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人魚霊薬奇譚

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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●薬の消えた世界
 妖怪といえど、病はある。それを治す為の薬も。
 病の数だけ、薬は作りだされる。それこそ、月の雫や星の雨、七色に輝く魚の鱗に満月の夜にしか咲かぬ花まで、材料も多種多様。どのような霊薬を作り出すかは作り手である魔女や薬師次第。勿論、薬と謳ってはいるが、妖怪の身に毒となるような御禁制とされた物も数多くある。
 その中でも、とりわけ禁忌とされたのは人魚の霊薬。その秘薬は病を消し去っても悲劇しか残さない。何故なら、材料は人魚なのだから。
 最初は鱗だけだったのに。
 爪を、髪を、血を、眼玉を、肉を、臓腑を、骨を――。
 だから願ったのだ、この世から薬など無くなってしまえばいいと。
 願って、願って、願って。
 願って死んでしまった人魚の骸魂は、罪なき人魚の娘を飲み込んだ。

●グリモアベースにて
「そうして世界が終わろうとしとるってわけや」
 八重垣・菊花(翡翠菊・f24068)が物語の終わりを語るかのように、そう言った。
 新たに発見された世界、カクリヨファンタズム。そこは現代地球……UDCアースと猟兵が呼ぶ世界と隣り合わせになった世界であり、人々に忘れ去られてしまった妖怪と呼ばれる者達が生きる世界。
 そして、驚くほど簡単に滅びの危機を迎えてしまう、そんな少し不思議でどこか懐かしい世界だ。
「人魚が不老不死の妙薬や、なんて話は聞いたことあるやろか?」
 詳しくは知らずとも、聞いたことがある者はいるだろう。人魚の血肉を喰らえば、不老不死になるという伝説は現代地球にも残されている。
「カクリヨファンタズムではご禁制の品になっとるんやけど」
 さすがに同胞の血肉を使った薬はちょっと、といったところだろうか。
「自然に抜け落ちた人魚の鱗とかは、高値で取引されとるらしいけどな!」
 商魂逞しいものは世界が違えど、どこにでもいるものだ。
「せやからな、今を生きとる人魚はそんな恨みとか特にないみたいなんやけど……幽世に辿り着けんと死んだ妖怪の中に、そういった人魚がおったんやろなぁ」
 そうして骸魂と化した人魚は、抜け落ちた鱗を魔女に売ろうとした人魚を飲み込んでしまったのだ。
「そんでな、『薬』っちゅー概念を消してしもたんよ。薬がないってことは、治療もままならんってことらしくて」
 薬の無くなった世界には病が蔓延り、ちょっとした風邪のような病でも死に至るのだという。
「風邪は万病のもとって言うしな、おかしな話ではないんやけど」
 風邪だけではないが、病で滅びゆく世界を救う為に力を貸して欲しいのだと菊花が頷く。
「まずは骸魂に飲まれた雪だるまがよーけ出て来るよって、それを倒すんや」
 可愛らしい見た目の雪だるまと侮るなかれ、雪だるまは剣客だ。
「ちょっと寒いかもしれんから、風邪引かんようにな? あと、雪だるまを倒すと薬の材料になる雪の結晶が手に入るんよ」
 一体につき一つ、と菊花が続ける。
「雪だるまの数がある程度減ると、薬を消してしもた元凶である人魚が出てくるよってな。この人魚を倒すと世界は元に戻るよって、バーンと倒して飲み込まれてしもた人魚を救ったってや」
 せやけどな、と菊花が付け加えるように話を続ける。
「人魚は忘却の力を持っとって、皆の言葉やったり思い出やったり、自分自身やったり……そういうんを忘れさせる力を持っとるんよ」
 これに対抗する手段を考えていけば、倒すのも楽になるはずだと頷く。それと、人魚を倒せば、これも一人一枚くらいの人魚の鱗が手に入るだろうとも。
 薬という概念を取り戻せば、魔女や薬師が作っていた薬も無事に戻ってくるし、新たに薬を作ることもできる。
「魔女や薬師の人らがな、お礼や言うて薬の作り方を教えてくれたり、欲しい薬を作ってくれたりすると思うよって」
 手に入れた薬の素材を使って、魔女や薬師に教えを乞うてみるのは如何だろうか。万能の薬を作り出すことは難しいかもしれないけれど、よく効く傷薬や熱さまし、頼めば魔女の秘薬なんかも教えてもらえるかもしれない。新しい薬を作り出すことも。
「ほな、ちょっと幽世の世界を救ってきたってな!」
 ぱん! と両の手を打ち鳴らし、菊花が幽世への道を開くと、いってらっしゃい! と笑って猟兵達を見送った。


波多蜜花
 閲覧ありがとうございます、波多蜜花です。
 新世界、毎日がカタストロフなカクリヨファンタズムを救っていただき、その後は幽世の魔女達に伝わる不思議な霊薬を作って楽しんでいただけたらと思います。
 一章だけのご参加も、お一人様でもグループでも歓迎しております、下記の説明にもありますが、プレイングボーナスなどありますのでご一読いただけますと幸いです。

●第一章:集団戦『『剣客』雪だるま』
 幽世世界に到着すると、即戦闘となります。
 雪だるまさん(可愛い)がいっぱいですが、そこまで強い個体達ではないのでレベルなど気になさらず挑んでください。
 雪だるまさんがいっぱいなので、寒いです。防寒対策をしていくとプレイングボーナスが加算されます。
 プレイング受付前に断章を挟みます。
 恐れ入りますが、受付期間前のプレイング送信は流してしまう可能性が非常に高くなっております。断章が入り次第受付期間をお知らせいたしますので、MSページをご覧ください。

●第二章:ボス戦『水底のツバキ』
 雪だるまさんをある程度倒すと、元凶である人魚が出てきます。
 忘却を望む人魚は、皆様にも忘却を望みます。こちらは敵のユーベルコードPOW/SPD/WIZを参考にしてください。
 どうしても忘れたい思い出があれば、わざと抵抗せず忘れてしまうこともできます。これはSPDの思い出のみに作用しますので、使用するユーベルコードを選ぶ際はSPDをお選びください。
 完全に忘れてしまうのも、何かの切欠で思い出すのもご自由に! 参加後のフレーバーとしてRPの一助にしていただければと思います。
 プレイング受付前に断章を挟みます、締切などはMSページをご覧ください。

●第三章:日常『魔女の霊薬』
 手に入れた材料を元に、魔女の霊薬を作ることができます。
 欲しい薬があれば、魔女に尋ねてみるといいでしょう。こちらも、アイテムとしての発行はございませんが、皆様のRPの一助になればと思います。
 ただし、公共良俗に反するような内容を含んだプレイングなどは採用自体が見送りとなります、恐れ入りますがご了承くださいませ(大抵のものは通す予定ではおります)
 また、三章のみではありますが、お声掛けがあれば菊花がお邪魔いたします。何かあれば、プレイングにてお申し付けください。
 プレイング受付前に断章を挟みます、締切などはMSページをご覧ください。

●同行者がいる場合について
 同行者がいらっしゃる場合は複数の場合【共通のグループ名か旅団名+人数】でお願いします。例:【薬3】同行者の人数制限は特にありません。
 プレイングの送信日を統一してください、送信日が同じであれば送信時刻は問いません。

 それでは、皆様の物語をお待ちしております。
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第1章 集団戦 『『剣客』雪だるま』

POW   :    雪だるま式に増える
自身が戦闘で瀕死になると【仲間】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD   :    抜けば玉散る氷の刃
【その手でどうやって持つんだかわかんない刀】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    雪合戦
レベル×5本の【氷】属性の【雪玉】を放つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●雪だるまの可愛らしさと寒さ、それから風邪にご用心
 目の前に広がるのはカクリヨファンタズムの見慣れぬはずの、どこか懐かしさを感じる景色。それから、一面に広がる白。
『剣客』雪だるまが集団で行動することにより、付属品のような形で雪も付いてきたのだろう。
 暦で言えば夏の世界が多い中、いきなり冬の世界に放り出されたような。……風邪、引きそうだなと、幽世を救う為に訪れた猟兵が心のどこかでそう思った時――。
『寒さに凍えよ!』
『風邪を引いてしまえばよい!』
『お前も雪だるまにしてやろうか!』
 そんな言葉を口々に叫びながら、『剣客』雪だるまが姿を現した。
 見た目は可愛い雪だるまなのだが、時代劇の浪人が被るような深編笠を被り、何処に刺しているのか解らない日本刀を持っている。まずはこの群れを倒さなくては話にならないのだろう、猟兵達がそれぞれ雪だるまへと対峙する――!
黒瀬・ナナ
わぁ、雪だるまがいっぱいで可愛いー……なんて言ってる場合じゃないわね。普通に寒そう!
とりあえず冬用の上着とマフラーと手袋を身に付けて行くわね。
あと、お腹が冷えないように毛糸の腹巻きも。
それでも寒かったら【気合い】で我慢。

氷の刃に斬られないように、風神様のお力をお借りして。
ぴょーんと飛んで避けながら、可愛い剣客さん達を一ヶ所に集めるように動き回るわね。
自慢の【怪力】で薙刀を振い大勢を一気に【なぎ払い】
オマケの【マヒ攻撃】と【衝撃波】で、少しでも多くの敵を倒せるように。

なるべく止まらずに動き続けて、身体を温めながら。
他の猟兵さんとも協力して敵を蹴散らすのよ。
終わったらあったかいものが食べたいなぁ。


空亡・劔
共闘希望(まだまだよわよわだしね?

ふぅ…本当に迷惑よね
この世界に大異変を起こすのはこの大妖怪である劔様だっていうのに!
という訳であんたらに好き勝手させる訳にはいかないのよ!(ばばーんとこれがデビューの大妖怪?

風邪ひけとか…なめるなッ!
妖怪が風邪ひくわけないで…へくちんっ

………よし倒す!
【天候操作】で周辺を夏空にするわよ!
あんまり夏とか得意じゃないけどね!
後は【残像】を残しながら避けつつ
剣刃一閃で切り裂き!

相手の刀と鍔迫り合いしつつ奮闘!

基本的には一対一で確実に数を減らすように戦う

大妖怪がこんなところで負ける訳にはいかないのよー!

ううん…おぶびりおんって奴は手強いのね(まだ集団戦ー!



●雪雲、雪雲、飛んでいけ!
 剣客雪だるまを前に、思うことは人それぞれ。
 鬼の巫女たる黒瀬・ナナ(春陽鬼・f02709)は、雪だるまがいっぱいで可愛い……! と目を輝かせていたし、元は魔剣のヤドリガミであった筈なのに、何故か変質して妖怪になってしまった空亡・劔(本当は若い大妖怪・f28419)は風邪を引けとか舐めているのかとご立腹だ。
 隣り合ったのも何かの縁、と二人の目が合う。
「……寒くないの?」
 冬用の上着にマフラー、手袋。とどめに見えないから大丈夫! と、お腹に毛糸の腹巻まで仕込んできたナナは、特に防寒着を着込んでいる様子もない劔にそう声を掛けた。
「妖怪が風邪ひくわけないで……へくちんっ」
 可愛らしいくしゃみを出した劔の頬が、可愛らしく紅に染まる。
「ええと、これ貸してあげるわね!」
 マフラーをそっと劔の首に巻いて、ナナが微笑む。
「……ありがと。あんた、いい人ね」
「わたしは黒瀬ナナ、よろしくね!」
 いい人だなんて、そんな! と笑うナナに、劔も自己紹介をして改めて雪だるまへ視線を向けた。
「ナナね。あたしは空亡劔、大妖怪よ! お礼ってわけじゃないけど、一緒に戦ってあげるわよ!」
 本当は、一緒に戦ってくださいって言いたいけれど、劔にはこの世界に大異変を起こすのは、この大妖怪である劔様だという自負がある。……まだまだ、駆け出しの大妖怪ではあるけれど、志は大きくだ。
「もちろんよ! 一人より二人の方が沢山敵を倒せるものね!」
 気のいいお姉さんであるナナは劔の提案に快く頷いて、お気に入りの薙刀、迦陵頻伽【花嵐】を構える。それに続くように、劔も自身の本体である魔剣「ソラナキ」を構えた。
「それじゃあ……可愛い剣客さん達を一か所に集めるわね!」
「えっ」
 雪だるまが沢山いるのに? と言い掛けたところでナナが駆け出す。それに気が付いたのだろう、雪だるまもナナと劔に向かって走り出す。……どうやって走っているのかはわからなかったけれど、雪煙を上げてこちらに向かってくるのをナナは好都合とばかりに、口元に笑みを浮かべる。
「わたしはあなた、あなたはわたし。今、この脚は、天を翔ける風神様の脚!」
 空中を蹴り上げ、ナナが雪空を舞う。そうして、なるべく自分の方へ引き付けて纏め上げた。
「あたしだって!」
 負けてはいられないと、劔が天候を操作するべく指先を天へ向ける。
「あんまり夏とか、得意じゃないけどね!」
 一時的に、ナナが駆け回る範囲と劔が立つ場所の雪雲が晴れた。じり、と照った夏の陽射しに、増えた雪だるまが怯む。
「チャーンス!」
 その好機を逃すナナではなく、自慢の怪力を駆使して薙刀を横一閃になぎ払う――! マヒと衝撃波が乗ったその攻撃は、ずぱん! と、見事に集めた雪だるまを沈めてしまい、劔が目をぱちくりと瞬く。
「あ、あたしだってこれっくらい!」
 目の前にいた雪だるまに向かってソラナキによる一撃を与える。ぽんぽん、と増えた雪だるまを残像を残す程の素早さで翻弄し、時に鍔迫り合いを繰り広げながら確実に一体ずつ仕留めていく。
「大妖怪のあたしが、こんなところで負ける訳にはいかないのよー!」
 目の前にいた最後の雪だるまを真っ二つにした劔に、止まることなく敵を引き付け数を減らしていたナナが笑顔で声を掛けた。
「劔さん、お見事!」
「ううん……おぶりびおんって奴は、手強いのね」
 そう言って眉毛をちょっぴり下げた劔に、雪の結晶を拾いながら戻って来たナナが微笑む。
「大丈夫よ、全ては経験だもの!」
 はい、と雪の結晶を劔に半分渡し、また雪空に戻っていく空を見上げる。
「終わったら、あったかいものが食べたいなぁ」
 思わず零れたナナの言葉に、今度は劔が破顔する番だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

テラ・ウィンディア
共闘OK

不思議な世界だけどなんだか楽しいよな

だけどお薬が無いってのは大惨事だな
それこそどの世界だって滅亡の危機に陥っちゃう

防寒対策
【属性攻撃】
全身と武器に炎を付与
寒さに対抗するのに昔から使われてたのは火だろ?

何…寒いのは得意じゃないけど雪の中遊ぶのはおれは大好きだぞ?

【戦闘知識】で敵の陣形を把握
そのまま中心に突撃して剣と太刀で【串刺し】による刺突
【見切り・第六感・空中戦・盾受け・残像】で可能な限り避け切りつつ厳しいときは盾で受け止め
【早業・二回攻撃】で切り裂き

多くの敵を捕捉すれば紅蓮神龍波発動!

周囲の雪だるまを襲ってその氷ごと溶かし尽くすぞ!

…ちゃんとこいつら倒したら元の妖怪に戻るのかな?


ユキ・スノーマン
わあああ、お友達がいーっぱい!
遊んでくれるの?遊んでくれるの?(きらきら)

ユキ達ジャック・オー・フロストは霜の精、それと雪だるまの化身!
ここは「涼しい」し、オマケに雪だるまのお友達いっぱいだしで、
テンション爆上がりなの!
…ちょっとお友達の雪だるまさん達と雰囲気違う気もするけどっ

チャンバラで遊ぶの?
もー男の子だなぁ、しょーがないから付き合ってあげるー
でも絶対ユキの方が強いから、覚悟してよね?
さあ行くよー【霜符解放『スノーマンズロンド』】!
カチコチに凍っちゃえー!

刀持ってる子達の手とか刀を狙って、冷凍光線をビビビビビ!
氷漬けにして、乱暴な事できなくしちゃおーね

絡みアドリブ連携、ぜーんぶ歓迎だよっ



●無敵の火の子と雪の子で
 カクリヨファンタズム、それは今までに見つかっている世界とはまた少し違う、不思議に溢れた世界だ。
「毎日が滅亡の危機ってのは大変だな」
 でも、この不思議な世界はどこか懐かしくて、なんだか楽しいとテラ・ウィンディア(炎玉の竜騎士・f04499)は人懐っこい笑顔を浮かべる。
「で、あれが剣客雪だるまか」
 無銘の太刀と星の力を宿す小剣を手に、そう言った時だった。
「わあああ、お友達がいーっぱい!」
 テラの後ろからひょっこりと顔を出し、ユキ・スノーマン(白の霜精・f28192)がいっぱいの雪だるまを前にはしゃいだ声を上げたのだ。
「おい、危ないぞ?」
「大丈夫! ユキ達ジャック・オー・フロストは霜の精、それと雪だるまの化身! だから、雪だるまさん達はきっと遊んでくれるの!」
「でもあいつら、剣とか持ってるだろ」
 明らかに遊んでくれる雰囲気ではなさそうな気もするけれど、ユキは遊ぶ気満々だ。
「しょうがないな、寒いのは得意じゃないけど……雪の中で遊ぶのは、おれも大好きだぞ」
「あなたも遊んでくれるの?」
「おれはテラだ!」
「ユキは、ユキよ!」
 人懐っこい笑顔が二つ、並んで雪だるま達に向けられる。
「でも、あいつら倒さないと薬がないままらしいぞ」
 それってきっと、どこの世界だって滅亡の危機に等しいことだ。
「じゃあ、ユキ達が遊んであげたらなんとかなるね!」
 両腕を力こぶを作るようにしてユキが言えば、テラがそうだな! と笑った。
「じゃあ、全力で――」
「遊んじゃおーね!」
 それは中々に物騒な『遊び』の始まり。テラは防寒対策も兼ねて全身と武器に炎を纏い、ユキは元々が霜精ジャック・オー・フロスト、雪の中でこそ最大限のパフォーマンスを発揮する。
「寒さに対抗するんなら、昔から使われてたのは火だろ……って、ユキ……融けないよな?」
「融けない、と思うけど熱いのはちょっと苦手だよー!」
 テラから少し離れて、このくらい離れたら大丈夫! と手で大きな丸を作った。
「よし、それじゃあ行くぞ!」
 ほっとした表情を浮かべたのも束の間、テラはすぐに目の前まで迫っている雪だるま達に意識を切り替えた。
 雪だるま達の動きに規則性はないように見えるけれど、それでも剣客雪だるまと言うからにはそれなりに足並みが揃っている。それを己が知る陣形に置き換え、どのように動くか予測した上で――。
「先手必勝!」
 炎を纏ったテラが雪だるま達の中心へと突撃し、二刀を以てして雪だるまを串刺しにしていく。
「わああ、テラちゃんすごいのね!」
 ちょっと離れた場所でそれを見ていたユキがぱちぱちと手を叩き、じゃあユキも! と自分へ向かってきた雪だるまに微笑む。
「ちょっとお友達の雪だるまさん達とは雰囲気が違う気もするけどっ」
 涼しくて快適なこの気温にテンションが上がっているユキには、大したことには思えない。だって雪だるまだもの、だったらお友達なの! その理論のまま、どうやって持っているのかわからない剣を振り上げた雪だるまに、ユキが『ユキのお友達である雪だるま達』と立ち向かう。
「チャンバラがいいなんて、男の子だなぁ。しょーがないから付き合ってあげるー! さあ、カチコチに凍っちゃえー!」
 一列に並んだユキのお友達から、強い冷気を持った光線が放たれた。
 それは氷すら凍らせるような、絶対零度の光線。刀を狙ったそれは、どうやって持っているかわからない手ごと雪だるまを氷漬けにしていく。
「やったよー! テラちゃん!」
 その声に、雪だるま達から放たれる雪玉を燃える炎で融かしながら陣を乱していたテラが答える。
「おう! おれもそろそろ……っ」
 周囲の雪だるまは充分に集めたと、テラが手にした刀と小剣を地を頭上に向けて掲げる。
「母なる大地よ、闇夜を照らす炎よ……赤き龍神の怒りに応え、我が前の敵を焼き尽くせっ」
 テラの呼び掛けに応じるように、龍の形をした溶岩が大地を割って現れる。それはテラを囲んでいた雪だるま達へ、余すことなく降り注いだ。
「どうだ! 溶かし尽くしてやったぞ!」
「すごーい! けど、やっぱりあつーい!」
 炎と雪、対極に位置する少女たちは顔を見合わせて笑って、それからテラがユキに向かって叫ぶ。
「なあ! こいつら、ちゃんと元の妖怪に戻るのかな!?」
 思いっきり溶かしちゃったけど。
「大丈夫だよー! 雪さえあれば、元に戻るよっ!」
 だって妖怪だもの。
 安心した表情を浮かべたテラが辺りに散らばる雪の結晶を拾い上げながら、ユキの元へと走った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メルト・プティング
大好きなお友達のベアータ(f05212)さんと参加です!

カクリヨファンタズムってお化けがいっぱいでおっかないって聞いてましたけど、あんな雪だるまみたいなカワイイのもいるんですね
えへへ、あれならそんな怖くないかなー……でも寒すぎるのはちょっといただけないので、カワイそうな感じもするけどバシバシ倒してくのですっ

ベアータさんが準備を終えるまで、【オーラ防御】+【拠点防御】で雪玉攻撃を耐えるのです
準備が終わったら抱えて飛んでもらって、空からボクの《念動発火》で火の玉をばら撒いて雪だるまをドンドコ燃やしちゃおうって作戦なのです!
あっ、でも怖いから速度と高度は控えめでお願いしますね?絶対です、絶対ですよ!


