが軽く小首を傾げていた。
「あれあれ? リーヴァルディさん、何か気になっていることでもあるの?」
「……ええ。ちょっと、ね」
 ライアの其れに頷きながらも、リーヴァルディは、それ以上は答えない。
 ただ、その紫の瞳に言い知れぬ光を灯すリーヴァルディの様子を横目で見た、白石・明日香はヤレヤレという様に軽く頭を振り、自らの視線を……。
「……また、彼女達が蹂躙されるのか。それだけは……そんな、事は……」
 何処か虚を感じさせる、そんな声音で。
 呻く館野・敬輔へと興味が無さそうに向けながら、明日香は軽く肩を竦めていた。
「まっ、あいつらが何処の誰かは知らんし、アンタ達があいつらとどう言う因縁を持っているかは知らんけど……さっさと潰しちまえばいいだけだろ?」
「ああ、そうだ。それだけで、良い筈だ……」
 呆けた様に、脱力した様に。
 譫言の様に繰り返しながら黒剣を青眼に構える敬輔だが、その瞳の中で、光が、陽炎の様に揺蕩っていた。
(「敬輔……リーヴァルディ……」)
 そんな敬輔とリーヴァルディの様子に、気遣わしげな視線を統哉が向けた時。
『主に、その刃を向ける愚かな異端者達よ。今からでも遅くはありません。武器を収め、私達と共に主に跪きなさい』
 現れた白衣に身を包んだ天使の様な聖者達の1人が、涼やかな声で切りつける様に、そう告げた。
「こんにちは! こんばんは! それとも、おやすみなさい、かなぁ?」
 からかう様に、道化の様に。
 挑発とも取れる挨拶をするライアを一顧だにせず、天使として使わされた聖者たる女達は、淡々と叩き付ける様に言の葉を紡ぐ。
『この地はただの煉獄。お前達が守ろうとしているものは、決して抜けることの出来ぬメビウスの輪を作り続ける愚鈍な行為。我等が主は、その煉獄よりお前達を救済するべく私達を遣わした、善神。希望などと言う甘美な毒からお前達を解放して下さる善。お前達は、其れを拒むのか? それは、安穏たる平和の中で生きる事を望むお前達にとって、許されざる罪では無いのか?』
 その、聖者達の問いかけに。
「……そうね」
 リーヴァルディがポツリ、と言葉を漏らした。
「……たとえ彼等が、新天地に乗り移ったとしても。それだけでは、本当の平和は訪れないのかも知れない」
 この、世界を覆う闇を晴らさぬその限り。
『ならば、我等と共に来るが良い。あの御方は、お前の言う本当の平和を……救済をお前達に与えるその為に、お前達の元へと私達を遣わしたのだから』
「いいえ……それは出来ないわ」
 睦言を紡ぐ聖者のそれを、確固たる意志と共に拒絶したリーヴァルディに、聖者達が思わず怪訝の表情を浮かべた。
『何故だ? お前が彼等のために求めているのは本当の平和。お前達の存在とその行動そのものが、その平和を妨げる事になっていると言うのに』
 侮蔑とも取れる、聖者のそれに。
「違うわ」
 きっぱりと、リーヴァルディが頭を横に振る。
「この村の人々は、この希望の地を、自らの意志で必死になって築き上げてきた。それは、間違いの無い事実よ」
 リーヴァルディの、その指摘に。
「ああ……その通りだ、リーヴァルディ」
 しかと首を縦に振り、そう告げたのは統哉。
「ホーリーベルの村人達は、元々マリーという吸血鬼に支配されていた。けれども彼女は俺達に倒され、結果として彼等の未来は、命は紡がれたんだ」
 その統哉の言葉を引き取る様に。
「アンタ達が知る筈が無いだろうが」
 陽太が右手に銃型のサイモン・デバイスを握りしめ、魔力弾を込めながらそう続け、ちらりと物見櫓の様に高い所に取り付けられた鐘を見やった。
 白く塗装された、宵闇の中でも一際美しい、白鐘を。
「あの鐘が昔あった村は、今はもう無い。けれども、村人達は諦めずに新天地を目指してその村を去り、そして漸くの思いで此処を作り上げた。それを無に帰す様な事を、そんなあいつらが望む訳ねぇだろう」
『愚かな。その希望自体が偽りのものだと、如何してお前達は気付かない……だからこそ、お前達は……』
「何を希望とするのか、其れを決めるのはお前達では無く、村人達よ。ならば私達は、お前達の好き勝手にさせる訳にはいかないわ」
 過去を刻むもの……グリムリーパーを肩に担ぎ、自らを覆う黎明礼装に刻み込まれた呪詛を感じ取りながら、リーヴァルディがそう断じ。
「あっは! 交渉決裂だねぇ! と言う訳で、君達、グッドナイト!」
 パチン、と指を一つ鳴らして。
 からかう様に告げるライアのそれに、聖者達が、漆黒の光を纏い始める。
 それは……反転した、聖者の光だった。
 

 一方、その頃。
 競り上がってくる不安と、住民を守らねば、と言う使命感の狭間で鬩ぎ合い辛うじて恐怖に身を竦めずにいる兵士達を1人の女老傭兵が叱咤しながら、この砦内にある一番頑丈な最奥部の倉庫へと村人達を避難させていた。
「良いかい、アンタ達。アンタ達は村人達の避難と故郷を守る事に専念しな。アンタ達の大切なあの鐘と逃げ遅れそうな村人達の護衛は、アタシ達が何とかするさ」
 力付ける様な、パラス・アテナのそれに。
「ああ……分かった」
「どうかご武運を」
 十人の兵士達が其々の表情で頷き、倉庫に半分近く、残りの半数程が散り散りに散って逃げ遅れた村人達を探しに向かう。
 その様子を見たパラスが、静かに息を吐いて声を投げていた。
「死ぬんじゃ無いよ。折角手に入れた新しい故郷だ。守るのは当然だが、それで命を落としてちゃ世話無いからね」
「ああ」
 そのままパラスに見送られた兵士達が軽く敬礼をしてくるのに敬礼を返したパラスもまた、踵を返して、戦力が集中している正門の方へと駆け出そうとした時。
「よう、そっちの調子はどうだ? 折角だし、手伝おうか?」
 口元に微笑を閃かせて軽く手を挙げた男に、パラスが思わず目を細めた。
「アンタは確か……」
「千尋だ。詳しい事情は正直知らんが暇だし、ちょっと気になったからな。様子を見に来た。ああ、安心してくれ。お前が兵士達と人々を避難させているその間に、あっちにいた奴等は、兵士に手伝って貰ってこっちに避難させてある」
 悪びれた様子も無く飄々と肩を竦める司・千尋に、パラスが思わず息を漏らす。
「まあ、確かにアタシだけじゃ手が回らなかったのも事実だからね。猫の手も借りたかったってのは、正にこういう時の事か」
 と、パラスが少し冗談めかして、そう水を向けると。
「ね、猫? 俺が猫、か……」
 何処か上擦った声で、そう返す千尋。
 微笑も先程よりも引き攣っている様に見えるのは、果たしてパラスの気のせいだろうか。
「どうしたんだい?」
「い、いや、ちょっとな。其れはともかく、さっさと行こうぜ」
 表情を引き攣らせたままに頷く千尋にパラスが軽く一瞥をくれ、敬輔達が戦い始めている戦場へと向かっていった。


『主よ、かの者達を憐れみたまえ……』
 粛々とした、祈りと共に。
 その手の十字架を象った杖を振り翳す聖者達。
 自らの身に纏った漆黒の光が十字杖の先端に収束し、それが無数の漆黒の文字の螺旋を描き出している。
 その相手の様子を見ながら、陽太がダイモン・デバイスの銃口を引き上げ、ウィリアムが素早く両手で天と地を指差し、空中に方円を描き出す様に回転させて巨大な青と雪色の溶け合った魔法陣を描き出す。
 巨大な方円が蜘蛛の巣の様に無数の小さな魔法陣と化して枝分かれし、其々が明滅しているその間に。
「君達が天使なのか、聖者なのか、正確なところは、俺には分からないけれども」
 トン、と星具シュテルシアを地面に叩き付け。
 ふわり、と風に乗って宙を舞う様にする暁音。
 その意志を体現するかの様に、周囲に星屑の瞬きの如き光明がチリチリと空間全体を包み込み始めている。
 ――ズキリ。ズキリ。
 その身に刻み込まれた共苦の痛みが、震える大気に鳴動する様に蠢き軋む様な痛みから、針で自らの身を突き刺す様な、そんな痛みへと変わっていった。
「それどころか……君達が望んでなのか、それとも望まずにやらされているのかもまだ分からないけれど」
 ――ドクン。
 心臓を刺し貫く様な痛みと共に、空間全体を歪ませる暁音。
「君達が人々を襲うのであれば……俺達は、立ち塞がるだけだ」
 その、呟きと共に。
 星具シュテルシアが弾ける様に明滅し、空間そのものを歪めていく。
 その、歪められた空間にも動じること無く凄まじい速度と共に風を切って、数十人の聖女達が十字杖を銃剣の様に突き出しながら、その先端に収束された漆黒の波動を一斉掃射。
 それは、暁音の空間支配による体感速度の加速を得ていたライアや、術の詠唱の完成が間近に迫っていたウィリアムと陽太に向かって解き放たれていた。
「アッハハハハハ! そんなもので、私の覇道を止められる筈無いだろう!?」
 笑声が、弾けた。
 暁音に支配された空間の中で自らを加速させた、ライアの笑声が。
 真正面から放たれた光に籠められた呪詛に、その全身を鎖で縛り付けられる様に締め上げられつつも、自らの胸の内から溢れ出る無限の心と気合いと共に、拳を強く握りしめて、真正面に現れた彼女達に向けて正拳を叩き付けるライア。
 と、その時。
『異端者達よ。自らの罪を認め、咎を受けなさい!』
 ライアの拳を受けた一人の周囲から聖者達が散開し、そのままその杖の先端から『破壊』のみを目的とした漆黒の光を四方八方からライアに向けて解放した。
「ライア!」
 迫り来る光がライアの頸椎を貫かんと迫るのに気がつき、統哉が暁音の空間転移で素早くライアと光の間に割り込み、漆黒の大鎌を縦に構えてクロネコ刺繍入りの緋色の結界を展開、その攻撃をすかさず受け止める。
 それでも勢いを完全に削ぐことが出来ない、と統哉が判断したその直後。
「おっと……もう始まっていたか」
 自らの瞳と同じ、翡翠色の光に彩られた千尋の無数の鳥威が統哉の前に展開され、その光を雲散霧消させた。
 更に……。
 ――バラバラバラバラバラ……! 
「どんなに高速で動こうともね。コイツに掛かれば、一網打尽だよ」
 戦場全体に響き渡る銃声音と共に撃ち出された無数の弾丸が、空中からライア達に追撃をかけようとしていた聖女達を横から殴り飛ばす様に撃ち込まれていく。
 ぺっ、と血の混じった唾を吐き出しながら嘔吐く聖女達の様子を、IGSーP221A5『アイギス』と、EK-I357N6『ニケ』の銃口から白煙を吹かせつつ、パラスが鋭く目を細めて見つめ、
「陽太、ウィリアム。準備は出来ているんだろう?」
 と、呟いた。
 その呼びかけに応じる様に、陽太がダイモン・デバイスの銃口を空中に向けてその引金を引き、ウィリアムが呪印を切り、横一文字に人差し指を振るう。
「サブナック! こいつらの反転の光を全て飲み込め!」
 陽太の召喚に応じて姿を現したのは自らの盾でもあり鉾でもある悪魔サブナック。
 サブナックが大地を震わす咆哮と共に、ライアに向けて放たれた呪詛を帯びた反転の光を呼吸と共に飲み込み、そのまま渦の如く逆流させて、周囲の聖女達の一部に反転した光を浴びせかけ。
「Active Ice Wall!」
 ウィリアムの詠唱と同時に小さな沢山の魔法陣から生み落とされた無数の氷塊が、戦場全体を覆い尽くす壁兼盾として出現。
 その氷塊の一つ、一つが淡い燐光を迸らせているのに、敬輔が微かに目を瞬く。
(「なんだ、この光は……?」)
『その程度の悪魔と氷塊如きに私達は臆しない。大人しく我等が主の救済を受け入れよ』
 酷薄な口調で聖女の1人が告げ、歌う様にその喉を高く振るわせる。
 振るわされた音波に従う様に生み落とされた漆黒の呪詛を纏った反転した光が一気阿世にリーヴァルディに迫っていくのを、リーヴァルディは眉一つ動かさずに見つめていた。
「言った筈よ。お前達の好きにはさせないと」
 涼やかに、そして、諭す様に。
 淡々と告げたリーヴァルディの黎明礼装が一瞬で密着し、全身が羽の様に軽くなり、そして銀・翡翠・紅・淡青……と次々に色彩の変わりゆく8つの呪詛に、その全身をすっぽりと覆い尽くされた。
 同時に団体での戦いの要・連携……様々な軍略が滑り込む様に頭の中に刻み込まれていき、其れに従う様にするり、と音も無く、一歩聖女達の前へと踏み込みながら、光り輝く白銀の光弾を死神の大鎌を思わせる、『過去を刻むもの』の刃先に結実させ、そのままひゅん、と弧を描く様に撥ね上げる。
 撥ね上げられた『過去を刻むもの』から発された光弾が無数に分裂、弾ける様に喉を震わせる聖女の方へと飛び込み、その身を容赦なく打ち据えていた。
 そんなリーヴァルディを襲う様に放たれた呪詛の籠った反転の光から、リーヴァルディが捌ききれない分を守る様に淡い燐光を表面に伴った氷塊がそれらの一切を吸収している。
「さて、ここからが本番ですよ……Reflect!」
 リーヴァルディの周囲の氷塊達が吸い込んだ光を、解放するかの様に。
 ひゅん、とウィリアムが横一文字に切った指を縦に切り、十字を切る様に重ね合わせた。
 空中に描き出された十字に呼応する様に、Active Ice Wallの氷塊から無数の反転した光が迸り、その光を撃ち出した聖女達を次々に打ち据え、その顔を青ざめさせている。
「ライア。この隊の指揮官は、あなたの目前にいるわ」
 乱戦の中にいる聖女達の第一波をそのまま摺足で音も無く擦り抜け様に呟くリーヴァルディの囁きに。
「オーケー、オーケー、任されたよ! レッツ、ノックダウン!」
 頷いたライアがそのリーヴァルディの脇で身をたわめ、そのまま自らの目前で尚、光を解き放とうとする聖女の顎にアッパーを叩き付けた。
 ライアの拳には何時の間にかメリケンサック……それは、彼女の血であり、骨であり、肉であるものが変形した姿……が嵌め込まれ、剛力と共に放たれたその一撃に顎を砕かれた聖女が声を上げることも出来ずにその場に頽れ、そのまま意識を刈り取られる。
 指揮官の1人であった聖女が破れることにより足並み乱れた聖女達が、それでも尚、果敢に反転の光を纏って呪詛を解き放とうとする様子を見て、そう言えば、とライアの脳裏にある考えが思い浮かんだ。
(「私達が食らっている攻撃って、光で肉体が傷つかないんだよね~。じゃあ、コイツを盾にすれば、楽になるんじゃ無いかな?」)
 どうせ肉体が傷つくわけでも無いのだから、心も痛まないし。
 そんな考えが脳裏を過ぎり、そのまま地面に頽れ血泡を吹いて倒れている彼女を左手で拾い上げ、肉壁にしようとするライアだったが……。
『構うな。異端者達に死の制裁を与えよ』
 後方の聖女の1人がそう呼びかけ、其れに従った聖女達が、漆黒の残影と共に戦場を疾駆し、純粋なる『破壊』の光をライアと彼女が盾にしようとしていた聖女に撃ちかける。
「うっわ、味方も躊躇いなく撃ち殺すとか……マジで?」
 戦場では、当たり前の光景ではあるだろう。
 けれども、即断即決されたそれに流石に僅かに顔を顰めながら、ライアがウィリアムの呼び出した氷塊の盾をひょい、ひょい、と渡り、それを足場にして、空中でバク転して攻撃を躱す。
 それでも追ってくる破壊のための反転の光の一つが、ライアを人質代わりに捕まえた聖女事撃ち抜こうとするが……その反転した光は、暁音の生み出した空間の断裂によってねじ曲がった。
「うわあ……ダークセイヴァーは、いっつも物騒だなー」
 顔を顰めてブツブツ呟きつつ、邪魔にしかならない、と判断した聖女の気絶体を放り投げ、ウィリアムの氷塊を蹴って上空から肉薄するライアに向けて。
『上空の異端者に集中砲火を』
 聖女の一人の指示を受けた聖女達の反転の光のシャワーが解放され、それを左に、右に、と海を泳ぐ様に潜り抜けていくライアだったが、それでも尚、彼女の額を貫こうとした光の線が一本。
 ヤバイ、と思い、空中の氷塊を蹴って急制動を掛けて、背を仰け反らせたライアに向けて放たれた光を、無数の鳥威が幾重にも重なり合って抑え込んだ。
「サンキュー!」
 取り敢えず上空から礼を述べるライアが、鳥威を展開した主にそうお礼を空中から投げかけると。
「やれやれ……キリが無いぜ、これは」
 その主である千尋が愚痴りながら飄々と肩を竦めて見せた。
 そのまま結詞を操って、烏喙を投射してライアに破壊の光を解き放っていた聖女の額を貫き毒を巡らせて動きを止めるや否や、ウィリアムの氷塊を蹴り飛ばしたライアが、その聖女に向けて拳を叩きつけて、その聖女を気絶させた。
 その間に千尋が、バッ、と右手を別の聖女達へと翳す。
 その千尋の腕の周囲には、まるで彼を守る様に、そして聖女達を殲滅するかの様に、840本の刀身に複雑な幾何学紋様が描き出された光剣が、クルクルと輪を描く様に旋回していた。
(「まあ、そう簡単には終わらせてくれないか」)
 千尋のその隣で、『ニケ』と『アイギス』のマガジンを素早く取り替え、弾幕を途切れさせること無く射撃し続けていたパラスが、ちらりと見やる。
 乱戦のこの状況にも関わらず……何処か力が入っていない様に見える敬輔を。
(「敬輔……アンタは今、何を迷っている? 何を考えているんだい?」)
 そのパラスの懸念は、その場にいる誰の耳にも届かなかったけれども。


「反射の具合は上々、と言った所でしょうかね。ですが……まだムラがありますね」
 試験的に展開したActive Ice Wallに張り巡らせた淡い燐光。
 反転した光を氷面が吸収し、乱反射して逆にその戦意を挫くその技を受けても尚、かなりの数が迫ってきているのを確認したウィリアムが軽く頭を振る。
 そのまま氷塊達を念動力でコントロールしながら、いみじくも自分と同様にサブナックの力を借りて、攻撃を反射していた陽太をチラリと見るが、サブナックの存在感が先程までよりも薄くなってきているのに気がつき、成程、と軽く舌を打った。
(「確かにReflect効果を持たせるには制限時間がありますね。こういう相手には効果的ではありますが、それで全てを殲滅できる程甘くは無い相手と言う訳ですか」)
 ともあれ、氷塊自体が消えることは無い事も確信し、Reflectの効果が切れた後についての対案を考えつつ、ウィリアムが深紅の残像を曳きながら氷塊の間を擦り抜けつつ、当たるを幸い、全てを食らうクルースニクで薙ぎ払い、或いは時に呪剣ルーンブレイドで焼き払いながら、自らの左翼にあたる部分に集う聖女達の群れに向けて肉薄する明日香に、明日香さん、と呼びかけた。
「Reflectの時間切れが迫っています。早急に……」
「ったく、しょうがねぇなぁ……分かったよ!」
 怒声でそう返した明日香が、ウィリアムの氷塊を三角蹴りで飛び上がり天空の高みに至る。
 明日香の動きに、本能的に危険を感じ取ったのだろう。
 左翼で戦場を駆け抜けていた聖女達の一隊の隊長らしき聖女が、白十字の杖の先端を、天空を舞う明日香に向けて突きつけていた。
『あの異端者に天の裁きを。我等が主の恩寵に仇成す者に、正義の鉄槌を!』
 その叫びに、応じる様に。
 平行移動する様に戦場を駆け抜けていた女達が、断罪の祈りを口にしながら一斉に明日香へと白十字の杖を突きつけ、破壊の力を宿した反転の光を放出する。
「サブナック!」
 陽太の叫びに、その力を徐々に失いつつあるサブナックが短く応じて、明日香の盾になる様に浮遊、破壊の光を吸収して反射、怒濤の如く光を天から降り注がせ。
「好きにはさせないよ」
 それでも抑えきれない攻撃に対して、暁音がその軌道を逸らす様に支配した空間の一部を歪曲させて、光を飲み干させる。
 更にウィリアムの呼び出した氷塊のある空間へとその空間を移動させて接続、ウィリアムの氷塊に吸収させて乱反射させ次々に聖女達の中枢を破壊していくその間に。
「さて……そろそろ行くぜ」
 空中でトンボ返りを打って深紅の残像を生み出し、捌ききれなかった最後の光に残像を撃ち抜かせて其れをフェイントにして……明日香は、呪剣ルーンブレイドを両手使いに逆手に構えた。
 呪剣の刀身に烈火の如き焔が集まる。
 それはさながら……大地に煮えたぎるマグマの様。
「……纏めて吹っ飛べぇ!」
 叫びと共に、慣性に従って落下していく明日香。
 そのまま落下速度による摩擦熱で刀身に籠められた魔力を更に高め、その全ての力を大地に叩き付ける様に、呪剣ルーンブレイドを突き立てた。
 ――ズシン。
 激しい振動が、戦場を襲う。
 そのまま刀身に籠められた炎熱の魔力が熱波となって大地を走り、ボコリ、ボコリと大地を穿ち、同時に大地から噴き出す溶岩の如き衝撃波と化して、左翼の聖女達を一人残らず焼き尽くしていた。
 吹き飛ばされた彼女達をチラリと見つめ、少し離れたところに突き刺さった全てを食らうクルースニクを見つめながら、ふん、と明日香が鼻を一つ鳴らす。
「……運が無かったのさ、もう諦めろ、使い魔共!」
 酷薄に明日香がそう告げて、残敵の掃討に動き出そうとする。
 明日香によって殲滅された左翼の聖女達が焼き尽くされたその姿を認め、陽太は険しい表情を浮かべていた。
「如何したんだい、陽太」
 陽太のその姿を認めた、牽制射撃を行ない続けていたパラスの呼びかけに。
「……妙だな」
 そう、陽太が言の葉を紡いだ、正にその時。
「……気を付けて。来るわ」
 その、背後の陽太の気配を感じ取ったのだろうか。
 中央の部隊の指揮官を打ち倒すべく音も無く世界に溶け込んでいたリーヴァルディが小さくそう呟いた。
「えっ? 何が?」
 リーヴァルディの警告に、ライアが思わず怪訝そうな声を上げた、正にその時。
『異端……異端者……共……!』
『貴様達は有罪……断罪されるべき……!』
 ゴボリ、と言う嫌な音と共に、聖女達の周りに獣の様な『何か』が蠢き出した。


「はっ……ここからが本番って訳か」
 クツクツ、クツクツ。
 自らの右腕の周囲に展開していた光剣を、明日香やライア達が打ち倒した聖女達の周囲に現れた奇怪な獣の様な『其れ』に突き立て、次々に獣たちを分解しながら。
 肩を振るわせて愉快そうに、皮肉げに口元に笑みを刻んでいる千尋のそれに、成程ね、とパラスが舌打ちと共に唸っている。
「あの兵士達が、住民全員を無事に避難できていると良いんだけれどね」
 現れた新たな敵をも油断なく見据えるパラスの其れに、まあ、と千尋が軽く肩を竦めた。
「今の所、俺達が来た方にアイツらが入り込んだ姿は見ていないが……乱戦がまだ続くのは間違いないだろうな」
 と、千尋が呟いたところで。
「皆さん、今、避難が……!」
 千尋達の後ろから一人の兵士が姿を現す。
 その兵士に向けて、獣の様なそれの咆哮と共に放たれる破壊の光。
 身近に迫る『死』の恐怖に顔を歪めた兵士の目前に、上空で戦況を監視していた暁音が咄嗟に機転を利かせて転移させた統哉が割り込む様に姿を現し、再びクロネコ刺繍入りの緋色の結界でその攻撃を受け止めていた。
「他の住民達は大丈夫なのか!?」
 びっくりして腰を抜かして、その場に転んだその男の様子を背に感じた統哉がそう叫ぶと、兵士は、あっ、ああ! と慌てた様に首肯する。
「じゃあ、お前もさっさと下がれ。これ以上此処に居ると、流れ弾が危険だ」
 腰を抜かしているその男をちらりと見やり、結詞でその体を引き上げてやりながらそう告げる千尋に兵士が頷き、クルリと背を向けて、直ぐさま戦場を後にした。
 その様子を見送ったパラスが、現れた獣達の姿を認めて息を呑みつつ、機械的に黒剣を振るっていた敬輔に呼びかける。
「もうすぐ、陽太とウィリアムのユーベルコードの効果が切れる。ここからが正念場だよ、敬輔」
 その背を押す様に告げられたパラスの其れに。
「あ、ああ……」
 何処か虚ろな声音で答える敬輔の黒剣の剣先は何かに躊躇うかの様に揺れていた。
(「なんで、俺は……」)
 何も戻ってこない、復讐の騎士と化した筈の俺は、此処にいる?
 オブリビオンに対する憎悪は、今も尚消える事はない。
 しかも人々が得た希望を打ち砕こうとするのであれば尚更だ。
 そう頭では理解し、聖女達の懐に潜り彼女達を切り裂いているにも関わらず、何かが骨が喉に突き刺さっているかの様に、思う様に体が動かせない。
 いつもは親しげに話しかけて来てくれる『彼女』達も、今は何も語らない。
 それは、敬輔自身が見つけなければならない答えなのだと、無言で諭すかの様に。
(「俺は……」)
 ぽっかりと胸に空いた穴。
 その穴を埋めるためには如何したら良いのか。
 その応えを出せぬ儘に敬輔は、現れた獣の様な魔法生物に、黒剣を一閃する。

