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貴様らに、何が出来るというのだ

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●ダークセイヴァー
 窓の外、暗澹たる空は、なお重苦しき黒雲に覆われていた。
 瀑布のように降りしきる雨――時折、雷鳴が暗闇を彩る。
「君よ」
 青ざめた肌の吸血鬼の声音は、不思議と敬慕に満ちていた。
 残影卿・アシェリーラ。
 凶悪無慈悲なるヴァンパイアにありて、強者を求む狂戦士である。
 斯様に何かを慈しみ、愛でるような手合ではない。
「おお、君よ。誰よりも強く美しきひとよ」
 だが奴は慈しんでいた。憐憫すら見せている。
「もう何も恐れることはない。雨はすべてを洗い流してくれるだろう。
 愚かで脆弱な塵芥どもの血も、醜く下劣な断末魔もなにもかも」

 ……声の向かう先、カーテン越しに嗚咽が響く。
 どうやら奴が慈しみ敬愛するのは、帳の先に居る女であるらしい。
 姿は判然としない。静かに、押し殺すように啜り泣いていることはたしかだ。
 土砂降りの雨音ですらかき消せぬほどに、嗚咽は綺羅星の如くに美しい。
 そう、美しいのだ。女の泣き声は、うっとりするほどに美しかった。
「何が哀しくて泣くのだ、君よ。よもやあれらへの哀切ではあるまい。
 過去を思い出して泣くか。それとも我が声が、あなたを恐れさせているのか」
 啜り泣く声は何も応えない。吸血鬼は、その沈黙にすら笑みを見せた。
「だが君よ、泣きたければ泣くがいい。雨は涙すらも洗い流してくれるだろう。
 強きひとよ。あなたはいかにも美しい。誰より強く、気高いのだから……」

 雨は降り続ける。嗚咽も、憐憫も、何もかもを覆い隠す。
 飢えた猟犬どもの唸り声も、牙と爪に引き裂かれる断末魔も何もかも。
 何もかも、覆い隠す。

●グリモアベース
 ……とある共同体の人々が、吸血鬼の戯れによって殺される。
 グリモア猟兵、白鐘・耀のもたらした予知は、ある意味で"よくあるもの"だった。
「とはいえ、だからって無視するわけはないわよね」
 ゆえに彼女は仔細を語る。とはいえ、事件そのものはやはり"よくあるもの"だ。

 荒野のど真ん中に、両手足を縛り上げられた人々が放置されている。
 周囲には無数の魔獣、あるいは邪悪な魔術で蘇生した生ける屍の群れ。
 肉に飢えたおぞましきものどもである。放っておけば人々は、早晩死ぬ。
「見せしめのつもりなのか、そういう余興なのか知らないけど、悪趣味よねえ。
 しかも当の吸血鬼本人はその場に居るわけじゃないのよ。わけわかんないわ」
 怯え震える犠牲者達を野に放ち、逃げ惑うさまを観覧するというならまだわかる。
 あるいは狩りめいて自ら荒野を往き、一人一人殺めていく、などというのも理解できる。
 いかにもヴァンパイアが考えそうな下劣でふざけた戯れだ。
 だが耀の言葉通り、現地にオブリビオンの首魁はいない。
 ただ犠牲者と、餓鬼どもだけがいる。見せしめですらないのだ。
「とにかくまずは、その場に介入して縛られた人達を守り抜いて頂戴。
 そうすれば間違いなく、向こうのほうから動き出してくるでしょうから」
 当然、第二波は餓鬼どもより凶悪な敵が、徒党を組んで襲いかかってくるだろう。
 あるいは無事に人々を救出できれば、こちらから攻め込むことも出来るかもしれない。
 いずれにしても本懐であるヴァンパイアより先に、配下の軍勢と戦うのは必定だ。

「で、この一件を企てた吸血鬼についてなんだけど」
 耀は手短に、"残影卿"に関する情報を説明する。
 吸血鬼殺しの魔剣を振るう、強きを尊び弱者を蔑む外道の輩である。
 おおかた捕まった人々も、奴にとっては"弱者"なのだろう。
 現地では、地域一帯を支配する悪辣な領主として君臨しているらしい。
「無事に人々を助け出せれば、住処を聞き出して攻め込むことも出来るでしょうね」
 しかし、と耀は言葉を続ける。
「私が視た予知では、アシュリーラは一人の女性を囲っているみたいなのよ」
 これもまた、ヴァンパイアには"よくあること"だ。
 村の美しい一人娘を玩具や家畜めいて手元に置くだとか、
 はたまた母と子を引き離し、互いに嘆くさまを見て愉しむだとか。
「……予知した限りだと、どっちでもないんだけどね」
 吸血鬼は女を強き者と呼び、尊んですらいたという。
 何を以て強者とするのか。
 女は一体なんという名で、どんな姿なのか。
 そもそもどんな立場の人間だったのか。
 それらは覆い隠され、わからない。

「ただ、今回の件の鍵を握るのが、その女の人であることは間違いないわ。
 実はそっちが黒幕でした、なんてことはないでしょうけど……まあ、頭に入れといて」
 少なくともオブリビオンではない。倒すべき敵は"残影卿"である。
「いまいち曖昧なとこが多くて悪いわね。でも惨劇をほっとくわけにもいかないわ」
 愛用の火打ち石を取り出し、耀は言った。
「たとえすぐに状況を打開できずとも、いま出来ることを少しでも為していく。
 それが多分私達にとっての最善、でしょ? んじゃ、あとはよろしくね」
 カッカッ、と火打ち石が鳴った。
 それが転移の合図となった。


唐揚げ
 初ダークセイヴァー、カカオです。
 OP、いかがでした? エッ読んでない?
 以下にまとめを用意したのでどうぞ。

●目的
 餓鬼の群れを倒し、惨劇を防ぐ(1章、冒険)
 吸血鬼の配下『???』の撃滅(2章、集団戦。そこそこ)
 領主『"残影卿"アシェリーラ』の撃滅(3章、ボス戦。つよつよ)

●備考
 1章では設定上の敵として『餓鬼(死者や魔獣の群れ)』が設定されていますが、
 ユーベルコードの指定はなくとも問題ありません。データのない敵です。
 ただし以下のような行動を希望される場合、宣言をお忘れないようお願いします。

 ・囚われた人々の保護(敵は人々を優先的に狙います)
 ・情報の聞き取り(章内で状況が変化した時や章クリア時にある程度まとめて提示)
 ・2章への布石(荒野で迎え撃つ、情報を聞き出してこちらから攻め込む、など)

 2章は上記の通り、1章における皆様のプレイング次第で状況が変化します。
 大まかに言えばその場で迎え撃つか領主の元に攻め込むかの2択になると思われますが、
 他にも何かいいアイデアがあったらぜひプレイングしてみてください。
 全体的な方向性や数などを鑑みて、2章開始時に状況を確定させ描写します。

 流れがどうあれ、3章は『領主の館』でボスとの戦闘になります。
 謎の女性については、章開始時におおまかな真相が明かされる予定です。
 よほど予想外な状況にならない限り、庇うなど戦術上の考慮は必要ないでしょう。

 こんな感じです。いわゆる心情系ですね。
 普段からするとちょっとビターかもしれません。

 では皆さん、雨の彼方で会いましょう。
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第1章 冒険 『惨劇は豪雨と共に』

POW   :    身体を用いて惨劇に対応する

SPD   :    技術を用いて惨劇に対応する

WIZ   :    惨劇を予防する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●やがて、惨劇という名の雨
「助けてくれ」
「嫌だ」
「死にたくない」
 手足を縛られたまま、数十から百にのぼる人々が転がされていた。
 荒野である。彼らを助けようとする者など、誰もいない。

 ……グルルルルル……。
 ウゥウウ……ア・ア・ア……。

 どこからともなく飢えた獣と、生ける屍どもの声。
 逃げることさえ出来ぬ人々は泣き叫び……いや。
「畜生」
「あの女のせいだ」
「どうして俺たちが」
 彼らは口々に誰かを呪った。この場にいない誰かを。
 そして雨が降る。悪態すらも、瀑布の中に覆い隠される。
ロク・ザイオン
(ここには、喰うものと喰われるものしかいないのか)
……生きた餌?
(これだけの数を、縛る。
動きを封じ生き餌にするにも、手足を折ったほうが楽だろうに)
最期まで、弱らせないためか?
(足元で、人々は啜り泣き、喚く。
呪いの声は)
……。
(ひどく気に入らないけれど)

(今は、この群れからひとを守るのが仕事だ)
(【かばう+先制+恐怖を与える】
ひとびとの前に割って立ち、「惨喝」で獣と屍を退かせ。
尚踏み込んでくるものから【早業+なぎ払い】。)

(片付けたら、縄を解いていこう。)
散々声をあげたあとで、自分の声に怯まない人が残っているなら)
……うるさくてごめん。
何があった?

あの女とは。何だ。



●聲
 戦場にあって、ロク・ザイオンの心は乱れに乱れていた。
「…………」
 言葉を発することはない。常より森番はそれを心がける。
 彼女の声は罅割れ、鑢めいて醜く耳に障るゆえに。
 だが、いま彼女を閉口させている理由はそれだけではない。
(この世界には、此処には)
 吸血鬼。支配される人々。異端の神。犠牲者達。
 喰うものと喰われるもの、けして覆せぬ歪んだ弱肉強食。
 森という一個の世界を寄す処とする彼女にとって、
 ダークセイヴァーという世界の在り様はそれ自体が忌まわしい。
 ……だが、やはりそれだけはない。
(どうして手足を折らない。なぜ縛り上げて転がす。
 弱らせないためか? 血の鮮度を保ち、餓鬼どもにくれてやるためか)
 この状況そのものの違和感がその一つ。
 彼女の思索する通り、単に荒野の餓鬼どもを満たしたいなら効率のいいやり方がある。
 悲鳴をあげるさまを楽しみたいなら、本人がここにいないのはおかしい。
「誰だ」
「助けか?」
「助けてくれ」
 現れた猟兵達を見、人々は口々に困惑し、あるいは縋った。
 だが彼女は聞いている。"悪い"耳は、しかしこういう時には聡い。
「…………」
 口を開きかけ、やめた。視界の端、荒野から来たるものどもが見えた。
 ロクは一度思考を切り替え、呪われた山刀を払う。決断的に突き進む。
 やせ細った狼。
 捻じ曲がり歪んだ屍人ども。
「――気に、いらない」
 森人の思考は乱れる。彼女は奇妙な苛立ちを覚えていた。

「ひいっ」
「助けてくれ」
「死にたくない」
 芋虫めいて転がされた人々は啜り泣き、あるいは呻き、嗚咽する。
 新鮮な血肉を求め、飢えた畜生どもが這い寄り……かけて、止まった。
「退(ど)け」
 ざりざりと音がした。人々はその響きを恐れ、震えた。
 餓鬼どもはどうか。一瞬その足が、肢が止まるものの――。
「……すぅ」
 森番は目を細め、鼓動3つぶん時を数えてから、大きく息を吸った。
 腹に力を込め、獣どもを見据えて、気合とともに吐き出す。
「――ああァアアアッ!!」
 異形の聲である。びりびりと大気が震え、破れかけた。
 餓鬼どもは今度こそ怯えすくんでたじろぎ、人々はそれ以上に恐怖した。
「なんだ、今の」
「化物だ」
「怪物の唸り声だ!」
 学も識もない、支配されるばかりの者どもならば、斯様な物言いも致し方なし。
 ロクとてそこは覚悟の上、いやそもそも考慮に値するところではない。
 自分の声は捻れて醜いと彼女は識っているから。だが……。

 ……どうやら餓鬼の群れは惨喝の音を恐れ、また突然の闖入者を警戒していると見えた。
 周囲を取り囲みながら踏み込まぬそれらを一瞥し、ロクはやおら踵を返すと、手近なところから一人また一人と縄を伐り、戒めを解いてやる。
「うるさくて、ごめん」
 いまだ震え怯えた目を向けてくる人々。当然ながら全ての戒めを解くには時間が足りない。
 餓鬼どもは一時的に敵を値踏みしているだけで、
 もともと理性に乏しい畜生ゆえ、もうすぐ襲いかかってくるであろうから。
 それでもロクは、彼奴らに背を向け縄を解くのを優先した。
 三人目の戒めを解きつつ、青い瞳でじとりと人々を見つめる。
 ――いや。睨む。
「何があった」
 罅割れた声に人々は息を呑む。意に介さず、少女は言葉を続ける。
「"あの女"とは、なんだ」
 彼女は確かに耳にしていた。
 己が惨喝の声を発した時、その影で誰かが漏らした一言を。

「あの女と同じだ」
「化け物だ」
 己を救いに来た者に投げかけられた、呪いの囁きを。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
黙れ。
その口を今すぐ噤め。

(友人を『化物』と謗るなど許す事ができようか。
救いはする。しかし、怒りとはそれとは別に在る。)
(怒れる黒い鎧の異形を見て、本機を化け物と謗るも良し。友がそう呼ばれるよりはずっと良い。そして、お前達は正しい。――『僕』は、怪物だ。)

(ザザッ)
『C.C.』発動。
『クイックドロウ』を指定。

一射1/28秒。一度に28射。
許す限りを全力で撃ち尽くし敵を屠る。
(二回攻撃+一斉射撃+範囲攻撃+スナイパー)
射線は真上から降り注ぐように。
雨の如く降れ、熱線。

――聞き取りは他の者に任せる。
この威容だ、上手くは聞き出せまい。
本機は敵を屠るのみ。
オーヴァ。
(ザザッ)



●兵士/弱者
 ロクに向けられた囁きを、全ての猟兵が聞き咎めていたわけではない。
 だがひとり。そう、おそらくこの場でもっとも"それを聞いてはならない"者が、
《――黙れ》
 彼女を戦友として尊び、敬意を払い、護ると決めた者が。
《――その口を、いますぐ噤め》
 砂嵐とともに、そこに居た。現れていた。
《――それ以上の侮辱は、本機は決して許容しない。出来ない。するつもりも、ない》
 ジャガーノート・ジャック。無慈悲にして怜悧なる兵士。
 彼はそう在るために形作られた鋼であり、そう在ろうとするモノだ。
《――繰り返す》
 ざりざりと、ノイズ混じりの電子音声は静かに、冷ややかに、平坦に云う。
《――二度と同じ言葉を繰り返すな。本機は、それを、許可しない》
 端的に言えば、彼は憤っていた。当然の憤懣、むしろ自然だ。
 だがそれでも――ジャガーノートという存在には不適格だ。
《――敵の殲滅に移る。オーヴァ》
 それほどまでの怒りと言えば、それまで。
 それだけの侮辱と言えば、やはりそれだけの話。

 彼は憤っていた。
 友への侮辱に。恩知らずの畜生どもに。そして――。
『――……"僕"は、怪物だ』
 兵士という仮面(えんぎ)を揺るがせてしまった、己の弱さに。

●獣
 鋼の豹は強壮なる兵士ではあるが、その根源は極めて杜撰だ。
 彼は既存の兵力を、あるいは火力を複製し、模倣し、活用する。
 効率的ではある。だが残念ながら、そこに独自性(オリジナリティ)はない。
(だからなんだ)
 強者とは何をもって強者とするのだろうか。
 力か? さもありなん。
 所以か? それも正しい。
 あるいは時の長さ? いかにもそうである。
(どうせ"僕"は、弱いんだ)
 だが『彼』にとっては違う。『彼』は強さをただ一つの尺度で定義する。
 揺らがぬ自我。いかなる状況にあっても臆することなく、己を貫く心。
 頑ななまでの信念、あるいは強固に定められた方向性――エゴイズム。
(でもあの子をそう呼ぶことは、許せない。許さない!)
 ゆえに兵士は強くとも、強者と呼ぶには足りない。
 ジャガーノート・ジャックは模倣であり、
 どこかで見たような鋼であり、
 どこかで見たような兵士であり、
 どこかで見たような暴力だった。
《――複製完了。対象の操作を実行、敵を殲滅する》
 砂嵐がほどけ、横列隊めいた熱線銃が28個複製生成される。
 砲火が闇夜を劈いた。二十八門の熱線、一射1秒におよそ33発。
 すなわち秒間900強の死の嵐である。餓鬼を消し去る殺戮の雨である。
《――発射》
 熱線が闇をつんざく。蒸発した屍体が嫌な匂いを立ち込めさせる。
「ひい!」
 悲鳴が響いた。
《――発射》
「怪物だ!!」
 呪いが溢れた。
《――発射》
「殺される!」
 疑心が転がった。
《――発射。発射。発射……》
 ジャガーノートは冷徹にトリガ=ボタンを引き=押し続ける。
 思考を介在させない。させる余地を生まない。生んではならない。
 それは冷徹な兵士のやることではない。任務を果たすのが鋼の仕事だ。
《――敵第二波を確認。本格的な殲滅行動に突入する》
 迫りくる敵を屠り/どんな奴らでも/救われるべき生命を護る。
 雨のごとく降るがいい、我が滅びの炎よ。地平線を埋め尽くせ。
《――保護と護衛は友軍に一任する。オーヴァ》
 我が揺らぎも何もかも、砂嵐と雨と熱に隠されてしまえばいい。
 少年は心底からそう思い、やがてそれもノイズの奥へと押し込んだ。

苦戦 🔵​🔴​🔴​


●業務連絡
3/31(日)夜から執筆開始予定です。参加予定の方はお早めにどうぞ。
柊・明日真
【アドリブ歓迎】
【行動:囚われた人々の保護】
まったく、胸糞悪い真似してくれるな…
見過ごすつもりもねえ、片っ端から蹴散らしてやる!

俺と同じように保護に回ってるやつも居るだろうし、突破されないようにカバーしあうとするか。
情報収集だの対策だのはやりたいやつに任せて、こっちは保護に専念だ!


アルジャンテ・レラ
状況は芳しくはありませんが、悪くはありません。
まだ散っていない。助けられる命ですから。
まずは餓鬼の殲滅を。

しかし人数が多過ぎますね……。
猟兵同士の協力は必要不可欠か。
人々を背後に庇うよう陣取り、休む間もなく矢を射ます。
複数の矢を同時に放ち効率を重視しますよ。
足を射てば動きも鈍くはなるでしょう。
援護射撃で猟兵のサポートも可能です。
後方支援はお任せください。

ある程度の安全が確保されてから人々の拘束を解けたらと。
まだ混乱しているでしょうが、
何故このような状況に至ったのかの経緯を聞き出したいですね。
領主の館についての場所も得られたら御の字です。
いただいた情報は無駄にはしません。そう、お約束します。


城石・恵助
なるほどこれがダークセイヴァー
初来訪の記念に一口頂きたい所だけれど
あまり余裕もなさそうだ

ひとまず人々を保護しよう
〈オーラ防御〉しつつ人々と敵の間に壁役として割り込む
護衛優先で、近づく敵は『出刃包丁』で斬ったり〈怪力〉で殴ったり
手が届かない距離は『出刃包丁』を〈投擲〉

既に縄が解けている人は他の人も解いてあげて
そんで巻き込まれない程度に離れてて
離れ過ぎたら守り切れないから

敵の群に途切れが見えたら
人々を巻き込まないようにちょっと前に出て、猟兵諸君にも一声かけて
地面に拳を【叩きつける】
敵と彼らの間に大穴の一つもこさえれば
ちょっとは守りやすくなるんじゃない?

何やら空気が陰鬱だけど
あんま気にしないかな僕は



●瀑布の下で
 雨はなおも降り続けていた。
 一度は足踏みしていた餓鬼の群れも、いよいよ数を増したことで本格的に襲い来る。
「なるほどねえ、これがダークセイヴァーか」
 迫りくる屍鬼の頭部を出刃包丁で真っ二つにたたっ斬りながら、城石・恵助はひとりごちた。
 縛られた人々は口々に猟兵達に対する恐怖を漏らしている。
「初来訪の記念に美味しいものでも一口……ってーわけにはいかなそうかな」
 異様な雰囲気だった。暗澹たる空、降り続ける雨、そしてこの敵の数。
 他の世界でもオブリビオンが徒党をなして襲い来ることは、もちろんある。
 だが恵助の知る限り、それはあくまで秘匿された戦力でありいわばトラブルだ。
 しかしこの餓鬼の群れは、"存在するのがこの世界にとって当たり前"なのである。
(オブリビオンに支配された、滅びかけの世界。なるほど)
 100年にわたって蹂躙され続けた世界の在り様を、彼は肌身で感じ取っていた。

 ア・ア・ア・ア……。
 人のものであるはずの、ヒトならざる呻き声が雨音に混ざる。
 のたのたと緩慢に、しかし不気味な足取りで迫り来る、歪んだ屍人達。
 アルジャンテ・レラはそれをあくまで冷静に、そして淡々と処理する。
「……人数が多すぎますね」
 次の矢を射掛けながら、人形の少年は戦況を俯瞰してそう結論づけた。
 敵の数も、救出すべき人々の数もいかんせん多すぎる。
 いかに猟兵が超常のユーベルコードを操る戦士とはいえ、数の利は覆し難い。
 ましてやこの人々を守り続けながら闘うというのは、大きなハンデである。
「状況は芳しくありませんが、まだ最悪ではありません」
 はたしてその言葉は希望的観測か、それとも純粋な合理的判断の結果か。
 いずれにしても、最悪の事態――すなわち、人々の虐殺は未然に防げている。
(それにしては、あちらも何やら様子がおかしいようですが)
 殺気立つ猟兵達。口々に呪いを囁く人々、恐慌しているにしても些か不可解だ。
(おそらくは、それが彼らの縛られた理由に繋がっているのでしょうが――)
 思索は長くは続かない。彼は人々を背後に、ひたすら矢を放つことを優先した。

 ――と。
「おらァッ!!」
 群がる屍人の塊を乱暴になぎ払い、裂帛の怒声とともに一陣の風が荒れる。
 柊・明日真である。たなびく赤い髪は、さながら怒りを受けて燃える炎に似た。
「っくそ、胸糞悪い真似してくれやがるぜまったく!」
 ヴァンパイアの悪辣な振る舞いが、刻印騎士の不興を買ったのだ。
 もっとも彼の心中を複雑にさせているのは、何も怒りだけではない。
(さっぱりわかんねえ。こんなことをしてなんの意味がある?)
 あえて無駄を愉しむ――さながら古代の帝国貴族じみた愉悦。
 そう結論付けるのは簡単だが、なぜかそんな落着を許せぬ気持ちがあった。
 いわば勘だ。この事件、なにかもう一つ……もう一層深みがある。
 彼は単純で明快な性質だが、ゆえにこそ直感的に察することの出来る事実もあった。
「まあ、なんだろうが俺らは見逃がしゃしねえけどなッ!」
 地を這うような低い呻き語をこちらから一刀両断し、荒野を駆ける。
 降り注ぐ雨は、彼とその刃に触れるより先にじゅうじゅうと蒸発していた。
「! ありゃあ……」
 そうして戦場を縦横する彼が、見知った顔に気付いたのはすぐあとのこと。
「おい恵助、アルジャンテ! お前ら、あれか!?」
 雨音をかき消す勢いで放たれた大声に、二人が振り返る。
「あれってなんだい明日真君、主語抜けてたらわかんないよ!」
 恵助はややおどけたような言葉を返すが、アルジャンテは一瞬考えたのち、
「"そうです"! そちらはお願いできますか!!」
 と声を張り上げた。紫の瞳と橙の双眸が交錯し、ともに頷き合う。
「おう!!」
 返答はそれだけ。明日真は納得したように敵の群れへ単身飛び込んだ。
「ってちょっとちょっと、あれよかったのかい?」
「ええ。あの人の言いそうなことは、おおよそ推察できますから」
 彼らは以前、アックスアンドウィザーズで同行した間柄である。
 決して親友や無二の相棒という仲ではない。それでも、同じ戦場を駆け抜けた仲間だ。
「敵を殲滅する。人々の防衛を情報収集はこちらで――おおよそ、そんなところでしょう」
 そしてアルジャンテの推測も、まったくもって正確だったのである。
「なるほど? まあそうだね、これだけ数が多いと、ちょっとあれだ!」
 僅かな会話の間にじりじりと狭まっていた敵の前線を、出刃包丁を投擲し退かせる。
 はたして餓鬼の群れはどれだけいる? 百か? それとも二百か?
 単体の戦闘能力はさしたるものではない。だがまるできりがない。
「いっそ敵陣に突っ込んで、中央でドカンと一発花火でも上げたほうが楽かもね」
「……やりますか? 止めませんよ」
 真面目くさったアルジャンテの無表情を見やり、恵助はマフラーを下ろした。
 異形の大口。裂けた口の端が、不気味ながら皮肉げに笑みに歪む。
「まさか。僕そういう博打とか好きじゃないんだよね」
「奇遇ですね、私もです」
 シュパッ――放たれた鏃が、三体の餓鬼を同時に貫き、雲散霧消させる。
 雨は止まない。敵影の彼方から、明日真のものと思しき怒声が響いてきた。
「どうだろう、今のうちに拘束を解いて避難させるっていうのは」
「厳しいと思います。まずは安全を確保してからにすべきかと」
 人々の処遇について、二人の意見は割れた。互いの視線が一瞬絡み合う。
 ……結論は保留。それを協議する余裕すら、いまの状況ではもどかしい。
「まっ」
 だが、問題はそれだけではない。
「ここで下手に解き放っても、厄介事が増えるだけか」
 震え、怯え、恐れる人々の目をちらりと見やり、恵助は肩をすくめた。
「……本当にやりづらいですね、この世界は」
「同感。僕は来るの初めてだけどね。こういう空気は、合わないや」
 あまり気にしていないような口調で恵助が云う。
 軽口はそこで終わった。再びうぞうぞとどこかから溢れ出る敵の群れ。
 恵助は出刃包丁を片手にもう一方の拳を、ぎりぎりと強く握りしめる。
 そして地面を蹴った。アルジャンテは後衛、援護射撃で彼の突撃を補佐。
「小難しいのは苦手なんだ――シンプルに行きたいねッ!!」
 満身の膂力を込めた一撃が、地面を穿つ。
 まるでミサイルでも着弾したかのごとく、大地が爆ぜ砕けて破壊された。
「ほら、渡ってこいよ。来たやつからミンチにしてやるからさ」
 くいくいと手招き。事態の解決はまだまだ先と見えた。

「マジできりがねえな……ッ!!」
 敵陣やや奥。
 自分を無視して人々に群がろうとする敵を、その只中で薙ぎ払う明日真。
 まるで芋洗いのような状況だ。斬っても潰しても次から次に湧いてくる。
(やっぱり腑に落ちないぜ。ここまでの雑魚を集めて公開処刑でもしようってのか?
 だったらどうして吸血鬼本人がいやしねえ……ああ、クソっ)
「かかってこい、俺が相手してやるぜ!!」
 怒声を張り上げる。雨音はいや増しに強まるばかり。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ゼイル・パックルード
少し出遅れたか、こういうときは本命じゃない奴はさっさと片付けるに限る。風斬りでかまいたちを発生させながら突っ込んで前に出る。
倒れた敵を盾や目くらましにしながらダッシュで進んでいく。
個人的には敵のとこに行ってみたいから情報がほしいね。


死を目の前にして嘆き悲しみよりより怒りや恨みが前に出るかね、面白い。
助けた者にすら憎悪を投げかける、何があった、そいつはどこにいる?
俺より楽しそうに悪辣に笑うのか、どんな姿をしている?
なんならお前らの憎悪を"ついで"に晴らしてくるさ、自分で行きたいヤツは止めやしないがね。
…それとも、同じというのなら俺とやりあってみるかい?せっかく助かたt命を捨てたければだけど、な。



●雨霧に揺らめく獄炎
 ……つまらない。
 他愛もない。張り合いがない。何も面白みがない。
「雑魚ってのはどうしてこうも群れたがるんだろうかね」
 ゼイル・パックルードの声音は気さくなようですらあったが、
 その笑みと裏腹に明らかな落胆と失望、退屈が浮かんでいた。
 飢えに支配されて目的もなく荒野をさすらう餓鬼の群れ。実にくだらない。
(こういうときは、本命じゃないやつはさっさと片付けるに限る――)
 ゆえに彼は無駄口を叩くことなく、人々の頭上を跳躍し通り過ぎ、
 省みることすらなく荒野を疾駆した。ばちゃばちゃと雨水が足元で跳ねる。
 踏みしめたぬかるみは焼け焦げて乾き、ひび割れ、そして炎を揺らがせる。
「邪魔臭いんだよ」
 手近な敵を徒手空拳で撲殺。頭部を殴り、握りしめ、そのまま圧壊する。
 視界の端で、ジグザグに荒野を駆け抜けるやせ細った狼の一群が見えた。
 獲物の死角を狙った、餓狼ゆえの油断なき包囲戦術である。

 だが彼には通用しない。
 頭部を爆ぜさせた屍体を盾に、まず左から来た餓狼を追い払う。
 数瞬のタイムラグを置いて、背後と右から別働隊がに引き同時に襲来。
 当然、これも予測済み。空いた右手が霞めいて煌めいた。
「――遅い」
 冥夜。光なき闘争を意味する、不朽にして曇りなき刀身が雨風を裂く。
 以て生まれた鎌鼬が獣を両断……いや四散させ、さらに周囲の屍鬼をバラ肉に変えた。
 ……やはり他愛ない。こんな雑魚どもでゼイルが満たされることはない。
 やがて彼の周囲から敵が一掃された時、僅かな間隙に染み込んできた騒ぎ。
 なるほど、どうやら猟兵を恐れ、囚われていた連中が呪いの言葉を吐いたらしい。
「へえ」
 そこで、彼の笑みの質が目に見えて変わった。
 雨を拭いもせずにずんずんと踵を返し、怯えすくむ人々の一団の前に屹立する。
「な、なんだ……お前」
 やや年のいった、農民と思しき中年の男がゼイルを見上げた。
 あちらからすれば生きた心地がしないことだろう。
 なにせ彼は地獄の炎を裡で燃え上がらせ、熱気が雨を蒸発させ陽炎を生んでいる。
「いや何、面白いと思ってな」
「お、面白いだと」
 中年の男から見て逆光になっていたゼイルの顔が、露わになる。
 彼は悲鳴をこらえた。――謎めいた闖入者は、たしかに笑っていたから。
「死を目の前にして、嘆きや悲しみより先に恨み節が出るってのがな。
 助けてくれた奴にすら憎悪を投げかける。一体何があったってんだ?」
 答えは返ってこない。口をつぐませるほどに、首魁は恐ろしいというのか?
 いま目の前にいる、この形を得た地獄の如き戦鬼よりも?
 ……だとすれば、それこそ面白い。それこそ彼が求めるものだ、
「そう怖がるなよ。なんだったら、お前らの憎悪を"ついでに"晴らしてくるさ」
 くくっ、と、男が喉を鳴らした。
「――それとも」
 金色の瞳が不穏な輝きを帯びる。
「"同じ"というなら、俺とやりあってみるかい?」
 眼光が中年の男を射竦め、震え上がらせる。
 ……もはや、彼を自分勝手に罵り謗るような者など、居ようはずもなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

御狐・稲見之守
まったく、吸血鬼というものはやれ退屈だ、戯れだとつまらんことを良くもまあ思いつくのぅ。さて、そこに助けを求める声あらば聞き届けるのが神様の役目。世界は違えどやることは同じじゃ。

[WIZ]縛られた者達を中心に、餓鬼共が近寄れぬよう[破魔]の霊符を展開し防陣を敷くこととす…符の数が足りれば良いが。余裕ができ次第彼らの手足の戒めを解いてやり、口々に呪詛を吐かれるその女やこの有様について尋ねてみよう。

UC魅了の術……[催眠術]、まあ、恐怖で憔悴しとるじゃろうし落ち着かせる程度にな。もう大丈夫じゃ、安心するが良い。一体なにがどうしてこうなっておるか、女とはなにか話しちゃくれんかナ?


北条・優希斗
…確かによくある話と言えば、よくある話だね
とは言え、放置はできないか
仲間との連携・声かけOK
優先順位虜囚の保護>敵殲滅
虜囚の前に陣取って夕顔で敵を纏めて抉る
そのあとは、虜囚の前に陣取って近づく敵から叩き切る
「悪いけど、ここから先は通行止めだ」
敵が逃げたしたらUC使用
尾行させて敵の館を突き止めさせるよ
但し、その後は多数決には従う
後、虜囚は守るけど、解放しない
下手に解放して逃げて目の届く範囲外で殺されたら本末転倒だからね
虜囚の心のケアは仲間に任せる
…それにしても耀ちゃんの視た彼女は一体何者なんだろうな…
敵の動きは見切って、同士討ちを誘ったり、可能ならオーラ防御を虜囚の前に展開して、守るようにするよ


シーザー・ゴールドマン
『ローマの奔流』で悪魔の軍団を召喚。
餓鬼たちの殲滅と犠牲者たちの保護を命じます。
保護した犠牲者たちに
「さて、諸君、私は聞きたいことがあって君達を助けた。
 有益な情報を齎すならば諸君の望む場所に(悪魔の)護衛をつけて送っても良い。
 無論、信用できないのであれば自由に離れてもらって構わない」
「とはいえ、恩人たる私に口を利くのも嫌だ、とは言うまいね?」
と友好的な笑みを浮かべて情報収集
内容は
・あの女とは?
・敵の拠点の位置
拠点の位置が判明したのならば攻め込むことを提案
「あまり待ち場所として愉快な場所でもないからね」



●女
 どうやらこの荒野は、この領土における"廃棄場"の役目を果たしていたらしい。
「まったく、吸血鬼というものは度し難い連中よなあ」
 迫り来る餓鬼めがけ霊符を放ち、呆れた様子の御狐・稲見之守がひとりごちた。
「同意するよ。彼らのやり方は実にくだらない。何が"楽しい"のやら」
 口振りと裏腹に、シーザー・ゴールドマンの口元にはわずかな笑み。
 ダンピールである彼が、吸血鬼どもにいかなる感情を抱くのかは察しきれないが、
「……"よくある話"と言えば、まあよくある話ではありますが、ね」
 北条・優希斗は顰め面を浮かべ、愛刀を振るいながら嘆息した。
「やれ退屈だ戯れだ、ああいう連中が口にする繰り言は判を押したように同じよ。
 他者を踏みにじり愉悦する、なんともつまらん思いつきをよくもまあ……」
 はたして稲見之守のその言葉は、純粋な嫌悪感から来るものだろうか?
 見た目に反して多くの時間を過ごした妖狐の声音には、なにか秘められた響きがある。

「とはいえ、そこに助けを求める声あらば、聞き届けるのが神の役目じゃしナ」
「世界は違えど、やることは変わらずか。いいね、そういう信念は好ましい」
 稲見之守の言葉にシーザーは感心したような声を漏らした。
 赤公爵の背後にざわざわといくつもの火球が生まれ、それは悪魔の軍団として顕現する。
「我が呼び声に応え、来たまえ。仕事の時間だ」
 あるものは捻じくれた角を持ち、あるものは小鬼めいた醜悪な見た目をしている。
 戯画化したような悪魔の軍団は、ばさばさと各々の翼をはためかせ敵へ殺到した。
 降り注ぐ魔法の光は、まるで敗残兵を追いかけ殺し尽くす無慈悲な軍団のよう。
「それでもかいくぐってくる奴は絶えない――か」
 乱舞する魔力光を潜り抜け、泡を吹きながら荒野を駆ける餓狼が数体。
 優希斗はその浅ましさに再び嘆息し、頭を振りつつも剣を抜き放つ。
「悪いけど、ここから先は通行止めだ。どうせなら逃げてくれても構わないよ」
 むしろ彼としては望むところである。
 背中を見せて逃れる敵がいれば、影の追跡者を放って尾行するつもりだった。
 そうすれば早晩、情報収集をせずとも敵の根城は明らかになるだろうと見ていた――が。
「……やっぱり逃げないか。それどころかこっちに群がってくる」
「つまり、こやつらは吸血鬼が放った追手というわけではないのじゃナ」
 然り。餓鬼どもは『もともとこの荒野に棲み着き、さまよっていた』のだ。
 おそらく呻き声をあげる屍鬼や餓狼は、わざとこの区域に解き放たれている。
 ゆえに廃棄場。清廉な都市が、汚らしい暗部を影じみた一角に追い立て覆い隠すように。
「どうにも敵わんのう、霊符が足りればいいんじゃが」
 きりのない防衛戦に飽いた稲見之守が、破魔の霊力を秘めた符を雨のように投げ放った。
 それらは敵に降り注ぐのではなく、さながら石畳のように地面に張り付き、
 あるいは盾のように空中に浮かび上がり、互いと互いを霊力の網で繋いでいく。
 やがて、悪しきものを阻み退ける不可視の防護結界がそこに顕現した。
「じきに押し切られるじゃろうが、まあ時間稼ぎにはなるであろ。
 縛った上に転がしたままにしておくのは少々座りが悪い、戒めを解いてやろうではないか」
「賛成だな。君はどうする?」
 稲見之守とシーザーに問われた優希斗は、一瞬考えるような素振りを見せた後、
「……いや、俺はここで、ねんのため結界を見張っておきます。いつ破られるかもわからない」
 言って、彼らにそれらしい笑みを見せて二人を見送った。
「そちらはおまかせします。なにか方針が決まったなら多数決で従いますよ」
 彼の言葉に稲見之守とシーザーは顔を見合わせて肩をすくめ、踵を返した。

「…………」
 そして一人残された優希斗は、霊力の壁に群がる餓鬼どもを睨みつけながら沈思黙考する。
(下手に開放して逃げられて、目の届かない場所で殺されたら本末転倒――。
 いや、これは俺の言い訳だな。俺は多分……例の『女』のことが気になっているんだ)
 グリモア猟兵が予知で目の当たりにしたという、帳の向こうの彼女。
 その嗚咽は奇妙に美しく、強者を求め弱者を侮蔑する吸血鬼が愛でていたという。
 ただ美しい少女や淑女を手篭めにしたいならば、これもまたありふれた話ではある。
(でも、やっぱり何ががおかしい。ここまでする理由がないじゃないか)
 略奪愛を気取りたいなら、遺された村人なりは惨殺してしまえばいい。
 こんな迂遠な方法で、餌のように転がしておく目論見は一体なんだ?
(見せしめでもなく、彼女を絶望させるわけでもなく? それはまるで――)
 他ならぬあの人々を後悔させ絶望させるような、拷問めいた仕打ち。
 武人じみた吸血鬼をそこまでさせる何かが、『彼女』にはあるというのか。
(……この一件、妙な方向にこじれないといいんだけれど……)
 己の明らかならぬ過去に疑念と後悔を抱く優希斗は、気もそぞろである。
 そんな彼では、虜囚とされた人々の心のケアなど、気が向くわけもなかった。

 一方、囚われた人々のいる、防衛線の中央陣地。
 一人また一人と戒めを解かれてはいるが、誰もが憔悴し落ち込んでいた。
「ただ単に恐怖と絶望から……と、いうわけでもなさそうじゃの」
 憔悴している、という点では稲見之守の予測どおりだが、その色が違う。
 他者の生気を喰らい己のものとする、吸血鬼めいた妖狐だからこその感性か。
 あるいは彼女が経てきた過去に由来する、神めいた直感ゆえか。
「まずは正攻法で攻めてみるとしようか」
 そう言ってシーザーは彼らの前に歩み寄り、しゃがみこむとにこりと微笑んだ。
 いかにも人の歓心を誘い、警戒心を解く、気さくな――どこか恐ろしい微笑み。
「さて、諸君。私達は、君達に聞きたいことがある。だから救出したのだ」
 まず己らの目的を端的に明かす。直截に見えるが効果的な話術である。
「君達が我々にとって有益な情報をもたらしてくれるならば、相応の利益を与えよう。
 諸君の望む場所に、私の軍団の護衛をつけて送り返してあげてもいい」
 もっとも、こうして領主の反感を買ったであろう者らに、帰る場所があるかは怪しいが。
「無論、我々を信用出来ないのであれば、自由に離れてくれても構わんよ。
 なんだったら暴れてもいいのではないかな。相応の報いを与えることになるが」
 笑顔を変えぬままさらりと言ってのける。その威力は今しがた見せたばかり。
 けして己から二択を突きつけることなく、しかし退路を断っていくシーザー。
「とはいえ、恩人たる我々に口を利くのも嫌だ……とは、言うまいね?」
「「「…………」」」
 シーザーは無言で沈黙を見守る。笑みは浮かべたままなのが恐ろしい。
 そんな彼の後ろから、稲見之守がすっと一歩を踏み出した。
「この者は少々脅かしつけておるが、何、妙な気を起こさぬように慮っておるのじゃよ。
 敵はまだまだここを取り囲んでおる。気が気でないじゃろう? さもありあんよなあ」
 それを退けるのも、駆逐するのも、いま可能なのは猟兵達だけだ。
 その事実を暗喩する口振りとともに、稲見之守は密かに術を使用した。
「わしらはその役目を果たすとも、もう大丈夫は、どうか安心するがいい」
 俯いていた人々は、目に見えぬ術の波動――すなわち、魅了の魔力に呑まれた。
 一人また一人と、憔悴してはいるが呆けたような顔をぼんやりと上向ける。
「一体何がどうしてこうなっておるか、そして――」
 シーザーと稲見之守、互いの金色の瞳がちらりと交錯し、頷き合う。
「「"女"とはなんなのか」」
 ……人々の間に、ぞくりと恐怖が走った。
「わしらに、話しちゃくれんかナ?」
「時間はある。ゆっくり聞こうじゃないか」
 そう言ったシーザーの耳に、遠くからの再びの鬨の声。
 遠からず彼らは口を開くだろう。そのための布石と楔は彼女らの手で撃ち込まれた。
「まずはそのためにもう一仕事、じゃナ」
 稲見之守は言葉にせずとも、薄い笑みの下で想う。
 彼らの見せた恐怖――あの瞳は、かつて己が若かりし頃に視たものによく似ている、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユーリ・ヴォルフ
チコル・フワッフルと行動
アドリブ共闘大歓迎

この不自然な状況…もしや民を餌に猟兵を釣り出そうとでもしているのか?猟兵が「強者」であるか見極めたいのか、他に目的があるのか…どちらにせよ、放置するわけには行かないな!

チコルに捕縛解除を任せ、私は民の盾となり【メギドフレイム】で迫る敵から蹴散らしていく。雨は苦手だが…水が火をかき消す前に、敵を燃やし尽くせばいい!

民はとある共同体の人々か。レジスタンスか?情報があるなら聞こう。敵陣へ攻め込む形を取る方が、ここより戦場を引き離せ民の安全を確保できるだろう。

チコルも毛に水分を吸いまくって見るに耐えないな。大丈夫か?寒ければ火を灯すぞ。仕事後に風呂でも入ろう


チコル・フワッフル
ユーリ・ヴォルフと行動
★アドリブ、他猟兵との絡みも歓迎!

こんなの、絶対に止めなくちゃ……!
ユーリ、そっちは任せた!私は皆を解放してくるっ。

ユーリの攻撃に合わせて【ダッシュ】で駆け出し、キャミソールと短パン姿になり速度を上げて囚われた人々の元へ向かうよ。
敵が邪魔なら【ジャンプ】で【踏みつけ】て飛び越えていく。
辿り着けたら、急いでダガーで縄を解くね。
大丈夫!?私達が来たからには、もう大丈夫だよ!
人々を背に守りながら、ダガーを【投擲】で【一斉発射】して【範囲攻撃】!
それでも近付いてくる敵には【シーブズ・ギャンビット】!

ありがとユーリ!炎が温かくて助かるよ~♪
そうだねっ。全てが解決したら、そうしよう♪



●輝き、雨にも陰ることなく
 時間はやや巻き戻る。
 グリモア猟兵による転移の第一陣が参着した直後の話だ。
「よし、到着っ! ユーリ、早く……ユーリ?」
 テレポート完了と同時に駆け出そうとしたチコル・フワッフルは、
 ともに現出した顔なじみの猟兵、すなわちユーリ・ヴォルフの様子に小首を傾げた。
 普段ならばむしろ彼が率先して先陣を切るはずのところ、
 守護者を標榜する龍人は、しかし厳しい表情で思案したままだ。
「……この状況、改めて見るとやはり不自然だ」
「不自然……?」
 チコルの合いの手に、ユーリは静かに首肯した。
「もしや、領民を餌に我々を……猟兵を釣り出そうとでもしているのか?
 猟兵がヤツの求む『強者』であるか見極めたいのか、あるいは――」
「……ーリ、ユーリってば!!」
 己にかけられる声に、ユーリははっと我に返り、チコルの方を見た。
「そんなこと言ってる場合じゃないよ、早くなんとかしなきゃっ!」
「あ、ああ……。……そうだな、なにか目的があるのだとしても」
 どちらにせよ、この状況を放置していていいわけがない。
 猟兵として? それもある。だが彼らは自らの意思でここに来たのだ。
「絶対に止めなくちゃ。ユーリ、敵のほうは任せるねっ!」
「ああ、チコルは人々を保護してくれ。またあとで会おう!」
 雨を斬り裂き、二つの影が同時に駆け出す。
 かたやオレンジ色の龍焔を纏い、敵陣へとまっすぐに。
 かたや己の装いを脱ぎ、軽装のまま速度を上げて人々のもとへ。
 色も姿かたちも異なれど、双眸に揺らめく灯火は力強く、熱いものだ。

「内に眠りし、龍の焔よ――」
 前線。襲い来る屍鬼の腐った乱杭歯に、豪槍の柄が叩き込まれる。
 同時に穂先は、死角からユーリを襲おうとしていた獣を両断していた。
「わが剣となりて、哀れな餓鬼どもを穿ち焼き尽くせッ!」
 ごうっ、と円弧を描いた焔はそのまま焔の剣として実体化顕現し、
 雨粒を蒸発させながら増幅回転、さらに敵陣へと降り注ぐ。
「雨は苦手だが、この程度! 私の焔をかき消すには物足りないぞ!」
 勇ましい叫びである。炎龍の熱は瀑布のような豪雨のなかでも健在だ。

「あーもー、邪魔邪魔っ!」
 のたのたと緩慢に、しかし確実に人々に近寄る餓鬼の群れ。
 チコルは人混みめいたそれらをくぐり抜けることを拒絶した。
 代わりに両の足でウサギのようにぬかるみを蹴り、跳躍。
 さながら飛び石を渡るかの如く、餓鬼の頭から頭をストンプし進むのだ。
「よっと。みんな大丈夫!?」
 背後で倒れる首なし屍体を振り返ることもなく、チコルは人々に呼びかける。
 唖然とする人々が何かを答えるよりも先に、ダガーがきらめき縄を解いた。
 ひとつ。ふたつ。背中に響く、再びの飢えた呻き声と咆哮。
「ああもう、数が多すぎるよっ! ユーリやみんなも戦ってくれてるのに!」
 煩わしげに彼女は踵を返し、縄を斬ろうとしていたダガーを投擲した。
 一つどころではない。懐に忍ばせた短剣をショットガンじみて拡散!
「チコル、そちらは無事かっ!?」
 そこへユーリが駆けつけた。
 横合いから敵陣を炎と槍のなぎ払いでもって吹き飛ばしたのだ。
 一瞬空白が生まれるも、まるで雪崩のように敵は荒野を覆い、迫る。
「なんて数だ、これは一朝一夕で用意できるものではあるまい」
「そ、そうだよ。こいつらはみんな、領主様に殺されたんだ!」
 戒めを解かれた人々のうち、若々しい男が思わず叫んだ。
「殺された? じゃあまさか、ここにいるのって」
「……"廃棄"されたモノの成れの果て、か。ではあなた達はレジスタンスか?」
 人々は一斉に首を振る。顔は一気に青ざめていた。
 領主に逆らうなど恐ろしい、考えるだけでも心胆を寒からしめるとばかりに。
(違うのか? ではなぜこんな形で迂遠な処刑方法を……)
「ユーリ、危ないっ!」
 思索の隙を突き、背後に迫っていた餓鬼をチコルが切り払う。
 彼女の毛並みは雨に濡れ、文字通りの濡れ鼠(この場合は兎か)めいていた。
「すまない。その、寒くはないか?」
「大丈夫っ! これが解決したら、ユーリの火で温めてもらうよっ」
 そのためにはまず、敵を倒し人々の恐怖を払わねばならない。
 ユーリは頷きながらも、しかし一抹の疑念を捨てずにはいられなかった。

 ――この人々は、なぜここにいるのだ。
 彼らは本当に、無辜の犠牲者なのか……? と。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

荒・烏鵠
【万嶺殿】で行動

助けようとする者など居ない、だってェ?
いるさ、ここに大量にな!

あいっかァらず暗々とした世界だなァ!日焼け対策いらずで納涼には悪くねェや。
さぁーてアホ共、お仕事だ。人助けは好きかァ? もちろんだァ!
まずはイリーツァ、ニンゲンたちの周りに壁を作れ。出入り口と天井もつけろ。雨は体力を奪う。終わったら戦ってこい。
アルバート、オマエは空だ。上から全体を見てヤベートコに槍降らせて片付けろ。
オレはまず壁の中でニンゲンの相手してくる。こゆ時に錯乱するのがニンゲンだかンな。説得(UC)で大人しくさせてくる。終わったらオマエラ手伝うわ。

サァ、作戦開始だァ!


アルバート・クィリスハール
【万嶺殿】で行動

懐かしきかな我が故郷。憎悪と理不尽満ちる常夜の国よ。
そういえば、イルと出会ったのもこんな日だったね。
思えばお互い変わったよね……さあ、人助けの時間だよ!

アルバート、了解。上空へ昇り、イリーツァをはじめとした猟兵たちへの支援攻撃を行うよ。
空間魔術展開、領域最大!空に満ちろ我が魔槍、近くの敵から穿って散らせ!
最悪、足を止めさせるだけでもいい。僕らの他にも猟兵はいるからね!
まずはイルの石堂作成を邪魔させないことから始めようか!
……あれ本当にすごい技だったんだね。

僕自身も弓で応戦するよ。
スピードと狙撃には自信があるんだ、そうそう抜けると思うなよ雑魚共!


イリーツァ・ウーツェ
【万嶺殿】で行動

タクシーは置いてきて正解だったな。
テンション上がりすぎじゃないか烏鵠。
答えさせる気が無いだろう、その質問。

ああ、そうかもな。雨だったかは覚えていないが。
そうだな。だが悪くはない。
……さあ、猟兵の仕事を始めよう。

狐の作戦通り、UCを使って生き餌を囲うように石堂を作る。
地面から壁が生えて伸び上がり、上空で互いにぶつかり塞がる様に。
入り口用に穴も開けておく。
明かりや治療は他猟兵に任せる。

終わったら私自身も討伐に出よう。
杖と尾でなぎ払い、リボルバーで撃ち、翼で殴り、近くの兵をかばう。

っはは、いかん、笑ってしまう。
楽しむべきではないのだが、どうにも……ははっ!



🔵万霊の境を越えて来たる者ども
「あいっかァらず、暗々とした世界だなァ!!」
 ざあざあと降り注ぐ雨を、両手を広げて受け止め、妖狐の男は快哉を上げた。
 そうとしか言いようがない声音だ。その面持ちも口調も何もかもが軽薄である。
「日焼け対策いらずで、納涼には悪くねェや。ハッ!」
 荒・烏鵠は、こんな状況に似つかわしからぬ冗句を飛ばし、自ら鼻で笑った。
「……この雨ぶりでは、愛車は置いてきて正解だったな」
 その後ろに転移完了したドラゴニアンが、うっそりとした声音で言った。
 イリーツァ・ウーツェ。己の裡に荒ぶる焔を秘めた、静かなる戦士である。
「烏鵠も、テンションが上がりすぎじゃないのか。大丈夫か?」
「まあいつものことじゃない? 荒さんがこんなノリなのはさ」
 そんなイリーツァの隣に、三人目の若々しい男が現出する。
 その姿形はヒトなれど、黒髪に頂くのは冠めいた赤い狐百合(グロリオサ)。
 なによりも目を引くのは、柔和な表情と正反対な黒い猛禽の翼である。
「ああ、懐かしきかな我が故郷。憎悪と理不尽満ちる常夜の国よ。
 ――なあんてね。まあ、僕の場合はあそこまで高揚はしないけど」
 然り。彼……アルバート・クィリスハールはヒトではなくオラトリオだ。
 このダークセイヴァーに生を享け、複雑な経緯の果てにいまがある。

「おいおいアホども、何ノンキしてやがる! お仕事の時間だぜェ?」
 烏鵠はそんな二人を振り返り、さも楽しそうな皮肉めいた笑顔を見せた。
 囚われた人々を解放し、悪逆なる吸血鬼をその手で討つ。
 なるほど如何にもな"人助け"である。善性の塊というべき救済行為だ。
「人助けは好きかァ? もちろんだァ!!」
「……答えさせる気がないだろう、その質問」
「ケッケッケ!」
 軽薄な笑い声を、彼にとっての『身内』以外に届かせることは雨が許さない。
 だから彼は取り繕わず笑い返したし、イリーツァの小言も聞き流した。
「ンじゃまずはイリーツァ、オマエに仕事をやるよ。
 ニンゲンたちの周りに壁を……っとそうだなァ、出入り口と天井も忘れずに作れ」
 瀑布のごとき豪雨である。餓鬼どもが届かずとも、降り注ぐ冷気は熱を奪う。
 だが烏鵠の声音はやはりどこか軽々しく、そこに人々への思慮や不安はない。
「ンで、それが終わったら敵ンなか突っ込んで戦ってこい。いいな?」
「――いいだろう」
 応えたイリーツァの口の端に、わずかな笑み。
「アルバート! オマエは空(うえ)だ。せっかくデケェ羽背負ってンだからな」
「はいはい。他の猟兵(みんな)を支援してあげればいいんでしょ?」
「そォいうこった。全体見てヤバそうなトコにオマエの槍を降らせてやれ」
 胡乱な口振りに反し、烏鵠の指示は的確で無駄がない。
 一方のイリーツァとアルバートも、彼の采配に不平不満を見せることもない。
 三人は確固たる信頼関係で結ばれている――もっとも、互いの人柄については別かもしれないが。
 それぞれの能力に対する評価は、"信頼"という言葉で示すほかにない。

 ともあれ指示が下れば動きは速い。
「天に星、奈落に九泉。闇の坤は頭を垂れよ――」
 低く圧し殺したような祝詞が、雨の中に奇妙に響き渡る。
 ……ぬかるんだ地面が、ざわりと"波打った"。
 するとどうだ、泥めいたそれらはぐにぐにと撚り集まり、ひとりでに押し固まる。
 まるで手品のように壁が地面から"生え"、植物めいて伸び上がる。
 緩やかな傾斜を描いたそれらは空中でぶつかり合い、やや乱暴な『天井』を作り出した。
 中からはどよめきと恐怖の声がかすかに聞こえてくる。彼らは患わない。
 坤号自在・天支玄壌。大地をあるいはその類縁を支配し敵を屠る超常の技である。
 それを応用すれば、斯様な護りを固めることも龍人にとってはたやすいか。
「明かりだの、生き餌どもの治療だのは他に任せるしかあるまい」
「オイオイ、ヤメとけよォ? "ニンゲン"、だろ?」
 イリーツァの口振りをたしなめる烏鵠、しかしやはり彼も楽しげである。
「まッ構わねェがよ! ンじゃ、オレは中の連中の相手でもしてくるぜ。
 こゆ時に錯乱するのがニンゲンだかンなァ。"説得"して大人しくさせねェと」
「"説得"、ね。ま、別に僕はどうでもいいけど」
 アルバートは弓を片手に肩をすくめる。――然り、弓である。
 イリーツァの精神集中の間、彼は淀みない動作でそれを抜き放ち、矢を射った。
 この程度のことは空に舞うまでもない。雨粒を翼が払い、大きく開かれる。
「終わったらそっちに合流するわ。ンじゃ作戦開始だァ!」
「アルバート了解。さあイル、始めようか」
「ああ。猟兵(わたしたち)の仕事を始めよう」
 かくして三者はそれぞれに離れ、それぞれの戦いに没入する。

「そういえばさ、イル?」
「くく――ん? なんだアルバート」
「僕達が出会ったのも、たしかこんな日だったっけね」
「……ああ、そうかもしれないな。よく覚えてはいないが」
 上空を滑空し、雨にも負けぬ力強いはばたきで浮力を得るアルバート。
 鷹の目じみた彼の眼差しが、敵を見逃すことはない。
 そして今、弓で一体一体穿つなどという"手間"を払う必要もないのだ。
 彼が視線を向けた先には、雨をも呑み込むほどに無数の槍が無から現出し、
 のたのたと泥の中を歩み来る敵へ無慈悲に降り注ぐ。
 只中に猟兵がいたとしても、配慮してやる必要はない。そういう術式だからだ。
 一方、地上を征くイリーツァは、意志を持つ魔杖を以て敵をなぎ払い、
 時には堅牢なる龍の尾で同じことを行った。まさに蹂躙である。
「思えばお互い変わったよね、うん。本当に」
「そうかもな。だが悪くはない。なにより――」
 BLAM! リボルバーの咆哮を響かせながら、イリーツァはこらえきれず喉を鳴らした。
 いや、笑った。くつくつと、心の底から愉しげに。
「っはは、いかん、ダメだな。抑えきれん」
「あーあ、せっかくの人助けの時間なのに」
 決して楽しげではない、陰鬱たる雨の中の先の見えぬ防衛戦である。
 それでもイリーツァは笑う。笑わずにはいられない。彼はそういう性根であり、
「まあいいさ。――空間魔術展開、領域最大!」
 アルバートは、そんな恩人(かれ)の在り様をよしとする。
「空に満ち、刹那に馳せよ我が魔槍! 敵を穿ち、貫き、散らせ!!」
 口訣とともに槍が再び生まれ、ざすざすと敵を貫いた。
 彼らはやはり、笑っていた。二人してそういう性根の持ち主なのだ。

「サァてっとォ!」
 一方、突然生まれた"石堂"の内部、やおら乗り込んだ男が野卑に笑う。
 人々は闖入者に驚き、あるいは軽薄な声を訝しみ、全てが恐怖していた。
「どォせ後ろ暗い事情の十や二十抱えてんだろォ? こンな世界(とこ)だもんなァ!」
 何が楽しいのか、声を弾ませながら妖狐は言う。そして片眉を吊り上げ、
「オマエら、耳の穴かっぽじってよーく聞けよ? オレのありがたい"言葉"をな」
 赤色狐は言葉を遊ぶ。心に、いや、物理的に作用する呪いを吟ずる。
 ただの人間である連中に抗うすべはあるまい。早晩、真相は明らかになるだろう。
「あ、あんたら、一体何者なんだ!」
「オレか? オレらはなァ――」
 己を見せぬ男はにっこりと三ヶ月めいて口元を歪めた。
「人助けがだァい好きな、通りすがりの善人だぜ?」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アストリーゼ・レギンレイヴ
……悪趣味な催しね
見初めた女の未練を断ち切る為とでも?

……いえ、どうでもいいわね
それが挫くべき悪逆と解っているならば
そんなのは、些細なことだわ

射程に捉えたものから《茨の刃影》で打ち据える
射抜ければ一思いに塵に還し
殺しきれなければ近づいて来たものから黒剣で斬り伏せる

……ただ、重視するのは攻撃よりも守護
常に人々を庇うように立ち位置を取り
凡そ引き受けられる限り全ての攻撃を受け止める
斃すのも、人々に害為そうとする相手が優先よ
自身の負傷は顧みない
どうせ斃せば幾らかは還元されるのだから

力無きものたちを護る為にこそこの身はある
亡者も、獣も
このあたしを斃さずして先へ進めると思うな

【アドリブOK、連携等も歓迎】


アルトリウス・セレスタイト
あの女、を知っておくのも良いか

界離で時の原理の端末召喚。淡青色の光の、回転する円環の針金細工
「あの女」へ向けられる住民たちの感情を遡行し、外見や人となり、村での当人に対する認識などを探れないか情報収集を試行

何かしら掴めるなら同様に女について探っている他の者と情報交換
照合し食い違いがあるなら原因を考察
住民の視点で悪感情があれば当人の評価に影響している可能性はあるかもしれない

自身へも何かしらの恨み言なりが向くだろうが、そういうものだろうという程度
死ぬよりは生きている方が良かろうとは思うので、明らかに救助の手が足りなければそちらに回る


松本・るり遥
【保護重視】
現状への悔しさを、『勇気のない』俺が吼えたてる

『嗚"呼"ぁーー
退け、退け、腹が減ってるなら泥か霞でも喰っていやがれ!!空腹のせいで負け戦に使われてザマァ無え!!生存本能より食欲優先させて、この有様で笑えてくる!!』

笑える訳ねえだろクソが
この人達は苦しんでいて、餓鬼どもだって死にたい訳がない
【Nonsense】言葉絶やさず敵を片っ端から撃ち続け、常に犠牲者に気を払う。
戦いは怖いがこの人たちが死ぬ方が怖い
たったの一人だって喰わせてたまるか、酸素が無くなろうが吼えんだよ!!

【想い出語り】で『校舎の壁』を生成、犠牲者を護るよう展開
嘘じゃねえんだ、あの学び舎は俺達ガキ供を護る檻に違いない!!