ベアータ・ベルトット
親友のメルト(f00394)と参加

避暑にはピッタリ(化け物一杯で)の世界って聞いてたけど…いくらなんでも冷やしすぎでしょこりゃ

手始めに液体防具の骨盾を展開。飛んできた雪玉を弾いて往なし、序でに骨を齧って口内にリンを蓄える。よし、準備完了よ
蝙翼機光を起動し、UC効果で飛行形態に変身。メルトを抱えて舞い上がるわ。奴らの制空能力はさほど高くない筈…と見込んで空中からの迎撃に移行
速度と高度は控えめ、ね。わかってるっての。安心なさい。トバしすぎに注意し、機動的な飛行で敵の攻撃を躱す
折を見て口内機構から炎弾を発射し、メルトのUC攻撃を援護
アンタの炎のお蔭であったかいわ。よし、このまま全部溶かしてやりましょ



●寒いけど、寒くない
 ある意味、避暑にはぴったりな世界だとは聞いていたけれど、こんなに冷え込んでいるなんて聞いていないとベアータ・ベルトット(餓獣機関BB10・f05212)が機械の腕を手の平で軽く撫でる。
「カクリヨファンタズムって、お化けがいっぱいでおっかないって聞いてましたけど」
 隣に立つメルト・プティング(夢見る電脳タール・f00394)が前方に沢山いる剣客雪だるまを指さして言う。
「あんな雪だるまみたいなカワイイのもいるんですね」
「物騒なモノ持ってるけどね。それに、いくらなんでも冷やしすぎでしょ、こりゃ」
 雪だるま効果で白銀に染まったという大地は、病を加速させる病的なまでの寒さがあった。
「えへへ、あれならそんな怖くないかなー……って。でも寒すぎるのはちょっといただけないですね」
 だから、とメルトはベアータに視線を合わせる。
「カワイそうな感じもするけどバシバシ倒してくのですっ」
「可哀想かは置いといても、同感。さっさとやっつけちゃいましょ」
 はーい! と手を挙げたメルトに頼んだよ、とベアータが声を掛ける。それにお任せなのです! と答えたメルトが自身とベアータを守るように、ドーム状に力を巡らせる。
「ベアータさんが準備を終えるまで、ボクが相手です!」
 雪玉とはいえ、妖怪が投げてくる雪玉だ。ベアータから防御を任されたメルトが、手を抜くわけもない。それは雪だるま達が投げ付けてきた渾身の雪玉をしっかりと弾き、二人の身を守る。
「さすがメルト」
 期待通りの働きに小さく笑うと、ベアータが餓獣機関が生成し、液体状態で自身の体内を巡るそれを機装から排出し骨盾を展開する。そのついで、とばかりに骨盾の端を軽く齧って口内にリンを蓄えた。
「よし、準備完了よ」
 その声に、待ってましたとメルトの声が弾む。
「死者は闇夜に疾翔る」
 光翼飛翔形態、ベアータの背から光線射出機構が突出し光の翼が現れる。それはどこか神々しく、メルトはそっと息を零した。
「おいで、メルト!」
「はい!」
 雪玉を防ぎながら、メルトがベアータの胸に飛び込む。その身体を抱えると、ベアータが空へと舞い上がる――!
「やっぱりね。奴らの制空能力、大したことないわ」
 空中を飛ぶ二人に向け、雪だるま達が雪玉を投げて来るけれど二人が浮かぶ高さまで届く雪玉は少ない。
「あの、ベアータさん」
「ん? 何?」
 雪だるま達の動きを観察していたベアータが、腕の中にすっぽりと収まっているメルトに視線をやると、おっかなびっくりというような表情を浮かべてベアータを見ている。
「その……怖いから、速度と高度は控えめでお願いしますね?」
 真剣なその声音に思わず笑いそうになってしまったけれど、今は戦闘中だとベアータが小さく咳払いをした。
「ンンッ、速度と高度は控えめ、ね。わかってるっての」
「絶対です、絶対ですよ!?」
 念を押すメルトに安心なさい、と返して再び雪だるま達に視線を戻す。
「それじゃ、反撃といくわよ」
「はい!」
 あまり高く飛びすぎても、今度はこちらの攻撃が当たり難くなる。ベアータは絶妙な距離を取りながら、約束した通り行き過ぎた速度を出さぬように注意して雪玉を避けた。
「今だよ、メルト」
 雪だるま達が狙いやすい位置に固まったのを見てベアータがメルトに合図を出すと、メルトが自身の周囲に火の玉を出現させる。
「できたてホヤホヤアッチッチ、ですよ! くらえー、なのです!」
 メルトのサイキックエナジーによって作り出された、超高温の火の玉が雪だるま達に容赦なく降り注ぐ。撃ち漏らした雪だるまには、ベアータが口内機構から発射した炎弾でカバーしていく。
「アンタの炎のお陰であったかいわ」
「ふふ、そうですか? じゃあもっともーっとあったかくしちゃいますっ」
「よし、このまま全部融かしてやりましょ」
 二人の息の合ったコンビネーションは次々と雪だるま達を倒し、周囲にいた剣客雪だるまは二人によって一掃された。
「あ、これが雪の結晶でしょうか」
 地上に戻ったメルトが、きらきらと輝く結晶を手にしてベアータに見せる。
「あの炎でも融けなかったのなら、そうかもね」
 折角だし拾っておこうかと、二人で雪の結晶を拾い集めるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ

寒い(身震い)
痩身に沁みるから冬は苦手です
いや夏も苦手ですけど
呪瘡包帯? これ意外と防寒にならないので……

炎(属性攻撃)を纏ったオーラで躰を温めつつ
霊障で雪を飛ばして炎で溶かして足場も確保
此処で風邪をひく訳にはいかないんですよ
雑談、いや定期健診の時に先生に怒られてしまう
あの人煩いし過保護だし……
まぁ怪奇人間が故に薬でも治らない業病を患ってるので仕方ないんですがね
(ポケットの中のピルケース弄びつつ)

雪玉は炎と霊障で防ぎ、呼び出した影手達でも呑み込みましょう
手隙になった影手で雪だるまを捕らえて骸魂を倒します

……あぁ
薬と聞いて思い浮かぶのは、嫌な記憶ばっかりだな……
(チクリ、頚椎が痛んだ気がした)



●冬も夏も、薬も
 寒い、と一言呟いて、スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)がぶるりとその痩躯を震わせる。一面の銀世界を眺めて、スキアファールが白い息を吐く。首から下の全てを覆う呪瘡包帯は、思ったよりも防寒にはならない。
「……もっと着込んで来れば良かったでしょうか」
 しかし、あまり厚着をしてしまうと今度は動き難くなってしまう。悩んだ末に、いつもの服装に気持ち厚手の上着を羽織って来たのだ。
 それに、戦闘が始まってしまえば防寒の手段はある。しかし、それにしても――寒い。
「痩身に沁みるから冬は苦手です」
 いや、夏も苦手だけれど。夏は夏で、暑さのあまり普段からあまりない、人間でいうところの食欲が激減するのだ。
 そう考えると、一年の半分以上は自分の身体に優しくないな、とスキアファールはまた一つ白い息を零した。
 まっさらな新雪に足跡を付けながら歩くと、すぐに剣客雪だるまが行く手を阻むように現れる。
「本当に雪だるまなんですね」
 怪奇人間である自分が言えた義理ではないが、と思いつつ、スキアファールを敵だと認識して向かってくる雪だるまと交戦する為に、炎を纏ったオーラを張り巡らせた。
「はぁ、あったかい」
 戦う為の足場を作る為、霊障――ヒトガタの影を操り雪を飛ばし、炎で融かしていく。周囲から雪を遠ざけると、寒さが一層和らぐ感覚にぽつりと零す。
「此処で風邪をひく訳にはいかないんですよ」
 うっかりそんなものを引いてしまえば、定期健診の時に先生に怒られてしまう。スキアファールからすれば、定期健診というよりは雑談に近いのだけれど。
「あの人煩いし過保護だし……」
 目の下の隈をするりと撫でて、でもそれは仕方のないことかとスキアファールは思う。
「まぁ怪奇人間が故に薬でも治らない業病を患ってるので、ね」
 誰に聞かせるでもなくそう呟いて、ポケットの中のピルケースを左手で弄る。プラスチックの、硬い感触。中には一回一錠、一日二回までと定められた彼専用の薬が……無い。
「……持ち込んだ薬も消えるんです?」
 これは拙い、無いと非常に拙い。
「さっさと倒しましょう」
 元凶を倒しさえすれば、薬は戻ってくるのだ。
 スキアファールが影手を呼ぶ。それは朱殷の蓮華咲き乱れる、操り手と同じく痩せぎすの影手。彼の足元から伸びた影手が、雪だるまへと襲い掛かる。幾つもの雪だるまが泥梨へと引きずり込まれ、骸魂を抜かれていく。
 難を逃れた雪だるまが放つ雪玉を炎と霊障で防ぎ、時折それをすり抜ける雪玉は影手が呑み込んだり、スキアファールが紙一重で避けたりと攻防を繰り広げる。
 軍配が上がったのはスキアファールの方で、雪だるまは次第に姿を消していき、最後の雪だるまが泥梨に消えると影手も消えていく。
「まぁまぁ、温まりましたね」
 さて、それでは次の敵を倒せば薬が戻るのだとスキアファールが思考しながら、きらきらと輝く雪の結晶を拾い上げる。
「……あぁ」
 薬、薬か。無ければ困るけれど、脳裏に浮かんだのは嫌な記憶ばかり。
「……ッ」
 チクリ、と頸椎が痛んだ気がして、スキアファールが指先で首の後ろを撫でた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
雪か…。故郷よりも激しくないから問題はない。
防寒対策はほぼ不備はないはずだ。
しかし面白い相手だな。精霊の類だろうか?

私は露のサポートで動こう。彼女と共に行動。
お互いに背中合わせで死角をなくす。
サポートの為のUCは【影手】を使う。
(早業、高速詠唱、範囲攻撃、全力魔法、見切り)
基本は不可視の手で雪だるまの行動を封じ露が攻める。
刀の軌道を逸らしたり柄を抑えて攻撃を止めてみる。
あと捌ききれなくなった場合は行動を制限させてもらう。

雪だるまの攻撃は視認や雪上で動く音で見切り回避する。
…雪だるまがどうやって動くのかわからないが…。
もし視界が悪い場合は野生の勘や第六感を駆使して避けよう。


神坂・露
レーちゃん(f14377)と一緒。
「レーちゃんレーちゃん。この雪だるますっごく器用よ!」
って指さしたけどあきれ顔されたわ。えぇえ…。
うーん。…あの腕で武器もつの凄いと思うんだけどなぁ~。

レーちゃんのサポートで雪だるまさん達を攻撃するわ。
【銀の舞】でぱしぱしぱしし…って片づけちゃうわね。
でもでも雪の上だからあまり素早く動けないかしら?
「あ。レーちゃん、『手』かして~♪」
レーちゃんが創った見えない手を足場にして攻めてみるわ。
動いて暑くなったら装束を脱いで身軽になっちゃうわ。
これならなんとか雪の上を駆けられ…そうかしら。
「うあ。…やっぱり動かないと寒いわ!」
終了して冷えたらレーちゃんに抱き着く。



●雪だるまさん、こちら
 見渡すかぎりに広がる、雪、雪、雪。
 けれど、シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)にとっては故郷に比べれば大した事の無い、見慣れた風景。
 そんな彼女だからこそ、防寒対策にも抜かりはない。そしてシビラの隣で、剣客雪だるまを見てはしゃいでいるのは神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)だ。
「レーちゃん、レーちゃん。あの雪だるま、すっごく器用よ!」
 見てみて! と露が指さした先には、どうやって刀を持っているのかわからない雪だるま達。器用だとかそういう次元を超えている気もするけれど、露からすればあの枝を刺しただけのように見える腕で武器を持つのは、どう考えても凄いのだ。
「露……」
 呆れ顔で露を見るものの、シビラとてあの雪だるまに興味がないわけではない。
「精霊の類だろうか?」
「うーん、ジャックフロストの一種かしら?」
 ああ、なるほど。それなら納得もできるとシビラが頷き、近付いてくる雪だるまを見る。
「どうやらお喋りは終いのようだ」
「あら残念! でも早く倒さないと寒いばかりだものね」
 ふふ、と微笑んで露が一歩前に出た。
「レーちゃん、サポートはお願いね!」
「任された」
 露と背中を合わせになって死角をなくすと、シビラが魔力を練り上げる。
「Lasă orice……」
 シビラが影手と呼ぶそれは、魔力で造り上げた見えない素手。それは雪だるまの行動を制し、露の動きを助けた。
「さあ、ぱしぱしぱししっと片付けちゃうわね」
 手にしたダガーとクレスケンスルーナを構え、それからふっと考える。
「どうした?」
「あ、レーちゃん! 『手』かして~♪」
 雪の上では素早く動けないかもしれない、ならば、と露がシビラにねだった。
 その言葉に彼女の意図を察し、シビラが見えざる手を露が動く範囲に造り上げる。それを足場にし、露が駆けた。
「ほら! 次はこっち! こっちよ!」
 銀色の風のように、手にした武器で目に見えない速さで次々と倒していく。露の動きを阻害しようと、雪だるまが雪玉をこぞって投げ付けるが、それはシビラの影手によって防がれる。
 息の合った連携で雪だるまを倒していると、露がシビラの元へ戻ってきて一言叫んだ。
「あつーい!」
「大分動いたからな」
「脱ぐわ」
 身軽になった方が露の動きは更に速くなると知っているシビラは、特にその行動を止めもせず雪だるまがこちらに向かってこないように影手で牽制し続ける。
「うん♪ これなら動きやすいわ」
 影手の助けがなくても、雪の上を駆けられそうだと露が微笑む。とん、と爪先で地を蹴って、再び駆け出す。先程よりも速度を増した露の動きに、雪だるま達が翻弄されてバタバタと倒れていく。
 シビラはその速さにも後れを取ることなく、雪だるま達の刀の軌道を逸らしたり、柄を抑え込んだりと集中力を切らすことなく露のサポートに務めた。
「しかし……あの雪だるま達、どうやって動いているんだ?」
 足はない、確かにないのだが、滑らかな動きで移動する雪だるまに向かって、シビラがぽつりと零す。
「雪の上を滑っているんじゃないかしら?」
「雪がない場所ではどうするんだ」
「……わかんないわ!」
 不思議ね! と笑った露が最後の雪だるまを斬り伏せてシビラの元へ戻った。
「うあ……やっぱり動かないと寒いわ!」
 シビラが服を着ろ、と言う前に露がぎゅうっと抱き着く。
「ふふ、寒い時は人肌よ、レーちゃん♪」
「私は寒くないんだが……」
 仕方ない、と露を引っ付けたまま彼女の衣服を拾い、シビラがその肩に掛けてやる。
「ありがとう、レーちゃん! あら? これって……」
 露が衣服についていた、きらりと光る何かを手に取った。
「雪の結晶かしら?」
「ああ、そういえば倒すと何か落とすと言っていたな」
 よく見れば、雪だるまを倒した場所に幾つも落ちているのが見えて、服を着こんだ露がシビラの手を取って引っ張る。
「まだあるわ、拾いにいきましょう!」
「わかった、わかったから……」
 引っ張るなという言葉は雪に消え、シビラは露に引っ張られるままに雪の結晶を集めるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルデルク・イドルド
ディルク(f27280)と

雪だるま…ってスノーマンだよな。
一気に気温が下がったがとりあえず戦ってたら体も温まってくるだろうからディルクはいつも通り戦ってくれ。
援護は俺に任せておきな。

UC【海神の弓矢】
雪玉を撃ち抜け。超えられるならさらにその向こうの敵まで突き刺され。
ディルクを狙う敵にはすかさずコインで攻撃。
ハッ、ディルには当てさせねぇ。
俺の周りはキルケの魔法【多重詠唱】でガード。

人魚の霊薬ねぇ。確かに偉い人とかが好みそうな品だな。…俺としては今ある限りを生きれりゃあそれでいいと思うがな。


ディルク・ドライツェーン
アル(f26179)と

おおー、なんかすっごい変な敵だな
まんまるで白くて冷たいとか面白いぞ!
すのーまん…っていうのか?
ん、オレは寒いの平気だぞっ
アルはあんま近づかないようにしててくれよな!

敵のUCを野生の勘で躱しつつ
UC【鬼神の破壊欲】で
右手に力を集中して近くにいる雪だるまを纏めてぶっ飛ばすぞ
(味方には攻撃しない)
怪力と鎧砕きで雪の身体を貫いてやる
オレの隙は動物使いでアインに任せる
アルと一緒にサポートよろしくなっ
アルが怪我しそうなら庇いにいくぞ!

れいやく…って薬のことか?
オレあんま薬好きじゃねぇんだよなぁ…
ま、アルが欲しい薬があるなら手に入れないとな!



●スノーマン、すのーまん!
「これはまた、随分とデタラメな世界だな」
 アルデルク・イドルド(海賊商人・f26179)が、目の前に広がる銀世界に目を細める。話には聞いていたカクリヨファンタズム、しかし百聞は一見に如かずとはよく言ったもので、ここまで法則性のない世界だとは。毎日が滅びの危機というのは、相当スリリングだ。
「何か一つの概念が消えただけで滅ぶって、確かにヤバいな」
 そして、その一端が。
「おおー、なんかすっごい変な敵だな。まんまるで白くて冷たいとか面白いぞ!」
 アルデルクと、ディルク・ドライツェーン(琥珀の鬼神・f27280)の前方にいた。
「雪だるま……ってスノーマンだよな」
 可愛らしい見た目なのに、やたらと勇ましい恰好をしたスノーマン。色々なオブリビオンがいるのは知っているが、スノーマンとはな、とアルデルクが小さく笑う。
「すのーまん……っていうのか?」
「ああ。雪だるま、スノーマン、呼び方は国や世界によって違うだろうけどな」
 面白い敵だ、と楽しそうにしているディルクを眺め、またこちらに向かって来ている雪だるまに視線を戻す。
「一気に気温が下がったが、いけるか?」
「ん、オレは寒いの平気だぞっ」
 寒さで動きが鈍る者もいるだろうが、ディルクには特に影響もなさそうだとアルデルクは判断する。
「とりあえず戦ってたら身体も温まってくるだろうから、ディルクはいつも通りに戦ってくれ」
「任せろっ」
 ディルクがアルデルクを庇うように一歩前に出ると、銀色の毛並みを持つ狼、アインに声を掛けた。
「アイン、頼むぞ!」
 主の声にアインが短く吠えて応える。後ろからその背中を見つめ、アルデルクがクリーピングコインを片手で操る。
「援護は俺に任せておきな」
「へへ、任せた! アルはあんま近付かないようにしててくれよな!」
 今から大暴れするのだ、万が一にもアルデルクに被害がいかぬようにディルクが念を押す。
「わかってるよ。そら、行ってこい!」
 応! と吼えてディルクがアインと共に雪原を駆けた。
「纏めてぶっ飛ばしてやるぜっ!」
 ディルクの右手の甲にあるメガリスが、ぽうっと光を放ち破壊のオーラがディルクの拳を包む。正面突破とばかりに雪だるまに向かい合い、その右手を放つ――!
「いい暴れっぷりだな」
 ディルクの戦う姿は、アルデルクが普段知っているディルクとはまた違って、猛々しくも雄々しい。それを後ろから見るのは悪くないと笑って、アルデルクが雪だるま達がディルクに向かって放つ雪玉を海神の加護が宿った魔法の矢で打ち砕く。
「そのまま、向こうの敵まで……!」
 精神を集中させ、その奥にいる雪だるまを貫いた。
 背後からの援護に、ディルクの口元に笑みが浮かぶ。アルデルクと戦うのは、楽しくて嬉しい。自分は彼の護衛なのだから、守るのは当然だけれど、アルデルクはただ守られているだけの男ではない。怪我をしないように自分の後ろにいてくれた上で、ディルクのことを助けてくれるのだ。
 それだけで胸が熱くなって、ディルクが近付いてきた雪だるまを豪快にぶっ飛ばす。
「そら、もっと掛かってこい!」
 絶好調だ! と思いながら、ディルクがアインを従えて縦横無尽に駆け回り、雪だるまを倒していく。
「あいつ、寒いくらいが調子いいのか? っと! ハッ、ディルには当てさせねぇ」
 ディルクに襲い掛かろうとしていた雪だるまをクリーピングコインで弾き飛ばし、アルデルクが駆け回るディルクとアインを眺めた。
「……なんだっけか、なんかそんな歌があったような」
 ディルクは喜び庭駆け回り……と考えたところで、最後の一体を倒したディルクが何かを拾い集めながら戻ってくる。
「アル、これ!」
 拾い集めたそれは、雪の結晶。手の平一杯に集めたものを、ディルクがアルデルクに差し出した。
「ああ、これも薬の材料になるんだったか」
「いっぱいあるぞ!」
 皮袋にそれを仕舞い、口紐を硬く縛って懐に放り込む。
「人魚の霊薬ねぇ。確かに偉い人とかが好みそうな品だな」
 不老不死の薬なんて、今ある限りを生きられるのならそれでいいと思うアルデルクには、いまいちピンとこない。
「れいやく……って薬のことか? オレあんま薬好きじゃねぇんだよなぁ……」
 苦くて不味いし、とディルクが眉を顰める。
「でも、アルが欲しい薬があるなら手に入れないとな!」
 欲しい薬ねぇ、とアルデルクが胸の内で呟いて、屈託なく笑うディルクを見る。
「ディルクでも飲める、甘い薬があればいいな?」
 そう言って、アルデルクが唇の端を持ち上げて笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
おォ寒ィ。俺ぁ寒いの平気だがね。ここだけのハナシ、俺はてめぇらみてェな雪の塊はニガテなのさ。雪って虫も食わねえし、火が使える“俺”はあんま居ねえもんでな。取れる手が少ねえんだ。
だから似た手になるんを赦してくれよぅ。夜明けの光に焼け解けてくれ。来いシャヘル、奴らを踏み解かせ。氷の刃は溶かして轢き砕け。
そォいや水着の季節だっけなぁ。海は好きだが燦燦日光はニガテなんだよ。その期間だけこっちに逃げ込んでよォかねぇ、ひひ。



●雪を解かすは黎明の
「おォ寒ィ」
 全く難儀な世界だねえ、と呟いて、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)がひひ、と笑う。
「どんなに難儀な世界でも、命が消えるのはいけねえよ」
 白銀の世界を前にして、剣客雪だるまを前にして、逢真がそう言った。
 概念が一つ消えてしまえば、それだけで滅んでしまう世界。脆くも愛しい、そんな世界を救う為に、どうやって持っているのかわからない刀を持った雪だるまに向かって、逢真が話を続ける。
「俺ぁ寒いのは平気だがね」
 雪だるまが逢真を囲んでも、彼はその皮肉めいた笑みを浮かべたまま、雪だるまに向けて喋る。
「ここだけのハナシ、俺はてめぇらみてェな雪の塊はニガテなのさ」
 雪は逢真が使い魔とする虫でも食べない、そうとなれば自分で何とかせねばならなくなるのだが、火が使える“自分”はあんまり居ないときたもんだ。
 だからさ、と逢真が低い声で言う。
「似た手になるんを赦してくれよぅ」
 既に一度、この種とは戦っている。毎日滅びの危機を迎えているのだ、同じ種が敵として現れるのはさして珍しいことではない。それだけ同じ種の骸魂がいるのだと思うと、幽世に辿り着けず死んだ妖怪は多くいるのだろう。
 取れる手が少なくて悪いな、なんて呟いて、迫る刀を前に逢真が告げる。
「夜明けの光に焼け解けてくれ」
 とんっと後ろに下がり、それを喚ぶ。
「来いシャヘル、奴らを踏み解かせ」
 逢真の背よりも倍近くある焔馬が二頭、天翔る戦車を引いて逢真の召喚に応えて姿を現す。ひらりと戦車に飛び乗ると、焔馬が高く嘶いた。
 焔馬の蹄は逢真を狙った雪だるまを踏み、その存在を解かしていく。その焔は氷の刃を融かし、慈悲深き無慈悲な車輪が踏み砕く。
「シャヘル」
 短い言葉に曙光の馬車が応える。空を駆け、主の思うままに雪だるまの群れに突進する。白銀の世界に夜明けの眩い光を運ぶ天翔る戦車は、逢真の周囲にいた雪だるまの全てを解かし、引き潰したのだった。
「やれやれ、可哀想なことをしちまったかねぇ」
 それでも、骸玉が抜けた雪だるまはやがて再生するのだろう。難儀だが、逞しい世界ともいえるなと、逢真がゆっくりと晴れていく空を見上げる。
「そォいや水着の季節だっけなぁ」
 夏、というやつだ。
「俺ぁ海は好きだが燦燦日光はニガテなんだよ」
 こんな病弱色白が日光なんか浴びたら倒れちまう、なんて言いながら足元に落ちている雪の欠片を拾う。
「その期間だけでも、こっちに逃げ込んでよォかねぇ、っひひ」
 ああ、でも。
 燦々日光と、毎日のカタストロフ。どっちがマシなのだろうかと、ちょっと真顔になって考えるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セプリオギナ・ユーラス
薬がない世界。満足な治療が行えずに病を悪化させるばかりの世界。聞くだに忌々しい。
可能な限り迅速に始末をつけなければならない。患者がそこにいるのだから。

全く苛立たしく、腹立たしい。可能ならば今この世界の全ての患者の元へ駆けつけたいが現実的でなくしかも対症療法にすぎない。もっと手っ取り早い対処法がある。そう、目の前の雪だるまを片付け、元凶であるという人魚を世界から切除することだ。
グリモア猟兵への申し訳ばかりにマフラーをまいた白衣の男は、眉間に深く皺を刻みながら、全ての感情を塗り込めて
──◆正六面体

姿を変じ、
「手術器具にも色々ございまして」
……患部を焼くためのレーザー、なんていうものもあるのですよ。



●診療を始めます
 カクリヨファンタズムの世界に足を踏み入れたセプリオギナ・ユーラス(賽は投げられた・f25430)は、一面の白さに目を細めた。
 それから辺りを見回して、倒れている者がいないか確認する。
「全く、薬がない世界とはな」
 満足な治療も行えず、病は悪化し、やがてそれは他者にも伝染する。医療に従事する者としては、なんとも忌々しい世界。だから自分が来たのだと、前方に集団で見える剣客雪だるまを睨み付けた。
「あれが雪だるま、か」
 本当ならば、この場は他の猟兵に任せてしまって、今この世界の全ての患者の元へ駆けつけたいというのがセプリオギナの本音だ。しかしそれは、如何にセプリオギナが優れた医者であったとしても現実的ではないし、対症療法でしかない。
 故に彼は、もっと現実的な、そして手っ取り早い対処法を選ぶ。
 そう、今のセプリオギナにできることはあの雪だるまの群れを片付け、元凶である人魚を切除し、薬という概念を取り戻すことだ。
「可能な限り、迅速に始末をつける――」
 ブラックタールであるこの身は特に寒さを感じないけれど、申し訳程度に首に掛けてきたマフラーを落とさぬようにしっかりと巻き付ける。
 それから、こちらを認識して向かってくる雪だるまに向かって、眉間に寄せた皺を隠しもせず黒い手袋に覆われた指先で眼鏡のブリッジを押し上げると、冷ややかに告げた。
「治療を妨害するなら、お前も“処置”の対象だ」
 セプリオギナの人としての形が、瞬時にして漆黒の正六面体に変ずる。顔程の大きさのそれは、くるくると回転するとぴたりと動きを止め――。
「手術器具にも色々ございまして」
 セプリオギナの声が、響く。
 そして。
 雪だるま達に向け、正六面体からレーザーが発射される。それは縦横無尽に雪だるま達を焼き切る、レーザーメスそのもの。くるり、くるりと宙に浮いた正六面体が雪だるま達が放つ雪玉を避け、雪だるまの身を真っ二つに割かんとするレーザー光を照射し続けた。
「一つ目の処置、終了でございます」
 自分の周囲にいた雪だるま達を残らず片付けたセプリオギナが、青年の姿に戻る。片付け残しはないかと見渡した場所に、きらりと光る物を見つけて腰を落とす。
「……ああ、これが」
 薬の材料になると言っていた、雪の結晶なのだろう。雪の結晶はどれ一つ同じ形がないというのは本当のようで、拾い集めたそれは似たような形をしているが細部が違っている。
「魂の形なのかもしれないな」
 セプリオギナは無造作にそれを白衣のポケットに仕舞って、ただ元凶が現れるのを待った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ
寒いなんて言うと思ったかい?
残念!涼しい!なぜなら上着を着てきたからさ
ちょいと鼻水垂れるけど
ズビビ

意外と薄着だって?
そりゃ戦いの場で着膨れするほど着込むわけにはいかないからね
一番重要な仕込みは体の中に
芯からホカホカにあったまる霊薬を食らってあんのさ
効能は、血行促進、冷え防止、筋力増強、霊力増々
これで北国の美味い酒もありゃ完璧だったんだけどなぁ

