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懺悔録『青年猟奇倶楽部』

#サクラミラージュ #幻朧戦線 #籠絡ラムプ

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「『サクラミラージュ』にて。匿った『影朧』の力を『己のユーベルコヲド』のように扱い、偽りの名声を得る民間人が見つかった」
 グリモア猟兵のヴォルフラム・ヴンダー(ダンピールの黒騎士・f01774)が、集まった猟兵たちの顔を見やり、厳かに続ける。
 掲げ見せたのは、ちかごろ帝都の書店に掲示されている販促用のポスターだった。
 そこには、『世紀の恐怖作家・北枕氏!』『帝都の夜を震撼させる超弩級新作小説をつぎつぎ発表!!』といった宣伝文句が踊っている。
 ――作家の名は、『北枕・格之進(きたまくら・かくのしん)』。
 ポスターに描かれた人物画からは、ベストセラー作家の風格はまるで伺うことはできない。
 シワだらけの書生服に、ぼさぼさの寝癖頭。
 加えて、手入れのされていない無精ひげを生やした、風采(ふうさい)があがらない青年、といった様相だ。
「これまでも作品を発表していたが、ほとんどが陽の目をみることはなかったと聞く」
 ところが。
 最近になって『新作を次々と発表』し、そのどれもが『生々しい描写の猟奇小説』であるというのだ。
 世間では、作風を変えたことで才能が開花したと評判になり、いまや押しも押されぬ『文豪』と言っても過言ではない作家のひとりとなっている。
「不審な点が多いため調べたところ。この男は何らかの手段で『籠絡ラムプ』を入手し、篭絡した影朧の力を己の力として使っていることが判明した」

 ――『籠絡(ろうらく)ラムプ』。
 『幻朧戦線』が密かに市井にばらまいた『影朧兵器』。
 篭絡した影朧はいずれ暴走し、使い手を含めた帝都の人々に多大な被害を及ぼす危険な代物であることがわかっている。
 なお『幻朧戦線』とは、揃いの『黒い鉄の首輪』を付けた一般人(人間)集団を指す。
 以前から何かと帝都を騒がせているが、『大正の世を終わらせる』『戦乱こそが人を進化させる』といった、およそ共感にはほど遠い主張をする血気盛んな者たちである。

「この作家が、どういった経路で『籠絡ラムプ』を入手したかは不明だが、『影朧兵器』を見過ごすわけにはいかない。『サクラミラージュ』に赴き、籠絡ラムプの回収を頼みたい」
 ポスターによると、北枕・格之進は、某日深夜に『幻影城』なる私邸――街はずれの廃屋を買い取り、仕事場として建て直した洋風豪邸。正確な所在は開示されていない。――で、『青年猟奇倶楽部』なる猟奇ファンの集いを行う予定であるという。
 集まりに参加できるのは、『仮面をつけた紳士淑女』のみ。
 互いの素性を明かすことなく、ただただ、己の熱中している『猟奇』を語らうための集いであるという。
 指定された場所に集まれば迎えの車が現れ、屋敷まで案内してくれるという。
「まずは『幻影城』で行われる『青年猟奇倶楽部』に潜りこみ、参加者たちから作家の素性を調査。機をみて、影朧の撃破とラムプの回収。その後の作家の処遇については、任務に赴いた者たちに判断を任せたい」
 「武運を祈る」と言い添えて。
 ヴォルフラムは手のひらにグリモアを掲げ、転送ゲートを開いた。


 帝都の街はずれに、『幻影城』と呼ばれる豪奢な洋風建築が存在している。
 新進気鋭の恐怖作家、北枕・格之進が所有する私邸である。
 その日の深夜、エントランスに次々と黒塗りの車がとまり、客人たちが屋敷へと吸いこまれていった。
 邸宅内の広大なホールには、深夜にも関わらず多くの人間が集まっている。
 それぞれが秘めた『猟奇』について語りあう、ファンの集い。
 ――『青年猟奇倶楽部』。

「僕は最近、『女性の髪』を集めるのに凝っているんです。何でもいいわけんじゃないんですよ。まっすぐで、黒々とした。墨を流したようなうつくしい黒髪じゃなきゃあいけません。――気付かぬうちに、そっとひと房頂戴する。これがたまらないのです」
「わたくしは、ヒトの『眼球』に興味がありますの。ほら、光の当たり方によって、さまざまに色あいが変化しますでしょう? これからの季節、涼をとるために青い瞳を覗いて暮らせたら、きっと素敵だと思いまして。この間、青い眼の少女と知り合いましたのよ」
「ひとの『歯』ほど心惹かれるものはない。死してなお残るそれらをどのように保つかで、まっさらな人間性があらわれる。しかし、好みの美しい歯と出会ったとて、死を待つには長すぎる。いかに手に入れるか。そして、念願果たし手に入れられた時の感動ときたら……!」

 その場を訪れるだれもが『仮面』で目元を隠し、愉し気に歓談を交わして。
 『互いの素性を詮索しない』ことを条件に、今宵も会話は弾む。
 いずれ、主催者である作家が現れる。
 『影朧』を倒し、『籠絡ラムプ』を回収するとしたら、その時だろう。
 それまでは。
 後の処遇を決める時のためにも、仮面の宴に混ざり、作家の素性について調べておくのが良さそうだ――。


西東西
 ※クリア冠数が少ない章は、プレイング採用数を絞って運営予定です。
 ※執筆状況は、マスターページ冒頭でお伝えします。

 こんにちは、西東西です。
 『サクラミラージュ』にて。
 『籠絡ラムプ』の回収と、『偽ユーベルコヲド使い』の処遇について対応をお願いします。

 ●第1章「日常」
 恐怖作家、北枕・格之進の私邸『幻影城』に向かい、『青年猟奇倶楽部』というファンの集いに潜入してください。
 参加者は『仮面』を付け、『互いの素性を詮索しない』というルールを守る必要があります。
 『猟奇』を愛する作家のファンが、それぞれの愛する『猟奇』について楽し気に語らっています。
 うまく彼らと話をあわせ、『偽ユーベルコヲド使い』の素性を調べあげてください。
 (なお、描写がはばかられる『猟奇』の内容は不採用、またはマスタリング対象となります)

 ●第2章「ボス戦」
 偽ユーベルコヲド使いの操っていた『影朧』と戦闘を行います。

 ●第3章「日常」
 猟兵たちに提案を募り、『偽ユーベルコヲド使い』の処遇を決定します。
 犯した罪に相応しい罰を与えたり、或いは、正しい道を取り戻させてあげてください。

 提示されている行動は一例です。
 どうぞ思うまま、自由な発想でプレイングください。

 それでは、まいりましょう。
 幻朧桜が咲き誇る、大正浪漫の世界へ――。
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第1章 日常 『人里離れた館にて、幽世の如き夜を』

POW   :    語り明かそう。キミと、朝まで。

SPD   :    舌へ、喉へ、その心へ。香茶と酒精を心行くまで。

WIZ   :    散るがゆえに。藍夜に舞う桜を瞳に映して。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

月雅・輝糺
ふふ、猟奇は人を惹きつける
僕自身がそうだからよくわかるよ
……もっとも、所詮彼らは真の猟奇を知らないかもしれぬがね……

僕は毒の話でもしようか(「毒使い」「恐怖を与える」)
そう、このキセルパイプの中にちょうど調合したての毒が入っていてね
何、心配はいらない、中身だけを溶かし外側を固めるのさ
外側は諸君のその美しい姿のまま久遠に保存できる
どうだね、ひとつこの毒を受けてみる気はないかい?
ラムプの朧げな灯りに照らされでもしたらさぞかし映えるだろう

……ラムプといえば、北枕先生は風変わりなラムプをお持ちとか
どのようなものか、そしてどこで手に入れられたのか、御存じないかな?
(「情報収集」「催眠術」「言いくるめ」)