 ――まだ……食らった魂達の力を、解放出来ぬそのままに。


(「敬輔……」)
 剣閃の向こうに見える迷い。
 千尋の解放した840本の幾何学文様の光剣乱舞と、パラスの『ニケ』、『アイギス』から吐き出される無数の銃弾にその動きを牽制される生き残りの聖女達と、突如姿を現した魔法生物。
 黒き獣と名乗っても差し支えないであろうそれから放たれる光の軌道を読み、辛うじて躱し、或いは時に『宵』で受け止めながら、統哉は迷いの黒剣を振るう敬輔の様子に、妙な胸騒ぎを感じていた。
 虚ろで何処か危ういながらも、薄氷を踏むが如き様子で黒剣を振るい、リーヴァルディが警戒を呼び掛けた黒き獣……それは、聖女達が危機に陥った時に現れると言う魔法生物……を斬り捨てるその様子が、嘗て滅ぼしたウルカの姿と重なってしまう。
(「ウルカ……敬輔の故郷の里の者達を吸血鬼化した、マリーとロイと血縁関係を持っていた、吸血鬼を喰らった吸血鬼」)
 彼女はあの時、最期にこう言っていた。
『お前は選択した……これ以上積み重ねる必要の無い筈の業を……永遠に消えることの無い、復讐の輪廻から解放されるその瞬間を、自らの手で捨てる道を……。その道を選んだことを、お前は必ず後悔することでしょう……!』
 ――と。
 そう敬輔に告げたウルカは、敬輔の宿敵であった壮年の吸血鬼を殺している。
 そう……そういう意味では、彼女もまた、『同族殺し』なのだ。
(「あの、ヒトの儘にオブリビオンと化し、同族殺しとしてロイを討つ為に戦った『彼女』とも同じ様に……」)
 其々の事情で得た『復讐心』
 では、仮に此処で敬輔をウルカが殺す『復讐』と言う動機は何処で得て、そしてその先で何を止めようとしていたのだろうか?
(「駄目だ……情報が、不足しすぎている」)
 恐らく敬輔が見るであろうその絶望を、後悔を止めるためにウルカは自らの復讐を果たそうとした。
(「何だ……それは」)
 まるで、闇雲にパズルに突っ込み頭の中を掻き回されてしまう様な、そんな感覚。
 船酔いにも近い胸焼けを覚えながら、統哉が『宵』を、右翼から迫りくる聖女達に振るう。
『光の断罪者』と呼称される彼女達に。
『お前達は、決して拭う事の出来ない『罪』を犯している。それが当然のことだと……過ちである可能性などこれっぽっちも思わずに、我々を害している。これは決して看過されるべき事ではない』
 まるで、記録されたそれを繰り返し読み上げる音声人形の様に。
 ただ、淡々とそう突きつけてくる聖女達が、高速で大地を疾駆しながら、統哉に向けて破壊の反転の光を解放した。
『ユルサレヌ、ユルサレヌ、ユルサレヌ……!』
 機械的に紡がれる言葉と共に、黒き獣が解き放つ破壊の光。
 暁音の空間支配による空間の断裂と、ウィリアムの反射こそ出来ないが、残された氷塊の盾が無ければ、自分のクロネコ刺繍入り緋色の結界だけでは、決して抑えきれない程の力だったに違いない。
「統哉……何を考えている?」
 惑う様に、悩む様に。
『宵』でそれらの攻撃を受け流しながらギリ、と唇を嚙み締める統哉の様子に気が付いた千尋が、縦横無尽に戦場を飛び交う840本の光剣の内の140本近くを統哉の直前に突き立てて、破壊の光と言う、概念ともいうべき『モノ』を拒絶し、消失させながら口元に皮肉気な笑みを浮かべてそう問いかけると、統哉は軽く頭を横に振った。
「皆の時も、俺達の時も、決して巻き戻ることはないんだよな……そう思っていた」
 何かに対する躊躇を感じさせるそれを呟き、『宵』の柄で聖女達を押し出す様に突き飛ばしながら。
 惑い、躊躇う様子を見せる統哉に、千尋が肩を竦める。
「まあ、そりゃそうだな。其々の時ってのは、結び付き合う事はあっても、巻き戻るって事は無いだろう」
 そう言いながら、千尋と言う名の『結び紐』のヤドリガミは、苦笑する。
「……そうね。こうしてお前達が重ね続けている幾重もの所業も、私達の戦いも……決して露の様に消えていくものではないわ」
 ライアの裏拳の一撃で、聖女がまた一人制圧されるのを横目にしながら。
 さりげなく聞こえた千尋と統哉のやり取りに、か細い声音で頷いたリーヴァルディが、音と気配を殺したままに、中央の大部隊たる『断罪者』達の指揮官の、その背に忍び寄り。
 過去を刻むもの……グリムリーパーの、その刃……否、破魔の魔力の籠められた銀の呪詛と、洗脳の呪詛を浄化する薬の如き耐性を付与したその牙を、その聖女の背後から突き立てた。
『ギャ……ギャァァァァァァァァァ……っ!』
 絶叫が上がった。
 だがそれは、聖女の口から迸ったものではない。
 その背に刻み込まれた瀕死の聖女達の周囲をうろつく、獣と同じ姿をした獣の紋章から漏れ出たものだ。
「……消えなさい。この子達に罪を背負わせた、その紋章よ」
 冷徹に、何処までも粛々と。
 黎明礼装に刻み込まれた無数の呪詛を、瞬時に8つの呪詛に切り替えた呪騎士たるダンピールの娘のその一撃に捕らえられたその生物の悲鳴は、敬輔を思わずはっ、とさせていた。
 そのまま頽れる聖女を抱き止める様にして、リーヴァルディがじっ、と聖女を見つめる。
「うっ……うう……」
 呻き声を上げながら、瞼を震わせゆっくりと開くその『聖女』に、リーヴァルディは静かに頷き、明日香が切り開いた左翼の道を指さした。
「……どうやら素面に戻った様ね。ならば、これ以上巻き込まれない様に下がりなさい」
 吸血鬼によってオブリビオンにされ、その間に彼女がした罪が消えないけれども。
 それでも、救いの……償いの道を歩むことを望むのであれば、同じ様な聖女達と数多の戦いを繰り広げてきたリーヴァルディには、その道標を指し示すことは出来る。
『は……はい……』
 弱弱しく、震えた声音で。
 ぶるぶるとその身を震わせながら、這う様にその場から逃げて行く聖女の一人の背を見送りながら、統哉が我が意を得たり、と言う様に首肯した。
「皆も、そうだ。生きていく過程の中で、罪を背負っていく。これは、俺達人の誰しもにも言える事だ。そしてそれは……君達にも……」
『……何と愚かな、愚かな娘……! あの御方から授かった大切なものを全て捨て去り……あまつさえこの地から逃げ出そうなど……!』
 ぎらり、と火の様に燃える憎悪の光をその瞳に宿しながら。
 悲鳴の様に叫ぶ目前の聖女に、統哉がそれが、と静かにかぶりを横に振った。
「それが、生きると言う事なんだ。何度も嘆き、後悔して。それでも戦い、前へと進むこと。その為の生きる希望が必要なんだ、俺達には」
 そう静かに告げた所で。
『宵』の漆黒の刃先に、深淵の闇を打ち払う一条の光を思わせる……世界を反転させる白く尊き光を灯しながら。
 統哉がそれを大上段に振りかぶり、そしてリーヴァルディが逃がそうとしている聖女を追わんことを欲する黒き獣を見ながら敬輔、と彼の名を歌う様に読み上げた。
「君も、そうだ。空っぽなんかじゃない。憎悪だけじゃない。君の中には……まだ希望が……光がある筈だ。だから……!」
 統哉の、その言の葉に。
「……っ!!」
 思わず、と言った様子で敬輔が目を見開く。
 その、敬輔の姿を見て取るや否や。
 暁音の共苦の痛みが、溶けて崩れ落ちた氷塊が、流氷と化してその全身を叩きつける様な冷たく鈍い打撲痛を、暁音に与え始めていた。
(「動いた……のか」)
 暁音が支配していた、この空間の中で。
 滞り、足踏みを続けていた……。
『魂達よ、人々の精神を歪める悪しき精神を悉く喰らい尽くせ!!』
 敬輔の、心の時が。


「敬輔。援護はしてやる。残らずあの魔法生物達を倒してきな」
 それは、熱に浮かされた様な敬輔の怒涛の叫びと対局にある、冷静なパラスの声。
 三度マガジンを交換し、横っ飛びをしながら『アイギス』と『ニケ』をフルオートモードで連射するパラスのそれに背を押され、敬輔が自らの両手で構えた黒剣から、怒涛の様に漆黒色をした魂達を余さず放出する。
 放出された『黒』と呼ぶべき『闇』の中に眠りし魂達が、戦場全体を黒き波で覆い尽くし黒き獣や、まだ戦う事を止めぬ『聖女』達の動きを目に見えて束縛していく。
『これ程の罪を抱えていたのか、異端者め! その罪、万死に値する!』
 その叫びと共に。
 放出した魂の中を泳ぐ様に駆け抜ける敬輔を破壊するべく反転した光を収束させた十字杖を敬輔に突き付ける聖女達。
 だが……。
「きっと君達も、俺達と同じだった筈だ。未来へと希望を繋ぐことを望んでいた……嘗てのキミ達も、きっと」
 そう告げて。
 自らの目前で敬輔に杖を向けた聖女達へと反転した『黒』き世界の中で一際美しく輝く『白』き光を纏った『宵』を一閃する統哉。
 大上段から振り下ろされた『宵』をそのまま強引に切り返して十字を切ると同時に、白き残影が衝撃波と化して聖女達が解き放とうとした反転し、暗転した聖者の光を強引に再反転させる。
「……どうか、安らかに」
 救いとなることを願って放たれた統哉の二閃が、彼女達の光と共に邪心を……彼女達を操っていた『それ』を断ち切り、オブリビオンと化していた彼女達をその場に崩れ落ちさせていた。
「オブリビオンである以上、もう救えない、そう思っていましたが……」
 その場に崩れ落ち、昏々と眠る様に意識を奪われた彼女達の姿を見て、思わず、と言った様にウィリアムが呟くのに。
「……私は、何度も戦っているわ。だから、どうすれば良いのか……それが分かっているの」
「まあ、実際気絶させればいいだけだったっぽかったしね~。ただ殲滅する必要も無かったって事なんだろうなぁ」
 リーヴァルディの静かな呟きに、あっけらかんとした表情でライアが頷き、陽太が思わず微苦笑を零す。
「まあ実際……サブナックも、ウィリアムの氷塊もこいつらの『反抗心』だけを傷つけさせただけだからな。そういう事も、あるだろうよ」
「となると……後は、あれだけか」
 そう告げて。
 千尋が展開していた840本の光剣の内、攻撃に回していた700本の光剣で、獰猛な叫びをあげながら、パラスの銃弾に撃ち抜かれて全身を痺れさせていた聖女達の周囲に姿を現した獣の様な魔法生物を当たるを幸い、切り捨てていた敬輔と明日香を攻撃することを望んでいた聖女達の周りに現れた生物達を貫き、次々に消失させていく。
 魔法生物達が消失していくその度に、既に重体となり、召喚されていた生物達の核となっていた聖女達が糸の切れた人形の様にプツリ、プツリとその場に頽れていく。
「まあ……所詮は前座って事か」
 その様子を見た敬輔と背合わせになって斬り合いを繰り広げていた明日香が、これ以上の戦いは無駄と判断したか、呪剣ルーンブレイドと全てを食らうクルースニクを鞘に納めるのと、ほぼ同時に。
 敬輔から解き放たれた『黒』の魂達が、その場から雲散霧消して消えていく。
 そんな、この戦いの終わりを象徴するかの様に。
 ――ゴーン! ゴーン!
 ホーリーベル……この村の象徴とも呼べる白鐘が鳴っていた。
「取り敢えず、この子達については終わりみたいだね」
 小さく溜息をつきながら、軽く頭を振るパラスのそれに。
「ああ……そうみたいだね」
 黒き魂達と、リーヴァルディが逃がした聖女の道を開くために、支配した空間と比較的安全であると思われる空間を繋ぎ合わせて外へと送り出した暁音が星具シュテルシアを握りしめたままに静かに頷く。
「戦闘終了ね」
 小さく呟くリーヴァルディにああ、と軽く頷き返す陽太。
 その目が驚愕に彩られ、ついでにきまり悪げに自らの頭を掻いていた。
(「しっかしねぇ……」)
「まさか俺の予想通りだった、とはな」
 その、陽太の独り言に。
「予想通り、ですか?」
 僅かに怪訝そうに小首を傾げるウィリアムにああ、と陽太が首肯する。
「って事はさぁ、陽太さんだっけ、君も彼女達はオブリビオンとして操られていると思ったんだ?」
 ピクピクと眉を動かしからかう様に問うライアに、陽太がそうだ、と頷き返した。
「まっ、憶測に過ぎなかったと言われりゃぁ、それまでだったんだがよ。そっちの銀髪のねーちゃんの行動の結果、確信に変わったって感じだな」
 そう言ってちらりとリーヴァルディを見やる陽太に、ふ~ん、と愉快そうに肩を震わせるライア。
「まあ、あれに登場されても厄介だったから、正直俺はどちらでもよかったんだがな」
 シニカルな笑みを浮かべて堂々と宣う千尋に陽太が自らの額をピシャリ、と叩く。
「おいおい茶髪のにーちゃん、そりゃねぇだろ」
「パラスとは話をしたが、生憎俺はこの村の事情やあいつらの事情も詳しく知らないんだ。寧ろ最後にまとめて消失させたあの獣みたいな魔法生物が呼び出された時の方が面倒だろうな、と思っていた位なんだぜ? まあ、守り手が少なかったから、防御と人々の避難に注力していたけれどな」
 皮肉気だが、さりげない千尋のその言葉に。
 陽太が参った、と言う様に諸手を挙げて降参の意を示す。
「ああ~、確かに茶髪のにーちゃんとパラスがいなかったら、避難が上手く行かなかった可能性が高かった、か。そう言われちまえば、何のために此処に来たんだ? と言われてもどうしようもねぇな……わりぃ、助かった」
 そう軽く礼を述べて、陽太は微かに虚空を見る様に天を仰いだ。
「その辺りにしておいておやり、千尋。白鐘も兵士も人々も、取り敢えずは無事なんだから、そこは良し、としないとね」
 宥める様に告げるパラスに千尋が冗談めかした笑みを浮かべた。
「ああ、分かっている。ちょっとからかっただけさ」
 そう告げる千尋にけらけらとレイアが愉快そうに笑い、ウィリアムがこめかみを解すその間に、それにしても、とパラスが溜息を漏らした。
「黒幕は、なぜ子供だけを連れて行くんだろうね? 奴隷として使うなら、大人の方が力があるし、吸血鬼化しちまえば、隷属も簡単だろうに。しかもリーヴァルディ。こいつらは皆オブリビオンになるべく洗脳されていたって訳だろ?」
「ええ……そうね。この子達と何度も闘うとはそう言う事。そういう場面を何度も私は見てきている……ただそれだけだから、彼女達の主が何を目的として、彼女達を操っていたのか、どうしてそんな迂遠な手を使っているのかまでは、分からないわ」
 呟き地面に蹲る聖女を見やり小さく頭を横に振るリーヴァルディに、そうかい、とパラスが頷き重苦しい息を吐いた。
「……嫌な予感しかしないね、それは。予知が間違っているとも思えないしね」
「まっ……なら、こうするまでだな」
 パラスの溜息に、そう告げて。
 懐からリッパーナイフを抜き出し、蹲る聖女の1人を無理矢理立ち上がらせて、そのナイフの先端を、彼女の首に突き付ける陽太。
 ぎらり、と輝く黒一色の両刃のナイフの先端が首筋に突きつけられているのを見て、断罪者として戦った聖女の1人であるその少女が、表情を恐怖に引き攣らせた。
「キリキリ吐いて貰おうか。てめえらに指示した吸血鬼はどんな奴だ? 吐かねぇと……」
「そ、それ、は……」
 十字杖を取り落とし、恐怖のあまりにがくがくと震え、幼子の様に白い涙を零す少女に陽太がぐっ、と気持ち、皮一枚貫く程度にリッパーナイフの切っ先を押し付けると、いよいよ少女はか細い悲鳴をあげ、そのまま一言、二言を漏らして、泡を吐いて失神した。
 告げられたそれに、リーヴァルディとライアがパチパチと目を瞬き、気難しげな表情になったパラスとウィリアムが思わず顔を見合わせ、やれやれ、と千尋が軽く肩を竦めて息を吐く。
 陽太はナイフを引いて少女を抱き上げ、そのまま心配になったか様子を見に来た兵士に彼女を引き渡してから、ちっ、と思わず舌打ちを一つする。
「……若い夫婦の、吸血鬼のペアかよ……くそっ」
 続いて聖女達を洗脳していた魔法生物を滅ぼし、呆けた様に立っていた敬輔とその肩を軽く宥める様に叩く統哉を、静かな輝きを灯す緑の瞳で見つめていた。


「こいつらは所詮、前座だろ」
 不意に、敬輔の肩を叩いていた統哉の背に掛けられた声。
 その声に驚いて統哉が後ろを振り向けば、頭の後ろで両手を組んでいる明日香。
 明日香の瞳は地面に蹲り、昏倒している聖女達につまらなそうに向けられている。
「……明日香」
 咎める様な声を出す統哉に明日香がふん、と鼻息を一つ。
 彼女自身が殺めた聖女達は焼き尽くされ、灰と化して風に吹かれて消えていた。
「洗脳されているのか何だか知らんが、あいつらはオレ達を裁こうとしてきた。だったら、振り掛かる火の粉を振り払うのは当然の話だろ」
 当然の様にそう告げる明日香に、統哉が諦めた様に首を横に振り、それも一理あるな、と首肯する。
 その胸の中を駆け巡る、何とも言えない痛痒は消えないけれども。
「俺は、憎悪の儘にこいつらを斬り伏せた。だから、明日香の言う事も間違いではないとは思う。だが……」
 と、敬輔が戦いの始まりに感じ取った敵に関する違和感を思い出したその直後。
 ――ズキリ。
(「……っ?! これは……!?」)
 不意に、敬輔の左肩に激痛が走った。
 何かに共鳴するかの様なその激痛は、此処久しく感じていなかった筈のそれであると同時に……『彼女』達と出会う度に感じた、針の様に鋭い痛み。
「敬輔!」
 統哉がその様子に気が付き、がっしりと敬輔の両肩を掴んで此方に引き寄せる様にその名を呼ぶ。
 敬輔は、それには答えずただ愕然と目を見開いていた。
 その表情と視線を、驚愕と恐怖……そして絶望に彩らせて。
「まさか……まさかこの子達を、操っていたのは……っ!?」
 そう、敬輔が呟いたその刹那。
「漸く、現れやがったな、本命が」
 肉食獣の笑みを浮かべた明日香の其れに答える様に。
 ――コツ、コツ、コツ。
 2つの足音が、戦場全体に響き渡った。
 

 ――ゴーン! ゴーン! ゴーン!
 白鐘が鳴る。
 新たな敵の出現を警戒する様に。
 或いは、何かを悼むかの様に。
 そして、その白鐘の音に共鳴する様に。
(「……っ!」)
 暁音の共苦の痛みが、更なる激痛を暁音へと与えていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『子を求め彷徨う吸血鬼『ミユキとモトキ』』

POW   :    美味なる子の血液を求めて
【男女ともに自身の理性 】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【犬歯を吸血形態】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    子供は親に従順であれば良いのです
【男女ともに我が子に向けるような慈しみ 】を籠めた【噛みつき】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【抵抗・反抗する意志】のみを攻撃する。
WIZ   :    彼岸に導く子守歌
【男女のどちらかが歌う子守歌 】を披露した指定の全対象に【抗いがたい眠気と無抵抗無気力の】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
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*業務連絡:次回プレイング受付期間及びリプレイ執筆期間は下記となります。
プレイング受付期間:12月18日(金)8時31分以降~12月19日(土)14:00頃迄。
リプレイ執筆期間:12月19日(土)15:00頃~12月21日(月)一杯迄。
何卒、宜しくお願い申し上げます*

「あの子達を倒したのか。いけない子達だね、君達は」
 姿を現した青髪の若い青年が、残念そうにそう語る。
 深紅に光るその両目は、まるでやんちゃをする子供を叱る大人の様な、そんな困った様子を示していた。
「あら、貴方。確かにあの子達は悪い事をしてしまったけれども……でも、きちんと子供達を残してくれてはいたようよ?」
 男を宥める様に、愛おしそうに。
 男と同じく深紅の瞳に沈痛な光を称えるその妙齢の女は、未だ気絶したままである、『聖女』達を案じる表情を見せている。
「ああ、本当だ。それは幸い。でも……『子供』と呼べる程の子供達は、残っていないみたいだね」
 そう悲し気に首を横に振る男にそうね、と女は頷きながら、大丈夫よ、と優しく労わる様に男の唇に自らの人差し指を当てていた。
「あの悪い子達はきっと、罪も、そしてそれを償うために受けるべき罰をも知らないだけよ。教育してあげれば直ぐにお利口さんになって、私達の大切な『子供達』の新たな一員になってくれるわ」
 そう告げる、吸血鬼の女のそれに。
「それもそうか。いずれにせよ、まだこの子達も生きているものね。取り敢えず先ずは、この悪い子達にお仕置きをするとしよう」
 短く頷く男のそれに、そうね、と女が頷き返し、そして……。
 愛しい子供を慈しむ母親の様な慈愛の眼差しを、猟兵達へと向けていた。
「さあ、いらっしゃい、未来の私達の子供達。私達の腕に抱かれて、優しく温かな揺り籠の中で、未来永劫罪を償って、共に生きていきましょう」
 そう女が優しく囁きかけ。
「ああ、そうだ。君達は私達の子供達を殺し、傷つけると言う深い、深い罪を犯した。だけど大丈夫。私達は決してそんな君達を見捨てない。君達の様な愛しい子供達を、誰が見殺しになど出来ようか。さあ……共に行こう、子供達」

 ――生き地獄と言う名の煉獄を抜けて、永遠に愛され続ける楽園に。
 そう、甘美さを感じさせる甘い声音で男が静かにそう告げた時。
 
 ――ゴーン! ゴーン! ゴーン!
 白鐘が、鋭い音を鳴らし始めた。
 それは目前の吸血鬼達と対峙した猟兵達にとって、死と言う天国への祝福を与えようとしている様にも、或いは、地獄への招待状を警告する鐘の音の様にも思える、哀しく、寂しげな音であった。

*第2章では下記ルールが適用されます。
1.第1章の判定の結果、兵士及び、村人達は砦の最奥部に全員無事に避難を完了いたしました。その為、この村の人々及び、兵士達についてのプレイングは不要です。
2.第1章の判定の結果、『光の断罪者』であった聖女達の一部が正気を取り戻し、オブリビオン扱いではなくなりました。しかし、気絶して戦場に存在しているため、彼女達が巻き込まれる可能性も出てまいりました。彼女達の生死は判定には影響を与えませんが、もし、生者である彼女達を守り切ることが出来れば、この村を守る力になってくれる様になるかも知れません。
3.生き残った光の断罪者の数は、凡そ50人程です。何れも気絶したり重傷を負ったりしていますので、能動的な行動は不可能です。
4.光の断罪者であった聖女達は、10人単位で戦場の彼方此方に倒れています。

 ――それでは、最善の結末を。
 
リーヴァルディ・カーライル
…助けると決めた以上は最後まで面倒をみるけど、
貴女達も今まで世話になった吸血鬼達に返礼がしたいでしょう?

…それに、どうやら因縁浅からぬ者もいるみたいだしね
吸血鬼共を狩るのは任せて、此度は援護に回りましょうか

敵の精神干渉を全身を覆う浄化のオーラで防御して受け流し、
自身の生命力を吸収し限界突破した魔力を溜めUCを広域発動

…来たれ。世界を調律する大いなる力よ
傷付き倒れし彼の者達に、仮初めなれど与えよ、光を…!

周囲の気絶した聖女達を"光の精霊"化して操り、
自身の戦闘知識を基に精霊達に空中戦機動の連携を行わせ、
光の屈折で残像を生み出し敵を幻惑したり、
光を束ねて光属性攻撃の光線を放ち仲間を支援するわ


白石・明日香
【教祖と共闘】
なんか知らんが、子供探しはよそでやれよ!
それになんかさっさと殺らねえと面倒なことになりそうだしな。
残像でかく乱しながらダッシュで接近。理性がなくなっているから動きは大雑把になっているだろうし見切ることはたやすい。間合いに入る前に歌われるのが厄介だがそれは呪詛耐性で耐えて急いで近づき部位破壊の要領で口に武器をねじ込んで女の口を封じてやる!武器が入れられなければ拳をねじ込む。男が庇い邪魔したら男に変更、いずれにしろ歌われないように喉笛を掻き切りまたは嚙み千切る。無力化できるか否かにかかわらず怪力、2回攻撃、属性攻撃(炎)、鎧無視攻撃で吹き飛ばす!


ウィリアム・バークリー
子供がほしいというなら自分達で作ればいいものを、それが出来ないからこそのオブリビオンなんでしょうね。

Active Ice Wallは数を補充して。

それじゃあ始めましょうか。
Spell Boost、トリニティエンハンス発動。スチームエンジン、影朧エンジン起動。魔導原理砲『イデア・キャノン』顕現。積層立体魔法陣展開。Mode:Final Strike。

皆さん、射線から外れてください!
「全力魔法」氷の「属性攻撃」「衝撃波」を乗せて。
Elemental Cannon Fire!
ぼくの全力です。これで片割れだけでも討滅出来れば。

人はいつまでも揺り籠に収まってはいられません。自分で立って歩くのが人間です!


