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雨花は天に咲く

#サムライエンパイア #戦後

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#戦後


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●天に咲く花
 雲に覆われた空に、赤、青、黄、紫、白。
 様々な色の、花が咲く。
 賑わう通りを歩む人々は空を見上げ、そして周りを見渡して、表情にも笑みの花を咲かせていた。

 サムライエンパイアのとある傘作りが有名な街。
 その街は、ここで手に入らぬ和傘は無いと言われるほど傘が有名で日々賑わっているのだが――中でもこの時期。雨の季節を迎える頃は、大層な賑わいを見せるのだ。
 地には傘が飾られ。
 天には傘の花が咲く。
 余所の世界ではアンブレラスカイと呼ばれるものである。戦国の時代が続くこの地にはそういった文化は当然なかったのだが、職人たちの発想はすごいもの。美しい傘をより美しく魅せるにはどうすれば良いか、雨の季節を憂鬱と思われず楽しんでもらうにはどうしたら良いか。そうして考えられたのが、この街の和傘アンブレラスカイだった。
 天に咲く傘花は、晴れの日には陽が透けるようにと絹傘が多く、地面にもその彩を映している。美しい透けを見せる絹傘は、本来は日傘や舞傘として用いられるものだが、『諸国漫遊世直しの旅』に訪れた猟兵たちから撥水の技術を学び、こうして空を飾っていた。
 軒を連ねる傘屋通りの店々の軒先にも傘は並んでいるが、珍しい物は店の中に飾ってあるのだとか。
 桜に菫、桔梗に菊。花の形の珍かな傘もあれば、飾りの垂れる海月傘や水底にいるような気持ちになれる絹傘など、面白いものも。

 連なる軒から外れれば、そこは紫陽花小道。
 傘を手に手毬花を楽しむのもまた、人々は楽しみにしているのだとか。
 けれど近ごろは、困ったことも起きていて――。

●猫の語り
「お菓子をね、取られてしまうのだって」
 シュッシュとボックスからティッシュを数枚取ったグィー・フォーサイス(風のあしおと・f00789)は、其れを小さな手で団子を作るように丸めながら口を開いた。
「傘を買うと金平糖が貰えるのだけれど、それを白い鳥に奪われちゃうんだ。その鳥は集団で行動していて、ワーッてやってきてワーッてお菓子めがけて襲いかかってくるから、ワーッてビックリしているうちにワーッて奪われるそうだよ」
 その鳥の正体は、もふもふなオブリビオンなのだとグィーは丸めたティッシュを新たにシュッと取ったティッシュで包みながら口にする。一体一体は小さな――それこそ、湯呑の中に入ってしまいそうな大きさなのだという。けれど集団で襲いかかられては、驚いた人々は手にした甘味を取り落したり掠め取られたりしてしまうのだ。とてつもなく困る……ということは無いが、オブリビオンを放置しておくことは出来ない。
「甘味さえ持ってれば現れると思うから、甘味を持っていってほしい」
 傘を買えば貰える金平糖は、青や紫や桃色の紫陽花の形になるよう包まれている。可愛らしいそれは傘を買わずとも普通に売られているし、団子等の茶屋もある。なんでも大丈夫だよと告げながら、グィーは手の中のティッシュを少しひねった。
「それから……ね。その道の先に池があるのだけれど……そこにもオブリビオンが居るよ。居るんだけど、ね……」
 歯切れ悪く言葉を紡ぎながら、手の中のティッシュの塊に視線を落とし、にぎにぎと捏ねるように握る。
「……、……倒してきて、ほしい」
 言い淀んで、息を飲んで。
 そうして真っ直ぐに君たちを見つめて。
「まだ彼は本調子じゃないから、今のうちに」
 そうしてティッシュにリボンを結んだグィーの掌の上に、手紙が踊る。封が開いてパッと飛び出た便箋に何事か文字を書き込む仕草をすれば、道は開かれる。
 行き先はサムライエンパイア、驚異の去ったサムライ世界。
 手毬花と傘の花咲く、穏やかな地。


壱花
 郵便屋のグィーの天敵は雨、です。お手紙濡れたらあら大変!
 サムライエンパイアより、壱花がお送りいたします。

●第一章:日常『梅雨もまた風流なり』
 様々な和傘が売られている傘の市で過ごすことが出来ます。
 雨は降ったり止んだりしていますが、頭上にはアンブレラスカイがあるため、その下でしたら濡れることはありません。ずっと雨が降っていても大丈夫ですし、最後に降り出した等、情景もお好みで。PSWは参考程度に、ご自由に行動なさってください。
 あまり傘を連ねて歩いては道を塞いでしまいますので、グループでのご参加は4名までが良いでしょう。
 【第一章のプレイング受付は、5/31(日)朝8:31~でお願いします】

●第二章:集団戦『まっしろピヨすけ』
 傘の市を抜け、道の両脇に紫陽花が咲く道です。雨はやはり気まぐれに降ったり止んだり。傘をさして歩いても良いですし、ささずに歩いてもお好みで。
 甘味を持っていれば、それよこせーっとピヨピヨ出てくるので、ぺちぺちしてください。モフモフしつくしたり脅したりしてもこわいピヨーっと逃げていきます。

●第三章:ボス戦『泥中花『黒蝶』』
 もしかしたら、知っている『誰か』に似ているかもしれませんが、シナリオ内に出てこない人物名の描写はされません。プレイング内に書いていただいても大丈夫ですが『あの人』等のマスタリングがされます。
 イッタイダレナンダ……。

●お願い
 同行者さんがいる場合は【迷子除けのお呪い】等をお願いします。詳しくはマスターページを参照ください。
 受付期間外のプレイングは全て流れますが、受付期間中の再送はして頂いて大丈夫です。

 どの章からでも、一章だけでも、気軽にご参加いただけるとうれしいです。
 それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
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第1章 日常 『梅雨もまた風流なり』

POW   :    雨の中を散歩する。

SPD   :    雨音を聞きながら、室内でくつろぐ。

WIZ   :    雨に濡れる紫陽花を鑑賞する。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ルベル・ノウフィル
傘が咲く景色は、僕好み
僕は本物より偽物のほうが親近感が湧くのです
本物の花じゃないから、好いですね

白い傘が好いな
僕にはちょっぴり眩しくて、勿体ない気もするけれど

花金平糖は好物なので、嬉しいな
ぱくっと食べて
可憐な生命を気まぐれに散らす吸血鬼みたい

雨が傘にあたる音
傘に守られているみたいで、擽ったい感じ
傘を閉じて雨に当たりましょう
冷たい雨にそのまま濡れて
尻尾を揺らして空を視る

平和な世界が泣いているみたいで
僕はすこぉし
胸がすぅっとするのです
そしてね
自分が醜いなって思うのです

ぱしゃって水溜まりを踏んで水飛沫をあげて

傘に守られた人を濡らせなかった水が、少しずつ密やかに集まり大きくなった水溜まり
僕――好きだな




 咲いて、開いた、白い傘。
 純潔で、美しくて。ちょっぴり眩しくて、目を細めた。
 勿体ないような気がすると指先が彷徨ったのは幾ばくか。
「この傘をください」
 気付けばそう店主へ告げていたのは、きっとひと目で気に入ったから。
 空を飾る色彩の下から抜け出して、白い傘をくるり。傘に乗った雨粒がピピッと飛び散る様を目の端に捉えながら、傘屋通りから少し離れて天に咲く傘が一望出来る場所へと移動した。
 赤い花、空の青、萌えいづるような黄、落ち着いた紫、夏の草木の緑。
 本物じゃない花が咲く様に親近感を覚えてしまうのは、きっと互いに偽物だから。本物の花じゃないからこそ好いのだ。偽物だから、枯れて終わりを迎えることもない。
 偽物の花を見上げながら、ぱくり。傘を購入した時に貰った金平糖を口に運べば、ふくふくとした笑みが広がっていく。
(――可憐な生命を気まぐれに散らす吸血鬼みたい)
 なんて。好物の金平糖をゆっくりと味わった。
 かりっと噛んだ金平糖は、ほろりと解けて消えていく。
 消えずに残るのは、雨の音。傘が唄う、雨の歌。
 たんたん、たたた。たたたた、たん。
 傘に守られているようで擽ったくて、真っ白な狼耳がぴぴぴと揺れた。
(このまま雨の音を楽しんでも好いけれど――)
 それだけで終わるのも勿体ない。せっかくの雨で、せっかくの梅雨で。
 金平糖を仕舞い、傘も閉じて。
 後はもう、そのまま。
 じんわりと、冷たい雨がふかふかの尾に染み込んでいく。ふわふわに膨らんでいた尾は水を含んで細く萎んで、揺らせば少し重たいと感じた。
 空を、視る。冷たい雫が頬を打つのも気にならない。
 頬を伝う雫は涙にも似て、平和な世界が泣いているみたい。
 その冷たさに、その想いに、胸がすこぅしすぅっとする。
 傘に守られた人を濡らせなかった水が、少しずつ密やかに集まり大きくなった水溜まり。足元に溜まった水をぱしゃりと踏んで水飛沫を上げれば、口の端が知らず上がった。
 ――好きだな。

 美しい、天の花。
 美しい、平和な世界。
 それなのに。
 ――ああ、僕はなんて醜い。
 そう、ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)は思うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

泡沫・うらら
♢♣

まぁ、綺麗

雨は陸に上がって初めて触れましたけれど
空から水が降ってくるこの現象は、未だに慣れませんねぇ

傘で濡れんようとした辺り
やっぱり陸のヒトたちは濡れるのを好かんのやろね
少しばかり、寂しいような、物悲しいような……
ふふ、不思議なきもち

折角やもの
お土産の一本ぐらい選んでも構わんやろか

色とりどり華を咲かす空見上げ
次いで、店先の展示品へと移ろい
あれも良い、これも素敵
どれもこれも美しい一級品
素敵なもんばっかりで目移りしてしまいますね

ねぇ、お兄さん
貴方のおすすめは?
とびきりの一本があるんやったら是非
それを、頂けませんか

うちが好みで選ぶよりもきっと
あんたさんに選んでもろた方が、特別な品になるやろうから




 水面に浮かぶ花と天に咲く花は、似ているようで違って。
 陸に上がるようになって初めて触れた雨と言う現象と、その現象の際に使う雨具と呼ばれる道具。泡沫・うらら(夢幻トロイカ・f11361)にとってそれらは、かつては未知のものだった。嵐が水面を揺らすことがあっても、その雨粒は海の底までは届かない。うららにとって未だに慣れないものひとつである。
(やっぱり陸のヒトたちは濡れるのを好かんのやろね)
 雨に濡れぬようにと編み出された雨具と呼ばれる道具の、傘。雨を避けるための道具は、濡れていないことのほうが無い者からすると不思議で、そして少しだけ寂しさにも似た感情を覚えてしまう。陸に生きる者と海に生きる者。その隔たりが、確かにあるのだと感ぜられて。
 不思議な心地を抱いたまま笑みを載せ、うららはヒトで溢れかえる通りを游ぐ。身体を水平にせず、まるで周囲のヒトと何ら変わらぬように、歩むように。優雅に。
 すいと向けた視線は、色とりどりの華を咲かす空から、地面に色彩を触れさせる地へと移ろう。どの店先にも傘が並び、同じものは無いのではないかと思うくらいにその表情は様々だ。
 淡い桃色の地に白い小花の傘。
 金魚や鯉が游ぐ涼し気な傘。
 秋の夕暮れを思い浮かべられるグラデーションが美しい傘。
 あれも良い、これも素敵。どれもこれも美しい一級品。
(こんなに素敵なもんばっかりで目移りしてしまうんやったら、)
 誰かを誘っても良かったかも知れない。選び合って花を咲かせるのもまた一興。
 よぎる気持ちは、ほんの少し。少しだけ。
「ねぇ、お兄さん」
 店奥にチラと見えた店主へ、鈴を転がして。
「まいど、ねえさん」
「素敵なもんばっかりで悩んでまして。お兄さん、貴方のおすすめは?」
「俺のおすすめでいいんですかい?」
「とびきりの一本があるんやったら是非」
「それでしたら……」
 男が選んだのは、一見真白の絹の傘。
 けれど開いて日に透かせば、
「まぁ、綺麗」
 陸の上でも、うららの頭上に水面が現れる。
「ねえさんの御髪が揺らいでいたからねぇ。どうだい、気に入ってくれたかい?」
「ええ、とても。これを頂きますね」
 陸で見つけた水面を、うららはそっと腕に抱くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加。

そろそろ梅雨入りも近いかね。雨は憂鬱になりがちだから綺麗な絹傘を用意する知恵は凄いね。折角街の人を気を利かせてくれたんだ。アンブレラスカイ、使わせて貰うよ。

去年はUDCアースで紫陽花をみたが、今年はサムライエンパイアで見る事になるか。上品な藤紫の傘を差して、家族で紫陽花を鑑賞。雨に濡れた紫陽花は風流で綺麗だ。移り気の象徴ともいうが、移り変わる色も乙なもので。いつみても見事なものだね。あ、奏、足元気を付けなよ。滑りやすいし。ああ、幸せな時間だねえ。


真宮・奏
【真宮家】で参加。

雨は長く降ると嫌になりますよね。私は晴れの青空が大好き派です。でも、梅雨の季節は雨を楽しむ気持ちにならないとですね。スカイアンブレラ、綺麗な絹傘があれば快適に雨の散歩が出来ますね。そういえば、去年はUDCアースで紫陽花を見ましたっけ。

青い絹傘をさして家族で紫陽花を鑑賞。サムライエンパイアでみる紫陽花もまた風情がありますね。瞬兄さん、ここに咲いている紫陽花綺麗ですよ~(駆けだしていって転びかける)瞬兄さん、有難うございます~(瞬に支えて貰う)あ、手繋いでいいんですか?えへへ、一緒に歩きましょう!!


神城・瞬
【真宮家】で参加。

まあ、雨は憂鬱になりがちですけど、街の人の心尽くしで用意されたスカイアンブレラがあれば。去年はUDCアースで紫陽花を見ましたが、今年はサムライエンパイアで見る事になりますね。紫陽花は雨の日こそ映えますし。

白い絹傘を差して紫陽花を鑑賞。奏、そんなに急いで走らないで(転びかけた奏を支える)奏が転ばないように手繋いで歩きましょう。2人で見れば、きっと楽しいです。




 空に花咲く、アンブレラスカイ。
 わあ、と明るい歓声をあげた真宮・奏(絢爛の星・f03210)は、傍らを歩く母と兄も同じように見上げていることを知りながらも見てくださいと思わず急かした。
 三人の頭上を彩る和傘たちはしっかりと雨を受け止めて、衣を濡らすことも足元を濡らすこともしない。道行く人々の顔もみな晴れやかで、辺りを見渡した真宮・響(赫灼の炎・f00434)は目を細めながら満足気に頷いた。灰色の空が長く続くと憂鬱になりがちだが、空を飾る傘は鮮やかで。地にも透けたその色が彩を映しているのは綺麗で。確かに憂鬱な気持ちを吹き飛ばしてくれる。
「去年はUDCアースで紫陽花を見ましたが、今年はサムライエンパイアで。ですね」
「そういえば、去年はUDCアースで紫陽花を見ましたっけ」
「今年も家族揃って見れたね。来年はどこの紫陽花を見ようか」
 去年を思い出し、今年の紫陽花を思い、そして来年も。きっとずっと家族は離れることなく一緒で。願わくば来年も、またその先もと願ってしまう。それが当たり前にあるようにするための努力は神城・瞬(清光の月・f06558)にとって惜しむべきものではない。
「奏はどこの紫陽花がみたいですか?」
「私は、うーん……みんなで見られたらどこでもうれしいです」
 明るく笑う間宮家の末娘の顔を見れば、瞬と響も釣られるように微笑んだ。

 青、紫、白。
 スカイアンブレラの下を抜ければ。みっつの色の傘がぽんっと咲く。
 雨に濡れた紫陽花は風流で、花弁に乗る透明な雫も愛おしい。大きな手毬の上にはカタツムリがよじよじと登ろうとし、どこからか元気なカエルの声も聞こえてきていた。
「雨に濡れた紫陽花は風流で綺麗だね」
「そうですね、紫陽花は雨の日こそ映えます」
「サムライエンパイアだからかな、風情があります~」
 しかし奏は晴れの青空が大好き。そのことを知っているふたりは、晴れの日も見に行こうねと口にして。三人は雨に唄う傘をさしながらのんびりと歩いた。
「あ、瞬兄さん、ここに咲いている紫陽花綺麗ですよ~」
「奏、」
「あ、奏、足元気を付けなよ。滑りやすいし」
 綺麗な紫陽花を見つけたと明るい声を上げた奏へ瞬は手を伸ばすが、その姿はするりと逃れて。軽い足取りで掛けていく背中へ家長たる響が声を掛ければ、奏は「大丈夫ですよ~」なんて、もう子供じゃありませんと明るく笑った。
 けれど。
「あっ」
 ズルッ。足が滑る、気持ちが悪い感覚。身体が前のめりに傾いて、このままでは地面とぶつかることを瞬時に理解して痛みと衝撃に備えて目を閉じた。
「奏、そんなに急いで走らないで」
 けれど痛みはいつまでたっても来ないし、耳に届いた優しい声とともに恐る恐る目を開けば、腰にたくましい腕が回されて支えられていた。腕を辿って見上げれば、いつも見守ってくれる優しい眼差し。
「瞬兄さん」
「急がなくとも、紫陽花は逃げたりしませんよ」
 少しだけ頬を染めてありがとうございますと微笑めば、間に合ってよかったと瞬がしっかりと立たせてくれる。そうして差し出されるのは、奏よりも一回り大きな青年の手。
「あ、手繋いでいいんですか?」
 眼前の『兄』の顔と手を交互に見比べて首を傾げれば、転ばないようにと優しい笑みと頷きが返ってきて。
「ふたりで見れば、きっと楽しいです」
 ひとりよりも、ふたりで。
 満開の笑みを浮かべた奏が瞬の手を取って、ふたりの兄妹は肩を並べて歩き出す。
 そんなふたりの背中を見つめながらゆっくりと歩く響の胸に満ちたのは、確かな幸福だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニナ・グラジオラス
アドリブなど歓迎
ドラゴンランスの焔竜カガリと一緒に和傘を選ぶ

雨はキライじゃないが、湿度は遠慮したいな
髪は纏まらなくなるしベタベタするし、何より薬が湿気てしまう
カガリも炎が弱まるからイヤなのか。そうだな、それも困る
その気分を拭う為に気に入る傘を選んで帰ろう
さて、どんなのがいいかな

赤や黒が好きなんだが、その色は既に持ってるからなぁ
カガリ、急に引っ張ってどうし…青に白い小花の傘?それが気に入ったのか?
けど、これはいいな
青空みたいだし、親友みたいだ
今日はこの傘を共に雨を楽しんで帰るとしようか

しかしカガリ、金平糖を食べるのは帰ってからだぞ
代えの物は持って来てるが…まさかすぐ隣にも刺客がいるとは前途多難だ


御心・雀
お菓子をとられてしまうのだって。こまるねえ。
わたしも『かさ』っていうのを買ってみるよ。からふるで、いろんなのがあって、どれにするかとっても迷っちゃった。
うふふ。そっか、みんなはこうするとあめに濡れないから、『かさ』を使うんだね。おもしろい。

これ。この『こんぺいとう』っていうのも、かさみたいにからふるだね。かわいいな。ころころ、つぶつぶ。あめつぶ…にも似てる、かな?
ふふ。あめ、たのしいな。

♢♡




 雨は嫌いじゃない。けれど、雨が齎す湿度は遠慮したい。
 そう思う人は、多く居ることだろう。癖の入った髪だったらもう最悪。ぶわりと広がって纏まらないし、肌だって何だかベタベタするような気がする。
(――何より薬が湿気てしまう)
 あれこれと問題は上げられるけれど、やはり一番の問題は其れだ。
「カガリもイヤなのか」
 傍らの『焔竜・カガリ』がクーと鳴いたため指で顎を擦れば、雨の中でも暖かさを感じる。炎を纏う小さな黒い竜がニナ・グラジオラス(花篝・f04392)を燃やすことはない。
「炎が弱まるから、か。そうだな、それも困る」
 その気分を晴らすためにも、気に入りの一本を。さて、良い傘に巡り会えればいいのだがと、ニナとカガリは近くの店へと足を向けた。
 並ぶ色彩は鮮やかに。たくさんの花が咲くように開かれた傘が並べられ、そして閉じた傘も所狭しと並んでいる店内は少し狭く感じるかもしれない。だが、それが気にならないくらい目に楽しくて、ニナとカガリは視線を彷徨わせた。
「赤や黒が好きなんだが……」
 しかし、その色は既に所持している。
 さてどうしたものか、店主におすすめの傘でも尋ねてみようか。
 なんて、考えた時だった。
「カガリ、急に引っ張ってどうし……青に白い小花の傘? それが気に入ったのか?」
 尻尾でピッと傘をさし、コクコクと頷くカガリに、これはいいなとニナも頷いた。青空のような色なのも良いし、親友を彷彿させるのも良い。
 傘へと手を伸ばし店主を呼ぼうとしたところで、視界の下方に透き通る体の不思議な少女が居ることに気がついた。
「どれにしよう、どれにしようかな」
 きょとり、きょとり。
「からふるで、いろんなのがあって、どれにしようか迷っちゃう」
 透き通る体の少女――御心・雀(セイレーンの聖者・f27642)は、ゆっくりと言葉を紡ぎながら悩んでいた。
 ヒトは雨の日に『かさ』というものをさすことを知った雀は、『かさ』というものに興味を持ち、こうして傘屋を訪れてみたのだ。けれど想像以上に『かさ』は多く、違いもよくわからない。
「あなたはおはなの『かさ』? わたしはどうしよう」
「キミの好きなものを選べばいい」
「りくのことはよくわからなくて……あっ、クラゲ」
 ゆらりとタレが揺れる、海月傘。雀では手が届かない高い位置に飾られたそれをピッと指差した雀に、ニナは「これか?」と渡してあげる。
「ありがとう」
 傘を受け取った雀はニナを真似て会計を済ませ、店を出たら早速傘を開いてみる。雨の当たる場所までいけば、たんたんと雨粒の音がして何だか楽しい。
「うふふ。そっか、みんなはこうするとあめに濡れないから、『かさ』を使うんだね」
 海の底にいれば関係ないのにね。
 傘を購入した時に貰った金平糖。これも雀には『はじめて』だ。
「あ、こら。カガリ。金平糖を食べるのは帰ってからだぞ」
 なんて言っている側からニナの手元から金平糖をパクっと奪うように食べたカガリを見て、雀もぱくり。ころころでつぶつぶで、あめつぶにも似て、それなのにとげとげでカラフル。そして甘い。不思議な菓子が、ころりと転がって溶けていく。
「……まさかすぐ隣にも刺客がいるとは」
 頭を抱えるニナの傍らで、小さなふたりはパクパクと金平糖を食べていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【菊】

うっわぁ…すっげぇ!
何だと思ったら…初めて見た
写真撮れっかな?
並んでぽちり
日が差してっと傘の色になるのな
赤に黄色に
…ライトみてぇ
虹の下か…いいな
いつになく楽しげに歩き

きよ兄さんは普段傘差す人?
そっか
俺は走るな

折角だし傘買う?
店内覗き

すげぇ華やかじゃん
花、俺も分かんねぇけど

何にしよ
いっぱいあって選べねぇ
きよ兄さんどうする?
んー…
じゃあこれ
菊柄の傘手にし
お、俺はいいけど
赤くなる
内心とても嬉しい
…お揃いとか初めてだ

貰った金平糖見て目細め
ほんと包み花みてぇ
味見しねぇ?
1個渡して自分も口に含み
うん初めてだ
…甘
とげとげしてんのに…優しい味がする
大事そうに包み直し

あ…
降ってきたな
きよ兄さん差してこうぜ


砂羽風・きよ
【菊】

うおー、俺も初めて見たわ。
ん、取れるんじゃね
スマホを取り出してパシャリ

…信号機見てぇだな
虹にも見える

小雨程度ならフードとか被っちまうが
本降りは流石に差すな
理玖も同じ感じか?

そうだな
折角だし見て回ろうぜ
スゲーめっちゃ綺麗だな
つーか、傘ってこんなにも種類あるのか
緋衣草柄が入った傘をひとつ手にして
これなんつー花なんだろうな

菊柄の傘を受け取り
いいじゃん、これにしようぜ
お揃い、だな

理玖の掌を覗き込んで
確かに金平糖は花にも星にも見えんな
いーな、ちょっと味見しちまうか

さんきゅ、とひとつ口にして
ふ、理玖は金平糖初めてか?甘くてうめー
色んな色してて楽しいよな

うわ、降ってきた降ってきた
傘買っといてよかったな




「うっわぁ……すっげぇ!」
 灰色の空を彩る色彩は鮮やかで、陽向・理玖(夏疾風・f22773)は思わず目を輝かせた。普段はあまり素直に出せない感情だが、親しい人の傍らでは年相応の反応が雨粒のように転がり落ちた。
「……初めて見た」
「うおー、俺も初めて見たわ」
 浮き上がった気持ちが元の高さはそのままに、傍らから親しんだ声が聞こえるのも心地よい。写真は撮れるだろうかと口にしながら傍らの砂羽風・きよ(ぴちぴちのきよし・f21482)へと視線を向けながらスマートフォンを取り出せば、彼も「ん、撮れるんじゃね」と同じようにスマートフォンを取り出しカメラアプリを起動した。
 何せここはサムライエンパイア。戦国の世が続き、きよが普段暮らすUDCアースよりも文明は遅れていて、ガスも無ければ電気もない。電波と呼ばれるもの等ない世界なのだ。スマートフォン上部の電波状況の縦棒は当然ゼロである。
 互いのスマートフォンがカシャッと音を立てれば、何事かと道行く人々が振り返るものの、すぐに人の波は流れていく。
 雲間から日が差せば、傘が透けて色彩が増して。
 地へと降り注ぐその色は、赤に黄色に白に紫。
「……ライトみてぇ」
「…信号機見てぇだが虹にも見える」
「虹の下か……いいな」
 虹の下をふたりで歩くのも悪くない。いや、どっちかってぇと、すごくいい。
「折角だし見て回ろうぜ」
 空を見上げるだけというのも勿体ない。いこうぜときよが促して歩き出せば、理玖はその背を追った。
「きよ兄さんは普段傘差す人?」
「小雨程度ならフードとか被っちまうが、本降りは流石に差すな」
「そっか、俺は走るな」
「走るのかよ」
 その姿が想像できて、きよはフハッと笑った。
 軒を連ねる傘屋のひとつへと足を向けた二人の眼前には、開いて飾られたたくさんの傘たち。赤い番傘もあれば、可愛らしい装いの傘もある。職人たちが受け継いできた技術を惜しみなく使われたそれらは、どれも繊細で美しかった。
「きよ兄さんどうする?」
「こんなにも種類があると迷うな」
 理玖に問われながらきよが手にしたのは、緋衣草柄が入った傘。
「これなんつー花なんだろうな」
「公園で見る気がする」
「言われてみれば確かに」
 けど名前しらねーなんて話して。
「理玖は? なんかいいのあったか?」
「んー……」
 沢山ありすぎて、正直目移りしてしまう。
 けれど、少しだけ悩んだ末にひとつの傘へと手を伸ばした。
「じゃあこれ」
 選んだのは、二人の名が一字ずつ入る花の柄。
「いいじゃん、これにしようぜ。お揃い、だな」
「お、俺はいいけど」
 同じ傘をふたつと店奥への店主へと頼むきよは気付いていない。
(……お揃いとか初めてだ)
 頬を緩ませた理玖の顔に、夕日とは違う朱がさしていることに。
 いいもの買えたなと笑顔で振り返ったきよは、傘と金平糖を理玖へと手渡す。
「ほんと包み、花みてぇ」
 話には聞いていたけれど、いくつかの色の金平糖を紫陽花の花に見立てて包んだそれを見て、理玖は目を細める。花の味がしそうな気さえしてくる。
「味見しねぇ?」
「いーな、ちょっと味見しちまうか」
「じゃあ……はい」
「さんきゅ」
 一粒をきよへと差し出して、理玖も一粒をカリッと口にした。
「……甘」
「ふ、理玖は金平糖初めてか? 甘くてうめー」
「とげとげしてんのに……優しい味がする」
 記憶のない理玖には、初めての菓子だ。形のイメージとは違う味に感慨深く呟く理玖の手元へときよはもう一粒と手を伸ばす。
「色んな色してて楽しいよな」
「味はいっしょ?」
「少し違うな」
 それなら、後からゆっくりと味わって食べよう。
 小さな宝物を扱うように、理玖は大切に包み直した。
 そこへ――ぽつん。
 小さな雫が訪れれば、ふたりは反射的に空を見上げる。
 ぽつん、ぽつん。たん、たたん。
 天の花たちが歌い出すのを見上げ、ふたりも早速買ったばかりの傘を開く。
 たん、たたん。たたたたた……。
 買っといて良かったな、なんて。笑顔の花を咲かせて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
素敵な傘が沢山並んでいるねぇ
雨降りの情景を彩る傘を眺めながら、のんびりと土産を吟味しよう

折角だ、忙しくなさそうな店の者を捕まえてお話をしてもらおうかな
傘の作り方だとか、こだわりの部分だとか、ごく単純に君の好みの柄だとか
お客の方にも声をかけれたら私が楽しいのだけど…おしゃべりに付き合ってくれそうな子はいるかな
色んな者に聞いて歩いてあれこれと目移りしまくりつつ
買い物の醍醐味も楽しんでいかないとね

あれこれ眺めても、最後は直感だ
さて、私を呼んでくれたのは君かな
鮮やかな赤に、桜の柄、だけど…
風に舞うのでなく、可愛らしい猫殿が花を巻き上げているのか
うん、君にしよう
これから紫陽花小道に行くんだ。お供を頼むよ


錦夜・紺
♢♡

しっとりとした湿り気が肌に触れる
小雨が降っているが
空を見上げれば様々な彩が咲いており
濡れる心配はないだろう、と
暫し光に透ける絹傘の花を眺めよう

またこれも良き縁だと思って
傘の一本でも連れ添って行きたい……が、、、

番傘、蛇の目、日傘…
軒先を賑やかに飾る傘を眺めつつ
……こんなにも数があると逆に迷ってしまうぞ

ふむ。選べないのであれば
店の者に聞いてみるのも有りかもしれない、と声をかけ
なあ、店主。合いそうな傘を見繕ってくれまいか?
桔梗の形のものが気になってはいる、が
色や装飾はお任せしたいのだが
……良いだろうか?

傘を手に入れたのならば散策と行ってみようか、と
花を咲かせて、しとしと雨降る紫陽花小道へ


白羽矢・龍
手持ちの傘は、道中に壊れてしまいました
ひらいた拍子に……なんという不運……こうなる、さだめ……

――などと、嘆いてばかりは居られませぬ
雨脚の弱まった頃を見計らって
見事な傘の花のもとへ

傘が高く浮かんでいるのは
なかなか不思議な光景にございますが
雨催いの鈍色にも、柔くひかりを透かすさまは美しく
つい上ばかり見て――
(なにかにぶつかる)
….…い、いけません、いけませんね

傘が壊れたのも縁でしょうか
一本、こちらの市で買い求めることと致しましょう
繊細な絹傘にも憧れますが……
ウチには先ず、丈夫なものがよさそうです

店内に飾られたものも拝見……
いえ、これはもはや、鑑賞……
つい、長居をしてしまうやも知れません




「はぁ……」
 思わず溢れたため息は、己の不運を嘆いたもの。普段使いの傘を手にしていたため、降り出した小雨にいざと開いてみたものの――その傘は開いた拍子におかしな音を立てて壊れてしまった。
(……なんという不運……こうなる、さだめ……)
 思い起こせば、不運を嘆きたくもなる。けれど嘆いてばかりはいられない。軒下を借りて移動をし、雨足が弱まるのを見計らったなら、ぴょんっ。手に咲く傘の花の下へと飛び込めば、引き寄せられるように天を向いた顔と同様に気分も少しだけ上向きとなるようだった。
 手も届かない場所に傘が浮かんでいる。それはなかなかに不思議な光景だ。雨催いの鈍色にも柔くひかりを透かすさまは美しく、ふわふわと夢の中に居るような心地にさせられながら歩けば――。
「っと、すまないね。怪我はないかい?」
「……あ。あっ、いえ、あの、こちらこそすみません……」
「それならよかった。つい傘に見惚れてしまうね。お互い良い一日を過ごそう」
 それじゃあ、と。同じように空を見上げていたらしく、ぶつかってしまった赤髪の男は片手を上げて去っていく。咄嗟に気の利いた事も返せなかった白羽矢・龍(禍津天導・f24886)は、八の字眉をキュッと寄せ、その背中を見送った。
 空ばかり見てしまうのも気をつけなくては、と少しだけ気を引き締めて。
 龍にぶつかった赤髪の男――エンティ・シェア(欠片・f00526)はふふっと笑みを浮かべながら傘屋通りを歩く。のんびりと土産を吟味して、空の彩に目を楽しませ――そうしてぶつかった自分は、存外浮かれているらしい、と。
(折角だ。それも悪くない)
 浮かれてしまうのも、楽しむのも、目移りしてしまうのも、知らない土地に来た時の醍醐味で。そして買い物の醍醐味でもあった。
 いくつかの店を見て回れば、店ごとの傾向にも気付く。職人が店を開いているところが多いが、委託と思われる店もあることに気付いた。実用的な傘ばかりを並べる店、最新のデザインのみを取り扱う店、女性ウケしそうな傘のみを扱う店、等など。どの店を見ても同じ品揃えの店は無く、どの店を回っても大いにエンティを楽しませた。
「さて、と」
 暇そうな店の者を見つけては傘の作り方やこだわりの部分だとかを聞いて楽しんでいたエンティだが、そろそろ決めてしまおうととある店へと足を向ける。どれも素晴らしかったけれど、さあどうしようか。きっと素敵な傘殿が私を呼んでくれるだろうよ、なんて。

 しとしとしとしと、小雨が降る。
 見上げた曇天は薄暗く悲しげに涙雨をふらしてはいるが、空に咲いた鮮やかな彩が人々を涙で濡れさせはしない。湿り気を帯びた装束が身に纏わりつくのが少しばかり気になるが、それでも光に透ける絹傘の花たちは美しく、通りを歩む者たちの顔はみな笑顔であった。
 錦夜・紺(謂はぬ色・f24966)もまた、周囲の客たちと同様に空を見上げる者の一人であった。忍びの性か、仕掛けが気になりはするが、一時目を楽しませる。
(天に咲く傘から探すよりは)
 地に飾られた傘から気に入るものを見つけた方がてっとり早いだろう。これもまたひとつの良き縁と、連れ添う傘を求めた紺は天から地へと視線を移した。
 店々の軒先には賑やかに飾る傘たちの姿。
 芯棒に太い竹を使用した濃い赤の番傘、木を使用した深い紫の蛇の目傘、明るい色をした少し小ぶりの日傘。店によっても違うそれらは多様で、この中からひとつというのも悩んでしまう。
「ふむ」
 悩んでしまうのならば、と足を向け。
「なあ、店主。合いそうな傘を見繕ってくれまいか?」
 傘の中で迷子になる前に、専門家に聞いてしまおう。
「まいど。気になる形や、お好きなものとかはありやすでしょうか」
「桔梗の形のものが気になってはいる、が」
「へぇ」
「色や装飾はお任せしたいのだが……良いだろうか?」
「それでしたら、こちらはどうでしょう」
 店主の男がそう言って差し出したのは、黒に近い紫の桔梗形の傘。雨に濡れれば濃紫の桔梗の花が浮かぶのだと、自信に満ちた笑みで告げた。自慢の一品なことが、その笑みから伺え、これにしようと紺は頷き品代を支払った。
「ごめんください、あの……」
 ちょうどその時、一人の少女が店主へと声を掛ける。紺と同じように、額には角。羅刹の少女が忙しくはないかと伺う視線を受けた紺が店主へと頷けば、店主は他の傘もよかったら見ていってくださいねと告げて少女の元へと向かう。
「はいよ、いかがされやした?」
「あの、それが、傘が壊れてしまいまして」
 少し前から店内の傘を見て回っていた龍は、恐る恐ると言った様子で壊れてしまったという傘を店主へと見せた。
「ああ、壊れるほど使って頂けたのなら、その傘も喜びましょう。お買い上げ頂けるのでしたら、その傘もうちで引き取りましょう。傘がふたつあっては手を塞いでしまうでしょう」
「……でしたら、是非……えっと、あの、ウチには丈夫な傘をお願いします」
「丈夫なものでしたら、これを」
 しっかりとした作りの番傘はそれなりの重量はあるが、少女の角に気付いていた店主は羅刹の身ならば大丈夫だろうと差し出した。
「ああ、店主。私にはこちらを頂けるかな」
「はいはい、少々お待ちを」
「ああ、急がなくても大丈夫だよ。他の傘たちを見ているからね」
 品代を支払おうとする龍の姿に気付いた赤髪の男は、おやと首を傾げ「先程はどうも」と猫のような顔で笑ってから店を飾る傘たちへと視線を滑らせた。
 君にしよう。そう言ってエンティが選んだのは鮮やかな赤に桜の柄。桜で遊ぶ猫が描かれた、少し可愛い傘だった。
 それぞれがそれぞれの相棒を手に入れて、「まいど」と明るい店主の声に見送られながら足を向けた先は――。
「おや、もしかして君たちもこれから紫陽花小道に行くのかい?」
「ああ。そういうアンタも」
「散策にも良いと聞いておりますので……」
 ならば、と赤髪の男が笑う。
「途中まで一緒に行かないかい? ここで出会ったのも何かの縁だろう」
 雨と傘が紡いだ、合縁奇縁に一期一会。
 一行は、しとしとと雨降る紫陽花小道へ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア
♢♡

へえ、傘の天蓋かぁ。中々洒落てるじゃない。
さらさらと降る雨音の下でお買い物、なんて風情があっていいわねぇ。

洋傘もいいけれど、あたし和傘好きなのよねぇ。使ってない時にはインテリアにしてもいいし。
せっかくだし、普段使いの傘見て行こうかしらぁ?
そーねぇ…番傘か蛇の目かとかは特に気にしないけど、藤柄の傘ってないかしらぁ?
桜や菫も嫌いじゃないけれど…あたし藤の花が一番好きなのよねぇ。
地の色はお任せするけど…あたし見てのとおりの白黒モノトーンだし。合わせて映えるようにしてくれたら嬉しいわねぇ。


冴島・類
♢♡

この季節を如何に楽しむか
考えて作られた面白い風景だなぁ

濡れずに済むのはよいし
人にぶつからないよう気をつけ
和傘の屋根を見上げて歩く

ぱらぱら、滴が打つ音は楽しくて
雨の景色も、眺めるのは結構好きだな

さて
折角こんなに彩豊かな傘が並んでるんだ
普段番傘ぐらいしか持たぬし
一本探してみよう
店に入って、ひとつ、ふたつ
眺めていると目に止まるのは…

柔らかい藤色に、青や白花が控えめに朔
華やかな過ぎないが、紫陽花を思わすそれ
綺麗、金平糖の包みにも似合いだ
こちらをいただけますか?

金平糖を手に、買ったばかりの傘を開いて
出会ったばかりの君(傘)をともに
まずは雨降り道をゆき
ぴよすけ君達を誘いにいこうか

こっちの糖はあーまいぞ




 さらさらと、雨が降る。小さな雨粒は、霧のように細かくて。目を眇めなければ認めるのは難しいけれど、天に咲いた傘の花たちが唄うから、ああ雨が降っていると感ぜられた。
「へえ、傘の天蓋かぁ」
 ついと天へと顎を向けたティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)の表情は面白いものを見つけた時に見せるもの。
「中々洒落てるじゃない」
 傘を打つ雨音を聞きながらの買い物。天にも地にも傘が咲いて、ああなんて風情があるのだろうか。店でも梅雨にちなんだ限定メニューを出してもいいかもしれない、なんて。憂鬱な空に負けない明るい気持ちでティオレンシアは傘屋通りを歩いていった。
 傘の天蓋を見上げるのは、ティオレンシアだけではない。訪れた人々も天を見上げ、晴れやかな顔を見せていた。そして、冴島・類(公孫樹・f13398)もその一人だった。
 この季節を如何に楽しむか。そう考えられて作られた風景は類にも面白いと思えるものだ。しかし、それを考案した職人たちの思案の過程も素晴らしいものだと思う。ヒトの子の一生は短いからか、新しいことを次々と思いつく。長く生き続けるヒト非ざる者からすると、それは不思議で、なんとも面白いことだ。
 人にぶつからないようにと気をつけて傘を見上げながら歩けば、傘を打つ音が変わった。小さく傘を叩いていた音は、ばらばらと。大粒の雫が打つ音に変わり、それがまた演奏会のようで楽しさを覚える。
(雨の景色も、眺めるのは結構好きだな)
 もちろん、住処の縁側から眺める雨の景色も。
 歩む人々の賑わいに呼ばれるように視線を地へと戻せば、店々の前に並べられた傘が視界に入る。普段は番傘ぐらいしか持たぬ身の類だが、折角だからと一本探してみようと視線を巡らせた。
 その店を選んだのは、ただ何となく。どの店もたくさんの傘を並べていたため、ひとまず、と足を向けたのだ。
 店内は軒下に飾られた傘よりも多くの傘が開かれていたり閉じられていたりと、所狭しと並んでいた。ひとつ、ふたつ、とゆっくり視線を流せば、柔らかな藤色が目に止まった。藤色に青や白花が控えめに咲く、華やか過ぎはしないが、紫陽花を思わす其れ。
(綺麗だ)
 ひと目で気に入ってしまった。
「こちらをいただけますか?」
「まいど」
 代金を支払えば傘に似たように包まれた金平糖も手に載せられて、類は柔らかな笑みと共に頭を下げ、店を後にする。
 そして、入れ替わるように長い黒髪の女性が店内へと入ってくる。
「ねえ、お兄さん。今出ていったお兄さんが持っていたような、藤色で描かれた藤柄の傘ってないかしらぁ?」
「やあ、まいどどうも。ねえさんは藤が好きなのかい?」
「そうねぇ、桜や菫も嫌いじゃないけれど……あたし藤の花が一番好きなのよねぇ」
「そうかいそうかい。あんたに似合いそうな傘を探すから、ちょいと待っておくれな」
 ねえさんに似合いそうなのはーっと……と、探しだした店主から視線を外し、ティオレンシアは店内を見渡す。普段は洋傘の方が身近にあって親しみがあるが、ティオレンシアは和傘も好きである。西洋文化圏では和傘をインテリアとして飾るのも人気だし、小さな傘だったら雨の時期に店内に飾るのも乙だろう。
「普段使いできそうなものをお願いねぇ」
「あいよ。だったら、これなんてどうだい?」
 白から濃紺へのグラデーションの地に、ぐるりと藤が描かれている。地の色は藤の色なのだろう。白藤から紫藤、そして濃紺へ。濃紺の部分に金色が舞い、星だろうかと顔を近づければ、それもまた藤だと知る。黄花藤が、星のように散りばめられていた。
「あら、すてきねぇ」
「ねえさんは落ち着いた色合いを纏っておいでだからねぇ、こういうのも映えるよ」
 それじゃあこれを頂くわと、ティオレンシアは笑みを浮かべた。

 和傘アンブレラスカイを通り抜ければ、途切れた場所からは雨が降る。
 先程購入した傘を早速開いた類は、手毬の咲く花の小道へと視線を向けた。
 手の上には小さな紫陽花――金平糖。またの呼び名は、糖花。
 星にも似た花を名に有した甘味を手に、小さなぴよぴよを誘いに行こう。
 ――こっちの糖はあーまいぞ、なんてね。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズウェルド・ソルクラヴィス
【廻星 ♢】
同行の白桜にせがまれ、街を訪れ、見上げる傘の花に足を止める
素直に、見事だと思う
なるほど、先人が魔王から守り抜いた世界は
こうして変わっていくのかと
雨に濡れ、色彩を鮮やかにする様々な傘と
温和な空気を感じながら店へも足をのばす

…そうだな、それこそ紫陽花でいいんじゃねぇのか?
土産とはしゃぐルゥーに答えつつ
なんだかんだと共に選び
此処にはいない友人二人の分の傘も買う
この金平糖も無事に手渡せればいいなとも、思いながら

なんでまた、甘いモンを狙うんだろう―?

己の分の金平糖は懐に
…あんまり、はしゃぐなよと
ルゥーが選んだ傘を差し
なるほど、濡れれば菫かと浮き出る手法を楽しみつつ
紫陽花の路へと向かう


ルゥー・ブランシュ
【廻星 ♢】
ねぇ、すごいね!傘のお花さん!
あっちにも、あそこにもあるよ!
(上も下も、沢山の色とりどりの傘に目を奪われ
見てみたかったの、傘の街さん…♪
雨が降っても楽しめるって、本当に素敵なことだと思うのv

ねぇ、オズ…一つは桔梗でしょ?
もう一つは何がいいかな?
(友人たちへの、お土産の傘の柄でいっぱい悩み
うん、紫陽花!紫陽花いいね!
あたしはこれ🌸!
オズはね、これ!とオズの分まで選び

天の傘と傘の間
合間を縫って雨が当たり
塗れた傘に自分とは違う色の桜が浮かぶのを見てとって
心躍り、ゆっくりとくるくる傘を回す

みんなの甘味さんも、ちゃんと守れたらいいね!

と依頼は忘れず
けれど心は躍ったままに
紫陽花の路へと向かう




 見に行きたいとせがまれて、それじゃぁ……と同行した。ただそれだけだったはずなのに、オズウェルド・ソルクラヴィス(明宵の槍・f26755)は見上げた傘の花たちを前に思わず足を止めた。素直に、見事だと感嘆の念が胸に満ち、知らず零れた吐息は満足げなものだった。
「ねぇ、すごいね! 傘のお花さん!」
 己を誘った声は、すぐ傍らから。
「あっちにも、あそこにもあるよ!」
 オズウェルドを誘って訪れたルゥー・ブランシュ(白寵櫻・f26800)は目を煌めかせながら、枝角が生えた頭を上に下に。それだけでは足りなくて、左右にまで。視界に入る傘がどれも違うように思えて、あちらこちらへと視線を向けてしまう。
「ルゥー」
「あ、ごめんね。はしゃぎすぎちゃったね」
 道行く人にぶつかりかけたルゥーの腕をそっとオズウェルドが引けば、ルゥーはハッと彼を見上げて。けれど嬉しくてと笑みを浮かべた。
「見てみたかったの、傘の街さん……♪」
 一緒に来られたことも嬉しいとその表情が告げていたから、オズウェルドも其れ以上の注意はしない。気をつけるようにと口にして、オズウェル共また雨に濡れて尚鮮やかに咲く傘の色彩に目を楽しませた。
(なるほど、先人が魔王から守り抜いた世界はこうして変わっていくのか)
 猟兵たちが守り抜いた世界は、故郷と違う世界。故郷も何れこうなれるのだろうかと浮かぶ考えを振り切って。今はただ、傍らではしゃぐ声に注意を向けながら傘の世界を楽しもうと、桜の乙女を連れて近くの店へと足を向けた。
「ねぇ、オズ……一つは桔梗でしょ? もう一つは何がいいかな?」
「……そうだな、それこそ紫陽花でいいんじゃねぇのか?」
 ルゥーが真剣な顔でムムッと悩んでいたのは、共通の友人二人への土産の傘だ。たくさん傘があるとそれだけ選択肢が増えて悩んでしまう。
「うん、紫陽花! 紫陽花いいね!」
 桔梗の花咲く傘と、紫陽花の花咲く傘。これとこれっとルゥーが傘を手に取ると、横からオズウェルドがひょいと取り上げる。持ってくれたのだと気付いたルゥーは少し見上げてにっこり笑った。
「あたしはこれ! それでね、オズはね、これ!」
 更にふたつの傘を選んだルゥーは満足そうに微笑む。オズウェルドは特に反論することも感想も言うこともなく彼女の望む通りにさせ、そのまま店主へと声を掛けて会計を済ませた。
「傘の数だけ貰えたな」
 紫陽花の形になるようにと半透けの紙で包まれた金平糖。ひとつひとつは掌に収まるそれが、ピンク系、水色系、青系、紫系とよっつ。
 小道に出現するオブリビオンは甘味を狙うと聞いているが、その理由は解らない。守り抜ければ友人たちに傘とともに手渡せればいい。そう思いながら見つめる先には、購入した傘を早速差して、くるりくるりと傘を遊ばせるルゥーの姿。
「みんなの甘味さんも、ちゃんと守れたらいいね!」
「そうだな」
 傘をくるりと回す度、ルゥーの桜とは違う色の桜がくるりと回る。雨に濡れて現れた桜は、雨に濡れることを喜ぶように、くるり、くるり。懐に金平糖をしまったオズウェルドも真似をして、思わずくるり傘を回せば、雨に浮かび上がった菫がくるりと回った。
「雨が降っても楽しめるのって、本当に素敵!」
 ねえ、オズもそう思うでしょう?
 振り返ったルゥーの笑顔は、雨にも負けない晴れやかなもので。
 そのまままた振り返り、紫陽花の小道へと駆けていきそうな彼女へオズウェルドは静かに声を掛ける。
「……あんまり、はしゃぐなよ」
「はーい」
 良い返事。けれど心は傘を打った雨粒のように跳ねて。
 雨の中、桜がくぅるり、舞うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木元・杏
【かんさつにっき】

しとしと雨の中
まつりん(祭莉)に引っ張られながら見上げれば
天には彩々なアンブレラスカイ
ふふ、紫陽花に見守られているみたい

まつりんは緑の傘
毬花を包む葉っぱのよう(楽しそうに笑って)
小太刀は…真剣に見てる
邪魔しないようにそっと近付いて
選ぶ様子を見守ってみる
わたしは、真白にはらりと金の花弁が散るシンプルなもので骨は墨色

くるん、と回して雨の中へぱたぱた駆けて
紫陽花の毬花の小路を歩いてく

わたしの未来はまだ真っ白で、希望の金が微かに輝いてて
まつりんや小太刀の色、皆の色、沢山の紫陽花に囲まれて自分の色を見つけてく

(はっ)
小路の先にお団子屋
小太刀…食べたい(そわ)


木元・祭莉
【かんさつにっき】で、
双子の妹アンちゃん、幼馴染のコダちゃんと!