 ホールへと入った月雅・輝糺(光と影は帝都の謎を映し出す・f22635)は、その場に集う人々の熱狂を肌身に感じ、思わず唇の端をもたげた。
(「ふふ、猟奇は人を惹きつける。僕自身がそうだから、この場に集いたくなる彼らの気持ちもよくわかるよ」)
 紳士淑女の集いとあって、黒のモダン・スーツを身にまとった輝糺の姿は違和なくその場に馴染んだ。
 もっともこの場では、皆仮面をつけ、『日常』での素顔を隠している。
 輝糺という猟兵がこうして参加しているように、単なる小説好きの一般人も居れば、猟奇趣味の高級官僚もいるのかもしれない。
(「……もっとも。どんな人物が居たとて、所詮彼らは真の猟奇を知らないかもしれぬがね……」)
 手にしていた『不思議喰いのミステリイ・ランタン』が、この場にはびこる『謎と怪奇』を燃料に燃えている。
 『光と影』の属性を有する怪奇人間である輝糺にとって、この灯火は生命線。
 燃料に欠かぬ場であれば、安心して遊戯に興じることができるというものだ。
 適当な空席を見つけ、集っていた男女に声をかける。
「失礼。同席しても?」
「ええ、どうぞ」
「ちょうど、私たちの話が一巡したところです。宜しければ、貴方の『猟奇』を聞かせてくださいませんか」
 折よく促され、輝糺は幅広のつば持つ帽子を手に一礼し、着席。
「では、僕は『毒』の話でもしようか。――そう、このキセルパイプの中に、ちょうど調合したての毒が入っていてね」
 手の内にあったパイプをさし出すと、隣に座っていた男が「なんと恐ろしい……!」と身を引いた。
「何、心配はいらない。この毒は、『中身だけを溶かし外側を固める』という特性を持っているのさ。外側は、諸君のその美しい姿のまま、久遠に保存できる」
 「どうだね、ひとつこの毒を受けてみる気はないかい?」と水を向ければ、真っ赤な唇をした女がうっとりと言った。
「最も美しいその時に、自分の有り様を留めておけるというわけね。素敵だわ」
「しかしねえ君、命あっての物種だよ。毒を受けて終わってしまうんじゃ、『猟奇』を楽しめやしない」
「そうとも。私も、まだまだ新たな『猟奇』を楽しんでいきたい」
 紳士淑女が新たな話題へ移ろうとしたところで、輝糺が一石を投じた。
「――新たな『猟奇』といえば、北枕先生の新作が楽しみだとは思わないかね」
 元々、『北枕・格之進』のファンが多いのだ。
 男女はすぐにこの話題に喰いついた。
「ええ、ええ! 今度はどんな『猟奇』を描かれるのか、とても楽しみですわ」
「北枕作品は、グロテスクな中にもぞっとするような気品がある。男性の作品には欠けがちな、繊細な視点も格別だとも」
 ひとりしき作家賛美が続いた後、輝糺が言った。
「先生は最近、風変わりなラムプをお持ちとか。いちファンとして、これはぜひ入手したいと思ってね。どのようなものか、そしてどこで手に入れられたのか、御存じないかな?」
 男女は仮面を付けたままの顔を見合わせ、言った。
「先生のもとには、日々様々な贈り物が届くそうじゃないか」
「近頃愛用している日用品は、そういった中から選んでいると仰っていたインタビュー記事を見たことがあるよ。君が言っているのも、そのひとつなのでは?」

 結局、ラムプの入手経路や外観などの詳細については、聞くことができず。
「ご歓談に感謝を」
 輝糺はひとしきり彼らと親交を深めた後、また別の者に話を聞くべく、席を立った。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

九重・咲幸
えっ私髪も黒ければ目も青いんですけど
こわ……
いやまあそれは置いといて
うーん、なに話そう~

私、桜の精の枝に興味があるのです
恥ずかしながら皆様のように、実際に手に取れたことはないのですが
あの枝を手折って愛でることができたら素敵でしょうね

先生の作品を手にとって、自分の業に気づいたのです
一体どんな天啓を受けてあんな人の業を揺さぶる作品を描かれるようになったのでしょう!
以前の作品も読んでみとうございます

……とか、そんな感じで合わせます
相手のお話を聞くのが情報収集の基本だし、相槌と称賛は忘れない感じで
誰でも、聞いてくれる人がいると嬉しいですもんね
心酔してるぽい演技などしつつ、あとは私の唸るコミュ力に期待で


冴島・類
かくも、人の欲も嗜好も幅広いものかね
焦がれるだけなら自由だが
問題は、写実的描写の手段だ
幻朧戦線とは…趣味が合わないな

いや、皆々様の話は興味深い
美しさの再発見にもなりますね
わたしが惹かれるのは…骨です

身体を支える硬く、静かな美
上に飾られた化粧や彩り
儚げな様よりも
手や踝、頭の形やしっかりと綺麗な肩をみると
健康的で素晴らしいとつい目が追ってしまう
無駄の一つもない造形美はまさに
生命の神秘

などと、合わせて語り
弾めば探りを

そう言えば…
次回作を待ち詫びているうちに
過去作を遡っていたんですが
皆様は
作風の変化の切っ掛けは何だと想像されます?
やはり、芸術の転換期は
価値観を揺るがす美との遭遇でもあったのでしょうかね




 九重・咲幸(幽世の眼・f03873)はセーラー服にジャケットを羽織り、ドレスコードの仮面を付けた状態でホール入りしていた。
 UDCアースを知る者が見れば女子高生とわかる様相であったが、ここは『サクラミラージュ』だ。
 腰掛けたのは、歳若い男女と、壮齢の男性がいる席だった。
 同じ椅子の輪のなかに、猟兵――ヤドリガミの冴島・類(公孫樹・f13398)が居ることにも気づく。
(「かくも、人の欲も嗜好も幅広いものかね。焦がれるだけなら自由だが、問題は、写実的描写の手段だ」)
 油断すると眉間にしわが寄りそうになるが、幸い仮面のおかげで周囲には気づかれていない。
 どちらにしても、『幻朧戦線』とは趣味が合わなさそうだと、類は内心嘆息していた。
 ――参加者たちは、『互いの素性を詮索しない』のがルール。
 それぞれの正体など気に留める風でなく、『猟奇』語りに没頭している。
「僕は最近、『女性の髪』を集めるのに凝っているんです。何でもいいわけんじゃないんですよ。まっすぐで、黒々とした。墨を流したようなうつくしい黒髪じゃなきゃあいけません。――気付かぬうちに、そっとひと房頂戴する。これがたまらないのです」
「わたくしは、ヒトの『眼球』に興味がありますの。ほら、光の当たり方によって、さまざまに色あいが変化しますでしょう? これからの季節、涼をとるために青い瞳を覗いて暮らせたら、きっと素敵だと思いまして。この間、青い眼の少女と知り合いましたのよ」
(「えっ。私、髪も黒ければ目も青いんですけど……。こわ……」)
 咲幸は『黒髪』と『眼球』について話す紳士淑女にドン引きしつつも、「いやまあ、それは置いといて」と、内心ひとりツッコミを入れる。
 情報を得るためには、この得体のしれない紳士淑女たちと話題をあわせなければならない。
 『歯』について熱弁を振るった後、壮齢男性が咲幸と類の2人へ向け、言った。
「見たところ、君たちはまだお若い様子。いったい、どんな『猟奇』に興味があるのだね?」
 仮面からのぞく男の視線が自分の歯に注がれていることに苦笑しつつ、咲幸が「お先にどうぞ」と類に目配せをすると、
「いや、皆々様の話は興味深い。美しさの再発見にもなりますね。すぐにでもわたしの『猟奇』をお聞きいただきたい気持ちもありますが、ここはどうぞ、女性からお先に」
 と、紳士的に促された。
 これも仕事だ。
 咲幸は己の唸るコミュ力を信じ、話題をあわせる。
「では、僭越ながら……。私、『桜の精の枝』に興味があるのです。恥ずかしながら皆様のように、実際に手に取れたことはないのですが……。あの枝を手折って愛でることができたなら、さぞや素敵でしょうね」
 若輩を恥じるように謙虚な態度で語りだせば、
「なるほど。たしかに、彼らの枝は『幻朧桜』とはまた違った趣がある」
「わたくしなら瞳も愛でられるよう、手折らずにそのまま飾りたいところですわね」
「その若さで、実に趣深い『猟奇』を秘めているとは。いや感心、感心」
 紳士淑女がしごく真面目に相槌をうつ様子に、
(「なんか、すごい褒められたし……」)
 演技に徹するべく隙のない微笑を浮かべながら、咲幸は類へと視線を向ける。
「さあ。次は、あなたの番です」
 促され、類は頷いた。
「それでは。わたしが惹かれるのは……『骨』です」
 紳士淑女へ向き直り、それぞれの眼を見据えながら、静かな語り口で続ける。
「身体を支える、硬く、静かな美。上に飾られた化粧や彩り、儚げな様よりも、手や踝、頭の形やしっかりと綺麗な肩をみると、健康的で素晴らしいとつい目が追ってしまう。――無駄のひとつもない造形美は、まさに、生命の神秘といえましょう」
 眼には見えずとも、ヒトの内に必ず存在する造形美。
 言葉のひとつひとつがそのカタチを想起させ、聴衆はほうとため息をついた。
「生まれながらに唯一無二を形作る芸術と考えれば、『骨』もまた素晴らしい『猟奇』ですね」
「ああ、わたくし、新たな『猟奇』に目覚めてしまいそうですわ……」
「骨の美しさは、『歯』にも通ずるところがある。やあ、君とはいい酒が飲めそうだ」
 類は「恐縮です」と頭をさげると、すっかり感心した様子で聞き入っていた咲幸を見やった。
 少女は「素晴らしいお話でした」と顔を輝かせ、
「私も、先生の作品を手にとって自分の業に気づいたのです。北枕先生は、一体どんな天啓を受けて人の業を揺さぶるような作品を書くようになったのでしょう! この語らいを機に、以前の作品も読んでみとうございます」
 そう熱意をこめて告げれば、黒髪を好む青年が言った。
「『猟奇』に目覚める以前の作品は、僕も全て読みました。しかし、これといって特筆するような点はありませんね。失礼を承知で言わせていただくなら、ありふれた凡作です」
「以前の作風は、文学小説といったら良いのかしら。作品全体にただよう熱量が違うように感じますわね」
「いやいや。さなぎが蝶に生まれ変わるように、北枕氏には凡人である期間が必要だったのやもしれん」
「皆様、研究熱心なのですね。より素晴らしい『猟奇』をたしなむために、私も見習い、学ばなければ」
 そう咲幸が称賛すれば、類が言葉を引き継いだ。
「次回作を待ち詫びているうちに、わたしも過去作を遡っていたんですが……。皆様は、作風が変化した切っ掛けはなんだと想像されます?」
 その問いかけに、眼球を愛する淑女が言った。
「先生はかつて、ご自身の『猟奇』を表に出すことを恥じていたと仰っていますわ。けれど、内なる『猟奇』と向きあい、さらけだすことで、世界が広がったのだと」
「ああ、『青年猟奇倶楽部』開催の告知序文ですね。あれは素晴らしい宣言でした」
「おかげで、我々もこうして内なる『猟奇』を語らうことができる。北枕氏は実に器の広い御仁だ」
 延々と続く作家礼賛を聞き流しながら、咲幸は思考を巡らせていた。
(「――ということは。『籠絡ランプ』を手に入れた後に、すっかり人が変わったようになってしまったってことですよね」)
 それは果たして、ラムプの効果によるものなのか。
 北枕が元々持っていた猟奇性によるものなのか。
「やはり芸術の転換期には、価値観を揺るがすような美との遭遇でもあったのでしょうかね」
 類のこぼした言葉に、淑女が声を潜めて言った。
「これは、噂話ですけれど。先生は執筆の際には、必ず『ほんものの猟奇』に触れるのだとか」
「……『ほんものの猟奇』?」
 類が問い返せば、女は真白の歯を覗かせ、嗤った。
「描く『猟奇』を、完全再現するそうですわ」
 それを聞いて、黒髪の青年と、歯の男は呵々と笑った。
「再現だなんて。不可能ですよ。先生の作品は、想像から生まれるがゆえに美しいんです」
「そうとも。猟奇を再現すれば、もはや北枕氏は作家としてやっては居られまいよ」
 だが、咲幸と類は知っている。
 『籠絡ラムプ』は『影朧』を操る道具。
 その力をもってすれば、『猟奇を現実のものとする』ことなど、容易いのだと。
 2人は引き続き紳士淑女の会話に合いの手を入れながら、件の作家が現れるのを待った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鬼桐・相馬
仮面な……角部分を何とかしないと。

