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今は遠きニライカナイ

#グリードオーシャン #お祭り2020 #夏休み



 静かの海に夜が来る。
 夏の気配は未だ色濃く、高き空で星々が囁いている。
 波と風の音だけが聴こえる今宵の海には、蒼き光が遊びに来ていた。
 それは、ノクチルカ。またの名を夜光虫。
 淡き蒼が波に揺られてやってくる。絶えず浮き出す気泡に刺激を受けて、蒼く、青く、夜の海を染め上げる。
 月と星と蒼の光が織りなす幻想的な道が出来たなら、その遥か遠い先にはニライカナイがあるという。

 遥か彼方の理想郷から生まれた波が、海を心地よく揺らしていく――。


「夜の海に遊びに行かないかい?」
 忙しなく人が行き交うグリモアベースの一角で、ディフ・クライン(灰色の雪・f05200)は穏やかに猟兵たちに声をかけた。
 常ならば無表情の顔にも、今は微かな笑みを浮かべている。
「以前猟兵たちの手でコンキスタドールから護って貰った深海島、パルレという島があるんだけどね。そこからの招待状だよ。夜光虫が来るんだって」
 星珊瑚の島パルレ。
 真白の星珊瑚で出来た美しい深海島は、猟兵たちの活躍によって今は静かで穏やかな時間が流れている。
 その直上の海面に、夜光虫が美しき蒼光の帯を作っているのだという。水平線の彼方から、ゆっくり、ゆっくりと、まるで道を作るかのように夜光虫が流れ発光しているらしいのだ。
「だからね。星珊瑚で飾られたゴンドラに乗って、少し海に出てみないかっていうお誘いだよ」
 パルレの人々が、近くの海上の島の人々と共に作った精霊ゴンドラというものがある。オールで漕げば操船は海精が手伝ってくれるので、細かな操船技術は要らない便利な船だ。
 真っ白な星珊瑚で装飾された白いゴンドラで海の上を往き、時に歩みを止めてぷかぷかと浮かぶ。小船ならではの海面との近さは、間近で夜光虫の輝きを楽しむにはもってこいだ。
 一人で思いを馳せ、誰かと言葉を交わし、青に浸り、波音に揺れる。静かで穏やかな時間が、きっと此処にはある。

「ああ、それとね。疲れたなら、近くの島にオーベルジュがあるよ。食事もとても美味しいと評判なんだけれど、そのオーベルジュ、部屋が海中にあるんだ」
 海の中に作られたそのオーベルジュは、海上から海中までを楽しめる宿泊施設だ。食事の美味しさもさることながら、何よりの目玉は客室の一部が海中にあることにある。
 客室の二階部分は海上にあり、ベランダに出れば満天の星空を楽しむことが出来る。そして一階部分が海中の部屋。壁一面が巨大な硝子窓になっており、美しき珊瑚礁やそこに住む多種多様な魚たちのありのままの姿を間近で眺めることが出来るのだ。
 特に今宵は夜光虫が流れ輝いている。海中から眺める青の帯は、海の中をも幻想的に照らし出してくれるだろう。
 青と白で統一された客室は、まるで海の一部となったかのよう。店自慢のスモークサーモンを使ったマリネや、ホタテや海老、白身魚を使ったキッシュなどを楽しみつつ、酒や飲み物を酌み交わし、部屋でのんびりと夜を過ごすのもまたよい思い出となるのではないだろうか。

「海の彼方には、ニライカナイという理想郷があるのだというね。命が生まれ、いずれ命が還っていく場所。その信仰は、海が母と呼ばれるからだろうか」
 灰の雪華のグリモアがくるくる回る。降り注ぐ雪が静かにゲートを構築していく間、ディフはぽつりと呟いた。
「夜の海。静かな波。満天の星空と彼方から来る夜光虫。ゴンドラの上で、オーベルジュで、友と語らったり、酒を酌み交わしたり、愛を囁き合ったり。貴方達はどう過ごす?」
 ただ穏やかな夜を、青に包まれながら。
 誰も彼も好い思い出が出来ますようにと祈りながら開いた雪華のゲートは、夜光虫の光を受けて仄かに青く染まっていた。


花雪海
 海が好きすぎる自覚はあります。夜光虫も大好きですし、海中ホテルは憧れです。
 お世話になっております、花雪 海です。
 この度は静かな夜光虫の海へ、皆様をご案内致します。

 ●このシナリオは既に猟兵達によってオブリビオンから解放された島となります。
 また、このシナリオは【日常】の章のみでオブリビオンとの戦闘が発生しないため、獲得EXP・WPが少なめとなりますので、あらかじめご了承ください。

 ●このシナリオで出来ること
 1.精霊ゴンドラに乗って、夜光虫と満天の星空の海を満喫する。
 (ゴンドラは、1~2名乗りとなっております)
 2.オーベルジュの海中客室にて過ごす。
 お食事やドリンクはお部屋で楽しむことが出来ます。お酒も取り揃えて御座いますが、基本的に未成年(ステシの年齢で判断)への提供は出来かねますのでご注意下さい。

 ●お連れ様について
 お連れ様がいらっしゃる場合は、【グループ名】もしくは【お相手様の名前とID】を冒頭にお書き添え下さい。
 なお、本シナリオではお声がけがあればディフ・クラインが同行致します。
 基本的に海の上のゴンドラにおりますが、呼ばれればお泊りの部屋の二階部分にゴンドラを寄せたりもします。
 同行を希望される場合は、お手数ですがプレに【同行希望】とお書き添え下さい。

 ●プレイング受付
 プレイング受付は【8/21 8:31~8/23 23:00まで】を予定しております。
 受付期間外に頂いたプレイングは、問題がなくとも流してしまいますのでお気をつけください。
 また参加人数によっては再送をお願いすることもあると思います。
 ご連絡はお知らせ用ツイッターとMSページにて告知致しますので、お手数ですがご確認頂けますと幸いです。
 それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。
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第1章 日常 『猟兵達の夏休み』

POW   :    海で思いっきり遊ぶ

SPD   :    釣りや素潜りを楽しむ

WIZ   :    砂浜でセンスを発揮する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
御園・桜花
「星降る夜、なのでしょうね…」
人工の光ない大自然の中に独りで立つと
凍えそうな気がするのは私だけだろうか

そそくさとオーベルジュへ
バーのカウンターへ急ぐ
静かに音楽が流れ
人の気配をそこかしこで感じる

ホッと息をついてカクテルを頼む

暗闇は怖くない
知らない人しかいないのも問題ない
ただ
全く人の気配がないのは耐えられない
帝都の光と人に慣れすぎて
人に近づき過ぎてしまったからだろうか

波の音
風の音
虫の声
人以外の命の煌めき
もう少し意識レベルが広がれば
そこに共感を持てただろうと想像できるのに

幻朧桜から生まれ
何時か幻朧桜に生まれ変わるのだと疑ったことはないのに

もっと人から離れ
自然に埋没した方が良いのかもしれない
そう思った




「星降る夜、なのでしょうね……」
 夜空は高く、星は空を埋め尽くすように那由他と広がり瞬いている。海もまた果てしなく、水平線は遥か遠い。天を仰げば星が今にも海に零れていきそうだ。
 美しい、と表現すべきなのだろう。
 けれどもと、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は手を擦り合わせる。人工の光のない大自然の中に独りで立つと、凍えそうな気がする。それは自分だけだろうかと胸の内で誰へともなく問いかけるも、返る答えもなく。それ故桜花は、そそくさとオーベルジュへと足を踏み入れた。
 
 青と白で彩られたオーベルジュを早足で歩めば、真正面にバーがあった。人で賑わうホールを抜けてカウンターに座ると、桜花はようやく人心地ついた。穏やか声をかけた初老のバーテンダーにカクテルを頼むと、目の前で流れるようにリキュールを合わせていく。
 ジャズバンドの演奏な静かに流れ、人の気配をそこかしこで感じられるこの場所が、桜花にとっては落ち着く場所だった。
 暗闇が怖いわけではない。知らない人しかいないのも問題は無い。
 ただ。
 ただ、全く人の気配がないのことは耐えられないのだ。
 桜の精たるその身であるけれど、桜舞う帝都の光と人に慣れ過ぎて、人に近づき過ぎてしまったからだろうか。
 
 波の音が。風の音が。虫の声が。人以外の命の煌きが。
 もう少し桜花の意識レベルが広がれば、そこに共感を持てただろうと想像出来るのに。
 何故だか、それだけでは寂しいようで。
「幻朧桜から生まれ、何時か幻朧桜に生まれ変わるのだと疑ったことはないのに」
 ぽつりと零れた声に、バーテンダーがカウンターにカクテルを置く音が重なった。
 ブルーキュラソーの淡い青と、淡い桃のピーチジュースと白ワインがグラデーションを描く、フルーツカクテルだ。
「貴女様の桜色が綺麗でしたので。夜光虫と海の青を合わせました。どうぞ。お気に召されるといいのですが」
 見上げれば、バーテンダーはにこりと温かな笑みを向けてくれていた。
 
 人に拾われ、人の温もりを知り、人と関わり生きていくうちに、人が傍にあることが当たり前になったのかもしれない。
 だからこそ、自らは自然の一部であるという意識がありながら、それでも人が居ない景色を凍えそうだと思うのだろうか。
 
(「もっと人から離れ、自然に埋没した方が良いかもしれない」)
 そう思った。
 青の世界で、桜花の瞳が揺れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK

伽羅と陸奥と一緒に客室で硝子越しに海中を眺める。こんな機会はきっともう来ない。だからみんなで。
俺もおすすめの酒や料理を味わいたいし。
全身で美味しいを表現しながら食べるのをやめない陸奥と、さりげなく世話やいてる伽羅を見つつ。ゆっくりと酒を飲む。
エンパイア羽前の内陸育ちだのもあって、海鮮料理ってだけでご馳走だと思うし、海見ただけでテンション上がる。
夜光虫なんてのも初めてだ。
こっちを選んで正解だと思う。光は見上げる方が断然性に合ってる。

食事をする手がいつの間にか止まり、ぼんやりと眺め続ける。
ニライカナイ。理想郷であり魂が生まれ、帰る場所というのなら。
死後の世界は理想郷というのだろうか。




 青と白で統一されて、無駄な装飾のない落ち着いた室内は、海との一体感を感じさせてくれる。普段は暗き夜の海も、今は柔らかな月明りとあえかな夜光虫の青い光が混ざり合い、幻想的な青を室内に落とすのだ。
 風纏う白虎の陸奥と、水神たる黒竜の伽羅と共に、黒鵺・瑞樹(境界渡・f17491)は硝子越しの海中を眺めていた。
 こんな機会は、きっともうないだろう。だからこそ、この機を楽しむのならば皆でが良い。
 
 もちろん、オーベルジュに来たからにはもう一つの楽しみも忘れてはいない。宿泊できるレストランに来たからには、やはり美味しい食事は欠かせない。
 窓際のテーブルには、出来立ての白身魚と帆立のキッシュ、スモークサーモンのマリネなどの軽食と、それに合わせたお酒がある。キレの良い辛口の日本酒は、これらの料理とも相性が良いと店員がお勧めしていったものだ。
 切り分けられたキッシュに勢いよく齧り付き、耳をぴこぴこ、尾をふりふりと全身で「美味しい」を表現する陸奥と、陸奥の食べこぼしを尾に引っ掛けたナプキンでさっと拭き、おかわりを乗せてやったりとさりげなく世話をやいている伽羅。二匹の様子をのんびりと眺めつつ、瑞樹も猪口に注いだ酒を煽った。
 瑞樹はサムライエンパイア、羽前の内陸育ちというのもあり、海鮮料理というだけで既にご馳走だ。海を見ただけでも瑞樹のテンションは上がっていく。
 それに加え、今宵は夜光虫が煌く夜。無論それだって初めて見る。だからこそ、瑞樹はオーベルジュの海中部屋を選んで正解だと思った。光は見上げる方が断然性に合っているのだ。
 
 そうして海を見つめるうち、いつのまにか食事をする手が止まっていた。ぼんやりと眺め続けても、遠い遠い先までは見通せない。
 海の彼方にあるというかの楽園は、その姿を人に見せることは無いけれど。波が遠くから運ばれてくるように、そんな噂だけはずっと前から人の耳に伝えられてきた。
「ニライカナイ。理想郷であり魂が生まれ、帰る場所というのなら。死後の世界は理想郷だというのだろうか」
 そんな呟きは、深い青に吸い込まれて消える。
 いつだって答えは波の彼方にあって、辿り着いてみなければわからないのだ。
 硝子窓の向こうで、ウミガメが悠々と彼方へ泳ぎ去っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

境・花世
綾(f01786)と

夜空の海をゆらゆら航る白い舟
どこまでが星で、どこからがノクチルカ?
静かなきらめきに唯々見蕩れて、
わたしの眸にもきっとひかりが落ちる

笑うきみには、どんな星が点っているの
確かめたくてそっと近づけば、
二人分の重みで舟は傾いで揺れて
そのまま、とすんと綾の背へ倒れ込む

ごめんね、よりも
元の位置に戻らなきゃ、よりも
唇からきらりと零れたのは

綾、このままで、いてもいい?