おいら、市松の着物に高下駄でお出かけするねー。
二人を両手で引っ張るように、人混みをかき分けて前進!

わあ、傘がいっぱい!
紙の傘と透ける傘があるんだね。

おいら、この深緑の雷様マークのがいい!
大きめだから、アンちゃんもコダちゃんも入れそうー♪

え、これ、ともえもんっていうの?
へえ、人の名前みたいだね!

お菓子もらったー♪
あ、ちょっとだけ雨降ってきたね。
じゃあ、お披露目!(傘開いて)

雨降ると、なんかワクワクするよね♪(ぴょこぴょこ)
紫陽花も美味しそうな色してるし。
ぼんぼりみたいだよね!

ぴょんぴょん飛びながら。
わーい、お団子お団子ー♪(にぱぱ)


鈍・小太刀
【かんさつにっき】

祭莉んってば、はしゃいじゃって全くもう!
なんて言いつつ誘って貰って嬉しかったり
賑わう道はお祭りみたい
杏と一緒に天を仰げば
花咲く傘に笑顔に

祭莉ん、ニワトリ柄があるよー♪
ネコ柄も可愛いしクジラ柄もいいね
迷う、めっちゃ迷う!

そして手に取ったのは薄紫の傘
雨に濡れると桜模様が浮かび上がり
綺麗…うん、これに決めた!

祭莉んなかなか渋いの選んだね
杏はシンプルだけど上品で…うん、似合ってる
二人とも少し大人っぽくなってきた?
嬉しいけど寂しくもあり
日々成長していく2人の様子に
お姉さんは少しだけ複雑な気分

お団子食べたいの声に前言撤回
ははは、食欲には当分勝てそうにないね(苦笑
はいはい、一人3本までよ!




 ふたりとも早く早く! おいらとはぐれないように、ちゃんとついてきて!
 市松柄の着物の少年が、人混みを掻き分け進んでいく。逸る気持ちは高下駄をカッカッと鳴らし、両手でぐいぐいと妹と幼馴染を引っ張って。
「祭莉んってば、はしゃいじゃって全くもう!」
 木元・祭莉(とっとこまつさんぽ?・f16554)に手を引かれる鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)は、そんな事を言いながらも顔には喜色が浮かんでいる。幼馴染のふたりと一緒にお出かけしようと誘われるのはとても嬉しくて――けれど梅雨時は地面が濡れているから転んでしまうかも、なんて心配も過ぎって、二人のお姉さん分として少しだけ気を引き締めた。……例えその表情が笑みに崩れたとしても。
 祭莉の残る片手に手を繋がれているのは、祭莉の双子の妹の木元・杏(食い倒れますたーあんさんぽ・f16565)。生まれてからずっといっしょなのだ、引っ張られることなんて慣れたもの。引っ張られるままに身を任せて空を見上げれば、天に花咲く和傘のアンブレラスカイが流れていく。彩々な色を咲かせる紫陽花を思い浮かべれば、見守られているみたいだと微笑んだ。
 杏は大丈夫かと気にした小太刀が視線を向ければ彼女の視線の先を追いかけて、そこに見つけた花咲く傘に柔らかく瞳を細める。
「きれいね」
「うん」
 自然と溢れる声に、返る声。それから顔を合わせ、二人は微笑みあった。
 ぐいぐいぐいと突進する祭莉号は、傘がたくさん店先に並ぶ傘屋を見つけるとぴたり。どうやら停車駅を見つけたようです。
「わあ、傘がいっぱい!」
 紙の傘に、透ける絹の傘。骨がしっかりした重たい物から、可愛いものまで。
 色彩の洪水が目に飛び込んできそうなくらい、様々な傘が開かれていたり閉じていたりとたくさん飾られていた。
「アンちゃんとコダちゃんはどれにする?」
 問いながら祭莉は傘の上へと視線を滑らすけれど。
「おいら、この深緑の雷様マークのがいい!」
 早速気に入った傘を見つけて、パッと手に取り二人へ見せた。
「まつりんの傘は、毬花を包む葉っぱのようね」
「えっ、祭莉んもう決めたの? こっちにニワトリ柄があるよー♪」
 猫柄だって鯨柄だってあって、どれも可愛くて小太刀は悩んでしまう。
「んーん、おいらはこれ。だってこれ大きめだから、アンちゃんもコダちゃんも入れそうー♪」
 二人も決めたら見せてとニパッと笑えば、小太刀は真剣な表情で傘と向き合い、杏はそんな小太刀の邪魔をしないようにそっと近付いて、真剣に選ぶさまをそっと見守った。猫か鯨かなんて小さく口に出しながら真剣に悩む小太刀はいつもよりお姉さんっぽく見えなくて、杏はつい微笑ましげに見てしまう。
 迷う小太刀の手は傘の上を彷徨って、右に左にウロウロ。けれど幾度か迷った後、掴みとったのは――薄紫の傘。雨に濡れると桜模様が浮かび上がるのだと、店主が軽い説明とともに水を掛ければ、桜模様がふわりと浮き出てきた。
「綺麗……」
 思わずほうっと吐息を零すと、大きく頷いて。
「うん、これに決めた!」
「小太刀、決まったの?」
「うん、杏は?」
「わたしは、これ」
 そう言って杏は、墨色の骨の傘を手に取った。それは一見真白に見えるが、開けばはらりと金の花弁が散る、シンプルながらも愛らしいもの。
 店主と話をしている祭莉の元へ行き会計を済ませたら、また天に咲く傘の下を歩いた。お菓子をもらったと包まれて紫陽花のようになっている金平糖を祭莉が見せれば、杏も小太刀も笑みを見せ、後から一緒に食べようねと約束を。
 たんたん、たたん。
 アンブレラスカイが歌いだせば、それは雨の報せ。
「あ、ちょっとだけ雨降ってきたね」
 空を見上げた祭莉が笑って、こっちこっちと和傘アンブレラスカイの下から外れる場所へと二人を手招いた。
 ぽつぽつと雨が降ったなら、傘を開いてお披露目会。
 深緑に薄紫に白の、可愛い花が開いた。
「祭莉んなかなか渋いの選んだね」
「これね、ともえもんって言うんだって。さっき教えてもらったんだ♪」
 深緑の傘をくるりと回せば、雷模様にも似た巴紋がくるり。
「杏はシンプルだけど上品で……うん、似合ってる」
「小太刀の傘も上品で、きれい。似合ってるね」
「うんうん、コダちゃんも似合ってるー♪」
 笑顔と一緒に感想を口にする双子たちは、傘も相俟ってか少し大人びて見えて。少しずつ大人っぽく成長していく二人の姿は嬉しくもあるが、小太刀は少しだけ寂しくもある。来月になれば二人はまたひとつ年を取り、来年になればまたひとつ。一歩一歩ゆっくりと一年を積み重ねて、そうしていつかは大人になっていくのだろう。姉のような気持ちで二人を見守る小太刀は複雑な気持ちで傘を手に駆けていく二人の背を見送った。
 くるんと回る、白い傘。希望の金の小花もくるりと舞って、光の加減で微かに輝いた。その傍らには深緑の巴紋の傘が元気にぴょこぴょこ弾んで紫陽花の中に見え隠れ。
(まつりんや小太刀の色、皆の違う色――)
 紫陽花にだって、ひとつとして同じ色はない。
(だから傘も、心も、きっとわたしだけの色)
 まだ何色かはわかれないけれど、それはきっとそのうちわかるから。
「ぼんぼりみたいだよね!」
 くるんっ。傘がご機嫌に雫を飛ばして、紫陽花に囲まれた祭莉の側へと駆け寄った。
「……あ。まつりん、見て」
「なになにー?」
 指差す先には、『だんご🍡』と書かれたのぼり。
「わーい、お団子お団子ー♪」
「小太刀……食べたい」
 祭莉は真っ先に駆けていき、杏はちらりと小太刀を伺う。期待を隠せていないその瞳を見た途端に吹き出してしまったのは、感傷が吹き飛ばされてしまったからだろう。大人になってきたと思えば、すぐこれだ。
「はいはい、一人3本までよ!」
 まだまだ花より団子。まだ当分は、花は食欲には勝てないのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリサ・マーキュリー
雨を楽しむ

傘は良い。濡れないで済むし、濡れてる姿を見られない。
クルクル回して、パッと開いて。閉じるのは少し、勿体無い。

雨音は好き。しとしと、しんしん、ぽつりぽつり。綺麗な漣が、蝸牛の中でくるくる回る。

濡れて輝く紫陽花も、花びらについたまあるい水滴も、雨の楽しみの一つだ。

お気に入りの傘を手に、レイニーブルーを楽しもう。

でも先ずは、装備の確認だ。買ったものは、装備しないと使えないからね。

外には紫色の雨が降り、内側には青い紫陽花の空が広がる。空の青さを忘れても、これで思い出せる。

傘を選んだら、街へと歩き出そう。
雨はまだ、これからだから。

まあでも、持ってると疲れるから、晴れてる方が良いのだけど。




 くる、くる。くるり。
 傘が踊る。ドレスを着た女性が踊る姿を上から見たら、きっと傘のようだろう。雨を降らせる神様は、そんな姿を楽しんでいるのかも知れない。
 ――ああ、傘は良い。
 神様ではないけれど、アリサ・マーキュリー(God's in his heaven・f01846)だって、そう思う。濡れなくて済むのも良いし、濡れている姿を誰かに見られはしない。傘を深くかぶるようにすれば顔だって隠せて、感情や表情を隠したい時は便利だ。
 たん、たたた。たたたた、たん。
 しとしと、しんしん、ぽつりぽつり。
 綺麗な音の漣が、蝸牛の中でぐるぐる。顔の横に手を添えて、蝸牛の中を渦巻く音をしっかりと聞くのも好き。
 濡れて輝く紫陽花も、花びらについたまあるい水滴も――雨の好きなところをあげたらきっともっとたくさん言える。雨に濡れた土の香りも、雨が降る前の空気の香りも、ああ雨だと思える楽しみだ。
 お気に入りの傘があれば、楽しさもまた広がる。傘から視る世界。傘越しの音。
 ――さあ、レイニーブルーを楽しもう。
 買ったばかりの傘をパッと開けば、雨の世界が魔法のように広がる。傘を開いた時の一瞬の風も好きだなぁなんて微笑んで、一歩前へと踏み出せば足元で水滴が唄った。
 外には紫色の雨が降り、内側には青い紫陽花の空が広がる。空の青さを忘れても、これで思い出せる。見える世界の外と内。
 晴れを頭上に翳して歩き出せば、雫が後からついてくる。
 街へと歩き出せば、アリサの傘が楽しげに唄う。
 雨はまだ、これから。
 開いた傘を閉じるのは、まだまだ先。
 水たまりを飛んで、水を跳ねさせて、くるりくるり。
 これがアリサの雨の日の楽しみ方だ。
 ――まあでも。
 持ってると疲れるから、晴れてる方が良いのだけど。
 頭上の『晴れ』見て、アリサは小さく微笑うのだった。
 でもそれは、存分に雨を楽しんでから思うこと!

大成功 🔵​🔵​🔵​

華折・黒羽
【軒玉】

しとしと降る雨は
この身に心地の好いものではないけれど
共に歩む人がいるだけで
こうも映る世界の彩は変わるのだから不思議なものだ
見上げる色彩に身体もくるくる回り

現地調達…
はい、行きましょう
おやつを持って行かなければ、ですし

そわり輝く眸と
握った拳に同じように返して頷く

促され見れば色とりどりに
選び取ったのは赤青黄色
手の平に転がして見上げ映した彼ら

これが、いいです

ぽつり溢して
紫陽花の彩と重ね浮かべた梅雨景色
好きな人達と綺麗な景色、甘いもの
差し込んだ晴れ間が拍車をかける様に幸福に満ちる

教えてくれた赤い傘、桜の傘
順に通ってその背を追えば

綾華さんオズさん、あっち
見えた青に指差して

とんと前に
駆けだそうか


オズ・ケストナー
【軒玉】
空にたくさんカサがあるっ
ぱらぱら雨音
水に濡れるのが好きではないはずの二人を振り返る

この下だったらだいじょうぶだねっ
見上げながら歩いていけば
頭の速度を足が追い抜きそうになって
わっとっと

おやつはたくさん準備してきたけれど
茶屋に足止め
クロバ
ぐっと拳握る
げんちちょーたつだよっ
アヤカはどれにする?

三つの色にうれしくなって
いっぱい買おうっ

ふっと地面に色が現れて見上げれば
晴れ間から光
わあ、わあ
きれいっ
色をぴょんと飛んで渡って

アヤカ、そこそこ
指さす赤い傘の下、着物と同じ花の影も映って
クロバ、こっち
桜の花の傘の下
二人の間をジャンプ
ふふふ、たのしい

バラ、さがすっ
あおいのあるかなあ
クロバの指す先に目は輝いた


浮世・綾華
【軒玉】

仰ぐ先の彩を叩く音が耳に心地良い
はしゃぐ傍らの誰かさんのおかげで
少し好きになったこの天気を楽しむように耳に流し
掛けられる言葉に頷く

転びそうになるオズに
いつもなら気をつけろよなんて言うけれど
そうしたい気持ちも分かるから
晴れた空の下にいるような心地でからから笑う

金平糖?紫陽花みたいで綺麗だし
これにしよ。色はどれがいいかな
黒羽、どれがおいしそ?
じゃあそれ、と穏やかに

ほんとだ
裾を持ち上げ見比べるようにして
淡い桜を映しては、黒羽向けかわいいねえと零す

またすっころびそーと思いながらも
やはり止める気にはなれなかったから
傍らを歩いてはその時には手を取ることにしよう

オズ、薔薇もあるかな
折角だから探そーよ




 たんたん、とたん。
 ぱららら、ったん。
 さらさら、ぽたん。
「わあ、たのしそう」
 仰ぐ先に咲いた傘の花たちが、違う声で雨の歌を唄う。音が違うのは、素材や形状が違うからなのだろう。違う音が重なっていても不思議と耳に心地良い。
「この下だったらだいじょうぶだねっ」
「そうだな」
 水に濡れるのが好きではない二人の友人を振り返ったオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は、太陽のような笑みで微笑う。その笑みに引き寄せられるように天の合唱会から視線を映した浮世・綾華(千日紅・f01194)は頷きを返し、もうひとりの友人はどうなのだろうと視線を向ければ――くるくるり。天を見上げる華折・黒羽(掬折・f10471)は歩む速度で頭が後ろに倒れ、そのまま身体を捻ってくるりと回りながらも視線は天を彩る傘たちから離さない。
「クロバ、たのしそう」
 なんて笑うオズも再度天を見上げれば、頭よりも足が先に出てしまって。
「わっとっと」
「オズさん、大丈夫ですか」
「うん、だいじょうぶっ」
 自分も同じ動きをしていたけれど、黒羽は踊るように難なくこなしていた。きっと身体能力が違うのだ。いつもだったら気をつけろよなんて言う綾華も、今日はなぁんにも言わずに二人の様子を見て、晴れた空の下にいるような心地でただからからと笑う。そうしたい気持ちも分かるから、本当に危ない時だけは手を貸すつもりでいた。
「ぴよぴよトリはおかしがすきなんだってね」
 たくさんおやつの準備はしてきたけれど、現地のおやつだって気になっちゃう。
 ちょうど通り掛かった茶屋の前、オズはちょんと足を止めて覗き込む。
「クロバ」
「はい」
「げんちちょーたつだよっ」
「現地調達……」
 ぐっと拳を握ったオズの視線を追いかけた黒羽の瞳にまた、赤、青、黄と色彩が飛び込んでくる。花の色に空の色、傘に模したゼリーはUDCアースとは違う様子。宝石のようにキラキラな琥珀糖も紫陽花の形。
「はい、行きましょう」
 おやつを持って行かなければ、ですし。
 オズと同じポーズを取って、瞳を輝かせながらも真面目な顔で大きく頷いた黒羽を見て、綾華がまた笑う。笑いすぎて少し涙が出たけれど、アヤカも早く早くと手招きされれば二人に続いて。
「おかし逃げちゃうよっ」
「逃げねーよ」
「どれにしよう? どれにする?」
 綾華はどれがいい? と向けられた視線を受けて、綾華が指を伸ばしたのは金平糖。紫陽花の形になるように包まれたそれは、系統が近い三色で構成されているようだ。
「紫陽花みたいで綺麗だし、これにしよ。色は……たくさんあるな」
 手毬花に色んな色があるように、金平糖の紫陽花も様々な色で咲いている。選択肢が広がれば広がるほどどれもよく思えて悩んでしまう。
「黒羽、どれがおいしそ?」
「それでは……」
 促されて見つめた、とりどりに咲く金平糖の紫陽花たち。
「これが、いいです」
 二人の姿を思い浮かべ、黒羽が選び取ったのは、赤青黄。三人の色。
 どうだろうかと伺う視線に、綾華は穏やかに視線を向けて。
「じゃあそれ」
「いっぱい買おうっ」
「みっつじゃなくてですか?」
「味がちがうって書いてあるよっ」
 黄色はレモン、赤はイチゴ、青はラムネ。他にいっしょに入っている色も味が違うようだ。
「食べ比べればいいんじゃね?」
「名案です」
「じゃそうしよっ」
 そうして金平糖を購入し、三人揃って店から出れば、先程まで雨に歌っていた傘たちは静まって。
「わあ!」
 晴れ間から日がさして、多幸感に黒羽は目を細める。明るいオズの歓声、傍らに感じる好きな人たち、綺麗な景色に甘いもの。世界はキラキラと美しいことを、何度だって教えてもらえる。
「わあ、わあ、きれい」
 傘の彩りが、地面に透けて。
 ぴょんっ! と色へと飛んで渡っていくオズはとても楽しそう。
「アヤカ、そこそこ」
 綾華の色だよと指さされた場所には、赤い傘の影に綾華の着物と同じ花の影。綾華が思わず裾を持ち上げて見比べれば、オズはくすくすと笑いながらもうひとつぴょんっ!
「クロバ、こっち」
 淡い桜の花の傘へとぴょんっとすれば、黒羽もその背を追ってくる。
 そんな二人の姿がとても楽しげで、こどものように可愛らしくて。
「かわいいねえ」
 黒羽に向けてそう零すけれど、当の黒羽はオズとともに降り落ちた色を追うのに忙しく、いつものようにムッと返したりしない。その姿に綾華はまた笑う。
 雨は上がっているけれど、石畳。滑ればきっと転んでしまう。はしゃぎすぎて転んでしまいそうだとは思うけれど、近くを歩いて手を貸せばいいだけだ。楽しいことはめいっぱい。楽しいままに楽しませてあげたい。
 ぴょんぴょんと傘の間をオズが跳び回り、黒羽がその背を追う。
 スポットライトのようだけれど優しい灯りは、たくさんの花の形と鮮やかな色。楽しげに追いかけて、好きな色と花を探して。見つければ、また次を探す。
「バラ、さがしたいっ」
「薔薇もあるかな」
「あるといいですね」
 青いの探すよとオズが跳ね、その青は? と黒羽が指差す。いつもだったら後ろから見ている綾華も、雨上がりの陽に背を押されるように、俺も探すよと後を追った。
 雨が晴れたら、何になるのかな。
 三人の頭上には、虹のアンブレラスカイ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルル・ミール
わ、わ…!
上にも下にも、ときめきいっぱいの世界が!

素敵な傘をさすと雨の日もウキウキですけど
空と地面に傘を咲かせるのも、とっても素敵ですね
通行のお邪魔にならないよう隅っこを行きつつ
上を見て下を見て…と歩みはゆっくり

どの傘にもときめきを覚えるので
もうここから出られないんじゃ…?なんて思った時
ぱちりと目が合った気がしたのは店頭に咲いていた一つの傘
やわらかな空色に白い波紋がいくつかふわり
…空と水面がひとつになったみたい
何だか一目見た瞬間に心地良いものが胸に広がって

これはきっと運命の出逢いというやつです!
あなたに決めました!

いそいそとお会計
ふふー、紫陽花みたいな金平糖も可愛いです
素敵な出逢いに感謝ですね




 天に咲く花が雨を受け止め、たたんと唄う。
 地に咲く花が早く雨に唄いたいと客を引き寄せて。
「わ、わ……!」
 上にも下にもときめきが溢れて、キラキラと瞳を輝かせたルル・ミール(賢者の卵・f06050)の頭は上に下にと忙しい。
 素敵な傘は、雨の日をハレの日にする。心がハレて、ウキウキ。足元の水は跳ねて、ピシャピシャピチャン! 新しい傘を手に入れた日なんて、次の雨の日が楽しみで仕方なくなっちゃう!
 瞳を輝かせて眺めていても、ルルは年頃のレディ。ちゃぁんと通行の邪魔にならないように隅っこを歩くし、ウキウキルンルンでもスキップはしないでゆっくりと歩きながら空と地面に咲く傘たちを見て回る。
「どうしましょう、どの子も素敵……!」
 もうここは傘迷宮と呼んでも良いのでは?
 ときめきを胸にぐるぐると彷徨い続けてしまいそう。なんて思ったその時――導かれるように、引き寄せられるように、ルルの瞳がひとつの傘を捉えた。
 軒を連ねる店々の外に咲いた、ひとつの傘。
 柔らかな水色に、白い波紋がいくつかふわり。空のような水色は全てを包み込むように優しくて、揺らめくような白波は目にした人を癒やす柔らかさ。
(……空と水面がひとつになったみたい)
 傘を手にして、傘の中からの世界も見てみたくなる。
(空と水面の中にいられるのかな)
 世界が開けたように、心地よいものが胸に広がっていく。ああ、これは。
「あなたに決めました!」
 ビシィッ!
 これはきっと運命の出逢いというやつだから、お迎え決定!
「ごめんくださーい」
 そうと決まればといそいそと店へと近寄ったルルは、いそいそと会計を済ませ、紫陽花のような金平糖と傘とを両手でそれぞれ握って店から出てきた。
「ふふー、紫陽花みたいな金平糖も可愛いです」
 人との出会いがそうであるように、傘との出会いだって一期一会。
 あなたに逢うためにここに来たんですよって今なら言えてしまう気がしちゃう。
 満足気にふくふくした笑みを浮かべたルルは、再度アンブレラスカイを見上げて。そうして少しだけ急ぐようにその場を後にする。
 早く傘を使ってみたくて、雨粒のように心を跳ねさせるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【梓(f25851)と】♢
梓はさ、雨って好き?俺は結構好きだよ
土やコンクリートが濡れた匂いとか
規則的な雨音とか、雫が頬を伝う感じとか

下からアンブレラスカイを眺め
天に咲く花、か。言い得て妙だよね
きっと晴れた日に見たら、傘の色が地面に写り込んで
上から下まで色とりどりで綺麗なんだろうね

せっかくだから和傘を買いに行く
赤色の和紙に、蝶々の柄の傘なんてあるかな?
この先、雨の降る道を歩くことになるから
どうせなら差しててテンション上がる傘がいいもんね

そういえば傘を買ったら金平糖が貰えるんだったね
カラフルなそれは、まるで小さなアンブレラスカイみたい
じゃあ零には俺の分の金平糖を分けてあげるよ
はいあーんと差し出し


乱獅子・梓
【綾(f02235)と】♢
雨か…正直そんなに好きじゃないな
単純に湿気は不快だし、服や靴は汚れやすいし
焔も雨の中だと戦いにくいだろう?
ドラゴンの焔の頭を撫でてやりつつ

しかし此処のアンブレラスカイは見事だな
雨の日は引きこもっていたくなるが
これを見る為に外に出たくなる気持ちも分かる

和傘にも色々な種類があるもんなんだなと
軒先に並んだ沢山の傘を眺めつつ
黒地に白の蛇の目傘を購入
…綾はなかなか派手なチョイスだな
まぁお前らしくて良いんじゃないか

確か甘味さえ持っていれば
オブリビオンが現れるんだったか
無くならない程度に今食べても良いよな?
キラキラを目を輝かせる焔に
ほいっと一粒金平糖をやる
…零までつられて出てきたか




 しとしとと、雨に打たれた天に咲く傘たちが穏やかな音を立てる。その傘を見上げた灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)と乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)の二人は、暫く静かに眺めていた。
「梓はさ、雨って好き?」
 雨音に声が自然に馴染むくらいの穏やかさで、俺は結構好きだよと綾が口を開く。
 土やコンクリートが濡れた匂い、雨が降る前の『あ、雨が降る』と分かる匂い。規則的な雨音は穏やかな眠りを誘うし、雫が頬を伝う――冷たいのにどこか愛しさを覚えるような感覚。綾にとっての雨はそういうものだ。
「雨か……正直そんなに好きじゃないな」
「そうなんだ」
「単純に湿気は不快だし、服や靴は汚れやすいのもあるが……焔も雨の中だと戦いにくいだろう?」
 同意を求めるように炎竜の『焔』の頭を撫でてやれば「キュー」と鳴き声が聞こえて、綾もなるほどと納得して天に咲く花を改めて眺める。雨降る中の傘たちの歌も素敵でとても晴れやかな気分にしてくれるけれど、晴れた日に見たらきっと違う姿を見せてくれる。地を見れば傘の色が地面に写り込んで足を染め、天を見上げれば日差しを透かした傘たちが綺麗なのだろう。想像するだけでも綺麗なのだ。見てみたいなという気持ちにさせられる。
 あまり好きではないと告げる梓でも、この町の和傘アンブレラスカイは見事だと思えるもので、これは悪くないとサングラスの下の目を細める。この空を眺めるために天気を気にせず足を伸ばして此処に来ようと思う者たちの気持ちも分かるような気さえした。
「和傘にも色々な種類があるもんなんだな」
 店々の軒先を飾るたくさんの傘たち。そのひとつひとつを眺めながら歩けば、どれも違うことに舌を巻いた。じっくりとアンブレラスカイの下の散歩を楽しみながら見て回り、梓がふと足を止めたのは黒地に白の蛇の目傘。
「結構渋いの選ぶね」
「……綾はなかなか派手なチョイスだな」
 綾の手の内にある傘は、赤色の和紙に蝶々がひらひらと舞う華やかでありながらも和の情緒溢れる傘だ。
「どうせなら差しててテンション上がる傘がいいもんね」
「まぁお前らしくて良いんじゃないか」
 空を見上げて、そして見えてきている紫陽花小道を指差しそう告げれば、軽く肩を持ち上げた梓が唇だけで笑って。
 傘の購入時に貰った紫陽花の形に包まれた金平糖は、ふたつ。綾の金平糖は赤系、梓の金平糖は青系だ。それぞれ似た三色で構成されており、見目も華やかだ。
「見て梓。俺たちのアンブレラスカイ」
 傘と金平糖とを並べて見せれば、梓もそっと金平糖を寄せた――が。ふと、気付く。傍らの炎竜が熱視線を金平糖へと注いでいることに。気付いている。気付いてはいるが、甘味はオブリビオンを引き寄せるためにも必要なものだ。あげようか、どうするか――と悩む間も焔はキラキラと瞳を輝かせ金平糖を見つめ、そして伺うように梓を見上げた。
「……無くならない程度に今食べても良いよな?」
 折れた。折れざるを得なかった。
 金平糖を一粒摘んでほいっと焔へと差し出せば、パァアと喜色満面の焔は早速ぱくり。かりかりころころ、美味しそうに砂糖菓子を食べれば――。
「……零までつられて出てきたか」
 人懐っこい焔とは違いクールで落ち着いている氷竜『零』まで顔を出す。
 思わずプッと綾が吹き出せば、笑うなと言いたげな――けれども困っている視線を向けられて。
「じゃあ零には俺の分の金平糖を分けてあげるよ」
 はいあーんっと差し出せば、素直にもらいにくる仔ドラゴンたちが愛おしい。
「美味しい?」
「キュー♪」
「ガウ」
「……全部は食べるなよ?」
 しとしと降る雨の中、ぱりぱりぽりぽり。美味しい音まで混ざる。一応の忠告がどこまで有効だったかは、仔竜たちに掛かっている。
 けれど、美味しそうに食べる姿を見れば、
(――茶屋で新たに買えば良いか)
 そうも思えてしまう梓なのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アメノ・シラフネ
【八仙花】

雨は良いだろう子供らよ
天の恵みもそれを彩る傘も誠素晴らしきもの
俺も新しい傘を買うぞ
無論だ、傘は何本あっても困らないからな!

して珍しい傘とは?
ほう、紫陽花のように色が変わるとな
今の世には斯様なものが存在するのか…
興味津々で後をついていく

シラユキは物持ちが良い方か?
それは良い、傘の神様もたいそうお喜びになるぞ
うむ、奴とは親友だ親友
鷹揚に適当に頷く
真偽不明

蛙の傘?可愛いじゃないか、カエルの合唱
俺は歌も上手いぞ、神様だからな
……なんだ冗談か?
折角美声が披露できると思ったのに

はしゃいで騒ぐも結局買うのは普通の和傘
神の「いめちぇん」は意外と難しいんだ
ちょっと残念だけどな
いつもの傘をくるりと回して


月尾・白雪
【八仙花】
不思議で素敵な空咲く傘花

私は買い換えなどの必要はないのですけれど
目で楽しむだけというのも、野暮というもの
良き傘を探してみましょう

まぁ、雨の神さまなれば
傘の神さまと親しいものなのかしら
尊き世界の一端に触れて背筋が伸びるも
雨の神さまとのご縁で出会う傘に馳せた心はふわふわり

目当ては絹の日傘ですが
ハナさんの仰る面白い傘にも目を惹かれ

紫陽花のような色変わりとは艶やかですこと
傘も七変化となりましょうか

あら、蛙の傘とは可愛らしい
合唱と……え、冗句?
いえいえ、ホッと胸を撫で下ろしてなどおりません

私は撥水加工の絹傘を
晴天恵雨、どの空の下でも供となる傘を


文野・ハナ
【八仙花】

あゝ、傘が沢山あるねぇ。
アタシの傘はこの前の大雨の時に壊れちまって
新しい物を買おうと思って居たんだ。

折角だから珍しい傘でも買おうよ。
ほら、店の中に面白そうな傘がたぁくさん。

雨に打たれると色が変わる傘ねぇ
紫陽花みたいで良いじゃあないか
あっちの日傘もかぁいらしい。
こりゃあ、傘と思えない物もある

二人とも、ほぅら蛙の傘だよ
三人ならんで蛙の合唱
なんて楽しいと思うんだけど嫌かい?
やぁね、冗句に決まっているじゃないか。

アタシは紫陽花のように移り変わる傘を一つ
この梅雨も楽しく過ごせそうだね
二人の傘も素敵じゃあないか。
梅雨も楽しめそうだねぇ




 天を飾る傘の花たちは、その下を歩む人々を雨から守ってくれている。けれどそれは雨を厭ってのことではなく、雨があるからこその楽しみ方として生み出されたのだということを、雨降らしの神たるアメノ・シラフネ(雨雨降れ触れ・f27439)はよくよく理解していた。
「雨は良いだろう子供らよ」
 まるで自身の所業であるかのように誇らしげに。けれどその一端は己の管轄であるからと仮面の下の瞳は見せずに、口元が自信満々の弧を描く。天の恵みも、それを彩る傘も、そしてそれを見上げる子供らも、ああなんと素晴らしきことか!
 良いぞ、大儀であるぞとはしゃぐ雨の神の供をする二人の女性――月尾・白雪(風花・f06080)と文野・ハナ(よもすえ・f27273)も思い思いに傘花を見上げ、さてどうしたものかと視線を巡らせる。
 ハナの傘は先の大雨で壊れてしまったため、新調しなくてはならない。
 白雪は買い換える必要はないけれど、目で楽しむだけというのも野暮というもの。せっかくの傘の市。楽しむためにも自分も傘をひとつ求めてみよう、と思っていたのだ。
「俺も新しい傘を買うぞ」
 傘を見て回る二人の視線に気づいたアメノは、二人の前にぴょんと躍り出る。既に傘を差してはいるけれど、傘は何本あっても困らない。何故なら俺は、雨降らしの神故に。
「ほら、店の中に面白そうな傘がたぁくさん。折角だから珍しい傘でも買おうよ」
 店を指差せば、アメノの表情がパッと華やぐ。『珍しい傘』。なんと心踊る響きなのだろう!
 店先に並ぶ傘たちは、多種多様。可愛さを全面に押し出したものもあれば、使い勝手のみに特化したものまで。花の形の変わり傘、水に濡れれば色が変わり柄の浮き出る傘。そんなたくさんの傘たちの中からハナの目に止まったのは――。
「雨に打たれると色が変わる傘、ねぇ」
 移り気な紫陽花のようで、紫陽花好きのハナとしては好ましい。
「ほう、紫陽花のように色が変わるとな」
「あらハナさん。こちらの傘は紫陽花が浮き出るそうですよ」
「色々とあるねぇ」
「今の世には斯様なものが存在するのか……」
 きょろりと視線を巡らせる神は、興味津々。
 二人の女性は、買い物を楽しんでいる。
「お前様はどんな傘を探しておいでなんだい?」
「私の普段使いの傘は未だ現役ですので、今日は絹の日傘を」
「シラユキは物持ちが良い方か? それは良い、傘の神様もたいそうお喜びになるぞ」
「まぁ、雨の神さまなれば、傘の神さまと親しいものなのかしら」
「うむ、奴とは親友だ親友」
 頷きは鷹揚に、適当に。真偽の程は定かではないが、神の口から語られる他神の話を疑うような白雪ではない。しゃんと身を正し、真剣な顔で話を聞いた。
 けれど買い物中の女性の心は浮ついたもので。ありがたさよりも、彼との縁で出会う傘へと想いが馳せられる。雨降らしの神様がいるのだもの、きっと素敵な傘に会えることでしょう、なんて。
「二人とも、ほぅら蛙の傘だよ」
 面白い傘を見つけたとハナが呼べば、二人はいそいそと近寄り覗き見る。
「あら、蛙の傘とは可愛らしい」
「蛙の傘? 可愛いじゃないか、カエルの合唱」
「三人ならんで蛙の合唱なんて楽しいと思うんだけど嫌かい?」
「俺は歌も上手いぞ、神様だからな」
「合唱と……」
 ハナが楽しげに口にすれば、アメノはその話に乗ったと乗り気で。けれど白雪だけは少し困った顔で口元を抑える。
「やぁね、冗句に決まっているじゃないか」
 本気にしたのかい? カラリと笑い飛ばせば。
「……なんだ冗談か?」
「え、冗句?」
 美声が披露できると思ったのにと不服げなアメノの傍らで、白雪はひっそりと胸を撫で下ろすのだった。
 重たい雨雲を吹き飛ばしそうなくらい明るく笑いあい、和傘アンプレラスカイの下を歩いて回る。人との出会いも、傘との出会いも、一期一会。これでいいかだなんて妥協はせずに心の惹かれる一本をと求め歩けば、各々気に入りの一本をいつの間にかその手に握っていた。
 白雪は撥水加工の絹の傘。真白の傘ではいつもと変わらないかしらと見せれば、ハナがよぅくお似合いだねと微笑んで。
 ハナは紫陽花のように移り変わる傘。好きな花が一番だとさしてみれば、角に咲く花よりも目立って。頭上に紫陽花が咲いたようだなとアメノが笑う。
 はしゃぎまわって最後に選んだアメノの傘はというと、一般的な普通の和傘。変わったものではなくてよろしいのですかと白雪が問えば、神の『いめちぇん』は意外と難しいのだと鷹揚に頷かれ、そういうものなのかと二人は首を傾げたのだった。
「ちょっと残念だけどな」
 結局の所、『神』と呼ばれる存在には固定概念が存在し、そのイメージを壊すと存在すらも壊すことになりかねない。それが解っているからこそ、はしゃいで楽しんで、いつもどおり。くぅるり、いつもの愛傘を回すのだ。
「二人の傘も素敵じゃあないか」
 三者三様、違う傘。
 見目も違えば選ぶ傘だって違う。
 梅雨も楽しめそうだねぇ。
 それぞれの梅雨の日を想い、三人は笑顔を浮かべるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・蒼夜
【藤桜】

とても美しい世界だな
感動し嬉しそうにしてる彼女に微笑み

絡む腕に嬉しそうな顔になり彼女に気づかれないように空を見上げて
転ばない様にそっと寄り添う

和傘か…とても綺麗だな
どれか一緒に買おうか?
藤の傘をじっと見て
じゃ俺はこれに、咲夜どんなのかな?
桜が浮かぶ傘、嗚呼君にぴったりだね

彼女の隣を歩く
ポツポツと雨が降り出すも傘は差さない
彼女に自分の傘が刺さってはいけないから
そっと差し出した傘と背伸びする彼女に優しく微笑んで
傘を持つ彼女の手をそっと握る
…ありがとう

咲夜、紫陽花咲いているよ
覚えててくれたんだね
去年も綺麗だったけど今年も綺麗だ
来年もまた観れると良いね


東雲・咲夜
【藤桜】
まあ、美しい…!
統一された和の趣が僅かな陽をも取り込み
地に降り注ぐ淡き彩光
まるで自然のスポットライト

頭上ばかりに眸を奪われてまうから
そうくんへと縋る腕
こうしとったら転ばへんやろ

ふふ…そうくんならきっと、藤を選ぶと思とった
うちは渦巻く桜吹雪にしまひょ
雨粒に触れると花が浮き出るんやて
浪漫ちっく…

傘路を出ても彼は雨花を開かへん
嗚呼そうくん、肩が濡れてまう
購入したばかりの桜を咲かせ
ちょっぴり背伸びの相合傘

そうくんの示す先を辿る視線
ひとくちに紫陽花と云うても十人十色
ふふ…昨年の今頃にもこうして一緒に紫陽花を見とりましたね
あの時のコンペイトウ、綺麗やったなぁ
此の先もずっと…一緒に見られたらええなぁ




 天を彩る、傘の花。それを見上げた瞬間に、パッと花咲くような笑顔が溢れたのを、朧・蒼夜(藤鬼の騎士・f01798)は見逃さなかった。彼女が喜ぶだろうことは最初から解っていたことだが、想像ではなくこうして改めて隣で見られることは蒼夜にとってこの上なく幸せなことだった。
「まあ、美しい……!」
「とても美しい世界だな」
 薄暗い雲間からさした陽の光が、さあっと傘へと当たっていく。雨に濡れた傘が日に照らされる光景だけでも美しいと言うのに、傘たちは陽の光をその身を通して地へと届けてくれる。形や色の違う淡い彩光は東雲・咲夜(桜妃*水守姫・f00865)の瞳にはスポットライトのように映り、心を跳ねさせるものだった。
 頭上へと視線を向ける彼女の前に、それとなく自然に差し出される腕。軽く腕に触れただけで咲夜は彼の意図を読み取り、おおきにと笑みを浮かべながらその腕に自身の腕を絡めた。そうして軽く身を寄せれば、感じるのはいつだって確かな心強さ。いつだって蒼夜は守ってくれて、支えてくれる。今だって彼女が足元を気にせず存分に景色を楽しめるようにと気遣い、そして甘やかしてくれていた。その事実がどんな時でも咲夜を喜ばせてくれる。――そして蒼夜自身も、彼女が信頼して腕を絡めてくれていることが嬉しくて。緩む頬を自覚し、咲夜に倣って空を見上げるのだった。
 天の傘たちを楽しんだら地に咲く傘たちも愛でて、二人は店の軒先で足を止める。
「どれか一緒に買おうか?」
 そう口にしながらも、蒼夜は自分の傘を既に決めた様子。
 じっと藤の傘を見てから真っ直ぐと手を伸ばす姿に、傍らから控えめな笑い声が聞こえてきた。
「ふふ……そうくんならきっと、藤を選ぶと思とった」
「俺は君の藤騎士だからね。咲夜どんなのかな?」
「うちは……」
 視線が彷徨うのは桜モチーフの傘たちの上。桜は人気なのか、様々な種類があるようだ。
「うちはこれ。渦巻く桜吹雪にしまひょ」
 手を伸ばした先の傘の隣には、『濡れると桜が浮かび上がり〼』と書かれた張り紙があって、どんな感じに浮かび上がるのかもとても楽しみだと微笑んで。
「ふふ、浪漫ちっくやね……」
「桜が浮かぶ傘。嗚呼、君にぴったりだね」
 二人で傘を購入し、貰った金平糖を手に歩く。
 そうしていると思い出すのは、去年の今頃のこと。金平糖と、紫陽花の記憶。
「咲夜、紫陽花が咲いているよ」
「ふふ……昨年の今頃にもこうして一緒に紫陽花を見とりましたね」
 ちょうど今考えていた事だったと嬉しげに告げれば、傍らからも喜びの感情が伝わってくる。
「覚えていてくれたんだね――っと」
 ――ぽたり。空が泣き出した。
「嗚呼、早速……桜を咲かせてみまひょか」
 浮き出る桜が楽しみと咲夜は傘を開くけれど、隣の蒼夜は開こうとしない。
「……そうくん?」
 ぽつぽつぽつと落ちる雨は少なくとも、そのうち彼の身体を濡らしきってしまうだろう。傘をささないのかと見上げても彼は柔らかく微笑むだけ。だから、咲夜は。
「そうくん」
 少し踵を上げて背伸びをし、彼の頭上にも桜を咲かせた。
「……ありがとう」
 蒼夜が自らの傘を開かなかったのは、彼女に自分の傘が刺さらないように。それから、傘を差した分だけ開いてしまう距離が厭だと感じたからだ。
 彼女の優しさに、愛おしい気持ちが胸に満ちる。傘を持つ彼女の手をそっと握った手は、愛おしさに震えていなかっただろうか。――きっと、大丈夫だろう。そうっと彼女の手から傘を奪い、咲夜が濡れないようにと桜傘を傾けた。
 傘を持つ蒼夜の腕に、蝶のようにそっと咲夜の手が止まる。
 来年もこうしていっしょに紫陽花を観ようと誓いあい、二人の姿は雨の紫陽花小道へと消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛

ヨハンくん(f05367)と

わぁー、すごいですね!
空に傘のお花が咲いていますよ
すっごく綺麗!

ふふふ、雨が降っていると傘に落ちる雫の音まで聴こえるみたい
賑やかで楽しくなってきますね
ゆっくり歩いていきましょ

雨は降ったり止んだり、移ろう空模様も楽しいもの。
晴れ間の陽が傘の彩を足元に落として、
その色を伝うように歩くのも楽しくて。
気が乗らないようにしながらも、
振り返ればついて来てくれているのがわかるから
置いていっちゃいますよ?
少し悪戯っぽく笑んでみる

ヨハンくんは何か好みの傘は見付かりましたか?
私は桜模様の傘を買っていこうかなぁって
ふふー、可愛いでしょう
帰りも雨が降っていたら入れてあげますね


ヨハン・グレイン

織愛さん/f01585 と

はぁ……わざわざ傘を並べるのも大変そうですね
風流というものはあまり解せませんけど、
綺麗は綺麗だと思います

雨音だけで楽しくなれるものなのか
羨ましさと少しの眩さに目を細めながら
どうせ最後まで付き合うことになるのだからと
諦めついて行きましょう

上ばかり向いていられても危なっかしい
足元に色が映るのはその点少し安心ですね
…………言いたいことは色々あるが、
置いていかれても困る
どうせ待つつもりの癖に、と言葉は飲み込んで
並びましょうか

俺は手荷物が増えるのは嫌いな性質なので
桜の傘と彼女を眺めるだけに
そうですね……、淡い色は似合っていますよ
雨は、どうかな。振り止まなくても悪くない




「わぁー、すごいですね! 空に傘のお花が咲いていますよ」
 綺麗、綺麗! と春を煮詰めたようなエルフの少女が両手を天に向ける。手を伸ばしても天に咲く傘の花は彼女の身長よりもうんと高く届かないけれど、掌越しに見ると何だか触れているような気がして。
「ほらほらヨハンくん、ちゃんと見ていますか?」
「はあ……」
 わざわざ傘を並べるのが大変そうだ……なんて思っていた事をヨハン・グレイン(闇揺・f05367)は三咲・織愛(綾綴・f01585)に告げない。素直に告げたら眉がキュッと上がって煩くなることを既に学んでいるからだ。
「綺麗ですよね? ね、ね?」
「まあ、綺麗だとは思います」
「でしょー!」
 何故そこであなたが胸を張るのだ。なんて視線も、織愛は完全にスルーだ。長い耳をピコピコっと動かして、ご機嫌に雨と傘とが織り成す雫の歌を拾っていた。
「賑やかで楽しくなってきますね」
 今にも鼻歌でも歌い出しそうなくらいご機嫌な彼女へ、雨音だけで楽しくなれるものなのかと視線を送るヨハン。稀に、彼女のそういったところが羨ましくなってしまう。誰かの光に触れた時、自分と他者との違いを自覚してしまうのだ。そうして少しだけ目を細めて眺め、ヨハンは歩き出した織愛の後をついていく。勝手に帰れば後から煩いだろうし、最後まで付き合うことになるのは変わらないのだから。
 ぱらぱらと歌っていた傘は、歌ったり、歌を辞めたり。音が聞こえなくなれば、時折雲間から太陽が気まぐれに顔を出し、足元に傘の彩を落としていく。赤に藍に黄色に、桜色。柔らかなスポットライトのように彩るその灯りを追いかけて、ぴょんぴょん。色から色へ伝うように、跳ねるように渡り歩いて。
 ぴょんと跳ねる背中を、ヨハンは後ろから眺めながらついていく。歩調はゆっくり。近づきすぎず、離れすぎず、一定の距離を保って。上ばかり眺めて歩かれるよりは、色を追いかけている方がずっといい。人にもぶつからないし、足元を疎かにして転ぶこともない。
(……等と。何故年上の相手を案じなければいけないんだ)
 時折……いや、結構? おかしくないかと思ってしまう。けれど色々と言ったところで彼女の優秀なはずの耳からは右から左に抜けていくのだ。
「ヨハンくん」
 織愛が振り返る。後ろにはヨハンがちゃんと居ることを知っている顔で。
「置いていっちゃいますよ?」
 なんて少し悪戯っぽい顔で笑まれるのも、正直複雑な気持ちが膨らんでしまう。
(どうせ待つつもりの癖に)
 言葉を飲み込んで、ヨハンは織愛の隣へ並んだ。えへへと向けられる笑顔には当然無視を決め込んだ。
 そのまま灯りを追いかけ移動をしていたが、ヨハンの視線が店前に並んだ傘へと行っていることに気付いた織愛はふと彼を見る。
「何か好みの傘は見付かりました?」
 問えばふるりと首を振られるが、気にしない。ただ見ていただけなのだろう。
「あなたは?」
「私は桜模様の傘を買っていこうかなぁって」
 先程空に見つけた桜模様の傘を探しているのだと口にすれば、あれですか? と指をさされ、それですーっと織愛は店先へと駆けていった。
 早速購入し、ホクホクとした顔で傘と金平糖を手にして戻ってきた織愛は、見てくださいとヨハンに傘を見せる。手荷物が増える事を厭う性質のヨハンは、ただ桜の傘と彼女とを眺めるだけだが、その表情は悪いものではない。いつもどおり無愛想なのだが。
「ふふー、可愛いでしょう」
「そうですね……、淡い色は似合っていますよ」
 褒めてもらえれば、織愛は更にご機嫌!
 パッ傘の彩へと躍り出て、そうしてくるり。スカートを回せて振り返り微笑んだ。
「帰りも雨が降っていたら入れてあげますねっ」
 入れてくれなくとも構わないヨハンだが。
 ――降り止まなくとも悪くない。
 不思議とそんな、柔らかな気持ちにさせられたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫


わぁあ!見て、櫻!
空に傘が咲いているよ!
透ける光に柔い極彩色の影
ご機嫌にくうるり、泳げばまろやかな真珠の鱗に彩が散る

ぽつりぽつりと歌う雨の音も楽しくて
何より、不思議だ
万華鏡の中を泳いでるみたい
ヨルも嬉しそうだよ!
緩く微笑む櫻と一緒に傘を選ぶんだ
僕は桜の傘がいい
どんな雨にも散らされない、僕の櫻の傘さ
雨の日が楽しみになっていつだって開いてしまうかも
日傘……?
それはいいね
僕は日差しに弱いんだ

ヨルも傘を買うの?
わぁ、はっぱの傘だ!