能面の顰面に穴を開け角を通し、それを身に着け会場へ。
事前に北枕氏の代表作数点に目を通しておく、特に猟奇描写について。

今宵「も」行われているならば。幻朧城を慣れた様子で進む人物を[偵察・追跡]し会場で話しかけ[情報収集]。
自らの性分が役立つ事に内心嫌悪するが仕事の為だ。

相手の猟奇に耳を傾ける。
――俺の猟奇は。
苦痛を受け続け絶望しながらも自ら命を絶てず生殺与奪を委ねてくる、その変化を愉しむのが好きなんだ。その過程を絵描きに描写させる。

賞賛を織り交ぜ会話を継続。
貴方はとても詳しいんだな、是非北枕氏についてもご教授願いたい。
彼は自らについて語ることはあるのだろうか?




 潜入にあたり、羅刹の鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)は、能面『顰面(しかみづら)』を用意していた。
 「しかめつら」とも呼ばれる能面で、危害を加える悪い鬼の役に用いられるものだ。
 額の角に馴染むよう穴を開け、その面を身につけホール内を歩く。

 相馬は当日までに、北枕・格之進の代表作に眼を通していた。
 書店で聞いたところ、駆け出しの頃よりも、より新しい作品の方が人気があるという。
 はじめの数作は、主人公が日常の内にささやかな『猟奇』を見出す程度の話だった。
 しかし、新作を発表するにつれ、より凄惨さが増していったという。
 ――女の手指に魅せられた医者が、集めた手を自宅に蒐集する話。
 ――妻の病を治すため、夫が人間の五臓六腑を用いた秘薬を求め、やがて妻を手に掛ける矛盾におちいる話。
 ――地獄絵図に魅せられた絵師が画材として使う血を求め、罪なき人々を襲い地獄を現実のものとする話。
「あの先生はね、口にするのもはばかられるような『猟奇』を、まるで見てきたかのようにリアルに描いてみせるんですよ。みんな好きでしょ、そういうの。だから、新刊が出るたびに売り上げもうなぎのぼりでね」
 そう言って、書店の主はガハハと笑っていた。

 聞けばこの催しは今回が初めてではなく、すでに幾度も行われており、ファンにはなじみの企画らしい。
(「『青年猟奇倶楽部』が、今宵『も』行われるというのならば。この幻影城を、慣れた様子で進む人物がいるはずだ」)
 何度も足を運ぶような人物であれば、より詳しい話を聞くことができるに違いない。
 しかし、相馬自身もホールを巡り、紳士淑女の会話に混ざりもしたのだが。
 椅子に腰を据えて歓談する者たちの会話からは、これといってめぼしい情報は得られなかった。
 改めて会場内を見やったところで、歓談の輪から離れ、壁に背を預けたままの男が居ることに気づく。
 しばしの間、間合いを取って観察していたが、用意された飲み物に口をつけるばかりでその場を動こうとしなかった。
「すまない。少し良いだろうか」
 意を決し声を掛ければ、男は相馬に顔を向けた。
 ペストマスクと呼ばれる鳥のくちばしを思わせる仮面が、異様な雰囲気を醸しだしている。
「……おまえさん、見ない顔だな。この集いは初めてか?」
 ひと目見るなりそう告げた男に、相馬は素直に頷き返した。
「ああ。思いきって参加したものの、勝手がわからなくてな。あなたは場慣れしているように見えたので、声を掛けさせてもらったしだいだ」
「ヒヒヒ。新参者にしてはいい勘だ」
 ペストマスクから覗く黒い眼が、欠けゆく三日月のように細められる。
「オレはこの会の常連でね。集まった連中のことなら、大体は把握している」
 ――黒髪好きの男は、青年実業家。
 ――眼球好きの女は、舞台女優。
 ――歯を好む男は、帝都の高級官僚。
 次々と参加者の正体を暴いていく男に、相馬が思わず声をあげた。
「ここでは、互いの身分を明かさないルールではないのか」
「そうとも。だが、今夜はどうやら勝手が違うらしい。おまえさんを含めて、見たことのない人間が複数いる。……あんたら素人じゃねえだろ。桜學府のユーベルコヲド使いじゃねえなら、噂の『超弩級戦力』か? ――まあいい。つまり職業柄、そういうのには鼻が利くんだ」
 「気付かなくていいものに気づいちまう。新聞記者(ブンヤ)ってのは、難儀な生き物さ」と続けて、男は言った。
「情報料代わりに『猟奇』を聞かせな。そしたら、なんでも話してやるよ」
 こちとら情報を売って生活してるんでねと言われ、相馬は観念して口をひらいた。
 殺戮を好む嗜虐の性分は、自分でも理解している。
 自らの性分が役立つことに内心嫌悪するが、これも仕事のためだ。
「俺の『猟奇』は……。苦痛を受け続け、絶望しながらも、自ら命を絶てずに生殺与奪を委ねてくる。その変化を愉しむのが好きなんだ」
 ――手のひらに握り締めた、ひな鳥のように。
 その過程を絵描きに描写させるのが良いのだと言えば、ペストマスクの男は満足げに頷いた。
「ヒヒヒ! 合格だ。おまえさんの『猟奇』なら、北枕の眼鏡に叶うかもしれねえぞ」
 その物言いに、「どういうことだ」と問えば、男は言った。
「『青年猟奇倶楽部』の開催後、姿をくらました人間たちが何人も居る。1人や2人どころじゃねえ。何十人もだ。俺は北枕が怪しいと睨んでいるが、何しろ証拠が出てこねえ」
「北枕氏が、人をさらってるっていうのか」
「状況がそう言ってんだよ。消えるのは、『猟奇倶楽部』の終わりに北枕に招かれた特別な客人たちだ」
 北枕は興味を惹いた『猟奇』を語る客人を選び、特別にもてなすという。
 そして。
 選ばれた客人たちは、そのことごとくが消え失せている。
「そら。城主様のお出ましだぜ」
 絶句する相馬が振り返った先には。
 ひとりの女をともなった北枕・格之進が、悠然と歩いて来るところだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『文筆夫人・黒住霧子』

POW   :    この子?私のかわいい「悪魔(ダイモン)」よ
自身の身長の2倍の【黒霧の魔獣】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
SPD   :    ねぇ、あなたの物語を教えて?創作の種になるわ
【レベル×5の白紙の原稿用紙を飛ばす事】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【用紙に書き留められ戻る事で記憶や過去】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ   :    私の創作活動を邪魔しないでくださる?
非戦闘行為に没頭している間、自身の【召喚した黒霧の魔獣】が【近づくもの全てを攻撃し】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は推葉・リアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「やあ、どうも。どうも、みなさん。今夜も楽しんでいますか」
 声とともにホールへと入ってきたのは、シワだらけの書生服に、ぼさぼさの寝癖頭。
 手入れのされていない無精ひげを生やした、風采(ふうさい)があがらない青年だった。
 ポスターで見た姿そのままだが、か細い声で話し手を振る様子を見ると、さらに頼りなげに見える。
 手にしたオイルランプが、『籠絡ラムプ』なのだろう。
 後について歩くのは妖艶な和装美人だが、居合わせた猟兵たちには、それが『影朧』であることは一目瞭然。
 猟兵たちが警戒態勢に入ったことも知らず、北枕はへらりと笑いながら、言った。
「夜も更けてまいりましたが、今夜も、霧子さんの気に入った方々を特別にお招きしようと思います。お時間の許す方は、ぜひご参加ください。まずは、そこのご婦人。それから――」
 呼ばれた民間人が北枕の元へ行こうとするのを、猟兵たちが阻んだ。
 行かせれば『影朧』の餌食となり命を落とすであろうことは、事前の聞きこみで判明しているからだ。
「あ、あの。なんですか、貴方がたは」
 猟兵たちへ驚いた様子で問う北枕に、『霧子さん』と呼ばれた影朧が言った。
『格之進さん、下がっておいでなさいな。ここは戦場になるわ』
「は、……ま、まさか。まさか、憲兵が!?」
 慌て始めた北枕とは裏腹に、来客たちも状況が呑み込めずにいた。
 新しい催しかと様子を見守りながらざわめく中、影朧は笑んだ。
『お初お目にかかりますわ、猟兵のみなさま。でも。――私の、私たちの創作活動を、邪魔しないでくださる?』
 女は艶然と微笑み。
 召喚した黒霧の魔獣を、ホール内へと無差別にはなった。

 ホール内には50人の客人たちが居合わせている。
 彼らが戦闘に巻き込まれぬよう、うまく立ちまわることができれば。
 眼前の『文豪』が『偽ユーベルコヲド使い』であるという真実を、公衆にも知らしめることができそうだ――。
リオン・リエーブル
連携アドリブ歓迎

本当に「目で見てきた」猟奇を文章にするのはおにーさんいただけないなぁ
そんなの誰にでも書けるさ
文才が無い人間でも本当に心を打った出来事を書き綴れば
誰の心も打つ文章が書けるものだよ
でも本当の文豪はそれを想像でやってのけるのさ
一生に一度の体験を何度も文章として顕す
それができないから君は凡夫なんだよ!