 時間は、この戦いが始まった直後まで遡る。

●咆哮、阻害、そして
 為す術もなく囚われ、絶望の時を待つしかない人々。
 いくら倒そうと無限めいて溢れ、次から次に襲いかかってくる敵。
 降りしきる雨。届かぬ悲鳴。転移した猟兵もいまだ僅か。
「嗚呼――」
 苛立ち。焦り。何よりも……悔しさ。溢れる。激情の焔となって、そして、燃える。
『嗚゛呼゛ぁ゛ああああアアアアッ!!』
 形なきそれを、咆哮という音波に変えて、一人の少年は吼えた。
 松本・るり遥。その身の裡に、いくつもの精神(じぶん)を抱えたもの。
 多重人格者。時にそれは、本懐たる自己を見失う者も少なくない。
『退(ど)け、退(ど)けェッ!!』
 だが彼は、るり遥は少々特殊なタイプだ。いまこうして吼えているのは、
 主人格と同じ『るり遥』だ。彼はそれらを感情で振り分けられた"俺"と視る。
『腹が減ってるなら、泥か霞でも喰っていやがれ!
 空腹のせいで負け戦に使われてザマァ無え――生存本能よか食欲優先かよ!』
 ついにはがなりたてる声は、けらけらと愉快げに笑いだした。
 いやどちらかといえば、打つ手をなくした者が絶望の果てに浮かべる笑みのように。
 死にたくないのだ。囚われた人々も、迫る餓鬼とて。
 屍鬼はいい。あれらは所詮歪みねじまがった成れの果てだ。
 だが獣はどうだ。この荒野に放たれ、捨て置かれ、雨に晒されて。
「笑える訳がねえ」
 ……"るり遥"は、打って変わってぞっとするような低音で呟いた。
「笑えるわけねえだろクソが!」
 人も餓狼も、獣も何もかも、苦しんでいて死にたくないのは同じなのだ。
 なのにどうしてこうも争わされている。どちらかを殺さねばならない。
「畜生」
 だから悔しかった。溢れる激情をそのまま言葉にして叫んだ。
「クソが、畜生、クソッタレが!!」
 叫びは視線と混ざり合い、超自然の弾丸となって敵を射抜く。
 それがまた気に入らない。なによりも戦いそのものが恐ろしい。
「クソ、クソ、クソッ!!」
 "だから"吼える。それ以上の恐怖――誰かが犠牲になることが後ろにあったから。
 ただの一人だって喰わせるわけにはいかない。吼えろ、吼え続けろ。
 酸素がなくなろうと喉が枯れて血を噴き出そうと、吼えて吼えて吼えて――。

「――手間を、増やさないでくれるかしら」
 声音は、雨粒を切り裂く怜悧な女のそれに遮られ、そして風が吹いた。
 颯爽たる影。少年に向けられた瞳は赤と金の、異なる二色に輝く。
「まあ、あの時と違って間一髪……というわけではなさそうだけれど」
 るり遥が何かを応えようとする。アストリーゼ・レギンレイヴは省みぬ。
 かつてこのダークセイヴァーにおけるある戦いで、彼女と彼は交錯した。
 不慣れな蛮勇に手を出した彼の窮地を、アストリーゼが救ってみせたのだ。
「……いえ、今はどうでもいいわね」
 その言葉は過去の宿縁に対するものでも、彼女の裡に蟠る想いに対してでもある。
 此度の悪趣味な催しに対する嫌悪と怪訝。
 見初めた女の未練を断ち切るかの如き、浅ましい吸血鬼への侮蔑。
 どうでもいい。己がなすことはひとつであり、そのためにここへ来たのだ。
「挫くべき悪逆はここにある。些細なことだわ、そうでしょう?」
 アストリーゼは禍々しい大剣を振り払い、雨霧越しに少年を仰いだ。
 ……彼女は、やはり答えを待つことはない。視線を残し敵陣へと。
 己の負傷を顧みることなく、人々を――そして放っておけない少年を、
 自らの身をもってかばい、守り、振るわれるはずの攻撃を受け止める。
「緩い」
 大剣が敵を薙ぎ払う。牙が食い込む。
「鈍(のろ)い」
 爪が引き裂く。女は意に介さず砕き殺す。
「……弱い。あたしの体は、この身は、この力は」
 ぎらりと、異色の双眸が飢えた敵を睨めつけた。
「力なきものを護るためにこそある。お前達にあたしは斃せない。
 ――であれば、先へ進めもしない。ならば、徒花のように潰えなさい」
 ぬかるみからざわざわと茨が現れ、血色の滅びが敵を貫き飲み込んだ。
 雨の中はびこるそれらは、流れ出る女の血を享けていっそうざわめく。
 ……向こう見ずな彼女の背中を、ぐんとがなりたてる咆哮が叩いた。
 音波はそのまま、文字通りの波となって敵を遅い撃ち抜くのだ。
「俺は」
 ぎりり、と奥歯を噛みしめる音がした。
「俺だって、やれる。やりたいんだ、やらせろよ!!」
「そう」
 女の口元に浮かんだのは笑みか、あるいは呆れか?
 瀑布めいた雨水は見せてはくれぬ。ただ頷く気配があった。

 ――そんな前線の一方で。
「…………」
 響き渡る聞き慣れた咆哮を、雨の音越しに聞きながら、一人の男が眉根を顰めている。
 アルトリウス・セレスタイト。彼は少年も女も、どちらの存在にも覚えがある。
 その時もやはり、この暗澹たる世界での戦いだったか。
「灯火はもたらされ、僭称の王は消えど、この世界は変わらず――か」
 鬱屈とした世界である。来るたびに陰鬱さが全身に張り付いてくるようだ。
 彼はいささか特殊な異能者であらばこそ、この支配された世界の在りようを、
 他の猟兵よりもより根源的に感じ、視覚していた。
 だがいま彼の眉を顰めさせているのは、ダークセイヴァーの雰囲気ではない。
「…………」
 彼の前には、淡青色の光の、回転する円環の針金細工が浮かんでいる。
 世界原理を内包し、その根源に干渉を可能とする奇怪な端末である。
 "あの女"。人々はみな、それを呪い、あるいは恨んでいた。
「なにか有益なことが知れれば、と思ってはいたが……」
 嘆息。遡行により知れたのは、彼らが向ける感情の内実とその意味のみ。
 "女"そのものの人となりなどについては、残念ながら闇めいて暗澹とし定かならない。
 まずそれが業腹である。おそらくは敵たる吸血鬼がためだろう。
 彼の異能を阻むほどの存在格か。手強い相手と見えた。
「だが何よりも――」
 かすかに聞こえた、人々の呪いと恨み言を脳裏で反芻する。
 あの女のせいだ。
 どうして俺達が。
 なんでこんな目に。
「……どの口がのたまうのか、直接聞いたほうが早いかもしれんな」
 彼は自分がそれをぶつけられたとて、意に介さぬ。
 只人のように見えど、他者と異なる視点に己を置くアルトリウスは、
 言語化するには複雑すぎる心理構造をしていたがゆえに。
「まずは情報を統合し、分析するところからだろう」
 合理的判断をもって干渉を終え、彼は他の猟兵を求めて雨の中を歩く。
 ――瀑布めいた水の向こうから、せり出す隔絶の壁と、
 それを呪う支離滅裂ながなり声が遠雷めいて響いてきた。
「……誰も彼も、度し難いほどの激情だ」
 アルトリウスに情熱はない。未来を志向すれど夢はなく。
 雨に奪われる熱すらなき男は、淡々とした面持ちで踵を返し歩み去る。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

胡堂・充
……はっきり言って、ダークセイヴァーのオブリビオンは特に嫌いですね。人々の命をまるで娯楽や消耗品のように扱うことは、医者として強い憤りを感じます。
だが今回の状況は……いや、今は【救助活動】が先だ!

<オフロードバイク『マックス』>も活用し、迅速に救助を行います。負傷している人がいたならば【医術】及び【他者治癒能力】で治療します。
その後、【コミュ力】【優しさ】を使っての【情報収集】で、今回の事件の背後関係についての調査を行います。

「安心してください、僕は医者です。何があったか……教えていただけますか?」

やはり、この状況は何かおかしい……もしや、この人達は僕らをおびき寄せるための……!?


黒城・魅夜
投擲・スナイパー・範囲攻撃で53枚の死神札と鎖を撃ち出します。
対象は餓鬼どもではなく、縛められた人々の拘束。

さて、それからあなた方はどうなさいます?

震えながらも立ち上がり、無力ながらも抗おうとするなら、私はその傍らに立って力を貸しましょう。

無我夢中に逃げようというのなら、それも命を諦めていない証拠。その背中を守りましょう。

しかし、何もせず座り込んでいるだけというのなら、それは未来を諦め希望を打ち捨てた姿。
そのようなものを私は同胞とは呼びません。

けれど、たった一言。
頼む、と叫ぶことができたのなら。
その一言に私は希望を見出すでしょう。
そう、私は咎人殺し。
依頼によって咎人と悪夢を狩るものです。


月宮・ユイ
弱者を嫌う、ですか…
陽の射さぬ空を見上げ、
確かに常に薄闇に包まれ、穏やかに、されど確実に終わりへと向かうこの世界は、人も土地も何もかもが弱り荒んでいる様にも感じられます。
けれどまだ本当の終わりは来ていない、ならば今私に出来る精一杯の抗いを…

飢えた敵も、縛られ他者を呪う言の葉を浮かべる人も、まるで弱さを引きずり出し、並べ立てるよう。
その有り様は心が痛い、故にこそ、ここで折れ護らなければ、それこそ本当の弱さになってしまう。
”全力魔法、範囲攻撃”【不死鳥】
さぁ、滅びと新生、破壊と再生の火にて守護の意志を灯しましょう
人を”かばう”ように守護、敵を滅し人を治癒す選別の炎にて敵を討ち人を癒し護る



●救うものと、測るものと、護るもの
「さっきのはどういうことですか!?」
「……どういうこととは、どういう意味です?」
 食ってかかる胡堂・充に対し、黒城・魅夜の視線は冷ややかだ。
 同じ集いに身を置き時には協力することもあるふたりだが、今回は趣が違う。
「言葉を弄さないでください。あれはなんのつもりでやったのかと聞いているんです」
 充は、魅夜の冷徹で鋭さすら有する視線に、しかし臆することなく詰問した。
 その見た目から自明の理であるように、彼は猟兵である前に医者である。
 超常の治癒能力を持ちながらも、彼は天恵に寄りかかることをよしとしなかった。
 そのために技術を鍛え、知識を学び、正式な認可を得て今の立場を得た。
「たとえ同じ猟兵で、あの艇の一員だとしても」
 だからこそ充は一歩も退かなかった。退くわけにはいかなかった。
「医者として見過ごせません。なぜ彼らを怯えさせ、あまつさえ――」
「……見捨てるような台詞を吐いたのか、ですか?」
 魅夜の表情は変わらない。降り注ぐ雨よりもその声は冷たい。
 さもありなん。先に魅夜は、あろうことかその力を餓鬼ではなく人々へ向けたのだ。
 いや、なにも直接痛めつけたわけではない。
 ただ開放され、猟兵の生み出した壁と天井の中で守られる人々を、
 己の持つ力でもって取り囲み、逃げ場をなくした上で問いかけたのである。

 ――震えながらも立ち上がり、無力ながらも抗おうとするなら、私はその傍らに立って力を貸しましょう。

 ――無我夢中に逃げようというのなら、それも命を諦めていない証拠。その背中を守りましょう。

「"しかし"」
 あの時に繰り返した言葉を、魅夜は乞われるまでもなく続けた。
「"何もせず座り込んでいるというだけならば、それは未来を諦め希望を放棄した姿"」
 挑発的な目線で充を見上げながら、魅夜は淡々と言う。
「……そのようなものを、私は同胞とは呼びませんし、呼ぶつもりもない。
 すべてあの時、あなたの前で言ったとおり。答えはこれで十分ですか?」
「あなたの信念や思考について、取り沙汰するつもりは僕にはありません」
 充はしっかとそれを受け止め、見返しながら決然という。
「けれども! あの人々は飢え、雨の中放置されていた被害者なんです。
 それを取り囲み、責め立てるような言葉で答えを催促する。それは……」
「痛めつけているのと同じというなら、ええ、それで結構」
 魅夜は悪びれることなくそっけなく返した。
「ですが事実でしょう。彼らがこの事態の中核を担っているなら、
 その当人らが気力を振るわずして、どうして私達が希望を見出すのです?」
 彼女は咎人殺しである。咎とは、誰かが罪を罪と定めることによって生まれる。
 ならば咎人を殺し、悪夢を狩るものは、生きるヒトの意志があって初めて動ける。
「……それは理屈ですよ。何事にも状況があります」
 充は悔しげに唇を噛み締めながら、それでも頭を振って言った。
「理も何もなく、手を差し伸べるべき瞬間はある。それが今です」
「あなたがそうおっしゃるなら――」

「……私も、彼に同意しますよ」
 魅夜の声を遮り、雨の闇の奥から新たな人影が現れた。
 月宮・ユイ。幼げな相貌と裏腹に、ヤドリガミたる怜悧を備えた少女。
 彼女はちらりと知己である充を見やり、そして魅夜に視線を戻した。
「この陽の差さぬ空の下、己の強さを貫けている人がどれだけいるでしょう?
 薄闇と迫り来る緩慢な終わりに追われ、意志の輝きを保てる人は多くありません」
 だが、まだこの世界は終わっていない。滅んではいない。
 ゆえにこそユイが、いや――猟兵はこの事態を察知し、ここへ来た。
「もしも人々に希望が、終わりを拒む意志があるのだとすれば、
 私達がここに来れたことこそがその証左ではないでしょうか?
 かすかに、ユイの眉根が顰められる。
 それは人々が、まるで己の弱さに屈するかのごとく呪いを転がしたからか。
 あるいはこれほど痛めつけられてなお、恨みを撒き散らすしかない、
 この世界の人々の在り方に対する憐憫か。瞳の色からは定かならず。
 ……ユイの周囲に、ぽつぽつと、輝くような焔が生まれた。
「だから今は、私達がそれを示しましょう。すべてを守護する意志を。
 あの人達自身がそれを持ち得たのかは、そのあとに問いかけてもいいのでは?」
 ……充も魅夜も、ユイの言葉に明確な不満や反対を漏らすことはない。
 つまりは先送りだ。いまは倒すべき敵と、護るべき人々がいるのだから。
「……すみません」
「いいえ、いいのです」
 魅夜は充の謝罪を認め、言葉通りに気にしていない様子で頷いた。
「こうして私達の間ですら、在り様がぶつかり合うこともある。
 それもまた、私達が諦めと忘却を拒絶している証左――でしょう?」
 向けられた視線にユイが頷いた。かくして三人は、堂々巡りの果てに肩を並べる。
(――けれど、この状況の不自然さはどういうことだろう)
 充は、人々が自分達猟兵をおびき寄せるための餌ではないかと推理していた。
 餓鬼は尽きぬが首魁が現れる様子はない。つまりそれは、否だ。
 ……それを問える決戦の場において、自分はいかなる論理を掲げるべきなのか。
 医者としての言葉か、
 猟兵としての言葉か、
 あるいは――。

 答えは、その時は、雨に隠れて未だに見えない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

シャルドール・プリマビスタ
この様な所業、その嗜好、理解不能……。
否、理解不要……。
「参ります。惨劇を回避する為に。」

WIZ
囚われた人々の保護へ参ります。
エレクトロレギオンを使用、全機で手分けして人々の拘束を解く。
敵が人々へ向かうならばそちらに急行、被害を最低限に抑えます。
人々の不安を和らげる為に声をかけれればと思います。
「ご安心ください。すぐに掃討致します。」

●補足
口調は基本的に物静かなもの。常に冷静沈着な性格。
表情が変化する事は無いですが、表に出す事の無い感情の代わりに僅かな仕草で表そうとしています(ぎゅっと手を握り締めたり、小さく踵を打ち鳴らしたり等)
性格を大きく崩す事が無ければアドリブや他者への絡み等大丈夫です。



●理解に能わざるは
 厄介なことに、荒野に放置されていた人々は一群に留まらなかった。
「まだ、いるんだ。東の方だ、女連中はそっちに連れてかれた」
「…………」
 最初に猟兵達が救助・解放したものとは、別のグループにて。
 拘束から解き放たれた男は、シャルドール・プリマビスタにそう言った。
「なあ、頼む。頼みます、俺達はなんもしちゃいねえんだ」
 懇願に対しても、少女が憐憫や侮蔑を向けることはない。
 そもそも感情らしいものを、そのあどけない(であろう)相貌に浮かべることはない。
 ただあらわになった唯一の口元も、人形めいて無言のまま男の話を聞く。
 ……事実、人形なのだ。ミレナリィドール、造られたモノ。
「なんで俺達がこんな目に遭わなきゃ、どうしてだ……」
 崩れ落ちて嗚咽する男を見下ろし、シャルドールはぽつりと言った。
「ご安心ください、すぐにすべて掃討、以て救助いたします」
 なるほど、言葉ばかりは安全を約束する、不安を和らげるためのものだろう。
 だが感情らしい感情をなんら見せることのない物静かな声は沈着であり、
 ゆえに男は、無言の迫力に気圧され、笑むことも出来ず彼女を見上げていた。
「では」
 一方のシャルドールはそれで話は終わった、とばかりに踵を返し、
 こちらへと緩慢に迫り来る餓鬼の群れへと直進する。
 彼女の周囲に、ユーベルコードによって召喚された機械兵器が付き従う。
(――人々を拘束し、惨劇の贄とする)
 言葉にすることなく、心の裡で人形少女は想った。
(このような所業、首魁の嗜好、なにひとつ理解不能……)

 ……"なんで俺達がこんな目に遭わなきゃ"……。

(否――理解"不要")
 必要などない。オブリビオンを倒し未来を護ることが猟兵の役目。
 惨劇を防ぎ、吸血鬼を滅ぼす。その目的は何があろうが変化することはない。
「参ります。惨劇を回避するために」
 ゆえにシャルドールは迷わない。逡巡や懊悩を抱くこともない。
 命は救う。敵を殺し、鏖にし、滅ぼし、以て守護となす。
 彼女の力はそのために。与えられた機能はそのために。
(――……)
 だが戦闘に入る一瞬、少女の細い手指が強く握りしめられたのはなにゆえか。
 義憤? 変化することなき相貌から、その熱を汲み取ることは出来ない。
 不要である。それを余人が知る必要はなく、彼女自身も理解せずともよい。

 敵を殺す。命を護る。
 過去を滅ぼし、未来を護る。
 人形は、ただそのためだけに力を振るう。
 その在り方をに、寂寥を抱くこともなく。戦火めがけ突き進む。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィリヤ・カヤラ
まずは縛られてる人を助けないとね。
敵を倒しながら手足を縛っている物を剣で切って助けるよ。
動けない人がいたら動ける人に
手伝って貰えるかな、
守るから皆で生きる為に手伝ってね!
その時には途中で敵に襲われないようにフォローするよ。

集まる場所が決まってないなら、
後ろが守れる大きい岩みたいな物が有る所か、
無ければ敵の少ない一カ所に集めて周りに声掛け。
か、寄ってきた敵に【ジャッジメント・クルセイド】を
使ったら知らせられるかな

集まった人を守る人がいなければ守りに入るね、
人を巻き込まなければ【氷晶】、
巻き込みそうなら【ジャッジメント・クルセイド】を使うね。
守ってくれる人がいるなら助けに走るよ!

アドリブ・連携歓迎


エリス・シルフィード
仲間との連携・声かけOK
…酷い話ね
久しぶりの実戦だけどできる限りの補助はさせてもらうわ
虜囚の人達を保護するのが最優先ね
近付いたら先ずは虜囚達に声を掛けるわ
「皆、大丈夫よ。私達は貴方達を助けに来たわ」
その後、UC使用
それは、囚われ絶望的な状況になった人々を救うために現れた戦士達に人々が救われる希望の歌
共感してもらえそうなその歌を優しさと祈りを籠めてライラの音色に合わせて歌って人々の心身を癒すわ
皆が信じてくれるようになったところで話し掛けるわね
「貴方達をこんな目に遭わせたのはどんな奴かしら?もし場所がわかるなら教えて欲しいの」
戦いが終わったらこの人達を安全な場所に逃がすように最善の努力を払うわね


リヴェンティア・モーヴェマーレ
アドリブ大歓迎
もりもりのもり大ジョブです
▼本日のメインの子
藍(救助特化なチンチラ)

▼【SPD】
血も涙も雨が全て流してしまう…
そんなようなお天気ですガ、このような残酷な事を放っておくワケにはいかないですネ…

極力体力を温存させつつ、藍ちゃんと一緒に囚われた人々の保護をし[救助活動]しマス
救助の際は自分以外に攻撃がいかないようにしっかりと周りに気を配りながら作業しマス
攻撃が来た場合は盾になって守ってあげたい気持ち
私は[激痛耐性]があるので多少は平気なのデすよ!
怖かったですヨね…痛かったですヨね…
怪我などしていたら[医術]で極力対応しまス

お話し出来る状態の人が居れば、[情報収集]も兼ねて聞き込みデス



●歌は遠く、藍氷のように冴え渡り
 "捕まったのはここにいるのだけじゃない"。
 開放された一群からもたらされた情報は、猟兵達に散開行動を余儀なくさせた。
「ああもう、雨は鬱陶しいし敵のやることは陰険だし!」
 瀑布のように降り注ぐ雨の中、ぬかるみを駆け抜ける女が毒づいた。
 ヴィリヤ・カヤラ。他ならぬ吸血鬼の血を享けたダンピールの猟兵である。
「血も涙もなにもかも、全て洗い流してしまう……そんなようなお天気ですネ。
 でもでも、こんな残酷な仕打ちを放っておくワケにはいかないのデスっ」
 彼女と並ぶ形で走る、リヴェンティア・モーヴェマーレが意気込んだ。
 この雨である。別の人々が転移場所から離れた位置に放置されている以上、
 体力の温存についてはある程度度外視せねばままならないようだ。
「本当に……っ、ひどい、話」
 たとえばエリス・シルフィードのように、息を切らせてしまう者もいる。
 だが彼女を脆弱と謗るものはいない。惨劇はすでに起きているかもしれないのだ。
 なにより彼女は久方ぶりに戦地を訪れた身であり、本来は補助を能くする者である。
「できる限りの支援は、させてもらうつもり、だけど……っ」
「大丈夫、守るのは私に任せて」
「もちろん私も任せてほしい気持ちっ!」
 ヴィリヤとリヴェンティアの明るい声に、エリスは息を切らせながらも微笑んだ。
 女達は雨の中を急ぐ。闇の奥から聞こえる餓鬼の呻きは無数。
 その中に、囚われた人々が含まれていないことを祈りながら。

「ひ……っ!!」
「いや、いやあっ!」
 一方で現地では、悲鳴と嗚咽があたりに散らばっていた。
 どうやらここに集められたのは、囚われた人々のうち若い女ばかりらしい。
 周囲を餓鬼に取り囲まれ、おまけに手足が戒められているのでは逃げようもない。
「た、助けて、誰か……っ」
「――ええ、いますぐ助けてあげる!」
 颯爽と声が響き、直後に冷気が雨風を切り裂いた。
 ヒュン、ヒュパ――という鋭い風切り音。次いで餓鬼の群れはどさりと倒れる。
「な、何? 誰!?」
 女達が怯えたのも無理はない。それほどの不意打ちである。
 だがもしも落ち着いてあたりを見渡したなら、これをなした現象は一目瞭然だったろう。
 なにせ周囲には、囚われた女達を守るかのように、無数の刃が突き立っている。
 ただの刃ではない。超常の力、ユーベルコードによって凝縮された冷気そのもの。
「氷よ射抜け、風を切って走りなさい!!」
 そしてこれをなしたのは、他でもないヴィリヤである。
 氷の刃に遅れて駆け込んだ彼女は、続けざまに片手を霞めいて煌めかせた。
 一瞬の早業。若き女達を戒めていた枷が、ばっくりと紙のように切り裂かれる。
「間に合ってよかった。二人とも、この人達をお願い!」
 宵闇の名を持つ黒き剣を振るいつつ、ヴィリヤは呼びかける。
 すると続けて金髪の女――つまりエリスが駆け込み、胸に手を当てて息を整えた。
「ええ、大丈夫……落ち着いたわ。皆も、もう心配ないのよ」
「だ、誰……」
「私達はあなた達を助けに来たの。詳しい話はあと、ね」
 端的に答え、エリスは落ち着いた声音ですう、と冷えた空気を吸い込む。
 そして彼女の喉から紡がれたのは、この場に似つかわしからぬ清廉な旋律であった。
「――♪」
 はじめは絹糸のように意味を成さなかった歌声は、やがて糸が撚り合わされ布となり、
 そして一枚のタペストリを編み上げるかのように、一つの叙事詩を謳う。
 それは希望をもたらす詩。囚われ、絶望的な状況に追い込まれた人々を、
 突如としてやってきた戦士達が守り、救うというありふれた英雄譚。
 優しさと祈りが込められた旋律は、当惑していた人々を安堵させ心身を癒やした。

「キレイな歌声ですネ……っとと!」
 うっとりとエリスの歌声に聞き惚れていたリヴェンティアは、
 しかし己の感覚を叩いた殺気に我を取り戻し、慌てて飛び退る。
 直後、さきほどまで彼女の居た場所を、鋭く汚れた餓鬼の爪がざうっ! と薙いだ。
「油断も隙もないのデス……っ、でも、私はひとりじゃないのでスよ?」
 敵の攻撃が要救助者や仲間である二人に向かないよう、常に意識を配りながら、
 リヴェンティアはエリスの歌声に合わせるかのように口訣を唱えた。
「光無き燈火/円環の理/小さくも大きな刃を持つわが子よ――」
 ユーベルコードは物理法則から解き放たれ、奇跡をもたらす力。
 やがて彼女の声に応じ、光がふわふわと周囲を舞い踊る。
「この世界に姿を見せよ。そして一緒に戦いまショウっ!」
 すると輝きは、意外にも可愛らしい一匹の小動物として結実した。
「さあ藍ちゃん、皆サンの救助をお願いするでスっ!」
 この場にやはり不似合いなチンチラは高い声で一声鳴くと、雨の中に駆け出す。
 敵はひとり残されたリヴェンティアをめがけ、次々に集まってくる。
「そうそう、相手は私ひとりだって宣言したい気持ちっ!
 切り裂かれたって噛みつかれたって、そんな苦痛はへっちゃらなのでスっ!」
 ミレナリィドールたる己の耐久力と、激痛を耐え凌ぐ心の力。
 いささか過信気味ではあるが、少女の言葉に嘘偽りはない。
「だからって好き放題させるのも、私としては見過ごせないね!」
 そこへヴィリヤがやってきた。追って、再び氷の刃が荒れ狂う。
 器用にも凍れる殺意はリヴェンティアひとりをかいくぐり、
 彼女に襲いかからんとしていた飢えた鬼どものみを貫き穿つのだ。
「あ、ありがとうって言いたい気持ちっ!」
「ふふ、あなたの言葉遣い面白いね? ちょっと楽しくなってきたかも」
 ヴィリヤの軽口は、この重苦しい世界の闇をはねのけるかのような力があった。
 人々を落ち着かせ、癒やすのはエリスに任せて正解だろう。
 あとは周辺の敵を蹴散らし、猟兵達が作った避難場所に彼女らを届ければいい。
「それにしてもほんとに暗いでスっ、雲もですが敵が多すぎ――」
「お。リヴェンティアさん、それいいんじゃない?」
「ほえ?」
 きょとんとする少女をよそに、ヴィリヤは別の術式を起動した。
 すると天高く、黒雲を貫くように光の柱が突き立ち餓鬼を呑み込む!
「ほら。こうやってめいっぱい明るくしたら、応援が来たりしないかな?」
「おお……なるほどでス!」
 戦況は膠着する。救助が無事に成功するのは時間の問題と言えた。

「……そう、領主の館はそこにあるのね」
 一方で、女達と交流していたエリスは、目的の一つを聞き出すことに成功する。
 口伝であるため完璧に正確とはいい難いが、襲撃のための材料にはなるだろう。
 どのみち、首魁である吸血鬼を討たねば、戦いは終わらないのだ。
「……強者を求め、弱者を蔑む吸血鬼。放ってはおけないわ、ね」
 駆けつけた藍とともに女達の負傷を治療しながら、オラトリオは決意を胸に呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

霧島・クロト
抵抗させれば、確かに『身体』は弱りはしねェなァ。
……心は、死に掛けるが、なァ。

『氷戒剣:狼顎』を【七天の氷製】【高速詠唱】で素早く複製。
ソードファンネルみたいに複製を操りながら
近場の敵は俺の手持ちの氷剣でなぎ払い、
遠隔の敵は念力操作の複製で斬り飛ばすか突き刺す。
それぞれ【フェイント】【属性攻撃(氷属性)】【マヒ攻撃】【鎧砕き】乗せでなァ。

もし避難しながらになんのなら俺自身は近場で警護しながら周囲警戒を怠らずに迎撃、ってトコだな。

「ちーと駄目じゃねぇかァ、誰かを呪う暇があるなら――」
「今は生きる為に、誰かに『縋れ』」
※アドリブ・連携可



●雨よ呪いよ、我こそは
 ざあざあ、ごうごう、ざぶざぶ。
 雨はいや増しに強まり、もはや一寸先を見通すことも難しい。
「も、もう無理、嫌……っ」
 一群から離れて荒野に転がされていた、囚われの女達。
 避難場所へ向かうその最中、若い女がついに心折れて膝を突いた。
「どうして、なんで!? なぜ私達がこんな目に遭うの!?」
 吐き出す言葉ははじめの連中と同じだ。
 なぜ。
 どうして。
 私が。
「全部、全部あいつのせいじゃない! あの化け物じみた女のっ!!」
 転がるは呪い、散らされるは恨み節。
 死んで当然と嘲るものがいるだろう。
 この期に及んで何を云うと、侮蔑するものがいるだろう。

 だが。
『北天に座す七天よ――』
 朗々たる口訣は、そのどちらでもなくただ力を呼ばわった。
 きり、きりと、立ち込める冷気が凝結し鋭き刃となりて顕現する。
『我が許(もと)に冷たき加護の刃を授けよ。そして』

 ――ぎゅんッ!!

 コマ送りの映像じみた速度で氷剣が、雨風を切り裂いた。
 軌跡が放つ冷気は震えるほどに恐ろしく、だが刃がもたらす滅びはそれをも越える。
 餓鬼どもがその高速の刃群に抗えるはずもなく、切り裂かれ、凍てつき、砕けた。
『我が敵に尽く破滅を……ってなァ!!』
 崩折れた女を飛び越え、鋼のひとが闇の中から現れた。
 バイザーの下、浮かべた笑みは不屈の一語。鋭き瞳は鷹のよう。
 暗澹たる空と荒涼たる野の、死と滅びそのものを払うように剣を担う。
 霧島・クロト。冷たき鋼に凍てつく刃を握り、赤き瞳を燃やすもの。
『ちーと、駄目じゃねぇかァ? なァ、名前も知らないお嬢さんよ』
 敵をことごとく貫き穿ちなぎ払い、間隙を生み出した鋼が大地に立つ。
 そしてバイザー越しに、崩折れたままの女を挑むように見下ろした。
『こんな状況でまで、その誰かさんを呪う暇があるならよ』
 侮蔑はある。憤りもある。だがそれは敵に向けるべき激情だ。
 人の心を畜生に貶め、じわじわと腐らせ死に向かわせるかのような愚行。
 許せることではない。許してはならない。ゆえに男の瞳は燃えていた。
『いまは生きるために、誰かに"縋れ"』
 ゆえにクロトは言った。
『嘆きじゃ命は救えねぇ。呪いじゃ誰かは守れねぇ』
 迫る飢えた悪魔どもを見据える。
『俺は、そういう悲劇(モン)を凍らせ滅するモノだからなァ』
 たとえ生身を失い、望まぬ機械の体を与えられても、彼は諦めない。
 いかなる惨劇も許しはしない。六花を咲かせ、すべてを滅する。
 振るう刃のように、狼じみた男の氷鎧は不屈にして不壊なのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と

全然止みそうにないね
嫌だな、今日の雨は一段と気持ち悪い……

不可解なんだ
ただ命を刈り取るだけなら一瞬で済むはずだし
苦しむ姿を見たいなら高みの見物に来るはずでしょ?
鍵を握る女の人、か
どうも引っ掛かるね

多くの敵を相手取るのは、私よりもヨハンの方が得意かな
君の背中は守るから後ろは任せて
私はサポートを意識して立ち回るね
ヨハンの術を邪魔させないように、人々に被害が及ばないように
【早業】で槍を振るうよ

やっと話ができそうだね
万一ヨハンの術を悪く言ったら本気で怒るけど
例の女性について聞こう
君達の知り合いみたいだけど、どうしてその人だけが館に?
『強きひと』って言われる理由に心当たりはない?


ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と

晴れぬ曇天の世界といえど、
流石にこの雨は息苦しいですね

餓鬼に食わせるからには命を取りたいのでしょう
苦しませはしたいが、その姿には興味がないのか
不可解な点は多いですね
女の人……、
転がされている人を注視しておきましょうか
性別、年齢、身なり、何か共通点はないものか

オルハさんよりは俺の方が多対戦闘には向きますかね
言葉に甘えて、背は預けておきましょう
蠢闇黒から闇を這わせて、敵を寄らせぬ内に切り裂く
人々の戒めも共に解いておきましょう

話を聞くなら、多少強引にでも口を割らせて良いのでは
『強きひと』、そして『化け物』とは、
女性は一人なのか、知ることはすべてだ



●瞬く星もなき空の下
 土砂降りの雨の中、風が渦巻き雨を払う。
 かと思えば、暗澹たる黒雲よりもなお冥き闇が、這いずるように蠢いた。
「反撃のことは気にしないで、私がサポートするから!」
 愛矛・ウェイカトリアイナを振るい、風を纏いながら少女が言った。
 あどけなさ色濃き緑の瞳は、絶望に包まれたこの世界で凛とした輝きを損なわない。
 オルハ・オランシュ――彼女の声が飛んだ先、対称的な藍の瞳が揺らめく。
「わかりました」
 少年、ヨハン・グレインの声はひそやかで、ともすれば雨音にかき消されかねない。
 しかし彼は声を張り上げない。己の意思は、どうあれ彼女に伝わると信じている。
 いや、識っているというべきか。
 少なくともこれまでに重ねた旅と戦いは、それを幾度となく証明してきた。
(誰かに背中を預けるのは、どうにも慣れませんが)
 言葉に甘えるということを、若き少年は知っている。
 そして宣言通り、オルハはただの一度もヨハンの術を邪魔することはなく、
 また無限めいた餓鬼の群れを寄せ付けず、彼を邪魔させることもなかった。
 ……指輪に嵌まった石の裡、黒がじろりじとりとゆらめき蠢いた。
 いかにもそれはただの光ではない、ただの黒ではない。それ自体が闇である。
 封印を解かれた闇は雨を厭わず這いずり、進み、緩慢なる餓鬼の歩みを呑み込む。
(やっぱりヨハンは凄いな。でも、私だって――)
 風の只中で踊りながら、オルハは感嘆と敬意と、奮起を反芻した。
 彼と自分が揃えばなんでもやれる。思い込みに留まらない確信がある。
 ただ、幾度矛を振るおうと、風とともに敵を薙ぎ払おうと。

 彼らを見下ろし雨を降らせる黒雲は、吹き飛ぶことなど一度もなかった。

●醜悪なる闇の前
「……それで」
 避難中だった一群の護衛と救出を終え、猟兵が築き上げた陣地にて。
 雨を逃れたヨハンは、息苦しい大気を吸い込みつつも口を開いた。
「オルハさんはどう思いますか、今回の出来事」
「……うん、やっぱり不可解だと思う」
 彼らと同じ意見を口にし、あるいは言葉にせずとも抱く者は多い。
 だが多くの猟兵達によって、恐れ怯え呪っていた人々も、
 段々とその重い口を開き、事情をぼそぼそ語りつつあったようだ。
「餓鬼に食わせるには、吸血鬼は彼らの命を取りたいのでしょう」
 安住を得たことに泣きながら震え、立ち上がる気力もない女達を見やる。
 戒めを解かれたとて、人々がそう簡単に背中をまっすぐと伸ばせるわけはない。
 しかもどうやら、幽かに伝わる証言をもとにすると、
 この一件は人々がまったく無辜の犠牲者というわけでもないようなのだ。
「不可解な点はいくつもありますが、最大の焦点はやはり――」
「高みの見物をするはずの吸血鬼が、ここにいないこと」
 二人は頷き合う。
「苦しませはしたいが、その姿には興味がない」
「矛盾してないかな。そんな手間を払うなら一瞬で命を刈り取れば早いよ。
 だから多分、吸血鬼本人に興味はないと思うんだ。もしかしたら女の人のほうが」
「……どうですかね。相手は戦闘狂のヴァンパイアでしょう」
 言いながらヨハンは、救助された人々の身なりを一瞥し分析する。
 おそらくどこかの農村、もしくはそれに近い共同体の住人どもか。
「魅了の術や話術で情報収集をしているようですが、
 いっそ強引に口を割らせてもいいのではないかと思いますがね」
「……よくないよ、それは」
 オルハの声音にはわずかな逡巡と迷いがあった。
 聞けば人々は、自分達を救おうとしてくれた猟兵に呪いの言葉を投げかけたという。
 もしそれがヨハンであったなら? 目の前の彼が蔑まれたなら。
 おそらく自分は、それこそ本気で激怒し彼らをなじっていただろう。
「"強きひと"、"化け物"――」
 これまでの予知と、人々が口にしたキーワードを口ずさみ、
 ヨハンは藍色の瞳を伏せて沈思黙考する。
「ねえ、それが単に腕っぷしの強さじゃないとしたら、どうかな」
 オルハはふとした思いつきを口にした。
「なにか別の……たとえば、心の強さだとか。そういう方向だとしたら」
「……心当たりがないか、問いかけてみる価値はありそうですね」
 今後投げかけるべき質問をまとめたところで、二人は雨空を見やる。
「……全然止みそうにないね」
 ぶるっ、とオルハが体を震わせた。
「さすがにこの世界でも、これほどの雨は少し、鬱屈とします」
「……うん。なんだか気持ち悪いっていうか」
 それは来たる戦いに対する恐れか、あるいは。
 ただ雨は、弱まることもなく降り続ける――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ティオレンシア・シーディア
あの女と同じ、ねぇ…
ユーベルコード持ち、とかそういう話なのかしらぁ?
とりあえず、話は当座をしのいでからのほうがよさそうねぇ。

流れ弾に気をつけて●鏖殺で迎撃するわぁ。
〇拠点防御の技術を応用して〇先制攻撃で蹴散らすわねぇ。
〇コミュ力活用して事情を聴けたらいいんだけど…この状況じゃちょっと厳しいかしらねぇ。

たしかに、ただ餌にするにしては随分と非効率的ねぇ。
――「強き者」「尊んでいる」「あの女と同じ化け物」――
…誅罰、もしくは処刑…?
縛って転がしておくのは、そのほうが長く絶望するから。
本人がいないのは、後はどうなろうがどうでもいいから。
これなら一応は理屈が通るのよねぇ。


マレーク・グランシャール
俺は囚われている者の救出を最優先で動こう
彼らは弱き者かもしれないが、俺にとってはそれすら食べてしまいたいほど愛しいもの
嬲り殺しになどさせるものか

群がる餓鬼共を蹴散らしいち早く辿り着くには【竜骨鉄扇】の波状攻撃+衝撃波が有効だろう
敵を薙ぎ払いながら駆け寄り、【竜哭風琴】の魅惑の伴奏でUC【竜聲嫋嫋】を成就させ広範囲の治療・回復を試みる
注意点はUC使用中の安全確保
仲間にその間の護衛を頼みたい

救助が成功したら残虐卿が執心している女ついて聞いてみたい
何となくだが残虐卿は女の望みを叶えているだけなのではないのかという気がした
例えば女の村人への復讐、‥‥とかな

※アドリブ・共闘歓迎


アリーシャ・マクファーソン
また奴ら≪吸血鬼≫に関する依頼のようね。
でも、ほんと妙な話ね。ただ弱者を縛って放置だなんて。
いつもなら弄り殺される様を見て楽しむような性悪ばかりなのだけど。
『あの女』とやらが関係しているのかしら?
この人たちにとっての『あの女』とやらの立ち位置が気になるわね。
どうにも良好な関係とは思えないけれど……ま、それはおいおいね。

餓鬼共は適当に氷の魔術であしらっておくとしましょう。
足元を凍らせて動きを封じれば、後は他の猟兵が始末してくれるでしょうし。

さて、人々に少しお話を聞いてみましょうか。
【礼儀作法】に則って、優雅に礼をしてみながら、ね。
あなたたちにとって『あの女』は……良き隣人?悪しき隣人?


雨乃森・依音
――ああ、雨だ
雨は好きだ
俺の代わりに泣いてくれるから
でもときに雨は、人々に降りかかる災厄みたいなもんだ
雨はいつか止むなんて、悠長なこと言ってらんねぇし
誰もが土砂降りの雨の中、笑う強さがあるわけでもねぇ
…傘を差しに行かなきゃなんねぇな

まずは人命救助だな
ソテル、頼む
――こいつらを救ってくれ
ソテルが魔獣共を蹴散らしてくれているうちに皆の縄を解いてやる
できるだけたくさん
襲われそうな人がいたら、庇うようにもお願いしておく

ったく、なんだってこんな残酷なこと思いつくんだか…
――ああ、そうか
こいつらは囮か
俺たちを誘き出すための
お前ら、これは誰にやられたんだ?
もしかしてだけど…これは報復なのか?
あの女ってやつの



●明かされたもの
 雨の中、四人の男女が無言で闇を駆ける。
 黒髪の女、ティオレンシア・シーディア。
 鋭い紫眼の男、マレーク・グランシャール。
 凍てつく魔力を纏う少女、アリーシャ・マクファーソン。
 そして降り注ぐものと同じ名を持つ男、雨乃森・依音。
 ともに言葉を交わすことはない。
 彼ら彼女らを迎え撃つかのように、闇の奥から餓鬼の呻き声が聞こえてきた。
 一同はそこへ向かっている。正しくは迎え撃つために急いでいる。
 敵は倒さねばなるまい。たとえ明かされたものがなんであれ――。

●疾走より少し前のこと
「ねえ」
 まず、保護された人々に歩み寄ったのは、アリーシャであった。
 彼女はまどろみに似た冷たい双眸を向け、やはり冷ややかな声を紡ぐ。
「あなた達にとって、"あの女"は――」
 カーテシーから面を上げ、問いかけた。
「良き隣人? それとも、悪しき隣人なのかしら?」
 ……常ならば、そう簡単に彼らは口を割ることはないだろう。
 だがこれまで彼らを保護し、交流した猟兵達により、
 今この場にある人々にはいくつかの術式が作用している。
 もはや彼らが猟兵達の力を恐れ、呪い、あるいは恨むことはない。
 結果として、質問を拒むことも、また、同様である。
「あの女は……あの化け物は、隣人なんかじゃねえ」
「そうだ。あいつは化け物だ、忌み子だ。俺達はただ」
「――ただ、痛めつけて虐げていただけ、か?」
 呆けたような顔で答えていた男達は、割って入った言葉に慄く。
 依音である。リアリストの瞳には、悲観的で皮肉めいた色が浮かんでいた。
「敵は"女"の望みを叶えているだけ、か。その線は俺も疑っていた」
 マレークが、依音の言わんとすることに同意して口を開く。
「女は人々への復讐を望み、それをヴァンパイアに懇願した。だとかな」
「そうねぇ、確かに理屈は通るわぁ。"一応"、だけれど」
 この緊迫した状況に似つかわしくない、蕩けたような甘い間延び口調。
 ティオレンシアは微笑みすら浮かべながら、ぽやぽやした様子で首肯する。
「誅伐とかぁ、処刑とかぁ……転がしといたのも、そのほうが長く絶望するから、とかぁ」
「当人がいねえのは、あとがどうなろうがどうでもいいから、か?」
 依音の言葉に、ティオレンシアはのんびりした表情のまま頷く。
「そうね。ただいま私達が知りたいのは、吸血鬼にとって、ではなくて」
 アリーシャが話をまとめ、再び人々に向き直る。
「"あなた達にとって"、その女がどういう立ち位置なのか。それが気になるの」
 ……もはや誤魔化すことは出来ない。人々は不安げに互いに目配せした。

「お、俺達は」
 するとしばらくの沈黙の後、一人の若い男が口を開いた。
「俺達は……もともと、同じ街に住んでいた者なんですが」
「続けて」
「……街にひとり、女が住んでいたんです。名前は、カーラ」
 人々――とある街の"生き残り"達が、ぽつりぽつりと語ったところによると、こうだ。

 街に住む人々には、ある一人の女の存在が共通していた。
 カーラ。ティオレンシアの推測と異なり、超常の力を持つわけでもないただの人間である。
 ……いや、"ただの"人間と呼ぶには、やや語弊がある。
「生まれつきなんです」
 若い女が……美しい町娘が、罪悪感を味わいながら言った。
「カーラは生まれつき、その、見た目が……少し、その」
 "化け物"。その言葉が意味していたものと、逡巡は符合する。
 だがカーラ自身はむしろ穏やかで、慎ましやかで、謙虚だった。
 それを美徳と云うべきか、悪意に屈してしまったと見るべきかはさておく。
 とにかくカーラは、彼らが言うところの"身の程"を知っていた。
 ――だが街の人々は、それだけではよしとしなかった。
 それは、彼女が持つ――ただしユーベルコードではない――特徴に由来する。
「あの女の泣き声はね、不思議と耳障りのいい、心地いいように聞こえるんです」
 老いた男が言った。
「あんた達のように、なんかを吹き飛ばしたり誘惑できるわけじゃない。
 ただ……ただ、綺麗なだけだ。こんなくそったれみたいな世界には、
 これっぽっちも似つかわしくねえぐらい、綺麗で美しい声なん、でさ」
 明日を迎えられるかという不安。
 無関心かと思いきや、思い出したように暴虐を振るう領主。
 圧政。晴れぬ闇。夜毎路辻を這い回る忌まわしいものの気配――。
「おかしくなってたんですよ皆」
 中年の男が、媚びへつらいの笑みを浮かべながら言った。
「だから、なんだ。仕方ないでしょう? だって、ねえ?
 あの女はなんも言いやしねえ。ただ泣いて、それが綺麗だから、へへ」
 誰が何かをしたわけでもない。ただそういう風に生まれただけ。
 ただそれだけの、彼らが言うところの"醜い女"。
 だが彼女の声は、泣いて嗚咽するときにだけ綺羅星のように美しい。
 それでも何の役にも立たない、けれども認めざるを得ないぐらい美しい声。

 ダークセイヴァーという世界は、そこに生きる人々を苦しめ圧する。
 鬱屈は溜まり、憤懣が煮えたぎり、捌け口を誰もが求めている。
「……だから、化け物と蔑んで、いたぶったと」
 アリーシャの声音と視線は、今度こそ氷のように寒々しく凍てつくよう。
 カーラに落ち度はない。ただ彼女は"そういうふう"に生まれただけだ。
 けれども人目につくにはそぐわぬ見た目を慎ましやかに謙虚に隠し、
 誰にも迷惑をかけることなく、ひっそりと街の片隅で暮らしていた。
「お前ら……そうか。そうだったかよ」
 依音の声音に込められた色は、あまりにも複雑で形容しがたい。
 彼らはカーラを日毎にいたぶった。
 その声とそぐわぬ見た目を化け物とあげつらい、姿を見れば石を投げた。
 彼女はなんら反抗しなかった。怒りを見せることもなかった。
 ただ、嘆いた。啜り泣くような嗚咽は、この世界にそぐわぬほどに美しい。
「圧制で切羽詰まる日々から逃れるように、のめりこんだ――ってか」
「……いっそ、ユーベルコードであってくれたほうがよかったのにねぇ」
 ティオレンシアは嘆息した。
 そうであれば、きっとカーラはその力で応報を果たしただろう。
 だが彼女は無力であり、それ以上に心優しく、ただ耐えた。
 ただ、向けられる悪意と嘲笑に耐え、嗚咽だけを漏らして忍んできたのだ。

●雨の中
 ――時間軸は、彼らにとっての"現在"に戻る。
 聞き込みを終えたあと、別々に動いていた猟兵たちとの折衝。
 突き合わせた証言と、情報の一致。彼らの語ったことが真実であること。
 戒められていた人々の悪徳、後悔するものもいれば逃れようとするものもいる。
 ……そこへ餓鬼の群れが再び迫っていると聞いた時、彼らは迎え撃つことにした。
 ここに至るまで、彼らの間に会話はない。
 互いの胸中を慮っているかどうか、何を感じているかどうかもわかるまい。
 ただ。
「流れ弾に気をつけてねぇ? ちょっと数が多いからぁ」
 間延びした声で言い、ティオレンシアが神速の抜き打ちを放つ。
 黒曜石の名を持つリボルバーによるファニング。弾丸装填の瞬間は目視すら出来ない。
 "鏖殺(アサルト)"。与えられた銘は、もたらされる結果に相応しい。
「――邪魔だ、お前らに嬲り殺しなどさせるものか」
 竜骨鉄扇を手にマレークが駆け出し、緩慢なる餓鬼の歩みを薙ぎ払う。
 グールドライバーたる彼は、人の血を必要とする。絶え間なき空腹感。
 弱き人々の命は、文字通り"食べてしまいたいほどに"愛おしい。守らねばならぬ。
 ……守らねば、ならぬのだ。たとえ連中がどれほど悪辣だったとしても。
 満たされることなき口元から、切ないほどに妙なる癒やしの歌声が漏れ出した。
「適当に、あしらっておくつもりだったけれど」
 アリーシャが片手を横合いに振るえば、氷の魔術が冷気をもたらす。
 餓鬼の群れの足元が、ぬかるみごと凍りつきその歩みを止めてしまう。
 彼女自身が裁きをもたらすことはない。もとより目的は吸血鬼そのものだ。
(弄び殺されるさまを見て愉しむような性悪ばかり。それは変わらない。
 ただ彼らは――吸血鬼にとって、"その価値すらなかった"というわけね)
 ……雨はただ降り続ける。依音はじっと、暗い雨雲を見上げる。
「ソテル、頼む。――こいつらを片付けてくれ」
 寂々とした声が、彼の使役する名状しがたき怪物を喚ばう詩となる。
 触手が生え、餓鬼を押しつぶし、大口を開いて獲物を次々に捕食した。
 ――雨は好きだ。皮肉屋の代わりに、涙のように降り注ぐから。
 だがそれは時として災厄となり、あるいは絶望の兆しとなる。
 今回はどうだ。災いを浴びたのは、囚われた人々か?
 はたまた駆けつけた自分達か。あるいは、あまりにも無力すぎた女なのか。
「……誰もが土砂降りの雨の中、笑う強さがあるわけでもねぇんだ」
 ただ今は、飢えた鬼どもを滅ぼすことに集中したかった。

 雨は止まず、惨劇の気配は幾度となく猟兵達を取り囲む。
 だがそれよりもずっと前から、悲劇はとっくに始まっていたのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天之涯・夕凪
…人々の命を弄ぶオブリビオンはやはり途絶えませんか…
残念です
私は私にできることを。
微力ながらお手伝いいたしましょう

人々の保護は皆様に任せ、私は餓鬼の殲滅に回ります
近づけないよう、ガトリングで一斉掃射
近づいて来た者にはドライバーで各個撃破

人々を荒野へ…そして本人は来ていないということは…
この方たちの住む村を無人にする事や、もしくはこの方々を亡き者にする事自体が目的…ですとか?
ヴァンパイアが女性に執心なら、彼女の孤立を狙った等は有り得ないでしょうか

何れ敵の目的は分かりませんが、十分に気をつけて参りましょう
村の方々は、危なくないよう、事が済むまでは比較的安全な場所にいていただきましょうね


芥辺・有
吸血鬼が強き者と呼ぶ女、ねえ。……まあ、わからないことは考えても仕方ない。
今は為すべきを為すか。

手足のやつをほどくにしても餓鬼がこんだけいれば、ああ、面倒だな。
襲われるのもごめんだ。先に数を減らそう。
杭を鈴蘭の花びらの姿に変えて。餓鬼どもへ攻撃する。
花びらの群れで奴らの視界も塞げれば僥倖。すり抜けてくる奴は蹴り飛ばす。

ある程度近寄る気配がなければ手早く戒めをほどいていく。

その合間、聞こえた悪態に眉を寄せて問う。
あの女のせいって、どういうこと。
どういう奴だったのか。なにかをされたのか。あるいはしたのか。
もしくは吸血鬼の根城についての話を聞き出してみよう。
何ぞひとつでも聞き出せるといいけどね。


三咲・織愛
拘束され逃げられない内に、
身体を貪られる恐怖……。
想像するだけで恐ろしいですね。

何故この人達はこのように拘束されるに至ったのでしょうか。
女性との関係など、気になることばかりです。

ですが、先ずは助けませんと。

囚われた方々の救出に動きます。
拘束を解き、声を掛け、
周囲が落ち着きを取り戻すまではその場から動かないようにと。
戦闘は不得手ですが、見切り、躱すくらいは出来ましょうか。

怪我をしている方がいれば回復しましょう。

「あの女」とは?
強きもの、化け物……。
かつて人間であった、今は違う存在……?
詳しく教えていただきたいです。


須藤・莉亜
「久々のヴァンパイア楽しみだなぁ。」
その前にこの場を何とかしないとね。

眷属の腐食竜さんを召喚。彼に乗って戦う。
腐食竜さんには爪での引っ掻き、尻尾でのなぎ払い、体当たり、噛みつきなんかで攻撃してもらう。
ある程度敵さんの数を減らせたら、空に上がって周囲の様子を確認。
敵さんの多い方へ移動して攻撃していくかな。

空から周囲の様子を確認するのも忘れずに。何かあるかもしれないしね。
「んー、何かないかなぁ。」



●猟兵としての責務
 "あの女"とは、人々と同じ街に住むなんの罪もない無辜の一般人だった。
 カーラという名の女は、しかし生まれつきに――彼らが云うところでは――醜く、
 そして泣きじゃくり嗚咽するときにだけ、綺羅星のような声を漏らすのだという。
「あんな悪態の理由は、そういうことだったのか」
 先の猟兵による救出活動の間、人々から漏れた呪いと恨み節。
 しかと耳にしていた芥辺・有は、明らかになった真相に再び眉根を顰めた。
 何をしたわけでもない。ただカーラと呼ばれた女は、耐え続けただけだ。
 人々の精神状態を極限に追い込んでいたオブリビオンこそ、
 根本的な原因であると言えなくもないが……それでも、悪徳をなしたのは人々である。
「まさか、人間からなにかに変じた存在でもなかっただなんて」
 三咲・織愛は深い落胆と悲哀、そして女への憐憫を込めた嘆息を漏らす。
 吸血鬼のこの仕打ちは、おそらくカーラ自身が望んだことではない。
 それが余計に不憫だった。彼女は結局、未だ牢獄に囚われ鎖で繋がれたままなのだ。
「すでに救出した人々は、安全な場所に避難されているようですが……」
 もとより保護は他の猟兵に任せるつもりであった天之涯・夕凪は、端的に言う。
 結局のところオブリビオンは人々の命をこうして弄び、君臨しているのだ。
 その悪徳、悪虐は一朝一夕で途絶えるわけもあるまい。戦わねば、ならない。
 ではいま、夕凪が――いや、この場に集った猟兵達に"できること"はなんだろうか?
「まあ、とにかく闘うしかないよねぇ。敵はまだいるんだし」
 雨で湿気った煙草を銜えたまま、須藤・莉亜は間延びした声で言った。
 もとより悪い血色は、この瀑布の如き豪雨の中では不気味にすら見える。
 ひょろりと縦に長く伸びた不健康な体躯も相まって、まるで幽鬼のよう。
 紫の瞳に輝きはなく、しかしけして明らかになった真実がそうしたわけではない。

「まっ、いろいろ不憫だけどさ。久々のヴァンパイアは楽しみだなぁ」
 いかにも彼はダンピール、吸血鬼の系譜に連なるモノである。
 吸血衝動や、純粋に戦闘を求める彼の性は、待っているであろう戦いの高揚に飢えていた。
「楽しみ、だなんて……ええ、でも。ここで足踏みしてはいられませんね」
 その物言いに少々眉を顰めつつも、行動すべきだという点には織愛も同意する。
 餓鬼はいまだ健在である。この荒野はもともと"そういう場所"なのだ。
 圧制によって餓死した者や、領主に楯突いた"哀れな弱者"。
 はたまた不興を買った愚か者であったり、そもそも何の罪もない人々――。
 そうしたモノたちが廃棄場めいて放り込まれ、飢えと乾きにのたうち死んでいく。
「そもそも吸血鬼の目的だとか、まあ、わからないことは考えても仕方ないか。
 今は為すべきことを為そう。ここで私達が立ち止まっていたら――」
「それこそヴァンパイアにとっての思う壺、というわけですね」
 夕凪が言葉を次げば、有はこくりと頷いて肯定した。
 そして一同は、雨の中荒野へと馳せ参じる。
 迫り来る餓鬼を、無限めいた亡者と獣の群れを打ち払うために。
 人々は守らねばならない。たとえそれがどれだけの罪を抱えていたとしても。
 未来(いのち)を奪わせることを許容した時、過去は残忍に全てを塗り替えるのだから。

●雨の中で
 ――そして戦場へ飛び出した四人を待っていたのは、想像を越える数の敵だった。
 百や二百では効くまい。一体一体は弱く、脆く、ほとんど知能もない有象無象だが……。
「……こんな数の、人々が」
 織愛は戦慄した。かつてヒトであっただろう屍鬼達の最期を思う。
 全身に震えが走り、彼らの味わった飢えと苦痛は彼女を打ちひしがらせた。
「ぼけっとしてると食べられちゃうよ? 支援、よろしくね」
 まず莉亜が動く。彼が指先を軽く噛み血をひとしずく流すと、
 それをぬかるんだ地面にぴっ、と振り払った。
 降り注ぐ雨にも混じり合うことなき鮮血は、その量を無視した魔法陣を描く。
 するとどうだ。異界との扉から、ぬうっと現れ出でる巨躯ひとつ。
 雄々しき龍なれど、その全身はぶすぶすと焼け焦げたかのように傷ついている。
 ……いや、腐っている。それほどの腐蝕の力を持つ、龍なのだ。
「こっちは空から行くよー、地上は任せたよ」
 巨躯の背に恐れず莉亜が飛び乗ると、腐蝕龍はばさりと雨風を打った。
 やがて巨躯はそのボロボロの翼では不可能と思えるほどに力強く浮き上がり、
 暗澹たる黒雲の下を滑るように飛んでいく。まるで悪魔の使いのように。
「なるほど、あの方も私と同じ……いえ、やめておきましょうか」
 己の出自について思うところのある夕凪は、無駄な思索を打ち払った。
 目の前に敵がいて、後ろに守るべき人々がおり、倒すべき悪はその彼方。
 思考を極力シンプルに落とし込むと、無骨な純白の機関砲ががしゃん! と現れる。
「もはや飢えた鬼となった人々と獣に、このように説いても無駄でしょうが」
 ――祈れ。そして花と散るがいい。
 献身的に祈る女の像が刻み込まれた"白菫"を構え、容赦なき慈悲深き弾丸を放つ。
 火線が横薙ぎ一閃。のたのたと緩慢に歩く屍鬼の群れに、これを払えようはずはない。
 だが倒れ伏した屍を乗り越え、ヒトであったものが、あるいは獣が来たる。
「……こいつらには何も無いんだな。命も、意思も、生きる目的も」
 生物としての(あるいは捻じ曲げられた死者としての)純然たる本能のみ。
 こちらに向けてくる害意さえない、まるで傀儡のようにがらんどうな敵の群れ。
 己の名を呪いと捉える"総てが有る"女は、餓鬼どもに複雑な眼差しを向けた。
「それにしても、ああ――面倒だな。これ以上襲われるのもごめんだ」
 降り注ぐ雨粒を鬱陶しげに拭い、雑念を払うかのように言葉を言い捨てる。
 そして彼女が取り出したのは、黒雲よりもなお昏く黒黒としたひとつの杭である。
「どうせ滅びるなら、何も見ずに消え去ったほうがマシだろう」
 そうひとりごちて、"愛無"と銘を与えたそれに術式を流し込む。
 黒き杭はぱらぱらと非現実的にほどけていき、やがて彼女の手の裡には、
 一本の鮮やかな鈴蘭の花。それもまた散り、無数の花びらが敵を刺し穿つ。
 雨水にも負けることなく、餓鬼を滅びへ誘う徒花は、彼らの視界を覆い隠した。

 銃声が、花弁が、あるいは彼らを癒やし鼓舞する聖なる光が闇に舞う。
 それでもなお飢えた鬼どもは尽きることなく、波濤のように攻め来たった。
「ぞっとしないなあ、こんな何もないところにこんな数の連中をほっぽっとくなんて」
 空から荒野を一望した莉亜の声は、どこか退屈げである。
 なにせ荒野には"何もない"。草木はおろか、生者も、墓標も、何も。
 今回の首魁たる吸血鬼が、いかに虚無的な統治をなしていたかがよくわかる。
「弱いやつにはほんとに興味がないわけだ。なのに、女の子にご執心とはね」
 醜いと蔑まれいたぶられ、なおも耐え続けた女をいかにして強者と呼ばうのか。
 吸血鬼の心の裡など、いかにダンピールとて思い描いたところでわかるはずもない。
 ……わかるつもりも、ない。ただ立ちはだかる障害を、薙ぎ払うのみだ。
「邪魔だから、とりあえず全部食べちゃって」
 端的な指示に龍は従い、強靭な爪で大地もろとも一群をひっかく。
 天からの雷めいて振り下ろされた尾が、地響きとともに敵を打ち据える。
 ぐあっと大口を広げれば、腐蝕の吐息を撒き散らしながら敵を飲み込んだ。
「一体どれほど犠牲にしてきたというのか、オブリビオンは……!」
 がしゃん、とガトリングをリロードしながら、夕凪は嫌悪を吐き捨てる。
 彼もまた自らの指を噛みちぎると、血をひとしずく祈りの聖女像に染み込ませた。
 その赤はまるで涙めいて女の像から溢れ、純白の機関砲を殺戮捕食態へ変貌させる。
「必ず討ち滅ぼしてみせましょう。そのためにもここで犠牲を出すわけには!」
 BRATATATATATAT――雨音を切り裂く鋭い銃声。
 それはこの世界に横たわる、大いなる絶望への叛逆の狼煙のように。
「あまり無理はしすぎないほうがいい、まだ本命は遠い彼方なんだ」
 そんな夕凪を慮りながら、有もまた花弁の嵐を越えて来たものを乱暴に蹴り砕く。
 ……厭世家めいた皮肉屋の彼女にとって、莉亜の物言いは妙な親近感がある。
 だが目的なく、飢えに支配されて来たる鬼どもを見るうち、彼女の虚無的な心にはふつふつと嫌悪がわだかまっていた。
 何に対する嫌悪だろうか。吸血鬼に対するもの? 鬼どもに対するもの?
 あるいは己の罪を拒んだ人々か。はたまた――ただ生きるために生きる己に対してか。
「……あなたも、その、あまり無理はなさらないでくださいね?」
 横合いからかけられた織愛の声に、有ははっと我に返り、頭を振る。
 雨がひどく、互いの顔はよく見えない。それでもこの優しげなエルフに、
 どうやら心配をかけさせてしまうぐらい"ひどい顔"をしていたようだ。
「いいや、大丈夫。ありがとう」
「とんでもないです。私にできるのはこれぐらいですから――」
 織愛は献身的な光を放ち、猟兵達を支える。その姿はいかにも聖者めいていた。
 救うべき人々の罪。無辜でありながら虐げられ続けた女の苦しみと悲しみ。
 この世界に生きるモノ達の辛苦を思えば思うほど、心は重く沈んでいく。

 まるで止まぬ、この雨そのもののように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヌル・リリファ
匡さん(f01612)と

マスターがそうしろといったらする。わたしはマスターの人形だからね。基本は、マスターの命令がこなせるならほかはきにしないよ。(それが人形として正しい姿だと思う。)

でも、すきではないから。こうやって余裕のあるときならてだすけしてもいいとはおもってる。
……被害者がマスターだったら絶対ゆるさないしそれ以上のめにあわせるけど。

匡さんの射撃をうんよくすりぬけた相手を、《フルバースト・マキシマム》で殺す。まあ、こんな相手ならそんなに苦労することもないよ。
マスターに造られたわたしがすごいっておもってもらえるよう頑張る。

簡単な言葉は平仮名、難しめの言葉は漢字でお願いします
アドリブ歓迎です


鳴宮・匡
◆アドリブ歓迎
◆ヌル(f05378)と

……ヌル、こういうのどう思う?
あ、うんまあ知ってた
俺にはそういう、一人の為になんでもするってのはよくわからないけど

……俺? 別にどうでもいいかな
(――気に食わない、って思うのは気のせいだ、)
どうあれ敵を全部殺せば問題ないしさ

【千篇万禍】でアサルトライフルの有効射程内に入った敵から狙撃
【2回攻撃】【範囲攻撃】で出来る限り多くの敵を殲滅
多少は漏らしても気にせず、出会い頭を叩くことに専念
ヌルがうまくやるだろうし
何より、取り分を全部奪っちゃ声掛けた意味がない
戦いぶりを見せてもらう、って約束だしな

ああ、ヌルが負傷しそうなら【援護射撃】するよ
まあないだろうけどさ




 真実が明らかになったとて、全ての猟兵が義憤や嫌悪を抱いているわけではない。
 なにせ猟兵は多種多様、老若男女はおろか世界も種族も様々な者達である。
 むしろ吸血鬼の側に在り様が近いものすら、いる。
 ……もっとも二人の場合、そのどちらでもないのだが。

●何を抱えて何を為すか
「……ヌル」
 冷静にリロードを行いながら、鳴宮・匡は隣に立つ少女に問いかけた。
 彼の表情はこの瀑布めいた豪雨の中でも変わらない。
 人々の真実が明らかになったとしても、平然としたまま、いつもどおりだ。
「"こういう"の、どう思う?」
 そんな人となりをしっているからこそ、彼の質問は少女の虚を突いたか。
 "かもしれない"。だが、少女自身は、己の感情にすら名をつけることが難しい。
「……」
 ゆえに問われた側――ヌル・リリファは首を傾げて一瞬思案したあと、
「マスターがそうしろといったら、する。わたしはマスターの人形だからね」
 あどけなく、しかしどこか人間離れした平易な声音で答え、続けた。
「基本は、マスターの命令がこなせるなら、ほかはきにしないよ」
「あ、うん。まあ、知ってた」
 匡にとってもこれは想定の範囲内だった。ヌルはミレナリィドールであり……、
 彼女自身が、人形として与えられた責務と役目を遵守し、絶対視している。
「でも」
 少女は続けた。
「すきではないから。こうやって、余裕のあるときならてだすけしてもいいとはおもってる」
「……ふうん」
「被害者がマスターだったら、絶対ゆるさないし、それ以上の"め"にあわせるけど」
 そういうものか、と匡は思う。
 彼にとって義憤はもちろん、奉仕めいた行為や精神は無縁のものだ。
「俺にはそういう、一人のためになんでもする……ってのは、よくわからないけど」
 BLAM。乾いた銃声が雨音をつんざき、餓鬼を抹殺する。
「匡さんはどうなの?」
「俺?」
 虚を突かれたのはどうやらこちらか。匡は思案しかけ、
「別に、どうでもいいかな」
 思索自体を振り払った。そんなことは考えるまでもないからだ。
 ……考えるまでもない、はずだ。だから彼は水面だけを見つめる。
 その奥底、己の心という海のはるか彼方に沈むものには気付かない。
(考える必要がない。ただの気のせいだ)
 心の中でひとりごちる。結論付ける。そうである、と己を定義する。
 ――気に食わない、などと。"ありきたり"なことを思うなんて、自分にはありえない。
 それは許されないと教えられてきた。そう在るように自分を定義してきたから。
「どうあれ敵を全部殺せば、この手の問題は片がつくんだ」
 水面に映る己の心の情動を、雨の霧が見せた幻だと断じて忘れる。
「だから、俺はどうでもいい」
「そう」
 ガラスめいた少女の碧眼は何を見ただろう。蒼を映さぬ彼の眼をどう映したか。
 会話はそこで途切れ、思索も終わった。彼らはそれ以上の必要性を感じないから。
 餓鬼が来た。匡はまるでどう来るのかが全て理解できていたかのように、
 当たり前のように狙いを定めてトリガを引く。余計なノイズを指には乗せない。
 BRATATATATAT。秒間10発以上の死の雨が降り注ぎ、一体また一体と敵を倒す。
 機械的に見えて、しかし彼の"やり方"をよく知る者なら違和感を持つだろう。
 彼はわざと狙いを中途半端に外している。ゆえに敵がぞろぞろと続いてくる。
「――うんがいいね」
 ヌルは、敵の無傷をそう捉えた。がしゃん、と無機質な固定放題が展開する。
 そして砲声を放つ。BOOM――雨粒が衝撃波で散り、遅れてバラ肉が散った。
 BOOM、BOOM。憐憫も容赦も慈悲もなき、ただただ効率的な一斉発射(フルバースト)。
 匡はそんな彼女の戦いぶりを観察しながら、時折思い出したようにトリガを引く。
「数は多いけどそれだけだな」
「うん。こんな相手なら、そんなに苦労することもないよ」
 自分にはそれだけの機能が備わっているのだ、と心なしか自慢げに。
「そうだな。ヌルはよくやってるんじゃないか?」
「うん」
 BRATATATATAT。BOOM。BRATATATATAT。BOOM。
 屠殺、というべきだろう。ふたりの弾丸に感情はない、銃は物を考えはしない。
 青年は持ち得た己の能力をただ効率的に、合理的に活用し、
 少女は与えられた己の機能を、やはり効率的に発揮した。

「なあヌル」
「何? 匡さん」
 見える限りの敵を散らしたあと、匡は出し抜けにこう言った。
「お前、強いとか弱いとかってどう思う?」
 何の気なしの問いかけである。此度の敵はそこに執着すると云うのだから。
 ヌルは答えた。
「よくわからない。でも、わたしは、弱くなんてありたくない」
 マスターが作り給うた、命令に従うための兵器。そのための人形。
 もしも"弱い"と云うならば、それは与えられた役割をこなせていないということだから。
「わたしはマスターの人形だから。強くなきゃいけない」
「……そっか。悪いな、漠然としたこと聞いて」
 答えのない問いである。そもそも強弱とは何を指すのだろう。
 性能か? 戦闘能力か? エゴの強さか? あるいは――。
(……どうでもいいさ)
 生きているならばそれで十分だ。そのために己は闘うのだから。

 雨はただ、降り続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アヴァロマリア・イーシュヴァリエ
アドリブ歓迎

なんでこんなことをするのかはわからないけど、助けなきゃ。
襲ってくる敵は、念動力で追い払える。
それを抜けてこられても、オーラ防御で盾になるわ。
一通り追い払って安全を確保できたら、拘束を解いてあげないと。

怪我した人はいないかしら? 居たらマリアが治してあげるわ。
居ないなら、教えてくれる? 領主のヴァンパイアは何のためにこんなことをしたの?
怖がらなくても大丈夫よ。マリアは聖者だから、ヴァンパイアをやっつけて、必ず助けてあげるわ。
だから、知っていることを教えてほしいの。


祇条・結月
強者、弱者をこどう区別してるのかわからないけど。
放ってはおけないよね。
それに、何を考えてるのかわからないけどやり口も好きじゃない。
好きにはさせない、絶対に

基本的には苦無の【スナイパー】【投擲】で敵を近づけないように仕留めてく。
銀の糸で【罠使い】も駆使。捕まってる皆に近寄らせないことで安心してもらいたいから
もし人々に話しかける余裕があれば【優しさ】で「信じてほしい」ことを真摯に説得
応じてもらえれば【手をつなぐ】で触れて≪家へ帰ろう≫で保護するよ
……せめて気持ちだけでも楽にしてほしいし、僕が戦う姿も見せたくない

戦闘後は落ち着いてもらって情報収集を
特に……謎の女性はなぜ強き者なのかは知っておきたい


ヴィクティム・ウィンターミュート
相変わらず、ダークセイヴァーは陰鬱としてやがる。女の存在も、この騒動の目的もイマイチ掴めねえが…最終的に、勝ちぁいい。シンプルな話さ。

ユーベルコードで召喚するプログラムは、デコイボムを投影するホログラム。こいつでパンピーどもの身なりを精巧にトレースして、【罠】のように荒野に配置。理性に乏しい連中だ、上手いこと引っかかってくれんだろ。
近づいてきたら【騙し討ち】よろしく、ドカン。俺は労せずに敵を処理できるって寸法だ。実にチルだろ?