しかしまさか真夏にホンモノの雪だるまに会えるとは思ってなかったよ
何で刀持ってんのか分かんないけど
…中にサムライでも仕込んでるのかい?
雪合戦の雪玉に石コロを仕込む外道みたいな真似だね
信じらんない

僕は僕でどう抜くのか分からないほど長い妖刀を抜き
いざ尋常に、成敗



●あなたのまちの薬屋さんと雪だるま
 ほんとに一面雪だね、とロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)が周囲を見渡す。遠くには噂の剣客雪だるまも見えていて、なるほどあれがと頷いた。
「しかしまさか、真夏にホンモノの雪だるまに会えるとは思ってなかったよ」
 巷では水着コンテストなるものが開催される程には夏なのだ、本来ならあり得ないもの。しかしそれがまかり通るのがカクリヨファンタズムなのだから、なんともデタラメな世界だ。
 そんなことを考えながら雪だるまに向かって歩いていたら、あっという間に剣客雪だるまに囲まれた。
『貴様も寒さに蹲るのだ!』
『凍えよ! 病に罹ってしまえ』
 口々にそんなことを言う雪だるま達に向かって、
「寒いなんて言うと思ったかい? 残念! 涼しい! なぜなら上着を着てきたからさ」
 と、ロカジが笑い飛ばす。ほんの少し鼻水が垂れていたけど、それは見ないふりだ。
 ずび、と鼻を啜ってはいるが、彼が薄着なのには理由がある。まず、これから戦うというのに着膨れするほど着込む余裕はない。勿論、戦い方によっては着込んでいても問題のない者もいるだろうが、ロカジの獲物はちょっとばかり……かなり長い妖刀だ。
 そして、一番重要な仕込みは既に済んでいる。こちらの世界に来る前に飲んだ霊薬、薬の効果がこっちで切れてしまったらどうしようかと思ったけれど、既に効能を発揮しているものは薬とはみなされなかったようだ。
「こちとら、既に芯からホカホカにあったまってんのさ」
 まぁちょっと苦いけど、効能は以下の通り。
 血行促進、冷え防止、筋力増強、霊力増々、お買い求めはエレル製薬までどうぞ!
「これで北国の美味い酒もありゃ完璧だったんだけどなぁ」
 雪だるまにそれを求めるのは酷ってもんかい? とロカジが笑ってみせた。
『己! ならばここで倒してくれる!』
 応、応、応、と雪だるま達が背負っていた刀を抜いて、ロカジにその切っ先を向ける。
「今どうやって刀抜いたんだい? そもそも雪だるまが刀って」
『斬る!』
 振り下ろされた切っ先を軽々避けてそのまま後ろへ下がり、もう一度まじまじと雪だるまを見る。
「……中にサムライでも仕込んでるのかい?」
 なんで刀持ってんの? という謎は、妖怪ならばそういうこともあるかもしれないとロカジが変な納得を見せ、でもさぁと一息おいて。
「それって雪合戦の雪玉に石コロを仕込む外道みたいな真似だね、信じらんない」
 危ないよ? と言うと、ロカジはロカジでどう抜くのか分からないほどに長い妖刀をさらりと抜いて、構える。
「では、いざ尋常に」
 成敗――!
 鮮やかなまでの足捌きと、的確に相手を真っ二つにするその剣技。そしてすぐさま雪だるま達の剣が届くよりも遠く距離を取る、足の速さ。雪を蹴散らし、雪だるま達を斬り伏せて、あっという間に自分の周囲にいた雪だるま達がいなくなった。
「いい運動になったねぇ、っと」
 足先でこつんと蹴った何かを拾い上げ、検分する。
「これが雪の結晶かい?」
 薬の材料になるというそれは倒した分だけそこら中に散らばっていて、ひとつひとつ拾い上げるとそれなりの数になった。
 それを全て拾い集め、適当な袋に詰めて懐に仕舞いこむ。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……ああ、人魚だったね」
 なんて呟いて、彼はその時を待つ――。

成功 🔵​🔵​🔴​

兎乃・零時

…忘却…か…水葬の街で一度人魚には会ってんだよな
此奴も忘歌歌う人魚なのかな?

秘薬は…友達に人魚いるしうーんとなるんだよな…

まぁ
どのみち普通の薬は無ぇと治療とか出来ねぇし
全力でやったるさ!


…なんであの雪だるま剣使うの!

だ、だが雪の結晶が必要なんだやっtぎゃぁ!?

…えぇい!
そっちが何使おうが、知った事!

―――パル!【援護射撃】!

UC使って透明に!そうして雪…もとい【闇に紛れる】!
攻撃当たろうが
服にある【氷結耐性×激痛耐性】と【気合い】で凌ぐ!

そっから魔力放射し【ジャンプ】し一瞬【空中浮遊】
上空から光【魔力溜め×属性攻撃×全力魔法×なぎ払い】!

極大光線《オーバーレイ》を、横一文字にぶっぱなす!!



●紙兎と雪だるま
「忘却、か……」
 白く染まった世界を前に、兎乃・零時(そして少年は断崖を駆けあがる・f00283)が呟く。以前に訪れたことのあるダークセイヴァーの地でも、忘却を唄う人魚が居たけれど――。
「此奴も忘歌を歌う人魚なのかな?」
 世界も違うし、そもそもあの敵は妖怪ではなかったけれど、人魚という種として同じ要素を持っているのかもしれないな、と零時は思う。
「でも、人魚って言っても色んなのいるしな……」
 洋風の人魚もいれば、和風の人魚もいるし、何より零時の友達にだって人魚はいるのだ。それを思うと、人魚の秘薬については、うーん、と唸らざるを得ない。もしも友達がそんなことで、薬の材料として迫害されていたら――。
「許せるわけねぇもんな」
 それは例え見知らぬ人魚であっても同じことだ。零時はきっと、それに対して怒るだろう。
「ま、実際に会ってみなきゃわかんねぇよな」
 元凶である人魚を倒さなければ、この世界は滅んでしまうのだから。
「どのみち普通の薬は無ぇと治療とか出来ねぇし」
 全力でやったるさ! と前を向く、と。
「あ」
 剣客雪だるまと目が合った。
『斬る!』
 問答無用、とばかりに剣客雪だるまが背負っていた刀を抜く。
「えっ今どうやって抜いたんだ!? いや、それより……なんで雪だるまなのに剣使うの!」
 零時が真っ当な謎を口にしながら、全力で体勢を整える為に走る。そして雪だるまがそれを追い掛ける――!
「剣を持った雪だるまと鬼ごっことか、聞いてねぇぞ! くっそー!」
 頭に被った大きな魔法帽子を片手で押さえながら、紙兎のパルを呼ぶ。
「そっちがどう出てこようと、知った事! ――パル!」
 刀を使おうが何を使おうが、自分がやることは一つだ。自立型全自動防衛式神である紙兎のパルが、主を助けるように雪だるまに向かって魔力による射撃を行う。その隙に零時が精神を集中し、魔力を回す。
 それは零時を透明に変化させる術、改良型クリスタライズと呼ぶもの。自身が装備しているものごと透過し、雪だるま達の隙を狙い魔力放射による力で空中へと浮き上がった。
「いっくぜーー!!」
 溜めた魔力に光の属性を乗せ、零時が持ち得る最大の魔法を行使する!
「極大光線《オーバーレイ》!」
 手にした藍玉の杖を横一文字に薙ぎ払うように振るえば、その軌跡をなぞるように雪だるまも横一文字に薙ぎ払われていく。打ち漏らした雪だるまは、パルの援護と零時の魔法攻撃のコンビネーションで確実に仕留め、零時が透過を解く頃には一体も残らず雪だるまは崩れ落ちていた。
「ふー、一丁上がりってな!」
 いい汗掻いたぜ、と額の汗を拭っていると、パルが器用に何かを持って零時の顔の前を飛び跳ねる。
「ん? 何だ……これって雪の結晶じゃねぇの!?」
 親指の爪程の大きさのそれは、よく見れば辺りに散らばっている。慌ててパルと一緒に拾い集め、ポケットの中へ詰め込んで――。
「これでよしっと……っくしゅ!」
 小さく一つ、くしゃみをした。
「……風邪引かないように気ぃ付けないとだな」
 誰に言うでもなく呟いた言葉は、真白の雪へ融けていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

雨野・雲珠
【鏑木邸4】◎

『カクリヨファンタズムで薬の製法及び素材入手の旅』に
ご参加いただきまして、誠にありがとうございま―――へっくし!
…冬服引っ張りだしてきて正解でした。結構寒い。

折角かわいい雪だるまですのに…
あ、なんか物騒なこと言ってる!
雪だるまにされてしまう!

避難所として【六乃宮】で
かまくら(素材不明)(七輪付き)を作っておきましょう。
凍っちゃいそうで心配だったシャララさんではなく
何故か鏑木さんが入ってますがそれはそれで!

【枝絡み】をわさわさ重ねて簡易防壁にしつつ合戦参加。
(石や手裏剣と聞いて)
そ…それはお止め技では…!?
は、そうでした。倒さねばいけないんでした。
ならば仕方ありません…お覚悟!


ヨシュカ・グナイゼナウ
【鏑木邸一行:4】

ツアー(仮)のごあいさつにはパチパチと
それにしても寒いですね、夏に毛皮を纏う日が来るとは思いませんでした
む、雪だるまさんたち、可愛くないこと言ってますね

かまくらを作って頂いたので、中に水筒も置いておきましょう。温かい紅茶が入ってます
あ、鏑木さまが既にお篭りに


雲珠さま、雲珠さま。雪玉の中に石入れましょう
手裏剣もありますよ!
夕時雨さま、それは良い案ですね!とんがったのとか良いと思います
火山の石?なんだか凄そうなのでください(かまくらを覗く)

さて!雪合戦と参りましょう
そして飛び交う雪玉の影を死角にとって千本を【早業】で放ち【串刺し】に

ややや、なんだか良い匂いが


夕時雨・沙羅羅
【鏑木邸一行:4】


わー、ぱちぱち
うずさんの口上は今日も好調…でもなかった
うん、寒い
水で出来た僕は正に氷が張りそう
これくらいじゃ薄氷程度だが
見た目だけでも違うだろうし、厚着しとくか
ゆきだるま…かわいさを見出すには虚無的な邪悪さが強いような

ゆきがっせん
あんまり雪に馴染みが無いが、雪は丸めて投げるものなのか
かまくらなるものも興味深い、まるい
よしゅかさん、氷ならいくらでも作れる、それも入れて良い?
とんがり推奨、ならば鋭利に

結局は倒すわけだから、雪玉に限らなくて良いのか
雫の水球や革命剣・唄の氷刃もひょいひょいと
あ、きらきらしたのが落ちた
あれが雪の結晶、きれい

良い匂いがしてきた
早く終わらせよう、一斉射撃


鏑木・寥
【鏑木邸一行:4】

無表情でぱちぱちぱち
もこもこ姿で登場
あーーー…寒い、どことなく眠気が
雪だるまなんてまた作ってやりゃいいだろ、壊せ壊せ

しかし薬を見に来たって言うのにどうしてこう…
少年、かまくら借りるぞ
もう駄目だ、おっさんには堪える寒さだ
後は若いもん(歳が1でも離れてれば若いもんだ)に任せよう
紅茶美味い

なんか物騒な雪合戦やってるなあ……
少年たち、俺の持ってきた箱の中にも適当に尖ったものあったら使っていいぞ
火山で取ってきた石とか効かねえかな
一応煙管は構えてるけど……雪だるまに煙って効くのか?

――さて、俺は若いもんが戻ってきたときの為に餅でも焼いといてやるか
ご要望のずんだも用意してきた
七輪七輪と



●カクリヨファンタズム慰安旅行ご一行様
 白銀が広がる世界の中で、ぴっと背筋を伸ばし、雨野・雲珠(慚愧・f22865)が共にやって来た三人に向かって、こほんと咳払いを一つ。そして、きりっとした表情でこう言った。
「カクリヨファンタズムで薬の製法及び素材入手の旅にご参加いただきまして、誠にありがとうございます」
 ぺこりと頭を下げた雲珠に、パチパチとまばらに拍手が飛ぶ。ひとりは目をきらきらと輝かせ、ひとりは楽し気に口を開いて、ひとりは無表情のまま。個性的なメンバーを前に、雲珠が口上を続ける。
「まずはあちらの方に見えます、剣客雪だるまを――へっくし!」
 ぶるり、と身体を震わせて雲珠が出掛かった洟を啜る。
「……冬服を引っ張り出してきて正解でした」
 結構寒い、という言葉にヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)が頷く。
「わたしも夏に毛皮を纏う日が来るとは思いませんでした」
「うずさんの口上は今日も好調……でもなかった。僕も寒い」
 水で出来た夕時雨・沙羅羅(あめだまり・f21090)には、まさに薄氷が張ってしまいそうなほどだけれど、沙羅羅の身体は水のままだ。見た目だけでもと厚着をしてきたのだけど、正解だったようだ。
「あーー……寒い……」
 これでもかというほど、もこもこの厚着をした鏑木・寥(しあわせの売人・f22508)は眠たそうに目を細めている。うっかりすると冬眠してしまいそうだなとぼんやり考えているけれど、多分それは雪山で寝ると死ぬやつだ。
 遠目に見える雪だるまはどんどんこちらに近付いて来ているようで、口々に何か叫んでいるのが聞こえる。
『凍れ! 凍れ!』
『風邪を引いて、病に滅びよ!』
『どいつもこいつも、雪だるまにしてやろう!』
 しっかりと聞きとめたヨシュカが、む、と金色の左瞳を細くした。
「雪だるまさんたち、可愛くないこと言ってますね」
「折角かわいい雪だるまですのに……すごく物騒なこと言ってる!」
 あんなに可愛らしいのに、と雲珠が目をパチリと見開いて雪だるまを凝視する。
「ゆきだるま……かわいさを見出すには、虚無的な邪悪さが強いような……?」
 確かに沙羅羅の言う通り、見た目は可愛らしく思えるが、よく見れば刀を背負っているし瞳も虚ろだ。
「壊せ」
 寒さの余り口数が減っている寥が、短くそう言った。
 雇い主の寥が言うのであれば、ヨシュカに否はない。金色の瞳が、鋭く光ったのを誰が見たであろうか――。
「あ、もうすぐこっちまで来ますね。ちょっと避難所作っておきます」
 雲珠が少し後ろに下がり、目を閉じる。思い描くのは白くて、堅牢で、まぁるいドーム型の。
 誰がため、君がため。雲珠がそっと目を開く。
 なんということでしょう! そこには四人入っても余裕がある広さを持った立派なかまくらが――!
「中には七輪もあります」
 いい仕事をした、と雲珠が頷くとヨシュカがすかさず持って来ていた水筒を中へ置いて雪だるま達の方へ向かう。
「うずさん、うずさん」
「はい、なんでしょうシャララさん」
「あれは何? まるくてかわいい」
 かまくらを指さした沙羅羅に、雲珠がこれは雪で出来た雪洞だと説明する。元はこの中に祭壇を設け水神を祀るものだが、今回は避難所なのでそこは割愛だ。
「なるほど、かまくら」
「寒さに耐えられなくなったら避難してください!」
 ありがとう、と頷いて、でもまだ大丈夫と沙羅羅がヨシュカが立つ場所へ向かった。
「少年、かまくら借りるぞ」
「えっ」
「もう駄目だ、おっさんには堪える寒さだ」
「あっはい! お大事になさってください……?」
 早々に雪だるまとの戦闘を放棄し、寥がかまくらへ消えていく。雲珠が迫る雪だるま達とかまくらを何度か往復して視線を揺らすが、風邪を引かれては大変ですし、と納得して戦闘準備もばっちりなヨシュカと沙羅羅が待つ方へと走った。
「お待たせしました!」
「雲珠さま、鏑木さまは?」
「えっと、かまくらに……」
 なるほど、とヨシュカが頷いて、ならば全力で迎え撃ちましょうと些か物騒な笑顔を浮かべる。
「まずは相手の出方を見たいのですが」
 刀を持った雪だるま達が、わぁわぁと声を上げて襲い掛かってくるのを見て、雲珠がお任せくださいと枝絡みを取り出した。
 それは幾重にも重なると、まるで簡易防壁のように三人と雪だるまの前に展開する。雪だるま達がその刀で斬っても、また枝を伸ばし元に戻っていくので、雪だるま達が集まって何やら相談しているのが見えた。
「ゆきだるま、お話してる」
 後ろ姿だとちょっと可愛い。
「む、作戦会議ですか」
「雪だるまも作戦会議するんですね……」
 そうこう言う内に、雪だるま達の方針が固まったのか円陣を作っていた彼らが一列に並ぶ。そして、放たれたのは沢山の雪玉。その殆どは枝の防壁で防いだが、通り抜けた物がヨシュカに被弾する。
「大丈夫ですか、ヨシュカくん!」
「はい、このくらいでは負けません。雲珠さま、夕時雨さま、反撃です! 雪 合 戦 と参りましょう!」
「ゆきがっせん」
 そうして、彼らの仁義なき雪合戦は幕を上げたのである。
 ヨシュカのミレナリオ・リフレクションにより、雪だるま達が放つ雪玉と同じようにこちらも同等の雪玉を放つ。ちなみに雪玉はせっせと雲珠と沙羅羅が握ったりもしている。
「少しでもあちらの数を減らさないと、消耗戦になりますね……」
 雪玉を握りながら雲珠が言うと、ヨシュカがとてもいい笑顔を浮かべて言った。
「雲珠さま、雲珠さま。雪玉の中に石を入れましょう、手裏剣もありますよ!」
 あまりにも曇りなき眼。瞬間的に頷きそうになったけれど、雲珠の脳裏にあなたのまちの薬屋さんの言葉が過ぎる。雪合戦の雪玉に石コロを仕込むのは外道、と。
「そ……それはお止め技では……!?」
 石コロどころではない物も入れようとしているのだが、それはそれだ。
「雲珠さま、これは遊びではありません。あれは容赦なく叩き潰す相手です!」
「は、そうでした。倒さねばいけないんでした」
 言われて気が付く、相手は倒さねば骸玉を抜いて元に戻すこともできないのだ。
「よしゅかさん、氷ならいくらでも作れる、それも入れて良い?」
「良いですね、尖っているなら尚更です」
「とんがり推奨、わかった」
 ならばより鋭利に、一撃で倒せるようにと沙羅羅が鋭利な刃物よりも殺傷力の高そうな氷を作り出す。そうして、殺意の高さを促すような中身入りの雪玉を一斉に投げた。
 殺意の塊を受けた雪だるまが、少しずつ数を減らしていく。そしてその様子を特等席から眺めていた寥はというと――。
「紅茶が美味い……」
 ヨシュカが置いていった水筒の中身を飲んでいた。
「なんか物騒な雪合戦やってるなあ……」
 俺の知っている雪合戦と違う、と思いながらも、壊せと言ったのは自分だったなと思い出す。
「まあ何だ、雪だるまなんてまた作ってやりゃいいだろ」
 それか冬になれば自然と戻ってくるもんだ、今は本来なら夏だから半年近く掛かるが。そんなことを考えながら七輪の用意をしていると、どこからか抜け出て来たのか一体の雪だるまが、かまくらの前に立っていた。
「雪合戦会場はあっちだが?」
 つい、と煙管でそちらをさせば、雪だるまもなんとなくそっちへ向く。その隙に、効くか効かないかはわからんが、と煙管から紫煙を放った。
 ぴたりと動きを止めた雪だるまが、雪合戦会場から放たれたヨシュカの千本――針のように細く鋭い暗器によって崩れ落ちる。
「大事ないですか、鏑木さま」
「ああ。丁度いい、俺の持ってきた箱の中にも適当に尖ったものがあったら使っていいぞ」
 走ってきたヨシュカにそう答えると、ヨシュカが遠慮なくと箱の中を探る。
「火山で取ってきた石とか効かねえかな」
「火山の石? なんだか凄そうなのでください」
「持ってけ持ってけ」
 ありったけを持って戻っていったヨシュカに手を振って、寥は再び七輪の準備を進めた。
 かまくらの中が温まるのも狙ってだが、何より若い彼らが戻って来た時の為だ。そうやって寥が準備をしている間にも、雪合戦会場はヒートアップの様相を見せていた。
 寥から受け取った火山の石も仕込み、ありったけを仕込んだ雪玉を雪だるま達へ全力で放つ――!
 そして雪玉の影に隠れて投げ付けられたのはヨシュカの千本、そして結局は倒すのだから雪玉に限らなくて良いのだと悟った沙羅羅の雫による水球に革命剣・唄の氷刃が雪だるま達を襲う。攻撃手段を持たぬ雲珠は只々それを見つめて、良い子は真似しないでくださいと願うのだった。
「我々の勝利です!」
「勝った、やった」
「はい……はい」
 何かを飲み込んだような雲珠に、ヨシュカがやり切った笑顔で言う。
「勝てば官軍です!」
 それを見て、雲珠はいい笑顔だな、だったらもう考えるのは止めようと頷いた。
「あ、きらきらしたのが落ちてる」
 ほら、と沙羅羅が指さした先に三人で向かうと、倒した雪だるまの数だけ雪の結晶が落ちていた。
「きれい」
 ひとつ拾い上げて、沙羅羅が言う。全部拾って来いよー、という寥の声が聞こえ、三人でせっせと拾ってかまくらへと戻る。
「いい匂いがしてる」
「やや、本当です。なんだか良い匂いが」
「……お餅ですね」
 続々と戻ってきた三人に七輪から顔を上げ、寥が箸を持っていない方の手を上げる。
「ご苦労さん。丁度いい、餅が焼けたところだ」
 ご要望のずんだも抜かりなく用意してあると、寥が見せればヨシュカの目がきらきらと輝いた。
「お手伝いします」
 雲珠がそう言って、皿と箸を用意する為に箱を開ける。沙羅羅は少し迷ってから、邪魔にならぬよう七輪を挟んだ寥の向かい側へと座った。
 すっかり準備が整って、美味しい紅茶とお餅も全員分が用意されると、誰ともなく三人が寥を見る。それをやや顔を顰めて受け止めながら、寥が口を開いた。
「……いただきます」
 それから、三人のいただきますの声が響いて――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『水底のツバキ』

POW   :    届かぬ声
【触れると一時的に言葉を忘却させる椿の花弁】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    泡沫夢幻
【触れると思い出をひとつ忘却させる泡】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    忘却の汀
【次第に自己を忘却させる歌】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠黎・飛藍です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●水の底よりいずるは忘却の
 雪だるま達がすっかりいなくなった地で、白銀の世界は一つの水の世界を作り上げる。
 融けた雪は水へと変わり、一つ所に集まり。そうして、小さな湖のようになった場所で猟兵達の前に姿を現したのは『薬』をなくした元凶である人魚――。
 湖の中央、一枚岩の上に腰掛けた人魚が問う。
『あなたたちも、人魚の血肉が欲しいの?』
 鈴を転がしたような、少女の声が響く。違うと答えたところで、もう彼女はそれを信じることはできない。憎しみの余り、そうなってしまったのだから。
『忘れてしまえばいいの、全部忘れて。この世界のことも全部全部忘れてしまえ!』
 そして滅びゆくこの世界と共に消えてしまえと、唄うように笑って人魚は猟兵達を忘却の縁へ引き摺り込む為に、とぷんとその姿を湖に躍らせた。

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 人魚はそれぞれ猟兵の前に姿を現します。人魚との戦闘については、マスターコメントの【●第二章:ボス戦『水底のツバキ』】を参照ください。
 心情路線でも、コメディ路線でも、紡ぐのは物語の主役である猟兵の皆様方です、お好きなようにプレイングをかけてくださいね。
 受付期間はMSページを参照ください、受付期間前に送られたプレイングはタイミングが悪いとお返しすることになってしまいますので、恐れ入りますがプレイング送信前に一度ご確認くださいませ。
シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
人魚は初めてみた。とても綺麗な容姿と声だったな。
もう一度声を聞いてみたいというのは贅沢だろうか。
人魚があんな態度をとるのは仕方がないことだろう。
色々と非情で酷い話が多く残っているからな。

…隣の露が無言で視線をずっと私に向けているが…。
「…わかった。わかったから、そんな目を向けるな」
あの人魚の心を少しでも癒したいと考えているのだろう。
「できる限りのことはするが結果はわからんぞ?」
最近とみに露に甘い気がする。
説得は聞いてくれないだろう。何をしようか。
「…忘れる前に茶を飲んでおきたい…いいだろうか?」
色々と考えたがいい案が出てこないから諦めた。
私が淹れた紅茶でも共に飲もう。


神坂・露
レーちゃん(f14377)と。
なんだか人魚さんの声が辛そうに聞こえたわ。
『世界も憎しみも全て消えてやり直したい』
って。そんな風に聞こえたのは気のせい?
だからだからね。レーちゃん。あのね…。
あのね。この人魚さんを癒したいわ。

えへへ♪やっぱりレーちゃんだわ♥
あたしの考えてることちゃんと通じてた♪
「うん。でも、やってみたいわ…あたし」
傷は深そうだから癒せないかもしれないけど。
してみたいの。
力だけじゃ解決しないこともあると思うし。
「あたしも飲みたいわ! レーちゃんのお茶」
忘れるんだったら飲んでからにしたいわ~♪
…あれ?何か違う気が…?
まあいいわ。人魚さん誘ってみる。
「お茶飲まない? 美味しいのよ♪」