櫻のは、水底のようだ
え?泳いでるみたいじゃなくて本当に泳げるようになって欲しいな

新しい傘をさして、美しい花を見に行こう
傘より紫陽花より
楽しげに咲う君の方が綺麗だけど


誘名・櫻宵
🌸櫻沫


絹傘にこんな使い方があるだなんて
雨の音も心地よいし美しい風景に心も踊るわ
リルはルンルンで踊っているけれどね
噫、本当に綺麗だわ
ヨル、はしゃぎすぎて転ばないようにするのよ
これなら雨の日も楽しみになるわ
色とりどりの傘が揺れる様は花畑のよう
私も新しい傘を選ぼうかしら
リルは、桜?
いつだって常春で満開なのね
じゃあ日傘にもなるものが良いわ
日焼けは大敵よ!
ヨルはコロボックルみたいな葉っぱの傘にしましょ
ユニークよ

私は揺らぐ水底を移した傘にするわ
私泳げないから…こうすると泳いでるみたいでしょ
……こ、今年は大丈夫よ!

準備も整ったし、実戦よ!
雨に濡れる紫陽花を見に行くわ!
ほら!
リル、ヨルはやく!
楽しみねぇ!




「わぁあ! 見て、櫻! 空に傘が咲いているよ!」
 雲間から覗いた陽の光を受けた傘たちが、その身を透かして極彩色の半透明の影を作る。その間を白い鱗の人魚がご機嫌にくうるり泳げば、鱗は降り注いだ彩を受けて色に染まった。
 くるり、右へ移動すれば黄色。
 くうるり、左へ移動すれば青色。
 それじゃああの傘に行ったら、なんて。万華鏡の中を游いでいる心地で移動すれば、違う魚になったみたいでとても楽しい。
「噫、本当に綺麗だわ」
 絹傘にこんな使い方があるだなんてと目を細めていた静かに心を踊らせていた誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)の前で、ご機嫌な人魚――リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)が踊るように游いでいる。柔らかな灯りは自然のスポットライトのようで、まるでリルの舞台のようねと垂れてきた髪をそっと押さえながら微笑んだ。
「きゅ、きゅきゅきゅ、きゅー」
「ヨルも嬉しい? いっしょだね!」
「ヨル、はしゃぎすぎて転ばないようにするのよ」
 リルの揺らめく尾鰭について、仔ペンギンのヨルもフリッターをフリフリ、いっちにいっちにと左右に移動。花の形を映した灯りにぴょんっと乗れば、可愛い! と人魚の絶賛を受けてポーズまで決めている。
 時折ぽつりぽつりと雨が降り出すと、空から降り注ぐ灯りは消えてしまう。スポットライトが無くなってリルとヨルの舞台は終わってしまうけれど、ぽつりぽつりと歌い出す傘の歌が耳に心地よい。
「雨が降っても止んでも楽しめるなんて、なんて贅沢なのかしら。晴れの日だけじゃなくて雨の日も楽しみになるわ」
「僕、こんなに素敵な雨の日は初めてだよ」
 湖の底に居たリルは、最初は雨も知らなくて。空が零す涙が不思議でたまらなかった。水に馴染んでいるリルには何故ヒトが傘をさすのかも解らなかったけれど、今日こうしてここにきて解ったような気がする。雨を楽しむためなんだ!
「僕は桜の傘にしようかな」
 もう目星はつけたんだよと、ピッと指差すのは桜の形をした変わり傘。
「リルは、桜?」
「どんな雨にも散らされない、僕の櫻の傘さ」
 早速これをくださいと店主へと声を掛ければ、この傘は水に濡れると更に桜が咲くんだよと教えてもらい、リルの笑顔は常春のように華やいだ。雨に散らされるどころか、咲くだなんて! 水に濡れて浮かび上がる桜を思えば、一層雨の日が楽しみになって。
「櫻はどうするの?」
「私は日傘になるものが良いわ」
「日傘……? それはいいね」
 日傘は大敵だとぐっと拳を握る櫻宵を見て、日差しに弱いリルは日傘もいいなと悩んでしまう。でももう新しい傘は買ってしまったし……。
「私の日傘にいれてあげるわ。そうね、大きめなものを選びましょう」
 なんて二人が話しているものだから、ヨルも自分の傘を欲しくなる。けれどここにはせいぜい子供サイズの傘までしかなくて、どれを持とうとしてもヨルはスッポリ収まってしまう。
「きゅ……」
「おや。不思議な生き物だ。鳥……かい? そうだね、お前さんにも合う傘をあげようか」
 サムライエンパイアには居ない不思議な生き物を見ても、店主は優しげな笑みを浮かべて。ちょっと待っておくれよと席を外して戻ってくれば、その手には蕗の葉が。
「どうだい、これなら持てるだろう?」
「わぁ、はっぱの傘だ!」
「あら素敵、コロボックルみたいでユニークよ」
 店主に礼を告げて、櫻宵も自分の傘を選ぶ。
 選んだのは、揺らぐ水底を映したようような日傘。陽が透ける揺らぐ水の影が降りて、水底にいるような気持ちになれる傘だ。
「私泳げないから…こうすると泳いでるみたいでしょ」
「え? 泳いでるみたいじゃなくて本当に泳げるようになって欲しいな」
 真っ直ぐな眼差しが痛い。今年こそは大丈夫よと慌てて返せば、夏を楽しみにしているからなと向けられる笑顔に、櫻宵はううううう……と唸ってしまう。
「準備も整ったし、実戦よ!」
「あ、逃げた!」
「ほら! リル、ヨルはやく!」
 新しい傘を手に先に歩き出した櫻宵を、リルとヨルは追いかける。
 雨に濡れた紫陽花を観ようと笑みを浮かべる櫻宵の顔が綺麗で、人魚はいつだって心を踊らせる。
 ――新しい傘より紫陽花より、楽しげに笑う君の方が僕は好きだよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メトロ・トリー


ぽつぽつ雨がふっているね
誰かが泣いてるみたいだ
傘を買わなくっちゃあいけないね



猫の郵便屋さんのお髭を触ろうとしたら
ぼくね!
気づいたらここにいたんだよ!

赤い傘売りのお兄さんにだあい興奮でお話しているんだけどなんだか生返事!もー!

誰かに運んでもらうのはいつだって楽しいねえ
穴に落ちるよりよっぽど、ね

ア!そうだよお兄さん
ぼくは傘を買いに来たんだったね!

もちろん贈り物に決まってるじゃあないか!
そろそろ日差しが眩しいだろう?
まっしろなぼくのご主人様が
こんがり焼けてまっかになったら?
ぼく泣いちゃう!

だからね大きい傘がいいよ!
えへへ大丈夫さ
ぼくが差してあげるからね

太陽からも、雨粒からも、
ぼくが隠しちゃうんだ




 ぽつぽつと雨が降っていたら、きっと誰かがどこかで泣いている。
 ぼくたちよりも大きかったら、それはきっとアリスの涙。アリスが涙の海に溺れてしまわないように船を漕いであげなくちゃ。
 けれど小さな、dropのようなraindropだったなら、傘を買わなくちゃあいけないね。雨粒がぴょんぴょん跳ねて、ぼくのお口に飛び込んできちゃう前にさ!

「猫の郵便屋さんのお髭を触ろうとしたらぼくね! 気づいたらここにいたんだよ!」
「へえ」
「突然パッて変わってビックリだったけれど、誰かに運んでもらうのはいつだって楽しいねえ。ウサギ穴に落ちるとどこまで落ちるか解ったもんじゃあないからね!」
「そうかい」
「もー! お兄さんちゃんと聞いてる!?」
 天に傘を咲かせた街に突然飛ばされたメトロ・トリー(時間ノイローゼ・f19399)は、赤い傘売の店主に一方的に話しかける。メトロが大興奮で話して間に何度か止めようとした男は既に諦めの眼差しで、右に左にと聞き流していた。
 それにしても飛ばされる直前の驚いた猫の郵便屋さんの顔ときたら! ぼく好きだなぁ! なんてくふふと笑ったウサギは、ハッと顔を上げた。
「ア! そうだよお兄さん。ぼくは傘を買いに来たんだったね!」
「お使いかい?」
「ちがうよお兄さん。ぼくは可愛いウサギなのだから、もちろん贈り物に決まってるじゃあないか!」
「へえ」
 心底どうでもいい。そんな顔をされるが、メトロは気にせずおしゃべりな花たちよりもペラペラとしゃべる。
「そろそろ日差しが眩しいだろう? まっしろなぼくのご主人様がこんがり焼けてまっかになったら?」
 ぼく泣いちゃう!
 ぐすんと悲しむ素振りをしてみせれば、きっとお涙頂戴名演技。
 ちらりとお兄さんの顔を伺ってみたけれど、何故だか遠い目をしている? 何故だろう。もしかして、変なウサギに絡まれたなぁなんて思ってる?
「だからね大きい傘がいいよ!」
「……大きい傘を、その、あんたの主人はさせるのかい?」
「えへへ大丈夫さ」
 問題なんてないない。だってぼくが差してあげるからね! えっへん!
 そうしたらね、きっとご主人様は褒めてくれるんだ。『えらいね、メトロ』って、あの白い手で優しく撫でて、それから耳を引っ張ってくれるかも! なんて、なんてね!
 でへへと笑ったメトロに、早く立ち去ってくれないかなと言いたげな視線を向けた店主は、早く用事を済ませてもらおうと素早くメトロが求めていそうな傘を探して差し出した。
「ありがとうお兄さん。素敵な傘だね!」
 太陽からも、雨粒からも、ぼくが隠しちゃうんだ! 傘の中のきみは、ぼくだけが知ってる! なんて。ああ、なんて素敵なのだろう!
 開けばとっても大きくて、抱っこするために肩に掛けて斜めになっても大丈夫そうだと笑顔を浮かべて。新しい傘を携えたウサギが跳ねるように去っていくのを、店主は疲れた顔で見送るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐東・彦治
雨かぁ。あんまり好きではないけれど、でも傘がいっぱい咲いているのは、綺麗だね。
ちょっと見ていこうか。ね、アキ。

人の姿をとったアキと一緒に、雨が降り出す前に、自分のと子供用の小さい傘を一つづつ買って。降り出したならそれをさして歩こうか。
この前の戦争の時は、アキに手を引いてもらったけれど…なんとなく、あれがすごくしっくり来た気がする。
一番上の兄様に聞いたら、夭逝した兄がいたって初めて聞いたけれど…まさかね。そんなつぶやきは、きっと傘が遮ってアキには聞こえないはず。
何でもないよ。行こう。もらった金平糖を食べながら偶には雨の中散歩もいいかもね。




 ぽつりぽつりと天から雫が落ちれば、少しだけ気持ちが傾いてしまう。
「雨かぁ」
 額に落ちた雫を追いかけるように見上げた佐東・彦治(人間の學徒兵・f22439)は、思わず小さく言葉を零してしまう。雨はあまり好きではないし、先日だっておかしなものを見たばかりだ。けれどたくさんの傘が咲いている様は想像するだけでも綺麗だから、ちょっと見に行ってみようかな、なんて気持ちになったのだ。
「わあ」
 本格的に降り出す前にと『アキ』を伴って傘の花咲く通りへと駆け込めば、広がった世界に思わず口が開いた。
「あ、待って。アキ、駄目だよ」
 天に咲く傘に引き寄せられるようにぷかりと飛んでいこうとするアキを引き止めて、彦治はしっかりと手を握る。悪戯は駄目、逸れるのも駄目だよ、なんてしっかりと言い聞かせる姿はお兄さんだ。
 あまり派手ではない自分用と子供用の小さな傘をひとつずつ購入し、アキへ無くさないようにねと手渡せばパアッと晴れの笑顔が覗いて彦治も釣られるように笑んだ。自分用の新しい傘を機嫌よく手にしたアキを伴い店を出れば雨は本格的に降り出していて、早速差して歩こうかと提案すれば大きな頷きが返ってきた。
 子供用の傘を手にしたアキが、雨を楽しみながら先へいく。
 その背を一歩後ろから見つめる彦治の目は穏やかで。けれど、以前とは少し違う何かを胸に抱えていた。
 思い起こすのは、先日の戦争のことだ。
 小さくなってしまった自分を、アキが手を引いてくれた。いつもとは逆だと違和感を覚えてもいいはずなのに、何故だかそれがとてもしっくりときたのを覚えている。
「一番上の兄様に聞いたら、夭逝した兄がいたって初めて聞いたけれど……まさかね」
 思わず零してしまった呟きに気付いてアキをみたけれど、前方を進む傘は楽しげに揺れている。その傘がくるりとこちらを振り返れば、どうしたのと問いたげな大きな瞳。
「何でもないよ。行こう」
 歩幅を広めてアキの隣に並んで。
「さっき貰った金平糖、食べる?}
 そう問えば、それだけで不思議そうに見ていた視線は喜色に溢れる。
 あまり好きではない雨だけれど、新しい傘と甘い金平糖。それからアキもいっしょだから、稀には雨の中の散歩もいいかもね、なんて。そう、思うんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
【梟】

ぽろん、とてん、
頭上で弾む、跳ねる水音

知らず知らず
市を渉る足取りも
踊るように軽やかに

雨の小休止か
明るむ空から射し込む陽光が傘色を透かし
共に往く我々の身をも彩り染める

まるで水の中にいるみたいですねぇ、

揺らめく色彩は玉模様
手のひらを差し出しても掴めぬ泡の如き円は
ゆらり漂う海月みたいに
或いは
目の前のひとを人魚姫みたいに思わせて

ね、どの子にしましょうか
互いに似合いを探すのも素敵

幻に溺れぬように
道々や軒々に咲く傘の花を
ぐるり見渡す

――あぁ
見てください
面白いですねぇ!

顔綻ばせ指差すのは
桜の花弁を模した形の、変形傘
職人の技が光るうつくしき傘張り

此れは見事、と打った拍手が
晴れ間覗く空に小気味よく響き渡る


境・花世
【梟】

傘を透かす淡い光の底は、
まるで色とりどりに眩んだ白昼夢
今が現だと確かめるように
白い泡沫飾る海月傘へと手を伸ばす

もしもわたしが人魚姫なら、こんな傘で
ひかり射す海を優雅にお散歩したいな

躊躇いもなく購ってしまうのは、
夢心地のせいだからしかたないんだ
うつくしい幻を揺ら揺らと泳いで、
きみにも似合いの傘を探してあげる

ほら見て、あの涼やかな水の波紋の傘
清廉な蓮の花の影、目を凝らせば
ちいさく蛙が隠れてる遊び心が愛らしい

ふふ、ほんとうに心ときめく傘ばかり!

綾の指す花びらの傘の愛らしさに
うっかりもう一本欲しくなってしまうくらい
晴れやかな拍手にもうひとりぶん重ねたら、
傘花の天はいっそうきらめき華やいで




 ぽろん。頭上で傘が唄う。
 とてん。傘を打った雨粒が跳ねて、弾んで、楽しげに。
 弾む音を聞けば傘の市を巡る足取りも、知らず識らずに軽やかに。雨音が刻む三拍子、とんたたん。音に合わせ、踊るように傍らの麗人を誘って、都槻・綾(糸遊・f01786)は境・花世(はなひとや・f11024)と雨中の市を楽しんだ。
 さらさらと降った雨はいつの間にか止んで。頭上の音楽が止んだ事に気付いて顔を上げれば、明るむ空から曇天を押しのけた陽光が差し込んで傘を暖かに照らしこむ。雫に煌めいた傘たちは暖かな光を喜ぶようにその身を通し、そして通りを往く人々の上にその彩りを落とすのだ。
 それは暖かな光の、柔らかなスポットライトのよう。
 淡い光の底は、まるで色とりどりに眩んだ白昼夢。夢か現か、傍らを歩む人を見ても解りはしない。夢でも現でも、彼は隣を歩んでいるのだから。ならばと確かめるように手を伸ばしたのは、白い泡沫飾る海月傘。捻りのあるタレを揺らして、そっと開いた傘を頭上に翳せば、傍らの綺麗な神様がさやさやと笑みを零す気配がした。
「まるで水の中にいるみたいですねぇ」
 花世がくるりと回れば、ひらりとタレが追いかけて。
 人魚姫のようだと目を細める姿に、花世も小さく微笑う。
「もしもわたしが人魚姫なら、こんな傘でひかり射す海を優雅にお散歩したいな」
「出来ますよ」
 今すぐにでも、あなたはあなたのままで。
 だってここは、水の中みたいでしょう?
 雫の影を付けながら落ちてくる灯りは、ヒトの姿よりも大きな円を描いて地面に映されて。時折つるりと傘を滑り落ちる雫は小魚のよう。その灯りの中を歩む人々は魚の群れか、優雅にゆらりと揺蕩う海月だろうか。
「ね、どの子にしましょうか」
 なんて綾は口にするけれど、ひと目で気に入ってしまったと花世の手には既に海月傘が握られている。
「おや、お早い」
「だって気に入ってしまったのだもの」
 白昼夢の中にいるようで、水底のようで、ゆらゆら揺蕩う夢心地。
「きみにも似合いの傘を探してあげる」
「それは楽しみですね」
 幻の水底を揺ら揺ら游ぐ魚のように、傘と傘の間を二人で歩む。幻に溺れぬようにと見るべきは、軒々に咲く傘花か、傍らに咲く花か。天に地に、どこを見ても目を楽しませる花が美しい。
「ほら見て、あの涼やかな水の波紋の傘」
 花世が指差すのは、涼し気な波紋揺れる傘。蓮の花影には小さな蛙がひょこりと覗き込んでいるのが覗えてとても可愛らしい。
 愛らしい傘も多く、心ときめく傘の群れ。
 本当に溺れてしまいそうだと笑い合う。
「――あぁ、見てください。面白いですねぇ!」
 次いで綾が指差すのは、桜の花弁を模した変わり傘。職人の技が光る美しき傘張りには綾もつい顔を綻ばせ、花世ももう一本欲しいななんて手の内の海月傘と見比べてしまうくらい。
 此れは見事と打たれた晴れやかな拍手にもうひとりぶんを重ねたら、傘花彩る市の中に小気味よく乾いた音が響く。なんだなんだと道行く人々が足を止め二人を振り返るが、二人は別段気にしはしない。だってこれは、素敵な傘を作り上げた職人への惜しみない賛辞なのだから。
 そうして新たな傘を迎え入れた二人の傘花の天は、いっそう華やかに煌めいて見えるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

出雲・八雲
【エイリアン】で参加

俺から甘味を奪おうなンざ、いい度胸してンじゃねェか…。(がるる)
俺はちと足を延ばして好物の団子を買ってくる
お前さん達も後で団子食おうぜェー。
傘は白地に藤の絵がある番傘があれば買って帰るかァ。

…ア″ァ??記念写真だァ?
写真は苦手なンだよなァ…。
これでいいか?(手をキツネにしてる)

雨の中散歩するなンざ、正気じゃねェと思ったが、
傘の空のおかげで雨でも濡れねェってのは良いな。
……油断すると濡れるけどよォ…。(濡れる度に耳がしゅんと下がる)

出てきたピヨすけ共は卒塔婆でぺしぺしして追い払ってやる


パウル・ブラフマン
♢♡
【エイリアン】
今日は二手に分かれて社員旅行だよ☆

オレ達のチームも
まったり市場を散策中!
アーケードの如く宙を覆う傘に夢中になっちゃいそう。
すっげー綺麗だね♪
あの辺りとか、雨粒で紫陽花の模様が透けて見える仕様っぽい?
記念に写真も撮っとこっか☆と皆をお誘いして。
往来の邪魔にならないよう
円陣を組むようにして、あの空を一緒に写したいな!

傘は大型の番傘を。
武器みたいでカッケェから☆
後はその…大人の野郎二人で入っても大丈夫そうじゃん?
(赤面ゆでだこになりつつ、我に還って朗らかに)
あっ、皆はどんな傘を選んだのかな?

宇宙船の内側では雨は降らない。
空から水が降るのって
こんなにロマンチックで愉しいことなんだね♪


オスカー・ローレスト
【エイリアン】

……旅団の人達と出かけるの、今回が初めて、だから……ちょっと、緊張、する……
だからか、パウルの、記念撮影の呼びかけに応えて、撮る時にも……緊張、顔に出ちゃってる、かも、しれない……

ワガサ……コンペイトウ……サムライエンパイアのものは、見慣れないものがまだまだある、ね。

傘……どうしよう、か。
あまり、派手な色のじゃなくて、落ち着く色のが、いい、な……俺の髪色みたいな……深くて暗めの、緑色のとか、ある、かな……?

あ、で、でも、任務のことも、忘れないように、しないと……いや、お菓子を取られることよりも、驚かされるのがその、怖くて……(ビクビク
ぴぃ……あ、ありがとう……深冬……燈、も。


榛名・深冬
♢♡
【エイリアン】

色とりどりの傘が空を飾る光景、すごいです
とっても綺麗
記念撮影ですか?いいですね
ふふ、出雲さんなんだかんだ言ってノリノリですね
手のきつね、かわいいです
わたしも真似してきつねを作ってみる
お団子も買うのですか?いいですね、楽しみです

大人の野郎二人で…本当にブラフマン先輩は
あのひとがだいすきなんですね
先輩の幸せそうな様子にほっこり
わたしは空の傘が綺麗だったので絹傘を購入
燈と一緒に入っても濡れない様な大きさで
燈と似た色…暖色系の花か何かの綺麗な絵柄がいいですね

ローレストさん、大丈夫ですよ
みんなで固まって行動していれば不意打ちも受けづらいです
後ろはわたしと燈が守りますから安心して下さい




 今日もやってきたよ、猟兵向け旅行会社・エイリアンツアーズことエイツアの社員旅行! \Yeahhhhhhh!/ 今回は此処、サムライエンパイア! 見どころは天に咲く和傘アンブレラスカイと紫陽花小道! \Yeahhhhhhh!/ 今日は傘もあることだし、二手に分かれて行動だ☆
「あ、俺はちと足を伸ばして団子を買ってくる」
「えっ、いきなり別行動!?」
「お前さん達も後で団子食おうぜェー」
 ノリノリにエイツアクルーズたちの引率をしていたパウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)に出雲・八雲(白狐・f21561)はマイペースにそう告げてその場を後にしてしまう。他にも観光客がいっぱいだからはぐれないように注意しようね☆と今から言おうとしていたところだったと言うのに。
 お団子、楽しみにしていますねと八雲を送り出した榛名・深冬(冬眠る隠者・f14238)は、パウルの側へと一歩近寄って提案する。
「まあまあパウルさん、その間に私達は傘を見ませんか? 色とりどりの傘が空を飾る光景、すごいですよ」
 深冬が指差す先には、天を飾る傘の花たち。薄布で顔を隠した喪服の青年――オスカー・ローレスト(小さくとも奮う者・f19434)も深冬に同意を示してこくこくと頷いている。
 傘の市の大通りを飾る傘たちは、天に地に。どちらにもたくさんの、色とりどりの傘を咲かせている。花の形の変わり傘から、雨に打たれて色が変わっている傘。透け感を活かして作られている傘等、多種多様だ。
「すっげー綺麗だね♪」
「本当、綺麗としか言えなくなってしまいますね」
 パウルと深冬が口にすれば、オスカーは言葉を挟まずともこくこく頷いて同意を示す。――実はオスカーは、めちゃくちゃ緊張している。写真旅行に行くのなんて初めてだし、自分が一緒に行っても良いのかな……と悩んで悩んで、勇気を出してやっとのことで参加したのだ。皆と一緒に素敵で楽しい空間を共有することはとても嬉しいけれど、それ以上に緊張が勝ってしまっているのだ。
「あの辺りとか、雨粒で紫陽花の模様が透けて見える仕様っぽい?」
 言いながら、パシャリ。パウルは取り出したスマートフォンで写真を撮るとその映えっぷりににっこり。電波のないこの世界で通信機器は使用できないが、バッテリーさえ残っていれば写真は撮れるため、後から今居ないクルーにも見せてあげようと笑った。
「記念に写真も写真も撮っとこっか☆」
「記念撮影ですか? いいですね」
「……あの、八雲、帰ってきてから……」
「そっか、団子屋にいったんだった」
 団体行動乱すんだからーもーっと軽く頬を膨らまし、それじゃあまた後で、と先に傘を探し求めてみることにした。
 傘が彩る軒先を眺めながら歩けば、金平糖や琥珀糖が売られている店や変わった傘が目に入る。それのどれもがオスカーにとっては見慣れないものばかりだ。自分で足を動かして前に進むようになってたくさんのものに触れてきていたようでいて、世界にはまだまだ知らないものが溢れている。こうして皆とまた余所へ社員旅行に行けたなら、もっと知らないものに触れる機会があるだろう。そう思えば、薄布の下の口の端が控えめに上がった。
(傘……どうしよう、か)
 さっくりと決めれてしまいそうなパウルとも、可愛い傘を見つけるのが上手そうな深冬ともオスカーは違うから、どうしようかと視線を右に左に忙しくする。派手ではなく、差して落ち着く空間になるといい。そうして自分の髪にも似た深緑を見つけたら、迷わず手を伸ばすのだった。
 パウルは矢張り、コレ! と迷わず傘に手を伸ばす。重量もどっしりとありそうな、大型の番傘だ。
「わ、大きいですね」
「武器みたいでカッケェから☆」
 なんて、ニカッと笑ったけれど。
「後はその……大人の野郎二人で入っても大丈夫そうじゃん?」
「大人の野郎二人で……本当にブラフマン先輩は、あのひとがだいすきなんですね」
 語尾に行くに連れ赤面していくパウルを見る深冬の目は温かい。二人の見た目からは純情とは程遠く見えるけれど、そのギャップがまた二人の良さなのだろう。パウルの幸せそうな姿に深冬もお裾分けを貰ったようにほっこりとした。
「あっ、皆はどんな傘を選んだのかな?」
「わたしは空の傘が綺麗だったので」
 ドラゴンランスの『燈』と一緒に入っても濡れないような大きさの絹傘なのだと、そっと掲げて見せる。空に燈と似た色の花か何かが待っているところが気に入ったのだと告げれば、ゆでダコさんから戻ったパウルは良い傘だね☆と明るく笑った。
「ふたりとも良い傘だね……っと、きたきた」
「……あ、八雲」
「出雲さん、集合写真撮りますよ」
「…ア″ァ?? 記念写真だァ?」
 自由気ままに団体行動から一抜けした八雲の姿を見つけた一同がこっちこっちと手招けば、八雲の手の上には団子らしき包み。それから残る片手にはしっかりと白地に藤が描かれた番傘が握られていることを見て、彼もちゃんと楽しんでいたようだと一同は破顔して。
「写真は苦手なンだよなァ……」
 なんていいながらも近付いてきた八雲は。
「これでいいか?」
 団子の包みを持っている腕の脇に番傘を挟んで手を開けると、狐の形に指を立ててみせる。それを見た深冬も可愛いと狐の形を作り、オスカーもそういうものなのかと控えめに……耳が折れ気味の狐を作った。
「あ、いーじゃんいーじゃん☆」
 往来の邪魔にならないようにと配慮しながら、円陣を組むようにして空も映るようにとパウルが調整したら――みんな揃って狐のポーズ。
「それじゃぁ、いちにのはい! エイツアー☆」
 満面な笑みのパウルに、控えめな笑みの深冬。八雲とて、薄布の下でニッとしてみせた。けれど緊張に緊張を重ねたオスカーの顔は、ガッチガチ。それでも三者三様の、それぞれらしい姿に、いい写真が撮れたとパウルは笑顔を重ねた。
 傘も見られたし、傘も買えたし、菓子も買ったり貰ったりした。揃って写真も撮ったしと指折り数え、一行はそれじゃあそろそろ良い時間だねと移動を始める。雨の中の散歩はまだ続行。和傘アンブレラの下をゆっくりと漫ろ歩き、会話にも花を咲かせる。
「雨の中散歩するなンざ、正気じゃねェと思ったが、傘の空のおかげで雨でも濡れねェってのは良いな」
 なんて八雲が口にした側から、傘と傘との間から雫がぽたりと垂れて。
「……油断すると濡れるけどよォ……」
 しゅんと耳が下がるものだから、深冬はついついその耳を目で追ってしまう。
「あ、で、でも、任務のことも、忘れないように、しないと……」
「俺から甘味を奪おうなンざ、いい度胸してンじゃねェか……」
 これからの行路に出るというオブリビオンのことを思えば、ぐるると八雲が唸りをあげる。甘いものは絶対で正義である。どの世界の甘味も美味しいし、こうして余所の世界へ訪れて食べる甘味も格別である。それなのに、八雲から奪おうだなんて。濡れたことも忘れて段々と目が据わりだした八雲の唸りに、オスカーの肩がびくりと跳ねた。
「あ……いや、俺は……驚かされるのがその、怖くて……」
「ローレストさん、大丈夫ですよ」
 皆で固まって行動すれば不意打ちも受けづらい。それにわたしと燈が後ろを守りますからねと深冬が勇気づければ、八雲も低く未だ見ぬ甘味への敵への睨みを効かせながらもちらりとオスカーを見て。
「心配すンな。ピヨすけ共が出てきたら卒塔婆でぺしぺしして追い払ってやる」
「ぴぃ……あ、ありがとう……深冬……燈、も……八雲も……」
 俺だって居ることをわすれちゃいけないぞ☆と元気に我らがリーダーが飛び出せば、頼れる仲間が側に居てくれることが心強くてオスカーは少しだけ眉を下げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ドゥルジー
【ツアーズ】
すごいな、傘の咲く空
猟兵に教わった技術を早速こんな風に使いこなしてる職人もスゲエ
空の花と、地面に落ちるいろを見比べ心を弾ませる

俺はどんな傘にしよっかな
折角差すなら鮮やかな色がいいな
灰色の空にぱっと咲き誇るような色

なんて思いつつ店内を眺めてたら
矢車菊みたいな真っ青な傘に一目ぼれ
これ差したらいつでも青空じゃん
ん、こいつにするわ

…え、なに彦星
ちげーって、偶然!青なのはたまたま!
顔を赤くして釈明しつつ思い浮かべるのは
今日は別行動してる隻眼の運転手
つーか彦星だって青じゃねえか
ってアルバまで…いやまあそりゃ、好きだけど

アルバの傘は雨で、イチのが星空か
俺らの青空を合わせて空を閉じ込めたみてえだな


笹塚・彦星
【ツアーズ】
久しぶりの故郷に帰ってきたらまァ、見事なモンで。
雨の中見る紫陽花、やっぱ良いな。

傘はどうしようかね…。ジャスパーはそれにすンの?…お熱いネェ?って笑ってみたり。
俺は花色の傘にしよ。青色だけど、少し緑入っててこれがいい。
アルバの旦那の傘、白くていいなそれ。…傘の色の理由?髪の色に似てない?…似てないかなぁ。
イチの星柄のもいいじゃん、イチっぽい。

しっとり雨に濡れる紫陽花を楽しみつつ、そういや猟兵として来たンだけどさ、やっぱ見れるものは見たいというか。
いいじゃん、仕事前に楽しんでも?なんて


青和・イチ
【ツアーズ】4名

雨は好き
音も薫りも、世界をガラッと変える空気も
先輩達は、雨好き?

うわ、傘の空、めちゃくちゃ綺麗…
こんな空、初めて見まし、おぶっ(上見すぎて誰かにぶつかる

思った以上の色鮮やかな和傘に心浮き立つ
濡れて歩くのも好きだけど、こんな傘が似合えば、雨に愛されそう

探すのは、くろ丸(相棒犬)と一緒に入れる大きい傘
…どれが好き?
(わふ!と笑顔で鳴く相棒
そう…どれも好きか…(ガックリ

花吹雪や波渦、猫柄も可愛い
でもやっぱり、直感的にこの星空柄の深い藍に惹かれてしまう…
星好きの性…

先輩達も、似合うの選んでるなあ
さすがお洒落番長達…この先輩達、完全に雨に愛されてる…
似合う物を選べるコツとか、あるんです?


アルバ・アルフライラ
【ツアーズ】
仰げば鮮やかな傘の空
少し外れた処へ視線を移すと
涼やかな青
鮮烈な赤
高貴な紫
花束の如き様の何と美しい事か
空に地に、見惚れて足が止まる事もしょっちゅう
その度に、鷹揚に謝罪して再び歩を進める

ジャスパーと彦星
二人が選んだ傘を見つつ
前者の眼差しを観察
彦星から零れた言葉の意図を汲取り
にやつく口元を抑えず
ほう、ほほう
偶々…てっきり愛おしくて仕方がないのかと
彦星の色も美しいで…成程
ならば私の予想も間違いではありませんでしたか
イチの星空柄も彼らしく、微笑ましい

ふと、目に留まる清楚な白傘
広げると、垂れる縮緬細工は雨のよう
これは良いものです

傘を手に入れればさしたくなるのは道理
四葩見物、私も同行致しましょう




「すごいな、傘の咲く空」
「まァ、見事なモンで」
「うわ、傘の空、めちゃくちゃ綺麗……」
「花束の如き様の何と美しい事でしょうか」
 天に咲く傘の花に思い思いの感想を寄せながら、頭上を見上げて歩くのは猟兵向け旅行会社・エイリアンツアーズことエイツアのクルーたち。現在は社員旅行中の彼等は二班に分かれており、彼等はその片割れである。
 頻りにスゲエと口にしてしまうのは、ジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)。この地に猟兵に教わったとは言え、それを応用したり馴染ませたりするのは独学だろう。きっと試行錯誤を繰り返し、失敗だって何度だってして、それでもこんな風に使いこなして人々を楽しませてくる職人技。傘の色や形とて技工を駆使されており、スゲエとしか言いようもなく。
 そして、久方ぶりの帰郷を果たした笹塚・彦星(人間の剣豪・f00884)もまた、驚きが強くその表情に出ている。ひとの、特に職人の頑張りはそれほどのものなのだ。
「こんな空、初めて見まし、おぶっ」
 空に咲く傘たちに夢中になりすぎていた青和・イチ(藍色夜灯・f05526)が通行人の誰かにぶつかった。よろりとしながらも眼鏡を押さえて慌てて頭を下げれば、一行も揃ってすみませんと謝ってからお互いに気をつけようなと笑い合う。雨が好きで、香りも空気も好きで、そうして見上げた傘に見惚れてつい……とイチが頬を掻く。先輩たちは雨は好きなのかな、なんて。視線で覗いながら。
「っと、アルバー」
 遅れていることが気付いた仲間が足を止めて呼ぶ声に、鷹揚に謝罪の言葉で応じつつも、また気がつくと離れてしまっているのがアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)だ。天に見上げる傘の花は鮮やかで、華々しい。真上から視線を外して遠くを見れば、更にたくさんの傘たちが視界に収まる。涼やかな青、鮮烈な赤、高貴な紫……濡れれば色が変わるのであろうアルバの髪色のようなグラデーションの傘まで多種多様。形も色も違うそれらを花束のようだと思っては、つい見惚れて足を止めてしまう。店々の前、地に咲く傘の花たちとて美しい。天に心を浮かばせ、地に心を置いて、そうして度々足を止めては仲間たちが声を掛けてくれる。ありがたいことだと謝辞を胸に置きながら、アルバは待ってくれている仲間たちの元へと歩を進めた。急かされることはないから、急ぐこともない。アルバはアルバ自身の歩調で傘のある景色を楽しみながら、傘の海を歩いていく。
「俺はどんな傘にしよっかな」
 ぐうるり傘を見渡して、はてどうしたものかとジャスパーは首を傾げる。折角差すならば、目が覚めるような鮮やかな色がいい。灰色の空にパッと咲き誇るような、そんな色。その方が、雨が来る度楽しくなるだろう?
「ん、こいつにするわ」
「ジャスパーはそれにすンの?」
 視界に飛び込んできた、鮮烈な青。ひと目で気に入ったと矢車菊めいた真っ青な傘に真っ直ぐに手を伸ばしたジャスパーの手元を、彦星がひょいと覗き込む。
「これ差したらいつでも青空じゃん」
「……お熱いネェ?」
「…え、なに彦星。ちげーって、偶然!」
 偶然、たまたま! なんて顔を赤くして釈明しつつも、思い浮かべるのは別行動中の隻眼の運転手の姿。ううっと言い淀んだところに、二人を観察していた新たな刺客がスススッと近寄った。
「ほう、ほほう」
「ばっ……たまたまだって!」
「偶々…てっきり愛おしくて仕方がないのかと」
「ってアルバまで……いやまあそりゃ、好きだけど」
 にやつく口元を押さえずににんまりと笑むアルバの顔は、いたずら猫にも似て。追い詰められたような体勢で、ジャスパーは諸手を上げるのだった。
 わあわあと騒ぐ先輩たちから少し離れて、イチは傘を探していた。相棒のくろ丸がいつも側にいるから、店の中には入らずに外に並んだ傘をひとつずつ見て回る。探すのは、くろ丸と一緒に入れる大きい傘。大きな傘は場所を取るから閉じているものが多いから、開いて翳して閉じてを繰り返して。
「くろ丸はどれが好き?」
「わふ!」
「こっち?」
「わふ!」
「……こっちか?」
「わふ!!」
「そう……どれも好きか……」
 思わずガックリと膝を付けば、くろ丸が暖かな舌で頬をぺろん。きっとくろ丸は、いつだって大好きなイチが手にしているものが好きなのだろう。
 けれどくろ丸が決めてくれないとなると、イチは自分で選ばなくてはならない。
(花吹雪や波渦、猫柄も可愛い。でもやっぱり、直感的にこの星空柄の深い藍も……)
 真剣な顔で、うーん。求めるのは、雨に愛されそうなんて思えちゃう特別な傘。まだ暫く時間が掛かりそうなイチの足元では、パタパタとくろ丸の尾が揺れていた。
「俺は花色の傘にしよ」
 アルバからの追撃をジャスパーが受けている間にも傘を見ていた彦星が、うん決めたと傘を手にする。確かに青だと言える色だけれど、少し緑が入った――そんな色合いの傘だ。
「ほう、彦星の色も美しいですね」
「つーか彦星だって青じゃねえか」
「いーだろ、別に。俺の傘は髪色だ。――アルバの旦那こそ、白くていいなそれ」
 ちゃっかりと清楚な白傘へと手を伸ばし、開いて確認をしていたアルバの手元へ彦星が視線を向ければ、アルバはうむうむと満足げに頷いて。
「これは良いものです」
 広げると垂れる縮緬細工は雨のよう。これは傘を差すのが楽しみになるというもの。
「先輩達はもうお決まりですか?」
 自身も傘を決めたのだろう。ひょこりと顔を覗かせたイチの手には深い藍の、星空柄の傘。星好きのイチが選ぶには、なるほどと思わせる傘だ。
「イチの星空柄もよくお似合いで」
「ああ、いいじゃん。イチっぽい」
「アルバの傘は雨で、イチのが星空か。俺らの青空を合わせて空を閉じ込めたみてえだな」
「わ。先輩達の傘もお似合いです。似合う物を選べるコツとか、あるんです?」
 是非お洒落番長たちの教えを請いたいと、真面目な顔で見つめられれば三人は顔を見合わせる。
「コツってか、好きなの選べばいいんじゃね」
「俺もそうだな」
「私も、私に似合うものは自分が一等解っております故」
 イチだって似合ってるの選んでるし、いっしょいっしょ。
 そうだよなと笑みを向けられれば、自分も少しは雨に愛されているのだろうかと、気分が華やぐ心地となった。
「それじゃあ早速、紫陽花でも見に行っちゃう?」
 和傘アンブレラスカイから外れる場所で雨が降ったなら、早速新しい傘の出番となる。いいですねと賛同の声が上がれば、くろ丸も「わふ!」と賛成を示して。
 紫陽花のように包まれた金平糖を携え、一行は紫陽花小路へと足を向けるのだった。
 傘越しに見られる雨は何色か、なんて話しながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夕時雨・沙羅羅

ぽつり、あめのおと
ぽたり、しずくのうた
普段は水面弾くのを聴く、それ
水に踊るよりも遊び跳ねるような、傘にうたう雨も良い
元より雨湛える僕に、雨を避ける傘は必要ないものだが
花咲くような造形美に、ひとのための機能美
きれいだな、傘
食べるには大きいけれど

花弁浮かぶ、水面のような傘をゆらり
水を模した傘なら、強い陽射しも避けられるだろうか
少なくとも、蕗の葉の傘よりは丈夫だろう
うさぎの撒いた紅茶も防げるに違いない
新しい宝物は、わくわくする
甘い金平糖も付いてくるなんて、とても良い買い物だ
きっと水の底でも、きらきらきれいだろう

ああ、金平糖、全部食べてはいけないのか
それじゃあ、あとひとつぶだけ
ぽたり、雨垂れと一緒に




 ぽつり、あめのおと。
 ぽたり、しずくのうた。
 ぽつぽつ、ぽたぽた、たたたたた。
 普段は水面弾くのを聴く其れは、時に賑やかに歌い、穏やかに奏で、跳ねて響く。その時の空の機嫌によっていつも違う音を奏でて、いつも違う踊りを踊る。元より雨湛える夕時雨・沙羅羅(あめだまり・f21090)には、今日の天から生まれた新たな同胞はどんな風に踊るのだろうと考えるのも楽しいひと時だ。
 ひとのように雨を避ける傘は必要がない沙羅羅ではあるが、傘を打つ雨音、傘を打って雫がぽろんと溢れる音だって良いものだと感じている。水面とは違う音を奏でる傘は楽器に近い。それでいて、花咲くような造形美に、ひとのための機能美。ひとが快適に暮らすために編み出され、そして楽しむために形を変えていく傘。
 ――きれいだな、傘。
 そう思うと身の内に取り込んでしまいたくなるけれど、食べるには大きい。
 雨傘は必要ない沙羅羅だけれど、日傘はあってもいい。強い日差しを避けるために、ひとは日傘を差すことを知っている。それにここの絹傘は撥水加工もされているのだと聴く。お茶会でうさぎが紅茶を撒こうとも、パッと傘を広げればきっと防げる。――イカれたあのひとたちに『イカしてる』と言われたら微妙な気分になるかもしれないが。
 天だけでなく地に開かれた傘の海。ひとつひとつ眺めるようにゆっくりと泳げば、水面のような揺らめきが見えて、惹かれるように手を伸ばした。
 水面のような揺らめきに、花弁が浮かぶ傘。掲げてみれば陽を透かして水の揺らめきが降りてきて涼しげだ。
「これを」
「まいど」
 店主へと短く告げれば、短な言葉が返る。必要最低限で済むのもまたいいな、なんて。蕗の葉よりも硬い柄を握って店を後にした。
 飲み込めはしないけれど、新しい宝物を手に入れた。水の尾鰭の先が震えるのは、心が弾んで起きた漣だ。
 それに。
「きれい」
 傘のおまけについてきた紫陽花のように包まれた金平糖を空に翳してみる。たくさん集まった色違いの星粒のような糖花は、跳ねた雫にも似ているところがまた良い。きっと水の底でも、きらきらきれいだろう。
 全部を食べてはいけないから、ひとつぶだけ。
 摘んで、翳して――ぽたり。雨垂れと共に迎え入れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『まっしろピヨすけ』

POW   :    超もふもふもーど
全身を【膨らませてめちゃくちゃモフモフな状態】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    もふもふあたっく
【もふもふ体当たり】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    もふもふソルジャーズ
レベル×1体の、【額】に1と刻印された戦闘用【ミニまっしろピヨすけ】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●四葩に雫、滴りて
 とちとち、とてて。
 とたたた、とん。
 とん、たん、はらり――     ぽた。
 ギザギザの葉に触れた雨が、唄う。
 緑の葉を揺らして留まる雨粒。
 するりと滑って次の葉へと向かう雨粒。
 顔を覗かせたカエルやカタツムリとともに唄う雨粒。
 奏でる音はどれも違って、どれもいい。

 たん、たたたたた……。
 そこに新たな音が連なって――。

●ピヨ!
 傘屋通りの和傘アンブレラスカイを抜ければ、飛び込んでくるのは青に紫、空色に白、桃色。大きな手毬を咲かせた紫陽花たちが両脇に植えられた紫陽花小路だ。
 町の人達もよく散歩に使う小路は、地面には石畳が敷かれ、足に泥が跳ねる心配もない。人々がよく通るからか苔も少なく、足元の心配はせずともよさそうだ。
 雨が降れば傘を差して音を楽しみながら歩み、雨が上がれば雫に煌めく四葩に葉を楽しんで。そうして人々はこの小路を愛しているのだろう。
 雨の音と気配、それから彩る紫陽花で満ちる世界。
 そこは、突然賑やかな――彼等の戦場となる。
『ぴよよー(突撃ー)!』
『ぴよっ』
『ぴよ!』
 小さな羽をパタパタパタパタ羽ばたかせ、集団でぴよーっと飛んでくる白い小鳥たち。真雪を集めたようなふかふかの白に、まぁるく小さな瞳と小さなとんがり嘴。その姿はシマエナガめいており、白くてもふもふのまるまるである。
 白い鳥のオブリビオン――『まっしろピヨすけ』たちは甘味に目が無い。一に甘味。二に甘味。三四が無くとも五に甘味! 兎に角甘味が大好きな彼等は人を襲っては甘味を奪い、それを食べては寝て、そして目覚めればまた空腹となり甘味を狙うのだ。
『ぴよっ(確保っ)』
『ぴよっよ(撤収)!』
『ぴよーーーーーー』
 バタバタバタバタバタ。
 甘味を確保すれば、彼等は逃げていく。甘味を食べて寝たところを攻撃されないようにと、紫陽花小路を通る人々の手からは奪うだけ。安全な場所に隠れてから、こっそりと仲間と分け合い食べるようだ。

 食べ、眠り、目覚め。
 ――そうしてまた、紫陽花の葉の影から、獲物を狙う瞳を光らせるのだ。
ルベル・ノウフィル
♢♡
あ、僕の金平糖っ!
ぼ、僕は許しませんぞ!決して、金平糖を取られて悔しいだけではございません、世界平和のためにです
お待ちなさーいっ!