あったかな感触に泣きたくなるのは
しあわせが溢れたせい
広い背中越しに映る海の向こう、
どんな楽土が待っていても
わたしには今、ここがーー

いつか還る場所がこのぬくもりであるならと
叶いもしない夢の代わり
きみの躰を優しくきつく、抱きしめる


都槻・綾
f11024/花世

白銀の月のようなゴンドラに乗り
星めく海へ
うつくしき宵へ
ささめく声で密やかな乾杯

透き通る青の酒器に満たすは
柔らに気泡弾ける甘露
身の裡にも星が瞬くよう

海を奔る船の縁に寄り
そっと水面に指先を伸ばして
ちいさな漣を立てれば
揺らぎに合わせて夜光虫が明滅するから

ね、
点灯夫になったみたい

振り向きかけるも
僅かに傾いだゴンドラと
寄り添う熱、背に感じる柔らかさへ
ふわり笑みを深め

彼女の手を取り
自身の前へと回す

えぇ
ならば
こうした方があたたかいでしょう?

ぽんぽんと花世の腕をあやしながら、
いのちが生まれ
いのちが還る
果ての楽園を想いながら、

ひとのいのちの温もりを感じる此のひと時を
きっと、幸福と呼ぶのでしょう




 星珊瑚は真白の珊瑚。
 磨けば星のようにきらりと光り、白銀の月の光のように船を飾る。星の船と称えられた精霊ゴンドラで、今宵は都槻・綾(糸遊・f01786)と境・花世(はなひとや・f11024)が二人揺られている。

 夜空の海をゆらゆら航る白い船。
 星めく海へ。
 うつくしき宵へ。
 ささめく声で密やかな乾杯を躱せば、澄んだ音が海原に響く。

 綾の手には透き通る青の酒器。柔らに気泡弾ける甘露を満たしたそれに口をつければ、綾の身の裡にも星が瞬くよう。
 綾の穏やかな瞳の先で、花世はただただ夜光虫の光に目を奪われていた。
「どこまでが星で、どこからがノクチルカ?」
 海を流れる青光の道は、水平線の向こうで混じり合って星になる。その境目は曖昧で、何処までが海で何処までが夜空なのだろう。ただ静かなきらめきに見惚れる花世の眸にも、きらりと蒼い青いひかりが落ちていく。
 
 軽い操舵で滑るように海を奔る精霊ゴンドラの縁に寄り、綾はそっと水面に指先を伸ばした。指が生む漣が波を切り、その揺らぎに合わせて夜光虫が明滅する。
 綾の指が導くまま夜光虫が光の道を描いていき、緩やかに広がっていく。まるで道を描いている気分だ。
「ね、点灯夫になったみたい」
 綾の柔い声に笑みを感じた。
 笑うきみには、どんな星が点っているの。
 それを確かめたくて花世はそっと綾に近づいた。けれど、二人分の重みで船の重心がずれて傾く。不意の揺れにバランスを崩した花世は、振り向きかけた綾の背にそのままとすんと倒れ込んだ。
 
 ――ごめんね、よりも。
 元の位置に戻らなきゃ、よりも。
 綾の背に触れた花世の唇からきらりと零れたのは。
 
「綾、このままで、いてもいい?」

 少しの間の静寂。
 未だゆらゆらと揺れる船で、花世が寄り添う熱が綾の背に伝わる。背に感じる柔らかさと、零れた言葉に――綾はふわりと笑みを深めた。
「えぇ。ならば、こうした方があたたかいでしょう?」
 徐に花世の手を取って、自身の前へと回す。そうすることで花世はよりぴったりと綾の背に寄り添える。
 触れた体いっぱいで感じる温かな感触に、花世は瞳の奥から涙がこみあげてくるのを感じた。理由は心が知っている。
 それはきっと、花世の心にしあわせが溢れたせいだ。
 体温という熱は、どうしてこうも温かいのだろう。この感触はどうしてこうもしあわせを呼ぶのだろう。
 背に寄り添うせいで綾の顔が見えなくたって、不安なんかない。ぽんぽんと花世の腕をあやす綾が穏やかな顔をしているのは、見えなくてもわかる気がするのだ。

 広い背中越しに映る海の向こう。ニライカナイがあるという海の彼方。
(「どんな楽土が待っていても、わたしには今、ここが――」)
 遠い彼方にひとり往く楽土よりも、触れられるここがいいのだ。
 いつか還る場所がこのぬくもりであるならと、叶いもしない夢の代わり。花世は綾の躰を優しくきつく、抱きしめる。
 その腕をあやしながら、綾もまた、いのちが生まれ、いのちが還る果ての楽園を想う。
 いのちの楽園。海の彼方の理想郷。そこに還るのもまたひとつの幸福かもしれないけれど。
(「ひとのいのちの温もりを感じる此のひと時を、きっと、幸福と呼ぶのでしょう」)
 背の温もりに目を閉じながら、綾はそう思う。
 香炉に熱を灯すのは、いつだって人の手だったのだから。

 波音と青の光は静かに、海に揺蕩う二人を照らしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】
ゴンドラの上に立って
それっぽい仕草でオールを漕いでみる
ゴンドリエーレって言うんだっけ?気分はまさにそれ
細かいことは精霊さんがやってくれるから
気分だけでも味わえて楽しいね

ねー、梓、俺のオールさばきはどう……
って隣を見てみたら眉間にシワを寄せている梓
ああ、これはなんか難しいことを考えている顔だ
ほら、もっと夜光虫や星空を見ようよ

海を輝かせる見事なマリンブルーの夜光虫
自然の生き物がこんな美しい光を
生み出せるだなんて、何だか不思議だよね
俺もこの中で泳いでみたくなっちゃうよ
俺まで青色に輝けそうじゃない?
また梓はそういう夢の無いことを言うんだから

あはは、まさか焔が先に泳ぐとは思わなかったよ


乱獅子・梓
【不死蝶】
精霊の力で動くゴンドラか…
そんな技術があるということは
これを作った島はアルダワ辺りが
落ちてきて出来たんだろうか?
ゴンドラと島の起源について推測してみる
ああ、悪い悪い

改めて視線を空と海に移す
上を見ても下を見ても光り輝いていて
まるで星がそのまま海に落ちてきたみたいだな
なんて柄にもなくロマンチストな感想を抱く
お前、ここで泳いだら身体中が夜光虫まみれだぞ
プランクトンだぞソレ

おっ。お前らも見たいか
焔と零もゴンドラの縁に手をかけて
不思議そうに青い帯を眺めている
おいおい、そんなに前のめりになったら
海に落ちるぞ……本当に落ちた!?
海へドボンした焔を慌てて救出
まさかのトラブルだったな…




 星珊瑚に飾られた精霊ゴンドラが、夜の海を往く。
 静かの海には余計な音は無い。ただゴンドラの先端で往く先を照らす小さなランタンだけが、淡く光っている。
 ゴンドラの上に立った灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は、オールを持って船を漕ぐ。 
 気分はまさにゴンドリエーレ。実際はそれっぽい仕草で漕いでいるだけだけれど、精霊ゴンドラだからこそ姿も操船も様になる。細かい操船は精霊がやってくれるから、気分だけでも充分に味わえて楽しい。
「ねー、梓、俺のオールさばきはどう……」
 ご機嫌な顔で綾が隣を見ると、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は綾の声が耳に届いていない様子で眉間にシワを寄せていた。
(「ああ、これはなんか難しいことを考えている顔だ」)
 息を吐いた綾の予想は、ぴたりと的中している。梓はゴンドラを丹念に調べているのだ。
「精霊の力で動くゴンドラか……。そんな技術があるということは、これを作った島はアルダワ辺りが落ちて出来たんだろうか」
 顎に手を当ててゴンドラと島の起源についての推測に夢中になっている梓を、綾はオールの柄でこつんと突く。
「ほら、もっと夜光虫や星空を見ようよ」
「ああ、悪い悪い」
 せっかく美しい景色を見に来たのだからと笑う綾にようやく気が付いた梓は、促されるままに身を起こした。

 改めて視線を空と海に移せば、上を見ても下を見ても光り輝いている。
 昼間とは違うネイビーブルーの海を輝かせる、見事なマリンブルーの夜光虫。波と共に明滅し、光の帯を作る様はまるで天の川のよう。
「自然の生き物がこんな美しい光を生み出せるだなんて、何だか不思議だよね」
「まるで星がそのまま海に落ちてきたみたいだな」
 綾が海に手を滑らせれば、その道に沿って夜光虫が一際強く輝いては消えて、また輝いて。その様子を眺めていた梓の口から、意外な程にロマンチストな感想が零れた。意外そうに、けれど何処か上機嫌に笑って、綾は夜光虫を掌に掬う。
「俺もこの中で泳いでみたくなっちゃうよ。俺まで青色に輝けそうじゃない?」
「お前、ここで泳いだら身体中が夜光虫まみれだぞ。プランクトンだぞソレ」
「また梓はそういう夢の無いことを言うんだから」
 また海に手を浸し、僅かな指の動きにも反応して明滅する夜光虫と遊びながら綾が梓を見る。またロマンチストな答えが返ってくるだろうかと思いきや、浮かべられたのは呆れ顔。
 肩を竦めつつも顔を見合わせれば、どちらともなく笑った。

「キュー」「ガウ、ガウ」
「おっ。お前らも見たいか」
 そんな二人の楽しい様子を感じ取ったのか、海に光る青に興味を惹かれたのか。
 炎竜の焔と氷竜の零がゴンドラの縁に手を掛けた。海に顔を近づけながら、不思議そうに青い帯を眺めている。
 それをもっと見たいと思ったか、焔が更に身を乗り出し――。
「おいおい、そんな前のめりになったら海に落ちるぞ……」
 バシャンッ!!
「って本当に落ちた!?」
 梓が言い終わるが早いか、鼻先を海に近づけ過ぎた焔がつるっと滑り、そのまま海へとダイブした。
「焔、ほら掴まれ!」
「梓、急に動いたらゴンドラのバランスが、っと!」
 慌てて焔を救出しようと梓が手を伸ばせば、当然重心が傾いてゴンドラも傾く。そのバランスを取ろうとして綾が立ち位置を変えればまた揺れる。精霊のお陰で転覆することはないけれど、それでも右に左に船がぐらぐら揺れれば慌てもする。
 それでもなんとか焔を救出し、ゴンドラの揺れも収めた梓と綾は、安堵から船の上に思わず座り込んだ。
「まさかのトラブルだったな……」
「あはは、まさか焔が先に泳ぐとは思わなかったよ」
 両手に焔と零を抱えて大きく息を吐く。その隣で、綾が可笑し気に笑って焔を指差した。
 綾の代わりに海に飛び込んだ焔は、梓の言う通り夜光虫まみれになって青く輝いている。
 そんな姿も折角だからとすかさず梓が映した写真には、青く輝く海と星の空。そして笑う綾と、青く輝いてはしゃぐ焔と不思議そうに首を傾げる零が映る。
 二人が夏の思い出を並べる頃には、きっと写真のフォルダはいっぱいになっていることだろう。
 その中で、『今日』はいつまでも輝き続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ
ゴンドラを漕ぎ海へ
静かで穏やかで綺麗で、思わず歌を口遊む
この海で眠る星鯨もこの景色を見ているかな
そうだったらいいね、コローロ