●あなたとお茶を
 水の中へ消えた人魚の言葉に、神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)がぽつりと零す。
「なんだか人魚さんの声が辛そうに聞こえたわ」
「そうだな……人魚については色々と、非情で酷い話が多く残っているからな」
 人魚の態度も当然だと、シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)は思う。読書が趣味という彼女は、様々な世界の書物に触れている。それは童話という形の書物も例外ではない。他の世界で有名な人魚の話は、大抵悲しい結末を迎えるものが多い。それは、実際に人魚がそういう扱いを受けてきた証左でもあるのだろう。
「レーちゃん。あたしにはね、あの人魚さんが『世界も憎しみも全て消えてやり直したい』って言っているように聞こえたの」
 ただの感傷かもしれない、けれど露は自分のその感覚を無かったことにはしたくないと、シビラをじっと見つめた。
「……露」
 無言の訴えに耐え切れず、シビラが露の名を呼ぶ。それでも、露はただその大きな瞳でシビラを見つめるのみだ。こうなってしまえば、シビラは折れるしかない。諦めを滲ませた溜息と共に、もう一度シビラが唇を開く。
「……わかった。わかったから、そんな目を向けるな」
 捨てられた子犬のような、そんな眼差しだ。耐えきれる者がいるのならお目に掛かりたい、と思いながらシビラは露の言葉を待つ。
「あのね、この人魚さんを癒したいわ」
 そんなことだろうと思った、とは口には出さず、渋い表情のまま露を見る。
「できる限りのことはするが、結果はわからんぞ?」
 露の言う『癒したい』はシビラの予想が外れていなければ、攻撃を一切行わないということだ。
「うん。でも、やってみたいわ……あたし」
 攻撃の手を加えないということは、骸玉を抜くことも出来ないということ。けれど、どんなに無意味なことであったとしても、それはきっと大切なことだと露は思ったのだ。
「そうしなければ、露に後悔が残るのだろう?」
「さっすがレーちゃん、あたしのことわかってる♪」
 甘やかしすぎているとは思うけれど、仕方ない。泣く子と露には勝てないのだ。
「さて、どうするか……説得は聞いてくれないだろう」
 あの様子では、何をしてもきっと疑いの眼しか向けてこないけてこないだろうし……悩んで、考えた末にシビラが言う。
「……忘れる前に茶を飲んでおきたい……いいだろうか?」
 人魚に掛ける言葉も、自分の気持ちも、色々考えたけれどいい案は浮かばなかった。
 だったら、何を忘れるにしたって美味しいお茶を飲みたいというのがシビラの弁だ。
「素敵ね、あたしも飲みたいわ! レーちゃんのお茶」
 どうせ忘れてしまうなら、シビラの美味しいお茶を飲んでからの方がいいに決まっていると露が笑う。
「……あれ? 何か違う気が……?」
「今更だ。そら、人魚が来るぞ」
 魚が水の中を移動するかのように、湖面が揺れる。シビラの言った通り、すぐに人魚が二人の前に姿を現した。
『あなたたちも、忘却の底に沈んで?』
 ねぇ、と誘う声に、露が自分の上着を敷き布代わりに地面に敷いて、座る。武器を構える様子も見せぬ二人に、人魚が訝し気な目を向けた。
「ねえ、人魚さん。お茶飲まない? レーちゃんの淹れる紅茶は美味しいのよ♪」
「褒めても味は変わらんぞ」
 それは人魚からすれば唐突な誘いで、自分を油断させて血肉を貪ろうとしているのだろうと結論付けた。
『飲まないわ、親切を装ってわたしを殺すのでしょう?』
 そう言って薄く嗤った人魚を見て、ああ、そんな風に彼女を傷付けた者がいたのだろうと思いながら、シビラはお茶の用意を続ける。露はその優しい笑顔を一瞬曇らせたけれど、すぐに気を取り直して人魚に話し掛けた。
「あたし達も飲むわ、信じてはもらえないだろうけれど……あなたを傷付ける気はないの」
 だから、お茶を飲んだら好きにしていいわと露が微笑んだ。
 申し訳ないけれど、倒すのは他の猟兵さん達にお任せしてしまおう。ごめんなさい、と心の中で謝って、露がシビラを見る。
 呆れたような表情だったけれど、シビラの眼差しは優しい。すっかりお茶の準備を終えて、シビラがティーカップを自分達の前と、人魚の前に置いた。
『……要らないわ』
「そう? でも、本当に美味しいのよ」
 そう言って、露が紅茶に口を付ける。それは簡易的なセットで淹れたとは思えないほど、豊かな風味を露の味覚に訴えてくる。美味しい、と呟いてカップを置けば、シビラも満足気に目を細めた。
 人魚は、カップには手を付けない。油断しては殺されてしまうから。だけど、だけど――。
 悲しくて、どこか優しい歌が響く。シビラと露はどちらからともなく手を繋ぎ、目を閉じた。
 何を忘れてしまっても、きっと隣のあなたとお茶の味だけは忘れないと微笑んで。
『おかしな人達』
 でも、いたような気がする。あんな風に、微笑んでいた人。朧に霞む記憶はすぐに霧散して、人魚は水の中にとぷんと消えた。
 残ったのは、眠る二人と二枚の鱗だけだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

セプリオギナ・ユーラス
……もしそれが本当に治療の役に立つ薬の原料となり得るのなら素直に「欲しい」と言いたいところだが。どこまでが真実か疑わしいな。ましてオブリビオン化してしまったのでは。
だが貴様は妄想に取り憑かれ、病んでいる……“治療”の対象と見做す。その病変、切除してやる。

UC障害排除
(機械には失う自己もない、眠ることもない)(数に頼ればいい、一つ一つは弱くとも、確実にダメージを蓄積させていく)

……医術とは科学だ。それらは膨大な知識の上に成り立っている。一欠片たりとも忘却などするわけにはいかない。
治療の為の概念、返してもらうぞ。



●患部切除
 目の前で出来上がった湖に、本当にデタラメな世界なのだなとセプリオギナ・ユーラス(賽は投げられた・f25430)が小さく零す。そして、人魚、人魚かと暫しの間考えを巡らせた。
「……もしそれが、本当に治療の役に立つ薬の原料となり得るのなら」
 仮説として、現時点では治療が難しいと言われるような難病にすら薬効があるというのならば、セプリオギナは素直に『欲しい』と口にするだろう。けれど、どこまでが真実かはわからない。
 そう考えるならば、余りにもリスクが高い。古来より伝わる伝承によれば、人魚の血肉を口にして得られるのは不老不死の身体だ。
「老いもせず死の安寧もない、それは……」
 副作用と考えるならば人の身には辛いのではないか、とセプリオギナは思考する。ブラックタールであるセプリオギナには、どちらが幸せであるかはわからない。それでも不老不死を求め、人魚を迫害する者は多かったのだろう。そうでなければ、この世界は薬の忘却という理由で破滅を迎えようとはしていないはずだ。
 そこまで考えてから、息を一つ。
「どのみち、オブリビオン化してしまった人魚では毒にしかならんだろうな」
 人魚の血肉を受け付けず、死んでしまった者の話も少なくはない。骸玉を抜き、元の人魚に戻ったならば多少の交渉の余地はあるかもしれないが――。
「貴様はその限りではない」
 揺れた水面に向かい、セプリオギナが言い放つ。
『あなたもわたしの血肉が欲しいの?』
 嘲るような笑みを浮かべて、人魚が問う。それは先程思考したこと、欲しいか欲しくないかで言えば。
「否だ、何度も言わせるな、貴様はその限りではない」
 けれど、とセプリオギナは眼鏡の奥の瞳を鋭くして言う。
「貴様は妄想に取り憑かれ、病んでいる……“治療”の対象と見做す」
『妄想? 妄想に憑りつかれて人魚を求めたのはあなたたちだわ!』
 険しくなった人魚の表情にも怯まず、彼は言い放つ。
「その病変、切除してやる」
 患者は人魚、病巣は骸玉。ならば、それを切除するのが医者であり猟兵である彼の使命だ。
『あなたも、全部忘れてしまえばいい!』
 忘却の歌を紡ぐために、人魚の唇が震える。それよりも幾何か早く、セプリオギナが動いた。
「治療の邪魔はご遠慮願おう。治療の為の概念、返してもらうぞ」
 射殺すような視線と共に、セプリオギナを守るように小型の正六面体が現れる。その数はざっと見ただけでも三百は超えているだろうか。人魚の歌声が響くと同時に、それは人魚の姿を覆い尽くすように襲い掛かった。
 人魚の歌声が小さな悲鳴に変わるのと、機械端末である正六面体がすべて消えるのとではどちらが早かったのであろうか。大きな水音と共に人魚の姿が消え、セプリオギナが小さく息を吐いた。
「……医術とは科学だ。それらは膨大な知識の上に成り立っている。一欠片たりとも忘却などするわけにはいかない」
 少なからず人魚の歌はセプリオギナに届いていた。万が一忘れていることがあれば拙いと、セプリオギナは診療所に戻ったらメディカルチェックをしなくてはならないな、と頭の片隅で考えて、足元に光る何かを見つけて手に取った。
「……鱗」
 今までに見たこともないような色で輝く一枚の鱗、それは嘲るような笑みを浮かべた人魚の哀しみの色のようでもあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
よゥ。こんちは、お嬢さん。ここがどこかって? 見てわからねえかい。お前さんの心のなかさ。俺はいつでも、どこにでも居られるのさ。
現実は現実で時間は進んでるだろう。だが心の中ってのは現実よりずゥっと捷く進むもんだ。1夜の夢に一生を見るなんてザラさ。
なあお嬢さん、ハナシを聞かせてくれんかね。怒り・嘆きを吐き出しとくれ。お前さんがヒデェ目にあったのはお前さんのせいじゃない。きっと神様のせいさ。つまり俺のせいだ。
俺を憎み恨め。ここは夢の中。好きに嫐るがいい。《宿》は何度でも作れる。そンかわし吐き出されたこころの《病み》は、みィんな預かって返さんぜ。溜め込んだ《毒》、痛みと共にぜんぶよこしな。



●助けてと願ったならば
 緩く口角を持ち上げた、薄っすらとした笑みを浮かべて、ただじっと水面に波紋が広がるのを男は待っていた。
 まるで待ち合わせをした愛しい女を待つように。ぽちゃん、と水滴が落ちるような音と共に、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)の目の前に人魚が現れる。
「よゥ。こんちは、お嬢さん」
 待ってたぜ、と逢真が囁くように言えば、人魚は薄っすらと嗤って答える代わりに椿の花弁を放った――はずだった。
 舞い散る紅の花弁が人魚の視界を瞬き一つの間遮った後、辺りは真っ黒な世界に変化していた。胸元まである黒い水は、まるで海のように波立っている。星もない真っ黒な空、まるで世界が終わったかのような世界。
『ここは……どこ?』
「ここがどこかって? 見てわからねえかい。お前さんの心のなかさ」
 その問いに答えたのは、いつの間にか人魚の目の前にいた逢真だった。
『心の中? おかしなことを言うのね』
「おかしなことじゃないさ」
 俺はいつでも、どこにでも居られるのさ、と逢真が言って人魚との間を一歩詰める。望むときに臨む場所にいる力、それは逢真の権能の一つだ。それは心の中であっても変わらない。
『近寄らないで、誰も私に触れないで!』
 バシャン! と真っ黒な水が逢真を襲うように浴びせられる。黒い水を滴らせ、それでも逢真は人魚へと距離を詰めた。
「なあお嬢さん、ハナシを聞かせてくれんかね」
『話……? あなたと話すことなんてないわ。ああ、でも……そんなことをしている間に、世界は忘却によって滅ぶわね』
 そうなったらわたしの勝ちね、と人魚が嗤う。
「そうさな、現実は現実で時間は進んでるだろう。だが心の中ってのは、現実よりずゥっと捷く進むもんだ」
 一夜の夢で、一生を見るなんてザラだと逢真が言えば、それならばやっぱり目の前の男を忘却に沈めてしまえばいいと人魚はその指先を伸ばす。
「だから、ハナシを聞かせてくれ。お前さんの怒り、嘆きを吐き出しとくれ」
 男の言葉が余りにも意外で、人魚はその可憐な唇をはくりと震わせた。
 自分を害する為に伸ばされた指先に触れることなく、逢真はそこで立ち止まる。
「俺はお嬢さんには指一本たりとも触れねえよ」
 触ってしまえば、心の中と言えどこの身の毒が穢してしまうかもしれない。
「お前さんがヒデェ目にあったのはお前さんのせいじゃない」
『わたしを薬の材料だって言った奴らのせいだわ、人間も、それを止めようとしなかった奴も、全部!』
 真っ黒な水が、人魚の心さながらに波打つ。
「違う」
『違わない! わたしは悪くない、悪いのは、全部全部全部!』
「神様のせいさ」
 つまりは、俺のせいだと逢真は静かにそう言った。
『いないわ、神様なんて、何処にもいやしないわ!』
「でもお嬢さん、願ったことがあるだろう?」
 薬の材料だ、不老不死の妙薬だなどと言われ、人間に追われ見せ物にされ、その身全てを喰い尽くされるまでに。
「助けてくれって一度でも願ったなら、それは助けてやれなかった俺のせいだ」
『……っ!』
 人魚の顔が歪む。もう、忘れてしまったけれど。きっと願った。
 たすけて、かみさま。
『あ、あ、あああ!』
 憎んで恨んで、そうして好きに嫐れと言った男に向かって、人魚は椿の花びらを放つ。それは鋭い刃のように逢真に突き刺さった。
「いいぜ。そンかわし、吐き出されたこころの真っ黒い病みは、みィんな預かって返さんぜ」
 溜め込んだその澱みのような毒、痛みと共にぜんぶよこしな。
 ああ、それでもその憎しみも怒りも尽き果てぬ。
 椿の花びらに埋もれた男の姿が崩れ落ちると、人魚は湖の縁に居た。
 真っ黒い世界で俺を恨めと言った男は、変わらぬ姿のままで人魚の前に在った。
 唇を震わせた人魚が何を言ったかは、逢真にしかわからない。とぷんと水の中に再び消えてしまった人魚が残したのは、一枚の小さな鱗だけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メルト・プティング
ベアータ(f05212)さんと参加
忘却するのは『彼女の存在』

忘却の泡、受けてもたいしたことないですね!
なんか忘れた感じもしませんし、これはよゆ、う?

…親しげに声をかけてくるこの眼帯の人は?
ご、ごめんなさい?!ボク何も心当たりが…

ひゃぁ、敵の攻撃が続いてて、謝る暇が足りないー!
あの時計の写真、たぶんきっと本物なのでしょうけど…うう、もしそうなら申し訳無さでめっちゃつら…!

疑ってる暇はないので、とりあえず《群体作成》で分身して【念動力】で波状攻撃
今のうちにお願いします!って、え?
ちょ、ちょっとやりすぎでは?そ、それじゃまるで『凶暴な獣』じゃないですか!

ダメです…人間らしさを、忘れちゃダメですよぅ!


ベアータ・ベルトット
メルト(f00394)と

よし、一気に片付けるわよメルト。…メルト?
誰…って。な、何ふざけてんのよメルト?
嘘でしょ?アンタ、まさか私を…

攻撃を躱しつつ、懸命に呼びかける

ほら、この銀時計…!アンタがプレゼントしてくれたのよ!それにこの写真…二人でアイドルライブやったじゃない。…恥ずかしかったけどさ、アンタと一緒に踊れて私も楽しかったのよ?
…本当に、全部忘れたって言うの?

…返せ。メルトの中に、私を。紡いだ思い出達を…返せッ!!
泡と弾けて溶ける。己の中に「人間」を見出した―遠い日の記憶が。…ソウダ、私はケモノ
喰ライ尽クセ。呪ワレタ眼ヲ以テ、全テヲ!全テヲ!!


…「人間だ」と叫ぶ友の声が、聞こえた気がした



●忘れても、忘れたくない
 とぷん、と湖面が揺れる。
 その気配に鋭く反応したメルト・プティング(夢見る電脳タール・f00394)とベアータ・ベルトット(餓獣機関BB10・f05212)は即座に身を構えた。
「さっさと終わらせるわよ、メルト」
「はい、今度はボクがベアータさんのサポートです!」
 メルトが一歩下がり、ベアータが前に出る。現れた人魚が、小さく嗤った。
『あなたたちも、忘れてしまえばいいの』
 人魚の周囲に、ぽこぽことシャボン玉のような泡が浮かぶ。人魚が指先をつい、と揺らせば、それは瞬く間に二人へと襲い掛かった。
「これが忘却の泡ですか、受けてもたいしたことないですね!」
「ダメージらしいものはあまり感じないけど、油断しないでメルト」
「でも、なんか忘れた感じもしませんし、これはよゆ、う?」
 泡が二人を通り過ぎ、人魚が嗤っている顔が見えた。
 嫌な笑いだと感じながら、ベアータがメルトに促す。
「よし、一気に片付けるわよメルト。……メルト?」
 呆けたような顔をして自分を見ているメルトに、ベアータが訝し気な声を上げる。もう一度呼び掛けると、びくっと肩を震わせたメルトが申し訳なさげに口を開いた。
「あの、あなたは誰ですか……?」
「誰……って、な……っ!」
 絶句するベアータを前に、困ったようにメルトが続ける。
「ごめんなさい、ボク、あなたを知らないです」
「何ふざけてんのよメルト? 嘘でしょ? アンタ、まさか私を……?」
「ボク、本当に何も心当たりが……ボクのお知り合い……ですか?」
 親しげに話し掛けてくれる、眼帯の女の人。メルトは自分の中の記憶を探るけれど、どうしても出てこないのだ。もう一度何かを言おうとすると、人魚の泡が再び二人に襲い掛かる。
「チッ!」
 苛立ちを隠しもせず、ベアータが泡の攻撃を避けるべく動く。この泡は軽率に触れていいものではないと、メルトに向かって叫んだ。
「避けて!」
「は、はい!」
 威力自体は大したものではない、まともに喰らったとしても動けなくなるようなダメージはない。だけど、だけど! ベアータは唇を噛み締める。
「メルト! これを見て! この銀時計……アンタがプレゼントしてくれたのよ!」
 ベアータが胸元から出した銀時計をメルトへ見せる、それは蓋付の懐中時計。蓋を開け、見せた蓋の裏にはアイドルのような衣装を身に付けた二人が顔を寄せ合い笑っている写真があった。
「それにこの写真……二人でアイドルライブやったじゃない!」
 ベアータの必死の呼び掛けに、メルトの口元が困惑に歪む。覚えていない、そんな記憶はどこを探ってもないのだ。でも、彼女の必死な表情も声も、嘘だとは思えない。それに、あの時計の写真はきっと本物だ。
「あの、疑いはしていないです、していないのですが……!」
 記憶にはなくても、あんな顔をさせてしまっている事実にメルトの心が申し訳なさで悲鳴を上げる。
「このとき、恥ずかしかったけどさ、アンタと一緒に踊れて私も楽しかったのよ?」
「うう、ごめんなさい……!」
「……本当に、全部忘れたって言うの?」
 悲痛な声に、メルトが黙る。忘れていないって言ってあげたい、でも、どうしてもわからないのだ。
「あの、この件についてはあとでゆっくり、お話させてください!」
 人魚の攻撃を受ける中で、ゆっくり話をするのは無理だと判断しそう言うと、メルトは自身の分身を生み出す。そして念動力による波状攻撃を試みた。
「今のうちに、お願いします!」
「……せ」
「えっ?」
 何か言われたのだろうか、と聞き取れなかったメルトはベアータを見る。そこには、人魚の攻撃を避けることもせず、ただ人魚を射殺すような目で見据えるベアータがいた。
「あ、あの」
「……返せ。メルトの中に、私を。紡いだ思い出達を……返せッ!!」
 ベアータの中の何かが、泡と弾けて溶ける。溶けていく。あの日、己の中に獣ではなく『人間』を見出した、遠い日の記憶。それらが、音を立てて消えていく。
 立ち尽くしていたベアータが動く。その動きはまるで、獣のようで――。
「喰ライ尽クセ。呪ワレタ眼ヲ以テ、全テヲ! 全テヲ!!」
 ベアータの右眼に嵌められた特殊義眼から、獣の舌が伸ばされる。その舌が人魚の泡に触れるや否や、ベアータの周囲に人魚が出したものとそっくりそのままの泡が現れる。そしてそれは、人魚に向かって放たれた。
 そしてそれと同時に、ベアータ自身が人魚に向かって拳を振るう。
「アアアアアアア!」
 獣のような咆哮に、メルトが足を止める。
「ちょ、ちょっとやりすぎでは!? そ、それじゃまるで『凶暴な獣』じゃないですか!」
 メルトの必死の呼び掛けも、今のベアータには届かない。目の前の獲物を狩る獣のような動きに、メルトが泣きそうな声で叫んだ。
「ダメです……人間らしさを、忘れちゃダメですよぅ! あなたは、人間です!」
 掴まれた右手の温かさと、人間だと叫ぶ声に、ベアータが動きを止める。気が付けば、人魚はいつの間にか姿を消していて、残されたのは二枚の鱗。そして、何かを忘れてしまった二人だけだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ディルク・ドライツェーン
アル(f26179)と

おおっ、今度は見たことあるぞ
確か人魚ってやつだ!
ん~?アル、人魚の肉って美味いのか?
あんま美味そうじゃねぇんだけど

敵の忘却の攻撃で、昔の過去が消えるのはどうでもいいや
でもアルの事を忘れそうになったら
【野生の勘】で気づいて
オウガ刀で泡を【吹き飛ばす】

アルとの記憶だけは触れんな…
【殺気】を出しながら拳でUC使用
【怪力】で【鎧砕き】して鱗ごとぶっ飛ばす

アルが忘却しそうなら
アインと一緒に【恫喝】で大声をあげて相手の歌を妨害して【かばう】
アルの事に手を出したら許さねぇって言っただろ


アルデルク・イドルド
ディルク(f27280)と

あぁ、人魚に近い種族ならグリードオーシャンにもいるからな。
ははっ、美味か不味いかか。
美味しかったらもっと大変なことになってると思うぜ。反吐が出る話だがな。

気持ちはわからないでもないんだが。
薬はいざとなったら必要なもんだからなあんたを倒させてもらう。

UC【剣乱舞踏】

自分のことはそうだなほとんどのことは忘れても平気だろう…ディルがいるなら問題ない。
ただ、ディルの事だけはダメだ。

キルケに【多重詠唱】で歌を弾く様に魔法を展開させる…!



●守りたい記憶
 突然現れた湖に、アルデルク・イドルド(海賊商人・f26179)が不意を突かれたのか小さく笑う。
「どうしたんだ? アル」
「いや、グリードオーシャンも大概な世界だとは思っていたが、この世界もかなりイかれてると思ってな」
 この世界のオブリビオンは周辺を迷宮化する為、誰も世界の全容を把握していない。解明しようとしても、その先から迷宮化していくのではキリがないのだろう。
「アル」
「ああ」
 ディルク・ドライツェーン(琥珀の鬼神・f27280)が短くアルデルクを呼ぶ。その呼び掛けが警戒を促していると瞬時に判断し、アルデルクがディルクの後ろに下がった。
 それからすぐに、湖面が揺らいで人魚が姿を現す。
「おおっ、今度は見たことあるぞ! 確か人魚ってやつだ!」
「あぁ、人魚に近い種族ならグリードオーシャンにもいるからな」
 深海人とセイレーンがそれに近いだろうかと、目の前にいる人魚を見て思う。
『あなたたちも、人魚の血肉が欲しいの?』
 人魚の嘲笑うような問い掛けに、きょとんとした顔をしてディルクがアルデルクに問い掛ける。
「ん~? アル、人魚の肉って美味いのか? あんま美味そうじゃねぇんだけど」
 その純粋な問いに、思わずアルデルクが噴き出した。
「ははっ、美味か不味いかか。全員が全員、アルみたいな考え方ならあの人魚もこんなことにはなってなかっただろうな」
 美味しかったなら、もっと大変なことになってると思うぜ、と言ってアルデルクが表情を引き締める。
「反吐が出る話だがな」
「そっか、じゃあオレはいらないぜ、アンタの血も肉も。もっと美味いもんはいっぱいあるしな!」
 視線を外さないまま、ディルクが人魚へと言い放つ。
『そう、そうやって騙すのね。騙されないわ、あなたも、あなたも、忘れてしまえばいい!』
「あんたの気持ちはわからないでもないんだが、薬はいざとなったら必要なもんだ。あんたにとっちゃ忌まわしいものだとしても、な」
 だから、あんたを倒す。
 アルデルクがそう言うと、迷わずディルクが駆けた。
『忘れろ、忘れろ、忘れてしまえ!』
 叫ぶ人魚が淡く輝く泡を二人に向かって飛ばす。できるだけそれを避けながら、ディルクがオウガ刀を振り被った。
「別に昔の記憶が消えるのはどうでもいい」
 ぱちん、ぱちんと泡が弾ける。多少の痛みもどうってことはない。何よりもディルクが恐れるのは、アルデルクのことを忘れてしまう、ただそれだけだった。
「でもな、アルのことを忘れさせようとするのは許さない!」
 他は要らないと言う彼が、オウガ刀を勢いよく振り回し泡を吹き飛ばす。その言葉を聞きながら、アルデルクが心底敵わないというように笑みを浮かべた。
「そうだな、自分のことはほとんど忘れても平気だろう、ディルがいるなら問題ない」
 けれど、ディルクのことを忘れてしまうのだけはダメだと笑って、海を思わせる色をした魔法剣を指先一つで操り人魚へと飛ばす。
「さぁ、踊らせてやる」
 何本もの魔法剣は幾何学模様を描いて人魚を包囲し、ディルクへ触れようとする泡ごと人魚を攻撃する。
『忘れたくないのね? そう、でも、忘れてしまえばどうだってよくなるわ』
 泡沫の泡を操りながら、人魚が唇を震わせた。
 可憐な歌声が響く、それはまるでセイレーンの歌声のようにも思えて、アルデルクは咄嗟に蒼い羽根を持つオウム、キルケに命じて歌声を弾く魔法を展開させる。
「アルに手を出すんじゃねえ!」
 大声を張り上げ、人魚の歌を妨害しながらディルクが己の拳に破壊のオーラを纏わせた。
 泡と共に人魚を吹き飛ばし、慌ててアルデルクの元へ駆けつける。
「アル、大丈夫か! オレのこと、忘れてないか!?」
「落ち着けアル、大丈夫だ。忘れてないさ」
 どうどう、とディルクの背を撫で、お互いのことを忘れていないか確認すると、ディルクが良かったと小さく呟いた。
「俺も、ディルが俺のことを忘れてなくて良かったって思うぜ」
「うん……あ、人魚」
 吹き飛ばしたままだった、とディルクが湖の方を振り返れば、そこにはもう人魚の姿はなかった。
「逃がしちまった」
 そう言って自分の拳を見れば、そこには人魚の鱗が二枚張り付いている。それを指先でそっと摘まみ、アルデルクへと差し出す。
「人魚の鱗、付いてたからアルにやるよ!」
「ああ、吹っ飛ばした時に手に付いたのか」
 雪の結晶を仕舞った革袋にそれを入れ、また懐に仕舞う。
「オレ、アルのことは忘れてないけど他のこと忘れたのかな?」
「俺もディルのことは忘れてないが……」
 そうして静かになった湖面を前に顔を見合わせ、他に忘れてしまったものはないかと、お互いに確認するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

空亡・劔


wiz

あんたがこの異変の元凶ね!
薬なかったら健康優良最強大妖怪のあたしは兎も角他の妖怪が大変でしょうがっ!