んで、暇な間に情報でも聞いてやろう。
敵の場所はどこか?
戦力はどれくらいいる?
あの女とは何だ?何故そんなにも…恐れてる?

素直に話してくれるだろうが…
渋ったら実力行使するかね



●強さの意味、弱さの定義
 囚われた人々が何をしていて、女とは何者だったのか。
 猟兵達の働きでそれはおおよそ真実が明らかになったが、
 それでもひとつ大きな謎が一同の前に横たわっている。
「ねえ、あなた達の領主――ヴァンパイアは、なんのためにこんなことをしたの?」
 だからアヴァロマリア・イーシュヴァリエは、その質問を端的に口にした。
 ある猟兵が構築した巨大な石堂の中、うなだれた人々は無言である。
「……怖がらなくても大丈夫よ。だってマリアは、聖者だから」
 雨の降らぬ石堂の中で、アヴァロマリアの相貌は大きな帽子のつばに隠されわからない。
 ただそこから伸びた長い長い銀髪は、この世ならぬ宝石の輝きに満ちていた。
 暗澹たる空の下、鬱屈とした闇の中にあって、それはグラデーションめいて色を変える。
「ヴァンパイアをやっつけて、必ず助けてあげるわ。だから――」
「それでも離してくれねえってんなら、あれだな」
 そこで、瞳を鋭く細めた灰髪の青年が割り込んだ。
 口元に残忍な笑みを浮かべたまま、ぎろりと人々を睨めつける。
 ヴィクティム・ウィンターミュートはらしからぬ剣呑さに満ちていた。
「ちょっとばかし"実力行使"をするしかねえよな。だろ? チューマ」
 片眉を吊り上げ、挑発的な視線で再度睥睨。人々はその瞳の色に震えた。
「こっちはわざわざあんたらのことを助けてやったんだ。だのに、なあ?
 そもそもの発端はお前らのイジメが原因で、誰も悪びれねえときた」
 然り。"あの女"とはすなわち、彼らが"化け物"と蔑んだ無辜の女のことである。
 カーラ。いくら虐げられ綺羅星の嘆きを強要されようと、なんら抵抗しなかった女。
「いっそ元通り、外に放り出してやったっていいんだぜ。こっちはそれでも」
「……そこまでにしなよ、ヴィクティム」
 見かねて、彼の知己である祇条・結月が止めに入る。
「たしかに原因の一旦はこの人達にあるかもしれない。でもそれだって、
 元はと言えばヴァンパイアが圧制を敷いてたからだろ。責めることじゃないよ」
 結月の、静かだがはっきりとした宥めの言葉に、ヴィクティムはちらと眼を向ける。
 赤目の少年は少々当惑した。いかにも人々に苛立ち怒っていたように見えたカウボーイは、
 彼のみに見える角度でニヤリと悪童めいた笑みを浮かべたからである。
「ああ、そうかよ。そいつはウィズ(素敵)な慈悲心だ。じゃあ俺は手を引くぜ」
 彼はアヴァロマリアにもちらりと意味ありげな視線を向け、踵を返して外に出る。
 ……つばで相貌を隠したままのクリスタリアンは、何も言わずに佇んだまま。

「その、ごめん。いつもはあんなに乱暴じゃないんだけど」
 代わりに結月が非礼を詫び、真摯な瞳で人々を見つめてこう問いかける。
「でも、情報が少しでもほしいのは確かなんだ。なにか知っていたら――」
「……わかんねえよ」
 ひとりの若者が口を開いた。
「わかんねえよ! ただいきなりだったんだ! あの吸血……領主、様……が、
 いきなり街に来て、その時カーラに石を投げてた奴らの首を刎ねたんだ」
「…………」
 結月が顔をしかめるなか、若者は堰を切ったように語る。
「そして何があったのかを聞き出し始めて、最初に聞かれた五人が死んだ。
 中には俺の恋人だっていたんだ。それでよ、今度は俺らを広場に並べて……」
「……その場で処刑されたりは、しなかったのね」
 アヴァロマリアの言葉に、若者はふっと厭世的な笑みを浮かべる。
「死んだよ、7、8人かな。そのあとはご覧のとおりだ。
 "お前達は愚かで脆弱なゴミだ。だから相応しい報いを与える"とかなんとかよ」
「……その、カーラっていう女の人は?」
 結月が問いかければ、若者は嫌悪に顔をしかめて首を横に振った。
「何も言いやしねえ。ただ吸血鬼に連れてかれて、広場での処刑も見てたはずだ。
 ……何もだよ。俺達を罵倒することもなけりゃ、逆に領主様を止めもしなかった」
「カーラが求めたわけではないんだね」
「だから不気味なんだ」
 別の男が言った。
「あいつが俺達を恨むってんならわかるよ、それだけのことをしたんだからな。
 けどそれすらないんだぜ。あいつはただ黙って、俺のオヤジが殺されるのを見てたんだ!」
「化け物だからだ」
「見た目だけじゃねえ、中身もおかしかったんだ」
「そうだ、そうに違いない」
 人々は口々に言い立てる。結月は顔を顰め……、
「やめて」
 アヴァロマリアが、ぴしゃりとした声音で彼らを黙らせた。
「……もう十分だから。これ以上、その女の人のことを責めるのはやめて」
 あどけない声音は断定的に言うと、踵を返して石堂を去る。
 結月はその背中を見て、再び人々を見やり、
「そ、その。……吸血鬼をやっつけたいっていうのは、本当だから!」
 必要であればより安全な場所も、ユーベルコードによって提供できる。
 半ば早口で言って、アヴァロマリアを追って外へと飛び出した。

「よう」
 そんなふたりを出迎えたのは、意外にも落ち着いた様子のヴィクティムだ。
「ヴィクティム、どうしてあんな」
「わざと、よね?」
 アヴァロマリアが問いかけ、カウボーイは悪びれもせずにうなずく。
「"いい警官と悪い警官"ってやつさ。おかげでそこそこ情報は出ただろ?」
「……そうだけど……」
「なあ結月」
 物言いたげな少年に対し、ヴィクティムはこう語りかける。
「何があったんだろうがどういう経緯だろうが、根本的にゃシンプルな話さ。
 戦って、勝ちゃあいい。悪党が死にゃあ、物語ってのはハッピーエンドなんだよ」
 なるほど事実ではある。それはどこか慰めのようでもあり、
 この暗澹として陰鬱たる世界へのかそけき抵抗にも思えた。
「……マリアは、あの人達のことを救ってあげたいの。それは本当」
 黙っていたクリスタリアンの少女が、わずかにつばの下の顔を垣間見せながら云う。
「もちろん、捕まっているカーラという人も。そのためには戦わなければいけないわ。
 どれだけ傷を癒やしても、疲れて折れた心は……そう簡単に、治らないから」
 あどけない声に満ちるのは、人々とカーラそれぞれに対する憐憫と哀しみ。
 そしてこの状況で全てを大団円に解決することの出来ない、己への不甲斐なさか。
「……僕だって、このやり口は好きじゃない。好きにはさせない、絶対に」
 結月はひとりごちた。
「でも、こうも思うんだ。どうして吸血鬼は、その人を強い人と呼んだのかって」
「……そればっかりは当人に聞くしかねえわなあ」
「うん。……その時、僕らに何が出来るんだろう」
 自問めいた呟き。
「少なくとも、いま戦ってあの人達を守ることは出来ると思うの」
 マリアは言い、こちらへ来たる餓鬼の群れを指さした。
 ヴィクティムは肩をすくめると、かちりとなにかのスイッチを押す。
 BOOM――遠くの地形もろとも、爆炎が餓鬼の群れを吹き飛ばした。
「どんな状況であれ、即座に対応する能力こそが工作員に必要なスキルだ。
 素早く、効果的な手を考えて実行する。どうだ、なかなかチルだろ?」
 Arseneを名乗るランナーはおどけてみせる。それはいかにも端役めいていた。
「そら、行けよ。まだまだ出し物はあるんだ、主役が彩ってくれないとな」
「……わかった」
 結月は終わらない思索を打ち止め、銀の糸と苦無を手に雨の中へしめやかに飛び出す。
 その後を追おうとし、アヴァロマリアはふと足を止めて振り向いた。
「ねえ、"悪い警官"さん?」
「なんだいレディ」
「さっきの台詞、どこまでが本音だったの?」
 ……ヴィクティムは一瞬だけ目を見開き、しかしいつも通りの笑みで、
「さあね。当ててみろよ、ビンゴボーナスがあるかもだぜ」
 とだけ、冗談めかして答えた。
 アヴァロマリアはそれ以上何も言わない。雨の中へと消えていく。
「……端役の気持ちになんざ、疑問を持つもんじゃねえよ」
 男の呟きは、誰にも届くことなく大気に溶けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

パーム・アンテルシオ
この世は弱肉強食。それが真理…だれど…
狩った獲物は、きちんと無駄なく頂かないと。だよね?
そういうわけだから…この事件の黒幕は。私とは、気が合わないかな。

●WIZ
周りの敵は、多分、皆がやっつけてくれるから…
私は、あの人達の保護に向かおうかな。

もちろん、ただこの場で助けるだけじゃないよ。
後の事。ここは、もっと大きな戦闘が起きるかもしれないんだし…
逃がせる先。安全な場所。それを探して、連れて行くよ。
もしかしたら、話も聞けるかもしれないし。
きちんとお願いして聞けば…何があったかぐらい、教えてくれるよね?

あとは、念の為。ユーベルコード…立金火。
怪我してて動けないとか。そんな人がいたら、使ってもいいかな。



●狐火に揺らめくものは
 とある猟兵によって築かれた巨大な石堂が、今の人々の避難場所だ。
 外からは瀑布めいた豪雨が石を叩く気の滅入るような雨音と、
 遠雷めいて幽かに響く餓鬼共の呻き声が、彼らの心身を疲弊させていた。
「…………」
 出入り口から見える暗澹とした空と雨模様を見ながら、
 パーム・アンテルシオは浮かない面持ちでひとりごちる。
(人の世でもそれ以外でも、この世は弱肉強食。
 弱い者が喰らわれ、強いものが生き残る。それが真理……)
 ヒトの在り方に彼女なりの距離を置くパームからすれば、
 強者が弱者を狩り、犠牲とすることはなんらおかしいことではない。
 もちろん彼女は、自分の知っている誰かが"弱者"になったとき、
 きっとその手を差し伸べるだろうし、その力で守るのだろうが。
 それもまた、彼女が強者であればこそ可能な選択肢というものだ。
(――だけれど)
 この有様は、弱肉強食の原理からは大きく外れている。
 そもそもオブリビオンは自然世界の律で指し測れるような存在ではなく、
 根源的に世界そのものにとっての異物、あってはならない癌細胞だ。
 だがそれを差し引いても、此度の吸血鬼の"やり方"はいただけない。
「狩った得物は、きちんと無駄なく頂かないと……なのに、ね?」
 ひとりごちる。妖狐という、ヒトの精髄を食らうモノゆえの論理か。
 なんにせよ、彼女にとって敵の理屈は、それ自体が気に入らなかった。

「ねえ、大丈夫?」
 そしてふと、彼女は弱りきった人々に歩み寄り、手を差し伸べる。
 彼女が引き出そうとしていた情報は、おおよそこれまでの猟兵たちによって、
 事の真相も含めて十分に引き出せていると言えるだろう。
 悪徳の真実。そこに対して彼女が思うところないわけではないが、
 だからといって、ここで憔悴し弱り果てた人々を痛罵するつもりもない。
「あのね、もしかしたらこの先、もっと大きな戦闘が起きるかもしれない。
 場合によっては、あなた達をまた巻き込むことになるかもしれない……」
「そんな」
「もうたくさんだ」
「帰してくれ」
 彼らの弱音をそれぞれ耳にしてから、パームはこくりとうなずく。
「でも、必ずあなた達を、安全な場所まで連れて行くから。
 ……それがどこなのかは、これから捜すことになるだろうけれど」
 そして彼女の尾から、あるいは指先から、ほのかな桃色の炎が溢れた。
「この世界は昏くて、おひさまは見えないけれど――」
 まるで子守唄のように唄う。
「陽の下、火の下、一つの幸をあなた達に届けてあげる……ね」
 暖かい桃色の狐火は、彼らの弱った体を、そして心を癒やす。
 はじめこそ猟兵すら呪っていた人々は、やがて後悔と慚愧の涙をこぼした。
「お、俺、俺達……とんでもねえことを……」
「大丈夫」
 少女の暖かく柔らかい声が、彼らを包み込む。
「全てが終わってから、ゆっくり考えればいいんだから」
 それは、己の咎を背負い歩むと決めた少女なりの、真摯な言葉だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神威・くるる
雨はキライ
湿気で毛並みは広がるし身体はダルぅなるし、じとじとした空気は憂鬱なるし
さっさと館で雨宿りしたいわぁ

【情報の聞き取り】
「あの女」

一体誰の、何の、ことやろなぁ?
ちょっとお話聞いてみよか

【誘惑】して【催眠術】で操って
やさしゅうやさしゅう、諭すように、甘やかす様に
あの女てだぁれ?
化け物なん?
どないな風に化け物なん?
……それとも、根拠もなく化け物て呼んでるん?

ああ、かわいそかわいそ、よほど怖い目おおたんやねぇ
うちは味方やさかい、もう怯えんでええんやで?
望むなら抱きしめて甘やかして、【吸血】による快楽も与えてあげる
せやから知ってること全部教えて

そう、甘やかしたげる
例えどんな胸糞悪い答えを聞いても



●甘やかな言葉、甘やかな毒
 ……少女は、いつもどおりに、艶然とした笑みを浮かべていた。
 神威・くるるという少女はいつもそうだ。
 ふざけているのか本気なのか、誰にも読めない笑みで人々をからかう。
 まるで黒猫のように神出鬼没で気まぐれな――しかし陽気な小悪魔。
「"醜い化け物"、ねぇ」
 そんな彼女は、猟兵達とともに聞き出した事実を、
 やはりゆったりとした笑みを浮かべたまま反芻した。
 無辜の女、カーラ。
 生まれつき醜かったがゆえに、ストレスの捌け口として排斥された女。
 されどその苦痛と悲嘆を怒りに変えることなく、ただただ耐え続けた女。
「――……根拠もなしに、化け物や言うてるんやないかと思うてたけど」
 くすり。くるるはなぜ笑う。醜悪な真実を聴いてなぜに笑う。
 ころころと鈴が鳴るような声で、まるで猫が爪で得物をもてあそぶかのように、
 この明かされた真実を味わう。それは残酷で不気味ですらある。
「ああ、かわいそ、かわいそ。そないなことせなすっとせんかったこん人らも、
 その"カーラ"いう女の人も、ほんまにかわいそどすえ。ふふ――」
 憐憫の言葉の端々に、まるで愉しむかのような艶やかな笑声が転がった。
 憔悴し泣き叫ぼうとした人々を、優しく抱きしめてやりもした。
 命に別状がない程度で吸血の快楽を与え、ほだしてやりもした。
 誰もが感謝を述べた。まるでとろけるような笑顔で彼女に心酔した。
「ほんまに、辛くて怖くて苦しかったんやろねぇ……ああ、かわいそ」
 ……毒とは、生物にとって害であり、最悪命を奪う劇物である。
 ゆえに自然界の動物や昆虫、はたまた菌類といった毒ある生物は、
 自らが毒を持つことを大いに主張する。
 色。カタチ。あるいは匂い――我こそは有毒なり、と。
 それにわざわざ手を出すのは、物知らずの愚か者というわけだ。
「せやけど、もう怯えんでええんやで?」
 くるるはうなだれる人々に、甘やかな声で囁く。
「うちは味方やさかい。ちゃあんとわかっとりますえ」
 甘い甘い声で耳朶から脳髄に染み込み、心を、意識を支配する。
 ……神威・くるるは常より笑う。どんなときでも笑みを浮かべる。
 醜悪な答えを聞いたとしても。
 人々の愚かさに嫌悪を抱いたとしても。
(ああ、それにしても――)
 石堂の外、相も変わらず降り注ぐ雨と、黒雲を見やり、彼女は思った。
 じめじめとした湿気、息の詰まるような陰鬱さと憂鬱さ。
 それに毒された人々。生気のない町並み。枯れた荒野……。
 まるで皮を剥がされ無理やり引きずり出されたはらわたのような、
 実に気味が悪く胸のむかつく人々の悪徳。
(ほんま……雨は、キライやなあ)
 こんなことなら、さっさと件の館にでも行きたいところだ。
 きっと豪華な建物なのだろう。雨宿りだって出来るはず。
 ……毒はヒトにとっての害である。多くのものは有毒を誇示する。
 だが中には、知らず知らずのうちに毒を染み込ませるものもいる。

 吸血鬼の館。
 そこに彼女の不興を買う者がいるならば、それの末路は言うまでもない――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フェルト・フィルファーデン
相当精神的に追い詰められているみたいね、この人達……とにかく、状況を把握して、最善の手を見つけましょう。

わたしは主に聞き取りを行うわ。もし敵が襲って来た時は騎士達に任せるわね?
まずは落ち着いて貰わないとね……状況が状況だけに、仕方ない部分はあるけれど、このままじゃ何も聞けないわ。
「安心して?わたし達はあなた達を助けに来た者よ!あなた達に危害を加えたりはしないから!」

落ち着いたら拘束を解いて、まずどういった過程でこの状況になったのか聞いてみようかしら。ただの領主の気紛れにしては不自然なところが多過ぎるもの。

後はあなた達の言う女性について。
その人とはどういう関係なの?共に暮らす仲間ではないの?



●その微笑みは誰がためか
「そう……そういうことだったのね」
 人々が言う"化け物"と、予知に現れた"あの女"についてを聞き出したのち、
 フェルト・フィルファーデンは一瞬だけ表情を翳らせてぽつりと呟いた。
 途端に、ダークセイヴァーという陰鬱な世界の暗澹さが、フェルトを絡め取るように思えた。
 だから彼女はいつものように己を強いて、明るく瀟洒に微笑む。
「でもこれでまず、謎が一つ解けたということね? それは大きな進歩だわ!」
 こぼれる言葉はその表情と同じぐらいに明るく、そして淑やかだ。
 フェルトはどんなときでも、優しい微笑みを忘れない。
 どれほど苦しいときでも、哀しいときでも――いや。
(国を喪ったわたしは、いつだってどん底だわ……)
 ふと心の中で呟き、それではいけないと頭を振った。
 そんな虚無を払うために笑い、絶望に否と答えを突きつけるためにここにいるのだ。
 フェルトの視線が周囲をさまよう。眼に入るのは憔悴した人々ばかり。
 彼らは自分達がしでかしてきたことの意味を真に理解し、
 そして理解不可能な領主の蛮行に対する恐怖で震え続けていた。
 さらに悪いことに……雨の向こうから、再び新手の餓鬼共の飢えた声が近づいてきたのだ。
「ま、またか! どれだけいるんだ!?」
「もうおしまいだ! 俺達はみんな死んじまうんだ!」
「いくらでも謝罪する! だから、だから許してくれぇ!」
 ある猟兵の築き上げた石堂の中、集団ヒステリーが蔓延り始めた。
「落ち着いて! 大丈夫よ、安心して? わたし達はあなた達を助けに来たのだから。
 あなた達に危害を加えさせることは、絶対にしないから。どうか慌てないで!」
 懸命なフェルトの呼びかけによって我を取り戻すものもいるが、
 人々の一部は精神的に追い詰められ、限界が近いと見える。
「……わたしが」
 フェルトは、きゅっとドレスワンピースの胸元を握りしめた。
 自分がやらなければならない。そしていずれ国を取り戻すと誓ったではないか。
 何を恐れている。自分にはそのための力があるのだ。
 絶望を否定し、いつか希望を手に入れてみせると高らかに謳ったろうに。
(わたしは、本当にそれを掴み取れるくらいの強さを持てているのかしら……?)
 弱き者と強き者。これほどまでに残酷な仕打ちを可能とする絶対差。
 まるで野火が広がるかのように、人々の不安は彼女にすら触手を伸ばす。
「――いいえ」
 だから彼女は己に言い聞かせる。そして莞爾と微笑み顔を上げた。
「わたしはわたし。フェルト・フィルファーデンは、いつだって微笑むの」
 アーマーリングで繋がった騎士達を喚ばい、雨を見据える。
「皆様、どうか落ち着いて? いまからわたしが――いいえ」
 がしゃり。雄々しき騎士の人形達が剣と盾を構えた。
「わたしの頼もしい騎士達が、怖い怖い餓鬼をやっつけてしまうから!」
 そして妖精の王女は、己の意思で雨の中に繰り出す。
(――わたしは、絶対に絶望に屈したりしない)
 健気なまでの決意と、痛々しい覚悟を胸に秘めて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユルグ・オルド
はん。趣味の悪ィの
どうしてこう、海から還ったのはこんなんばっかかね
……元からだったンだかは知らねェけども

吊るされてんじゃ堪んねェよね
せめて縄を切っていこう
治療とか退避は一先ず後だ
抱えたんならそっと地に下ろして
そんだけ恨み言が吐けんならまだ大丈夫だろ

――腹ペコさんにはお仕置きってか
数には数と錬成カミヤドリで呼ばうはシャシュカ
数をもって数で薙ぎ払おう
悪趣味な行為を全部つぶしちまえとばかり
駆けよう、屠って、餌に釣られた愚かさに、
なァんて考える頭もねェよね
そら打ち払うには都合は良いけども
どっちからやってくるやら方向くらいは分かっかね



●瀑布のような雨の下で
 ざあざあと雨は降る。黒雲は一向に晴れる気配がない。
 だが無限めいた餓鬼の群れも、猟兵達の健闘によりいよいよ終わりの兆しを見せつつあった。
「はん……趣味の悪ィの」
 先の見えぬ防衛戦に従事していた猟兵の一人、赤い瞳の青年が吐き捨てる。
 彼の名はユルグ・オルド――人ではない、器物の霊ヤドリガミである。
「どうしてこう、"海"から還ったのはこんなんばっかかね」
 骸の海……世界を取り巻く過去そのもの。そこには過ぎ去ったすべてがある。
 だからといってこんな醜く哀れなモノばかりの姿を取ることはあるまい。
 もっとも、荒野には少なからず"もとからそうだった"モノもいるのだが。
「あれだけ恨み言吐けんなら、連中もまだ大丈夫だろ」
 ゆえにユルグは、囚われていた人々に格段の注意を置いていない。
 ただ、迫り来る哀れなモノどもを見据え、どこか虚無的な笑みを浮かべた。
「腹ペコさんにはお仕置き、ってか」
 腰に佩いた、鍔なしの片刃彎刀――シャシュカを鞘走らせた。
 すると彼の背後、空間が歪み同じフォルムのサーベルが数十も出現する。
「アイツらはクソッタレで、アンタらはただ飢えてるだけかもしれねェ」
 雨が刀身を弾く。……この世界はまったくどうしようもないほど、くそったれだ。
 支配するオブリビオンどもも、圧制を敷かれる人々も、なにもかも。
 だが。だがだ。彼は知っている。
 こんな昏く息の詰まるような世界で、それでも希望を手に入れたものを。
 己の戦いを乗り越えて、結末に辿り着いた少女達を知っている。
「だからよ――折れるってんなら、試してみるかい」
 ユルグは鮫めいた鋭い笑みを浮かべ、そして刃もろとも飛び込んだ。
 振るわれる数、当人のそれ――言わずもがなこれは彼の本体である――を含め、
 二十と六振り。迫る敵は五十か百か。迎え撃つには重畳である。
「頭の中身も腐って萎んでりゃ、テメエの愚かさに気づくこともねェってか」
 打ち払う。
 穿つ。 
 切り裂く。
 薙ぎ払う。
 雨を受けながら、泥濘のなかでのたうつように餓鬼を屠る。
 ぬかるみを駆け抜け、鋼を以て哀れな鬼どもに終わりをくれてやる。
「アンタらの悪趣味なんざ、誰にもまるっきり必要ねェんだよ」
 人々の営みを脅かすな。
 世界の未来を奪うな。
 誰かを苦しませ、悲しませるな――。
 言葉にすることはない。ただ行動をもって、闇を払うかのように刃を振るう。
 それは、この世界を包む暗澹に対しては、あまりにもちっぽけでか細く。
「そらよ。俺はここだぜ――最期まで遊ぼうや」
 けれどもけして退くことも臆することも、媚びることもなき自信に満ちていた。
 たとえそれがなにかの代替物だとしても、ユルグの裡には熱がある。
 こんな雨や暴威では、拭えぬほどに滾るたしかな熱が。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『オルトロス』

POW   :    くらいつく
自身の身体部位ひとつを【もうひとつ】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD   :    ほえる
【悲痛な咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    なかまをよぶ
自身が戦闘で瀕死になると【影の中から万全な状態の同一個体】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●悪鬼襲撃
 かくして、荒野を舞台にした惨劇は未然に防がれた。
 人々が犯した悪徳はさておき、誰一人犠牲になることなく餓鬼は退いたのだ。

 そして。
 疲弊した人々を、ユーベルコードによって保護/あるいは安全地帯へ護送したあと。
 猟兵達は、得られた情報をもとに、領主の館への襲撃を策定した。
 雨は止まない。一同は徒党を成し、黒々とそびえる飾り気のない館へ向かう。

 ――その頃、他ならぬ領主の館にて。
「ほう」
 "残影卿"アシェリーラは、飾り気のない椅子に腰掛けたまま呟いた。
 窓の外では豪雨が降り注ぎ、ときおり雷鳴が闇めいた室内を照らし出す。
 彼の前には長い影法師――いや、影めいた猟犬が一匹。
「そうか。猟兵が、あれらを救ったか」
『は』
 ヒトならざる番犬は、声ならぬ声で報告を終えた。
 アシェリーラは、いずれ来るであろう死闘の気配にくつくつと喉を鳴らす。
「あれらも多少は役に立ったか。朽ちて死ななかったのは業腹だが」
 猟兵。オブリビオンにとっての絶対の天敵、未来の守護者。
 もともとは彼が私怨じみてくだした裁きだが、
 どうやら愚か者どもは生き餌めいて予想外の強者を釣り上げたらしい。
「いいだろう。お前達で迎え撃て。そこで終わるならそれまでの話。
 貴様らの屍を乗り越えて来たるなら、それもまた一興」
『御意に』
 影の番犬――オルトロスが、捨て石めいた命令に異を唱えることはない。
 影によって構成されるこれらは、ただ忠実なあるじの猟犬なのだ。
 守れと言われれば守り、攻めろを言われれば攻める。
 そこに自由意志は介在しない。ただ影のように従い履行するのみ。
「君の様子を見てこよう――よしなにな」
『は』
 影に染み込むように猟犬が姿を消す。
 窓の外、降り注ぐ豪雨を見やり、アシェリーラは喉を鳴らした。
「猟兵よ、我らの天敵よ。お前達は何を為すためにここを目指す?
 我らの絶対敵ならば、どうか猪武者めいた真似はしてくれるなよ」
 雷鳴が轟く。館に響くは綺羅星の如き嗚咽の唄……。

 ……そして。
 館を遠景に目の当たりにした猟兵達の前に、無数の『影』が生まれた。
『あるじはお前達を止めるよう仰せになった』
 一体、二体、三体、五体、十――現れる獣の数はもはや無数に。
『お前達があるじの前に侍るにふさわしいか、我らが計ろう』
 狗どもは口々に言う。それらは一が全で全が一なのだ。
『我らの天敵よ。貴様らに何が出来るか示すがいい』
 ――雨の中。暗澹たる枯野で、猟犬との狩りが始まる。
●これまでの情報まとめ
 1.人々は『とある街に暮らしていた住人』だった。
 2.街には『カーラ』という名前の女が住んでいた。
 3.カーラは生まれつき姿が醜く、それを理由に『化け物』と呼ばれていた。
 4.領主(残影卿)の圧制により心理的に張り詰めていた街の人々は、捌け口としてカーラを排斥し、苛むようになる。
 5.カーラはそれに異を唱えることなく、ただ耐え続けた。
 6.カーラには『嗚咽や嘆きがとても美しい声に聞こえる』という特徴があった。
 7.人々はやがて、カーラの美声にのめりこむようにもなった。
 (ただしこれはユーベルコードではなく、"美しい"以外に効力はない。
 8.残影卿はある日突然街に現れ、カーラを気に入り連れ帰った。
 9.人々への仕打ちはカーラが望んだものではなく、残影卿の独断によるもの。
●2章の状況
『領主館襲撃』を提案するプレイングがいくつか採用されたので、
 2章は『領主の館を前に、オルトロスとの集団戦』という状況になります。
 なお、囚われていた人々は、1章において避難・保護・安全の提供、
 などのプレイングがいくつか採用されたので、この場には存在せず
 安全な場所に避難完了しています(これ以降描写されることはありません)

 館に突入するにはオルトロスの撃滅が必須となるため、
 正面切っての集団戦となります。プレイングのご参考までに。
ロク・ザイオン
※ジャックと

……ジャック。
美しい声の為に。
群がって。
貪るのは、

病そのものじゃ、ないのか。

(ひとを守らなければならないのに
それがあねごの言いつけなのに
喉を掻き毟りたくなるほど気分が悪い)

(咆哮。
真の姿、長い鬣と尾を解き放ち
【先制・早業・二回攻撃・傷口を抉る】
「烙禍」で狙うは喉。頭。
瀕死になどさせない。悲鳴など挙げさせない。
一撃で斃す)

(でも、知っている
美しさの持つ抗い難い誘惑を
だって、狗ども、
お前たちの悲痛な咆哮すら
おれの耳には)

聞きたくない。なにも。
灼けろ、全部、全部、

(雨は。
みにくい泣き声も、全部、隠してくれるだろうか)
あねご。
おれは。
(あなたの目に、どう映っていましたか)


ジャガーノート・ジャック
(悲痛な問い。)
――――。
(それに答う術を、豹鎧たる『本機』も、中身の『僕』も持たない。)

――敵性存在を視認。
(ただ心を鎮め、静かに。『本機』は冷静冷徹たる機械。今はただ怒りを殺しそうあれ。)

一切を鏖殺する。
『C.C.』:クイックドロウ。
(獣となり飛び交うロク、それが殺し損なった者に留めをさす様に。或いは吼えようとするモノを先んじて、喉を潰すように。29の砲火を全て駆使し、寸分違わず敵を殺す。)
(スナイパー+援護射撃)

声を出す間など与えるものか。
(降る雨と熱の赤雨に呑まれ、声など全て掻き消えてしまえ。)
(断じて。この場では獣になどならぬ)
(――怪物の怨嗟の咆哮ですら、君の耳と心を蝕むならば。)



●哀れなるものども
『ああァあアアア亜ぁアぁあ!!』
 まるで、劣化に劣化を繰り返した果てに伸びきったカセットテープのような、
 抑揚も長さも何もかもがパッチワークめいた、おぞましき声である。
 ざあざあと降りしきる雨のなか、ささくれ立った哀れな吠え声をあげ、
 ロク・ザイオンという名の少女が足掻く。もがいてもがいてのたうち回る。
『亞ぁアアァあ唖噫ァぁああァア!!』
 真の姿を解き放っておきながら、その動きは緩慢で統一性がなく、
 常ならばあるはずの狩人としての気高さも冷静さも在りはしない。
 だから"一撃で殺す"はずの爪はろくに獣の喉笛を引き裂けやしないし、
 結果として影の獣達は威嚇し、恐れ、身悶えし、そして悲鳴を上げた。
 何も出来ぬ。いくら願おうが、千々に乱れた心と頭では何も成せはしない。
『聞きたくない、』
 獣どもを縊り殺すことも、
『なにも、』
 手負いの狗を仕留めることも、
『灼けろ、』
 雨を晴らすことも、
『全部、』
 道を開くことも、
『全部!!』
 前に進むことも。

 ……そこへ、まるで慈悲をもたらすかのように熱線の雨が降る。
 併せて二十と九つ、三十には一つ届かぬ半端な早撃ち。
 寸分違わず喉を穿つ、しかし生憎少女のせいで一手足りぬ半端なとどめ。
《――……一切鏖殺(キル・ゼム・オール)》
 ジャガーノート・ジャックは淡々と、ノイズ混じりにそう呟く。
 引き金(ボタン)を押す。押す。押す。押す。狂ったように押し続ける。
 まるで躍起になった子供のように。癇癪を起こした子供そのものに。
 熱線が降り注ぐ。コピーアンドペーストによって劣化堕落破損した、
 粗悪濫造の殺意は雨風に鈍って切れ味をわずかにわずかに失ってしまう。
 少女が理性を忘れた獣であったならば。
 あるいは無慈悲なる狩人であったならば。
 この微かな亀裂(クラック)とて問題にはならなかったろう。
《―― 一切鏖殺、一切鏖殺、一切鏖殺》
 あるいは兵士が真の意味で兵士であったなら、
 もしくは畜生に身を窶して暴れ狂っていたならば、
 やはりその間隙を縫い合わせ、静寂の殺戮を成し遂げていたかもしれぬ。
《――声を》
 だが出来ぬ。
《――声を出す間など、》
 何も成せぬ。
《――決して、断じて。与えるものか》
 なぜなら兵士は"兵士"でしかない。それ自体が模倣された粗悪品でしかない。
 ゆえに彼女と彼は殺しそこねた哀れで無様な獲物を量産し、
 悲鳴と怨嗟と手負いの獣の唸り声が戦場にわだかまる。
 わけても残酷で無慈悲なることに、雨音はそれらを隠してはくれなかった。

●僅かで近き過去の懐旧
(じゃっく。Jack、じゃック。なあ、ジャック)
 雨の中の行軍、身を縮め肩を寄せ合うようにした中で、
 ひび割れた声の少女は何度も何度も戦友の名を呼んだ。
 それはまるで、慣れ親しんだはずの名を間違えてしまわないか、
 自分は本当に与えられたものに足る敬意と親愛を込められているのか、
 字と音を覚えたばかりの子供が舌っ足らずに努力するかのようだった。
(――聞こえている、ロク。本機は君の声が、よく聞こえている)
(美しい、)
 泣きじゃくる幼子が嗚咽混じりに途切れ途切れに言葉を漏らすように、
 堰を越えた苦しみと衝撃に心が砕けたヒトが我を取り戻そうとするかの如く、
 ロクはとぎれとぎれに、思い出して逡巡して迷って言葉を紡いだ。
(美しい、声の、ために)
(――ああ)
(群……群がって、貪るのは)
(――……ああ)
(……貪る、むさぼる……のは)
(――急がなくともいい。雨が強い、本機には届いている)
 君が言葉を途切れさせてしまうのは雨のせいだ。
 雨粒は冷たくて、口を開こうとするとどうしても入ってしまうから。
 だから落ち着いて、ゆっくり、静かに言葉を紡げばいい。
 兵士はそう諭す。欺瞞である。たかが雨が鑢の声を隠せるものか。
 森番はそういうモノである。ざわめく木立、木の虚の奥の奥までも、
 獣を怯えさせ、脅かし、さっさと行けと伝えるために出来ている。
(……病そのものじゃ、ないのか)
(――…………)
 ひとは守らねばならぬ。
 病は灼かねばならぬ。
 それが森番に与えられた使命であり、
 今や遠く離れたあのかたとのただ一つの絆であり、
 罪を贖うためにゆるされた唯一の行為であり、
 拠って立つためのかそけき惨めな小島であった。
 喉を掻き毟り、引き裂いてしまいたい。無意識に手がそれを担おうとする。
 太く、無骨で、あいにく殺して壊す以外には何も役に立たない鋼の手が、
 巨人がおもちゃのピアノをおっかなびっくり弾くかのように、
 ひどく慎重に、いっそ笑えるくらいに怯えながら少女の手を諌めた。
(なあ、ジャック。なあ)
(――…………………)
 少女は言葉を求めた。豹鎧は何も応えなかった。
 応えられなかった。手慰みの言葉など、兵士が零すものではない。
 兵士を演じているのだから、彼が言えるはずもない。
 そもそも彼に、そんな思慮に長けた言葉の一つが言えるはずもないが。
 そういうのは、"強きもの"が為すべき、救済なのだ。
(――敵性、存在を、視認)
(ジャック)
(――本機は)
 影が雨の中にうごめく。獣となりて汝(なれ)らを試すとのたまう。
(――君の耳と心を、ただ守ろう)
 その誓いの、なんと薄っぺらで弱々しく浅はかで、しかし。
(――この場で、本機は、決して獣に堕ちはしない)
 可哀想なくらいに、必死で足掻いていたことだろう。

 たとえ何も出来ず成せずとも、彼らはただ足掻く。ただもがく。
 その行為には意味があるはずなのだ。おそらく、きっと、あるいは。
 あってくれと、ただ、ただ若者達はなにかに願っていた。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と

美声に惹かれて?
領主に苦しめられている捌け口に?
……気持ち悪いし、最低
カーラには誰も手を差し伸べてくれなかったんだ
やっと彼女の手を取ったのが残影卿だったなんて……

そうだね、私も長居したくないよ
早く一緒に帰ろう
やるべきことを終わらせてから、ね


へぇ、前で暴れたい気分なんだ?
わかった
私の背中、君に預けるね

見切って流れ弾がヨハンに当たらないように、
敵の攻撃は【武器受け】で凌ごう
でも守備には徹しない
生じた隙を活かすのが私の最も得意なやり方
【カウンター】で【なぎ払い】、
一体でも多くの敵を巻き込んで倍返ししてあげる

どいてよ
私達は残影卿とカーラに用があるんだから


ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と

醜悪さに溢れている
ここは長く身を置きたい場ではありませんね

残影卿、街の住人、カーラ、
どれも俺の気に食わない者どもばかりだ

……俺は正義面をするつもりはない
畜生どもには憂さ晴らしに付き合ってもらいますよ

前に出ます
偶には背を合わせて戦うのもいいでしょう
焔喚紅から黒炎を纏わせて、焼き祓う
近付かれるなら、一層の怨嗟を、爆ぜさせよう

仲間を呼ばうのならば、視てやろう
現れるその身に蠢く混沌を這わせ
影を繰るのはお前達だけではないぞ
来なければよかったと、後悔するがいい



●足を止めてはならぬ
 立ちはだかる闇は深く、横たわる陰鬱はなお色濃く。
 降り注ぐ雨はいや増しに長く重くなっていき、そして影は無数だ。
「……なんと醜悪な」
 ヨハン・グレインの呟きは、はたしてオルトロスどもに対してか。
 あるいはそれらを捨て石に放った、吸血鬼の性に対してか。
 もしくはこの世界そのものか、この世界で起きた此度の事件へか。
「此処は長く身を置きたい場ではありませんね。……さっさと片付けましょう」
 言ってからヨハンは、一歩を踏み出し少女と肩を並べた。
 雨越しに、横顔を見やる。少女のかんばせには、嫌悪が刻み込まれている。
(圧制の捌け口に、美声に惹かれて、仕方がないから。……気持ち悪い、最低)
 オルハ・オランシュはまるで寄せては返す波の紋のように、
 心の裡で幾度も幾度も憤懣を反芻し、やるせなき憐憫を抱いた。
 誰も醜い女を救ってはくれなかった。守ってもくれなかったのだ。
 その果てに手を差し伸べ救い出したのが、他ならぬ元凶たる吸血鬼。
(自分でその種を蒔いておいて、"強くて美しい"だなんて、本当に)
 ――気味が悪い。気持ちが悪い。吐き気がする。
「オルハさ……」
「そうだね」
 ヨハンが名を呼ぶより先に、遮るように少女は言った。
 彼の声は届いている。言わんとしていることはわかっている。
 それでも一拍遅れてしまうほどに、彼女が噛み締めた苦味は強かったのだ。
「私も長居したくないよ。早く帰ろう?」
 緑色の瞳が少年に応える。微笑みの眦から、涙めいて雨粒が流れた。
「やるべきことを終わらせてから、一緒に――ね」

 ……だが直後、オルハの微笑みは驚愕に変貌する。
 何故と問うまでもなし。ヨハンが、"さらに一歩前に踏み出した"からだ。
 ヨハンとオルハは、これまで幾度か戦場を共にした間柄である。
 時には月の下、変貌した森の片隅で薪を並んで見つめ、
 時には舞い散る桜花を守るため、刃の霊と相対した。
 時には星星が見下ろす暗黒で、夢に垣間見えた闇を耐え、
 時には英雄めいて、悪虐の徒に正義の凱歌を謳いもした。
 どんなときであれ、二人の位置は常に一定していた。
 オルハが前で、ヨハンが後ろ。
 少女が少年を引っ張って、少年は少女に付き合う。
 呆れたこともあれば、すれ違ったこともあり、
 震えたこともあれば、笑いかけたこともある。
「……俺は、正義面をするつもりはありませんよ」
 さらに一歩。ぽかんとしたオルハを顧みることなく、ヨハンは進む。
「吸血鬼も、あの街の住人も、カーラという女性も、どれも気に食わない」
 ひねくれ者は正義を謳いはしない。闇を見つめる者は光を照らさない。
 ただ悪には悪を以て報い、闇にはさらなる闇をもって応じる。
「ただの憂さ晴らしです。たまには、背を合わせて戦うのもいいでしょう」
 ちらりと、無藍想な瞳が視線を返した。どことなくそれは綻んでいた。
「――へぇ、前で暴れたい気分なんだ?」
 我に返ったオルハは不敵に笑ってみせる。頷いて、少しだけためらい、
「わかった。……私の背中、君に預けるね」
 そう言って、遅れを取らぬとばかりに風と共に駆け出した。

 影は光の対極であり、光がなければ生まれはしない。
 すなわちオルトロスどもの顕現は、結果的に光の存在を表す。
 それは猟兵という存在であり、同時にこの世界そのもの――すなわち、
 ダークセイヴァーと呼ばれたこの場所に、希望が絶えないことを意味する。
 あるはずなのだ。光明が。この因果を解き放つ兆しはどこかにある。
(たとえそれがあろうがなかろうが、俺がやることは変わらない)
 心の裡で呟き、幽かに唇が口訣を唱える。ばちりと怨嗟が薪となりて、
 紅石に封ぜられし黒々たる焔が、破滅をもたらす産声をあげた。
 獣どもが退く。空いた枯野を三叉の矛が薙ぎ、遅れた疾風が清める。
「どいてよ。私達は、この先に用があるんだから」
 邪悪なる傲慢な吸血鬼――それに救(とら)われた哀れで愚かな女に。
 矛を振るう。風が吹きすさぶ。今のオルハにとってこれはとても心地よい。
 雨は弾かれ闇が削がれ、一撃ごとに影は消えて失せていく。
 応報の咆哮が届くことはない。それは早晩、焔に焼かれる断末魔に。
 影の裡から次なる獣が湧き出た瞬間、無慈悲な穂先が喉笛をえぐる。
「何が出来るのかと試すなら、いいよ。全力で切り開いてみせるんだから!」
 オルハは叫んだ。黒焔が彼女の周囲に蛇めいてとぐろを巻く。
「どうした。俺達が怖いのか」
 迫り来る牙と咆哮に対し、しかしヨハンは恐れず視線をそらすこともない。
 彼は闇を視、影を纏う。飽きるほどに繰り返してきたそれこそが挟持。
 ゆえに斯様な獣どもに退く理由も、謙遜する根拠もありはしない。
「影を繰るのはお前達だけではないぞ」
 うごめく混沌と黒闇を従え、黒焔を走らせ、悠然と術士が歩む。
 まるでそれは、神話に謳われし海を割った預言者のように。
「――来なければよかったと、せいぜい後悔するがいい」
 揺らめく黒焔は、煮えたぎる彼の心の裡でもある。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛
嘆き悲しむ声がそれほどに美しいなんて、
悲劇以外になんと言えばよいのでしょう。

人の哀しみを、嘆きを、
己を満たすために欲するのはあまりに醜悪なことでした。
残影卿……人々へ死を差し向けた彼は、
彼女に一体どんな思いを抱いているのでしょう。

館の主に用があります。
この場はなんとしても突破させていただきましょう。

おいでnoctis、星夜を映す槍へと変えて
この切っ先で影を断ってみせましょう。
獣の動作など観察すれば次の動きも読めるはず
見切って躱してみせましょう。
躱し際にリーチを活かして返す刀の刺突。

懐へと潜れたら、打ち砕く拳で殴ります。
ああ、殴る頭が二つに増えましたね。
私の拳は二つあるんですよ。



●たとえ影とて闇とても
 猟犬どもののたまいを一切顧みることなく、決然と進む女がいる。
 影どもは試すかのようにそれを取り囲み、いかにして引き裂くか思案した。
 ――喰らおう。我らのあるじの御言葉を聴き捨てた此奴を。
 ――喉笛を喰らい、耳を喰らい、手足を喰らい、心の臓腑は最期にしよう。
 ――裁きである。我らを謗ることはあるじを謗ることであり、許されぬ。
 哀れなるかな、影どもはそう在るという理由であるじに付き従う。
 ゆえに畜生どもは狗めいて吠え、四方から全く同時に飛びかかり、

 ……飛びかかり、闇色の飛沫めいて砕けて散らばった。
「人の哀しみを、嘆きを、己を満たすために欲する」
 砕けた影を顧みることなく、なお決然と少女は歩みを進める。
「あまりに醜悪です。ですがそんな人々に死を差し向けた吸血鬼は、
 一体何を考え、どんな思いを抱いて待っているというのですか?」
 三咲・織愛は影に問いかける。畜生どもが答えることはない。
 彼奴らはそれを知らぬし、知っていたとしても答える理由がないからだ。
 ゆえに織愛は足を止めない。襲い来る牙があれば無慈悲に叩き潰す。
 少女の細腕は、しかしその柔らかな笑顔の裡にある苛烈を通す矛である。
「あなた達に答えられないならば、やはり私は館の主に会わねばなりません。
 なんとしてでも、突破させていただきます。お覚悟を」
 悲劇と言う他になき過去を前にして、悄然すれど歩みを止めることはなし。
 美しき悲嘆を影どもが守るというなら、織愛が見せるのは勇猛である。

「――ノクティス、おいで」
 夜の闇が身動ぎした。否、実のところそれは藍色の龍である。
 暗澹たる黒雲の下では、龍を見分けることはとても容易い。
 はたしてそれは凛とまっすぐに柄を伸ばす槍に変わり、織愛の手の内へ。
 獣が来る。すでに矛は薙いでいた。――疾い。
 ばくりと獣の身体が真っ二つに断ち割れて、ばしゃんとぬかるみに沈む。
 織愛はその真中を堂々と歩く。揺るがぬ体幹を軸に龍槍が巻いて振るわれる。
 雨粒は音すら立てぬ――振るわれる矛があまりに疾く鋭いがため、
 水を弾くというよりもばっさりと断ち切ってしまっているためだ。
 さながら巨大な雨よけがあるかのように、彼女の周囲だけ雨が消える。
「私達を試すと云うのでしょう? それでは足りませんよ」
 獣の動きを読み、避け、応報をもたらしながら織愛は言う。
「この喉笛に食らいつき、殺め、止めようとすべきです。
 でなければあなた達には勝てません。私は勝つまで負けませんから」
 子供の屁理屈じみた、しかし大樹のように聳える単純な論理。
 ふんわりとした少女の拳は、信念を込めて握れば金剛石をも凌駕する。
 いわんや、ただそう在るがゆえに従い群れて立ちはだかる猟犬をや。
 不甲斐なき影どもに、その肉はおろか柔肌を傷つけられるわけはないのだ。
「私の拳は二つあります。ですが――」
 にこりとした微笑み。敵にとっては恐怖の象徴。
「あなた達程度なら、百でも二百でも打ち砕いてみせますよ?」

成功 🔵​🔵​🔴​

荒・烏鵠
【万嶺殿】で行動

ンー、言っちゃぁ悪いが良くあるハナシだな。要は人柱作ってたってこッたろ?それともハナから領主の計画?成り上がりとかざまあとか好きなヒト?空想と現実を混同していいのは14歳までだぜ?

カーラサンとやら、オレにゃァただ芯から絶望して、自殺する踏ん切りもつかねェだけに見えるがね。
マ、今はこいつら片付けにゃァな。

【WIZ】
火龍を喚ぶ。くっついたり離れたりして影を消しつつ、アイツらを癒してやってくれ。
前線は任せたぜ、兄弟。

……アルっちはやっぱ若いねェ。シナト(狐精)、悪いが音を防いでやってくれや。あれじゃ先に体がイカれる。
やれやれ、後で【話して】落ち着かせねーとナ。


イリーツァ・ウーツェ
【万嶺殿】
そうだな。人間には限らない話だ。
飛ぶのが下手なワイバーンなども、群れでカーラ殿のような目に遭う。
ストレス量は、知能に比例する。群れるならば、吐き出す場所が要る。
今回のケースでは、カーラ殿が最適だっただけのこと。

そうだな。頭を使うのはお前の役目だ。
戦いは喜んで任されよう。
【POW】
UCを発動させ、突っ込む。
口を開いたら杖の力で雨水を集めて流し込んでやろう。むせろ。
そのまま噛み付くか? 堅州の守りがある、生命力は吸えんぞ。
今の私は殺る気に満ちているからな。
顎を両手でつかんで、口から胸まで割いてやろうな。
思い切り戦えて、傍に友が居る。幸せだ。

アルバートがやや不安定か? 可能な限り補佐する。


アルバート・クィリスハール
【万嶺殿】で行動

荒さんとイルの会話、合ってるようで根本的にズレてる気がするんだよなぁ……。どことは言えないんだけど、なんかこう。
真顔で話してるからツッコめない。

【SPD】
カーラさん、ねぇ。かわいそうに。
なにひとつ自分で決められないで、強い者に振り回されて。
きっと、そのまま死んでいくんだろうね。

そういうの、クソほどムカつくな。
(UC発動)

弱者をサンドバッグにすることでしか生きられない村人も
村人を蟻の巣感覚で弄ぶヴァンパイアも
されるがままに任せる女も
何もかもが気に入らねえ。嫌なモン思い出すんだよ!
自分より弱っちい奴をいたぶるクソ共!全部ぶっ壊してやる!
吠えてんじゃねえうるせえ!全部無視して暴れる!