なんて挑発しながら狼型ゴーレム召喚
半分は黒霧の魔獣を迎え撃たせ
もう半分は来客を部屋の外に押しやる
後で楽しい話を聞かせてあげる

同時に高速詠唱で薬を調合
2回攻撃、鎧無視攻撃で霧子を攻撃
魔獣は近づくもの全てを攻撃するから
来客に行く魔獣の数は少なくなるよね
攻撃は隙ができた時でいいよ
後は皆に任せた!




 黒霧の魔獣がはなたれるに至ってようやく、仮面の客たちは悲鳴をあげてホール内を逃げ惑いはじめた。
 人々の流れに逆らい、被っていた仮面を脱ぎ捨て影朧に迫ったのは、リオン・リエーブル(おとぼけ錬金術師・f21392)だ。
「本当に『目で見てきた』猟奇を文章にするのは、おにーさん、いただけないなぁ。実際に見たものを綴るだけなんて、そんなの誰にでもできるさ!」
 文筆夫人・黒住霧子を挑発するべく声を張りあげ、錬金術師のコートに仕込んでいた試験管を手に取る。
『あら。それなら、あなたの物語を教えて? そんなに仰るのだもの。きっと、あなたを「モデル」にすれば、素敵な創作の種を得られるに違いないわ』
 召喚した悪魔(ダイモン)をはべらせながら、霧子はリオンへ向けてカミソリのごとき原稿用紙を次々とはなった。
 だが、敵の攻撃は想定済みだ。
 手にしていた薬を高速詠唱で調合し、投げはなった試験管の二連撃で、飛来する原稿用紙の束を相殺する。
「『モデル』だって? 本当の『文豪』は、それを想像でやってのけるのさ。一生に一度の体験を、何度も文章として顕(あらわ)す。――それができないから、君たちは凡夫なんだよ!」
 ニイと、不敵な笑み。
 続けてリオンが試験管の薬品から召喚したのは、
「さあ、出ておいで! 仮初の命をあげるよ」
 70頭近い数の狼型ゴーレム――人造の獣たちだった。
 それらは、固い足裏でやわらかなじゅうたんを踏みしめると、一斉に主であるリオンを見た。
『あら。わたしの悪魔のほうが、ずっとかわいいわ』
 霧子が双眸を細め、北枕・格之進のもとへ魔獣たちを走らせる。
 リオンも霧子への挑発を続けたまま、手指だけで、狼たちへと命じた。
「たとえ文才の乏しい人間であっても。本当に心を打ったできごとを書き綴れば、だれの心も打つ名作が書けるものだよ!」
 ――半分は、黒霧の魔獣を迎え撃て。
 ――もう半分は、客たちを部屋の外に追いやれ。
 しかし。
「キャアアア! 今度は狼よ……!」
「助けてくれえ!」
 客たちは狼たちの姿を見て、魔獣と同じく自分たちに襲いかかると誤解したらしい。
 一部の客はうまく部屋の外へ逃げおおせたものの、多くは、ホール内へと逆戻りしてしまった。
「うまくいったら、あとで楽しい話を聞かせてあげようと思ってたのに……!」
 リオンは内心舌打ちしながら、民間人を襲おうとしていた魔獣めがけ、続けて狼ゴーレムをけしかけた。
 近づくものへ攻撃を仕掛ける獣たちは、すぐに狼たちに標的を変え、襲い掛かった。
 狼ゴーレムを使って50人の民間人を避難させるには、リオンひとりでは手に余る。
 しかし、そのゴーレムで魔獣の気を引くのなら、確実に役に立てそうだ。
「あとの避難は、皆に任せた! 魔獣たちの足止めは、おにーさんに任せなさい!」
 長い緑のポニーテールをなびかせ、身体にまとわりついていたコートをはらう。
 愉快そうに口の端をもたげ、両手いっぱいに調合済みの試験管を構えると、悪魔たちに言った。
「さあ、僕と遊ぼうか! 悪いようにはしないよ、――多分ね」
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
集まった客がそのまま人質になる
混乱で逃げ惑えば入り口周辺で団子だしな

先に、己が仮面を剥がし
手短に客人達へ身分を明かして注意促す
彼らが物騒なものを使っている調査に来たもので
こうなっては、ここは戦場
可能な限り守ります
散れば獣に噛みつかれる
焦らず、押し合わず、出口に近い方から下がって下さい

荷から瓜江を起こし、客人の退路確保か
退避不可なら獣の攻撃を引き付けを

自身は、獣の気を引くために薙ぎ払いで牽制
写身を呼びそこに破魔の祈りと魔力込め
客人達の周りに添わせ
万一攻撃されたら庇い、受ける盾にと

創作、ですか
想像でなく、現で起こせばそれは
物語と言う枠組みの
破壊に等しいのでは?

他猟兵さんと協力をしつつ
守り重視でと


九重・咲幸
最初は、読んでほしくて、褒めてほしかったんだろうな
でも、そうしてくれた人たちに、『ほんものの猟奇』を?
本末転倒じゃないですか……
言葉にならない悲しい気持ちになります

でもとにかくまず、この場をどうにかしないと
戦う人が怪我するのは百歩譲っても
巻き込まれた人が怪我をするのは絶対嫌だ

他の猟兵が戦いやすいよう、客人の保護、避難をメインに動きます
衝撃波や範囲攻撃等で魔獣を弾き飛ばしたりしつつ
彼らを優先に叩きます
式鬼の一陣にも使い魔を呼ばせて、援護してもらいます
少し足りないけどほぼ客人一人につき一体つけられるから
もしもの時は一発くらい身代わりにできるかな……
余力があれば『霧子さん』にも攻撃