ワルゼロム・ワルゼー
我が団員と共闘する予定だったが…やれやれ、遅れたようだ

…しかし、嗚呼覚えている、覚えているとも
かの村人共が新しき地に移って尚、凄惨な目に遭うているか
なれば幾たびも救おう、それが我らの役目ぞ

白石・明日香(f00254)と共闘
あちらが存分に暴れている間に、
『布教は数こそ力なれば』でチルゼー軍団を召喚し、
気絶や怪我をした聖女達を砦の方へ運んで避難させよう
ボスが妨害してくる場合は【高速詠唱】【属性攻撃】による相殺、
または身を挺してガード
「貴様らが村人の罪を断じ、罰を与えるというのなら、我らもそれに倣ってよかろうな?」
避難をある程度終えたら、チルゼー軍団を爆撃の援護へ切り替え
隙を見て渾身の一撃を加えるぞ


天星・暁音
お断りだよ
本当にそこが優しく温かい場所だとしても未来永劫とか冗談じゃない


敬輔さんの様子だとあの人達は…
…まあ、俺が言えるのは戦いたくないなら戦わなくていいし戦うのなら覚悟は決めろとしか…ね
実際に伝えるかは状況次第だし、戦えないなら避難させたいけど…
これは本人が見届けなければだから、それは出来ないね
激情に囚われて戦うならどうにかして止めたいとこ、きっと後悔すると思うし…うーん水でも被って頭冷やしなさいってならないといいけど…

ハープ奏でつつ子守歌を歌で相殺しなが出来る限り仲間の戦意を維持させ回復させ続けます
啓輔が動けないなら最優先に庇う対象として庇い続けます

スキルUCアイテムご自由に
アドリブ歓迎


司・千尋
連携、アドリブ可

何か面倒な事になってきたな…


見殺しにするのも寝覚めが悪いし
聖女達の避難完了までは防御優先
『錬成カミヤドリ』を使い
複数の紐を網状にしたり引っ掻けたりして聖女達を安全圏まで運ぶ


基本的に攻防ともに『錬成カミヤドリ』で全方位から攻撃し
敵に紐を絡めて行動の阻害を狙う
近接や投擲等の武器も使い
範囲攻撃や2回攻撃など手数で補う

噛みついてきたら口を紐で塞いだり
首絞めたりして邪魔してみよう


敵の攻撃は細かく分割した鳥威を複数展開し防ぐ
割れてもすぐ次を展開
オーラ防御も鳥威に重ねて使用し耐久力を強化
回避や迎撃する時間を稼ぐ
間に合わない時は双睛を使用
聖女達への攻撃は最優先で防ぐ



闘えないなら下がれよ
邪魔だぜ


宮落・ライア
はぁん。宿縁持ちがいるのか。
じゃ、ボクは救助にでも精を出そうか。

攻撃は大体威嚇目的で近付いてきたらする程度に留めるけれど、
構わず間合いに入ってくるなら行動を見切って肉を切らせて骨を断つ覚悟で捨て身の殺意を込めて斬りに行くよ。
そう簡単に切れないかもしれない? 筋の鎧も骨の硬さも断って見せるさ。

来ないならえっちらおっちら怪力で一度に二人程度は小脇に抱えてダッシュで離れた場所において来るさ。

まぁ相変わらず精神攻撃は『狂信者の心』とか気合で。
というか親とか言われると殺したくなる。
殺意リストの中で悪と同列かもしくはその上。
まぁ最上位で殺したくなる存在だよね。
私の親と名乗る存在みんな死ねばいいのに。


森宮・陽太
【SPD】
アドリブ連携大歓迎

…くそっ、そういうことか!
これはまた…何ともやりづれえ…
どこからどう歪めばこうなりやがる!

俺は敬輔の援護に回る
すまねえ、聖女たちへの対応は任せた!

「高速詠唱、魔力溜め」から【悪魔召喚「サブナック」】
サブナックには敬輔の護衛専念を厳命
もし敬輔が噛みつきや子守歌の影響を受けそうになったら「かばう」
サブナック自身への影響は命令に忠実である「覚悟」でできるだけ緩和
受けたUCはコピーしお返し
できるだけ奴らの戦意を削げれば

俺は奴らの行動をできるだけ牽制
デビルカード(フォルカロル・暴風)を「投擲、制圧射撃」し
局地的な暴風を巻き起こし動きを封じる

敬輔
どう決着をつけるかはてめえ次第だ


館野・敬輔
【POW】
アドリブ大歓迎

現れたのは変わり果てた両親(生前の記憶の有無お任せ)
あの日、俺と妹に逃げろと叫んだ後
俺の目の前で吸血鬼に噛まれ落命したはず

両親が本当に求めているのは俺か
吸血鬼と化したならこの手で討ち取らないと
揺らぐ心は再び絶望に閉ざされ
指定UCが勝手に発動

両親が正気を取り戻すとは思えず
しかし俺の身に宿る呪詛を解くためには倒すしかなく
絶望と吸血鬼狩りの業に突き動かされ両親を滅ぼそうと

諭され気づく
…これは復讐じゃない
両親を吸血鬼から解放する為の戦い
…なら、迷わない
ふたりの子として最後の務めを果たすだけ

もし両親が正気に戻っていたら会話
その後心臓を一突きした後躊躇いつつ吸血
魂が残れば黒剣へ吸収


ルーファ・カタラ
※アドリブ、他の人との絡みOK

普段お世話になってる人の知り合いがいるからお手伝いにきてみたよ
後方支援はまかせろー!

他の皆が戦闘に専念できるように聖女達の回収作業をするよ
敵の攻撃に巻き込まれそうな危険地帯から優先しようかな
比較的安全そうな遠距離からサイコキネシスを使って回収だー!
手伝ってくれそうな人がいたら協力したいな
でも回収作業が私1人で大丈夫そうなら戦闘に参加してもらった方がいいかも?

回収作業完了したら遠距離からサイコキネシスと聖刃を使って攻撃だー!
他の皆の足を引っ張らないように気をつけるよ
近寄ると危ないから敵の位置は確認して距離とっておこう…


真面目な空気に耐えられなーい
お弁当食べようかな


真宮・響
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可能)

優希斗予知のダークセイヴァー依頼と聞いてね。悪い予感がしたんだ。遅くなってすまないね。

この二人は・・・夫婦か。敬輔に良く似てるみたいだが・・・(敬輔の様子を見て)成程。歳はアタシの少し上ぐらいか。同じ母親として、見てられないね。

敬輔のフォローは子供達に任せた。(敵に向かって)アンタ達が子供達を求めるのは人の親だったからか。気持ちは良く分るが、人の都合も考えない親の愛は見てられない。せめて同じ親として、正面からアンタ達の気持ちを受け止めるよ。

【オーラ防御】【見切り】【残像】で敵の攻撃の被害を減らし、【気合い】を込めた竜牙で攻撃する。


真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

急な要件と聞き、急ぎ駆けつけましたが・・・成程、このお二人が敬輔さんのご両親・・・

あんな物騒な事いうご両親を見れば、敬輔さんが平静でいられるはずありません。ただ、吸血鬼は弱った所につけこむもの。トリニティエンハンスで防御力を上げ、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】で防御を固め、敬輔さんを優先に【かばう】。必要ならば敬輔さんに【オーラ防御】を併せた【結界術】を。

敬輔さんならば、本来のご両親を知っているはずです。子供ならば、歪んだご両親を元に戻すのはなにより子供さんの役目のはずです。さあ、前を向いてください!!


神城・瞬
【真宮家】で参加(他猟兵との連携

悪い予感がして、急ぎ駆けつけてみれば・・・敬輔さん。とうとう、ご両親に会ったか。しかも、吸血鬼化した。

ただでさえ敬輔さんはあんな状態だ。狙われるのは必須だ。自分は【オーラ防御】して、月光の騎士で移動距離を犠牲に装甲値を倍にしてひたすら敬輔さんへの攻撃を【衝撃波】【吹き飛ばし】で迎撃する。いざとなれば【マヒ攻撃】【鎧通し攻撃】を併せた【結界術】を敵に、【オーラ防御】【結界術】を敬輔さんに。

敬輔さん、君はひとりじゃない。初めて会った時から、君は僕に取って特別な存在だった。良く似た経験をし、共に苦難を乗り越えた。ここで君を失いたくない。だから!!


文月・統哉
オーラ防御展開
攻撃見切り武器受けで応戦
仲間と連携し
聖女達の命を護り戦いながら
情報を整理し状況を確認する

敬輔の様子が気になる
彼らが両親なのか?

彼らは吸血鬼だ
行動は既に敬輔の知る両親ではない
確実に倒す為には
このまま吸血鬼として対峙する方が
『復讐者』敬輔にとっては楽なのかもしれない

それでも俺が振るうのは
祈りの刃

彼らが攫った子供を吸血鬼として自分達の子供としていたなら
その執着の源はきっと
別たれた本当の子供達への想いなのだと思うから

吸血鬼としての邪心が彼らを歪ませているのなら
俺の役割はその邪心を断つ事

子を想う彼らの本当の想いを
子の歩みゆく未来への願いを
彼ら自身の言葉で敬輔へ伝えられるように

願いよ、届け!


パラス・アテナ
不採用可

オブリビオンになっちまうくらいだ
アンタ達は子供を守りたかったんだね
確かに親は子供を煉獄のような現実から守るためなら何だってするさ
アタシにも覚えはある
だけどね
子供なんてのは親がいなくても育つもんだ
揺籃が必要なのは赤ん坊だけでね
その後は背中を見守るくらいで丁度いい

猟兵の援護に回るよ
鎧無視攻撃、2回攻撃、一斉発射、マヒ攻撃で牽制して指定UC
連中は基本的に近接型だ
聖女の前で援護して守りも固める
敵の攻撃は見切りと武器受け第六感で回避
激痛耐性と継戦能力で戦線維持

離れていてもどこかで見守ってくれていると思うだけで
強くなれるもんだ
経験者は語るさ
敬輔もアンタ達も
お互い遠くから見守っておやり

骸の海へお還り




「そ……ん……な……」
 その、2人の男女の吸血鬼を目の辺りにして。
 溜息を漏らす様な掠れ掠れの声が、館野・敬輔の口から漏れ落ちる。
「はっ……漸く現れやがったか」
 そんな敬輔の様子に斟酌せず、ペロリと舌舐めずりを一つする白石・明日香とは対照的に、それまで敬輔の肩に慰める様に手を置いていた文月・統哉が、眉間に皺を寄せた厳しい顔付きで、現れた2人の男女を鋭く目を細めて見つめながら、クロネコ刺繍入りの緋色の結界を展開した。
「まさか……彼等が?」
 チラリと一瞥しそう敬輔に問いかける統哉だったが、敬輔は生気を失って蒼白となり、その全身を振るわせている。
 その態度が真実を、何よりも物事を雄弁に語っていた。
 そんな敬輔の姿を一瞥した男女の吸血鬼が、チロチロとその口元に生える犬歯を威嚇する様に伸長する。
「あの子達を倒すなんて、何時からそんなに悪い子になったんだい、敬輔?」
 その、男……モトキの問いかけに。
「……っ!?」
 赤と青のヘテロクロミアを白黒させ、頭を殴られた様な衝撃を受ける敬輔。
 瞬間、ふわり、とモトキが掻き消える様にその背の漆黒の翼を羽ばたかせ、突風と共に、漆黒の無数の残像を生み出し、敬輔に肉薄。
 一方、ミユキの真紅の両眼から迸るは、慈愛に満ち満ちた閃光。
「さあ、子供達。貴女達は、私達親に従順であれば良いのです」
 告げながら深き慈しみの心の儘、その場に昏倒している10人程の聖女達にミユキが閃光を叩き付けようとした、正にその時。
「すまぬのう、明日香団員。我は出遅れてしまった様であるな」
 その嘆息と、共に。
 姿を現した345体の教祖さま人形(爆弾搭載型)が、ミユキと聖女達の前に立ち塞がり、ミユキの牙が解き放たれる。
 その牙に噛み砕かれれば、如何な教祖さま人形とて、誤爆する可能性を免れぬか、とその手のネクロオーブを先端に嵌め込んだ杖より、教祖さま人形を呼び出したワルゼロム・ワルゼーが次の一手に向けての思考を張り巡らす様に、口元に手を当て考え込んだ、その刹那。
「おおっと、あなた達の好きにはさせないぞー!」
 その右腕をクルクルと回る、数本の光の剣を、光の結界の様に張り巡らせ。
 にっぱり笑顔でそう告げて割り込む様にその前に立ったのは、茶髪の娘、ルーファ・カタラ。
 ルーファの咄嗟の防御に庇われた教祖さま人形(爆弾搭載型)達がよいしょ、よいしょと、数十体単位で聖女達の周りに集まり、聖女達をせっせと担ぎ上げ。
 そのままヨチヨチ歩いて回収作業をするのを、ミユキが追いかけようとした、正にその時。
「さっさと死にやがれ、テメェ!」
 緋色の残像を曳きながら、横脇から駆け込む様に呪剣ルーンブレイドと、全てを食らうクルースニクを抜刀し、其々に刃を打ち振るう明日香の其れにミユキが、ひょい、と優雅な足取りでドレスを風に靡かせて後退する。
 唖然とする敬輔に、モトキが喰らいつこうとした、その直前。
「敬輔さん!」
 蒼穹の風が、不意に敬輔と統哉の前を舞う。
 そこから聞こえてくるのは、悲痛にも、勇敢にも聞こえる凛とした鋭い声。
 モトキの鋭い犬歯を受け止め、銅鑼の様に鈍い音を立てるエレメンタル・シールドと共に姿を現したその声の主、それは……。
「……奏か!?」
 統哉の呼びかけに、エレメンタル・シールドの主、真宮・奏がはい、とその紫の瞳に力を込めて首肯する。
 同時に殺気が、モトキを横殴りする様に迫った。
 その殺気と共に、唐竹割りに振り下ろされたブレイズブルーを間一髪、身を引いて躱したモトキをちらりと見やりつつ、現れた真宮・響が統哉を一瞥しペコリと小さく頭を下げた。
「前に優希斗が予知して、アタシ達が協力して解決したダークセイヴァーで起きた事件と聞いてね。悪い予感がしていたんだが……遅くなってすまないね」
「……お前、達……」
 呟く、敬輔の、その後ろで。
「敬輔さん、下がって!」
 鋭く焦った凜々しい声音と共に、解き放たれるのは月光の輝きを灯した衝撃波。
 風の様な衝撃が、モトキのバックステップの勢いを更に強めてよろめく様に後退させる。
「ヤレヤレ、千客万来とはこのことを言うんだろうね」
 溜息を漏らすモトキがその紅の瞳に映し出したのは、月の魔力が籠められた月虹の杖の先端に、一族に伝わる月読みの紋章を描き出した赤と金のヘテロクロミアの瞳を持つ、神城・瞬。
 瞬の心配と共に発せられたその声に、ノロノロと敬輔が後ろを振り向いた。
「瞬……」
 茫然自失の儘に呼びかける敬輔に、瞬が鋭く細めた両目で直ぐに態勢を立て直したミユキとモトキを睥睨しつつ、何も言うな、とばかりに優しく頭を横に振る。
「事情は大凡、分かりました。とうとうご両親に会ったのですね、敬輔さん。しかも……吸血鬼化した」
 それは憐れみでも、同情でもなく。
 彼を落ち着かせようとする瞬の確認に、ノロノロと敬輔が首肯する、その間に。
「……くそっ、やっぱりそう言うことかよ! 敬輔! 統哉! 明日香! 無事か!?」
 怒声と共に姿を現したのは、森宮・陽太。
「……来たんだね。瞬さん、奏さん、響さん。それに……ルーファさんも」
 空中から奏達が現れる蒼穹の風を確認した天星・暁音が、その身に刻み込まれた共苦の痛みから発される激しい痛みに脂汗を滲ませながらも問いかけると、月虹の杖の真の力を解放するべくその杖に魔力を籠め始めた瞬がはい、と静かに頷き返した。
「遅くなってしまい、すみません。此処からは僕達も加勢します」
「かの村人共が、新しき地に移って尚、凄惨な目に遭うているのだ。ならば幾度でも救う事こそ、我等の役割。そうであろう?」
 確固たる意志と共に頷く瞬に同意して、鷹揚とした笑みを浮かべるワルゼロムに、統哉がありがとう、と頷いた。
 その間に……。
「もう、戦いは始まっているのね」
 抑揚の無い声で。
 淡々と告げながら陽太の後ろを追いかけてきたリーヴァルディ・カーライルと共に、刀の濃口を切り我等の血、我等の骨、我等の肉を、セスタスに変形させた、宮落・ライアがはぁん、と何かに納得した様に頷いている。
「もしかしてあれ……敬輔さん、だったっけ? 君の宿縁者?」
 興味深げにクリクリと、愛くるしい赤い瞳で舐める様にその背を覗き込む様にしながら問いかけるライアに、敬輔の背の震えが、より一層激しくなった。
「そういう訳で、ライア! リーヴァルディ! 悪いが聖女達の保護は任せたぜ!」
 答えられぬ敬輔の代わりに陽太がそう告げ、ライアが其れに頷いた、その刹那。
 モトキに支えられる様にしたミユキがおお、と何処までも哀しげにヨヨヨ……とその両目から涙を零した。
「嗚呼……嗚呼……何という事なのかしら? あんなに誰にでも優しく愛を持って接することの出来たあの子が……私達を殺そうとするなんて!」
 悲鳴の様に金切り声を上げるミユキのそれに愈々、敬輔がその両肩を震わせる。
「それだけじゃないよ、ミユキ。あの子達は、敬輔の新しい兄妹になるあの子達……罪なき娘達を、こんな酷い目に遭わせてしまった」
 その、モトキの慨嘆に。
「嗚呼……嗚呼……!」
 両手で顔を覆うミユキの姿に、姿を現した司・千尋が、思わず肩を竦めていた。
「うわあ、何か面倒なことになってきたな、おい。聖女達の半数は生きてその場に倒れているし、オマケに敬輔だったか? こいつの両親の吸血鬼が出てくるなんてよ」
 千尋のその呟きに、同意する様に。
「……子供が欲しいと言うのならば、自分達で作ればいいものを、とも思いますが……こうなってくると、また事情が変わりますね、これは……」
 既に戦場と化していたその場に辿り着くその間に、周囲に展開していた青と白色の小さな魔法陣……それは、氷塊を生み出すもの……に新たなルーン文字を書き刻み、先程まで展開させていた無数の氷塊達を増殖させ、戦場全体を覆い尽くす結界の様に作り出しながら、ウィリアム・バークリーが溜息を漏らした。
 ウィリアムの、その後ろで。
「……嫌な話だね、全く」
 新しい弾倉を素早く籠め直したEK-I357N6『ニケ』と、IGSーP221A5『アイギス』の銃口を、ミユキとモトキ其々に向けつつ、パラス・アテナが静かに頭を横に振った。
 達観した光を称えるその黒い瞳には、諦念と共感が漂っている。
「何がだ、パラス?」
 パラスの漆黒の瞳の奥に宿る、その光に興味を持ったか。
 からかう様な笑みを浮かべて問う千尋に、何、とパラスが重苦しい息を吐いた。
「オブリビオンになっちまうくらいだ。それだけアイツらが子供を守りたかったんだ、と思うとね……」
 感傷の様な何かが顔を過ぎるパラスに。
 ミユキとモトキの次の動きを警戒しつつ、そうだね、と響が静かに頷いた。
「……そういう意味では、アタシ達も似た様なものか。あいつも……律も、道を違えば、こうなっていたんだろうか?」
「母さん……」
 響の沈痛な呟きに。
 奏がそっと労る様に声を掛けるが、感傷を振り払う様に首を横に振った響が、奏、瞬、と、呆然としたままの敬輔を気遣う子供達に呼びかけた。
「アンタ達、敬輔のフォローは任せたよ。それまでは……アタシ達が相手をする」
 決然たる決意を、ブレイズブルーの青白き炎に乗せて。
 それを大上段に構える響に合せる様に。
 パラスが、『ニケ』と、『アイギス』の引金を引き、明日香が残像を曳きながら。
 響と共に、左右からミユキとモトキに肉薄した。

 ――ゴーン! ゴーン! ゴーン!

 白鐘が鳴る。
 何処か虚ろな空気を醸し出す、その戦場を照らし出す様に。
 その、重厚な音を鳴り響かせた。
 

「あの子達を倒したのか。いけない子達だね、君達は」
 ルーファとワルゼロムの避難で、聖女達の横たわる数が40人程に減った戦場に。
 集ってきた陽太達の姿を見て、やれやれ、と言う様に軽く頭を横に振るモトキ。
 目前に迫る明日香の全てを食らうクルースニクの血色の一閃と、響の大上段から振り下ろされるブレイズブルーの斬撃を、その場でステップを刻んで軽やかに舞う様に躱しながら、モトキが自らの背の黒の両翼を翻す。
 翼が翻されるや否や、放たれた突風が響達に合わせてパラスが解き放った無数の銃弾と言う名の『剛』を『柔』の如く受け流すとほぼ同時に、口元の犬歯を閃かせてパチン、とすかさず指を鳴らすと。
 鳴らされた指の音に応じた烈風が、刃と化して戦場全体を襲った。
 けれども……。
「やらせませんよ!」
 呟きながら、ウィリアムが左指を自らの前面に展開した無数の魔法陣に突っ込み、すかさず氷と白の魔法陣の中を書き換えていく。
 増殖して周囲に漂っていた無数の氷塊が動き出し、ライア達猟兵に向けて発射された無数の風の刃とぶつかり合って爆ぜて雲散霧消。
 だが、その氷塊の群れだけでは、倒れ伏す聖女達を狙う風の刃までは抑えきれない、と一瞬ウィリアムが歯噛みをした、その刹那。
「おっと、好きにはさせないぜ。見殺しにするのは流石に寝覚めが悪い」
 千尋がすかさず左手を挙げて、コンパスで円を描く様にその手を動かす。
 其の動きに合わせる様に。
 85の結詞……飾り紐が不意にその姿を曝け出し、まるで其々に意志持つ人形と化して動き出した。
 ある紐は幾重にも重なり合って網状の結界と化して、風の衝撃波から聖女達を守る盾となり。
 ある紐は伸長して、モトキの双翼を絡め取る縛鎖の様にモトキに絡みつかんと、その身に迫る。
「おい、ライアにそっちの光剣使い。取り敢えず聖女達を安全圏に逃がしてやれ」
「オーケー、オーケー、千尋さん。まっ、宿縁者がいるなら救助に精を出すのも悪くは無いか」
「後方支援ならまかせろー!」
 飾り紐を操りつつ軽薄に告げる千尋の其れにライアが頷き、千尋の結詞の網が守る聖女達の方へと駆け出して素早く2人程を両脇に抱える様にして、運び出し、更に教祖さま人形(爆弾搭載型)たるチルゼー軍団を庇う様に前に立ったルーファが、千尋の求めに応じて、ばっ、とすかさず手を挙げた。
 挙げられた手から放たれた視認出来ないサイキックエナジーが聖女達の3人程を纏めて掴み取り、そのままズリズリと引き摺る様に聖女達を後方へと導いていく。
「皆、ウィリアムさんの呼び出した氷塊の裏側に下がって」
 空中からその様子を見て取っていた暁音の呼び掛けに応じ、聖女達をそのまま氷塊の裏……比較的安全地帯とも言えるホーリーベルの開かれた門扉の向こうへと連れ帰っていくのを見つめて、あら、と微かに感心した様に、ミユキが口元を綻ばせた。
「未来の私達の子供達。少しは罪の意識がある様ね。私達の子供達を連れて逃げ出すなんて、感心、感心。でも、あなた達はそんなことをせずとも、私達の言う事を聞いて、温かな揺籠の中で永遠に良い夢を見続けていれば、それで良いのよ」
 嘲笑ともとれる、その言葉と共に。
 ミユキが不意に、歌い始めた。
 透き通る様な美しい声で、戦場全体に響き渡る甘く蕩けてしまいそうな程に、優しい子守歌を。
 それは荒んだ心、戦場全体に浸透していく美しい子守歌。
 その歌声を耳にした敬輔が、体を凝固させた儘に、その瞳から滂沱の涙を流す。
(「ああ、これは……この、歌は……」)
 ――それは、幼いその頃から。
 妹……加耶と共にずっと一緒に聞かされていた……故郷の里に伝わる揺籃を思い出させる子守歌。
 ――♪
 その子守歌を打ち消すべく明日香が素早く其方に駆けだそうとするが、その時には既に響の一撃を躱す様に、タン、と足場を蹴って横っ飛びの要領で明日香の前に回り込んだモトキがその前方を遮っている。
「ちっ……邪魔をするんじゃねぇよ!」
 美しき歌声に体を打ち振るわされ、がくり、と大きく体から力が抜けていくのを実感しながらも、明日香はそれを振り切る様に自らの唇を嚙み締め、その血を滴らせて辛うじて耐え凌ぎ、その喉笛に喰らい付くべく、自らの牙を突き立てようとする。
「明日香殿! 無理は禁物ぞよ!」
 同じく耳に浸透するにつれ、不退転の筈の決意が灯の様に揺らめくのを感じながらも、団員の危機を察知し、声を投げかけるワルゼロム。
 しかし、そんな明日香の牙すらも読んでいたのかモトキは口元に穏やかな笑みを称えた儘、その牙を片腕で受け止めていた。
「おやおや、未来の子供達。もしかしてこれは、反抗期と言うやつかな? 駄目だよ、君達にはまだ早い」
 柔らかく告げるモトキの血の様に美しい瞳に宿るその理性に、ちっ、と明日香が内心で舌打ちを一つ。
(「こいつ……まだ、ユーベルコードを発動していないのかよ……!?」)
 まあ、それは……。
(「――我も同じこと」)
 そう心の裡から響いてくる声に口元に不敵な笑窪を刻み、そのままモトキの腕に突き立てた牙を更に食い込ませていく明日香。
 モトキはそれに嫣然たる笑みを浮かべた儘に、素足をすかさず明日香の足に引っ掛ける。
 目にも止まらぬ早業に明日香が思わずその場に頽れた。
 頽れた明日香にその手をモトキが振り上げた、その直後。
「くっ……やらせないよ!」
 歌声にその身を蝕まれ、その燃える闘志が揺らいでいくのを感じながら、響が大地を蹴って、空中で一回転、ブレイズブルーを振り下ろす。
 大振りで敢えて気を引いたその攻撃に、モトキが分かっていた、とばかりに一歩後ろに下がり、その攻撃を躱したその刹那。
「確かに親ってのは、子供を煉獄の様な現実から守るためには何だってする……そういう存在さ」
『アイギス』と『ニケ』のグリップに取り付けたスイッチを押し、銃弾を、スタンガンモードに切り替えながら。
 すかさず横っ飛びしたパラスが静かにそう呟く。
「それはアタシにも、覚えがある」
 ――それは、戦火の中で散っていった子供達。
 彼等の事を思い出して、一瞬、目の前が暗闇に覆われそうな拭い難き絶望を思い出しながらも、其れを振り切る様にトリガーを引き、電磁弾を撃ち出すパラス。
 再び、モトキがそれを躱そうとした、その直後。
「おっと、今がチャンスだな」
 その、闇の中に紛れる様に。
 自らの本体である飾り紐の模造品達を、密かにモトキの周囲に張り巡らせていた千尋がすかさずその紐を引いた。
 引かれた紐が、その千尋の動きに合わせる様にばっ、と闇からその姿を曝け出して、パラスの乾坤二擲の銃弾を避けられぬ様に、一瞬大量に翼に絡みついた。
 幾重にも絡み取られた合わせ紐は、それそのものだけでは大した力は出ないが、それでも僅かにモトキの重量バランスを崩す事は出来る。
「あ……あれ……?」
 完璧なタイミングで避けた筈の銃弾が、モトキの胸に的中した。
 けれども、痛みは感じない。
「悪いお母さんだね、君は。私に鉛弾を喰らわせるなんて」
 淡々と告げるモトキに、パラスがフン、と思わず鼻を一つ鳴らした。
「成程……。アタシはそういう認識か。確かにアタシには、『子供』なんて言葉は似合わない」
 けれども、この銃弾には特性の麻痺毒が仕込まれている。
 まだ当たった数は少ないが、それでも当てていけば確実に動きが鈍る。
 そう冷静に判断するパラスだったが、一方でその心の裡の声の抑揚は欠けていた。
 何故なら……。
 ――♪ ♪ ♪
 ミユキの声は、聞き惚れたくなくとも自然聞き惚れてしまう程に美しい歌だから。
 その地上での状況を、空中から目を鋭く細めて見つめながら。
(「これは……まずいね」)
 先程迄、マグマの中に飛び込んだ様な灼熱感を痛みとして伝えていた共苦が、温かくも、凍てついてしまいそうな悲鳴の様な痛みに変わりつつあるのを感じながら、暁音は思う。
 それは、復讐心でも、愛情を傷つけられたことへの痛みでもない。
 ただ、この戦場がオブリビオンに……吸血鬼に支配されていく事に対する、世界の嘆きへの痛みだ。
(「ならば……」)
 内心で暁音が覚悟を決めた、正にその時。
「さあ、敬輔。そして、新たな未来の子供達。そして、私達の母となるかも知れぬ者達よ。私達と一緒に、優しく温かな揺籃の中に一緒に行こう」
 ミユキの歌にその力を削がれる明日香達に向けて、大仰にモトキが語る。
 でも……。
「……お断りだよ」
 失われそうになる気力を、共苦の痛みで強引に堪えながら。
 星具シュテルシアをハープに変形させて、暁音がきっぱりとそう告げた。
「例え、君達の言うそこが、本当に温かく優しい場所だとしても、未来永劫とか……冗談じゃない」
 ポロン。
 そっとハープの弦を爪弾き、美しき調べを奏で始める。
(『癒しの歌よ。響け、遍くこの世界へ』)
 そう祈りを籠めた暁音の調べが、戦場を包み込むミユキの歌と混ざり合い、互いの想いを貫くべく踊り始める。
 空中で自らの生み出す調べにその身を浸しながら、暁音は、奏や瞬、そして陽太と統哉に守られる、敬輔をちらりと見やっていた。
(「彼に、俺が言える事はあるけれども」)
 未だ、伝えるべき時ではない。
 ……まだ戦いが始まったばかりの、この状況では。
 だから暁音は、今は自らの奏でる調べに全神経を注ぎ込む。