って…あれ…(歌に目をくしく

眠い…けど……あたし…は…?(こてん

記憶が薄れていく…あれ…でも…何か思い出せそう…?

あたしの…これは…根源…?

人の…恐れ…恐怖…力と為して…人を…「護る」…?

(己の忘却が進んだ事で浮上する己の根源

ユベコ自動強制起動!

薬をなくす…それは人々を病魔で滅ぼす脅威

そっか…今のあんたは鎮めないと…ダメなんだ

【天候操作・属性攻撃】雪を降らし氷属性を武器に付与

氷結地獄とソラナキで【残像】を残しながら【二回攻撃】による猛攻!

あたしは空亡劔!最強の大妖怪よ!(自己を思い出す!



●忘却の果てに浮かび上がるもの
 辺りをきょろきょろと見回して、空亡・劔(本当は若い大妖怪・f28419)がすっかり変わってしまった風景に息を吐く。既に気温は息が白くなるほどではなく、日射しも元に戻ろうとしていた。
 魔剣ソラナキと魔剣二世氷結地獄の二振りを構え、いつ人魚が現れてもいいように耳を澄まして警戒する。ほどなくして、僅かな水音が聞こえ、劔はそちらに視線を向けた。
『ねえ、あなたも人魚の血肉を求めるの?』
「いらないわよ、そんなもの! それより、あんたがこの異変の元凶ね!」
 左手に持ったソラナキの切っ先を人魚に向け、劔が赤い瞳を細める。
『そうよ? 人魚を材料にした薬なんて、なくなってしまえばいい。薬なんてなければいい、そうしてみんな滅べばいいの』
「馬鹿言わないで! 薬がなかったら、健康優良最強大妖怪のあたしは兎も角他の妖怪が大変でしょうがっ!」
 それに大人しく滅びを迎える訳にはいかないのだと、劔が言葉を重ねた。
『知らないわよ、こんな世界は滅びた方が良いに決まってるわ。そうよ、あなたも全部忘れて、一緒に滅べばいい!』
 叫ぶ人魚の唇が、歌を紡ぐ為に開かれる。鈴が鳴るような澄んだ歌声はとても綺麗で、劔は一瞬だけその歌声を美しいと思ってしまった。
「う、いけない! 人魚を、倒さなく、ちゃ……」
 瞼が重い、どうして、だめ、人魚、を……そこまで考えて、劔は眠りの海に落ちようとする意識を必死に繋ぎ止める。
「眠い……けど、あたし……あたしは……」
 かくん、と劔が膝を突く。ソラナキと氷結地獄だけはなんとか握り締めているけれど、今にも体中の力が抜けてしまいそうだ。
 人魚の歌は自己の忘却を促すもの、それはまるで波打ち際のように寄せては返し、記憶を奪っていく。
「記憶、あたしの……」
 薄れていく記憶、消えていかないでと願っても、劔の記憶はどんどん薄れていくばかり。
「だめ、返して……う、あれ……? でも、何か思い出せそう……?」
 消えゆく記憶の代わりに、浮かび上がる記憶。
「記憶……違う、これは……」
 これは根源。劔を形作る、おおもとだ。
 感じるのは、人の恐れ、恐怖。そしてそれを力と為して、人を護らんとする――。
 眠りの淵にあった劔の意識が覚醒する。手放しそうだったソラナキと氷結地獄をしっかりと握り締め、劔が立ち上がる!
「我が根源……我が存在意義……魔王が在り方を我が身に示せ。我が名は空亡劔……神殺しの魔王が子なり……!」
 カッと目を見開いた劔の背に、氷の翼が顕現する。それを羽ばたかせ、劔が人魚に向かって飛んだ。
「薬をなくす、それは人々を病魔で滅ぼす脅威」
 人を護る劔からすれば、倒すべき敵。ああ、けれどそれを願うあんたの気持ちもわかるよ、と劔は思う。
 だから。
「あんたを鎮めてみせる!」
 氷結地獄を空に翳し、天候を操る。ひらひらと舞い踊る雪はソラナキと氷結地獄の刀身を覆い、人魚へと迫った。
「あたしは空亡劔! 最強の大妖怪よ!」
 完全に自己を思い出した劔の二刀による激しい剣舞は、人魚の身体を傷付けていく。
『忘れてしまえば、楽になれたものを!』
「大きなお世話よ! でも、そのおかげで思い出せたものもあった……その点だけはお礼を言うわよ!」
 そう叫ぶと、ソラナキと氷結地獄を大きく振り被り、今の劔にとって持ち得る最大限の力を人魚へと放つ。
「どうよ!」
 水際にいた人魚の身体が、湖へと吹き飛ばされる。そうしてそのまま、人魚は劔の前から姿を消した。
「逃げた……?」
 もう少しだったのに、と劔が二振りの魔剣を鞘に納めようと刀身を見る。そこには、一枚の鱗が張り付いていた。
「……綺麗ね」
 それは少し哀しい色を帯びているようだと思いながら、大事なものを扱うように劔は鱗を仕舞いこんだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

兎乃・零時
忘却の力
知っている
故に口開く瞬間理解した

それか!

忘れて眠るものかと魔力溜め気合いで耐える!

大声で
歌掻き消し
目覚める程の
覚悟を謡う!


俺は
忘れねぇ!

夢も!
初めて依頼で護れたキャルも!
覚悟示す場でフレズに言った言葉も!

全部
全部
忘れねぇ!

この世界も
当然、お前もだ!

積み重ねた今までの歩みが
俺を…俺様を形作る全てなんだ!

叫びに呼応し杖が独りでに初見の形状へ武器改造

Ⅱ型:星を泳ぐもの

…!

…だから
奪うなら!
抗う!
闘う!
全力で!

UC【リミッター解除×限界突破×砲撃×属性攻撃×全力魔法】!

魔導書から出した陣を束ね重ね詠唱を積み上げる!

(属性付与《光》×極大光線)×5!

リミテッドオーバーレイ !
極 光 一 閃!



●抗う力
「まるで、魔法みたいだ」
 雪が融け、湖になる様子をずっと見ていた兎乃・零時(そして少年は断崖を駆けあがる・f00283)は思わずそう呟く。この世界のオブリビオンは、自分の周囲を迷宮化させる力を持つと聞いている。これもその力の一種のようなものなのだろうか。
「確かに、こっちから人魚を探すのは難しそうだし……迷宮と言えなくもない……?」
 どう思う? パル、と肩に乗った紙兎に問うと、なんとなく肯定してくれているようにパルが飛び跳ねた。
「だよな! どうやってるんだろうな?」
 その原理を解き明かすことができれば、今よりもっとすごい魔法を操ることができるんじゃないかと零時が考えた時だった。
 とぷん、と水音がしたのだ。素早く藍玉の杖を構えると、そこには嫋やかに見える人魚がいた。
「ッ!」
 人魚を見た瞬間、零時は考えるよりも先に、それを知っていると理解した。同じものではない、けれど同種の力を持つオブリビオンだと。
『あなたも、人魚の血肉を求めるの?』
「……要らねぇ、俺様にそんなもんは必要ねぇ!」
『そう、そうなの。でも、そう言っていた者があとから欲しくなったって言うのよ。少しだけでいいからって。ねえ、だから――』
 忘れて? そう言った人魚の唇が、歌を紡ぐ為に震えた。
「それか!」
 同じ手は二度も食わないとばかりに零時が魔力を張り巡らせ、何かを忘れて眠ってしまわぬように、声を張り上げる。
「俺は忘れねぇ!」
 覚悟を、口にする。
「夢も!」
 あの日読んだ、一族に伝わる昔話の本に登場する最強の魔術師のようになるという、夢。
「初めて依頼で護れたキャルも!」
 命懸けで守れたあの子を前に、強くなると決めた気持ちも。
「覚悟を示す場でフレズに言った言葉も!」
 夢に至るまで、決して止まらないと誓ったことも。
「全部、全部忘れねぇ!」
 忘れてしまったら、それは自分ではなくなってしまう。兎乃零時と言う名の、抜け殻になってしまう。
「この世界のこと、それから、お前のこともだ!」
 世界を滅ぼそうとするほどの嘆きと憎しみと哀しみ、それを抱えたまま、今この瞬間に零時と相対する人魚も、全てが『今』の自分を構成しているのだから。
『知らない、知らないわ! 忘れて、忘れてしまえば全部同じことだもの!』
「違う!」
 積み重ねた今までの歩みがなければ、この場所に自分は立っていない。
「今までに話をした皆、戦ってきたもの全て、そうやって過ごしてきた時間の、想いの全てが! 俺を……俺様を形作る全てなんだ!」
 どんなに辛い思い出だって俺は忘れたくないと、零時が叫ぶ。
 それは祈りであり、願い。願う力は、彼を強くする――!
 零時の叫びに呼応するように、彼が持つ杖が独りでに形状を変えていく。初めて見るその形に、零時が目を瞬かせる。けれど、躊躇いはない。力強く、光の砲弾を放つような姿の杖を構えた。
「だから、奪うなら! 抗う! 闘う! 全力で!」
 星の海すら泳いでみせる。
「我が夢は、何れ全世界、最強最高の魔術師の頂へと至る事! 例え、その先に何が待とうとも!その悉くを超え続ける! その覚悟を此処に示す!」
 魔力量が今までの零時の限界を超えていく、肩に乗ったままのパルのサポートもあるのだろうけれど、恐らくはこの杖の力が上がっているのだと零時は膨れ上がる魔力を制御する為に、精神を集中する。そして魔導書を片手で開き、そこから出した陣を更に重ねて詠唱を積み上げていく。
 人魚の歌声はもう零時の耳には届かない。そうして、束ねたその光を零時が打ち放つ。
「リミテッドオーバーレイ!」
 極光が、真っ直ぐに人魚に向かって――。
 光がゆっくりと消え、零時が前を見る。そこには既に人魚の姿はなく、零時が小さな鱗を拾って呟く。
「俺、本当に忘れねぇから」
 ジジィになっても、覚えてるから。そう言って、大事そうに小さな鱗をポケットに仕舞いこんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ

……自分の躰を只の道具として、材料として扱われること
私も同じ体験をしました
痛くて苦しくて辛かった
躰を心を思考をぐちゃぐちゃにされて
得体の知れない薬を何度も何度も投与された……
毎晩悪夢を見る
頭に躰に心に沁みついて離れない

それが泡になって消えるなら、抵抗せずに――

――嗚呼
でもそれは"私"が赦さない
忘れたら私は"私"じゃなくなってしまう

忘却は隠蔽でしかない
過去を消し去ることは出来ない
世界が滅んでも心の傷が癒えることは無い……

この身の怪奇の目口を潰し続ける
泡に触れても"忘れないこと"を必ず成功させ
呪瘡包帯で捕らえ骸魂に呪詛を流し込んで攻撃

……もうあなたは苦しまなくていい
だから、おやすみなさい



●それは救いではなく
 寒さが薄れた、とスキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)が空を見上げる。先程まで厚い雲に覆われていた空は徐々に晴れ、薄っすらと青空が見えていた。
「雪だるまを倒したからですか」
 雪を降らせていた元凶がいなくなれば、元の空に戻るのは道理かとスキアファールがポケットの中のピルケースを弄る。変わらず入れていたはずの薬は入っておらず、いつもならカラカラと音がするそれは無音のままだ。
「やはり人魚を倒さなくては戻ってこない、か……」
 個人として見られず、ただの道具か材料として扱われる。それはどんなに痛くて辛くて苦しいか、スキアファールは知っている。知っているからこそ、人魚に対し同情のようなものを抱いてしまう――。
「倒すべきオブリビオンなのはわかっているのですが」
 自分はそちら側だったから。チクリ、と首の後ろが痛む。それは注射の針を刺されるような痛みの感覚。スキアファールが思わず溜息を零すと、とぷんと水音が聞こえてそちらに視線を向けた。
『ねえ、あなたも私の血肉を求めるの? 不老不死が欲しいの?』
「要りません、私はそれを必要としていないですから」
『ふふ、そうやって騙すのでしょう? ねえ、あなたも忘れてしまいましょう? そうしてこの世界と一緒に滅んでしまえばいいわ』
 虚ろに燃える瞳は、哀しみも憎しみも何もかもを含んだ色をしている。ああ、彼女にはきっと何を言っても通じないのだろうと、スキアファールは思う。けれど、それでも。
「私もあなたと同じ体験をしました」
『同じ? でもあなたは生きているでしょう?』
「厳密に言えば違うのでしょう。けれど躰を心を思考をぐちゃぐちゃにされて、得体の知れない薬を何度も何度も投与された……」
 それは、個としての尊厳を踏み躙る行為だ。
 今でも毎晩、眠れば悪夢を見る。魘されては目が覚め、息が苦しくなって、眠れなくなる……そうして気絶するように意識を失って、また悪夢を見ることの繰り返しだ。
「頭に躰に心に沁みついて離れない、そんな辛さをあなたも味わってきたのでしょう」
『ふふ、そうよ。そう、なら忘れてしまえばいいわ。忘れて、楽になってしまえばいい』
 そうして、一緒に滅んで。
 少女のように人魚が笑うと、その周囲に幾つもの泡が浮かぶ。それは人魚が操るままに、スキアファールへと向けられた。
 すっと身構え、戦闘態勢を取るけれどスキアファールの身に当たるのはシャボン玉のような泡。殺傷能力は低く、当たっても大した攻撃には思えない、そんな油断を誘うような泡だとスキアファールは人魚の次の手を見定めるように注視する。
『痛くはないでしょう? でも、あなたはこれで嫌な思い出をひとつ忘れられるわ』
 そうしてそのまま、忘れたまま――滅べと人魚が嗤った。
「この記憶が、消える……?」
 心も躰も蝕むこの記憶が消えたなら、ゆっくりと眠れるかもしれない。それなら、抵抗せずに忘れてしまえば――。
「嗚呼……」
 なんて甘美な誘惑だろうとスキアファールは唇の端を持ち上げる。でも、それは"私"が赦さないだろう。痛くて苦しくて辛い、あの記憶を忘れたら私は"私"じゃなくなってしまう。
「忘却は隠蔽でしかない」
 スキアファールが閉じかけていた目を開く。
「起きてしまった過去を消し去ることは出来ない、無かったことには出来ない」
『どうして? 忘れてしまえば一緒よ。変わらないわ』
 人魚がまた忘却の泡をスキアファールへ向ける。
「でも、例え世界が滅んでも、心の傷が癒えることは無い……違いますか?」
『うるさい、うるさい! 滅んでしまえば、消えてしまうなら、同じことだわ!』
 叫ぶ人魚が、忘れてしまえと泡を放つ。それに合わせ、スキアファールは己の怪奇部分の目口を躊躇いなく潰し続ける。それは泡に触れても忘れないことへの代償。辛いけれど、死にはしないと笑って、スキアファールは黒包帯を人魚に向かって放ち、その身を拘束する。
「……もうあなたは苦しまなくていい」
 人魚ではなく、骸玉へ向けて呪詛を流し込む。
「だから――」
 もう、おやすみなさい。
 そう呟いて、黒包帯を握る手に力を込めた、その瞬間。はらりと解けた包帯の先に、人魚の姿は見えなかった。
「……逃げた、か」
 手元に戻した黒包帯に、きらりと光る何かを見つけて指先に取る。残されたのは、まるで涙のようにも見える人魚の鱗だけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鏑木・寥
【鏑木邸4】

なんか楽しそうなことになってんなあ
基本後ろの方にいる
昨日はごはん食べてないぞ
え?少年のごはん?それは分からんな

ふむ、しかし人の名前も昨日のご飯も言える
あんまり面白味がないな
と言うか俺、何を忘れてんだろ
ああいうふうに語彙を忘れてる気もしない
………俺って誰だっけ
まあいいか、どーでも

煙管の煙には幸せたくさん
鹿くんの手伝いでもしようか
ちょっとだけ動きが止まるかもしれない程度の煙
少年たち、早めに頼むよ。眠くなりそうだ

ええと、ヨシュカ、しゃらら、雲珠……ということは
残りの鏑木ってのが俺が
……俺ってどういうやつだっけ
あ、いや、やっぱいいや、なんか聞くの怖いし


ヨシュカ・グナイゼナウ
【鏑木邸4】

ええと、あなたがむかしあれで、なんかつらいというお気持ちを
その、あれだとは言いませんが、そのあれがないとこの世界のええと……おばけ……?の
みなさんも非常にアレですので、たおさせていただきます!
そこの…なんでしたっけ?ええと(首を傾げる)……わからん。
まあいいか!そこのお魚!かくご!

おお、なんかすごいシカがすごい蹴ってる
わたしもおてつだいしましょう
あれ(暗器)を投げたりこれ(手袋)をはずして手のあれ(ヒビ)から
そのとげとげは刺さるとぬけませんからね

はい?わたしはヨシュカですが、あ!少し確認を
雲珠さまと鏑木さまは桜の精で、夕時雨さまは愉快な仲間で……(指差し確認)
わあ!言えます!


夕時雨・沙羅羅
【鏑木邸4】


肉は嫌い、腐るから
水が濁って汚れるから
何故なら僕は…僕は、
なんだっけ
ゆらりと形が保てなくなる
これは、なんだ
流れる透明の液体、ゆらり、ゆるり
…うたがうるさい
忘却を、乞うなら、お前も…忘れてしまえ
返す唄はいつもと違う気がする
けど、酔わせ、酔わせ、陶酔で全て忘れてしまえと
これは忘れゆく自己に苛立つ八つ当たりだ
“自分という形”は何か大切なものだった気がする

…しゃらら、愉快な仲間
僕はそれ、か
ぷにぷに、頬を抑えて、崩れた形を整えながら
繰り返し自分の名前を唱える
みんなは分かる、大丈夫
うずさんはしっかりさんの桜の精
よしゅかさんは良い子なお人形
りょうさんは…お餅焼いてくれた良い桜の精
うん、わかる


雨野・雲珠
【鏑木邸4】○

受けた仕打ちを思えば
怨みを忘れろとはとても言えませんが…
骸魂は海へ。人魚さんは返していただきましょう!
参りましょう、――

(口をぱくぱくする。名前が出てこない)

えっ…えっ、嘘でしょう。
だってさっきまで…
あっ、昨日のごはんも思い出せない!

気が散りながらも戦闘です。
「今はもう、奪いつくされることはないんです。
 その方を解放していただけませんか?」
ぬしさま(※名前じゃないのでするっと出てきた)
骸魂の嘆きと怨み、その蹄で祓ってくださいませ!

君は…ヨシュカくん!
それにシャララさんに…鏑木さん!(見えた順)
良かった…!

お優しい方ですよ。
いつもアイスを買ってくださるのです。
(あることないこと)