そうだ、UC星守の杯で金平糖をふわふわゆっくり降らせましょう
甘味がお好きなのでしょう?
ふふん、ハニートラップと申します

回復効果は味方のみに調整
念動力で金平糖を動かし、綺麗な傘や現地の民を傷つけぬように通る場所を選んで、敵を釣りますぞ

金平糖に気が向いた敵を狙い、妖刀墨染でしゅぱっとお仕置き!

敵の攻撃は、オーラ防御を纏わせたマントを翻し防ぎましょう
周囲の方は積極的に庇います

愛らしい敵さん
貴方達は過去だから、此処にいてはならぬのです
それに、人の甘味を奪ってはなりませぬ


泡沫・うらら
♢♡

まぁかぁいらしい
囀り飛び回る様をずっと見て居たい気もしますけども
あんたらが欲しいと思た気持ちと同じくらい
そのお菓子を食べるのを楽しみにしてはる方もいらっしゃるんよ

やから、返して貰います
ねぇまっしろピヨすけさん
あんたが後で食べよ思てかっさらったお菓子は、此方?

飴玉に猪口齢糖
クッキーから……まぁ、水饅頭まで?
ほんまに甘かったら何でも構わんの
せやけどやっぱり傘屋さんからもろた金平糖が多いねぇ

お手伝いさんたちが次々見つけ運んでくれるお菓子の数々
うちの両の手では受け止めきれんぐらいの量に瞬いて

うちのお手伝いさんたちは優秀でしょう?
何せこの天気やもの
あんたらがどれだけ増えようと此方の数は上回れませんよ




 雨に濡れた紫陽花小路に、白い小鳥が飛んでいく。パタパタパタと、元気に羽を動かして。時折ふらりと揺れるのは、咥えた獲物が小さな体に対して大きすぎるせいだろうか。
「まぁかぁいらしい」
 パタパタと飛んでいく鳥たちを見つけたうららはその後ろ姿を見て、そっと唇を押さえて笑む。小さくて白い小鳥さん、どこへ行くんやろうね。
 探ってみようかと指を向けて水魚を呼び出したところで、ピチャピチャと水音を響かせて駆けてくるような足音。大人が駆けるにしては軽く響くそれは、きっと駆けてくるその人が小さいからだろう。
「お待ちなさーいっ! それは僕の金平糖ですぞ!」
 それは、本当に一瞬だったのだ。可愛くて美味しそうな、紫陽花の形に包まれた金平糖。ひと粒齧ってみてもいいかなぁなんて、口に広がる甘さを想像して摘んでみたら――次の瞬間には無くなっていたのだ。確かに摘んだ金平糖。そして頬に感じた風を追いかけるように小路の先を見れば、飛んでいく小さな白い鳥。アッとひとまたたきの内に理解したルベルは、こうしてその不届き者たるピヨすけを追い掛けるに至ったのだ。
 尾を揺らしながら追いかけるルベルの表情は、真剣そのものである。許さない! と強い意思が瞳の奥で燃えている。けれどこれは、甘さを想像し楽しみにしていた所を奪われたのが悔しい訳ではなく、ひと粒の金平糖が奪われたのが悔しいわけではなく、世界平和のためである。悪事を見過ごす訳にはいかないからである。――本当は悔しいけど!
 駆けていくルベルをあらまぁと見送ったうららは、あちらさんもかぁいらしいことと笑って、後をゆっくりと追いかける。あの真剣な姿を見るに、お菓子を取られてしまったのだろう。囀り飛ぶ姿を見ていたいと思える愛らしい姿な小鳥だけれど、誰かが楽しみにしていたものを取ってしまうことはいけないことだ。ああして懸命に追い掛けている子もいることだし。
(――やから、返して貰いますね)
 呼び出した水魚たちが、するり。尾鰭を揺らしてどこかへと游いでいった。
「そうだ」
 駆けていたルベルは、何かを閃いた様子で足を止める。
「甘味がお好きなのでしょう?」
 ふふん。良いことを思いついたと言わんばかりの自信満々の笑みを零しながら指先を向ければ、魔法の金平糖で満たされた《星守の杯》が現れる。振られる指とともに杯がひっくり返れば――。
『ぴよ!?』
 魔法の金平糖がきらきらと輝きながら、ゆっくりとふわふわ雪のように降ってくる。
 甘い甘い罠に掛かったのは、ルベルが追い掛けていたピヨすけだけではない。
『ぴよ!』
『ぴよっ』
 こっそりと紫陽花の中に潜んでいたのであろうピヨすけたちが、魔法の金平糖を嘴でキャッチしようと飛び出してくる。
「掛かりましたな」
 妖刀『墨染』を素早く抜き放ち、しゅぱっとお仕置き!
 貴方達は過去の存在だから、此処に居てはなりませぬ。
「人の甘味を奪ってはならぬのです」
「ええ、そうですよ。ねぇまっしろピヨすけさん」
 ゆっくりと游いだうららが追いつけば、ゆうらりと水魚たちが集ってくる。水で出来た小さな海の生き物たちは何かを頭に載せており、それを見たピヨすけたちは『ぴよ!?』と悲鳴をあげた。
「あんたが後で食べよ思てかっさらったお菓子は、此方?」
「なんと、こんなにも」
 飴玉に猪口齢糖。クッキーに水饅頭に琥珀糖。砂糖をまぶした傘の形のゼリーに……一番多いのは矢張り金平糖だろうか。
「うちのお手伝いさんたちは優秀でしょう?」
 うららが上向けた両の手に、『お手伝いさんたち』が次々と菓子を運んでくる。両の手に山と積まれた菓子たちにうららは瞬き、ルベルは矢張り許しがたしと柳眉を跳ね上げる。
 奪い返そうとうららへと突撃するピヨすけ。けれど。
「させませんぞ」
 うららの前に飛び出した幼い騎士が、優雅にマントをひらり。オーラ防御を纏ったマントにぽすんとぶつかったピヨすけは、ころころころりんと転がった。
 小さな背中へ感謝を告げたうららはお仕置きも必要やろうねぇと微笑んで。
 空から落ちた雨粒が地面で唄う中、幼い騎士と水魚が踊る。
 骸の海で反省なさいな、と――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

おやおや。観光名所に乱入者が。甘味を奪っていくなんていけない子達だねえ。いたずらが過ぎる子達にはお仕置きだ。悪意はないんだろうけど、エスカレートすると困る。

逃がさないように奏とアタシで挟撃だ。奏と瞬が正面から牽制している間に群れの後ろに【目立たない】【忍び足】で回り込む。上手く後ろを取れたら【二回攻撃】【範囲攻撃】を併せた飛竜閃で一網打尽にするよ。迷惑かけないようなら見逃してもよかったんだが。窃盗犯は退治しておかないとね。ごめんよ。


真宮・奏
【真宮家】で参加

うう、もふもふは大好きですが・・・紫陽花が綺麗な所でおいしい甘味を盗むような子達は止めませんとね。今は甘味を盗むだけで済んでますが、味を占めて街自体に害を及ぼすようになるといけませんし。

逃がさないように母さんと挟撃ですよ。【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】でがっちり体当たりを受け止めてあわよくばイージスの盾と【シールドバッシュ】【怪力】【グラップル】で反撃です!!オブリビオンなのが非常に残念です。来世はまともな鳥に生まれ変わってくださいね・・・


神城・瞬
【真宮家】で参加

食欲に素直に従ってるだけで悪意はないんでしょうが、エスカレートするのが心配ですね。今の所甘味窃盗は上手くいってるようなので、街に害を及ぼすようになる前に。

いつもの氷の精霊術だと街に被害が出ますので、別の手を使いましょう。【高速詠唱】【二回攻撃】で風花の舞を発動。杖の攻撃と共に【多重詠唱】【魔力溜め】【誘導弾】【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】で追撃します。敵の攻撃は【オーラ防御】【第六感】で凌ぎます。ただ甘味が欲しかっただけなんでしょうか、ここは人が沢山集まる所ですので・・申し訳ないです。




 楽しげな笑い声とともに愛しい娘と息子が歩き、母はその背を見守る愛しい時間。来年も再来年もこうして一緒に過ごしたいと思わせてくれる、大切な時間。けれどその時間が破られるのは何時だって突然で――。
「きゃっ」
 がさり。
 揺れた葉に驚いた奏が小さく悲鳴を上げ、瞬はさり気なく一歩、奏を守る形で前へ出る。片手を下がっていなさいと言うように奏の前へと出すその姿に、ひとつ高鳴る胸を押さえながらも従い――けれど伺うように、奏は瞬の体から少しだけ顔を覗かせた。
 ぴょこり。
 飛び出したのは真白のふわふわ。愛らしい小さな鳥の姿に、可愛いものが大好きな奏は瞳を輝かせる。かくれんぼしているのですかと話しかけたくなる愛らしさに奏が口を開きかけた、その時。
『ぴよよー(突撃ー)!』
『ぴよーーーーー!』
 パタパタ! バサバサ!
 奏が所持した金平糖にキランっと目を輝かせた『まっしろピヨすけ』たちは一斉に葉の陰から飛び出し、奏へと向かおうとする。
「あぶない、奏」
「瞬兄さんっ」
 咄嗟に奏の肩を抱き寄せた瞬が、オーラ防御で小さな鳥たちの突撃を耐える。ハッと目を見開いて瞬を見上げる奏に、大丈夫だと瞬が頷きを返せば。
「おやおや。観光名所に乱入者が。甘味を奪っていくなんていけない子達だねえ。――大丈夫かい、ふたりとも」
 ドラゴンランス『ブライズランス』を手にした響が駆け寄り、槍を振るって二人からピヨすけたちを遠ざける。
「はい、瞬兄さんが守ってくれたので」
「大丈夫です」
 いけるかいと向けられる母からの視線に頷いて返す三人の前には、紫陽花から飛び出してきたふわふわもこもこのまっしろピヨすけたち。真っ直ぐに奏の手元を見ていた為、瞬は奏から金平糖を受け取り懐へとしまい込んだ。
(いつもの氷の精霊術だと街に被害が……)
 常ならば『六花の杖』を手にする瞬だが、ちらりと街へと視線を向け『月虹の杖』を掲げる。雲を割く陽の光のような灯りを杖先に宿せば、同じ杖がいくつもふわりと浮かんで。
『ぴよ!?』
『ぴ!』
 まっしろピヨすけたちの間で、衝撃が走る。なんかよく解らないけれど危なそうな気配を、野生の勘で感じているのだ。
(ああ……驚いている顔もかわいいです~)
 もふもふも可愛いものも好きだからと少しだけ眉を寄せる奏だったが、愛用の盾をギュッと握ると母の響と目配せをし、まっしろピヨすけたちの視線が杖に向いている間にソッと大好きな兄の側から少し離れる。
 まっしろもこもこでピヨピヨの彼等がオブリビオンではなくただの小鳥だったら、甘味をあげて甘やかしていたことだろう。けれどどんなに可愛くても彼等はオブリビオンで――そして今はこうして盗んでいるだけで済んでいるけれど、それがどんどんエスカレートしていっては困る。味をしめて街事態に被害を及ぼすようになる前に、猟兵として止めなくてはならない。
 三人の意見は、言葉を交わさなくとも一緒だ。瞳を見て頷きあえば、いつだって解りあえた。一緒に過ごした年月がそうさせてくれているのだ。特に戦場での行動で親子たちが迷うことはない。
 杖が、降る。
『ぴ、ぴよーーーーーー』
 慌てて回避しようとしたが間に合わなかったまっしろピヨすけが貫かれて消滅したが、他のピヨすけたちはもふもふあたっくを瞬へと食らわせに突撃してくる。
 もふん。ころりん。もふん。ころりん。
 オーラ防御を展開する瞬へもふんっとぶつかってはころりと転がる姿に、奏は兄と場所を替わってもらいたくなる。けれど今は作戦中。瞬がピヨすけたちの意識を集めている間にと、響と二人で挟撃を仕掛けようとしているのだ――!
 響が『こ、こいつ強い……』なんて顔になっているピヨすけたちの後ろへ回ったことを確認し、こくん。頷きをひとつするとともに、奏は盾を手に駆ける。瞬の盾になるように前に出て、前方に押し出すように構えて使うは《イージスの盾》。
「はい、ばっちり映しました!! お返しします!!」
 華奢な体からは想像もつかない体当たりと力で押し返せば、ピヨすけたちは『ぴよーー』っと吹き飛ばされて。
『ぴ、ぴよ』
『ぴよよ……』
 ピヨすけ同士何やら頷き合っているのは、撤退をしようとしているせいだろう。
 しかし。
「ごめんよ」
 迷惑を掛けないなら見逃してあげてもよかったのだけれど、窃盗犯は退治しておかないといけないんだ。
 小さな謝罪の声と共に振られた槍によって、残っていたピヨすけたちの姿が消えていく。
「来世はまともな鳥に生まれ変わってくださいね……」
 どこか悲しげに呟いた末娘の声に、母と兄がそっと寄り添った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

砂羽風・きよ
【菊】

花をまじまじと眺めて
紫陽花も色んな色あるんだな
青に紫とかスゲー綺麗

…お、理玖見ろよ
あんな真っ白でふわふわな紫陽花もあるん――
額に嘴をコツコツと連続で当てられ
いててて!!お、おいおい!いてーわ!
コイツ紫陽花じゃねぇ?!

くそ、理玖!気を付けろっ
金平糖を狙ってるぞ!
うおお、めっちゃ来てんじゃん!

ゴミ袋を取り出し狙われている理玖に手助けしようと
複数の敵に向かって被せる

ったく、あんま悪さすんなよ
もふもふんと触り
流石に食べねーけど、コイツらわたあめみたいで旨そう
はは、焼き鳥か
めっちゃもこもこだから中身あんまないんじゃね?

敵じゃなかったらエサとか上げたかったんだがな
謝りながらデッキブラシでぺちんと叩く


陽向・理玖
【菊】

買った傘差し少しご機嫌
貰った金平糖口にしつつ
うお、ほんとだすげー
青とピンクだけかと思ってた

ああ白くて…ふわふ…わ?
ってきよ兄さん!!
追い払おうと軽くなぎ払い

えっ…
や、やんねぇ…
やんねぇかんな!?
慌ててポケットに仕舞い
痛ぇつつくな!

さすがきよ兄さん
助かったわ
ゴミ袋から逃れた奴
動き見切りもふっとキャッチしようと
やべぇ集団怖ぇ…
減った金平糖に少ししょんぼり

そんなふくらんでも無駄だぞ
動けなくなってんじゃん
握り締めてもふもふ
…ふわっふわ

そーか?
わたあめもいいけど
俺は思わず焼き鳥にしようかと思ったぜ

…1個くらいならいいんじゃね?
でもまぁ…情が移っちまっても困るもんな
何だろ敵なのに
…何となく罪悪感
UC




 紫陽花小路に菊の花。ふたつの菊は、雨に打たれてご機嫌に花開き、持ち手の気分に合わせてゆぅらり揺れた。
 時折かろりと鳴る軽やかな音は、糖花に歯を立て味わう音。新しい傘に甘味に、親しい人。そして視界を染める鮮やかな花々があれば、雨の中でもハレ心地。
「紫陽花も色んな色あるんだな。スゲー綺麗」
「ほんとだすげー」
 青とピンクだけかと思っていたと理玖が、すげぇなと紫陽花を覗き込む。眼前で雨に打たれて揺れる手毬は、晴れの空を映したような濃い空色だ。そこにぴょこんと顔を出したカエルと目が合えば、慌ててカエルが逃げていき、小さく笑みが零れそうな心地となった。
「……お、理玖見ろよ」
 何か見つけたのであろう、きよが呼ぶ。
「ほら、あそこの。あんな真っ白でふわふわな紫陽花もあるん――」
『ぴよーーーーーーーーーー!!』
 コココココココココ!!
「ああ白くてふわ……ふ、わ? ってきよ兄さん!?」
「いててて!! お、おいおい! いてーわ!」
 白いのもあるのかーなんて理玖が視線を向けた先で見たのは、小さな白いふわふわに高速で額を突かれているきよの姿。コツコツなんて可愛らしい動きではない。生前は名のあるキツツキであらせられましたかと問いたくなるような、実に素晴らしい嘴使いであった。
 ぴょーーんっと華麗に飛び出てきた小さな白いふわふわに額を突かれれば、きよとてそれが紫陽花ではない事に気が付く。
「気を付けろ、理玖! コイツ紫陽花じゃねぇぞ!」
 見れば解る。が、理玖はツッコまず、きよの額をノックし続けるピヨすけたちを腕で薙ぎ払った。ふかぁと柔らかな毛が理玖の手に触れ、そしてころりんころころと転がっていく。
『ぴ、ぴよ……』
 ころんと転がった毛玉のつぶらな瞳と目が見上げてきて、何だか悪いことをしてしまった気分になる。しかし――キュリーンっと瞳が輝いたかと思えば、理玖へとバタバタと飛んでくる。ロックオンした先、そう、金平糖へと向かって。
「えっ……」
「理玖、金平糖を狙ってるぞ!」
「や、やんねぇかんな!?」
 慌ててポケットに金平糖を仕舞う理玖であったが、その手に群がって啄み! ツッツキ! 啄み! ツッツキ! 小さなもふもふなピヨすけたちは『それよこせー』と攻撃してくるのだ!
「お前たちはゴミじゃないだろうけど――っと」
 懐から特殊なゴミ袋を取り出したきよは袋の口を広げると、バサーッと動かしてピヨすけたちを捕まえていく。普段は敵の目を遮る事に使用するユーベルコードだが、小さな敵故捕まえることが叶った。
 ゴミ袋の紐をギュッと締めれば、理玖に纏い付くピヨすけたちは圧倒的に少なくなる。仲間が減ったことに気付いて体勢を立て直そうとしたピヨすけの動きを見切った理玖はヒョイっと手を伸ばし、もふっとキャッチ。
 襲われたせいで、盛大に金平糖が地面に散らかっている。減ってしまった金平糖。雨に打たれる金平糖。これじゃあ食べられないじゃないか、と少しだけ悲しくなる。
「そんなふくらんでも無駄だぞ」
 理玖の手から抜け出そうとしているのか。それとも握り潰されないぞと主張しているのか。《超もふもふもーど》になってもふもふを極めんとしているピヨすけをにぎにぎもふもふ。
「ったく、あんま悪さすんなよ」
 中で暴れまわっているピヨすけたちのせいで不思議な生命体のようになっているゴミ袋を少し気にしながらも、放置して近寄ってきたきよも、もふん。もふもふ。
「コイツ、どうしよっか」
「コイツらわたあめみたいで旨そう」
『!』
「そーか? わたあめもいいけど俺は、」
 焼き鳥にしようかと。
 向けられた視線に、動けないピヨすけの表情だけが変化していく。
『ぴ、ぴよ……』
 うるん。つぶらな瞳に涙が溜まり、罪悪感が二人を襲う。
 今手を離せば逃げてくかなと手を離せば、ころんと転がったピヨすけはもふもふもーどを解除して飛び立とうとし、そこへ理玖の素手が素早く伸ばされて。
「ごめんな」
 小さく落ちた、謝罪の言葉とデッキブラシ。
 逃げ残っていたピヨすけたちは、持って帰れなかった金平糖を残して消えていく。
「金平糖……」
「片付けるか」
 物悲しい気持ちを胸に、ちゃんとお片付けもする二人であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御心・雀
とりさんたち、あまいお菓子がそんなに食べたいのかしら。
まあ。だめよ、ひとからとるのはいけないのよ。
困るねえ。

そうだ。あめ。とりさんはわたしのおうちにはいなかったから、このあめにはよわいのじゃない?

ね、とりさん。すこしおちついてちょうだい。
おはなしなら、きくよ。おなかがすいてるの?
だれかといっしょに食べたいの?
もふもふピヨさん、なんとかなかよくできないかなあ。
わたしの『こんぺいとう』なら、わけてあげても、いいよ。

だめ?

♢♡


ニナ・グラジオラス
♢♡

早速、先程購入した傘を共に
色もいいし、傘に雨が当たる音もいい。本当にいい買い物をした
脇を彩る紫陽花も目に鮮やかだし、パタパタと可愛らしい音も…パタパタ?

すっかり忘れそうになっていたが、そうだったな。
(懐から親友が焼いてくれたクッキーを取り出して)ちゃんと用意しているぞ。
先程もらった金平糖はシッカリと仕舞い込んでおこう

(必要があればハンカチの上にクッキーを少し崩して食べやすいようにして差し出す)
こんなに可愛い子達を脅かすのはちょっと気が退けるが、モフモフしてもいいんだよな?
うん、これは仕方のない事だ(と遠慮なくモフモフ)

カガリ、張り合わないでくれ
キミの分はちゃんとあるし、私の一番はキミだぞ




 紫陽花小路に、手毬よりも大きな青が広がる。青空のような青に白い小花が散るそれは、きっと遠くから見たら紫陽花のひとつに見えているかも知れない。
 たんたんと唄う傘の内側から傘を見上げれば、青空を連れ歩いているような気持ちにもなれて、本当にいい買い物をしたものだとニナは目尻を和ませる。新しい傘とそしてカガリと一緒の紫陽花小路の散歩は、目にも耳にも楽しくて。
(ほら、パタパタと可愛らしい音も……)
 パタパタ? ポタポタという雨音ではなく?
 傘をあまり動かさないように気をつけて、チラリと視線だけを動かせば、白い何かがぴゅんっと紫陽花の中に隠れた。ガサリと揺れた葉に、カガリが口を開けようとするのをそっと押さえて、しー。
 貰った時より軽くなってしまった金平糖を仕舞って、取り出すのは小さな包み。カガリが匂いを嗅ぐように上向く中、そっと開けば芳しい香りが広がった。焼き菓子の、バターの香りは雨の中でも香りよく、それをハンカチの上に載せて少し砕けば――。
 バサバサバサバサバサ!
 あっという間にニナは白い小鳥たちに囲まれ、ピヨすけたちは突撃せんと目を光らせている。けれどすぐに襲い掛からないのはカガリが目を光らせているせいと、ニナに差し出す意思があるからだろう。
『ぴよ?』
『ぴよよ』
 くれるのかな、なんて相談し合うピヨすけたち。
 そこへ、もうひとり分の声が重なる。
「とりさんたち、あまいお菓子がそんなに食べたいの?」
 後から来た雀には、今まさにニナが襲われようとしているように見える光景だったことだろう。だめよ、ひとをおそったら。ひとからとるのはいけないのよ。拙い口調が「すこしおちついてちょうだいな」と、やんわりとピヨすけたちをたしなめながら近付いてくる。
「うん? キミは……」
「あら、あなた。さっき会ったひとね」
 赤い髪と青い傘を見上げて、そして手元のハンカチへと視線が行く。
「あまいかおり。おいしそう」
「キミも食べるか?」
「いただいても?」
「鳥たちにあげようと思っていたところなんだ」
 数に限りはあるけれど、親友が焼いてくれたクッキーは美味しいぞとしゃがめば、雀はそろりと手を伸ばし、ありがとうとひとつ受け取った。
「もふもふピヨさんもいっしょに食べましょう? わたしの『こんぺいとう』もわけてあげる」
 サクリと口にしたクッキーはホロリと解けて。バターの香りが広がり、とても美味しい。一緒に食べたほうがきっとおいしいからと雀も掌の上に金平糖を取り出せば、雀とニナの手にピヨすけたちがそろそろとやってくる。
 ふかりと暖かなふわふわが手のひらをくすぐって、そうして菓子を咥えると飛び立っていく。順番待ちをしているピヨすけに手を伸ばしても菓子をもらうまではと思っているのか逃げていかない。
 もふ、ふかぁ。カガリにはない手触りに、これはこれはと満更でもない顔になるニナ。けれど傍らからは、グル……と不服気な唸り声。
「カガリ、張り合わないでくれ」
 本当は一番にクッキーだって欲しいし、構ってもらいたい。そんなカガリの気持ちをも解るニナだから、苦笑を零しながらも相棒へとそっと告げる。
 ――私の一番はキミだぞ。
「あら、もういいの? いってしまうのね」
 菓子を咥えたピヨすけたちは、そこでは食べずどこかへと帰っていく。
 さようならと手を振る雀とともに、ニナとカガリも白い鳥たちを見送るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

境・花世
綾(f01786)と

抱えた傘の代わりにお財布はからっぽ
紫陽花の海をふわふわと泳ぎながら、
隣の神さまに甘い餌をねだってしまおう

雨粒みたいに透きとおる金平糖
きらきらと儚く砕けるひと粒ずつは
おいしくてちょっぴりもどかしい

あのね、もっと欲し、――わ!?

もふもふした何かに掻っ攫われて
愕然とした顔で彼等の去った方をみつめる
な、なんてきょうあくな所業っ

早業に高速移動を駆使して追跡
くるりとジャンプしてその上を飛び越え
花びらの壁でピヨすけたちの道を塞ぐ

綾、今だよ、もふもふのチャンス!
じゃなかった、一網打尽だ

白い羽毛がやがて大人しくなったら、
今度こそ金平糖のお代わりを
ぴよぴよと嘴を開けて待ちかまえる


都槻・綾
f11024/花世

かえるがかくれんぼする傘で散策
口遊む雨の童歌

揺蕩う海月のおねだりに笑って
紫陽花金平糖を
ひと粒、彼女の口元へ

私は雨が好きです
常には見えぬものが見えたりするような
雨の帳の向こうに別の物語を覗くみたいな
心地で――、

中途で攫われたのは
言のみならず、甘露も

指先を掠めた羽毛の感触に
つい頬が緩んでしまうけれど
素早く白い影を追う彼女の姿に
お見事、と拍手

やぁ
一網打尽に――抱き締めたくなりますねぇ

花筐を詠いつつ
ぴよを紫陽花の幻想でやんわり包みましょ

お腹が減らないように
金平糖を少し分けてあげますから
花筏に乗って彼方の海まで帰りなさいな

おかわりも勿論
ところで
海月からひよこに転身ですね、なんて笑いつつ




 水の波紋に蓮の花。雨が当たるのを見上げれば、なるほど雨に打たれた波紋のようだと男が微笑う。花影のカエルに目を和ませて、雨の童謡を口遊みながら紫陽花の花影にもカエルは居ないかと視線が彷徨った。
 傍らを歩む花世は、ゆうらり揺れる海月を頭上に頂いて、軽やかに運ぶ足取りは雨粒を跳ねさせる。その度に海月がふわり揺れて、ゆらゆらと垂れを揺らして紫陽花の海を楽しげに游いでいった。
「ねぇ、綾」
 可愛い海月に甘い餌をくれる気はない?
 くるりと回せば海月の触手も追い掛け揺れて、その中で、游ぐとお腹が空いてしまうんだと花唇が弧を描く。可愛い海月のおねだりに、綾も笑う。悪い気持ちなんてしない、ねだられるとつい甘やかしてしまいたくなる神様は紫陽花包みを開いて、摘み上げた金平糖をひと粒、弧を描く唇へと運んであげる。
 柔らかに、触れて。
 開いて迎え入れ、食んで。
 綾の指先で雨粒みたいに透き通っていた金平糖は、軽く歯を立てればほろりと崩れてしまう。儚く砕かれ、甘さを広げて、そうして少し物足りなくて――もどかしい。
 しゃららと鳴る雨の珠簾の先へと手を伸ばした綾の瞳は物語を覗くように穏やかに、ひと粒を再度摘んでもっととねだる海月の口へと押し当てた。
「――わ!?」
 触れた甘味を味わう前に、柔らかな何かが攫っていく。ふわりと触れたくすぐったさは、きっと羽毛――それもひな鳥みたいな柔らかさの、其れ。気付いた綾の頬は柔らかく緩み、花世のひとつだけの瞳は大きく見開かれ――。
 あ、と。声を掛ける間もなく、花を纏った一陣の風が綾の髪を揺らし、その人の姿が眼前から消えた。
(――な、なんてきょうあくな所業っ)
 手ずから与えられる、甘やかな星粒にも似た菓子。心を甘く満たしてくれる、待ち望んだもの。それが、目の前で奪われたのだ。
 たん、と地を蹴る足は風を履いたように軽やかに。
 ふわり、と浮かぶ体は羽根のように。
 空中でくるりと身を捩り、とん、と落ちるは飛び越えたピヨすけたちの眼前。
「お見事」
 軽業に、爽やかな拍手と快活な声。
 纏う百花の王の花弁で壁を作れば、今がチャンスと麗しい人へ。
「綾、今だよ、もふもふのチャンス! じゃなかった、一網打尽だ」
「やぁ、一網打尽に――抱き締めたくなりますねぇ」
 朗々と響く声が詠うは《花筐》。幻想の紫陽花の花弁でピヨすけを極力傷つけぬように気をつけながら優しく包めば、ピヨすけは諸手――両翼をあげて降参のポーズ。
「お腹が減らないように金平糖を少し分けてあげますから」
 なんて優しいひとなのだろう。
 ひとつの瞳を柔らかく閉じて、開いて。
 そうして、綾から甘味を貰って腹を満たしたピヨすけへと花世は牡丹の花弁を纏わせる。幸せな状態で送ってあげようと思う気持ちは、きっと示し合わなくとも通じ合っている。満たされたまま緩やかに生命を吸われたピヨすけが消えるのを見届ければ、幻想の紫陽花と牡丹は揃って雨に溶けて。
「綾」
 今度こそ、今度こそだよ。
 囀る嘴を開けてぴよぴよとねだれば「海月からひよこに転身ですね」なんて綾が咲うから、「わたしがひよこなら、ずっと甘露をくれなくちゃ」と一層美しく笑みを返す。
 きみが笑ったって、それでいい。
 だから、ね。甘露がほしいよ。
 きみの手から貰える糖花は、どんな甘露よりも一等甘いのだから。
 どうかたくさん、与えて頂戴。神様。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
【軒玉】

雨が止んだタイミングで
そうだ、おやつ
歩きながら食べちゃう?

取り出すのは先程の金平糖と用意してきたもの
黒羽リクエスト、スナック菓子はポテトチップスにチョコがかかったもの
甘いのとしょっぱいのどっちも味わえるのにしてみました
いーよ、いくらでも食べな
黒羽からは蓬大福を貰ってぱくり
俺、これすーき
香りがいいよねえ、あんまたくさんは食えんケド

あ、あと、これ
オズに差し出すのはきなこ棒
ぽろぽろ零すのは予想通りで
きなこの粉がついているのは敢えて言わずに笑うだけ
俺も食べる

――あ
甘いのが取ってかれた
でたでた、とくすり

…やったんだから、もふもふさせてくれてもいいよなぁ?
ふふ、よし。行くぞ、黒羽、オズ
とつげーき


オズ・ケストナー
【軒玉】

おやつっ
わたしはねえ、と広げる
チーズラスク
キャラメルポップコーン
ねこクッキー

アヤカのおやつ覗き込み
チョコがかかってる
はじめてみたっ
クロバのおいしい顔を見れば感想は聞かなくてもわかる
ふふ、スナックがしはすごいねっ

前にクロバに貰った饅頭見つけたら
あ、わたしねこまんじゅうたべたい
おいしいもの
どれとこうかんする?

わあい、きなこきなこっ
ありがとうっ
そそ、とクッキーと交換
アヤカにリクエストしていたきなこ棒をもぐもぐ
ぽろぽろ
クロバもたべる?

ポップコーンはたべやすいかと思って
と一つ持ち上げたら
あっ
狙い通りに攫った姿に笑って
でた、ピヨすけっ

アヤカに続いて
やったあ、とつげーきっ
クロバもっ
もふもふするぞーっ


華折・黒羽
【軒玉】

おやつ
持ってきました

団子に蓬大福
行きつけ茶屋の猫饅頭
金平糖も

綾華さんから初すなっく菓子貰い
薄い生地にかかったチョコを
興味深げに眺めてにおい嗅いでからのさくり

…おお

甘くてしょっぱい不思議な味に輝く眸

オズさんが言ってた通りだ
甘いもの、しょっぱいもの
どっちも美味しい
くっつけても美味しいなんてすなっく菓子ってすごい
もう一枚…

蓬大福、好きなんですか?
確かに良い香りですよね

オズさんのはどんな味だろうか
すごく零れているけれど…
あとこれも
ぽっぷ、こーん?


…取られた

項垂れる耳
でもわかる
甘味に一目散になってしまう気持ちは
だから怒るのは無しで

綾華さんの駆け声で先行く二人追いかけて
倣う様に白い塊に飛び込んだ




 降ったり止んだりを続ける空模様はいつまでも読めなくて。けれどぽたんと落つる雨垂れが聞こえなくなったら、和傘アンブレラスカイの下を抜けて紫陽花小路へ。
 雨に濡れた紫陽花は、雨が止めばつやつや光る。雫を湛えた花や葉は一層色を濃くしているようにも見え、歩む人々を楽しませていた。
 綺麗だねぇなんて眺めながら歩いていた三人の会話は、花から菓子へと移り変わる。移ろうのは紫陽花の花や空だけでは無く、会話だって同じだ。
「おやつ、たくさんもってきたよ」
「俺もたくさん持ってきました。どこで食べましょうか」
「俺も。……歩きながら食べちゃう?」
 沢山持ってきたおやつたち。どうせなら広げられる場所がいいよねときょろりと見渡せば、紫陽花の手毬たちの向こうに赤い傘がひょこりと頭を出している。
「あ、あそこっ」
「大きな傘と椅子がありますね」
 足を向ければ、緋毛氈の敷かれた床几台に、赤い野点傘。小路を訪れる人用の休憩スペースなのだとひと目で分かるその場所で、三人はおやつタイムにすることにした。
 床几台に腰を下ろすと、早速三人はそれぞれの膝の上に今日のおやつを広げていく。
 オズの膝の上には、サクサク香ばしいチーズラスクに甘いコーティングが癖になるキャラメルポップコーン。それから可愛い顔のねこクッキーに金平糖。
 黒羽の膝の上の菓子は和色が強く、もっちり美味しい白い団子に、春の香りのする蓬大福。それから黒羽の行きつけの茶屋の可愛い猫饅頭に金平糖。
 綾華の膝の上には、先程購入したお揃いの金平糖と、黒羽リクエストのスナック菓子。早速興味深々に黒羽が覗き込む其れは、塩気のあるポテトチップスに甘いチョコが掛かった、甘さとしょっぱさのハーモニーが堪能できる魅惑のチョコポテトチップだ。
「これが……」
「はじめてみたっ」
 初すなっく菓子である。いくらでも食べなと言われた黒羽は、慎重にそろりと手にしたチョコポテトチップを興味深げに眺め、匂いもすんすん。塩とチョコの匂いだなんて口にしてから、さくり。
「……おお」
 ワクワクとオズが見つめる先の眸につるんと光が滑るように灯るのを見れば、感想は聞かなくとも知れるというもの。
「気に入ったならいーよ、いくらでも食べな。俺、これーき」
 甘さとしょっぱさを堪能し眸を輝かす黒羽の膝から、綾華はひょいと蓬大福を貰って、ぱくり。独特な香りを胸いっぱいに吸い込めば、すぐに甘いあんこが口内に広がる。
「蓬大福、好きなんですか?」
「香りがいいよねえ、あんまたくさんは食えんケド」
「あ、わたしねこまんじゅうたべたい」
 前にももらったよねぇと笑って、手を伸ばし。
「クロバ、どれとこうかんする?」
「このつぶはなんですか?」
「それはね、ぽっぷこーんだよ」
「後から頂いても?」
 今はもう一枚チョコポテトチップがを食べたい気分だ。うん後で、とオズは笑顔で猫饅頭をぱくり。
「あ、あと、これ」
 そういえば出し忘れていた、と綾華が肌色っぽい菓子を取り出してオズへと差し出せば、なんだろうと黒羽の瞳も追いかけてくる。
「わあい、きなこきなこっ」
「食べたいって言ってたろ」
「うん、ありがとうっ」
 アヤカにはこれをあげるねとねこクッキーと交換して、早速ぱくん。ぽろぽろときな粉が溢れてしまうのを、綾華はやっぱりななんて顔をするけれどただ笑うだけ。ありがとと短く礼を言ってクッキーを齧った。
 持ち寄った菓子は、どれも違って。どれも違うのに、どれも美味しい。美味しくて優しくて楽しい時間に、心とお腹を満たしていく。
「クロバっ、そろそろポップコーンどう?」
 これね、たべやすいんだよ。
 ひと粒摘んで持ち上げる。小さいから一口で食べれちゃうんだよと口に入れるはずだったのだが――。
『ぴよっ』
「あっ」
「あ」
「――あ」
 素早くパタパタっと飛んできた白いふわふわが、オズの指先にふわっと優しい感触だけを残して、キャラメルポップコーンを奪ってんでいった。あっと言っている間に、ドドドドドっとやってきた大群が三人の膝に残っていた残りの菓子も奪っていく。
「でた、ピヨすけっ」
「でたでた」
 本当に出るものだな、なんて。狙い通りだと笑い合う綾華とオズだが、黒羽の耳は素直にしゅんっと垂れてしまう。美味しそうなお菓子が、目の前から消えてしまったのだ。けれど――甘味に真っ直ぐ一目散になってしまう気持ちは、黒羽にも分かるから。だから怒りはしないけれどと耳を立て直し、既に追いかける支度を整えた二人に倣って立ち上がる。
「ふふ、よし。行くぞ、黒羽、オズ」
 やられたからにはやり返してもいいよなぁ。
 もちろん仕返しはもふもふだ。
「とつげーき」
「やったあ、とつげーきっ」
 綾華の掛け声とともに駆けていく二人を、黒羽も追いかける。
 鮮やかな紫陽花小路の中を飛ぶ白を、三人は楽しげに追いかけ回すのだった。
 もふもふの塊に飛び込むまで、あと少し――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【梓(f25851)と】♢
さっき買った傘を早速差して小路を歩く
見上げれば紅に白い蝶が目に映って気分も上々
紫陽花も、こうして見ると
沢山の色があるんだなぁと見とれてしまう
赤い紫陽花って無いのかな?

ぴよぴよという可愛らしい鳴き声が耳に届く
甘味を奪いに来るんだよね
これ見よがしに金平糖を空に向けて掲げ鳥達を誘き寄せる
まんまと飛び込んできたらすかさずキャッチ
(ちゃっかりUC使って成功率を上げる)
あー、真っ白でふわふわで可愛いねぇ
せっかくなので思いっきりもふもふを堪能
ほら、梓も触ってみなよ
でも雨だから羽が湿っちゃってるのが惜しいね
晴れた日ならもっと触り心地良いんだろうなぁ
好きなだけ楽しんだら焔と零にはいパス


乱獅子・梓
【綾(f02235)と】♢
さっき買った傘を広げ綾と並んで歩く
綾はいつものニコニコ顔なのは変わらないが
明らかにテンション上がっているのが伝わってきて
何となく女子みたいだなと少し笑う
確か紫陽花は土が酸性寄りかアルカリ性寄りかで
色が変わってくるんだったか

あ、そういえばオブリビオンが出るんだったな
綾に言われるがままピヨすけを触ってみる
おぉ、本当だ。抜群の毛並みだな
あっ、こら、つつくなつつくな!

よーし、焔、零!遊んでやれ!
焔と零はぴよぴよ鳴いて動き回る小さな物体に興味津々
追いかけ回したり頭突きしてみたり
舐めてみたり甘噛してみたりとやりたい放題なこいつら
可哀想だから燃やすのと凍らすのは勘弁してやれ




 黒地に白の蛇の目と、赤地に蝶の舞う鮮やかな傘が、鮮やかな手毬花たちの中に咲いていた。時折赤い傘がくるんっと回るのは、持ち手がご機嫌な証拠だ。買ったばかりの新しい傘を咲かせた綾がニコニコと笑顔を浮かべていることなんて、見なくとも解る梓は小さく笑みを零す。何となく女子みたいだな、っと。
 傘を回せば、水が跳ねて。
 楽しげに歩けば、足元でも水が跳ねる。
 ぴょん、ちゃっ、ぽたん。
 ご機嫌に歩めば歩むほど雨たちが演奏してくれて、矢張り気分は上々。赤いサングラス越しにもひらりと舞う白い蝶も映えて、やっぱりこの傘を選んでよかったと再度思えるのだ。
 そして赤に歪む世界にも、紫陽花の彩はよく映える。青に紫、白にピンク。完全に同じ色を見つける方が難しいのではないのかと思えてくるくらい、紫陽花小路の紫陽花たちは気分屋のようだ。
「赤い紫陽花って無いのかな?」
 これはピンクだなぁなんて、近くの紫陽花を覗き込んだ綾が首を傾げれば、梓は冷静に紫陽花の性質を考える。紫陽花が咲かせる花の色は、土の酸度によって違ってくる。赤くしたければアルカリ性を強めれば良いのだ。
 と、すれば――注目すべきは、紫陽花の根本だろう。紫陽花の色を変えるために行える手段等、サムライエンパイアの地では限られているはずである。薬品ではなく、もっとどこでも手に入る――そう、卵の殻を梓は見つけた。どうやら定間隔で量を計算してあるそれを見れば、もう少し先に……と視線を向ける。
「綾」
「あった?」
「真っ赤とはいかないが、濃い赤紫のがあるな」
 梓の指差す先へと向かえば大きな赤紫の手毬が揺れていて、綾が「おお」と思わず声を上げてしまうくらい立派な紫陽花だった。
『ぴよ』
「ぴよ? 梓、今ぴよって言った?」
「言ってない。……そういえば、オブリビオンが出るんだったな」
 あー、そういえば。忘れそうになっていたけれど、甘味を奪いにくるのが出るんだっけ。っと、それじゃあ。
「甘いのあるよ」
『ぴよよー!』
『ぴよーーーー!』
「うわ、早」
 金平糖はここだよーっと掲げてみただけで、紫陽花の中から白いもふもふが弾丸のように飛んできた――のを、すかさずキャッチ!
『ぴよ!?』
『ぴ……!』
「あー、真っ白でふわふわで可愛いねぇ」
 成人男性の手ならば、二体同時だって易易と掴んでいられる小ささ。雨で羽が湿ってへちょっとしているのが少し惜しいが、それでもかなりのもふもふ具合だ。しかも雨だからか、こうした小さな熱はじんわりと手に暖かさを分けてくれて心地良い。
「ほら、梓も触ってみなよ」
『ぴ!?』
 ピヨすけが『コイツ正気か!?』みたいな顔をしているが、気にしない。にぎにぎもっふもっふ堪能した上に、更に他の人にも勧めるだなんて!
「おぉ、本当だ。抜群の毛並みだな」
 伸ばされた手は、これまた大きな手。潰さないような配慮とともに軽くふわふわと撫でるように触られれば、ピヨすけは何だか心地よくなって――ハッ! 敵の罠に引っかかるところだった!
 テテテテテテテテテ!
「あっ、こら、つつくなつつくな!」
 心地よくなんて、なっていません! 梓の手を高速で突っついて抗議をしたピヨすけたちだったが、彼等がそのまま開放されることはない。
「よーし、焔、零! 遊んでやれ!」
『……ぴ』
 今、なんとおっしゃいました?
 小さなピヨすけたちが恐る恐る振り返れば、そこには凶悪で凶暴そうなドラゴンたちが獲物を狙っていて……。(※ピヨすけ視線)
『ぴよーーーーーー!?』
 はいパスと綾にぽーいと放られたピヨすけたちは逃げ惑う。けれどぴよぴよ鳴いて動き回る小さな物体に、仔ドラゴンたちは興味津々。
 追い掛け回して、小突いて転がして。
 べろんと舐めて、甘噛をして。
 その度に、ピヨすけたちの悲鳴がぴよーっと紫陽花小路に響く。
 仔ドラゴンたちが飽きてしまうまで、それは続くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夕時雨・沙羅羅

ちよ、ちよ、ちちち…
こっちのみずは、あーまいぞ
新しい傘はお気に入り
雨の歌は心地良く
並ぶ紫陽花は綺麗で壮観
賑やかな鳴き声はかわいくて
機嫌良く歌も唄ってしまう

雨の時期に咲く花は、なんだか歓迎されている気分になって、嬉しくなる
小さいのが集まって、おおきくて、まんまる
…そう思ってみたら、この花と、ぴよぴよの奴らは、似ているような
それでいて、花の彩りは金平糖に似てる
だから、ここにいるのだろうか
答えあわせする暇無く、星のかけらのような菓子を奪い去る姿を見送って

菓子だけ欲しいなら実に平和
でも、いつまでも満たされないのもすこし不憫
全ての金平糖が無くなったところで
浮かせた水の塊を弾けさせ、おどかしてやろうか


冴島・類
♢♡

おやおや、小さいもふもふも
集って来たら吃驚しちゃうよ
小径で糖花の包みふわり開いて見たら

わさわさ、一気にぴよすけ君達が飛んでくる
…ふむ
瓜江、傘持ってて

掌で受けたあまいの目掛けて来た彼らを
逃がさないように、ぽふっと
両手で捕獲狙うよ
うわ、思ったよりふかふかだね君達

あのね
大した悪事もしてないし、刀でどうこうしたくはないな
襲わなくても、君達愛らしいから
お願い!ってうるうる目で主張してみたら?
つぶらな眼差しびーむは効くもんだ
ほら、やってごらん
全部!じゃないなら分けるしさ

まあ、それでもアタックされたら
受けて明後日の方へいなして返そうか

ご覧、ここは静かに楽しむ小径だから
花も人も、君達の仲間も荒らさぬように




 しゃら、しゃらら。雨が降る。
 しゃららと揺れる雨粒連ねた空のカーテンは、沙羅羅の身には馴染み深いもの。傘から手を伸ばせば触れる雨粒は、少しだけひんやりと冷たさを伝えて、指先から沙羅羅の一部となった。
 常ならば雨の日に傘を必要としない沙羅羅も、今日は新しい傘の下。水面のような揺らめきに花弁の浮かぶ傘に雨粒が跳ねて、新しい傘をお祝いするように雨が歌う。
 たんたたた、たん。
 落ちてくる雫は、8分音符に4分音符。
「ちよ、ちよ、ちちち……こっちのみずは、あーまいぞ」
 つられるように歌ってしまうのは、気分が良い証。綺麗で鮮やかな紫陽花の花にも、聞こえてくる鳴き声も可愛くて、雨粒とともに心が弾んでしまうのだ。
「こっちの糖はあーまいぞ」
 沙羅羅とは別の、けれど弾む音程は同じの、声が雨音に混ざる。
 覚えのあるその声に振り返れば、そこには見知った姿が雨粒のカーテンの中に。
「こんにちは、シャラ君。好い雨だね」
「ルイさん。……ん、いい雨」
 君の姿が見えたものだからと柔和に微笑う姿に瞬けば、雨粒がまた、ぽつり。
 ぴよぴよ、ちいちい、ぴよよ。ああ声が聞こえているねと微笑んで、紫陽花めいた包みの糖花を類が開けば――。
「わ」
 バサバサバサバサバサ!
 紫陽花に潜んでいた小さい小鳥たちが一斉に飛び出してきたものだから、類は急いで手にしていた傘を『瓜江』へと手渡して、ピヨすけたちを両手で受け止める。
 青や紫の手毬の中から飛んだ、白い毛玉。小さな毛玉も集まれば、ふっくらと大きくなって――ああ、ほら、花が咲いた。類の手に咲いた白い手毬花に目を瞬かせ、溢れてしまいそうだからと沙羅羅も手に紫陽花の金平糖を咲かせた。
 花の彩りは金平糖に似ている。だから、ここにいるのだろうか。
 思ったのは、ほんの一瞬。あっという間に沙羅羅の手にもピヨすけたちが群がって、ふわふかふんわり、温かい。
「えい」
 ぽふん。咥えてすぐに飛び立ったピヨすけは何羽か逃げたが、類が両の手をぽんと閉じれば、いくつも咥えようと欲張っていたピヨすけが手の間に挟まってもぞもぞ動こうとしている。思っていたよりもふかふかな感触に、つい玩具を見つけた子供のように笑って。シャラ君もやってごらんよと類が明るく誘う。
「ねぇ君達、お願い! ってうるうる目で主張してみたら?」
 危機を察知して沙羅羅の手から逃げてしまったピヨすけたちの代りにと、一体を沙羅羅に手渡した類は、ふかふかにぎにぎしながらも手の中のピヨすけへと語りかける。
 襲わなくとも可愛くお願いすればきっとひとは分けてくれる。つぶらな眼差しに小さく小首を傾げたなら、それは完璧だ。キュンっと胸を撃ち抜かれた人は分けてくれるだろうし、菓子だけで済むなら実に平和なことである。
 けれど、いつまでも満たされないというのは少し不憫だ、と沙羅羅は思う。食べて寝ればまた餓えて、いつまでも満たされないのは彼等がオブリビオンだからだろう。たった今金平糖を全部食べたとしても、きっとピヨすけたちは満たされることはないのだ。
『ぴよ!』
「わっ」
 ててんとピヨすけが類の手を嘴で突付き、小さな痛みに驚いた類は手を開く。その隙に手からピヨすけが飛び出すのに合わせて沙羅羅もピヨすけを逃し――えい。逃げていくピヨすけたちに水の塊を弾けさせて驚かしてやれば、『ぴぃ!?』驚いたピヨすけたちは一度ぽてんと地面に落ちてからまたバタバタと飛んでいく。
 驚かされる気持ちも分かれば、暫くおとなしめになるかもしれないな、なんて。パタパタと逃げていく姿を見送った。
 賑やかに鳴くピヨすけたちが去れば、紫陽花小路にはまた雨音だけが満ちる。
「折角だから、一緒に歩こうか」
 雨音に、類と瓜江の二人分の足音。歌う傘もふたつ。瓜江が持つ傘に入った類と、ゆうらり游ぎながら傾ける沙羅羅の分。異なる傘を歌わせながら、二人は紫陽花小路を楽しんだ。
 ぴちぴち、ちゃぷん。しとしと、ぽたん。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズウェルド・ソルクラヴィス
【廻星♢】
こういう雨音も、またにはいいか…
傘を差し
歩幅を合わせ
桜の話し声を聴きながら
共に紫陽花を眺める

―来い

そう呟くだけで
白竜達が来るようUCの魔力を編み

…持っててやるから、封開けとけ
傘を持ち
金平糖を手渡す

貰う一粒にほろ甘さを感じた所に

出たな―

ワー!と来るピヨ達を
捕まえとけ、と
ワー!と白竜達を出し捕獲へ
ルゥーの魔法で寝落ちたピヨっこ達も回収し
念のため捕獲したピヨ達も
紡ぐ睡魔の風と白竜の魔法で眠らせる

両手にこんもり
もふもふピヨ…

…かわいい、けどな

…ちゃんと還さねぇと
此奴らの為にもならねぇだろ?