 ――ミユキの歌に気力を奪われつつある明日香達を守るために。


「……助けると決めた以上は、最後まで面倒を見るけれど」
 その、暁音の歌声を聞きながら。
 ライアやルーファがまだ避難させられていない、十人程の聖女達をその背に庇いながら、リーヴァルディがそっと独り呟く。
 白き鎧装をその身に纏い。
 過去を刻むその鎌に、仄かな蒼白い輝きを伴いながら。
 聖装を纏ったダンピールの少女は優しく、語り掛ける様に言の葉を紡ぎ続けた。
「貴女達も、今まで世話になった吸血鬼達に、返礼はしたいわよね?」
 白き鎧装から放たれる清浄なる白き光のオーラと、暁音によって紡がれ続けるその歌にその身を委ねて、ミユキの精神干渉を完全に遮断して。
 トクン、トクン、と鳴る穏やかな自らの心臓の鼓動に耳を傾け、その胸にそっと自らの左手を置きながら。
 紫の両目で戦場を見渡したリーヴァルディは、暁音の歌を聞きながらルーンソード『スプラッシュ』の鍔に取り付けられた『スチームエンジン』を起動、組み込まれた影朧エンジンを活性化させ、全身に青、と表して差し支えない氷の精霊達を身に纏い、『スプラッシュ』で先程迄とは明らかに異なる術式の魔法陣を描き出すウィリアムに問いかけた。
「……どうやら、あの吸血鬼に対しては、因縁浅からぬ者がいるみたいね?」
 その、リーヴァルディの問いかけに。
「ええ……正直なところ、ぼくは瞬さん達程、その事に詳しくはありませんが。ただ……そうと匂わせる程度の関係が彼……敬輔さんと、あの2人の吸血鬼にあることは、知っています」
 そう、呟きながら。
 描き上げた複雑な紋様の魔法陣の中心に『スプラッシュ』の先端を突き立て、ぐい、と『スプラッシュ』を引き抜くウィリアム。
 その魔法陣の向こうから現れたのは、大砲の如く巨大な魔導砲。
 そのトリガーを自らの脇に引き寄せ、がしゃり、と音を立てて姿を現したアクセルにウィリアムが足を掛けると、巨大な魔導砲……正式名称、魔導原理砲『イデア・キャノン』のコンソールが浮かぶのを確認した。
『Elemntal Power……チャージ開始……』
 かたかたと手早くコンソールにパスワードを入力、『イデア・キャノン』の各機能を起動させていくウィリアムの様子を見ながら、そうなのね、とリーヴァルディが静かに首肯した。
「……その割には、まだ動いていないみたいだけれど?」
 その、リーヴァルディの問いかけに。
「……恐らくあれは、動いていないのではなく、動けていないんだろうな」
 結詞を操りながら、皮肉気な笑みを浮かべ呟く千尋に、そういうものかしら、とリーヴァルディが軽く小首を傾げている。
(「でも……」)
「……ケリは、自分の手でつけるべきでは無いかしら?」
 そう問うリーヴァルディに対し、千尋は軽く肩を竦めてみせた。
「さてな。俺は知らんが……その辺りどうなんだ、パラス?」
 その、千尋の呼び掛けに。
「……それはあの子達次第だよ、千尋、リーヴァルディ」
 特製の麻痺弾をお見舞いしたところで、再びスイッチを切り替えながら、思わず舌打ちを一つしたパラスが答える。
 そのパラスの応え、リーヴァルディが静かに頷き。
「それなら、此度は援護に回りましょうか」
 そう告げるや、否や。
 ――轟。
 充填率100%以上と化した時に生まれる圧倒的な精霊力を抱く『イデア・キャノン』の力に勝るとも劣らない、莫大な純白の魔力の塊がリーヴァルディの全身を覆った。
「えっ……リーヴァルディさん!?」
 思わず見入る様に息を飲むウィリアムに、リーヴァルディは何も答えず。
「……来たれ。世界を調律する大いなる力よ!」
 かっ、と両目が真紅と化し、その左目に名も無き神との契約印を浮かび上がらせ。
 聖霊鎧装が純白のウエディングドレスを思わせるそれへと姿を変え、腰まで届く程の銀髪を、白百合を思わせる風に靡くその姿を現しながら。
リーヴァルディは……『名も無き神』と契約し、彼女の救世の誓いに答えた精霊や霊魂達の力を借りる『呪騎士』とも呼ばれる、その少女は。
「傷付き倒れし彼の者達に、仮初めなれど与えよ、光を……!」
 そう、高らかに世界に命じてみせた。
 その命に、応じる様に。
 ルーファとライア、そして千尋がまだ回収しきれていなかった20人程の聖女達の上に、光球がふわりと浮かび上がった。


「これは……光の精霊……!?」
 次の娘達を砦の中に運び込む。
 そうしようとしていたライアが今の状況に思わず息を呑んだのは、当然であろう。
 何故なら気絶している聖女達の体が、今、正しく光の精霊と化していたのだから。
「えっ、ええっ!?」
 同じくサイキックエナジーで次の聖女を運び込もうとしていたルーファもその姿に目を丸くしている。
 そんなライアやルーファの驚きをものともせず、鈴の鳴る様な声で、リーヴァルディがライア、ルーファ、と2人の名を呼んだ。
「聖女達の魂を、一時的に光の精霊と化しているだけよ。まあ、これは、あの子達の、あの吸血鬼達への返礼も兼ねているのだけれども」
 最も、全ての聖女達を、光の精霊達に変えたわけでは無い。
 無意識の内に其れを望んだ聖女達だけを、リーヴァルディは一時的に光の精霊達へと昇華した。
 つまるところ、ライアやルーファ、そしてワルゼロムがウィリアムの氷盾の向こうにある安全地帯……即ち砦の内側に聖女達を避難させた事は、決して無駄にはならないのだ。
「ふう~ん、まあ、一応そう言うことで納得はしておこうか。さて、それじゃあボク達は……」
「取り敢えず、私は後方支援といこうかー! ……まだお互いに本気になっていない感じだし!」
 何かを期待する様に、軽く肩を震わせるライアのそれに、レッツゴー、と言わんばかりに元気一杯拳を振り上げ、響に明日香、暁音の歌の相殺の援護も手伝い、敬輔を庇いつつ戦列に加勢している統哉の様子を見て取り、張り切るルーファ。
 そんな間にもリーヴァルディの意志に応じること無く、意識を失ったままであった最後の10人をワルゼロムの呼び出した教祖さま人形(爆弾搭載型)が、戦場外へとよいしょ、よいしょと運び出し。
 陽太は奏と共に、ミユキとモトキの動きを注視し、そして瞬は巨大な月読の紋章を思わせる月虹の杖を握り締め、祈る様にその力を解放している。
 漸く人々の避難が完了し、そのまま戦列に加われることが可能となったライアやルーファの意気軒高な様子に、口元に思わず微笑を浮かべ、ならば、とリーヴァルディが言の葉を紡いだ。
「あなた達の援護は、私とあの子達が引き受けるわ。ウィリアムはどうかしら?」
「……充填率、40%。すみませんが、もう暫く時間が掛かります。パラスさん、千尋さん、それまでは……」
「ああ、分かっているよ、ウィリアム。敬輔の方は、まだ暫く時間が掛かるだろうしね。精々時間稼ぎはしておくさ」
 ウィリアムの嘆願にパラスが頷き、千尋がやれやれと言う様に頭を横に振った。
「まあ、ここからが本番って訳だ。……行こうぜ?」
 告げながら足音と気配を殺し、そのまま闇に紛れる様に姿を消す千尋。
 そんな千尋の様子に、パラスが思わず微苦笑を零す。
(「全く……言ったらさっきみたいに動揺しそうだが、これじゃあ、完全に猫みたいだね」)
 恐らく千尋にとっては不本意に違いないであろう評価をパラスは下しつつ、戦場に向かって疾駆するライアとルーファの後を追う様に駆けだしながら、『ニケ』と『アイギス』の二丁をミユキとモトキの方へと向けて、引金を引いていた。


 ――バラバラバラバラバラバラ……!
 先程とは違う、何千、何万とも思える無数の銃弾。
 響達の合間を擦り抜ける様に放たれた無数の弾丸が自らの身に迫るのに気が付き、歌いながらバレエの様に軽やかな足取りで舞い、それらの弾丸を躱していくミユキ。
 モトキがそんなミユキを庇いつつ、明日香達の足止めをしていたため、均衡状態にあったその状況に……。
「行きなさい」
 涼やかなリーヴァルディの指示に従った光球としか認識できない光の中にいる精霊達が、其々の手を繋ぎ始める。
「……むっ!?」
 上空から不意に訪れた殺気に気が付いたモトキが目を見開き、咄嗟に上空を見上げるや否や、光の精霊達は天空から光のシャワーの如く、光線の洪水を解き放った。
 降り注ぐ精霊光が、裁きの雷の如くモトキとミユキを撃ち抜き、それは確かな負傷をモトキ達に蓄積させる。
「うわあ……まさか気絶している私達の子供達を、道具にしているのか!? なんて卑劣で矮小な……!」
「何が卑劣で矮小だ! 俺達の未来の子供だ、何だとか言って、子供達を誘拐していた、歪み切っちまったてめぇらが!」
 舌打ちをするモトキに怒号の様にそう叫びを叩きつけた陽太が、デビルカードを素早く取り出し、すかさず投擲。
「フォルカロルの暴風だ! これで少しの間、動きを止めていやがれ!」
 陽太のその叫びに呼応する様に、荒れ狂う風がモトキを襲い、モトキの体の動きを微かに鈍らせる。
 その間にミユキの歌声に戦意を削がれそうになるのを、暁音のハープの音色に身を委ねる事で無理矢理自らの戦意に火を灯しながら、左手の銃型のサモン・デバイスの引金を引き、獅子頭の戦士の悪魔、『サブナック』を召喚する陽太。
 そして、軽く顔を覆う様にして涙を流し、身動きがとれぬままでいる敬輔に向けて怒鳴り散らした。
「サブナック! 時間ギリギリまで敬輔を守り続けろ! 敬輔! 何時迄そうやって啜り泣いているつもりだ!? このままじゃ、テメェ、何時まで経っても前に進めねぇぞ!」
 陽太のその怒声に。
 子供の様にビクリ、と肩を振るわせる敬輔だったが、ミユキの歌声が少しでも耳に入るその度に、敬輔の脳裏には、まるで回し車を回すハムスターの様に、ぐるぐるとあの時の光景と、優しい両親達の思い出がただひたすらに過り続けていた。
 両親はいつも、自分と加耶の幸せを願っていた。
 一緒に他愛のない食事を楽しみ、そして日々の何気ない生活を送っていた。
 それは、当たり前にある日常。
 こんな、血に塗れた復讐に身を焦がす事の無い……否、自分がそんなことになるとすら思う事なんてある筈の無い、幸福な日々。
 けれどそれは、一瞬で暗転する。
『敬輔! 加耶! 私達の事は大丈夫! 早く此処から逃げろ!』
 それは、悲鳴の様な、嘆願の様な。
 そんな……決して忘れることの出来ない、記憶。
 そして……今。
 ――♪ ♪ ♪
 母は……ミユキは、歌っている。
 あの幸福な日々と同じ、穏やかな慈愛を感じさせる声音で歌い続けている。
 それは……。
「さあ、私達と一緒に行こう、敬輔……子供……こどもたちぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
 突然響いた、その叫び。
 その叫びと共にモトキの長い犬歯が、更に鋭く血に塗れて赤く染まった。
 不意に、剥き出しになったモトキの吸血衝動。
 同時にガラガラと砂の城の様に音を立てて崩れ落ちるモトキの理性。
 吸血衝動を剥き出しにしてまるで生き物の様に蠢く紅の牙を生やしたモトキのそれに、明日香もまた、自らの犬歯を見せつける様に獰猛に鼻息を荒くつく。
「はっ! 漸く本性を現しやがったか! 教祖!」
「うむ、分かっておるぞ、明日香殿。……我が分身ども。給料が欲しければ、キリキリ働くが良い!」
 剥き出しになった牙と共に、圧巻の速度で大地を蹴り飛ばすモトキ。
 その動きを正確に捕らえた明日香の呼び掛けに応じたワルゼロムが、避難を完了させて戻ってきた教祖さま人形(爆弾搭載型)に命じる様に杖を突きつける。
 教祖ワルゼロムの命に応じた人形達……通称爆弾搭載型チルゼー人形達の半数が、その命令に応じて突撃し、次々にモトキに着弾して爆発し熱波と爆風でモトキを容赦なく炙り。
「愚かなる吸血鬼たる汝、虚無に……」
 その、真紅の瞳にまるで切れすぎる刃物の様な剣呑な光を宿して。
 容赦なく全身を炙られ身動きが取れなくなっているモトキに向けて、明日香が彗星の如き勢いで深紅の線を曳いて肉薄し、全てを食らうクルースニクに全てを焼き尽くす灼熱の焔を纏わせて唐竹割に振り下ろした。
 ――それは、あらゆる魔法や精神的な護りを破る、絶対の一撃。
 その一閃が、モトキの背を容赦なく断ちきっていく。
「ガァッ!?」
『……還るが良い!』
 低くそう叫ぶと共に。
 明日香が緋を纏った呪剣ルーンブレイドを燕の様に翻して瘴気の様に濃厚な『血』を漂わせる横一閃を解き放った。
 背後から致命にいたるであろう、十文字の斬撃をまともに受けたモトキのその背からバシャリ、と大量の血飛沫が舞うが、モトキは止まらない。
 血の様に紅く塗り込まれたその牙を、敬輔に突き立てんと振るっていた。
「! 敬輔さんは、やらせません!」
 奏が思わず息を飲み、風の精霊の力を纏わせたエレメンタル・シールドを掲げて、その攻撃を真正面から受け止めるが……。
 ――ピシ、ピシピシピシ……!
 あまりの衝撃故か、エレメンタル・シールドに罅が入り、更にその牙による痛撃が盾を貫通し、奏が盾を構えていた左手にその牙が突き立っている。
 モトキはそのまま牙に伝ってくる奏の血を吸い込む様に息を飲み、明日香が与えた傷を見る見るうちに塞いでいった。
「奏……!」
 瞬が顔を青褪めさせて、月光の衝撃波をモトキに向けて叩きつけ、モトキを奏から引き剥がす。
 けれども、その血の味に飢えたモトキがペロリと舌なめずりをし、すかさず次の攻撃に移らんと、素早くその場に残像の如き光を曳いて、戦場を荒らすべく駆け抜けていこうとする。
「そんなこと……させるわけないだろ!」
 その瞬間、その懐に向かって踏み込んだのは、ライア。
 自分の懐に潜り込んだ新たな『子供達』候補に鱶の笑みを浮かべたモトキがその牙をライアに突き立てようとするが……。
「好きになんて、させるもんかー!」
 溌溂とした叫びと共に、ルーファがその腕の周りを円盤の如く回転していた聖刃……光剣の輪をチャクラム状にして投げつける。
 チャクラム状にして投げつけられたルーファのそれは、偶然にもモトキの首に向かって飛んできていた。
 気が付き、無造作にモトキがそれを手で払いのけ、ライアがすかさず鯉口を切った『刀』を抜き放とうとした、その刹那。
 ――♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
 愛する夫の危機を察したミユキの歌声がより一層の美しさと力強さを際立たせる。
 メロディからすかさずサビへと移行した思わぬ奇襲の様なその歌声に、一瞬、暁音のハープの音色が遅れ、相殺の力を減じさせ、それが、イアの心を蝕み、凄まじいまでの眠気と、全身から力が虚脱する様な、そんな感覚を覚えさせた。
「こんな声に、負けられるか……!」
 そんなライアの叫びに、答える様に。
 ライアの中核を為す、英雄に至る為の狂信者の心……それは、決して揺るがぬ誓いの心……が過剰な迄の光を発し、ばさり、とライアの体に白い法衣を具現化させた。
「こども……私の……ワタシ達の……コドモォォォォォォォォォォォォォ! ワタシは……親であるワタシタチは、お前達をぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 そのライアの勇者然とした法衣など、気に留める様子もなく。
 本能の儘にその血を喰らう牙を法衣の上から胸元にかけてライアに突き立てるモトキ。
 そのモトキの牙は、法衣の上からライアの心臓を容易く貫けるだろう。
 でも……。
「ふざけるな」
 冷たく、突き放す様な声音と共に。
 その牙が自らの法衣の上から心臓を貫く事など重々承知の上で『刀』を抜刀し、居合の一閃を解き放つライア。
 放たれたライアの一閃がモトキの片目を容赦なく断ち切り、その目からぼたぼたと大量の血潮を滴らせた。
「ガ……ガァァァァァ……!」
 よろめきながら後退するモトキの姿を見て、肩を荒げて息をしながら、ライアがその赤い瞳に、憎悪を宿らせてモトキを睥睨する。
「お前に私の親なんて言われるのは反吐が出る。さっさと死んでしまえば良いのにね」
 ペッ、と唾を吐いて捨てながらも、ライアは、傷一つない自分に疑問を覚えた。
(「あの瞬間……こいつと私は、刺し違えていてもおかしくなかった」)
 けれども、現実にはライアは無傷で、モトキは片目を奪われた。
(「一体、何が……?」)
 怪訝に思い、ライアがそっと胸元……心臓の部分に触れようとすると、カシャリ、と何か固い鏡の様な物にその手が触れる。
 それは、細い紐に繋がれた、一枚の懐鏡。
「これは……?」
 ライアが思わず茫然と呟いた時。
「流石に今の瞬間は、肝が冷えたぜ」
 素早く飾り紐……結詞を引いて、一度限りではあるが、全ての攻撃を防ぐことの出来る防御の切り札……懐鏡である双睛を取り戻した千尋が口元に皮肉な笑みを浮かべつつ、軽く額に汗を浮かべて呟いた。
 それから千尋は吸血され、顔を青褪めさせている奏の隣に立つ様にして、唖然とその刹那の攻防を見つめている事しか出来なかった敬輔へと皮肉気で、射抜く様な眼差しを叩きつける。
「おい、敬輔。何を悩んでいるかは知らないが、闘えないなら下がれよ。邪魔だぜ」
 焚きつける様な、千尋の言葉に。
 ――ドクン。
 濃密な深紅の殺気の塊を纏った敬輔が、真紅の光を曳いて走り出した。


「……精霊力、収束85%……あと少しですか……!」
 後方でコンソールを叩きながら、ウィリアムがやや焦った声音でポツリと呟く。
「落ち着いて。大丈夫よ、まだ戦況は私達に有利だから。貴方の仕事に集中して」
 光の精霊達と感覚を共有し、モトキに大きな隙を作るのに貢献したリーヴァルディの宥める様な呼び掛けに、ウィリアムがちらりと其方を一瞥し、すみません、と軽く一礼した後。
「……分かりました」
 そう同意する様にウィリアムが頷いたのに、合わせる様に。
『イデア・キャノン』の砲塔に積層立体魔法陣が展開され、火・氷・風・土・光・闇……相反する精霊達同士が、陰陽の様に塗り固められた魔法陣の1つ、1つへと集結していく。
 氷塊を操るのにも一部の力を割いている分、如何しても魔力の収束に時間が掛かるのは致し方の無い事ではあるが、それでも何とかしたい、と言う思いは容易く消えそうに無い。
(「Converge……」)
 より強くなったミユキの歌に気を取られて沸き上がってくる眠気と無力感を排斥するため、自らの近くに召喚した氷塊を懐に入れて全身を冷やしたウィリアムは、『イデア・キャノン』と完全なリンクを完成させ、術式の完成へと没頭し始める。
 そのウィリアムを一瞥すると、リーヴァルディは軽く自らの銀髪を梳き風に靡かせ、今は、自分と共に在る聖女達の魂……光の精霊達に意識を同調させ……刻一刻と激しさを増す戦場へと、再び集中した。