●それぞれの忘れもの
 暖かいかまくらで、ずんだ餅も食べた、お茶も飲んだ。このまま帰ってしまってもいいのではないか? と誰もが頭の片隅で思い始めていた頃だった。
「もうこのまま帰ってもいいんじゃないか?」
「わあ、誰しも思っていたけれど言わなかったことを仰いましたね。さすが鏑木さまです」
 食後のお茶を嗜んでいた鏑木・寥(しあわせの売人・f22508)が放った言葉に、ヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)が水筒を片付けながら言う。
「駄目ですよ、ツアーはまだこれからです」
 薬の作り方を教えてもらうのでしょう、と皿を綺麗に拭いていた雨野・雲珠(慚愧・f22865)が本来の目的を口にした。
「……外、湖ができてる」
 かまくらの入り口から外を覗いた夕時雨・沙羅羅(あめだまり・f21090)がそう言うと、三人に向かって振り返る。
「あと、人魚もいる」
「えっ!? もしかして待ってくださってます?」
 慌てて箱に使ったものを仕舞い、雲珠が箱宮を背負い外に出ると、ヨシュカと沙羅羅が追い掛けるように外へ出た。それに続くように腰を上げた寥が着ていた上着を箱の上に放り投げて最後に外にでる。
「律儀な人魚だな」
 食後の一服とばかりに煙管を咥え、寥が呟いた。
「律儀というのでしょうか……どちらかと言えば……」
 雲珠が言葉を濁しつつ、あれは戸惑っているのではないかと思う。何せかまくらだもの。
 それでも気を取り直し、骸魂は骸の海へ還し、人魚さんを返していただきましょうと気合を入れて人魚の方を向いた。
「わあ、綺麗な花びら」
 沙羅羅の声に、人魚が椿の花弁を放ったのが見えた。
「む、いけません」
 ぱっと前に飛び出たヨシュカが、皆を庇うように手にした鋼糸をひゅん、と操る。切れ味の良いその鋼の糸で椿の花弁を切り裂いて威力を殺していく。何枚かはヨシュカの身体を掠めたけれど、稼働率が下がるようなものではない。
『ふふ、あなたたちも、人魚の血肉が欲しいの? それとも骨? ああ、でもいけないわ。忘れてしまうといいわ、そしてこの世界と一緒に消え去って』
 一方的な物言いに、ヨシュカが鋼糸を構えたまま口を開く。
「ええと、あなたがむかしあれで、なんかつらいというお気持ちを、その」
「ヨシュカくん?」
 突然死んだヨシュカの語彙力に、雲珠が声を掛ける。どこか困ったようなヨシュカが、それでも人魚へ向けて言葉を紡ぐ。
「あれだとは言いませんが、そのあれがないとこの世界のええと……おばけ……? のみなさんも非常にアレですので、たおさせていただきます!」
 言えた! とヨシュカの頬に笑みが浮かぶ。
「いや、言えてないぞ」
 後ろで見ていた寥が思わず口を挟むと、今度は人魚の周辺にシャボン玉のような泡がふわふわと漂っているのが見えた。
「わあ、綺麗なシャボン玉」
 沙羅羅が素直にそう言うと、人魚の指先が動く。泡は沙羅羅を狙っているように見えて、思わず雲珠が沙羅羅を庇った。
「あれ……痛くないです」
「まあ、どう見てもシャボン玉だしな」
 なんだ、良かった。
「差し出がましい真似をしてすみません、――」
 沙羅羅に向かってそう言いかけた雲珠が、口をはくはくと動かす。
「えっ」
「うずさん?」
 沙羅羅の問い掛けに、雲珠が口元を押さえて目を瞬かせる。
「えっと、名前が出て来なくて。え、だってさっきまで……あっ、昨日のごはんも思い出せない!」
「ボケるには早くないか、少年」
 俺は昨日のごはんは食べていないが、とぽろりと寥が口から零すと、雲珠が寥の名前も思い出せないままに叫ぶ。
「それは食べてください!」
 藪蛇だったか、とそっぽを向いて寥が煙管をふかす。
「ふむ、しかし楽しそうなことになってんなあ」
 ヨシュカは恐らく語彙力が、雲珠は人の名前と昨日のご飯が思い出せずにいるようだ。
「考えなくともわかるが、まあそこの人魚の能力だな」
「大変だ」
 沙羅羅がそう言うと、俯いていた雲珠が顔を上げる。
「でも、ええと……名前が出てきませんが、戦うには支障はないはずです!」
 ものすごく気が散るけども。
 そうこうしているうちに、今度は人魚が唇を開いたかと思えば歌を紡ぎ出す。
「今度はなんでしょうか」
「記憶がアレするのではないですか」
 今現在、わたしたちがアレしているように、とヨシュカが雲珠に向かって言った。
「なんだ、これ以上忘れる何かがあるのか?」
 寥が目を細めながら、目の前にいる雲珠とヨシュカ、沙羅羅の名前を口にする。
「僕も言える」
「さっき食べた物も言えるしな」
「ずんだ餅、美味しかった」
 何を忘れたかわからなければ、面白味もないなと寥が呟く。ヨシュカのように語彙をなくしてもいない、俺は……。
「……俺って誰だっけ」
「一番駄目な奴じゃないですか!?」
「アレです、すごくアレです鏑木さま」
「まあいいか、どーでも」
 良くないです! と叫ぶ少年の声にも、手をひらひらとさせて寥が沙羅羅を見る。
「……なんだっけ」
 お前もか。ああ、自分のことはどうでもいいが、このままだと他が駄目だなと寥が煙管に口を付けた。
「あれをなんとかすれば、なんとかなるだろ」
 その言葉に、ヨシュカと雲珠が前を向く。
「そこの……なんでしたっけ? ええと」
「人魚です」
 首を傾げたヨシュカに、雲珠が言い添える。
「……ええと、わからん。まあいいか! そこのお魚! かくご!」
「もうそれでいいです、参りましょう!」
 ヨシュカが駆ける。それを援護するべく雲珠も走った。
『ふふ、あはは! もっと忘れてしまえばいいわ。人魚の血肉を求める者にはお似合いでしょう?』
 嘲笑う人魚の声が、沙羅羅の中でこだまする。
「肉は嫌い、腐るから。水が濁って汚れるから」
 だから要らないと言っても、人魚には届かない。沙羅羅は水が濁ると何故だめなのか、考える。
「何故なら僕は……僕は」
 思い出せない、なんだっけ。ぐるぐると、それが沙羅羅の心を苛む。ゆらり、と沙羅羅の身体が揺れて、その形が粘土細工のように崩れた。
「おい」
 大丈夫か、と寥が沙羅羅へ声を掛ける。
「これは、なんだ」
 何だと問われても、寥には答えることはできない。沙羅羅の問題だから。
「……うたがうるさい」
「それは同感だな」
 忘却を乞うなら、お前も忘れてしまえと強く沙羅羅は思う。形を崩したまま、彼は唄で返す為、まだ残っている唇でそれを紡いだ。
 甘い、甘い唄声。それは人魚の歌を掻き消して、湖に響く。いつもとは少し違うと感じるけれど、止められるわけもない。
「ああ、これは」
 忘れゆく自己に苛立つ八つ当たりだ。“自分という形”は何か大切なものだった気がする、なのに、それを忘れてしまうなんて。
 ならば存分に奴当たらせてもらおうと、沙羅羅の声が酔う程に甘くなる。
「ふむ」
 沙羅羅の歌に乗せ、寥が煙管から幸せが詰まった煙を放った。
 甘い唄に、幸せの煙。その相乗効果は凄まじいもので、ヨシュカに相対していた人魚の動きがぴたりと止まる。
「今はもう、奪いつくされることはないんです。その方を解放していただけませんか?」
 今が好機と、雲珠がそう語り掛ける。影朧とは違う、浄化は叶わないけれど。骸魂から人魚を解放する為に――!
「ぬしさま、骸魂の嘆きと怨み、その蹄で祓ってくださいませ!」
 雲珠が背負った箱宮から、角に桜の花を咲かせた神鹿を召喚する。神々しいその姿で、神鹿が絢爛たる蹄で人魚の情念を祓うように蹴りつけた。
「おお、なんかすごいかっこいいシカが、すごい蹴ってる。すごい」
 見惚れている場合ではなかったと、ヨシュカがお手伝いをと動く。暗器を投げて、人魚の動きを更に牽制すると、するりと手袋を外して手の亀裂を人魚に翳す。
「これからアレしたとげとげは、刺さるとぬけませんからね」
 ヨシュカの手の亀裂から、黄金を溶かしたような体液が人魚に降り注ぐ。それは人魚の体内へと潜り込み、無数の針状の結晶となって人魚を攻撃する。
『どうして、忘れてしまえば楽でしょう、何も考えなくて、済むでしょう……!』
 苦し気に呻いた人魚に、沙羅羅が冷たく言い放つ。
「そう思うなら、お前だけが忘れればいい」
「巻き込まれる方は堪ったもんじゃないからな」
 眠そうな顔をして、寥が頷いた。
「さあ、ええと……お魚のさいごです!」
 意気揚々とヨシュカが手にした鋼糸で三枚におろしてやろうと、人魚に近付いた時だった。
 とぷん、と音を立てて人魚が湖の底へ姿を消したのだ。
「あ! お魚が!」
「……逃げてしまわれましたね」
 残されたのは、四枚の鱗。それを拾って、雲珠が一人一人に渡していく。
「ええと、これはヨシュカくんの分で……あ! 言えました! これはシャララさん、これは鏑木さんの分です!」
 良かったと、安堵の表情を浮かべながら鱗を手渡す。
「は! ということは! 確認します。雲珠さまと鏑木さまは桜の精で、夕時雨さまは愉快な仲間で……」
 ヨシュカが指をさしながら、一人一人確認するようにそう言った。
「わあ! 言えます!」
「……しゃらら、愉快な仲間。僕はそれ、か」
 自分の頬をぷにぷにと抑え、沙羅羅が崩れた形を整えていく。大丈夫、僕はしゃらら。何度も唱えて、すっかり形を取り戻す。
「うずさんはしっかりさんの桜の精、よしゅかさんは良い子なお人形、りょうさんは……お餅焼いてくれた良い桜の精。うん、わかる」
 こくん、と沙羅羅が頷くと、寥も頭を掻きながら確認をする。
「ええと、ヨシュカ、しゃらら、雲珠……で、残りの鏑木ってのが俺か」
 いやもう自分はどうでもいいと思っていたせいか、いまいち皆よりも記憶の戻りが良くないようで、寥が目を細める。
「……俺ってどういうやつだっけ?」
 言ってから、すぐに撤回する言葉を言おうとしたが、雲珠に遮られた。
「お優しい方ですよ。いつもアイスを買ってくださるのです」
「はい、アイスは毎日でも買ってくださいます」
 雲珠とヨシュカの言葉に、疑わし気な顔で寥が沙羅羅を見遣る。
「……かってくれる」
 これはそういう流れだ、沙羅羅は寥を見て頷いた。
「……ほんとにか」
「はい! それにちゃんと毎日夜の十時にはお布団にお入りになって」
「わたしが子守唄を歌うとお駄賃をくれます」
 ますます寥の眉間に皺が寄り、沙羅羅はそっと目を逸らした。少年たちの瞳はキラキラと曇りなく輝いている。
「……ひとり一本だぞ」
 やったあ、と騒ぐ三人を眺めながら、解せぬ顔で寥はそれを見つめ、もう一度だけ問い掛けた。
「いや、ほんとにか?」
「はい!」
「本当です!」
「あいす」
 曇りなき眼が六つ。それに敵うはずもなく、寥はそのうち思い出すであろう自分にあとを任せようと、空に向かって煙を吐き出すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ
僕も薬に縁のある者だからね
人魚の血肉を求めた事がないなんて言えねぇさ
探して出会って
さぁその身を頂こうかって、もらったのは…そう、

そんな思い出を辿りながらうっかりうっとりしてたら
目の前を飛ぶ泡が邪魔で君が歪んじまったから
思わず指先で割り消した

で…なんだっけ
猟兵以外の人魚に逢うのは初めて?初めてじゃない?
ふふ、どうでも良いね
別嬪さんの前では過去など無用の長物

この香りを嗅げば君の刃も丸くなって
僕の昔も戻ってくるだろう
そうそう、そうよ、あの人魚の死肉はダメだった
絡繰は知らないけど僕はまんまと騙されたのよ
お前も僕を騙すかい?
ヤダヤダ、これだから過去の生き物は叩き斬るに限るのよ
さっさと泡みたいに消えとくれ



●水泡に帰せ
 雪だるまを斬り伏せて、さて妖刀はどうしようか。抜き身のままでも問題あるまい、どうせ次に現れる人魚も斬るのだからと淑女のような美しさを放つ刃をロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)が己の両肩に乗せた。
「うっかり首を斬らないでおくれよ」
 なんて嘯いて、峰を指先で撫でて空を見る。青空が広がりかけている空に、やっぱり厚着してこなくて良かったと考えながら、魚が跳ねるような音がした方に視線を移す。
「へぇ、お前が件の人魚かい」
 視線の先には、随分と草臥れた様子の人魚がいた。
 それでも手弱女のような風情を持ったままの人魚は、ロカジを見て唇を開く。
『あなたもわたしの血肉が欲しいの?』
 その問い掛けに、ロカジが指先を頤に這わせて答えた。
「そうさな、僕も薬に縁のある者だからね。人魚の血肉を求めた事がないなんて言えねぇさ」
『嗚呼、そう。あなた、だから臭いのね』
 嫌悪を露わにした人魚に、生臭いよりマシだろとロカジが鼻を鳴らして笑う。
『嫌い、嫌いよ。忘却の海に沈んで、この世界と共に滅びてしまえ!』
 険しい顔をした人魚が、幾つもの泡を作り出す。それは忘却の泡、思い出を一つ、消してしまう泡だ。
「シャボン玉遊びかい?」
 ふっと笑って、ロカジが目の前の人魚を見つめる。ああ、あの時の人魚はどうだったっけ。探して出会って、さぁその身を頂こうとした時に、ロカジが貰ったのは。
 白昼夢のようなその思い出の中で、ロカジは人魚が指先を揺らすのを見た。
 指先の動きに合わせるように、泡がロカジへと襲い掛かる。
「なんだい、無粋だね」
 目の前を飛ぶ泡が、人魚の姿を歪ませる。どうにもそれが気に入らなくて、ロカジは峰を撫でていた指先で泡をなぞった。
 ぱちん、と弾けた泡の先、ロカジの目の前には変わらず人魚が佇んでいる。
「で……なんだっけ? 猟兵以外の人魚に逢うのは初めて? 初めてじゃない?」
 何かを忘れた気がするけれど、何を忘れたかはわからない。けれど、忘れてしまったなら、それはロカジにとってはもうどうでもいいことだ。
「ふふ、別嬪さんの前では過去など無用の長物さ」
『もっと、もっと忘れて、沈んでしまえ』
「おや、物騒だね」
 腰に付けた袋から、ちょいと煙草を取り出して唇で食む。手早く火を点け、軽く吸う。煙草の先からは緩やかに紫煙が立ち上り、ロカジが肺に入れた煙を人魚に向かって細く吹き出した。
「どうだい、お前好みのいい香りだろ?」
 人魚の険しい顔が、ほんの一瞬穏やかなものになる。そうなればロカジのもの、人魚の爪も刃も丸くなって、更には忘れた過去も戻ってくるという寸法だ。
「ああ、そうそう、そうよ」
 折角点けた煙草だからね、と深く吸い込み煙を吐き出す。
「あの人魚の死肉はダメだった」
 何がどうダメだったのかはロカジの胸の内。
「絡繰りは知らないけど、僕はまんまと騙されたのよ」
『あは、あはは! ご愁傷様ね、ざまぁみろ、だわ』
「お前も僕を笑って騙すかい?」
『お望みなら、お前が食おうとした人魚のように優しく騙してあげようか?』
 ああ、ヤダヤダ、と短くなった煙草をねじ消し、ロカジが両肩に乗せた妖刀を片手で振り抜く。
「これだから過去の生き物は叩き斬るに限るのよ」
 骸の海にお帰りよ、と呟いてロカジが一息に人魚の元へと駆ける。
「さっさと泡みたいに消えとくれ」
 ちょいとばかり長い妖刀を一閃すれば、これにて終い――。
「なんだい、随分弱ってたんだね」
 ここに来るまでに他の猟兵とやりあったのだろう、ロカジは地面に落ちた人魚の鱗を拾って指先にのせる。
「死肉より、よっぽどこっちの方がいい」
 そう言って、ロカジは唇の端を持ち上げて笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『魔女の霊薬』

POW   :    沢山の素材を混ぜ合わせ、どんな霊薬ができるか試す

SPD   :    正確に素材を計量し、間違いなく霊薬を作る

WIZ   :    魔女のレシピを元に、新たな霊薬を考案する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●薬も色々あるけれど
 薬という概念を消してしまっていた骸魂は、猟兵達の活躍によって骸の海へと還された。
 これにより、カクリヨファンタズムには無事に薬が戻り、病によって滅びかけていた世界はあるべき形へと戻る。融けていた雪だるまはその姿を取り戻して辺りを跳ねていたし、骸魂に飲み込まれていた人魚も目を醒まして懇意にしている魔女の元へと向かっていった。
 魔女や薬師たちはそれぞれの工房で再び薬作りに励みし、必要な材料を取りに出掛けていく。もし、世界を救ってくれた猟兵が望むのならば、持てる知識を惜しみなく披露してくれるだろうし、様々なの材料が取れる場所だって教えてくれるだろう。
 束の間の平和を取り戻した幽世の世界で、さあ、何をしようか?

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 第二章で忘れてしまったことはすっかり思い出しているもよし、忘れたままでもよし、です。
 薬に関係することであれば、どのように楽しんでいただいても大丈夫です。薬作り、材料集めなど、PCさんのやりたいことをどうぞ。併せてマスターコメントの第三章部分もご一読いただけますと幸いです。
 POW/SPD/WIZに拘らず、心情路線でも、コメディ路線でも自由に楽しんでいただければと思います。
 受付期間はMSページを参照ください、受付期間前に送られたプレイングはタイミングが悪いとお返しすることになってしまいますので、恐れ入りますがプレイング送信前に一度ご確認くださいませ。
セプリオギナ・ユーラス
(最優先事項はなんだろうか?)
少しだけ考える。
黒い霧から召喚した◆正六面体に手分けさせよう。あるものは雪だるまが落とした結晶を持って、あるものは人魚が落とした鱗を持って、使いみちを知っていそうなもののところへ送り出す。魔女でも、薬師でも。またあるものは他の材料を採取しにいかせよう。
ころ、ころり。漆黒の賽子が散らばる。

◆正六面体
情報収集でしたらわたくしのお仕事でございますね。
「なんと、そんな使い方が」「症状に合わせて……なるほど」「目から鱗が落ちるばかりでございます」

ふむ。
……では俺は、集めた情報を元に、作った薬の効能を確かめるとしよう。
つまり、薬を必要としている傷病者を探す。
──往診の時間だ。



●調薬ののち
 薬という概念が戻った世界で、魔女たちの工房に案内されたセプリオギナ・ユーラス(賽は投げられた・f25430)は安堵の吐息と共に、己がするべき最優先事項は何かを考える。
 それはすぐにセプリオギナの頭の中で形を成して、彼は吹き抜けになった工房の二階へと上がると左手を前に差し出した。
 ぶわり、と黒い霧がセプリオギナの腕から滲み出ると、それはすぐに医療スタッフとしても使役している多数の正六面体――手の平よりもやや大きいサイズの漆黒のキューブを生み出す。無造作に取り出した雪の結晶と人魚の鱗を正六面体にそれぞれ託すと、囁くように命じる。
「行け」
 短い言葉であっても、正六面体はセプリオギナの意図を正確に汲み取って、それぞれがあらゆる場所に向かって散っていく。あるものは工房にいる、それぞれの材料の使い方を詳しく知っている魔女や薬師の元へ、あるものは他の材料の採取へ。
 工房の中を忙しなく漆黒の賽子が転がっていくのを眺めながら、セプリオギナは正六面体が情報を持ち帰ってくるのを待った。
 さて、セプリオギナ本体からの命令を受けた正六面体はというと、情報収集であるならばわたくしのお仕事ですと張り切ってあっちこっちに転がっていた。
 ある正六面体は、雪の結晶からできる薬を魔女から聞き出し。
「そうだね、色々あるけど一番ポピュラーなのは熱さましの薬だね」
「なるほど、興味深いお話でございます。詳しくお聞かせ願えますか?」
 よく効く熱さましの作り方、それから分量を変えれば程良く身体を冷やしてくれる熱い夏場にぴったりのキャンディーの作り方を教えてもらっていた。
 ある正六面体は、人魚の鱗からできる薬を薬師から聞き出し。
「一般的に使われる方法としちゃ、薬効を高める為に薬に混ぜるやり方だな。病状に合わせて調合の量を変えれば、体に負担をかけずに済むんだ」
「症状に合わせて……なるほど」
 くるくると回転し、驚きや感嘆を伝えてくれる正六面体は工房の中で人気のようで、手の空いている魔女や薬師が手招きをしてくれるほど。
 外に出ていた正六面体は薬師に聞いた薬の材料を取ってきて、またそれの使い方を教えてもらっている。
「……猫の手より役立つな」
 セプリオギナは期待以上の知識が取り込めそうだと、眼鏡の奥の瞳を優し気に細めた。
「ふむ。では、集めた情報を元に、作った薬の効能を確かめるとしよう」
 正六面体達が集めてきた情報を元に作った薬を手に、セプリオギナが白衣を翻す。薬を必要とする、医者としての自分が診るべき患者の元へ向かうのだ。
「――往診の時間だ」
 そう呟くと、迷いない彼の信念のように、真っ直ぐに歩き出すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディルク・ドライツェーン
アル(f26179)と

薬かぁ~。
やっぱ匂いだけでもあんま好きになれねぇな
ん、甘い風邪薬…?
飲む薬で甘いのって出来るのか?
カゼはあんまひいたことねぇけど
もしひいた時には、早く治さないと
アルに感染っちゃうかもしれないしな
それにアルがオレのためにお願いしてくれるの
すごく嬉しいっ!

そうだ、薬って飲むのだけじゃないよな
オレはよく効くキズぐすりが欲しい!
オレのケガはアルが治してくれるけど
アルがケガした時にオレじゃ治してあげられねぇからな
もちろん、極力アルにケガさせないように
戦闘はオレがしっかり守るけどなっ


アルデルク・イドルド
ディルク(f27280)と

薬か…魔女や薬師が作ってくれるんだ大抵のもんは作れそうだが…。
そうだな今の俺が欲しいのは甘い風邪薬だな。
ディルクが薬が苦手だからせめて飲みやすい様に甘く。
まぁ、元気なのにこしたことはないがいざと言う時にあると安心だからな。
だから俺にとっては金持ち達が望むような薬よりもよっぽど価値がある。

風邪も拗らせたら大変だし…魔法では治せないからな。

ディルが欲しい薬は傷薬?傷なら俺が治して…俺に?そうか、俺も怪我しないよう気をつけるがその時は頼むぜ。



●甘いお薬
 魔女と薬師の工房で、ディルク・ドライツェーン(琥珀の鬼神・f27280)が僅かに顔を顰める。
「薬かぁ~。やっぱ匂いだけでもあんま好きになれねぇな」
 天窓は開いていて、換気がされているとはいえ、やはり独特な匂いは鼻に届く。そのちょっとしたディルクの顰めっ面を見て、彼の鼻を軽く摘まんで笑っているのはアルデルク・イドルド(海賊商人・f26179)だ。
「こうすればいいんじゃないか?」
「んんっ」
 息がし難い! と今度は唇を尖らせたディルクに、またアルデルクの笑みが零れる。
「ま、折角のご招待だ。薬を作ってもらうのは悪くないぜ」
「何か欲しい薬でもあるのか?」
 集めた材料をすっかりアルデルクに渡しているディルクは、それならアルが欲しい薬を作ればいいと魔女達が作業している台へと目を遣った。
「そうだな、俺が今欲しいのは甘い風邪薬……だな」
 少し考えて、アルデルクがそう言うと、ディルクが目をぱちりと瞬かせる。
「甘い風邪薬……? 飲む薬で甘いのってできるのか?」
 それよりも、アルデルクは自分が苦手だと思う薬でも平気で飲んでいたはずだと、ディルクが首を傾げた。
「アルも、薬が苦手だったのか?」
 それなら自分とお揃いなのに、とディルクが問い掛ける。
「得意ってわけじゃないが、ディルほど苦手でもないな」
「じゃあ、なんで甘い風邪薬が欲しいんだ?」
 心底不思議そうに聞いてくるディルクに笑って、アルデルクが人差し指をディルクに向けた。
「ディルは薬が苦手だろう? だから、だ」
 薬が苦手な彼の為に、せめて少しでも飲みやすい物をと考えたのだ。
「……オレ、カゼはあんま引いたことねぇけど」
「まぁ、元気なのにこしたことはないが、いざと言う時にあると安心だからな」
 その言葉に、照れたように頬を指先で掻いて、ディルクが続ける。
「もしひいた時には、早く治さないとアルに感染っちゃうかもしれないしな!」
 嬉しそうに笑った顔に、じゃあ決まりだとアルデルクが魔女の方へと向かう。それを眺めながらディルクは緩む口元を手で隠し、アルデルクが自分の為に何かをしようとしてくれていることが、こんなに嬉しいなんて知らなかったと小さく息を吐いた。
「甘い風邪薬はできるか?」
「甘いのかい? 子ども用?」
「あー、いや……大人用なんだが」
 ディルクには分からぬよう、アルデルクが後ろに控えている彼の為の物だと親指で示す。
「なんだい、苦いのが苦手なのかい? あの子」
「ああ、できるだけ飲みやすい物がいいんだが」
 どうだろうか? とアルデルクが問うと、任せておくれよと年配の魔女が笑う。
「とびっきり甘くて、よく効くやつを作るよ」
 頼む、と雪の結晶と人魚の鱗を見せると、必要な数を選り分けて魔女が作業を始めた。
 過保護な自信はあるが、風邪も拗らせてしまえば大変だし、何よりアルデルクの魔法では治せない。不老不死の薬よりも、それはアルデルクにとってはよっぽど価値があるのだ。
「なぁ、アル」
「どうした?」
 魔女の作業を見守るように控えていたディルクの声にアルデルクが振り向くと、良いことを思い付いた! と言わんばかりのディルクの顔がそこにあった。
「薬ってのはさ、飲むのだけじゃないよな?」
「そうだな、飲み薬に塗り薬、貼り薬もあると思うが」
「じゃあ、オレはよく効くキズぐすりが欲しい!」
 その声は魔女にも聞こえていたのだろう、アルデルク達の手持ちの材料と交換で作った物を渡せると声を掛けてくれる。
「傷なら俺が治せるだろ?」
「オレのはアルが治してくれるけど、アルがケガした時にオレじゃ治してあげられねぇから」
 だから良く効く傷薬が欲しいのだと、ディルクがアルデルクに重ねて言った。
「……俺の為に?」
 きょとん、としたアルデルクに向かって、ディルクが何度も頷く。
「もちろん、極力アルにケガさせないように、戦闘中はオレがしっかり守るけどなっ」
 胸を張って笑ったディルクに、アルデルクが相好を崩して答える。
「そうか。俺も怪我しないよう気をつけるが、その時は頼むぜ」
「任せとけっ」
 風邪薬も傷薬も使う機会がない方がいいけれど。
 甘くて優しい薬は、また一つ増えたお互いの宝物――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時

折角なら魔女とか薬師に色々聞いてみてぇよ!

俺様色々薬の作り方
魔導書でも書物でもいいから習いたかったんだ!
魔術師たるもの薬創れてなんぼだろうしよ!

材料もだし作ってみたい薬は何個もあんだ

それで…例えば…人魚になる薬とかないか?
実は一度帝竜戦争時
毒で人魚になれたんだが、すっごい痛いんだ…
似たようなのでこんな(UCの宝石兎薬出して)のもあるけど、此れも痛いし

だから
痛み無しで変化できる薬が欲しいなって…!
(宝石兎のは故郷で創って貰ったやつだから余計に自身も良く分からないし)


先祖返り薬とか…これは時蜘蛛の糸とか使えないかなって!
…あ!それに回復薬とかも知りたいんだ!
だからありったけの事を教えてくれよ!