……なんか、今日はきみにぴったりくっ付かれてる
どうしたのと尋ねれば、しきりに私の躰を気にしてる様子
あー、うん
ここ最近、腕吹っ飛ばしたり裂かれたり全身に毒針喰らったり腕吹っ飛ばしたり(二回目)したもんな
心配されてるんだな……

(暫し考え)


コローロ……母さんみたいだね……

~突然の爆弾発言(本人大真面目)にパニックになる彼女をお楽しみください~


(あ、これ照れてるな)
(少し怒ってるな)

ぷっ
あははっ
ごめん、悪かったって……

(何度も突進された)
(痛くはないけど必死なのは凄い伝わった)




 静かの海を星珊瑚のゴンドラが航る。
 ただあるがままの海と空と、風と波音だけが此処にある。
 静かで、穏やかで、綺麗で。
 オールを置いたスキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)の唇が、思わず歌を口遊んだ。
 伴奏は波で、コーラスは風。スキアファールの歌はそっと響いていく。
「この海で眠る星鯨もこの景色を見ているかな」
 深海島パルレでの星鯨との攻防。帰りたいと泣いていた彼を見送ったのは記憶に新しい。
 深い深い海の底から、この青の光は見えているだろうか。
「そうだったらいいね、コローロ」
 寄り添うコローロにそう語り掛ければ、コローロは頷くように瞬いた。
 
 それにしても。
 いつもならばはしゃいで空を飛び回るだろうコローロが、今日はそうしない。それどころか――。
「……なんか、今日はきみにぴったりくっ付かれてる。どうしたの」
 はしゃぐどころかスキアファールから離れようとしないコローロに、不思議そうに首を傾げた。
 尋ねられたコローロは、どうやらしきりにスキアファールの身体を気にしている様子。
 それで思い当たった。
「あー、うん。ここ最近、腕吹っ飛ばしたり裂かれたり全身に毒針喰らったり腕吹っ飛ばしたりしたもんな」
 聞くだけでも惨憺たる有り様である。
 アリスラビリンスを舞台とした戦争は苛烈を極め、スキアファールにとっては許せないものが多々あった。そのたび、スキアファールの精神状態は大きく乱れ、けれどそんな時彼はコローロの力を頼ってはくれない。
 だからこそスキアファールを慕うコローロは、心配しているのだ。
 今は痛まないだろうか。苦しくはないだろうか。今日は怪我をしないだろうか。
 言葉は交わせなくても、彼女の様子から察せられるものがある。
「心配されてるんだな……」
そんな彼女を見つめて暫し考えたスキアファールは、何処からどう見ても大真面目な顔で、コローロに向き直り。

「コローロ……母さんみたいだね……」

 コローロが弾けた。
 
 とげとげ光ったかと思いきや、赤やら青やら複雑な色やらの明滅を繰り返し、出鱈目にスキアファールの周りを飛んでは服の中に隠れてみたり、姿を現しては何かを訴えるようにぴかぴか光って見たり。
 
(あ、これ照れてるな)
(あと少し怒ってるな)

 コローロは少女だったはずだ。それが突然の「母さんみたい」である。声が聴こえていたら、きっと大きな声で可愛い抗議をまくしたてていたに違いない。
「ぷっ。あははっ、ごめん、悪かったって……」
 そんなコローロが可愛くて、思わずスキアファールは噴きだした。
 笑うスキアファールに、コローロの動きがぽかんと止まる。
 そして。
 真っ赤になって、コローロは何度も何度もスキアファールに突進した。
 小さな光であるコローロがいくら突進したところで、痛みは全くない。ないけれども。
(「必死なのは凄い伝わった」)
 スキアファールの笑いが止まらない。けれどもコローロの反応が可愛いので仕方ない。
 突進を止めないコローロを見つめるスキアファールの眸が、ずっと優しいの彼自身は気づいているだろうか。
 今この時は何も厭わず、スキアファールはただの人として笑っているように見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリエ・イヴ
【🍯】
アドリブ◎
酒の強さはウワバミ

アトラムに誘われて海中客室へ
こういう祝われ方はまた珍しいな
苦い栄養剤を仕込むのはなしだぞ
なんて笑って
ははっ、そりゃそうだ
ホテルだろうと変わらねぇな

ホタテのキッシュを食べ酒を飲む
ああ…海で、海中で食べる食事はすげぇうまいな!
これ自体も相当いいもんなんだろうが…
酒の肴が最高すぎる
周りを囲む愛しいモノにご機嫌で
アトラム、ありがとな
グラスを掲げて礼をいい
またグイっと杯を煽る

しかし…これだけ海が近くて
部屋の中まで海のようなのに
触れないのはもどかしい
ちょいちょいとアトラムを指で招いて手に触れる
指で指を絡めとり
んー感触は海とは違うが
これはこれで

今日は誕生日祝いなんだろう?


アトラム・ヴァントルス
【🍯】
アリエを誘って海中客室へ。
誕生日祝いで奢りますから、食事や飲み物を好きなだけどうぞ。
苦い栄養剤はありませんよ、せっかくの食事を台無しにはできませんから。
泊りがけにはなりますがまぁ、今更気にするものでもないでしょう。
我々は同じ船で暮らす仲(海賊団)なのですから。

お酒とスモークサーモンのマリネを楽しみつつ、夜光虫や海中の様子を眺めましょうか。
綺麗な光景ですね…アリエは人間ですし、早々海中の景色を長く楽しめることもないでしょうから喜んで下さるといいのですが。

不意の行動には驚かされますが…このソーダ水の体が興味あるなら今日は好きにさせましょう。彼には、自分を救ってもらった恩があるのですから。




 青と白で統一されたオーベルジュは、建物の中であっても海を感じさせてくれる。
 アトラム・ヴァントルス(贖罪の咎人・f26377)に誘われて海中の客室へと足を踏み入れたアリエ・イヴ(Le miel est sucré・f26383)は、入ってすぐに視界に飛び込む海中の景色に軽く口笛を吹いた。
 大窓の外には夜の珊瑚礁が広がっていた。色とりどりの珊瑚、眠る魚。差し込む淡い月明りは夜光虫の青を含んで、深い青で世界を照らし出している。
 窓の前にはテーブルがあり、出来立ての酒や料理がテーブル狭しと並べられていた。
「誕生日祝いで奢りますから、食事や飲み物を好きなだけどうぞ」
 柔和な笑みを浮かべ、アトラムがテーブルの前でアリエを誘う。
 鮮やかな彩りのスモークサーモンのマリネ。温かな湯気が食欲を刺激する香りと共に立ち昇る白身魚と帆立のキッシュ。メインは牛の塊肉と色とりどりの野菜を使ったエスペチーニョが用意され、ワインクーラーには前菜用の白ワイン、メイン用にはラム酒が冷やされている。
「こういう祝われ方はまた珍しいな。苦い栄養剤を仕込むのはなしだぞ」
「苦い栄養剤はありませんよ、せっかくの食事を台無しにはできませんから」
 冗談めかして笑いながら、アリエは引かれた椅子にどかっと座る。向かい合うようにアトラムも席に付けば、可笑しそうに笑み返して。
「泊りがけにはなりますがまぁ、今更気にするものでもないでしょう。我々は同じ船で暮らす仲なのですから」
「ははっ、そりゃそうだ。ホテルだろうと変わらねぇな」
 二人は同じ海賊団。アリエが頭でアトラムが船医。同じ船で暮らす仲間で、今日はアリエの誕生祝いの無礼講。何に遠慮することも気にすることもありはしない。
 
 グラスが二つ、チンと高く澄んだ音を立てた。
 アトラムが切り分けた帆立のキッシュを食めば、口の中いっぱいに磯の香りと帆立の甘さが広がった。余韻が残る内に酒を呷れば魚介とのマリアージュを楽しむことが出来る。
「ああ……海で、海中で食べる食事はすげぇうまいな!」
 ぷはーっと息を吐いて、アリエが陽気に笑った。
「これ自体も相当いいもんなんだろうが……酒の肴が最高すぎる」
 にこにこと笑うアリエの機嫌は最高に良い。なにせ周りを囲む愛しいモノが嬉しい。
 海に愛され海を愛したアリエの前には、夜の珊瑚礁が視界いっぱいに広がっている。部屋の照明も必要最低限まで絞っているおかげで、まるでこの部屋まで海が広がっているかのように感じられた。
「綺麗な光景ですね…アリエは人間ですし、早々海中の景色を長く楽しめることもないでしょうから喜んで下さるといいのですが」
 アトラムもスモークサーモンのマリネを楽しみながら、夜光虫の光に照らされた夜の海を眺め、そしてアリエへと視線を移す。セイレーンであるアトラムにとっては見慣れた海中の世界でも、人間のアリエにとってはそうではない。
 この景色と体験自体が彼の生まれた日のプレゼントとなればいいと思うのだ。
「アトラム、ありがとな」
「……どういたしまして」
 その想いを汲んだアリエが、グラスを掲げて礼を言う。浮かべる笑みとその言葉は、アトラムのお祝いが大成功した何よりの証だろう。
 グイっと杯を呷るアリエに続いて、アトラムもまた自分の酒を飲みほした。

「しかし……これだけ海が近くて部屋の中まで海のようなのに、触れないのはもどかしい」 
 食事を終え、軽いつまみと酒だけが残されたテーブルで、アリエがふと大窓の硝子に触れた。分厚い硝子は景色を通しても、波の音や水の温度を通してはくれない。
 少し考えたアリエは、ちょいちょいと指でアトラムを招いた。
「はい?」
 首を傾げてアトラムが歩み寄れば、その指を指で絡めとる。
「……アリエ?」
「んー感触は海とは違うが、これはこれで」
 深海のソーダ水で出来たセイレーンの身体は、確かに海そのものとも言えるだろう。不意の行動に驚かされて目を丸くするアトラムに、アリエはにっと笑う。
「今日は誕生日祝いなんだろう?」
「……そうですね」
 数度瞬いたアトラムは、やがてゆっくりと頷いた。
 そのソーダ水の身体に興味があるのならば、今日は好きにさせようと思う。
(「彼には、自分を救ってもらった恩があるのですから」)
 これでアリエが喜ぶのならば、容易いことだ。
 
 海に包まれ、海に照らされ、海に触れ、仲間と共に在る。
 幸福は青く蒼く輝いている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

菅生・雅久
【海蛍4名】
海に誘った
ラムルと奏汰に会うのは久しぶりだ
この機会にキセを紹介もしたかった

遊び、近況を聞き、自分の近況とノロケも話すだろう

笑顔を独り占めしたい子なんだ
恥しげなく言える

犬・猫・鳥
みんな良い相棒が居るんだな
ツイはしゃぎ構う
コイツは【カムロス】だよ、仲良くしてくれるかな?


星が広がったら【月花影】に着替えメインのゴンドラへ
キセの肩を抱き「ここは二人で乗らせて貰うね」満面の笑みで連れ出す

光が濃くなる
キセの横顔が光の帯で溢れたら手を取り【水上歩行】で海へと誘い
華奢な腰を抱き波音に合せゆったりと踊る
最高の笑顔が出たら
「愛してる」を初めて言葉として伝えよう


アドリブ歓迎
楽しくロマンティックな時を希望


糸原・キセ
【海蛍4名】
【瑠璃唐草】でおめかし

はじめまして。ラムルさん、奏汰さん!
少し緊張してたけど
タマさんシロさんの可愛さに吹っ飛ぶよ!もふーw
わわ!影からわんこ!ルニーさんもよろしくね//(なで

慌ててうちのモフ
神鳥【アリア】と雅久の【カムロス】も紹介

こ、こら!ラムルさんの頭にとまらないで!
何なに?奏汰さんの頭と甲乙付け難い?
普通に失礼だよ?!

打ち解けて楽しい一時
夜への変化に見入る
青い光が踊って夢の様

皆ありがとう、またね!