(「討ち取らないと……討ち取らないと……!」)
 其れまでミユキの歌声にどうしようもなく過去を夢想し、身動きが取れなくなっていた敬輔の目前で行なわれた、奏の血を食らう、父……モトキの姿。
 そして、千尋の一瞥と共に、告げられた言葉。
 その言葉に突き動かされ、着地点を求めて彷徨う心が絶望に覆われ、我武者羅に吸血鬼への復讐を果たすために発動した、『同族殺し』とでも呼ぶべき、自らの力。
 全身から溢れ出す同族殺しの吸血鬼としての力を糧に無我夢中で、敬輔が黒剣を抜剣し、振るう。
 黒剣はその両目と同じ真紅に彩られ……今も尚、吸血鬼の血を求めて彷徨う様に、ただ出鱈目に『吸血鬼』に向けて振り下ろされていた。
「……!」
 不意に襲った共苦の痛みからの灼熱感に、暁音が思わず目を見張る。
(「これは……いけない……!」)
 その灼熱感の源は、世界の痛みであり憎悪……敬輔の中にある激情。
 その激情に赴くままに刃を振り下ろし、モトキを斬り殺そうとする敬輔の姿に、暁音がハープを爪弾きながら叫ぶ。
「ダメだ、敬輔さん! 其れに流されるままに戦うな!」
 怒声と共に放たれた暁音の声を打ち消そうとするかの様に、ミユキの歌声が戦場全体に美しく、強く轟くのに、暁音が思わず唇を噛み締めた。
(「怖れていた最悪の事態になるとはね……まずいか……」)
 内心の焦りを表情には出さず、只ひたすらにハープを爪弾かせつつ、暁音が、響にへと呼びかける。
「響さん、この歌を……」
 暁音の要求に響が状況を素早く見て取り、同じく冷静に戦況を見渡しているパラスへと声を張り上げていた。
「パラス!」
「陽太、統哉、瞬。アンタ達に敬輔は任せた」
 叫ぶ響に頷き、素早く『アイギス』を『拳銃』に持ち替えつつ、『ニケ』をフルオートモードに切り替えながらのパラスの呼びかけに、何も言わずに陽太と統哉が頷き、我武者羅に駆けていく敬輔を追う。
 一方で入れ替わる様にライアと明日香が、ワルゼロムの呼び出した教祖さま人形(爆弾搭載型)の連爆を受け、その白い肌に水膨れを起こしながらも、尚歌い続けるミユキに向かって肉薄していた。
 本能のままにモトキがライアと明日香を横合いからその牙で噛み砕こうとするが、上空に現れたリーヴァルディの操る光の精霊達が幻惑する様に残像を生み出し、そんなモトキをミユキから引き離す。
「……アンタには、正直同情するよ。敬輔の母親だった、アンタにはね」
 呟きながら、フルオートモードの『ニケ』と『拳銃』の引金を引くパラス。
 無数の弾丸が戦場を飛び交い、ミユキに迫る。
 モトキの援護を期待できない、と判断したのか。
 チルゼー軍団の爆発に大地を抉り取られ、逃げ道を少しずつ削り取られながらも尚、歌いつつ流麗な足捌きで逃げる様に銃弾を躱して移動を続けるミユキ。
 だが、そこに……。
「これ以上先には、行かせないのだ~!」
 場に不釣り合いな、賑やかな叫びと共に。
 ルーファがパラスの銃弾でとある場所に追い込まれつつあるミユキの足下の大地を聖刃で抉り、砕かれた破片をサイキックエナジーで操って石礫宜しく、ミユキに叩き付けた。
「ぐっ……!」
 苦痛の呻きと共に、ギリリ、とキツく腕を握りしめるミユキの正面に飛び込んだのは、響。
「そうだね。アタシもパラスに同感だ。ましてや歳がアタシより少し上ぐらいの同じ母親……そんなアンタを、見るには堪えない」
 そう、告げながら。
 青白い自らの猛々しい意志の力を乗せたブレイズブルーによる逆袈裟の一閃を響きが振るう。
 響のその斬撃を横に飛んで躱そうとするミユキだったが。
「お前みたいな奴、私、殺したくて仕方がなくてさ。私の親なんて名乗るお前は、私にとっては悪と同列か……若しくはその上なんだよね」
 冷たく叩き付けられる様な言葉と、ヒュン、と言う鋭い音と共に放たれる銀閃。
 美しい弧を描いた大上段からの銀の輝きを伴う斬撃が、響の一閃を躱そうとしたミユキの体を袈裟に薙ぎ払い。
 其れと同時に、響の大上段からの一閃が、逆袈裟にミユキの体を切り裂いた。
 X字型にその身を薙ぎ払われ、鮮血と共に苦悶の声を上げたミユキが尚、歌おうとするのを止めるべく……。
「これ以上、その耳障りな音を、我に聞かせるな、下郎」
 低く、押し殺した様な声音と共に。
 明日香が緋焔を纏った呪剣ルーンブレイドを逆手に持ち替え、そのまま串刺しの要領でミユキの口の中にねじ込む様に突き出した。
 血を求めて緋色に輝いた呪剣ルーンブレイドの切っ先が、螺旋状に渦を巻きながら、容赦なくミユキの喉仏を貫く。
 悲鳴を上げることも出来ずに血泡を吹きながら、ヨロヨロと後退するミユキ。
 気がつけば、その口から鋭く伸長した瞳と同じ、真紅に塗れた犬歯が姿を現し、同時に、ミユキの両目からライトが消えていた。
「……ッ!!!!!」
 理性をかなぐり捨て、自らに深手を負わせた『子供達候補』に、その血にまみれた牙を突き立てんとするミユキ。
 白いドレスは自らの喉から溢れ出す血と口から吐き出した血泡に朱色に染まり、それがより一層の、悲壮さと凄惨さを際立たせていた。
「守る、まもる、マモル……! あの子を……! コドモタチヲ……!」
 ライトが消え血走ったその瞳と、鬼気迫るその殺意。
 殺意から漂う妄執の様な思いを受け止めたパラスが、静かに頭を横に振る。
「……大丈夫だよ、アンタ。子供なんてのは、親がいなくても育つもんだ」
 最早ほぼ意味を為さない喚き声を散らしながら、襲いかかってくるミユキへと、『拳銃』と『ニケ』の銃口を突きつけたままに、静かにそう告げる、パラス。
 けれども双銃の引金は、まだ引かない。
 ただ、何処か懐かしさを孕んだ声音で、淡々と語る。
「揺籠が必要なのは、赤ん坊だけなんでね。その後は、背中を見守る位でアタシ達母親ってのは良いものなんだ。少なくとも……」
 それ以上の、パラスの言の葉を遮る様に。
 同じく、ミユキから迸る殺気からその想いを真正面から受け止めた響もまた、溜息と共に、小さく頭を横に振った。
「アンタ達も人の親だった。だからこそ……子供達を求めていたんだろう。その気持ちはアタシにも良く分かるが、人の都合も考えない親の愛は、見ていられないよ」
 そう告げて。
 その牙を断ち切るべくブレイズブルーを撥ね上げる様に振るう響の一撃。
 その一閃に牙の一部を欠けさせられ、それでも尚、執念を持って響達を食らわんとするミユキ。
 その、直後。
「……今よ、ウィリアム」
 後方から、リーヴァルディの涼やかな声が響き。
「出力120%……Mode:Final Strike. ……皆さん、射線から離れて下さい!」
 その、ウィリアムの呼びかけに応じる様に。
 響が追撃を掛けようとするライアの手を、明日香がワルゼロムの手を引いて上空に飛んでその場を離脱し、双銃の銃口をミユキに向けていたパラスが其れを下ろして左に飛んだ。
 その、パラスの背の向こう側にいたものは。
『……Release. Elemental Cannon Fire!』
 無数の相反する精霊達の魔力を収束し、全てを凍てつかせる絶対零度の赤→青→黄→緑→白→黒……と、『イデア・キャノン』の先端に収束した巨大な光球を撃ち出すためにその引金を引いたウィリアムと、純白の衣装に身を包んだリーヴァルディ。
 光が……青き光の球がウィリアムの『イデア・キャノン』より発射される。
 あまりにも巨大な氷の太陽を思わせるその光球がミユキを捕らえ、凄まじい轟音と共に爆砕した。
 後には全身を霜で凍てつかされ、絶命しているミユキの体と……ふわり、ふわりと霊魂の様に舞い上がる青と赤の光球のみ。
『ミユキ』の討滅に成功した、と判断したウィリアムが、何処かやりきれない想いを抱えたままに、『イデア・キャノン』を収納しながら呻く様に小さく呟く。
「人は、いつまでも揺籠に収まってはいられません。自分で立って歩くのが……ぼく達人間であり、生き物なんです」
 その、ウィリアムの呟きに。
「そうじゃな、そのとおりであるぞ、ウィリアム殿」
 頼りない光と化してミユキの死体の上でフワフワと浮いているミユキと思しき魂を見つめて、ワルゼロムが静かに頷く。
「何故、私達が罰を……私達は、ただ、あの子達の罪を……」
 揺らぐ様に呻いているミユキの虚ろな魂からポツリ、ポツリと紡がれる其れを聞いたワルゼロムが、小さく溜息を一つついた。
「貴様等は、村人の罪を断じ、罰を与えようとしたのだ。で、あれば、我等がそれに倣わぬ道理はあるまいぞ。……親の姿を見て子は育つ。そういうものであるからな」
 ワルゼロムの説法を聞きながら。
 何か、未練を残しているかの様に。
 フワフワと頼りなく浮かんだままのミユキの魂を束の間見つめた後、パラスが踵を返して、ある方角を見る。
 ……敬輔達の向かった、モトキ達の方を。
「離れていても、何処かで見守ってくれている、と思うだけで子供ってのは強くなれるもんだ。だから、今は、見守っておやり。敬輔と……あの子が選んだその道をね」
 呟くパラスの其れに。
「……」
 ミユキの魂の、応えは無かった。


「ああああああああっ!」
 業に突き動かされて絶叫し、黒剣を我武者羅に振るう敬輔。
 理性をかなぐり捨て、只の吸血鬼と化した筈のモトキがその敬輔の雄たけびに応じる様に吠える。
「ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲッ! 我が子、愛しき我が子よ!!!!!」
 理性をかなぐり捨て吠え猛りながら、その首筋に熱烈なキスともいうべき牙を突き立てようとするモトキの牙を、千尋が無数の鳥威を展開して受け止めた。
 口元の、皮肉気な笑みを消すことなく。
 それでも己の衝動に振り回される儘に黒剣を我武者羅に振るう敬輔に対して、瞬が焦った様に叫び声を上げた。
「敬輔さん、落ち着くんだ! 闇雲に突っ込んで、その命を無駄にしないでくれ! 敬輔さん!」
 そう必死で叫びながら、瞬が巨大化し、杖全体に月色の輝きを伴い、その先端に巨大な満月と、月読みの紋章が描き出された月虹の杖を振り翳す。
 月虹の杖が、空より降りてくる月光の力を受けて眩く光り輝くと同時に、鋭い月色の一本の棘を編み上げ、結界符の籠った矢と化して、モトキに解き放たれ、その周囲に月色の結界を張り巡らす。
 その一方で、背中に担いでいた氷の結晶の様に透き通ったその美しさに、水晶色の光を漂わせる六花の杖を敬輔へと突きつけて、水晶と月光の混ざり合った光を、ウィリアムの敷いた氷塊に向けて振り翳し。
 氷塊に光を乱反射させ強大な円柱型の結界を生み出し、敬輔の周囲を覆い尽くす。
 それは、敬輔の身を護るための術であると同時に……『今』の儘の敬輔を閉じ込めるための檻でもある。
 その束の間の、拘束の時間が起きているその間に。
「千尋、テメェ……何で、何であんなこと敬輔に向けて言いやがった!?」
 サブナックに敬輔を護衛させ続けていた陽太が、皮肉気な笑みを浮かべた儘に敬輔を援護していた千尋を横目で睨みつけた。
 千尋は、今にも横から掴みかかっていかんばかりの勢いの陽太に対して、シニカルな態度を隠しもせず、軽く肩を竦めるのみ。
「別に。俺はただ、事実を述べただけだ。実際それで、奏は大きく負傷している」
「テメェ、あいつが、あの男が、敬輔にとってどんな存在なのか分かって……!」
 千尋のそれに、怒り心頭に発した陽太が焼き殺さんばかりの勢いで千尋を睨み、容赦なくその殺気を叩きつけるが……。
「まあ、千尋さんの火の点け方には、陽太さんは怒るだろうし、最悪の可能性としては考えていたけれど。でも……こういう対処療法も、必要だったのかも知れないね」
 小さく溜息を一つ漏らしながら。
 ミユキの歌が聞こえなくなったところで、星具シュテルシアを杖形態に切り替え、祈りを籠めてその先端を奏に突きつけ、その先端から星光の如き癒しの光を注ぎ込みながら、暁音が静かに告げている。
 思わぬ暁音の加勢に、陽太が流石に目を白黒させ、それに対して何かを言い募ろうとした、正にその時。
「……彼等は吸血鬼だ。少なくとも、彼等の行動は敬輔の知る両親ではない」
 それまで黙して淡々と戦いに加担し状況を確認していた統哉が小さく言葉を紡ぐ。
 それから少しだけ鋭い眼差しを千尋へと向け、千尋、と静かに呼びかけていた。
「確かに彼等は……彼は吸血鬼だ。確実に倒すためには、このまま吸血鬼として対峙する方が、『復讐者』敬輔にとっては楽なのかも知れない。……そういう事か?」
 聊か険しい表情をしながらも、冷静に事実を把握しようとする統哉の問いかけに。
 千尋がほぅ……と統哉を見る目を軽く眇めた。
「別にそういうつもりで俺は言ったんじゃないぜ? ただ、戦えないのなら邪魔だから下がれ、と言っただけだ。その結果が今の敬輔になったと言う事は……あいつ自身にとっては、そういう事なのかも知れないな」
 そう淡々と告げる千尋のそれに。
「……っ!?」
 先程迄殺気を籠めた目を千尋に叩きつけていた陽太が、突然頭を殴りつけられた様な、そんな驚愕の表情を浮かべていた。
 そんな陽太を愉快そうに見つめつつ、千尋がふっ、と再び肩を竦めて見せた。
「そもそも俺は、敬輔の事情を詳しく知らない。そういう意味では俺は、当事者ではなく、傍観者……まあ、第三者って訳だ。俺はあの時、ただ、俺の立場から思ったことを、あいつに伝えてやっただけだぜ?」
「……まあ、確かに。戦えないなら避難させるべき事ではあったけれども……この戦いの結果がどんなものであるにせよ、敬輔さんには敬輔さん自身の目で見届けなければいけない事ではあるね。それが出来ないなら俺が守るつもりだったけれど……」
 そう告げる暁音に、いや、と千尋は軽く頭を横に振った。
「それじゃあ、あいつにとっては『意味がない』。……それが真実じゃないのか?」
 泰然たる態度で小首を傾げる千尋のそれに。
「……千尋。お前……」
 思い当たる節があるのか、陽太がそれ以上の言葉を紡げず、小さく頭を横に振る。
 と、そこで。
「そうですね。敬輔さんならば、本来のご両親を知っている筈です」
 暁音の治癒をその身に受け入れ、ゆっくりと頭を横に振りながら、そう告げたのは……。
「奏! もう、大丈夫なのか?」
 立ち上がった奏に統哉が驚き息を呑むのに、奏が穴が開いてしまったエレメンタル・シールドを地面に置き、シルフィード・セイバーとアクア・セイバーの二刀を構えながら微笑を浮かべて、はい、と頷いた。
「暁音さん、治癒、ありがとうございます」
「まだ完治には程遠いから、無理はしちゃだめだよ」
 微笑む奏に釘を刺す様に告げる暁音にそうですね、と奏がこくりと頷きつつ、でも、と小さく頭を横に振る。
「兄さんにとって、大切な……特別な人……親愛なる友人を『守る』のは、私の役割ですから」
「ハハッ……一途だな」
 何時もの皮肉っぽい笑みを浮かべた儘に、奏にそう告げる千尋だったが、そこに嫌味は感じられない。
 何処か眩しいものを見る様な、そんな空気が僅かに感じられる。
 そして、そんな奏達のやり取りを、瞬の結界に守られ、ある意味では拘束されている敬輔は、しかとその耳で捉えていた。
 煮えたぎるマグマの様な復讐心。
 それは目前の『吸血鬼』に対しても、同じもの。
 ならば只排除すればいいだけの筈のそれに対して、その奏の言葉は酷く胸に沁みてくる。
(「俺、俺は……」)
 ――殺せ。
 ――目前の吸血鬼を、その手で殺せ。
 ――そして、思う存分その血を啜れ。
 ――それが、お前の持つ真実の性だ。
 真紅の瞳と化したもう一人の自分……ヴァンパイアと化した敬輔の胸を叩く様にそう告げる、自らの中に流れる同族殺しの力。
 その言葉の中に燃え滾る激情に身を任せ、再び敬輔がその刃を振りかざそうとした、その時。
「敬輔さん! 君は一人じゃないんだ! その復讐の……その痛みの想いを、君が一人で抱え込む必要は無いんだ!」
 六花の杖を閃かせて、敬輔を守る、瞬の涙交じりの叫び声が耳に入る。
 同時にその声は……目前の理性を失った吸血鬼の耳にも届いている筈。
 その吸血鬼が、瞬の結界を力任せに叩き壊そうとした、正にその時。
「頼む、僕から敬輔さんを奪わないでくれ! 初めて会った時から特別な存在で、よく似た経験をして、共に苦難を乗り越えてきた僕の大切な人を……僕から奪わないでくれ……!」
 そう、悲痛な叫びをあげる、瞬。
 けれども、モトキは……既に理性の欠片を吹き飛ばした彼は、自らを閉じ込める麻痺術の仕込まれた月光の檻を、無慈悲に捻じ曲げて破壊して。
 ――ドシン。
 一歩、敬輔の方へと踏みしめる。
 けれども、そこに……。
「そんなの……駄目です! あなたは……敬輔さんを愛し、慈しんだあなたが……そんな方である筈がありません!」
 アクア・セイバーと、シルフィード・セイバー。
 青く光り輝く長剣と、翡翠色に輝く長剣を十文字に構えた奏が、悲痛な叫びと共に、敬輔とモトキの間に割って入り込む。
 ウィリアムの氷塊がそんな奏を守る様に無数の盾となって動き出し、更に上空のリーヴァルディと感覚を共有していた光の精霊達が、そんなモトキと奏の間に一条の闇を切り裂く光の光線を叩きつけ、地面を抉り土煙を起こしてモトキの動きを鈍らせて。
 その間に、暁音の星具シュテルシアから星光の如き癒しの輝きが、瞬の結界に覆われた敬輔に向かって解き放たれた。
「……っ!?」
 不意に入り込んでくる星光の暖かな輝きを受け、敬輔が思わず目を丸くする。
「今は水が無いから、取り敢えずこれを受けて敬輔さんも少し頭を冷やしなさい。そして、君の周りにいる人達の声を聞きなさい」
 暁音の諭す様なその呼びかけに、微苦笑を漏らした千尋が、周囲に展開していた残りの数十本の結詞を解放。
 解放された飾り紐が、まるで遺伝子の鎖の様に繋がって……奏に刻、一刻と迫るモトキの傷だらけの両足を締め上げた。
 その隙を突いて、千尋が懐の漆黒の短刀を投擲する。
 投擲されたそれ……烏喙が、モトキの肩に突き刺さるが、モトキが意にも介さず前に出ようとした、正にその時。
「ググ……っ?! ガァッ……!?」
 不意に全身に電流の様な痺れが走り、大きくその体をのけぞらせた。
 それは、最初にパラスが仕込んだ麻痺弾に。
 瞬の結界術に封じられた麻痺術と。
 千尋の烏喙に仕込まれた麻痺毒と言う、三重の麻痺毒が稼いだ時間。
 稼がれた時間を、存分に活用して。
「敬輔」
 漆黒の大鎌……『宵』を肩に担いで。
 静かな決意と誓いの表情を浮かべた統哉が静かにそう呼びかけていた。
「統……哉……」
 呻く様な敬輔を一瞥し。
 向こうで雹が吹き荒れ、絶対零度の寒風が此方にまで伝わってくるのを感じながら、統哉が続ける。
「千尋の言う通り、本当は君は、激情に流される儘に、『復讐者』敬輔として、彼と……吸血鬼の父と、対峙した方が楽なのかもしれない」
(「母親の方は、既に倒されているみたいだけれど」)
 だが願いの様な何かの籠った視線が、此方に向けられている気がして仕方ない。
 それは、敬輔の両親に向けられたライアの憎悪であり。
 明日香の殺意であり。
 ワルゼロムの裁きの意志であり。
 オブリビオンとして彼等を討滅するウィリアムの使命感であり。
 同じ喫茶店の常連客であるルーファの瞬達への労りであり。
 そして……パラスの期待と、『彼女』からの不安でもあった。
「ああ……そうだ……こいつらは……敵。俺を祟り、俺の身に宿る呪詛を解呪するために倒すべき、吸血鬼。だから、俺は、復讐を……」
 ポツリ、ポツリと紡がれる敬輔のその言葉さえも、統哉の耳には入らない。
 只……視線を感じる向こうから伝わってくるか細く不安げな『光』が吸い込まれる様に『宵』の大鎌に灯されていく。
『宵』の刃先が、まるでその意志に答える様に、闇を吹き払う清浄なる青き空の輝きを伴い、それを燐光の様にヒラヒラと宙に舞わせていた。
 それを鎌から伝わる感触で感じ取りながら、統哉が『モトキ』と、男の名を呼ぶ。
 その青光に導かれる様に、自然とその口から、そう、彼の名前を漏らす。
 驚愕に真紅の瞳孔を縦長に開く敬輔と、その理性を失った紅の瞳に同じそれを宿した吸血鬼モトキに、統哉は君は、と問いかけた。
「君達が攫った子供を、吸血鬼として自分達の子供としていたその執着の源。それは……不本意に別たれてしまった本当の子供達への想いゆえ、ではないのかな?」
「……っ?!」
 びくり、とその身を竦ませて。
 怯える様に逃げる様に蹈鞴を踏むモトキが、反射的にその腕を振るって統哉を打ちのめそうとする。
「ちっ……サブナック!」
 陽太の叫びに応じる様に、敬輔に貼りついていたサブナックが統哉の前に姿を曝し、そのままぐしゃり、と獅子頭を叩き潰された。
 そうして陽太の背後に現れた魔法陣に強制送還されていくサブナック。
 それでもモトキの拳は止まらないが……。
「まあ、折角だ。最後まで統哉の話位聞いてやれ」
 からかう様な微笑を浮かべた儘に、ぐいっ、とモトキの足元を絡め捕っていた結詞を千尋が引いた。
 虚を衝いた千尋のその行動に思わずモトキが足をつんのめらせ、統哉に向かっていた拳が、あらぬ方に向かい空を切る。
 モトキのその腕が空振るその間に。
 統哉が両手で、刃先が青く光り輝く漆黒の大鎌『宵』を構えた。
「俺は、思う。その吸血鬼としての邪心が、君達のその心を……子の幸せを願うその心を、奇妙に捻じ曲げてしまっただけなんじゃないかと。だから俺は……願うんだ」
 子を思う彼等の本当の想いを。
 そして……子の歩みゆく未来への願いを。
 穏やかに見つめ、そして後押しできる。
 そんな言葉を敬輔へ直接、彼等が伝えられる様にするために。
「俺は……祈る」
 一閃。
 青空の如き輝きを伴った『宵』を、蒼穹の如き煌めきと共に、統哉が振るう。
 そして振るわれた、その刃は。
 漆黒の大鎌の、その刃先は。
 ――モトキと『宵』に取りついた、ミユキの中に潜む『邪心』を浄化するかの如く切り裂いた。
「……リーヴァルディ!」
 そこに、統哉がすかさず叫ぶや否や。
「……そうね。あなた達、もう一度畳みかけて」
 光の精霊で聞き取ったその統哉の言葉の意味を諒解したリーヴァルディが、聖女達が化している『光の精霊達』に、反転に反転を重ねた光線を叩き込ませる。
 解き放たれた光の精霊達の光線が、邪心を断たれたモトキの反抗心を撃ち抜いた。
 グラリ、と思わず傾ぐモトキの姿を見て。
「敬輔さん! 歪んだご両親を元に戻せるのは、その本当の子供さんである、あなたの役目の筈です! さあ、どうか前を向いて下さい!」
 統哉が脇を駆け抜けた奏がはっ、とした表情になり、瞬の結界の中の敬輔に呼びかけると、ほぼ同時に。
 瞬が、その結界を解除すした。
「うおおおおおおおおっ!」
(「そうか……これは」)
 この戦いだけは、復讐じゃない。
 そう、これは、無限にも等しい生き地獄……煉獄から、モトキとミユキ……否、父さんと母さんを解放する戦い。
 ――だから。
「もう、俺は……迷わない!」
 その叫びと共に。
 吸い込まれる様に放たれた統哉の『邪心』を断つ一撃とリーヴァルディの呼び出した光の精霊達の光線によろけたモトキに向けて、刀身が赤黒く光り輝く黒剣を、敬輔が袈裟懸けに振り下ろした。
 振り下ろした刃が肉を引き裂き、骨を砕いていくその嫌な感触を、まざまざと敬輔の手に与えてくる。
 その重く、強烈な最後の一撃を浴びて。
 トモキが、その場にゆっくりと崩れ落ちた。