●求める心は貪欲に
 本職の魔女や薬師に薬の作り方が習えると聞いて、兎乃・零時(そして少年は断崖を駆けあがる・f00283)はわくわくとした気持ちが抑えられず、駆け足でやってきた工房を見上げる。
「立派な工房だな……!」
 大勢の魔女と薬師が勤める工房とあって、活気に溢れた声が聞こえてくる。魔導書でも、書物でもいいから薬の作り方を習いたいと思っていた零時にとって、そこはまだ見ぬ夢の詰まった宝石箱みたいなものだ。
「魔術師たるもの、薬の一つや二つ創れてなんぼだぜ!」
 よし! と大きく頷いて、零時は工房の扉を叩いた。
 ここに来るまでに何を教わるかは大体決めていたので、案内をしてくれる魔女に希望を伝えてみる。
「材料集めもなんだけど、作ってみたい薬は何個かあるんだ」
「どんなお薬ですか?」
「ええっと、人魚になる薬とかないか? あとは先祖返り薬とか、回復薬……他にもあるけど、まずはこの辺りかなって」
 ふむふむ、と聞いていた魔女は、それならと一人の魔法使いの元へ零時を連れて行く。そこには、落ち着いた雰囲気の優し気な初老の男性が居た。
 挨拶を済ますと、さっそくとばかりに人魚薬の話を魔法使いへと話す。
「他の世界での話になるんだけど、毒で人魚になれたんだが、すっごい痛かったんだ」
 思い出してもあれは痛かった、と零時が顔を顰める。共にした友人は痛がっている様子はなかったから、体質の問題かもしれないけれど。
「あ、あと似たようなのでこんなのもあるけど、これも痛いんだ。だから、痛み無しで変化できる薬が欲しいなって……!」
 紙兎のパルから貰った薬、宝石兎を見せて薬効を話し、一旦魔法使いの返事を待つ為に口を閉じた。
「なるほど、人魚になれる毒の現物がないからね。そちらの方はわからないけれど……人魚になる薬なら作れるよ」
 本当か!? と叫んだ零時に頷いて、必要な材料を記した巻物を零時に見せる。大抵の材料は揃っているけれど、人魚の鱗だけないのだと彼が言えば、零時が慌ててポケットから手に入れたばかりの鱗を差し出した。
「これでいいか?」
「充分ですよ」
 頷いて受け取った魔法使いは作り方を覚えたいと言う零時に、ひとつひとつ作り方を説明しながら作業を進めていく。
「ここで粉にした人魚の鱗を入れるんですよ」
 魔法使いの合図に従って、零時が薬研で細かく砕いた人魚の鱗をゆっくりと注ぐ。すると深い青色をしていた釜の中の薬が、見る間に鮮やかな夏の海の色へと変化した。
「すげー!」
「これで完成ですよ」
 出来上がった薬を薬瓶に入れ、蓋をする。飲むときは一口だけ、それで十回分。
「持続時間は一時間ほどなので、気を付けてくださいね」
「おう! ありがとな!」
 出来上がった薬を大事そうに鞄に仕舞うと、くるりと魔法使いの方へ振り向いた。
「あと、他にこういう材料があって!」
 若返りの効果が若干残った、時蜘蛛の紡いだ蜘蛛糸を魔法使いに見せる。
「先祖返りの薬が作れるんじゃないかなって! あ、それに回復薬とか!」
 他にも知りたいことが沢山あるんだ! とアクアマリンのような瞳を煌かせる探求心旺盛な零時に魔法使いは優しく微笑み、作ってみましょうかと頷くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メルト・プティング
ベアータ(f05212)さんと

記憶戻ったら多分取り乱しちゃうので、人通りの無いとこまできちゃいました
ちょっと緊張しますが、薬飲んじゃいますね
えいっ

…あ
そうだ、ベアータさん、だ
なんで、一番大切で、大好きな、お友達を、忘れ
あ、あああ…!

頭を振りかぶる
弾みでゴーグルが飛んだけど、気にする余裕なんてない
涙が止まらないし、きっとボクの目は真っ赤になってる
でもそんなのどうでもいい

忘れたことも、それであんな辛そうな顔を彼女にさせたことも
何もかもが許せなくて!
ごめんなさい、ごめんなさい…!

ベアータさんの体温を感じて、無我夢中で抱きしめ返す
ごめんなさい、ベアータさん
もう絶対、絶対忘れたりなんかしないから…!


ベアータ・ベルトット
メルト(f00394)と
記憶喪失のメルトに「BB10」(ビビ)と名乗っている

「人間」を喚び起こしてくれたメルトと2人。材料集めに奔走し、苦労して作り上げたこの薬
…これでも記憶が戻らなかったら

お願い
神なんて信じないけど、ただ只管に祈る

…ッ!今、「ベアータ」って…!私の名前を、呼んでくれた
…良かった。良かった!メルト…!!
泣きじゃくるメルトを自然と抱き留めていた
アンタが悪いんじゃない。…だから、泣かないでメルト
記憶が戻ったのが嬉しくて。でも、メルトの泣き顔を見るのは辛くて…ああ、視界がぼやけて霞んでゆく
そんなに自分を、責めないで。…大丈夫だよ
強く強く抱きしめる。もう、何処へも行ってしまわないように



●もうどこにもいかないで
 人魚が倒されれば、記憶も元に戻るかと期待していたベアータ・ベルトット(餓獣機関BB10・f05212)は目に見えて落胆していた。
 少なくとも、目の前の彼女を忘れてしまったメルト・プティング(夢見る電脳タール・f00394)にはそんな風に見えたのだ。だから、記憶を取り戻す薬を作ってもらいましょう! と言ったのは間違いではないと、メルトは思う。
「あの、ビビさん」
「……何?」
 記憶を失った彼女にベアータと名乗らず、BB10――ビビと呼ぶように言ったのは自分だけれど、そう呼ばれる度にちくりと心に棘が刺さるようで、ベアータは短く返事をする。名前を教えなかったのは、メルトがそれを知らぬ人のように呼ぶのが嫌だったからけれど、他人行儀にビビと呼ばれるのも溜息が出そうなほど気が滅入る。
「これ、言われた材料ですよね?」
「ああ、当ってると思う」
 記憶を取り戻す薬を作って欲しい、と魔女に頼んだ時に必要な材料として渡された絵図と見比べて、ベアータが頷いた。
「良かったです。それでは戻りましょう!」
 来た道を戻るメルトにベアータが続く。メルトはメルトで、ここまで感情を押し殺したような表情をさせてしまっていることに罪悪感を覚えているのだろう、早く薬を飲んで思い出さなくてはと早足だ。
 だって、記憶もないのにどうしても彼女を放っておけない。笑った顔が見てみたい、そう思ってしまったのだもの。
 魔女と薬師の工房に戻ってきた二人は、集めた材料と雪の結晶、そして人魚の鱗を渡す。すぐに調薬を始めてくれた魔女の近くで、出来上がるのを今か今かと祈る気持ちで待つ。魔女の大釜に不思議な色をした煙が立ち、最後の仕上げだと魔女が人魚の鱗を投げ込んだ。
 出来上がったのはとろりとした、夜空を写し取ったような液薬。星が鏤められたように、きらきらと輝いている。それを小瓶に移し替え、魔女がメルトへと渡す。
「ありがとうございます!」
「……ありがとう」
 お礼を言って、その場で飲もうとしたメルトの動きが止まる。
「どうしたの?」
「あの、ビビさん! ちょっと、一緒に来てください!」
 ベアータの手を取ると、メルトがぐいぐいと引っ張って工房の外へ出る。そのまま人のいないところまで来ると、くるりとスカートを翻してベアータに向き合った。
「記憶が戻ったら、取り乱しちゃいそうで……ごめんなさい」
 謝るメルトに、ベアータが首を横に振って答える。
「それじゃ……ちょっと緊張しますが、薬飲んじゃいますね」
「ああ」
 きゅぽん、と小瓶の蓋が開けられるのを眺める。信じているけれど、もし、もしも。これでも記憶が戻らなかったら――そんな最悪を考えてしまって、ベアータの額に嫌な汗が浮かぶ。
 ごくん。メルトの喉が軽く上下して、小瓶の中身が彼女の体内へと飲み込まれていく。
 お願い。
 神なんて信じないけれど、ベアータはただ只管に祈る。お願い、どうかメルトの記憶を戻してと。
 空になった小瓶を握り締め、メルトが唇を震わせた。
「……あ」
「メルト」
 思い出して、お願い、メルト! 逸る気持ちを抑え、肩を震わせたメルトにベアータが声を掛ける。
「そうだ、ベアータさん、だ」
 電脳ゴーグル、プラズマバイザーに隠された目の奥が熱い。
「……ッ! 今、ベアータって……!」
 名前を呼んでくれた、私の名前を。
「なんで、一番大切で、大好きな、お友達を、忘れ……あ、あああ……!」
 メルトが頭を振り乱た拍子に、ゴーグルが飛んでいく。感情が昂ると赤くなる目が恥ずかしくて、滅多に外すことのないそれも今は気にならない。それよりも、大事な人が目の前にいるのだから。
「ベアータさん……っ!」
 ベアータさん、ベアータさん、と何度も名を呼んで、普段は緑色の瞳を真っ赤にして泣きじゃくるメルトをベアータが抱き寄せる。
「……良かった。良かった! メルト……!!」
 ぎゅう、と抱きしめた温もりが、ベアータの哀しみを溶かしていく。
「ごめんなさい、ごめんなさい……!」
 忘れたことも、大好きなベアータに普段は見せない辛そうな顔を他でもない自分がさせてしまったことも、全てが許せなくてメルトの涙が止まらない。
「アンタが悪いんじゃない。……だから、泣かないでメルト」
「でも、でも……!」
 ベアータの柔らかい体温を感じて、メルトが無我夢中で抱きしめ返す。
「ごめんなさい、ベアータさん」
 記憶が戻ったことは嬉しい、でも泣き顔を見るのは辛くて、何度も胸の中で謝るメルトの背を優しく撫でるうちにベアータの視界がぼやけて霞む。
「そんなに自分を、責めないで。大丈夫……大丈夫だよ」
 声は震えて、きっと自分が泣いていることがメルトにもわかってしまうだろう。それでも、腕の中の彼女を慰めずにはいられない。
「もう絶対、絶対忘れたりなんかしないから……!」
 返事の代わりに、ベアータが強くメルトを抱きしめる。
 もう、何処へも行かないでと願いを込めて――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
(ズタボロになった《宿》が影に沈み消滅。離れた地点の影から、傷ひとつ無い男が出てくる)
廃棄と交換、完了っと。っし、動きに問題なし。精神状態も耐用年数(寿命)も初期化されてんな。よしよし。
やァ解決してよかったよかった。人魚の姉さんも海に帰れたみてぇだし、めでたしめでたしだなぁ。骸の海でも、ひひ、海は海さ。転生したくねえってんなら、俺ァ無理強いしねえのよ。
これからも薬は作られて、過程で犠牲を積むだろう。結果で誰かを救うだろうさ。あの姉さんも心ゆくまで憎悪するといい。それも心だ。俺が赦す。
薬と毒に差なんかねえから、教わるこたァひとつもねえ。テキトウ散策して帰ろうか。そィじゃア皆さま、お達者で。



●毒は薬で薬は毒よ
 時はほんの少し遡る。
 人魚の心の中でその憎しみや悲しみ、恨み辛みの大半をその身に請け負ったた朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)は、ズタボロになったその身体――彼が《宿》と呼ぶそれを影の中に沈ませた。
 それが完全に消滅すると、離れた地点の影から傷ひとつ無い逢真が現れる。その、何も変わらぬ男を見た人魚はとぷんと湖の中に消えた。
 あとは自分が追わずとも、他の猟兵がなんとかするさと逢真が新しい《宿》に過不足がないかを確かめる。
「廃棄と交換、無事に完了っと」
 動きにも問題はなく、精神状態も耐用年数も初期化されている。相変わらず燦々と降り注ぐ太陽の光には、薄目で顰めっ面になるくらいには弱い。
「ひひ」
 人魚の感情の奔流を浴びた逢真は、歪な笑みを浮かべて恨み辛みの念を思い出す。それら全ては廃棄した《宿》ごと棄ててきたけれど、中々に稀有な経験であった。
「猟兵ってやつはこれだから面白れえ」
 遠くで人魚が骸魂が抜かれた気配を察知して、逢真が影から顔を上げる。
「やァ解決してよかったよかった」
 これで人魚の姉さんも海に帰れただろうよ、と目を細めた。
「めでたしめでたしだ。骸の海でも、ひひ、海は海さ」
 転生を望まぬ者に、逢真は無理強いをする気はない。どんなモノであっても、望むようにしてやりたいと思うのが逢真だ。
「他の命を巻き添えにするのだけは勘弁だがなァ」
 骸の海から這い出てくるやつらは、そこんとこだけがいけねえよ、と立ち上がった。
「なァ、これからも薬は作られて、過程で犠牲を積むだろうよ」
 海へ帰った人魚へか、これから犠牲になる誰かに向けての言葉であろうか。誰に聞かせるでもなく逢真は語る。
「されど結果で誰かを救うだろうさ」
 だから心ゆくまで憎悪し、嫌悪するといい。それも心だと逢真は唇の片端を持ち上げる。
「他の誰が赦さなくとも、俺が赦す」
 さァて。
「毒と薬に差なんかねえから、教わるこたァひとつもねえ」
 病毒に戯ぶ神様に薬は必要なく、欲しい者の手に渡ればいいさと鱗もそこいらに落ちたまま。雪の結晶は触っちゃみたが、ひんやりしてるなと思ったすぐ後には毒に溶けて消えてしまった。
 毒も少量であれば薬になるが、逢真の毒はそんな優しいものではないのだ。
「テキトウに散策するか」
 お日さんが燦々射して来たら、帰るとしよう。
「そィじゃア皆さま、お達者で」
 ひひ、と哂った男は飄々と下駄を鳴らし、あてどなく歩き出すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
確か私は吹雪く古城の住処にいたはずだが…ここは?
ダークセイヴァーではないようだが思いだせん。
隣に居る女?妙になれなれしいがこいつは誰だ?
私を知っているようだがとりあえず無視し現状把握を。
しかたがない知っていそうなこの女に色々と聞く。
私についてくる女の言によれば別の世界らしい。
話の中で魔女の霊薬の言葉に興味がわいた。
「ほぅ。魔女の…」
魔女の霊薬を飲めば何か変わるかもしれないな。
ということで魔女に薬の制作方法を聞きにいく。
露といったか。…君もくるのか?まあいいが。

「…悪気はなかった…と言ってるだろう」
露に両頬を伸ばされながら弁明。むぅ。釈然としない。
記憶がなかった時に色々と冷たい対応をしたらしい。


神坂・露
レーちゃん(f14377)と。
目が覚めたら記憶は消えてなかったわ。
じゃあじゃあレーちゃんも記憶は…♪
…って思ったけどレーちゃんだけ消えてた。

すっごく冷たい目。初めて会った時と同じ目。
あたしのことも忘れちゃったみたい。ええぇ?!
…レーちゃんっていっても返事してくれないし…。
むぅ。初めて会った時に戻っちゃったみたいね。
いつもみたいに抱きつこうとしても拒否されるし。
あの時と違ったのはすぐに話しかけてくれたこと。
色々と話してたら『魔女の薬』に興味をもったみたい。
あたしも薬つくりに協力するわ!

「…レーちゃん。冷たかったわ。もぉ…」
レーちゃんの頬に悪戯しながら文句文句。
…もお。戻らないかと思ったじゃない。



●forget me not
 ふぁ、と欠伸混じりの声を上げて神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)が目を覚ます。
「ん……よく寝た……」
 寝ぼけ眼を軽く擦り、さあ起きましょうと目を開けて――パチパチと大きな瞳を瞬かせた。
「あら……ああ、そうだったわね」
 人魚を癒してあげたいと言って、シビラの紅茶を飲んで、人魚の力で眠ってしまったのだったっけ、と思い出す。
「少しでも慰めになっていればいいのだけど……あら、そういえば記憶は?」
 何か忘れていることは無いかしら、と色々確認し、最後に隣でまだ眠っているシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)を眺めた。
「まあ、レーちゃんのことを忘れてなかったらいいわ♪」
 一番大事なことは覚えているのならそれでいいと、露がシビラを起こす為にそっと彼女の肩を揺らす。
「起きて、レーちゃん。一人じゃつまらないわ」
 そう声を掛けると、シビラの長い睫毛がふるりと震え、何度かの瞬きのあとで金色の瞳が開かれる。まるで眠り姫みたいね、と考えながら露が微笑んだ。
「おはよう、レーちゃん」
「……誰だ?」
「え?」
「誰だ、と聞いている」
 ゆっくりと起き上がり、確か私は吹雪に覆われた古城の住処にいたはずだが……ここは何処だ? と顔を顰めたシビラに、露が思わず大きな声を上げた。
「ええぇ~!? いやだレーちゃん、あたしのこと忘れちゃったの?」
「忘れたも何も、知らないと言っているだろう。ダークセイヴァーではないようだが、何処の世界だ、ここは」
 妙に馴れ馴れしい女だな、と思いながらも、シビラは現状を把握する為に頭を回転させる。燦々と輝く太陽に、ダークセイヴァーではないというのだけは分かる。それから、自分が一度も訪れた事の無い場所だということも。
「駄目だな、全くわからない」
 ちらり、と横目で先程から自分を見ている女に視線を遣る。どうやら自分を知っているようだし、この現状の説明もできそうだと判断し、渋々声を掛けた。
「君、私のことを知っているようだが」
「知ってるも何も、あたしよ、レーちゃん!」
 初めて会った時のような冷たい目に、本当に記憶を失くしてしまっているのだと露は理解する。
「馴れ馴れしく呼ぶのはやめてもらおうか」
「むぅ……初めて会った時に戻っちゃったみたいね。今までの自分を忘れた……ってところかしら」
 仕方ない、と露は今までのことを掻い摘んでシビラに説明する。聡い彼女のこと、理解するのに然したる時間は掛からなかった。
「つまりここは別の世界で、人魚のせいで記憶を失くしているということか」
「そう! まあ半分くらいはあたしのせいだけど……忘れちゃったレーちゃんも悪いんだからね!」
「そう言われてもな」
 記憶にないことを責められても知らん、とシビラは取り付く島もない。
 さて、現状の打開策だけれど――。
「この世界を救ったお礼に、魔女や薬師さんがお薬を作ってくれるらしいんだけど、そこで記憶を取り戻す薬をお願いするのはどうかしら?」
「ほぅ、魔女の……」
 それによって現状が変わるというのなら、試す価値はあるとシビラは判断する。
「行ってみるか。……君もくるのか?」
「当たり前でじゃない! あと、あたしは『君』じゃなくて、『露』よ!」
 そうやって、二人で魔女の工房へ向かえば、手持ちの材料と交換で薬を作ってくれるという話になり、二人は薬が出来上がるまで魔女の工房で出されたお茶を飲みながら待った。
「ふむ、なかなか……」
「うん、美味しいわ。でも、あたしはレーちゃんの淹れてくれた紅茶の方が好きよ」
「私が? 君に?」
「もう、君じゃないったら!」
 紅茶を淹れてやるほどの仲だったのか、とシビラは目を瞬かせた。
 ぷく、と頬を膨らませた露がお茶を二杯飲み終わる頃には魔女の薬が出来上がり、シビラへと渡される。礼を言って受け取ると、露が早く飲んでと促す。
「急かすな……」
 小さな木のカップに入れられた霊薬を手に持ち、シビラがままよと飲み干す。どこか清涼感のあるそれはするりと喉を通り、胃の腑へと落ちていく。
「どう? どう? あたしのこと、わかる?」
「ああ、露……だな」
「レーちゃん!」
 ぴょん、と抱き着いた露を受け止め、シビラがその背を撫でる。
「……レーちゃん。冷たかったわ。もぉ……」
 その声に、寂しかったんだから、という露の言葉を感じてシビラが悪かったと繰り返す。
「ずっとあたしのこと、君って言ってたのよ」
「……悪気はなかった……と言ってるだろう」
 くっ付いたままシビラの頬を伸ばす露にそう答えるが、露は寂しくて心細かった時間を埋めるようにシビラを構い倒す。釈然としない気持ちはあるが、今はされるままになっておいた方がいいと判断し、シビラは露の文句と悪戯を静かに受け入れる。
「もう、忘れちゃいやよ?」
「……善処する」
 そう答えるシビラに、露はまた抱き着くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ
薬が戻ったって?
いーい世界になったじゃないの
僕が不要な世界なんてクソッタレだもの、ふふふ

この世ならではの材料にもとーっても興味はあるけども
せっかくだし僕の足跡を残してくってのもいいよね
どうだい、薬師の方々
ひとつ僕と一緒に名薬でも作ってみないかい?

彼らの腕を見、僕の腕を見せ
材料の説明や蘊蓄を語らって
……そうだな、こんなのはどうだい

なにも薬は傷や病だけのものじゃねぇだろう?
土に混ぜる良い薬を作ってみようよ
この土地の土にピッタリのさ

良い薬は良い材料からってね
今日の熱は冷ましちゃくれないが
明日の熱には効果覿面なのさ

そんでちゃっかり珍しい草花をもらってく
誰にもらったかって?さぁ、どうだったかな



●あなたのまちの薬屋さんと、幽世の薬屋さん
 薬という概念が取り戻され活気の戻った魔女と薬師の工房で、ロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)は楽しそうに唇の端を持ち上げる。
「いーい世界になったじゃないの、僕が不要な世界なんてクソッタレだもの」
 ふふふ、と笑って、広い工房の中を練り歩く。魔女や薬師が忙しなく動く合間をするりと蛇が縫うように通り抜け、気になる薬を作っている者には気軽に声を掛けて話を聞いている。
 ロカジの人柄か、それを邪魔だと思うような者もなく逆に意見を聞かせてほしいと話を求められ、ロカジがそれならと悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「それならどうだい、薬師の方々」
 せっかくだ、自分の足跡をこの世界に残していくのも悪くない。
「ひとつ僕と一緒に後世にまで残るような――名薬でも作ってみないかい?」
 ウィンクを混じりにそう言われ、断れる薬師がいるだろうか。まるで悪魔の誘惑のように魅惑的なお誘いに、手の空いている薬師や魔女が薬の材料を手にロカジの元へやってきた。
「いいね、ノリのいい奴は好きだよ」
 初めて見る薬の材料だというそれらの説明を聞き、何を組み合わせればどのような効能を得るのかという書付けを見せてもらう。そのお返しというわけではないが、ロカジも今までに自分が作ってきた薬とその効能を説明する。
「ふむふむ、そうすると……」
「それじゃあこっちのは……」
「合わせたら新しい薬ができるんじゃないかしら」
 盛り上がるディスカッションの中、様々な意見や蘊蓄を聞いていたロカジが閉じた目を扇子を開くようにぱちんと開く。
「……そうだな、こんなのはどうだい?」
 今までの話を聞いていると、傷や病の薬を作るのがこの世界では主流のようで、己の振るう刃のような切り口をロカジがみせる。
「なにも薬は傷や病だけのものじゃねぇだろう? 土に混ぜる良い薬を作ってみようよ」
 それは今までの知識を底上げするような誘い。意見を交わし合っていた者達がぴたりと口を閉じた。
「この土地の土にピッタリのさ。……どうだい?」
 その提案に否はなく、すぐにその場にいた者達が使えそうな材料を取りに散らばり、戻って来るとそれぞれの考えの元に持ってきた材料を机に並べる。
「これは? へえ、成長促進の効果があるのかい」
 気になった物を手に取り、どんな物なのかを聞けばすぐに答えが返ってくる。ではこれとこれを合わせたら? と提案すれば打てば響くような返事。
 ぽんぽんとテンポよく話が進み、土壌を改良するような薬を作り上げていく。
「良い薬は良い材料からってね」
 多少値の張る材料を使っても、未来には倍になって返ってくるはず。
「今日の熱は冷ましちゃくれないが、明日の熱には効果覿面なのさ」
 そうやって先を見据えて、ロカジが笑う。
 出来上がった薬は此処で使っておくれよ、とロカジが言うと、お礼だと珍しい草花を渡された。
「こりゃどうもご丁寧にね、それじゃあ……ふふふ、別れは言わないよ」
 また来るかもしれないからね、と笑ってロカジが工房の扉を開く。
 そうして、来た時と同じように飄々とした風情で工房を立ち去った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ

……苦しみからは解放されましたか
(遺された鱗にぽつり、と)

あ、薬
(再度ピルケース確認)
無くすと怒られるから内心ドキドキでした
劇的な効能があるわけではない
今でも薬を飲むのに抵抗がある
でも先生が作ってくれた物ですからね……大切にしないと
とはいえもう少し効き目向上しないかなと思ってまして
魔女さんの知識をお貸しいただけませんか

それと……ひとつ伺ってもいいですか
――この躰を、業病を治す薬も作れるんですか

いえ、興味本位で訊いただけです
治る手立てが見つかったとしても、私にはもう治す心算は無い
ただ、先生が行っている研究に役立つかもしれないと思いまして
まぁ他の世界でもその知識が活用できるかはわかりませんけど



●ポケットの中に残るもの
 人魚が消えた湖の前に立ち、指先に取った人魚の鱗に向かってスキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)がぽつりと零す。
「……苦しみからは解放されましたか」
 そうであればいい、と願いながら鱗を雪の結晶を仕舞ったポケットに入れる。そこで、ハッと気が付いて反対のポケットを探った。
「あ、良かった。薬が戻ってました」
 手にしたピルケースを目の前で軽く振れば、白い錠剤がカチャカチャと軽い音を立てる。
「戻らないままだと怒られるところでした」
 この薬に劇的な効果があるわけではないし、今でも薬を飲む事には抵抗があるけれど。
「でも、折角先生が作ってくれたものですからね……大切にしないと」
 誰かが自分の為を思って作ってくれたもの、用意してくれたもの。それを薬だからと無下にできるはずもない。ポケットの中に再びピルケースを仕舞うと、工房までの路を歩いた。
 スキアファールが訪れたのは、ちんまりとした魔女の工房。扉をノックすれば、すぐに返事があって扉が開かれた。
「いらっしゃい、猟兵さんだろ? 話は聞いてるよ」
「よろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げたスキアファールを中に入るように促し、魔女が話を続ける。
「何か欲しいものがあるのかい? できる限りで応えてみせるよ」
「ええと、これなんですが」
 ポケットの中のピルケースを取り出し、錠剤を見せる。
「こちらの薬の効き目を向上させるような、そういったものはないでしょうか?」
 ふむ、と頷いて魔女が薬の効能をスキアファールに尋ねた。
 それに自分の躰のことを交えて話すと、少し考えた後に魔女が口を開く。
「それなら、薬効を高める薬と一緒に飲めば多少なりと効果はあるんじゃないかね」
 材料は……と魔女が机に並べていく。
「ああ、ごめんよ。人魚の鱗が切れてるね」
「それなら、こちらでも大丈夫ですか?」
 ポケットの中から鱗を一枚だし、ついでだと雪の結晶も机に並べる。
「充分さ、これ一枚でそこそこの量の薬が作れるよ」
 早速、と魔女が大釜に向かって材料を放り込む。スキアファールが覗き込めば、そこには不思議な色合いをした液体がくつくつと泡を噴き上げていた。
 暫くの間大釜を掻き回していたかと思うと、魔女が人魚の鱗を細かく砕き、仕上げだと笑ってそれを釜の中へ放り込んだ。
「……おお」
 パチパチと、鍋の中で光が舞う。その光が収まると、魔女が杖を一振り――瞬く間にアラザンのような大きさの真珠色の粒が机の上の小瓶へと詰められた。
「さあ、どうぞ」
 薬を飲むときに、一粒一緒に飲むだけだよと魔女が使い方を説明してくれる。それから小瓶を受け取って、ピルケースの入ったポケットに突っ込んだ。
「ありがとうございます……それと、ひとつ伺ってもいいですか」
「なんだい?」
「――この躰を、業病を治す薬も作れるんですか」
 明日の天気を聞くような声のトーンで、スキアファールがそう言った。
「……そうさねぇ、万病に効く薬はあたしらもずっと研究してはいるけれどね」
「いえ、興味本位で訊いただけです」
 済まなさそうに目を伏せた魔女に、スキアファールが首を横に振る。
 治る手立てが見つかったとしても、この身を治す心算は彼には無い。ただ、世話になっている先生が行っている研究に役立つかもしれないと考えただけだ。
 それくらいの恩は、返してもいいだろうと思ったから。
「詮無き事を申しました、忘れてください」
 それに、カクリヨの知識がそのまま他の世界でも活用できるかは、私にはわかりませんしと微笑む。
「それでもね、あたしらはそういう薬が出来ればいいと願ってるよ」
「はい」
 いつか作りだされればいい、その時に自分はどうなっているかはわからないけれど。
 薬を受け取って、代金代わりにと雪の結晶をざらりと机の上に置いてスキアファールは立ち上がる。
「またおいでよ」
 そう言った魔女の顔は社交辞令などではなく、スキアファールは目を細めて笑うと、
「はい」
 と、返事をしたのだった。
 帰る道すがらに触れたポケットの中には、薬と、優しさが詰まっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

テラ・ウィンディア
薬かー
出来れば故郷の為にも学んでおくか

或いは…寿命の延びる様な薬ってあるのかな?
まぁ…猟兵の寿命ってどうなるのか判らないけどね

漢方薬について色々と教えてもらうぞ

気とか血とか水とか五行とか割とおれの知識に通じるものもあるな

そういえば姉が割と少食だから食欲を増進させるにはどんなのがいいんだ?