雅久に誘われ船に乗り
景色の中の彼は幻想的で見惚れてしまう

【水上歩行】の【ダンス】
雅久の体温を感じつ幸せでふにゃっと微笑む

不意の言葉に思わず涙が溢れる
「僕も愛してます」自然と言葉が溢れた


巴・奏汰
【海蛍4名】
彼女を紹介したいと雅久が誘ってくれた
「初めまして」
明るい人だ
雅久と似合の連れ合いだと思う

うちの物言わぬ黒い犬【ルニー】も影から顔を出す
「そうだった。いや、忘れてないぞ」
尾を揺らし糸原さんと雅久の前に座る
頼りない主人に代わりしっかり挨拶

カムロスとアリアもよろしくな
「ああ、気に入ってもらえたなら嬉しいな」
乗せたまま会話を続ける

ゴンドラ乗り場で雅久達と別れる
夜光虫の青い光が綺麗だ
ああ、青いと言えば…
「ラムルの目も綺麗だよな。宝石みたいだ」
そういや腹も減ったな
クスリと笑い夕食へ
「海中客室でいいか?」
景色に興味がある
食事はルニーにも焼き魚を
「…旨いな(感嘆」
食後はタマさんとシロを撫で過ごす


ラムル・クルトア
【海蛍4名】
雅久は久しぶり
キセさんは初めまして、これからよろしくね
雅久に聞いてた通りの素敵な人だ

「俺の友人のタマさんとシロも紹介するね
二匹もニャーと皆を歓迎

カムロスとアリアもよろしくね
「ふふ、俺達の頭が気に入ったの?それは光栄だね、奏汰?

ゴンドラ乗り場で雅久達を見送る
初めて見たけど夜光虫、綺麗だね
綺麗と言われきょとんとしてからにっこり微笑み
「ありがと、奏汰の目もとっても綺麗だよ
暫し海を眺め…お腹がぐぅ
「…うん、ご飯を食べようか
「海の中にあるなんて不思議だよね(興味津々

奏汰と夕食
ルニーとタマさん達は焼き魚をどうぞ
「…美味しいね(ふわりと笑う
食後は皆で窓の外を覗いたりルニーと遊んだりのんびり過ごす




 精霊ゴンドラの乗り場がある桟橋は、夜光虫の光を受けて淡い青に輝いていた。
 波の音が耳に心地いい桟橋には、菅生・雅久(人間のブレイズキャリバー・f09544)と彼が誘った三人の姿があった。
「久しぶりだな、ラムル、奏汰。今日はキセを紹介したくてな」
「はじめまして。ラムルさん、奏汰さん!」
 快活な挨拶は、まず糸原・キセ(祈りの戦巫女・f10149)から発せられた。何処か緊張している様子も見て取れる。
「初めまして」
「雅久は久しぶり。キセさんは初めまして、これからよろしくね」
 紹介された巴・奏汰(人間のグールドライバー・f11214)とラムル・クルトア(ヤドリガミのウィザード・f10895)もキセ、そして雅久へと柔らに笑いかけた。緊張もあるだろうが、それでも雅久の隣で嬉しそうに笑うキセを見れば、自然と微笑ましくも思う。
「雅久に聞いてた通りの素敵な人だ。それじゃあ俺の友人のタマさんとシロも紹介するね」
 そう言って笑うラムルの足元から、ひょこりと顔をだしたのは二匹の猫。白猫のシロと、真っ白靴下の黒猫タマさんだ。二匹ともキセを見れば揃ってにゃーと鳴く。ゆらゆらと揺れる尻尾は好意の印だ。
「もふー!」
 そんなタマさんとシロに先程までの緊張はどこへやら。キセは見る間に相貌をへにゃりと崩してそわそわと二匹に手を伸ばす。その時、するりと奏汰の影が持ち上がった。否、影から黒き犬が姿を現したのだ。
「そうだった。……いや、忘れてないぞ」
 物言わぬ黒き犬は一瞬主の顔を見遣るも、「ルニーだ」と紹介されれば尾を揺らし、キセと雅久の前に座る。そうして頼りない主人の代わりにしっかりと挨拶をした。
「わわ! 影からわんこ! ルニーさんもよろしくね」
「みんな良い相棒が居るんだな」
 穏やかに笑う雅久の隣で、キセは驚きに眸を染める。けれどすぐさま嬉しそうに屈んで、ルニーの毛並みをわしゃわしゃ撫でた。
 ふと、そんなキセの髪をついと引っ張る感覚。更に頭に何か乗る重さで、キセにも紹介すべき友が居ることを思い出した。慌てて、頭の上の何か――否、シマエナガ姿の神鳥アリアを紹介する。
「えっと、この子はアリアです。それで雅久の肩にいるのが……」
「コイツはカムロスだよ、仲良くしてくれるかな?」
「なるほど。カムロスとアリアもよろしくな」
「よろしくね」
「あっ、こ、こら! ラムルさんの頭に止まらないで!」
 守護の祈りを込められた二羽の神鳥。けれどまだまだやんちゃな盛りなのか、アリアは嬉し気に囀ったかと思いきや、ラムルの頭にぴょんと飛び乗った。慌てて注意をするキセを余所に、次は奏汰の頭に飛び乗り、そうしてまたラムルの頭に戻って囀る。
「何なに? 奏汰さんの頭と甲乙つけ難い? 普通に失礼だよ?!」
 連れ戻そうと手を伸ばすキセだが、余程気に入ったのかアリアはキセの腕を掻い潜り、ラムルの頭と奏汰の頭を往ったり来たり。
「ふふ、俺達の頭が気に入ったの? それは光栄だね、奏汰?」
「ああ、気に入ってもらえたなら嬉しいな」
 あわあわと慌てるキセに、ラムルも奏汰も全く気にしていない様子で笑ってくれる。それどころか頭にアリアを乗せたまま会話を続けはじめた。
 ただそれだけのことで、「いい人たちだなぁ」なんてキセの心はほわりと温かくなった。
 
 緊張はほんの一瞬。
 打ち解けてしまえば話も弾む。近況を聞いたり遊んだり、それに雅久の惚気なんかも加わったりして、四人からは何度だって笑い声が上がる。
 ふと、星が高く瞬いた。
 水平線の向こうから、青がじんわりと広がっていく。淡く、けれども鮮やかに。波が寄せるたびに波の中で光が踊っていて、まるで夢の様だ。
 それに気づいたラムルとキセが海の彼方を指差す間、奏汰は雅久の隣に寄る。
「明るい人だ。雅久と似合の連れ合いだと思う」
「ありがとう。笑顔を独り占めしたい子なんだ」
 奏汰の言葉に嬉しそうに返した雅久の顔に、恥じらいはない。心からそう思うから、むしろ誇らしくさえある。こんなにも愛しい人が居ると、友に伝えたかった。
 
 空にも海にも光の道が出来る頃、ちりりと鈴が鳴った。
 精霊ゴンドラの出航の用意が出来た合図だ。その合図に目を細めた雅久が、キセの肩を抱いた。
「ここは二人で乗らせて貰うね」
 めかし込んだ雅久とキセを見れば、ラムルも奏汰もある程度の察しは付く。友が二人の時間を求めるのならば、否と言うわけもない。
「うん、いってらっしゃい。二人とも」
「楽しんでな」
 ラムルと奏汰が柔く瞳を細めて二人を送り出す。
「皆ありがとう、またね!」
 元気に手を振って笑うキセと共に、雅久は満面の笑みで星珊瑚の精霊ゴンドラへと誘った。

● 
 二人を見送った奏汰とラムルは、星珊瑚のゴンドラが往く海をゆっくりと眺めた。
「初めて見たけど夜光虫、綺麗だね」
 ラムルの言葉が示す先。波に揺られるたびに青く輝く夜光虫輝く海が、幻想的で美しい。遠くから来て、そして波打ち際で淡く揺れるそれは、正体がプランクトンだなんて信じられないくらいに綺麗で。
「ああ、青いと言えば……ラムルの目も綺麗だよな。宝石みたいだ」
 ふと、奏汰がラムルの目を見つめて告げた。ラムルの眸の澄んだ青は、まるでラピスラズリのように見えるのだ。唐突に綺麗と言われて目を丸くしたラムルだったけれど、やがてにっこりと微笑んだ。
「ありがと、奏汰の目もとっても綺麗だよ」
 ラムルと対極を為すような緋色の目。夜に溶けるような色彩を持つ奏汰だからこそ、人の目は鮮やかな赤へと吸い寄せられる。
 照れ臭そうにする奏汰が視線を海に戻せば、ラムルもそれに続く。神秘的に輝く蒼の帯と星空は、いつまでだって飽きずに見ていられる――だろうけども。
 ぐぅ。
 波音に重なる空腹の虫が、ラムルのお腹で鳴いたものだから。
 ふっと奏汰が噴き出した。
「そういや腹減ったな」
「……うん、ご飯を食べようか」
 多少恥ずかし気にするラムルと共にクスリと笑い合えば、わざわざ目的地を口にするまでもない。食事の美味しいオーベルジュが近くにあるのだからと、二人の足は自然とそちらに向かっているのだ。
 
 オーベルジュの受付で、レストランと客室のどちらで食事をするかと問われ、奏汰はラムルへ視線を向ける。
「海中客室でいいか? 景色に興味がある」
「勿論だよ、海の中にあるなんて不思議だよね」
 いくつもの世界を渡る猟兵であっても、海中客室というものはそう簡単にお目に架かれるものではない。故にこそ、二人にむくむくと湧き上がるのは好奇心だ。せっかくの機会を逃す手もない。
 客室に入ると、まず飛び込んできたのは巨大な硝子窓だった。
 壁の一面を丸ごと大きな硝子窓になっていて、その向こうに広がっているのは夜に眠る珊瑚礁――本物の海の風景だった。
 眠る魚と眠らぬ魚。濃い闇を照らす夜光虫の光。まるで水族館のような、けれどこんなにも間近に見られる海中の景色に、奏汰とラムルは思わず目を見開いた。
 
 運ばれてきた料理に早速舌鼓を打ち、硝子窓の外の海を眺めた。奏汰の隣ではルニーが、ラムルの傍ではタマさんとシロが焼き魚を分けて貰って美味しそうに頬張っている。
「……旨いな」
「……美味しいね」
 スモークサーモンを食みながらふわりと微笑むラムルに、奏汰もこくりと頷き返す。
 流石、料理が美味しいと評判なだけあって、料理はどれもこれが美味しい。温かでふかふかなキッシュを頬張れば、思わず奏汰とラムルの唇から感歎の声が零れ落ちた。
 
 食事を終えて満足した奏汰とラムルは、海を眺めながらタマさんとシロを撫でたり遊んだりして、のんびりと過ごすことにした。
 奏汰は視界に広がる海を眺める。耳を澄ませば微かに水の音がした。
 タマさんとシロの温かさと柔らかさ。微かな水音に満腹のお腹。
 穏やかな時間が微睡みに変わるまで、二人は静かに海中の世界で語り過ごすのだ――。 

 夜の海だというのに、星灯りと夜光虫の輝きは遠い水平線までも映し出してくれる。
 海と空の境が曖昧になり、星と夜光虫が混ざり合う。その光の濃さと、景色の中に幻想的に溶け込んだ雅久の姿に、キセは息を飲んだ。
 視線を感じて雅久がキセに笑いかける。淡い青の光が照らすキセは、白とネモフィラのフィッシュテールドレスに青を飾り、海のようなキセの髪をより幻想的に染め上げている。美しいと、雅久は素直に想う。
「キセ、おいで」
「うん」
 そんな美しい彼女の手を取って、雅久はゆっくりとゴンドラから海へとキセを誘った。
 一歩、一歩。
 そうっと波の上を歩めば爪先で夜光虫が輝き、光は波紋のように広がっていく。
 雅久はキセの華奢な腰に手を回し、緩やかに、そして穏やかに、キセをリードしながら踊る。伴奏は波の音で、星灯りは二人だけのスポットライトだ。足を踏み出す度に青の光を奏でて踊れば、まるで世界は二人の為にあるかのよう。
 
 今だけ二人占めする海で踊るダンス。
 雅久の体温を感じることが幸せで、キセがふにゃりと微笑んだ。それだけで雅久の胸はきゅうっと締め付けられるのだ。
 
 こんなにも美しい時があるだろうか。
 こんなにも愛しい人がいるだろうか。 
 触れるだけで、共に居るだけで愛しくて、雅久はその想いを届けたくて。

「キセ。愛してる」

 静かに告げた。
 雅久の笑みは優しくて、幸せで溢れていて。
 愛しいとずっと思えど、それを今初めて口にする。
 不意の愛の言葉に、キセの心から想いが溢れた。心を満たす愛と幸福は、涙になってキセの頬を伝う。