●"よくあること"
 力ある者が専横し、弱き民が虐げられ、その中でさらに弱き者が苛まれる。
 なにもダークセイヴァーに限った話ではない。
 あらゆる世界、あらゆる時代、あらゆる場所、あらゆる文化。
 ヒト、あるいはそれに類する知的存在が三人以上生きる場所では、
 必ずそういう構造が生まれる。例外はない、必ず、絶対に生まれるのだ。
「だからよォ、言っちゃァ悪いが"よくあるハナシ"だな」
 雨の中の行軍中、荒・烏鵠は話をそうまとめた。
「ようは人柱作ってたってこッたろ? それともハナから領主の計画か?」

「仔細はさておき」
 そう前置きした上で、イリーツァ・ウーツェは静かに頷く。
「烏鵠の言う通りだ、そもそも人間に限った話でもない。
 飛ぶのが下手なワイバーンなども、群れでそういった目に遭うこともある」
 知能が高ければ高いほど、その生命体が感じるストレス量は比例する。
 群れとして生きれば、必ずどこかに"吐き出す"場所が必要になる。
「今回のケースでは、カーラ殿がその役目に最適だっただけのことだ」
 イリーツァは、終始真顔でそう締めくくった。

「あるいは、領主サマは成り上がりとかざまあとか好きなヒトとかァ?
 どこぞの小説じゃあるめェし。空想と現実混同していいのは14歳までだぜ」
 対する烏鵠も烏鵠で、議論するというよりは思いついたことを口にしていた。
 彼にとっては此度の件そのものは"ありふれたもの"であるゆえに。
「……なーんか、合ってるようで根本的にズレてるような……」
 二人の話を隣で聞いていたアルバート・クィリスハールは苦笑を浮かべる。
 どちらも真顔なぶん、おいそれとツッコむわけにもいかない。
 だが行く手を阻む影どもの気配を感じると、彼の表情はすとんと落ちた。
「それにしてもカーラさん、ねぇ。"かわいそうに"」
 抑揚のない声音。ちらりと横目で見つつ烏鵠が言葉を次ぐ。
「オレにゃァただ芯から絶望して、自殺する踏ん切りもつかねェだけに見えるがね」
「そうだね。荒さんの言う通りだと思うよ」
 ……アルバートは平易な声音のまま、淡々と続ける。
「なにひとつ自分で決められないで、強い者に振り回されて。
 きっと、そのまま何もせずに死んでいくんだろうね」
「…………」
 烏鵠、イリーツァは無言。アルバートはしばし黙ったあと、ぽつりと呟いた。
「そういうの、クソほどムカつくな」

 影の猟犬、オルトロスどもが思い思いに猟兵に挑む。
 いつのまにやら、三人は数十を超す影に包囲されていた。脱出は不可能だ。
 そう、普通であれば苦戦を強いられる――だが彼らは普通ではなく、
 そしてアルバートは"キレて"いた。ゆえに彼は獣より疾く身を翻した。
『『『!?』』』
 オルトロスどもは、予想外の俊敏さを発揮したオラトリオに驚愕し、
 直後に3体の獣が同時に頭部を失いばしゃりとぬかるみに四散した。
「ムカつくんだよ」
 普段の好青年らしい態度は鳴りを潜め、アルバートは狂犬じみて敵を睨む。
 そこへオルトロスが襲いかかろうと――遅い。四体目が即死した。
「弱者をサンドバッグにすることでしか生きられない村人も!」
 五体目のオルトロスが一撃で破裂する。ブーツがぬかるみを踏みつける。
「村人を蟻の巣感覚で弄ぶヴァンパイアも! されるがままに任せる女も!!」
 雨がいまのアルバートを濡らすことはない。彼は雨粒より速く駆けるからだ。
 激情のままに叫び、敵を踏み潰し、あるいは引き裂いて怒号をあげる。
「何もかもが気に入らねえ。厭なモン思い出すんだよッ!!」
 かくして、敵の包囲は一瞬で崩壊し、蹂躙が始まった。

「……アルっちはやっぱ若いねェ」
 アルバートの豹変にも、烏鵠は大した驚きを見せない。当然だ。
 そもそも普段の穏やかな性格が後付で、今の彼こそが本来の姿であるゆえに。
 とはいえあのまま放っておけば、早晩物量で押し切られてしまうだろう。
「マ、今はこいつら片付けにゃァな」
 視線がイリーツァに向けられる。
「前線は任せたぜ、兄弟?」
「ああ。頭を使うのはお前の役目だ。戦いは喜んで任されよう」
 当のイリーツァは不満なくそれを受け入れ、同時に自らを青い火で包む。
 超常を否定する焔の守りを得た龍人は、色つきの風となって戦場に消えた。
「シナト、悪いが仕事だ」
 烏鵠が言えば、肩に乗る狐の精霊がきゅう、と一声鳴いた。
 大気を揺るがす、オルトロスの悲痛な咆哮……いまのアルバートは、
 その激情ゆえに一切防御や回避を考慮していない。支援が必要だ。
 烏鵠が使役するこの狐精は、風と音を操る権能を持つ。最適の存在である。
「やれやれ、あとで"話して"落ち着かせねーとナ」
 科戸の狐精を放つとともに、烏鵠はさらにもう一体の神精に助力を乞う。
 ――煌神に帰依し奉る。契約に基づき、我に癒し手を貸し給え――。
 読経めいてこの世ならぬ領域まで響く祝詞に応え、
 彼の周囲にぽつぽつと、東洋における龍めいた形の神の炎が生まれるのだ。
「影を消すにゃァそれ以上の明かりがありゃイイ、ってな」
 同一個体の招来など、怜悧な陰陽師は決して見逃しはしないし許しもしない。
 悠々と雨の中を泳いで龍炎が廻り、踊り、二人の傷を癒やし影を払う。
 烏鵠が前に出ることはない。獣に叩きつける激情も、ありはしないゆえに。

 一方、前線。
 雨水を弾き、凄まじい速度で迫る青い火の影に、獣どもが注意をそらす。
 いかに素早く超常を否定しようが、獣の鋭い牙までは防げはしない。
 足を止めた瞬間に五臓六腑を噛み砕いてやろう――浅ましくも影どもは、
 二つ目の首を生み出しながら嗤笑した。さあ、獲物を骨の髄まで喰ろうて、
「喉が渇いたか。たっぷり飲むがいい」
 ――イリーツァの魔杖が、雨水を吸い上げ水龍めいた流れを生んだ。
 それらは濁流となって、飛びかかった獣どもの顎へと雪崩れ込む。
 獣が目を見開く。もう遅い、影の身体は風船じみて膨れ上がり破裂した。
「それでも諦めんか、浅ましい連中だ。ならば九泉の底へ運んでやろう」
 水の暴威を潜り抜け、一体の獣がイリーツァの眼前に迫った。
 火の守りを頼るまでもなく、獰猛な顎を両手で掴み、めりめりを引き裂く。
 悲鳴らしき呻き声が獣の喉から漏れ、それもすべて影に解けて四散した。
「思いきり戦えて、傍には友が居る。今の私は幸せだ」
 穏やかには程遠い殺戮を繰り広げながら、イリーツァは微笑んだ。
「自分より弱っちい奴をいたぶるクソども! 全部ぶっ壊してやる!!」
 彼が見つめる先、アルバートは獣よりも苛烈に、激烈に猛威を振りまく。
 咆哮が雨風を揺るがす。科戸の狐精が風の防護でこれを退ける。
「吠えてんじゃねえ、うるせえ。どいつもこいつもさっさと死ねッ!!」
 仲間の助けを得たことを顧みることなどなく、アルバートはさらに突き進む。
 イリーツァはそこに何を見るか。憐憫か、呆れか、あるいは不安か。
 龍人はただ目を細め、彼のあとに続く青火の疾風となるのみ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ヴィリヤ・カヤラ
残影卿はカーラさんを気に入ったらしいけど、好きになったのかな……。

数が多いね、大元の1体を倒したら他も消えるなんて無いかな。
まずは一気に倒すように頑張ってみるね!
雨も降ってるし周りも見にくいから
死角からの攻撃に気を付けないとね。

『属性攻撃』で制御して【四精儀】で
雷の雨を降らせるね。
仲間にダメージが行っても恐いから、
仲間の居なさそうな所をまずは狙ってみるよ。
後は周りを明るくする意味でも
【ジャッジメント・クルセイド】を
混ぜて使っていくね。

他者回復が間に合わなそうなら、
自他含めてダメージの大きい人を
【輝光】で回復するね。

アドリブ・連携歓迎


ゼイル・パックルード
なんだ、恨みの強さというよりは心の脆さからくる逆恨みだったか。
…とはいえ、やっぱりその女には興味がわいてきた。何をして思って生きてきたのか、憎悪を向けられた今は何を思うのか。
と、それはともかく今度はなかなか楽しめそうだな。

右手にダガー、左手に鉄塊剣を持つ。
単体で敵が迫ってきたら回避しつつダガーで迎撃。
まとめてくる場合は鉄塊剣で一気に薙ぎ払う。

こっちから近づけるようだったら、濡れた地面に鉄塊剣を叩きつけて衝撃波を発生させ、水飛沫や地面の泥やら石垣やらで目くらまし兼足止め。
そこで鉄塊剣は一旦おいて置き、刀やダガー、そしてユーベルコードで確実に殺していく。



●執着の在処
 地獄の炎で鍛え上げられた、無慈悲なる鉄塊剣が虚空を払う。
 雨粒は弾かれるというよりも、その勢いゆえに蒸発して消えるほどだ。
 当然、徒党を組んでいた影の獣どもが避けられるはずもなく、
 一度に四体のオルトロスが頭部を失い、どろりと溶け崩れた。
「さあどうした、俺を試すんだろ?」
 雨粒の向こうに、黒々とした陽炎が揺らぐ。ただ笑みだけが見える。
 ゼイル・パックルードは笑っていた。なぜ? 答えは簡単だ。
 ここは戦場であり、目の前に敵がいて、どうやらそれは無数らしい。
 であれば彼は笑う――笑いながら敵を引き裂き、斬りつけ、殺す。
「さすがゼイルさん、相変わらずマイペースだね」
 そんな男の背中を見つめ、ヴィリヤ・カヤラはぽつりと呟いた。
 ゼイルとは腕試しに刃を交わした間柄でもあるため、
 ヴィリヤは彼の実力のほどをよく――それこそ痛いほどに――知っている。
 とはいえ呆けている余裕はない。獣は影から次々に湧いて出てくるし、
 そもそも彼女とて、ぼけっと突っ立って誰かに任せるほど大人しくないのだ。
「この地を構成するモノよ――その力の一端を、ここに示せ」
 口訣に応じ、ごろごろと黒雲に稲光が煌めいた。
 直後、ピシャンッ!! と耳をつんざく轟音とともに、
 無数の雷光が雨のごとく降り注いでオルトロスを打ち据える!
 四精儀。森羅万象をなす諸々に語りかけ、天を動かし地を揺るがす力。
 精妙な集中と極めて高い魔力なくば、荒ぶる自然はたちまち暴威となろう。
(醜いと言われた女の人、カーラさんを吸血鬼が気に入った理由は何?)
 だがいま、ヴィリヤは珍しく物思いに耽ってしまっていた。
 "強きひと"。なんの戦闘力もないであろう女を、吸血鬼はそう呼ぶという。
 なぜだ。その精神性を買ったのか? はたまた本人ですら気付かぬ、
 何か秘められた力でも見出したのか。いや、そもそもあるいは――。

(……好きになった、のかな)
 恋慕の熱情とは侮りがたく、どれだけ聡明な者でも愚行に走らせてしまう。
 たとえ強大で傲慢なヴァンパイアとて、ひとたび見初めた相手には、
 心を奪われ文字通りに狂ってしまうこともあるのだという。
(だとすれば、私は――)
「おい」
(でも、仮にそうだったとして……)
「……おい!」
「!」
 ヴィリヤは男の声と、眉間に走った危機感で我に返った。
 直後、彼女の頬をダガーが浅く裂き、背後へと通り過ぎていく。
 そして闇の中から獣の苦悶、断末魔。短剣で喉を貫かれて死んだのだ。
「らしくないな、何ぼけっとしてんだ?」
「ご、ごめんゼイルさん。ありがとう」
 降り注ぐ雨水が、一筋刻まれた傷跡の血を洗い流していく。
 かろうじて術式の制御は出来ていたようだが、逆に集中していたようだ。
 ゼイルはそんなヴィリヤを訝しみはするものの、それ以上踏み込みはせず、
 擲ったダガーを疾走と共に回収。さらに鉄塊剣を薙ぎ敵を退けた。
「しかし、こうも暗いとアドバンテージは向こうにあるかね」
 黒雲と暗澹たる空ゆえに視界は明瞭とせず、加えて豪雨がさらに妨げる。
 彼らほどの卓越した猟兵ならば、皮膚感覚によって敵の接近は感知出来るが、
 それでも不意打ちの危険はついて回る。ゼイルはそれすら楽しげだが。
「あ――なら、私に任せて」
 雷雨が自分達に降り注ぐことのないよう、術式の制御に意識を割きつつ、
 ヴィリヤは白い指先を闇の濃い前方へと差し向けた。そこへ光が降る。
 ただしそれは稲光ではなく、周囲を煌々と照らし出す裁きの光芒だ。
「へえ、なるほどな」
 ジャッジメント・クルセイドの応用。ゼイルはくくっと喉を鳴らす。
「悪くない、ありがとよ」
「どういたしまして。回復は――……必要、なさそうだね」
 然り。ゼイルは光芒に照らし出された敵めがけて猛然と突き進み、
 牙が己を抉るより先に刃を以て獣の身の程を知らしめていく。
 ぬかるみをはじめとした地形を利用し、四方から迫る殺意に抗う。
 いや、翻弄するというのが正しいか。まさに地獄じみた戦いぶり。
(……私も、負けてられないな)
 ゼイルのような苛烈な炎を、ヴィリヤが纏うことは出来ない。
 だが肩を並べることは出来る。彼女にはそのための力があるのだから。
 頷き、気を引き締め、ヴィリヤもまた闇に光を降して前へ出た。
 雨風が、彼ら彼女らの意思と戦意を冷ますことはない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒城・魅夜
早業、先制攻撃、範囲攻撃、なぎ払い、二回攻撃。

――私はもとよりヒトの善性に期待しませんし、義人たり得ると信を置いてもいません。


鎖を舞わせ、引き裂き、叩き潰し、締め付ける。


――ですが、中には、愚かで醜悪な真実に、傷つく者もいるのでしょう。
私はその哀切を尊いと思います。その繊細な慟哭を美しいと思います。


消し、破壊し、滅ぼす。


――それは私には抱けない優しさであり、弱さという名の強さなのですから。


殺す殺す殺す殺す殺す。


――嗚呼……なるほど。
その吸血鬼も、私と同じような心情なのかもしれません……。


……ああ、いたのですか?惨めな野良犬ども。
気が付きませんでした。あまりにも容易く殺せるものですから。



●無心
 黒城・魅夜にとって、ヒトはただヒトでしかない。
 ヒトであるゆえに善きものであるだとか、義人たるとは思わない。
 思えない。思うつもりも、ない。だが絶望しているわけでも、やはりない。
 己の愚かさや醜さ、どうしようもない悪性を受け入れ、
 あるいは"それでも"と膝を突くことなく。たとえ折れたとしても立ち上がる。
 そういう"善きひと"を彼女は認めるし、むしろ好ましいと思う。
 よしんば、それほど強くなかったとしても……たとえば此度のような、
 ヒトの悪性そのものというべき悲惨な事件と真実を前にして、
 慟哭し嗚咽し、心に傷を負って悲しむものも居るかもしれない。
(私は、その哀切を尊びたい)
 いや尊ぼう。硝子細工のように繊細な悲嘆を美しいと称えよう。
 何かに憐憫を抱き、寂寥感に悶え、ヒトの醜悪を悲嘆する。
 翻ってそれは、善性を信じそう在ろうとしなければ出来ないことだから。
 哀しみとは、何かへの期待や信頼があらばこそ生まれるのだから。
(それは、私には抱けない――"優しさ"という感情であり)
 弱さは愚かさであるとともに、誰かと手を繋ぐ強さの象徴でもある。

 ヒトは醜悪で愚かだ。個として在り続けることがとても難しい、
 そのくせ群れれば、同じヒトを敵視し争い合うこともある。
 なんら違いのないはずの同じヒトを、違うモノだと差別しもする。
 だがそれだけではない。その真逆――違うモノをすら受け入れ、
 共に支え合って生きていくことも出来る、矛盾を内包した生き物だ。
(私にそれは出来ない。私はただねがいを享けて敵を討つだけ)
 ひたむきな己のねがいのために、地獄を渡り暗黒を征く。
 それが魅夜の選んだ道であり、これからも突き進むだろう魔道だ。
 おっかなびっくり肩を寄せあって、己から手を差し伸べることなど出来ない。
 あるいはそうでなくとも、いかなる地獄にあっても自ら耐えられるなら、
 それもまた――ああ、そうか。
「残影卿とやらも、私と同じような思いなのかもしれませんね」
 ぽつりと、死屍累々の只中で、悪夢の滴はひとりごちた。

 然り、死屍累々である。
 彼女の周囲にはただ砕けこぼれた影の残滓だけがわだかまり、
 まるで毒蛇の群れめいた鎖が枯野を覆っている。
 自らの行為でありながら、魅夜は己がなしていたことに気付いてすらいない。
 霞めいて両手を動かし、ぬかるみを蹴って獣に対し先の先を打ち、
 鋼の鎖を振るって見える限りをなぎ払い、近づくものは微塵に砕いた。
 引き裂き、叩き潰し、締め上げ、捻り、抉り、砕き、轢き潰す。
 影であろうがなんであろうが関係なく、この世から一切を消し去る。
 時の縛りから解き放たれ、悪意を破壊し爪牙を彼方へと滅した。
 無心であるがゆえに容赦も慈悲もありはしない殺戮、鏖殺、抹殺。
 その結果が、この阿鼻叫喚すらなき地獄絵図である。
「――ああ、まだいたのですか」
 ぞるぞると周囲を警戒する"惨めな野良犬"どもへ目を向ける。
 だが奴らも、魅夜の不興を買うことも、愉悦をもたらすこともあるまい。

 今の彼女にとって、影の猟犬など容易に過ぎるただの有象無象である。
 懊悩と憤懣と諦観と感服のなか、女はただ枯野をそぞろ歩く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

須藤・莉亜
「僕に出来るのは戦うことだけなんだけどねぇ…。」
それ以外に何かあるかな?

眷属の腐蝕竜さんに乗って空から攻撃していく。
腐蝕竜さんには【蝕む吐息】で敵さんをなぎ払ってもらおうかな。
僕は彼の攻撃に合わせて、血を捧げて強化したLadyで狙撃しつつ、悪魔の見えざる手でぶん殴ってこう。
敵さんを悪魔の見えざる手で捕まえられたら、体力回復のために【吸血】して【生命力吸収】。

敵さんが吠えて来たら、こちらも腐蝕竜さんに大声で咆哮してもらって嫌がらせしとこう。

「煙草が湿気ってしょうがないや。早く屋根のあるとこに入りたいねぇ。」
そこに居るんでしょ?君らのあるじさん。



●降り注ぐ死
 龍が、雨粒を、冷えた大気を分厚い翼膜で力強く叩く。
 二つ頭の牙も影の蹂躙も、ましてや負け犬の遠吠えじみた咆哮も、
 あいにくと空を悠々進む腐蝕の龍には届かず、ゆえに妨げられはしない。
「僕に出来ること、って言ってもねえ」
 その背に跨る須藤・莉亜は、無感情に呟く。
 彼の手の中で、純白の対物ライフルが血を享けて猛威を増した。
 ヒトはおろか魔物であっても過大に尽きる破滅は、
 この世ならぬ悪魔の見えざる透明な腕(かいな)とともに降り注ぐ。

 獣は必死に狩人を地面へ引き下ろそうとする。いじましき努力。
 空を制する覇者、すなわち龍は傲岸に獣どもを見下ろし、
 飢えた狗めいて跳ね回る影どもを哀れみ、慈悲をくれてやった。
 濃密な闇よりもなお禍々しき、生きとし生けるものを腐らす毒の吐息。
 地上を這い回るが関の山の獣どもが、空から降り注ぐ死に抗える道理はない。
 咆哮はやがて悲鳴と敵への痛罵に変わり、それも断末魔に変じた。
「所詮、僕に出来ることなんてこうやって戦うことくらいだよ。
 そもそも、それ以外に何かあるかな? 教えてほしいくらいだけど」
 問いかけたとて、オルトロスどもが答えられるはずはない。
 奴らはそこまで利口ではないし、そもそも彼と同じ土俵に立てない。
 ただ見下され、為す術もなく腐り毒に蝕まれ弾丸に砕かれ死ぬ。
 悪魔の爪が引き裂き、握り潰し、投げ飛ばして影へと還す。

 莉亞を試すなどと、よくよく考えれば大言壮語を吐いたものである。
 この惨状を見るがいい。オルトロスどもに一体何が出来たと?
 彼奴らはただ地上をのたのたと歩き、思い出したように死ぬだけだ。
「まあそっちから噛み付いてきたんだから、仕方ないよね」
 ゆえに莉亞の指先に慈悲はこもらない。もともと彼は、
 そんな悠長でも優しげな性格でもないのだが。
 淡々と照準を合わせ、一匹また一匹を殺す。滅ぼす。砕いて潰す。
 リロードがてら、莉亞はごそごそと懐を漁り、煙草を取り出した。
 愛用のライターで火をつける。だがあいにくの豪雨である。
 じじ……と音を立て、当然のように種火は消え失せた。
「煙草が湿気ってしょうがないや」
 吐き捨て……かけて、勿体無いと銜えたままにする。
 さっさと屋根のあるところに行って、のんびり紫煙をくゆらせたい。
 邪魔だ。邪魔だ。目障りだ。――いや、それですらないか、獣どもは。
「いっそ、君らのあるじさんのところまで案内してくれればいいのに」
 半吸血鬼は、ただ気怠げに鏖殺を実行する。
 龍の背に跨るものは、空の覇者よりもなお傲慢で無慈悲である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アヴァロマリア・イーシュヴァリエ
※アドリブ歓迎

泣き声がそんなに綺麗なら、笑い声はきっともっと綺麗なのに。

あなた達には、ご主人様のことを聞いてもダメそうね
ええ、それなら……マリアのできること、見せてあげるわ。

サイコキネシスで、近寄ってくる敵を、敵だけを押し潰すわ。
牙を剥く顎も、轟く咆哮も、影からの応援も、
身体の一片も余さずに、声を響かせる空気ごと、影から出てくる仲間ごと、ぜんぶ。
プレスを掛けるように、真っ平らに、粘土を作り直すみたいに、ぺちゃんこに。
全部潰れちゃえば、何も出来ないわよね?
それでも耐えるほど強くても、この重さの中なら他の皆からは、逃げられないでしょう?

綺麗に、なったかしら? それじゃあお屋敷に向かわないと。


祇条・結月
僕にはなんにも言う資格がない。だって多分。僕は彼らと変わらない。
もしかしたら同じ状況だったら、同じことしてないとは限らない。
……僕は強くないし、勇敢でもないから、さ。

うん。だから。
これはただの、八つ当たり。

必要そうなら他の猟兵とも適宜連携
ある程度距離を取って敵味方の動きを見て戦うよ
敵の初動を抑える形で苦無を【投擲】、味方が先手を取る隙を作る
あとは【スナイパー】で進行方向の予測、確実な狙いをつけての攻撃や、【罠使い】で即席の罠をかけて、とにかく敵の動きを止める、牽制して近寄らせないことを意識。

あとは、敵が自分を召還するユーベルコードを観察しておいて、隙をみて封印する


アストリーゼ・レギンレイヴ
《漆黒の夜》を纏い、最前線へ斬り込むわ
纏う暗黒は世界に遍く痛みや嘆き、呪詛を束ねた全き闇
今のあたしを動かす力の源

黒剣を振るい、真っ向から渡り合う
遮るものは全て切り伏せましょう
影より影が生まれるとして、その全てを叩き切るのみ
致命打になり得る攻撃は武器で受けるけれど
それ以外は、負傷の軽減より攻撃を優先
傷など厭ってはいない、そんなものを厭うようには出来ていない
痛みで殺意を鈍らせるほど、甘くも優しくもない

但し、周囲の味方が危険であれば
攻撃よりもそちらを庇うことを優先するわ

小難しいことは苦手なの
だけれど、わかることはあるわ
――強いからといって、傷ついて居ないわけではないのよ

【アドリブOK、連携等も歓迎】



●感傷の行先
 まずはじめに、夜が在った。
 比喩ではない――夜闇そのものとしか形容しようのない、
 濃密なる暗黒の闘気を纏いて、一陣の疾風が先陣を切ったのだから。
 暗黒なる風の名をアストリーゼ・レギンレイヴと言い、
 "漆黒の夜"と呼ばわれし黒闇は、紛れもなくアストリーゼの力だった。
 世界にあまねく生まれる痛み、悲嘆、そして人々の呪詛。
 ヒトがヒトとして生きる以上耐えることなきそれらを糸として束ね、
 一本一本を織り布めいて編み上げ、重ね、混ぜ合わせた、一縷の光なき闇。
 アストリーゼという戦士を動かす力。アストリーゼの根源そのもの。
「行くわ。――せいぜい足掻きなさい」
 影をも飲み込む暗黒の中に、アストリーゼは何を視る。
 何を考えて前へと踏み出す。後ろを顧みることなく突き進む。
 黒剣を振り下ろせば迅風が迸り、まず正面の獣を叩き切った。
 横合いから飛び出した獣の牙が闘気を裂き、アストリーゼを害する。
「――」
 その程度で止められるとでも思ったのか、と酷薄な瞳が睨めつけた。
 直後、やはり禍々しき月闇がオルトロスの首を刎ね飛ばす。
 あいにくとアストリーゼの纏う暗黒は、傷を負えば負うほど強まる。
(あたしの殺意を、この程度で鈍らせることは出来ない)
 痛みも、理屈も、事情も、何もかも関係ない。
 死よりも冥き闇に身も心も置いて、黒き騎士は行進めいて枯野を征く。

「…………」
 見知った猟兵のそんな後ろ姿を、やや呆然と見送る少年がいた。
 圧倒されていた――それもあるが、彼が、祇条・結月が言葉を失くしたのは、
 なにも恐怖や畏怖によってではない。正しく表すならば、
 彼はなにかそれらしい言葉をこぼすことを、是とせず自ら戒めたのだ。
(僕には、あの街の人々に何かを言う資格がない)
 痛罵も説教も分不相応。ましてや彼らを哀れみ、さぞ辛かったろうにと、
 ありきたりな哀切を見せることも憚られる。それは超越者の文言だ。
 ……もしもだ。もしも自分が、彼らと同じ立場に居たとしたらどうだろう。
 決して抗えぬ何者かに圧殺され、一日を生き延びるのにすら苦労し、
 朝日を拝めず死にゆく可能性に震えながら帳を下ろす。
 路辻を吹きすさぶ寒風を死神の足音と勘違いして総身を震わせ、
 助け合い寄り添うべき人々に疑心を向け、"仕方のない"辛酸を舐め飽きる。
(――多分、僕だってそうしていた。安易な救いに縋っていた)
 たとえそれが本来の意味の救いでなかったとしても、
 己が味わう辛苦の慰みとなり、その原因を押し付けられたならば。
 きっと自分も、あの見苦しく哀れでどうしようもなく愚かな行為に、
 あれやこれやと理由をつけて身を、心を窶していたのだろう。
(僕はそこまで強くないし――あんなふうに、勇敢でもないんだ)
 だから彼は、アストリーゼの背中に何の言葉も掛けられなかった。
 掛けようとしなかった。……けれども、湧き上がるものはあった。

 獣が、オルトロスどもが波濤めいて猟兵達に殺到する。
 群れをなす影の猟犬の数、見えるだけでも十は越えているか。
 雨と闇の向こう、枯野を覆う酷薄な獣畜生は百を超えるのだろう。
 包囲されている。逃げ場などなき、絶望すべき末期の光景。
 牙が来る。大気を震わせ心を折る咆哮が響く。
 新たな獣を孕み喚ばう影が、暗澹たる空の下にさらに法師を延ばす。
 ――だが。
「あなた達は、お利口なのね」
 つば広の帽子の下、桃色の瞳が憐れみを以て煌めいた。
 アヴァロマリア・イーシュヴァリエは獣どもを憎まない。
 嫌悪しない。ただ憐れむ。なにせ彼らは大層利口で、器用で、
 どうやら獰猛でもあるようだが、これから"一切合切潰れて死ぬ"のだから。
「せめて、ご主人様のことをなにか教えてくれたらいいのだけれど」
 オルトロスが問いかけに応じることはない。彼らはそういうモノである。
 あるじに従うのは"そうだから"であり、獲物に問答する理由もない。
「ええ、それなら、残念だけれど――"綺麗に"するわね」
 つい、と指で空を指す。黒雲が渦を巻いて消え、太陽が顔を覗かせる……、
 だなんて奇跡は起きはしない。雨粒が降り続けアヴァロマリアを濡らす。
 だからそのまま、ふっと手を下ろす。見えざる力がそれに従う。
 ――ずしん。
 アヴァロマリアを中心に、大地が"凹んだ"。
 正しくは、彼女が放つサイキックエナジーが、巨人の掌めいて広がり、
 雨粒もろとも、ぬかるみもろとも有象無象の尽くを捻り潰した。
 悲鳴はない。断末魔もない。ただ見える限りの獣はみな潰れて死んだ。
「全部潰れちゃえば、どれだけお利口でも何も出来ないわよね?」
 クリスタリアンは、闇から迫る次なる波濤を無感情に見返す。
 足を止めることはない。慈悲をかけてやることも、ない。

 ……だがいかに重力という暴威を振るおうと、担い手はひとりである。
 サイキックエナジーには限界があり、たとえそれが訪れずとも、
 意識を持つ以上間隙というものは絶対に生まれてしまう。
 僅かな一瞬を縫うように、アヴァロマリアへと飛びかかる獣がいた。
「危ない!」
 まず一匹、横合いから結月の放った苦無がこれを縫い止める。
 ついで二匹、あいにくだが結月の牽制ではこれを止められない。
 アヴァロマリアは、己へ迫る牙を淡々とした表情で受け入れた。
 傷つくことをよしとして――だが、よしとしない者がいた。
「……どうして?」
 アヴァロマリアは、己と獣の間に割って入った闇に問いかけた。
 闇の奥で、自らの腕で鋭き牙を受けた女に問いかけた。
 なぜそんな、痛みを自ら味わうような無茶をしたのかと。
 守ってくれたのは嬉しい。庇ってもらえたのは心苦しい。
 けれどもなぜ。あえて見逃し、その隙に敵を叩き切ることもできたろうに。
「アストリーゼさん……っ、こいつらまだ来るのか!」
 今度こそ言葉を失いかけた結月はすぐに我に返り、
 足を止めたアストリーゼへ殺到せんとするオルトロスどもへ、
 超常によって生み出された錠前を放つ。首輪めいて獣どもが戒められる。
 彼奴らが開こうとした顎はがっちりと閉じられ、そしてそこへ、
 不可視なる死――すなわち、サイコキネシスの槌が降り注ぎ押し潰した。
「ありがとうユヅキ。助かったわ」
 淡々とアストリーゼは答え、アヴァロマリアに目を向けた。
 闇を纏いながらも、異色の双眸が桃色の瞳をたしかに見返している。
「小難しいことは苦手なの。あなたもたしかに強いのでしょうね」
 だけれど、と言葉を次ぐ。結月にもその響きは届いた。
「――強いからといって、傷つかないわけではないでしょう?」
「…………そう、ね」
 アヴァロマリアはその瞳に何を見たか。ただ、頷いた。

(……なら)
 八つ当たりめいた激情を拳に込めながら、結月は心の中で思う。
 その一言を口にするのはやはり憚られた。けれども。だけど。
(あなただって、痛くないわけじゃないだろうに……)
 闇の奥底、黒騎士が蓋をした感傷を思い描き、結月は無力さを噛みしめる。
 雨粒のなんと冷たいことだろう。だが、彼らの感傷よりは、ずっとマシだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

チコル・フワッフル
ユーリ・ヴォルフと行動
★アドリブ、他猟兵との絡みも歓迎!

街の人々がしたことは、酷いことだけど……
そもそもは、領主が作った状況が原因じゃない!
カーラも、街の人々も笑い合える世界にするために。
絶対に、領主を倒さなきゃ!だから……通らせてもらうよ!
雨水を吸った重たい髪と尻尾を翻し、いざ。

真の姿で狐の獣人になり、獣の感覚を研ぎ澄ませよう。
ユーリと背中合わせでお互いに背後を守りながら戦うよ!
ダガーを【一斉発射】して【範囲攻撃】、その後は向かってくる敵を【シーブズ・ギャンビット】で迎え撃つ!
敵の攻撃には【ジャンプ】や【フェイント】で素早く回避を試み、咆哮は狐耳を塞いで防御!
ここで止まるわけにはいかない!


ユーリ・ヴォルフ
チコル・フワッフルと
アドリブ共闘大歓迎

残影卿はカーラの心の強さに惹かれたのか
卿の行動原理は理解はできたが、共感はできないな
Dセイヴァーという特殊な世界に棲むオブリビオンの常識や感性は
私にとっては特異的だが…対する人の心の弱さも…
ッ、すまない。チコルの言うとおりだ。領主が原因だったな

チコルも濡れた毛が重そうだし心配だ
まずは目の前の脅威を排除する!

真の姿を解放し炎の騎士に
相変わらずの豪雨が厄介だな…だが負けてなるものか!
一が全で全が一か…面白い。ならば纏めて薙ぎ払う!

死角を作らぬ様チコルと背中合わせの布陣
【メギドフレイム】で手広く体力削り
瀕死直前で
UC+【範囲攻撃】【属性攻撃】炎で一気に倒す


アルジャンテ・レラ
容姿が醜ければどのように接しても構わない、と……?
理解できません。
苛む理由になどなるわけないでしょう。
まあ、あの人達も見方を変えれば被害者とも言えるかもしれませんね。

解らない事はもう一つ。
アシェリーラがこの地からいなくなれば全て解決……と言えるのでしょうか。
カーラさんの美しい嗚咽や嘆きが聞けなくなるわけですから、
よからぬ行動を起こす人も出てくるのでは?
……すみません。
疑うような言葉を。失言でした。

考え事は後にしましょう。

まずはオルトロスの掃討ですね。
オルトロスの行動を鈍らせるように矢を射ち、
援護射撃で皆さんの支援に徹します。
的は動き回らない方が狙いやすいでしょう?
サポートはお任せください。



●罪の在処、裁きの行方
 雨の中の行軍中、濡れ鼠といった有様の少女は、きっと眦を釣り上げた。
「私、許せないよ……ヴァンパイアのこと!」
 チコル・フワッフルは純朴なキマイラの猟兵である。
 無垢、といってもいいかもしれない。愚かと謗るものもいよう。
 だが義憤を燃やし、悪徳を否定することは愚かなのだろうか?
 それはむしろ、多くのヒトが恥じて恐れることをまっすぐに表現する、
 ありふれているようでその実、希少で称えるべき強さではないだろうか。
「……街の人々ではなく、か?」
 対するユーリ・ヴォルフは、ぽつりとそんな言葉を口にした。
 チコルはそんなユーリをきっと見返したあと、しょげたように目線を落とす。
 親しき者に咄嗟に睨んでしまったことを恥じるとともに、
 人々と彼らに虐げられたカーラの心の痛み、それぞれを想起したがゆえに。
「……たしかに、あの人達がしたことは酷いことだけど……」
 ぐっと眉根に力を入れ、決然とユーリを見上げた。
「そもそもは、領主が作ったこの状況が原因じゃない!
 本当は、街の人達だってそんなことしたくなかったはずなのに……」
「ッ」
 チコルの憐憫と思いがけない激情に、ユーリは僅かながら気圧された。
「……すまない、チコルの言う通りだな。全ての原因は領主にある」
 らしくもない思索にふけっていたためか、ユーリは己の迷いを恥じた。
 ――人々に罪があったとして、それを裁けるほど彼は傲慢ではない。

「失礼ながら、ひとつお言葉を挟ませていただいても?」
 そんなふたりの会話を聞くにつけ、ひとりの青年がそう言った。
 怪訝ながらも頷いたユーリとチコルの目線を受け、人形の少年……、
 すなわちアルジャンテ・レラは、思案ながらに自論を述べる。
「そもそも、容姿が醜ければどのように接しても構わない……と、
 その理屈が理解できません。誰かを苛む理由になどなるわけがないでしょう」
「ああ、それは確かだな」
 ユーリは端的に頷いた。容姿の美醜で社会的リンチが肯定されるわけはない。
 いわんや、共に同じ街で生きる仲間同士。助け合わねば早晩共倒れする。
「うん……だから、街の人達もカーラと同じ被害者なんだよ」
 チコルの言葉に、アルジャンテは同意見だと首肯した。

 しかし彼が口を挟んだのは、何も互いに肯定し合うためだけではない。
「ひとつだけわからないことがありまして」
「「わからないこと……?」」
 ……わずかに間をおいてから、アルジャンテは言う。
「それは、残影卿……アシェリーラがこの地から居なくなったとして、
 はたしてそれですべてが解決するのか、そう言えるのか、ということです」
 チコルとユーリは言葉を失った。
 アルジャンテの疑問は当然のもので、ふたりにとって図星を突かれた、いや、
 あえて目を向けまいとしていた命題を引きずり出されたものだからだ。
「たしかに、街の人々の行動は吸血鬼による圧制が根本的な原因です。
 ですが彼らは、カーラさんの美しい嗚咽や嘆きに惹かれたとも言いました」
「……卿を取り除いたとして、カーラの声を求める者もいるかもしれない、か」
 ユーリは即座に否定することが出来なかった。
 このダークセイヴァーという世界、ひいてはそこに生じるオブリビオンの、
 悪辣さと醜悪な感性。それは彼の目にはひどく特異に映る。
 だが何よりも彼にとって疑問、いや懸念なのは、他ならぬヒトの心の弱さ。
(たとえ何が原因であれ、彼ら自身がそれをなしたことは変わらないのだ……)

「……すみません、疑うような言葉を。失言でした」
 ユーリの意識を現実に引き戻したのは、アルジャンテの謝罪である。
 見れば彼の目線の先、チコルが悲しげに瞼を伏せていた。
「……私達には、その答えはすぐには出せないよ。でも一つだけたしかなのは、
 領主が居る限り何も変わらない、カーラも人々も自由にはなれないってこと」
 道理である。彼女はすがるように男達を見つめた。
「皆が笑い合える世界にするために。絶対に倒さなきゃいけないんだよ」
 アルジャンテもユーリも、もはや口を挟むことなくただ頷いた。
 これ以上の問答は無用だ。獣共の気配が近づきつつあるのだから。
「だから」
 わだかまる影を睨めつけ、チコルは決然と言う。
「絶対に、通らせてもらうよ!」
 かくして、戦端が切って落とされた。

 雨が降り続ける。その中を二つの影が駆け抜ける。
 かたや狐めいた獣人、風のように疾く枯野を行くチコルの真の姿。
 そのややあとに続くのは、炎髪を燃え上がらせた龍の騎士。
 ユーリの真の姿である。彼らは立ちはだかる獣を次々に薙ぎ払う!
「ここで止まるわけには、いかないんだから!」
 しなやかに跳躍したチコルを中心に、散弾めいたダガーの雨が降る。
 縫い留められた獣をユーリのメギドフレイムが灼き焦がした。
 影から生まれようとした新たな獣は、やや後ろのアルジャンテが射殺す。
「考え事はあとにしましょう。援護はします、どうか前へ!」
「感謝する!」
 ユーリは炎を生み出す。雨がそれをかき消そうとする。
 諦めよ。この闇と暗澹に屈し絶望せよと世界そのものが囁くかのよう。
「負けてなるものか。退け!!」
 燃え上がる道筋をチコルが疾駆する。敵を切り裂く。
 迫り来る牙を爪を飛んでくぐって避け、一時も足を止めることはない。
 猛然たる三人の攻め手は、まとわりつく不安と苦悩を払うかのようでもあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

北条・優希斗
仲間との連携・声かけOK
※心情口に出しません
…この件、正直全員に罪があるな。カーラを迫害した街人。彼女を見初めた残影卿。残影卿の恐怖があるから仕方ないかもしれないが、村人達の処刑を止めなかったカーラ。
街という一つのコミュニティである以上、カーラの様な人は仮に圧制がなくとも迫害の対象になりうる可能性は高い
人は、自分とは違う存在を見出だしそれを排斥しようとする事で自分達の優位性、存在を確認する面があるからね…
※心情終了
「…退け、俺はお前達の主に聞きたいことがある」
先制攻撃+範囲攻撃でUC発動
その後ダッシュで接近攻撃系技能で敵を切る
防御は見切り、残像を軸にオーラ防御も使う
カウンター、同士討ちも狙うよ


シーザー・ゴールドマン
オルトロス、神々の王を屠る為に生み出された怪物の子の名前だったか。
あれも忠実な番犬であったが、君達もその名に恥じないようだね。

力には様々な形がある。
カーラという女性の強さに価値を見出せた君達の主は少しは物が分かるのかもしれないね。

戦術
オド(オーラ防御)を活性化して戦闘態勢へ。
オーラセイバーを具現化して暫しの戦闘を楽しみます。
ある程度戦い、周囲に引き付けるだけ引き付けた後、『ソドムの終焉』を発動。
一掃します。
>くらいつく対策
直感(第六感×見切り)で変形を察知して、変形直後を斬り飛ばす。(先制攻撃)
>ほえる
タイミングを見切り(第六感×見切り)、身に纏うオド(オーラ防御)を振動させ相殺。


エリス・シルフィード
…どんな理由があったとしてもね
私は歌で人の心を癒すことしか出来ないの…!
邪魔しないで!
私は、カーラさんを救うためにもあなた達の相手なんかしてられないんだから…!
仲間との連携・声掛けOK
傷ついた仲間達を癒すために、祈りと優しさを籠め、残影卿を蹴散らしたいと思う人達と思いを共有してその人達の傷を癒すわ
どんな理由があったにせよ、残影卿、あなたは私の故郷、ダークセイヴァーを支配する支配者…
あなたとあなたの部下に屈するわけには行かないのよ…!
自身への攻撃は地形の利用、オーラ防御で被害を最小限に
もし他の人達がこの戦いを有利にするために地形を有効活用できるのなら
後方から声を掛けてその人達を援護するわ



●救済は誰がために
 時の神話において、オルトロスという名は怪物に用いられる。
 己らを裏切った傲慢なる神々を、その王たる雷神を屠るため、
 強大なる怪物が生を享け、さらに己らの子を女王との間に成した。
 オルトロスとはまさしくその一つである。牝牛を守るもの。
 ただそう生まれたがゆえに、神々と神に連なる者に牙剥くもの。
「なるほど、その名に恥じぬ働きぶりというわけか」
 シーザー・ゴールドマンは、立ちはだかる獣どもをそう評した。
 悪くない。勇猛苛烈とは、この赤を纏うダンピールが好むところである。
 それでいて強ければなおいい、ゆえに彼は薄く微笑んだ。

「……だが、君のほうはずいぶんとわだかまりがあるようだね?」
 声をかけられ、思案に耽っていた青年ははっと我に返る。
 見ればそこには見知った金眼の男。北条・優希斗は曖昧に笑った。
「ええ、まあ。なにせこの状況、あんな経緯でしたからね」
「ふむ」
 シーザーの相槌は短い。そして彼らはそれ以上語り合うことはしなかった。
 オルトロスどもの雪崩めいた殺意がそれをよしとしなかったし、
 優希斗にはけして口に出すべからざる思いが、心の裡にあったからだ。
(――この件、正直なところ全員に罪があるな)
 愛刀を鞘走らせ、機先を制した範囲攻撃で戦端を開きながら、
 優希斗は淡々と冷えた頭で思考する。客観的な分析だ。
(カーラを迫害した街の人間。彼女を見初めた残影卿。そして……。
 恐怖ゆえに仕方ないかもしれないが、処刑を止めなかったカーラ自身)
 なるほど、道理である。だが酷に過ぎるのも、彼が自認するように確かだ。
 生物として、いやさ根本的な存在の異なるオブリビオンに対し、
 街の人々の悪虐をただ耐え抜いた女ひとりに何が出来るというのか。
 道理ではある。道理ではあるが、彼の言う通り罪があるのもまた確かなのだ。

(街というひとつの共同体である以上、彼女のような人は……そう、
 仮に圧制がなくとも、迫害の対象になりうる。悲しいことだけど……)
 牙を剥いて来たる獣を巧みな脚さばきでかいくぐりながら、優希斗は瞑目す。
 人は、自分とは違う存在をことさらに意識する。そうせずにはいられない。
 善きにつけ悪しきにつけ、だ。対等に見るという行為が難しいものである。
 己より上とみなしたならば羨望し、心酔し、あるいは妬んでやっかむだろう。
 下と見たならば勝手な憐憫や哀切を抱き、罵倒して嘲弄しもする。
 共同体の繋がりをより強固にするもっとも手軽で最適な手段は、
 残念なことに排斥行為の他にない。排斥は優位と自己承認をもたらす。
(――だからこそ、俺達はその安寧に抗わなきゃいけない)
 それをよしとしてはいけない。閉塞がもたらすのは緩慢な自殺だ。
 未来を守り過去を退ける猟兵ならば、可能性を閉ざしてはならない。
 優希斗は無限回廊めいた思考の只中、無意識のままに刃を奔らせる。

「さて、この雨だ。私としても少々気分が下向いてしまうものでね」
 そんな優希斗の横顔をちらりと一瞥しつつ、シーザーが嘯いた。
 飛びかかってきたオルトロスに対し、霞めいて片腕を奔らせる。
 直後、オーラの刃が喉笛を斬り裂き、飛びかかった勢いのまま、
 四散した猟犬は雨粒に濡れてどちゃりとぬかるみを転がり、溶け崩れる。
「何事も気晴らしというものが必要だ。さあ、私を楽しませてくれ」
 超越者めいた薄い笑みをたたえたまま、オーラセイバーを振るう。
 赫奕と輝く魔力は、さながらシーザーを包み込む楽団のよう。
 であれば軽やかに振るわれる彼の刃は、いわば指揮棒か。
『GRRRRRッ!!』
「いい気迫だ」
 切り捨てる。咆哮と悲鳴、断末魔がいい具合に音叉めいて絡み合う。
 彼はそれを好ましいと思う。シーザーという男は何もかもを楽しむ男だ。
 肩を並べた優希斗の裡なる懊悩も、それを払うかのような彼の剣も、
 己を試そうとする傲慢で哀れな猟犬どもも、何もかもが好ましい。
「――ふむ」
 だが彼はふと、閉じていた目を開き、金の瞳を後ろへめぐらせた。
 雨の中、品のいい金髪が頬に張り付くことも厭わず、
 見目麗しいオラトリオの少女がぬかるみを駆けようとしている。
 獣どもがそれを許すはずはない。たちまち少女は取り囲まれた。
「邪魔しないで!」
 エリス・シルフィードは、常ならぬ激情を以てオルトロスどもに叫ぶ。
 だがいじましきかな、彼女は傷つけるよりも治癒を能くする猟兵だ。
 よく訓練された兵隊めいて徒党をなし、獣どもは死角から飛びかかり……。

 そして、まったく同時に四体のオルトロスが両断された。
「お嬢さん、無茶はいけないな」
 オーラセイバーを振るったシーザーは慇懃にそう述べて、
「勝手な行動は邪魔になる。俺達の後ろに下がっているんだ」
 残る二体を一瞬のうちに切り裂いた優希斗は、ただそう言い捨てた。
「あ、ありがとう……えっと」
「構わんよ。だがよければ私達のために歌ってくれたまえ」
 エリスが何かを言うより先に、シーザーは指を立てて冗談めかした。
 意図を判じきれない様子で怪訝そうにするエリスに、微笑が向けられる。
「君は彼らを退け、一刻も早く領主のもとへ向かいたいのだろう?
 私達もそれは同じだ。であれば、君のその力を貸してくれたまえ」
 祈りとは、無力なる者に許された最後の悪あがきである。
 エリスに戦う力はない。だが彼女が何も感じず考えないわけではない。
「……わかったわ。ええ、そうよ。たとえどんな理由があったとしても」
 ――少女はただ、祈りを込めて優しく歌い、人を癒やすことしか出来ない。
 ならばそれを為そう。仲間達の背中を押し、傷つくならばそれを癒そう。
 たとえいかなる悪徳があるにせよ、人々の心が醜かったとしても。
 ……囚われたカーラに、仕方なき罪業が課せられたとしても。
「私の故郷を、この世界を支配する吸血鬼が相手なら、私は戦う。
 私は屈さない。必ず、カーラさんを救ってみせるんだから!!」
 祈りとは、無力なる者に許された最後の悪あがきである。
 本来静謐であるそれは、時として斯様な激情を以て乞われることもある。

 オルトロスどもは雨の中を駆け抜け、無限めいて群れ集う。
 赤々としたシルエットに誘蛾灯のそれのように引き寄せられ、
 これ幸いとばかりの破滅の光芒が影どもを薙ぎ払った。
「君達はいい。実に忠実で、猟犬としては利口だ。私は好ましく思うよ。
 だが――いささか数が多すぎる。そろそろ飽いてきた……つまり、邪魔だ」
 ソドムの終焉。形ある破滅。赤公爵の歩みを獣が阻むことは出来ない。
 そして。
「邪魔だ」
 呪われた刃で獣を削ぎ、時に牙と牙を食い争わせながら、
 奥歯を噛み締め優希斗が進む。緩慢に見えて疾き足捌きは敵を寄せ付けない。
「そこを、退け。お前達に用はない」
 斬撃一閃。切り裂かれた虚空が傷跡めいて開き、
 この世ならぬ世界から呼ばわれし無数の刃が雨を切り裂いた。
「俺は、お前達の主に聞きたいことがあるんだ」
 その歩みは王のごとく。無数の剣が突き立った枯野を、青年はしめやかに進む。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルトリウス・セレスタイト
計るは結構だが
多いぞ。気を付けるが良い

破天で掃討
高速詠唱・全力魔法・範囲攻撃・2回攻撃・鎧無視攻撃など駆使し、爆ぜる魔弾の嵐で蹂躙する面制圧飽和攻撃
目標周辺を纏めて巻き込んで回避の余地を残さず、仲間が出ても諸共に爆撃に巻き込んで叩き、攻撃の密度と頻度で反撃する機会を与えず

数の力を更なる物量で圧殺する


カーラのことはひとまず置く
残影卿も後回し
纏めて爆撃で始末、が最適解と判断して実行するばかり



●示すべきは力なのか、あるいは
 ぞるぞると音もなく、雨風の向こうの暗黒が凝り固まる。
 影の名をオルトロスと云う。無慈悲なる猟犬、自我なき配下。
 捨て石になろうと不平不満を漏らすことなく、結果として怒りもない。
 恐怖もない。ただオルトロスは"そうであるから"吸血鬼に従う。
 そういうモノだから猟兵の前に立ちはだかり、ただこう言った。
『お前達があるじの前に侍るにふさわしいか、我らが計ろう』
『我らの天敵よ。貴様らに何が出来るか示すがいい』
 あるものは嘲った。
 あるものは憤った。
 あるものは切り捨てた。
 あるものは楽しんだ。
 では彼はどうか。
 世界の根源、原理を眼にし耳で聴き、肌で触れて手繰るもの。
 人の形をしていながら、情動と心の裡を解さぬ歯車仕掛けのサイキッカー。
 アルトリウス・セレスタイト。ただ鼓動し駆動し躍動する人型の残骸。
 彼は此度の件になんら悲嘆も、憤懣も、ましてや嘲弄も慚愧も抱かぬ。
 いや、あるかもしれない。だがそれはさておこうと決めた。
 "そうと決めたならそう出来るのがこの男"なのだ。アルトリウスというモノ。
 ゆえに彼は傲慢たるオルトロスどもに対し、
 憤懣も嘲弄も悲嘆も辛苦も愉悦も侮蔑もなく、淡々とこう述べた。
「計るは結構だが」
 どくん。そう在るがゆえに脈動する、心の臓腑が鼓動を告げる。
 恐怖はない。焦りはない。萎縮も狂乱も何もない。
 常と変わらぬ、これまでと変わらずこれからも変わらぬであろう規則的鼓動。
 ……それははたして、時を告げるだけの時計と何が変わらぬというのか?
「俺の力は"多い"ぞ。せいぜい気をつけるがいい」
 手を差し伸べ、わずかに上げ、下ろす。
 所作はそれだけ。詠唱に用いる時間はわずかに鼓動ひとつぶん。
 時が進んだ。術式は成った。かくて根源的な死が降り注ぐ。
 青く輝く、おぞましいまでにまっすぐな魔弾の群れ。
 殺意も憎悪も驕慢もなく、淡々と獲物を貫き滅する面制圧の暴威。
 反撃も、逃亡も、復活も悪あがきもなにひとつ。
 ただそう在るだけの獣には許されない。
 彼は、アルトリウスは、そう在るだけの男だからだ。
「――お前達はすべて、行き止まりだ」
 わずかにこぼれた言葉。
 それは、誰に向けたものなのか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

芥辺・有
大層な口を利く犬もいたもんだな。は、言われなくとも。

……しかし、こんな雨ん中じゃタバコも吸えやしないな。
懐のシガレットケースに触れる。どうせならこの雷すら利用するように、白蛇を召喚しよう。
雷を纏う尾で数多の犬を薙ぎ払わせて。噛みついたなら呪詛じみた毒で弱らせるように。
……食らえば身動きもとりづらくなるだろ。鈍ればこちらも戦いやすい。

命じて白蛇を戦わせる影で、その体を盾にしつつ。弱ったものを優先に銃で一匹ずつ仕留めていこうか。すり抜けて近寄ってくるようなら杭で串刺しにするように穿とう。



●空に響く音の名は
 ざあざあと、瀑布のような雨は降り止む気配がない。
 むしろ領主の館へ近づくにつれ、勢いを増しているようですらあった。
「――……」
 懐からシガレットケースを取り出そうとして、芥辺・有は沈思黙考した。
 とん、とん、と思案するかのように人差し指でケースを軽く叩く。
 豪雨である。せっかくのケースも、開けた途端に煙草が湿気るだろう。
「こんな雨ん中じゃ、ろくにタバコも吸えやしないな」
 逆に強情を張ってやろうかとも思ったが、彼女は己を一笑に付す。
 なんの益もない戯れである。それともそんなくだらないことを思いつくほど、
 今の自分は苛ついているというのか? 一体何に?
「私を計る、ね」
 傲慢に言ってみせた、目の前にわだかまる影の猟犬どもに対してか。
「大層な口を利く犬っころもいたもんだ――ハ」
 その後ろ、はるか先に悠然と待ち構えるだろうヴァンパイアに対してか。
「言われなくとも、お前ら全員片付けてやるさ」
 どうしようもなく醜く悪辣な、終わりかけたこの世界に対してか。
 あるいはそこで生きる、やはりどうしようもない人々へか。

 ごろごろと雷鳴が、遠く彼方からかすかに響いてきた。
 オルトロスの群れが雪崩を打って、雨の向こうから呼びかかってくる。
 とん、とん、とん――とん。ケースから指が滑る。向けられた先は獣ども。
「行きな」
 ぞるりと。彼女の影から、巨大な白蛇が鎌首をもたげた。
 無論、超常の力によって呼ばわれしこの世ならぬ霊体である。
 しゅるしゅると蛇特有の吐息を漏らす白蛇は、ぬかるみを這い進み、
 野良犬めいて吼えるオルトロスの喉にぞぶりと毒牙を突き立てる。
 とぐろを巻いて有を包めば、もはや猟犬どもが彼女を害することはない。
 BLAM。"果無"が引き金にしたがって弾丸を放ち、獣の頭を爆ぜ飛ばした。
「動くなよ。狙いをつけるのは面倒だ」
 BLAM、BLAM。当然オルトロスが言う通りにするはずもない。
 そこを逃さぬのが白蛇である。"厳つ霊(いかつち)"とはよく言うたもの、
 尾にはばちばちと紫電が纏われ、ぬかるみもろとも獣を薙ぎ払う。
「だから言ったろうに」
 BLAM、BLAM。時折手近に来る畜生は杭打ちで串刺しに。
 くだらない。だるい。こんなことに何の意味も見出だせない。
 ただただ空虚な女の心の裡に、銃声と雨音がこだまして虚無を加速する。
(――件の女とやらも、こんな気持ちなのかね)
 醜いと虐げられ苛まれた女。
 目の前で己の仲間を殺されて止めもしなかった女。
 未だ見ぬその女の在り方は、何もないはずの有の心の裡に、
 ちり、と静電気めいた何かのパルスを生み出した。
 それは苛立ちか、憐憫か、あるいは――。

 銃声と蛇の吐息とが、遠雷の中にうっそりと響き渡る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霧島・クロト
……なんつーか今回は誰に同情すべきなんだ。
間違いなくカーラって女じゃ同情の余地があるのは分かるがなァ。

【高速詠唱】からの【氷戒装法『貪狼の狩人』】で駆け抜けるぜェ。
高速機動を活かしながら精製した氷塊でオルトロスの口を塞ぐか、
そもそも囀れないように喉笛の辺りを氷剣で掻っ捌くか、だなァ。
どちらにせよ氷の【属性攻撃】【マヒ攻撃】で向こうの機動力は潰すぜェ。

無差別攻撃である以上は耐えなきゃならねェ。
【オーラ防御】でちっとは足しになら良いんだがなァ。

「しっかしお前らの主人の独断のせいで全く悪くねェ奴が恨まれてる訳だ」
「……そんな自分勝手には自分勝手で『推し通る』ぜェ?」
※アドリブ・連携可


御狐・稲見之守
助けるんじゃなかった、などとは思うまい。しかし女、カーラ……その心、化生かヒトか、それとも人形か。

さてさて、これはこれは…手厚い歓迎痛み入るのぅ。影をいくら踏みにじったとて増えるのでは困る。

[WIZ]UC傀儡符、仲間を呼ばれる前に瀕死の奴を我が傀儡とし、その影から呼ぶ仲間をも我が手中に収めん。さ、こちらも鼠算と行こうではないか。

討ち果たすべき敵がいなくなれば傀儡にした彼奴らを共喰いをさせ、残った奴を……ふふ、ワシが喰らわせてもらおう。ああ嫌じゃ嫌じゃ、このようなことをしていてはワシもまた連中そっくりではないか、なァ?



御狐・稲見之守

●ひととけものとけだものと
 降り注ぐ雨粒は、熱を容易く奪い打たれるものを凍えさせる。
 枯野に草木ひとつとて見当たらぬのはそのためだろう。
 こんな暗澹とした空の下、晴れぬ雨に打たれていては、
 たとえどれほど土壌が肥沃であったとしても、草木が育つわけもない。
 人も獣も、あるいは虫も――生き物ならば全て同じことである。
 せいぜいが黴のような菌類ぐらいのものか。だが枯野にはそれすらない。
 つまりここはまったき死と絶望が横たわっていて、いかにもこの世界らしく、
 そして影で編まれた獣どもにとっては最適の戦場であった。
『けどよォ』
 であれば、駆け抜けるこの冷気はなんと呼ぶべきだろうか。
 降り注ぐ雨を凍らせるほどに冷たく、立ちはだかる猟犬を裂くほどに鋭く、
 しかしそこにあるのは死の停滞ではない。絶望の闇ではない。
『俺と俺の咲かす六花は、そう簡単に止められやしないぜェ?』
 霧島・クロト。不敵に笑い、闇を斬り裂き奔る凍気のあるじ。
 纏う鎧は触れれば凍りつくほどに冷たく厳しく不屈不撓、
 だがそれを死や停滞と名付けるのはいささか憚られる。
 おそらくそれは、クロトという男が、その身と心の裡に燃やす力がためか。
 纏う冷気と鎧は冷たくとも、男は決して冷たくも、絶望してもいないのだ。
『さあどうした、自分勝手なコト並べといて不甲斐ねえなァ?』
 北天の加護を纏い、氷によって敵を戒めながら伊達男は気障に笑う。
 この暗澹とした鬱屈たる雨風の中、鎧の下の笑みのなんと頼もしきことか。
『だったら全部まとめてふっ飛ばして、"自分勝手"に『推し通る』ぜェ?』
 獣がそうはさせじを牙を剥く。顎が開かれる前に凍てつかせる。
 氷剣は雨粒を凍らせ砕きながら喉笛をかっさばき、
 ぬかるみは凍てついて獣どもの自由を奪い去った。

 だが次々に凍てつき砕けてこぼれ落ちた総身、正しくはその影から、
 鎌首をもたげて現れる者がある。新たなる猟犬がまた生まれる。
 生まれた猟犬もまた、砕かれ倒れれば影を生み、そして影からまた来たる。
 無限である。地獄の一つはまさに限りなき無辺であるとされるが、
 であればこの光景こそがその顕現か。影の獣、尽きることなし。
 ――だが。"尽きることがなくとも"、それが"獣の味方であるかは別の話"だ。
 ぞるりと影が形を得て、オルトロスという名の猟犬に変じる。
 新たな獣が傷ついた同胞と視線を交わし、氷の狩人を囲もうとした。
 ……倒れ伏したはずの影は、その意に反した。
 轡を並べるべき同胞に牙を剥き、彼奴が吼えるより先に喉を噛み砕いた。
 なぜか? 見よ。かの叛逆の犬畜生の額を見よ。
 影を影とさせぬ符を見るがいい。傀儡に変じさせる神の命を見よ。
 傀儡符。これこそが叛逆を生み出したその理由である。
「手厚い歓迎痛み入るのぅ。どれ、ひとつその流儀に乗ってみたのじゃが」
 くふふ、と小童めいたいたずらな笑みとともに、しゃなりと狐が歩む。
 異色の双眸が小悪魔めいて細められ、鈍い金の輝きが瞬いた。
 御狐・稲見之守。影どもを支配し、己の傀儡として侍らす女。
「そらそら、早うとどめを刺してやるがよい。でなくば主が死ぬぞ。
 それとも同胞に牙を剥くのは、いかに犬ころとてためらわれるかのう」
 けらけら。くすくす。ふふり。
 まるでそれは、戯れに虫を弄び殺める子供のような、
 その姿に見合うが空恐ろしい笑声であった。
 影が新たな犬畜生を喚ばうほど、結果として傀儡も増していき、
 やがて猟犬どもは多大な混乱に包まれた。

『随分エグい真似するじゃねェかい』
 クロトは、稲見之守の仕業を見るにつけ端的にそう述べた。
 彼が纏う貪狼の加護は、強力かつ迅速でそして多大な破滅をもたらす。
 だが無償ではない。代価として持っていかれるのは彼自身の寿命だ。
 獣どもの咆哮が彼ではなく傀儡どもに向いているのは、僥倖ではある。
「ふ、ふ。いたちごっこは困るでな、ならば鼠算でいこうというわけだ」
『言葉遊びにしちゃ趣味が悪ィと思うがね。まァ助かったさ』
 クロトの歯に衣着せぬ言葉にも、稲見之守は妖しく笑うのみ。
「ときに主よ、此度の一件どう思う?」
『あ?』
 出し抜けな問いである。何故にこの状況で、唐突に?
 意を問おうとしても無駄だと、いたずらっぽい眼差しが告げている。
 クロトは口をへの字に曲げ、やや考えたあとこう答えた。
『わかんねェなァ』
「ほう」
『……なんつーかよ、一体俺らは誰に同情すべきなんだ? ってな』
 肩をすくめ、クロトは続ける。
『間違いなくカーラって女に同情の余地があるのはわかるがなァ。
 あの犬ころどもの主人のせいで、全く悪くもねェのに恨まれてるわけだ』
「さもありなん。では、その逆恨みを撒き散らした街の者どもじゃが――」
 稲見之守は言う。それは問いかけというよりも自問のように。
「"助けるべきでなかった"と、ワシらは後悔するべきなのかのう」
『そりゃあ』
 ……言いかけて、クロトは言葉に詰まった。
 否と言うのは簡単だ。事実、自分とて後悔を抱いたつもりはない。
 見捨てればよかったはずはない。命は命だ、どれほど醜くあろうとも。
 しかし、だが。……答えのない煩悶こそ、クロトの先の言葉の理由でもある。

「斯様に獣どもを争わせ、支配し、あまつさえ自ら食いもする。
 ああ嫌じゃ嫌じゃ、これではワシもまた、連中そっくりではないか」
 露悪的に言ってみせ、金色の瞳が"なァ?"と男に問いかけた。
『……是とも否とも、俺にゃ簡単に言えねえがよォ』
 クロトはしかし、ただこう答えることは出来る。
 彼の根っこ、いかなる氷よりも硬く、揺るがぬ信念のままに。
『こんなくそったれみてェな状況に誰彼巻き込んで楽しむ奴ァ、
 とっとと凍らせて砕いて散らばらしちまうのが一番さ。違うか?』
 もっとも邪悪なるものを、与えられた力によって凍てつかせ断つ。
 あとに痛みや哀しみが残れど、少なくとも未来はそれで守られる。
 だからそうする。クロトはそういう男であり、そうしてきたのだから。
「――ふむ」
 言われて稲見之守はしばし考えて、ふと笑った。莞爾と。
「お前さん、善い男じゃナ」
 声音は、それまでと違ってどこか軽やかであったという。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャルドール・プリマビスタ
この胸を抉る感覚は何…?
私は人形、与えられた任務をこなす為の道具。
戦闘能力に支障をきたします、戦闘モードに移行して効率良く動けるように努めます…。
「戦闘モード、移行…シマス…。」
ワタシは…人形……。

SPD
「咎力封じ」を使用シマス
ソノ咆哮は厄介なものデス、封じさせてもらいマス

●補足
基本は一章のものと同様
口調の変化:
戦闘モード中
一人称、二人称と語尾(デス、マス等)のみカタカナに変化

感情を手癖でも表に出さなくなり、戦闘行動を淀みなく実行可能になる
しかし時折見覚えのない人物が脳裏を過る、記憶の中にない、だけど大事な人…。
「……マスター…?」
……理解、不能。この零れた単語の意味は…理解、デキマセン…。



●殺戮人形は雨に舞う
 明らかになった真実、そして突きつけられる命題。
 シャルドール・プリマビスタは、当惑に近い自問自答を抱えていた。
(この、胸を抉る感覚は何……?)
 いまだ情緒の幼い、皆無とすら言えるシャルドールにとって、
 自らが抱えた感情は名をつけることすら難しく何よりも"憚られる"。
 なぜなら己は人形であり、与えられた任務をこなすための道具であり、
 殺し壊し滅ぼすためのチカラに、人間らしい感情は邪魔であるからだ。
「戦闘モード、移行……シマス……」
 ゆえにシャルドールが、自らの手でイドに蓋をすることを選んだ。
 ミレナリィドールとしての思考回路を切り替えて、
 人間らしい情動を示さぬ一個の殺戮人形に変わることを選んだ。
「ワタシは、人形」
 感情を覚えさせない平易な声音。電脳ゴーグルの表面に走査線が奔る。
 錆びた大鋏を構えた瞬間、鮮血に彩られた魔装が雨の中に翻った。

 かくして始まったのは、なんの信念も目的意識もなき蹂躙と殺戮である。
 大鋏は合理的に獲物を策定し、咆哮をあげようとした首をばちんと刈り取る。
 己に噛み付こうと飛びかかる者がいれば、それは真っ二つに割かれた。
「ソノ咆哮は厄介なものデス、封じさせてもらいマス」
 即座の近接戦闘が敵わぬ敵がいれば、躊躇なくユーベルコードを発動する。
 咎力封じ。超常の力によって、手枷や猿轡といった拘束具が招来され、
 雨を切り裂いて飛来。オルトロスの顎を縛り、四肢を戒める。
「ユーベルコードの封印を確認、排除しマス」
 力を振るえなくなった哀れな獣を待つのは、同胞と同じ最期である。
 断末魔すら上げることを許されず、ばちんという断裁音が影の末期となった。
 どこまでも合理的で、なんの無駄も揺らぎもない一方的な殺戮。
 それはたしかに効率的で美しくあったが、同時にどこか虚しく、
 なによりも奇妙な寂寥感と孤独感、そして哀れさに満ちていた。
 殺戮の雨の中で人形は何を思う。いや、そのためのイドは封じ込めた。
 力を咎め戒めるための超常を放ちながら、誰よりも強く縛られるのは、
 誰であろうシャルドール自身。少女はそれをよしとした。

 ……はずだった。
 であればこれは誰だ。脳裏によぎるこの幻影は。
 見覚えのない、名前もわからぬ、記憶していないはずの面影は。
「……マスター……?」
 気がつけばすでに周囲の敵は失せていた。
 雨の中立ち尽くし、シャルドールは答えなき問いを呟く。
 理解が出来ない。この記憶はいつ、どこで、どのようにもたらされた。
 己がこぼした言葉の意味も、記憶の残滓が揺るがす情動の名も。
 その価値も何もかも、ただの人形には答えが出せない。
 雨だけが、シャルドールに降り注いでいた。

成功 🔵​🔵​🔴​

マレーク・グランシャール
抑圧に耐えかねて他者を捌け口とする弱き者と、捌け口として苛まれようが耐え続ける強き者
残影卿の言う強き者とはそういう意味なのだろうか

カーラという女の声が美しいのなら歌ってもさぞ美しいだろう
どうせ聞くなら嗚咽でも嘆きでもなく、自由や喜びを歌わせてみたい
俺のエゴだと分かってはいるが、一緒に歌わないかくらいは誘いかけてみたい

だがまずは館の前に群がるオルトロスどもを排除だ
仲間の攻撃に合わせてUC【ドラゴニック・エンド】を発動して一体ずつトドメを刺す
仲間と連携し追撃の形を取ることで初撃を外す心配は少なくなるだろう
但しこれは集団戦、背後から迫る敵も注意し、槍で串刺しにするか槍を投げるかは臨機応変に


リヴェンティア・モーヴェマーレ
▼アドリブ&他の方との絡み
大歓迎!
もり盛りのモリでも大ジョブです

▼本日のメインの子
響(戦闘特化なハムスター)
他の子が居ても全然大ジョブです

▼【WIZ】
囚われていた方がは無事に避難できたみたいで良かっタ…(ホット胸を撫でおろして)
領主さんの館に行くには、この子達を倒していかなきゃダメなのですネ…
うちの動物の森精鋭部隊もなかなか強いのデスよ!
負けません!