「お~い、皆~!」
 何処かのんびりとした、そんな声。
 その声の主……ルーファがサイキックエナジーで氷漬けになったミユキの遺体を運んでくる。
 その後ろに、響とパラスが粛々と続き。
 気怠そうな表情の明日香と尊大ながらも何処か神妙な顔付きのワルゼロムと、ヤレヤレという様に肩を竦めたライアが歩いてくる。
 ライア達の戦ったミユキと、敬輔達が倒したモトキと等距離を取った位置にいたウィリアムとリーヴァルディが、何処か疲れた表情を浮かべたままに、同じ様に陽太達の傍へとやってきていた。
「母さん、ルーファさん!」
 喜びと安堵の綯い交ぜになった表情を浮かべた奏がそのまま響とルーファを出迎えるその間に。
「彼女は……」
 瞬が、ルーファが空中に浮かべているミユキの死体を見て、何かを悟ったかの様に淡々と問いかけていた。
「ああ。この吸血鬼の肉体は、もうすぐ骸の海へと還る。その魂は……どうやら、そこを、目指していたみたいだね」
 瞬のその問いかけに、軽く頷きながらそう返したパラスが見つめたのは、青き光を纏う統哉の『宵』の刃先だった。
 統哉がそれに頷き『宵』をそっと地面に下ろし、ルーファがサイキックエナジーで凍り付いたミユキの遺体を『宵』の隣に並べている。
 敬輔が死人の様に顔を青ざめさせながら、モトキの遺体をズリズリと引き摺り、ミユキの遺体と『宵』の隣に並べて、そっとモトキの両手を胸の上に組ませていた。
「父さん……母さん……」
 啜り泣く様に呻く、敬輔の呟きに。
「……話が、したいの?」
 か細く囁きかける様な、そんな声音で。
 リーヴァルディが敬輔に問いかけるのに、敬輔がコクリと小さく頷いた。
 その敬輔の頷きに。
「……分かったわ」
 小さくリーヴァルディが頷くと、共に。
『……限定解放。これは傷付いた魂に捧げる鎮魂の歌。最果てに響け、血の煉獄……!』
 リーヴァルディの左目の名も無き神との契約印が、リーヴァルディの祈りに呼応する様に白百合の花弁を注ぎ込む様にミユキと、モトキの遺体に降り注ぐ。
 その花弁に呼応する様に。
 統哉が地面に置いた『宵』の刃先の青が淡い光と共に宙に浮き、優しく穏やかそうな表情をした女性の姿へと変わり。
 更に、モトキの遺体から現れた、淡い赤い光が、穏やかな表情の男の姿を形取り、敬輔達の前に姿を現した。
「……強くなったな、敬輔」
 その、穏やかな呼びかけに。
「……父さん!?」
 敬輔が思わず息を飲むのに母親がええ、と花の様な可憐な笑みを浮かべて見せた。
「あなたが生きていて、本当に良かったわ」
 そう呟くミユキの其れに、敬輔が肩を振るわせる。
 そんな彼を労る様に。
 ポン、と瞬が優しくその右肩に自らの手を乗せ、統哉が貴方達が、と呼びかけた。
「貴方達が、敬輔の……」
「ああ、そうだ。私達が、その子の……敬輔の父であるモトキと……」
「母である、ミユキよ。でも、もうすぐお別れね」
 小さな静寂を伴う空気を発しながら。
 囁くミユキに、敬輔が子供の様にノロノロと顔を上げる。
「おわかれ……?」
「ああ、そうだ。理由は……もう、お前には分かっているだろう、敬輔」
 ――ズキリ。
 その、トモキの呼びかけに呼応する様に。
 敬輔の左肩の痣が鋭い痛みを発し、敬輔が苦渋の表情を浮かべた。
「……ミユキって言ったね。アタシの言った通りだっただろう?」
 何処か、からかう様な、自嘲気味な笑みを浮かべて。
 そう問いかけるパラスのそれに、そうね、と小さくミユキは頷いた。
「貴女の言うとおりでしたわ。やはり母親の先達には、分かるのね」
「まあ、アタシは経験者、だからね。だからそう語れるだけさ」
 そう告げたパラスの表情には、何処か懐旧と後悔の綯い交ぜになった複雑なものが浮かんでいる。
 陽太がそんなパラスの表情を見て、なんとも言えない表情となり、小さく頭を横に振った。
「これが最初で最後の感動のご対面って訳か」
 そう冗談めかして肩を竦める千尋に、くすり、とモトキが口元に笑みを綻ばせる。
「そうだな。後は敬輔が儀式を終えれば、私達の存在は骸の海へと還る。そして……二度と君達と敵として出会うことは無くなるだろう」
「こんな面倒事を起こす奴等とは、正直また巡り会いたいとは思わないけれどね~」
 溜息をつきながら毒を吐くライアをチラリと暁音が一瞥するが、トモキは怒る様子も無く、困った様に微笑んだ。
「役に立つかどうかは分からないけれども、一つだけ君に教えておこう。愛と憎しみは紙一重のものだ。私は、君の事情までは知らないが、もしかしたらこの先の君に役に立つかも知れないから、一応伝えるだけ、伝えさせて貰うよ」
「……ボクは。ボクの親と名乗る存在なんて……」
 優しく告げるトモキの其れに、ライアが軽く顔を俯け、ぎゅっ、と拳を強く握りしめる。
 そんなライアに慈しみの眼差しをミユキは暫く向けていたが、程なくして敬輔、と自分の息子に優しく呼びかけた。
「そろそろ……」
「……分かった。それがお……僕の、最後の務めだから」
 震える声音で、誓いを紡ぎ。
 そのままゆっくりと寄り添う2人の死体に近付き、敬輔が黒剣を両手で逆手に握りしめる。
 ――ガチガチ、ガチガチ。
 歯の鳴る音と、手の震えが止まらない。
 そんな彼を、支える様に。
「何度も言わせないで下さい、敬輔さん。君は一人じゃ無いんですよ」
 その右隣から、そっとその手を包み込む様に握る瞬と。
「安らかに」
 左隣から、その手を握り込む様に統哉が姿を現し、敬輔の手を左から握りしめる。
 瞬と統哉……2人の戦友に支えられ。
 敬輔は、ミユキとトモキの遺体の心臓に、黒剣を突き立てて。
 そして溢れ出した2人の血を……涙を流しながら、飲み干した。


「……こいつがてめぇの選んだ道なんだな、敬輔」
 ポケットに、手を突っ込みながら。
 敬輔が両親の魂魄を自らの黒剣に取り込む迄の一部始終を見届けた陽太に、ウィリアムがこれで、と小さく呟きを一つ。
「彼の復讐は、漸く一つの区切りを迎える訳ですか」
「……そうだね」
 共苦の痛みから伝えられる痛みが、徐々に鎮められていくのを感じながら。
 暁音が小さく息を漏らしてそう頷いた、その瞬間。
 ――ゴーン! ゴーン! ゴーン!
 白鐘が鳴り響く。
 弔いの様に。
 切り開かれた未来の道標の様に。
「あー……この空気、たーえーらーれーなーいー」
 そんな、白鐘の鳴る音など気にも留めずに。
 もどかしい思いを抱いたルーファが懐から巨大な骨付き肉を取り出し、バクバクそれを口にした。
「おい、お前、その骨付き肉、オレにも一口よこせ」
 同じく興味なさげな表情を浮かべた明日香が、ルーファの肉を見て涎を垂らし、其方へと手を向けるのに、ワルゼロムが思わず苦笑を零す。
(「しかし……」)
 ――ゴーン! ゴーン! ゴーン!
 白鐘が鳴る。
 戦いの終わりを告げるかの如く鳴り続けるその白鐘の、やけに哀しげな音色を耳にしたか、ごそごそと村人と兵士達の気配が砦の中で動き出すのを感じ取り、ワルゼロムが全てを悟ったかの様に、静かに頭を横に振った。
「あの聖女達も、そしてあの村人共も。そして……あの鐘も。まだ、その心は千々に乱れ、落ち着いておらぬじゃろうな。で、あれば……」
『教祖』として、猟兵として。
 自分達が出来ることに想いを馳せ、ワルゼロムがゆっくりと砦の中へと足を踏み入れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『誰が為に鐘は鳴る』

POW   :    周囲のひとたちを励ます

SPD   :    何の為の鐘か村人に尋ねる

WIZ   :    静かに祈りを捧げる

👑5
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*業務連絡:次回プレイング受付期間及びリプレイ執筆期間は下記となります。
プレイング受付期間:12月25日(金)8時31分以降~12月26日(土)13:30分頃迄。
リプレイ執筆期間:12月26日(土)14:30分頃~12月28日(月)一杯迄。
何卒、宜しくお願い申し上げます*

 ――ゴーン! ゴーン! ゴーン!
 白鐘が、鳴り響く。
 全ての戦いが終わったことを証明するかの様に。
 ホーリーベルと猟兵達の勝利を喧伝する様に鳴り響く。
 その、鳴り響く白鐘の音色に気がつき。
「うっ……う~ん……」
 戦いの中で、砦の中に運び込まれた、正気を取り戻した聖女達が目を覚ます。
「こ、此処は……?」
「私達は、一体何を……?」
 顔を見合わせ、怪訝そうにする聖女達の前に姿を現したのは……。
「ああ、皆……無事だったのね!」
 その聖女達の仲間である、1人の聖女。
 村人達に介抱され、無事意識を取り戻した、そういう少女だ。
 現れた仲間の姿を見て、聖女達は驚きと喜びの綯い交ぜになった複雑な表情を浮かべて彼女を見る。
 心の中をチクチク突き刺す様な罪悪感が、胸に痛い。
 仲間達全員が、無事だったわけでは無かったのだから。
 自分達は……生き残ってしまったのだから。
「私達はこれから……如何すれば良いのでしょうね?」
 聖女達の1人がそう、不安を口にした時。
「どうやら、戦いが終わった様ね」
「ええ……流石は闇の救済者の皆さんだわ」
 其々に表情を青ざめさせながらも、ホーリーベルの村人達が、10人強の兵士達に引率されて、聖女達の前に姿を現す。
 ――ゴーン! ゴーン! ゴーン!
 白鐘が鳴り響く。
 その白鐘の音色は、何を意味しているのであろう。
 これまでに亡くなった多くの者達への弔いか。
 それとも、再びの悪夢から覚めることの出来た彼等への祝福か。
 それとも……。
 其々の胸中に様々な想いを抱え、猟兵達は、聖女達と村人達の待つ砦へと足を踏み入れた。
 
 *第2章迄の判定の結果、上記3つの項目以外に行動可能な項目が一つ増えました。
4.聖女達と交流し、これからのことを決めさせる。
*判定は一応、WIZ扱いですが、あまり能力を気にする必要はありません。
もし、此方の項目を選びたい方は、プレイングの冒頭に、【4】と記載して下さい。

 ――それでは、幸福な結末を。
ワルゼロム・ワルゼー
SPD

さて、今回も無事に終わったようだな…やれやれ
だがそろそろハッキリさせたいところだ
いつぞやもこの「弔いの鐘」絡みでオブリビオンが現れ、今回ははて幾度目か…もはや偶然の一致では片付けられまい
鐘を鳴らしている村人に鐘を鳴らす際の理由、由来を聞いてみるとしよう

内容次第では今後の動きに変化が訪れるやもしれんな?


白石・明日香
教祖と行動を共にする。
この鐘、何のためにあるんだろうな?
そしてこいつはこれから何を見ることになるのかな?
まあ、あの聖女たちは他の連中に任せておいて大丈夫だろ。
うまくいけば守りに貢献してくれそうだしな・・・
そういえば敬輔の奴どこ行った?


司・千尋
アドリブ他者との絡み可

まぁ折角の機会だし
村の見学でもしていこうかな


物珍しそうに辺りを見ながら散歩でもしようか
…この白鐘は何の為に鳴らしてるんだ?
戦闘中も鳴ってたような…
同じ鐘でも鳴らす意味が違うのか
それとも鳴らし方が違うのか、等考えながらフラフラしよう

娯楽もあまりなさそうだし
からくり人形の宵と暁に興味がありそうな村人とかいたら
即興の人形劇等で楽しませるのも良いかもな
人形遣いの本領発揮といこうか

武器にもなるが戦闘以外でも使える、というのはとても良い事なんじゃないかな、と思う
使い道が1つしかないと使えなくなったら困るしな


今後この村がどうなるかわからないが
なるべく長く平和な時が続くと良いんだけど




 ふう、と両肩から力を抜いたワルゼロム・ワロムーが軽く頭を横に振る。
「さて、今回も無事に終わった様であるな……やれやれ」
 そんな、安堵と微かな疑問が綯い交ぜになった溜息を漏らしながら。
 ――ゴーン! ゴーン! ゴーン!
 鳴り響く白鐘の音を聞き、ふーむ、と白石・明日香が首を傾げた。
「そう言えばこの鐘、何のためにあるんだろうな?」
 そんな明日香の何気ない問いかけを、何処か愉快そうな表情をして、口元に皮肉げな笑みを浮かべながら。
 軽く冗談めかして司・千尋が眉を動かし、おいおい、と軽く肩を竦めてみせる。
「あのグリモア猟兵が言っていただろう? 象徴であり、拠所でもある、とな」
 そんな千尋の軽口に、明日香が微かに首を横に振った。
「うん? そういやそんな事言ってたっけな。が……まあ、オレが言いたいのはそういう意味ではなく……」
 明日香の上手く言い表されていない其れを耳にして。
「気掛かりなのであろう、明日香殿」
 静謐さと荘厳さの双方を携えた口調で軽くそう補足するワルゼロムのそれに、ほぅ、とその瞳に確かな好奇心を宿らせながら、千尋が小さく問い返した。
「……お前達は、この村は初めてなのか?」
「いや、我等があの鐘の元を訪れるのは二度目ぞよ、千尋殿。最も、我はこーゆー厳かな雰囲気は苦手、と言うか……性に合わぬので、以前は我が分身達を置いて、そそくさとこの場を後にしたのだが……」
 その時の事を思い起こす様にして、遠くを見つめる眼差しをするワルゼロムに。
「だが?」
 愉快そうに千尋が問いかけると、ワルゼロムは、うむ、と小さく頷いた。
「……流石に、この『弔いの鐘』絡みで再びオブリビオンが現れた、のであれば、気にせぬ訳には行かぬのでな」
 その、ワルゼロムの応えを聞いて。
 好奇心の宿った黒い瞳を愉快そうに細め、千尋がでは、と呟いた。
「折角だ。俺も一緒させて貰おうか。丁度村の見学もしたかったし、この白鐘を何のために鳴らしているのかは、俺も興味がある」
「まっ……案外、今後に役立つ何かが分かるかも知れないしな。勿論オレも一緒に行くぜ、教祖。それと、千尋」
 あっけらかんとした明日香の其れを聞いたワルゼロムが静かに頷き。
「では行くとしようか。明日香殿、千尋殿」
 ワルゼロムがそう明日香と千尋を促して、ゆっくりと砦の内側に足を踏み入れた。
 ――自分達を再び救ってくれた英雄達の帰還を心待ちにする、村人達のその元へ。


 最初に足を踏み入れた千尋やワルゼロムの目に入ったのは、現れた村人達の一部に見つめられている、途方に暮れた聖女達。
 けれども、一方で其方に向かって自分達の後ろから歩いて行く猟兵達の姿を認め、明日香がまっ、と軽く肩を竦めた。
「あの聖女達については他の連中に任せておけば良いよな、教祖?」
「ふむ。明日香殿が其れで良いのであれば、我は構わぬぞ。千尋殿は……」
 明日香の問いかけに軽くワルゼロムが頷き、同行者である千尋に呼びかけた時。
 千尋が物珍しそうにホーリーベルの砦の中を見回しているのに、おやおや、と、思わず目尻を微かに和らげた。
「問題無い様であるな。さて……」
 と、ワルゼロムが辺りを見回すその間にも。
 ――ゴーン! ゴーン! ゴーン!
 白鐘は、鳴り響いていた。
「ふむ……やはり直接彼方へと聞きに行くのが正解か」
「だな、教祖」
 呟くワルゼロムに、頷く明日香。
 と、此処でそう言えば、と千尋がポツリと独りごちる様に言の葉を紡いだ。
「戦闘中も鳴っていたな……あの白鐘。同じ鐘でも、鳴らす意味が違うのか?」
 千尋は他の猟兵と共に、人々の避難を優先していた。
 その時、確かにホーリーベルの端にある最も強固な場所……倉庫に村人達を全員避難させた筈である。
「となると……鳴らし方が違うのか? こいつは、興味深い話だな」
 そんな千尋の独白に、そうであったか、と微かに感嘆の入り交じった口調で呟くワルゼロム。
 明日香はそこには然程興味を示さず聖女達を一瞥してからは、まるで誰かを探すかの様に、キョロキョロと周囲を見て回っていた。
(「そう言えばあいつ……何処に行った? 教祖と一緒に入ってきたが、見てねぇな」)
 ともあれ先ずは教祖に付き合い、村人達に白鐘の真相を聞き出すことを優先した方が良さそうだ。
 そう判断した明日香が物見櫓張りの高さを持つ、白鐘を取り付けたその場所でひょこひょこしている子供達とそれを見守る様にしている数人の大人と、1人の年配の女性を見つけ、教祖、とワルゼロムに呼びかけた。
「取り敢えずあいつらに話を聞いてみようぜ。多分、何か教えて貰えるだろうよ」
 その、明日香の呼びかけに。
 ワルゼロムがうむ、と頷き返す。
「そうじゃな、明日殿。では彼女等に話を聞いてみるとしよう」
 そうして。
 彼女達の元へとその足を急がせる、ワルゼロムと明日香と千尋一行であった。


 ――と言うところで。
「わ~、お人形さんだ、お人形さんだ~!」
 ワイワイ、ワイワイと。
 千尋の両脇を結詞で繋がれフワフワ浮いていた、おべべを纏った宵と暁の2体の人形に興味を持ったか。
 目をキラキラと輝かせて近付いてくる子供達にふっ、と思わず笑みを漏らす千尋。
 その一方で。
「あ~、自分と同じ姿のお人形さん達をこの間踊らせていたお姉さんだ~!」
 別の少女が甲高く、愉快そうな声音でそう言ってワルゼロムを指差すのを見て、他の子供達の何人かもホントだ、ホントだ~と我先に、と言う様子でワルゼロムに近付いてくる。
「ハハッ、人気者じゃないか、ワルゼロム」
 からかう様な、千尋のそれに。
「ふむ……この我の分身共の踊りぞ。当然であろう」
 等と胸をそびやかして告げるワルゼロムに千尋が軽く肩を竦めた。
 しかし、子供達にこう言い寄られては、少し話が切り出しにくい、とワルゼロムが内心微かに戸惑っていると。
「皆、ああいった踊りや吟遊詩人の歌の様な楽しみが、最近中々無いのですよ」
 子供達がワルゼロムと千尋の元へと集まっているのに気がついた一人の老婆がそう告げて、ゆったりとした足取りで明日香達の方へと近付いてくる。
 その老婆の呼びかけに、確かにな、千尋が軽く頷いた。
 千尋は既にその周囲には85本の結詞と、宵と暁の人形を生み出し。
 オリジナルの結詞でオリジナルの宵と暁を操り、更に85体の宵と暁……合計、87体総出の華やかな即興人形劇を演じようとしていた。
 ……と、此処で。
 ふと、何かに思い至り、集まってきた子供達をからかう様な笑みを浮かべる千尋。
「そう言えば子供達。お前達は、英雄譚はお好きかな? それとも恋愛劇の方がお好みかな?」
 道化の様な、その笑みで軽く冗談めかしてウインクをする千尋の問いかけに、子供達はおもわず首を傾げていた。
「えいゆうたん? れんあいげき?」
 と、互いに子供達が顔を見合わせていた、正にその時。
「ああっ! ボク、格好いいのが良い! えーゆーって呼ばれるお父さん達が、悪い敵をやっつける……そんな話!」
 男の子の一人がはきはきとそう告げ、他の子供達もそれを聞いて、それが良い! それが良い! と賑やかに囃し立てていた。
「よし、それじゃあ、始めようか。即興人形劇、英雄譚:双璧の戦士をな」
 千尋がそれに愉快そうにうなずきそう告げて。
 オリジナルの宵と暁が量産した宵と暁とチャンバラし、ばったばったと薙ぎ倒す、格好いい英雄譚であり、武勇伝ともいうべきそれを、朗々と語りながら演じる千尋。
 子供達がそれに目を輝かして夢中になっているその様子を、大人達が目尻を和らげて見つめているのをちらりと見やり、ワルゼロムがすまぬが、と先程最初に話しかけてきた老婆に問いかけていた。
「貴殿は、我が問いに答えて貰えぬであろうか? 此度の件で少々気になったことがあるのでな」
「あっ……はい。私で良ければお答え致します、闇の救済者の皆様」
 そう告げてぺこりと一礼する老婆にワルゼロムが鷹揚に頷き、問いかけた。
「この白鐘は、どの様な時に鳴らされておるのか。由来を聞かせて貰えぬか?」
「由来……ですか」
 その、ワルゼロムの問いかけに。
 微かに目を瞬きワルゼロムの言葉を反芻する老婆に、明日香がそうだ、と頷く。
「多分、こいつは今までも多くのものを見てきたんだろう。アンタよりもずっと多くの色んなものを。今後、こいつが何を見る事になるのかも気になるが……じゃあ、今までにこの鐘が鳴らされてた理由は何でだろうな、と教祖とあっちの千尋って奴は疑問に思っている。オレにも……少し、興味のある話だしな」
 そう告げる明日香のそれに。
 老婆が少し考える様な表情を浮かべ、それから静かに姿勢を正し、粛然とした声音で朗々と語り始めた。
「我等が土地に在りしこの鐘を、汝ら決して絶やすことなかれ。かの鐘、汝等の行く闇を照らす光とならん。其は、時に弔いに、時に戦いへの警鐘に、そして……時に祝福にもなるであろう」
 まるで、伝説を読み上げる様に。
 歌い上げる様に紡いだ老婆が、ふう、と息を一つ吐いた。
「私達の村には、あの白鐘の伝説はこの様に伝わっております。何か、貴方様達の道を照らす、道標となれば良いのですが」
「ふむ。参考にしておくとしよう」
(「つまるところ、あの白鐘は……」)
 其々の村の伝承や物語によって異なるのであろうが、この村においては、あの白鐘が鳴る事は、この村の人々の肉体と魂を闇より救済するための道標なのだろう。
 そして、他の『弔いの鐘』が鳴る土地でも、様々な形でそれは確かに鳴っている。
 或いは……その鐘を鳴らすことが、この世界の人々を救う階となる……予知の中で、そう見ることが出来るグリモア猟兵達が多いと言う事の証左なのかも知れない。
「因みに、今回オレ達が戦っている間にもあの鐘は鳴っていたが……お前らは避難していたんだよな? どうやって鳴らしていたんだよ?」
 明日香のその問いかけに。
 老婆がそれは、と微かに口ごもりつつも、先程迄自分達が隠れていた倉庫の方を指さした。
「この白鐘は、私達にとっての希望の象徴です。ですので、何時でも誰かが鳴らせる様にと、色々な仕掛けがございます。例えばあの倉庫と物見櫓は地下通路で繋がっておりますので、そこを通って、時折私達の中でも力に優れた者が、警戒の為に物見櫓に上がって、それを鳴らさせて頂いていたのです」
「……成程な」
 そう告げる老婆のそれに、明日香が丁度頷いた時。
 ――パチパチパチパチパチパチ……!
 子供たちの歓声と拍手が辺り一帯に響き渡った。
 歓喜と希望に満ち満ちたその華やかな笑い声は、即興の人形劇を開演してくれた、千尋へと向けられていて。
 千尋は満更でもなさそうな表情で、子供達が自然と浮かべた笑みを見つめてそっと微笑む。
(「これぞ、人形遣いの本領発揮と言うやつだな」)
 この人形達は武器としてだけでなく、戦闘以外の何でもない事……例えば、戦いの中で倉庫に隠れ気持ちが落ち込んでいたであろう子供達に再び笑顔を浮かべさせることが出来るという様な……そんなことにも、使う事が出来る。
 そして、それはきっと……。
「ただ、戦うだけじゃない。それ以外にも使えるのはとてもいい事、なんだろうな」
 その、千尋の何気ない呟きに。
「うむ……そうであるな、千尋殿」
 礼と一緒にチルゼー人形を老婆に一体プレゼントしたワルゼロムが、同意する様に千尋に首肯した。
「こうして、戦う以外の方法でも我等は我等の力を使い、人々に笑顔を齎すことが出来る……それが我等の強さであり、役割でもあるのであろう。明日香殿も、努々忘れぬ様にな」
「あいよ、教祖」
 生返事を返す明日香に、微苦笑を零すワルゼロム。
 そのまま老婆達と子供達の傍を辞して、村から帰ろうとした、丁度その時。
 ――ゴーン……。ゴーン……。ゴーン……。
 穏やかに。
 再び訪れた平和を祝福する様に、また白鐘が鳴り出した。
 その白鐘が奏でる荘厳な音に耳を傾けながら、千尋がかの白鐘へと視線を向け、目を眇める。
「今後、この村がどうなるかは分からないが。なるべく、長く平和な時が続くと良いな」
 その、千尋の呟きに。
「そうであるな。だが、もし、また彼等の力では解決できない問題が訪れたその時には、我等が三度目のその光を、齎せば良いのであろう」
 そうワルゼロムが呟き、そして、静かにその場を後にした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ウィリアム・バークリー
【4】

敵を討滅したとはいえ、快哉を叫ぶ気にはなりませんね。
まあ、敬輔さんのことは親しい方々にお任せしましょう。

ぼくは、『聖女』たちの生き残りとお話しさせてもらいます。
「優しさ」のこもった「礼儀作法」で接します。

皆さん、よく生き残ってくださいました。
仲間を失い自分達だけがという思いもあるでしょうけれど、そう思うならなおのこと、生き残った者の務めを果たしていただかなければ。

この人類砦『ホワイトベル』に合流して、人々を救い導いてくれませんか?
あなた方の犯した罪は、二人のヴァンパイアが抱えて行ってくれました。
すぐには無理かもしれませんが、この砦で人々のため力を使ってほしいんです。
よろしくお願いします。


天星・暁音
折角、また機会に恵まれたのだから、出来るだけ沢山の人達を見てあげたいね
まあ精神的なものは本当なら1人1人話して少しずつってのが理想ではあるのだけど…流石にそんな時間はないからね
とにかく治せるだけ皆の病気や怪我を治して、精神的な不安や苦痛何かを和らげてあげてかないと…
余り手を出し過ぎるのは良くないのかもしれないけれど、放ってもおけないものね

砦の人達や聖女達に病人や怪我人がいないか見て回りいれば治して周ります
最優先は状態が特に悪い人達で、次は子供を優先的にみて周り次に砦を護る人たちを優先していきます
が気力が続くなら休み休みでも全員診ます
倒れる姿は見せません

スキルUCアイテムご自由に
アドリブ共闘歓迎


リーヴァルディ・カーライル


…助けた以上、中途半端に放り出したりはしないから安心して

…今を生きる人々に危害を加えるなら容赦しないけど、
誰かに迷惑を掛けないならば好きにすれば良い

…幸い、この地の人々は猟兵と縁が深いみたい
彼らの知り合いの猟兵に頼んで口利きをしてもらえば、
この地で静かに暮らす事もできるでしょう

…この地に居辛いのなら、私が支援してあげるわ
別の人類砦まで転送して、その地で貴女達が生活していけるようにね

…私に出来るのは道を示す事だけ
進むべき道は、貴女達自身の意志で決めなさい

聖女達の希望を聞き、残る者達にはUCから"大量の保存食"を出し、
村人達に使ってもらうように告げ離れる者達とUCの中に入り別の人類砦に転移する


真宮・響
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

どれ、聖女達のフォローは子供達に任せてアタシは村人達のフォローに行こうかね。半年経ったとはいえまた襲われたのは大変な事だからね。

鐘の音に耳を澄ませながら村人達に話しかける。どんなに困難があろうとも人が生きた証はここにある。他でも無い、アンタ達が繋いできた希望だ。元気だしな。アンタ達はこれからも進んでいける。これからも手を携えて生きて行くんだ。その手、決して離すんじゃないよ。アンタ達のこれからの歩みに赫灼のグロリアを贈るよ。


真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との連携)

聖女の皆様と交流します。

聖女の皆さんは純粋に主の願いを叶えたかっただけなんですよね。・・・ただ、その主が歪んでいただけで。仲間の皆さんが死んでしまったのは確かにお辛いと思います。

聖女の皆さんは生き残った意味があると思います。闇が深い世界で心痛めている方にその慈愛の心で救いの手を差し伸べて欲しいのです。そして亡くなった方の魂が安らかであれと祈るのが信仰者の役目だと。私も「護る者」貴方達のやり方で、この世界の方達を護って挙げて下さい。大丈夫、聖女の皆様ならきっとできます。(微笑んで、そっと【手をつなぐ】)