 同席したままその時を迎えた九重・咲幸(幽世の眼・f03873)と冴島・類(公孫樹・f13398)の2人は、影朧が現れるなり立ちあがっていた。
 ――猟兵のひとりと戦闘を開始した影朧と、その傍で右往左往する北枕。
 眉根を寄せた咲幸が、手指をきつく握りしめ、つぶやく。
(「最初は、ただ作品を読んでほしくて、褒めてほしかったんだろうな。でも――」)
 彼らの作品を読んで、胸打たれた者たちが集って。
 どんな形であれ、ここには熱気があふれていた。
 それなのに。
「作品を好きになってくれた人たちに、『ほんものの猟奇』を? ……それじゃあ、本末転倒じゃないですか」
 ――影朧が、民間人たちへ悪魔をけしかける。
 ――北枕は、その様子が眼に入っていないかのように、ただただ籠絡ラムプを抱えて震えている。
『私の創作活動を、邪魔しないでくださる?』
 ささやく影朧の顔には、満面の笑み。
 咲幸に胸に、言葉にならないほどの悲しみが去来する。
 表情の曇った少女を見やりながら、類は民間人の動きを注視していた。
「これでは、集まった客がそのまま人質になってしまう。混乱が広がれば、入り口周辺で人々が団子状態になるのは避けられないよ」
 それまで歓談していた3人の民間人も、魔獣の姿を見るや、血相を変えて逃げようとしはじめた。
 しかし、現在地は出入り口には遠く。
 無防備な民間人の足では、移動する間に魔獣に襲われるのがオチだろう。
(「ここは身分を明かし、注意を促すのが適切か――」)
 類はそう考え、近くへ寄ろうとする魔獣たちを短刀の薙ぎ払いで牽制。
 被っていた仮面を引き剥がし、3人へ呼びかけた。
「僕らは、彼らが物騒なものを使っていると知り、ひそかに調査に来ていた者です。しかしこうなっては、ここは戦場になります。可能な限り守りますが、お三方がばらばらに離れてしまっては、それもできません。どうか、僕らの近くに居てください」
 懸命に説得を試みるが、各所で猟兵たちと影朧、魔獣の戦いが勃発しはじめており。
 それを眼にした民間人たちは、既にパニックを起こしていた。
「あっはははは、あなた何を言っているの!? あの噂は本当だったんだわ! みんなみんな、先生のために『ほんものの猟奇』となってここで死ぬのよ!」
 眼球好きの女が床に座り込み、狂ったように笑い続ければ、
「おい、君。脱出に手を貸してくれたら、いくらでも出す。さあ、今すぐ僕をここから連れ出せ! 今すぐに!!」
「何を言うか! 私は高級官僚だ。貴様のような若造の命など、足元にも及ばんのだぞ! 私を先に逃がすのが先だ、私を守らんか!!」
 2人の男に詰め寄られ、類は眉根を寄せ、唇を噛みしめた。
 ――あれほど『猟奇』を語っていた、紳士淑女も。
 ――いざ危機を目の当たりにすると、こうも変貌するのか。
 彼ら3人だけならともかく、この場には助けを必要とする民間人が多くいる。
 少なからず縁を得た者たちではあるが、だからといって、それが命に順位を付ける理由にはならない。
 咲幸に目配せをすれば、少女は意を察し、すぐに頷いた。
(「とにかく。まずは、この場をどうにかしないと。――ですよね」)
 少女は式鬼『一陣』に命じ、48体の使い魔を召喚。
 他の猟兵の手が足りていない場所を優先しながら、人型の式鬼を客人一人につき一体を付き従わせていく。
 膝ほどの背丈の式鬼たちは見た目には小柄だが、一度程度の攻撃には耐え、身代わりとなれるだろう。
「助かります」
 類が礼を告げれば、咲幸はふるふると首を振った。
「戦う人が怪我するのは、百歩譲っても。巻き込まれた人たちが怪我をするのは、絶対嫌ですから」
 そう告げて、自らも3人の客人を守るべく、守りのまじないがこめられた懐刀を手に魔獣たちと戦い始める。
 類はあらためて3人の民間人に向きあい、言った。
「だれか1人を選ぶことはできません。『全員』で、ここを出るんです」
 うなだれる3人をよそに、類は荷から絡繰人形『瓜江』を起こし、彼らと、その周辺にいる者たちの護りとした。
「散れば獣に噛みつかれます。焦らず、押しあわず、出口に近い方から下がってください……!」
 その声を聞きつけ、魔獣に騎乗した影朧が駆けつけた。
『ねえ、あなたの物語を教えて? あなたもきっと、素晴らしい、創作の種になるわ』
 霧子が艶然と笑み、原稿用紙を投げはなつ。
「此処に、現れ給へ――」
 類はすぐさまユーベルコード『空蝉写し(ウツセミウツシ)』で、自身の複製を80ほど造りあげた。
 狙われているのは類だが、攻撃の余波を受けた民間人が、犠牲にならないとも限らない。
 写し身に破魔の祈りと魔力を込め、攻撃を庇い、盾となるべく働くよう命じる。
「創作、ですか。想像でなく、現で起こせばそれは、物語と言う枠組みの破壊に等しいのではありませんか?」
 ひとりでも多くの民間人を、救うために。
 今は守りに徹するべしと、類は影朧と対峙し続けた。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リスティ・フェルドール(サポート)
援護・治療・盾役として参加いたします。最優先は自分を含む仲間全員の生存と帰還。成功の立役者ではなく、命の守り人として最悪の結果を回避できれば、それ以上に望むことはありません。

真剣な雰囲気は邪魔をせず、仲間同士の険悪な雰囲気はあえて朗らかに。チームワークが生存率を上げる一番の方法として行動します。

ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはマスター様におまかせいたします。よろしくおねがいします!




 民間人を護り、出口へ導こうとする類(f13398)と咲幸(f03873)の動きは、すぐさま文筆夫人・黒住霧子と、黒霧の魔獣たちの標的となった。
 多くは『類の写し身』や『咲幸の式鬼』が攻撃を庇い、盾となり、ホール内を駆け抜けた。
 しかし。
 魔獣が近寄るたびに泣き、叫び、右往左往する者たちの避難は遅々として進まず、難航を極めた。
 類が戦う時は、咲幸が。
 咲幸が戦う時は、類が絡繰人形とともに民間人を背にかばったが、
『私のかわいい悪魔たち。お腹いっぱい、貪り尽くしておやり』
 霧子がさらに魔獣をけしかけ、道を阻む。
「ヒイイイイ……!」
 写し身や式鬼の加護を失った民間人男性が、恐怖のあまり腰を抜かし頭を抱えてうずくまっている。
 己もまた『猟奇』となるのかと死を覚悟した。
 その時だった。
 ――ヒュドッ。
 水晶のごとき穂先を持つ槍が、まっすぐに魔獣の身体を貫いた。
 青髪の獣遣い――リスティ・フェルドール(想蒼月下の獣遣い・f00002)がこの危機に駆けつけ、手持ちの槍をはなったのだ。
「こっち、こっち! ……さあ、力を貸して!」
 次の瞬間、
 ――オオオオオォォォォン!
 声に続いて突風が吹き荒れたかと思うと、異空間から召喚されたドラゴンが飛翔状態で出現。
 男に襲い掛かろうとしていた魔獣へ突進し、勢いのままに喰らいつく。
 力の差は圧倒的で。
 ドラゴンに噛み砕かれた魔獣は、すぐに動かなくなった。
「え? ……え?」
 何が起こったのかわからぬまま、己の傍に佇むドラゴンと、灰と化し消えていく魔獣を見ていると、
「お兄さん、もう大丈夫ですよ! でも、このまま座りこんでいるのは危険です」
 緊迫した場には不似合いな、やわらかな声音が背後から響いた。
 肩越しに振り返れば、青髪青眼の娘――いや、青年が、花の咲くような笑顔をたたえながら、男の顔を覗きこんでいる。
 「よいしょっ」と槍を手中に取り戻せば、流水を思わせる髪がさらりと肩から流れ落ちて。
 その様だけを見れば女性のようにも思えたが、男の腕をつかみ、立ちあがらせようとする所作には、男性のもつ力強さがある。
「出口までもう少しです。僕のドラゴンが睨みをきかせているうちに、走っていっちゃいましょう!」
「し、しかし……!」
「皆さんが戦ってくれている、今が好機ですから!」
 ホール内の各所で攻撃を続ける仲間たちが居ればこそ、リスティと男の元へ駆けつける魔獣の数は減りつつあった。
 ――『猟奇』を語りに来た場で、『猟奇』の犠牲になるなど冗談ではない。
「こんなところで、死にたくはない……!」
 リスティは槍を手に頷くと、「はい!」と満面の笑顔を浮かべて。
 すぐさま男を伴い、戦場を駆けだした。

 別の猟兵との戦いのさなか。
 影朧の霧子が視線を向けた時には。
 リスティとひとりの客人。
 それからついでに、何人かの客人たちも。
 ホール内から、すっかり姿を消していた。
 
 

成功 🔵​🔵​🔴​

月雅・輝糺
ふふ、客たちを庇う必要はあるのだろうか?
これこそが彼らの、そして北枕氏の待ち望んでいた
「猟奇」なるものの真実ではないのかね?
……まあ、あまり皮肉を言うのもやめておこう
優れた探偵は被害者を出さないものさ

「早業」「迷彩」「残像」により僕の分身を幾つも作りだし
魔獣の目を客たちから逸らさせ、注意を引くとしよう
分身を派手に動かすのは客を庇うと同時に僕自身の陽動のため
僕の本体は「闇に紛れ」「目立たない」ように闇に潜み
影朧の本体へ近づこう
そう、「暗殺」者のようにね

僕のキセルパイプが宙に踊った時
影朧は内部から焼き尽くされていることだろう
では、永のお別れだ、美しいご婦人
(帽子を取って胸に当て、芝居がかって一礼)


鬼桐・相馬
何事も命あっての物種――全くだ。

【POW】
黒霧の魔獣、ならば己の欲求や悪意を[冥府の槍]に積極的に送り激しい炎を噴き出させ攻撃を通そう。
真正面から敵の攻撃を[戦闘知識で見切り、槍で武器受け後怪力をのせたカウンター]で人のいない方向へ吹っ飛ばす。