一緒に居た響(ハムスター)が変形してルーンソードとなり、それを持って戦闘開始デス!
ひびちゃん、頑張りましょう!

UCで雹を降らせてぶつけてみたり、土砂降りの雨で動きを鈍くしてみたりなど工夫を凝らして攻撃
[属性魔法]を上乗せして倍率ドン!な気持ち


胡堂・充
人々の心すら病んでいるとは……この世界の闇は想像以上に深いと言う事か。完治するには途方もない時間が必要かもしれないな……
そして『残影卿』、奴の目的は何だ? 囚われている女性との関係も、オブリビオンらしくないような気もする……

――単なる推理だけど、女性……カーラは冷遇されていても、人々を恨んでいなかった。その心の強さが『残影卿』の目に留まり……いや、今は深く推理する暇はなさそうだ。

集団戦では、僕は直接的な戦闘力に欠ける事は自覚しているから、今回は支援に重点を置く。
バイクに【騎乗】し、【おびき寄せ】【時間稼ぎ】で囮になりつつ、負傷した人がいるのなら【他者治癒能力】【医術】で【救助活動】を行おう。


パーム・アンテルシオ
多対多。一つの戦場。
敵味方入り乱れる場に…けれど、味方の数は数十。
ふふふ。こういう時こそ、広く届かせる支援の力が光るっていうものだよね。

ユーベルコード…月歌美人。
たしか…人と人の戦いでも、音楽が重要だったりしたんだよね。
応援歌。軍楽隊。戦場の士気を左右する存在。
私も、そうありたい。いや、そうあろう。
皆が自信を持って戦ってるなら…私も、自信を持たないと。
それじゃあ…ミュージック、スタート。ふふふ、激しくロックな曲をお届けしちゃおうかな。

守ってくれる仲間がいるなら、勿論、お任せしたいけど…
この乱戦の中、絶対に守って貰えるとも限らないから。
気の防壁。自衛の準備も、しておくべきだよね。

【アドリブ歓迎】



●入り乱れる戦場、入り乱れる思念
 雨粒に混ざり、硬く鋭い雹が降り注ぐ。
 飛礫めいた自然現象を避けようと、オルトロスの足並みが大きく乱れた。
「そこデスっ!」
 気合一閃、狙いすましたルーンソードが獣の喉笛を切り裂く。
 ユーベルコード"Phainomenon・Archean"によって自然現象を引き起こし、
 オルトロスの統率が混乱した瞬間に近接戦闘を挑む――これすべて、
 リヴェンティア・モーヴェマーレによる効果的な作戦だ。
 降り注ぐ雹も勢いを増す雨も、すべて彼女の魔力が籠もった魔法攻撃である。
 ゆえにオルトロスが避け損なえば、それ自体が奴らのダメージとなる。
「そう簡単に逃しはしないぞ」
 一時撤退し戦線を立て直そうとするオルトロスに、容赦のない追撃が飛んだ。
 リヴェンティアの攻撃に合わせ、マレーク・グランシャールが龍槍を振るう。
 槍の一撃によって串刺しにされたオルトロスが、泡を吹きながら振り向き、
 せめて一矢報いようと大口を開いた。あいにく、悪あがきに過ぎない。
 続けざまに召喚された龍が、マレークの意思に従い獣を噛み砕く。
「よくやった、いい子だ」
 碧眼の小龍はあるじの言葉にうやうやしく忠義の礼を取り、
 そして碧玉を嵌めた優美な長槍に再び変じる。油断なき追撃と言えた。

「おおっ、あなたのドラゴンもすっごく可愛らしい気持ち!」
 実はリヴェンティアが振るうルーンソードも、本来は別の姿を持つ。
 このたくましい剣が、実はハムスターの形をとるとは誰が思えようか。
「褒め言葉と受け取っておこう。だが雑談をしている余裕はないぞ」
「大丈夫デス、うちの動物達も私もなかなか強いのデスよ?
 この調子で一網打尽にしていけば、あっというまに大勝利なのデス!」
「だといいのだがな」
 マレークは冷静に敵の動向を見定めた。
 リヴェンティアの範囲攻撃を警戒し、オルトロスの陣形は徐々に散開し、
 個々が機動力を生かして波状攻撃をかけるというゲリラ戦術に変化している。
(それでも一体一体を確実に仕留めていけば、いずれ道は開けるだろうが……)
 戦闘時間は想定以上にかかるだろう。あまりいい傾向とは言えない。
 とはいえ敵を誘い込めば、おそらく包囲され深手を負うことになる。

 その時である。雨の彼方から響いてきたのは一台のバイクのエンジン音。
 見れば改造著しいと思しきオフロードバイクに乗り、
 白衣をはためかす医師が大きな声でオルトロスどもの注意を惹いている。
「さあ獲物はこっちだ、俺を仕留めたいならさっさとかかってこい!」
 普段の丁寧で礼儀正しい口調をあえてかなぐり捨て、
 胡堂・充が蛮勇めいてオルトロスを挑発する。影の猟犬どもは、
 その意図を訝しむことこそあれど、所詮は獣ゆえかあっさりとひっかかった。
「敵はこちらで惹きつけます!」
 リヴェンティアとマレークのいる場所へ突っ込み、すれ違いざまに充が言う。
 彼は自ら囮になろうというのだ。効果的だが、かなり危険性の高い策である。
(僕の力じゃ、真正面から戦ってもオルトロスどもには敵わない――)
 ゆえにオルトロスの群れが追いついてしまえば、充には為す術もない。
(それでも、この場で後ろに引っ込んで、黙って見ているのは嫌だ!)
 だからあえて危険の高い役目を自ら買って出たのだ。
 医者であり、医者であることにアイデンティティを置く充にとって、
 人々の心すら病ませるこのダークセイヴァーの闇は許しがたい"病巣"である。
 被害者と言うべきカーラを保護する、ヴァンパイアの思惑にも疑問はある。
 だがすべては、この場を突破して吸血鬼のもとへたどり着かねば解決しない。
「さあ来い、それとも俺の足には追いつけないのか!?」
 オフロードバイク"マックス"が、雨風よりも高らかにエンジンを吹かす。
 すさまじい速度で猛追するオルトロス。その差は徐々に縮まりつつある!

「あ、あれ、大丈夫なのデス!?」
「さっさと一網打尽にしてやらねばまずいことになるな」
 リヴェンティアとマレークは顔を見合わせ、互いに頷きあった。
 充は非常に綱渡りな状況にあるが、敵の散開線術が無力化されたことも事実。
 あとはどこで仕掛けるか。そのためには一糸乱れぬ連携が必要になる。
「へ、変なタイミングで私の魔法を使ったら、巻き込んじゃう気持ち!」
「とはいえもう速度を落とすことは出来まい。どうタイミングを合わせる……」
 雨の中を駆け、充と充を追うオルトロスの群れめがけ二人は走る。
 マレークは思案した。リヴェンティアの使役する動物部隊でも、
 フルスロットルで枯野を駆け巡るバイクには追従できまい。
 かといって大声でタイミングを知らせるだけでは、オルトロスにも悟られる。
「なら……私の出番だね」
 そこに現れたのは、桃色の髪をなびかせる妖狐の少女。
 パーム・アンテルシオはふふ、といたずらっぽい、自信げな笑みを見せる。
「敵味方入り乱れる場だからこそ、広く届かせる支援の力が光るっていうもの。
 それに人と人との戦いでも、音楽が重要だったりしたんでしょう?」
「なるほど、歌か!」
 マレークは感嘆した。サウンドソルジャーの歌声ならば、あるいは!
「おお、お歌を歌えはイイのです? 私も歌っちゃう気持ち!」
「いや、それはいい。しかしそうか、歌か――」
 ウキウキと美声を披露しようとするリヴェンティアにツッコミを入れつつ、
 マレークは一瞬だけ物思いに耽り、そしてすぐ我に返って冷静に思考した。
 今はそんな暇はない。パームの提案に乗るのが最善だ。

 古来より、戦場において趨勢を大きく左右する要因は数多く存在する。
 だがその中で最たるものは、他ならぬ兵士の士気にこそあるだろう。
 優勢に立てば人々は勢いづき、劣勢に追い込まれれば当然怯む。
 本来であれば劣勢でこそ意気軒昂を保ち敵をはねのける強い心が必要になる、
 それを自ら発揮できるならば、あれやこれやと作戦を考える必要はない。
 ゆえに軍人や戦士達は様々な方法で、兵士達の士気を鼓舞する方法を考えた。
 応援歌。軍楽隊。あるいは国家や思想信条に則した勇壮な旋律。
 それはいわば――この暗闇の世界に、希望を届ける光明そのもの。
(私に、ううん、私だから出来ること。あるとするなら――)
 そうありたい。そう在ろう。仲間達の自信を鼓舞し守るためには、
 誰よりも己自身が、自らの力を信じ、それを示さねばならないのだ。
 パームは雨の中で強く意思に鞭をくれ、そして旋律を奏でた。
「こういうときには、やっぱり――激しいロックでいってみようか」
 暗澹たる世界には不釣り合いな、ギザギザとしたビートが響き渡る。
 ざあざあと降り注ぐ雨粒にすら負けぬ、がなりたてるようなサウンド。
「ミュージック、スタート! 皆、どうか私の歌声で――」
 この暗闇を斬り裂き、払いのける強き幻想を、ともに。

 力強い旋律と歌声は、結果としてオルトロスどもの注意を惹く。
 本来奴らは、最初に狙いと定めた充から意識をそらすべきではなかった。
 孤立して歌い踊るパームを潰すか、それともあの小賢しい男を狩るか。
 思考は迷いに繋がり、そして迷いは間隙へと堕していく。
「よし……! 今です、お願いします!!」
 ギャリリリリッ!
 ぬかるみを弾き飛ばしながらドリフトし、充が大きな声で叫ぶ。
 はずんだ鼓動のような速いテンポのビートは、
 彼だけでなくリヴェンティアやマレークの動きにも統率を与えた。
 オルトロスどもが敵の意図を察するより先に、どっと雨が降り注ぐ。
「倍率ドンの魔力入り大雨、たっぷり味わってほしい気持ち!」
 オルトロスどもの姿すらかき消すほどの瞬間的な豪雨は、
 まるでこの激しいロックサウンドに火照らされた猟兵達の体温のように、
 熱く、雄々しく、狂おしいまでの熱をもたらす火属性の雨である。
 影の身体を責めさいなむ熱量に、猟犬どもは咆哮することすら出来ぬ!
「ぬかったな。これが、俺達の"出来ること"だっ!!」
 マレークは降り注ぐ熱雨を斬り裂き、電光を纏う槍を振るった。
 刺突。串刺しにされたオルトロスの影から、新たな個体が現れようとし、
 召喚された龍の顎によって喉笛を切り裂かれ、あわれ四散して果てる。
 当然突っ込んだマレークやリヴェンティアの肌も熱雨によって苛まれるが、
 そこで充の"他者治癒能力"の出番である。彼の掌は触れたものを癒やすのだ。
「傷は僕が癒やします、この機会を逃さぬように!」
「そう――立ちはだかる敵を、みんなの力で倒しちゃおう」
 パームの歌声は、さながら一斉攻撃を指示する将兵の号令である。
 マレークの槍が、リヴェンティアの剣が、そのたびに振るわれ敵を屠った。

(抑圧に耐えかね他者を捌け口とする弱き者と、悪虐に耐える強き者――)
 狂乱にも似た高揚の中、冷えた頭でマレークは思考する。
(それが残影卿の云う強弱ならば、カーラとやらの声はさぞ美しいのだろう)
 だがそれは、嗚咽と悲嘆という虚無によってもたらされる美だ。
 生命の埒外、過去を否定し未来を守る猟兵が肯定してはならぬ美だ。
(どうせ聞くならば、嗚咽でも嘆きでもなく、そう、今の俺達のように)
 自由や喜び。人が当然として得るべき、当然の権利と未来を。
 たとえそれがエゴであり感傷であったとしても、そう願わずにはいられない。
 歌声は響き渡る。それは、降り注ぐ雨よりもなお高らかに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

松本・るり遥
真姿:青と金に瞳が色付く

ああ、そうゆうーー
人間が一番怖いって、よくあるオチ

イヤフォンに疾走感のある青いサウンドを流して、戦闘に震える『勇気のない』俺に人格を固定。喉が震え、地を踏みしめる。

「何か出来なきゃ駄目なのかよ!!!
ああ俺にはカーラを助ける力は無えし!!人々を赦す器も無え!!みっともねえ弱虫だ!!
嗚呼畜生ーーみんな死んじまえばいいのに」

ああ本当にどうしようもない、美点の一つもない剥き出しの弱さ。少しでもこれを嘲笑ってくれるならば、不完全な人間主義は成立だ。猟犬達を麻痺が襲う。

みんな死んじまえばいいと泣きながら、全員生かして、お前を殺しに行く
誰も幸せになれないんだろうな
綺麗な声、聞きたいな


雨乃森・依音
――俺たちはなんのために戦うんだ?
ああ、ああ
わかってる
元を辿れば悪ぃのは圧制を敷いていた領主だ
だけどさ、そいつを倒したらカーラって女はどうなんだ?
これからまた一人で生きていけって
元の街に戻って、またあいつらと一緒に暮らせって
言えるのか?俺たちに
――無責任に“生きろ”なんて言えるかよ…

そうだな、まずは仕事だ
ソテル、お願いだ
領主までの道を切り拓いてくれ
俺はソテルが思う存分戦えるように、後方でギター掻き鳴らして歌って支援だ
攻撃は野生の勘で躱す

ああ、ちくしょー!
神様なんていねぇ!そんなもんわかってる!
けれど
救ってくれって

願わずにはいられねぇよ…
ソテル、なぁ
俺を救ってくれたみたいにさ

ああ、雨がやまねぇ…


緋翠・華乃音
エゼキエル書7章10節
『見よ、その日を。また見よ、かの日が来た。あなたの最後の運命の日が来た。不義は花咲き、高ぶりは芽を出した』

――誰も彼も、俺と同じく運命の被害者だったという訳か。

ユーベルコード"瑠璃の瞳"の範囲内で戦場を広く把握出来る場所(可能な限り遠距離且つ高所)に目立たぬように潜伏。
伏兵として最初は敵を観察しつつ様子見・情報収集。敵の攻撃パターンや回避行動等の情報を収集・分析し、見切りを行う。
合わせて常に優れた視力・聴力・直感を生かして戦況を把握。
後は敵の注意を極力引かぬよう、猟兵達への援護射撃に徹する。
場合によっては貫徹弾や高速弾などの銃弾を使い分け、戦闘に有利になる技能は適宜使用。



●主のことば此処に非ずとも
 ――見よ、その日を――。
 ――また見よ、かの日が来た――。
 ――あなたの最後の運命の日が来た――。
 ――不義は花咲き、高ぶりは芽を出した――。

 神の言葉を伝えし預言者の書に曰く、怒れし神はこのように言い給うた。
 暴虐は悪の杖となり、群衆はおろか彼らの持つ富も何もかもが消えて失せ、
 街に居るものは剣によって、内にあるものは病と飢えによって死すと。
 喜びも哀しみもあってはならない。主なる神の怒りは全て等しく降り注ぐ。
 怒りの日(ディエス・イレ)が来る。流血の咎を贖う運命の滅びが来ると。
「……誰も彼も、いつの世でも、すべてみな運命の被害者だったというわけか」
 雨の中、息を潜めた緋翠・華乃音はただそう呟いた。
 哀しみも喜びもない。彼は神を信じず、しかしその書物を愛読した。
 猫めいた男はただこの枯野を、ここに至るまでの人々の業を俯瞰する。
「"彼らは荒布を身に纏い、恐れが彼らを覆い、全ての顔には恥が顕れ、全ての頭は髪を剃り落とす"」
 書に曰くの言葉は、なるほどあの怯え恐れ恨んだ民衆そのものか。
 であればその悪徳を裁くことなく、こうして敵を目指す我らはなんだ。
 彼らに降り注ぐべき神の怒りでもなく、聖所を汚す悪徳の輩でもない。
「――神の眼はここになく、ただ俺の眼だけがここにある」
 そう在るように作られたモノは、濃藍の瑠璃は影どもの跳梁を見逃さぬ。
 全てを俯瞰し見下ろしながら、しかし華乃音自身が手を出すことはない。
「"終りが来る。その終りが来る。それが起こって、あなたに臨む……"」
 見よ、終わりが来る。
 泣き叫び、苦しみ、悩み足掻き怒り叫ぶ、神ならぬ怒りが来る。
 それは本来、救われ苦悩を灌がれるべき、弱き者どもであるはずなのに。

●怒りの日
「――俺達は、何のために戦うんだ」
 殉教者めいて当て所なく枯野を往く、一人の男が呟いた。
 それは誰に向けたものでもない、ゆえに誰も答えられぬ問いかけである。
 雨乃森・依音は言葉を紡いでいたが、その向かう先は己ですらない。
「ああ、ああ。わかってる」
 ゆえに自らの言葉に応える声音は、まるで空虚で当て所がなかった。
 たしかに呟きは己の問いかけを受けてはいたが、それは答えではない。
「もとを辿れば、悪いのは領主だ。人々を苦しめていた吸血鬼だ。
 ――だけどさ。そいつを倒したら、虐げられた女はどうなるんだ」
 カーラ。
 苦しめられ、苛まれ、しかし悲嘆し嗚咽するだけで何もしなかった女。
 何も出来なかった女。抗うすべも、救ってくれる手もなかった女。
 おそらくはこの世界に、ただ一人放り出されるであろう哀れで醜い子羊。
 猟兵にその存在に対しての責務はない。彼らの役目は過去を滅ぼすことだ。
 圧制を敷き、世界に暗澹の過去をもたらすヴァンパイアを滅ぼすことだ。
 女が一人で野垂れ死のうが、仮初の悔いを噛み締めた人々の輪に戻ろうが、
 そこに責任はない。放っておいてもいいし、それらしい言葉をかけてもいい。
 ――だが。
「言えるのか、俺達に」
 ここで首を切って死ねと。
 あるいは一人で生きるがいいと。
 はたまた、人々と仲直りして強く生きていけと。
 言えるのか。ただそうであるがゆえにここへ来て、
 そうであるがゆえに敵を滅ぼすであろう己らに。
 今の今まで何が起きていたかを知りもせず、そうであるから命を救い、
 そうであるから女を救って"しまう"であろう、傲慢で勝手な自分達に。
「――無責任に、"生きろ"なんて。言えるかよ」
 少なくとも依音には、そんなことは"出来はしない"。

 一方で同じように、ただ一人枯野に立ち尽くす男がいた。
 とってつけたような冷笑を浮かべ、なお冷たく無慈悲な雨のの中で笑う。
「ああ、ああ。そういうやつか。"よくある話"だ」
 ヒトの域を超えたモノでも、ヒトに仇なす恐ろしい魔物でもなく、
 誰よりもただの、普通で、何の力もなきヒトこそがおぞましく恐ろしい。
 子供でもわかるような、ありもしない"ヒトの宿業"とやらを、
 それらしく戯画化し、露悪的に描いた、古今に溢れるありふれた寓話。
「"人間が一番怖い"って。ハ、いかにも"よくある話"だ」
 それを歌うことに何の意味がある。指摘したところで何が変わる?
 空を青いと指差すことが、太陽は眩しいと大声で叫ぶことが、
 一体全体何を変えるというのだ? 空が赤くなるか、太陽が昏くなるか?
 何も変わらない。だが"なにかをなしたような気がする"。
 きっと、救われて悔いを見せた人々も、贖罪をしたような気持ちなのだろう。
 何も変わらない。何も出来ない。だが、松本・るり遥は、それこそが。
「何かが」
 イヤフォンを伝い、鼓膜を苦しめるエッジな青い疾走が耳朶を駆ける。
 頭がガンガンとハンマーでぶん殴られ、喉が震え、足は地を踏みしめた。
「何かが出来なきゃ、ダメなのかよ」
 見据える。獣ども。問いかけを発した影の畜生どもに。
「なあ」
 こわばる鉤爪めいた手を、手に力を込めて、思いきり握りしめて。
「何かが出来なきゃ、ダメなのかよッ!!!」
 吐き出した激情によって点火し、双眸が青と金に輝いた。

 だが大気を揺るがす響きは一つではない。
 るり遥を閉じ込めた音の牢獄と、奇妙なくらいにシンクロする弦の音。
 依音がかき鳴らし、喉が裂けんばかりに響かす、すがるような歌声。
「ソテル、ソテル、お願いだ。俺達の道を切り開いてくれ。
 ソテル、ソテル、お願いだ。どうか存分に戦ってくれ」
 名状しがたきモンが応えた。この世ならぬ力で歌に応えた。
 触手が敵を絡め取り、影もろとも押し潰し、生まれた獣を捕食する。
「ああ畜生、ああ畜生! 神様なんていやしねえ、そんなもんわかってる」
 依音は謳う。神なき世の絶望、それでもなお願わずには居られぬ己の弱さを。
「ああ畜生、ああ畜生! 俺には救う力も、赦す器もねえ。ただの弱虫だ」
 るり遥は謳う。救済も浄罪も出来ず、ただ皆死ねと願う己の矮小さを。
 歌声も節も旋律も、詩も技術も何もかも違うというのに、
 降り注ぐ雨をはねのけて響く声は、どちらも奇妙に似通っている。
「願わずにはいられねえ。なあ、ソテル。なあ。俺を救ってくれたみたいにさ」
「泣かずにはいられねえ。ああ、畜生め、ああ。みんな死んじまえばいいんだ」
 豪雨の中、かき鳴らしがなりたてる男達の相貌は見通せぬ。
 見通せるのは、ただそれを神めいて睥睨する華乃音だけ。
 ――彼らが泣いているのかどうか、それがわかるのは華乃音の眼と耳だけだ。

「"そのうちの、逃れる者は谷間の鳩のように山々に行って、"
 "各々が皆、その罪のために悲しむ。"
 "両手とも弱くなり、両ひざとも水のように弱くなる――"」
 ただ孤独に華乃音は預言者の受け給うた神の言葉を謳い、
 ただ一人のまま、神の怒りめいた弾丸を降らせていく。
 歌声を、不完全なる人間主義の嘲笑に足を止めた獣どもを打ち据える。
 逃れた者はまた、この世ならぬ魔物の慈悲深き触手に絡め取られた。
「……誰も彼もみな、運命の被害者に過ぎない。抗うことは出来ない」
 達観的なことをこぼしながらも、華乃音は響く歌声をせめて聞き届けた。
 嗚咽と、依存と、弱さと、脆さと、希望を求める男達のか細き詩を。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリーシャ・マクファーソン
人と違うから『化け物』か。
夜の闇が支配するこのダークセイヴァーでは、そういった共通の贄が欲されるのでしょうね……実にくだらない。
身近な隣人も救えなくて、自分だけが救われるなんてあるわけないでしょうに。

さて、煩わしい救出劇は終わりよ。あとは吸血鬼の元に向かうだけ。
その前に、邪魔な番犬共を蹴散らすとしましょうか。

敵の数は確かに多い。けど、悪いことばかりじゃないわよ?
敵が多いということは、私に多くの傷跡を残す……血を流させる。
ならば、返礼をしないと失礼よね。

【百華凍刃】

あなたたちが私を傷つければ傷つけるほど、氷の刃が襲い掛かると知りなさい。


フェルト・フィルファーデン
退いてちょうだい。わたしはここの領主とカーラ様に用があるの。……邪魔をするなら、容赦はしないわよ?

まずは敵を出来るだけたくさん、周辺に誰もいないところまで引きつけましょう。
耳を塞ぎ、目線や動きで【フェイント】をかけ敵を誘導、【第六感、野生の勘】で攻撃範囲ギリギリで躱すの。
受けられる攻撃は騎士の盾で【盾受け】よ。多少のダメージは【激痛耐性】で耐えるわ。

充分な数引きつけられたら、みんな纏めて片付けましょうか。ちょうど、雨も降っていることだしね?
……雨よ、凍りつきなさい。礫のように降り注ぎ、その者達を打ち滅ぼして!

最善の結末のために、わたしはこんなところで止まるわけにはいかないのよ。



●災厄の過去、最悪の現在、最善の未来
 オルトロス。
 怪物の王の子の名を与えられし、影の猟犬ども。
 影によって構成されし、そうあるがゆえに吸血鬼に従うものども。
 奴らに慈悲はなく、容赦なく、同時に意義も拠って立つべき思想もない。
 ならばそれを誘い集め、求める結末へ惹きつけるのはいかにも容易だった。
「さあ、さあ、こっちよ!」
 数多の騎士達を従え、フェルト・フィルファーデンは笑顔で謳う。
 妖精めいて舞い踊り、耳を塞いで咆哮を防ぎ、盾を構えて牙を弾きながら。
 オルトロスどもは愚直に従う。姫君を引き裂き喰らおうとやってくる。
「邪魔な番犬ども、たかが小娘ふたりに追いつけぬと云うの?」
 一方で、冷徹な眼差しと言葉を以て挑発する者も居る。
 アリーシャ・マクファーソン。青髪の小悪魔に騎士はいない。
 盾はない。耳朶を塞ぐこともなく、寵姫よりも悪辣に敵を痛罵する。
 ゆえに咆哮が放たれるたび、その身は傷つき裂かれて血を飛沫かせた。

「アリーシャ様、あなた――」
「いいの。いいのよ。私はこれでいい。あなたこそ油断しないで」
 フェルトは、共に敵を惹く娘の姿をどう受け止めたのか。
 危ういと見たのか。自暴自棄めいた振る舞いに憐憫を抱いたか。
 愚かと嘲ったか、あるいは――己を省みぬさまに、同族嫌悪を抱いたか。
「ええ、ええ、ならばいいでしょう。さあ騎士達よ!」
 かくて姫は耳を塞ぐ。それ以上問うことなく敵を喚ばう。
 獣ども、影の猟犬、オルトロスどもは泡を吹いてそれを追う。
 逃げるものと追うもの、猟兵とオブリビオン、未来と過去。
 守護者と破壊者、獣と少女、狩るものと狩られるもの。
 逃避行は当て所のないものに見えて、しかしある一点に向かっていた。
 彼女らはともにそれを確認し、目的ゆえに共闘することを選んだ。
 フェルトは騎士達の守りを立て、なおも来る痛みを耐えることを選んだ。
 アリーシャは傷つくことをよしとし、流れる血を雨粒に混ぜ込んだ。
 獣どもは血の臭い、か弱き姫の声に惹かれてなお集まる。
 行き先が、己らにとっての終焉であるとも知らずに。

 ――かくて、ふたりの少女はついに追い詰められた。
 周囲には百を超すであろう獣どもがわだかまり、徒党をなし、
 妖精姫とてかいくぐれぬほどに隙間を殺して獲物をなぶった。
 脱出不能、生還不可能、狩られる他になき包囲網である。
 獲物に許されるのは恐怖し、震え、あるいは無為な命乞いをする他になし。
 何故ならばここに救いはない。横たわるのは暗澹たる闇だけならば。
 覚悟を以て最期を受け入れるなど、驕った振る舞いは許されない。
「……これで、辺りの獣は全部かしら」
 雨を見上げ、騎士達の守りを固めながらフェルトは言った。
 背中合わせに、全身に無数の傷跡を負ったアリーシャが立つ。
「ええ、そうね。状況は似ているけれど、煩わしい救出劇よりずっといい。
 ……何もかも、ずっといい。化け物だとか、贄だとか、くだらないことより」
 アリーシャはダンピールである。呪われた血の半妖である。
 ゆえにか、あるいはそれに連なるなんらかの因果ゆえか、
 氷血の魔女は、この世界に非ざる青空をなびかせる少女は、
 ただひとつきりの未来を求める。
 ヴァンパイアを追討し、滅ぼし、殺す。ただその結果のみを。
「そうね。最善の結末のために、わたしはこんなところで止まれない。
 ……邪魔をするならば、容赦はしない。さっさと片付けましょうか」
「そうね。傷跡は残された。ならその返礼をしなければいけないもの」
 少女達は空を見上げる。終わりなき豪雨をもたらす黒雲を。
「我が氷の血よ」
 蒼をなびかす虚無的な少女は己の裡に呼びかけた。
「降り注ぐ雨よ!」
 絶望を否定するため、形なき希望に微笑む妖精は雨に呼びかけた。
「この傷、この痛み、この過去(いたみ)を以て――」
「我が糸、我が意思、我が過去(きぼう)によって――」
 口訣は対称的なれど、求めもたらされる結末はただひとつ。
 獣どもは吠え猛り飛びかかる。そして終わりが降り注ぐ。
「「凍りつき、飛礫となって降り注ぎ、この者らを討ち滅ぼせ」」
 かくて冷気が蔓延り、雨は降り注ぐ死、獣を縫い止める氷の針となる。
 ふたりはぴったりと背中を合わせる。爆心地は無差別攻撃の対象外。
 "百華凍刃"。"Freeze-destruction"。
 名も口訣も、術理も異なる、しかしともに同じ結果を与える二つの超常。
 冷気が雨粒を凍らせ、獣どもを貫いた。縫い止めた。そして滅ぼす。
「……これはすべてあなた達がもたらした傷のせい。氷の刃は因果の応報」
「わたし達の道を塞いだ、あなた達の愚行が支払った代償なのよ」
 傷ついた少女は佇んだ。騎士を従える妖精は見下ろした。
 辺りにはもはや、影一つとて遺されてはいなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
◆アドリブ歓迎
◆ヌル(f05378)と

戦場全域を知覚し
敵の動きとヌルの生み出す武具の動き
双方を把握しながら動くよ

ヌルの攻撃が着弾したうち
絶命していない相手の息の根を止めていく
影から影が生まれるなら元を断たないとな
既に新たな個体が生まれた後なら動き出す前に仕留める
瀕死だとまずいなら、即死させればいいんだろ

しめて120本ってとこか
確かに、これをこなすのは素直に感心する
……並列演算、疲れるからあんまりやらないんだよな
それに、そうはいっても120はさすがにちょっと桁が違うしさ

疲れてない?
そっか、じゃ、もう少し手を借りるかな

ああ、ところで
マスターも勿論だけど
それを扱えるヌルも、十分すごいと思うけどな


ヌル・リリファ
アドリブなど歓迎
匡さん(f01612)と

性能をみせるって約束だから。ちょっと系統のちがうわざもみせるよ。

このひたいの宝石、サイキックエナジーをためるのがおもな役目なの。それをつかえば、こうやって。(⦅死斬光雨⦆を発動。)沢山のひかりの武器をうみだしたりできるよ。
これはすこしよけたくらいなら、こうやって追撃できるのが便利かな。(飛んで行った剣を避けたオルトロスを後ろからその剣で切り裂いてみせ)

これ全部を、管理できる演算機能も結構自慢なんだ。
……どうかな?

ありがと!マスターはすごいからね!
そんなに負担じゃないよ。
サイキックエナジーはメインエネルギーじゃないからね。まかせて!



●悲嘆、憐憫、いずれも不要
 嘆く者が居た。
 憤る者が居た。
 あえてそれらを殺す者もいれば、
 すべてを冷笑する者もいた。
 ダークセイヴァー。蹂躙され滅びへ向かう闇の世界。
 そこで起きた悲劇と醜悪と、悪意と敵意に見せた顔は万華鏡のよう。

 だが彼らには、鳴宮・匡とヌル・リリファにはそれはない。
 まるで公園の日向を目的もなくぶらぶらと歩くかのような足取りで、
 活気賑わう市場を見て楽しむかのような他愛もない眼差しで、
 降り注ぐ雨と、横たわる暗澹と、立ちはだかる獣どもを見ていた。

「ねえ、匡さん。こういうのはどうかな」
 ヌルはまるで覚えたての知識を披露するあどけない少女めいて、
 己の額に埋まった蒼の宝石を指さした。そしてそのまま敵の群れを示す。
 口訣なき意思に従い、超常の思念によって編まれた光の武具が宙に舞う。
 影を照らし、次なる獣が生まれる可能性と間隙を削り取りながら、
 合わせて百と二十の光撃が獣の群れを雪崩めいて打ち据える。
「へえ、見たところサイキックエナジーで動いてるみたいだな」
 対する匡は、関心と感心でもって少女に応える。
 それはいかにも、幼子を微笑ましく見守る大人のようであり、
 しかし彼が見もせずに向けた銃口と、トリガを引いて放たれた弾丸は、
 殺戮者以外の何者でもない破壊と滅びを、生き延びた獣にもたらす。
 即死である。結果として、新たな獣が生まれることはありえない。
「うん、そう。この宝石は、エナジーをためることができて」
 それを使えばこの通り。第二波めがけ、降り注ぐは輝ける死。
 絶望を払う無数の輝きと綽名されたそれは、たしかに影を切り裂いている。
 死を裂き、光の雨で過去を、闇を打ち据えて、諦めを踏破するのだろう。
 だがあいにく、力があれど、振るう当人には希望も挟持もありはしない。
 ヌルは最高傑作たる機巧少女であり、それこそが彼女の寄す処であり、
 以て当然として破壊をもたらす。いわば空虚で伽藍じみた光である。
 輝かすべき意思がないならば、それは虚無の闇と何が違うというのだ?
「それに、こうやって追撃もできるし。便利でしょう?」
 弾丸と光を避けた利口な獣を、死神の鎌じみた斬撃が追い詰めた。
 碧眼をきらきらと宝石めいて輝かせ、自慢げにヌルは匡を見つめる。
 超力の保持、発揮、拡散とそれぞれを並列支配する演算機能。
 いかにも強大である。いかにも優秀な能力である。
 だが、所詮は道具でしかない。たかが優れた兵器でしかない。
「……どうかな?」
 それを悲しいと思うことも、虚しいと思う気持ちも彼女にはなく、
 ゆえにその問いかけは、兵器としての価値を求めるものだった。

「並列演算、疲れるからあんまりやらないんだよな」
 BLAM。それを受け、答えるべき男も、はたから見ればなんと哀れなことか。
 男は己の裡に沈み生じたものを知らず、知ったとしてそれを認めない。
 不要と断じ、切り捨てて、深き深き海の底へと再び沈めてしまう。
 たしかにそれは戦うものとして理想的な振る舞いだろう。
「素直に感心するよ。120なんて、さすがにちょっと桁が違うからな」
「ありがと! マスターはすごいからね!」
 なるほどそれは、戦場で生きるには最適で合理的な思考だろう。
 だが拠って立つ信念すらなく、ただ殺し生きるモノは人と呼ぶべきなのか?
 ただそう在るから、そう出来るから殺し壊すものは、あの獣と何が違う?
「――……」
「匡さん?」
「ああ、いや。悪い」
 BLAM。死にかけた同類(けもの)にとどめを刺す。
「ヌル、疲れてないか?」
「ううん、大丈夫。このくらいなら負担じゃないよ」
 降り注ぐ光が、当たり前のように滅びをもたらす。
「そっか。じゃ、もう少し手を借りるかな」
「サイキックエナジーはメインエネルギーじゃないからね。まかせて!」
 はつらつと少女は応えた。少女のカタチをした何かは言った。
 ……青年のカタチをしたものはそれを見て、また何かを感じた。
 彼はそれの名を知らぬ。だが不要であるとはわかっていた。
 だからこれまでそうしてきたように、また海の底へ鎮めようとして、
「――ああ、ところで」
「ん? なあに?」
 見返す碧眼に、そこに映った己の瞳を見つめようとして、目をそらし、
「マスターも勿論だけど。それを扱えるヌルも、十分凄いと思うけどな」
「――……」
 少女は何を感じたか。哀れな虚にそれらしい情動でも芽生えたか?
「……ありがとう」
 平易な声音からは、何も悟れない。
 彼らは己らの空虚も哀れさも何も知らぬまま、当たり前のように枯野を征く。
 何もかもを可能とするはずなのに、何も出来ぬ愚者のように漫然と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月宮・ユイ
さて、まずは番犬達がお相手ね
数には数で対抗しましょ
【機能強化『学習、感覚』】
”生命力吸収、吸血”【不滅霊団】
死霊:狼、王:巨狼、体内に術者収納
死霊の”視力”感覚も借り、敵を”見切り、情報収集。知識”の蓄積更新利用
力増す王と王と共により強く変異し増える死霊で素早く数減らす
再生可能な死霊はその身盾に仲間を”かばい、盾受け”も

周りに頼もしい仲間いるせいか、雑念が混ざる
なぜ敵は彼女’カーラ’を強き者としたのかしら
悪意の中悪意で返さず耐えたから…でも、彼女は泣き嘆いていて、それで強さと見る?
それとも、その中でも生きることを諦めなかったから?
ダメね…敵の心を思うなんてきっと無駄なことなのに

連携アドリブ歓迎


ティオレンシア・シーディア
…とりあえず、いろいろと思う事はないじゃぁないけれど。
カーラさんが復讐を望んだわけじゃなかった。そこは素直に朗報ねぇ。
こいつら片して残影卿をぶっちめて。…後のことは、直接カーラさんと会ってから、かしらねぇ。

瀕死になったら新しいのが出てくるって、それじゃ無限湧きじゃないのぉ。
…あたしじゃ再生を阻害する手なんて打てないし。〇援護射撃メインで立ち回ろうかしらねぇ。
行動の起こりを〇見切って〇先制射撃で●的殺を撃ち込むわぁ。
…〇破魔の〇属性攻撃とか効いたりしないかしらねぇ?


天之涯・夕凪
外見で人を差別し、抵抗しないことと声の美しさを盾に一人をずっと虐げてきた方々の事は決して善しとは言えませんが…

何が出来るのか…と問われると難しいですね
けれど、皆さんも私も、何かが出来ると思って来ているのは確かです
『嗚咽と嘆き』という事は、少なくとも彼女は、どちらの境遇も喜んではいないでしょう
道を開けてください
私は猟兵なので貴方の主と対する事は避けられませんが…束の間だけなら、話をする事も出来るでしょう

まだ分からないままで攻撃…というのは気が進みませんが、彼らも未来を圧する存在に違いなく
申し訳ないとは思いますが、倒させていただきます
UCを発動し、なるべく一気に
オルトロスの発言に気を向けながら



●戦いに不要なもの、人に必要なもの
 オルトロスどもは無数であり、影は尽きることなく無限である。
 どうにかして暗黒を払わぬ限り、倒れた骸から新たな獣が現れる。
 ではいかようにしてかの者どもを滅ぼすか。
 死を超越したかのごとき、死せざる死を得た影の獣をどうするか。
(共鳴・保管庫接続正常、知覚・処理能力強化――)
 容易い問いである。目には目を、歯には歯をもたらせばよい。
 時の大王はそのように定め給うた。因果には応報をもたらすべしと。
(無限連環降霊術式起動――情報意識共有同調可、霊体核形成、形態指定)
 ならば、死せざる死には、同じように死を忘れた者どもを。
 群れなす無数の影には、同じように群れなし増殖する者どもを。
「……目覚めよ、悪霊(レギオン)」
 かくて、死霊の軍勢が暗澹たる枯野を征伐する。
 死者の軍勢と霊格を引き上げし王、これらを喚ばい、そして統べる者の名を、
 月宮・ユイ。器なりし少女の姿をした物霊と云う。

「これはまた盛大な行進ねぇ」
 無限めいて顕れて、影の猟犬どもを蹂躙する軍団を眺め、
 ティオレンシア・シーディアは呑気に思える声音でそう述べた。
 彼女の頭を悩ませた、潰せど湧いて来たるオルトロスの不死性は、
 もはやこれで解決されたと言っていい。敵にもそれは同様だ。
 ゆえに彼奴らは、迫る大群を打ちのめす咆哮をあげようとした。
「あたしじゃ、あなた達の再生を阻害する手なんて打てやしないけど」
 BLAM。リボルバーが、まさにいま開かれた口の中めがけ、
 吸い込まれるように的確な弾丸をひとつ。ふたつ。みっつ。
 オルトロスの影の身体が風船めいて膨れ上がり、そして爆ぜて四散した。
「起こりを見切ってそこを崩せばハイこの通り。――なあんてね?」
 "的殺"。後の先を得た鋭き弾丸がもたらす最期。獣には逃れられるもなし。
 こうなればティオレンシアにとってはたやすい相手である。
 これまで幾度となく繰り返した技術で屠れる雑魚に過ぎぬのだ。

「獣よ、猟犬よ、私はあなた達を憎みもしませんし悪しようにも思いません」
 一方で、血に濡れた純白の機関砲を、トリガを引く男はそうこぼした。
 オルトロスどもはオブリビオンだが、ただそうであるがゆえに従い、
 命令によってここへ顕れ、傲慢にも試すとのたまい立ちはだかった。
 彼らに悪意はない。獣であるから牙を剥き、こうして噛み付こうとする。
「むしろ、私は――少々、気が進まない状態です」
 だがトリガは引く。迫る牙を避け、防ぎ、それも出来なければ、
 流れた血でもって武具を励起させ、殺戮と捕食の相を垣間見せる。
 天之涯・夕凪の表情には、相対する獣どもへの申し訳無さすらあった。
 なにゆえに猟犬を憐れむか。なにゆえにままならなさを感じるか。
『貴様は我らを見下すのか。あるいは赦すとでも?』
 影のひとつが問うた。夕凪はその言葉を好ましく思った。
「"それすらもわからない"からです。そう、私達は何も知らない。
 あなた達のあるじが、なぜこのような行いをなしたのかも」
 目的も、意思も、理由も、そして求めるべき結果も何もかも。
 それは問わねば得られぬ答えだ。得ずともよい無駄だ。
 夕凪はそれを切り捨てることをよしとしない。だから進もうとする。
『我らを滅ぼさずして、この先へ進むことは能わず』
「ええ。だから私は戦います。何も知らぬあなた達を滅ぼして、
 ぬかるみに沈んだ屍を踏みしめ進みましょう。だからこそ――」
 機関砲が慈悲深き滅びの飛礫を放ち、影を影へと還す。
 そのあとを死霊の軍勢が蹂躙し、まったき無へと変えてしまった。
「……私は、それを申し訳ないと思うのですよ」

 死霊の群れに慈悲はなく、群れを従える王に容赦はない。
 立ちはだかる獣があれば打ち据えて槍衾にし、以て滋養となす。
「――……」
 蹂躙、殺戮、鏖殺と呼ぶ他になきさまを見ながら、ユイは佇んだ。
 己が手を下すまでもなき戦は、ひどく空虚で敵が哀れに見える。
 戦場には不要な思考である。戦い敵を屠る戦士には無用の長物である。
 だが。
「――なぜ吸血鬼は、彼女を……カーラを"強き者"としたのかしら」
 悪意のなか、悪意で応えることなく、ただ耐え続けたからか。
 けれどカーラは嘆き、哀しみ、嗚咽に泣きわめいていた。
 それはいかにも、強さとはかけ離れた弱者の行いである。
 己の信念を貫くために、憤懣と憎悪を抑えていたというならまだわかろう。
 それはなるほど、巌の如き揺るがぬ求道者の行いである。
 伝え聞く限り、女はそうではない。ただ哀れな、ともすれば、そう。
 ――己の手では何一つなそうとしなかった、ただの愚か者である。
「それとも、その中でも生きることを諦めはしなかったから……?」
「……"全てを諦めてしまっていた"とも、とれますがね」
 ユイの呟きに、機関砲を携えた夕凪が現れ、そう答えた。
 然り。無気力は諦観と隣り合わせであり、己を虐げた者とはいえ、
 同じ街の人々が蹂躙され処刑されるさまを止めなかったのは、
 利口ともいえば利口であり、無力で厭世的と言えばそうでもある。
 物事は、見るものと立ち位置によって斯様にも形を変えるのだ。
「外見で人を差別し、無抵抗を盾に、美しい声を求めて一人を虐げた人々。
 それはけして善きものとは言えない……愚かしく脆弱な行為では、あります」
 以てその対称を強きとする。なるほど、それもまた一つの理屈か。
 だがそれはヒトが下すべき傲慢である。元凶にして超越者たる、
 種からして異なる吸血鬼は、はたしてそのような酔狂に染まるのか?
「……とりあえず、いろいろと思うことはないわけじゃあないけれど」
 そんなふたりのもとへ、弾丸をうち尽くしたティオレンシアがやってきた。
 肩をすくめ、今の時点でただ一つ確かなことを口にする。
「カーラさんが復讐を望んだわけじゃなかった。
 ……これはたしかな、そして素直な両方じゃあないかしらねぇ」
「――ええ、そうですね。だからこそ私達は進まねばならない。
 彼女が嗚咽と嘆きの美しい声を、あの館で響かせ続けているというなら」
 夕凪は頷き、闇の彼方のシルエットを見据えた。
「あとのことは、直接彼女と会えたら、かしらねえ」
 ティオレンシアが弾丸を装填する。次なる敵の気配。

「……ごめんなさい。ダメね、敵の心を思うなんて」
 戦場には不要な無駄を、ユイは謝罪する。
 だがティオレンシアも夕凪も、微笑んで首を横に振った。
「いいじゃあないのぉ、無駄なことでも」
「なんとなくわかります。それこそがおそらく――」
 夕凪は、呟いた。
「……生者(わたしたち)に出来る、もっとも簡単で重要なことなのでしょう」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神威・くるる
ふぅん、ヴァンパイアだけやのーて町の人らまで道を踏み外す程の泣き声
うちも聞いてみとぉなったなぁ
なぁんて、口実

あや、ワンちゃんやぁ
でも残念
うちは猫ちゃん派なんよねぇ

ワンちゃんは【猫じゃらし】お好きやろか?
うちの猫ちゃんは大好きなんやけど
心逝くまで擽ってあげる

あや、大きなお声
悲しい泣き声やけど「カーラ」はんもこんなお声なんやろか?
せやったらうちの好みとはちょっとちゃうんやけど

なぁんてからかいながら攻撃は避けるか増やした【猫じゃらし】で受け止めて



(アドリブ、他の人との連携歓迎)


街風・杏花
うふ、うふふ。
なんとも、なんとも。美しい声にのめり込むあまり、醜い心に堕ちるだなんて……なんとも美しくない街ですこと。
あぁ、けれど、気になりますね。この街をそうも腐らせてしまったのはヴァンパイアの圧政。
その貴方は、この町で唯一美しい声を傍に置いて、一体、何を考えているのでしょうね。

――うふふ、それは、それとして。残念でした。
私――影の中から現れる獣のお相手は。とぉっても、慣れておりますの。
対処なんて、簡単です。
この身に宿す白い炎を地に這わせ、影を全部消してしまえばいい。

ええ、ええ、どきなさい。私は早く真実を知って――美しい泣き声とやら、聞いてみたいのですよ。

※アレンジ、絡み歓迎



●妖しのものは夜に嗤う
 美しい泣き声。綺羅星のような嗚咽。うっとりするような悲嘆。
 ユーベルコードでもなんでもない、ただ少しだけ変わったいびつなるもの。
 人々の心を奪い、あるいはもしかすると吸血鬼すら魅了したやもしれぬ聲。
「うふ、うふふ――」
 どこか熱病めいた笑みを浮かべ、そぞろ歩く金髪の女が嗤った。
 それは微笑のように見えたが、オラトリオの纏う雰囲気に優しさはない。
 憐憫もない。哀切もない。ただ螺子の外れた熱がある。
 暗澹たる闇をもぐにゃりと歪めさせかねぬほどに奇妙な熱を帯びたもの、
 微笑みの形で嗤笑する金髪の女の名を、街風・杏花と云う。
「なんとも、なんとも――なんとも、美しくない街(ひとびと)でしたこと」
 美しい声にのめり込むあまり、吸血鬼の暴威を恐れるあまり、
 自らの手で獣に、醜い心に堕した弱くて愚かな人々。
 強く、美しいものをこそ愛する杏花にとって、彼らの在り様は嘲笑の的だ。
 だが杏花はそれよりもずっと、吸血鬼の心の裡に興味を持った。
 何を考え、何を思い、何を目的に醜い女を囲っているというのか?
「人々を腐らせたのは、他ならぬあなただと云うのに……」
 杏花はくすくす、うふふ、と妖しく笑う。それは滾る戦意の笑みである。

「きっときっと、さぞかし綺麗で美しい声なんやろねぇ」
 そんなオラトリオの心の裡を知ってか知らずか、あるいは当てずっぽうか、
 こちらもやはり意図と心中を悟れぬ笑みを口元に貼り付けて、
 艶やかな格好に、黒猫めいたぬばたまの黒髪を濡らす少女が云う。
「ヴァンパイアだけやのうて、街の人らまで道を踏み外すほどの、泣き声。
 あんな恨み言を吐かせておいて、自分が正しいと思わせるほどの声――」
 無論、それはカーラとやらの声の魔力というわけではない。
 理由や原因がどうあれ、彼女を排斥し悪虐に晒したのは他ならぬ人々自身。
 理由は後付けだ。しかしれっきとした遠因のひとつでもあるのだ。
 ――そして人々の悪徳を差し置いても、いまだ吸血鬼の目的は定かならず。
「うちも聞いてみとぉなりましたえ? なぁんて――ふふ」
 ゆえに神威・くるるもまた嗤う。小悪魔めいて誘うようにただ笑う。
 取って付けたような口実を、世界に真実だと思わせるような、
 ファム・ファタルめいた妖しくからかうような艶笑で真意を覆い隠す。

 かくて嗤い笑うふたりの少女の前に、ぞるぞると影の猟犬が現れた。
 オルトロス。怪物の王の仔の名を与えられしそう在るだけのけだものども。
「あや、ワンちゃんやぁ」
 くるるは意外そうな声を漏らした。
「うふふ――けれど、でも、残念でした」
 杏花は、己らを試すという傲慢を嘲笑った。
「せやねぇ。うち、猫ちゃん派なんよぉ」
 くるるは冗談めかした。
「あら、あら。だったら影の中から来る獣の殺し方、教えてあげましょう。
 うふふ、それってね――とっても、とぉっても簡単なんですのよ?」
 杏花は赤い瞳を蕩けたように緩ませてそう言って、
 ちりんと。刀に結んだ鈴の武器飾りを鳴らし、打刀を鞘走らせた。
「殺すだなんて、まあ、いけずやわぁ。うち、そういうの得意じゃあらへんよ」
 言いつつくるるは、まるで敵も味方もからかうように猫じゃらしを振って、
 しかもそれは二十を越えて周囲を舞う。大人を誂う悪戯っ子めいた笑みで、
 膨れ上がるほどに怒気を纏った獣どもの逆鱗をくすぐってやる。
「ほぉらワンちゃん、猫じゃらしはお好きやろか。なあんてな――」
『我らを、謗るか。女ども!』
 いかにそう在るがゆえに従うオルトロスどもとて、ふたりの態度は、
 その笑みは、あきらかな嘲弄は獣としての本能を甚く損ねた。
 ゆえに彼奴らは雄叫びを上げ、ふたりまとめてバラバラに引き裂いてやると、
 獣としての本能を目いっぱいに現してばらばらに飛びかかる。
 それは狩りではない。怒り狂ったけものどもがただ目の前の敵に食らいつく、
 無節操で哀れなまでにランダムな暴力と殺意の波濤である。
「まあ、まあ。卑しいこと――けれどね、邪魔よ。どきなさい」
 ……そしてそういうモノは、杏花にとっては格好の獲物である。
 白い炎を纏った刃で影を切り、ぬかるみに白炎を奔らせる。
 影は消えて失せて獣を捉え、脚を伝って徐々に徐々に毛並みと肉とを灼いた。
 逃れられるはずもない。杏花の太刀筋はそれほどまでに鋭く執拗で、
 雨でも消せぬ白い炎はなお疾く、野火めいて燃え広がるゆえに。
「私は早く、真実を知りたいの。美しい泣き声とやら、楽しみですわ――」
 刃を振るう月下狂瀾の乙女はただ嗤う。それは怒りゆえか、あるいは。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユルグ・オルド
イイコのワン公がお出迎え、ね
尻尾振って可愛いんじゃねェの

共は一振りありゃ十分で
噛みつかれる前に駆けだそう
追うのがどっちか知らせてやんよ
数がいるなら薙ぎ払え、打ち上げた敵を盾にして
そのまま諸共影を断て
疾く振り切って翻るなら休むことなく次へ
飛び込んでくんならカウンターで迎え撃とうか
番犬はキャンキャン吠えるもんじゃねェよ
咎力封じでリードをやったらちっとは従順に見えんじゃない
笑ったか睨んだか覚えもないが
数で来んなら全部喰らってやるまでと

先へ行くのに止まるべくもない
ご主人様にゃ尻尾振ってやるけど
泣いてる子は連れ出したとこで泣き止むのかね
今は知れない、水の重さに足掬われることもないけども



●雨の中を疾走る影
 獣どもが吠え猛る。
 獲物を取り囲み、食らって引き裂き殺せと同胞どもに呼びかける。
 一が全で全が一であるゆえに、オルトロスどもは乱れぬ統率で、
 ざばざばと雨を弾いて疾走する影を取り囲もうとする。
 卓越した戦術である。触れられればきっとその爪は、牙は、
 なるほど獲物を引き裂きぬかるみの中に引き倒すのだろう。

 ――だが。
「律儀に並んで尻尾振ってお出迎えなんざ、まったくイイコのワン公ども」
 くすりと嘲りの言葉と笑みとを静かにしなやかに口元に浮かべ、
 囲まれて責め立てられているはずの獲物(おとこ)は皮肉を見せた。
 ユルグ・オルド。凛と冴える一振りの片刃刀が雨粒を払う。
 すなわち一閃である。直後にぬかるみと雨と敵とが爆ぜ飛んだ。
 剣風による薙ぎ払い。オルトロスどもは突然の暴威に驚愕する。
「どうしたワン公。俺を試すんじゃねェのかい」
 嗤笑。ユルグはすでに生まれた間隙にするりと身を滑らせており、
 ふわりと落ちてきた影の獣の喉笛を乱暴に掴み取ると、
 まさに今己めがけて飛びかかった獣の牙を同胞の肉で防いでやった。
「共喰いたァ趣味の悪い」
 なんてうそぶいて、ユルグの本体(やいば)が再び虚空を薙ぎ払う。
 獣がまた一匹ぬかるみに沈む。雨が屍と影とを溶かしていく。
 影を断て。足を休めるな。速く、より疾く枯野を征け。

 囲み追い立て刈り取るはずのオルトロスどもの蹂躙は、
 しかしたった一人の男をすら阻むことが出来ずに足並み乱れていた。
 ユルグは止まらぬ。迷うことも、惑うことも、恐れることも、
 なにひとつなくただ走り、刃を振るい、そして獣を殺(ほろぼ)す。
「番犬はキャンキャン吼えるもんじゃねェよ。
 そういうのは、首輪で繋がれた駄犬がやるもんなんだぜ――」
 放つは咎力封じ。オルトロスの首に巻きつけられた枷はリードに似る。
 貴様らは影の猟犬などではない。
 飼い慣らされ、己のテリトリーを浅ましく誇示し誇らしげに吠え回り、
 無害なヒトに噛み付くふりをするだけの無様な狗畜生だと見せつける。
「俺はこの先に行くんだよ」
 ゆえに止まることはない。雨水が己の熱を醒まそうと降り注いでも、
 ユルグという男の熱を、振るう鋼の鋭さを損なうことはない。
 嗤い、睨んで、数で迫る獣どもを無限めいて伐り突き薙ぎ払い、
 ばしゃりばしゃりとぬかるみを踏みつけヤドリガミは前へと進む。
 見通せぬ影がわだかまる。斬ってみるかいと野卑に嗤う。
 主人に尻尾を振るだけの、信念もありゃしない獣が阻めるはずもない。
(――この闇の中から連れ出したとこで、泣いてる子は泣き止むのかね)
 それを問うのは今ではないとわかっていながらも、
 ユルグは戯れめいた思索を心の裡に思い浮かべずにはいられなかった。
 彼が踏みしめ征く雨水は、いささか冷たく重く、足を掬うに足りすぎたから。

成功 🔵​🔵​🔴​

柊・明日真
【アドリブ歓迎】
何が狙いかイマイチ判らんが…どうせ倒す相手、細かい事は後回しだ。
道を開けろ!雑兵どもは引っ込んでな!

どれだけ居ようと関係ねえ、まずは【烈震の刻印】で敵陣に風穴を開けて切り崩す!
派手に動いて敵を引きつけつつ、【なぎ払い】でまとめて攻撃だ。
食いつかれたら【怪力】で強引に引き剥がして、そのまま地面に叩きつけてやる!


ヴィクティム・ウィンターミュート
ハッ!救えない連中だ。人間って奴は、自分より下だと思った人間がいると安心感を覚えるものだ。ストリートでもよくあった話さ。
それが集団に伝播したら、猶更救いようが無い。何も状況が好転しないってのに、声の美しさでまともな思考すら出来ない。
じゃあ何で助けるかって?主役様が望むなら、何でもやるからさ。

端役は地味な仕事を請け負うよ。ユーベルコードで奴らの仲間呼びを封じることに専念する。【情報収集】で得たサンプルが多いほど精度と速度が上がる。どんどん使え?
その分自分らの首を絞めるぜ。
十分サンプルが取れたら、自動化したり感染するプログラムを作ってみてもいいかもな。俺の【早業】なら余裕さ


城石・恵助
彼らの行いはとても褒められたものではないけれど
この真暗い世界で強く在れる人ばかりではないだろう
そもの元凶は吸血鬼
連れ去られたカーラも泣いたまま

やるべき事は何も変わらない。領主を殺す

圧政が消えれば変わるものもきっとあるさ
変われなければ…どうなるだろうね
カーラは流石に戻れないだろうし。捌け口はもうないんだから

それはそれとしてこいつらなんか謎に偉そうだな
腹が立つついでに空いてきたし、喰い合いでもしてみるかい?
肉を食わせて骨を噛み砕いてやるよ。あるのかわかんないけど
この口に入るなら、それが影とて【喰らいつく】す
〈捨て身の一撃・生命力吸収・大食い〉

多少の無茶も、まあ
頼れる猟兵仲間が居れば大丈夫じゃない?