「僕も愛しています」

 愛は自然と言葉となって溢れ出していた。
 見つめ合えば嬉しくて、こつんと額を合わせて笑う。
 幸福だ。これを幸福と言わぬのならば何という。
 
 愛を確かめ合う二人を、夜光虫と星々は優しく照らし出していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

岡森・椛
章さんf03255と【1】
今年の水着で

アウラと一緒にオールを漕ぎます
わー簡単に動いてすごい

輝く海が綺麗
アウラも興味津々
光る波を掬う章さんは海を司る神みたい
真似してそっと光に触れる

ニライカナイは…痛みのない国だといいなって…
私の祖母の事なんですが
猛暑の影響か、最近体があちこち痛くて辛いみたい
だから…ずっと側にいて欲しいけど、いつかそこに還るのなら
体が辛くない所であって欲しい
うん、大好きだから…

リュウグウノツカイくんが帰りたそうなのは懐かしい場所だからかな
この先には何かありそう
アウラも行くよね?
章さんに笑顔で頷き、再びオールを漕ぎ始める

ディフさんに手を振り
ノスタルジアが誘いかける水平線の向こう側へ


鵜飼・章
岡森さんf08841と【1】
今年の水着で

船、僕が漕ぐべきなんだろうけど岡森さん優しい
ほら、夜光虫が綺麗だよ
波をすくえば指先からあわい光が溢れていく

ニライカナイはどんな国かな
竜宮城って話もあるよね
リュウグウノツカイくんはこの先から来たんだろうか
なんだか帰りたそう
僕は鈍いから…痛みがよく解らなくてごめんね

岡森さんはお祖母さんが大好きなんだね
うん…ひとである限りいつか皆お別れしないといけない
永遠はない
でも今じゃなくたっていいさ

この先へ行こうよ
ニライカナイが想像と思い遣りで創られた国なら
僕ね、岡森さんのお願いは無敵だと思う

ディフさんが見えたら手を振って
ちょっと向こうまでお使い
帰ってくるから見守っててね




「わー、簡単に動いてすごい」
 きらきらと煌く星珊瑚で装飾された精霊ゴンドラ。
 海の精霊の力を借りられるそのゴンドラは、女性が漕いでも苦も無く思い通りに動かすことが出来る。
 それは華奢な岡森・椛(秋望・f08841)も同様で、仲良し精霊アウラと共に真白のオールを漕ぐと簡単に進む事が出来る。
 愛らしいピンクとフリルで飾られた水着姿の椛は、アウラとオールを楽しそうに操り船を漕いでいく。
(「船、僕が漕ぐべきなんだろうけど岡森さん優しい」)
 椛が楽しそうに船を漕ぐから、何となくそのまま任せっきりでゴンドラの後ろに座る鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は、胸の裡でそう思った。
 男が漕ぐべきだとかあるのだろうけれど、ひっそり使ったユーベルコードで読んだ空気により、章は縁から手を伸ばして波を掬う。
「ほら、夜光虫が綺麗だよ」
 細い章の指先からあわい光が溢れていく。夜光虫は掌で煌いて波で跳ね、その刺激は波紋の様に光を広げていく
 シンプルな水着に纏う襤褸のような透明の布と骨の装飾。泡のような宝石と幽霊のような海の生き物たち。美貌の外見と相まって今宵の章は神秘的で、仄かに退廃的で。そんな彼を、椛はまるで海を司る神のようのだと思った。
 椛も真似して光に触れれば、指先から光の波紋が広がっていく。アウラもゴンドラが進むまま、舳先に刺激を受けて青く明滅する夜光虫の光に興味津々。天の川をかき分けていくように、ゴンドラは進む。
 
「ニライカナイはどんな国かな。竜宮城って話もあるよね」
 今は見えない遠き海の果てを臨みながら、章が首を傾げる。
「ニライカナイは……痛みのない国だといいなって……」
 ぽつり。同じように海の果てを見つめる椛が呟く。苺のコンフィチュールのような瞳には、光の海に大切な人が重なって見えていた。
「私の祖母の事なんですが。猛暑の影響下、最近体があちこち痛くて辛いみたい。だから……」
 一度言葉を止めた。章が椛を覗き見れば、ほんの少し眸が憂えるように細められている。
「……ずっと側にいて欲しいけど、いつかそこに還るのなら。体が辛くない所であって欲しい」
 それは来るべき「いつか」に向けた椛の願い、そして祈り。
 けれどその痛みは、章にはよく解らないものだ。
 章は鈍い。人でありたいと願う程、人らしくあることは難しいと実感する。愛や痛みは概念では理解しているけれど、実感出来ているかと言われれば否だと思うのだ。
 けれど。
 実感は出来なくても、思考と想像は出来るから。
「岡森さんはお祖母さんが大好きなんだね」
「うん、大好きだから……」
「うん……ひとである限りいつか皆お別れしないといけない。永遠はない」
 それきり言葉を紡がぬ椛に章は少し考え、やがて椛の肩にぽんと手を乗せた。
「でも今じゃなくたっていいさ」
 ね?と微笑みかける章の言葉が、椛にまた笑顔を灯してくれる。これでよかったのだと確信を得た章だったが、ふと自分の周囲を泳いでいたリュウグウノツカイが、じっと水平線の彼方を見つめていることに気付いた。
「リュウグウノツカイくんはこの先から来たんだろうか。なんだか帰りたそう」
 人の痛みの理解も難しいのに、物言わぬリュウグウノツカイの痛みの理解は殊更に難しい。ごめんね、と謝るけれど、リュウグウノツカイはは水平線を見つめたまま。
「リュウグウノツカイくんが帰りたそうなのは、懐かしい場所だからかな。この先には何かありそう」
 そんな章に助け船を出したのは椛。
 見つめ続ける先に何かあるような気がするのなら、それは痛みかもしれないし、冒険の始まりかもしれない。
 そう笑うから、章は成程と頷いた。
 ならば好奇心の向くまま、進んでみるのも一興だ。
「この先へ行こうよ。ニライカナイが想像と思い遣りで創られた国なら、僕ね、岡森さんのお願いは無敵だと思う」
 だって章が知る限り、椛は物語が大好きな思い遣りに溢れた女の子だ。そんな彼女の願いならば、必ずやかの国で大輪を咲かせるはずだ。
 章の言葉に頷いて、椛はアウラにも笑みを向ける。
「アウラも行くよね?」
 もちろん!と抱き着くアウラと共に、椛は再びオールを漕ぎ始める。
(「……多分僕が漕ぐべきなんだろうけど」)
 二度目の思考は、端正な笑顔の下に隠しておくことにした。
 
「章、椛。何処まで行くんだい?」
 漕ぎ出した先で停泊してるゴンドラに、夜に紛れる黒を見つけた。ディフ・クラインだ。二人を見つけると、ディフは微笑みを浮かべる。
「ちょっと向こうまでお使い。帰ってくるから見守っててね」
「わかった、じゃあ見守ってる。気を付けていっておいで」
 静かに見送るディフに手を振って。

 波と夜光虫の光を辿り、ノスタルジアが誘いかける水平線の向こう側へ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リグ・アシュリーズ
クラウ(f03642)と

ゴンドラで夜の海へ漕ぎ出すわ!
帰りは私ね!と念押しして、
漕いでくれるクラウに行き先を任せて。

光がよく見えなくて、どこかしら、と身を乗り出し。
あっごめん、舟ゆらしちゃった……!
揺れた拍子に海面にざあっと広がる光に気づき。
クラウ、見て……光の波が!
ね、下にも星空が広がってるみたい!

遠く彼方へ繋がる、光の道。
このはるか向こうに理想郷があるの?
少し、見てみたい気もするけれど。

クラウの顔を横目で見て、ううんと首振り。
私。理想郷よりも、ずっと皆のとこに居たいわ!
差し出された手には少し、驚くけれど。
そのまま海面を眺めて、きゅっと握り返し。

うん、このまま。もう少しだけ。
(――二人で)


クラウン・メリー
リグリグ(f10093)と

うんうん、海へ行こう!
俺が漕ぐからリグリグはしなくて大丈夫だよ!
えへへ、帰りはお願いしようかな

さあ、レッツゴー!
海精さん操船よろしくね!

わわ!あははっ
これくらいへっちゃらだよ!
彼女の言葉に目を瞬かせてから海面を覗く

――わあ、綺麗!
漕ぐのをやめて水に手を入れてみる
ふふ、まるで星空にいるみたいだ

理想郷……命が生まれ、命が還っていく場所
このままずっと、ずっと漕いで行ったら着くのかな?

リグリグの視線に気付き
どうしたの?と首を傾げる

うんっ、そうだね
俺もみんなのとこにずっといたいな

……リグリグ
彼女に手を差し出し握る
えへへ、なんだか繋ぎたくなっちゃった!

ね、もう少しだけ眺めてよっか




「それじゃあ夜の海へ漕ぎ出しましょう!」
「俺が漕ぐからリグリグはしなくて大丈夫だよ!」
 精霊ゴンドラ乗り場の桟橋に、元気な声二つ。
 真白の星珊瑚で装飾されたゴンドラに、クラウン・メリー(愉快なピエロ・f03642)とリグ・アシュリーズ(風舞う道行き・f10093)が乗り込む。
 行きのゴンドリエーレはクラウン。行く先は漕ぎ手のクラウンの気分任せだ。
「帰りは私ね!」
「えへへ、帰りはお願いしようかな」
 しっかり念を押すリグにへにゃりと笑う。
 海の精霊の助けを借りることの出来る精霊ゴンドラは、操船に苦労を全く必要としないという。このゴンドラならば漕いで疲れるということはなさそうだけれど、だからこそリグが望むのならばとも。
「さあ、レッツゴー! 海精さん操船よろしくね!」
 クラウンの掛け声に返事をするように、波が高く跳ねる。真っ白の長いオールを一つ持って波を掻けば、海を滑るようにゴンドラが海を駆け出した。
 
 夜の海だけれど昏さはない。満天の星が夜を淡く照らし出してくれるから、恐ろしくもない。クラウンの気が向くまま、ゆるりと波を掻いて船は往く。
「どこかしら……」
 夜光虫の光がよく見えなくて、リグは船の縁から身を乗り出した。その途端、重心がずれて船がぐらりと揺れる。
「わわっ」
「あっごめん、舟ゆらしちゃった……!」
「あははっ、これくらいへっちゃらだよ!」
 慌てて謝るリグにクラウンは本当に平気そうに笑う。クラウンはピエロだ。大道芸はお手の物。ボールの上に乗って芸を披露することもあるクラウンのバランス感覚は抜群で、このくらいの揺れは慣れっこだ。
 船が揺れた拍子に出来た波が夜光虫を刺激して、光が船を中心にざあっと広がった。
「クラウ、見て……光の波が!」
 輝いては消えて、刺激を受けて明滅を繰り返す幻想的な青。それが、夜光虫。深い紺の海に燈す青の星。夜光虫の光を受けて、真白の星珊瑚が青く煌いてる。
「――わあ、綺麗!」
 光が広がっていく様子に目を瞬かせて、クラウンもオールを置いて海面を覗き込んだ。
 顔を近づければ、一粒一粒光が見える。それはプランクトンだと言うけれど、今はまるで星の粒。
 クラウンはそっと、波に手を差し入れた。掌に掬ってみれば青の星が手の中で瞬き、零れて強く瞬いて、また光の波紋を広げていく。
「ふふ、まるで星空にいるみたいだ」
「ね、下にも星空が広がっているみたい!」
 美しい景色に頬を上気させてリグも笑った。いつだって美しい景色は心を満たしてくれる。
 顔を上げれば、遠く彼方へと繋がる夜光虫の光の道。
「このはるか向こうに理想郷があるの? 少し、見てみたい気もするけれど」
 リグの見ている向こうを、クラウンも眺める。青い青い海の彼方。水平線の向こうにあるという、ニライカナイ。
「理想郷……命が生まれ、命が還っていく場所。このままずっと、ずっと漕いで行ったら着くのかな?」
 夜光虫の道を辿り、どこまでも漕いで行ったら或いは。命が還る場所へ、命の楽園へ辿り着けるのだろうか。そこに辿り着いたらどうなるのだろうか。
 疑問はどんどん沸いてくるけれど、その答えは波の向こうに辿り着いてみなければわからないのだろう。ただ、視線を感じたクラウンが振り返ると、クラウンを横目で見ていたリグと目が合った。
「どうしたの?」
 首を傾げる。どこか淋しそうな顔をしていたようにも見えて。けれどもリグはクラウンと目が合うと、首を横に振って笑った。
「私。理想郷よりも、ずっと皆のとこに居たいわ!」
 見たこともない理想郷なんかよりも、大好きな皆の傍が良いとリグは笑う。絶対に絶対に、その方がいいに決まっている。確信をもって言えるリグに、クラウンは少しだけ瞬いて――そうして力強く、満面の笑みで頷いた。
「うんっ、そうだね。俺もみんなとこにずっといたいな」
 魂の理想郷よりもきっと、大好きなみんなの傍の方が心から笑えると思うから。
 