即座にUC発動、会場に響く大声で人々と猟兵へ向け言う。
猟奇描写「される」側になりたくないだろう? テーブルや椅子でバリケードを作るんだ、必ず助ける。

その後は魔獣を集中攻撃、共有された生命力ごと刈り取る。脚周りを重点的に攻撃し体勢を崩したところを[串刺し]に。

北枕氏へ槍を突きつけ[恐怖を与え]言おう。
俺の「猟奇対象」になりたくなければ、そのランプを寄越せ。




 一方、入り口付近では。
「ヒャハハ! 明日の朝刊はこのネタで決まりだな!」
 ペストマスクの新聞記者がメモとペンを手に影朧へ近づこうとするのを、能面を脱ぎ捨てた鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)が襟首を掴んで引き止めていた。
「いい加減にしておけ。お前だって、猟奇描写『される』側にはなりたくないだろう」
「ヒヒヒ、もちろんわかってるさ! おおっと!」
 襲い掛かってきた魔獣を見やり、記者がひらりと相馬の背に隠れる。
 こういう時ばかり、驚くほど動きが素早い。
 相馬は顕現させた『冥府の槍』に、己の欲求や悪意を積極的に送って。
 獣の動きを見切り噛み付きをかわすと、激しい炎を噴出させた穂先で貫き、勢いのままに人のいない方向へ吹き飛ばす。
 悪魔が霧散し、消えていくのを見届けて。
「さすがは、噂の『超弩級戦力』様!」
 ピュウと口笛を吹いた記者へ、相馬が金の眼を向けた。
「おいおい、そう睨むなよ! いくら職業病ったって、記事にして、世に見せびらかしてこそのスクープだ。だいたい、殉職なんて性にあわねえ」
「何事も、命あっての物種。――まったくだ」
 突き放すように男を出口へ押しやり、逃げないならせめて、避難誘導を手伝ってくれと言い捨てて。
 相馬はホール内へ向き直ると、出口から遠い場所にいる民間人たちへ聞こえるよう、声を張りあげた。
「手近にあるテーブルや椅子を使って、バリケードを作るんだ! 動くもの、近づくものがあれば、獣に狙われる。今は、静かに身を隠してやり過ごしてくれ。そうすれば、必ず俺たちが助ける……!」
(「常世を彷徨う熾火への渇望、現世へ廻れ……!」)
 胸中で唱えれば、相馬の声に耳を傾けた者たちの身に『加護』がもたらされた。
 ――ユーベルコード『哭燈火(コクトウカ)』。
 相馬の言葉に同意した全ての対象に対し、一度だけダメージを無効化する冥府の加護を付与する技だ。
 仮に、民間人たちが魔獣に襲われることがあっても。
 これで一度だけなら、切り抜けることができる。
「おやおや。なんとも親切なことだ」
 近くで戦っていた月雅・輝糺(光と影は帝都の謎を映し出す・f22635)がその様子に気づき、「ふふ」と嗤った。
「ねえ君。はたして、あの客たちを庇う必要はあるのだろうか? これこそが彼らの、そして、北枕氏の待ち望んでいた『猟奇』なるものの真実ではないのかね?」
 その物言いから、輝糺が冗談を言っているのだということは、相馬にも理解ができた。
 理解はできたのだが。
 即座に機転の利いた会話ができるような芸当は、持ちあわせていなかった。
「……すまないが。上手い返しを期待しているなら、他をあたってくれ」
 金の眼でまんじりと見つめ返せば、輝糺は愉快そうに口を曲げ、言った。
「お構いなく。独り言には慣れている。――まあ、あまり皮肉を言うのはやめておこう。『優れた探偵は、被害者を出さない』ものさ」
 そう告げるなり、自前のランプ――『不思議喰いのミステリイ・ランタン』を手に、うやうやしく一礼してみせる。
 足元に落ちた影がゆらゆらと踊ったかと思うと、幾重にも己の分身をつくりだし、それぞれが、民間人へ襲いかかろうとしていた魔獣たちの前に躍りでた。
 得体のしれない猟兵ではあるが、ここは連携するのが得策と悟って。
(「圧し通せるかどうか」)
 青暗い炎を噴出し続ける槍を手に、相馬が魔獣たちに護られた北枕の元へ駆けようとした、その時だ。
『いけませんわ、お客様』
 ひときわ大きな黒霧の魔獣に騎乗した影朧が、猟兵の動きに気づき、襲いかかった。
 その背には、煌々と輝く後光がさしている。
 女がかつて『ハイカラさん』であった証だ。
『ここは格之進さんの城。その主へ、無体を働こうなんて……!』
 ガキンと鈍い音が響き、槍の柄が魔獣の牙を受けとめる。
「くッ!」
 鍔迫りあう羅刹の青年も、怪力では負けていない。
 影朧が騎乗したままの魔獣の身体を、じりじりと押し返していく。
 そこへ響いたのが、
「まだまだ遊び足りないのかな? それなら、おにーさんはりきっちゃうよー!」
 同じく影朧と対峙していた錬金術師――リオン(f21392)の声だった。
 自身の召喚した狼型ゴーレムで周囲の魔獣たちを足止めし、仕込んでいた試験管を影朧へと投げつける。
 タイミングを合わせ、相馬は魔獣の脚へ、力の限り冥府の槍を突きたてた。
「共有された生命力ごと、刈り取る……!」
 串刺しにされた魔獣が咆哮をあげ、バランスを崩す。
 騎乗していた霧子が回避に失敗し、リオンの投げた試験管の薬品を頭から被った。
 肌を焼く薬が、容赦なく全身を侵していく。
 手にしていた原稿用紙と万年筆が、バラバラと手から滑り落ちていく。
『いたい、いたいいたいいたいぃぃぃいいい!!』
 生命力を共有する獣のダメージをも、その身に感じているのだろう。
 脚を押さえ悲鳴をあげる霧子を護るように、魔獣が相馬とリオンを牽制する。
 2人がやむなく距離をとったのを見てとり、霧子はただれた顔を手で覆うようにしながら、反撃するべくさらに悪魔を召喚しようとした。
 しかし。
 ――ヒュ。
 風が空を切るような、かすかな音。
 気配に気づき振り返れば、小さなランプを手にした気障な青年が立っていた。
 ――輝糺が分身を派手に動かしたのは、客を庇うと同時に、『陽動』を行うため。
 己自身を、その場に居る者たちの意識の外に追いやるため。
 はたしてその試みは、他の猟兵たちの攻撃でより確かなものとなり。
 青年は手にしたキセルパイプ(暗器)を掲げ見せながら、笑んだ。
「沈みたまえ。光も影もない、虚無の中へと」
 影朧が、首筋の違和に気づく。
 小さな切り傷。
 その内側で、光と影の波動が命脈し、大きなうねりとなっていくのが、わかる。
 己を内から、蝕んでいくのが。
 ――ユーベルコード『光よ灼け、影よ飲み込め(ライトブレェド・シャドゥスティンガー)』。
 これこそが、『光と影』の属性を有す怪奇人間たる輝糺がもたらす『猟奇』。
 影朧は、籠絡ラムプの持ち主である北枕の居る方角を見やり、指先から崩壊していく手腕を伸べ、叫んだ。
『いやあああああぁぁぁぁああ! 格之進さん、格之進さん! 助けて、助けてえ!』
 一方、当の北枕は。
「美しい……! 実に美しい姿です!! これは、今までにない『死に様』ですよ、霧子さん!!」
 興奮した面持ちで告げる北枕を見やる影朧の顔に、絶望がひろがる。
 肩をすくめた輝糺は、つば広帽を取り、胸に当てて。
「――では。永のお別れだ、美しいご婦人」
 消えゆく影朧へと、実にうやうやしく優雅な所作で。
 芝居がかった一礼を見舞った。

 影朧は撃破できた。
 しかし猟兵たちには、まだ、最後の仕事が残っている――。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『籠絡ラムプの後始末』

POW   :    本物のユベルコヲド使いの矜持を見せつけ、目指すべき正しい道を力強く指し示す

SPD   :    事件の関係者や目撃者、残された証拠品などを上手く利用して、相応しい罰を与える(与えなくても良い)

WIZ   :    偽ユーベルコヲド使いを説得したり、問題を解決するなどして、同じ過ちを繰り返さないように教育する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 戦闘後。
 ホールが静かになったと判じ、ホール内で難を逃れた客人と、ホールの外へ逃げ延びていた客人たちが、おそるおそる様子を見に戻り始めた。
 猟兵たちは手分けをして民間人の無事を確かめると、残された男のもとへと向かう。

 使役していた影朧が消滅したというのに、『文豪』北枕・格之進は、籠絡ラムプを手にしたままあたふたとホール内を這いつくばっていた。
 何をしているのかと猟兵たちが近づけば、影朧が攻撃時に使用していた原稿用紙を拾い集めていたのだ。
「か、か、書き留めないと! 今すぐ書き留めないと! 指先からこう、ほどけるように消えていくあの様。どんな言葉を使えば、哀れさと、儚さを同時に伝えられるだろうか……!」
 わしゃわしゃと髪をかきむしり、懐に持っていた万年筆で何事かを書きなぐっている。
 あまりの字の汚さに、誰ひとりその文字を読めはしない。
「ああ、霧子さんが見せてくれたどんな『猟奇』よりも、彼女自身の『猟奇』の方がずっと美しかった……! 彼女は血みどろが好きだったから、そこは僕とは趣味があわなかったんだよねえ」
 作品を執筆する時は、常にそうなのだろうか。
 ぶつぶつと独り言を言いながら、笑ったり、はにかんだり、困惑したり。
 男は、実に表情豊かな百面相を披露した後。
 己の周りに、猟兵たちと、『青年猟奇倶楽部』の客人たちが取り巻いているのに気付き、「おや」と顔をあげた。
「みなさん、まだいたんですか」
 そうして、猟兵たちを見やるなり、イイコトを思いついた子どものように、無邪気な様子で、言った。
「そうだ! 貴方がた、もう一度霧子さんを殺してください! より確実な描写のために、もう一度、あの様を見たいんです! 霧子さんなら、このラムプで……あれ。霧子さん? 霧子さん?」
 ――おそらく。
 この男は、『籠絡ラムプ』の機能も、猟兵たちが影朧を骸の海へ還したことも、理解できていないのだろう。
 カタカタとオイルランプを振り続ける北枕の前に、槍を手にした羅刹の青年(f23529)が、静かに迫った。
 冷たく光る金の瞳が、ギロリと男を見おろす。
 槍の穂先を、男の首へ突きつけながら。
 青年は、極力、抑えた声で言った。
「……俺の『猟奇対象』になりたくなければ。そのランプを、今すぐ寄越せ」
 脅されて、ようやく。
「ひ、ひええええ!!!」
 青年はひれ伏すように、『籠絡ラムプ』を投げて寄越した。

 犯した罪に相応しい罰を与えるも、正しい道を取り戻させるも、すべては猟兵に一任されている。
 ――残された『北枕・格之進』の処遇を、決めなければならない。
 さて、どうしたものか。