●影を払い、影を毒し、影を喰らう
 はじめの男は、一切合財を踏みつけ吐き捨て薙ぎ払った。
「細かいことは後回しだ。来るならかかってこい」
 柊・明日真は燃えるようなオレンジ色の瞳で睨めつけて、
 ぞるぞるとわだかまる影の猟犬――オルトロスどもに手招きする。
 所詮は雑兵。斬って捨て、道を開くための障害物。
「まとめて――ぶっ飛ばすッ!!」
 三日月型の頭を持つ"鎧殻の戦斧"を、有り余る膂力とともに振るえば、
 たちまちぬかるみは爆ぜて抉れて、一緒に畜生どもも吹き飛んだ。
 いちいち精妙に威力をコントロールする必要はない。するつもりもない。
 己を食らって引きちぎろうとする牙を、爪を、恐れることもない。
「かかってこいよ、さもなきゃ道を開けろ。お前らに用はねえんだ」
 赤髪の刻印騎士は、ばちばちと炎を孕む薪のような声音で凄んでみせた。

 ――その、一方で。
 乱暴に乱雑に切り裂かれ、四散し、屍をぶちまけた畜生どもは、
 いや正しくはそれらが血のようにバラした影の残滓からは、
 まるで湿った苗床から気味の悪い菌類が蔓延るかのように、
 傷一つなく、しかし牙と爪と悪意とはしっかり備えた新たな畜生どもが、
 やはりぞるぞると雨風のなかに現れて、黒雲を仰ぎ吠え立てる。
「ハッ」
 無限めいた仲間呼び。影は斬っても撃っても払えはしない。
 尋常であれば絶望して膝を突くべきその有様を、第二の男は嘲笑った。
 彼にはすべて視えている。一匹また一匹と瀕死の獣が同胞を呼ばうたび、
 それがいかにしてなされるのか、影はどのようにして猟犬に変わるのか?
 ――それを防ぎ、変質させ、歪んだ輪廻をデッドロックさせるには、
 どんな毒(ウィルス)を一縷と打ち込んでやれば十分なのか?
 ヴィクティム・ウィンターミュートにはそれが分かる。実行できる。
「"天才とは、1%のひらめきと99%の努力である"、なぁんて言葉があるがよ」
 また一体生まれたけだものの組成と在り様を高速分析しながら、
 電子のカウボーイ、冬寂を纏うシニカルな男は呟いた。
「俺にはひらめきも努力も必要ない。ただ十分な数のサンプルと、
 あとはこのチルでウィズなアタマがありゃそれでいいのさ、チューマ?」
 とんとんと己のこめかみを叩いてみせ、いかにも道化師めいておどけた。
 地味で小狡い端役と言わば言え、むしろそれは我にとっては喝采のごとく。
 汚い、卑怯、いずれも感謝感激雨あられ。男はそういうモノである。
「さあどんどん使え、どんどん起きてこい。
 泡吹いた犬畜生が、走って転んでてめえの首を絞めるみたいによ」
 パズルを組み立てるのは、相応しい数のピースがあればそれでいい。
 ヴィクティムは闇を纏いて影を見る。打ち込むガラスのナイフはその掌に。

 そして第三の男がやってくる。
 生まれ落ちて歪んだ咆哮を産声めいてあげる、影の猟犬どもを、
 まるで八つ当たりでもするかのように引きちぎり、引き裂いて、
 ついには影の肉ごと骨を噛み砕く乱暴なけだものがやってくる。
 だがあいにく、それはけだものではない。獣でもない。
 ヒトだ。猟犬どもより大きく開きそうな、裂かれた歪んだ醜い口の、
 それ以外はなんら変わりないただのヒトの少年が暴威を振るう。
「お前ら、なんか謎に偉そうだな」
 プッ、と骨片を乱暴に吐き捨てて、城石・恵助が呟いた。
 腹が立つ。この世界に、この状況に、これまでの流れと人々に。
 いやさ人々をそうさせたヴァンパイアにも、この高慢で傲慢で、
 試すだなんだと獣らしからぬ賢しらな言葉を吐く連中も何もかも。
「雨のせいで味もよくわかんないし。まあ霞よりマシだけどね」
 獣が飛びかかる。彼はそれを拳骨で乱暴に迎え撃つ。
 拳に牙が食い込もうが、爪が肉を裂こうが躊躇しない。
 両手で顎を掴んで引き裂いて、鮮血めいて飛び散る影にしゃぶりつく。
 睨めつけるように獣どもを睨んだまま、けだものそのままに影を食む。
「どうした。食い合いは嫌いなのかい。わんころのくせに」
 挑発するような皮肉は、溢れ出る少年の激情そのものでもあった。

「おい恵助、お前何滅茶苦茶してんだよ!」
「キミだって大概だろ明日真君、どの口が云うんだか」
 やがて青年と少年は並び立つと、互いに互いのスタイルを揶揄した。
 かたや力任せに地形もろとも、ぬかるみもろとも影を吹き飛ばし、
 かたや力任せに骨を噛み砕き、影を引き裂いて獣を喰らうのだ。
 どちらも喰らわれようが切り裂かれようが意に介さないし、
 結果として明日真も恵助もあちこちに傷を負っていた。
 痛みはある。苦しみもある。灼けたように傷が疼く。
 けれどもそれよりずっと、煮えたぎるような憤懣が彼らの裡にある。
「ボロボロになっちゃってまあ」
 恵助は顔なじみの赤毛を皮肉ってみせた。
「お前こそ大概だろ。……つかこいつら一向に減らなくねえか?」
 明日真は、至極いまさらな問いを口にした。
 然り、影を払おうとそれ自体を消すことは魔術とて出来ぬ。
 影の裡から新たなけだものが現れて、やがてふたりを取り囲む。

「おいおい、今回の主役様はずいぶんと乱暴で無鉄砲じゃねえか」
 だがここに電子のエキスパートがいる。
 影を視て、獣の全てを知り、斜に構えて闇を睨むカウボーイがいる。
「まったく端役がいなきゃあ、雑魚退治にも苦労しちまうってか? チューマ。
 何、悪いことじゃねえさ。俺としちゃ、苦労が報われてありがたいしな――」
 立体投影された電子映像を、ピアノを弾くかのように軽やかに触れる。
 たちまち電脳空間で編み上げられた、この世ならぬ影をも毒する一撃が、
 さながら清らかな湖をたった一滴で死の水へと変えてしまうかのように、
 闇を、影を伝い、獣どもの再生を防ぎ自ら増えて感染し冒していく。
「解析、対象データコンパイル、ホストユーザー書き換えいずれも完了。
 No.05"ハイジャック"、実行。ここらの影は、全部俺の支配下(もの)さ」
 まるで奇術師のように大手を振って、大仰に誇ってみせる。
 生まれるはずだった同胞がべしゃりと影に還り、
 あるいは実体化直後だったけだものに格子模様が走り、
 これもやはり溶け崩れるようにしてぬかるみのシミとなった。
 予想だにしない事態に、獣どものかそけき足並みがあっさり乱れる。
「そらよ主役殿、せいぜい派手にブッ散らばしてやってくれや」
 ヴィクティムの試すような視線が明日真と恵助に向けられた。
 傷だらけの男達は肩をすくめ、しかし野卑に笑うと"らしい"仕事をした。

「これでここらは、おおよそ片付いたな」
 獲物なき荒涼たる枯野を見渡し、明日真は吐息を漏らす。
 これは前哨戦に過ぎぬ。本番は、そう、あの彼方の館の中で。
「そもそもの元凶、連れ去った女を泣かせたままの圧制者ねえ。
 やだやだ、あの人達の行いはたしかに褒められたもんじゃないけどさあ」
 かじっていた骨を放り捨て、恵助はおどけて肩をすくめた。
 経緯がどうあれやることはかわらないのだ。領主を殺す。
「人間って奴は、自分より下だと思った奴がいると安心を覚えるもんだ。
 ストリートでもよくあった話さ。それが集団に伝搬したらなおさらだろ」
 救いようのない、愚かでどうしようもないほど醜いヒステリー。
 手を差し伸べるものなど、集団の中にいるわけはない。
 篤志家はいつだって、飢えも寒さも知らぬ上流階級のブルジョアばかりだ。
「だからってここで足を止めるわけにもいかねえだろ?」
 明日真が言えば、ヴィクティムは皮肉げに片眉を釣り上げる。
「さてねもともと女一人の声の美しさに、まともな思考もしなかった連中だ。
 俺らが仕事をしたとして、何も状況が好転しねえってのは"よくある話"だぜ」
「――だとしても」
 マフラーを巻きながら、己もまたオブリビオンに人生を狂わされた、
 かつて平凡であった異形な少年……恵助はうっそりと云う。
「圧制が、吸血鬼が消えれば、変わるものもきっとあるさ」
 きっと。人々は己の罪を悔いていた。それは一時の熱病やもしれぬが。
 それで変われなければ、それまでの話。そこまで背負うことはできない。
「まったくお優しいこった」
「言うじゃねえか。だったらどうしてここまで来たんだ?」
 明日真の挑みかかるようなまっすぐな眼差しん、ヴィクティムは目を細める。
 それはまるで、彼の橙色の双眸を、裡に秘められた炎を眩しがるように。
「そんなの、いちいち言うことでもねえと思うんだがな」
 言ってから、ヴィクティムはシニカルでアイロニーな笑みのまま、
 ここに在らぬ観客どもに呼びかけるかのように大きく空を仰いだ。
「――主役様(おまえら)が望むなら、端役(おれ)はなんでもやるからさ」
 カウボーイに生きがいはない。義憤もない。怒りもない。
 闇を恐れず悪を憎み、非道を断つため雨の中を突き進む。
 そんな勇壮は、自分のような卑劣で汚い悪党には似合わない。
 少なくとも彼は、心からそう思っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『残影卿・アシェリーラ』

POW   :    我が終生の敵手の力を見よ
【刀身に封じられた『太陽の炎』を纏った剣 】が命中した対象を燃やす。放たれた【吸血鬼を浄化する太陽の力を秘めた】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    我は既に死者である故に
【オブリビオンとして復活させた自分の分身 】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    我が闘争の果に
【オブリビオンとなる前からの戦闘経験により】対象の攻撃を予想し、回避する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はランゼ・アルヴィンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●館にて
 雨は降り続けている。
 邪悪を形にしたような昏き館に、もはや猟犬の守りはない。
 だが隠しようもない血の匂いと、呻くほどの強烈な殺意と死の気配が、
 隠然と佇む館を包んでいた。ここが蛭のねぐらだと知らせていた。

 ――そして、猟兵達は庭に踏み込むなり見ることになる。
 ぬかるんだ庭先に倒れた、青白い肌の肉の塊を。
 否、それは女である。誰も顔を知らないがひと目でわかっただろう。
 カーラ。醜いと蔑まれた、何も出来ず何もしなかった哀れで愚かな女。
 歌声は残響めいて館の周囲を、中を包んでいた。だが女は死にかけていた。
 カーラがいかに"醜い"か、それをここに記すのは避けておこう。
 ただ一目見てそうだと分かる程度にその姿は尋常から離れていて、
 そして、死にかけていた。首筋に牙の傷跡。血の気の失せた肌の色。
『天敵どもよ』
 館の奥から声がした。奇妙に響き渡る声がした。
『君を求めここまで来たか。我が首を求めてここまで来たか。
 我が悪虐を、君の悲嘆を止めるためにここまで来たか。ならばいいだろう』
 ――君(カーラ)は、くれてやる。

 倒れているのがそうだという。いまにも鼓動を止めそうな女がそうだという。
『見るがいい、その美しき姿。我が血の魔術によって音叉したこの歌声。
 美しかろう。気高く強かろう。ああ、君よ。汝はいかにも美しい』
 "残影卿"アシェリーラ。
 強きを好み、弱きを蔑む伊達者の吸血鬼。
 かつての頃の記憶すら用いて戦う生粋の戦闘狂。
 だが奴は吸血鬼である。血を啜り悪意を振り撒く悪鬼である。
 であれば蛭は血を吸う。そして誰しにも"好み"というものがある。
『取っておいたかいがある。我が喉を潤す芳醇のなんと甘露なことか!』
 ――アシェリーラは、"強き者の血をこの上なく好む"のだ。

『だが天敵どもよ。ただ猪武者めいてぶつかるだけではつまらなかろう。
 我は吸血鬼。ならばここは、金貨に代わり魂の通貨をチップにしようぞ』
 嗤笑。奴は楽しんでいる。この状況を心から愉しんでいる。
 声は言う。どうぞ館に入り込み、我を滅ぼすために来るがいいと。
 ここまで来たりし貴様らならば、その力を結集すれば我は滅ぼせようと。
 だが。ああ、だが。オブリビオンは本来虚無より来たるもの。
 この世ならぬ骸の海より、血肉なくして世界を冒す過去そのもの。
『貴様らの剣は我が頸を刎ねるだろう。その銃は我を穿つのだろう。
 術式は我を灼き、牙は裂きて戒めは我を縛り付けるのであろうよ』
 そして滅びを為すのだろう。吸血鬼は"まったき無に還る"のだろう。
 ――奴がカーラを死の間際まで追い込むぎりぎりのところまで吸い上げた、
 哀れな女の赤く芳醇な血もろとも、なにもかも無に帰するのだろう。
『我を疾(と)く滅ぼすか、美しき君の気高い最期を邪魔するか。
 さて、貴様らはどちらを選ぶ? 使命と情動のどちらを選ぶ?」
 アシェリーラは吸血鬼である。悪意を振り撒く異物である。
 二者択一を迫る声音は、いかにも愉快げに嗤っていた。
『来るがいい天敵ども。そして選び、我が前に立つがいい。
 貴様らと我は過去と未来の破壊者であり、争い戦うほかに道はないのだから』
 それは前提である。必然である。為されて当然の行為と暴威である。
 吸血鬼は"それ以上"を問う。"それ以外"を問う。有か無かを問う。

『――貴様らに、何が出来るというのだ?』
 悪意の源を逃してはならない。
 呪われた戦場で、いまこそかの悪蛭を討て。
●まとめ
 ・カーラはアシェリーラに吸血され瀕死の状態。
 ・カーラを救うには『アシェリーラの血』が十分な量必要。
 ・十分な量の血液を集める前に敵が滅んだ場合、カーラは死亡する。

●三章追加ルール
 以上を踏まえ、皆さんはプレイングで以下のどちらかを選んでください。

 A:カーラを顧みず、敵の討滅を優先する。
 B:カーラを救うため、血の採取を優先する。

 Aの場合は通常通りのプレイングボーナスで判定を行います。
 Bの場合、血液を採取する=攻撃の手を緩めざるを得なくなるため、
 プレイングボーナスを得るための基準が『どのようにして敵を倒すか』ではなく、
 『どうやって敵の猛攻を凌ぎ、血液を奪う=傷をつけるか』に変化します。

 つまり普通に倒しにいくなら、
 おそらくアシェリーラはそこそこの手強さを発揮した上で倒れ、
 シナリオは終了します――カーラという犠牲を払った上で。
 カーラの命を救おうとした場合、アシェリーラは通常以上に手強い敵となります。
 🔵🔵🔴以上でも、ある程度の被弾は覚悟したほうがいいでしょう。

 なお、カーラの保護や治療についてはプレイングする必要はありません。
 彼女はアシェリーラの血の魔術によって呪われており即座の治療は難しく、
 さらにアシェリーラは猟兵との戦いにしか興味を向けていないため、
 カーラを奪い取ったりわざわざ息の根を止めることはありません。
 また参加者様が多数いらっしゃった場合は、リプレイ中のアシェリーラは、
『ある程度の被弾を受けたら闇の中に紛れて逃走』したり、
『事前に召喚した分身体をけしかけて相手をさせる』といった振る舞いをします。
(徐々にアシェリーラを皆さんで追い詰めていく、という感じだと思ってください)

 プレイング採用は、早く来たものを優先しつつある程度ランダムに行います。
 最終的にA・Bそれぞれを選択した方々の獲得🔵総数を比較し、
(これはシナリオそのものの成否とは別のため、必要数を超えて採用したプレイングの🔵もこちらで集計を行います)
 より多く🔵を獲得できた側の選択が、シナリオの結末として採用されます。
 A選択が6人・B選択が4人でも、A側🔵が10個でB側が12個なら結末はB側に、
 逆にA側が13個以上🔵を獲得していたなら、A側の結末に落着します。
(同数の場合は『選択者人数』を比較します。
 これも同数の場合は、より相応しいと感じた結末をこちらで選びます)

 言っても所詮は女一人、ただの一般人の生死の話でしかありません。
 カーラが生き延びたとして何かが変わるわけではないですし、
 残念ながらその後彼女と彼らがどうなるかまではこのシナリオでは語られません。

 それでもどちらを選び、何を為すか。
 ――この場にやってきた猟兵の皆さんに、何が出来るか。
 ぜひお考えの上、プレイングをお送りいただけると幸いです。
●追記
 プレイング締切は『4/12(土)23:59前後』までです。
●追記の追記
4/12(金)23:59迄の間違いです。よろしくお願いします。
ゼイル・パックルード
A
あそこまで執着したものを捨てたのはなんでだい?気まぐれの道楽に過ぎなかったのか?それとも死を予感して観念でもしたか。それとも…猟兵(ヤツら)に何か期待でもしてるのかい?
俺みたいのがあんたを殺すのが先か、それとも優しい奴らが女を救えるのが先か...俺はワクワクするね、ヒトの強さってヤツ。


鉄塊剣とダガーを使う。
相手の攻撃を見ながら隙ができれば鎧砕きを狙う。
剣で来るなら剣で武器受け。
炎で来るのならこちらも炎で対抗する。
性質が真逆の炎、どっちが勝つにしろぶつかりあったら好機と見て間合いを詰めて鉄塊剣を思い切り、振るう。
防がれたらダガーを抜いて虚をついていく。

さぁ、どっちが勝つか楽しみだな。


ヴィリヤ・カヤラ
A
カーラさんは助けたいけど、
元の村は彼女のせいで酷い目にあったと
思う人がいるから最悪、殺されるし。
他の村に行くにしても途中で獣に襲われたり、
村に着いても余所者を入れる余裕があるか分からない。
そして、私は彼女の面倒を生涯見られない。

それなら、このまま眠らせるのも良いと思うんだよね。
彼女の希望が聞けるなら一番良かったんだけど。

残影卿はカーラさんの血を吸いたかっただけ……
それなら何も心配せずに倒せるよ、
残される人の心配はしなくていいしね。

闇に隠れたら【四精儀】で、
中間の巻き込みに注意して、
雷の風を吹かせて探してみるね。

連携がとれるなら刻旋で、
残影卿を捕まえて行動阻害を狙ってみるよ。

アドリブ・連携歓迎



●ゼイル・パックルードとヴィリヤ・カヤラの選択
 外では雨が降りしきっている。
 館の内部にはまるで壊れたレコードのように……あるいは、
 染み付いて落ちることのない血の赤のように、ぞっとするほど美しい声が響いていた。
 嗚咽である。かの女がここへ来てより挙げ続けたであろう悲嘆の声音。
 血の魔術によって空間そのものに固着した音叉が、この決戦の残響だ。
 はたして彼らの立ち合いは、戦いの火蓋が落ちてからどれほど経ったあとのことか――。

 禍々しい魔剣が、意外にも煌々とオレンジ色の輝きを放った。
 それは太陽の輝き。この世界から失われて久しい、全ての生命の源。
 古典においては吸血鬼を灼くとされる陽の恵みも、今は堕ちたもの。
 その輝きは、担い手たるヴァンパイアの敵を燃やすためだけに煌めくのだ。
「見るがいい。これぞ我が終生の敵手の力なり」
 青白い肌が太陽の炎に照らされる様は不気味である。
 ましてやアシェリーラが満面の笑みを浮かべているとあらばなおさらか。
 言うや否や、その姿が消えた。太陽の炎は目くらましも兼ねているらしい。
「炎なら俺にもあるぜ、お前と違って地獄の炎だがな――!」
 だが、炎に照らされた笑みは敵手のそれと同じもの。
 ゼイル・パックルードは鉄塊剣に豪炎を纏わせ、敵の剣戟に愚直に応える。
 ひとつ――ごぉん。大気が衝撃にたわんで波濤を打った。
 ふたつ――がぁん。続けざまの波紋が絨毯を引き裂き窓を罅割らせる。
 みっつ――ばぉん。どっしりと踏みしめた両者の脚がともに蹈鞴を踏む。
「貴様、名はなんと云う!」
「応える義理はねえな」
 笑んだ鬼が、ありえざる太陽の炎を纏い大剣を叩き付ける。
 笑んだ狼が、無限地獄めいた鉄炎を以て猛攻を引き受ける。
 一進一退である。どちらも生死の境目に挟持を見出す生粋の修羅。
 恐れはない。ただ歓喜と高揚と、対手を討つという"飢え"がある。
 いつつ。むっつ。ななつ。――そこでゼイルが反撃を打った。
 八つ。アシェリーラが防戦に応える。傭兵の目がギラリと燃え上がった!
「もらった――!」
 鉄塊剣そのものを隠れ蓑にした、隠し剣めいたダガーによる刺突!
 アシェリーラはこれを愉悦の狂笑を以て受け入れる。想定済みか!?
「心地いいぞ猟兵、貴様のようなものがいてくれるとはな!!」
 ダガーを片腕で、受けた。青白い肌がバターめいて切り裂かれる。
 地獄の炎が刃を伝い流れ込む。その苦痛すら奴にとっては愛おしいか。

 だがアシェリーラの視線は、ゼイルを視てはいなかった。
 然り。太陽の炎に照らされて、虚空に光の細線がいくつも輝く。
 鋼糸である。巧妙に編み上げられた、蜘蛛の巣めいた罠の螺旋。
「私を縛るか? 片腹痛し!」
「残念、本命はこっち!!」
 闇の中から、滲み出るようにして女が姿を表した。
 ヴィリヤである。ダンピールの金眼が吸血鬼めいて瞬く。
 伸ばした指先から魔力が迸り、ぱちぱちと虚空にジグザグの火花を散らした。
 雷鳴。ひび割れた窓から吹き込んだ雨風がそこに混ざり合う。
 そよ風は疾風へ。疾風は烈風へ。そして旋風へ!
 ごう――!! アシェリーラを飲み込む雷雲じみた四精儀の顎(あぎと)!
「チッ」
 ゼイルは舌打ちした。横槍を入れたことに対してか? 否である。
 いかに戦闘狂と言えど、あくまで生き残り勝利することこそ本懐だ。
 詭道不意打ち大いに結構、利用できるものは利用してこその戦士なり。
 ヴィリヤもまた顔をしかめる――アシェリーラが無事なのだ。

「立ち合いの最中に無粋ではあるが、一つ聞こう」
 切り裂かれた鋼糸の残滓を払い、焦げたマントに包まれたアシェリーラが目を細める。
「貴様らは私を滅ぼすつもりだな? それは実にいい、鋭い殺意だ。
 だが――わかるだろう。私は"何故"と貴様らに問うためにここにいる」
 アシェリーラを滅ぼす。手加減なく最速で、最大の力で、確実に。
 それはつまり、あの哀れな女の犠牲を野放しにするということ。
 いやそもそも、何の行動もしていない女は犠牲と呼ぶのも烏滸がましいか。
「……元の街の人々の中には、きっと彼女のせいで苦しめられたと思う人もいる。
 仮にあなたを倒して彼女を元鞘に収めたとして、最悪そこで殺されるでしょう」
 ヴィリヤは油断なく戦闘態勢を取りながら、淡々と応えた。
 助けたくないわけではない。侮蔑や嫌悪があるわけではない。
「他のどこかを探すにしても、獣や野盗に襲われないとも限らない。
 そしてたどり着けたとして、そこに誰かを迎え入れる余裕があるかわからない」
 ……続く言葉を形にするのに、ヴィリヤは一拍を要した。
「――そして私は、彼女の生涯全てを背負うことは、出来ない」
 道理である。猟兵の本分は、世界を超えて仇敵を討つこと。
 外様であり余所者であり来訪者である猟兵には、限界というものがある。
「それなら、このまま眠らせるのがいいと思った。……それだけよ」
 死が、必ずしもその人にとっての最悪であるとは限らないのだ。

「逆に問いたい」
 この手の問答を嫌う性質のゼイルは、しかし意外にもそう言った。
「あそこまで執着したものを、いきなり捨てたのはなんでだい?
 蝶よ花よと愛でたのも、全部ありがちな気まぐれの道楽に過ぎなかったのか?」
 それ自体を憎悪するわけでも、ましてや憤るわけでもなし。
「それとも死を予感して観念でもしたか」
 アシェリーラはくつくつと笑った。何がおかしいというのか。
「……貴様にはわかっているのだろう?」
 鬼は笑っていた。男もまた昏い笑みを浮かべていた。
 彼らは"強さ"に魅入られた修羅である。戦わずにはいられない人でなし。
 だから骸の海から還ってきた。だからそれを討つためにここにいる。
 立ち位置は対極、相容れることは無かれど、その論理は同一。
「――なら、あんた"も"猟兵(ヤツら)に期待してるってわけかい?」
 ゼイルのような者が、アシェリーラを討つのが先か。
 それとも"お優しい"奴らが、女(あれ)を救うのが先か。
 くつくつと笑う。愉快で愉快で仕方ないと言った風に。
 それはどこか、残酷で無邪気な子供じみてもいた。
「ヒトの強さってヤツだ。俺はワクワクするね」
 アシェリーラは肩を揺らして笑う。それが答えか。

「水を差したな天敵どもよ。貴様らの答えはたしかに聞き届けた」
 アシェリーラは剣を構える。太陽の炎が揺らめく。
「死線を選んだ我が同類と、憐れみがゆえに闘争を選んだ女よ。
 来るがいい。貴様らの殺戮(できること)を私に見せろ……!」
「だとよ」
「――うん」
 ゼイルとヴィリヤにそれ以上の会話はなし。ただ肩を並べ戦うのみ。
 窓を打つ雨が届くことはない。ここには、炎と雷鳴とが渦巻くゆえに。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ユーリ・ヴォルフ
チコル・フワッフルと行動
B

命の灯はまだ潰えていない
まだ救う手段が残されているならば食らいつかずして如何とするか
それが守護者である私の、揺るぎない選択だ!

炎は『生命力吸収』ダメージは『オーラ防御』『激痛耐性』で耐え
【ドラゴニアン・チェイン】で拘束し動きを封じることに注力する
レーヴァティンを構え接近し、剣を盾代わりにした後は捨て置き
敵の背後に回り拘束
腕を絡めわざと「血を吸わせる」態勢を作り隙を誘う
俺はまだまだ未熟だ。一対一では勝てないだろう
だが心の強さ…信念や矜持では負けはしない!
負けるわけには行かないのだ!

「チコル!俺ごと撃て!」
傷をつけるならば斬撃が効果的だろう
チコルのダガーが有用だ
頼んだぞ!


チコル・フワッフル
ユーリ・ヴォルフと行動
B
★アドリブ歓迎!

街の人々や彼女の命を、何だと思ってるの!?
絶対に、貴方を倒してカーラを救う!

真の姿を開放し、毛先から「狐の剃刀」の花を大量に咲かせる。
あいつを傷つければいいんだね?私に任せて……!
敵からの攻撃には【野生の勘】【見切り】で致命を避ける程度に動き、攻撃の射程範囲まで接近。
多少の怪我は気にしない。カーラの痛みは、悲しみは、そんなものじゃない!

ユーリが抑えてる間に【橙の花嵐】で敵に集中攻撃!
もっと素早く、もっと鋭く。
その花弁が真っ赤に染まるまで、舞え!切り裂け!
花の嵐で敵の表皮を切り裂き、なるだけ沢山の出血を狙う。

私達が希望の光になる。
カーラは傷つけさせない。




 館の中の攻防は、各所で散発的に発生した。
 そもそも猟兵とは明確な上下構造を持つ組織なわけでも、
 統率の取れた軍隊や警察のような機構などでもない。
 それぞれに理由と目的があり、信念があり、選択がある。

 ゆえに、描かれる物語はつねにアトランダムに選択される。

●ユーリ・ヴォルフとチコル・フワッフルの選択
 ……燃え盛るような怒りが、二つ。アシェリーラの背中を叩いた。
 にも関わらず、吸血鬼は振り返るのにたっぷり数秒の余韻を置いた。
 そして敵が"襲いかかってこない"ことを確かめると、薄い笑みとともに振り向く。
「……それで? 正々堂々を謳うわけでもあるまいよ」
 挑発的な吸血鬼の眼差しに、まずチコルが食ってかかる。
「街の人々を苦しめて殺したあげく、カーラにあんなことをして!
 皆の命を、存在を! 一体何だと思ってるの!?」
 無垢な怒り。さらに一歩踏み出しかけたチコルをユーリが制する。
「彼女の命の灯、まだ潰えていない。ならば救う手段があるということだ。
 残された可能性に食らいつかずして如何とするか。それが……」
 猟兵としての責務? ……違う。これはエゴだ。
 ユーリ自身が選択した、彼自身の意志による誓約。
「守護者としての、私の……私達の揺るぎない選択だ!」

 くつくつとアシェリーラは笑った。
 だがそれはけして、嘲弄や嗤笑のたぐいではない。侮蔑ではない。
 燃え盛る怒り。いのちを重んじる、愚直なまでの献身さ。
 いじましきかな。浅ましきかな。そして――なんと強く雄々しきことか。
「いいぞ」
 ゆえに吸血鬼は笑った。微笑みながら、燃え上がる大剣を構えた。
「私は殺戮を選んだ者も、貴様らのような者も諸共に愛おしもう。
 その向きは異なれど、我に相対すだけのその強さを、慈しもうではないか」
「……ふざけないで」
 チコルは震える拳を握りしめながら、泣きそうな表情で敵を睨む。
 なぜだ。なぜこいつらは、ここまで人を、いのちを馬鹿にできる?
 なぜああも楽しそうな表情で戦場に立つことが出来るのだ!?
「私達が、希望の光になる。これ以上カーラも、誰も傷つけさせない……!」
 二人の像がゆらめき、守護者は龍の焔に裡側から燃え上がった。
 少女は獣の相を色濃くし、その毛先にいくつもの"花"を咲かせた。
 猟兵とは生命の慮外にあるもの、世界の守護を受けしもの。
 その姿は、時として何かを守るためにこそ華々しく輝くのだ。

「「――!!」」
 機先はアシェリーラが制した。二人は第六感に従い左右に跳んだ。
 直後、絨毯が焼け焦げ、ごおうっ!! と煌々たる焔が走査線を刻む。
 剣閃である。内なる輝きがその刃風を燃やして斬影となしたのだ。
「……うおおおおおっ!!」
 裂帛。ユーリは魔剣"レーヴァティン"を握りしめ、一直線に突き進む!
「燃え盛るものよ! 我が朋友の煌焔を恐れず来るというのか!?」
「貴様のような者を相手に、退くほど愚かでも臆病でもないッ!!」
 二度目の剣閃。さながら壁じみた焔の輝きがユーリを包み込む。
 肌が灼ける。肉が焦げる。吸い込む大気すらも地獄の苦痛じみた熱波。
 チコルが何かを叫んでいる。ユーリは顧みることなくなお脚を早めた。
 灼けた肌が、焦げた肉が、取り込んだ熱波によって癒やされていく。
 その苦痛はどれほどのものか。傷は治るときにすらじくじくと痛むのだ。
 いわば生皮をめりめりと剥がされ、焼灼して癒着させるようなもの。
 あまりの負荷に、ユーリの眼から燃え上がる血が涙めいて噴き出した!
「……ッッ!! この、程度でぇえええっ!!」
「善き哉!!」
 ガギィ――ンッ!! 剣と剣が激突する!
 だがアシェリーラは訝しんだ。手応えがいささか軽すぎる。
 敵が踏みとどまるなら、その上から鋼もろともねじ切るつもりでいた。
 盾めいて掲げられた魔剣が傾ぐ。担い手はどこだ? 焔の残滓――背後!
「ははァ!!」
「……ぐっ!!」
 あえて徒手空拳となったユーリはアシェリーラの背後を取った。
 そして羽交い締めにする。吸血鬼の牙が間髪入れずに肉に食い込む!
 ぞっとするような喪失感。これが"吸血鬼に血を吸われる"ということか!
「が、ぁあああ……!!」
「っか、ははは! はなから勝負を捨てたか? 潔いな、龍よ!」
 ぞぶり。異常強化された指先が鉄の爪じみて脇腹を抉る。
「そうとも、俺はまだ未熟だ……貴様には、一対一では勝てはしまい……!!」
 内臓を直接触まれる怖気と激痛に意識を飛ばしかけながら、ユーリは呻く。
「だが、心の強さ――信念や挟持では、負けはしない!」
「吠えるだけならば狗にも出来るぞ」
「……負ける、わけには……いかないのだッ!!」

 絶叫。親しんだ龍のひとが、文字通り己の体を張っている。
 焼かれ、焦がされ、それでも退くことなく立ち向かっている。
 鋼が手の内になくとも、鬼を捕らえ、肉を骨をかき混ぜられてなお。
「ユーリ――! ユーリっ!!」
 チコルは悲鳴に近い声をあげ、獣じみた速度で走った。
 傷をつける。それだけだ。その単純な作業がなんと狂おしいまでに難しいか!
 鬼の眼光がチコルを捉える。びくりと、獣の本能が足を止めかけた。
「――ぁ、ぁああああっ!!」
 恐れをねじ伏せる咆哮。太陽の焔が飛沫をあげて襲いかかる。
 かいくぐる。だが避けた先に焔の塊。少女は煌焔に苛まれる……!
(こんなの、このぐらい……カーラの痛みは、苦しみは、哀しみは!!)
 目尻から涙がこぼれた。耐え続けた女のことを思うたびに。
 言葉を交わしたわけでもない。親しいわけでも、長く識っていたわけでもない。
 だが、ああ、だが! チコルはそれですら痛みを識ってしまうほどに無垢なのだ。
「こんなものじゃ、ないっ!!」
 振り払う。そして自ら吸血鬼の間合いに飛び込んだ。
 術式発動。咲き誇る花びらが、身を捩る少女にあわせて舞い散る。
(もっと。もっと素早く、もっと鋭く、もっと、もっと、もっと!!)
 花よ咲け。そして散れ。己も友も敵も何もかもを切り刻め!
 嵐が生まれた。花弁は鬼の全身を切り裂き、奴は哄笑した。
 血が飛び散る。逃さない。花弁は草木であるがゆえにハンケチめいてそれを吸う。
 まだだ。まだ。あと一滴でも、命のしずくを取り戻せ!

 ――それこそが、私/俺達に出来ることなのだから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

須藤・莉亜
Aを選択

「言ったじゃん。戦う以外は出来ないって。」
敵は殺す、ただそれだけ。

大鎌を30本に複製し、25本を攻撃用にして残りは自分の周囲に展開して防御用に。

悪魔の見えざる手には奇剣【極無】を持たせて攻撃させる。

分身と連携されると厄介だし、どっちかは悪魔の見えざる手に常に攻撃してもらうことで足止め。もう一方の敵さんには僕が大鎌で全方位から攻撃していこう。

敵さんの攻撃は防御用の大鎌で【武器受け】。【第六感】と【見切り】で回避するのも忘れずに。

あ、腐蝕竜さんは邪魔になりそうなので帰ってもらいました。




 "何が出来るというのだ"と、鬼は問いかけた。
 "出来ないことのほうが多い"と、彼は応えた。

●須藤・莉亜の選択
 ぐるぐると、合計で三十の大鎌が宙空を音もなく揺らめく。
 そのうち五つが、細く青白い肌の莉亜の周囲に侍り、守った。
 では残る二十と五は。莉亜はつい、と細長い指を敵手へ差し向ける。
 直後、魂を刈り取る死神の爪じみて、それらは殺到した。
「「――面白い」」
 二人の鬼が同時に囁いた。逃れるすべなどないというのに。
 アシェリーラ。己の分身を骸の海より呼ばう強大なヴァンパイア。
 寸分の違いもないそれらは鏡合わせめいて構え、大剣を旋風の如く振るう。
 魁を担った五振りが砕けた。返す刀でさらに五が割れて爆ぜた。
 三手目。それぞれ二が吸血鬼の肩と脚とを串刺しにする。血が流れる。
(おいしそうだなあ)
 莉亜はぼんやりとそう思った。彼の脳裏は靄めいて霞む。
 ――否、霞ませている。まるで彼が嗜む紫煙で包まれているかのように。
(血が欲しい)
 ダンピール。呪われた血を享けた、人にも鬼にもなれぬ半端者。
 ゆえにその渇望は生涯埋まることなく、求めても安らぎを得ることはなく。
 だから彼は逃避する。己の闇と飢えと乾きを軽薄な皮相で包んで隠す。
 ――ここに誰がいる? 誰もいない。己と、敵と、それしかいない。
(なら、いいか)
 いいじゃないかと誰かが囁いた。それはきっと悪魔のはずだ。
 けして、何もかもに飽いて嫌気が差した己の自答などではあるまい。

「「まるで死神のようだな、我らの天敵よ!」」
「サラウンドスピーカーみたいで気持ち悪いなあ」
 嘯いて、莉亜は赤い絨毯の敷かれた廊下をふわりと駆ける。
 四肢は脱力しいささかも力んではいない。緩慢ですらある足取り。
 だが綿毛めいて浮かんだ体は、奇妙なまでに間合いを詰めて敵へと迫る。
 徒手空拳。否である。彼は何も持たずとも、悪魔がそれを持っている。
「バラバラにしたほうが――いっぱい"血が出る"よね?」
 薄く笑んだ。唇の下、緩く弧を描く牙がかすかな月光に輝いた。
 見えざる手が動く。無色透明の、血を吸うための妖しき刃が虚空を削ぐ。
 分身体がこれを受けた。開胸手術めいて胸骨が血の花を咲かせる。
 悪魔は容赦せぬ。切り裂き、押し広げ、分身を引き裂きにかかる。
 では本体はどうか。喉笛狙いの鋭くおぞましいまでに疾い斬撃を放っていた。
 鎌が一振り砕け散る。攻撃直後を狙い、二振りが敵へ襲いかかる。
 燃えた。だが煌焔は、莉亜自身を害するほどには燃え盛らない。
「君って首刎ねたら死ぬの?」
「試してみるがいい、我らの仔よ」
 へらり。莉亜は笑った。滴るような憎悪と怒りが満ちていた。
「なんでもいいや。――殺すから、とっとと死ねよ」
 一閃。大鎌を防御から攻撃に転用した、堂の入った薙ぎ払い。
 手応えが浅い。だが傷は与えた。本体の胸部から赤い赤い血が飛沫く。
 ……吸血鬼が数多の人間を、"強者"を食らってなした精髄である。
 魂の通貨。奪わねばならぬもの。失われていくいのちの代替物。
(どうでもいいや)
 莉亜は喉を潤した。話したこともない女の生涯を誰が背負う。
 責任? 使命? 義憤? くだらない。うんざりだ。
 敵は殺す。鬼は滅ぼす。この手で。この刃で。この力で。
(それだけでいい。それしか出来ない。それが"オレ"だ)
 だから刃を再び振るった。傷がさらなる血を吐き出させた。
 鬼が何かを言った。莫迦にされているのはわかった。
「嗤うなよ」
 大鎌がしなる。三撃目。刃がとどめ、応報の斬撃を繰り出す。
 受ける。三振り目が砕けて散った。分身は――消失しているか。重畳。
「これが貴様の出来ることか」
 傲慢な鬼は慈しむような表情で言った。
「僕はこれしか出来ないんだよ」
 病んだ半血は、諦観の微睡みに眼を細めてただそう応えた。
 ――選択の余地などない。本当に? それは誰が定めた答えだ?
 己で課した諦観か。己で閉塞させた可能性か。……どうでもいい。
 ただ殺す。血の熱狂に心と体とを酔いしれさせる。

 そうしている間は、何も考えずに済むのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●4/13 05:29
 A:7/? B:4/?
黒城・魅夜
冷たく無感情な眼でカーラさんに問いかけます。

……そして、あなた自身は何を望むのです?

生を?
ならばたった一言、私に頼んでください。この身に代えてもあなたを救いましょう。

死を?
ならば永遠の安らぎに導きましょう。もう苦しむことはありません。

何も望まない?
そうですか、意思を放棄した者よ。そのまま、いつまでも歌っておいでなさい。



生:B。死神札を舞わせ敵の動きを止めつつ「傷口を抉る」で血の採取。
死:短剣でカーラの心臓を突き刺す。まったく躊躇わず後悔もしない。
望まない、答えがない:A。敵の攻撃を見切り・残像・第六感で回避しつつ、先制攻撃・二回攻撃・早業でダメージを与え、UCを叩きつける。カーラは考慮しない。



●黒城・魅夜の選択
 併せて百と八つ。獲物の数が"少なければ少ないほど"それを追う必殺の鋼鎖。
 それ自体が意志を持ち生きているかのようにやってくる鎖を、
 アシェリーラは一瞥のみで見切り、ぐるりと大剣を回転させた。
 ほとんど同時に鎖が砕け、残影卿はその破片の只中を悠然と歩む。
「――……」
 魅夜は取り乱すことなくバックステップを踏んで距離を取り、鋼鎖を再生成。
 鞭めいてしならせたそれを脇腹めがけ振るうとみせ、
 手首のスナップで軌道を急激に変え、一拍ずらした上で頭部めがけて打つ。
 アシェリーラが首を傾げてみせると、鎖は紙一重で弾むに留まった。
 その瞬間にはすでに、残影卿から生み出された分身体が未来絵図めいて走り、
 魅夜の眼前に。大振りな斬撃。切り裂かれた魅夜もまた同じく残像。
「どうした猟兵よ。殺意の割に鋭さが足らぬな」
「お黙りなさい」
 敵の戯言を一蹴し、魅夜は両手に生じさせた鎖で左右同時の攻撃を行う。
 飛んで避けたり沈み込んだとしても、打ち合った鎖同士が絡まり、
 さながら換気扇のようにぐるぐると回転することで上下を圧する構えだ。
 ゆえにアシェリーラは、分身体に左の鎖を任せ、自身は右の鎖を砕いた。
 緩急をつけた踏み込み。アシェリーラの嗤笑が魅夜の眼前に迫る。
「ぬるい、と言っているのだよ」
「――……」
 地摺り斬月。魅夜はわずかに半身をずらすことでかろうじてこれを避ける。
 回避動作の勢いをつけたままの膝蹴り。残影卿の脇腹に突き刺さ――らない。
 振り上げた剣をあえて一度手放すことでぐるりと一回転させ、
 繰り出された膝に対して斜めの角度になった瞬間に掴み直し、盾とした。
 弾かれた。両者の距離が再び剣の間合いから2歩分まで離れる。
「猟兵よ。私は"貴様に"問うたのだ。何が出来る、とな」
「それが何か?」
 鎖を振るう。剣で弾き、あるいは砕き、はたまた避けて無効化する。
「我らが争うは必定。だがその上でなお、戦いこそがそうだと嘯くならばよし。
 救済や贖罪、はたまた防衛を掲げるも一興よな。我はどれも好ましいゆえに」
「そうでしょうともね」
「で? "貴様には何が出来る"のだ」
 攻撃する。防がれる。攻撃が来る。見切る。攻撃する。避けられる……。
 魅夜はカーラに問うた。雨の中の問いは、是とも否とも返ってこなかった。
 瀕死ゆえに意識が朦朧としていたのか、あるいはやはり選ばなかったのか。
 確かなのは今響く嗚咽の残響すら、問いかけに対しては返らなかったこと。
 だから魅夜はそのままここへ来た。猟兵としての責務を果たすために。
 オブリビオンと猟兵は絶対的な天敵同士、和合は在りえぬゆえに。
 過去と未来は共存出来ぬゆえに、いずれかが滅びなければならぬゆえに。
「――……」
「答える気はなし、か」
 ふっ、と過去の化身は笑った。あからさまな嘲りの笑みを。
 鎖を放つ。背を向けた本体へ迫るそれを、分身体が弾き立ち塞がった。
 アシェリーラは強き者を、正しくはその血を吸うことを好む。
 目の前にいながらして踵を返したのは、つまりそういうことである。

成功 🔵​🔵​🔴​

北条・優希斗
A
仲間との連携・声掛け可
カーラへ生きたいか否か聞く
生きたい→何も答えず残影卿の所へ
生きたくない→その場でカーラに止めを刺す
切り捨てる覚悟などとうの昔に出来ているさ
残影卿へ
「語るに落ちたな残影卿。お前が彼女にあの声を与えたわけか。…一つ、聞かせろ」
(蒼月、月下美人、月桂樹が輝く)
「お前は、彼女を強い人と言ったがお前は彼女を愛していたのか?」
回答はどちらでも構わない
結局カーラを見捨てる覚悟は変わらないから
「お前達の罪は俺が代わりに背負って行くよ」
ダッシュ+先制攻撃で肉薄
フェイント、二回攻撃、騙し討ちで確実にダメージを与えてUC発動
防御は見切り、残像、オーラ防御を軸に
カウンターも狙って確実に倒す



●北条・優希斗の選択
「"語るに落ちた"と、お前はさきほどほざいたな」
「……癪にでも障ったか?」
「いいや。ただそのまま貴様に返そうと思っただけだ」
「…………そうかい」
 外では雨が降る。明かりなき昏き廊下に二つの影が舞った。
 片方は猟兵。呪われた刃を振るい、失われた過去を背負って生きる男。
 かたや邪悪。数多の人を責め苛み、苦しめ、以てもてあそぶ過去の化身。
 互いに互いの残像を切り払い、あるいは先の先と後の先を得る攻防の中、
 優希斗は立ち合いの最中で問いかけた言葉と、その答えを反芻する。

(―― 一つ、聞かせろ)
 優希斗は決然と敵を睨み、覚悟を讃えた瞳で言った。
(お前は彼女を強い人と言った。ならばお前は、彼女を愛していたのか?)
 吸血鬼は気まぐれな生き物である。
 気まぐれに人を殺し、奪い、もてあそんで苦しめることもあれば逆も然り。
 美しい娘や男を所有物のように扱い、飽きるまで愛でる者も少なくはない。
 それこそが彼らなりの愛情であると、皮肉めいて嘯く者すらいる。
 ……優希斗はカーラに、彼女自身がどう在りたいかを問いかけもした。
 生きたいのか。それともこの苦しみから、死を以て解放されたいのか。
 瀕死の淵にあるゆえかその答えが返ってくることはなかったが、
 どうあれ優希斗が彼女の生存を最優先するつもりがなかったことはたしか。
 つまりは己へのけじめのためである。見捨てるという罪を背負うための。
 答えに意味を見出さない問いかけ。その点では吸血鬼へのそれもまた同様。
(我は貴様らに問うたのだ、ならば貴様の問いに応えるのが筋よな)
 武人めいた戯言を漏らしつつも、アシェリーラは答えた。
(情愛の意味で捉えるならば、否。親愛の意味で捉えるならば是だ。
 君は美しい。あの塵芥どものように堕落することなく、気高く在ったのだから)
 少なくともアシェリーラは、カーラという女の悲嘆をそう捉えていた。
 生存するための当然の排斥と、嗜虐の連鎖に堕ちなかったことこそ強さだと。
 優希斗からすれば、それはつまり無抵抗という一つの罪でもあるのだが。
(――いいだろう。お前達の罪は、俺が代わりに背負っていくよ)
 だからこそ覚悟していた。彼は呪われた罪を背負い生きる者。
 カーラの、人々の、そしてアシェリーラの罪すらも背負おうと。
 ……その言葉に返ってきたのが、先の一言である。

 フェイント。アシェリーラは見切った上で柄尻で本命の斬撃を弾く。
 勢いを殺さぬままの横斬撃。優希斗は身を這うほどに沈めて回避する。
「罪を背負う。敵も人も何もかもの罪もか。フ、フ、ハハハ!
 いかにも傲慢な台詞よな。我を討たずしてその大言壮語は叶わぬぞ!」
「言われるまでもないさ……!」
 剣舞は続く。雁字搦めの中でも足掻く男の生そのままに。
 一進一退の攻防の間、優希斗の表情は晴れぬままに曇り続けていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と
B

カーラさんが生きたいのか、このまま殺してほしいのか
私達にはわからない
でも、喜ばれない可能性があるとしても助けたい
力を貸してくれるよね

なぎ払いも連続攻撃も決定打に欠ける気がして
槍以上に効率よく血を奪う方法はないの?
……ああ、雨で気が散る……

そうだ、素材はある……後は、……

ヨハン
私から出来る限り離れて
絶対に近寄らないで
……君を傷付けちゃうのが怖いから

雨を素に魔術で生成した無数の氷は、太く鋭い刃に
足止めしてくれている内に一斉に貫く
……また暴走しても、どうか彼には当たりませんように
どうせ制御されないならアシェリーラだけを狙ってよ
血を流していいのはあいつだけ……!


ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と

B

正直、俺は興味がない。
虐げられ、蔑まれ、死に瀕してなお
抗う意志を見せない女。
ただ与えられたものを受容するだけの矮小な存在。

……それでも、
吸血鬼の卑陋な戯れを看過する方が癪に障る

あなたが助けるために槍を揮うというのなら、
切っ先が迷わぬように助力しましょう

蠢闇黒より、糸のように闇を這わせる
より血を流させるため、足止めが俺の役割と決めた
張り巡らせた糸にかかれば、絡め取り縫い留める
動くなよ、沈め
蠢く混沌をただ一点に集中させるのみ

彼女の言うことは聞けない
制御できなかった場合、力に呑まれる前に助ける
血を流すのはあいつだけ、には
同意なんですけどね



●オルハ・オランシュとヨハン・グレインの選択
 ……愚かな行為では、あると思う。
 そもそも最大の当事者たる女の望みがわかっていないのだから。
 もしかすると彼女は死を望んでいいるのかもしれない。
 何もかもにも疲れ果てて、終わりを以て解き放たれたいのかもしれない。

 少年はそれを侮蔑した。正しくは侮蔑すらない無関心で一蹴した。
 抗う意志を見せないことを無価値と断じた。彼自身が足掻き続けるゆえに。
 苦しみであれ悲しみであれ、与えられたものを享受するだけのモノは、ひどく矮小だと。

 少女は可能性を見据えた。"かもしれない"という言葉を浮かべた。
 死を望んでいるの"かもしれない"。だがその逆"かもしれない"。
 ……どちらであれ、それを定める権利は己にはないのだと自戒したのだ。
 あるいはそれは、かつて肉親の可能性を過ちによって閉じたことへの恐怖か。

 闇が面影糸を張る。獲物を逃さぬ蜘蛛のそれめいて四方八方を覆う。
「ほう。ここまで闇を手繰るとは、いやなんとも」
 アシェリーラは容易くそれを見抜いて引き裂こうとした。
 引き裂こうとして――刃を絡め取られ、わずかに片眉を吊り上げた。不快。
「動くなよ」
 ヨハンは命令する。吸血鬼がどう応えようが構わない。一顧だにしない。
 女そのものはどうでもいい、だがこの畜生どもの戯れ自体が癪に障る。
 だから彼女に付き合うと決めた。義憤も何もない、ただそれだけだ。
「沈め」
 ただそれだけ。そのためだけに闇を喚ばい、影を通じて敵を呑む。
 渾沌が応え、黒闇がアシェリーラの両足を捉えた。足止めである。
「お願い」
 後ろに居た少女が駆け出し、口訣を編み上げながら祈った。
 裡なる魔力がそれに応えて元素を揺るがし、以て天然自然へ干渉する。
 横殴りの雨がぱきぱきと凍りつき、少女を中心とした花めいて咲き誇る。
「どうか……!」
 祈る。よぎるのは過去の風景。己がなしてしまった過ちの記憶。
 それが過去だというのなら、振り払い今ここに未来を掴んでみせよう。
 "カスルメント・ロアー"。自然現象を基に一撃をなす魔術。
 制御を失えば暴走する。暴走すれば敵味方の区別など消えて失せる。
 否。オルハは"初めから制御を諦めていた"。それでいいと決めていた。
「捨て身で来るか、重畳」
「いいえ。血を流すのは――流していいのは、あなただけ!!」
 かくて氷の牙達はカタカタと意思を持つように震え、爆ぜた。
 吸血鬼に殺到するべきそれらはランダムな方向に解き放たれた。
 構わない。彼にはそれを見越して近寄るなと言付けてあるのだから。
 傷つけるのは奴だけでいい。そうだ。穿け、貫け、串け!

「――え」
 溢れる力に呑まれて忘我しかけたその時、ふっとオルハは浮遊感を得た。
 違う。引っ張られている。誰が? 力強い腕の感触。少年らしい握力。
「なんで」
 オルハは呆然とした。どうしてヨハンが真横にいて自分の手を引いている。

(ヨハン、いい? 私が術式を解き放つから、できるだけ離れていて)
(……)
(絶対に近寄らないで。私、制御できる自信がないんだ)
(…………)
(血を流していいのはあいつだけ。君は絶対に巻き込まれたら駄目だから。
 私のわがままに何度も付き合ってくれたよね。ありがとう、今回も聞いてくれて)
 だからと呟いた。
(あなたが私の矛先を定めてくれるなら、なおさらにあなたは傷ついたら)
(………………)
(……ううん、嘘。私ね、ほんとは、君を傷つけちゃうのが――)

「――なんで!」
「聞けません」
 悲鳴じみた声を静かに一蹴。ヨハンはオルハの腕を掴んだまま引き戻ろうとする。
 自然はそれを許さぬ。爆ぜ狂った氷の刃が深々と腕を貫く。
「…………ッッ」
 向こうからは吸血鬼の哄笑が響く。傷を貫き、血を凍らせて奪う気配が。
「なんで! どうして!?」
「"血を流すのはあいつだけ"には同意しますがね」
「放してよ」
 刃が肌をかすめる。
「放してよ!!」
「厭です!!」
 苦痛をも踏みにじるほどに叫んだ。退こうとした脚が貫かれて、
 それを圧してヨハンは跳んだ。受け身を取れずに二人が転がる。
「――その頼みだけは、聞けません」
 ヨハンは腕の中のオルハの顔を見ない。敵が追撃してくることを警戒する。
 彼女はどんな顔をしているだろう。……肩が震えていることだけは、伝わったけれど。
 言うべきことは言った。"聞かない"のではない、"聞けない"のだ。
 それを聞いたら、自分は。縋るための意地すら失ってしまうのだから。
「…………」
「俺には」
 哄笑は消えていた。気配もまた。残されたのは荒れ狂った氷の残滓と、
 吸血鬼から奪い取った血の飛沫。いのちの欠片。無価値な女を救う価値の果て。
「俺には、これしか出来ないんですよ」
 少年の声が震えていたのは、刃がもたらした冷気のせいだろう。
 少なくとも彼女には、そう思っていてほしかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



 A:11/? B:8/?
アルジャンテ・レラ
B

虐げられた女性と虐げていた人々
双方の関係は残影卿によって成り立っていた……。
その残影卿が亡き後、
互いにどのような感情が芽生えるのか?
実に興味深いです。

……もちろん、それだけではありません。
苦しみながら息絶えるなど、あまりにも惨い。
私は以前、同じ世界の"館"で誓いました。
惨状から目を背けないと。この手が届くのならば、手を伸ばすと。

共闘の猟兵が私に10秒を与えてくれたのならば。
複数の矢を番え、一思いに射抜きます。
狙う部位はよく考えておかなくては。
出血の止まりにくい箇所……書物から得た知識があるはず。
記憶を辿ってみましょう。
ヴァンパイアとて血の巡りは人間とさほど変わらないでしょうしね。


柊・明日真
【アドリブ歓迎】
【選択:B】
下らねえ暇つぶしに大勢巻き込むなっつの。
まあいい、カーラを救っててめえを潰す。いつも通りだ。

出血を狙うとなると、俺の得物じゃ大雑把過ぎるな…。
もっと得意なヤツに任せた方が良さそうだ。
どのみち長期戦になる。負傷はなるべく俺が引き受けて囮になるとするか。

消極的になりすぎないよう出血狙いの攻撃を交えつつ【トリニティ・エンハンス】【武器受け、見切り、火炎耐性】で防御を固めて挑むぞ。
可能な限り攻撃を引きつけたい、矛先がこっちに向くよう挑発しながら戦ってみるか。
隙を見つけりゃ他の奴が上手くやってくれるだろう。



●アルジャンテ・レラと柊・明日真の選択
「どうした、来いよ」
 明日真は不敵に笑い、映画スターめいて掌を上向けて手招いた。
 煌焔を纏わせた呪われし大剣は振るわれない。アシェリーラは微笑を浮かべる。
「余裕のポーズか? ハッ、バレバレだぜ。息が上がってんだろ?
 休もうったってそうはいかねえぜ。それとも怖いのか、クソ野郎」
 明日真は片眉を吊り上げて嘲笑う。残影卿は仕方ないとばかりに肩を竦めた。
 背後、放たれた矢がアシェリーラの急所を狙う。
 大腿。上腕。心臓。頸部。大動脈が通ったいずれも致命的な部位。
 煌焔を纏った剣がぐるりと半月を描く。金切り音を立てて鏃が砕け燃える。
「残念、また届かなかったな。さてまた10秒だ、頑張りたまえ」
 アシェリーラは憐憫を込めて言った。アルジャンテは無視して矢をつがえる。
「ごちゃごちゃうるせえ。さっさとかかってこい」
「明日真さん、まだいけますか」
「とっととかかってこいっつってんだ、クソ野郎ッ!!」
 背中にかけられたアルジャンテの言葉を振り払うかのように、青年は叫んだ。
 吸血鬼が何かをつぶやく。――善き哉。傲慢で愉悦に満ちた歓喜の吐息。
 姿がぶれた。アルジャンテは敵の像を逃さぬと目を凝らす。
 捉えられない。1秒が過ぎる。どこだ。捉えなければ。
 10秒ですら永劫に等しいというのに、これではまた延びるばかりだ。
「どうしたァ! こっちゃまだピンピンしてんぞオラァ!!」
 明日真が叫んだ。剛剣を逆手に構え、鉄甲と刀身とに魔力を集中させる。
 煌焔を纏いし刃が、いじましき守りもろとも肉を裂く。骨に届いた。吐血。
「明日真さん」
「集中しろ!」
「ですが」
「集中しろッ!!」
 ぱたた、と血が足元に滴り、それすらも太陽の焔で蒸発して消えた。
 二撃目。明日真は刃を当てて弾こうとする――瞠目。フェイントだ。
 ぐるりと体ごと反転した吸血鬼の太刀が、がら空きの胴をばっさりと割く。
 血は流れない。傷口は煌焔で焼灼されている。明日真は塊じみた血を吐いた。
 内臓がやられたか。もう一度同じ場所に喰らえば、終わる。
「が……ッ」
「さああと何回だ。あと何秒だ?」
 アルジャンテは嗤笑する吸血鬼の隙を捉えようとする。あと9秒。
「どれだけ立っていられる。その魔力はいつまで保つ? 気力はどうだ?」
 8秒。苦し紛れの反撃をかわし、悠々とした拳が焼け焦げた傷を抉った。
「がぼっ」
「猟兵とは生命の慮外の存在であるそうだな。さて"どこまで"そうであるのか」
「…………ッ」
 ぎりり。アルジャンテは己が噛み締めた奥歯の軋みを厭なくらいに聞いた。
 7秒。ぎりぎりと弓弦が張り詰める。まだだ。まだ放っても届かない。
 明日真が吐血する。膂力を込めた殴打――吸血鬼の豪腕が弾き、折った。

(くだらねえ暇つぶししやがって。大勢を巻き込むなっつの)
 雨の中での作戦会議中、明日真は三回目のぼやきを漏らした。
(まあいい。"いつも通り"だ。カーラを救って、あいつを潰す)
(……それには同意します。ですが明日真さん)
 アルジャンテは思案を終えて、淡々と彼を見た。
(あなたが危険すぎる)
(だからなんだよ。お前がさっさと仕事をこなしゃあいいんだ)
 明日真が囮となり、アルジャンテが急所を貫く。
 シンプルな作戦。それは明日真が負傷を受け持つことで成立する。
(それともあれか。お前も、カーラが死んだっていいってのか)
 明日真は言った。橙色の瞳が真っ直ぐにアルジャンテを見据えた。
 即座に首を振った。そして書痴の人形は呟いた。
(私はかつて、この世界の"館"で誓いました)
(……)
(こんな惨状からはもう目を背けたいと。この手が届くならば、必ず――)
 成れの果てで埋まったおぞましい館。救えなかった命の残滓。
(……必ず、手を伸ばすと)
(ならやるこたひとつじゃねえか)
 明日真は笑った。アルジャンテはまたひとつ疑問が増えたように思う。
 事が解決したとして、女達と虐げていた人々はどうなるのだろう。
 憎み合うのか。罪を悔やんで和睦し、あるいは一方が一方を苛むのか?
 愚行は繰り返されるのか。女が貯めた鬱憤が爆裂してしまうのか?
 興味深いと思う。それはもはや、己らの手を離れた出来事ゆえに。
 ――ただ。
(……あなたの考えよりは、まだ予測がつきますね)
(あ?)
(なんでもありません)
 きっと自分が人間なら、その時苦笑していたのかもしれない。

 2秒。
「余裕こいてんじゃ、ねェ……!!」
 明日真は立ち上がった。体に力を込めるたびに血がぽたぽたと垂れ落ちる。
 太陽の焔が内側で輝いているかのように、全身余すところなく灼けたように熱い。
 事実として灼けている箇所もある。激痛がそう錯覚させている箇所もある。
「まだ生きてんぞ、俺は。来いよ。……来いよ!!」
 1秒。
「やはり人の耐えるさまは、美しい」
 陶然とアシェリーラは言った。振り上げた刃は断首の構え。
 0.5秒。0.4秒。刃が走る。0.3秒。明日真が吼えて腕で受け止める。
 0.2秒。血がアルジャンテの頬にかかる。0.1秒。刃が、肉を骨を頸を――。
「……ありがとうございます」
 弓弦が弾けた。嗚咽も雨音も、鉄甲が砕けて割れる音も何もかもよりも。
 鏃が大気を切り裂き、肉を裂いて血の管を穿つ。噴水めいて吹き出す鮮血。
 吸血鬼は称賛らしき言葉を言って、二射目を弾いて闇へと消えた。
 明日真が倒れる。アルジャンテは駆け寄った。青年はかろうじて生きていた。
「…………」
「ざまあみろ、クソ野郎」
 ……アルジャンテは不思議に思う。諸自然を、世界の諸々を。けれども。
 これだけの傷を帯びて莞爾と笑う彼の心の裡は、何よりも不思議に思えた。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

御狐・稲見之守
B:この世界の沈黙する神に代わり我が救う神の一柱になると誓ったのだ。ヒトを救わずしてなんとする。

[WIZ]戦自慢のようであるが、我のようなモノノ怪と死合うたことが果たしてあるかな。UC化生顕現、黒髪の女狐姿、白髪の神仙姿、大狐姿、火狐姿、不定の獣姿に加えて童姿、小狐姿の合計7種の姿を逐次不規則に変化させてこちらの筋を読ませず狐火や薙刀、獣姿の爪牙で攻撃。稲見流此処に極まれり。

血は機を見て大狐姿或いは不定の獣姿で腕脚を噛み千切りまるごと持っていくか、噛み付きを当てた時に[吸血]を行う。この際どちらでも勝機のある方を優先。

――そしてこうも誓った。胸糞悪い化物連中を一切合切根絶やしにしてやる、とな。


パーム・アンテルシオ
さすが、吸血鬼。さすが、世界をこんな姿にしてる元凶。本当、悪趣味だよね。
どうするか…そんなのは、言うまでもないよね。みんななら…きっと。

◆B
相手は、相当の手練。私みたいな未熟者でも分かる。
ただ力が強いだけじゃない。戦いの経験の量なんて、比べ物にならない。
正面から打ち合っても…きっと、勝てない。

それに、私の力じゃ…炎じゃ、血を流させるのに不向きすぎる。
私に取れる手は…何がある?
…いや、そうだった。私がする必要は、無いんだったね。

九ツ不思議…雪女。今だけ、力を貸して。
一点を狙った攻撃なら、簡単に予測される。それなら、避けられないほど広範囲の攻撃なら?
私が、あいつの動きを鈍らせる。
だから、その間に。




 人との間に線を引き、我は人に非ずと定めた妖狐がいる。
 一方で己はヒトだと定め、ヒトらしく在ろうとする妖狐がいる。
 彼女らの歩んだ道程も、経験も、拠り所も、信念も何もかもが異なる。