「……リグリグ」
 クラウンは柔らに目を細めて、そっと手を差し出した。不意に差し出された手に、今度はリグが目を瞬かせる番。少しだけ驚いたけれど。
「えへへ、なんだか繋ぎたくなっちゃった!」
 朗らかに、どこか照れくさそうに笑って差し出された手を、リグもふわりと笑みを深め、海面を眺めたまま握り返す。
 繋いだ手の感触と温かさが心地良くて。
 
「ね、もう少しだけ眺めてよっか」
「うん、このまま。もう少しだけ」

 手を繋いだまま、海の波音と蒼い光。
 満天の星空に抱かれて――今は、二人で。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
【同行希望】ゴンドラ

すごーい、ほんとに漕ぎやすーい!
海精さんのおかげでまっすぐ進める事に嬉しそうに目を輝かせ

そういえば、ディフさんと一緒に過ごすのって初めてだっけ
えへへ…騒がしかったらごめんね
僕好きなんだぁ、こういう自然のキラキラした雰囲気
命を感じるっていうか

ね、ちょっとだけ行って来ていい?
素敵な一夜にご招待頂いたお礼!

風魔法を纏わせた★Venti Alaを利用して水上歩行
くるりとディフさんに向き合って一礼の後
煌めきを纏い優しく軽やかなステップで舞いながら祈りの歌声を
お魚さん達も一緒に踊ろ
ゴンドラの周りで飛んだり跳ねたり
僕がゴンドラに戻るまで海のダンスパーティを

ご清聴ありがとう、なんてね




「すごーい、ほんとに漕ぎやすーい!」
 真白の星珊瑚で美しく装飾された精霊ゴンドラ。海精の力を借りて進む事の出来るこのゴンドラは、技術を必要とせずにすいすいと波を滑ってくれる。
 栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は今ゴンドリエーレとなって、一本の真白のオールをご機嫌に操っていた。海精の力で苦も無くまっすぐ船を進められることは、思いの外楽しい。
 ゴンドラの前方には、ディフ・クラインが共に乗船していた。船の行く先は澪に任せ、楽し気に漕ぐ澪を見つめている。
「そういえば、ディフさんと一緒に過ごすのって初めてだっけ」
「そうだね。でも貴方を案内したことは何度かあるから、初めてという気もあまりしていないのだけれど」
 静かに目を細めるディフに可笑しそうに笑う。そうしてオールを握ったまま、澪は一瞬だけ眉を下げて、けれどやはり楽しそうに船を漕ぐ。
「えへへ……騒がしかったらごめんね。僕好きなんだぁ、こういう自然のキラキラした雰囲気。命を感じるっていうか」
「元気なことは澪の良いところだ。見ているオレも楽しいと感じさせる、貴方の素敵な魅力だと思っているよ。それに、なんとなくオレにもわかる。命を感じる、ということ」
 ディフが船の縁から波に手を差し入れれば、青い光の波紋が広がる。その一粒一粒が命。夜光虫にも、宙の星にも、自然というこの雄大な景色全てに命が宿っていると感じさせてくれる。
 ふと、オールを置いた澪がディフの顔を覗き込んだ。
「ね、ちょっとだけ行って来ていい? 素敵な一夜にご招待いただいたお礼!」
「うん? 構わないよ、いっておいで」
 何をするのだろうと首を傾げるディフが道を開けた。
 ふわりと夜気が集まるのを感じた。風は澪の靴で纏われて、翼が開く。風の翼でゴンドラの縁を軽く蹴った澪は、そのまま海の上に立った。くるりとディフに向き直って一礼をすると。
 とん、と、波に爪先を置いた。
 青の光の波紋が広がる。そのまま星のような煌きを纏い、澪は舞う。優しく軽やかなステップで波を渡り、紡ぐ祈りの歌はどこまでも澄んで高く、高く。
 祈りと光につられたのか、澪の周りで魚が跳ねた。水底を泳いでいたのであろうイルカが二頭、澪の傍で高く跳ねる。光を内包した水飛沫が宙に舞い、澪の笑みを照らし出して。
「お魚さん達も一緒に踊ろ」
 飛び跳ねる魚のようなステップで、澪がゴンドラの周りを舞う。
 目を細めてそれを見ていたディフが、ふと差し入れたままの手に魔力を込めて澪へと送り出す。
「……君もいっておいで」
 小さな声で召喚したのは、ゴンドラの手助けをしていた海精。夜光虫を包んだ水は海を走り、舞い踊る澪の動きに合わせて宙を舞って淡く光る。
 海と遊び、海と踊る。夜と海と青の世界でのダンスパーティだ。

 やがて歌い終え、ゴンドラの舳先に触れて名残惜しくもダンスが終わる。最後にもう一度、ゴンドラの前で澪は礼をしてみせた。
「ご清聴ありがとう、なんてね」
「素敵だったよ。まるで海の妖精だった。こちらこそ、素敵な貴方を見せてくれてありがとう、澪」
 穏やかな笑みと共に贈る、惜しみない拍手と謝辞。この日の澪が見せてくれたダンスは、きっとディフは忘れない。
 夜光虫の海で歌い踊った澪の笑顔が、淡い光で照らされていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディアナ・ロドクルーン
ノエマさんと(f00927)
初めはゴンドラに乗って

実は私はね、海が怖いの
暗くて、深い海は全てを飲み込んでしまうように
沈んだたらきっと私は浮き上がってこれないでしょう
…でも、青く、蒼く海も星空も神秘的に染め上げるこの景色は怖いと感じない…とても綺麗
だけどこの光が私には眩すぎると目を細めて

命が生まれ、還る場所…貴女はそう考えているのね

夜光虫に手を伸ばす彼女を見つめ、今何を思っているのだろうと
その端正な顔を眺めて

そう言えば貴女とゆっくりと語るのは何気に初めてよね
オーベルジュもとっているから食事をしながらたくさん話しましょう?
ノエマさんの事をもっと知りたいわ
私のことも?そう…何からお話ししましょうか―


ノエマ・アーベント
ディアナ(f01023)と一緒にゴンドラで

彼女なら海に燥ぐと思っていたので、その反応がちょっと意外で
怖いと口にするのを聞きながら、改めて海の深さを覗き込む

星の光に反射して、煌めく水面を眺めつつ
蒼い世界のその奥に、身を投じて沈んでいったら
一体どこに辿り着けるだろう

海は生命が生まれ、還る場所
魂を運ぶように舞う夜光虫に手を伸ばし、想いを馳せるは
今まで処刑してきた咎人達と、彼らに殺された人達の事
人の容を成してはいても、生命を断つ為だけに造られたモノ
自分はどうしてこの世に生を受けたのか
私の事を知りたいと、ディアナの言葉に心を廻らす

そうね……この後、ゆっくり話しましょう
私も、ディアナの事を色々知りたいから




 夜光虫の海を、精霊ゴンドラは静かに往く。
 舳先で波を切ればその刺激で夜光虫が煌いて、まるでゴンドラは青の光の海を渡っているかのよう。
 真白の星珊瑚で美しく繊細に装飾されたゴンドラに座り、ディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)は静かに口を開いた。
「実は私はね、海が怖いの」
 そう告げられて、隣に座るノエマ・アーベント(黄昏刻のカーネリア・f00927)は瞬いた。彼女なら海に燥ぐと思っていたから、その反応がノエマには少々意外だったのだ。
「暗くて、深い海は全てを飲み込んでしまうように、沈んだらきっと私は浮き上がってこれないでしょう」
 言葉を続けるディアナが、そっと視線を海に向けた。ノエマも同じように海面を覗き込めば、暗い夜の海が二人の目に映る。底など見通せるはずもない大海は、ひとたび恐ろしいと思えばまるで巨大な大口を開けた闇にさえ思えてくる。海がディアナを飲み込んでしまうのは、きっととても容易いことなのだろう。
「……でも、青く、蒼く海も星空も神秘的に染め上げるこの景色は怖いと感じない……とても綺麗」
 今宵の海は暗いだけではない。
 青い青い、空の落とし物のような青い光が波に漂っている。幻想的なこの夜光虫たちが、海を恐ろしくなくしてくれる。
 だけどこの光が私には眩しすぎると、ディアナは宵色の眸を細めた。夜光虫の光は少し、美しすぎて。
 
 ディアナの声を聴きながら、星の光に反射して煌く水面をノエマはじっと眺めていた。深く蒼い世界のその奥に身を投じて沈んでいったら、一体どこに辿り着けるだろう。
 海の底には竜宮城があるというけれど、一説ではニライカナイと竜宮城は同一視されることもあるという。沈みゆけば、そこに辿り着けるだろうか。
「海は生命が生まれ、還る場所」
「貴女はそう考えているのね」
 ディアナの問いに、ノエマはこくりと頷いた。
 魂を運ぶように舞う夜光虫へと手を伸ばし、ノエマは想いを馳せる。眼裏に浮かぶのは、ノエマが今まで処刑してきた咎人達と、彼らに殺された人達の事。
 ギロチンとして、そしていつしか命を得た自分。人の容を成してはいても、命を絶つ為だけに造られたモノの自分。
(「自分はどうしてこの世に生を受けたのか。私の事を知りたい」)
 その答えは、例えば海の彼方にある場所に辿り着けたら見つかるだろうか。今はただ、ディアナの言葉に彷徨うばかりの虚ろな心を廻らせ、黄昏色の瞳を揺らすだけ。

 夜光虫に手を伸ばすノエマを見つめ、今何を思っているのだろうと、ディアナはノエマの端正な顔を眺めた。
 その心を読み取ることは出来ないけれど、今共に居るなら、語り合うことは出来るはずだから。
 
「そう言えば貴女とゆっくり語るのは何気に初めてよね」
 水面と夜光虫を見つめるノエマに、ディアナは穏やかに語り掛けた。ノエマが顔を上げれば、宵の月のようなディアナが微笑んでいる。
「オーベルジュもとっているから、食事をしながらたくさん話しましょう? ノエマさんの事をもっと知りたいわ」
 白い指が指したのは、海中客室があるというオーベルジュ。美味しい食事と美しい眺め、そして落ち着いた部屋はきっと心を通わせるには絶好のシチュエーションだ。
 ノエマは数度瞬いた後、真白の長いオールを手に取って頷いた。真っすぐに見つめる黄昏は、今は柔らかな夕陽色。
「そうね……この後、ゆっくり話しましょう。私も、ディアナの事を色々知りたいから」
「私のことも? そう……何からお話ししましょうか――」
 ノエマはゴンドリエーレのようにオールを手繰り、海を漕ぐ。心地よい揺れを感じながら、ディアナはこれからの時間への楽しみを募らせた。

 命を絶つ為だけに作られたこの身に宿った魂の、その意味を知らなくても。
 語り合って知る何かもあるだろう。生きていくうちに気付くものもあるだろう。
 例えばまずは、目の前にいる友のこと。互いのこと。

 水平線の向こうへ続く夜光虫の道へ背を向けて、二人は「今」を進む。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

影杜・梢
1
あゆみ(f17667)と

夜光虫と聞いて、つい来てしまったよ
懐かしいな。父さんや母さんと一緒によく海に……まぁ色々と、思い出深いからね
いつか、あゆみにも置いていかれるだろうから
沢山の思い出を……この瞬間を大切にしないと

ま、今は夜光の海と星空を楽しもうか
こう、揺らしてスリルを味わうのも一興じゃないかな?
するなと言われたら、仕掛けたくなるのがヒトの性じゃないか
こう、段々激しく揺らしてさ
……あ

ちょっと驚かせるだけのはずが……まさか、自分が落ちるなんて
眺めてないで、助けて
登れない……!