神城・瞬
【真宮家】で参加(他猟兵との連携)

まあ、あれだけ強い強制力から急に解放されたら呆然としますよね・・・同市が何人か亡くなっているなら尚更。

聖女の皆様に近付いて精霊のフルートで清光のベネディクトゥスを奏で、精霊達を呼び出して。この精霊達は皆さんが好きみたいですよ。皆様がいい人だって分かるんですね。大丈夫です、皆さんはやり直せます。その慈愛の心をこの闇の世界の人達に向ければいいだけ。このホーリーベルの方達の心の支えになるのはいかがですか?貴女達のかつての主の意志を自分達の意志でやればいいんですよ。

僕達は貴女達がこれから確かな道のりを歩んでいけるのを願ってます。この件に関わったものとして。




 ――時は、少し遡る。
 戦いが終わり、白鐘の鳴る音を耳にしながら。
「敵を討滅したとは言え、快哉を叫ぶ気にはなりませんね」
 目前から消えていった2人の吸血鬼の事を思い出し、ウィリアム・バークリーが重苦しい溜息を一つ吐いた。
 あの戦いで、消えていった2人の吸血鬼の想いは昇華されたのだろうが、宿縁主であった彼はどの様な思いを抱き、彼等に止めを刺したのだろう。
 彼の胸中にあるものなど分からぬままに、ウィリアムは軽く頭を振るった。
「まあ彼には親しい方達がいる様ですし、其方の方々にお任せするべきでしょうね」
 そう呟くウィリアムに。
「そうだね」
 天星・暁音が同意する様に頷き、共苦の痛みの刻まれた部分をそっと撫でる。
 先程までの痛みは嘘の様に落ち着き引いていき、今は鳴り響く白鐘に共鳴する様な穏やかな輝きを発しているそれに、暁音はそっと微苦笑を零した。
「瞬。アンタは行かなくていいのかい?」
 そんなウィリアムと暁音を見やりながら。
 真宮・響が神城・瞬にさりげなく問いかけるのに、瞬は穏やかに微笑み、大丈夫です、と静かに首肯した。
「彼には、僕以外にも傍に居る人が居ます。其れよりも今は、彼女達の事の方が心配ですから」
 瞬の、その言の葉に。
「……そうね」
 リーヴァルディ・カーライルが静かに首肯するのを見て、リーヴァルディさん、と真宮・奏が呼びかけた。
「あの聖女の皆様は……」
「……ええ、分かっているわ。助けたあの娘達を、中途半端に放り出したりはしないから安心して」
 淡々とそう告げるリーヴァルディに良かった、と言う様に安堵の息を吐く奏のそれを暁音が後ろを振り返って確認し、ウィリアムが既に中に入っていった他の猟兵達の背を目で追いながら。
「其れでは行きましょうか、皆さん」
 さりげなくそう呼びかけるのに響達が軽く首肯を返し、そして開かれたホーリーベルの扉を潜り抜けた。


 ホーリーベルの中に足を踏み入れたウィリアム達が最初に目を留めたのは、途方に暮れた表情で外から入ってきた自分達を見る、彼女達の、その表情。
 呆けた様に此方を見る娘達の表情を見て、まあそうですよね、と瞬が溜息を零す。
「あれだけ強い強制力から急に解放された上に……同志が何人か亡くなっているのですから、呆然とするのは、当然ですよね」
 小さく呟きながら、懐に忍ばせた美しい銀製のフルートを取り出し、そっと其れに口を付ける瞬。
 そのままゆっくりと息を吹き込むと、澄んだ美しい清光の如き音色が辺り一帯に響き渡り、春風の如き穏やかな暖かさを、空っぽになった聖女達の心と、疲労に顔を青褪めさせていた村人と兵士達へと注ぎ込んでいく。
「あっ……」
 村人に介抱され、何とか此方にやって来た聖女……年頃はリーヴァルディや奏と同い年位であろうか……少女がその音色にそっと吐息を漏らすのを見つめながら、ウィリアムが皆さん、と柔らかい声で聖女達に呼びかけた。
「良く生き残って下さいました。その事に、ぼく達は心より喜びを申し上げさせて頂きます」
 その、ウィリアムの呼びかけに。
 瞬の音色が心に染み入り、漸く少し口が回る様になったか、聖女の1人が其れにいいえ、と軽く頭を振った。
「確かにあなた達の力で私達は生き残った。……そう。生き残って、しまったのよ……」
 沈痛な口調で呟く彼女のその目が、死んだ魚の様になっている。
 そんな彼女の様子に心が軽く軋む様な痛みを感じたか、奏がそうですね、とその聖女に同意する様に首肯した。
「皆さんの仲間が死んでしまった事……それは、確かにお辛いと……そう、思います……」
 奏の語尾が途中で徐々に、徐々に弱くなってしまう様に感じたのは、恐らく暁音の気のせいではないだろう。
(「彼女達が咎める様な視線を、俺達に向けている訳ではないけれども……」)
 その彼女達の仲間達の『死』を齎したのは、暁音達猟兵だ。
 故に、その死を悼む事、祈ることは許されるであろうが、一方で彼女達に悔やみの言葉を向ける資格が自分達にあるのかどうかは、甚だ怪しい。
 奏さんと宥める様に呟く暁音に、聖女の1人……妙齢の女性……が軽く頭を横に振った。
「私達は、あなた方に命を救われているのです。あの人達の願いを叶えたい……ただ、それだけのために、数多の罪を犯した私達は」
 重苦しい溜息を吐き、そっと悔いる様にその手を胸に当てているその女に。
「でもそれは、ただ、主の願いを叶えたかっただけです。……ただ、その主の願いが歪んでいたのであって、それが貴女方の罪の全てだとは、私には思えません……」
 そう優しく告げて、軽く頭を振る奏。
 瞬の奏でる銀色のフルートの音色が、微かに震えた。
「まあ……これからも今を生きる人々に危害を加えるつもりなら私は容赦しないけれど、誰かに迷惑を掛けないならば、貴女達の好きにすればいいわ」
 何処か突き放す様な、そんな口調で。
 淡々とそう告げるリーヴァルディのそれに、聖女の1人の表情が強張った。
「……罪人たるわたし達が、好きにしていい、と……?」
「ええ、そうよ」
 そう、静かにリーヴァルディが首肯したところで。
 一瞬、咎める様な眼差しを奏が向けそうになるが、響がそっと手を挙げて、そんな奏を穏やかに制する。
 何故なら……。
「少なくとも、今の貴女達には、幾つかの可能性……選択肢があるもの」
 リーヴァルディがそう、淡々と言葉を続けたから。
「選択肢……?」
 聖女の1人である少女がそう問い返して来たのに対し。
 無言でリーヴァルディが頷き、その双眸を瞑り、ゆっくりと言の葉を紡いだ。
「……幸い、この地の人々は、私達猟兵と縁が深いみたい。ならば彼等の知り合いの猟兵に頼んで口利きをして貰えれば、この地で静かに暮らすことも出来るでしょう」
 リーヴァルディの、その言葉に。
「……そうですね。確かにぼく達なら、彼等に口利きは可能です」
 ウィリアムが請け負う様に相槌を打ち、暁音もまた、其れに静かに頷いている。
 奏やフルートを奏で続ける瞬、そして響もまた、同様の想いはあった。
 瞬のフルートの音色が一際強くなり、奏の紫の瞳に、強き意志の力が宿る。
 リーヴァルディのその言葉を引き取る様に、ウィリアムが先程自分達の犯した罪の重さを口にした妙齢の女性を見つめ、ゆっくりと解きほぐす様な口調で話し始めた。
「あなた方の犯した罪は、2人のヴァンパイアが抱えて行ってくれたのです。勿論、皆さんが仲間を失い、自分達だけが、と言う思いを抱くのもぼく達には否定できません。……その原因となったぼく達が言うのも、少々おこがましいかも知れませんが」
 ……けれども、と。
 一度言葉を句切り、軽く深呼吸を一つするウィリアム。
 それから改まった口調で、ならば、と話し続けた。
「もし、失われた仲間達への忸怩たる思いが皆さんの中にあるのであれば、尚の事、生き残った者として、務めを果たして頂かなければなりません。例えば、この人類砦『ホーリーベル』に合流して、人々を救い導いていく、と言った様に」
 そこまで一気にウィリアムが話して一息ついた、その間に。
「皆さんが生き残った……私達によって生き残らされたのには、意味がある、と思います。そう……闇が深い世界で心を痛めている皆さんに、その慈愛の心を持って、救いの手を差し伸べると言った様に。亡くなった方の魂が安らかであれ、と祈る事こそが、信仰者の役目だと信じて」
 そう告げる奏の呼びかけに、微かに漣立つ聖女達。
 と、その時。
 瞬の清らかなるフルートの音色に合わせる様に。
 ――ぽう、ぽう、ぽう。
 蛍の様に淡く美しく輝く光の球達が、瞬の清らかなるフルートの音色によって紡がれたベネディクトゥスに惹かれる様にして姿を現し、其々に淡き燐光を発した。
 その中にリーヴァルディのユーベルコードが解除されていない、光の精霊達も混ざっているのに暁音が気がつき、さりげなく響に目配せを一つ。
(「響さん」)
 目配せと共に、ヒソヒソと囁き声で紡がれた暁音の其れに。
(「ああ。後は子供達に任せて大丈夫そうだね」)
 響が軽く首肯して、そっと聖女達と相対しているウィリアム達の輪を抜けて、此方に集まってきていた、村人達の方へとその足を向ける。
 その間にも瞬のベネディクトゥスに惹かれて現れた精霊達が祝福を聖女達に投げかける様に燐光を発しているのを見て、瞬がそっとフルートのリッププレートから口を外して、ほら、と優しく微笑んだ。
「この精霊達は、皆さんが好きで無ければ、現れる事はありません。何故、この精霊達が皆さんの事を好きになったのか、分かりますか?」
 そう問いかける、瞬のそれに。
 聖女達が目を瞬き、小首を傾げて先を促すその姿を見て、瞬がそれはですね、と優しく続けた。
「皆さんが慈愛の心を持つ良い人だと、そう分かっているからです。ならば奏の言う様に、皆さんはきっとやり直せます。その慈愛の心を、この闇の世界の人達に向ける、ただ、それだけで良いのですよ」
 瞬の、囁く様な説得に。
「……そうかも知れません。けれども……」
 別の妙齢の女性が小さく震える様な声音で、ポツリと呟く。
 そこに孕まれている不安や気まずさを読み取り、リーヴァルディがもし、と小さく呟いた。
「……自分達の犯した罪故に、この地に居辛いのであれば、私が支援してあげるわ。別の人類砦まで転送して、その地で貴女達が生活していける様にね」
 その、リーヴァルディの囁きに。
「……あっ……」
 尚、震える声音を上げていた妙齢の聖女が思わず、と言った様に顔を上げ、懇願するような表情でリーヴァルディを見やっていた。
 その女性の表情を見て、リーヴァルディが静かに溜息を一つ。
「……でも、私達に出来るのは、あくまでも道を示す事だけよ。奏や瞬、ウィリアムが指し示した道も、あくまでも貴女達に与えられた選択肢に過ぎないわ。どの進むべき道を選ぶのか、それは、貴女達自身の意志で決めなさい」
 リーヴァルディの、その言葉に。
「自分で……決める……」
 ポツリ、と呟くその女性に向けて、奏がその手を差し出した。
「私も、『護る者』です。だからこそ、貴女達なりのやり方で、この世界の方達をどうか護ってあげて下さい。皆様なら、きっと出来ますから」
「勿論、直ぐには難しいかも知れません。ですが、この砦……いいや、この世界の人々の為に、その力を使って欲しいと言う願いは、ぼくも同じです。どうか、宜しくお願いします」
 差し出された奏の手に、恐る恐るその手を伸ばす聖女の姿を見つめながら。
 そうウィリアムが静かに告げると、暫し、この場に静謐な沈黙が訪れた。


 一方、その頃。
 後方から遠巻きに聖女達とリーヴァルディ達を見ていた数十人の村人達に。
「皆、また会ったね」
 響が口元に微笑を浮かべてそう言の葉を投げかけた。
 響の、その呼びかけに。
「ああ……貴女は、あの時あの鐘を鳴らしてくれた……!」
 人々の輪の中から、覚えがあったのか女の1人が姿を現し、響の姿を認めて小さく息を一つ飲む。
 安堵故か、その目に一杯の涙を溜めるその女に、響が微笑して、ポンポン、と柔らかくその肩を叩いていた。
「あの村から出て、もう半年以上か。よくもまあ、これだけの砦をまた築き上げることが出来たね。でも……また、襲われたんだ。さぞや大変だっただろう?」
 ――ゴーン……! ゴーン……! ゴーン……!
 白鐘の鳴り響くその音に、響が耳を澄ませながらそう呟くと、女は感極まった様子で、ブルブルと軽く首を横に振っていた。
 感動に身を震わせるその女の様子を暁音がちらりと見やりながら、周囲を取り巻いている十人強の兵士達と、その背後にいる人々へと視線を向ける。
「怪我人はいない? 俺で良ければ、出来るだけ診るけれども」
 その暁音の、労りの籠められた呼びかけに。
「すまない。それでは、彼を診て貰えないか」
 恐らく十人強の兵士達の代表であろう、30代前半程に思える男が、僅かな戸惑いを見せながらも暁音に頷き、それからちらりと後ろを見やる。
 そこには村人達に支えられ、死人の様にやつれた顔色をした青年がいた。
「彼は、皆を避難させる時に子供を庇ってね。止血こそしたのだが……」
 そう軽く説明する男に頷き。
 暁音が星具シュテルシアを両手で握りしめ、祈る様にその呪を静かに紡ぐ。
『咲き誇れ虹の花よ。舞い散り全てのものに祝福を……』
 紡がれたその呪と共に、星具シュテルシアの先端から、虹色に光輝く花弁が生まれ落ち……それが花吹雪と化して、死人の様に顔を青ざめた青年の体を覆っていく。
 気がつけば彼の顔色は色づき、その体をピンシャンさせ、他の村人達に借りていた肩を辞退して、自分の足でその場に立っていた。
「これがユーベルコード……皆さんの奇跡の力なのか……ありがとうございます!」
 驚きと感動の綯い交ぜになった表情で一礼する青年に微笑みかけながら暁音が頷き、それから村人達の方を改めて見やった。
「他にも怪我人はいない? 折角、また出会える機会に恵まれたのだから、俺に出来る限りのことはさせて貰うよ」
 その暁音の微笑みを見て、村人達が何処かホッ、としたように胸を撫で下ろす。
 最も、そういう者ばかりではない。
「また……こういう事が、起こるの?」
 何処か、か細く透き通ったそんな声で。
 1人の少女が震える唇を噛み締め、俯き加減に呟いていた。
「やっと……やっと新しい生活が始められたのに……また此処も、踏み荒らされてしまうの?」
 そんな少女の、切々とした訴え。
 ――ゴーン……。ゴーン……。ゴーン……。
 穏やかに、けれども何処かもの悲しくも感じられる白鐘の音色が、彼女の不安をより一層、濃く映し出している様にも思える。
 そんな彼女に、そっと近寄り軽くその肩を抱く響。
「確かにまた、大きな困難がある可能性は否定できないよ。けれどもね、アンタ達は生きている。生きている証が、きちんとあそこにある」
 そう告げて。
 響が少女の肩を抱きながら見つめたのは、物見櫓に取り付けられたその白鐘。
 そうしている間にも、暁音が静かに祈りの呪を捧げている。
 避難する中で火傷の様な軽傷を負った怪我人や、或いは急な活動による心不全などを起こした老婆等を癒す、虹色の花の花吹雪を。
 虹花の花吹雪が宙を舞い、白鐘の方に吸い込まれて行く様に舞い上がるのを少女と一緒に見つめながら、響が静かに話し続けた。
「あの白鐘を持ってくることが出来た事も、こんな人類砦を築き上げることが出来た事も、他でも無い、全てアンタ達が繋いできた希望になるんだ。だから……元気を出しな。アンタ達は、これからも進んでいけるから」
 柔らかく告げられた響のそれを、そっと後押しする様に。
 少女の胸元に宙を舞う虹花の花弁がハラハラと舞い落ちてくる。
 その花弁の中に籠められた闇夜を照らす星空の様な暖かさを感じた少女が、大事そうにその花弁を両掌で包み込んだ。
(「あまり手を出しすぎるのは、本当は良くないのかも知れないけれど……」)
 彼女の様に、怖く、悲しい思いをして体では無く、心に深いトラウマの残った者達も居るであろう。
 ましてや、二度目の襲撃を受けているのであれば、尚の事。
(「だとしたら、やっぱり放っておけないものね」)
 内心で、そう呟き。
 暁音が星具シュテルシアを両手でギュッ、と握りしめ、祈る様に目を瞑り、再び祈りの呪を紡いで周囲の村人達と聖女達を包み込む様な美しい花吹雪を吹かせ始める。
 それは、100を優に超える人々全てに、注ぎ込む事は出来なくとも。
 それでも見る者の心を賦活させ、次なる希望へと繋がる道標にはなるだろう。
 そんな暁音の想いの籠められた花吹雪と、穏やかに鳴り響く白鐘に合わせる様に。
 響が、熱の籠った赫灼のグロリア……誇り高き者達に捧げる栄光の賛美歌を、高らかに歌い上げる。

 ――花吹雪と、賛美歌に彩られた華やかで暖かな世界と、その想いは……。


「……私達は、残ります」
 聖女達の殆どにそう思わせ、決断の扉を開かせる鍵になるには、充分だった。
 そこに浮かんだ、その決意に。
「そう。……貴女達は、どうするの?」
 リーヴァルディが静かに頷いた。
 次いでリーヴァルディは未だ迷っている様にも、救いを求めている様にも思える幾人かの聖女達の方へとその紫の瞳を移す。
「わたしは……この世界のために、償いの道を歩みたいわ」
 その瞳を迷いに揺らし。
 そこに躊躇いや、懊悩……様々な感情を孕ませながら。
 そう呟く聖女の1人である少女に、そうですか、と奏が小さく頷いた。
 それとは、別に……。
「御免なさい。やはり、あたし達は、この場所には居られそうに無い」
「罪から逃げてしまう様で申し訳ないのだけれど、でも……此処に居続ける事だけが、償いでは無い様にも思えるの」
 そう呟く数人の聖女達も居る。
「それじゃあ、貴女達はどうするの?」
 リーヴァルディが、そう問いかけると。
「貴女が教えてくれた別の人類砦に転送して貰えないかしら?」
 そう、聖女の1人が呟き。
「贖罪は勿論するつもりです。でも、今は、私には、この村の人々の顔を見続ける事が出来ません」
 別の聖女が訥々と他の者達を代弁する様に語るのに、分かったわ、とリーヴァルディが請け負った。
「それでは、此処に残る皆さんについては、ぼくが村人の皆さんに話を通しに行きますので、ついて来て下さい」
 そう告げる、ウィリアムに。
 此処に残ると決めた聖女達が頷き、ウィリアムの後に続いて響と暁音の癒している村人達の方へと踵を返す。
「あっ……私も手伝いますよ!」
 慌てて奏がそう告げて、ウィリアム達を追いかけようとした時。
「奏。それなら、これを村人達に持っていって」
 そう告げたリーヴァルディが、すっ、と自らの指に傷を付ける。
 色白の肌に付けられた傷から滴り落ちた血が、リーヴァルディの左目の刻印……即ち、名も無き神との契約印と共鳴し、血色の魔法陣を生み出していた。
 現れた魔法陣にリーヴァルディが手を入れて、その奥にある常世の世界の古城から、大量の保存食を取り出している。
「きっと役に立つから。あの人達に、使って貰って」
 その、リーヴァルディの呼びかけに。
「リーヴァルディさん……分かりました!」
 奏が頷きその大量の保存食を抱えて村人達と直談判しに行くウィリアムと聖女達の群れの後を追いかけていく。
(「あの子達は、もう大丈夫ね」)
 その背を見送りながらそう結論づけたリーヴァルディが、それじゃあ、と他の人類砦への転送を希望した聖女達に静かに呼びかけた。
「行きましょうか」
『はい』
 リーヴァルディの呼びかけに、唱和する聖女達。
 そして只一人、償いの旅に出る、と決めた聖女である少女と、別の人類砦に向かおうとする聖女達、そして村人達の為にも此処に残ると決めた聖女達の背を其々に見送りながら、皆さん、と瞬が呟いた。
「この件に関わった者として、僕達は、貴女達がこれから確かな道のりを歩んでいけるのを心から願っています。ですので、どうか幸運を」
 その瞬の呟きに、リーヴァルディの開いた魔法陣の中に入ろうとしていた聖女達が、そっと微笑んだ。
「ありがとう。また何時か、何処かで」
 そう告げて。
 リーヴァルディと共に消えていく聖女達を瞬が見送り、そして……。
「それじゃあ、わたしももう行くね」
 そのままくるりと瞬に背を向けて、ホーリーベルの入口の方へと向かって行く、聖女少女の背を、瞬は静かに見送った。
 ――ゴーン……。ゴーン……。ゴーン……。
 白鐘が、静かに鳴り続ける。
 響の歌と暁音の花吹雪に彩られた白鐘が、其々を見送る様に鳴り響く。

 ――絶望と言う常闇を振り払い、煉獄から抜けだし新たな旅へと向かう……其々の聖女達を見送る様に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

館野・敬輔
アドリブ歓迎
優希斗、陽太、及び敬輔を指名している方のみ絡み可

…あの時と同じ、鐘の音が聞こえる
それは弔いや祝福でもあるのだろうけど
俺にとっては…両親の魂を煉獄から解き放ち鎮めるための鐘

とはいえ、いつも通り吸血衝動が沸き上がってくるから
陽太に目配せしてそっと砦を離れ、人気のない場に行くが

後を追って来た陽太の左腕に噛みつき吸血するが
さほど吸血せず衝動が治まったことに驚く
絶望に囚われて以後、酷くなる一方だったのに
…やはり、両親の血が呪詛を大幅に和らげたのか?

両親の魂はこの剣の中に
だから、残すは妹だけ
吸血鬼化している可能性は高いが
ならば宿命から解き放つのが兄としての役目

…もう少しだけ、付き合ってくれ
頼む


森宮・陽太
アドリブ大歓迎
黒髪のにーちゃん(優希斗)、敬輔との絡み希望
他者絡みも問題なし

また、あの鐘が鳴っている
恐らく、一区切りついたと見て鳴らしているのか
…あの時と、同じか

敬輔の目配せを受け、そっと離れる
吸血鬼化の代償の吸血衝動を治めねえとシャレにならん
こればっかりは誰にも任せられねえ

いつも通り腕をナイフで傷つけ
敬輔に吸えよと差し出すが
さほど吸われずに衝動が治まったことに驚く
…最近、俺が気絶寸前になるまで吸われていたんだが

両親の愛が呪詛を弱めたのか?
…俺にはわからねえよ

両親は最期まで敬輔や妹の身を案じていた
吸血鬼化して歪んだとはいえ
親は子の身を案じ続けるってことなんだろうな
敬輔、絶対忘れんじゃねえぞ


文月・統哉
【4】
■聖女達と話す
大丈夫だよ
洗脳の恐ろしさは村の皆も良く知っている
戻れた事が奇跡だって事も
それでも拭えぬ罪の意識があるなら尚の事
彼らと共に生きて欲しい
命を大切にして欲しい
亡くなった者達の分まで

■敬輔の様子を見守る
友として出来る事
吸血鬼への復讐心のままに戦う敬輔を
俺はただ見届けるしか出来ないのだと思ってた
それでも少しは
俺なりの役割も果たせたのかな
(宵に手を添え儚くも優しく笑んで

両親の事、優希斗はいつから気づいてた?
君の見た今と違う景色
予知してくれてありがとう、優希斗

長い長い復讐譚
その先に立った今
戦いに散った数々の命の
安らかな眠りを祈る
怒りも悲しみも乗り越えて
未来へと歩み続ける為に

※アドリブ歓迎


パラス・アテナ
聖女達に声を掛け
生き残ったことに罪悪感なんざいらないよ
そんなの抱えていたら重くてしょうがない
死んだ連中は運が悪かった
運が良かったアンタ達は
死んだ連中の分まで精一杯生きるんだよ
それが償いってもんだろう
この人類砦を立て直したらどうだい?これも何かの縁ってもんさ

啓輔には茶でも出そうか
鐘の音を聞きながら愚痴でも弱音でも聞いてやるよ

心の傷なんてすぐに癒えやしない
時間と、言葉と、飯と寝床が必要だ
今は無理に笑わなくていい
いつかちゃんと泣いておやり
心の傷なんてのは、そうしなけりゃ痛みが和らがないものさ
忘れられるくらいになったら、初めて「癒えた」って言えるからね
焦る必要はない

なに、経験者の戯れ言さ
聞き流しときな


エリシャ・パルティエル
またあの鐘が鳴っている…
今度こそ悪夢を乗り越えて希望の道へ歩き出せるように…
闇に閉ざされたこの世界に光が訪れるように
そっと祈りを捧げる