●マスターより
 ・『1章~2章に参加した方』に限り、3章に参加できます。

 ・本シナリオのみの特別措置として。
  【 6月28日(日) 夜20:00まで 】、北枕への質問を受け付けます。
  この期間に頂いたプレイングはすべて失効させ、リプレイ上には残しませんので、
  一文のみや、書きなぐり、箇条書き状態などでも構いません。

  ヒントとして出しても良いと判断した質問を拾い、断章形式で執筆を行います。
  これまでの開示情報だけではプレイングを掛けにくいという場合は、ご活用ください。
  (あくまでヒントのために行うものですので、小説のような文章にはなりません。
   極力描写を省いた、簡単な対話形式を予定しています)


 ・本番のプレイングは、【 7月3日(金) 朝8:31以降 】より受付けます。
  5日(日)昼頃までに締め切り、5日(日)~6日(月)にかけて執筆予定です。

 ・多様な意見が集まる可能性があるため、提案内容がそのままリプレイに反映されるとは限りません。
  とはいえ、ひとりの青年の、その後の人生がかかっています。
  他の方の提案に遠慮することなく、ぜひ想いの丈をプレイングに詰めてください。

 ※上記予定は、状況により変更となる場合があります。
  最新の執筆状況は、マスターページ冒頭をご確認ください。
 
 

 ――北枕の処遇をどうするか。

 頭を捻りはじめた猟兵たちを前に、ペストマスクを被った新聞記者――『青年猟奇倶楽部』の常連を自称し、この事件を独自に追いかけていた男が言った。
「『超弩級戦力』さん方よ。北枕の処遇を決めようにも、情報不足じゃ話にならねえぜ。速記ならオレの特技よ。記録しといてやるから、アレコレ聞いてみちゃどうだい」
 促され、羅刹とヤドリガミの猟兵が進みでた。
 以下は、そのやりとりを記録したものである。

 *

 猟兵「霧子と出会った時の状況は」
 北枕「生活に窮していた時、たまたま古道具屋で手に入れた『オイルランプ』を使ったら出てきた。影朧を操る道具だとは知らなかった」

 猟兵「ランプの出処について、霧子から聞いたことはあるか」
 北枕「聞いたことはない。売れない作家だった自分に、神が与えた特別なランプだと思っていた」

 猟兵「なぜ霧子の誘いに乗ったのか」
 北枕「霧子から誘いがあったわけではない。霧子が生前、文筆家を目指していたと知り、互いに『文豪』を目指そうと意気投合した」

 猟兵「作風が変わってからの作品は、『ほんものの猟奇』に触れて書いているとの噂がある。実際にあなたの前で、霧子が人を殺してみせたのか」
 北枕「霧子が目の前で殺すのを見ていた。『リアリティを追究するためにはモデルが必要』だと霧子が言い、その通りだと思っていた。1人殺したら作品が売れた。2人殺したらもっと売れた。それから、『青年猟奇倶楽部』を企画し、『猟奇』のモデルと、新作のネタを集めることを思いついた」

 猟兵「あなたが手伝ったり、こんなものが見たいと要望したことはあったか」
 北枕「霧子はすべて自分で殺したがったため、手伝ったことはない。これまでに書いた作品のネタは、霧子の好みやアイデアによるもの。自分は文章を書く作業を担当していた」

 猟兵「『ほんものの猟奇』に触れることを、止めようと思わなかったのか」
 北枕「思わなかった。自分と霧子はそれで『文豪』になれた。書けば書くほど、読者たちも喜んでくれた」

 猟兵「今の地位は、自分の実力で得たものではないと自覚しているか」
 北枕「している。自分は書いただけで、アイデアは霧子のものだ」

 猟兵「今まで奪ってきた命に対する罪の意識はあるか」
 北枕「あるといえば、ある。ないといえば、ない。人間は、遅かれ早かれなんらかの理由によって死ぬものだ」

 猟兵「霧子がいなくなったあなたに、『猟奇』を見せてくれる相手はいない。今後、自分の力だけで執筆活動を続けていく意思と自信はあるか」
 北枕「自信はない。しかし、書き続ける。それがモノカキの性(さが)だ」

 猟兵「『霧子』は、あなたにとってどのような存在だったか」
 北枕「『よき理解者』だった。文才などないと言われ続けてきた人生のなかで、唯一、自分の才能を全肯定してくれた女性」

 *

「――ほらよ。これでも見返して、よく考えな」
 おまえさん方の決定も含めて、オレが明日の朝刊の記事を書くんだからよ!
 速記した資料を猟兵たちに配って。
 ペストマスクの男は、ヒヒヒと嗤った。


●マスターより(再掲)
 ・『1章~2章に参加した方』に限り、3章に参加できます。

 ・本番のプレイングは、【 7月3日(金) 朝8:31以降 】より受付けます。
  5日(日)昼頃までに締め切り、5日(日)~6日(月)にかけて執筆予定です。

 ・多様な意見が集まる可能性があるため、提案内容がそのままリプレイに反映されるとは限りません。
  とはいえ、ひとりの青年の、その後の人生がかかっています。
  他の方の提案に遠慮することなく、ぜひ想いの丈をプレイングに詰めてください。

 ※上記予定は、状況により変更となる場合があります。
  最新の執筆状況は、マスターページ冒頭をご確認ください。
月雅・輝糺
探偵とは謎を解き秘密を暴いて事件を解決するまでが仕事
人を裁くのが仕事ではないし、また決してそうあってはならないのさ
だから僕自身がこの場で彼に制裁を加えたり
あるいは逆に放免とすることもしてはならない

ただ北枕氏の行為はおそらく
影朧による殺人の幇助犯に該当する可能性が高いだろう
ゆえにその情報を集めて当局に提出するまでのことはするよ
そのあとのことは法が定めることさ

どうせ彼にはもうまともな作品は書けないのだから
「創作」ではなくただの「模写」しかしてこなかった彼にはね

創作者と自負していた者が己の才能の無さを自覚させられる……
その苦しみはおそらく想像を絶するものだろうが
それを救う義務もまた、探偵にはないのさ


鬼桐・相馬
まずは法による裁きを受けて貰いたい。
直接手を下していたのが霧子だとしても、幾つもの命を奪ったことには変わりない。
己の罪の重さを知り、償い。その上で残る人生をモノカキとして送りたいのなら、監獄の中で執筆活動を続けてもいいんじゃないかと思う。

己の内から滲む炎を腕に纏わせ言う。
霧子が何度でも蘇ると勘違いしていたようだが、お前は唯一の「よき理解者」が助けを求め縋った手さえ取らなかった。
そういった存在でさえ己の踏み台として利用したことには、憤りを感じる。

人はいつか死ぬと言ったな、その通りだ。
だが死んでも終わりではない。現世の先に待つのは閻魔王の座す常世の入口――楽しみだな?

新聞記者へは礼を言っておこう。


リオン・リエーブル
殺人未遂と殺人幇助と死体遺棄
パッと思いつくのはこの三つかな?

この世界の法律には詳しくないけど
罪人を捕まえるのは警察の仕事
罪人を裁くのは司法の仕事
いくら猟兵でも他人の仕事を取っちゃうのはダメだよね
だから北枕は警察に引き渡して法の裁きを受けさせる
それでおしまい

で、その事件をどう書き立てるかはペストマスクさんのお仕事
それにも嘴は挟まないけどさ
ペンは剣よりも強し、だからね

因果応報
身から出た錆
ペンで人を殺した北枕をペンで殺すなら
ペストマスクさんもいつかペンで殺される
その時、今まで殺してきた人間の怨念は
きみを容赦なく襲う
それは覚悟しておきなね