最近、毒舌に磨きが掛かってないかい?
伸ばされた手に掴まる振りをして、そのまま引っ張ってしまおう
ほら、これでお揃いだよ


花染・あゆみ
先輩(f13905)の保護者として

なんか、しんみりしてますね?
……未来は分からないんですから、今を楽しみませんか?

夜光虫を見るのは初めてですが…とても美しいですね
手を伸ばせば、触れられそうです
下手をしたら、海に落ちちゃいそうですけど
……揺らさないでくださいね?
先輩が信用ならないので、ゴンドラにしがみつきます

だから言ったのに……
先輩、このまま捨て置いても良いでしょうか
まぁ、腐っても先輩ですし、翼を出して引っ張り上げますね…って。海に引き摺りこもうとしないで下さい……!

ずぶ濡れでお揃いって、嬉しくないです!
確かに、海には触れられましたけど……!
やっぱりこの人、ここに捨て置いても良いでしょうか……




 ――夜光虫と聞いて、つい来てしまったよ。
 そう言って笑った影杜・梢(月下故蝶・f13905)は今、精霊ゴンドラの縁にもたれて海を眺めていた。
「懐かしいな」
 海を眺める梢の藍色は、夜光虫の光の中に違う景色をほんの少しだけ重ねていた。
 それは、今は遠い憧憬だ。
「なんか、しんみりしてますね?」
 真白の長いオールを持って船を漕いでいた花染・あゆみ(夜明けの光・f17667)が、こてりと首を傾げた。はは、と軽く笑う梢は、ちらりと視線をあゆみに向けて、けれどもまた青の光へと戻す。
「父さんや母さんと一緒によく海に……まぁ色々と、思い出深いからね」
 梢はしんみりと目を細める。その両親ももう居ない。今は遠きニライカナイに居るのだろうか。いずれにせよ、梢は独り残されて今此処に居る。
「いつか、あゆみにも置いていかれるだろうから、沢山の思い出を……この瞬間を大切にしないと」
「……未来は分からないんですから、今を楽しみませんか?」
 遠い視線のままの梢に、あゆみは小さく息を吐いた。未来は決まっていないと諭して、あゆみはオールを置いて梢と向かい合って座る。
「ま、今は夜光の海と星空を楽しもうか」
「はい。夜光虫を見るのは初めてですが……とても美しいですね。手を伸ばせば、触れられそうです。下手をしたら、海に落ちちゃいそうですけど」
 あゆみの言葉に気を取り直したのか、梢の表情からしんみりとした色が消えたのを見て、梢も縁から顔を覗かせた。
 ゴンドラから手を伸ばせば、すぐに波に触れることが出来る。あゆみはそっと手を光の波に差し入れようとして――、
「こう、揺らしてスリルを味わうのも一興じゃないかな?」
「……揺らさないでくださいね?」
 ゴンドラの上に立ち上がった梢に、あゆみは警戒レベルを一気に引き揚げた。波に差し入れかけた手を瞬時に引っ込めて、両手でがしっと縁を掴む。
「するなと言われたら、仕掛けたくなるのがヒトの性じゃないか」
 やっぱり先輩は信用ならない。
 そんな顔のあゆみをちょっと脅かしてやろうと、梢は船を左右に揺らしはじめた。はじめはゆっくり、そして徐々に激しく、思い切り左右に。
「こう、段々と激しく揺らしてさ……あ」
 両足に力を込めて梢は船を激しく揺らす。

 ところで、ゴンドラとはスリムな船だ。弓なりに湾曲させて水との接地面を最小にとどめた三日月型の船は、海精の助けによって転覆はしないと事前に説明されていたが、それでもそんな船を思い切り横になんて揺らしたら――。
 
 立ち上がっている人間は簡単に海に転げ落ちるというわけで。
 
 水飛沫が一つ上がって、その衝撃で夜光虫が強く発光した。
「だから言ったのに……」
 ゴンドラの縁からじとりとあゆみが覗く。梢はといえば何とか両腕で海を掻きながら、ぷはっと息を吐いて何とか海面へと顔を出した。
「ちょっと驚かせるだけのはずが……まさか、自分が落ちるなんて」
「先輩、このまま捨て置いても良いでしょうか」 
 ばちゃばちゃと跳ねる水で夜光虫が絶え間なく輝いて綺麗だ。
 が、真ん中で溺れぬように必死になっているのが自分を驚かそうとした梢であることを考えると、あゆみはちょっと手を貸すのを躊躇う。
「眺めてないで、助けて。昇れない……!」
 とはいえ梢も必死である。何とかゴンドラに辿り着きはしたものの、手が滑ってうまく昇れないのだ。
 あゆみは大きくため息をついた。
「まぁ、腐っても先輩ですし、じゃあ翼を出して引っ張り上げますね……」
 仕方なしに、あゆみの背に翼が広がる。けれどそれは柔らかな羽毛ではなく、白き炎の翼。人に見せることは滅多にしないけれど、今は緊急事態故仕方がない。
 ふわりと空に飛びあがり、梢を引っ張り上げようと手を伸ばす。
「最近、毒舌に磨きが掛かってないかい?」
「だとしたら先輩のせいかもしれません」
「えー」
 なんだか面白くない。
 ないので。
 梢は伸ばされた手を掴む振りをして、がしっとあゆみの手を掴み、そのまま海に引っ張った。
「って海に引き摺りこもうとしないで下さい……! わっ!」
 必死に抵抗したが、引き摺り込む梢の力の方が強かった。あっという間にあゆみも夜光虫の海の中へご招待。
「ほら、これでお揃いだよ」
 海面へと顔をだした梢が悪戯に笑った。続いて、ちょっと遅れてあゆみが顔を出す。お互い全身が濡れて、しかも夜光虫が髪で青く光っている。
「ずぶ濡れでお揃いって、嬉しくないです!」
「でも海に触れたそうだったし」
「確かに、海には触れられましたけど……! やっぱりこの人、ここに捨て置いても良いでしょうか……」
「いや、ごめんって。謝るから置いてかないで」
 つんと拗ねたあゆみに梢が泳ぎ寄る。
 戯れて遊ぶ二人の少女を、透明な青の光は包み込んで煌いている。
 こんな未来、二人のどちらが予想しただろう。
 未来は分からない。だから、今を楽しもう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鬼灯原・孤檻
尊(f13751)と一緒。

尊と二人で、ゴンドラを楽しもう。
空には天の川。天球を割る光の谷を見上げ、仄かに色づく光の粒に目を凝らす。
海は夜空を映し、波と共に蒼光が輝く。

「夜空はどの世界でも変わらないように見えるが。この世界は海と空が多いからか、夜でも青の色を強く感じるな…」

船べりに波が当たって夜光虫が明滅する。
漣に揺られ、夢の中のように揺蕩う。

「…うん、これは、眠ってしまいそうだ。流石に船の上で眠るのは良くないな」

彼方には理想郷。
寝て起きれば、そこに辿り着くのだろうか。
けれど、友と語らう穏やかな今にこそ幸いが存在する。
――夢のように儚く、忘れられぬほど確かなこの蒼い星夜の果ては、未だ遠く。


橘・尊
孤檻(f18243)と一緒

星珊瑚に飾られたゴンドラも綺麗で
ゴンドラに乗り簡単にオールを漕ぎ、後は海精に任せる
海精か…初めまして宜しくな

うん、夜なのに空の蒼色を見れるなんて嬉しい限りだ

綺麗な蒼色は近くで見るとより際立っている
月と星と蒼光、こんな幻想的な景色

ふは、眠ったら起こしてやるから大丈夫だよ
眠くなる気持ちも分からなくはないからな

俺にとっても孤檻とこの場所で今一緒にいられる事が、幸せだ。

(アレンジ大歓迎です)




 星珊瑚で艶やかに飾られた精霊ゴンドラは、美しい。
 橘・尊(浮雲・f13751)が一本のオールで波を漕げば、ゴンドラは海精の力を借りて波を滑るように進みだす。
「海精か……初めまして、宜しくな」
 まずは旅の友にご挨拶。そうして数度漕いだら、あとは海精に任せてしまうのも一興だと聞いた。波の向くまま、海精の気の向くまま、何処へ連れて行くのか任せてしまおうか。
 見上げれば空には天の川。天球を割る光の谷を見上げ、鬼灯原・孤檻(刀振るう神・f18243)は仄かに色付く光の粒に目を凝らした。
 海は夜空を映し、波と共に蒼光が輝き、ゴンドラが切り開く道にも蒼を敷く。
「夜空はどの世界でも変わらないように見えるが。この世界は海と空が多いからか、夜でも青の色を強く感じるな……」
「うん、夜なのに空の蒼色を見れるなんて嬉しい限りだ」
 船べりに波が当たって、夜光虫が明滅した。
 手を伸ばすまでもなく、海面はすぐそこにある。綺麗な蒼色の光は、近くで見ると夜の海の暗さとの対比によってより際立っている気がする。
 月と星、ほわりと浮かび上がるような蒼光。視界の先にある水平線で、空と海が混じり合い、天の川と夜光虫の道が繋がっている。
 その幻想的な風景に、孤檻と尊はやわらに目を細めた。
 ゆぅらりゆらり。
 漣に揺られて幻想的な景色を進むゴンドラは、まるで夢の中のよう。ゆっくりと揺蕩う心地よい揺れが、心と体に安寧をもたらしてくれる気がして。
 そう思っていたら、孤檻はふと小さな欠伸を漏らした。
「……うん、これは、眠ってしまいそうだ。流石に船の上で眠るのは良くないな」
 海の上では、何かあった時に対処が遅れると簡単に海に投げ出されてしまう。いくらのんびりとした時間でも油断は良くないと頭を振る。その様子を見た尊が、ふは、と噴きだした。
「眠ったら起こしてやるから大丈夫だよ。眠くなる気持ちも分からなくはないからな」
 海を母だとするならば、穏やかな波は揺り籠に似ている。
 まして今は静かの海。余計な光や音が一切ない世界は、心を安らかにしてくれる。ゆぅらりゆらりと穏やかに揺られれば、眠くなるのも道理だろう。
 眠ったって構わないと、尊は笑った。
 
 波音が耳に心地よく響く。
 海の彼方には、ニライカナイという理想郷があるのだという。
 誰も見たことのない場所だ。けれどもまことしやかに語り継がれる場所でもある。
「彼方の理想郷。寝て起きれば、そこに辿り着くのだろうか」
「さてね。生きてる間に辿り着けるところなのかな」
 夜光虫の道を辿り、海精に誘われるままに進んだら、或いはいつか――。
 そう思ってはみるものの、案外孤檻にとっても尊にとっても、その理想郷というものはあまり魅力的に想える場所ではないことに気付いた。
 孤檻にとっては、友と語らう穏やかな今にこそ幸いが存在するのだ。見も知らぬ場所ではない。
 そう語る孤檻に、尊は柔く、柔く、目を細めた。
 孤檻は今この時を、幸いと言ってくれた。それこそが幸いだ。
「俺にとっても孤檻とこの場所で、今一緒にいられる事が、幸せだ」
 心から幸せそうに、尊は笑う。
 かの理想郷がどのような楽土であれ、今この幸福と同じような幸せは得られまい。尊が望む幸せは、ひとりでは得られぬものだから。
 
 夢のように儚く、忘れられぬほど確かなこの蒼い星夜の果ては、未だ遠く。
 遥か彼方の水平線で、ひとつ、星が流れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・ディーツェ
【暁星】
嘗て見た珊瑚に彩られたゴンドラ…いのちの終わりにすら意味があるのか
珊瑚を慰撫しながら眺める海はあの日、君と見た美しさを今も湛えて
また見れたね、そう君に微笑むんだ