戦いで傷ついた仲間がいたら
癒しを届けるわ

胸騒ぎがしたの
そう敬輔の両親が…

自分の家族がオブリビオンになった時
果たして何ができるだろうと考えて
あたしにとって家族は何よりも大切で
そんなことになったら絶望に囚われてしまうと思う

でも敬輔は立ち向かったのね
傷つきながらも茨の道を歩いて
そしてご両親を解放したの…
ずっとその姿を見てきたから
胸に熱いものが込み上げて

これで復讐…いいえ、解放は終わったのね
これからはあなたの人生を歩んでね
あたしでよければいつだって力になるから




 ――ゴーン……。ゴーン……。ゴーン……。
 静かに鳴り続ける、鐘の音を背にしながら。
 ホーリーベルの入口から、そっと姿を現した聖女の一人であった少女。
 その瞳に、迷い、躊躇い……そして押し潰されてしまいそうな程の罪悪感を抱えながら、その小さな胸を押さえるその少女は、微かに愁いを帯びた眼差しを、背後へと向けていた。
「此処に残ると決めた皆は、本当に、大丈夫、なのかしら……?」
 何処か物寂しげに、同時に深き心配を孕んだ声で。
 そう呟く少女の呟きを耳に留めた文月・統哉が、柔らかく落ち着いた声で彼女に話しかけている。
「大丈夫だよ。洗脳の恐ろしさは、村の皆も良く知っている」
 その、統哉の呼びかけに。
「えっ?」
 少女が思わず、と言った様子で其方を振り向き、大きな黒い眼差しで見つめてくるのに、統哉は思わず微笑んだ。
「この村の人達……ホーリーベルを築き上げた人達の村の男手は、マリーという吸血鬼によって洗脳され、その忠実なる僕と化した。そして、そんな彼等を俺達は……」
『魂の救済』と言う大義と共に、一人残らず討ち果たした。
「だから、彼女達は知っているんだ。君が……君達が、人に戻れたことが奇跡だって事をね」
 口元に柔らかい微笑を刻んで少女を励ます統哉に、少女はそう、と小さく頷きながらもそっと顔を俯けている。
「でも、わたしは……わたし達は、生き残ってしまった」
 そう沈痛そうに呟く少女に対して。
「そんな風に生き残ったことに対する罪悪感なんざ、アンタ達にはいらないよ」
 サバサバと切り捨てる様な、そんな口調で。
 パラス・アテナがそう告げるのに、少女が分かっている、と小さく頷いた。
「似た様な事は、他の人もわたし達に言ってくれたわ。でも……」
 まるで、イヤイヤをする様に。
 頑なに首を横に振る少女に、パラスが溜息を吐き、軽く肩を竦めて見せた。
「そんな罪を抱え続けていたら、重くてしょうがないんだ。死んだ……アタシ達が殺した連中は、運が悪かった。でも、アンタは運良く生き残った。ただ……それだけの事なんだよ」
 パラスにきっぱりとそう告げられ。
 少女はそうなのかな、と軽く小首を傾げる。
 その瞳に白い雫が溜まっていくその様子を、パラスは静かに見つめていた。
「そんな簡単に割り切って良い事なのかな? 運が良かった、悪かったなんて……」
 呟く少女の何処か痛ましさすら感じられる其れに、パラスがそっと息を吐く。
「まあ、アンタ位の年頃じゃあ、そんな簡単に割り切れる筈もない、か」
 そう呟き、白鐘を睨み付ける様に顔を上げるパラス。
 白鐘は、相変わらず鳴り響き続けている
 その音色を聞きながら、統哉がそうだね、と少女に静かに頷いた。
「拭えぬ罪の意識を容易に拭えないのは、当然だろう、と俺は思う。実際君達と似た様な、自らの『罪』の意識を力に変えて、戦う猟兵も俺の知り合いにいる」
 その、統哉の呟きに。
 パラスも思い当たる節があったのか、ああ、と小さく頷いていた。
 でも、と統哉は話を続ける。
「だからこそ俺は、命を大切にして欲しいとも思うんだ。それこそ……」
 統哉が此処まで続けたところで。
「死んだ連中の分まで、精一杯生きることでね」
 パラスがそう引き取り、何処か悟った様な口調で彼女をそう諭していた。
 少女が、驚愕した様に目を見開くのを見つめながら、軽く柳眉を立てつつパラスが続ける。
「それが償いってもんだろう。それが分かっているから、この人類砦にアンタ達の仲間も残ったんじゃ無いのかい?」
 少女は今にも零れ落ちてしまいそうな目に溜まった雫を拭き取り、そうね、と小さく頷いた。
「確かに、あなた達の言うとおりなのかも知れないわ。生き続ける事で、わたし達は贖罪を果たすことが出来るのかも知れない。でも……わたしには、其れが上手く飲み込めないの」
 理由は、分からない。
 けれども、何か……。
 そう、何かが自分をこの地に残る事を躊躇わせるのは、分かる。
「それは、ただの逃げなのかも知れない。それでも今のわたしは旅に出てみたい……そして償うことの意味をきちんと考えてみたいの」
 その瞳に、深き迷いを抱えながら。
 それでも尚、自らを駆り立てる何らかの意志を捨てられぬ彼女の其れに、強い意志を感じとり統哉が分かったと首肯して。
 それからパラスを一瞥すると……諦めた様にパラスが溜息を一つついた。
「まあ、そう言う時、と言うのは確かにあるものか。ならば、これ以上アタシ達もアンタを止めないよ。だが……」
 と、パラスが此処まで告げたところで。
「どうか、命だけは、大切にな」
 統哉が引き取りそう告げると、少女は分かった、と言う様に静かに首を縦に振り、そのままホーリーベルを後にする。
 すれ違い際に、統哉が一つだけ、と少女に問いかけた。
「君の名前は?」
 その、統哉の問いかけに。
「マリナ」
 そう答えた、マリナは歩き始めた。
 そんなマリナの背を静かに見送ったパラスが、さて、と小さく息を漏らす。
「敬輔の奴は、何処にいるんだろうね? もう少し、周りを探してみるか」
「ああ……そうだな」
 パラスの其れに、統哉が静かに首肯して。
 ホーリーベルの外周を見回す様にして、そのまま薄暗い闇の中を歩き始めた。


 ――ゴーン……。ゴーン……。ゴーン……。
「また、あの鐘が鳴っている……」
 ホーリーベルの外周で。
 白鐘を見上げたエリシャ・パルティエルが、独り言の様にそう、言葉を漏らす。
 そのままエリシャは暫し白鐘を見つめていたが、程なくしてそっと金の双眸を閉ざし、静かに両手を重ねて、祈りの言葉をそっと手向けた。
(「今度こそ、あの悪夢を乗り越えて、希望の道へ、歩き出せます様に……」)
「そして、この闇に閉ざされたこの世界に、光が訪れます様に……」
 微風が、吹いた。
 それはエリシャの祈りを、世界へと浸透させる様に運び去り、そのまま世界の血肉と化させて消えていく。
 そうして祈りを捧げるエリシャの、その背中に。
「エリシャさん……来ていたんですか」
 落ち着いた青年の声が掛けられて、我に返って驚きながら、エリシャが其方を振り向いた。
「あら……優希斗じゃない。来ていたの?」
 金の瞳に映された目前の漆黒の双眸の青年に、エリシャがそう呼びかけると。
「ええ……呼ばれましたので」
 その黒髪の青年、北条・優希斗は微苦笑を零してそれに頷き返す。
 彼がこのホーリーベルに迫る危機を予知し、猟兵達に伝えたグリモア猟兵である。
「呼ばれた? ……もしかして、敬輔達に?」
 そう問いかけるエリシャに微苦笑を浮かべたまま、そうですね、と優希斗が静かに首肯した。
「それでこれから、其方に向かおうと思いまして」
「そう……。敬輔は、今、何処にいるの?」
 そのエリシャの問いかけに、優希斗が苦笑を零したままに小さく目を細め、エリシャの肩越しにその後ろを見る。
 その視線に気がつき、エリシャが其方を振り返れば……。
「おや、エリシャ。アンタも来てたのかい」
「優希斗もか」
 パラスと統哉の姿があるのをエリシャが認め、優希斗がはい、と頷いた。
「パラスさん達は、やはり……?」
「ああ。友として、敬輔のことが気になってね」
 そう答える統哉に、優希斗がやっぱりか、と言った様に軽く頷いた。
「それなら、俺が案内するよ、統哉さん。敬輔さんは今、陽太さんと一緒に居る」
 そのまま踵を返し、砦の外の在る場所へと向かう優希斗の後を、統哉達は其々の表情を浮かべて追いかけた。


 ――ゴーン! ゴーン! ゴーン!
「……鐘が、鳴っている。あの時と同じ、鐘の音が……」
 両親達の『解放』を成し遂げたその事実に、何処か虚脱した表情を浮かべた館野・敬輔が茫洋とした表情で顔を上げた。
 渇くこと無く瞳から零れ落ちる塩辛い雫を止めることも、拭うことも無く、まるで子供の様にぼんやりと、鳴り響く白鐘の音色を耳にしている。
(「これは……この音色は……」)
 当時始めて其れを聞いた敬輔にとっての其れは、復讐の始まりを告げる福音であり、同時に、弔いと祝福を齎す鐘でもあった。
 だが今の敬輔にとって、この白鐘の音色は……。
(「両親の魂を、煉獄から解き放ち、鎮めるための、鐘……だ」)
 内心でそう呟く敬輔。
 だが、程なくして。
 ――喉が、渇いた。
 いつもの発作が起きるのを感じ、思わず敬輔は、何時の間にか自分の隣にいて、一緒に白鐘を見上げていた森宮・陽太へとさりげなく視線を飛ばしていた。
 その敬輔のアイコンタクトに静かに陽太が頷き、ホーリーベルに向かう猟兵達の輪からそっと抜け出す様にその場を離れる。
 鐘の鳴る音の中で風が吹き、陽太と敬輔の髪を空中に泳がせた。
「……また、あの鐘が鳴っているな」
 それは、その風に流される様にしながら何気なく人目のつかないところに敬輔と共に移動する陽太の呟き。
 疼く喉を忙しなく掻く様にしながら、敬輔がそれに首肯するが、それを口にすることは無い。
 否……出来ない。
 けれども陽太は気にせぬままに、軽く小首を傾げて見せる。
「一区切りついたと見て、あの鐘を鳴らしているのかねぇ?」
「……」
 陽太の其れに、敬輔は相変わらずの無言。
 けれども陽太は構わずに、何かを思い出したかの様に軽く頭を横に振った。
「……あの時と、同じだな。お前が始めて、其れに掻き乱されたあの時と」
 ――あの力を使用した後に、敬輔が抱く激しい吸血衝動。
 その時の記憶を思い出しながら敬輔を見やる陽太。
 そして……気がついた。
 滲む涙を止めることも、喉を相変わらず掻いているにも関わらず、その瞳は異様な興奮に包まれていない、その事実に。
 思わぬ敬輔の表情に、陽太がおや、と言った表情になる。
(「衝動に容易に抗っている? ……まあ、代償の吸血衝動を治めてやらねぇと、シャレにならんのは分かっているが」)
 そして、その役割は他の誰にも任せられない。
 そう任じ、そのまま人目のつかぬ砦の外の茂みに隠れる様にして、陽太が素早くリッパーナイフを懐から引き抜き、自らの左腕を軽く切った。
「ほら、敬輔。吸いな」
 そう告げる、陽太の言葉に頷いて。
 敬輔が、陽太の左腕から滴り落ちる血に齧り付き、そして……。
 ――ピチャ、ピチャ。
 まるでミルクを舐める仔猫の様に舌を出して、陽太の血をコクン、コクン、と飲み干していく。
 ――けれども。
(「……あれ?」)
 普段の半分にも満たない量の血液を飲み干した、それだけで。
 喉の渇きが飢え、もう大丈夫、と確信出来ている自分に気がつき、直ぐさま敬輔はそっと陽太の手首からその牙を引き、口にこびりついた血を、手で拭って頷いた。
「おい、敬輔? もう、大丈夫なのか?」
 その、あまりの吸血量の少なさに。
 陽太が驚いた様に目を細めると、敬輔はコクリ、と頷きした。
 自分の胸の内にも育まれた驚きを、隠せぬそのままに。
「ああ……もう、大丈夫だ」
 頷く敬輔にポリポリと怪訝そうに頭を掻く陽太。
 ……と、そこで。
「落ち着いた、みたいだね」
 まるで、その全てを見通していたかの様に。
 黒髪の青年……優希斗が姿を現したのに気がつき、陽太が思わず、と言った様子で目を白黒させた。
「黒髪のにーちゃん……来てたのかよ」
 そんな、陽太の驚きに。
 優希斗が思わず微苦笑を零し、軽く頭を横に振った。
「呼んだのは、陽太さん、貴方でしょ」
 と、冗談めかして優希斗に返され、陽太が困った様に頭を掻く。
「あ~……わりぃ、そうだったな。すっかり忘れてたぜ」
「自分で呼んでおいて、忘れるのは流石にまずいんじゃないかい、陽太」
 ヤレヤレ、と呆れた様に溜息をつきながら、そう陽太に呼びかけたのは……。
「って、パラス! それに……」
「統哉に……エリシャまで……」
 陽太の驚きと同様に、敬輔が呆然とした表情で、軽く片手を上げる統哉と、気掛かりそうな表情を浮かべるエリシャへと目を合せる。
 エリシャがそんな敬輔の前にそっと立ち、静かに彼の前で十字を切り、それから陽太の左腕に自らの右手を突き出してその掌から、癒しを施す聖なる光を注ぎ込んだ。
「統哉とパラスが黒髪のにーちゃんに案内されて此処に来るのは分かるが……何でエリシャまで?」
 自分の傷を癒してくれている事に対する感謝の念を抱きつつ、戸惑いを隠せぬままに問いかける陽太の其れに、エリシャがそっと顔を上げ、じっ、と陽太の翡翠色の瞳を見つめ返す。
「胸騒ぎが、したからよ」
「……胸騒ぎ?」
 怪訝そうに問いかける敬輔に、ええ、と小さくエリシャが頷き、それから優希斗へ目配せを一つ。
「優希斗があの時と同じ鐘の鳴る村の事件を予知したと聞いて、あたしの中で胸騒ぎが起きたの。何かあったんじゃ無いか、ってね」
 エリシャの、その呼びかけに。
「それは……」
 敬輔がなんとも言えない表情を浮かべ、エリシャを思わず見つめ返すと。
「取り敢えずアンタ達、一杯どうだい?」
 懐から香草茶の入った魔法瓶と簡易机、そしてティーセットを取り出したパラスがそう呼びかけ、陽太が参ったという様に額に手を乗せ、敬輔が静かに首肯した。


「そう……敬輔のご両親が……」
 パラスが用意したブランデー入りの紅茶に舌鼓を打ちながら。
 敬輔から一通りの事情を聞いたエリシャが、何処か遠くを見る様に目を細めて、相槌を打っている。
 紅茶を一飲みしてから頷いた敬輔の様子を横目で見やりながら、統哉がそっと、自らの脇に置いた漆黒の大鎌……『宵』に手を添え、優しく微笑みこの光景を見つめていた。
「ああ……そうだ。でも、俺に出来たことは、父さんと母さんをオブリビオンの呪縛から解放する為に、彼等に止めを刺すこと……それだけだった。少なくとも俺だけでは如何することも、出来なかったんだ」
 自らの両親の魂を取り込んだ黒剣を愛おしげに撫でながら。
 顰め面の儘に軽く頭を振る敬輔に、まあね、とパラスが頷き、それからさりげなく統哉が撫でている『宵』へと目線を向けていた。
「アタシもあの時は、正直驚いたんだ。統哉のそれに、敬輔の母親の魂が憑くのを見た、その時はね」
「敬輔、お前、本当に大丈夫なのか? もう、俺の血を飲まなくて」
 エリシャに癒された左腕をそっと撫でながら。
 パラスに提供されたブランデー入りの紅茶に一口口を付け、口を酸っぱくして問いかける陽太に、敬輔がああ、と首肯した。
「本当に、もう大丈夫だ。もう、渇きは感じない。寧ろ、これ以上飲まない方が調子も、気分も良いと言う確信がある位なんだ」
 呟く敬輔の言葉に嘘は見受けられず、陽太が軽くガシガシと自らの頭を掻いた。
「そうか。なら、別に良いんだが……黒髪のにーちゃんはどう思う?」
 陽太がそう問いかけたのは、敬輔やエリシャ達のやり取りを聞きながら、静かに紅茶のカップを傾けていた優希斗。
 陽太の呼びかけに、優希斗は軽く目を瞬いた。
「その……敬輔さんの吸血衝動について、ですか?」
「ああ、そうだ。黒髪のにーちゃんなら、何か知っているんじゃねぇのか?」
 陽太の、その問いかけに。
 優希斗が腕を組んで考え込むが、程なくして恐らくは、と静かに呟いた。
「今回の一件が理由で、その吸血衝動に対する免疫……或いは加護の様な何かが、敬輔さんの中に育まれた。そう言うことでは無いでしょうか?」
「免疫……加護……か」
 呟く優希斗の其れに、考え込む表情になる陽太。
 敬輔も同様の表情になるが、その脳裏には、自然、自分が看取ることの出来た両親がちらつく様になっている。
「……それは、やっぱり父さんや母さんの血が、呪詛を大幅に和らげた。そう言う事、なのだろうか?」
 敬輔の独り言の様な呟きに、優希斗がそうだね、と軽く首を縦に振った。
 けれどもその漆黒の双眸は、敬輔の方を見ている様で、別の何かを見ている様にもパラスには思える。
「其れが一番可能性としては高いだろう。成仏……魂が昇華されると言う事は、そういう事でも有るからね」
 告げる優希斗の其れに、陽太が思わず眉間に皺を寄せ、軽く頭を横に振った。
「……俺には、分からねぇな。……最近俺は、敬輔にいつも気絶寸前になるまで吸血されていたんだが、明らかに今日の吸血には、熱に浮かされた様子は無かった。その、両親の愛が呪詛を弱めたって事か?」
 怪訝そうな陽太の其れに、そうですね、と優希斗が頷き、紅茶で唇を湿らせる。
「後は、敬輔さんの心の持ちよう、と言うのもあるんじゃ無いでしょうか? どうにも俺には、そう思えて仕方在りませんが」
 その優希斗のさりげない水の向け方に。
 敬輔が微かに俯き加減になり、軽く頭を横に振った。
「……確かに絶望に囚われて以降、俺の吸血衝動は酷くなる一方だったが……今は、そうじゃない。何か……何かが掴めそうな気がして、仕方ないんだ」
 ――ゴーン……。ゴーン……。ゴーン……。
 彼方から、鐘の鳴る音が聞こえてくる。
 その音に耳を澄ませながら、敬輔のお茶を新しいお茶に取り替えたパラスが敬輔、と静かに呼びかけた。
「この際だ。愚痴でも弱音でも、吐き出したいだけ吐き出したらどうだい? 今のアンタになら、それが出来るんじゃ無いか?」
 その、パラスの呼びかけに。
 じっと、考え込む様に新たに注がれた紅茶を見つめる敬輔。
 紅茶の水面が、そんな彼の迷いを映し出すかの様に微かに揺らいだ。
 が、程なくして、敬輔はそっと紅茶を嗜むエリシャへと視線を向ける。
「……エリシャ」
 敬輔に呼ばれ、微かに目を瞬くエリシャ。
 その両肘は簡易セットの上に置かれ、目前の紅茶が風に揺られて静かに水面を揺らしていた。
「如何したの?」
 何気ないエリシャの返しに、敬輔が微かに躊躇いを感じつつ、もし、と小さく囁きかける。
「アンタの家族がオブリビオンになったら……どう思う?」
 その、何気ない敬輔の問いかけに。
 エリシャが沈思黙考するが、程なくしてそうね、とそっと息を漏らした。
「あたしの家族がそうなったら、その時あたしは、果たして何が出来るだろうって煮詰まって……そのまま絶望に囚われて何も出来なくなる、と思うわ」
「成程な。エリシャはそうなるって訳だ」
 エリシャのその言葉を聞いた陽太が、其れに軽く首肯すると、そうね、と曇り無き瞳で陽太を見返し、エリシャが続けた。
「あたしにとって、家族は何よりも大事で大切な存在だもの。皆がオブリビオンになってしまうなんて、考えたことも無かったし……正直、考えたくも無いわ」
 そう告げるエリシャの瞳もまた、何処か遠くの何かを思うかの様に眇められ、その瞳には、白い雫が微かに溜まっている。
 そんなエリシャの姿を見て、パラスが静かに息を漏らした。
「その人が其々に抱えた心の傷なんてものは、直ぐには癒えやしないものだからね。どうしても、時間と、言葉と、飯と、寝床が必要になる。ましてや、もし自分がそうなったら、何てのは普通は考えたくないものさ。為ってしまった事やものには、それなりに折り合いを付ける必要があるけれどね」
 そんな、パラスの何気ない呟きに。
「……ああ、そうだな」
 実感のこもった表情と声音で統哉が静かに首肯した。
 何故ならそれは、統哉自身も感じた事のある経験だから。
 その一方で、統哉の胸の中には振る舞われた紅茶と同じ位、温かな想いが潮の様に満ち満ちている。
(「正直に言えば、俺は……」)
「見届けることしか、出来ないものだと、思っていたんだ」
 あの時。
 自らの『宵』に籠められた願いと祈りに感応して。
『彼女』がその刃先に纏われた時の感触と『彼女』との記憶の共有を思い起こし、統哉が万感の思いを込めて、ポツリと呟く。
「何?」
 陽太が思わず、と言った様子で統哉に問いかけると、統哉が懐かしそうに、そして一抹の寂寥を感じさせる笑みを浮かべてそのまま続けた。
「でも、そうじゃ無かった。俺は俺なりに果たすべき……違うな。果たしたかった役割を、きっと果たせたんじゃ無いか……そう、思っている」
 その、統哉の呟きに。
「統哉……」
 目を見開く敬輔に微笑み、次いで統哉は優希斗へと視線を向けた。
「優希斗はあれが敬輔の両親だって、何時から気がついていた?」
 さりげない質問に、優希斗は困った様に頬を掻く。
 それから少し考えあぐねる様な表情を見せてから……程なくして、遠くからも見える白鐘へと視線を向けた。
「あの白鐘……この人類砦、『ホーリーベル』の象徴である、あれが視えたあの時から、何らかの関係がある可能性は、十分想定していたよ。この一連の事件の始まりの地とも言える、あの鐘を、また視る事になったのだから」
「確かに縁のあるものが視える事はアタシにもあるから、その感覚は分からないでも無いね」
 優希斗のその呟きに同調したパラスが軽く頭を縦に振り、統哉がそんな優希斗に微笑んだ。
「君の視た、今と違うその景色。其れを予知してくれてありがとう、優希斗」
「それが、俺の役割だ。礼を言われることの程じゃないよ、統哉さん」
 ペコリと一礼する統哉に対して苦笑を零し、軽く顔の前に手を挙げてその手を振る優希斗。
 そんな優希斗の様子を見ながら、エリシャがそっと息を一つ漏らす。
「でも、そんな絶望にも、敬輔は立ち向かっていったのよね。傷つきながらも、茨の道を歩いて、そしてご両親を解放出来た……」
 感慨深げにそう呟き、ほうと息をつくエリシャのその言葉に。
「……だが、未だ全てが終わったわけじゃ無いんだ」
 敬輔が頭を横に振りながら何処か沈痛そうに呟き、自らの黒剣を見つめていた。
「確かに父さんと母さんの魂はこの剣の中で共生している。けれども、妹は……加耶の行方は、まだ掴めていないんだ」
 苦しそうに。
 哀しそうに。
 苦虫を噛み潰したかの様な表情をしてそう呟く敬輔に、エリシャが思わずはっ、とした表情になった。
「敬輔……あなた……」
「その加耶も、吸血鬼化している可能性が高い。だとしたら……その宿命から、妹を解き放つのは、兄である俺の役目だろう」
「そうだな。確かに敬輔の両親は、お前と妹の身を案じ続けていた……」
 その時の事を、思い出しながら。
 首を軽く横に振る陽太に敬輔が頷き、だから、と小さく続けた。
「もし、加耶が見つかったら……その時は、どうか俺に力を貸して欲しい。我儘な話ですまないが……どうか、頼む」
 深々と頭を下げる敬輔に、その胸に熱いものが込み上げてきていたエリシャが二の句を告げなくなる。
 だから、代わりに其れを告げたのは、統哉だった。
「だが……長い、長い復讐譚は終わりを告げた」
「……統哉。それは……」
 小さく囁きかける様に。
 そう呟く統哉の其れに、敬輔がはっ、とした表情を浮かべる。
「だからもし次に其れがあるとしたら、それは復讐譚じゃない。新たな始まりの戦い……全てを解放する、その為の戦いになるんじゃ無いのか?」
 その、統哉の問いかけに。
「……それは……」
 敬輔が息を呑み、エリシャが我を取り戻し、そうね、と統哉に頷き返した。
「もう、両親を殺された復讐の旅は終わって……今しているのは、解放の戦い。それはもう、誰かの人生じゃ無い。敬輔、あなたがあなたの人生を歩むことになるのよ。だから何かあれば言って。あたしで良ければ、いつだって力になるからね」
 告げられた、エリシャの其れに。
 敬輔が頷き掛け、それから優希斗へと視線を向ける。
 その時には、優希斗は双眸を閉ざし、まるで何かを考え込むかの様にその顔を上向けていた。
「この先の未来は、不確定なものだ。だから、必ず協力できるかどうかは分からない。但し……協力できるのであれば、恐らくその時には切っ掛けとなる『鍵』が視えるだろう……少なくとも、俺はそう思っている。そしてもし機会があれば……その時には、俺に視えたそれを教えよう」
 告げられた優希斗の其れに軽く目を瞬く敬輔。
 程なくしてパラスが敬輔、と静かに彼に呼びかけた。
「今は、無理に笑わなくて良い。けれども、いつかはあの両親のためにも、そして加耶と言う妹のためにも、ちゃんと泣いておやり。そうしなければ、心の傷なんてのは何時まで経っても痛みが和らがないものだからね」
「……パラス……」
 呻く様な敬輔の其れに。
 パラスが口元に自嘲じみた笑みを浮かべ、なぁに、と小さく呟いた。
「経験者の戯言さ。聞き流しておきな」
 そう告げて。
 そろそろ帰ろうか、と言う様に優希斗を促すパラスの横顔に、敬輔が深々と一礼した。
 その敬輔の背中をポン、と叩いて。
「敬輔。親が子の身を案じ続けてくれているって事、絶対に忘れんじゃねぇぞ」
 陽太が、そう呟くと同時に、
 蒼穹の光に包み込まれ、統哉達猟兵の姿が消えていく。

 ――ゴーン……。ゴーン……。ゴーン……。

 その厳かな鐘の音に、その背を静かに見送られながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年12月27日
宿敵 『子を求め彷徨う吸血鬼『ミユキとモトキ』』 を撃破!


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#闇の救済者
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
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 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
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 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠館野・敬輔です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

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 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

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