覚悟ができてるのなら何も言わないよ
好きなように書き立てると良いさ


冴島・類
ひとはいずれ死ぬ

けれど
天寿でなく摘み取られた命が
先で生んだもの
近しい者たちが始めなくてはならぬ
欠けた毎日を

記したものがこえる程の傑作だったと?
なわけない

憤りで…問題はすり替えない
奪ったのは
影朧とランプと、彼の執着だ
綴った記事は騒がれるが
実行犯でないなら裁きには限度がある

だが
文才や理解者の有無に関係ない

君の臆病さ
倫理観と天秤にかけて
魅せられた欲が勝った
見殺しを償う術は…

記者に
裁きはこの世の法に任せるが
これは書かないでくれと

北枕さん
筆しかない
書き続けるというならば
僕は見張るよ?作品を

次は人が死なず生きる話を書き
猟奇以上に売れてみせろ

でなければ
僕は今戦いの中の「手違い」で
筆持つ腕を斬り落とすが
如何か




 しばしの間をおき。
 ペストマスクの新聞記者が懐中時計を見やり、ふと顔をあげた。
 文豪・北枕がそれに気づき、顔にかかった髪の隙間から、猟兵たちを見やる。
 彼は客人たちによって両手首を縛りあげられ、衆人環視の状況下で座りこんでいた。
 騒ぎに巻き込まれた客人たちも、希望する者たちは場に残っている。
 彼らなりに、この事件にケリをつけたいのだろう。
 しかして、渦中の人物に反省の色はあるのかというと――、北枕のその表情からは、うかがい知ることができない。
「――で、どうだい。『超弩級戦力』さん方よ。答えは出たかい?」
 記者の呼びかけに最初に反応したのは、怪奇人間の月雅・輝糺(光と影は帝都の謎を映し出す・f22635)だった。
「他の猟兵のスタンスはわからないがね。僕自身は、いち『猟奇探偵』にすぎない」
 手にしたランプが、カラリと揺れる。
 それは輝糺の命の灯火にひとしく、『謎と怪奇』を燃料に、延々と燃え続ける代物だ。
「探偵とは――」
 右手に携えたキセル・パイプを掲げ、続ける。
「――謎を解き、秘密を暴いて事件を解決するまでが仕事。人を裁く者ではないし、また、決してそうあってはならないのさ」
 よって、己がこの場で北枕に制裁を加えたり、放免とすることもしてはならない、と言い述べて。
 「しかしね」と、言葉を重ねた。
「北枕氏の行為は、おそらく『影朧による殺人の幇助犯』に該当する可能性が高いだろう。ここまで関わったのも、何かの縁。それに関する情報を集めて、当局に提出するまでのことはしよう。後のことは、法が定めることさ」
 そこまで聞いて、エルフのウィザード――リオン・リエーブル(おとぼけ錬金術師・f21392)も声をあげた。
「おにーさんも、だいたい同じ意見だね! 『殺人未遂』と『殺人幇助』と『死体遺棄』。パッと思いつくのは、この3つかな?」
 新聞記者に確認するよう顔を向ければ、
「本当のところは、『城主様』に聞いてみなけりゃわからんが。おおむね、そんなところだろうよ」
 男の言葉にリオンは頷き、うなだれる北枕を見やった。
「僕は、この世界の法律には詳しくないけど。猟奇探偵のおにーさんが言っていたように、罪人を捕まえるのは、警察の仕事。罪人を裁くのは、司法の仕事。……いくら猟兵でも、他人の仕事を取っちゃうのはダメだと思うんだよね」
 場を見渡せば、その言葉に異論のある者は居ないようだった。
「だから、僕の結論は、こうだよ。――北枕は警察に引き渡して、法の裁きを受けさせる。それでおしまい!」
 パンと両手のひらを打ちあわせれば、
「右に同じく」
 と、羅刹の獄卒――鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)も声をあげた。
「俺も、北枕にはまずは法による裁きを受けてもらいたい。直接手を下していたのが霧子だとしても。お前が、お前たちが、いくつもの命を奪ったことには変わりない」
 金の瞳に射抜かれ、北枕は身を縮めた。
「……己の罪の重さを知り、償い。その上で、残る人生をモノカキとして送りたいのなら。監獄の中ででも、執筆活動を続けてもいいんじゃないか」
 そう相馬が告げると、すかさず輝糺が言った。
「いやはや。客たちを庇った時といい、君はどこまでお優しいのかね」
 その物言いに、今度は冗談が含まれていないことを察し、相馬がわずかに眉根を寄せる。
 不服そうな青年の様子に、デカダンをまとった青年はからからと笑った。
「この先、北枕氏がどれだけ書き続けようと、彼にはもう、まともな作品は書けやしないのさ。『創作』ではなく、ただの『模写』しかしてこなかった彼には、ね」
 うなだれたままの北枕の傍に膝をつき、輝糺は続けた。
「『創作者』と自負していた者が、己の才能の無さを自覚させられる……。その苦しみは、おそらく想像を絶するものだろうが。それを救う義務もまた、探偵にはないのさ」
 北枕の前に立ち。
 相馬もまた、己の内からにじむ炎を腕に纏わせ、言った。
「お前は、霧子が何度でも蘇ると勘違いしていたようだが。お前は、唯一の『よき理解者』が助けを求め、すがった手さえ取らなかった」
 ここぞとばかりに、北枕は顔をあげ、相馬へと叫んだ。
「だって……! だって霧子は、影朧とはそういうものだと思っていたんです! 何度だって繰りかえし現れて、不滅なのだと……!」
 たしかに霧子は、『影朧』だった。
 しかし、北枕は女を『理解者』とみなしながら、ただの道具のようにも扱っていた。
 ――己の、都合の良いように。
 固く拳を握り締めれば、相馬の腕の紺青の炎が、ゆらと震える。
「俺は。そういった存在でさえ、己の踏み台として利用していたことに、強い憤りを感じる」
 リオンは底の見えない笑みを浮かべていて、止める様子はないようだ。
 ここまで発言のないヤドリガミの冴島・類(公孫樹・f13398)も、ちらと緑の瞳を向けたが、何も言いはしなかった。
 終わりに、相馬は言った。
「人はいつか死ぬと言ったな、その通りだ。だが、死んでも終わりではない。現世の先に待つのは、閻魔王の座す常世の入口だ。――その時が、楽しみだな?」
 猟兵3人に囲まれ、北枕は返す言葉もない。
 ペストマスクの男は、「まあ、おおむね想定通りの顛末か」とつぶやき、類へと仮面を向ける。
「あとは、おまえさんだけだぜ」
 呼ぶ声を聞きながら、類はなおも、己の内で言葉を探っていた。
 北枕の前に膝をつき、その眼を見据えながら、とつとつと、言葉を紡ぐ。
「ひとはいずれ、死ぬ。……けれど、天寿でなく摘み取られた命が、その先で生んだもの。それは、近しい者たちが始めなくてはならぬ、欠けた毎日だ」
 今まであたりまえのように存在したものが、消えてなくなるという、果てのない喪失。
「それらが、記したものがこえる程の傑作だったと? ……そんなわけがない」
 これが憤りなのだと、類は冷静に己を見つめていた。
 手綱を手放せば、簡単に振り切れてしまいそうな。
 そんな、『感情』のゆらぎ。
(「問題は、すり替えない」)
 すうと呼吸を整え、思索を再開する。
「奪ったのは、影朧とランプと、彼の執着だ。綴った記事は騒がれるが、実行犯でないのなら、おそらく、裁きには限度がある。だが――。文才や理解者の有無には、関係ない」
 傍らで聞いていた相馬が、「何を言いたい」という顔をしている。
 リオンと輝糺、新聞記者はというと、静かに耳を傾けていた。
 類は、ふとペストマスクの男を振り返り、言った。
「記者さん。裁きは、この世の法に任せますが。これ以降は、記事には書かないでください」
「ああ!? 記事に何を書こうが、俺の勝手――」
「書かないでください」
 穏やかななかにも圧を感じる物言いに、記者は思わず声を詰まらせて。
 渋々男が頷いたのを認め、類は北枕に向きなおった。
「北枕さん。君の臆病さ、倫理観とを天秤にかけて、最後には『猟奇』に魅せられた欲が勝った。見殺しを償う術は、――筆しかない」
 意外なひと言に、輝糺が「やれやれ」と肩をすくめる。
 類は構わずに、続けた。
「あなたが書き続けるというならば、僕は見張るよ? 作品を。次は、人が死なず、生きる話を書き、『猟奇』以上に売れてみせろ。でなければ――」
 類は、北枕の顔に己の額を寄せ。
 いくつものいのちを見送った宿神の顔で、告げた。
「僕は今、戦いのなかの『手違い』で、あなたが筆持つ腕を斬り落とすが。――如何か」
 それは、他の猟兵のだれよりも凄みのきいた言葉で。
 北枕は叫ぶことも逃れることもできぬまま、ただ、カクカクと頷くしかなかった。
「や、約束する。もう『猟奇』は、こりごりだ……!」
 類はその言葉を聞いて、小さく息をついた。
 信じるには、まだ拙く。
 後は、この世界の法にまかせるより他にないのだろう。


 ことの顛末を見届けた客たちが、ひとり、またひとりと幻影城をあとにする。
 北枕の身柄も現地の警察機関に引き渡し、一件落着。
「あんたには世話になったな」
 任務完了とみて声をかけた相馬に、ペストマスクの男は「ヒヒヒ!」と嗤った。
「そりゃこっちの台詞だぜ。あんたらのおかげで、俺もスクープを手にできたんだ。これで一躍、やり手記者の仲間入りよ!」
 高笑いを続ける記者に近づいたのは、リオンだった。
 リオンはいつもの『無邪気な笑み』を浮かべると、明るく笑った。
「事件をどう書き立てるかは、ペストマスクさんのお仕事。おにーさんはそれについても、嘴は挟まないけどさ。ペンは剣よりも強し、だからね」
 リオンが続け、男の耳元でささやく。
「因果応報。身から出た錆。ペンで人を殺した北枕をペンで殺すなら、ペストマスクさんも、いつかペンで殺される。その時、今まで殺してきた人間の怨念は、きみを容赦なく襲うだろう。――それだけは、覚悟しておきなね」
 引きつった笑みを浮かべながら、男が冷や汗を拭う。
「覚悟ができてるのなら、もう何も言わないよ。きみの好きなように、書き立てると良いさ」
「ハ! 冗談じゃねえぜ……!」
 これ以上一緒に居たら、北枕と同じようにアレコレ言われると思ったらしい。
 ペストマスクの男は、猟兵たちが見守る中、逃げるように城を後にした。

 ――翌朝。
 『サクラミラージュ』の新聞には、『文豪・北枕 衝撃逮捕』の文字が躍った。
 常であれば、ことの顛末を面白おかしく書きたてる記者もいるのだが。
 その記事は、眼を通した限りでは、事実のみを淡々と証言する内容にとどまっていた。
 特筆すべきは、記者の記事のみならず、愛好者のコメントも掲載していたことだろう。
 末尾には、記者の名前入りで、こう締められていた。

『氏は、今後も執筆活動を行うと宣言している。今後は獄中での執筆となるが、これまでとは違った作風をもつ作家の誕生を期待したい。氏の健闘を祈るばかりである。』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月07日


挿絵イラスト