一生懸命漕ぐ千鶴に感じる微笑ましさは笑みに隠して、俺も漕ぎ出そう
櫂を通じて感じる精霊に耳を傾けながら、蒼穹に負けぬ青に染まる水面に目を細む
此れも命の躍動か。夜光虫はまるで海の宝石の様
…嗚呼、そうだね。むしろ星の輝きか

楽土か、考えた事もなかったな
此の手は血に染まり過ぎて冥府が似合いだと思っていたんだ
…そんな俺に、君は一緒に居てくれるのか

嗚呼、其れは何て甘い幸福なんだろう
光に照らされる君の笑顔をこの目に焼き付けて、同じものを返せたら


宵鍔・千鶴
【暁星】

以前赴いたときと星珊瑚の島は
変わらず綺麗に海を映すから
もう一度、きみと眺められるなんて

ぷかぷか浮かぶ小舟の揺れに
緊張しながらオールを握って進む先
…水面の光が蒼く、染まって
敷き詰められた絨毯のよう
そうと夜光虫に触れないようにゴンドラから
海を掬って
…凄い、まるで宝石みたいだ
或いは此れも星屑が落ちてきたようだと
こんなに側で美しく在るのに
手元へ置くことは出来ない故の篝火か

このまま辿ればニライカナイに
往けるだろうか
いのちが生まれ、果てて、
還ることが等しく出来るなら
ヴォルフとずっと一緒に居れるね
幾度血に染まれど
俺はきみの赫を拭い、手を引くよ

あえかな蒼光に包まれたままの咲みは
小さく海に溶かして消えて




 この海の深い深い底。
 暗い海中に浮かぶ真白の星珊瑚で出来た海底島がある。そこを訪れた記憶はまだ新しく、嘗て見た星珊瑚に彩られたゴンドラの上で、ヴォルフガング・ディーツェ(誓願の獣・f09192)は星珊瑚の装飾に触れる。
「……いのちの終わりにすら意味があるのか」
 滑らかな手触りと意匠の美しさは、「死ねば終わり」という概念を否定するように輝いている。珊瑚を慰撫しながら眺める海はあの日、君と――宵鍔・千鶴(nyx・f00683)と共に見た美しさを今も湛えたままで。
「もう一度、きみと眺められるなんて」
 そう言って穏やかな表情をする千鶴に、
「また見れたね」
 ヴォルフガングは優しく微笑むのだ。
 
 ぷかぷかと浮かぶ小舟の揺れに、少しだけ緊張の面持ちで千鶴はオールを握る。海に落ちぬよう足に力を籠め、恐る恐る波に差し入れたオールを漕げば、意外な程にすんなりとゴンドラが進んだ。
 緊張しつつも一生懸命に船を漕ぐ千鶴の姿は微笑ましい。けれどヴォルフガングはそれを笑みに隠して、オールを手にした。オールを通じて海精の存在を感じる。オールの動きに合わせてゴンドラの進みを補助し、転覆しないように支えている姿が眼裏に見える。そんな彼等の声に耳を傾けながら、二人を乗せた船は進む。
「……水面の光が蒼く、染まって」
 ほうと千鶴は息を吐いた。
 ゴンドラの先端が波を切れば、その刺激によって夜光虫が蒼く輝く。波に揺られながら続く夜光虫は、まるで敷き詰められた絨毯のように道となって彼方へと続いていた。
 千鶴の隣で、ヴォルフガングもまた蒼穹に負けぬ青に染まる水面に目を細めている。
 此れも命の躍動か。
 我ら此処に在りと叫ぶ命の光か。
 千鶴が船べりからそうっと、夜光虫に触れないように手を伸ばし、海を掬った。千鶴の手の中で、青い青い光がきらきらと煌いている。ふよふよと動く蒼は、その光が生きている証。命の輝きだ。
「……凄い、まるで宝石みたいだ」
「……嗚呼、そうだね。むしろ星の輝きか」
 或いは此れも星屑が落ちてきたようだと、千鶴は掬った青を海に還す。あの時に見た星珊瑚の産卵が、降り注ぐ星屑のようであったように。
 けれどもこんなに側で美しく在るのに、手元へ置くことは出来ないから。それ故千鶴はこれを、篝火だと思った。
 海を辿る蒼い光は道のように見えて、また夜の海を照らす篝火で、標の様でもある。辿り着く先は――。
「このまま辿ればニライカナイに往けるだろうか」
 海の果ての理想郷。魂の楽土。ニライカナイ。
 千鶴の視線は青を辿って水平線の彼方へと向けられている。
「いのちが生まれ、果てて、還ることが等しく出来るなら、ヴォルフとずっと一緒に居れるね」
 千鶴は水平線の向こうを見つめたまま、そろりと指をヴォルフガングの傍に這わせた。爪がヴォルフガングの指に触れれば、ヴォルフガングもそれに気づいて指を絡める。その感触が、掌の温度が心に安心を呼ぶ。
「楽土か、考えた事もなかったな」
 ヴォルフガングの視線は水平線を辿り、やがて天の川から高き星空へと移っていった。彼方から伸びる楽園の光は、なぜだかヴォルフガングには眩しすぎる。
「此の手は血に染まり過ぎて、冥府が似合いだと思っていたんだ。……そんな俺に、君は一緒に居てくれるのか」
 ゆるりと千鶴を見つめたヴォルフガングの表情を、なんと名付けよう。
 不安と、感謝と、恐れと、期待と。
 相反する感情を幾つも孕むその顔を、千鶴は真っすぐに見返した。繋いだ指を一層強く握って、離さないからと指からも伝えて。

「幾度血に染まれど、俺はきみの赫を拭い、手を引くよ」
 
 少しだけ、ヴォルフガングの目頭が熱くなった。
 嗚呼、其れは何て甘い幸福なんだろう。
 光に照らされる君の笑顔をこの目に焼き付けて、同じものを返せたら。
 ヴォルフガングはそう願ってやまない。
 
 あえかな蒼光に包まれたままの咲みは、小さく海に溶かして消えて。
 いつか星になって彼方へと還るのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花房・英
【ミモザ】2.オーベルジュ

夜光虫って初めて見る
…そのまんまの感想だな
潜らなくても楽しめるのいいな、ゴンドラは寿がはしゃいで転覆したら困る(恐くて泳いだ事がない)

隣から聞こえたため息には、綺麗だな、なんてありきたりな言葉しか出ないけど

…最近、ひとりでいるとつまんないことばっかり考えるから
あんたと過ごす時間は嫌いじゃないよ

どうかな。寿みたいに何にでも関心抱けないし
寿が楽しそうなのを見てるのは、多分楽しい
この海も綺麗だと思う

美味しいからって食べすぎないように気をつけてよ、お腹壊しても知らないからな


太宰・寿
【ミモザ】2.オーベルジュ

すごい、青く光ってるよ!
えー、転覆するほどはしゃいだりしないよ

硝子越しに見上げた海面は、幻想的で思わずため息が溢れて
分かるなぁ、ひとりの時間って気楽な面もあるけど考え込みやすくもなるよね

本当?嬉しいなぁ、いつも言ってるけど私も英と一緒にいるの好きだよ
ねぇ、好きなものは増えた?
うんうん…うん?褒めてる?貶されてる?
年頃の男の子は難しい……ま、いっか!楽しそうだし

お料理も美味しそうだね
海もだけど、食事も楽しみにしてたのでうきうきしていると、いつもの調子で言われるものだから
もー!いつも一言多いんだから!

でも、そんな一言も今は『嫌いじゃない』んだよね




 青と白で纏められた海中のような部屋に、二人分の靴。
 壁の一面を全て巨大硝子は、海のありのままを魅せてくれている。その窓にぺたりとくっついて、太宰・寿(パステルペインター・f18704)は瞳を輝かせていた。
「すごい、青く光ってるよ!」
「……そのまんまの感想だな」
 やや不愛想な感想は、寿の後ろから。そんなに近づかなくても見えるとばかり、一歩下がって大きな窓の全てを視界に収める花房・英(サイボーグのグールドライバー・f18794)だ。
 普通の客室は見上げれば天があるけれど、この部屋では海面が揺らめいていた。日中ならば陽の光が差し、夜ならば月明りの仄かな明りに浮かび上がる暗い海が見えていただろうけれども。今宵、海の空には蒼光の天の川が流れていた。
 その川は夜光虫。
 青い光を発するその生き物を、英は初めて見た。
「潜らなくても楽しめるのいいな、ゴンドラは寿がはしゃいで転覆したら困る」
「えー、転覆するほどはしゃいだりしないよ」
 振り返って唇を尖らせる寿に、英は知らん顔。本当は英は恐くて泳いだことがないだけだけれど、そんなことを素直に言うわけもない。
 
 海面から眺める夜光虫も美しいが、海中から眺める青の光はまた違った趣があった。月明りを浴びた青が、淡く海を染めていくのだ。淡く、深く、青に染まる世界は心に響く。
 硝子越しに見上げた海面は幻想的で、寿の唇から思わず溜息が溢れた。
「綺麗だな」
 言葉にならぬ言葉を託された溜息に、ありきたりな言葉しか出ないけれど。けれども英は必要以上に言葉を装飾しないだけだ。寿もそれを知っているから、にこりと笑みを返した。
 
「…最近、ひとりでいるとつまんないことばっかり考えるから」
 硝子に指を滑らせ、英はゆっくりと窓に添って歩む。海の中で小魚たちは寄り添い合っている。相変わらず英の表情筋は仕事をしていなくて、その感情はわかりにくい。そしてまるで正反対のように、ころころと寿は表情を変えていく。
「分かるなぁ、ひとりの時間って気楽な面もあるけど考え込みやすくもなるよね」
「だから、あんたと過ごす時間は嫌いじゃないよ」
 独りではないから、余計なことを考えない。そう言って英が振り返ると、寿は嬉しそうにほわりと笑っていた。
「本当? 嬉しいなぁ、いつも言ってるけど私も英と一緒にいるの好きだよ。ねぇ、好きなものは増えた?」
 硝子に添って、英の傍に行ってその顔を覗き込む。いつもと変わらないけれど――、どこか目元が穏やかに見えるのは、海と夜光虫の光のせいだろうか。
「どうかな。寿みたいに何にでも関心抱けないし。寿が楽しそうなのを見てるのは、多分楽しい。この海も綺麗だと思う」
「うんうん……うん?」
 そうかそうかよかったと笑いかけて、寿は思いとどまる。何やら言葉に含まれている気がする。
「褒めてる? 貶されてる? 年頃の男の子は難しい……」
 唇に指を寄せて難しい顔をする寿を、英は事も無げに見る。寿のそんな表情が長く続かないことを、英は知っている。
「……ま、いっか! 楽しそうだし」
 英の予想通り、寿はすぐにへにゃりと笑った。寿だって知っているのだ。不愛想で無口な英だけれど、だからこそ英の言葉には嘘がないことを。
 
 のんびりした時間を過ごしていると、ルームサービスが部屋に届いた。窓の傍のテーブルに並べられた料理は、スモークサーモンのマリネ。帆立と白身魚のキッシュ。スープはたっぷりと魚介が使われたズッパ・ディ・ペッシェ。どれも色鮮やかでよい香りがして、二人の食欲を存分に刺激してくれる。
「お料理も美味しそうだね。海もだけど、食事も楽しみにしてたの!」
 手をパチリと合わせ、寿はうきうきとテーブルに座って料理を吟味する。何から食べ始めるか迷ってしまう。
「美味しいからって食べすぎないように気をつけてよ、お腹壊しても知らないからな」
「もー! いつも一言多いんだから!」
 じっと寿の顔を見ながら英も席について、ついでに遠慮のない一言が飛ぶ。早速ナイフとフォークを手にしていた寿が抗議するけれど、英には何処吹く風。
 けれど――、やっぱり寿のそんな顔は長く続かない。
(「でも、そんな一言も今は『嫌いじゃない』んだよね」)
 くすりと零した笑み。
 二人で行儀よくいただきますをしたら、海に包まれながら食事をはじめよう。
 
 青の光は二人を照らし出す。
 夜が明ければ夜光虫の光も消えてしまうけれど。
 思い出に焼き付けた光ならば、いつまでも消えはしない。
 記憶の中ではいつだって、海に包まれ青に染まるこの日は輝いている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月30日


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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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