 だが、選んだ答えは同じだった。

●御狐・稲見之守とパーム・アンテルシオの選択
 まずはじめに、ぬばたまの黒髪を艶やかに伸ばした女狐が現れた。
 次いで、まるでその髪の色を雪のように真白に染め上げた神仙が。
 続いたのは九尾を抱く、闇よりも濃き黒の毛並みの大狐。
 まだ終わらぬ。毛並みに変わり、全身が地獄めいた業火に変じし火狐。
 ついには狐めいた形すら喪い、見る角度と時に応じ形を変える不定の獣が。
 異なる色を双眸にそれぞれ湛えた童女が続き、最後に小狐が生まれ出た。
 同時に、ではない。すべてひとつきりの存在の化身であり変化である。
 女狐で在りし時には不遜に睥睨し、神仙として在りし時には達観した。
 大狐に変じれば怒涛の唸り声を以て猛火を吐き出し、
 焔じみた火狐として在れば、ただそれだけで敵を圧し責め苛む。
 刃が来たれば淀み揺らめく不定の獣が水月のようにそれを躱して受け流し、
 かと思えば童女の笑みが、はたまた小狐の鳴き声が堪忍袋の緒をもてあそぶ。
「く、くく」
 狐火が太陽の煌焔に呑まれる。吸血鬼は喉を鳴らした。
「どうした、我のようなモノノ怪に恐れをなしたか」
 ぬばたまの女が嘲笑い、笑みをかき消すような太刀筋を小狐がかわす。
『如何ナ戦上手トテ、獣ノ爪牙ヲ凌グ術ハ知ラヌト見エルカッ!!』
 大妖たる狐がぐるぐると唸り、噛み付くと見えた瞬間に裡から燃え上がる。
 吸血鬼が蹈鞴を踏む。そこへのたうつ闇めいた獣が襲いかかった。
 撃剣。錐の如き闇の刃は煌焔に灼かれ、返す刀を童女が鞠のように躱す。
「くくく! よくもまあ次から次に、万華鏡めいて姿を変える!」
「いわばこれぞ稲見流よ。見物料は相応に頂くぞ?」
 薙刀が足元を払った。アシェリーラは紛れもなく全力で七の化身を凌いでいた。
 魂とは肉体と不可分である。ゆえに変化はその都度稲見之守というモノの在り様を変える。
 痴れ狂って当然の怒涛、波濤、揺らぎ。いずれの化身にもその兆しは非ず。
 そのふるまいは、いかにもけだものを超えた神の如き位階に在る。

(――どっちも、流石だね)
 それをやや後ろから見守る形となったパームは、心の裡で呟いた。
 吸血鬼の悪性は当然のこと。この世界を冒し闇に包みたる元凶ども。
 その一柱たる残影卿の戯れ、悪趣味と断ずるに余りある。唾棄すべき邪悪。
 では此度の猟兵、否、神めいた同族――すなわち稲見之守の振る舞いはどうか。
 形を変え意を変え、振るう刃を爪を、術理をも手繰り攻めては避ける。
 一進一退である。おそらく稲見之守が本気で吸血鬼を殺(ト)りにかかれば、
 すでに五回は攻撃が加わっているはず。だが吸血鬼は凌いでいる。
 ――凌げて、いる。それはつまり、稲見之守の狙いがパームと同じことを示す。
(あれほどの力と、姿と、妖術や爪を持っているのに――)
 何故、と思った。いっそ何もかも卑小と見下して切り捨てそうであるのに。
 パームはそこに至らない。吸血鬼と相対する戦士という意味でも、
 ヒトと異なるけだもの、妖しの血のこの世ならざる狐狸のひとりとしても。
 なにせ彼女は己をヒトと定義して、そうあれかしと日々を生きている。
 おっかなびっくり逢魔時を彷徨うように、きっとこれがヒトらしいと考えて、
 そうでなければいけないと己を戒め生きている。あれは、彼女はその対極だ。
(まるで神様みたいに振る舞うのに、なのに私と、皆と同じように決めたんだ。
 あの女のヒトを救うって。吸血鬼の、あいつのふざけた企みを阻むって)
 ……それを思うと、パームは不思議と嬉しくなった。一人でない気がした。
 そして思う。力も覚悟も足りぬ己がここで何ができる。どう助けられる?
 狐火はあれほどに猛らず、歌声はきっと戦の高揚には届くまい。
 ならば――ああ、いや、そうか。"ひとりでない"なら、やりようはある。
 考えるまでもなかった。だってそれが、ヒトの強みじゃないか。

「斯様に出来ることが多すぎるのも考えものであろうによ!」
『ほざけ。我はただこの世の神に代わり、衆生を救いヒトを救うのみ』
 不定の獣が嘯いて、神仙に姿を変えて術を放つ。符が切り裂かれる。
「貴様のような胸糞悪い化物どもを、一切合切根絶やしにしてやるとな」
 女狐が怒気を孕んで吐き捨てる。薙刀で吸血鬼の皮一枚を裂く。
 好機はどこだ。あと刹那、あと薄皮一枚、踏み込むにはその一寸が足りぬ。
 傷など怖れぬ。だが一縷でも多くの血を奪わねばいのちは喪われよう。
 稲見之守は己を神の如くに定義し振る舞う。それは孤独の証でもある。

 ――だが。
「"古より、汝は誘う者――"」
「……?」
 稲見之守は訝しんだ。誰だ。我に味方する者がここにいると?
 立ち回りながら意識を背後へ。祈るように佇み、瞑目した童女がひとり。
 背負う尾は九つ、されどそれは尾ではなく――いや。裡に秘めたるは、あれは。
(――あんな、子供が)
 ここにいる。ここに在る。同族の幼いかんばせに、稲見之守は深い悲哀を視た。
 だが桃色の少女は祈り子めいて、怒りも苦しみも悲しみもなくただ喚ばう。
 凍えるような月のように、その身を青白い光が包む。左様、焔に非ず。
(冷気か)
「"九ツ不思議・雪女"――いまだけ、力を貸して」
 瞠目。視線は吸血鬼を見ていて、同時に稲見之守を見てもいた。
 己のかたちすら厭わぬ妖狐と、ヒトであると戒めた妖狐の視線が絡んだ。
 稲見之守はパームの意図を察する。パームは、稲見之守の覚悟を知る。
(存分にやれ)
 神仙めいた白髪のかたちはそう言っていた。
(私があいつを止めるから、だから――)
 九つの魂を尾として背負う少女は、運命を託した。
 そして冷気が解き放たれる。点でも線でも、面ですらなき冷気の猛威。
 ぱきぱきと壁が床が窓が雨が天井が大気が凍りつき、静止していく。
 それは吸血鬼を飲み込み、その間際にある稲見之守をも呑み込んで。
 神を気取るけだものの姿が、燃え上がる火狐に変じた。疾駆。
「貴様」
『鬼如きが、狐狸精(われら)を侮るな』
 開いた顎が閉じたとき、その牙は肉を抉って鬼を深々に貫いた。
 血が循環する。冷気が焔を飲み込み凍りつかせ霜を張った。まだ離さぬ。
「おのれ……!!」
 吸血鬼はまったき停滞の死を怖れ、がむしゃらに大剣を振り回した。
 斬撃。けだものが離れる。煌焔の斬撃波がパームを襲い、女狐が庇った。
「畜生どもが……!!」
 鬼は吐き捨てて消えた。かくて冷気もまた晴れる。
「……届、いた?」
 パームは呆然と言って、血を滴らせる同族の女を見た。
「届いたぞ。――主のおかげじゃ」
 童女の姿をした狐が、ふんわりと微笑んで少女に答えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛
B

蔑まれ、誰からも救いの手を差し伸べられず、
こんな最期を迎えていい訳がありません。

必ず救ってみせましょう。

血を失い徐々に命を枯らしていく姿を、気高いというのなら、
あなたにもその気高い最期を与えてあげます。
少しでも彼女の苦しみを理解しながら、――死んでください。

ノクティス、
こんな暗澹とした世界でも、あなたは輝ける星のよう
愛おし愛槍を手に、自分の得意な距離を保ちながら振るいます
見切り、躱し、多少の流血は覚悟の上でドラゴニック・エンド
ノクティス――喉笛を食いちぎりなさい
たとえ炎に身を焼かれようと、その炎ごと拳を叩き込みます

あなたの遊びに付き合う気は毛頭ありませんよ
血を流しながら踊ってください



●三咲・織愛の選択
 夜(ノクティス)と名付けた槍は、彼女にとって最良の武器だ。
 取り回しや鋭さだけではない、もっと根源的な……そう、いわば半身。
 夜空に輝く星、いつ何時でも揺るがぬ北極星のように。
 振るうたびに頼もしく思う。そのしなやかさを愛しいとすら。
「あなた達は、そんな星々すらもこの世界から奪った――」
 織愛は刺突を繰り出す。肉厚の大剣と撃ち合い、ぎゃりぎゃりと火花が散る。
 大洋の煌焔が穂先を通じて来たるよりわずかに一瞬早く、夜の槍を引く。
「衆愚にその輝きは過ぎた宝物なれば。星とて塵芥の目に晒されれば価値を貶めよう」
「だから彼女を拐ったのですか。ならばなぜ彼らを殺したのです」
「埃を払ったようなものだ。貴様とて身だしなみには気を使うだろう?」
 打ち合う。一歩踏み込んできたアシェリーラの斬撃が正中線を狙う。
 たくみに槍を操り、これを受け流す。斬撃が床を断ち割った。

「――くだらない。あなたはその選択の価値すらも自らの意味で貶めた」
「ほう?」
「あるいはあなたが、救いのために彼女の手を取ったならまだいいでしょう」
 車輪めいてくるくると勢いをつけ、神速の三段突き。疾い。
 であれば、それを半身をずらすことで避けた吸血鬼の力量たるや。
「あまつさえそれをふざけた遊びに弄し、あんな最期を迎えさせようとする。
 それを気高いとのたまうならば――あなたもそれを味わえばいい!」
「随分とご立腹ではないか、猟兵よ!」
 ガギンッ!! 鋼と鋼が撃ち合い火花を散らした。
 闇に包まれた戦場を刹那に照らし、吸血鬼の嗤笑と少女の怒りを映し出す。
「ならば貴様は君の救済を謳うか。それが貴様の"出来ること"か」
「いいえ」
 織愛は真っ向から斬撃を受け止め、つばぜり合いめいて見据えながら言った。
「私はあなたの遊びには付き合わない。彼女を救い、最期を否定します。
 そしてあなたには、彼女の苦しみを理解させる。せいぜい血の踊りを舞いなさい」
 くくっ、と鬼は喉を鳴らした。織愛は裂帛の気合とともに一歩押し込む。
 救世主を気取るつもりはない。人類愛を謳うつもりもない。
 ただ蔑みのなか、ああして朽ち果てることはひどく悲しいではないか。
 そんなことがあっていいわけがない。それが気高いはずがない。
 ――ただ、そう感じただけだ。

「だが退いたままでは我が身は裂けぬぞ、女!」
「言われなくても!」
 織愛はさらに一歩を踏み込む。穂先を突き出し――わずかに掠めた。
 吸血鬼は嗤笑した。女の取る手が読めたからだ。ゆえに踏み込み焔を増す。
「ノクティス――」
 織愛は槍に……槍をなす龍に呼びかけた。そして"その手を放した”。
「"喉笛を、食いちぎりなさい"」
 自殺行為である。鋼なくして誰が彼女を守るという。
 だが龍は従った。藍色の輝きが流星めいて闇をつんざいた。
 焔が迸った。白い肌を焼き、美しい髪を焦がし、苦痛と地獄をもたらした。
 顧みぬ。少女はなおも踏み込み、金剛のような拳を握り、叩き込んだ。
「――……!!」
「善き哉」
 不壊の拳が砕けて鮮血を噴き出した。刃と鬼の膂力が真っ向から打ち合ったのだ。
 龍の牙が喉元に食らいついた。鮮血が噴き出し、しかし鬼はなおも笑う。
「――」
「…………ッ」
 通らぬ喉で何かを呟いた。そして龍を引き剥がし、血の残滓を遺して闇へと消える。
 目眩と共に膝を突き、砕けた手を抑えながら織愛は呻いた。
 龍が飛び寄り、傷を舐めた。……鬼の最後の一言が残響する。
(――いい戯れになったぞ、女)
 ぎりりと少女の奥歯が軋んだ。負けず嫌いの性根が疼く。
「…………それでも、私は。あなたの全てを否定します」
 だからこそ織愛は、己の性分すら抑え、傷を受け入れて血を選んだ。
 勝負は彼女の勝ちだ。それがなおさらに、彼女にとっては業腹である。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヌル・リリファ
◆アドリブ歓迎
【WIZ】【B】

まかせて。
匡さんがたすけたいなら協力するよ。
でも、まえにいくなら、人間はこわれやすいしもってて。匡さんがつかえるよう設定したから。(アイギスを一つ外して渡す)

心配はここまで。
余計なことをして邪魔になってらよくないから。

ころさず、血をながさせる。大変だけど、匡さんはもっと大変だもの。まけてられない。
UC発動。分身をだしてくるなら匡さんの負担軽減のために迅速にけずる。
本体は【戦闘知識】でうみだしたさけようのない弾幕状の武器の雨で。できるかぎりちいさな傷もふやせるよう。
どうせ致命傷はさけるんでしょ?だったらせめるときは容赦なく。億が一ころしそうなら直前で調整すればいい。


鳴宮・匡
◆B/ヌル(f05378)と


ヌル、まだいける?
……そっか
一つお願いをしてもいいかな

動きは抑えるから
出来るだけ、あいつに血を流させてくれ

UCを発動して近接戦闘を
長く戦場に立つこと
ヌルへ注意を向かせないことを最重視
全知覚は回避に振り向けて被弾を防ぎ
食らう場合も急所を巧く避けて受ける

万が一ヌルが狙われたら庇いに入る
急所を避ける余裕はないだろう
その時は借りたアイギスを展開

――ああ、知ってるよ
「らしくない」って
別に誰がどうなろうと俺には何の関係もないって

でも、生憎
それを「許さない」って言うやつらを知ってるんだ
(――多分、あの人だって、)
それに顔向けのできない真似はできないんでね
もう少し、遊んでもらうぜ




「ヌル、まだいける?」
「だいじょうぶ」
「……そっか。なら、ひとつお願いをしてもいいかな」
「なに?」
「動きは抑えるから、出来るだけあいつに――血を流させてくれ」
「まかせて。……どうしたの?」
「……いや、"どうして"って言わないんだな、ってさ」
「いわないよ。匡さんがたすけたいなら、協力する。とうぜんでしょう?」
「…………」
「でもね匡さん」
「ん?」
「人間ってこわれやすいんだよ。だから――」

 ……少女は盾を手渡して、言葉はそれ以上紡がなかった。
 余計な心配は無用だ。彼にとってノイズはきっと邪魔になる。
 合理的な思考。同時に彼女は、たしかに彼のことを思いやってもいた。

●鳴宮・匡とヌル・リリファの選択
 ――黒騎士に比べると、さすがに劣るな。
 常と異なり前衛に立った匡は、迫り来る過去の化身を視てそう思った。
 存在格というべきか。戦闘力よりももっと根源的な圧迫感というべきか。
 あの形ある邪悪に比べれば、目の前に来たりし吸血鬼は見劣りする。
 だがこれから自分は、あれを討った時よりも"手間のかかる"ことをする。
「ほう」
 鬼が目を細めた。口元に笑み。
 何を察したかはわかる。血の匂いだ。吸血鬼ともなれば当然だろう。
 そして匡にとっても、己がただならぬ血と死の気配を纏うのは当然である。
 そういう場所で生きてきた。そういう生き方をしてきた。だから――。
「さて、どこまで遊べるか楽しみだ」
 ありきたりな一言を言い、吸血鬼の姿が消えた。常人ならばそう見る。
 だがヌルと匡は捉えていた。アシェリーラの接近、そして召喚を。
 本体は正面から。分身はその影に隠れ、匡を抜けてヌルを狩る気か。
「悪いがそれは視えてるぜ」
 悪魔の爪じみたナイフを振るう。分身体の行く手を遮るように。
 本体が接近。大剣を水平に構え、勢いを載せた絶死の刺突を繰り出す。
「させないよ」
 光が降った。それは紛れもなく絶望を払う無数の輝きだった。
 匡の腹部を抉るはずだった刃が蛇めいて跳ね、己めがけた光剣を伐る。
 分身体が再度のエントリーを試みる。匡は身を深くかがめて本体の横薙ぎを避け、
 分身体の大腿部を一息に抉った。鮮血。だがこれは求めるものではない。
「相手は俺だろ。よそ見しないほうがいいぜ」
「くくっ!」
 嗤笑が返ってくる。その意味もわかる。だが凪の水面は揺らがない。
 斬撃。返す刀。避けての斬撃。両腿を裂かれた分身体が体幹をぶれさせ、
 そこへヌルの光雨が容赦なく叩き込まれた、化身が雲散霧消する。
(ころさず、血をながさせる。大変だな)
 さらなる光を生み出しながら、ヌルは淡々と思った。
 けれどもすぐ目の前で、あのひとが戦っている。己を守っている。
 ならそれは口には出さない。かけるべき心配はもうかけたし、
 与えるべき力も出来る限り譲り渡した。あとは性能を発揮すればいい。
 攻撃だけを考える。迅速に、確実に、敵の傷を抉り血を流させる。
 目的のために行動するのが兵器の在り方だ。そのための力が自分にある。
 "何故"とは言わない。言う必要がない。疑問に思うこともない。
 あんな女を救う理由も、匡が申し訳なさそうにしていた理由も、
 匡がそう言い出した理由も、気に留める必要はない。乞われたら応えるだけだ。
(でも――)
 何故だろう。そうすることは正しいはずなのに、ひどく何かがざわめく。
 ……疑問は切り捨てた。人形には███████だからだ。

 大剣とナイフ。打ち合うには何もかもが心もとない差異がある。
 匡の類まれな知覚力と、地獄じみたこれまでの経験と、連携あらばこそ。
 軍神の名をたたえた盾は特に役立った。致命を退け軽傷に留めるために。
 吸血鬼は笑っている。一瞥したばかりのこの男の振る舞いが楽しくて仕方ないらしい。
 匡は吸血鬼がそう感じたことを感じているし、なぜなのかもわかっていた。
 ナイフを、振るう。ヌルは問わなかった。問わないでいてくれた。
 他の誰かだったらどうだろう。たとえば兵士の在り方を問うた彼ならば。
 きっと聞いたのだろう。"どうしてそんなことをするのだ"と。
(ああ、知ってるよ)
 "らしくない"と言ったのだろう。自分でだってそう思う。
 別にあの女と言葉をかわしたわけじゃない。思い入れがあるわけでもない。
 どうでもいい。そう思うし、そう言ってきたし、これからもそうする。
 それが彼の在り方だ。彼が定義した"当然"であり"普通"だ。

 ……ただ、ここにいたのがあの男だったならどうだろう。
 きっとあいつはふっといつもみたいに微笑んで、こう言ったかもしれない。
 "それでこそ私の相棒だ"とか。"お前は私の相棒だからな"、とか。
 ……彼女ならどうだろう。あの時みたいにきょとんとしたあと笑ったか。
 皮肉を言いそうな少年の顔も思い浮かぶ。
 らしくないと言いそうな二つの虹彩も目に浮かぶ。
「貴様のような血を纏う者が、君を救おうとするか! 面白い!」
 ありきたりな台詞を鬼が吐いた。どうでもいい戯言だ。
「そこな人形が選んだわけでもあるまい。心変わりでもしたか、同類よ!」
「一緒にするなよ」
 淡々と一蹴する。猛然と刃を返し、きたる焔と剣と新たな分身体を避けて凌ぐ。
 少なからぬ傷が増える。人形への道筋を塞ぐたびにそれは深まっていく。
 いたわる言葉はない。ためらう気配もない。光はなおも容赦なく。
 それでいい。だからこそ自分はこの"らしくないこと"に注力できる。
「俺はお前とは違う」
「いいや同じだ」
「違う」
 ナイフで裂く。決然と青年が敵を見据えた。
「生憎な、俺は色んな奴らを知ってるんだ」
 吸血鬼の行いに憤り、あるいは嘲り、当然のように"許さない"と云う者達を。
 義憤、義務、皮肉、反逆、憎悪、理由は様々。だがきっと、必ず、そう言う者達を。
 ――そして、おそらく、"あの人"も。
 凪の水面に、月の影めいて過去の残響が映った。振り払うべき、今になんの影響も与えぬただの感傷が。
 ……振り払わない。切り捨てない。ただ淡々とそれを脳裏で見届ける。
「俺は」
 ナイフを構える。血は足りない。まだだ。
「それに、顔向け出来ないような真似は――"出来ない"んでね」
 したくないとは言わない。……だって、どうでもいい"はず"だから。
「もう少し遊んでもらうぜ」
「よかろう」
 人形はその背を見守った。人形であるがゆえに淡々と。
「匡さん」
 人形だからひたむきに。人形として一心に。
「わたしはわたしのちからで、手助けするから」
 人形だからといって、揺らがぬ海だからといって、しない理由はない。
 出来ることは行使する。ただそれだけだ。ただ、それだけだ!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フェルト・フィルファーデン
【B】
出来ることなんて殆どないわ。敵を倒し、助ける。ただそれだけ。ええ、所詮無力よ。助けた後どうすればいいのかも何もわからない。……それでもね?助けられる命を見捨てるなんて、そんな希望も未来もない幕引き、わたしは認められないのよ!

「そちらが分身を出すならこちらも同じ手よ。UCを使いもう1人のワタシと騎士の分身達と共に戦うわ。わたしは本体に負傷覚悟で攻撃を重視。血がよく出て致命傷にならない手首、脇腹を【2回攻撃、スナイパー】で斬り裂きましょう」
『ワタシは分身体を防御重視で対応よ。本体から引き離すように【フェイント】をかけ【盾受け】でガード、【カウンター】を狙いその場に釘付けにするわ』



●フェルト・フィルファーデンの選択
 猟兵は猟兵であるがゆえにオブリビオンを狩る。狩らねばならぬ。
 さもなくば世界は過去に覆われて滅び去る――黄昏を迎えたこの世界のように。
 彼女はそうして過去に大事なものを失った。ゆえに仇敵を赦すつもりはない。
 此度も同じだ。これまでと同じように、おそらくはこれからと同じように、
 敵を倒し過去を否定する。喪われそうないのちを助ける。ただそれだけ。
「わたしはそんな絶望を認めない」
 フェルトは言った。
『わたしは希望を求める』
 "フェルト"が言った。
 かたや妖精、希望と未来を謳いかりそめの笑顔で己を繋ぐ亡国の姫。
 かたや人形。かそけき笑顔を模倣し、同じように動き同じように微笑むもの。
「救ったいのちが、いつ喪われるともわからぬのに――か?」
「ええ、そうよ」
 姫は頷いた。
『助けられるものを見捨てるなんて』
 人形が肯定した。
「『わたしは、絶対に認めない!!』」

 そして敵が来る。フェルトと同じように、もう一人の己を伴って。
 ならば立ち向かうのもまた同一。本物と分身、従える騎士もまた同様。
 狙う先は手首、そして脇腹。騎士達が立ちはだかり、大剣が薙ぎ払う。
 防御を分身が担当し、攻撃は本体が。騎士が倒れようとも分身の人形達が入れ替わる。
「その体でよくもまあ勇ましいものだ!」
『体の大きさで見くびるなんて、戦士が聞いて呆れるわ』
 人形が嘲笑った。そこに降り来たった二振りの大剣を騎士達が受け止める。
 こらえきれずまた一体騎士の人形が瓦解した。本体がその影に隠れ、
 本体の手首を狙う。煌焔が燃え上がり、フェルトの羽と肌を焦がした。
「っくう……!」
『それ以上はさせない!』
 分身が割って入る。同じく分身の吸血鬼がこれを乱暴に退ける。
「無駄だ。此度の戦を貴様らは越えよう。ならばその次はどうする?
 その次は? 次の次は。その次の次の次はどうする! 喪われるものは!!」
「『言うまでもないわ』」
 傷つき、疲れ果てながらも、フェルト達は言った。
 人形であろうとそれは姫であるゆえに。希望を謳う少女であるがゆえに。
「『たとえ何度でもアナタ達を否定し、希望と未来を手に入れましょう。
  いつの日か、アナタ達がすべての世界から消え失せるその日まで!!』」
「面白い――では示してみせろ、この私に!」
 傷は増えている。血は一縷一縷、一滴一滴と奪い返せている。
 それ以上の傷と疲労がフェルトを襲う。だが彼女は諦めない。
 諦めることを認めないと、あの時決めたから此処に居るのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

アルトリウス・セレスタイト
なるほど、過去の破壊者か
ではそれらしく振る舞うとするか

周囲の猟兵とは適宜協働

界離で拒絶の原理の端末召喚。淡青色の、砕けた鎖の針金細工
自動起動する真理で機能を最大化し、アシュリーラがカーラから吸血した事実を拒絶し否定する
力が足りねば臘月で分体を喚び、取り込むようにその力を自身の裡へ溜めて更に底上げ
強者の血を吸うことが好みであるらしいアシュリーラに真っ向からNOを叩き付ける

自身への攻撃も拒絶し否定して対処
常に力を注がねばいけない状態なら、真理で纏った自分という無数の盾で阻み維持に専念

一度の行使で問題なく目的達成したなら適宜目標の攻撃を拒絶して打ち消し味方の支援に専念


アヴァロマリア・イーシュヴァリエ
※アドリブ歓迎

カーラさんを、救うわ
マリアは猟兵だけど、聖者だから
救える命なら、救って良い命なら、諦めない

館は石造りかしら?
土の地面は石や砂も多く混じっているわね
館の中でも、外に逃げたとしても、周りは無機物に溢れてるはず
UCで全部海と、海に生きる命に変えれば、ほら
世界の全てが、貴方の敵になる
貴方が自滅しない程度の太陽で、海を灼き尽くせるかしら?
流れる水に貴方や分身は耐えられるかしら?
貴方の過去に海と、無数の魚達と戦った経験はあるかしら?
これ以上貴方には何もさせない、許さない
貴方の全てを、押し流してあげる

血液はUCを解除すれば魚達が食らいついた血肉から採取出来るはず
カーラさん、必ず救けるからね


アストリーゼ・レギンレイヴ
B

救ったところで意味などないかも知れないわ
だけれどそれが何だと言うの?
目の前で零れる命をもう諦めないと決めている
この命はそのためにあるのだから

耐え凌ぐことなら、あたしの得手とするところ
――相手をしてもらうわ、残影卿

《漆黒の夜》を纏って前へ出る
味方の守護を第一、相手の動きを制限することを第二とする
戦闘経験に差があるというなら、上等
避けられないタイミングを招くよう注力するのみ
いかな達人であろうと、隙が無いわけではない
回避行動の直後、相手の攻撃を防御した瞬間

……或いは、相手に深手を負わせたと思った瞬間ね

剣の一撃を受けたならば
相手が武具を引き抜く前に腕を捕える
逃がさないわ

【アドリブOK、連携等も歓迎】




 過去は不変である。ゆえに不壊であり、変えることの出来ない道程である。
 それは力になることもあれば、多くの場合は重荷か足枷になる。
 オブリビオンとはまさに、この宇宙に存在する全てのものにとっての枷。
 払うことの出来ぬ影であり、闇であり、陰であり、敵であり、壁である。
 砕こうと斬ろうと払おうと穿とうと焼こうと、おそらくは永劫だ。

 では足掻くことは無為なのか。何も生まない哀れな行為なのか。
 そうだとうそぶく過去がある。いじましいと見下ろす過去もある。
 その全てに否と声高に叫ぶこと。おそらくはそれが生きることなのだろう。

 アルトリウス・セレスタイト。
 アヴァロマリア・イーシュヴァリエ。
 アストリーゼ・レギンレイヴ。
 少なくともこの三人は、突きつけられた命題を否定した。
 ありきたりでありふれた絶望と終焉を、拒絶し己を貫かんとした。

●少女と女と青年の選択
 夜が在った。そして海がたゆたい、原理がそれを統べる。
 アヴァロマリアの術式、"海たる水に満ちよ(オン・ヤム・スヴァーハ)"。
 己より半径27メートル、世界と呼ぶには矮小で、箱庭と呼ぶには広すぎる球体。
 その中に在りし全ての命なき無機物を"海"へと変じさせる大魔術。
 世界と呼ぶには矮小で、しかし生み出されたものは紛れもなく世界である。
「そう、貴方にとっての敵。貴方を責め苛む、それがこの世界(うみ)」
 波間のやや上を浮遊するアヴァロマリアは、超然とした面持ちで言った。
 吸血鬼が舌打ちする。アシェリーラは太陽の煌焔を喚ばい海を灼こうとする。
 無駄だ。森は殺せぬ。空は裂けぬ。海の全てを灼くことなど出来はしない。
「流れる水で我を滅ぼすと? フ、ハ。ハハハ!」
 児戯じみた寓話である。オブリビオンたるヴァンパイアに左様な枷はない。
 だがたゆたう海はいのちの宝庫であり、孕みし魚達はその全てが敵である。
 泳ぎ、翻弄し、喰らい、千切り、一滴また一滴と血を奪う。肉を奪う。
「これ以上あなたには何もさせない。マリアは貴方を許さない」
「許さない? なにを以てだ。我を罪人と裁くというのか?」
 吸血鬼は嘲った。マリアは無表情のまま、決然と見返した。
「マリアは聖者。救っていい命を諦めない。救ってみせろと嘯くあなたを認めない」
 海が渦巻く。魔女の意に従い敵へと牙を剥く。
「貴方のすべてを、押し流してあげる」

 だがそれにはとどまらない。海は敵にとってのさらなる敵をもたらす。
 それが夜である。夜を纏いし、運命への叛逆をなす漆黒の騎士である。
「救ったところで意味などないのかもしれない」
 波間に運ばれ、眼前に迫りし影の担い手が剣を振るう。
 太陽の煌焔を孕みし魔剣と打ち合う。アストリーゼを覆う夜はその程度では晴れない。
「そうとも。君はより苦しみ嘆くであろうよ」
「そうね。――だけれど、それがなんだというの?」
 撃ち込む。一撃ごとに吸血鬼は圧される。拠り所とする信念の格が違う。
 経験差がある? 上等だ。格上の相手だと? 重畳である。
 ただ間隙を招くために注力し、そのためだけに前に進む。退きはしない。
 なぜならば後ろにはともに戦う仲間がいて、それを守ることこそが女の役目。
 そうと決めた。そう己に任じた。そして。
「目の前で零れる命を、あたしはもう諦めないと決めている」
「それがさらなる絶望を喚ばうとしてもか」
「ええ。どれほど後悔しようと、悲しみを生もうと、背負おうと」
 過去が積もれば積もるだけ痛みは増えるだろう。こらえきれぬ苦しみが尾を引くだろう。
 それでもだ。積み上げた悲しみと同じだけ、かけがえのないものが残る。
 我が生命はそのために。ただそう決めて前に進んで過去を積んできた。
「この心に、連れてきたものがある限り。あたしは過去(あなた)を否定する。
 ――相手をしてもらうわよ、残影卿。否とは言わせないわ」
 撃ち込む。進む。撃ち込む、進む、撃ち込む、撃ち込む!
 掲げる盾はなく、依り代とすべき紋章はなく、されどアストリーゼは全てを守る。
 そのための漆黒であり、そのための夜であり、傷つこうとも立ち上がれるのだ。
 終わりなきその孤独の歩みは、闇を友とした旅路のようでもある。

 ――そして。
 無限めいた海の中、吸血鬼が圧される最たる理由。
 果敢なまでに攻め込む漆黒の騎士を、一切傷つけられぬ理由。
 海を生み出した魔女を捉えきれぬ理由。そのもう一つの答えがここにある。
「貴様だ」
 攻撃を凌ぎ、海の眷属達を散らし、世界を喰らいながら過去は牙を剥いた。
「貴様はなんだ。何をしている。我が意をいかにして退けるか!」
「お前がそう呼んだのだろう」
 伽藍の如き、青年の形をした空白はそう言った。アルトリウスはそう答えた。「"過去の破壊者"。いかにも我々らしい、俺らしい形容詞だ。
 だからそれらしく振る舞うことにした。であればこれはお前が呼んだ結果だ」
「貴様」
 ぎりりと吸血鬼が歯ぎしりした。あの男はいかなる術式を用いている。
 識らぬ。石を岩を海と変える術式も、たゆまなき漆黒もさもありなん、
 だがこの男の術理、振るう力、己を根源から拒絶するこの圧こそ未知だ!
「俺はお前を否定する。お前が歩んできた過去を、お前を構成する過去を」
 アルトリウスの意志に従い、世界がその有り様を変える。
 拒絶は力ある行使であり、時間と空間とが言いなりになって変容する。
「だが"何物"問うならば答えてやろう。これこそ我が力が、俺が統べる原理。
 お前達が過去によって世界を覆うものならば、俺はそれを覆す者だ」
 "界離"。原初の理を以て世界そのものに干渉し是非を突きつける異形の魔術。
 それは、根源的な吸血鬼の存在そのものをすら圧倒していた。

「ぬう……ッ!!」
 斬撃。魚達がその間隙に食らいつく。青年が否と拒む。
 そこにアストリーゼは隙を視た。突いて切り開くべき兆しを視た。
 避けられる攻撃。あえて受ける。暗黒の闘気がたわみ、刃が食い込んだ。
「――逃さないわ」
「貴様……!!」
 暗黒の騎士と残影の鬼との視線が交錯する。鬼はそこにまったき闇を視た。
 だがそれは虚無ではない。アストリーゼは己の裡の闇をすでに視ている。
 そして受け入れている。ゆえに傷は力となり、彼女を支えた。
 おそらくその生命が尽きたとて、覚悟と暗黒はその屍を支えるのだろう。
「何が出来るのかと問うたわね、吸血鬼」
 ――これがその答えだ。
 言葉なき猛威は、いのちの欠片の多くを奪い返したのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバート・クィリスハール
【万嶺殿】の仲間と。

ごめんね二人とも。もう落ち着いたよ。
イル、斜めチョップは生き物には効かないからね。
で?

ふぅん、あのクソをどうこうするより、その人間を助けろって?
はぁ……。あー、もー、仕方ないなぁ……。
僕、君のそういう誠意の使い所を知ってるとこ、本当に嫌い。

【SPD】
空中戦狙い。槍で戦い、羽根弾で隙間を穿つ。背中に回復役いるし無茶するよ!強すぎず弱すぎず戦い、隙を見せた瞬間にUCを使う。腕をクリオネの頭みたいにして、捨て身で敵を食いちぎり、収納して狐の所に撤退する!

ああ腹立つ、あの吸血鬼も人間共も何もかも!
でも狐が、あいつが俺に頭を下げたんだ。憎悪なんて投げ捨ててやるさ!


イリーツァ・ウーツェ
【万嶺殿】
【POW】
壊れたものは手刀で直ると聞いたが、ちゃんと治ったな。
少し骨が砕けたが、治したからいいだろう。

顔を上げろ、烏鵠。
私が友の頼みを断ったことがあったか?

戦場へ急行。背に烏鵠の子狐を貼り付ける。
UCを併用し、アルバートの補助を最優先として行動。
持ち手や腕を攻撃することで剣を避ける。
アルバートへの補助が間に合わなければUCで受ける。
機会をはかり、杖の力で雨水の大弾を剣に衝突させ、蒸気と爆発で視界を奪う。

アルバートは我々の中で最も疾く、手癖が悪い。
隙さえ生めば、必ず成功させるはずだ。
共に烏鵠の所まで撤退する。
今日はもう、十分に戦ったさ。強敵との一戦程度、我慢するは容易い。
……本当だぞ。


荒・烏鵠
【万嶺殿】だ。

ほらナ。“よくある話”だったろ?全部領主サマのご予定通りさ。
ブッ殺したいだろ、オマエら。このニンゲンも村人共もどーでもイイよな。
その上で頼むよ。なあ兄弟、カーラサン助けンの協力してくれ。

ユベコを使い、完癒の子狐を猟兵たちへ。猟兵の背中にでもへばりつかせれば、常に万全のまま動けるだろーよ。オレは足手まといになりそうだからカーラサンを診てる。衛生兵的な、ナ。

吸血鬼を非難する気はねェのよ。アレはただ本能に従っただけだかンな。なればこそ、本能に逆らい理性を保つ、我が友二者はオレの誇りよ。
なあ人間。お嬢さん。アンタを助ける為に、こんなにも人が動いた。自信持ちな。アンタにゃ価値があるンだぜ。




 狐は人を化かすものだ。なにせあらゆる古典にそういう話がある。
 真面目なものも驕るものも、男も女も若者も老人も別け隔てなく騙くらかす。
 それがその人に幸運と富をもたらすこともあれば、寓意めいた災厄を呼びもする。
 狐狸は天然自然の化身であり、
 人に――善きにつけ悪しきにつけ――降る報いの具現であり、
 だからこそ多くの寓話で狐は人を騙くらかす。トリックスターとして翻弄する。

 では狐とは概念でしかなく、そこに意志などないのだろうか。
 ただそうあれかしと願われたからそうするだけで、自意識はないと?
 人を騙して陥れてニヤニヤ笑っていようと、それはただの"ふり"だとでも?
 否である。少なくとも"彼"にとってはそうである。
 もしかしたら、それもまた数多の偽りのヴェールの一つやもしれぬが。

 荒・烏鵠。なべてを嘲笑い、"尻尾"を見せないトリックスター。
 善を笑って悪を揶揄し、大義を軽んじ下賤を指差すさかしまの男。
 アルバート・クィリスハール。
 イリーツァ・ウーツェ。
 ともに、このただならぬ狐に一杯食わされた者達である。
 そして、この男を仲間と認める者達である。
 彼らなりの絆で結ばれた者達である。

「ほらナ、"よくある話"だったろ? 全部領主サマのご予定通りさ」
「「…………」」
「ブッ殺したいだろ、オマエら。このニンゲンも村人共もどーでもイイよな」
「はぁ……」
「ふむ」
「その上で"頼む"よ。なあ兄弟」
「……あー、もー」
「……」
「カーラサン助けンの協力してくれ。このとーりだ」
 烏鵠はこれみよがしに頭を下げた。アルバートはそうする前から辟易していた。
 "こうすることがわかっていた"からだ。この狐はそうする性質だと知っている。
 イリーツァにも驚愕はない。どうあれ彼がこうしたことを受け入れる。
「顔を上げろ、烏鵠。私が友の頼みを断ったことがあったか?」
 そんな風に言ったイリーツァをジト目で睨み、アルバートは嘆息する。
「あのクソをどうこうするより、その人間を助けろって?」
「吸血鬼(アレ)非難する気はねェのよ。ただ本能に従っただけだかンな」
 なればこそ。本能(おのれ)に逆らい理性(ありかた)を保つ。
 そんなふたりは、我が友、我が誇り。オレの自慢と狐は言う。
 イリーツァは頷いた。アルバートは心底、心底からのため息を長く吐いた。
「僕、君のそういう誠意の使い方を知ってるとこ。本当に嫌い」
 狐は笑った。はたしてこれまでの言葉、その誠意のどこまでが本当か。
 すべてが真実かもしれぬし、何もかも偽りやもしれぬ。狐狸の性根はヒトには測れない。
 ただひとつ確かなことがふたつある。
「持つべきモノは仲間だよなァ、まったくよ」
 友らに向ける彼なりの信頼と親愛、そして。
「"ニンゲン"は助けてやらなけりゃ、ナ?」
 まったき純然たる、この世界と"ニンゲン"への好意である。

●境の向こうの者らの選択
「ぬうっ」
 アシェリーラは気圧された。愉悦すら挟めぬほどの攻勢。
 この竜人の撃ち込む杖術の鋭さ、重さ。実に興味深く芳醇である。
 だがなお、アシェリーラの心をざわつかせる者が居た。
 猛禽の翼を背負い、ひとつひとつが刃じみた攻撃と槍を繰り出すあの男。
 オラトリオである。オラトリオであるはずだ。だが……いや、だが……?
「貴様、"何だ"?」
 吸血鬼は訝しんだ。その意味は当人と、おそらくはアルバートら以外には定かならず。
 たしかなのは、問われたアルバートは狂犬じみた怒りを曝け出したことだ。
「うぜぇ、うるせえ、いちいち俺に問いかけるんじゃねえ!」
 吼えた。分身体が生まれ、空の敵を串刺しにしようと――遅い。
「私がここにいるぞ。そう簡単に超えさせはせん」
「ちぃ……!」
 油断なき龍の目が一挙一動に注目し、己以外への攻撃を許さぬ。
 だがアシェリーラとてひとかどの吸血鬼、積み上げた屍は数え切れぬ修羅である。
 見切り、防ぎ、凌ぎ、返す刀で龍を斬る。穿つ。燃やす。だが。
「小賢しいものを背負いおって。忌々しい……!」
 あれだ。あの白い毛並みの妙な霊獣。あれが傷をたちどころに治す。
 何もかもが鬱陶しい邪魔者である。その力もさることながら、
 一見可愛らしくすらある子狐の見た目がなおのこと神経を逆撫でた。
(あれほどの魔力を込めておきながら、込められるだけの者でありながら!)
 術者らしき姿はない。ゆえにその根を断つことが出来ぬ。
 まるで己がこの畜生どもを鬱陶しがり、何より先に排除すると決めることを、
 立ち合ってもいないのに見抜いているかのように。それがなお忌々しい!
「答えろ。貴様らを支援する臆病者はどこにいる!!」
「"臆病者"とやらに覚えがないのでわからんな」
 イリーツァは端的に切り捨て、言葉以上に激烈な反撃を叩き込んだ。
 それに次ぎ、羽根の雨と稲妻じみた槍の刺突が吸血鬼の分体を消す。
「ああ腹立つ、吸血鬼(てめぇ)も人間共も何もかも!!
 殺してやりたいね、バラバラに引き裂いてやりたい気分だ!!」
「よせよアルバート、また手刀を喰らいたいわけではなかろう」
「わかってるさ、わかってるよイル。斜めチョップは機械限定だけどね!!」
 煮えくり返って蒸発しそうなはらわたを、アルバートは意志の力で抑え込む。
 あの男が頭を下げた。その事実は己の憎悪より重く、かけがえのないものだ。
 "その価値がある"と、あの男自身がわかっているのがなお腹立たしいのだが。
 それも含めてあの男なのだ。だから抑え込む。一撃のために布石を打つ。
「おのれ――」
 そして来た。頸をねじ切り心臓を引き裂く幻視を視て、切り捨てる。
 イリーツァが道を開く。アルバートの手癖の悪さには十分な信があるゆえに。
 かくて怒れる鷹の腕はバッカルコーン触手めいて"花開き"、花弁の裡には牙がある。
 うぞうぞとうねる肉の刃が吸血鬼の肉を骨を削ぎ、めきりと"破片"をもいだ。
「ぬううう……!!」
 反射的にイリーツァが身構える。アシェリーラの放つ殺意が"増した"。
 己の裡で高揚が鎌首をもたげる。この男はどれほどやる? 己はどれほどやれる?
 試したい。きっと楽しいぞ。血みどろで飽くなき殺し合いが出来る。
「イル!」
「……ああ」
 巌のようにイドに蓋をして、ふたりは一目散に闇へと退いた。
 その潔さは、いよいよ鬼を極限までに苛立たせたのだが。

 そして取り戻された"破片"を術によって再構成し、いのちの欠片となす。
 血の魔術は醜い女の魂にまで浸透し、どうやら尋常の奇跡では抗えない。
 正しく言うなら、それを祓うよりもこちらのほうが"早い"のだ。
 おそらくカーラの方に注力したならば、吸血鬼は高らかに笑いその背を切り裂くだろう。
「なあ人間」
 己らだけでなく、猟兵達が集めた血を送り込み呪いを退けながら、
 烏鵠は呼びかけた。応える声はない。だが聞こえてはいるはずだ。
「――"お嬢さん"。アンタを助ける為に、こんなにも人が動いたぜ」
 そしておそらくは、さらに。
 名前しか知らない、言葉すら交わしたことがない女のために。
 それもまた人の在り方。あるがままの世界の、当たり前の光景。
 醜いからと排斥して責め苛んだのが人間であるならば、
 それを否と叫び、憤りや侮蔑や憎悪や捻くれや、決意を以て拒んだのも。
 どちらも人だ。どちらも世界だ。烏鵠はそれを肯定するし受け入れる。
「自信持ちな。アンタにゃ、それだけの価値があるンだぜ」
 二人の友が肩をすくめる。それを見返し、烏鵠はいかにも"らしい"笑みを見せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エリス・シルフィード
B
仲間との連携・声かけOK
…こんなの絶対に許せない…!
この先の事は分からないけれどカーラさんは私達が救う!
血液は属性魔法を使って攻撃してなんとか奪うわ
でも、そんなことよりも
私が多分、一番役に立つのはここだから…!
優しさ、祈りを込めた願いの歌…UCを使用
カーラさんとカーラさんを救いたい皆の傷を癒し続けるわ
これで少しでもカーラさんが延命できれば…!
私への攻撃はオーラ防御で最低限に留めるけど
もしそれでUCが途切れるなら捨て身で歌い続けるわね
もし、カーラさんを救うことができたなら、カーラさんに聞くわ
「ねえ、カーラさん。貴女はこれからどうしたいの? もし街に戻りたくないなら…一緒に来ない?」



●エリス・シルフィードの選択
 ……あのひとは、罪を背負うと言って去っていった。
 その背中に、何も声をかけられなかった自分を呪わしく思う。
 けれども。あの覚悟を、その想いを否定してはならないのだろう。
 たとえ見捨てようと救おうと、どちらであれ目指すところは同じなのだから。
「だから……っ」
 喉が枯れるほどに謳いながら、エリスは決然と敵を睨んだ。
 アシェリーラ。残影の名を冠せし傲慢なる吸血鬼。
 透き通るほどの美声も、かの嗤笑までは癒せない。直せない。
 なぜならオブリビオンとは病によってそうなったのではない。
 "そう在るからそう"なのだ。根源的な天敵であり仇敵であり、対極。
「歌と祈りは無力な弱者の最後の悪あがきだ。貴様はそれに縋るか、小娘」
 戦士を任ずる吸血鬼は、あからさまな落胆と侮蔑を込めて言った。
 そうとも。そうだろう。いま己の前に立つ猟兵達のような力は己にない。
「弱さとは罪である。君を見よ。あの気高さを見て学ぶがいい」
「ふざけないで」
 エリスは言った。震えるほどの怒りを込めて言い返した。
「そうでしょう。祈りに力はなく、私の歌に敵を倒す魔力はない。
 弱き人が最後に頼るもの、あなたの言う通りだわ。けれどね、だからこそ!」
 "だからこそ"エリスは歌うのだ。だからこそエリスは祈るのだ。
 彼女は誰にも救われなかった。誰にも顧みられることがなかった。
 反対に叛逆することも、抗うことも己で終わりを選ぶこともなかった。
 彼はそれを罪だと言った。きっとそうなのだろう、そうかもしれない。
「それでも、こんなのは絶対に許せない」
 彼女の悲嘆は綺羅星のような歌となった。残響がエリスをも包み込む。
 ゆえに分かる。彼女には抗うことすら出来ずに、それでも祈っていたのだと。
 悲しみ、それがこぼれて美しい歌になったのだと。
「だから私も歌う。私が一番役に立てるいまのため、私に出来ることをなすために!」
 魔力が迸る。冷気を伴ったそれは刃となって残影卿を傷つけた。
 一縷。得られた血液は数滴に過ぎぬ。だが。
「弱さを認め、受け入れ、弱きことこそが我が問いへの答えだと嘯くのか。
 認めぬ。我は貴様の歌とやら、その惰弱な祈りを認めぬ。絶対にだ」
「結構よ。――それでも私は、皆の傷を癒やすために歌い続ける」
 祈りとは弱者の最後の抵抗である。何をも倒せぬ悪あがきである。
 それでも屈さない限り、運命に己を突きつけることは出来る。
 彼女が目覚めた時、その意志を問うために。
 何も選べ/ばなかった彼女が、はじめて自分の"これから"を選べるように。

 オラトリオは天使のように歌う。
 その声は、残響と混じり合い、高らかな交響をなして闇に抗い続けた。

成功 🔵​🔵​🔴​


●4/14 8:16
 A:11/? B:46/?
ユルグ・オルド
B:賭けってのはさ、胴元が勝つように出来てんじゃんね
って分かってたって博奕打つんだよ

んふふ、他人を下に見てんの楽しい?
楽しいか。だから噛みつかれんだよ
共は一振り最短を最速で、いつだって懐狙いなんだけど
指の、腕の、一本ずつからでも落とすかい
得物が剣なら犬っころの飛び込んでくるのより見切りやすい
肉薄する炎にも怯まず一重で躱そうカウンターで切り込んで
狙うのはそっ首でも心の臓でもなく
熄で切り込んでその傷をえぐってやること
チップが足りないなら積み上げて、声を呑んだら総取りまで

ああ綺麗な声が聴こえんね
アンタも啼いてみりゃあ?
変わりに贈れんのは干戈の音だけ
いっそ全部かき消しちまえ



●ユルグ・オルドの選択
 博奕とはよく言ったもの。この状況はアシェリーラにとって圧倒的に有利だ。
 敵の本拠地であり、猟兵が純粋な討滅から外れれば外れるほど隙が生まれる。
 相手はただそこを突けばいい。デメリットが生まれるわけでもない。
「って、分かってたって――"だから"博奕打つんだよ、俺らはさ」
 赤い瞳を皮肉げに歪ませて、ヤドリガミは己たるシャシュカを振るう。
 ギン――魔剣と片刃刀が撃ち合い、闇の中に火花を咲かせた。
 アシェリーラは嗤笑を浮かべ、だが訝しげに片眉を吊り上げた。
「何がおかしい」
「んふふ。そっちこそ」
 ガギン! ユルグの狙いはあくまでも敵の懐に飛び込むこと。
 一直線に突っ込んでは、迎え撃つ魔剣と真っ向から撃ち合う形になる。
「他人を下に見てんの、楽しい? ま、楽しいか」
 ユルグは嘲るように一笑に付し、さらに一歩前へ踏み込む。
 アシェリーラは不快げに顔を歪めながら、頸を狩るような横薙ぎを放つ。
 ――見切られた。ユルグは地を這うほどに身を沈めこれを躱す。
 太陽の煌焔が背中を灼く。痛みは意に介さない、機を得るほうが重要なり。
 あの雨の中の狗どもに比べればよほど楽だ。彼は武具のヤドリガミゆえに。
 狙いが変われどやることは変わらない。ただ目指す先が違うだけ。
(絶対優位を気取って驕って、誰も彼もを見下して。だからこうやって――)
 ユルグはシャシュカの物霊である。その刀身は揺るぎなくまっすぐと、
 ゆえに勝負を決めんとするとき、彼はつねにまっすぐと敵へ飛び込む
 突き出す。狙いは腕の付け根。やや斜めの角度は獣の牙めいて。
「ぐっ!!」
「――噛みつかれんだよ?」
 刀身が上腕動脈を抉った。魂の通貨たる血が闇に迸る。
「いっそこのまま、腕一本ずつでも落とすかい」
「それが貴様の出来ることか、猪武者よ」
 ふたりを包むは呪いで固着された嘆きの歌。
 残影の鬼の声音は嘲りと傲慢。ユルグの忘却を埋めるにはいずれもそぐわない。
 ユルグに綺羅星のような声はこぼせない。悲嘆すらもない。
 ゆえに彼はつねに哂う。出来ることは何かと問われたら――。
「干戈の音でもくれてやるのが関の山じゃんね」
 一閃。片腕を奪(と)りにかかった追撃は、しかしアシェリーラが退いたことで空を切る。
 血が一筋虚空に走査線を刻む。振り下ろされた魔剣と振り上げた刃が撃ち合い、
 飛沫めいて落ちた太陽の煌焔がユルグの肌を焦がした。
「貴様一人で我を狩れるものかよ」
「だったら通貨(チップ)を積み上げてくだけさ」
 焔に照らされ、月をも砕けと嘯く男の笑みが陰を増す。
「その笑みその声かき消して、アンタに王手をかけるまで」
 戦いのとき、ユルグが退くことはありえない。
 ただ前に、愚直なまでにまっすぐに進み続けるのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

芥辺・有
B

命を助けたところで救いなど与えられるわけじゃない。
この世界が生きやすくなるわけでもない。
ただ、生かすだけ。
助けるべきなのかとか、助けたところでどう思うのかとか。まあ、心底どうでも良い。
本分は吸血鬼を倒すことで。それでも助けようなんざ。……あの男なら、こうしたのかって。私にあるのは、それだけ。

そこの女も、私も。同じ穴の狢ってやつなのか、なんて。……馬鹿らしいね。


影人形を使用。
吸血鬼の攻撃は見切れるよう動向に注意しつつ、速度を活かして避ける。
杭での攻撃や鎖によるフェイントに織り交ぜて、鋼糸で吸血鬼の体を括り足止めを狙おうか。
命に直結するような場所は避けながら。より血を流させるよう、傷口をえぐる。



●芥辺・有の選択
 この世界は滅びの瀬戸際にあり、先に示されたように人々の心は荒んでいる。
 滅ぼすべき敵は無数にあり、それ以上の悲嘆と苦難が陰として横たわる。
 ダークセイヴァーはそういう場所だ。いっそ死んだほうがマシかもしれない。
「だのに貴様らは君を生かそうとする。なんとも傲慢ではないか」
 アシェリーラは傲然と佇みそう言った。攻撃は分体が繰り出す。
「気高き死を否定して、そのあと貴様らはどうするのだ? 何が出来る?」
 そして剣を繰り出しながら分体が言葉を次ぐ。気怠げに女は見返して、
 迫る刃を的確に見切り、紙一重でかいくぐりながら鎖を放った。
「何も。私はまあ、正直"べき"とか"どう"とかはどうでもいい」
 あくまでオブリビオンを倒すことこそが猟兵の仕事で責務。
 醜い女もまた結局自分勝手なヒトの一人で、だから無事は言いがたい。
 その是非もまあ、有にとっては些細なことだ。どちらでも構わない。
「ではなぜ挑む」
「なぜ足掻く?」
 二体の吸血鬼が嗤笑を浮かべて問いかける。癪に障る声と顔だ。
 フェイントの杭と撃ち落とし、足止めの糸は切り裂かれる。
 わけても有の心をざわめかせるのは、己が呼ばわった影の笑声に他ならず。
 己の魂の通貨――すなわち血を媒介に吹き出す黒い炎は、いかにも湿気た煙草のように病的に揺らめいた。
(――あの男なら、こうしたのか。なんて)
 心の裡の呟きとともに、脳裏によぎる一人の面影。
 お前には総てが有るだなんて嘯いて、生きる義務だけ遺して逝った男。
 生きがいがあるわけでも、生涯を賭して叶えたい願いや信念があるわけでもない。
「大仰な理由じゃない。こんなことするのも、私が生きてるのも」
 分体が横薙ぎを放つ。残像を生み出すほどの高速移動でこれを避ける。
 ――二段構え。本体が激烈な踏み込みと共に刺突を繰り出していた。
 避けきれない。有は諦観めいた覚悟をもってその事実を受け入れ、
 そして傷と苦痛を受け入れた。飛沫いた血は動脈血よりなお黒々と。
「ッ……そう、生きることに、掲げるような意味なんて持っちゃいないんだ」
「だが貴様はここにいる。なぜなおも我に抗う」
「"あの女"だって、お前に拐われてから自分で死にゃあしなかったんだろう?」
 アシェリーラはそこで、はじめて訝しむように眉根を顰めた。
「当然だ。君は気高きものゆえに」
「違うね」
 確信があるわけじゃない。ただこの鬼の鼻を明かしてやるのは胸がすく気持ちがした。
 だから皮肉の笑みを浮かべて否定してやる。案の定奴は不快げな顔をする。
「あの女も私も、同じ穴の狢さ。大した理由があるわけでも、
 誰かに称賛されるような強さがあるわけでもない。ただ――」
「黙れ」
「"死ぬ理由がないから、生きてただけ"さ」
「貴様のような馬鹿げた女と、君を同列に語るなッ!」
 血を吸って、賭けの代価にしておいて激高する。いかにも吸血鬼らしい。
 傷を負って皮肉を言って、けれどそれで隙は生まれた。
 精霊銃を撃つ。致命傷を避けようとアシェリーラがこれを弾く。
 布石である。脇腹めがけ滴り落ちた夜が――杭が突き刺さった。
「がは……ッ」
「馬鹿げた女に抉られた気持ちはどうだ」
 乱暴に刃が引き抜かれ、血を吐きつつも有は前転を打った。
 裁きの槌めいて一瞬あとに振り下ろされる魔剣。受け入れるにはまだ早い。
 受け入れる理由がない。だがまだ生きる理由と、為すと決めたことはある。
「まだまだくれてやる。お前が奪ったものを全部吐き出すまでは」
 互いに傷から血を流しながら、浮かべる表情は対称的。
 惰性で生き続ける女の金眼は、けっして死んではいなかった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

シーザー・ゴールドマン
【POW】【B】
ふむ、何が出来るというのだ、か。
そういう台詞を吐く者は結局のところ、『何か』を渇望、期待している。
君の望みを言ってみたまえ。
気紛れに叶えるかもしれないぞ?
戦術
《ウルクの黎明》を発動。
飛翔能力で間合いを詰め、オーラセイバーを振るって腕を斬り落とします。
(先制攻撃×空中戦)
敵POWUCに対しては直感(第六感×見切り)で回避してからのカウンター攻撃で対応。
腕を得られれば
「私の取り分は、腕の一本と言うところかな」とカーラの元に撤退。
(追ってくるなら迎撃します)
奪取した腕からの輸血と他の猟兵の結果が出るまでの魔法での延命を試みます。
「とはいえ、どういう結末を迎えるか……楽しみでもあるね」



●シーザー・ゴールドマンの選択
 なべてを楽しみ、まるで神のように現れ鬼のように沈む。
 どんな場所からも一歩引き、超然とした立場からことを睥睨する。
 そういう性根の男には、アシェリーラの求めるところは手に取るようにわかった。
「君の望みを言ってみたまえ。気まぐれに叶えるかもしれないぞ?」
 言葉とともに濃密な真紅のオーラがシーザーを覆い、その身を宙へと。
 音を超えた瞬速で間合いを詰めて、激甚たる切れ味の刃を振り下ろす。
 先の先を得た空中攻撃。これを防ぎ、返す刀を繰り出した敵の力量たるや。
「我に対して悪魔を気取るか。対価はなんだ。この身の血とでも嘯くか」
「それも悪くない。君が差し出してくれるとは思えんがね」
 かたや吸血鬼、かたや半血。されど浮かべる笑みは同質相克。
 赤が空を舞って気剣を繰り出すたび、鬼は地を奔りこれを迎え撃った。
「貴様と同じように笑う男がいた。そいつにも言われたよ、我の望みとやらを」
「ふむ」
「猟兵(きさまら)の善性とその勝利、たしかに戦士として期待はする」
「奇遇だね、私もだよ」
 軽やかな言葉を交わし合いながらも、両者は致命の刃お繰り出し合う。
 まるで薄氷の上をきりきり舞いで進むような、紙一重の攻防である。
 互いにどこまでが全力なのか、余人にはその残滓すら拝めまい。
「"何が出来るか"などと試す者は結局のところ、"何か"を渇望・期待する。
 奇跡、驚嘆、あるいは愉悦。君もその口かと私は思っていたのだが?」
「道理ではあるな、だが!」
 ガギンッ!!
 衝撃波すら生み出すほどの膂力がぶつかり合い、磁力反発めいて両者は離れる。
 天井と床とに焦げ跡が刻まれ、ぶしゅうと煙を噴き出した。
「あいにく我は、己の滅びを受け入れ渇望するほど超然としてはいない。
 我が欲するは強者の血。なればその"強さ"を証明してもらわねば血も吸えぬ」
「いかにも吸血鬼(きみたち)らしい理屈だな」
 アシェリーラは――少なくともここに顕現したそれは――強さという言葉を、
 単に武勇の優劣以外にも見出す。
 奴はカーラを利用しはしたが、心から彼女を敬愛してもいるのだ。
 でなければわざわざ生かして賭けの道具にしたりしない。"そういう価値"すらないものは、とっくに殺して塵芥と一蹴。しているのだから。
 結局のところ、ヴァンパイアに愛されるとはそういうことである。
 それが情愛であれ親愛であれ、奴らが愛でたものを庇護し続けるはずはない。
「モノの破滅にこそ美と意を見出す。君達はそういう種族(もの)だったな」
「貴様もそうであろう? 同類よ」
 シーザーは片眉を吊り上げた。
「遺憾だな。私は君達ほど、退廃的でも悪趣味でもないよ」
 姿が消える。両者が独楽めいて肉薄し再び打ち合う。
「君達は所詮過去しか愛せぬモノだ。何も生み出せず前へも進めぬ残骸だ。
 私は未来を所望する。世界が、そこに生きるものが生み出す明日をね」
「美しく気高いものはいずれ老いてしなびて堕落するものであろう」
「それもまた美の一つだよ。あるいは醜かったとしても――」
 斬撃。シーザーは縦に、アシェリーラは横に。
 ともに狙いは満たされることなく、されど互いに傷を与えた。
「私は、それを肯定する」
「我らはそれを否定する」
「「であれば退けんな、お互いに!!」」
 追撃! 袈裟/逆袈裟が鏡合わせめいて撃ち合い反発した!
 シーザーは腕を狩るつもりでいた。だが敵は予想以上の力量だ。
 "この姿"ではここが限界だろう。血は奪えた。ならば目的は十分である。
「舞台からはそろそろ退場しよう。結末を見届けるためにね」
「チィ……!」
 追いすがる敵を鮮血じみた光弾が退ける。ソドムの終焉。
 かくして、再び闇が訪れた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎
Bを選択

あ―…そっちのタイプ、かぁ…
さすがにここまで来て見捨てるってのも寝覚め悪いわねぇ。
最大限、やるだけはやってみましょうか。

さっさと倒しちゃいけないんなら…こっちねぇ。
〇第六感も活用して攻撃の起こりを〇見切って、〇先制攻撃の●的殺で〇援護射撃を撃ち込むわぁ。
銀の弾丸の〇破魔〇属性攻撃なら再生も防げるし一石二鳥かしらねぇ。
〇スナイパーで〇武器落としも狙えたら最上なんだけど。

…カーラさんに関しては。治療なんかは別として…多分、あたしたちが関わりすぎちゃいけない話、だと思うのよねぇ。
あたしたちがあの人たちにとっての「領主」になる…なんて。正直ぞっとしないわよぉ?