苦しまないよう
寝かせたまま
『未来』に還れるよう
無属性の全力魔法で
ルゥーと共に白き光に変え
骸の海へ送り出す


ルゥー・ブランシュ
【廻星♢】
あのね、あっちはコンペイトウ・ブルーで
こっちが万華鏡!
傘を差しながらの紫陽花の路
雨の音もすごく優しくて
傘ってすごね
こうして並んで歩けるともっと素敵♪

ぴよさん、何処から来るかな?

ほんの少しどきどきしつつ
渡された金平糖を
落とさない様に開けて…一口ぱくり
ん~おいしい🌸
オズにもあげるー!と紅紫色の子を一粒あげて

わーっ!
ほんとに来たワーって来た!
そんなぴよさんたちに、眠りの桜吹雪をかけるの!
自分も眠ったピヨさんたちを胸に抱えて

…たおしちゃうの?

見つめる先はオズ

そうだよね…
還る所に還らないと…
また生まれてこれないもんね…
自分も全力の光魔法でオズと共に
眠らせたまま
小さな光に変えて
骸の海に還すの…




「あのね、あっちはコンペイトウ・ブルーで……こっちが万華鏡!」
 知っている品種を見つけては、ルゥーが元気に紫陽花へと指を差す。オズウェルドの目にはどれも同じように見えるが、どうやら違うらしい。どこがどう違うのかなんて口は挟まず、よく知っているなと相槌を打ちながらオズウェルドははしゃぐルゥーの隣を歩む。
 歩幅を彼女に合わせてともに歩めば、ふたつの傘が少しだけ違う音を奏でる。そのちょっとした違いに気付いたルゥーが楽しいねと微笑う姿を見れば、こんな日も悪くないと、雨に彼女に、潤される心地がするのだ。
 二人で歩む、雨の紫陽花小路。傘で距離は少し開いてしまうのだが、それなのに全然気にならない。雨音と君の気配が、そばに居てくれるから。
「ぴよさん、何処から来るかな?」
 足を弾ませ、角花を揺らし、ルゥーが口にする。
 きょとりと視線を彷徨わせ、どこかなーっと探す姿を目にしたオズウェルドは――。
「――来い」
 喚ぶ声は、低く、短く。
 魔力を編んで賑やかな《小さき隣人たち》を呼び出したオズウェルドは、彼等に探索と警戒を任せる。そして、確か甘味に釣られるのだったなと思い出したオズウェルドは、ルゥーへと手を差し出して。
「……持っててやるから、封開けとけ」
 ルゥーの傘をヒョイと持ち、代りに手渡すのは紫陽花包みの金平糖。
 それをほんの少しドキドキしながらも両手で受け取ったルゥーは、落とさないように気をつけながら包みを開き、小さな星にも似た砂糖菓子をひと粒摘んで、ぱくり。
「ん~おいしい。オズにもあげるー!」
 口に広がる甘さは、とても優しくて。いっしょに食べたらもっと美味しくなるような気がして。紅紫色の星粒をひとつ、オズウェルドの口元へと差し出せば、分かち合う甘さにオズウェルドの頬も僅かに綻ぶよう。
 もうひと粒、なんて手が伸びそうになるけれど――。
「出たな――」
 パタパタパタと響く羽音に注意深く視線を向ければ、ワーッと現れたピヨすけたち!
「わーっ! ほんとに来たワーって来た!」
 どことなくルゥーの瞳が輝いているような気がするのは気のせいだろうか? いいや、気のせいじゃない。白いふわもこがワーッとたくさん飛んでくるのだ、思わず目を輝かせてしまうのも仕方がない――と思うことにして、オズウェルドは小さな白竜たちへと捕獲を指示する。
 飛んでくるピヨすけたちを迎撃せんと飛び出すミニ竜たち。
 わーわー、バタバタ。ピヨすけたちだって逃げ回って応戦する。なんてったって、今日のごはんが掛かっているのだ! ピヨすけたちだって負けてはいられない!
 けれどミニ竜たちには戦闘力がなく、ピヨすけたちはこんな見た目だがオブリビオン。捕獲のために飛び出したミニ竜たちの数は、嘴でツンツンされたりもふっとアタックをされて減っていく。
 そこへ――ふわり。雨の中に、優しく桜が舞って。
 優しく桜花弁に包まれたピヨすけたちは、一体、また一体……と、眠りに落ちては地面にぽとり。そこを残っていたミニ竜たちが回収していく。
 ふわふわと揺れる小さな白い山は、気持ち良さそうな顔ですやすやと眠っているピヨすけたち。眠って落ちてきたピヨすけたちをキャッチした二人の腕にも、ピヨすけたちがこんもり。
 すやすやと安らかな寝息とともにふわふわな毛が揺れて。幸せそうに眠る寝顔はこんなにも可愛い。それなのに。
「……たおしちゃうの?」
「……かわいい、けどな」
 じいっとルゥーはオズウェルドを見つめる。
 けれど、いくら可愛くてもピヨすけたちはオブリビオンなのだ。
「……ちゃんと還さねぇと、此奴らの為にもならねぇだろ?」
「そうだよね……」
 オブリビオンである限りピヨすけたちは満たされず、餓えて人を襲ってしまうから。
 苦しまないように、寝かせたまま。彼等が『未来』へいけるように、骸の海へと還そう。
 柔らかな光と無色の光が、優しく包むように紫陽花小路に満ちて――。
 空から溢れた涙がひと粒、ルゥーの頬へと落とされた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

白羽矢・龍
金平糖の包みまでも愛らしきことには
どこまでも雨を楽しみ、愉しませる姿勢に
感心することしきりにございます

買ったばかりの番傘を回して
傘の花ひらく天蓋を抜け、石畳へ
四葩は鮮やかに
空気は澄みやかに
雨音は穏やかに――
雨の日は、得意ではなかった、けれど
とても、こころ安らぎます

でも……ピヨすけさんたちが賑やかにやって来ましたら
応戦せねばなりません、ね

ガジェットショータイムで
金平糖を弾にして撃てる散弾銃を召喚
無差別に体当たりをしてくるピヨすけさんたちへ
ばばば、と……う、撃ちますっ

いかに愛くるしくとも
オブリビオンとあらば……倒さねば
……たおさねば、
……追い払うだけでは、いけませんか?




 アンブレラスカイを抜けて紫陽花小路へと足を踏み入れた龍は、紫陽花を載せた手元を見て八の字の眉を微かに下げる。
 紫陽花の花――に見立てて包まれた金平糖はとても愛らしく、紫陽花小路のともにとても相応しい。街の人々の心遣いが、雨を楽しんで貰いたいという姿勢が、目にする全てから覗えて、龍は只管感心してしまう。
(これもまた、よきものにございます)
 手にした番傘を、くるり。見上げれば細い竹で編まれた小骨は美しく、手にする芯棒はしっかりとして、それでいて手に馴染む。雨粒が傘を打つ音とて耳に好く、壊れた傘を嘆いた事などすっかりと忘れてしまうくらいに気分は上々。
 雨に濡れて煌めく四葩は鮮やかに。
 濡れた気配の空気は澄みやかに。
 控えめな雨音は穏やかに――。
 けれど――がさり、と。ふいに聞こえた小さな音。それは後方の、今しがた通り過ぎた紫陽花の株からだ。
 雨の帳の中でもその音を聞き逃さなかった龍は、《ガジェットショータイム》で特殊な散弾銃を喚び出す。この銃は金平糖を弾として吐き出す特別製。少しだけ勿体ないような気がしつつも紫陽花の包みを開いて、砂糖菓子の弾丸を詰め込んで――。
 バッと振り返り――ばばばばばばば!
 それは、龍の狙い通りに。
『ぴよ!?』
『ぴぃ!』
 飛び込んできていたピヨすけたちは砂糖菓子の弾丸を撃ち込まれた。
 撃たれてぽとりと落ちるピヨすけ、弾丸が金平糖だと気付いて空中キャッチするピヨすけ、驚いてそのまま逃げていくピヨすけ……たくさんの小さな鳥たちによって、静かな紫陽花小路は途端に喧騒に包まれた。
「……」
 いかに愛くるしくとも、ピヨすけはオブリビオン。
 ――倒さねば。
 そう、心では解っている。
『ぴよ……』
 ぽとりと落ちたピヨすけは、目をうるうるとさせて龍を見上げてくる。
 たおさねば、たおさねば……。
 カチャリ。銃を、突きつける。
 けれど、ぽろり、ピヨすけの目から雫が溢れて――。
「…………くっ」
 思わず目をそらせば、ピヨすけは逃げていく。
 己が倒せなくとも、きっと他の猟兵が倒すのだろう。それが解っていても揺れてしまう己の未熟さに胸を少し痛め、パタパタと飛んでいく小さな鳥を見送った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
買った傘をお供に紫陽花小路をのんびりぶらり
金平糖も摘んでいよう
悪い子達が誰彼構わず飛びかからぬよう、
ここにお菓子があるよと、見せておかないとね

それにしても随分と可愛らしい鳥殿がいたものだね
お菓子が欲しいのなら与えてやりたい気もするが、
襲って奪う様な子達を甘やかしてはいけないね

道中は華断を自分の傘の範囲内でひっそりと展開させておこう
紫陽花を楽しむ者達の邪魔になってはいけない
ぴよぴよと可愛らしい声が聞こえてきたらそちらに花を差し向けて
仲良くお帰りいただこうか
人のものを取ってはいけないよ
この金平糖は、私のだ
これに懲りて悪さを控えてくれるかな
まぁ、二度目が来たら容赦なく倒すさ
悪い子には仕置も必要だろう


ルル・ミール
♢♡

傘の花でいっぱいの次は紫陽花でいっぱいの世界
雨の音
しっとりとした空気
何だか魔法みたいですね
雨が降ったら出逢ったばかりの傘の出番です!
えへへと開けば視界にふわっと水色が広がって
魚にも鳥にもなれますね
とっても素敵な贅沢です

紫陽花を楽しんだらいざ、と金平糖の袋を
ここへ来る前に一粒…いえ、何粒か食べましたけど仕方ないです
だって可愛くて美味しそうで
白い鳥さんたちに全部持っていかれるみた(ワーッ)ひゃー!?

あわわ、なんて鮮やかな手口…!
顔をふわふわされてとっても気持ちよかっ…ごほんごほん
お菓子を奪っちゃうのも
いきなりワーッと来て脅かしちゃうのもいけません
銃勇士の皆さんと一緒に追いかけておしおきです!




 傘の花の次は、自然の花――まぁるい手毬を咲かせた紫陽花たちの小路へ。
 雨の日の空気と雨の音。ただ空が泣いただけなのに、ルルの周りが『いつも』と違う。それは何だか魔法みたいで、少しだけ不思議。
 雨の魔法に掛かっちゃったのかもしれませんねと明るく咲うルルの手には、出逢ったばかりの新しい雨の日の友達。パッと開いた瞬間の、心に花咲くような気持ちを連れたまま、足元の水を跳ねさせた。
 今日の私は、鳥さん? それとも、お魚さん? 両方合わせて、空飛ぶお魚さんでも素敵。羽根の鰭をパタパタして、雨の中だってパタパタ飛んじゃうのです。想像の翼はどこまでも自由で、素敵な贅沢を抱えて、くるり、傘を回す。くるり、くるり。空と水面と、雨とが混ざり合う。
 そうして紫陽花小路を楽しんで、此処らへんでいいかなと周りをキョロキョロ。白い小鳥の姿は見えないけれど、金平糖を用意して誘き出そう。――正直、ちょっとだけ勿体ない気もする。だって金平糖は可愛くて美味しくて、ここへ来る前にもひと粒……とは言わず何粒か食べてしまった。ひと粒だけ、ひと粒だけを繰り返して、やっとのことで封印したのだ。
(けれど、これもお仕事です)
 本当は大切な宝物みたいにひと粒ずつ頂いてしまいたいけれど、これもお仕事。オブリビオンを誘き出して、倒して。そうしてお役御免となったら美味しく頂いちゃえばいいのです。
 ――いざ!
 勢いが大切! と、バッと金平糖の袋を開けば――。
 バサバサバサバサバサバサバサバサ!
『ぴよよー!』
『ぴよーーーーーー!』
 バサバサふわふわバサバサバサー!
「ひゃーーーー!?」
 勢いよく飛んできたピヨすけたちが、金平糖を奪い去っていく。その手の上に金平糖は残されていないが、ルルの顔や手にはふわふわな感触だけが残されていた。
「あわわ、気持ち良かっ……ごほんごほん! なんて鮮やかで許しがたい行い……!」
 ワーッて驚いて、ふわふわに気を取られて、その間に全部持っていっちゃうなんて……なんて策士! ついうっかり感心してしまいそうになるけれど、これは悪いことだからお仕置きが必要です!
「銃勇士の皆さん、いきますよ!」
 幽霊馬車に乗ったリスの銃士たちを呼び出したルルは、ピヨすけたちを追い掛け、雨の中でも元気に駆けていくのだった。

 からころ、かり。
 甘い金平糖を齧れば、雨音に小気味よい音が混ざる。音も楽しいし、お喋り出来ない寂しさを口は感じないし――それに、こうしていれば目当ての鳥が目をつけてくれる。
 ちいちい、ぴよぴよ、でておいで。こっちの菓子はあーまいぞ。
 ――ぱたた。
 雨音に似て、けれども雨音とは違う音が聞こえたならば、それは小さな鳥たちのお出ましの合図。ピヨすけたちの接近を知りながらも、エンティは金平糖を食べながら、紫陽花小路をのんびりぶらり。晴れの日を散歩をする時と、その足取りは変わらない。
 ぱたぱたぱたぱたぱたぱたぱたぱた!
『ぴよよー!』
「やれ、おでましかい」
 ぴゅんっと飛び込んできた一番隊長。真っ直ぐにエンティの手の金平糖へと向かって飛んで――ひらりと舞った花びらに白い羽根を散らすこととなった。
『ぴよ!?』
『ぴ!!』
 後に続く筈だったピヨすけたちに、衝撃が走る。
「この金平糖は、私のだ」
 差した傘の中に、ひらりと舞ういくつもの橘の花びら。傘に入った者だけを切り刻むよと忠告をして、それでも君たちも私の金平糖を奪おうとするのかな? と楽しげな顔でエンティが笑んでみせる。
 お菓子が欲しいのなら与えてもいいとは思うけれど、ピヨすけたちは日常的に人々から菓子を奪っている。そのため、与えてあげると甘やかす必要はなく、人のものを奪おうとしたらどうなるか、灸を据えてやろう、と。
『ぴぃ……』
『ぴよ』
『ぴぴよぴよぴよ』
 ピヨすけたちの間で、ざわりとぴよぴよ囀りあう。
「さあ、どうするんだい?」
 奪いに来るのか、来ないのか。
 来れば刻んでしまうよなんて、花を差し向けて。
『ぴっぴよぴよっよ(戦略的一時退却)!』
『ぴよーー!』
 ぱたぱたぱたぱたと慌てて逃げていくピヨすけたちを、これに懲りて悪さを控えてくれるといいなと見送ったエンティだったが――。
『ぴよー!』
『ぴよ!?』
 バサバサバサバサバサバサバサバサ!
 別方向から飛んできた鳥――別のピヨすけたちがエンティの傘を通り抜けようとして、パタパタと倒れていく。不幸な事故だった。
「おや」
 思わず足元を見下ろして。
 それから鳥たちが来た方を見れば、追われていたのかと理解する。
「あ! ご協力、ありがとうございます!」
 鳥を追い掛けて駆けてきたリスを連れた少女がぺこんと頭を下げたから、エンティはことりと首を傾げて笑って。
「食べるかい?」
 何となく、そう、金平糖を勧めたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

錦夜・紺
♢♡

水彩の絵具を滲ませたような
透明感ある紫陽花小路を進む

紫の桔梗形の傘さして
雨雫を弾けば浮かぶ桔梗花
先程貰った紫陽花の金平糖もきらきらと輝いて見える
こんな平穏なひとときが心地よい。

……だが、そんな時間はこうも長くは続かないらしい、と
鳥の羽音を聞きながら呟いた

小さきものを相手にするのは心苦しいが仕事なのだ
素手で捕まえられるなら素手で
難しければ「影踏み鬼」で金平糖を囮に鳥を捕まえよう
逃げても無駄だぞ、数多の影が良い感じに捕まえるさ

ふと。なんとなく捕らえた一羽を
むにむにふわふわ
……なるほど、なるほど。これはいい。

嘴で突かれるなど
反撃されたら、ぺしりとはたいてやり返し

……使役できれば良いのに、残念だ


ティオレンシア・シーディア
♢♡

うーん、ふわころもふもふですごぉく可愛いんだけど…お菓子の強奪はちょっといただけないわねぇ。
ちょっとお仕置きしないと。

せっかくだし、さっき買った藤の傘差していきましょうか。
…さすがに、拳銃ぱんぱか撃ちまくるわけにもいかないし。●要殺で警戒して、突っこんできたのを端から〇グラップルでぺしぺしはたき落としてきましょ。
飛びかかってきたときに金平糖とか麦チョコとか撒いたら多少散らせたりしないかしらぁ?

…一羽くらい捕まえられないかしらぁ?連れて帰る…のはちょっと厳しいかもだけど。もふり倒すぐらいしてもバチ当たらないわよねぇ?




 紫陽花小路に、紫の桔梗がふわりと揺れる。紫陽花の中では目立つだろうかと見上げる紺の瞳が雨滴によって現れた新たな桔梗を見つけ、気にすることもないかとふと和らいだ。それぞれの傘を手に、思い思いに歩む小路なのだ。それに、前方には藤の傘だって揺れていたはずだ。この一時を楽しもうと視線を下ろすのは、先程傘のおまけに貰った紫陽花包みの金平糖。よく見掛けるはずの菓子も気分の所為か、いつになく煌めいて見えた。
 水彩の絵具を筆でじんわり滲ませたかのように、歩を進める度に色が移り変わっていく紫陽花たち。こんな平穏なひとときが心地良いと歩む紺だったが――ぱたり、と小さな音を耳が拾う。
「……だが、そんな時間はこうも長くは続かないらしい」
 菓子を手にしている以上、その平穏は長くは続かない。
 雨の中でも聞こえる、鳥の羽ばたき。それはひとつではなく、たくさんだ。
 勢いよく飛んできた小さな鳥たちから金平糖を隠し、捉えようと手を伸ばす。――が、器用に身を捩って避けた鳥――ピヨすけたちはそのまま飛んでいってしまう。
 そう、前方に揺れていた藤の傘へと。
「危な――」
 声を掛け、注意を促す。はずだった。
 けれど。
『ぴよ!?』
 ぺちーん! と勢いよくはたき落とされたピヨすけが、『なんで!?』と鳴き声を上げ、叩き落とした藤傘の持ち主――ティオレンシアを見上げた。
「あたし、こう見えて結構用心深いの」
 《要殺》で備えておいたのよぉ。
 赤い瞳が、楽しげに半月を描く。
「強奪でしょ? 不意打ちでくるんじゃないかなって思ってたのよねぇ」
 聞いていた通りふわころもふもふですごく可愛くて好みだけれど、お菓子の強奪はいけないことだ。やっぱりお仕置きしないとね、と笑いながらぺしぺしと飛んできた端からピヨすけたちを叩き落としていく。
「お姉さん、こう見えて結構やるのよぉ」
 拳銃を撃つより断然優しいでしょぉ、なんて笑って。
 あちらはあちらで大丈夫そうだ。そう判断した紺は、ぱらりと囮の金平糖を地に撒いて――ひそりと足元の影から影を伸ばす。それは夜よりも深い黒。闇を煮詰めたような漆黒の、影。
 影が蠢いたことに気付かずにピヨすけたちが金平糖を浚いに飛んでくるが――音もなく伸びた影たちが、ピヨすけに絡まり、拘束していく。行き先が解っているのだから、容易いことだ。
 そうして捕らえた内の一羽へと何となく手を伸ばして掴んでみる。
 ふかぁ。
「む」
 むにむにふわふわ。想像以上にさわり心地がよく、ついむにむにしてしまう。
「……なるほど、なるほど。これはいい」
「あ! いいわねぇ。あたしももふもふしたいわぁ」
 もふもふする紺を見てティオレンシアがいいなぁと声を上げれば、影で捕まえた一羽を差し出して、残りのピヨすけたちは纏めて拘束しておく紺。
「あぁ……すごくいいわねぇ、このもふもふ感」
 存分にもふもふもふしたティオレンシアは、ほうっとため息をつく。
「連れて帰れたらいいのに……」
「そうだな、使役できれば良いのに……残念だ」
 是非この感触をご家庭で! とテロップが流れそうなくらいの絶品のもふり心地に二人は残念そうに肩を落とし……もう暫くいいかなと飽きるまでもふり倒す。
 じたばたとピヨすけは嫌がるが、これもお仕置き。ピヨすけたちにもいい薬となったことだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫


雨の音が心地よくて
唇から自然と歌が零れる
音にならない音色と雨粒がはねて、ヨルがきゅうと歌ったならば
愛し櫻がふわり咲む

嗚呼、なんて楽しいのだろう
今日の紫陽花小道は戀模様
けしてうつろわぬ薄紅の

甘やかな金平糖をひと齧り
大好きな櫻宵が、あーんしてくれたちょこれえとをぱくりと―とられちゃった!
僕のちょこれえとが!
櫻宵のつくった、梅雨の新しいちょこだったのに!

逃がさない
歌う「魅惑の歌」
僕のちょこをたべた罪は重いんだから
頂戴すればあげたけど
盗ったからだめ
櫻の桜になって

ヨル……何食べてるの
それは僕のちょこじゃないかな?

もー!ぴよも、ヨルもっ

ぷんすかしてたらお口に甘い花
あえかな笑顔に
季節外れの春が咲く


誘名・櫻宵
🌸櫻沫


雨粒弾く水面が揺れて
隣からはご機嫌な人魚の歌が聴こえてくるわ
あらあら。ヨルもるんるんね!
嬉しくなって私まで笑顔になってしまうわ

とりどりの紫陽花が纏う雨粒がまるで宝石のよう
うつろわぬように守るもの

甘い物は大好きなの
金平糖を頬張る人魚に
そうだと一粒チョコレートを差し出すわ
紫陽花の形のチョコレート
新作よ!
お口に合うかしら?
あーんと食べさせてあげようとしたら―あら!
悪戯好きの鳥ね
持っていかれたわ

本当はもっとあげたいところだけど
ごめんなさいね?
可愛いリルがご立腹
「喰華」
龍瞳瞬いて、鳥ごと喰らう

紫陽花と共に咲く桜も
美しきこと
膨れる人魚のお口にもう一粒
甘やかな雨の花を放り込む

ほら
笑顔の方が可愛いわ




 ら、ら、ら。
 言葉にならない音と雨粒が跳ねて、歌う。たたたと傘を打つ雨がリズムを刻んで、仔ペンギンのヨルもぺたぺたぴちゃんと水を跳ねさせれば、心地良い音たちに心が弾む。
 傘の花を咲かせて歩む櫻宵は、いつだってふたりの最も親しい観客。人魚の歌にヨルのきゅうという歌が混ざれば、自然と頬が緩んで――ほら、ここにも美しい笑顔の花が咲いた。
 ご機嫌にぴるると揺れる尾鰭がいざなう紫陽花小路は雨に濡れ、雨の雫がつやつやと輝く花々は宝石のように美しい。そこで歌い游ぐ人魚もまた、櫻宵にとっては愛しい宝石――最愛の龍玉。桜龍がうつろわぬように守るもの。手から零してしまわないように慈しむ秘色の花だ。
 雨の日の楽しい紫陽花小路は、人魚にとってはけしてうつろわぬ薄紅の戀模様。けれどそれは今日だけではない。リルにとって、傍らで櫻が艶やかに咲けばどんな場所だって戀模様。ああ人魚は、雨の日だって晴れの日だって、戀を、している。
 傘を購入した際に貰った金平糖を、可愛いねと口にしながら頬張れば、戀とは違う、けれど戀にも似た、甘さが口内に広がって笑顔はいっそう華やいで。
「そうだわ、リル。今日は新作を持ってきたのよ」
 一番にリルに食べてもらいたくてとはにかみながらチョコレートの包みを開けば、櫻宵の新しいちょこれえと! と勢いよく人魚が身を乗り出した。
「紫陽花の形なのよ。今日にぴったりでしょ。はい、リル。口を開けて」
 お口に合うかしら? 嫋やかに微笑みながら白い指で摘んだ黒い甘味を寄せれば、楽しげに歌っていた花唇は餌をねだる雛のように素直に開く。
 ころん、と。紫陽花の形のチョコレートが口の中に落ちてきて、美味しい! と笑顔を咲かせる、はずだった。
 櫻宵の指から離れる、その一瞬。ヒュンッと何かが二人の間を通り抜けた。
「……え?」
「あら?」
「あ、あーーーー! 僕のちょこれえとが!」
 梅雨の新作チョコレートを一番に食べるのはリルのはずだった。なのに、奪われた。それを理解した途端のリルの行動は素早かった。甘やかな声が、僕の歌を聴いてと囁いて、あっという間にチョコレートを奪った重罪鳥――ピヨすけたちを虜にする。
「あらまあ」
 いつもはゆっくりとしか泳げない人魚が、全速力でぽてりと落ちたピヨすけへと向かっていって、全身で怒っている。頂戴と言われれば、きっとわけてあげただろう。でも最初の一個はリルのものだし、それを盗ったのは絶対に許すことなんて出来ない。
 そんな風にぷんぷんと怒るリルが、櫻宵は愛おしくて堪らない。
「櫻宵、笑ってないで!」
「ふふ、ごめんなさいね?」
 ピヨすけにも、リルにも、微笑んで。
 龍瞳が鮮烈に瞬けば、ピヨすけは喰われ、桜龍の角に桜が咲いた。紫陽花の中に咲いてもなお、その桜は美しい。――なんて、リルが見惚れて目を細めていたところへ、トテトテと歩いてきたペンギンが、ころんと転がっていたチョコレートをヒョイっと拾ってぱくん。
「ヨル……何食べてるの」
 リルの目が据わる。
「それは僕のちょこじゃないかな?」
「きゅ?」
 可愛く首を傾げられたって、リルは譲らない。だって、一番最初に食べるのは僕のはずなのに! もー!
「まあまあ、リル」
 顎の下に指が掛けられて顔を向けさせられた。そう思った瞬間に、唇に触れた優しい甘さ。甘やかな雨の花を口に迎えた途端、心が湧き立ち春めいて。
 ふわりと季節外れの、春が咲く。
 雨の日でも晴れの日でも、寒い冬になったとしても、いつだって人魚に春をくれるのは、この桜龍だけなのだ。
 怒っている姿も可愛くて好き。真剣になる顔も凛々しくて好き。
 でも一番に桜龍が見たいのは、幸せな笑顔。
 私の愛しい王子様。ずっと咲っていて。
 だから、ほら、ね。もう一度口を開けて。
 甘い花を何度でも、あなたにあげる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛

ヨハンくん(f05367)と

この時期の紫陽花はとても綺麗ですね
傘の市も綺麗でしたけど、こちらは自然の美しさですよね
ゆっくり歩いて行きましょう

雨も止む気配がありませんし、買った傘を差しましょう
お姉さんが入れてあげます(えっへん)
ふふ。ありがとうございます
並ぶと背の違いが分かりやすいですよね
やっぱり男の子なんですねー

わーっ!かわいい!かわいいですよヨハンくん!
ほら、白くてもふもふです!
金平糖たべる?

って、ええーーー!どうしてそんなことするんですか!
むぅー……どうせ追い払うならもふもふしてからでもよかったじゃないですか!

私の機嫌を直したかったら、
今度美味しいスイーツのお店に連れて行ってくださいね


ヨハン・グレイン

織愛さん/f01585 と

まぁ、花が嫌いという訳でもないですし
いつかのように怪力で引っ張られる事もないですし
おとなしくついて行きましょうか

どうしてそう歳も違わないのにお姉さんぶるんですかね……
俺の方が背が高いので、傘は俺が差します
……やっぱりもなにも、今までなんだと思っていたんだ
俺は一応あなたのことは女性扱いしてるんですよ
たとえどれだけ怪力であろうとな

いや、無闇に近付かないでくださいよ
見た目がこんなでもオブリビオンなんですよ
間に割り入って蹴散らします

不満を言うのはどうかと思うが??
どうせ追い払うつもりだったのならいいじゃないですか
金平糖でも食べて機嫌直してください




「さあヨハンくん、紫陽花を見に行きましょう」
 あっちですよと織愛が指をさして先を行き、ヨハンはその後をついていく。特別花が嫌いという訳でもないし、いつかのようにその細腕からは想像もつかないような怪力で引っ張られ――いや、あれは殆ど引きずられるようなものではないか? ふと苦い想いがこみ上げてきたが、ふるりとかぶりを振って追いやったヨハンはご機嫌に歩む織愛の後を追う。
 足取りは、軽く、軽く。紫陽花の花が瞳に映れば、「あっ」と楽しげな声までまろぶように飛び出して。
「傘の市も綺麗でしたけど、こちらは自然の美しさですよね」
 雨に濡れて一層艷やかとなった紫陽花に、織愛は瞳を柔らかく細めた。
 ぽつぽつとまた降り出した雨は、アンブレラスカイを抜けても降り止む気配が見えなくて、これ幸いと早速先程購入した傘を開けば、夏の景色に春の花が咲く。
「お姉さんが入れてあげます」
 淡い桜模様の傘を揺らす織愛は、何故だか自慢げな表情で胸を張る。そう、何故だかいつもお姉さんぶるのだ。歳はひとつしか違わないのに。
 思わず半眼になってしまうヨハンだが、一応ありがたいと言える申し出は受け入れて、その傘へと手を伸ばす。
「俺の方が背が高いので、傘は俺が差します」
「ふふ。ありがとうございます」
 傘を持った手は、織愛の手よりもひとまわり大きくて、骨ばって。
 肩を並べれば、背丈の違いが明らかに感じられて。
「やっぱり男の子なんですねー」
「……やっぱりもなにも、今までなんだと思っていたんだ」
「え? 男の子ですよ?」
 けれどきっとそれは、『小さな』がつくのだろう。弟みたいなとか、異性を感じさせない別次元の、だ。
 ヨハンは例え相手が怪力であろうとも、行動が破天荒であろうとも、話を聞かなくとも、ちゃんと織愛を女性扱いしているのに……これである。あれこれとまた言いたくなってくる気持ちをグッと押さえ、ふたりでひとつの傘を共有し、ゆっくりと紫陽花小路を歩んでいく。
 なのに。
「わーっ! かわいい! かわいいですよヨハンくん!」
 紫陽花の花の影からぴょこりと顔を覗かせた小さな白いふわふわを見つければ、傘を持つヨハンの袖をぐいぐい。はしゃぎながら引っ張って近付いていこうとする。いや、確実に近付いていっているし、あっという間に近距離に連れて行かれた。
「ほら、白くてもふもふです! わー、可愛いです!」
「いや、無闇に近付かないでくださいよ」
「金平糖たべる? 手に乗りませんか? ほら、美味しそうでしょう?」
「……相変わらず話を聞きませんね、あなた」
 例え見た目が可愛かろうが、相手はオブリビオンだ。思わず聞けよと言いそうになりつつ間に割り入ってさっくりと蹴散らしてやれば、解ってはいたけれど不満げな声。
「って、ええーーー! どうしてそんなことするんですか!」
 むぅーっとシマリスのように膨らむ織愛の頬に、ヨハンは顳顬を押さえた。きっと彼女だって相手はオブリビオンだって事くらい解っている――と、そう思いたい。
「どうせ追い払うならもふもふしてからでもよかったじゃないですか!」
「どうせ追い払うつもりだったのならいいじゃないですか」
 すかさず返すが、きっとそれでは納得がいかないのだろう。
 もふもふしたかったと、恨みがましく睨んでくる。
「ほら、金平糖でも食べて機嫌直してください」
「金平糖だけでは直りません!」
 今度美味しいスイーツのお店に連れて行ってくれるって約束してくれないと、私の機嫌は直らないんですからね!
 ぷくぷくと頬を膨らませたままの織愛が主張する。
 約束してもしなくても、引きずって連れて行かれる未来が見るような気がして。
 ずれた眼鏡の位置を正しながら、ヨハン青年は溜息をつく。この縁は、程よい諦めが肝心なのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

藍崎・ネネ

綺麗なお花がいっぱい咲いているの
あじさい……って、いうのね
色んな色があるみたい
私、紫色のあじさいがいちばん好き、かも

なんだかとってもきらきらしてるの、なにかしら?
わぁ、雫が光っているの
さっきまで雨が降っていたのね
傘を持っていなかったから、晴れてくれてよかったの
晴れたお空も、綺麗なお花も、初めてなのよ
はじめてがたくさんで、今日はとってもうれしい日なの

わっ! 真っ白でもふもふなの。かわいいわ
今日のかわいいはあなたたちなの
でも、何が欲しいのかしら
これ? さっき買ったあじさい色の雨なのよ
……! だめなの! 欲しかったらあげるのだけど、
勝手に持っていくのはだめなのよ。ぺちっと叩いてあげちゃうの




 まぁるいぼんぼん。まぁるいお花。綺麗なお花が咲いているのねと口にした藍崎・ネネ(音々・f01321)に、通りがかった街の人が「あれは紫陽花と言う花だよ」と教えてくれる。
「あじさい……」
 少しだけ、不思議な響き。どんな字を書くのか、どういう意味をもつのか、解らない。けれど感じた響きは嫌なものではなく、綺麗と呟いてネネは紫陽花が咲く小路へと足を向ける。綺麗な花を、間近で見てみたいと思ったから。
 先程まで雨が降っていたのだろう、紫陽花たちがきらきらと輝いている。まるで大きな宝石のように見えて、なにかしらと軽い足取りで近寄った。
「わぁ、雫が光っているの」
 遠くから見て、一番に気になった紫色の紫陽花。濃い紫色に雫が乗って、きらきら。充分に潤って、つやつや。大きなまぁるいお花だと思っていたのに、近く寄れば小さな花がたくさん集まってまぁるく見えていたのだと気が付いた。
 それにしても、と空を見る。
 重い雲を押しのけて、太陽が青を連れてきている、空。
「あれが青空なのね」
 晴れた空を見るのは初めてで、確かめるように声に出す。薄暗い世界とは違う、綺麗な空は眩しくて。目を細めながら紫陽花へと視線を戻せば、きらきら。雨が降って、止んで。そうして太陽が顔を覗かせたからこそ、こんなにも花が綺麗に見えるのだと、ネネは知る。
「今日はとってもうれしい日ね」
 だって、はじめてがたくさんなの。
 晴れた空も、綺麗な花も、太陽の煌きも。
 なんてすてきなのかしらって、くるりと回ってみてもいい気分。
「あら?」
 けれど、紫陽花の影に何かが隠れている事に気がついて、覗き込む。
 手毬花の影には、白いもふもふがぎっしり。小さなつぶらな瞳でじぃっとネネを見る顔はとても可愛くて、ネネはこんにちはと挨拶をして微笑んだ。今日のかわいいをみつけたの、と。
 どうしてそんなところにいるのと問いかけようとしたその時。
「わっ……!」
 ぴゅんっと勢いよく飛び出た真っ白なふわふわ――ピヨすけはネネの手へと真っ直ぐに向かう。その手には目の前の紫陽花によく似た飴が握られていて、飴に気付いたネネはサッと飴を胸に抱き、片手を素早く振るう。
「勝手に持っていくのはだめなのよ」
 だめなの! と振るった手はピヨすけに当り、ぺちん――と言うよりも、もふんとした感触をネネに残して転がった。
「欲しかったら、ちょうだいって言って」
 じゃないと絶対にあげないんだから!

大成功 🔵​🔵​🔵​

文野・ハナ
【八仙花】

あゝ、さっきの傘が早速役に立ちそうだよ。
新しい傘もいいねぇ。

おやぁ?見て御覧。ふっくらした雛だよ。
たぁくさん居るねぇ。
甘い物が好きなのかい。二人共、甘い物を持っちゃあいないかい?
アタシはこの通り、なあんにも無いね。
あゝ、紫陽花の。いいじゃあないか。

一匹ずつなら何とかなったんだけどねぇ。
こんなにも沢山いるとアタシらも困っちゃうよ。

こんなに小さいなら突くとあっちに逃げちゃいそうだね
ほぉら、つんつん。かぁいらしい事。
金平糖もあっという間になくなった。
食いしん坊だねぇ。
白雪、神様。もっと堪能しようよ。


アメノ・シラフネ
【八仙花】♢

二人とも良い傘だ!
これから沢山使うのだぞ。物は人に使われてこそだからな

あれが今回探していたモノか?
人より小さき、なんとも手触りのよさそうな…
ハナの金平糖を行儀悪くひとつ摘まんで、おいしい!と一言
えっ?これは招き寄せる用?勿体無い

とは言え、誘き寄せられるそれらに思わず手は伸びる

おお、これは!思ったよりふさふさと…!
この雨の中でもこのふわふわ感!なあなあ二人とも!
大群で来たら抱きかかえられるかな…

何っ、もう金平糖がないだと!?
うむむ分かった、それまで俺が耐えて見せよう!
鞄の中には駄菓子の山
大盤振る舞いだ、持っていけ!そしてもふるぞ、いっぱい!

……矢張り雨は良い
もっと長く、降ればいいのに


月尾・白雪
【八仙花】
折角ですもの、新しい日傘のお披露目と参りましょう
雨も陽光もドンと来いの優れものです

まぁ……なんて膨よかなお姿でしょうか
ころころフワフワと、群れる様子も微笑まし……、
え、甘い物ですか?
そういえば、先ほど日傘を買った折に金平糖を頂きましたわ
紫陽花を模した包みですのよ、ハナさん

そっと包みを解いて金平糖を掌へ転がせば
フワフワころころを吸い寄せられるでしょうか
柔らかな手触りに、ほぅ、と吐息を漏らせば
刹那、甘味は消え失せて

ハナさん、シラフネさん
私、あちらの出店に置いてある金平糖を追加購入して参りますね!
次こそはフワフワを堪能してみせます




 しとしと、とたた。
 紫陽花の花に葉にと唄を歌う雨粒に、アンブレラスカイを抜けた三人は思わず顔を見合わせる。わくわくと踊る心が滲み出すような表情は、三人とも同じなのだろう。――だって、買った傘を早速お披露目出来るのだから。
 紫陽花小路に、新たにみっつの花が咲く。素材の違うみっつの傘の花は、雨粒の奏でる音も違って、三人をとても楽しい心地にさせてくれる。
 たたたた、とん。
 とんとん、とたた。
 ぱたたた、ぽた、た。
「二人とも良い傘だ! これから沢山使うのだぞ。物は人に使われてこそだからな」
 二人の傘を見て一番テンションを上げたのは、きっと雨の神様のアメノだろう。弾むように歩んで、傘とともにくるくるり。傘を差す二人を正面から見て、そうしてまたくるりと回って、ぴょんっと足を跳ねさせた。
 その姿を、元気な神様だ、なんて眺めていたハナの視界に、白い何かが映る。アメノの向こうの紫陽花の、その葉の下に。
「おやぁ?」
 小さくてふかふかで柔らかそうな、真白。掌に収まってしまいそうな小鳥が、きょとんと首を傾げるように、紫陽花小路を歩む三人を見つめていた。
「見て御覧。ふっくらした雛だよ」
「まぁ……なんて膨よかなお姿でしょうか」
 二人が見つめる先を、アメノもあれが探していたモノか? と覗き込む。
 一羽に気がつけば、二羽、三羽。葉の下に潜む姿に気がついて。
 二羽三羽と気がつけば、手毬の奥の茎にもみっちりと身を寄せ合う姿を見つけた。何だか其れがとても微笑ましくて白雪は思わず口元に手を添える。ころりと転がってきて、撫でさせてくれやしないだろうか。すりすりと甘えてくれて、ふわふわを堪能させてくれやしないだろうか。いいや、いっそ包まれるぐらいに囲まれたい。――そう思えるほどに、ピヨすけたちはころころフワフワだった。
「二人共、甘い物を持っちゃあいないかい?」
 確か、甘い物を好むという話だったよねぇと口にしたハナは、自分は何も持っていないことを示しながら二人を見る。
「甘い物ですか?」
 小首を傾げ、それからそういえばと思い出すのは、傘を買った折に貰った金平糖。
「そういえば、金平糖を頂きましたわ。紫陽花を模した包みですのよ、ハナさん」
「あゝ、紫陽花の。いいじゃあないか」
 見てくださいなと取り出された包みは、金平糖を紫陽花のように包んだもの。金平糖とな! と興味深げにアメノも覗き込む。
「金平糖はお好きかしら」
 そっと包みを解いて金平糖をいく粒か掌へ転がせば――ヒョイと金平糖が消えた。
「おや」
「あら、シラフネさん用の金平糖ではありませんのよ」
「そうそ。神様へのお供え物じゃあなくて、あの鳥たちをちょいと呼び寄せるものさ」
「えっ? 招き寄せる用? ……なんと勿体無い」
 手を伸ばしてパリポリと食べてしまったアメノは、鳥にくれてやるには惜しいと言いたげだ。手にした紫の粒はしっかりとブドウの味がしていた。水色の粒はきっとラムネで、黄色の粒はきっとレモン。しっかりと味のある良い金平糖だと言うのに。
「うぅむ、仕方がない。鳥に譲ろう」
 元々鳥を誘き寄せるためだよなんて笑うハナの声を聞きながら、白雪は折角だからと包みを大きく開いて、おいでとピヨすけたちを誘った。
 その瞬間。
「まあ」
 ふかり、と。柔らかな手触りを覚えて、ほぅと吐息が自然と溢れる。柔らかでふわふわで、ずっと触れていたいと思える感触。
 けれどその至福の時は、瞬く間に終わりを迎えてしまった。
 金平糖を咥えると、一斉にバタバタとピヨすけたちは飛び立ってしまう。
 ピヨすけたちが飛び立った後――白雪の手には僅かな羽根だけが残されて。確かに感じたぬくもりもあっという間に消えていこうとしている。
「おお、これは! 思ったよりふさふさと……!」
 けれど抜け目なく、白雪の手に止まった瞬間を狙った、神が居た。ピヨすけの一羽をわっしと掴み、ふわふわの毛を楽しみ、無邪気な笑顔を二人に向ける、神が。
「この雨の中でもこのふわふわ感! なあなあ二人とも! 大群で来たら抱きかかえられるかな……!」
「大群……抱えられる……」
「おやおや、かぁいらしい事」
『ぴよ!? ぴよっ』
 つんつんつんつん。ハナがつっつけば、ピヨすけは暴れて逃れようとする。
 ぐぬぬ。ぐぬぬぬぬ。
「っと」
 バッタバッタと暴れまくった末にその手からすぽーんっと飛んでいき、バタバタと逃げていく後ろ姿を見送った。
「次の鳥を呼ぼう! もっとだ、もっと呼んで抱えよう!」
「神様、金平糖はもうなくなっちまったみたいだよ」
「ハナさん、シラフネさん! 私、あちらの出店に置いてある金平糖を追加購入して参りますね!」
「うむむ分かった、それまで俺が耐えて見せよう!」
 心底大群のフワフワを堪能したいのか、白雪は言うやいなや駆けていく。その背を見送り、「白雪が戻るまでの間、俺がこの場を繋いでみせよう!」と、アメノが鞄の駄菓子を開放すれば、またどこからかピヨすけたちが集まってくる。
「大盤振る舞いだ、持っていけ!」
 いくらあっても、ピヨすけたちが次々に取りに来る。
 その姿にハナは「食いしん坊だねぇ」と笑って、金平糖の包みを抱えて駆け戻ってくる白雪へと手を振った。
 雨の中、三人の笑い声とピヨすけたちの鳴き声が混ざり合う。世界から、雨が三人を切り離してくれる。
 ――ああ、矢張り雨はいい。
 もっと長く、降ればいいのに。
 この時が、ずっと続けばいいのに。
 しゃららと鳴る雨の珠簾の中、アメノはそう、思うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリサ・マーキュリー
♢ ♡

なるほどね、甘味を奪いに来てもふられると逃げ出す…なるほどね…。
だがもふる。もふらないという選択肢はない。もふらざるをえない。もうもふるしかない。MO☆FU☆RU。

甘味を囮に出てきたところをすかさずもふる!
なんて完璧に頭の良い作戦なのか…!恐ろしい…我ながらこの才能が恐ろしい…!
へ…へへ…うへへへ…うふ、うふふふ。
おいで〜、おいで〜。怖くないよ〜。
よし、捕まえた!
何処からもふってあげようかな〜えへへへ。

あっ…なにこの感触…
こんなの初めて…蕩けて声が出ちゃいそ…Zzzぐう…。

ハッ、意識が飛ぶ所だった…!なんて触り心地…!
これは人をダメにする奴だ…気持ちいい…可愛い…持って帰りたい…!!!