人参?お野菜のじゃなくて?

成程…人の体も一つの自然であり環境なのか
鼻かぜとかって水の滞りなのか

え?気って未知のエネルギーとかそういうんじゃないの?
…呼吸とか神経とか目に見えないものなんだ
どうやれば高められるんだ?
…ご飯食べて息を吸う?
そんな当たり前の事なの!?

栄養
推動
温煦
防御
固摂

ぐ、具体的なんだな…(勉強中



●薬のお勉強
 薬師の工房を目の前にし、テラ・ウィンディア(炎玉の竜騎士・f04499)が三階建てのそれを見上げた。
「薬かー、薬……」
 薬といえば苦いというのがテラの第一の感想だけれど、できれば故郷の為にも学んでおきたいという気持ちもある。
「寿命が延びるような薬とかもあるのかな?」
 猟兵の、しかも長命の種族でもあるエルフの寿命がどうなっているのかは判らないけれど。
「これだけ立派な工房だし、色々教えてもらえるだろ」
 女は度胸だ、と頷いて扉を叩く。すぐに返事があって、優し気な薬師が顔を出す。
「いらっしゃい、中へどうぞ!」
 どうぞどうぞ! と人懐っこく招かれて、少し緊張していた気持ちが解される。お邪魔しますと中へ入れば、どこか懐かしい匂いがしてテラの表情が柔らかくなる。
「ここに座ってね!」
 対面式の小さな机に案内されて座ると、まるでカフェのようにお茶まで出てきて、いただきますと一口飲む。
「……美味しい」
「そう、それは嬉しいな」
 お代わりもあるよ、と言ってくれた薬師はテラの目の前に座った。
「猟兵さんだよね? どんなお薬が必要なのかな」
「必要な薬……というわけではないんだが、漢方薬について色々教えてほしくて」
「ふむふむ、漢方薬なら私が担当だから、何でも聞いて!」
 基本的なところから始めた方がいいかと問われ、テラがこくりと頷く。
「じゃあ、まずは漢方の基本だね」
 身体の一部分だけをみるのではなく、身体全体をみるのだと薬師が話し始める。
「その人に合った症状に、様々な生薬を組み合わせて作るんだよ」
 詳しく、それでいて簡単に説明してくれた内容に、テラがふむふむと頷く。
「気とか血とか水とか五行とか……割とおれの知識に通じるものもあるな」
「猟兵さんはそういうのにも詳しいの? だったら話は早いね。何か気になることとかはない?」
 それなら、とテラが口を開いた。
「姉が割と少食だから、もう少し食べて欲しいんだ。食欲を増進させるにはどんなのがいいんだ?」
「それなら人参かな」
「ニンジン? お野菜のか?」
 それに小さく首を振って、薬師は漢方に使う人参を見せてくれる。セリ科の野菜とは違って、ウコギ科と呼ばれるもののそれに、テラがパチリと瞳を瞬かせる。続けて説明してくれる薬師の知識に、テラは段々と楽しくなってきていた。
 最初は故郷の為に、と思っていたことだったけれど学んでみればとても興味深い。
「成程……人の体も一つの自然であり環境なのか。鼻かぜとかって、水が滞るからおきるのか」
 更には気のエネルギーの話にまで及び、どうやったら高められるのかと問い掛ける。
「ご飯を食べて、息を吸う! 簡単なことですよ」
「そんな当たり前の事なの!?」
 きちんと意識して、食生活を見直し肺をしっかりと使う呼吸をすること。簡単なようで簡単ではないこと。
 栄養、推動、温煦、防御、固摂。それぞれの作用を知れば知るほど、なんとも奥が深い。
「ぐ、具体的なんだな……!」
 しっかり覚えて帰る為、テラは薬師が教えてくれることを少しでも漏らすまいとスポンジが水を吸い込むが如く知識を吸収していく。身体を動かす方が性に合うけれど、勉強するのも悪くない。そう思いながら、テラは知見を深めていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

空亡・劔
(雪だるまと遊んでたりしてる大妖怪

うん?
あたしは最強の大妖怪
薬なんぞに頼る気はないけど困ってる奴の為にいくつか持つのはありか

という訳で万病に効くお薬とかないの?

え、無い?
症状によってそれぞれ悪くなってる処に効かせないとダメなんだ

疲れが取れるのとかは?

…そういうのを作ってみようかな

これからも戦いは続くししっかりと体力をつけるのも大事だしね

という訳で材料持ってくるから教えなさい!(偉そう

そっか
これだけ飲んでもそこまでじゃないのね
中々難しいのね薬って

使い方次第で毒にもなるか

逆に毒が薬にもなる

本当にややこしいわね
単純な方が分かりやすくていいのにね

ま、あたしが最強なのはわかりやすいわね(えっへん



●万能の薬はなくとも
 人魚の骸魂が骸の海へと還り、一時の平和が戻ってきたカクリヨで空亡・劔(本当は若い大妖怪・f28419)が何をしていたかというと――。
 溶けてから復活していた雪だるまと遊んでいた。骸魂に喰われていた雪だるま達はアレだったが、元に戻った彼らはとってもフレンドリーで、劔に遊ぼうと人懐っこかったのだ。
「ねえねえ、猟兵さんはお薬もらいにいかないの?」
 小さな雪だるまがそう問うと、劔が首を傾げる。
「うん? あたしは最強の大妖怪だからね。薬なんぞに頼る気はないよ」
「でも、お薬があると便利なんだよ!」
 また違う雪だるまが、劔に向かって飛び跳ねながら言った。
「うーん、そう言われると……あたしは使わないけど、困ってる奴の為にいくつか持つのはありか」
 きゃあきゃあと、楽しそうにはしゃぐ雪だるまに別れを告げ、劔が魔女の工房へと足を踏み入れる。切欠は雪だるまの一言だったけれど、困っている誰かの為にという劔の気持ちは本物。
 だから、魔女は劔が万病に効く薬はないのかと問うた時、笑顔で無いよと答えたのだ。
「無いのか」
「あたしらも、そんな薬があったらと思って日々研究はしてるけどねぇ」
 中々難しいものなのさ、と魔女が言う。病状によって使う薬は様々で、どの箇所にも満遍なくとなると何万通りもの薬の組み合わせが必要となってくる。それならば、それぞれ悪い箇所に効く薬を使った方が効率もいい。
「そうか、悪くなっている処に効かせないとダメなんだ」
 そうか、そうか、と納得したように劔が頷く。では、と今度は切り口を変えてみる。
「疲れが取れるのとかは?」
「それなら簡単だよ」
「……じゃあ、そういうのを作ってみようかな」
 これからも猟兵としての戦いは続くだろうし、しっかりと体力をつけるのも大事なはずだと劔は思う。それに対し、薬作りの第一歩としては基本でもあると、魔女は劔の案に快く頷いた。
「よし! という訳で材料持ってくるから、この大妖怪であるあたしに教えなさい!」
 偉そうに劔が言うと、魔女はにこにこして必要な材料を劔に教えてくれた。
 いってくるわ! と工房を飛び出して、必要な材料と必要ではないけど使えそうだったからという理由で様々な材料を持って帰ってきた劔に、魔女が一から作り方を教えながら一緒に薬を作ってくれる。劔もそれには大人しく従って、作り方を覚えながら魔女の言う通りに薬を作り上げた。
「できた!」
「上手にできたじゃないか」
 魔女のお墨付きを貰って、劔が出来上がったばかりの薬を一つ飲んでみる。
「……なんとなく、元気が出たような?」
「ふふ、効果はなんとなくわかる、くらいだろう?」
 素直に頷いた劔に、魔女がしばらく続けて飲むともう少し効果がわかるよと笑う。
「これだけ飲んでも、そこまでじゃないのね。中々難しいのね、薬って」
「そうさね、使い方次第、使い手次第だけどねぇ、飲み過ぎれば毒にもなるし、毒であっても少量であれば薬にもなるからね」
 魔女の言葉に、劔が出来上がったばかりの薬を詰めた薬瓶を見る。
「ややこしいわね、単純な方が分かりやすくていいのにね」
「そうだねぇ、でも飲み合わせによっちゃ、かなりの効果を発揮するもんさ」
 薬ってのはだから面白いんだよ、と魔女が言う。
「なるほどね。ま、あたしが最強なのはわかりやすいわよね?」
 それは劔にとって揺るぎない事実。自信満々の劔に、そうだねぇと魔女が笑うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雨野・雲珠
【鏑木邸4】
諸々思い出し済
鏑木さんの健康生活奨励は継続

魔女さんに採集できる薬草を教わりましょう。
帳面に効能をメモして、形も…
覗き込まれたら照れながらそっとお見せします。
…その、俺がわかればいいかなって(※絵の腕お察し)

なんにでも効くお薬があったら何が欲しいですか?
あ、すてきですね。シャララさんもしゅわーって綺麗になるかも。
止血剤もいいなあ…

俺はですね…うーん、今まであまりお薬に縁がなくて。
でも寝付きのよくなる薬があったらちょっと嬉しいような…
体力が余った状態で布団に入ると
布団の中でずーっと考え事しちゃうので。
あとはべたべたしない日焼け止めとか!

綺麗な材料を見つけたら、すこしお土産にしたいです!


ヨシュカ・グナイゼナウ
【鏑木邸4】

なーんーのーアーイースーにー
しーよーうーかーなー(音痴)
んふふ

皆さまが魔女さんに教わっている事を一緒に聞きながら
聞いた事は頭に全部記録しておきましょう
雲珠さまなにを描いていらっしゃるのですか?(覗き込む)

水をきれいにするお薬、良いですね。サバイバルでも飲料水に困ることがない……!ふふふ!
薬を自分に使用することはないですからねえ
そうですね、止血剤とか意識をはっきりさせたまま効くタイプの麻酔薬とか……
おお、鏑木さまがこころなしか生き生きしていらっしゃる!(気がする)(当社比)


わたしも素材や植物持って帰りたいです!きれいな薬草はですね、植木鉢で育てたいです
あ、それかお庭に植えたい……!


夕時雨・沙羅羅
【鏑木邸4】

すっかりと元どおり、か
そう、アイス買ってくれるのもいつも通り
よしゅかさんの歌にノリつつ(歌唱技能)

魔女さんに質問?
きれいなもの、かわいいもの、おすすめのやつ
花でも、石でも、きのこでも

綺麗な材料を潰したり、煮たりするんだろうから、薬自体にはあんまり興味はない
それとも、きれいな薬、あるかな
…あ、でも、思い付いた
水をきれいにする薬、とか?
材料も自然由来なら、水質や環境にも良さそう
僕は常に浄水心掛けてるが、たまに疲れる時もある

うずさん、寝不足?
薬が効かなければ、子守唄でも歌おうか
心配はいらないだろうけど
病気を治す薬じゃなくても分かる、りょうさん、頼もしいから

お土産たくさん
帰っても、楽しみ


鏑木・寥
【鏑木邸4】

アイスは安いやつな
失ったものは何となく覚えてるような覚えてないような
でもやっぱりアイスを毎回奢っていた記憶と週二、三で飯を食べていた記憶はない

薬見にきたのは何となく覚えてる
この辺りで取れるものを一緒に聞きつつ

流石になんでも治すってのは難しいだろうが
効能をある程度絞ればなんとか……?
水質改善の薬は使いようによっては良い値で売れそう

睡眠導入の類ならさっき聞いた薬草と俺の箱の中のこれとこれと混ぜて
水質ならあれとこれ、止血剤なら……
材料足りねえ。このへんにこういう草ある?
うんうん。いいな、楽しくなってきた(無表情)

俺の欲しい薬?……んー、内緒
うん、後でこっそり魔女さんに聞きにいこう



●アイスと薬と君のうた
 集めた雪の結晶と人魚の鱗を持って、四人は魔女と薬師の工房を目指していた。
「俺は本当にアイスを毎回奢ってたのか?」
 道すがら、鏑木・寥(しあわせの売人・f22508)がまだ戻り切っていない記憶をなんとか思い出そうと、隣を歩く雨野・雲珠(慚愧・f22865)へと問い掛ける。
「はい、先ほども言いましたがよく働く俺たちにお駄賃だと仰って……それに鏑木さんは食の細い方ですが週に二、三回はきちんと栄養バランスの良いお食事を取っておられます」
 寥の健康生活推奨運動を掲げている雲珠は、これは必要な嘘なのです……と僅かな良心の呵責をその辺に投げ捨てて淀みなく言ってのけた。
 何せ、寥は絶筆しない限り死ぬこともできぬという文豪という利点を最大活用するかのように、食事をあまり取らない。これから暑さも厳しくなり、夏バテで一層食べなくなるだろうと雲珠は睨んでいる。
 今のうちにできるだけいつもよりちょっと健康的な生活を刷り込みたい、と雲珠が思うのも仕方のないことなのだ、多分。
 さて、そんな彼の心を知ってか知らずか、寥と雲珠の前を歩くヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)がアイスへの想いを歌にして綴っていた。
「なーんーのーアーイースーにーしーよーうーかーなー」
 吃驚する程、音程に不備のある……恐らく自作であろう歌を楽し気に歌っては、ヨシュカが口元に笑みを浮かべる。
「んふふ、アイス楽しみです」
 ね! とヨシュカが隣をふよふよと浮きながら移動する夕時雨・沙羅羅(あめだまり・f21090)に言うと、沙羅羅がこくりと頷く。
「すっかり元どおり、よかった。そう、アイス買ってくれるのもいつも通り」
 ちらり、と後ろを歩く寥に沙羅羅とヨシュカの視線が飛ぶ。
「……アイスは安いやつな」
 毎回奢っていた記憶はないままだが、キラキラとした視線の圧に寥が不承不承ながらに頷いた。
 わぁい! という声を上げ、ヨシュカが再び先程の歌、歌? を歌いだすと、今度は沙羅羅がそれに合わせるように歌う。
「「なーんーのーアーイースーにー♪ しーよーうーかーなー♪」」
 すごい、見えなかった音符が見えた、と後ろを歩く二人は思ったとか思わなかったとか。
 さて、暫く歩いてようやっと辿り着いた魔女と薬師の工房は考えていたよりも規模が大きく、思わず雲珠が声を上げた。
「わあ、立派な工房です。その、ちょっと思っていたのと違いましたけど」
「雲珠さまはどんな工房を思い描いていたのでしょうか?」
「その、おとぎ話に出てくるような小さな……魔女が一人で糸を紡いでいるような」
 本で読み、頭に描いていたものをヨシュカに言えば、工房から顔を出した魔女がウフフと笑って、そういう工房もあるわよと教えてくれる。そのまま中に招かれて、四人は案内されたテーブルへと着いた。
 どんな薬がご所望かしら? と魔女に促され、まずはツアー提案した身である自分が、と雲珠が手を上げる。
「俺はですね……うーん、今まであんまりお薬に縁がなくて。皆さんはなんにでも効くお薬があったら何が欲しいですか?」
 そう問いかけながら、俺は寝付きのよくなる薬があったら嬉しいし、べたべたしない日焼け止めが欲しいと雲珠が言った。
「うずさん、寝不足?」
 薬が効かなければ、子守唄でも歌おうかと沙羅羅が言うと、慌てて雲珠が首を横に振る。
「いえ、お恥ずかしい話ですけど、体力が余った状態で布団に入ると布団の中でずーっと考え事しちゃうので」
 なかなか寝付けない時があるのだ、と雲珠が言い、それはそれとしても沙羅羅の子守唄は魅力的だとこっそり思う。
「では、次はわたしが!」
 薬を自分に使用することがないですけど、とミレナリィドールであるヨシュカが一言添えてから、止血剤とか意識をはっきりさせたまま効くタイプの麻酔薬とか? と、あればいいなと思う物を言う。
「止血剤は俺もいいと思います。ところで……意識をはっきりさせたまま効く麻酔薬って、何にお使いになるんですか?」
 使い方によってはわりと物騒なのでは? と、思わず雲珠が口を挟む。それににっこりと、それはもう綺麗に微笑んで――。
「内緒です」
 と、ヨシュカが言った。
「僕は……水をきれいにする薬、とか」
 そんな空気は知らぬとばかりに、沙羅羅が机の上に幾つか並んでいる綺麗な花を手に取りながら言うと、ちょっぴり固まっていた雲珠が素敵ですねと相槌を打つ。
「シャララさんもしゅわーって綺麗になるかも」
 俺では思いつかない薬です、と感嘆したように頷く。
「僕は常に浄水心掛けてるが、たまに疲れる時もある」
 だから、自然由来なら、水質や環境にも良さそうな薬があれば助かると沙羅羅が言葉を重ねた。
「ふむ」
 それまで黙って聞いていた寥が口を開いた。
「流石になんでも治すってのは難しいだろうが、効能をある程度絞ればなんとか……?」
 水質改善の薬は使いようによっては良い値で売れそうだ、とぶつぶつと呟いている。
「あ、商売モードですね」
 少し放っておきましょう、と雲珠が言うと、ヨシュカと沙羅羅が頷く。
「はーい、これが今までに出たお薬に必要な材料よ」
 幾つかはこの工房にあるから使っていいわ、他に必要なのはこれとこれ、それから、とテキパキと魔女が説明してくれる。それを追って、雲珠が魔女に質問をしながら帳面に効能を書き付けていく。
 ヨシュカは魔女が説明してくれたこと、雲珠や沙羅羅、寥が質問して教わったことなどを黙って頭に記録していく。ふと、隣の雲珠が、何か絵を描いているのか気になって、そっと覗き込んだ。
「雲珠さま、なにを描いていらっしゃるのですか?」
「あ……えっと、薬草の形を簡単に……」
 少々語尾が尻すぼみになるのは、自分がわかればいいかと描いていたことと、自覚している絵の腕前がアレだからだ。
「かわいらしいと思います」
「どれ? あ、本当だね、かわいい」
 ヨシュカの言葉に沙羅羅も覗き込んで、かわいい、と頷く。それから魔女の方へ向き、興味のある事柄を聞いてみる。
「きれいなもの、かわいいもの、おすすめのやつはありますか」
 材料で、と付け加えると、魔女が綺麗なものなら星の石が、可愛いものなら花きのこがいいわよ、と教えてくれた。
「星の石、花きのこ……」
 星の石は本物の星の石ではなく、透明な石の中にキラキラした光が閉じ込められていて、石の色は様々あるのだという。
「石の色によって薬効も変わるのよ。花きのこは、その名の通りきのこのカサ部分に花が咲いていてね、花冠のようになっているから見たらすぐわかるわ」
「それはかわいい……」
 絶対に見つけよう、と沙羅羅は思う。綺麗な材料を煮たり潰したりするのだろうから、薬自体にはあんまり興味はないけれど、それらを材料とした薬は綺麗な気がする。
「では、早速採取に参りましょう!」
「たのしみ」
「鏑木さまはいかがなさいますか?」
 魔女に渡された薬の素材一覧と、その他を見比べていた寥が一瞬だけ顔を上げる。
「任す」
「承りました!」
 ヨシュカがお任せくださいと立ち上がると、雲珠が魔女から借りた籠の一つを渡してくれた。
 三人がそれぞれ籠を持ち、いってきますと工房を出ていくと一覧と睨めっこをしていた寥が顔を上げた。
「魔女さん」
「何かしら?」
 睡眠導入の類ならさっき聞いた薬草と、自分が持ってきた箱の中のあれとこれを混ぜれば多分できる。水質ならあの二つと星の石、止血剤なら……と考えていたことを話すと、魔女が楽しそうに目を輝かせて試しましょう! と寥の案に乗った。
「そうすると材料が足りねえか? このへんにこういう草ある?」
「それならストックがあるわ」
 さすが薬を生業にする魔女、話が早い。あれもこれも、これはどうだと話しこんでは実際に一つ作ってみる。
「うんうん。いいな、楽しくなってきた」
 ほぼほぼ表情を変えぬままそう言うと、丁度採取から帰ってきた三人が寥を見て、こっそりと顔を突き合わせた。
「おお、鏑木さまがこころなしか生き生きしていらっしゃる」
 当社比、多分。
「表情、ほとんど変わってないですけど……あれは相当楽いとお見受けします」
 当社比、恐らく。
「目が、かがやいてる」
 沙羅羅にはわかる、気がする。
「帰って来たか、材料見せてみな」
「は、はい!」
 色とりどりの薬草に、まるで色鉛筆のセットのように様々な色をした星の石、カサの部分に花冠を被ったきのこ。それから、それから――。
「見つけたきれいなものも、採ってきた」
 薬の材料じゃなくても、自分へのお土産にしようと思ってと沙羅羅が言う。
「あの、材料を少しお土産にしてもいいですか?」
 綺麗な材料は、そのまま眺めているだけでも心が癒されるようだと雲珠が問うと、ヨシュカもぴっと手を上げた。
「わたしも素材や植物持って帰りたいです! きれいな薬草はですね、植木鉢で育てたいです」
 あ、お庭にも植えたい……! と呟くと、魔女と寥を三人が見遣る。
「構わないわよ、自然に生えてるものだしね」
「採ってきたのはヨシュカ達だろ。こっちは必要な数だけ貰えりゃあいい」
 やった! と手を叩き合って喜ぶ三人に笑いながら、魔女が制作準備をしてくると席を外す。
「そういえば、鏑木さんは欲しいお薬はないのですか?」
「俺の欲しい薬? ……んー、内緒」
 ふと気になって雲珠が問うと、軽く目を閉じて寥がそう言った。
「やましいお薬ですか?」
「やましい」
 直球にヨシュカが聞けば、沙羅羅も復唱するように繰り返す。
「……アイス買わなくていいか?」
「買ってください!」
 魔法の言葉だな、と考えながら寥が採取してきた材料をテーブルに広げる三人を見る。
 欲しい薬は――。
「後でこっそり魔女さんに聞きに行くか」
 小さく呟けば、準備ができたわよー! と魔女が呼ぶ声がした。
「それじゃあ、薬を作るとするか」
 そう言うと、元気よく返事をした三人が魔女の元へ向かう。
 出来上がる薬はきっと効能も良く、見た目も美しいはず。ご婦人方に受けるかもしれないな、と心算しつつ、寥は三人の後を追うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月25日
宿敵 『水底のツバキ』 を撃破!


挿絵イラスト