月宮・ユイ
【B】
命の選択を敵(過去)が握ったままは気に食わない

これは弱さ…私の思いはきっと浅い
心に思い感じる度名前をつける
そうして理解したつもりで心の奥は見れていない
それでも誰かを亡くせば悲しい
傷つく姿は嫌いで喜ぶ姿は嬉しい…そこに偽りはない

【機能強化『知、力、技』】
敵”見切り、情報収集”
”全力魔法、高速詠唱、早業、誘導弾”【縛鎖】
”生命力吸収、吸血の呪詛”込めひたすらに召喚続け猛攻
”オーラ防御”で耐え、吸収分で回復。血はUC通じ〔ウロボロス〕に収集
縛れたなら鎖に【約定の鎖】の力上乗せ
『傷つけるな』
或いはそれは村人達にさえ叩きつけたかったもので…

死にたいですか…翻弄され続けた彼女にせめて選択の機会を




 救済が傲慢であるとするなら、断罪もまた同様。
 どちらか一方を是として片方を否とすることこそ驕慢である。
 救うならば、裁いてもならない。超えてはならぬ一線というものがある。

 わきまえていたとして、常にそう在ることは神にすら出来まいが。

●ティオレンシア・シーディアと月宮・ユイの選択
 猛攻である。
 立ちはだかる吸血鬼は二――いや、三。
 オブリビオンとして再来したそれらは、単なる分身ではない。
 いわば骸の海から来たもう一つのアシェリーラ。実質的に戦力は倍。
(それでも、いのちの選択を過去(てき)が握っているだなんて、気に食わない)
 果敢に攻め手を繰り出し続けるユイは、心の中で歯がゆく思った。
 感傷と言わば言え。その浅慮さはユイ自身が誰より噛み締めている。
 きっとそれは弱さなのだろう。迷いに似た愚かな振る舞いなのだろう。
 だとしても。それでも。
「私はお前の傲慢を否定するッ!」
「随分と血気盛んではないか、愉快だな!」
 繰り出される三色の鎖。数える程もバカらしい無数のそれらを、
 三体の吸血鬼は一糸乱れぬ連携で迎え撃ち、切り払い、打ち砕く。
 減衰相殺。捕縛吸収。封印拘束。いずれも捉えるには一手足りぬ。
 正面に飽き足らず上下左右、ついには背後の虚空からすら呼ばわれる鋼を、
 まるで視えているかのように避けて防ぐのだ。絶無の域の見切りである。

 返す刀で繰り出される的確な攻撃、三重の波濤。避けるのは難い。
 ゆえにその起こりを的確に判断し、ティオレンシアが銃弾を放つ。
 黒曜石の弾倉に込められしは破魔の鏃。すなわち銀の銃弾。魔物を滅ぼす狩人の牙。
 明かりすらなき暗黒に、刃を防ぐ弾丸が火花を散らすさまは、
 さながら深海をぼんやりと輝かす奇怪な魚の光鱗めいていた。
(まるで海の中で藻掻いているみたいだわぁ)
 表情を崩すことなく、フィクサーは心の裡で舌打ちする。
 敵ではなく己らが、だ。ティオレンシア自身と、そして猛攻するユイ両方が。
 繰り出す攻撃はいずれも阻まれ、返ってくる威力を凌ぎ続ける状況。
 拮抗に見えるがその内実は緩やかな後退と言ってもいい。攻めきれぬ。
 だがどこかに兆しが来るはずだ。戦いには潮流というものがある。
 無限めいた海原に足掻いているのが今の己らだとするならば、なおさらに。
(あたしはそれを視て援護する。いつもどおり、ただそれだけ)
 己に言い聞かせるようにティオレンシアは呟く。
 実のところ、彼女がカーラの生存を優先するのも"寝覚めが悪い"程度のものだ。
 義憤や憎悪があるわけではなく、吸血鬼の悪性にはただ呆れがある。
 彼女は一線を引く。そうでなければ生きてはいけぬ稼業に身を置くゆえに。

「さて、舞踏もそろそろ飽いてきた」
「貴様らの出来ることはその程度か」
「であれば終幕としよう!」
 三体の鬼はそれぞれに言葉を紡ぎ、死をもたらさんと迫る。
 勝負をかけにきたか。ここだ、ここを撃つ。ここを縛る。
「どこまでも絵に描いたような吸血鬼ねぇ!」
 BLAMBLAMBLAMBLAMBLABLAMM! 先の先を制した銀の弾丸が放たれた。
 瞬速のリロード。放たれた弾丸のうち、四は切り払われ避けられる。
 三日月めいた笑みがくすりと歪む。それらはすべて布石あるいは搦め手。
「が……ッ」
「まずひとつ」
 甘やかな声が戦果(キルスコア)を啜った。分体がかき消える。
「させん……誰も殺させない、喪わせはしない!」
 ユイは必死さすら滲ませて叫び、オーラを充足させ自ら飛び込んだ。
 まず先行した分体の刃が、ばっくりと気もろとも彼女の袈裟を裂く。
 鎖がその予後を縛り、分体を魔力に分解還元させて吸収した。
 足りぬ。傷の影響がわずかに足を、手をぶれさせる。
 本体を捉えようとした二条目の鎖が虚空へ消えていく。鬼が笑う。
「――!」
「では頂くとしようか、ただし――」
 ユイに振り下ろされると視えた刃はフェイント。敵の足は緩くから急へ至り、
 背後にいたティオレンシアのもとへ。はじめから狙いはあちらか!
「あらぁ」
 リロードを終えた銃を構えながらフィクサーはゆるりと呻いた。
 決断的である。敵はすでに動いている、弾丸では殺しきれない!
 そしてティオレンシアが被弾を覚悟したまさにその時――!

「……ほう」
「……けるな」
 振り下ろされると見えた鬼の片腕に、超常の鎖が巻き付いていた。
 吸血鬼の呪詛が鋼を伝い、ユイを苛む。閉じかけた傷が開いて血を流す。
「傷つけるな……!!」
「くくっ!」
 BLAM! 足を止めた瞬間にティオレンシアが、吸血鬼の肩を穿つ。
 血は得られた。鎖を断ち切り、アシェリーラは闇に消える。
「待て……!」
「やめておきましょうよぉ」
 追撃しかけたユイを、ティオレンシアが留める。
 眦を吊り上げて少女は睨みつけ……我を、取り戻した。
「……ごめんなさい」
「こちらこそぉ、助けてくれてありがとねぇ」
 蕩けそうな声で言いつつ、ティオレンシアはしかし、ふうと嘆息。
「これ、おせっかいかもしれないけどぉ」
「……」
「……あたし達はカーラさんを助けようとしてる。
 でもねぇ、"そこまで"にしておくべきなのよ。あたし達は」
「それは」
 物言いたげに顔を上げて、ユイは俯いた。
「……誰が悪で守られるべきかとか、それを定めて縛ったら」
 きっと、あの"領主"と同じ轍を踏むことになる。
 ユイは何も言えない。言わない。ただ静寂が訪れた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴィクティム・ウィンターミュート
別に、助ける義理も無い。救ったところで何も変わらない。
…だけど

無意味に生きて、無意味に死ぬのは…虚しいよな
…わーった。何とかしよう。
どうせ、お人好しがいっぱいいるんだろ?だったら端役が降りるわけにはいかねーな
今から『勝利条件』は、カーラを救って奴を殺すことだ。
俺が起点を作る。頼むぜ主役ども!

奴を【挑発】しながら、【ダッシュ】でちょこまかと鬱陶しい攻撃を繰り返して、ヘイトを貯める

ターゲットが俺に変わったら、攻撃をあえて受け、奴の腕を掴んで離さない。すかさずユーベルコード発動!
動きを一時的に止めて、出血させるように味方を促す。

あぁ、死ぬかもしれねえ
だがな、負けて生きるより…死んでも勝ちたいんだ


霧島・クロト
【B】※アドリブ連携可

【氷戒装法『貪狼の狩人』】を【高速詠唱】からで。
【オーラ防御】で直接の被弾具合を削りながら隙にねじ込むように
【属性攻撃】【2回攻撃】【鎧砕き】。
基本接近戦で採血狙い……になるだろうなァ。
出来ることなら【マヒ攻撃】を合わせて機動力を削ぐ。
結末を選ぶのはカーラ自身の筈だァ。お前の賭けの材料じゃねぇよ。

「理不尽だらけの世界では死ぬ事が正解かも知れねェ、が」
「それはこの一瞬の不幸だけの話だァ。……何もしないよりは」
(――言葉は、止まる)

「……だが、こいつの生死の行く先はお前が決める事じゃねぇよ」




 時として人は、確たる理由もないのに行動に出ることがある。
 義務もないのに面倒を背負って、いらぬ手間を焼くこともある。
 それを無駄だと罵倒する者がいる。
 愚かで哀れだと。嘲って冷笑する者もいる。
 だから多くの人はそれを無視して切り捨てる。それは冷淡だろうか?
 否である。本来必要ないものに手を出さないのはマイナスではない、0だ。
 時にはあえて踏み出したことで、0がマイナスに変わってしまうこともある。

 ただそれでも、0は0でしかない。
 マイナスでもプラスでもない無。1ではないただの0。
 それこそが真の冷淡で冬のように寒いことだと、認められない者もいる。

●ヴィクティム・ウィンターミュートと霧島・クロトの選択
 冬の静寂をもたらすハッカーと、
 凍てつく氷を纏う仮面のヒーロー。
 肩を並べるにはいかにもらしく、けれども正反対。
 何か示し合わせたわけではない。共闘するに至った因果があるわけでもない。
 だが不思議と彼らの動きは、ぱっちりとパズルのピースめいて噛み合った。
 あるいはそれは、かたや端役を謳う露悪の皮肉屋で、
 かたや信念を貫く"主役"らしい伊達男だったからかもしれないが。
「気高い最期だどうとか言ってたなァ、そりゃカーラの言葉かァ?」
 貪狼の加護を身に纏い、めくるめく速度で間合いを詰めたクロトが、
 わかりきった問いを口にする。言葉とともに放たれるのは斬撃、殴打。
「言うまでもなし、我が語ったまでのこと。君の心の裡をな」
「決めつけてんじゃねェ――胸糞悪いぜ」
 氷の波動。パキパキと足を凍らせるそれを太陽の煌焔で溶かし、
 アシェリーラは一歩飛び退いた。虚空を魔狼の顎めいた刃が遅れて薙ぎ、
 着地点めがけ凍滅の弾丸が放たれる。BLAM! BLAM! 浅い、避けられた。
「ようすけこまし(テノリオ)、俺ともお喋りしようじゃねえか!」
 クロトの影から飛び出したのはヴィクティムである。
 シニカルな笑みを浮かべて挑発しながら、アシェリーラに肉薄。
 だが間合いに飛び込むと見えた瞬間、ギャリリ! と片足でブレーキを踏む。
 自動反撃めいて魔剣が振り払われた瞬間、皮一枚のところで留まり、
 "当たってないぜ?"とばかりに小首を傾げ、横っ飛びに追撃をかわす。
「目障りな」
「そらどうも! いかにも俺は囮だぜ、そら主役のお出ましだ」
 アシェリーラは舌打ちした。クロトが再び刺突を繰り出してくる。
 これも布石。踏み込みからの犬牙じみた斜め上への斬り上げだ。
 刺突をスウェーバックして躱し、斬り上げ直後の脇腹めがけて魔剣を――断念。
 ヴィクティムがなんらかの動きを見せている。アシェリーラは見切っていた。
 ハッカーもまた喉を鳴らして笑う。敵がクロトへカウンターを狙うなら、
 その瞬間に電脳魔術で脳味噌を焼き切るつもりでいた。
 敵がそれを見切ることを見切った上での示威行為である。
 この戦闘、言わば賭けの連続だ。
 彼らは決してアシェリーラを滅ぼしてはならず、だが敵は殺しにかかる。
 かといってアシェリーラは滅びを受け入れているわけではない、
 妥協あるいはやけくそになった猟兵のオーヴァーキルを警戒している。
 さながら過剰火力を突きつけあう国家の冷戦めいて、
 クロトとヴィクティムは時にアシェリーラに致命の一撃を繰り出す。
 あるいはちらつかせる。吸血鬼はそうなると退かざるを得ない。
 ――だがそれが脅迫ではないと見切られてしまったなら。
 敵は嗤笑して踏み込んで、虚を突いて彼らの胴を断ち切るだろう。
 ゆえに賭けだ。ブラフにブラフを重ね、敵のレイズを引き出す分の悪い賭け。

「貴様らはなぜ君を救おうとする? なぜ死を穢す?」
 出し抜けにアシェリーラが問いかけた。無論これも攻防の一つである。
 ヴィクティムはちょこまかと目障りに己を演出して挑発するように、
 言葉の綾が虚を生むこともある。二人は身構えながら言葉を吟味する。
 無視して踏み込むか。思案し、共に切り捨てた。己が"斬り捨て"られるだけだ。
「――理不尽だらけの世界では、死ぬことが正解かもしれねェ」
 だからクロトは偽りやブラフを捨てて、あえて正直に吐露した。
 ヴィクティムはそれを咎めようとして、やめた。
 彼のようにまっすぐで愚直な"主役"の行いが、逆に突破口を開くこともある。
「……だが」
「だが?」
「それはこの一瞬の不幸だけの話だァ。何もしないよりは――」
 言葉は止まる。カウボーイは内心で舌打ちする。
(おいおい、頼むぜ旦那。せっかく出番を譲ったんだ)
 クロトが仮面の下に浮かべた懊悩と、鬼もハッカーも知らぬ。
 それは彼だけのものだ。だから言葉もまた、彼にしか紡げない。
「……だが」
 振り払うように戦士は言った。
「カーラの生死の行き先は、お前が決めることじゃねぇよ」
「だとさ」
 ハッカーは薄く笑い、小首をかしげておどけてみせた。
「お人好しだよな? 義理があるわけでも何かが変わるわけでもない。けどよ」
 彼もまたクロトに倣う。冷えた氷の下の熱い魂の熱を受け取ったかのように。
「無意味に生きて、無意味に死ぬのは虚しいのさ。ああ、そうさ」
「それが、貴様らの選択か」
「そうだァ」
「らしいぜ。俺はそれに付き合うだけさ」
 言葉は違い、抱えるものも信念も異なれど。
 向かう先において、男達は一致している。
「……なあ旦那」
「あァ?」
 ふとクロトは訝しんだ。ヴィクティムは笑う。
「起点は作る。任せたぜ」
「おい、お前――」
 そしてハッカーは突っ込んだ! 戦士のようにまっすぐと!
 アシェリーラが嗤笑する! 無謀な突進をあえて迎え撃つ!
 いかにサイボーグといえど重ねた戦歴は圧倒的。アシェリーラは修羅なのだ。
 ゆえに彼はフェイントとブラフを読み切り、頸があるべき場所に剣を落とした。
 そして頸が落ちるはずだった。――だがそうはならなかった。
「ぐ、ッ」
 ハッカーは確信めいてそれを読んでいた。己の動きが見切られることを。
 だからそこへ己の腕を差し出して、鋼の義肢で刃を受け止めた。
 オイルが漏れ出る。残る片手ががっちりと鬼の腕を掴んで逃さない。
「そら、お前の脳が焼けてくぜ――どうするヴァンパイア!」
「貴様ッ!!」
 クロトは瞠目し、覚悟の程を汲み取り疾駆した。
 吸血鬼はヴィクティムを突き飛ばす。間隙が生まれた!
「滅ぶのは――お前だけで十分だァ!」
 かくて魔狼の牙が鬼を抉る。飛沫いた血は凍りついて鮮度を保つ。
 舌打ちした鬼は反撃を諦め闇に消えた。静寂が訪れる。

「……随分無茶するじゃねェかァ。義理も何も無いんだろう?」
 うずくまるヴィクティムを見下ろし、クロトは言った。
「死ぬかもしれなかったんだぜ」
「かもな。けどよ」
 カウボーイは己を強いて、脂汗に笑みを浮かべた。
「敗けて生きるより、死んでも勝ちたい性分なのさ」
 それは、いかにも向こう見ずなギャンブラーめいていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神威・くるる
あや、せっかくここまで来たのに目的のカーラはんのお声が聞けへんやなんて
それにこないに弱ってはったらうちもお味見できひんやん

ほなら、その分残影卿はんに支払うてもらおかな

【B:カーラを助ける】
ところでカーラはんへの輸血て口移しでも大丈夫?
ええんやったら、うち、ファーストキスまだやけど
人命救助はノーカンてことでお裾分けしたげる

攻撃は【聞き耳】で音を確かめ【スライディング】で避けて

強い人が好きなら
うちは弱い部類に入るんやろなぁ
でも、力弱いなら弱いなりに戦い方いうもんがあるんどす

【言いくるめ】て【挑発】して隙を作ったら
UCで技術高めた【催眠術】で【誘惑】

弱って倒れたうちの幻覚を見せて油断させて、【吸血】



●神威・くるるの選択
 太陽の煌焔が、篝火すらなき闇の通路をごうっ!! と奔る。
 オレンジ色に照らし出されたくるるの表情は、いつになく真面目なものだった。
「こぉんな声やのうて、うちはカーラはんの生の声が聞きたかったんやけどねえ」
 館全体に無限に反響する嘆きの嗚咽。この程度ではくるるの求めは満たされない。
 敵をたぶらかし蕩かすような声音も、アシェリーラには十分に効いているかどうか。
「おお、こわいこわい。うちみたいな弱い相手に全力出しはるなんて――」
 ざんっ!! 強烈な魔剣の振り下ろしを、くるるは飛び退って回避する。
「ほんに大人げない人やわぁ。あやや」
「己を弱いと嘯く者ほど、鋭い爪を隠しているものであろう?」
「いや、貴様の場合はむしろ牙かもしれんがな」
 錯覚ではない。二体の残影卿がなめらかに言葉を保管しあう。
 ユーベルコードによって蘇らせられた、もうひとりのアシェリーラ。
 同一存在であるがゆえに、その連携は完璧である。

(どっちかでも言いくるめられたら、って思うとったけど――)
 斬撃。くるるは聴覚を限界まで鋭敏に高め、攻撃の気配を感じ取る。
 ただの分身ではない、単純に敵が二倍に増えたようなものだ。
 当然攻勢も二倍となり、搦め手で口説き落とすには二倍の手間がかかる。
 加えてアシェリーラは戦上手でもあり、けして油断をしない。
「血が欲しいか。何故欲しがる? 君を助けたいからか?」
「――それとも、貴様のその半血がもたらす渇きゆえか」
 アシェリーラ"達"の物言いに、くるるは不快げに眉根を顰めた。
「同類(いっしょ)にされるんは堪忍どすえ?」
「さあて、我は感じたままのことを口にしたまでだが」
「貴様からは感じるぞ。濃密なまでの血の臭いをな」
 くるるはダンピールであるがゆえに吸血を、その快楽を好む。
 だからといって、ヴァンパイアに同類扱いされるのは業腹だ。
 ましてやこんな戦闘狂に、となれば、くるるが気分を害するのも無理はない。

「いい加減にかかってきたらどうだ?」
「鬼ごっこを続けたいというならば生憎だが」
「「我らは本物の鬼ゆえにな!!」」
「――っ!」
 直後、アシェリーラ達の姿が消えた。くるるは聴覚を頼りに攻撃の気配を読む。
 正面! 大きく剣を振り上げたアシェリーラの接近を察知していたくるるは、
 あえてその股の下を猫めいて滑りくぐることで大上段を回避する。
 ――そして、顔を顰めた。その先で脇構えに剣を絞る本体の姿。
「……言ったであろう? "ごっこ"では済まないと」
 刺突。床を滑るくるるを縫い止めるかのような鋭角な突きおろし。
 くるるは胸部をざっくりと抉られ、驚愕と絶望の表情を浮かべて絶命した。

「――せやけどねえ」
「「!!」」
 本体が振り返ろうとする、だがくるるはすでに首筋に飛びついている!
「力弱いなら弱いなりに、戦い方いうもんがあるんどすえ――」
「ちぃ……!」
 ぞぶり。犬歯が青ざめた肌を貫き、血を一呼吸分吸い上げた。
 それが限度だ。膂力で振り払われ、くるるは鞠めいて丸まる闇に撤退する。
(なんとか催眠術はかけられたけど……あやや、いけずやねえ)
 紙一重の幻覚で致命傷は避けた。生きているだけでも僥倖だ。
(最低限の支払いはきっちりもらいましたえ、残影卿はん)
 深々と裂かれた腕の傷を抑えながら、くるるはカーラのもとへとひた走る――。

成功 🔵​🔵​🔴​

マレーク・グランシャール
B
カーラは本当に強き者なのだろうか
抗うことを、望むことを諦めているだけではないのか
だからカーラを助け、そして問いかけ、誘ってみたい
お前の望みは何か、演奏するから一緒に唄ってみないか、と
殺してくれと言うのなら俺が息の根を止めるまで

カーラを守りつつ二本の槍で応戦
とは言え、正直なところまともにぶつかれば俺の力では残影卿には叶わないだろう
それならば他の誰かを支援しつつしぶとく立ち回り、時間を稼ぐまでだ

【竜聲嫋嫋】を使用
俺の歌で誰かが癒えると言うのなら槍を振るいながらでも歌い続ける

カーラの美声の持ち主ならば歌っても美しかろう
嗚咽ではなく喜びを奏でるのを聞いてみたいと願うのは俺のエゴだと分かってはいるが


松本・るり遥
【B】
冷えと恐怖と涙に震えてる
血の採取タイミングを逃さぬ為にカッターを握る
歯が鳴る、悔しい、怖い、諦められるか、死なせてたまるか

『何も出来ねえよ、何も出来ないことがそんなにおかしいか!!』

吠え立てる【Mr.HUMANISM】
嗤わせる為にどんな無様な弱音だって吐いてやる

『人を蹂躙する事がそんなに気持ちいいか!』
『馬鹿にしやがって』『何か言えよ』『馬鹿にしやがってェェ!!!!』

何も出来ない
その人を死なせてやる事も選べない

苦しむのも
辛いのも
後悔も、恨むのも
俺たち弱者の権利で義務
誰の事も捨ててたまるか

取捨選択さえ出来ないのかと嗤え
こんな凄惨でも、後悔する人間性を信じている俺を嗤え

一瞬だって良い
止まれ


雨乃森・依音
B

――決めた
俺はカーラを救う

うるせぇ俺のエゴで何が悪い
見捨てる勇気がねぇから救うんだ
そんなもんわかってる

後方に陣取って歌って支援
救うと決めた仲間の傷を癒やすことに専念
俺の後ろ向きの歌がどれだけ刺さるかなんてわからねぇ
けれど、
死ぬ気で歌って訴えてきっと届かせてみせるから

なんで死なせてくれなかったって恨まれるかもしれねぇ
いっそ殺してくれればどんなに楽だったかって喚かれるかもしれねぇ
でもさ
死んだらその可能性すら全てなくなっちまうんだ
何が気高い最期だ
死に方くらい自分で選ばせてやれよ
だから生きろよ!生きることを諦めんなよ!

うるせぇ俺は弱者だ弱虫だ無力だ
けれど何も出来ずとも、何もしなかったよりはマシだろ!




 吸血鬼は、醜く誰にも顧みられることなき女を強き者と言った。
 その諦観と絶望はしかし堕落とは無縁であり、ゆえに気高いと。
 己が招いた苛虐と悪辣を塵芥どもの仕業とのたまい、屈しなかったのだと。
 オブリビオンにとって、ヴァンパイアにとって圧制は当然のことである。
 動物が息を吸って吐くたびに大気を汚すように、
 ヒトが生存圏を広げるたびに自然を壊すように、
 そうで在るからそうする。この世界に退廃と暗澹と苦痛を振り撒く。
 それに屈さず、さりとて無様に足掻くこともなかった。
 ゆえに我が与えた終焉は、いかにも彼女らしい"気高い"最期なのだと。

 それを否定する者達がいる。
 ありきたりな過去を退けんとする者達がいる。
 彼らは皆、悲嘆の嗚咽を振り払うかのように歌い続けていた。
 力強く。縋るように。喚くように。――祈るように。

 マレーク・グランシャール。ドラゴニアンの戦士。
 松本・るり遥。数多の自分を抱えた弱き者。
 雨乃森・依音。ヒトならぬ獣の相持つ祈り子。
 彼らはなんの傷一つも与えられぬ歌を、がむしゃらに歌い続けていた。

●叫ぶ者達の選択
 ――アシェリーラは、生前の頃より地獄に身を置き続けてきた。
 行住坐臥を戦いのために費やし、殺し、殺し、殺し、そして殺し続けた。
 ある者は云う。殺戮はそのたびに心に傷を増やしていくのだと。
 だがやがて傷は大きく分厚い、狂気という名の瘡蓋に覆われる。
 そうして傷の痛みを、存在すら忘れてしまった時、そいつは魔になるのだと。
 アシェリーラは生まれついての魔であった。傷を厭わぬ魔である。
 ゆえに奴は嗤い悦び嬉々として殺し、殺され――そしていまもそう在る。
 そんな残影卿にとって、彼"ら"の叫びはひどくいびつで、不協和音で、
 そして無力で浅ましく、無様で、どうしようもなく滑稽だった。
「どうした。我の鼓膜でも潰したいのか?」
「く……ッ」
 碧血竜槍。魔槍雷帝。龍が変ぜし折れることなきしたたかなる槍二振り。
 突き、払い、薙ぎ、振り、いなし弾いて防ぐ。遠間も白兵も自在の長柄である。
 それが二つ。マレークは龍人であるがゆえにその無理難題をこなしうる。
 だがそれでもなお、彼自身が予期していた通り、対手との力量差は埋めがたい。
 マレークははじめから討伐ではなく防ぎ耐えることを念頭にしていたが、
 守りをかいくぐり刻み込まれる傷の量と速度は、彼の想定と覚悟をはるかに超えていた。
「それとも死ぬか。ならば己の矛で喉でも腹でも突くがいい。
 我が看取ってやろうぞ。足掻いて死ぬよりはよほど潔かろうよ!」
 吸血鬼は愉悦の余裕すら見せ、マレークの二に対して四の斬撃で応えた。
 そのたびに一か二の傷が龍人に刻み込まれ、退けばさらに四が来る。
 にも関わらずマレークは倒れない。何故か? 歌が響いているゆえに。
「"我が聲は、そよぐ緑の風の如く――"」
 野を撫で草花を慈しむ、雄大で穏やかな、朗々たる龍の歌を口ずさむうえに。
 嫋嫋と響きし戦士の歌声は、しかし一つきりの旋律などではない。

「"自分嫌いで自意識過剰/何をしても認められない満たされない――"」
 マレークの背中を、自暴自棄とすら言える激しい旋律が叩いた。
 まるで雨のようなリズム。かき鳴らされる音も、詩も、ひどく自虐的で。
「"虐げられ侮辱され唇噛んで/それでも/自分の意志で歩き出せたなら!!"」
「小賢しい。前に立つ度胸もない愚物が」
 アシェリーラは吐き捨てる。あの歌だ。あれが戦士を踏みとどまらせている。
「うるせえ」
「それはこちらの――」
「うるせぇ!!」
 依音は叫び、睨んで、声を絶やすことなく音を叩きつけた。
 それは肌一枚避けはしない。繰り出される刃を退けることも出来ない。
「俺のエゴで何が悪い。見捨てる勇気がねえから救うんだ。そんなもんわかってる!!」
「まさに語るに落ちたり。弱者が空虚な言葉を並べて悦に入るなッ!」
 ごうッ!! 太陽の煌焔を纏う斬撃衝撃波が依音を襲う。肌が灼ける。
 喉が、胸が焦げそうなほどに苛まれながら、しかし彼は黙らない。
 マレークの歌声が彼を奮い立たせる。彼の歌声がマレークを倒れさせない。
「ああそうだよ、空虚で後ろ向きで脆弱で、情けねえ詩だろうよ」
 マレークは何も言わない。だが彼の傷は癒えて、ここに立っている。
 それはつまり、彼が己の弱さを認めて、この行為の愚かさを知って、
 なお戦う意欲を失っていないからだ。立ち向かうと覚悟しているからだ。
「届いたんだ。刺さったんだ。だったらよ――死ぬ気で歌って当然だろうが!!」
 ジュブナイルめいた、青臭くて向こう見ずな衝動。だからこそ依音は黙らない。

 ――そして。
 マレークと入れ代わり立ち代わり、前に出ては怯えて退く臆病者がいた。
 剣がちらりと動くたび、太陽の光輝が揺らめくたびに腰の引ける弱虫が。
「ふう、ふう、ふう……ッ」
 カタカタと歯の根も合わず、両手が白くなるほど無駄な力を入れて、
 魔剣にも剛槍にも見合わない、たかがカッターを蜘蛛の糸めいて握りしめ。
「怖い、恐い、怖い……畜生、畜生、畜生!!」
 全身を武者震いではなく恐怖に震わせながら、泣きながら挑む少年。
 アシェリーラにとっては、るり遥こそがもっとも目障りだった。
 なんだこいつは。なんだこの餓鬼は。なぜこんなところにいる。
 マレークほどの技量も根性も、依音ほどの覚悟も青臭さもないくせに、
 技量も熱量も膂力も魔力も何もないくせに、なぜここに立っている。
「邪魔だ。消えろ」
 言って吸血鬼が刃を繰り出さんとすれば、マレークが身を挺してこれをかばう。
 るり遥は感謝しない。そんな余裕などないのだ。ただ背中の後ろで、
 びくりと身をすくめて縮こまるだけ。彼には傷を負う覚悟すらない。
 ぎりぎりと奥歯を噛みしめる。震える唇が裂けて血が滲み出るほどに、
 チビりそうなぐらいにビビりながら、肩越しに侮蔑に相対する。
「……目障りだ。何も出来ん弱者の小童が」
「――ッ」
 マレークも依音も、るり遥に"退け"とは言わない。いなくなれとも言わない。
 彼が立つと決めたなら、彼らは歌い庇い支えてその時を切り開こうとする。
 だがそのときはいつ来る? いつまで待っていればいい?
 ――作れよ。侮蔑じゃそれを作り出せないなら。笑わせてやればいい。
 "るり遥"が言った。るり遥は心の中でふざけるなと吐き捨てて、しかし頷いた。

「何も出来ねえよ」
 呼吸を吸う。鼻をすすりながら腹に力を入れる。
「何も出来ないことがそんなにおかしいか!!」
 マレークと依音の詩が一瞬途絶えるほどの、呆れるほどのがなり声。
 あまりの場違いさに吸血鬼すら興が削がれ、距離を取って片眉を吊り上げた。
「人を蹂躙することがそんなに気持ちいいか。馬鹿にしやがって」
「……」
「何か言えよ」
「…………」
「何か、言えよ。馬鹿にしやがってェエエ!!」
 子供の癇癪じみた叫び。マレークも依音も、肩を揺らしていた。
 しかし彼らは嗤ってはいなかった。そこに嘲りはないゆえに。
 たとえるならば、それこそ、そう。反抗期を迎えた子供の精一杯の照れ隠しを、
 呆れ半分眩しさ半分に見守るような、つまりはそういう笑みである。
 何も出来ない。依音の言っていた通りだ、死なせてやることすら。
 不敵に笑ってタフに立つことも、勇んで傷を怖れず飛び込むことも出来ない。
「――いいじゃないか、それでも」
「あ……?」
 龍の戦士は、至極真面目くさった顔でたしかにそう呟いた。
 どうやらマレークは本気らしかった。本気でるり遥の言葉を肯定していた。
「何も出来なくとも構わんさ。俺とて所詮、彼女を殺せなかったのだから」
 カーラが死を望むなら、息の根を止めてやるつもりでいた。
 だが血の魔術に呪われた女は、生還も終焉も望みはしなかった。
 望まぬ相手に一方的な終わりをくれてやれるほど、マレークは傲慢ではない。
 傲慢にはなれない。だから無表情のまま、笑うように肩を揺らしてみせたのだ。
 それはいかにも人形めいた真似事で、けれどもマレークの感情表現だ。
「失うならいっそ俺はこの手でそれを奪ってしまう。それよりはずっと」
 お前はまっすぐだ。龍人の言葉は、岩のようにごつくて不器用だった。
「恨まれたって喚かれたって、死んだらその可能性すらなくなっちまう」
 依音もまた肩を揺らしていた。るり遥と同じぐらいのやるせない怒りに。
「何が気高い最期だ。生きることを諦めさせるんじゃねえよ!
 俺だって何も出来やしねえ。それでも何もしなかったよりはマシだろ!!」

 ……吸血鬼は。
「ふ」
 露悪的に片頬を吊り上げて、
「ふ、は」
 腹の底から、大音声で笑ってみせた。
「ふっはははははは!! はは、は! ははははははは!!」
 来た。これだ。これを待っていた。好機到来、千載一遇。
 だからって恥ずかしくないわけじゃない、悔しくないわけじゃない。
 けれどもこの苦しみも辛さも何もかも、俺"達"の権利で義務なんだ!
「――馬鹿に」
「今か」
「今だな」
 マレークと依音がうなずく。再び旋律が奏でられ、戦士は踏み出す。
「馬鹿に……しやがってェェエエ!!!!!!!」
 そしてるり遥が爆発した。己の感情を爆発させた。
 がなり声は皮一枚裂かないが、しかし己を嗤った者を縛ってみせた。
 またたき一つほどの麻痺。けれども戦場では十分すぎる一瞬の不動!
「何」
「ぁああぁぁぁあああああッッ!!」
 槍が腕を貫く。依音の歌が反撃による傷を致命の手前で押し止める。
 そして爆裂した咆哮そのままに、たかがカッターの刃が煌めいて――。

 少しあと、彼らは三人揃って血まみれで、闇の中大の字に倒れていた。
 吸血鬼はもういない。あちこち全員の血で汚れてめちゃくちゃだ。
「……歌を、聞かせてくれるといいのだがな」
 マレークが呟いた。まだ足りねえのかよ、と依音が噴き出した。
 るり遥は泣いていた。痛みと苦悶と恐怖と悔しさに泣いていた。
「飽きるほどお前達の歌を聞いた、だからこそだ」
 龍の戦士は真面目くさって二人に言う。
 彼らは、たしかにいのちの通貨を奪い取ってみせたのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

緋翠・華乃音
誰かを助ける――命を繋げる、なんて俺には出来ない。
だから――その役目は相応しい者に任せよう。……俺には"救い"は似合わない。
"救う者"たちの為に俺は奴と対峙する。
……まあ、殺してしまったなら仕方無いと諦めて貰うが。


狙撃手から暗殺者へと戦法を切り替える。
敵の挙動――一挙手一投足を読み見切り、気配と音を消して素早く疾駆――移動の軌跡は稲妻のように疾く、そして鋭く。
正しく縦横無尽。狙いは急所。武装"夜蝶牙"と"Gespenst."でヒット&アウェイ。一撃で致命へと導けずとも十重二十重の斬撃を重ねてゆく。
敵の攻撃はユーベルコードで無条件に回避。



●緋翠・華乃音の選択
 己はただいのちを刈り取る者。与えるのではなく奪う者。
 ゆえに人を救うなどおこがましく、出来るなどと嘯けやしない。
「俺には、救いなんて似合わない」
 救済を為すは神である。少なくとも華乃音の愛読書にはそう記される。
 応報を為すのも神である。復讐するは我にありと主はおっしゃられた。
 神を信仰せず、されどその教えと物語を反復する暗殺者は、
 十字架を掲げも背負いもせず、ただ装飾として纏って戦場を奔る。
「疾いな。そして容赦がない」
 アシェリーラは淡々とそれを分析した。稲妻じみた接近と撤退。
 さながらハチドリのようだ。ひとときもどこかに留まることなく、
 こちらの一挙一動を見切って躱し、気配を消し、音を断って背後を取る。
 紛れもなく達人である。アシェリーラが好み、血を求めるに足る強者である。
 返す刀はことごとくが不条理なまでにかわされ、決して届かない。

 だが。
「それだけか」
「――ああ、これが俺だ」
 華乃音は恥も苦悶も悔やみもせず、傲然も見せずに淡々と答える。
 アシェリーラは鼻を鳴らし、届かぬ反撃を打っては敵の攻撃に浅く裂かれる。
 強い。速く、鋭く、韋駄天じみた軌道に縦横無尽正確無比な攻撃の応酬。
 まさに一流、猟兵としては歴戦であり、救う者達の道を切り開くに足る技量。
 だが。吸血鬼はただ淡々とそれを防ぎ躱し時には食らって反撃し、
 やがて苦虫を噛み潰したような表情で、これみよがしに太く息を吐いた。
「――」
 華乃音は取り合わない。彼はいちいち戦の高揚に酔いしれる性質でもない。
 ただ己に与えられた優れた感覚を使い、淡々と蝶めいて舞い、狼のように貫く。
 それだけだ。そう在るからそうする。そこに信念や意地などない。
「軽い」
「…………」
 ガギン! 黒剣と太陽の魔剣が撃ち合い火花を散らした。
「軽い。薄い。小賢しい。天敵よ、貴様は強い。ああ強いとも!」
 苛立ちすら滲ませて吸血鬼は叫んだ。激情の陥穽を刃が裂く。
「だがそれだけだ。我はその程度では満足できん。この飢えは満たせん!!」
「君を満たしてやる義理はない」
「言葉すらも、ああ、ああ、なんとも貴様は――」
 ぎり。牙が軋む音がした。
「"つまらん男だ"」
「――、」
 深い深い水の底。沈めて消したはずの激情がわずかに身動ぎする。
 華乃音の攻防は理不尽である。不条理ですらあるといっていい。だが。
「我らをなんと心得るか、天敵よ。よもや貴様が"忘却"したとでも?」
 アシェリーラはオブリビオンである。過去の化身、未来の破壊者。
 猟兵と同じ奇跡の使い手にして、けして滅ぼし得ぬ水の月。
 幾度かき消そうと海の底より来たる虚無。形持つ暗黒、払えぬ残滓。
 華乃音は避けた。当然のように、無条件に刃の一撃を避けた。
 だが避けた先にもう一振り刃があった。呼ばわれし過去のもう一振りが。
「落胆させるな天敵よ。たかが"強者ごとき"で児戯じみて我が喜ぶならば」
「斯様な賭けも何もかも、貴様らに突きつけた意味など無いではないか」
 我はすでに死者であるがゆえに。忘却されざる過去ゆえに。
 再び現れたもう一つの過去、鏡写しのアシェリーラが、瑠璃の蝶を裂いていた。

 オブリビオンとは過去そのもの。"そうである"がゆえにそう在る虚無である。
 理を踏みにじり越えるなど、奴らにとっては容易いことなのだ。 

苦戦 🔵​🔴​🔴​

シャルドール・プリマビスタ
A:カーラを顧みず、敵の討滅を優先する。

……理解不能、理解不能。
誰…?頭から消えナイ…忘れてはイケナイもの…?
否…該当データなし…今は…目の前の…テキ…殲滅…。

ワタシは人形、敵の殲滅に参りマシタ…その使命を全うしなければなりマセン…

殲滅モード…選択…

WIZ
CODE:『Executioner Blade』
→標的:「残影卿・アシェリーラ」

掃討作戦開始、目標殲滅

ワタシハアナタヲタオシマス

●補足
口調の変化
戦闘モードから殲滅モードに変化
簡素な漢単語のみ、若しくは全てカタカナの会話
全ての感情をシャットアウトし完全な戦闘人形になる
戦闘が終われば通常の口調に戻ります
「……何故、私は…泣いているのでしょう…。」



●シャルドール・プリマビスタの選択
 襲来は突然に、まるで嵐のように出し抜けにやってきた。
 四方八方前後左右、360度をまったく同時に覆った無数の拷問具。
 アシェリーラは淡々とそれを受け入れた。この程度は超常の戦闘では当然である。
「だがいい殺気だ」
 嗤笑。瞬きのうちに剣風は四つ。切り裂かれ砕けた拷問具の八割五分が燃え消えた。
 残る一割五分。針が青ざめた肉を貫いて、枷は骨を軋ませ締め付けた。
「無慈悲。無容赦。そして無数。処刑とはこうでなくては甲斐がない」
 ぎしぎしと己を戒める枷の痛みと苦悶を、胸のすくような感嘆と共に受け入れる。
 猛然たる速度で、赫奕たる殺戮人形が来た。大きく手を広げて受け入れる。
『掃討作戦開始、目標殲滅』
「人形よ、貴様には我が問いを反芻する余剰すらないか」
『ワタシハアナタヲタオシマス』
 会話すらままならぬ。狂気――いや、狂気すらなき直線的殺意。
 歯車仕掛けの処刑人、シャルドールという形ある殺意を、吸血鬼は愛しく思う。
 いかにも滑稽で、無様で哀れでみじめでか細くいじましい。だからこそいい。
 人形とはそうでなければならぬ。己を持つ人形のほうがよほど歪ではないか。
「だからこそ壊しがいがある、そうであろう? ハ、ハ、ハハハ!」
『ワタシハ人形、敵ノ殲滅コソガ使命』
「ヒトの言葉まで喋りよる。貴様の造り手はさぞや胸のすく思いだろうなァ!!」
 鋼が打ち合う。再び召喚された拷問具が吸血鬼を捉えようとする。
 二度目はない。太陽の煌焔と刃と剣風と、戦闘経験がそれを防ぎ躱した。
 旋風じみた猛威が迫り、しかしシャルドールはそれを怖れず突き進む。
 人形は恐怖しない。恐怖とは心ある不完全な肉が持つものだ。
 人形は苦悩しない。苦悩とは矛盾を抱える愚者の罪業だ。
 人形は躊躇しない。躊躇とは目的意識に欠けた価値なきモノの欠陥であり――。

(……理解不能)
 しかし殺戮人形は、歯車の奥底で嵐のような矛盾と疑問に襲われていた。
 あれは誰だ。脳裏によぎったあの残影。あのかんばせは誰のもの?
 殺戮に没入すべき、全てをシャットアウトすべきいまも溢れるこのエラーは。
 該当データなし。違う。無駄なデータを捜査している場合などではない。
(理解不能。理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能)
 強制終了(フラットライン)。全てを切り離し斬り捨て殺戮に没入する。
 敵が来る。迎撃する。拷問具を招来し斬撃を執行する。不完全な成果。
『敵生存確認、攻撃継続』
「なんともいじましいぞ人形よ。お前はいかにも美しい」
 交錯。シャルドールの大鋏はざらついた傷跡を刻み込み、それに留まった。
 それは苦しめ処刑を長引かせるための拷問具。だがその本懐を果たせない。
「だがそれだけだ。貴様は強く美しいが、玩具以上にはなり得んな」
 ためらわずシャルドールは振り返り追撃を試みる。分厚い鋼が退けた。
 そして振り返ることなくアシェリーラは闇へと消える。顧みることはない。

 遊び飽きた玩具のことなどどうでもよい。
 はじめから、彼はただそのためだけに嗤っていたのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

街風・杏花
【B】

嗚呼、嗚呼、嗚呼――なんとも、なんとも忌々しい、美しくない!

血沸き肉躍る、楽しい戦!
余計なことをしなければ、思う存分、お互い楽しめましたのに!
――人の命を、この世で最も美しい物を見捨てて浸る悦楽など、それこそ美しくない。これでは選択肢などないではありませんか!

うふ、うふふ
……けれどこれも、初めてみれば悪くはありませんね。
やり口も肩書きも気に入りませんけれど、貴方は強い。私より。
自分より強い相手に、あえての寄り道。その愚行――長く愉しむためと思えば、悪くない。ええ、力が沸いてきますとも!

さぁさぁ、端からその肉殺いで、血を流させてあげましょう。
なぁに。貴方がやってきたこと、慣れっこでしょう?



●街風・杏花の選択
 いのちは美しいものだ。この世、否、この宇宙すべてのあらゆるものよりなお。
 気高く、尊く、見捨ててはならぬ至宝、綺羅星、無二の財。
「嗚呼、唖々、噫!」
 高らかに、軽やかに、忌々しげに、杏花は何度も何度も吐息を漏らす。
 それは感嘆であり、落胆であり、高揚であり、失望であった。
 きっとこんな"くだらない"謀がなければ、もっと晴れやかに華々しく愉しめたろうに。
 いのちは美しい。それを見捨てることほど美しくないことはない。
 ゆえに杏花に選択肢はなく、彼女は当然のように魂の通貨を求めた。

「羽根持つ者よ、貴様はそんなに愉しいか」
「ええ、ええ。うふふ、うふ――初めてみれば、なかなかどうして」
 もしもここに第三者がいたならば、両者が繰り出す撃剣に瞠目しただろう。
 かたや魔剣。太陽の煌焔を孕みしただならぬ刃。鬼の膂力に耐える鋼。
 ではこちら。銘も曰くも、それらしい異能もなにもないただの打刀。
 切れ味もしなやかさもなにもかもが普遍の、ありふれた数打ちの刃である。
 だのに両者は拮抗していた。そして互いの攻撃は無数である。
 横薙ぎ八相刺突打ち上げ巻き上げ唐竹割り。袈裟懸け逆袈裟地摺り頚打ち。
 常人では一つとして捉えられまい。達人ならば二つ三つは目で追えよう。
 絶無の域に辿り着いた修羅なら十は見る。両者が繰り出すのは二十を越えるが。
「貴方は強い。私よりも、他の誰よりも! そこへ真正面から打ってかかる!」
 少女の声は浮ついていた。うきうきと弾んで踊りだすようだった。
 がぎ、がぎ、がぎぎぎ!! 耳障りな鉦叩の音はいかにもアンバランスだ。
「あえての寄り道、その愚行――いいではないですか。善いではないですか!」
「愉しいか。歯痒くもなく悔しくもなく、怒りもなくただ愉しむか!」
「ええ、ええ! あと一秒もう少しだけあと刹那、まだまだ、まだまだですわ!」
 長く。より永く。この愚かな試みは至極の悦楽をまだ引き伸ばしてくれる。
 "狂瀾怒涛"とはよく言った。大物殺しと冠されしその超常、少女の業。
 鬼は歯を剥き少女は赤目を爛々と、互いに愉しげに笑って嗤って打ち合った。
 より困難でより強大でより不利な時、それだけ彼女の欲望は高まる。
 そして力もまた高まる。ゆえに鬼が膂力を増せば増すだけ、杏花も追従した。

「――けれども」
 そして出し抜けに終わりがやってきた。攻防という嵐の終わり。
 間隙とは、必然の積み重ねの上に生まれる。そこに偶然はない。
 偶発性が絡むのは、いつだって不得手か不心得者の戦だけだ。
 完全たる修羅同士が立ち合う時、終わりには当然たる布石があるのだから。
「貴方は"美しくないこと"をしてきました。血湧き肉躍る戦を穢しました」
 刃はもう打っている。ぞっとするほどの血が吹き上がる。
 肉が削がれて骨が軋み、吸血鬼は蹈鞴を踏んだ。
「だから慣れっこでしょう? さぁさぁ、もうひとつ」
 ざん。撃ち込む。魔剣が獣じみてこれを弾く。間隙へもう一突き。
「がはッ」
「いじらしい方。まだ続けてくださりますのね」
「――貴様もなかなかどうして可愛らしいな、同類よ」
 斬撃/斬撃。互いに肉を断ち骨を裂く重い傷を叩き込む。
 少女は嗤って鬼も笑い、戦狂の爛熟に酔いしれながら血を吐きあった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アリーシャ・マクファーソン
B:カーラを救うため、血の採取を優先する。

ほんと、悪趣味。
カーラを救うことが重要ではないの。ただ、吸血鬼の道楽を尽く潰す。それだけよ。

吸血鬼アシェリーラ。あなたの天敵がやってきたわよ。
例え困難な道だろうとも、あなたの悪辣を全て砕いた上でその首を落として見せましょう。

【百花凍刃】

あなたがいくら分身を出そうとも。あなたがいくら私に血を流させようとも。
その全てがあなたを死へ誘う極寒の刃となって襲うでしょう。
乙女の柔肌にこれだけ傷を付けたんだもの。責任、取ってもらわないとね?
お代はあなたの血で良いわ。

結果、カーラが生き延びるかは知らない。街に戻っても、碌なことはないでしょう。
けど、生きていれば……。



●アリーシャ・マクファーソンの選択
 救済に価値はない。これまでと同じように、吸血鬼を潰す。
 それはただ彼奴らを滅ぼすことでは飽き足らぬ。
 奴らの行為、刻んだ傷跡、結果、意志、その尽くを踏みにじって、
 消し去って、拭い去って、否定して、それでもまだ足りない。
「――あなたの天敵が、やってきたわよ」
 そのためだけに此処へ来た女の声音は、まるで真冬のように凍てついていた。
 悦びも憎悪も愉悦もなく、ゼロの如き当然という表情で滅殺を宣言する。
 そしてアリーシャは、ゆえに終焉の到来が近いことを見切っていた。
「あなたが誇示した魂の通貨、あと少しで事足りる」
「我の滅びももう間近、か」
「そうね。あなたの悪辣、欲望、愉悦。何もかもはもうすぐ砕かれる」
「そして我が頸も、か。くく、くくく」
 うずくまるように笑い、出し抜けに獣が――否、鬼が爆ぜた。
 爆ぜるかのように踏み出した。アリーシャはむしろ己から飛び込む。
 本体が来る。切り下ろし。致命打を半歩ずらして避けながら太刀を受ける。
 背後に分体の気配。振り返らぬ。少女の背中を鞭打ちじみて刃が裂く。
 それこそが徒花を咲かせる種である。芽を萌えさせるは彼女の血であり、
 敵の悪意であり殺意であり――だが、噫。アシェリーラはなお悪辣であった。
「――かはっ」
「どこかで聞いたことがある。"氷血の小悪魔"と呼ばれし魔女の名を」
 悪魔めいた朱が見開かれた。ぐり、と爪が指が臓腑を撫でればなお瞠目する。
 まるで乙女の秘密を撫ぜて愛でるかのように、鬼の腕(かいな)は腹を抉っていた。
「が、ぐ」
「その傷は凍れる刃を咲かせ、いかなる鬼をも屠り去ると。
 ああ、安心しろ――我らは所詮過去なれば、貴様らを共有警戒などすまい」
 どこかの吸血鬼が、戯れにこぼした与太話である。
 だがそうして名が伝わるほどに、アリーシャの血塗られた道は積み重なっていた。
「冷たき姫よ。美しき女よ。意外だな、お前の肚(なか)はだいぶ温(ぬく)い」
「――……当たり、前……でしょう」
 血のしずくを白い肌に刻みながら、凍れる女は嘯いた。
 柔肌は愚か肉を抉って、はらわたを愛でる蛮行。代償は重く烈しい。
「一つ聞かせろ、零度の女よ」
「…………ッ」
「君はどうなると思う。生きるか、死ぬか、生きたとして何処へ行くか」
「………………さあ、ね」
 苦悶は出すまいとした。指が骨をくすぐりへし折った。
「知らない、わ。けど、生きていれば……」
 生きて、いれば。――死ぬよりは、ずっといい。
 さあ支払いの時間だ。吸血鬼は当然のようにそれを受け入れる。
 むしろ凍れる姫を抱きとめて、凍れる血の刃を全身で受け止めてみせた。
「咲かす華まで美しい。誇れよ女、貴様は――」
 哄笑。苦悶。闇へと消えていく。アリーシャは支えを喪い膝を突く。
 ぱきぱきと血が凍りつき、抉られたはらわたの傷をかりそめに塞いでいく。
「…………気持ちの、悪い男」
 いのちがある。ここにある。――まだ、やらねばならないことがある。

成功 🔵​🔵​🔴​



 A:13/? B:78/?
ジャガーノート・ジャック
【A】
(ザザッ)
――何ができるかだと?

本機は
ただ
任務を全うするのみ。

本機は――(ザ、ザ――)

――嗚呼、もうどうでもいい。
『僕』の知った事かよ。
兵士(ジャック)の振りもうんざりだ。
【真の姿解放】

お前の質問なんて知るか。
狗にでも食わせとけよ。

そんな事より
僕は
僕の友達を
ロクを泣かせたお前を赦さない。

血はもう十分だろ?
足りなくても知るか。

虐げられても
叛逆もせず
啜り泣くだけの意気地なしも
それを苛めて悦ぶ屑共も
お前の下らない問い掛けも
全部糞喰らえだ。

何ができるか?
僕は怪物(ジャガーノート)だ。

できる事なんて
この姿になった時から
”破壊(これ)”だけなんだよ。
だから
お前は

【SPD】
死ねよ。
塵一つ遺さず失せろ。



●ジャガーノート・ジャック――████・██の選択
 殺す。
 "引き金"を引けばそれで終わる。まるで一瞬のうちに変貌は失せる。
 ハリネズミのようにでたらめに、ランダムに砲塔を生やした獣の姿。
 過剰殺戮(オーヴァーキル)にも程がある、怒りと殺意に呑まれた姿。
 愚かで哀れで滑稽で、そんな嘲弄を何もかも飲み込む暴威の姿。
 そうあれかしと望んで願って飢えて呻いて足掻いた、哀れな子供の成れの果て。

 いや。それは成れの果てですらない。
 なぜなら鋼を纏う"彼"は、何一つ在りようを変えていない。
 己の名も意も力も何もかも、ただくるんで固めて演じて偽っているだけだから。
 さながら卵の中で微睡む家鴨(バロット)のようだ。臆病者の悪足掻きだ。
 だから彼は痛くも痒くもないし、だからこそなお怒りと殺意は燃え上がる。
 悪意も不条理も知らぬ子供が、ただ好奇心の赴くままに虫をねじって殺すように。
 その異形は、いっそ憐れで無様だった。

『――……』
「どうした」
 かくて破壊は成し遂げられた。
 雷、神なる怒り、破滅と破壊と殺戮と暴虐は嵐めいて振りまかれ。
 砲声は何もかもをかき消して、気に入らぬ嗚咽のくだらぬ残滓も打ち砕き。
 繰り出される攻撃の尽くを退けて、ねじって潰して叩いてひねって灼いて焦がして煮やして刻んでバラバラにしてさらにすり潰して叩きのめした。
 なのに。
『………………失せろよ』
「やればいい」
『死ねよ。塵一つ遺さず失せろ。消えろ。滅びろよ』
「やってみせろ。それが貴様の"出来ること"なのだろう」
 穴だらけ。焦げて滅びかけた残滓の成れの果ては、悠然と言った。
 苛立たしい。はらわたが煮えくり返るとはこのことだ。
 憎たらしい。こいつは友達を泣かせた。苦しめた。悲しませた!!
 許せない。赦さない。赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない!!
 なのになんでだ。どうして。なんでこいつは消えてない。死んでない!
「終わりなのか」
『まだだ』
「ではやるがいい」
『やってやる』
「どうした」
『黙れ』
「さあ早くしろ』
『黙れ……』
「我に抗う力はもうないぞ」
『黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇえええええ!!』
 鋼が吼えた。雷を乱射し解き放った。掻き毟り押し倒して抉って食らって捻り潰した。
 ああ。ああ。ああ。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!
 血のことなんて知るか。意気地なしの女も屑どももくだらない問いも知ったことか。
 糞食らえだ。塵芥以下だ。全員死ね。屑どもは特に苦しんで死んでしまえ。
 死んで生き返ってまた死ね。億万回生き返って嘆いて悔やんで死ね。
「………………………終わりか」
『うう』
「終わりなのだな」
『ぅううう』
「――……かわいそうに」
 泣いた。鋼は微動だにせぬ。その裡で微睡んでいた子供が泣いた。
 髪をかきむしり、嗚咽し、拳の皮が裂けるほどに裡なる鋼を叩いて泣いた。
 憐れんだ。こいつ、こいつ僕を憐れみやがった。憐れみやがった!!
『僕は怪物なんだぞ』
 声はない。
『恐れろよ。憎めよ。絶望しろよ』
 声はない。
『破壊するなって懇願しろ。願ってねだって命乞いして足掻けよ』
 声はない。
『泣いて詫びて喚いて媚びろよ、糞野郎。糞野郎ォオオオ!!』
 ぴしり。
 卵が腐乱するように、鋼に致命的な亀裂(クラック)が生まれた。
 背後に分身が立つ。剣を振り上げ、墓の土を掘るようにおろした。

『――が』
「かわいそうに」
 もはや滅びるだけの鬼は言った。刃は鋼を貫いて子供を抉っていた。
「お前は私を殺せない。我を滅ぼせない。我を絶望させられない」
『が、あ、あ』
「忘れたいだろう? 消し去りたいだろう。"だから傷を遺してやる"」
 ぐりんと柄がねじられる。悲鳴じみた苦悶が響き渡る。
「はらわたを灼かれる痛みを刻み込め。記憶とともに悟るがいい。
 何もできず成せず足掻いて足掻いて喚いた者よ、ああ、なんとも――」
『痛い、痛い、痛い痛い痛い!!』
「――かわいそうに。かわいらしい幼子よ。貴様には何も出来なんだ」
 鋼は微動だにしない。
 かくて、悪意は臓腑の奥の奥まで刻み込まれた。

成功 🔵​🔵​🔴​



 A:13/6 B:78/33――
ロク・ザイオン
B
※真の姿継続

(美しい残響に心が酔いかける)
(転がる女をあねごに空目して)
――ぁ、ぁあ、
(喉元まで迫り上がる悲鳴)

(何が正しいのか、何もかもわからない
自分がまだ正気なのかも
ただ)
――ぁ
(声でなく。うたでなく。言葉を、
あなたの望みを、知りたかった)

――ッ
(食いしばる。刀を握る)
(まだ救える。ならば、おれは――
あなたの為に戦う今だけはせめて。
ひとを守る、番人で、いられる)
(いさせてください、あねご)

(怒り狂うジャックの陰に潜み追随
【野生の勘】で本体を見抜き
隙を逃さず【ダッシュ・早業・傷口を抉る】
斬撃、尾を変じさせた「羨囮」で食らいつき血を奪い取る)

ジャック
おれは、ここにいるから
大丈夫だよ

※被弾上等



●+1/ロク・ザイオン
 嗚咽の残響も、それを砕いて響き渡った怒りの咆哮も。
 その後に長く尾を引いた、幼子の悲鳴と苦悶と絶叫も。
 なんと甘美なことだろう。なんと安らかなることだろう。
 甘くて美しくて穏やかで安らかで酔いしれたいほどにひそやかで、
 抱きとめて微睡んで舐って転がし噛んで口づけたいほどに愛(いまわ)しい。

 いまわしい。
 それに酔ってはいけないとわかっていた。だが耳は従ってくれない。
 何が正しい。感じるこの世界か、友らがくれた言葉なのか。
 今まで寄す処にして慈しんで懐かしんで支えにしてきた記憶は偽りか。
 捨て去らねばならぬ過去か。乗り越えねばならぬ試練なのか。
 誰が悪い。誰だ。己か? みにくく歪んで愚かで壊れた自分(けだもの)か。
 かえりたい。帰りたい。還りたい。孵りたい。
 あの頃へ。あの森へ。あの場所へ。何も考えず安らかに微睡みたい。
「――ぁ」
 熾火があっという間に燃え広がるように、激情は全てを洗い流そうとして。
 けれども食いしばった。漏れかけた声音をねじ伏せて、刃をきつくきつく握る。
 まだだ。まだ救える。まだ戦える。まだ禄は、いや、ロクはある。
 呼ばれた名がある。認められた価値がある。頼まれた力がある。

 仲間が、いる。
「おれは、にんげんだ」
 祈るように言った。誰もそれを聞き届けはしないけれど。
「おれは、にんげんだ」
 獣は走った。やがてその足は、閃光のように疾走した。

●あるいは、少年にとってのささやかな光
 龍の巣というものがある。
 雲のうちに雷鳴と雷を孕みし天災。きっとこうなのだろう。
 荒れ狂う怒りと暴威の中に潜み、滅びを見届けた。
 再び荒れ狂った。それでも敵は滅びなかった。
 そして分身が再び刃を振り上げた時、ようやく少女は頸を斬り裂いた。
「…………ふ」
 羨囮の尾は、"醜い"女の顔を模していた。
 惹かれていたのだ。そのかたちがどうあれ、吸血鬼は女を愛していた。
 それは情欲ではなく親愛で、だからこそ度し難い愉悦と同居していたが。
「貴様らの勝ちだな」
 魂の通貨を奪われ、鬼は滅びながらそう言った。
 少女が獣として怒り狂っていたならば、その末期すら赦さなかったろう。
 喉笛を噛みちぎってたちどころに焼き尽くしていたことだろう。
 だが少女は待った。最期のひとしずくを手に入れるために雌伏した。
 それはいつかの時、呪いの刃を振るうあの暗黒と同じよう。
 そういえばあのときも、朋友は貫かれて悲鳴(うた)ってくれていたか。
「…………心地よさそうだな」
 言われて、少女はびくりと身をすくませた。
 ああ、そうだ。自分は今このとき、また酔いしれた。
 だって綺麗だったんだもの。どうしようもなく美しかったから。
 甘やかで安らかで、微睡みそうなほどに心地よくて。だから。
「君は」
 鬼はほとんどうわ言めいて呟いた。
「君はなぜ、泣いていたと、思う」
「……………………いたいからだ」
「そうだ」
 ふっ、と鬼は笑った。悲しき笑みだった。
「君は己の苦しみを嘆いていたのではない。"そうせざるを得なかった塵芥どもを憐れんでいた"のだ。
 苛まれてなお。目の前で死んでなお。我がもとへ来てなお。君はずっとそうしていた」
 ――カーラは、一度たりとて己の痛みを嘆いたことはなかった。
 己を苛み、排斥せねばならぬ人々の苦しみを。
 目の前で死んでいく人々の絶叫を。
 彼らの為に死んでやることすら出来ぬがゆえに泣いていた。
「祈りと、歌は、弱きものの、最期の」
 悪足掻き。なにも変えぬ、変えられぬ哀れな足掻き。
 君(カーラ)は最後までそうしていた。
 愛おしかった。美しかった。ああ、ああ、気高き君よ。
「我をも憐れみ、泣いていたのか。君よ、ああ」
「……………………」
「……………………何も、出来ず、成せず、遺せぬは」
 憫笑。己に向けた無為な笑み。祈りめいた無駄な足掻き。
「他ならぬ、我であった――な」
 せめて呪いを遺そうとした。だが光がここに来た。
 いつか傷は癒えるだろう。忌々しいが、天敵だからこそわかる。
 鬼は少女にそれを視た。聖者たる証を視た。無垢なる光を視た。
「――我に、何が出来たので、あろうな」
 そして、鬼は崩れて消え去った。


「ジャック」
 抜け殻めいた鋼に少女は寄り添う。
 血は届けた。早晩女は目を覚まして、現実とこれからを悟るだろう。
 女は抗わなかった。抗えなかった。抗おうとしなかった。
 人々はなんと言うだろう。嘆くか。悔いるか。懲りもせず繰り返すか。
 わからない。だが命は繋がった。語られた言葉が彼女の意思に届いた。
 うわ言めいて、醜い女は涙を流して、猟兵達に詫びて礼を言ったのだから。

「ジャック」
 女達を癒やす猟兵たちから離れ、少女だけは鋼のそばにいた。
 黒雲が晴れて、蜘蛛の糸めいたか細く弱々しい朝日が射す。
「おれは、ここにいるから」
 光がまたたく。きっとこの傷(のろい)は、多くの者を苦しめるだろう。
 この世界の人々を。カーラを。戦った猟兵達を。
 少年を。少女を。だが。
「――だいじょうぶ、だよ」
 嘆きはもはや、どこにもない。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年04月16日


挿絵イラスト