 ――なるほどね。
 グリモア猟兵から聞いた情報を頭の中で反芻したアリサは、何度もうんうんと頷いた。甘味を奪いに来てもふると逃げるなら、もふるしかないじゃない、と。
 そう。アリサ今まさに、ピヨすけたちと対面していた――と言っても、まだ本格的に眼前に出てきている訳ではない。紫陽花の花の影に隠れる白いふわふわに気付き、ハッと足を止め、実に完璧で頭の良い作戦を考えたところである。もふって逃げるなら、もふればいい。もふるしかない。もふるとき、もふらねば、もふるしか! MO☆FU☆RU!
(――甘味を囮に出てきたところをすかさずもふる!)
 なんて完璧に頭の良い作戦なのか……! 恐ろしい……我ながらこの才能が恐ろしい……!
「へ……へへ……うへへへ……うふ、うふふふ」
『……ぴぃ』
 ハッ、いけないいけない。ついつい怪しげな笑みを浮かべてしまった。そのせいでピヨすけが若干引いたような顔をしている。いや、若干ではない。正直ドン引いている。
 しかし完璧な作戦なのだから大丈夫だ。手のひらに金平糖を載せ、よく見えるようにして優しく声を出して誘うアリサ。
「おいで~、怖くないよ~」
 いや、恐い。怪しい姿を見たのだ。ぴぃと小さく鳴いて縮こまったように身を寄せ合うピヨすけたちの姿を見て、手のひらの上の金平糖の量を増やす。これでどうだと言わんばかりにたくさんの金平糖を見せつければ――。
『ぴよ!』
『ぴぴぴ!』
「よし、捕まえた!」
 パッと飛び出てきたピヨすけを捕まえて、もふもふ。
「あっ……すごい」
 ちょっと頬ずりだってしてみたりもして。
「なにこの感触……こんなの初めて……」
 ふかぁ、もふぅ。
 頬と手に触れる暖かくも柔らかい至福の感触に、思わずうっとり。
 ずっとこのままこうしたい、なんて……。
 なんて…………Zzz……ぐう。
「ハッ」
 危ない危ない、意識が飛ぶところだった。なんて魔性の羽毛なの……! なんたる触り心地! 人をダメにするとはこういうものを言うのだ!
 いけないいいけないとかぶりをふるが。
 すり……。気付くと頬を寄せてしまう。
「ああ~気持ちいい……可愛い」
『ぴぃ……』
 最初はジタバタと暴れて逃げ出そうとしていたピヨすけだが、既に悟りを開いたような諦めの表情になっている。けれどそんな顔でも、アリサの眼にはとても可愛く映っていて。話しかければ全力で首を振るピヨすけの羽毛にうっとりとしながら声を掛け続ける。
 ああ、持って帰りたいな。
 ダメなのかな?
 ね、うちに来る気はない?

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈍・小太刀
【かんにき】

全くもう、3本までって言ったのに!(団子の山に呆れ顔
でもまあ、いつもの事かな(笑ってもぐもぐ

お団子が?…あ、いた(杏の声にピヨすけ見つけ、じー
あれ?金平糖も持ってるね…って私の!?

むむむ、囮作戦でも盗られると悔しい
…でもかわいい(ほわわん
べ、別にもふもふしたい訳じゃないし?倒す為だし?(近づくのに無駄に言い訳

もぐもぐしてるピヨをつんつん
むむ、この手触り…
もふもふしてたらもっともふもふに!?
はうう、こんなの反則だ~!(超もふもふに癒され

一羽ぐらいお持ち帰りしてもバレな…(メカタマコの気迫に圧され
倒さないとだね、うんうん

ほら、お団子もう一本あげるから
骸の海に還りなね

桜花鋭刃で送り出すよ


木元・杏
【かんにき】
両手一杯の串団子を抱え、傘を差し
ん…傘ずれる
よいしょと傘を直し、再度お団子に視線を向け…


まつりん、小太刀!お団子が動いた!

……む?違う、もふもふな、ピヨすけ達
逃げる姿にはたと気付き、もう一度お団子で釣ってみる
【絶望の福音】でタイミングを予知して……来た!
うさみん☆、ピヨ達の後を追って?
わたし達も追いかけて

…見つけた
食べてる姿かわいい
あ、寝た

そろりと近寄りもふっと撫でてみる
美味しい幸せな夢見てる?
美味しいものは人から取るのは、その人の幸せを奪うことと同じ事
わたしも今、可愛いとお団子食べたいの気持ちでせめぎ合ってる…

骸の海で反省してきて?


木元・祭莉
【かんにき】の三人だよ!

アンちゃん……あれだけの団子、どうやって持ってるんだろ?
え、団子愛? 愛ってスゴイね!

あれ。なんか声が。
ぴよ?

あー、おいらの金平糖ー!
……は、だいじょうぶ。
盗られたのは、コダちゃんの分だった!(てへぺろ)

お、食べてる食べてる。
薄紫の金平糖が、真っ白の中に消えていくね!

アンちゃん、お団子作戦、決行中。
コダちゃん、我慢せずにモフってきていーよー♪(にぱ)

しばらく、二人を見守って。
さてと。そろそろいいかなー?

白ぴよよりも強きもの。来たれ、メカたまこー!
(コケコケコケ ロボ77羽が紫陽花の叢に突撃)

わ、突っついたら、ぴよ消えたね?
ちゃんと骸の海に戻れたかな?
またね、バイバイ♪




 ぐらり、傘が揺れる。
「わ、とと……」
 慌てて杏はずり落ちそうになった傘を肩と首との間に挟んで留め、よいしょと軽く跳ねて位置を正した。
「全くもう、3本までって言ったのに!」
 呆れた声でもうっと小太刀は言うが、その表情は笑顔だ。だって杏がこうなることなんて解っていたことだ。いつものことである。
 えへへと笑って返す杏の両手には、両手いっぱいの串団子。そんな状態の杏を、あれだけの団子をどうやって持っているのだろうかと祭莉は覗き込む。串団子で両手が塞がっていては傘を手で持つことは出来ず、良い感じに肩に載せてはいるが、時折肩で押さえたり柄を脇で締めたりとしてバランスを保っていた。
「だってお団子だよ? 3本だけだなんてっ」
「アンちゃんの団子愛、スゴイもんね!」
 ネッと笑い合う二人だったが、突然何かを見つけたらしく、杏がアッと声を上げる。
「まつりん、小太刀! お団子が動いた!」
「お団子が? ……あ、いた」
 あれ! と杏が指――団子でさす先には、紫陽花の葉の上に乗った小さな白い丸。団子というよりはふわふわもふもで、でも小さくてまんまる。
『ぴよ!』
「ぴよ?」
「杏、あれが例のオブリビオンよ」
「……む?」
 じぃっと見れば団子ではない事に杏も気がつき、祭莉もほんとだー流石コダちゃん! 見抜くなんてすごい! とはしゃいで。
『ぴっぴよ』
「ん? あれ? 金平糖も持ってるね」
「あー、おいらの金平糖ー! ……は、だいじょうぶ」
 慌てて祭莉が自分の金平糖の無事を確認すれば、ちゃんとあって。それじゃああの金平糖は誰の? と首を傾げた小太刀はパッと自分の金平糖を確認する。
 ――あれ、無い!
「……って私の!?」
『ぴよっよ』
『ぴよー!』
『ぴよよーーーー!』
 複数羽で包ごと頂いたピヨすけたちは、気付かれた事が解ると『退却ー!』とパタパタと逃げていく。小さなピヨすけたちが頑張ってうんせうんせと運んでいく姿はとても可愛く、小太刀は盗まれた悔しさも忘れて思わずほわわんとしてしまう。
「運んでくってことは、どこかに巣みたいな場所があるってことなのかな?」
「巣? 巣ってことはもふもふがぎっしり……? ああ、かわい……じゃなくてっ、ありそうよね」
「追っかけたら盗られたコダちゃんの分も取り返せるのかな?」
 次のピヨすけたちを追い掛けてみよう!
 作戦はこうだ。これ見よがしにお団子をちらつかせて釣り、《絶望の福音》を使ってタイミングを予知し、そこを杏の『うさみみメイド・うさみん☆』に追いかけてもらうのだ。うさみん☆に糸がある以上遠くへはいけないが、ピヨすけたちもそんなに遠くへと菓子を運びはしないだろう。
 うん、いける! と顔を見合わせた三人は作戦通りに行動に移した。
 そうして。
「……見つけた」
「私の金平糖食べてる……」
「お、食べてる食べてる」
 とある紫陽花の株に囲まれた場所。そこでこっそりと菓子をついばむピヨすけたちを、これまたこっそり近寄った三人は見つめて、ひそひそこっそり。
 本当に甘味が大好きなのだろう。嬉しそうに金平糖を啄んで、白いふわふわな毛の中に薄紫が消えていく。すごいねと祭莉が目を輝かせ、小太刀と杏は可愛いと表情を和らげて暫く見守れば――。
「あ、寝た」
 けぷっと満足そうにしたと思ったら、ウトウトころんと転がって。
「今がチャンスだね」
「べ、別にもふもふしたい訳じゃないし? 倒す為だし?」
「コダちゃん、我慢せずにモフってきていーよ?」
 そろりそろりと近寄って、寝ているピヨすけをつんつん。すやーっと気持ちよさそうに眠って起きないことを確認すると、そっと手で包んで持ち上げてみる。
「むむ、この手触り……」
「美味しい幸せな夢見てる?」
 持ち上げてもふもふする小太刀と、そっと撫でる杏の表情はとても柔らかい。
(はうう、こんなの反則だ~!)
 もふもふすることがやめられなくなりつつある小太刀にも、杏と祭莉は優しい顔で笑って――けれど、どんなに可愛くてもオブリビオン。そして美味しいものは人から取るのは、その人の幸せを奪うことと同じ事。このピヨすけたちは悪いことを何度でも繰り返してしまう。
(わたしも今、可愛いとお団子食べたいの気持ちでせめぎ合ってる……)
 盗られても可愛いからまぁいいかと許したい気持ちと、大好きなお団子を盗られたら悲しい気持ち。両方解るし、それに杏たちは――猟兵、だから。
 二人を見守っていた祭莉は、そろそろいいかなーっと近寄って。
「白ぴよよりも強きもの。来たれ、メカたまこー!」
「あ、もう!? 一羽ぐらいお持ち帰りしてもバレな……」
『コケコケコケ!』
「あっ、はい。うんうん、倒さないとだね」
 祭莉が呼び出したニワトリ型ロボにすごまれて、ちょっぴりシュンっとしながらも小太刀は腰に佩いた刀へと手を伸ばす。邪心のみを切り裂いて、そこをメカたまこたちがコケコケ鳴きながら突っつけば、ピヨすけたちは幸せな夢を見たまま消えていく。
「ちゃんと骸の海に戻れたかな? またね、バイバイ♪」
 明るく祭莉が手を振って、杏が見守って。
「お団子、もう一本あげるね」
 小太刀が、消え行くピヨすけたちに団子を供えて。
 ピヨすけたちがもうこんなことをしないで済むようになればいいなと、見送った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オスカー・ローレスト
【エイリアンツアーズ】

ツアーズチームと、合流……

ぴっ、ぴゃあ……!(一斉に来たピヨすけにやはり驚く小雀

だっ、だ、大丈夫……あれはシマエナガじゃないし、狙ってくるのはお菓子だけだから大丈夫、大丈夫……(訳あってシマエナガの群れにトラウマめいた苦手意識があるので自己暗示する小雀

コンペイトウ……い、いいけど……
ぴゅい?!(八雲にがるるるされて震える

うう、沢山来るの、やっぱり、怖い、な……お菓子は別に、俺は、取られちゃってもいいけど……他の人は、良くないと、思う、し……
【堕とす鳥】で、動きを封じて、ミニまっしろピヨすけたちが合体したり、お菓子を奪いに来るのを妨害、する、よ……


アルバ・アルフライラ
【エイリアンツアーズ】
おやおや
傘を打つ雨音を楽しみながら
同僚と四葩に見惚れるひと時を過ごそうと思えば
とんだ来客がいらしたものだ

掌の星と、ふんわり毛玉を交互に見る
…ふふん、斯様に欲しいか
ならば我が手より奪うが良い
盛大に歓迎してやろう

然し四葩の景を壊す訳にはいかぬ
菓子に変わり、鳥共へ投げつけるは宝石
魔力を込めたそれを美味そうに啄もうものならば
炎、氷、そして雷――色に応じ、様々な魔術が発動するだろう
…とはいえ、怯ませる程度の子ども騙しだが
悪戯小僧の貴様等にはお似合いであろうよ

癒され、脅え、勇ましく戦う皆を微笑ましく見守りつつも
――ああ、何卒御用心を
狙われていますよ?
後方より注意を促し、死角を減らそう


出雲・八雲
合流した【エイリアンツアーズ】で参加

ついにお出ましかァ(がるるる)

どいつもこいつもピヨピヨ鳴きやがって五月蠅ェ

おいオスカー、ちィとお前さんの持ってる金平糖寄越せ
あァ?なンだよ
敵が複数なら纏まって向かってきたほうが片付けンのに楽なンだよ文句あっか(がるる)
誰も取って食いやしねェよ

管狐を各1匹ずつ皆の甘味の御守りにしつつ残った管狐で片っ端から倒す。
管狐達にとってはピヨすけ共のほうがおやつになるかもなァ。
俺に近寄ってきたやつは卒塔婆でぶン殴る。

甘味は正義(うんうん)


笹塚・彦星
【エイリアンツアーズ】

【WIZ】行動

甘味奪う、んだっけ。傘買った時にもらった金平糖を見せびらかす様にしてみるか。
わ、ちっさ。もっこもこだ。これ手に乗せてもふもふころころ………ハッ。いかん、そう、この白いもふもふは敵。切り替えようナ…。(もう少し触っていたかったなぁ…)

黒曜二峠から龍さん呼んでみ、…。龍さんごめんって、拗ねないデ?龍さんのつるっとした鱗も威厳のある顔も好きだよ、最高。
ご機嫌取りつつ龍さんに風を起こしてもらって(暴風にならない程度に)、敵の鳥達を逃さない様にしつつ食べて貰おう。

ありがとう龍さん、またよろしく、って撫でたら喜ぶかな。
いいでしょ、ジャスパー。俺の龍さん。


青和・イチ
【エイリアンツアーズ】

紫陽花がいると、雨がもっと楽しく感じる
買った傘を差せば、雨の音は、流星の音
良い気分

…くろ丸?
(皆と居るのが嬉しいのか、各々の傘の下を代わる代わるうろつく相棒
あの…こっちの傘入ってよ
折角買ったのに…(金平糖で誘き寄せる悲しい主人

って、うおっ
……す、すごいふかふか…?
(金平糖の消えた手をうっとり見つめ

なんという強敵
全身全霊で立ち向かわないと

【サイキックブラスト】に『マヒ攻撃』を乗せ、鳥の動きを止めます
その隙に…思う存分モフりたい
皆さんも良かったら

小さいのが合体?
更なる天国…もふもふだ…
何なら顔突っ込もう

くろ丸もワン手でぺちぺちと

堪能したら…最後は魔導書で纏めて殴る
…ごめんよ…


ジャスパー・ドゥルジー
【エイリアンツアーズ】


だーめだっつの、これは帰って大事に食う分!
そんなに欲しいならこいつを呉れてやる!
紫陽花仕立ての金平糖は懐に仕舞い
代わりに取り出したのはオモチャみたいなチープな作りの拳銃
これはこっそりナイフで自分を斬りつけ流してた血から【イーコールの匣】で作った特別製さ

引き金を引けば跳び出るのは銃弾の代わりに金平糖!
なかなか粋だろ?

ほわほわの身体に当てて退治しつつ
たまーにあのちまい嘴で見事にキャッチされちまったりして
そんな感じでほわほわ戦う
……どしたん彦星、イチャついてんの?


パウル・ブラフマン
【エイリアンツアーズ】
紫陽花小路にて
ツアーズチームの皆と合流するよっ♪

出たな、もふもふ!
可愛いとりさん枠ならウチのオスカーくんが負けてないぞ☆
ジャスパーは可愛いってより、世界一綺麗系?

オレは怯えて出てこないコ達に向かって呼びかけを。
さっき沢山金平糖を仕入れてきたんだ♪
【動物と話す】スペックと【コミュ力】フル活用で
おいでおいで、一緒に食べよ☆

現れたコたちを狙って
UC発動―射程を伸ばしたKrakeを四砲【一斉発射】。
痛みや苦しみを感じる間もないくらい
一瞬で消し飛ばしてあげる♪

掃射後は流石に警戒されるだろうし
他のクルーさん達の【援護射撃】を務めるよ!
戦闘中は終始
小路や植物を破壊しないよう留意するね。




「お。来た来た」
「お待たせたー♪」
 紫陽花小路の入り口で先に待っていたエイリアンツアーズのクルーたちが顔を上げ、こちらへ向かってくる残りのメンバーへとひらりと手を振った。
「あれ、深冬さんは?」
「燈が菓子を欲しそうにしてたから、買ってくるって」
 すぐ追いつくから先に行っくださいってーとパウルが伝言を口にすれば、得心したように頷いた面々はそれじゃあ行きますかと歩みだす。合流したメンバーとも買ったばかりの新しい傘を見せあって、それいいねどこの店で売ってた? なんて笑い合う。
「写真は苦手だが、写真も撮ったンだぜェ」
「……うん、皆で……お揃いの、ポーズで……」
「楽しそうなことしてたんだな」
「おや、仲が良いようで大変よろしいですね」
 傘を打つ雨音を楽しみながら、会話にも華を咲かせ、そうして鮮やかに咲いた紫紺や空色の紫陽花で瞳を楽しませて歩む。紫陽花があると雨がもっとずっと楽しく感じられ、雨音に会話を重ねて耳に心地よい8分音符の世界に浸った。
「わふ!」
「……くろ丸?」
「くろ丸も楽しそうだな!」
「わふわふ!」
「お、くろ丸、オレの傘にも入りに来たのか♪」
「く、くろ丸……」
 イチの相棒、くろ丸も皆の足元をウロウロ。次から次へと傘の下を渡り歩き、楽しそうに歩む足がチャッチャッと音を立てている。――しかし、くろ丸のために大きな傘を選びぬいて購入したイチからすれば、何だか少し悲しい。楽しそうなのは嬉しい。けれど皆の傘よりも、折角買った傘に入ってもらいたいと思ってしまうのは仕方がないことだ。
 声を掛けても元気に尻尾をフリフリして楽しげに皆の傘の下を少しずつ滞在して楽しむくろ丸へ、イチは最終手段を使うことにした。
「くろ丸、おいで」
「! わふ!」
 そう、食べ物で釣ったのだ。金平糖を見せた途端、瞳がきゅるんっと輝いて。喜びを顔いっぱいに浮かべて、タタッと足早に駆け寄るくろ丸。そしてくろ丸に合わせて少し身を屈めるイチは、くろ丸の満面の喜びが嬉しくて、眼鏡の奥の瞳を和らげた。
 しかし、その金平糖がくろ丸の口に入ることはなかった。
「って、うおっ」
 何かが金平糖を手のひらの上に載せたイチの正面をピュンッと飛んでいき、金平糖を奪い去ってしまったせいだ。無くなってしまった金平糖に目を剥いたくろ丸はキュンと鼻を鳴らして、フスフスと手の上を探している。
 けれどその手を見つめるイチの瞳は、心此処に非ずと言った様子でどことなくうっとり。何かとてもふわふわで、くろ丸とはまた違うふかふかな何が確かに手に触れたのだ。確かな柔らかな感触だけを残して、その何かは金平糖とともに消えてしまったけれど。
「おやおや、来客がいらしたようですね」
「ついにお出ましかァ」
「出たな、もふもふ!」
 何かが飛んでいった方角ではなく、飛んできた方へ。一斉に視線を向ければ、そこにはどこに隠れていたのだろうと思えるくらいの、白い小鳥たち。両手で掬ってみたら、きっと気持ちいいだろうなぁなんて彦星の頬がつい緩んでしまう。
「ふかふかがこんなにも……? なんという強敵」
「ちっさくてもっこもこだ……これは強い」
 ごくりと喉を鳴らしたイチと彦星は全身全霊で立ち向かう事を決意し、真剣な表情でキリッと勇ましく『人間め!』みたいな目をしたピヨすけたちを見つめるが、見つめた端から強敵だ……! と思わずにはいられない。
 それぞれの闘志を燃やすクルーたちだったが――。
「ぴっ、ぴゃあ……!」
 たくさんのピヨすけを見たオスカーだけは、びくりと跳ねて震え上がる。訳あってシマエナガの群れにトラウマめいた苦手意識があるオスカーは、あれが今から自分たちへと飛んでくるだと想像するだけで、なんだかもう泣きそうな気持ちになってしまう。
 密集していると奪っていくだけのピヨすけたちはいいが、攻撃がしにくいのはクルーたちである。まずは程よく距離を取ってから、ひとまず金平糖でも見せてみるかと、最初に金平糖を見せびらかすように手のひらに載せたのは彦星だ。置いた端からふわりと乗り、うわちっさなんて思っている一瞬の間に金平糖を咥えて持ち去られてしまう。その場で食べるわけではないピヨすけたちは、咥えたらすぐ逃げてしまうのだ。
 手のひらに残るふわふわ感は現実のもの。もっと長い間乗せて、もふもふころころしたいなぁと思わせるふわふわ羽毛は魅惑の羽毛。
 けれどどんなにふわふわだろうと、どんなに可愛かろうと、彼等はオブリビオン。世界に害を与える、敵なのである。この白いもふもふは敵と自分に言い聞かせ、彦星は『雨龍王』こと龍さんを黒曜二峠を喚び出した。
「さあ、龍さん! ……龍さん?」
 やってくれとピヨすけたちを示したのに、雨龍王はぷいっとそっぽを向く。
「……あの」
 ぷぷい。聞こえてませーん。
「……龍さんごめんって、拗ねないデ? 龍さんのつるっとした鱗も威厳のある顔も好きだよ、最高」
 確かに一時ふわふわ羽毛にグラグラ来たのは事実だけれど、俺は龍さんが一番!
 本当か? と向けられる視線に何度も大きく頷いて機嫌を取り、暴風にならないように注意して貰いながら風を起こしてもらう。そうしてピヨすけたちを雨龍王が食らっていった。
「おいオスカー、ちィとお前さんの持ってる金平糖寄越せ」
 突然声を掛けられただけで、オスカーはぴゃっと飛び上がる。ぷるぷる震えながら恐る恐る八雲を見上げて。
「コンペイトウ……い、いいけど……」
「あァ? なンだよ」
 何するの? と問いたげに八雲を見つめながら、傘を購入した時に貰った金平糖の包みを両手に載せてそっと差し出せば、八雲は無造作にそれを掴み上げる。
「敵が複数なら纏まって向かってきたほうが片付けンのに楽なンだよ文句あっか」
「ぴゅい!?」
 がるると喉を鳴らす八雲にまたオスカーが飛び跳ねる。文句なんてありませんと言いたげに、両手は降参ポーズだ。ぶるぶる震えて縮こまるオスカーの耳に「誰も取って食いやしねェよ」と小さく吐かれた声が届いたかは解らない。オスカーはいつも以上に怯えていて、何度も大丈夫と自己暗示をするのに忙しかった。
(だっ、だ、大丈夫……あれはシマエナガじゃないし、狙ってくるのはお菓子だけだから大丈夫、大丈夫……)
 それにたった今、その狙われるお菓子だってオスカーの手から離れたのだ。大丈夫と自身に言い聞かせ、けれど本当に来やしないかときょろきょろと身構えた。
「出て来い同族」
 八雲の呼び掛けに《管狐》たちが応じる。しゅるんと喚ばれて出てきた管狐たちは八雲の命に従い、仲間たちの甘味の守護の任に着く。
「いくぞオスカー」
「ぴゃいっ」
 此れで良しと満足気に頷いた八雲は、バラララと金平糖をばら撒いて。
 それを見たピヨすけたちが金平糖へとパタパタと飛んでくる。
「ぴぇっ!?」
「お前さんには近づかせねェって言ったろ。やれオスカー」
 卒塔婆でぺしぺしして追い払ってやる。そう、言ったはずだ。
 沢山飛んで来るのはやっぱり恐ろしくて身を竦めるオスカーの前に八雲が立ち、近付くピヨすけは卒塔婆で叩き落とす。その背を見たオスカーは、震える手を苦手なシマエナガにも似た小さな白い鳥たちへと伸ばし――《堕とす鳥》。重力を操る小鳥が放たれ、触れたピヨすけたちを抑え込む。
「上出来だ」
『――ぴ』
 動けなくなったピヨすけたちが最後に見たのは――あんぐりと口を開けた管狐たち。ばくんと噛みちぎられ、ピヨすけたちが消えていく。
 ピヨすけたちが求める菓子は、他のクルーたちも持っている。
「……ふふん、斯様に欲しいか」
 アルバが手のひらに星粒に似た菓子を乗せれば、一斉にピヨすけたちが視線を向けてくる。その視線を悪いものとは思わぬのは、宝玉の如く美しいと謳われるクリスタリアンたる性か。
「欲っするならば我が手より奪うが良い」
 容易く奪われてやる気もない。盛大に歓迎してやろう。
 にいっと口の端を鋭角に上げるアルバだが、人々が愛し、そしてこれからも楽しみに来る人たちがいるであろう風景を壊すことは良しとはしない。
 星粒の菓子を袖内へと転がして、代りに取り出すのは魔力を込めた綺羅びやかな石。小さな宝石をピヨすけたちへと投げつければ、それが菓子に見えたのだろう。ピヨすけたちが浚いに来ようとぴよぴよ鳴きながら飛んできた。
 けれど。
『ぴぃ!?』
『ぴーーーーーぃっ!!!』
 いちごジャムのような赤い宝石を咥えた小さな嘴から炎が上げて。
 氷砂糖のような涼し気な宝石を咥えた嘴は先端からカチコチと氷の唄を奏でて。
 南国の果物を思わせる宝石を咥えた嘴はバチンッと音を立て、ぷすぷす煙を吐いて。
 小さなピヨすけでも咥えられるサイズの小さな宝石では、威力は精々怯ませる程度。けれど効果は覿面だ。驚いた顔でポロリと宝石を落としたり、吃驚した顔で自身もぽとりと落ちたり、驚くあまりに仲間を巻き込んで騒ぎ回ったりと騒がしい。
 騒然たる様子に、アルバはくすりと笑みを零す。悪戯小僧の貴様等にはお似合いであろうよ、と。
「さぁてと」
 逞しく追い払うクルーたちの姿に、皆頼りがいがあるな☆と笑みを浮かべたパウルは、怯えて紫陽花の影へと引っ込んでしまったピヨすけたちの方へと向かっていた。青々と生い茂った紫陽花の葉や花の影で、小さな白いふわふわがぷるぷると震えている姿はとても可愛い。けれど可愛い鳥さん枠ならオスカーも負けていないし、恋人のジャスパーも可愛い……と言うよりは綺麗系か、うん! なんて頷いて。
「とーりさん♪ さっき沢山金平糖を仕入れてきたんだ♪」
 ほら見て、こんなにあるんだよ。
 大きな手に、ざらりと金平糖を広げて見せれば、葉の影からちらちらとピヨすけたちがパウルを窺う。人好きそうな笑顔はきっと動物にも優しくて、この人はお菓子をくれるだけなんじゃないかと思わせてくる。
「おいでおいで、一緒に食べよ☆」
 明るい声に、優しい笑顔。
 一緒に食べることは絶対にしないけれど、くれるというのなら貰っても……。ぴょんぴょん、ちょちょん。ピヨピヨ鳴きながら、ピヨすけたちがパウルへと向かっていく。
 ――掛かった!
 小路や紫陽花たちを傷つけないように極力近くに寄るまで待ってからの、『Krake』四砲での一斉発射。ピヨすけたちが何が起きたかわからないくらい、あっという間にその身を消し飛ばした。
「だーめだっつの、これは帰って大事に食う分!」
 紫陽花仕立ての金平糖を狙って飛んできたピヨすけをジャスパーは体を捻って回避する。胸の前でぎゅっと握りしめ、盗られないようにとしっかりと仕舞い「そんなに欲しいなら」と代りに取り出したのはオモチャみたいなチープな作りの拳銃だ。
『ぴ!』
 ピヨすけたちに、拳銃の違いは解らない。けれど食べ物以外のものをこの場で出すとしたら武器に違いない! と消去法でしっかりと武器認定をしたのか、すぐに飛び込まずパタパタと空中に留まって身構える。
「来ねーならこっちからいくぜ!」
『ぴよっ』
 BANG BANGと撃ち込まれる弾は金平糖。オモチャのような見た目に見えても《イーコールの匣》で作られた特別製。当たればぴよっと鳴いて、目を><にしてピヨすけ達が消えていく。
 けれど。
『ぴよ!』
『ぴよよ!』
「お、やるじゃん」
 砂糖菓子の弾丸だと気付いたピヨすけは果敢にジャスパーの前へとその身を晒し、そしてぱくんっと上手くキャッチをする。そうして出来た一瞬の隙をバンと撃ち抜くのはパウルだ。目配せ合い、時に口笛を吹いて仲間を鼓舞し、着実にピヨすけたちの数を減らしていく。
 皆で手分けをし、減ってきたように思えるピヨすけたちだが、気がつけば増えているように見えるのは《もふもふソルジャーズ》のせいだ。ピヨすけたちよりも更に小さなピヨすけたちが、ピヨピヨピヨピヨ飛び回り、そして合体をして大きく成りすましたりなんかもしている。
 そんなピヨすけたちにイチが《サイキックブラスト》を打ち込み、オスカーが重力の圧を掛ければピヨすけたちはぽてりと落ちて――それを違う意味で好機と見たイチがささっと近寄って触りに行った。
「……す、すごいふかふか…?」
「あ、俺も、俺もモフる」
 イチに続いて彦星もモフるなか、好奇心に負けたイチは合体したチビピヨへと頭をダイブさせてみれば、ふかぁ……。柔らかな羽毛が頭を優しく包み込み、このまま眠ったら天国にいけそうだな、なんて思える極上の幸せを齎してくれる。どうやらくろ丸も、ぺちぺちしてふかふか具合を楽しんでいるようだ。
 こんな時間がずっと続けばいいのに、なんて思うけれど。
「――ああ、何卒御用心を。狙われていますよ?」
 まだ動けるピヨすけに気付いたアルバが注意を促し、ジャスパーとパウルが撃ち落としてくれる。それでも近付くピヨすけは八雲が卒塔婆スイングをお見舞いだ。矢張り、オブリビオンはオブリビオン。気を許しきってはいけない。
「……ごめんよ……」
「……ありがとう、龍さん」
 しっかりと堪能した二人も、ピヨすけたちを骸の海へと還すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『泥中花『黒蝶』』

POW   :    思い出など『びいどろ』のように儚いものだ
【記憶に干渉して改竄する洗脳呪詛】を籠めた【とろりと心に浸透する蠱惑的な声】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【最も失いたくない存在・想い・経験の記憶】のみを攻撃する。
SPD   :    煌めきへの葛藤(シアワセヘノニクシミ)
対象への質問と共に、【空気中やその地、目の前の人体の水分】から【思想・記憶に介入する酸の水檻】を召喚する。満足な答えを得るまで、思想・記憶に介入する酸の水檻は対象を【閉じ込め呼吸を奪い、幸せな記憶を溶かす酸】で攻撃する。
WIZ   :    闇彩(ビイドロノクラガリ)
レベル×5本の【全ての事象・存在を対象とした】【闇】属性の【触れたり目にした対象を水泡と化す闇がり】を放つ。
👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠雅楽代・真珠です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●曖
 まっしろピヨすけたちの襲撃にあいつつも、紫陽花小路を抜けた先。そこは、池のあるちょっとした広場になっている。
 池の傍には野点傘と緋毛氈の敷かれた床几台が置かれ、池を見ながら休憩もできる。そのため、小路の途中の茶屋で団子や菓子を買った人は途中の休憩スペースで足を休めたり、もう少し足を伸ばして池のある広場で休憩を取り、そしてまた街へと戻るのが住人や訪れた人たちのお決まりの散歩コースであった。
 降ったり止んだりしていた雨は、猟兵たちが広場に足を踏み入れる頃には小休止を迎えている。けれども厚い雲で覆われ、いつ降り出すのかも解らない空模様。暗すぎはしないが、明るくもない。そんな天気だ。
 その暗すぎない視界に、墨のような、靄のような、黒い何かがぼんやりと集っている場所がある。まるで雨の水墨画の中に躊躇った黒い墨が落とされたような、不自然なぼんやりとした曖がり。それが、池の畔にあった。

 目を凝らせば、そこに人のようなものを君たちは見つけることだろう。
 仕立ての良い水干を着た黒髪の少年が、曖がりの中に居た。

●黒い人魚
 ――ぴちゃん。
 雨とは違う、水が跳ねる音。
 猟兵たちに背を向けて池で足を遊ばせていた少年が立ち上がる――と言うよりも、全く重力を感じさせない仕草で、ふわりと浮かんだ。
 そして、半身が露わとなる。ヒトの膝丈までは袴の下には、黒い鱗に包まれた魚の尾。黒真珠と黒薔薇で飾られた人非ざる者の印。高貴さを表す色に染めた水干に身を包んだ黒い半人半魚の少年は、尾を軽く揺らして尾鰭を震わせ、池の水を払った。
 気配に気付いたのだろう、少年が振り返る。
 年の頃は十歳頃だろうか。幼い顔立ちに、利発さを思わせる表情。黒い髪に映える金の瞳が静かに滑り、猟兵たちを見遣る。
 年齢通りの振る舞いで笑えば、いとけなくも柔らかい笑みを浮かべるであろうその表情は、真冬の池のような冷たさで。
「――貴殿等は」
 探るように見た視線が、ひとつの解を得たと瞬いた。
「ああ、そうか。貴殿等が」
 ふふ。小さな笑い声が形の良い唇から漏れ、それを持ち上げた袖で隠し、ころころと少年が見た目通りの幼い顔で咲う。貴殿等が猟兵か、と。
「私は“戻って”きたばかりなのだ。久方ぶりの故郷を楽しんでいる」
 だから、ね。出来れば邪魔をしないで欲しいのだ。
 このまま此処から立ち去って欲しい。
「私は紫陽花に飽けば立ち去るし、貴殿等が望むのなら鳥たちも連れて行こう」
 そうしてまた何処かで、久方ぶりの故郷の風景を楽しみたい。
 ――けれど、邪魔をするなら仕方がない。
 瞬きをひとつぱちり。鋭利に目を細めた少年の気配が一変する。
 少年が、片袖を振る。それに合わせて何もない空中に水が集い、ぐるりと渦巻いた水たちは鋭利な牙を生やした肉食魚らしき水魚へと形を変えた。
 大きな魚に、小さな魚。もとより此処が水中であるかのように自由に泳ぎ回り、尾鰭を翻す。そうして跳ねた水がぽたりと地面に落ちれば――じゅう。酸に焼かれた野草が焦げ臭い匂いを放った。
 ――貴殿の幸せを、頂いてしまおうか。
 口元を隠していた袖を退けて、少年が微笑う。
 唇がにいっと上がると、鮫のような、鋭く尖った歯が覗いた。


======================
⚠ MSより ⚠
 池のある広場で黒い人魚『黒蝶』との戦闘になります。
 広さはそれなりにありますが、隠れたりするものはありません。
 敵から認識されている状態から始まります。
 猟兵が多いので彼を守る水魚が居ます。SPD技の酸と同じですが、記憶は奪いません。空気中の水分や地面の水分や池の水分で再生します。

 三章は、ソロ参加さんの組み合わせ率が低いかもしれません。(特に下記『🦋』)

●黒蝶
 幕間の通り、来いよ猟兵!戦おうぜ!とは思ってはいません。話しかけられれば答えれる範囲でお話もします。
 OPの通り『本調子ではない』状態です。やる気を出しているといきなり記憶を奪いにきますが、今回は基本的にのらりくらりと避ける事にほぼ全振りしているし、彼を守るための水魚たちがいます。そのためUCを使用する確率は極めて低いです。通常攻撃は水を操った攻撃と陰陽師みたいなことをしてきます。
 積極的に使用されたい! と強い希望がありましたら、プレイング頭に『🦋』を付けておいて下さい。PとSは心情系になるかと思います。また、記憶等は、黒蝶が倒されればシナリオ終了後には戻っています。

(🦋の際の参考に)
・POW
 声を向けられた対象のみに作用します。どんな記憶を奪われ、どうなるかの反応等をプレイングにお書き下さい。

・SPD
 あなたの身体に水分が含まれているのなら、あなたの身体から水檻が形成されます。もがき苦しむことになるでしょう。彼は幸せを知らないので『幸せとは何か』を尋ねてきますが、彼の気に入る答えは少ないでしょう。あなたがじわじわ溶かされていく幸せな記憶はなんですか?

・WIZ
 視界に入るだけで効果があるので、見ない対策が必要です。また触れることに関しても同様です。ペアやグループ参加の場合、同じ場所に居ますのでそれぞれ対策が必要となります。

●プレイング受付
 受付期間内に頂いた全てのプレイングを拝見してからお返しする順番を考えたりします。
 一度流れますので、再送期間にプレイング内容を変更せずに再送してください。その際、ペアやグループ参加の方は時間を合わせなくても大丈夫です。失効日だけは合わせておいて下さい。(全採用の確約はしておりません)

・受付
 【6/23(火)朝8:31~ 6/25(木)23:59まで】です。
 いつもより一日短い受付となりますのでお気をつけください。

・再送
 【6/30(火)朝8:31~ 7/1(水)23:59まで】です。

(更に再送になったらごめんなさい)
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真宮・響
【真宮家】で参加

これは丁寧にどうも。風景を楽しんでいるところに踏み込んで悪いね。まあ、物騒な事をする気は無い。いたずらする子達も連れて帰ってくれるなら好都合だ。今のところは。

ところで人魚のお坊ちゃん・・・お坊ちゃんでいいかい?この世に戻って来たばかりならこの世界に起きた戦争の事は知らない訳だ。赫灼のグロリアで戦争の出来事を込めた戦歌を歌うよ。様々な武将と戦い、野望を食い止めるために走り回り、最後に現れた魔王の事を。

アンタがこうしてゆっくり世界を楽しめるのも戦争を駆け抜けた人達の奮闘あっての事だ。そこは理解しておいてくれ(手をひらひら)


真宮・奏
【真宮家】で参加

あ、ご丁寧にご挨拶ありがとうございます。久し振りの世界、どうですか?あ、武器を抜く気はありませんよ。ちゃんと白い鳥さんは連れ帰ってくださいね?金平糖食べますか?

母さんと兄さんの話す戦争もありましたが、この世界は季節による色んなお祭りがあります。貴方が世界を楽しみたいなら、季節の祭りを楽しんでみてはいかがでしょう。季節によってそこに咲いている紫陽花の他にも彩取り取りの花が咲きます。この踊りは桜の花を復活させた踊りですね。(絢爛のクレドを披露)きっと貴方を満足させるかと。いかがでしょう?


神城・瞬
【真宮家】で参加

(ふむ、今のところは様子見、ですか)はい、貴方に危害を加える気はありませんよ。貴方の言う通り、この世界の風景を楽しみに来ただけ、ならば。約束、ちゃんと守ってくださいね?

そうですね、母さんの言う通り、この世界には戦争がありました。色々駆け回って、大変でした。貴方がこの世界の住人ならぜひ知ってもらいたいですね。この平和な世界は色んな人々の努力の上に成り立っている事実を。

あ、なんか込み入った話になりましたね。綺麗な音楽でもいかがですか?精霊のフルートで清光のベネディクトゥスを奏でます。貴方とはまた会えるでしょうか。願わくは穏やかな再会になるよう、祈ります。



●あいの風
 黒い人魚の少年――『泥中花』黒蝶と遭遇した間宮家の面々の対応は、とても穏やかなものだった。ぱちくりと瞳を瞬かせる奏よりも一歩前に出た響が、家長らしく「これは丁寧にどうも」と声を掛ければ、それを皮切りに奏も「ご丁寧にご挨拶ありがとうございます」と礼儀正しくぺこりと頭を下げた。
「風景を楽しんでいるところに踏み込んで悪いね。まあアタシらも物騒な事をする気は無いんだ」
「はい、ちゃんと白い鳥さんも連れて帰ってくださるって言ってましたし、武器を抜く気はありません。――久し振りの世界、どうですか? 紫陽花、綺麗ですよね」
 和やかに声を掛ける二人の女性へと金の瞳が向けられ、そして瞬へも向けられる。二人に何かされればすぐにでも飛び出すつもりでいた瞬だったが、二人が話しかけている間に酸性の水魚を襲いかからせる訳でもない様子に、ふむと心の中で頷いた。どうやら黒蝶はこちらが攻撃を仕掛けなければ、様子見に徹するようだ。
 視線を向けられた瞬も、視線を肯定するように頷いて。
「はい、貴方に危害を加える気はありませんよ。貴方の言う通り、この世界の風景を楽しみに来ただけ、ならば」
「私は、貴殿等が何もしないのであれば何もしない。――一人で景色を楽しむのも良いが、人が居ても良い。濡れた紫陽花の美しさを独り占めするのも勿体ないとも思っていたところだ」
 緩慢な頷きとともに少年が口を開き、そっと傍らの水魚の背を撫でる。
「ところで人魚のお坊ちゃん……お坊ちゃんでいいかい?」
 問題ない、と瞳を響へと向ける。口にした通り、何もされなければ剣呑に微笑うことも無く、ただ静かな表情を浮かべて。
「この世に戻って来たばかりならこの世界に起きた戦争の事は知らない訳だ」
「そうですね、母さんの言う通り、この世界には戦争がありました」
 色々駆け回って大変だったのだと響に合わせて瞬が口にすれば、そっと袖を口元に持っていった黒蝶は目をぱちくり。続けてと視線で促してくる。
「一曲歌ってもいいかい?」
「構わぬ」
「わあ、母さんの歌、楽しみです」
 パチパチと拍手をした奏は瞬とともに母の響から少し離れ、彼女の姿見えやすい方――黒蝶の側へと寄る。母さんの歌、すごく綺麗なんですよ。と口にしながら金平糖を差し出せば、三往復ほど奏と金平糖とを見比べた後、その指先が小さな菓子を摘んだ。
「期待されすぎても困るけどねぇ」
 けれど娘に期待されるのは悪い気はしない。
 そうして大きく息を吸い込めば、玲瓏たる歌声がその場に響いた。
 よく響く声が厳かに、先のサムライエンパイアで起きた戦争の出来事を歌として紡いでいく。この世界がまずどうなったか、現れた様々な武将たち。
「貴方はこの世界の住人なのでしょう?」
「そうだ。……元、になるのかもしれぬが」
「でしたら知っておいてください。この平和な世界は色んな人々の努力の上に成り立っている事実を」
 歌は、続く。
 その武将たちと刃を交え、悪しき野望を食い止める為に奔走し……そうして最後に現れた魔王『織田信長』。強弱をつけ、けれど流暢に、飽きさせぬよう物語調で歌を紡いだ。
 響がお辞儀をすれば、わあっと歓声を上げて奏が盛大に拍手をする。黒蝶もまた、控えめではあるが手を幾度か合わせ、知れてよかったと緩やかに唇だけで笑んだ。
「はい! 次は私が舞を披露するので、どうか楽しんでください。瞬兄さん、フルートをお願いします~」
「ええ奏、承りました」
 パッと手を上げた奏が、瞬を伴い母と場所を変わる。
「この世界には季節によって色んなお祭りがありますよね?」
 それはきっと貴方もご存知のはず! 笑顔で告げる奏へ、黒蝶は浅く頷いて返す。
「これから舞うのは、桜の花を復活させた踊りです。今の季節の花ではありませんが、きっとこの踊りは貴方を満足させるかと」
 瞬兄さーん、お願いしまーす!
 奏の合図に、瞬がフルートへと口を寄せる。奏でるは、《清光のベネディクトゥス》。清らかで美しい、祝福の音色。
 それに合わせて、奏は《絢爛のクレド》を踊る。花は散っても何度だって咲く。人だって挫けそうになっても何度だって立ち上がる。そんな思いを篭めた美しい踊りだ。
 緩やかに始まった演奏と舞は、穏やかに幕を閉じる。
「いかがでしたか?」
 踊り上げた達成感もあるのだろう。晴れやかな笑顔を向けられた黒蝶は浅く頷きを返すのみだが、それが悪くなかったと言っているのは明白で。
「それじゃあ私たちはそろそろ失礼しますね」
「アンタがこうしてゆっくり世界を楽しめるのも戦争を駆け抜けた人達の奮闘あっての事だ。そこは理解しておいてくれ」
「貴方とはまた会えるでしょうか。願わくは穏やかな再会になるよう、祈ります」
 其々の別れの言葉を口にして、間宮家の家族は池に背を向ける。
 刃を合わせ合わずとも通じ合えるものがあるのだと信じ、そうして行動した。そのため黒蝶も水魚も牙を剥くこともなく、
「踊ったら疲れちゃいました。兄さん母さん、途中にあったお茶屋さんでお団子を食べて帰りましょう!」
 明るく響くその声と背を、金色の瞳が静かに見送った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御心・雀
:少女は対話を望む

あなたが、とりさんたちに……『こんぺいとう』をもってきてもらっていたの?
いけないのよ、ひとからものをとっちゃあ。
それに、それにね。『こんぺいとう』はお菓子だからまだ分けてあげられるけれど、しあわせは分けっこするのがむずかしいのよ。
ねえ。じゃくはまだちいさいし、むずかしいことはわからないけど、あのね。あなたをほうっておいてはいけないのだということは、わかるよ。

……ぼくだって、久しぶりに故郷にもどったら、きっとうれしいけど……。でも、あなたは、ここにいちゃいけないのでしょう?
きっと、色んなひとがかなしむの。
だから、ねえ。あなたがいるべきところへ、いきましょう。ね?



●優しき光
「あなたが、とりさんたちに……『こんぺいとう』をもってきてもらっていたの?」
 陸で知った、甘くておいしくてからふるで不思議なお菓子。
 命じたのはあなた?
 見目が同じ年頃の雀が黒蝶へと声をかける。ひとからものをとっちゃあいけないのよ、と。
 真っ直ぐに視線を向けた黒蝶が目を瞬かせたのは、きっと問にピンと来なかったせいだろう。二三瞬いた後、ああと小さく声を零して少女に告げた。
「いいや、女の童。私ではない」
「でも、とりさんはひとから『こんぺいとう』をもっていっていたのよ?」
「或れは或れ等が好む物だからだ。連れてきたのも私ではない」
 もしかしたら黒蝶に惹かれてきたのかもしれないが、それは黒蝶には関係のないことだ。ただ望むのなら移動の際に連れて行くと申し出ただけである。
「そうなの? でも、でもね。『こんぺいとう』はお菓子だからまだ分けてあげられるけれど、しあわせは分けっこするのがむずかしいのよ」
「そうだな」
「だから、とってしまうの?」
 幼い声に言葉は返らない。ただ、少年が描く唇の弧は深くなり、真っ直ぐと見つめる金の瞳が明らかに肯定を告げている。
 雀は少し、困ったなと言いたげに顎へと指を添えながら視線を反らす。雀は小さくて難しい事はわからないし、陸の決まり事もわからない。けれど、それでも。
(あなたをほうっておいてはいけないのだということは、わかるよ)
「女の童」
「なぁに」
「貴殿も、私が此処に居てはいけないと思うのか?」
「……ぼくだって、久しぶりに故郷にもどったら、きっとうれしいけど……」
 それでも、いけないことなのだ。
 ぽたりと水魚から落ちた水滴が、じゅうと音を立てながら焦げた音を放つ。あれが広がれば紫陽花だって枯れてしまうし、池に落ちれば魚も死ぬだろう。オブリビオンという存在はただそこに居るだけでも世界の滅亡へと繋がってしまう存在だ。
 久方ぶりに故郷を楽しんでいると口にした少年へ、反らした視線を戻して、真っ直ぐに金の瞳を見つめた。
「でも、あなたは、ここにいちゃいけないのでしょう?」
 ここにいれば、きっと色んなひとが悲しんでしまう。
 土地も魚も、優しい人達も。きっとみんな苦しんでしまう。
 ――だから、ねえ。
 少女はただ、癒やすための光を放つ。
 暖かくも穏やかな光が、酸に溶けた地を優しく照らして癒していく。
 願わくば目の前の少年の心が癒やされ、居るべき所へ還れることを――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アメノ・シラフネ
【八仙花】♦️

戻ってきて暫し寛ぎたい気持ちはわからなくもない
が……って何じゃいハナ、放っておくのか?
……まあ良い、命拾いしたな

雨が小休止にはいったからか先程よりおとなしい
今からでも団子を買いに走るか!と言いたいがそんな元気もなく
そういえばハナはセンセーなんだってな
普段はどんな話を書くんだ?

ふわふわ漂う水の魚は一瞥し
あやつの眷属か何かじゃないか
俺のはもっと可愛いぞ
こう、アメフラシの形をしておってな
きっとシラユキも気にいる

俺も飛び立つ前に少しばかりまた鳥と戯れるとしよう
二人が行ったから仕方なくな、仕方なく
両手いっぱい抱えチャレンジだ
これも仕方なくだからな
さあ、終わりまでしっかり楽しむとしよう


月尾・白雪
【八仙花】
困りごとは、甘味を狙う鳥さんたち
戦わずとも鳥さんたちを連れ去って頂けるなら、僥倖というものかもしれません

紫陽花小路を抜けた先に、麗らかな水辺とは心地よい散歩道ですこと
お団子屋さんの魅力も、かなりのものです
本当にゆるりとお団子を堪能したかったですね

か、可愛らしい?
ハナさんの可愛らしいは、その、幅が広うございますね
私は初見ですが、シラフネさんなら……
神様でいらっしゃるのですもの、不思議の魚にもご縁がおありでしょうか

私には魚さんを可愛らしいと愛でる度量は、無念ながらないのですけれど
鳥さんは……!
えぇ、もう少しだけなら、あのもふもふをもう一度、と


文野・ハナ
【八仙花】

アタシらも邪魔をしたい訳じゃあないからねぇ
此処は互いに何もしないって方法を取りたい

それにしても大きな池だこと
団子を食べながら休憩をすると良い話が思い浮かびそうだよ
アタシの話かい?
恋愛小説だよ。二人にはあまり縁のなさそうな話さね
こんな雨の日に出会う二人なんて浪漫あるだろう?

おやぁ、ここにもかぁいらしい子
アンタの連れかい?
水の魚なんて、アタシは初めて見たよ
神様も白雪も見たことあるかい
見てご覧よ。とってもかぁいらしい

邪魔はしないよ
鳥を連れてきてくれるのならまた会いたいね
紫陽花の金平糖がまだ残っていたはずさ

アンタが飽きるまであの子達ともう少し戯れていようかね
アタシらが先に飽きたら先に帰るさ



●雨よ恋しと八仙花
「これ、鳥! 待て、待たぬか! それが最後の菓子だと言うのに! ええい!」
 ぴよぴよぴよよーっと必死にパタパタと飛ぶ小さな白い鳥を追い掛けて、狐面の少年が駆けてくる。後ろに続くのは、二人の女性。一人は同じように水を跳ねさせて駆け、もう一人は二人と距離が開いても気にしない気ままさで悠然と歩いてくる。
 そうしてアメノと白雪とハナの三人は、黒い人魚の少年と対峙した。
 寛ぎたい気持ちも解らなくはないが、少年はオブリビオン。ここで終わらせてやるのが世界のためだと臨戦態勢に入ろうとしたアメノだったが――。
「何じゃいハナ、放っておくのか?」
 二人に追いついたハナは特に気にした様子を見せずに池へと歩んでいく。艷やかな紫陽花小路を抜けた先に、麗らかな水辺の心地良い散歩道。小説にでも出てきそうな景色に、アタシが筆を執るとしたらこの紫陽花の美しさをどう綴ろうか……なんて、思いも過る。
 雨も小休止に入ってしまったし、先程走ったせいもあって元気さの落ちたアメノもまぁ良いとハナの後に続き、戦わずとも鳥を連れ去って貰えるのなら良いと白雪も二人の後に続いた。
「大きな池だこと」
 少年から少し離れた池の畔へ立ち、池を眺める。遠くからは解らなかったが、近付けば雨風で飛ばされたとみえる四葩があちらこちらに浮かんでいて、紫陽花好きのハナは柔らかく目を細めた。
「団子を食べながら休憩をすると良い話が思い浮かびそうだよ」
 茶屋で買った団子を、彼処に座って楽しむのさ。
 ハナが指差す野点傘と床几台に、白雪はうんうん頷いて同意を示す。
「お団子屋さんの魅力も、かなりのものです。買いに戻ってゆるりと堪能するのも良いかもしれませんね」
「団子か……」
 先程までのアメノだったら『今からでも団子を買いに走るか!』とUターンしそうなのに、その元気はどこへ置いてきたのやら。それはきっと傘の上にあって、雨が降って傘を開けばまたそうなるのだろう。
 おやと二人が視線を向けるのを気にせず、アメノは仮面をハナへと向ける。
「そういえばハナはセンセーなんだってな。普段はどんな話を書くんだ?」
「アタシの話かい? 恋愛小説だよ。二人にはあまり縁のなさそうな話さね」
 例えばそうだね。こんな話なんてどうだい?
 烟るように降る雨の日か、それとも今日のように降ったり止んだりの雨の日か。そんな日に出逢った二人の話。一期一会が結んだ合縁奇縁。ひとつの傘から始まって、絡まる赤い糸の恋話。
 即興で作った話を零せば、白雪は控えめながらも目をキラキラとさせて拍手を送り、アメノは本当にセンセーなのだなと感心した様子。
 人魚の少年は、三人が何もする気がなくただ自分と同じように景色を楽しむのであれば気にしない、といった姿勢で三人に向けていた視線を逸して池と紫陽花を楽しんでいる様子。けれど、彼が連れた恐ろしい顔をした水魚たちは、依然として三人へと警戒している姿勢を崩さない。
 そんな水魚たちを、ハナは横目でチラリと見て。
「おやぁ、ここにもかぁいらしい子。アンタの連れかい?」
 声を掛けてみたが、少年は気にした様子を見せずにただ紫陽花と池とを眺めている。
「あやつの眷属か何かじゃないか」
「か、可愛らしい? ハナさんの可愛らしいは、その、幅が広うございますね」
 答えない少年の代りに水魚が口を開いて凶悪な牙を見せるのを見て、白雪は可愛いとは何かと少し考えてしまう。白雪にとっての『可愛い』は、先程あったあのふわふわでもこもこの白い鳥とかが当てはまる。こんな怖そうな顔でぽたぽたと水滴を零しては地面にじゅうと煙を立たせている魚よりも、断然あの白いふわふわの鳥である。
「あの魚はあやつの眷属か何かじゃないか?」
「水の魚なんて、アタシは初めて見たよ」
「私は初見ですが、シラフネさんなら……神様でいらっしゃるのですもの、不思議の魚にもご縁がおありでしょうか」
「うむ、俺にもいるぞ。俺のはもっと可愛いぞ。こう、アメフラシの形をしておってな」
 このくらいの大きさで、こんな形。身振り手振りを添えて話せば、白雪もそのくらいの大きさだったらと想像して淡く微笑む。知った神様の眷属なのだから、きっと恐いものでも無いはずだ。
「二人ともよぉく見てご覧よ。ほら、とってもかぁいらしい」
 ぴちっと尾鰭を揺らした水魚から水滴が垂れて、じゅうと地面を焼く。
(ハナさんの可愛らしいは、私とは異なりますのね……)
 その気持ちを同じ目線で理解したいような、しなくてもいいような。あの魚を可愛らしいと愛でる度量のない白雪は、そっとハナから視線を外した。
「さて、と」
 池ももう十分楽しんだし、と。ハナが池に背を向ける。少年が飽きて帰るまでの間に、もう少しあの鳥たちと戯れていこう、と。先にハナたちが飽きたなら、ハナたちが先に帰るだけだ。きっとこの少年は言葉通りに何事も無ければ連れ帰ってくれるのだろうと、オブリビオン相手だが何故だかそう思えて。
 それではと白雪が少年に軽く頭を下げてハナに続けば、アメノも二人の後に続く。
「何だ二人とも、まだ鳥と戯れたいのか? 仕方ないな、俺も付き合うとしよう」
 二人が遊びたいのなら仕方がない。今度は両手いっぱいに抱え込んで顔を突っ込んでもふもふチャレンジもしよう。いや別に俺はそんなことをしなくとも良いんだが、二人が遊びたいみたいだから付き合ってやるのも神の務めだ。仕方ないな、ああ仕方ない。
「紫陽花の金平糖もまだ残っているしね」
「何? 俺の菓子は全部奪われたのだが? 隠し持っていたのか? 狡くはないか?」
「まあまあシラフネさん。団子を買いましょう。ね?」
 八仙花の池へと、邪魔をしたなとひらりと手を振って、三人は元来た道へと戻っていく。
 あのもふもふを、もう一度もふるために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

泡沫・うらら


こんにちは、黒い人魚さん
久方ぶりにご覧になった故郷の景色は如何?
貴方が愛した趣と変わってますやろか

貴方が腕を揮おうとしはらへんのならうちもそうしましょう
聞き分けの無い子どもやあらへんの
避けられる無駄は、避けるが吉でしょう?

せやけど貴方のお友達は
少しばかりこの世界のものには刺激が強すぎるようね
恵みたれるよう薄めさせて貰います

あら、お気に障りました?
貴方ほどの方やもの
そこまで狭量や無いでしょう?

嫌やわ勘違いせんといて
戦おうなんて気、ありませんよ
ええええ、本当に
ふふ

だってこの子らが出来るのはお手伝いぐらいやもの
なぁんの力も持たへんか弱いいきものよ
貴方へどうこうなんて――
ふふ、出来る筈、ありませんよ



●花に忍ぶは
 青い波を思わせる髪を揺らして、口元にそっと指先を添えたうららから「あら」と思わず溢れた声に、つ、と視線が向けられた。瞳が合えば、にこりと咲って。
「こんにちは、黒い人魚さん」
 ほんの少しだけの驚きも消したうららは、悠然と笑みを浮かべた。
「久方ぶりにご覧になった故郷の景色は如何?」
「……然程変わりはせぬ。――が、或れは初めて見たが好いものであった」
 ついと指先が向けられるのは街の方。その指が差す方向をちらりと瞳だけで追ったうららは、すぐにこれからの季節のような緑の瞳を黒蝶へと戻した。
 一瞬とは言え瞳を逸しても、黒蝶は何もしてこない。彼が放った言葉通り、猟兵が何もしなければ何もしないのだろうと悟れて、うららはまたひとつ笑みを濃くする。
「ああ、あれは。うちも好いものだと思いました」
「――貴殿は、私に去れとは言わぬのだな」
「ええ、まあ。避けられる無駄は、避けるが吉でしょう?」
 聞き分けの無い子どもやあらへんの。
 去ってくれと暴れたりはしないし、紫陽花を邪魔するつもりだってない。
 ――せやけど。
 ぽこり。水が集って。
 黒蝶の水魚にも似た、水で出来た海のいきものたちがうららの周りに集う。
「嫌やわ、勘違いせんといて」
 眇められた金の瞳に、口を開けた酸の水魚。
 警戒を露わにした黒蝶の水魚へと、うららはころりと笑みを向けながら自身の水魚たちを向かわせた。
 ゆうらり游ぐうららの水魚たちは、挨拶するように黒蝶の水魚へと顔をよせると、じゅうと音を立てて少しだけ体積を減らし、けれど一体化するように溶け込んでいく。
「戦おうなんて気、ありませんよ。ええええ、本当に。ふふ」
 戦闘力のない、無力の水魚。出来ることは、応援をしたり失せ物を探す、ちょっとした手伝いくらいだ。
 ほら、ね。
 害がないことを、示して。
 ころり、と。口元に手を添えて朗らかに微笑う。
「この子らはなぁんの力も持たへんか弱いいきものやもの。貴方の子らのように恐ろしいことなんて――」
 況してや、貴方へどうこうなんて。とてもとても。
 ころり、ころり。鈴を転がして。
 楽しげに、ふふ、と小さく微笑み、美しい弧を描く。
 などと笑んでいる間にもうららの水魚たちは優雅に泳ぎ回り、次々と黒蝶の水魚たちへと飛び込んでいく。いくつもの水魚が混ざり合えば、ぽたりと垂れる度に地面を焼いていた酸は薄まって――。
「……賢しい事を」
「あら、お気に障りました?」
 ただのか弱い女の、戯れではありませんか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルベル・ノウフィル
♢♡
児童は相い見て相い識らず問うのでございます
初めまして、お魚のお坊ちゃん
雨跡麗しきこの日にお会いできた事を嬉しく思います

僕、あいにく貴方の事を全く存じ上げません
金平糖を差し上げます
もしよければ貴方の故郷と、貴方自身のお話をお聞かせください
お行儀よく正座してお茶を楽しみましょう

お魚も人も沢山いますね
雨間の露払いと参りましょうか
黒蝶殿、お話のお礼に僕の芸をお見せしますよ
覚えたてのUC隣のべとべとさんでございます
念動力で守護水魚さん達にメダルをぺたぺた
そぉれ、僕の後ろにいらっしゃい
一列に並んで、ね
彩花をひらひら落としながら、一枚一魚、海還り
骸の海ってどんな場所でしょう
僕はいつも、気になるのですよ



●水魚の行進
「初めまして、お魚のお坊ちゃん」
 初めて会う知らない人だからこそいつも以上の礼儀正しさを心がけ、掴んだマントの裾をそっと胸に当てたルベルは綺麗なお辞儀をしてみせた。
 雨跡麗しきこの日にお会いできた事を嬉しく思いますと口上を述べるルベルを見つめた金の瞳は、ぱちりと瞬いて。少し微笑ったのであろう、口元へと袖を寄せる衣擦れの音を、瞳を伏せたルベルの耳が拾い上げる。
「童にそのように称されるのは何とも擽ったいものだな」
「あいにく貴方の事を全く存じ上げませんので」
「私は斯様な成りをしておるが、歳を経た――そうだな、貴殿の父御よりは歳を経ているぞ」
 生前の時点で、の話だろう。見目は同じくらいの歳……いや、少しばかりルベルのほうが上だろうか。互いに見目にそぐわぬ口ぶりでございますねと心の中で小さく笑って、それは失礼をとルベルは微笑んだ。
「貴方がまだ此方にいらっしゃるのでしたら、よければ貴方の故郷と、貴方自身のお話をお聞かせくださいませんか?」
 茶屋でお茶も買ってきておりますと竹筒を見せ、金平糖も差し上げますよと微笑んで、ハンカチを広げてちょこんと正座をすれば聞く姿勢が整って。そのままにこにこと見上げれば、子供らしい指が金平糖へと伸ばされ、視線は逸らされ池へと向かう。
「私は黒蝶。そう、呼ばれていたびいどろの金魚だ」
 淀みなく語られるのは、昔話。
 名匠と謳われた硝子職人の手から作られた物であること。
 人々の手を渡り、身を得たこと。
 気付けば海に浮かぶ島に居て、割れて喪われたこと。
 そして、また海に居た。
「海に、貴殿等猟兵が来たのだ。故郷に通じていることを知った」
 だから戻ってきたのだ、と語られる『海』は、骸の海ではないのだろう。
 そうしてカリッと金平糖を噛むと、話は仕舞いと言った様子で口を閉ざしてしまう。
「黒蝶殿、お話のお礼に僕の芸をお見せしますよ」
 覚えたての芸だから成功しなくとも笑ってお許しくださいね。
 言葉とともに立ち上がったルベルは、そぉれと自由にウロウロする水魚たちへとメダルを放つ。ぺたりと不思議な力でくっついた変わった絵柄のメダルは、くっついたそばからじゅうと嫌な匂いを発して溶けていく。
「僕の後ろにいらっしゃい。一列に並んで、ね」
 溶けきるまでの時間があるならば、メダルの効果は発揮される。
 ルベルの後ろに水魚たちがついていく。
 魚が後ろをついてくるから、何だか水中で魚の群れの先頭にたった気分。骸の海には行ったことがないから知らないけれど、どんな場所なのでしょうと思いを馳せて。『彩花』をひらひら落として歩んで、一枚一魚、海還り。
 くるりと振り向けばまた後ろへと回ってしまうから、振り返らずに。水魚たちとの行進を愉しめば、控えめな拍手が池に響いた。
「見事」

大成功 🔵​🔵​🔵​

藍崎・ネネ
🦋
【SPD】
綺麗な人魚さん
でも、わるいこなのね
わるい子には、めってしなくちゃいけないの

ユグルの黒い鎖を展開させて、お魚さん達を範囲攻撃するのよ
死角から急所を狙っていくの

これは、なに? お水で出来た檻なの?
息が出来なくてくるしいの。……でも、すこし懐かしい
しあわせってあなたは知らないの?
私は知ってるの。だって私はずっとずっとしあわせだったの

鳥籠の中は広くて、真っ白で、ぬいぐるみもたくさんあって、
たべものも、ぬいぐるみも、欲しいと言えばいつでももらえたの
だから私はしあわせだったのよ

……鳥籠、なくなっちゃったから
私もうしあわせじゃないのかも

ううん、ううん、そんなことない
そんなことないんだから



●カゴの外
 黒い尾鰭が優雅に揺れると、思わず目で追い掛けてしまう。触ってみたいなとか綺麗だなって思うけれど、どうやらこの人魚さんは悪い子みたい。
 オブリビオンはわるいこ。
 紫陽花を知らなくても、ネネはそれを知っている。そして悪い子にはどうすべきかも、ネネはちゃんと知っていたのだ。
「貴殿の『幸せ』はなんだ?」
「しあわせってあなたは知らないの? それをとってしまおうと言うのでしょう? とるのはわるい子のすることなの。わるい子には、めってしなくちゃいけないの」
 だから、ね。
 体に刻まれた黒いダイヤの連なる鎖の形の聖なる傷跡――聖痕が黒く輝く。其処から伸びた光が黒い鎖の形となって、水魚たちを囲うように伸びていく。痛みを引き受けたり癒やすための光では攻撃することは出来ないが、物質では無い為、縛り上げても酸に溶かされて消えてしまうことはない。
(ぎゅってして、ぎりぎりしちゃうの)
 そのまま潰してしまえないかな。そう思った時、こぽり。小さな唇から空気の泡が溢れた。
(これは、なに? お水で出来た檻なの?)
 肌が焼ける感覚がして、眉をひそめる。ただの水ではなく、酸の水檻だ。
 新しい空気が入ってこなくて、苦しい。
 空気を求めて口を開けば、喉を酸が焼いて、更に苦しさが増した。
(……でも、すこし懐かしい)
 水檻に居ると、鳥籠の中に居た事を思い出す。其処は広くて、真っ白で、ぬいぐるみも沢山あって、ネネにはとても居心地が良くて幸せな場所。食べ物もぬいぐるみも、欲しいと言えばいつでも与えられた。鳥籠の中に居れば、ネネは幸せ――だった。
 私は幸せを知っている、と答えるつもりだった。
 けれど鳥籠は失われて、ネネは外に出て――それって、つまり。
「――私、もうしあわせじゃないのかも」
 鳥籠の居ることが幸せだったのだから、もう幸せじゃないのかも。
(ううん、ううん、そんなことない。そんなことないんだから)
 思ってしまった考えに、頭を振って否定して。
 その間にも、記憶がじわりじわりと消えていく。
 与えてもらった沢山のぬいぐるみも。
 鳥籠で過ごした幸せな日々も。

 しあわせって……なんだったっけ――。

成功 🔵​🔵​🔴​

陽向・理玖
【菊】

ああ、あんた…
…俺も知らなかった
失くすまで
自分がどんだけ幸せだったか

一番幸せだった記憶
それは多分
師匠に守られてた記憶
だけど何でだろ
それより何より
猟兵になって
楽しい事嬉しい事を仲間と共有して
ささやかな事がたまらなく愛しくて幸せなんだ
…例えばそう
揃いの傘を買ったりとかな

で?
…何か分かった?
いくらでも奪えばいい
こう見えて俺は結構幸せだから多分奪い切れねぇと思うし
取られても
全部取り返すし

だから
痛くもねぇし苦しくもねぇ
覚悟決め

きの兄さん!
振り下ろすの見て叫ぶ
変身ッ!
衝撃波まき散らし強引に水檻ぶっ壊し
UC起動し突破
きよ兄さんの水檻を拳の乱れ撃ち
こじ開け引っ張り出そうと
大丈夫か?
取り返そうぜきよ兄さん


砂羽風・きよ
【菊】

少年のような風貌に目を瞬かせ
俺達の幸せを奪ってどーすんだよ
それで「幸せ」を感じることが出来んのか?

幸せとは何かと尋ねられても口開けず
(俺にとっての「幸せ」をコイツに言っても
多分腑に落ちないのだろう。幸せとは個人によって違う――)
…お前の幸せなんて知らねぇよ
自分で知るもんなんじゃねーの?

友達という存在、家族という存在
バカなことしながら笑い合って、何気ない1日が幸せと感じる
俺の幸せはそんなもんだ

このままでは俺も理玖も危ない
ならもうひとりの俺、きのに助けを呼ぶ

『もう、きよは弱いんだからっ』
仕方ないなーとデッキブラシを敵に向って振り下ろし

『きよは無視してりっくんを返してもらうよ!』

さんきゅ、理玖



●それはきっと、ささやかな
 不思議そうな顔で、少年がゆるりと首を傾げる。
 それは、きよから放たれた言葉のせいだ。
「俺達の幸せを奪ってどーすんだよ」
 それで『幸せ』を感じることが出来るのか。
 感じたいがために奪うのか。
 それとも他の理由があるのか。
「なあ、」
 答えろよときよが口を開きかけた時、不思議そうにしていた少年が口を開く。
「意味などない」
 ――と言ったら、どうする?
 瞳を細めて、ころり。袖を口元に当てて笑う姿は、『子供』と言うよりは老熟した腹芸に長けた其れ。
「ハッ、手加減も心配りも、する必要はなさそーだな」
「……感じたい訳ではない、識りたいのだ」
 けれど小さく落とされた言葉は、きっと本心だ。そう、理玖は、解ってしまった。
 知らないから知ってみたい。憧れて、手を伸ばして、掴んでみたい。『幸せ』の輪の中に入ってみたい。最初はきっと、それだけの気持ち。
 理玖も、幸せを知らなかった。記憶を喪うまでの自分がどれだけ幸せだったのか。『平凡』な幸せがどれだけ大切だったかを。けれど理玖が黒蝶と違うのは、その後も理玖には再度幸せだと感じることがあった。師匠が居てくれた。今は師匠は居ないけれど、猟兵になって嬉しいことや楽しいことを仲間と共有し、ささやかな事が幸せなのだと気付いた。つい先程だって、幸せを感じられた。――けれど、黒蝶にはそれがなかったのだろう。
「ああ、あんた……」
 思わず溢れた声は、とても苦い。ああ、苦くて苦くて堪らない。
 感情が零れ落ちそうに震えた瞳が、冷えた金の瞳と真っ直ぐに絡み合い、そして黒い睫毛が伏せられ逸らされる。
「貴殿等の『幸せ』とは、なんだ?」
「俺にとっての幸せは――」
 ごぽり。
 問に答えようと開いた口から水が入り込む。皮膚にも内側からも焼くこの痛みは強い酸なのだろう。空気が、呼吸が奪われる。問いに答えられる時間すらも殆ど与えられはしない。
 ――俺の一番の幸せの記憶は、師匠に守られていた記憶。
 唇だけ動かせば、ちりちりと肌が焼ける痛みとともに心の何処かが欠けていく。
 ――仲間との思い出。
 溶けて、消える。
 ――さっきだって、傘を買って。
(ああ、でもこれはまだ吟味してないから消されたくねぇな)
 薄れていくのが解る、けれど其れ以上に幸せな記憶は沢山だ。どれだけ消されたって師匠や仲間たちが与えてくれた。一時盗られたって、取り返せばいい。
(だから痛くもねぇし苦しくもねぇ)

 黒蝶から向けられた問いに、きよは口を開かなかった。
(俺にとっての『幸せ』をコイツに言っても多分腑に落ちないのだろう。幸せとは個人によって違う――)
 例えきよが口にしたところで、その幸せを黒蝶が体験したことがなければしっくりとはこないだろう。きよにとっての幸せは、友達や家族と呼べる存在とバカなことをしながら笑い合って、そんな何気ない一日が幸せだと感じる時だ。それは日常にあって、自分がそれに気付いて振り返れば、ああ幸せだなと心が息を吐くように零す、そんなひとときだ。だからお前の幸せなんて知らない。他人から答えを聞いたり奪ったりして楽してんじゃねーよ、ばーか。
 酸の水檻の中、酸が肌を焼こうとも口角を上げるきよを、黒蝶はまたも不思議そうに見つめる。苦しいはずだろう、痛みとてあるはずだろう。何故こうして笑えるのだろうか。それほどまでに『幸せ』とは良いものなのだろうか。
 じわじわと皮膚と記憶とが蝕まれ、息苦しさも感じる。
 傍らへと視線を向ければ、理玖が喉を押さえている。肌よりも体の内側が焼ける痛みの方が痛いのだろう。理玖もだが、このままではきよとて危ない事は肌で直に感じている。
(――きの、来てくれ)
 願い念じるは、もうひとりの自分。
『もう、きよは弱いんだからっ』
 もうひとりのきよ――きのが現れ、駆ける。
『きよは無視してりっくんを返してもらうよ!』
「きの兄さん!」
 黒蝶へとデッキブラシを振り下ろすも、庇った水魚の中にデッキブラシはとぷんと飲み込まれた――が、その姿を見て奮い立たされた理玖は変身をし、衝撃波まき散らして水檻を破壊しようと試みた。
 しかし、水中では上手く指は鳴らない。そのため幾度となく衝撃波を放ち、水檻を強引に破壊してから改めてパチリ、指を鳴らして。
「きよ兄さん!」
 高速戦闘モードに変身した理玖は拳の乱れ撃ちを隣の理玖の水檻へと撃ち込む。
 水が修復しようとするよりも、早く、速く、疾く――!
「さんきゅ、理玖」
 薄くなった層をこじ開け、手を差し出せば、しっかりときよがその手を掴む。
 理玖もまたしっかりと握り返して引きずり出せば、咳き込みながらも理玖の隣に仲間が――友が立つ。
「取り返そうぜ、きよ兄さん」
「ああ、反撃開始だな」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

朧・蒼夜
【藤桜】🦋SPD

池?黒い人魚?
穏やかな少年の姿
多分、今までの様な敵とは違い敵意はそれほど無いのだろう

でも
君が居たら困ってしまう人が居る

彼女をぎゅっと抱き締めて護る
彼女の記憶を奪わせない

藤蓮斬
水檻を連続で攻撃していく

俺の幸せ?
それは君の望むモノでは無いかもしれないが
俺が彼女の笑顔を護りたい
彼女が幸せな人生を歩んでいけるのなら俺はどうなっても構わない

でもそれは俺の自己満足だ
俺が傷つけば彼女はきっと哀しみ笑顔を失くすだろう
だからどんな攻撃がこうようとも俺から彼女の記憶は消せない

俺は彼女の騎士
この愛は永遠で咲夜が傍に居てくれるだけで

倖せ


東雲・咲夜
【藤桜】
和の趣に寄り添う薔薇、艶やかなる水の住人
…嗚呼、美しい御人
心成しか彼の人の面影
郷愁を潜めた佇まいに
ちくり…心が棘に触れたよう

出来ることなら戦いとうない
そうくんの腕が、胸が、熱い

《花漣》より水の神鳥が毒魚を喰む
幼馴染の紡ぐ言ノ葉に裡側から潤うて
痛苦に歪む姿に…知らずと非常なる笑みが咲く

ええ…消すことなど出来ひん
何度でも、塗り替えてみせるから
失うても失うても
うちを刻んであげる

せやけど果たして『記憶』に意味があるやろか
喩えうちの存在が忘却の彼方へ逝こうとも
彼が彼で在る限り
此の『倖せ』が揺らぐことはあらへんよ
そうくんは…せんぐりうちを愛する運命やから

それに、傍に居てくれはるだけで
うちは倖せや



●こぼれざいわい
 紫陽花に囲まれた地に、黒の薔薇が寄り添う。美しい紫陽花の絵画の中にぽたんと落とされた墨汁のように見えて、けれども絵画ごと食らってしまいそうな存在感。
(……嗚呼、美しい御人)
 ゆらりと翻された黒い尾鰭は艷やかに。金が飾るかんばせには穏やかな笑み。その姿に敵意は感じられず、そっと長いまつ毛が落とされれば哀愁差が漂い、見る者の胸にちくりと甘い棘を差す。そう思ってしまうのは彼が、色違いの、けれど知った人に似た面影を持っているからだろう。
(出来ることなら戦いとうない)
 決して瞳に暖かさが篭められていない事に咲夜は気付いているけれど、そう思ってしまう。見つめられている事に気付いた黒蝶が微笑めば、戦わずに、誰かに任せてしまえれば、どんなに楽だろうか、と。甘い誘いが心を揺らす。
 けれど。
「君が居たら困ってしまう人が居る」
 だから君を海へと還そう。
 揺れる咲夜の心を、きっとこの騎士である幼馴染は解っているのだろう。いつだってあるべき道を示してくれる、優しい彼。咲夜が迷わないように、彼は敵だと示してくれる。
 刀を抜けば、「そう」と小さく声が返って。
「貴殿は、とても幸せそうだ。沢山の幸いを持っているのではないか?」
「嗚呼、そう――」
 だ、と。続けようとした言葉は水に飲まれる。
「貴殿の『幸せ』を示してみせろ」
「――そうくん!」
 瞬く間に酸の水檻に閉じ込められた蒼夜に、追撃をさせぬようにと水魚へと神鳥を飛ばした咲夜が駆け寄り手を伸ばす。じゅうと酸がその白い指先を焼いた事に気付き、蒼夜の目が見開かれる。けれど咲夜の指先は、蒼夜を救い出そうと彼に触れようとするから――蒼夜は咲夜の身体を強く抱きしめた。
「咲夜」
 駄目、なのに。彼女を守らないといけない、のに。
 救おうとしてくれる彼女が愛おしい。
 恐れず飛び込んできてくれるその姿が嬉しい。
 入るのは容易く、出るのには破らねばならぬその檻で、蒼夜は細い身体を抱きしめる。せめて彼女の記憶だけは守りたいと、彼女の身体を守りたいと。露出した皮膚が焼けていく感覚以上に、この腕の中が、彼女の存在が、とても熱かった。
(そうくんの腕が、胸が、熱い)
 逞しくて、安心する。それと同時に仄暗い喜びも咲いてしまう、彼の檻の中。
「……俺の幸せ?」
 喉が焼けるのを厭わずに、蒼夜は片手で水檻を切りつけながら口を開く。
「彼女の笑顔を護ることだ。彼女が幸せであることだ」
 腕の中の咲夜が幸せな人生を歩んでいけるのならば、自分などどうなろうとも構わない。喋れば喋るだけ空気は失われ、体の内側から焼かれても構わない。
 蒼夜が傷つけば咲夜が悲しむことも解っている。悲しみに笑みが消えることだって解っている。だから咲夜の顔をこの一時は見ずに、真っ直ぐと水檻の向こうの黒蝶を睨みつけていた。――だから彼女が、咲夜が、自分でも気付かぬ内に、笑みを浮かべていた事に気付かなかった。
 咲夜の胸の裡に咲いたのは、確かな喜びの花。幼馴染の紡ぐ言葉が嬉しくて、潤って。そして痛苦に歪む姿が自分のためだと知っているからこそ、喜びを覚えてしまう。――けれど咲夜も、自分がどんな表情をしているのか、気付いては居なかった。
「俺から彼女の記憶は消せない」
 咲夜と初めて会った日のことが胸に浮かぶ。――彼女の微笑みはどんな感じだっただろうか。どんな表情で、どんな仕草で、彼女はどんな声で――。
「そうくん」
 そうだ、この声だ。
 喉が焼けるから呼び掛けては駄目だと止めたい気持ちと、名前を喚ばれただけで覚えてしまう幸せが相反する。
(ええ……消すことなど出来ひん)
 光が失われかけた蒼夜の瞳に光が戻るのを見て、咲夜は笑む。奪われて失ってしまうのなら何度だって咲夜を刻みつければいい。その魂に、何度でも、幾度でも。『記憶』なんて意味はない。例え咲夜の存在が彼の中から忘却の彼方へ逝こうとも、彼が彼で在る限り、この幸せは――この『倖せ』が揺らぐことはない。そう、咲夜は確信している。
(だってそうくんは……)
 ――そうくんは……せんぐりうちを愛する運命やから。
 愛しい腕に頬を押し付け、微笑む。
(俺は、彼女の騎士。彼女の事を幾度だって思い出す)
 身を焼く痛苦の中、腕の中に君がいる。この愛は永遠だと何度だって愛しい存在が教えてくれる。
 刻んで、刻まれて――嗚呼、倖せだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

オズウェルド・ソルクラヴィス
【廻星♢🦋】POW

連れを背に

…穏やかじゃねぇな
それで…楽しむのに飽きた次は、何をする気だ?

見逃す気はない
逃がせはその力、どこへ向かうのかと
槍を一振り踏み出し

近くの或いは氷結した水魚を
酸諸共、火炎を乗せた薙ぎ払いで焼き裂き
黒蝶へは覇気と炎
見切りとカウンターも織り交ぜた槍術で攻撃

ふと目の前で舞い消える白い桜の花びらと
微笑む少女の幻に
記憶が奪われ始めているのに気づき
また、悲痛な叫び声で我に返り

―てめぇ…
勝手に入り込んでくるんじゃねぇ…!

他のルゥーへの攻撃を武器受け等で庇いながら
UCを発動
たとえ身を蝕む苦痛があろうとも
奪われるよりはマシだと
有した魔力を魂をも焼く黒紫焔に変え
槍へと宿し
黒蝶へ一撃を穿つ


ルゥー・ブランシュ
【廻星♢🦋】POW

まるで、氷みたい―

その微笑みに身震いし
そっと魔導書を抱きしめる
酸で溶けた地もまた
この先の未来を見せられているようで

きっと、オズは引かない
あたしも
見逃したりはできない

魔導書を掲げ
酸を弾き
負傷を軽減する光のバリアを自分とオズに張り

水魚や黒蝶に
全力魔法と範囲攻撃にて
当たった個所が氷結する氷の矢で攻撃を!

―でも…この声はなんだろう?
その先には、とても懐かしい『人』だった頃の少年がいて―
いつも傍にいれくれたのに…
どうして―?
どうして、顔を、その姿を思い出せないんだろう…?

だめ―っ!

奪わないでと、強く叫ぶ

声を打ち破ろうと魔導書の力を開放し
優しさ以外の技能を代償に
光の矢を水魚と黒蝶に放つ



●遠き日の
 ――まるで、氷みたい。
 氷の結晶のように美しく、けれど冷ややかな微笑。その微笑みを見たルゥーの体は小さく震え、自分を守るように、そして心を隠すように、ルゥーは魔導書を胸に抱きしめる。
 じゅうと酸で溶ける地は、この先の未来を見せられているようで、瞳を震わせ眉を寄せる。痛ましさを想像して、ぎゅっと一度瞳を閉じようとした――その時。ルゥーを護るように、ザッ、と地に音をたててオズウェルドがルゥーの視界を遮った。ルゥーの視界に広がるのは、見慣れた翼。頼りがいのある背中。いつも追い掛けて、隣を歩いてくれる存在だ。
「……穏やかじゃねぇな」
「貴殿の方が余程穏やかではないようだが?」
 凄めば小さな笑みとともに穏やかに声が返る。
「それで……楽しむのに飽きた次は、何をする気だ?」
「何を? 何もせぬよ」
 何もしなくても、ただ待つだけで世界は壊れるのだから。
 ギリッ――オズウェルドに掴まれた槍が鳴る。それだけで、ああ彼は引く気がないのだとルゥーには解る。ルゥーだって、同じ気持ちだ。
 ――見逃す気はない。
 ――見逃したりは出来ない。
 オズウェルドが踏み出す一呼吸前にルゥーは魔導書を掲げる。
 戦意有りと見做した水魚が素早く突撃してくるのを、オズウェルドは槍で払う。槍で払えば水魚は水滴を辺りに撒き散らし、オズウェルドの肌を焼くが――ルゥーがそうはさせない。酸を弾き、負傷を軽減する光のバリアを降り注がせた。
「オズ!」
「大丈夫だ」
 水魚が食らいつきに来るのは槍で払いながら、オズウェルドは時間を稼ぐ。その間にルゥーは持てる魔力を全て開放し、範囲を広げる詠唱を唱える。空気中に満ちる水気に凍える歌を歌わせて幾つもの氷の矢を形成すれば、それらは黒蝶と水魚へと放たれる。
 触れた箇所が凍る氷の矢の一斉射撃。僅かに瞳を細めた黒蝶は、それでも優雅さを失わず、ひらりと尾鰭を揺らめかせて避けていた。噛み砕いて迎撃しようと矢に向かった水魚の歯は凍てつき、避け損ねて胴を穿たれた水魚の胴が凍る。けれども凍らなかった場所からじわじわと溶かそうとし始め、動けるも水魚はすぐさま二人へと牙を向けてきた。
 氷の矢が放たれたのと同時にオズウェルドは踏み込み、火炎を載せた槍を振り払う。凍った所へあたれば水魚は砕けるが、残った水が足りない水分を空気中から補いながらまた魚の形を形成しようとする。
 しかし、一瞬であろうと囲いは崩れる。
 踏み込む足を止めること無く、オズウェルドは前へと進み、黒蝶へと槍を振るった。
「――ひとは矢張り、醜いな」
 小さなため息とともに、そんな言葉が聞こえて――。
 オズウェルドの視界が、白い桜の花びらに浚われた。
 ひらひらと柔らかく舞っては消える、白い桜の花びら。
 その向こうで少女が微笑み、オズウェルドは手を伸ばす。
 ――微笑っている。そう理解が出来るのに、その顔が見えなくて。
 桜の花びらを掻き分けながらオズウェルドは手を伸ばし続ける。
「オズ……?」
 おかしい、と。ルゥーが思えたのは、一瞬だった。
 誰かの声が聞こえて、目の前に居たはずの見知った背中がかき消えた。
 声が聞こえた方へと視線を向ければ、とても懐かしい『人』だった少年が居た。いつも傍に居てくれた筈の少年。そうして約束をして。約束を――……約束、何だったっけ? どうして、彼の顔が見えないのだろう。どうして姿が見えないのだろう。
 ああ、さっき誰かを呼んだのに、それって誰だっけ――……、

「だめーっ!」

 奪わないでと叫ぶ、悲痛な声。
 我に返った二人は、お互いの姿を見て――。
「……っ」
「――ッ」
 名前が、出てこなかった。
 ルゥーの瞳に、涙が溢れてくる。
 オズウェルドの瞳に、怒りが満ちてくる。
「――てめぇ!」
 奪われたのだと、解った。失くしたのだ、解った。愛しくて、大切な柔い所を抉られたのだと、解った。
 魔導書が、輝く。
 紫銀眼が、輝く。
「返して、返して、返して――!」
 宿した守りの光も全て消えることを厭わずに、優しさ以外の全てを差し出して。
 身を蝕む苦痛を厭わず、生命すらも差し出して。
 二人は黒蝶へと力を解き放った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ルル・ミール
♢♡

美味しいお菓子を半分こしたり
見つけた素敵なものを教えたり
私の幸せはお裾分けできることもありますけど
今回はなしです
ここから立ち去りもしません!

視界に入れたらとっても大変そうです
視線は足元へ
UCで起こすのは光の津波
きらきら輝いて灼くこれなら触らずに済みますし
黒人魚さんや黒人魚さんのUCの影が見えるかも

捉えられなかった時の為
第六感と野生の勘もびびびとさせながら
余計な事は考えずに制御に集中
視界に入りそうになったらギュッと目を閉じ
痛いのはオーラ防御で頑張って耐えるプラン

幸せって
誰かのを奪って手に入れるものじゃなくって
一緒に見つけて幸せになったり
どうぞって分けたり
そういうのがいいなって
私は、思います!


エンティ・シェア
可愛らしい子が居るね
私は楽しい散歩のお喋り相手が欲しいんだ
付き合ってくれるなら嬉しいよ
まぁ付き合ってくれなくても私は一人で喋るんだけどね
綺麗な容姿を褒めちぎり
故郷の思い出でも尋ね
ついでに彼自身の好みでも聞いてみよう
彼がうんざりするくらい喋り倒していくとしよう

水の魚も闇がりもおっかないから、先に盾を用意しようか
紫陽花を楽しんでいる所申し訳ないが、橘もご一緒させておくれ
私自身を囲うように展開して、瞳を伏せて
鈴を転がすような彼の声と花が溶ける音とを頼りに回避できたらいいね
ついでに君を断ち切ってしまえたなら、なおいい

私は友人に君を倒してきてほしいと頼まれてきているからね
生憎だけど、もう一度骸に帰りなよ



●皓
 紫陽花小路をそのまま二人で歩き、金平糖を分け合ったり途中で団子を買ったりと道草をしつつも池へと辿り着いたエンティとルルは、紫陽花の彩りの中に漆黒を見つけてぱちりと瞬いた。
「おや、可愛らしい子が居るね」
「お知り合いですか?」
「いいや、全く。しかし、可愛いものは可愛いと、美しいものは美しいと、綺麗なものは綺麗と、口にしたくなるものだろう?」
 なんてエンティがにっこりと笑みを浮かべるものだから、ルルは素直に頷いた。
 けれどまあ、それも限度というものがある訳で。
 エンティはほぼ一方的に黒蝶へと話しかけた。
「戻ってきたということは……君は此の世界出身なのかい?」
 から始まって、故郷の思い出話を尋ね、紫陽花を見てどう思ったのかを尋ね、一番好きな花を尋ね、それでは菓子はどうだろうかと尋ね……尋ね、尋ね、尋ね……次第に回答が少なくなってもエンティは気にしない。返事が返ってくる限り喋り倒す勢いで只管口を開いた。
「貴殿は詮索が好きなのか?」
「詮索だなんて心外だよ。私はただお喋りが好きなのさ」
 同行していたルルはビックリしたことだろう。だってこの人めちゃくちゃ喋る。口から先に生まれてきたのではないかってこういう時に言うんだね? ってくらいエンティは喋り倒していた。
「エンティさんっ」
 ルルは、道中で聞いた彼の名前を呼ぶ。
「お話も楽しいかもしれませんが、お仕事を!」
「ああ、そうだった。私は友人に頼まれて来たのだったね」
 十歳も年下の女の子に注意されてしまったよと、エンティは反省していない顔で楽しげに笑った。
 こほん、こほん。仕切り直すように、ルルは小さく咳払い。
「頂いてしまおうって言われても、私の幸せは分けてあげれません。美味しいお菓子を半分こしたり、見つけた素敵なものを教えたり、私の幸せはお裾分けできることもありますけど……でもあなたのそれは、『奪う』ってことですよね?」
 それなら絶対にあげられないし、ここから立ち去りもしません!
 真っ直ぐに言い切れば、「そう」と言う小さな呟きとともに水魚たちが獰猛な牙を見せつけた。
「ああ、いやだな。おっかない」
 そんなに怖い顔をしないでおくれよと、エンティが花を咲かせる。白い小さな花がハラハラと散り、近付く水魚があれば切り裂いてくれる。――が、その度酸で溶かされ、確実に花は減っていく。
「橘か。その花も見頃だったな」
 確実に見られるとしたら、御所だろうか。次は其処へ行くのも良いなと黒蝶が笑う。
「行き先も決まったことだ。終わらせよう」
「エンティさん! 気をつけて!」
 ぶわりと闇が広がるなんとも言えない感覚に、ルルの尻尾のヘビがビリビリっとした。鳥肌がぶわわっと広がって、耳の毛もざわざわして、全身がこれは危険なものだって伝えてきたから、慌ててルルはエンティへ注意を促したのだ。
 地面へと視線を向けるだけでは、足元から闇が視界に入り込んできた時に大変だ。ギュッと目を閉じて、暗闇に対抗するにはと考えて。そうして発生させたのは光の津波。エンティの橘の花が近寄る水魚を切り裂いて、飛び散る酸の雫ごときらきらと輝く光が浚う。
 目を閉じてしまっても酸が花を焼く音で水魚たちとの距離は測れるから、黒蝶がの闇がりが近付いて来ていないかに神経を集中させて――。
「……光か」
 憎しみげ、とも取れる声が小さく落とされた。奪いたくなる、と。
 光が闇を照らすなら、闇は光を飲み込んでしまえばいい。腹の裡に収めて、奪ってしまえばいい。
「――幸せって」
 声が聞こえた方向は、目を閉じる前と変わらない。
「奪って手に入れるものじゃないと思います」
「そうだな」
 ただ失わせたいだけなのかもしれぬなと黒蝶が微笑う。
 ああ、到底彼とは理解しあえることはないのだ。ルルの心に小さな落胆が落ちる。けれどぐっと唇を引き締めて、声がする位置との距離をルルは頭の中で測る。
 幸せは、誰かのを奪って手に入れるものではなくて、一緒に見つけて幸せになったり、その気持を分け合ったりするもの。嬉しいことは誰かと共有したくて、そうする小さな幸せだと思える瞬間がルルは好きだから――!
「ごめんなさいですけど、骸の海へお還り下さい!」
 光の津波が、水魚ごと黒蝶を飲み込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛
🦋【POW】
ヨハンくん(f05367)と

立ち去れと言われてそのまま立ち去る訳にはいかないんですよ
人に害を成す存在に対し、やるべきことは一つです

心がざわつく、あまい声
何かが失われていく恐ろしい感覚に、足元が覚束ない

幼い時、自分を助けて亡くなった、おねえちゃんの記憶が消えていく
忘れたくても忘れられないと思っていたものが、
自分を形作るものが、消えていく
彼女のような人を作らないようにと、
力をつけて、助けて、救って、掬い上げて行こうと、思っていたのに

……私、あなたに何をしようとしていたんだっけ……

叱咤の声に、体だけは動いてくれる
彼女がいなければ、今の私はないの
でも、だから、私は
私だけ幸せにはなれないの


ヨハン・グレイン
織愛さん/f01585 と
【SPD】

面倒ごとには出来るだけ関わりたくもないんですけどね
気に食わないものが多すぎる

水檻も気に食わなければ、投げられる質問も気に食わない
知るかよ、幸せなんて
俺には決して手に入ることのないもの――ただそれだけだ
必要ともしていない、そんなものはいらない

『凍鳴蒼』で昏い水と氷に呪詛を纏ませ、全力魔法で刃を生成、水檻の破壊を試みる
答えで解かれるなんて終わりも認めてたまるかよ

惚けた様子の織愛の腕を引き、立たせる
あんたがここまで引っ張ってきたんでしょう
しっかりしてくれなきゃ困るんですよ

何かを失わされたのなら、相応の報いを与えてやろう



●想失
 ゆらりと揺れた黒い尾鰭へ向かって、織愛はキリと眉を吊り上げて腰に手を当てる。
「こら! ダメですよ、年上にそんなこと言ったら!」
 なんでこの人すぐこういうこと言うんだろう、なんて眼鏡越しの視線を向けられたって気にしない。だって見るからに相手の姿は年下だから。
 ヨハンからしてみれば、相手はどう見たってオブリビオンだし曰く付きな感じだ。関わらないで済むなら関わりたくはないが、気に食わないものが多すぎる。自分から関わっていったり人の話も聞かずにグイグイ引っ張っていく織愛に対しても普段そう思うが、それとこれとはまた別の類だ。
「それに、立ち去れと言われてそのまま立ち去る訳にはいかないんです」
 悪いこと、するんですよね? 誰かに害を成すんですよね?
 それなら、見過ごすことなんてできないし、やるべきことはひとつである。
「骸の海に還って反省して下さい!」
「――そうか。ならば仕方がない」
 呪詛を載せた、甘い声。
 とろりと入り込んで、染み込んで、囚われる。
(――な、に)
 心がざわついて、落ち着かない。何かが失われようとしているのに、その何かが解らない。ああ、足元がふらついて、一人では立っていられない。
「織愛さん!」
 かくんと膝を折った織愛へとヨハンが足を一歩踏み出そうとするのと、その問い掛けは同時だった。
「貴殿はそこな娘よりも幸が薄そうではあるが――」
 だからこそ、尊い『幸せ』知っているのではないか?
 金の瞳が細められて。
 瞬間、足を踏み出したヨハンは、とぷんと水檻に閉じ込められた。
 ――ドン!
 叩いたつもりの腕がぶよんと押し返される。布を纏っていない皮膚が焼けて、じりじりと痛みが広がる。
(気に食わないな……)
 何もかも。そう、何もかも気に食わない。この水檻も、投げかけられる質問も、気に食わない。『幸せ』が何か? 知るかよ、そんなもの。
(必要ともしていない、そんなものはいらない)
 欲したとしても、得られるものでもない。期待すれば、馬鹿を見る。決して手に入らない。だから、望まない。ただそれだけだ。
 身を焼く痛苦にも屈しはせぬと奥歯を噛んで、指輪についた蒼い石――ネクロオーブ『凍鳴蒼』を反対の手でそっと撫でて昏い水と氷に呪詛を纏わせる。そうして刃の形を生成すると、水檻へと叩きつけた。
(答えで解かれるなんて終わりも認めてたまるかよ)
 一度で足りないのならば、何度でも。
 何度でも、壊れるまで。

 ――あれ、何を無くしたのだろう。
 心に、ぽっかりと穴が空いた。風穴みたいに大きく空いて、すーすーして、何かが零れ落ちていくみたい。気付いたら地面が近くて、いつの間に座ったんだっけと、どこか遠くに居る別の織愛が考えているみたいだった。
(……私、あなたに何をしようとしていたんだっけ……)
 彼女が居なければ今の織愛は無いと知っているのに、その彼女が解らない。
 ――ああ、きっと、      のこと。
 織愛から、幼い頃に助けてくれた姉の記憶が消えてしまっていた。幼い頃に織愛を助けて亡くなった、姉。忘れたくても忘れられなくて、恋しくて苦しくて、悲しくて。与えてくれた全てを覚えていたのに。
 彼女のような人を作らないようにと、力をつけて、助けて、救って、掬い上げて行こうと、思っていたのに。その、今の織愛を形作る基となった人の存在が、解らない。
「織愛さん!」
 ばしゃんっと水が割れる音が、やっぱしどこか遠くで聞こえた気がして。
 名前を強く呼ばれたから、顔だけは自然とそちらを向いた。
「あんたがここまで引っ張ってきたんでしょう」
 知っている男の子が、叱咤する。腕を引かれれば、体はよろりと立ち上がるけれど、頭はまだぼうっと霞がかって夢の中にいるみたいだった。
(私は、――私だけ幸せにはなれないの)
 だって、      はもう……幸せになれないのに。
「……しっかりしてくれなきゃ困るんですよ」
 立ち上がったものの、惚けたままの織愛へため息を付いて。眼鏡を正して魔導書を開きながら、ヨハンは黒蝶を静かに睥睨する。
 何かを失わされたのなら、相応の報いを与えてやろう、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】♢
少年が人魚へと変わる瞬間、変わった姿は
オブリビオンでありながら美しいなぁと
思わず見とれてしまう
俺としても故郷を楽しむ人を
邪魔するのは気が引けるんだけどねぇ

あちゃー、梓ってば焔と零のこと忘れちゃったの?
俺のことはちゃんと分かるよね?
全く、ドラゴンが扱えない梓なんて
図体のデカいお姫様じゃないか

Emperorを構え真っ直ぐ敵に突進
水魚達が守ろうと殺到してくるだろう
でもその間にPhantomの蝶の群れが
ゆらゆらと黒蝶に接近し包囲
その瞬間UC発動
蝶は無数の鎖に変わり黒蝶を捕縛
これでもう逃げられないよ

さぁ梓、思いっきり叫んで
『歌え、氷晶の歌姫よ』と
大丈夫、例え君が忘れても彼らは応えてくれるから


乱獅子・梓
【不死蝶】♢🦋
オブリビオンであっても
故郷が恋しくなるものなんだな
グリモア猟兵に倒してきてって頼まれてしまったし
はい分かったと帰るわけにはいかないわけで
申し訳ないが泳ぐのは骸の海でな

……?
これまで猟兵として何度も戦ってきたはずだが
俺は…「どう戦っていた」?
肩には見覚えのないドラゴン
何だか切なげに鳴いている
敵意が無いことは何となく通じる
※ドラゴン達に関する記憶が奪われた状態
綾のことは分かる、そして何か
腹が立つことを言われた気がする

綾に言われるがまま腹の底から叫ぶ
UC発動
青いドラゴンの歌うような咆哮が響く
俺の傍にいる赤いドラゴンも
エールを送るかのように鳴いている
ハハッ、たまらないなこの高揚感!



●解けないもの
 艷やかな黒が宙に舞い、ひらり翻されるは黒い尾鰭。花の色に染まる視界にぽたんと墨汁が落ちたように広がった色を見て、綾は相手がオブリビオンであることも忘れて見惚れてしまう。
(――美しいなぁ)
 赤いサングラス越しでも、何ものにも染まらぬ黒は黒のまま。
(オブリビオンであっても故郷が恋しくなるものなんだな)
 綾は『邪魔するのは気が引ける』とか考えてそうだよなとチラリと視線だけを隣に向けた梓は、よく知るその顔が見惚れているように見えたから肩肘で軽く小突いてやる。小突かれた綾はアッと口を開けてパチパチと目を瞬いて、いけないいけないとかぶりを振って見惚れた自分を隅へと追いやって。
「はい分かったと帰るわけにはいかない」
「……そうか」
「申し訳ないが泳ぐのは骸の海でな」
 グリモア猟兵にも倒してきてほしいと頼まれている。そして相手はオブリビオン、手加減をする必要も、心を分けてやる必要もない。梓の意志を汲んだ仔ドラゴンの『焔』と『零』が小さく鳴いて明確に戦闘の意志を示せば、はあ、と小さく落ちるのは黒蝶のため息だ。
「露は払わねばなるまい、な?」
 小さな小さな、声。
 けれども、とても甘くて、美しくて――。
「……?」
「……梓?」
 戦う意志を見せたはずなのに、梓の体から力が抜けた。腕はただ肩に繋がっている存在となりすがり、ぶらんと揺れて。瞳に宿っていた戦いへの意欲は、戸惑いに変わっている。
「俺は……」
 これまで『どう戦っていた』? 体を鍛え、たくさんの戦場を猟兵として駆けてきた。そのはずだ。そのはずなのに、何も思い出せない。どうやって戦場を駆け、どうやって戦っていたのだろう。それにこの、両肩に乗っている生き物は……?
「何だ、これは……。ドラ、ゴン……?」
「キュー……」
「ガウ……」
「あちゃー、梓ってば焔と零のこと忘れちゃったの?」
「焔? 零?」
「俺のことはちゃんと分かるよね?」
「綾」
 小さく名を呼べば、うんうんと満足げな頷きが返ってくる。
「全く、ドラゴンが扱えない梓なんて図体のデカいお姫様じゃないか」
 物凄く腹が立つ事を言われた気がするが、気にならない。それよりも、両肩で切なげに鳴いて見上げてくる二匹のことが気になった。お前たちはどうしてそんなに悲しげな顔をするんだ……?
「仕方ない。綾の記憶奪われちゃったみたいだし、取り返しますかーっと」
 綺麗だけれど、正当防衛だよね。なんて、小さく笑って紅い蝶を纏いながら『Emperor』を構えれば、獰猛な顔をした水魚達が襲いかかってくる。
 ぽたぽた落ちる雫が、じゅうじゅう地面を焼いて。
 けれど綾は、服や身が酸で焼かれようが気にせずに突進して。
「あは、ざぁんねん」
 大きなハルバード――Emperorは囮だ。水魚たちを綾へと引き寄せて、黒蝶から離すことが最たる役目。
 ひらりひらりと飛んだ紅が、黒蝶のすぐ傍まで迫って。
「――離してあげないから、覚悟してね」
「くッ」
 紅い蝶が鎖へと変わり、黒蝶の身動きを封じる。
 水魚がいくら酸をこぼそうとも、その鎖は持ち主の意思でしか破壊できない。
「さぁ梓、思いっきり叫んで」
 例え戦い方を忘れていようとも。
 例え愛しい竜たちを忘れてしまおうとも。
 梓の呼び声に彼等はしっかりと応えてくれるのだから!
「――『歌え、氷晶の歌姫よ』!」
 赤が歓びの声を上げて、青が歌うような咆哮。
 何もかも忘れてしまっても、繋がりは確かにそこにあって――忘れてしまったのに湧き上がる高揚感に、胸が沸き立つ。
 美しい旋律のような咆哮が、黒蝶へと放たれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夕時雨・沙羅羅

るいさん(f13398)と

既視感
葉に残る雨雫、再会した縁を引き続き
久しぶりのともだちに、この景色
あの池の思い出が蘇る
色は違っても、嗚呼やっぱり、

黒は光を吸い込むというから、しあわせを溶かすのだろうか
しあわせってなんだろう、るいさん
ぼんやりと聞いてみたけれど、返る言葉は理解できてしまった
それならきっと、僕にも

黒い鰭も綺麗
あの子も、本体があるのだろうか
喪われたそれならば、僕の中に入れても良いだろうか
うん、好きなひとを、喜ばせたいから
…だめかな

ざざん、水を、雨を降らそう
喰らえば良し、目隠しになればそれも良し
るいさんの攻撃が通るなら、追撃を逸らす為また降らし
恋しくても、過ぎた生なら海に還った方が良い


冴島・類

シャラ君(f21090)

再びまみえた御池の縁
君と歩く鼻歌の先
現れたふわり浮かぶ黒

似て非なる色と宿る温度
だからか
送り出してくれた際の様子に得心いって

しあわせ、か
すきなひと達が、楽しく
笑って
いられることかな

例えば、しゃら君が
そして、彼が
それは
言葉にできる部分だけだけど

どうしたんだい
確かに、見目麗しいね
中に入れたいの?
君の中にあるものは綺麗なものが多い
宝物なのかな
いや、悪くないが
…食い破られちゃいそうな歯してるよ

先に、問うてみようか
今晩は
懐かしい故郷も
貴方が在り続ければ
何れ壊してしまう、わけですが
この世が…すきなので?

逃せぬと
友の降らす雨に紛れ
水魚の攻撃をフェイントで躱し
踏み込み
薙ぎ払いにて攻撃を



●君影
 久方ぶりに友と歩む、紫陽花小路。美しい景色に、雨に、友。傘を叩く雨粒のように心も弾んで、知らぬ内に鼻歌も溢れてしまう。
 そうして楽しい気持ちで小路を抜けて、広がる風景に思わず御池だ……と呟きが溢れたけれど、息を飲んだのはどちらが先か。
 覚えたのは、既視感。
 雨風で飛ばされた紫陽花の花弁が浮かぶ池の畔、そこに居る人魚。
 そのひとの色が違った色だったなら、春のような瞳が柔らかな微笑みを向けたことだろう。けれど異なる金の瞳は冴えた月のように冷え冷えとして、笑みの形を成していても笑んではいない。
「嗚呼やっぱり、」
 ――似ている。
「そうだね」
 雨粒のようにぽつり、と。小さく落とされた沙羅羅の言葉に肯定が返る。
 だからなのかと、得心がいく。送り出したグリモア猟兵が言い淀んだのは、このせいなのか、と。
「しあわせってなんだろう、るいさん」
「しあわせ、か」
 他の猟兵へと話しかけた黒い人魚は、去らねば幸せを奪うと告げていた。しかしその幸せとは、なんだろうか。黒は光を吸い込むというから、幸せを溶かすのだろうか。
「すきなひと達が、楽しく笑っていられることかな。――例えば、例えば、しゃら君が。そして、彼が」
 楽しく過ごせていて、大切だと思える誰かと笑い合うひととき。穏やかで優しい時間に身を置いて、ともに笑い合えたなら。離れていてもいい。そうしている姿を見守れるのなら、類は迷わず刀を振るい、その『幸せ』を護るだろう。
 僕の場合はね、と短刀を撫でる類の言葉は優しくて。その姿が想像できて。
(それならきっと、僕にも)
 覚えがある、あの想いが、きっと――。
 そっと口を閉ざした沙羅羅の表情を見て、伝わったのだろうと類は思う。
 それにしてもと、とっくりと眺めてみるのは黒い人魚の姿。二人が知る彼とは違う黒い鰭は少し大きめで、けれど綺麗な光沢を放っている。
 似ている、けれど違う少年。しかし似ているのならば、その本質は同じなのだろうか。
「喪われたそれならば、僕の中に入れても良いだろうか」
「彼の本体を中に入れたいの? 君の中にあるものは綺麗なものが多い。宝物なのかな」
「うん、好きなひとを、喜ばせたいから」
 綺麗なものを取り込んで宝物みたいに飾って、きらきらさせればきっと喜んでくれるはずだから。
 もしあの子にも本体があるのなら――と、考えてしまう。
「……だめかな」
「いや、悪くないが……食い破られちゃいそうな歯してるよ」
 周りにいる水魚たちだっておっかない顔しているよと指差して、広場の入り口で立ち止まってしまっていた二人は、黒い人魚へと近寄っていく。
「ごきげんよう」
 日暮れには少し早いくらいの刻限。近寄って静かに話しかければ、金の瞳が沙羅羅と類の姿を捉える。
「懐かしい故郷も貴方が在り続ければ何れ壊してしまう、わけですが。この世が……すきなので?」
「いいや」
 ふるりと頭を振れば、顔の横で黒髪が揺れて。
「壊れてしまえば良い」
 こてんと傾いだ顔に、笑みを咲かせた。類と沙羅羅が知る彼にも似た笑みは、いとけなく。だからこそそれが本心だと知れた。
「るいさん」
「うん、シャラ君」
 宙でくるんと回った沙羅羅の身体が、おおきな水のさかなに変わる。跳ねるように尾鰭を動かせば、ざざん。淡く光る飛沫が、雨のように降り注ぐ。
 その雨に紛れ、類は駆ける。
 食らいつきに来る水魚をひとつ躱して、もうひとつ。
 行く手を遮ろうとする水魚の上に、光の雨が降り注ぐ。
 ぱしゃんと跳ねるともに心の中で礼を言い、類は『枯れ尾花』を手に飛び込むように踏み込んで――。
(名前、聞いておけばよかったかな)
 なんて思ったのは一瞬。出来ればもう二度と会わないことを願いたい。友人と同じ姿に何度も刃を向けたくは、ないから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ドゥルジー
【エイリアンツアーズ】
俺ァ正々堂々ってのは性に合わねェんだ
やる気ねェならそのままお還り頂くぜ
それに差し出してやる記憶も大して持ち合わせちゃいねェ
『ジャスパー・ドゥルジー』は10歳のひよっこなんでね

あるとしたら、と
【ぷちじゃたこの愛】で呼び出すのは
短い手足や触手で一生懸命応援する
どこか俺やパウルの面影がある精霊たち

ナイフを手に近接戦
相手は水使いだ、俺の焔とは相性が悪ィ
なら派手に立ち回って攻撃を引き受けたり水魚のガードを崩すように動くぜ
UCの攻撃UPを活かして陽動と悟られねえように
半端な傷は血を燃やして塞ぎ【激痛耐性】で耐えてやる
万一ピンチの奴がいたら【かばう】ぜ


オスカー・ローレスト
【エイリアンツアーズ】

ぴえ……(水魚の、黒蝶の歯にビビる小雀

ぴゅ……?
(ジャスパーが呼び出したぷちじゃたこを首を傾げて見る
……可愛い……けど、なんだろう、あの子達(ちょっと和んで敵への恐怖から気が逸れた

あ、そ、そうだ、敵……このまま他のところに行かせる、わけにはいかない、よね……誰かの幸せを奪う力をもつ、オブリビオン……放っては、おけ、ないし……奪われたくない記憶は、俺にだってある、から……(想起するは自らの罪の記憶

他の人達が水魚達を除けてくれたタイミングで、再生しないうちに【クイックドロウ】で、手早く魔法の矢を装填、して……黒蝶に向けて、【切実なる願いの矢】を放つ、よ……


出雲・八雲
【エイリアンツアーズ】

ア”ァ…?なンだあの闇落ちしたアマビエみたいな奴はよォ
精神攻撃たァ厄介な攻撃してくれンじゃねェか
つーか、これ酸か?
うげェー鼻がもげる…(耳しょんぼり)

俺の記憶なンざ別に盗られて困るっつーもンは特に無ェけどよ
だからって易々と盗られるっつーのは性に合わ無ェよなァ

来るなら正々堂々の方が俺としては好きなンだがなァ

【管狐】で子魚を片っ端から攻撃
敵が本気じゃねェなら本気出す前にお帰り願いたいねェ

自分の近くにいる子魚は卒塔婆でぺしぺし


笹塚・彦星
【エイリアンツアーズ】
おいでなすった所悪いンだけど、そのまま骸の海に帰ってくれない?
記憶も持ってかれると困るの多いし…友人と事務所と、仲間と。その記憶奪うんなら覚悟しろ。

【武構・乱斬】で水も憂いも切り開く様に切り込んでいくかねェ。龍さん呼びたいけど相性悪いみたいだし、素直に刀で勝負。…龍さんだめだよ、永遠に会えなくなっちまうから大人しくしてて。
無害な存在なら放っといていいんだろうけど、アンタはダメ。何人の記憶と思い出奪ってンのか知らねェけど、返してもらうから。
珍しく真面目かも。ちょっと、だいぶ怒ってる。理不尽に奪われるのが嫌なのかも。…まだまだガキだなァ俺。


アルバ・アルフライラ
【エイリアンツアーズ】
やれ、何奴もお人好しばかり
…幸運であったな、人魚よ
貴様の帰路はさぞ優しいものになりそうだ

…然し、おいたをする童には
多少の灸は据えねばなるまい?
魔法陣を展開
高速詠唱にて召喚するは【雷神の瞋恚】
広範に落とす事で人魚を確実に穿ち
そして周囲の水魚すら巻き込み、手数を減らす
貴様に私の記憶をくれてやる心算はないが
叡智の一片位ならば許容してやろう
研鑽の末、手に入れた我が魔術
易々と躱せるものではないぞ

敵が仲間を狙おうものならば
高速詠唱にて魔術を展開
相殺を図る等して、死角を補い支援を行う
ふふん、伊達に長くは生きておらぬよ
貴様がたとえ、死力をもって我等に挑もうと
その都度、骸の海へ送り戻すのみ


パウル・ブラフマン
【エイリアンツアーズ】
人魚くん、還るって云っても自力じゃ無理じゃね?
オレ達エイリアンツアーズに任せて!
バッチリ案内するよ☆

Krakeを展開して触手をサムズアップ☆
人魚くんの周りの水魚に【制圧射撃】を仕掛けるよ。
残った個体は手前の方から
【スナイパー】宜しく狙撃して数を減らしたいな。
全滅させられなくても
皆の攻撃が人魚くんに届くように【援護射撃】を。

ぷちじゃたこの応援や
エイツアの友情パワー炸裂っぷりにタコ感激☆
キミに恨みはないんだけど
盗られたヒト達の記憶は
絶対に取り戻さないといけないからね。
てなワケで…

UC発動―出力を上げた四砲を【一斉発射】ァ!
…骸の海(オウチ)に還るまでがツアーだよ、お客サマ?



●エイリアンツアーズからお客様にご提案可能な旅行プランは此方になります!
 茶屋で深冬を待つと言うイチとくろ丸と別れた一行は、道の両側を彩る紫陽花を抜け、池のある広場へとたどり着く。雨風で運ばれた紫陽花花弁が浮かぶ池に、野点傘に床几。落ち着いた和の風景の中に、ひとつだけ違和を覚えるひずみがある。
 雨の中に墨汁を滲ませたような曖がりを漂わせ、視線を向けてくる一人――一尾の少年。先に広場に訪れていた猟兵たちと同様に、エイリアンツアーズのクルーたちもまた、彼を見つけた。
「お。おいでなすったか」
「ア゛ァ……? なンだあの闇落ちしたアマビエみたいな奴はよォ」
「あまえび……? ぴえ……、ひ、こっち見た……」
「アマビエ、ですね。和国の怪だと文献で読んだことがあります。ですが、或れは人魚のようですよ」
 怖い顔の水魚と目が合ったオスカーはササッと八雲の背に隠れ、アルバは穏やかに訂正する。文献の一節によると、アマビエなる怪異は海から光を放つともあったため、闇を纏うように連れている或れはどう見ても別物だと付け足した。
 少し近付けば、他の猟兵たちに向けられた言葉も耳に入ってきて、状況を理解する。何もしなければそのまま暫く立ち去るし、敵意を向けるのなら相手をしようとそう告げていた。
「人魚くん、還るって云っても自力じゃ無理じゃね?」
 なるほどなるほど、うんうん、と頷いたパウルがキミの希望は解ったよと明るい笑顔を浮かべて。
「オレ達エイリアンツアーズに任せて! バッチリ案内するよ☆」
「えいりあんつあぁず……?」
「そ、オレ達はエイリアンツアーズ。旅行会社って解るかな?」
「りょこうがいしゃ、とは何だ」
「あちゃー、そこからかぁ。ま、旅先案内人みたいなものだよ♪」
「成程、旅路のともをする者等か」
「そそ、バッチリ案内するからね☆」
「そうそう、やる気ねェみてェだしそのままお還り頂くぜ」
 コミュ力高めの笑顔を向けながら語りかけるパウルの肩にジャスパーが腕を乗せ、にやりと笑み。その姿を見つめるアルバはお人好しばかりよと、ひそり、嘆息をして杖を構えた。そこに刷いた笑みは決して悪いものではない。
 ジャスパーが声を発するや否や、低い姿勢で魚たちの群れに飛び込んでいくのは深い湖面を思わせる水の色。片手に鞘、片手に抜身の刀を手に素早く掛けて――斬! 小型の水魚へと刃を滑らせた。
「……うっわ」
 水魚を形成する酸の水が飛び散り地を焼き、酸の水魚を切った刀も煙をあげる。強い酸に焼かれ、嫌な匂いに思わず彦星は鼻白む。
「パウル、修繕費は事務所持ち?」
「んー、まぁ必要経費かな☆」
 自分が戦うよと訴える『龍さん』の気配を感じるが、相性が悪そうだからそれはダメだ。
(……龍さんだめだよ、永遠に会えなくなっちまうから大人しくしてて)
 刀も酸に弱いが、致し方ない。つくづく相性が悪いことは理解していても、彦星とて引けぬ時がある。目の前の敵を放置するという選択は、彦星にはない。仲間たちが彼を倒すと決めた以上、『何もしなければ何もしない』敵も牙を剥く。それは、友人と事務所の仲間たち、それから知らない誰かの幸せな記憶を奪うということだ。
(――させねェ)
 既に奪われてしまった人もいるかもしれない。いや、いるだろう。
 ならば、返してもらわなくては。
 残像と共に移動しながら水魚を斬る。その度嫌な匂いに眉を寄せるが、次を。次を、次を。刀を握る手に、迷いはない。
(……まだまだガキだなァ、俺)
 怒っている、その自覚はあった。けれど、誰かの大事な者が奪われるのは嫌だった。怒っているのに、頭はどこか冷静で。彦星は踏み込みすぎず、切られたそばからすぐに形を取り戻す水魚たちが大切な仲間たちに近付きすぎぬよう、上手く立ち回り刀で牽制していく。
「さっすが彦星! やるじゃん」
 じゃあ俺も、しっかり応援しねェとな。
 ヒュウと口笛を吹いたジャスパーは「おいで」と柔らかな声で、二体の森の精霊――メンダコ型の精霊『ぷちぱうる』と悪魔型の精霊『ぷちじゃすぱー』を召喚した。通称『ぷちぷちじゃたこ』の二体は、ジャスパーを見上げると『ぱぱー』と手を振ってにっこり。釣られてジャスパーもにっこり。うちの子たちが今日も可愛い。
『ぱぱたちがんばれー』
『ぱぱたちのおともだちもがんばれー』
 短い手足や触手をふれっふれっとふりふりする二体は、どこかジャスパーとパウルを思わせる姿。10年そこらの記憶しか持ち合わせていないジャスパーの宝のひとつ。彼等を失ったら――なんて、考えはしない。差し出さないし、奪わせない。大事なものは側に置いて守り抜く。ジャスパーに流れるオウガの――竜の血の本質が、彼をそうたらしめる。
 可愛い声援を背に受けてジャスパーも地を蹴れば、躍り出るのは彦星の隣。背中合わせにトンと肩が触れた一瞬で目配せをし、そしてまた地を蹴った。
「うげー、鼻がもげる……」
 酸が焼く匂いに思わず鼻を摘んだ八雲の背の後ろから、オスカーも少しだけ顔を覗かせ戦う仲間たちと水魚たちとを、ちらりちらりと覗う。牙を覗かせ噛みつこうとし、鋭いギザギザの尾鰭を振るって叩き、動く度に酸が飛び散り何かが焼ける嫌な匂いが広がる。やっぱし怖いと顔を引っ込めてしまいそうになるけれど、仲間たちが頑張っているのだ。そうは言ってはいられない。
 けれど聞こえる可愛い声。水魚たちから視線を逸して、可愛い声援が聞こえる少し離れた地面を見れば。
「ぴゅ……?」
 なんだろう、あの子達。可愛いけれどオスカーの知らない生き物だ。でも可愛い。怖くない。それにいっぱいがんばれーって応援していて、正直少しだけ和んでしまう。
「あ、そ、そうだ、敵……このまま他のところに行かせる、わけにはいかない、よね……」
 チラリと見れば冷たい金の瞳と目が合って、思わず「ぴゅい……」と声が溢れて震えそうになってしまう。しかし、誰かの幸せを奪う力を持つオブリビオンは放ってはおけないし、奪われたくない記憶はオスカーにもある。
 ――誰が――を殺したの?
 ――それは、俺。俺が殺した。
 ちくんと胸を刺す罪の記憶は、失ってはいけないもの。この手に残る感触も、耳に残る悲鳴も、心に残り続ける罪の意識も、失って忘れてしまっていいものではない。だから――。
 ぎゅっと握りしめたクロスボウがカチャリと鳴る。意を決して前を見て、そうしてその前に、すっと遮るように衣が揺れた。
「下がってろオスカー、お前さんの出番はもっと後だろォ?」
 正直正々堂々と戦った方が性に合うンだがなァ。頭をワシワシと掻きながら見つめる先には、水魚と戯れる悪魔のような青年。仲間を積極的に庇い、傷付き――そして策を成功させようとしている。八雲の性には合わないが、仕方ない。面倒だけど仲間の作戦には乗る。それに、盗られて困る記憶はないとは言え、はいそうですかって奪われる事も八雲の性には合わない。だから。
「行け、同族」
 喚び出した管狐たちに、小さな魚を中心に攻撃を仕掛けるように命令を下した。
「エイツアの友情パワー炸裂っぷりにタコ感激☆」
 うんうんと笑顔で頷きながらもパウルは『Krake』を展開し、仲間の死角を補うように穿たれる雷にタイミングを合わせて支援していく。
(――人魚くんは、っと)
 袖で口元を隠したまま、表情を変えずに戦況を見守る黒い人魚。きっとあの袖の下の唇は弧を描いているのだろうと容易に想像ができた。
 まだ、狙わない。下手に攻撃すれば避けられ、そして策が悟られるだろう。此方の人数を見て増やされている水魚の数は、彼が見極めながら出しているものだ。水に満ちる此の地では幾らでも出せるであろうに、明らかに調節して猟兵たちの力量を測っている。初めて猟兵と言う存在に出会ったような口振りからして、そうなのであろう、と頼りになる仲間の賢者がひっそりと口にしていた。あくまで水魚たちの相手で手一杯だと見せつけ、隙きを作らせ一気に叩くが肝要かと、と微笑んで。
 派手な音を立てて落ちる雷に、派手な音でぶちかます砲撃。切り込みに前に出ている二人の仲間に当てぬように、その狙いは精密に。
 杖を向けて雷を降らす彼の賢者を見れば、気付いた彼はふわりと優雅に微笑んでみせる。美しい弧を描く唇が、頃合いか、と音を発さず動かされて――。
 ドォォォォオオオン――……!
 広範囲に、雷が落とされる。流石に完全には躱しきれぬと察した黒蝶は、水干の袖から霊符を取り出し結界術を展開させ、防ぐ。
「……幸運であったな、人魚よ。貴様の帰路はさぞ優しいものになりそうだ」
 どうだ我が叡智の一片、研鑽の末に手に入れた我が魔術は。と、麗人の瞳が語る。
「何、礼など要らぬ。――みな、お人好しばかりゆえ」
 貴様の骸の海への旅路の手助けをしてやろう。
 雷が落ちれば、けたたましくKrakeが騒ぎながら砲撃をし、沈みきらなかった黒蝶の周囲の水魚達を撃ち抜いていく。
「おら、オスカー。お前さんの出番だ」
「ぴ、ぴぃ……」
 すぐ近くの水魚を叩く度に卒塔婆が焦げていく。不愉快そうに眉を顰めながらも、八雲はぺしぺしと叩いてオスカーを守り切る。
 震えそうになる手を意識しないように、オスカーは素早く魔法の矢を装填して。
『ぱぱたちのおともだちがんばれー』
「彦星、そっち頼むわ」
「任された!」
 仲間たちに決して当てぬように、強い祈りを籠める。
 過ちはもう、二度と繰り返さない。
「貴様がたとえ、死力をもって我等に挑もうと、その都度、骸の海へ送り戻すのみだ」
「キミに恨みはないんだけど盗られたヒト達の記憶は絶対に取り戻さないといけないからね。てなワケで……骸の海(オウチ)に還るまでがツアーだよ、お客サマ?」
 雷が落ち、Krakeが鳴り、仲間たちが道を切り拓いて。
 仲間が拓いたほんの僅かな隙間を、水魚たちが元に戻ろうとする隙間を。
 一本の矢が真っ直ぐに、真っ直ぐに飛んで。

 ――さあ、好い旅路を。

 そうして――黒蝶の身体を貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
【軒玉】
そう、久しぶりの故郷を、ねえ
悪いが邪魔をすることになっちまう
戦意の薄いあんたに、あの人に似てるあんたに
徐に刃を向ける気にもなれないケド

戻ってきたばっかのとこ、わりぃケドも
帰って貰わなきゃなんないかなぁ
此処からってだけじゃないよ、この世界からだ
そうじゃないと、世界が死んじまう
あんたなら、分かってるんじゃない?

黒羽に緋を向ける
先ずはこの魚くんたちをどうにかしなきゃなぁ
っつても相性が悪い
凍らせられたりしたら、砕いたりもできんだケド?

オズの生む花を綺麗だと横目に駆け
凍る水魚を花弁で、鍵刀で砕けば
きらきらと散る向こうで浮かぶ黒鱗を目に

(この人と対峙したなら
あんたはどんな顔をした?
ねえ、かみさま)


オズ・ケストナー
【軒玉】

にてる
けど、尾や髪色がちがうからじゃなくて
ちがうってわかる

あじさい、きれいだもの
見ていたいと言われたらすこしくらいって
そんなきもちになるけれど

うん、かなえられないよ
だってほんとうは、眠っていてもらわなきゃいけないんだもの
きれいなものがすきなの?
だったら

ガジェットショータイム
大きな傘を開けば
雨粒が花の形に咲いていく

クロバ、こっちにもおねがいっ
クロバに冷気貰えばたちまち氷の花に
合わせ咲かせてくれる氷花に微笑んで

触れたら生命力吸収する氷の花を
彼の周りにたくさん

アヤカっ
いっしょにおいかけっこするように黒蝶の行く手を塞ぎ
花増やす
紫陽花、花菖蒲、芍薬
きみもシャクヤク、すき?
問いかけながらも躊躇わず


華折・黒羽
【軒玉】

何処か見た事のある風貌
知っている、あの人の…
二人を振り返れば眸に映した表情に
何も言わずに正面向き直す

二人が親しい事を知っている
二、三話した事のある程度の俺より
きっと色々な思いが裡に湧いているのだろう
なら俺のやることはひとつ
目配せた綾華さんに頷きを返し

俺が、先に

纏うオーラの防御
縹を纏わせた屠を構え駆けだす
水相手ならばこの力も役に立つ
帯びた冷気で斬り付け凍らせてしまおう

オズさんの呼び掛けに頷いて届けた冷気の刃紋が
周りで次々と花咲く綺麗な景色に見惚れながらも
空中直下で屠を地面に突き立て咲かす氷花
咲きゆく花々と共に檻と成して

後は─、

駆けて過ぎゆく二人の熱を両の傍らに感じた
見上げ捉えた背に託そう



●凍て華
 息が、凍った――。
 暑すぎはしない季節。けれど、寒いだなんて思う日の方が滅多とない季節。
 それなのに、息が、凍った。
 凍ったのは、息だけではない。身体だって凍ったように動きを止め、広場の入り口から少し歩いた場所に足を縫い付けてしまった。
 だって、あのひとは――。
 青い瞳をわずかに瞠目した黒羽にも覚えのある風貌。沢山の言葉を交わした訳ではなく、出掛けた先で遭遇したり、時折姿を見掛けるひと。そのひとに、ひと目でオブリビオンだと解る存在があまりにも似ていた、から。心が揺れて、同行している友人二人を振り返る。自分よりも多く接しているだろう彼等が覚える想いは計り知れなくて――案じと、察し。二人の表情に見つけた色に、黒羽は何も告げずに顔を正面へと戻した。
 ハ、と息を吐く気配。軽いようで、どこか重い。
「そう、久しぶりの故郷を、ねえ」
 驚愕を消して、浮かべるのはいつもの笑み。
「戻ってきたばっかのとこ、わりぃケドも帰って貰わなきゃなんないかなぁ」
「帰る、か」
 綾華が声を掛ければ、黒い人魚の金色の瞳に三人が映る。首を傾げる仕草、瞳の向け方、柔らかな所作。そのどれもが似ているけれど、違う。
(にてる。――けど、ちがう)
 ちがうって、わかる。尾や髪の色が違うからだけじゃない。彼が口を開く度、その思いが増していく。掛け違えたボタンのように、大きなひずみを感じた。
「うん、かなえられないよ」
 白いあの子が紫陽花を見たいと望むのなら、一緒に行こうって誘うだろう。帰り際、もう少し一緒に見ていようと言われたら、大きく頷くだろう。あの子じゃなくても、他の子でも。綺麗な花を見ていたいと言われたら、少しくらいって、そう思う。
 けれど、だめ。かなえられない。だってほんとうは、眠っていてもらわなきゃいけないんだもの。
「此処からってだけじゃないよ、この世界から帰って貰う」
「貴殿等も邪魔をするのか」
「ああ、悪いがそういうことだ。そうじゃないと、世界が死んじまう。あんたなら、分かってるんじゃない?」
「世界が死のうが私には関係のないことだ」
 向けられた緋に、口元を袖で隠した黒い人魚がころころと微笑う。
 ああ、違う。決定的に違うのだ。本当にこの人は、あの人と全く違うものなのだと知れた。
 戦意も薄く、あの人に似たひとに徐に刃を向けのも……と思っていた綾華だが、本当にあの人とは違うのだと正しく理解した。だってあの人はともに参じた神社で、『幾久しく健やかに』と、この世界全ての弥栄を願っていたのだから。
 青と緋が交差する。
 ――俺が、先に。
 頷き、ひとつ。オーラ防御を纏った黒羽が駆け出せば、迎撃せんと水魚たちが牙を剥く。
 大きなダメージとなりそうな攻撃は躱し、オーラ防御で防げそうな攻撃ならば怯むこと無く踏み込み、『縹』で冬を纏わせた黒剣『屠』を振るう。斬り付けた箇所から氷の花が咲くその技は――《氷花織》。水魚の全身を凍らせる為に氷点下の冷気で包めば、氷の花郡が水魚の身体全体に広がって――。
「ねえ、くろいきみ。きれいなものがすきなの?」
「……嫌いではない」
 花咲く様に金の瞳が向けられたことに気付いてオズが問えば、少しだけ眉を潜めて言葉が返る。それは好きだと認めるのが嫌な、思春期の子供のような声だった。
「そっか。だったら」
 ――《ガジェットショータイム》!
 ポンッと召喚されたのは大きな傘の形のガジェット。開くボタンをポチッと押せば、雨粒がパッと飛び散って。舞い降りてくる間に、雨粒は花へと変わる。
「クロバ、こっちにもおねがいっ」
「はい」
 眼前の水魚を斬って、舞うように振り返りオズが降らせた花へと冷気を届ける。
「ありがと、クロバ」
 降ってくる氷の花は、きらきらと輝いてキレイ。見上げるオズも、きらきらと輝く笑顔を浮かべて。
 あとはこの花を、あの子にも届けよう。キレイできらきらだけど、冷たくて――触ると生命力を吸収してしまう氷の花を。
「よいしょっ」
 傘をぶんと大きく振って、氷の花を飛ばす。
 ふわりと飛んでいく花を横目に綺麗だと小さく笑って綾華が駆けていく。きらきらを追い掛けて、凍った水魚を白菊の花弁と鍵刀で砕いて。横から飛び出してきた水魚を黒羽が斬る。そこへまた沢山の白菊が突き刺さり、砕いて。
「アヤカっ」
 黒い尾鰭が揺れたのを見て、オズも駆け出す。きらきらの、花を連れて。
 駆ける金に、黒に、氷の花。眩し気に目を細めた黒羽は、ひらりと飛んで。そして、落ちる。落ち行く中、屠を真下に向け――地面に突き立てれば、水を多く含んだ地面はパキパキと凍って氷の花を咲かせた。
 後は――駆ける友の背中を見る。きっと彼等がやってくれる。
 氷の花から離れるべく身を翻した黒蝶の前に、ポポンと新しく花が咲く。オズの傘から生まれた新たな生花は、凍っては居ないが生命力吸収をする危険な花。
「きみもシャクヤク、すき?」
 瞳が、見開かれた気がした。
 けれど躊躇わず、オズは綺麗な危険な花を雨と降らせる。紫陽花、水仙、桔梗に花菖蒲。そして、芍薬。
 綾華も、躊躇いはしない。生命力を奪う危険な花が降る中に飛び込んで、鍵刀を握る手にギリと力を込める。間近で見るその顔に改めて、瓜二つだ、なんて思うけれど。
(この人と対峙したなら、あんたはどんな顔をした?)
 ――ねえ、かみさま。
 真っ直ぐに金の瞳を見つめ、鍵刀を振り抜いた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

錦夜・紺
🦋♢♡

すまないがこちらも仕事でな
請けた依頼は果たさねばならない

黒の鱗の半人半魚、彼の姿に
己の心に微かに波が立つ
零れた酸の雫に眉を寄せた

酸の水檻
それはまるで縛り付ける蜘蛛の糸の様で

幼き頃の
血の繋がりのある者、同志、主と共に過ごした日々を
今思えばそれを"幸せ"と呼ぶのだろう
そして、あの業火にすべて奪われたのだ
熱い。苦しい。
……嗚呼、忌々しい

なけなしの力を振るい
複製した苦無らを前方扇状に放つ
下手な鉄砲も何とやら
壊せるなら、傷の一つでも残せるなら、と

……"幸せ"とは
……大切な者に寄り添い、守り、生きることだ
薄れゆく意識、溶けていく記憶の中
この言葉を発することは出来ただろうか
――果たして届いただろうか


アリサ・マーキュリー
♢ ♡

えっ、連れ帰っちゃダメ。返品不可能だから。勝手に連れ帰らないでこれは私のです!

…私は、貴方が人を…誰かを傷つけないないなら、見逃しても良い…と思う。でも、オブリビオンは居るだけで害を成してしまうから。
倒さないと。芽は、積まないと。

地を蹴って俊足の動きで背後を取って、目にも留まらぬ神速の居合い斬りを繰り出す。

もしUCの攻撃を受けたら、消えるのは誰かを救おう、助けようとする意志
ほぼそれだけで行動してるから、なくなったら呆然と何も出来なくなってしまう
しかし周りで傷つき、それでも行動する猟兵を見て自分も動かねばと再燃

その程度じゃ、火種は消せない。
例え炎が消えても、再び燃え盛る



●ひと
 心に微かに波が立った。己を鎮める術は心得ていて、己を律し感情の起伏を抑えることに長けた身であれど……心の漣に、紺は僅かに眉を寄せる。黒の鱗の半人半魚の少年が、春から顔を見るようになった彼にとてもよく似ていたせいだ。
「えっ、連れ帰っちゃダメ。返品不可能だから。勝手に連れ帰らないで! これは私のです!」
 紺の感傷を打ち破るように、女性の声が響く。
 ダメ、反対! ノーもふもふ、ノーライフ!
「貴殿はそうは言うが――」
 他の者等はそうは思っていないようだぞ、と少しだけ困惑したような――ふたつの意見の板挟みの中間管理職のような面持ちとなった少年がチラリとアリサを見遣る。連れて帰るなら何もしないと告げる猟兵がいたと思えば、今度は連れて帰るのは駄目だときた。居なくなるまでもふると戻っていく猟兵たちもいた。……それほどまでに猟兵は柔らかな毛玉が好きなのだろうか。
「すまないがこちらも仕事でな、請けた依頼は果たさねばならない」
「えっ」
 静かに告げる紺へも思わずバッと顔を向けるアリサだが、向けられた静かな視線に「あっ、はい……仕事ですよね仕事」と首を竦めて人魚へと視線を戻した。黒い人魚は、不思議そうにそんな二人を眺めている。
 アリサだって解っている。誰かを傷つけないなら見逃してもいいとは思う……けれど、それは『人』の場合だ。オブリビオンは居るだけで世界に害を成してしまう存在だ。見逃せば他所の地に災いを呼ぶ。災いの芽は、摘まねばなるまい。
 アリサが地を蹴って駆ければ、水魚が行く手を阻む。
「くっ」
 ぱちゃんっと水魚が跳ねれば酸の雫が地を焼き、飛び退いて躱す。黒蝶へと刃を届けたいのなら、水魚をどうにかしなくては。眉を寄せ、アリサは水魚の向こうで悠然と佇む人魚を見た。
「そこな乱破。貴殿の『幸せ』は何だ?」
 焼けた土地に眉を寄せていた紺へと、黒蝶が問いかける。忍の思う幸せは、他の者等と違うのだろうか、と。
 その途端。とぷんと生まれた、酸の水檻。
「――ッ」
「あ!」
「貴殿は大人しくしておれ」
 酸の水檻に閉じ込められた紺を救おう、と。咄嗟に手を伸ばしたアリサは、掛けられた声に目を見開き――伸ばした手は、力なく垂れ下がる。
(私、なにをしようとしていたんだっけ)
 彼に手を伸ばして、それで――。
 いつも通りのアリサなら、誰かを助けたい、救いたいという気持ちに突き動かされて動いている。先程だってそうだ、目の前で紺が酸の水檻に飲まれたのを見て、助けなきゃ! って、そう思った……はずなのに。
 アリサはただ呆然と、彼が苦しむ姿を見つめていた。
(――蜘蛛の糸のようだ)
 獲物を捕らえ縛り付け、押さえつけ、雁字搦めにして逃さない。そして捕らわれてしまったならば最後、喰われるのを待つしかない。
 空気を求めた口からごぽりと泡が上がれば、喉奥を酸が焼く。
 ――熱い。
 幼き日。血縁の者や同志、主と共に過ごした日々が、紺にとっての『幸せ』だった。すべては業火に飲まれて喪われ、そうして失ってから気付いた。あれが"幸せ"と呼ぶものだったのだろう、と。
 ――苦しい。
 もがけばもがくほど、蜘蛛糸が絡むような心地がした。
 業火で失った幸せであれど、その記憶はしっかりと紺の中にはあって――しかし、今。それがじわじわと消えていく。仲間の顔が、主の顔が、業火で塗り潰されていく。楽しい日々に浮かべていた顔が、思い出せない。消えていく、消えていく、消えて――。
(……嗚呼、忌々しい)
 身を焼く熱も、苦しみも、奪われる喪失も、全て。
 そしてこの、水檻も――。
 身を奮い立たせ、複製した苦無らを前方扇状に放つ。水の中では飛ばぬが、念力で操れば酸に溶かされながらも水檻の境目まで到達した。けれど、それだけだ。そのまま外に排出されるだけだった。
(――ならば)
 投擲した苦無を念力で操り、水檻の中をかき乱すように動かしてやる。苦しさは増すが、それでも紺は諦めない。
 ――目の前で、猟兵が苦しんでいる。なのに私は見ているだけなのか。傷ついて、苦しんで、私はそれをただ見ているだけ。救える力があるのに、私は――いいや、そんなのは厭だ。見ているだけなんて、出来るはずがない。そんなものは、『アリサ・マーキュリー』ではない!
 消えてしまったのならば、灯せばいい。それは失ってしまった思いよりも小さな炎かもしれない。けれど、再び燃え盛る事が出来るはずだ。
(――それが私の、決意)
 紺が掻き乱した水檻へ居合斬りを放てば、ばちゃんと水風船が割れるような音がして、咳き込みながらも紺が排出される。
 アリサは紺の無事を見届け、駆け出す。きっと彼は大丈夫だ。大丈夫だから、自分を成すべくことをしに、人魚へと駆ける。
 水魚が道を塞ぐ――。
「……"幸せ"とは……大切な者に寄り添い、守り、生きることだ」
 いくつもの破魔の力を宿した苦無が水魚に辺り、水魚が弾ける。仲間が地に伏す音を聞きながら、弾けた水魚の酸が身に掛かることに躊躇うことなく駆け抜けて――。
「貴方が奪っても、人の心の灯火は奪えない」
 旋風よりも速く駆け抜け、人魚の背後――いや、身を翻した黒蝶の正面を取る。
「例え炎が消えても、再び燃え盛る」
 それが、ひと。それが、私。
 けれど奪われたままではいられないから。
「返して貰うね」
 真正面から、神速の居合斬りが繰り出された。


●しまい
 久方ぶりの故郷の空気を感じ、雨を楽しみ、雨に濡れた紫陽花を愛で――そうしてゆっくりと過ぎる時間を嬉しんでいた。留まり続ければいつか猟兵が来ることも知っていたが、少しだけ会ってみたいという気がしたのだ。
「よもや、これ程までに見えることとなろうとはな」
 唇の端から零れた血を装束の袖で拭い――それでも少年の唇は弧を描く。
 美しい衣はところどころ焦げ、凍ったところは破れ、穿たれたのであろう箇所は血に染まっていた。片腕を動かさないのは、既にその腕が機能していないからだろう。
「此度はこれで仕舞いのようだ」
 分厚い雲を割いて、太陽が現れる。
 池の上や広場にも暖かな光が満ちていく。
 また会おう猟兵、と。黒い人魚の少年――黒蝶は自らの生命の終わりを惜しむこと無く微笑って、太陽の光の中に溶けるように消えていった。

 曖がりは、もう、無い。
 最初から何もなかったかのように紫陽花は美しく咲き、広場の池も静かに波紋を描く。束の間の晴れ間を楽しむ、小鳥たちの声も聞こえてくる。
 空には絵筆で描いたような虹のアーチ。紫陽花とともに見上げる虹も美しいと微笑う者もいれば、和傘アンブレラ越しに見たいと街へと戻っていく者もいる。帰るまでが旅行だと、楽しげに。
 そうして猟兵たちは仕事を終え、この地の平和は守られた。白い小さな鳥も、近い内に全ていなくなることだろう。
 この街は、小路は、池は、これからも愛され続ける。
 雨を愛する人と、傘を愛する人と、季節の花々を愛する人がいる限り――。

 ――池に映る虹が、揺れた。
 虹の下を、小さな魚が游いでいったようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月03日


挿絵イラスト